春香「SSなんか…書きたくない!」 (36)

SSを書こう

そう思ったのはいつだっただろうか

2年…いや、3年前?

ある日、
沢山投稿してあるSSを読みながら、
「自分も書こう!」と思ったことだけは覚えている

『新規スレ』というボタンを押して、
ドキドキしながらスレを立てたから

その頃の私はスラスラと文字を打ち、
ただ思いつく限り指を走らせた



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1417858730

読者の感想が書いてあるのを見た時はとても嬉しく、私はどんどんSSを書くのが好きになった

スレを立てては書き、
またスレを立てては書き

…そうしてSSを書き続けていたある日のこと、私はある存在を知った




『ss纏め掲示板』

様々な作者が書いたSSから
面白い物が載せられるという場所

ただただ日々SSを書いていた私は、そこに興味を持った



『私もそこに載ってみたい!』

ふと、そう思ったのだ

SSを書いている人はいっぱい居る
掲示板に載るのは難しいだろう

そう思ったが、
逆にそれが私を燃えさせた

『載ってみせるよ!』

私は早速スレを立て、指を走らせた
いつもより時間を書けて、丁寧に仕上げた

そうして、SSが出来上がり
私は纏め依頼所にそのSSを…

『よろしくお願いします!』

ドキドキしながら出したのだ

載るかなぁ載るかなぁ…
私は期待を胸に掲示板をチェックした

結果は…


『やった!載ったよ!』

私は歓喜に満ちながら、
載ったSSを確認した

コメントには
「面白かったよ!」
「また何か書いて欲しいな!」

と、読者からの声が寄せられていたのだ

私はますますSSが好きになった

掲示板には様々なSSが載っており、
なかには、大絶賛されているSSもあった

「感動した!」
「SSで泣いたのは初めてだよ」
「続編書いて〜!」

そのSSを私も読んだが、確かにとても面白かった
私が書いた物など比べ物にならないほど、「超大作」だった
そのSSの話が印象に残ったのだろう




『私もこんなの書いてみたいなぁ』

そんな気持ちが私の中に芽生えた












原稿用紙をめくっていた亜美が、
つまらなさそうに、机に置いた

「どうかな?」

亜美はため息をついて、首を振る

「うーん…つまらない」

つまらない?
頑張って書いたのに…


「展開が呆気ないというか…読んでいて飽きるというか…」

「……感動させようとしてるの丸分かりだよはるるん」

文の書き方が悪かったのかな
もうちょっと展開変えるべきだったかな

「ねぇ、文章は前より良くなってたよね?」

亜美は難しそうな顔をする

「うーん…前よりは良くなった気もするけど……あんまり」

ぐっ……
私は拳を握りしめた

前見せた時とちっとも変わってない

前よりも文の書き方気を付けたのに
本も買って勉強したのに

…なんで!

「ねぇ…もう辞めようよ」

亜美が心配そうな顔で言う

「小説家じゃないし…無理だよはるるん」

「もっと本買って勉強する!文章上手くなってみせるよ、展開だってもっともっと考えて、今度こそ亜美を感動させるから!」



亜美はゆっくりと首を振った

「亜美…もう読みたくない」

「えっ…」

「もうはるるんが書くSS、見たくない」

亜美は鋭い目つきで私を見た

「はるるんは何でSS書いてるの? はるるんの文見てても、ちっとも面白くないよ!」


…いやだ!
感動したって言って欲しいもん!
亜美が面白かったって絶賛するまで辞めないよ!

私が言い返そうとすると、
亜美は悲しそうな顔をしていた



「はるるん…SS書いていて楽しい?」




「亜美…はるるんのことが分かんないよ、何でそんなに必死になってまで感動させたいの? 純粋にSSを書きたいと思わないの?」

「何でって…!」

言いかけて、私は黙った

何で必死になってるの?

それが自分でも分からなかった

……え?

…うそ、うそうそ!

何で私SS書いてるの?

書きたくて書いてるんじゃなかったの?

SSが好きで書いてるんじゃなかったの?



…私はその時気がついた

いつの間にか、「好き」という気持ちが無くなっていた



私は目の前の原稿用紙を見て、床に手をついた

なんで……



いつからこうなってしまったのか

ただ書きたくて書いていた

書くのが好きで、書いていた

それが、なんでこんなことになってしまったんだろう



私は自分が書いたSSを手に取った

『………』

あぁ、ここの語尾変えた方がいいかな

ここはもう少し展開長くしないと、
次の展開がインパクト出ないかな…


私はSSを置いた

SSを読んでも、
細かい文のことばかりが頭をよぎる

いつの間にか、
SSを書く楽しさを忘れてしまった



「…ごめんね、亜美」




「もう書くの辞めるね」

「ふんっ小娘が何を言うかと思えば、とんだ甘ったれで笑止」

……?

聞き覚えのある声だった

「…えっ」

亜美の驚く声が聞こえてくる

私はそっと顔を上げた

「あなたは…く…961プロの」

「天海春香と言ったな、お前、SSを舐めてるのか?」

急に何を言い出すんですか

私は声を震わせた

「SSなんか…書きたくない!」


「プロならともかく、貴様のような素人が、真面目に書いた所で下手な文しか書けんのは当然のこと…だが、な」

「修正箇所が目につくならそこを直せばいいだけだ、それをやらずに、たかが数回ダメだっただけで辞めるとは…」

社長も現れて、強く訴えてくる

「そうだ!天海君!!キミの悩んでいることは、SSを書けば誰にでもあることなんだ!キミは今壁にぶつかってるだけなのだよ!」

プロデューサーさんも天井から降りて来て、ガッツポーズを見せる

「何度ダメだっていいじゃないか!少しずつ良くしていけばいいんだ!書きたい展開を、一度でもいいから完璧に描いてみろ!」

ガシャン!っとガラスが割れる音がした

振り返ると、小鳥さんが窓枠にしゃがんで立っていた

「書く理由なんて何だっていいじゃない!自分が納得するまで書いてみなさい!」




「納得いくSSが書けた時に、新しい楽しさが見つかるんじゃないかしら」

コーヒーを入れながら、
律子さんがつぶやいた

一口飲むと、私に目を移す

「どう…春香、もう一度…書きたいと思わない?」


「私は…」


くっ…

また、やり直し?

最初から構成を修正していかなくちゃいけないのかな

ははっ…

でも…でも…

……

もう一度だけ、頑張ってみようかな

「もう一度…書きたい!」

「よし、じゃあ早速練り直しだ!」

プロデューサーさんが私の手を引く

その場に座っていた私は、また立ち上がった

立ち止まることは、誰にでもある

先が見えずに嫌になることもある

悩んで悩んで

少しずつ、答えが見つかっていくのだろう





私は力強く、足を踏み出した

まだしばらく、SSを書くのは続きそうだ


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月08日 (月) 10:48:04   ID: 9AGEKUZ9

短いけどss作者の気持ちが伝わった。昔からいわれてるけど、作者はただ一言の乙が凄くうれしいからな。ただ読者としては、駄ssは余り量産してほしくないからなるべくレベルの高いssを投下してもらいたい。
最後になったが、乙

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom