飛鳥「青春と乖離せし己が心の果てに」 (34)




モバマス・二宮飛鳥のSSです。




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ああ、どうしたものだろう。



黄昏れと共に、

暮れ行くセカイをひとり感じていたボクの毎日は、

それはそれで悪くなかっただろう。



だがこの気持ちは、そう、この気持ちは。





柚「そーれーでぇ? Pサンと二人でディナーに行きたいと! 誘ったんでしょ? ユッコちゃんから!」

裕子「だーかーら! 仕事で遅くなったから、ご飯食べて帰りましょって言っただけで!! お腹がすいてたから!! お腹がすいてたから!!」バンバン

茜「でも昨日、ユッコさん寮に帰って来るのかなり遅かったですもんね! 10時半くらいでしたっけ」

柚「遅くなったから直帰するって事務所に電話入ったのが7時頃だよネー。何かあったのかナー」

裕子「えっ…いや、ないです! ないですから!」

柚「詳しく聞かせてもらおうか!」

茜「いえーい!」



ドタバタ ワイワイ



飛鳥「………」



今日もうちの事務所は賑やかだ。

女が集えば姦しい、なんてコトバがあるけど。

とりわけ、Paチームのメンバーがいると、それはもう。



少し離れたソファーで一人くつろぎながら、コーヒーを一口。

レッスンまでは、まだ少し時間がある。



みちる「飛鳥ちゃーん」ヌッ

飛鳥「…みちる、急に至近距離に入り込んで来るのはやめてくれ。驚く。それに、人にはそれぞれパーソナルスペースというものg」

みちる「カフェラテおかわりいかがですか! まだありますよ!」

飛鳥「………もらうよ、ありがとう」

みちる「はーいどうぞ! あと砂糖もどうぞ! 結構入れる派ですよね!」

飛鳥「………………ありがとう」



最近ソファーでくつろいでいると、

こうしてみちるに話しかけられる時がある。

まあ、彼女はいつも溢れんばかりのパンをほおばっているので、

姦しい会話などする感じではないけれど。



比奈(不思議な組み合わせでスよね、あそこの2人)

杏(飛鳥は押しに弱いから)グデー





みちる「あっちは賑やかですね」モグモグ

飛鳥「そのようだね。まあ、明るいのはいいことじゃないかな」



まあ、傍目に見ているのは悪くない。

あそこに加わりたいかというと、また別だけど。



飛鳥「………アイドルとして、恋愛話をしているのはどうなのかとは思うけどね」

みちる「フゴフゴ! いいんじゃないですかね、プライベートな時間ってことで! 恋も青春ですよ!」



気になるフレーズが耳に入ってきた。



飛鳥「みちるから恋とか青春とかってコトバはちょっと、新鮮かな」

みちる「あはは! そうですね! フゴフゴ。でもわかんないですよ、人の心なんて」

飛鳥「…というと?」

みちる「恋に落ちたり、何かに夢中になったりするのって、いきなりだって言うじゃないですか! 飛鳥ちゃんだって明日から急に、恋する乙女になってるかもしれませんよ?」

飛鳥「…酷い話だね、それは」



冗談でもご勘弁願いたい。

ボクの世界観をボクが壊すみたいなそんな絵面は。



みちる「ユッコちゃんは担当プロデューサーさんと仲いいですからね」

飛鳥「確かにそうだね」



Paのプロデューサーは明るい人だ。

よく茜と走ったり、早苗さんに絡まれたりしているが、いつも元気そうだ。

ノリのいいPaチームのアイドルたちとも相性がいいのだろう。

なかでもユッコは、なにかとPaプロデューサーに絡んでいる印象だ。

スプーンがどうの、ペンデュラムがどうの、マジックがどうの。

それにいつもおおらかに応えているPaプロデューサーの姿がある。

いい関係なのだろう。

まあアレを恋愛というかはわからないけど。

はたから見る限り、犬が懐いているようにしか見えないからね。



対して、ボクのいるCoチームのプロデューサーはまた違ったタイプだ。

Paプロデューサーのような元気系ではないけど、

テキパキ仕事をこなすし、いろいろ気を配ってもくれる。

今をときめく渋谷さんをプロデュースしているのも彼だ。

まぁ、悪くない人かな。





P「飛鳥ー、これ次の撮影の資料だ。おおまかには昨日説明した通りだけど、一応読んでおいてほしい」

飛鳥「ああ、わかったよ」



ウワサをすれば何とやら、プロデューサーである。



P「今日はこのあとレッスンだな。飛鳥は心配ないと思うけど、気になることとかあったら言ってくれよ。相談にはいつでも乗るからな」

飛鳥「フフッ、ありがとう。大丈夫さ」

P「それから、次回のイベント衣装のラフもあがってきたぞ。このあいだ飛鳥がリクエストしてくれたイメージに沿う形にもなってると思う。明日にでも確認と打合せをしたいんだけど、時間は取れるか?」

飛鳥「もうかい? 仕事が早いね。いいよ、明日は午後ならいつでも」

P「そうか、じゃあ13時から会議室で頼む」

飛鳥「了解した」

P「最近調子いいみたいだな。アイドル活動に積極的なのは嬉しいけど、無理のしすぎには注意だからな」

飛鳥「ありがとう。キミも働き過ぎには注意だよ」

P「ああ、ありがとう。じゃあまた後で」



プロデューサーはボクの意図をよく汲んでくれる。

できるパートナー、とでも言おうか。



ボクは正直、恋愛ってものにあまり興味がない。

だけど、いやだからこそ、プロデューサーとの、

この、一緒に仕事をこなす上での信頼感というか、

パートナー感というか、そういうのは、とても心地よい。



みちる「何か楽しいこと思い出し中ですか? 口元がニヤニヤしてますよ?」

飛鳥「…そんなことはないよ」





みちる「そういえば、さっき蘭子ちゃんが探してましたよ。歌がどうとか」

飛鳥「ああ、またか。ボクの綴る詩が気に入っているらしい。イラストに添えたいとか」

みちる「蘭子ちゃんは飛鳥ちゃんのことすっごい好きですよね」

飛鳥「んー、ベクトルは多少違うんだけど、気に入られているみたいだね。まあ、悪い気はしないよ」

みちる「飛鳥ちゃんは『まぶしい日差しね!』とか言わないですもんね」

飛鳥「そうだね。あとそんな紫外線が強いみたいなセリフは蘭子も言ってないからね」



蘭子やボクの「異質な感じ」は、狭量な一般大衆には受け入れられ難いところがあるだろう。

事務所のみんなは温かいけれど、世間はそうとは限らない。

そのへんはまあ、ボクだって自覚はあるさ。

だがプロデューサーは、

無理してかわいらしく、丸くなるよりも、君らしい魅力をアイドルとして発揮してほしい。

基礎や基本を学んだうえで、君の個性を磨くことが何より大事だ。

そう言ってくれた。嬉しいことだね。

大衆に迎合するなんて、ボクにはとても難しいことだから。



ま、目の前の世界が全てってほど幼くもなければ、

日々の全てに諦観的になるほど疲れた大人でもないんだ。

自分で言うのも変だけど、ボクはそれなりに面倒なヤツなんだろうさ。

そうだろう?

理解っているさ、そんなこと。





トレーナー「はーいでは今日のメニューは以上です! お疲れ様でした!」

飛鳥「…ありがとうございました」

乃々「…ありがとうございました」

小梅「…あ、ありがとうございました」

トレーナー(濃いなぁ、このメンバー)



小梅「ね、ねぇ、乃々ちゃん」

乃々「え、は、はい」

小梅「この間、プロデューサーさんと映画観に行ったって聞いたけど…ホント?」

乃々「ええっ、何で知って、…いや、あの、あ、はい」

飛鳥「へえ、乃々は積極的なんだね。やっぱり恋愛映画かい?」

乃々「いや、えっと、その、…ええ、はい。今話題の…」

小梅「あっ、あの、登場人物がほとんど惨殺されるホラーシリーズの最新作…」

飛鳥「それではないだろうねぇ」





プロデューサーはあまりプライベートが見えない感じの人だが、

オトナ組からも年少組からも、信頼は厚い。



そんなプロデューサーが乃々と二人で夜景を観に行ったとのウワサが流れ、

事務所がざわついたのは数ヶ月前のことだ。

これ以上ないほど口をへの字にした渋谷さんや、

ニコニコしていたけど目の奥が笑っていない楓さんを見たのが印象深い。



同年代のアイドルたちによる尋問の結果、

単独ライブイベントの成功のごほうびに、おいしいレストランに連れて行ってくれて、

その流れで近くの夜景スポットにも立ち寄ったとのことだった。

乃々いわく、付き合っているとか、そういうわけではないらしい。



しかしまぁ、プロデューサーはともかく、

少なくとも乃々はプロデューサーにべったりだ。

好意があることは、ボクでもわかる。



いわゆる「友達以上恋人未満」とかいうやつだろうか。

真偽のほどは定かじゃないけれど。



そんな中で、今度はこの映画デートのウワサである。

はたして関係はどうなのだろうか。

…まあ、別にボクには関係のない話といえばそうだが。





…ただまあ、彼はボクの担当プロデューサーでもあるから。もし同年代の別のアイドルにうつつを抜かしているのだとしたら、それでボクのプロデュースにも影響が出るようなら、一言ガツンと言ってやらねばなるまい。それだけだ。そう思って、恋だ愛だといった年頃の会話に耳をそば立てているだけだ。ボクがどうこうという話ではない。

断じて、ない。





飛鳥「お先に失礼」



雑談の続く更衣室を一足早く出て、ちひろさんにレッスン終了報告をして、ひとり帰路につく。

夕方のこの時間に外を歩くのが好きだ。

暮れ行く街の姿を見ると、えも言われぬ感情が起きる。



P「お疲れ飛鳥」



ふいに現れたのは、今日のうわさ話の主人公様だった。



飛鳥「…やあ、お疲れ様。営業帰りかい?」

P「ああ、まあね。飛鳥はレッスン終わって帰るところか?」

飛鳥「そうだね」

P「少し一緒に歩こうか」

飛鳥「事務所は逆じゃないか」

P「いや、ちょっとこっちに寄りたい所があってね」

飛鳥「?」

P「いやなに、得意先の方が贔屓にしている飲食店がこのあたりだとかで。感じだけでも見ておけたら、話にもなるかなと」

飛鳥「仕事熱心なことだね」



一緒の方角に歩きだす。横に並ぶと、プロデューサーの背の高さを改めて実感させられる。





P「最近どうだ? 事務所のみんなとは仲良くしているか?」

飛鳥「まあ、それなりにね」

P「そうか。飛鳥は同年代のメンバーの中では少し意識が大人びているところがあるからな。みんなと同じ目線とは限らなくても、いることでみんなの刺激になるよ」

飛鳥「フフッ、そう言ってもらえるとありがたいよ」



彼はやっぱりボクを理解ってくれているところがある。

ボクとしても悪い気はしないし、自分らしく頑張ろうと思える。

確かに彼は敏腕なのかもしれないね。

他意はないよ?





飛鳥「聞いたよ、乃々と映画デートをしたらしいじゃないか」

P「いやいや、デートなんてそんな、乃々がどうしても観たい作品があるって言うから」

飛鳥「フフッ、プロデューサーは乃々に甘いね」



いや、乃々が積極的と言うべきなのだろうか。



飛鳥「恋愛どうこう言う気はないけど、キミは他のアイドルたちからも好印象だね」

P「プロデューサーとして、だけどな」

飛鳥「じゃあ例えばもし、ボクが同じようなわがままを言っても、聞いてくれたかな?」



ちょっと意地悪な質問だったかな。



P「…何かあったのか?」

飛鳥「いや別に。ただの興味さ」

P「そうか。…うん、まあそりゃ聞くだろう、わがままくらい」

飛鳥「おや。光栄だね」

P「わがままって心を開いてくれている証拠だろうし。プロデューサーとしては大切なことだ」

飛鳥「なるほど」

P「それに、飛鳥がそんなことを言ってくるなら、きっと何かどうしても伝えたいこととか、話したいこととかあるんだろうと思うよ。わがままを言ってくれるだけ嬉しいよ」

飛鳥「それもプロデューサーとして、かな?」

P「いや、人として、だな」



………。



飛鳥「っあ、ああ、そうかい。好意的な返答ありがたいね」



一瞬ぼーっとした。危ない危ない。

ちょっとドキッとした? いやウソだろう、いやいや。

深呼吸をする。

深呼吸をする。

………。

よし落ち着いた。





P「まあ最近俺が乃々を頑張ってプロデュースしているのは事実だよ。ある意味一番手間のかかる子だからな」

飛鳥「ふむ」

P「だけど、親しくしているってのが全てだよ。それはみんなも同じさ」

飛鳥「………もし、アイドルとプロデューサーの関係ではなかったら?」

P「そんなたらればを考えたってしょうがないだろう。現実にアイドルとプロデューサーには違いないんだから」



うまくかわされてしまった気がするが、確かにそうなのだろう。

まあプロデューサーが、14歳の女性にぞっこんの絵面も、それはそれで困る。



いささか解せない感じの残るまま、その場は解散となった。





なんというか、さ。

今日はボクらしくもない、下世話な何かが感情の中をいろいろ渦巻く一日だった気がするよ。

だいたい乃々が原因かな。いやプロデューサーが原因と言った方がいいか。

そういえば、Paチームも今日は恋愛話をしていたな。

ユッコとPaプロデューサーが怪しいとかなんとか。



ポケットから缶コーヒーを取り出す。

試供品で配られていたヤツだ。

一気飲みしたい衝動に駆られ、口にした。

何か釈然としない甘さが印象に残った。





翌日。



今日はいつもより随分早く、こうしてレッスンスタジオに来てしまったわけだが、

これに関して深い意味は全くないと、ボクは主張しておきたい。



時間に余裕を持って事務所に来たものの、プロデューサーしかおらず、

昨日の今日ということもあり、話し辛いとか、いたたまれなくなって部屋を出たとか、

そういうわけでは、断じてない。

違うからね。うん。





ま、とにかく。

まだしばらく誰も来ないだろうし、先に軽くストレッチでもしていようか。



♪~♪~



おや?

隣のスタジオから、うっすらと音が。

今は誰かレッスンの時間だったかな。

扉のガラス越しに、窓の向こうの部屋に目を遣る。



タン タン タン



…興味本位で隣なんか覗くもんじゃないね。

予想外な人物が、そこにはいた。





「…1,2,3,4,1,2,…」タン タン キュッ



基礎のステップを繰り返すその姿。

こんなことを言うと失礼だが、その動きはまだ拙い感じが残る。

だがその表情には並々ならぬ気迫が現れていた。



「…3,4!」タン キュッ ダン!



いつものおちゃらけた雰囲気とは違う一面。



「はーっ、はーっ、ゼェ、ゼェ、………あっ、いつからいたんだよこらぁ☆」



しまった、見つかってしまった。

仕方なく部屋に入る。



飛鳥「…どうも。今しがた、ね」

心「覗き見してんじゃねーぞ☆」





飛鳥「いつも早めから練習を?」

心「時間前からスタジオが空いてる時だけね。飲み込み悪いし。前回のステップですら今ようやくできた感じだしね。必死なんだぜ☆」ノビー



心さんである。

いつもの奇天烈な格好とは違い、地味なジャージ姿。

しかも大マジメに自主練習をしている。

人には、思いもよらぬ一面があるものだな。



飛鳥「心さんはさ、何をm」

心「“しゅがーはぁと”」

飛鳥「…心さんはさ、n」

心「はぁとって呼べよ☆」

飛鳥「…」

心「…」

飛鳥「…はぁとさんはさ、何を目標に活動しているんだい?」

心「はぁとわかんなーい☆でも目の前のことは一生懸命やるだけ☆」



おどけた雰囲気を見せつつ、こちらに向き直ってくれた。



心「何? 悩み事?」

飛鳥「…というほどではないけど」

心「ならそんな顔してんなよ☆思春期の乙女か☆」





心「よく考えたらリアルに思春期の乙女じゃねぇかテメーふざけんな☆」





何かの気の迷い、ということはあるかもしれない。

しかしこの時ボクは、虚実織り交ぜたようなこのはぁとさんの姿に

ちょっとした「強い生き様」みたいなものを感じてしまい、

悶々とした自分の心の内を話してしまいたくなった。



飛鳥「はぁとさんはさ、担当プロデューサーをどういう人と捉えている?」

心「なんだ恋バナかよぉー?」

飛鳥「違う。そうじゃなくて、その…そうじゃない信頼関係とか、友情ともまた違う、でも恋愛じゃない…なんというか、そういうものをね。仕事をしていく関係なんだけど、仕事って括りだけとも違う…」

心「つまりアレでしょ? 強い絆とか信頼みたいな言葉で表す感じの」

飛鳥「そう、そんな感じかな。…それ、異性間でもあると思う?」

心「恋したらダメなの?」

飛鳥「ダメとは言わないけど…そういうのなしに」

心「あるだろ別にフツーに。はぁとたちだって、単なる仕事関係のドライなものじゃないと思ってるけど、別に恋愛じゃないし。ここのみんなは結構そうじゃないの?」

飛鳥「…うーん、ちょっと違ってね。ボクの場合、さらにもう少し…なんというか」



うまい表現が見当たらない。



心「あー飛鳥ちゃんはアレだな、唯一無二の親友とか探すタイプだな」

飛鳥「…否定はしないけど、何だい急に」

心「親友の定義って何だとか、真の天才ってどんな人だとか、そういうの考えるの好きだな?」

飛鳥「…まあ」

心「いいぞぉ、心当たりあるぞぉ。かゆいな! んー、まあそれはともかく」

飛鳥「…?」

心「ま、答えは一つじゃないし、今はいろいろ考え続けろよ☆違う考えに感銘受けたらまた改めろ☆」



はぁとさんは荷物を片付け始めた。



飛鳥「え、帰るのかい? この後レッスンなんだろう?」

心「一度着替えてまた来るのよー。こんな汗だくで、自主練習してたの知られるの嫌だし☆」



…この人も、なかなかめんどくさい人なんだな。






心「そうだ。飛鳥ちゃん、キミはCoのプロデューサー君にさぁ、いつものそのクールぶったキミとは違う姿を何か、見せたことはある?」

飛鳥「? …いや、ないかな」

心「自分のガード固めたままで、人の心開こうなんてムシのいい話すぎんぞぉ☆」

飛鳥「…どういう意味だい?」

心「キミはプロデューサー君とより強い絆を持ちたいと思っているんだろー? だったらたまには違う顔見せろって☆満面の笑みでも、恥じらった姿でも、熱く語る思いでも何でもいいから。乙女チックなのとかウケそうだな☆フリフリ着てみる?」



フリフリは勘弁してほしいが、

しかし今のは何か、心に刺さる言葉だ。



心「世の中の人間関係が、なんでも恋愛とか友情とか仕事仲間とか、適当な言葉に収まると思わない方がいいぞぉ☆というか、枠に収まるのが嫌いな思春期めんどくさい病のクセに、細かい定義の話にこだわってんじゃねーぞ☆」

飛鳥「…! あ、ありがとう。お疲れ様」

心「スウィーティー☆」バタン





<アッ ナナサン オツカレサマデーッス!

<チョット! フカブカアイサツスルノヤメテクダサイヨ! ナナハジェイケイデスヨジェイケイ!!





P「…で、こんな事務所から少し離れたカフェまで来て、話とは?」

飛鳥「わざわざ時間を割いてしまってすまない。相談というわけではないんだ。」

P「えっ」

飛鳥「実はキミと、もっとざっくばらんに話がしたくてね。今後のお互いの、より一層の信頼関係の為にもね」



はぁとさんとの会話から数日。

プロデューサーの予定が空いているという日を狙って、

少しゆっくり話がしたい、とカフェに誘ってみた。



P「…確かにまあ、最近は仕事の話ばかりだったし、あまり雑談はしていなかったけど」

飛鳥「ボクは少し考えたんだ。もっともっと、キミの知らないボクを知って欲しい。それはきっと、キミがボクをプロデュースする上でも大事になるだろうってね。それに、キミ自身にも興味があるし」

P「…何か悩みを抱えている、というわけではないんだな?」



この少しズレた心配性なところがまた、プロデューサーらしい。

フフッ、ボクはキミのそういうマジメなところ、結構好きだよ。

…ガラにもなくワクワクしているな。ボクらしくない。



飛鳥「もちろんだ。これからやってみたいこととか、ボクなりの価値観とか、それに対するキミの意見もいろいろ聞きたいし」



その後、彼との雑談は数時間に及んだ。

今後にどれほど役立つかは未知だ。

でも個人的には有意義だったと思っているよ。



ふだんと違う自分が見せられたかって?

果たしてどうかな?

真実は、彼とボクの心の中にだけ納めておこう、ということで。





店を出る。

朝から雨が降ったり止んだりしていた東京の空は、いつのまにか雪に変わっていた。

広げた二つの傘が軽く触れる距離で、街を歩く。

しばしの沈黙の後、プロデューサーが口を開く。



P「やっぱり時々こうしてコミュニケーションの時間を取らないといけないよな。本当は俺が気づいてあげなくちゃいけないことなんだけど…ごめんな。ありがとう」

飛鳥「よしてくれ。ボクはボクが大切に思ったから提案したまでで、応じてくれたプロデューサーには感謝こそすれ責める点などないさ。ここでキミが自身を卑下するのは違うだろう」

P「…すごいな。ずいぶん頼もしくなったな、飛鳥」



光栄なことだ。

だが、ボクは別にすごくはない。少なくとも今のボクは。

10代半ば、学生、アイドル。エトセトラ、エトセトラ。

いろんな肩書きがボクを語るけれど。

決して突出した何かを有した才人でもなければ、

集団の中で笑顔と元気を振りまいて、みんなを牽引するような存在でもない。

ボクはこのボク以上のものを、何も持っていないんだ。



それでも。

ボクのありのままを肯定し、

そのうえで、歌やダンスなどの基礎を教え成長を促してくれた。

光り輝くものがある、と言ってくれた。



飛鳥「ボクはね、たくさん感謝しているんだよ」





他の誰とも異なる、二宮飛鳥という一人の人間であることを強く思う中で。

部活だ恋愛だとはしゃぎ過ごす同級生を横目に。

早熟で世間を騒がせる同世代の才人から目をそらし。

誰にも縋らず生きようとして、でも結局、

羽ばたかずに燻っていた孤高の鳥なんだよ、ボクは。



飛鳥「キミには、これからもたくさん世話になるんだろうと思うし」

P「もちろん、たくさん頼ってくれ。全力のプロデュースで応えるからな」



ボクは自分に才能があるだなんて思っちゃいない。

でもね。

飛べない鳥も、飛ばない鳥もいる中で。

何の因果か、キミと出会って。

何の因果か、ボクは今、飛ぶつもりでいる。

それが運命<さだめ>なのかも、しれないね。



飛鳥って名前は嫌いじゃないんだよ。今はね。





飛鳥「フフッ、今ならトップアイドル目指して…なんてセリフも言えるかな?」

P「おお、トップって初めて言ってくれたな! 俺としても気合いが入るよ! よし頑張ろう!」



ガラじゃないかもしれないけど、

キミとならできると思ったんだが、どうかな?



P「飛鳥は十分に素敵で、魅力的な女の子だ。磨けばどんどん先に行ける!」

飛鳥「フフッ、キミはこんなボクを『女の子』と言ってくれるのか」

P「もちろんだ!」

飛鳥「不思議だね、悪い気はしない」



恋だとか愛だとか、そんな枠組みは忘れよう。

ボクは今、キミを必要としている。

それは恋愛よりも親愛に満ちた気持ちで、

ボクたちだけの、トクベツなものだ。



飛鳥「…今日はいい時間を、ありがとう」

P「こちらこそありがとう。感謝だよ」





満足感に浸りながら歩いている中で、ふと余計な言葉が頭をよぎった。



― “プロデューサー君とより強い絆を持ちたいと思っているんだろー? だったらたまには違う顔見せろって☆”

― “乙女チックなのとかウケそうだな☆”



何か…プロデューサーと…

…いやまて、ボクは今何を考えている?

プロデューサーの方を少し覗く。

…え、いやこの行動は正しいのか?





飛鳥「……………もし、もしさ」

P「?」

飛鳥「もし、ボクも魅力的な女性なのだとしたら…たとえば、その…エスコート的なものは、して頂けたり、するものなのかな?」

P「え、エスコート?」



ああ、顔が熱い。

解せないね、実に解せない。

思わず目を伏せる。



飛鳥「なに、その、…空いてる片手がちょっと、寒いなと思ったからね」

P「………ああ、これは失礼しました、お嬢様」



ギュッ



飛鳥「…」

P「…」

飛鳥「…たまにはこういうのも、悪くないね」

P「それはよかった。でも、今だけだぞ」

飛鳥「もちろん」ニコ



都会の喧噪の中を降り続ける雪は、身も心も凍てつかせる。

だけどこの日、ボクはとても温かかった気がするよ。

深い意味は、ないけどね。





黄昏れと共に、

暮れ行くセカイをひとり感じていたボクの毎日は、

それはそれで悪くなかっただろう。



だがこの気持ちは、そう、この気持ちは。

ボクをこの先に、このセカイに、連れて行くんだろう。

もっと頑張ることとしよう。



飛鳥「キミとなら、きっと」



拙くも紡ぐコトバは、ボクなりの親愛の証ということで。





以上です。



なお、この時の様子はちゃっかり目撃されて噂となり、

乃々に口をきいて貰えず困惑するPがいたり、

蘭子に釈明を要求される飛鳥がいたりしたが、

それはまた別のお話。





過去作に
みちる「もぐもぐの向こうの恋心」
裕子「Pから始まる夢物語」
があります。

別に続き物というわけではないですが、
登場人物がだいたい同じです。
よろしければどうぞ。

おそまつ。


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