◆
女「そっか。やっぱり二人はつきあってたんだね」
「そうだけど。それがどうかした?」
女「なんとなく聞いただけ。それより、先に謝っておくね」
「なんの話?」
女「ノートに名前を書いちゃってごめんなさい」
「意味わかんない。どういうこと?」
女「それじゃあ、バイバイ」
「ちょ、ちょっと! なんなの急に……うぅっ!」
死神「最期まで見届けなくていいのか?」
女「近くにいたら、いろいろと面倒でしょ」
死神「なるほど」
女「……それにしても。『デスノート』の効果は本物なんだね、死神さん」
死神「言ったはずだ。死神は嘘をつかないってな」
死神「さて。いらないのなら俺にそのノートを返せ」
女「返したらどうなるの?」
死神「お前の前から消えてやる。『デスノート』に関する記憶も消す」
女「名前を書かれた人間が死んじゃうノートかあ」
女「すごいね、本物だったら」
死神「この期に及んでまだ信じてないのか」
死神「それなら顔が浮かんだヤツの名前を、誰でもいい、ノートに書いてみろよ」
女「その必要はないかな」
死神「どういうことだ?」
女「だってあたし、これで殺したのは二人目だし」
死神「先に言えよ」
女「それにこんなのが目の前にいるんだよ? さすがに信じちゃうよ」
死神「こんなのって俺のことか?」
女「他にいる?」
死神「はじめて俺を見たときは、ビビって腰抜かしてたのに」
死神「まあいい。で、お前はデスノートを使うんだな?」
女「うん。せっかくだしデスノートは使ってあげる」
女「あっ、ノートを使うのにリスクはないんだよね?」
死神「しいて言うなら俺がお前につきまとうってことか?」
女「うわあ。つきまとうってことはお風呂やトイレのときも?」
死神「安心しろ。お前がイヤな場合は席を外す」
女「よかった。死神さんと混浴は勘弁だもん」
死神「……それから。一つ言っておく」
死神「これは決してノートを使う上でのルールや条件じゃない」
死神「だが、どうせデスノートを使うなら俺を退屈させないでほしい」
女「楽しませろってこと?」
死神「そうだ。わざわざ大王にりんごを献上して、新しいノートまで入手したんだ」
女「よくわかんないけど。あたし、もうこのノートの使い道は決めてるよ?」
死神「マジか。ひょっとして『キラ』みたいなのを目指すのか?」
女「キラとか懐かしっ。でもあたし、キラとか興味ないから」
死神「じゃあノートはどんなふうに使うんだ?」
女「決まってるでしょ。デスノートには名前を書くんだよ」
女「――あたしのクラスメイトの、ほぼ全員のね」
◆一日後
担任「今日は最初にみんなに伝えておくことがあります」
担任「昨日、青木さんが駅近くの交差点で心臓麻痺で――」
死神「なんだ、まだ一人しか殺してないのかよ」
死神「クラスの奴ら全員、死んでるのを期待してたのに」
女「……」
死神「おい、俺の話聞いてんのか? ……なに書いてんだ?」
女『死神さんの姿や声は、あたしにしかわからないんでしょ?』
死神「筆談か。昨日も同じことを言ったぞ」
女『つまり教室で死神さんと会話したら、おかしな子に思われちゃう』
死神「そんなことか。ていうか、なんで一人しか殺してないんだよ?」
女『あたし言ってないよ。一日でクラス全員の名前を書くなんて』
女『ノートに名前を書くのは、一日に一人のつもり』
死神「なんでだ? 一発でドバっとやればいいだろ?」
女『今は説明がめんどいから帰ったら説明する』
死神「じゃあ俺、学校でなにしてればいいんだよ?」
女『寝てれば?』
死神「俺は死神だから眠る必要がない」
女『話はあと。今はテストの暗記に集中したいの』
死神「そういえば来年から高校受験がどうとか言ってたな」
女『来年は中三だからね。勉強嫌いのあたしも、マジメに勉強しなきゃダメなの』
死神「えー、退屈」
女「……」
死神「……露骨に鬱陶しそうな顔するなよ。ちょっと傷つくぞ、死神でも」
女『死神さんって、絶対にあたし以外には見えないんだよね?』
死神「ああ、基本的には」
女『じゃああたしのために働いてみない?』
死神「ほう、面白いことか? なにをさせる気だ?」
女『の・ぞ・き』
◆放課後
友「全然歴史のテストできなかったよ。レミちゃんは?」
女「今日は神様が憑いてたからね。あたしにしてはデキがよかったよ」
友「抜けがけなんてズルいよお」
女「あはは。テスト終わったし、駅前のクレープ屋行かない?」
友「……駅のそばの交差点だったよね、青木さんが死んだのって」
女「たしかに。あそこの交差点、呪われてたりして?」
友「や、やめてよ」
女「冗談だって。だいじょーぶ、ユリはあたしがまもってあげるから」
友「それ、幼稚園のころからずっと言ってるよね」
友「それにしてもさ。青木さんが死んでも普通に授業もテストもあったよね」
友「それに、クラスのみんなもそこまで気にしてなさそうだった」
女「おとなしくて地味だし、あんまり友達もいなかったからじゃない?」
友「……レミちゃん。ひょっとして青木さんのことキライだったの?」
女「なんで?」
友「なんとなく、言葉がトゲトゲしてるから」
女「気のせいだよ。あたしとあの子、あんまりしゃべったこともないし」
女「ユリは仲良かったんだよね、青木さんと」
友「うん。一回だけど、二人で遊んだこともあるよ」
友「でも、よかった」
女「よかった? なんで?」
友「わかんない。だけどレミちゃんには、誰のこともキライにならないでほしいなって」
女「……そっか」
友「あれ? あそこにいるのって『梅ちゃん』かな? おーい!」
「……」
友「ねえ、なんか様子が変じゃない?」
女「そうかも。なんかうつむいてるし、話しかけないほうがいいよ」
友「そうかな? ……ね、ねえ! あのトラック……!」
キイイイィッ――
死神「……また一人、殺したわけか。青木と同じ交差点で、しかも今度は自殺か」
◆
・デスノートに名前を書かれた人間は死ぬ。
・名前を書く人物の顔が頭に入っていないと効果は得られない。
・名前のあとに人間界単位で40秒以内に死因を書くと、そのとおりになる。
・死因を書かなければ、すべてが心臓麻痺となる。
・死因を書くとさらに6分40秒、詳しい死の状況を書く時間を与えられる。
・デスノートで死を操れる日数は23日間のみ。
死神「昨日は説明しなかったからな。デスノートの簡単なルール説明だ」
女「むりっ、覚えきれない。てきとうにノートに書いといてよ」
死神「書いてあるじゃねえか」
女「英語でね。あたし、英語なんて全然読めないから」
死神「……」
死神「記憶力なさすぎだろ」
女「無理なもんは無理でーす」
死神「わがままだな。死神の俺にテストのカンニングまでさせやがるし」
女「お礼にポテチのコンソメ味を食べさせてあげたでしょ」
死神「りんご以外にも人間界にはうまいもんがあるんだな。また食わせてくれよ」
女「またあたしのために働いてくれたら考えてあげる」
死神「こんちくしょうめ」
死神「そういえばまだ聞いてなかったな」
女「なにが?」
死神「お前がデスノートを使う理由だ」
女「誰にも言わない?」
死神「そもそも言う相手がいない。……ていうか、なに照れてるんだよ?」
女「だって恋愛のことだもん」
死神「恋愛?」
女「……あたしね、好きな人がいるの」
死神「……おう」
女「だからデスノートを使うんだよ」
死神「お前、説明下手だろ。全然理解できねえぞ」
死神「だいたいデスノートの使用とお前に好きなヤツがいるってのは、どう結びつくんだ?」
女「死神さんって吊り橋効果って知ってる?」
死神「聞いたことはあるが、どういう意味なんだ?」
女「橋を渡ろうとするでしょ? そうするとドキドキするじゃん?」
女「あっ、でもね。その橋をわたろうとするのは男女二人なの」
女「やがて二人はいい感じになって……あれ、なんかちがうな」
死神「つまり、恐怖によるドキドキと恋のドキドキを勘違いして相手を好きになる、みたいな?」
女「そう、それっ! よくわかってらっしゃる!」
死神「で、お前はそれをデスノートで再現するってわけだ」
死神「クラスメイトを一人ずつ殺していくことによって」
女「そーいうこと」
死神「なるほどな。そしてその好きなヤツの名前だけはノートに書かない、と」
女「まあ、その人だけじゃないけどね」
死神「……」
女「どうしたの?」
死神「いや、恋愛のためにデスノートを使う。そんな発想が俺にはなかったからな」
死神「しかも、自分のクラスの連中の大半を殺す気なんだろ?」
女「死神さんでもやっぱりおかしいって思うんだ、あたしがやろうとしてること」
死神「俺たち死神でも人間の価値観や倫理観が、理解できないわけじゃない」
死神「そうじゃなくても俺は死神界から人間をずっと観察してたからな」
女「へえ、人間に興味があったんだ」
死神「ああ。お前らが俗に言うキラ。そいつが犯罪者を殺しまくったろ?」
死神「そのせいで死神界にも人間に興味をもつヤツがあらわれた」
女「死神さんもその一人ってわけね」
女「……あれ? なんでそれで死神が人間に興味をもつの?」
死神「そりゃあ人間がデスノートを使って、同じ人間を殺しまくったからに決まってるだろ」
女「え!? キラってデスノートもってたの!?」
死神「お前、気づいてなかったのか?」
女「……死因を書かなければ心臓麻痺。言われてみれば、だね」
女「そっか。キラはノートを使って犯罪者裁きをしてたんだ」
死神「お前、あんまり頭よくないんだな」
女「あっ、ひどい!」
死神「言い換えれば、デスノートのおかげでキラは生まれたとも言える」
女「うわあ、コワっ」
死神「実を言えば俺は、お前にキラの真似事をさせるのも、ありだと思っていた」
女「むりむりっ。あたしにはできないよ、キラの真似なんて」
死神「そうだな。キラは頭がよかったみたいだし」
女「……なんかあたしのこと馬鹿にしてない?」
死神「してないと思うのか?」
女「ああもうっ! 二度とポテチあげないから!」
死神「え? ……ごめん」
女「ふんっ、知らない」
死神「だけどお前、殺す順番はどうするんだ?」
女「知りたい?」
死神「できればな」
女「では、突然ですが問題です。あたしの名字はなんでしょうか?」
死神「『渡辺』だろ?」
女「そうです。そして昨日と今日、ノートで死んだのは?」
死神「昨日が青木だな。今日が『梅ちゃん』ってヤツだったな」
女「ちなみに梅ちゃんの本名は『加藤梅』って言うんだよ」
死神「それがなんだ?」
女「これだけヒントを出してるのにわかんないの、死神さん?」
死神「……さっき俺に馬鹿にされたこと、気にしてんのか?」
女「べつに」
死神「そんで? 殺しの順番は結局なんなんだよ?」
女「ずばり、出席番号順」
死神「なるほど。青木から番号順に殺していけば、お前は自然に最後まで生き残れるってわけだ」
女「まっ、あくまで予定だけど」
死神「いちおうお前なりに考えてるわけだ」
女「当たり前でしょ。仮にも人を殺すんだから」
死神「……人を殺してるって自覚はあるんだな」
女「当たり前じゃん」
女「命は重いから人殺しはダメ。あたしだってそれぐらいはわかるよ」
死神「命は重い、ねえ」
女「あたしもすごく怖かった、一人目を殺したときは」
死神「とてもそんなふうには見えないがな」
女「死神さんにいいことを教えてあげる」
死神「ん?」
女「女子って生き物はね、自分の恋愛のためならなんだってするの」
死神「ほう」
女「親を騙すことだって。仲のいい友達を裏切ることだって」
女「――デスノートに名前を書くことさえ、ね」
死神(……女が怖いってのは人間も死神も変わらないみたいだ)
◆三日後
死神「ここまでは順調に殺して来たな」
女「だーかーら、登校中に話しかけないでよ」
死神「仕方ないだろ。俺の話し相手はお前しかいないんだ」
女「たまにはどっかに遊びに行けばいいのに」
死神「それはできない。死神はノートか持ち主の最期を見届ける義務があるからな」
女「じゃあハッピーエンドになるように願っておいてね」
男「レミ」
女「よ、横ちん!?」
男「びっくりしすぎでしょ? どうしたの?」
女「べ、べつになんにもだよ」
死神「…………ほう、なるほどねえ」
男「ていうか、いいかげんやめてよ。『横ちん』って呼ばれるの、けっこう恥ずかしいよ」
女「今さら変えろって言われても困っちゃうよ」
男「……そうだね」
女「ねえ、なんか元気ないけど大丈夫?」
男「……だって、昨日でクラスの人が五人も死んじゃったんだよ?」
女「……うん」
男「次は自分の番かもしれないって思うと、最近は寝つけなくて」
男「それに、実は僕と青木さんは……」
女「つきあってたんでしょ?」
男「知ってたんだ」
女「一度だけ青木さんと話したことがあって、そのとき聞いた」
男「……そっか」
女「体調が悪いなら、無理しないで休んだほうがいいんじゃないの?」
男「いや、どんなことがあっても学校は休んじゃいけないよ」
女「本当に横ちんってマジメだね」
男「そう? まあ僕は学級委員だしね」
女「それって関係あるの?」
男「わかんない。ただ……」
女「ただ?」
男「このままだとうちのクラスだけ、お休みになっちゃうかもね」
女「どうして?」
男「クラスで五人も死んでるんだよ?」
男「さすがに先生たちも、なにか対策を練ろうとするんじゃないかな?」
女「じゃあ、お休みなるかもしれないってこと?」
男「その可能性は十分にあると思う」
女「そんなのイヤだよ……」
男「……レミって勉強は嫌いなのに、学校は好きだよね」
女「だって、会いたい人がいるんだもん」
男「え?」
女「ううん、ごめん、なんでもない」
◆帰宅後
女「学級閉鎖の可能性なんて、全然考えてなかったよ」
死神「どうするんだよ?」
死神「このままだと学校がなくなるかもしれないぞ?」
女「……わかってるよ。なんとかする」
死神「なんとかするって?」
女「それは……」
死神「その顔は間違いなく、なにも浮かんでない顔だな」
女「今から対策を考えるからいいのっ」
死神「まっ、せいぜいがんばれよ」
死神「そういや、お前が『横ちん』って呼んでたヤツだが」
女「横ちんがどうかした?」
死神「あいつの名字ってなんだ?」
女「『横井』だけど。それがどうしたの?」
死神「いや、聞いただけだ。気にするな」
女「気のせいかな。なんか死神さんの顔、ニヤニヤしてる気がする」
死神「べつに。ただお前の好きなヤツの見当がついたからな」
女「……あっそ」
死神「それから。俺にも立派な名前があるんだが」
女「興味ないし、今は学級閉鎖を防ぐ手段を考えてるからあとにして」
死神「……」
死神「えー、俺の名前に興味ないの?」
女「全然ない」
死神「俺の名前がわかれば、デスノートで俺を殺せるかもしれないぞ?」
女「さすがにあたしでも、嘘だってわかるよ」
死神「なんでバカのくせにわかるんだよ」
女「ああもうっ! とにかく静かにしてよ! 漫画読んでてもいいから」
死神「漫画か。面白そうだな、どれがおすすめだ?」
女「『ヒカルの碁』とか?」
死神「囲碁なんてわかんねえし。ほかにねえのかよ?」
女「……」
死神「おい、聞いてんのか?」
女「……もう一回、ノートのルールについて説明してくれない?」
死神「なんでだ?」
女「そりゃあもちろん、思いついたからだよ」
死神「ほう。ってことは、学級閉鎖を防ぐ方法が浮かんだわけだ」
女「うん。たぶん、この方法ならイケると思う」
女「それに、これなら死神さんも退屈しないかもよ?」
死神「いいだろう。お前のために、そして俺のために」
死神「ノートのルールをもう一度説明してやろう」
つづく
レスにもあったとおりこのssは月が死んでさらにcheepキラが現れたあとの話です
明日の夜10時ぐらいから再開の予定
◆一日後
女「……緊張して全然眠れなかった」
死神「なに言ってんだ、途中からいびきかいてたくせに」
女「嘘だあ。あたしみたいなカワイイ女の子がいびきなんて。ありえませーん」
死神「ふん。人を目覚ましがわりにしたり、こき使ってくれる」
女「だって死神さんって寝る必要ないんでしょ?」
死神「基本的にはな」
女「昨日の夜ってなにしてたの?」
死神「漫画を読んでた」
死神「そうそう、お前のおすすめしたヤツ、アレ面白かったわ」
女「当たり前じゃん。あたしのチョイスだし」
死神「これからお前が寝てるときは、漫画を読んでることにするわ」
女「あはは、そうしなよ」
女「あっ。お母さんが入ってくることがあるから、それだけ注意してね」
死神「了解」
「なにを一人で話してるの?」
女「ぎゃっ!?」
「……ウシガエルが潰れたみたいな悲鳴ね」
女「び、びっくりした! 急に話しかけないでよ、キヨミちゃん」
死神「コイツ、あれだな。この前のテストで俺がカンニングしたヤツだ」
死神「お前とちがってこの女は頭がよさそうだったな」
女「……」
秀才「はいはい。ていうか珍しいわね、あなたがこんな早くに学校に来るなんて」
女「いやあ、今日はたまたま早く目が覚めちゃって」
秀才「そう。今日はイヤなことが起こりそうね。そう、殺人級の」
女「そんな言いかたしなくても……」
秀才「失礼。殺人級じゃなくて、実際に殺人が起きてるのよね」
女「……あ、あはは」
秀才「それじゃ。私は先に行くから」
死神「変わったヤツだな、あいつ」
女「あたし、あの子のこと苦手」
死神「気にすんなよ。どうせあの女も、いずれ殺すんだろ?」
女「……まあね」
女「イケないイケない。今はこれからのことに集中しなきゃ」
死神「しかし、マジでこれから職員室に突撃すんのか?」
女「そーだよ。先生全員が集まる朝の職員会議。特攻するには持って来いでしょ」
死神「……気が進まないな」
女「りんごとコンソメ味のセット」
死神「協力する。協力するから絶対に食わせろよ」
女「名演技に期待してるから」
死神「まかせておけ。せいぜいコワイ死神を演じてやろう」
◆
教師1『さすがに今日は、四組について話し合うんでしょうね』
教師2『そうでしょう。ここまで連続して生徒が死ぬなんて』
教師2『のろいの類だって言われても信じてしまいそうだ』
教師1『そうです。……小暮先生、そのノートはなんですか?』
教師2『ああ、これですか? 職員室の前に落ちてたんですよ』
教師1『真っ黒なノートですね。それにボロボロだ』
教師2『ただ、なんにも書いてないんですよね。破った痕跡はあるんですけど』
教師1『捨てちゃったほうがいいんじゃないですか?』
女「よし、突撃するよ。死神さん」
死神「わかっている」
バンッ!
女「先生助けてくださいっ!」
教師1「な、なんだ急に?」
女「あ、あたし……なんか変なのに取り憑かれてて……!」
教師1「はあ? なにを言ってるんだ……」
教師2「ひいいいいぃっ!?」
教師1「こ、小暮先生?」
教師2「な、なんだお前の後ろにいるのは!?」
女「……」
死神「はじめまして。俺は死神で、見ての通りだ、今はここに遊びに来た」
教師2「なっ、なななにを言ってんるんだ!?」
教師1「落ち着いてください。なにをそんなに驚いて……」
教師2「見えないのか!? あの化物が!?」
死神「今、俺が見えるのはお前しかいない」
死神「なぜなら俺の姿が見えるのは、そのノートに触れたヤツだけだからな」
教師2「こ、このノートを触ってくださいっ!」
教師1「なんなんですかさっきから。これでいいです……ひいいっ!?」
教師3「ふざけてるんですか? このノートがいったい……ぎゃああっ!?」
「どうしたんですか!?」
「さっきからなにが起きて……」
死神「俺はべつにお前らに危害をくわえるつもりはない」
死神「ただ、ここにいる先生方に個人的な頼みをしに来た」
教師1「た、頼み!?」
死神「今、あるクラスで生徒が次々とくたばってるな?」
教師2「ま、まさかお前が四組の生徒を!?」
死神「さあな。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
死神「だが、そんなことはどうでもいい。俺の要求は一つだ」
死神「あのクラスを閉鎖せず、これからもごく普通に授業を行ってほしい」
教師1「そ、それがお前の頼みなのか?」
死神「ああ。この要求さえ飲んでくれりゃ、なにもしない」
死神「ただし。この要求がまもられなかったら……どうなるかな?」
教師2「……ど、どうなるんだ?」
死神「たとえばこの女子生徒が……」
女「ひっ!? せ、先生……た、助けて……!」
教師2「わ、わかった! お前の要求は飲むから、その子から手をはなせっ!」
死神「よかったなあ。優しい先生たちで」
女「……」
死神「それじゃあ俺はこれで。お騒がせしたな」
死神「……っと、いけない。そのノートは俺のもんだ、返してもらおうか」
教師2「も、持っていけ!」
死神「ヒヒヒっ。そんなにビビるなよ」
死神「それじゃ。お前たちが俺との約束を破らないことを祈っているぜ」
女「……死神って誰に祈るんだろ」
教師2「な、なんだったんだ今のは……?」
担任「わ、渡辺! 大丈夫か?」
女「あ、はい。なんか気づいたらとり憑かれてて……」
女「でも、なにかされたってワケじゃないです」
教師1「あの得体の知れない化物について、なにか知ってないのか?」
女「知ってるわけないです」
教師2「実はお前が連れてきたとかじゃないだろうな?」
女「なに言ってるんですか……!」
教師2「じゃあ、あの黒いノートについては?」
女「知りませんし。そもそも見たことも触ったこともないです!」
担任「ま、まあまあ。渡辺も小暮先生も落ち着いてください」
教師2「……クソっ! なんなんだいったい!」
女「……」
◆
女「死神さん、なかなかいい演技してたよ」
死神「……しゃべって平気なのか?」
女「ここは保健室で、今は誰もいないし大丈夫じゃない?」
死神「それならいいんだが。だが、ずいぶん思い切った計画だったな」
女「えへへ、我ながらナイスアイディアだと思う」
女「死神さんに脅迫させて、あたし自身を被害者に仕立てあげる」
女「完璧じゃない? ノートも取り返したし」
死神「もし万が一、お前は警察に捕まっても俺のせいするってわけか?」
女「そーいうこと」
女「『死神さんの命令で仕方なくノートに名前を書いてました』で、あたしは立派な被害者だもん」
死神「……本気でそう言ってんのか?」
女「どういうこと?」
死神「本気でわかってないのか?」
女「全然っ、さっぱりピーマンって感じ」
死神「ノートに触った人間は、俺の姿が見える。これはわかるな?」
女「うん」
死神「そして俺はノートの所有者であるお前に、常に憑いていないといけない」
女「……あっ、ヤバい」
死神「そうだ。お前、デスノートを触った教師に見られたら、俺が憑いてることがバレるぞ」
女「なんで早く指摘してくれなかったの!?」
死神「いや、普通にそこらへんまで考えてるのかと」
女「あたしがバカなことは死神さんもよく知ってるじゃん!」
死神「都合のいいときだけバカになるな」
死神「だいたい俺に頼らなくても、ノートで脅迫はできただろ?」
女「言うの遅すぎぃっ!」
死神「……で、どうするんだ?」
女「今日はもう早退するよ。こっそりとね」
死神「それじゃなんにも解決してないぞ」
女「……仕方ないね。あの先生たちには悪いけど、家に帰ったらノートに名前を書いちゃお」
死神「命は重いんじゃなかったのか?」
女「命は重いよ。でも仕方ないでしょ?」
女「あたしの恋はもっと重いんだもん」
死神「……うわあ、コワっ」
◆
死神「ようやく名前を書くか」
女「あたしってば記憶力悪いし、そろそろ書いておかないとね」
死神「なあ」
女「なに?」
死神「どうして死因を毎回バラバラにするんだ?」
女「キラ事件のことをね、すこしだけネットで調べたの」
女「そしたら『L』がたった一人の心臓麻痺から、キラがいる場所を特定したって出てきたんだよね」
死神「なるほど。よかったな、加藤はたまたま自殺にしてて」
女「よくない。もしかしたら青木さんの件で……」
ピンポーン
女「……だ、誰だろ?」
死神「しらねえよ」
◆
男「なにをそんなに警戒してたの?」
女「べ、べつに警戒なんてしてないよ」
男「僕の勘違い? それにしてはビクビクして見えたけど」
女「横ちんの気のせいだよ。それにしてもウチに来るなんて、どうしたの?」
男「心配だったからさ」
女「心配?」
男「うん。体調不良で早退したって、先生から聞いたんだ」
女「心配かけちゃってごめんね。今はもう大丈夫だから」
男「それならよかった。にしても……」
女「ん?」
男「いや、レミの家に来るのっていつぶりかな?」
女「そういえばすごくひさしぶりだね」
男「そういえば、これ。忘れないうちに渡しておくね」
女「これって、この前の授業参観のときの写真?」
男「うん。今日、ようやく現像されたのがもらえたんだ」
女「なんか親がいるせいか、教室が狭く見えるね」
男「うちのクラスは生徒数も多いから、よけいにそう見えるね」
男「でも……」
女「横ちん?」
男「もう、この写真の中には死んだ人もいるんだよね」
女「……そうだね」
男「……実は僕、あることに気がついたんだ」
男「うちのクラスで死んでいく生徒の順番、それが出席番号順だって」
女「それ、たぶんみんな気づいてるよ?」
男「レミも気づいてたの?」
女「うん。さすがにわかるよ」
男「なんかショックだな……いや、今のは忘れて」
女「なんかさらっとバカにされた気がしたけど、まあいいや」
男「……もしクラス全員が死ぬのなら、僕らが最後なのかな?」
女「やめようよ。そんなことを考えるのは」
男「レミは怖くないの? 僕は怖くて仕方ない、死ぬのが怖い」
女「……手、握ってあげようか?」
男「え?」
男「なんで?」
女「特に理由はないけど、怖がってる人には効果があるかなって」
男「ば、バカにしないでよ。僕だってオトコだぞ」
女「……ふーん、あっそ」
男「なんなら今からここで、キミの部屋を漁って下着とか盗み見てあげようか?」
女「いや、本気でやめて」
男「じゃあ恥ずかしい日記とかでも探そうかな?」
女「そんなのはないよ」
男「あの机に載ってるのは?」
女「そ、それは……」
ピンポーン
◆
友「ご、ごめんね。突然おじゃましちゃって」
女「ううん。お見舞いに来てくれたんでしょ?」
友「まあね……」
男「じゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな」
女「もっとゆっくりしていけばいいのに」
男「遠慮しておくよ。これか塾があるしね」
友「……」
男「どうしたの、鈴木さん? 僕の顔になにかついてる?」
友「い、いえ。なんにもです」
男「そう? それじゃあお邪魔しました」
女「ん、バイバイ」
女「……」
友「……」
女「えっと、ポテチでも……」
死神「おい」
女「……ポテチはダメだけど、なにかお菓子でも食べる?」
友「大丈夫。今はそんなに食欲はないから」
女「そっか。それで、今日はどうしたの?」
女「お見舞いだけのために、うちに来たんじゃないでしょ?」
友「……やっぱりレミちゃんには隠しごとはできないね」
女「当たり前じゃん。何年、友達やってると思ってんの?」
友「……そうだね。あのさ、あたしって明日死ぬのかな?」
女「……」
女「どうしてそんなことを?」
友「レミちゃんだって特に気づいてるよね?」
友「クラスの死ぬ順番、あれが出席番号順だってこと」
女「でも。もしかしたら、ユリだけ飛ばされるかもしれないよ?」
友「……やめてよ。そんな気休め言わないでよ」
女「……」
友「イヤだよ。私、まだ死にたくないよ……」
友「まだ恋愛だって満足にしてないんだよ?」
女「恋愛?」
友「……私、横井くんのことが好きなの」
女「!」
死神「……へえ」
友「ずるいよ。なんでレミちゃんは出席番号が最後なの?」
友「どうしてレミちゃんと横井くんが、二人で最後なの?」
女「……」
友「ご、ごめん。私ったら言ってることが支離滅裂だね」
女「……うん」
友「私、帰るね」
女「待って。帰って……帰ってユリはどうするの?」
友「……ごめん。もうなんにもわかんないや」
女「ゆ、ユリっ!」
友「さよなら」
死神「……いいのか? 追いかけなくて」
女「たぶん今あたしがなにをしても、ユリは答えてくれないよ」
女「それに。そんなことをする必要は……」
死神「まあ、なんでもいいか。しかし、横井はずいぶんとモテるんだな」
死神「あの秀才女も、従業中は横井のことばかり見てるぜ」
女「……」
死神「おいおい、どこ行くんだよ」
女「お母さんが帰ってくる前に、米研ぎとかお風呂掃除しておくの」
死神「今の今まで、生きるか死ぬかの話をしておいて」
死神「まあお前らしいっちゃ、お前らしいな」
◆
「――午後八時――交差点で――人気歌手の――死亡――」
母「まさかあのバンドのボーカルが交通事故で死ぬなんてね」
女「……」
母「あんた、顔色が優れないけど。どっか悪いの?」
女「そんなことないよ。今日はちょっと疲れちゃっただけ」
母「……ねえ、学校に行かないほうがいいんじゃない?」
女「なんで?」
母「だって……」
女「行っても行かなくても死ぬなら、あたしは学校で死にたいなあ」
母「縁起でもないこと言わないでっ!」
女「……ごめんなさい」
◆
死神「どうした? 難しい顔をしても似合わないぞ」
女「うるさいなあ」
死神「なんだ、今さらになってノートで人を殺すのをためらってるのか?」
女「……だって、今までは仲のいい友達じゃなかったもん」
死神「ここでやめちまうのか? 恋のために殺しをしてきたのに」
女「……あたしね、ずっと好きでずっと恋をしてきたの」
女「それに言ったよね、死神さんに」
死神「なにをだ?」
女「女子って生き物は、自分の恋のためならなんだってするってね」
死神「じゃあ、殺しは続けるんだな?」
女「もちろん」
◆次の日
担任「昨夜、『また』うちのクラスの生徒が亡くなりました」
女「……」
死神「ひひっ、いくら学校があるからってコイツら、よくこの状況で学校に来るよな」
死神「まっ、どいつもこいつも死んだ魚みたいな目になってるが」
担任「今日は……二人の生徒が亡くなりました」
担任「一人は『鈴木ユリ』さん」
死神「ははっ、声が震えてるなあ、なあ、レミ?」
死神「……って、二人?」
担任「もう一人は……『横井ダイチ』くんです」
死神「……横井?」
女「ち、ちがう……こんなの間違ってる……!」
死神「レミ? どういうことだ?」
女「あ、あたしは…‥あたしは……!」
担任「渡辺っ!?」
秀才「……」
死神「急に教室から出るなよ」
死神「状況もわからないし。いったいどうなってるんだ?」
女「そんなのあたしが知りたいよ……っ!」
死神「はあ? ユリと横井の名前を書いたのは、お前だろ?」
女「ちがうよっ! 昨日は先生の名前しか書いてないっ!」
女「の、ノートをみてよ! ほらっ! どこにもユリの名前も横ちんの名前もないでしょ!?」
死神「……たしかにないな」
女「まさか死神さん……っ?」
死神「俺もノートは持ってるが、俺には二人を殺す理由なんてない」
女「じゃあ誰が殺したの!? 誰が名前を書いたの!?」
死神「落ち着けよ。冷静にならなきゃ、なにもわからないぞ」
女「そんなの無理だよっ! 無理だよ……」
女「返してよ……返してよっ……うぅっ……ぐすっ……」
女「――あああああああああぁっ!」
死神(こりゃあしばらくは手がつけられないな)
『――ニュースです――昨晩犯罪者が――心臓麻痺で14名――』
「キラ事件の再来!?」
「いや、まだそうと決まったわけでは――」
「今後どうなるかなあ」
「またキラが現れたとしたら二年ぶり?」
「キラの劣化版?」
「俺はずっと待ってたけどな、キラだったら大歓迎」
「――キラがまた現れたんだ」
つづく
明日は九時ぐらいから再開の予定
すみません
諸事情で再開はすこし遅くなります
【朗報】ついにキラ復活か!?【一年半年ぶり!】
31:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
やっとキラ様復活きたか
32:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
でもこのキラって初代キラじゃないんでしょ?
33:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
そもそも初代キラとか言ってるが本当にキラって複数いるのか?
一年前に現れたキラは急な路線変更だったかもしれないだろ
34:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
路線変更wwww
まあ確かにキラ以外に誰が心臓麻痺で人殺せるんだって話だが
35:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
13年に現れたキラってLに人殺しって言われたとたん消えたよな
マジで謎だわ。まさか人殺しって自覚がなかったとかじゃないよな?
36:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
Lなんて最初にキラの居場所特定した以外は無能なのにえらそうだよな
特にこの前は電波ジャックして人殺しって言って終わりとかなめてるだろ
あれが世界一の探偵なら俺でも探偵できますわwwwww
37:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
>>36早く仕事探そうな裁かれるぞ
38:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
基本的に俺はキラの犯罪者裁きには賛成なんだが
こいつのせいでSNSの発展が妨げられたのが複雑だわ
39:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
SNSってFACEBOOKとかTwitterとかだろ?
当然じゃん 何で殺されるか分からんのにフェイスブックとかやる奴はアホ丸出しのイカレちんぽやろう
40:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
JKの画像漁りまくる俺の夢が・・・・
41:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
キラ様この人です>>40
42:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
ツイッターも写真機能ついてたのに誰も使わないもんな
ゆとりの未成年飲酒画像アップからの晒し→キラの裁きとか拝みたかった
43:名無しでも死亡:2014/11/17(月)ID: ???
>ゆとりの未成年飲酒画像アップからの晒し→キラの裁きとか拝みたかった
いくらゆとりでもそんなことする奴いねえよwwwwww
44:SHINIGAMI:2014/11/17(月)ID: ???
キラは復活しました
◆1日後
死神「いつまでそうやってベットに引きこもってんだ」
女「うるさい」
死神「泣いてたってなんにも変わらないぞ」
女「わかってるよ。そんなことぐらい」
死神「ようやくベッドから出る気になったか」
女「……ねえ、死神さん」
死神「なんだ?」
女「もしかしてデスノートって一冊だけじゃないの?」
死神「言わなかったか? 死神はノートを基本的に一冊は所持している」
女「じゃあ死神さんのノートを見せて」
死神「まだ俺のことを疑ってんのかよ」
死神「ほらよ」
女「これ、偽物とかじゃないよね?」
死神「ためしに名前を書いてみるか?」
女「……いい。じゃあ新しい死神が人間界に現れたってこと?」
死神「ユリと横井が本当にデスノートで殺されていれば、そうだろうな」
女「死神さんは、ほかの死神が見えるんだよね?」
死神「ああ。逆にお前は、俺以外の死神を見ることはできない」
女「それじゃあ死神さん――」
死神「俺にほかの死神を探せってか? 普通に考えて無理だろ」
女「……ああもうっ! じゃあどうすればいいの!?」
死神「そもそもお前は、ほかのデスノート所有者を見つけてどうする気だ?」
女「言わなくてもわかるでしょ?」
死神「探して殺す、か」
女「絶対に許さないんだから。絶対に見つけて、そして……」
死神「しかし、探すのはそんなに難しくなさそうだよな?」
女「……そうだよね。すくなくとも、あたしの学校について知ってる人には限定できるもんね」
死神「まっ、だとしてもお前には難しいだろうな」
女「また馬鹿にした。いいもん、絶対に見つけてやるから」
死神「どうやって?」
女「それは……まずはうちの学校の殺人についてどこまで情報公開してあるか、調べる、とか?」
死神「ほう」
女「あ、でも。デスノートに必要なのは名前と顔、か」
女「そんな簡単に個人情報って手に入るのかなあ」
死神「死神の俺に聞かれてもなあ」
女「塾の勧誘とかで、住所と名前が勝手にバレてる、みたいなのならあるけど」
女「顔はさすがにわからないよね?」
死神「だから俺に聞くなっつーの」
死神「……ああ、だが俺も一つ気にかかっていたことがある」
女「なになに!?」
死神「あの秀才女、名前はなんて言った?」
女「前田さんのこと? あの人がどうかしたの?」
死神「勘違いかもしれないから、あんまり期待するなよ?」
女「いいから早くっ!」
死神「……俺は学校にいるときはやることがないからな」
死神「常にお前のクラスメイトを見ていた。もちろん、前田も例外じゃない」
女「それで?」
死神「ヤツはよく授業中なんかに横井のことを熱心に見てたからな」
死神「俺はてっきりあの女が横井のことを好きだと思っていた。だが」
女「だが?」
死神「横井が死んだって担任が言っても、あいつは表情一つ変えなかった」
女「うんうん、それで?」
死神「それだけだ」
女「それだけ? それだけじゃ、なんにもわかんないよ」
死神「……そうか、すまん」
女「それに、もし前田さんがデスノートを持ってたとするよ?」
女「それに……横ちんのことを好きだったとして、殺す理由はなに?」
死神「あー、そうか。たしかにそうだな」
女「死神さんも実はけっこうおバカなんじゃないの?」
死神「うるせえ。俺の場合、お前ら人間の価値観が微妙に理解できないだけだ」
女「そういうのって言い訳って言う……って、メールだ」
女「……」
死神「どうした?」
女「うわさをしたせいなのかな? 前田さんがうちに来るって」
◆
秀才「突然ごめんなさいね。目、赤いけど大丈夫?」
女「うん。大丈夫だから気にしないで」
秀才「お母さんはいないの?」
女「今日は夜勤だから、もう家を出ちゃってるの」
秀才「そう、よかった」
女「よかった? なんで?
秀才「どうしても、渡辺さんとはクラスの殺人事件について話しておきたかったから」
女「殺人事件って……なに言ってるの?」
秀才「生徒が一人ずつ、しかも番号順に綺麗に死んでいく」
秀才「これが事件じゃないほうがありえないと思うけど?」
女「……」
女「……言われてみれば、そうかもね」
女「でもなんでバカなあたしと、そんな事件のことについて話そうと思ったの?」
秀才「そうね。普段の私だったら、こんな話の話し相手にあなたは選ばない」
死神「すげえな。真っ向からバカにしてくるんだな」
女「じゃあ、今回は普通じゃないってこと?」
秀才「ええ。私ね、実は疑ってるの」
女「……どういうこと?」
秀才「今回の事件、あなたが引き起こしたんじゃないかって」
女「……!」
死神「これは面白い」
女「な、なに言ってるの前田さん……?」
秀才「私ね、世間を騒がす事件や未解決事件について、考えたり調べたりするのが趣味なの」
秀才「それこそ、名探偵のようにね」
女「へ、へえ。初耳だね」
秀才「このことを知ってるのは世界で一人だけだもの」
女「……」
秀才「そして、今回のクラスの事件についても当然、私なりに考えた」
秀才「もちろん、自分のできる範囲内でいろいろと調べたわ」
女「……それで私を疑うようになったってこと?」
秀才「ええ。だって、かなり不可解なことがあるんだもの」
秀才「一昨日、先生たちが三人亡くなったことは知ってる?」
女「えっと、まあ、いちおうは」
秀才「三人とも事故死だったらしくてね。それで気になって、先生方に話を聞いたの」
秀才「一人だけ、『信じられないかもしれないけど』って前置きをして、私に二日前の出来事を話してくれたわ」
秀才「なんでも、あなたが『死神』なんてものを連れてきたって」
女「それは……」
秀才「先生方にはそんなものは見えなかった。ただし、例外が人いた」
秀才「例外……黒いノートに触れた三人の先生のことね」
秀才「そして黒いノートに触れた先生三人は、その日のうちに死んだ」
秀才「死神はあなたにも見えてたのよね?」
女「いちおう、見えた……ような気がする」
秀才「つまり、その死神とやらが見えた四人のうち、あなただけが助かったことになる」
女「それだけの理由であたしがあやしいって言いたいの?」
秀才「それだけじゃない」
秀才「先生たちに死神が見えたのは、ノートに触ったあと」
秀才「ところが、同じように死神が見えたあなたはどうだったかしら?」
女「あたし……」
秀才「あなた、先生に向かってこう言ったそうね?」
秀才「『知りませんし。そもそも見たことも触ったこともないです』って」
死神「やーるうっ」
秀才「黒いノートについて聞かれて、あなたはそうやって答えた」
秀才「言葉を舌にのせるなら、もうすこし吟味するべきなんじゃない?」
女「……し、死んだのは死神のせいだよ。あたしはなにも知らないっ」
秀才「もう一つ、私が奇妙だと思ったことを言ってあげる」
死神「まだあるのかよ」
秀才「殺しの順番について。どうしてクラスの死は、出席番号順だったのかしら?」
女「……あたしにわかるわけないでしょ」
秀才「知ってるくせに。殺しの順番、それを自分が最後にむかえるため、でしょ?」
死神「すげえ。完全に正解だ」
秀才「なにが目的でこんなことをしてるのか、それはわからないけどね」
秀才「ここまでで、なにか言いたいことはある?」
女「……」
秀才「ないのね。じゃあこれがダメ押し」
秀才「今日は、クラスの人間は誰一人死んでないの」
死神「レミは昨日からベッドにこもって、シャーペンなんて一度も握ってないもんなあ」
死神「今日は当然、殺すべきヤツを殺してない」
秀才「あなた、横井くんが死んだショックで、今日はなにもしなかったんじゃないの?」
女「……そ、その……」
秀才「もっとも、キラの可能性も完全には否定できないけど」
女「キラ? キラってどういうこと?」
秀才「スマートホンでニュースを見ればわかるわよ、ほら」
女「……『心臓麻痺で14人の犯罪者が死亡、キラか』……なにこれ……!?」
秀才「新聞やテレビは見てないの?」
秀才「キラに関しては、新聞の一面を飾ったていうのに」
女「知らない……こんなの知らない……!」
秀才「そもそもこの件は関係ないかもしれない」
秀才「とにかく、私はあなたが今回の事件の犯人だって疑ってるってことを言いに来たの」
女「……あ、あはは、すごいね」
女「前田さんの推理が本当に当たっていたら、だけど」
秀才「そうね。そして、あなたが本当に犯人だったら私は殺されるでしょうね」
死神「たしかに。レミ、出席番号なんて無視してコイツを殺しちまえば終わりじゃねえか」
女「そうだね。この状況なら前田さんを殺すだろうね――あたしが犯人だったら」
秀才「そうね。ねえ、殺さないの?」
死神「どうするんだ?」
女「……」
秀才「だけど、私がなんの対策もせずにノコノコここに来たと思う?」
女「殺されないための対策でも練ってるの?」
秀才「ええ。そのためにちょっと大きい目のバッグを持ってきたの」
女「バッグ……」
死神「いいじゃないか。なかなか面白くなってきた」
死神「この勝負、どっちに転ぶか見届けさせてもらうぜ」
つづく
明日は更新できるかわかりません
秀才「殺しの順番について。どうしてクラスの死は、出席番号順だったのかしら?」
秀才「あなた、横井くんが死んだショックで、今日はなにもしなかったんじゃないの?」
レミが横井を殺したと思ってるならこんな考え方するだろうか?
すまん今日は更新できない
明日は夜九時前後を目安に書く予定
秀才「それじゃ、今日は泊まってくから」
女「泊まる!? あたしの家に!?」
秀才「そのためのバッグよ」
女「じゃあそのバッグに入ってるのって……」
秀才「お泊まりセット。あなたの監視、それが私がここまで足を運んだ理由」
女「そんなことを急に言われても」
秀才「今日はお母様は仕事なんでしょう?」
秀才「明日はテストも宿題もないし、私が泊まって困ることはなにもないはず」
女「いや、でもさあ」
秀才「泊まるかわりに料理は作るし家事の類は全部やってあげる」
女「でもあたしと前田さんってそんなに仲良くないよ」
秀才「腹の探り合いをしつつ、これから仲良くなればいいだけのことじゃない」
秀才「もしあなたが今回の件に一切関係なかったら、私は土下座でもなんでもします」
女「……わかったよ、もう。勝手にして」
秀才「では、おじゃまします。あっ、荷物はどこへ置けばいい?」
女「あたしの部屋でいいよ。部屋は二階の一番奥ね」
死神「完全にペースを握られてるな。お前らしいじゃないか」
女「うるさい」
秀才「え?」
女「ごめんごめん、今のはなにかのまちがい」
秀才「ふぅん。そっ」
女「あたし、トイレするから部屋に荷物置いといて」
◆
死神「あの女、すげえな。ぶっとんでやがる」
女「非常識もあそこまでイクと逆に笑えるかもね」
死神「ていうか、用を足すなら俺は出たほうがいいんじゃないか?」
女「おしっこが目的じゃないの。ねえ、死神さん」
死神「あん?」
女「デスノートの所有権を放棄すると、具体的に記憶ってどうなるの?」
死神「そのことか。まず、デスノートに関しては完全に忘れる」
死神「もちろん自分がノートを使っていたってことも」
女「それって記憶に矛盾とか起きないの?」
死神「そこらへんはうまく記憶が再構築されるんだろ。俺も詳しくは知らない」
死神「ノートを捨てるなら俺は見えなくなるし」
死神「おそらく今よりも、ユリたちを殺した犯人を探すのが困難になるだろうな」
女「やっぱりそうなるよね」
死神「それより、さっさとあの女をデスノートで殺したほうが早いんじゃないか?」
女「たしかに。操って殺すなり、自殺させたほうがいいのかも」
死神「そうなると今みたいに、あの女に見られないって状況を作る必要があるな」
女「それは難しくないよ。デスノートを前田さんの目を盗んでこっそり持っていく」
女「そしてトイレかお風呂に持って行って、あとは名前を書くだけ」
死神「……ん? なんか今、すごい音しなかったか?」
女「……まさか」
死神「おいおい、いちおうトイレは流せよ」
女「してないからいいのっ」
秀才「……あっ。思ったより早くあがってきたわね」
女「な、なにしてるの?」
女「ていうかあたしの部屋がメチャクチャなんだけど」
秀才「私、友達の家に来たら、エッチな本がないか探すのが夢だったの」
女「本気で言ってないよね?」
秀才「もちろん冗談。安心して、散らかしたあなたの部屋は、きちんと掃除するから」
女「なにがしたいの?」
秀才「言ったでしょ? 私はあなたを疑ってるって」
秀才「容疑者の部屋は徹底的に調べる。それが探偵としての務めってものじゃない?」
女「……本当に土下座してもらうかもね、前田さんには」
秀才「逆に聞くけど。渡辺さん、あなたが犯人だったら?」
死神「いやあ、マジでこの女は厄介だな」
死神「大丈夫なのか? ノートを見つけられたら俺が見える、即アウトだ」
女「大丈夫――あたしはクラスの殺人には関わってないから」
秀才「そう。だったら祈っておく、私が土下座する結末を迎えられるようにね」
女「……」
秀才「……」
女「……ご飯、作ってくれるんだよね?」
秀才「お腹すいたの?」
女「うん。作ってくれるよね、約束したんだし」
◆
死神「ノートは二階の空き部屋のポスターの裏、より正確に言えば、ポスターフレームの中」
死神「お前が考えたにしては、なかなかいい隠し場所だったな」
女「……あの人が料理してる間にノートを切り取って、そこに書く」
死神「これで終わりか。前田もここまで果敢に行動することはなかったのにな」
女「……」
死神「どうしたんだ? なにか引っかかることでもあるのか?」
女「本当に殺していいのかなって考えてるの」
死神「まっ、足りない脳みそで考えるんだな」
死神「それより、あの女がお前を見てるぞ」
女「……っ!?」
秀才「さっきから呼んでたのに返事がないから、呼びに来たの」
死神「嘘だぞ。この女、お前を呼んでなんかいないぞ」
女「ど、どうしたの?」
秀才「べつに。なんで一人でいるのかなって気になったから呼んだだけ」
女「特に意味はないよ、うん」
秀才「そう、私を殺す策を練ってなくてよかった」
女「……あはは。ごめん、ちょっとトイレに行くね」
秀才「どうぞご自由に」
◆
死神「ノートのページも書くものもトイレに持ちこんだ」
死神「これでお前の勝ちか。もう終わりか、残念だ」
女「……あたしの勝ち」
バンッ!
死神「うおっ!?」
女「ぎゃっ!?」
秀才「……」
女「……な、なんで扉を開けたの?」
秀才「冷静に考えたら、あなたが犯人だったら一人にしちゃいけないって思って」
女「……」
秀才「そう思ったから扉を開けたの、十円玉を使ってね」
女「……トイレできないんだけど」
秀才「してないじゃない。しかも下着もおろしてないし」
女「こ、これからしようと思ったんだよ」
秀才「ふぅん。じゃあ見てるから、さっさと用を足してちょうだい」
女「は?」
女「え、えっとね。今あたし、お腹の調子が悪いんだよね」
女「だから前田さんに不快なものを見せちゃうから……ねっ?」
秀才「いいわよ。それで死ぬなんて馬鹿を見ないで済むんなら」
死神「なるほど。お前を徹底的に一人にしない気だな」
秀才「今日はもうあなたを一人にする気はないから。料理もいっしょにしましょうね」
女「さっきと言ってたことがちがう」
秀才「なに言ってるの? 料理は作るって言ったけど、一人でやるなんて一言も言ってないわ」
秀才「さっ、トイレを済まして手を洗って、二人で仲良く料理しましょ?」
死神「おしかったなあ、レミ。これじゃあコイツは殺せないな」
女「……」
秀才「それから。お風呂もいっしょに入ろうね?」
◆
死神「マジで料理も風呂もトイレも絶えず、ずっといっしょにするとはな」
女「……なんかもう疲れた」
秀才「どうかした?」
女「べつに」
秀才「それにしても。相変わらずキラは犯罪者裁きをしてるようね」
女「……あたし、あんまりキラのこと知らないんだよね」
秀才「キラ。心臓麻痺で犯罪者を裁ける存在」
秀才「一時期は世界の犯罪の七割を消滅させて、戦争さえも終結させた」
女「へえ。すごいんだね」
秀才「善人にとっては理想の世界を築いてくれる存在よね、キラって」
女「善人にとっては、ね」
『――現在逃亡中の――容疑者は――』
秀才「この犯罪者もずいぶんと逃げ回ってるみたいだけど、キラからは逃れられないでしょうね」
女「あのさ」
秀才「なに?」
女「なんでこういう危なそうな事件を調べたりするのが好きなの?」
秀才「好きだからよ。いちいち理由なんてない」
女「……そういえば横ちんも、こういう事件や犯罪にはいつも興味津々だったなあ」
秀才「……ねえ。全然話題はちがうけど、あなたって好きな人っている?」
女「いたけど、いなくなった」
秀才「……そう。じゃあ、仮にあなたに好きな人がいたとして」
秀才「その好きな人のために、あなたはどこまでできる?」
女「どこまでって、どういう意味?」
秀才「そのままの意味よ。好きなその人のために、あなたはどこまでの行動ができるか」
女「どこまで、とか言われても想像できないよ」
女「あたし、彼氏とかいないし」
秀才「私は私の好きな人のためなら、死ねるかも」
女「……死ねる?」
秀才「そう、好きな人のためなら、自分の命を賭けられる」
秀才「それに、その人が望むのなら、人を殺すことだってきるかも
女「あたしは……あたしも好きな人を自分のものにするためならしちゃうかも」
女「人を殺すことぐらいなら」
秀才「物騒だこと」
女「そっちが先に言い出したんじゃん」
死神「……人間の女ってのは、恋愛に自分の命を賭けられるのか。すげえな」
秀才「意外と私たち、気が合うのかもね」
女「あはは、かもね。あんまり嬉しくないけど」
秀才「……さっ、そろそろ寝ましょ」
女「寝るのもいっしょに寝るんだよね?」
秀才「なにを今さら。いっしょのベッドでね」
女「はぁ、まあいいけど。でも明日はどうするの? まさか明日まで……」
秀才「その心配の必要はない。だって」
秀才「――明日にはだいたいのことは明らかになるから」
◆
女「……うぅ」
死神「ずいぶん眠そうだな」
死神「まっ、無理もないか。昨日はずっとベッドで前田が見張ってるんだもんな」
秀才「……」
死神「そして教室にいる今でさえ」
死神「運が悪いことに前田の席からはお前は観察しやすい」
女「……」
死神「死神筆談するにしても、授業までは待たなきゃダメっぽいな」
死神「しかし楽しみだな。いったい今日でなにが判明するのか」
担任「では出席をとります」
死神「しかし、一日ずつ人間が死んでくっていうのに」
死神「今日も死んでない連中は登校してんだな。ご苦労なこった」
女「……しまった」
死神「どうしたんだ?」
女「そういうことだったんだ……!」
死神「おいおい、なにひとりでブツブツ言って――」
担任「だ、誰ですか……!?」
「ひっ!? な、なに!?」
「ほ、包丁!?」
不審者「そこから一歩たりとも動くな」
女「あの人……どこかで見たことがあるような……」
死神「あの男、アレだ。昨日のニュースで報道されてたヤツだろ」
死神「けっこう前から逃亡し続けてるっていう」
女「なんでそんな人がうちの学校なんかに……!」
不審者「お前らぁ! 動くなよ、絶対に動くなよ」
担任「お、落ち着いてください。こんなことをしても……」
不審者「だまれっ! 動くなと言ってるだろうが!」
担任「……っ」
不審者「そうだな、余計なことをされても困る。人質をとるか」
不審者「その窓際の席のお前だ」
女「……あたし?」
すこし休憩する
不審者「そうだ、こっちに来い」
女「な、なんで!?」
不審者「いいから早く来いって言ってんだよっ!」
女「そ、そんな……」
死神「ノートを切り取ったものは持ってるんだろ?」
死神「ヤツの名前を書けばいいじゃないか。コイツの名前なら一瞬だ」
女「あの人の名前はたしか『林一(はじめ)』……」
不審者「なにしてやがんだ!? 早く来ねえかっ!」
女「……っ」
死神(レミが筆箱からペンと忍ばせておいたノートの切れ端を取り出す)
不審者「なにしようとしてんだっ!?」
死神(男が慌ててレミに向かってくる)
女「ひっ……!」
死神(だが、その男はレミにたどりつくことはなかった)
不審者「うっ……!」
女「え?」
不審者「はっ……ああぁ……ぐぁっ……!」
女「な、なんで? あたしまだ名前、書き終わってないのに」
死神(床にたおれた男は白目をむいてすでに絶命していた)
女「ど、どうなってるの……?」
女「ひょっとして……?」
死神「俺じゃない。死神は人間のためにノートを使うような真似はしない」
死神「人間の寿命がのびる可能性があるなら、なおさらだ」
女「じゃあ誰が?」
死神「わかるわけがない。ただ」
女「?」
死神「あの女はずっとお前だけを見ていたぞ、こんな状況でもな」
秀才「……」
女「……!」
◆
秀才「よかった、渡辺さんに万が一のことがなくて」
女「そうだね。あたしも安心したよ」
秀才「まっ、さすがに今日は学校も中止になっちゃったけど」
女「……あのさ。昨日前田さんが言ってたこと、話してくれないかな」
秀才「ああ、そのこと? そうね、真実を語るにはちょうどいい場所だし」
死神「ちょうどいい場所って、ただの学校の屋上じゃねえか」
秀才「昨日の夕方から今日まで、私はあなたをずっと見張っていた」
秀才「あなたは行動の全てを私に見られていた。そのせいで、今日はあることが起こった」
女「あることが起こった?」
秀才「いいえ、起こらなかったと言うべきかしら?」
女「前田さんが言いたいのって、今日死ぬはずの人が死ななかったことでしょ?」
秀才「へえ。気づいてたんだ」
死神「たまたまだろうが、お前にしてはすごいじゃないか」
女「……あのねえ」
秀才「あなたは私に見張られていたせいで殺しを行えなかった」
秀才「そういうふうに私は考えてるけど。あなたはどう考えてるの?」
女「当然、偶然だと思ってるよ」
秀才「偶然、都合のいい言葉ね」
秀才「もう一つ。私、あの逃亡犯を殺したのは、あなただと思ってる」
女「……なにを根拠に言ってるの?」
秀才「あの逃亡犯に指名されたあと、あなたは紙切れとペンを筆箱から取り出した」
秀才「あれって殺しのための準備だったんじゃないの?」
女「なに言ってるの? それでどうやって人を殺せるっていうの?」
秀才「さあ? 殺しの手段までは、私にはわからない」
女「殺したのはキラかもしれない。あの人は犯罪者だったんだから」
秀才「昨日、私はきちんと説明したはずよ。キラは心臓麻痺でしか死なないって」
女「……どういうこと?」
秀才「あとから聞いたの。あの逃亡犯、心臓麻痺で死んだんじゃないのよ」
女「え?」
死神「言われてみると、たしかにあの死に方は心臓麻痺のそれじゃないな」
>>197と>>199の間に入れ忘れたので以下のを追加で
女「あの、せんせーい。出欠確認の前にお願いが」
担任「どうした、渡辺?」
女「あたし、なんか目が悪くなった気がするんです」
女「だから、今日だけ席を変えてもらうのってダメですか?」
担任「急な話だな」
秀才「先生、それなら三時間目の道徳の時間に席替えをすればいいんじゃないですか?」
担任「そうだな。席替えは気分転換にもなる」
担任「とりあえず渡辺は、隣にノートを見せてもらってくれ」
女「……もうっ」
死神「やっぱりお前より、あっちのほうが一枚も二枚も上手だな」
秀才「詳細はわからないけど。死因は心臓麻痺以外、それでまちがいないそうよ」
女「……」
秀才「心臓麻痺以外。なら、キラじゃないでしょ?」
女「……やっぱり」
秀才「やっぱり?」
女「あたしね、ずっと前田さんに違和感みたいなものを感じてた」
女「今、その正体がわかった気がする」
秀才「違和感? なんのことよ?」
女「前田さん、あたしが犯人だって思った根拠を昨日、説明してくれたよね?」
女「そのとき、前田さんはこんなことを言ったよね?」
女「先生たちは事故で亡くなったって」
秀才「言った。だけど、それのなにがおかしいの?」
女「それだけだったら、あたしもなにも思わなかった」
女「でもさ、前田さんが言ったんだよ」
女「『もっとも、キラの可能性も完全には否定はできないけど』ってね」
秀才「それがなんだって言うの…………あっ」
女「そう。キラは心臓麻痺で人を殺す、それは前田さんが口にしたこと」
女「なのに、どうして事故で死んだ先生たちをキラと結びつけたの?」
秀才「そ、それは。……だって、人が連続で死ぬから、それで……」
女「それだけじゃない。前田さん、あたしに向かってはっきりと言ったよね?」
女「『今回の事件、あなたが引き起こしたんじゃないかって』って」
女「問題はそのあと。前田さんがクラスメイトの死について話してたとき」
女「前田さんはこう言ったでしょ?」
女「『あなた、横井くんが死んだショックで、今日はなにもしなかったんじゃないの?』って」
秀才「……」
女「おかしいよね、この発言」
女「横ちんを殺したのがあたしだと思ってる人の口から、出てくる言葉じゃないと思うんだけど」
秀才「……ふっ、ふっ、ふふふ」
死神「不気味な笑い方をするなあ、この女」
女「……あたし、前田さんがあたしの席の交換を妨害したのは、監視のためだと思ってた」
女「でも本当の目的は、べつにあった」
秀才「本当の目的? どんな?」
女「……あなたも知ってるんでしょ? いや、持ってるんでしょ?」
死神「持ってるって……おいおい。マジかよ」
秀才「ふっ、ふふふ。まさか、あなたなんかにバレるなんてね」
女「席替えを阻止したのは、私がノートを持っているか、確認するためのジャマになるから」
女「前田さんは逃亡犯をノートで操った。うちのクラスに来たあと、人質をとるように」
女「人質の細かい設定は、席の場所でも書いておけばいい。あたしの言ってること、まちがってる?」
秀才「その発言、自分の首も絞めてるけど大丈夫?」
女「今さら隠しても、もうお互いに手遅れでしょ?」
秀才「そう。あなたの言うとおりね」
秀才「指摘のとおり。私も持ってるのよ――デスノートをね」
つづく
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