決して救われることのない者たちと神々の物語。全12話構成 ※鬱シナリオ注意 (7)

10話構成の救われることのない者たちのお話です。完全オリジナル

ゆっくり更新していきます。
投稿は1話一気に投稿します。


1話/死線上のミゼル
2話/熱視線のコレール
3話/湾曲したデジャヴュ
4話/石化のマリス
5話/暴虐なるエンヴィ
6話/束縛のソリチュード
7話/追従するランキュヌ
8話/渇望のイデアル
9話/螺旋するメジャビュ
10話/再誕のピティエ
11話/突き上げるエーヌ
最終話/世界創造のメルト

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第1話【死線上のミゼル】


「ねぇ、ママ。カバンが破れちゃった。」

それは少年が最もお気に入りのカバンだ。3年前事故で父親を無くした。
そのカバンは父親が最後に買ってくれた物で形見と言っても差し支えない大事な物だった。

『あら?貸しなさい。ママが直してあげるわね』

女手1つで何でもこなす、優しくて自慢の母親だ。
少年はトラブルが起きる度に母親にすがり、そして母親はいつも文句の1つも言わず笑顔その問題を解決してくれた。

『んー、裁縫道具がないわね。それじゃちょっと買ってくるわね』

少年の家は貧乏で車が無かった。その為母親は自転車で8km離れたショッピングモールまで買いに行くことになるのだ。

「ママ、早く帰って来てね」
『分かってるわ。ママすぐ帰ってくるから待っててね』

時計の針は19時を指していたにも関わらず母親は自転車で出掛けて行った。
少年は母親の帰りを待った。
22時過ぎても帰ってくる気配は無い。その為少年はベットに戻って睡眠に入った。

『ただいまー。ごめんね。遅くなっちゃって。』

母親が帰って来たのは日付が変わって2時間経った時だった。
当然誰からも返事が返ってくることはない。


『ふふ。寝ちゃったのかしら。それじゃ今のうちにカバン直して朝起きたらすぐに渡せるようにしよっと』
『あの子喜ぶわよ…きっと』

母親という生き物は単純だ。
子供が喜ぶところを見たい。言ってしまえばそれだけだ。
母親は張り切ってカバンの修繕を開始した。
途中睡魔が襲ってくることは度々あったが我慢して作業を続けた。決して苦痛では無かった。
寧ろそれは1針縫う度に高鳴る喜びと楽しさといっても過言ではないのだろう。

カバンの修繕が終わったのは時計の針が5時を指した時だった。
修繕の出来としては裁縫の苦手な母親にとっては満足するものだった。
それでも母親が休むことは出来ない。洗濯等の家事、朝ごはんの準備があるからだ。
全てのお仕事が終わった母親は子供が起きるのをいまかいまかと待っているうちに7時になり、少年が部屋から出てくる。

「おはよー。ママ」
『おはよー。カバン、ママがちゃーんと直しておいたわよ』

母親はそういうと少年に修繕されたカバンを渡した。
しかし母親の期待とは裏腹に少年の発した言葉は残酷だった。

「……なにこれ。ママのバカ、下手くそ。だいっ嫌い」
『え』

少年は泣き喚きながら思い付くままの言葉で母親を罵倒した。
少年に取っては母親は完璧な存在であって、出来ないことは無いという感覚があった。

しかし壊れたものを完璧に修繕することは出来ない。
ましてや裁縫の苦手な母親が皮製のカバンを上手く修繕するなんて不可能だ。
当時の少年にはそれらを理解するだけの知恵は無かった。

『ごめんなさい、ママ裁縫下手だったかしら。もう一回やり直すわ』
「もういい。いらない。こんなものもママももういらない」

少年は泣き喚きながらそう言うと母親から受け取ったをゴミ箱へ放り込んだ。
そしてそのまま部屋に戻ってベットに潜って泣いた。

しばらくして少年はベットから出てきた。
家の中には母親の姿は無く、少年はベランダから外を見た。

母親は玄関にいた。玄関で泣いていた。
母親の泣いている声が聞こる。距離、音量で言えば聞こえるはずはない。しかし聞こえる
何かが少年の心を押し潰そうとして少年は心が痛かった。
ごめんなさい、と母親に謝るべきか。否
少年はこう自分に言い聞かせた。

(ママが悪いんだ。ママから謝りにくるべきだ。ぼくは絶対謝らないぞ)

少年はそうこう思いながらベランダとベットを往き来した。
何度目の往復だろうか。母親の姿が見えなくなった。自転車もない。
嫌な予感が横切る。もう二度と会えない。そんな気がした。

数時間後。病院から連絡が入った。
修繕専門店前の交差点でトラックに跳ねられ、即死だったそうな。
調べによるとどうやら母親は赤信号に気が付かず、赤信号のまま自転車で渡ったらしい。
何故赤信号に気が付かなかったのか。
病院には母親の遺体と私物が置いてあった。

母親の持ち物からほぼ完璧に修繕されたカバンを見つけた。
それを見たとき涙が一気に込み上げ、溢れでてきた。

「ママ……ママ……やだよこんなの。まだごめんなさいって言ってないのに」
「やだよ。置いてかないでよ。1人にしないでよ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。何回でも謝るから帰ってきて。ママ。お願いだから帰ってきてよ。」

少年は泣き喚いた。
母親がその願いに答えることも、また返事をすることも決して無かった。
そしてたどり着いた答えは神々への超越する殺意だ。

「もう、ひとりぼっちになっちゃったよ」


ヴァルティエル。それは運命を廻す者
神や天使や悪魔ですら逆らうことが許されない存在。

1話 【完】

少年の名前はタイトルにあります。

すでに7話まで出来上がっています。

1日1話ずつの投稿となります。

今日はここまで。

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