男「モテる代わりに難聴で鈍感になるならどうする?」(1000)

まだ終われてない

1、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379798915/)

2、男「モテる代わりに難聴で鈍感になりましたが」
男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1380372236/)

3、男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1385750291/)

4、男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1397082375/)

5、男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるのも悪くない」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1406541846/)

2、男「モテる代わりに難聴で鈍感になりましたが」
男「モテる代わりに鈍感で難聴になりましたが」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1380372236/)
3、男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になった結果」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1385750291/)
4、男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になったけど質問ある?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1397082375/)

>>3 追加
1 男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」
男「モテる代わりに難聴で鈍感になるんですか?」 - SSまとめ速報
(http://mimizun.com/log/2ch/news4vip/1379798915/)

男(一人暮らしの大人の女性の家に単身乗り込む機会など、親兄弟でもなければ滅多にない経験となる。しかも相手が自分のクラス担任と来たものだ)

男(いやいやまったく、否でも応でもけしからん妄想が捗ってしまう。ベタベタ甘えられつつ、俺の知らない世界を手取り足取り指導してくれたりするのか? エロスが高まる予感が)

先生「男くぅ~ん? 鼻の下伸ばして楽しそうにしてるけど、そういうのは家に帰ってからにしないかなぁ~……っ?」

女子生徒たち「わー! 絶対アイツ一人でいやらしい事考えてニヤついてるって!」

男「適当抜かすな外野! 無愛想な面してるよかニコニコ楽しそうに授業聞かれた方が教え甲斐もあるもんでしょう。ねぇ?」

先生「試験の結果が問題なければ文句一つ言うつもりはないけど?」

男「ああ、いつだって現実は過程を評価してくれない。筋道あっての結果でしょう……これが虚無か」

男の娘「あはっ、筋が通った人が言わなきゃ誰も感心しないよ 男~!」

男子生徒たち「聞いたかよ、あの男の娘がさり気ない毒舌! ビビッと来るぜぇー!」

男(言い訳だけなら口八丁なこの俺がまるでクラスのムードメイカーである。祭りの中心人物とは何とも快い。が、それを快く思わない人間もいるらしい)

委員長「――あなたたちの勝手で貴重な時間を潰されて迷惑を感じない人がいないとでも思っているの?」

【静かだが、微かな怒気を感じる冷たい声色に皆の目が丸くなり、注目は彼女へ集まった。それもその筈だろう】

【いつもは大人しい本が似合う美少女が、なのだから】

男「委員長……どうした?」

委員長「風紀を乱すのはいつだってあなたからですね、男」

男(意外だからこその驚き、委員長が冷めた目で俺を睨みつけている。美少女が、この俺に、有ろうことか敵意を示しているのだ)

委員長「男一人の成績が落ちるなら構いませんよ。だけど、授業が遅れて周りと差がつけば私たちが迷惑なんです」

委員長「足を引っ張るのはやめてくれませんか? もう一度、迷惑です、男」

先生「は……はいはい! 仕切り直し、仕切り直し! みんな教科書に目を移して。49Pの続きからね」

委員長「ふん……っ」

男(なんて、一瞥くれた委員長は全身棘の防護服に包まれたように鋭かったかもしれない。委員長、どうした?)

男(今日はキャラを間違えてないか。典型的な厳しい風紀委員長みたいだぞ)

【男の頭の中で最後に話をした委員長のイメージと今の彼女の姿が被って、ブレていた。美少女バージョン委員長が発現してしまったらしい】

【となるとだ、オリジナルの彼女が消える前からあの体に二つの体が同居していたわけか。こちらの現状と似ている】

先生「おお、丁度チャイム。今日はここまで、と言いたいところだけど次回の頭で小テストを行う宣言ー。へへへっ、みんな同時に良い顔浮かべたなぁーえぇ?」

生徒たち「鬼ー! 悪魔ぁー!」

先生「抜き打ちでないだけ感謝してもらいところです。大丈夫、みんな満点取ってくれるって先生は信じてるから~ それじゃヨロシク!」

男の娘「小テストだってさ、男……僕はいまから気が重くて仕方ないよ」

男「悪い、ちょっと席空けるから誰か座らんよう死守しといてくれ」

男の娘「は、えっ! お、男ぉ~!?」

【教室を出た男は堂々とした背中を見せて前を行く眼鏡美少女の肩を掴む。さて、どちらの顔を見せるかな】

委員長「……何か?」

男「そう睨むな、委員長。さっきは軽い気持ちから君を怒らせてしまったようだったからな、謝りたかったわけだよ」

委員長「なら私じゃなくて、クラスのみんなに頭を下げたらどうですか? 言ったでしょ。私たち全員が迷惑なんだって」

男(委員長め、やけに取っ付きづらくなっているではないか。おまけに置いた手を素っ気なく振り払う始末である)

男(美少女化しているなら、曲がりなりにも俺へ気があるだろうというのは今までの事例から明らか。彼女も例外ではない。違うのか?)

男「なぁ、急にどうしたんだよ?」

委員長「っー……あの、まだ何かあるんですか!?」

男「何かあるのはそっちだ、委員長。前からそんな真面目な子だったかな」

委員長「へぇ、私が不真面目な不良生徒ならあなたの中の私に当て嵌まるとっ?」

委員長「冗談も休み休みにして頂けませんか! 急ぎの用がありますっ、邪魔しないでください!」

男「(そうか。あまり気は進まないが、辱めを受けてもらうぞ) おい、まだ話は終わっちゃいな――――あり?」

【再び、今度は勢いづいて委員長を捕まえようとした手が空振る。というよりは、委員長が避けたというのがこの場では正しいだろう】

委員長「……バカじゃないですか?」

男「ば、バカなっ……!」

男(本意ではあり不本意でもあるがこの俺が美少女に触れれば高確率でラッキースケベを発動できていた。それが、否定され、敗北感が)

男「次は黙って俺にもう一度体を触らせてもらえないか!?」

委員長「はぁ!?///」

委員長「さ、流石は授業の最中にハレンチな妄想をして喜ぶ変態といったところでしょうかっ……ふざけているの!?」

男(ふざけているのはお前の方だと声を大にして抗議したい)

【お前の視点からすれば有りだが委員長からしたら正に、ふざけているのか、である】

委員長「軽蔑します! 不潔、最低! 私の体を触らせろだなんて……[ピーーーーーーー]」

男「それだよ! それこそ俺の求めてた反応だ、委員長!」

委員長「遂には気を違えでもしたんですかっ、あなた!?」

男「何と捉えられようが結構だ。とりあえず甘んじて受け入れるとしよう」

男「委員長よ、俺を見て胸が高鳴ったりはしないか? 顔だ、顔、我慢して10秒ぐらい凝視してみてくれ」

委員長「意味不明です!! あなたにバカにされる筋合いなんてこっちにはありませんからっ!」

男「……」

委員長「うっ……うぅ……[ピッ]、[ピー]いで…………///」

男(難聴スキルか。これでハッキリした。委員長もまた、この俺の手中に収められる可能性がある)

男(不可解なのは彼女の唐突な性格の変化。口調すら妙だ、敬語キャラは後輩で間に合っている)

男(取り巻きたちも手慣れた様子であしらって、何もかもが俺の観察してきた委員長ではない。……キャラの変化自体この世界では当たり前のように受け入れていたとも)

男(だが、彼女は他と異なっていたのだ。喋り口調や頼りなさ、人から持て囃されて戸惑う姿。それは俺がよく知るあの【しゃしゃるな、もう十分だ】)

男「あの……最近何か変わりあったか?」

【どうした、クソめ、こういう時に限って制御が効かない! メモの通りならば何をキッカケに元人格が表へ出てくるかわからん!】

【これ以上踏み込むな、スケベ野郎! お前の出る幕じゃないんだ!】

委員長「む、娘の身を案じる父親じゃあるまいし妙なこと訊こうとしないでください!」

委員長「別に。変わりありませんが……まさか、まだ私の様子がおかしいとか思っているんでしょうか?」

男「そうか。じゃあもう良いんだ、気にしないでくれよ」

委員長「えっ、な、何がしたいのあなたはっ? 私が普通じゃないならそうだと言えばいいでしょ……」

委員長「もっとも、私は普段と何ら変わりない私だったつもりですけれど」

【彼女の立場からすると現在の自分を否定されている気分になるのだろうか。本物だと信じていた自分が、作り物であったと】

【報いてやりたいではないか、美少女バージョン委員長。お前の存在意義を知らしめるのは他でもない俺だけなのだろう? どうか、おこがましいと思わんでくれ】

男「ああ、俺の勘違いだったみたいだ。委員長は委員長だよ。安心していい」

男「それじゃあ 呼び止めて悪かった。邪魔したなりに跡を濁さずにな (……誰だあ【しつこい!】)」

男「なぁ、カメラも撮るものは選びたいと思うんだ。俺ばかり撮ってるとそのうち悲鳴上げるぜ、そいつ」

男(日課と化した後輩との先生完全攻略会議。こうして意見を飛ばし合いつつカメラを向けられるのは)

後輩「落ち着かないですか?」   男「おう、よくわかってるじゃねーか」

男「何て言うかだよ、お前からそうやって向けられてると自分の何もかも覗き見されてる気分に時々陥るワケさ」

男「丸裸にひん剥かれて立たされてるとか……とにかく話に集中できん」

後輩「こんな話を真面目にやり取りしたって不意に我に帰ったら虚しくなるだけじゃありません? なら、楽しくないと」

男「冗談でもそれで付き合ってくれてるお前は相当のタフネスだ。彼氏の浮気相手の懐柔手段模索を手伝ってるんだから」

後輩「あは、また面白い顔撮れましたよ。自分を彼氏と呼ぶたびに恥ずかしがったりして、ふふっ!」

男(ブレずに欠片も悪ぶらず無垢な笑顔を見せてくれる。そんな後輩がたまらなく、可愛らしく感じるのは美少女なお陰でしょうか。神よ)

男「明日、先生の家に行ってくる。家デートと呼べば良いんだろうか? 外に出掛けずに二人きりで二人の時間を過ごすといった感じのヤツ」

男「たぶんキスの一発ぐらいはあると覚悟してるんだが。だから後輩よ」

後輩「主導権さえ握ってしまえば先輩の自由にできそうですね。それであの人を夢中にさせるのは、あなたの力量次第ですけど」

男「今からここで俺と恋人としてのキスしないか?」

後輩「…………」

後輩「…………はぇ?///」

ここまで。次回は明後日に

後輩「いっ、いきなりすぎませんか? ちょっと肩に手置こうとしないでっ」

男「お前こそ後ろに下がっていくなって! 怖くないぞ! ……尋常なく緊張するけれど」

男「でも、このまま永遠お触り禁止じゃあこんな関係になる前と何も変わりないだろう。今日壁をぶち破ってみないか?」

後輩「バリアバリア! いまバリア貼りましたから! 先輩は私に絶対手を出せません、残念でしたっ!」

男「この俺に子供騙しは通用せんなぁー!! ……嫌か?」

後輩「うっ……そういうわけじゃ」

【心までは許しても体は許さないんだからっ。つまりそういう事で? 女心は複雑である、と辞書に書いておくべきだな】

後輩「あの、どうして今なのかって尋ねたらまた失望されちゃいますか?」

男「変なとこでアホの娘だな。俺がいつお前に失望なんて――――そうだな、質問に答えよう」

男「後輩を忘れないようにというか、自分の中にお前の存在を縛り付けておきたいがためというべきか……」

後輩「い、意味不明な上に結構怖いコメントなんですが!」

男「変な風に受け取るんじゃないっ! 何だか俺、明日先生との間に何か起きたら歯止め効かなくなるんじゃないかと心配で」

男「自分でもふざけてること言ってると思うけど、後輩。お前と先生へ向ける俺の気持ちは二つに枝分かれされてないと意味がないだろう?」

男(そう、ハーレムは愛情を平等に分けるのがモットーだ。分量を誤り、一人へ過剰へ与えることがあればそれ即ち贔屓。ならば、平等の上で成り立つ領域が崩壊してしまう)

男(俺が懸念しているのは、後輩を差し置いて先生へ心奪われてしまわないか、というナンセンスな予感である)

男(美少女好感度管理に抜かりはないと豪語する。問題なのはこの俺、当人が暴走して過ちを犯す可能性も十分あり得るということ)

男(人間だもの、何にでもブレずに貫き通すのは簡単じゃない。自分で自分を完璧にコントロールできる方法などあるか? この理想が現実へなった世界で)

【その考えはもう「我慢できません! ハーレム捨てて個人ルートいきます」と宣言しているようなものである】

後輩「先輩の中で私たちに順位がついたらダメなんだ、そういうことですか。言いたいのは?」

男「ふっ、何なんだこのシリアスでバカな会話……当事者でなければ面白おかしくいられたところ、だがしかし!」

男「役者だからこそ楽しめるものもある。後輩、俺は立てたシナリオ通り事を進めたい。だからこそ迷いが生じない為に、お前の唇が俺に必要となる」

男「必要なんだ、後輩。頼む! この通り!」

後輩「な、何も頭下げてまで頼むことじゃっ」

男(いい感じに困っているぞ、ダメ男を放っておけない女子特有の母性を擽るのだ。ここまで来たら、強引にでも誘わなければなるまいて)

後輩「……ふーん」

男「助けると思って! 一回でいいんだ、なっ!? ……おい、どうしたその目は」

後輩「別に? 何でもありませんけど? どうしました、先輩」

男(言葉が外へ出る前に、あることへ気づき、ぴたりと俺は止まった。後輩が少し不機嫌そうにしているではないか)

男「もしかして怒ってたり、する? ツンってしてないか、お前」

後輩「怒ってませんけど。……まったく怒ってませんけどっ」

男「経験上、二度も口に出して強調してるのは否定じゃなく肯定だとおも」

後輩「しつこい先輩は嫌いになりますよ。怒ってませんから!」

男「モロに怒ってるじゃねーか、それ!」

後輩「っ~~~……先輩は、私を本気で怒らせたいんですか。舐めてます?」

【げきおこうはいちゃんの機嫌は益々悪くなっていく。が、これも新鮮で可愛い気がしなくもなし】

【彼女には、心が読める能力とやらのお陰で下心満載な策は通用しない。しかし、それ故にミスを誘うことが】

男「そんなわけないだろうが。俺は後輩とは良好な仲を保っていたいとも」

男「でも、お前が怒り剥き出しで突っかかってくるのは意外だ……」

後輩「面白いと思いますか?」

男「だ、だから別にお前で遊ぼうとかそういうつもりはなくて」

後輩「違います! とりあえずお願いすれば私が初めてのキスを了承すると思われて、面白いと思いますか」

後輩「面白くありません、不愉快ですよ! そりゃ長いことコレだけは避けて通ってきた私にも非はあるかもしれませんし、彼女として不完全過ぎたのも原因ですけれどっ」

男「は、はいっ!! 申し訳ありません!!」

後輩「……お、面白くないんですよ。……何言ってるの、私? あ、あれ」

後輩「私、怒ってるのっ……?」

【自らの発言と態度を振り返って、不意に大人しくなる後輩。傍らの男などお構いなしに呆然と突っ立ており、手からカメラが滑り落ちた】

男「おおおぉぉ!? ばかっ、新品なのに落として壊しでもしたらどうする!」

後輩「え……あ、ご、ごめんなさい。少しボーッとしちゃってて」

後輩「……何なのこれ?」

男「おい、大丈夫か? 聞こえてる? 脳内世界から帰ってこい、後輩。おーい?」

後輩「先輩。私、どうしちゃったんでしょうか。どうして怒ったりしちゃったんでしょうか、私は」

後輩「い、意味不明ですねっ……忘れてください。明日は上手くいくと良いですね」

男「待てまて、勝手に切り上げて帰るな!! ……とりあえず謝るよ。お前の言った通り、正直舐めてたかもしれん」

男「ああいうのは、何ていうか雰囲気が大切なんだろうか。適当な気持ちで頭下げたってそれは侮辱だ。後輩がキレてもおかしくない」

後輩「い、いえ! おかしいです! 軽い気持ちでだって私は何ら悪いとは思わな……いはずだったんですけど」

後輩「よく考えたらこれまでからして変ですよね、恋愛事に無関心なくせしてその行為は頑なに拒んだりして。おかしい、ですね。どうしてでしょうか」

男「明確だ、自分を大事にしたいからだろ」

後輩「で、でも私は先輩がす、好き……ですっ! どうされようと構わないとも思ってますから!」

男「今のはありがたい台詞として受け取っておけばいいのか」

後輩「えっ、うあ……そ、そうじゃなくって……///」

後輩「本当は、キスだって、しても、いいんじゃないかな、と」

男(ぎこちない調子で縮こまっていく後輩。後ろで手を組み、もじもじといじらしくこちらの出方を待っていたのである)

【後輩の中にある天使としての何かが愛情の芽生えを拒んでいたのかもしれない。男と一線を越えてしまえば、自分が何者でもなくなってしまうような恐れがあった、とかだったり】

【恥じらいが強い影響ばかりとは俺も思えなかったのだ。以前までの彼女ならば望みを叶えることに躊躇いを持つことはなかったのだから】

後輩「しないんですか!?」   男「は?」

後輩「だ、だから……っ」

後輩「あとは言わせないでくださいっ!!///」

男(顔を真っ赤にさせた後輩に一歩近づけば、より赤く染まるのがまた面白かった。というか、後輩可愛いで俺の頭の中が一杯に埋まる)

男(改めて体に手を回すと、軽く突くだけで折れてしまいそうなぐらい彼女の体は華奢に感じたのである。手から、緊張がこちらへ嫌というほど伝わり、それは伝染した)

後輩「……ふ、ふふっ、これで本末転倒になんてなったりしないでくださいよ」

男「それどういう意味で言ってるんだ、お前。しかも声震えてるじゃねーか」

後輩「私が先輩にとっての一番になったりしたらダメなんでしょ?」

男「……ほう、まさか生意気にもその自信があるっていうのかね」

後輩「あるって言ったらどうします? っ、ふぁ――――――」

【ゲームなら暗転してる場面だ。……この先、深くは語りたくありません】

すまぬ明後日なんてなかった。ここまで、そしてまた明日
大丈夫。次は裏切りませんから!

男(目覚めは良好、体調万全、今日も母の飯が美味い。早々外出の支度を整えていれば妹がそわそわし始める)

妹「最近休みの日に家でゴロゴロしないんだね」

男「(勘付いているのか) それ、暗に一緒にゴロゴロしたいというお誘い?」

妹「違う。新作買ったからお兄ちゃんにも手伝ってもらいたいだけだよ! [ピーー]、[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]っ///」

男「時間が空いたときなら付き合ってやろう。どうしてもってなら幼馴染に手伝って貰ったらどうだ、アイツ何やらせても上手いんだからさ」

妹「お兄ちゃんと[ピーーーー]んだもん……」

男(ぐふぅ。この娘、全お兄ちゃんを悶え殺す為にこの世へ舞い降りたというのか。おねだりされたら全身全霊を掛けて引き受けたくなるな)

男「わかった、明日は暇だから一日中俺の時間をくれてやる」

妹「ほんと!? それじゃあ見返りで帰りにドーナツ買ってきてね、お兄ちゃんっ!」

男「おい、俺が見返り要求されるのは間違ってると思うんだが」

妹「ししっ! だって貴重なお休みを費やしてお兄ちゃんと過ごすんだもん、ご褒美ぐらい頂きませんとねぇ~!」

男「実はお兄ちゃん嫌いなのか、お前っ……!!」

妹「へへへぇ~♪ じゃあドーナツお願いねぇ~……[ピーー]に決まってるじゃん……///」

男「何だって!? おい、聞こえなかったからワンモア!!」

妹「ぶっ!? さ、さっさと出てけばかぁ~~~!!///」

男(この俺が女子とデートにでも行くんじゃないかという問いは回避できた。身近な存在は厄介である、疑心と不安には細心の注意が欠かせないな)

男(さてさて、家を出たところで絶対の安心は訪れはしない。俺が行く道には美少女イベントが呆れるぐらい転がり落ちているのだから、もはや必然的に出会っても不思議じゃない)

「男ぉ~~~!! お、と、こぉぉぉ~~~!!」

男(期待を裏切らず嬉々として迫りきおったわ、美少女、否、これは)

男の娘「やっぱり男だ! あはっ、見覚えある後ろ姿だと思ったら!」

男「背後からチャリンチャリン鳴らしならがチャリで追ってきたそんなあなたは、男の娘だったか」

男の娘「えへへっ、遅れたけどおはよぉ~。こんなところで会えるなんて奇遇っていうかだね、どこか行くの?」

男「(慌てることはあるまい。しかし、このまま同行でもされては困る) 実はこれから隣町まで行く予定でな。バスを使って、ちょっくら」

男の娘「隣町に? もしかして買い物とかしに行くのかな、いいなぁ~……もし[ピーーーーーーーーーーーー]?」

男「えっ、どうした? (やはり食いつくか。親戚の家とでも答えておけば間違いなかったが、一つ確かめたい事があって、興味本位で)」

男の娘「ぼ、僕も付いていったらお邪魔になるかな。偶然、さっき用済ませて今帰りなんだっ! [ピー]……?///」

男「(あざとい奴め) ダメなんて言わねーよ、むしろ大歓迎さ」

男の娘「いいの!? や、やったぁ~……えへへっ///」

男「さぁ善は急げだ、男の娘。エロ本、薄い本、オスの欲望が俺たちを待ってるからな!」

男の娘「えっ」

男「……どうした、エロ本だよ。行くぞ 男の娘、財布の野口は十分か?」

男の娘「え゛っ」

男の娘「そ、その隣町に買い物っていうのは服とかそういう物じゃなくて」

男「恥ずかしいこと何回も言わせるもんじゃない。調べたら、向こうにある古本屋が穴場と最近小耳に挟んでな」

男「どうやら俺たちでも簡単に買える可能性があるというじゃないかっ……データに飽きたところ、そろそろ現物を手に入れる時期かと思ったわけだよ」

男の娘「[ピーーーーー]ぉーっ!///」

男の娘「べ、別にそういうのに興味があるのはおかしい事じゃないよっ、だ、だけどだけどぉ~!!///」

男「それならお前も興味があると考えても良いんだろう? 良い子ちゃんぶってちゃ大人の階段に足を掛けられんぜ、少年」

男の娘「僕は、男ほどじゃないっていうか……何というか……!」

男の娘「全然興味なんかないもん! [ピー]だけが大好きなんだもんっ! ……あっ」

男「ああ、ちょっと救急車のサイレンで掻き消されたみたいだ。なんて言った?」

男の娘「[ピーーー]れてなかった!? あ、ああ~っ!! やっぱり僕、遠慮させてもらうことにするねっ///」

男「えっ、おい! 着いてこないのかよぉーーー……ふむ、俺以外アウトオブ眼中かな」

男(やっぱりホモじゃないか。美少年の)

男(彼には申し訳ないな、信じなかった俺がバカである。男の娘が美少女を横から搔っ攫う恐れがあるなんて微塵にも思う必要はなかった、と)

男(攻略対象であるが未だ異例である男の娘属性、もし俺がハーレムを捨てて好き勝手に行動していたら、なんてルートも考えていた時があった)

男(もはや独占欲の塊である俺にとって横取りされた日には、嫉妬の嵐で荒れ狂うであろう。そのライバルが美少年だなんて、なんだか、もう、である)

【その自己分析は正しいが、恐ろしいな、これが元の世界だとすればただの変態キチガイであることを忘れず、戒めるべきだ】

【ある意味この現状は隔離や封鎖とも思える。妄想世界に閉じ込め、欲を満たさせることによって不安分子を排除……割り切れば最高の美少女パラダイスですがな】

【いまある現実へ視点を戻そう。男の娘を退けた後、彼はドーナツ屋へ入ってお土産を購入。妹へ? 残念ながら】

男「手ぶらで人の家に行くってちょっぴり躊躇うもんな。オールドファッション選んどけば間違いないと誰かが言ってた」

男「余れば妹にもあげられるし、一石二鳥だろう……へぇ、この時期に引っ越し」

男(丁度、新築マンションの前を通れば引っ越し業者のトラックやらが止まっているのに目が行った。そういえば幼馴染も最近戻ってきたのだったな)

「~~~~~」  「~~~~~~」

男(一瞬難聴スキルの発動かと勘繰ったが、飛び交っているのは日本語じゃない。恐らく英語か何かでは? 相当聞き取りづらい発音してるが)

【……願いが通じたのか、単純に後から追加される予定であったのか。懐かしい声が聞こえて、思わず涙しそうになってしまったとも】

「今日からは早くこっちに慣れたいからできるだけ日本語で喋りたいの。パパとママも協力してくれない?」

「ていうか、パパは元々こっちの人じゃないっ、ふふ。いいのよ、遠慮なくびしびし鍛えて! 私、頑張ってみるわ」

【頼む、一瞬でいいから、ほんと一秒でもいいから向こうを見てくれ。そこには美少女がいるんだ。お前の美少女センサーはイカれてしまったのか!】

【……ちょっと待ってくれ。アレの登場フラグが立ったというのならば、終わりが近いのか? まさか、それとも】

『――――はーい、待ってー』

男(チャイムを鳴らすと奥からドタバタと騒々しい音が向かってくる。一歩下がってその時を待てば、攻撃にも近い勢いでドアがバンッ)

男(そして親の帰りを待ち切れなかったといった様子の、満面の笑みを浮かべた先生が現れたわけだ)

先生「いらっしゃい! 待ってたっ!」

男「みたいっスねぇ……テンション高そうにしちゃって」

先生「だ、だって仕方ないでしょ? 学校の中じゃずっと人目気にして落ち着けなかったんだから」

男「その分今日は二人だけでゆっくり過ごせばいいんですよ、先生。へへっ!」

先生「うん……[ピーーーーー]///」  男「えっ?」

先生「き、気にしなくていい! って、何それ。まさかミスド!?」

男「ああ、これ一緒に食べようと思って途中でつい。甘いの嫌いとかだったりしますかねぇ?」

先生「いやー……あははは、先生も、偶然というだねぇ、その……まぁ、上がってあがって!」

男「その前に今のアウトじゃないですか、先生。俺といる時だけは先生ぶらないって約束は?」

先生「く、癖になってるんだから許して! ねっ? ほら、入った入った~……どう? ふふーん、部屋綺麗になったでしょ」

男「いやいや、ここ! この辺りの埃の処理が甘い感じ! 手抜きました?」

先生「その反応は心外だっ!! ハァ、とりあえず座って? で、隣[ピ]て……///」

次回は土日。お風呂短編はもうちょい待ってつかぁさい

先生「見誤っていたかもしれない」

男(きっと隣に座らせて滅茶苦茶に甘えようとでも考えたのだろう。警戒の末、必殺訊き返しで事なきを得たところでそれがポツリ、と)

男「ど、どうしたんです? また随分と重苦しい雰囲気漂わせちゃって (俺が、何かしたとでも。あ、ありえんだろうが)」

先生「私は君を見誤っていた、迂闊だったね、あぁ後悔だわ……」

男「非があるなら遠慮なく指摘してください、先生。治します、面倒なんて思いませんからっ! ねっ?」

先生「違うのよ、むしろ感心してるんだ。ただ、偶然が重なって生まれた悲劇というか、へへ、これなーんだ……?」

男「み……ミスドの箱じゃないでしょうか……ドーナツじゃないですかそれ!?」

先生「うわぁーんっ! 被るとかどうなってるのよ、もう! おまけに中身も似たり寄ったりなチョイス!」

先生「オールドファッション買っとけば間違いないとか思ってるんでしょ!?」

男「先生だってとりあえずポンデリングで安牌なんでしょうっ!?」

先生「モチモチがいいんだもんっ!! くうっ、こんな事なら予め教えとけば」

男「ところがどっこいですよ、偶然はまだ重なる。ウチの妹が丁度食べたがってたんですよ、コレ。だから余りは持ち帰らせてもらえれば」

先生「そ、そう? じゃあある意味悪くなかったのかも……やー、こんな形で二人の嗜好が被るとは」

男「ふむ、ロマンチックに運命とか感じちゃいます?」

先生「あははは……こ、コーヒー淹れてこようかしら~……///」

【先生が台所へ立った瞬間を見逃さず、すかさず男はポケット中からくしゃくしゃになった紙を取り出し、掌で覆った】

【コレが何かという疑問に対しては後から自ずと理解できるであろう。ならば俺は引っ込む、お邪魔にならないように】

先生「うふっ、男君は砂糖とミルクは入れなきゃ飲めないお子様だったりするか~?」

男「先生は米をおかずに米を食べることができる人なんですか?」

先生「そりゃ大した返事ですことっ……」

先生「あー ところで、食べ物以外にまさか途中レンタル屋でDVD借りてたりとかは」

男「そこまでの用意周到性にはまだ敵いそうになさそうです。ジャンルは? 何借りてきたんですかね?」

先生「ううん、残念ながら何も借りずに帰ってきちゃったわよ」

先生「ずーっと家の中なら暇潰しが欲しいかもってその時までは思ったんだけどね、ようやく[ピーーーー]になれて暇というのも変じゃないかなって」

先生「私と[ピー]するだけなんて[ピーー]に感じちゃうかもしれないけど……そ、その時はゲームもあるからね! 大丈夫よっ!」

男「(狙ってるのか疑いたくなるこの純情可憐美女ゲーマー。乙女すぎる、惚れ甲斐もある) 先生」

先生「あぁっ、やっぱり嫌だった!?」

男「逆に決まってるだろうが。へへ、まぁ ドーナツでも齧りながら楽しみましょうよ。ね?」

先生「ぎ、逆……そっか、[ピーーーーーーーー]……///」

男「え? 何ですか? (大人の恋愛を享受な展開が襲いかかってくると思いきや、意外に奥手とは。まるで美少女だこの人)」

先生「だからその子に言ってやったのよ。引退宣言のあとは潔く引退するべきだぁ~、まだやり直せる~って!」

男「親の財布からチョロまかしてまで続けたのは頂けない感じですけど、もうそいつの人生の一つになってたんでしょうね。仮想世界が」

先生「うん。結局まだ続けてるらしくて、名のあるギルドで最強前衛務めてるみたいでねぇ。自分がいなきゃ、自分がやらなきゃって使命感に駆られてたっぽいの。必要とされたかったのかもしれない」

先生「偽善でもさ、何だか自分としては狂ってくあの子を止めずにいられなかったよー……うーん、結局悪いオチになるのは許して」

男「先生、教師志したのはその廃人と出会ったのがキッカケとかじゃ」

先生「全部が全部ってワケじゃないけど、まぁ ちょっぴりは。えへへっ……」

先生「リアルで自分なんて必要とされてないから~とか思い込まれるって鬱陶しいじゃない。それもまだ学生がだなんて」

男「だからその考えを叩き直したいがために、必要と思っている人になれたらいいなで教師に?」

先生「た、建前だからね? 私が助けてあげようとか生意気だものっ。だからとりあえずは、クラスの誰もが大人になってから学生時代を振り返って」

先生「そういえばこんな事あったなー、あれもこれもー、って同窓会の良いネタにして貰えるような生活環境を作れたらと思ってるんだ」

男「先生の目標は良い酒の肴提供か……」

先生「それ、なんかズレてるから! まぁ、でも貴重な少年少女時代ぐらい大事にして欲しいから。遊んでばっかりいられちゃこっちも困るけど。ねぇ、男くん?」

男「いやいや、遊ぶどころかこうして貴重な時間を貴重な体験で埋めてるじゃないですか。ねぇ、先生?」

先生「か、かわいくねぇーっ……ほんと、私なんかで[ピーーー]の? [ピーー]してない?」

男(恥じらいでこそ言葉が難聴フィルターへ引っかかっている。違うか、繊細な感情の動きに反応しているようだ、この糞スキルめが)

男「あのね、大満足してるところにそれを尋ねてくるのは野暮ってモンです。先生はまだ俺の選択納得してくれないつもりなんですか?」

先生「だ、だって[ピーー]と[ピーー]がこんな関[ピーーーーーーー]……私もキッパリ割り切りたい! だけど、怖くて!」

男「シリアスで重要な会話までをも邪魔立てするか…っ」   先生「はい?」

男「禁断の恋は万人の憧れなんですからね、先生!! 今更あとに引けませんね、俺たちっ! ですよねっ!?」

先生「えっ、あ……う、うん……かもね……///」

男(個人ルートでこれほどまで苦労させられては、夢のハーレム完成後はどうなるのだ。俺は美少女ととも難聴とも末永く付き合っていかねばならないというに)

【そうか、救済措置にはまだ気づいてなかったな。恋は盲目と難聴を招くのやらだ、後輩イベント内で察せられてなかったとは】

【ああ、しかしだとも。攻略→スキル解除の法則に勘づくには最低でも1周は果たしていないと難しいのもまた然りである。2周目の俺へ繋げるためにも、コイツを落とさねば】

男(照れ隠しに話題が逸らされるでもなく、怪しい雰囲気が室内に漂い始める。見える、見えるぞ、俺にも瘴気とやらが! 悶々としているのが!)

先生「その、男くんは……恋人同士で密室空間に二人でいたら……」

男(エロピンクシグナルが彼女から発生されていそうなこの感じが堪らなかった。歓迎したいが、俺にとっては諸刃の剣同然のゴクリな展開)

男「(仕方あるまい。出来れば頼りたくはなかったが、使わざるを得ない) ぶっちゃけて相談してもいいですか、先生」

先生「へ? ああ、うんまぁ……何が君の口からぶっちゃけられるの?」

男「女子からラブレターもらってしまいました、俺」

先生「ちょ!?」ガタッ

先生「……案外モテるの、男くん?」

男「そんな、ラブレターなんて伝説級アイテム貰ったの生まれて初めてですよ」

男「最初はイタズラだろと疑ってたんですけど、相手の女子の様子を見るに本気っぽくて……もちろん断わりますけど」

先生「その女の子はたぶんこの前一緒にお見舞いに来てくれた子かしら」

男「……鋭い、怖いぐらい鋭いですよ (やはり後輩が託したリーサルウェポンは核兵器だったのだな。一気に空間が真っ黒に汚染されているんだもの)」

先生「あのねぇ~、そういう事こそ今っ、彼女相手にっ、相談はっ、野暮じゃないの?」

男「へへっ、見損なっちゃいましたかね。だけど俺本当にこういうの分からなくて、どうしたものか」

先生「どうしたものかって、どうするもこうするも! ……こ、[ピーー]つもりなんだよね?」

男「すみません。最後よく聞こえなかったんですけれど」

先生「ぐっ……あ、あの子とはやっぱり元々仲良かったんじゃない? そっかそっか、君じゃ勿体ないぐらい可愛い子だったもんねぇ! あ、あは、ははは、は」

男(ここからの先生が選ぶであろうパターンは大凡二通り。萎びて「私よりもその子を」と俺を思って自分が身を引くか、「私の方が!」と強引に迫ること)

男「(後者は我の弱まったいまの彼女では選択しづらい。高確率で……ならば先手を打つ) ええ。確かに俺にアイツは勿体ない、不相応だ」

先生「そ、そこまで言ってない! むしろ学生同士の健全な――」

男「アイツ、俺と先生の付き合い知ってて告白してきたみたいなんですよ」

男(楽しもうぜ、先生。不健全を)

次回はいつものように火曜深夜に

先生「じゃあいつのまにか私たち見られてたってこと!? あちゃー……」

男「だけど、彼女は別に誰かに関係を言い触らしたりはしてませんから安心して」

先生「こういうのは、一人に見られてたら十人には見られてたとも考えられるの」

男(こめかみを撫でる仕草は、彼女が思い詰めた時に取る癖のようなものであった。ラブレターの件は二の次に下ったらしい)

先生「神経質だと思う? もうしょうがない人だって笑われてもいい。私、昔からスリル楽しめない性分だからさ」

男「ゲームじゃハラハラさせられると滾るタイプなんでしょう?」

先生「そら、やり直しが効くなら喜んでリアルでも滾ってやるわよぉ~……っ」

男「それだけ慎重な人なら何人にも目撃されてたなんてミスは起こすに起こせませんよ。先生、いつも警戒しまくってたじゃないですか?」

先生「現にミスがあったんだけどそれで信用に足ります? ふ、ふふっ、何だか君の調子見てると悩んでるこっちがマヌケ臭く感じてきちゃうなぁ」

先生「で、相談されてたんだっけ私は? へいへい、綺麗なお姉さんが親身になって考えてあげるわよぅ……んぐ」

男(ヤケクソ気味に、若干不満気にしてドーナツを頬張る先生である。脱線を防ぎきった、これで手綱を握りやすくなっただろう)

【とでも、ほくそ笑むつもりか。違う、手綱を握られるのはお前で、この俺が仕切る。未来のために好きにさせてたまるか】

男「甘いと思われるのは分かってますが、アイツとの関係を壊したくないんです。短い付き合いでもないですからね……」

先生「ほうほう、君はあの子と私を天秤に掛けたくないっちゅーわけだ? たぶん、気持ちはわからなくもない」

先生「ここでいきなり質問です。ピチピチで若く可愛い女の子とあと数年で三十路のおばさん、どっちを選べば幸せになれるでしょうかっ!」

男(その選択は一つ足りてない。壁か、山かだ、どこがとまでは誰かさんの名誉を守るために指摘はしないが)

先生「女の子の見た目の劣化は早いのだよ、少年。小じわだってすぐにできるし、お化粧もしつこくなる。あーあ、若いって素晴らしい」

男「先生だって若い部類だろ? むしろ歳食うたびにより色気出て、良い具合に熟すのでは?」

男「よく言うじゃないですか。熟れた果実ほど美味い……」

先生「熟れるうれる言わんでいいわよっ!! ていうか、[ピ]めすぎだからっ」

男「俺は本気であなたが綺麗な人だと見てるんですけど、これ言うと調子乗りますかね?」

先生「調子乗りづらいってのよ……まったく///」

男「大体さっきの質問がまずおかしいんですよ、先生。あんな抽象的なのじゃ偏った趣味の男じゃない限りは前者選ぶに決まってる」

先生「だったら、ストレートに私とその女の子を並べて好きな方選べって訊かれるのがいいの?」

男「先生を諦めてまでアイツになびく気なんてありません。自分悪く見せてまで拒絶させようとするのはセコい。相談の域から外れてるし」

男(ゲスを自覚する。当事者に巻き込まれた立場の人間へ相談自体が狂っているではないか。だが、それが良い。まずは悲劇のヒロインを存分に味あわせるのだ)

先生「あの、申し訳ないけど私じゃ力になれそうにないみたい。他の信頼できる人に訊いたら?」

先生「だってこんなの[ピーーーーーー]じゃない……」

男(この俺が親しい女子から告白された、自分たちのイチャラブが生徒に目撃されていた。様々な要素が彼女へ諦めを催させていると見た)

男(優しいこの人のことだ、生徒のことを第一に考えて身を引こうとするのは想定できる。好感度の不足故にとも見て良いだろう)

男(規定値はとうに越えているのはハッキリしている。足りないとは、ゲージを突き破る勢いで好感度が満ちていないというわけだ)

男(匙加減で病むまでに溺愛されてしまうだろう、他の女なんぞ認めんと。その肉食獰猛っぷりが先生にはない。線引きを弁えていると例えた方が綺麗だろうか?)

男(であるかして、ハーレムに巻き込むには非常に不利な状態。これを軌道に乗らせるためには)

男「先生だからこそ、なんですよ。相談相手にあなたを選んだのは」

先生「へっ、どういう意味それ?」

男「相談なんて体の良いことで話進めてたけど、本当は確かめたかったのかもしれない」

男「先生は俺との交際にまだ引け目を感じていて、本気になってもらえてないのか。聞いて、女々しい奴だと思いません? 何だコイツはって」

先生「[ピーー]にって……そ、そっか。私が周りの目気にするあまり 君に不安感じさせちゃってたか……」

男「告白されたのはでっち上げでもないし、嘘じゃありません。ラブレターもマジです。証拠はここに」

男「へへ……アイツには謝ってもあやまり切れませんよ、都合良く俺が利用したんですから。でも、いくらでも非難される覚悟はあります」

男「俺、先生にもっと近づきたいんです! 後ろめたさに苛まれたままなんて苦しい! それだけあなたに惚れてるんですよ、先生っ!」

【躊躇を感じる間もなく、彼は先生を抱きしめた。心の内さえ聞こえなければ、今は懐かしい昼ドラチック愛憎劇のワンシーンに思えんでもないが】

先生「[ピッ]、[ピーーーー]……///」ギュゥ

男「ああ、よく聞こえませんね。先生…… (計画通り)」

【あの頃の笑顔はもう帰ってこないのですね、神よ】

男(勘違いされたくはないがために、俺は詐欺師ではない。純粋に美少女ハーレムを作りたいだけだ、彼女は踏み台などではない)

男(言っただろう、どれほど非難される覚悟はあると。どれだけ卑劣と咎められようが俺には果たすべき目的がここにあるのだ)

【おい! この腐れ外道、誰にも責められることないの分かり切っててほざいてやがるぞっ!】

先生「君の気持ち、ちゃんと[ピーーー]めてあげたいな……私が間違ってたかもしれない」

先生「私がしなきゃいけなかったのはバレる事を心配するより、[ピーー]きな君へ真剣に向き合うことだった」

男「何だって?」

先生「男くん、私 別れたくなんかないわ。もっと[ピーー]にいたいの。こうやって抱きしめられもしたい」

先生「……あの子には悪いけどタダで渡すなんて無理かなぁ、なーんて!」

男(そこはもうプライスレスな非売品でよろしくされたかった)

男「やっぱり、アイツにはキッパリ断わり入れるしかありません。たとえ今までが台無しになるとしても」

先生「で、でもあの子だって覚悟の上でだったんでしょ? いくら何でも疎遠まで行くのは」

男「言われたんです、恋人がいるのに陰で私と遊んでられたら先生も面白くないだろうって。間違いなくその気かと思います」

先生「よく理解してるんだ。そのぐらい一緒にいたってことか……」

男「ああっ、もう自分が犠牲になんて考えないでくださいね、お願いだから!」

先生「し、しないしない! 大丈夫だから! ……というより[ピーー]だもん///」

【……天使ちゃんの話をよく思い出そう。1周目の終わりはコイツが先生を振って絶望に落ちる】

【惜しみながらも別れ話をした末という事だろう。ならば、釘づけにされてなくては成立できん】

【吹っ切れたコイツにうじうじとしたあの葛藤を呼び戻さねばなるまい。目的へ突っ走る無駄に強い信念、それを砕くのはいつだって、うむ】

【飼い犬に手を噛まれてもらおうじゃないか】

男(下準備は整い始めた。ここから流れで、ハーレムが解決策になると導いてくのがまた骨の折れることやらだが)

男(生徒たちの内情を利用されては先生も下手に動けない。こうなれば、自然と両者が得をえる策を頭で考え出すのは瞭然たるもの)

男「(逃げ場は塞いだ) もし、先生が俺の立場に置かれたらどうしますか?」

先生「えっ、私!? えっと……[ピーーーーーー]」   男「何ですって?」

先生「急かさないでっ! 真面目に考えても、難しすぎてすぐに答えなんて出せないよ」

先生「ん……残酷かもしれないけど、ていうか私が君たちの付き合いを知らないから言えるんだけど、断ると思うな」

先生「できればみんなが満足できる道を探したいけど、綺麗事ばっかりじゃどうにもならないこともあるでしょ? 私じゃ模範的解答しか言えない、男くん」

【俺と後輩が先生の目の前でイチャついてたらどう思います?】

男「模範か、でも間違ってない。でしたら俺とアイツが目の前でイチャついてたら先生はどう思いますかね?」

男(根を詰めすぎた弊害だろうか。これは無意味な問いというか、何をいきなり挑戦的に言ってるのだ俺は。悪戯心? 調子に乗ったとでも?)

男(何か、まるで俺の意思と反するように口が。これではせっかく【気にするな】、【問題ない】。俺は呆気に取られた先生の次の言葉をじっと待ったのである)

また明日デース

先生「どう思うかって君……脈絡なくなさすぎない、それ?」

男(御尤も。ケンカを売られたと解釈されてもおかしくはないだろう)

男(ここは機転を効かさねば) い、いやあの! 俺が向こうの告白を断わったあと、またアイツが俺たちが二人でいるとこ見たら」

男「や、やっぱり嫌な気持ちなっちゃうんでしょうかね……!?」

先生「私はその子じゃないからその時どう感じるかなんてさっぱりよ。けど、たぶん面白くは受け取れないんじゃないかな」

先生「少なくとも……私が君と別の女の子が恋人同士みたいにイチャついてたら、[ピーーーー]」

男(ここまで難聴に戦慄させられた瞬間はなかっただろう。何がその下に隠されているのだ、胃が、きりきり痛む)

先生「男くんは、心のどこかであの子のこと想ってたのかもしれないね」

男「ひぃっ!?」

先生「煮え切らないんでしょ? 私かあの子を取るか。君が優しいのもあるかもだけど、どっちも[ピーー]なんだ」

先生「そうだからって別に怒る気もこれ以上困らせる気もないから、正直に答えてごらん? ね?」

男(いつから己の立場が優位に立ったと錯覚していた? ……まだだ、まだ形勢不利じゃない)

男「先生の仰る通りだ……決断できないんですよ、先生も後輩も大事なんです!」

先生「同じぐらい?」

男「じゃ、若干先生側に傾いてたりして――――――ぇえええ~~!?」

男(トイレへ逃げて態勢を立て直そうと図れば、ラッキーも時にはアンラッキーかな)

男(偶然足元に転がっていた目薬を踏みしめ、滑って、手抜き掃除を恨んでみた)

先生「[ピッ]、[ピーーーーーー]……///」

男「な、何でしょうカ (現状確認をしよう。押し倒してしまった先生との顔の距離が近い、紅潮していく彼女は正にカウント5を切った時限爆弾であった)」

男(ゆっくり、着実に手を離して逃げよう。ほんのちょっぴりの刺激で起爆する。今日は好感度を上げただけ十分な成果を得られた、そうしよう、ヤバい)

男「(嫌な予感だ、逃げなければ!!) ていうか怪我してませんか!? どうも足元に目薬落ちてたみたいでソレ踏んじゃ――」

先生「男くん……」ガシッ

男「お手洗いに行きたいと思ってるんですが一緒にいかがでしょう!? じゃ、じゃなくて……先生っ?」

先生「どうしたら君の気持ち、私だけが[ピーー]できる……?///」

男(この際何もかも難聴が聞こえなくしてくれないだろうか。無慈悲を慈悲と感じられるぐらい、今この時だけでいいから)

男(目下の先生が頭がパーになるほどセクシーに思えて、可愛らしいと脳が認識していた。美少女の殻を破った美人教師という名の存在、それが彼女である)

男(も、持っていかれる!! 正気を保てなくなってしまう!! ここで我武者羅になるのが正解か? 否、果たすべき夢のために堪えるしか、だが、しかし、何ていうか)

先生「イケないこと……してみちゃおっか…………二人で」

男(アカン)

先生「は、鼻の下伸びてるわよ? [ピーーー]……///」

男(見方を借りれば、悟りを開くべくして瞑想を始めたところに悪魔マーラが妨害に現れたところである。煩悩が過去を消し去ってしまうのだろう)

男(俺は一体誰と戦っているのだ。臨界点が突破しかけているぞ、食いしばりすぎて歯が砕けてもおかしくない)

【金縛りにかかってしまったように固まって停止した男の下から出た先生。そっと体に触れたと思えば、自分が下に、先生が上に。大逆転が始まる】

先生「え、えっと最初どうしたらいいかな。なんか[ピーー]するわね……」

男「あわわわわわ……」

先生「怖い、男くん? 怖いなら、嫌ならダメだって言ってよ」

先生「じゃないと……た、たたっ、食べちゃうから……///」

男(エロ同人みたいに。だが、それも悪くないじゃないか。貴重な体験をするだけだ。これでハーレムが作れなくなるわけじゃない)

男(ようは気の持ちようである。俺が、先生に現をぬかさない限り野望は挫けない。深く考えすぎなのだよ、俺は)

男(悟りは開けた。俺はいま賢者だ、何者にも囚われない自由な心の持ち主になったのだ。快く受け入れてしまっても平気だろう)

男「大好きな先生のこと嫌になるわけないだろ。むしろ望むところ (大丈夫、大丈夫だ)」

先生「……私だけ見てて? お願いだから///」

男(あら、かわいい)

【信念、その誓約はついに破られてしまったのである】

男(人目もない、誰も近くを通らない。堪えてきた欲を全開で振り絞るが如く、唇を重ねて触れ合った)

男(もうどうにも止まらない、そう囁くのだ、リンダが)

男(この場面でコレを考えるのはお決まりかもしれないが、愛に歳の差など関係ない。最初から俺を見てくれていたのは彼女だ)

男(思い返してもあやふやな記憶しか浮かばないのが惜しい。だけど、きっと、ずっと前からこうなりたいと願っていたのだろう)

先生「コーヒー冷めちゃったかもね……私、君のこと夢中にさせられてるかな///」

男「俺は最初からずっと先生しか見えてなかったと思います、マジで」

男(貪りに貪る。これぞ愛の獣である。神は俺へこの人と出会うために力を与えてくれたのかもしれん、美女を手にする幸せとやらを)

男(だが、もっと、もっと俺は幸せになろうとした。違うか? 何か忘れかけていないか? 目的があった。アイツに誓った本物の幸福を手にするための夢が)

男(何だっけそれ?)

先生「ちょっ、ちょっとタンマ! 続きシャワー浴びてからのがいいと思う!」

男「待ってるあいだに萎えたらどう責任取ってくれるつもりです!?」

先生「だって汗臭いだろうし!! そ、それに」

先生「君とだと、なんかちょっとだけ恥ずかしいんだもん……///」

男「え? 何だっ……あんた普段大人ぶっててそれか!」

先生「悪かったわよっ!!///」

先生「とにかくシャワー浴びちゃうから待ってて! そしたら次男くん入るっ、OK!?」

男「ぐっ、譲らないなら諦めてそうさせてもらいますよ……チャイム鳴りませんでした?」

先生「たぶん密林から荷物っ!」

男(ドタドタおなじみ騒がしい音を立てながら玄関へ小走りする先生を見送れば、これまたタイミング悪く携帯電話に妹からコール)

男(迷わずブチッと切ってやっても再度コールが掛かるのだ。お兄ちゃん大好きすぎではないか……負けた。だが察知されるのは不味い、メールを一通プレゼントしてくれよう)

先生「ごめんごめん! まさかこんなに早く届くとは思ってなくて! やっぱり密林偉大だよー」

男「先生、俺そろそろ帰らないと家族に色々言われるかも。特にちっこいのから」

先生「あっ……そ、そうだよね。遅くなったらバスも少なくなっちゃうし」

先生「……行ってほしくない、な」

男(ボソリと呟かれた台詞に驚いた。内容にではない、何の滞りもなく俺が聴き取れたことにである)

男(珍しいこともあるな、難聴が仕事しない時があるなんて)

先生「はい、これ余ったドーナツ。ほとんど手つけてないから妹さんも喜ぶんじゃない?」

先生「じゃあ気をつけて帰りなさい。寄り道して帰り遅くなったりしないことっ! なーんてね、うふふっ」

男(お茶目を欠かさない先生がソーキュート。この日、家に帰るまでの道のりは色づいていたというか、心が躍ったままだった気がする)

【誰かさんが横槍を入れない限り、コイツは個人ルートを歩み続けるわけだ。幼馴染に虜になったあの俺のように】

【休みが明け、それからの日々は案の定であった。男は自身の揺らがないと思い込んでいた美少女ハーレムを忘れて彼女をエンジョイしていた】

【難聴スキル解除条件は男がヒロインに対して歩み寄ること、だっただろうか? 見事あのイベントを境に近づいた、あるいは、近づきすぎた。その犠牲は言わずもがな】

先生「こないだ帰り際にオシャレなお店見つけたんだけど、今度行ってみない? ふふっ、もちろんデートで!」

男「先生も俺も店に入った途端、オシャレ力に圧されて浄化されるだろ」

先生「当然のように言うのは頂けないわねぇっ……私はオシャレの申し子だから」

先生「ほーら、髪型だって大人っぽいし服だって良さ気なの持ってたでしょ~? ふふーん」

男「そういえば最近駅の近くに新しいゲーセンできたって聞いたんですけど」

先生「行くっ! ゲーセン行く! 一緒にUFOキャッチャー荒らして回ろっか、男くん!」

男「ヘッ、徹底的に残念美人で安心したっす」

先生「残念、美人っ? び、美人に越したこたぁないから褒め言葉として受け取っておくとしましょうかー……っ!」

男「何事もポジティブを忘れない。うーん、誰かさんが言った良い言葉痛感ですねぇ、先生? ……先生?」

先生「……ここなら誰も通る心配ないから……ちょっとだけ、いい?///」

男「ふむ、高括ってまた見つかっても責任取れないけど――――んむぅ (今はまだキスぐらいで留めている。それだけでも十分と思うぐらい俺は【あー!】だった)」

男(だけれど、【きえー!】な日常は長くは続かない、そんな予感がしていたのである】

後輩「あっ……」   男・先生「えっ」

そして日曜へ続くのです

【見計らったか偶然か大変なタイミングで通り掛かった後輩に、彼女を含めて三人の時間が凍結した】

男(……まだ告白断ったとか話してなかったな、そういえば)

先生「む、虫歯チェックよーし! 意外に歯並びも悪くないし、健康そのものね!」

男「だいぶ無茶すぎるんじゃないですかねぇ、それ」

男(取り乱すことはない。何故なら後輩は俺たちの関係を容認し、ハー【ダメだ】成を良しとしているから)

男(……ハ【忘れろ】? いま俺は何を【気のせいだろう】、【それより話を元に戻してくれ】じゃないのか】

先生「どうしよう、かなり不味いわよね。どう考えたって言い逃れも――」

後輩「必死に誤魔化さなくたってお二人のことはもう知ってましたし、今更何とも思いませんよ。先生」

【先生を落ち着かせるようにうすら笑いを浮かべて、後ろで手を組む後輩。仕草、口調すべてに違和感を感じてならなかった。意識でもしなければどうとも思わないだろう。普段の彼女を知らない、一女子としての認識しかない者にとっては】

後輩「私の方こそお邪魔しちゃってすみませんでした。こんなところで声が聞こえたものだから、珍しくてつい」

【言葉を選ぶようにややゆっくりと続け、先生だけに声を掛ける。その声も抑揚が所々で狂っていたし、後輩が俺の視界へ映るたび、落ち着きなく組んだ手を遊ばせた】

【ド素人の俺でさえ後輩の心理状態が把握できるぞ。抑えられないほどに動揺が大きかったのだろう。裏をかいて演技、とはまるで思えない】

男「お前が悪いわけでもないんだからそんなになる必要もないだろ?」

後輩「っー! 私はここで何も見ませんでした。では、そういう事で。さよなら」

男「な……何だアイツ? 変だな」

【個人ルートへ突入したからといって他の美少女を無視する事はないのは自分自身で体験済みである。あくまで親しい知り合いや友人として付き合っていた】

【それは後輩に対しても同様であり、この男も積極的になりはしないが彼女と話をしたがった。だから、変わったのは彼女一人だけなわけであって】

男「おや、偶然だな。これから体育なのか? 結構そういう格好も似合ってるじゃないか」

後輩「えっ……い、急いでますから」

男「いーや、急ぐこともないだろう。どう見ても窓の外眺めてボーッとしてるようにしか見えなかったぞ。人生、ゆとり持って生きなくちゃ」

男「後輩。言いたくないけど、最近お前に露骨に避けられてる気がして、それで、な、どうしちゃったよ?」

後輩「……どうしちゃったんでしょうね、ほんとに」

後輩「先輩、今日もあの人と放課後一緒にいる予定なんですか。も、もし! もしその予定がなければ!」

男(次にこの美少女は「やっぱり何でもありません」と言う。任せろ、俺の予想は大体的中する)

後輩「私、いつもの場所にいますから! しつれいしますっ」

男「ここぞとばかりに意標を突いてきやがる」

男(一方的に話を打ち切って去って行く後輩を呼び止める気になれなかった。彼女は言った、いつもの場所にいる、と)

男(俺と後輩、お互いにとってのいつもという意味だろうか。心当たりがない。いや、全くというわけでもないのだ。ただ漠然としない感じがして)

男「この歳でボケでも始まったなんて洒落にならん。何か、大事なこと忘れてたりしないか?」

男「やれやれだ……どうにかして仲直りする機会が欲しい。そのいつものに行かないと」

【老婆心ながらでもなく、美少女の笑顔を取り戻させるべく俺は彼を無意識にあの場所へ導いてやった】

【時期的にもそろそろ悪くない。後輩の心情に触れさせることで、計画が滞りなく進むのである】

男(俺にとっての不幸中の幸い、先生は会議に出席するらしく本日の校内デートは無しに。本音では一時でも先生と話をしていたいわけだが)

男(そんな鬱憤を晴らすように放課後はあちらこちらを彷徨ってみるのであった。目的は、後輩を見つけること。……目ぼしい場所はほとんど探してみた、残るはこの屋上となる)

男「当てずっぽうでこんな所まで来たけど、心もとない勘が伝えてるぞ。おまけに屋上の鍵開いてるじゃねーか」

男(ノブを回して外へ出れば、視界に映る景色に奇妙な懐かしさを覚える。記憶が、断片的に、フラッシュバックを起こして、目眩すらもした)

男「……実は夜な夜な学校に現れる魔物をアイツと一緒に倒していたとかじゃ、そんでもってボーイミーツガールな物語がここを舞台にっ」

男(発現しろ、力! 手の平に意識を集中し心で叫んでも呼び覚まされるは、すっかり牙を抜かれた邪気眼の虚しさよ。屋上の風に当たりすぎたのだ、きっと)

後輩「先輩、いま一人で変なこと考えてたでしょう?」

男「その台詞を使っていい場面は、もしかしてこの人スケベな妄想頭に浮かべてるんじゃ、と疑いを持ったときが良い。照れながら語気強めだと惹かれるものがあって」

男「ニコニコ嬉しそうにしながら言うもんじゃないのさ、後輩……あはっ」

後輩「先輩こそ楽しそうですね、私の顔に何かついてます?」

男「残念ながら違うんだ。久々に面と向かって会話できて、それも笑顔の後輩なんて最高じゃないか」

男「へへへ、やっぱり美少女はこうでないと魅力半減しちまうなっ!」

後輩「喜んでもらえたなら良かったです、ふふっ」

後輩「たまには私の暇に付き合ってくれませんか? ほら、隣空いてます」

男(構って欲しがるマミタスの如くチョイチョイと手で俺を招く後輩に甘んじて、横に腰掛ければ、満足そうに微笑んで見せてくれる地上に舞い降りたこの天使)

後輩「最近はこの場所も私が一人占めしてる状態だったから、とっても広く感じちゃって。でも先輩がいると」

男「とたんに窮屈か?」

後輩「せーかいっ! えへへ、冗談です」

男「いきなりこんなこと言い出すのもおかしく思われそうだが、休日に甘えられる父親の気分だな、いまの俺」

後輩「先輩がお父さんしてる姿なんて想像できないです。もうそれだけでおかしいかも、ふふっ」

後輩「あー、安心しちゃったな……たまには私と過ごすのも悪くないでしょ? ね、せーんぱい」

男(おっしゃる通り、癒されて顔がデレデレしていたとしても不思議じゃない。素っ気なくされていた分、美少女っぷりも倍に感じて仕方がない。後光が差して見えちゃうような)

男(でも良かった。偶然でもこの屋上が後輩の指した、いつもの、で。今日ばかりは会議に感謝しようか)

後輩「……そういえば、覚えててくれたんですね。いつもの」

男「えっ!? あ、ああ、当たり前だろう。こんな事も簡単に忘れてちゃどうしようもないしなっ」

後輩「前に言ってましたもんね。ここは自分にとって必要な場所なんだって」

後輩「でも、たぶん今の先輩には必要なくなっちゃったんじゃないでしょうか……えへへ」

男(こいつ……俺は何か大事なことを忘れている。瞬間、信じて疑わなかった)

ここまでん。あと一息だ

もう過ぎたけどバレンタインデーネタ見たかったなあ

続き書く時間が中々取れなかったのでここで短編放出

天使「雨ぐらいで強制引き篭もりなんてつまんねーです……」

男「不貞腐れついでにのんびりしようや。何も予定ない日なんて奇跡を噛み締めながら」

天使「男くんが行動起こさないと退屈なんですよ。監視者の自分に考慮すべきなのです!」

天使「う~ん、また遊園地とか行きたいですねぇ。プールもOKだし、一緒にチープなハンバーガー食べ行ってやっても構わないんですけど!」

男「どれもこれも傍から見れば俺一人エンジョイしてる不審な光景にしかならないんじゃないか?」

天使「なんと自分的には二重に美味しいお出かけになります」

男「お前は人の不幸で飯を食うのか」

天使「目先の損得に捉われて何がハーレムですか、男くん!」

男「やかましいわ! 悪い子にくれるご褒美はない。暇なら本でも読んで教養つけてろ」

天使「漫画しかないじゃないですか……自分暇に殺されちまいますよぉ、ひーまぁー!」

男「だあぁーっ!! 退屈凌ぎの玩具なんてこの部屋に色々転がってるだろうが!!」

天使「じゃあたとえば?」

男「そうだな……あんまり触らせたくはなかったけど、今日は特別。マイPCちゃんを自由に使わせよう」カチッ、ウィーン

天使「ほおー……こりゃなんぞー……」

男(今思えば天使ちゃんにPCを触らせるべきではなかった。まさか、あんな事になると誰が想像しただろうか)

天使「……」カチカチッ

男(休日は引っ切り無しにPCの前に座り、モニターを睨んでいる。その背中は電脳に憑りつかれた廃人その物である)

男(流石の俺も危うく思い、彼女が離れた隙に履歴や諸々のチェックをしてみた。するとどうだろう)

男「ふむ……pixivでお気に入り絵師漁ってたぐらいじゃねーか」

男「いや、何だこれはっ!!」

男(激しい後悔が俺を襲うのだ。かつての愛らしいロリ天使は狂気の扉を開いていたしまった。そしてその先へ一歩、一歩と)

天使「のみこんで。ぼくのエクスカリバー」

男(無垢な美少女の心が腐り、穢れに染まりつつあったというこの空前絶後)

男「今後永久にPCの前に座ってはならない禁止令を出す。お前二度と近づくなよ」

天使「ノー!! 禁止ノー!!」

男「代わりに今日は天使ちゃんが行きたかったとこ何処にでも連れて行こう。表へ出ろ、修正してやるから」

天使「自分は外になんか行かないでお部屋で遊びたいんですよ~!!」

男「最近ずっとPC弄ってばっかりだろ! たまには外で体動かさないと不健康だぞ!」

天使「けっ、男くんにだけは一番言われたかないですねぇ!」

男「……OK、それじゃあ家から出なくていい (俺にも考えがある)」

男(正に狂気! 餓鬼と豹変した天使ちゃんからPCをディフェンスしつつ、俺はとあるブツを広げて見せた)

男「天使ちゃん、どうせなら二人で楽しいゲームしようか。遊べば一発でお気に召すと約束するぜ」

天使「へ? 妹ちゃんたちに見られたら、男くんがまた腫れもの扱いされちまうかと」

男「心配ご無用、幸い今日は妹も幼馴染も友達と出掛けてるんでな。家には俺と天使ちゃんだけ」

男「……もしこのゲームでお前が勝てたらPCを好きに使っていい」

天使「うおおぉぉー! 二言はないんでしょーねぇ、それ!!」

男「勿論だ (この俺が初めから負ける勝負挑むと思っているのか。目先の利益へ見事に釣られた美少女、ベタな餌だ)」

男(捕って食わせて頂く、新鮮な内に。完全にお腐られる前に)

天使「でも自分、テレビゲームなんてやった事ねーです。ハンデはくれるんでしょう?」

男「ハンデなんか必要ないさ。まずテレビゲームなんかじゃない……自分の体のみ使う単純で洗礼されしお遊戯」

男「その名もツイスターゲーム! さぁ、このシートを床に広げるんだ、天使ちゃん!」

男(説明しよう。ツイスターゲームとは左から赤青黄緑、4色の丸がいくつも描かれたシートを使用するものだ。今回使用する物は縦4×横6)

男(ルーレットなどで指示された手足を、さらに指示される色の丸へ置き、倒れないようバランスを保たねばならない、そんな、楽しい楽しいゲームである)

天使「ふーん。男くんのことだから碌でもない事かと思ってましたけど、案外フツーじゃないですか」

男「だろ? 俺も初めてやるからお互い対等ってわけだな (別に嘘じゃない、ホントだよ)」

天使「やったことないゲームで使う物なんてよく持ってましたね?」

男「愛好会のロッカーに収まってたの先輩さんに無理言って貰ってたんだなコレが。本来は二人以上のが盛り上がるし、楽みたいだが」

男「ルーレット無くしたみたいだし、二人だけでも問題なく遊べると聞いてね」

天使「……んで、さっきから男くんが意味深な感じでニタニタキモい顔してるのは何ですか」

男「何だって? じゃあ早速対戦と洒落込もうか、天使ちゃんよ」

男(俺たちは向かい合ってマットの外側に描かれた青と黄の丸の上に立つ。今ここに、ロリ美少女天使との戦いの火蓋が切って落とされてしまったのである)

男「ルールは聞いてたな? 先に俺が手足を指示して、天使ちゃんがそれを置く色を指示する。これを交代で順番に繰り返す」

天使「りょーかいですよ。要するに倒れないよう気をつけりゃ良いってことだけでしょう! 鈍臭い男くん相手なら勝ちはもらったぁ~!」

男「どうかね……いくぞ、右手を」

天使「赤の丸に!」

男(容易い、とドヤして不敵に笑う天使ちゃんに負けじとニヤリ。勘違いされる前に言っておこう、勝っても負けてもお前が楽しめるだけだろうが、とか思っているのでは?)

男(八割当たりだ。だって念願のツイスターゲーム、相手は美少女、スタイル抜群なら更に気持ち悪い顔になれてたと思う)

男(これは天使ちゃんの穢れを払うための行為じゃないのか、だと? そう仰らず黙って見ていれば良い。こいつはだ、体、をフルに活用するゲームだというのが重要で)

男「(その後の伏線となる) おやぁ、天使ちゃん面白い格好なってきたんじゃ、ないの……っ?」プルプル

天使「お、男くんこそぉっ……っはぁあああ~!」プルプル

男(運動不足がここまで響くとは思わなんだ。手足が、関節が軋みを上げ、無理に伸ばすと、攣りそう)

男(だが、それは天使ちゃんも。二人で額から垂れる汗にも構わず、荒らぶるポーズでバランス維持を努める)

男・天使「っ……っ!! ふ……っほ、おぁああああぁぁぁ」

男(お互い順繰りに指示してきた色を求めて、距離もここまで近づいた。もはや胸チラも履いていないと聞いて高ぶったスカートの中を覗く余裕すら、である)

天使「降参されてやっても構わねーですっ、自分はぁ!! もう限界ですよね!?」

男「余計な口開いて体力減らすのはバカの所業だな (勝ち目はある、それは決定的差から生まれるのだ。体格、手足の長さ。しかし、俺ばかりが有利というわけでもない)」

男(身軽な天使ちゃんはこちらよりも自重に耐えやすい。が、初めからスタイルの有利で勝ちを狙うのは確実ではないだろう)

天使「ぬぁあああちくしょー!! 次いきますよぉー!! 右足っ!!」

男(やはり限界から比較的自由に動かしやすい部位を指示してきたか。だが、もう少し周りをよく見るべきだったぞ)

男「天使ちゃん、俺からも言っておく。諦めて潔く降参してはどうだ?」

天使「ふざんけんな、です……こっちは命が掛かってるんですよおおおぉぉぉ!!」

天使「するわけねーでしょうが! ふっ、男くんてばそんな無理な体勢取ってしんどそうに! 大マヌケめ!」

男「ああ、かなり辛い。気を抜けば倒れちまう、下手しなくともヤバいかも――――」

天使「わーはっはっはー! 生意気叩く元気もなくなっちまったみたいですね、自分の勝ちです! PCちゃんは自分の物ですよ!」

男「――――だけどな、一番良い景色を確保できるポジションを維持できるもんでさ」

天使「いま何て……とにかく、さっさと置き場の色を言いやがれです!!」

男「緑で」

天使「くくくっ、それが最後に言い残す色! 男くん、別に恨みはありませんが身に覚えのない光熱費にネット料金諸々モロをよろしくなのです!」

天使「自分の右足をぉぉぉ緑の丸に――――――ふぇえ」

男(……察したな。だが、時既に遅し。俺は二度と色の変更もしないし、プリッと美味そうな右足の行方を見守るだけだ)

男(置けよ、その唯一自由な右足を楽な緑の位置に。そうすりゃこの俺の自滅を待つだけ、なんだぜ)

天使「あ、ああっ……な、なぜにどうして…………男くん」

天使「男くん今すぐその左手を別の緑丸に退かしやがれですよっ!! じゃ、邪魔です!!」

男「うん? まずはそっちのターンが終わってからだろ。早くしてくれないか (もう自分でも理解しているだろう。たった一か所、その緑にしか足を動かす余裕はないと)」

天使「じょ、冗談じゃー……///」

男「おい、急に何恥ずかしがってるんだ? 所詮ただのお遊びだぞ。無理なら負け認めるか?」

天使「認めるわけねーでしょうが!! や、やればいいんでしょ……この程度、お遊びですしね、全然」

男(プルプルと筋肉の痙攣か恥じらいのあまりか判別のつかない動きで、おそるおそると彼女は右足を狙い通りの位置へ移動させようとする)

男(が、させようとするだけであり、踏ん切りつかずな様子で俺の顔と緑丸を何度も交互に見ては、悔しそうに、泣き出しそうな顔で睨むのであった)

男「大丈夫。俺の顔の前でお前がガバッと開脚してもこれゲームなんだから、そういうゲームなんだから仕方ないんだわ」

天使「そこに足を置きたいんですけど男くんの顔がウザいので難しい状態なんですがっ……!!」

男「言われても。俺もこの体勢がギリギリだって教えただろ? この状態をキープし続けるしかないんだ」

天使「首横に動かすぐらいどうってことないでしょうに!? じゃ、じゃあせめて目を閉じてください! 良いって言うまで開けるの無しっ、ぜーったいに!」

男「閉じてる間に手足休められたら困るよ。まぁ……俺も鬼じゃない、どうしても無理なら天使ちゃんが降参してくれればゲームは終わる」

天使「鬼ぃー!! 悪魔ぁー!!///」

男(攻撃は最大の防御である、護身完成。第一にタイマンが良かったのだ。もしこれが二人以上でランダム性の高いルーレットありきならば、こうはならないだろう)

男(常に相手へ目を配り、接近しつつ、最適な部位と箇所を指示できる二人ならではのルール、そして天使ちゃんの羞恥心が作ったウイニングロードである)

男「二つの竜巻が一つに合わさって強力な竜巻に……これぞ正にツイスターか」

天使「っぐ、ぐう……うあ…………あう」

男「手足以外がシートに触れた場合は負け、最初によーくそう聞かせたつもりだ」

天使「鬼ぃ、悪魔ぁ、変態ド屑……ぐすんっ……うぅ~っ!!」

天使「超絶美少女相手によくもこんなゲス極まりないゲーム挑んできやがりましたねぇ! 分かっててやったんでしょう!?」

男「御免遊ばせ。俺サマ綺麗なお言葉しか受け付けないんですの~!! (真剣勝負にオシャレは不要だ。スカートを履いて良いのは見られる覚悟がある奴だけ、である)」

男「そもそも下着を履けと……ところで俺が勝った場合の話はまだだったな、天使ちゃん」

天使「何じゃとて!?」

男「――もう入っても平気だぞ。勝ちは勝ちなんだし、言う通りにしてもらわないと」

天使『……やっぱり他の事にしませんかね? 絶対こんなの社会の闇に触れてます……っ』

男「お前は人間じゃない上に俺にしか目視できないし、声も聞こえない。じゃあ一片たりとも法を犯す心配はないわけだ」

天使『危険ですよ、変態男くん! この美幼女とお風呂なんぞ主がお許しになるわけねーでしょうが! 不埒、不潔、不浄おぉっ!!』

男「だけど、そこに正当たる理由が存在するとしたら?」

男「俺も天使ちゃんもツイスターゲームでいっぱい汗を掻いた。健康的な運動のあとだ。そして俺たちの関係は一体?」

男「信頼に信頼を重ね合った良きパートナーだ。種族をも超越したファミリー、家族は一緒に風呂に入っても不思議じゃない。違うのか!?」

天使『脳みそどうかしてんじゃねーですか』   男「こいつは手厳しい」

天使『……まぁ、そこの屑野郎のせいで汗掻いて気持ち悪いのはあるです。滅多にこんな事あるもんじゃないのに』

男「だからこそ背中を流し合おうじゃないか。もー、ほら、前にも合宿で一緒に入ったぞ? 躊躇う意味が分からん」

天使『裸じゃなかったでしょー!? 周りに他の子もいましたっ、今回は男くんしかいないんです……!///」

男(基本全裸イメージ絵図な天使が裸を嫌がるとは何故如何に。答えを教えよう、彼女は下界に、人間に染まりすぎたのである)

男(そして裸のお付き合いの意味を知った。というか、アンダーグラウンドな世界で下世話なネタは仕入れてしまった後なのだろう)

男「……無理強いするのも可哀そうだな。いいよ。天使ちゃんは俺が上がってからシャワー浴びればいい」

天使「でもでも、水着なら問題ねーでしょうが!!」ガラッ

男(嗚呼、もうこれだから扱いやすいロリって好きなんだ!)

天使「前にプールで着て行ったのより可愛いヤツトレースしてたんです……み、見せる相手どうせ他にいないし」

天使「良い機会だから美少女の水着姿を崇めた称えときゃいいんですよ、この変態野郎!! わーはっはっはぁ!!」

男「ネット通販の履歴に残ってたもんな、それ」

天使「は、はっはっは……あうー……///」

男「天使ちゃん、PC教えるまでしつこいぐらいまたプールに遊び行きたいって言ってたな。それが俺の都合やら怠けにいつも振り回されっぱなしで」

男「本当はいつか外で自由に遊ばせてやりたいとは考えてたんだ。悪いね、自分優先で」

天使「男くん自身がやりたい事ほったらかしてまで自分に構う義理ないのはわかってます! 自分も本気で遊ばせろって言ってるわけでもないんですっ! 気遣いフヨー!」

天使「ただ……ちょっとぐらいは自分にも構って欲しいかなーって……」

男(逆上せたのではない。しかし、鼻血が吹きでそうになる)

天使「あ゛っ、変な意味で解釈してやがりませんか!? 違うっ、そういうんじゃねーです!」

男「うんうん。俺が相手しないと誰からも見向きされない、その孤独が退屈で、嫌いで、だからって事だろ?」

天使「そ、そうですよ。男くんは自分の暇潰しの玩具なのです!」

男(互いが互いを利用する合理的とも非合理的とも言い難い謎の関係、なんていうのは大昔の話である)

天使「玩具なんですから! ……たぶん ///」

男(全裸では規制がうんぬんと天使ちゃんの苦肉の言い訳から、俺も水着を履く羽目になったわけだが)

天使「な、なにジロジロ見てやがるんですか! この格好は安くねぇーですよ!?///」

男「水着なら問題ないんでしょうが」

男「それに俺に見られたくてわざわざ着替えたんじゃないのか。なのに見るなってのは意味不明としか、もう」

天使「やらしい目付きで体見られて気分良くなるのは露出狂とその気のある変態だけなんですよ、クソ変態!!」

男(いつの日か変態がゲシュタルト崩壊起こしてしまうのではなかろうか)

男「……しかし、いざ天使ちゃんの髪解いてみるとかなり印象変わるよな。ちょっぴり色っぺぇ感じが」

天使「ぎゃあああああぁぁぁ幼女に欲情する変態だぁーーー!!!」

男「そうだっ、浴場だけに!! ……お前は黙って頭ゴシゴシ洗われてろ。面白いの見せてやるから」

天使「ちょっと、人の髪で勝手に遊ぶんじゃ――――おろ?」

男「じゃーん! どうよ、ソフトクリーム! へへっ、昔は妹と風呂でこんな事して遊んでたっけなぁー」

天使「あの頃の綺麗な男くんはどこに」   男「帰らない旅に出たよ」

天使「自分だけ変にされるのも癪ですねぇ……なら、このドブ野郎の頭はこうして、こうです!」

男「これは?」

天使「うんこ」   男「バカじゃねーの?」

天使「やー、汗も流してさっぱりさっぱり! ……やれやれ、これで満足したか?」

男「やれやれ付けとけば物真似になると思われちゃキャラの見直しが必要だな」

男「次は風呂桶へ静かにドボン。前に教えたばっかりだろ? シャワーだけじゃ味気ないからな」

天使「そうやって一緒に入ろうとして、自分の体好き放題弄るつもりなんでしょう!?」

男(どうして、どうしてそこまで汚されてしまったのか……嘆かわしきかな)

男「数分前までの和みあるやり取りから先を考えてみろ! ほのぼのあったかな癒されイベントだコレは、汚染者めが!」

天使「オマエモナー。ぷぷぷっ、一々カッコつけた言い回し張り切って空回りしてる鬱陶しい香具師ですね藁藁藁」

男(ひょっとして俺のPCだけ時間が10年ほど遅れていたのだろうか)

男「お湯に入れよ、天使ちゃん。肩まで浸かって語ろうぜ……久しぶりにマジになっちゃったよ、俺」

天使「低能チンパンジー風情が自分と対話を求めるとは甚だしい。よろしい! 男くんにはネットで取り込んだ[自主規制]を二時間は説き、[自主規制]を勉強してもらいましょうか!」

男「何だって? 全ッ然聞こえねぇ」

天使「早急に男くんは男の娘くんに乗り換えて[ワッショイ]してみては? それが真のハッピーになるかもです!」

男「にわか知識が出しゃばるから……いいか、“男の娘”というジャンルはお前の想像するアレとはまた違う」

男「“男の娘”は、“男の娘”であって! 腐った掛け算の要素は最初から欠けている! そう、言わば男どもの願望から生み出されし[♂]の生えた美少女だ」

天使「[♂]の生えた美少女……ですか!?」

男(違う、そうじゃない。俺は天使ちゃんとのお風呂イベントにこんな邪なモノは望んじゃ)

天使「この変態ホモスケベ」  男「待て、話の軌道がおかしいな!」

天使「はぁ、男くん。自分は電脳世界から、人間の愛、というヤツをようやく知れたのかもしれません……全てはウィキペディアと親切な先人たちが伝えてくれました」

天使「いるもんですね、人が到達しえない領域へ踏み込もうとするイカロスもどきが。アレらはきっとインターネッツの齎したパンドラの箱です、またはエデンの果実」

男「腐れ堕天使が!!」

男(頼むから、後生だ。変な知識持ってソレに振り回されないでくれ、天使ちゃん。綺麗なロリ天使に戻ってくれたまえ)

天使「でも……実際、本当の意味での好きは不明です。自分が求めてるものとは何か違ったというか」

男「ほう?」

天使「調べてもしらべても、とりあえずこれ書いとけばいいだろって感じの説明しかないんですよ? 実際人間たちもよく理解してないんじゃないですかねぇ」

男(なるほど、熱心に調べるあまりアレな領域まで辿り着いてしまってたわけか。まだ、取り戻せる)

男「天使ちゃん。ネットの情報を鵜呑みにするのはよろしくないな、やっぱり真実は自分の目で確かめないと」

天使「できればそうしたいですよ! だけど、自分には何もかもチンプンカンプンで」

天使「い、一体この胸の中のもにゃぐにゃどーんっぎゅぎゅ~って何なんでしょうか! 変な気分ですっ」

男「それはどういう時に一番もにゃぐにゃするんだろうな?」

天使「えっと……ないしょ」

天使「はぁー、コイツくらげみたいで可愛いですねぇ」

男「チビっ子は風呂を嫌がるからガーゼ一枚持ってくと楽しめるという母さんの言葉は正しかったのか」

天使「ぷかぷか……」

男「ここで突然水鉄砲を浴びせるのが、父さんからの教え!!」ピュー

天使「ぎゃー!? な、なな、何ですか今のお湯ぴゅーって飛ばすのは!」

男「えっ、低能チンパンジー以上の天使さまがこの程度技術をご存じない!? ええっ!?」

天使「し、知ってるに決まってるでしょう!? ちょっと恍けてみただけですし!」

男「ですよね! あー、驚いた。こんな事も分からないで人間の上に立ったつもりだなんて情けなさ過ぎて笑えないわ」

天使「ええぇ……」

男「じゃあこのお湯にでっかい渦作る方法も天使ちゃんご存じなんだろうなー、ねぇ?」

天使「あっ、それはわかりますよ!! この栓を引っこ抜けばあっという間に~!!」

男「根本的な部分で間違ってるんじゃないかね?」

男「よーし、邪魔しないで黙って見とけよ、トーシロ。こうやって、手の平で大きくお湯を扇ぐと……ほら、渦!」

天使「……フッ」

男(良い歳こいて何こんなのでハシャいじゃってんの? みたいに鼻で笑われるのは承知。まだ序の口よ。ついに数年かけて開発した奥義を披露する時が来るとは)

男「……次は巨大な渦を作ってみようか。さっきと同じ様にして小さな渦を一つ作る」

天使「いやいや、全然期待してねーですから張り切んなくてけっこ――」

男「この渦を水中から素早く扇ぐッ!! 指は隙間なくしっかり閉じ、渦に合わせて親の敵のように扇ぐッ!!」

天使「!!?」

男「絶対に水面を波立たせるじゃねーぞ!! 乱流ができて渦がダメになっちまうんだよ!!」

天使「お、お風呂にどでかい渦が……なんぞ、なんぞ……」

天使「男くんのその無駄な迫力はなんなんぞっ!?」

男「無駄か……無駄だから良いんじゃないか。自分の楽しめる事には全力を賭けるのが人間の性だろ?」

男「あ、ちなみにさっきのは丁度親指の先の上に渦が来るようにして扇ぐのが重要でな。天使ちゃんもレッツトライ」

男(それからは自分が知っている限り入浴中の有意義かつ無駄な楽しみ方を天使ちゃんへ伝授する流れへ。先ほど煽られた記憶は吹っ飛んでしまう単細胞っぷりにアホかわいさを見出す)

天使「あの、どーして男くんはこんなに色々暇潰しに詳しいんですか?」

男「愚問だな。俺を誰と思ってやがる、青春を本物の退屈に支配された自由人だぞ。時間の忘れ方の一つや二つ知らずにプロを語れるかって」

天使「プロと自負する辺りがらしいというか、ふざけたクズ野郎ですね」

天使「とにかく、暇潰しに関しては何でも知ってる暇潰し博士なんですね。男くんは!」

男「何でもじゃないよ。ウィキペディアに載ってることだけ」

天使「だから風呂上りにはフルーツ牛乳でしょうが!」

男「場所を考えろって言うのはお前には酷な話か。もうすぐ二人が帰ってくるからさっさと体拭いて出るぞ」

男「なぁ、悪くなかったろ? 俺に負けてみるのも」

天使「そんな下り遡ってみてもまったく見当たらないんですけれど」

天使「だけどです。やっぱり自分が暇な時は男くん使うのが一番だって思いました、これからも変わりな~く!」

天使「えへへ……」

男「今頃男くんの魅力に気がついたか、ウスノロ。クク、対美少女に関してこの俺に敵う奴なんぞほとんど見つからんだろうよ」

男「いやぁ、ハーレム王は指が渇く暇がないなー!!」

天使「時々無理してアホっぽい三枚目気取ってたりしてねーですか、男くんって」

男「……え? 何だって?」

天使「ぶっちゃけソレ照れ隠しなんですよね?」

男「……おい、やめろよそういうの。マジで」

天使「おやおやぁ~、男くん顔赤くなってる~! 照れちゃってますねぇ、キモーい!」

男「はぁ!? 湯上りすぐはいつもこうなるんですけど! フツーなんですけどっ!」

天使(……ず~っとコイツと一緒にいられたら暇に困ることなんてないんでしょう。ねっ、最低のクソ野郎♪)               おしまい

こんな形で出すつもりじゃなかったんだけど、これで短編終了
本編は暇見つけながらいつものスローペースで書いていく

>>86
行事ネタは一回手出すと止まらなくなっちゃうのよね、ごめん

男(最近でも、残っている分だけでも記憶を辿れ。俺の脳容量は、スペックは伊達じゃ)

男(呆れた。伊達じゃなければこうも自分の記憶力に絶望せずに済んだものを)

後輩「窮屈なぐらいが丁度良いですね、やっぱり」

男「何だって?」

後輩「聞こえませんでした? 私一人で屋上にいても持て余すんです」

男「まぁ、キャッチボール余裕にやれるぐらいには広いからな。とりあえず俺があと何人いればいいと思う?」

後輩「時間をね、持て余すんです」

男(哀れかな。不真面目に真面目で返されると馬鹿馬鹿しさが倍増)

後輩「先輩はどうして自分がこの場所を求めてたか覚えてます?」

男「それは……それはだな……お、お前がいたから。待っててくれるから (ざわつく)」

男「落ち着いて話ができる最高のスポットだ。他にないだろ? (芯の底からざわついて、止まらないのであった)」

後輩「他に知りませんもんね。だから気に入ってるし、別を探すつもりにもなれないというか」

男(俺たちの出会いってどんなものだったろうか。二人が屋上を舞台にイベントを重ねていたからこそ、いつもの、となる)

男(ならば原因、引き金があったのは間違いない。後輩がいたからこそ俺は屋上へ度々足を運んでいたのだろう? 成り行きは、偶然訪れた際に彼女と知り合った、とか)

後輩「私も先輩が遊びにきてくれるから飽きずに待っていられたんです」

男(美少女よ、ああ美少女よ、嬉しい事を言ってくれるではないか。忠犬のように健気な志、これを愛と呼ばずして)

男「……俺のこと好きなのかな?」

男(返事の代わりに惚れぼれしそうな美少女スマイルが浮かべられた。意味深そうに)

後輩「[ピーーー]、[ピーーーーーーーーー]」

男「へ? よく聞こえなかったんだけど今」

後輩「そう、良かった。聞こえてたらとっても恥ずかしかったので。ごめんなさい、我慢できなくてつい声に」

後輩「……すごいなぁ、体感よりずっと進んでたかも」

男(俺の腕時計へ目を落とし穏やかで落ち着きのある声色で呟いて見せる後輩。クール、ミステリアス、彼女が纏う空気はどこかフワフワとしていた)

男「俺も我慢ならない一言がある。お前、こんなに掴みどころない雰囲気してたっけか」

後輩「ん? ふふっ、全然知らない子みたいに感じますか? 先輩の手が届きそうにないみたいな」

男(かなり的を射ている。俺の中にある後輩と目の前の彼女はまるで当て嵌まらないような、遠のいた気がするというか)

後輩「ハッキリ言ってみてくれても平気ですよ。先輩、ところで私たち」

後輩「いつも二人でどんな話してましたっけ?」

男(悪戯で小悪魔チック、その上物寂しげな、差し出されたテンコ盛りに困惑した。どうした、と)

男「……今日は、猫の話したい気分だな。ウチでマミタスってバカ猫飼ってるんだ。またそいつが――」

男(一方的で一方通行なままに空虚な話に後輩は相槌を打ってくれる)

男(とにかく言葉を連ねていなければ、間が持たない。俺の口が止まったらこのイベントはフェードアウトして、無かった事になる、そんな不安に駆られていたのだ)

【おそらくは分岐点に立たせられているのだろう。完全に後輩との記憶を諦めて本当の本当に先生ルートへか、否か】

【分かり易さを追求すればコレ…… ニア『しゃべる』 or 『だまる』。いつもならココに『ごまかす』や『らっきーすけべ』があるのかもしれん】

【弾も時間もけして無限ではないのだ、無策ならば敗北必至は免れないだろう。ならば、そのピンチは神視点プレイヤーによって救われなければな】

男(何かしなければ、きっと後輩との距離が今日よりも開く。俺の日常から後輩がいなくなってしまう気がする)

男(それじゃあ困る。おまけに後味が悪い。この美少女は、というか美少女たち誰一人も不必要な者などいないのだ)

男(【理由は?】 何故だと? 決まっているだろう。この俺には果たさなければならん大いなる野望が――――!)

【『しゃべる』コマンドが『スペシャルトーク』に変化した瞬間なのであった】

後輩「ふぅ。時間も丁度良いですし、そろそろ帰りましょうか?」

男「いいや、待たれよ…… (立ち上がろうとした後輩の腕を掴んで言ってみれば、小首を傾げて再びぺたんと座る)」

後輩「もう、先輩ってばそんなにお喋り好きでしたっけ?」

男「欠伸一つしないでくだらない話に付き合ってくれる奴が好きなんだよ、俺は」

男「例えるならお前はたくあんだな、後輩。ご飯が進むわ進むわで……不満そうだな、シャキシャキたくあん後輩?」

後輩「は?」

男「クククッ、いま煽られて怒ったな? ムッとして睨んじゃったりしちゃったりしてー」

後輩「で、私を怒らせて得る物がありましたか? ご飯」

男「意趣返しにしても嫌味たっぷりだな、お前!!」

男「なぁ、後輩は恋愛事にも無関心で興味もなかったって。覚えてる?」

後輩「覚えてますよ?」

男「だから恋人の俺が他の女の子と何をしていようが腹も立たないし、何も感じない」

男「そんなお前が一度だけ俺の前で恋愛事絡みで怒ったことがあったんだよな。それも覚えてる?」

後輩「覚えてますよ」

男「へへ、俺にとっても後輩にとってもあの一件、というより後の一件はこれまでになくインパクトあったもんな。なし崩しにじゃなく、一足飛びで」

男「初めて恋人っぽいことがやれた……ところで俺たちって付き合ってるよな。覚えてるか?」

後輩「……覚えてます」

男「じゃあずーっと自分を放置した上、他所で担任の先生と男女の仲作って乳繰り合ってた目の前の畜生に言うことがあるんじゃないか?」

男「完璧に先生に気を惹かれて虜になってたんだぞ。目的も、大事な何もかも頭から全部抜けてて、夢中で楽しんでたわけだ。もう自分でもよく分からないぐらいに!」

後輩「でも……ふふっ、先輩は私との思い出も覚えてくれていたし、また私に会いに来てくれましたよ?」

後輩「たまに、あなたの気が向いた時で十分ですから次も遊びに来てください。私は変わらずここにいますから。ねっ、せーんぱい」

短くて申し訳ないけれど明日へ続く

【少なくとも俺は彼女の、天使たちの裏事情を知っている。この男は脆弱でチョロいし、弱味がある】

【二週目へ導くための揺さぶりとしては十二分である。同情を誘い、罪悪感を増幅させ、破滅へ落とさせるための】

『私、やっぱりあなたのことが好きだったみたいです!』

【擦れた自分へ証明しよう。彼女は本気で俺というブサメンを気に入ってくれた、他でもないこの一周目の俺という積み重ねによって】

【奇跡が味方したのだろう。この男あってこその三週目俺であり、物語なのである】

【男という人間が美少女が猛烈大歓迎してくれるパラレルワールドに招かれて、監視役に天使ちゃんが召喚され、そのお目付け役に後輩が付いて、委員長というイレギュラーが発生して】

【難聴鈍感スキルが霞むわ。全てのピースは揃ったかもしれないが、それでも全貌は見えないのが人の限界だろうか】

【神と直接対話しなければ、何も掴めない。結局ゲームマスターは神なのだから。そして実況を疎かにしたら俺の立場がない】

男(どうしてこうなったのか?)

男(自問自答の末に叩き出した答えは、お前が悪い、で一先ず落ち着いた。何が美少女ハーレムだというのだ)

男(ゴミ屑を貫き通せない屑は何ら価値のない抜け落ちた陰毛同等。今日から自分で自分を床の上の陰毛と罵りたい)

男(美少女後輩にあれほど寂しい笑顔をさせた罪は償ってもし切れない。ハーレムの夢も、幸せな日常も、気がつけば崩壊していたという失態)

男(欲望の蛇口を全開放した結果、迷いが生じたのやもしれん。迷いはいつだって人を惑わすものだ。そんな言い訳すら、もはや、抜けた陰毛であった)

男(そして渇望してみた。何があってもブレない強い気持ちを持つ 芯のある男になれたらなって、廊下の窓から覗ける夕日をバックに黄昏れてみた)

男「あっ……弁当箱、机の中に入れっぱなしだったな」

【死んだ目をした男が行く。こういう時はお口直しの美少女、という感じでもなさそうな】

【だがしかし、メンタルが地の底まで落ちていようが問答無用で】

不良女「きゃあ!? って何だお前かよ、一々ビビらせてくるなよなぁ」

【邂逅なのである】

男「こっちの台詞だが? どうした不良女。そんな乙女らしい奇声上げて」

不良女「正真正銘乙女だし、奇声じゃねーよアホ!!///」

不良女「ほんっとデリカシー欠けてるっていうか……ん、あたしのこと[ピーーー]として[ピーー]ないのかな」

男「(そういうあなたはデリケートでいらっしゃられやがる) どうしてついでに何で俺のクラスの教室から出てきたんだよ?」

不良女「へ? ああ、今日バイトのシフト入ってなくて暇だったからサ、そっちの友達とダベってた」

男「ふむ……じゃあその手に持ってるお土産は女子会で得た収穫物か何かか」

男「その、俺が置き忘れてた弁当箱が! お前っ、人の机の中漁ってんじゃねーよ!」

不良女「人聞き悪いこと言うなって。あたし別に盗むつもりで持ってきたんじゃないよ?」

男(見れば理解できるとも。ご丁寧なことに、弁当箱へグルグルとプレゼント用らしきリボンが巻かれていたのだから。美少女は常日頃からリボンを持ち歩いているとでも)

不良女「ああコレか? 今日みんなで友達にあげたプレゼントの余り使ったの。可愛いだろ?」

男「リボン巻いとけば空き缶でも可愛くなるのか、お前の中だと」

男(大方、俺の席に座って談笑していたところその忘れ物を見つけたのだろう)

不良女「いやー、でも丁度いいとこであったな。ほんとはあたしが[ピーーーーーー]て、お前って結構[ピーーーーー]、みたいな事言われちゃって[ピーーーー]UPとか期待[ピーーー]っ///」

男(あわよくば自分が届けてやろうとした、に違いない。なんて下心が隠しきれない難聴スキルだ)

男「まぁ、リボンはどうあれ助かった。ありがとうな。……ところで不良女、俺の家の住所知ってるのか?」

不良女「知らないけど? だからこれから幼馴染と一緒帰って、ついでにって考えてたんだよ」

男「お、おぉ、手間かけさるところだったなーっ…… (危なかった。ここで会えなければ、わざわざ出向こうとする不良女を怪しんで幼馴染が進撃を)」

【彼女がまだ幼馴染の好意の行方を察していなかったわけか。妙なところで大胆になられるとヒヤヒヤさせられる】

男「そうなると幼馴染は教室で待ってるのか? たまには俺もお前らと一緒に」

不良女「えっ、フツーにいつも通り部活中だけど」

男「部活!? あいつ部活とか入ってたのか……全然知らなかったぞ」

不良女「へー、意外。転校して来てからすぐに入部してたぜ? なんか前の学校でも同じとこいたっぽいし」

【部活……ああ、確かによく幼馴染がその話をしていた気がしなくもない。部活動に勤しみながら、暇も作らず家事もなんて万能過ぎるだろう。超人レベルだ】

男「裁縫とか料理好きみたいだし、やっぱりその辺りの研究会なんだろうな。ていうか、俺にはそのイメージしかないんだが!」

不良女「何でそこ強気だよっ。暇だし久しぶりに見に行ってみっか、あんたも来るでしょ?」

男(前の学校でも……つまり中学からという可能性も…………思い出した)

男(外部と完全遮断された体育館の中、舞う汗、漂う匂い、熱い。何とも蒸し暑い空間。サウナをイメージすれば良い。そのままである)

不良女「あたしも、最初はマジでやるスポーツって感じとは思わなくってさ。だって大抵公園とかでポンポン打ち合ってるようなもんだろ~?」

男「そう、そうだった、あいつ昔からかなり上手かったんだよな。バドミントン」

不良女「おい、聞いてんのかよ? ていうか、もう少しで練習終わるみたいだから外で待ってようぜ。ここ暑いし」

男(コートを駆け回り、跳ねる幼馴染がいたのである。ミニスカートをひらめかせて、だ)

【健康的な太ももを露出、時々ヘソチラリ。この様なもの、邪な視線を送るなと言う方が無理ではないか】

【うーむ、やはりスポーツはやるより見るに限るぞ】

不良女「……やらしー目であの子追ってたりしてないよな」

男「っ~~~……バカ言うな、俺は幼馴染に感心してただけで」

不良女「ほんとかよ。 エロい格好してるなぁ、パンツ見えそうだなぁ、とかアホなこと考えてんじゃないの?」

不良女「はぁ……言っとくけどあれ見せパンだから。競技用で、いつも履いてるのとは別なわけで」

男「結局は同じパンツなんだからそういう問題じゃないんじゃないか?」

不良女「じゃあ冷静にエロい顔して覗こうとすんじゃねーよ、バカ! [ピッ]、[ピーーーーーー]……///」

男「はぁ!? 覗くとかエロいとか真面目に練習してるここの人らに失礼だろうが!!」

幼馴染「どっちもばかだよっ! もぉー! ……[ピーーーー]///」

ここまで。次回はおそらく今週金曜

【騒がしいという真っ当な理由から体育館の外へ追い出されるのも無理はない。二人は玄関口の脇に腰掛け、不良女は棒付きアメをしゃぶり】

不良女「あん? 何だよ、これ一本しかないんだからやらねーよ」

男「一本有れば十分足りるじゃないか (この後の行動を当てよう。動揺恥じらいから、ちょっと舐めるか? と言う。が、それは難聴スキルによって妨害されるのだ)」

不良女「ばっ!? た、足りるわけないだろ! あたし咥えてるの寄越せって意味でしょ、それ!」

男(容姿は派手で性格は男勝り。その正体は好意がある誰かの前ではやはり美少女であり、後手に回りたがるシャイな小娘)

男(大雑把な設定は把握したつもりだ。リボンの件からして案外可愛いもの好きな場合も予測できる。食い気味、押しに弱いという事も)

男「実は今日の昼全部食べてなくてな、その時は腹一杯だったんだが中途半端に腹減ってきちまって」

不良女「だったら残した分食べろよ!?」

男「頼むっ、無性にアメが舐めたくなる時ってあるだろ!」

不良女「嫌だったら嫌だ!! だ、だってそんな事したらあたしとあんたとで[ピーーー]スになるし、そんなの///」

男「え? すまん、タイミング悪くチャイムが鳴ってよく聞いてなかったんだが何て」

不良女「は、腹減ってるなら幼馴染揃ってからみんなで帰り何か食べ行こーぜ!?」

男「悪くない提案じゃないか、乗ろう。でもアメは」

不良女「自分で買って適当に欲満たしてろ!っとにかくコレは絶対無理! ……べ、別にちょっとぐらい[ピーーー]せても[ピーーー]かな」

男(もう一声があれば押し切れる確信を持てた。まったく、見た目に反して中々ガードが堅くて繊細な美少女。下手をすれば誰よりもという事も)

不良女「つ、つーかあの子遅くないか!?」

男(この転調っぷりは誰であろうとこの空気を掻き消そうとしていると疑う。挙動からしてもう余地すら無いぞ)

男(それにしても、幼馴染と不良女の仲が気になる。笑顔でキャッキャしつつ、裏では壮絶な腹の探り合いをするいともおぞましい関係だった、なんていうのは勘弁被りたい)

不良女「あんたってさ、あの子とは昔からの仲なんだろ? で、どうなのよ」

男「(憎たらしい顔をした不良女がワザとらしく周りを見回し、そう耳打ちをしてくる。けん制か? ある意味でけん制なのか?) どうって、何がだよ」

不良女「これだから鈍い奴は~! 決まってんだろ、幼馴染のこと[ピーー]しちゃってるのかって意味!」

男「それじゃあ全然意味わかんねーんだよ、こっちは!!」

不良女「ひっ、キレるとこじゃないだろ!? 何マジになってんだよ!?」

男「いや、気にしないでくれ……こっちの話だからなっ……! (言葉って大事、切に思う)」

男(しかし自分以外の事となると攻めて来るな、こいつも。どうやり過ごそうか。有耶無耶にしてしまうのがベスト)

男「お前まさか俺がアイツのこと意識してるのか訊いてるのか? なら返事はノーだぞ」

不良女「うっそ! マジかよ、あれだけ女の子女の子してる子も最近じゃ見ないだろ! 絶滅危惧種だぞ、アレ!」

男「まぁ、レア度で言えば世界で一枚のカードに匹敵するかもしれん……」

不良女「うわ! 物扱いかよっ、酷いなお前」  

男「おい、イリオモテヤマネコ扱いした奴が先にいたぞ」

男「大体、昔からの知り合いをお前が思ってるような対象として見れるかよ。家族みたいなもんなんだぞ?」

不良女「親公認ってこと……?」

男「個人の認識に決まってるだろ、アホ!! 何がなんでも幼馴染とくっ付けさせたいのかこの世界……っ」

不良女「ふーん、じゃあお姉ちゃんとか妹みたいな感じなんだな。でも引っ越してまた戻ってきた時は運命感じたりしたんじゃね~の?」

男「残念ながら運命感じさせるほど劇的な再会じゃなかったらしい (以前の説明通り、この俺には部屋の戸を文字通り力で破壊した彼女との出会いは記憶にない。いつの間にか存在していて、何故か対応できていて、だ)」

男(不可思議ではあるがギャルゲーのような世界だ、ヒロインたちとの出会いをカットして、俺をこの非日常に招き入れたと思えば少しは納得がいく。難聴鈍感になってモテる、がモットーなのだから)

不良女「ま、何にしたってあたしがあんたなら勿体ないとか思うけどなぁー……あたしもあの子の[ピーー]だったら」

男(五分経過、部活帰りのモブたちの姿が目立ってきた、体育館で見た彼女らも。不良女には俺しか視界に映っていないのか。ならば、すかさず)

男「(最後の一撃を) もし不良女が幼馴染だったとしたら、それはそれで毎日楽しそうかもしれないな」

不良女「っー!! あの……そ、それって[ピーーー]のこと[ピーーーーー]?///」

幼馴染「二人ともおまたせ~!」

不良女「うぐっ!?」ビクンッ

男「ああ、待ちくたびれてた。お前さえ良ければこれからどこかで小腹満たしてこうって話してたんだ。なぁ、不良女」

不良女「へ、そ、そうだったな!? う、うん! たぶんっ!///」

男(良い白昼夢は見られたか?)

幼馴染「ほんとに男くんと不良女ちゃんが騒いでた時恥ずかしかったんだよ? 見るのは構わないけど邪魔だけは」

不良女「分かってるわかってるって! あたしらちゃんと反省してるからさ……へへっ、そうだ。この後コイツが幼馴染の分奢ってくれるから機嫌治せって! な?」

男「俺が懐狭い人間なのを知ってのフリか、それは」

不良女「ほー……この子の見せパン必死なって覗こうとしてたのバラしちゃおっかなー」

男「そんな事に頑張って体力使うわけねーだろ」

幼馴染「えっ、男くんがあたしのパンツ必死で覗こうとしてたの!?」

男(口止め料の意味がなくなった代わりに大切なプライドがズタズタに裂かれたのである)

幼馴染「あれは別に見せるためにとかじゃなくって! そもそも競技の為に仕方ないのっ……[ピーー]///」

男(ここで嬉しがりでもすれば間違いなく本物であったが、叶う事なくむっと紅い頬を膨らせてスカートを抑える幼馴染なのであった。そしてジャージで練習をさせないコーチに感謝)

不良女「コイツさ、あの後幼馴染のカッコ似合ってたなー、可愛かったなーってずっとしつこかったんだから!」

幼馴染「[ピッ]、[ピーーーーーガーーーー]……///」カァー

男「(お節介でお膳立てがお好きなようで。つまり不良女は損するタイプか) どうでもいいけど、この辺りで店決めなくていいのか」

不良女「もう駅前に着いてたんだ? おし、どーせあんたたちに訊いたってどこでも良いで済まされそうだし、ここはあたしに任せとけっ」

男「牛丼屋か?」  幼馴染「ラーメン?」

不良女「あんたら二人がイメージしてるあたしがよぉ~くわかったよっ……!」

不良女「あたしはなめらか生クリームの抹茶しらたまあずきでぇ~……ほら、早く決めちゃいなよ~」

幼馴染「えぇ? うーん、迷っちゃうなぁ~。ねぇねぇ、男くん! 男くんは何選ぶ~!?」

男(初クレープ屋が美少女二人同伴とは贅沢極まりないぞ、俺よ。だが、感動に浸る哀れな男を置いて甘々スイーツと戯れたがるのは虚しさを抱えてしまうではないか)

男「なぁ、俺以外の男ってみんな女連れというかカップルしか見当たらないんだが……」

不良女「そりゃカップルに人気のお店だし当然だろ? あんたも早く選ばないと後ろ混んじゃうぞ」

幼馴染「あたしは決まったよ。この季節限定春のクリームチーズストロベリー♪」

男「じゃあ……俺もその春の何とかデストロイヤーでいいわ」

幼馴染「えへへ、男くんお揃いになっちゃったね。不良女ちゃん?」

不良女「さ、さっきの取り消しであたしも二人と同じので!! ……何だよっ」

男「お前こそいきなりムキになって噛みついて来てどうした? (微笑ましさに笑いが込み上げてくる。いやはや、鈍感装いも便利なものだ)」

不良女「別に! どうもしねーよ! [ピーーーーーーー]っ」

男(敵に塩を送ってみたり、牙を剥いてみたりと忙しない性格している。変なところで不器用な美少女、これが不良女)

幼馴染「練習のあとだけど食べたらまた[ピーー]増えちゃうかも……ううんっ、でも!」

男「まだまだ全然許容範囲内だけどな」

幼馴染「そう!? …………えっ///」

日曜日に続く

幼馴染「ふふっ、クレープなんて食べたの久しぶりかも。……思い出した、男くんって甘い物苦手じゃなかったっけ?」

男(今更だがリアルでのメモリーもしっかり反映されていて完成度も凄まじいな、ここは。幼馴染と過ごしたあの日々は美少女幼馴染にしっかり引き継がれていたのだ)

不良女「おぉーい、苦手なら初めからそうだって言えよお前っ。無理して付き合ってたとかムカつくからな!」

男「無理かどうかは一目瞭然だと思わないか? 俺は快楽主義を尊重した人生を送ってるつもりだ」

幼馴染「そしてそして、男くんの場合は自分本位で我が道を往くみたいな?」

男「そう、俺様は例えかわいい妹が強請れども、俺様の指示しか受け付けないのだとも」

不良女「ようは、空気読めない王様気取りのジコチューか!」

男(否、気取りどころか真の王様である。密かに我がハーレムキングダムを作り上げようとだな)

不良女「む~……あー、やっぱり抹茶にしときゃ良かったかなぁ!? 三人で同じヤツだと何か味気なくなっちまうっていうか」

幼馴染「あははは、どうせなら色んな味試したみたいって贅沢も出ちゃうよねぇ……これも美味しいんだけど」

男「食い物一つに一々面倒くさいこと考えやがる、とか愚痴るのは女の敵か」

不良女「だって! 考えてもみろよ、あたしら全員が別々のクレープ頼めば分けて三種類も味楽しめたぜー!?」

男(そう熱弁を振るわれている隣でうんうんと力強く何度も頷く幼馴染助手。ようするに、クレープを美少女と置き換えれば良い。ああ、同感だ)

男「人間の意地汚さが表れるな、こういうのは……」

幼馴染「……その遠い目は何?」

男「後悔するぐらいなら初めから不良女だけでも違うのを注文したら良かっただろ?」

不良女「うぐっ! そ、それは、そうなんだけど……[ピーーーー]ていうか」

男(狙ったかのように撃ち込まれた幼馴染の、お揃い、が効いたのだろう。疎外よりも劣勢を感じた故の立ち回りだと見た)

幼馴染「あえて[ピーーーーーー]にしてたら男くんに[ピーー]とかして貰えたかな……///」

男「なぁ、お前ら話するんだったら当人に聞こえるよう大きな声で喋ってくれ!!」

不良女・幼馴染「な、何でもない!!///」

男(わけねーだろうが、と暴れてやりたい衝動を抑えるべし。幼馴染の後悔の正体は、どう考えても俺絡みだろう)

男(別の味を選んでいれば「こっちのも食べてみる? はい、あーん」とかも容易で、と。その企みからしてあざとさ限界突破である)

『せーんぱいっ。私のも試しに少し食べてみません? 私は先輩のをちょっぴり貰いたいなって。だめ、ですか?』

『ねぇ、口開けて。……うふふ、美味しいでしょ? 二人で食べると二度美味しく感じられる。これが一石二鳥、ってね♪』

不良女「――――い、お~い! 聞こえてんのか、お前。き・こ・え・て・ん・の・か!!」

男「何だって!? ……げぇ、クリームべったりズボンに」

幼馴染「もう、ほらハンカチで拭き取ってあげるから動かないで。男くん疲れてるの?」

男「あ、ああ、そんな事は…… (何だ今のフラッシュバックの様な不意に映った光景は。あれは、今一番俺が近づいてしまった、二人では)」

男(アレはデート風景の一つか? まだ一度たりとも彼女たちとそれらしい事はした覚えもないというに。願望が妄想に変わって暴走してしまったみたいである)

【俺にも、しっかりくっきりとその妄想が脳内をハックしてきた。ほとんど現実で、実際に起きたような、体験していたような】

【この男の中へ住み着いてからアレは今回が初めてだったと思う。記憶の共有……ただし彼同様に覚えがない体験の記憶。本当だろうか?】

【俺は、自分自身に何か騙されちゃいないか。目に視えるものだけを信じて、それが絶対だと思っていた】

【……以前にもこのクレープをこの場所で食べていたのでは? 幼馴染と不良女とではない、あの二人と、別々のタイミングで】

【お馴染みとなった予想外を想定して推測するならば、鍵となるのは時間、過去。覚えのない過去。パラレルワールド】

【真に後輩ルートへ進んだ自分、あるいは真に先生ルートへ進んだ自分がいたとしよう。それらを観測できなくとも、僅かに共通感覚としてフラッシュバックを通して伝えられる力が俺には備わ】

【る意味がわからない。……ならば最もらしいエピソードと合わせて推測し直そう。時折、俺の頭の中で騒いだ声である。その正体はおそらく、また別の俺、という可能性】

【『男』という人間の体の中には別の俺の人格が住み着いていて、現在の俺と同じ目的を持ち、思考や行動の妨害、または促進を促していた。矛盾だろう?】

【だから常識を捨てて考察する。俺は、俺たちは、『^^』していた。『^^』をぐるぐると『^^』となく『^^』のである】

【…………?】

幼馴染「今度みんなで来たときは同じ失敗しないよう気をつけなくっちゃね。不良女ちゃん、遅くなったけど平気?」

不良女「ん、全然大丈夫だから。あたしの心配より自分の心配した方がいいと思うぜ? 帰りに変な奴にヘンナコトされないようにとかさ!」

男「指まで差してご忠告とは親切な上に失礼だな、お前っ……!」

不良女「へへっ♪ まぁ、今日は楽しかったよ。そのうちまた遊んで帰ろーな。……できれば、[ピーー]と[ピーーーーー]とか、で///」

男(流石にじれったい)

最近短すぎて申し訳ない!!が明後日に続く・・・

幼馴染「行きはいつも一緒だけど、帰りも男くんがいてくれるって久しぶりだよねぇ」

男(小学生の頃以来だと続け、幼馴染は楽しそうに隣り合うのだ。あの頃とは一部、いや、二部も三部も、反転しまくりんぐだろう)

幼馴染「ほんとはあたしといるの嫌だったでしょ。女の子なんかと仲良くしてとかでバカにされたりしなかった?」

男(悪いが、数少ない同情なら掛けられた覚えならある)

男「それが今じゃ誰もが羨む天下へと。やれやれ、人生どう転ぶか先が読めないもんだな、幼馴染」

幼馴染「ん? ……もし男くんのこと悪く言う子たちがいたなら、内緒にしてないで教えてね」

幼馴染「[ピーーーーーーーーーーー]」

男(笑顔の美少女の目からハイライトの灯が消える。とてもとても虚ろで、絶望を漂わせた)

幼馴染「あたしが[ピーーーーーーー]するから」

男(魔人がそこに降臨したと空目したのである。この美少女、普通じゃない……病み属性持ちか)

男「嫌だったわけないだろ? 幼馴染がいなくなってからは、俺はいつも孤独の帰宅部員だったんだぜ」

男「だから、突然で驚きはしたが、お前が帰って来てくれて……おーい、幼馴染?」

幼馴染「[ピーーーーーーー]……[ピーーーー]、[ピーーーー]っ……///」

男「何顔赤くしてるんだよ、風邪でも引いたのか? (この豹変っぷりに笑うべきか、畏怖すべきか)」

【天使と悪魔が偶然同居してるんだよ、刺激的じゃない?】

男(主人公の幼馴染ポジションを獲得しており、その上文武両道。お淑やかで優しくて、理想の女の子、ただし俺限定)

男(早い段階で気づくべきだった。ヤンデレの適正としては十分すぎるではないか。ひとたび自身と俺との愛へ障害が発生すれば)

男(躊躇なくこいつはヤる……スゴ味がある)

幼馴染「あのね、部活のこと秘密にしてたわけじゃないの。言い出すタイミングが見つからなかったというか」

男「気にすることない。細かい設定まで指摘するつもりなんてないからな、俺は」

幼馴染「せ、設定? バドはね、中学から始めたんだけどまだ全然良い結果残せてなくって」

男(まさか俺が特訓に付き合う羽目になり、大会で優勝させるなんてシナリオなのか。幼馴染ルートは)

幼馴染「昔はよく妹ちゃんと三人でバドミントンしてたよね。ほら、そこの空き地で……あっ」

男「知らなかったのか? つい最近ここにマンションが建ったんだよ。もしかして帰りはこっちの道通らないのか?」

幼馴染「うん……なんか少し寂しいな……男くんとの[ピーーーーーー]のに」

男「は? 何だ……ああっ」

【代わって回想シーンを俺が説明しよう。幼い時の話である、男少年はかつての幼馴染から「大人になったらケッコンしよ!」とか言われ】

【「うん!!」と、力強く答えてやったのだ。現在でもまだ濃く染み付いたこの思い出は、けして良き日のエピソードとして刻まれていたからではない】

幼馴染「あたしね、まだ[ピーーーーー]んだよ。男くんがあの時[ピーーーー]ってくれて[ピーーーーーーーーーーーーーー]んだ……///」

男「おええぇぇ~……おええぇぇ~……っっっ!!」

幼馴染「男くん、男くん!! 蹲ってどうしたの!?」

男(落ち着け……あの日の幼馴染は死んで、もういない。ほらご覧、目の前にいるのは)

幼馴染「汗凄いよ? 拭いてあげるからジッとしててね」

男(なんと、ギリギリまで屈んでいるお陰か胸元がチラリだと。女神か、否、素敵で無敵な美少女よ)

男「しんぱい、むよう、です (だが、内なる衝動が、臨界点を)」

幼馴染「大変! さっきより酷くなってるっ、ちょっと熱っぽいし!」

男「近すぎじゃないか!? うわあああっ!!」

幼馴染「きゃ!!」

男(覆い被さる形で幼馴染が上に乗れば、むにゅりと間で潰れる発育十分なブツ。思わず叫んでガッツポーズでも取ってみたくもなるが)

幼馴染「ごめん! バランス崩しちゃって、つい……そ、それから、あの、手」

男「……え、何だって?」

幼馴染「お、男くんの手が[ピーー]掴んでるのっ!!///」

男(前門の胸、後門の尻である。咄嗟に掴んだのがその部位だったとは……まるでラブコメのラッキースケベじゃないか。その様式美を体験している)

男「うおおおぉぉ、悪い!? そんなつもりはなくてだなっ、手が勝手に!」

幼馴染「うぅ~……すけ[ピ]///」

男(何故かすぐに立ち上がろうとしない幼馴染に疑問を抱かずにはいられないが、それはさておきこの感触)

男「バカな、スカートの下に手がいってるのか!!」

幼馴染「ひゃうん!? ちょ、ちょっとそれ以上は[ピーーーーー]///」

【と、その時買い物帰りの主婦たちや子どもたち、モブが辺りへ集結していたという】

「母君アレを!!」  「最近の子は進んでるっていうけど、格が違うのねぇ」

男・幼馴染「ああぁあああああぁぁぁ~~~~~~!!?」

男「行くぞ幼馴染! もっと人が集まる前に早く!」ガシッ

幼馴染「わ、わっ……手[ピーーーーーーー]っ……///」

男(幼馴染の手をしっかり味わいつつも、俺たちはギャラリーから抜け出した。悪くない逃走劇ではないか)

男(振り返って彼女を確認すれば、やや照れ臭そうにしつつも、ほんのり雌の香りを漂わしておる)

男「ぜーぜー、おえっ……こ、ここまで来たらもう安心だろ。幼馴染、平気か?」

幼馴染「う、うん……あたし、すっかり男くんリードされる立場になっちゃったんだ」

幼馴染「小さい時はいつもあたしが男くんの手握って、前を走ってたのに。立場逆転しちゃったね?」

男「やれやれ、お前も昔思い出すのがよっぽど好きみたいだな? 未来に目向けとこうぜ」

幼馴染「[ピー]くんとの[ピーー]……え、えへへ///」

男(コイツは気があるどころの話ではない。ベタ惚れ幼馴染、通称チョロイン)

男(が、あまりの好感度の高さからライバルへのヘイト管理が必要不可欠となろう。その点では要注意美少女の一人か)

幼馴染「男くんっていつもは一人で学校から帰ってるの?」

男「ああ、そうだよ。毎日飽きもせず帰宅タイムの更新を努力してな」

幼馴染「ひ、一人で何と戦ってるんだろうねー……」

男(実際帰りはいつも孤独である。後輩とは屋上で別れ、先生とは大っぴらに外を歩き回る事はしなかったので)

幼馴染「でも、それにしては時々帰りとか遅いよね。妹ちゃん言ってたよ、お兄ちゃんどこでブラブラしてるんだろって」

男「……タイム更新はウソだ。暇持て余してるついでに、それなりに健康気にしてあちこち歩き回ってたんだよ」

幼馴染「…………そうなんだ」

男(おい、何だ今の意味深な間は。一気に空気が重くなり始めたぞ。そしてその感情のない台詞は)

幼馴染「男くんほんとは[ピーーーーー]」

男「なんだっ (悲しきかな、癖だろうか。触れてはならない物に触れてしまったらしい)」

幼馴染「…………」

男「ち、中途半端にクレープ食べてお腹減ったままなんじゃないか? 部活の疲れも残ってるんだろ。そろそろお互い家に」

幼馴染「……うん、そうだね。帰ろっか!」

【この男、自分が心理戦に敗北しているとは思いもしないだろう。相手は日本刀並みに冴えて研ぎ澄まされた鋭さの持ち主だというに】

【俺が観察した上で幼馴染の心情を語るならば、彼女は既に男くんは他の美少女と、どこかで交流しているのは固いと睨んでいた】

【もしかしたら好きな子がいるのでは? 下手すれば先に交際している誰かがいるのでは? 確実とまでいかなくとも、彼女の疑いは増幅したのだろう】

【そして、胸の中の疑いと付き合い続けたままでも良い、ずっと諦めずにいよう……自分で仕立てたストーリーに切なさが乱れ撃ちしそうになった】

男(しかし少ない時間だったとはいえ、幼馴染や不良女たちと接する自分は偽れたままでいられたものだな)

男(鈍感を装う回避も容易にできたし、酷な言い方になるが、キャラクターとして感情的にならず相手にできていたつもりだ)

男(後輩と先生に対してはどうしても、素の俺が出てくるような気がして。まだまだ未熟な証拠だろうか)

男(……ハーレムを選ぶか、一人の美少女か。そろそろ己の欲を戒めよう。修正が必要だ)

男「(いつまでも現れない阿呆を待ってくれていたあの子のために) ……あれ、幼馴染? どこ行った」

【不意に隣の美少女の気配が消えたことを察知し、後ろを振り向けば、とある店の前で茫然と立ち止まる幼馴染の姿が】

男「なぁ、帰るんじゃないのか? ボーッと肉屋なんて覗いちゃって。太るぞ」

幼馴染「っ!! ち、ちがうよ! 全然そこのお店のコロッケ食べたいなぁ~とか思ってたわけじゃなくって!」ブンブン

幼馴染「はっ!?」

男「道草食うのも程々にしといた方がいいんじゃないか、幼馴染さーん? 太るぞ」

幼馴染「っう~……///」

幼馴染「あの、これはお父さんたちにお土産で買ったんだから! おまけの一個は揚げたてだから急いで食べた方がいいよっておばさんが!」

男「我慢に負けて手に入れたコロッケはそんなに美味いか」

幼馴染「おいひぃ! ……んぐっ///」

男(食いしん坊万歳である。凄いな、美少女というだけで欠点すらチャームポイントに取り込んでしまう)

幼馴染「そ、それからね、男くんの分も買っておいたのっ。食べる?」

男「ほぉ、ソレお代わりじゃなかったんだな」

幼馴染「いじわる言わないでよ、もう! 欲しくないなら……な、ないなら[ピーー]が」

幼馴染「わあぁ~んっ、お願い男くん!! あたしを助けると思ってこのコロッケ食べて!!」ぐいっ

男「(なにこの娘かわいい) 苦労するな。お陰でタダ食いだよ、俺」

幼馴染「あ、明日から練習もっと張り切らないと……おいひぃ!」ホクホク

男「にしても、お前ってほんとに美味そうに物食べるよな。お店のおばちゃんご機嫌上々だぞ」

幼馴染「だってこのコロッケほんとに美味しいんだよ? 美味しいでしょ!?」

幼馴染「それに……[ピーー]な人と一緒にだともっと美味しいんだもん……し、しかたないよ///」

男「ん~、何か言ったか? よく聞こえなかったんだが」

幼馴染「う、ううん。何にも言ってない……えへへ」

ここまで。続きは明後日

男(潜在的あざとさ、幼馴染キャラだけが持てる優位性が合わさり最強に見える)

男(故に、昨今では幼馴染系ヒロインは不遇な扱いを受け易いなんて悲劇を背負わされていたり。敗北するから美しい? 一理ある)

男(当たり前王道展開を裏切るための犠牲。そんなもの断じてNOである、幼馴染=敗北フラグなんぞ悪習。だから)

幼馴染「付き合ってくれてありがとね、男くん。とっても楽しかった!」

幼馴染「いーい? 明日は寝坊しないように気をつけることっ……ふふ、じゃあバイバイ」

男(そのための【悪いが】。みんなの幸せ【お邪魔させてくれ】、なのだ)

男「夢のような充実っぷりだな。覚めないままでありたい、この現実逃避だけは」

妹「外で突っ立ったまま一人でブツブツ言ってるヤバい人がいる……」

男「何だと? おいおい、まさかここに俺の友達浮いてるの見えてないのか」

妹「もっとヤバい人だったぁ~!! ……とか言うおふざけはこの辺にしといて、早く行くよ お兄ちゃん?」

男「おい、コレまだおふざけ続行したままだろ!!」

男「はぁ……家にも帰さないでこの多忙な兄をどこに連れて行くつもりだよ? 色々すっ飛ばしてるぜ、お前」

妹「お母さんからおつかい頼まれちゃった。お兄ちゃんは、帰りの荷物持ち! ほら、ごーごー!」

男「そうだな。小学生がこんな時間に出歩くとかダメだな、保護者役は任せろ!」

男(そして腕に可愛い歯形がついた)

【休まる暇なく怒涛のイベントラッシュである。学校では若干避けられ気味なせいか、自宅に戻れば妹イベントが発生し易い】

【しかしまぁ美少女妹、それは癒しであり、どの道心が休まる、筈がなかった。この時こそ彼女最大のアピールタイムなのだから】

男「たぶん、通りがかりの人に少し大きめの小学生って紹介したらかなり信じてもらえると思うぞ」

妹「がー!! まだ言うかこのやろ!! これでも結構気にしてるんだからね、私っ」

男「そこまでか? 可愛いチャームポイントの一つだろ。男子で小さいよか、女子だと可愛さに変えられる」

妹「だからっ、お子様扱いが気に食わないってどうしてわかってくれないかなぁ~……[ピーーー]」

男(極端に子ども扱いを嫌うのはその背丈の低さだけが原因か? おそらく俺からの場合は、周りの美少女と対等に扱ってくれ、という表れではなかろうか)

男(コンプレックスと好意が交わり、素直になれずにいるのだろう。その心境に、俺はキュンキュンときめいてみよう)

男「何だって?」

妹「う~、お兄ちゃんって絶対私のこと舐めてるでしょ! チビとか子どもとか思ってさ」

妹「ちゃんと[ピーー]として見てくれてない……私はもう高校生だもん。同じなんだもん」

男「(想定より重傷だった) よく分からんが、とりあえず俺はお前のことを自慢の可愛い妹だと周りに言ってる」

妹「うわわわっ、そういうのは聞きたくなかった! やめてってば、変なとこで私の名前出すの!」

男「だって本当に可愛い妹なんだから仕方ないだろ。生意気でうるさいって愚痴られるのとどっちがいい?」

妹「[ピッ]、[ピーーー]い……ほうがそりゃ、うれしいけど…………むぅ///」

妹「て、ていうか人のことそんなに[ピーー]、[ピーー]言ってて恥ずかしくないの!?///」

男(かわいい扱いも苦手か。許せ、俺は美少女妹に魅せられた妹教の狂信者である)

【ならば、その調子で全人類に布教しようではないか。世に妹のあらんことを】

妹「なんかお兄ちゃんと喋ってると時々調子狂うよ……どう責任取るのさっ!」

男「帰りの荷物を半分俺が持ってやるって、償いはどうだよ?」

妹「それ! 最初からそのつもりだったんですけどっ。まったく、やれやれだよ。やれやれ」

男「まぁまぁ、寂しく買い物しなくて済んだじゃないか。必要なもの買えたし、遅くならん内に帰るぞー?」

妹「これで今日もマミタスの食卓は守られたわけさ、じゃんじゃんっと。……ん」ス

男「おい、伸ばされたその手の意味を教えてくれ」

妹「荷物半分持つって言ったじゃん。もう一つの袋は、私が持つからちょーだい」

男「密かなポイント稼ぎか?」  妹「純粋な親切だよ、ばーかっ!」

男(そう言うと俺の手から袋をひったくり、よいしょと持って並ぶ。が、意外にもここで彼女は空いた片手をさらに俺へ伸ばした)

妹「……ん!///」ス

男「で……同じ事を何遍言わせる趣味があるんだよ、お前は?」

男(瞬間、強引にこちらの空いた手を掴まれたのである。妹を見れば茹った顔を見せまいと、下を俯いているこのちょいデレ美少女っぷりよ)

妹「も、ももも、文句あるなら[ピーーーーーーー]すればいいじゃん!?」

男「落ち着け、何を言ってるのかさっぱり聴き取れん (正しく事実だ)」

妹「た、たまにはこういうのも? 悪くないんじゃない? ……みたいな///」

男(恥じらいに応じる様に、ぎゅうう、と手を握る力が強まる。このように好意を前面に見せていくのは彼女としては非常に珍しい行動である)

男(先ほどのやり取りが効いたのかもしれん。兄に自分を女子として意識させようとした、が偏見交じりの分析結果だ)

男「(望むところではないか) ん? 変な奴だなー……」

妹「ほら急いで帰らないとお父さんに全部ご飯食べられちゃう! 我が家へ向けてどんどん前進だよ!」

妹「お……お兄ちゃん…………お[ピーーー]ゃん、か。ちぇ」

男(仮にこの姿を他の美少女に目撃されようと、こちらは痛くも痒くもない。兄妹という肩書が味方してくれるのだ)

男(そして、これは彼女にとっては障害でしかないのだろう)

【男の娘ルートも気になるが、同じぐらい妹ルートへ入るとどう展開してしまうのやら。都合良く、実は腹違いの子、なんて奇跡も神は用意しているのか】

【いや、だが待て。基本的に神は近親相姦を……愛さえあれば、関係ないよねっ!! を地で行ったらどうしよう】

【とか要らぬ心配で胸一杯になっている時に限って、だった】

先生「あら? こんばんは、男くん……と、例の妹さん?」

男(手繋ぎが解かれ、俺の後ろに隠れた妹。こんな場所で、この状況での遭遇を予期できるわけがないだろうが)

明日に続く

先生「うふっ、こんな時間に兄妹仲良くデート? というか先生の顔見た事ある?」

妹「……! ……~!」

男(人見知り激し過ぎではという野暮なツッコミは抑え、小さくなって必死に隠れようとする妹を想像して悶絶しかけた)

先生「そっかそっか、やーん! お兄さんの噂通り可愛い妹さんじゃない! ところで、いくら払ったらその子くれる?」

男「残念ながらコイツはプライスレス。自分がさっさと子ども作った方が手っ取り早いんじゃないですか」

先生「セクハラか?」

男「嫌だな、目がマジじゃないですか (これなら後ろの妹に俺たちの関係を悟られる心配は要らないだろう)」

妹「こ、この人がお兄ちゃんのクラス担任の先生……?」

男「そう、自称クールビューティの面白い人。たぶんお前とも気が合うんじゃないか?」

男「泣く子も黙る廃パーゲーマ、もががぶっ」

先生「あれ~? 何か言ってる~? 聞こえなーい! おほ、おほほのほ~っ!」

先生「……私の理想像を早速ぶっ壊すつもりか、君」トン

男(理想というかもはや捏造である)

先生「それにしてもあんたたち仲良いのねぇ。さっき、手なんか繋いで楽しそうにしてたでしょ」

妹「ひっ! ……[ピッ]、[ピーーー]れてたんだ///」

男(既に先生から目撃されていたか。だが、変に勘繰ろうとはしていない。こちらの読みは当たったようだ)

男(妹が下手に出しゃばろうとしなければ、このまま適当に話を弾ませて終わりにできる。これ以上刺激させないよう、先生をコントロールせねば)

男「今日は職員会議だったんですよね、先生。その分だと相当長引いてた様子あったんじゃないですか?」

先生「うーん、そうなのよー。もう先生ヘトヘトでさ……何より[ピーー]との時間奪われたのが辛いっていうか」

男(やれやれである、どう足掻こうと話題を俺方向へ持って行きたいようだな。聞き逃せよ、妹)

妹「……」

男「(OK、お前が人見知りで助かった) どうした? なんて訊くまでもないか。そろそろ空腹の限界なんだろ」

先生「ご飯まだだったの? ごめんねぇ、妹ちゃん。私が呼び止めたりしたから我慢させちゃって……なでなで、いひっ、なーでなで♪」スリスリ

妹「っ~……私っ、そういうの嫌いなんですけど!!」

先生「わっ、ご、ごめんごめん! そうよね、いきなり失礼だったわよね。チョコ持ってるんだけど、食べる?」

妹「い、いらない。お兄ちゃんもう帰ろうよ……」ぐいっ

男(ウチの美少女妹は中々手厳しいようだ。この分だと、心開いてくれる相手はかなり限定される。【忘れろ】へ組み込むにはコイツをどうしてやろうか)

男「なぁ、一応俺たち先生なんだから失礼は止せ。お前もいつか世話になる時が来るかもだろ?」

妹「……だってバカにされてるみたいで悔しいんだもん」

妹「手[ピーー]でたの見ても、[ピーー]だからって納得してて……ぐすっ」

男(背中に押し当てられた何か。面倒な事になってきたか、こいつは)

妹「[ピーーーーーーーー]……っうあ、ぐ……うぅー……!」ポロポロ

男(ああ、一旦呼吸を整えるのだ。ここから反動で激情されて先生に要らぬことを言わせては滅茶苦茶に)

男「(すなわちシュラバーへと) せ、先生! 俺たちはそろそろ!」

先生「う、うん。本当にごめんなさいね、私が気に障るようなこと言っちゃったみたいで」

先生「妹ちゃん、先生まだまだ未熟だから君の気持ちちゃんと察してあげられないかもしれない。でも、仲良くしてもらえないかな?」

妹「あ、う、ぅ、ぐすんっ! ふえ~ん……」コクコクッ

男(……察して、察するっておい)

先生「そっか、嬉しいわ。というワケでお近づきの印は、チョコで勘弁ね?」

妹「べ、別に!! チョコ好き……ですからっ!」

男「(まさかこの教師!?) ……いやぁ、短いけど濃厚な時間を過ごしましたね。それじゃあまた、あし」

先生「モテモテねぇ、お兄ちゃん? うふふっ」

男(だから勘の良い大人って嫌いだよ)

先生「じゃ、明日学校で会いましょうか! って、男くん制服のボタン取れかかってるぞ」

先生「今度先生に貸しなさいな。縫ってあげるから……[ピーー]だけのときに、ねっ///」

【先生の奇襲を凌ぎ切ったかダメだったかもよく分からないまま、夜道を行く非バランスなこの兄妹】

【先程よりもちょっぴり離れた距離がもどかしくも感じる。妹は、人が変わったように大人しく物静かに】

男「母さんに叱られる心配でもしてるのか? 大丈夫だろ、途中で知り合いにバッタリしてたんだって話せばさ」

妹「月が[ピーーーーー]」

男「は? いま何か言ったか (月が、とまでは聞こえた。その単語から連続される台詞に難聴スキルが発動するものといえば)」

男(バカな……俺の妹らしくもないロマンティックでダイナミックな発言ではないか。そして何故にこの場面で)

妹「月が綺麗じゃんって言ったんだし。ただの独り言なんだけど、何?」

男「空気読めなくて悪いけど、俺にはその綺麗なお月さまが曇ってて見えないんだが?」

妹「だっ……こ、心の目で見るの! 心が汚いお兄ちゃんには無理だろうけどね!」

男(苦しい言い訳をどうもセンキュー)

妹「ねぇねぇ、帰り際にあの人から何て言われてたのさー?」

男「……知りたいのか」

妹「な、何よぅ……ていうか、やけに担任と仲良いんだね お兄ちゃんって」

妹「実は裏でこっそりデキちゃってたり~? ま、そんな筈ないよね! 私の変なお兄ちゃんだもーん」

男「そう思うなら同情してくれよ、俺に (ドッとかいた冷や汗が止まった)」

男(あの突然の告白は何だったのかという勢いで彼女は元の調子を取り戻し始めた。過剰なぐらいに)

男(そう、過剰。すなわち妹なりの勇気が空回りしたことで、壮絶に落ち着きを失い、隠すために抑えが効かなくなったのである)

妹「いやー、最初は苦手なタイプかもって焦ったけど話してみれば意外と良い人だったんだねあの人! 結構嫌いじゃないかも、っていうかちょっと綺麗だなーとか将来あんな感じに成長できたらなーとか思っちゃったり!」

男「(先輩のガトリングがそっくり乗り移ってるようだ) お前も高校に入ってから少し大きくなったんじゃないか?」

妹「えぇ!? ほんとにそう思いますかね~!? じ、実はこの前健康診断で測ったらちょっと伸びて」

男「確実に育ってたと思うな。胸は」

妹「てぇーー…………ばっっっかじゃないの!!?///」

男「特に恥ずかしがる事はないだろ。それも立派な成長だし、俺なりに褒めたつもりだ」

妹「どんな褒め方してんのさっ! そんなのただのセクハラオヤジと変わりないでしょ!」

男「おっと、改めてよーく観察してみると足なんか健康的で良い感じに!」

妹「ぬぎゃー!! 見るなみるな、変態バカ兄っ!! さわろうとするなぁー!?///」

男「じゃあ先にお前が俺の体好きに触るの許可するわ! これで平等になるぜっ!」

妹「きもい! やだぁーっ! うあぁぁーんっ!?」

母「――――で、いま何時だと思っているのですか?」

男・妹「こいつが悪い!!」ビッ

ここまでん

幼馴染「じゃあ昨日寝るまでケンカしてたんだ?」

男「最終的に母さんの鉄拳で両成敗食らっただけど、ってまさか、お前の家まで聞こえてたのか」

幼馴染「バーッチリ聞こえてました。ふふっ、なんだかあたしもお父さんたちも昔思い出して笑っちゃった!」

男「俺も人の不幸で腹抱えて笑いたいもんだ」

【お分かり頂けただろうか? とは言ったものの再現VTRは用意してなかった。幼馴染が玄関の外で待つ約束を破り、家まで押し掛けてきたのである】

【約束を守らせていたのは、コミュ症時の男だったわけで、約束も時効として扱って良さ気だが……俺が神経質すぎるだけか】

幼馴染「ん? 男くん、制服のボタン取れかけてない?」

男「ああ、コレは……」

幼馴染「あは、良かったらあたしが縫ってあげよっか! 割と裁縫とか自信ある方でして!」ムンッ

男「それは鼻息荒くして胸倉掴みながら言う事なのか!?」

幼馴染「だって[ピーーーー]してあたしの[ピーーーー]するチャ、チャンスだしっ!」

男「(言葉でよりも、感覚で理解が追いつくのは経験か) ……よく分かんないけど、そうかい。だけど、この程度なら俺でも直せるぜ?」

幼馴染「で、でもでも、間違って自分の指を縫っちゃったら大変でしょ。ねっ、ねっ!」

?「その話、少し待っていただこうか」

男(俺の周りが賑わってくると、呼ばずとも美少女が湧いて出てくる。偶然? いやいや、コレ必然なり)

幼馴染「だ、だれ! 男くんの[ピーー]は渡さな……あなたは」

生徒会長「不躾にすまない。男くん、朝の登校時間に君と顔を合わせるなんて珍しい事もあるものだな」

幼馴染「確か、生徒会長さん? この人と知り合いだったの、男くん」

生徒会長「そうだとも、知り合いも知り合いさ。そして……私は彼を認めている、[ピーー]と///」

男(おかしい。この俺中心の話のくせして肝心の俺が置いてけぼり食らっていた)

男「今日は相方の彼女さんは一緒じゃないんですか?」

生徒会長「なっ、何だと!? あの女がいつ私の相手になったというんだ!!」

男「名前を出さなくても一発で俺が誰を指したか分かるんですね、生徒会長は」

生徒会長「うぐっ!! め、目上を簡単にからかうもんじゃない……///」

男「いやー、冗談が通じるぐらい仲良くなれたのかなって。へへ、反省してます」

男(愛想笑い交えに会釈をすれば、生徒会長はバツの悪い顔をして去って行こうとし、華麗にターンして戻った)

生徒会長「何やら私は上手く誤魔化されそうになった気がするのだが?」

男「たぶん気のせいでしょう (惜しい)」

男(幼馴染と生徒会長、この二人、俺の予想では相性はだいぶ悪い。一緒に置いていれば負担は一気に俺に掛かるだろう)

男(美少女ども……狙っているというのか。この俺のちっぽけなボタン如きを)

幼馴染「生徒会長さんにも顔が効くなんて、男くん意外と有名人だったんだね?」

男「見直しただろ? 裏番とでも呼んでくれ」

男(無論よ、完全にリアルと立場が逆転しているのだから)

生徒会長「コホンッ……と、ところで傍らの彼女は君の何かな、男くん」

男「何って、何がですか? (やはり気にしていたか)」

生徒会長「あまり、私の口からは言いたくない……[ピーーー]だったらどうしよう」

男(クールな美少女も同じ悩める乙女である。勘違いさせておくよか、正直に話して幼馴染に対する印象を上げるべきと見た)

男「こいつは俺の幼馴染ですよ、生徒会長。家も近いからこうして毎度一緒に登校してて」

生徒会長「おさな[ピーー]ぃっ……!」

生徒会長「つ、つまるところ友達と解釈して良いのだろうか!?」

幼馴染「友達というよりも、昔から男くんと細く長ーい付き合いをしてる幼馴染です♪」

生徒会長「[ピーーーーーーー]? [ピーー]、[ピーーーーーガーーーーーーーー]……っ!」

男(うるうる涙目な生徒会長から、切ない視線を感じてならない)

男「結局は友達みたいなもんだろ? って、生徒会長 急に項垂れちゃってどうしたんですか!」

生徒会長「[ピーーー]……」

男(上げるどころか、下げるも通り越してフェードアウトしそうな勢いを加速させているような)

男(している、間違いなく。調子に乗らせすぎないようにと、飴と鞭を同時にぶつけたのが良くなかった)

生徒会長「か、勝ち目が[ピーーーー]」

男「(直ちに飴を大量摂取させねば) にしても、聞いてくださいよ。生徒会長!」

男「こいつとは本当に付き合い長いんですけど、その分俺にかなりお節介で……なぁ?」

幼馴染「だって男くんマイペース過ぎて放っておけないんだもん! だから、あたしが[ピーーーーー]を支えて……///

男「えぇ? さっきだってこいつ、ボタンぐらい自分で付けられるってのに全然聞かない始末ですよ!」

生徒会長「ハハハ、仲が良いのだな……まぁ、惚気てくれるな、私に効く……[ピーーー]」ガクッ

男「の、惚気って、俺たち別にそんな仲じゃないですよ!?」

生徒会長「えっ……違うの?」

男「(一瞬少女の素が出たぞ) だから違いますから! もしかして、ずっと彼女だと思い込んでたとかじゃ」

生徒会長「そ、そのボタン、私が縫ってあげても構わないがどうかな。男くんっ!」

男(先程までの絶望の数分間が彼女の中でなかったことになったらしい)

幼馴染「だ、だめ! いくら生徒会長さんでも……あたしが先に予約してました!」

男(初回特典で俺が手に入るとでも思っているのか)

幼馴染「男くんは生徒会長さんとあたしのどっちに直して貰いたい!?」

生徒会長「そうだな、君が選ぶならば私たちも文句はない。私が仕上げれば以前よりも見栄え良くなるぞ?」

幼馴染「あ、あたしがやったら、えっと、うん、もう凄いことになっちゃう!」

男「ファンネルにでも改造してくれるのなら話は別だな。二人とも一旦落ち着いて、最初から俺は自分でどうにかするって言ってるだろ!」

生徒会長「自分の物は自分で、それは良い心掛けだ。しかし、この程度手間とは思わないか!」

幼馴染「おまけ付けて可愛くデコレーションして返すってのはどうかな、男くんっ!」

男「なぁ、大体ボタン如きで何必死になってるんだよ? ボタンだぞ」

幼馴染・生徒会長「それは……///」

男(その時、見計らったかのように遠くで響く鐘の音。そりゃそうだ、いつまでも立ち止まっていたのだから)

生徒会長「フッ、どうしたものかな……走れええぇーーーーーーぇえっ!!」

【からの疾走、生徒会長の顔が青ざめていたのは言うまでもない。恐らく世界を数秒縮めた事だろう】

体育教師「重役出勤とは見上げた身分になったもんだな、お前たち」

男「そりゃあ、だって彼女は生徒会長ですし。ま、まさかあなたはご存じない!?」

体育教師「二人はもう行ってよし。男は俺とともに朝から筋肉の悲鳴を聞こう……さぁ」トン

男(俺に構わず先に行け、って感じ。残念ながら痺れるのは、俺の腹筋の方になる)

男の娘「随分お疲れな様子だね、男? 大丈夫?」

男「筋肉が悲鳴をあげているんだっ……!!」

委員長「男のことですから堂々遅刻して、適当な言い訳でもしたのでしょう。自業自得です」

男「珍しいな、委員長がわざわざ俺のところまで心配してくれるなんて」

委員長「今のどこをどう聞き間違えたら心配に変わるんでしょうか、相変わらずふざけた人……」

委員長「それでは心配ついでに言ってあげますが、あなた第二ボタンが外れかけてますよ」

男「またボタンなのか……」

委員長「は? とにかくこれ以上風紀を乱すような真似は止めてください。あの生徒会長まで巻き込むだなんて」

男(そういえば風紀委員長だったのを忘れていたな。俺が生徒会長を非行の道へ引っ張ろうとでも考えている、そんな冷たい目で睨み続けていた)

男「悪かった、不真面目で。更生できるかは知らないけどな」

男の娘「お、男は良いヤツだよ! 僕が保証する! だから、そんなに男を責めないで」

委員長「あの……これでは私の方が悪者みたいになるじゃないですか。別に、男には初めから何も期待していません」

委員長「ただ、目に余るような行動を慎んで欲しいだけ。じゃあ、あとはそのまま机に突っ伏していてくださいね」

男の娘「行っちゃった……男、委員長さんも悪気があって言ってるんじゃないと僕思うんだ。だから」

男(知ってるとも。俺は彼女が【そのまま寝転がっててくれ】いる。きっと、あの委員長も)

ここまで。明後日に続く

男(ラノベ主人公定位置である最後列のこの居心地の良さ。授業を尻目に、窓から見える景色に耽るのが仕事だ)

男(今日も後輩は変わらず待っているのだろう……ちっぽけなブ男一人が、平穏を送る美少女たちを乱した、事実である)

男(そもそも俺は何をしたかったのだ? 望んだ結末に近づけたのか? おかしい、いつのまにか自分に振り回されているぞ)

【ブレブレな現状を見つめ直し、自分が真に目指した夢を男は頭に浮かべて並べていた。そして、思――】

幼馴染「男くん起きて? もうお昼だよ、ご飯は?」

男「……俺、寝てたのか (口元や頬にべったりと涎が。酷い顔だと、幼馴染はハンカチを渡しつつ笑っている)」

男の娘「あはは、夜更かしでもしてたんでしょ。先生が叩いても蹴ってもビクともしてなかったよ~!」

男「どうりで気持ちよく眠れていたわけだ」

【呑気そうに母の特製弁当を広げ、美少女二名に癒されながらの昼食。転校生のフラグはこいつの知らず内に回収は済ませた筈だが、彼女は一向に姿を現さない】

【やはり二週目以降の追加キャラの扱いだったというのか、神よ。それならば、周回の際記憶のリセットが発生するのだ、あの登場は必要なかったのでは?】

【……あるいは、元々登場が約束されていたからこそ、なのか。かならず男は二週目へ到達するという、決定事項があるとするならば】

【誰か教えてくれ、俺は、何度この光景を見ている。何度同じ思考を繰り返している? ひょっとしてエンドレス?】

【神……あの委員長は何なのだ? 図書委員長であった委員長の人格すら、俺が思い込んでいただけで、偽物なのか?】

【俺は、何度あの子を助けようとしているのだ? もうこっちは判断材料が十分に揃い過ぎているのだよ、神】

【一周、二週と新しい自分でモテモテハーレム生活を送れるこの世界を、俺は『^^』いる】

【間違いなら、違う、とひっそり囁いて欲しい。後輩や天使ちゃんはこれもまた、知っていて黙っていたというのか?】

【通常……基本、毎回俺が、BADENDを迎えて世界の崩壊が始まる前に、原因を取り除いた分岐点後へ時が巻き戻る。これを周を回したと例えていたわけだ】

【それがどこかのタイミングで本当の終わりを迎え、『^^』される。全てこの俺が組み立てた憶測だ、しかし……】

不良女「実は何だかんだで、あたしよりあんたの方が不真面目だよなぁ~?」

幼馴染「で、でも男くんはここぞ! って時にはピカイチになるから! そういうところが[ピーーーー]ねっ……」

男(特に輝いた瞬間なかれど美少女からよいしょを頂ける、これぞ皆が羨むヒーロー補正である)

男「(そして代償が地味に苦しい) いま何か最後にボソリと言ってなかったか?」

幼馴染「い、言ってないよぉ!///」

男(時々、難聴フィルターに掛かる台詞が実は俺へ対する罵詈雑言だったりしたらと思い、ゾッとしていた)

男(ならば、このまま難聴スキルと付き合って行くのが幸せなのではと)

【ご丁寧に被害妄想が酷過ぎるだろう】

女子生徒「男くーん! 君の事呼んでる三年生が外にいるんだけどー!」

男「俺? 悪い、呼ばれたみたいだから少し抜ける (モブの報告に「たぶん」、いや、確実に彼女だという自信を持って廊下へ身を乗り出すと)」

先輩「どもども、コンチハー! お兄さん、ちょいとツラ貸してくれませんかねぇ」

男「こんなツラで良ければむしろ貰ってやってくださいよ、先輩さん」

先輩「[ピーーー]もんなら[ピーー]いけどね……」

男「え?」

先輩「こ、こっちの話こっちの話~! 今気にするところはそこじゃなくってさ!」

男「察するに、いつもの愛好会勧誘の流れに移る感じですかね」

先輩「ううん。えっとね……わたし事っていうか…………相談、なんだけど乗ってくれませんかね?」

男(頬をポリポリと掻きながら、やや困り顔で無理のある笑みを見せる先輩である)

男(できれば誰にも聞かれたくない話だと一先ず場所を移す。その間彼女は、いつものハイテンションっぷりを披露する事なく、ため息を吐いていた)

男「(シリアスな相談でない事を祈る) ここなら大丈夫でしょう。でも、先輩さんが俺に相談なんて珍しいですね?」

男「へへっ、これで恋のお悩み相談なんて内容だったら腰抜かすかも!」

先輩「[ピーーーーーー]……///」

男「あっ、ハイ (予想的中のち恥じらい美少女。忙しなく両人差し指をつんつんと遊ばせている様子がまたいじらしい)」

先輩「じ、自分ではそんな意識して話し掛けてたわけじゃないんだけど、その人がねっ!?///」

先輩「その人が……わたしが自分を好きなんじゃないかと思ってって、この前二人だけの時告白されちゃったんだなーこれが! わははは!」

男(陰キャラが明るい女子から積極的に相手された末、まさかと思い込んでしまったという感じだろう。しかも相手は美少女、気持ちは痛いほど分かるとも)

先輩「コレにはわたしも参っちゃってさ~!! ……うぅ///」

男「確かに先輩さんみたいな人から親しげにされたら、大体の野郎は勘違いすると思いますね」

先輩「申し訳なーいっ!! あれ、あれれ……じゃあ、もしかして[ピーー]もってことに?」

男「(ズバリである) 俺がどうかしたんですか?」

先輩「ひゃあ!? ど、どうもしないっ! どうもしないからぁ~!///」ブンブン

先輩「そ、それより相談ですヨ!! ……男くん、何で後ろ向いてるの?」

男「突然背後に怪しい気配を感じたので、つい (俺は過去最高に気持ち悪い顔をしているのだろう)」

男「先輩さんのお気持ちはよく分かりますけど、だからと言って俺を頼るのは流石にお門違いじゃ」

先輩「他にこんな話で頼れる人が周りにいなかったというか……!」

男「何と、この俺がその辺の女子よりも恋愛通に見えるんですか?」

先輩「あーっ! 窓の外に毛むくじゃらのゴリラがー! ……ご、ゴリラがー」

男「残念ながら力になってあげられそうにないんで、謹んで立ち去らせてもらいます。解散!」

先輩「見・え・るっ、だいじょーぶみえるよっ!! 恋の大先生、いやいやっ、博士、教授、神さま!!」ガシッ

男「じゃあ神さまから有り難いお言葉耳穴かっぽじって聞いてくださいな」

男「ぶっちゃけ俺に何て言って欲しいんですかね、先輩さんは」

先輩「っぐう!?///」

男(真意を突くことでより崩れていく。が、あくまで俺は難聴であり鈍感なのだ)

先輩「いぃぃ、言って欲しいって……そりゃ[ピーーーーーーーーー]///」

男「だってハッキリ言って貰えないと相談に乗る方もどうアドバイスすりゃいいか困るでしょ?」

先輩「えっ」

男「じゃなくて。その相手が先輩さんも気になってきたーとか、勘違いウゼーやだやだとか、色々あるじゃないですか」

男「どう動かれようがあなたの背中押せる手助けになるなら、まずは当の本人の気持ちを知らないと……ん? 先輩さん?」

先輩「へ、へへ、[ピーー]して損したじゃんかよぅ……」

男(脱力して椅子にヘナヘナともたれかかっていた。わざとらしさを消し去り、純粋に疑問を浮かべて顔を覗けば、唇を尖らせる美少女がそこに)

先輩「やっぱり[ピーー]は[ピーーーーーーーー]っ」

男「ボソッと変なこと喋りませんでしたか」

男(別に、と投げやりな返事とともにそっぽを向くのがまた型に嵌まっていてグッド。他でしつこいぐらい見ているけれど)

先輩「男くんには気になる女の子とかいたりしないの? いるっしょ?」

男「強く言われると反発したくなるんですけど、これって捻くれてますかねぇ?」

先輩「もー、まぁどっちでもいいや……さぁー、今明かされる衝撃の真実っ!! なんちゃって、えへへ」

先輩「わたしにはいるよ、好きな人。ていうか、好きになっちゃった人。しかもすぐ[ピーー]に」

男(伏せがちではあったが、確かにまっすぐな目が恐らくこちらに向けられたのだろう。これにはノータッチ、次の台詞を待つ)

先輩「悪いけど例の男子じゃない別の人なんだ。最近まで全然知らない人だったのに、気がついたら、なんか、うん……[ピーー]になってて」

先輩「た、たぶんその人はわたしの事、騒がしいし鬱陶しいなぁ~! とか思ってるかもしれないっ。で、でもね」

男(自分語りの最中に横槍を入れてはならない、鉄則だ。黙って耳を傾け続けていれば、ほら、勝手に)

先輩「どう[ピーーー]伝えていいのかわかんなくって。えへへ、それじゃあいつになってもダメだってーの、わたし!」

男(把握しているぞ、美少女。今回あなたは背中を押して欲しいどころか、引っ張って欲しいのだな。お前が欲しい、と)

男(イケイケどんどん超肉食系美少女、してその実態はここぞという場面でアタックできなくなるか弱い美少女。美少女に変わりはない)

男「じゃあ彼の告白は断るつもりだったんですね。なんだ、初めから結論出てたんじゃないですか?」

先輩「……踏ん切りが、というか……わたしにも相手をその気にさせっちゃった責任あるし」

先輩「ば、場合によってはお受けした方がいいのかなーって……それで男くんに、その」

男「それだけは絶対にダメです、先輩さん。変な責任感持って振り回されたら、後で困るのは自分なんですから」

先輩「だ、だけどさっ!」

男「俺は似たような状況に陥って、自滅したバカをよく知ってます! ダメ絶対!」

先輩「……ん、やっぱり断って謝ることにした! わたしはわたしの道を行くっ、ラーメン街道という名の道を! そして入ろう、我がラーメン愛好会! おいでやすっ」グッ

男「前座の長い新手の勧誘活動だったというわけですか、これ」

続きは日曜微

先輩「男くん、じゃなくて、愛の伝道師くんのお陰で吹っ切れたよ! 最高! グッジョブっすー!」

男「では、そろそろ俺は無力な一男子生徒に戻るとしましょう (本日も快晴晴れ模様、眩しい笑顔が美少女には似合うのだ)」

先輩「うん! ……っとと、その前にちょっぴしお待ちになってちょーだい。あ、後ろ向いて」

男「はい? なるほど。まだ俺なんかに用があると……ぶふぐっ!!」

男(熱い、全身が真っ赤に燃え上がりそうな熱い抱擁が訪れた。自己主張の激しい凸の感触に失神すら起こしかねなかったと思われる)

先輩「おりゃあああっ、これはとりあえずのお礼ってことにしよっか~!!」

男「うえぇあああぁぁっ、当たってます!! 凄いのがっつり当たってるんだが!?」

先輩「えぇ……ん、そりゃあ……[ピーー]てるんだし///」むにゅうぅ

男(彼女は、己の武器を熟知し最大限に活かす術を持っていたのである。悔しいが、抗えぬ、逃れられぬ、これぞ雄の性よ)

先輩「あっれー? むふふ、男くんてば何だかドキドキしちゃってないかにゃ~? ほーら、この辺りがぁ……」

男「頼むから変なノリで後ろから触ってこないでくださいよ!!」

先輩「まぁまぁ! だけどお客さん、こういうの嫌いじゃないんでしょう? ……ふーっ」

男「あは、はぁぁぁん……っ (耳の穴を通り抜ける桃色美少女吐息、思わず膝を突きそうになるも、後ろで抱きしめていた先輩がそれを許可しないのだ)」

先輩「おやぁ、この効果抜群な反応! もしやお主の弱点は!」

生徒会長「ほう、是非私にも聞かせてもらいたい物だな。その弱点とやらを……なあ?」

先輩「げえっ!?」

男「ちょっ、いきなり手離したら……ぼふぅ」

生徒会長「なっ……」

男(先輩の拘束から解放されたと同時に前のめりになった体は、お約束の様に、生徒会長へ突っ込み、これまた形程良いクッションに顔を埋めたのである)

男「ふひはへん、へいほはいひょー」モゴモゴ

生徒会長「……あ、あ、男くんが[ピーーーーーーー]///」

先輩「そっち使ったらダメだってばぁ~~~!?」

生徒会長「[ピーーー]……ふ、フフッ、御覧の通りだね。彼は君よりも私を取ったらしいな?」

男(顔面、背中、甲乙つけがたい。どちらのバージョンも魅力たっぷりじゃないか)

先輩「今のは事故で男くんの意思じゃないでしょ! さぁ、可愛いポチ わたしの胸に飛び込んでおいで! かもーん!」

生徒会長「可哀そうに、犬扱いとは随分と酷い女じゃないか。君もそう思うだろう?」

男「(突き飛ばされて事なきを得るかと思えば、そのまま頭を抱かれ、赤子をあやすか如し撫ぜられていた。俺の為に、いま戦いの挽歌が) ……お楽しみのところ申し訳ないんですけど、俺はいつまでこの体勢で待てばいいんですかね」

生徒会長「聞こえたか? 男くんはやはり生徒会へ入って私の隣を歩むそうだ!」

先輩「のんのんっ、どう聞いたって今のは絶対わたしの愛好会入部宣言だと思うんですけどねぇ!」

男「二人とも良い耳してますね。さぞかし人生楽しいでしょう?」

男(あれからキャットファイトへ発展される前に彼女らのクラスメイトたちが二人を無理やり引き剥がしていった)

男「ああ、夢の実現はまだ先の長い話になりそうだと思い知らされるな。これでは食うや食わずの生活もあり得る」

【とは言いつつもこの苦労が快感に感じられていたのだ。どうしようもなく斜に構えてみたって、本音ではウハウハ美少女祭りと脳内ドーパミンがドバドバである】

【いくら中身がなくたって、無意味な時間を過ごしても全部が俺たちには幸せだからな。だから、俺はこの世界の深淵に近づきすぎて、触れすぎた事を今更後悔した】

【余計な好奇心と探究心が身を滅ぼすこのザマだ。知れば知るほどに、理想の世界は無常にも、主を追い込む……やれやれ、こんなスカした台詞が似合う男に俺もなったというわけか】

【委員長さえどうにかできれば、もうバトンを繋ぐ必要はない。まっさらな状態から、何も考えずにモテる日々にただ飲まれていくのも悪くないだろう】

【……とかいう腑抜けた根性が『^^』を繰り返させたのだろう、神? なにせ、ここは俺の理想だからな】

【俺は繋ぐぞ、意思を曲げるなんてご免ですとも。だって性懲りもなく『^^』されては我が崇高なる野望が果たされん。それこそ悪夢である】

【再び神が俺と顔を合わせる時、奴はきっと開幕嘲笑うだろうか。「何度同じ真似を繰り返すのですか」と】

【楽しみにしておくとしよう、その瞬間を……もう少しだ】

先生「脱いで」

男「はぁ!?」

先生「だから、制服脱いで? ご丁寧に一日中ボタンだらしなくぶら下げててくれたんだから、ふふっ」

男「先生、最初絶対いやらしいの意識して言ったでしょう? 紛らわしい」

先生「あーはいはい! で、ほーら、せっかく裁縫道具引っ張り出してきたんだから頂戴!」

男「……」

男(死の間際に心に残った思い出が走馬灯の様に駆け巡る。これも果たして同じなのだろうか?)

男(次々と、楽しかった美少女イベントが呼び覚まされる。覚えのないようなものさえである。何か、無意識な決断を迫られてる気がしてならない)

先生「なにボーッとしてるのよ? 大丈夫、私それなりに器用だってば」

男(神のお告げでもなく、本能で理解した。この俺は今まさに分岐点の上に立たされているのだと)

男(……制服へ伸ばして、止まったままだった手がだらりと下へさがる。その様子に先生は訝しげそうにしていて)

先生「どうしたの?」

男「俺、ずっと前から放課後は別の用事があったんです。それも毎日です」

先生「ごめん、言ってる意味がよくわからないんだけど……今日一緒にご飯でも食べ行く?」

男「毎日、毎日飽きもしないでアイツは待っててくれたんですよ。元から変な奴ではあったけど、ほんと貫き通してるなって」

男「ごめんなさい、すみませんでした、先生っ!!」

先生「だ、だから意味わかんないんだけれど……その土下座なに?」

男「俺にはあなたより先に付き合っている女子がいたんです! いいや、いるんです!」

男「二股……かけてたんですよ……っ!」

【ちらっとこの男が先生へ目を向けたら、彼女は一体どんな表情を浮かべているのだろうか】

ここまで。次回でようやく

先生「……ふーん」

【静寂を破った彼女の一言は予想だにしないものだった。悲しむでも怒るでもなく、ただぼんやりとしている様な】

先生「そんな格好されてちゃ話にならない。頭上げて、ビクビクしないで」

男「……はい (大人しく言われた通りにして、先生と向き合う俺。平手の一発、もしくは刺される覚悟はできている)」

男「(退路は断った) 自分に正直になりすぎていたと思っています。甘えていました」

先生「君は誰にでも優しい子だからね、わかるわ。ああ、これ、責めてるつもりじゃないの」

先生「ちょっぴりでも私に楽しい夢見させてくれた事に対して、男くんは優しかったんだなって……ふふ」

【男を惑わせてこの様な事態を呼んでしまったのは自分自身である、とでも自己完結したと感じられる。どこまで人が良いのだ、この女神】

男「先生、俺は同情して先生の誘いを受けたわけじゃないんだ。本当に、どうしようもなく、惹かれて!!」

先生「うふふ! そりゃあ私みたいな良い女、中々見つからないからねぇ~」

先生「……それでも、あの女の子の方が大切かな」

男「はいっ!!」

先生「ちょ、即答! しかも返事の勢い良すぎない?」

男「……はい」

先生「あぁ……そっかそっか、参った。降参よ!」

先生「君の気持ちはよーく理解できました、じゃあ私は後腐れなく立ち去るのみよ。長々と突き合わせてごめんね」

先生「でも、明日からお互い前みたいな関係に戻れるから心配しないで? 君との恋人ごっこ、色々刺激的だったわ、ふふっ」

先生「職員室戻るわね。さ、立派な帰宅部なりに問題起こさず気をつけて帰りなさい、男くん」

男「……違いますよ、こんなの」

先生「え?」

男「いや……そうじゃないですよ、先生。カッコつけようとしないで、俺を殴ってくれよ……」

男「何であなたに非があるみたいな終わりにしようとするんですっ? 殴る価値もないなら、罵倒してください。お願いだ」

先生「あ、悪趣味ねぇ。いい? 大人って何事ともあっさりとさせておきたいの。濃ゆいのって胃に来るじゃない?」

男「そこで無理やり笑わせようとするのはナンセンスでしょうが!!」

先生「そうかなぁ。こうした方が私たちらしいし、気まずいままにならないと思うんだけど……えへへ~」

先生「私、明日からも男くんと仲良くしていたいのよ。普通の教師と生徒の立場に変わってもね。君は受け入れられない?」

男「正直、難しいと思う……不器用ついでに、そういう切り替えが下手なんです」

先生「と言うよりはマゾね、男くんは。一体どんなシナリオ考えての別れ話にしたかったのよ? デコピンしとこっか?」

男(と優しい笑顔な彼女とは反面、女々しさが凝縮された俺自身に殺意が沸いていた。不意に、俺は先生の腕を掴み、言った)

男「もう十分だ!! 優しくしないでくださいっ、おかしくなる!!」

【言うというか、吐き捨てるの表現が相応しい。血管がはち切れて、全身から血が噴射しそうな力が入っていたのだ】

男「こんな風にされて、納得いかないのは俺が未熟なガキだからか!?」

男(お願いだから情けをかけないでくれ、先生。決着をつけたかったのに、また先延ばししたくなる)

男(もっとあなたと一緒にいたくなってしまう。美少女だどうだの問題ではない、純粋に。何もかも投げ出して没頭したくなってしまうだろう)

先生「ふふっ、困ったなぁ。男くんは本当に先生からどうされたいの?」

男「何をって……」

先生「じゃあ、何て声かけて欲しいのかな?」

男「い、いや」

先生「そう。だったら、もうこれでいいじゃない……いいでしょ?」

先生「最後ぐらい私に見栄張らせてくれたっていいじゃない」

【彼女はゆっくりと掴んだ手を解いて、一歩二歩と下がり、教室から立ち去ろうとした。した、というのは)

先生「……どうした? しつこく何度も止められるのは先生嫌なんだけど、離してくれる?」

男「せ、先生。お、俺どうかしてたな……行かないでくれ……」

【何だと!? この阿呆、おい最低だぞこのド屑野郎!!】

男「もうダメだ、限界だ……俺が間違っていたんだな……だ、だからもう一度俺にチャンスをく――ぶーっ!!」

【音速を錯覚する速度で何かが起きた。解説なら任せろ、ビンタだ。先生が振り向きざまコイツへとっておきのをお見舞いしたのである】

【食らって吹っ飛び、無様に床へダウン。よほど良いのを貰えたらしく視界がぼやけているようだ】

【次第に靄が晴れていき、正面に立つ先生へ視点を合わせれば……】

先生「っー……!」

男「(な、泣いている、だと?) せ、せんせいっ?」

先生「どう? これで満足できたんじゃないかしら。思いっきりやったからね」

先生「こっちが手を上げたからにはもう決着ついたわよね。チャンスなんて絶対に許さないわ」

先生「私と男くんはこれでおしまい、次もないの。意味わかる?」

男「あ、あ……あわわわ……」

先生「オドオドしないで、立ってシャンとなさい!! そんな様子彼女に見られたら笑われるよ!!」

先生「こんな所でボサっとしてないで、早く行ってあげるの。それがあなたが今やるべき事! わかった?」

男(彼女は俺を励まそうとしてくれているのか? 励ますだと、間違っているだろうが)

【泣きっ面でも、まだ綺麗な別れを求めているのだ。やはりこの人は俺が想像した以上に大人だった】

【そんな彼女へこの男は、愚かにも最後の反抗を、トドメを刺してしまった】

男「……好きです、先生!!」

先生「!!」

【非情な一撃が言葉に乗って先生へ突き刺さるその瞬間を、俺は見たと思う】

【最も言って欲しかった、期待した言葉がいまの彼女にとっては呪いの様な物となっているのだ】

先生「……やめてよ」

男「え? な、何て言いましたか」

先生「やめてよ! 卑怯なのはどっちよ、あなたの方じゃない!」

先生「どうしてその言葉呑み込めなかったの? ねぇ、あなた結局何がしたいの?」

男「だ、だから俺は先生が!!」

先生「もういい、喋らないで……これ以上聞いてると頭どうかなりそうになる」

男(俺にはもう彼女しか見えていない。他には何も要らない、そうだった。痛感した)

男(口ではああ言っているが、先生は俺をきっと諦めきれていないだろう。好感度は十分過ぎるほど稼いでいるのだからな)

男(別れるなんて嘘だったんだ、ほんの冗談のつもりだった、そうしよう。話せば分かってもらえる! やり直しはいくらだって効くぞ、平気だ!)

【落ちた。明確な意思が持てず、流されるままに行動を起こした結果、美少女に魅了される。先程までの自分がまるで嘘だったように】

【ある程度のリアリティがキャラクターに持たされたお陰で、かならずしも主人公の望むままに動くわけではない。歯車は噛み合わなかった……だが、俺はこう言っておこう】

【すべて計画通りである】

男(俺はこの世界の中ならば史上最強にして尋常なくモテる、美少女に。ならば、拒むはずがないだろう?)

男(完全に物にして幸せな家庭をこの美人教師とともに築く。そうだ、俺に足りなかったのは、押し、じゃないか)

男(最初からゲージMAX並みの好感度を得ているのだから、俺さえその気になれば落とせない美少女はいない。強引にでも迫れば、濃厚イチャラブ確実)

【お前の最後を俺は一生忘れないだろう。長く見てきたからな、愛着も沸いたぞ】

【不思議と徹底して嫌いにはなれなかったよ、ありがとう。……そして、いよいよお別れの時が訪れた】

男「先生……大好きなんです。俺バカだから時間掛かったけど、ようやく分かった」

男「俺にはあなたしかいない。あなた以外はもう何も必要ないんだって!」

先生「……ごめんなさい、男くん。失望しちゃったかもしれない」

男「は?」

先生「いまの君のことは好きになれそうにないわ。そのままなら、もうずっと」

男「……は?」

先生「これが本当に最後、あとはもう喋らないから黙って聞いて。そしてよく考えて頂戴」

男「ちょ、ちょっと待ってくれ。最後って、喋らないって、俺の告白は――」

先生「君は一体何がしたかったの?」

男「…………えっ」

【頭を抱えて見つめ直すより先に、思考停止が始まった。硬直したまま瞳だけが動いて、先生の後ろ姿を追っている】

【呼び止めるでも、少女マンガのように後ろから抱きしめる事もできず、ただただその場に立っていた】

男(……あれ、振られたのか俺は)

男「まさか、そんなわけないだろう。神の力でモテモテ状態になっておいて振られるなんて、そっちの方が難易度高い」

男「おかしいぞ……何かが狂った……変だぞ…………?」

男(我に返ると、途端に強い脱力感が俺を襲い、膝から崩れてしまった。何がここで起きたか整理しようとすれば、目頭が熱くなってそれどころではない)

男(耐える努力もせずダムが決壊したのを確認し、涙がボロボロと床を汚す。悲しいと思うよりも)

男(素晴らしい夢が覚めて、虚しいだけの現実に引っ張られてしまった、その絶望感だけが俺を支配している)

男「何がしたかったか、色々目標は立ててたはずなんだけどな……どうしてこうなってるんだ? 俺が悪いのか」

男「こんな結末になると思ってなかったなぁ……へ、へへへ……神、見ているんだろ。聞こえてるんだろ、俺の声が」

男「なぁ!? 神さま、戻してくれよぉぉぉ……やり直したいんだ、過去に戻りたいんだよ……」

男「ああ……そういえば、俺…………なんか約束忘れてたや――――――」

【な、何だこれは!? 周りの景色が真っ暗に、いや、視界が――――――】



―――BAD END

BAD END―――


神「さぞかし悔しかったのでしょうね^^」

男「……」

男「え?」

神「あなたを憐れんであげたのですよ、悔しかったのでしょう。あなたは慰めを必要としている」

男「ここは……それより、あなたが神さま…………でしょうか」

神「愚問ですね。初対面でもないのですから」

神「ええと、あなたと相見えるのはこれが……ふぅ、数えるだけ意味など成し得ませんか」

男「は、はぁ」

神「お聞きなさい、哀れな子よ。あなたにもう一度チャンスを与えましょう。と、この言葉が聞きたかったのでしょう?」

男「叶えてくれるのですか。俺の願いを聞き入れてもらえたというのか!?」

神「構いません。何度でも繰り返しておゆきなさい」

神「私はあなたが満足してもらえるその時をここで待つのみ、それでよかろうなのです……聞き入れていただけましたか^^」

【……俺の存在に気づいているのか、神】

ここまでなのです

男「……ようやくハッキリした。あなたは、俺が待ち望んだ本物の神さまだ」

男「最高だ、世の中まだ捨てた物じゃなかった! また戻れるのか、またやり直せるのか!?」

神「はい」

男「落ち込んで損した!」

男「感謝致します、じゃこの喜びは伝え切れないな。これからは毎朝仏壇の前で祈りを捧げましょう……」

神「この勘違いさん^^」

神「神さまが人間風情へ恩を売りたいが為に親切を施すとでも?」

男「……美味い話には裏がある、そう仰りたいのか」

神「あなたが知りさえしなければ与えられたご馳走は美味しいままでしょう? ただ、お腹を膨らませていれば良いのです」

【否定にすら走らないのは自信の表れなのか。いや、というよりもこの会話の内容が、記憶されないからこそだろう】

【煽り趣味とはまぁ気が合いますな、と親近感に構っている場合ではない。俺まで、見聞きした話を忘却させられてしまうのか? そして】

神「……」

【……何を考えているのやらサッパリ意味不明だ。相手は神、中の俺が見えていてもおかしくはない筈】

【企みすら見通されている気がする。この光景を黙って観察させ続けているのも考えがあってではないだろうか。深読みぐらいが丁度良い】

【腹の探り合いなら俺の得意分野だ】

男「神! 俺の準備はもう整っています、いつでもあの夢の中に送り返してくれて」

神「構いませんが、その前にあなたに朗報が一つあります。耳を傾けまいが自由ですけれども^^」

男「……ほう? それはそれは、勿論ぜひ」

神「改竄に伴い新たな美少女が追加されるのです」

神「まぁ……あなたの望みがまたまた叶ってしまいましたね^^」

【俺とこいつ、どちらに微笑んでいるというのだよ】

男「望みだと? 確かに喜ばしい限りの話ではあるが、そこまでこの俺に優しくして本当にどうしようと!?」

神「私は神、あなた方へ最高の幸福を与えるために存在します」

神「不幸なあなた方を救う為ならば、如何なる手段を持ってかならず幸福を与えましょう」

男「おぉ……おぉー……! なんと慈悲深い……で、そのついでにくだらん質問を許可して頂きたい。神よ」

神「あら^^」

男「これまでの嬉しい待遇を疑問に思ったわけじゃない。だが、どうして俺が選ばれた?」

男「俺が不幸と言い切ったが、広義で考えた場合大した不幸を抱えていたつもりはない。ぼっちにはぼっちの細やかな幸もあったぞ」

神「……で、何か?」

男「選ばれたのは偶然だったのか、あなたが定めた条件に当て嵌まっていたからなのか」

男「回答に困るような難しいものじゃないだろう? 俺が考えてみた二択から外れているなら」

男「残念でした、と答えてくれないか。俺はあなたを信頼している。だから、有耶無耶にしないで――」

神「何を驕り高ぶっているのでしょうか」

神「私が誰か知らないとはもう言わせません。言ってごらんなさい、私は?」

男「……神さまだ (都合の悪いことを訊かれてご立腹みたいだな)」

神「いぐざくとりーなのです」

男(神は、先程の通り 親切心で俺に良くしてくれいるわけではない。照れ隠しでもなく、これで確実に)

男(目的は俺が美少女たちと満足がいくようにイチャラブさせ、幸福を手にさせる。これは俺の望みでもあった。これを、利用されているというのだ)

男(何の為に? ヒントは俺が選ばれた理由に隠されていると思われる。意味のなさない好意は与えないと分かったからな)

男(俺も別に歯向かうつもりは毛頭ない。甘んじて、受け入れよう。だが気になるだろう? 神が、人へ、なんて)

【伊達に人を疑って生きてはいなかったか。きっと、存在した忌わしい過去の出来事のお陰でもあるのは皮肉だ】

神「時間の無駄でしたね。神は無駄を好みません、聞きわけの良い人間が大好きです」

神「あまり深入りしようとするのは感心しませんよ^^」

男「……忠告をもし破ってしまったら?」

神「私が誰なのかもう一度答えなさい。刻みなさい」

男(俺へ関わって神に何のメリットがある? 無駄にはならない、神が餌をまいてまで手に入れたがる物は到底、人間の俺に理解できるものとは考えられないだろう)

男「(といってこの問題を放置しておけというのは、俺の性分だ、気に食わんな) も、申し訳ありません。つい浮かれてしまっていたみたいだ、何せ本物の神さまの前にいるものですから……!」

男「……落ち着いたら思い出してきました。あのモテる力で一時期ハーレムを目指したのを」

神「目指してみても、所詮はただの泡沫の夢。単純な欲深さを持ってしても、容易に叶えられはしなかった」

神「では、この際妥協してしまえば万事解決です。可愛らしい彼女が一人いてくれるだけであなたは満足できたでしょう?」

男「おかしいな? 満足に届かなかったから今俺はここに立っている、そうでしょう?」

神「ええ、ですから減らず口を叩くのですね。わかります^^」

男・神「…………フフッ…………」

【ネット掲示板の質の悪い煽り合いを見ている気分だ】

神「同じ失敗を繰り返し、手に入れた幸福を手放すやもしれませんよ。それでも諦めがつかないと?」

男「神サマの共感は得られるとは思えないが、ハーレムってのは男の子の永遠の夢だ」

男「あそこなら可能性が有りそうなんでな、次は掴むぜ。未来」

神「変わりませんね、その愚かさ」

【バカだから何度だって無茶を承知で挑めるのだ、俺は無駄が好きだから】

【神、あなたの理解は一生かかっても俺に追いつけないな】

男「神よ。ありがたいお言葉のお陰で俺、ようやく目が覚めました」

男「明日から絶対に芯を折るつもりはない。夢に向かってひたすら前進全速しようじゃないか……」

神「また苦しみを繰り返して後悔するでしょうに。愚か」

神「もう一度、あなた愚かです^^」

男「好きに罵って頂いて結構だ。だがな、俺はもう一度決めたことを曲げるやり方はしないと誓いましょう」

男「ブレない気持ちが美少女パラダイスを作るのだ、妥協知らずがな……決まった」

神「一人で何をブツブツ言っているのです。私も暇ではないので、すぐに始めますよ」

男「貴重な時間を奪って悪かった、神よ。でも結構楽しめたんじゃないか? 俺は楽しかった」

神「楽しい? わかりませんね、そういうの。でも、しいて言うのであれば……そう」

神「またここでお会いましょう^^」

男「……ああ、曇りのない素敵な笑顔だ」

【ま、まさか既に神をも攻略していた……?】

神「私の言う通りにしなさい……目を閉じて……次に開いた時、そこはあなたの部屋……そして……」

神「『あなた』の企みは全てお見通しなのです^^」

【うっ!?――――――】

ここまで

男「――――て、転校生!! 今のはっ……」

転校生「……うん。また明日ね、へーんたい」

【これが2周目最後の光景だろうか。俺の知る結末まで、この暴れ馬の手綱を何度も引いてきた】

【道中がどうあれ、俺の現在へと偽りなしで繋がれば大幅な改変、すなわち俺の存在が末梢されない……と思う事でしか乗り切れなかったのである】

【さて、心境報告は別として掻い摘んで1周目と2周目の相違を伝えよう】

【まずは2周目スタート地点。時間は巻き戻され、あの美人教師との交際が始まった翌日から、何事もなく物語は開始された。そう、何事もなく】

【両親の突然の海外赴任、幼馴染の通い妻化。過去の出来事は清算されたかのように、例の二人との関係はリセット。が、ご存じ難聴スキルは取り除かれていた】

【ふむ、おさらいの必要はない? ご尤もな意見だ。では、俺が言いたい事を要すると……神の言葉通り、改竄が働かれている。不都合ない時間に】

【1周目では影はあろうと未登場だった転校生、彼女の参加も唐突で突然である。過程をすっとばし、美少女が与えられるのだ】

【までは良い、今更不思議に思える話題でもなければ、放っておくのがベストだろう。先延ばしにしていた重要な点というのが】

【委員長までも世界の改竄に巻き込まれていた、という事】

【二つの人格が一つの体に住まう委員長。更に言えば、俺同様のプレイヤーであるのに、ヒロインとしての役割も果たす奇妙な立ち位置を持つ委員長だ】

【どう巻き込まれたかだが……1周目で彼女は、男からの言葉によって、リアルでの友人に会う決心をした。この学校の生徒でないことはまず確かである】

【で、2周目での彼女の発言によって、その友人と会ったという事実が判明。しかし、当の友人は委員長を覚えていないと話したらしい】

【ショックから委員長は学校を一日休む。……1周目の時間と照らし合わせると、ありえない話だった。彼女は一度も欠席していた事はなかったのだから】

【1周目では友人と出会ったにしろ、出会わなかったにしろ、この委員長が話す出来事と辻褄が合わなくなる】

【もう一つ、このやり取りをご清聴いただきたい……どうぞ】

男『ていうか、いつからこの世界にいた?』

委員長『最近です。ほんとに最近の話……丁度、4日か5日前ぐらいに』

【もちろん矛盾の指摘をここでしたい。委員長がモブに持て囃されてゲロっていたのは数日間前どころか、数週間も前だった】

【つまり、プレイヤーとして存在していた筈の彼女が、男を中心とした改竄に、巻き込まれていたのである。……そして考えてみた】

【本当にあの委員長は俺の知る“図書”委員長なのか? それすらも紛い物だったら?】

【なんて生易しい疑問ではない。既に、ずっと前から、俺が認識する以前より先に、委員長はこの世界の住人の仲間入りを果たしていたのでは、と】

【……全ての始まりであり、原因の元とした世界をAとする。ここへ確かに俺こと男と委員長は現実から連れてこられた】

【A世界においても現在とまったく変わらない行動を二人は取っていた。が、何らかの、男の事情により、彼はA世界を追放されてしまう】

【代わりに1ミリもA世界と変化のない『B世界』へ、男は全てがブランクに戻れた状態でここに召喚される】

【B世界はA世界を基軸としたパラレルワールドである。二つの世界は完全な別物であり、お互いが干渉しあえない】

【『^^』説が真実だったとしたら、彼女は俺のリスタートから取り残され、救出されず、文字通りの脱け殻として残され……ここにいる委員長は最初から紛い物だった、と】

【ならば、“図書“委員長としてのあの子は、始まりの再現を忠実に演じていただけ、となり】

【俺はNPCを現実の人間と思い込み、助けようとしていた? とかいう早合点は損しか生まないな】

【前向きにシフトしていくのが今の俺にやれる最大限の努力であり、力よ。マイナスしかないあの頃とは違うのだから】

【第一、神が好きに改竄を行えるならば、わざわざ面倒を招く図書委員長人格をコピペする必要はないだろう。その必要があったとするなら……いっそ仕方ないで済まそう】

【とにかく、ただでさえ寂しい彼女を悲劇のヒロインへ昇華させるのは鬱陶しい。同じ神に選ばれし者だ、どうせならハッピーエンドを掴ませてやりたいじゃないか】

【たとえ、それが虚しい現実へ帰すものだったとしても。俺は美少女ハーレムを作り、委員長は元の世界に戻る。これが真の理想なのだ】

【これに近づく為の鍵は揃っている。あとは実行に移すのみ……しかし、まず慣れないな。この顔も】

神「よかろうなのです^^」

神「それでは……いきますよ……目を閉じて……次に開いた時、そこはあなたの部屋……そして……」

【神には俺の考えは読まれている。前回のアレがハッタリでもなければ、いや、そんな冗談をかます相手ではないのは確かだ】

【後輩や天使ちゃんの動向も無論読まれていると思って、動くべきなのだろう。止めに入らないという事は、今はまだ止める意味すらないと解釈できる】

【それと……恐らく、この追体験に付き合わされているのは後輩の狙いではないと見た。コイツが仕込んでやがった、こう思うに越したことはない】

【俺が『^^』に薄々勘付くのも、どうするかも想定の範囲内か、だろうな。さて、過去で俺に何をさせたかったのか……神の目的から睨めば明らかである】

【この俺に、何もかもを放棄させ、さっさと終わりを迎えさせようとした、で間違いない。本人の意思を、本人の手で曲げさせようと企んだか】

男「また会おう、神。すぐに戻ってこようじゃないか」

男「すぐになぁ!――――――」

神「……察しのいいバカは嫌いですねぇ、神さまは^^」

男「――――ん」

男「……俺の部屋だ、さっき俺の中で見た最後の光景と一緒だ」

男(ご丁寧に3周目の追体験まで用意されていたのは予想通り。こういう形で元の時間へ帰ってくることすらも)

男「ふん。箱の中身が、カメラだったのも何もかもだ」

男「でも、紙切れが底にあったのは予想外だぞ……『お返しします』ってだけかよ。口で言った方が早いだろ、あいつ!」

マミタス「にゃー」

男「コイツは……うっ (本物かどうかなどお構いなしであった。俺は隣で寝転がっていた愛猫マミタスを抱きしめ)」

男「うわああぁぁ~~~んっ!! やった、下手すりゃ帰ってこれないんじゃないかと怖かったんだよ俺ーっ!!」

男「誰にも相談できねーし、ずっと体も動かせなくって狂わないって凄くないか!?」ブンブンッ

男「畜生マミタス! 俺の顔を思いっきり抓ってくれ!」  マミタス「ふしゃー」

男「あ゛ああああぁぁッ!! ……すまん、お前に頼んだ俺がバカだった」

男(顔に大きな爪痕を残しながらも俺は部屋を飛び出し、真っ先にあそこへ向かう。この喜びを分かち合おう、美少女よ、なんて)

男「(つもりが皆無なわけでもないが、まぁ) 妹、起きてるか?」ガチャリ

妹「…………え」

男(逸る気持ちを抑え切れず、ノックなしで中へ飛び込めば、そこには、皆まで言う必要もなかろう)

男「お……悪い! 着替え中だったとは思わなくて」

男「ま、まぁ、勘違いする前に言っておくと、別に覗くつもりで開けたわけじゃなくてだな?」

妹「[ピーーーー]///」

男「え? 何か言ったか? (しばしの沈黙、そして足の間をマミタスが抜けていくのを合図に)」

妹「えっちぃぃぃ~~~っ!! お兄ちゃんの変態最低覗き魔っ!!」

男「だから覗く気はなかったと説明しただろうが!」

妹「いいから早く出て行ってよぉ!!」

男(次々と投げられるぬいぐるみの群を全身に受けながら、ハイハイと退出。いっちょ前な下着はきおってからに)

男「なぁ、中にはもう入らないからそのまま兄貴の話を聞いてくれよ」

妹『ど、どうしよ……[ピーー]れた。お兄ちゃんに私の[ピーーー]れちゃった、[ピーーー]、[ピーーーガーーーーーーーー]///」

男(クールタイムが必要だったかもしれない)

男「聞こえてたか? おーい、返事しろって」

妹『わあっ、何でまだこの家にいるの!?』

男「いちゃマズイ理由が俺にあるのか!! とりあえず落ち着けって、謝るからさ」

男(一呼吸置かせてやると、寄り掛かっていた戸がガラリと開き、座ったままの体勢で俺は再び部屋へ転がり込んだ。文字通りに)

男「……何だ、もう着替えてたのか」

妹「……さいてー」

妹「ていうか話って何? 私はお兄ちゃんと話す気も顔合わす気もないんですけど」

男「おう、せっかくの決心鈍らせて悪かったな」

妹「上げ足取るなっ! いつまでも部屋の前に居座られて困るのは私だし……[ピーーーーー]」

男(満更でもなさそうだがな。いい加減、シュールな状態の会話を避けるためベッドに腰掛ければ、妹もそれに倣う)

男(この妹ちゃん、なぜ腹を立たせているのかというと、夕食時俺が目の前で幼馴染と惚気ていたのが最大の原因だろう)

男「(では手始めに関係修正を、そして) 少しお前の様子がおかしいと思って、心配になったんだよ。お兄ちゃんは」

妹「えっ、話ってそれなの…………うっわー……くぅ、私なに[ピーー]こと期[ピーーー]んだろ」

男「だけど必要なさそうだな。いつも通り自慢のかわいい妹じゃねーか」

妹「だぁー!? いきなりそういうの禁止なんですけど!!」

男(単純だが褒め煽て調子に乗らせる手は、どの美少女にも有効である。深層にある思いを一時的にも忘れさせられる)

男「(今は妹を俺へ引き付けさせる事に徹底する。一歩手前まで) これぐらいで照れたりするのか、お前。物凄い勢いで顔赤くなったぞ」

妹「照れてないっ!! こ、これはさっきまでお風呂入ってたからだし! ぜーん然フツーだもん、ほら!」

妹「…………あの……だからってまじまじ人の顔見ないでよぉ///」

男(無言で妹の美少女っぷりを眺め堪能するだけで、下準備が整う。これで世の人々の不満が吹き飛ばせそうだ)

妹「何なのほんとに……恥ずかしいからやめてってば~……」

男(遂には堪え切れず両手で顔を隠してしまう妹。じりじりと距離を詰めつつ、俺は彼女の頭に手を置く)

妹「だからほんとにさっきから何なのぉー!?///」

男「いや、前から兄貴らしいことしてやりたいとは思ってたんだけど、どうしていいものかと」

妹「こ、こんな事他のお兄ちゃんは絶対やってないよ! 様子おかしいのそっちじゃん!」

男「変か? 突然すぎたしなぁ……でも、お前嫌がる割には手払おうともしないんだな? 珍しい」

妹「[ピーーーーーー]に決まってるじゃんか……///」

男「は? ああ、ところで明日俺出かけるから、用無いなら留守番任せたぞ」

妹「そ、そうなんだ。どこかに遊び行くの? だ、だれと行くの?」

男「ここぞとばかりにグイグイと……べ、別に妹にはそこまで関係ないだろ。とにかく昼前には出るからな、それだけ伝えたかった」

妹「関係ないけど! き、気にはなるでしょ……どうせ[ピーーー]とだろうって分かり切ってるけどっ」

男「変な奴だなぁ。そんなに興味あるっていうならこっそりあとでも着けてくりゃ良いんじゃねーか? なんて」

妹「[ピッ]、[ピー]の手があったか……はっ、え? な、なーにお兄ちゃん? え、えへへぇ♪」

男(チョロいもうとの誘導終了。次に俺は部屋へ戻り、まっさきに携帯電話のメール機能を開いたのである。帰って来て早々休む暇もないな、やれやれ)

今回ここまで

男(朝、眠りから覚めてまず始めにする事は体の感覚が通じているか確かめることだった。今後の癖になるな、コレ)

男(一階へ降りて行くと、小刻みよく包丁がまな板を叩く音、が今日は聞こえない。事前に幼馴染には外で会うまでかならず顔を合わせないと誓わせたのである)

男(この方がお互いデートをより楽しめるだろうという、らしい、理由で納得してもらえたわけだ。さて、朝食を求めて冷蔵庫を漁っていれば)

妹「おはほー……んん」

男「日曜に早起きしたって一文の得にもならないだろ。おはよう、妹」

妹「お兄ちゃん、それ言う順序間違ってると思う」

男(見繕っておいたパンと昨晩の余り物をテーブルに広げると、「パンか…」と一言漏らす妹。「少し違う、パンが2つある」、「パン、ツー」、「アホ」)

妹「にしてもお兄ちゃんって、学校ある日はいっつも寝坊上等のくせして、遊びの話になると起きるの早いんだよねぇ」

男「バーカ。普段寝貯めとくことで、常にそういったイベントに備えてるんだよ俺は」

妹「すごいよお兄ちゃん。いまのだけで不真面目さ丸々詰め込まれてた気がするもん」

男(ツッコミがやや浅い。というか、この妹 若干上の空を感じる。俺の渾身のネタが穴から穴へ抜けて行っているような)

男(昨日の時点では、あの、フラグを立てることには成功できた筈。間違いなく彼女は……何か別の問題へ根を詰め出しただろうか)

男「……よーし、少し早いが支度も十分だ。そろそろ張り切って行ってくるわ」

妹「あー、んー、わかったよ。行ってらっしゃーい」ヒラヒラ

男「おい、兄を引き止めないのか妹!!」   妹「はぁ!?」

男(なんて戯けたやり取りを求めれば、行けの一言であしらわれる俺マジ愚兄。だが、俺よ。案ずる事なかれ)

男(留守番をするのにキメキメの服を着て朝食を取る奴はいないぞ。なぁ、我が美少女妹)

男(俺が最も危惧せねばならないのは、道中幼馴染以外の美少女とバッタリ鉢合わせることだ。家を早く出たワケの一つがコレのせいでもある)

男「(スケジュール通り事を運んでもらえれば、それだけで何も要らない。今日ばかりは) しかし……人ゴミの中っていうのは中々堪えるものがあるか」

男(目的地へ無事辿り着きはしたものの、人通りが多い場所である。選んだのは他でもない自分自身。後悔は決まってあとから来るものだ)

男(苦だと思ったのは、孤独の待機がというわけではない。というのも――時間だ、丁度10時を告げる鐘が鳴る)

「男くぅーん!」

男「……来たか」

幼馴染「はぁはぁ、……ふぅー。もう着いてたなんてビックリしちゃったよ! 待った?」

男「いいや、ついさっき俺も着いた頃だよ (人生一度は使ってみたい言葉、としてはありふれているか)」

幼馴染「そうなんだ。じゃあ少し安心、かな。えへへっ♪」

男「お前の方こそ約束した時間通りに来てくれて感心したぞ。やー、良かったよかった。間にあってくれて」

幼馴染「ううん、これぐらい大したことないよ……何ニヤついてるの?」

男「ゲームセットだな、天使ちゃん」ガシッ

幼馴染「えっ……」

幼馴染「何変なこと喋ってるの、男くん? 意味わかんないよ」

男「かくれんぼはここで終わって、勝者と敗者が分けられた。それで通じるだろう?」

幼馴染「わかんない……手、離して。強く掴まれると痛いんだけど」

男「ダメだな。昨日、だったか、廃病院では見逃したが、今日ばかりは絶対に認めてもらわないと」

男「タイムリミットは今日まで。まさか忘れたわけじゃないだろう?」

幼馴染「ほんとにどうしたの! せっかくのデートなのに、いきなりこんな事するなんて酷いよ……ねぇ、離して?」

男「そうだな、大体1時間後に幼馴染がここに来る。あいつを確認したらすぐにでもそうしてやるさ」

幼馴染「何言ってるの? あたしが幼馴染でしょ? そ、それにどうして1時間後?」

幼馴染「あたしが男くんと約束した時間は10時にこの時計の下でだったよ。遅れて来たらそれこそ、その幼馴染は最て……えぇ?」

男(言い終える前に俺は片手でポケットから携帯電話を取り出し、送信メールBOXを開いて“幼馴染”へ突きつけた)

男「コイツは俺が昨日お前に、いや、幼馴染へ送ったメールだろ。読めないなら俺が読んでやろうじゃないか?」

幼馴染「……しょ、しょうこは」

男「証拠も何も、お前普段使ってる携帯のことを知らないのか?」

男「俺は間違いなく昨日の夜に幼馴染へメールした。しかも、了解、という返事もこっちで受け取ったよ。ほら」

幼馴染「あ、あたしそんなの送った覚えない! 男くんからもメール届いてないよっ!」

男(見苦しいが、その焦りはこの俺にとって心地よい。不可視状態で部屋に居座られていた場合は厳しかったかもしれないが)

男(簡単なトリックだ。廃墟探索へまでわざわざちょっかいを出しにきた彼女が、幼馴染とのデートをスルーしないわけがない)

男(♀であれば何にでも姿を変えられる彼女ならば、我が家の猫へ姿を変え、俺と幼馴染の内緒話を外から盗み聞きするのは造作もないだろう。その強みと好意を利用した)

男「この通りしっかり送ったさ、都合が悪くなったから時間を11時からに変更して構わないかって」

幼馴染「でも、あたしは見てないの! きっと家族の誰かが勝手に触ったんだ!」

男「だったらこれから引き返して幼馴染夫妻に話を聞こうぜ。直接」

男「ていうか、お前が幼馴染なら持ってるだろ? 自分の携帯電話。見せてくれ」

幼馴染「……家に置いてきちゃったんだ。遅れそうになって、机の上に置きっぱなしで」

幼馴染「もういいでしょ? さっきから怖いよ、男くん。あたし、ほんとに今日のこと楽しみにしてたんだよ? なのに、こんなの……ううっ」

男「ふむ……傍から見れば俺がお前を泣かせた構図になるんだろうか。マジで見えてるならな、通行人に」

幼馴染「うぐぅっ!?」

男(どこまでもしらを切り続ける彼女に対して、こちらが放てる最大の武器は“存在認識”だろう)

男(わざわざ人の集まりが良い場所を、人嫌いな俺が選んだ理由がソレである。彼女の変身能力は完璧だ、だがこの世に同じ人間は二人いない)

男(最大限力を生かす為には、なるだけ人目の少ない場所を狙うのがベスト。大切なのは俺から見破られないことなのだから)

男(では、なぜ幼馴染が来るタイミングで彼女が姿を現したかのか。……悪戯好きで、何よりも俺を好いてくれた彼女ならばこその行動である)

男(推測では、幼馴染よりも少し先に俺の前に現れ、そのままデートへ連れ去ろうとしたのではないだろうか?)

男(彼女の性質を考えるに当たり、今までの行動から、嫉妬へ走る可能性が一番高いと思った。もしオリジナルへ見つかろうが、俺が呆気に取られている間に逃走してしまえば良い)

男「あえて高リスクで挑んでくる……昨日の件が確信へ結びついた」

男「お前は考えているようで、まったく考えていないただのバカだと!!」

幼馴染「ば、ばかぁ~~~っ!!?」

男「そうだ! 飛んで火に入る夏の虫、見事に引っ掛かってくれたというべきか、期待通りだったというか」

男(初めこそ警戒して人の多い場所を避けるかと不安してたが、美少女とのデートへ目が行きすぎたらしい、愛情は時に自らを狂わすのか)

男「どうする? 降参を聞いて、元のロリ美少女姿へ戻ってくれたら終わりだ」

男「詰みだろ、天使ちゃん。違うちがうと拒否し続けようが、こっちはお前が偽物だと証明できる方法を確保してる」

幼馴染「こ、このぉ~……じゃあたとえば!!」

男「向こうを見ろ……大声出した甲斐あったもんだな、通る人みんなが危ない奴見る目してるんだぜ。顔合わせてくれようともしないぞ」

幼馴染「こ、こういうのは男くんが一番嫌ってたことじゃねーですかっ! だから自分と外で話すのは気がすすま」

男「あんな連中に後ろ指さされるより、天使ちゃんと話せなくなる方が俺はつらいんだ!!」

幼馴染「ふえっ……///」

男(だって所詮モブキャラだし)

幼馴染「お、おお、男くん……いまのって……そのその、あのぅ……///」

男(崩した。負けを認めた方が遥かに自分の得になる、そう思わせる事こそが強情な美少女への有効手段よ)

男「天使ちゃん、俺自身のことは心底どうでもいい。大切なのはお前と触れ合えるかどうかなんだよ」

男「たった少しの時間だけだったが、天使ちゃんがいない間、俺がどれだけ心細かったかわかるか? 落ち着かなかったぞ」

幼馴染「そうなんですか……!」

男「そうだとも! だからこんな無駄なゲームは早く終わらせて、元通りの関係へ戻ろうじゃないか!」

幼馴染「……元通り以上を望むのは、ぜいたくでしょーか」ぼそ

男「ん?」

幼馴染「な、何でもねーですっ!! そんなことよりお待ちかねぇ――――」

天使「じゃんじゃじゃーん! やっぱりこの姿より可愛い女の子なんてこの世にいません!」

男(……これだから好きなんだ、屈服させる瞬間ていうのは)

男「ハイ、俺の勝ち。天使ちゃんの負けー」

天使「い、いいですよ別に! 悔しくないですしー!」

男「だろうな。お前、最初から負けるつもりでいたんだろう? 途中ムキになっただけで」

天使「……そいつは、神のみぞ知る、ですよ。うんうん」

天使「一つお尋ね申すですけど、もし自分がここに来なかったらどうしてたんです?」

男「まだまだ俺についての知識が不足してるじゃないか、天使ちゃんよ。一つ、俺は絶対に自分が負けると分かり切った勝負は受けない。そして二つ」

男「天使ちゃんは俺のこと大好きだ」   天使「ちょっ」

男「ねっ? 合ってるでしょ」

天使「あ、あ……っ/// 何が、ねっ、ですかふざけんじゃねーですよ!! 相変わらずおめでてぇ頭してやがりますねぇ!!」

男「ポジティブと褒めてもらいたいところです。そういう事でお前が来ないなんて無い。かならず来る。結果は言うまでもなくじゃないか? へへっ」

天使「……ふ、ふん! またウザったいのと一緒なんてうんざりしてきましたよっ」

男「おい、どこ行くんだよ? 怒ったのか?」

天使「気効かせてやろうってんです! そんなこともわからないんですか、バカめ!」

男(その言葉に現実へ戻されるかのように時計へ目を向ければ、既に針は11時を差し掛けていた。そして)

幼馴染「男くーん、あたしより早かったね? 待たせちゃったかなぁ」

男「い、いや……今来たところだ……」

幼馴染「そっか、良かった~! ところでさっき男くん 誰と話してたの?」

男「俺は一人でずっとここで待ってたんだが」

幼馴染「あれ、そう? ……ま、いっか。じゃあ行こうよ、初デート♪」

ここまででん

「来た、待ってた! 急いで隠れて! ……現在時刻ヒトヒトマルマル。ターゲットB、ターゲットAに接触。どうぞ」

「今度は何ごっこを?」

「遊びじゃなくて真剣な尾行。こういうのは形から入るのが基本だってウチのおばあちゃんがよく言ってた。どうぞ」

「ではでは、その尾行に第三者を巻き込んだワケは」

「うむ……うーむ…………頼りにしてる、後輩ちゃん」

後輩「頼りって。ふぅ、急に呼び出されて何かと思えば、かなー……あはは」

妹「だめかな? お願いっ、どうしても私一人じゃやり遂げられる自信ないの! ねっ、ねっ!」

後輩(あの人にイベントが起きるように、私の元へもこうした遊びの誘いが来ることが稀にある)

後輩「(こういったケースは始めてだけれど) 別にいいよ、丁度暇持て余してたところだから」

妹「ほんとぉ~~~!? あはっ、私たち二人ならもう安心だよね! これで大船乗ったよ!」

後輩「……それに、まぁ……面白そうっていうのが正直な本音かも」

妹「ん?」

後輩「ところで、よそ見してて大丈夫? 先輩たちもう移動し始めてるよ。どうぞ、ふふっ」クスッ

妹「げえっ!? は、早くあと追うよ、後輩ちゃん! 急いで、見つからないように~っ!」

後輩(たまにはあの人が作った嵐に巻き込まれてみるのも、悪くはないかもしれない。被害者立場で)

後輩(リーダーに従い、あの人の背中を物陰から見守り続けている。そそくさ、そそくさと影から影へ動き回って)

後輩「妹ちゃん、見てるだけで先輩たちに何かするつもりはないの?」

妹「無理むりっ! つけてたのバレたりなんかしたら後で合す顔なくなっちゃうよ!」

妹「それにこれは……ううん! と、とにかく見てるだけが作戦!」

後輩「ふーん……」

妹(お兄ちゃんと幼馴染ちゃん、めちゃめちゃ仲良さそうじゃんかよぉ!! な、なにあれ。ていうか、二人ってやっぱり)

妹(っ~!! そ、それを見極める為の尾行じゃない! でも、私に内緒にしてたって事は、うぐっ)

後輩「……先輩、お兄さんのことが気になるの? 妹ちゃん」

妹「や、藪から棒に何さ? 別にっ! ただ、お兄ちゃんが幼馴染ちゃんに変な真似しないように見張ってるだけ」

後輩「そっか。先輩って人一倍スケベだもんね、ふふふっ」

後輩(察するに、彼女が突然尾行なんて考えに至った原因は勿論あの人の誘導によってなのだろう。私がセットで着く目算はあったのかな)

幼馴染「さっきからずっと後ろ気にしてるけど、どうかした?」

男「えっ、そんなにだったか? とりあえずどこか入ろうぜ。幼馴染が決めてくれ」

男(妹、見ているな。この幸せそうなカップルを妬ましげに……クククッ、悪く思うなよ)

後輩(私もいまーす。いますよー)

妹(洋服屋に入った? しかも男物のコーナー。そ、そうか! きっと幼馴染ちゃんがお兄ちゃんの服レパートリーに呆れ果てて、それに付き合って買い物に!)

妹(お兄ちゃんのセンス絶望的だもんねぇ。人から選んでもらえば私服も少しはマシに……だったら先に私頼ってもいいじゃんかよぉ!)

妹「ぐ、ぬ、ぬっ……!」ギリギリ

後輩「あー。いつもと違う格好になれば、先輩も印象変わってカッコよく見えるようになるかも」

妹「は、はぁっ!? あのお兄ちゃんがカッコよくなるとか大地ひっくり変えってもありえないし!」

妹(……アレとか結構似合いそう。……い、いいじゃん///)

後輩(表と裏のギャップに噴き出しそうになるのは、私が人に慣れたせいでしょうか)

幼馴染「見てみて! このベストなんかとっても似合うと思うんだけどな~」

男「……俺は量産型木こり族の型にハメられるのだけはご免なんだが」

幼馴染「パーカーとかチェックの上着ばっかり持ってるんだから、少しは冒険してみないと、だよ!」

男(こいつ、絶対ジーパンをジーンズやらデニムと呼ばないと気に食わないオシャレ番長だ)

妹「やれやれ。なーんか代わり映えしないからかなぁ、私ちょっと飽きてきちゃった気が」

後輩「なるほど、私を誘った妹ちゃんの判断に間違いなかったわけだ。いいの? アレ見て」

妹「んー? ……ちょおぉ~っ!! なな、何で突然見つめ合って良い雰囲気みたいになってんのさっ!?」

後輩(コロコロ変わって面白いなぁ、この子)

後輩「どうする? ふふっ、代わりに私が邪魔しに間に入ってみようか」

妹「それもアウトだからっ! (で、でもアレは……ほんとにあの二人……っ)」

後輩(その一方で、彼らの頭の中では)

幼馴染(偶然手が触れちゃっただけで……ああ、今あたし、しっかり男くんとデートできてるんだね)

幼馴染(買い物が終わったらその後どうするんだろう? 何も起こらないで家に帰る? そ、それとも///)

男(お互い意識している、という素振りに妹は受け取っていると思われる。このまま壁際まで追い込んでくれよう)

男(アイツは、崖っぷちに立たされることで真価を発揮できる美少女なのだ)

後輩(……この人ほど複雑に語って、独り善がりに浸りたがる思考の持ち主を見た事がない)

後輩(話は遅れたけれど、私には人間の心が読める。人と接するに当たり主から与えられた力で、先輩とは真逆のスキル持ちということになるのかもしれない)

妹「も、もう見てられないよっ……帰ろっか……」

後輩「心配いらないと思うな、妹ちゃん。なんだか今のは事故だったみたい」

妹「え? あ、何事もなかったように服選び戻ってる……もうっ!!」

後輩(ほっとしているのか、不機嫌なのかといった様子で監視を続ける彼女。そして、その横を通り過ぎていく小さな影が一つ)

天使(自然にガムくっつけてやるチャンス到来)トタタタッ

後輩(……なにあれ)

後輩「い、妹ちゃん、私少し電話かける用できちゃったから離れるね……」

妹「えぇ!? う、うん、わかった。すぐ戻って来てねー!」

後輩(そう伝えながら問題児に追い付き、小脇に抱えて目立たない場所まで連行するのに5秒はかからなかった)

天使「ぎゃあーっ、なぜにあなたがここに!!」

後輩「まぁ、野暮用みたいなもので。それよりあなたこそ今何しようと考えていたの」

天使「お、怒ってるんですか……ふん、ちょいと魔が差しただけですけどっ!?」

後輩(仮にも天使なんて呼ばれる子が、『魔が差す』なんてお笑い草も良いところだ)

後輩「何かしでかす頃合いとは思ってたけど、かわいい悪戯だなんてね……本当に驚いた」

天使「でしょう? かわいい天使のかわいい天使によるかわいい悪戯なのです。これ、スルー推奨ですよ」

後輩「……今日は私も先輩に付きっ切りになりそうだから、妙な考えしない方が身のためだと思うけどな?」

天使「ぐっ……ぶーっ!!」

後輩(ちょっかいを出したがる気持ちはわからないでもない。だけど、たぶん、あの人にとって『最後』が近づいているのだから)

後輩(せめて一日だけでも、好きにやらせてあげたい。……でも、彼が最後を迎える時は、私たちの最後でもあるの?)

天使「自分だって、あんな風に楽しく喋ったり遊んだりしてーです……いいじゃないですかぁ」

後輩「そうだね、羨ましいね」

後輩(同情は私たち使いにとって程遠い感情の一部だ。それなら、私がこの子に僅かでも思った気持ちは何だろう)

後輩「……天使ちゃん、ここで待っててもらえるかな?」

天使「はえ?」

後輩(子供服コーナーに彼女を置き去りにしてきた私は、丁度良くあの人の傍を離れた幼馴染さんへ声をかけた。偶然を装って)

幼馴染「あれ、前に学校で会ったよね? 確か……」

後輩「ええ、覚えて頂けてて嬉しいです。もしかして何かお探しですか? 私、最近このお店でアルバイトしてるんですけれども」

幼馴染「そうなの? じゃあ、ちょっぴり選ぶの手伝ってもらおうかなぁ。えへへ」

後輩(先輩も妹ちゃんも私たちには気がついていない。そして、長く離れていたせいだろう。先輩が幼馴染さんを探しに店内を回り始めた)

後輩「向こうの服なんかどうでしょう。案内しますので着いて来てもらえますか?」

幼馴染「あ、うん。大丈夫だよー (最終的にはあたしがしっかり選んであげた方がいいよね、やっぱり♪)」

妹(遅い……後輩ちゃんいつまで掛かるんだろ。お兄ちゃんはいきなり一人になってるし、幼馴染ちゃんはどこ行ったんだよー?)

男「幼馴染が見当たらんぞ、俺を置いて何処うろついてるんだ? こういう場所に不慣れなのアイツも知ってるだろうに……ん」

天使「おやおや、これはなんと奇遇な男くんじゃねーですか!」

男(そうか、奇遇なのか。そう思うには怪しいところだが、天使ちゃんが両手に抱えた服の数々を見てそれすら瞬時に吹き飛んだ)

天使「自分の愛らしさに吊り合う洋服どもを回収しました」  男「返しなさい」

男「お前が物持つと俺以外にはその場に浮いて見えるだろうが! 大体、水着のときみたいに現物必要ないだろ」

天使「あ、そうか。トレースしちゃえば買わずとも好き放題ですねぇ」

男(言うが早いか、くるりと身をひるがえした天使ちゃんは魔法少女よろしくな輝きに包まれ、服装を変化させる)

天使「ほらほら~! 似合いますか~、褒めてくれたって全然いいんですから!」

男「こんなところでファッションショーおっ始める気かっ」

天使「自分も純情可憐な女の子ですもん。今すぐ感想を聞かせてもらいたいじゃないですか~」くるくる

男(瞬く間に服装をチェンジしていく天使ちゃん。彼女の目に狂いはないようで着替えるたびに雰囲気や色をガラリと変え、美少女っぷりを加速させた)

男(先程は気を利かせて身を引いてくれたのだ、これぐらいのワガママなら付き合ってやろうではないか。ご機嫌取りに)

男「似合ってるよ。すごく可愛いと思うぜ」

天使「……ほんと?」ピタッ

男「いつもの格好に見慣れたせいもあって、どれも新鮮だな。正しく『天使ちゃん』って感じでグッドよ」

天使「う、うぇへへ、素直に褒められるじゃねーですかぁ! このこの!///」

後輩「(そろそろ限界かな) すみません。私呼ばれたみたいで、裏の方に行ってこないと。それから先輩にはバイトのこと、内緒にしてもらえません?」

幼馴染「内緒に? ん、いいよ。教えてからかわれるの嫌だもんね。男くん子どもっぽいとこあるから……あっ、男くーん!」

男「おうっ!? あ、ああ、幼馴染……天使ちゃんは、また気効かせてくれたか」

男「放っておかれた立場として一言だけ言わせてもらうと、心細かった。一人でどこ見ていた?」

幼馴染「ご、ごめんごめん。色々探してるうちにあっちこっちに……ていうか、寂しそうには見えなかったけど」

幼馴染「また誰かとここで喋ってたよね、男くん?」

男「ずっと一人だったが? たぶん暇潰しに自分と自分での会話を楽しんでたんだろうよ」

幼馴染「そっか、それなら別にいいけど。ねぇ、一回他の店も見て回ろうよ! せっかく大きいジャスコ来たんだから!」

男(オシャレ番長、危うしか)

妹「結局何も買わないで出て行っちゃった……ん、ああっ! 後輩ちゃん遅いよ~!!」

後輩「思ったより話が長引いちゃって。それで、ふふっ、まだ尾行は続くんですか? リーダー」

妹「当然よっ! ここまで来たら後には引けないってば!」

後輩(目が離せない、の間違いだなんて冗談は怒られるんだろうなぁ。こうなったら私も意地でも先輩に見つかりたくなくなってきちゃった)

「ねっ、わたしの話した通りですヨ! もうつけ麺邪道、親の敵だなんて言えないでしょ~?」

「そうは言うがね、食している最中にどんどん温くなっていくのは耐えられない。それに、あの濃さならば二口、三口で私は十分で」

妹「後輩ちゃーん? 足止まってるよ、どうかした?」

後輩(本人たちに自覚はなかれど惹かれ誘われるのが、主の与えた『モテ力』。あの二人、このまま進めば先輩たちとかならず鉢合わせる)

後輩「(いつもこういう役割になっちゃうな、私) ち、ちょっとトイレ行ってくるね。すぐに合流するから先に行ってて?」

次回土曜

先輩「ご飯食べたあとってよく眠くなる人多くない? 多いよね? そしたらわたし異端!?」ウキウキ

生徒会長「さぁな……どうやら私は大多数に分類されるようだし帰ろうか」

先輩「どえっ、華の女子高生がランチでグッバイなんて許されると思う!?」

生徒会長「そうは言うが目的の無いウィンドウショッピングはどうも苦手でな。君とてそんな人間と時間を潰すのは不本意だろう?」

先輩「ばかめっ、わたしはずっと楽しい! 生徒会長ちゃんが好きだから!」

生徒会長「ぁあああぁぁ、どうしてそういう台詞を恥ずかしげなくっ!!」

先輩「それにね、こういう風にわたしたちが外で遊ぶのって久しぶりだよ」

先輩「たまには付き合って、ワガママ。お願い……」

生徒会長「…………最近じゃあ毎日のように付き合わされているだろうに」

生徒会長「ま、まぁ……! コホン、食後の運動程度には君に振り回されてやっても構わないが、な///」

先輩「グフッ、やっぱチョロいでこの女。よっしゃー心の相棒! どこから巡りましょうねぇ!!」

生徒会長「帰るっ!!」  先輩「そいつぁ面白いご冗談だねぇ!」

後輩「…………うーん、どうしたものかな」

後輩(あの三年生組とは未だ面識がない。そもそも関わる必要がなかったから仕方がないか)

後輩(つまり完全に立場は第三者。ただ声をかけても大して時間を稼げるかどうか……第三者、ううん、これで行けるじゃない)

先輩「口では嫌がってても体は正直じゃのう、おぬしぃ~ (生徒会長ちゃんが何好きか全然知らないんだよね。やっぱり本屋とか無難?)」

生徒会長「どうせ逃げても追ってくるんだろう? 家にまで上がられては迷惑だからね (私と彼女では趣味も合わない。気まずくさせてしまうだけではないか?)」

先輩・生徒会長(いやぁ、この二人でどこ覗けって…… 「ヘーイヨー☆ そこのチャンネーズ、ルックミー!」

先輩・生徒会長「ん? ……ん」

先輩「あの鼻眼鏡ドンキに置いてたの見たことあるなぁー。知り合いでっか?」

生徒会長「馬鹿な。私がああいう類を苦手な事は知っているだろう。どちらかといえば、君寄りの属性だ」

先輩・生徒会長「どなた?」

?「はっはっはー、名乗るほどの者ではないヨー。私、じゃなくって、ミーの事は置いておくとしましてね、はい」

?「ズバリ、この後当てがなくてお互い困り果てていたデ・ショー!」ビシィッ

先輩・生徒会長「…………」

?(あれ? ……どうしよう。ちょっと嫌な汗掻いてきちゃった……おかしいな……片方は絶対食いつくと思ってたのに……)

?「ど、ドーセお店に迷ってるならこのミーにお任せあれ! さささ、二名様ゴ・アンナーイデース!」

先輩「あの、それって素のキャラなんですかねぇ……あはは」

?「だったら文句あるんですか!!?///」

先輩「いーえ、まったくございませんねぇ!? ごめんなさいっ!!」

?(強引にだけど、背中を押されるがまま二人の誘導には成功。あとは先輩たちのルートから遠ざけるだけ)

生徒会長「……なぁ、本当にこのまま着いて行くのか? 不安要素しかないのだが」

先輩「で、でも面白い人だし。それに変な場所に連れてかれそうになったら逃げれば平気だよん」

先輩「いざとなれば、わたしが生徒会長ちゃん守ったげるからぁ! ふふーん、心配ご無用ですってば!」

生徒会長「その慢心も不安要素の一つだと言いたかったんだがね、私は……それで、鼻のあなた」

?「わ、私? あっ、ハーイ。そっちの彼女の言う通り心配いらずデース。楽しいところにゴ・アンナイですことヨー」

生徒会長「確かに面白いな。面白いぐらい不審な人物だぞ、どうなんだ?」

先輩「えーっと、鼻の人はこのモールで出してるお店の店員さん? 呼び込みとかっすかねぇ~……」

?「(信用の欠片もないと来たな。この調子じゃ逃げられてしまう……私、恥を捨てるの) 実はミーはですね、人の考えている事を的確に当てられるエスパーなのデース。この装備は伊達じゃありませんよ?」

先輩「だってさー」  生徒会長「胡散臭さもここまで来るとな」

?「信じてませんネ? 世の中には科学で説明できないことは山ほどありますよ。試してみますか?」

生徒会長「ああ、良いだろう。どうぞ?」

?「では…………見えます……見えてきました。そこのあなたは、私を見下し、怪しんでいる……ね?」

生徒会長「帰ろう」   先輩「参ったねこりゃ!」

?「だって!! ああもうっ!!///」ジタバタ

生徒会長「そろそろ理解しただろう。アレの後ろを着いて行っても無駄だとな」

先輩「鼻の人! ごめんねぇ~、そういうわけだからわたしたちお別れってことで~……」

?「  待  っ  て  」ガシッ

先輩・生徒会長「!!」ビクゥ

?「……あなたたち二人、同じ男の人を好きになってるでしょう。違いますか?」

?「(言われてすぐさま、瞳を大きく見開いてギクリと反応を寄越してくれる) 当たってますよね。詳細まで喋りましょうか? その人は同じ部活に属していて、学年が一つ下の年下の男子」

生徒会長「もうあなたの詐欺に付き合うつもりは毛頭無い! 行くぞ!」

?「初めに言いましたよ、考えがわかるって。ウソなんかじゃありません。全部事実です」

?「もしかすれば……ふふっ……私の言うことに従っていれば、彼を手に入れられるかも? なーんて」

先輩「うえっ、ちょ……いやぁ~冗談キツイっすよぅ! そんな、またまたぁ!」

?「あは、ですよね。初対面の、しかもこんな変人の戯言を信じろという方が難しいですもん」

?「楽しいところお邪魔してしまってすみませんでした。……でも、最後に一言だけ許してくれませんか?」

?「もたもたしていると、取られちゃいますよ。彼に近しい人から」

先輩「ちょいと」  生徒会長「話を聞かせて頂きたい」

?(…………あはっ)

先輩「れ、恋愛成就のラッキーアイテム」

生徒会長「これは本当なんだろうな……」

?「言っておきますけど、このお店で何か買われても私には何の利益もありません。騙されたと思って試してみるのも一興じゃありませんか?」

先輩「でも、こんなちっこいマスコット付けたぐらいじゃ、ねぇ?」

生徒会長「いや……私からは何とも……鼻の人、あなたは一体何者だ。私たちをどうするつもりで、こんな」

?「はっはっはー、暇を持て余した恋に悩める乙女の味方デース!」

?「そして……しいて言わせてもらえば、叶えたいんですよ。一人でも多く、乙女のドリームを」

先輩「生徒会長ちゃん。わたしこういう話に乗せられて痛い目見たってヤツテレビで見た覚えがあるんですけどー!!」

生徒会長「怪しいのなら初めからそうだったわけだが」

?「ふーむ、お二人にミーのお助けはもう必要ないみたいですネー?」

先輩・生徒会長「えっ」

?「ミーは道を示し終えましたヨ。役目は果たした。あとはあなた方がラッ・キー・アイテェムを買うか、否か」

?「お値段はけしてお高くありまセーン。小学生のお小遣いでも余裕ネ。時間はたっぷり、いっぱい悩んで決断してドーゾ! サ・ラバダー!」

先輩・生徒会長(う、胡散臭い……だけど……で、でも……!!)

後輩(大変ですね、恋に悩める乙女って)ス

長く掛かってしまったけどここまで。次回は水曜日

後輩(藁にも縋りたい彼女たちにとって、如何わしい誘惑も時として効果を発揮するのである。えっ、罪悪感ですか? ありません。私人間じゃないですから)

後輩(私の方は上手くやれたけれど、向こうではどうなっていることやら……)

妹「後輩ちゃん遅かったっ!」

後輩「ごめんね、今日は朝から調子悪くって。先輩たちは?」

妹「あそこで楽しそうに子犬見てるっ。ウチのマミタスに不満あるっての~……!?」

後輩「でも先輩は犬より猫の方が好きだって私は聞いたけど。でも、特に変わりなさそう……良かった」

妹「そう? ……とか言ってる割に後輩ちゃん、二人のこと見る目おかしくない?」

後輩「えっ」

妹「最初からだったよ。何ていうかいつもみたいな余裕とか? 落ち着きがないっぽい、みたいな」

後輩「ふーん、妹ちゃんの気のせいじゃないかな?」

妹「…………もし、もしだよ。二人が付き合ってるってわかったらどう思う」

後輩「私には関係ないよ。妹ちゃんからしたら複雑な気持ちになるだろうけど」

後輩(この子の今の考えが読めない。いや、読めないというか考えがない。率直に思ったことを口にして、曝け出している)

妹「ねぇ。後輩ちゃんはさ、お兄ちゃんのこと好きなんでしょ……」

後輩「バレちゃった? ふふっ」

後輩(そうして返された彼女は、物思いにふけるように遠い目をし、再度私の顔を眺めると深くため息をした)

妹「あんなバカでマヌケジコチューの変態兄の何が気に入ったのよ?」

後輩「私以上に良いとこ知ってるでしょ、妹ちゃんは」

妹「ぎ、逆に教えてもらいたいもんだってば……じゃあ関係なくなくない?」

妹「あんなお兄ちゃんでも好きになったなら、幼馴染ちゃんに取られて悔しいとか思わないの?」

後輩(まるで私を鏡に見立て独白しているみたいだ。ここまで彼らを追ってきたことで、気持ちの整理が追い付かなくなっている)

後輩「(“もしも”が現実だったなら、って) 先輩にも選ぶ権利があるよ」

妹「そ、それとこれとは別だよ。自分の気持ち伝える前にあんな風になられたら、私だったらおかしくなっちゃう……!」

妹「自分が惨めでさ、明日からどんな顔しておはようって言ったらいいかわかんなくなっちゃうよぉー……!」

後輩(あの人の企みは見事にはまってしまったという事だろうか? とはいえ、これでは一押し足らないのでは)

後輩(妹ちゃんを限界まで追い込む、とあの人は考えていた。その目的は成功しているだろう。だけど、その後を一体どうするつもりで)

妹「あ、あれ見てよ。さっきから二人とも距離すっごく近いでしょ? 何度も手繋ぎそうになってるの」

妹(失敗だ、着いて来なきゃよかったんだよ……雰囲気とかアレ完全にカップルだし、こんなのもう確定じゃん……ばかぁ……!)

後輩(お通夜も良いところ。参ったな、こんなの私も面白くない。それに彼女はずっと前から自分がどうすべきか、答えを見つけている。仕方がないですね、先輩)

後輩「(一つ貸しです) ふふっ、妹ちゃん! 後悔するより先にやるこ――――」

「わたくしこちらの雑誌で記事を書かせて頂いている者なのですがァーッ!」

「モデル!? そ、そういうの結構だわっ!!」

後輩「……こっちこそ願い下げってところなんだけど」

妹「え? ど、どうしたの。怖い顔して」

後輩「またお腹の調子が悪くなってきちゃったみたいだからよろしくね……っ!」

妹「ちょっ、えええぇぇ~~~!? またぁー!?」

後輩「またなの!! 絶対置いて一人で帰ろうとしないで、わかって!! (次から次へと飽きもせずやって来るものだ。付き合う私も大概か)」

後輩(一応の念押しをして声の方へ向かうと、記者らしき人物に絡まれ、慌てふためく……刺客の姿)

転校生「だから興味ないって言ってるじゃない! あんまりしつこいと人を呼びます!」

「ですがね、こっちは一目見ただけでお嬢さんにピンと来てしまったワケですよッ! その端整な顔立ち! スーっと伸びた長い足! スタイルッ!」

転校生「い、いくら煽てたってその気になんかならないんだからっ!!」

「十年……いや、百年に一人の逸材ですな……JKの星を目指しませんか? お願いしますよぉ……」

「もしかして彼氏とかいます? だったら今より綺麗になれば彼が夢中になってくれるかも……」

転校生「む、夢中……そ、そんなはず……///」

後輩「あーっ、ようやく見つけましたよー」

転校生「はい?」

「誰だい君は、彼女の友達かね。いまオジサン達は大切な話をしているんだ、後にしないか?」

後輩「えー、でもー嫌がってるみたいだったしー。そういうの見過ごせないんでー」

「ふむ……よく見ると君も悪くない。だが、このタイプは生憎間に合っているぞッ!」

「どうして最近の子はこう、その辺りがすとーん……と…………実に惜しいな、君」

後輩「(貴様に来世はない。私が来させやしない) あー、今のってーセクハラですよー」

転校生「えっ、ええ! そ、そうよセクハラ発言だったわ! 警察呼ばせてもらうわ、オジサン」

「か、勘弁してくださいよ~。とりあえずコレね、名刺だけ渡します、ハイ。ではでは……」

転校生「ふぅ、助かった………あなた、お礼言わせて。本当にありがとう!」

後輩「いえいえ、お構いなく。でも余計なお世話だったかもしれませんねぇ」

転校生「ううん、冗談じゃないわあんなのっ。私いらないからこの名刺いる?」

後輩(あのまま放っておいた場合、転校生さんはしつこい記者から強行してまで逃走を図っていた。決定事項だ)

後輩(そうして逃げた先には……といった感じに。あの人の力を例えるなら、強力な電磁石。女の子たちは抗う事も意思も関係なく、吸引される)

後輩「必要ありません。お礼がしたいというなら、数枚、許してもらえませんか?」サッ

転校生「しゃ、写真?」

後輩「はい、時間はそれだけ取らせないつもりなんですけど。ダメでしょうか」

転校生「助けられた手前こっちも嫌とは言えないけど……私を撮る意味ってある?」

後輩「勿論あります。実は私、あなたと同じ高校に通っている後輩というものでして」

後輩「ずっと、以前から気になってたんです。綺麗な人だしレンズに収めれば絶対映えるだろうなぁって、ふふっ!」

転校生「そ、そうだったんだ。ええっと、こういう時って素直に喜んだ方がいいの、かしら……///」

転校生「(この子のこと全然知らないけど、変に断っても申し訳ないわよね? これもお礼だと思えば) そんなことで良いのなら、うん、いいわ。どうぞっ」

後輩「あは、良かった! じゃあ一番カッコイイと思うポーズください、転校生さん」

転校生「へっ……今ここで? ていうか今なの?」

後輩「善は急げと言うじゃありませんか。気が変わってしまう前に。大丈夫、あなたなら何処で撮られようと霞みませんよ」

転校生「そ、そういう問題じゃないわっ! だってここ、周りに人も多いし、そんな所で急に写真なんか撮られ始めたら……///」

後輩「ふふ、心配ありませんよ? カメラマンはレンズ越しなら何も恐れません」

転校生「こっちの心配はしてもらえないのかしらっ!?」

転校生「お願いだからせめて人のいないとこでして! 今度学校でとか!」

後輩「人目に晒され恥じらいながらも慣れないポーズを頑張る転校生さんを私に撮らせてください」

転校生(一難去ってもまた一難だったわ……っ!)プルプル

後輩「酷な頼みだというのはこちらも承知の上です。だけど、どうしても私の思い描く出来にするには……どうしてもっ……!」

後輩「お願いします転校生さん!!」

転校生「ひゃい!?」

後輩「この通りです……誤解しないで、この機会を狙ってさっきは助けたわけじゃありません」

後輩「本当に、あなたは私の憧れだったんです。一度きりと思って今日だけでも許してくれませんか! 二度と近づきませんから!」

転校生「そ、そこまでしなくてもっ!!」

転校生「っう~……わかったわよ、いいわよ……///」

後輩「そうですか。では早速お願いします、カッコイイポーズ」サッ

転校生「切り替え滅茶苦茶早すぎない!?」

転校生「だけどカッコイイポーズって何よ……どういうのが良いの…………こ、こう?///」

後輩「スゴイ!! 流石学年一の美少女と呼ばれてる転校生さんですね、カッコイイ!!」ピピッ、ピピッ

転校生「ちょっ!? 声大きいわよ!」

「あの子たち何してるの?」  「写真撮ってるみたい」  「あらー」

後輩「どうしたんですか! 腕が下がってきてますよ! あーっ、良いですそれ! 可愛い! 無敵!」ピピッ

転校生「もうやめてーーー……///」カァァ

後輩(彼女の扱いにかけてはあの人の右に出る者はいないかも、というわけでもないようだ)

後輩(転校生さん一人を相手にする際はこうして、徹底的に羞恥心を煽ってやればいい。何をしにここへ訪れたかは知らないけど)

後輩「(今、彼女はこの場を立ち去ることしか頭にない) 次は可愛い動物の真似いってみましょう。悩殺されちゃうのをお願いしますね?」

転校生「もう許して!? 無理よ、限界っ……しんじゃう……///」

後輩「転校生さん、周りの目が何だと言うんですか。あなたは私だけを見ていたらいいんです」

後輩「とは言っても簡単に緊張は解れませんよね。今日はどういったご予定だったんですか?」ピピッ

転校生「よ、予定? それはその、適当に買い物に……お料理の本とか……」

後輩「そっか。恋人か好きな人に手料理を振舞いたいんですねー」

転校生「はぁ!? ちちち、違うわよっ! 別にそんなつもりなんて全然ない!」

転校生「わ、私はただアイツを見返すぐらい上達して驚かせてやろうと……わあああぁぁ、もう喋らせないで!!///」

後輩「良いじゃないですか。男子の胃袋を掴むところから始めるのもアリだと思いますよ、私」

転校生「これだけじゃ、アイツは、あの変態バカはちゃんとわかってくれないわよ……」

後輩「でしたら思い切ってご自分のイメージを変えてみたらどうですか?」

転校生「えっ、イメージ……?」

後輩「丁度ここには中々評判の良い美容院があるみたいですし」

後輩(あれ、私はいきなり何を言い出しているんでしょうか)

転校生「つまり、あなたが言いたいのって私に思い切って髪を切れってこと?」

後輩「え? ああ、そうですね……一新するに手っ取り早いのは髪型を変えるのが良いと思ってますから」

転校生「髪型……髪、か……」

転校生(そういえば合宿のときもアイツが髪型がどうだとか喋ってたわよね。最初は少しくくるぐらい試そうか自分でも考えたけど、結局)

転校生「……ちょっぴり、あなたの意見取り入れてみようかしら。暇はあるし」

後輩「で、でもやっぱりここのお店よりも他の場所にある所の方が良い感じかもしれません!」

転校生「そうなの? でもせっかく来たことだし、今回はあなたが話してくれたお店に行ってみるわ。近いんでしょ?」

後輩「間違って首までゴッソリ持っていかれたらどうするんですか!?」

転校生「持っていかれるわけないでしょ!?」

後輩(失言だった……余計な口を滑らすから。とにかくその付近へは先輩たちを近づけさせないよう細心の注意を払うしかない)

後輩(ともかく転校生さんはこれで退けたことにしておこう。あとは次が来ないのを祈るだけ、本当に)

転校生「とりあえずもう写真は十分よね? 変なことに使っちゃダメよ絶対……」

後輩「そうですね、任せてください」

転校生「何を!?」

今回ここまで

幼馴染「えへへ、いっぱい喋りながら歩いてたら喉渇いてきちゃったね。一休みにそこでコーヒー飲んでかない?」

男「腹減ってないのか? 俺たち昼食まだ取ってないんだぞ」

幼馴染「このお店のね、ホットサンドが美味しいってクラスの子から聞いたの! 嫌だったら他探すけど……ホットサンド」

男「(以前なら難聴の壁に隠されたかは知らんが、ひょんな呟きが聴き取れるだけでこうもイージーモードを痛感させられる) 探す手間が省けたんだ、入ろうぜ」

男「ていうか、お前も大概分かり易い奴だな! 自然装ってここまで誘導してたんだろ?」

幼馴染「えぇ!! だ、だって~……もうっ、どうして変な所で鋭くなるかなぁ///」

幼馴染「でも良かった。誘っても男くんだったら『俺は意識低いから無理だ』とか言って、こういうお店避けると思ってたもん!」

男(ひょっとしてケンカ売られてるのか、俺)

後輩「――――あのお店の中に入って行ったみたいだね。どうする?」

後輩「え、妹ちゃん? いないの?」

後輩(気がつけば少し前に合流したばかりの妹ちゃんの姿が無い。何も言わずに置き去りにするとは、彼女の性格上考えられないけれど……まさか厄介事の前兆じゃ)

妹「あれ、お兄ちゃんたちどこ行った?」

後輩「!! び、ビックリした……それよりどうしたのその袋。買い物してた?」

妹「ちょっとね~。丁度良いとこで見つけちゃったからさ……はいコレ、整腸剤!」

妹「一番安いの買ってきちゃったんだけどね。でも、気休めでも飲んでおいた方がいいよ」

妹「病は気から、ならば逆も然りってね! お兄ちゃんが私によく嫌味全開で言ってたの。ウザいでしょ? ししっ!」

後輩(そう言って袋ごと私へ押しつけると、見ているだけで私まで温かくなるような笑顔を向けてくれた)

後輩「ねぇ、あなたって私の友達なのかな」

妹「ん? なに?」

後輩「う、ううん。やっぱり何でもないから気にしないで (彼女もあの人が作りだした幻想だ。人でありながらも、現実ではない模造品だ)」

後輩(……何を、戸惑っているんだろう。あの人に近い、この子を友人として設定したのは自分自身なのに)

妹「ほら、お店の中入ったんでしょ。お腹減ったから私たちもあと着けるよ!」

後輩「あーあ。ふふっ、目的取り違えちゃってる」

後輩(この夢もいつかは終わってしまう。待ってといくら私が願っても無駄なんだろうな)

後輩「……羨ましい、か」

『本日は~~~にお越しくださり、誠にありがとうございます。迷子のお知らせを致します』

『只今一階のコールセンターにて……あの…………失礼致しました! か、勝手に行っちゃダメだよ、待って! こ、こらぁ~~~!?』

幼馴染「んー、やんちゃな子みたいだね。迷子の子」

男「おい、マジで美味いなこれ!! 良いお値段なだけあるわ」

幼馴染「でしょー? えへへっ、気に入ってくれてよかった♪」

妹(……私もあんな風に、できたのかな。もっと早く勇気出してれば可能性あったかな)

妹「これ見てっ、エスプレッソ頼んだら嫌がらせみたいサイズのちっちゃいカップに入れられたんですけど!」バンッ

後輩「えっ」   妹「え?」

後輩「今のうちに大人びてみなきゃ、大人になってから困ることもあるよね。大丈夫だよ」

妹「な、何よその無駄に優しい目は!!」

後輩(こんなやり取りを交しつつ、色々悩む事ができる人間は器用だと思う。今日彼女が行動を起こしたのは、後悔するためじゃないんだ)

後輩(友人として報わせてあげたい。複雑だな、私たちはこういった関係でありながら恋敵にもなってしまう……それはそれで、なんだか楽しいです)

妹「うえぇ、にがー……」

後輩「妹ちゃんは私がお兄さんを気になってるとわかって怒らないの?」

妹「怒る? ……ん、そりゃあんまり良い気にはならないけど。あのバカに私の友達好き放題されるのなんて想像したくもないし!」

後輩「先輩を取られてしまうことよりも、私の心配を優先してくれてるんだ。優しいね」

妹「え、えへへ! そ、そうでも、あるかなぁ~?/// (嫌だよ、嫌に決まってる。私だって負けたくない!)」

妹(カッコ悪いなぁ、私……やれやれ…………私の人生はこのエスプレッソみたいに苦いままなんだね)ゴク

後輩「妹ちゃん聞いて。私ね、思い切って今日先輩に告白してみようかなって思うんだ」

妹「ぶーーーっっっ!!!」

妹「ぁあああ、気は確か!? 正気!?」

後輩「しーっ。静かにしないと向こうの二人に気がつかれちゃうよ」

妹「だ、だって急に変な話持ち出したりするから!」

後輩「んー、真剣な話だったつもりなんだけどなぁ……妹ちゃんには秘密にする必要もないし、言っておきたかったの」

後輩「確かに先輩はお世辞にもカッコイイとは呼べないけど、理屈で考えるより先に私の気持ちはどうしようもなくなっちゃって」

妹「だ、だからほんとに告白するんだ? お兄ちゃんに」

後輩「うん、頑張ってみる。応援してもらえないかな?」

妹「えっ…………」

妹「……そ、そうだね。応援しなきゃダメだよね! 後輩ちゃんぐらい可愛い子ならあんなの楽にコロッとさせられるよ~!」

後輩「ありがとう。もし、あの幼馴染さんが先に先輩を取ってたとしても何とか振り向かせてみせる」

妹「!!」

後輩「別に卑怯な手使おうってわけじゃないよ。正々堂々と正面から勝負するの。それで例え負けたとしても、納得はできるから」

後輩「ふふっ、でも先輩を悩まることになっちゃいそうなのはやっぱりズルい、かな?」

妹「……さ、さぁ? 別にいいんじゃない? (ズルい)」

妹(どうして私にこんな話するの!? 何で!?)

後輩(ヒール役を演じるのは特に今回が初めてじゃなかった筈だ。その筈だけど、不快、ってこんな感情なんでしょうか)

後輩(これが決めてとなり、彼女が決起してくれたらそれで良い。もしマイナスに効果が現れてしまったら?)

妹「……あーっ、お兄ちゃんたちそろそろ席立つみたい。私たちも行こっか」

後輩「ねぇ、どうして今日なのか知りたくない?」

後輩「悔しいと思ったの、しばらくあの二人を後ろから眺めててね。どうして好きになってすぐに先輩へ気持ちを伝えなかったのかなって」

妹「す、すぐに……?」

後輩「うん、すぐに。そうしたら、もし今先輩の隣を歩いてたのは自分だったんじゃないかなぁと思えて後悔止まらなかった」

後輩「で、我慢できなくなっちゃったのでした。どうかな?」

妹「後輩ちゃん意外と肉食だね………… (同じだ、後輩ちゃんと私って同じだったんだ。違ってるのは家族じゃないことだけ)」

妹(……どうしよう、ばかっ。これ以上我慢できなくなってきちゃったじゃんか)

後輩「それじゃあ行こう? 先輩たち次は上の階行くみたいだよ。エレベーター乗ってる……妹ちゃん」

妹「上? だったらこっちはエスカレーター使って――――っわ!?」ガシッ

後輩「私たちも一緒にお邪魔しちゃおっか!」

後輩(彼女の腕を掴むと私は、私たちは一直線に走った。閉じかけたエレベーターの扉の隙間を掻い潜ると)

男(……予定より早かったじゃないか、二人とも)

幼馴染「妹ちゃん!! それにあなた……ど、どうしたのこれ」

男「お、お前らなぁ……駆け込み乗車は寒心しねーぞ。危ないだろうがっ!」

後輩(台詞と表情が一致してないじゃないですか、この人。どうしてニヤけているの)

男「ていうか、どうしてここにいるんだよ?」

妹「[ピーーーーーーーーーーーーー]!! [ピーーーーーーーー]!?」

男「何だって?」

後輩「私が妹ちゃんを誘ったんです。そしたら丁度暇だったらしくて、ね?」

妹「そ……そ、そうなんだよねぇ~~~!? 別にお兄ちゃんには関係ないでしょ!」

男(関係ないか。はたして本当にそう言い切れるのか? 随分とパニクってるみたいじゃないか)

男(イベント発生は幼馴染デートの終盤辺りとばかり考えていたが、まさかこういう形で強行されるとは思わなんだ)

男(その他は……大凡的中してくれた。高笑いしてしまいたい程に)

後輩「(的中した? 私がこの場に混ざっていることすら?) お二人はどういったご用事で?」

幼馴染「え、えーっと……男くんの服を一緒に見に来たんだよ。前から着る物少ないって言ってたから」

妹「そうなの? だ、だったらそうだって私に教えてくれて良かったのに」

男「違うだろ」

幼馴染・妹「えっ?」

男「間違っちゃいないが、それはついでみたいなもんだ。俺は幼馴染と」

男「デートをしにここへ来た」

幼馴染「…………お、男くん?」

男「へへっ、実は付き合い始めて最初のデートなんだよ。なぁ、幼馴染」

男(この狭いせまい空間の中をこの俺が支配している。生かすも殺すもさじ加減一つでどうとでも操れる気がした)

男(幼馴染は万策尽きたように収縮していき、妹はこの世の絶望を垣間見たか如く青ざめている。覚悟はいいか?)

男(後輩!!)   後輩(私!?)

男(妹、初めからコイツ一人に追跡されると思っちゃいない。気は強い方だが、いざという場面では誰よりも傷つきやすく、脆い美少女である)

男(二周目時の会話から、妹は何より心細さを嫌がる性質があった。ならば彼女はその場で咄嗟に自分を支えてくれる助っ人を欲しがるだろう)

男(その相手を選ぶならば……モブはやはり除外、して数あるヒロインの中から声をかける確率が高いのは、である)

男(後輩、お前は人の心が読める。この計画は途中から気付いていたか? お前は妹の友人であり、俺の味方だ)

男(だったら 何かしてあげようって気になったのでは? 期待しているよ、俺は)

後輩「……エグい」

男「何か言ったか?」

後輩(私が彼の計画とやらにあえて逆らう事は不可能に等しい。理由は簡単だ、私が幸福を願う神の使いだから)

後輩(今となっては無駄な直接的関与は禁止とされようと、間接的な、妹ちゃんを導くような行いはむしろ主から推奨されるだろう。原理はどうあれ、終わりを迎えさせられたら良いのだから……)

後輩(あれこれと不満を持っても、もう遅いみたいですけど)

妹「…………お兄ちゃん、今言[ピーーーーーーーーー]なんかじゃないんだよね」

男(頭で理解していようが、現実を受け入れられない。そんな顔と声色しているな)

男「ん? ウソついたところでどうなるってんだよ。俺はこいつと恋人同士になったわけだ」

妹「っ!!」

男「お前にもいつかは伝えなきゃと思ってはいたんだけど、こっちも中々言い出しづらくなったりして……へへ」

幼馴染「も、もうやめよう? 話すなら家に帰ってからにした方がいいよ。妹ちゃんごめんねっ?」

妹「っ~……」

男(幼馴染には、妹が俺に気があると内緒話をされた事もあるが、それは結局俺には“兄として”好かれていると解釈され話は流れた)

男(鈍感は時として武器に変えられるが、最悪の破壊兵器と化してしまった。下手を打てば関係修復不可の諸刃の剣、初心者にはオススメできない)

男(といった茶番は十分である。俺は徹底的に妹を追い込む、精神的に。打ちのめす)

妹「……う、ふえ……ぐすっ……な、なんで涙なが――――!?」ガクンッ

幼馴染「えっ!? あ……え、エレベーター…………とまった?」

男「どうもそうみたいだな。ここの警備の人に連絡してみよう、どうせ単なる故障だろ」

妹「故障じゃやばいじゃん!? このまま下に落下したらみんな死んじゃうよっ! あ、あと窒息とか!」

男「するわけねーだろうが。よっぽどじゃあるまいし……余計な心配するな。今は不安和らげる事だけ考えるんだ」

妹「う、うん……」

男「あ……ダメだ! くそっ、通話装置まで止まってやがる!!」

妹「うわああぁ~~~んっ!!」

幼馴染「言った傍から不安にさせてどうするの!?」

後輩「そうですね。とにかく皆さん一旦落ち着きましょうか、はい深呼吸」

男(と後輩から小さく号令をかけられると全員で大きく息を吸って吐く。落ち着いてみると、凄い。この状況とんでも美少女ハーレム空間だ)

幼馴染「きっとすぐに助けが来てくれるよ。だから心配しなくて大丈夫、あたしもついているからね」

妹「……お兄ちゃん、私たち絶対助かるよね? 無事に外に出られるよね?」

男「(守ってやりたいこの小動物) 当たり前だろ。しかし、もし事故ってお陀仏しても俺たち全員時の人になれるな」

幼馴染「男くんもう口開かないで!!」

男「えぇ……すまん」

後輩「下手なこと喋ってると彼女さんから株が下がっちゃうんじゃないですか? ふふっ」

幼馴染「……そうだ。あたし飴持ってるんだけど舐める? きっと落ち着くよ」

男(流石は幼馴染、場を和ます能力に長けている。バッグから取り出した飴をいくつか俺たちに握らせて回る姿は女神のそれだ)

男「だけど何故に黒飴か」  幼馴染「喉にいいんだよ?」

後輩「それにしてもある意味貴重な体験してますよね、私たち。滅多にないですよ」

妹「ないのが一番だと思うんですけど……でも、こういう時ってトイレしたくなったらどうするんだろう」

男「まさか漏らしそうなのか!?」

妹「違うっ!! 仮にそうなったらって話だから!! ほんと[ピーーーー]///」

男(先程までの凍りついた空気が溶け始めたようだ。小は大で塗りつぶせるという教訓だ)

男(まぁ、雰囲気に関しては正直どうでもいい。有り難いのは、逃げられない空間、が作られたことである)

後輩「……どうしましたか、先輩。私の顔なんか見て」

男「いいや、別に……なぁ、妹。訊くとまた幼馴染に怒鳴られるかもしれないが、どうしてさっきはあんなショック受けてた?」

妹「お[ピーー]んが[ピーーーーーー]」

男(しん、と静けさが戻ってくる。幼馴染と後輩を交互に確認してみると、どちらもバツが悪そうだ)

男(おそらくは妹が放った言葉が耳に届いたせいだろう。この狭いエレベーターの中だ、よほどの小声でない限り常人には聴こえる)

男(聴こえなかったの俺だけ。難聴スキルの発動、幼馴染たちの様子……確定だ)

また明日

あ、ちょい訂正 >>309

後輩(今となっては無駄な直接的関与は禁止とされようと、間接的な、妹ちゃんを導くような行いはむしろ主から推奨されるだろう。原理はどうあれ、終わりを迎えさせられたら良いのだから……)

後輩(直接的関与は禁止とされていようと、間接的な、妹ちゃんを導くような行いはむしろ主から推奨されるだろう。原理はどうあれ、終わりを迎えさせられたら良いのだから……)

男「えっ、何だって」

男(いつもの『何だって?』ではないぞ。妹の不意な言葉に動揺してしまい、真意を確かめようと、といった感じに)

妹「……[ピーー]」

男「ま、またまた! いくらみんなを和ませるためだからってぶっ飛びすぎてるだろ~!」

男「(幼馴染が止めに入るかと様子見のジャブを一発。ガードは緩めだ、反撃の心配はない) ……じょ、冗談なんだろ?」

後輩「まだわかりませんか、先輩」

男「な、何がだよ。お前らには今そいつが話したことの意味がわかるって言うのか (ここで後輩のナイスアシスト)」

後輩「先輩の鈍感っぷりにはよく驚かされてますけど、ここまで来ると呆れちゃいますね」

後輩「彼女の言った通りでしょう? そのままの意味。この子はあなたを……」

妹「[ピーー]、[ピーー]お兄ちゃ[ピーーーーーー]。信じられないぐらいバカでズボラでエッチな最低なお兄ちゃんなのにだよ!」

男(後半部分もおまけして隠して欲しかった)

妹「引かれると思って何も言えなかったし、できなかった! 正直に言えば!? 気持ち悪いなお前って!!」

妹「そしたらさ……私も[ピーーーーーーーー]んだよ……っ」

男(毎度ながら平常運転な糞スキルで気が滅入る。俺ってラブコメワールドでラブの何割か損してない? なんて、贅沢だ。けれども)

男「(損した分は後でいくらでも取り返せば良い) 幼馴染がいると知っておきながら、話してるんだな」

妹「そ、そうだよ」

男「突然の告白はひとまず置いておかせて貰うとしてだ。既に俺には恋人がいるんだよ」

男「まさか積年の思いぶつけるだけぶつけておいて、自己満足に浸るつもりじゃないだろうな?」

妹「[ピーーーーーーーーーーーーーー]」

男(ここでとは厳しいな。肯定されたか否定に走ったか判別がつかん)

男「(ならば別の角度から攻めよう) だ、大体いつからだよ! 俺から常日頃可愛いかわいいと甘やかされ続けて勘違いしたんじゃないか!?」

妹「わ、私は本気で[ピーーーーー]れて[ピーー]かったんだよ!」

妹「っ~!/// ……お兄ちゃんはどうせふざけてたつもりだったんだろうけど、ほんとに[ピーーーー]の!」

男「あ、そうなのね…… (ハーレムを目指すだけでこれだけ難易度が上がるのならば、滅多にお目にできないのも納得してしまう」

男(ミスればこの俺にとっては即ゲームオーバーである。本当に妹が自己満足で完了させて、いつもの家族へ戻ってしまえば……とかいう不安はない)

男(見方を変えずともこの世界は俺がプレイヤーで主人公のゲームの様なもの。いざとなれば次の俺へバトンを渡す用意を急ぎ、幼馴染バッドエンドへ逃げられる)

男(利用できる物は一つも残さず使う。甘えた考えで美少女ハーレムが狙えるかよ)

妹「すぐ人の事バカにしてくるけど一緒にいて[ピーー]しないし、[ピーー]かった。時々だけど優しくしてくれるのが[ピーー]なの!!」

男「こんなの伝わりきれるか!! あっ……と、とりあえずマジなのか」

妹「そうだよっ、マジだけど文句ある!?///」

妹「だ、大体そっちもそっちだよ! あれだけ意識させといて全然無関心なままなんだもん!」

男「逆ギレは見っともないよな」

妹「うるさいうるさいっ、ばーか!!」

男「ガキのケンカじゃあるまいしよ……それで?」

妹「えっ?」

男「えっ、とか可愛く言ってんじゃねーよ可愛いな畜生。結局どうしたいんだって話。俺は幼馴染諦めないからな!」

妹「じゃあ私振られちゃったの……?」

男「いや……振ったとかではないけれど…………ね、ねぇ?」

後輩「私に訊かれても。ああ、そういえば私も先輩が好きです。付き合ってください」

男「思い出したついでみたいなの止めろっ……!」

後輩「ダメですか? うふふっ、こーんなに好きなのに」クスッ

男(ここぞとばかりに小突き回しおってからに、天使か悪魔かどっちだ美少女よ)

妹「わ、私の方が後輩ちゃんよりずっと前から[ピーー]だったんですけど! ね、年季とかが? 違うからっ!!」

男(長かった……俺が夢見た光景だ……本当に廻り道だった…………本当に本当に、なんて遠い廻り道)

妹「私が一番[ピーー]なの!」  後輩「どうかな? ふふっ」

妹「私と後輩ちゃん! どっちが[ピーー]!?」ギュウギュウ

後輩「私ですよね、せーんぱい?」

男(これがかの有名な幸せ板挟み……上々ヘブンだ……)

男(二人なら、いや後輩ならば、ギスギスさせた関係にはさせないだろう。安心して下級生組を放置できる)

男「だ、だから俺には正式な彼女がいるわけで」

妹「そんなのもう関係ないね! こうなったら戦争してやるっ!」

男「(オープンになると途端に強いなコイツ) はぁ?」

後輩「賛成。彼女がいるからなんて理由に換算しません、先輩をその気にさせたら良いだけですもん」

男「俺が幼馴染捨てるわけねーだろ!! お前らの変なおふざけに勝手に巻き込むな、迷惑だ!!」

後輩「別に私たちだけじゃないでしょ? 敵は多いと思ってますけどね」

妹「多かろうと少なかろうと私の敵じゃないけどっ! ふふん、同じ屋根の下に住んでるんだもんね。いつでも[ピーーーーーーー]」

妹「……って、ばかぁ!!///」

男「知るか……いくら迫られようが俺は考え直す気になんてならんからな! 言っておいたぞ」

男「おい、幼馴染からもこいつらに言ってやってくれ! お前だって文句の一つは――――って」

男(あなたは涙目で必死にナニ耐えてるんですか?)

幼馴染「っー……///」

男(俺たちの視線が一気に集中すると、幼馴染は下唇を噛み紅潮させた顔を背けて無言の助けを求めていた)

妹「お、幼馴染ちゃん。若干体ぷるぷるしてるけど……大丈夫?」

幼馴染「さわらないでっ!!///」

妹「わあっ!?」

後輩「幼馴染さん……どうやら私たちに対して怒りが収まらないといった様子みたいですね」

男(この子、確実にウソ吐いてるのよね)

幼馴染「おねがいだから……ほうって、おいてくれないかなぁっ……ひ! んぅ!///」

男(大人し過ぎて気配すら殺す技能すら身に付けたかと疑いそうになっていたが、美少女も所詮は同じ人の子よ)

男(幼馴染、お前は役目を果たしてくれていたのだな。密室に閉じ込められた定番の一つを)

妹「放っておけないよ!? 見るからにヤバそうだし!」

幼馴染「え、えへへ、やばくないよぉー……だから三人でしゃべってて……ぇえっ! いやぁー……///」

男「こいつの言う通りだ。一人で無理するな、心許ないのはわかるが頼ってくれ」

男「とにかく少し横にさせた方がいいよな。体支えるからゆっくり床に座れ」ス

幼馴染「はひぃ!?///」ビクンッ

男(肩に手を乗せただけで悲鳴にも近い甲高い声で幼馴染が鳴いた。全身に敏感ポイントが発生しているらしい)

男「痛かったか!? どうしちゃったんだよお前。そんな反応されたら…… (苛めたくなるじゃないか)」

幼馴染「へいきへいき……あははは……っ!///」

男「(幼馴染は葛藤の真っ最中だというのは理解した。恥を忍んで危機を伝えるかどうかを、である)

妹「ウソだよ! 絶対無理してる! だって顔も真っ赤で……はっ」

妹「言いづらい事だったら、こっそり私だけに教えてくれたらいいからね? 遠慮しないで?」

幼馴染「あ、ありがとー……ぇうっ!」

男「(その優しさは逆効果だろうに。惜しいが解放しようか) お前、実はトイレ行きたいとかじゃないだろうな」

幼馴染「っあ~……///」

妹「や、やっぱり。それならそうだって言っても良かったのに! 我慢しちゃダメでしょ!」

後輩「妹ちゃんがしてた話は伏線だったんですかね」  

男「恐ろしいぐらい白々しいな、お前 (エレベーターを停止させたのは後輩の不思議パワーによるものだと考えているが、これは)」

男「……おい、この状況あえて楽しむために止めてるわけじゃないだろうな?」

後輩「まさか。そこまで性悪じゃありません。申し訳ない話、故意に止めることはできますけど動き出すのは時間次第なんです」

男「不思議パワー欠点デカすぎだろ」

後輩「私としても早いとこ助けてあげたい気持ちはあるんですけどね。これだけはどうしようも」

男「……あと一時間とか下手すりゃ一日掛かるなんて冗談は言わないだろうな」

後輩「ない、とは言い切れませんかね」

男(薄笑いして申し訳なさそうに俺を見た後輩の表情がすべてを語っていたと思われる)

男「幼馴染っ! 最悪俺たちは後ろ向いて耳塞ぐから、限界ならもうしろ!! 笑わん!!」

幼馴染「いやぁ~!!///」ブンブンッ

妹「わ、私ペットボトル持ってる! ちょっと待ってていま中に入ってるの全部飲み干すから!」

男「バカっ、よせ! 余計な水分取ってお前まで同じ目にあったらどうする!?」

男(俺は妹から奪ったペットボトルを端の床に傾け中身をこぼした。空のボトルを中央に置き、全員無理だと思ったらコレへ、と不本意だが告げる)

妹「ほんとに助けはいつ来てくれるの!? もう閉じ込められてから――――あれ、さっきと時間変わってないような」

後輩「……先輩ごめんなさい。良かれと思って私がしでかした事でこんな、迂闊すぎました」

男「謝るな、ほとんど俺に原因がある。とにかく時間が来るまでは自分含めて全員どうにか持ち堪えさせてやる!」

男(彼女は正確に再起動する時間もその平均もないと俺に耳打ちした。軽く絶望を覚えたが、打開策はある)

男「寝るぞ、無理矢理にでもだ」

妹「はぁー!?」

男「無駄に騒いで体力消費するよか眠って助けを待つのが一番だろ。それに、幼馴染の為にもなる」

幼馴染「おとこ、く……んぅう~!///」

妹「そ、それもそっか……わかった。そうするしかないよね」

男(この外が現状どうなっているか検討もつかないが、利用者がいつまで経ってもエレベーターが降りてこないのを不審に思わない筈がない)

男(時間でも止まってるか、干渉できない状態になっているのかもしれん。ならば、ひたすら待つしかない……打開してないか)

男(四隅に幼馴染一人残して皆が壁を背に目を閉じて、扉が開くときを待った。しかし、これで素直に睡眠を取れるのはよっぽど図太い人間だけだな)

後輩「――――先輩、せーんぱい。起きてください」

男「……マジか」

男(後輩の声に意識を取り戻すと、扉の外でモブたちが不思議そうにこちらを向いていたのだ。幼馴染と妹の姿はない)

男「どれぐらい寝てたんだ、俺? 結構寝足りなかったぐらいなんだが」

後輩「五分もしませんでしたけど。二人は先に出て行きました、私たちも。ほら」

男「ああ、そうだな…………色々あったけどお前には感謝してるんだぞ。もう念願のハーレムまで目前だ、あと一歩で」

後輩「一つだけ忠告させてください」

男「何だよ? タメになる話なら嬉しいが」

後輩「トライ&エラーでどうにかできるだなんて考え、もう止めた方が身の為ですよ」

後輩「天使ちゃんから聞かされたでしょう。先輩が保険にしている方法は危険です」

男「とは言うが、そもそも一周目でお前が乗せてきたやり方だぞ。最初から安全なんて保障してなかったって?」

後輩「ええ、そうです」  男「ズバッときたな…」

後輩「ですがもうあの頃の自分とは違いますから。ここも、先輩も消えるだなんて許せません」

男(穏やかにかつ冷静に一途な思いをぶつけられた気がした。俺が恥ずかしくなるぐらいに)

後輩「……それにもう慣れちゃったんじゃないですか。見てきたんでしょう?」

男「どういう意味だよ?」

後輩「いまのあなたが女の子たちを自分から振って、絶望なんてするかという事ですよ。過去の記憶全部戻ってますよね」

男(……ああ、そうだった。すっかり忘れていた)

後輩「どうせ次があるからとあんな行動をしたところで何の感情も沸いてこないでしょう? 諦めてください」

男「それじゃあどうやって鬱陶しい糞スキルと決別できるんだ。俺の夢はコイツとおさらばする事で完全になる……!」

男「今更諦めろじゃお願いされても無理だな、俺は。貫き通すって決めちまった」

後輩「…………言えるわけ、ないよね。こんなの」

男「何? そんな事よりだ後輩、どうしてあんな追体験するって先に教えなかった! こっちは危うく廃人一歩手前だぞ!?」

後輩「えっ、追体験?」

ここまで。次回は水曜日ぐらい?

男(後輩が目を丸くさせると、昂っていた気持ちが冷水を被せられたかのように落ち着きを取り戻した)

男「事実だぞ……渡された例の箱を開けた途端、次に目を覚ました時に俺は自分の中にいた。精神だけというのが正しいか」

男「手も足も動かせずに、ただ『男』の視点で過去の物語が進んだんだ。……初めはそれだけだと思っていたさ」

後輩「何かが、おかしかった?」

男「直感だが、このまま見ているだけで好きに動いていられたら過去と未来で矛盾が生まれるんじゃないかと感じちまったんだな」

男「ある意味正解だったかもしれん。俺は、放っておけば今ここにある現実が変わっていた筈だと思っている。過去の映像にしては普通じゃなかった」

男「心が読めるなら、俺が時々謎の声に考えを掻き消されたり、考えそのものを改変されていた……そんな風に見えた事はなかっただろうか?」

後輩「……ああ……やっぱりそうでしたか」

後輩「あなたは常にどんな時も監視されていた。天使ちゃんや私という存在の他に、もう一人。未来の自分自身から」

後輩「そして干渉され続けていたんですね、確かな未来へ繋がるように」

男「後輩の思惑通り、俺は見事過去の出来事を認識することができた。しかし、回想を観測したとか生易しいものじゃなかったわけだ!」

男「手の切り傷を見ろ! コイツは三周目追体験の途中にあえて俺へカッターで切りつけさせた……あんな体験の前なら、自分で故意につけた傷はない。夢や妄想じゃ片づけられないだろ」

男「たとえ俺以外の奴らがその事実を認識できていなくとも、この傷は過去で、俺が、俺の中にいた証なんだ」

男「二週目で転校生を意識させるように行動させたのも俺の意思でだ。全ては、ここに帰ってくるために…………もうわかってくれたな、後輩よ」

後輩「今のあなたが過去でしてきた事を……さらにその前のあなたが……?」

男(同じ時間や行動の繰り返し、すなわちループ。俺を含めたこの世界の住人は最低でも二回ループを知覚せず送っているのだろう、といった推測が俺の中にある)

男「俺もこれまで『声』に動かされてきたんだろう? だったら、かならず先駆けた俺がいると考えていいんだ」

後輩「その時の先輩すらも、という事もありえるわけですね。……初めに言っておきます、私はこんな事を企んでもいなかったし、知りませんでした」

男(天使ちゃんからは欠片もループを匂わせる話を聞いた覚えがない。ならば後輩では、と頼りにしていたと言えばウソになる)

男(同じ繰り返しならば、後輩はとうの昔に感情が芽生えていただろう。記憶までリセットというのなら彼女も俺たち同様の扱いを受けて初期状態へ戻されているに違いない)

男「お前は俺よりも、天使ちゃんよりもここの事情に詳しい。何か思い当たる原因は?」

後輩「あればすぐにでも教えたいですね。ですけれど、仮に何もかもを無かったことにして最初からやり直させる方法があるとすれば」

後輩「主が世界を作り直してしまった、とか……私にも見当つきませんよ」

男「(考えども脳みそや諸々がパンク寸前だ) ……神にでなく、もし俺に反応してそうなったとするなら?」

男「脅すように何度も聞かせてきた最悪ケースのことだ。俺が結局何もできずに終わり、真バッドエンドとやらを迎えるんだ」

男「現に、おそらく委員長救出は叶っていなかった。いま暮らしている彼女は最初から紛い物だとわかったしな」

後輩「じゃあ委員長さんを助ける為に何度も、何度もと先輩の気持ちに呼応するようにここが……」

男「さ、さーて、いま俺と後輩がこの話をするのははたして何度目になるんだろうかねぇ~?」

後輩「先輩、私はあの委員長さんが本物じゃなかったことは知っていました」

男「なんだと!?」

後輩「落ち着いてください。知っていたけれど、伝えることができなかったんです。前までは」

後輩「過去を取り戻すと一緒にかけていた暗示もとけるように箱には仕掛けてました。渡す時に話しましたよね?」

男「相変わらずややこしいじゃないか……元々はお前のかけた、その呪いをとく為の意味があったんだな」

後輩「それからもう一つ。これは教えてません、いえ、教えなかったんです。あえて」

男「……?」

後輩「最後の私のワガママかもしれませんね、ごめんなさい。本当は考え直してもらいたかったんです」

後輩「あなたが送ってきた素敵な毎日を振り返ってもらって、まだここに執着していてほしかった」

男(…………は?)

男「……何を言ってるんだ? 執着だって?」

後輩「はい」

男「どうしてそういう事になる? 俺は初めから美少女パラダイスの生活を気に入ってるぞ。それに元の世界には帰れない約束だろうが」

男「それが、どうしてこの世界から現実に帰ってしまうみたいな不安をお前から持たれなきゃならんのだ?」

後輩「……そ、それは…………えっと」

男「なぁ、後輩。もう俺たちの間で隠しごとは止めよう。教えてくれないか?」

後輩「……時がきたら、自ずとわかることです。引けないところまで先輩は進んじゃいましたしね」

男「お、終わりを迎えるつもりならまだ気が早過ぎるなっ! むしろ終わりがあるなんて思ってくれるなよ?」

男「だってこれから俺たちは委員長を見事、華麗に救出する! その後はゆっくり着実にハーレムを完成形へ近づけさせるんだからなぁー!」

男「フッ、難聴スキルの邪魔が一切ない真のモテモテハーレム学生ライフ、お前だってそのメンツの一人だ。仲良くハチャメチャラブコメな日常を楽しもうじゃないか。なぁ?」

後輩「そうですね」

男(……心の底からお前だって望んでいるんだろう? 天使としての自分ではない、人として、“後輩”でいられるこの世界の存続を)

男(楽しんでいるからこそ消滅を懸念したのではないか。この俺が理想を捨ててまで現実へ帰りたがるわけがないだろうに)

男(だのに、なぜ彼女はこんなに寂しく微笑みかけているのだろう)

男「んで……長くなったな、そろそろ幼馴染たちを探しに行ってやろうぜ。デートの仕切り直しだ!」

後輩「幼馴染さんには悪い事してしまいましたけどね。彼女は今日を相当楽しみにしてたはずですから」

後輩「お邪魔なら適当な理由つけて妹ちゃんと一緒に退散しますよ? ふふっ」

男「そこなんだよ。ある意味予定が狂ったわけでもある。幼馴染にこれ以上悲しい思いをさせたくはないわけだ」

男(後輩の忠告を守るならば、俺は今後幼馴染ルートを進みつつ、ハーレムルートへ移行させなければならない。いや、むしろ本妻がいる設定で他の美少女たちともイチャラブる鬼畜ルートをだな)

後輩「ところで、あれから天使ちゃんは現れてませんか?」

男「見てないが。どうした? まさかあのロリ天コッソリ着いて来てたりするのかっ……」

後輩「お願いです、あの子を叱らないであげてくれませんか? 悪気が……あっ、わ、悪気があるわけじゃないのでっ」

男「言い直す必要があったのかどうか。別に、今更慣れたことだ。一々叱っていたらこっちが疲れるわ」

男「そうだ……後輩、アイツが言ってたことについてなんだが。『特別』扱いされてたのか? 天使ちゃんがあの神から」

男(『自分は集団の中で浮いていた。普通の子にもなれなかった異端児』と彼女は独白した。どうやら他の天使はお喋り好きでないどころか、感情すら持たなかったらしい)

男(今ではすっかり俗世に塗れた同じ天使がこうして目の前にいることだが……キッカケすらなく、天使ちゃんだけは人に近かったというのだろうか)

後輩「優秀な子だとはお話したと思いますけど、それだけじゃ不満ですか?」

男「不満というかモヤが晴れん。もう俺を部外者扱いはできないだろ、突っ込むとこまで突っ込んでいきたいじゃないか」

男「思えば天使ちゃんは謎が多いロリだ……アイツ、昔話するのは俺より嫌ってる性質だしな。ならもう後輩に訊く他ない」

後輩「先輩、あなたはどう足掻いても私たちからしては部外者のままです。正体も何も、彼女は『天使』でいいんですよ」

後輩「それに、たとえ他の人間へ話すことはできようと、彼女に関しては絶対あなたには話せません……冗談抜きで」

男「ふん、まーた俺に知られちゃ不都合だってのか? そればっかりだなお前らは!」

後輩「ふふっ、聞けば後悔だけが残りますから、ね? 私たちの出生の話って、かならずしも喜べる内容じゃないんですよ」

男「えっ? 出生って、神がお前たちを作り出して――――」

天使「……お~~~とぉ~~~こぉ~~~くぅーーーんっっっ!!」ガバッ

男(噂をすれば何とやらである)

天使「どうしてっ、どうして自分を一人ぼっちにしたんですかぁ~! 自分はいらない子だっつーんですかぁ~!!」

男「落ち着け、意味不明な会話は懲りごりしてんだ (泣きっ面のロリ美少女にすりすり甘えられるのは悪くないがな)」

天使「ぐすんっ! 自分……あれからこのでっかい建物の中をせっかくだから探検してやろうって気になったのです」

天使「そしたらもうどこが出口だか入口だかわかんなくなっちまうんですよ!! 危険ですっ、ここは魔の迷宮! 略して魔宮っ!」

男「つまり勝手に迷子になってたわけか。しかし、よく俺たちを見つけられたな? お前じゃあマジで迷宮クラスだったろ、ジャスコ」

天使「それがですねぇ……ふっ、聞いて驚きやがるなですよ? あの女が親切にもここまで連れて来てくれたんですよ~」

男(天使ちゃんが指差す方向へ首を動かすと、そこには制服を着た女性が立っていた。軽くお辞儀をしながら俺たちへ近づくと)

女性店員「一応迷子のお知らせをと放送はしてみたのですが、その子が飛び出していってしまいまして……それで一応警備室の方でお客様の特徴を照らし合わせながら、こちらまで、ハイ」ペコペコ

男「そ、それは、こちらこそ申し訳なかったっす……わざわざすみません……」

女性店員「いえいえ! とにかくお兄さんが見つかってよかったねぇ……ええっと、てんてんちゃん。バイバーイ♪」

天使「このやろうっ、自分は天使って立派でキュートな仮の名があるんですーっ!!」

後輩「あ、あっ…………!」

天使「さらばです、親切な人間。あーあ、あんな奴で溢れていたら世の中きっと調和を保っていられたでしょうねぇ。うんうん!」

男「良かったな、いいお姉さんに出会えて。まぁ、美少女ではなかっ……た…………あ?」

男「え?」

男(俺は、俺はとんでもない事態に気づいてしまったのではなかろうか。後輩を見れば彼女もその様子で固まっていた)

男(先程天使ちゃんを届けてくれた女性店員は明らかにモブであった。ただの人、美少女でもなければ、重要人物からも程遠い名無しのモブ子)

男「天使ちゃん、教えてくれ。君はいつから自在に姿を見せられるようになった?」

天使「なんぞそれ? 自分は初めから男くん以外には知覚できないようになってますよ。触ることもできなければ、話もできねーです」

男(その通りだった筈だ、だから彼女はこの世界へ来てもしばらくは孤独のままでいた。もし俺以外に見えるとすれば、それは同族の後輩だけ)

天使「大体そんな事ができるなら寂しさ紛らわす方法がいくらでもありましたし。自分としては嬉しい限りですねー」

後輩「事態が飲み込めないの!?」

天使「えぇ~……お、男くんと合流できて万々歳……じゃねーんですか?」

後輩「そうじゃなくって!! ああっ、安心ばかりで大事なことが吹っ飛んでるだ……!」

男「おいおい、お前まで取り乱すレベルでヤバいのか……?」

後輩「天使ちゃん、力を使ってみてほしいの。何だっていい。服を変えるでも」

天使「さ、さっきから二人してどうしちゃったんですか? 服だったら、丁度いいからさっき気に入ったヤツを――」

天使「じゃじゃーん! これで満足して……おや?」

男(あの時披露してくれた服装チェンジの動作を行っても、彼女に変化は見られなかった。ようやく焦りを覚えたらしく何度も試せど、変わらず)

天使「……ん? ん?」

天使「あれれ……どうしてでしょー」

男「天使ちゃんはさっきまでお姉さんと一緒にいたんだよな。声もかけられて、手も繋いだりしたんじゃないか?」

男「よく思い出して考えてみてくれ。それっておかしくないか?」

天使「……あ、あわわわっ」

天使「あわわわわわわわわわわわーーーっ!!?」

男(遂にパニックの導火線に点火がされたようで、彼女は全身でそのヤバさを表現している。俺は未だ呆気に取られたまま、頭を抱えた後輩の次の言葉を待った。待つしかなかった)

後輩「……彼女が主から見放されるなんて考えられません。私たちの計画がバレていたとしてもです」

後輩「信じられない、ありえませんよ。こんなイレギュラーな事態は一度もなかったんですっ……何が起ころうと、こうなる事は……!」

男(早速俺の推測が後輩によって潰される。俺の委員長救出を何がなんでも阻止しようと強引な手段に走ったかと思えば、である)

男(前触れなくそれは起きてしまったというのだ。天使ちゃんは力を失い、ただの可愛いロリ美少女に落ちた……まさか)

男「っ、天使ちゃん超可愛い! 俺はお前がいないと生きていくの辛い!」

天使「こっ、こんな時まで何をふざけた気色悪ィことほざきやがるです!? [ピッ]、[ピーーーー]けど///」

男「な……なんだ、って…………!?」

天使「があーっ!! 真面目やってんだからジロジロ見てんじゃねーです!!」

男(天使ちゃんが、美少女化している……だと……)

妹「お兄ちゃーん、後輩ちゃーん! ふっ、ようやく見つけた。どこほっつき歩いてたの? 探したんだからね」

後輩「……い、妹ちゃん」

妹「な、何よ開幕早々青い顔しちゃって? ていうか、その子だれ。後輩ちゃんの知り合い?」

天使「ひいいぃぃ~~~!?」ガバッ

男(目を向けられると咄嗟に俺を盾にして後ろへ隠れる天使ちゃん。妹にも間違いなく見えている、それならば)

幼馴染「あれ、またその女の子といる……えへ、可愛いね。お名前はなんていうの?」

天使「やぁー!?」

男「……幼馴染、お前今日何かあるたびに俺へ誰かと喋ってたとか訊いてたな。それって」

幼馴染「うん? やっぱりその子だよね、男くんが喋ってたの。待ち合わせ場所のときと洋服屋さんにいたときだったかな」

幼馴染「仲良さそうにしてたから顔見知りなのかなって思ってたんだけど、訊いても男くんずっと一人だったとか言うんだもん。幽霊かと思っちゃったよ」

妹「いやいやいやっ、実体あるし! ちゃんと人だし! で、だーれ?」

男(……どうすべきか考えろ。難しくして事を複雑にする必要はない、適当に紹介しておけばいいのだ)

男(いいが、これから天使ちゃんをどうしたら良い? これまで通り俺の部屋で飼うことは厳しくなること必至だろう)

男(しかしこうなった彼女を手放しにするのは怖い。何が起きるかわからない状態だ、暴走される確率はかなり高いからな)

男「長い間秘密していて悪かったな、二人とも。この子は父さんたちが向こうから送ってきた……元孤児だ」

男(しばしの沈黙のち、妹がクスリと笑い冗談はやめてくれと俺を叩きながらネタばらしを待っていた。が、そこは俺の演技が光る所である)

天使「自分別にそうい、もがっ」ジタバタ

男「ほ、本当だ! すぐに信じろとは言わないけどな。孤児院にいたコイツを見て哀れと思った二人がウチで引き取ろうと決心したらしく、先にこの子だけを日本へ来させたんだ」

幼馴染「えぇ……」

男「行きには孤児院の職員も付き添ってくれたから大丈夫だ。今日予定してた時刻を一時間遅れさせただろ、幼馴染?」

幼馴染「そういえば。も、もしかしてそれって?」

男「ああ、職員の人からコイツを代わりに俺が引き取りに行ってたんだよ (このブラフでは妹から怪しまれるか? いや、誤魔化せる)」

妹「でもお兄ちゃんそんな人と会ってたっけ。私見てない気がするんだけど」

男「どうして内緒にしてたのにお前がその場にいるんだよ」

妹「うえっ!? そ、そうだよねぇ! いるわけないよねぇ!? [ピーーーーガーーーーーーーーーーーーー]っ///」

男「……とにかく急な話だったんだよ。俺も家族にまで隠す必要はないと思ってたんだが、たまにはサプライズでも、ということでちょいとした出来心がなぁ~」

幼馴染「か、家族が増えるのにそんなドッキリないよ!? 色々準備だって欲しかったのに! もうっ!」

妹「そうだよ、部屋とかだって困るじゃん! こっちは何も用意してないんだから!」

男「その点に関しては先に俺が気を回しておいたから安心しろ。伊達にウチの大黒柱代わり任せられた立場じゃないんだぜ?」

男(ほぼ無理矢理にだけどね)

男「唐突すぎて受け入れるのに時間が掛かるかもしれないが、どうかよろしく頼むよ。コイツも家族ができて満更でもないんだ、へへっ!」

男(突拍子もない話にやはり二人は困惑しつつも、孤児という設定に同情を感じているようだ。このぐらい強引に納得へ持って行かせた方が彼女らを支配しやすい)

男(俺に隠れていた天使ちゃんを掴み、挨拶だと前に出させてやれば、借りてきた猫のように畏まり始める。余計な口を滑らせないのを祈るぞ)

天使「っ~~~……///」

幼馴染「男くんのせいでこんな形の出会いになっちゃったけど、これからよろしくね? ふふふっ、お名前訊いていいかなぁ」

天使「そ、尊敬の念を込めて好きに呼ぶがいいです……」

妹「へー、ちゃんと日本語喋れたんだ。あは、ちっちゃくて人形みたいに可愛い~」

天使「むっ、誰に向かって舐めた口聞いてやがるんですか!! このチビがっ!!」

妹「はあぁ!? やってやろうじゃないのさぁー!!」

男「ど、どーどー……コイツの名前は天使っていうんだ。面白いだろ? オイ髪ひっぱり合うなっ、仲良くしようぜっ!?」

男「言い忘れてたけど口は相当悪い方なんだ。ほら、孤児院だと色々あるだろ? 舐められないに立ち回らなきゃいけないというか……だよな?」

天使「ふん!」

妹「一気に可愛げなくなっていったよっ……それで、どうしてこんな大切な子を一人でうろつかせてたの? 危ないでしょ」

男「中々言うこと聞いてくれないとこあるんだよ。お前と同じでバカみたいにプライド高いんだ」

男(小さな拳が二つ分俺の腹を捉えてきた)

男(妹と反りが合うかどうかが問題だが、基本優しい人間には気を許してくれているみたいで幼馴染には懐くのが早かった)

男(一先ず天使ちゃんを馴染ませるために一人場を離れてベンチに腰掛けていた後輩の元へ行くと、俯き加減で話が再開されるのである)

後輩「……こちらで預かろうと考えたんですけど、問題なさそうで何よりです」

男「言い訳に関しては俺の得意分野だからな、任せろ」

男「後輩、俺がさっき確認してみたんだが天使ちゃんは幼馴染たち同様この世界の住人になっているみたいだ。システム側から完全に外されてる」

後輩「難聴が発動したというわけですか。確定でしょうね……すぐにも元の状態へ戻ってくれることを祈るしかないです」

後輩「あの子が力を失ってしまった今では例のアレも実行が不可能となりましたから」

男(ならば後輩よりもこの俺が落胆するべきだろうにな。不思議と安心感が胸の中に残っていたままなのだ)

男「他に方法がないと決めつけたら負けだ。信じて模索していくしかねーさ」

男「……お前の耳には届いてるかもしれんが、俺は三周目突入前に神へ追加の美少女一人を頼んでいた。初めは委員長美少女バージョンが攻略可になっただけと思ったんだが」

後輩「時間差でこうなってしまったと言いたいんですか? あり得ません」

男「お前は例外だっていうつもりか? ……それはわかってるつもりだぞ」

後輩「他に理由があるはずなんです。私たちが、偽りの世界とはいえ、そこで暮らす人々から認識されるにはかならず何かがある」

後輩「私の様な特殊なケースでもない限り、御使いであるあの子が人と隣並んで存在することはけっして――――まさか!」

男(塞ぎ込み気味だった後輩が面を上げた。大きく見開かれた瞳が、ゆっくりと、こちらへ焦点を合わさせた)

切りいいのでここまで。次は日曜日かしら

妹「――――おいで~抱っこして良い子良い子してあげるよ、マ・ミ・タ・スぅ~」

天使「マミタス! 賢いお前なら真に慕わなきゃいけない相手をちゃーんとわかってますよね~!?」

男(リビングへ降りて行くと間髪容れずに我が家のアイドルが、迷惑あるいは不服に俺の脛をこする。なんて嫌味を心得た猫だろう)

妹「あーっ! あんたがキンキン大きな声上げて騒ぐから逃げちゃったじゃないのさ!」

天使「そういうテメーは聞いてるこっちがサブイボ立っちまうような気色悪い声出して! い~だっ!」

マミタス「にゃんにゃん」

男「そうかそうか、初めてお前と気持ちが通えたな マミタス……」

幼馴染「どっちが一番マミタスに甘えられるのか勝負なんだって。天使ちゃん、思ったより心配いらなそうで何よりだねー」

男「でしょうな……おーい、ここに来るまでに約束したこと忘れてないだろうな?」

天使「トーゼン!! 毎日男くんからおやつが貰えるのですっ!!」

男「言いつけを毎日きちんと守っていられたらの話だろバカたれっ……それから」

男「早速天使ちゃんに使ってもらう部屋を案内する。後ろ着いて来な、ついでに家の中を簡単に案内するんで」

妹「一応言っておくけど私の部屋には絶っっっ対入れちゃダメだよ! フリとかじゃないからね!」

天使「……ふぅーーーん? ほおーーーぉ?」ニヤニヤ

男(美少女磁石の同極が揃ってしまった。我が家がより一層激化を増すのにこの胸踊る感触、滾らずして男子を語れるかよ)

男(小さな足音を立て素直に後ろを歩く天使ちゃん。足音か、存在しない者、を強調しているかのように最近までの彼女には無かったものだ)

男(その為不意な登場に驚かされる事もしばしばあったのを懐かしく思うのだ。天使ちゃんは名ばかりの“天使”へ堕ちたのである)

男「キラキラネーム蔓延るこの世の中だ、違和感もあるまい……改名したいかね?」

天使「つーか、今更おウチの中案内されても意味ないですよ?」

男「するまでもないだろ。晩飯に呼ばれるまで俺たちで話をしておきたかっただけさ」

男(天使ちゃんの手を引いてあの暗室の中へ入り、内側からカギを閉める。そう、美少女と個室へイン。危うく理性がテイクオフ)

男「それで調子はどうだ? 体がダルいとか異常隠していたりはしないだろうな、お前」

天使「いたってフツーの気分ですよ。だから、本気で自分でも戸惑ってます……待てどもまてども主のお声も聴こえてこねーんですよ……!」

天使「男くんっ、自分はあのお方から見放されたってんですか!? 癇に障ることをしてしまったんでしょうかね!?」

男(無きにしも非ず、とは思っても口には出せない。家までの道中で妹たちと触れ合わせ多少気を紛らわせてやれてはいたが、俺としてもどう励ましてやれば良いのやらだ)

天使「いやーこのままずっと力が戻らなかったら、自分はどうしたらいいってんですかねぇ~……ははは、はは」

男「落ち着け、まだ悲観する時期じゃない! それに俺も後輩も全力で原因を解明するつもりなんだから」

天使「お陰で委員長ちゃんの話お流れにさせちまったんですけどねぇ~……へへへ」

男「(やさぐれ系ロリ美少女。新しいが、到達するにはまだ早い) 責任感じてくれてたのか、お前?」

天使「……[ピーーーーーー]」

男「な、何て言った!?」

天使「うるせーです。しばらく放っておいてくださいよぅ」

男(膝を抱えて蹲る天使ちゃんの背中の物寂しさが何ともまぁ、哀愁の塊である)

男(俺の難聴スキルが反応したのは偶然でもなく事実。後輩には美少女ヒロインへ紛れる為の偽りのヒロインを演じていたというお題目があって、という理由があるわけだが)

男(彼女のケースは謎ばかりである。……では、神が天使ちゃんが本当に俺へ惚れた時に美少女堕ちするよう初めから仕組んでいたとしたら?)

男(好意を真正面から感じられるようになったのはここ最近のことだった。それから対決を挟み、今日……そうだ、今日までは確かに彼女は力を失ってはいなかった)

男(天使ちゃんを捕獲するべく人ゴミへ誘い、俺は喚いた筈だ。本当はあの時から……違うな。変身を解く直前までは幼馴染の姿のままだったのだから)

男(では、タイミングとしては攻略後になり、遅れて現れた幼馴染に見られた。天使ちゃんの心を完全攻略したから、起きてしまった?)

男「俺のせいか?」

男「(結論を急いて早合点してしまうのは愚行、だがしかし) 一片さ、俺のこと呪い殺したくなるぐらい嫌いになってみないか」

天使「あーあ。どう足掻いても男くんはバカなんですか、そうですか……」

男「こっちは大真面目に提案してるつもりだ。それで天使ちゃんに力が戻るならお安い御用だろうが?」

天使「無理ですっ」

男(ああ、思っていたよりも鷲掴みにしてしまっていたらしい)

天使「[ピーー]じゃねーんですよ……これから[ピーー]を[ピーー]になれなんて……!///」

天使「うおおぉぉ~……ほんとに、ほんとにほんとにっ! 全部食べていいんですかコレ!?」

幼馴染「うんっ、もちろんだよ~。新しい家族になる天使ちゃんのために張り切ったんだもん♪」

天使「男くん!! こ、これは何て食べ物ですか。ワサビ醤油が合いますか……ごくり」

男(食卓に並ぶ料理の数々に身を乗り出して目を光らせる天使ちゃん。彼女らは本来食事は必要なかったと聞いたが、今となってはどうだろうか)

男「碌な食事させられてなかったからな、いっぱい食べるのは構わないけどお腹壊すなよ」

幼馴染「そ、そんなにあっちでは過酷な生活送ってたんだね……ううっ、もう我慢しなくていいんだよ天使ちゃん! お腹一杯食べてっ!!」

天使「ではではお言葉に甘えまして、いただきま――――あら?」

妹「おいひぃ…………」もぐもぐ

天使「あ゛ぁあああぁ~~~!? それは今自分が狙ってたんですよっ、横取りしやがりましたね!!」

妹「ふふっ、何言ってんのさ。いーい? 物を食べるってのは戦争なの。早い者勝ちなのよ」

妹「お皿を前にして迷えばそれすなわち負け! 強者は常に視界の片隅に獲物を入れておくのだぁ~、っ痛ったぁ!? 叩いた~っ!!」

男「アホでも今日ぐらいは大人になれ……美味しいだろ? 幼馴染が作る料理は何でも美味い。感想を述べよ」

天使「…………」

幼馴染「どうしたの? もしかして好きじゃなかったかな。で、でもまだ色々作ったから他にも!」

天使「…………ふぇ」

男(口いっぱいに頬張ったハムスターのように膨らませたまま、飲み込みもせずに突然固まる彼女に幼馴染たちが焦り始めた)

妹「の、喉に詰まったなら飲み物あるからこれ! はい!」

幼馴染「不味かったら正直に言ってくれてもあたし全然平気だからね!?」

天使「ぐ、ふぐえええぇ~~ん……っ、ええぇ~~ん……」ポロポロ

妹「なんか泣いた!?」

天使「おいひいへふよぉー……おいしいよぅー……!」

天使「うええぇ~~~~んっ……なんか、なんかあったかいよぉ~……」

男「あ、アレだ! 孤児院の飯なんか比較にならないぐらい最高だってさ、幼馴染!」

男「それに温かいんだと。うちの食卓が (その後も顔をグチャグチャにさせながら、何を食べても「おいしい」と言葉にならないまま喋って、泣いて、幸せそうにいたのである)」

男(先程までの落ち込みっぷりはどこへ飛んで消えたのか。不幸中の幸いだろうか? 彼女はようやく孤独の牢獄から解放された)

妹「ねぇ、向こうでの話少しは聞かせてよ。ていうかどこから来たかもまだなんですけどっ」

男「睨むなよ。えっと、確かどこだったっけな……とにかく物凄い所から来たんだ、コイツ」

幼馴染「まさか紛争地帯!?」

男(と幼馴染が青ざめた瞬間、手を止めた天使ちゃんが天井を指差す。おいバカ、このロリ野郎!!)

天使「天国です。天使だけに、えへへ~」

男(自室、隣には満足そうに布団の上に転がる天使ちゃん付きである。ここで寝られると妹が後でうるさいぞ、間違いなく)

天使「いいですねぇ」

男「すっかり機嫌良さそうだな、天使ちゃん。風呂はどうだった? うちの風呂に三人で無理矢理入るとか暴挙にも程があるぜ」

天使「幼馴染ちゃんはずーっと優しくしてくれて文句ねーです! そしてあの糞チビがウザいのなんのって! でも、ぷぷーっ!」

天使「きゃはははっ! あー、楽しいなあ。楽しいなあ」

男「だから布団の上でバタバタするなっ、埃舞うだろうが! アレルギーなの俺!」

天使「何言っちゃってるんですか~。幼馴染ちゃんにお部屋掃除してもらわないと何もしないくせに~」

天使「明日はどんなことになっちゃうんですかねー……楽しみです、ワクワクしますねぇ…………うふふふっ」

男「それは構わんが、約束だけは本当に守ってく――――し、死んでる」

男(なんて、怒涛の急展開に疲れていたのだろうか、泥のように眠っている。この寝顔からだと普段の汚い言葉遣いが想像できん)

天使「すかぴー……」

男「……俺はどうしてやるべきだろうかな、この子に。天使ちゃんが望むようにしてやるしかないか」

男(天使ちゃんが力を取り戻せば、恐らくすぐにでも委員長救出作戦の実行へ移るだろう。叶うのならば今すぐにでも)

男(利用できるものは全て利用するのが方針だった筈なのだがな、鈍っているのか俺は)

男「それにしてもあの時、後輩は何がわかったんだ?」

男(この俺の顔を見てあらぬ事を察したであろう後輩の姿が脳裏に浮かんでしまったのである)

男(彼女は時間が止まってしまったように、ひたすら俺だけを視界に映していたのだろう。俺の声はまったくといっていいほど聴こえていなかった)

男「どうした? な、何か思い出したか」

後輩「……」

男「聞いているのか、後輩。わかったのなら些細な事でも良いから話してくれ!」

後輩「……あっ」

男「おい!」

後輩「先輩……せ、せんぱいは……」

男「俺がどうした? 俺に関係があるのか? どうなんだ!?」

後輩「……いえ、やっぱり気にしないでください。所詮私の勝手な思い過ごしですから」

男「ウソを吐いてもこっちには嫌でもわかる、プロなんだからな。頼むよ」

後輩「話せません……話すわけにはいきません……」

男(後輩の声は申し訳なさを感じてしまうまでに震えていた。これ以上の追及はままなりそうにない程に、彼女は動揺していたと俺は思っている)

男(天使ちゃんがこうなってしまった事と彼女が悟ったソレに関連があるとすれば、一体何だ? あのロリ天使に何があるというのだ?)

男(俺は、どれだけの謎をこの世界で追えば良いのだろうか)

また明日

男(久しぶりとなる朝の登校の時間が訪れた。当たり前だが、やはり自分の体が思うように動かせられると気分が良い。そして今日はまた一段と高揚しているこの俺)

男「(そのワケは) 珍しいじゃねーか。お前が一緒に来るなんて」

妹「文句ある? ふんっ」

幼馴染「妹ちゃんまた今朝からご機嫌斜め気味だね? ご飯の時から気になってはいたんだけど」

男「コイツ、昨日の夜に枕持って俺の部屋来たんだ。そしたら先客がいてうんぬん」

妹「っ! だ、だってありえないじゃん! 大体お兄ちゃんもどうしてアイツ部屋に寝かせてたのさっ!」

男「一人じゃまだ心細いって頼まれて仕方がなかったんだよ。気持ち良さそうに寝てたし、動かすのも可哀そうだったしな」

妹「せっかく[ピーーーーーーーーー]して[ピーーーーガーーーーーーーー]……」

男(吹っ切れた途端にコレとは。夜這いにでも来られたら厄介だな、保険も兼ねて天使ちゃんは自室に置くのが安心か)

男「何か言ったかよ? ところでまだ心変わりの理由が聞けてないぞ」

妹「ったく……ほんとにお兄ちゃんって鈍いよねっ」

男「はぁ? 悪かったな、人の事より自分優先な主義で。まさか明日も明後日も一緒に来る気か? なんて」

妹「そうだ[ピーー]、わ、[ピーー]の!?///」

妹「うっ……こ、これからはずっと[ピーーーーーーーーーーー]にいるつもりだから覚悟して。[ピッ]、[ピーーーー]///」

男「え? すまん、天使ちゃんのこと考えてて話聞いてなかった。もう一度いいか?」

男(攻撃特化型美少女へ成長を果たした妹を適当に捌きながら、何気なく天使ちゃんの留守番を心配してみよう)

男(一応幼馴染宅で昼間は預かってもらってはいるが、アレは黙って言われた通りおすわりができる弾じゃない。学校へふらりと参上するのがオチだ、既に見えている)

幼馴染「天使ちゃん、お母さんに大きい公園へ連れていってもらえるんだって喜んでたから心配いらないよ」

男「俺、顔に出てたか?」

幼馴染「そりゃハッキリと。ふふっ、おじさまたちが帰ってくるまでは学校にも通わせてあげられないしね。今のうちにこっちに慣れておかないと」

妹「それでちょっとはあの口の悪さも改善されると助かるんだけどね~……!」

幼馴染「ところで妹ちゃん、いい?」ピタッ

妹「え? ……あひっ」

男(俺の傍を離れた幼馴染が、妹の耳に手をあてて何かを囁く。みるみるうちに引き攣って行く妹。わかるぞ、下着の話だな)

男「何やってんだよお前ら、置いてくぞ」

幼馴染「あ、はーい! 今行くよー! 昨日は妹ちゃん怖いDVD一人で見て寝れなくなっちゃったんだって」

妹「」コクリ

男「お、大方そんな事だろうとは思ってたが、やっぱりそうだったかー! 可愛いやつめ!」

幼馴染「そのうち今度またあたしお泊りするね。妹ちゃんが是非だって」

妹「くっ……ま、負けら[ピーーーーー]……幼馴染ちゃん相手でもっ……!」

男(難聴のせいで不十分だが決意表明は伝わったぞ、妹よ。正に決死のお前が荒らしてくれれば美少女たちへ活性化を齎すであろう)

男(危機感を煽らせることで、奥手な彼女はダイタンフテキ!? 作戦だ……ラノベよろしく俺を美少女たちが取り合う舞台を展開させてみせる)

幼馴染「男くん危ない!!」

男「へ? ……ごふっっっ!?」

妹「お兄ちゃん!? な、何このマスコット、コレが飛んできたの……?」

先輩「やぁやぁ、グッモーニンだよ男くーん!」

男「せ、先輩さんか (腰に手を当て威風堂々参上な太陽の化身、美少女先輩。ウィンクをしきりに連打せんでも可愛い)」

先輩「わたし見てドキドキってしたりしない? こう、胸の奥から凄いのが沸きあがってくるみたいな!」

男「いや特に」

先輩「あ、やっぱ使い方間違ってるか。この辺にマスコット落としちゃったんだけど知らない?」

男「どう考えてもぶん投げられてきたヤツならこれだっ!! ……つーか、何なんスかこれ (悪趣味だ、頭部に斧が刺さっているぞ)」

先輩「お腹のとこ押すと良い声で鳴くのだよ、ポチっと」

『ヤメロォ……ヤメロ、ウワアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!』

先輩「キモ可愛いからかわいい抜いたって感じしない? おえっ」

男「返します」

先輩「あ、欲しそうな目してる。スーパー可愛がってあげてネ」

妹「捨ててよそんな不気味なの!?」

先輩「はぁ。そうだよねぇ、こんな眉つばモンに頼ったって[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男(やけにアピールしてくると思ってはいたが、あのマスコットが影響しているのか?)

先輩「男くんまだ痛む? ごめんよ、変なの投げたりしちゃって。むふふ~……お詫びに痛くなくなるおまじないしたげよっか」

男「おまじないですか? って、おぅふ! (柔らかな感触が顔いっぱいに伝わった。間違いない、これが男子の憧れパフパフですね)」

先輩「よーしよーし、痛いの痛いのどっかに飛んでいけ~えへへっ♪」もにゅ

男「あぁ……持ってかれちゃう……」

妹「ちょっと!! うちのお兄ちゃんに変な色仕掛けしないでよっ!!」

幼馴染「そ、そうです! 男くんから離れてください!」

男(止めるな、できれば余生が終わるまで堪能させて欲しい。なんて至福へ浸っていれば襟を誰かが掴み、先輩から剥がされたという)

生徒会長「おはよう……危なかったな、男くん。この下品極まりない悪女に食われてしまうところだった」

先輩「下品~!? どういう意味さそれはーっ!」

生徒会長「自覚がないなら更に性質が悪い。そ、それより男くん、私を見て何か[ピーーーー]はしないかな……?///」

男「……い、いや特に」

生徒会長「くっ、やはりダメだな……ああ、そこの君。良ければ貰ってくれないか。腹を押すと良い声で鳴く」

妹「さっきから流行ってんのそれ……?」

男(生徒会長の手にもあの不気味なマスコット。最近の女子高生の趣味は理解できんが、わざわざお揃いを買っているとは)

男「何だかんだ言い合ってても、二人は仲が良いんですね」

先輩・生徒会長「はぁ!?///」

男「だってそれお揃いでしょう? 物はどうあれ、きっと同じ店で二人で買ったと思ってますけど違いますか」

先輩「ち、違わないわけじゃないけど、別にそういう意味で持ってるんじゃなくてっ!! [ピーーーーーーー]///」

男「結構可愛いことしてたんだなぁ、二人とも」

生徒会長「[ピッ]、[ピーーー]……し、しかしこれは[ピーーーーーーーーガーーーーーーーーーーー]……[ピーーー]///」

男「(悪いが聞こえないな、この俺の耳には特別製の詰め物が入っている) それじゃあまた学校で。ほら、行くぞお前ら」

男(それにしてもである。いつの間にあの二人でそんな事をしていたというのだ、別にこれといった問題でもないが)

男「ん? どうしたんだよ、さっきから膨れて」

幼馴染「怒ってない!」  妹「バカ兄!」

男(微笑ましい嫉妬には鈍感的にクエスチョンマークを頭上に浮かべてサッと流す。さて、学校へ到着し二人と別れた瞬間次のびしょ……美少女が……あ?)

転校生「おはよっ、変態♪」

男「ああ、おはようご機嫌暴力女」

転校生「っぐ! ……き、今日は随分良い天気よねぇ。ただ少し風が強いみたいだけど」

男「偶然、誰かさんのパンチラが拝める日和になれると思うと楽しみでしょうがねーな」

転校生「バカじゃないのっ!!/// はっ……と、とりあえず教室に行きましょ。男の娘くん先に着いてるかしらー」

男「なぁ、転校生。今日のお前」

転校生「!! な、何よっ、ききき、今日の私が……ど、どうしたの……!?」

男「鞄持ってきてないんだな。家に忘れて来たのか?」

転校生「あんたじゃないんだからそんな間抜けな事しないわよ! 先に教室に置いて、げふんげふんっ!」

男「はぁ? 落ち着きないのは普段からだろうけど、何さっきから一人で慌ててるんだよお前」

転校生「あんたがいつそこらの女子に襲いかかるかヒヤヒヤしてるだけっ!!」

男「そうかよ! 猿より自制心保ってる自信あるわアホっ!!」

転校生「うぅ、鈍感バカ……ね、ねぇ、他に気がついたことはないの?」

男「何なんだよ? あったらすぐに俺が言うに決まってるだろ。眠いんだから行くぞ」

転校生「う、うん、そうね…………ん……何で気づいてくれないのよ……」

男(いや、普通気づくだろう。まずおかしいと疑うだろうが)

男(とかいう野暮なツッコミは控えておこう。どうせこの俺に極限まで都合の良い美少女なのだから)

男(先頭に立って教室を目指している途中、転校生は自分の髪をしきりに気にする素振りを見せていた)

男(毛先を遊ばせてみたり、指にくるくる巻いてみたり、突然思い切り振り向いてやれば動揺しつつも髪を払って不敵そうに笑うのだ。一筋汗を流して)

転校生「あー、なんか今日は蒸すわねー。でもそこまでじゃないようなー……?」チラッ

男「じゃあ結局どっちなんだよ」

転校生「別にそんなのどうでもよくって!! ……何でもないっ!」

転校生「ばかばかばかっ、どこまで鈍いのよコイツ……!? も、もうこうなったら私が自分で、ううんっ、そんなのじゃ……あ~もうっ!」

男「お前いま何か喋ったか?」

転校生「な、何も喋ってなんか……わ、わぁ~! 髪になにか付いてる気がするような~!」チラッ

男「……お、おう。取ってもらえば良いんじゃないか」

転校生「あんたが見て取ってくれたらいいじゃない!?///」

男「触ったら確実に変態呼ばわりで罵倒されるの分かり切ってるからやらねーんだよっ!!」

転校生「じゃ、じゃあ見てくれるだけでいいからぁ! ……どう?」

男「仕方がない。見るだけだかっ……て、転校生、お前」

転校生「えっ!? うんっ!! 私がどうしたの!?」

男「(嬉々として次の言葉を待っている転校生、かわいい。この美少女も存外天然な部分がある。いや、これはアホの娘だ) シャンプー変えたろ。いつもの匂いじゃないぞ」

転校生「っの~~~……!!」

転校生「ああ、そうよっ! 変えたわよ! いつも私の匂い嗅いでるとか真面目に変態だわあんたっ!」

男「だって結構好きな匂いさせてたんだからしょうがないだろ?」

転校生「なっ!? あ、あんたなんか転んで柱に頭打ってしねっ!!///」

男「何なんだよ! せっかく褒めてやったのによー……ところで」

転校生「あー、はいはい。わかったわよ。眠いんだからHRまで居眠りしたいとか言い出すんでしょ? わかってるから」

男「お前失恋とかしてないよな、転校生よ」

転校生「…………は?」

男「いきなり髪短くなんかして正直驚かされたぞ。女子がこうする時って、理由訊いたら不味いかと思ってたんだが」

男「ひょっとしてイメチェンのつもりかそれ?」

転校生「……ば」

男「ば?」

転校生「ばかぁああああぁぁ~~~~~~っ!!!///」

男(脱兎の如く走り去った転校生の背中を見送る俺は、どんな顔しているのだろう。本気で衝撃受けていて触れられなかっただけなのに)

またまた明日

男(先輩や生徒会長に続いて転校生までこちらの感知できたい所で、何か独自のイベントをこなしていたとは)

男(いや、彼女たちにも意思はある完全なNPCでない以上俺の目が届かない範囲で行動していても……短髪モードは完全に予想だにしなかったが)

男の娘「男ぉ、転校生さん教室に飛び込んできたと思えばあんな状態なんだけど、心当たりある?」

転校生「しぬ……恥ずかしくてしぬ、しんじゃう……あぁー!///」バンバンッ

男「転校生なんて毎回ああいう風にしてるじゃんか」

男の娘「確かに!」

転校生「誰のせいだと思ってんのよっ! いきなり思い切った事するんじゃなかった、失敗だわ……」

男の娘「僕は似合うと思うんだけどな。長かった時も綺麗だったけどサッパリした雰囲気になったよ~」

男「口説いてるのか?」  男の娘「僕が好き[ピーーー]ぉ!」

転校生「あ、あんたはどうなの。笑いたければ笑えばいいじゃない、笑いなさいよぉ!」

男「へいへい、じゃあコメント控えさせてもらう。すぐに慣れるだろ、髪型なんぞ」

転校生「ああそうっ……似合ってるよ、なんて高望みだったかな」

男「ていうか、一々人に意見求めようとするんじゃねぇ。……お、俺にだって言い辛い事の一つや二つあるんだし」

転校生「え?」

男(その声に目を泳がせわざとらしく咳払いで応ると、俺は早々自分の席へ戻って机に突っ伏した。目には目を、ツンデレにはツンデレをである)

先生「えー、もうじき文化祭だけど、今から浮かれて羽目を外してしまわないように、今日も一日張り切っていきましょうか。男くん」

男(何故名指しされたし)

男の娘「い、一時限目の前にトイレ行っておこうよ///」

男「了解、連れションコミュニケーションだな (頬を染めるな頬を。けしからんぞ)」

男の娘「男は休日何してたのー?」

男「お前はどこの理容師だよ。ったく、この俺に対してその質問は残酷だっての」

男の娘「えへへっ……僕も大した予定もなく家で本読んだり、自転車で遠出したりしてたかなぁ」

オカルト研「私は座禅を組み身を清めて、より精度の高い霊力を手に入れた」

男「うおおおぉぉっ、だからお前は突然現れる場所が毎度おかしいんだよ!! ここ男子トイレだぞ!!」

男(オカルト研の存在にどよめきが起こり、男の娘は涙目真っ赤で慌てだす。彼女一人で男子トイレへカオスが降臨なされたのだ)

オカルト研「本音で言わせてもらえば休日は[ピーーーーーーーーーーーーーー]///」

男「いいからさっさと外に出ろバカ野郎!? ……心臓にというか、色々あるから仕切りを跨ごうとしないでくれよ」

オカルト研「男くん、私にだって常識ぐらいあるわ。それでも時には恥を捨てなければならない。あなたの中の悪霊を追う者として」

男の娘「お願いだからいつも常識に縛られたままでいてよぉ!」

男「……オカルト研にはこれといった変化はなし、か」

オカルト研「修行のお陰で悟りを開けたの。新たな境地を開拓してしまったというべきか」

男「遂に狐に取り憑かれたか、狸でも驚かねーぞ」

オカルト研「真面目な話をしてあげましょう、男くん。私たちの出会いはもはや運命染みている……だけど、異なって男くんに悪霊が宿っていなければ、私と関わることがない時間も同時に存在するわ」

男「パラレルワールド理論ってやつかね? オカルトから離れるのが新境地じゃないだろうな、オイ」

男の娘「話すのはいいんだけどせめてトイレの前はやめようよぉ……」

オカルト研「すぐに済む。その別の時間の私たちに、この私が干渉できる事はありえるのかしら」

オカルト研「霊力、五次元といった高次元からの接触によってあるべき本来の形へ正すの。あわよくば過去へをも干渉し、私とあなたの出会いを早めてみたり……ふ、ふくふっ」

男「あー……よくわからんが、俺とお前が出会わなかった時間を無理に改変して出会わせてしまうなら、そのパラレルワールドは崩れるんじゃないの。知らないけどな」

オカルト研「そうなのかしら。というか、思ったの。今私たちがいるこの時すらパラレルの一つだとしたら、と」

男「ほ、ほう!?」

オカルト研「正しい世界なんて存在しないのかもしれないわ。どの時間にも基本となる軸なんてない。世界は、時間は、時空とは不確定に満ち溢れているのよ」

オカルト研「ありえた筈の何かをありえなかった事に、その逆も。偶然を必然に変えるのも、運命だって力さえあれば人は変えられるというロマン……すてき」うっとり

男の娘「えっと……い、意味わかった? 男」

男「もちろんサッパリチンプンカンだ、俺たち悟り開けてないもん」

男(ロマンに目覚めたオカルト研は置いておくとして、少なくとも『この世界』には俺の現実世界という基になった軸がある)

男(あれやこれやと、理想を反映しつつも神が少しばかりのスパイスを利かせてはいるわけだが。どこにも存在し得なかった人間だとか)

男(いや……存在しなかっただなんて真実だろうか。後輩たちの出生とやらがまだ引っ掛かっている。明かせない事情があるのは何故か?)

男(俺が人間という部外者だからで済まされるのは納得がいかないではないか。では、本当は現実に『存在していた』ならどうだろう)

男(または『存在できていた』とすれば。……彼女たちが使えているのは神である。宗教前提になるが、生物が神の元へ辿り着くときはどういった状況に)

男(ちょっと待て、それってこの俺にも通じ――――確かめる必要ができたか)

不良女「おっ! いよぉ、男~! 相変わらずそうじゃーん」

男「マジか、じゃあな」   不良女「雑じゃねぇ!?」

男(不良女もこれといった変化なし。毎日の美少女チェックも完了したところで、俺はいつもの場所への扉を叩くのであった)

後輩「最近はいつもなんかじゃないでしょう? 当て付けのおつもりですか、先輩」

男「その逆だって分かってるくせに困らせること聞くんじゃねーよ。あれからどうした?」

後輩「主、神さまに緊急事態の件でコンタクトを取ってみました。我々にとっても由々しき事態ですからね」

男「ゆゆ式……だろうな」

後輩「続けます。結論だけ言わせていただくと、保留です」

男「何?」

後輩「しばらく様子を見ろとのお達しを授かったんですよ。時間が解決してくれるかもしれない、ですって」

男「お前も、神も本当にそう思ってるのか? また俺に何か濁して伝えてないか、後輩」

後輩「……」

男「……まぁ、いい。それから神には俺たちの動きはお見通しだとか、どうせ言われてるんだろうなぁ」

後輩「一切触れてはきませんでしたね。あの方も多忙ですからね、私たちだけを見ているというのも難しいですから」

男「ていうか、触れる必要もなかったのかもな。お前が知る限りじゃ天使ちゃん以外に鍵はないんだろ?」

後輩「ですね。あの子へ力が戻るのはいつかもわかりませんし、もたもたしている場合でもないのに」

男「天使ちゃんを元に戻す対処法すら思いつかないってか。流石にヤバいんだろうな、へへ」

後輩「あ、あることには、あるんですけど……事後解決になってしまうというか……」

男「事後解決ってどういう意味だよ。俺の抱えた問題と天使ちゃんの問題を一緒くたにしての話か?」

後輩「……すみません。禁則事項みたいになっちゃいます」

男「つまり、天使ちゃんと委員長との関係に何かがあるとかじゃないだろうな?」

後輩「ダメです、先輩。もう止してくれませんか」

男「後輩ッ! お前は俺に協力してくれるんだろ? 時間任せじゃ不味いって分かり切ってんだろうが!?」

後輩「大丈夫、あなたはこのままで身を任せていれば委員長さんを救える。……確定してます」

男「は、はぁ?」

男(それ以上は説明するつもりもないと背中を向けて後輩は黙り込んでしまった。確定だと?)

男「決まってるって、お前は未来予知能力まで持ってるのかー? 何でも有りとはな」

後輩「……」

男「後輩、俺は今日の放課後ある場所に行って色々確かめてこようと思うんだ」

後輩「ある場所、ですか」

男「協力者であるお前からも答えが聞き出せないなら、やっぱり自分頼りしかねーだろ。怒っちゃいないさ」

男「謎が一つ解けるたびに新しい謎が生まれて仕方ないけどな。だけど、追求していけばいつかはお前たちが隠している真実に辿りつけると信じてる」

後輩「どうして隠し続けられてるのかよく考えてくださいよ!?」

男「そりゃ意地悪だろう? こういうのは自己責任だ。親切心かどうかだが、そっち側の勝手で秘密にされちゃ堪ったもんじゃない」

男「全部受け止めてやろうと思うんだ、都合悪いことから逃げるのには飽きた。久しぶりに打ちのめされてみるのも面白い、とかな」

後輩「……知らないんですか。そういうのフラグって言うんですって」

後輩「私は止めましたよ。止めましたからね? あとで泣かれても鼻で笑ってあげますから」

男(御褒美じゃないか)

後輩「っ~……少しは心配してあげてる立場の身にもなってください!///」

男「余裕できたあとでな」

男「(天使な美少女に癒され、授業に備えるべく戻ろうとしたらである。教室の前に人だかりが) おい、何だこの騒ぎ? ……嫌な予感がするなー、怖いなー」

男の娘「ああっ、男~! どこ行ってたのさ、探したんだよ!」

男(人ゴミを掻きわけて頭を出すと、男の娘が小走りでこちらへ向かってくる。さっと教室内を見渡せば猪が暴れたあとのような惨状が、そこにあった)

男の娘「あの女の子が、男のことを探してるみたいで」

天使「はぁい! 男くーん、遊びにきてやりました!」

男「本当に期待裏切らないよな、悪い意味でっ……!!」

転校生「この子どうにかしてっ、変態の知り合いなんでしょ!? ちょ! いやぁ~!///」

天使「オラオラ姉ちゃん! 可愛いパンツ履いてやがるじゃねーですかぁ! よく見せやがれです!」グイグイ

男(既に予測した事態ではあったが、やけにハイテンションだな。他の人間に見られているのが快感だとか、その程度だろう)

男「約束通り、今日はお前おやつ抜きだからな。どうしておばさんと一緒にいられなかった?」

天使「……だってお出掛けはお昼食べてからとか言われて、それで暇で暇で……ちょいとした出来心で~、そのぅ」

男「そんな事だろうと思った。いいか? 大人しく帰ってくれ。帰ったらいくらでも俺が相手してやる」

転校生「はぁはぁ……て、ていうかその女の子何? あんたの何なのよっ?」

男「隠してて悪かったな。俺の子どもだ、可愛いだろ?」

転校生「」

女子生徒たち「いやー! 転校生さんが気絶したー! 転校生ちゃーん!」

男「冗談に決まってるだろ。おい、起きろ緑パン、ぶぶぅっっっ!!」

転校生「ド畜生変態ロリコン男しねぇえーッ!!///」

天使「すげー! 男くんの鼻噴水みたいに血ぃぴゅーぴゅー噴いてます!」

男「は、はは……とにかく帰ろうや、な? お願いしますよ……」

男(それから俺たちは通り掛かった先生へ事情を話し、ひとまず天使ちゃんは保健室にて預かってもらう対処を取ってもらうのであった)

男(外見以上に幼稚な彼女だ、こうなるのは承知していたとも。今後もあり得るわけだ)

男「おばさんもそろそろこっちに着くな。……少しだけ顔出してやるか」

男の娘「あれっ、あの子のところに行くの? 僕も付き添うよ~」

転校生「わ、私も行くわ。あんたとどういう関係なのかまだ聞けてないんだからっ」

男「また悪戯されても俺は責任取らないからな――――って、おい」

天使「男くんじゃないですか~」

先輩「およ? まさかてんてんちゃんと男くんはお知り合い?」

転校生「て、てんてんっ……あはは、動物園のパンダみたい!!」

天使「ごらぁー! 自分は天使です!! て・ん・しっ!!」

男の娘「それより先輩さんがどうしてこの子と?」

先輩「授業終わって友達と喋ってたらてんてんちゃんが廊下歩いてるの見えて捕獲するべきと思い立った所存~」

男「あれだけ大人しく待ってろと言っておきながら脱走かっ!!」

天使「このガッコは自分にとって庭みたいなもんなんだし散歩したって良いじゃねーですか!」

転校生「随分大きく出たわね。でも天使ちゃん、あなたは高校生じゃないでしょ? 散歩にしても場所間違えてるわ」

転校生「コイツとの関係はまだわからないけど、危ないからおウチに帰るべきよ」

天使「一理ありますねぇ――――からの必殺コンボ!! スカートめくりっ!!」バッ

転校生「え……」ひら

天使「からのぉ~~~、下ろし」ストンッ

男(華麗にして見事な一連の流れ、息もつけない高速の所業だった。天使ちゃんが掴み下ろしたソレは、転校生のひざ元にある)

男「……これがラッキースケベの申し子の実力か」

先輩「い、いっや~ん! ……いやーん」   

男の娘「見てないっ、僕見てないよぉ!?///」

転校生「…………あ、あ」

転校生「いやああああぁぁぁ~~~~~~!!?///」

男(天使ちゃんが残して行った爪痕は大きかった。文句のつけようのない眼福であったが、転校生がまるで廃人に。散々だなコイツ)

転校生「ころして……誰かころして……」

男「別に俺たち下着しか見てないんだから気に病むなって。気持ちはわからんでもないが」

転校生「……プリーズ・キルミー」ガクッ

生徒会長「彼の言う通りだ、あまり自分を追い込むものじゃないよ。そこで部長、提案がある」

先輩「おっけー、話してごらんあそばせな」

生徒会長「美味い店にでも彼女を連れていってやろう。私の奢りだ、転校生。替え玉も好きにしてくれ!」

不良女「下手な気遣いがますます傷に染みるってわかんないかねぇ、この人は……あれ、あんたは行かないの?」

男「ああ、今日は他に大切な用がー…………な、何だよ。全員して変な目で見やがって」

男の娘「[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]」

男「っ、とにかくだ! 俺抜きでそいつ励ましてやってくれ、遅くなるといけないからお先に」

男(帰りが遅くなって今度は天使ちゃんにあちこちを徘徊されても面倒になる。……それに暗くなると探索が、だ)

男(俺がどこを目指しているか察しの良い方ならばもうお気づきの事であろう。そう、この町に立つ唯一不可解にして奇妙な建物)

男「(廃病院) ……こいつは前に肝試しに来た時よりも骨が折れそうだ」

男(連れ添ってくれる美少女はいない。この中で息を潜めて待つイベントは俺による俺だけの為のものだろう、きっと)

男「まずは外から (相も変わらず鬱蒼とした様子。看板を求めて歩き回ること数分)」

男「痕跡すら見つからないときたもんだ……クソっ、怖いな!!」

男「ここが病院であり、現実に存在していたのは恐らく違いない筈なんだ。意図的に廃墟にされちまったんだろう」

男「見上げるぐらい大きな病院が記憶にすら残らないなんてあるかよ、信じられるか……!」

男(意を決して建物内部へ侵入。前に訪れた時とその荒れようは変わりない。変わりあるのは、ぼっちと、暗闇の密度だ)

男「ダメだダメだダメだっ!! あああぁ、俺一人でやりきらないとダメなんだ……」

男(コツコツとローファーの音だけが闇の中に響いている。鬱陶しい蜘蛛の巣を払いながら先へ進むと、割れた窓の前に辿り着いた)

男「前は大雨が降って来て、この窓から俺が被ったんだ。被って、妙なフラッシュバックが」

男「雨、天気が崩れていたその日に俺の身に何かが起こった。そして車」

男(二周目時、幼馴染が通りから出てきた車から轢かれるかと咄嗟に俺は手を伸ばしていた。自分の意思よりも先に体が動いていたのである)

男「やっぱり関連あるだろう。ていうか、これだけでもう判断材料としちゃ足りてる……想像力豊かだからな、俺」

男(廊下を通り階段を上がって上階へのぼる。懐中電灯を一心不乱に振りながら、ナースステーションへ)

男「日付は、何度見ても最近。俺が難聴鈍感になり始めた辺りだ……看護記録が落ちてるかもしれない。どこにある?」

男(――――――案外、それは簡単に見つけられた。問題なのは開いて1ページに書かれていた内容だ)

『  警告 ノートを閉じろ  』

ここまで。次回は日曜日ぐらい

男「…………ははっ」

男(ゴクリ、と唾を飲み込んでいた。鼻息も荒い。思考はクリアで冷静に自分を見つめていられていた)

男(よくよく考えてみると、何かがおかしくはないか? ノートは俺へ告げているのだ。お前の欲しがった情報がここにあるぞと)

男「こんなにアッサリと……」

男(焦燥感に駆られるがまま次へ進むか躊躇う。ノートと睨めっこだなんて滅多にないな、勉強好きならまだしも)

男(正直なところ期待半分でここへ来ていたかもしれない。この俺に知られて都合悪い情報が手放しにされているなんて、信じられるだろうか?)

男(根拠なら幾らでも上げられる。だから、まずこの世界の何処かにこんな重要アイテムが落ちているのが奇妙なのだ)

男「やれやれだぜ、表紙にデカデカと看護記録って書いてあるんだが……」

『  警 告  』

男「じゃあ、この先を目にして俺がどうなっても保障はしてくれないのか。それとも」

『  警 告  』

『  ノート を 閉じろ  』

男「とんち勝負かな――――うっ!?」

男(密閉されたこの封鎖空間に、風が吹いた。悪戯な風は、俺が待ったをかける間さえも与えず、ページを、めくっていた)

『  あなたは選ばれた  』

男「そうかよっ!!」

男(文字に、反射的に俺は持っていたノートを床へ投げた。まだ風は止まないらしい)

『  分岐点に立たされている  』

『  その道はたった二つだけ。足を止めるのは許されない  』

男「誰の仕業かなんて考えるまでもない。答えろ、いま俺を見てるんだろ!」

男「勿体ぶってないで出てきてくれ、神よ!!」

男(呼びかけに応じる様にして、風は止み、ノートはあるページで見開かれたままとなる)

男(辺りが静けさを取り戻す反面、俺の鼓動が喧しく高鳴り始めていたのである。恐る恐る灯りを書かれた次の文章へ当てれば、そこには)

『  左を見て下さい  』

男(意味深なメッセージのあとに、何だこの公衆便所の落書きは? 自分の現状と立っている場所を考え、内心ぞわぞわとした不快感に苛まれながらも、首を左へ、ゆっくりと動かす)

『  上を見て下さい  』

『  右を見て下さい  』

『  もっと右  』

『  下を見て下さい  』

『  振り向くな  』

男「…………天使、ちゃんかな?」

男「あ、後輩だろ? 意表突いて他のみんなか?」

男(背後から衣が擦れる音が聞こえる、微かな息遣いもだ。背後に何者かが立っているのは間違いなかった)

男(やれやれ、やれやれの二乗。まったく持ってやれやれ、やれ、である)

男(どうしてこういう所で悪ふざけをしたがるのか理解に苦しむ、イカれてるのか? やられた奴が発狂しかけたらどう責任取るおつもりで?)

男(幽霊なんて全然信じてないけれど、一ミリも信じてないけれど、やってみなくちゃわからない。右ストレートでぶっ飛ばす。まっすぐ行って))

男「うわああああぁぁぁーーーっ!!」

男(虚しく空ぶる悪霊の顎打ち抜くはずだった鉄拳。パニック一歩手前な挙動不審っぷりで必死に周囲を照らして、照らして、照らしまくった。勘違いするな、たたたただの安全確認である)

男「いるのはわかってるんだよ!! ビビってないで姿現わしやがれバーカバーカっ!!」

神「ばぁ^^」

男「あ゛あぁあああああああああああぁぁっっっ!!?」

神「迫真の怯え様お見事でした。漏らしましたね?」

男(頭が、色々な事が目の前で起こり過ぎて、追いついていない。腰が抜けて床へ尻もちついた俺は、歩み寄るソレから後ずさりを繰り返し、壁に追いやられたのであった)

神「漏らされたのですね」

神「どうも、こんばんは。お茶目に目覚めたあなたの神さまです」

男(ご存じか? 俺は知らなかった。みんなの神さまはちょっぴりチャーミング)

男(神は身の毛のよだつ気味の悪い笑顔を、訂正、神々しいゴッドスマイルを浮かべてこちらを見下ろしていた)

神「あなたの考えなど手に取るようにわかりますとも。何故、私がこの様な薄汚い小屋へ降臨したか?」

神「お立ちなさい、人間。今日はあなたの為に来てあげたのですから」

男「どういう心境の変化だ……あなたがここで姿を見せるなんて普通じゃない」

男(ガクガクと震えて笑っていた膝を抑えながら神のあとへ続き、待合室の椅子へ腰掛けさせられた。ほとんど無理矢理に)

神「神を差し置き椅子へ腰を下ろす、これを名誉と思うかどうかはあなた次第といったところ」

男「皮肉を言いにわざわざ上から降りてきたのかよ……っ」

神「まさか。喉が渇いたでしょう? それと、ここは少し不潔すぎる。気分転換が必要ですねぇ」

男(前触れなく薄暗かった院内の蛍光灯がすべて点灯する。埃やゴミ、蜘蛛の巣まで気がつけば消えていて、まるで新築のような美しさが廃墟へ帰って来た)

神「一時的です。終われば元に戻る……いいえ、元、ではありませんか……」

男「なぁ、それでいつのまにか握らされてたこのコーラは何だ!」

神「私からのほんの気持ちですよ、遠慮せずお飲みなさい^^」

神「そうでなくては腹を割って話すことは難しい。人間という生き物は建前がお好きなのでしょう?」

男「……けっ、あいにく俺の場合はド直球がオススメですがね。気遣いドーモ」

男(神さまと肩を並べて座るのはどのぐらい恐れ深い事になるのだろう。なんて、現実逃避をしている余裕はない。コイツはチャンスだ、文字通り神が与えてくれたというな)

神「理解できません。あなたとっても意味不明です」

男「……は?」

神「私は何度も口を酸っぱくして言わせていただきましたよ。夢を諦めてはどうかと」

神「良いですか? 私はあなたを考えてそう忠告したのです。何故裏切る?」

男「一々恩着せがましいと、ウザがられるんですよ。人間にはな」

男「ここはあなたが与えてくれた世界だ。何をしても自由なんだろう? その約束のはずだが」

男「俺がキッチリ“幸福”で満たされるまで……それを諦めろとは、全く意味がわからんですよ」

神「あなたは気が付いていないだけなのです。既に満たされつつあったことに」

男「何だとっ?」

神「私はいま人の夢を叶えてあげているわけですが、あなたが望んだモノは最初から提供しているのですよ?」

神「すなわち、この世界で美少女と触れ合えた実感を得た瞬間に幸福は絶頂へ達してもおかしくはない。……まぁ、狂った原因があなた自身にあるのも否めませんねぇ」

男「予想を超えたコミュ症だったあの時の俺が原因ってか (だが、もう一つ影響を与えてしまった原因がある。いや、いるのだ)」

男(後輩……後輩と出会わなければ、ここで夢なんて持つ事もなかっただろう)

神「ハーレムが自分の幸福だなんて、勝手に思い込んでいるだけでしょう? 願望をすり替えて誤魔化したのですよ、あなたは」

神「そのままでいて、いつ、幸福を迎えられるのです。黙っていれば簡単に済む話を引き延ばしたりして」

神「違うでしょう? ハーレム達成なんて本願ではありません。それは与えられた楽しい毎日を永遠送ろうとする為の都合のいい言い訳」

神「あなたは、自分が手にする事ができた素晴らしい日々をずーーーっと味わいたかっただけです。終わりのない、理想、夢を」

男「て……適当抜かさないでくれ、現に、今だって俺は野望のために毎日毎夜苦肉の策を練って、ハーレムへ近づこうと!」

神「愚かですね。もうハーレムではありませんか。あなたを嫌う人間は存在してますか? 皆があなたを求めて近寄ってはきませんか?」

男「その通り。だけど所詮は過程の段階だ、全員があからさまな好意をバリバリ見せびらかして、全員が猛烈アタックを仕掛けてくるのが真ハーレムだ! あわよくば全ての美少女の恋人となる!」

男「指が渇く暇なんてないぐらいな、もっと忙しい生活を送りたいんだ……もっと、もっと」

神「そうですか。では、それが真に叶ったとしてあなたは終わりを迎えられるのですかねぇ」

神「いつ終幕を下ろせるのです? あなたの物語はどこで完了するのです? 底なしではありませんか」

男「……悪いか? 底なしで悪いのか? 俺はここでなら何にも絶望しないで飽きずに暮らせられる!!」

男「俺の世界だ!! 終わりがなくて何が悪い!? 本人がまだまだ満足できちゃいないんだ、死ぬまで終わるか!!」

神「……物語は夢を達成して一件落着、ではないと。そう思いたいのですね」

神「ではこうして私が話をしにやってくるまで、心配していたのでは? もうすぐ終わってしまうかも、と」

神「ハーレムが完成したら世界が終わってしまうのではないか? いっその事、直前でやっぱりやめたもありかな? 少し手を緩めてゆっくりやって行こうかな?」

神「……最悪、もう一度やり直してもいいかな、って^^」

神「認めなさい、人間よ。騙しだましと続けるべきではありません」

神「あなたの夢は既に叶っている。あなたは幸せの最中にある」

男(お見通し、か。やはり神さまは伊達ではないのだな。悔しいが――――)

男(――――ダメだ、認めるんじゃない)

男(神の言う事は正しい。だが気に食わない。神よ、ご自分で俺に与えられた枷をお忘れか)

男(そして俺はモテる代わりに、難聴で鈍感になった。アホみたいな鈍感男が己の幸せに気づいていると思っているのか)

神「……^^」

男「俺っていま幸せなんでしょうか? よく分かりません」

神「…………^^;」

男「まだやる事もやりたい事も残されたままで何が幸福の最中だ。申し訳ないが、まだ終わりじゃない」

男「あなたはそろそろ俺のループを止めさせたいと思ったんじゃないですか? 過去を見てきました。そして干渉した……あなたの仕業だな、アレは」

神「はぁ……チャンスを与えてあげたのに、考え直す時間はいくらでもあったのに。自分自身へ終止符を打てたのに」

神「あなたは、あの娘を諦めるべきです。何故わかってくれないのですか? 諦めなさい」

男「悪いが……断わる。俺の意思を変えられるのは俺だけです」

神「ああ、いつまで経っても学習もせず変わらない愚かな人間。そのくだらない意思を貫き通して何があった?」

神「ここでの時間を何度繰り返したと思っている? お前の我儘に何度私が振り回されていると思っているのだ?」

男(いつにもまして淡々として機械のように抑張の無い声が、俺へ矢のように降り注ぐ)

男「か、かなりご立腹みたいだな。次は天変地異でも起こるかっ?」

神「弁えよ。無駄に過ごした日々が簡単にゼロへ戻されているのではないと知れ、人間」

神「私の立場上、お前がみすみす無へ帰るのを見逃すのは許されない。良いか、心して聞け」

神「神は、激おこなのです……^^」

男(つまり、神をキレさせた男として俺は後世にも語り継がれていくのだろう。勘弁である)

神「私が伝えたかった話は大体これぐらいでしょうかねぇ。何か質問は? 厳選しますが」

男「……い、いいのか? だって今までは何も尋ねても!」

神「どのみち今回であなたは終わりです。いえ、終わらせます。最後の思い出にせめてもの憐れみを」

男(そいつは癪だが、ようやく機会を掴めたのだ。遠慮なく突っ込ませてもらうぞ)

男「俺ってやっぱり非業の死迎えてたりします……?」

神「あら、これまたぶっちゃけましたね」

男(YESと返答されても覚悟は決まっているのだ、きっと嘆きもしないだろう。天使に神、病院、勘付かない方がどうかしている)

男(ここが三途の川でも、本物の天国だろうと喜んで納得である。実際この世に微塵も未練ないもの、俺ってば)

男「今更隠す必要なんてありませんよ。現実で俺の身に何かあったんでしょう? それでこの病院に運ばれて」

神「ええ、そして未だに眠りから目を覚ましていない。まるで眠り姫のように」

男「眠りって……まさか、まだ生きてるっていうのか? 死後の世界じゃないのか、ここは」

神「まぁ、みたいな物でしょうかねぇ。どのみちあなたをこの世へ帰すつもりなんて契約の時点でありえませんから」

神「覚えていないのも無理はありません。あなたは生死の境に立たされ、それを私が誘いに来ました。せめて最後を幸福で終えられるようにね」

男「安楽死、とは違うが。確かに苦しい最後よかこうして良い思いしてからあの世へ旅立てるなら……けれどそれを神さまがとはな。ある意味死神みたいな話じゃないか」

神「そうですよね。私は人間の言うところで死神に当たります」

男(ふむ…………さらっととんでもない事を言い切ったぞ、この神。斬魄刀はどこへ置いてきた)

神「ですが神さまは神さまです。偽称したとかケチをつけられては困ります^^」

男「じゃ、じゃあ天使ちゃんや後輩は何なんだっ! 神の使いあらため“死神の使い”とでも!?」

神「天使ちゃんは、ピッタリなネーミングですね。嫌いじゃありませんよ」

男(話をまとめよう。俺は死んでなんかいなかった、しかし死んだも同然の扱いである)

男(神は迷える魂をあの世へ導く“死神“。大鎌でも担いで命を刈り取るとばかり想像していた死神は、人の最後を最高の幸福で飾り終わらせようとする有り難い神だと自称している)

神「命持つ者平等に死は存在します。如何なる死であろうと人生を全うした事実に変わりありません。立派ですねぇ」

神「善人にも悪人にも、死の恐怖は勿論あります。だけれど、最後ぐらいは気持ち良く終わりたいではありませんか^^」

ここまで。次回は月曜日か

神「あー、私が胡散臭いとか思ったでしょう? 酷いです^^」

男「いえ、滅相もございませんよ (親切の安売り死神バーゲン、批判するつもりは毛頭ない。その憐れみで俺がどれだけ救われたか考えるとな)」

神「だからですねぇ、この神があなた一人に時間を割くわけにはいかぬのです。特別扱いもね」

神「これであなたに理解してもらえたでしょう、委員長という小娘の安否をも」

男「そうか、彼女は……もう息を引き取ったあと…………でも、どうして」

男「俺と委員長は同時期に事故にでもあったというのか?」

神「同時、とまではいきませんがタイミング的には近かったでしょうか。死因こそまったく異なりますがね」

男(集団事故に巻き込まれて偶然にも、の線を疑っていたが没らしい。だが、俺の世界へ委員長が召喚されたのもかならず理由が有る筈だ)

神「彼女がこちらへ来た理由を知りたいのですね。口にせずとも神ならばわかるのです、そう神ならば^^」

男「てん……あ、ある筋から都合が良かったからと話を聞きました。委員長の願いが単純に俺の世界においても流用可能だったからでしょうか?」

神「知りませんよそんなこと^^」

男「(ウソをつけ、ウソを) 気掛かりで今回もまたそちらに手を煩わせてしまってもOKなんだな、わかった」

神「事実です。きっとあの娘が望んだのでしょう? 私が望みを叶えるのに意見など一々尋ねはしません。その方が心から望んだ夢を形にして差し上げているのです」

神「あなたの場合ならば……ご存じでしょう?」

男(委員長が心から望んだだと。交流乏しい同士だったのだぞ、一目惚れされる謂れもない。けしてリアル鈍感を装っての話ではない、ガチだ)

男「もういい、十分です。だけど一つ言及させて頂こうか、神!」

男「俺の望みが美少女に囲まれチヤホヤギャルゲーライフだとして、難聴やら鈍感まで頼んだ覚えはない! 心からなっ!」

男「現実の俺を反映した結果だとかは聞かされたがな、最後に良い思いするには不必要すぎるだろ! ただの邪魔でしかないわ!」

神「そうですねぇ……好ましくない状況を避けるべく、聞こえないフリを。そして気づかないフリを」

神「あなたにとって今は邪魔でしかない束縛も、当時は自分の殻へ籠り守る為の術でしたけれど?」

男「前までなんだろ、あの頃と比べて俺は変わったんだ。だから愛着もなければ、親しみもない糞スキルですよ」

神「糞スキル結構。自分のアイデンティティを貶したところで私は何も感じません。ですがね、この神は事前に約束させました」

神「モテるけれど、代わりに難聴鈍感になっても悪くはないか、と。契約書見ますか? 押印も頂きましたよ^^」

男「ま、マジだっ……!!」

神「あなた方へこの神から提供する力の源は、その個人による対価なのです。まず自らの意思で死を決定させることで、こちらも絶対の幸福を約束するのですから」

神「次にそちらの望みを私が汲み取り、隔離された仮想世界を作ります。あなたの望みには本来存在する人間たちの変換も不可欠ですね? ここまでを死の対価によって進めます」

神「さて、問題の糞スキルとやらはプラスアルファとなるあなたが“美少女からモテる”への対価なのです。聴覚の一部を奪うことにより、感情を込められた言葉をシャットダウン」

神「そして鈍感……本当に鈍いですよねぇ、夢を叶えてなお、まだ自分には夢があると思い込めるその鈍感さ」

男(感じ方が鈍いので鈍感。何も美少女からの烙印の意味だけではなかったのかもしれん。俺は、鈍感を持っていたからこそ未だに昇天せずにいられた。ある意味毒の無効化だ)

男(鈍感を持たなかったあの委員長は与え続けられた幸福へ耐え切れずに……“鈍感”、実はやれる子である)

>>398
聴覚の一部→脳の一部 に変更

男「あなたが俺から引いた感度の良さのお陰あって、こうして長々と生き長らえられている。そうなるのか?」

神「さぞかし喜ばしいでしょう、自分のデメリットに守られていたなんて……あー忌々しい^^」

神「だからこそ私が出向いてあげて、教えに来てあげたというのに。それが全く理解できないおバカさん」

男(ああ、最初から俺は否定という名の武器を持っていたらしい……持っていたからこそ、これまで戦えていたのだろう。美少女たちと……)

男「話を折らせてくれ。難聴が解けるのは何なのだ? 献上した対価が帰ってきたんだぞ、妙な話だ」

神「お前が鈍すぎる故とまだわからぬのか。私の思いやりだと気づきすらしないのか。納得したら早く逝け」

男「い、いやー! 怒ると底が見えちゃいますぜ、旦那。……ふん (これで繋がったのか? 難聴解除は鈍感を潰すため。では)」

男「でしたら、神さま。もっと良い案が俺にあるのですがお聞きになりませんかねぇ?」

神「ほう」

男「なーに簡単ですよ! 煩わしい難聴スキルなんぞさっさと取っ払ってしまえば良いのです!」

男「だって攻略してから難聴解除だなんてのんびりやるよか、この方が手っ取り早い! 俺も満足で逝っちゃう~」

男(乗れよ、神。あんたも面倒は嫌いだろうが。手間を省いてくれれば、一気に俺の未来も明るいというものだ。違うか?)

神「あなた、対価を返すのに何も代償はないと思っているのですか?」

男「……聞こうか。その代償を」

神「来世をお楽しみに。来世があれば」

男(その様な不確定極まりない脅しにこの俺が屈するものか。蛙でも魚でも好きにしてみるがいい、現在宿った意思なんぞ無いのだから)

神「とかいった冗談は止しておきましょう。ですが、こういうのはどうでしょうか?」

神「あなたを取り巻く美少女たちが……現実基準へ全て元通りになるとしたら」

男「ぶーーーっっっ!!」

男「そ、それだけはあってはならない!! ダメだ、危険すぎるぞっ!?」

神「ですよね。まぁ、正直なところ何が起こるのか詳細までは伝えられませんが、対価で成り立った現状を崩壊させかねないと思ってくれたら良いのです」

神「どのみちあなたは難聴と鈍感にこのまま付き合わなければならない。下手な幻想を抱くだけ無意味なのです^^」

男「う、あぁー……冗談だろ。難聴スキルが、一生付きまとうのか? この、糞が……バカなっ……!!」

男「(望みが断たれてしまったというのか。俺が追い続けた完全完成型ハーレムは、どう足掻いても手が届かないと) …………俺は」

神「はい?」

男「お、おお、俺は絶対に……諦めんぞッ、まだ終わりじゃない……っ!!」

神「可哀想に。自らの意思を曲げない一心が遂に自身を追い込んでしまったのですね」

神「さぁ、その妥協を知らない無意味な思いにあなたはあと何度苦しまされてしまうのでしょうか。いいえ、あと一度。たった一度きりですか」

男「何がだっ!? 頭から決めつけるってのか!!」

神「ええ、だってあなたの辿り着く先はもう二択しかありません。これは運命です。この神が定めた道なのです」

神「思っていたより時間が経ってしまいましたね。帰りましょう」

男「ま、待ってくれ! こっちにはあんたへ訊きたい事が山ほど溜まってるんだ」

男「せめて……アイツは、天使ちゃんは一体どうなったんだ? 原因を知ってるはずだっ、頼む!」

神「あなたには関係ないでしょう^^」

男(確かに。事実を突き付けられてはぐうの音も出ない。だが、天使ちゃんが力を取り戻さなければ)

神「いい加減あの娘へ固執するのは止めろというのです、人間よ。彼女は安楽へ導かれるまま逝ったのですから」

男「あんたは生きたいと思った人間を無理矢理葬ったんだぞ!?」

神「契約した上で今更不満がられても迷惑です。この神に歯向かうつもりでしょうか? この恩人たる神に」

男「うぐっ……」

神「人間風情の力で運命を変えられるとは、思い上がりも甚だしいのです」

神「受け入れなさい。さすれば、あの天使ちゃんにも力は戻るでしょう」

男「またっ、それか!! 手遅れになった後じゃ意味なんてない!!」

神「手遅れでしょう? 二兎を追う者は一兎をも得られませんよ。諦めなさい、諦めるのです」

男(どちらも譲らないし、譲れなかった。後先の事など構っていられない。俺は彼女をかならず救う、その義務を果たすのだ)

男「……俺と一つ契約してくれ、見合った対価はかならず支払う」

神「あなたが? この私と?」

神「何故です」

男「チャンスをくれるだけで良いんだ。あんたならとっくの昔に俺の企みを見明かしてるんだろう?」

男「天使ちゃんが使えなくなった今、あなたに同じ内容で、契約をお願いしたい。……無理は承知の上です」

男(頭を下げてダメならば今度は床に頭擦りつけて何度だって懇願しよう。情けを掛けてくれる方法をいくらでも考えて実行してやろう)

男(いくらだってシリアス展開に身を投げてくれるわ。……いまは一兎しか追わん)

神「もし契約に応じて対価としてこちらが頂くのが、美少女、でも?」

男「ああ、問題ない (奪えない、これは確信だ。俺から一人でも美少女を取り上げてはアウトなのだから)」

神「難聴が酷くなって、全ての言葉をあなたが理解できなくなったとしてもでしょうか?」

男「上等だ (ない。上記同様に、俺が終わりへ向かい辛くなる)」

神「では、大事なマイサンが消失しても耐えられるというのですね」

男「嫌だあっ!!」

神「ならば潔く諦めるのです。あなたの覚悟は所詮その程度のもの、神さまにはこれっぽっちも響きませんでした^^」

男(万策尽きた。為す術もなく、俺は神の足元に膝をついたのである。捨てられた子犬を想起させる熱い眼差しを向けても、意思は変えられなかった)

神「負け犬は大人しくハウスなさい^^」

男(考えろ、考え抜けるところまでとことん考え抜くのだ。無様で構わん。手段など選んでいる余裕がこの状況下にあるか)

男(相手は最大の敵である。得意の話術は頼りにできないだろう。それならば、だ)

男「……委員長を助けられないと受け入れたら、さぞかしガックリするだろうな」

神「おや?」

男「俺は、美少女ハーレムを築くと同等に彼女を思ってきたのです。絶望ですよ」

男「俺の性格は既に存じているのでしょう、神さま……自分で自分を裏切った日になんか……」

神「ええ、知っていますよ。あなたはとても薄情な人間だという事を」

神「一人の人間を救えなかった程度、あーあ、でかならず済まします。だって本命は美少女との戯れでしょうに。元々彼女にもそれを優先すると話していたではありませんか」

男「なるほど、一理ある」

神「そうですとも。神には全てお見通しなのですよ」

男「流石俺の、人類の唯一神さまです! 感服でございます!」

神「ああ、褒められると気分が良い。崇めなさい、称えなさい」

男「じゃあやっぱりこうする以外他にないんでしょうね」

神「えっ^^」

男(神の笑顔を無視して立ち上がった俺は階段の前まで移動し終えると、頭から、飛び降りた)

男「――――――どうして助けたんだ? 死にたかったのに」

神「…………」

男(体が、落下の途中で、傾いたまま空中に固定されている。首根っこを引っ張られると、そのまま床へ叩きつけれたのであった)

男「あーあ、死にたかったのに!!」

神「お前の頭の中にはどれほど醜悪なゴミが詰まっているのだ……」

神「教えよ、何故あの様な血迷った真似をした。私に対する当て付けのつも、待て、何処へ行く」

男「コレなんだと思う? バカとうんたらの、うんたらの方だぜ。使いようによっちゃコイツも」

男(開いたハサミを首元、頸動脈へ思い切り当てて指を閉じようとすれば、またも直前で阻止されてしまったという)

神「止めろ」

男「ここ確か三階だったよな。窓は、開くじゃないか。頑張って身乗り出せば上手く頭から落ちれると思うんだが」

男「あなたに見えてる未来ではどうなってる? 脳漿ぶちまけてしっかり死ねてるか、俺は」

神「トチ狂いでもしたのか。気を静めて、もとの席へ座れ」

男「……無理だな。さて、飛び降りも難しいなら何なら邪魔されないんだ? 練炭でも買うか」

男「ここで首吊っても、どうせあんたが妨害してくる気満々なんだよな。参ったよ」

男「なぁ、逆に教えてくれないか。どうすればこの世界で俺が死ぬのを許される?」

神「…………」

男「所詮、もう死んだ身なんだからもう一回ちゃんと死んでみても構わないだろ?」

男「それで幸せになれる自信ないけど、痛いの嫌だし。あっ、でも転校生に殴られた拍子にポックリなら文句ねーや」

男「ていうか美少女に殺られるなら本望かもしれん。俺の最後としては勿体ぐらいだ、こんな俺にはな」

男「どうした? さっきからダンマリじゃねーか。ショックなのか?」

神「……お前を自害に駆り立てているものは何だ?」

男「委員長と約束してたんですよ。助ける気なくして遊び呆けていたら、躊躇なく刺してくれても良いぞって」

男「裏切った時は道連れにしてくれて結構なんだ。気が晴れるかどうかわからんが、俺への罰になる」

神「とうの娘は既にお前の元を去っているのだが?」

男「その通りだ、だからせめてもの報いをと思って。死ねば向こうで委員長に会えて、そしたら土下座できるかもしれないじゃないか」

男「彼女を諦めた時点で俺にとってはゲームオーバー。何より、それを受け入れてのうのうと遊んでいられる気がしない」

男「主に、妥協したこの俺自身への毎日絶え間なく沸き立つ苛立ちとかのせいでな……自分の事は自分が一番理解しているつもりだよ、神」

男「薄情なりの信念が一応あるんだ、おかしいか?」

神「……い、意味不明すぎる」

男(そりゃそうだろう。壁に頭打ちつけながら格好つける変態にドン引かない者は中々いない)

男(しかし、自分でも驚いている。煩悩が一切横切りやしないのだから)

男(頭がぼーっとしてきて……リズミカルにゴンゴン頭蓋骨に響き渡る音がなんだかシュールで……ふふふっ)

神「冗談抜きでそろそろお止めなさい、わかりましたから……^^;」

男「おっと、死ぬのを許して貰えるとぉー!?」

神「許しません、というよりも許せませんので。おい、本気で止めろ」

男「じゃあ何がわかったのです? 俺バカになってるので言葉にしてくれないと」

神「……チャンスは一度きり、それ以上はありません。そしてよろしいでしょうか」

神「あなたから最初に持ち掛けたように、対価を払ってもらいましょう。何を頂戴するかはこちらで考えておきます」

男「言ったな?」

男「しっかり聞いたぞ。あとで弁解されても困る、契約した、と言ってくれ」

男(信条か決まりなのか、神にとって命を投げ捨てる行為は認められない。かならず俺を幸福の内に果てさせるつもりでいる、これまでの言動からしてそうだったのだからな)

男(恐らく目の届かない所で自害を行っても、同じ様に阻止される。だからこそ、こちらも偽りなく死に急げた。神の妨害が働くという絶対の自信があったのだ)

男(一度目の阻止でそれは確信へ変わった。お陰でここで了承されない限り意地でも繰り返す気になれた。駄々をこねる子どもみたいに……後先も考えずに)

神「契約しましょう。ああ、やはり運命は変わらぬのですね。きっと、それはあなたも同じなのです」

男「え? 何だって?」

続きは木曜日

男(やり切った余韻も味わう間もなく、院内が元の寂しさに浸食され始めた。せめて帰るまでは保ったままにしてくれても)

神「所詮、神と人は互いに相容れないのでしょうか。碌でもないです」

男「私的には至福の時だったと思う。あなたとこうして対話する機会を得る事ができて、本当に感謝し切れない、けれど」

男「心の底から頭を下げる気はまだ無いとだけ知っておいて欲しい」

神「憎まれ口を叩くのがよほどお好きなようで……私の力を求めるのならば、再びここを訪れなさい」

神「いつでも構いませんよ? そちらの覚悟が決まった時にでも。怖気つかれ放置されても構いません」

神「神は、逃げも隠れもしませんので^^」

男(任意とはありがたい。残された時間も少ないらしく、無駄に遊びに裂く事はできないが)

男(……過去の現実、俺たちがこの世界へ訪れる前の時間へ戻してもらう。契約の内容はできる限り詳細にさせておかねばならないだろう)

男(とにかくである。委員長の死を回避させられれば勝ち、どうだ? とんでもなく浅はかな考えしていると自分でも理解していてコレだ)

男(だが、全ての起因は“死”にある。というよりは死へ繋がった何か、か。事故かもしれないし、最悪自殺行為によるものか)

男(それさえ分かれば苦労も少なくなるだろうに、ケチな神は口のジッパーを開ける気は毛ほどもない。……委員長の周辺を漁る必要がある)

神「えー、ではではそろそろお別れにしようではありませんか。神は疲れましたよ」

男「そうか……最後にこれだけは訊いておきたい。あなたの使いたちについてだ」

神「疲れたのですー><」

男(あざとい。あざといが、俺は神さまに欲情するほど身の丈に合っていない間違いは起こさないもん><)

男「そちら側にとって俺が部外者だというのは承知してる! しかし、何か、俺と天使ちゃんに何か関係があるんじゃないかと……気になって」

男(後輩は言った。他の誰かへは教えられても、この俺にだけは無理だと。そんなもの、自分から何かあると告げている様なものじゃないか)

男「使いたちは、あなたが生み出した存在だろうとずっと思い込んでいた……だが、あなたは死神」

男「実は後輩たち使いは俺と同じような境遇で幸福に果てた、もしくは至らず虚無とやらに落ちた元人間とかだったりしちゃうんじゃねーかとっ!」

神「よく頑張って推理しましたね」

男「おい、マジだったのか!?」

神「いいえ、褒めてあげただけです^^」

男「っー!!」

神「まぁ、その健闘に応えて少しだけお話してあげましょうか。知ったところで……因果をご存じで?」

男「……原因と結果のことか?」

神「アレらは因果そのものなのです。そして何者にもなれなかった者たち」

男「どういう意味だ、原因と結果であり、何者にもなれなかった? 何者にもなれない……誕生してない、とでも言ってるのか」

神「とても哀れな子たちです。知能を持てず、母にも愛されず、この世に未練すら残せなかったのですから」

神「形も知恵もなければこの私にも救いの手を伸ばす事は叶いません。ですから、器を作り与え手向けたのです」

男「も、もういい……十分…………」

神「唯一彼らが手に入れた存在意義はこの私に従い、役目を果たす事」

神「何の疑問も感じません。人並みの知識をも得られず、欲求すら持てないのですから」

男(…………茶化すわけじゃないが、ヘビィだ。それでも)

神「以上が神の使いの説明となりますかね。これだけはあなたにも救えないし、それを思い知ったでしょう?」

男「天使ちゃんの、突然の異変と関係あるんだろ」

男「“特別”がようやくになって片鱗を覗かせたんじゃないのか。いや、それは元々だったのかもしれん」

男「あの子には初めから人としての感情があった……違うか?」

神「違いませんがね」

男「(前例があったかはさておき、使いとして天使ちゃんは不安定だったのだ) 天使ちゃんの……出生が、無事になる可能性があるんじゃないか……?」

男「あの子はいま他の人間にも認識され、何故か俺の難聴にも反応する! 後輩のような例外でもなければありないんだろう!?」

男「つまり現実世界にモデルとなった人間が存在している、または存在するかもしれない可能性があるんだ! ここの基準は現実なんだからっ!」

男(生まれてからまだ日が浅いと天使ちゃんから話を聞いた事がある。ならば、命を落としたのは最近かもしれない)

男(母体に何かあったか、想像すらおぞましい末路を辿ったのか。それが今キッカケを手にして、変化しつつ……待て、おかしいぞ)

男(なぜ既に事後である筈なのに、事前の変化が起きた? 俺以外の誰かが、例えば目の前の神が過去で改変を……いや、仮にも死神なのだ。考えられない)

男「あんたはとっくにご存じなんだろう……っ!?」

神「お止めなさい、見苦しい。ですが」

男(言葉を遮ったと思えば、神は床に投げられていたノートを手に取り、埃を払うとある一文を指で示して見せたのだ。そう、最初の、あの)

神「あなたは選ばれたのです。この神の意志ですら届かない大きなモノに」

男「…… (やばいぞ、ちょっとカッコイイかもしれない)」

神「もはや死人に等しい人間が何を変えられるというのか。不思議ですねぇ、実に奇怪な話です」

神「お行きなさい、人間の少年よ。精々道を誤らぬことです……あなた自身にとっての正解という道から……」

男「あっ……消えた?」

男「しかし、一気に廃れた空間に戻ったな。さっきまで幻でも見せられてた気分だぞ」

男(思いの外、俺は非現実にも慣れてきたようだ。以前までなら即ショートを起こしていた思考回路も無事だったのだから)

男(帰りは恐怖や不安を塗り潰す勢いで、むしろ構っている場合ではないほどに、きっと無心だった)

男(これから俺は美少女もハーレムも忘れ、霧で包まれた道を進むのである。待っているのは真実と達成感、といったところだろう)

男(何も見えない。見えないのに、終わりが近くにある事だけはわかっている。それがラブコメの毎日にか、シリアスな謎とかは判別つかないが……)

幼馴染「おかえりなさい、男くん♪」

男「ただいま」

イカ楽しすぎていつ通り深夜に書いちゃったけどここまで
次回は木曜夜に続き予定。おーし今度は早めに書きこよう

先生「はい注目ー、この時間で今回の文化祭で行うクラス発表をみんなで一緒に考えてもらうからね。先生は口出ししないんでご自由にどぞー」

委員長「進行は私と実行委員の三人で務めます、よろしく。それでは先に配っておいたプリントに目を通して……」

男(OK、いつでも眠気に誘われる準備バッチリの姿勢である。俺の役割はTHE他人任せです)

転校生「見るからにあんた微塵もやる気ありませんって感じよねぇ……」

男「懸命に働くアリがいるなら、こうしたキリギリスだって必要だろう」

転校生「知らないわよバカ。そんな風にしてたら、きっとまた怒られちゃうわねー」

男「自称サボりのプロを舐めるなよ? あの位置からなら、俺がプリント読みながらどう意見を書こうか悩む従順な参加者の一人に見える」

男「この楽な姿勢と右手ペン回しは全て計算された無駄のない型だ、これで騙し通せなかった奴はい、いだだだだっっっ!?」

先生「前ばかり気にしててだーれかさんのこと忘れちゃいなかったか~? ん~~~……?」ギリギリ

男「んんん゛っー!!」みちみち

転校生「あーあ……だから先に親切で教えてやったのに。べーっ、だ」

男(黙ってやられるプロではない。適当な言い訳を並べ、ようとする前に頭部が握撃に耐えられそうにない)

男(そんな様子を遠目から眺めて呆れ顔でため息をついていた委員長。あやつ図りおったな)

先生「ほんと、君と委員長さんなら対極的だ。爪の垢でも煎じて飲ませてもらえばどう?」

男(是非、是非だ、美少女ならば是非にも。……本物の彼女はああいう生真面目なタイプだった、わけでもなさそうだったがな)

男「まぁ、言い切れもしないか」

転校生「いま何か喋ったかしら?」

男「それ俺の特権台詞だから奪わないでくれ。クラス発表にメイド喫茶でもしてお前のメイド姿見るのも悪くないかも、ってさ」

男(そしてカッと目を見開き思わず席から立ち上がった転校生。何故か胸元を手でクロスして隠してながらお決まりの)

転校生「へへへ、変態じゃないの!? へ、へんたいっ……この変態っ!///」

男「(変態三段活用とは恐れ入った) じょ、冗談に決まってんだろ! 真に受けてるんじゃねーよ!」

委員長「そこ、静かにしてください。それから最初に言っておきますけど、飲食を扱えるのは三年生だけですから却下です、男」

男「だったな。いやー、委員長のメイドも良い感じになりそうだと思ったんだけど、残念ざんねん」

委員長「なっ……[ピーーーーーーーー]///」

男(何だって? と切り返す前に、クラスの男子生徒たちが『メイド』に強く、熱く、反応を起こしざわめく。みんな大好き美少女メイド、なのである)

男子生徒「食べ物と飲み物提供するのがダメってだけで、着て接待するのは何の問題もないよな!!」

男子生徒「名付けてメイド教室、時間決めて一人の客にメイド女子数人を割り振る! そしてしばしの楽しい時間を提供! な・ん・と、ちょっぴりお触り有り!」

女子生徒「あんたたちで勝手に話進めないでよ! あたしたちは絶対嫌だからね!」

女子生徒「そうよ! やるなら男子がコスプレして接待したらいいじゃない!」

男(その一言に熱気が収まる、が、新たな標的を発見してしまったようだ)

男の娘「えっ……どうしてみんなこっち向いて…………ぼ、僕ぅ!? どうして!?」

男(一同、揃って彼の奉公姿を脳裏に思い描いた瞬間だっただろう。そして心は一つになったのだ)

男子生徒「男の娘、俺たちの意思をお前だけに背負わせるのはとっても心苦しい! だけど君しかいない!」

女子生徒「あ、あたしコスプレ衣装レンタルしてくれるお店知ってるんだけどー!」

男の娘「え、えぇぇ~~~っ!!」

転校生「ちょっと、寄って集ってみんなでやめなさいよ。男の娘くん困ってるでしょ?」

男の娘「転校生さぁん……ぐすっ」

転校生「……で、でも着てみるだけなら悪くないと思うんだけど、どうかしら!」フンフンッ

男の娘「男ぉ~~~!! 四面楚歌だよぉお~~~!!」ギュウッ

男「おーよしよし、怖かっただろう。とりあえずこの調子で放っておいたらイメクラになるぜ、委員長」

委員長「あ、頭が痛くなってきました……みんな真面目に考えてください。とくに男、一々騒ぎ立てさせるような発言は控えてもらいところですよ」

男「わかったよ。しかしだな、クラス発表と言っても面倒な作業が多くなりそうなのは勘弁したいよな。転校生は何て書くつもりだ?」

転校生「私? 私は……そうね、たとえばアームレスリング大会? とか」

男「なるほどな。対戦相手の後ろで俺が今日履いてる下着の色やら叫べばお前は無敗街道まっしぐらか」

転校生「ガアーッ!!」  男「そうっ! そんな感じで…!」

>>429 どうでもいい訂正
男「なるほどな。対戦相手の後ろで俺が今日履いてる下着の色やら叫べばお前は無敗街道まっしぐらか」

男「なるほどな。俺が対戦相手の後ろで転校生の今日履いてる下着の色やら叫べばお前は無敗街道まっしぐらか

転校生「先生は昔ここの生徒だったんですよね? その時はどんな事やってたの?」

先生「えー、それ訊いちゃう? ……訊いちゃうかあー」

男「嫌に訊かれたがってそうな顔してますよ」

先生「先生のときはねぇ、劇をやったの。ふふっ! なんとこの私が三年間連続でメイン張って!」

男(ああ、そうか……昔、は先生も曲りなりに美少女だったものな……時間は残酷である。いや、今も全然イケてますがな)

先生「凄かったのよ~? 特に演劇の経験があったわけでもないのに、もう体育館は涙と拍手のあらし! 女優の道もあったかもしれないってね♪」

男・転校生「……フッ」

先生「二人して鼻で笑うこたないでしょっ!? と、とにかくそういう無難なのが一番だと思うよ? 発表って」

男(無難というかパターンというべきか、文化祭イベントに劇は基本なのだろう。結局のところクラス全員の意見をまとめ上げると、結果は劇なのであった)

委員長「異論はありませんね。というわけで、私たちの発表は劇に決まりました。次にその中身を決めるのですが……ラブストーリーと、少数から既に提案が上がってます。どうですか?」

男(これはモブたちによる誘導が行われていると思われる。ならば、恐らくヒーローヒロインにあてがわれる者は)

委員長「えっと、物語は票が別れてシンデレラと眠れる森の美女に……は? 合わせてしまえば良いって」

先生「いいんじゃないの別に? 型にハメてやるよりオリジナルの話のが演じる方も見る方も楽しめるだろうしね」

委員長「はぁ、それでは次に脚本はまだですが、大雑把に配役を決めたいと思います。そうですね、主役の王子様とお姫様から……あっ」

男(そして、即効即座即決に、俺たちのクラス発表計画は完了したのであった)

転校生・男の娘「あ~~~……」

不良女「なぁ、アイツらどうしちゃったのよ? ずーっと放心気味なんだけど」

転校生・男の娘「あ~~~~~~」

不良女「あーあーあーいい加減しつこいし、うるせぇーよ!!」

男「見事仲良く揃って主役の王子様とお姫様に選ばれたんだよ。本人たちは嫌と言えずにな」

幼馴染「すごいじゃんそれ! 転校生ちゃんのお姫様役なんて似合ってそうで楽しみだよっ」

不良女「ふーん。でも、転校生はまぁわかるんだけど、こっちのチビが王子ってのがしっくり来ないっつーか」

男の娘「逆だよ……」

不良女「は? おい……逆ってあんた、まさか」

男の娘「僕がお姫様で! 転校生さんが王子様なんだよぉ! うわああぁ~んっ!!」

不良女「……そ、そうくるか」

男「な? しっくり来ただろ。二人には悪いが最高の配役だと思ってる」

転校生「冗談じゃないわ!! 何が悲しくて私が目立つ、しかも男役なんか演じなきゃいけないっての!?///」

幼馴染「で、でも転校生ちゃん最近ショートカットにして若干ボーイッシュになったし、似合うんじゃないかな!」

転校生「似合いたくないのよぉー! うーっ……!」

幼馴染「男くんは何か役もらえたの? 男くんの王子さま……はぁぁ///」

男「(誰が得をするというのか) 俺は出ないで基本裏方だぞ。気持ち楽だからな」

転校生「お願いっ! 私といますぐ変わるって言って! 二度と変態呼ばわりしないから、ねっ、ねっ!」

男「そんなの嫌に決まってるだろ。引き受けちまったんだから最後までやり通さなきゃなぁ、転校生王子? (どちらに対しても、お断り、である)」

転校生「あうー……それでそっちのクラスはどうだったの。同じ苦しみを味わえば良いのに」

不良女「おい、ボソッと怖いこと言うなよ。あたしらはつまんないよ? 合唱だってさ」

男の娘「どうせ不良女さん口パクだから楽だよねぇ……」

不良女「何がどうせだよ!? お前ら負のオーラヤバいからしばらくこっち寄んな、しっしっ!」

不良女「まぁ、確かにあたしは楽だけどな。伴奏担当だしよ」

男「(意外。不良女はピアノが弾けるという特技があったのだ、その姿は想像に及ばないどころかミスマッチ) ちゃんと髪振り乱す激しい演奏が期待できるんだろうな。最後は失神起こすんだろ」

不良女「しねぇーよアホかっ!! 昔、兄貴と一緒についでで習ってたことあるんだよ。時間もなかったし、タルかったからもうやめたけどなー」

転校生「あの子どこで道間違えたの…?」ヒソ  男の娘「ねぇ…?」ヒソ

不良女「よーし、もう我慢しなくていいよなぁゴラァ~~~!?」

幼馴染「ど、どーどー! 落ち着いて! でも楽しみだよね、文化祭っ。男くん!」

男(本当にな。……その為にも、俺は確かな安心を手にするのだ。心地よい夢に浸り続けるために)

先輩「へー、転校生ちゃんと男の娘ちゃんがねー。そのうち部室で予行練習させますかっ」

男「アイツら全力で拒否する光景が目に浮かびますよ。ていうか、先輩さんはもう指示された業務済んだんですか?」

先輩「もちっバッチリキッチリ完遂っすよぉ~~~! わたしに掛かればこんなのチョチョイだからね!」

生徒会長「会計、そのチョチョイで終わらせた仕事についてダメ出ししたいそうだ。向こうで君を呼んでいるぞ」

先輩「あーあー! 聞こえなーい! あー!!」

生徒会長「大人しく行ってこい!! ……まったく、アレも真面目にやればそれなりにこなすだろうに」

男「手抜いてるってことですかね?」

生徒会長「だろうな、彼女は些か気紛れがすぎる部分があるから。原因といえば、やはり君だろうけれどね」

生徒会長「と、時に男くん。[ピーーーーーーーー]、[ピーーーーーーーー]かっ……?///」

男「え?」

生徒会長「だ、だからだな、そのっ……な、何だ! 離せ! 私はまだ彼に用があるぞ!?」

「会長、席に戻ってください。まだやる事が溜まっているんですよ。さぁさぁ!」

男(哀れ、仕事を途中に俺の元へ寄って来た美少女は嫌々と連行されていったのであった。生徒会長よ、どの口が言うか)

男(途切れることなく続いた妨害もようやく止まり、目の前のキーボードをカタカタと叩いていた時だ。ふと、ドアのガラスを叩く小さな音に俺は気が付く。見れば)

天使『えへへぇ~』

天使「今日も帰りに寄り道されたら堪ったもんじゃないのですよ。わざわざお迎えに来てやった自分の心意気に感謝しやがれです、男くん!」

男「気持ちはありがたいが、学校には来るなってさんざ話しただろうに……おやつ、抜きだな」

天使「べ、別にお菓子なんて構わねーですよーだ! そんなもんより男くんと遊びたいです、今日こそ一緒に街を歩きましょう!」

天使「そしてそして、帰りにおいしいソフトクリーム買ってもら……ソフトクリームは、主食です!! おやつに含まないのです!!」

男「うるせーバーカ。とにかくここで大人しく待ってるんだ、こっちの用が済んだら付き合ってやるから」

男(ここの学校の警備はガバガバ過ぎやしないか。それともあえて通させているのか、美少女だから。だとしたらとんでもない色校だな)

男(にしてもだ、参った。いくらクラスが同じで毎日顔を合わせるとはいえ、中々委員長へ急接近できずにいる。せめて放課後に彼女の家を見に行こうと考えていたのだが)

男(何か、本物の委員長が残して行った何かがあるかもしれない。メモや写真のように、痕跡はかならず残るからな)

男「自分が消失してしまうかもと危惧していたのなら、最後に彼女が足掻いた後があってもおかしくない。いざ現実へ戻った時に委員長へ近づくヒントが……図書室はどうだ?」

男(よく図書室へ駆けこんでいた事から、彼女はあそこを心の拠り所にしていた確立が高い)

先輩「ほへ~……よーやく解放されたー。って、男くんも終わりかい? じ、じゃあさぁ……わたしと一緒に[ピーーーーーーーーーー]?///」うずうず

男「ごめんなさい、ちょっと外にいる天使のこと見ててもらえませんか。すぐに戻りますんで、すぐに!!」

先輩「ちょ、ちょっ! な、何だよぅ……むー……おっ」

天使「げっ!」

先輩「てんてぇ~~ん!!」  天使「うぎゃあぁぁーー!?」

男「いつ来ても静かっていうより閑寂としてるな、ここは」

男(不気味なぐらい人の気配を感じられない。いくら校舎の端にあるとはいえ、こうも出入りが少なければただの保管庫である)

男「調べるなら今の内だろうか? おうとも。まぁ、どこを漁れって話だけれど」

男「本棚の間か、カウンター裏か、ゴミ箱の中は……当たり前か、ないな」

男(俺のようにメモなどを残していてくれたら、なんて淡い希望は霞む。そもそも俺が稀だったのだから仕方がなかろう)

男「メモがなければ日記をつけていたとかは。そうだ、図書委員の日誌があるだろ……これか」

男(昨日に続いてまた日誌とは、俺も覗き見は不本意なのだが。適当にページを捲っていけば、やはりただの記録が記されたのみ)

男「ん?」

男(記録が、いや、記録者のほとんどが委員長だ。書いていたのはこの世界へ訪れるまでだったらしい。突然プツリと名前が途絶えていた)

男(別に前に図書委員長だった記憶は受け継いでいたのだから、これを見られても不都合はなかったと解釈していいのだろう。何とも雑である)

男「ということは、コイツは現実の日誌をそのまま反映してあるわけだ。これで委員長が現実から移動した正確な日付がわかるかもしれないぞ……」

男「ここだ、○月20日まで委員長の記録で埋まってる。つまり他の委員は仕事してなかったのかぁ? 毎日ここでずっと委員長は」

男(部活には無所属。委員会活動に専念はできるだろうが、一人が日誌を書き続けているなんておかしい。閉館時間は18時だ。それまでここで本でも読んで時間を潰していたのだろう)

男「ちょっと待てよ。確か委員長は数日休んでいたと話していた気が……だから転校生の存在を知らなかった、筈だ」

男「だったら20日以降じゃないのか? 風邪でも引いたか、あるいは他に。収穫はまだあった方だよな、たぶん」

男(特に日誌に一言コメントが載っているわけでもなく、糞が付くほど几帳面に毎日の記録があるだけ。十分だろう)

男「こっちは流石に期待できないな。いやいや、しかし」

男(本の貸し出し記録である。返却期限を越えると図書委員が貸出者へ本の返却を催促してくるのだ、例えばこのリストに載っているだらしない阿呆どもに)

男「ふふははは……俺の名前バッチリ載ってるじゃねーかっ!」

男(だらしなくて悪かったな畜生め。OK、現実へ戻った時にでも探して返しに来よう。死ぬ前にこれぐらいの罪は清算しておかねばなるまいよ)

男「カメラについての本とは、マジでカメラ小僧目指してたのか俺は……ネットで調べりゃ良いものを」

委員長「何がです?」

男「うおおおおぉぉぉーーー!!?」

委員長「きゃっ! い、いきなり変な声で叫ばないでくださいっ!」

男「そっちこそいつからここに! さっきまで誰もいなかったんだぞ!?」

委員長「さっきからそこの棚の裏で本を見てましたよ、もう。この辺りから人の声がすると思って来てみれば、まさか男だったなんて。今度はどんな悪さを?」

男「するかよ。俺もちょっと調べ物してただけ……いや、その、これはだなっ」

委員長「それって、日誌の貸し出し記録じゃないですか? 勝手に持ち出そうとしていたのなら私怒りますよ」

男「しないしない、少し気になっただけだからさ。それより委員長こそどうしたんだよ。お勉強の参考書もここに置いてあるのか?」

委員長「まさか。疲れた時にここへ来ると何だか落ち着くんです。本だって適当に選んでたんですから」

委員長「でも、男が図書室だなんて似合いませんね。ふふふっ!」

男「俺だって文字ぐらい読めるんだが?」

委員長「あははは……まぁ、いいです。邪魔も入ってしまった事ですし、私はそろそろ帰りますね」

男「風紀委員の仕事はいいのか? って、のんびりしてたんだから無いに決まってるか」

委員長「ええ、今日は丁度フリーで。…………お、男?」

男「ん?」

委員長「あなたもこの後特に残る用がなければ……ですけれど、良かったら私と[ピーーーーーーーーー]?」

男「……ああ、良いよ。丁度暇だった (向こうから転がり込んでくるとは思わなんだ)」

天使「……なーにが暇だった、ですかぁ? あ~ん?」

男「お前、先輩さんに捕まったんじゃ?」

天使「ふっざけんなですよ!! あんな野蛮人を差し向けといてそっちは静かにイチャコラしやがって! っ!」

委員長「うっ! な、何か……?」

天使「自分に隠れて男くんに[ピーー]使うとは良い根性してやがりますよ! 誘惑してその後どうする気だったんですかねぇっ」

委員長「誘惑って!? 私は全然そんなつもりなんてありません! 勘違いしないでください!」

男(この二人の掛け合いは口調のせいか紛らわしいばかりだ。辛うじて、汚い方が天使ちゃんだとわかる)

男「と、というわけだ天使ちゃん。今日ぐらいは委員長も同行してもいいよな?」

天使「あぁーん!?」

男「……ほら、もしかしたら俺の代わりに委員長がソフトクリーム買ってくれるかもしれないぞ。良い顔しとけって」

天使「はあっ!」

委員長「あの、やっぱり無理そうなら結構ですよ男。その子にも何だか悪いだろうし」

天使「いえいえっ、滅相もないです! 委員長ちゃんも一緒に我が物顔で街を闊歩しましょう!」

委員長「はしたない事はしたくないんですけれど……でも、そうですね。良いと言うなら一緒に」

天使「やりました、やりましたよ男くん! これで財布ゲットです! ソフトクリームが待ってます!」

男「お前も遂に屑っぷりが様になってきたんじゃないか」

委員長「……ぷっ」

男「どうした、委員長? 話してみると結構天使ちゃん面白いだろ。バカだからね!」

委員長「いえ、そうではなくて。何だか二人が年の近い親子に見えたんですよ。それが面白かったというか」

委員長「仲が良いんですね。お似合いですよ?」クスッ

天使「おおお、お似合い[ピーーーー]!? そそ、そんな[ピーーーーー]も[ピーーーーーーーー]~!///」

男「……まだ慣れん」

ここまで

天使「ぐふふっ、人間どもが自分を避けて道を開けやがります。こっち見てるですー!」

委員長「変わってる子ですよね……学校に乗り込んできた時点で相当変わり者でしたけれど」

男(商店街を歩かせるだけで大はしゃぎする天使ちゃん。そんな猪へ付き添うようにして俺たちは後ろを行く)

委員長「あの子は男の家でお世話になっているのでしたよね?」

男「ああ、成り行きっていうか親の気紛れでだな。不真面目な俺の近くじゃ心配で仕方ないか?」

委員長「そうではなくて。両親も不在の中よく生活できているなと感心したといいますか。わ、私が[ピーーーーー]……」

男「何だって?」

委員長「どうもしませんっ……ああ! そんなに走り回っていると転びますよ、周りをよく見て、わぁ」

天使「ぁうっ、痛ってえええぇーーー!! ちくしょうッ、ちくしょー!!」ビーッ

委員長「だから注意したのに……ほら、立てますか? 膝を擦り剥いてはいないみたいですけれど」

男(厳しい一面ばかり目立っていたが、やはりそこは完璧な美少女ときた。母のような慈しみを感じられた)

男「委員長も下に兄弟がいるのか? 扱いに慣れてるような気がするんだが」

委員長「いえ、上に姉が一人だけですよ。昔 近所の子どもたちとよく遊んでいたから、そのお陰でしょうか」

委員長「今はその子たちも親の都合やらで別の所へ引っ越していったりして、その様な事もありませんが……だから久々ですね、天使ちゃんみたいな子といるのも」

男(ならば住宅地、というよりは団地の出身か。家族アパート住まい……委員長家自体は転勤は多くもないと。面白い、ちょっぴりデキる探偵気分だ)

男(委員長は進んで委員会の仕事を、それもたった一人で請け負っていた。友人は学校にはほとんどいないが、別では少なからず存在したのだろう)

男(いつだか気になる事を彼女は話していたが、覚えているわけがないか。おさらいしておこう)

男(突然俺が電話を掛けると、委員長は賑やかな家族の団欒の裏で「家族の様子もおかしい」と口走ったのである。すなわち、リアルに置ける委員長一家の家庭事情は、理想とは程遠かったのでは?)

天使「あれ見てください! でっかい雲! 犬のうんこみてーな形ですねぇ!」

委員長「うーん、私には大きなホットドッグですかね……女の子が下品な言葉を言うものじゃありませんよ?」

天使「うんこー! うんこぉー、きゃははっ!」

委員長「……男?」

男「俺の責任じゃないって!? 元から色々ぶっ飛んでんだよ!」

委員長「では、これからはあなたが正してあげてください。家族なんでしょう? それにお兄さんなんだから」

男「どうして俺が怒られる…… (まぁ、真面目な委員長らしくはある。その口煩さも嫌いではない、かも、って)」

天使「あれは噴水ですねー。税金の無駄遣いが生み出した無用の産物でしたっけ」

委員長「……男?」

男「悪かったな!! だから一々怖い顔してこっち見んなよっ」

男(他の子どもたちと紛れて噴水できゃっきゃと一喜一憂させているロリ天使を、木陰から遠目で見守る俺たち。美少女、特に幼馴染とは遭遇したくない一心で内心ハラハラなわけで)

男(美少女委員長、か。よくよく考えると攻略対象に含まれていたくせ、まるでイベント発生率は低めだった。俺が彼女に引け目を感じて避けていた気もしなくはないが、委員長的にはどうなのだろう)

委員長「学校での私についてなんですけれど、私 あなたに対して少し厳しくしすぎてたでしょうか?」

男「どうしたいきなり?」

委員長「何となくでしょうか。男へばかり口煩くしているような気がして、鬱陶しいと思われた事があるのではと……[ピーーーー]です」

男「(こういう時の難聴台詞には、慎重が大切だ) 今更すぎるだろ。そもそも俺が騒いだり、不真面目でいるから委員長は怒ってくれてるんじゃないのか?」

委員長「そ、そうです。別に腹いせのつもりなんて一切ありません! 男が悪いから叱るんです!」

委員長「だけど……[ピーーーー]いたら悲しいというか、ですね。[ピーー]になってもらいたくないんですよ、私だって……」

男「毎日のようにガミガミ叱られて俺が委員長に対して苦手意識持っちまったと思ってたのか?」

委員長「えっ!? そ、そんな[ピーーーーーーーーーーーーーーーーー]っ!///」

男(ズバリである)

男「そりゃ理由もなく怒られるのは嫌だが、お前の場合は俺を思ってなんだろ。いや、クラスの事を思ってかな」

男「むしろ毎回反省できなくて申し訳ないと思ってるよ、俺は! へへ~っ」

委員長「やっぱり懲りてなかったんですね! 呆れた……ふふふっ」

委員長「どうして、男と[ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー]でしょう……?///」

男(胸に手を当て頬を紅潮させる眼鏡オブ美少女である。よくもまぁ、間近で呟く余裕が、それもそうか聞こえないんだものね)

男(その時だった。どこからともなく、羽虫が顔の横を横切って今日も恋に悩める美少女の肩へ止まる。虫は甘い物が好きだからな、察したに違いない)

委員長「お、男っ、あの! 今度また暇があれば……わ、わたしと!」

男「おい、肩に虫が止まってるぞ」

委員長「へ? ……あ、うそ…………きゃああああぁぁ~~~!? やぁああああぁぁ~~~!?」

男「な、何も虫ぐらいでそんな大騒ぎしなくても良いだろ?」

委員長「取ってぇ! 早く取って追い払って!! いやああああぁぁ!!」

男(諸君、ボディタッチの許可が下りた。これで白昼堂々美少女へ触れられるというものだ。どこへ、かは神のみぞ知る行方)

男「わ、わかったから動くなよ! いいか、じっとしてろよ……暴れたら顔に飛ぶかもしれん……」

委員長「ひっ!? わわわ、わかりました……って、男近いです、よ……!///」

男(気にせず委員長へ体を寄せ続ける俺、否、スタンバイした羽虫どのへ手を伸ばす。彼には喋る口はないが代わりに体で言葉を表現しているのだ)

男(喰らえ、と。よしわかった、手助け感謝しよう。手がソレへ触れようとしたその瞬間、彼は飛ぶ。そう この俺の眼前へ飛翔したのであった)

男「うわっ!! こ、こいつ今度は俺の方に向かって……ん? 手が、何か柔らかいものを」

委員長「っ~…………///」もにゅもにゅ

男「あ、ありゃ? は、ははは……結構あるんだな、委員長……な、なんちゃってー」

委員長「いいから早くその手をどけてくださいっ!! [ピッ]、[ピーーーーーーーーーー]///」

男(あれだけ拒まれたラッキースケベも、簡単に通じる体になってしまうとは。この世界に生れし美少女の悲しき性とも言えるのだろう、最高だ)

委員長「いつもいつもあなたは! 変態の通り名に間違いはなかったみたいですね!」

男「ただの誤解だろ!? い、今のだって偶然で、全然触るつもりなんて」

委員長「言い訳は結構です! 私だから良かったものを、こんなふしだらな真似を他の女子にした時は」

男「つまり委員長ならいつでも構わないってことか!?」

委員長「うあっ!? そ、そんなわけないでしょうっ!!///」

委員長「そんなわけ……[ピーー]、[ピーーーーーー]…………って、わ、わたしは何て[ピーーー]な」

男「冗談に決まってるだろ、真に受けんなって。とにかくさっきのは事故だ! いいな!」

委員長「人のっ……うぅ、こ、ここを好き放題揉んでおいてその言いようですか! 最低です!///」

男(取り乱そうがキャラを貫き通す委員長、恥じらいは天井知らずのようだが。一旦眼鏡をくいっと位置を直すことでようやく落ち着きを取り戻す。お前も本体眼鏡族か)

委員長「そ、それより天使ちゃんから目を離さないであげてください。小さな子は自分勝手に動き回りますから」

男「そうか? ……でも、好きにさせてやりたいんだな」

男(人らしい生活を送れず、人らしいありのままを体験できずにいられた天使ちゃんにとって今がどれだけ楽しいか。毎夜、就寝前に明日はどんなに楽しいだろうと夢膨らませる彼女を見ていると思わされるのだ)

男「あんなに生き生きしてる天使ちゃん、普段じゃお目に掛かれなくてさ。あの子が喜んでると自分のことみたいに嬉しい……なんて」

委員長「すっかりお父さん気分ですか? 良かったですね、あなたにそっくりじゃなくて、ふふっ!」

男「恋人はパパ以外認められそうにねーな!」

男(日も暮れて、辺りが夕闇に包まれ始める。空気を読んだと解釈すべきか、この一時も終わりが近いと考えるべきかである)

男「委員長は本読むの好きだよな。いつもファンに囲まれながらも平然と読書続けるぐらい」

委員長「ふ、ファンは止してくれませんか? そうですね、本を読んでいると不思議と寂しくないといいますか」

男「寂しいって思うのはおかしくないか。あれだけ毎日のようにみんなの中心にいるのに」

委員長「……それも、そうですね? 確かにおかしいです。ですけど、本は孤独を忘れられるんですよ」

委員長「というよりも、気持ちを紛らわす、と言った方が私の場合は合ってるでしょうね」

男「現実逃避か」

委員長「そ、そこまで大それた話ではありません! ただの趣味ですっ、それ以上以下もなく!」

男(いいや、現実逃避だったはずだ。この俺と同じように彼女にも目の前の不都合から目を背ける物があったと見ていい)

男(僅かながら美少女した委員長にオリジナルの癖が残っていたのだろう。図書室の件で説明はつく)

男「家でもそんな感じなのか? 家族とは上手くやれてるか?」

委員長「学校の面談でもないんですし、変にプライベート探ろうとしないでくださいよ 男……でも、家では違うと思います」

委員長「お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、みんな仲良くって。以前は勉強がしたいからと部屋へ戻ろうとしたらもっと話がしたいと引き止めて大変でしたよ」

男「だったら大好きな本を読む暇も与えてくれないと?」

委員長「ええ、ですから唯一学校での自由時間のみ趣味に割けます。あ、あなたから借りた漫画だって一応は読み進めてますよっ……[ピーーーーーー]///」

男(真逆に考えてみるとしよう。この委員長が話した内容を何もかも逆転させてしまえばいい。それで彼女が憧れ望んだ理想と繋がる)

男(委員長は、ずっと孤独だったのだ。こちらの悩みなどチンケに思えるぐらい深刻な問題を抱えていて、それでいて家庭事情すら)

男(なんと哀れな娘だろうか。夢が叶ったところで受け入れられず、それすら拒絶しようとしていたのだから。彼女は現実で何を変えようとしていたのだろう?)

男「あーらら、まるで漫画みたいに悲劇のヒロインだ」

委員長「えっ、私がですか? あなたって時々よくわかりません……というわけですので、そろそろ家族が心配する頃です」

委員長「今日は付き合ってくれてありがとうございます、男。あの子にも同じように伝えてあげてくださいね」

男「バカかお前、付き合ってもらったのはこっちだ。貴重な時間をワガママで連れ回しちまって悪かったな、委員長」

委員長「そ、そんな……お陰でこうして[ピーーーーーーーーーーーーー]ですし……」

天使「呼びましたか~!?」

男「呼んだ覚えないんですけどね。ほら、俺たちも帰って夕飯にしよう 天使ちゃん」

天使「もうそんな時間にっ! あれ、でも何か大事なこと自分忘れてるような気がー」

男「忘れるぐらいならどうでもいいんだ、忘れろ。じゃあな 委員長、話ができて良かったよ」

委員長「あ、あの、男……男っ!! 待ってください!!」

男「おう? どうした、委員長よ」

委員長「……よ、良ければウチでお夕飯取っていきませんか? 天使ちゃんも一緒に」

次回は火曜日

男(心なしか足取りを弾ませている委員長。照れ笑いを浮かべつつ、きっと家族も歓迎してくれるだろうとこちらを振り向いた)

男(思惑は読めている。意中の相手をホームグラウンドへ上手く呼び込めたのだ、これまでの美少女行動原理から考えるに、である。俺としては願ってもないチャンス到来よ)

男「突然、しかも天使ちゃんのおまけ付きで押し掛けたら迷惑になるんじゃないか?」

委員長「そんな事はありません! 連絡も先程済ませておきましたし、向こうも快く了解してくれましたし」

天使「思い人を自宅にホイホイ招いちゃうとは、委員長ちゃんも中々の肉食獣ですねぇ」

委員長「[ピッ]、[ピーーーー]っ!? ……勘違いしないでください、男///」

男「俺からは何も言ってないだろっ……!」

委員長「とにかく今回は私の気紛れと言うか、二度はありませんから! 学校の人たちにはくれぐれも内密に。わかりましたねっ!」

男「心配しなくても、おいそれと周りに公言するほど俺は浅はかな奴じゃないって (ただし、場合にもよるが)」

委員長「わ、私どうして急に[ピーーー]。ううん、だけど今更もう[ピーーーーー]ません。乙女の[ピーー]があるんです……[ピーー]///」

男(これを機に何かアクションを起こすつもりでいるのは間違いない。が、俺にはおまけという名の守り神がくっついている。一筋縄では崩される心配はない)

男(という慢心は捨てさせて頂く。もはや様式美に等しいパターンだ、この展開は。悪いが委員長、ド真面目美少女な君に惹かれはするが、別の目的を果たさせてもらおう)

男「一人でブツブツ喋ってると危ないぞ、委員長? 考え事でも?」

委員長「い、いえっ!! ……えっと、着きました。と、いってもここから少し上に上らなきゃいけませんが」

天使「ボロアパー、むぐぅ~っ!?」ガバッ

男(天使ちゃんが評した通りの様がそこにはあった。廃病院ほどでも無いにしても、建って相当の年月は経っているだろう)

委員長「ふふっ、貧乏だとか思ったでしょう?」

男「いやいや、招かれといてそこまで失礼じゃねーよ」

委員長「事実ですからね。だけど、貧しいと不満に思ったことなんて私ありませんから。これはこれで良さがあるんです」

委員長「えへへへ……なんて。さ、立ち止まってないで進みましょうか? 歓迎しますよ、男。天使ちゃん!」

男(所々蛍光灯の切れかかったフロアを通り過ぎ、背の低いドアの前に俺たちは立った。直前、委員長から「驚かないでくださいね」とぽつりとつぶやかれると、ノブが回され、ドド ド ド ド ドド……ドドド?)

委員長姉「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」

男・天使「おうっ!?」

委員長父「キタ━━━━━━━━m9( ゚∀゚)━━━━━━━━!!」

委員長「も、もう! はしゃぎすぎですっ、姉さんにお父さんまで!///」

委員長父・姉「キタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!」

委員長「お恥ずかしながら、父と姉です……いつもあんな風なワケじゃないんですよ!? 今日は珍しくお客さんが来てくれるからと!!」

男「な、何にしてもこれだけ強烈な歓迎受けたのは生まれて初めてだな。喜びのあまり心臓止まるかと思った」

委員長姉「ほら、遠慮しないで上がって、ようこそ我が家へ! 待っていたよ、未来の義弟くん!」

委員長「姉さんこちらは同じクラスの男と言って……んっ、ぎ、ぎ[ピーー]……!!?///」

委員長姉「あんたがよく話してくれてた子だよねっ! やー、こんなに早く顔合わすとは思わなくて飛んで帰って来ちゃったよ!」

委員長「ち、違いますっ!! [ピーー]の予定もありません!!///」

天使「何やら自分らはめんどーに巻き込まれた気がするです、男くん……」

男「そいつは奇遇だ、って ぐうーっ!?」

委員長父「君きみ、ウチの娘とはどのぐらいの付き合いかな? 年収は? 卒業した大学は?」

男(あなたの期待へ応えられる未来が浮かびませんな、お父さま)

委員長「お父さんもいい加減にして! ……あー、ごめんなさい。二人ともおかしな勘違いしているようでして」

委員長父・姉「挙式の予定は? 赤ちゃんは?」

委員長「知りませんっ!! 男、天使ちゃん、無視して行きましょう。切りがありませんっ」

委員長父・姉「ケコーン……(´・ω・`)」

天使「( ・∀・) ……」

委員長父・姉「Σ(´Д` )」

天使・委員長父・姉「ヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ !」

男「言葉は不要か……おっと、幼馴染に連絡しておかないと。ん? 委員長?」

委員長「あの、母に確認したところ食事の準備がもう少しかかるみたいです。……それまで私の部屋でゆっくりしませんか?」

男(厄介者にはバレぬようにと、俺は委員長から手を引かれ、抜き足差し足とその場を後にする。脱落早くはないか、守り神よ)

男「ここが委員長の部屋……思った通りな片付きっぷりだな。委員長らしい」

委員長「か、勝手に部屋を品定めしないでくれませんか? 以前は姉と共同で使っていたのですが、今は私だけの物となっていまして」

委員長「それより騒がしくてすみませんでした、私もここまでとは思ってなかったので……男?」

男(本人のいる前じゃ探るに探れないか、そこの机の上や中とか、お宝潜むタンスの引き出しを開ける事も。タンスとかタンスとか、いかん、下着チェックは転校生ので十分だろうが)

男「ちゃんと聞いてるよ、それにしても仲が良いってのも納得した。楽しい家族をお持ちで」

委員長「皮肉のつもりですかっ、ふん。……え、えっと、[ピーーーー]」

男(会話が途切れると、委員長は伏し目がちに俺を見つめて落ち着きがなくなったのである。節操ないのはお互いか?)

男「何だよ。自分の家なんだからそう緊張することねーだろ? 座れって」

委員長「そ、そうですよね。って どうしてあなたが指図してるんですか! 図々しいですよっ!」

委員長「……お、男も適当にかけたらどうです?///」

男(初めから遠慮の欠片もこちらは持ち合わせちゃいなかったのだが。さて、追い出すわけにもいかない。どう調査すべきかな)

男「 いつもあの机で勉強してるのか? 不自然なぐらい綺麗だが」

委員長「えっ? ええ、散らかっているのが個人的に無理なんです。ですから、使ったあとは一応片づけてて」

男(潔癖症傾向があるとは観察していて気がついていたが、俺が出会った誰よりも徹底されているようだ。ならば、人に見られてマズイものはかならず発見されづらい場所に、か)

男「しっかし、本当に真面目だよな 委員長。漫画一冊も本棚に置かれてないんだが」

委員長「悪いですか。基本、自分の妨げになるような物は置かない主義ですので」

男「そういうところが真面目なんだよ! 俺とは別世界の住人だ……ちょっと本見ても大丈夫か?」

委員長「構いませんよ。気になったものがあれば漫画のお返しに貸してあげても」

男「あれば、ね (自然を装い物色へありつく事へ成功、容易い。まぁ、俺のようにして漫画へメモ一枚仕込むなんてありえるかも分からんが)」

男「日記とか紛れてねーの?」  

委員長「あってもあなたには読ませませんからっ、絶対に!」

男(当たり前だが、元々この部屋にある物すべて、あの“委員長”のものである。ここから彼女の痕跡探しともなれば、森の中で一本の木を探す苦労が約束されるだろう)

男(不審に思える何かは本棚からは一向に発見できない。そもそも、委員長の置かれた環境が想定できただけリアルでの対応はどうにか――――これは)

男「おい、ここに貼ってある写真…… (収められてあるのは家族や友達と写る委員長でもなく、幼い彼女でもない。変哲もないただの街並みである。だが、妙な点を一つ抱えていた)」

男「これってもしかして現像ミスってるんじゃないか?」

男(その景色は、曇りの日の夕方のような寂しさを纏って、せっかくの綺麗な街並みがぼやけた暗い感じに変わっていたのだ。見るからに失敗であり、それでいて見る者をネガティブな気持ちにさせるある意味の傑作という)

委員長「ああ、写真ですか。実は私にも覚えがなくって……」

男「え?」

委員長「姉のなんでしょうかね? 気づいた時には前から貼り付けてあったと思います。悪趣味ですよね、ふふ」

男「俺のだ……」

委員長「はい?」

男「この写真、きっと俺が撮ったんだ。理由はないけれど、何となくわかるんだ……俺の、写真」

男(撮影者に似て卑屈な部分が滲み出ているとか、そうじゃない、直感が伝えているのだろうか)

男(では、なぜそのような物が委員長の手に? 渡したとすれば現実でだろう。俺が進んでくれてやったのか? バカな、この失敗作をどうして)

委員長「気に入ったのでしたら、譲りましょうか。あっても気味が悪いだけですし」

委員長「何となく重い、ドロドロした空気が伝わってくるといいますか……男は写真に詳しかったのですね?」

男「昔ちょっぴりだけ齧ってたらしいので。……ともかく、必要ないなら遠慮なく頂戴させてもらうぞ」

男(上から刺されたピンを抜き、写真を手に取ってみる。拍子に過去の記憶が蘇える、わけでもなく、より間近で暗い風景を見ただけであった)

男(そんなワケがあるものか)

男(やはり偶然入手できた重要アイテムだ、写真の裏を表へ向けると文字が連ねてあったのである。シンプルに、一文だ)

男「『帰りたい』」

委員長「えぇ!? ち、ちょっとそれにはまだ気が早っ、うっ!? ……[ピーーーーーー]~///」

男(これは俺の憶測だ、不確定な。委員長は自分を失うことを恐れるあまり、こうして文字に書いて意思表示し、心を留まらせていたのである)

男(何度も、何度も快楽へ持って行かれそうになったときは写真を眺めて刷り込んでいた。この、くすんで重苦しい世界へ戻りたいのだと)

天使「っかあー!! 美味しかったですねぇ、委員長ちゃん家のご飯も~! おまけにみんな良い奴らばっかです!」

男「そう言ってもらえたなら誘った委員長も本望だろうかね。おい、暗いんだからもう走るな!」

天使「何言ってやがるんですか! 次は急いで帰って幼馴染ちゃんの作ってくれたご飯ですよ! これが走らずして……浮かない顔ですねぇ」

男「うむ……ますます意味がわからなくなったんだ、あの委員長がここにいる事より元の現実へ帰りたいと思ってたのが」

男「なぁ、自分が望んだ夢を否定するなんておかしくないか? あまりにも酷いギャップに耐えられなかったのかな?」

天使「自分は委員長ちゃんじゃないんですし、そんなの知らねーですよ。会って、本人に直接訊けばいいんじゃないですか」

天使「でもまぁ、訊いたところで何のことやら状態になるでしょーけど。……昨日主に会ってたんですよね、男くん」

男「お前……こっそり後着けてたんじゃねーだろうな?」

天使「そんなことしなくても、帰ってきた男くん見て一発でわかっちまったんですよ。ううん、わかっちまうんです」

天使「だって、おかしいでしょう? 男くんってばず~っと自分のこと見る目が変なんです。めちゃめちゃ複雑そうにしやがってー」

天使「……も、もしかしなくてもですよ。自分のことを主から聞けたんですか!?」

男(自分のこととは、これから先の話を指しているのだろう。出生についてと早とちりしそうに……その意味も含んでいたりするのか?)

天使「だったら教えやがれです! 自分はいつまで人間モドキやってりゃいいです!? 主は自分を見放してしまわれたんですかっ!?」

男「て、天使ちゃんは……今の、人間と寄り添える生活は嫌か……?」

天使「いーえまったく!!」

天使「むしろ何の不満があるんですかねぇ、こんなに楽しい毎日なのに!」

男「ああ……じゃあ戻りたいのか戻りたくないのかハッキリしろよってば」

天使「そんなのわかんねーですよぉ!! だ、だって自分はこれまで主の使いとしてやってきたのに」

天使「それだけが自分の“意味”だったのに! いきなりこんな事になって……[ピーーー]、[ピーーー]けどもやもやしちゃって」

天使「うぅ……わ、わかんねーです。選べなんて言われてもパニくっちまいます、です」

男「そ、そうかっ、無神経なこと言って悪かった。お詫びに帰りに一つだけ好きなアイス買ってやるぞ!」

天使「マジで!? やったぁー! あれ、でも今日は買わないってあの時男くんが」

男「あー、余計な口滑らしてせっかくの美味しいアイス逃しちゃう天使ちゃんかわいいよー」

天使「あー!! ああああぁ~っ!?」

男(幼いこのロリ美少女に選択など不可能に決まっている。間違っても彼女の生まれに関して口を滑らせるわけにもいかず、結局はこうして騙すしか俺には能がなかったのだ)

男「(さてさて、時は進み アイスを舐めて満足そうにさせた天使ちゃんを横に、自宅へ到着。予め連絡はしておいたが、幼馴染のよく効く鼻が鈍っているのを祈るばかり) た、ただいま……って、何? 幼馴染もう帰ってるのか。靴がないぞ」

男(が、引き換えに見知らぬ靴が玄関に並べてあるのであった。間違いなく幼馴染ではないだろうが、美少女の物ではある。確実に)

?「ああ、おかえりなさい。おにいちゃん」

男「……いつから俺の妹は増えたんだ?」

後輩「可愛い妹なら大歓迎なんでしょう? ねっ、おにーちゃん? ふふっ!」

ここまで。次回は土曜日かしら

おつおつ
興味本意なのだけど、これから新キャラって出たりしますか?

男(こうして新たな美少女妹から、やんわり笑顔でお出迎えを果たすお兄様の図である。こんなの、抗えない)

後輩「おにいちゃん、じゃ馴れ馴れしかったですか? それでは兄さん」

男「で、妹はどうしてるんだ? 幼馴染は珍しく帰ってるみたいだが」

後輩「んー……兄貴?」

男「わかったから人の話聞く姿勢をまず見せて欲しいんだが」

後輩「気に入らないなら趣向を凝らしてみます。にぃに、えへへっ!」

男「あぶっっっ!!」

男(直接 内側から内臓を伸ばされ縮められ、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられたやもしれない。穴という穴から健康な血が噴き出しかけた、否、出てた)

後輩「でも、うーん、よくよく考えたら妹キャラ被らせても面白味ありませんかね。私のアイデンティティ無くなっちゃうし」

男「フーッ、フーッ!! か、帰ってきて早々弄ばれるとは思わなかったんだがー……っ」

後輩「でも嫌いじゃないんでしょ? ん、そうですね、やっぱり今日だけは私を実の妹と思ってもらうシチュで……///」

男(言いながら後輩は、するりと、腕を絡ませて体を密着させてきたのだ。アクチブな彼女に見惚れつつ、小首を傾げて上目遣いなこのあざとさの塊をどうしてやろうかと、過った瞬間)

後輩「ほら見て妹ちゃん。私の言った通り先輩すぐにコロッと落ちちゃったー、あははっ」

妹「お、お兄ちゃんの……バカアホっ、浮気者ぉ~~~っ!!」

男(えぇ……)

男(あのような理不尽な仕打ちを受けるは主人公冥利だろうか、はたして)

男(どうやら二人でちょいとした賭けを行っていたようだ。大体想像はつくが、それよりも気になるのは何故後輩がここに、である。訊くと)

妹「これだからお兄ちゃんは世間に疎いんだよねぇー、やれやれ。そんなの決まってるじゃん」

妹「女子限定パジャマパーティーの日だよ」

男「いつからそんな良い匂いしそうなパーチーが我が家に加わったの」

男(言われてみれば確かに妹は勿論、後輩まで普段の制服姿とは異なるラフな格好で居る。既に入浴後か、髪を後ろで二つ結びにさせていた。詰まる所は卑怯だ)

後輩「勉強会、じゃなかったの? 遊びに夢中で課題終わらなくても知らないよ?」

妹「ちょ、見放さないで! 私がんばるから、勉強もとりあえず頑張ってみるからっ!」

後輩「あはは……というワケですので、お邪魔しています。先輩」

男「ちょいちょい順序がおかしいと思わんのか、お前 (後輩絡みのイベントと言えば最近ではもう“例のアレとかコレとか”ばかりだった為、今回もとばかり疑っていたが、実際のオフらしい)」

妹「ていうか、あのうるさいチビ助一緒じゃないの?」

男「はっ? いや、さっきまで傍にいたはずだぞ……そういえばどうしてあの時後輩に噛みついてこなかったんだ……!?」

男(怒涛の妹ラッシュに気を取られて一人騒がしい存在が抜けていた事に俺は気がついた。幼馴染の家に真っ先に向かったのか、それとも他にどこか)

天使「……」ド ン ッ

「!! …………」

男(それは俺たちの後ろに堂々と立っていた。それは、大きくたわわに実った化け物を俺たちへアピールしていたのだ)

天使「……ふぅん!」ボ イ ~ ン

男(乳房と言うにはあまりにも大きすぎ、ぶ厚く軽くそして大雑把すぎる)

男(まさに二つのゴムボールであった)

妹「……は?」

天使「男くんっ、たかだか妹如きがなんだっていうんですか!?」

天使「いいですか。時代はロリよりも包容力があって思わず胸に飛び込み甘えたくなるお姉ちゃんへシフトしたんです!」

天使「ならば、黙ってこのでっかいおっぱいに飛び込んできやがればいいじゃねーですか! カモーン、男くんよっ!」バッ

妹「服伸びるだろこのアホダラぁ!!」 天使「わぎゃんっ!?」

男(妹へ唯一対抗できるのは、巨乳姉。彼女が辿りついた答えは虚しく死んだのであった)

妹「ったく、あんたは本当に! どんな脳みそしてるかいっぺん見せろ!」

天使「離せ、はーなーせーっ! だぁーっ そこぉ! 見てないで早く助けやがれですよ~!?」

男「おい、そこに落ちてるぞ。手軽な豊胸グッズが」

後輩「……はっ! な、何言ってるんですか。私にはまったく必要ありませんけどっ?」

男(あとで、気分だけでもボインを味わうつもりだったのだろうか)

夜に続ける

>>460
出ないよ。色々考えてはいたけど、これ以上登場させたら収拾つかなくなっちゃう
次に書くSSに回せばいいしね

男(天使ちゃんの突発的な奇行は、おふざけで、というつもりでもなかった。推測するまでもなく嫉妬と焦燥感に駆られた至りなのだろう)

男(彼女はイレギュラーから攻略対象美少女へ昇華されたのだ。仕様は違えど、他と同様のケアは不可欠)

男「よく分からないが、俺は誤魔化さないでありのまま自然体でいた方が良いと思うけどな」

天使「えぇ?」

男「飾らない天使ちゃんが一番魅力的だってことさ。無理は何も生まないんだよ、バカだなぁ」

天使「そ、そうなんですかー……そうでしたかぁ……」

天使「[ピーーーーー]望むなら自分は[ピーーーーーーーーーーー]!」

男(この俺に対して嫌悪しかなかったあの頃が遠い。だがな、素直に好意を示すようになってからコレだ、焦らしプレイの一種か 難聴よ)

妹「ほらほら、あんたのために後輩ちゃんとのお風呂我慢したげたんだよ。洗ってあげるからすぐ支度して」

天使「はん! 優しい幼馴染ちゃんは良いとして、どーしてお前なんかチンパンジーと!」

妹「チンパっ……あぁ~ん!?」

天使「小猿とお風呂するぐらいなら、まだ男くんと一緒にの方がマシなのです! ……っん///」ギュゥ

妹「ちょっと誰に許可取って抱きついてんのさ!? [ピーー]お兄ちゃんにベタベタ触んないでっ! 離れろ!」

男「お、おい! 一々ケンカするなって! (好意の増加は嬉しい、が これでは美少女除けとしては逆効果)」

男(妹と反りが合わないまま敵対関係が悪化しては、微妙な歪によってハーレムが綺麗に纏まらない恐れがあるか)

妹「どうしても嫌ならあんた一人で入ればいいでしょ! 私だってお断りだよ!」

天使「そんなの男くんが許可しないです。だから必然的に、自分とお風呂に行くことになるんですよ~ねぇ~?」

男「と言われてもな……お前ら少しは仲良くしろよ。天使ちゃんもコイツのこと嫌わなくたっていいだろ?」

天使「その女にだけは負けちゃいけない気がするんですよ、宿命染みた何かを感じるんです!!」

男(美少女妹VSロリ美少女、共通点といえば どちらも手を出せば社会からの追放が待っている。リアルならではの話だが)

妹「だったら、こっちにも考えがある! お兄ちゃんっ!!」

男「おう!?」

妹「……わ……私と……わ、私とねっ? ……ぁ、あ、あの~///」

男(高まる鼓動とギャラリー、生唾を飲み込み次の言葉を待っている。勇気を振り絞って、ついに彼女は)

妹「私と[ピーーーーーーーーーーーーー]!!?///」

男「だと思ったんだよッ!! ……あ、いや、こっちの話ね (思わず壁を殴打しそうになったが、どうすべきか。美少女妹 or ロリ美少女から入浴のお誘いである。男子ならば断る謂れもなかろう)」

男(妹も天使ちゃんも、以前までの彼女らならばこのようなアタックはまず有り得なかった。つまり一挙に大きな進展がやって来たと共に、嬉しい悩みが)

男「どういう心変わりか知らんが、お前たちがどうしたいのかはよく分かった。そこで俺から一つ提案がある」

男「全員で入れば文句ないんじゃねーか?」

妹・天使「はぁ~~~!?」

妹「――――でぇ」

妹「何で銭湯まで来なくちゃいけないのさー!? これじゃ[ピーーーー]と一緒に[ピーーーーーーーーーー]」

天使「そーですよ!! 自分は[ピーー]と、だけ、[ピーーー]ったのに!」

男「仕切りは間にあるけど、これなら一緒に風呂へ入ったことになる。ウソはついてないだろ、俺」

妹「お兄ちゃんの頭の中ってどうなってんのよ! 普通はウチのお風呂で[ピーーーーー]……うっ///」

男「おい、何か言ったか?」

妹「知らないっ! 知らないしらない、バーカ! もう後輩ちゃんいこっ、ついでにチビも!」

後輩「私さっき妹ちゃんの家で頂いたばっかりなんだけど……よくも巻き込んでくれましたね、せーんぱい」

男「はっはっはー、何のことやらー? (妹たちには悪いが鈍感な兄はお前たちの心情を察してはやれないのだよ。たとえ好意が明らかになっていたとしても)」

男(優先すべきは俺へより近寄らせる、ではなく、妹と天使ちゃん同士の好感度の底上げである。それに、最大の重要キーイベントを前にして悠長に遊んでいられるか)

天使「ではでは、自分たちは男湯へ」 男「オイ 女子コラ」ムンッ

天使「お、男くんは小さな子が男女関係なしにお風呂へ立ち入られる合法を知らね~んですかぁ!?」バタバタ

男「十分大きい子どもだろうが、自分が良くても中の紳士たちが死ぬ (強情なロリ美少女を後輩へ引き渡し、俺は暖簾をくぐったのであった)」

オカルト研「あら……」

男「は?」

男「お、オカルト研!? どうしてここに!!」

オカルト研「やはりあなたと私の間には因縁めいた運命を感じるわ」

オカルト研「ところで……[ピーーーーー]?///」

男「な、何を、って服脱いでる途中だったのかよ!! すまん、すぐに出て行く!!」

オカルト研「ま、待って」

男(言いながらオカルト研は俺の腕を掴む。俺は気が動転したわけではないぞ、倫理を重んじているだけであって)

オカルト研「待って、男くん……ここは男湯なのよ///」

男「男湯なのよ、じゃねーよアホかっ!! 早く隣の女湯に帰れ!!」

オカルト研「男くん、私の話を聞いてほしい。これには深いわけがあるの、いくら私といえど公共の施設で見境なしに男性専用の場へ飛び込みはしない」

オカルト研「この時間だけ貸切にしてもらった。お店のマスターにお願いして」

男「番台さんだろ……違う、そういう事じゃなくて。貸切だと?」

オカルト研「そうよ、いまこの時間だけはここは男湯ではなく私湯。私専用なの」

男(ああ、そういえば彼女は財閥のお嬢様設定を抱えていた。無尽蔵であろう金の力で有無を言わせたという事か、まるでお嬢様だ……)

オカルト研「恥ずかしいけれど、前から銭湯という場所に憧れていたのよ。それでお父様へ無理を言ったら、こんな事態に。男性方には本当に申し訳ない」

男「俺、男なのにカウンターで止められなかったんだけど…… (というか、女湯は開放したままなのか)」

オカルト研「でも、この湯船に浸かれば私は霊力をより増すでしょうね。ここは昔……どこへ行くのっ?」ガシッ

男「事情を知ったからには俺がやっぱり出て行くんだよ! ていうか、服着るか掴むかのどっちかにしろ!」

オカルト研「なら、脱ぐわ」

男(潔くてよろしくて。振り向いてやりたい衝動を堪え、俺は彼女から拘束されたまま服が擦れる音を聞き、イメージするのだ)

男「と、とにかく離してくれ オカルト研。お前だってせっかくの貸切風呂を楽しみたいだろ?」

オカルト研「脱いじゃったわ……[ピーーーー]いい」

男「要らん報告どうもっ!! ていうか、何だって?」

オカルト研「男くんも私と[ピーーーーー]いいと言ったわ……///」

男(一幸去ってまた一幸なのであった。いや、もう流れで読めていた。腕を掴むオカルト研の手は緊張に震えたか、ぷるぷると小刻みに動く。力の入りも強くなった)

男「(ああ、美少女からは逃れられぬ) じょ、冗談なんだろ?」

オカルト研「[ピーー]よ。今なら誰にも邪魔されないし、日々凶悪な悪霊を抑えるあなたの疲れを癒すことができる」

オカルト研「いいえ、私が[ピーー]してあげるわ、男くんを///」

男(状況、そして伏せられた言葉を想像し 俺は気が狂う一歩前である。乗せられてしまえばいいんじゃないか? こんな、甘い誘惑なんてされちゃあ、俺は)

男「(まだ効かん) 悪いけどな、自分のだらしない裸を女子に見られる決心が――――」

黒服「貴様ァーッ! うおおおお貴様ァーッ!!」

黒服「貴様ァーッ!! まぁた貴様なのかァ~~~ッ!?」

男「ぐうっ!? (怒声を上げながら更衣室へ突っ込んできたモブは、俺の首をむんずと掴んで体を持ち上げた。この変態は、いつぞやの)」

オカルト研「男くんに酷いことをしないで! 今すぐ降ろしなさい!」

黒服「なりませんな! たとえ貴女様の命令とあれど、いたいけなお嬢様へ発情するこの狼を許すなど、断じて……お、お嬢様」

オカルト研「なに……っ」

黒服「いつのまに、その様な立派なご成長をッ! この黒服、お嬢様のお美しいお姿に涙致しましょう、ああ、お嬢様ぁー!!」

オカルト研「ひ、人の下着姿をジロジロと眺めるだなんて。あ、あなたは屑よ」

黒服「あんっ! い、いけませんお嬢様、はぁ、屑などと、ハァハァ、低俗な言葉を遣うのは……屑は少年、貴様にくれてやろう」

男「っ、ふ!? ぜぇーぜー、あ、あんた本気で俺を殺すつもりか!?」ドサッ

黒服「当たり前だ。危うく手が滑りそうになったがお嬢様に感謝しろ、少年。だが覚えておけ」

黒服「お嬢様と貴様如き馬の糞が混浴など許されると思うな糞は糞らしく便所で濁流に呑まれて流れてろッ!! ……フッ」

男(コイツ、相変わらず俺からのヘイトを溜めるのが得意な奴だ。だが、使えなくもないじゃないか?)

男「そうですか……オカルト研、すまないがやっぱり一緒に風呂ってのは無理だな。どうしようもない、俺は大人しく帰るよ」

黒服「偉い!! 実に引き際を心得た少年だ、百円あげよう。好きなだけ牛乳を飲むといい」

オカルト研「だめっ、男くん行かないでっ」ギュウ

ここまで。女の子ばかり書いてると久々に男キャラ書くのが楽しい
続き今日の夜に

黒服「お嬢様引き止めてはいけません! 行け少年ッ、ここは私が引き受けた! とっとと立ち去れイーッ!」グイグイ

オカルト研「嫌ぁ! 離して、命令よ! ああ、男くんどうか、どうかっ」

男(傍からでなくともカオスであることは間違いない。俺へ縋り付いて懇願するオカルト研、それを羽交い絞めしようと悪戦苦闘するグラサン男)

男「そこまでされちゃあ、どうしたらいいんだ……ボディガードの人も困ってるんだぞ」

オカルト研「コレはただの喋る鬱陶しい置物! あなたが耳を貸す必要なんてないわ!」

オカルト研「気にせず男くんは[ピーーーーーーーーーーー]のっ///」

黒服「いい加減にしなさい、お嬢様! その盛りづいた低俗な野獣に貴女さまの肌をこれ以上見せてはエロ同人の如し汚されるのですッ!」

オカルト研「エロ[ピーー]上等だわっ、むしろ彼とならば[ピッ]、[ピーーーーガーーーーー]よ!」

男(更衣室は絶えることなくお下品でハレンチなワードが飛び交っていた。その光景を、きっと俺は真顔で生あたかく見守っていたのである)

男(オカルト研は、無意識にだろう、俺の拘束を解除しており黒服を睨んでいた。これでいつでもコッソリ抜け出すチャンスができた。が、素直に奴の言いなりになるのも癇に障る)

男「(奥の手を使って、痕を濁してくれよう。モブの分際で散々俺をコケにしてくれた罰だ、覚悟してもらおうか……) ま、まぁまぁ、そうお互いカッカしないで。あなたも一旦落ち着くべきですよ、ねっ?」トン

黒服「小僧が気安く私に触れるんじゃないぞッ!!」ドンッ

男(間に入り、俺が黒服の肩へ手を置けば、案の定 突き飛ばされてしまった。しかし、この位置だ。この位置ならば……後ろのオカルト研と)

オカルト研「!!」

男「(衝突できるのだ、掛かったな阿呆がッ) うわ、オカルト研危なーい!!」

男(ザマ見やがれってヤツである。考え無しに美少女の近くでこの俺を突き飛ばしたお前が悪い)

男(接触まで残り数cm……3秒もかからない、一瞬だ……今からあんたが悔しがり激怒する姿が楽しみだぞ、黒服よ。おまけにオカルト研も喜ばせられてみんなハッピーだ!)

黒服「お嬢様ッ!! くっ!!」

男(不思議と世界がスローに感じる。俺は転倒しながら体を反転させ、オカルト研と向き合った。そして、彼女の長い前髪の間からぷりっとした魅力の唇が覗けたのだ)

男(着地点が見えた……ラッキースケベに身を任せ、そのまま俺は――――何ぃ!?)

黒服「お嬢様危なぁぁぁーーーいッ!!」

男「やめ、はなっ! ……わぁ!?」

男(オカルト研の目前、俺の体は引力に引っ張られるようにして後ろへ。そう、黒服へ引き寄せられてしまったのだ)

男(完全にバランスを失った俺はなされるがまま、憎きクソ野郎の腕の中に。床との下敷きになってくれたのだろう、衝撃こそ感じなかったが、が)

オカルト研「男くん怪我はっ…………これは……きゃ、きゃあっ」

男(別の衝撃を食らっていたのであった。詳細が聞きただと? 俺にとって過去最大級、最も忌むべき出来事が起きたのですとも)

男・黒服「っうう~~~~~~!!!?」

男(ああもう、頭の中が真っ黒なの)

オカルト研「お、男くんが犯されてしまった……私の、目の前で」

男「……い、いやああああああぁぁぁーーーーーーッ!!」

男(何処までも遠く、遠く、この声は風に乗って日本海を渡ったのだろうか。意識までも遠のいた気がした)

オカルト研「男くん、男くんしっかりしてっ! そうだわ、こういう時は[ピーー]呼吸を……///」

黒服「退いてくださいな、お嬢様」

オカルト研「あ、あなたは無事だったの……? それよりも男くんが正気を失い、廃人にっ」

黒服「少年、おい 少年目を覚ませ。帰って来るんだ!」ペチペチ

男「ひっ! おお、俺に近寄るなぁぁぁ!? やめろ、うわ、うわあああぁぁぁっ!!」

黒服「大丈夫だ、大丈夫。安心しなさい……」ギュ

男「!!」

黒服「良い子だぞ、少年……少し息を整えて、そう、落ち着け……そうしたら」

黒服「んん、この私の顔をよく見てくれたまえ……///」

男(ひえぇ……)

男「やめろ、やめてくれ! 俺は美少女以外眼中に――――」

黒服「――――とか、腐った展開になると思ったかこのド畜生がァーッ!!」

男「ぶううーーーっっっ!!」

男(良かった。この世界は、苦しみのない、俺だけの幸福に満ちていたのだ)

男(その後のことはあまり記憶にはない。覚えているのは、ズキズキと痛む顔をおしぼりで涙目を浮かべたオカルト研が介護してくれたり、湯船に無気力に浸かってみたり、etc.etc……こうして穏やかじゃない時は過ぎ去って行くのである)

幼馴染「どうしたのその箱いっぱいの牛乳? て、ていうか 男くんのそのボコボコの顔どうしたのっ!」

男「何も訊かずに一本受け取ってくれ」

妹「やー、まさかお風呂代も全部タダになるとは思ってなかったよ。結局何があったかお兄ちゃん教えてくれなかったけど。話す気なった?」

男「二度と思い出させるな。この件は俺が墓まで持って行く……っ!」

幼馴染「ふぅーん……そんな事よりずるい! あたしも男くんたちとお風呂行きたかったのに!」

後輩「確かに途中で誘うべきでしたよね。もっと気を効かせなきゃですよ、先輩?」

男「(ふむ、頬をぷくりと膨らませて怒る幼馴染に傷心が癒される) 俺だけの責任はどうなんだ。くれた牛乳飲めば行った気になるんじゃないかー?」

天使「だったら、幼馴染ちゃんのためにこれからおウチに帰って牛乳パーティやりゃいいんですよ! フルーツにコーヒーも選り取り見取りですっ!」

妹「あんまり飲みまくってたら、お腹壊すでしょ。今日は一本だけだからね、アホ天使」

天使「でもでも、牛乳いっぱい飲めばおっぱいがでっかくなっちまうんです……これを聞いても!?」

妹「牛乳パーティ乗ったぁ!! ね、ねっ、幼馴染ちゃんも一緒に!」

幼馴染「え~……もう、仕方がないなぁ。えへへっ♪」

男「お? 珍しい、嫌味抜きでああいう話題だと真っ先に食いつくのはお前だと思ってたのに」

後輩「本当なら今頃大きくなり過ぎて困ってたんでしょうね、牛乳のせいで…………先輩、何か?」

妹「あぁ! コイツ、私の分までいつのまにか空けてるんですけどっ!」

天使「返せと言われても残念ながらもう自分の中にあるんですよ~、へへへ! 吐いて戻してやりましょーかぁ!」

幼馴染「ケンカしちゃダメだよ、家族なんだから仲良くしないと。それに二人ともそれ何本目?」

妹・天使「3本目!! ……むうっ」

幼馴染「飲みすぎです! そのぐらいにして、って、ちょっと! そんなに飲んでも急には育たないってば~!?」

男(常に賑やかな自宅の中だが今日は、悪化か増長か、大忙しにある。そんな美少女たちを肴にコーヒー牛乳をくいっ、疲れなど一気に忘れてしまえるな)

男(一人離れて台所前の椅子へ腰掛け、寛いでいれば同じく牛乳瓶を持った後輩が柔和な笑顔をして、こちらに近寄った)

後輩「先輩、さっきと打って変わって気分良さそうにしてますね」

男「事実気分が良い。野暮な話するなら後にしてくれよ、せっかくのパーティなんだからな」

後輩「私ってそんなに空気読めない子ですか? 酷いです、ふふっ」

男「だったら、俺があえて空気読まずに言うとする。お前たちの主さまと会って話したよ。一時的だが協力を頼めた」

後輩「ええ、それで?」

男「意外と驚かないんだな。知ってたのか?」

男(そうであったとしても、一応彼女へ話しておくべきだろう。そう思い立ってこちらから切り出した。後輩の言葉を待つより先に、俺は口を開き、言った)

男「明日、朝一に家を出る。たぶん学校には顔出さないな……しばらくは俺抜きだ」

男(台詞に、というよりは、自分が置かれた立場に俄然となり、気恥ずかしくなっていた。誤魔化し程度に持っていたコーヒー牛乳を飲み干していれば)

後輩「どこにでもいる普通の人間だったのに、こうして話の中心人物になってしまったって、やっぱり実感ありますか」

男「前まで立ち絵すら用意されないモブだったのに、気がつけば役が用意されてた。みたいな?」

男「実感も何も、面白いぐらいモテていた時から特別になれたと思えたわ……だから浮かれて、普段絶対やらない事にまで手をつけて」

男「現在に至る。みたいな?」

後輩「ふふっ、先輩照れてる……でもビックリですよ。初対面の時にはこんな未来は考えられませんでしたもん」

後輩「先輩もすっかり人が変わっちゃいましたしね、あの頃と別人です。別人でも、先輩は先輩のままなんですけどね……」

男(1周目、2周目、そして今を全部ひっくるめて俺が完成された。いや、もはや周回どころの話ではなかったか。何度も同じ時間を繰り返してきたからこそ)

男(しかし、ループか。前回前々回の俺も同じ行動を取って、それでも委員長を助けられなかったかもしれない。だがあの神の反応、今回はかつてないケースだったのでは?)

男(天使ちゃんの件だってそうだ、ありえなかった事象が起きている。あの死神ですら、手の届かない『ナニカの意思』によって終わりがねじ曲げられつつある……とか、出来損ないの脳スペックじゃ、これ以上の推測はなんとも)

後輩「――――きです」

男「えっ、何だって? マジでボーっとしてて聞いてなかった。ていうかお前、顔近い……」

後輩「……あんまり繰り返し言いたくないんですけれど。じゃあ、耳貸してください。次はちゃんと聞いててくださいよ、一度しか言いませんからね?」

後輩「せーんぱい 大好き、です」

男(耳打ちされた台詞に思わず体が小さく跳ねてしまった、俺。何をと言い返そうとすれば、後輩は悪戯そうに口元に人差し指を立てて笑っていた。おのれ、一度じゃ足りないって言いたかったのに)

ここまで。次は来週月曜火曜

男(密かに俺たちで何とも言えぬトキメキ空間を展開しつつあった矢先、俺の頬が窪む、指で押されていた)

妹「お兄ちゃーん……」

男「はんへふは? おへのはふぁいいいほふほ」

妹「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、お兄ちゃん!」ズンズン

男「お前は壊れたラジオなの? OK、同じ人間同士意思疎通を取ろう。俺の頬っぺたは悪くないから苛めないでっ」

妹「お兄ちゃんって何なのさ」

男(若さ=振り向かないこと。愛=躊躇わないこと。故に、哲学視点から兄を分析、はお好みではないか、そうか)

男「お前のそれなりにカッコイイお兄ちゃんだよ。周知だ、今更言わせんなって恥ずかしいぞ」

後輩「先輩の恥じらうベクトル狂ってますけれど。というか妹ちゃん、変?」

妹「お兄ちゃん……はぁ///」

妹「[ピーーーーーーー]、[ピーー]、[ピーーーー]。[ピーーーーーガーーーーーーーーーーー]?///」

男(悲しきかな、俺たち兄妹に対話は叶いそうにない。冗談はさて置きである。妹の様子がおかしい、吐息が熱く顔も赤くて、いつも通りじゃないか)

妹「う~……お兄ちゃん[ピーーーーーー]! こんなに[ピーーーーー]っ!」

男「まさか、湯冷めして風邪引いたんじゃないだろうな?」

男(といった様に、妹の身を案ずる素敵な兄は、ぼーっと突っ立つ彼女の前髪を払い、おでことおでこの接触を試み――待て、何か胸がざわめいた)

妹「あ~むぅっ!///」

男「うおおおおぉぉッ!!? (虫の報せも馬鹿にはなるまいか。すんでのところで顔を仰け反れば、元いた場所に妹がついばむように唇を伸ばしていたのだ)」

妹「ありゃあ……どーして避けんの、お兄ちゃん[ピーーー]だよぉ……」

男「じょ、冗談にしちゃ度胸も根性も座ったこの感じ! ねぇ、この子大丈夫!?」

男(諦めず猛攻を繰り返す妹、そして死に物狂いで避け続ける俺。是非餌食になりたいものだが、美少女たちの、それに彼女のいる手前じゃ危険すぎる。まず血が流れます、違いない)

妹「動いたらやーだ! そこにじっとしてて! 私 怒るよっ」

男「何にもしない? そう、何にもしないなら……やる気満々じゃねーか!!」

妹「うるひゃーい!! 動くなつってんのに。ばかっ、お兄ちゃんのばかちん!」

男「コイツ、段々呂律が怪しくなってきたが やはり……後輩、頼むからお前も助けてくれ!」

後輩「はぁ、もうどうしたの妹ちゃん。少し落ち着いた方がいいよ。はい、一度座っ――――んむぅ!?」

妹「後輩ちゃ……ちゅ、ピチャ、っぷ……ヌ、ピチ……っちゅ……はぁ、ふ」

後輩「ん~~~っ!?///」

男「うっ、やったああああ!! 妹さん痺れるゥ!!」

男(間に割って入ってくれた後輩が、代わり身を果たし、それは見事な桃源郷が広がってくれた。想像して欲しい、念願の美少女×美少女が、眼福を越えたソレが目の前に)

後輩「ぷは!! み、見てないで先輩助けてくださ、きゃあ! 妹ちゃんも、や、め……んぅーっ!///」

妹「これがお兄ちゃんを[ピーーー]とした唇……こんなものー、あむ」

後輩「いや、ダメだよっ、はなして! はふうぅ!? どうして私が、やあっ!///」

男(ヒートアップした妹から押し倒された後輩、身動きを取ろうと暴れても手足を抑えつけられ、強引に引き寄せられては、ごにょごにょ、イッツァ パラダイス。ここに♂は必要ありません)

男「後輩の骨は俺があとで拾ってやるとして。妹、さっきまで牛乳を飲んではしゃいでいた彼女が一体何故?」

男「なーんて……不可解だが、この手のお約束にはありえないという方が、ありえんな。読めたぞ!」

男(ラブコメの基本に忠実であることから察すれば良い。詰まるところ、所詮はラブコメの範疇の内で起こりえる事ならば確実に発生してしまう。では、答え合わせと洒落込もうか、諸君?)

天使「すかー、ぐう……」

幼馴染「男くんだー、えへへへへっ! おとこくぅ~ん すき~!」

男「……大人しいと思ってたらお前たちで一体何飲んでたんだ。特にその赤いの、何」

幼馴染「美味しいぶどうのジュース!」ぐいっ

男「牛乳はどこ行った! ていうか、その瓶 父さんたちが隠してたヤツだろ! 空にしやがったな!?」

幼馴染「え~男くんは牛乳が欲しいの? おっぱい、ほしいの?」

幼馴染「あるよ。ここにおっぱいが……っ///」

男「二つあるね」

男(てっきり、何故か牛乳飲んでたのに酔っちゃったーとか平和なお茶目かと。目を離した隙に、俺抜きで軽く放送禁止ラインへ達していた)

男(これぞ阿鼻叫喚ではないか。床に潰れて鼻ちょうちんを膨らます天使ちゃんを眺め、俺は思考を張り巡らせてみた)

男(まず幼馴染をこのまま家に帰すわけにはいかない。両親には都合良くバレはしないだろうが、この状態を見られてはマズイ)

男(ぶどうジュースは手遅れだ、空になった瓶はあとで俺が始末しよう……しかし、幼馴染はストップをかけなかったのか? ちょっと雰囲気に流されてしまったとでも?)

幼馴染「天使ちゃんがね、注いでくれたの~。変な匂いしてたけど、無理矢理飲まされちゃった♪」

男「犯人に目星ついてたが、期待裏切らんな コイツっ……!」

男(キス魔と化した妹や清楚が死んだ幼馴染をよそに眠る天使ちゃんを一旦ソファへ移せば、思わぬ一撃が俺を襲った。「かんちょー!!」という掛け声からの)

男「あ゛あ゛あ゛ぁあああぁぁぁー!!」

幼馴染「男くん大丈夫!? しっかりして~!」

男「いまのお前がやったんだろうがッ!! アホか!?」

幼馴染「あははははっ!! 男くんからアホ呼ばわりされちゃったよー、えーんっ!」

男「いかん、このままだと俺の身が持たなくなるぞ。……いや、いっそ身を任せてしまえば?」

男(発想を逆転させるのだ。後輩を除けば皆がおかしくなっているのだから、ここは俺も天使ちゃんが残したであろうジュースを飲み干せば、違法上等、合法パーティの開幕じゃないか)

幼馴染「ねぇ~……男くん、あたしちょっとあつい……脱ぐっ!」

男「ついに脱いじゃうのか……」

男(激流へもがき抗うのは愚か、ならば身を任せ呑まれてしまえば良い。大丈夫、明日を朝チュンで迎えても俺は悪くない。俺は悪くないぞ)

男(意味もなく転がる箸へ爆笑する幼馴染から離れ、俺はテーブルへ乗った魅惑のぶどう汁へ手を伸ばした。赤色が正に誘っている感じ、悪魔の囁きだ)

男(心配しなくともちょっぴり普通じゃないジュースなだけさ。飲んで楽になれよ、と。必死に制止を掛けていた天使の俺まで、いつのまにやら黒くなっていた。その時である)

後輩「先輩早まっちゃダメです! 私と来てください!」

男「なっ、後輩 お前自力であれから脱出したのか! 惜しいことをッ!」

男(後輩の手に引かれながら 妹を振り向けば、先程まで後輩がポジションしていた場所に天使ちゃんが転がっている。妹はそれを代わりに頑張って貪っていた)

男「アイツの頭かじられてんぞ」

後輩「可哀想だとか一切思いませんね、事の発端ですし」

後輩「ふぅ……離れてしまえば巻き込まれないでしょう。お互い酷い目に合っちゃいましたね?」

男(皮肉めいた視線がこの俺へ突き刺さっていることに異議を申し立てたいな、ちゅっちゅ後輩。ところで)

男「いつまで人の手掴んでるつもりだ? よく俺の握ってられるな」

後輩「えっ、あぁ!」

後輩「これぐらいでドキドキしているんですか 先輩って。たかが手を繋いでたぐらい、ですけど……///」

男(当たり前だろう、美少女たちの見せてくれる反応が俺を倦怠させずにいる。心踊らない男子がいるものか。というか、そう言うお前の方こそである)

男「暗いけど、たぶんいま顔真っ赤にしてたり? 電気つけて確かめてみよ」

後輩「つけないでっ!! いじわるですよ、それ……///」

男(恐らく俺たちが逃げ込んだのは両親の寝室だろう、自宅に恐らくも糞もないが)

男(淫獣と化した美少女たちから姿を隠すには丁度良い。後輩のご希望通り灯りもつけず、見えない何かに怯えるよう、俺たちは身を寄せていたのである)

後輩「先輩とは……私、よく二人きりになってますよね。そろそろ私たちを探し始めたかな、音がする」

後輩「いつだったか、前には彼女から見つからないように、先輩から無理矢理布団に引き込まれたりもしましたよね。覚えてますか?」

男「過去を盗み見した今の俺なら。俺にとっても、後輩にとっても忘れられない体験だったかも」

後輩「あは……ねぇ、先輩。もう少し肩寄せても構いませんか?」

男「おおっと、ここでいきなり雰囲気に流されちゃ、ったぁー!?」

男(茶化しにかかった俺の了承を得る前に、これでもかと身を寄せた後輩。鼻の先に触れる髪から漂うリンスのかほりが、俺を飢えた野獣へ変身させようと刺激しておる)

後輩「先輩 すごくドキドキしてません? こーんなに近いんですからね、心臓の音、聴こえちゃってます。ふふふっ」

男「こ、後輩クン? どうしたのかネ? お兄さん思わず手が伸びちゃうよ。お、おっ? なぁ、聞いてる!?」

後輩「……聞こえてますよ。じゃあ先輩は、私が」

後輩「いい、って返したらどうなっちゃいます……?///」

男(ええい、ままよ。我 狼と化す。望み通り滅茶苦茶にひん剥いて、R‐18も厭わないエロスの道を直進し――ふいに、足に何かがぶつかる。軽い、器の様な)

男「(間違いなく、紙コップ。リビングで使っていた物と同一であり、その中身は既に空。訂正しよう、飲み干された後だ) ……二十歳からって常識ないのかな?」

後輩「あ は っ」

ここまで。月曜これなかったわ
次回は明後日ぐらい

男(呼吸が荒い、若さが躍動して暴走寸前。手のやり場はどうすればいい? 指先が彼女の肩へ触れただけで俺は、ああ、俺って奴は)

男「は、早まるなと止めてくれた当の本人がこの有り様だとはな。五分前のお前が憎たらしく思えてきた……」

後輩「ん? 悪い子だって言いたいんですか、私が?」

男「ひんっ! 頼むからそれ以上俺に密着するなっ、酔っ払っちゃう!!」

後輩「そう……年下の私に?」

後輩「でしたら一緒に気持ち良く酔ってみましょう、エッチな、せんぱい。うふふ」

男(走り出したエロ後輩にブレーキなど存在しないようだ。あれやこれやと甘い言葉を俺へ掛けては、首元から胸へ、腹から太ももへと二本指を這わせて、はわわ)

後輩「ちょっぴり触るだけでビクビクさせて、どうしたんです?」クスッ

男「どうしたは俺の台詞なんだけどな! 言ってみろ、今度は何を企んでるのか……」

男「まぁ、とりあえず! 一呼吸置けそうな話しようか、後輩よ。好きなアイドルは? せーのっで同時に言っちゃう?」

男(おそらく、冗談八割本音一割弱の内容を彼女は並べるだろう、なんて考えは直に覗かれたに違いない)

男(頭で詮索したって無駄だ、不思議パワーの前で安易な思考は命取り。知恵を絞ったところで、簡単に裏をかかれる。思考停止、俺の口は脳みそと直結したぞ)

後輩「そろそろ先輩と既成事実作っておいた方がいいのかなぁって……」

男「何だって? お兄さんにもう一度ゆっくり聞かせてごらん。一応録音取らせてくれな」ピッ

男(まっすぐな視線がこちらを向いている。どうやら戯れ赤面変換無効化バリアが貼られていたらしい)

後輩「先輩、挙動不審ですよ。さっきの聞こえなかったんじゃないんですか? ふふっ」

男「おやぁ? ありゃーそう思っちゃうの? そう見えちゃったのね、こりゃ参ったわ」

男「いつからそんな尻軽ビッチになったんだ、お前ッ!!」

後輩「でも、あなた限定です。先輩以外の人には絶対こんな事しようとも思いませんし」

男「そうなの…………」

後輩「…………」

男(……汗が、背中を伝っている、ような、だ。冷や汗じゃない。熱くて、暑くて、何となく俺は滾っていて)

男「本気、なのでしょうか」

後輩「あはっ。先輩を好きな女の子たちの中でも、これだけ大胆になれたのって私ぐらいじゃないですか?」

後輩「何度ももどかしい思いしてきたんじゃありませんか? ただでさえ、鈍感装って毎日大変なのに」

後輩「ふふっ、先輩 欲求不満になってそう……ね?」

男「何か言ったか? 今日は泊まるんだろ、もうお前ら寝てくれ。あと片づけは俺がやるから」バッ

後輩「あっ……ヘタレ先輩、嘘吐き先輩」

男「ほう?」

男「お前には、この俺がまさか美少女から急に言い寄られてドキマギしてる根性無しに見えているらしいな?」

男「その上 YESサインまで出させておいて肩に手を置く事も躊躇しているドーテイ丸出しボーイに!」

男(立ち上がった俺は再び踵を返し、ペタンと絨毯に座っていた彼女の前にしゃがみ、こう言って浴びせたのである)

男「目指すはハーレムルートなんだが?」

後輩「あ、相も変わらず、ですか。本当にあなたって揺るがないんですね……っ!」

男「あぁ、事情を知ってるお前にだからこそ言える一言だ。俺はいつだって誘惑歓迎さ、受けて立とう」

男「だけれど、折れるつもりなし! ていうか、俺 もう今回幼馴染彼女にしてる。お腹いっぱいだぁ」

後輩「初めの頃と同じ失敗を繰り返すつもりもないって、そう言いたいんですか?」

男「一理ある。けど、俺自身はアレを失敗だとは思ってないぞ。例え失敗だろうが、夢のスタート地点を築く為の」

男「必要な土台作りだな。だから感謝してるよ、先生にもお前にも」

後輩「……な、なんだかその言い方 私たちを突き離すみたいな感じですねっ」

男「気でも変わったか、後輩? お前こそがハーレム計画の提案者じゃないか」

男「さっきから俺を独占したがってるみたいだが、それはこっちの勘違いかね?」

後輩「っ~……」

男(既成事実、冗談抜きで彼女は俺を横から搔っ攫おうとしていたと見ていいだろう。自分でそう明かしていたのだから)

後輩「わ、私 あなたに協力するとは言ったけれど、その夢に関しては別に」

男「ところで、ぶどうジュースが入ってたこのコップなんだが」

男「わざと空になった物持って来たんじゃないか?」

後輩「!! ……い、いけないんですか? 私がこんな事して。卑怯ですか」

後輩「だってしょうがないじゃないですか! こうでもしないと、あなたに私 きちんと伝えられない!」

後輩「きっと困らせちゃうなんて理解してましたよっ、もう私のワガママで振り回すつもりもなかったんです! だ、だけど!」

男「お、落ち着けっ、幼馴染たちが来ちまう! 後輩クールダウン!」

後輩「だって、だってぇ……うぅ」

男「大丈夫だろ、もう十分後輩からの気持ちは伝わってるから。こんなしょーもないブサ男が好きなんだろう? 未だに衝撃だよ」

男(我を忘れて取り乱すとは、彼女らしくもない。本人的にはそこまで真剣だったというワケか、いいや)

男(これまでの傾向からして違う。俺が知らない何かをまだ無い胸に隠して、葛藤していた、みたいな。そうでなければ説明がつかないだろう)

後輩「……先輩は今後も、何が起こったとしても、私たちを見ていてくれますか?」

男「なんと視姦をご所望か!? さっきから後輩やらしいぞ。続けて、ごめん」

後輩「っ~…………あ、あなたは、私たちを――――――だめっ!!」

男「うん!? (言いかけた台詞を彼女自らが抑止させた。手を当てた口からフゥーフゥーと荒げた息を漏らして)」

後輩「や、止めにしましょう。私そろそろ妹ちゃんの課題手伝ってあげないと」

男「ここまで引っ張っておきながら流すのは勿体ないだろ!? 俺を寝かさないつもりかっ!」

後輩「じゃあそこのベッドで私と寝てくれます?」

男「ダメだ、もう意味わかんねぇーよ コイツ!!」

後輩「えへへっ、今のはただの冗談ですけど。明日は早いんでしょう?」

後輩「うっかり寝坊とかしないでくださいね、先輩のことだから遅くなるほど手がつかなくなっちゃうと思いますから」

男「あ、ああ……なぁ、マジで何言おうとしてたんだ? そして何がしたかった?」

後輩「ないしょですよ、ふふっ」

男(らしさを取り戻してきたのだろう、茫然とするばかりの俺を悪戯そうに笑って小突くのだ)

男(可愛らしいと感想を述べたい気持ちより先に、不安が前に出て仕方がなかった)

後輩「もう迷惑かけたりしません。だけど、あなたが望むなら今日みたいに幼馴染さんから奪ってみようと思います」

男「穏やかに物騒な発言するのはやめろぉ!」

後輩「あははっ♪ あーあ、どうやったら先輩のことその気にさせられるのかなぁ、えへへ」

男(と、兄譲りの黒い部分を見せつけて立ち去った後輩。彼女には驚かされっぱなしだ、それも初めからずっと、飽きもせず)

男(俺が世界の謎や自身の謎を探究しなければ、また別のシナリオに沿って話は進んだ事だろう。この非日常の中にある更なる非日常とは別の、穏やかな日常なんて物が)

後輩「ほら、明日の朝までにでかさなきゃ叱られちゃうよ? 起きて」

妹「……ピンクの小人がやってくれるし、寝る」

後輩「そんな、靴じゃあるまいし」

後輩(先程までの反動か、机に向かったところですぐに彼女は突っ伏して寝息を立ててしまう。こんな寝顔を見せられては力づくで起こす気にも……寝顔、くちびる)

後輩「って、私 なに変なこと思い出してるの!?///」

後輩(明日、目を覚ませば彼女は私を襲った自覚もなしにいつも通り挨拶してくれると思う。いや、切にそう思っていたい)

後輩「ん? 階段……誰かあがって来た。この足音は」

後輩(言わずとしても彼だ。一人分、誰かを背負っている風ではないことから、幼馴染さんやあの子は別室へ寝かせてきたのだろう)

後輩(耳を澄まして音だけを追う、だって他にする事もない。彼の部屋はこことすぐ隣にある。こうして、壁に耳を当てれば、中の声が)

後輩「……じ、自分に幻滅しそう、かな。やめないと」

後輩(でも、ちょっとぐらいは、あの子が動けない今監視の役目は私にもあるもの。大丈夫、これは仕事の一環です)

『やっぱり一揉み二揉みぐらいしておけば良かったかもしれん。いや、しかしラッキースケベが発動して凄い事に、ああっ! ……戻るか?』

後輩(先輩さいてー)

『だ、大体アイツが俺をムラムラさせたのが悪いのだ。本当に何だったんだよ? やばい、今の鈍感主人公っぽい』

後輩「……先輩って喋ってないと死ぬ病気の人?」

後輩(しばらく文字通り彼の一人男語りを堪能していた私。その不意を突かれた)

天使「それどんな新しい遊びですか?」

後輩「っ~~~!?」

天使「何跳ねて驚いてやがるんですか。それよか、話があるです」

後輩「わ、私に……? いまから……?」

天使「つーか、そっちも男くんの他に自分へ話があったからお泊りとか口実作って上がり込んだんでしょう?」

後輩(残念ながら、と切り出した話を蹴るのは可哀想かも。だからと言って、彼女が欲しがる情報を私の口からは)

後輩「心配しなくてもあなたの力は近いうち戻るから。だから、今だけは役目を忘れていいの」

天使「はいはい、ぜーったいそんな感じであしらわれると思ってましたよ! 期待も糞もねーですっ!」

天使「そんな事じゃなくて、後輩ちゃんの話を聞きたかったんですよ。同じ主の使いとして」

後輩(部屋を出た私たちは、夜風に当たりながら壁を背にして並んだ。同類である私を彼女は以前から珍しがっていた。周りにいた使いたちと雰囲気も何かもが異なっていたのだから)

後輩(まるで、特別、である自身と近い存在みたいだと……つまり、この私まで興味の対象にされていたわけです)

天使「前々から気になっちゃいたんですけど、ゆっくりお話する時間もなかったじゃないですかー。では特別講師、お話どーぞっ!」

後輩「はぁ……天使ちゃんが生まれたばかりの頃は周りの使いたちは、誰も喋らないし、心も開かない。人形そのものだった筈だよね」

後輩「酷だけれど、私たちにとってそれこそが普通なの」

後輩(これだけの説明で自分が否定された気分にでもなるだろう。現に、彼女は瞳を虚ろに換え、硬直していた)

後輩「だけど、普通から外れたってあなたは何の問題なくやってこられてる。認識改めた方がいいのは私たちの方かも」

天使「……」

後輩「あの、聞いてる? 辛いならこれでお終いにしてお布団の中に」

天使「……ぷはぁ! やっぱ自分には自由に喋れないのも動けないのも無理ですねぇ、拷問みてーです」

天使「えへへ、みんなの真似してみたけど全然続かねーですよ。後輩ちゃんも自分と同じなんですか?」

後輩「私? 私は……ここに来て変わった。初めは何かの引用みたいな台詞を口に出して、先輩にとって聞こえ良い心地よい言葉を並べてたの」

後輩「あの人が、自分は女の子にこうされたい、言われてみたい、というのを頭の中を覗いて行動に移していた」

天使「男くんてば単純脳ですからねぇ~すぐメロメロに落ちたのも想像つきます、チッ!!」

後輩(話の最中、過去を振り返って改めてわかった。私はいつから自分の頭で物を考え、喋っていたのだろう?)

後輩(容姿にも段々と愛着が沸いてきたりして、欺く為だけに作られた本物も無い偽物だったのに)

後輩(この姿が、ずっと昔から自分の物であった気もした。だからこそ、あの人に触れられる事や、想いを正面からぶつけられるのが、途端に小恥ずかしく感じられ、目眩さえ覚えた)

後輩(明らかに変化しつつあった自分に困惑し、興奮し、成長の引き金であろう彼を利用してやろうと目論んでもみた。まぁ、お陰で面倒な化け物が誕生)

後輩(あらゆる事を手探りで行い、彼で試し、その過程で距離が縮まる実感を得ているたびに、私は私になっていった)

天使「これぞ、とつぜんへんい?」

天使「いやいや、どちらかというと対応した……自分ってば頭良い?」

天使「即ち自分は後輩ちゃんのような経験なくしてフツーを超越したイレギュラー! か、かっけぇ~~~!」

後輩(ああ、杞憂だったのかも)

天使「……でも、主はフツーを望んで自分たちをお生みになったんですよね? こんな人間みたいな人形を欲したわけじゃなくて」

天使「ていうか、これじゃあ自分たち人間みたいなもんですよ! 違いなんて不思議パワーの有無だけじゃねーですかっ」

後輩「人間になれてたかもしれないね、あなたは」

後輩「……なりたい?」クスッ

天使「ふえっ、またまたご冗談をー」

天使「もー男くんから聞いてるんですよぉ? 後輩ちゃんはジョーク大好きアメリカンだって。HAHAHA」

後輩(コケにされているのはきっと気のせいじゃない……)ギリギリギリ

天使「むぐぐぐっ、むごぉー!? ほっぺは、ちゅぶれひゅう」

後輩「本気じゃないとしても、チャンスがあるならどう? 人に憧れたりしない?」

天使「憧れないだとウソになっちまいますけど……どーしてそんな事 自分に聞くんですか」

後輩「……さぁ」

天使「んん~? 意味不ですっ」

遅れてすまぬここまで
次回はちょっと未定。一週間はかからないとは思う

天使「ふむ、なるほど。自分わかっちゃいましたよ?」

後輩(私から投げかけられた不透明な質問に対する回答ではないらしい。腕を組んでうんうんと首を縦に何度も振った天使ちゃんは、指を突きつけて言い放った)

天使「ズバリ! 後輩ちゃんは人間になりたいんでしょう。偽りなんかじゃなく、唯一無地の本物人間に!」

後輩「それは、どうして?」

天使「天使の勘と言いますか、理屈じゃない何かをあなたから読み取れちゃったと言うかですねぇ~」

後輩「ふぅ、無茶な理論が天使の勘? ふふっ」

後輩「大体、どうして私が私たちより劣った人なんかに憧れなきゃならないの。そんなの理不尽すぎて」

天使「でも、そこまで見当外れじゃないんじゃねーですか?」

後輩「! ……あは、いや、そんなまさか……」

天使「知ってますかぁ? 後輩ちゃんって自分を誤魔化す時は無理矢理でも笑おうとしちまうのです。ほ~ら、今みたいにねぇ!」

後輩(彼女の指摘にハッとさせられた私は、思わず顔を背けて口元を両手で隠す。目の前で不敵に胸を張る天使ちゃん、あの厄介な彼が憑依したような錯覚を起こしてしまった。そこまで何でも有りじゃないけれども)

天使「後輩ちゃんって超わっかりやす~い! あ、怒ってても暴力反対ですからねっ!」

後輩「怒ってない……けれど、もうこの話は止めてほしいな。私がどう思っていたって関係ないし、意味もないんだから……」

天使「えぇ、少し欲張ったって罰は当たらないじゃねーですか? 意味ないなんて寂しいこと言わないでくださいよぅ」

後輩(寂しいけれど、事実だと私は噛み締めている。私たちは“意味”を持ってはいけない、だからこそ主から本物の自分を与えられないんです)

後輩(そもそも彼の幸福を願う立場でありながら、自身が望みを持つこの場違い感。くだらないエゴでこれ以上目的を掻き乱しちゃダメなの。でも、でもキッパリ捨てられない)

後輩(困った事に、手の届かないものが多すぎる。いくら願っても、憧れても、いつの日か叶うと期待してみても、何もかもが最初に否定されているのだろうか、なんて。ちょっぴり痛い子だな、これじゃあ)

後輩「そうだなぁ……ねぇ、また分かりづらいかもしれないけれど、聞いてほしいの」

後輩「私も、他の使いのみんなにとってね。欲望っていうのは呪いと同じだと思うんだ」

天使「それは自分ももちろん含まれてて?」

後輩「あなたは、天使ちゃんは私たちとは違うんだよ。だから特別扱い。きっと本当の特別な子」

後輩「他の仲間たちに許されないことを、天使ちゃんならって……凄いでしょ? みんなに自慢しちゃえ、ふふ!」

天使「ど、どーして自分は大丈夫で、後輩ちゃんたちはダメなんです? おかしいです、変です!」

天使「自分は同じ主に従える者なんですよ!? 特別って何の特別ですか? いい加減教えてくれたって」

後輩「ええっと、何て説明したらいいのかな? うん……こういう事にしておこっか」

後輩「天使ちゃんは本来私たちの側にいるべきじゃなかったんだよ」

天使「なぁーっ! 衝撃の真事実ですか!?」

後輩「仲間外れにしたくて言ってるんじゃないの、安心して (下手に説明して混乱が酷くなるよりは、マシだと思った。納得してもらえなくても構わない)」

後輩「この事実を受け止めろとは言わないから。ただ、知っておいてもらえたら天使ちゃんの考えも変わるかもなぁって」

天使「えぇー……」

天使「あ、あんまり理解できた感じしねーですけど、とりあえず心の片隅ぐらいに置いときます! とりあえずは!」

後輩「うん、それで良いと思うな。……はぁ、それにしても」

天使「え?」

後輩「今こうやって天使ちゃんと話してるのも、その私たちとは無縁な話の中身も、あの人と出会わなかったらたぶんあり得なかったんだろうね?」

後輩(彼以外の人間ではこうはなりもしなかったのか? どう進もうが、結局は私は変わってしまったのか……違うと思う。様々な要素や要因が重なったからこその今なんだ)

天使「うむうむ、かもですねぇ。男くんが委員長ちゃんやハーレムなんかに興味なければ、自分たちの存在抜きの、男くんと美少女どもとのラブコメの日々だったんでしょう」

天使「まっ! お陰で天使みたいに可愛い美少女の自分に会えたんですから、あの変態も役得ですよ!」

後輩(土下座して感謝しろと天使ちゃんは続けた。距離が縮まった気がした私たちはお互い笑顔で彼への陰口合戦へ洒落込む。誰だって、好きでも一つぐらい不満はあるでしょう?)

後輩「ふぅ~……そろそろ家の中に戻ろっか、天使ちゃん。あんまり噂してると先輩起きて来ちゃうかもしれないっ、ふふ!」

天使「そいつはあり得ますよ! 男くんてば、いつも『話は聞かせてもらった』とかいきなり現れるんです! もしかすりゃあ、今だって隠れて……ぷぷーっ!」

後輩(まさか~、と冗談に声を揃えて笑いながら、話を打ち切り元の部屋へ帰って行く私たち。……先輩、私まだまだ先輩と一緒にいたいです)

後輩(もっと隣にいたいんです。叶うのなら、神さま、お願いします。ワガママな私のお願いを届かせてください。絶対に先輩へこの事は伝えませんから)

後輩「そばに、いて…………すぅ、すぅー」

男「――――ふぅ、ようやく寝息立てたか。夜更かし娘どもが」

男(やれやれである。人がこっそり家を抜け出ようとすれば、門前ガールズトークに花咲かせおって)

男「朝一に出て行くと言ったが……すまん、ありゃウソになった。ついさっきな…… (牛乳パーティ時から後輩の様子が不安定なのが気掛かりだった。疑っているわけではないが、彼女はこのまま計画を遂行することを不本意だと思っているのでは?)」

男(確信ではない。だが、何か重大な事柄を引き出され引き止められないとも限られないのだ、悪いが俺には成し遂げる責任がある。例え美少女から待ってと背中に抱きつかれようが、決意は揺るがすつもりは無し)

男「いいか? 俺は妥協しない。やると言ったらかならずやり遂げるし、もう半端に投げ出したりしない」

男(一人決意表明の儀は、暗闇のリビング冷蔵庫の前で静かに行われる。幼馴染の作った物を適当にタッパーから箸でつつき、胃袋を満たす。夜食は太るが、愛情詰まった手作り料理で肥えるならば本望よ)

男「ここで誰かが外で俺を待ち受けてる、なんて余計な心配はフラグにしかならない……ならば」

男(それ以上何も言い残さず俺は玄関扉をそっと閉じ、決戦の地へ赴いたのである。いざ、ラスボスへ)

男(数分後、警察に補導された俺がいると誰が想像できただろうか? とかいう冗談を一つ、どうだろう?)

男「荷物持ったはいいが過去の、しかも現実へ飛ぶのに一緒に持っていけるのかこれは」

男(理想から現実へか、しばし甘い蜜だけ啜って生きていた俺だ。これからサバンナへ丸裸で投げ出されるようなものだろう)

男(食うか、食われるか!? デッドオアアライブ、いや、死ぬのは決定だが。一番の気掛かりは俺抜きで美少女たちはどうなってしまうのかという贅沢な悩みである)

男「ていうか、俺がいなかったら時間が止まったりするんじゃないか? この俺のための世界なんだろう」

男「向こうは、俺抜きでどうなっているのやら。父さんたちは心配してるかな。妹は、死にかけの俺写メってツイッターに上げてそう」

男(青い顔して横たわる俺の画像に大量のイイネ!とかいう情景が浮かぶ。世界よ、これがインターネッツだ)

神「予定よりお早い到着ですね、神はあなたを待っていました^^」

男「ああ、沁みる笑顔だ」

神「今更臆する事もありません。取って食らいなどしないのですから。どうも、こんばんは」

男(一応持参してきた懐中電灯の出番はなかった。院内は夜中である事を忘れさせるほどに、明るく、温かさがあったのだ)

神「さてと、前置きなど無意味でしょうが、あなたから何かありますか?」

男「(最も、この掴み所ない物腰を前にして涼しくなったが) まずは協力の件で改めてあなたに感謝したい。この通りです」

神「結構。他にはありませんか? 後で文句をつけられるのがこの神にとって一番忌むべき事ですので」

男(契約の対価について、尋ねたら内容を大人しく話すだろうか? 話すだろうな。俺にとって不利な対価を要求すれば、少しでも覚悟は揺るがせる)

男(所詮は自分可愛い人間だもの、豪胆には成り切れない。以上からこの疑問は身を滅ぼすだけの罠になる)

男「これから過去のリアルへ送還されるわけだが、これは一時的にの約束だ。期限はどのぐらい設けてもらえるのか?」

神「対価分とだけ答えておきましょう、ですが」

神「頂いた物はどうあれ、時間制限は説明せずともいつまでか理解していますね?」

男「自分の身が死へ直結した事故あるいは……病院送り決定の瞬間……!」

神「はぁい^^」

神「よろしいですか? 例えあなたが交通事故が引き金と考え、何処かへ籠ろうが、かならずです」

神「かならず死は訪れるのです。形を変えてでも……どの様な運びになろうとも……一分一秒狂いなく、その時は訪れるのです^^」

男(足掻けども不可避であるのは承知の上よ。問題なのは、その時がいつなのか? 何時何分何曜日か? 明確な時期が把握できなければ計画も悠長に立てられないぞ)

男(リアルでの俺が置かれた環境は現在とは比べ物にもならない、正に天と地の差、月とスッポンである)

男(美少女相手に鍛え上げたコミュ力を持ってしても、あの委員長へ急接近するには時間は掛かってしまうだろう。他の要因が重なれば、より、だ)

男(補正もなければラッキースケベもなし、モテない自分へ帰るならば難聴鈍感スキルはなくなる? そんなのどうでもいいだろうが)

神「親切も程々にすべきなのが私のモットーでしてね」

男「なにっ、待ってくれ! こんなのフェアじゃ」

神「契約といえど神と人の間に平等が存在するとお思いで? バカな、私がどれだけ不利な条件を呑んだというのです」

神「既に死へ導かれた者を地上へ降ろす? 小娘の願いを無かったことにしたい?」

男「……うっ」

神「人間風情が甚だしい。私は死を司る神です、あなたはそのプライドを……踏み躙ろうとしている」

神「万に一つでもあなたが成功するという可能性を持つならば、私は否定したいのです。摘んでしまいたいですねぇ^^」

男(奴が“死神”という立場と配慮すれば、当たり前だ。神から見ればこの俺は罰当たりな猿だろう。碌な死に方は期待できない。美少女で悶絶死とか、胸に挟まれ圧死とか、きっと碌でもない)

男「わかった……自分がやれる範囲で努力しますよ、やってみせましょう」

男「だが、神さま! 邪魔だけはしてくれるな! 俺の力が及ばずに無理だったなら納得いかんが納得しよう」

男「もし あんたが妨害を働いたとわかった時には……絶対に許さないからな、絶対にだ! 仏壇に足向けて寝る!」

神「ご先祖になんと無礼な……」

男(口約束だが、と神は俺の前で誓った。おまけに指切りもしてくれてもうこれは裏切れない。神サマ ウソつかない、だそうな)

神「では、お待ちかねの時が訪れましたよ。そこにお布団を用意しておきました。横になるのです、躊躇わずに」

男「しっかりふかふか羽毛布団じゃないか……よっと、これで良いのか?」

男(言われた通り布団へ転がる俺をニコニコと見下ろす神。この状況下でもなければ金縛りにかかってもおかしくはない)

神「ゆったりリラックスさせて目を閉じなさい。準備ができ次第、数をかぞえましょう……」

神「これからこちらにあるあなたの意識を元の世界のあなたの身体へ移します。ですが、過去。過去へ帰るのです……」

男(見下ろされていてどう落ち着けと、なんて思っていると無神経にも瞼が重くなっていく。段々と、神の声が気持ち良い子守唄に、聴こえて、き、た、よう、な、気が)

男「ね、眠い……」

神「そのまま体を自由にさせて眠るのです。意識が落ちていく、ですが勢いに抗わず、落ちていけば良いのです。十、九、八……」

男(我慢していたけれども、やっぱり不安だ。アニメに出てくるような美少女なんて、いない。ただただ、失望と幻滅が渦巻くリアルへ)

男(幼馴染は良妻じゃないデブス。生意気だけど愛らしい猫みたいな妹は、糞ガキ。先輩にはサッカー部のイケメン彼氏が、生徒会長はイモ臭い女生徒か)

男(不良女は教師も手がつけられない悪の塊。転校生は、どうなんだろう? 男の娘はフケが乗ったキモオタデブか……オカルト研もやばかったな。先生はヒステリックババアときた。参った、夢も希望もないぞ)

神「五、四……三二一ゼロ」

男「なんかカウント適と――――――」

神「お 行 き な さ い ^^」

男「――――――うじゃありませんか? ここは」

男(瞼を開けば広がる実に見知った天井、自室だ。階下では台所で音がしている。時間は、朝か。今日は何日だ?)

男「意識はそのまま、向こうでの記憶も残っていて……まるでさっきまで夢見てたみたいだが」

男(真っ先に携帯電話を手に取り、日付の確認をした。○月17日、確か、図書委員日誌には○月20日まで委員長の記録で埋まっていた筈だ。つまり以降、彼女は学校を休み……3日だ。3日以内に何とかせねば)

男(やはりだが、荷物は持ち込めなかったようだ。しかし案ずるなかれ、例のカメラは机の上に、無数の写真と共に置かれてあった。どれも素人目から見たって下手糞すぎる)

男「幼馴染に壊されたはずの鍵がちゃんとしまるぞ。だったら……もう確定だ。戻って来ちゃったんだよ、俺……」

男「とりあえず学校行く支度済ませないとな、っと!! ……あいつは」

男(見知らぬあの子は一体誰? 決まっている、チビなところは変わりないからな。背中だけで既に絶賛不機嫌と語る彼女こそ)

男(モノホン妹だったのである)

男「……よ、よぉ、おはよう。妹!」

妹「……」

男「や、やれやれ。せっかく珍しく俺から挨拶したんだし、お前も返してくれたって罰は」

妹「え? 話しかけんなよ、汚い」



『   絶 望 へ よ う こ そ   』

ここまで。次回は木曜日あたり

男「ここで兄としてアドバイスを一つ。……飯食ってる時ぐらい携帯から離れたら?」

妹「お母さん今日帰り遅くなるからご飯いらなーい」ポチポチ

男「お前はいつからお母さんになったんだ」

男「それより妹、まだ眠たそうにしてるけど平気か? 夜更かしは肌に優しくないって幼馴染も」

妹「おい」ポチポチ

男「! おい、ですか、そうですか……あ、ああ。何だ?」

妹「さっきから黙ってらんないの? お前耳障りすぎ」

父「コラ」

妹「はぁ? ていうか私の前にトイレ入ったの誰。匂ったんですけど」

母「お父さんよねぇー」

父「……そのぐらい文句言うんじゃないよ。コラ、椅子であぐら」

妹「違いますー。あぐらかいてませんー。ていうか、今立とうとしてたんですけど?」

男(……ヤバいな)

男(ご覧いただけただろうか? 一般的かる模範的な明るい家族の食卓シーンを。お陰様で今日も飯が美味い)

父「男、全然箸が進んでないぞ。早く食べて学校の支度しなさい」

男(酷く目眩がしてきたのはギャップのせいか? ひょっとしてこちらの世界が夢だったりするのでは。ならば悪夢認定)

男(妹なんて特に酷いぞ。何しろ美少女妹と同じ名前で同じ声で、俺を呼ぶ時は「おい」とかなのだ。……取り乱す必要もないだろう)

男「そうだったな。やれやれ、アレと妹は名前だけ借りた別物だろうがっ!」

男「ふぅ。俺も焼きが回ったな、二人を同一人物として見てたとか」

男(問題ない、強がり程度で堪えられる域じゃないか。安心をくれてやろう。俺の現在のステータスを何かへ例えて説明するならば)

男「(たかがメインカメラをやられただけだ! おまけにサブカメラも! 無念だ) ダメじゃねーか」

男(おお、洗面台の鏡へ映る我が面のなんたることか。校内マラソン当日の朝を想起させられるやつれ具合だった)

男「……こんなの分かり切ってただろ。だから、美少女たちと戯れる毎日に憧れてたんだ」

男(だが、未だに現実における元俺の記憶は曖昧なままである。断片的には思い出せる、自分を中心に描かれた他者への興味関心のない思い出を)

男「(例を挙げるとすれば、一番早いのが) 母さん。ウチのすぐ隣にいま住んでるのって幼馴染家族か?」

母「何寝ぼけてるの。あの一家は、○○のところにあるアパートに越してきたって前教えたでしょう」

男「えっ! じゃあ隣の家は何なんだよ、誰か住んでるのは間違いないだろ。音も聞こえたし!」

母「あのねぇ、幼馴染ちゃんが隣の家にいたのは、あんたが中学上がる前まで」

母「今あそこにいるのは山田さんでしょ。寝ぼけて昔とごっちゃになってるんじゃないの?」

男(やはり、断片的にだった)

男(過去に隣家で暮らしていた幼馴染。そしてここ最近母から知らされた彼女たち家族が、またこちらへ引っ越してきたという情報)

男(俺にとってはデカ黒子デブスの存在など、どうでも良いと感じていたのだろう。詳細を訊く余地もなければ、再会するつもりもなかったのだろう)

男(ただ、幼馴染がまた帰って来た、という小耳に挟んだ不完全な情報だけが頭に残されてしまった。コレを元に作り出された美少女が……『幼馴染 美少女ver』という推測を立ててみた)

男(神は、この俺の周辺における事実のみ引き抜いてモデルにし、人から何からまで作り上げたのだと思っていた。だが、それは間違いだったのか?)

男「理想……そうか、理想か。……考えてみたら当然じゃないか」

男(俺は美少女を望んだ。言う事やる事文句一つ漏らさず、嫌な顔もせずに、この俺へ世話を焼いてくれる包容力無限大の美少女を。その枠へ収まる一人を)

男(その子とは昔から家族ぐるみでの仲があり、家もすぐ間近にあるからさながら通い妻のような真似も可能なのだ。誰よりも優しく、誰よりも華々しい、そんな理想の幼馴染系美少女を望んだのだろう)

男(望みは叶えれた。ケチのつけどころもない見事な幼馴染だった。理想と、僅かに、リアルという名の俺の不完全な記憶をベースに設定にして)

男(つまり混合されて生まれてしまった為、この現実との矛盾という結論なのである。ならば、他の美少女たちも、モデルとのこうした食い違いがあるかもしれないな)

父「母さん、アパートじゃないだろう? あそこは立派なマンションだ。すぐアパート扱いして」

母「だっけ? 同じじゃないの? でも良かったわねぇ。同じクラスに編入されると良いね」

男「冗談じゃない。こっちは面も合わせたくないっての……」

母「それにしてもあんた、今日はよく喋るね。妹にも話しかけたりして――ちょっと時間! 学校っ!」

男「は!? しまった、ギリギリになっちまう!! 行ってきます!」タタタ

父「……あいつ、いつからあんなにハキハキ喋ってたんだ?」

男(どこにいようが遅刻寸前ダッシュを要請されるのは変わらない。俺はそういう星の元に生まれてしまったのだ)

男(あえて食パンでも咥えておけば様になったか? いや、その役目は俺ではないな。もうすぐ角を曲がるぞ。テンプレ展開ならば、ここでイベントが)

「昨日やってた映画見た?」 「ウチ見たの後半だったんだけどさぁ」

男「起こる、わけがないと…… (何に捉われるでもなく、すんなり校門を潜れた違和感を拭えずにいた)」

男(今日も今日とてガヤを担当するモブキャラは、俺以上に輝いている。ジョン太とジェン子と名付け見下したあの日は遠いのである)

男(これが変わり映えしなかった俺の日常だった。青の一つ転がっちゃいない無色の毎日だったに違いない)

男「だが、認めよう。認めるからこそ、あそこでの生活が一層最高になるんだな……ほんとにイベントのイの字もねーな」

男(いつもなら教室までの道のりにだって何かが起こる。俺は、ひたすら受け身で迎えていればそれで良かったのだ)

男(次々と訪れる美少女を、表面上の鈍感を装い、迎撃する。そうやって好感度稼ぎと均一化を目指し、度々発生するラッキースケベに吠えてみたり、本当に本当に楽しかった)

男(楽しかったのだ、心から)

「あっちの学校の彼女が今度友達呼んでつってんのね」  「マジそれ合コンじゃね!!」

「朝練だるいのなんのってさ。朝飯食えないつらいわー」  「機種変したけどコレマジ使いづらぁーい」

「きゃははははははは!」 「がやがやがやがや」 「がやがやがやがや」

「……デサ……シーグミ ノ アイツガ…………ウソー………………」

男(シャットダウンしてしまえば、何も聴こえない。机に伏せているだけの俺を見て嘲笑う声も。聴こえないフリして、気づかないフリして)

「[ピーーーーーーーーー]」

「[ピーーーーーーーーーー]、[ピーーーーーーーーーー]」  「[ピーー]……!」

「[ピーーーーガーーーー]。[ピーーーーーー]! [ピーーーーーーーーーーーーーーーー]」 「[ピーーーーーーーーー]!」

男(へへへ、何にも聴こえねぇや)

男(これが俺の処世術だ。いくらバカにされていようが、無視と無関心を貫く。そうする事で、大人しく無害なつまらない人間を演出)

男(苛められる事もなかった。どれだけ浮いていようとも、誰もが俺を一瞬笑って次の話題や対象へ移って行く。好きの反対は無関心。そうだな、俺は路傍の石である。いつからだろう?)

男(殻に籠るしか能がない屑野郎に堕ちたのは……飽きたな、そろそろ)

「こいつの携帯に入ってる画像全部ヤベェぞ!!」 「児ポじゃね!? 都条例じゃね!?」

キモオタ「返せったら返せよッ!! 本気で怒るよ!!」

「うっせデブ、何だったらアニメの話する? 今期は何見てんのぉ~~~? あははっ」

キモオタ「ふっざけんな……ちくしょー……」

男「なぁなぁ、ちょっと良いかな。俺の携帯に入ってるのも見てくれないか?」

「おおっ!? え、何? いきなり……どうしたの?」

男「いいから見てくれよ~! それでさ、ほら。俺の持ってる画像もヤバ気? 都条例引っ掛かるかな!?」

「いや、いいよ……急に鬱陶しいんだけどお前」

「コイツ、寝太郎どうしたの?」  「いきなり俺たちに絡んできた」

男「俺もつい魔が差したっていうか、いつも寝てばっかじゃん? 飽きちゃって」

男「だからそろそろ友達作らなきゃマズイかなぁーと! これ、携帯の電話帳コレだぞ!? ありえないだろ!」

「やべぇー……おい、こいつやべぇ! マジのボッチ!」  「すげーあはははっ!」

男「あっ、写真撮ったりすんなよ!? 恥ずかしいなぁ……ほら、手に持ってよく見ろって。代わりにキモオタデブの俺にパス」

「見たいの? お前のと違うベクトルで凄いんだよそっちの。はい」ス

男「なんかヌルヌルする~!!」  「あはははははっ!」

男「汚いからキモオタ、とりあえずお前にやるわ。ちゃんと受け取れよー」

キモオタ「えっ、えっ!? うわっ! ……な、何なんだよぉ」

男(投げ渡された携帯電話をキャッチしたキモオタデブは、ぶつぶつと恨み言を呟きながら、自分の席へ戻って行った。俺はといえば)

男(小学生たちの慣れないお守を必死に務めている。何が悲しくてコイツらに自ら弄られに行かなければならんのだ、クソッタレ)

男(が、努力か無謀によってか、どうやらモンキーの注目が俺に集中した。絶句しそうな言葉を平気で使っては、やいのやいの、である)

男(キモオタデブ……またの名を『男の娘』。認めたくはないが、女子をも凌駕する華奢さと可愛らしさを備えたあの究極生命体は、彼を元にしている)

男(あいつに義理はない。だが、男の娘としてならば別だろう、たぶん)

男「うーん、そろそろ眠いんで寝るわ! 机で!」  「あははははっ!!」

ここまで。次は日曜日

男(上手い事彼らと合致できた。理解及ばない会話が飛び交おうが、「マジで」と「やべぇ」で通じ合える)

「寝太郎、俺とメアド交換するべ」  「おうおう 俺のも教えるわ」

男「何だよ揃って今更! ていうか、唯一の俺の持ち芸もう奪っちゃうのかよぉー」

「ぼっち芸とか一回切りしか通用しねぇから! あはははっ!」

男(奇しくも男子クラスメイトの名前が電話帳に追加されてしまった。ボッチ童貞がこんな容易く奪われる。それはとても、虚しいなって)

男(そう、俺はキモオタデブを踏み台に、否、そもそも俺は利益がない行動を取るお人好しに成り下がってなどいない。相も変わらずだと自負する)

男(この猿どもはクラスカーストに当て嵌めれば、一軍落ちの予備・代打。世間のニュースに疎かろうが、校内の男女関係からちょっとした噂、そういった事情には強い者が中にはいる。彼らの世界は、この箱庭の中に収まっていた)

男「(目的達成のため定石を踏むなら、まずは何を、である) 話の腰折って悪いけど、いいか?」

「は? 何?」

男「ウチのクラスに委員長いるじゃん? あいつに彼氏とかいるのかね」

「いやいや! ありないでしょ。何々? まさか委員長密かに狙ってる系~!?」

男「(マジで。受けるんですけど) 違うわ!! 委員長も俺と同じボッチ族だと思い込んでたんだけど、本当はどうなのかなーって」

「興味ねーよ、そんなの。ありないけど他校の奴とで、浮いた話もあったりするんじゃないの」

「ないに決まってるべ。俺、あいつと中学同じだったけど仲良いのいなかったよ。こっちでもいつも一人だし」

男「えっ、だけど友達がいるって……」

「それ委員長が言ってたの? だったら勘違いしてるわな、あの女」

男「何だと? (追求せずともソレは勝手に理由を連ね始めた。結論だけを述べると、委員長、彼女は遊ばれている。それもまた現在進行形で)」

男(陰湿で醜い、性質の悪い話である。そのお友達は他校に通っており、たびたび委員長を呼び出しては玩具にしているだとか。他校という点では彼女がした話と一致する)

男(そういえば、その友達に自分を尋ねたとき、知らないと突っぱねられたと聞いた。初めから、玩具としての認識しかなく、個人として認識されていなかったためでは?)

男(あの世界において汚いモノは排除される。その“友人たち”には何も残されなかったのかもしれない、委員長そのものが)

「隣のクラスに不良女ってヤバいやついるの知ってるでしょ? アイツ繋がりで結構面倒くさい感じの連中みたいでさぁ」

「売春、薬、窃盗! 殺し以外の悪事には全部手つけてるあの不良女サンか!」

「おい、あんましデカい声で言うなよ……あとでチクられたら不味いべ……」

男(どこの麻薬王かと笑いたくなるが、現実である。一時期はかなり大きな波紋を生んでいた事もあった。もちろん悪い意味で)

「寝太郎さ、マジで委員長狙ってるなら正直やめとけよ~。つーか、あんなのの何がいいのやら」

男「おーい、さっきも言ったけど俺は別にそんなんじゃ」

「あっ、噂をすれば本人来たじゃねーか」

委員長「……」

「あいつ席についたら寝るか本開くかどっちだと思う?」  「便所に逃げるに百円賭けるわ」

男(俺よ、堪えろ。時間が少ないのは理解している、だが、焦る必要はない。待て、だ)

男(時間ギリギリまで与太話は続くよ、どこまでも。唐突に政治と宗教の話をぶち込んだらどうなるだろう。手始めに好きな球団の話から)

男「そういえばウチの学校に転校生来るって噂聞いたんだけど」

「あー、女子だろ? でも今から期待値上げとくと、本人見たときの落胆やべーから絶対!」

「見たの?」  「見てないけど大抵転校生とかって微妙な傾向ある。俺の中で」

男「(女子、は確定か。ならば) ……何でも、海外からこっちに越して来たとかー」

「ああっ、それ俺も聞いた。何年かイギリスで暮らしてたっぽいの!」

「帰国子女とかいやでも期待しちゃうじゃん! どうすんだよ、やべぇ! やべぇ!」

男「マジか? 本当にイギリス帰りで間違いないのか?」

「俺も噂ぐらいでしか聞いてないからマジとは言い切れないけど、少なくとも外国に住んでたって」

男(帰国子女の転校生。該当する美少女はもちろん、彼女しかいない。“転校生”だ)

男(しかし、現実基準に戻された彼女はどうなる? 両親どちらかの人種も変わっていたりとか、そもそもハーフ設定のままなのか)

男(言うまでもなく不安が俺の中で勝る――――――あれ)

男「……その転校生っていつ頃来るんだろうな?」

「そう遠くないでしょ。早ければ来週とかありえるんじゃね。ていうか、ウチのクラスに来るとも限らねーし」

「隣のクラスだったら不良女も重なって相当カオスるんじゃね!? 帰国子女インで!」

男(……先程から何かが引っ掛かっていた。思い過ごしなわけがない)

男(あちらの世界を基準に、こちらを考える事がそもそも間違っていると今朝判断できた。まさかな、そんなの)

先生「HRぐらい起きて私の話聞いてよ!! 何なの!?」

男(誤解だが、先生の努号は俺に当てられたのではないぞ。クラス全体にだ)

先生「ねぇ!? お願いだから朝から私のことイラつかせないでっ、あんたたち空気読むの得意なんでしょ!?」

男(先生、俺は空気になるのが得意なんです、なんて悪ふざけは胸の内に秘めておくとして、彼女の猛りっぷりは少々異常かもしれない。既に皆が反省した中、親の敵のように、目くじら立てて捲し立て続ける)

男(これこそ、いつもの光景だ。これが1時限目に突入するまで続くのも珍しくないぞ! 更年期障害はもう疑われている!)

男「(察しの通り、彼女のウケは地の底を行くのであった。以上) 今日はまだ短めだったな。先生……」

男「そうだ、逆に考えよう! モデルに改めて失望するんじゃなく、改めて美化された彼女たちの良さを再確認できたみたいな」

男(人はこれを、現実逃避と呼ぶ)

男(授業までの空き時間は、これまでなら美少女漁りだったわけだが、精神衛生を保つためにここでは大人しくしている方がマシだろう)

男「(かといって、今度は机に伏せてても奴らに絡まれる予感が) ……トイレ行くか」

男(ちなみに珍しく不良女が学校へ登校したらしい。先程のHR時、隣から教師の怒鳴り声やら彼女が浴びせた罵声やらが響いて聴こえた)

男「おえええぇ……おえええぇー……ううっ、うう……っ!!」

「なんかそこの個室から変な音聞こえね?」  「気のせいだろ」

男「この程度でもう根上げるなんて情けなさすぎだろっ、俺……」

男(寸での所まで押し上がっていた何かで、ダムが決壊しそうになる。もう二度とこの現実には帰れない、だからこそ好き勝手動いてやろうと思えたし、これで脆弱メンタルを補ってやった)

男(それでもカバーし切れないものはあったのだ。「早く帰りたい」、「美少女で口直ししたい」。弱音が、不動の心を全力でへし折りにきやがる)

男「落ち着け! 何てことないって何度も言い聞かせてるだろ……とにかく教室に」

男(教室に、足が動いていた筈だったのだが、おかしいな。気がつけば階を下りて保健室を目指していた)

男「1時限目は休んで2時限目から頑張ればいい、わけねーだろ。何やってんだ (ここでサボればやる気を失っていくのは明らか。自分のことだ、よく理解している。すぐに引き返さねば)」

男「(と、思い立って回れ右したその時である) うおっ!?」ドンッ

「きゃ!!」

男「す、すみません大丈夫でしたか! って、この人は」

男(俺の記憶が正しければ、いま必然染みた衝突を起こした相手はあの生徒会長。凛々しさの欠片もない芋臭さ少女で、なぜ生徒会選挙で勝ち残れたのか疑問を感じてならない)

男「立てますか? 手貸しま」

生徒会長「……」

男「バカな、ラッキースケベも起こさずさっさと行ってしまった。相手もしてくれそうにないな」

先輩「ねぇ、君 さっきの大丈夫ー? 結構思い切りぶつかってたっぽいけど?」

男「えっ? あなたは」

先輩「制服汚れてるよ。動かないで、わたし払ったげる」

男「(勘違いかと怯えつつも、声の主を見れば間違いなく俺の心配をしてくれていたその彼女。彼女こそ) ど、どうも…………ボリューム減ってる」

先輩「え?」   男「いや、何でもありません」

先輩「ハイ、綺麗になったよ! 怪我してたら保健室近いし、すぐお世話なった方がいいよ」

男(後悔するなよ、今の俺はかなり惚れっぽい。それだけでイチコロよ。良い人だとは知ってはいたが、名前もわからない下級生にこうも優しくフレンドリーに接してくれるとは。腐敗した世に生まれた天使か、この人)

先輩「なに? ぼーっとして……それにしてもあんまりだよね。謝りもしないで、自分だけさっさと行っちゃうとか」

男「まぁまぁ。俺にも非はあったと思いますし、生徒会長も用があって急いでたのかも」

先輩「すごいっ、優しいんだね 君。カッコイイよ!」

男「うっ! い、いやぁーそんな、ぐへへへ…………ん?」

サッカー部員「何してんの?」  先輩「あー、この子が」

男(おい、微かな幸せに浸っているこのタイミングで現れた彼氏は何だ。嫌な予感がしてきたぞ)

サッカー部員「ふーん。もう済んだなら行こうぜ。ていうか、あいつ知り合いなの?」

先輩「ううん、知らない子。わっ! ちょっとこんなところでやめてよ~……///」

サッカー部員「んー? へへへっ、前触った時よりなんか大きくなってね? ……イチャラブチュッチュ」

男(俺は、尻を揉まれながらイチャイチャ去り行く先輩たちを生温かく見送り、死んだ)

ここまで

男「吐血したのでベッドで休んでいいですか?」

保険医「鼻血止まらないのね。ティッシュ詰めて座ってなさい」

男(無様な俺を笑えば良い、笑い転げて貰えたらいっそ清々しいものだ)

男(ある意味保健室へ強制させられたと考えよう。戻ってから、次に何かあれば今度こそ死ぬ。ゲームオーバーにはまだ早かろう)

男「美少女の存在がなければ、あの時本気で惚れてたかもな。そして受けるショックも倍増されただろう……美少女様様、ん?」

男(腰下ろしたベッドに仰向けになって天井を見上げていれば、隣のベッドに先客がいることに気がついた。カーテンで閉められているのだ)

男(この時間で考えれば、怠けた生徒だろう。体調が悪い者が眠っているならば、経験上保険医の先生が静かにしろと声を掛けてくる。というか)

「ブツブツブツブツ……」ガサゴソ

男(俺が大人しくしていようが、コレだからな)

男(そして、多分隣人の正体に俺は心当たりがある。顔見知りとまではいかないが、サボりにここを使えば高確率で居合わせる同級生がいるものでして)

男「(口を利いた試しは一度も無いが) あの、隣のベッド使ってる人って、やっぱり?」

保険医「放っておいてあげてよ。今朝は過呼吸起こしたみたいだから」

男「(開幕面倒くさそうな気配がぷんぷん漂っているじゃないか。これはノータッチ安牌、だが) オカルト研さん?」

オカルト研「ブツブツブ、ケホッ……殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころ」

男(これアカンやつや)

男「(助け舟を保険医へ出せども、時既に遅し。オカルト研は壊れたラジオよろしく、憎悪倍々の独奏を奏でていた) お、落ち着けって! 俺は何もしないし、バカにもしやしない……」

男「あの、少しだけ彼女と話してても大丈夫ですかね?」

保険医「……」

男「(沈黙は肯定だろうが) オカルト研さん、前からよく保健室使ってたよな。お、俺も同じでさ」

男「こういうのも変だけど、保健室仲間? みたいな気がしちゃったと言うかだな。今日から仲良くしないか?」

男(…………反応がない。語りかけている最中でも止まらずにいた独り言は止まっていたが、お次はひっきりなしに布が擦れる音が発生中)

男(いや、シーツを爪で引っ掻いているみたいだ。詳細はよく分からないが、彼女も過去に色々あったと聞いた。全校生徒一闇が深い女子だという)

オカルト研「――――て」

男「えっ? いま何て喋った?」

オカルト研「こっちきて」

男「来て、っていうのはそっちのベッドにか? 俺と話す気になってくれたと?」

オカルト研「いいから早く」

男(彼女は、ホラーを感じる一本調子な声で招き続けていた。内心ビビリつつも、カーテンを除ければ)

オカルト研「……」ニコニコ

男(意外。可愛い女子がこちらへ笑顔を浮かべて女の子座りしていたのである)

男(それがまぁ素人目からしても可愛らしいのだ。俺の女子顔面判定は厳しい、それを悠々突破されてしまった。こいつは文句無しレベル)

男「(手首に巻かれた包帯の数に目を瞑れば) ここに座っていいかな?」

オカルト研「……」ニコニコ

男「あ、ありがとう。えっと、顔を見るのはお互い初めてなんだよな、俺の名前は」

オカルト研「誰に頼まれたの?」

男「は?」

オカルト研「教師? それとも両親? もしかして○○と××? ねぇ、誰に?」

オカルト研「アイツら私に近づきたくないの知ってるから、わかるよ? 私のこと連れ出そうとしてるんでしょ? ブツブツブツブツブツブツブツブツ」

男「おい、おいおいおいっ! 何か誤解してないか? 俺は別に誰かに頼まれて君に会いに来たんじゃ!」

オカルト研「じゃあ私を犯しにきたんでしょ? 可愛いの自覚してるんだよ?」

オカルト研「体目当てで話しかけてくる男多いからすぐわかるよ? 皆同じ匂いするんだけど知ってた?」

男(どうやら重症患者を引き当ててしまったらしい。おお、南無阿弥陀仏)

男(と、ため息を吐けば、彼女は突然傍らに置いてある『乳酸菌サプリ』とラベルが貼られた容器を持って、こちらへ突きつけ)

オカルト研「これで死んでやるーっ!!」

男「逆に健康になるだろ……」

男「話ができて良かった。鼻血止まったんで行くわ」

オカルト研「ちょっと待ってよ」

オカルト研「私これでも霊感体質でね。だから、見える……君 死ぬよ?」

男「それがどうした? じゃあ、また近いうちに会うかもな」

男(死の宣告を平然と聞き流す俺カッコイイ。去り際に見せたオカルト研のあのポカーンとした顔を、目の保養に最適だ)

男(これで今日一日を乗り越える活力は得ただろう。美少女にはまだ劣るが、アレも良薬の部類だ)

「寝太郎、何お前朝からサボってんだよー」  「どんだけ眠りゃ気済むんだよって」

男(教室へ戻ってくれば、早速捕まる。余程この俺が気に入ったのか? 同姓にモテる趣味はないのだが、約一名を除き)

男(いいや、気に入られたというよりも、物珍しさが抜け切っていないだけだろう。それぐらい俺がコミュニケーションを取るのはありえない事なのだから)

男(しかし、当然扱いは下に見られているというか、いい笑い者だ。苛めに発展しないだけで、相当弄り回されている)

男(代わりに開放されたキモオタデブは、羨ましい有り様じゃないか。平和を一人満喫している。俺のポジションが)

「……なぁ、さっきから委員長こっち見てね? ほら! 今焦って誤魔化してた!」

男「俺が委員長のこと訊いたのアイツに話したんじゃないよな?」

「してねーよ。何なのあれ? ジロジロ見るなよ、ムカつくわ」  「寝太郎さ、お前行ってきて。ウザいからガン飛ばすなって」

男「な、何で俺がっ!」

「いや、行けよ」  「そうだよ」

男(謎のプライドに気に障ったのか、苛立ちがこちらにも伝わってくる。下手に逆らって立場を悪くさせるのは愚かか)

男(この場面でもう彼女と接触するとは思わなんだ。俺としては、向こうが動くまで待つ考えでいたというのに)

男(しかし、俺が奴らと環を作っている間は委員長も近づきがたい。一人になれるタイミングもわからなくなってきた状態だ、ならば災い転じろ)

男「委員長。いま良いかな?」

委員長「ご……ごめんなさいっ」

男(途端に体を小さくさせて塞ぎ込む彼女から、こちらへ刺さる視線の元へ首を向けてみる。ガン飛ばしてるのはどっちだ、っていう)

男「委員長は悪くないだろ。アイツら縄張り意識高い系みたいだからな」

男「だけど、どうしてこっちを見てたんだ?」

委員長「そ、それは……男くんに用があって」

男(ドンピシャド真ん中、都合が良い)

男「俺に? 珍しいじゃないか。何だよ?」

委員長「男くん本を一冊借りてた、ですよね。その、返却期限が……ごめんなさい」

男「本? あー、本な。確かにこのあいだ借りた気がする。そういや借りてたな」

委員長「うぅ……」

男(今朝確認したところ、委員長の部屋に貼られていた例の写真と借りた本が家の暗室で見つかった)

男(図書委員長である彼女はかならず同じクラスの俺へ返却の催促をするだろう。ここで初めて接点が生まれる)

男(続いて写真の件についてだが、何を思ってくれてやったのか? だが、コレを利用できなくもなかろう)

男「なんて、実は今日返そうと持って来てたんだ」

委員長「ほんと?」

男「ああ、でも悪いがもう少しだけ読んでおきた部分があって。今日の放課後には返す! 委員長、いるだろ?」

委員長「い、いるけれど、別に私じゃなくたって他の」

男(他の委員はいない、その確率は大である。日誌から察するにこの日も委員長は一人で番をしていた)

男(今は流石に人目が気になるだろう。教室から連れ出すのも不味い。それなら、放課後を狙うべきだ)

委員長「……わかりました。それじゃあ放課後にお願いするね、男くん」

男(彼女との会話はまるで陶器を扱うようだ。ちょっとした衝撃を与えるだけで割れてしまうに違いない、そんな危うさの塊である)

男(だからこそ教室内でイベントを進めるには危険すぎる。何を拍子にして、修正不可能に陥るか分からないのだから)

男「俺がどうしてあんな本借りたか気になったりしてないか?」

委員長「え?」

男「あとで教えるよ。興味ないかもしれないけどな、へへ」

ここまで

男(退屈な時間は中々過ぎてはくれないものだ。この星で人生を謳歌する人間と比べたら、俺たちはきっと異星人。有り余った冗長を解消すべく、本を開く。何て事はない。内容は、有名無名のカメラマンが挙って自分たちの作品と解説を載せてあった。初心者には良い参考になるのだろう、か)

男(俺がわざわざ図書室から借りて来た。理由として考えられるものは、単なる暇潰しの為か、あるいは借りなければならない状況にあったのか。はたまた委員長へのアピールか? 無い)

男(彼女へ恋心を抱くのは、言うのも何だが、一つの妥協である。興味が沸くほど魅力的でも無し、ぼっちによる共感が好意と勘違いしたわけでも。好みからも大きく外れている)

男(で、あるからして偶然の線が濃い。……そんな彼女を全力で助けようとするのも、気紛れだろうか。ところで)

キモオタ「…………あ、あれ、消えたぁ?」

男「わっ!」

キモオタ「ひょおおおおぉぉ~!? ななな、何だよっ! 脅かすなよ!」

男「悪いつい出来心で。それで、俺に何か用でもあるのかな」

男「教室出てからずっと人の後ろ着いて来たりして。こっちは尾行される心当たりないんだが?」

キモオタ「うぷっ! 何だよその喋り口調、ラノベ主人公も今時口にしないな~!」

男(自覚はあったが、コイツに指摘されると流石の俺も穏やかじゃなくなりそうでして)

キモオタ「に、睨むなよ……今はうるさいのもいないし、君と話ができそうだと思ったんだ」

男(誰が喜ぶキモオタデブイベント、唐突ではないか。俺の行動に感化されて、友達にでもなりにきたか? こっちは図書室へ向かう途中だというに)

男「俺と喋るぐらいなら、早く家に帰ってアニメでも見てた方が有意義だと思うけどなぁ」

キモオタ「君もオタクかい?」

男(いくら振り払おうと足並えて着いてこようとするそのガッツは何だ、キモオタデブよ。悪く言えば鬱陶しいが)

キモオタ「前から話合いそうだと思ってたんだよ! 君、オタクの顔してるし!」

男「不名誉だっ……!」

男「オイ、あんまりしつこいと痛い目にあわすぞ、キモオタ。警告したからな?」

キモオタ「わあああそんなこと言っちゃう!? 全然身の丈あってないよ! ねぇ、恥ずかしくない今の~!?」

男(バット持ち合わせていたら、確実に撲殺を躊躇わない自信がある)

キモオタ「僕さ、気づいちゃったんだよ。今朝は僕を庇ってくれたんだろう? バカにされてる僕を」

男「い、いやいや……」

キモオタ「最初はヒーロー気取りみたいで気に食わなかったけど、何だかあの後ずっーと弄られてる君が可哀想に思えちゃってな!」

キモオタ「いい気味とか思ってほんとごめんよ。そしてありがとう、男くん!」

男「む、むず痒いから止めてくれっ……別にお礼言われるような事なんかじゃ……」

男「話はこれで済んだんだよな? 俺、急ぎの用があるから!」

キモオタ「待ってくれよ!!」

男「あぁん!?」

キモオタ「何か困った事があれば、貸し借りなしだ、恩はかならず返すぜ」

委員長「はい、確かに受け取りました。次回からは返却期限を守ってください」

男(事務的に済まされるやり取りを他所に、周囲をぐるりと見回してみる。上級生と思わしき生徒が数人程度図書室の中に)

男「(中には生徒会長の姿もあった。受験勉強だろう。これでは委員長へ思い切った話題も振れそうにない) あっ、委員長悪い。本の中に栞代わりにしてた物挟んでたかも」

委員長「これかな? えっと、ごめんなさい。見ちゃったんだけどこれは」

男(例の趣味が悪い写真である。俺が手を伸ばすまで、彼女は写し出された薄暗い景色に目を奪われていた、ように見える)

男「俺が撮ったんだよ。練習に何枚か撮影してみたんだけど、どれもこれも失敗してなぁ」

男「そいつなんか心霊写真って言われたら信じてもおかしくない出来だろう?」

委員長「そ、そんなことは。味があって良い絵だと思うの、私だけかな」

男「マジか、お世辞でも嬉しいよ。委員長さえ良ければ、貰ってやってくれないか?」

委員長「いいの? それじゃあお言葉に甘えて……ふふっ」

委員長「男くん写真撮る趣味があったんですね。だから、この本を借りたりしたんだ」

男「おう、そういうワケなんだ。無趣味なのも考えもんだろ。だったら、せっかく時間もあるし面白い事してやろうってさ」

男「カメラなら一人で遊ぶにも十分だし、景色見るのも好きだから。まぁ、ようは一人遊びの延長だな!」

委員長「そういうの楽しそうだね。羨ましい」

男(絶対欠片も思ってないだろ、その顔)

委員長「ところで、まだ帰らなくていいの?」

男(早々話を切り上げに掛かったな。俺の相手が面倒か、そもそも会話自体を好んでいない様子はある)

男(強引に続けようとすれば、図書委員として騒音主の俺を追い出す事だろう。もはや目線が手元の小説に行ってしまっているぞ)

男「あー、委員長さえ良ければ俺に何かオススメの本とか教えてくれないか?」

委員長「わ、私が? どうして」

男「おいおい、どうしては流石に野暮だろ? せっかく図書委員長本人が居てくれてるんだし」

男「本が好きな委員長なら色々読んでると踏んでのお願いだ。頼むよ、どんなものでも構わないぜ」

委員長「そこまで言われたら私も……」

男(渋々といった感じで彼女は例えばこれが面白かったと様々タイトルを挙げ始めた。NOと言えない人間にとって、最大の逃げ潰しである。卑怯? 最高だ)

男(今日の目標は、委員長がこちらへ展開するバリア破壊。そんなに怖がる事はないよ……お友達になろうじゃないか、なぁ……?)

委員長「男くんは映画とか好きですか? だったら最近実写化されたサスペンス物の原作も置いてたり」

男「敬語、やめにしないか?」

委員長「えっ!」

男「(恐らくは癖。または一定の距離を保つ為に身に付いた処理) 気に入ってるなら無理にやめろとは言わないけど」

男「俺たちまったくの初対面ってわけでもないだろ? あんまり丁寧口調だと、緊張するっていうかなぁーへへへっ」

委員長「ごめんなさい! じゃなくて、ご、ごめんね? これで大丈夫っ?」

男(黙ってサムズアップで男を見せて行くスタイル。思わず委員長も赤面、調子乗りたくなっちゃう)

男「それで映画の原作が面白いって? 委員長は原作読んでから映像見るのか?」

委員長「私は本だけで全然十分ていうか……これぐらいしか趣味ないんだ、あはは」

男「(緊張も適度に解せてきただろうか? このまま俺の掌の上で踊ってくれてもらえたら順調に事を進められる) 十分だろ、読書趣味なんて良い事づくめだろうに」

委員長「悪くはないよ? ないけれど、所詮暇潰しだから真面目に読んでるわけじゃないし」

男「へぇー……じゃあ他にやる事が見つかれば、そっちの気にもなれる、と」

男(本の虫は仮初めの姿。単純明快な現実逃避、ならば)

男「写真には興味ないかな、委員長」

委員長「ごめん。撮る方はそんなに」

男「(即答どうも) 別に仲間増やしたいわけじゃねーよ。ただ、俺が撮ったものを見て感想を聞かせてくれたら良いんだ」

男「最初は自己満足で始めたことだが、相手がいないと張り合いなくてな……そこで委員長だよ」

委員長「わ、私じゃなくたって、男くんには友達がいるんじゃ……」

男「あいつら碌に相手してくれそうにないだろ? やっぱりちゃんとした人に見てもらって、良い悪いを聞けた方が俺も腕の磨き甲斐があるってもんだ」

男(あれ? 一気に胡散臭くなっていないか、俺)

男「(委員長も「どうして私が」と言いたげな目をこちらへ向けている。俺の、俺の裁量がいま試されているというのか) 難しいか。そうだよな、頼むにしても唐突すぎておかしい」

男「だけど、今日委員長と話せて思ったんだ。自然体で接することができる人だなって」

委員長「私の口調のことを言ったのもそのせい? そんな、ダメだよ、もう私と一緒にいちゃ」

男「何だって?」

委員長「だって男くんクラスで話する人ができたんだよ? 男くんすっごく変わった」

委員長「ううん、きっと変わろうと努力したんだよね……偉いし、すごい」

男「だから委員長と関わるなって意味が俺には理解できないんだがー?」

委員長「また逆戻りしたいの……? 何にもなかった、一人ぼっちの時に……?」

男(なるほど。自分といる事で冴えない側へ引っ張られるとでも考えたか。彼女といる所を見られ、奴らへ絶好のネタを提供する羽目になることをも)

男「言いたい奴には言わせておけばいいじゃないか?」

委員長「そうは言うけれど……」

男「委員長に実害は起こさせねーよ、俺が絶対にさせない」

男「任せておけ」

委員長「……」

男(お、惚れた? もしかしてほの字ですか? 彼ってこんなにクールで大胆だったの……!? とかなんちゃって、を期待)

男(どうせこの世界から消えるならば、顧みる必要などない。精々カッコつけてやろうではないか)

男「(それに、無駄ではないのだ) もしかして目の前にいるの痛い奴とか思ってたりするか?」

委員長「ま、まさか!? そうじゃなくて……男くんってこういう人だったんだな、って」

委員長「気に障ったらごめん。いつも何考えるかわかんない人だったし、一人だったから男くんは私と似てるんじゃないかと前に思ったんだ」

男(頭の中はいつだっておっぱいいっぱい美少女欲よ)

委員長「でも全然だね。自分を安心させる為に……私、勝手に仲間意識持ってたのかも」

男「それを聞けて安心した。これなら委員長嫌いになれないわ、俺も!」

男「強がったって、俺も根元のところじゃどうしようもないぼっちだぞ。内心ビクビクしてる。今だってな」

委員長「そ、そうなんだ……でも、強がり通せる男くんが羨ましい」

委員長「やっぱり私と親しくなろうとしない方が男くんの為だよ。無理しないで?」

男(一度マイナスに陥ると、立て直すのも辛い。しかし、悪いが俺には無理をしなければならない理由がある。うわべだけの関係で良い、薄情と思われようが)

男(委員長が真に望んだ幸福を叶えるのだ。この俺がな)

男「図書室閉めるのは18時ごろだったな? 待ってるから一緒に帰ろう」

委員長「……は?」

男「恨むなら目付けられた自分を恨めよ、お前をな」

男(視線を感じてならない。正体は委員長本人である。黙々と速読の練習に励む俺を心配してのものか、否)

男(彼女にとって今この図書室内一際存在感を放っているのが俺ということだけだ。不審者扱いだけれど)

男「……生徒会長? あ、急に声かけてすみません」

生徒会長「……」

男「ほら、朝にぶつかった男子です。あの時は怪我ありませんでした? 急いでたみたいだから、ちゃんと確認もできなかったもんで」

生徒会長「……」

男(何を語りかけても、問いても無言で通す生徒会長殿。俺も初めから期待はしちゃいない、単なる暇潰し程度になれば良いなと)

男(俯き加減でせっせと席替えの支度をされようが、まったく幻滅もしないとも。彼女には彼女なりのプライベートの過ごし方もあろう)

生徒会長「……」

男「勉強の邪魔しちゃってますかね。とにかく、何ともなかったのなら、お?」

生徒会長「……」プルプル

男(肩が、いや、全身だろうか彼女は震えていた。怒りのあまり? 違う。この感覚には覚えがある。もし俺の予想が外れていなければ、生徒会長は)

男「お、怒ってたりしますか? 顔、真っ赤ですけど!?」

生徒会長「! ……っ///」プルプル

男(爆発一歩手前ではないか)

男(まさか俺へ好意を持っていると? バカな、リアル一目惚れを食らったというのか。ありえん、俺は自他共に認めるブサイクよ)

男(生徒会長が震える子犬ちゃんと化したワケは何なのだ。これが恋ならば、またウブな少女を俺は、なんと罪深いのだろう)

生徒会長「……な」

男「な?」

生徒会長「なんぱ、とかやめてほしいんだけどっ……!///」

男「いまあなた何て仰られた?」

生徒会長「ここ図書室なんだけど……! め、迷惑だからやめてよ……!」

男(経験が俺を高速理解へ至らせる。多分、彼女は男に慣れていない。偶然衝突事故を起こした相手と、これまた偶然放課後図書室で邂逅。そして馴れ馴れしく声を掛けて来て)

男(ああ、穢れを知らぬ乙女心は運命を感じさせてしまったというのか。アホか)

男「勘違いだっ! ナンパなんて俺がするはずないでしょう!?」

生徒会長「そんなの知らない! わ、私だってこんな事されたの初めてなんだもん……」

男「だから勘違いだって言ってるだろ! か・ん・ち・が・い!」

生徒会長「あのっ! 冗談でも女の子に勘違いとか酷いと思わ……っあ」

生徒会長「くぅ!!///」

男(涙目敗走という形で図書室から消え去ったその背中、故に思う、ドジっ娘萌えと)

ここまで

男(日が暮れ、室内からも生徒がポツポツと減っていった。頃合いを見て委員長へ目配せしてみると)

委員長「……」

男「よぉ、憂鬱そうな顔して。お忍びで男子と一緒に下校は厳しいか?」

委員長「男くんって結構いじわるな所あるかもね……そうじゃなくて」

男(勿体ぶった言い方をされると不在の難聴スキルさんを思い出すのは俺だけか? とにかく、浮かない気分を言及して欲しくなさそうだな)

男(古くからあるギャルゲーにおいて、あまりにも好感度が低いヒロインを帰宅デートへ誘うのは悪手とされた。だが、時代は常に移り変わるもの。観念に縛られてはイベントも始まらないさ)

男「俺は校門で待ってた方がいいか。居座られても仕事にならないだろうしな」

委員長「うん……」

男「素直だな、委員長! 気遣わずにゆっくり来てくれ」

委員長「お、男くん!!」ガタッ

男「どうした? そんな迫力満点で呼び止めたりして……」

委員長「……校門じゃなくて、昇降口で待っててほしいな。すぐに、追い付くから」

男(それだけ告げると静かに着席し、再び日誌へ手をつける委員長。ある意味挙動不審を感じさせる彼女の行動は、後ろめたさ以上に、不安が見え隠れしている)

男(俺との下校を目撃されるのが嫌だとか、程度の可愛いものかコレは? 何かを恐れているのは確かだろうが)

男(さて、一階半ばまで降りて来たわけだがやはり部活動帰りの生徒の姿が多い。多いが、アレは一体何だ)

男(皆、友人との会話に夢中になっていたのに下駄箱付近まで到達すると、お通夜ムードで一気に重くなっているのだ)

男(少なくとも気持ちの良いものが待っているとは思えない。モザイク修正された謎の物体があるとでも? 藤岡隊長、あれは)

不良女「でさー、この間言ったじゃん? そしたらぁ……あん?」

「い、行こ!」  「何でバカ高の生徒もここにいんだよ…」

男(ガラの悪いオラついた衆が揃って絶賛井戸端会議中と。中には不良女の姿も確認できる。あえて邪魔になるポジを陣取っているのか)

男(あの危険物にだけは近づいてはダメだ、本気で捕って食われる。良くて指が飛ぶ)

男「仕方ない、これじゃあ昇降口で待ち合わせなんて無理臭いな。図書室に引き返すしか」

不良女「おいコラ」

男「あちゃー!! そういえば教室に体操着忘れて来ちゃったよっ、戻らないと!!」

不良女「あんただよ、あんた」

男「う~ん、最近片頭痛が酷い! あー痛い痛い! ぃいい痛ってぇ!?」

不良女「なぁ、話しかけられといてシカトはねーだろ? え?」グイッ

男「お、俺に向かって言ってると思わなくって……あははは……ハ、ハハ」

不良女「あたしはあんたの名前知らないからな。気ィ利かなくて悪かったよ、ゴメンネ」

男(眉間にシワ寄せながら謝られるのって、新鮮)

男「とりあえず一旦耳から手離してもらえませんかねぇ? 穏便に、ね? 穏便にいきましょう」

不良女「は? ああ……」

男(なんとか引っ張っていた手を離してくれた、小動物系涙目上目遣いが効いたか。しかし、何故俺へ絡む? 因縁つけるにしても相手が不相応だぞ)

男「お、俺に大事な話とかあるんですかい? うへ、へへへっ!!」

不良女「何なのそのキャラ寒いんだけど。面白いと思ってんの?」

男「善処します、ハイ」

男(そうだ、キチガイのフリをしよう、恥じて命を取れ。こういう事故の為にいくつか対処法を妄想していた事がある。暇潰しが昂じたな、いや、昂じろ)

男(と、手始めに絶叫してやろうとした瞬間、不良女が俺へ携帯音楽プレーヤーを渡してきたのだ)

不良女「さっき引き返そうとしてた時ポッケから落っことしたよ」

男「えっ……」

不良女「礼は言ってくれないのかよ? ンだよ、あたし拾って損したじゃん」

男「い、いやいやっ! ありがとう! 助かったよ、不良女さん!」

不良女「お? だろぉ~落したままで誰かにパクられたらさ、可哀想でしょ。ま、無くした方もマヌケだけどサ」

男(あれか、悪者と噂される奴ほど案外良い部分を持っているとかいう典型例なのか。危うく昼寝の相棒を失うところだったぞ。やれやれ、数秒前の自分が哀れ)

不良女「じゃあ、はい」  男「ん?」

不良女「ん? じゃなくてはい。ほら、ツレ待ってるから早くして」

男「……早く戻ってあげたら? (発言した時にはもう遅かった。俺の肩へ不良女が手を回し、密着。香水の匂いが強いとか、爪がド派手だとか不快に思うより先に)」

男(不快感を超えた絶望が帰ってくるのだった)

不良女「あたしら、出会っちゃったよねぇ。運命感じたっつーか……イイ友達になれる」

男「そいつは喜ばしい限りだ、マイフレンド……」

不良女「ついでにあたしのツレってみーんなこの辺で顔効いてるのよ。悪い事できねーよ」

不良女「でも、時々いるんだよ! 調子乗ってあんたみたいな無害な奴に乱暴するアホが。怖くね?」

男(チビっちゃいそう)

不良女「もし友達のあんたがそんな奴らにやられちゃったらと思ったら、あたし不安だ。だけど心配しないでくれな!」

男「おツレの皆さんが俺のボディガードしてくれたり、しちゃったり」

不良女「そう! みんな良い仲間だからきっとあんたの助けになるよ。……ただ、やっぱり乱暴事だったりするとこっちも危ないじゃん?」

男「みかじめ料よろしくお友達料金が必要になる、と」

不良女「あたし賢い友達大好き! 大歓迎っ! はい」ス

男「不良女さんはお金に困ってるのか?」

不良女「はぁ?」

男「話題を逸らして逃げようってわけじゃない。なんなら、あそこで待機してるツレを呼んでくれて構わない」

不良女「払う気あるのかないのか、それだけだろ今。質問許可した覚えはねーぞ!」

男「それなら情報料として払うって形はどうだろう。学生なら、二十万も渡せば相当遊べるな。さすがに多いか?」

不良女「……あ、あんたそんなに持ってるワケ? 小遣い貰って来てくれるってことか?」

男「鋭い! でも今すぐは無理かもしれない。1週間その為の猶予がほしい」

男(やはりここで逃げる事を疑う不良女。だが、今更目をつけられてしまった立場でそれは叶わないだろう、が)

男「絶対に裏切らないと誓えるよ。ただし、条件が何個かあるんだけど、それだけは呑んでくれないか?」

不良女「バカバカしっ……何? とりあえず言うだけ言ってみりゃいいんじゃね?」

男「一つ。俺が事故か何かで死んだら、お金は無しの方向で」

不良女「お前、それって直前になってわざと屋上から飛び降りるとかじゃねーよなぁ?」

男「たかがこの程度で自殺の勇気持つほど根性据わっちゃいないさ。まぁ、臆病だからこそって事もあるか」

男「それじゃあ、さっき拾ってもらった音楽プレーヤー。信用の担保として渡そう」

不良女「こんなあんたのお下がりなんか頂いたところで嬉しくもないんだけどぉ……?」

男「言っておくけどそれ二度と手に入らない限定モデルだぞ。売れば約束の金以上とまでいかないが、結構な値が付くんだ」

男(これだけはマジである。手に入れるのに苦労はした、したが背に腹は代えられない)

男(最初から、彼女は個人的なお小遣い稼ぎを俺で行おうと企んでいたと見て良い。その証拠がこちらへ全く興味を示さないあの連中である)

男(タカるつもりで絡もうならば、数の暴力で囲めば早い。それをしないのは何故か? 運が良い事を考慮した上で、考え得る確立は俺にはコレだった)

男(気になったのか、不良女は一旦携帯電話をネットへ繋ぎ、プレーヤーの相場を調べている。……ニヤリ、と、とりあえずの信用は勝ち取った)

不良女「あんたが約束の金をくれなかった場合はコイツを売っ払う! で、OKだな」

男「もちろん、好きにしてくれよ! それから残りの要求全部伝えるから、よく聞いてくれ」

男「俺から金を貰うことになってるという話は、友達の誰にも話さないでほしい」

不良女「ふーん? もしあたしがバラしちゃったらどうすんの? 渡さないで危ない目見るの?」

男「流石不良女さんは友達思いだな……せっかく大金が手に入るのに、山分けしよう……とか」

不良女「!! ……あ、あんたがマジで何十万もくれるとは限らないし」

男「渡したプレーヤーで俺の本気度測ってくれよ。確認したんだろ」

不良女「……ふん」

男(やはり個人的に金が欲しいらしいな。上手く独占欲を煽れている。面倒がらずに、話を聞く姿勢も保たせたままだ)

男「情報を提供して貰うというわけで、友達には俺と会っている事は秘密にした方がいい。見られると色々訊かれるんだろ?」

男「『仲間に隠し事は許さない(笑)』ってなぁ?」

不良女「あぁ? ……一々ウザいんだよ、ったく」

男(我が電話帳に、不本意だが、また新たなメンバーが加わる。不良女である事を除けば初めて学校の女子という名誉高き一列よ)

男「訊かれた事にはしっかり本当の事を話してくれると信じて、よろしく頼むよ」

不良女「あたしに何訊こうってんだよ……あんまりふざけた質問だったら」

男「そこのところの判断はそっち基準になるわけだが、そうだな。不良女さんが答えにくい質問だった場合は」

男「その質問一回に対して報酬を五千円上乗せしようか」

不良女「へぇ、太っ腹ぁー。絶対だからな? 忘れたとか後でほざくなよ」

男「ああ、絶対だとも! (可愛いかわいい。将来が楽しみすぎる不良女モドキちゃん)」

男(きっと良いカモに成長してくれるだろう。精々、裕福な旦那を見つけてくれ)

男「とりあえず今は止しておくから、早く向こうと合流しなよ。そっちが時間あるとき図って連絡するからさぁ!」

不良女「調子いい奴だな、気持ち悪ィ。まっ、いーや」

男(プレーヤーを手の中で遊ばせ不良女は機嫌良くして戻って行った。彼女にどこまで期待できるかまだ未知数だが、これで情報源は豊富となる)

男(クラスの男子が話した内容が間違いなければ、委員長の悩みの種の一つは例の『お友達』。それらへ繋がりを持つ不良女ならば、何か手掛かりが掴めるやもしれん)

委員長「男くん……男くんっ……」

男「え? 委員長、どうした。そんな柱の裏になんて隠れて?」

委員長「こ、こっそり外に出て行こう。あの人たちに見つからないように……」

ここまで

>>580の三行目あたり修正

男「それなら情報料として払うって形はどうだろう。個人的に気になってる事があって、不良女さんにいくつか質問したくて」

男「学生なら、二十万も渡せば相当遊べるな。さすがに多いか?」

男(見つかりたくない一心で全力スニークする気持ちはわかる。しかし)

委員長「! ……ひっ! ……あー、よかったぁ、無事に校門まで辿りつけた」

男(女子との下校ってもっと甘酸っぱくても罰は当たらないだろう)

男「委員長ならプロのかくれんぼマスターだって思うよ、俺は」

委員長「えぇ、若干意味被ってるような。でも男くんごめんね」

委員長「こうでもしないと、私の面倒に君まで付き合わせちゃうかもしれない。全然落ち着かないよね、たぶん?」

男「い、いつもこんな苦労して学校から帰ってるのか……?」

委員長「別にいつもってわけじゃ……」

男(要するに、不良女どもが居なければ違ったのか。まさかあの中に委員長へお手付きしている連中が?)

男(ビクビク脅える生活を強いられるのは難儀する。しかし異常だな。何か弱味でも握られている可能性がある)

委員長「……」  男「はぁ……」

委員長「え、えっと! ……喋らない、の?」

男「何だって?」

委員長「あああ~っ! やっぱり何でもない! 私黙って歩くから怒らないで!」アセアセ

男(どうも考え事をしていた俺を勘違いした委員長である。確かに誘ったのは俺の方だし、何もなければ落ち着かないな)

男「委員長、俺といたって緊張するだけ無駄だろう? 俺なんだし」

男「でも話題は確かに欲しいな。良い機会だし、ぼっち同士の自慢大会は」

委員長「いいけど、それって楽しい……?」

男(少なくとも不幸自慢で自分に酔える事間違いなし。生産性のない自己満足である)

男「けっ! こういう時普段から遊び慣れてる奴ならパッと盛り上げられるんだろうなって思う!」

委員長「で、でも私は男くんと喋れてて楽しいよ」

男「え?」   委員長「えっ、え?」

委員長「そ、そういうのじゃない! そういうのじゃないよっ!///」

男「分かったわかった! 俺もまったく気にしてないから心配するなって!」

委員長「い……いまの……変な意味で捉えないで……?」

男「あ、ああ、大丈夫だから…… (この俺が美少女以外の反応でうろたえる、だと? ありえん)」

男(まぁ、先程猛獣と戯れたばかりで実に女の子している委員長と話していると、どことなく、嬉しさを得てしまうのだ)

委員長「ほ、ほら! 学校だと私全然話とかできないから、新鮮というか!?」

委員長「だ、だからうん!! 別に男くんだからとか特別な意味合いはなかった、うんっ!!」

男「落ち着いてくれ、その気遣いは全力で俺を殺しに来てる」

男(皮肉にも、失態を取り繕おうとする委員長によって話題の有無は杞憂となった。この間、主に俺が聞き手という珍しい形だ)

男(とにかく潤滑油でも飲まされてしまったみたいに饒舌な彼女、では、そろそろ本腰を入れるとしよう)

男「委員長にもやっぱり気になってる人とかいるんじゃないか?」

委員長「いっ!! いるとか、いないとか……まだ関係ないよね、私たち?」

男(この動揺っぷり、見事よ。そうかそうか、一応年頃の娘だものな。いないのが稀である)

男「そりゃそうだが気になるよ。別にセクハラのつもりはないからな?」

委員長「い、嫌だよ! 私っ」

男「(無理強いは難しいか) まぁ……言いたくないなら、聞き流せよ」

男「じゃあ、いるいないの前提は無視して話そうぜ。ちなみに俺は今日上級生に惚れそうにぃー」

委員長「聞きたくない。興味ありません」

男「やれやれ……なぁ、俺たちでも人並みに恋愛とかできるかね?」

男「今の時期でしか経験できない事もあるだろ、出来るもんならしたいよなーって」

委員長「私たちじゃなくたって、みんな憧れてるし、本当に良い思いできるのは一握りじゃない……」

委員長「だから、私がそんな事望むなんてきっと図々しい。男くんは違うけれど、ね?」

男「それは慎ましいじゃなく、ただのネガティブなだけだな。え、委員長よ?」

男(同族嫌悪でも沸いたのだろう。自分には幸せになる権利はない、なんて諦めた根性が気に食わなくもあったが)

男「俺みたいなゴミ屑に立ち入られたら困るかもしれないが、どうしてそう謙遜してるんだ?」

委員長「どうもこうも……だって男くんから見て私ってどう見える?」

男(美少女ではない、と口を滑らせるわけがない。だがお世辞を言って喜んでくれそうにもない様子である)

委員長「モテる人って何かしら目立つでしょ。光ってるんだよ」

委員長「たとえ大勢から見てじゃなくても、好きになれる人って少し他と違って見えない?」

男「こ、個性がないのが個性って、ダメだろうか!?」

委員長「言い訳じゃないかな……ずっと影の中が良いな。苦労したくないし、余計な苦労もかけたくないんだもん」

委員長「こんな面倒くさい私が人様に好かれるのって変。迷惑掛けずに静かに暮らしたいなぁ、えへへ……」

男「諦めてる動機が逆に清々しいな、委員長。色々感心した……!」

委員長「それで、普段の私といまの私を見て、男くんには可愛い女子に思えたかな?」

男「委員長……磨けば光る原石ってのは磨いてみなきゃ分からんもんだよ」

男「第一委員長は自分で思ってるほど無個性じゃねーぞ! 鏡で確認してみな!」

男「眼鏡! ん……眼鏡っ!! 眼鏡めがねっ!! 純・眼鏡っ娘だ!!」

委員長「……こ、今度からコンタクトに変えようかなっ?」

男(彼女の名誉の為に説明するが、けして眼鏡以外に褒めるところがないというわけではない。委員長本体がソレというわけでも)

委員長「お……男くんって変わってるかもね……あはは……私、顔にも、か、体にも自信ないから……」

男(見事なまでに引かれている。惹かす事はあれども、この俺が、ああ偶然上手い言い回しをしてしまった……あっ、今なにか、切れたな)

男「分からないだろ、他人から評価無しの品定めなんて愚の骨頂! 脱げばスゴイかもしれないだろ!!」

委員長「脱ぐ!?」

男「今しか発揮できない学生服姿は確かに魅力だ! しかし、それがどうした!? 裸こそが生物のあるべき姿だぞ、委員長!」

委員長「はだかぁ!?」

男「そう! 生まれたままの姿でこそ、個人の肉体的魅力が初めて拝める! 一糸纏わぬその姿こそが、結局大事なんだ!」

男「乳首の色、毛の生えた位置、だらしない肉、色々あるだろう……だが、そういうフェチも世の中にはあって――――み、みたいな事を、テレビで言ってたんだが?」

委員長「……」サー

男「ま、待て誤解だ 委員長。落ち着いてもう一度聞いてほしい。今のは全部テレビの受け売りであって」

委員長「き、気持ち悪い……」

男「気持ち悪い!?」

委員長「すごく、気持ち悪い……」

男「わ、わかるな。その気持ち…… (女子には同感しておけ、誰かがそう言っていたあああ)」

男(委員長、皆まで言うな。トチ狂ったような内容をまくし立てた俺が悪かった。全面的に同意しよう。ほら、これでツー同感だよ)

男(どれだけ変態やっていようと御咎めがない世界、そんな世界に最近まで俺はいたのです。これって言い訳になりませんか?)

委員長「近寄らないで! ふ、不潔ですね……っ」

男(不味いな、言われても全然嬉しくないレベルまで達した)

男「あ、謝らせてくれないか!? ショックだったのはよく分かる! けど、俺もなんて元気づけようか迷って!」

委員長「そんなのあなたに期待してません! 可哀想だと思わるつもりもなかったんです!」

委員長「男くんのこと今日でよくわかりました……帰ります、さようなら」

男(ええい、一か八か、最後っ屁を噛ましてくれるわ)

男「お、俺っ!! 実は委員長を好きだって言ってたやつから相談受けちまったんだ!!」

委員長「…………は?」

男(止まった。苦し紛れではあったが、弁解のチャンス到来。すかさず委員長へ駆け寄り、俺は続けた)

男「ウソだと疑ってるのか? だったら安心しろ、無意味に乙女心を傷つける趣味はないぞ……」

委員長「ありえません! 誰が私なんかを好きになるって? こんな陰気で眼鏡しかない女を!」

男「いや、それは俺が悪かったって……と、とにかく最後まで聞いてくれないか?」

委員長「……まぁ、いいですけど…………///」

男(どうにか引き止めた委員長と共にファーストフード店へ訪れた。食事は断られるかと思いきや)

委員長「私……誰かとこういうお店に来るの久しぶりです……」

男「(意外と好感触では? もう遅いか) せっかくだし奢るよ。無理言ったのは俺の方だしな」

委員長「じゃ、じゃあ……ポテトを……それからイチゴのシェイクも……」

男「満足したらさっきの話聞かなかった事に」  委員長「ナゲットも…」

男(久々に財布の薄さに泣いた。それでも並んだチープな食事に笑顔を見せる委員長で、まぁ、良しだ)

男「食べながらでいいから聞いてくれ。委員長、君に恋愛トークを振ったのにもワケがあったんだ」

男「正直こうして一緒に帰ろうと言っておいて、騙した気分ではある。悪かった!」

委員長「シェイクうまく吸い出せないな……あ、ポテトどうぞ」

男「……いいか? 真面目に俺はそいつから相談を受けたんだ! 奴は真剣だったぞ!」

委員長「そ、そう言われても、その人は私の知ってる人なんですか? 知らない人だったら気持ちは嬉しいけど」

男「まぁまぁ、興味ぐらいは持ってやってくれ。悪い奴じゃないんだ。保障するぜ」

委員長「……ていうか、男くん今日まで誰とも親しくしてなかったような?」

男「き、今日になって話聞いちゃったんだよなぁー!! あはははは!?」

男(……当てはある。それに俺は、最初から委員長へ恋人を作ってやる気満々だったのだ)

男(孤独で寂しい人生、ならば伴侶のつもりで良い相手ができれば……安易だが、自殺防止にはなるのではと)

男(もし事故で望まぬ死を迎えた場合は、何も思いつかない。それ以前に防ぎようがあるのか? 俺と委員長の死のタイミングは別だ)

男(……一応気になっているのが、神は確かに俺の死は避けられないと説明したが、もし これが委員長へも適応されていた場合はどうなるのか、である)

男(浅はかな考えでここまで来たのは承知の上。しかし、全てが水の泡になっては困る……だから、信じよう 神よ)

男(死を司るあなたが、あの時 鬼の形相を見せた、アレが演技ではなかった事を)

男「実際のところだ、委員長。話を聞いてどう思ってる?」

委員長「えぇ? 知らない人からだと嬉しいって思うより先に……疑いの方が」

男「そう。悪い気持ちではないと思ってたんだけどな」

委員長「うっ……正直少しは浮かれてます、けど。けど! 悪戯だったらどうしようって不安が」

男(そう来るか。いや、置かれた立場を考えれば当然だろう。俺だって同じだ)

男「……俺が、委員長でも同じように疑るだろうな。たぶん、昔似た経験をした事があるんだ、俺」

委員長「えっ、たぶんって曖昧な……」

男「ああ、曖昧だ。だけどそんな、些細な意地悪をキッカケに『寝太郎』のキャラを作ったんだと思うぞ」

男「だから、委員長に同じ思いをさせるつもりはない! もしそいつが裏切っても、俺がかならず報わせる。どうなってもだ……」

委員長「う、うーん……」

委員長「だったら先に……その、わ、私を好きになってくれた人の、な、なっ」

男(地雷原を慎重に渡り行くその様、やはりただ者ではなかったというわけか)

委員長「な、名前!! 名前をぉ……先に///」ウズ

男「悪いがそいつは無理だ。直前まで秘密にしろと約束させられたんでな」

委員長「ず、ズルいそんなのっ! 自分ばっかり! 私の気持ちはどうしろっていうんですか!///」

男「委員長堪えてくれ……アイツもかなりシャイだからな、中々思いきれずにいるんだよ」

男「しかしだ! 思いは本気で間違いなかった! そうじゃなけりゃ俺だって力にはならない! だろう!?」

委員長「じゃ、じゃあ! これだけは教えて欲しいんです……同じ学校に通う、クラスメイトですか?」

男「ああ! 女の勘は油断ならねーな畜生ッ!」

委員長「そそそそ、そんなぁーっ……!?」

男(両手を口元に当て、必死に動揺を隠そうとしているぞ。まさか 元々クラス内に気になる男子が? 俺か? その可能性は先程摘み取った……)

男「そいつは、いつも君のことを見ていたそうな……物静かに読書へ勤しむ横顔、綺麗だった、と……」

委員長「ぃぃい止めてくださいっ!!///」バッ

男「ぷぷっ、ところで癖の敬語に随分前から戻ってるんだが?」

委員長「わざとに決まってるでしょう?」 男「良い。その豹変っぷりな」

委員長「でも驚いちゃったな……クラスの人だったなんて……」

男「そうだろう? 明日からは変に意識しちゃって読書にならないんじゃないか」

委員長「っ! そ、それとこれとはまた別ですし……大体私は初めから誰かと付き合うつもりは」

男「今は考えておくぐらいに留めてやってくれ。あと、それから彼も同じく読書が趣味なんだよ……」

委員長「えぇーっ!?」

男「声デカくなりすぎだろ、委員長らしくないな! まぁ、他にも色々趣味は持ってるみたいだけど」

委員長「そ、そうなんですか……だけど、は、話が合う人なら……う、嬉しいな……っ///」

男「へへへ、これじゃあ俺の写真に付き合ってる暇もないかもな、委員長!」

委員長「えっ、どうして?」

男「どうしてって……逆にどうしてだよ?」

委員長「私、男くん自身は好きになれそうにないけれど、撮ったものなら違うと思うんですけど?」

男「……ほ、ほぉー!! 何か始めに酷いこと言われた気もするが」

委員長「本と同じです。どんなに品性下劣な人や酷い人が書いていたとしても、作品まで罪があるわけじゃないもの」

委員長「だから、良い写真を見せてくれたら……まぁ、うん……ですかねぇ」

男(……やれやれ、急に罪悪感が)

男(恋に恋する文学少女、俺はその純粋な彼女の想いを踏みにじっている)

男(救う手段だとしても、仕方がなしにと思い込ませようとも、胸の奥がズキズキセンチメンタルな痛みを放った)

男「俺は、絶対に委員長を幸せにしてみせるからな……」

委員長「……そういう台詞は、男くんに好きな人ができた時、本人に言ってくれませんか?」

男「う、うるせーな! とにかく上手く結ばれろ、紹介した俺の為に!!」

委員長「もう何から何まで勝手ですよねぇ……でも、少しは私も外に目を向けてみようと思います」

委員長「私、自分を改めてみます! 好きになってくれた人がいたのなら! えへへ……///」

男(ふざけやがって、可愛い顔もやればできるじゃないか)

「あれぇ~ちょっとちょっと! 委員長ちゃんじゃーん!」

委員長「!!」ビクッ

「あんたこんな所で……しかも男連れっ! どうしちゃったの!? これカレシぃ!?」

「ギャハハハハハハハ!! ありえねぇー!!」

男「……委員長、知り合いか?」

委員長「っ……」コクコクッ

「そうでーす。あたしたち、この娘の親友ー♪ だよネ」

男(空気も読まずに、いや、ある意味読んだか、彼女らは現れた。どれもこれも委員長のイメージからは程遠い外見に口調である)

男「あっ、おい! 勝手にその子のポテト食ってるんじゃねーよ!」

「どうして? だってあたしらマブよマブ。親友なら分けてくれても良いじゃん? ねぇ?」

男「ふっざけんな! 誰の金で奢ってやったと思って」

委員長「お、男くん!! ……は、関係ないでしょう。私は全然気にしていないし」

「よぉー言った! 流石だよ委員長ちゃ~ん。でサ、会ったついでに話たい事あんだけど……カレシ追い払ってくれね?」

男「俺なんかが委員長の彼氏に見えるとか相当だな……なぁ、委員長もハッキリ言ってやれよ」

委員長「わ、私たちそういう関係じゃありませんから。委員会の仕事を手伝ってもらったその帰りです」

「じゃあ密かにコイツ狙ってんじゃない!? きゃーっ! 下心見えみえだよぉー!」

男「っう……他のお客に迷惑掛かるだろう。幼稚園じゃあるまいし、察しろよ」

「かっちーん……何こいつ、キモいな? 出てく気ないなら、みんな呼んじゃおっか」

委員長「男くん邪魔だから帰って!! 邪魔なんですよ!! ……私の、友達なんですよ?」

男(そう言った彼女の目は「危ない」と必死に訴えていた。我ながら恥ずかしいな、屈辱だ)

男(せっせと、無様に逃げ出していたのだから。よし、いつもの様に体裁を保つ言い訳をしよう)

男「……アイツらにゃ捨て台詞すら惜しい。徹底的にぶっ叩く!!」

男(あの女たちが委員長を悩ませる元凶で違いないだろう。奴らを取り除く事に成功すれば、悩みの種も減らせられる)

男(腕っぷしじゃあ勿論ダメだ。まず面白くない。一旦、熱を冷ましてクールになるのだ……弾だ)

男(銃があっても弾がなければお話にならないのは周知。では、弾薬を拾わねばなるまい)

男(善は急げ、委員長の平穏の為にも。俺はポケットから携帯電話を取り出し、闇商人へ連絡をいそい)

?「だぁーれだ?」

男(……視界が闇で覆われた、以上に背中へ押しつけられたモノの感触に意識を奪われていた。だって、実に柔い)

男(柔くて、おまけに良い匂いも鼻孔を通ったりして、全身が幸せという名の束縛を受けていたのである。やれやれ、どこの美少女だい?)

男「……人違いじゃないですか?」

?「人違い? 酷いなぁ、でもしばらく会わないうちに色々変わっちゃったもんね」

?「お互いに。……ねっ、男くん!」

男(ひ、ひいいいぃ……ひいいいぃいいあああああぁぁ……!!)

男「幼馴染か!? 幼馴染ですか!?」

幼馴染「ぴんぽーん! 正解です! えへへ、男くん久しぶり。背高くなったねー♪ ……こっち向いて?」

男(あ、あの幼馴染が遂に帰って来てしまった。俺の黒歴史が、舞い戻ったのだ。最悪の形の再会を経て……覚悟を決めて、いま背後を振り向く)

男「…………えっ?」

ここまで

男「お前、鼻のところにあったデカくて汚い黒子はどこへやった!? ……はっ」

幼馴染「あ~小さい頃から気にしてたから取っちゃったの。後も残ってないでしょ?」

男「引き千切ったの? (イカン、つい抑え切れず指摘してしまった。……そして黒子以外にも変化が)」

男(ビフォー・デブスであった幼馴染が、どこか垢抜けた雰囲気になっていたのである。そう、アフター・垢抜けたブスだ。匠仕事しろ)

幼馴染「男くん、さっき背中に胸あてられてドキドキしたんでしょ~」クスッ

男「あっ、は……ぎぎぎッ」

幼馴染「やっぱり! 昔と同じで男くんかわいーい!」

男(何か、何かへ拳の矛先を向けないと。このままだと俺は憤死する)

幼馴染「でも、かわいい所はそのままだけどほんと大きくなったねぇ」

男「どこの親戚のおばさんの真似……幼馴染、こっちに帰って来たのは知ってたよ」

男「しかし、よく一目見て俺だってわかったな?」

幼馴染「うん。だって将来を誓い合ったあたしの未来の旦那さんだし」

男(神よ、仏よ、運命よ。なぜこの哀れな子ヒツジへ美少女幼馴染を与えて下さらなかったのか。生まれついた頃からなぜ俺は十字架を背負わねばならなかったのか)

幼馴染「それだけカッコよくなって、彼女とか作ってないでしょうねぇ。このこのぉ!」ツンツン

男「や……やめろよぉ……は、はは……」

幼馴染「今度はお隣同士じゃないけど、また一緒に学校行けちゃうんだよね。嬉しいなぁ」

男「む、無理しなくても良いんじゃないか!!」

幼馴染「かわいい男くんとの登校が無理になるなんておかしいよー! あはは!」

幼馴染「あっ……ひょっとして小学生の時に男子たちからからかわれたの、トラウマ引き摺ってる?」

男(違う、トラウマは別にあるんだと察してくれ。話題、そうだ話題を変えていかねば)

男「そ、それにしても転勤族は大変だなぁ! 親の都合とはいえ、あちこち転々としてたんだろ?」

幼馴染「えっ? うーん、そうなんだよ。まぁ、慣れると楽しくなってきちゃうけど!」

幼馴染「聞いて! この町から離れて隣の県の学校に移った時は、バドも続けてたんだけど大会で優勝したりしたの!」

男「お前何気に勉強も運動も抜群だったからな……スゴイスゴイ」

幼馴染「えへへ、もーっと褒めて! なんてっ……まぁ、今はもうやってないけど」

幼馴染「次に引っ越した場所でコテンパンにやられちゃってね、上には上がいるなぁで諦めちゃったよ。やっぱり凄いねぇ」

幼馴染「本場の選手は」

男「本場の? 大会で海外へ飛んだわけじゃなく、引っ越し先で?」

幼馴染「うん。イギリスだよ」

男「は?」

男「い、いまお前は……イギリスって言ったんだな……?」

幼馴染「そうだよ。最初は海外暮らしとか不安でいっぱいだったなぁ、日本人もいたけど」

幼馴染「帰国子女だからって英語ペラペラじゃないからね? 少し、ちょっぴり日常会話ぐらいは」

男(何だこの感覚は。クラスの連中とやって来る転校生について会話した時に、密かに頭の中で渦巻いた、あの感覚が、より)

男(猛烈に増幅しているのだ)

幼馴染「男くん話聞いてる? ていうか、そろそろウチに着いちゃうよ。この辺なんだよね、あたしの住んでるとこ」

男「この辺りって……おいまさか」

男「昔 俺たちがよく遊んでた空き地に建ったマンションじゃないだろうな!?」

幼馴染「あれ? もしかして先に男くんのお母さんから聞いてた? ふふっ、せいかーい♪」

男「ぐふぅーっ……!!」

幼馴染「結構綺麗なところなんだよね。でね、お父さんが次に転勤あれば単身赴任で頑張るからあたしはここに残れって」

幼馴染「ほんとに良かったよぉ! 男くん、今度は離ればなれじゃないね!」

男「……あ、ああ。良かったじゃないか……よかった、な」

男(あのマンションは元々向こうの世界で、転校生家族が住んでいた場所である。そこへ幼馴染が来た)

男(“転校生”……か)

男(幼馴染と別れ、自室へ帰って来た俺は枕へ頭を乗せた。ただでさえ軽い頭が、今日は随分重たくてな)

男「さすがにしんどいもんだ……幼馴染め」

男(同時期ではなかったが、幼馴染と転校生、彼女らは同じ境遇の“転校生”である)

男(あちらの母から得た情報だと幼馴染は隣県から、転校生はイギリスから。現実の幼馴染はどちらにも滞在した経験を持つ)

男「フフフ……転校生のモデルが、現実世界の幼馴染? だと?」

男「ありえない! アイツはハーフのツンデレか!? スタイル抜群か!? ……スタイルは悪くなかった」

男「少なくともハーフじゃない! 両親とも純日本人だった筈だし、祖父母がクウォーターでもない!」

男(性格に関しては特別モデル基準でなかったのだ、目は瞑ろう。それでもハーフやその他の設定が)

男(きょ、共通するのは抜群の学力と運動神経。腕っぷしの強さ、か……片方は家事が得意で、もう片方は……)

男(……後輩と転校生を除けば、存在する美少女たちのモデルは俺の記憶にある現実の女子たちである)

男(後輩は神の使いである事からこの点は解消されたわけだ。しかし、転校生がこれまで謎だった)

男(俺はずっと、見知らぬ“海外からの転校生”へ偶然スポットが当てられたと思い込んでいたのだが……どう考えたってモデルは、奴しかいない)

男「……待て。そうだとしても妙じゃないか?」

男「既に“幼馴染”をモデルとした美少女はいるんだ。だのに、何故そこから別の美少女が生まれる?」

男(あちらの世界には“幼馴染”が二人居てしまう事になるのでは?)

男「そんな事が許されるのか? 一人のモデルから二人の美少女を……」

男「委員長のように一つの体に、二つの人格が宿っているわけじゃなく、まったく別物が」

男「(真の隠れキャラ・美少女転校生。では、その実態は) ふん、どう考えたって後輩たちの仲間……なのか?」

男(転校生の今まで全てが俺を満足させる為の演技だとすればショックだが、何か、完璧すぎやしないかと思う)

男(あの罵声も暴力も照れ顔も、正に素だった。俺がそう考えたいとしているだけかもしれないが)

男「……演技でわざわざ髪を短くしようと思うか? 普通――――うっ!?」

男(空気を読まずして鳴り響く携帯電話に飛び起きた俺がいる。噂の張本人、じゃない)

キモオタ『コフー……コフー……もっすぃ? 男くぅん?』

男「きたねぇ!」  キモオタ『あぁんッ!?』

男「耳元で変な息遣いさせんじゃねーよ! どこの変態かと思っただろうが!!」

キモオタ『チッ……あー、とりあえずいつでも掛けていいって言われたから試しに電話したんで』

男(確かに電話番号もメールアドレスも彼に伝えた。しかし、試しとは何だ。俺がウソでもついたと疑ったとでも?)

男「用はそれだけか? 悪いけど疲れたから今日はもう寝たくて」

キモオタ『あーっ!! それ面倒くさい時の常套句じゃん! 常套句じゃん!』

男「わかってるじゃん! ……あっ、泣くなよ」

キモオタ『僕、本当に嬉しかったんだぞ……男くん』

男「俺も嬉しくてはしゃいだよ、ダチ公。だからそろそろ風呂入りに行っていいか?」

男(あれから一時間以上は軽く経過しているのだが、この束縛は永劫続くのでしょうか)

キモオタ『高校時代はなかった事にしようと思ってた矢先に、君が現れた! これって最高さ!』

男「チョーイイネ……じゃあ、汗流してきても?」

キモオタ『ごめんなぁ! こっちは全然話足りなくて! 通話代も気にならねぇよぅ!」

男(コイツが何かと遊ばれていた理由もわからなくもない)

キモオタ『あっ……なんか、迷惑だったりするかい? へへへっ』

男(ひょっとしてそれはギャグのつもりなのか)

男「……なぁ、キモオタよ。実は折り入ってお前に頼みがある。話だけでも聞かないか?」

キモオタ『いいとも~!』

男(話すタイミングを見失っていたが、ようやく切りだす事に成功だ。その頼みを聞いた途端にキモオタはぶち切れるがな)

男「どうしてもっ!! お前にしか頼めないんだ! 誓って冗談なんかじゃない!」

キモオタ『だとしても頼む相手を間違えるよなぁ~!?』

男「……ま、まぁ」

キモオタ『もし僕がソレへ乗ったとして、その相手はどうなるよ!? 大体想像つかないかッ!』

男「……キモオタ。大事なのは清潔感だ、清潔感で女は騙せる」

男「いや、騙すじゃない! ていうか騙された気になって自分の生き様を変えないか!?」

キモオタ『生き様を、変える?』

男「ああ! 寂れた人生に別れを告げて、新しい一歩を踏み出そう! お前ならできる!」

男「彼女を作ろう!! 三次元も捨てたもんじゃねーよ、絶対!!」

キモオタ『……一つ訊いておくけれど、男くんは僕の気持ちを裏切らないね?』

キモオタ『僕を笑い者にしようと考えてるわけじゃなく、真剣にその子と僕を……そ、そのぅー///』

男「そうだ。純粋に仲を取り持ってやりたいだけだぜ? 俺は」

キモオタ『な……南無三ッ!!///』

男(この通りである。俺たちが何を話していたか、察しの良い方は把握しただろう)

男(正直なところ、彼と彼女をくっ付けるのはあまりよろしくはないかもしれん。陰キャラ同士が、とクラスの連中に知れたら惨事が起き易い)

男(ゲスキューピッドの狙いで強引に巻き込んだのだから、願わくば両者ともが幸せになって欲しい。委員長、すまなんだ。イケメンを充てがえられんで)

キモオタ『ライザップ、見当しようかにゃ……!』

男(成功確率は厳しそうだが、すまない。早速 恩を返してもらおう)

妹「あのさ……あーのーさぁー?」

男「よし、ああ、良いぞ! わかった! 心配するなお前ならかならず成功す」

妹「おい耳ついてんの? お前?」パッ

男「!! ……な、何だよ 妹。いたならいたって言ってくれないと分からないだろ」

妹「さっきから声大きくてうるさいんだけど。私の部屋まで聞こえてるの。わかる?」

男(俺の手から抜き取った携帯電話を、妹は目の前でブラブラと揺らしながら、不機嫌をアピールしている。そこまで大声だったか、俺?)

男「そ、そうか……だったらもう止める。悪かったな」

妹「ていうか、電話する相手とかいたんだ?(笑)」

男(生ゴミ以下を扱われる目と含み笑いである。ここまで不仲になったのにも理由があるのだろうか、何とも切ない)

男「お前が知らなかっただけで、俺にも仲良い奴らがいてな。興味ないだろ?」

男「携帯、返してくれないか? 丁度大事な話の最中だったんだよ」

妹「……あっそ」ポイ

妹「…………」

男「おい? もう良いだろ、自分の部屋戻らねーのか?」

男(……何だ? まったく動く気配がない。遂に人生相談でも始まっちゃうのか?)

妹「電話さ、まだ続くの? あと五分ぐらい?」

キモオタ『男くぅーん!! ここで話はまた一転だ、某アイドルアニメの映画が上映され――』

男「いや、たった今切った。どうかしたのか?」

男(黙って妹の言葉を待てども、中々言葉が出てこない。というより、どこか言い辛そうにしていて)

妹「別に私にもお前にも関係ない話なんだけど、聞きたい?」

男「何だよ、無駄に出し渋るなっ……関係ないなら気にするなよ」

妹「ほんとにほんとで関係ないんだよっ、だ、だけど……えっと」

妹「だあぁーっ! わかった、もう勝手に話す!! さっきまで友達とカラオケ行ってたの!!」

男(自慢で終わる、わけもなかろう。彼女は勢いに任せて続け出す)

妹「そ、そしたらあんたの知り合いが怖い人らと一緒いて!! その後、なんかその子一人で待たせられてて!!」

男「ま、待て。どうして俺の知り合いだってわかる? まずお前は知らんだろ」

妹「だってその子があんたの名前出してたんだもんっ! バカにされてて、あんたの名前出して、関係無いとかなんとかさ!」

男「そう……なるほどな、委員長か。それでどうなった? 教えてくれ」

妹「わ、私ぶっちゃけ見ないフリしておこうって思ったけど! だけどその子、気持ち悪いオッサンに連れてかれちゃって!!」

男(どこまで腐っていれば済むのだ? 俺の現実ってヤツは)

ここまで

妹「あれって警察呼ぶのが正解だったのかな!? どうしよう……」

男「いいか? 彼女に何が起きてもお前の責任じゃない。安心してくれ」

男「むしろ、お兄ちゃんに報せてくれた妹は偉いぞ……あ、あとは任せておけ……」

男(こんな事態を予測できて堪るか。最近の中高生の頭はどうなっている? 青年誌に悪影響受け過ぎでもしたか?)

男「繋がれ、早くっ……出ろよっ……! ……きた、不良女ぁー!!」

不良女『うるせぇバカ!! 何様のつもりだ テメー! 断りなく呼び捨てんじゃ』

男「いま何処にいらっしゃられますでしょうか!?」

不良女『……はぁ?』

男「答えられないなら、何をしてるか教えて欲しい! 友達と一緒か!?」

不良女『だからうるせぇな!! ……フツーにバイトの休憩中なんだけど。あ?』

男(こちらでの不良女もアルバイトを、とか思っている余裕じゃない。もし 委員長がこの件を機に自棄にでもなれば)

男(少ない希望が、尽きてしまう。お、終わる……!)

不良女『あたし、あんたと違って暇じゃねーの。わざわざ電話出てあげただけでも感謝しろよ』

男「……た」

男「たすけてください……不良女、さん……っ」

不良女「――――よぉ、急ぎだって?」ニヤニヤ

男(繁華街の傍らに佇む不良女、ある意味じゃあ絵になる光景でもあった。何がどうして俺が彼女と、二人切りにならなければならなくなってしまったか)

男「俺は、そっちの友人の連絡先を教えてくれって言ったんだ……呼び出した意味あるか。バイトは?」

不良女「ンなもん適当に押し付けてきちゃったよ。テンチョー不在だし、今日」

不良女「困ってる友達放ってのんびり仕事とかやってられないよねぇ……で、どーしちゃったの? んぅ?」

男「いいん、し、知り合いが不味い事になってるかもしれない。どうやら君のツレが関わってそうで」

男「い、今すぐ止めに行きたい! 無理矢理、陥れられたに違いない……頼む」

不良女「そーなの? だけど、あたしは何にも知らないけど」

男(……ウソを吐いてはいないらしい。確かに、彼女が主犯格であればその場にいた方が自然である)

男「でも不良女さんが一声かければ、みんな考え直すだろ!?」

不良女「んー、やってみなくちゃねぇ」

男「じゃ、じゃあっ……」

不良女「でもねぇ、あたしがあんたの為にそんな事する義理ねーし。向こうは遊んでるだけだろ」

不良女「コレであたしがアイツら白けさせたら、ウザくない?」

男(そうだ。彼女は一時的な情報提供者なだけであり、こちらの味方ではない。俺がバカを見るのは確定していたのである)

男(こういう時に機転を利かすのが俺の役目だろう? どうして奇策一つ思いつかない。あっ、ウッカリしていた)

男「(俺のは対美少女限定じゃないか。止むを得ない、良心に訴えかけて) ……頼むよ、大事な人なんだ。人生狂わせたくない」

不良女「大事ならそいつに直接連絡しろよ。出てくれないの?」

男「大事だけど、俺が一方的に想っているだけでして……ねっ!」

不良女「……それってあんたが別に助けに行っても、嬉しくなくね?」

男「この際誰だろうと構ってられない状況だろ!! 俺は恩を着せる為に行動してるんじゃない!!」

男「た、ただ あの子を助けたいと……それ以上以下もないんだよ、頼むって……なぁ!? 真面目に聞いてくれ!」

男(俺の必死さを無碍に、不良女は屈み込み携帯電話を弄っていたのだ。だがしかし)

不良女「なぁ、あんた言ってる大事な子ってコイツのこと?」グイ

男「!!」

男(付き付けられた液晶画面には、手で目元を隠した、如何にも卑猥な格好をした少女が映っていたのである)

男「おい……それは……」

不良女「たぶんそうかなって思ったんだわ。この子なんだな?」

男「……」

不良女「わかった。大体場所も見当ついてるし、連れて行ってやるよ」

男(黙って不良女の後ろを着いて行くしかない。奥へ奥へと進むたび嫌な予感が拭え切れなくもなっていく)

男(先程までの小バカにした態度はどうしたんだ、この女。何か語りかけようと、黙れと言われるでもなく、ただ無言で歩むのだ)

不良女「あたしもさ、色々噂されてるけど鬼じゃないんだよ」

男「はぁ?」

不良女「あたしでも正直付き合い切れない事もあるってこと。エグいのとかさぁー」

男「え、エグい……?」

不良女「この歳でヤクザみたいな真似したら、流石にヤバいっしょ? ところで」

不良女「マジであんたはあの子思ってあげてんのな? ぶっちゃけ可哀想だと思って連れて行ってやろうとしてんの、あたし」

男「かわいそう……っ?」

不良女「あの子がじゃなく、テメーがよ。ここまで話したら、察しつくんじゃないかなぁー」

男「えっと……俺に、考え直せって……?」

不良女「ん……着いたよ。ここに隠れてとけ、証拠とか全部そのままお前の携帯に転送する」

男(言われた通り建物の影へ身を潜めていれば、不良女は夕方の連中やあの時委員長へ絡んだ女どもと合流し始めた)

男(よく見れば奴ら、ラブホテルの前に屯って居やがる。しばらく見守ると、男連中数人が中へ……ピロリ、とここで俺の携帯電話が鳴った)

男(見 な け れ ば よ か っ た)

男(気がつけば俺はまた一目散に逃げ出していた。臆病者と罵られても、構わない)

男(アレが現実だと受け入れられる筈がない。狂気にも似た光景が、未だ忘れられず、脳裏に焼きついたままだった)

男(俺はどこにでもいる凡庸で、いや、平凡以下の男子高校生だったのだ。そんな少年が非現実的なモノを叩きつけられてみろ)

男(偉大なニーチェ先生、あなたは正しかった……気が狂いそうだ……)

父「おおっ!? ど、どうした危機迫った顔して」

男「父さん……」

父「ひょっとして外に出てたのか? お前がこんな遅くに珍しいな」

男「……っ」

父「……あー、何か、父さんで良ければ相談に乗ろうか? 母さんたちには言わないぞ」

男「……わけないだろ」

父「えっ? 何だって?」

男「言えるわけないだろッ!!」

男(父の心配を振り払ってまで、俺は早く布団へ飛び込みたかったのだ。父さんすまない、口が裂けたってあなたにも伝えられない)

男「言えるわけないだろ、こんなの絶対……っ」

男(あの委員長がボンテージ姿で 小汚いオヤジの尻に、鞭を振るっていたなんて)

男(凶悪たる悲劇から一夜が明けた。闇を垣間見た今朝の登校は、やや重苦しい)

男「俺は、どんな顔して彼女に会えばいい?」

男(転送されたメールに添付された画像。女王様と豚の両方が映っているところを見るに、マジックミラー越しか何かからの盗撮らしい)

男(そのイメージからは皆目見当つかない格好に身を包み仮面を被った女王様は、確かに委員長の面影がどこか残されていたのである)

男(おそらく客として招いた男性とのプレイ中を狙い、奴らは突撃を繰り返したのだろう。いわゆるオヤジ狩り的な)

男(委員長はその悪行へ利用された被害者だ。元気に鞭を振るい、尻を踏みつける姿はきっと偽りだ。かならず、間違いだ)

男「妹……おい、どうした。わざわざこんなところで待ち伏せしたりして」

妹「お母さんたちに聞かれたら困ると思ったからじゃん……どうだったの? 例の」

男「悪いが答えさせないでくれないか」

妹「っ!! そ、そっか。なんかごめん……私も力になれなくて、さ……」

妹「今回ばかりは同情する……な、何だったら私が先生たちに報告しても!」

男「やめろッ!! そんな事してどうなる……彼女は辱めを受けたんだぞっ……」

妹「だけど何もしないでいるよりは絶対いいよ!? これで終わりとも限らないのに!」

男「だから俺が全部綺麗に終わらせてやる。手出し無用だ、妹」

妹「おにいっ……あ、あっそ……じゃあ勝手にすれば!」

「寝太郎じゃん。今日は机まくらにしてないのな」

男「あ、ああ! 温存してんだよ……委員長まだ来てないよな (心の準備も済まない内に、声を掛けられるか分からんが、顔を見た瞬間 俺は気がどうにかなってしまうだろう)」

男(さて、注意しなくてはならないのはこの携帯電話の強奪だ。まだデータは残してある。この様なカオスを目撃されれば)

男(社会的抹殺は必至だろう。俺も、委員長も……)

「つーか、その目の下どしたの?」 「クマできてんじゃん! あはは!」

男「昨日はよく眠れなくってさー……ハハハ」

男(一旦眠りに落ちると、夢の中で美少女委員長が俺へ靴を舐めろと命令しだすのだ。あげく、馬乗りになって、ご褒美だった)

キモオタ「テメェー!! オラーッ!!」ガシッ

男「おっ、うおおおぉぉ!? 何だ!?」

男(それはあまりにも唐突で刹那的だったと思われる。放心気味の俺へ向かってキモオタが怒鳴り、胸倉を掴んだのである)

キモオタ「テメェオラゴラヤンノカバカヤローッ!?」グイ

男「おいおい!! どこ連れてくんだ!? 何言ってるか全然わかんねーぞ!?」

男(抵抗かなわず、デブの底力に敗北した俺は、なされるがまま人気の無い場所へ……まさかコイツ、男の娘と同タイプの……なんて)

男「なぁ 次からはもっと優しいやり方にしろよ、お前。強引だろ」

キモオタ「アハッ! やり過ぎぐらいが欺けるのだよ」

キモオタ「男くん、昨日はいきなり電話切れちゃったけど僕は忘れようと思うんだ」

男「その広い心に感謝しておけばいいのか?」

キモオタ「時に! 君には妹さんがいるだろう? 聞こえちゃったんだよねっ、アレは姉じゃなく妹寄りの声だぜ」

男「キモオタは、上にも下にも兄弟いなかったな」

キモオタ「えっ? そうだけど、話したっけ?」

男「い、いや……なんか変だな、安心したよ」

男(後輩たちは元気に美少女生活しているだろうか。そういえば天使ちゃんの件は、どうなっている?)

男(あの子の母親、こちらに存在する母体が無事にアレを産めば、天使ちゃんは神の使いから普通の美少女のままとなる、だった筈だ)

男(天使ちゃんが真にそれを望むかは謎のままだが……まず、俺にどうこう出来る問題ではない。何しろ母親が誰で何処にいるかすら未知なのだから)

キモオタ「まぁ、何だ、男くんよ。君を呼び付けたのは他でもない。予想つくでしょ?」

キモオタ「……いるんだろう? クラスの中に、昨日話した“かかかか彼女”が!///」

男「そうだとも。来て早々挙動不審だったのはそのせいか、だが」

男「お目当ての彼女はまだ到着していないらしい。一旦落ち着け!」

キモオタ「ぼ、僕はァ あれからずっとシミュレーションして備えてたんだい! アホみたいに、何度もっ!」

男(なんとキモオタは今日にも彼女を獲得して、花火を打ち上げる予定まで立てている模様。迅速過ぎる)

男(焦りは禁物、と言いたいところだが生憎こちらは既に尻に火を着火されたも同然の状態)

男(タイムリミットが分からないのが大きなネックだ。少なくとも、その日は雨が降る。どこまで当てになるか知らんが)

男「……OKだよ、キモオタ。お前の熱意が俺を動かした」

キモオタ「ま、まさか!!」

男「昨日の今日で悪いが決行しようじゃねーか!」

男(どちらにせよ、失敗するなら早い段階の方が助かる。というか、キモオタに相手は委員長と伝えて納得してくれるだろうか)

男(……大丈夫。恐れるな、彼を信じろ。キモオタが生粋のマゾならば相性抜群だぞ)

キモオタ「ふぉおお……いざやると覚悟決めたらキンチョー……!」

男「俺が付いてるさ。お前は全力で挑めば良い! とにかく今は抑えて教室に戻ろうぜ」

男(都合良く展開する、難聴鈍感に悩まされようが最終的には俺へすべて傾くのが向こうでの強みであった)

男(だからこそ甘えていたのかもしれない。現実の人間を相手に立ち回れど、どうにかなるんじゃないかと。人はコレを)

男「いいか? 相手にはお前が読書好きと伝えておいた。流石にラノベは伏せたが」

キモオタ「ラノベだって本の一つですがなッ! なーに、僕の告白シミュは完璧に――――」

委員長「キモオタくんのことだったの……?」

男(油断と呼ぶのである)

ここまで
また一週間ぐらいかかる予定

男(仕組まれたように登場した委員長に、笑うしかなかった。予期しない事故は時に人を笑顔に変えるのだろう。ミリも面白く思わせずに)

委員長「ふ、二人が話していた内容が、盗み聞きというか偶然聞こえちゃって……」

委員長「つい最近私の方にも心覚えあるような話題だった、から、なん、ですけど……っ」

男(横目でキモオタを捉えれば、先程までの胡散臭い自信は絶えていた。その代わりと言えばだが)

男(面白い顔 もとい あんぐり口を開けて「は?」を強調させた面で彼は俺を凝視しておられる)

男(俺、慌てることなかれ……初めから両者ともに相手を知らせてはいなかった。後に控えていた全力不満光線を早めに浴びれただけじゃないか)

男(状況の確認から始めよう。まず この男、キモオタは自分がぶつけられる女子の正体をいま察し、決意を砕いた。理想には程遠かった、と)

男(俺に乗せられた立場とはいえ、わけもわからずだ。彼にも選ぶ権利がある。非難はできん……では、委員長の場合は?)

委員長「っ~……」

男(露骨に嫌がっているわけでないにしろ、確実にアウトを突き付けようとしているその姿勢が逆に憎いね女の子)

男(しかしだろう。二人は第一印象でしか判断していないわけだ、たとえ外面が好みと違えど 内面諸々を知る事により DANDAN心惹かれ)

委員長「き、キモオタくん本当ですか? 男くんにこの事を相談していたというのは?」

男(自分の策で自分の首を絞められるのか、俺は。キモオタが真実を告げた瞬間 委員長との繋がりが切れ、修復も困難に。……詰む……詰む! 詰むっ! 失敗したっ!)

キモオタ「ハァア?」

男(ここで追い打ちを掛けるよう、キモオタ選手は俺へパスを繰り出す。……が、何故ここですぐ否定に走らない?)

男(というか、理解できていないのか? 委員長が何を尋ねているかを)

男(な、ならばここで俺がしゃしゃり出て後から彼と口裏を合わ)

キモオタ「男くんの大バカ野郎!!」ドスンッ

男「あっつ!? (思考も吹っ飛ぶ突然の肩パン。キモオタは周りの目も気にせず、殴打を繰り返して声を荒げるのだ。な、なにがどうなって)」

キモオタ「ほんとバカ野郎!! よっぽど口が緩いらしいなぁ、君って奴ァ!!」

男「お、お前何言って!!」

キモオタ「あれほど誰にも喋るなって約束させたのに! 僕を裏切りやがって、このぅ! ヤロー!」バンッ

男「ぐうっ!?」

委員長「い、いきなり何を争ってるんですか!? 他の人も見てるんだから止めて!」

キモオタ「うるせぇ! こ、こっちは本気で相談したんだぞ! そ、それを……」

キモオタ「関係ない人に話すどころか……ぼ、僕が好きになっちまった張本人へ漏らしてたなんでよ゛お゛ぉぉ……!」

委員長「えっ!」

男(えっ)

キモオタ「オラァ、立って言い訳してみやがれよう! 聞いてやるつってんだぜ!」グイィ

男「……すまなかった、キモオタ。俺も許して欲しいと思っちゃいない」

キモオタ「……何だと? 君は悪戯に囃し立てようとしたんじゃないのかい?」

男「そんな真似を数少ない友達にやるかよ! ほ、本当は陰から応援してやるのが一番だと思っていたさ」

男「しかし、見ているだけってのはどうも性質じゃなくてな……大体お前が奥手なのがいけないんだろ」

委員長「あ、あの」  男・キモオタ「女は引っ込んでろッ!」

男「お前がいつまで経っても煮え切らない事してるから、ついやっちまった! どうだ! ハッキリさせてやったぜ、ザマァ見ろ!」

キモオタ「男くん……やっぱり君は大バカだ……最っ高の、大バカ野郎……!」

委員長「そ、そろそろ」  男・キモオタ「うるせぇッ!!」

キモオタ「……僕を、思い切り殴れよ。全力だ。それでオチを付けようぜ」

男「おう、その言葉が早く聞きたかったんだわ」ドスンッ

キモオタ「ぶうっ!!? ハァッ、ぉお腹っ、ハァーッ、せめて肩フーッ……!!」

キモオタ「あっ……い、委員長さん。ううっ! 見っともない所を! 男くん一時退却でござ候ッ」

男「流石に周りの目も気になるからな、そうしよう。ああ、委員長ちょっと」

委員長「えっ! わ、私? 何ですか……」

男「見ただろ? キモオタは痛いのが大好きなんだ。罵られるのも、好みらしい」

委員長「っー!! この……ふ、不潔コンビが」

男(蔑んだ目と発言は俺へ真っ直ぐ突き刺さった。杞憂だったと思えるぐらい、グサッと一突きである)

男(委員長は変態行為を好むような女子ではない。アレは無理矢理やらされている。……と、これだけで確信に至れるものか)

男(このまま放置すれば避けられる事必須。恩人キモオタまでもが。阻止だ、そして)

男「他にも色々聞いて欲しいことがあってな。どうせなら、とことんアイツを知ってもらいたいんだ」

委員長「ねぇ……あなた最低です。二度と私に近寄らないでくれませんか?」

男「へへ、釣れないこと言うなよ? 俺はただ二人の橋渡しをしたくて」

委員長「余計なお世話でしょ!? 何なんですか! 人の前でいきなり大声上げてケンカしたり、意味不明!」

委員長「……お節介が過ぎるんですよ。他人よりも自分を優先したら?」

男「悪いが俺は女の子に困ってないんでねぇ~~~!」

委員長「あなたが? 信じられないですね。出鱈目ご苦労さま……それじゃあ」

男「お前らみたいな冴えない奴ら動かして、思い通りにくっ付かせてみるのも面白いと思ったんだ」

委員長「……えっ」

委員長「…………いま……何て言ったのっ……?」

男「ん? 何だって?」

キモオタ「あわわわわ……」

委員長「だ、だから何て言ったのか訊いて」

男「認めたくないのか? ゲーム目的で男くんがわざわざ自分へ近づいたのを?」

男「認めたくねーよなぁ、そりゃあ。最初なんか若干仲間意識持ってる感じだったし、あくまで変な良い人ポジに俺就いてたからな」

男「いかがでした? ちっとは楽しめただろ、委員長?」

男(間髪入れずに俺の脳がぐらりと一瞬揺らされていた。本で学んだ知識かこれは? 女子から顎を打ち抜かれる体験は中々無いと思われ、あら?)

先輩「っ~~~……!!」

男(何たることか、殴ったのはあの先輩だったのである。地上に舞い降りた天使の鉄拳、予想もしていなかったぞ)

委員長「うっ……ううっ! ……ああぁー……」ポロポロ

男「(同時に二人の女子から嫌われているぞ、この俺が。本気で委員長を泣かせたガチ屑認定されたのだ) あ、ぐぎぎぎ……」

委員長「ひどい、ひどいよぉ……あんまりだよぉ……」

先輩「立てる? よいしょ! 教室まで送るねぇ。大丈夫、だいじょうぶ。……君さ」

先輩「だめでしょ、女の子泣かしちゃ……しっかり自覚してね」

男(失望、だろうか。あくまで優しい言葉をかけつつ、最後に見た彼女の目は俺をゴミのように貶していた気がする)

キモオタ「お、男くん何やってるんだよぉ!? 君は本気でバカですか!?」

男「うむ……まぁ、場所を変えよう。少し話がしたい」

キモオタ「改まって言わせてもらえば男くん、君は正真正銘のバカだな。正気と思えないよ」

男(目がマジである。そりゃあ自分でもやり過ぎたとか、人を便利な駒にしか考えていないのかと石を投げてやりたい。客観視すればだ)

キモオタ「なぜに僕があんなピエロ役買って出たのかわかってたでしょうよ!? 君ィー!」

男(無論。彼は俺の立場をこれ以上落させない為に、事情を知った体で一役売ってくれたのである)

男(好みでもない女子を引き合わせようとしておきながら、キモオタは俺との友情を取ってくれたのだ。泣いた赤鬼を彷彿させるな。泣いたのは委員長だけれど)

男「キモオタにはあの時救われたよ。あそこでバカになって考える時間がなかったら、もっと苦しんでいたもんな」

キモオタ「ンァ? 意味不明だい……僕ァ、君が彼女へウソをついたって気づいたんだ。幸い、向こうも僕と似た境遇で乗せられたって大凡予想できたからさ……!」

キモオタ「あそこで僕が話を拗らせて、君の出鱈目を暴露したらいけないと思ったんだぜぃ!? わかるな!?」

男「そう言わんでも、たぶん俺はお前の意を汲めてたろ?」

キモオタ「じゃあアレは何だってんだよって! あのまま引ければ無事終われたのに、君ってアホ垂れはな」

キモオタ「だああああぁ全部台無しにして おじゃん にしやがったYOッ!! あーこっちも頭が変になる!」

男(ここまで怒るのも無理もない。俺が彼の善意を裏切った以上に、あの場での騒ぎの大きさが原因だ。クラスメイトたちの耳に届くのも時間の問題だろう)

キモオタ「いいかい? 男くん。女の子を泣かすって行為はまず褒められたもんじゃあない」

キモオタ「第一にだっ! 何て言ったかよーく思い出してみてくれ! アレは不味い! 日陰者の委員長さん相手だろうと、アレだけは!」

キモオタ「……も、もう一度だ。……男くんは正気じゃないのかいっ?」

キモオタ「……今僕らの教室へ戻ればすぐ言いたい事がわかる。嫌でもだぞ?」

キモオタ「君がしでかした事はナチュラルに敵を作る行いだ。それに、委員長とどんな関係だったか知らないけれど」

キモオタ「下手すりゃ二度と、口を聞いてもらえないんじゃあないかな?」

男(最悪の場合、現状不安定メンタルな心がさらに折られ、委員長は俺の前へ、学校へ、姿を現さなくなってしまうかもしれない。だろう?)

男「俺、お前がこんなに優しい奴だったなんて知らなかったなぁ」

キモオタ「言葉の壁打ち状態だけどマジで大丈夫かい!?」

男「それに賢い。素直にカッコいいと思えるわ……俺が委員長に喋った内容について、気にならないのか?」

男(委員長、キモオタ。二人を言葉巧みに操り思うままに動かそうとした。マトモな言い訳でも思考でもない。狂人の発想に近いと思われる)

男(だが、キモオタは鼻で笑ってやれやれと手を広げるのであった)

キモオタ「オタクに悪い人間はいない。僕が認めた奴限定な?」フッ

男(こいつは脳内お花畑なのか?)

キモオタ「まぁ、リラックスついでの冗談ですがな。……本気でそんな事を企んでたのなら、自分を落とすような真似はせんでしょうが」

キモオタ「だってあくまで自分は、プレイヤー 兼 傍観者としてゲームを楽しむんだろうし」

男「俺が自棄になってただけだと知ったら?」

キモオタ「それでも僕は男の考えを信じるよ?」

キモオタ「アハーッ、呼び捨てちった! 高まって呼び捨てちまったよ! っべー、テヘッ!」ペロ

男(男の娘はあの時、今の俺と同じ気分だったのだろうか。どん底へ沈んでいくだけだったこの手をぐいと引っ張られる、希望を与えられたみたいな)

キモオタ「長々 講釈をたれるよかシンプルだったよね? で、僕は君をとりあえず信じるんだぜ?」

キモオタ「ワケを聞かせてくれたまへよ、ブラザー。一から十まで……今に至ったワケってやつを、なっ!」

男「なぁ、お前が何でここまで俺にお熱になれるかこっちはサッパリだぞ?」

キモオタ「貸しは返すって約束だろう!!」

キモオタ「っひひ、これで大きな恩が売れたら君だって簡単に無視できないなぁ? こういうサイクルさ、偉大な友情の始まりは」

男「スゲェよ、お前も大概頭のネジ緩んでるじゃねーか。だけど」

男「その心意気、買った…… (お互いの理念や事情を無視してとまではいかずしても、キモオタは俺の話へ頷き、頷き、とにかく頷いてくれていた)」

男「とある理由から俺は委員長が抱える悩みを解決したい。彼女は俺たちが想定できないほど、あちこちで面倒を抱えて生きているらしい」

男「今回 委員長へ恋人を作ろうと動いたのも、日常的に孤独な時間を多く過ごす彼女の支えとなれる楽しみを作ってやりたかった。明日を億劫に思えないと感じられる楽しみを」

キモオタ「だからって僕を宛がおうとするのはバカげてるっつーの!!」

男「やってみなくちゃ何もわからないと思わないか? まぁ、第一段階は失敗した……」

男「キモオタ、お前ついさっき『あのまま引ければ無事終われたのに』って言ったな? 違うんだ、あのままじゃ」

男「“無事”じゃない。“何もなくなって”終わっちまう……俺にとっては」

キモオタ「何もなくなる? 男にとって? ……あぁッ、ま・た呼び捨てっ」

キモオタ「だけど どういう意味だい? 無事に終われるだろう。君は委員長さんに最小限印象を悪くせずに済んで」

男「そこなんだ、キモオタ。 残念だけど今日より前に委員長の俺への印象は最悪状態にある」

キモオタ「……ど、どんな危ない事をしようとしたんだい!」

男「してねーよ! するか! 向こうがウブだったていうか、俺が話題の選択ミスったというか」

男「とにかくドン引きされてる。時間で解決されるとしても、こっちは時間がなくてな」

キモオタ「はぁ」

男「だからこそ 恋人作りで、なし崩しに委員長と俺の接点を作っていた。以上である」

キモオタ「乙。論文みたいにやや詳しく話してくれたねぇ、男」

キモオタ「大体わかった。そして、もっとややこしくしてくれたな? どうして自ら滅茶苦茶にしたんだ?」

男(滅茶苦茶、その表現はかなりピッタリと当て嵌まる。では、ようやく疑問に答えるとしよう)

男「第二段階を考えた。お前の行動と放心に影響された、第二段階を」

男「キモオタ、あのままだったら印象以前に、委員長は『所詮 悪戯だったんだ』で済ますと思わないか?」

キモオタ「ははは……ぼ、僕のやり方が悪かったって言いたいのかねっ?」

男「どちらにせよ、このまま計画はフェードアウトしてた。そして俺は委員長に相手される理由を失うんだ」

男(実際には“される”方法は残されている。勿論、余さず実行するつもりではあるが)

男「俺は本気でお前なら彼女と結ばれて、良いんじゃないかと考えてる。自分勝手で悪いが」

キモオタ「まったくだってばさ!! なぁ、僕にも女の趣味があるぜぇ。それを無視するのか!」

男「でも、冗談抜きで委員長は見方で化けるぞ。ありゃえらい原石だ……お前色で、女を染めたいと思わんか?」

キモオタ「むむぅ……そこまで言うなら、自分がその相手になる努力はしたんだろうなぁ~?」

男(したいとも思わないが、まず不可能である。俺は死ぬ。どう結ばれようが、僅かしか一緒にいられないわけがある)

男「(キモオタならばきっと委員長を支えてくれるだろう。甘いのか? それでもある程度で納得をつけなければ何もできない。時間が、ない) した結果でドン引きだろう?」

キモオタ「何言ったんだかなぁ……だけど、君がダメで僕ならイケるって不思議だ」

キモオタ「君も酷いけど僕はそれを超える見た目と中身だぜ? よほどじゃないと受け入られない自信あるもん」

男「だから容姿なんて気にならなくしてやろうってんだよ、その為のプランBだ」

キモオタ「あ゛?」

男「お、落ち着け……委員長から完全に俺は嫌われただろう? 良い顔して近寄った鬼だったって」

男「だから、その俺をお前が気持ち良くぶっ飛ばせばいい。名目 よくも僕の大切な子を傷つけたなー! と」

男「キモオタも言ってたじゃないか、やり過ぎぐらいで欺けるんだよってさ?」

キモオタ「ほう! 君のプランBはよく理解したよぅ! いくらなんでも人をコケにしすぎだってこともな」

キモオタ「忠告しようかい? 君の考えた第二段階は絶対失敗する。委員長さんが鬼を叩いて喜ぶ状態じゃないからだ」

キモオタ「言っただろ。男はやり過ぎたんだよ、コテンパンさ。こんなのが通用するのは少年漫画の展開だけっすわ」

男「じ、じゃあどうしろって言うんだよ!? オタクは何でもかんでも否定から始めるのか!?」

男「何をそんなに相手の立場に立ちたがって……お前が委員長か!?」

キモオタ「な、何だよ突然。余裕なくしてっ」

男「だから余裕ないんだよ、こっちは!! わかんないかなっ、ああっ、わからねーよな!」

男「キモオタが知らないだけであの女は実にチョロい。頼めばお前なんかでも」

男「色々楽しませてもらえるんじゃねーかなぁ?」

キモオタ「男ぉ……僕を煽って敵視させようとしても無駄だからね?」

キモオタ「プランB、そんな物始めからないんだろ? 別に用意した他の考えがあるんだ。これもその為なんだよ」

男(こいつ、いつ賢者モードに転換した? あまりにも俺が過剰すぎたのか?)

男「……正直考えの一つではあったんだ。俺はこういう都合の良い考え方にどうも偏っちまう」

男「こういうのはどうだろう? これからクラスに戻ってから、俺が委員長へ あえて 酷く辛くあたり続けるんだ」

男「流石に薄情なクラスメイトたちも、これに見かねて……キッカケを得て次第に友達ができて……ハッピーエンド」

キモオタ「無理だねぇ。それこそ都合が良い! っふ、僕が良い例じゃあないか!」

半端だけどここまでで

キモオタ「男の提案はどれもコレも非現実に偏っているのだ! 現実は非情! な、君だって痛感している筈だぞ」

キモオタ「そして僕から言わせてもらうとだねぇ、君は『こうなれば良い』という思いつきで動いているに過ぎない……だッ!」

男(多種多様な娯楽で鍛え上げられたオタクの観察眼を舐めていた。というより、このキモオタがレアケースすぎるわ)

キモオタ「おンやぁ~? その目は、コイツどうせ否定しかできないで碌に代案出せねぇ無能乙、と語っておられて?」

男「悪かった。生まれつき人を小馬鹿にした目付きでなっ!!」

男「……なぁ、俺は最初からキモオタにそこまで求めちゃいないよ。それに考え出せなくて当然だし」

男(目的は伝えたとして俺はまだ彼へ、具体的に委員長をどう助けてやりたいのか、その実体を聞かせていないのである)

男(けして抜けていたわけではない。そもそも深い説明が不必要なのだ、この先 キモオタを巻き込む意味がない。あえて言えば、使い道がない)

男(本人が無理だと思っている以上に、生易しいやり方で色恋沙汰へ発展させるのが厳しいと思えた。一週間じゃあ足らないだろう、どうしても時間が要る)

キモオタ「どうしてだぁ!? 流れのまま僕を協力者にしとけや、男!!」ガッ

男「ぐう゛ぇっ!? い、一々熱くなるなよ! わかったから、うん、わかった! ねっ!?」

男(キモオタは胸倉から手を除けたが、興奮が収まらない様子だった。義理堅いのか意地のせいか、はたまた遊びに混ぜて欲しがる子供の駄々コネ、か……)

キモオタ「フン、僕が君からしたら部外者だってのは理解してるつもりさ……だけどよぅ?」

キモオタ「このまま話から消えたら男に利用されただけのアホじゃあねぇかッ!! おォん!?」

男(メタってる。若干メタってるよお)

キモオタ「僕はね、君らが想像してる以上に被害妄想の塊さ! このまま放置してみろ! 死ぬぞッ!!」

男「し、死なれちゃ困るかな……」

男(如何せん彼を仲間へ取り込まなければならないのだろう。適当な扱いじゃ何処かでまた面倒が起きること必至よ)

キモオタ「男隊長、良いだろう? 僕のプライドを守る為と思えば安いもんさぁ」

男(デカ尻野郎、急に被害者立場利用してきやがったぞ。ここでも自分の策に溺れさせられるわけか、俺のおバカ)

キモオタ「いいかい? けしてデメリットじゃあないんだ。メリットになり得る」

キモオタ「まずは君に心から信用できる親友ができた……うふふ、おめでとう」

男(もはや『お前には関係ない』と彼を突っ撥ねる選択肢すら残されなかった。歓迎、ただ その一つしかない)

男「親友は置いておくとして、本気なのか?」

男「委員長へ何をしたか知ってるだろ。俺と一緒にいれば、余計なとばっちり受けても文句言えんぞ」

キモオタ「なぁに、元々僕はマイナスみたいな存在じゃないか。それにもう一人じゃないぜ?」

男「おい、俺との痛み分けなんて期待するなよ (手を組む二人の間に芽生える友情、とかおふざけは止めておこう。良い考えがある)」

男(いくら協力者といえど、委員長の死を回避させたい、などと話せば馬鹿げていると思ってくれはしないか? コンビ解散だな)

男「俺、未来からきたって言ったら笑う?」

キモオタ「ドンと聞かせてちょーだい」

男「……な、何だその食いつきっぷりは」

キモオタ「信じて聞いてやろうって友人に対してなんつー態度だい」

男(いや、いざとなったら話すのが恥ずかしくなってきたぞ。事実だろうが『モテる代わりに難聴で鈍感』な世界で美少女にチヤホヤワッショイなんて)

男「……お前を心の友と見込んで頼みがある。深くは追求しないでくれないか?」

キモオタ「何っ?」

男「俺が未来からきたという前提で聞くんだ。いいか? 委員長はこのままだと近い内に」

男「死ぬ!! ……原因はわからないし、死因も謎だ……」

キモオタ「ほーん?」ホジホジ

男「俺は彼女の死を回避させるために、今 この過去の世界の自分の意識を奪っている。未来を変えるために」

キモオタ「そいつぁどうしてだい? 君が彼女を助ける意味があるのか?」

キモオタ「ま、まさか未来では男と委員長さんが恋人同士にぃい~~~!!?///」

男「そうじゃない。頼まれたんだ、私を助けてくれと!」

キモオタ「な、なるほど。助けるのに理由が要るかい? という正義理論に従って君は」

キモオタ「なーんて! 実は男、その時の委員長さんに惚れたんじゃあないのぉ?」

男(確かに。我が行動原理はすべて下半身と直結している。キモオタの言う事にも一理あるかもしれない)

男(元々委員長へ惚れていたからこそ今に至った。そう考えていた時が俺にもありました)

男(が、現実へ戻って来てハッキリした。あの子は俺の好みではない……というのも、目が肥えた俺からしたらである)

男(深層では委員長を気にしていたのかもしれない。未来より介入される以前の男というブサ男が、委員長へ触れた時に……思い出せない。だが、あながち間違いじゃないだろう)

男(委員長が俺が生み出した俺がいる理想世界へ入って来たのは偶然なんかじゃない。神は言っていたぞ、彼女が望んでいた事だったと)

男「(それを知るのはもう無理かもしれないがな) とにかく俺は目的を果たしたいんだ。どんな事をしてでも!」

キモオタ「あぁ、どことなく君が捨て身気味だったのにはそういった理由が噛んでるのかもしれないなー」

キモオタ「でも、過去でしでかした事ってそのまま未来に影響するもんじゃね? 元の自分にさ、響かないの?」

男「そこは心配要らん所でな、俺は特異点とか呼ばれてて過去改変の影響受けないんだ」

キモオタ「なんかその設定どっかで見たんだけど……」

男「だぁあー!! ぶっちゃけ過去とか未来とかどうでもいいんだよ! 話逸れるわっ!」

男(然り、この俺に本格SF それも 昨今流行りのタイムリープとかその要素を求めるな。美少女ハーレム目指してたらいつのまにか、だぞ)

男「よし、信じられないならそれで構わない。無理して付き合う必要もなくなったな、キモオタ! あばよっ」

キモオタ「信じられないなんて僕がいつ言ったんだね!」

男「えっ」

キモオタ「むしろ 最近の男の急激な変化の謎に意味ができたんだ。その可能性に、僕は納得したぞ?」

男(キモオタは男くん信者なのか? 俺が右を向けと命令すれば右を向くのか?)

キモオタ「あは、どうしたの 男? 逆にそんな疑った目しちゃってさ……」

男(ち、違う……コイツは始めから俺が荒唐無稽な話で、自分を追い返すつもりだと決め込んでいた。奴の顔が語っているのだ)

男(何がなんでも俺へ付き合って活躍を見せつける。そんな歪んだ信念が、どんな非現実をも許容しているのだろう)

男「(つまり、今のキモオタへ何を言おうが、無駄) おい……手伝ってもらうことは無いって俺が言ったら、どうする?」

キモオタ「それはこれから行う君の頭の中にあるプランを聞かせてもらってから、考えるかにゃあ~?」

キモオタ「ま・さ・か、何も考えてない、なんて話すと思わないけど……どうっすか? ん?」

男「(この俺を煽るとはいい度胸だ。よかろう、乗ってやろうか) ストックホルム症候群って聞いたことあるよな、たぶん」

キモオタ「あの、誘拐された被害者が犯罪者に対して好意持っちまう勘違いのことでしょう? どうした?」

男「アレを再現できないもんかと思っててね。勿論、対象は委員長にして」

キモオタ「よう、さすがにぶっ飛びすぎじゃあないかッ!?」

男「待てって、お前が想像してるよかきっと優しくて平和的だ」

男「何度も話したと思うが、残された時間が少ない。強引にでも気を引かす必要があるんだよ」

キモオタ「ご、強引ってあんた……ちょっと強引だお……」

男「さっき言ったじゃないか。どんな事をしてでも目的は果たすって」

ここまで

キモオタ「……拉致監禁までしちゃうのかぁ…………」

男(ドン引きされるのに慣れていない事もないが、明らかに「ヤベェ」と顔に出されるとキモオタ相手でも尻込みしそうになるものだ)

男「あぁー、例えがそもそも悪かった! 不良をイメージしてみてくれ。怖い人でもいい」

キモオタ「こ、怖い人かい? うーん……」

男「そうだ。そいつは普段から素行も悪くて印象サイアク。できれば関わりを持ちたくない、みたいな」

男「しかし、ある雨の日だった……お前は偶然そいつがずぶ濡れで凍えてた猫を助けていた場面を目撃するんだ」

キモオタ「まさか男は、不良とかがたま~に良い事すると物凄い好感度UPの話をしたいのかぁ? アレを?」

男「でも、こっちの方が伝わり易いだろう? 詰まる所は印象操作ってわけかもしれんな」

キモオタ「えぇ……最初からフツーに良い人目指せよ……」

男(ごもっとも、理想だ。それでも既に事は取り返しのつかない状況である。俺は昨日で委員長から変態呼ばわれだ)

男(悲しきかな 俺は何処にいようが変態を背負っていく生物。向こうではまだしも、現実じゃあコメディ要素にもなれない忌むべき称号だ)

男「委員長の立場になって考えたんだ。そもそも俺が彼女といきなり馴れ馴れしく接近したこと自体が、不自然だったのかもなと」

男「意味不明だろ? 昨日まで関わりもない陰キャラ男子がだぜ? 裏があると思われるよな」

キモオタ「そうですなぁ。でも実際はどうだったのさ?」

男「最初こそ不信気味だったんだが、話すたびに表情が柔らかくなってた、のかもなぁ……」

男「単なる社交辞令かもしれんが、俺と喋れて楽しいとまで言ってくれた。悲劇さえなければ良い感じになれてたかと」

キモオタ「貴様はのろけてんのかゴラァ?」

男「そ、そうじゃなくて! 何となく……誤解が生まれる直前までは、信用も生まれかけてたんだよな」

キモオタ「結局委員長さんの立場うんぬんの考えはどうしたァ!?」

男「不十分だったんだ」  キモオタ「はて?」

男「これから委員長の抱える問題へ突っ込む際に、どうしても裏で立ち回るだけじゃ解決できないことも多い筈なんだよ」

男「つまり、表立って彼女の前に現れて直接やる必要もでてきちゃうわけさ。すると、そこで親切にされる理由が欲しくはならないか? 委員長的に」

キモオタ「そんなの適当でいいんだしょ? だって問題解決してあの子が死ななければミッションクリアだ」

キモオタ「要は近い内に死ななければ良しだもの。男がどう思われようと結果オーライ、じゃないかにゃ?」

男「だな……」

キモオタ「素直に白状しちゃえYO、ユー! ほんとは眼鏡女子に惚れられたいんだってなっ!」

男(こういう時、俺の思考は合理性がどうしても欠ける。最終的に自分の好感度稼ぎに暴走する傾向があるのだろう、ハーレム遂行の弊害か)

男「(……いいや、認めない。間違ってなんかいない) 委員長は、どうしてあそこまで本の虫なんだと思う?」

キモオタ「よほど本が好きか、他にすることがない! FAッ!」

男「本人の口から訊くに後者が近い。でも俺の主観で見れば、ありゃ依存だ。精神安定剤みたいなもんだと勝手に思ってる」

キモオタ「スゲーや、よくそこまで言い切れるなぁ! 軽く侮辱だよ今のって!」

男「でも、事実かもしれない。間違いなくアイツは俺たち以上に人に飢えてる」

男(飢えていたからこそ、俺という人間さえも一時受け入れられたと思うのだ。それに恋愛を諦めた風に振舞っておいて)

男(容易く釣り針に食いついたのは? 気がある者がいると聞いて浮かれたのは?)

男「クラスに好きな奴がいる感じもあったからな。出来る限り、ていうか本当は親しい人が欲しいんだよ」

キモオタ「い、言い切るじゃない……だけど所詮決めつけなんでしょう? 委員長さん可哀想に。オキノドクだい」

男(決めつけなものかよ、なぁ? 委員長が望んだ世界は何だったと思っているんだ。『自分が人気者になる世界』だぞ)

男(人から祭り上げられ、頼られ、皆が憧れる最かわアイドルを夢見たのだ。……これが、委員長の立場に立つ俺の推測、『飢え』だ)

男「勝手な想像だろうとどうでもいい。委員長の欲を少しでも満たせてやれたら、少なくとも自殺とか考えない筈だ」

キモオタ「自殺ゥ! ……あ、いえ、別にバカにしたわけじゃないんだよ?」

男「続けるぞ。たとえ抱えた面倒事を解決しても、それ自体に依存している可能性があると思うわけだ。俺は」

キモオタ「何それ頭おかしいのかい。その面倒事はわからな――――なにこれっ」

男(顔の前へ突き付けた携帯電話の液晶を覗き、素っ頓狂な声をあげるキモオタ。不本意ではあったが、例の闇を見せたのだ)

男「……ぜ、絶対に誰にも言い触らすなよ。まだ確証持ったわけじゃないが、彼女かもしれない!」

キモオタ「あ、あ……アホかっちゅーねん……そんなバキャな……」

男「正直俺も目を疑ったし、ありえないとばかり……だけど証拠の一つなんだよな、コレでも」

男「委員長の抱える面倒の。彼女はたぶん、現実から目を背けたがってるんだ。どうにもならない現状にもな」

キモオタ「鞭……ボンテージ……の……クイーン……クイーン委員長」ブツブツ

男「本の世界へ逃げるのもわからなくもないと思えないか? 強引に関連付けちまったが」

キモオタ「だ、だけどこんな事に依存って考えは変じゃあないかッ!? いくら何でもそれは」

男「あくまで仮定の話でだとしてくれ。おそらくコレって一度や二度じゃないと思うんだ、強制されつつ、自分の意思でやってるかもわからんが」

男「鬱憤晴らしとかには絶好じゃないか?」

キモオタ「えっ……」

男「委員長は自分を求められるのを好む傾向がある。見方を変えれば、こんな事でも求められているのと同じだろう。相手はオヤジだが」

キモオタ「そ、そっちかい! 僕ァ てっきり暴力的な意味でかと」

男「ないとも言えないよな、絶対じゃないんだしさ」

キモオタ「……うわぁ、うわぁあああぁぁぁ…………!」

男「キモオタ、ここまで全部俺の勝手な妄想が作った予想だ。百%の自信もない。だけれど」

男「俺はそんな事を前提に、問題解決後の彼女へのアフターケアへも重点を置いて動こうと思う。で、以上。気は変わった?」

キモオタ「……や、やるよぉ! ここまで聞かされて何もしないのは男が廃るぜ、オイ! 畜生ッ!」

男(肉を弾ませ激しく鼓舞するキモオタ。彼には申し訳ない気持ちもあるが、着いてくる以上巻き込むしかなくなった)

男(さて終えてもないのにアフターケアだ。現在、委員長からの俺への好感度はマイナスを切っている。おまけに先輩も、かもしれない。絶望で砂を吐きそうである)

男(しかしいつだって新たな希望を掴むのは、絶望のどん底に落ちてから。俺は地獄から這い上がるのみよ)

男(むしろ、この“マイナス”は、俺の考える後のイベントに利用できる。その為の……布石だ)

先生「あんたたちって……どうして私の見てないところで余計な事するのっ?」

先生「補導されてわざわざ学校に連絡がきたわ!! 誰とは言わないけど、誰とは!!」

男(一瞬冷やっとしたが別の件だったか。どうやら昨夜クラスの誰かが先生へ迷惑を掛けたらしい)

男(……委員長の姿は、一応ある。この席からじゃ大した様子は窺えんがどう考えても最高とは考えられないだろう)

男(キモオタまで先程見せたモノの影響でか、チラチラと何ともいえぬ目付きで彼女を観察中だった。そして)

男(俺の背へ刺さるいくつもの尖った視線である。言わずもがな、心当たりは)

「寝太郎、お前相当ヤバいよな。女子から総スカン食らってんぞ?」

男「それっていつもと変わりないじゃねーか! あはははっ、は、は……」

「なぁ、そいつ構ってると俺らもとばっちり受けんぞー」  「別にぃ、いまの別れの挨拶だし」

「よくわかんねぇけど、調子乗るのはこの辺で止めといた方がいいよ? 俺、そこまでお前嫌いじゃないから」ヒソヒソ

男(何と、意外と根は良い奴が。あっ、これ不良とかがたまに良い事すると物凄い好感度UPするやつだ)

ここまで

男(世界も境遇も変わるが、午前の温かな日差しの中まどろむ気持ち良さは共通だ。頭脳労働あとの骨休めは重要でしょう)

男(遅れたが『寝太郎』。コイツは、俺がクラスメイトたちに名付けられたギリギリ不名誉に触れる異名である。特に迷惑していない)

男(いつも寝ているから、昼食と教室移動に時々授業時間内以外は常に机に突っ伏しているからの寝太郎。クソみたいに安直だ)

男「(そんな生温かい称号も、今日塗り替えられてしまった) あぶねっ!?」

「おう ボーっと突っ立ってんな! パルプンテくん!」

「何だそれ」  「何しでかすかわかんないからなんだって」

男「(くん付けにディスられポイントを感じる) 先生、体調悪いんで見学いいですかね」

男(虎視眈眈とバスケットボールをぶつけて遊ぼうとするいつかの仮友人たち。そして向こうのコートでは冷めた目を向け、陰口を叩く女子たち)

男「こうなる事をずっと避けたかったんだろうか、俺って (現実から目を背けて耳を塞ぎ、無関心を装った過去の自分はもう帰ってこないのだろう。いまの俺の存在って、過去の否定である)」

男「もう早くあっちに帰りたいんだよな……ん?」

不良女「オッスー! なぁに暗い顔して、あっ、いつもそんな感じ?」

男(生徒数の問題で体育が別クラスと合同になるのも珍しい話でもないだろう? だからといって、女子が気安くこちらのコートを跨ぐのはないが)

不良女「……ンだよリアクション無しとか。タルいならあたしと抜けっか」

男「あんた、善良な男子生徒を堕落に落とすのが楽しいか?」

不良女「あー、自分で善良とか言っちゃうんだ! なぁ、お前の面白い噂聞いたんだけど~!」

男(校内狭し、目撃者の数も相当だったのか? まさかこのアバズレの耳にまで届いていたとは)

不良女「昨日勝手に帰ったのと今日のヤツって関係あんのか?」

男「……」

不良女「そうめげるなってー。アレぐらいよくある事の一つじゃね? そんなあの子好きだった?」

男「ここだと、他の生徒の目があってやり辛いな……ダルいな。授業フケようぜ、姐さん」

不良女「は? お前の方こそマジやり辛いんだよ。時間無駄にさせんじゃねーよタコ」

男(正直、教師の目を盗んで体育館から脱走は刺激的だったかもしれん。スリルを追う趣味は全くないがな)

男(「特別にベストプレイスへご案内」と不良女が先導し、離れのトイレの裏へ。ご丁寧に隠した灰皿を二人の間に置くとサッと)

不良女「一服な。こんなんでお金取らないからサぁ」

男「し、宗教の関係上パスさせていただきます……」

不良女「ふーん? ん……ハ~、でサ どうして昨日逃げたし?」

男「ウチは門限がかなり厳しいんだ。俺って箱入り息子なんだよ、煙い」

不良女「調子乗んじゃねぇよ」  男「仰る通りですっ!!」

男「逃げた、のは否定するつもりはない。それで迷惑掛けたなら謝る」

男「だけど聞かせてくれないか? 委員長は脅されてるだけなんだよな?」

不良女「ウブだねぇ、あたしらが無理矢理やらせてるとか思い込みたいんだ? ま、あたしは直接関係してねーけど……フー」

男「えっ、何だって?」

不良女「あ? そのまんまの意味でしょ。ていうか、今どうでもよくね。そこじゃねーだろ?」

男「……いや、結構俺にとって重要だったよ。ありがとう」

男「それじゃあ委員長は不良女さんの仲間に何かされているわけだ。君はほとんど関与していない。だな?」

不良女「ん。アレってさ、ようはオヤジ狩りの一種なワケ。あたしは真面目に働いて稼いでるからなぁ」

男「(嘘扱けこのアマ公が) つまり、事の最中にお仲間が部屋に押し入ってターゲットから金を脅し取ってるわけか」

不良女「あそこの店の人らウチらと顔効いてるんだよね、よくその辺りの話知らないけど」

不良女「だからグルになってんのヨ。そんな危ない事して今まで何もねーって奇跡! アハハ!」

男「……それなら、どうして君は加担しようとしない?」

不良女「はぁ? いつか痛い目見んのわかってるから」

男(途端にこの女がわからなくなってしまった。いや、面白い、と思えたのだろうか)

不良女「ビビってるとかじゃないよ? 言ったよな、あたし鬼じゃないし」

不良女「ぶっちゃけあんたにタカろうとした時だって、大金ぶん取る気なかったよ。まぁ、その気にさせたからもう遅いけどな?」

男(鬼の境が俺には判別つかないようだ、不良女よ)

不良女「つーか可哀想じゃね? あの子もオヤジらもさ、色々握られてずっとタカられてんの」

男「まともな感性してたら、まぁ……じゃあ不良女さんは気に食わないわけだ?」

不良女「何?」  男「だってそうじゃないか」

男「いくらツレのやってる事とはいえ、見てて面白くもない。おまけに自分には益がないんだ」

男「不良女さん、お世辞じゃなく君は賢い。下手すりゃ付き合い悪いと言われる場合もあるだろうに」

不良女「お前はさっきから何が言いてーの?」

男「実は最近焦りを感じ始めちゃいなかったか (ここで、煽れ)」

不良女「……何に?」

男「俺へカツアゲしようと企んだのは偶然なんかじゃない。焦ってたんだろ、みんなに置いてかれ気味になっててな」

不良女「あぁ!? 意味わかんねぇんだよボケ!!」

男「友達が豪遊し続けてたのに着いて行けなくなったからじゃないか? 金に困ったのは」

男(鎌をかけてみた。何故あの時彼女は単独で俺の元へ来たのか、何の目的があって金の入手を急いだか)

男(コイツにはまだ理性がある。ならば、行動に理由が着いて回っていい)

不良女「ったく……金かねってサ、ウゼーよマジで。わからなくもないけど!」

男(これで遥かに掌握し易くなった。ヒットである)

不良女「必至扱いて着いて行こうとするあたしにも嫌気差してくんだよ!」

男「ああ、その気持ちはよくわかる、不良女さん。俺と君とじゃ異なるかもしれないが」

男「大体、汗水垂らして努力する君を差し置いて甘い汁を啜ってる奴らの方がおかしいんだ。それも人をコケにして!」

不良女「何だよ……お前結構話わかんじゃん……」

男「俺で良ければ色々愚痴ってみてくれよ、へへへっ」

男(うん、チョロい!)

不良女「ぶっちゃけ今の関係続けてんのがバカらしくなってきたっつーか、アホなんだよなクソッ」

男「そんな事はないだろう? 不良女さんは頑張った。でも、奴らはその気持ちも努力も知らないでいたんだな」

不良女「アイツら絶対裏であたしの事なんか言ってやがる……こっちが見るとヘラヘラしやがって」

男「清算したいと思わないか? 恥知らずどもに」

不良女「フン……お前の方こそどうなんだよ、好きな女使われて。つっても 女の方にも問題あるんだけどなぁ」

男「……よし、彼女の抱える何かは聞かないでおくままにしよう。だけど不良女さん」

男「俺に協力してくれないか? 勿論、情報提供という形に乗っ取って」

不良女「はぁ?」

男「不良女さんは俺に教えてくれるだけでいいんだ。でも、これは俺の欲望を叶える為でもあるというか何と言うか」

不良女「一人でブツブツやってんじゃねーよ、気持ち悪ィな! で何っ?」

男「待って! 言い出す勇気が……あのな」

男「俺、本気であの子が大好きなんだよ。バカにされたって構いやしない」

男(なんて、真剣な眼差しに雰囲気もプラスさせれば、腐っても女子である。茶化すことなく不良女は耳を傾けていた)

男「そりゃ昨日はショックで思わず逃げちまったが……それで今日はあんな事をして、傷つけたけど」

不良女「あっ、そういや結局今日のは何だったのサ?」

男「汚いと思われるだろうが、俺はキモオタを利用して彼女に近づいたんだ。口実を得たいが為に、卑怯、だよな……っ」

不良女「そうか……変なこと口走ったのは気が動転しちまってたわけかぁ。うん」

男「もう俺は学校であの子と顔を合わせる事もできない! 会えないんだ! だけどチャンスが欲しいっ!!」

男「……せ、せめて一度切りだって良いんだ。俺をあの子と引き会わせてくれないか?」

不良女「いや、それ情報提供関係ねーじゃん」

男「(急に真顔になるの止めてくれないかしら) ここからが本題だよ、不良女さ――――」

先生「誰かそこにいるの!? いるんでしょうッ!?」

男・不良女「!!」

ここまで

男(不意打ち気味に発せられた先生の声は遠からず近からず、紫煙が漏れたか臭いで気づかれたか、どうでもいい)

不良女「オイ、さっさとずらかるぞ!」

男「ブフォッ!! ず、ずらかるっ……!」

不良女「一々ウゼぇんだよテメェ!!///」

男(俺は尻を蹴飛ばされ、窓からトイレの中へ逃げ込むよう急かされる。だがコレ、運が悪ければ袋小路に自ら飛び込む痴態になりうるぞ)

不良女「早くしろボケ! どっちみち逃げ場なんてそこしかない!」

男「欠陥ベストプレイスに案内ありがとよっ! 他に考えは!?」

不良女「ダッシュで先公の脇通り抜けりゃいいんじゃねーの! あぁ!?」

男(……結局否が応でも中へ身を隠す羽目になる。理不尽だろうが、こんなことって)

男(俺と不良女は同じ個室の中へ入り、先生が通り過ぎることを心から祈っていたと思う。不良なんだから堂々、とは先程彼女を知ってからじゃあ口にできないな)

不良女「いいか……もしアイツが声掛けてきても絶対お前は声出すなよ」

男「そいつはどうして?」

不良女「気づいてなかったんだ? ここ一応女子便だよ。良かったな、こんな形でも夢叶ってサ」

男「生憎そんな変態願望持ち合わせてないんでねぇ……そろそろ行っ」

先生『臭い! あー臭い! 煙草の臭いがプンプン充満して、ああっ! 灰皿だわ!』

不良女「あちゃあ……しくったわ」

男「(じゃねーよ。が、攻めた所で状況は改善されない。止めなかった俺も同犯者なのだ) 今回を機に反省して止めるって手もあると思うな」

不良女「関係ないでしょ……ま、相手は探偵とかじゃあるまいし、どうにかなる」

男(その楽観は見習いたくもあるが、俺も似たり寄ったり感がある。さて、見つかれば停学の可能性があり得るだろう)

男(基本行動を行うのに学校へ来れなくどころか、親から外出を制限されてはあとが厳しい。慎重にやり過ごす以外ないときたもんだ)

先生『まだ火が消えて間もないのかしら。だったら絶対近くにいるわ、隠れているかも……』

不良女「ヤバいわ、先公中入ってくんぞ? マジで音出すなよ」

男「おい、すぐにドア開けろっ……」

不良女「はぁ? 開けてたらウチら即効見つかっちまうだろ……!」

男「逆だろ! この場面で個室が一つ閉まってれば確実に怪しまれる!」

不良女「じゃあどうしろってんだよ!? 中を覗きにこないとは思えねーぞっ!」

男「若干……開いた戸の裏にスペースができる。小さくなれば一人ならギリギリ身を隠せるな」

男「俺が今のうちに隣の個室に移動するから、あんたはここにい、ぃっつ!?」

不良女「…………遅ェよ、入ってくる。詰めてあと黙れ」ギュウ

男「む、ムフウゥ……っ!」

男(コツ、コツ、とヒールの音が中へ入って来ると同時に心音は高鳴る。だが、それだけが原因なのか? 否だろう)

男(密着。曲がりなりにも女子との肉体密着。香水はキツいわ、殺されそうだわ、髪は染まってるわだの要素など放り投げて、正しく女子だ)

不良女「っぎ! ……っ~~~!」

男(落ち着け、美少女以外に俺は動じない。どこかに手が触れた気もしたが、明らかにそれで睨まれたが、このアマに色を見出すな。俺は)

男(俺は いま コケシを抱いているに過ぎない)

先生「……汚いお便所だわねぇ。掃除なんて行きとどいてないんじゃないの? フンッ」

先生「先生わかってるのよ? ここに隠れてるんでしょう? 諦めて出て来なさい」

不良女「冗談じゃ、ねーよ……」ヒソ

男(汗が床へ垂れ落ちることすら恐怖と化した今では、スタープラチナでどう心臓を止めるかも俺は念頭に置き始めてしまった)

男(しかし、抑える部分はそこではない。人の生理現象というものは、意思は関係ないものだ。……やめてくれ、コケシに欲情するなよ)

男(そうだ。血液を凍らせてしまえば下品な愚息も、バカか、何を考えている。だけれど意識が下に、下にいってしまう悲しさである)

先生「私が見逃すと思ってるんでしょ! 甘いのよ、そういう舐めた考えって!」

先生「これから探しますからね!! 他の先生にも連絡したから、すぐに人が増えるわよっ!!」

男(ドキン、と俺の胸板辺りで何かが跳ねた。不良女が先生の言葉に動揺しているのか。そしてわかるぐらい密着しているのか、俺たちは)

男「落ち着いてくれ。ただのブラフだよ……」

不良女「え?」

男(その確証はない。それでも我の通った彼女は俺の言葉を疑わずに受け入れて、緊張を軽減させていた。ええ、胸で感じ取れます)

男(例え増援がきたところで、俺たちがする事は変わらない。先生よ 諦めてくれないか? 更年期ババアは言い過ぎたよな、もう言わないから)

先生「早く出て来なさいって言ってるでしょ!? ……フンッ」

不良女「……アイツ、徹底的に探す気はねーのか? さっきからずっと」

男(不良女も気が付いたようだ。先生はあくまで言葉で俺たちを炙り出そうとしているのである)

男(ドアを開けたのが功を奏した。入口から確認すれば全ての個室が空いて見えるのだ、チェックも甘くなったのだろう)

男「この調子で大人しくしていれば、向こうの意識も外にいく……と良いけどな」

不良女「な、何が言いたいんだよ?」

男「言っただろ。このスペースに隠れられるのは一人が限界だ」

男「いくら俺たちが密着して無理に隠れたって……正面から見られたら、不自然だと思うな」

不良女「!!」

男(通常空いた個室のドアは壁辺りまで開いている筈だ。だのに、俺たちの入っている位置の物だけ極端な半開き状態。戸の角度は斜めよりも垂直気味に)

男(トイレは隠れ場所ではない、あくまで用を足す場所。それを思い知らされるのがこのタイミングって残酷ではないか?)

不良女「マジでこっちくんなよ……頼むからな……」

男(願わくばそうであれと、心で不良女へ同意する。早くこの状態から解放されたい。もはやその一心である)

男(が、願い打ち砕くのがゲンジツ)

先生「……おかしいわねぇ、絶対トイレに入ったと思ってたんだけど」

男(台詞だけ抜き取れば諦めがついて回れ右を思い浮かべるだろう。違った、引くどころか先生は足を前へ、前へ、動かし始めるのだった)

先生「ん、ちょっと待って!! ……いま微かに音がしたわ」

男・不良女「うっ!?」

男(もはや不良女は強く抱きしめる形で俺を縛りつけ、俺も下に構っている余裕は消え、ただ神に祈った。この際死神でもOKである)

男(先生はいやらしくゆっくりと歩を進めつつ、個室を覗くのだろうな。俺たちが隠れたのは順で三番目、ようは一番奥のトイレだ)

男(ならば、ここに何もなかったと先生が確認したその時で状況は決着する。何もない、そう思わせる方法は?)

不良女「や、やべーな……さすがにこれは見つかるよ……」

男(ドアの位置を改めて見直したのだろうか呆れた笑いを含めて不良女は呟いた。そう、見つかってしまう。これで何もないと思わせるのは無理がある)

男(だから、いた、事にしようと俺は数秒前に思っていた)

『 ジ リ リ リ リ リ リ リ リ リ リ リ リ ッ 』

先生・不良女「ひっ!?」

先生「ちょ、何の音よこれ!! ……携帯電話? こんなところに」

不良女「……?」

男(目と鼻の先から疑問の眼差しは向けられている。俺は、それへ無言で頷いてやったのだ)

先生「さっきまでここに隠れてた誰かが落したのね? だったら、いなくなった後か……フンッ」

先生「まったくふざけてる!! あとで落とし主がのこのこ現れたらお笑い草だわ!!」

男(そう言い残した先生はすぐ隣の個室から出て行き、トイレから去って行った。数分経ってから俺たちが揃ってため息をついたのは言うまでもあるまい)

男「俺たちもすぐにここから出よう。犯人は現場に戻るとか考えて、引き返してきたら困るぞ!」

不良女「オイ……さっきあたしの股のとこでモゾモゾさせてたのって、テメーの携帯弄ってたのか」

男「へ、変なこと言うなよ。わざとじゃないからな!?」

男「イチかバチか、意識を外へ逸らすならこうするべきだと思ったんだ。いた事に思わせたら良いって」

男(先生が都合良く入口で確認して終わるとは思えなかった。その為、最初からトイレの他へ気を逸らしたいと俺はあの時考えたのである)

男(いざアラームを設定した携帯電話を隣の個室へ滑らせ、音が立った時のあの緊張感。二度と味わいたくないものだ)

不良女「だけど失敗してたらどうしてたんだよ? 何か他にあったってか?」

男「いや……ただ、あの人って思い込みが激しくてな。偶然トイレに入った生徒の落し物とは考えないと思ってた」

不良女「ふーん……けどサ、お前の携帯はどうすんだよ。取り行くの? 女子便に落したんだぞ、お前」

男(今更担任にどう思われようが、痛くもない立場でさ)

男(とは心の中で格好つけてみたものの、放課後、職員室を前にすれば足は自然と竦むのである)

男「失礼します。携帯電話の落し物が届いていたりしていませんかね?」

「携帯? あぁ……それなら直接先生のところに行きなさい。拾っていたみたいだよ」

男(帰りのHR時ですら不機嫌であった更年期おばさんは、俺が近づきワケを話す事でより眉を八の字にさせるのであった)

先生「コレ、あなたのなのね? 私がどこで拾ったかわかる? ん?」

男「いえ……気づいた時にはポケットの中にはなくって、何処かで落したのかなぁ~と」

先生「ちょっと鞄の中見せなさい。ジャケットも脱いで! ポケットの中身も見せなさい!」

男「あああ、あの!? い、一体何なんですか急にぃー!!」

先生「恍けたって無駄だからねっ! あんた、授業中に煙草吸ってたんでしょ!」

男「お、俺が!? 吸ってません! ほら、そんな物持ってないでしょう!?」

先生「じゃあ何処かに隠したに違いないわ!! 教えなさい、親御さんにもこの事を伝えますから!!」

男「証拠もないのにどうして俺の話を信じてくれないんですか!? おかしいだろっ」

先生「黙りなさい!! それじゃああんたは女子トイレに入って、コレを落したっていうの!?」

男(予定通り……変態で罪を塗り変えれば、少なくとも停学と行動制限はない。心証を悪くする程度で)

不良女「あー、その携帯あたしが拾ったやつじゃーん」

男(唖然とした。唐突にこの場へ不良女が介入。して俺の携帯電話をひょいとつまみ取っての一言。集めたヘイトが一気に)

先生「……何ですって?」

不良女「あたしが校内に落ちてたの拾ったんスよ。あとで届けようと思ってたんだけど、無くなっちゃって」

不良女「そしたら先生が代わりにまた拾ってくれたんスねぇ~。女子便所にあったんしょ?」

先生「男くんはコレを持ってもう行きなさい……先生、こっちに用ができたわ」

男(俺は、追い出された。しばらく職員室前で佇んでいると、中から怒号の合戦が繰り広げられ出す)

男(不良女が罪を被っただと? あの時は平然と知らんぷりでも決め込んでいたじゃないか。こんな事をして彼女の何になる?)

不良女「あん? よぉー、二人でいる所見つかると流石に疑われちまうよ?」

男「そ、そうかもしれない」

不良女「しっかし、あんたも爪甘いわな。体育教師も口止めしとかなきゃすぐ怪しまれるっしょ」

不良女「ま、誘ったのもヤバい目に合わせたのもあたしに責任あるけどサ~! ギャハハッ!」

男「……帳尻合わせのつもりでも、感謝しないからな」

不良女「お陰でついにあたし停学食らっちまったのに? じゃ、まぁ暇潰しついでにヤりますか」

不良女「本題、話しなよ。早速今日やんぞ。文句あるか?」

男「……無し! 最高に、計画通りだよ」

ここまでよ

生徒会長「例の本はまだ返却されてない……?」

委員長「すみません。つい先程貸し出してしまったばかりでして」

生徒会長「そ、そっか、運が悪かったな。こっここ、今度から予約制取り入れてみない?」

委員長「ああ、話合ってみますね。…………まだ、なにか?」

生徒会長「き……今日は、あの二年男子はいないのかな」

委員長「ごめんなさい。どなたのことを指しているのか私には」

生徒会長「いぃぃ、いたじゃん! ほら、昨日私に何度もちょっかい出してきたあの男!」

委員長「……さぁ?」

生徒会長「し、知ってる筈でしょ!? だってあなたと仲良さ気にここで話してたの私見たもん!」

委員長「ごめんなさい。他の皆さんに迷惑ですので図書室では静かにしてくれませんか」

委員長「……それから、あの人は友達でも知り合いでもありません。昨日は気紛れだったんだと思います」

生徒会長「そ、そうだったんだ。わかった、もういいや……はぁ」

委員長(何が間違っていて、何が正しいのか自分の中の指標は狂っていた。これを世間では無知と呼ぶんだろう。俗語なら馬鹿で当て嵌められる)

委員長(私はなんて馬鹿な子だろう。どうしてこうなった? たぶん自分を持っていないからだ)

委員長(自己確立できないから他人に左右され、惨めに下って、誰かへ縋りたくなってしまうのだろう)

委員長(誰か私に本物の私を授けてくれ。皆に認められながらその中心にあれるような、ここにいる私を、見てもらえる素晴らしい自分を)

委員長(人と寄り添いたくて仕方がない。温かみがこの手に欲しい。放って置けばやがて私は凍えてしまうだろう)

委員長「(私は、人恋しい。……おしまい。じゃんじゃん) ふぅー、そろそろ帰る支度しておかないと」パタン

先輩「本、読み終わった?」

委員長「きゃっ!? な、何ですか、いつからそこに!」

先輩「少し前だけど? 図書室にノート借りてた友達がいてね、返しに来たついでに。えへへ」

先輩「えっと、ずーっと心配してた。朝は何ともないって言ってたけど、やっぱりあんな事があった後だったし……わたしお節介?」

委員長(偽善でも心遣いは素直に嬉しい。この人は優しいし、綺麗で好きな方だと思えた)

委員長「ごめんなさい。私なんかに、あなたの余計な気を遣わせてしまったりして……」

先輩「わぁ、あやまるんかーい。……ね、もしまだモヤモヤしてるなら一緒にあの子のとこ行かない?」

委員長「えぇっ?」

先輩「ごめんの一言ぐらい聞かせてもらえたら、少し気分も晴れると思うな。大丈夫! わたしが力尽くでも言わすから、へへっ!」

委員長「い、いいんです もう。二度と関わらないと決めましたから。必要、ありません」

先輩「よし、そっかそっか。じゃ、わたしはもう出しゃばるべきじゃないよね! 強いつよい!」ポンポン

委員長(こんな人みたいになれていたら、生きていて楽しかったんだろうなぁ)

先輩「若いんだから失敗してもまだやり直せるよ~! 若さは人類共通の取り柄だってねぇ」

先輩「もし悩んでることあったら、すぐに友達に相談すると良いよ。わかってもらえなくても気持ちを伝えれば楽になることだってあるし、ねっ!」

委員長(友達なんかいないって答えたらドン引きされるかな)

委員長(だったら……この人なら、私を見てくれるかもしれない。この人だけは私を大切に思って)

サッカー部員「ウーッス、お前こんなとこで何やってんの。本?(笑)」

先輩「あれー? 部活終わるの早かったね」

委員長「あ゛っ」

サッカー部員「帰り一緒漫喫行かね?」  先輩「やだ! すぐ体触ってくるし」

委員長「あ、あのぅ」

サッカー部員「お前が可愛いからだろ? マジで飽きないよー なぁ行くべっ? 行くべっ?」サワワ

先輩「んう、もぉー……!///」

委員長「……リア充ほんと氏ね」

委員長(とは呟いてみたものの、羨ましい限りだ。私だって叶う物なら好きになった男子と人目を憚らず……メールだ)

『本文:七時にいつものトコ集合! 新ガモ調達です~。あくしろよ』

委員長「……わかりました、っと」ポチポチ

委員長(昼は大人しく真面目な図書委員長。はたまたその実態は如何に……どうってことない)

委員長(今この瞬間だけ私を必要としてくれている人たちがいる。必要とされる喜びを、私は誤って知ってしまったのだろう)

委員長(悪い事に手を貸している自覚はあるものの、やめられずにいた)

「ハイ! つーわけで、カモがまた一羽釣れました。昨日今日で連チャン続きです!」

「ウェエエエーーーイッ!!」  「夢みたーい!」

「実はついさっき罠に掛かったばかりの新鮮なカモちゃんです。だぁかぁらぁ、新鮮なウチにぃ? 美味しくぅ?」

「ウェエエエーーーイッ!!」

「餌が良かったんだろうネ。それじゃあいつもの段取りでオナシャース! イクベー!」

委員長(彼らの熱の入り具合とは真逆に私は一人冷めている、と思う。よくもまぁこれだけ危ない真似を続けていられるなって)

委員長(やっているのはただの犯罪だ。私を餌にして相手の大人を恐喝する。潮時を考えず、欲望のままこんな事を繰り返している)

委員長(こんな私でも、女子高生、というブランドのお陰で一定層に需要があるらしい。正直自分でもブスに分別されないと自覚はあったけれど)

委員長(……いつか警察に捕まることがあれば、私は被害者なのかな。稼いだお金の分け前を受け取ってるし、同罪かな)

委員長(綺麗なお金じゃないとしても、貯金を続けていつかあの家を出られるのなら……この仕事は私に必要なんだと、錯覚してしまう)

「ねぇ、委員長ちゃん。ウチらマジで委員長ちゃんに感謝してるよ! あんた最っ高のトモダチ!」

委員長「あ、ありがとう! ……ご、ございます……」

「確かに委員長ちゃんもう俺らのファミリー。今日もハリキッチャッテー」

委員長(必要とされている! 必要とされている!)

委員長(私がいなきゃ、みんなが困るから仕方ないよね! 私にしかできない役目なんだもんね!)

委員長(私は夜が好き! 明るくて汚いものばかり見える昼より真っ暗な夜が好き! 自分が変身できている気がして、高揚しちゃう!)

「あのさ、こないだの彼氏気取りにはこの事バラしてないよね?」

委員長「はい。あんな人、もう知りませんから」

「だよねぇ。だから好きだよ、あんたって」ニコニコ

「ほらほら、先方サンもう先に部屋着いちゃったってよー! こっちも急いで送らねーと」

「じゃ、委員長ちゃんこの部屋まで頼むわ。予定通り三十分後に俺ら突入すっからサ、あとお願い」

委員長「は、はい。……行ってきます」

委員長(完璧に狂ってしまっている。良心、が沸いてくる前に誘惑に負けていた。操り人形だってわかっている筈なのに、変だ)

委員長(変なのに、自分の軌道を修正できない。甘んじて受け入れている。私は私が恐ろしい)

委員長「(……ど、どうしたらいいんだろう? これから) 失礼します。お待たせしてしまってすみま――――」

男「待ってたぞ~」

委員長「はぁ!!?」

ここまでででん

男「ラブホとか勿論初めて入ったが、思ってたよか室内地味だよな」

委員長「なっ、あ、なあっ……!」

男「それから冷蔵庫に入ってた飲み物って有料なのか? 喉が渇いちゃって」

男「とりあえず委員長さんや」

委員長「な、何っ!!」ビクッ

男「いつまでも入口で立ってられても困るってな。中に入ってくれないか?」

委員長「……どうして、あなたが……わかんない」

男「へへ、そっちも緊張してるみたいで安心したよ。俺なんて予定の一時間前に着いちゃったんだぜ」

男(ヘラヘラ軽率な男を演じるのはどうにも癪ではある。それでも相手へ余裕を見せ、手始めのアドバンテージを握るには絶好だろう)

男(ようやく観念したか、委員長は室内に踏み入ると全身を緊張させたまま、こちらと距離を取って佇む。次の言葉を待っているな)

男「まだ始めてくれないの?」

男「ここへ来たって事は自分が今から果たさなきゃいけない“コレカラ”も頭にあるだろ。君は何をしに来た?」

委員長「はぁ……う、うるさい……うるさいな…………」ブツブツ

男(どう刺激しようが、彼女は絶対に逃げ出さない。確信している)

男(そもそも逃げ場を最初から失っているのだ)

男(しかしである。委員長はこの嫌悪感MAXの俺に対してできる行動が一つ残されるわけだ)

男「どうして俺がお客として現れたか知りたそうだな、違うか?」

委員長「信じられない、もう……はぁ……」

男「勝手にベラベラ喋らせてもらうとしようじゃないか」

男「いやぁ、正直マジで委員長だったなんて驚きだった。まさかクラスメイトが裏で風俗紛いなことに手出してたとは!」

委員長「……そっちこそ、何で私がとか思ってるんでしょう? 気になってるんじゃない?」

男「お前は一々今朝食べたパンの加工の経緯とか気にしてるのか?」

男「俺たちが今からやろうとしてる事に相手の理由は要らないだろうが。与えて、与えられる、だ」

委員長「ふふ、男くんってやっぱり頭おかしいよね……信じられないな……」

男(その乾いた笑いが侮蔑を強調させていたと思わせる。人はこれだけ人へ失望できるものなのか)

男「このサービスについては偶然ネットサーフィンしてて見つけたよ。丁度その時飢えてたからな、写真と紹介文でグッと惹かれた」

男「その写真がな、どうにも顔見知りに似てたもんだから俄然興味も沸いてさ。ようやく今日あり付けたワケだ」

男(詳細を話せば不良女のサポートがなければ、こうも順調に運べなかっただろう。ここの部屋代から何まで彼女の伝手で上手く処理できたのである)

男(内密に かつ スピーディに俺は辿り着けた。不良女が一枚噛んでいる事は件の首謀者どもにはバレていないだろう)

男「本当に待ってた、委員長……ククク……」

男「先にシャワー浴びればいい。そういうの必要ないか? 着替えは?」

委員長「ま、待って! ……考え直す気はないのかなっ?」

委員長「こういうの、普通なら良くないことなんだし、男くんが私のことを学校でバラしちゃったりしたら」

男「ああ、そういう脅しもあったな」  委員長「うっ!?」

男「別に。俺は俺が気持ち良くなれたらそれで文句ないし、それ以上は求めないぞ」

男「これまで相手にした奴らだってそういうのばっかりだったろ? だからお前は続けてられるんだ」

委員長「ち、違うもんッ!!」

委員長「私は……そ、そんなんじゃ……た、ただわたしは……」

男「必要とされておまけに小遣い稼ぎにもなるんだよな、こういうの。それが同級生相手だと無理なのか」

男「ひょっとして委員長はオヤジ、いや、年上趣味とかか!?」

委員長「……違うもん」

男「じゃあお前の裏にいる誰かに脅されて、仕方がなくやってると?」

委員長「…………」

男「やれやれ……なぁ、気が進まないならそっちが帰れば良い。まだお金も出してないし、今の内だぞ」

男(そう言われた委員長は、曇った顔をさせたまま鞄を置いて上着を脱ぎ出したのである。俺の読みも、大体的中したか)

委員長「お願い、後ろ向いてて。着替えるから」

男「丁寧口調で冷たくあしらわれるもの悪くなかったけど、素の感じもやっぱり好きだな」

男「遂に俺へ敬語使うのバカらしく思えたのか、委員長」

委員長「……本当に後悔しないって約束できる?」

男「おいおい! さっきから嬉々としてお待ちになってる男くんがわかんないかね、君ィ」

委員長「ねぇ、男くんやめよう……私がしてるコレって実は…………ううん」

男(彼女の中にあった良心という最後の壁が崩壊したのだろう。当然か、今まで俺から味わされた屈辱を考えればな)

男「おーい、まだ着替え終わらないのかよ? 随分長く掛かってるが」

男(堪え切れず頼みを無視して振り向いてやれば、Yシャツの第二ボタンへ手をかけたまま硬直した委員長がそこにいた)

委員長「…………」

男(怒るでもなくただ無言と無表情で自分を見たこの俺を眺めていた。ここで突入前に受け取った不良女アドバイスが、頭の中に)

『いい? アイツら3、40分もすりゃ何が起きててもゼッテー部屋の中に入って来る』

『囲まれたら終わりだって思っときな? あたしは助けねェ。時間の確認と退路の確保は怠んじゃねーぞ』

男(腕時計の長針は……あれからまだ数十分後を指している。だが、油断できないか)

委員長「…………」

男(目には目を、無言には無言を。この牽制合戦に意味などあるのだろうか? 時間を無駄に浪費したくはない)

男「委員長どうした?」

委員長「どうもこうも、ないよね……あはは」

委員長「いいから後ろ向いててよ!! 見ないでッ!!」

男「で、でしたか! はい! (そうだ、その気になればシャワーかトイレを言い訳にどうとでも長引かせられる。彼女は)」

男(彼女はまだ悩んでいる最中なのかもしれない。葛藤してくれている、信じよう)

男(しばらく待てば「もう平気」と一言投げかけられ、改めて委員長を拝見。それはあの時衝撃を受けた姿恰好そのもの)

男「……なぁ、もしかしてその姿 俺に見られるの恥ずかしかった?」

委員長「当たり前でしょ……一応知らない顔じゃなかったんだから……」

男(単に恥じらいとの葛藤だった、のか? え、本当に?)

男「と、とにかくその気になってもらえて何よりだな。早速始めるとしようか」

委員長「希望通りにやってあげるけど、どうされたい」

男「豚のように俺を嬲って貶しては頂けないかね、JKクイーン?」

委員長「変態……ほんとあなた気持ち悪い」

男「今のって素の委員長さんですよねっ?」

委員長「鞭とか……あるけれど」

男「(存じておりますがな) じゃあ尻をシバけよな」

委員長「ぶ、豚が上から目線ってどういう了見っ?」

男「違うッ!! 俺は豚じゃなくて、豚の様にと頼んだ筈だろ! オイ誰が豚だ!?」

委員長「……ぶ、豚さま これから私が鞭を使ってあなたを叩いてよろしかったでしょうか」ビクッ

男「ああ、許可する。やれ」  委員長「えぇ……」

男(困惑しているだろう、委員長よ。表情は確認できないがヒシヒシと伝わってくるぞ)

男(俺はお前の性分性質をここ数日間観察して予測してきたつもりだぞ。委員長、お前は人から必要とされたいと強く思っている)

男(故に、この手のプレイにパートナーではなく、ただ罰のみ頂戴しようとする俺へ対し 本気になれない。萎えていく)

男(おそらく初めてだったのだろうな。これだけ舐めた屑の女王様を務めるのは)

委員長「あ、あの……痛かったら痛いって言ってね? 加減するから」

男「さっきから舐めてんのかお前?」

委員長「だってそっちが意味分かんないだよ!? 男くん本気でどうされたいのっ!?」

男「汚い言葉で俺を罵りながら尻を存分に叩けばいいだろ。バカじゃねーの?」

委員長「はぁ!?」

委員長「ば、バカって、私に向かってバカはないんじゃないかな!?」

男「ブーブーブヒブヒ」

委員長「いきなり誤魔化さないでっ! ねぇ、私どうしたらいいの!?」

男「客にそれを尋ねる時点で女王失格だろ、お前。バカの一つ覚えでどうしたらどうしたらと、もう、ね」

男「ブヒィ~(笑)」

委員長「ぐうっ! あぁ~もう!! 完っ全にそっちが舐めてるでしょっ!?」

男(何だろう、このカオスな空間は。美少女萌え豚相手にキレるボンテージ委員長、この対比よ)

男(ついさっきまであった失望は怒りに押し殺され、委員長は煽る俺へ面白いように食らいつくのである。第一段階成功)

男「ギャーギャー騒いでないで暇そうな手動かせよな、女王様はよ!」

委員長「うるさいっ!! こうすれば満足なんでしょ!!」

男(からの炸裂強烈鞭撃。憎しみすら込められたその一撃が、我が尻を蹂躪した)

男「やればできるじゃねーか!!」

委員長「はぁ、はぁ……ほんっとに、最低な人!」

男「休んでないで早く続けろ! 汚く罵りながらな!」

委員長「ド変態っ!!」スパーンッ

また明日です

男(諸君、餅つきを想像してくれ。俺が仮想餅を捏ね、すかさず委員長が杵よろしく鞭で叩く)

男(さながら掛け声は俺の煽りと委員長の罵声である。何だろうな、連帯感が芽生えそうなこの新感覚)

委員長「この野郎! この、糞野郎がッ!」スパーンッ

男「ひぃ~、女の子がなんて汚い言葉を吐きやがる。それよかお前、客への心遣い忘れてるぞ!」

委員長「うるさい! 私 難しいことなんてもうわかんない! こうすれば満足なんでしょ!!」

委員長「散々人をコケにして、こんな所にまで来てっ……あなた何なの!?」

男(鞭の手は彼女の感情に呼応するよう激化している。内に抑え込んでいた、ストレスが暴走したのだろう)

男「聞きたいか。答えを教えてやろうか?」

委員長「便所に吐き出された痰カス豚煮込みっ!!」スパーンッ

男「いいぜ、その居酒屋のメニューみたいなヤツ……まぁ、良い。そのまま必死にお仕事していな」

委員長「豚! お前は畜生豚だ! 最低、最低、最低! 最低だよぉ!!」

男(いやはや、俺は甘かった。もし委員長とあのまま良好な仲を築いていたとして、それは彼女の根元の解決には発展できなかったろう)

男(彼女が抱えている闇は大きい。優しく手を差し伸べたところで、結果はたかが知れたこと。ならば、どうせ闇へ踏み込むのだ)

男(徹底的に踏み躙る真似から始めればいい。これが俺のやり方だ。やれやれだ。本当に甘かった、危うく美少女たちに笑われていたぞ)

男「その最低な豚野郎からの写真は、まだ君の目から良い物として見てもらえてるか?」

委員長「死ねばいいのに! 死ね、死んでしまえッ!」

男「あの日、君は俺に言ってくれたんだよ。まだ一言一句覚えたままだ。たしか本に例えてな」

男「どんなに品性下劣な人や酷い人が書いていたとしても、作品にまで罪があるわけじゃないって」

委員長「足をもいで豚足に、残った体はチャーシューになればいい!!」

男「男くん自身は好きになれそうにないけれど、撮ったものなら違うと思うって。君は言ったんだよ、委員長」

委員長「くたばれ 早く くたばれッ!! 死んじゃえッ!!」

男「個人的にはあの時が一番委員長らしさを感じられたな。ああ、この子はこういう奴なんだなぁーと」

男「本当は期待してたんだろ? 俺が自分を支えてくれるかもしれないって。味方なんだって。ところで」

男「さっきから口ばっかりで、肝心の手が止まってるぜ。委員長」

委員長「……っはぁ、はぁ……はぁ………………!!」

男(俺は尻目で、滝のような汗を掻き 文字通り振り乱れたあとの委員長を確認した。肩でぜーぜー息をしたまま突っ立ち、手から鞭が滑り落ちたところまでな)

男「どうした? 憎い俺の尻を叩かないのか?」

男「鬱憤晴らしには絶好の機会だろう。なにせ、俺は無抵抗で甘んじて暴力を受け入れているんだから」

委員長「う……うるさい……!」

男「やっと声が届いてくれたみたいだな。まぁ、こうなったのも俺のせいでか」

男(時間が押している。この焦りは伝わっていないだろうか? 時間切れになれば不良女以上の外道が数をなしてやって来るのだ。冷や汗が止まらん)

男(それでも俺は、依然として四つん這いをキープせざるを得ない。ここからが大切である。揺さぶりが効いた、ここからの委員長がな)

男「委員長は、あの写真を社交辞令のつもりで受け取ってくれたのか?」

委員長「……だったら、すぐに処分してるもん」

委員長「持ち帰って部屋に飾った。ウソじゃない。本当に喜んでもらった」

男「じゃあ飾ったそいつを眺めるたびに、今度は俺の顔が浮かんで嫌気が差すかもな」

男「で、否定しないとさっきそっくりそのまま言ってやった台詞がウソになるんだが?」

委員長「……男くん、私 もうやめたいな。疲れちゃったよ」

委員長「だから今日は帰ってもらえる? お金は要らないから、ここから出て行って」

男「ダメだ。最初に話しただろ、嫌なら自分から出て行けってな。忘れたか?」

男「お前がその意思を見せない限り、俺はこのまま次の罰を待ち続けるぞ」

委員長「ははは……勝手にすれば? じゃあ私はそんな男くんを黙って眺めてるから」

男「言っておくが、放置プレイは好みじゃない。もし無駄に時間だけ浪費させる真似に出たら」

男「力尽くでもお前に命令を聞かせてやることにしようかな? 冗談抜きで、さ」

委員長「そ、そんな事したらすぐに警察に助けを――――――っ!!」

委員長「た、助けを……呼ぶから…………悲鳴あげて」

男「首を締めにでも掛かったらどうする? いくらひ弱な俺でも君に負けるとは思えねーなぁ」

男「おい、やる気ないならもう通報したらどうだ? 同級生に脅されてる。助けてって」

委員長「つ、通報は……できないよ……」

男「そりゃあ俺もお前も青少年的によろしくない事に手を出してるわけだしな。だったら内密に進めたらどう?」

男「例えばー……外で待機してるハイエナくんたちに連絡、とか」

委員長「えっ!?」

男(もし後者を取られた場合、苦労が全て水の泡となるであろう。だが、追い打ちにネタ明かしは大きかったようだ)

委員長「さ、最初から知ってたの!? 私が餌で、嵌められてただけだったって!」

男「ブヒ~(苦笑)」

委員長「ねぇ、男くん知っててどうして来ちゃったの!? バカ!?」

男「いやいや、ネットも便利な反面怖いもんですなぁ! 見知らぬ男女が簡単に出会うことができちゃうんだし!」

男「顔も知らない誰かが、どんな人が来るのやらと……まぁ、事前に詳細求めないそっちがバカだな。バーカ」

委員長「な、何を言って!」

男「逆手に取らせてもらった。始めから何が待ち受けているか調べてたぞ、手口から何もかも筒抜けだ」

男「外のメンバーの名前と学校も調べが付いたよ。誰一人学生やってない奴いなくて驚いたわ」

男(予めその手の話は不良女から訊き出したあとである。情報提供に抜かりはない、との本人談である)

男「もう少ししたら奴らがドアを蹴飛ばして入って来るんだろ? お楽しみの中すみません、てな感じかね」

委員長「っー……」

男「委員長、驚かせてばかりじゃ心臓に悪いか? じゃあ一息ぐらい吐かせてやるとしよう」

男「実は退路を用意し損ねた。このままだと詰む」   委員長「はぁ!?」

男(……ウソでした、とは続けまい。ここまでやっておいて最後に抜かっている者がいるか)

男(ギリギリまでは危険に晒されようと、骨まで断たせる気などあるかと。既に伏兵は潜めておいた)

委員長「本気で冗談言ってる場合じゃないんだよ!? あと三分も経てば来るかもしれないのっ!」

委員長「捕まったらどうなるかわかってるなら今すぐ逃げてよ!!」

男「いや、残念ながら無駄だと思うなぁ。委員長は知ってたかわからんが、恐らくさっきのプレイ盗撮されてるだろ」

男「都市伝説的に疑うならこの鏡はマジックミラーで、裏にカメラが……ほらこれ、証拠にならないか?」

男(未だ削除できずにいた例の写真を委員長へ突きつけてみれば、彼女の顔面は一気に蒼白するのだ)

男「この角度はな、いくら奴らが突撃した時に撮影しても絶対に無理だ。しかも二人はカメラにそっぽ向いて楽しんだままってな」

委員長「どうしてそんなものを……と、盗撮って……え、えぇ?」

男(盗撮用カメラが遠隔操作だろうと人だろうと、俺たちの行動や言動を怪しめば向こうに伝わってしまう事だろう)

男(しかし、今のところ委員長に連絡が行くことも早めに何者かが止めに入って来ることもない。今まで“バレなかった”のだ、見逃す可能性は低い)

男(そして もし この部屋で何も起きなくともである。俺は連中から関係者まで全員を泳がせる必要があったわけなのだ)

男「コイツを使えば脅しに十分使える筈だろう? 悪かったな、変なモン見せて」

男「……どっちみち詰んでるだ。俺に逃げ場はないし、それは君にも言える」

委員長「分かり切ってたなら始めから警察に話せばよかったでしょ!! ほんとの、ほんっとに、何がしたいの!?」

男(始めから? それじゃあ意味がない。潰すにしても救うにしても、やるなら徹底的だろう)

男「あいにく妥協できない性質でな、俺は」

委員長「もう意味不明で私頭どうにか―――な、何これっ?」

男「何って携帯だろうが。少し落ち着けよ、委員長……でも、そろそろ俺も待ち切れねーや、へへへ……」

男「オラ、さっさと俺豚さまの尻をぶっ叩くか! 嫌ならコイツで助けを求めるか! 俺は本気で首絞めるぞ!?」

男「じゃあ選べよ 委員長ッ!!」

委員長「うっ!?」

男(最終的にはいつだって賭けである。何もしないで時間切れを待つという選択だって、恐怖だろうが、彼女には残されているのだ)

男(だけれど……最後に笑うのはいつだって俺だった。「計画通り」と)

委員長「……こ、怖い」

委員長「怖いよぉ……怖いよぉっ……」

男(黙って見守る。俺の役目は終わった、あとは逃げも隠れもせずに彼女の選択に委ねようではないか)

委員長「男くんが、何考えてるかわかんないよぉ……こんなの、おかしい……」

委員長「ねぇ、私どうしたらいいの? どうした方がいいの? たすけてよぉ……」

男「なんだ。自分でもう答え出してるじゃねーか」

男「あとは俺たちに任せておけ。ドーンと構えてりゃそれでもう何も怖くない」

委員長「ううっ、ううっ……!」

男(委員長は震える手で携帯電話を操作し始め、躊躇いを交えながら、三つのボタンを押し終えた)

男(受話口を耳に当てながら、こちらへ涙で酷い顔を向け 遂に口を開き出した。……ところで、俺は気が付いたのであった)

男(時間切れだ)

委員長「はい……はいっ……あ、ああああぁぁ……! じ、時間! 助けてっ!」

委員長「早く助けにきて!! こ、殺されちゃう!! 助け――――お、男くん外に出たらあぶな」

男「……うわぁ、どうやら伏兵が仕事してくれたみたいだ」

男「キモオタという伏兵が」

男(……話をしよう。現実味なんてほとんど無かった異世界みたいな一夜の話を)

男(あれから委員長の通報によって駆け付けた警官たちは、ラブホテル内を駆け巡っていた)

男(とある足止めを食らったハイエナどもは、彼女のワケにより一人残らずしょっ引かれ、その関係者まで芋づる式にずるずると、である)

キモオタ「ぃよう、男ぉ~! 僕のサポートもバカにしたもんじゃなかったねぇ」

男「……あ、あそこで群がってる団体さんはお前が呼んだのかっ? まるで画像で見たコミケ会場じゃないか」

キモオタ「貴様コミケ舐めてんだろ。昔やってたSNSの繋がりでできたアニオタ仲間があの中にいるんだ、ビックリでしょ?」

キモオタ「しっかし、流石にあれだけの人数集まると思わなかったけどなぁ……知らない顔の方が多いや」

男「一体どんな声かけたらアニオタがラブホに集うってんだよ!?」

キモオタ「別にね、これといったネタは仕掛けてないんだ。僕はお願いしただけで発案者は別にいるよ」

キモオタ「あと共通してるとしたら、全員お祭り好きなとこかな。祭りの為なら何に迷惑掛けても踏ん反り返る酷いアホばっかりさ!!」

男(味方にもしたくないし、敵にも回したくないタイプの集団かよ)

男(数なら数を、だが残酷なほど圧倒しすぎた。アレが入口で密集していれば足止めどころか営業妨害レベルだ、慈悲は無いが)

キモオタ「あーあ、とにかく変な騒ぎに繋がらないといいけど。大勢だと気が大きくなるんだろうし」

キモオタ「ププーっ! ほんとアホって醜いぜ、男! ワロスワロス、ここにはアホしかいねぇよぅ!」

男「なんか自分が、恐ろしいよ (俺たちがしでかしたことはある意味摘発である。これにより、多大な迷惑を様々な方面に掛けたに違いない。ガチで)」

男(これだけを抜き取れば大団円に見えなくもない。そんなわけが、ない)

男(パトカーに乗るのはこれが最後であって欲しいと、今 揺れる車内の中で俺は願っているところだ)

男(事情聴取。名ばかりではあるが、今回の件は俺も部外者と言い難い。これも最初からわかっていた事だ。覚悟の上でよ。正当になり得る言い訳も用意してある)

男「あの……委員長は無事でしょうか? 彼女、酷く疲れてると思います」

「心配するならまずは自分だろう。安心しなさい、あとで親御さんにも連絡しておくからね」

男「彼女はもうあの連中に関わらなくていいんですよね? この先脅されたりしないんですよね?」

男「あ、あとで委員長に会わせてください! 経緯は全て正直に話します! お願いですっ!」

「……可能なら、考えておくよ。静かにしなさい」

男(黙っていると委員長まで豚箱に投げられてしまうイメージが沸いてきてしまうだろうが)

男(そんな筈はないと頭で分かっていながら、内心では失敗だったのではと後悔が生まれそうになる。だ、大丈夫、大丈夫だからやったのだぞ、俺は)

男「委員長は被害者だってわかってくれますよね!? 脅されてたんですから!」

男(俺のやり方は不味かったのか? 警察へ頼らせたのは間違いだったのか? 彼女はこの先どうなるのだ?)

男(け、結局はまったくの考え無しじゃないか? 俺が現実を見ないで、理想の計画ばかりを追っていたから……)

男(……精一杯、警察官たちの質問には答えてみた。あの場に居合わせたのは、手を出してはいけないと理解していながら、好意の相手のためにサイトを利用したと答えてみた。計画は、滞りなく進んでいる)

男(その後 自分のしでかした事の規模の大きさに怯えながら、待合室に映されたテレビのお天気情報“三日後の雨”の予報を俺はじっと眺めていた)

ここまで

妹「――――へぇ、頬っぺた結構腫れてる? 受けるんですけど」

男「……放っておけよ」

妹「二人とも何あったか全然教えてくれないんだぁ。あんた何やったの?」

妹「珍しく私が先に家に帰ってたと思いきや。外で面倒起こしてたとかマジ笑えるっ!」

妹「あははは、ほんと迷惑だよねぇー」

男「いいから出て行ってくれよ……」

男「話相手にならもっと相応しいのが他にいるだろ? ふ、フフ、どうしてわざわざ嫌いな兄貴なんかと」

男(あと三日の期限。あの神の事だから、そう長く現実へ滞在できるとは思えない。精々今週が限界なのだ)

男(明日明後日で今回のケアを委員長へ施す必要がある。それ込みでの策だったのだぞ。まだ成し遂げたわけではない)

男(彼女に集る悪い虫を払ったのが第一関門突破と考える。傍からすれば、委員長は救われたように見えただろう。否)

男(ここからが勝負である)

妹「あー、お兄ちゃんさぁ……」

男「あ? 何?」

妹「怒ってんの? つーか マジで何があったの? 私不安なんだけど、わかってくれない?」

男「いや、お兄ちゃん、って何?」

男(難聴スキルが仕事せずとも悶え苦しまずに済むとも、現実だもの。それでも訊き返さずにいられない我が性とは)

妹「そこ重要じゃないし。ウザい!」

男「OK、OK! じゃあもう出て行け! こう見えて俺はいま難しい事考えてるっ」

男「とにかく一分一秒も無駄に……ん?」

妹「あ、あんなにさ、怒ってるお父さん始めて見た……電話もらった時のお母さんなんて凄い顔青くしてたよ……」

妹「家族に迷惑掛けた自覚ある!? 難しい事考えてるから、だから何!!」

男「……お、俺だって父さんから始めて殴られたよ。悪かったとは思う」

男「だけどな、やらなくちゃダメだったんだ。わかってもらえなくていい、存分に嫌ってくれ!」

妹「やらなくちゃ? 何がっ! あんた心配されてるんだよ? 呆れる前に! 心配されたの!」

男「! そ、そりゃ腐っても自分の子どもだしなぁ……」

妹「ワケわかんない理屈こねてる前に、一回真面目に反省しろバカやろう!」

妹「……でも、正直 私にも責任あるんじゃないかって思ってる。だから後はうるさく言わない」

男「何だって?」

妹「昨日あの話をしたあと、あんた慌てて家飛び出したよね。今日のって絶対関係あるんでしょ?」

妹「たまにはあんなに必死になれるんだって思ってたけど……ご、ごめん。伝えなきゃよかった」

男(大した観察眼だ、ご褒美にジュースを奢ってやりたい。つまり妹的には自分が家庭へ騒乱を招いたと解釈してしまったと)

男「(それが為の不安か) 何を言ってるんだ、妹のお陰で助かったんだ」

妹「あの人がでしょ! 他人に構ってられるほど余裕ないから!」

妹「このせいでウチの中が滅茶苦茶になったら、私 嫌だよ!?」

男「……ごめんな? お兄ちゃんのせいで怖い思いさせちゃって」

男(する事なす事、ここに帰って来てからぷよぷよみたいに連鎖しやがる。いつのまにか一の問題が多に増えていて、頭の中 ブレインダムドしちゃうよぉ)

男(なんて……俺が、無自覚に周りを巻き込んでいるせいだろう。いや、むしろ巻き込まざるを得ないのが現実だと考えるべきかもしれない)

男「参ったよ、形振り構わないでいたせいかね。どうにも周り見えてないっぽいな」

妹「ね……ねぇ、あんたって本当にあのお兄ちゃん?」

妹「……だれ?」

男「はぁ? そんなの決まってるだろ、お前の大っ嫌いなお兄ちゃんだ」

妹「そ、そっか……じゃあ別にいい。気にしないことにしとく…………それじゃ」

男(ダメだな、あからさまに態度に現れている。妹の目に今の俺がどう写っていたかなんて、想像も容易かった)

男「お前って俺が死んだら泣いてくれる?」

妹「や、やめてよ。もう用無いから! 寝るっ!」

男(今朝ほど登校が憂鬱に思えた日はない。両親からは勿論登校を控えることを勧められたが、強行してしまった)

男(あの世界がどれだけ自由だったのか、振り返ってみれば相当である。箱庭難聴鈍感恋愛シミュゲー、素晴らしいぞ、マイゴッド)

男「くそ、どうせならファンタジー路線も妄想しておくんだった……」

?「待って!」

男「えっ!?」

男(戯けた小言を呟いた時だ、死角から予想だもしない声が飛ぶ。反射的に振り返ってみればそこには)

オカルト研「おはよう、嫌じゃなければ私と行こう?」

男(外だけ美少女ではないか。他でもないこの俺へお誘いしたらしい、間髪入れず手まで掴まれているのだからな)

男「お、おぉ……学校には車で登校してるって聞いたんだが、ていうか何故にっ?」

オカルト研「うん。途中で姿が見えたからそこで降ろしてもらったよ。一緒いこ?」

男(この選択に断るなんてものがあるか? ああ、できれば丁重にお断りさせて頂きたい)

男(のに、なのに、彼女は俺の答えを待つまでもなく前を歩き出した。羨ましいか? そこの中学生。俺は何度も似た体験しているぞ)

男「(だから喜んで横譲るので助けて) ……お、オカルト研さーん」

オカルト研「ふふっ、さん付けしなくて平気。もっと気軽でいいんだよ?」ニコニコ

男(どうしよ、かわいいじゃん)

男「お、オカルト研」  オカルト研「なに?」

男「オカルト研っ!」  オカルト研「はぁーい」

男(こいつ俺と結婚してくれねぇかな)

男(まぎれもなく文句無しの美少女。世の中顔が物を言う、なんと残酷な真実だろうか)

男(目に入れても痛くもない彼女は、昨日の保養には最も相応しい。微笑み美少女は良薬以外の何だというのだね?)

男(それにしても、この間の一件で気に入られてしまったのか? 他に思い当たる節もないぞ。惚気ながらも、気味悪く感じつつはある)

オカルト研「興味ある?」

男「え? いま何か言ったか?」

オカルト研「だから、私に興味ある? ない? ないの?」

男「き、興味っていうかいきなり一緒に登校しようと誘って来たワケが知りたいな」

男「あの日 友達になれたらと俺からは言ったが……ビックリするほど急だよな?」

オカルト研「……」ニコッ

男「……へぇ、そういうつもりで声を掛けたんじゃないって」

男(気が付いた時には遅かった。彼女のあとを追う形で歩いていたら、人気の無い場所へ踏み込んでいたのである)

男(一瞬で身の危険を感じた)

男(オカルト研のまっすぐな笑顔から目を逸らせずに俺はいた。まるで蛇に睨まれた蛙の図)

男(お察しの通り、彼女は恵まれた美貌を持ちながらにして歪んだ電波受信機だ。度々、常識の通じない相手となる)

男「オカルト研、引き返して学校に行こう……保健室まで付き添うぞ」

オカルト研「どうしてみんな私を可哀想な目で見ようとするのかなー?」

男「さぁ、可哀想ぶってるからじゃないかなぁ…… (決心した、隙を見て逃げ出そう。これ以上の面倒は御免被る)」

オカルト研「昨日、あなたが警察に連れて行かれるのちゃんと見てた」

男「何だって!?」

オカルト研「友達の呼びかけであそこに集まってたんだよ? いたでしょ、私も?」

男「知るかっ!! あの集団に混ざってたからどうした、お前には関係ないだろ!!」

オカルト研「静かにしないとまた警察の人に連れてかれちゃうね! あはは!」

男「連れてかれるかよっ! ……昨日は、俺もあの集団に混ざってたんだ。連れて行かれたのは偶然で」

オカルト研「えぇ、どうしてウソ吐くの? 知ってるよ? 私、男くんにとっても興味あるんだ。非日常に」

男「支離滅裂だ……大体聞いてどうする? 野次馬根性抜け切ってないんじゃねーか?」

オカルト研「聞けたら面白い事ができるから」ニコニコ

男(……なにか本気でヤバいぞ、この女)

ここまで

男(こんな事、頭を捻らずともオカルト研の相手をしないのが最善の策だ)

男(構ってもらえなければ昨日傍観した内容を校内中へ暴露するのかもしれないが、きっと彼女が話す前にそれは知れ渡る)

男(大体、この女の話を誰がありがたがって聞く? 部活の仲間か? 狭すぎて痛くも痒くもないぞ)

オカルト研「そろそろ黙ってないで私と話そう! これ食べる? 薬だけどね、ふふ」

男「そのミンティアで一体何が治るんだ?」

男「よーし、お互い退屈凌ぎにはなった! 学生は学校へ行くのが仕事だ! もう話は終わりだ」

オカルト研「ふーん……まだそんな悠長に構えてるんだ?」

男「……あのなぁ、お前がどんなネタ握っていようと俺には痛くないの。お好きにどうぞ~」

男「大体! 面白い事ができるって、精々ネットで騒がせて炎上させるぐらいだろ。くだらない!」

男「そんなに人様の不幸を祝うのが楽しいか? この、人格破綻女め」

オカルト研「……何か勘違いしてるねぇ? うふふふ! 誰が人格破綻だッ!?」

男「うるせぇ、大声で騒ぐな。人に見られたらこっちが恥ずかしいんだ」

男(我思う。美少女は美少女らしくあれと。それがノブレス・オブリージュなのだと。せっかくの優性遺伝子が台無しだな)

男(慚悔だ、期待した俺が間抜けだった……さらば、オカルト研よ。イベント完了。だから腕をいい加減離してくれ)

オカルト研「復讐、したくてね」

オカルト研「私はあのゴミの掃溜めに仕返しがしたい」

男(腕を離したと思いきや、すかさず手前に回り込みオカルト研は俺の退路を塞いでしまった。冗談が通じない表情をして)

オカルト研「昨日は本当に偶然あそこにいたの。そりゃあ最初は面白半分だったよね」

オカルト研「だけど、現場には君がいた。何故? それも大騒ぎにまで発展させて……ふ、ふふ!」

男「いやぁ、何度訊かれようが口割るつもりはねーぞ。俺は」

オカルト研「君はあそこで何かをやった、その事実は変わらない……何をやった?」

オカルト研「私はねぇ、騒動の種が欲しい……ぶっ壊すための!!」

男(演技がかったように大袈裟に手を広げて彼女は高笑うのである。それを眺める立場としては、ドン引きするしかなかろう)

オカルト研「一緒にくだらない毎日を壊そうよ! そして無能教師を叩きのめすの! いいでしょ~!?」

オカルト研「君が持ってる種を使えば、学校を滅茶苦茶にできるよね! 外からも、中からも!」

男(やれやれである、蒔く前から蒔かれた状態だろうに。放っておいても職員室は大騒ぎだ)

オカルト研「こんな言葉知ってる? 名言。不満があるなら自分で変えればいい、って! 有言実行だよぉ!」

男「恥をかかせて、あちこちから非難されてるのがお前の考えた、変える、なのか?」

男「(キモオタの言う通りだったな) しょーもなっ!!」

オカルト研「えっ、どうして? 何で?」

男「どうしてそこまで自分の学校に絶望してるのか知らんが、その程度で何が変わるんだ?」

男「むしろ、将来的に自分の首を絞める羽目になるんじゃ? 噂の高校出身だって。いや、ネタだな」

オカルト研「それは私だけに言えることじゃないよ。みんな、だよ?」

オカルト研「私は、あの場所に傷さえ付けられたらそれで十分だよ。後に残る、深い傷を」

男「……迷惑な話だなー」

オカルト研「それって君が言うこと? 迷惑を起こしたのは他でもない君じゃない」

オカルト研「でもね、感謝してる! 君みたいな男子でも役に立つことがあるんだよ!」

男「大袈裟に話してるけど、本当にしょーもないって事は理解した方がいいと思うかな……」

男(あの夜は俺でさえ後悔に震える大騒ぎに発展したのだ。観客だった彼女の熱が暴走するのも、まぁわからなくもない)

男「やれやれ……やっぱりエロテロリストの方のオカルト研のが好きだな……」

オカルト研「協力してよ? 協力してくれたら君の頼み何でも聞いたげる」

オカルト研「前払い、でも私はよろこんで体差し出すよ? ふふっ!」

男「ビッチが! これ以上自分の立場追いやってたまるかよっ」

オカルト研「チッ、あっそ…………だったらもう一人の方に訊くだけだから」

男「……何?」

男(もう一人だと。オカルト研とあの場で面識があった生徒は俺だけの筈だ、キモオタや委員長など知る余地もないだろう。……かならず、ではないが)

男(キモオタはまだ良しとしよう。だが 委員長だったとすれば、傷を穿り返される真似になるのだぞ。いまの彼女のメンタルじゃあ)

男「(追い込まれかねん) 待ってくれ、オカルト研! 行くな!」

オカルト研「え? もう用は済んだから行ってよ。ていうか、邪魔ぁ……」

男「……さっき話したもう一人ってのは誰のことだっ?」

オカルト研「君と一緒に警察に連行されてたでしょ。あの眼鏡の子だけど」

男「でも、アイツはうちの生徒じゃないぞ? 制服もなかったし、どこの奴か見当もつかんだろ? な?」

オカルト研「何言ってるの? うちの図書委員長さんじゃん……よく見かけるし」

男「お前が何処でだよ!?」  オカルト研「そりゃ図書室だと思うけど」

オカルト研「本は好きだよ? あそこにいる間、唯一の退屈凌ぎといえば図書室ぐらいでしょ。ちなみに今はドグラマグ」

男「そこまで聞いてない!! ……あの子とこれまで話はしたことあったか」

オカルト研「ううん、まず興味なかったよ。いまは大有りなんだけれどねぇー」

男(このぶっ飛びガールを近づけたら、委員長が人間不信にレベルアップしてしまう気がしてならない)

男「……俺が、話せば彼女に近寄らないな? そうだろ?」

オカルト研「うんっ!」

男(……委員長は限界だ。たとえこの俺が彼女を追いやっていたとしても、それは悪いお友達と手を切らせる理由があった)

男(昨日の今日で心身ともに疲労困憊している事だろう。そこへ追い打ちにコイツが来た時には、しかも質問の内容が、である)

男(ともかく、出鱈目でも一旦オカルト研を満足させてやるしかない。ああ、厄介で反吐が止まらん)

オカルト研「その気になってくれるって信じてた。じゃあ、早速……」

男(と、ゴソゴソ鞄から取り出した物を見て、俺は頭を抱えた。その手にはボイスレコーダー)

オカルト研「貴重な本人からの証言だもん。記録は必要だよね?」

オカルト研「もし、あとで適当なこと喋ってたってわかったら 怒るよ?」ニコニコ

男「ああ……いいよ、わかったよ! 喋ったらいいんだろ! (真実を詳細に伝えたら、オカルト研は俺の言葉をネットかどこかへ晒すのだろうな。誤魔化しに作り話を語れば、時間次第だ、事は彼女の耳にもいつか届く)」

男(そして新たな証言を得る為に、今度は委員長へ……口封じが必要だ)

オカルト研「どうしたの? 早くしてくれないと」

男「(気は進まないが、致し方あるまい) 不良女さんを知ってるか?」

オカルト研「……で?」

男「俺がこれからお前に喋る話には、彼女も関係していると言えなくもない。いや、バックにいる」

男「もし、俺たちしか知らない話が外へ漏れた時は……真っ先に俺が疑われるかもしれん」

男「オカルト研、昨日の一件はまだ終わってない。その真実は誰にも気づかれずに闇に葬られなきゃいけないんだよっ……!!」

オカルト研「……ご、ごくり」

男「だがな、熱意に負けちまった……話す。全部残さず話すさ……ハハ」

男「この話を何処かへ載せるのも誰かへ伝えるのもお前の勝手だ。好きにしろ」

オカルト研「言われなくても、最初からそのつも―――」

男「ただし、その後の身の安全は保障できない」  オカルト研「身の安全!?」

男「バレた時 俺は不良女さんたちに拷問まがいな事をされるに決まってる。誰へ、話した、と……」

男「俺が堪え性に見えるか? 見えないだろうな。家族に何かあっても嫌だ。だから、その時は一切躊躇いなく」

オカルト研「わ、私の名前を出すって……いうの……!?」

男「……もしもがあれば、な (すばらしき不良女万能説)」

男(この男くん、脅しに屈することあれど 噛みつかずにはいられない性質である)

男(手始めに生徒たちの間で札付きの悪と有名な不良女の名前を出すことで、動揺を誘う。さしものオカルト研でさえ、アレの名は知っていたわけだ)

男(だが、それだけでは不完全であり、誇張させた話も笑われるだけだろう。……普通の頭なら)

男(知っての通り、彼女はまともな青少年の思考とは異なる浮いた考えの持ち主だ。何か悪い物によほど影響を受けた、恥ずかしい奴である。あのオカルト研のオリジナルだけはある)

男「“グループ”は情報漏洩者を逃さんぞ……覚えておけ」

オカルト研「しょ、証拠はあるの!?」

オカルト研「そ、そうだよ証拠っ! 君とアイツが関係してるなんて―――!!」

男「……ご覧の通り、これは不良女の連絡先だ。こんな無害そうな俺が持ってるのは意外だったか?」

男「なんなら、今すぐ呼び出しても」  オカルト研「やだぁー!!」

男「でしょうな……俺だってやりたくないさ。これで信じてもらえたか?」

男(必死に何度も首を縦に振って答えるオカルト研に、キュン、するかよ。俺が興味満々なのはお前じゃない)

男「(残念巨乳美少女である) お前も昨日見てたんだろ? 大勢の警察まで動き出す始末だったんだぞ、問題はデカい」

男「となれば、最初から覚悟してたんだよな? 自分が今から頭を突っ込む所の怖さを」

オカルト研「……え、えっと」

男「以上だ。前置きが長くなっちまったな、話すよ」

オカルト研「や、やっぱりいい。ふふ、どうでも良くなっちゃったなぁ……!」

オカルト研「そう、そうだったんだっ……ふふ、ふ……」

男「言っておくが委員長に訊くのは本当にやめておけよ。訊けば、俺なんかが仏に思えるぜ」

オカルト研「……ね、ねぇ……どうしたら私も、あなたたちの仲間に加えてもらえるっ?」

男「……不良女さんに会え! そしてこう言うんだ、校舎外トイレの灰皿と」

オカルト研「ギャングで素敵なキーワードだねぇ……」

今日はここまで

男(不良女極悪伝の一人歩きに助けられた。正しくは噂に便乗したハッタリが通用したと言うべきか)

男(結局のところ、その場凌ぎには違いないが、オカルト研の興味も上手く逸らせた筈だ……)

体育教師「お前ら走ってこい!! あと三十秒で閉めるぞー!!」

「殺生だぁー!」  「あの禿げダルマ マジで閉めるからな…」

男(朝から冷や汗掻かされてみたり、健康な汗流してみたりと、退屈しないスタートじゃないか。と、余裕ぶれる強さが欲しい)

男(オカルト研とはその後離れたわけだが、姿が確認できないところ、重役出勤を決め込んだのだろう。まさか早速不良女探しの旅か)

男「でもまぁ、あの女タイミング悪く謹慎期間に入ったばっかりですけど……」

男(さて、元からの被害妄想が酷くなったか、嫌に生徒たちの視線が気になる。というより、それはクラスメイトたちからの)

男(何も起きないだなんて甘えも恥もとうに捨てた。別に死の確定で開き直ったわけでもない)

男(最低限、家族や少ない友人には迷惑を掛けさせないでいよう……皮肉にも、あの妹の言葉が俺の目を覚まさせた。なんて、皮肉)

男(あと三日。父さんや母さんには謝り切れない。妹よ、愚兄が命を燃やして美少女と戯れることを許せよ)

キモオタ「お、男くん。さっき先生が君に職員室に来て欲しいって」

男「えっ? な、何だお前急に畏まったりして。気持ち悪いぞ……」

キモオタ「あぁ!? とと、とにかく椅子から立って教室から出ろつってんだよ僕ァー!」

男「わ、わかったから。行けばいいんだろ、行けば」

男「ある意味居心地悪く感じてたし、助かったかもしれん」

男(とは言ってはみたが、けして足取りは軽くないという)

男「……ていうか、何でキモオタ伝手だ。一緒にいるとこ見られてたか?」

キモオタ「よーし! これで邪魔者は消えたぁ!」

男「うっ!? お前が何で俺の後ろ歩いてるんだよ!」

キモオタ「おや、今日は勘が鈍ってますな。さっきのは男を外へ連れ出す口実でしょう」

男「あ、ああ~! 確かに俺と話してるところを連中に見られたら面倒だしな」

キモオタ「は? 逆だろう。君が僕と関わってるなんて事が知れる方がマズい。茶化されんぞ」

男「……言わせたい奴らにゃ好きにさせとけよ。余計な気遣いしないでくれ」

キモオタ「あーあ、そんな態度取っちゃいますかねぇー!! 今のどうなんスかねぇ!?」

男「ち、違うって! 勘違いするな! 気取ったわけじゃないぞ!」

男「俺はただ、お前ともっと普通にやっていけたら良いな、と……人目なんか気にしないで」

キモオタ「……握手、せぇへんか?」ササッ

キモオタ「友情の契りっ、今すぐ結ばせぇへんかッ!?」ササッ

男「全然普通じゃねぇ」

キモオタ「げへっ! デレた、デレた、男が一気にデレたぁ~~~~ ウエェ~~~~イ」

男(このデカ尻野郎に一瞬でも気を許した俺がバカだった)

男(だけれど、素直に彼へは信頼を抱きつつあったと今になって思う。理屈じゃない。これも自分の変化の一つか)

キモオタ「……ってな感じに盛り上がって来たところで申し訳ない」

キモオタ「昨日の夜のこと、結構広がってるらしいよ。今後を考えたら七十五日引き篭もるのが得策かなぁ」

男(予想通りと、嘲笑してやりたい俺がいる。彼の話だと、件は大雑把に伝わっており、肝心の中身までは行き届いていなかったという)

キモオタ「つっても所詮 教室に着いてから聞き耳立てての情報だけどさ! よくわかんねっ」

キモオタ「でも、時間の問題だろう? 男はきっとこれから先生に呼び出されるんだ。警察から学校へ話はしてるだろうし」

男(俺のことは一先ず置いて考えたい。何よりも優先すべきは委員長だ。委員長も巻き込まれたと、生徒たちには知られたくない)

男(最もその防ぎ様があるかどうか。コレばかりは運に任せるしかないのだろう……が)

キモオタ「しかも委員長さんだって関係ないわけじゃないよなぁ~。これって」

キモオタ「男がクラスの奴らから何言われても平気だとしても、あの子じゃわからないね? メンタル弱そうだし」

男「問題ないな。委員長は変わらず学校にいられる筈だ」

キモオタ「ふん? もう自信満々で宣言しちゃうんだー……」

男「その為の布石は置いたんだって、前に話さなかったか?」

委員長「……あっ」

男(来てくれていた。今日彼女の顔拝めただけで、どれ程に俺の不安を晴らしてくれた事だろうか)

男(委員長は開いていた文庫本を机に置いて、怪訝そうにしていた。何かを、言おうとしているようだが、済まんな)

男「よくもまぁ、よく平気で俺の顔を眺めてられるもんだな? 次の悪戯でも期待してるのか」

委員長「えっ! ち、ちが」

男「あんたもさ、懲りない奴だ。一回友達面したらまだ仲良くできるとか思ってるんだし。だな?」

委員長「な、何言ってるの……私はそんなつもりじゃ」

男「良い子すぎて泣けてきちゃうよ、委員長さぁーん! 健気すぎて可愛いな!」

男「ほんと、都合いい奴だぜ お前! こっちもバカにし甲斐があ――――」ガシッ

「なぁ、そこまでにしといた方がいいんじゃねーの?」

男「……」

「何でそこまで躍起になって委員長苛めてんのか知らないけどな。お前ウザいんだよ」

「自分でいまどれだけ目立ってるのか気づいてないとか? 恥ずかしくねーの?」

男「関係ないだろ……何だよ、みんなして俺のこと睨んじゃって」

男「外野のくせして一々人のする事にケチつけるとか、恥ずかしいなぁ」

男(こんなの初めてだ、クラスの全員が一体になったのを肌で感じられたのなんて)

男(触れた空気は実にピリピリと張り詰め、一滴汁でも垂らせばケミストリーを起こす寸前まで達していた)

キモオタ「あ、わ……なはは……っ」

男(事前に約束させた通り、キモオタは机に頭を伏せて明後日の方向を向いていた。間違っても止めるな、奴は、戸惑っていたかもしれない)

「ていうか、あんたじゃないの? 昨日ラブホで変なことしてパニックにさせた奴って」

「おぉ! 俺もそうじゃないかなって思った。最近マジでアイツ変わってたもん!」

「変な薬に手出したりしたんじゃねーか。いきなりキャラも変わり過ぎっしょ」

「それで委員長苛めるとか最低だなオイ」  「糞だな~」

男(神よ、見ているか? 俺はあなたの力無しに現実でモテモテになっているぞ)

男(ここに難聴も鈍感も存在しない……苦労しないな、洞察力も要らない。温くて欠伸が出てしまいそうだ)

男(簡単にクラスメイト全員まとめて攻略できてしまったぞ、神よ)

男「ゴチャゴチャ騒ぐなよ、っと」ガンッ

委員長「ひっ!?」

「はぁ~!? ちょっと何 あたしの机蹴り倒してんの!? 何だよアイツっ!!」

先生「うるさいわねぇ……一体何の騒ぎっ?」

「先生、アイツ本気でヤバいです! 頭おかしいっ!」

先生「はぁ? お願いだからケンカとかしないで頂戴。あんたたちも面倒くさいの嫌いでしょう?」

先生「とにかくHR始めたいから、座ってよ……早くしなさい!!」

男(少しやり過ぎただろうか。やり過ぎるぐらいで丁度良いとはいうが、キチガイかサイコパスの汚名は避けられないな)

男(とにかく先程のパフォーマンスでここ最近俺へ向いたヘイトがかなり集中した筈)

男(好かれるよりも、嫌われる方が簡単なのである。失った信頼を取り返す必要はない。徹底して皆にとっての悪へ堕ちるのだ)

男(堕ちるとこまで堕ちれば、憎さも余って人気者だろう。あの女子には悪い事をしてしまったと思うがな)

「ムカつくっ……ふざけないでよ……」  「絶対危ないってアイツ」

男(罪は罪で塗り替えられる、俺の経験則の一つだ。応用すればどの様な事にでも通用しなくもない)

男(彼らにとって委員長の存在は現在どう考えられたか、決まった。被害者だ。ハッキリと哀れみすら覚えてしまうぐらいの)

男(……手段としては最悪かもしれない。だが、人の醜さへ対抗できるのは善意か?)

先生「それじゃあHR終わりね。一時限目の授業に備えなさい……ああ、ちょっと、そこの」

男「俺ですか?」

先生「そう。それからあなた、私と来なさい」

委員長「……はい」

委員長「…………」

男「案外あっさりしたもんだったなー。こっ酷く叱られるとばかり想像してたぞ」

委員長「事情が事情だからでしょ……ところで」

委員長「さっきの、何?」

男「なぁ、今日の放課後暇にならないか? 図書委員の仕事は誰かに任せてさ」

委員長「ま、まずは私の質問に答えてよ。今朝のは何だったのっ? あんなにわざとらしくして……」

委員長「あんな真似したら、この先どうなるか自分でわかってたでしょ? 知らないよ、私……」

男(意味不明ながらも、彼女は俺の行動にはかならず意味があったと見たらしい。その上で、知らない、と)

男「委員長、昨日は親に何か言われたのか? 俺の方はバッチリだったぞ」

男「正直今日は委員長は登校しないんじゃないかと思ってたんだが、意外と何ともなかったり?」

委員長「何ともない? ……どうなのかな」

委員長「……そうだね。今日ぐらいは仕事休ませてもらおうかな、放課後」

男(あっさりすぎるぐらいそう彼女は答えたのだ。委員長自身思う所があったのだろう。放課後の質問攻めは覚悟しておくべきか)

委員長「あの、また帰りにご飯奢ってもらえる?」

男「案外図々しいんだよな、お前って……っ!」

男(放課後は以前連れて来たファーストフード店で待ち合わせをしていた。仲良く並んで下校する姿は極力見せたくない)

男(そして時はやって来るのである、いや、過程を期待しないでくれ。誰に捕まるでもなく、キモオタを振り切り、辿り着いてはみたものの委員長の姿はまだない)

男「ふーむ……先に飲み物でも頼んで待ってるかね」

男(あの日、ここで遭遇した委員長の悪い友人たちはどうなったか。俺も詳細を知らされる事はなかったが、報復の心配は無用と、それだけを言われた)

男(いい加減な対応だったのかどうか見当もつかないが、しばらくの間は奴らの影に脅かされることはないと祈りたい。委員長がだ)

男「すみません。注文大丈夫ですか? ホットコーヒーのMを」

委員長「あとはハンバーガーとポテトのM、それからナゲット追加で」

男「おい、不意打ちすぎんだろ」  委員長「えへへ…///」

男(彼女の遅刻の言い訳、というよりは言い分を聞くに他の図書委員への押し付けに手間取っていたという。それはすぐ嘘と判明するわけだが)

委員長「これ良かったら読んでみてくれない? 合うかわからないけど」

男「まさかコイツを本屋で選んでるのに時間が掛かったんじゃないだろうなぁ?」

委員長「だって! し、仕方ないじゃない……とにかく貰ってくださいっ!」

男(袋に収まったサイズからして新品の文庫本だ。貸す、ではなく、プレゼントという時点で察せられる。どれ中身は)

男「安心したけど、どうしてラノベなんだよ」

委員長「あ、やっぱり! 男くんたぶんこういうの好きそうだったから!」

男(申し訳程度の自己弁護だが、俺は生まれてこの方ライトノベルに手を伸ばした経験は一度たりともない。断じてだ。遠い世界だ)

男(それでは、話をと続けようとすれば、これまた美味そうにハンバーガーに食らいつく委員長が視界に入り、紳士に俺はストローを咥えてみた)

男「……気が済んだら教えてくれ」

委員長「ん? 純文学とか男くんあんまり好きそうにないなって思ったんだ。これなら読むんじゃないかなと」

委員長「わ、私もそういうの買ったことなかったから、レジに持って行く時恥ずかしかったけど……良かったです」

男「……ああそう」

男「怒ってないのか?」  委員長「何ですか?」

男「最近の俺からの仕打ちに対してに決まってるだろ。十分憎める理由になる」

男「お前は何でって訊いてきたよな? 大概疑問に思うのは当然だ」

委員長「それを私に話すということは、教えてくれるって解釈して大丈夫なんだ?」

男「大丈夫とか疑う以前に、無理矢理でも訊き出そうとしないんだな……まぁ、随分余裕なこった」

委員長「だって、男くんは尋ねても誤魔化してしまいそうだから」

男「だったら試してみればいいんじゃねーの?」

委員長「うん……どうして?」

男(一言に収めてくる辺り人として優れていると判断した)

男「別に? ただの気紛れのつもりですけど」

男(想定内・想定外 どちらにせよ当たり触りのない回答に、委員長は数秒考えて微笑んでくれた)

委員長「ほら、やっぱりそう来るんだ」

委員長「男くんも遠慮しないで食べていいよ。私ばっかりじゃ意地汚いよねぇ」

男「いや、遠慮も何もマイマネーの産物だからなコレ……」

委員長「ブーブー? ブヒブヒっ」

男「はぁ?」

委員長「あはははっ、ううん! 特に何でもないの。気にしないで」

委員長「はぁ……私本当にどうしようね。たぶん何にもなくなっちゃったんだと思うんだ」

男「何だよ? 女王様気取ってマゾ男の尻引っ叩くのだけが生き甲斐だったっていうのか?」

委員長「ねぇ、どうして人の事怒らせるの好きかなぁー……違うよ」

委員長「私は誰かに必要とされたいって思ってたの。あれは、何もないと知っていた私に対する“何かあった”と思い込む為の処方箋」

委員長「騙しだましにしてきた事だけれど、これでアイデンティティ保ててたつもり」

男(……様子がおかしいとは思っていた。妙に明るく振舞ってくれていると)

男(浮かべた笑顔すら、危うく、この目には映っていたのである)

男「委員長! お、俺は――――」

委員長「昨日帰ってすぐに親から勘当って言われちゃった」

男「っ!?」

委員長「あは……当然と言っちゃ当然なんだろうね。家にも帰らないで、裏で娘があんな危ないことしてたんだもん」

男「お、おかしいだろっ! ワケは話したんだろ? 悪い奴らに脅されてたんだって!」

委員長「でも、結局は自分の意思で進んでやってたと思うと私にも非があるでしょう?」

男「それでも簡単に納得していい理由にならないな! ご両親もその時は頭に血が上っていただけだろ?」

男「すぐに家帰ってもう一度考え直してもらえッ!!」

委員長「両親じゃないの。父親が……私もね、良い機会だと思う」

委員長「親離れしなくちゃって、えへへ。いつまでも甘えられてちゃ迷惑になっちゃうよ」

男「甘えて何がいけないんだよっ!? いいから今すぐ親の所に行け!!」

男「そ、そうだ……お姉さんがいただろ? 母親でもいい。味方につけて親父さんに抗議するんだ」

委員長「えっ、どうしてお姉ちゃんがいるって知ってたの?」

男「それは……とにかく言う通りにしてみろ! 死に急ぐな!」

委員長「…………どうして男くんって、私の何でもを知ってるの?」

男「な、何でもっ? だから今はお姉さんについてはどうでもいい! そうじゃなくて!」

委員長「うん……」

男「いいか……最悪、祖父母の家に世話になれよ。絶対だぞ? 一人で抱え込むな」

男(委員長家の家庭事情に問題があるのはわかっていた。わかってはいたが、難し過ぎた)

男(勘当が事実だとすれば、どうなる? 俺の頭ではどの様な些細でも彼女の死へ直結してしまった)

男(何が計画通りだというのだ。その計画によって捻じ曲げられ筈だった運命が、軌道修正されつつあるのではないか?)

男(夜の仕事が親にバレて、勘当されて、行くあてを失って……元来の運命がそうだったとしたら)

男(やはり自殺の線が濃厚ではないだろうか。彼女の、死の原因は)

委員長「話してから言うのもあれだけど、ごめんなさい。男くんは責任感じなくていいんだからね?」

委員長「だって、君は私があれ以上狂っていくのを止めてくれたんだから。恩人です」

男「だから、こんなラノベでお礼したつもりだって……?」

委員長「ふふっ! 本当に助けてくれたか結局わからず仕舞いになっちゃったけれど、一応感謝してます」

男「よせ……」

委員長「ありがとう、男くん!」

委員長「私の居場所を奪ってくれて」

ここまで
明日も休み取れてうきうきだよぉ~~~!!!

男(…………)

委員長「読んでみて趣味じゃなかったらキモオタくんにあげてください。ご飯、ありがとう」

委員長「それから、貴重な時間割いて私に付き合ってくれてありがとう」

委員長「えっと……それじゃあ、私は先に帰るね!」

男「何処に帰るっていうんだよ」

男(という俺からの言葉へ対する返事は待てども、なかった。愛想笑いを浮かべた委員長は一歩一歩とこちらから遠ざかろうと試みているのだ)

男(まるでその態度が、これ以上自分に関わるな、と伝えたがっている。では、何故すぐに立ち去ろうとしないか?)

男(何故、俺から目を離せずに、いつまでも背中を見せずにしようとしないのか?)

男(待っているの、か?)

委員長「……か、帰らなきゃ。帰らなきゃ……ね」

男「委員長、せっかくだから途中まで一緒に行かないかな?」

委員長「えっ」

男「窓の外見ろよ。日も沈んで真っ暗だし、一人で歩いてたら恰好の餌食だろ」

男「昔 母さんによく教えられてな、女の子に一人で夜道を帰らせるなって。そのくせ今じゃ妹にうるさく怒らないが……」

委員長「途中までなら、少しだけ」

男(きっとお互い誰かに見られたりするのではなんて心配は持ててなかっただろう。懸命に、俺たちは自問自答を繰り返していたに違いない)

男(隣を歩いているのは誰だとか、気にもならないぐらいに自分で一杯一杯に。止めどない水の中をもがいていたのだろう、なんて)

委員長「お姉ちゃんはね、大学の寮に住んでいて家にいないの」

男「……ふーん」

委員長「たまに帰ってきたって私と会話なんて全然。まともに相手された事あったのかな?」

委員長「だから、私ずっとあの人をお姉さんって感じられた覚えないなぁ……」

男(向こうでは父親と揃って無駄にハイテンションぶりを発揮していたが、そうか、家にもいないと来たか)

男(あちらでの家族の在り方を望んだのは委員長の本心だったろう。ならば、父との関係も上手くいっているワケがなさそうな)

委員長「お母さんはね、いないんだよ」

男「おい、そういうの興味ないから他人の俺へ話さなくて良いぞ」

委員長「他所に好きな人見つけて、小さい頃に出て行っちゃった。連れ子なの、お母さんの、私」

委員長「お父さんとお姉ちゃんとは血の繋がりもなくって、昔から冷めた付き合い続けてて……ぷっ!」

男「な、何だよいきなり噴き出してっ」

委員長「ううんっ! 改めて思い返すたびに、私って物語の登場人物みたいな設定だなって! ふふふっ」

男(それに加えて諸々である。裸足で逃げ出すしかない)

委員長「憧れない? もし自分がこの世界の主人公だったら、何が起こるのかな。期待しちゃうよねっ」

委員長「私は憧れたなぁ~……辛い出来事何もかも吹っ飛ばしてくれる未来に……」

委員長「こんなに苦しいんだから、報われる日が自然に訪れても罰当たらないと思うの! だからずーっと夢見てる!」

男「そうだな……ありきたりに白馬の王子様がさらいに来てくれるかもな」

委員長「えへへ! 実は私はファンタジーの世界で生まれたお姫様で、そうじゃなくても選ばれし子どもだったり」

委員長「しないかなぁ……何年も、憧れてるんだよ。そんな現実性に欠けたおとぎ話に」

委員長「……ないのかな。思い知ったよ、自分がただの底辺に生まれた子どもだって」

男(これは推測よりも単なる所感だが、本と向き合い夢を待ち続けるのが、委員長の自我の保ち方なのだろう)

男(作品は人へ何かしら影響を与えてくれる。良くも悪くもだ。彼女はそこから、良い、と思った物だけを吸収し、生きる糧へと変えてきた)

男(苦しい環境から逃げられずにいたからこそなのだろうか。そう、委員長という人間は、希望の塊だったのだ)

委員長「私 いつからか人がわかんなくなっちゃった。どう声を掛けたらいいのかもわかんなくなっててね?」

委員長「どう喋れば苛立たせずに済むのか考えたり、おかしく思われないよう振舞う練習いつも頭の中でしてみたり……」

委員長「で、でも、頑張ってみるだけいつも空回り起こして、相手にされなくなっちゃったり……」

委員長「だ、誰も私見てなくて、まるでここにいないみたいな扱いされて……そしたら」

委員長「寂しいなぁ、寂しいなぁって……」

男(あの世界にいた委員長が何故熱心に戻りたがったのか、未だに理解できずにいたが)

男(ようやく俺の中で決着がついた。……哀れすぎる、結局は突然の周りの変化と境遇に耐え切れず、悲鳴をあげていたとは)

男(これだけ壮大な夢に憧れ生きてきながら、本当に望んだのは、たった些細な、僅かな温かみ、だった)

男(委員長の根本にあった願いとは、寂しさを埋めてくれる、何かだったのだ)

委員長「男くん、私ね いつか見返してあげたいなぁ……」

委員長「小さい頃の自分に向かってしっかり、私はいま幸せ、っていつか言いたい。で、ほっ とさせてあげるんだ」

男「これで全部吐き出せたか?」

委員長「うん。満足すぎて、久しぶりに嬉しいぐらいだよ。えへへっ!」

委員長「男くんじゃなかったら話せなかったかもしれません! すごく、特別に感じちゃうな……」

男「そこまで信頼してもらえる奴か、俺が? 散々酷い目にあわせてきただろ?」

委員長「……だって、男くんがいなかったら私の日常何も変わらなかった、です」

委員長「真面目に人へ怒ったり、呆れたりしたのも男くんだし!」

男「意味不明なことばかりやってたのに、それでもか? 委員長、結構歪んでるぞ」

委員長「それはお互い様でしょう? ふふっ」

男(色々吹っ切れたお陰か俺へ対して謎補正がかかっていやがる)

委員長「こんなにスッキリできたのも、男くんのお陰です!」

男「十分だ、やめろ! あんまりヨイショされると蕁麻疹が出るっ!」

男(正直美少女でなかろうが、自分を称えられれば惚れかけるぞ。そんな自分の根性が、糞食らえだ)

男(というか、嬉しさよりも焦りからの阻止である。本能が、委員長が最後のお別れを告げていると悟ってしまったのだ)

男「(行かせてはならない。行かせては) ……俺がいれば、もう少し退屈せずに済むんじゃないか」

男「委員長はただ俺のやる事に言う事を眺めてたらいい! 違うっ、訂正!!」

男「お前も、お、俺たちと一緒に……慎ましく楽しくやっていこう……ダメか?」

委員長「あー はいはいっ、ありがとうございます。だけど、そういう真剣な台詞はもっと大事な時まで持ってた方がいいと思うよ?」

男「そ、そう思うかね?」

委員長「うん。だって…………そんなこと言われたら……」

委員長「…………ほ、本当に、私のとくべつになっちゃうもん……」

男(委員長、その台詞 しかと聴き届いてしまったぞ。どうしよう、どうしてこうなった、ならば)

男「(受け入れよう) だったら潔く惚れちまえッ!!」

委員長「はぁっ!?///」

男「……ほ、惚れとけば?」

母「……そ、その女の子どうしたの?」

男「……道でバッタリ、ね」

委員長「……お、お邪魔しましたぁあー!!」

男「待てって、大丈夫だ!! 母さん、この子 俺の友達で、今日ウチに泊っていくって!!」

母「泊っていくって、平日よ今!? ていうかあんた友達……」

男「密かに作ってたんだよ! とにかく上がって行ってもらうから、許してくれっ!」

委員長「や、やっぱりこんなの申し訳ないよ。突然すぎるし、家の人にも迷惑が――」

「別に良いんじゃない?」

母「あ、あんたまで……一体何の風の吹き回しなんだかっ……」

妹「さっさと上がってもらえば? 服と下着ぐらいなら私の貸すし」

母「あんたたちが良くてもこっちには準備があるの! お父さんだって何て言うか……」

妹「お父さんなら許すでしょ。お兄ちゃんに女の子の友達が~ってさ」

母「……ま、いっか」

委員長「えぇ……」

男(本当にどういう風の吹き回しだ、これは)

男(かれこれ説明すれば長くなるだろう。端折ながら言わせてもらえば、俺の口から飛び出たあの台詞に委員長はダッシュで逃げようとしたのである)

男(勿論必死に引き止めたとも。さっきのは気の迷いだ、言葉の綾だ、話をしよう、と)

委員長『聞きません! 聞きたくありませんっ、もう帰るぅー!!///』

男『どうせ自分の家に帰る気ないんだろ!? だから今日は一先ずウチに来い!!』

委員長『何バカ言ってるんですか!?』  男『マジ顔だぜ俺!?』

男『とにかくだっ、どうせ行く当て無かったんだろ。一晩よく考えてこれからどうするか決めようぜ?』

男『そう聞けば悪くない提案じゃないとかと思わないか、委員長?』

委員長『……ん』

男(で、現在に至る。家の中は突然のお客様襲来にばたばた、というわけでもなく、いたって平常運転。“アレ”のお陰で)

男「委員長はとりあえず上にあがって部屋で待ってくれないか? 正面から右が俺の部屋だ」

委員長「わ、わかった……」

妹「臭うからすぐ窓開けて換気するのオススメだよ。ファブリーズ持ってく?」

男「外野はすっ込んでろ」  妹「親切にしてあげただけじゃん?」

男「……さっきは何で母さんの説得助けたりしたんだよ」

妹「あのさ、あの人ってこの前私が見かけた人で間違いないよね」

ここまでやで

男「……」

男(そう、とありのまま返してやれば良い? だけれど喉が詰まった。妹の考えが読めず、安易に答えて大丈夫だろうか、と)

男(されども我が家では無言を肯定とみなされる。抵抗なんぞ無意味)

妹「そうだと思った。遠目から一度しか顔見てなかったけど、勘だよね」

妹「で、あんたはまた私たちに迷惑掛けようとしてるんだ?」

男「ぐぅ!? め、迷惑か判断するかは明日まで待ってからでも、遅くは」

妹「起きてからじゃ遅いじゃん? ったく、何処で拾ってきたのやら」

男(後でコイツがマミタス用のカリカリでも与えていたら、俺は泣いて抗議しよう。そうしよう)

男「……その態度じゃ、尚更お前が取った行動の意味がわからなくなる」

男「気紛れだとしてもおかしいだろ? こっちは疫病神も貧乏神も招いたつもりないけどな」

妹「あーあー! ウザいし、早く彼女のとこに行ってやんなよ。ウザいから!」

男「お前、実はまだ責任感じてたとかじゃないだろうなぁ……だったらもう」

男(もう、追求の必要はなかった。妹は携帯電話片手に足早とリビングへ入って行ってしまったのだから)

男(ツンなのか? ひょっとしてツンなのか、奴は? やっぱりたまにデレるというのか?)

男「……これが、女心、か」

男「……これから面接始まるわけでもないんだから、適当に寛いだら?」

男(部屋に入って待っていた彼女の姿にやや呆れ、短い溜息を一つ。荷物すら置かず、落ち着かない直立待機だったのだ)

委員長「わ、私! 誰かの部屋にお邪魔したのって本当に久々だったから……///」

男(それは自虐風自慢芸か。俺はあの幼馴染の家ぐらいしか記憶にないのだが)

男「遠慮しないで座れよ。場所が無いなら、勝手にその辺のゴミ除けてくれ」

委員長「男くん。も、もしかしてなんだけれど」

委員長「私、今日はここで寝るってことになるのかな……っ?」

男(室内の惨状を見てか、俺と同じ空気を吸いたくないのか、いっそストレートに突き付けてくれた方が楽に死ねる)

男「よし、気が効かなかった。飲み物でも下から持って来る」

委員長「い、いいよ無理に気遣わなくて! だって私なんだよ?」

男「委員長は自分を置物扱いにされたいのか? いいから座ってろ!」

委員長「お、男くんはどうしてこんなに親切にしてくれるのっ!!」

男(奥でつっかえていた物がようやく取れたと言わんばかり、訴えは大音声で響く。心臓がドキンッと跳ねる程に)

委員長「だって……もう十分だよね? 十分良くしてもらえた……」

男「似てるんだよ、お前って。知り合いのロリ天に」

委員長「は? 誰、それ……ろりてん……」

男「別に知らなくていいし、聞いた所で委員長には関係ないだろう。流せ」

男「飲み物要らないなら、少し俺と話すか。嫌ならー……あそこの漫画棚でも漁ればいい」

委員長「う、ううん、話そう。話したい」

男(天使ちゃんとの類似は、けして出任せじゃない。容姿とか性格がだとか、そういうチープを指摘したかったのではなくてだ)

男「まぁ、話すことなんて全然だけど。元気? 調子悪くない?」

委員長「それだったら男くんが撮った写真見せて欲しいな」

委員長「前に頂いた物見て他のにも興味があるの。ていうか、見せるって約束してくれたよね?」

男(したとも。が、他に見せられる物が現在あるのかと訊かれたら、笑うしかないのである)

男「ち、ちょっと待ってろよっ? もしかしたら机の中にあったりするかもしれん……」

男(Oh,ナッシング)

委員長「男くんどうかした?」

男「ま、待ってろ! 待ってろよ~……自信作が眠ってた覚えが……!」

男「ん! そうだよ、暗室! ……あー、委員長も着いてくる?」

委員長「え? あ、うん……」

委員長「……わぁ」

男(なんて小粋な感想を述べてもらえただけ、入れた価値はあったのやら果たして)

男(暗室内は向こうで確認した時以上に埃っぽい。だが、使用されてなかったというわけでもない。最近までの出入りの形跡が残っていた)

男「何をする部屋か委員長はわかるか?」

委員長「えっと、よくはわからない。けれど、たぶんここで写真を現像してるんだよね?」

委員長「すごい。本格的だったんだ……すごいな……」

男(生憎彼女の感動へ構っている暇ではない。というか、丁寧に色々紹介しようにも不可能だ。見栄を張るだけ、見栄を)

男(作業台へ目を移してみる。恐らく元俺が現像に手を焼いたのだろう、名も知らない何かたちが乱雑に放って置かれていた)

男(して、眠れる名写真は何処に眠る? やはり自室にあった無様極まる作品で茶を濁すべきだったのか?)

委員長「部屋にあったものは見せてくれないの?」

男「“見せられる物”じゃなきゃな! あんな物を渡されたってきっと困るだけだ!」

委員長「だけど、私にくれた写真だって自分で失敗って言ってたよね。それでも気に入れたよ」

男「例外だろ、例外! 俺だって、俺が撮ったヤツにはそれなりに誇りを持って……」

男(……変だな。たかが過去の、他人みたいな男の趣味に俺がプライドを持つなんて)

男(何となく、きっと何となくだったのかもしれない。恥ずかしかった、だなんて思ったのは)

男「あったぞ! おい、コレなら見られても文句ない!」

男(手渡した写真は、やはり変哲もない風景を収めた物である。それでも手に取った瞬間、これ、と感じ取った)

委員長「あ、ここ知ってるかも」

男「場所の確認じゃなくて、作品の感想を言う気ないのかよ」

委員長「あはは。だけど、この角度……ここの遊具なんて……」

男「近所にあった公園を写した、らしいな。人がいない時見計らったんだ。人ってオプションは不要だからな」

男「何となく寂れた雰囲気が夕暮れにマッチしてたというかな。嫌いじゃなかったんだよ、この場所」

男(……どうして一度訪れたかも怪しい公園について、ベラベラ語っているのだ、俺は)

男(ま、まさかまた未来の自分からの干渉とかでは。……いや、違う。本当に俺は写真の中にある風景を知っている)

男(その時胸の中にあった感情もだ、ハッキリと刻まれているではないか)

委員長「ふふっ、写真のことになったら急に喋るね?」

男「あ、ああ……自分でも気に入ってたし…… (思い出しかけている? 元の自分の記憶を?)」

男(バカな。後輩から渡された箱で得た記憶は、あの世界においての元俺、のみの筈だろう。現実の記憶は対価として神に支払われた後だ)

男(――――この時は知る余地もなかっただろう。後輩が俺へ覚悟を決めさせてまで渡したあの箱が)

男(“玉手箱”だったなんて)

父「あの眼鏡の女の子は友達なのか? ……ほーう」

父「しかし、初めて幼馴染ちゃん以外の友達を連れて来たと思えば女の子かぁ。お前結構モテるね? ハハハッ」

男「そんなんじゃあないって一応釘刺しとくからなっ! (委員長を風呂へ案内してすぐの事だった。帰宅した父親がビール片手に、めでたい、と俺を捕まえたのである)」

男(タイミングとしては悪くはないが、どうする。彼女の抱えた事情を説明すべきか)

男(なるべく家族には話したくはなかったとも。しかし、今後を想定すると協力も必要になると思った)

父「何も訊かないよ?」  男「え?」

父「いや、だからお父さんは何もお前から訊くつもりないよって。考えるだけ無駄だからな」

男「っ~~~……き、今日だけは。今日ぐらいは見逃してくれないかっ?」

男「本当に困ってるんだ。せめて、この後どうしようか委員長が上がったら一緒に考えてやりたい」

男「正直、俺の手じゃそろそろ限界も近くて……よ、よくわかんなくて……でも」

父「俺は大切な息子のこと見放したりしねぇよ。何も訊くつもりはない」

父「だけど、いつだって手を貸すぐらい惜しまないからね? 絶対に」ニコニコ

父「まぁ! それとこれとは別で、あの子には別に部屋貸すからスケベ心は捨てなさい!」

父「あ、あれ。お前どうしたの? お、お父さんカッコつけすぎちゃったかっ?」

男「……おれにカメラくれてありがとう……本当に、本当に……」ポロポロ

ここまでなのだ

男「もう休みたい時は教えてくれ。使ってもらう部屋案内するからな」

委員長「ほっ……」

男(声に出してまで安堵を目一杯表現してくれるな。それにしても、妹の寝巻、サイズ合っているのかコレ)

委員長「あんまりジロジロ人の体 品定めしないでくれませんかっ?」バッ

男「してねーよ、襲わねーよっ! 被害妄想すぎるだろ!」

委員長「だ、だよね……///」

男「俺はただ、妹の服とか窮屈じゃないか思っただけだ。急ごしらえにしたってアイツ結構チビだから」

妹「ううん。貸してもらえているだけ凄くありがたいよ、お礼言わないと」

男(そうは言いつつ、服の丈を気にしてみたり、ボタンを開けようにも下着のチラ見えを警戒したりと、とても腰を据えた話をする調子ではなさそうに見える)

男「苦しいならジャージ貸してやるから着替えたら? 今度はデカいかもしれんが……」

男(ふと、良からぬ想像が頭を過った。袖が余るぐらい大き目のワイシャツを貸してみたらどうなる?)

男(ここに穿き物は必要ありません。下着、あわよくば裸の上からシャツ一枚被せるのみ。完成だ)

男(シンプルかつそこはかとないエロスが誕生するであろう。シャツ下から伸びる白く眩しいおみ足は、貴方を無尽に狂わす)

男「時に委員長、あのボンテージ捨てたか?」

委員長「変態っ!」

委員長「あ、あんな物さっさとゴミに出したっ……二度と着たりしませんから」

男(勿体ない、とは腐ってもボヤいてはならない。立場を崩壊させたくなかったらな)

委員長「そんなことより、男くん。私をまたこの部屋に呼んだのって」

男「冷えるか? でも委員長、俺の部屋に居た時よりこっちの方が緊張してなかったからな」

男(再び招き入れたというのは暗室だ。ここならば隣の妹にも間違って会話を聞かれたりもしないだろう。その反面、自室以上に狭く薄暗い、密室感を漂わす空気に委員長は不安気)

男「結果、どこも変わりなかったと……で? 親と二度と話しあうつもりは?」

委員長「親って、わ、私のっ? それは……」

男「話し合いで解決すると思ってないんだろ。でもな」

委員長「気づいてると思うけど、私いつかはあそこを出て行くつもりだった」

男(居心地の悪さから解放されるため、もしくは迷惑を掛けまいという魂胆からだろう。委員長は、どちらも、と付け足した)

委員長「散々置いてもらっておいて親不幸なのは自覚してる。その気になれば、一人暮らしもできた筈なんだし」

委員長「お父さんの名誉のために言わせてもらうと、別に恨んでたりしないの。悪い事一度もされてないもん……」

男「愛してもらおうと、思ったことだってあったんじゃないか?」

委員長「……思うだけで、努力してない時点で所詮この程度だよね、私も」

男(修復不可能、彼女の話の中だけで感じられてしまった。父親の勘当も好い加減でない事も)

委員長「あの人も、人が良いよね。裏切った前妻の忘れものなんだよ? 文句一つ言わず、育ててくれたんだ」

男(違う、むしろ弱かったのではと不謹慎に考えた自分がいる)

委員長「さっき少し自分で考えみたけれど、早速明日会いに行こうと思う。それで言うの、お世話になりましたって」

委員長「そうしたら、やっと肩の荷が下りたってわかってくれると思うんだ……」

男「その時はな。でもその後の委員長を想像したら、たぶん後悔するぞ、親父さん」

男「大体、一人で何も無い状態からどう生きていくつもりなんだよ」

委員長「えっと 男くんが言った通り、親戚の家にでも行って」

男「(台詞だけ切り取れば、これで問題解決へ、と一息つきそうだろう。だが、目の前の彼女の眼は泳ぎっぱなしだった) よく考えて自分が出した決というなら、俺はもう忠言しないよ」

委員長「……ありがとうございました。何度も助けてくれたりして」

男「乗り掛かった船の何とかだろう。お礼なら昨日の無料尻ビンタで足りてる」

委員長「お、男くんって本当にそういう趣味あったのっ?」

男「あったらどうするんだ?」

委員長「え゛っ……」

委員長「……こ、この醜い変態ウジ虫め///」ボソ

男(それが精一杯のお礼のつもりか、委員長よ)

委員長「今まで普通じゃない普通じゃないとずっと思ってたら、本物だったんだよね。男くんって」

男「本物の意味が少しわかりかねるが、普通じゃないって何だ?」

委員長「言葉通りの意味だよ。悪く言えば、変、ですよね」

男(わざわざ悪化させるなよ)

委員長「だって、あんなに徹底して自分から人を避けてるのって初めて見たから……印象的なぐらいね」

委員長「もしかしたら過去に悲惨なことでもあったからとか思ってたよ。ただの厨二病だったみたいだけど」

男「付け足しで貶して行くスタイルはどうにもならないのか!?」

男「……ふん、俺にだってワケの一つや二つある。勝手にキャラ付けするなよ」

委員長「じゃあせっかくだし、聞かせてくれませんか?」

男「絶対バカにしないと約束しろよ、いいなっ? そ、それで良いなら話さなくもない……」

男(コクリと頷いた委員長を確認し、いざ昔語りを始めようにもこれが中々難しい)

男(というのも、自分の情けない過去を教える事の滑稽なこと。されども聴衆の期待値は下がらぬ一方よ)

男「……昔、好きだった女子から放課後に来てという内容のラブレターを貰った少年Aがいた、らしい」

男(少年がこれまで友達と呼べる相手は近所に住む女の幼馴染一人だけだった。元々ぼっちの気質はあったのだろうか、他に遊ぶ相手は皆無だ)

男(運命は残酷にも、幼馴染は共に中学へ上がると同時期に他県へ引っ越してしまった。ぼっち伝説の始まりである)

男(ぼっちとはいえ、まだ希望はあった。ある意味厄介な悪霊が消え、再スタートを切れたのだから)

男(幸い、中学へ上がっても顔見知りは多かった。心を一新させ、隣の席のなんとかくんとでも仲良くなろうじゃないか)

男(初めこそ慣れはしなかったものの、少年はクラスでの話相手を得られたという。いつもグループの輪に加わり、談笑は絶えなかったに違いない)

男(グループは時期が経つと、人が増え出し、その中には知らない顔もあった。たぶん学区の違った連中だろう)

男(少年は楽しかった筈だ。呪いみたいな幼馴染と決別できて、ようやく得られたバカをできる友人たち。何か突飛する所もない、されど平和な日常を送る少年Aだった)

男(新たなメンバーを加えたグループは、以前にも増し笑いが絶えなくなったらしい。随分なお調子者たちが来たからな、良い意味でも悪い意味でも)

男(そんなある日のことだった。そいつが言い出すのだ、「ゲームをしよう」と)

男(簡単な球遊びである。バスケットボールを3ポイント内からリングへ入れるのだ。先にシュートを入れた者から抜けて行くという形で)

男(しかし、それでは面白くないと一人が、罰、を考案し始めたという)

男(「最後までシュートが決まらなかった奴は、好きな女子の名前を教える」。ありきたりと言えばありきたり、だが 少年Aは内心穏やかではなかった)

男(少年は大の運動オンチだ、十本投げて一本入るかも怪しいレベルで酷い。……結果、やはり罰ゲームは彼へ下された)

男(彼は周りへ急かされ様と意固地になって口を割らなかった。だが、最後に一人が指摘した。「お前の好きな子はアイツだろう?」)

男(少年Aが恋心を寄せた少女は、男子へも気軽に声を掛けては笑顔を見せるとても明るく活発だったらしい。それは少年も例外ではなかった)

男(彼女の気さくな態度や笑顔に惹かれ、気づけばいつも目で追っていた。話しかけられたら緊張しつつも、歓喜していた)

男(友人の指摘に、図星だと言わんばかりに少年は黙り込んでしまった。「確定だ!」。否定しようにも、遅かった)

男(あくる日、登校して来た少年は自分の下駄箱の中に手紙を見つけたらしい)

男(差出人を確認して彼はさぞ驚いたらしいな。相手は少年の思い人の女子だったのだから)

男(手紙にはこう書かれてあった。『放課後に一人で空き教室に来てほしい。大切な話をしたい』)

男(教室へ着いてからも胸の高鳴りは収まらない。しかもその女子と顔が合った瞬間、意味深な顔されてしまった。これは決まりだ)

男(僕はラブレターを貰ってしまった、両思いだったなんて、まさかこんな日が来てしまうとは。少年の頭の中は青春謳歌真っ最中だったかもしれない)

男(今日ばかりは友人たちと語らっている場合じゃない。放課後になり、彼は悟られないよう彼女の待つ場所へ向かう)

男(いた。確かにその女子は、誰かをそこで一人待っていた。その相手は? 覚悟は決まっていた)

男(「急に呼び出してどうしたの?」。そして、少女は逸る気持ちを隠せない彼へ、いや、彼らへ言ったのだ)

『マジで引っ掛かった~~~!!』

男(訳も分からず放心していた少年の周りには、何処から沸いたか、グループの友人たち、そして数人の女子が囲んだらしい)

男(皆、顔を悪戯にニヤつかせ思い思いに少年Aをコケにし、嘲笑った。正気へ戻った時に最初へ映ったのは少女の笑顔だ)

男(思えば、彼らも少年へ本当に嫌がらせるつもりはなかったのかもしれない。それが残酷とは考え切れないまだ幼い心が齎す単なる悪戯だった、と)

男(少年Aを中心とした笑いは絶えなかった。『お前が告白されるわけないだろ』、『勘違いとか可愛い』、『一日中浮かれてたもんね』。これ以上聴きたくない)

男(自分が惨めで情けなくて、耳を塞ぎたくなった。あれだけ心地良かった友人の声すら、今は自分を鋭く突き刺すのだ)

『私べつにあんたのこと、そういう風に思ってなかったよ~』

男(それから三日は学校へも行かず、仮病を使って部屋に閉じ籠ったかもしれない。あの日のショックが晴れなかった)

男(心配した友人たちも電話を寄越してみたり、家にまで謝りに来たらしいが、一切合切 会おうとしなかったらしい)

男(疑心。友情以上に勝っていたのは、自分を裏切ったアイツらの事だ、まだ何か裏がある、という疑いだったのだ)

男(きっとあの時の罰ゲームも自分が下手糞なのを前提に、嵌めようとしていたに違いない。笑い者にする為に)

男(どうしようもない程に悔しくて堪らずにいた少年A。人を信じることを恐れるようになってしまった少年A)

男(学校へ登校して来た日には、それはもう人気者のように囲まれ、あの時の彼らから謝罪された。一人一人が懸命に)

男(しかし、少年はその声へ耳を貸すことはなかったそうな)

男(気を許して今度こそ打ちのめされる思いをしたくはない。もう十分だ、笑い者にされるのは嫌だ。二度と裏切られたくない)

男(少年は自分の机に突っ伏し、寝た。言葉すら交したくない。俺の周りから失せろ、モブ)

男(……謝罪は数日に渡って続いた。だが、来たところで少年は関心を示すどころか、無視を決め込んだままだった)

男(もはや彼に届く声はなかったのだろう。その内、一人が呆れ、それに連れまた一人と少年を離れていく)

男(気が付くと少年Aは一人ぼっちになっていた。いや、念願が叶っていた)

『お前ら、俺を放って置いてくれ』

『関わりなんて二度と御免だ』

『あの時はごめんよ』  『え? 何だって?』

委員長「――――これでよし、と」

男「何が?」  委員長「わあああぁぁー!?」

委員長「って、何だ 男くん……こんな時間に起きてどうしたの。まだ朝早いのに」

男「それはこっちの台詞でもある。年寄り並みに早起きだな、委員長って」

男(新聞配達屋が駆け回る時間、恐らくと物音を探りに来てみれば、制服へ着替えた委員長が玄関へ立っていたのである)

男(昨夜はよく眠れなかったと、眠たげに瞼を擦る姿から察せられる。俺もだ、一睡もしていない)

男「早朝ランニング、って様子でもなさそうだな」

委員長「あの、家族の人たちにはまたお礼を言いに来るから……」

委員長「ほ、ほら! 学校行くにも色々まだウチに教科書置いてたりするし。取りに戻らないと」

男「じゃあ結構な荷物になるだろ。俺も手伝うとしようじゃないか」

委員長「手伝う!? いいのいいのっ、私一人で!」

男「委員長だけじゃシンドイに決まってるだろ。それに、ここに運ぶなら俺で越した事もないしな」

委員長「ち、ちょっと待ってっ!?」

男「さ、こっちはいつでも出られるぞ。行かないのか?」

男(悪いな。プライバシーにまでは土足で踏み込まないとだけ約束しようじゃないか)

男(強行してまで、という気持ちが俺にあったのは確かだ。それでも委員長はあれ以上断らず同行を許してくれていた)

男「(否、許したわけではないだろう。コレは諦めの範疇だ。証拠に、先程から一言も話さず、こちらを見ようとしていない) 朝だとやけに冷えるな……そういえば明日、雨なんだと」

委員長「……」

男「明日の天気なんか心配するのも変か。ピクニックがあるわけじゃなし」

男「それにしても腹空いたなぁ、寝足りない気もするし。委員長もなんだろ?」

委員長「……男くん、昨日は嫌なこと思い出させちゃってごめんね」

男「笑われなかっただけ話して良かったと思ってるんだけどな、俺は」

委員長「笑わないよ。当時の君からしたら、きっと深刻でしたもん」

男(俺としては委員長の過去が先行だったお陰で、大して重ったるくも感じられなかったが)

男(あの程度で俺は、と振り返ってみるたびに顔が火炎放射機となる。結局、誰よりも悲劇のヒロインを気取っていたのは自分自身だったのだ)

男(それだけで世界に失望し、周りを疑い、敵視して生きて来た。全てお前らのせいだと。温室育ちにも程があるではないか、俺よ)

男「傷の舐め合いだけは勘弁だからな? 終わった事だぞ」

委員長「強いんだね、男くんは。だからあの頃と違う自分に変われているんだ」

委員長「あーあ、私も今の自分から変わりたいなぁー……なんて、えへへ///」

男「……そうだな」

ここままままままで

男(こうして委員長の傍を歩けているのは、俺の努力の賜物と自惚れて良いだろうか)

男(一時は精神的に追い込む手段を取って、険悪濃厚確実であったが、あの夜の出来事を越えて急接近である)

男(計画は完璧に遂行されているかと問われたら、七割は、と弱気に答えるが)

男(現実は厳しい、小説より奇なり、非情である。……痛感)

委員長「ちょっぴりだけ弱音吐きたいんだけど、聞いてくれますか」

男(会話も無くなったその不意を突くか如く、委員長は言うのだ。いつのまにか俺たちは団地へ辿りついていたのである)

男(以前にも訪れた光景じゃないか。あの時は天使ちゃんがいたが)

男「……再現率高かったっていうか、そのまんまだったとは」

委員長「なに?」

男「いいや、気にするな。無意識に話の腰折ってすまん」

委員長「しゃ、喋って大丈夫かな? ……あ、やっぱりいいや」

委員長「ここまで来て怖がってもバカらしいもん。弱音なんて吐いたら返って引き返したくなる」

男(その様に自分へ言い聞かせる様にした彼女の声は、震えているのだ。パターンだ、励ましは逆効果となるかもしれん)

男「……冷えるなぁ」サスサス

委員長「……寒いねぇ」

委員長「到着です。これが私の住んでいた所、の前」

男「あー、ここが委員長の家なのかー、へー」

男(棒読み具合は華麗にスルーされ、躊躇なく彼女はチャイムを押す。中から出てくるのは鬼か昂る親父か、まさかな)

委員長「男くんは外で待っててくれる?」

男「当たり前だ。俺だって一家のマジ話に顔出すつもりはないし」

男(階段を下り、小さな踊り場の壁に背中を預け腕を組んで待機。男はハードボイルドに染まれ、コレ父の教え)

男(こういう展開上、主人公ならば親の説得を試みるのだろう。委員長父へ「考え直せ」と熱い感情論を吠えるのだ)

男(流行りのダウナー系ならば? ええい、知るか。俺の場合は下手な茶々を入れない)

男「委員長、親父さん出てこないのか?」

委員長「うん。ひょっとしたら外に泊っていたりするかも……」

男(到着時点で合鍵を取り出さなかったという事は、委員長はそこの家主にとってお客様へ変わったわけだ。有無を言わさず、この仕打ちだったとは)

男「どうする? 出直しても良いと俺は思うが」

委員長「い、いつまでも他所の家に迷惑掛けてられないよ! すぐ帰ってくるかもしれない!」

委員長「私もう少しだけ粘ってみるから、男くんは帰っ――――」

男(途端、ガチャリ、と恐る恐るな音が階に響いたのである)

男・委員長「……」

男(黙って頷いた俺を一瞥し、委員長は不安混じりにドアノブへゆっくり手を掛けた、が)

委員長「あ、あれ? あれっ?」

男(混乱気味に何度も開放を試みるも、戸は開かないのだ。あの音は確かにその部屋から鳴ったのに)

男(次第に、委員長は手の動きを休めていき ドアノブを離してしまった。意味を、察してしまったのである)

委員長「……行こっか。ごめんね」

男(そんな委員長を他所に、俺は憤りというか、心苦しさみたいな曖昧な感覚に頭部を殴られた気がしていた)

男(信じられるか? 健気な文学少女がこれ程まで悲しみを背負わされて納得か、神よ。この俺と比べて理不尽じゃないか)

男「せめて……荷物だけでも取りに戻っていいか尋ねてみないか」

委員長「もういいの。あんまり騒いだらご近所さんに怒られると思うしね」

男「だ、だけどだなぁ!?」

委員長「本当にいいのっ……!」

男(良いわけがなかろう。黙って引き返してみろ、物語でなくとも委員長の先に明るい未来が待つと考えられん)

男(空いた穴を埋めるのだって、第三者が出来る事はたかが知れているのだ。非常にマズいぞ、これは)

男「か、変われ!! 俺が説得するッ!!」

委員長「え!? や、やめて! これ以上おかしな真似しないで!」

男「こんな状態のまま引き下がって委員長は本気で納得できるのか!?」

委員長「いいって言ってるでしょ! お節介だよっ、邪魔しないで!」

男「勘違いするんじゃない!! 俺は、荷物を取りに戻らせてくれるか訊くだけだ」

委員長「それがお節介ってどうしてわかってもらえないの!?」

男「だって勿体ないだろ……せっかく入った高校止めちまうのか、お前……」

男「奨学金でもナマポでも、頂きながらでも、食らいついたままいろって……きっと後悔するぞ」

委員長「うっ……」

男(恐らく委員長は退学も視野に入れていたのだろう。自分から何もかもを奪うつもりだ)

男(捨て身というかヤケクソだったのか、昨日からの彼女は不思議に明るく振舞おうとする。気掛かりで仕方なかった)

男(最後には、己の身体一つも投げ捨てる。その気がやはりあるのでは、と)

男「幸せになって小さな頃の自分を見返させてやるじゃなかったのか? え?」

男「真剣に聞いてやったのに、ふざけてたとか抜かすなよ。お前」

委員長「……」

男(成功だ、委員長は黙らせた。置物となった彼女を背後へ除けさせると、ドアを数回ノックして返事を待った)

男「ふむ、返事なんて期待できないか」

男(では、幼い頃に幼馴染と共に鍛え上げた『連続ピンポンファイア』をお見舞いしよう。この技でキレた年寄りを玄関へ召喚したのは数知れず)

男(なんて、悪い顔させ指をチャイムへ近づけた瞬間であった。ガチャ、って、戸が、ね)

「……一通り袋へ詰めておいたから」

男(戸が半端に開かれ、ヌッと現れた腕が玄関外へ次々と荷物を置き出したのだ)

男(その光景に茫然としていたが、ハッと気づき、足を戸の間へ差し込んでみた。手が、止まる)

「……聞いていたよ。用はこれだけなんだろう」

男「話をしましょう」

「悪いけれど、そのつもりは無いんだ。帰ってくれないかな?」

男「では、一言だけ許して頂けませんか」

男(背後で待機させておいた委員長を引っ張り、戸の隙間へ近付けさせた。動揺しっぱなしの委員長である)

委員長「……お、お父さん?」

「お父さん、じゃないだろう? ダメじゃないか。そんな呼び方しちゃあ」

男(思っていたよりも彼女の父は冷静になれていた。普段がどの様な人物かは知らないが)

委員長「お……お、おせわに……っ…………」

「なぁ、もうやめてくれないかい? 今日はせっかく休日なんだから」

男「彼女は学校があります。時間を割いて会いに来ていますよ、恩着せがましいですけど」

「まだ寝ていたいんだよ……寝かせてくれ……」

男(それが本心かどうかだが、娘に対して無関心を装うには痛切すぎる。哀れだ)

男「委員長さん、今は俺の家に住んでもらっているんですが」

「頼むよ、そろそろ帰ってくれ。二人とも学校があるんだろう。さぁ、帰りなさい」

男「このまま一人立ちできるまでの間、しばらく継続という形で問題ありませんか?」

「はぁ」  委員長「はぁ!?」

委員長「お、おお、おかしいですよ今のは!? 急に何を言い出してっ」

男「高校を卒業するまでの間だけだって。勿論、自分のことは自分でしっかりやって貰うが。バイトなんかも」

委員長「そうじゃなくて!! 家族だって何て言うかわからないじゃない!?」

男「いや、ダメ元で昨日父親に相談してみたらさっき話した条件出された」

委員長「はぁ!!? 意味不明っ、意味不明っ意味不明っ!!」

男「母さんと妹が二つ返事で許可するとは思わないが、俺からも今日交渉してみるつもりでいる」

男(どうせ一人分空きが出来るわけだ、我が家は)

「君は随分浅はかな考えでその子を引き取ろうとしているね。苦労するのは親御さんだよ」

男「承知の上で頼みました。俺も努力の限りを尽くしましょう」

「私にはわからないなぁ……どうしてだい? 彼氏なの?」

男「って思っちゃうでしょう? これがビックリ、何でもないんですねぇ」

男「でも、あなただって俺と同じことをうん十年続けてた筈です。違いますか?」

「…………」

男「だから一言だけ、元娘さんから受け取って頂けませんか」

委員長「ち、ちょっと、こんな状態で私が言えることなんて……!」

男「あるから来たんだろうが、バカ野郎」

委員長「あ、あ……あへ……」

男(怒涛の展開ラッシュに頭から煙を上げていそうな委員長は、フラフラと、眉間に手を当てて蹲る。やはりサプライズは大事にしないとな)

委員長「……お父さん、今日まで本当にお世話になりました。あなたのお陰です」

委員長「本当に、お疲れさまでした……」

「…………」

委員長「……行こう、男くん」

ここまでなのお

神「面を上げなさい。この期に及んで私へ忠誠を誓うフリなど愚かしいです」

後輩「……お久しぶりです、主さま」

神「信じて送り出す以前とは、すっかり別物に変わっていますねぇ。これを成長と呼ぼうか、退化と名付けようか迷います」

後輩「お叱りで済ませられると思っていません。覚悟の上で戻って参りました」

神「そうですね。誰もこの神からは逃れられません^^」

後輩「……な、何なりと罰をお申し付けくださいませ、主さま」

神「心意気や良しなのです」

神「お前は、今日ようやく自発的に私へ罪を告白しました。包み隠すこともなく、立派です^^」ナデェ…

後輩「っ~……!!」ガクガク

神「いやはや、それにしても何故今だったのでしょう?」

神「役目を終え次第、お前のお楽しみが幕引きするまではノータッチという神の厚意を察せられなかったと? うふふ」

後輩「ぞ、存じ上げていました」

後輩(視点を改めてみると、明日死刑を待つ囚人へ情けのご馳走を与えられる。私にはそんな気もしていた)

後輩(だけれど、今 このお方の目前へ現れたのは、けして恐怖から焦燥感に駆られたというわけではない)

後輩「……どうか私の“役目”を取り上げて頂けませんか?」

後輩「それが当然の処置、かと。私は使いとしての自分を見失っています。今も尚です」

後輩「この状態のままの私を見逃し、暴走を繰り返すようであれば“彼のもしも”に触りかねません」

神「もしも ですか」

後輩「その後の罰に関しては甘んじて受け入れます。たとえ、使いの立場を剥奪されようとも」

神「あらら、自分が言った言葉の意味を理解していますか?」

後輩「み……未練はありません。ご検討お願いします、主」

神「いけませんね。この神には何もかもがお見通しなのですよ^^」

後輩「!!」

神「今の任を降ろされたいと考えているのは、あの猿めの為でしょう? 自分が消えることで、と」

神「お前は無から人へ近付いてしまうどころか、無の者としての禁忌へ触れてしまいましたね。深淵へ堕ちたのです」

神「おお、なんと冒涜的ことか……お前は彼へ“箱”を渡してしまった。その企みは明らかですよ」

後輩(……私が先輩へしでかしたのは、主への反逆に等しい。つい、つい でだ、意思を背いてしまった)

神「そんな愚か者へ罰を言い渡す。逃がしませんよ。引き続き 任を継続させましょう……^^」

神「良き夢に包まれながら、文字通り生き地獄を味わうのです――――」

後輩「――――……?」

後輩(理解が追い付く前に私の体の一部へ触れられたと思えば、何も起きて、いない)

後輩(瞼を開いて主を見上げても、ただいつもの様に満面の笑みで佇んでいるんです)

神「対価を二つほど頂戴しましたよ。以上なのです」

後輩「ま、待ってください! そこまでして私を彼の元へ置いたままにする意味があるのでしょうか!」

神「監視が使えない現状では致し方ないと思わぬのですか?」

後輩「おそらく ご期待に添えそうにありませんので……っ」

神「隠すつもりもないのですね。良いのです、全ては神の掌の上^^」

後輩(よ、読めない。それよりさっき対価を二つと聞いたけど、対価?)

神「さて、いよいよ彼が目覚める時も近いですよ。同時に この虚構の舞台も動き始めるでしょう」

神「待ちかねたフィナーレを進めるべくしてね^^」

男「スヤァ……」

後輩「せ、先輩……」

神「そっとしてあげなさい。彼は今 生きているのですよ」

神「鈍感な故に気が付けなかった優しい己の世界を」

男(あれから自宅へ戻り、委員長とは時間をずらして教室へ到着すれば、俺の机の周りが臭う。というより俺の机が)

男「流石にこの手で来るとは思わなんだ」

男「(早速 近くを通りかかった者が、わざとらしく大声で「臭ェ!!」と喚きにやって来る。同感) これでコッソリすかしっ屁漏れてもカバー効くじゃねーか!」

「うわぁ……」  「開き直って無理してるな」

男(気にせず座れど臭う物は臭う。周りもこちらへ一瞥くれてはヒソヒソと囁く始末。なるほど、二重の意味で鼻つまみ者か)

男(委員長には事前に、何があっても俺へ近寄るなと念押ししておいた。憐れむ眼差しまで止めなかったのが逆に痛い)

委員長「……」ソワソワ

男(あまり眺めてもらっても気持ち良くないのだが。顎で、サインを送ろうと沈痛な面持ちで凝視なのである)

男「なんとなく居心地悪いし、散歩でもしてくるか~」

「とか言って絶対便所逃げるんだぜ」  「お昼はついに便所飯だよ!」

男(あの異臭に包まれて昼食を取るぐらいなら、確かに便所飯も一理ある。思い出作りに一度ぐらいなら)

男(そんなことを思いつつ、罵詈雑言を背中に受けて教室を出てみた)

キモオタ「なぁ? 実際気分良いもんじゃなかっただろう?」

男「いやぁ、特には」

キモオタ「強がったって僕にはわかる。だって心の友だもの。わかるわかるさ!」

キモオタ「特にね、男の場合はクラス全員が敵だ。いつか壊れちゃうぜぇ?」

男(微妙に嫌らしげにニヤつく所さえなければ、一応心配のつもりなのだろう)

男(俺は、手を尽くすだけやり切った。残りの時間は消化試合みたいなものである。気長にタイムアップを待てば良い)

男(そう思うと、ようやく友人らしい友人と呼べるキモオタの出会いも、何だか尊い思い出に)

キモオタ「いひひっ、いま僕のことウザいって思っただろ! 心繋がってんだからなぁ!」

男「切り離したいんだけど、どうしたら助かるんだ?」

男(振り返れば道中、色々あったかもしれん。印象が変わった人もいた。美少女のオリジナルにチョイスされるだけある濃いキャラたちとの出会いも)

男(ああ、家族もそうだな。俺を取り巻く環境も決して悪い物ばかりではないと感じた瞬間もあった)

男(世界は俺一人残し、全てモブキャラで埋め尽くされている。そんなニヒルにとり憑かれていた時期が、俺にもありました)

男(とりあえず 絶望って何だっけ?)

キモオタ「そうだ、噂になってた例の転校生。もう直 隣のクラスに来るみたい」

男「あ、アイツか…っ」  キモオタ「ふぇぇ?」

キモオタ「ていうか帰国子女だよぉ? たぶんビッチだけど期待もしちゃうよぉ……」

男「だったら見てガッカリするだろうな。お疲れさん」

キモオタ「ふぇぇ……って、何で知ってるし」

男「それにしても隣のクラスにだったか。当然と言っちゃ当然なんだろうが、ふむ」

キモオタ「何で知ってんのか僕ァ訊いてんだよ! ウォイ!」

男「……そいつ、俺の幼馴染だったんだ。いつの間にかイギリスに飛んでた」

キモオタ「わぁ、うわぁ」

キモオタ「昔からの仲が良かった幼馴染。いつかは結婚しようと誓い合った。突然! 運命が二人を裂くッ!」

キモオタ「悲しい別れがあった! 主人公と幼馴染は別れ際に『また会おう』と切ない口づけを交す……数年後、二人は出会いを果たした」

男「っ~……」

キモオタ「そこに純粋純白の彼女はいなかった! 再会した幼馴染は何処ぞの馬の骨の色に染められ、あの頃の影はない!」

キモオタ「NTRだったのだッ!! 幼馴染は始めは抵抗したんだ……だが、名状しがたき ぶっといナニ が理不尽にも彼女を穢す」

男「っ~~~……!」

キモオタ「犯されながら幼馴染は思った……『私にはあの人しかいなかった、それなのに』……『世界を知ってしまったわ』、と……すなわち」

キモオタ「NTRだったのだッ!!」  男「お前ぶっ飛ばすぞッ!!」

男「今更再会したところで何も沸き立つ感情ねーよ! むしろ悪夢の再来なんだが!」

キモオタ「なんだよぅ」

男(……しかし、これで完璧に決定が下るな。“転校生”は作られた存在だと)

委員長「会わせたい人がいるの? 私に?」

男「出来れば俺は居合わせたくないんだが、難しいか」

委員長「あ、当たり前でしょ。私 これでも人見知り激しい方だし、それを二人きりだなんて!///」

男(そこはかとない委員長ギャグはスルー。放課後、俺から急に彼女へこの話題を振ってみたのである)

男(裏を掻いて委員長父の召喚というつもりではない。アレはアレで決着の形は着いた、筈だろう)

男「とにかく会うだけ会って話してみないか? 無理強いはしないが」

委員長「……会って、どうするの? 話すことある?」

男「……さぁ」

委員長「な、何ですかそれっ! あー、怖いから学校戻って図書室行きます」

男「取って食われたりしないから大丈夫だって! 大体その心配するの俺だからなっ!」

委員長「はぁ……?」

男「とにかく行ってみようぜ。向こうには先に連絡しておいたんだ、待ってるぞ」

男(半ば強引に連れ出してみたは良いが、第一に相性が気になる。委員長の気質上 俺の二の舞も有り得るところ。その時であった)

不良女「よぉー、元気してんじゃん」ヘラヘラ

委員長「ひっ!?」

男「ふ、不良女、さんか。随分機嫌良さそうだけど謹慎期間楽しんでそうな」

不良女「あぁ? 全然に決まってんだろ。暇してんの。遊ぶ行く? 連れ回すゾ」

男「ひえぇ……あれ、委員長」

男(不良女へ小さい悲鳴を上げてからすっかり大人しいと思いきや、明後日の方向を向いて知らんぷり)

男(その気持ちは分からなくもない。彼女が不良女を知っていてもおかしくはないのだから。実際に会ったかは不明だが)

不良女「ていうか先にカノジョ連れ回してんのかよ、お前。やるじゃ~ん♪」

男「誤解だって、この子はそういうのじゃない (ここで顔を見られるのはマズいだろうか)」

男(だが、誤魔化しようもなさそうだ。不良女は委員長の顔を知っている。あの件について言及されたくはないぞ)

不良女「それより何でずっと黙ってあっち向いてるわけ? 態度悪ィだろ」ガシッ

委員長「うっ!? ……ご、ごめんなさい。ごめんなさいっ」

不良女「あー、そう来ちゃうか」

男(止める前には既に遅かった。委員長は、無理矢理 肩を掴まれて顔を覗きこまれてしまったのである)

男「……もう良いだろ? 顔を合わせられない理由があったんだ」

男「不良女さんだって知らない筈がないよな。委員長は――――」

不良女「ごめんね」  男「えっ」

不良女「えっ、てお前に言ったんじゃねーよ。勘違いすんなバカ」

不良女「……ねぇ、あたしおっかない? 当たり前か。可哀想なことさせてたんだもん」

委員長「うっ……」

不良女「名前 委員長ちゃんって言うんだよね。コイツから色々世話させられたからサ、あんた絡みの」

男(あ、この流れ少し危ない。誰がだと? そりゃあこの流れならば)

不良女「こんな冴えない奴なんだけどねぇ、委員長ちゃんの事になったら必死になってやんの! もうあたしドン引き! ギャハハッ」

不良女「くくっ……コイツ、委員長ちゃんが大好きなんだってヨ」

委員長「……ひぇ?///」

男(ああああああああああぁぁぁーーーッ、ああああああああああぁぁぁーーーッ!!)

不良女「なーんかあの時は妙に説得力あったんだよなぁ。そしたら あたしだって協力してやりたくなるじゃん?」

不良女「だけどサ、結局委員長ちゃん危ない目に合わせてたのって こっちの責任でもあるわけ!」

男「ち、違うだろ。不良女さんは直接は関与して」  不良女「引っ込めやタコ」

不良女「だから ごめん、委員長ちゃん。今となって体の良いのはわかり切ってるけど、それでも、ね?」

男(そう言った不良女は何という事でしょう斜め45度に頭を下げて意思表示を、とか実況してる場合じゃないんだよ俺は)

委員長「あわわわ……///」

ここまでございます

男(悪意無き悪意を運命染みて感じざるを得ない。不良女、お前が核弾頭に化けるとは予想外すぎる)

男(どうする? 激流に逆らいあの日の告白を否定すれば確実によろしくない展開に運ぶ。ならば、否定も肯定もしなければ良いのか)

男「(まずは不良女へ全力で注意を注がせる) 委員長、どうだ?」

委員長「は、えっ! なな、何が!///」

男「見ての通りだよ。本当の事を話せば、不良女さんは立場上けして悪くはない」

男「それでも、こうやって頭を下げてるんだ」

不良女「余計な口出してんじゃねーよ……アイツらにも、いつか謝らせるからさ」

不良女「だから今だけはあたし一人分で勘弁して貰えないかな、委員長ちゃん」

委員長「そんな……私、もう気にしてないし。ていうか、私の責任でもありましたから」

不良女「あ? ダメだなそれ。いい? 適当な奴らに振り回されてんじゃねぇ!」

不良女「そんな風に自分を落としたって良い事ねーんだよ、委員長ちゃん」

男(実に人情深い任侠者だ、場の空気は真剣そのもの。お陰で前口上の印象が掻き消せている)

男(しかし、委員長は後で俺に尋ねるのだろうな。あの話は事実か、と。……そこでラノベ主人公を俺は見習う。なあなあに済ませてしまうのだよ)

男(それはさて置き、物思いにふける俺を残してイベントはクライマックスへ。この辺りで お涙ちょうだいだ)

委員長「わ、私と握手しませんかっ!?」

不良女「……うぇ?」

委員長「あなたの反省にどう応えていいかわからないけれど、そ、それで丸く収まるかなと!」

不良女「いやぁー、握手とかは恥ずいんですケド」  委員長「あ、あれ?」

男(この場面で快く乗っかってやれんのか、この女)

不良女「でも、あんた良い子そうだねぇ。コレが惚れるのも仕方ないわー。うんうん!」

男「バカな。ラストで一周回してきやがった……」

男(更に、相も変わらずヘラヘラと不良女は俺の肩へ手を回し、残酷な耳打ちをした)

不良女「アフターサービス的な? してやったから。ほら 感謝して」

男「は? あ、ああ、はい、ですね……」

不良女「あたしスゲー良い人じゃんな! 恩人だよぉ。そしたらサ」

不良女「お前は心置きなく、あたしに貢げるワケだなぁ~……」

男(前言撤回、このアマに人情の欠片を見出しそうになった俺がバカでした)

不良女「それじゃあ委員長ちゃん あたし帰るから! 邪魔してごめんねー!」

委員長「ふふ……人って見かけによりませんよね、男くん!」

男「ソウカモネ (知らぬが仏)」

委員長「男くんの言ってた会わせたい人って、不良女さんのことだったんじゃないよね?」

男「アレは向こうから勝手に近づいて来ただけだから。通り魔と同じ (ひょっとしたら二番手の方が厄介かもしれない)」

男「着いたぞ。この辺りで待ち合わせているんだが……」

委員長「えっと、先にどんな人が来るか聞かせてもらって大丈夫?」

男(どんなと詳細を求められると苦しい。俺視点だと長所以上に短所ばかり目がいってしまうものでしてな)

幼馴染「ああっ、もう着いてたんだ。男く~ん♪」

男「ゲェーッ!!」  委員長「え、何その反応!?」

幼馴染「えへっ、ごめんごめん。ブラブラ街並みの変わり様眺めてたら遅れちゃって」

幼馴染「うふふ! やっと学校行けるよ~。お父さんが引っ越し急かしたせいであたしの予定が……で、誰? その子」

男(その表情は彼女の病みが見え隠れ、してはいない。まだ息を抜ける気しないけれど)

男「お、幼馴染。紹介するよ、こちらクラスメイトの委員長だ」

委員長「……えっ!? あっ、よ、宜しくお願いします!?」

幼馴染「よろしく。……男くんの彼女とかなの?」

委員長「ぜんぜん違いますっ!!///」

男(かならず一度は冷やかされると予測していたが、手が早い、不良女レベルのお手付きと来た。して、委員長 隣から感じるその視線の意味は何だ)

幼馴染「えぇ~っ、まさか未だに彼女一人も作ってなかったりする?」

男(作ったとも、合計四人の前科持ちである。聞いて驚け、その中には美少女化したお前がいる)

男「(なんて自慢気に話せば、イっちゃった人扱いは避けられまい) お、お前には関係ないだろ」

幼馴染「彼女いないなら、あたしが男くんその気にさせちゃおっかな~? ふふーん♪」

委員長「……」

男(真顔の俺に気づいておくれ、ピュア委員長)

幼馴染「あははっ、冗談だよ! それで今日はどんな用?」

委員長「お邪魔なら私消えますけど……」

男(何よこの子。拗ねてるの? 早速なの? やはり意識されているか)

男「幼馴染、お前を呼んだのは他でもない。そのまんま この委員長を紹介したかったんだ」

委員長「えっ」

男「えっ、て事はないだろ? 最初に俺から説明したんだから」

幼馴染「あたしもよく分かんないんだけどー……」

男「なーに、単なるお節介だよ。幼馴染は近々ウチの高校に来るだろ? 話し相手作りで手間取らないようにさ」

男(二人は同時にキョトンだ。だが、苦し紛れなりの理由付けは完璧)

委員長「お、男くん? 幼馴染さんはたぶん隣のクラスに宛がわれるんじゃないかな」

男「知ってるぞ。だけど、久しぶりに日本に戻って来て幼馴染も不慣れしてるだろう?」

男「いくら隣のクラスの奴とはいえ、仲が良い相手がいる分に越したことはないんじゃないかってな!」

幼馴染「……男くんって、性格変わった?」

男「え? 何だって?」

委員長「あの、そんな事しなくたって幼馴染さんなら 同じクラスの良い人たちと仲良くなれるんじゃ」

男「絶対とは言い切れないだろ。帰国子女という点から、周りが奇異の目に晒されるのは必至だ」

男「ナイーブな幼馴染のことだ、疲労は溜まる……そんな時に支えてやれるのが、俺たちじゃないか?」

男(人を思いやれる優しい青年と好印象を持たれて罰は当たらない。恩着せがましい? 正にその通りだ)

幼馴染「……う~ん、そうだね! せっかく紹介してもらったんだもん」

幼馴染「これから色々お世話なるかもだけど、改めてよろしく! 委員長さんっ!」

男(察したかも不明だが、幼馴染はにこやかに委員長の手を取ると、ハグしてしまった。幼馴染流常套手段である)

男(委員長も困惑しながらでも、満更でなさそうじゃないか。そんな中、彼女は俺へ一瞬 余所見をした)

委員長「……ほんとにお節介」

男(ほう、どういたしましてってな)

男(実際、幼馴染を委員長へ接触させて間違いはないと考えてはいた。この俺が永眠の間、幼馴染なら、と)

男(幼馴染は人当たりだけは悪くはない。突っ走ると止まらないのが難点ではあるが、俺という幼馴染の観点から見れば、人を第一印象で判断しないことだけは保障できる)

男(これから委員長の学生生活は忙しくなるのだろうか。難儀するな)

男「それじゃあ、俺は大事な用があるから一抜けさせてもらうよ」

委員長「えっ!? そ、それは聞いてないんだけどっ」

幼馴染「そうだよー。男くん暇でしょ? もう少し遊んでもいいじゃん」

男「悪かったって、埋め合わせは今度するから。どうしても行かなきゃダメなんだよ」

男(直に父が家に帰って来る。母と妹へも日暮れ時には家に居てくれと今朝頼んでおいた)

男「じゃあ委員長、あとは任せた。存分にゆっくりしてくれば良い」

委員長「……本当に今日も、その、家に寄らなきゃダメなんですか」

男「そうだな、嫌なら嫌と突っぱねてくれ。俺も嫌がる委員長を無理に迎えたくないしな」

男「だけど、遠慮は要らないからな。それだけは肝に銘じてくれないか」

委員長「……」

幼馴染「ほらー、委員長さん次行くよー。男くんはバイバイ! 今度は学校でねっ!」

男「ああ、また学校で……やれやれだなぁー」

男「――――そういうわけなんだよ。差し出がましいのは承知で、さ」

母「あんたは自分で何頼んでるかわかってる?」

母「とっても難しい事だよ。生半可な気持ちで引き取るなんてできないんだからね!!」

男「は、はい……」

母「お父さんが良いって言ったところで何? あんた、ウチのお金はどうなるの?」

母「もう一度よく考え、頭冷やしなさい」

男(想定の範囲内だが、やはり猛反発を食らう。妹はソファで携帯電話片手にだらけているが、完璧に興味なし、という様子ではない)

妹「無茶言ったら可哀想だよ、お母さん。そいつアホだもん」

母「本当だよ! 一体何考えてるんだか……」

男「まだ話終わらせないでくれ!? ダメ元で頼んだのが悪かった、俺は本気なんだよ!」

男「本気で、委員長を助けてやりたいと思ってる! 目を見てくれ、この目をっ!」

妹「……あいかわらず死んだ魚みたいな目だよねー」ポチポチ

男「やかましいわっ!! この際態度で判断してくれ! 俺は真面目に」

妹「じゃあさー、どうしてそんなに赤の他人に本気になれてんの」

男(食い気味に放たれたその一言によって、家族の視線は一気に俺へ集中していた)

妹「フツーじゃないでしょ。あんたたちがどんな関係か知らないけど」

妹「目とか態度より先に、みんなが納得できるワケから話せよ」ポチポチ

男(喋りながらも携帯の操作を止めないのは、無関心を装ってなのか、手放すと死ぬのか)

父「まぁ……言葉遣いどうより、正論だな」

父「お父さんは最終決定に従うけれど、お前が母さんたちを納得させなきゃどうにもならん」

男(家族それぞれ、黙って俺の次の言葉を待ち始めた。母は何か一言言いたげそうではあるが)

男「最近の俺、何となく前とは違ったように見えなかった?」

父「確かにそうだね」

男「……変えようと努力してみたんだ。いつものままじゃ良くないと思って」

男「だから、無理してまで自分の性根から全部叩き直してみた。どうしてかわかる?」

男「し、真剣に好きなれた人がいたからなんだ」

男(その対象は、その場の全員が容易に想像出来た事だろう。俺のターンはまだ終わらない)

男「実際これだけで色々変わってきた。家でも、学校でも、慣れると結構楽しかったよ」

男「おまけに前までじゃ絶対に気付けなかった事にも気がつけて……ど、どうでもいいか」

男「でも本当に俺って恵まれてたんだなって思った。あの子と比べて」

男「あの子、委員長は、驚くぐらい悲惨な毎日送ってたんだよ。軽く引けるぐらい」

男「誰にも頼れなくて、甘える事もできなくて、逃げ場もない。とことん追い詰められてた。今はもっと悪化してる現状だ」

母「警察に保護してもらいなさい? 無理だよ」

男「お、俺も簡単とは間違っても考えてない! それでも委員長に」

男「なんていうか、人と寄り添う温かさみたいなものを感じて貰えたら良いな、って……」

男「俺、ウチでならそれが出来ると信じてる。だからここに置いてやりたい」

母「あのねぇ……」  男「お願いしますっ!!」

男「お願いします、何でもします! 俺がやれる事全部引き受けます! 許してください!」

母「あんたがね、優しい子だってわかってお母さん嬉しいよ。でも、それとこれとはやっぱり別だ」

母「男、考え直しなさい? 難しいよ」

父「難しい? バカ言うんじゃないよ。俺が付いておきながら、簡単に難しいと抜かすな」

妹「お父さんいま感情的になって、あとで後悔しても遅いよー」ポチポチ

父「俺は息子一人に悔しい思いさせる方がよっぽど後悔すると思うんだ! 母さんはどう!?」

母「ちょっと! あんまり興奮するとまた血圧が……」

男(どうしよう。感化されて泣きそうになってしまう)

ここまでなのよ

父「とにかく俺はこの子に味方するぞ!! 譲らん!!」

妹「段々言ってて意味不明になってるのわかんないかな、この人」ポチポチ

父「意味不明なものか! 惚れた女に手を差し伸ばさない奴の方が情けない!」

父「男、お前が間違ってるなんて意思を挫くなよ。曲げたら誰があの子を助けてやれるんだい!?」

男(これほど父が熱い人だったのは意外だが、もはや俺を食っている勢いまで達したぞ)

母「落ち着きなさいっ! ああ、もうお父さんてばこんな顔真っ赤にさせちゃって……男も宥めて」

男「母さん、俺 やっぱり考え直せないよ」

母「わかったわかった! 良いからお父さん倒れたら危ないから、ほら!」

男「えっ? いま、わかった、って言ったのか?」

母「言ったけど文句あるの!? ただし、あんたもその子も自分の事は自分で精一杯やんなさいっ!」

母「お母さんたちも、なるべくフォローするから……聞いてた? お父さん?」

父「何が何だか父さんもうサッパリだッ!! ……何だって?」

母「聞こえてたなら早速用意するよ!! 仮にも新しい家族招くのにこんな所見せられないんだから!!」

母「男、あんたはあの子をここに連れて来なさい。あんたからキチンと説明しないと!」

男(……け、結果オーライなのか?)

男(父母揃っててんやわんやと、この祭りを開いてしまったのは俺なのか。俺が巻き起こしてしまったのか)

男(この光景を委員長は喜んでくれるかもわからんが、ふと、未だソファに転がる妹へ目がいった)

妹「うわ、こっち見ないでくれる? キモい」

男「……お前は反対しないんだな。一番嫌がりそうなのに」

妹「誰が上がって来ようと、私の家に変わりないじゃん。一番気疲れしそうなのはあんたでしょ」

男(ふむ、心配ご無用何故ならば……そりゃあ、その……)

妹「お兄ちゃんずっと変なこと考えてない?」

男「何だって?」

妹「私も散々あんたをバカにしてたけどさ、まったく興味ないとかじゃないわけ」

妹「だから最近はずーっと不自然に見えちゃってた。……ねぇ、お兄ちゃん何考えてるの?」

男「わ、悪い。お前の言ってる意味が俺には全然――――」

妹「どっか行こうとしてない?」

男(……妹は俺の思考が読める特殊能力者なのか? 何がそこまで見据えさせているのだ)

男(その物寂しげな態度は何だよ、妹?)

男「丁度トイレに行こうと思ってた。我慢してたからな」

男(あれから一時間程度経過した頃だろう、尻込みしていた委員長をようやく我が家へ本格的に招けたのは)

男(スンナリというわけにもいかないが、俺の弁解を呑み込むと、彼女は)

委員長「私がいて迷惑を掛けることになりますよっ、皆さんの、ご迷惑に!」

委員長「こんなに親切にして貰える義理もありません! こ、困りますっ……」

男(訂正。まったく呑み込むつもりが無いらしい)

母「帰る家はあるの? ウチの子から聞いたけど、大変なんでしょう?」

委員長「それは……で、でも! 親戚の家にお世話になる事もできなくはないので!」

母「そこまで言われちゃ私たちも引き止められないけど。どうなの?」

男(何年かも家族から煙たがられ続け、それでも親戚へ預けられなかったのはあの父の責任の強さからというケースなのか)

男(はたまた、前妻の忘れ物の委員長を彼の親が忌んでしまっている場合もありうる。さて、肝心の関係については聞けやしなかったが)

男「だったらこの場でその親戚に連絡してみてくれ。説得も手伝おう」

委員長「い、今の時間帯だと留守にしてるかもっ!」

男「留守番入れてあとから掛け直してもらえば良いだろ」

男「とにかく 頼れるなら頼れ。親父さんは、もう諦めてるんだから」

委員長「……できま、せん」

母「それはどうして? 電話できない理由があるの?」

委員長「…………連絡先を、知りません。顔も見たことありませんっ!」

委員長「私に親戚と呼べる人たちなんていません!! お母さんも何処にいるかわかんない!!」

委員長「うわあああぁぁ~~~んっっ!!」

男(長いこと溜め込み、抑えていた物を、これでもかと言わんばかりに彼女は吐き出した)

男(堪らず我が母が委員長を抱きしめ あやす様にたっぷりと頭を撫でたのである。たっぷりと)

母「決めた。あんたウチに来なさい、今日から家はここだよ」ギュゥ

母「目一杯甘えなさいな。私も旦那も息子たちも、倍にして返してあげるからね!」

委員長「でもっ……でもぉーっ……!」

父「でもじゃないよ。誰も君を迷惑だなんて思わないし、突き放したりしないさ」

男(何となく、虫の居所が悪く感じてしまうのは俺が妬いているからか。いや、単純に委員長の泣く姿を見るのが申し訳ないと思ったのだろう、きっと)

男(案の定 妹はその様を輪から離れ、無関心にチラリのみ。アイツもアイツなりに思う所はありそうではあるが)

男(兎にも角にも、委員長は迎えられた。大団円に素敵な拍手を)

『どっか行こうとしてない?』

男「本編再開なんだよなぁ」

男「……眠れる気がしない」

男(布団へ転がってはみたが、目がやけに冴える。興奮冷め止まないなんて当て嵌まりもしないのに)

男「にしても、ようやく明日からご無沙汰だった難聴鈍感ハーレム生活か」

男「神には何か言われるのかね。まさか土壇場になって、委員長は助けられなかった……なんて結末はなさそうか」

男(昨夜以上に持て成され、家族同然の扱いを受けたあの委員長の恥じらいっぷり。気休めも必要なさそうであった)

男(彼女はこの先上手くやっていけると信じよう。いやはや、一介の男子高校生がよくもここまでやれた。誇らせておくれ)

男「……寝れないぞ」

男「よく考えたらまだいつもの睡眠時間じゃないのか? そんなに明日が待ち遠しいのか、俺は」

男(暇潰しに美少女迎撃の意を込め、妄想に浸るとする。現状 幼馴染を彼女として迎えた後だからな、それも含めて今後の策を練らねば)

男(いかにして、この状態から究極完全たるハーレムを築くか。抜け穴を探すのだ。何か、突破口は)

男「俺は明日死ぬのか」

男(暗がりの中 ポツリと俺はそう呟いた。否、呟いていた。言わされていた。自分に)

男「死ぬのか?」

男(違う、別に今更 死の恐怖に駆られて脅えるつもりはない。死の対価を払って、あの理想の世界の主人公になれているのだ。望むところだ、歓迎する)

男「……死ぬのか?」

男「明日のいつ、どうなるんだ。放課後ならキモオタたちにもまだ別れの挨拶ぐらいは」

男「一応不良女にも世話になったし、礼ぐらい言っておきたいな。あれからオカルト研はどうしたんだろうな?」

男「父さんたちには何て言っておこうか? 育ててくれてありがとう、ダメな息子でごめん、とか無難で良いのかねぇ」

『俺は大切な息子のこと見放したりしねぇよ』

『あんたがね、優しい子だってわかってお母さん嬉しいよ』

『男くんバイバイ! 今度は学校でねっ!』

男「おい、一つ余計な回想が混じってたぞ」

男「……まぁ、幼馴染も変わりなかったなぁ。今でも気に食わないが、悪い奴じゃないのかな」

男(何だ? 急に昔を振り返ってみたりして。まるでもうすぐこの世から消えるみたいじゃないか)

男「美少女だ。美少女で脳内を満たせ、俺。お花畑がお前を手招いているぞ!」

男「っ~~~……!」

委員長『男くん、まだ起きてる?』

男(唐突に部屋戸の先から聞こえた声に、反射的に体が跳ねてしまった。もしかしなくとも、委員長)

男「お、起きてるけどどうした 委員長!? トイレに迷った!?」

委員長『ううん。ただ少し話がしたいと思って……入って、いい?』

男(こんな夜更けに仮家族とはいえ、同級生女子を招き入れるのは躊躇する。だが、自然と手は伸ばされていたという)

委員長「ありがとう。ごめんね、寝ようとしてただろうに」

男「しようと思っちゃいたが、丁度目が冴えまくって困ってたところだよ……それで、お礼でも言いに来たってか?」

委員長「あ、あははっ、いくら何でも失礼だよね。また明日にでもすればいいのに」

男「ていうか、別に礼なんてされてもな。俺が得するわけじゃないし」

委員長「いやいや、こういうのは気持ちの問題だと思いますっ! ふふっ」

委員長「……本当にいいのかな、私がこんな思いできて」

男「まだ始まったばかりだろうが? これから取り返すつもりで頑張るんだろう、委員長」

委員長「それはまぁ……何て言うか、これってバタフライ効果なのかなぁ」

委員長「最初は些細な事だったのに、いつの間にか私はここに居る事になったりしてる。不思議です」

男(そしてタイムパラドクスでもあるのだろう。本当に良き結果へ傾けられたかは、神のみぞ知るわけだが)

男(さて置き、再び目の前の委員長へ集中だ。曇りない表情で俺の横顔を凝視している。……凝視だと)

男「……俺の顔に、何かついてるのかな?」

委員長「男くん。夕方、不良女さんが言ってたことって本当なんですか?」

男(やはり彼女を入れるべきではなかった)

委員長「本当はお礼なんてただの建前。今しかないと思ったから、聞きにきてみたの」

男「そ、そんなに積極的なのは委員長らしくないな……っ」

委員長「……私、真剣に恋しに来ちゃいました」

男(来ちゃだめぇ。気持ちに迷いでも生まれたか? 迷いというか過ちか。とにかく追い出さねば)

男(明日消える俺に好感度マックスで夜這いでもされてみろ。未亡人よろしくモノホン悲劇のヒロイン爆誕だ)

男「委員長の方は、俺をどう、思ってるん、だ」

男(そうじゃないだろう。そうじゃないだろうが、阿呆か俺は)

委員長「え、えっと……」

委員長「……ええっと~///」

男(頼むから途端にモジモジ恥じらい始めるな。口より先に行動で示しちゃっているぞ、委員長)

男「そ、そうだ! クラスに好きな奴がいるって前に話しただろ! そいつは良いのか!?」

委員長「あなたが好きですっ!」

男「ぶーーーっ!!」

委員長「お、男くんが悪いんだもん! どこまでも私に優しくするから!」

委員長「ここまでされて、何とも思わない人なんて……いないよね///」

男(なるほど、一理ある、じゃなくて)

男(動揺するんじゃない。相手は山ほど戦ってきた美少女以下の容姿だろう。そう、美少女ではない)

委員長「っー……///」

男(いくら可愛らしい素振りで照れていようが、美少女慣れした俺ならば無効化だ。容易い)

男(容易い、筈だのに このザマは。即座にNOを突き付けてやれただろうに)

男(残念脳回路が異常をきたしていらっしゃる)

委員長「な、何か答えてくれてくれないかなっ? ずっと黙ってられたら、わ、私……」

男「黙っていられたら、どうなるんだよ。変な所で台詞を切るな」

委員長「……え、えへへ」

男「…………委員長、まだ眠くないか?」

委員長「平気。だから、もう少しだけ」

男「うん」

委員長「あと少しだけでいいから、傍にいさせてほしい……」

男(制御不能、繰り返す、制御不能。隊員に告ぐ、残念なことに指揮官が不在となった。いや、もう水を差したところで無意味か)

男(俺たちの夜は長かった)

ここまで

父「お前はな、せめて早起きぐらいも努力しておきなさい。おはよう」

男(開口一番の皮肉が寝惚け頭に効く。催促されてパンへ手を付けながら、食卓をぐるりと見渡せば、家族に混ざる彼女の姿があった)

男(偶然、目が合うと俺たちは互いに誤魔化すようわざとらしく咳払いを繰り返した)

母「あらぁ~ 二人して朝からなーに顔赤くさせちゃってるんだか。ほら! あんたはさっさと食べて支度!」

男「……委員長、たぶん遅れるから先に向かっててくれないか」

委員長「えっ? あ、ああ、そっか、仕方ないよね……」

男(きっと委員長も現在進行で俺と同じ光景を脳裏に浮かばせているに違いない。気まずすぎる)

男(どの道 俺たちが共に登校している姿を目撃されては困る。今日に限っては、別の事情が占めるけれども)

妹「いってきまーす。あっ、 帰りご飯いるかわかんないかもー」

男「妹! ちょっと (朝食を放りだし、妹を呼び止めた。いつも通りスルー安定かと思いきや)」

妹「ねぇ、外で友達待たせてるんだけど。何……?」

男「悪い、ふざけて呼び止めてみただけだよ。気をつけて」

男(そう見送られては、誰でも頭上に?を浮かべ怪訝な顔になるのがマトモな反応である。やはり妹もそれへ倣うのだった)

父「ありゃ、どうした? さっきから胸抑えて?」

母「うーん……なんかざわつくみたいで、気持ち悪いのよねぇ」

男(予報では今日雨が降る、確定だ。気象情報が自分の死刑宣告を告げると考える日が来るとは実に滑稽よ)

男(委員長も家を出て、父もそれに続いて、残るは俺一人。意外とあっさりした別れを迎えたではないか)

男「ん? 母さん、傘立てに一本も傘残ってないんだが」

母「えー? やだ、あの子ってばまた何処かに置き忘れて減らしたんだ! もう!」

男「妹か……大丈夫だな、一応折りたたみ傘鞄に忍ばせてある」

男(いつかの後輩のアドバイスを心掛けた甲斐があったものだ。母よさらば と、玄関を開けたその時、母が俺の肩を引っ張り)

母「今日帰りに買い物して来てくれない? お母さん用事あって夕方他に顔出すから」

男「……ああ、何を買ってくる?」

母「そうだねぇ、久々にすき焼きしよう。委員長ちゃん歓迎パーティってね! 美味しい肉買ってきなさい!」

母「ん、何 すき焼きじゃ不満? 急に神妙そうにしちゃって」

男「気のせいだろう。母さん 行ってきます」

男(直後、逝ってきます、なんてブラックジョークを思いついた不謹慎な息子を許して欲しい。だが、これで最後だ)

男(そんな俺を待ちかねた様に、天から降り落ちてきた雨粒。雨粒は間も置かず一気に群を作った)

男「……ど、どこから来る。車だったか? 突っ込んでくるのか?」

男(神からよく言い聞かされた。何処へ隠れようが、逃げようとも、確実な死が訪れると)

男(覚悟はとっくの昔に完了済みだが、タイミングが謎とされては誰でも警戒してしまうものではないか?)

男「(脇を通り抜けた原付一台にすら脅える始末だ。実際死が恐ろしいと感じない人間はいないだろう。当たり前に従っているのだ、俺は) じ、焦らしプレイがすぎるだろ……」

男(交差点まで辿りつけば、更に警戒心は高まっていく。何処からともなく訪れる無限死に恐怖したボスの気持ちも理解できるな)

男(一度、一度切りだろう。俺ならば一度で終わり、様々な意味で楽になれる)

「お兄さん、信号 青になっていますよ」

男「あ、すみません。ご親切にどうも」

男「……え?」

男(直後の光景であった。こちらへ向かって猛スピードで突っ込んでくるワゴンカーが視界へ見えたのは)

男(認識してからでは既に遅い。人は想定外に弱いと話に聞いてはいたが、事故など 衝突の寸前は時がゆっくりに感じるとは聞いてはいたが……)

男(“怖い” 頭の中で走馬灯が走る最中、俺は妥協を許してしまったのかもしれない。足が自然と前へ動いていた)

男「うおおおぉぉぉ~~~ッ!!?」

男(間髪入れず、背後の電柱付近が、ド派手に音を散らしていた。恐る恐る振り向けば、先程の車両が滅茶苦茶に破損してそこに、あった、のだ)

男(その騒ぎにたちまち野次馬が沸き、殺到だ。俺はといえば茫然と眺めていただけ。ところで、信号を一緒に待ったあの人は無事だろうか)

「いやはや、驚きましたね。間一髪でしたよ」

男(……いつ俺の隣に立ったんだ、この人は)

男(雨がより一層強くなり始めた、まるで事故を盛り上げている様にも感じなくもない)

男(お陰で全身はずぶ濡れである。せっかく開いた折りたたみ傘は、車に巻き込まれてご臨終だろうか)

「あと僅かでもあの場に留まっていたら、二の舞だったでしょうか」

男「お互いゾッとしませんね。運転手は生きてるかどうか……」

男(この、男性とも女性とも判別の付けづらい背格好の親切な方だが、やけに腕時計へ目を配らせているな)

男「無事を祈って立ち去るか。あなたも仕事に遅れるんじゃありませんか?」

「ええ。すみませんが、もう少しだけ」

男(そんなに悠長に構えていたら、風邪でも引くのではなかろうか。この俺同様 傘を差していな)

「もう少しだけ、右に寄ってもらえませんか?」

男(この人は、何故傘も差さずに 一切 体を濡らしていないのだ……?)

男「あんたっ まさか――――」

男(それは突然だったのだろう。頭頂部へ凄まじい衝撃が走る。次の瞬間、俺の隣にいた誰かが無防備に地面へ倒れたのがわかった)

男『…………おれ?』

男(倒れているのは、自分自身だったのだ。俺が俺の姿を見ているだと? 頭からは止めどなく血を流しており、ピクリとも体を動かしやしない、だと?)

「ああ、良かった。ピッタリ時間通りです」

男(そっと自分の体に触れてみる。なのに、感触はこの手に得られなかった)

男(次は改めて一帯を見回してみる。大勢の人が俺を、正しくは、傍にあるソレへ目を傾けていた)

男(頭部から溢れる血はコンクリートを真っ赤に染め、恐らく原因のブツであろう 散り散りとなった鉢植えの破片まで赤く照らした)

男(こうして遅れた動悸がやって来たのであった)

男『……? ……っ?』

男『~~~~~~!?』

男(わかっている、頭では理解している、それでも事態が上手く呑み込めず発狂しかけていた)

男(そんな自分をもすら冷静に観察しているというのに、何が、何だか)

「あなたはこの時間にかならず血を流す、その予定が無事に叶いました」

「何か自分の体へむけて、最後に言い残す事はありますか?」

男『……お、おれはしんだのか』

「死んで頂きますよ。約束は約束なので」

「お迎えに参りました、男さん。とくにもう無ければあちらへ帰りましょう」

男『鉢植えで、しぬのか……!?』

「帰りましょうか」

男(鉢植え直撃如きで死ぬのか? コントじゃないのだ、笑えないぞ?)

男(立ちつくす俺を他所に、人々が体に集まり、片や自損事故を起こした車へも寄って、救急車まで駆け付けていて)

男『い、いまの俺って魂みたいな? だったら体の中に入れたり……!』

男(鮮やかに希望は打ち砕かれるのであった)

「自分の死因に納得なされないのは良くある話です。心中お察しします」

男『やめろッ! 思ってもみないこと言って人をバカにするな!』

男(こいつは淡々とあくまでも事務的な態度で、帰りましょう、とうわ言のように俺へ声を掛け続けるのだ)

男(それが腹が立つほど己の死を自覚させる。同時に不安まで生じてならなかった)

「帰りましょう。帰りましょう。帰りましょう」

男『わかってるから何遍も――――ううっ!?』

男(段々、段々と、俺の体が遠のいていく。前へ進もうとしようが否が応にも、離れている)

男『待ってくれ待ってくれ!! ダメだっ、まだ行きたくない!! 行かせないでくれぇ~~~!!』

男『うわあああぁぁぁ~~~!! 嫌だぁああああ、嫌なんだぁああああ!!』

「ご冥福をお祈りします、男さん」

男『あ゛ぁあああああああぁぁぁぁ――――――』

男(――――光が逆流して俺を蝕み続けた。夢の内容を書くとこうなのだろう)

男(抵抗であろう出鱈目な絶叫も、ただ虚しく、自分の中で反響する。落下しているのだろう。すとーん、と)

男(自室に敷かれた布団の上に降ってきた。そんな悪夢を、垣間見たような)

「くん……おと……く……とこくん…………」

男(体が揺さぶられている気がする。聞き覚えのある声で呼び掛けられていて、悪くない、心地良い気分だ)

男(しかし、上手く聴き取れないじゃないか。いい加減近くに寄ってくれたって罰は当たらんだろうに)

男(どれどれ、ならば俺が引き寄せるまでである)

「きゃああっ!?」

男「…………お、幼馴染。どうして俺に抱かれてるんだ」

幼馴染「お、おお、男くんが急にあたしを掴んだんじゃない!! だ、大胆に!!」

男(腕の中にいる頬を紅潮させている彼女は、なんと美少女。やはり美少女。それは正妻ポジ幼馴染)

幼馴染「さすがに朝からは、困るよぉ~……!」

男「バカ違うぞ!? 寝惚けてただけでそんなつもりは無いからなっ!?」

幼馴染「と、とにかくお布団から出て! 寝坊しちゃうよっ! うぅ、まだドキドキする……///」

男(帰ってきたのか、俺)

天使「帰りは寄り道しないでかならず早く帰ってくるんですよ!? 絶対ですからね~!?」

幼馴染「うんうん、約束守るから泣かないでね。……天使ちゃん可哀想に」

妹「はぁ~やれやれだねぇ、ふっ! あれじゃ親離れできない子どもみたいだよ」

男「そういうあなたはいつ兄離れできるのでしょう」

妹「はぁ!? 一生その予定ないし! この、[ピーーー]屋っ!///」

男(ただいま、難聴、そしておかえり。感覚が呼び覚まされるな。これでこそ帰ってきた実感である)

男「そういえば、後輩が泊りに来てたよな。アイツは家に戻ったのか?」

幼馴染「気持ち良さ気に熟睡してた誰かさんは放ってね」

男「そいつは仕方ない。寝た子は起こさない方が助かったが」

妹「お兄ちゃん一生寝てたいの?」

男(無慈悲な一撃を華麗にかわし、こちらの世界での昨日を思い出す。今朝目が覚めた時 自分の布団へ俺は潜っていたわけだが)

男(確か、廃病院にて神が用意した物を使用していた筈だ。物どころか、場所すら異なり 仰天である)

男(というか、あの日現実へ行ってからこちらの時間が進んでいなかった事に。主無しでは回らない世界というワケか)

男(後輩もこれで俺の帰還を察したのだろう。俺としては、目覚めてから何らかの話をされると身構えていたのだが、奴め 放置プレイか)

男(さて、しばらくし 学校へ到着した俺たちはそれぞれの教室へ。……そこで見たものに、俺は愕然とした)

女子たち「ペチャクチャペチャクチャペチャクチャ」

男(教室の傍ら、群れるモブ女子たちの中に彼女が、委員長の姿があったのだ。それが何というか)

男「美少女の方の委員長じゃないだと!?」

男「い、委員長……っ?」

女子「男くん、おはよう。そういえばいよいよ文化祭の準備が始まるね!」

女子「風紀委員長としては浮かれてたら良くないけど!」

男「えっ、終わり?」

男(一方的に台詞を吐き出し終えた彼女は、再びモブらとの語らいに戻った。まるで相手にされちゃいない様子だったぞ、おい)

男(コレは現実委員長を救えたという証拠か、神の計らいか? かなり余計なお世話だが……美少女委員長)

男(……いや、まさかこれこそ俺へ与えられた代償? 今回の追加キャラ扱いだったのは委員長だった筈だ。攻略可能にと)

男(だが、それでは対価として不十分な気がするぞ。確かに美少女キャラが一人奪われたことに、一瞬 殺意は沸いたが)

男(ひょっとして……委員長がこの世界へ訪れる未来を変えたからだとか。そもそもあの容姿は俺の為のチェンジではないのだ)

男(委員長自身が望み、手に入れた美少女体である。後に残された美少女委員長は本人が抜けた抜け殻だった)

男(委員長=概念と考えよう。その消失によって、形を失った偽りの彼女が無名のモブキャラへ落ちた)

男「は?」

>>877 やばいミス

女子「風紀委員長としては浮かれてたら良くないけど!」
↑の台詞は読むとき頭から消しておくれ

男「納得できるわけねーだろ……」

転校生「変態、さっきから一人ブツブツうるさいわよ? ワケの分かんないことを何度も何度も」

男の娘「お、男、どうして朝からそんなに落ち込んでるの? でも憂う男も[ピーーーーーー]よぉ~///」

男「何だって? ……はぁ」

転校生「あんたがこんな調子じゃ私たちまで気が重くなってくるじゃないの。しっかりして!」

男「えー?」

転校生「あぁーもう! 溜息ばっかり吐いてたら、変態の箔が下がっちゃうんだからねっ!」

男の娘「本人としては望むところじゃないかなーって……」

転校生「ったく、早速あんたのせいで調子狂ってきちゃったわよ。せめて何か言い返してみたらどうなの?」

男「構ってちゃんだな、転校生」  転校生「な、何ですって!?」

男「まぁ、お前らの言う通り 確かに落ち込んでいてもな。どうしようもない」

男「一人滅茶苦茶構って欲しそうなのもいるし、切り替えるわ」

転校生「っの~~~、バカ! しねっ、ド変態!!///」

男の娘「[ピーーーーー]ずるい。ぼ、僕だって[ピーーーーーーー]、[ピーーガーー]!」

先生「わかったから三バカども さっさと席 戻れっての!!」

ここまでっす
キルミー…

男(文化祭といえば、この手のギャルゲーに置ける大イベントにして定番だ。やらせ染みてモブたちが話題に上げている)

男「といっても、ほとんどは文化祭準備で授業潰れるから喜ぶワケだろ?」

男の娘「え~、僕はワクワクしててあの空気大好きだけどな~」

男「なるほど。男の娘は準備が楽しくて本番はどうでもいいってタイプか」

転校生「あんたってどうしてそこまで卑屈になれるのかしら? それより」

転校生「この台本の分厚さなんなのよぉ~!!」ドサァ

男の娘「いくら何でも気合い入り過ぎだよね、脚本係……」

男(まるで漬け物石代わりにと言わんばかりの厚さを誇る台本へ嘆く約二名。無駄に意識の高い演劇公演も定番か)

男「お前ら! 先に言っておくが、当日なって熱出すとか止めろよ。俺は代役受けない!」

転校生「ど、どうしてあんた代わる前提なのよ……っ?」

男の娘「ていうか 男はこんな所でサボってて平気なの? 怒られちゃうんじゃ」

男「サボるも何も、まだ始まったばかりだろ。時間はたっぷり残されてるよ」

男(裏方作業といえど、まだ背景の構図も何もし上がっちゃいなかった。なにより、モブたちの会話は生産性が無くて非常に辛い)

男(であるからして、先生もいない今 俺は男の娘たちのお世話に専念だ。これはある意味天命、指名だろう)

不良女「変態いるー?」  男「ここにはいねぇよ」

不良女「いやー、あんたもほんとに呆れた奴だわな~。初日から全然やる気なさそうだし!」

男「大方 お前もサボりの相手求めて彷徨ってたんだろ」

不良女「失礼だなこの野郎っ! これでも真面目に協力してんだよ!」

男(もう不良の汚名は神に返上したらどうだろう、この美少女)

不良女「あ、あたしは、ちょっとあんたに[ピーーーーーーー]と思って」

男「何だって?」

不良女「い、良いから黙って付いてくりゃいいんだよっ!! [ピーーーー]///」

男(このタイミングで難聴の発動、起こりうる事態を推測しろ。積極的にタイマンを張りに来るほどだ、何か、覚悟を感じられる)

男(付き合ってくれ、と改めて告白とは考え切れない。文化祭前なのだからな。どうせやるならイベント最中が理想じゃないか?)

男(……理解した。不良女、こいつはまさか)

不良女「着いたぜ。あんたはそこでボーっと突っ立ってろよ?」

男「ピアノか? まさか、俺に自分の演奏聞かせるために」

不良女「へへっ、まだクラスの誰にも聞かせちゃいねーからさ! 腕落ちてないかしっかり聞いてろよ」

男「上手いな、不良女。予想以上だった」

不良女「まだ座っただけだろうがっ!? ったく……[ピーー]もらえるかな」

男(都合良く音楽室には俺と不良女以外の生徒はいない。都合良く)

男(驚くべきことに、彼女の演奏は見事なものだ。軽やかに鍵盤を弾く姿のその美麗ぷりよ。美少女に磨きがかかっている)

不良女「ま、こんなとこ。楽譜も合唱用で大したことないし、軽いかる~い」

不良女「って、アホみたいに口開いたままにしてんじゃねーよっ……[ピッ]、[ピーー]?」

男「冗談みたいに上手かったんだが、この気持ちどう伝えたらいい。反応に困ってる」

不良女「じゃあ素直に褒めりゃいいだろ!!」

男「これだけ上手いとお前の演奏でクラス全員の歌食いそうだな」

不良女「……そ、そうだよ。もっと[ピーー]ろっての、ばかぁ///」

男(頭に手を置いて撫でてみたら失神しそうだな、たったこれだけの事でも)

男「さて、一人演奏会も満喫できたし 俺はそろそろ教室戻るかな」

不良女「えっ!? ま、待てって! まだほんとの用事済んでねーから!」

男「……ん? ほんとの用事?」

不良女「う、うぅ、[ピーーーーー]のに……///」

男(俺の推測ではこの不良女、俺へ文化祭の随伴、否、デートを申し込もうとしていると見た。明らかな恥じらいが訴えておる)

男(恐れていた事態が到来なのである)

男(学生一大イベント文化祭ともなれば、美少女だろうが浮かれてしまう気持ちもある。誰かと楽しみを共用したくもなるだろう)

男(花火大会やお祭りイベントをどうにか回避できなくもない、だが、今回は強制参加型。必然的に校内で活動しなければなのだ)

男(幼馴染ルートへ突入したならば、やはり幼馴染とのイベントが後に控えているだろう。確定と言って過言でない)

男(仕掛けて来たな、不良女……彼女を避けたところで第二第三の美少女がアタックを、ヌケガケを図って来るのだろうか)

男「(まずは様子見の一発) よくわからんが、もう行くぞ?」

不良女「待てつってんだろ!!」

男「うおっ!?」

男(言うが早いか、俺の肩をぐっと掴みかかった不良女。さすれば パターン、というか、逆パターンか)

不良女「ちょぉ……あうっ!?」

男「(ラッキースケベ神降り立つ) いつつ……あっ」ムニ

不良女「あっ、じゃねーだろうが……さっさとこの手どけろぉ!!///」

男「す、すまん!! 悪気なかっただけはわかっててくれっ、事故だ今の!」

不良女「ふーっ、ふーっ……!///」

男(申し訳ないことに、顔を真っ赤にして睨みながら、胸を庇う不良女の姿に乙女を感じる)

男(だが、このラッキースケベは大きい。見るからに彼女の本気を削いだ)

男(撤退行動を取るなら現状が最適だ。しかし、諦めさせた事にはならないか)

男(どうする? 放課後まで待って、ラーメン愛好会全員に向けて当日祭りを共に楽しまないか提案するか?)

男(しかし、それでは肝心の幼馴染を蔑ろに……そうか)

不良女「お、男さ、文化祭 誰かと回る予定あるか?」

男「急にどうしたんだ?」

不良女「あたしは、予定あるか、訊いてんだ! ハッキリしろ!」

男「いや、特にその予定もつもりも無いんだが」

不良女「ま、マジで!? じゃ、じゃあもし良かったら あたしと[ピーーーーー]にっ///」

男「特に興味ないしなぁ、文化祭なんて」  不良女「は?」

男「昔から俺 あんまり祭り事とかには興味ないんだよ。人ゴミが苦手ていうか、浮かれるのが好きじゃないというかな」

男「たぶん、その日はこっそりゲーム持ち込んでしこたま遊ぶ」

不良女「で、でもせっかく色々やってんだぞ! 勿体なさすぎるでしょ!?」

男「そうかぁ? ああ、転校生たちに不良女が文化祭一緒に回りたがってるって伝えておくわ」

不良女「ち、違う! あたしは[ピーーーーーー]……うっ///」

男「何か言ったか? とりあえず俺もう行くからな。ピアノ、上手かったぜ」

男(面食らった顔で固まったままの不良女を置き、俺は廊下へ退散したのであったとさ)

男(……冷静に考えれば、かならずしも幼馴染へ予定を合わせる必要はなかった。幸いにも、俺は美少女らから自己中心人と思われている節がある)

男(ならば、リスクを冒すアイディアに賭けるのではなく、安全地帯を確保すれば良い)

男「表舞台にさえ出て行かなければ苦労もないんだからな。惜しいけど」

先生「おっ、丁度いいとこブラついててくれたね 男くん」

男「残念ながらこれから作業に戻るつもりだったので失礼します」

先生「ダメ、許可しません」ガシッ

男「ええいっ 真面目な模範生捕まえて何を……先生、それは?」

先生「見ての通りよ。誰かがここの窓ガラス破っちゃったみたいで」

男(廊下の窓周辺に割れたガラスが少し散らばっており、破片の掃き掃除を先生が務めていた。内側から破られたようだ)

男「誰かってことは、犯人を見た人はいないんですかね?」

先生「そうみたいだねぇ。ったく、悪戯にやったとは思いたくないけど……あ、外に何か落ちてる」

男「じゃあ投げた物がガラスを破ったと。どれどれ……」

男(倣って窓から頭を出し、外を覗きこむとそこには)

妹「で、何でお兄ちゃんがやらしい目して一年教室の前にいんのさ?」

男「偶然通り掛かっただけだったら、お前 兄に対して辛辣すぎるな」

男「こっちもこっちで準備盛り上がってるな。燃え尽きるまで何分切った?」

妹「ハイハイ、邪魔しに来ただけなら行ったいった。これでも忙しいんだからね、私~!」

男(そう言いつつ 絶妙加減でウキウキさせているのは何故かと問いたくて、あざとかわいくて)

男「なぁ、お前と後輩って同じクラスだったよな? 今いるのか」

妹「うぅ~、お[ピーーー] いつも[ピーー]ちゃんのことばっかっ……!」

妹「知らない! いないならいないよ、作業別だから見てないっ!」

男「何一人で勝手にご機嫌斜めってんだよ、お前?」

妹「ばーか! お兄ちゃんの大バカ! しっしっ!」

男「それにしても、前はあんなに学校じゃ話しかけるなって念押ししてたのに……」

男「いや、でもこっちの方が嬉しいよな! 愛い奴だ、このこのっ!」

妹「ちょ、ちょっと誰に許可取って頭に手乗っけてんの!? 見られてるからやめろぉーっ!///」

男(サーモグラフィで確認すれば赤一色の妹へ染め上げたの良しとし、後輩の姿はどこにも見当たらなかった)

男「だとすると、やっぱりあそこになるのか?」

男「……よもやもぬけの殻だったとは」

男(後輩求めてはるばる屋上、いつもならば待ちかねたと言わんばかりに、ポツンと立った彼女が振り向いてくれたのに)

男(こんな事は初めてだが、後輩にも後輩の日常があるだろう。モブらと頑張って文化祭準備に励んでいる可能性も)

転校生「わぁーーーっ!!」ドン

男「ぎゃああああぁぁぁ~~~!? て、転校生!? お前っ、どうして!」

転校生「ふ、ぷぷっ……さ、さっきのあんたの顔 面白すぎてお腹痛いわっ、くくっ……!」

男「面白いのはいつもの事だし結構だなっ! それより、どうして屋上なんかに」

転校生「ん? あんたを探して来てって頼まれて校舎中歩き回ってたのよ。そしたらここに上って行く姿が見えて」

転校生「あんたこそ屋上で一人何しようとしてたっていうの? まさか、サボってたって堂々と言い出さないわよねぇー?」

男「……秘密にしていたが、実は俺は忍者の末裔でな。任務だ」

転校生「嫌よ、変態そのものの忍者なんて。夢がないもん」

男「純粋さより俺に対しての変態認識が勝るのかよ」

転校生「どうでもいいから教室戻るわよ、へーんたい。……どうかした?」

男(現実へ戻ってわかった転校生の謎。彼女は幼馴染の情報から俺が生み出した、本物の、あるいは偽物の美少女なのか)

男(……じゃあ、神の使いという可能性もあるわけだ)

男(今 転校生の正体を暴いた所で俺にメリットはないが、身に付いてしまったのだろうか)

男「(謎を謎のまま漂わせておくのは気に食わない、強い好奇心が) 転校生、お前」

転校生「うっ、ぁあ、あんまり人の顔ジロジロ見ないでくれる……っ?///」

転校生「な、何なのよぉ~……!?///」

男「肩に糸くず乗ってるぞ」  転校生「あっ、ほんとだ」

転校生「わああぁー!! どうでもいいことに無駄に言葉溜めないでよ、ばっかじゃないの!?」

男「へへっ、悪い悪い。ていうか、そんなに顔真っ赤にさせてどうしたお前」

転校生「あぁー、一瞬でも期待した私がバカだったわよぉ……」

男「ほんとに転校生はからかい甲斐ある奴だな。さっき驚かした仕返しだからな~?」

転校生「このっ、やっぱりあんた最低のクズ変態よ! 耳掻き 刺さってしね!」

男「いつも思ってたが“しね”はないだろ 死ねは!」

転校生「た、畳の上で看取られながら潔くしねばいいわっ!」

男「言い方の問題じゃねーよっ!!」

転校生「うるさい! ド変態なんてしねしね死ねっ!」

後輩「騒がしいですね、お二人とも」

男(突然俺たちの間を割くように投げかけられた言葉に、揃って背後を振り向けば、そこにはやはり)

後輩「夫婦喧嘩は犬も食べないというじゃないですか。ね?」

転校生「ちょ、夫婦!? わわ、私たち別にそんなのじゃ……あれ、前に会った写真の子っ!」

後輩「ええ、ご無沙汰ですかね。転校生先輩」

男「二人ともいつの間に顔見知りになったんだよ?」

転校生「むしろ何で変態がこの子と知り合いなのよ。……うぅ、また可愛い子と仲良くなってる」

後輩「知り合い? 別に私はこの人とは面識ありませんけれど」

男・転校生「は?」

男(いやいやいや……何でもかんでも突然じゃあ困る。こいつはいきなり何の冗談のつもりだ)

男(と、後輩へ止せよと半ば呆れ笑いを向けてみたが、まったく、不自然な程に彼女はこちらを意識していなかった)

転校生「あの時は本当に恥ずかしかったんだから! っていうか、頬っぺた切ってるわよ? 大丈夫?」

後輩「えっ……ああ、たぶん さっき作業の途中で切った傷かも」ス

男「おい、それは本当か?」

後輩「でも、これぐらい大した事ないです。ちょっとカッコよかったり? ふふっ!」

男(……何故 頑なに俺を見ようとしないのだ)

ここまで

男(完全に立ち尽くした俺を尻目に、徹底無視を決め込んだであろう後輩は転校生と会話を弾ませている)

男(委員長モブ化に続き、後輩の異変。前者に関しては自分の中でそれなりの納得をつけられたが、こちらは一体……先程拾った窓を割った“アレ”を彼女へ見せたかったのだが)

男「(どうしようもない。強行突破を図る) そいつの事なんだが、実は男の娘の妹なんだ」

転校生「そうだったの!? でも、全然似てないわね? んー?」

後輩「ふふっ、そんなに見つめられたら私 穴開いちゃいますよ」

男「前に俺たちで男の娘の家に上がっただろ。その時に改めて知り合った、元々妹の友達で見た事あったからさ」

男「だよな? 後輩ちゃんよ」

後輩「確かに私はあの人と兄妹ですけど、直接あなたとは関わり合ってませんね」

転校生「とか言ってるけど。……はっ、まさか出鱈目語って目の前でナンパしてるんじゃ」

男「成功させるほど自分の顔に自信ないんだが。慰めろよな」

男「ああ、ところでさっき外でこんな物を拾ったんだが?」

転校生「それって デジカメ? ふーん、随分傷ついてるけど」

男「傷塗れで当然だろう。来る途中廊下の窓が破られてた、原因はコイツらしい」

男「どこかで見覚えがあると思って、黙って持って来たんだが……お前のだったかもな、後輩ちゃん?」

転校生「えっ?」

転校生「ちょっとよく見せて? ん、あの時持ってたのも同じ形したカメラだったかもだわ」

男(後輩を見て転校生は『写真の子』と呼んでいた。経緯も目的も謎だが、恐らく彼女を撮影しようとしたのではなかろうか)

男「(証拠を固めよう) 転校生、お前こいつに写真撮られたのか?」

転校生「うっ……あ、あんまり思い出したくないけど、ねっ///」ピク、ピク

転校生「ていうか! 今はそんな事関係ないわよ、重要なのはその子の持ち物かってこと。でしょ!」

男「その通り。で、どうして後輩の大事な玩具が外に放り投げられてた?」

後輩「うーん……確かに私の物と同モデルみたいですけど」

男「あ、違ったなら別に気にしなくていいぞ。それより例の、転校生写したヤツ、見せてくれ」

転校生「変態っ!? 何よ ななな、何で私の写真いきなり見たがるのよー!?///」

男「そりゃあ興味あるだろ。本人が恥ずかしかったって漏らすほどのシチュで撮影されたなら」

転校生「こ、この鬼畜!!」

後輩「あー、残念ですが無理ですね。新作モデルに替える時に、以前のは中古に売っちゃって」

男(白を切っているのは一目瞭然である。どう見たって俺の手に握られたカメラは後輩の物)

男(何故 彼女の魅力の一つをあんな所へ投げ捨てたか、俺なりの仮説を立ててみた)

男(後輩の趣味は、この俺から影響を受けてのものだった。俺が奪われた思い出を、せめて自身が残そうとして受け継いだかと思われる)

男(あるいはこの俺を完璧に理解しようと、なんて、理由付けはどうでも良いか。重要なのは接点だ)

男(後輩にとって、カメラと俺は切っても切り離せない関連がある。それを手放した)

男(そして唐突に始まった俺を知らない人間扱い。どう考えてもじゃないか)

男「なぁ 後輩、バカなことを訊かれると覚悟して答えて欲しい」

後輩「はい?」

男「どちらかと言えば、俺のこと好みだったりしない?」

後輩・転校生「……」

転校生「はぁああ~~~!!? ああ、あんたっ、い、いきなり何てこと聞いてんのよぉーっ!!///」

男「勿論、異性としてどう思ってるかの話で。いかがか?」

後輩「…………」

転校生「う、うう……いやぁー……」

後輩「えっとですね、ごめんなさい」

男「おえぇぇぇ……」

後輩「単刀直入に言わせていただくと、あなたには興味ありません。本当にごめんなさい」

転校生「ほっ」

男(躊躇なく突っぱねた後輩は、ペコリと頭を下げて逃げる様にその場を後にしたのだった。本気で効いたぞ、胃にガツンと)

男「吐きそう……」

転校生「っ! え、えっと~……こ、こんな時どう声掛けていいかわかんないけど」

転校生「げ、元気出して変態っ!!」

男「慰めるか貶すかどっちかに統一できないのかよ、お前」

男「別に気にしちゃいない。悪く言えば冗談のつもりだったし、アイツなら今 ああ答えると思ってた」

転校生「冗談って……酷いじゃない! 逆に嫌われちゃったらどうするのよっ、バカ!」

男(人が良いのやら抜けているのやら、真の美少女だなコイツは。それにしても俺の見立てに間違いはなかったか)

男(積極的に、遂には全面的に好意を他キャラの前でアピールしていたあの日の後輩が遠い。それもつい先日までの話……不自然の一言に限る)

男(後輩に隠し事は着いて回るのは既に当たり前だが、モテる世界において美少女から拒まれるのは無理がありすぎた。そうせざるを得ないワケを、彼女は秘めているというのか)

転校生「わ、私はあんたのこと好きよ! だぁーい好きなんだからねっ!?」

男「ぶーーーっっっ!!」

男「いきなり何熱い宣言してるんだよお前は!? トチ狂ったのか!!」

転校生「うるさいうるさいっ!! ……あぅ///」

男(これは慰めついでの意思表示と認識しよう。そうして何事もなく二人は教室へ戻ろう、是非にも)

生徒会長「先程から気になっていたのだが、転校生は欠席なのか?」

男の娘「具合悪いからって帰っちゃったんです。途中ずっと顔真っ赤にしてたから風邪かなぁ」

生徒会長「そういう事情なら仕方あるまい。それで部の発表についてだが……部長から話がしたいようだ」

男(ドヤ顔でパスを受け取った先輩は、鼻息をフンと俺たちへ大きく吐いてみせる。何が始まるんです?)

先輩「お前ら~~~コスプレしたいかぁ~~~っ!!」

先輩「わたしはしたい!!」  不良女「だよな」

男(話をまとめると、どうやら文化祭に置ける部の催しでコスプレ喫茶の許可を得られたというのだ。提供するのはやはり、カップ麺)

男の娘「それじゃあ喫茶というかただの手抜きラーメン屋、むぐっ!?」

先輩「のんのん、コスプレでそこはカバーできるのさ。何の為のコスプレだね? 合理性は欠かないっ」

男「コスプレで釣ろうとしてる時点で目的履き違えてませんかね」

不良女「ていうかよく許可取ってきたじゃん? まぁ、あたしはやらねーけど」

生徒会長「珍しく気が合ったな……」

男「(待った、異議あり、轟け 鶴の一声) 俺は面白いと思うんですけどね。コスプレラーメン」

先輩「でしょ~!? ほれほれ、皆の衆も続け! メイドスク水何でもござれだよ!」

男(本当に、先輩のキャラには感謝し切れない。この日を待っていたぞ。欲望のままに)

先輩「はい、皆さん貴重な意見賛成ありがとうございます。コスプレラーメン喫茶で見事通りました。盛大な拍手を」

先輩「いっえ~~~い!! どんどんぱふぱふ!!」

不良女「一応最初に釘刺しとくけど、際どいのだけはマジでやめろよっ、焼くからな!」

男の娘「えーっと、接客は女子に任せて 僕たちは裏でお湯注ぎが無難ぽい?」

男(いや、むしろ、何がなんでも、その場の全員が男の娘をウェイトレスへ掲げたとも。俺としても全力を尽くさずを得られなかった)

生徒会長「あ~……とにかく部室を広くする為にも、手始めに掃除の必要があるぞ 部長」

先輩「うひょ~史上初! 生活感溢れる喫茶店ってキャッチコピーが決まるねぇー!」

生徒会長「ゴミ箱を引っくり返したの誤りだ。ここに散らかる物全て君の私物だからな」

男(確かに奇奇怪怪な物が面積を占め、客を招けるスペースを潰している。入手経路も知りたくない様な黒ネズミの像などなど)

男(そんなわけで、早々本日の部活動の内容は決定し、各々ゴミ袋片手に大掃除へ励んでいる有り様である)

生徒会長「……男くん、君にだけの話だ。い、いいかな? [ピーーー]」

男「は?」

男(先程からやけに周りの様子を窺っていたと思えば、生徒会長がひっそりと俺の隣で屈み、言うのだ。来たか、第二波)

生徒会長「じ、実は話と言うのは[ピーーーーーーーーーー]を、[ピーーーーーーーーーー]。[ピーーガーーー]?///」

男(良い迷惑すぎるだろう)

不良女「もしそいつ誘ってんなら無駄だと思うぞ、カイチョー」

生徒会長「うぐっ!? な、何のことやら……」

男(彼女を考えると意外な牽制が起こった。見れば、不服そうに不良女はこちらを睨んでいる)

不良女「な、だったよな?」

男「えっ、あ、あーっ!! アレだなっ、アレなら無理かもー……なんつって」

生徒会長「待て、私にも理解できるよう詳しく話してもらおうか」

男(漂う険悪オーラの衝突だ。不良女を黙らせないと不味いかもしれん、危機一髪を呼ぶ可能性が)

不良女「……ふ、ふん! この際だから言っとくぜ、みんなにも。あたしそろそろガチで捕りに行くわ」

不良女「こいつのこと、[ピーーー]、ガチで……[ピッ]、[ピー]ったいし///」

男(敗因:頭を捻らせていて無警戒だった。俺の隣へ来た不良女が、抱きついてきたのである)

男(男の娘や生徒会長は少女漫画チックな白目を剥き……先輩は、天才か、俺の背面から抱きついた)

不良女「なあっ……!?」

先輩「単純にどっちがいーい、男くん?」

男「ど、どっちって……そんな、料理ショーじゃあるまいし……ねぇ……」

先輩「[ピーーーー]て」

先輩「合宿からずーっといい加減にしてたもんね、不良女ちゃんの気持ちわからなくもないんだぁ」

先輩「別に折り合い悪くしたいんじゃないんだよ? そこだけは、誤解しないで欲しいな……」ギュッ

男(気付いた時にはデンジャーゾーンに片足突っ込んでいた件)

男(思うに、皆表面では平静を保っていたが やはり結論を求めていたのだ。というか、それが当たり前だった)

男(俺が合宿の夜に張った罠は、彼女たちの好意を外へ開放させ、ハーレム展開のために俺が全力で逃げること)

男(逃げ続けても、いつかは追い付かれる。そういう事だったのでしょう)

不良女「……あ、あたしらもさ、いつまでも待ったかけられた状態じゃ釈然としないわ」ギュッ

男「ひぃ!?」

不良女「どっちもダメならダメ、興味沸かないならそれで良いって。だから[ピーーーーーー]?」

先輩「[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男「な (止せ。き、訊き返す空気じゃないぞ)」

男(過去最高に冷や汗が滝みたいに流れている気がする。たぶん、そうなっている。クライマックスMAXレベルで)

男(修羅場るの、これ? どうなってるの? ねぇ?)

男の娘「二人ともやめてよぉ! 男が困ってるじゃないっ!」

男「お、男の娘……!」

男の娘「男を困らせる様なこと言うんだったら、ぼ、僕が許さないから!! 僕だって男を[ピーーーーー]!!///」

不良女「どさくさに紛れてお前もやってること同じじゃねーかよっ!」

男(落ち着け、落ち着いてくれ、救いの手と思いきや火に油を注ぐ手とは思わなんだ)

男(俺も冷静になれ。好感度の均一を保てていたことで、殺し合いに発展せず、まだ四人は話が通じる)

男(それにしても、改めて酷い事していたと自分を責めたくなってしまうぞ、今回は。ブサ男を好いてくれる美少女たちを、よくも勝手な願望で)

男「(だが、妥協してたまるものか) まずは謝らせてくれないか?」

男「俺さ……みんなの気持ちを知っていながら、ずっとそれに甘えてたんだろうな。居心地良かったのも否めない」

生徒会長「し、しかし元を辿れば私たちの身勝手で君が振り回されているんだっ。非を詫びるなら、こちらだって同じ事」

生徒会長「一旦、二人とも彼から離れるんだ……頭を冷やそう……」

男(不良女と先輩は言われた通り、俺の体を離して距離を置いた。気まずい雰囲気を残留させたまま)

不良女「あー……なんか悪かったよ。原因あたしだけど、こんなのキャラじゃなかったよなぁ~!」

不良女「男もごめんな、急かすみたいな真似させようとして! 帰りなんか奢るから許せ! なっ」

不良女「も、もちろんみんなで一緒にだから勘違いすんなよ!? ブチョーおススメの店また連れてけよぉ~!」

男(一同揃って引き攣り苦笑い。転校生が混ざっていなかったのが不幸中の幸いだ)

男(……欺かなくてはな、ラーメン愛好会)

ここまで。次スレでマジで完結(予定じゃない)

男「ただいま。幼馴染、夕飯できてるか?」

幼馴染「おかえりなさーい。愛好会の人たちとご飯食べてくるんじゃなかったの?」

男「あ~、色々あって途中でみんな乗り気になれずに解散した……ていうか何でお前がその事を!」

天使「幼馴染ちゃんは男くんの何でもかんでもを把握しちゃってるんですねー」

幼馴染「えへへっ、女の勘も侮れないでしょ。冗談冗談♪」

男(お前の場合は小さな冗談で背筋に氷河期を到来させる。病み要素がバカにならなすぎて)

天使「時に男くん。人は焼肉食べたらデザートのアイス食べなきゃ締まらねーと自分また一つ賢くなりました」

天使「そして辿りついちまったんですねぇ…… 焼肉問わずラストのアイスはやはり欠かせないです!」バンッ

妹「ダメ、没収! 天ぷらとアイスは食べ合わせ最悪なんだから」ヒョイ

天使「あああぁぁ~~~!! アイスぅーーー!!」

男「またまた賢くなれた天使ちゃん良いとして、妹。後輩の話なんだが」

妹「だぁーかぁーらぁー……どうして[ピーーーーーー]~っ」

男(妹め、やはり好意を剥きだしにさせてから、美少女たちを若干敵視している。まだライバル関係と呼べなくもないが)

男(愛好会でも家の中でも、崩壊では洒落にならん。恐らく、これまでのやり方を改めなければ俺の安息も絶えるだろう)

天使「隙ありっ!! 自分のアイスは返してもらったですよぉー! はっはっはっ!」

天使「ていうか後輩ちゃんがどうかしやがったんですか、男くん?」

男「いやいや、特にどうというワケじゃ。天使ちゃんが気にすることじゃねーさ (現実どうもこうもである)」

妹「むぅ……お兄ちゃん一応は、幼馴染ちゃん彼女にしてるんだから他の子に浮気とかないからね!」

幼馴染「でも妹ちゃんはあたしから男くん奪おうとしてるんでしょ? 負けないけどっ」

男(自信満々に宣言した幼馴染は、得意げに腕を絡ませアピール。ああ、三つ巴 男くん取り合戦開幕の狼煙が上がってしまった)

幼馴染「男くん、あとで部屋にお邪魔しちゃっていい……?///」

男「はぁい」   妹「妹の前で鼻の下伸ばしたりすんな、あほぉ!!」

天使「聞け愚民っ、自分は今日 男くんに添い寝してやりますよ! ええ、やってやりますとも!」

男(俺をあの手この手で手に入れようと躍起する美少女たち。ハーレムじゃないか、素直に喜べちゃいないが)

男「幼馴染いい加減にしろ、お前たちもだ! こんな所にいられるか、俺は部屋に戻るぞ!」

幼馴染「それは来てくれ幼馴染の合図!?///」

男「話拗れるから黙って見送れよ……っ!」

妹「そ、それじゃあお兄ちゃん! 一緒に[ピーー]しよっ!///」

男(大事な部分が聴こえていないのが、大いに妄想を引き立たせ、実にけしからん。狙ってやったか 糞スキルよ)

男「ちょっくらコンビニ行ってくる」

男(意外にも素直に引き下がる三人を置き、外へ出た俺は 懐から震え続けていた携帯電話を取り出した。着信、それも相手は)

生徒会長『も、もしもしっ!/// ……ああ、良かった繋がった。夜分遅くにすまない 男くん』

男「遅れてすみません。ちょっとゴタゴタしてたもんで。それで、どうかしましたか?」

男(順当にいけば放課後の話を振られるに違いない。一応場所を別に移そう、不良女イベントを避けて、他のコンビニへ)

生徒会長『どうという用でもないんだが……そ、その、な』

生徒会長『あ、明日明後日は何か予定で埋まっていたりはしないか?』

男「(あっ、この流れは経験上、お誘い、ではないか。しかも個人的な。しかものしかも生徒会長からとはレアケース) ええ、丁度暇してたものだから家でくつろいでようかなって」

生徒会長『つまり予定は無いと受け取って大丈夫なんだな? [ピーーー]っ』

生徒会長『こ、コホン! 実は……あの、君に折り入って頼みがあってね……』

男「生徒会長が? もしかして生徒会絡みの用だったりします?」

生徒会長『……[ピーー]』

男「はい? (ただの電話に照れ過ぎだろう、なんてツッコミは野暮。これで勇気を全力で振り絞っていると思われ)」

生徒会長『だ、だからだな。[ピーーー]に行かないか、と。あぁ~、ええっと……!』

男「わかりました。行きましょう」

生徒会長『本当に!?///』

男(電話向こうで浮かべた美少女の反応なぞ俺にとって想像も容易い。ぬいぐるみ抱きしめ足でもジタバタさせちゃったり、ほっこり、が、すぐに はしゃぎ声は難聴スキルで妨害されるこの仕様。糞である)

男「へへっ、そんなにはしゃぐなんてあなたらしくないですよ 生徒会長」

生徒会長『す、すまない! ……えへへ///』

生徒会長『それでは予定なんだが、明日の十時に駅前へ直接来てもらって問題ないかなっ』

男「結構ですよ (はてさて、何処へ、行くのかサッパリだが)」

生徒会長『よしっ、決まりだな! [ピーーーー]、[ピーーーーーー]! [ピーーーーー]~~~♪』

男(この美少女生徒会長、ウキウキである)

男(とにかく集合場所と時間だけ聴き取れたら十分だ。現地までのお楽しみとしておこうじゃないか)

男(あの難聴連鎖の反応といい、お忍びデートのお誘いと自己解釈させてもらった。しかし、察しの良い方ならば、間抜け、と思われた事だろう)

男(俺とて 今日の一件を忘れたわけではない。デートがバレて泥沼と化す恐れだってある。それでも承諾した)

男(あの美少女を信用しよう。けして浅はかな真似は起こさないと。攻略のためにも必要なイベントだ、乗り切ってみせよう)

男「そろそろ帰っても平気だろう。いや、カモフラージュにジュース一本買って帰るか (思いつつ コンビニへ入った俺だ。先程の言動とは裏腹に少年誌へ手を伸ばそうとしていたのは、全部ジャンプが悪い)」

男(瞬間、伸ばした手が別の客の手へ触れるパターン。神出鬼没すぎる)

先生「げっ!?」

男「……もうちょい気の利いた挨拶ないんですかね」

先生「仕事帰りに毎週ジャンプ立ち読みに来る先生を笑いなさいよ……っ」

男「先生も週刊連載に取り憑かれた大きなお友達の一人だったとは」

男(場所を移し、車内で奢ってもらったお茶を片手に俺たちは熱くブリーチを語り合う)

先生「男くん 家まで送ってあげるわ。だから、今日見た話は内緒にしてね?」

男「そんな口封じまでする事でもないでしょうに。……ガラスの犯人は見つかりました?」

先生「全然。見た人もいなければ、証拠もいつの間にか無くなってたしサッパリねー」

男(あのデジカメは未だ俺が預かったままだ。どうにか後輩と接触したいところだが、会えたのはあれきりである)

男(わざわざ一度だけ屋上へ現れたのも俺へ、分からせに来た、と解釈できる。私は今後あなたと個人的に会いませんと)

男(留守にしていた時にでも、神と後輩との間で何かあったのかもしれん。一切の関わりを禁じられたとか、意地悪を――――)

男「先生っ、車止めてくれ!!」

先生「は!?」

先生「ど、どうしたの大きな声出して……って、ここで降りるつもり!?」

男「送ってくれありがとうございました! あの事は秘密にしておきますから、では!」

男(助手席から勢いよく飛び出した俺は、窓の外から一瞬見えた 影 の元へ駆けていた。あまりにも不意打ち気味だったが)

男「う、噂をすればだな……!」

後輩「え?」

男(肩に手を置いて、こちらを向かせれば第一声は予想外に素っ頓狂なものだった)

男「こんな時間に可愛い子が散歩なんて、お前 自覚ないのか?」

男(…………どうした。硬直したまま三十秒は経過している。月に照らされると雰囲気薄幸の美少女に、とかはどうでもいいのだ)

男「と、遠回しに何してるんだって尋ねてるんだ。俺が通り掛かるのを待機してた風にも見えなかったし」

男「……後輩?」

後輩「痴漢なら、大声あげて人を呼びますよ」

男「俺のどこがちか、あっ?」

男(後輩は俺の置いた手を無情にも払い、一人で歩みを進め始めた。茫然としている場合じゃない。追い掛けなければ)

男「怒るなって! どうして俺を避けてるかはよく分からんが、変だぞ 後輩……」

後輩「さっき忠告しましたよね、私。二度はありませんよ……すぅー」

男(すかさず深く息を吸い込んだ彼女に狼狽し、無理矢理口を当ててしまった。通行人が見れば人攫いの図は間違いない)

後輩「んぅ~!! ん~~~っ!」

男「あ、暴れるな! 人に見られたら最悪だから落ち着け!」

男(完璧に俺がやらかしている感じじゃないか、コレ)

男「いいか、手を離してやるからマジで悲鳴上げるなよ?」

男(と、フェイントで一瞬手を離すと すぐにまた大きく息を吸うので、再びお口へチャックを)

男「この歳で俺を犯罪者に仕立てあげる気かよ!? まぁ、ここじゃその心配もなさそうだけど……」

男「話をしよう、後輩。お前に何があったのか聞きたい。いや、俺の質問に首を振るだけで良い」

男(神から口封じを命じられているのならば、この方法で機転を利かせられるかもしれない。焼け石に水かもしれんが)

男(まぁ 後輩ならば、こちらの思考を読んで意図をわかってくれる)

男「神から俺へ近寄るなって罰でも与えられたのか?」

後輩「……」

男「じゃあ、お前のカメラを捨てたのは俺との関係を決別するつもりで?」

後輩「……」

男(うんともすんとも、というより、一寸も首を動かす気配がない。今度ばかりは、まるで意思が固いようだ)

男「後輩、お前が相手にしてくれなきゃこっちは非常に困る。お前という美少女含めて完全ハーレムだろうが!」

男「いつもの悪戯のつもりだったら、怒るからな!? 限度があるだろ!」

男「俺は美少女を平等に、いや、後輩のことが大好きなんだからな!」

後輩「……?」

>>915
男「じゃあ、お前のカメラを捨てたのは俺との関係を決別するつもりで?」

訂正:男「じゃあ、自分のカメラを捨てたのは俺との関係を無かった事にするつもりで?」

男(ああ、俺とした事がつい感情的に。なんて顔を熱くさせていると、いつのまにか後輩が)

男(奇妙なモノを見たような顔して、こちらを凝視していた)

男「な、何か言いたくなったか? 今度こそ手除けるから叫ぼうとするなよ」

後輩「……あの」

後輩「さっき何て言ってましたか……?」

男「な、何を言い出すかと思えば。だから、神から俺に近づかないよう禁止されてるのかって」

後輩「違う。遡り過ぎてます、そっちじゃなくて少しあとに言った……」

男「少しあとって……お前のことが、だ、だいすき?」

後輩「え?」

男「何遍恥ずかしい台詞言わすつもりだ、お前っ!?」

男「……す、好きに決まってるだろ。第一条件美少女も突破してる上に、性格から仕草から何から鼻血出そうなぐらい可愛い」

男「本当 悪魔的に可愛い美少女だな、お前!! もう言わせんな恥ずかしいっ」

後輩「何て言いましたっ?」

男「ちくしょう!!」

男(避けるどころかその俺を恥ずかしめさせるか、正に悪魔美少女。これでは話にならないぞ)

男(とかいう腑抜けのつもりはない。この俺の障害を置こうものならば、恩人とはいえ反逆させて貰うぞ、神)

男「さっきから同じ事訊き返したりしてるのって、俺の難聴の真似じゃないだろうな」

後輩「難聴? ……あっ」

男(難聴の単語に反応したぞ。様子がおかしくなったのも、後輩愛を語ってからだったが)

男「(ああ、嫌な予感がする) ホテル直行してチョメチョメさせてくれ、後輩」

後輩「何ですか?」

男「……心にも思ってないし卑猥で怪しいと思ったが、冗談だろ? (こんな戯けた現象を勘繰るのは、きっと世界にこの俺ただ一人だろう。常識なら確実に疑わない疑えない笑えない)」

男(後輩、難聴スキルを覚えていないか?)

男「今みたいに台詞の一部やら言葉が聴こえなくなったのはいつからだ?」

後輩「えっ、ええっ」

男(愚問だった。訊くまでもなく、あの日家に泊まりに来た時は平気だったろう。いつものように俺をからかったのだから)

男(奇妙な行動を取り出したのも、自分の異変へ困惑しているのも、今日からだ。現実へ戻ったのを境に、何故だ、狂っている)

後輩「…………せ、先輩……私……」

男「心配するなって。一緒に考えよう、大丈夫だ」

後輩「え? 何か言いました……?」

男(認めたくはないが、有り難い難聴スキルのお陰で後輩から事情を訊き出せそうにある。サンキュー難聴)

後輩「……神さまが言ったんです。私から対価を二つ頂いたって」

後輩「一つはすぐにわかりました。私の、使いとしての力、この世界に存在する人間の心を読む力が消えていた」

男「チート喪失か……それでもう一つが、難聴だったと」

後輩「気が付いたのも、実際に体験したのもついさっきが初めてです。先輩って苦労してたんですね」

男「ふむ……俺の難聴スキルは美少女の感情がフィルターに引っ掛かるらしくてな、簡単に説明すれば“恥じらい”に左右されてた」

男「ぶっちゃけ お構い無しに好意を勘付かせる台詞はアウトかもしれん。少なからず例外もあったが」

後輩「じゃあ、さっき先輩は恥ずかしいことを喋ってたんですね」クス

男「正確には恥ずかしがって喋った、だなっ!!」

男(後輩の難聴スキルも同様というわけかもしれない。とっくの昔に俺は攻略されているので、無し、とかは無駄だろう)

男(しかし、何故よりにもよって難聴スキルだ。間接的に俺の妨害を仕掛けたか、あるいは これ以上後輩が俺との距離を縮めないようにしたのか)

男「(縮めないよう、ああ) ていうか、俺を避けてた理由は?」

後輩「言いません」

男「言いませんだって? 言えません、じゃないんだな?」

後輩「……い、言えませんので」

後輩「おかしなことで気が動転してました。もう落ち着いたので、それでは」

男(そう、これだ。露骨すぎるぐらいこの俺を嫌う彼女の態度)

男(不自然に感じて仕方がなかったが、自分から俺を遠ざけようとしているのだ。不自然すぎて、俺を近寄らせてしまっているが)

男(普通なら嫌われる言動も行動も散々取ってきた。だが、この世界ではどう転んでも許容される。天使である後輩もまたそうであったのだ)

男(モテる、が否定される行動……ハーレム完成の妨害……導き出される答えは)

男「俺が永遠目的を果たせずにいたら、どうなるんだっけ?」

後輩「……今回ばかりはそれは許されませんので。ご自分で落とし所をつけてください」

男「俺、ここでの生活何度もループしてたみたいなんだが、知ってるよな?」

男「委員長が救えなかったうんぬんでしばらく納得させてたけれど、ようは俺が満足に至らなかったせいだろう?」

男「お前は俺に最初からやり直させるつもりか?」

後輩「……」

男(ループに巻き込まれるのは、この世界の住人全て。後輩や天使ちゃんたちですら、過去の追体験からそう断定しよう)

男(以前、天使ちゃんが話してくれた真バッドエンド。そこへ到達すると何が起こるかわからないと話していたのを覚えているだろうか)

男(……後輩は、知っていた。真バッドエンドなる終焉を迎えた先を)

後輩「帰ります。おやすみなさい」

男「――――という事があったから、久しぶりの天使の助言をプリーズ」

天使「自分いまお仕事から外された立場なんですけども」

男(問答無用、餌で釣ったとも。上機嫌になった天使ちゃんに再度頭を下げてお願いすれば、渋々と)

天使「つまり、後輩ちゃんが何かを危惧して そのるーぷ的な? あれ? 考えたってことにしといて良いんですかぁ?」

天使「るーぷしてどーしろと。男くんとやり直したいとかですかー? 面倒でしょう」

男「それもそうだけど……なぁ、本当にハーレム作って満足したら、俺は成仏みたいな事になるのかね?」

天使「じょっ……えー あ~っと! うー、もう言っちゃって平気なんですかねコレ。男くんも事情通みてーですし」

男「はよ!」

天使「無に還ります。絶頂の幸せ抱えて」

天使「って説明するとおっかなーいかもしれないですけど、実際は~……ありゃ」

男「たぶんとは思ってたがやっぱり冗談じゃねーな……“その後”がないだと? 未来が重要でしょ?」

男「目的は目的であって、俺はハーレム後を一番待ち望んでたんだが!?」

天使「十分たくさんやらしい思いできてたでしょーに」

天使「後輩ちゃんの言う落とし所ってそういう事じゃないですかぁ? どっちみち消えて無くなるなら最後にドデカい花咲かせとけーって」

男「俺はまだまだ散り際考えたくねーよぉ!!」

男(こうして俺が躊躇しだすのも、後輩には予測できていたのだろう。その為に俺を思って、あえて、突き放した?)

男(念願のハーレム達成が叶わない俺へ真バッドエンドを回収させるべくして、と?)

男「確かにループを果たせば、何も知らなかったあの頃に戻って楽しめるに違いない。だがしかしだ、天使ちゃん」

天使「なんぞや?」

男「別にハーレム放置でグダグダこの日常を満喫していれば、無に還るとか何もない」

天使「そうなりそうだから主がぶちギレてるんでしょー」

天使「るーぷが何度目か知らねーですけど、こんな事続けてられても困るんですよ。あーあ! だーかーら自分は[ピーー]して口酸っぱく深入りするなつってたのに!」

男「ハッハッハ、何か言ったなー……そういえば今度ばかりはと神が言ってたな」

天使「もしかすれば、るーぷも主が打ち止めにしちゃったかもしれませんよ~?」

男「絶望セーブポイント復帰もなくなって……あ、じゃあ後輩は真バッドエンドでまだループできると思ってるのか」

天使「なんたる哀れっ!」

男「……まだ何か引っ掛かるな。俺だけ、みたいだな」

男(某眼鏡少年の早技もビックリな光速睡眠をしたロリ元天使がそこに転がっていた。鼻ちょうちんが良い味出していたり)

男(本当の、本当に後輩はループを企んでいるのだろうか。いつか屋上で見せた、あの寂しそうな後輩が、脳裏に)

男・天使「すやぁ……( ˘ω˘)」

男「(時間は十時キッカリ、集合地点もバッチリ。されども美少女は来ず) 意外だ。あのクソが付くほど真面目な生徒会長がまだ到着してないって……」

男(幼馴染たちには勿論何も言わず出てきてしまったが、バレたら修羅場か。二度目の死か)

男(問題ない、死に瀕すれば神が意地でも止めに参上する。まずその様な事態になるヘマは起こさん、肝に銘じている)

「……[ピーー]、[ピー]?」

男(……恐らく、何か後ろにいる美少女に話しかけれた。何も聴こえやしないが、感覚が告げている)

男(クルリと体ごとそちらへ向き直せば、何たることか、おお、神よ、世界よ)

男「生徒会長 滅茶苦茶オシャレじゃないですか!!」

生徒会長「ひんっ!? [ピッ]、[ピーーーー]……///」

男(目の前には美の化身でも降りてきたみたいに、絶世の美少女。どう言葉にしたら良いかさえ躊躇う一品だ)

男「し、私服の生徒会長って合宿以来でしたけど、今日のは」

生徒会長「[ピッ]、[ピーー]しいか? [ピーー]しかったら、遠慮せずに指摘してくれても……っ」

男「(自信無さ気な態度が、答えだ) 似合ってる通りこしちゃってるんですって! 大袈裟に言って、ヤバい!」

男「語彙力足らなくて言い表しようないんですけど、ヤバい!!」

生徒会長「かかか、もう帰るぅーっ!!///」

男「えぇ……」

ここまで

>>914  どうしても気になりすぎて

男(すかさず深く息を吸い込んだ彼女に狼狽し、無理矢理口を当ててしまった。通行人が見れば人攫いの図は間違いない)

訂正:男(すかさず深く息を吸い込んだ彼女に狼狽し、俺は後輩の口を両手で塞いでしまった。通行人が見れば人攫いの絵面か)

男(複雑怪奇な乙女心を掌握してこそ美少女マスター。この手のタイプに限った話ではないが、押しが強すぎれば空中分解してしまう)

男「(始めは一歩引いて、リードを任せてしまうのが得策か) 思い返せば、俺たちプライベートで顔合わることって中々ありませんでしたね」

生徒会長「ああ、だから君とはこうして休日に落ち着いて会ってみたかったものでな」

男「二人切りでですか?」

生徒会長「うっ……大体考えている事は想像がつくな。私とてあの子がいなきゃ話ができないというワケでもない!」

生徒会長「今日ぐらいは[ピーーーー]じゃないか。[ピッ]、[ピーー]かな?」

男「へ? あっ、すみません。車に気を取られてて聞いてなかったかも」

生徒会長「[ピーーーーー]……///」

男「度々すみません、駅のアナウンスに声が掻き消さっ、チィッ!!」

男(如何せん彼女は俺を相手にすると照れ屋が前面に出まくりんぐだ。今日は碌な会話ができるかも怪しいが、進まねば)

男「そういえば俺たちこれから何処に行くんでしたっけ?」

生徒会長「ほう、私は昨日確かに映画を見に行かないかと誘ったつもりだったが? ふふっ、あの男くんがド忘れか」

男「あぁー 正直ちょっと舞い上がってたのも否めませんかねぇ。ハハハ……」

生徒会長「それって私と[ピーーーーーーーーーー]~……?///」

男「あれ、生徒会長? もしもし? い、意識ここに残ってますか? (序盤から飛ばし過ぎだろう、糞スキル)」ブンブン

男「でも来て良かったですよ。映画館なんて滅多に行く機会ないですしね!」

生徒会長「あは、まだ足も運んでいないのに満足するには早いんじゃないか? ……くぅ、男くん[ピーー]いすぎるぅ~!///」

男(お姉さんゲテモノ趣味にも程があるんじゃありませんこと?)

生徒会長「いやね、偶然 親戚の方からチケットを二枚頂いてしまってな。だから君を」

男「え? じゃあこれってデートのつもりだったとかじゃ」

生徒会長「ひうっ!?///」

生徒会長「いや、アレだ!! 君はサブカルチャーに強そうだし鑑賞後の感想も期待できると思ってだなっ!?」

男「へぇー、でも碌なコメント期待しない方が良いと思いますよ。色々疎いし」

生徒会長「わ、私も好き好んで見ないから、同じかもしれないよ。あはは…………はぁー」

男「あんまり俺といて楽しめなかったら、なんか申し訳ないな。他に誰か呼びましょうか?」

生徒会長「必要ない!! 十分楽しいぞ!?」

男「お、おぉ……なら、良かった……」

生徒会長「まったく……変に[ピーー]と思わせられたら、相変わらずの[ピーー]っぶり、か……」

男(などと案の定ブツブツぼやく生徒会長を慰めてやりたい。こういう時に限って似非鈍感も輝くな、とその時)

生徒会長「……[ピッ]、[ピーー]だと言われたら、どうする?」

男(いきなりの発言、その場へピタリと制止した生徒会長へすぐは訊き返さなかった。おもむろに、こう告げてみた)

男「ポップコーン食べますか?」

生徒会長「え゛っ」

男「ウチの妹が昔よく言ってたんですよ。映画見るならポップコーンなきゃ損だ~! って」

男「俺もアイツに付き合ってよく買ってたんですけど、なんか癖みたいになっちゃって……分けますか?」

生徒会長「フフ、ハハハ……ふっ、ふふ、そ、そうだな、買っておこうか……ッ!!」

生徒会長「[ピーーーーーーーーーー]! [ピーーガーーーーーーーー]っ!? [ピーーーーーーーーー]ぁ~~~!!」

男(悪かったな、生徒会長。恐らく勇気を振り絞ったあの台詞はまだ使い所ではなかったよ)

男(振り回すのも振り回されるのも、勘違いしてもらっちゃあ困る、この俺だ。手綱は既に握らせてもらった……)

生徒会長「け、結構なバケツサイズで渡されるのだな、こういう物って」

男「生徒会長がポップコーン抱えてる姿ってシュール……俺が持ちますよ、手塞がっちゃいますしね」

生徒会長「ほう、紳士だな 男くん。それじゃあお言葉にあま、どうした?」

男「え? いえいえ、何でもありませんよ。ちょっと思い出し笑いが込み上げて、ククク」

生徒会長「ん? そうか? だったら気にしない事にしておくが……」

男(上映時間も迫り、言った通り俺たちは売店でポップコーンをGET。生徒会長はこれに加えて飲み物を。順調に材料は揃い出した)

男「公開からだいぶ時間経っているせいですかね? 客がほとんどいないですよ、生徒会長」

生徒会長「そのようだな…………」

生徒会長「しかしだ、このぐらい閑散していた方がスクリーンにも集中できるだろう。嫌だったかな?」

男「いいえ、気が合いますね」

男(渡されたチケットの映画を見て確信した。これは古い映画の再公開物で、客層も若者は皆無)

男(中には俺たちから離れて精々二、三人座っているぐらいだろう。指定された席は仕組まれたように 死角気味となっていた)

男(抜け目ないのはどちらだろうな、生徒会長よ。あえて人の入りの少ない映画を選択したか)

生徒会長「先輩ちゃんや不良女を誘ったところで、こういった作品に興味もあるまい。やはり君が適任だったと思うんだ」

男「……」

生徒会長「とはいえ、隣でぐっすり居眠りされては困るからな……」クスッ

男「カップルが映画見る時ってやっぱり手とか繋いだりするもんなんですかね?」

生徒会長「[ピッ]、[ピーーーーーー]?」

男「い、いやいや!? 別にしたいから言ったわけじゃないですからっ!」

男(取り繕うように大振りで手をバタバタさせてみれば、彼女は残念そうに しゅんと一瞬動きかけた手を膝に戻す。ふむ、十分臨戦体勢だったようだ)

男(照明が徐々に、薄暗くなっていく……戦闘開始)

生徒会長「……始まったな」

男「……ああ」

男(即座にもう一度他の観客モブへ視線をチラリ、皆 「やれ」と言わんばかりに目を瞑り、寝息を立てているではないか)

男(そんな空気の読めるモブを愛している。生徒会長の動きは……特に目立った様子は見られない)

男(仮にも映画鑑賞である。会話を楽しむ、という要素は排除された。恐らく二人切りになると口下手気味になる彼女だからこそ、映画、を選択したのだろう)

男(すなわち、静と動の手段か)

男「……生徒会長、周りのお客みんな寝てますね」スゥ

生徒会長「んっ……大人しくしていれば、ある意味じゃ私たちの貸切だな。ふふ」

生徒会長「……[ピーー]……男くんと、[ピーーー]なんだ…………っー……///」

男「え? 何か言いました?」

生徒会長「なんでもなーい……うふふっ」クスッ

男(ささやくようにして無邪気に返した生徒会長に、トキメイて、思わず噴いた。何かを)

男(さぁ、上映から三十分経過。動きに変化はまだ起きない。お互い睨み合いの続く状態のままだ。では)

男「(俺、起動) ちょっと喉渇いたんで売店で飲み物買ってきますね」

生徒会長「何?」

 \ ビールでも飲んでリラックスしな。娘の面倒は俺がしっかり見ててやるよ /

男「えっと、ポップコーン摘まんでたら流石に塩分が喉にしつこくって。失敗したな」

生徒会長「だからあの時君も要らないのか聞いただろうに……あの」

生徒会長「よ、良ければなのだが、コレ」

男(ゆっくりと、渋っているように思えなくもないほどに、ゆっくりとこちらへ彼女は自分の飲み物を差し出したのである)

男「でも、いいんですか? これじゃ生徒会長の分が減るんじゃ」

生徒会長「い、いいんだっ。別に[ピーーーーーー]///」

男「んん? それじゃあ、お言葉に甘えて……」

 \ 面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる /

生徒会長「っーーー……!!///」

男(僅かに当たったスクリーンの光によって、口元を両手で隠し、ぼうっと顔を火照らせた生徒会長が この瞳に映写されたのであった)

男「ふぅ。ありがとうございます、生徒会長。お陰で映画半端にならなくて済みま、どうかしました?」

生徒会長「[ピーーーーー]……[ピーーーーーーーーーー]……[ピーーー]、[ピーーーーー]……」

生徒会長「[ピーーーーーーー]……の、残り、あ、あげる///」

男(萌えるカタコト喋りに滾ったのは言うまでもない)

男(映画もいよいよ大詰め、終盤が近付く。あれから何かアクションは起こしてもいなくて、起こされてもいなくて)

男(思い切った行動は控えるべきではある。だがしかし、それでは進展も無いまま時が過ぎ去ってしまうのだ)

生徒会長「……男くん」

男(たっぷり俟ちかねたぞ、クール崩壊美少女生徒会長)

生徒会長「……男くん? あっ、寝てる」

男「……」

生徒会長「……っう///」

男(の後にはお約束で難聴フィルターが猛働きしている、狸寝入りもじれったく感じてくる酷さだ)

男(こう、目を瞑っているのに真横で難聴台詞の連発は、ストレスだな。聴こえないフリなのに、意識も散り散り、聴こえないのに聴こえている。意味不明すぎる)

男(ここで彼女が動いた)

生徒会長「……起きないなら、どうなってもしらないからな」

男(ご自由にバンバンどうにでもしちゃってください、お姉様。何でもやります。何でもしてください、お願いシャス)

生徒会長「うっ……[ピーーッ]、[ピーーーーーー]……?///」

男(頬に指が触れる感触、その指はスーッとゆるやかに曲線を描きながら唇へ置かれた。置かれているぞ、今から頭がバカになりそうだ)

男(指が、離れた。次の瞬間 肩に、二の腕に手が当たって、掴まれて、ああもう俺 昇天しそう)

 \ 来いよベネット! 怖いのか? /

男(もたつくような仕草で、遂に、俺の体は生徒会長を向かせられてしまった。寝返りを打ったのも違和感ない角度、まるで計算し尽くされている)

男(首元は線の様に細く、長く、滑らかな髪によって蹂躪されている。間近で嗅いだ香りは とても甘く、意識を蝕む勢いで 鼻孔へ雪崩れ込んでくるのだった)

男(この感覚を誰にも味あわせてなるものか、気が狂う緊張感と膨張し続ける興奮、全て俺のものとなれ)

 \ ブッ殺してやる! ガキなんて必要ねぇ! ッヒヒヒ、ガキにはもう用はねぇ! /

生徒会長「ん……///」

男(それは一瞬の出来事だった。湿っていながらプリッとさせた弾力のある、柔らかい、が俺の唇へ飛んで、跳ねた)

生徒会長「…………あ、あ」

生徒会長「っああ……[ピーー]、した、のか? な、なにを[ピーーーー]っ?」

生徒会長「私は[ピーーーーーーーー]~~~!?」

 \ また会おうメイトリックス /    \ もう会うことはないでしょう /

男(余韻がまだ全身に残って、響いているのだろうか。覚悟を決めていたものの 美少女からの激烈なアタックはいつになろうと慣れない)

男(エンドロールが流れ終えると、劇場は再び明るさを取り戻した。……念には念を、もう少し待機だ)

生徒会長「男くん、男くん起きないか。男くん?」

男「…………へぇ? あ、あれ」

生徒会長「映画は終わってしまったよ。すまないな、君には退屈させてしまったかも」

男「そ、そんなことは! 大体 居眠りするなって注意されといて 寝てた俺が悪いんですよ!」

生徒会長「そう言うな。つまらなかったのなら、遠慮せずに――」

男「だから! お、俺は……俺はあなたと一緒なら楽しい…………あっ」

生徒会長「……えっ、い、いまのは」

男「ち、ちが! ……ちが、わないです…………正直な気持ちのつもりですけど……えっと」

生徒会長「……」

男「うわっ、生徒会長すみません! 変なこと言った俺がやっぱり悪かったです!」

男(両手で俺から見えないよう包み込み顔を伏せて、生徒会長は黙り込む。難聴は反応していない? どうなった?)

生徒会長「男くん」

男「は、はい!?」

生徒会長「ありがとう。嬉しいなっ……」ニコニコ

男「   」

男(かつて、これ程までに明るく 満面の笑みを浮かべた彼女を見た事があっただろうか)

男(きっと気まずさを勝手に感じているのは俺ただ一人なのだろう。生徒会長は、優雅にコーヒーを楽しんでいらっしゃられた)

生徒会長「たまには映画鑑賞というのも良い物だな。コーヒーが沁みる」

男「誘ってくれて本当に感謝ですよ (ド派手なアクションジャンルとは思えないほどラブコメを食らったからな)」

生徒会長「ふふっ……そうだ、この後何処か行ってみたいところは?」

生徒会長「なんて、自分が無計画なのを良い事に君に委ねてしまうのも悪いかな」

男(出来れば街中を無作為に歩き回るのは避けるべきだ。イベント中に、惨劇を繰り広げたくはないからな)

男「でしたら、この後はカラオケにでも行ってみませんか?」

生徒会長「か、からおけ……私はまだ一度も経験がないんだが、う、歌の方も自信が」

男「俺だって初めてだし、歌声とか晒すのも恐怖ですがね」

男「とりあえず行くだけ行ってみませんか? (確か近くのビルの地下にあった筈だ。学生も足を運び辛い店が)」

男(密室へ洒落込もうじゃないか、なぁ?)

「当店のメンバーズカードはお持ちだったでしょうか?」

男・生徒会長「えっ……」

「機種は現在こちらと、こちら、それからこちらがございますね。如何いたしますか? ドリンクバー付けるでしょ?」

男・生徒会長「何が何だかさっぱりだ……っ!」

ここまでなの

男(店員に案内されるがまま部屋へ通されてはみたが、現実で入ったラブホテルよりも薄暗く、狭い)

生徒会長「対面に座るとモニターが見辛いかもしれないな……[ピーーー]いいか?」

男「構いませんよ。気にせず座ってくださいな」

生徒会長「[ピーーーーー]///」

男(お礼でも言われたのだろう。適当に目の前にあったメニューを広げてみるも、ぼったくった価格に即閉じ)

生徒会長「この機械を使って選曲するみたいだな。さて、君は何を歌ってくれるんだ?」

男「その手のマラカスとタンバリンいつ用意したんですか、生徒会長」

生徒会長「私は君の盛り上げに専念しようと思う!」

男「汚い音痴のワンマンショーとかどの辺に需要あるんですかね」

男(得意げにシャカシャカシャンシャン 装備した楽器を上下に振る生徒会長、確殺しにかかっている)

男「もし ここに不良女辺りが居合わせたら、絶対俺たちバカにされてるな」

生徒会長「し、仕方がないだろう! 遊び慣れてないのだから……」

生徒会長「今日だって[ピーーーー]がいなければ、来るつもりなんてなかったし……[ピッ]、君と[ピーーー]だから///」

男(非リア充の傷の舐め合いなのか。否、充実が絶えないモテモテだ。カラオケが何だ、やり切ってみせようじゃないか)

男「や、やっぱ先に曲入れません?」  生徒会長「~……!」シャカシャカ

生徒会長「……やむを得まい。どちらかがマイクを持たねば、始まらないなら」

男(譲らない時間を破った生徒会長、慣れない手付きで機器の画面をタッチしていけば画面には)

男「森の、くまさん?」

生徒会長「ふふ、この曲なら知らないとは言わせないぞ……一緒に歌おう、男くん」

男「童謡のデュエットってこの歳じゃキツいものありませんかね!?」

生徒会長「一度歌い切れば気持ちも切り替えられるだろう!? は、始まったからマイクマイク!」

男「……あっ、じゃあ俺二番歌うので一番を生徒会長にお願いしていいですか」

生徒会長「えっ! わ、わかった。本当に歌は苦手なんだ、笑わないでくれよ///」

男(マイクを持つ手の小指が立っているツッコミは野暮か。メルヘンチックな伴奏と共に歌詞が表示され、彼女の声を吐く)

生徒会長「あ……あるひ もりの なかぁ……く、くま……さんに……[ピーーーーーー]……」

男「(何となくそう来るとは思っていた) いえーい、いえーい」シャカシャカ

生徒会長「っあ、ぐ……くまさんの[ピーーーー]、おじょうさ、ん、お[ピーーーーーー]ぃ……///」

男(途切れ途切れだとどうしても卑猥に聞こえる方には、幼い頃の純粋さは残ってこない事だろう。と、マラカスを無心に鳴らしていれば、来たか)

「お待たせいたしました。こちら ご注文頂いたお飲み物になりますぅー」

生徒会長「きゃあ!?///」

男「生徒会長、歌わないんですか?」

生徒会長「っ~!///」ブンブンッ

男「まさかこのまま流して二番まで飛ばすつもりじゃないですよね」

生徒会長「そ、そんな卑怯な考えなど!! ……す、す[ピーーーーーーーー]ぁー///」

男「あっ、ついでにすみません 店員さん。このミックスピザとかいうのを一つ」

「ピザ一点かしこまりました~」

生徒会長「[ピッ]、[ピピピッ]、[ピーーガーーガガッ]~…………う~っ!///」

男(第二のビッグバンが起こるのならば、恐らくこの一室から全てが始まるのだろう)

男「ふぅー、歌い終わってからで申し訳ないですけど演奏停止ボタンありましたね」

生徒会長「……空を自由に飛び回る鳥になりたい」

男「ん? 一先ず店員がピザ持って来るまで待ちましょうか。そろそろ腹減ったでしょう?」

生徒会長「カラオケとはこうも恐ろしい遊びだったのだな……私としたことが、醜態を晒してしまった」

男「そんなことありませんよ、頑張って歌ってた生徒会長素敵でしたって」

男「ていうか、歌も上手じゃないですか! 歌手の道目指しません?」

生徒会長「君 さっきから私を煽ってるだろうっ!?///」

生徒会長「あっ、美味しい……」

男(先程まで真っ赤を保ったままだった生徒会長も注文したピザを一切れ頂けば、ご機嫌早変わり。あまりからかうのも気の毒になってきた)

男「食べ終わったら、今日はとことんカラオケに慣れましょうか。次にみんなで来た時の為に練習しときましょう」

生徒会長「……次か。そ、そうだな」

男「浮かない顔してますね? 疲れたとか?」

生徒会長「そうじゃないんだ。そのな、今後も皆が仲良くできているものだろうか、と」

生徒会長「はっ! い、いやっ! 今のは聞かなかった事にしておいてくれ、何でもない!」

男(なるほど、愛好会崩壊を懸念していたか。昨日は険悪とはいかなくても、不穏な空気は晴れないままだったからな)

男(原因はこの俺なわけで、何とも言えない心苦しさが残っている)

生徒会長「さ、気を取り直して次は何を歌う? 私も腕を振るおうじゃないか、フフッ!」シャンシャン

男「生徒会長も俺のこと気にしてるんですよね?」

生徒会長「き、気に[ピーーーー]」

男「それは変わらず恋愛感情だと思っていて良いんですか?」

生徒会長「…………[ピーー]///」

生徒会長「お、男くん!! なぜ このタイミングで訊いたんだっ!?」

男「自惚れてるみたいで言うの躊躇うけど、あなた含めて部員みんな俺が好きなんですよね?」

男「本当に合宿の夜は自分でも後悔してます……聞かない方が、俺たちの為になったんじゃないかって」

生徒会長「止してくれないか? 私はいい、だが彼女たちの気持ちを足蹴にしないでやってくれ」

男「だ、だけど俺なんかが原因で部内の空気が悪くなるなんて、辛いんですよ!! クソッたれェ!!」

男(いけしゃあしゃあと演じる自分に殺意が沸くぞ。このド屑を殴らせてくれ)

男「……情けない話ですね、自分がどうしたら良いかわからないなんて。悔しくて腹が立つ!」

生徒会長「そう抱え込まないでくれ、男くん……大丈夫だよ……」

男(そう言うと、生徒会長は俺を優しく励ましてくれる。この世界の美少女はもれなく聖人なのか)

生徒会長「あの……わ、私はな、男くん。本当は今日 君と[ピーー]がしたかったんだ」

男(純粋無垢な美少女だ。ストレートにスケベではなかろう。難聴に伏せられた言葉は、デート、と読める)

男(ここは、的確に意外そうな素振りで声を上げた。すれば、照れ臭そうに頬を掻きながら彼女は続ける)

生徒会長「昨日の今日で、最低だとは思わないか? 抜け駆けしたのだからな」

男「どうしてです?」

生徒会長「……[ピーーー]たんだよ。愛好会全員で楽しい日々を過ごしたいと思っていた反面、早くしないと誰かに[ピーー]奪われると思ってしまってな」

生徒会長「昨日の件から一気に疑心が自分の中で膨れ上がっていて……急がなければ危ないのでは、と……」

生徒会長「くっ、ついさっき綺麗事を抜かした自分が情けない!」

男(この調子ならば火種は燻ったままと明らかである。彼女以外の、先輩、男の娘、不良女も苦悩が拭えない状態だろう)

男(やはり不良女イベント時の断り方に問題があったのか。人間関係で部の存続の危機とは、俺にとって笑えない冗談だ)

男「もし 俺が誰かとくっ付くようなことがあれば、生徒会長ならどうなりますか?」

生徒会長「男くん……フッ、随分と酷な質問じゃないか」

生徒会長「その時は心から祝ってあげたいな、なんて、すまない。正直な答えかも怪しい」

生徒会長「わ、私は 自分が自分でなくなってしまうぐらい [ピー]くんを[ピーー]してしまったんだ……!///」

男(ここで、俺から、生徒会長の期待へ応え 歩み寄れば 煩わしい難聴も消えるのは分かり切っている)

男(だが、それではは禁忌の扉を開くも同然の行い。既に幼馴染を確保した現状ではリスクが大きいぞ。何より、本物の畜生に堕ちてしまう)

生徒会長「……」

男(返事を待っているぞ、本気の。恋はこうも容易く人を狂わすか)

男「(では、俺はこう答えましょう) 答えは変わりません、全員平等に大好きです」

生徒会長「うっ……」

男「さらにぶっちゃければ、愛好会の外にも好きな女子があと何人かいたりします」

生徒会長「な、何だとっ!!?」

男(燃料投下で更に焚き付けてやった。みるみる内に、彼女の焦りが増幅したのが見て取れる)

生徒会長「男くん少し待ってくれないか!? そ、外って……」

男「えっと、同級生とそれから一年生にもいて、それから勿論 先生とか」

生徒会長「好きなのか!?」

男「好きですよ。それぞれ個性あって一緒にいて楽しいし、飽きませんし」

男「だから誰々が一番だとか決めるのって俺には無理で……生徒会長?」

生徒会長「[ピーーーーー]、[ピーーーー]……っ?」

男「え? 何だって?」

生徒会長「き、君という男に呆れているっ!! 子どもの好き嫌いじゃないんだぞ!?」

男「嫌いになる事は一生ないでしょうけどね、俺」

生徒会長「あぁ、そういう問題じゃなくて!! 私たちは本気で[ピーーーガーーーーーーー]」

男「生徒会長、俺だって本気です。本気で年齢問わず、全員に、11人の女子に惚れたんですよ……」

生徒会長「じゅ、じゅういちぃっ……!?」

男(もはや神話クラスだろう。顔面蒼白させた生徒会長が、唖然と項垂れていた)

男(常人の思考ならば、おかしいと真っ先に判断する告白は確かだ。だが、ここでは常識など始めから存在していなかった)

男「(常識に捕らわれていたら、ダメだ) 決めました。うじうじ悩んでやらないよかマシだな」

生徒会長「へ?」

男「俺 何がなんでも一人残らず全員彼女にしたいと思います」

生徒会長「……男くん 気は確かか? 転校生の風邪が移ったか?」

生徒会長「……それは正気のつもりか?」

男「ええ、最低だと罵倒されたってこの意思はもう曲げません。イカれてませんよ、平常運転中です (十分狂っている)」

男「みんながみんな、俺へ好意を寄せているならそれはそれで受け入れましょう。ああ、本当にみんな物好きだ」

男「もう待つだけは止めて、俺が攻めます。あなたたちを死に物狂いで落とします……ククク、これは決意表明だ……」

生徒会長「い、いくら何でもマトモとは思えないぞ……たとえ男くんといえど」

生徒会長「人の恋心を弄ぶなんて、外道だと思わないのか!!」

男「勘違いしないでくださいよ。俺がこれから実践しようとしてるのはあなたたちが ずっと俺にやってきた事なんですから」

男「例えば……居眠りこいてた奴の唇を、こっそり奪ってしまった、みたいな……」

生徒会長「っ~~~~~~!!?///」ガタッ

男「ね? 公平でしょう?」

生徒会長「なななな、なっ、何[ピーーーー]をぉぉぉー!?///」

男(無言。自爆ならば、せめて潔く自分だけ華々しく散れ)

男「別に積極的セクハラしていくわけじゃありません。ただ、好きと気付いてもらえるよう努力するんです」

男「生徒会長。俺、今日はずっとあなたにその気で迫ってたつもりなんですけど……どうでしたか?」

生徒会長「はぁ!? そんなの[ピーーーーー]だろう、わ、私は[ピーーーーー]ないっ!///」

男「えっ、気付いてもらえてなかったんですか?」

男「だったら今から改めましょう。拒むなら全然拒んでくれたって構いません、身を引きましょう……」

男「俺とデートしてくれませんか? 生徒会長」

生徒会長「あっ、あ……あ…………」

男(頭から煙を出してショートを起こす美少女の図。俺は彼女の前へ右手を伸ばし、答えを待った)

生徒会長「…………宣言したということは、私以外の十人の女子へもアプローチするのか?」

男「やります。きっとあなたの知らない所で、俺は他の女子を誘います」

男「そして十一人とも彼女にします。平等に愛しましょう……特別は、無く……平等を貫いて……」

男「気に入っていただけますかね?」

生徒会長「……デートを、始めようか。男くん」ギュゥ

男(結局やろうとしている事は変わらない、そう言われたらお終いだが、認識を矯正した)

男(鈍感でありつつ鈍感を捨て去り、我がハーレム欲を公然とする。あなたも私もWin-Winじゃないか、嫌なら拒否れ、追わない、と)

男(全力の好意を向け続け、思いはけして断てないのならば、非常識を呑まざるを得ない。平等の条件の下に)

生徒会長「……カラオケ、意外に熱中していたのだな。もうこんな時間だ」

男「流石に暗いですね。お開きにして駅に向かいましょうか」

生徒会長「それにしてもだ、堂々浮気宣言をする人は君ぐらいじゃないか? 男くん」

男「浮気だと思われないよう立ち振る舞うつもりなんで。俺は、ただ恋愛がしたいんです」

生徒会長「もう、何度この私の頭を痛くさせれば気が済むのやらだなっ、君は……!」

男「生徒会長 好きです」

生徒会長「! ……本当に、本当に君は面白くて抜け目ない後輩だ。こんなの、卑怯じゃないか」

生徒会長「……私も、私も君が好きだよ。大好きな人だ」

男「うおおおおおおおぉぉぉーーーッ!!!」

生徒会長「きゃっ!? な、何だどうした! きゅ、急に黙るなっ!///」

男(ハーレム。やはり諦め切れるものか、たとえそれが終着点だとしても、妥協ならない)

男(一度走り出せば、もう止まらない。それが俺の難聴鈍感ハーレム主人公)

ここまで、もう半分切っちゃったな
いつも通りギリギリ手前ぐらいで次スレ立てる。長々お付き合い頂きほんと感謝ですわ

天使「……よもやお休みの日も置き去りにされると思ってなかったのです」

天使「お陰でこのチビ娘の面倒を一日中みさせられたんですよぉ! ぐあ~っ、もう全然勝てないち゛くしょおおおぉぉ!」バンバン

男「スッカリ俗世に染まったな、お前 (帰宅すればコントローラー片手に荒ぶるロリ天使が歓迎。ニートの素質を垣間見た)」

妹「やぁーい やぁーい! また私の勝ちぃ~!! あ、おにいひゃんおはへひ」

男「妹も行儀悪いぞ、それにもうオヤツの時間じゃないだろ。幼馴染は?」

天使「はいはいはいっ、男くん! 幼馴染ちゃんから学校の用事があるから遅くなるって、自分伝言任せられちゃいました!」

妹「たぶん文化祭のことでじゃないかな。というわけで、今日のご飯は各自適当ですなー」

男「だからってうまい棒オンリーは酷すぎだろ! 一体どこでこんな大量購入してきた……っ!!」

天使「ふふーん! 男くんもうまい棒を手に入れたくば、自分たちに勝ってみやがれでーす!」カチカチッ

妹「天使下手くそだからハンデでお兄ちゃん引き取ってー」

男「勝手に俺まで巻き込むんじゃないよ。きっと冷蔵庫の中に何かおかず残って……ない、だと……」

妹「あー、昨日の余り物なら朝昼で私たちで片づけちゃったかも」

男「かもじゃなくて確信犯なんだろ?」

妹「ありゃ~ お兄ちゃんそれ間違った使い方だねぇ、にししっ」

男「お前も俺の妹だよな、ほんと……」

妹「しゃーなしだ」

男(と、呟いたと思えば重い腰を上げて台所へ立った妹。そういうイベントか)

妹「今日は幼馴染ちゃんはお休みってことで、代わりにこの妹さまが腕を振るってしんぜよう」

男・天使「……ヒソヒソヒソヒソ」

妹「な、何文句あるっての!? 大体お兄ちゃんには前に作ったことあったでしょ!」

男「いやぁ、まだまだ一回料理しただけじゃ実績とは呼べないだろ。カップ麺買ってこようぜ」

妹「むぅ~、私一人で全然平気だもん! 幼馴染ちゃんいなくたって美味しいご飯ぐらい楽勝なのっ!」

妹「それに一応こんな事もあろうかと[ピーーーーーーーー]し……? おに[ピーー]に[ピーーーーー]から……」

男「おい、いま何か言ったか?」

妹「う、うっさーい!! とにかくっ、ゲームでもして大人しく待ってたらいいの!!」

男(精一杯背伸びし、有無を言わせぬ態度で俺たちを黙ら、妹は食材選びをスタート。天使ちゃんはやれやれと俺へ一言)

天使「ふっ、胃袋掴んで好感度UPなんぞ古典的発想ですねぇ~」

男「王道こそが正義だろう、天使ちゃん。少なくとも俺は惚れた」

天使「へっ……じゃあ次は[ピーーーーーーーーーーーーーーーー]~!!///」

男「ところで、昨日した話の続きとも言えなくもない話していいか?」

男(そう切り出せばキョトンと瞳を大きくさせ、これまたやれやれと俺の言葉へ耳を傾けてみせた)

男「昨日の夜、どうしてアイツは外にいたんだろう?」

天使「男くんも後輩ちゃん大好きですねぇ、自分正直[ピーー]ゃいますけど」

男「状況を整理してみると不思議だったんだ。アイツ 別に俺目当てで待ってたわけじゃなかったみたいだし」

男「何処に行くかっていうのも、学校やウチ方面でも、ましてや男の娘の家とは反対だったような……フラフラとどこかに歩いて行った」

天使「気紛れですよぉ、ただの気紛れ。誰しも一人になりたい夜があるのです」

男「だからって意味無く夜道を歩くかぁー?」

天使「はてさて。……散歩じゃなかったら、落し物探しとかじゃねーですかね?」

男「探し物……カメラの線は薄すぎる。それに後輩は何の用も無しにあちこちをうろつくような奴じゃない筈だ」

男「だから 何か物を落とすとすれば学校ぐらいにしか」

天使「つーか、どーしてそんな怪しい夜の散歩なんかに興味あるんですか?」

男(散歩自体に興味はない、その行動を取った理由を割り出したいのだ。理解できればシカトを貫く後輩の姿勢の意味も、自然と掴めてくるだろう)

男(また神へ近付けるとは思えないし、この身一つで探らねば、と)

妹「お待たせ~っ! ふぃ~ できたよ、妹ちゃん特製味噌汁が!」

男・天使「これ一品!?」

男(ドン、と置かれた三つの妹味噌汁が湯気を上げて啜れと語りかける。何がでてくると思いきや、まさかの)

天使「切って煮ればとにかく料理とか思ってるんじゃねーですか……」

男「そう言うな。ありがたく頂こう、せっかくコイツが作ってくれた晩飯だ……」

妹「ちょーい待った! ケチつける前に、私の自信作はこれが完成形じゃないんだよねぇ」

男(胸を張って妹は、味噌汁の隣にドンブリ茶碗へ持った白米を、ドン。ひょっとしてギャグのつもりなのかしら)

天使「そりゃ味噌汁の隣にご飯がなきゃ完成されてねーですよっ!!」

妹「チッチッチ……違うんだなぁ~♪ 何の為にわざわざドンブリだと思ってるのさ!」

男「まさか、お前」

妹「お手本見せるからよーく見てなよ~。味噌汁を、このドンブリ飯の上にぃ……」

妹「かけるっ!!」バシャー

天使「ぎゃあああぁぁぁ~~~!! 味噌汁も台無しにしやがったぁー!?」

妹「これが私の編み出した最高のドンブリ飯だよ! 最後に鰹節を一つまみ、ぱらぱらっ!」

男「ただの猫まんまじゃねーか」

天使「ま、マミタス飯……」

妹「お兄ちゃんめしあがれっ♪」

妹「へへーんっ、あんなに文句言ってた奴がおかわりなんて、何か言う事あるんじゃないの~?」ニヤニヤ

天使「……割と侮れない美味さでしたね、男くん」

男「猫まんまはどう作っても美味いのだ。妹、あと片づけぐらいは兄ちゃんに任せてろ」

妹「ううん、一緒に洗お。あんたは向こう行ってテレビ見てて良し」

男(邪魔者を追い出したのか。妹は俺の隣に並んで洗い物を手伝いながら、上機嫌に鼻歌を口ずさんでいた)

妹「えへへっ、お風呂あと肩揉んであげよっか、お兄ちゃーん」

男「え、何? お前なにに目覚めちゃったの……」

妹「今日だけはう~んっと私に甘えてくれちゃっていいんだからね! 許可しましょう!」

男「さっきから怖ぇえよ!! 何だよ!?」

妹「むぅ、そんな言い方しなくたっていいんじゃないの!? これでも[ピーーーーー]だから……」

男(幼馴染がいない今を良い事に、目一杯アピールを振り撒いている、そんな所だろうか。ここぞとばかりだ)

男「今日は天使ちゃんの面倒見ててくれてありがとうな、妹」

妹「えぇ、あ、うん! トーゼンよっ、私はアイツのお姉ちゃんなんだからね!」

男「泡まみれの手で申し訳ないけど、頭撫でてやろうか? ん?」

妹「ばぁーか」プイッ

男(こいつは間違いなくハイになっている。甘えろとウェルカムしておきながら、果敢にこの俺を求めて猪突猛進)

妹「そうそう! お兄ちゃんっ、昨日はこんな事あったりしてね! それでそれでぇ」

妹「ぇーーー……な、なんで笑ってんの!///」

男「いや、いつにも増して妹成分乗ってるなぁーと」

男「いつもそんな風に可愛げあれば色々違って見えるんだろうな、お前も」

妹「それどういう意味っ! いつも生意気なのはお兄ちゃんの方だし!」

男(小さい体を必死に背伸びさせて自分を大きくみせようとする姿が実に可愛らしい。仮にも高校生とは思えない幼さじゃないか)

妹「……ていうか、今日は特別[ピーー]く見えるってこと?///」

男「(話の前後から考察すれば、楽勝) 特別可愛いってなんだよ? いつも通りだろ」

妹「そ、それじゃあ意味わかんないんですけど」

男「いつも通り可愛い妹のままだって言いたいんだよ。生意気も全部ひっくるめて良いと思ってるよ、俺は」

妹「ふぇ///」

妹「うあっ、この……ば、バカ[ピーーー]!! いきなり妹に向かって[ピーーーーーーガーーーーーーーーー]!?」

男「そうそう、そんな感じがお前らしくて一番気に入ってるんだって! あはははっ!」

妹「っう~~~笑うなぁー!!///」

妹「本当にお兄ちゃんには嫌になっちゃうよ……まったくもう」

男「そう拗ねるなよ、笑ったのは悪かったってば、な? ところで」

天使「……じー……じぃーーーーーー」

男「口に出さんでも気付いてるから早く用件言え」

天使「そろそろお風呂入りたいです。もう一人で頭洗えるから入って来ていいですか、ボス」

妹「えぇー? あんた目の中にシャンプー入って泣いたりしない?」

天使「カッパの頭つけるから大丈夫でしょう! 男くん、アレは優れ物ですよ、ご存じで!?」

男「何だったらこのまま俺が入れてきてやろうか? ノータッチを誓って」

天使「変態!!」  妹「ロリコン!!」

男「だったらさっさと二人で楽しんでこいッ!!」

男(やれやれ、順番に脛を蹴りにきてまで罵倒するのもどうなのか。どうせ謎の湯けむりで全裸は拝めないというに)

男(しかし、妹。この分だと今夜は天使ちゃんが寝静まってからが怪しいな。幼馴染も来るかも分からない状態だ)

幼馴染「一人でうんうん唸ってどうしたの、男くん?」

男「お前 実は瞬間移動とか覚えてるわけじゃないよね?」

幼馴染「ふーん、そうだったんだ。あの子がご飯を」

男「アイツもいつのまにか練習重ねてたみたいでな、包丁握れるようになってたらしい」

男(時計の針が動く音だけが背景を飾り、真面目に夫婦の落ち着いた語らいをしている錯覚すらした)

幼馴染「なんとなく今日の男くん一段と機嫌良さそうだね」クスッ

男「そう思うか? まぁ、今のところはな」

幼馴染「なにそれっ、ふふふ!」

幼馴染「…………ねぇ、いい?」

男(何が、と説明されずとも大体把握した。椅子から立ち上がった幼馴染は、俺の目の前に来て、切なそうな顔をしていたり)

男(くれぐれも抑えろよ、俺。理性が飛んだら今度こそ誰にも止めてはもらえん。幼馴染ルート一直線だ)

幼馴染「こうやってね、男くんに甘えるのずっとあたしの夢だったの」

幼馴染「だから、今も足元とか気持ちとかフワフワしたままで変、だなぁー……///」

男「もうそろそろ現実受け止めてくれても悪くないんじゃないか?」

幼馴染「うん、ふふっ、そうだね……だいすき…………」

男「み、みーとぅー……ッ!!」

男(い、いかん、これ以上は。刺した爪が折れる、奥歯が砕ける。も、もっていかれる、こらえ、る、のだ)

男「ああああああぁぁぁーーー!!!」

幼馴染「きゃあ!? な、なにっ、急にどうしたの!」

男「いや……何でもないんだ、気にするなよ……」

幼馴染「何でもないのに叫ぶのっ!?」

男(その何でもない叫びによって、現世へ戻ってこられた。恋人へなってから凄まじい勢いで幼馴染の刺激が強すぎる)

男「(忘れるな。食うか、食われるかの世界という事を) 俺がもし他の女子にヘラヘラしてたら幼馴染どうする?」

幼馴染「殺しちゃうかも……」   

男「あ、耳の中詰まってて聞こえなかった」

幼馴染「あー もしかして耳掃除サボってたんじゃないの? ほら、膝に頭乗っけなさい!」ポンポン

男「そ、そんなところ妹たちに見られたくねーよっ!」

幼馴染「でも自分じゃ奥の方にあるの上手く取れないでしょ。いいからあたしに任せなさい」

男「それだったら俺の部屋でっ……いや、もういいや (結局姿の見えない俺を探しに二人がやって来る未来がある)」

男(ぼそりと聞こえた呟きは無かったことにし、頭を幼馴染へ委ねた。ムチッと張りのある素晴らしい太ももの上で、美少女から耳掻き。最高じゃないか)

男(以前にも妹イベントでしてもらいはしたが、安心と心地良さは申し訳ないことに格が違った。意図せず暴君が目覚めようとしている)

幼馴染「えへへ、いっぱい取ってあげるから大人しくしててね」

男「あフゥ~~~ (なんて声を誰だって上げるに決まっている。女神のスプーンで一救いなのだぞ)」

幼馴染「はーい、動かないでじっとしててください」

男「よろこんでー……」

幼馴染「……だから、あんまり足に頬っぺたスリスリしちゃだめぇ!///」

男(人類よ、天国はここにあったのだ。天にも昇る、ダメだ、昇ったら帰って来られなくなってしまうだろうが。ええい、斯くなる上は)

幼馴染「ちょ!?」

男「ぎゃあああああああぁぁぁ~~~!!?」グサァ

幼馴染「男くん大丈夫!? だ、だからじっとしててって言ったのにっ!」

男「すまん! 何となく魔が差してしまいまして……!」

幼馴染「え、えっと、それって あたしでえっちなこと考えちゃったのかな?」

男(おい、ダメだダメだダメだ。幼馴染を見るな、見ようとするんじゃない。ゴーゴンだぞ、石になって終わるぞ!?)

幼馴染「…………あとでね?///」

男「(難聴スキル、おお、どうして貴様は去ってしまったのか。今限定でカムバックしてくれよ) なぁ、もしもを前提に俺が浮気してたとしたら幼馴染どうする?」」

幼馴染「狩っちゃうかも……」

男(よし、冷めた)

幼馴染「はーい、次は反対を向いてください。手元狂うから本当に動かないでよ?」

男(正にされるがまま まな板の鯉じゃないか。妹たちはまだ来ないのか? 余計な空気を読みおって)

幼馴染「……ねぇ、男くん。さっきからもしもって例え話多いけど」

幼馴染「……どうかしたの?」

男「ど、どうもしない性質の悪い冗談だろ! いつもの俺の癖だって!」

幼馴染「そっか、なら安心した! ひょっとして後ろめたい事でもあるのかと思っちゃって。疑ってごめんね」

幼馴染「じゃあ仕切り直してこっちのお耳も綺麗にしちゃいましょー、えへへ♪」

男「あ、うん……お願いします…… (母性を持ち合わせながら鋭いナイフのような冷酷さを秘めた美少女、幼馴染。難聴が取れてハッキリ凶悪度が判明した)」

男(神よ、王道と見せかけてトリッキーにも限度があるだろう。あなたは幼馴染キャラを履き違えている)

男「もし 俺が妹に乗り換えたら幼馴染どうする?」

幼馴染「させませーん。どんなことしたって、男くんに振り向いてもらうもん」

幼馴染「……はぁ、やっぱり何か隠してるよね 男くん?」

男「……ま、まさか今までのは気づいておきながらの反応だったのか?」

幼馴染「当たり前でしょ。もうっ、これじゃあ あたしが物騒な子みたいじゃん!」

男「俺は優しい幼馴染のままだって信じてたよ、心から」

ここまでなんです

男(耳掻き作業を継続させながら、頬を膨らませ不満気に見下ろす第天使幼馴染閣下。裏を掻いてくる知恵は元々あったからな、まんまと俺が泳がされていたわけか)

男(それでも、真実を話せば冷静でいられなくなると思われる。忘れちゃならないチョロすぎ取扱要注意美少女だ)

幼馴染「最初はだよ、男くんが何か隠しごとしてても探るつもりなかったけど」

男「確信してからじゃ見逃せなくなったわけか (自分に正直であれ、と)」

幼馴染「教えてってあたしが頼んだら、正直に話してくれる?」

幼馴染「……それとも聞かない方があたしまだ夢見てられるかなぁ」

男(そんな顔されては胸が締め付けられるではないか、健気でひたむきな純愛美少女。神よ、すまない、あなたの幼馴染観は清く正しかった)

幼馴染「あのね、男くん。だいぶ前にあたしが言ったこと まだ覚えてる?」

男「いや、だいぶ前じゃ抽象的すぎてわからん」

幼馴染「丁度 転校生ちゃんが学校に通い始めた頃かな、男くんの部屋で言ったんだ」

幼馴染「男くんの一番になれなくても良いのって……」

男(心当たりがなくも無い。二週目序盤に転校生イベントを回避したあとの自室でのやり取りの一部か)

幼馴染「それでも好きで、ずっと男くんだけを目で追ってたい。振り向いてほしいよって、ね、覚えてた?」

幼馴染「忘れてても怒らないよ……男くんは記憶障害があるんだもんね……」

男「き、記憶はあやふやだが、胸に刻まれてそうだ! なんとなく初耳とは思えない感覚がある!!」

男(実際この頭脳に刻み込んである。感情に左右されず唯一序盤で好意を示された決定的発言だったのだから)

幼馴染「そうなんだ……わ、忘れてくれてても、良かったのに///」

男「(わざわざ自らぶり返したのは、恋人になれた自分が俺にとって『一番』なのか、確かめたい気持ちが逸った為と俺分析が告げた) そう考えてみると、愛の告白は幼馴染に先越されてたんだな」

幼馴染「えへへ……ねぇ、もし付き合う前にあたしがもう一度迫ってきてたら男くんどうしてた?」

男「もしも何も迫りまくりだったんじゃないか?」

幼馴染「えぇっ、気付いてたの!?」

男(俺の鈍感力は、美少女たちからどのぐらい酷く思われていたというのだ)

幼馴染「……そ、そうだよ。その気になってもらえるようにずーっとアピールしてた! ずーっとずーっと!」

幼馴染「それでも男くんってば全然無反応すぎで、心配だったよ! どれだけ鈍いのって!」

男「し、仕方ないだろ、昔からお前ってこんな感じだったんだから! (多分な)」

幼馴染「男くんのにぶちんっ!///」

男「まぁ……今はこうして彼氏彼女の関係になってるんだから結果オーライだな」

幼馴染「う~……本当はもっと前からわかってて知らないフリしてたんじゃないの///」

男「バカ、俺がそんな器用な奴じゃないって幼馴染なら知ってるだろ?」

幼馴染「う、うん」  男「俺って不器用だからな!」

幼馴染「ついででもう一つだけ訊いても平気? 本当についでのつもりで」

男(次にお前は『他の子からのアピールにも気付いてた?』的な事をいう)

幼馴染「男くん、例えば転校生ちゃんとか不良女ちゃんからもアピールされてたの気付いてたんじゃない?」

男「(答えた瞬間耳掻きが脳天を突き破りませんように) 何となくは、少しだけどな」

幼馴染「……やっぱりわかってたんだ。みんなが男くんのこと好きだってこと」

男「少しだからな? 全員が本気だなんて思っちゃいなかった」

幼馴染「えっ、その言い方だと全然少しじゃなくて、全部わかってるような……」

男「(俺の幼馴染は賢くて可愛いな) ……昔は平凡に生きて埋もれて行く人生だとばかり思ってたのにな、やれやれ」

男「何故だか知らんが、自覚ないまま滅茶苦茶モテまくってるようだ。現在進行形で」

幼馴染「それ、あたしに自慢しても何の得にもならないよ!」

男「ああ! 自慢に聞こえたかもしれないが、こんなモテ期のせいで毎日クタクタなんだぜ!?」

男「毎日毎日どこかおかしいと思いながらアイツらと一緒にいたさ! で、気づいたキッカケは合宿辺りだった!」

男「俺を除いた全員から告白されたんだよ、その日で、全員から!!」

幼馴染「男くんウソでしょっ!?」

男「前の日にはお前が風呂に乱入してきたりしたしなぁー! どう考えても普通じゃないって思ってたんだよ! 畜生!」

男「そりゃ幼馴染はそれ以前から好きを仄めかしてたかもしれんが……お次は妹や後輩からだぞ」

男「この分じゃオカルト研も怪しい!! 何人からモテりゃ終わるんだこのジレンマ!?」

幼馴染「その中からあたしを選んでくれたの、男くん……?」

幼馴染「ふ、複雑だけど……嬉しいよぉ……///」

男(頬を赤らめさせ、幼馴染は人差し指同士をつんつんさせている。しまった、ポジティブな方向へ持って行かれたか)

男「……幼馴染、だからこそ俺はお前と付き合っている事実をみんなに話せなかったんだ」

男「ズルくて卑怯な俺を許せとは言わん! け、軽蔑してくれ!」

幼馴染「そんな、男くんだってみんなの気持ちを考えたからこそなんでしょ? 軽蔑なんて無理だよ」

幼馴染「ていうか、逆だよ。ほんとに男くんって優しい。だから あたし好きなの!」

男「お、幼馴染……!」

男(こうまでチョロインだと感じる罪悪感も果てしない。詐欺士の始めってこんな感じなのだろう、吐き気がする)

男「でもな、結局自分の体裁を保ちたいだけなんだよ。それにお前との関係を公言したら、みんなと仲良くできなくなっちまうかもしれない……怖いんだ」

男「今の環境に甘えて、手放したくないって……そういった風にしか考えられない最低のクズだっ……!」

幼馴染「自分を責めちゃいやだよ、男くん……そっか、あたしが重荷になっちゃってるんだね」

男(おい、待て、早まるなそういうワケじゃない。幼馴染は自分で犠牲を払うつもりだ)

幼馴染「そういうことだったら、男くん。あたしは――――」

天使「うえええぇぇ~~~んっ、男くぅ~~~んっ!!」

男・幼馴染「!?」

天使「あ、幼馴染ちゃんらっしゃい……それより聞いてください! この鬼が百数えるまでお風呂から出ちゃダメって虐待をぉー!」

妹「虐待ちゃうわ!! 体冷やすといけないから言っただけでしょ」

男「……幼馴染さっき何て言いかけたんだ?」

幼馴染「えっ? う、ううん! やっぱり気にしないで!」ブンブンッ

男(グッドかバッドか判断し辛いタイミングで登場してくるとは、出来る)

男(相変わらず天使ちゃんはブレイカ―の役目を担ってくれる。きっと天使の名の通り、窮地から救った、そうしておこうじゃないか)

妹「……ていうか、二人でイチャイチャ何してんのさ」

男「はぁ? た、ただ幼馴染に耳掃除してもらってただけだろ?」

妹「だめ! 幼馴染ちゃん交代して、続きは私やるから」

幼馴染「あ、あははは、どうぞ……じゃあ やる事もなさそうだし、そろそろおいとまさせてもらうね」

天使「えぇー? せっかく会ったばっかしなのに。あ、明日は? 明日は?」

幼馴染「っ~……可愛いっ!!」ギュッ

男(この通り、予てから幼馴染は天使ちゃんを溺愛していた。その上 掌握済みという調教後である)

幼馴染「お持ち帰りしたいよぉ~! 天使ちゃん天使ちゃん!」スリスリスリ

天使「ぶぶぶぶ……」

男「なら、今夜ぐらい良いんじゃないか? おばさんたちに迷惑掛からないなら」

幼馴染「本当!? ほんとに持って帰って添い寝しちゃっていいの!?」

男「どうせ明日は休日だよ。天使ちゃんも始めてのお泊りってことでお邪魔したらどうだね」

天使「厄介払いのつもりですか、男くん!」

男「いやいや、厄介になるのはお前の方だろ? それじゃあ あとは幼馴染 ま・か・せ・た」

幼馴染「はーい! じゃ、天使ちゃんおウチに帰ろっか~ 何しよっか~? うふふっ!」

天使「ファッキュー変態やろぉー……ッ!」

男(小脇に抱えられ無事お持ち帰りされるロリ天使と幼馴染を見送り、急に口数の減った妹へ視線を移せば)

妹「……フツーあの場合だと幼馴染ちゃんがウチに泊っていく流れじゃないの?」

男「だから、たまにはって言っただろ? 良い経験になると思ったんだよ」

妹「そ、そっか……お兄ちゃんが言うなら、そうなのかも…………[ピーーー]なっちゃった///」

男(ならば、決着をつけよう 妹。ラストバトルという名の決着を)

男(台所で洗い物を手伝ったあの妹は幻だったように、クッションを抱えてテレビの液晶へ大人しく目を背けている)

男(そんな妹の姿を、幼馴染の置いて行ったファッション雑誌片手に俺は見張っていた。あるいは縛り付けていた)

男「天使ちゃんが来てからは、こんな風になるのって久しぶりだなー」

妹「……うるさいのが急にいなくなると静かだね」

男「ゲームやらないのか? てっきり夜通しお前に付き合う羽目になると思ってたんだが」

妹「……昼間にアイツとやり込んだから飽きたんだし。目悪くなりたくないし」

男「ていうか、さっきからやけに素っ気ないぞ お前? 眠いのか?」

妹「……[ピーーーーーーーーーーーーー]」

男「(長いな、これでは台詞を十分に推しあてられる気がしない) え? なんて?」

妹「だあぁ~っ!! 用もないのに話しかけんなぁー!!///」

男「さっきまであんなに饒舌だった奴が様変わりしすぎだろ」

妹「さ、さっきはさっきだもん! やっぱり甘えるとか無し!!」

男「風呂上がりの肩叩きも?」  妹「ないっ!!」

男「途中だった耳掃除も?」  妹「やーめたっ!!」

男(気紛れな彼女はさしずめ猫娘。ツンデレるタイミングが謎すぎる)

男「噂で聞いたんだが、隣の家に囲いが出来たんだってよ」

妹「あー、私いまテレビ見るのに忙しいから後! ていうか隣 幼馴染ちゃんの家じゃんか!」

男「へぇ~!!」  妹「お兄ちゃんうっざ!!」

男「だって、幼馴染も帰って暇になった俺の立場考えてみろよ。おまけに天使ちゃんもいなくて、妹も相手してくれない」

妹「もうお兄ちゃんも天使に付いて行ったら良かったでしょ! そしたらウチの中静かになるし!」

男「なんつー寂しいことを言う妹だよ……そうだ、学校での話はもう聞かせてくれないのか? 途中だったろ?」

妹「私の中で終わったよ!!」

男(やはり、こいつは猫だ。構い過ぎれば離れて行き、放っておけば撫でろと脛へ頭を押し付ける……そんな生粋の美少女猫)

男(ここでマミタス選手の参戦。俺の横を軽やかに通り抜けて、妹の隣へ着席しにゃんと一鳴き、二鳴き)

妹「どうしたのさ マミタスー、ご飯は朝のがまだ残ってたでしょ?」

男「マミタスも俺も寂しいんだよ!!」  妹「一匹余計に鬱陶しい!!」

妹「お兄ちゃんの方こそ二人が出て行ってから変だよ……無駄にテンション上がってるし……」

男「そりゃあ 久しぶりに兄妹二人切りだからな。兄としちゃ楽しくもなる」

妹「はいはい、なるほど…………ん」

妹「お兄ちゃん[ピーーーーーーーー]?」

男(最終決戦と誓ってから難易度急上昇してないだろうか)

妹「……ねぇってば」

男(このまま黙り通すも、訊き返すのも良手ではあるまい。カウンターをお見舞いせねばイベントが台無しになる)

男(何か決め手へ繋げられる策を……ファッション誌が、丁度よろしく置いてあるではないか)

男「(構わん。踏み行け) 切り悪くてすまんが、腹の調子おかしいんでトイレに―――!?」

妹「きゃあっ!?」

男(ドスン、と。狙って起こすラッキースケベは定義に当て嵌まるかどうか、そんな些細はどうだって良いのだ)

男(壁ドンならぬ床ドンの真っ最中である。踏み潰さないよう 妹へ覆い被さらん形で、俺たちは見つめ合っていた)

男「……あの、度々すまんと反省してる。この通りだ」

妹「バカお兄ちゃんっ、いいから早くどいてってば!!」

男「悪気あったわけじゃないのにバカはねーだろ!? バカは!」

妹「どうでもいいからさっさとして!! か、[ピー]近いしぃ……っ!///」

男「……近いついでに、キスしてみるか」

妹「はぁ!? 本格的に気持ち悪いんですけど!!」

妹「ちょ、ちょっと! 何マジになって近付けてきてんのっ……[ピッ]、[ピーーーー]~……!///」

男「なんちゃって (と、目の前の妹が瞼を開けた時 気色悪い笑顔が映るのだろう)」

妹「ふんっ!!」

男「ぶぐっっっ……お、お前 冗談に対して頭突きで返すのはズル――――っ~~~!?」

男(頭突きを食らわせられ、仰け反った俺の口を塞ぐように、本日二度目の)

男(キスがあったのだ)

妹「っむ……ふぁ……んん…………///」

男「んぅ! ん~~~っ!? (不意打ちに身構えられず、息が、喜ばしさ以上に、呼吸が、できなくて)」

男(肩を何度も叩いて降参を伝えようが、お構いなしに妹が俺の涎まみれな唇をついばむ。吸って、離れて、また吸って)

男(それは逆に俺を押し倒してまでヒートアップしていた。ガッチリ首を固定され、抜け出せない。ひたすら手をばたつかせて、妹の顔を眺めるしかなかったのだ)

男(長い、長い時を感じた。一時間は過ぎたと言われても納得するだろう……唇が離れ、わずかな糸を引くエロティカルフィニッシュ)

男「あ、あの……やばい……やばいって……」

妹「……はぁ……はぁ、はぁ…………はぁ……!///」シュル

男「やばいだろ!! お前何 服脱ぎ始めてるんだよ、なぁ!?」

妹「こ、こうなった以上は……からだで[ピーーーー]るんだから…………おにいちゃん……!」

男(美少女だけど、ああ、美少女だけど、実妹に犯されちゃう)

ここまで
もう一回分ぐらいは投下いけそう

男(仮に犯されたと想定しよう。間違いなく俺が定めた平等からは外れ、今後 妹とのコミュニケーション移ろおう。落転なのである)

男(大目に見て、キスの一つや二つは事故で済まされる場合はなくもないが、アレしちゃうっていうのは 妹の気迫の感じからして、特別濃厚を狙っているのだ)

男「(結論。一線を越えてはならない) さっさと頭冷やせバカ妹!!」

妹「バカでもいいもん! [ピーーー]したって、その気にさせてやるから」

妹「……お、お兄ちゃんが最後まで[ピーーー]せてくれたっていいんだからね」

男(寝巻の下へ手をつけた所で、躊躇い混じりにストップした。だらりと腕が下がって、完全無防備妹ちゃん)

男「無理しないでくれ、やっぱり怖いんだろ。やっと目が覚めてきたみたいだな」

妹「[ピッ]、[ピーーーー]!」

男「お兄ちゃんからのお願いだ、服を着なさい 妹。こんな事されたって微塵も嬉しくない。逆に悲しくなっちまうよ」

男「ましてや俺たち家族なんだぞ? 勢いに身を任せて父さんたちまで悲しますわけにいかないよな、妹」

男(最近を考えれば相当まともな説得をしているぞ、ギャル・エロゲー展開的に正しいかは知らんが。とにかく、その甲斐もあって妹が押され気味だ)

妹「わたし……お兄ちゃんを[ピーー]になっちゃいけないの……?」

妹「[ピーー]しちゃダメなの? 幼馴染ちゃんよりずっともっと長い間一緒にいてて、私のがお兄ちゃんのことよく知ってるのに」

妹「こんなに[ピーーー]なのにぃーーー……ぐすっ……」シュル

男(妹の切ない思いにお涙頂戴&俺の葛藤な場面が常套、かと思いきや、さらに脱がれていた件)

男(罠だったりで、謀られていたりするのか。おい、美少女が恥ずかしい恰好になっているぞ)

男(一糸まとわぬ姿よりも、普段の子どもじみた彼女を忘れさせる色気をそれは漂わせました。僅かある官能な谷に目を背けられない。とってもエロいなってぼくは思いました)

妹「ひっく……うぅ、お兄ちゃん。後ろにあるホック引っ張るとかんたんに取れるからぁ……!」

男「取らねーよ!? 絶対ここまでの流れおかしいっ!」

妹「お、おふろ入ったばっかりだから、ぐすんっ、汚くないよぉ~……!」

男「そういう事を俺は気にしてるんじゃないんだからな!?」

妹「うええぇーんっ……[ピーーー]それなりに大きくなったからぁー……!」ペタペタ

男(確かに)

妹「あぅぅー、なんか、なんかね、クラスの子が言ってたの。好きな人から[ピーーー]揉んでもらったら大きくなるって……ぐすっ」

男「そ、それを今から実践してみようと?」

妹「[ピ]……[ピーー]んでもらうだけなら、兄妹のすきんしっぷの内なんだよねっ!?///」

男(ダメだ、明らかにこいつは錯乱している。今更後に引けない覚悟+諸々によって壊れ美少女へ変えたというのか)

妹「……は、はやく……[ピーー]で!///」

男「冗談だろお前!? (いつのまにやらブラを脱ぎ捨て、彼女は白い背中をこちらへ向けていた。両手をバンザイさせて)」

男(まるでウエストを測られようとするように、お食べなさい、狼へその身を差し出していたのである)

妹「お兄ちゃんがやってくれないんなら、じ、自分で[ピーー]まくるよっ、今ここで!!」

男「丸っきり俺がやらせてるみたいになるだろうが……」

妹「じゃあして!! 絶対怒らないし、泣かないよ! 後ろから妹の[ピーーー] [ピーー]でくれるだけでいいんだよ!」

男「おい、自分で何言ってんのか冷静になって振り返ってみろ! 自殺もんじゃないか!?」

妹「……ぜ、全然[ピーー]しくなんかないし。お兄ちゃんだから、頼んでるんだもん」

男(何故今ここでやらなければならないのか、そんな事は頭から抜け切っているらしい。目的と手段が入れ替わっていることにも)

男(いや、妹はこの俺を自身へ発情させようとしているのか。苦肉の策故に、体を張ったこの涙ぐましい努力の表れよ)

男「(良いだろう、望むところ、この兄が汲んでくれる) ……一瞬触れるだけだからな。良いな?」

妹「ひっ!? ……わかったから……は、はやく///」

男(ならば素早く俺は妹の背中側へポジショニング。気配だけでも余程プレッシャーを感じているのだろう、すっかり体が強張っていた)

男(しかし、構っている場合ではないのだ。すぐに両腕を、彼女を抱きしめるよう、脇から伸ばしてゆく。ぬっと現れた手に妹が小さく声を漏らす)

妹「じ、じらさないでよ、ゆっくりじゃなくて思い切りでやっちゃってよぉー!! もぉー!!///」

男「ちちよ……御免ッ!!」ガッ

妹「ひゃんっ!?///」

男(感触を得たと同時、驚きのあまりか高い想像以上の刺激か、高い一声を彼女はあげる)

男(描写を移そう。肝心の手の中にある柔らかミニサイズについて、俺は鮮明に語る義務があろう)

男(小さいながらに確かなふくらみと柔からさ。溢れんばかりとは間違っても答えられないが、掌に程良くフィットし、水を弾くか如く きめ細やかな肌であった)

男(揉む以上に触れる楽しさが大きいと思われる。未発達ながらも瑞々しいボディは、もぎたてフレッシュを直に味あわせてくれるでしょう)

男(最後に私観となるが、将来性があります。育てるも良し、ここで待ったをかけるも良し。しかるに)

妹「……[ピッ]、[ピーー]///」

男「は? おい、一瞬って約束だったろ!? (離れようとしたこの手を、掴まれる。そのまま妹は再度 自身の胸元まで強引に運ぼうとしていた)」

男(いた、というのも やはり兄ながらのプライドから、必死の抵抗である。しかし抗えども抗えども、彼女は引っ張り続けるのだ)

男「もう離せって言ってるだろ!! 大丈夫っ、ボインになれる日も恐らく近いぞ!!」

妹「やだぁ! まだ[ピーーーーーーー]///」

男「これ以上は痴女になるからな、お前!? 変態の兄に痴女とか本気で親に顔向けできなくなっちゃうっ!!」

妹「そんなのもうどうだってい――――ぁんっ!///」

男(引っ張られた反動で我がシャイニングフィンガーが、突起、を弾く。すれば、より色づいた雌声が鳴るのであった)

男「(……お兄ちゃん背徳感から体固まっちゃったよ、妹) うわぁぁぁ、す、すまんっ!?」

妹「あ、あわわわわっ……///」

男「俺、もう変態扱い受け入れるから、な、もう止そう。気持ち悪い変態お兄ちゃんでいいから、そうしよう」

妹「うぅ~……///」

男(先程の喘ぎなる音により、リビングはR-18臭で充満し始め、むせる)

男(妹も懲りたのか、挙動がおっかなびっくり気味に、脱いだ衣類へ手を伸ばしていた。哀れ美少女よ)

妹「あの、さ……やっぱり幼馴染ちゃんに劣ってる? 私」

妹「幼馴染ちゃんみたいに優しくもないし、勉強も運動も負けてるし、おまけに体も負けてる自覚 もちろんあるけど……お兄ちゃんは、こんなの趣味じゃない?」

妹「……[ピーー]に、なってもらえないっ?」

男「だから、何回泣けばお前は気が済むんだよ。明日目腫れてるの二人にバカにされても俺知らねーぞ」

妹「こたえてよぉ……こんなに、こんなにがんばっても無駄なら、もう無理っていってよぉ……」

妹「じゃなきゃ、わたし何度だってばかやっちゃうよぉっ……!」

男(この見た目も中身もいたいけな美少女を泣かせたのは、俺である。認めよう)

男(純粋でまっすぐな恋心が、この身へ重く圧し掛かっている。ではどうすれば良いのか)

男「(単純明快で、答えは一つである) 勘違いしてるみたいだから教えようじゃないか、妹」

妹「え?」

男「ちっぱいなんぞで釣らんでも、最初から俺の気持ちは変わらん。色仕掛けされようとな」

妹「……ああ、わかっちゃった。それじゃあ[ピーーー]だったんだね。[ピーーーーー]」

男「人の話は最後まで聞けって学校で学ばなかったのか、阿呆め」

妹「じゃ、じゃあ何なのさ! ハッキリ言ってくれなきゃわかんないよぉ!」

男「よーし、ちょっとばかり耳貸せ。そうそう、俺の近くまで寄って……右耳に集中だ」

妹「……?」

男「好きなんだああああああぁぁぁーーーーーーッ!!!」

妹「いぎゃああああああぁぁぁ~~~~~~ッ!!?」

男(子どもの頃に誰しも通った悪戯かもしれんが、良い子は真似しちゃならないコレ。間違いなく報復される、現にビンタが飛んできたぞ)

男「殴るこたねぇだろ!?」  妹「叫ぶことないでしょうが!?」

妹「ほんとお兄ちゃんってデリカシーなしのポンコツバカだよ! まだ耳キンキンしてるんだからね!?」

男「でも、こっちの気持ちは間違いなく伝わっただろ 妹」

妹「……どうせ気休めだよ。知ってるもん、お兄ちゃん昔からそういうとこあったから」

男「誰かを慰めるのにプライドの安売りなんかするお兄ちゃんじゃねーな、俺は」

男「いいか? お前が認めてくれるか知らんが、こっちの勝手だ。俺は俺を好きになってくれた奴を一人も手放すつもりはない」

男「……俺の、彼女になってくれないか?」

男「妹が好きだ、この気持ちに偽りもなければ正直に訊いてる。お前が死ぬほど可愛い」

男「いい加減 騙しだましの兄妹ごっこにも飽き飽きしてきたもんで……ごっこはないか」

男(一旦 減らず口を閉じて妹を確認すれば、喜びというより困惑の色を浮かべて、半裸の自分を抱きしめていたのである)

妹「幼馴染ちゃんは? 幼馴染ちゃんはどうなるの?」

男「いつだかに誰かさんが強奪宣言してたのが、つい昨日のことみたいに記憶してるが?」

妹「じゃあ幼馴染ちゃんは捨てちゃうの!? う、嬉しいけど、そんなの可哀想だよ!?」

妹「私を選ぶってそういうことになるんじゃないの!? ねぇ、お兄ちゃん!!」

男「誰が幼馴染と別れるからと話した?」

妹「は……」

男「幼馴染とも恋人関係を継続する、妹と毎日イチャつく、どちらも手抜きなしにこなす」

男「あとで幼馴染にもワケを話そうじゃないか。ダメ?」

妹「ふ、ふざけてんの!? 冗談だったら家から追い出すからねっ!!」

男「……確かに我ながら軽薄な決断とは思ってる。酷い話だ。でも冗談は言ってない」

男「これが俺からの提案だ。妹には断る権利があれば、抗議する義務もある。そうだろう?」

妹「当たり前でしょ!! なに偉そうにしちゃってんの!?」

男(いくら何でも足元見過ぎだとか、甘えたい時甘えられないとか、罵倒混じりの、そんな、何かは絶え間なく小一時間続いていた)

妹「そんな適当にされたいつもりで、ずっと頑張ってたんじゃないもん!」

男「(ご尤も以外何もない台詞だ) 幻滅しただろ。嫌になってきただろ?」

男「これが俺という人間の正体だよ……知ったからには、もう無理なんだろうな……」

妹「な、何が無理だってのさっ!!」

男「諦める他ないんじゃないか。お前の理想じゃなくなったんだ、この俺が」

男「言っとくが、このハーレムまだまだ人増えるぞ……俺もそろそろ決着付けたいんだよ」

妹「け、決着……?」

男「現在十単位ほど仲の良い先輩やら同級生やら、後輩にも先生にも俺に好意を向けられる。終わりにしたいなって」

男「いつまでも気付かないフリしてる方が酷いんじゃないかって、さ……だから正直な告白したいんだよ。俺なりの」

男「いくら酷いと思われようが、決めたことだ。俺は俺のことが好きな全員を同時に掴もう」

男「だって好きだから!! ……以上なんです」

妹「お……おにいちゃん。私うまく言葉にできないけど」

妹「頭だいじょうぶ……っ?」

男(構わん、慣れた反応だ。というかこれこそ正常な反応でしょう)

>>994
九行目訂正:男「現在十数単位ほど仲の良い先輩やら同級生やら、後輩にも先生からも俺へ好意を向けている。全員マジだ。だから終わりにしたいなって」

男(妹の俺独占欲は男の娘やオカルト研へも匹敵するであろう、中々に手強い)

男(それでも勝利を間近と確信していた。最強の言い訳を用意しておいたのだから、否)

男「(伏線は張っていた) ……妹、俺が抱えてる病については教えただろ」

妹「あの覚えてた記憶をいつ忘れちゃうかわかんないってヤツでしょ。それがどうしたの……」

男「そうだ、知っての通り 俺はいつ記憶を失うかわからない。一年先かもしれないし、一ヶ月後かもしれない」

男「下手すりゃ明日だって可能性もなくはない……そうなれば、俺は昨日の俺じゃなくなるんだ。何もかも真っ白に変わる」

妹「……う、うん」

男「みんなそんな俺でも、いつものように変わらず接してくれ嬉しかった。変だと思わないで、俺と仲良くしてくれて純粋に嬉しかったんだ……だから、みんなが好きだ」

男「一人一人にドキドキさせられたし、笑わせられることなんて毎日だぜ? 楽しすぎる……本当に……」

男「……それでも勝手だよな。無責任に彼女を作って、元の自分がいた証を残したかったなんてさ」

妹「お兄ちゃん……ごめん、私 考え無しに酷いことばっかり言っちゃった。ごめんなさい!!」

男「良いんだよ、お前は正しかったんだ。妹たちの事情を無視して踏み込んだ俺が悪かった。ごめんなぁ……っ」

男(泣き落としには泣き落とし。ゲスだ? そうだよ)

次スレ立てちゃいました
男「モテる代わりに難聴で鈍感だった日々より」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1446919295/)

それでです。立ててから酷い話かもしれないけど、少しの間ネット環境なくなるのでお休みします
長くて二週間掛かるかどうかぐらいなので、次回は書き溜め分を一気に投下予定

よろしくお願いします

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月12日 (日) 16:37:30   ID: mzDPmT0G

これが、天才というものなのか…

2 :  SS好きの774さん   2015年04月19日 (日) 05:00:04   ID: rPJ9Jm9h

いいじゃん

3 :  SS好きの774さん   2015年05月05日 (火) 12:42:39   ID: e-H96lUf

後輩ちゃん…?

4 :  SS好きの774さん   2015年08月14日 (金) 04:26:30   ID: uxN3D6xo

面白い

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom