女神「正直なあなたには、金のミカンと銀のミカンをあげましょう」
男「お、おう……」
女神「まあ金銀なのは皮だけで、中身はミカンなんですけど」
男「なんだそりゃ……あ、ホントにミカンだ」
女神「でも金のミカンはとっても甘くて、銀のミカンはすごく薫り高いんです」
男「んむんむ……うん! ほんとに美味しいな」
女神「でしょう!?」
男「うん。ところでさ」
女神「はい」
男「あんただれ?」
女神「だれって、女神です」
男「どこの世界に、コタツから出てくる女神がいるんだ?」
女神「だって、コタツの女神ですから」
男「うん、それは何となくわかってた。わからないのは、どうして俺の部屋のコタツから出てくるかだよ」
女神「それはまあ……気分?」
男「気分って、理由はないのか?」
女神「特にありませんね……くんくん、コタツのお布団、きちんと干してありますね」
男「それがなんか関係あるのか?」
女神「ミカンもあるし、畳の部屋だし、敷き布団はまふまふだし、最高ですよね!」
男「まあ、掃除には気を配ってるからな! ……だからなんなんだ?」
女神「コタツを大切にする人のところに、ランダムで現れるのが私でして」
男「……はあ」
女神「いるんですよー。こたつを設置したら、冬の間は布団も干さず、上掛けの洗濯もしない不届き者が」
男「あー、いるだろうな」
女神「けっこう多いんです。だから私がこうやって通路に使えるコタツも少なくて」
男「……通路?」メクリ
女神「えっ!? きゃああああああ!!!」ズドバキイイイ!
男「ぐふえああああ!?」
女神「ななな、何するんですか!?」
男「がふ……何って、コタツの中を確認しただけだろ!?」
女神「そんな、女性の入っているコタツの中を覗くなんて!」
男「だからって蹴るのかよ? ……いてて」
女神「え、ええと……少し驚いたので。大丈夫ですか?」
男「別に平気だけど。てか、コタツの中はいつもどおりだったぞ?」
女神「当たり前です。通路を開けっ放しにしておけば、物が落ちたりして大変ですから」
男「そういう問題か……掘りゴタツ……いや、なんでもない」
女神「残念ながら、掘りごたつは無理ですね」
男「そうかー……あとさ」
女神「はいはい」
男「ジャージなのな」
女神「まあわたし、コタツを司る女神ですから? コタツではコレが正装ですし」
男「なんつーか、女神って言うからもっとこう……ギリシアっぽいのを想像してたんだけど」
女神「白い巻きドレスの?」
男「そうそう」
女神「ああ、そういう方は外国の女神さんたちですね。わたしは生まれも育ちも日本です」
男「そうなのか。んー……でもさ、コタツの外できちんとした服を着なくちゃいけないこともあるよね?」
女神「ええ、新年のご挨拶めぐりなどですね」
男「そんなときは、どんな服着るんだよ。やっぱり神様っぽいカッコするの?」
女神「んー……おニューのジャージですね」
男「それだけ!?」
女神「あ、でも、紅白のラインが入ってて、背中に『謹賀新年』って刺繍があるのも持ってます」
男「それ、お笑い芸人の扱いだよな」
女神「そうですかねえ……」
男「というか、新年の挨拶めぐりとか、結婚式やお葬式もあるんだろ?」
女神「ええ」
男「そこにジャージで行くの!?」
女神「はい、コレがわたしの正装ですから。結婚式は純白で背中に『祝』って赤い刺繍のはいったジャージを。お葬式はぬばたまので、背中には……」
男「『哀』とか?」
女神「いえ『喪』です」
男「……えーと」
女神「コレがホントの喪女!」
男「自分で言うな!」
女神「まあ、冬ともなればモテモテなんですが……」
男「冬ともねえ……ん?」
女神「どうかしました?」
男「外歩くときもジャージって、寒くないのか?」
女神「いえ、寒くありませんよ?」
男「ああ、やっぱり神様ともなれば肉体的な寒さなんて関係なくなって……」
女神「コタツごと移動しますから」
男「斬新な解決方法だ! え、どうやって!?」
女神「海外の例ですが……アラビアの魔法の絨毯ってありますよね。あの要領で敷き布団ごと飛びます」
男「想像できるけど、すごい光景だ」
女神「けっこうスピードも出ますし、どこへだってぴゅーんと」
男「空飛ぶコタツで……というか、それで新年の挨拶めぐりとか、結婚式や葬式に行くんですか!?」
女神「はい」
男「うーん、まあ、神様だからゆるされてる……のかなあ?」
女神「それはそうですよ。笑う門にくる笑いじょうごの福の神様なんて、お葬式でも大爆笑ですけど、それはそれで悲しみに沈むみんなを励ましてたりしますから」
男「結婚式に離縁の神とかも来るのか?」
女神「来ますねえ。お祝いのスピーチを一通りして、最後に『本日は誠におめでとうございます。まあ、なにかありましたら私にご相談ください』で、しめます」
男「……うわあ」
女神「もう、それで、会場はドッカンドッカン!」
男「ウけるのかい!」
女神「うけますねえ。このあいだの花嫁さんなんて、『それじゃあ、再来年あたりにおねがいしまーす』とか言って、また会場は大爆笑」
男「すげえ花嫁だ」
女神「まあ、もともと名前の似てる新郎新婦でして、今もまだまだ仲良いんですけどねー」
男「へえ……なんて名前なの?」
女神「新郎さんがイザナギさんで、新婦さんがイザナミちゃんです」
男「うおぅ!? ビッグネームッ!?」
女神「ああ、たしかに良い家柄の子たちですよね。兄妹なのに結婚しちゃって」
男「大問題じゃないか」
女神「だから新郎新婦のご両親がひと組しかいらっしゃいませんでした」
男「えーと、たしかイザナミノミコトって、死んでるんじゃ……」
女神「ええ、すこしばかり遠距離になりましたけど、いまだにアツアツです。あのふたり」
男「えー……イザナギノミコトって、地獄で死んだイザナミに追いかけられたんじゃなかったっけ?」
女神「え? はい。そうですよ」
男「なのにアツアツなの?」
女神「だって、女性の着替えを覗いたんですよ? そりゃあ人間だって、香水瓶の何本かが投げつけられるのを覚悟しないと」
男「そういう問題か? いや、神様ならそういう問題なのか……」
女神「結局、死がふたりを分かっても、愛情は冷めなかったと言うことです」
男「なに上手くまとめようとしてんだよ」
女神「このあいだもイザナギさんとサシで飲みましたけど」
男「コタツで?」
女神「はい。おちょこで差しつ差されつ……で、飲むほどに、最近のメールの内容でおのろけやがりますので」
男「メールって、イザナミからもらったヤツ?」
女神「はい。それで、なーんかむかついたので、すこしずつコタツの温度を上げて、お酒も増やして、酔いつぶれさせて……いただいちゃいました」ペロ
男「なにを? いや、聞くまい」
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