P「遠くて近い」美希「大切な声」 (32)
「ママおはよー………あふぅ」
「ママー。シャンプー切れちゃったの、取ってー」
「―――それでね、ミキ、アイドルやってみようかなって」
「ただいまー!ねね、今日のご飯なあに?」
「なんか明日テレビ出れるみたい。ミキ、どんな感じなのかな?」
「今日ね、プロデューサーさんに教えてもらったことがあるんだよ―――」
「ちゃんと聞いてくれなきゃ、や!」
「ママありがと! 大好きなの!」
「それじゃ、行ってきます」
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―――プルルル
―――プルルル
『はい、星井です』
「―――」
『………もしもし?』
「―――もしもし、ママ?ミキです」
『あら美希ちゃん? こんばんは~』
「夜遅くにごめんね。今、電話しても大丈夫?」
『ちょっと待っててね、お水止めちゃうから』
『お待たせ。なんだか美希ちゃんの声も久々ねえ』
「ちょっと前にもお話したばっかりだよ?」
『一月位経ってなかった?』
「あはっ ママったらおかしーの」
『それでどうかしたの?何かあった?』
「えっと、次のお仕事決まったから伝えたくて」
『あら! 待ってたわよ~、直ぐメモしちゃうわね』
「―――あと、来月の25日にラジオの公開収録が一つ。年末に発売するシングルの告知なんだけど」
『新曲も出るのね、久々だから楽しみだわ~』
「今回は前出したのとは違うカンジでやってるの。ちょっとびっくりしちゃうかも?」
『それじゃあ早めに予約しなくちゃね』
「ね、ホントにいいの?ママたちの分くらい用意できるのに」
『ちゃーんと美希とPさんに貢献しないとね。パパとママも菜緒ちゃんも、二人のファンだもの』
「それじゃあ楽しみに待ってて欲しいな。ミキ達のキラキラを星井さんご一家におすそ分け、なの♪」
「そだ。公開収録の日の夜って、ママたち空いてる?」
『夜?』
「その日はそれでおしまいだから。良かったら一緒にご飯食べたいなって思ってるんだけど―――」
『うーん、ごめんね。その日はパパがお仕事先の人達と会食で……ママも行かなきゃいけないの』
「あ……そうなんだ。なら仕方ないよね」
『そのかわり今月中に美希ちゃん達に合わせて時間作るから。ちょっと待っててね』
「うん。ゴメンね、急にお話しちゃって」
『お仕事連絡してくれてありがと、楽しみにしてるね。それじゃ―――』
「あ、待って」
『?』
「えっと。まだ大丈夫?」
『ママたちは大丈夫だけど。まだお仕事の予定あるの?』
「そう言う訳じゃないんだけど―――なんとなく」
『あら』
「えっとね。ママ」
『なあに?』
「その、元気?」
『元気よー。美希ちゃんにもPさんにも負けないくらいに』
『ただ今朝ちょっと寒かったでしょう?ちょっと起きるのが辛かったかな』
「あ……ママもなんだ?ミキもね、今朝は寒さで目が覚めたんだよ」
「でも今はお布団の中にいてもご飯出来ないでしょ?だからちょっと早めに起きたんだよ」
『うん、うん』
『しっかりPさんにご飯作ってあげてるのね』
「うん。だけどミキだけじゃ大変だからって、それぞれ作る日と一緒に作る日とを決めたんだよ」
「今日は一緒に作る日だったから。ハニーがおかずを作ってミキがおにぎり作ったの」
「鮭とハチミツ梅と、おかずはお味噌汁と卵焼きとお漬物と―――」
『朝からずいぶん食べるのねえ』
「今日は2限からだったしお仕事も午後からだったから」
『鮭おにぎりとか大変だったでしょう?』
「んー、最初はなかなか上手くいかなかったよ。焼き過ぎちゃったり生焼けだったり。骨が残ってることとかあったし……」
『サケフレーク使ってみたら?』
「ちょっと考えたけど、やっぱりハニーも食べるものだもん」
『うん、うん。ママと一緒ね』
「そうだったのかなって……最近思うようになってきたの」
「ね。ママは毎日の料理ってどこで考えてる?」
『そうねえ。料理の本見たりテレビ見たり、職場の人から聞いたりもするけど』
『やっぱりスーパー周りながらかな?ピンときたものをチョイスするの』
「創作料理に凝ってた時とかそんな感じ?」
『ちょっぴり失敗することもあるけどね。パパが喜んでくれるものを作ってあげたいもの』
「そこはミキも同じだけど……あ、ソースとか醤油とかって何使ってるの?」
『調味料ね。何だったかな』
「家だと詰替えてたでしょ?何使ってたか知りたくて」
『うーん、貰い物も多いからねえ』
「そうなんだ……ゴメンね、変なこと聞いて」
『調べたらメールするから待っててね』
『大学にはちゃんと行ってる?』
「『なるべく授業に出られるように』ってハニーと社長も考えてくれてるよ」
「それに聞いて!大学の授業ってすっごいの!」
「時間割は自分で決めるし、授業も自分で選べるし。その科目もたくさんあるし―――」
『うん、うん』
「色々あり過ぎて時間割を決めるの大変だったけど、なんかメニュー見てるみたいで楽しいかも」
「気になる授業たくさんあったけど、ミキ的には―――」
『うん、うん』
「あ……ミキばっかり話しちゃってたの」
『ううん。ちゃんと楽しんでるみたいで安心したわ』
「ミキが行きたいって思った学校だもん」
『あ。パパ帰ってきたみたい』
「ホント!?代わってくれる?」
『ちょっと待っててね。―――うん、美希から』
『――― ……… ――― はい、お待たせしました』
「あ。もしもしパパ?お仕事お疲れさまでした」
『美希もお疲れ様。なんだか声聞くのも久々だなあ』
「あはっ パパったらママと同じ事言ってるの」
『はは。ママはパパの事なんでもお見通しだからね』
「パパは元気?今日はなんだか帰り遅いみたいだけど」
『ちょっと仕事先の人とね。ここ最近はママの料理を食べられなくて残念なんだよなあ……』
「ミキもハニーも気を付けてるけど、パパもちゃんとお休みしてね?」
『ああそうだ、そこで美希のことが話題になってね―――』
―――――――――
――――――
―――
『―――おっとごめん。そろそろお風呂に入るよ』
「ゴメンね。パパ帰って来たばっかりだったのに」
『とんでもない。それじゃあママに代わるよ』
『それと今度またPさんとお話する時間を持ちたいんだ。悪いが伝えてもらえるかい?』
「……うん」
『――― ……… ――― はい、もしもし』
「パパ、何だか嬉しそうだったの」
『やっぱり美希ちゃんの声を聞けたから、かしら?』
「そうなの?」
『便りが無いのは良い知らせっていうけど、声が聞けたら元気にしてるんだなぁって思えるもの』
「……そっか」
『パパはお風呂だけど、美希ちゃんはもうお風呂入った?』
「え?あ―――ううん、まだ」
『あらそうだったの?ごめんね、ずいぶん話しこんじゃって』
「そんなことないよ」
『美希ちゃんも明日お仕事よね?』
「夕方からハニーと一緒に。終わるのは日跨いでからになるかも」
『頑張ってね。美希ちゃんが出るのパパもママも菜緒ちゃんも楽しみにしてるから』
「………うん」
『それじゃあ、おやすみなさ―――』
「あ!―――あのね」
『?』
「え、あ、ごめんなさい。ママも眠いかもしれないのに」
『ううん、ママは大丈夫よ』
「えっと……ね」
『うん』
「その。ヘンな事かもしれないけど」
『うん』
「ママ……寂しく、ない?」
『!』
「前はお仕事とかで時々いなかっただけだったけど……今はもう、ずっとだから」
「お姉ちゃんもミキも、お休みの時にあんまり帰ってこれないし」
「パパもママも……寂しくないかな、って」
『そう、そうね。やっぱり気にならないって言ったら、嘘になるかな』
「………うん」
『ご飯の量が少しになって、美希ちゃんが好きだったおにぎりも今はあんまり作らなくなって』
『家族でのお出かけも、家族一緒だったのが今はパパとママの二人だけになっちゃって』
『何となくだけど、家が静かになっちゃったかな』
「あの、それだったらミキ―――」
『でも、それ以上に楽しみにしていることもあるのよ』
「楽しみにしてること?」
『美希ちゃんがこうしてお話してくれること。美希ちゃんが頑張っている姿をママたちに見せてくれていること』
「!」
『美希ちゃんは今以上にアイドルを頑張る為にPさんと家を出たんだもの』
『隣にはいないけれど、パパとママは美希ちゃんが今一番やりたい事をやってほしいな』
『だって―――テレビに映っている美希ちゃん、とってもキラキラしてるもの』
『新しい事ばっかりで大変かもしれないけど……Pさんの隣だから出来ることを頑張って』
『一緒になら出来るって、ママたち信じてるから』
―――好きな人を信じて、その人が帰ってくる場所を守って、話を聞いて……それも大切な事なの
―――お仕事終わった美希ちゃんが、プロデューサーさんに『お疲れ様』って言ってもらうように、ね
「ママたちも……ミキの『おかえりなさい』なんだね」
「あのね、ママ」
『なあに?』
「ミキも……ちょっと寂しい。声、あんまり聞けなくなっちゃったから」
『うん』
「家の空気とかご飯の味とか、少しずつ違っててなんだか落ち着かなくて」
『うん』
「何だかヘンだよね。ハニーも傍にいるのに……ママたちと違う家に住んでるだけなのに」
『でも、今ママとお話してる美希ちゃんはママの知ってる美希ちゃんよ』
「そうかな。そうだったら嬉しいかも」
『今隣にはいないけれど、電話してくれればすぐにお話しできるから』
『それに美希ちゃんにはPさんが居るもの。だからきっと大丈夫』
「うん。ハニーもみんなも居てくれるから……きっと、大丈夫」
「ね、ママ。もうちょっと時間ある?」
『大丈夫よ』
「少しだけ、お話してもいいかな。お家出てからのこと」
『うん』
「あんまり楽しくないかも知れないけど。ちょっとだけ、聞いて欲しいな」
『うん、うん』
「最初はそんなでもなかったの。ハニーとずっとに一緒に居て、同じ時間を過ごして」
「でもハニーが早く出て、誰の返事も帰ってこない時に目が覚めて」
「ママたちとは違うお家に住んでるんだって改めて感じたら……声思い出すようになっちゃった」
『うん、うん』
「―――最初は時間掛かっちゃったけど、ちゃんと朝の時間に作れるようになってきたんだよ」
『うん、うん』
「ね。ママは……大変じゃなかった?毎日ミキ達のご飯作るの」
『ううん。美希ちゃんたちが食べるご飯だもの』
「………そっか」
「他にも気づいたことがあるの。ハニーはね―――」
『うん、うん』
「ね、今度はママのお話し聞かせて欲しいな」
『ママ?ママはね―――』
『それでパパ、一層張り切っちゃって』
「あは、パパも元気みたい!」
「あ、そうそう。この前学校でね―――」
『うん、うん』
―――――――――
――――――
―――
『―――すっかり遅くなっちゃったわね』
「あ、ホントなの」
『今日はここまでにしましょう。そろそろ美希ちゃんも寝ないと』
「うん。ごめんねママ、時間とっちゃって」
『ごめんじゃなくて、ありがとうって言って欲しいかな』
「それじゃあ……ありがと、ママ」
『いえいえ。ママも久々に美希ちゃんとお話しできてよかった』
「パパ待たせちゃったかな?」
『お風呂でふやけてるかも』
「……パパにごめんねって言っておいてね」
『美希ちゃん』
「なあに?」
『今は違う所にいるけれど、パパとママはここにいるから』
「うん」
『美希ちゃんはPさんと一緒に、今一番やりたい事を追いかけてね』
「うん」
『おやすみなさい。また電話するね』
「うん。ミキ、ハニーと一緒に頑張るから」
『ほら、Pさんに見せる最高の笑顔!』
「―――はい!」
美希「―――」
P「電話、終わったのか」
美希「うん。やっぱりご飯は無理みたい」
P「ありゃ……まあ急だったし仕方ないか」
美希「何だか色んな事思い出しちゃった。ハニーとの喧嘩とか、小鳥の言葉とか」
P「あの時はなぁ……やっぱ俺情けなさ過ぎたよな」
美希「ありがと。もう大丈夫だから」
P「そっか」
美希「ね、ハニー」
P「ん?」
美希「ママって、あったかいね」
※この美希は覚醒しています。
本編から数年が経過した、18歳の大学生です。
おわり
以上で終わりです。ここまでありがとうございました。
独創的な料理センスを発揮するこの母娘ですが、もし不器用なだけで一生懸命だとしたら?と見ると何かと感じる所がありますね。
美希はなんだかんだ家族が大好きなので、親元離れたら少しホームシックっぽい感じになるんじゃないかなーと。
でもきっと、いい意味で乗り越えてくれると思います。
今更ですが、このSSは数年後のプロデューサーと覚醒美希の様子を描いた続き物となっています。
以前のお話を読んでいると様子が分かりやすいかもしれません。
有志の方々が作成したアイマスSSをまとめたwikiに以前のお話が掲載されておりますので
よろしければそちらをご参照ください。
ttp://www32.atwiki.jp/imasss/pages/195.html
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