許嫁「私が幸せな理由」 (195)


許嫁「深呼吸……深呼吸です」

許嫁「大丈夫、寝ている男子を起こすことくらい、漫画によくいる幼馴染なら誰でもやっています」

許嫁「結婚の約束までしている私なら、ちょちょいのちょいです。そうに決まっています」

許嫁「では失礼して……おじゃましまーす」

男「zzz」

許嫁「ぐっすり寝てますね。ふふ、かわいらしい寝顔です」

男「むにゃ……いいな、ずけ」

許嫁「っ」

許嫁「びっくりしました……起きてはいませんよね」

男「でか……いな」

許嫁「何がでしょう。背は低いですし……や、やはりこの胸でしょうか」

許嫁「男さんに喜ばれるんでしたら……母に言われ、早寝早起きを徹底した努力が報われましたね」

男「ケツ……」

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許嫁「……」

許嫁「…………」

許嫁「朝です朝です起きてください」

許嫁「べしべしべし」

男「ん……んんっ?」

許嫁「朝ですべしべし朝ですべし」

男「痛……いてえ! 何だ朝っぱらからっ」

許嫁「あら男さんべしべしおはようございべし」

男「どうして顔をビンタされまくってんだよ俺!?」


男「うぅ……顔がひりひりする」

男母「ったく、ようやく起きてきた。ごめんなさいね許嫁ちゃん、手間かけさせて」

許嫁「大丈夫ですよ。これからずっとしていくことですしね」

男母「ところで、うちのどら息子の顔はどうして爆弾岩みたいになってるの? メガンテでもするの?」

男「聞いてくれよババア……許嫁が、俺をビンタしまくったんだ」

男母「誰がババアよ、マホトーンしてからたこ殴りされたいの?」

男母「おおかた、寝ぼけたあんたが許嫁ちゃんに抱きつきでもしたんじゃない?」

男「なるほど……そうだったのか。悪かったよ許嫁」

許嫁「いえ、その。私こそごめんなさい」

男「?」

男母「よしご飯完成っ。早く錬金しなくちゃ!」

許嫁「錬金……? あ、ゲームの話でしたか」

男「ダメだ許嫁、見るんじゃない。家事をおざなりにしてゲームに熱中する主婦なんて存在しないんだ……!」


    ◇学校

女「おはよー……ってうわ!? 男の顔が白子の怪物みたいになってる!?」

男「キモい例えすんな。おはよう」

許嫁「おはようございます」

女「んー、ねえねえ許嫁ちゃん、こいつどうしたの?」

許嫁「実はその、ちょっとやりすぎてしまいまして」

女「あーなるほどね。男がセクハラしたんでしょ? こいつってばほんと変態だから」

男「違う、寝ぼけてたんだ、俺は悪くない」

女「小学生のころ、クラスの女子全員のスカートをめくったやつが良く言うわー」

許嫁「男さん……ふふ、ふふふ。私に内緒でそんなことしたんですか」ゴゴゴ

男「許嫁さん!? 目も口も頬も笑ってません!」

女「大丈夫、言葉だけは笑ってるでしょ?」


男「しくしく」

許嫁「さあ男さん。どうしてそんなことをしたのですか? 私というものがありながら」

男「ち、違います! 若気の至りだったのです!」

女「ほんとよ、信じられないわ。いくら王様ゲームでスカート20人めくれって命令されたからって」

男「命令した悪魔は女じゃねえか!」

女「でも楽しかったでしょ?」

男「まあな!」キラ

許嫁「男さんっ!」

男「ごめんなさいごめんなさい! 今後は許嫁のスカートしかめくりません!」

許嫁「それならよ……くないですっ! 恥ずかしいからやめてください!」

男「…………」ピラ

許嫁「い、いやああーー!!」

男「女」

女「何よ」

男「天国は桃色をしていた」

女「地獄に直結してるわよ、あんたのいる天国」


許嫁「信じられません……こんなことされたら、私、どこにも嫁に行けません」

男「俺以外の誰のところに嫁に行くんだよ」

許嫁「そ、それは……」

男友「……」チラッ

男「……」

許嫁「……」

男友「……」チラッチラッ

男「おーい女友ー。男友が許嫁に色目使ってるぞー」

女友「なんですってー!?」

男友「ちょ、ば、男てめえ!」

許嫁「三枚目の役柄って大変ですね」

男「まあ幸せそうだしいいんじゃないか」


男友「  」

女友「浮気者、ここに眠る……っと」

許嫁「不名誉な墓銘が刻まれましたね」

男「南無」

男友「死んでたまるか!」

女友「しぶといわね」

男友「当たり前だ! オレはこれから、女友とあんなことやこんなことをしたいんだあ!!」

女友「大声で何を言うわけ!?///」

男「俺と許嫁ってさ、あいつらのおかげでバカップル扱いされずに済んでるよな」

許嫁「得難い友人ですね」

この前、許嫁のssかいてた人?


女「ほー? つまり許嫁ちゃんは、男とバカップルなりかけなのは認めるんだー?」

許嫁「ち、違いますっ。言葉の綾です!」

女「違うの? なら男、わたしとバカップルになろうよ」

男「冗談は胸だけにしてくれよな」ハハ

女「男……あんたってやつは」ゴゴゴ

許嫁「だめ、だめですっ。男さんは私の……っ」

許嫁「うぅ」

男「大丈夫だって許嫁」

許嫁「男さん……」

男「あまり言ってこなかったけどさ、俺、許嫁のこと、好きだぞ」

許嫁「わ、私も……男さんのことが、その……」

女「わたしの存在を踏み台にして盛り上がるの、やめてくれないかなあ」


女教師「よーしお前ら席に着け……ぉぅわっ! どうしたんだ男! 顔が花崗岩みたいになっているぞ!?」

男「もっとましな例えはありませんでしたか?」

女教師「そんなことはいい! それよりどうした、イジメか!? 先生が放課後の保健室で相談に乗ろうか?」

女「何するつもりよ二九歳」

女友「必死すぎてちょっと引くわよね……」

女教師「うるさいな! わたしはもう後がないんだよ!」

許嫁「だからって人の婚約者に粉をかけるのはやめてください」

女教師「おっかしいな……どうしてわたしの人生には婚約者が現れなかったんだ?」

女「日頃の行いとかじゃ?」

女教師「……ところで女、あんたそのグループで一人だけフリーだったな? 先生が放課後の保健室で相談に乗ろうか?」

女「わたしに何するつもりですかっ!」

女教師「いやほら、同性愛者だったら結婚しない理由として親に話せるし」

男「ご両親が泣きますよ」

許嫁「ちょっと重たいカミングアウトですものね」

>>8
そうかもしれません
作風は真逆ですが


女教師「ま、冗談はさておき進路調査票を配るぞ。来週頭が期限だから、遅れないよう提出するようにな」

男友「なあ、女友はどうするんだ?」

女友「ちょっとは余裕を持って入れそうな大学。あんたは?」

男友「ぎりぎり入れそうな大学を狙う。……悪い、学校は別々だと思う」

女友「しょうがないわよ。あんたのが頭いいんだし」

男友「たださ、できるだけ女友の大学と近いとこを探すよ。一緒にいる時間、できるだけほしいしな」

女友「も、もう……」

男友「――――」ジッ

女友「――――」ジッ

女教師「見ない見えない見えてない。ああそうだわたしは見えてないぞー!」


女「先生、一枚足りませーん」

女教師「おっと、悪かったな」

男「さて、俺もどうするか」

許嫁「男さん、行きたい大学は決まってませんでしたか?」

男「第一志望はな。この近くで理学の専攻科があるの、一つしかないし」

女「えーっと……書き書き」

男「でもこれ、一応第五志望まで埋めないとだろ?」

許嫁「どうせなら遠方の大学も検討してみては?」

男「んー、親がなんて言うかわからないからな」

許嫁「私と一緒に住むということでしたら、多少は生活費も安くあがりますし」

女「よしできた」

許嫁「教員免許が取れるなら、私は大学にこだわりがありませんしね」

男「……ん、そうだな」

女「これをこっそり許嫁ちゃんのやつと入れ替えて、っと」


男「そうだ、女はもう決まってるのか?」

女「わたしはまだだよ。……ねえ許嫁ちゃん。わたしと一緒に進路調査票を書こうよ」

許嫁「いいですよ。大学を調べなが……ひぅ!?」

男「ひぅ?」

女「おやぁ、どうしたの許嫁ちゃん? あらあらー! もう、許嫁ちゃんってば大胆なんだからっ」

男「んー? ……おい許嫁。男のお嫁さんとか書いてあるの、見間違いか?」

許嫁「わ、私が書いたんじゃありませんっ」

女「でもそれじゃあ提出できないよ? はいこれ。さっき一枚余分にもらったんだー」

許嫁「っ! 女さん、計りましたね!?」

女教師「もうやだこのクラス」


許嫁「そろそろ次の授業が始まりますね」

男「だな。ほら許嫁、教科書」

許嫁「私からもどうぞ」

女「……二人ってさ、授業前によく教科書を交換しあってるけど、それって何の儀式? イチャイチャ獣の召還?」

許嫁「いえ、あの、そういうイチャイチャとかではないです……」

男「今日やるページの空いた部分に、前回の復習をかねた問題を作ってるんだよ。で、お互いにそれを問き合ってる」

許嫁「勉強になっていいですよね」

女「砂糖吐きそう……」



    ◇授業後

女(しかしこんなことでへこたれる女さんではありません)

女「許嫁ちゃん、ちょっと教科書貸してー。イタズラ書きを消してたら、教科書破けちゃって」

許嫁「もう、仕方ないですね。自分の教科書だからって、あまり落書きしちゃダメですよ?」

女「わかってるよ。ありがとねー」

女(よし、もう問題が書いてある。綺麗な字だな、うらやましい)

女(とりあえず、女の子らしい丸文字で書き足して……っと)

女(教科書、この後は見ないまま男に渡してくれるよね?)

女「もう大丈夫、ありがとね」

許嫁「いえ、どういたしまして」

女と女教師がひたすら不憫でなりません


~~~

    ◇次回授業時

男「っ!?」ガタッ

女教師「どうした男? わたしに惚れたか?」

許嫁「……先生。そういう冗談はよくないと思いますよ。男さんは別ですが、勘違いする男子が現れるかもしれません」

女教師「安心しろ。彼女にベタ惚れしてる男子相手にしか言わないから」

許嫁「それならいいんですが」

許嫁「……ちょっと待ってください! 変なこと言わないでくれませんか!?」

男「…………」

男(び、びっくりした……許嫁、こういうこと書いてくるやつじゃないと思ってた)

『愛してますよ男さん(ハート)』

男(ちょっと無神経すぎたな……俺も返してやるか)


    ◇次々回授業時

許嫁「ひぅ!?」

女教師「……最近、わたしの授業を邪魔するのが流行っているのか?」

許嫁「す、すみません……」

女教師「まあいい、続けるぞ」

女教師「水平リーベ僕の船、名前があるんだけど内緒、ここはテストに出ないぞー」

許嫁(私、こんな丸文字を書いたことありません……っ)

許嫁(女さんのしわざですね!)

許嫁(というか男さん、わかってるんですよね!? どうして)

『俺も許嫁のこと愛してる』

許嫁(とか書いているんですかっ!)

許嫁「あーもうっ!!」

男「っ!?」ビクッ


女教師「で、だ。授業中に二人が騒がしかったのは、女が原因なんだな」

女「だってほら、他の先生の授業中だと、二人が怒られちゃいますし」

女教師「わたしだって怒る。教師をなめるな」

~~~


    ◇現在

女(ってなるはず! まあ最後は余計だけど)

女(ふふん、わたしってば友達思いなキューピッドだなあ!)

許嫁「…………」ペラペラ

許嫁(最後のページ、見てませんよね?)

『男さんの寝顔、可愛かったですよ。でも授業中に寝ちゃめっ、ですからね』

『気をつける。ところで許嫁はどうして、授業中に俺をちらちら見るのかなー?』

『男さんが 好 き だ か ら で す ! 』

『強調しなくても伝わってるよ。俺の気持ちも伝わってるか?』

許嫁「……ふふ」


    ◇昼休み

男「んーっ! ようやく飯の時間だ」

女「さてさて許嫁ちゃん? 今日の愛妻弁当は、どっち!?」

許嫁「どっちも中身は同じです。……それと、愛妻弁当じゃありません」

男「いつもありがとな、弁当作ってくれて」

許嫁「いいんです。私も勉強になりますからね」

女「でもさ、今日はどこで食べる?」

男「そりゃあいつものあれだ、奴らの気分次第」

許嫁「今日はどうでしょうね」


女友「はい、あんたの分」

男友「ありがとうっ。いやー、オレはこのために学校来てるようなもんだからなー!」

女友「大げさよ。そんなとびっきりおいしいってわけでもないでしょ?」

男友「なに言ってんだよ。オレへの愛情たっぷりなんだろ?」

女友「それは……うん」

男友「ならいいじゃねえか、オレはそれだけで幸せだね」

女友「……も、もう///」

女友「ほ、ほら、あーんしてっ。食べさせてあげる!」

男友「あーん」

女友「どう? からあげ、おいしいわよね?」

男友「んまいんまい。いやー、結婚してからの食事が楽しみだなあ」

女友「ば、バカじゃないの!? バッカじゃないの!?」


男「よし、教室出るぞー」


男友「……あれ、教室に誰もいねえ。なんでだ?」

女友「さあ? でもどこかに集まるって連絡あったわけでもないし、ただの偶然じゃない?」

男友「まあいっか。女友と二人きりのほうが嬉しいし」

女友「もう……ほんと、男友ってばバカなんだから」


童貞A「おれたちはいるんだけど」

童貞B「しっ、声を出すな、消されるぞ」

童貞C「影になること合コンのごとし……」


女「わたしさ、二人のお弁当にはいっつも足りないものがあると思ってたんだよね」

許嫁「え、何でしょうか? 栄養や彩りには気をつけているのですが……」

男「お弁当なんだし、そこまで気を配らなくても大丈夫だぞ?」

許嫁「いえ、いいんです。私がしたくてしてるんですから」

女「そこっ。イチャイチャしない!」

男「それは是非とも教室にいる二人に言ってきてくれよ」

許嫁「男友さんと女友さん、だんだん悪化してますからね」

女「やだよぉ……だって女友、男友と二人でいちゃついている時に話しかけると、羅刹のような目をするんだもん……」

許嫁「羅刹って……」

男「というか、本当に話しかけたのか。勇気あるな」

女「あの二人の話はいいの! それより、二人のお弁当に圧倒的に足りないものだよっ」

男「で、何が足りないんだよ」

女「桜でんぶ!」


男「ああ。新妻が夫の弁当にかける、全力でハートにして独身の同僚から殺意を向けられるって、あれだな」

許嫁「男さんの言い様はそうとう偏ってますけどね」

女「それはそれとして、どうして許嫁ちゃん、桜でんぶでハートばりばりにしないの?」

許嫁「いえ……その、それをやると女友さんみたいでちょっと抵抗が」

男「ろくなことしねえな女友のやつ」

女「でもほら、わたしからプレゼント。桜でんぶ。これで男のお弁当にハートを作ってあげて」

許嫁「は、はい」

許嫁「さっさっさっ……」

男「俺、思ったんだけどさ」

女「何よ男、許嫁ちゃんの想いを受け取れないっていうの?」

男「いや、そうじゃなくてな?」


男「型枠なしにハートを作るって、無理だろ」


許嫁「あ……」

女「あー……あははー?」

男「笑ってごまかすな」

許嫁「これじゃあ、ただの……ノリのないノリ弁、みたいな」

女「許嫁ちゃんって箱入り娘だったよね?」

男「しっ、そういう時代もあったというだけだ」

許嫁「ごめんなさい男さん……私の気持ちでは、ハートを作れませんでした」

男「ん……」

男「仕方ないだろ? 許嫁の気持ちは、ハートの形に収まりきらなかったんだよ」

許嫁「男さん……」

男「許嫁……」

女「ちゅー? ちゅーしちゃう? ねえねえ?」

男「するかっ」

許嫁「台無しです。もうっ」


女「そういえばさ」

男「ん?」

女「男と許嫁ちゃんって、いつから知り合いだったの?」

許嫁「初めて会ったのは……いくつでしょう。五歳の頃にはもう会っているはずですね」

男「二、三ヶ月に一回は、なんだかんだで会ってたよな」

女「親同士が仲いいんだ? 学生時代の友人とか、そんな感じ?」

男「いやな。なんでも昔、親父たちが雪山で遭難したそうなんだよ」

許嫁「……? ……っ」

許嫁「ぷっ……っ」クスクス

男「どした?」

女「遭難……そうなん……ああ。とりあえず男、続けて?」

男「でまあ、その時の話なんだけどな」


~~~

男父「まずいな……このままでは朝まで持ちそうにない」

男母「あなたはメラを使えないの……?」

男父「うん、こんな時くらいドラクエから離れよう」

男母「わたしはもうだめ……MPが、尽きて……」

男父「しっかりしろ! 最期の言葉がそんなんでいいのか!?」

??「お困りでスカ?」

男父「あなたは――――ボブ!」

ボブ「ヤア。雪山と聞いて、急いで来まシタ」

男母「うふふー……マジカル400枚以上やったのに3が一つしか付かなかったわー……」

男父「ダメだ……しっかりしてくれっ!」

ボブ「奥さん、危なイネ。さあ行クヨ。これで山を下りるンダ」

男父「これは?」

ボブ「段ボール製のソリだヨッ」

男父(これは死んだ)

~~~


男「というようなことがあってな?」

女「誰よボブ!?」

許嫁「ボブさんにはお世話になりましたよね」

女「……許嫁ちゃんの親がちっとも出てきてないじゃない」

女「それともなに? ボブって人が許嫁ちゃんのお父さん?」

許嫁「失礼なことを言わないでください!」

男「言っていいことと悪いことがあるだろ!」

女「ボブさんは命の恩人だったんじゃないわけ!?」


男「まあ聞けよ。でな、遭難して助けられた後、ホテルで暖まってる時に許嫁の両親と知り合ったらしいんだ」

許嫁「そこで意気投合したみたいですね」

女「遭難の話はいらなかったんじゃない……」

男「人の縁ってわからないもんだよな」

許嫁「ですねー」

女「はあ。まあいっか、それより昼休み終わるし、そろそろ戻ろ?」

……


ボブ「さあ皆、古典の授業を始めルヨ!」

女「ここまで出張らないで!?」


許嫁「ようやく授業が終わりました……早く帰りましょう、男さん」

男「そうだな」

女「何よ許嫁ちゃん、そんなに男とイチャイチャしたいの?」

許嫁「いえ……この学校の人たち、みんな個性が強いので疲れるというか」

男「ちょっとリストアップしてみるか」

男;かっこいい
許嫁;かわいい
女:アホの子
男友:バカップル
女友:アホップル
女教師:名誉独身
ボブ:ボブ

男「――――なるほど」

許嫁「も、もう男さん。みんなの前でそういうこと言うの、恥ずかしいから止めてくださいね?」

女「わたし、文句を言ってもいいよね?」


男「ふう、女の文句を聞き流すことに成功した」

許嫁「明日また言われると思いますよ?」

男「忘れててくれることを願うよ」

男「……学校、楽しいよな」

許嫁「そうですね。いつも一日があっという間です」

男「よかったよ、許嫁がこっちに馴染んでくれて」

男「最初はさ、やっぱり心細かっただろ?」

許嫁「――――そうですね」

許嫁「こちらの高校に知り合いはいませんでしたし。友達ができなかったらどうしようって、不安だったのは隠せません」

男「でも友達はたくさんできたし、今は幸せだろ?」

許嫁「……もう」

許嫁「男さんはわかってませんね?」


許嫁「わたしが幸せな理由、そんなものは決まってます」

許嫁「あなたが隣にいるからですよ、男さん」

男「…………そっか」

許嫁「みんなと一緒に、楽しい時間を過ごせればいいなと思います」

許嫁「そして男さんと、幸せな時間を重ねていこうと思っています」

許嫁「ふふ。私って、こう見えてわがままなんですよ?」

男「いや、許嫁は今でもだいぶわがままボディーだけどな」

許嫁「男さんっ!」

許嫁「……もう。本当にそう思うなら、ちょっとくらい踏み込んでほしいです」ボソッ

男「何か言ったか?」

許嫁「何も言ってませんーっ」

男「なあ許嫁」

許嫁「はい?」

男「踏み込むの、ちょっとだけ待っててくれな?」

許嫁「き、聞こえてるんじゃないですかっ! もうっ」


    ◇

女「ちょっとバイト遅くなっちゃったな……ん?」

男教師「なあ、この後ウチに来ないか?」

女教師「明日は平日だぞ。学校がある。ダメだ」

男教師「なあ」グイッ

女教師「あっ」

男教師「ちょっとだけだから。な?」コソッ

女教師「ま、まったく……いいか? ちょっとだけだぞ?」

女「  」

女教師「ん?」

女教師「……あ」


    ◇

女「ゆうべはお楽しみでしたね?」

女教師「…………」

女「ゆうべは」

女教師「聞こえている。繰り返すな」

女「どうして先生、彼氏いるのに、教室で独身ネタを言うんですか?」

女教師「先生になるといろんな事情があるんだ。誰にも言うなよ?」

女「許嫁ちゃんをからかうのに協力してくれるなら黙りましょう」

女教師「まかせろ。あいつをからかうのは得意だ」



許嫁「何か不穏な気配がします……」

男「困ったもんだな」

今日はここまで。
次回更新は来週の土曜か日曜と思っていただければ。

というか、この後はだらだらと似たようなヤマなしオチなし意味深長な話を続けるだけです
スレタイも回収したことですし、ここで読み終えても全く問題ありません

>>17
本当の独り身がこんなに独身ネタを連発できるわけがありません。心が折れます。

やっぱりあんたか
放置してるスレなかったか?

>>39
ありません


    ◇朝

許嫁「男さんって禁欲な方なんですか?」

男「……朝っぱらから何を言い出すんだ」

許嫁「夕べ、女さんや女教師さんとお話していたのですが、婚約してるのにキスもしてないのはおかしいと言われまして」

許嫁「男さんの気持ちは疑うべくもありませんから、単に自制心が強いのかなと」

男「俺、この前許嫁のスカートめくってた気がするんだけどな」

許嫁「そういえばそうでした……ひどいです男さん、ようやくあの恥ずかしさを忘れることができたんですよ?」

男「他に納得させる話を思いつかなかったんだよ」

男「……そうだな、よし」

許嫁「男さん、テーブルの下に潜ってどうしたんです? 何か落としましたか?」

男「今日は白なんだな」

許嫁「?」

許嫁「……ひ、ひどいです男さんっ! スカートのぞきましたね!?」

男「眼福だった」

男母「あんたら、わたしは宿屋の主人じゃないんだから、そういうことするのやめてくれない?」


許嫁「もう。エッチなことばかりしてると、男さんのこと、嫌いになっちゃいますからね……?」

男「気をつけよう」

男「……一日一回なら許されるよな?」

許嫁「今後、スカートの下にジャージをはいてもいいなら、好きにすればいいです」

男「もうやらないからやめてください」

許嫁「男さんって、あの格好が本当に嫌いですよね。女さんが理不尽に叱られたことが思い出されます」

男「寒いのはわかるが、だからってあれはないだろ……」

許嫁「男さんが熱く説教して以来、女さんは面倒になったのかタイツをはくようになりましたからね」

男「いいことだ。タイツは素晴らしいからな」

許嫁「……そうですか、覚えておきます」


男母「あんたはまだそういうことしてるの? 子供の頃と変わらないわね……」

許嫁「以前もこんなことしていたんですか?」

男母「そうよー? 幼馴染ちゃんって子と、プリントパンツはダメだの少し背伸びした感じがいいだの話してて、将来を心配したわね」

許嫁「幼馴染、さん……?」

男「ずいぶん懐かしい名前だな」

男母「あの子って最近はどうしてるの?」

男「隣のクラスだよ。まあ元気でやってんじゃないか?」

許嫁(幼馴染さん……どんな方なんでしょう)

許嫁(私、駄目ですね。ちょっと嫉妬しちゃいます)

男「許嫁は会ったことないんだっけ?」

許嫁「ないですね」

男「好きなものが俺とそっくりなんだよ。今はもうずれてるかもしれないけどな」

許嫁(気が合うということでしょうか。もしかしたら、男さんの初恋はその幼馴染さんだったり、して)


    ◇学校

幼馴染「久しぶりだね男くん。今日はどうしたの?」

男「許嫁が会ってみたいって言うもんだからな。紹介もしてなかったし」

許嫁「初めまして幼馴染さん。これからよろしくお願いします」

幼馴染「うん、よろしくね」

幼馴染「…………」ポーッ

許嫁「どうしました?」

幼馴染「男くんとじゃなくて、わたしと結婚しよう? 幸せにするから。ね?」

許嫁「……はい?」

男「こうなると思ったんだよなー、うん」


男「だから言ったろ? 好みが似てるって」

許嫁「そういう問題ではないと思います……」

許嫁「あの、幼馴染さん。私たちは女同士ですし、誤解を招きますから滅多なことは言わないほうが」

幼馴染「わたしは本気だよ! 許嫁ちゃんを守ってあげたいもんっ」

男「ところで幼。スカートの下にジャージってどう思う?」

幼馴染「そんな悪習は根絶すべきだよっ。女の子はすべからくタイツをはくべきでしょ?」

男「な? そっくりだろ?」

許嫁「それはもうわかりましたから、幼馴染さんの説得を手伝ってください」


男「幼に言いたいことがあるんだが」

幼馴染「なに?」

男「まずはお友達から始めるのが筋だろう」

許嫁「はい?」

幼馴染「それもそうだよね。男くんの言うとおりだよ」

幼馴染「許嫁ちゃん? まずはお友達から始めよう?」

許嫁「最終目標が恋人のままならお断りしていいですよね?」

男「そんな堅いこと言わなくてもいいだろうに」

許嫁「私もこんなこと言いたくはありませんが……」

幼馴染「そーっ」ピラ

許嫁「ひぅ!?」

幼馴染「男くん、白だったよ?」コソコソ

男「大丈夫、知ってる」コソコソ

許嫁「なんなんですかあなたたちは!?」


女「あー幼か。クラスが違うから、最近はごぶさたかも」

許嫁「仲はいいんですか?」

女「男と幼、一時期は仲良しだったからね。わたしもその頃友達になったし」

許嫁「それならどうして、二人は疎遠になったんですか?」

幼馴染「だってほら、相手が何を言うかだいたいわかってると、つまらないものだよ?」

女「あら幼。久しぶり」

幼馴染「元気してた?」

女「もちろん。最近はいちゃいちゃしてるカップルをからかうのも楽しいしね」

男友「女友、好きだああぁぁ!」

女友「変なこと言うなバカっ!」

許嫁「あの二人のことですよね」

女「あれは除外」


幼馴染「ところで許嫁ちゃん、探りを入れるくらいわたしのことが気になる?」

許嫁「そういうわけではないのですが」

幼馴染「心配しなくても、男くんを好きになったりはしないよ?」

許嫁「そんな心配はしてませんっ」

女「本当に?」

幼馴染「素直になろ?」

許嫁「ちょ、ちょっとしかしてませんもん……」

幼馴染「癒されるっ。わたしこっちのクラスが良かったなあ」キャッキャ

女「やっぱり恥じらいって大事よね」キャッキャ

許嫁「私が登校拒否になったら、きっと二人が原因です……」


幼「男くーん? 許嫁ちゃんが、一緒に登校拒否しようって言ってるよー」

許嫁「言った覚えありません!?」

女「あー、懐かしいわね幼のこの突飛さ加減」

男友「おーい男」

女友「男、許嫁が」

ボブ「ボブダヨー?」

男「許嫁! 幼と浮気したいって本当か!?」

許嫁「私、もうこのクラスでやっていける自信がありません……」


幼「あは、違う違う。スカートめくりで隠されたものを暴くのは興奮するよねって話だよ?」

男「なんだそうだったのか。びっくりしたよ」

許嫁「私、そんな話をする子じゃありません」

女「今からわたしとする? 噂に負けるのも腹立つわよね?」

許嫁「むしろ積極的に負けたいくらいです」


男「……んー。なあ幼。スカートめくりの話、お前の意見か?」

幼「そうだよ? それがどうかしたの?」


男「いや、な。俺とお前って、やっぱり違う人間なんだなあって。今更わかったよ」

幼「そうかなあ? やっぱりそっくりじゃない?」

男「誰のスカートをめくっても嬉しいってわけじゃないしな」

男「俺は許嫁の反応が見たくてスカートをめくってるんだし」

許嫁「男さん……」キュン

女「そこで胸きゅんするんだ……許嫁ちゃん、まともだと思ってたのに」


幼馴染「なるほどねー、そうなんだ」

幼馴染「……ちょっと嬉しいかも。わたし、男くんと話していると共感してばっかりで、何だか鏡と話してるみたいって思ってたもん」

幼馴染「別の人間だから、話していて楽しいんだもんね」

男「たまたま似通った時期があるってだけなんだよな、きっと。でもま、得難い経験をしたと思えばいいんじゃないか?」

幼馴染「おー、男くんがいいこと言ってる」

男「だろ?」

幼馴染「じゃあわたしもいいこと言うね?」

幼馴染「男くんが変わったのは、許嫁ちゃんっていうお嫁さんができたからじゃないかな」


許嫁「幼馴染さん……」

幼馴染「だから許嫁ちゃん、わたしとも結婚しよ?」

男「台無しだな」

女「やっぱり幼は幼のままだったねえ」


    ◇数日後

幼馴染「許嫁ちゃんって、別に許嫁っぽさはないよね?」

許嫁「  」

女「気絶してる!? ちょっと幼、あまりひどいこと言わないであげてよっ」

幼馴染「でもさ、女? 許嫁ちゃんのしてることって、それこそ普通の彼女でもできることだよ? 女友みたいに」

女「あれを一般的みたいに言うのはすっごい抵抗があるけど……まあそうかもね」

幼馴染「わたし、許嫁ちゃんにはもっと頑張ってほしい! 許嫁制度はもっと広まるべきだもん!」

女「何が幼をそこまで駆り立てるのよ……」


許嫁「    はっ」

女「戻ってきたわね」

許嫁「すみません。なにやら私の存在を根底から揺るがすことを言われた気がしまして」

幼馴染「それは言ったよ?」

許嫁「夢じゃありませんでした……っ」

女「こう、何かないわけ? 許嫁らしいエピソード」

許嫁「例えば、ですが」

許嫁「両家公認のため、お泊まりだって自由自在です」

幼馴染「おおっ」

許嫁「ただしどちらかの両親の監視の目が必ずあります」

女「ああ……」

幼馴染「それってむしろ、親に知られているぶん色々とやりづらいってことじゃ?」

女「幼、しっ!」


許嫁「…………」

許嫁「私だって」

許嫁「私だって、もっと色々したいです!」

許嫁「もう高校生ですし、すごく興味があるのに、男さんは手を出してくれませんし!」

許嫁「もっともっとぎゅーとかにゃんにゃんとかちゅっちゅとかしたいんですよっ!」

女「うわあ……実はストレスをため込んでたんだ、許嫁ちゃん」

幼馴染「そしてわたしはそんな許嫁ちゃんの味方なのです。送信、っと」

女「送信?」

許嫁「……ちょっと待ってください。幼馴染さん、何をしました?」

幼馴染「男くんに、会話の一部始終を録音して送信しただけだよ?」

許嫁「私もう男さんに会えません!?」


許嫁「嫌です……嫌すぎます。絶対、男さんに変な子だと思われてます」

女「男ってそんな心が狭かったっけ?」

幼馴染「受け入れてもらえるだろうけど、歪んだ欲望を知られちゃうのはちょっとねー」

許嫁「わかっているならどうしてバラしちゃったんですかっ?」

幼馴染「二人とも奥手みたいだし、これくらいのお節介は焼いちゃったほうがいいかなって」

許嫁「気持ちには感謝したいですが、その行動には非難しかできません……」

女「まあほら。許嫁ちゃん、どんまい」

許嫁「ありがとうございます……」

許嫁「ですが、男さんからメールが来てしまったので、心の傷が深くなるばかりです」

幼馴染「男くん、なんだって?」

許嫁「見たくありません。白ヤギさんが食べちゃったことにできないでしょうか」

女「雰囲気は大人っぽいのに、許嫁ちゃんの中身がずいぶん子供っぽい」

幼馴染「ギャップ萌えだよねっ」

女「そういう同意は男に求めなさいよ」


許嫁「うぅ」チラッ

男『どこにいる? 今すぐ行く』

許嫁「だそうですが……」

女「どうするの?」

幼馴染「教室にいるよ、っと」ポチ

女「ちょっと幼?」

許嫁「メール、しちゃいました?」

幼馴染「気遣いの人、幼馴染ちゃんですよ?」

許嫁「優しさってときどき残酷です……」

女「幼、実はちょっと楽しんでるでしょ?」

幼馴染「ばれちゃった?」


男「許嫁っ!」

女「早っ」



許嫁「男さん……その、違うんですよ? 幼馴染さんが送った声は、その」

男「ごめんな許嫁」ギュッ

許嫁「ひぅっ」

男「少しずつ距離を縮めていけたらと、勝手に思ってた」

男「でもさ、許嫁であると同時に彼女だもんな。何もされなきゃ不安になるって、そんなこともわかってなかった」

男「そこまで急ぐことはしないけど、それでも、許嫁が自信を持てるように、俺、頑張るから」

許嫁「男さん……」ギュッ

許嫁「いえ、いいんです。私を大事にしてくれてることは、わかってましたから」

許嫁「きっと男さんの方が、私より我慢してると思いますし」

許嫁「……だから、その。これからはもうちょっとだけ、素直になりますね?」



幼馴染「いい話だなぁ」

女「でも冷静に考えると、これからもっとイチャイチャしようねって腹立つ会話なのよね」


許嫁「その、お二人にはご迷惑をおかけしました」

女「あーそうねー」

幼馴染「これくらい気にしないで? わたしたち友達だもん」

許嫁「はい――私、二人と友達になれて本当に良かったです」

幼馴染「持つべきものは友達だねっ」

女「わたしは今、友情をぶちこわしたくてしかたないけどねー」

幼馴染「女ってば、さっきからどうしてやさぐれてるの?」

女「むしろなんで幼は平気なのよ」

女「さっきからずーっとお姫様抱っこされてる許嫁ちゃんが、正直かなりイラっとくるわ」


男「んー、でもなあ。寂しい思いをさせたくないし」

許嫁「私は男さんの気持ちが嬉しいですし」

女「別に仲良くなるのには賛成なのよ、うん」

女「ただこの場でそこまでイチャイチャすんな!」

幼馴染「女も素直じゃないなあ。羨ましいならそれでいいんだよ?」

女「羨ましいなんて気持ちはとっくに通り過ぎたわよ。バカップル外に出んな、としか思わない」

男「まあ確かにな。だがこの程度のイチャイチャは前座だぞ?」

男「本当のイチャイチャは夜にするもんだからな」

許嫁「男さん……」キュン

女「もう知るかバカーっ。わたし帰る!」


幼馴染「男くん、実はからかって楽しんでたでしょ?」

男「ばれたか」

幼馴染「許嫁ちゃんも悪い子だねー」

許嫁「何の話ですか?」ギュッ

幼馴染「あちゃー、こっちは素だったかあ」


女「もうホント信じられない! 心配して損した!!」

女「……ん?」


男教師「なあ、今日もウチに泊まるだろ?」

女教師「もう何日連続で泊まったと思ってる? 今日くらいわたしは家に帰るぞ」

男教師「なあ」グイッ

女教師「あっ」

男教師「な?」

女教師「ま、まったく……しょうがない奴だな」


女「誘ってほしくて断る素振りしてるだけの色ぼけ教師だった」

女「もうやだ、この学校」

以上です。
まだまだダラダラします。

に、人間関係は要不要だけじゃ語れませんし。


許嫁「ふんふふ~ん♪」

許嫁「今日は休日ですし、たっぷり男さんのお世話をしなくてはいけませんね。そう、許嫁として!」

許嫁「もう女さんや幼馴染さんから名前負けだの力不足だのとは言わせませんっ」

許嫁「そーっ」

許嫁「男さーん? おはようございます、寝てますねー?」

男「お、許嫁か。早いな。おはよう」

許嫁「どうして起きてるんですか?」

男「たまに早起きしてみれば、ひどい言われようだ」


男「今日はやけに目覚めが良くてな。なんだかやる気がわいてるんだ」

許嫁「そのやる気は平日にとっておいてもらいたかったです」

男「そんな器用な真似はできない」

許嫁「もう。ご飯の準備はできてますから、顔を洗ってきてくださいね」

男「母さんのことだし、どれだけ手を抜いてるやら」

許嫁「今朝は私が作りましたから、そこまで悲観しなくてもいいかと」

男「よし、それなら楽しみだ」

男「生卵だけがぽつんとテーブルに置いてあるのは悲しすぎるからな……」

許嫁「週に一度くらいの手抜きは許してあげていいと思いますよ?」

許嫁「用意してもらっている身なんですし」

男「ゲームしてるんじゃなきゃ、たまにはいいかと思えるんだけどな」


男「ごちそうさまでした」

許嫁「お粗末様です」

許嫁「後片付けをしますから、男さんはゆっくりしていてくださいね」

男「食器洗いくらいならやるぞ?」

許嫁「いいんですよ、やりたくてやってるんですから」

男「そうか? じゃあ頼むな」

許嫁「はい」



男「とはいえ、何もしないんじゃすわりが悪いよな」

男「母さん、何かやることないか?」

男母「わたしの代わりにクエストでもやる?」

男「現実世界で」

男母「そうねえ。草むしりはこの前許嫁ちゃんがやってくれたし、洗濯は許嫁ちゃんがやってる途中だし」

男「許嫁は家事を頑張りすぎだろ」

男母「こんなにできた娘がいて、わたしは幸せだわ~」

男「まだ違うだろ。まだ」


男「洗濯機はしばらく回してるみたいだし……そうだな、やることやっておくか」


許嫁「ふふ、洗い物は終わりました」

許嫁「あとは洗濯物を干して……でもその前に男さんのお世話をしなきゃですね!」

許嫁「男さん、入りますよ?」

許嫁「昨日の宿題、男さんはまだやってませんよね? 私が家庭教師をしますよっ」

男「お、ちょうどいいところに。宿題、今終わったとこだぞ」

許嫁「え?」

男「洗濯機もそろそろ止まったよな? 一緒に干すか」

許嫁「えっ?」

男「今日はいい天気だしな。よく乾きそうで何よりだ」

許嫁「あ、はい。そうですね」

男「るんるんるー♪」


許嫁「おかしいです……私の考えていた一日から、どんどんずれていきます」


男「これだけの量を干し終わると、なんか達成感あるよな」

許嫁「たまには家事を手伝うのもいいでしょう?」

男「そうだな、許嫁がやってる時は力を貸すよ」

許嫁「いえ、私はいいので男母さんのお手伝いをどうかなと」

男「ちょっと親孝行するには時期が悪い」

許嫁「男さんってお母さんには甘えちゃうみたいですね」

男「なっ、そんなことあるか!」

許嫁「小言をぶつけたりするのは愛情の裏返しなのでは?」

男「なわけないだろっ。ババアが手を抜いてばかりいるから……」

許嫁「ほら、また言いました」

許嫁「男さん、やっぱりお母さんが好きなんですね」

男「くっ……」


許嫁「その、男さん?」

男「つーん」

許嫁「機嫌を直してくれませんか? からかったのは謝りますから」

男「つーん」

許嫁「うぅ、こんなはずじゃなかったのですが」

許嫁「あっ、そうです! 耳かきしましょうか? 今なら私のひざまくらもついてきますよ?」

男「……つーん」

許嫁「今、ちょっと悩みました?」

男「悩んでない。俺をそんな軟弱な男だと思われては困る」

許嫁「もう……」

許嫁「私、男さんの耳かきをしたいですねー。耳かきさせてくれる心の広い男さんはいないでしょうかー」

男「…………ぷっ」

男「わかったよ。それじゃあ頼むな」

許嫁「任せてください。わたしは耳かき得意ですよ?」

男「これまでに何人もの三半規管にトドメを刺してきたからな……」

許嫁「謂れのない風評を立てないでください!」


男「それじゃ失礼して」

男「…………」

男「んむむ」グリグリ

許嫁「ちょ、ちょっと男さん? 髪がくすぐったいので、あまり頭を動かさないでくださいね?」

男「何だろう。何かが物足りない」

許嫁「はあ……?」

男「むー……そうだ、許嫁、スカートじゃなくてズボンをはこう」

許嫁「あの、意味がわかりません」

男「俺は今、防御力を求めている。ズボンによって引き締められた太ももがいいんだ」

許嫁「男さんが何を言っているのか、ときどきわからなくなります」

許嫁「わたし、この家に私服は置いてませんよ?」

男「俺のズボンを貸すよ。はきかえてくれないか?」

許嫁「頼まれるならやぶさかではありませんが……なんだか複雑な気分です」


許嫁「これでどうでしょうか?」

許嫁「上着とのバランスが崩れているので、私としてはあまり納得がいきませんけど」

男「耳かきの間だけ我慢してくれ」

許嫁「もう、仕方ありませんね。ではどうぞ?」

男「よいしょ……おぉ」

許嫁「満足いただけますか?」

男「こう、布越しの柔らかさって、想像力をかきたてられる」

許嫁「幸せそうなら何よりです」

許嫁「では男さん、危ないですから動かないでくださいね」

男「まかせろっ」

許嫁「……前振りじゃありませんからね? わかってますか?」

男「許嫁からどんな目で見られているか、今のやりとりでよくわかった」


……


許嫁「痛くありませんか?」

男「いい感じのこそばゆさで、眠くなってくるぞ」

許嫁「男さん、今日は早起きしましたからね」

許嫁「寝てもいいですよ? 耳かきは中断して、ずっとひざまくらをしていますから」

男「んー……いや、足がしびれちゃうだろ? 寝たら起こしてくれ」

許嫁「それくらいなら大丈夫です」

許嫁「ん……しょっと。ちょっと取りにくいです」

許嫁「ふっ、んっ……」

男「…………」

許嫁「わっ、こんなに大きかったんですね……」

許嫁「ふふ。思わずぞくっとしちゃいます」

許嫁「それじゃ、もっと奥まで入れて……」

男「……寝れるか!」

許嫁「暴れちゃ駄目です、怪我しちゃいますよ?」

男「わざとか? わざとなんだな!?」

許嫁「なんのことかはわかりませんが、きっとわざとじゃありませんよ?」


許嫁「これでこちらの耳も終わりですね。ふぅーっ」

男「んぐっ」

許嫁「これで終わりです。どうでしたか?」

男「息を吹きかけられたせいで、体力をごっそりと持っていかれた……」

許嫁「やっちゃ駄目でしたか?」

男「いや……その、なんだ。許嫁の好きにしてくれ」

許嫁「ありがとうございます。ではこれからも同じやり方にしますね」

男「――――さて」

男「俺はたくさんお世話してもらったし、この後は許嫁を労おうじゃないか」

許嫁「そこまで気をつかわなくていいですよ?」

許嫁「私も楽しんでますし」

男「まあそう言うなって。俺は甘やかされっぱなしだとダメになる男だからな」

許嫁「……そういうことでしたら、まあ」

許嫁「では男さん、一つお願いしてもいいですか?」

耳掻きってエロいよね(白目)


許嫁「日差しが温かいですね」

許嫁「ほら男さん、隣に座ってください」

男「これでいいか?」

許嫁「ええ。あとは肩をお借りしますね」

許嫁「……ふふ。こうして男さんに寄りかかるの、ずっとやってみたかったんです」

男「それくらい言ってくれればいいのに。いつでも肩を貸したぞ?」

許嫁「こんなこと毎日していたら、私、きっとダメになっちゃいます」

許嫁「本当に時々でいいんです。ちょっとだけ空いた時間に、こうして隣にいてくれたら」

男「……何というかさ。俺と許嫁って、相手に甘えすぎちゃう自分を自覚してるよな」

許嫁「そうかもしれませんね。私、男さんさえいれば他に何もいらないって、子供みたいなことをよく考えます」

許嫁「こうして二人で寄り添ってる時に、そのまま世界が終わってしまっても、私はあまり後悔しないと思うんです」

許嫁「自分勝手な女なんですよ、私って」

男「気持ちはわかる」

男「でも俺は、許嫁だけでいいとまでは思わない」

男「他のやつらに見せつけたいのかもな。こんなに魅力的な子が自分に惚れてるんだぞって」

男「俺の方こそ、子供っぽい見栄ばかり張ってるよ」


許嫁「お揃いなんですね、私たちって」

男「だな」

男「だからさ、二人で一緒に大人になっていこう」

男「そうすれば、今の気持ちだって見失わずに済む」

許嫁「そうですね」

許嫁「男さん。私の手を引いてくれますか?」

男「俺についてきてくれるのか?」

許嫁「もちろんです。男さんとなら、どこまでだって」

男「ありがとうな。俺も許嫁がいれば、きっと強い男になれる」

許嫁「……私、今とっても幸せですよ」

男「俺だって負けないくらい幸せだよ」


……


許嫁「おとぉ、さぁん……すきぃ……すき、れすぅ……ちゅう、ちゅーしてぇ……」

男「どんな夢を見てんだか」

男「……ま、いい夢を見れてるなら、俺の胸も枕としては優秀なんだろ」

男「ああ、腹へったなあ」

……


許嫁「んにゅ……ふぁ……?」

男「ん、起きたか?」

許嫁「男、さん。わた、しは」

許嫁「!? 空が赤いです! 男さん、今何時ですかっ?」

男「ちょうど五時になったところだな」

許嫁「も、もうそんな時間……! 洗濯物を取り込んで、あと夕飯の準備も……って、ああ……男さん、お昼はどうしました?」

男「あー、食べてないな」

許嫁「大失態です! ごめんなさい、すぐ作りますからっ」

男「そう慌てるなって。一食抜いたくらいで死ぬわけでもあるまいし」

許嫁「ですけど!」

男「洗濯物、俺が取り込んでくるな? 許嫁はのんびり夕食を作ってくれよ」

男「腕によりをかけてさ」

許嫁「わ、わかりました。洗濯物、お願いしますね?」


許嫁「えーと、食材は買い物に行かなくても大丈夫そうですね」

許嫁「では準備を……あら?」

男母「    」

許嫁「男母さん!? しっかりしてくださいっ」

男母「へんじは……するけど。 ただの しかばねの よう、ね……ガクッ」

許嫁「しっかりしてください! ふざけられるんですから、まだ余力はありますよ!?」

男母「お、おなか、へった……わ」

許嫁「い、急いで準備しなきゃですね……っ」


男母「いやー、生き返ったわー」

男「飢え死にしそうになる前に、自分で飯を作れよな」

男母「だって許嫁ちゃんの作ったご飯の方がおいしいんだもの」

許嫁「それは言い過ぎだと思いますよ?」

男母「にしたって二人とも、お腹へらなかったの? 実はラナルータで夜まで時間を吹っ飛ばした?」

許嫁「ラナ……なんです?」

男「ちょっと昼寝しすぎただけだよ。許嫁は父親に甘える夢を見てたから、起こすのもなあと思って」

許嫁「父の夢、ですか?」

男「覚えてないのか? お父さん、ちゅーしてーって言ってたぞ?」

許嫁「父にそんなこと言いません!? あれは男さんがっ」

男「俺が?」

男母「うちのバカ息子が?」

許嫁「な……なんでも、ありません」

男母「あんた愛されてるわねー。大事にしなさいよ?」

男「ババアに言われなくてもわかってる」

男母「そんなことばっか言ってると、許嫁ちゃんが作った弁当、あんたの分だけたべるわよ」

許嫁「寝言を言わない方法、調べないとですね……」


許嫁「では男さん、そろそろ家に帰りますね」

男「送るぞ。家近いとはいえ、夜遅いしな」

許嫁「ありがとうございます。嬉しいです」

男「母さーん。外行ってくるからー!」

男母「帰ってこなくてもいいわよー!」

男「あんにゃろうめ」

許嫁「仲良しですね、いつもどおり」

男「そうか?」

許嫁「男さんが親離れしたら、初めてわかると思いますよ?」


    ◇帰路

許嫁「今日はちょっと失敗しちゃいましたけど、来週は期待してくださいね?」

許嫁「ばっちり男さんのお世話を焼いてみせます」

男「そこまでしなくていいというに」

男「無理して早起きするから、午後は眠くなっちゃったんだろ?」

許嫁「それはそうですが……」

許嫁「でも私、許嫁としてもっと頑張りたいです」

男「ったく、頑張り屋なのは嬉しいんだけど」

男「でもな?」

許嫁「わっ」ボフッ

許嫁「お、男さん? 外で抱きしめられると、その、恥ずかしいです」

男「そう焦るなって」

男「今からそんなに急いでたら、結婚するころにはくたびれちゃうだろ?」

許嫁「結婚、ですか?」

男「普通の恋人と許嫁の違いは、将来を真剣に考えられるかどうかにもあるだろ?」

男「世話女房みたいになれば許嫁ってわけでもない」

許嫁「……そうですね」

許嫁「私、胸を張ろうと思います。男さんの許嫁なんだって」

男「そうしてくれよ。俺の自慢の許嫁なんだから」


    ◇学校

女「おはよう許嫁ちゃん」

幼馴染「んー? いつもよりすっきりした顔してるね? 何かあった?」

許嫁「そうですね、あったかもしれません」

女「男と何か進展でもあった?」

幼馴染「ついに許嫁ちゃんが大人の階段をっ」

許嫁「そういう具体的なことは何もありませんけど」

許嫁「これまでよりもっと男さんを好きになった、それだけです」

許嫁「胸やけの薬があるなら、昨日のことをお話しましょうか?」

女「あー、わたしはパス。最近は甘いもの取りすぎだし」

幼馴染「ふーん? 許嫁ちゃんにこんなに好かれるなんて、ちょっと男くんに嫉妬しちゃうな」

許嫁「ええ。たっぷり嫉妬していいですよ?」

以上です。

>>79
エッチなのはいけないと思いますっ


    ◇学校

許嫁「女友さん、おはようございます」

女友「おはよ。許嫁一人なんて珍しいわね」

許嫁「男さん、課題を家に忘れちゃったらしいんですよ。慌てて取りに帰りました」

許嫁「そういう女友さんこそ、男友さんと一緒じゃないんですか?」

女友「わたしがいつも男友といるみたいに思わないでほしいなあ」

許嫁「そうですか? たぶん、みんな私と同じ考えだと思いますよ?」


女「おはよ、なんか珍しい組み合わせだ」

女友「そう?」

女「だって女友って、最近はずっと彼氏と一緒じゃん」

許嫁「ほら、どうです?」

女友「んー……」

女「え、何の話?」



幼馴染「許嫁ちゃんっ、今日デートしよっ?」

許嫁「しません」

幼馴染「ちぇーっ。あ、女友だ。お久ー。今日は男友くんとイチャイチャしてないんだ?」

女友「今までイチャイチャしたことないってーの!」

許嫁「自覚がないというのも罪ですね」


女友「意味わかんないわ! どいつもこいつも男友の名前を出すなんて!」

許嫁「日頃の行いが反映されているだけですよ?」

女「普段からあんだけバカップルやってりゃ、そりゃ心配するでしょ」

幼馴染「お昼休みとか、女友と男友くんに合わせて民族大移動が起きるしねー」

女友「は? 何それ」

幼馴染「バカップルを見てたらカレーでさえ超甘口になると噂だよ? 食事時は逃げようってお触れが出てるもん」

女友「誰よんなアホなお触れ出したやつ」

許嫁「男さんです」

女友「……ちょっと許嫁の未来の旦那、張っ倒していいわよね?」

許嫁「お手柔らかにであれば」


男友「ほーっ、そりゃすごいな。あの先輩、後輩の卒業式に合わせて告白したのか」

男「らしいぞ。それだけならまだしも、後輩に断られたらしい」

男友「え、振られたわけ?」

男「いやいや、そんな常識じみた話じゃないって。告白は断ったけどさ、」

女友「ったく、今日はずいぶん遅かったわね」テクテク

女友「おはよ、男友」

男友「よっす。今日も女友はかわいいよな」

女友「ば、ばかっ、何言ってるわけっ? ……でも、ありがと。すごくうれしい」

男「俺の存在が一瞬で追いやられたぞ、おい」


幼馴染「ちょっと奥さん、見ました今の?」

女「そりゃもうばっちりと。女友ってば、旦那の姿を見るやいなや駆け寄りましたよ?」

幼馴染「あれでどの口がイチャイチャしてないと語るんでしょうねぇ」

女「ほんと、いつまでも新婚気分で羨ましいわー」

女友「そこ! うっさい!」

幼馴染「いや、でもだよ女友。ちょっとは男くんと許嫁ちゃんを見習お?」


許嫁「課題のプリント、見つかりました?」

男「ああ。思いっきり机の上に置かれてた」

許嫁「うっかりさんですね。今度から、私も一緒に荷物の準備をしましょうか?」

男「子供じゃないんだから勘弁してくれよ」


女「どう? このにじみでる仲の良さは。これくらいならほほえましいでしょ?」

女友「そう言われると……わたしと男友って、落ち着きないわよね」


男友「ん? 何の話だ?」

女友「わたしと男友がべたべたしすぎじゃないかって話」

男友「あー、確かにな」

男友「最初は照れる女友が見たくて褒めちぎってたけど、途中からイチャイチャが主目的になってたし」

女友「どうしてそういう余計なことをするのよ?」

男友「そういうコミュニケーションも悪くないと思ったしなあ」

女友「そりゃそうだけど……」

女「いい機会だし、どうせならべたべたするの控えてみたら?」

幼馴染「このままじゃ二人とも珍獣扱いだしねー」

女友「そう言う幼がまず、わたしらを珍獣扱いするのやめなさいよ」

幼馴染「えー? わたし、実はこっそり二人のことをオオラブクイって名づけてたのに」

男友「なんでよりにもよってアリクイを選んだんだよ……」


女友「ったく、これ以上好き勝手言われるのもしゃくよね」

女友「要はこれから、男友と必要以上のスキンシップをしなきゃいいんでしょ?」

女「ずいぶんあっさり言うけど、そんなことできる?」

女友「できるわよ。当たり前でしょ」

男友「話の流れがよくわからねえけど、オレはあまり女友に話しかけなきゃいいんだな?」

女友「そうみたい。学校の中だけだし、我慢してくれる?」

男友「あいよ。ちょっと我慢する」


    ◇一時間目 休み時間

女友「男友ー? ちょっと教えてほしいところが」

女「……」ニコニコ

幼馴染「……」ニコニコ

女友「がー、あるけど自分で解くからいいわ」

    ◇二時間目 休み時間

女友「男友ー」

幼馴染「やっぱりもたなかったねー」

女「まあ健闘したほうじゃない?」

男友「ん?」

女友「なんでもないわよ。読んでみただけ」


    ◇三時間目 休み時間

女友「もうやってらんない!」

男友「急に叫んでどうした?」

女友「どうもしないっ! それより、ちょっと外に出ましょ」

男友「なんか用事あるのか?」

女友「二人きりになりたいのよっ。それくらい察して!」

男友「できるだけな」


幼「女友には難しい試験だったねー」

女「けどさ、ちょっといじめすぎちゃったかも。反省しなきゃ」

幼「うーん、そうかもね。それじゃ、この後は二人を優しく見守ってあげよ?」


許嫁「二人のことを教訓にするなら、我慢はよくない……でしょうか?」

男「かもなあ。なんでもかんでも我慢すりゃいいわけじゃない」

許嫁「でも男さん? だからって授業中に寝るのは感心しませんよ?」

男「……なんとかごまかせたと思ったんだけどな」

許嫁「隣の席ですし。それに、男さんのことはいつも見てますからね」

今日はここまで。


    ◇某日

男友「女友に叱られた」

男「なんでまた?」

男友「こいつって言うなとさ。何気なく言ったんだけど、すげー不機嫌になるのな」

男「よくわからん感性だな……そんなもんなのか?」

男友「あんたとかもダメらしいぞ。そんなわけわからんところに逆鱗生やすなって言いたくなる」

男「バカップルのお前らでさえそれとか、不安になるからやめてくれよ」

男友「お前はないの? 許嫁ちゃんとそういう痴話喧嘩」

男「あー……ほら、女子ってシャンプーとリンス以外にもなんかいろいろ使うだろ?」

男友「え、そんなに? ってビビるくらいの量を持ってたりするよな」

男「そうそう。で、これ全部必要なのかって聞いたら、唇をとがらせてきたよ」

男「なんだっけか、「男さんが大好きな私の長い黒髪は、これだけの努力をして維持してるんです」って説教された」

男友「何も言えねえ」

男「俺はそれ以来、風呂場に許嫁専用のスペースがどれだけ拡大しても、何も言わないようにしてる」


男友「……いやちょっと待てよ。聞きようによっちゃただのノロケじゃねえか」

男友「お前許嫁ちゃんを風呂に入れた後で何してんだよっ。ああ?」

男「うちに泊まってく日に風呂入れるなっつう方が無理だろっ?」

男「ってかだいたい、うちのババアがいつでもいるのに俺が何をするっつうんだよ!」

男友「そういやそうだったわ。悪い」

男「まあ気にすんな。同年代の異性が泊りに来るって、普通ないしな」

男友「大学のため一人暮らしー、とかじゃないと無理だよな」

男「俺の場合、許嫁と同じ部屋に住むこと前提になってる」

男友「よし、やっぱくたばれ」

男「死んでたまるか」

男「そもそも、年中イチャイチャしてるお前と女友にだけは言われたくないぞ?」


男友「あれはちょっとてんぱってるだけで、普段はああじゃないし」

男「もうちょっとマシな嘘にしようぜ」

男友「事実だっつうの。二人の時なんて三〇分一時間喋らないとかよくあるし」

男「それ本当かよ?」

男友「この前の休みは女友をオレの部屋に呼んだけど、あいつがオレのゲームを進めてる間、俺はずっと漫画読んでたし」

男「それ、何のために部屋に呼んだんだよ」

男友「せっかく休みなんだし、一緒にいたいと思うだろ?」

男「なら一緒にいなきゃできないことすりゃいいだろ」

男友「あー、ずっとお互いに寄りかかってたし、それでいいんじゃないか?」

男友「そういう男は、小さい頃からの顔見知りなのに、家にいる時でもずっと会話してるか?」

男「許嫁は会話好きだし、というか世話好きだしで、何かしら俺に話しかけてくるよ」

男「何かしてもらいたいことはありますかーとか、お掃除しましょうかーとか」

男友「で、意地悪な顔で男はズボンを下ろすと」

男「死ね」

男友「冗談だって」

男「いや、わりとかなりイラッとした」


男友「にしても遅いな。女友たち、何してるんだ?」

男「女四人集まって、わいわいと買い物してんだろ? もっと遅くなってもおかしくないな」

男友「どうせ買うわけでもないのにな。付き合わされるこっちの身にもなってくれよ」

男「そう言うなって。立派に荷物持ち兼彼氏いますバリアーになってやろう」

男友「こんな賑わってる場所でナンパするやついるのか? 一人で来てる女子はほとんどいないだろうに」

男「念のためだし、活躍の場がないことを祈るか。荷物持ちの方もな」

男友「それ、荷物がすごい増えて大変な目に合う前振りじゃないか?」


男友「変なフラグ立てんなよな……っと、ようやく戻ってきた」

女友「待ったー?」

男友「当たり前だろ。女友が戻るのをずっと待ってたよ」

女友「ごめんね? あとでなんかご褒美あげるから」

男友「よっしゃ、じゃあハグな!」

女友「ば、バカっ、声が大きいっ。……それに抱きしめるくらい、何もない時だってするでしょ?」

男友「それじゃ、オレが今したいって言ったらどうすんだ?」

女友「困る。どうしてもってんじゃなきゃ、家まで我慢しなさいよって言うわね、絶対」

男友「ならどうしてもだったらいいんだろ?」

女友「どんな理由があるわけ?」

男友「女友が戻るまで、ずっと一人で寂しかったからな」


男「ナチュラルに俺をいなかったことにしやがった」


許嫁「ごめんなさい男さん。遅くなりました」

男「気にするなよ。待ってる間、男友がずっとのろけ話をしてたから、口の中が甘くなってるけどな」

許嫁「それは……ご愁傷様です」

女「そんな男には荷物を持たせてあげましょう」

幼馴染「男くんファイト」

以上です。次回はイチャイチャを書きたいです。

あんまりいちゃラブが続くと不安になるな
たまには嫉妬してる所とか喧嘩してるとか見たい


        ◇学校

幼馴染「恋は戦争だよね?」

女「唐突になにを言い出すのよ、この幼ってば」

幼馴染「ずばりっ。わたしは好きな人を作ろうと思うのです」

女「あー、もうすでに嫌な予感しかしないわー」

女「で? 誰を好きになろうとしてるわけ?」

幼馴染「女友ちゃん」

女「は?」

幼馴染「女友ちゃん」

女「聞こえなかったの「は?」じゃなくて、意味がわからないの「は?」だから」

幼馴染「理解は求めてないもん。宣誓したかっただけ」

幼馴染「というわけで、わたしはこれから男友くんと戦争するよ?」


        ◇屋上

男友「午後の授業、なんだっけか」

女友「物理でしょ」

男友「めんど」

女友「がんばんなさいよ」

男友「うっす」



女「いつもと雰囲気が違うわね。喧嘩してるとか?」

幼馴染「わたしの調査結果によると、普段はこんな感じで落ち着いてるらしいよ?」

女「意味わかんない。教室でイチャイチャしないで、二人の時にイチャイチャしなさいよ」

幼馴染「わたしに言われてもなー」


女友「ねえ」

男友「ん?」

女友「手が寂しい」

男友「そら」

女友「ん……」ギュ、、、

男友「お気に召すか?」

女友「わりと」

男友「そっか」



女「わたし帰ってもいい?」

幼馴染「女は暇を持て余してるでしょ? 一緒に戦争しようよ」

女「花の高校生になんつー失礼なこと言うのよ」

幼馴染「でもほら、高校生だからって綺麗な花が咲いてるとは限らないよ?」


女「まあいいけど。それじゃ、あんたはどうやってあの二人に割って入るわけ?」

幼馴染「うーん。ここはやっぱり当たって砕けようかな」

女「失恋確定じゃん」

幼馴染「女はわかってないなー」

女「何がよ」

幼馴染「女心」

女「悪いけど、幼よりずっと理解している自信があるわよ」

幼馴染「それはそれとして、わたし行ってくるねっ」

女「生きて帰りなさいよー」



女友「次は背中が寂しい」

男友「後ろから抱きしめればいいか?」

女友「ん、いい感じ」

男友「そかそか」

女友「……あとさ、唇も寂しいんだけど」

男友「んー」

女友「ダメ?」

男友「誰かに見られたらちょっとな」



幼馴染「そこで踏み出さないから男友くんはダメなんだよ!」

男友「うおぅ!?」

女友「なんで幼がここにいるわけ!?」


幼馴染「わたしなら女友を寂しがらせないよっ。いつだってキスするし、ぎゅってするし、寝顔に落書きしてあげる!」

女友「どうして幼にキスされなきゃなんないのよ!」

男友「そうだそうだ! 女友とキスするのはオレだけだぞ!!」

女友「あんたは余計なこと言うな!」

幼馴染「わたしが現れたのに仲良しアピールするなんて……さすがだねっ」


女「わたし、もう帰ろっかなあ」


幼馴染「でもわたしはまだ、男友くんを認めないからね?」

男友「なんでだよ?」

幼馴染「わたしは女友が好きだからねー。男友くんと戦争する用意があるよ!」

女友「のんびりしてるのを邪魔してまで、幼はそんなアホなこと言いに来たの?」

幼馴染「そうだよ?」

男友「幼馴染ちゃんといい女ちゃんといい、女友の周りって変な子が多いのな」


女「わたし、男友のこと、後でひっぱたいていいよね?」


幼馴染「さあ男友くん! わたしのこの大きな愛情に立ち向かえるかなー?」

女友「ノリについていけない」

男友「まあちょっとお遊びに付き合ってやるかな」

男友「――――バカなこと言うなよ。立ち向かう必要がどこにあるんだ?」

幼馴染「ほうほう。その心は?」

男友「愛情は大きさを競うものじゃないだろ。そこで争えば、好きな相手のことを景品扱いするだけだ」

男友「オレは女友を景品になんてしない。誰よりも何よりも大切な、彼女なんだからな」

女友「男友……」キュン

幼馴染「おー。男友くんも真面目なことが言えるんだねー?」

男友「まあな!」

幼馴染「しょうがない、ここはわたしの負けを認めるよっ」

幼馴染「でも忘れないでね? 大好きな女友が心細く思った時、わたしはいつだって現れるんだからね!」

男友「いつでも来い。オレは女友と手を繋ぎながら話を聞くさ」

女友「ば、ばか」



女「ふんふふーん♪」メルメル

女『許嫁ちゃん、コイバナしよ?』

許嫁『ヤです』


幼馴染「ただいまー」

女「やっと終わったんだ。どうだった?」

幼馴染「男友くんなら女友を幸せにできるかもだから、潔く身を引いたよ?」

女「わりとまともな結論ね、動機はとても奇怪なのに」

幼馴染「終わりよければすべてよしとか、立つ鳥跡を濁さずとか言うからね」

女「最初の時点で泥をひっかけてた気がするんだけど?」

幼馴染「気のせいじゃないかな?」

幼馴染「それより次の戦争を始めよ?」

女「まだやんの? 今度は誰よ」

幼馴染「女教師かなあ」

女「わたし、やっぱ帰っていいよね?」

幼馴染「最後は許嫁ちゃんだけど、女はもう帰る?」

女「冗談に決まってるでしょ。さっさと終わらせて許嫁のとこ行くわよ!」

幼馴染「うんうん、やる気があるのが一番だよ」

        ◇

女教師「寒気がするな……」

        ◇

許嫁「悪寒がします」

男「カゼか? 気をつけてくれよな」

今日はここまで。

>>110
だらだらゆるゆると続けるため、ご期待には沿えません。


        ◇放課後

許嫁「むー」

男「どした?」

許嫁「いえ、先程の幼馴染さんと女さんは何をしたかったのかと思いまして」

男「あーあれな。許嫁にプロポーズしだして、目が点になった」

許嫁「最近の若者ってああいう遊びが流行っているのでしょうか」

男「だとしたらついてけないな。ハイセンスすぎて」

許嫁「あの二人が特殊なだけだと思いたいですね」


許嫁「ただ、お遊びだとしても私はちょっと怒ってます」

男「なんでだ?」

許嫁「初めてのプロポーズは男さんからが良かったですし」

男「さっきのあれは数えなくていいだろ」

許嫁「そうなんですけどね。でも胸に残ったもやもやは消えてくれません」

男「何とかしてやりたくはあるがなあ」

許嫁「でしたら、ぜひ何とかしてもらいたいですね」

男「……ん?」

男「なあ許嫁。実は遠回しにプロポーズを要求してないか?」

許嫁「遠回しでしたか? わかりやすかったと思いますけど」

男「さすがに学生の美空じゃ、ちょっとな」

許嫁「予行演習でも構いませんよ?」

男「でもこれ、許嫁は楽しいかもだけど俺はすごいこっぱずかしいんだからな?」

許嫁「男さんでしたらその恥ずかしさも乗り越えてくれると信じています」


男「その、まあなんだ。プロポーズとかそういうのは後の楽しみにとっておいてくれよ」

許嫁「それもいいんですけど、形式ではあっても憧れはあるんですよね」

許嫁「私と男さんって、結婚が前提の関係なせいで告白とかしてないじゃありませんか」

男「それは確かにな。今さら感があったし」

許嫁「女友さんから告白された時のお話を聞いて、やっぱり羨ましかったですからね」

男「ちなみに男友のやつはどんな告白したんだ?」

許嫁「私の口からはちょっと。女友達同士での内緒話なので」

男「それもそうか。後で男友から聞き出してやろう」

許嫁「教えてもらえるんですか?」

男「たぶん無理だな。逆の立場だったら、俺は絶対に教えないし」

許嫁「男同士の友情って難しいですね……」

男「単純でわかりやすいと思うけどな」


男「話を聞けるかは別として、告白はいつかしよう」

許嫁「本当ですか? 楽しみにしますからね?」

男「ただ、許嫁も俺に告白してくれよな」

許嫁「交換条件を出さないでほしいです」

男「だって俺だけかしこまった告白するとか、なんかもにょるし」

許嫁「もにょる、ですか」

男「まあいいじゃんか。男の側から告白してほしいのと同じように、男の側だって好きな女に告白されたいもんだぞ」

許嫁「そこまで言うのでしたら、私も考えますよ」

男「よしっ」

許嫁「女子から告白されるのってそんなに嬉しいものですか?」

男「告白されたことないからわからんが、わくわくはする」

許嫁「でしたら、ご期待にそえるよう頑張りますね」


許嫁「場所はどこでもいいんですか?」

男「そこはこだわりないな。許嫁はあるか?」

許嫁「人前とかじゃなければいいですよ」

許嫁「海外だとよくあるじゃありませんか。人前での告白。ああいうのはちょっと嫌ですね」

許嫁「恋愛を見せびらかしているような気がして」

男「俺はそこまで否定的じゃないけど、気持ちはなんとなくわかる」

男「二人きりの時の方が、なんというか純粋でいられる気がするし」

許嫁「そうですね。自分と相手だけで世界が完結する、それがいいのかもしれません」

許嫁「周囲に他の人がいると、その場の空気に流されているのかもって思っちゃいます」

男「ん、覚えとく」


    ◆翌日

男「というわけで女、どんな告白をしたらいいと思う?」

女「なんでそれをわたしに聞くのよ」

男「いや、こうかなーっつうのは頭の中にあんだけどさ。参考にしようかなって」

女「わたしの役所としてはよ? こういう時にアドバイスをするんじゃなくて、告白現場をこっそり撮影してる感じなわけ」

女「だから告白する時だけ教えてくれればいいのよ」

男「よし、女に相談した俺がバカだったな」


女「参考にするなら、わたしじゃなくて幼馴染とかいいんじゃない?」

女「あの子ならノリノリで教えてくれそうだし」

男「いや、俺は別の問題が発生すると思うぞ」

女「例えば?」

男「では実演してみよう」

幼「はいはーい。幼ちゃんですよー」

女「えっと、え? なんで幼がいるの?」

幼「細かい話は気にしちゃだめだよ?」

男「俺も聞いていいか? なんで幼がいるんだよ」

幼「男くんが呼んだからだよ?」

男「……いや、呼んでねえよ!」


幼馴染「それは置いといて、わたしに話があるんじゃないの?」

男「そうだったな。……幼、許嫁にどう告白したらいいと思う?」

幼馴染「うーん、そうだなあ……」

幼馴染「zzz…」ポクポクポク

幼馴染「z…はっ」チーン

幼馴染「閃いたっ、わたしも一緒に告白するね!」

男「ほら見ろ女、根本的に発想がおかしい」

女「いや、わたしはこうなるだろうってわかってたし」

男「……じゃあなんで幼馴染に相談しろってけしかけたんだよ?」

女「撮影する時、その方が面白いじゃない?」

男「言っておくが、俺の告白を邪魔したりしたら、許嫁はしばらく口をきいてくれないからな?」

女「許嫁ちゃん、男のこと好きすぎなのよねー。困ったことに」


男友「あれ? お前らまだ残ってたのか?」

女「そ。部活、もう終わり?」

男友「ああ。これから急いで帰って女友に電話かけなきゃ」

幼馴染「うわぁ」

女「うわぁ……」

男友「なんだよ! 悪いかよ!?」

男「お前はなんなの? イチャイチャを公表しなきゃ息ができない人種なの?」

男友「どんな人種だよ?」

男「アイアイとか」

男友「人じゃねえよそいつは!」


男「あ、そうだ。男友、ちょっと相談いいか?」

男友「なんかあったか?」

男「許嫁に告白しようと思うんだけどさあ、なんて言えばいいと思う?」

男友「アイアイはてめえじゃねえか!」


男「まあそう言うなよ。こんなこと言い出したのにも、話すと長い事情があるんだ」

男友「なんだそりゃ?」

幼馴染「そうそう。聞くも涙、語るも涙の大長編だよっ」

女「思わず投げっぱなしジャーマンをしたくなるわよね」

男友「……お前ら、本当に聞いたのか?」



男「具体的に言うと、女と幼馴染が昨日、プロポーズごっこをして遊んでた余波で、俺が許嫁に告白することになった」

女「え? あんなのが原因だったの?」

幼馴染「あのお遊びがそんなことになるなんて!」

男友「事情、しょぼすぎるだろ」


男友「んー、なんかオレ一人だと大変そうだし、女友も呼んでいいか?」

女「いいんじゃない?」

幼馴染「どうぞー」

男「相談者は俺なんだから、お前ら勝手に許可すんなよ」

男友「……あ、女友か? おう、今終わったとこ。それでさ、今教室にいるんだけど、学校に来れるか? その、ちょっとな」

女「もう家に帰ってるんじゃ、わざわざ学校に来ないわよね?」

幼馴染「たぶんねー。あ、男くん、それダウト」

男「げ、なんでばれた」

幼馴染「わたしならここは嘘だなあと思って」

男友「……ちょっと電話してる間に、なんでトランプで遊んでんだ?」

男「お前もやる?」

男友「やる」


    ◆二〇分後

女友「あのさ、その、男友……? 急に放課後の教室に呼ばれても、さ。困っちゃうよ、もう……」

男「9」

男友「10」

女「11」

幼男「ダウトっ!」

女「あんたら強すぎっ」

女友「…………」

男友「よー女友。早かったな」

女友「うん。……ねえ男友。二人きりになって、何がしたかったの?」チラッ

幼馴染「ん?」

女「いや、わたしらいるじゃん。ねえ?」

女友「誰もいないね……何かさ、期待してもいいのかな……?」チラッチラッ

男「出てけと無言でおっしゃられてる」

女「よしんば出てったとして、そのあと二人で何する気よ」

幼馴染「大人の因数分解とか、大人のン行五段活用とか、大人の加水分解じゃないかなー?」


女友「で、つまり許嫁に告白する言葉について意見を募っている、というわけね?」

男「そうです」

女「う、足しびれた」

女友「そこっ。正座くずさない!」

女「はーい……」

女友「信じられない。そんなことで人を呼び出す? 人が仕方なく来たって言うのにさあ」

男「仕方なく?」

幼馴染「すっごくノリノリだったよねえ?」

女「ほっといたら何をしてたかわかんないわよ」

女友「!!」ギロッ

男「……」

女「……」

幼馴染「……」

男友「お前ら、余計なこと言うなよな」

男「女友の椅子になってるお前にだけは言われたくない」


女友「ったく」

女友「男、あたしが一つだけアドバイスをしてあげる」

男「ははぁー。ありがたき幸せ」

女友「そういうのはいいから」

女友「……ちゃんとさ、あんただけの言葉で告白してやりなよ。その方が嬉しいに決まってるじゃん」

男「そうだな。……女友っていいやつだな」

女友「うっさい」



幼馴染「ほら、こんな感じの体勢でさ、『オレのものになれよ』ってイケボで言われたら萌えるよね」

女「壁ドン? 壁ドンしちゃう? ねえねえ?」

女友「あんたらはまだまだずっと正座!」

男友「オレも正座で許してくれないかな」

女「ん、ヤダ」


許嫁「久々に一人ぼっちです」

許嫁「……」

許嫁「にゃあ、にゃっ。男さんにイタズラしちゃうんだにゃあ♥」

許嫁「……ないですね、ええ」


♪『あなたの一日が終わる時に そばにいるね』

許嫁(電話……男さんからですね)

許嫁「もしもし?」

男『悪い、遅くなった。もうすぐ帰るな?』

許嫁「急がなくても大丈夫ですよ。男母さんは今もゲームをしてますしね」

男『いつもどおりすぎる』

男『……ところでさ、ちょっと外に出ていてくれないか?』

許嫁「外ですか? わかりました」

男『よろしく。それじゃ、また後でな』

許嫁「外? 何かあるんでしょうか」


外に出ると、すっかり暗くなった空が私を待っていた。

いつの間にか日が短くなり、秋が近づいている。

このまま寒くなれば冬になり、体を縮こませている間に、暖かな春がやってくるのだろう。

息を吐いてみる。まだ白くはならない。

それほど肌寒くもないから、制服にエプロンという姿のまま、男さんを待ってみることにした。

『何も 言わないで』

まだ耳に残っていたメロディの続きを口ずさむ。

けれど、その先は歌わない。男さんに聞かれたら恥ずかしいからだ。

途中で止めたままの歌詞を頭に残したまま、門扉を開けて外に出てみる。

そこには塀に寄りかかった男さんがいた。

何を見ているのだろう。そう思いながら、私も隣に並んで、空を見上げてみる。

そこには何もなかった。

不思議に思っていると、男さんの伸ばしてきた手が小指に触れる。ついはにかんでから、指を開いて男さんの手を握った。

私たちはまだ喋らない。普段なら、私が何かしら話しかけているところだけど、今日はなぜか口が開けなかった。

沈黙が、どうしてか心にくすぐったい。

私と男さんは、そのくすぐったさから逃げるように、何もない空を一緒に見上げていた。

『あなたの一日が終わる時に そばにいるね』

急に音がして、びっくりしてしまう。なんということはない、電話がかかってきただけだ。

父親からだとわかって、電話を切る。後でかけなおせばいい。

沈黙が崩れたせいか、男さんが話しかけてくる。

「もう真っ暗だな」

「ええ」

「このまま星が見えるまで待つのも、いいんじゃないかって思えてくるよ」

「カゼをひくかもしれませんから、もう一枚上に着てくださいね」

「その時は許嫁も気をつけてくれよな」

「わかりました。一つの毛布を二人でかぶりましょうか」

「……許嫁と二人でなら、何もない空にだって星を見つけられると思うんだ」

「詩人ですね」

「そうでもない。単純にさ、同じような日常が続いたとしても、二人で新しい楽しみを見つけたいなってだけなんだ」

それはきっと、とても素敵なことだった。

「許嫁」

「はい」

「俺は許嫁が好きだ。そんな風に、これからも俺と過ごしていかないか?」

返事をしようとして、また電話がかかってくる。今度は電源を切った。

電話のせいでうやむやになってしまいそうな空気が出来上がる。

でも私はこの機会をどうしても逃したくなかった。

男さんの首に手を回す。『何も言わないで』と歌詞の続きを口にしていく。

だから、『優しいキスをして』。



私からも好きだと伝えるのは、この幸せな時間が終わってからにしよう。

修正
>>137
女「ん、ヤダ」→女友「ん、ヤダ」


    ◇夜

男母「そういえば、今日ってお父さんが帰ってくるのよねえ」

男「え、親父帰ってくるの? 言うの遅いだろ」

許嫁「男父さん、ずっと単身赴任でしたからね」

許嫁「でもどうしましょう。久々に帰ってくるのに、きちんとした食事が用意できません」

男「んー、そうだなあ。親父はサバみその缶詰とか好きだったし、それを出しておくか」

男母「一つ大皿を出しておいてちょうだい。今から男にお惣菜を買いに行かせるから」

許嫁「わかりました。……確かパンは好きじゃありませんでしたよね。冷凍ご飯しかないですが、帰ってきたら温めましょう」



男父「ただいまー」

サバ缶
空の大皿
冷凍ご飯

男父「……世のお父さんって悲しい生き物なんだな」



……

男父「いやー、最初に見た時は一家離散も辞さないつもりだったよ」

許嫁「すみません男父さん。ちょうど三人で買い物に出てしまって」

男「まあほら、ドッキリだと思ってさ」

男母「今はちゃんとにぎやかな食卓になったでしょ?」

男父「男や許嫁さんはともかく、母さんがそれを言うな」

男父「すまないね許嫁さん。家事ばっかり手伝わされているだろう?」

許嫁「いえ、大丈夫ですよ。花嫁修業と思えば家事も楽しいですし」

男「花嫁……///」

許嫁「て、照れないでくださいっ。さらっと言ったのに、私まで恥ずかしくなっちゃいます!///」

男父「こっちに来てしばらく経つのに、どうしてそこで顔を赤くするんだ?」


男父「まあそれはいいか。今の問題は母さんだ」

男母「わたし?」

男父「……まずはゲームのリモコンから手を離しなさい」

男母「これはコントローラーって言うのよ? あなたってば遅れてるのねー」

男父「今はそういう話をしているんじゃない!」

許嫁「男父さん、どうしたんでしょう」ヒソヒソ

男「いくら大きくなったとはいえ、子供の前でケンカはやめてほしいもんだな」ヒソヒソ

男父「む……おほん、おほん」

男母「……はい、ゲームは中断。それよりあなた、何をカリカリしてるのよ?」

男父「怒りたくもなるだろう。ずっとゲームゲームで、家事は許嫁さんに任せっきりじゃないだろうな?」

男母「あー……あははー?」

男父「笑っても誤魔化されないからな」

男父「というわけで、ちょっと母さんが真人間になるまで単身赴任に同行させようと思ってる」


男母「え?」

男父「男、留守は任せるぞ」

男「いや、どういうことだよ?」

男父「母さんがゲームにうつつを抜かさないよう、徹底的に主婦として再教育をしてくる」

男父「いくら婚約しているとはいえ、許嫁さんに頼りっきりでは申し訳が立たないだろう」

男父「だから帰るまでは一人で家を守ってくれ。そういうことだ」

男「ええと、親父殿。一つ聞いてもいいか?」

男父「なんだ?」

男「許嫁の負担を軽くするためにも、母さんを真人間にするんだよな?」

男父「そうだ」

男「母さんがいない間、俺の食事や掃除や洗濯なんかは、このままだと許嫁が全部一人でやることに……」

許嫁「!!」

男父「あー……」

男父「お前もいい年した大人なんだ、自活しろ」

男「とばっちりだ」


許嫁「いいですね、通い妻! 私は全面的に賛成しますよっ」

男母「許嫁ちゃん……味方してくれないの?」

許嫁「しません! 断固としてしません!」

許嫁「男さんのことは任せてください、男父さん。家事はちょっとだけ手伝うかもしれませんが、それ以外は男さんの自主性に任せます」

男(絶対に嘘だな)

男父「おお、こんなにも強く賛同してもらえるなんて! ありがとう、妻をみっちり専業主婦として鍛えてくるよ!」

許嫁「徹底的にやりましょう。妥協してはいけません。たとえちょっとしたミスであっても、そのミスがなくなるまで何週間でも何か月でも費やしましょう!」

男母「お、男……あの優しかった許嫁ちゃんが、悪夢のような提案ばかりするのよ……?」

男「自業自得だから、そこらへんは同情できない」

男父「よし、これで心配することは何もないな! 母さん、用意をしなさい」

男母「……せめて3DSは持って行ってもいい?」

男父「うーむ」

許嫁「騙されてはいけませんよ! 3DSでもオンラインゲームはできます!」

男父「なんだって!? 危うく許可するところだった!」

男母「くっ……」

男「許嫁はゲームに詳しくない人間だったよな……? あれ?」


男父「それじゃあ達者でなー、男ー」

男母「うわーん」



男「行ってしまわれた」

許嫁「そうですね」ニコニコ

男「時に許嫁さん、一つ質問があるんだがさ」

許嫁「なんでしょう?」

男「掃除やらをしてくれるのはとてもありがたいぞ。俺も手伝うけど」

許嫁「それがどうしましたか?」

男「これまでと違って、母さんがいないから、完全に俺と二人きりだぞ?」

許嫁「はい。……え?」

男「いや、大丈夫ならいいんだ。俺はちょっと平常心を保つ努力をするけど」

許嫁「…………」

男「許嫁?」

許嫁「だ、だいじょうぶデス」

男「ほんとかよ? なんか口調がボブみたいになってるぞ」

ボブ「最近ボブ、出番ない」


    ◇学校

許嫁「通い妻です!」

幼女「「わーぱちぱちぱちー」」

幼馴染「ついに許嫁ちゃんが許嫁っぽくなった!」

女「もうちょっと寸止めでいてくれてもよかったけどねー」

許嫁「ですが、とても大きな問題が発生したので聞いてください」

女「ん、なに?」

許嫁「男さんと二人きりなんて、恥ずかしくて耐えられません……!」

女「なんでよ、意味わかんないわよ、耐えろ」

幼馴染「まあまあそう言わないで。んー、青春っていいよねぇ」

幼馴染「だいたいさ、二人ってまだキスしてないんでしょ? ならそんなに意識しなくていいんじゃないかな?」

女「そうよね、男ってそんながつがつしてないし。セクハラはしてもいきなり体を求めたりしないでしょうよ」

許嫁「    」ボフン

女「爆発した!? え、なに、リア充だから?」

許嫁「い、いえ、なんでもありません」

幼馴染「うんうん、わかったよ。ところでどっちからキスをねだったの?」

許嫁「ねだってません!」

女「ふーん」

許嫁「ねだって、ませんもん……」

幼馴染「ふーん」

許嫁「う……うぅ……」

幼馴染「かわいい。持ち帰っていい?」

女「ダメに決まってんでしょ。これは男のもん、わたしらは見て楽しむだけ」


男「許嫁と二人きりでも意識しすぎない方法ってあるか?」

男友「婚約者なんだから好きなだけ意識すりゃいいだろ。お前は聖職者かよ」

男「一年中バカップルのお前に相談した俺がバカだったよ!」

男友「やーいバーカ」

男友「というか告白するって話が昨日の今日だよな。どんだけ展開が早いんだよ」

男「俺だって意味がわからん……」

男「いや、俺以上に許嫁のが意味わからないぞ」

男「あいつ、俺の家にでかい旅行カバンを置いてから学校に来てるんだからな?」


女「男の家にお泊りセット置いてきたなら、どうしていまさら怖気づくのよ」

許嫁「あれは母が無理やり持たせてきて……しばらく帰ってくるなと言われました」

幼馴染「許嫁ちゃんのお母さんって、許嫁ちゃんとはわりと真逆な性格なんだねー」

許嫁「よく似ていないって言われます。顔はそっくりなんですけどね」

女「なんかギャルっぽくした感じで想像すればいいの? ……うー、なんか想像したくない」

許嫁「どちらかと言えば中年オヤジみたいですよ、うちの母は」

女「余計に想像したくない!」

幼馴染「許嫁ちゃんは今のままでいてね?」

許嫁「少なくとも母のようにはならないと思いますが……努力します」

幼馴染「うんっ。手を繋ぐだけで気絶しちゃうような女の子でいてね?」

許嫁「それは何かの病気です!?」


男「そういや女友ってさ、お前に好きだって言われるたび顔を真っ赤にしてるよな。慣れないもんかね?」

男友「慣れちゃったら寂しいだろ。オレが」

男「へいへい」

男友「だってお前、想像してみ? 許嫁ちゃんに好きだよって言ったら、ふーんって返された時のこと」

男「……ダメージが胃に来そうだな」

男友「慣れたとしても、知ってるよって笑い返してほしいよな」

男「何も言わずくっついてくるとかでも嬉しいよな」


女友「あんたらさあ、そういう話は他の所でしてくれない? さっきから聞いてらんないんだけど」


女「恋の駆け引きを覚えましょう!」

許幼「「わーぱちぱちぱちー」」

女「『俺の家に泊まっていけよ』、『うん』。こんなやり取りをしていてはいい女にはなれません!」

許嫁「私、今日から押しかける感じで男さんの家に泊まりますけどね」

幼馴染「それはそれとして、この本を見て巧みな技術を勉強しようっ」

許女「「おー」」

女「えーっと、まず最初のパターンね。『俺の家に泊っていけよ』、これのベストな回答は……っと」

幼馴染「んー? 『いいの? 今夜は寝かせてあげないよ?』ってあるね」

許嫁「……え? こんなこと恥ずかしくて言えません!」

女「これ、なんか違う駆け引きよねー?」

幼馴染「他のページも見てみようよ」

幼馴染「なになに、『今度の日曜日空いてる?』の返事だって」

許嫁「男さんの家で花嫁修業です」

女「あーごめん、イラッときた」

幼馴染「わたしも男くんにイラッときた」

許嫁「聞かなかったことにして、答えを見てみましょうか。えーっと……」

女「『あなたで予定がいっぱい』ってさっきからなんなのこれ? 全力で相手の胸に飛び込んでるんだけど」

幼馴染「あ、女ごめんね? 借りてきた本、倦怠期を乗り越えようだった」

許嫁「かけひきの時代は過ぎ去ってますね」


男「なんか男友と話してたら、許嫁と二人きりでもなんとかなる気がしてきた」

男友「マジで? すげーなオレ」

男「いや、すごいのは俺だから。男友は特に役立ってないから」

男友「てめえ覚えてろよ」

男友「あと、許嫁ちゃんに迫られてあわあわしたらメールくれよ」

男友「責任とか認知って書いて返してやるから」

男「お前にだけは相談しない」

男「でもありがとな」

女友「あんたらの友情、わりと意味わかんないわよね」

あと二日から三日で終わらせます。


    ◇帰宅

男「ただいま」

許嫁「お邪魔します」

男「その、さ。家事とか、そんな頑張らなくて大丈夫だからな? 俺が自分で頑張ればいいんだし」

許嫁「いえ、いいんです……やりたいんですよ。男さんの、その、将来のお嫁さんとして」

男「そ、そうか」

許嫁「ええ……」

男(何を話せばいいかわからねえ! 何が二人きりでもなんとかなるだよっ、ならないし!)

許嫁(この場合、どうするのが適切なんでしょう? おかえりなさいってキスとか? でもそれはまださすがに……)

男「ひとまず、着替えてくるか。制服で突っ立っててもしょうがないし」

許嫁「そうですね……あ、一つやりたいことがあるんですけど、いいでしょうか」

男「何かあるのか?」

許嫁「旦那様の背広を預かる妻って光景、よくあるじゃありませんか。あれをやってみたいです」


許嫁「それでは上着をお預かりしますね」

男「えーと、じゃあ頼むな」

許嫁「はい。……ガサゴソと」

男「なぜ上着をまさぐる」

許嫁「お約束としては、これで女の子のお店が出てきたりして、ちょっとした喧嘩になるものです」

男「俺、まだ高校生だからな?」

許嫁「そうですが、雰囲気作りにいいかなと……あれ、何か入ってます」

男「……あ。待て見るな!」

許嫁「そんな、男さんひどいです私というものがありながら! というわけで見ちゃいます」

男「やめ――」

許嫁「ちょっと男さん! どうして私の写真が上着に……え? 私の写真?」

男「見るなよ頼むから……」

許嫁「な、なんで私の写真が入ってるんですかっ!」

男「だから見るなって言ったんだよっ。恥ずかしいから!」

許嫁「ま、まったくもう……」

許嫁「――この写真、顔の角度がいまいちです。私、もうちょっと首を傾げている方が可愛く写ります」

許嫁「あと、私は好きな人との写真が一番可愛いので、今度は男さんと一緒の写真にしてください」

男「俺は別に自分の姿はなくていいんだけど」

許嫁「こっそり写真を隠し持ってた男さんの意見は聞きませんっ」

許嫁「……もう。ありがとうございます」


男「俺だけすごく恥ずかしい思いをさせられた」

許嫁「私は嬉しかったし、いいんじゃないでしょうか」

許嫁「それより、そろそろご飯の用意をしますね。腕によりをかけます」

男「俺の羞恥心よりご飯の方が大事なのか!」

許嫁「えーと、でしたらその話が終わるまでご飯は作りませんけど、大丈夫ですか?」

男「ごめんなさい作ってください」

許嫁「わかりました、待っててくださいね」



男「この隙に、許嫁の生徒手帳に俺の写真を仕込んでやろう」


    ◇お風呂

許嫁「ご飯を食べて、お風呂に入って――この後、いつもなら男母さんと一緒に寝ていますが」

許嫁「今日は男さんと二人きり、なんですよね」

許嫁「どうしましょう、勝負下着をつけておいたほうがいいでしょうか……」

許嫁「うー」ブクブクブク

許嫁「……あっ!!」

許嫁「私としたことが、うっかりしていました」

コンコン

男『どうかしたか? なんか今、悲鳴が聞こえたんだけど』

許嫁「男さん、もう一度お風呂に入る予定はありませんか?」

男『は? いや、ないぞ。温泉でもないのに二度入る理由がないだろ』

許嫁「だって私、さっき、男さんの背中を流すのを忘れていました……」

男『それはあれか、夫の背広みたいなやりたいことシリーズの一つか?』

許嫁「シリーズではありませんけど、そうです」

男『その、なんだ。明日でいいんじゃないか』

許嫁「そうですね、我慢します……」

許嫁「うー」ブクブクブク

男『とりあえず、俺は先に部屋に戻ってるぞ』

許嫁「わかりました」

許嫁「……男さん、意外と普段どおりですよね。私だけ緊張してもしょうがないかもしれません」

許嫁「この調子なら、下着も普段と同じものでいいですよね」


許嫁「お風呂いただきました」

男「おー、湯上り美人だ」

許嫁「もう。男さんってばおだてないでください」

男「茶化してはいるけど、半分本気だけどな」

男「……ところで、隣どうぞ?」

許嫁「……では失礼しますね?」

男「…………」

許嫁「…………」

男「何を話せばいいか、よくわかんなくなった」

許嫁「急に雰囲気を変えて隣に座らせたからじゃないでしょうか」

男「そうでもしないと、意識しすぎて近寄れなかったんだよ」

許嫁「不器用ですね。私は人のこと言えませんけれど」

男「――――不器用だし、かっこつかないとしても、俺はそうやって許嫁をつかまえておきたいんだよ」

許嫁「ならしっかり捕まえていてくださいね。ちゃんと見ていてくれないと、私、どこかに飛んで行っちゃいますよ」

男「じゃあつかまえておこう」ギュッ

許嫁「ふふ、捕まってしまいました」ジタバタ

男「この、暴れるな」

許嫁「きゃー、きゃー!」

許嫁「……落ち着きます」

男「急に落ち着いたな」

許嫁「自分の居場所がどこか、悟ってしまったのです」

男「俺の腕の中が居場所なのか」

許嫁「ダメでしょうか」

男「嬉しい」

許嫁「…………」

男「ん……」

許嫁「――急に唇を奪われてしまいました」

男「なら返すか?」

許嫁「返してください」

許嫁「……」チュ

許嫁「返してもらっちゃいました///」

男「むしろ何か大事なものまで奪われた気がする」


男「時に許嫁さん、頬がゆるゆるだぞ」

許嫁「そんなことないです。私はいつでも凛々しい感じです」

男「ほお?」ギュッ

許嫁「ん……っ」

男「ほら緩んだ」

許嫁「気のせいです」

男「素直になれって」ギューッ

許嫁「その、男さん。腕は私の脇の下を通してもらえないでしょうか。その方が嬉しいです」

男「ばっさり取り繕うのやめるのな」

許嫁「貴重な二人きりですし、素直になれって言ったのは男さんです」

男「よしよし、褒美にもっと抱きしめてやろう」

許嫁「ふふ、んーっ」ギュッ


男「許嫁を抱きしめてただけなのに、もう一時間とか過ぎてる」

許嫁「あっという間でした。明日も学校ですし、そろそろ寝ないとですね」

許嫁「客間のお布団お借りしますね」

男「……そのさ、許嫁。俺のベッドで一緒に寝ないか?」

許嫁「――――!」

許嫁「ごめんなさい、予想してませんでした! ちょっと勝負下着をつけてきますっ」

男「違う違う、そういう意味じゃないって! ……というか許嫁、勝負下着持ってきてるのかよ」

許嫁「ち、違います失言です。忘れてください」

男「忘れたふりはするけど、残念ながら意識しまくると思う」

許嫁「もういいですっ」

許嫁「……どうして急に、一緒に寝ようなんて言い出したんですか?」

男「明確にこうだって理由はないんだけどさ、離れたくないなって気がしたんだよ」

許嫁「漠然としてますね」

男「ダメか?」

許嫁「男さん」

男「ん?」

許嫁「私、とても寝相がいいんですよ」

男「……そっか」


許嫁「二人でベッドに入ると少し狭いですね」

男「ぴったりくっつけばなんとか、ってところか」

男「……俺、今日眠れるかな」

許嫁「それは一晩中お話していようってお誘いですか?」

男「だってなあ。許嫁は意識しないで眠れるか?」

許嫁「私は、たぶん。男の人はやっぱり、いろいろと大変だからでしょうか」

男「……確かに大変なことになってはいるが」

許嫁「その、男さん。私、赤ずきんちゃんになる覚悟はできてます」

男「俺はオオカミかよ」

男「一応言っておくけど、本当に何もしないからな? こんなふうに状況をおぜん立てされるのは、なんか違うと思うし」

許嫁「男父さんはそういうつもりで男母さんを連れて行ったわけじゃないと思いますよ」

男「そりゃまあなー。だからって、子供が思春期だってこと忘れんなって言いたい」

許嫁「――――もう、子供を産める体ですもんね、私」

男「…………」

許嫁「…………」

男「あの、許嫁さん。そういう生々しい話をされると、眠れなくなるのですが」

許嫁「私はその、構わないんですよ。眠れなくても」

男「……いいや寝る! ちゃんと学校に行かなきゃだからなっ!」

許嫁「ふふ、わかりました。それでは大人しく眠りましょうか」

男「おやすみ、許嫁」

許嫁「おやすみなさい、男さん」

許嫁「…………」

許嫁「…………?」

許嫁「あの、おやすみのちゅーはまだでしょうか」

男「許嫁、実は大人しく眠るつもりないだろ?」


    ◇朝

許嫁「むーっ……ふあぁぁ」ノビノビ

許嫁「本当にぐっすり寝てしまいました。やっぱり男さんはヘタレです」

許嫁「そんな男さんも好きですけど」

男「zzz」

許嫁「ん……っ」チュ

許嫁「さて! しっかり朝ごはんの準備をしましょうかっ」

チカチカ

許嫁「……? こんな時間なのにメールが来てますね。誰でしょうか」

幼馴染『大人の階段って上るの大変だった?』

許嫁「朝からなんてメールをしてくるんでしょう」

許嫁「もう一件は……お母様ですね」

許嫁母『お父さんが婚約解消だって騒いでる。ちょっと黙らせておくけど、学校帰りに男くんと二人で寄りなさい』

許嫁「――――お父様が? ……どうしてそんな話になるんですか」

保留


    ◇許嫁家

男「ここに来るのも久しぶりだなあ」

許嫁「感慨に浸らないでください! 私と男さんの幸せな結婚が危ぶまれてるんですよっ」

男「お、おう……というか許嫁、ずいぶん気炎をはくなあ」

許嫁「むしろ男さんはどうしてひょうひょうとしてるんです?」

男「だってなあ、許嫁の親父さんだし。いつ言い出してもおかしくないっつうか」

許嫁「それは、まあ……否定はできませんが」


許嫁父「いやだ! 絶対にいやだからな!!」


許嫁「男さん、やっぱりもう帰りませんか」

男「話を聞くだけ聞いてみようぜ。ここまで来たんだし」

許嫁「はあ……まともな理由ならいいんですけど」

許嫁「いえ、結婚しちゃいけないまともな理由があったら困りますが……」

ピンポーン

男「遅くなりました、男です」

許嫁「苦悩する私に時間をくださいよっ」


許嫁母「いらっしゃい。あら男くん、オスくさくなったわねぇ」

男「男らしくなったと意訳しておきます」

男「それで、今回は何があったんですか?」

許嫁母「そうねえ。最初に聞いておくけど、男くんはウチに婿入りするつもりない?」

男「はい?」

許嫁「あの、お母様。男さんは一人息子ですし、私が嫁ぐのが一般的じゃありませんか?」

男「そういうのにこだわっちゃいないけど、俺も漠然とそう思ってたな」

許嫁母「そりゃそうよね。ウチだって一人娘だけど、出てくもんだと覚悟してたし。……わたしは、だけど」

バンッ

許嫁父「ダメだ! 許嫁を嫁入りさせるわけにはいかん!!」

男「お久しぶりです、許嫁父さん」

許嫁父「むむっ!? 現れたな泥棒猫め!!」

許嫁「男さん、やっぱり帰りましょう……この無礼な人は無視すべきです」

男「泥棒猫とか、男に生まれたからには言われることのない罵倒だと思ってたよ」


許嫁「お父様! 男さんと結婚しちゃいけないとか、どういうことですか!?」

許嫁「事と次第によってはただじゃおきませんよっ!」

男「家庭内の力関係がうかがえる発言です」

許嫁父「じゃ、じゃって許嫁……結婚したら、家を出てくんだろう?」

許嫁「それが何か?」

許嫁父「いやじゃいやじゃ! 許嫁のいない生活になど耐えられん!」

男「その気持ちはよくわかりますが」

許嫁「男さんはすっこんでてください!」

男「あ、はい」

許嫁母「男くんも大変ねえ」

男「普段はこうじゃないんですけどね」

許嫁母「あの子、お父さんと喧嘩する時はいっつもこうなのよ」

男「初めて見る一面ですね」

許嫁「そ、覚えておいてあげて。甘えてるのよ。お父さんも、あの子も、ね」

>>171
修正
許嫁「そ、覚えておいてあげて。甘えてるのよ。お父さんも、あの子も、ね」
→許嫁母「そ、覚えておいてあげて。甘えてるのよ。お父さんも、あの子も、ね」


許嫁母「ところで男くん、許嫁はどう?」

男「とてもお世話になっています。恥ずかしながら」

許嫁母「いいのいいの、あの子が好きでしてるんだもの」

許嫁母「でもあの子、体が硬いでしょ?」

許嫁母「頑張った後の翌日とか、筋肉痛で大変じゃない?」

男「えーと、体育の後ですか? 特にそういう話は聞きませんが」

許嫁母「男くん。お世話、してもらってるんでしょ?」

男「……含ませますねー、相変わらず」

男「それで照れるほど、俺はもう子供じゃありませんからね」

許嫁母「でも昨日は何もしなかったんでしょ? 二人きりだったのに」

男「……さあ、どうでしょうね」

許嫁母「わたしはとりあえず、おばあちゃんになる覚悟はできてるから」

男「おばあちゃん、お小遣いちょうだい?」

許嫁母「殴るわよ?」

男「覚悟できてないじゃないですか」


許嫁「ああもう、埒があきません!」

許嫁「男さん!」

男「どうした?」

許嫁「南に逃げましょうっ、それしかありません!」

許嫁母「男くんごめんねえ、こんな娘で」

男「いえ、わりと普段からこんな感じな気がしますし」

男「で、なんで逃げるんだ?」

許嫁「駆け落ちです!」

男「宣告してからやるとか、肝が太いな」

許嫁「夜逃げでもいいですっ」

男「うん、情けなさが増したな」

許嫁父「ならん、ならんぞ許嫁!」

許嫁父「家族で仲良く暮らすのが一番なんだ!」

許嫁「家族の絆にヒビを入れているのはお父様です!」

男「もういっそ俺が婿入りでもいいよ?」

許嫁父「そら見ろ、男くんもこう言っているじゃないか!」

許嫁「男さんはどっちの味方なんですかっ」

男「そりゃ許嫁だよ」

許嫁父「男きさま、裏切ったな!」

男「俺にどうしろっていうんだ」


許嫁母「あなたも落ち着きなさいよ。何も今生の別れになるんじゃあるまいし」

許嫁父「……じゃあ、どれくらいの別れになるって言うんだ」

許嫁母「そこは許嫁に聞かないと。許嫁、どうなの?」

許嫁「…………月に一度くらいは」

許嫁父「そこは隔日じゃろう!?」

許嫁「でしたら四半期に一度なら文句がありませんね!?」

許嫁父「ならんならん! 夜のおかえりなさいは外せん!」

許嫁「盆と正月で満足してください!」

許嫁父「いいや! 朝のいってらっしゃいだって必要だろう?」

許嫁「織姫と彦星を見習うべきです!」

男「二人とも、妥協するつもりねえな」

許嫁母「まったく、成長しないんだから」

許嫁母「しょうがないわね、いつもみたいにわたしが喧嘩の仲裁を……」

男「おお」

許嫁母「……と思ったけど、やめるわ」

男「どうしてです?」

許嫁母「男くんに任せるわ。別に放っておいても大事にはならないし」

男「やってみろというならやります」

男「でも、どうして任せるつもりになったんですか」

許嫁母「だって、これからもわたし一人しか仲裁できないんじゃ、大変じゃない?」


許嫁「――――お父様はどうしても、私と男さんの結婚を認めてくれないんですね」

許嫁父「家を出ていくんじゃあな」

許嫁「よくわかりました」

許嫁父「おお、わかってくれたか!」

許嫁「ええ、よく思い知りました。これから市役所に行ってきます」

許嫁父「どうして市役所?」

許嫁「親と絶縁する方法を聞きに」

許嫁父「なんじゃとて!?」


男「はいやめやめ」ペシン

許嫁「……頭を叩かないでください」

男「禍根が残るようなことは言うなって」

許嫁「でも……だってお父様が」

許嫁父「言われんでも、根に持ったりはせんよ。そこまで器は小さくないわい」

男「仲が良いのは見ていてわかりますし、そういう心配はしてませんよ」

男「許嫁さんが後で悔やむでしょうから」

許嫁「……」

許嫁「ごめんなさいお父様。言葉が悪かったです」

許嫁父「謝らんでいい。許嫁の気持ちはわかっとるよ」

男「ところでお義父さん」

許嫁父「誰がお義父さんじゃ!」

男「許嫁さんが学校でどう過ごしてるか、興味ありませんか?」

許嫁父「向こうで話を聞こう、息子よ」

許嫁「!?」

許嫁「男さん、変なこと言わないでくださいよっ!」


……
………

男「この前なんて、幼馴染からプロポーズされたりしてましたね」

許嫁父「いやいや、さっきから出てくるその幼馴染って子は女じゃろ?」

男「そういうヤツなんです」

許嫁父「変な子の多い学校だな」

男「まったくです」

許嫁父「……楽しくやれてるか。なら、安心したよ」

男「すみません。もっと早く話しておけばよかったですね」

許嫁父「心配はしとらんよ。許嫁はいつも楽しそうだった」

男「――――父から聞きました。本当は、こちらへの転勤を蹴ることもできたとか」

許嫁父「……ふむ」

許嫁父「子供が気を回す必要はない」

男「子供扱いされるほど子供ではありません」

男「大人になりきれてもいませんけれど」

許嫁父「まったく、偉くなったもんだ」

許嫁父「……許嫁がな、目を輝かせたんだ。夕食中に、ちらっと転勤の話をしたら」

男「頬、緩んでましたか?」

許嫁父「そりゃもう、だるだるだよ」

許嫁父「……高校を卒業するまでは保留にしてもらおうと思ったが、気が変わった」

許嫁父「あんな嬉しそうにされちゃあなあ」


許嫁「二人とも、何を話してるんでしょうね」

許嫁母「あなたのわがままについてとかじゃない?」

許嫁「お母様の若作りについてかもしれませんよ?」

許嫁母「あんた、そんなこと言ってると、わたしが男くんを誘惑するからね」

許嫁「男さんは私にぞっこんなんですー。お母様にひっかかったりしませんー」

許嫁母「言ったわね? 美魔女をなめるんじゃないわよ」

許嫁「自分で言わないでください」

許嫁「……あと、冗談でも誘惑とかしないでくださいよ。本当に」

許嫁母「心配になるくらいなら、ちゃんとつかんでおきなさいな」

許嫁母「満足させてあげなさいよ」

許嫁「――――胃袋はつかんだと思うんですよね」

許嫁母「ならあと一つじゃない」

許嫁「…………はあ。二人の話、まだ終わらないんでしょうか」


男「ところで、今回はどうして結婚反対とか言い出したんです?」

許嫁父「それを言わなきゃいかんかね?」ジロリ

許嫁父「男くんの両親が不在だというのに、許嫁が泊りに言ったと聞いたからだが?」

男「あー……」

男「天地神明に誓って、やましいことはしていません」

許嫁父「当たり前だ。許嫁を傷物にしたら、刑務所覚悟で男くんを八つ裂きにしなきゃならん」

男(俺、昨日ちゃんと我慢してよかったな)

男「ならよかったです。結婚反対されたら、どうしたものかと」

許嫁父「ところでだ、男くん」

許嫁父「婿入りとかどう思うね?」

男「あ、そこは本気だったんですね」


男「……許嫁父さん」

許嫁父「なにかね、かしこまって」

男「僕と許嫁さんの結婚を、認めてください」

許嫁父「君たちはもともと婚約しているだろう?」

男「そうですが、この前、改めて覚悟する機会がありまして」

男「ですから、お願いします」

許嫁父「――――」

許嫁父「一つ、お願いがある」

男「なんでしょうか」

許嫁父「孫の名前をずっと考えているんだが、男くんからの提案として許嫁に話してくれないか?」

男「……わかりました。その時は必ず」


許嫁父「ふん……ん?」

――ノオウボウヲユルスナー

――ケッコンサンセーイ

男「とても聞き覚えのある声がしますね」

  女友「わたしたちはー」

  幼馴染「愛しあう二人の味方でーす」

  女「ぷりーず信らーい」

  男友「ぎぶみーすとろべりー」

男「何やってんだかなあ、あいつら」

許嫁父「友達に恵まれたんだろう」

許嫁父「男くん、彼らを呼んできてくれないか」

男「騒がしくなりますよ」

許嫁父「構わんよ」

許嫁父「学校での許嫁がどんな風なのか、見てみたいからな」




    ◇?

女教師「健やかなる時も、病める時も、」

許嫁「……あれ」

許嫁(あ、そうか、結婚式……)

    ◇式場

許嫁(男さんの、お嫁さん)

男「誓います」

女教師「では、近いのキスを」

男「許嫁」

許嫁「……はい」

女教師「……くっ、二人に先を越されるとはな」ボソ

許嫁(聞こえてません。ええ、聞こえてませんとも)

許嫁「ん……」


    ◇朝

許嫁「……ええ、わかってましたよ、夢だってことくらい」

男「zz」

許嫁「――――ふふ」

許嫁「ねえ男さん。私、これからもっと幸せになれると思うんです」

許嫁「その理由、どうしてだかわかりますか?」


以上で終わります。こっそりと終わらせますが、もしお待ちしている人がいたならすみませんでした。


    ◇おまけ

許嫁「さて、ごはんの準備をしましょうか」

男「ん、手伝おうか?」

許嫁「……起きてたんですか?」

男「わりとな」

許嫁「……聞いてたんですか?」

男「許嫁が幸せなら良かったよ」

許嫁「もうっ。男さんなんて知りません!」

男「許嫁」

許嫁「なんですかっ?」

男「俺はさ、許嫁の幸せな理由の一つになりたいって思うよ」

許嫁「――――でしたら、今までどおりの男さんでいてください」

許嫁「それが私の幸せですから」


おわり

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