二宮飛鳥「キミの異能は、『絶叫の毒槍』(シャットアウトシャウト)」 (19)


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防音設備の整ったレッスンルームの一室、その中央に位置する椅子で飛鳥は彼女を待っていた。
先ほどまで必死に逃走を計っていた者とは思えないほどの、落ち着いた、ともすれば余裕とも取れる表情。
輝子が飛鳥の場所を特定するまでの時間は、10分にも満たない僅かな時間しかなかった。
彼女はその数分で、輝子と対峙しても問題ないほどに、彼女の異能が持つ可能性を解き明かしたことになる。

飛鳥「恐らく、振動を操る異能だろう。増幅させるのではなく、指向性を変える……と言ったところかな」

星輝子の所有する異能、『絶叫の毒槍』(シャットアウトシャウト)。音波の指向性を意のままに操作し、任意の形状を形作る。
前方に向かって尖状にすれば槍として。自身の周囲にサークルを形成すれば盾として。
厚さ一ミリにも満たない閉鎖空間を反復し続ける音波によって絶大な破壊力を誇る、攻守において万能の異能。

飛鳥「しかし弱点は存在する。先ず一つ。この異能を発動するには、キミ自身が叫び続けなければならない点」

発動の媒介となるのは、輝子自身の絶叫だ。故に能力を使用したければ、使用時間と同じだけ声を出し続ける必要がある。
また、破壊力は音量に比例するため、いくら空間を狭く設定しているとは言っても、相応の声量を要求される。
輝子の並外れた肺活量、声量を以てしてやっと、戦闘用の異能として機能しているのだろう。

飛鳥「そして二つ目は、この空間だよ」

輝子「……フヒヒ…何故…? 音が無駄にならない、防音室は…むしろ私に……好都合……」

その台詞を聞いた飛鳥は目を細め、口元だけで小さく笑う。
哀しい話だ、とそう思った。飛鳥と輝子では、この戦争におけるステージが違う。立場が違う。
その相違こそ総意であり、その異常こそ移乗する。

飛鳥「キミは何も知らないようだ。だから教えてあげよう。ボクの異能……『繰り孵す過ち』(ストレンジアナーキー)の……≪弱さ≫…を、ね」

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飛鳥「……と、まあこんな感じだ。どうかな」

P「………いや、どうかなって言われてもな…」

飛鳥「やれやれ、言葉にしなければ理解らないかい? 感想を聞かせてくれと、そういう意味だけど」

P「………とりあえずその前に、説明をしてくれ。これは、なんだ?」

飛鳥「そこからか……心で理解らない人に、言葉で理解らせるのは好きじゃないんだけど、仕方ないな」

P「お、おう……ごめんな、お前のPなのに普通の脳味噌で」

飛鳥「普通も、悪くないさ。ボクの支えになる以上、そのフレーズは大きな意味を持つから」

P「よし、さっさと本題に行こう。これはなんだ」

飛鳥「蘭子とのリレー小説さ」

P「思ってたより恥ずかしい物だった」


P「リレー小説ってお前……しかもその主人公が自分ってお前……」

飛鳥「ああ、勘違いしないでくれ。その物語に主人公は居ない。敢えて言うなら、観測者と観測対象が居るだけさ」

P「自分の言葉で語ってくれ」

飛鳥「……主人公は居ないけど、メインとなる視点はボクと蘭子だよ」

P「ああ……つまりW主人公ってことか……」

飛鳥「役柄で言うなら、ボクが最弱の能力者で、蘭子が最強の能力者かな」

P「うわぁ……見事に性格出てるなぁ……」

飛鳥「まあ、最弱とは言っても、使い方次第だけどね。ボクの『繰り孵す過ち』(ストレンジアナーキー)は」

P「ボクの、とか言うんじゃねえ」

飛鳥「どんな能力か知りたいかい?」

P「いえ全く」


飛鳥「……どんな能力か、知りたいかい?」

P「なんだよ、言いたいならそう言えよ」

飛鳥「…………どんな、能力か、知りたいかい?」

P「あー知りたい知りたい。知りたいなー飛鳥の能力」

飛鳥「そこまで言うなら仕方ないな……本当は、物語を読んで欲しい所だけど、特別だよ?」

P「なにこの茶番。もうはやく言えよ」

飛鳥「『繰り孵す過ち』(ストレンジ・アナーキー)は、自身の異質を解放する異能だ。自身が世界にとって異質であればあるだけ、自身の潜在能力が解放される」

P「あーうん、壮大だなー」

飛鳥「壮大? はっ、何も理解っていないね、キミは。得られる利益は、潜在能力の解放だよ? 人間として定められた上限を超えることは出来ない」

P「何も理解ってない相手にそんな話をして楽しいのか、飛鳥」

飛鳥「つまり、僕がどれだけ全力を出そうと、発揮出来るのは人類として可能な範囲の身体能力まで。異能と言うにはあまりにもお粗末だ」

P「楽しそうだな、飛鳥。俺は何も理解ってないけどな」


飛鳥「世界の定義とは、ボクが認識する空間内だ。今回のケースだと、レッスンルームの一室が世界になる」

P「ねえ、この話蘭子としてきたらいいじゃん? なんで俺に話すの?」

飛鳥「音を司る空間において、その支配権は輝子にあるからね。だからこそボクは、ボクの全力を発揮出来るってことさ」

P「というかこれ、ほとんど独り言じゃね? 壁に向かって話してるのと大差なくね?」

飛鳥「こんな風に、ボクの異能は悪手を打つたび強くなる。如何に地雷を踏み抜くか……それが飛鳥サイドのバトルの魅力さ」

P「飛鳥サイドって……それお前、マジで言ってて恥ずかしくないの?」

飛鳥「この程度で恥ずかしがっていたら、中二病なんてやって無いよ」

P「メンタル強えなぁ……見習いたくはないけどさ……」

飛鳥「……で、一通り説明は終わったけど……感想は?」


P「……あー、じゃあまず順当な疑問から。 なんで登場人物がアイドルなの?」

飛鳥「それは、この物語の発端まで遡ることになるけど……そもそも、僕と蘭子は最初からリレー小説を書いていたわけじゃ無いんだ」

P「そうなのか……と言うかこれ、原稿用紙だけど……リレーってどうやってやってるんだ? まさか紙?」

飛鳥「LINE」

P「その下書きを紙で手書き? お前の中二、本気で堂に入ってるな……」

飛鳥「手書きの方が、設定を見ながら書きやすいんだよ」

P「設定とかあるんだ……まさか、全員分?」

飛鳥「全員ってわけじゃないけど……というか、事の発端はそれなんだ」

P「はあ? どういうこと?」

飛鳥「かなり前に、蘭子とのLINEで事務所の面子に異能を与えるならどんな能力か、という話題になってね」

P「……ああ…それがなんやかんやで反転して、最終的にリレー小説になったと……」

飛鳥「まあ、そういうことさ」


P「じゃあ、あれか。能力がわかり易そうなアイドルの異能は、もう出来上がってるのか」

飛鳥「そうだね。この事務所、もうほとんど異能者みたいなアイドルも多いからね」

P「小梅とか」

飛鳥「『道連れ逃避乞う』(ネクロマンスラヴロマンス)だね。死者蘇生……と言えば聞こえはいいけど、実際は死霊、ゾンビの大量召喚さ」

P「ほたるとか」

飛鳥「『一寸先は已み』(ハードラッククラック)……元来は因果律の操作なんだけど、彼女は能力の方向性を勘違いしていて、災厄を招く方向にしか使用していないんだ」

P「菜々さんとか」

飛鳥「『留まらぬ永延』(アンストッパブル)、か。肉体時間を自在に操作する異能さ。傷を負っても即座に修復可能で、実質的に不老不死だよ」

P「自分から言っておいてなんだが、菜々さんは異能者みたいなアイドルの括りで良いんだ……」

飛鳥「いや……だって、ねえ?」


P「………で、まあ、感想だが……」

飛鳥「うん」

P「お前が小説……ラノベ? を書くのは勝手にやって貰って構わない。蘭子とのリレー小説内でなら、アイドルを異能者にしようが勝手にしろ」

飛鳥「………うん、それで?」

P「面白くないとは言わん。正直俺には良く分からんが、こう言うのが好きだと言う層も居るだろう」

飛鳥「……そうかい。じゃあ……」

P「だが発表はしないぞ。もちろんブログで公開するのも無しだ」

飛鳥「………っ! ふっ……一応、理由を聞こうか……」

P「いや理由って。そんなもんわかるだろ。アイドル同士で殺し合いは駄目だよ」

飛鳥「この戦争で死者は出ない設定だ! 戦争で敗北しても異能に関する記憶の消去に留まるようになっているのさ!」

P「でも実際、殺し合いはしてるじゃん? 戦闘してるじゃん?」


飛鳥「………フッ…まあ、この結果は予想の範囲内だけどね……現実でも、世界はボクをマイノリティにしたがるようだ……」

P「別にアイドルの名前を使わなきゃいいだけの話なのに……」

飛鳥「設定がある作品の流用だからそれは出来ないよ……」

P「設定流用だったのかよ……じゃあ尚更駄目だよ……」

飛鳥「じゃあ次は、世界観設定から練り直すとするよ……蘭子と徹夜で世界を創る」

P「中学生だろ。夜は寝ろ。頼むから」

飛鳥「仕事に支障が出るからね。冗談にしても度が過ぎていたかな。悪かったよ」

P「お前、クールに対応したら全部冗談だったことに出来ると思ってないか?」

飛鳥「思ってないよ。キッパリ」

P「おい、キッパリが鍵括弧の外に出てないぞ。真顔でキッパリと口走るシュールな絵面になってるぞ」

飛鳥「まあ兎に角、期待して待っていると良いさ……ボクと蘭子が創り出す、魂のユニゾンを……」

P「………まあ、待っておいてやるよ。黒歴史にならないといいな」

飛鳥「愚問だね。歴史に色を付けるのは、今を生きるボクたちだ。未来のボクに、今のボクを止めることは出来ないんだから……」

P「……だから苦悩する奴だって、多いんだけどな……」





  おしまい

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