千早「『弓と矢』、再び」その2(1000)
このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。
前スレ
千早「『弓と矢』、再び」
千早「『弓と矢』、再び」 - SSまとめ速報
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前作
春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」(SS速報)
春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」 - SSまとめ速報
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春香「おはようございまーす!」
電話『とぅるるるるる、とぅるるるるる!』
大海「音無さんっ! 電話が鳴り止みません!」
小鳥「一つずつ処理しましょう! はい、こちら765プロです!」
大海「もしもし、765プロです…ひゃっ! ご、ごめんなさい! 事務所の決定でして、こちらからは何も…」
春香(私が事務所に来ると、小鳥さんと大海さんが電話の応対に追われていた)
大海「あ、春香ちゃん! 助けてください~」
春香「えっと…」
大海「電話に出てくれるだけでいいですから!」
春香「…お仕事、頑張ってくださいね!」タタッ
大海「そんなぁ!」
P「やっぱり、警察に届け出るのが一番手っ取り早い気がするが」
律子「相手の規模がわかりませんし、相手は『スタンド使い』…それに、警察が絡むと後々面倒なことになると思いますよ」
P「だよなぁ…うーん、どうしようか」
律子「私の『ロット・ア・ロット』でも探してみますが…虱潰し、となると時間はかかるでしょうね…」
P「待てよ…? 犯人は別の事務所にも来てるんだよな? だったら…」
春香(他の部屋では、プロデューサーさんと律子さんが例の車について話し合いをしている)
春香(私達の持つ手がかりは、美希が撮った車の写真と、電話番号。それと…)
春香(情報を聞き出そうにも、『偽物』達は砂になって消えてしまう。だから私達はこれだけでどうにか犯人を見つけなければならない)
春香(これらの手がかりは大人であるプロデューサーさんや律子さんの方が有効に使えるだろう…だから、私が個人的にできることはほとんどなくなってしまった)
春香(昨日…『偽物』達が765プロに攻めて来て)
春香(私はあの後、家に帰った。もう大海さんのところにお世話になる必要もないからね)
春香(私の『偽物』…あの子は私を完璧に演じていたようで、家族は何事もなかったかのように私を迎え入れてくれた)
春香(説明する手間が省けたとは言え、『自分以外の自分の存在』を感じ、薄ら寒さを感じた…)
亜美「あ、はるるんおはよー」
春香「おはよ、亜美」
春香(律子さん…それと、亜美は昨日『偽物』達が攻めて来た時仕事で外出中だった)
春香(もしかしたら、仕事場にも『偽物』達が来たかもしれない…と考えたけど、そんなことはなかったみたい)
亜美「ねー、ほんとにみんな…連れて行かれちゃったの?」
春香「…うん」
春香(でも、他のみんな…伊織、やよい、真、雪歩、真美、あずささん、貴音さん…765プロのアイドルの半分以上が行方不明となってしまった)
春香(昨日…765プロに攻めて来た『偽物』達を倒し、プロデューサーさん達に全てを話した後)
春香(あの後、私は家に帰った。もう大海さんのところにお世話になる必要もないからね)
春香(私の『偽物』…あの子は私を完璧に演じていたようで、家族は何事もなかったかのように私を迎え入れてくれた)
春香(説明する手間が省けたとは言え、『自分の知らない自分が生活していた』という事実に、私は薄ら寒いものを感じていた…)
亜美「あ、はるるんおはよー」
春香「おはよ、亜美」
春香(律子さん…それと亜美は、昨日は仕事で外出中だった)
春香(もしかしたら、仕事場にも『偽物』達が来たかもしれない…と考えたけど、そんなことはなかったみたい)
亜美「ねー、ほんとにみんな…連れて行かれちゃったの?」
春香「…うん」
春香(でも、他のみんな…伊織、やよい、真、雪歩、真美、あずささん、貴音さん…765プロのアイドルの半分以上が行方不明となってしまった)
春香「千早ちゃんは…」キョロキョロ
千早「いるわ」
春香「あ、おはよ千早ちゃん。ケガは大丈夫だった?」
千早「ええ、骨までは達していなかったし…切り口が綺麗すぎると、思ったよりは重傷ではなかったみたい」スッ
春香(千早ちゃんの右腕には、包帯が固く巻かれていた)
千早「力を入れると傷口が開くから、右腕は使えないけれど」
亜美「あんまムリしない方がいいと思うよ」
響「やよいがいればよかったのにね、『ゲンキトリッパー』で傷を埋めて貰えばすぐにでも動かせるぞ」
春香「とりあえず、よかった…のかな」
美希「ねぇ、みんな。今日はなんで集まったの?」
春香「なんでって…」
美希「言われたから来たケド…こうして事務所に来る必要、ないって思うな」
春香(765プロは…活動を停止した)
春香(アイドルの半分が行方不明になってしまったことと…残った私達の安全を確保するために…決まったことだ)
亜美「うん、亜美も思った。仕事がないなら、集まらなくてもいいんじゃん?」
美希「昨日みたいに、『偽物』達が攻めて来るカモ…いや、ゼッタイ来ると思うの」
春香(美希の言うことはもっともだと思う。失敗したとわかって、大人しく引き下がるとはとても思えない)
春香(また、この765プロを襲ってくるはず。万全な状態で…)
春香「でも、私は…こうして集まってた方がいいと思う」
亜美「なんで?」
春香「バラバラになってたら、それこそ危ないよ。誰がいつ襲われるか、襲われたのかもわからない」
春香(私が『偽物』と『入れ替わっ』たのは、ライブの後、一人でいる時だった)
千早「私もそう思うわ。一人でいる所を襲われた方が危険でしょう」
響「それに、律子の『ロット・ア・ロット』もあるからね。事務所にいた方が、何かあった時にわかると思うぞ」
美希「うーん、言われてみればそうカモ」
亜美「そんじゃ、亜美達にできることは…兄ちゃんやりっちゃん達が車の持ち主を見つけるのを待つだけか」
シーン…
春香「ところで亜美、『スタートスター』は使えないの?」
亜美「使えるなら、とっくに使ってんだけどね」
響「真美達…連れ去られたみんなは、少なくともこの町にはいない…ってことか」
春香(みんな…今、どこにいるんだろ…?)
………
……
…
やよい『う…!』ドサッ
真美『やよいっち!』
真『逃げるんだ、真美! こいつはヤバい…!』ギギギ
ハルカ『逃がすと…思う? 無駄だよ、無駄』
ハルカ『「アイ・リスタート」』ドォン
…
……
………
真美「まこちん! やよいっち!」ガバッ
真美「…あれ? 夢…?」
真美「じゃない。どこだろ、ここ…」キョロキョロ
真美(ホテル? の、部屋の中かな?)
真美「そうだ。765プロに、たくさんのアイドル達が来て…車に乗せられて…」
真美「真美達は、ユーカイされたんだ!」
真美「そんで、ここに閉じ込められて…うぅ、ゲームでよく見る展開!」
真美「もしかして…こっから脱出しなきゃいけないとか…それか、殺し合いなんかさせられちゃったりとかしちゃったりする感じ!?」バッ
自分の体中をまさぐる。
真美「うーん。バクハツする首輪とかついてるかも? って思ったけど、そういうのはないみたいだね」
真美「部屋の中に、何かないかな」キョロキョロ
・ ・ ・
真美「…改めて見ると」
真美「なんか、すっごく…セレブっぽい部屋じゃない? ベッドもフカフカだったし…」
真美「まず、目立つのはこのでっかいテレビ! これでゲームしたら大バクハツじゃない!?」
真美「このソファ! 『ダメ人間にする』とか言ってネットで見たことあるやつじゃん!」ボフッ
真美「わっ、冷蔵庫に飲み物がギッシリ!」ガチャ
真美「他には、なんかないかなー」ゴソゴソ
真美「…これは」
真美「ゲーム機だ! うわっ、このでっかいテレビでゲームできちゃうの!?」
真美「携帯ゲームもある! しかもこれ、今度パパに頼もうと思ってた新型だ!」
真美「うーん、誰のものかわからないけど、ちょっとくらいなら…」スッ
ピタ…
真美「や…真美はユーカイされたんだ。まず、ここがなんなのか調べないと」
真美「カーテン開けて、外は…」シャッ
真美「うーん、森しか見えない…ここ、森の中なのかな…?」
真美「結構、高いなぁ…こっからは降りられなさそうだね」
真美「こっちの部屋は…」ガチャ
真美「お風呂とトイレか。ほんと、ホテルみたい」
真美「お風呂でっかいな~。泡とかブシューって出るんじゃない? これ」
真美「っと、ダメダメ。調べないと」
真美「このドアは…出口? 開くのかな」
ガチャ
真美「ありゃ、あっさり開いちゃった」
キョロキョロ
真美(外は…ふつーに、ホテルの廊下って感じ。ドアが並んでる)
真美(他の部屋には、誰かいるのかな? みんなは…)
バタン!!
真美「あっ!? しまった!」
真美「うあうあー! どーしよ、カギ持ってないから入れないよー!」グッ
取っ手を掴むが、ビクともしない。
真美「うぅ、ちかたない。ゲームとかいっぱいあったけど、真美の目的はダッシュツであって…」
真美「…? あれ、これって…」
部屋のドアノブの上に、黒いパネルが設置してある。
真美「………」ペタ
パネルに、人差し指をくっつけた。
カチャ
真美「………」グッ
ギィ…
指紋認証が作動してロックが解除され、ドアノブを引くと、扉が開いた。
真美「真美の指で、開いた…」
真美「真美の部屋なんだ、ここ…」
真美(こんな部屋貰っちゃっていいの? ラッキー!)
真美(…って思わないって言うと、嘘になるけど…)
真美(それ以上に…気持ち悪い…!)
真美(真美のためにこんな、めっちゃお金かかってそうな部屋を用意するなんて…なんで!? 何のために!?)
真美「!」ハッ
真美(そっか…真美達をユーカイしたのは、あの『偽物』達だ)
真美(今までの『真美』はあの『偽物』がやるから、本物の真美達はここで暮らせって…そういうことなんだ!)
真美「でも、なんかそれって悪の組織! って感じじゃないね」
真美「ろーやとかに捕まえたりゴーモンとかしてるんじゃないかって思ったのに」
真美「とりあえずいおりんも…みんなも、無事なのかな?」
真美「亜美は…『スタートスター』が使えないってことは、近くにはいないみたいだけど」
コンコン
………
真美「返事がないなぁ。誰か、中にいないのかな」
クゥー…
真美「お腹空いた…」
真美「みんな、食べ物探しに行ったのかも。どっかにあるかな…」チラ…
ゴゴゴゴゴゴ
真美(真美の部屋…これが真美一人のものっていうのは、ちょこっと王様気分だけど)ガチャ
指紋認証で鍵を解除し、部屋に入る。
真美(ここには誰もいない。一人じゃなにも面白くなんてないよ)ゴソゴソ グイ
テレビの下の棚を漁り、新型ゲーム機をポケットに突っ込む。
真美「よし、行こ」タタッ
再開すると言ったきり長らく放置してしまいすみません…
次の土曜、22日に今度こそ再開します
ハジマル
ピンポン♪
グーン…
エレベーターのドアが開く。
真美「よっと!」スタッ
真美「ここが一階かぁ。誰かいるかな?」キョロキョロ
真美「ん! あっちからいい匂い!」
ザワザワ
真美「人の声も聴こえるし…行ってみよう!」タッ
ザワザワ
真美(ここは…食堂、かな? テーブルとかイスがいっぱい並んでる)
「うまうま」モグモグ
真美(ご飯食べてる女の子がいっぱいいる。雑誌とかテレビで見たことある人も)
真美(真美と同じで、ここに連れて来られたアイドルかな?)
真美(誰かに話聞いてみよ、765プロのみんなを見なかったかどうかも…)
グゥ~
真美(うぅ、その前にご飯にしよ…)
真美「ねーねーそこのおねーちゃん。ご飯ってどうすればもらえんの?」
「へっ? えっと、あっちのカウンターで直接頼めば作ってもらえるけど」
真美「そっかー、ありがと!」タタタ
「いらっしゃいませ」スッ
カウンターの奥で、能面のような表情の女性が軽くお辞儀をする。
真美(このお姉ちゃん…)
(ここの職員ってことは、この人も765プロに攻めて来たあいつらの仲間なのかな…?)
「何にいたしましょうか」
真美(ま、いっか。真美に攻撃とかはしてこないっしょ。するなら、そもそもこんなところには連れて来ないハズだし)
真美「何があんの?」
「希望があれば何でも作りますよ」
真美「んーと…じゃあ、オムライス!」
「かしこまりました」
しばらく待っていると、カウンターの奥から、オムレツの乗ったチキンライスが差し出される。
「」スッ
奥の人が、ナイフでオムレツに切れ目を入れる。
ドロォ
チキンライスの上でオムレツがパカっと開き、半熟の中身がドロドロと溢れ出す。
「どうぞ」
真美「おお、うまそー!」
ガタン
バッ
席に着くと、テーブルの上に置いてあるケチャップを手に取る。
真美「オムライスにケチャップたっぷりかけて~」ギューッ
パクッ
真美「うむうむ、ほのかなバターの香りがなんとも言えなくて…ライスとの組み合わせ…相性が…なんとも言えない、うまい!」
シーン…
真美「………」
真美「あのさ、ここの料理美味しいね!」バッ
「え…は、はぁ…」
真美(む~…なんか、美味しいのにあんまり楽しくない…)
「………」モグモグ
「…………」ズーン…
真美(よく見てみると…周りのみんな、あんまり楽しそうじゃないなぁ)
真美(いきなし知らない所に連れて来られて、怖がってんのかな)
??「真美」
真美「?」クルッ
横から声をかけられ、振り向く。
貴音「真美も、ここにいたのですね」
真美「あっ…お姫ちーん!」ガバッ
席を立ち、飛びつく。
貴音「おっと」ガシ
真美「ああ、よかったぁ…みんなともう会えないんじゃないかって思ったよ…」
貴音「私も…真美に会えてよかったです」スッ
テーブルの上からナプキンを拾い、真美の口を拭いた。
真美「会えてよかったって、他のみんなは?」
貴音「いえ。先程から捜索していたのですが、見つけられたのは真美だけです」
真美「あ、そうなんだ…」
貴音「ふふ、真美は賑やかなのですぐわかりましたよ」
貴音「真美は今まで、どこにいたのですか?」
真美「んっとね、自分の部屋にいたよ。さっき起きたばっかり」
貴音「なるほど」
真美「お姫ちんは、どれくらい前から起きてたの?」
貴音「2時間ほど前でしょうか。皆を捜し大浴場、娯楽場と回り、この食堂に落ち着きました」
真美(娯楽場? ゲーセンかな?)
貴音「皆は、どこへいるのでしょう…」
真美「もしかしたら、真美みたいにまだ起きてない人もいるのかも」
貴音「そうならいいのですが」
真美「しばらくここで待ってようよ。オムライスもまだ途中だし」
貴音「そう言えば、ここにいてわかったことがひとつ…」
真美「え、わかったこと?」
貴音「ここの料理人は腕利きのようです」
真美「たはっ」ガクッ
「あ、あの!」
真美「ん?」
「765プロの双海真美ちゃんに四条貴音さんですよね…?」
真美「あ、うん! そだよ」
貴音「私達になにか?」
「こ、これって、なにかの番組の企画でしょうか!?」
真美「へ? 番組の企画?」
「私、怪しい人達に攫われて、気がついたらここにいて…でも、誘拐だとしたらこんな待遇おかしいじゃないですか!」
真美「えっと…」
貴音「申し訳ございません、私達もなにも聞かされていないのです」
「う…そ、そうなんですか」
貴音「ですが、何か危害を加えるような意思は感じられません」
真美「だから、安心していいと思うよ」
「…ありがとうございます」
真美「今の子も『スタンド使い』なのかな?」
貴音「だと思います。しかし…」
真美「?」
『きゃああああああっ!!』
ザワッ
真美「今の…悲鳴!?」
貴音「向こうの…玄関の方向ですね」
ゾロゾロ
真美「うわ、みんな野次馬根性あるなぁ」
貴音「我々も行きましょう」
ザワザワ
「………」グッ
「うーっ、うーっ…」
玄関に着くと、女の人が職員らしき人物に押さえつけていた。
真美「助けないと…!」
貴音「待ってください、真美」
真美「お姫ちん?」
「ちょっと、何やってんの!?」
「こ、怖い…」
ザワザワザワザワ
周りの野次馬達が騒ぎ立てる。
職員「いいか!」
シーン…
一瞬で静まり返った。
職員「この女は、脱走を企てた!」
真美(あの人知ってる、Sランクアイドルグループ、魔王エンジェルのとう…なんとかさんだ)
貴音(東豪寺麗華…? 彼女のような大物アイドルも、ここに連れて来られていたのですね)
麗華「なにが脱走よ、ちょっと外の空気でも吸おうと思っただけじゃない!」
職員「だとしてもだ! 我々の許可、監視なく外に出ることは許されない!」
麗華「チッ、いつまで触ってんの、放しなさいよ!」
職員「反省の色が見られないな…」
ズッ
真美「! スタンド…」
ガッ!!
麗華「う! ………」ガク
職員のスタンドに拳を叩き込まれ、麗華は気絶した。
「な、なにあれ…?」
「何か出た…」
「あれは…」
ザワザワザワ
真美「あれ…? みんな、スタンドのこと知らないの…?」
貴音「…見える以上、『スタンド使い』ではあるのでしょうが」
真美「スタンドを見たことがない? 自分で使ったこともないのかな?」
貴音「スタンドは、戦おうとする強い精神が必要なものです」
貴音「彼女達は、恐らく『スタンド使い』と戦う機会がなかった。使う必要もなかったのでしょう」
真美「そっか、真美達ははるるんがいたからこうやってスタンドを使えるけど、そうじゃなかったら…」
真美「ここに連れて来られた時も、何がなんだかわからないうちに捕まっちゃったんだろうね。765プロにもいっぱい『偽物』が来てたし」
貴音「中には、扱える…あるいは無意識に扱っているような人もいるのでしょうが、そうでない者も少なくないようですね」
職員「静かに!」
職員「諸君の生活は保証する! 望むものがあればそれも用意する!」
麗華「………」
職員「しかし、この者のように脱走や反乱を企てるなら…」
職員「えーと…」ゴソゴソ
ピラッ
ポケットの中から紙を一枚取り出し、見る。
職員「そうだ、3日間、独房に入ってもらう!」
「独房…? どこかに閉じ込められるの!?」
「それより、脱走は許さないって…もしかして、ずっとここで暮らせってこと!?」
「そ、そんなわけないでしょ? 番組のドッキリよ! そのうち出られるわよ!」
ザワザワ
ザワザワ ザワザワ
黒服「」ザッ ザッ
二人の黒服がやってきて、麗華をどこかに連れ去っていく。
真美「やっぱり、あいつら真美達をここから出す気はないようだね」
真美「『偽物』と入れ替えさせて、本物はここで一生暮らせって…そういうことなんだよ」
貴音「それより、真美」
真美「?」
貴音「今、気になる言葉が聞こえましたね。独房とか」
真美「うん。ここの部屋みたいなフカフカのベッドなんかないよ、きっと」
貴音「もしかしたら、765プロの皆がいるかもしれません」
真美「あ、そっか! みんな、こんなところでじっとなんてしてられないもんね」
真美「いおりんなんか、『この伊織ちゃんをこんな狭いところに押し込むなんて!』とか言って何回も捕まってそうだし!」
貴音「そうでなくても、先程の麗華嬢など、ここから出ようとする者…我々に協力してくれる者はいるでしょう」
真美「それじゃ、さっきの黒服を追いかけよう!」
貴音「尾行ですね。しかし、敵は大勢います。気づかれないよう」
貴音「まず、そこの職員の目を誤魔化す必要がありますし、外にも見張りがいるでしょうから…私の『フラワーガール』で…」
真美「いや、大丈夫だよ。待っててお姫ちん」
貴音「?」
真美「あああああああああああ!!」
ザワッ
真美「やだよ!! 一生ここに閉じ込めるん気なんだ! おうちに帰してよっ!!」
………
「いやあああああああっ!!」
「出して、帰して!!」
「嫌っ! なんでこんなことに…!!」
真美が叫ぶと、蜂の巣をつついたように騒ぎが大きくなる。
ギャーギャー
職員「お、落ち着いてください! 騒ぐな! お前達も独房に入りたいか!」ズズッ
「さっきの変なので押さえつける気よ!」
「やめて! あああああっ!」
貴音「これは…」
真美「さ。お姫ちん、ドアの前に」
タタッ
「何事だ、騒がしい!」ウィーン
自動ドアが開き、外で監視していた職員が建物の中に入ってくる。
貴音「」スッ
真美「」ススッ
それと入れ替わるように、二人はこっそりと外に出た。
今後は毎週土曜投下で行きたいと思います(毎週投下するとは言ってない)
その1は誤植じゃないです。前回が短すぎた…
んあー明日15時
始めます
ガサッ ガサ
黒服が、森の中を進んでいく。
貴音「真美、足下に気をつけてください」
真美「なんか踏んだりして音出しちゃったら、バレるもんね」
二人は木の陰に隠れながら、その後を追跡していく。
真美「それにしても…ここって、どこなんだろ?」
貴音「どこかの山奥…ですかね」
真美「どこかって?」
貴音「どこか、としか」
真美「ま、そうだよね。全然見たことない場所だし。とりあえず、今はみんなを捜そっか」
貴音「そのためにも、あの者達を見失うわけにはいきませんね」
しばらく後をつけていると、コンクリートの壁が見えてきた。
ギィ…
黒服達は、壁の根元にある扉を開け、その中に入っていった。
バタン
貴音「これが牢獄…なのでしょうか」
真美「結構でかいね。3階建てくらい?」
貴音「それほど多くの者の収容を想定しているのでしょうか? それとも…」
真美「なんでもいいよ、おっじゃましまーす」キィッ
真美が扉を開け、中に飛び込んでいく。
貴音「真美、気をつけて」スッ
バタン!!
貴音「!」
真美「え?」
二人が中に踏み込んだ瞬間、扉が勢いよく閉まった。
ゴゴゴゴゴ
真美「んーっ、開かない…」グググ
貴音「真美、下がってください」
ヒュ
ドォォン
『フラワーガール』が扉を叩いた。
真美「やったか!?」
シュゥゥ…
貴音「固い…」
ヒュン
ガァン!
横の壁を殴りつけるが、びくともしない。
貴音「壁も…『フラワーガール』で破壊できないとなると、かなりの強度ですね」
真美「これって、まさか、閉じ込められちゃった!?」
貴音「」キョロキョロ
建物の中を見渡す。
貴音「ここは、牢獄…には見えませんね」
真美「そだね、3階建てだと思ってたけど、上の方までずっと吹き抜けになってるし」
真美「並んでるのも、オリじゃない。棚かな?」
カッ カッ
棚の一つに向かって歩いていく。
貴音「ふむ、箱が並んでいますね。中身は…美容品ですか」
真美「こっちには服が置いてあるよ、こんないっぱい」
貴音「倉庫…?」
真美「あいつらもここに入ってったよね? ろーや目指してたんじゃないの? なんでこんなところに…」
貴音「それは、恐らく…」
??「そう!」
二階の棚の陰から、黒服の一人が姿を現す。
??「ここに来たのは、お姫ちん達を閉じ込めるため」スチャ
そう言いながら、サングラスを外す。
真美「!」
真美(遠くからじゃよくわかんなかったけど、あの顔は…)
亜美「そして…叩きのめすためだよ」
貴音「亜美? いや…」
真美「『偽物』…」ギロッ
アミ「おっと、真美なら『ワープ』できないからわかるよね?」
真美「『スタートスター』で調べるまでもないよ。本物の亜美じゃあないなんて、一目見ればわかる」
貴音「やはり、我々の追跡に気づいていたようですね」
アミ「そりゃ、あんな音立てながらじゃね。耳はいいんだよ、アミ達」
真美「んっふっふっ」
アミ「? 何笑ってんのさ、真美」
真美「ちょっち安心したんだよ」
アミ「安心?」
真美「『偽物』がここにいるってことは、亜美は入れ替わってないってこと…無事だってことだよね?」
アミ「んー、そうタンジュンなことでもないんだけどね」
貴音「?」
アミ「向こうじゃ色々と苦戦してるみたいでさ、まだ、765自体が落ちてないらしいんだよ」
貴音「ほう」
真美「おおっ、まだみんな頑張ってるんだ!」
アミ「でさ、せっかく捕まえた真美やお姫ちんも…こうして大人しくしないで、出てくるからさ…」
アミ「やっぱ、765プロはテッテー的に叩いておかないとダメだと思うんだよね、アミは」
貴音「………」
真美「魔王エンジェルのお姉ちゃんは?」
アミ「他の人に運ばせたよ」
貴音「他の人…ですか」
アミ「今、倉庫の裏口から出て行ったところじゃないかな?」
貴音「なるほど。では…」
貴音「貴女をすぐに倒して追いかければ、間に合いそうですね」
ゴゴゴゴゴ
アミ「いいや、アミ達には勝てないよ!」
マミ「そう、マミ達二人にはね!」バッ
アミの後ろから、もう一人の黒服が飛び出してくる。
真美「真美の『偽物』…!?」
貴音「もう一人も潜んでいましたか」
真美「二人で来るってことは、『スタートスター』みたいに二つで一組のスタンド!?」
マミ「違う違う、二人じゃないと使えないようなケッカン品と一緒にしないでよ」
真美「ケ…ケッカン品!?」
アミ「アミのスタンドはどんなものも破壊するさいきょーのホコ!」
マミ「マミのスタンドはどんな攻撃も効かないさいきょーのタテ!」
アミ・マミ「「いわば、さいきょーのホコタテ!」」
貴音「では、互いに攻撃したらどうなるのですか?」
マミ「おっと、その手は食わないぜダンナ!」
アミ「そう、さいきょーとさいきょーが一緒になればもっとさいきょーなのさ!」
マミ「しかも、こっちにとって怖いのはお姫ちんだけ。真美は、亜美がいなけりゃ役立たずだもんね?」
真美「む…」
アミ「さぁお姫ちん、二対一でアミ達に勝てるかな!」
貴音「二対一、ですか…」
アミ「行くよ、アミのさいきょーのスタンド!」ズズズ
吹き抜けの柵から身を乗り出し、スタンドを出す。
頭部が巨大なレンズになっており、腹部から大砲の筒が飛び出している。
アミ「そして喰らえッ、アミのさいきょーの攻撃!!」コォォォォォ…
レンズが周囲から光を吸い込み、スタンドの体が輝きだした。
真美「! ヤバいよお姫ちん、何かチャージしてる!」
貴音「………」
アミ「『デイブレイク…』!」カッ
貴音「『フラワーガール』」
ヒュォッ
『フラワーガール』が、貴音の下から一瞬で、アミの目の前まで距離を詰める。
アミ「え?」
アミ「何…」
ボギャ
アミ「ぐびゃ!」ドヒュゥゥーッ
マミ「は」
殴り飛ばされ、アミの体はマミの横を飛んでいき…
バギャア!!
後ろの棚に叩き込まれた。
アミ「うぐっ ぐぅぅ…」
マミ「………へ?」
真美「」ポカン
貴音「確かに…」
貴音「これで二対一ですね」
マミ「………」クルッ
アミ「」ピクピク
マミは振り返ってアミを見たが、動けそうもなかった。
貴音「さて、これで最強の矛とやらはなくなったわけですが」
マミ「!」バッ
向き直ると、『フラワーガール』が目の前に迫っていた。
貴音「貴女にも…倒れてもらいます」
ヒュッ
マミに向かって真っ直ぐと突きを繰り出す。
マミ「くっ…『マイルド・スノー』ッ!!」
ボスッ!!
貴音「ん!」
グ グググ
マミ「はーっ…」
『フラワーガール』の拳は、『雪』の盾に阻まれていた。
真美「あれは…あれが真美の『偽物』のスタンド…?」
マミ「『マイルド・スノー』」
貴音「」スッ
ドスゥ!!
もう片方の手で、雪の盾を殴る。
ググ…
貴音(破れない…)
グリグリ
貴音(力を加えるほどに固まり、強固になる…雪のような性質を持つスタンド…)
マミ「………」ス…
サッ!
雪が攻撃を防いでいるうちに、棚の陰に隠れていった。
真美「引いた…?」
貴音「なら、深追いする必要もないでしょう。我々も、裏口に向かい…」
『フラワーガール』を下げようとするが…
貴音「…!」
真美「お姫ちん?」
グググ グググ
貴音「手が…『雪』に覆われている…!? これでは動けない…」
貴音(押さえつける力が強い…これを振り払うには、射程距離が遠すぎる)
真美「お姫ちん、大丈夫!?」
貴音「真美、こちらは私がなんとかします! 追跡を!」
真美「あ…うん!」ダダダ
倉庫の奥に向かって走っていく。
ス…
貴音「!」
『フラワーガール』の手を覆っていた雪が、離れ…
ヒュン ヒュヒュン
次々と、真美の方へと向かって行く。
貴音(何…)
真美「へ?」
貴音(本体を先に倒すか…いえ、隠れられてはここからでは正確な場所が分からない…)
貴音「『フラワーガール』!」ギュオン
『フラワーガール』がすぐさま雪を追い抜き、真美の前に立ちはだかった。
ビタ! ビタ ビタッ
貴音「く…」
雪が、スタンドの体を埋めるように張り付いていく。
グググ
『フラワーガール』がどんどん雪に覆われていく。
貴音「ぐっ」ドサッ
貴音が膝を着いた。
貴音(重い…ぶつかった衝撃などはほとんどありませんが、質量に押し潰される…)
真美「お姫ちん!」
貴音「真美…行ってください」
真美「でも…」
貴音「私達には多くの仲間が必要です…まずは、牢獄の場所を突き止めることが重要なのです」
貴音「例え私が敗れても、それさえわかっていれば…真美さえ無事なら、ちゃんすはある」
真美「………」クルッ
タタタ
真美は『フラワーガール』に背を向け、走った。
ガシッ!!
棚からスコップを見つけ、手に取る。
真美「」グッ
貴音「真美…!?」
真美「『スタートスター』!」
再び、雪に覆われた『フラワーガール』の前に立つと…
真美「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」ズバッ ズバッ
『スタートスター』が、スコップで雪をかき出していく。
ズボッ
貴音「………」バラッ
『フラワーガール』が薄くなった雪の層を突き破り、払った。
真美「」タッタッタッ
真美が、貴音の下へ戻ってくる。
貴音「真美、何を…」
真美「バーカ、お姫ちんのバーカ!」
貴音「ば…馬鹿…?」
真美「なんとかするって、全然なんともなってないじゃん!」
貴音「それは…それより真美、何故戻って来たのですか!」
真美「お姫ちんが、真美をかばったからだよ!」
貴音「はい…?」
真美「お姫ちんが真美に行けって言ってくれた時、真美を信じて送り出してくれたんだと思った」
真美「でも、なんでさ! 真美の前に立って攻撃受けて、そんなのピンチになるに決まってんじゃん! 真美にはあれくらいも防げないって思ったの!?」
貴音「ち、違…」
真美「ねぇ、真美ってそんなに頼りない? お姫ちんも、亜美がいなきゃなんもできないって思う!?」
貴音「真美、落ち着いてください…」
真美「落ち着いてないのはお姫ちんの方だよ!!」
貴音「は…」
真美「真美を逃がして…それからどうするつもりだったのさ」
貴音「…捕まる、でしょうね。しかし私が独房に放り込まれたとしても、真美がいるなら脱出できるかもしれません」
真美「それまでに、お姫ちんが何されるかなんてわかんないじゃん!」
貴音「私は平気です。覚悟は…しております」
真美「なんでそんな弱気なのさ! 負けることなんて考えちゃダメじゃん!」
貴音「私とて負けたいなどとは思っておりません! ですが、あのスタンドは…」
貴音「あの雪のスタンドには私の攻撃が通用しませんでした…そして集まれば『フラワーガール』を押さえ込むほどの力…」
貴音「私でも確実に勝てるかどうかはわかりません…それならば、二人とも捕まるという最悪の事態だけは避けなければ…」
真美「二人でも、あいつに勝てないってそう思ってるの?」
貴音「それは…」
真美「勝とうよ」
貴音「………」
真美「『ワープ』できなくて、ちょっち頼りないかもしんないけどさ…なんにもできないわけじゃないよ」
貴音は、『フラワーガール』を見る。
貴音(真美は…雪に押し潰されそうだった『フラワーガール』を助け出してくれた)
貴音(今の『すたぁとすたぁ』は無能力…しかし無力ではない、ですか)
真美「もっと真美のこと、頼ってよ。仲間なんだからさ」
貴音「…時間がありません。すぐに彼女を倒し、目的を遂げなくては」
真美「………」
貴音「真美」
真美「ん」
貴音「行きましょう。そうですね、二人ならばきっとできます」
真美「もち! 気合いフルパワーでやっちゃうもんね!」
始めましょう
プルプル
真美「! 真美がかきだした雪が…」
ビュバ!
真美「うわ、飛んできた!」
貴音「『フラワーガール』」ヒュ
ガシ!
『フラワーガール』が、真美の服を掴み…
真美「わわわっ」ポーイッ
ボフッ
近くの棚に積まれている布団まで、投げられる。
貴音「」ガシッ
ボスッ
『フラワーガール』は真美が放したスコップを空中で空中で掴み、『雪』を受け止めた。
ボスッ ボササッ
みるみるうちに雪が集まってきて、スコップの先がどんどん白くなっていく。
真美(あっ!)
貴音「く…」グッ
真美(お姫ちんが押されてる…)
真美(また真美を助けようとして…もう!)バッ
貴音「」サッ
真美(へ?)
立ち上がろうとしたが、貴音が目で制止する。
貴音「」スッ
真美(口に指を当てて…喋るなってこと?)
貴音「………」ググググ
グバァ!
ガラン ガラッ
圧力に耐えられず、いや『フラワーガール』が自分からスコップを手放し、地面に滑るように転がっていった。
真美「………」
貴音「よし」ボソ
スゥ
貴音が『フラワーガール』を仕舞う。
ズバババ!
スコップに取り憑いていた『雪』が、『フラワーガール』のいた場所に飛びかかるが…
スカッ
そこには何もなく、空を切った。
ズム…ズム…
『雪』は所在なさげに彷徨い始める。
貴音(相手は上の階、しかも棚の陰に隠れている)
貴音(この『雪』には、律子のスタンドのように目がついているようには見えない。どうやって我々の位置を確認しているのか知りたかったのですが)
ウロウロ
貴音(この様子だと、スタンド自体に探査能力はない…そして、見えない場所にいる本体が得ることのできる情報と言えば)
真美(音だ! 真美達が動く音を聞いて、あいつは攻撃してきてるんだ)
真美(あんまり、正確にわかってる感じじゃないけど。量にものいわせて、それっぽい場所にどんどん叩き込んでくるつもりだ)
真美(今のお姫ちんの動きで、あいつは真美達の場所をパーペキに見失ったみたいだけど)
ズモモモ…
真美(でも、こっからどうすんのさお姫ちん!? 真美達はこっから動けないし、あの『雪』は真美達を捜してる! 触られたら、もしかしたら場所だってバレちゃうかもしんないよ!)
真美(相手からこっちが見えないって言っても、こっちからも見えないんじゃ…)
ガシッ
真美「あれ?」
再び、真美が『フラワーガール』に身体を持ち上げられる。
貴音「よろしいですね、真美?」ボソ
真美「え、ちょっとタン」
ギュン!!
真美「ひああああああ!!」
『フラワーガール』は真美を抱いたまま、凄い勢いで二階まで移動していった。
真美「うぅ…」
ゴゴゴ ゴゴゴ
真美(そっか、『フラワーガール』に乗ってけば真美は音もなく上まで来れる)
真美(真美が見つけるんだ、あいつの姿を! そんで、お姫ちんに教える!)
スゥ…
『フラワーガール』は、ゆっくりと幽霊のように前方に向かっていく。
真美(あ、ちょっとダメダメ。ぶつかっちゃうよ)スッ
棚に衝突しないよう、真美が軌道修正しながら棚の間の通路を通る。
真美(さーてと。かくれんぼの時間だよん、んっふっふ~)
真美(おっと、棚ん中に隠れてるかも。ダンボールとかも気をつけて見なきゃ)
真美は見回してマミの姿を捜す。
一つ、二つと順番に、並行にいくつも並んでいる棚を隅々まで舐め回すように見ていく。
真美(次の棚が最後か。行き止まりだね、そこの棚の陰に…いる!)
『フラワーガール』を操作しながら、二階の一番奥にある棚の陰を覗き込んだ。
真美「そこだっ!」バッ
・ ・ ・ ・
しかし、そこには誰もいなかった。
真美「…あり?」
真美(見逃した? いや、音はしなかった…こっから逃げたとしても、足音がしないなんて…)
真美(もしかして、あれは真美の『偽物』じゃなくて…忍者!?)
ズゥン!!
真美「わ!?」
下の階から、地鳴りの音が聴こえた。
真美「な、なに今の音は…? 下の階から…」
ゴロ…ゴロゴロゴロ
真美「何か転がってる…? 『雪』、転がる…まさか…」
真美「ヤバい、お姫ちんっ! スタンド戻して!」ドンドン
『スタートスター』で『フラワーガール』の肩を叩くが、反応はまるでなかった。
マミ「んっふっふ~。よ~しよし、上手くいったかな~?」
吹き抜けになっている倉庫のさらに上、三階。そこにマミはいた。
マミ「お姫ちんの場所はわかんないけど、一階からは動いてない…だったら、『マイルド・スノー』の大雪玉で一気に押し潰しちゃえばいいんだ!」
マミ「倉庫の中荒らしちゃうから怒られちゃうかもしんないけど…ま、今更だよね~」
ズズゥン…
マミ「ん、部屋にコロコロするやつかけるみたいに、隅々まで雪玉で潰し終わったみたいだね」ヒュルルル
『雪』が、マミのもとに戻ってくる。
マミ「これでお姫ちんは片付いたはず。『本物』の真美はほとんど無力…もうラクショーっしょ」
マミ「うーん…でも、下がどうなってるかわかんないし、念のためもう2、3回かけよっかな?」
??「それには及びませんよ」
マミ「はっ!?」クルッ
ドグォ!!
真美「お…」
グ…ググ…
咄嗟に出した『雪』の盾が、襲来者の拳を防いだ。
ズモモ
シュバッ
『雪』で捕らえようとすると、すぐに引いていった。
マミ「な、何奴…!?」
貴音「なるほど、さらに上に登っていたのですね」
真美「真美が見つけられないわけだ」
マミ「ぬわ、なんでっ!? どうやって!?」
真美「ふつーに、階段登って」
マミ「そーじゃなくて、いつの間に!? ここに近付いてくる音はしなかったのに!」
真美「聞こえるわけないっしょー。雪玉ゴロゴロする音に棚が倒れる音…二階にいた真美までうるさく聞こえてたよ?」
貴音「あれほどの音の中ならば、気づかれず堂々と行動できます」
マミ「はっ、そっか! しまった!」
貴音「『フラワーガール』」ヒュン
マミ「わわっと!」
ガッ!!
貴音「む…やはり、防御が固い…」
マミ「ふふん…お姫ちんの『フラワーガール』でも、マミのさいきょーの盾…」
マミ「『マイルド・スノー』は、壊せないみたいだね」
真美「そだね」ダッ
マミ「!」
『フラワーガール』の攻撃を防ぐマミの横から、真美が向かってくる。
貴音「そのスタンド…伊織の『スモーキー・スリル』と少々似ておりますが、彼女のように器用なことはできないと見ました」
真美「真美の『スタートスター』! パワーはちょっち足りないけど、スピードは充分! 倒れるまで叩き込むッ!」
マミ「く…」
バッ
『フラワーガール』に対するガードを残したまま、マミは奥の棚に逃げ込む。
真美「隠れても無駄無駄無駄無駄ァ! そっちは証明写真、行き止まりだよッ!」
貴音「正真正銘…ですか?」
真美「そう、それ!」ダダダ
真美は鼠を追い込む猫のように、奥に駆け込んでいく。
「はっ…」
マミの姿を捉えると同時…
真美「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃWRYYYYYYYYYYYYYYY」ズバン バババババドババババババ
真美「やっ!!」ギュオッ
「おぶっ!!」グシャ
ドゴン!!
ラッシュを叩き込み、ブッ飛ばした。
サラ…サラサラ…
真美「わお、砂になった…!?」
貴音「!」
『フラワーガール』の手元から、『雪』が消える。
貴音「ふぅ…どうやら、これで決着がついたようですね」
真美「うえー。さっきまで喋ってたのが、目の前で砂になられると、なんか…」
貴音「彼女達は、『敗北』を認めると砂になってしまうのです。人が呼吸をせねば生きていけぬように、食事を摂らねば生きていけぬように…それが、彼女達の在り方なのでしょう」
真美「そういうもの、ってこと?」
貴音「はい、なので真美が気に病むことはありませんよ。兎に角…」
真美「うん…うん! 真美とお姫ちんで掴み取った勝利だね!」
「まだだよ」
真美「へ?」
貴音「何?」
ダダダダダ
棚の奥から、雪崩が起きた。
真美「な、なんじゃー!?」
貴音「く、『フラワーガール』!」バッ
マミ「やめときなよー、お姫ちん。もうそろそろ限界っしょ?」
棚の上からひょこっと、マミが顔を出した。
真美「え…なんで!? 今、砂になったはずじゃ…」
マミ「ああ、あれ? マミじゃないよ、アミだよ。気失っても砂になんなかったからね、連れてきたんだけど…」
マミ「まさか、こうやって役に立ってくれるとは思わなかったよー。んっふっふ~」
真美「…!」ギリッ
真美「亜美は、双子でしょ…」
マミ「双子? そっちはそうかもしんないけどさ、マミにとってはぜーんぜんカンケーないんだよね」
真美「それでも…『偽物』でも、亜美を身代わりにするなんて…!!」
マミ「何怒ってんの? アミを倒したのは、そっちの真美じゃん」
ドドド ドドド
貴音「真美、怒る気持ちはわかります。ですが、その前に目の前の脅威をどうにかしなくては」
真美「…う、うん。わかった…」
ドドドド
貴音(雪の津波とでも言うべきでしょうか。これで下の階まで押し流すつもりでしょうね)
貴音「すぅ、はぁ…」
タラ…
貴音の額から、汗が滑る。
貴音「『フラワーガール』」ヒュ
ドドドドド
ズボッ!!
『フラワーガール』の腕が、迫り来る雪の壁を貫いた。
貴音(この雪の津波、規模が大きい分…密度は薄い)
だが、それだけだ。雪崩は止まる事なく迫り続け、『フラワーガール』ごと押し出そうとする。
貴音(今の私に、これを突破できる力は、もう既に残されていないようですね…)
真美「うりゃ!」ドス
バシィッ
真美「駄目だ、『パワー』が違いすぎる…!」
真美も『スタートスター』で壁を突破せんとするが、逆に腕を弾かれてしまった。
マミ「それそれ、流されちゃえー!!」
ズザザザザザ
雪の壁が、真美と貴音をどんどんの手前の吹き抜けの方へと押していく。
真美「うぅ、ヤバい…!」
真美(このままだと、柵通り越して落とされる…こっから落ちたら、直で一階…ただじゃ済まない…!)
真美(もう、ダメだ…!)
貴音「真美」
真美「…お姫ちん?」
貴音「この『雪』には逆らえない…もう、落ちるしかない…そう思っているのですか」
真美「…悔しいけど…その通りだよ。もう、どうしようもない」
貴音「真美。弱気にならないでください、負けることなんて考えてはいけません」
真美「………」
貴音「勝ちましょう。二人ならば、きっとできます」ニコ
二人は、宙に放り出された。
真美「うあああああああ!!」
真美(落ちる、死ぬ! どうにか…しなきゃ!)
貴音「真美、スタンドを!」
真美「!」ドォン
『スタートスター』を出し、貴音の方に手を伸ばす。
ガシッ
貴音が『スタートスター』の手を取ると…
グッ!!
貴音は『フラワーガール』で、三階の柵を掴んだ。
ズドドドドド
雪崩が、下の階へとなだれ落ちていく。
貴音「ぐ…」ググ
一緒に流されそうになるが、貴音は必死に、柵と真美から手を放そうとしなかった。
真美「よし、こっから二階に…」
真美は、下の階へと飛び移ろうとするが…
貴音「待ってください、真美」
真美「ほぇ?」
貴音「もしもここで三階に上がれなければ、もう奴は上の階に登らせるような真似はしないでしょう」
貴音「まず階段を潰してくる…そしてどこへ行こうとも、なりふり構わず押し潰してきます」
真美「じゃあ…どうすんのさ」
貴音「こう…するのです!」グイッ
真美「わーっ!?」グイン
遠心力をつけ、真美の体が上の階まで引っ張り上げられた。
真美「いた!」ドサ
三階の床に尻をつく。
マミ「あ…? なんだ、戻って来たんだ」
真美「くっ」クルッ
マミなど眼中にないかのように、真美は振り返って柵に捕まっている貴音に手を伸ば
真美「お姫…!」
そうと、して
貴音「………」
その手が、空を掴む。
『フラワーガール』が花弁を閉じ、『つぼみ』になった。
真美「ち…ん…」
身体を支えるものがなくなった貴音は、下へと落ちていった。
真美「………」ヘタッ
真美は、その場に崩れ落ちた。
マミ「お姫ちんは…助からなかったみたいだね?」
ヒュルルルォ
下の階から、落ちていった『雪』がマミの下へ戻ってくる。
マミ「それにしても、お姫ちんも…真美を助けてどうするつもりだったんだろ?」
真美「お姫ちん…」
マミ「どーせ真美なんて、もっかい落として終わりなのにさ」
真美「………」ムクッ
真美は、立ち上がった。
マミ「ありゃ、まだやる気あるんだ? 一人じゃあ何もできないクセに」
真美「何もできない…?」
マミ「だって、そうじゃん。いちおーコンビってことになってたけど、マミなんてアミがいなくてもゼンゼン戦えんのにさ」
マミ「真美は亜美がいないと何もできない、お姫ちんに助けてもらわなきゃ、何もできないじゃん」
真美「そうだよ」
ゴ
マミ「ん?」
真美「真美ってば、しょっちゅー寝坊してさ…亜美や、ママに起こしてもらわないと遅刻しまくっちゃうし」
真美「にーちゃんやピヨちゃんにだって、いっぱいめーわくかけて、りっちゃんにいっつも怒られてるし」
真美「アイドルの仕事でも…ポカやっちゃって、みんなに助けてもらっちゃうことだって、いっぱいある」
マミ「へー、そーなんだ。そういうキオクもあるけど、真美自身から聞くとピチピチ新鮮だねー」
マミ「マミは『完全なアイドル』だからそういうことなんてしないし、よくわかんないけど」
真美「でもさ。それって、そんなに悪いこと?」
ゴゴ
真美「メンドーなこと全部、人に押し付けるのとかは悪いかもしんないけどさ」
真美「真美が寝坊してたら、亜美やママが起こしてくれる」
真美「亜美が寝坊してたら、真美が起こしてあげる」
真美「誰かとお菓子を分けたら、美味しいね、って言い合える」
真美「それって、そんなに悪いこと?」
ゴゴゴゴ
真美「はるるんの『ジ・アイドルマスター』だって、みんなで力を合わせて勝ったんだ」
マミ「………」
真美「一人で最強より、一人で完全より…」
ゴゴゴゴ ゴゴゴ
真美「真美は、そっちの方がいい」
マミ「ふーん、あっそ…」
マミ「それで? ひとりぼっちの真美は、やっぱり何もできないんだよね~」
真美「一人じゃあない」
マミ「?」
真美「真美がここにいるのは…お姫ちんが、助けてくれたから、引っ張り上げてくれたから」
真美「真美は…」
真美(さっき、お姫ちんの手を掴めなかったあの時…)
貴音『………』
真美(お姫ちんは、言ってた。声は出さなかったけど、確かに真美には聞こえた)
『頼りにしてますよ、真美』
真美「真美は、お姫ちんの想いを背負ってる! だから、真美は一人じゃあない!」
マミ「…よくわかんないなぁ」
マミ「なんか背負っちゃってるみたいだけど」
ドバァ!!
先程と同じ…いや、それ以上の大量の『雪』が、真美へと襲いかかる。
マミ「それごと流しちゃえばおしまいっしょ?」
ドドド ドドド
真美「行くよ、『スタートスター』」ズゥン
マミ「そんなスタンドで、何ができんのさ!」
真美「うりゃあ!!」ズドッ
左手を開き、押し出すように雪の壁へと突き出した。
ドドドドドド
真美「く…」
襲いかかる巨大な力の波に、真美は歯を食いしばり、その場で踏ん張っている。
マミ「ほらほら、そんなんじゃお姫ちんの二の腕だよ真美!!」
真美「負けない…!」
ズ ズズ ズズ
マミ「ん?」
マミ(なんか…目の錯覚? 『スタートスター』の手が、でかくなってるような…)
ズズズズズズ
マミ(いや、気のせいじゃない! 『スタートスター』の体が左手に飲み込まれて…)
真美「輝け! 『スタートスター…!!」
マミ(巨大な、『手』に…!?)
ズォォォォォォォ!!
ドドドドドド
・ ・ ・ ・
シュゥゥゥゥ…
雪崩が収まった。
『手』も、その背後にいた真美も、その場から一歩も動いていなかった。
真美「…ジェミー』」
スタンド名:「マイルド・スノー」
本体:フタミ マミ
タイプ:遠隔操作型・不定形
破壊力:D~B スピード:C 射程距離:B(20m程度) 能力射程:B(20m程度)
持続力:B 精密動作性:D 成長性:C
能力:大気中の水分を固めて作り出される、「雪」の性質を持ったスタンド。
凝縮すれば攻撃の衝撃をすべて散らしてしまう鉄壁の盾となる。
スタンド自体にはあまり殺傷力はないため、重さや圧力で押し潰したり、押し流したりして攻撃する。
「雪」のようではあるが触っても冷たくなく、常温。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
色々あったりなかったりで遅れましたが始めます
ズゥゥン…
マミ「変わった…」
ギュ!!
真美の前に立ちはだかる『左手』が、塞き止めていた『雪』を握りしめ…
真美「うりゃぁ!!」ビュッ
できた雪玉を、棚の上のマミに投げつける。
マミ「………」
バサッ
真美「ありゃ」
ヒュルル…
雪玉はマミの目の前で崩れ、細かい雪となって彼女の周囲に舞い始めた。
マミ「当たり前じゃん、これはマミのスタンドなんだよ?」
マミ「余程気が動転してるか、余程のマヌケじゃなければこんなのにやられるはず…」
グッ
話してる間に、目の前に巨大な拳が近づいてきている。
真美「うりゃっ!!」ゴッ
マミ「『マイルド・スノー』」
ヒュッ ヒュルルル
ドグゴ!
雪が盾となり、『ジェミー』の攻撃を防ぐ。
真美「!」
マミ「でかくなった分、速度は遅いね。こんなのは見てから対応できる」
ズモモ
真美「わわっ」ヒョイ
拳が『雪』に覆われようとしていたので、自分の近くまで引っ込めた。
マミ「んっふっふっふ~、どうしたの? ン? 負けないんじゃなかったの!?」
マミ「スタンドが変わったから…それで何か変わんの!? マミのさいきょーの盾は破れないッ!!」
ビシャッ
・ ・ ・ ・
マミ「…ん?」
『雪』の盾の一部が、弾丸となって真美の足下に飛んだ。
マミ(あれ…? 攻撃なんてするつもりじゃなかったんだけど…何?)
ビュン ビュビュン
ベチャ! グチャ グチャッ
マミ「えっ、えっ!?」
『雪』はマミの意思とは関係なく、勝手に攻撃…ではなく、次々と真美のいる方に引っ張られていく。
真美「破れたね」サクッ
地面に落ちた『雪』を踏みつける。
マミ(『雪』の盾が…盾に、穴が空いた!)
真美「『スタートスター・ジェミー』!!」ドギュン
マミ「うあああっ!!」
ぽっかり空いた穴に向かって、拳が飛んでくる。
マミ(ガードするには『雪』が足りない…ヤバいっ)
ヒョイッ
マミは、奥の棚へと飛び移った。
ゴォォォォ
真美「んっ」ビタッ
マミの目の前で、『左手』が止まる。
マミ「ふぅ…っ」
真美「………」
マミ「その…『ジェミー』? あんまり『射程距離』は長くないね。1mかそんくらい?」
マミ(マミの『マイルド・スノー』は遠くからでも攻撃できる。このまま近づかせなきゃ大丈夫…)
真美「」ス…
チャキ
マミ(ん!?)
『ジェミー』が手で銃を作るように、人差し指をマミに向けた。
マミ(あの手…指先に、穴が…)
ドギュン!!
マミ「うげっ!?」
『ジェミー』が指から、弾を打ち出してきた。
マミ「マ、『マイルド・スノー』ッ」
ダスッ!
残された『雪』をかき集めて、弾から身を守った。
マミ「く~っ、そっちも遠くから攻撃できんのか…油断タイヤキ…」
ズルッ
マミ「あ!?」
かき集めた残りの雪が、『ジェミー』の後方へと飛んでいってしまう。
マミ「こ、このスタンド…この能力は…」
真美「いくよん」ビッ
ダン!
中指を立て、そこから一発の弾丸が放たれる。
マミ「うぐ!」ドス
その一発が、マミの胸へと命中した。
マミ「ぐあーっ、やられ…」ググ
マミ「って、あんま痛くない…」
ズル!
マミ「うお!?」
足が滑る。棚から落ちそうになったが、天板を掴んでとどまる。
マミ「う…」プルプル
しかし、『完全なアイドル』である彼女も自分の全体重を指だけで支えることはできず、今にも指は離れそうだ。
マミ「こ、この…このスタンド…」グググ
真美「」グッ
真美は上半身をひねりながら、左手で拳を作っている。
マミ「このスタンド、『引っ張る』能力だッ! マミの身体が…『引っ張ら』れるッ!!」ググググ
ズルッ
指が、離れた。
マミ「うあああああああああああああ!!」
ガン ガンッ
マミの身体が、棚の角にぶつかりながら、真美の方へと飛んでいく。
ガッ
真美は、膝を落とし…
真美「うりゃあっ!!」
ボゴォ
マミ「うげぇ!」
振りかぶるように、その『左手』でマミの全身を撃ち抜く。
ギュルルルルルル
ギャン! ガン ゴン ガン ガン
ドグッバァァーン!!
自分の身の丈ほどもある拳に殴り飛ばされ、マミは回転しながらブッ飛んでいった。
マミ「が、がふ…」ズル…
奥の壁からずり落ちる。
マミ「ぐ…双海真美…許さな…」
真美「おろ、まだ平気そうだね」
マミ「!?」グンッ
『ジェミー』に殴られた効果で、また身体が『引っ張ら』れる。
真美「じゃ、もいっぱつ」グッ
先ほどと同じように、構えた。
ゴォォォォォ
マミ「マ…『マイルド・スノー』ォォォッ!!」
真美「無理無理、守るための『雪』を集めるより、こっちが殴る方が…」グッ
カウンターを合わせるボクサーのように、一歩踏み込む。
真美「早い!」ヒュッ
ズルッ
真美「はれ?」フワ…
殴ろうとした瞬間、真美の足が床の『雪』に取られ、体が宙に浮いた。
真美「ぎゃっ!」グギャ!
そのまま、鼻から地面に叩き付けられる。
マミ「おお…っと」ヒュン
マミは真美の上を、柵の上を通り過ぎて、吹き抜けから下に落ちようとしている。
真美「!」
マミ「思ったよりはけっこー、強かったよ真美」
マミ「でも、そのスタンドはあくまでも『近距離パワー型』」
マミ「そっちは弾も届かない下の階からでも、こっちにはいくらでも攻撃手段はある」
真美(雪崩に大雪玉…量さえあれば、このスタンドに射程距離はあんま関係ない…)
真美(このまま下に行かれたら…まずい! かも!)
真美「『スタートスター・ジェミー』!」ゴウッ
マミ「………」ヒュルルルル
マミの周りに、『雪』が集まっていく。
真美「」バラッ
『ジェミー』は吹き抜けから下に向かって、『4』を作るように構える。
真美「はっ!」
ダン ダン ダダダン
人差し指、中指、薬指、そして小指から一発ずつ、弾が飛ぶ。
マミ「………」
ヒュン ヒュヒュン
弾は4発すべて、マミの横を抜けあらぬ方向に飛んでいった。
真美「………」
マミ「射的は慣れてない? 全然狙いが定まってなかったけど」
ゴォォォ
下から、何かが飛んでくる。
ォォォォォォォ
『ジェミー』の弾を当てられた缶が、勢いよくマミに向かい打ち上げられている。
ドボォ
しかし、それはマミが背中に出した『雪』の盾に防がれた。
真美「!」
マミ「当たると…思った? わざと外した、なんてバレバレだよ。これが狙いだったんでしょ?」ヒュルル
ガシャ ガシャン
缶は勢いを失い、真下に落ちていく。
ズルッ
真美「………!」
マミは、そのまま雪の上を滑って二階へと降りていった。
シャン
シャンシャンシャン
真美「うあ、これは…」
頭上に、大量の『雪』が集まってきている。
真美(これを落として、真美を押しつぶす気…!?)
真美(その前に、倒す…! …大丈夫!)ヒョイッ
三階の柵の下から身を出して二階を覗き込み、視線と一緒に『ジェミー』の指を向ける。
真美(どこだろ…?)
真美(また、どこかに身を潜めてるのかな…こっからじゃわかんない)
シャンシャンシャンシャン
真美「…………」
カサ…
ドォン!!
何かが動く音を聞くと同時、弾を撃った。
ズダン!
弾は地面にぶつかった。
マミ「ふ、んふふ…」
カサ…カサカサ…
音は、破れた包装紙が風で揺れているだけのものだった。
ゴゴゴゴゴ
マミ「ゲームオーバーだよ真美! 『雪』は集まった!」
ドボォォォォ
真美を、三階の全てを落ち潰そうと、空から『雪』の滝が降り出した。
マミ「そっから下まで、頭から落ちてみる!? まだ助かるかもよ!?」
真美「………」ボソ
マミ「え、何?」
真美「『引っ張る』」
真美「」ズルリ
ギュン!
真美は三階の床から降りると、地面に着陸しようとする飛行機のように、斜め方向で二階へと落ちてきた。
ズズゥゥン…
マミ「何!?」
真美「『ジェミー』の能力は、『引っ張る』んだからさ~」
真美「地面とか、壁とか…動かないものに打ち込めば、真美自身を『引っ張る』こともできる」ギュッ
ミシ…
ギュォォ
『ジェミー』の拳を握りしめながら、真美が突っ込んでくる。
マミ「うっ、く…」
真美「『雪』はないよ! 食らえ、『スタートスター…」
バァァァァン
その時。倉庫三階の床が、抜けた。
真美「なっ…」
マミ「ふふっ、こんなことはやったら後で怒られるから、したくなかった…『雪』の圧力で、三階ごと壊して埋めるなんてね」
マミ「でも、これでマミの勝ちだ! 三階が落ちてきてもマミは耐えられる…その上の『雪』は、マミのスタンド!」
マミ「この二重の圧力に、真美は耐えられない!」
真美「く…『スタートスター・ジェミー』!!」バッ
真美を守るように、手のひらを上に向ける。
ドザアァッ
真美「う…うお…」
マミ「あははっ、いくら『パワー』があったってねぇ、こんなもんを防ぎきれるスタンドなんてないよ!!」
メキ…メキメキ
上からかかってくる重量で、二階の棚も潰れ始めている。
マミ「さぁ、潰れろ! 潰れてしまえッ、真美ッ!!」
ビシ ビシビシビシ
ガラァァン
真美「わ!?」
そして、二階も抜け…
ズドドドドドド
ズズゥゥゥゥン…
その上から、膨大な『雪』が辺りを埋め尽くし、倉庫は白く染まった。
シン…
ズボッ
雪原から、腕が生える。
マミ「あーっはっはっはっは!!」ズルルッ
そこから、マミが上に這い出てきた。
マミ「終わった! 『本物』よりも、私の方が上だった!」
マミ「や、マミの方が上だ! 上なんだ!」
「んぎ…」
マミ「んん~?」
「んぎぎ…ぎぎ…」
マミ「雪の下から声が聞こえるね。生き埋めになってんのかな?」
マミ「そだなぁ、『許してください、出してください』って言えば出してあげるよ? 牢屋行きだけど! あはは!」
「………」
マミ「え、何? 聞こえないよ?」
「下はあなただと、そう言ったのです」
声は、地面からではなく背後から聞こえた。
マミ「は…」クルッ
ドドドド
貴音「これで…王手、と言ったところでしょうか」
ドドド
マミ「お…お姫ちん!? なんで…」
貴音「私は一階にいたので、二階より上が瓦礫になる前に離れることができ…」
貴音「降り注ぐ雪には『フラワーガール』で穴を空け…ここまで上がって来れました」
マミ「ど、どうして…」
貴音「貴女の『雪』のスタンドです。あれが、私の落ちた真下に敷いてあったので、落ちても大した怪我は負いませんでした」
貴音「そして、先ほどの降雪…量は多いですが、範囲が広いだけに集中している訳ではありませんでした」
貴音「それならば、私の『フラワーガール』は簡単に貫通させられます」
マミ「違う! 聞きたいのはそんなことじゃあない! お姫ちんの体力はもうなかった、『フラワーガール』は使えないはずだよ!!」
貴音「この倉庫、私達の生活に必要な物資はなんでも揃っていますね」
マミ「え?」
貴音「もちろん、食品の缶詰なんかも…」ポトン
カラン
マミ「缶…詰…?」
真美『はっ!』ダン ダン ダダダン
マミ『当たると…思った? わざと外した、なんてバレバレだよ。これが狙いだったんでしょ?』ヒュルル
マミ「あ、あれは…あれは、マミに攻撃しようとしたんじゃあなくて…」
マミ「真下に落ちたお姫ちんの所に、この缶詰を落とすために…!!」
「そゆこと」フフン
雪の下から、得意げな声が聞こえた。
貴音「缶詰というものはあまり口にしたことはなかったのですが、これがなかなか…」
真美「確かに真美は、一人じゃあ何もできない。でも…」
マミ「う…」
真美「二人いれば、なんでもできる」
真美「みんながいれば、もっとなんでもできる!!」
貴音「さて…貴女の頼みの綱の『マイルド・スノー』は足下にあります…が」
マミ「………」
貴音「………」
マミ「『マ…」ゴゴゴ
地面から、雪の柱が競り上がろうとするが…
ヒュオッ
スッ
マミ「イルド…」
マミ「すっ」ズグバァ!!
ドサッ
目にも留まらぬ速さで、マミは『フラワーガール』に切り捨てられた。
サラ…サラサラ
スゥ…
マミが砂になり、『雪』は融けるように消えていった。
真美「うんせ!」ガッシャァァァ
真美の上に積まれていた瓦礫を、『ジェミー』で一気に押しのけた。
貴音「ぐれぇとな相手でした」
真美「でも、真美達のコンビーフの勝ちだね!」
貴音「先ほどの缶詰でしょうか?」
真美「や、そうじゃなくて…えっと…ま、いっか」
真美(それから…)
真美「ふーっ、ごちそうさま」
貴音「………」
真美(あの後、連れてかれた人達の姿はもうなかったし、足跡も残ってないしで、追っかけることはできなかった)
真美(だから、お姫ちんと相談して…この、ホテルみたいなとこに戻ってきて、今晩ご飯を食べてる)
真美(結構人多いし、そんな長い時間外にいたわけじゃないから、こっそり戻ってきても気づかれなかった)
真美(そして、帰ってきてからも探してみたけど…765プロのみんなは、真美とお姫ちん以外はやっぱしここにはいないみたい。どこにいるんだろ?)
真美(ここのことは、ちょくちょく調べてみるつもりだけど…真美達は…しばらくは、ここにいるしかないのかなぁ…)
真美「お姫ちん、ここのご飯美味しいよね! しかもタダだし、なんでも作ってくれるし!」
貴音「………」
真美「はぁー、でもキュークツだよね…一生ってのはやだなぁ。みんなもいないし…」
貴音「………」
真美「お姫ちん?」
貴音「これだけ…なのですか…」
真美「へ?」
貴音「夕食は、これしか出してもらえないのですか…!」
真美「うーん、でも食べられるもの、今ここの食堂に残ってるので全部らしいし」
真美(ジムイン? ショクイン? のねーちゃん達が倉庫がメチャメチャになってるのを話してた)
真美(あの真美の『偽物』達をやっつけたから、真美達がカンケーあるってことはバレてないっぽいけど…)
真美(倉庫には缶詰もそうだし、その他にも色々食べ物が置いてあって…それは、全部ダメになっちゃったから、おかわりする分なんてないのだ)
貴音「一体、何故…昼は、昼はあんなにも食べさせてくれたではありませんか…!!」
真美「お姫ちんが食べたら、すぐ全部なくなっちゃうよ!」
To Be Continued...
スタンド名:「スタートスター・ジェミー」
本体:双海 真美
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:C 射程距離:E(1m) 能力射程:C(10m)
持続力:D 精密動作性:C 成長性:B
能力:真美の体を覆えるほどの巨大な「左手」のスタンド。
指先から「ジェミー弾」と呼ばれるテニスボール大の弾を打ち出し、弾に触れたものや、拳で殴ったものを「引っ張る」。
以前の「スタートスター」と比べると速度は遥かに劣るものの、パワーはメチャメチャ上がっている。
そのため衝撃にはかなり強いが、ダメージがあれば、真美の左手に返っていく。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
なんかもう日曜更新みたいになっちまってますが明日
だらだら始めます
響「もう、これしかない…」
千早(我那覇さんが、ぽつりと呟く)
亜美「何言ってんのさ、ひびきん!」
響「いいや、決めた! 自分、行かなきゃ」
亜美「そんなの、ゼッタイ駄目だよ!」
千早(亜美が我那覇さんにしがみついて、押さえつける)
響「止めないでほしいぞ、亜美!」
千早(しかし、我那覇さんはそれを振り払って歩き出してしまった)
亜美「だから、そんな服やよいっちには似合わないって!」
響「そんなの、亜美の思い込みでしょ! 今買ってくるぞ!」
千早(…私達は、デパートで買い物をしていた)
亜美「もー、やよいっちはそんなハデな服全然持ってないんだし、合わないって!」
響「やよいにはきっと似合うぞ!」
亜美「ひびきん、やよいっちを自分のペットみたいに思ってんじゃないの?」
響「確かにやよいはかわいいけど、そこまでは思ってないぞ! だいいち、家のみんなに無理矢理服着せたりもしたことないし!」
千早(みんながいなくなってしまって、プロデューサー達が捜索をしている)
千早(私、春香、美希、我那覇さん、亜美…私達も何かできないかと、集まってみたけれど…)
千早(結局、有効な手は何も思いつかず。私達にできることは、彼らに任せて待つことだけと、結論が出てしまった)
美希『ねぇねぇ、そろそろやよいの誕生日だよね?』
千早(そんな時、美希がそんなことを言った。確かに、もう1週間もしないうちにその日が来る)
千早(…高槻さんの行方は未だわかっていない。けれど…)
美希『後でゼッタイ必要になるの。プレゼントがないと、やよいガッカリするでしょ?』
千早(戻ってきた時のため…そのために、みんなでプレゼントを買いに行こうと、そう決まった)
響「とにかく、自分はこれをプレゼントするぞ! もう決めたもんね!」フンッ
亜美「ま、やよいっちならなんでも喜んでくれると思うけどね…亜美はしーらないっと」
響「それじゃ、店員さーん! ラッピングお願いしまーす!」
千早「ふふ…」
美希「ちーはやさん!」ギュッ
千早「ひゃッ!? み、美希! いきなり背中から抱きついてこないで!」
美希「あれ? それって…リボン? それ、やよいへのプレゼント?」
千早「いえ、これは…」
美希「春香に?」
千早「ええ、そうよ」
美希「春香の誕生日も、すぐだもんね。一緒に買っちゃった方がお得なの」
千早「うん…」
春香「響ちゃん、それやよいにあげるの?」
響「そ! きっと似合うと思うぞ」
春香「ふむふむ。それなら私は、それに合ったパンツを探してみましょうか」
亜美「よーし、もうこの際だ、みんなでやよいっちをオシャレにしちゃおっか!」
ワイワイ
千早「パンツ…? た、高槻さんに下着を…?」
美希「いやいや、下着じゃなくて下に履くものなの。千早さんの履いてるデニムとか」
千早「デニム…? 美希、これはジーンズというのよ」
美希「千早さんには今度、ちゃんと教えなきゃダメかもね…もったいないの」
千早「は、はぁ…」
美希「そういえば…」
千早「?」
美希「最近の春香、リボンしてないよね」
千早「…ええ。だから、と思ったのだけれど…」
美希「なんでだろうね? もう大海のフリする必要もないのに」
千早「『偽物』にリボンを引き裂かれてたから…それでかしら」
美希「そんなの、自分の家に帰れば他のがあるはずだし。ゼンブなくなってたとしても、買えばいいし…リボンがないと春香だってわかんないの」
千早「そ、そんなことないでしょう?」
美希「春香に直接聞いてみたら?」
千早「聞けないのよ、なんだか…」
千早(『アイ・ウォント』が戻ってきて…表面上は、いつも通りだけれど)
千早(でも、瞳の奥底はどこか冷たくて…なんだか、半年前の…あの時の春香に、戻ってしまったような感じがして)
千早「………」
美希「うーん。もしかしたら、みんなが戻ってくるまではつけない、とか決めてんのかもね」
千早「………」
美希「じゃ、誕生日の頃ならちょうどいいかも。ミキもプレゼントはリボンにしよっかな、千早さんのとは色違いの」
………
……
…
亜美「よしよし、これでばっちしだね!」
響「みんなが帰ってきたら、他のみんなのプレゼント選びも手伝わないとね」
春香「ね、ね、千早ちゃん」
千早「ど、どうしたの? 春香」
千早(荷物が少し多いと気づかれたかしら…? いえ、でもリボンだけだし…)
春香「ずっと美希とプレゼント選んでたよね?」
千早「え、ええ。美希は服選びのセンスがいいから」
春香「なんか、話し込んでたし…何話してたの?」
千早「いえ、大したことではないわ。誕生会のことや、いなくなってしまったみんなのことよ」
春香「割と、大したことだと思うけど…むむ、なんだかジェラシー」
美希「そう言えば…千早さんと響は一人暮らしだからいいとして…亜美、春香、今日出てきて大丈夫だった?」
亜美「ほぇ?」
春香「何が?」
美希「家の人に外出ちゃ駄目、とか言われなかった?」
春香「別に、そういうことは言われてないけど…何かあったの?」
美希「んーとね。今日、ミキが外に出ようとしたら、お姉ちゃんに止められたの。何か危ないことしてるんじゃないかって」
亜美「え、まさかスタンドのことバレちゃった!?」
美希「そこはバレてないっぽいけど、お姉ちゃん心配性だから。765プロのこととか調べて、ヘンなことが起きてるんじゃないかって思ったらしいの」
千早「…実際、起きているのよね…変なこと」
響「あ、でもそういうことだと、亜美のところは大変なんじゃないのか!? 真美が帰ってきてないから!」
亜美「ああ、それね…」
亜美「みんながいなくなっちゃった日、亜美はりっちゃんと一緒にいたんだけど」
春香「二人は外回りだったから無事だったんだよね」
亜美「兄ちゃん達から電話来た後、一緒にうちまで来てね」
律子『報告遅れてすみません。この度、765プロでは合宿を行うことになりまして…』
亜美「って、合宿ってことにして後からママ達からサインもらったんだ。だから、そんなに心配してないと思うよ」
美希「へぇ、うちにも来てもらおっかな」
春香「合宿…ね。そういうことにしておけば、私達がいなくなっても不自然にはならないね」
響「え…別に、自分達はあんな奴らに負けたりしないぞ」
春香「そういうことじゃないよ。今、765プロは休止中だし…」
春香「それに、みんながどこに行ったかがわかったら、そこに乗り込まなきゃいけないでしょう?」
響「あ…そっか! ピヨ子にみんなのエサやり頼まなきゃ…」
電話『とぅるるるるるるる』
千早「あら…電話だわ」ピッ
亜美「千早お姉ちゃん、着メロ設定とかしないの?」
千早「もしもし」
P『千早…無事か?』
千早「プロデューサー。ええ、何事もありません。どうしました?」
P『…車の持ち主がわかった』
千早「! 本当ですか」
美希「ちょっと待って、千早さん」ヒョイ
千早「み、美希?」
ポチ
P『なんだ、みんなもそこにいるのか?』
美希「はい、これでみんなに聞こえる」
春香「プロデューサーさん? どうしたんですか」
P『ああ、今千早には言ったが…車の持ち主がわかった』
亜美「車って…」
美希「ミキが撮ったやつだよね」
響「なんでわかったんだ?」
P『他の事務所も同じように襲われていてな…「スタンド使い」から逃げて避難している人達と連絡を取って、それでわかったんだが』
千早「そんなこと、どうだっていいでしょう。誰なんですか、その持ち主というのは」
P『あれは高木社長のものだ』
千早「! 高木社長…」
春香「………」
P『社用ではなく、個人で持っていたものらしい。複数人の証言がある、確かだと思う』
響「でも、高木社長って…」
亜美「そうだよ、社長は、あの時死んだハズじゃ」
美希「…『偽物』」
響「え?」
美希「あの時、死んだのは『偽物』だとしたら…本物の社長は、今も生きているとしたら?」
亜美「そ、そんなことありえないって! だって、あの時…」
千早「ありえないと、断定する方が難しいのではないかしら」
亜美「千早お姉ちゃん?」
千早「『偽物』は、血が出ない…と言うことは、息もしないし脈もない。死んだふりをすれば、誰も生きていると気づかないわ」
響「そう言われてみると…なんか、変な気がしてきた…」
千早(私が見た、あの後ろ姿…あれは、高木社長だったの…?)
P『高木社長が生きている…それは正しいと思う』
亜美「兄ちゃん」
P『これは律子が見つけたものなんだが』
千早「何かあるのですか?」
P『ああ。海外のサイトに、高木社長の写真があってな」
千早「写真、ですか」
P『いや写真だけじゃあない、日本でアイドル事務所をやっていることや、海外研修に来たということが書かれていた』
P『しかも、日付は1年前から最近まで毎日…つまり、社長はその間ずっと海外にいたってことだ…』
亜美「1年前から…!?」
P『俺達が社長が死んだのを見たのは半年前だ、これは明らかにおかしい』
美希「やっぱり、途中から『偽物』と入れ替わってたってことだね」
響「じゃあ、この出来事は高木社長がやっているってことなのか!?」
千早「恐らく…そう、でしょうね」
亜美「…信じらんない」
美希「でも、これではっきりしたね。敵は、高木社長なの」
春香「………」
響「プロデューサー、高木社長の居場所は?」
P『…それが、わからないんだ』
響「わからない?」
P『ああ…足取りが掴めないんだ。自宅を訪ねてみたが、本人もいない、車もない、手がかりになるようなものもない』
P『わかるのは、少し前に社長が海外から戻ってきたってことくらいか…』
春香「………」
亜美「でも…あんな大勢のアイドルがいなくなってるんだよ? なんかないの?」
P『交通機関は律子がスタンドで監視しているし、本人はまだこの近くにいるはずなんだ。今、全力で…』
春香「ちょっと待ってください」
千早「春香?」
亜美「どったのはるるん?」
P『何だ、春香?』
春香「本当に、犯人は社長なんでしょうか」
P『何?』
千早「他に、犯人がいるということ…?」
春香「って言うか…高木社長を疑うんなら、もっと怪しい人がいるんじゃないかなーって」
美希「なんでそう思うの?」
春香「なんで…って言うか、これ」スッ
春香が、自分の携帯の画面をみんなに見せる。
響「これは…高木社長…!?」
春香「私の『偽物』から取り上げた携帯のカメラに残ってたんだよね。日付は…」
千早「水瀬さんが『偽物』だと判明した1週間前…!?」
亜美「え、なになにどゆこと?」
P『な、なんだ? 何を話しているんだ?』
春香「この高木社長、どう見ても記念撮影って感じじゃあないよね…倒れてだらんとしてるし、頭が切れてるのか、ちょっと血も出てる」
響「ちょ、ちょっと…なんでそんな写真があるんだ!?」
春香「私が言いたいのは、それ…なんでこんな写真があるんだと思う?」
千早「な、なんでって…」
春香「まず、この社長は本物。『偽物』だったら、血は出ない」
美希「ここ…事務所の廊下だよね」
亜美「待ってよ、その日、亜美も事務所にいたけど社長なんか見なかったよ!?」
千早「一週間前…確か、真達が言ってたわ。『偽物』と発覚する一週間前には、水瀬さんは入れ替わっていたって」
千早「…! 水瀬さん…そう言えば、番号を残していたわ…あれは春香の携帯電話から…」
春香「社長は、きっと海外にいて、何も知らなかったんだよ。だから事務所に来た」
春香「高木社長が犯人だったとして、死んだと思われているのにわざわざ自分から姿を見せにくるなんてマヌケでしかないからね」
亜美「えーでもでも、社長が事務所に来たら来たで、誰か気づくっしょ?」
春香「それは私も悩んだんだけど…社長だし、みんなを驚かそうと思ってこっそり入ってきたんでしょ」
亜美「あー、なっとく…」
春香「そして、以前から事務所にいた私の『偽物』に襲われた。多分…伊織と一緒に」
春香「その中で伊織は一度この携帯を奪った。そして、この写真を撮った」
千早「『アイ・リスタート』が相手…水瀬さん、死にものぐるいだったでしょうね…」
春香「伊織が『偽物』と入れ替わるのと一緒に、社長も連れて行かれた。だから、亜美達が社長を見ることはなかった」
春香「ってのが、私の意見」
美希「なんかよくわかんないケド、とりあえず社長は犯人じゃあないってコト?」
春香「うん、私はそう思う」
響「えーと春香、思ったんだけど…」
春香「何?」
響「社長が犯人じゃないとしてさ、じゃあ誰が犯人なの?」
千早「春香、もっと怪しい人がいると言っていたわね。心当たりがあるの?」
春香「そもそも、なんで社長は海外に行けたの?」
千早「え?」
春香「なんで、私達はそのことを知らないの?」
亜美「それは、社長が『偽物』と入れ替わってたからっしょ?」
春香「違うよ。社長がいなくなるんだよ? 765プロに話がいかないのはおかしい」
亜美「?」
春香「社長は、なんで私達に何も言わないで海外に行っちゃったの?」
亜美「あ…それは確かにそうかも」
春香「プロデューサーさん、社長は海外研修に行ってたんでしたっけ?」
P『あ、ああ…どうやらそうらしい』
春香「その海外研修の話はどこから来たのかな…?」
美希「そういう話って、けっこー偉い人が持ってくるよね?」
春香「誰か、社長に話を持ちかけた人がいるはずだよね」
千早「そしてそれは、社長よりも…」
春香「多分、急な話だったんでしょう…私達が入れ替わったことにも気づかないくらいに」
響「強引だなぁ、社長みたい…」
春香「社長はきっと、私達にはその人から話が行くと思っていたはず。だから、誰も話を聞いていなかった」
亜美「その人、って765プロの人だね。亜美達も知ってる…」
P『春香、まさか…』
春香「ええ、いるでしょう? 一人、思い当たる人が」
P『! そうか、まずい…』
千早「どうしたんです?」
P『あれが社長の車だとわかった時、あの人も訪ねたんだ…車は置いてなかったが…』
P『荷物をまとめて…遠出の準備をしていた! この町から出て行くつもりだ!』
美希「あまり遠くまで行かれると、律子の『ロット・ア・ロット』でも追えないかも…」
亜美「そんなら、急がなきゃ! 逃げられちゃったら終わりだよ!」
P『律子、出るぞ! それと、スタンドを…』
響「よし、自分達も!」
春香「うん。行こう、みんな!」
………
……
…
グッ…
「ふむ…スーツケースが閉まらないな」
「…うーむ、こんなに多くはいらないか。必要なものは向こうにあるし、財布と携帯電話と…後は少しで充分だな」
「いかんいかん。これからと思うと、ついつい張り切りすぎてしまう」
「気がかりは…765プロか。皮肉なものだ、あそこだけが最後まで落ちないとは」
「まぁ、いい。残った事務所あれ一つだけだ、『複製』だけでもどうにでもなるだろう」
「それよりも、早くしなければ…順二朗のことに気づいた以上、私に辿り着くまでそこまで時間はかからないだろ」
『かがやいたー♪ ステージーにーたーてばー♪』
「む? 『複製』から着信か。なんだ、こんな時に…」ス…
ピタ…
「待て、これは天海君の携帯電話だ…彼女の『複製』は倒されたはず、と言うことは…」
「ふーむ、天海君が携帯に残っていた番号からかけているのか。なら、これは…」
春香「出る必要はないですよ。もう、わかりましたから」
「!」クルッ
男が振り向くと、部屋の外に携帯を持った春香達が立っていた。
千早「この番号からかかるということは、やっぱり…貴方なんですね」
千早「貴方が、『偽物』達を使って…皆を連れ去って行ったんですね…!!」
「…ああ、そうだよ如月君。全て私がやっていることだ」
春香「お久しぶりです。高木順一朗…会長」
順一朗「1年と…しばらくぶりだね。天海君」
辛いです…風邪引いたから…
来週
長らく放置してすみません。始めます。
キキーッ
律子「っと!」バタン
家の前に車を停めると、その中から律子が飛び出してきた。
律子「急いでください、プロデューサー!」
P「ちょ、ちょっと待て…今エンジンを…」
プロデューサーがシートベルトを外しているうちに、律子は家の中に踏み込んでいく。
バンッ
律子「はぁ、はぁ」
美希「あ、律子…さん」
部屋に足を踏み入れると、アイドル達と…その男がいた。
順一朗「おや、君達も来たのかね」
律子「『高木』…」
P「『順一朗』…!」タッ
数秒遅れて、プロデューサーが部屋に入ってくる。
P(半年前…高木社長が死んだ、そう思っていた時…)
………
順一朗『そうか、順二ちゃんが…』
順一朗『私が社長に戻るか…そうしたいのは山々だが、私も私でこっちで投げ出せない仕事が山積みでね。すまない、そちらには戻れない』
順一朗『君には負担をかけてしまうことになるが…何か困ったことがあるなら、いつでも連絡くれたまえ』
………
P(経営方面は不慣れだった俺は、会長には何度も助けられた)
P「信じられない…」
順一朗「………」
P「本当に…あなたなんですか」
千早「信じようが信じまいが」ザッ
千早が、プロデューサーをかばうように前に立つ。
千早「これが私達の辿り着いた答えです。プロデューサー」
律子「こちらに戻っていたんですね」
順一朗「あぁ。こちらに用事があったからね」
律子「全国を回っていたそうですが…充分な成果は得られましたか」
順一朗「あぁ…もう、用は済んだよ」
律子(高木順一朗、高木順二朗社長の従兄弟…いえ、765プロの元社長と言うべきかしら)
律子(小鳥さんも、アイドル達も、プロデューサーも、順二朗社長も、そして私も…元を正せばみんなこの人によって集められた)
律子(つまり、765プロという事務所を作った人物…!)
順一朗「せっかく訪ねてきてくれたのだ…どれ、お茶でも淹れてこよう」ス…
春香「動かないで」
順一朗「………」ピタ
春香「そのまま、そこの椅子にでも座っててください」
順一朗「………」
順一朗は、言われるままに椅子に腰掛ける。
順一朗「君達の活躍は…」
響「!」バッ
順一朗の声色が変わる、それに反応して、アイドル達は警戒の態勢をとった。
順一朗「いつでも見て、聞いていた。仕事をしていても、離れた地にいても。日々名を広げていく君達を、自分のことのように誇らしく思っていた」
順一朗「そして『スタンド使い』としても…私自ら出向いたとは言え、こうして私のことを突き止めた。素晴らしい…」
春香「………」
順一朗「本当に、素晴らしい…君達は…」ス…
順一朗は目を閉じ、座ったまま天井を仰ぐ。大きく息を吐きながら、顔を降ろし…
順一朗「765プロは、もういらない」
目を開くと同時、そう告げた。
ズズッ
美希が、『リレイションズ』を出した。
ゴゴゴゴゴ
美希「いらないとか、言うだけならなんだっていいケド…」
美希「その前に、765プロのみんなを返して」
亜美「真美は? みんなは無事なの!?」
春香「もし何かあったら、無事はちょっと保証できないです」
順一朗「ふむ…君達は一つ勘違いをしているな」
千早「…勘違い? あの『偽物』達は貴方が差し向けたのでしょう?」
順一朗「確かに、『弓と矢』を様々な事務所に送ったのも、彼女達を君達のところにやったのも私だ」
順一朗「だが、これだけは信じてほしい。私は、君達に危害を加えるつもりはなかった」
P「なかったって…現にみんな傷ついてるじゃあないですか! 千早なんて、ほら! 腕に包帯巻いて!」
順一朗「私も、彼女達を100%統制できていたわけじゃあない。いや、ある程度統制した上で、それでも手段が強引になってしまったのも認める」
順一朗「それでも、私は君達を痛めつけることが目的ではないし…そうなってしまったのは私としても申し訳なく思う」
順一朗「もっと穏便に済むと思っていたのだがね…君達が想像以上に強かったと言うべきか。天海君の件で、皆鍛えられたのだな」
春香「………」
美希「傷つけるのが目的じゃないなら、じゃあ、目的っていうのはやっぱり、美希達を『偽物』と入れ替わらせるコト?」
順一朗「簡単に言えば、そうなる」
響「それで、自分達を偽物と入れ替えて、どうするつもりなんだ? それに、何の意味があるんだ?」
千早「…『完全なアイドル』」
亜美「ほぇ?」
順一朗「ほう、如月君はもうわかっているようだね」
千早「いえ、わかったわけではありませんが…『偽物』達は、自身のことをそう呼んでいた。それが気になって」
律子「完全な…アイドル」
美希「それ、ミキも聞いた。なんなの? カンゼンなアイドルって」
順一朗「君達はいつまでアイドルを続けるつもりかね?」
千早「はい?」
美希「質問を質問で返さないで欲しいって思うな」
順一朗「いや、これが重要なことなのだ。すまないが、先に答えてくれたまえ」
亜美「そんなこと言われても…先のことなんてわかんないよ」
春香「私は、できることならずっとやりたいですけど」
順一朗「ずっととは、いつまでだ? 10年? 20年?」
春香「へ?」
順一朗「まさか、50年とはいかないだろう」
美希「50年って、春香おばあちゃんになっちゃうの」
響「春香だけじゃなくみんなおばあちゃんだぞ…」
順一朗「私はこの業界に飛び込んで、これまで数えきれないほどのアイドルを見てきた」
順一朗「私がプロデューサーとして手がけた中から、ほんの一握りの星が、あの舞台で輝き…そして消えていった。その日々のことは、昨日のように覚えている」
P「………」
順一朗「しかし、今…あの輝きはない。今なお芸能界にしがみついている者がいても、今なお輝いているとしても、それはあの時の輝きではない」
美希「うーん…それはそうかもしんないケド」
順一朗「今、この時代にこそ、あのアイドルが必要だ…そう思っても、あの日の少女はもうどこにもいない」
P「はぁ…」
順一朗「しかし、だ。君、ちょっと来てくれたまえ」スッ
プロデューサーを指差す。
P「へ? お、俺ですか?」
順一朗「そう、君だ。こっちに来てくれ」
P「えーと…」チラッ
アイドル達の顔を、順番に見回す。
順一朗「心配するな、何も人質に取ろうというわけじゃあない。第一…」
春香「………」
響「………」
美希「………」
千早「………」
亜美「む~ん」
ゴゴゴゴゴ
順一朗「この距離で、君達を相手に人質など取っても無駄だ」
P「…わかりました」ス…
律子「気をつけてください」
プロデューサーは警戒しながら、順一朗のもとへ近づいていく。
美希(千早さん、何か妙な動きをしたら…)
千早(わかってるわ)
P「で…何故、俺を?」スタ
順一朗「それはな…」スッ
キラリ
プロデューサーが前に立つと、順一朗は鋏を取り出し…
P「な…」
響「あぶないっ!」
千早「『ブルー…」
チョキン
プロデューサーの髪の毛の、ほんの先端を切った。
千早「…え?」
順一朗「うむ、これでいい。ありがとう」パラ…
P「は、はぁ…」
プロデューサーが頭を押さえながら、手前に戻ってくる。
千早(な、何…? プロデューサーの髪の毛を切った? 一体、何のために…)
順一朗「さて」スッ
どこから取り出したのか、順一朗はペンライトのような棒を握っている。
ジ…
その棒の先から光が出て、先程切り取った髪の毛に照射される。
美希「? …??」
順一朗「次は…」バッ
今度は、棒を誰もいない壁に向けた。
ジ…ジジ…ジジ
1mほどの横長の光が、地面から少しずつ上に競り上がっていく。
律子「な、なに…なにやってんの…?」
亜美「いや…なんか、出てきてるよ!」
ジジ…ジジジジ
光が通り過ぎた部分から、空間に印刷しているかのように、立体が現れる。
千早「こ、これは…」
順一朗「よし」キュッ
出力が終わり、棒を仕舞う。そこにあったのは…
p「………」
P「お、俺…だ…」
本物と寸分違わない、プロデューサーの体だった。
順一朗「これが私のスタンド、『アイ・ディー・オー・エル』だ。能力は、人や物の記憶から『複製』(コピー)を造り出すこと」
順一朗「DNAには生物の記憶が詰まっている。彼の髪の毛を使い、今の彼と同じ『複製』を作った」
春香「これで、私達の『偽物』…いえ、『複製』を作り出していたんですね」
順一朗「そう。そして、これが重要なのだが…こうして元さえあれば、私は何度でも『複製』を作り出せる」
順一朗「そして、『複製』は…歳を取ることがない…寿命もない。何かアクシデントでもない限り、永遠に同じ姿で居続ける」
千早「…!」
順一朗「そう。だから…『完全なアイドル』」
順一朗「所詮、アイドルは一過性のものだ。流行で、経年で、事故で…すべてのアイドルは、いずれ消える」
P「………」
順一朗「しかし、私の造った『複製』は消えない。例え私が死のうとも、永遠にこの世に残り続ける」
順一朗「私は素晴らしいアイドル達一人一人を、永遠に、この世に残したいのだ」
亜美「かいちょーが何をしたいのかは、わかったけど…」
亜美「でも、なんで『弓と矢』をバラ撒く必要があったの? なんで、亜美達を『スタンド使い』にしたのさ!」
響「それに、自分達を『複製』と入れ替わらせる理由にもなってないぞ」
美希「そうだよ、そっちでカッテに『複製』を造ってればいいって思うな」
順一朗「順番に話す。それを…彼の『複製』を見てくれ」
P「俺の『複製』?」
p「………」
春香「そう言えば、さっきから動かない…」
千早「…なんだか、全く生気が感じられないわ。と言うより…」
律子「まるで、人形みたい…」
順一朗「人形か…その通りだ」
律子「え?」
順一朗「その『複製』には精神がないのだ」
P「精神が…ない?」
順一朗「そう。ただ『複製』しただけでは、見た目くらいしか再現できない。所詮、それは彼と同じ姿をした人形に過ぎない」
千早「いえ…でも、だったら…あの『偽物』…『スタンド使い』達は、一体…」
順一朗「そこで出てくるのが…『矢』だ」
春香「『矢』…」
順一朗「この『弓と矢』は人を選び、才能を引き出す」
律子「ちょっと待ってください。そもそも、あなたはどうやってその『弓と矢』を手にしたんですか?」
順一朗「さぁ、いつだったか…確か、10年…20年…もっと前か? 私がプロデューサーとして活動していた頃だ」
順一朗「その時、私は当時担当していたアイドルを探していてな…彼女はいなくなった時、いつもある公園にいた」
順一朗「そこで…何故あんな場所に落ちていたのか? 誰かが落としたのか? わからないが、その公園で私は『矢』を拾ったのだ」
順一朗「そして…そのアイドルの引退が決まった日だろうか、自分で『弓と矢』の形に修復し、家に飾っていたそれから、私は一つの才能を得た」
律子「それが…『アイ・ディー・オー・エル』」
順一朗「そうだ。そして、そこまで昔ではないか…少し前の話だ」
…
……
………
私はこの世界に関わっているうちに、だんだん消えていった…消え行くアイドル達のことを考え、彼女達のことを…彼女達が輝いていた軌跡を、どうにか世に残したいと…そう考えるようになった。
その想いを振り払うように765プロを立ち上げたが、君達の才能を見ていたらと、その想いは消えるどころか、尚更強くなった。
順一朗『ふぅ…』ジジジ…
しかし、私がアイドルの『複製』を造ろうとした時、そこの彼のように…精神を持たない人形しか造ることはできなかった。
順一朗『私が世に残したいのは、こんな人形じゃあない! 歌って踊れる…「アイドル」だ!』
私は、どうにかして精神を持つ『複製』を造ることは出来ないかと…仕事が終わると毎日のように、人形を作り続けていた。
そんな、ある日のこと…
ヒュッ
ドスゥ!!
順一朗『うっ!? な、なんだ!? 何が起きた!?』
自分で試したわけじゃあない。それは、たまたま…
いや、と言うよりは、まるで…『弓と矢』が自分の意志で動いたかのように、私の造った人形のうちの一体を貫いたのだ。
スタンドは精神力が具現化したもの。精神を持たぬ人形が得ることはない…
得たところで…精神がないのだ。『矢』で貫かれようが、何の意味もない…
私はその時まで、そう思っていた。
しかし、彼女は…
『………』キョロキョロ
自分の意志で首を動かし、立ち上がり、歩いてみせ…
『おはようございます!』
そして、私に話しかけてきたのだ…
順一朗『あ、ああ…あああああ…』ボロボロボロ
私はしばらくの間、赤ん坊のように泣きわめいていた…涙が止まらなかった…
この時…私が長年抱いてきた想いは、とうとう遂げられたのだと…
私は自分のやってきたことは、間違っていなかったのだと…そう思った…
………
……
…
順一朗「そう…スタンドは精神の力…」
順一朗「『複製』がスタンドを持った時…知性の方がスタンドに引っ張られて、『複製』は精神を得たのだ」
春香「それで、他の人形にも『矢』を?」
順一朗「いいや、そう上手くはいかなかった。成功したのは最初だけでな…私が自分で試してみても、人形は『矢』で貫かれた瞬間、砂となって消滅してしまうのだ」
響「え? それじゃ、あのたくさんの『偽物』達はどうやって造ったんだ…?」
順一朗「簡単な話だ。要は、『複製』がスタンドを持ちさえすればいいのだ」
・ ・ ・ ・
響「…ん?」
順一朗「逆転の発想だ、『複製』したアイドルが『スタンド使い』になれないのなら…」
ゴゴゴゴ
順一朗「本物を『スタンド使い』にしてから『複製』しまえばいい…そうだろう?」
ゴゴゴゴゴ
千早「な…」
律子「なんですって…!?」
順一朗「まず、自分で試してみた。君達も順二ちゃんとして接してきた彼だが…あれは私の『複製』だ」
P「あ、あの社長は、あなたの…!?」
順一朗「結果は…言うまでもないだろう? 君達の方が、彼と接してきた時間は長いはずだ」
亜美「上手くいってたんなら、別に殺す必要なかったじゃん! あれで亜美、胸がすっごくキューってなっちゃったんだかんね!」
順一朗「殺す? …ああ、彼が『矢』に触れて死んでしまったのは偶然だよ。砂にはならなかったが、あれで精神が失われてしまったようだ」
順一朗「しかし、彼がやるはずだったことは、天海君がやってくれたし…医者に死んでいると診断された以上、そのままにするほかなかった」
春香「ちょっと待ってください…『複製』にスタンドを与えるため…?」
順一朗「?」
春香「それだけのために…」
春香「ただ、それだけのために…事務所に『弓と矢』を送り込んで、アイドル達を『スタンド使い』にしたっていうんですか…!?」
順一朗「そうだが?」
春香「くっ…」グッ
千早「…春香?」
春香は、拳を壊れそうなくらい強く握りしめていた。
順一朗「今はわからなくてもいい。だが、いずれわかる日は来る」
順一朗「そして、これは君達のためにもなるのだ」
美希「ねぇ、一ついい?」
順一朗「何かね?」
美希「さっき、エイエンにこの世に残るとか言ってたケド…ミキが戦ってきた『複製』って、けっこーカンタンに消えちゃったよ?」
千早「そうよ、彼女達は多少頑丈だけれど…『負け』を認めると、すぐに砂になってしまうわ」
順一朗「ああ、そうだな。これには私も参ったよ…『負け』を認めると、魂の力は非常に弱くなってしまう…結果、彼女達は精神を失い、体を保てなくなってしまう」
順一朗「そんなものはテレビの前には出せないし、私の死後、精神が失われてしまったら二度と元に戻すことはできない」
響「そうだぞ、会長の計画は、最初から終わってるんだ!」
順一朗「そこで、私は考えた…『負け』るのが駄目なら、彼女達が『負け』ない環境を造ればいい」
響「は…?」
順一朗「もしも全てのアイドルが『複製』に…同じ『仲間』になったら」
順一朗「すべての『複製』(アイドル)が同じ意思を持ったら…そこには、勝者も敗者もいない。それなら、彼女達が消滅することもないだろう?」
順一朗「だから私は、すべてのアイドルを『複製』に変えることにした」
律子「そ、そんな、馬鹿な話…!」
P「みんな『複製』にして、勝ち負けもないなんて…」
P「上手く言えないけど…なんか違いますよ、それ」
千早「プロデューサー」
順一朗「そうかね? では、何故競う必要がある? 何故、潰し合わなければならない? みんなそれぞれ素晴らしいものを持っているのに」
P「競い合ったから、戦ったから…頑張ったからこそ、今の皆があるんだ! 会長が手がけてきたアイドルだって、そうでしょう!?」
順一朗「それは、そうかもしれない。しかし、今や彼女達は完成されたアイドルだ」
順一朗「その『複製』ならば…それは既に完成されている。競い合う必要はない」
亜美「そうだとしても、アイドルとして出てくるのは『偽物』でしょ!? 本物の亜美達とは違うよ!」
順一朗「そうかね? 本当に、心の底からそう言えるのかね?」
亜美「ふぇ…?」
順一朗「ファンが求めているのは『偶像』としての君達だ」
順一朗「入れ替わりが起きたことや、諍いを起こしたことによる綻びはあっただろう。しかし、それさえなければ君達も入れ替わりには気付かなかったはずだ」
順一朗「事実、君達は順二ちゃん、天海君や水瀬君が入れ替わったことに気付かなかったじゃあないか」
亜美「う…」
順一朗「確かに彼女達は、君達自身ではない。しかし、アイドルとしての君達を完璧に演じることは出来る」
美希「だから、大人しく入れ替われって、そう言うの?」
順一朗「そうしてもらえるとありがたいのだがね。待遇は保証するぞ」
響「待遇は保証するって…どこに連れて行かれるんだ? みんなもそこにいるの?」
順一朗「個人的に、施設を作ったのだ。娯楽はなんでもあるし、望むものはなんでも用意する」
順一朗「あまり大声では言えないが、『アイ・ディー・オー・エル』を使えば金などいくらでも手に入るのでね」
亜美「その施設に…亜美達を閉じ込める気?」
響「自分達に、ずっとそこで暮らせって言うのか!? 冗談じゃない!」
順一朗「しばらくはそうなるかもしれないが、数年…『複製』のことが社会的に認知されるようになったら君達も社会に戻れる。そこで、好きなことをするといい」
律子「社会的に認知って、そんなの、されるわけないでしょう!」
順一朗「いいや、されるよ律子君。どんなにスタンド、『複製』を気味の悪いものと思っても、人は皆求めているのだ。永遠に変わらないものを。俗世と切り離された偶像を」
律子「………」
順一朗「さて、私の考えていることはこれでわかってもらえただろうか。で、どうかね? 大人しく来る気は?」
春香「断ります」
順一朗「ふむ」
春香「私は自分でアイドルになりたいから…だから、この道を選んだんです。それだけは、譲れない」
美希「ミキも、自分でキラキラしたものを見たいからアイドルやってるの。おとといきやがれなの」
千早「そうね…」
響「今のアイドルとしての自分の居場所は、自分で掴み取ったものだ。他の奴になんて、あげられない」
亜美「そんなことより、さっさとみんなを返せー!!」
順一朗「…まぁ、わかってもらえるとは私も思っていないさ」
律子「わかっていないのはあなたの方でしょう、会長」
順一朗「?」
律子「あなたは5人…私も含めれば、6人の『スタンド使い』に囲まれています。『大人しく来る気は』…なんて、聞ける立場じゃあないんですよ」
ゴゴゴゴ ゴゴゴ
律子「あなたのスタンドは…戦闘用じゃあないでしょう? 終わりです、これで。あなたの理想も何も」
順一朗「まさか…」
順一朗「まさか私が、何の対策もせずベラベラと喋っているだけだと…本当にそう思ったのかね?」ゴゴゴ
P「がっ…!?」バタン!
千早「!」
突然、千早の後ろにいたプロデューサーが倒れた。
千早「プ…プロデューサー!?」
ヒュン
千早(え?)
何かが千早の視界の隅を掠め、部屋の中に飛び込んでいった。
順一朗「さて」スクッ
順一朗は、平然と椅子から立ち上がる。
美希「逃がさないの、『リレイションズ』ッ!」ドオッ
美希がスタンドで、順一朗に向かって攻撃しようとするが…
ガッ!!
美希「!?」
何者かに、受け止められた。
美希「なのなのっ」ヒュヒュッ
?「ふっ」ガガッ
順一朗の前に立った何者かは、スタンドの腕だけで、美希の攻撃を捌いている。
千早(小さい…子供?)
千早(美希の『リレイションズ』の拳に当たらないよう、腕の部分を捉えている…)
千早(あれは…何者なの? あれも、『複製』…)
?「大丈夫ですか、高木さん」グググ
千早「………え」
その子供の顔を見ようとして、千早は、信じられないようなものを目にした。
順一朗「ああ…君のお陰でな」
?「それは、何よりです」ググ
千早「『優』…!?」
それは記憶の中の、自分の弟と同じような姿をしていた。
響「優? 優って…」
春香「確か、千早ちゃんの弟の…」
千早「いえ…違う。優は死んだ…優の『複製』なの…? いえ、でも…」
優「はっ!」ヒュゴ
美希「むっ!」バッ
少年のスタンドの攻撃に、美希は大きく一歩飛び退く。
キョロキョロ
優「みなさん、初めまして。そして…千早さん」ペコ
少年は辺りを見回すと、丁寧にお辞儀をした。
順一朗「紹介しよう、これがさっき話した、始まりの『複製』…」
順一朗「そして私の造った最強の三体のうちの一人だ」
千早「ま、待って…あなたは一体…」
優「僕は高木さんの護衛です。今は貴女とは何も話すことはありません…が…」
優「天海春香さん」クルッ
春香「え、私?」
優「『複製』のハルカさんは、あなたが倒したんですか?」
春香「…そうだけど?」
優「そうですか…残念です。彼女には、色々よくしてもらいましたから…」
順一朗「『アイ・リスタート』は4番目だが…『アイ・ウォント』に負けるとは思っていなかったのだがな…」
順一朗「しかし、私がアイドル事務所にばら撒いた『矢』の『複製』を持っているわけでもない…一体どうやって倒したのだ?」
優「………」
千早(怒っている…)
千早(やはり、『複製』…私の記憶の中のあの子とは違うわね。あの子が怒る時はもっと感情的になっていたわ)
律子「この子一人で、私達全員と戦うつもりですか?」
春香「最強って言ったけど…それは、みんな倒せるくらい?」
響「美希」
美希「んー…ちょっと待って」
亜美「亜美よりコドモみたいだけど、エンリョなくやっちゃうよ~ん」
ザッザ
全員で、二人を取り囲むように並ぶ。
順一朗「ふむ」
優「いえ、流石に6人の『スタンド使い』相手に正面からやりあえるほど強くはありません」フルフル
目を閉じて、ゆっくりと首を左右に二回振る。
優「ですが…」ス…
目をうっすらと開け、その場にしゃがみ込む。
ドォン!!
『アイ・ウォント』、『インフェルノ』、『リレイションズ』、『トライアル・ダンス』、『スタートスター』…5つのスタンドが一斉に襲いかかった。
順一朗「うむ…これは…」
ゴォォォォォォ
攻撃が、目前に迫る。
優「『ブルー・バード』」
・ ・ ・ ・
少年の横に、765プロの全員が見覚えのあるスタンドが、出現した。
響「こ、このスタンドはッ…!!」ドォッォ
美希「千早さんの…『ブルー・バード』!?」ゴォォォ
千早「同じ…スタンド…?」ヒュゥゥ
ブオンッ!!
律子「!?」フワッ
次の瞬間、順一朗と少年以外の体が、一斉に宙に浮き上がった。
亜美「な、なに…なんでっ!?」
律子「触れられてすらいないのに…私達全員の体を『軽く』した…!?」
優「違います。部屋の『重量』を『奪い』…この部屋の空気を『重く』しました」
順一朗「よっと」グッ
順一朗は、腕の中にスーツケースを抱えていた。
優「順一朗さんの体が浮かないギリギリ、僕も同じくらいの『重量』を残して」
律子「空気を…気体を『重く』…? ですって…」
響「うぐ…体が浮いて、思うように動けないぞ…」バタバタ
美希「『リレイションズ』まで浮いちゃって…パワーが出ないの」モゾモゾ
みんな天井に張りつけられ、思うように動けないでいる。
順一朗「おっとっと…ふぅ、この歳で抱えたまま歩くのは少し厳しいなぁ」スタスタ
優「我慢してください」スタスタ
二人は、涼しい顔で出口へと歩いていく。
春香(『六感支配』…)ズ…
春香(いや、駄目か…私達がこうして動けない以上、気休めにしかならない)
順一朗「それでは諸君…また近いうちに会おう、はっはっは!」
優「早く行きましょう」
少年は急かすように、順一朗の背中を押す。
ドサッ!!
優「………」クルッ
何かが落ちる音がして、少年は振り向いた。
千早「………『ブルー・バード』」スクッ
片膝をついていた千早が、立ち上がった。
優「千早…さん」
千早「天井から『重量』を『奪った』」
優「『同じスタンド』…『同じ能力』」
優「順一朗さん、先に行っててください」
順一朗「ああ…そうさせてもらうよ」ガララッ
スーツケースを押しながら、順一朗は去っていく。
千早「待って…!」
優「通しません」スッ
順一朗追おうとする千早の前に、少年が立ちふさがる。
律子「千早…!」
美希「千早さん」
亜美「千早お姉ちゃん!」
響「千早っ!」
春香「千早ちゃん」
千早「行くわよ…」スッ
優「………」ス…
お互い、向き合って構えた。
千早「はぁっ!!」ゴォッ
千早が『ブルー・バード』で殴り掛かるが…
優「………」パシッ
千早「!」
少年の『ブルー・バード』が腕を掴むと…
フワ…
『重量』を千早の方に『与え』ると、顔の高さまで全身が浮いた。
グイッ
千早「きゃ…」フラッ
空中で、今度は『重量』を『奪い』ながら、腕を引いた。千早の『ブルー・バード』が手前に引っ張られる。
優「んあっ!!」ズダン!!
千早「うっ…!!」バキャア!
ザザザザッ
そのままの流れで蹴りを鎖骨の辺りに叩き込まれ、千早はスタンドごとブッ飛ばされた。
千早「ごほっ、ごほ…」
千早は膝をついて、咳き込んでいる。
千早(速く、強い…そして正確…私の『ブルー・バード』より、全てにおいて上…)
優「それは本来のスタンドじゃあないですからね…こんなものでしょう」スタッ
千早の目の前に立つ。
千早「う…『ブルー…」
優「………」スッ
スタンドを構えようとするが、それよりも早く少年は千早の耳元に顔を近づけた。
優「………」ボソッ
千早「え?」
優「では」クルッ
スタスタ
千早の耳元で何かを囁くと、少年はそれ以上は何もせず去っていった。
春香「おお~う」フワ…
しばらくし、『重く』された空気が部屋の外の空気と混ざってくるにつれ、みんなゆっくりと地面に降りてきた。
律子「あれが、『ブルー・バード』…めちゃくちゃやってくるわね…」
響「むー、次会ったら勝つ!」
亜美「うむ! 亜美も次は本気でやっちゃうからね!」
千早「………」
美希「ねぇ、千早さん」
千早「え? な、何かしら、美希」
美希「最後、あの子供なんか言ってなかった?」
千早「それは…」
千早は、先程少年に言われた言葉を思い出していた。
優『話したいことがあります。明日、一人でまたここに来てください』
千早「なんでも…ないわ」フルフル
美希から目を反らし、ゆっくりと首を左右に二回振った。
To Be Continued…
おっと、今回の分はこれで終わりです
スタンド名:「アイ・ディー・オー・エル」
本体:高木順一朗
タイプ:特殊・道具型
破壊力:なし スピード:なし 射程距離:E(1m) 能力射程:E(1m)
持続力:A 精密動作性:A 成長性:完成
能力:高木順一朗が持つ、すべての始まりのスタンド。
ペンライトのような形状をしており、光を照射したものに宿った記憶の中から「複製」を作り出す。
生物も「複製」できるが、ただ「複製」しただけでは精神が失われてしまう。
「精神」を定着させるためには、精神を引っ張るための力…「スタンド」が必要となる。
だからこそ、順一朗はアイドル事務所に「弓と矢」を送り込み、アイドル達を「スタンド使い」にしていた。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
スタンド名:「ブルー・バード」
本体:「優」
タイプ:近距離パワー・標準
破壊力:C(E~A) スピード:A 射程距離:C(12m) 能力射程:C(12m)
持続力:C 精密動作性:B 成長性:C
能力:もう一つの「ブルー・バード」。姿は千早のものとほぼ同じだが、仮面をつけていない。
体格が一致している優は、その性能をフルに引き出すことができ、性能は千早のものを全ての面で上回る。
「気体」も含め、周囲のあらゆるものの「重量」を自由自在に操ることができる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
ただいま、pixivのアカウントで第一部の加筆修正版(二部のように地の文も混ざった形式)を投稿しています。よかったら、そちらもどうぞ
http://www.pixiv.net/member.php?id=1968100
また、漫画版の方も改めて紹介させていただきます
【アイマス】『弓と矢を破壊せよ!』【ジョジョ】
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42373730
駄目だ、どうしても気になる
>>190
>少年の『ブルー・バード』が腕を掴むと…
少年の『ブルー・バード』が腕を掴んだ。
>そのままの流れで蹴りを鎖骨の辺りに叩き込まれ、千早はスタンドごとブッ飛ばされた。
そのままの流れで蹴りを鎖骨の辺りに叩き込まむと、千早はスタンドごとブッ飛ばされた。
で
どうも調子が出ないんで次は来週土曜で
胸に包帯巻いてるから本当はDあるもん
始めます。あるもん…
千早(高木会長を取り逃がし、私達は全ての手がかりを失った…)
千早(765プロも、また襲撃されるかもしれない。あるいは、『複製』が直接自宅に来るかもしれない)
千早(そうなれば、そこから入れ替わるかもしれないし、また、家族にまで危害が及ぶ可能性かもしれない。アイドルのみんなは、自宅待機を言い渡された)
千早(けれど、私は…)
『話したいことがあります。明日、一人でまたここに来てください』
千早(その言葉の通り、一人で高木会長の家まで来ていた…)
優「…………」
千早が辿り着いた時、彼は既にそこに立っていた。
優「あっ!」
パタパタパタ
向こうも千早の存在に気がついたのか、少年は無邪気な顔をして駆け寄って来る。
優「千早さん、こんにちは! 来てくれたんですね!」
千早「…ええ、こんにちは」
千早(敵意は…感じられない。気を許すわけにはいかないけれど…)
千早(でも、この子が『スタンド使い』で…昨日、高木会長の護衛として、私達の前に立ちはだかった『複製』だったなんて、とても思えない…)
千早(それにしても…)
優「ああ、来てくれてよかった…すみません、こんな形で呼び出してしまって。他にいい方法が思い浮かばなくて」
千早(こうして見ると、本当に、あの子によく似ている…)
優「千早さん?」
千早「えっ? な、何かしら?」
優「なにやらぼーっとしていたみたいなので…」
優「あっ、調子がよくないとか? も、もしかして、昨日の僕の攻撃が…」
少年はあたふたしている。
千早(得体の知れない『複製』だと思ってたけれど…なんだか、急に年相応の子供に見えてきたわ)フッ
その姿を見て、千早は一息つく。
千早「いえ、そういうわけではないの。えーと…あなたのことは、何と呼べばいいのかしら?」
ユウ「僕の事は、ユウと呼んでください」
千早「…じゃあ、ユウ君」
ユウ「はいっ」
千早「今日、私を呼んだ目的は何? あなたは、自分を高木会長の護衛と言った…いわば、敵同士でしょう」
ユウ「え、えーと…それは…」ソワソワ
千早「?」
少年はしばらく、落ち着かない様子だったが…
バッ
意を決したように目を瞑ると、勢いよく頭を下げた。
ユウ「千早さん! 僕と、デートしてください!」
・ ・ ・ ・
千早「…はい?」
ユウ「あっ…違います! デートと言っても、恋人同士でするようなものとわけではなくて…」バタバタ
千早(別に、そんなことを気にしているわけではないのだけれど…)
ユウ「ただ、一日…今日一日でいいんです、僕と一緒に遊び回ってください!」
千早(………)
千早(意図が読めない。この子は一体何が目的で、私と遊びたいだなんて言っているの…?)
千早(しかし…私達は、全ての元凶である高木会長を逃がしてしまった。そして彼の行方も知れない)
千早(今、手がかりはこの子しか…今までを考えれば、『複製』が口を割るとは思えないけれど…それ以外に、ない)
ユウ「駄目ですか…?」
千早「いえ、わかったわ。それでいいなら」
ユウ「あ…!」パァッ
千早(この笑顔…)
千早(昨日は、あくまでも淡々としていたのに…どうして今日はそんな、あの子みたいな顔を見せるの…?)
千早「………」
ユウ「千早さん…? やっぱり、どこか体調悪いんじゃ…」
千早「いえ…大丈夫よ。それより、どこか行きたいところでもあるかしら?」
ユウ「そうですか…? それなら…」
ユウ「わーっ!」
ズンッ ズンッ
柵から身を乗り出す少年の目の前を、大きな象がのっそりと横切る。
ユウ「わーっ、わーっ! でっかぁ…!」
千早(ユウ君が行ってみたい、と言うので私達は動物園に来た。のだけれど…)
ユウ「でっかい! 凄い! でかいですよ、千早さん!」
象を指差し、顔をしきりに千早と象に往復させながら、興奮気味に言う。
千早「象を見たのは、これが初めて?」
ユウ「本とか、記憶の中ではありますけど…実際に見たのは、これが初めてです! うわーっ!」
千早「ふふっ…」
千早(なんだか、おかしい…あんなに目を輝かせて、本当に子供みたいね)
ユウ「はーっ、すごかったー」
千早「ユウ君は、動物園に来たことはないの?」
ユウ「ありません。高木さんに連れて行ってもらったのは、アイドル関係のことばかりでこういうところは初めてです」
千早「あら、アイドル関係と言うとライブかしら? 会長がそういうところに連れて行くなんて、意外ね」
ユウ「僕は他の『複製』と違って…えっと、多少は、表に出ても大丈夫ですから」
千早(『複製』は、実在のアイドルの姿をしているから…表に出れば、パニックになるかもしれない。でも、優はこの世にはいないから…)
ユウ「あっ、あの! それより、千早さんは動物園にはよく来るんですか?」
千早(あ…私、また暗い顔していたかしら…駄目ね、この子といるとどうしてもあの子のことを思い出してしまう…)
千早「ええ、まぁ…気分転換になるし、時々」
ユウ「じゃあ、次の順路に何がいるかもわかりますか!?」
千早「知っているけれど…内緒よ。次見てのお楽しみ」
ユウ「う~っ…それじゃ、早く行きましょう!」タッ
千早「ふふ、そんなに急がなくても逃げたりしないから大丈夫よ」
千早(でも、なんだか…どこか懐かしくて、楽しくて…こういうのも、悪くないわね)
ユウ「さあ願いを願う者達 手を広げて 大地蹴って 信じるなら」
千早(ユウ君は動物園を堪能した後、今度はカラオケに行きたいと言ってきた)
千早(そして今、この子の歌を聞いているのだけれど…)
ユウ「翔べ 海よりも激しく 山よりも高々く」
千早(上手い…)
ユウ「今 私は風になる 夢の果てまで」
千早(声質の違いはあるけれど、私と比べても見劣りしないのでは…?)
ユウ「ヒュルラリラ もっと強くなれ」
千早(優は、こんなに歌は上手くはなかったはずだけれど…)
ユウ「ヒュルラリラ 目指す arcadia ………」
パチパチパチ
曲が終わると、千早が拍手をした。
千早「凄い、上手いじゃないユウ君。驚いたわ」
ユウ「ありがとうございます! 千早さんにそんなこと言ってもらえるなんて、夢みたい…」
ジャラジャラジャラ
ユウ「あれ…?」
画面が切り替わり、スロットのように数字が回転している。
千早「えーと、これは今の歌に点数をつけてくれるのよ」
ユウ「え、そうなんですか!? わぁ、何点出るか楽しみ…」
『72点』バンッ
ユウ「え…?」
千早「あっ、ほらユウ君、これはあくまでも機械による採点で…そういうものなのよ」
ユウ「…採点は切りましょう。でも、その前に…」ポチポチ
少年が手元のパッドをいじると、カラオケのスピーカーから『inferno』のイントロが流れ出す。
ユウ「はい、どうぞ千早さん」
千早「えっ、ちょっと…私が歌うの?」
ユウ「僕だって千早さんの歌聴きたいし、そのために来たんですから。それに、千早さんの点数も低かったら、機械が悪いんだって納得できます」
千早「もう…」
千早(それから…たっぷり歌った後、本屋に寄り、ユウ君は数冊の本を買っていった)
千早(私は少し疲れたので、休憩しようと言って二人で私の知っている喫茶店に入った)
ユウ「見てください、この雑誌、千早さんが表紙ですよ!」サッ
少年が、テーブルに買ったばかりの雑誌を置く。
千早「この間、撮影したものね。今、765プロは休止中だから…新しい写真が載るのは、これが一番最後かしら」
ユウ「大丈夫。またすぐに載るようになりますよ」
千早「それは、私の『複製』が?」
ユウ「あ… ………いえ、千早さんは…」
「メロンのデラックスパフェお待たせしました~☆」ゴトッ
少年の言葉に挟まれるように、目の前におっきなパフェが置かれた。
ユウ「あ、えっと…」
千早「いいわよ、食べてしまって」
ユウ「…すみません。いただきます」
千早(わざわざ、言うようなことではなかったかもしれない…)
千早(でも、私達の立場はあくまでも敵同士…それは、忘れてはいけない)
千早「そう言えばあなた、食事を摂っても大丈夫なの?」
千早(血が出ない…と言うことは、食べることに関しても問題はあると思うのだけれど…)
ユウ「ええ。食べる必要はありませんけど、味覚はちゃんとありますから。美味しいものは美味しいと感じますよ」
千早(それだけの問題なの…? まぁ、本人がいいと言っているのならいいのでしょうけど)クイッ
そう思いながら、テーブルに置かれたコーヒーを口に運ぶ。
ユウ「んぐんぐ…」ヒョイヒョイ
少年はがっつくように、パフェを食べている。
千早「………」
ユウ「どうかしました? 僕の顔に何かついていますか」
千早「……ふぅ。ちょっと、動かないで」スッ
キュッ
千早はナプキンを取ると、手を伸ばし、少年の口を拭いてあげる。
千早「はい、取れた。口にクリームがついてたわ。たっぷり」
ユウ「あ…す、すみません」
恥ずかしそうに目線を下げてから、スプーンを丁寧に口に運んだ。
千早(わからなくなる…昨日の、あの兵隊のような『スタンド使い』のユウ君と、今私の前で無邪気にパフェを食べるユウ君…)
千早(昨日のあなたと、今のあなた…どっちが本当のあなたなの…?)
ユウ「ふぅ、ごちそうさま…」
千早「…そろそろ、話してもらおうかしら」
ユウ「え?」
千早「あなたの目的。なんのために、私を誘ったの?」
ユウ「………」
少年は、空になったパフェの容器を見つめている。
千早「今日は…正直言って、楽しかったわ」ギュゥ
下唇を軽く噛む。
千早「そう、まるで…あの子が帰ってきたみたいで」
ユウ「! 本当ですか!」
千早「…?」
千早(何かしら…今の言葉が、そんなに嬉しいの…?)
ユウ「あの…千早さん」スッ
少年は姿勢を正し、真剣な…昨日見たような、冷たさも感じるような目で千早を見る。
千早「…何かしら」
ユウ「僕を、弟にしてください」
ゴゴゴゴ
ゴゴゴゴゴ
千早「それは、あの子の代わり…ということ?」
ユウ「そう取ってもらって構いません。千早さんが言ってくれたように、今日は、代わりとしては…上手くやれたつもりです。自分でも驚くくらい…」
千早「…なるほど、納得したわ。最初から、それが目的だったのね」
ユウ「そ、それは違いますっ」ズイッ
千早「!」ビクッ
急に身を乗り出して来られて、千早の体が後ろに傾いた。
ユウ「私、ちはやちゃんの…」
千早「…ちはやちゃん?」
ユウ「あ…」ハッ
少年は乗り出していた体を席に戻し、顔を背ける。
ユウ「い、いえ。僕、千早さんのファンですから…一緒に、こういうことしてみたかったんです」
必死になって訴える。『複製』でなければ、顔は真っ赤になり、汗は滝のように流れていたのだろう。
千早「そう、なの…?」
ユウ「はい。確かに、この話をするためにこうして誘いました…でも、最初からとか、それだけと言うのは違います」
ユウ「だから、僕も…自然に、優君のように出来たんだと思います」
千早「…わかった、そのことは信じるわ」
ユウ「あ…!」
少年の顔がぱぁっと明るくなる。
スッ
しかし千早は、それに静止をかけるように少年に手のひらを向けた。
千早「でも、それとこれとは話は別よ」
千早「優の代わりとして受け入れろなんて…無理よ。母も私も、あなたを見ればきっとあの子を思い出すから」
ユウ「思い出しても、何も問題はありません。だって、僕が優なんですから」
千早「違う…」
ユウ「違いません。もしも…姿も、記憶も、性格も…なにもかも、優君を完全に再現できるのなら…それは、優君本人と変わらないのではありませんか」
千早「本人と…変わらない…」
千早(………)
ユウ「千早さんだって、春香さんが『複製』のハルカさんに変わっていたことには気がついていなかったでしょう?」
千早(そういえば、以前…春香と一緒に、小さな子と親を探しまわったことがあった)
千早(時期を考えると、あの春香は『複製』だったのでしょうけど…あの時は、そんなことには気付かなくて…)
千早(その陰では765プロが…いえ、アイドル業界自体が危機に陥っているなんて、思ってもいなかった…)
ユウ「高木さんは、ある場所で本物のアイドルの皆さんを保護しています。あの人の理想は…貴女達を傷つけるためのものではありません」
千早「確かに…彼女達は、『演じる』能力は高いのかもしれない。春香も、水瀬さんも、私達は入れ替わっていたことに全然気づかなかった…」
千早「疲れることも老いることもないのなら、確かに『完全なアイドル』としてふさわしい存在なのかもしれない…」
千早「そして、あなたも…完全な優を再現できる…のでしょうね、きっと」
ユウ「なら…!」
フルフル
千早「でも、やっぱり駄目よ」
期待するような少年の声を、両断するように首を振り、千早は言った。
ユウ「どうして…」
千早「完全に再現できるから、入れ替える…? 結局、それは私たちのやってきたことを、私たちが積み上げてきたものを、他人に渡すということでしょう」
千早「その積み上げてきたものこそが、人間よ。それがなければ、もうただの生物としてのヒトでしかない」
千早「例え本人に危害が加わらないからと言って、そんなことは許されないわ」
千早「それに…いくら表面を真似ることができたって、誰かが他人の代わりになるなんて、できっこない。絶対に」
ユウ「僕も、ですか」
千早「ええ」スッ
ためらいもせず、頷く。
千早「私の弟は、たった一人、あの子だけよ。あなたじゃあない」
ユウ「………」
ユウ「やっぱり…僕は、誰にもなれないんですね」
千早「…?」
ユウ「でも…それは嫌だ。認めてもらいます。どうあっても…」キッ
千早「!」
ゴゴゴゴ
少年が、千早のことを睨みつける。
ユウ「そう、僕達は同じスタンドを持った同士…お互い譲れないなら、やり合うしかないんだ」
ゴゴゴゴゴゴ
千早(やり合う…スタンドで、『ブルー・バード』を使って戦うつもり…?)
千早(何故、この子は…ここまで、優の代わりになることを望んでいるの…?)
千早(いえ…そもそも、何故この子はアイドルではなく優の姿をしているの…?)
スッ
少年が、席から立ち上がる。
ユウ「店の中でやりあうわけにも行かないですね。外に出ましょう」
ユウ「今度は、貴女も『インフェルノ』で…本気で来るはずですよね。僕も本気で行かせてもらいます」
千早「本気も何も…私は今こんな状態よ」スッ
ユウ「!」
袖をまくって、包帯の巻かれた右腕を見せる。
千早「あなたが怪我をしている私に勝ったところで、何も納得なんてしないわ」
ユウ「………」
千早「それに…せっかく楽しかった一日なのに、それを台無しにしてしまうようなことはしたくない…」
ユウ「…そうですね」フッ
カタン
少年から戦意が消え、椅子に座った。
千早(これで、戦いは避けられた…いえ、先延ばしになっただけね)
千早(ユウ君が望んでいるなら、この子の言う通り、私達はいずれ戦わなければいけない…)
ユウ「千早さん。ペン、貸してくれますか?」
千早「? ええ」
言われるがままに、胸ポケットに入れていたボールペンを渡す。
ユウ「では…」スッ
パラパラ
ユウは書店の紙袋から、地図帳を取り出し、関東地方のページを開く。
ユウ「見てください。神奈川の港から、船で1時間くらいでしょうか…」ススス
神奈川の海岸から、太平洋側にペンをなぞっていく。
ユウ「ここです。この島に、高木さんも…連れて行かれたアイドルの皆さんも、います」キュッ
その先にある島の一つに、丸印をつけた。
千早「島!? 高木会長はそんなものを所有しているの…!?」
ユウ「長年の蓄えもありますし、芸能事務所の社長をやるくらいですからね。『アイ・ディー・オー・エル』もありますし」
ユウ「どうぞ。これは持っていってください」スッ
少年は地図帳を閉じると、千早に差し出した。
千早「待って、どうしてこんなことを教えてくれるの…? あなたは高木会長の味方でしょう」
ユウ「高木さんが向こうに行った以上、僕もあっちに行かなければなりませんから。一日だけ、ワガママを許してもらったんです」
ユウ「『複製』はアイドルとして表舞台に立つことになりますが…僕は、アイドルではないですから」
ユウ「今は、護衛として使ってもらえていますが…高木さんの理想が叶った後、僕は用済みになるでしょうね」
ユウ「そうなったら…この世に、僕の居場所はなくなる…」ギュッ…
自分の体を抱きすくめる。
ユウ「それだけは、嫌だ…一刻も早く、貴女の弟として、僕だけの居場所を手に入れなければならない」
ユウ「だから、貴女には島に来てもらわなくてはならない。決着をつけ、僕が居場所を得るため」
千早「居場所…それが、そんなに大事なものなの…?」
ユウ「それは、千早さんが一番よくわかっていると思いますが」
千早「………」
ユウ「僕は諦めない。必ず、貴女に僕の存在を認めてもらいます」
ユウ「千早さん。今日は、ありがとうございました。もう、高木さんの下へ行かなければならないので…僕は、これで」スッ
少年は伝票を持って立ち上がると、千早に背を向けて歩き出す。
千早「優君」
ユウ「はい?」クルッ
千早が呼び止めると、上半身だけ振り向いた。
千早「今日、一緒に過ごして…楽しかったわ。とても」
ユウ「…僕も、楽しかったです。本当に」
カランカラン
会計を終えると、少年は店から出て、やがてその姿は見えなくなった。
千早(ユウ君…)
千早(地図帳を買っていた…最初から、こうなることをわかっていたの…?)
千早(…高木会長の居場所はわかった。早く、皆に伝えなくては)
春香「じゃあ、会長は…みんなは、この島にいるんですね?」
律子「ええ、恐らく…でも、ここ以外ないと思うわ」
千早「………」
千早が事務所に来ると、みんな事務室に集まっていた。
大海「はいっ! みなさん、拡大地図用意できましたよ!」バッ
大海が壁に拡大図を貼る。ちょうど、千早が地図帳で見たものと同じような図面だ。
P「お、千早。来たか、遅かったな」
千早「プロデューサー、これは一体…」
P「順一朗会長が犯人だってわかっただろう? それで、会長に身辺について調べていたら、2年前に島を買っている事がわかったんだ」
美希「ほら、ちょうどこのあたりだって」ピッ
千早「あ…」
美希が指差した場所は、少年が丸印をつけた部分と一致していた。
P「どうした、千早?」
千早「…いえ、なんでもありません」スッ
千早は、持っていた紙袋を背中に隠した。
小鳥「ほら、この写真。霧に囲まれて、中がどうなってるのかよくわからないのよ」
響「うわぁ、いかにもって感じだな…」
千早(疑っていたわけではないけれど…あの子の言っていたことは、本当だったのね…)
亜美「それにしても、千早お姉ちゃん遅かったよねホント。何やってたの?」
千早「何やってたのって…むしろなんで、皆集まっているのかがわからないのだけれど」
P「え? メール送っただろう? それ見て来たんじゃないのか」
千早「メール…? あ…」
千早が携帯電話を見ると、確かに事務所集合のメールが送られていた。
千早「気がつかなかった…」
亜美「気がつかなかった? 何やってたのかな~ん? なんかアヤシーですぞ?」
千早「………」
ユウ『…僕も、楽しかったです。本当に』
千早(もう一度…あの子に会わなくては)
千早(決着をつけるため、なんかじゃなくて…あの子のために、何かしてあげなくては)
美希「相手の居場所がわかった以上、乗り込むしかないの!」
P「音無さん、大海さん、申し訳ないんですが…」
小鳥「わかってますよ。事務所のことなら、私達が頑張ります」
大海「あと、みんなの家族や響ちゃんのペットのことも! 任せてくださいっ!」
響「デリケートな子もいるから、ちゃんとやってよね?」
P「出発は明日だ! 俺はスタンドを使えない、みんなに任せることになってしまうが…えーと…律子、頼む」
律子「みんな! この先何があるかわからないわ、準備と覚悟だけはしっかりしておくように!」
亜美「ラジャー!」
響「覚悟なら、とっくにできてるぞ!」
美希「そうそう。律子…さんこそ大丈夫?」
律子「あんたね…」
春香「行こう、みんなを…765プロを、取り戻すために」
千早「…ええ、そうね」
P「よし! それじゃあ明日の朝ここに集合…765プロ、出発だ!」
「「「はいっ!!」」」
お待たせしました、始めます
ブロロロロロ…
響「んーっ、潮風が気持ちいいーっ」
千早(船の穂先が、海を切り分けていく。私の長い髪が風に揺られている)
亜美「兄ちゃん、こんなの運転できたんだね」
P「ああ、昔事務所が暇だった頃に免許取ったんだよ。まさかこんな形で役立つとは思ってなかったけどな…」
千早(私達…残っていたアイドル達とプロデューサーは、中型のモーターボートを借り、神奈川の港から例の島に向かっていた)
ゴゴゴゴ ゴゴゴ
海上に、ドームのような白い塊が見えてくる。
春香「霧が凄いですね…あれが?」
P「そう、みたいだな」
亜美「おお…! なんかゲームのラストダンジョンっぽい! めっちゃ燃えてきた!」
律子「ゲームと一緒にしてんのはともかく…地図と照らし合わせてみても、あれで間違いないわね」カタカタカタ
律子は左手の地図を見ながら、右手でノートパソコンのようなスタンドのキーボードを叩いている。
春香「律子さん、中はどうですか?」
律子「ふー…」フルフル
ため息をつきながら、首を振る。
律子「駄目ね…『ロット・ア・ロット』で偵察しようと思ったけど、近くに出しても中に出しても、すぐ破壊されてしまうわ。何かある…」
律子「あの『霧』が、中に入ろうとする者を排除するバリアになっているんだわ。だから、どうなっているのか誰もわからないのね」
亜美「真美があの中にいると思うんだけど、『スタートスター』も届かないね。ま、最初はちゃんと正面から入らないとね!」
P「最初って、次なんてないと思いたいが…」
亜美「あの『霧』もスタンドなのかな?」
P「スタンドってのは『スタンド使い』にしか見えないんじゃないのか?」
春香「島を覆うくらいですから、プロデューサーさんにも見えるほど存在感があるのか…あるいは『霧』自体はスタンドじゃあないのかもしれません」
律子「美希。『リレイションズ』で遠くの方まで見てくれない?」
美希「むにゃ…」
律子「って、寝るな! こんな時に!」
美希「んー…? もう着いたの…? あふぅ…」ゴシゴシ
美希は目を擦り、ゆっくりと両手を伸ばしている。
律子「はぁー…こんなんじゃ使い物にならないわね…」
P「なぁ、近づいても大丈夫なのか…? 律子のスタンドが近づいただけで破壊されてるんだろ…?」
春香「大丈夫じゃなくても… ………」
春香「逃げ帰る選択肢なんて、私達にはありませんよ」
P「春香…」
律子「プロデューサー、怖じ気づいたのなら帰ってもいいですよ」
亜美「ほらほら兄ちゃーん、ここにきんきゅー用のボートがあるよん」
P「これに乗って帰れってか!?」
響「危ないなんて、当たり前だろ。でも、みんなを助けるためにはそんなこと言ってられないぞ!」
美希「すぅ…」
亜美「なんかあっても、亜美達でなんとかするからさ!」
千早「プロデューサー。構いません、行ってください」
P「…わかった。突入するぞ!」
ブロロロロ…
千早(あの中に、きっとあの子もいるのでしょうね…もしも、もう一度会ったら…)
千早(………)
千早(いえ、やめましょう。765プロの…アイドルの皆を助け、高木会長を止める…まずは、それが一番優先すべきことよ)
ゴゴゴゴ
千早(そのためにもまずは、この『霧』を突破しなくてはならない)ス…
千早は、ボートの先端に立った。
千早「『インフェルノ』」
千早(霧というものは、蒸気が冷やされて発生するもの)
コォォォォォォ…
ユラ…
千早の周囲が、熱で揺らめいていく。
千早(なら、熱を『与え』てやれば…)
ゴゴゴゴ ゴゴゴ
『霧』の壁が、目前に迫る。
千早「はぁっ…!!」
ズパァン!!
『インフェルノ』が拳を叩き込むと、大きな穴が空いた。
律子「よし!」
バァァーン
ボートが、厚い霧の壁を突破する。
ス…
響「内側も、結構霧っぽいな。今の壁よりは全然薄いけど」
美希「ん…」
春香「ほら美希、もう着くよ。起きて」
カッ!
ユラ…
響「…ん?」
何かが衝突し、船体が僅かに揺れた。
律子「プロデューサー、どこかぶつけました?」
P「え? そ、そうなのかもな…ぶつかるようなものはなかったと思うんだが」
亜美「ここまで来たら、ちょっとくらいぶつけちゃってもへーきだって」
ヒュン!
響「………」
響「ねぇ、霧の中で何か…飛んでないか?」
千早「飛んでる…? 鳥かしら…」
ブゥゥーン…
千早「確かに…何か、いる…」
P「? そうなのか、ここからじゃ見えないな…」
響「…スタンドかっ!?」
ビス!
亜美「わっ!?」
ガガガガガガガガ
霧の中から飛んでくる小さな何かが、次々とボートに降り注いでくる。
P「うおおおおおおおおおおおお!? 何だ!?」
春香「美希! 起きて、美希!」
律子「こ、これは…もしかして、私の『ロット・ア・ロット』を破壊していたのは…」
ガッ! ガガガッ!
P「あああっ、借りたボートに傷が…!」
響「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
ビュ!
千早「…そこ!」パシッ
『インフェルノ』の手が、降ってくるうちの一つを掴み取った。
千早「これは…『花びら』…? 刃のように鋭く尖っている…」
ヒュン! ガガ! ガガガガ!
千早「くっ!」ビッ!
降り注ぐ刃が、船体だけでなく、千早の体も切り裂いていく。
千早「花びらのようなスタンドが…」
千早「霧の中から襲いかかってくる…!!」
律子「『ロット・ア・ロット』!」
ブゥン
ドス! ゴガッ! ガガッ
船の周囲に設置された無数の箱形の衛星が、攻撃を受け止める。
律子「これで少しは…」
グゥゥーン
律子「!」
箱に収まった『花びら』は、ひとりでに脱出し…
ガガガッ! ガガ!
律子「きゃああっ!!」
再び、衛星を避けてボートへ降ってくる。
律子「意思を持って向かってくる…私の『ロット・ア・ロット』と同じ、群体の『遠隔操作』スタンドだわ!」
響「ドラァ!」バゴン
響が蹴り飛ばすと、『花びら』は脆く崩れ去るが…
ズガガガガガ
響「わっ!」
おかまいなしに、他の個体がどんどん攻撃してくる。
響「パワーは大したことないけど、数が多すぎるぞ!」
グラグラグラ
『花びら』が船体にぶつかるごとに、揺れが少しずつ大きくなっていく。
P「こっ」グラグラ
P「このままじゃあ、島に辿り着く前に沈むぞ…!」
バッ!
亜美「んっふっふ~、ここは亜美の出番のようだね」
亜美が、仁王立ちして右腕を天に突き上げた。
千早「あ…亜美? 何を…」
亜美「『スタートスター…」
ス…
ヒュンヒュン
亜美「あり?」
しかし、亜美が何かするより先に、『花びら』はすべて、空に向かって飛んで行ってしまった。
春香「『アイ・ウォント』」
亜美「はるるん…?」
春香「『触覚支配』。スタンドがたくさんあっても、本体はひとつだけのはず」
春香「そして、落ちてくる、ってことは重力に従って動いてきているってこと。だったら、その感覚を逆にしちゃえば…」
ゴォォォォォ…
春香「花びらは逆方向に飛んで行く」
響「ふぅ…」
律子「手荒い歓迎ね…岸に着く前にこれだなんて、骨が折れそうだわ」
響「ここから泳いでいくことになるかと思ったぞ」
千早「でも、これからはより困難が待ち受けているはず…」
律子「そうね。行きましょう」
亜美「いやー、それにしてもはるるんは頼りになりますなー」
春香「亜美、なんか怒ってない?」
亜美「べっつにー。怒ってないよーだ、ぶーぶー」
P「よし、もう着くぞ。みんな準備してくれ」
ザアァァァ…
木の枝が、風で音を鳴らしている。765プロが上陸したのは、深い森の中だった。
キー キー
響「動物の鳴き声が聞こえるぞ」
千早「何故、こんなところに?」
律子「ここがいいのよ。今ので、私達が来たことはバレているでしょうけど…この中なら、少しは見つかるまでの時間は稼げる」
春香「これから、どうするんですか?」
律子「まずは私の『ロット・ア・ロット』で島を調べ尽くして、捕まったみんなの居場所を探り出すわ」
P「それから、俺がその近くまで運ぶ。みんなには、いくつかのチームに分かれてもらうことになるかもしれない」
春香「島を調べ尽くす…かぁ。考えてみればとんでもないスタンドですよね、それ」
律子「あんたには言われたくないわ」
響「亜美、『スタートスター』で真美のところまでワープできないの?」
亜美「うーん…なんか、上手くいかないんだよねー。真美のスタンドが『スタートスター』じゃないのかも」
響「…? どういうこと?」
亜美「どういうことって、そのままの意味だよ」
響「???」
亜美「そっかー、真美もそうなのかー」
響「ねぇ、亜美。なんか隠してるでしょ? さっきもなんかやろうとしてたしさー」
亜美「んっふっふ~。さーてどうでしょう」
響「いいじゃん、教えてよ~」
亜美「それは後でのお楽しみ、秘密兵器ってことで!」
響「秘密兵器…? あ、そうだ。美希…」クルッ
響が、首を振って美希の姿を探す。
響「………」
キョロキョロ
ゴゴゴ ゴゴゴ
響「ねぇ、みんな…」
春香「ん? どうしたの、響ちゃん」
響「…美希は?」
ゴゴゴゴ
春香「あれ…そういえば、さっきからいないね。どうしたんだろ」
千早「春香、美希のことを起こしていたわよね?」
春香「起こした…と思ったんだけど…うーん、もしかしたら起きてなかったかも」
亜美「じゃあ、ボートの中で寝てるんじゃない? 着いたってことわからないでさ」
P「ありそうだな…」
律子「まったく、しょうがないわねあの子は…私が行ってやりたいけど…」カタカタ
律子は木を背もたれにして、キーボードを叩いている。
P「俺が連れてくるよ」
千早「私も行きます、プロデューサー。単独行動は危険です」
P「ここから目の届く範囲だろ? 単独行動だなんて大げさな。大丈夫だって」
千早「そうですか…?」
P「ああ、それより律子が調べ終わるまで見てやっててくれ」タッタッタ
プロデューサーが、岸に泊めてあるボートの方へと走っていく。アイドル達は、その背中を見送っていた。
千早「プロデューサー…大丈夫かしら」
亜美「兄ちゃん、危なっかしいからねー」
響「………」
春香「響ちゃん? どうしたの、まだ不安そうだけど」
響「ねぇ、春香…美希は本当に…ただ、寝ているってだけなのか…?」
春香「でも、敵の気配もないし…何かあったら、気付きますよね? 律子さん」クルッ
春香は振り返って、木の根元で『ロット・ア・ロット』を操作しているであろう律子に呼びかける。
シィーン
そこには、誰もいない。
春香「…律子さん?」
ゴゴゴ ゴゴゴ
春香「律子さんは…どこ行ったの?」
バッ!!
四人は示し合わせたように、自分達の背中をくっつけるように立つ。
千早「攻撃を…受けている…ッ…!」
春香「いつの間に…全然気付かなかった」
響「美希も…律子も、やられちゃったのか!?」
亜美「りっちゃん! ジョーダンやめてよ、つまんないよ! ほら、早く出て来なよ!」
シィーン…
返事はない。
亜美「うああ…! りっちゃんがやられたー! どーすんのさこれ!」
千早「落ち着いて亜美!」
響「で、でも…律子の『ロット・ア・ロット』ってそこら中監視してるんだろ!? それなのに気付かないって…」
春香「案外、近くのものは目に入らないものだからね。敵は思ってるより近くに…気付かないうちに、首元まで忍び寄ってるのかも」
響「うぎゃー! 怖いこと言わないでよー!」
千早「敵は私達のことを認識していると思って間違いないわね。そして、何らかの方法で姿を隠している…」
亜美「はるるん! 『アイ・ウォント』でなんとかしてよ!」
春香「え、私?」
亜美「敵は、こっち見てんだよね? 相手の目をくらませたりできないの? それか、でっかい音出して耳をキーンってさせるとかさ!」
響「そうだぞ! 相手が叫び声でも上げれば、どこにいるのかわかる!」
春香「うーん、さっきの『花びら』はスタンド自体が見えてたから『触覚支配』が使えたけど…」
春香「相手がどこにいるのか、誰なのかもわかんないんじゃあね…ちょっとイメージしづらいかなぁ」
亜美「じゃあ、どうすんのさ!?」
春香「…どうしよう」
亜美「おーまいがーっ!!」
春香「とにかく、こうやって死角を作らなければ攻撃されることは…」
千早「……!」
バッ
千早が、何かに気付いて顔を横に向けた。
響「ち、千早? どうした?」
千早「私達に攻撃できない…なら、敵が狙うのは…プロデューサーが危ないわ…!」
亜美「ああっ! 駄目だよ千早お姉ちゃん! 勝手に動いたら!」
千早「…! そ、そうね。こんな状況だからこそ落ち着かないと…」
響「そうだ、こんな時だからこそ残った4人で…」
・ ・ ・ ・
響「春香が…いないぞ…」
亜美「え…い、今の一瞬で!?」
千早「そ、そんな…春香が…!?」
ゴゴゴ ゴゴゴゴ
響「ねぇ…ヤバいんじゃあないのか、これ…!」
………
???「わぁぁっ! すっごーい、私! こんなに上手くいっちゃうなんて!」
???「えへへっ、一番ヤバい春香さんは倒しちゃったし、あとは3人!」
???「よーしっ、この調子でぎゅぎゅーんってやっちゃうぞぉ♪」
ゴゴゴゴゴ
*響「春香が…消えた…!!」
亜美「ちょこっと目を離しただけなのに!?」
ゴゴゴ
千早「…春香! まだ近くにいるなら返事をして!」
シーン…
千早「く、返事がない…」
響「美希も律子も春香も、気づかないうちにやられちゃったのか!?」
亜美「誰にも気づかれないで、みんな消しちゃった…? そんなことができるスタンドあんの!?」
千早「あろうがなかろうが、この状況は現実だわ…!」
千早「どうする…? このまま手を打たなければ全滅よ…」
響「って言っても、相手の能力もわかんないんじゃどうすればいいかわかんないぞ!」
千早「とにかく言えることは、互いから目を離してはいけないということね…」
亜美「はっ」
響「そうだ、離れてたら危ないぞ!」
バッ!!
三人で背中を合わせる。人数が減ったため、一人でより広い範囲をカバーしなければならない。
千早「私が目を離さなければ、春香は…くっ」
亜美「そんなん今言ってもしょーがないじゃん!」
*
千早「そうだわ、プロデューサーは…」
*響「プロデューサーには悪いけど、そっちを構ってる余裕はないぞ…」
千早「…そうね。ここで私たちが全滅したら、全てがそこで終わってしまうかもしれない…」
ザァァァァァ…
響(静かだ…)
キー キー
*響(木の揺れる音とか、動物の鳴き声とか…そんなのしか聞こえない…)
亜美「ねぇ、敵なんか本当にいんの!?」
響「いないなら、美希も律子も春香もどこに行ったんだよ…!」
亜美「ドッキリだったりして! ミキミキは船にいるし、りっちゃんとはるるんは隠れてんだよ!」
千早「敵の本拠地に乗り込んだ直後だというのに、もしも本当にそんな真似をしたというのなら…戻ってきた瞬間に火を点けるわ」
亜美「うげ…千早お姉ちゃんの前じゃあんまふざけない方がよさそうだね…」
響「千早の前じゃなくても、こんな状況でふざけてる場合じゃないだろ!」
亜美「でもこんな静かだし、敵の気配なんて全然…」
ボトッ
亜美「ほぇ?」
上の方から何かが落ちてきて、亜美は視線を落とした。
「シュルッ」チロッ
亜美「うぎゃっ!?」
ヘビが亜美の足元で、舌を出していた。
響「亜美!?」
「シャー」クワッ
亜美「うわわわわわ…ス、『スター…」
響「亜美、ステイだ!」
亜美「は!?」ピタッ
スタンドで攻撃しようとしたが、響の声で手が止まる。
「シュルルルル…」
ヘビは亜美の足元を通り抜け、森の中に消えて行った。
響「ヘビは動かないものは見えないから。じっとしてれば平気だぞ」
亜美「うぇー…いきなりでちょービビったー…」
亜美「はっ…千早お姉ちゃんは!?」
響「あっ、しまった…千早っ!!」
ゴゴゴ
亜美「そんな…」
ゴゴゴゴゴ
亜美「そんな、千早お姉ちゃんまで…!」
ゴゴゴゴゴ
千早「いえ…ここにいるわ」
亜美「ありゃ、ブジだったんだ」
千早「…もしかしたら、敵はもう行ってしまったのではないかしら」
響「そうかな…? まだ自分達が残ってるのに?」
千早「けれど、こっちの戦力は大幅に削られたわ…特に律子が潰されたのは大きい…あの霧が邪魔とはいえ、『ロット・ア・ロット』は皆の居場所も、高木会長の居場所も知ることができるスタンド」
千早「相手にしてみれば、なんとしても優先して潰しておきたかったはずでしょう」
響「目的は達成した…ってわけか」
亜美「えー、それってつまり勝ち逃げされたってこと!?」
???「違いますよぉ」
・ ・ ・ ・
千早「!?」バッ
三人が一斉に振り向くが、そこには誰もいない。
亜美「どこから!?」
響「上だ!」
響がいち早く気づき、斜め上を指差す。
リョウ「はぁ~い♪ みなさん、おっはよー!」
指差す先を見ると、枝の上に立っていた。
響「秋月涼…!?」
千早「の、*『複製』…」
亜美「なんで涼ちんの『複製』がこんなところにいんの!? 本物と入れ替わったんなら、876にいるはずじゃ!?」
リョウ「876の事務所は、今はちょっとおやすみ中なの。なんか、事務所がゴゴゴーって動いちゃったから大変みたい」
響「ああ…」
亜美「りっちゃんがそんなこと言ってたね」
千早「貴方が*春香達を…?」
リョウ「はいっ! 私の『シークレット・コーラル』でぇ、ちょちょいのポイポイってやっちゃいました♪」
響「『シークレット・コーラル』…? それがスタンドの名前なのか?」
リョウ「あっ、知りたい? でーもナ・イ・ショ、乙女のヒミツなんだからぁ♪ えへっ♪」
亜美「…ねぇ、なんかあの人メッチャおかしくない?」
千早「ええ…私の知っている秋月さんとは全然違うわね…」
響「今は普通に男として活動してるはず…だよね…」
リョウ「うーん、確かにホンモノの秋月涼はちょっとナヨってしてて女の子っぽいけど、イケメン目指してる男のコだけど…」
リョウ「でも、だからって私までその通りやる必要はないでしょう? だからぁ、昔の涼みたいに女の子アイドルとして活動することに決めたの!」
亜美「そういう問題なの…?」
響「なんのための『複製』なんだ…?」
リョウ「こっちの方が可愛いし、いいでしょ? りゅんりゅん♪」
響「でも…『複製』だから、体は男…だよな…?」
リョウ「もー、そうかもしれないけど、なんでそういうこと言うかなぁ? 私、女の子だよ?」
千早「………」
亜美「本物の涼ちんはもっとフツーに女の子らしかったのに…」
千早「そうね…秋月さんが女性アイドルとして活動していた頃は、しっかりと女性として振舞っていたわ…」
響「原型がないぞ…どっちかと言うと、変な時の真みたいだ…」
リョウ「えぇーっ? もう、みなさんったらひっどーい! 怒っちゃうぞーぷんぷん!」
亜美「うあうあー千早お姉ちゃん、なんだかすっごいキモいよー!」
千早「私に振らないで…どうしたらいいのかしらこれは…」
響「………」グ…
千早たちが困惑する中、響は膝を曲げ…
リョウ「私としてはぁ、このままみなさんにも全滅してもらえばー」
ズダッ!!
言葉の途中で、飛び出した。
千早「! 我那覇さん!?」
ダダダン!!
木の幹を蹴り、目にも留まらぬ速さでリョウのいる場所まで突っ込んでいく。
リョウ「もー…」スッ
リョウは不満そうな顔をして、木の陰に姿を消した。
ガッ!
・ ・ ・ ・
響が枝の上に立つと、もうそこには誰もいなかった。
バッ
木の裏側を覗き込む。
響(いない…)
響(いや、そもそもこの裏に足場になるような枝すらない…どこに行ったんだ…?)
響「二人とも! あいつが消えた瞬間は見えた!?」
千早「いえ…木の陰に隠れて、そのまま…」
亜美「そっちの裏っ側にいないの!?」
響(これがあいつの『シークレット・コーラル』ってやつの能力なのか…?)
響(でも、どうやってこの一瞬で姿を消したんだ…? それに、どうやってみんなを消した…?)
響(姿や音を消すスタンド…? いや、それだけなら春香の『アイ・ウォント』の方が上だ…みんな、なんとかする手段はある)
響(亜美の『スタートスター』みたいにワープできるスタンド…? でも、葉っぱや枝を踏む音とか、何の音も聞こえないのはおかしいぞ)
響(わかんない…)
響(わかんないと言えば、なんであいつはわざわざ姿を現したんだ?)
響(あのまま敵はいないと思わせた方が、やりやすいと思うんだけど…)
亜美「ひびきん!!」
響「ん!?」クルッ
呼ばれて、下の方を見る。
シーン…
響「千早は…?」
そこには最初から千早なんていなかったかのように、木が立ち並んでいるだけで…
亜美「………」
亜美の表情だけが、彼女が消えてしまった事実を物語っていた。
ゴゴゴゴゴ
響(そんな、千早まで…?)
響(これで、残りは…自分と亜美の二人だけ…)
響(ここまで来ても、まだ敵の攻撃の正体が掴めない…! ヤバい、ヤバすぎるぞこれ…!)
響「亜美!」スタッ
枝の上から、飛び降りる。
響「何があったんだ?」
亜美「わかんない…まさか、千早お姉ちゃんが亜美より先に狙われるなんて…」
響「くっ、自分が飛び出して行っちゃったから…」
亜美「………」
響「千早までやられちゃって…一体、あいつの能力はなんなんだ…?」
亜美「………」
響「亜美…?」
亜美「わかんないよ、何にも」
響「ど、どうしたんだ…?」スッ
亜美「近づかないで!」
響「!?」ビクッ
亜美に手を伸ばそうとしたが、声を張り上げられ、動きを止めた。
亜美「ワケわかんないよ! みんないなくなっちゃうし…! もうやだ!!」
響「あ、亜美! パニックになっちゃダメだぞ! ほら、落ち着いて…」
ダッ!
亜美は返事をすることなく、響から逃げるように駆け出す。
響「あっ…!」
ダダダダッ
響に背中を向けたまま、木々の間を走り抜けていく。
響「ちょ、ちょっと何やってるんだ!」タッ
その後ろ姿を追いかける。
響「止まれ、亜美! そんなの、攻撃してくださいって言ってるようなもんじゃないか!」
響(見失っちゃダメだ、自分が見失ったら亜美がやられ…)
ス…
亜美の姿が、森の中に消えていく。
響「亜美ッ!!」ダッ!
後を追うように、響は跳んだ。
ドグォ
ガサガサッ
木が、大きく揺れている。
響「…は!?」
リョウ「え…」
響の目に入ってきたのは、木の幹に磔にされているリョウの姿だった。
亜美「………」ググ…
亜美の背中から伸びた一本の腕が、リョウの腹に突き刺さっている。
響(今、何が起こった…?)
リョウ「ううっ…な、なに…?」
響もリョウも、状況を理解できずに固まっている。わかっているのはただ一人…
亜美「かかったね」
亜美だけだった。
亜美「さーて、捕まえた」
リョウ「くっ!」サッ
リョウが左手を挙げるが…
亜美「っとぉ!」ニュゥー
リョウ「あっ…!?」ダン!
亜美の背中から出た二本目の腕が、リョウの腕を、何かする前に木に押し付ける。
響(あれは… 『スタートスター』の腕? にしては…)
亜美「んっふっふー、逃がさないよん。さーらーにー」
ヒュン ヒュン
また二本、腕が出現する。
リョウ「四本…!? まず…」グイッ
身をよじった。
亜美「オラオラオラオラオラオラ」ヒュン ヒュヒュン ヒュ
リョウ「うっ、あああああああ!!」ズドドガガガバキ
四本の腕による高速のラッシュが、リョウの体に叩き込まれた。
リョウ「う………」
ドサッ
幹からずり落ちる。
亜美「よし」クルッ
ス…
背中を向け、スタンドを仕舞った。
リョウ「う…く…」プルプル
響「! 亜美、まだそいつ倒れてない!」
リョウ「これくらいで私に勝ったつもりですか…!」グオッ
亜美の無防備な背中に向かって手を伸ばすが…
リョウ「え…」フワ…
その手が亜美に届く前に、体が浮いた。
亜美「『ブッ飛ばす』」
リョウ「うわあああああああああ!!」
ドヒュゥゥゥゥゥ
リョウの体は、亜美の反対側へと『ブッ飛ば』されていった。
リョウ「ぐがっ! ぎゃっ!」ガン! ゴン!
『ブッ飛ば』されながら、骨と樹木がぶつかる音が辺りに響く。
シン…
・ ・ ・ ・
響たちの視界から外れたところで、突如その音は止んだ。
亜美「ありゃ、また消えちゃった」
響「………」
亜美「ひびきん、今あいつが出てくるところ見えた?」
響「あ、いや…」
亜美「そっかー。やっぱ、テッテーして他の人に見えないようにしてるっぽいね」
響「ねぇ、亜美…さっきのスタンドはどうしたんだ?」
亜美「ああ、『サニー』のこと?」
響「『サニー』?」
亜美「そ。『スタートスター・サニー』」ズッ
亜美の背中から、四本の『右腕』が伸びる。
亜美「イカスっしょ?」
響「いつの間に、こんなの使えるようになったんだ?」
亜美「えーと、先月だったかな? いやもっと前? 覚えてないや」
響「アバウトだな…」
亜美「でも、メチャメチャ強いよ? 今もああやってバーンってダメージ与えたし!」
響「そうだ、どうやってあいつに攻撃したの? あいつ、何やってるのかわかんないのに」
亜美「えっとね、『サニー』には二種類のモードがあるんだけど…まず、亜美が殴ろうと思った場所に一斉に攻撃する『乱打モード』」ガン!
近くにあった木を叩くと、枝が揺れ、ひらひらと葉っぱが落ちてくる。
亜美「オラオラオラオラ」ビシュシュシュ
空から落ちてくる葉に、空中に滅茶苦茶に突きを放つ。
ピシッ ピシィ
亜美「これが『サニー』の『乱打モード』、そんでもって…」
ヒュン!!
響「わわっ!?」
『右腕』が触れた葉が、カッターのように飛んだ。
亜美「『サニー』は触れたものを『ブッ飛ばす』」
亜美「それと、もう一つ…」ビンッ
四本の腕がアンテナのように立つ。
亜美「ひびきん、ちょっとこっち来てもらっていい?」
響「ん? 何?」スッ
ヒュン!!
響「わ!?」
響が亜美の方に近づくと、『サニー』が響に殴りかかってきた。
響「な、何するんだ!!」タッ
飛びのいて攻撃を躱す。
亜美「これが亜美に近づいた敵を勝手に攻撃してくれる『自動攻撃モード』」
亜美「『自動攻撃モード』の時亜美の周りに来たら、今みたいに誰だろーと攻撃するから、ひびきんも近寄らないでね」
響「そ、そういうことは先に言って欲しいぞ…」
響「さっき近づかないでって言ってたのはそういうことだったの? 取り乱したフリしてカウンターを狙ってたんだな…」
亜美「そそ! どうだった、亜美の名演技?」
響「ヤケになっちゃったのかと思って、ちょっと焦ったぞ」
亜美「んっふっふ~。ま、本当は千早お姉ちゃんが消えちゃう前に倒したかったんだけど…」
亜美「とにかくあいつが亜美に攻撃してきたら、この『サニー』で逆にボコボコにしちゃうよん」
響「でも亜美、それってつまり…」
響「亜美に攻撃させるために、さっきみたいに身を投げ出していくってことじゃないのか…!?」
亜美「他はみんなやられてるんだよ? あいつ倒すには、それしかないっしょ」ザッ
亜美は一人、堂々と前に出て歩き出す。
響(自動攻撃…確かに、これならどこから来ても攻撃できるけど)
響(でも…これで、本当に大丈夫なのか…?)
響(まだ、あいつの攻撃手段がわかったわけじゃあないんだぞ)
スタンド名:「スタートスター・サニー」
本体:双海 亜美
タイプ:近距離パワー型・群体
破壊力:C スピード:A 射程距離:E(1~2m程度) 能力射程:C(10m)
持続力:D 精密動作性:E 成長性:B
能力:背中から出た四本の「右腕」で、殴ったものを「ブッ飛ばす」亜美のスタンド。
亜美の意思で全ての腕が攻撃する「乱打モード」と、射程距離の中に踏み込んで来たものを自動的に攻撃する「自動攻撃モード」の二種類の形態を持つ。
「自動攻撃モード」の状態では自分でスタンドを操作することはできない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
途中で*が入ってますが新調したPCのバグみたいなものなので、気にしないでください…
リョウ「はぁーっ、はぁーっ…」
リョウ「何だったんだ…? 今のは…」
リョウ「亜美さんがあんなスタンドを持っているなんて、情報になかったよ…真美さんと一緒じゃなければ能力は使えないと思ったのに」
リョウ「射程距離内に入ったら自動攻撃か…僕のスタンドとの相性は最悪だ…」
プラン
『ブッ飛ば』さ*れ、木に叩きつけられた腕が、折れ曲がっている。
リョウ「………」
ゴキ!
もう片方の手で無理矢理曲げ、まっすぐにした。
リョウ「ま、いっかぁ…何度『ブッ飛ば』されても負けなければいいだけだよね」グッ パッ
直した手を握り、広げる。
リョウ「だってぇ、能力までバレたわけじゃあないし…」
リョウ「私の『シークレット・コーラル』が負けたわけじゃないんだから♪」
亜美「あっちから出てくる気配はないね」
亜美「んじゃ、亜美逹の方から行くか。かくれんぼの始まりだよ~ん」
響「ちょ、ちょっと待って亜美」
亜美「ほぇ? 何?」
響「あいつ、まだ近くにいるのか…? 春香達を倒して、引き上げてるかもしれないぞ」
亜美「逃げないよ」
響「え?」
亜美「だってさ、今亜美の『サニー』で『ブッ飛ば』されて…」
亜美「それで逃げるのってもうフツーに『負け』じゃん。あいつら、『負け』を認めたら消えちゃうんでしょ? だから逃げない」
響「あ、なるほど…それは確かにそうかも」
亜美「『サニー』は射程距離内に入れば自動的に攻撃する…隠れててもね。出てこないならこっちから探せばいい」
亜美「なんも問題ないよ」
響「本当に何も問題はないのか…? 心配だぞ…」
亜美「って言うかさー、気をつけなきゃダメなのは亜美よりもひびきんっしょ?」
響「なに?」
亜美「別にバカにしてるわけじゃなくて、はるるん達だってやられてんだよ? 亜美は『サニー』があるからいいけど」
響「む…」
響(そりゃ相手の能力がわからない以上、対抗できるのは亜美だけだけどさ…)
ヒュ
ドゴォ
亜美「!」
響「!」
『サニー』の腕が近くの木を叩いた。
亜美「そこかっ…!」
響「あっ、亜美…!」
バッ
亜美「おらぁ!」ドヒュ
裏側に回り込みながら、拳を一斉掃射する。
ゴォッ
亜美「あり?」
しかし、そこには誰もおらず…
ゴゴ
リョウ「………」
ゴゴゴゴ
リョウが、亜美の背後に立っている。
ズッ
亜美の後頭部へと手が伸びるが…
バキィィン!
リョウ「な…!?」
亜美「うおっ!?」
響「っとぉ…!」
その腕を、響が思い切り蹴り上げた。
リョウ「く…」タッ
リョウはすぐさま、後方へ飛びのいて木陰へと体を隠す。
響「ドラァ!!」ドォ
隠れた方角に向かって追撃を繰り出すが…
・ ・ ・ ・
響「………」
やはり、もうそこにリョウの姿はなかった。
響(まただ…一瞬見失ったら、煙のように消えちゃう…)
亜美「あのさ、ひびきん…」
響「もうっ、危なっかしいなぁ…! もうちょっとでやられるところだったぞ!?」
亜美「う…」
響「『自動攻撃』があっても、そうやって切り替えてたら危ないだろ!」
亜美「でも、今そこにあいつがいて、チャンスだって思ったから…」
響「そうかもしれないけど、それで亜美がやられたら終わりなんだぞ!?」
亜美「うぅ…ごめんなさい…」
響「…亜美、もう一回だ。『サニー』であいつのいる場所を探そう」
亜美「ほぇ?」
響「あいつがどうやって出たり消えたりしてるのかは知らないけど、『サニー』で『ブッ飛ば』してやるのが一番手っ取り早いでしょ?」
亜美「でも、それだと今みたいなことなるんじゃ…」
響「だから、亜美は深追いしなくていい。あいつが姿を現したら…」
響「自分が『トライアル・ダンス』の身体能力で攻撃を叩き込む」
亜美「…!」
響「自分がいるんだ、あんまり一人で無茶やらないでほしいぞ」
亜美「ひびきん…」
響「こうなったらもう、自分も腹を括るから! 亜美、任せたぞ!」
亜美「オッケーひびきん! サポートよろ!」
リョウ「やっぱり、キョロキョロ警戒されてたら簡単にはいかないなぁ」
リョウ「響さんも、もう春香さんや千早さんのようにはいかなさそうだし…」
リョウ「それにしても、亜美さん一人なら、さっきので決着してたのになぁ」
リョウ「響さんがいる以上、やっぱり能力がバレるくらいやらないと倒せなさそうかも」
リョウ「ま、でも…あの『サニー』さえ倒せば、響さんなんてどうにでもなるし」
リョウ「残りはたった二人、一人ずつプチプチくん潰すみたいに片付けちゃいますよ~♪」
亜美「………」
亜美「ダメだ、『サニー』が反応しない! 遠くには行かなくても、ヒョイヒョイ動かれたら見つけらんないよ!」
響「あいつはそんな速く動けないはずだぞ」
亜美「え?」
響「スタンドは精神力…こうやってコソコソ隠れて戦うような奴のスタンドはパワーもスピードも弱いはずなんだ」
響「自分たちとまともにやりあえるなら隠れる必要なんてないし、自分たちより速いならそれで戦えばいいだけでしょ?」
亜美「でも、ミキミキもりっちゃんもはるるんも千早お姉ちゃんもあいつにやられちゃったんだよ…?」
亜美「それに、すぐ出たり消えたりしてるじゃん! おかしいよ!」
響「うん。だから、きっとあいつの『スタンド能力』が何か関係してるはずだぞ」
亜美「その『スタンド能力』ってのはなんなの?」
響「それはわかんないけど…木だ」
亜美「木?」
響「ほら、あいつは消えるのも出てくるのも木の陰からでしょ?」
亜美「それは…スタンド能力をバラさないためじゃないの?」
響「そうかもしれないけど、あいつは能力を隠すことにこだわってる…同じ事だぞ」
亜美「んー?」
響「そして、千早。千早も木に寄りかかってて、それで姿を消した…」
響「だから自分はさっきから木の近くにはあまり近づいてない」
亜美「! それじゃ…」
響「どこの木陰に隠れてるのかはわかんないけど…木の周りを探していけばどこかにあいつはいるはず」
亜美「でも…」
ズラーッ
亜美「ここは森っしょ!? 木って言ったってメチャメチャいっぱい並んでんじゃん! 亜美がこれ一つ一つ探すの!?」
響「一つ一つって、そんなことしてたらあいつも逃げるし捕まえられないぞ」
亜美「だよね!?」
亜美「じゃあ、どうすんのさ!」
響「亜美、自分が見てるからちょっと『サニー』の『自動攻撃』を解除してくれる?」
亜美「? ほい」スッ
亜美の背中に張っていたサニーの腕が曲がる。
響「よし」ガシッ
亜美「え?」
響は、亜美の体を抱え上げると…
グルン
響「ドラァ!!」ブオン
亜美「うぎゃーっ!?」ギュン!!
一回転しながら、思い切り投げ飛ばした。
ゴォォォォォ
亜美の目の前に、木が迫ってくる。
亜美「ちょ、ちょっ…ぶつかるって…!」
響「殴れっ!」
亜美「お、おらぁ!!」ダスッ
グン…
ダシュゥ!!
亜美「うあ!?」
『サニー』で木を殴ると、攻撃の反動で、亜美の体が反対方向に『ブッ飛ぶ』。
響「やっぱり、これで自分の『トライアル・ダンス』みたいに飛んで移動できるな」
亜美「な、なるほど…! よし、飛んでる途中に『自動攻撃』にしておけば…!」ヒュン
ガッ
立ち並ぶ木の一つを、『サニー』の腕が叩いた。
亜美「よし、そこか…って、うあー!?」ヒュン
『サニー』の能力により、亜美の体が反対方向に『ブッ飛ん』だ。
すみません明日続き書きます
リョウ「ふふ…」
亜美が飛んでいく様子を、リョウは木の傍から見ている。
リョウ「亜美さんが飛んできたのはちょっとビックリしたけど、空中じゃあ自分の体をコントロールできない」
響「亜美っ! くぅっ…」タッ
『サニー』が殴った場所に向かって、響が走ってくる。
リョウ「私の居場所がわかったところで、来れるのは響さん一人…それなら、私のスタンドで…」
ガシィ!!
リョウ「え?」
亜美「………」
リョウ「亜美さんの背中から出た4本の『手』が、木にぶつかる前に受け止めた…?」
リョウ「あの手は触れたものを『ブッ飛ばす』…つまり…」
亜美「おらぁ!!」バチンッ
ドヒュゥゥゥン!
リョウ「飛んできた…!! まずい…」
リョウ「………」
亜美「いた! 木の裏に隠れてた!」
響「………」
響(やっぱり、何かがおかしい…)
響(ただ木陰に隠れてるだけなら、どうして何も気配なく隠れられるんだ…?)
響(そして、亜美が近づくと見つかる…それまで、完璧に隠れていたのに…)
響(まるで、自分から出てきてるみたいに…)
亜美「行くよ、ひびきん!」
響「ん! …う、うん!」
響(考えるな…さっき決めたでしょ、とにかく…今はやるしかない!)
亜美「オラオラオラオラ」ズバババババ
響「ドララララララ」ヒュン ヒュヒュヒュン
リョウ「うぶっ…!」メキャオ
響の蹴りと亜美の拳打のラッシュが、左右からリョウへと叩き込まれた。
リョウ「きゃあああああああああ」ゴォッ
ドガン!
リョウの体は再び『ブッ飛ば』され、木に叩きつけられる。
リョウ「う」ゴキン
ドサァ
その衝撃で首が折れ、地面に落ちる。
亜美「うぇ…」
響「お、終わった…?」
リョウ「4発…」フ…
響「!?」
リョウはふらりと立ち上がり…
ゴキン!
リョウ「えっへへ~」
自分の頭を掴むと、強引に首を直した。
響「ちょ、ちょっと…」
リョウ「駄目だなぁ。ダメダメダメダメ。そんな攻撃じゃ、私は倒せないぞっ♪」
響「普通の人間なら死んでるところだぞ…」
亜美「『複製』だって言っても、ちょっとカタすぎない!? なんでこいつ、こんなにガンジョーなのさ!?」
リョウ「別に、私だけが特別頑丈ってわけじゃないですよ?」
響「なに?」
リョウ「他の『複製』が消滅したのは自分たちを保っているもの…『精神』が揺らいでしまったから、つまり『負け』を認めたからです」
リョウ「そうでなければ、元々『複製』はこれくらい丈夫にできてるんですよ」
リョウ「ま、徹底的に壊そうとすれば体の方の破壊も可能かもしれないけど~」
響「………」
亜美「う~…」
リョウ「二人ともそこまで本気では攻撃してこない…お優しいですね♪ リョウ、キュンキュンしちゃいそう♪」
リョウ「でも…」
響「!」
リョウ「そんな精神…そんなスタンドじゃあ、私に負けを認めさせることなんて絶対にできない」
リョウ「つまり~、私に勝つことはできないってことですよっ♪」
亜美「亜美達が勝てない…?」
リョウ「ええ、だって未だに私のスタンド能力すらわかってないんでしょ?」
亜美「わかんないけどさ…」
亜美「でも、わかんなくても『ブッ飛ばす』! そうすりゃカンケーない!」タッ
亜美がリョウへと突っ込んでいく。
リョウ「………」グッ
響「! 亜美、そいつ手に何か握って…」タッ
響も、亜美のフォローに向かう。
リョウ「ほいっと」ブンッ
ザバァッ
亜美「わ!?」バッ
その瞬間リョウが手の中に握っていた砂を亜美達の顔に向かって投げつけ、二人の目が閉じる。
響「す…砂…?」
亜美「あ…」
一瞬目を閉じた隙に、リョウの姿は再び消えていた。
響「うがー! こんなのであいつを見失っちゃうなんて…」
響「なんかあいつの思うように動かされてる感じがするぞ…!」
亜美「勝てない…」
響「ん?」
亜美「ねぇひびきん。ひびきんも、あいつには勝てないって思う?」
響「ちょ、ちょっと亜美…何弱気になってるんだよ」
響「確かに、あいつのスタンドは得体が知れないけど…でも、勝たなきゃ駄目だぞ! いなくなったみんなだって、助けられない!」
亜美「まー、そりゃそうだよね」
響「亜美…?」
響(亜美…どうしたんだ? もしかして、本当に弱気になってるんじゃ…?)
響(ただでさえあいつを倒す手段が見えないのに…そんなになってちゃ、勝てるものも勝てなくなるぞ)
響(それに、木から離れてれば安全ってわけでもない…あいつのあの自信、何もせず隠れているだけなんて思えない)
パラ パラ
響「…?」
亜美の頭の上から砂が落ちてきた。
響「ねぇ、亜美…」
ヒュン ヒュン
響「え!?」
亜美「ん?」
ビシィ!!
『サニー』の4本の腕が、上の方へ向かって勝手に攻撃を繰り出した。
「ギッ ギッ」
「シュル…ルル…」
よく見ると、虫やヘビなどの動物が亜美の頭上に落ちてきている。
リョウ「4発…」
響「!」
どこかから、リョウの声が聞こえる。
リョウ「『自動攻撃』ができるのは、その腕の本数だけ」
響(こいつ…態度はふざけてるようにしか思えないのに…)
リョウ「1本1本は、一度攻撃したら連続しては攻撃できない」
響(よく見てる…亜美の『サニー』を攻略するために…こんな手を使ってくるなんて…!)
リョウ「だからぁ~まずこうやって虫とかを使って引っ掛けてあげれば~」
亜美「あげれば…なに?」
ヒュ
リョウ「え?」
ドス ドスゥ!
リョウ「うべぇ!?」
亜美の攻撃圏内に現れたリョウの腹に、2本の腕が突き刺さった。
リョウ「あああああああああああ!?」
ドシュバン! ガガガッ!!
ブワァ…
リョウの体は転がりながら『ブッ飛び』、砂煙が上がる。
響「あ、亜美…それ…」
亜美「ん…」
ヒュン ヒュン
6本の腕が、亜美の背後で動く。
亜美「『スタートスター・サニー』」
亜美「ねぇ、ひびきん。勝てないとか言われたらさー、すっごくムカムカしない?」
響「へ?」
亜美「するっしょ?」
響「う、うん…すっごくムカつくぞ」
亜美「勝つよ。亜美、負けんの大っ嫌いだかんね」
次は土曜にやります
ぬぅ…申し訳ございません、日曜夜で
リョウ「ぐ…う…」
ザザ…
砂煙がリョウの姿を覆い隠そうとする。
響「このまま見失ったらまた厄介なことになりそうだな」
亜美「そだね。だから…」
グッ
6本の『サニー』が手の中に石を握る。
亜美「ここで倒す」
亜美「オラオラオラオラオラオラ」ドッドド バババ
腕を次々振り抜くと、石がリョウへ向かって『ブッ飛んで』いく。
ビュオッ!!
リョウ「う…!」
リョウには命中しないものの、石が生み出す風圧が、砂の幕を吹き飛ばした。
リョウ「っ…!」バッ
近くの木に向かって手を伸ばすが…
キキィッ
響「遅いぞ」
リョウ「響さんっ…」
数メートル離れた地点から響が一瞬で現れ、目の前に立ちはだかった。
グ…
響「ドラァッ!!」ダムッ!
身をかがめてから、弾丸のように突っ込む。
リョウ「ぐふっ…!」ゴキャ
ドギュゥゥン
ぶつかった衝撃で、リョウの体が浮き上がった。
響「亜美!」
亜美「おっけー」グッ
リョウ「う…」
その着地点には、亜美が待ち構えていた。
リョウ「うわあああああああああ」
亜美「オラオラオラオラオラオラオラ」ヒュン ヒュオン
リョウ「ああああああああ」ガスガスガスガス
6本の腕で、突き上げるように拳を叩きつける。
リョウ「きゃ…」フワ…
ドヒュゥゥゥゥン
リョウが、空に向かって『ブッ飛んで』いった。
リョウ「うぅっ、何もできない…攻撃が速すぎる…!」
リョウ「でも…このまま『ブッ飛んで』いけばむしろ逃げられ…」
ダン!
リョウ「え?」
響「うおりゃああああああ!」ダダダダダ
リョウ「なっ…なんだぁーっ!?」
リョウが近くから聞こえた足音に目を向けると、響が木を垂直に走って登ってきていた。
タッ
『ブッ飛ぶ』リョウを追い抜き、木を蹴って飛ぶと…
響「ドラァ!!」ヒュ
リョウ「ぶ…!」ドギン
ゴゥォォン…
空中で円を描くように蹴りを繰り出し、地面へと撃ち墜とした。
クルクル スタッ
響はそのままの勢いで、他の木の枝へと飛び移る。
響「………」チラ…
リョウ「あ…うぉ…あが…」プルプル
下の方を見ると、リョウがゆっくりと体を起こしていた。
響「まだ起き上がれるのか…タフだな…」
響(にしても…)
響(こいつはなんで、こんなボコボコにされてるのにスタンドを出さないんだ…?)
響(スタンドが戦闘用じゃないからって、どうして何もしない…? こうも一方的にやられてていいのか…?)
響(こいつのスタンドは…なに?)
亜美「んっふっふ~。さーて、大人しくりっちゃん達をかいほーすれば手荒な真似はしないぜ~」
亜美「って、なんか悪役みたいなセリフだこれ!?」
リョウ「………」
亜美「…みんなを逃す気はないようだね」
亜美「じゃ、ちかたないね。倒せばスタンドの能力は消える」グッ
亜美が背後の木を、6本の腕で掴んだ。
グッ グググ ギシッ
響「…! ちょっと待て、亜美!」
亜美「おらぁっ!!」バッ
ドギュン!!
放すと、亜美はリョウに向かって『ブッ飛んで』いく。
ゴォォォォォォ
ぐんぐんと距離が縮まっていく。
リョウ「………」
リョウは、諦めてしまったかのように全く動かない。
亜美「オラ…」
目と鼻の距離まで近づき、亜美が攻撃しようとした瞬間…
リョウ「かかりましたね」ガッ
ガパン!!
亜美「!?」
リョウが、地面を捲りあげた。
ォォォ…
その下には、ポッカリと穴が空いている。
リョウ「『シークレット・コーラル』」
響「な…亜美ッ!」
亜美「サ、『サニ…」
リョウ「遅いですよぉ」
パタン…
動く前に、巨大生物が口を閉じるように、地面が元通り閉められる。
亜美は、その中へと飲み込まれていった。
リョウ「はい、おしま~いっ♪」
・ ・ ・ ・
響「な」
バンッ
リョウは近くの木の幹を、ドアのように開くと…
パタン…
その中に入り、扉を閉めた。
シン…
ゴゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴ
響「っ…亜美!!」ダッ
ガリガリ
亜美が閉じ込められた辺りの地面を引っ掻くが…
響「はぁ、はぁ」
土が覗くばかりで、亜美は出てこない。
響「亜美ー!」
返事はない。
響「美希ー! 千早ー! 春香ー! 律子ー!」
誰の声も、返ってこない。
響「うぅ…自分だけになっちゃったぞ…」
響(あいつの能力はわかった…ああやってドアみたいに木や地面を『開けて』、その中に自分や他人を閉じ込める…)
響(そしてたぶん、あいつはその中でも動ける…いろんな場所から出たり消えたりしたのはそのためだ)
響(春香達は、あいつの空間に引きずり込まれて何もできず閉じ込められたんだ…!!)
響「う…」バッ
振り向く。
響「あっ、ああっ」バッ バッ
辺りを見回す。
響(あいつは空から魚を狙う鳥のようにどこからでも自分を襲ってくる…!)
響(駄目だ…今あいつがどこにいるのか、どこから出てくるのか一人じゃあ全くわからない!)
響(亜美のような『自動攻撃』がなければ、必ず死角ができる…一人じゃあ、絶対にあいつには勝てない…)
響「………」
ゴゴゴ
ゴゴゴゴ
リョウが地面の中から、響の姿を見つめている。
リョウ『えへへっ、こんなに上手く行っちゃうなんて』
リョウ『私の「シークレット・コーラル」…能力はバレちゃったけど、もうこれで私の勝ちだよね』
リョウ『この能力の前にはいくら速く動けても、何の意味もない』
リョウ『響さんの身体能力を上げるスタンドなんて、何の役にも立たない!』
リョウ『動ける速さは地上を歩くより遅いから、一番困っちゃうのはその場から逃げられちゃうことだったんだけど…』
リョウ『私がいるってわかったら、二人とも躍起になっちゃって…うーん、大成功♪』
響「………」
リョウ『逃げないなぁ、まだ戦うつもりなのかなぁ? それとももう諦めちゃったのかな?』
リョウ『ま、いいやぁ。さ、木の中に引きずり込んであげますよー♪ これでぜ・ん・め・つ♪ ふふっ』
ズッ!
響の死角にある木の中から、後頭部に向かって手を伸ばした。
「シャァァァーッ!!」
ガブゥッ!!
リョウ(え?)
響の首の辺りからヘビが顔を出し、リョウの指に噛み付いた。
ガリガリガリ
リョウ「え、え…!?」
「フシュゥ!!」
スパァン
コロン
指が一本食い千切られ、石ころのように地面を転がる。
リョウ「ぎゃ…ぎゃおおおおおおおおん!?」ドサッ
たまらず、リョウは木の中から飛び出す。
リョウ「ゆ、指が! 僕の指が…!」ブンブンブン
ヘビを振り払おうと必死に手を振るが、食いついて離れない。
リョウ「ぎゃぅ…! な…何なの、このヘビは…!?」
響「ま、来るよね。自分一人相手なら簡単に倒せるだろうから」
リョウ「ひ、響…さん…」
響「ま、そんなこと自分にだってわかってるさ。だから、自分一人でどうにかしようとするのをやめた」
「シュルルルル…」
響「今、こいつは『トライアル・ダンス』が取り憑いて興奮状態にある。少しでも動くものがあれば、すぐに反応して…」
「グゥゥッ」ギュゥゥ
リョウ「痛い! 痛い痛い!」
響「一度噛みついたら、食いちぎるまで離さない。例え、木の中に戻ってもね」
リョウ「く…」
響「せいっ!!」ヒュッ
リョウ「うわっ…!」ガッ
ドサッ
リョウは地面へと手を伸ばすが、響の蹴りで仰向けに倒れされる。
響「どっちにしても、木とか地面とかに入らせたりしないけど。スタンドがついてなくても、これくらいはできるぞ」
あと少しですが寝ないとなんで明日続き…書けるか?書きます
リョウ「こんなことで…響さんのスタンドで、私の『シークレット・コーラル』を破るだなんて…」
リョウ「あと少しで私の勝ちだったのに…!」
響「違うさ。自分が破ったわけでもないし、あと少しで勝ちだったわけでもない」
響「亜美だ。『スタートスター・サニー』にお前は危機感を覚えて、自分に能力を見せてでも倒そうとした」
響「その時点で、もうこうなることは決まっていたんだ」
リョウ「くっ…ぐうっ…!」
響「さてと、みんなを逃がしてもらうぞ?」
リョウ「ふっ…ふふふっ、あはっ、えへへへへへっ」
響「?」
リョウ「いえ…この島、結構広くてですねぇ…物資を運ぶため、地下にいくつもベルトコンベアが通ってるんですよ」
響「…何の話?」
リョウ「も~響さんったらニブチーン! 決まってるじゃあないですかァ~私の『シークレット・コーラル』で地下に落として、もうみんな散り散りバラバラだって!!」
響「な…」
リョウ「そして行き着く先には他の『複製』が待ち構えている…試合に負けて勝負に勝つってやつですね! あははははは」
響「………」
リョウ「ふふ、ショックですか? でも、心配しなくても大丈夫! だって…」
ガバン!!
ォォォォォォ
地面が5mほど、左右から畳返しのようにひっくり返され、響に向かって倒れていく。
リョウ「隙を見せましたね、『シークレット・コーラル』…地面の中に飲まれちゃえっ!!」
響「………」
ズゥゥゥン…
大地の板が、響が立っていた辺りを押し潰した。
「シャ…」
シュルシュル
リョウの手から、大人しくなったヘビが離れていく。
リョウ「………」キョロ…
周囲を見回すが、響の姿はない。
リョウ「終わった…」
リョウ「えへへ高木さん、見てくれましたか? 私が765プロのみんなを一気に片付け…」
「てないぞ」
リョウ「!」サッ
背後から声が聞こえると同時、すぐさま木に向かって手を伸ばすが…
響「ドラァ!!」ヒュ
リョウ「ぎゃ…!」ドスゥ!!
響の槍を突き出すような蹴りが、リョウの手を幹に釘付けにした。
リョウ「ど、どうして…」
響「遅すぎるぞ。そんなんじゃあ自分の『トライアル・ダンス』は捕まえられない」
リョウ「どうして…諦めないんですか…! どうせこの先、たった一人で切り抜けることなんて出来やしないのに…!!」
響「一人じゃあない」
リョウ「はい…?」
響「確かに、今ここには自分しかいない。でも、一人じゃあないんだ」
リョウ「なにを、わけのわからないことを…」
響「わからないのか? お前はそれに負けたんだぞ」
リョウ「負けてない…私はまだ、負けてなんかない…」
響「…この状況でか? もう隠れることも自分を閉じ込めることもできないでしょ」
リョウ「隠れる? 閉じ込める? うふふっ、私のスタンドがそれだけの能力だと思いますか」
響「………」
リョウ「おおお『シークレット・コーラル』ッ!!」ダンッ
グニャ
響「!」
リョウが地団駄を踏むと、地面が競り上がり、木が手前に倒れてくる。
リョウ「このまま私もろとも押し潰す…! 逃げようとすれば、私はあなたの死角から今度こそ必ず追い詰める…!!」
響「そっか、逃げられないのは自分も同じか…」
リョウ「なにを落ち着いているんですか、この状況で! さぁ、どうす…」
ドグシャ
リョウ「うぶ!?」
言いかけたリョウの体に、蹴りが叩き込まれる。
響「どうするって、そんなの簡単だぞ。この地面が競り上がってるのも、スタンドの能力なんでしょ?」
リョウ「う…」ス
ヒュ
リョウ「おぶ…!」ドンッ
リョウが何かしようとする前に、次の蹴りが突き刺さっている。
響「だったら潰される前に、お前を倒してスタンドを止めればいい」
リョウ「ぎゃ…」
リョウ「ぎゃおおおお」
響「ドララララララララララララララララララ」ダン ドンダンダンダンダンダンダン
リョウ「ぎゃおおおお」グチャゲシャボギャ
リョウ「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」ドグォドボォダンドォ
倒れてくる木に叩きつけるように、リョウの体を蹴り上げていく。
響「ドラァッ!!」ドグン!!
リョウ「んっ」ブァサァ!!
最後の一撃を撃ち込むと、リョウの体は霧散して消えていった。
ドドドドド
響「………」
ズ… ズズ
響「お、木が元通り立ち上がってくぞ」
響「みんなは…」キョロキョロ
シン…
亜美達の姿を探すが、何の音も聞こえてこない。
響「…あいつの言う通り、もう散り散りになっちゃったのか」
響「ここから、自分だけで進まなきゃか…なんだかんだ言って、やっぱりちょっと心細いかも…」
「おーい!!」
響「?」クルッ
P「ああ、いたいた! 探したぞ!」
響「あ! プロデューサー!?」
声に反応して振り向くと、木の間からプロデューサーが走ってきていた。
P「勝手に進まないでくれよ、置いてかれたのかと思ったぞ…」
響「プロデューサー、無事だったんだな!」
P「無事…? 何かあったのか…?」
P「…みんなはどうしたんだ?」
響「実は、敵の『複製』のスタンドに襲われて…」
P「なんだって!?」
響「そいつは倒したけど、亜美も、千早も、春香も、律子も、美希も…」
美希「ミキも?」
響「うん、みんなどこかに連れてかれて…」
響「…………………」
美希「どしたの?」
響「美希!? なんでここにいるんだ!?」
P「え? だから…船でグースカ寝てたぞ? だから俺が戻って呼びに行ったんじゃあないか」
響「は…」
美希「それで、どこかって? どこ?」
響「…………」
To Be Continued…
スタンド名:「シークレット・コーラル」
本体:アキヅキ リョウ
タイプ:特殊型・同化
破壊力:E スピード:C 射程距離:E(直接触れられる距離) 能力射程:B(30m程度)
持続力:A 精密動作性:C 成長性:C
能力:壁や床をドアのように『開く』ことのできる、リョウのスタンド。
自分自身がその中に入ったり、他人やものを中に閉じ込めることができる。ただし、気体や自分の質量を下回る物体の中に入ることはできない。
入り込んだものの中で、リョウは自由に動くことができるが、それ以外の者は全く身動きが取れない状態になる。
物体の固さや本来の形状などおかまいなしに開くことができるため、地形を変えるような使い方もできる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
お待たせして申し訳ありません、今回分はこれで終了です。次回は…とりあえず火曜ってことで
…来週の月曜までには
美希「さてと…」
美希「それじゃ、早く進も? 会長を倒しに行くの」
P「待て待て美希、みんないなくなったんだぞ、闇雲に進んでも危険だ」
美希「だから、なの。いつまでもこんなとこいても仕方ないって思うな」
響「さっきまで寝てた奴の台詞とは思えないぞ…」
P「何があるかわからないんだ、お前達にまで何かあったら…」
美希「ミキ、プロデューサーよりは強いから大丈夫だと思うよ。響もいるし」
P「そりゃ、俺はスタンドなんて使えないし見えないけど…それとこれとは話が違う」
P「お前がいくら強かったとしても、何も考えないまま進んでたらいつか絶対に捕まる」
響「美希ー、自分もそう思うぞ」
美希「んー…それじゃ、どうすんの?」
P「まず、いなくなったみんなと合流しよう。6人でも、あの会長の護衛1人に太刀打ちできなかったんだ。みんな一緒じゃないと、きっと高木会長には勝てない」
美希「じゃ、それで」
P「それでってなぁ…」
美希「でも、それなら律子…さんを最初に見つけるのがいいって思うな」
P「そういえば、律子のスタンド…で探せるって言ってたな。でも、それならここに衛星を飛ばしてきてもおかしくないはずだが…」
響「この霧のせいかもしれないぞ。…たぶん、これのせいで律子の『ロット・ア・ロット』が壊されたりして上手く使えないんだと思う」
P「それならいいんだが…律子は無事なんだろうか。心配だな」
美希「プロデューサーが一番心配なのは千早さんでしょ?」
P「…は?」
美希「違うの?」
P「違うと言うか…あいつのことも心配だけど、なんでそこで千早が出てくるんだ…?」
美希「だってプロデューサー、千早さんのこと好きだよね?」
P「ああっ!?」ビクッ
響「美希、そんなはっきり言っちゃ駄目でしょ」
P「ちょ、ちょっと待てお前達…何か変な勘違いをしてるんじゃあないか…? あいつはアイドルで俺はプロデューサーだぞ!」
響「あー、うんうん。そうだよなー。わかってるぞー」
美希「あふぅ…ジョーダンなの」
P「お前らなぁ…」
美希「ま、いいや。早く行こ」
P「ああ、しっかりな」
響「プロデューサー、船で待ってるつもりなの?」
P「ん? そのつもりだが…何か駄目か?」
響「駄目じゃあないけど、一人でいると危ないと思うぞ」
美希「プロデューサーが『複製』に見つかったらすぐやられちゃうの」
P「……………」
P「…すまん、俺も一緒に着いていっていいか」
美希「どうぞなの」
P(情けない話だが…こうしてアイドルに守ってもらわないと島にいられない…俺には心配することしかできないのか…)
P(しかし、千早や律子も確かに気にかかるが…)
P(散り散りに連れて行かれたみんな…そして、以前の事務所襲撃で捕まったみんな…無事だろうか…)
………
……
…
やよい「あずささん、待ってくださーい!」
あずさ「あら」
煉瓦で舗装された道を進んでいたあずさが、足を止め、やよいの方へと振り向いた。
やよい「うぅー、先にぐんぐん行かないでほしいかも~」
あずさ「ごめんなさいね、やよいちゃん。ちょっと考え事してて」
やよい「考えごと、ですか?」
あずさ「ええ。私達が今使ってるホテル…あそこには、765プロのアイドルは私とやよいちゃんしかいなかったわよね?」
やよい「はい。でも、他の皆さんもあの時捕まってましたよね? どこに行っちゃったんでしょう…」
あずさ「他にも、あそこのような施設があるかもしれないって思って、外出許可を貰って出てきたわけだけど…」
やよい「えへへ、こんなことしてるってバレたら係の人に怒られちゃいますね」
あずさ「でも…向こうに見える建物、ホテルとちょっと違うわよね?」ピッ
ゴゴゴゴゴゴ
あずさが指差す煉瓦の道の先には、大きな塀がそびえ立っていた。
二人が塀の側まで辿り着くと、高い高い白い壁の底部に、扉が一つあるだけだった。
あずさ「うーん、やっぱりホテルではなさそうね」
やよい「窓とかもついてないし…ちょっと、違うかも」
あずさ「でも、扉があるってことは中に何かあるかもしれないわね」
やよい「えーっと…」グッ
やよい「んんーっ」ググーッ
やよいは両手でドアノブを握ると、力一杯引っ張った。
やよい「はぁっ、駄目ですあずささん、この扉鍵がかかってますよ!」
あずさ「大丈…」
ビーッ ビーッ ビーッ
あずさ「あら? 何かしら、この音」
やよい「あっ! これです!」
二人の腕には金属製の腕輪がつけられていて、そこから警報音が出ている。
あずさ「えーっと、確か…『昼までには戻ってこい』って言われて、これをつけてもらったのよね」
やよい「きっとわたし達が戻らないから、鳴ってるんだと思います!」
あずさ「でも、まだお昼にはちょっと早いような…」
ビー ビー…
音が鳴り止む。
あずさ「消えた…今のは『警告』ってことなのかしら」
やよい「うぅ~、また鳴る前に戻らないとダメかも…」
あずさ「そうね。ここにはまた来ればいいし、一旦戻りましょう」
やよい「はい…」
あずさ「煉瓦の道を通っていけば大丈夫よね?」
やよい「あっ、あずささん! 煉瓦の道は途中までですよ!」
あずさ「あ、そうだったわね…どこから入ったんだったかしら」
やよい「大丈夫ですよ、あずささん!」
あずさ「やよいちゃん、覚えてるの?」
やよい「わたしもあんまり覚えてないけど…じゃーん!ジャラッ
やよいが、あずさに見せびらかすように袋を取り出した。中には豆が詰まっている。
あずさ「この豆は…?」
やよい「食堂で貰ってきたお豆さんです! 来た道を見てください!」
あずさ「あっ、豆が落ちてるわ」
やよい「ここに来るまでに、落としてきました! これを辿っていけば、元の場所に戻れます!」
あずさ「あらあら、それなら安心ね。やよいちゃんはしっかりしてるわね~」
やよい「えへへ…この前、弟達に本を読んであげたんですけど、それをちょっと真似してみたりして!」
やよい「拾って洗って煮れば、食べられるし!」
あずさ「そうね~。それじゃ、この豆を辿っていきましょ」
やよい「はいっ!」
二人は、落ちている豆を辿って煉瓦の道を引き返し始めた。
やよい「あっ!」
あずさ「どうしたの、やよいちゃん?」
しばらく歩いていると、やよいの足が止まった。
やよい「豆が途切れてます! ここからは、脇道に出ましょう!」
あずさ「うふふ。道案内、お願いするわねやよいちゃん」
やよい「はいっ!」ザッ
やよいが脇道に一歩足を踏み出すと*…
「グワッグワッ」カプカプ
「グエッグエッ」モグモグ
その先で二匹の鳥が、道に落ちてる豆を次々咥えて喉奥に流し込んでいた。
やよい「って、はわっ! 鳥さんに食べられちゃってます~っ!」
あずさ「まぁ、絵本の通りね~」
やよい「そんなこと言ってる場合じゃあないですよ~っ!」
やよい「こらっ! それはエサじゃないですよっ!」
「クエー」バサッバサッ
「キー」スイーッ
やよいが両腕を広げて叱りつけると、鳥は馬鹿にしたように平然と飛び立っていった。
やよい「あぅ~っ、これじゃ帰れませんー!」
あずさ「そうね、うーん…どうしましょう」
やよい「早くしないと、腕輪が鳴っちゃいます!」
あずさ「鳴ったら、どうなるのかしら?」
やよい「…どうなるんでしょう?」
あずさ「いいことは、なさそうよね。まず、これをなんとかしましょう」
やよい「え?」
あずさ「『ミスメイカー』」ズッ
フォン フォン
全身が夜空のような模様をした紫色の巨人が、あずさの傍に現れる。
ズズ…
胴体と変わらないほどの大きな両腕を伸ばし、あずさとやよいの腕についている腕輪に指先で触れる。
カチッ!!
『0』の数字が書かれたデジタル時計のようなプレートが、その上に浮かんだ。
あずさ「腕輪を『眠らせ』たわ。少なくとも、『眠って』いる間この腕輪の機能が使われることはない」
やよい「あ、あの…あずささん…?」
あずさ「外すことも出来るかもしれないけど…そうすると、戻る時に*困っちゃうかもしれないから」
やよい「その、スタンド…」
あずさ「『ミスメイカー』? 触れたものに『カウント』をつけて、『ゼロ』になると『眠らせ』て機能を停止させる能力だけど…やよいちゃんには、教えたことあったわよね?」
やよい「はい、それは知ってます! 今、なんかいきなり『ゼロ』になって出てきましたよね!?」
あずさ「あ、そのことね。前は生物も物体も同じような感覚でやってたから、どっちも『91秒』かかってたんだけど…」
あずさ「物体には、元々意識がないから。意識ごと『眠らせ』ようとするんじゃあなくて、機能だけを『眠らせ』ることを意識したら、すぐに『眠らせ』ることが出来るようになったの」
やよい「えーと…? よくわかんないけど、物はすぐに『眠らせ』られるんですよね? すごいです!!」
やよい「でも、どうやってホテルまで戻りましょう…」
あずさ「………」
あずさ「やよいちゃん。このままみんなを探さない?」
やよい「へ?」
あずさ「私も戻れるなら戻りたいけど、たぶん、いっぱい時間かかっちゃうだろうし…また、迷っちゃうかもしれない」
あずさ「だったら、このまま探すのを続けた方がいいと思う」
やよい「………」
あずさ「もしやよいちゃんが怒られるようなことがあったら、代わりに私が謝るわね」
やよい「あっ、あの! そこまでしてもらわなくてもだいじょーぶです!」
あずさ「やよいちゃん」
やよい「そうですよね、やっぱり、みんなを探す方が大事です!」
やよい「あずささん、もし怒られちゃったらいっしょに謝りましょう!」
あずさ「ふふ、ありがと。いっしょなら、ちょっと安心ね?」
やよい「えへへ…はいっ!」
あずさ「それじゃ、さっきの場所に戻りましょう。『ミスメイカー』なら鍵も開けられるから」
やよい「はい!」
ザッ
やよい「?」
あずさ「あら?」
塀のある方角、あずさ達から離れた場所で、何者かが脇道から煉瓦の道路に入ってくる。
やよい「誰でしょうか? 声かけて、いいですか?」
あずさ「そうね~。危ない人かもしれないから、気をつけてね」
やよい「すみませーん! どなたですかー!」
やよいが大声で呼びかけるが…
ザッザッ
やよい「あう…」
やよいの声が聞こえないかのように、そのまま先へと進んでいく。
やよい「うーん、聞こえてないんでしょうか?」
あずさ「結構、離れてるから…あら?」
???「………」ザッ ザッ
先を歩く人物は、肩に何かをぶら下げている。
あずさ「何か…担いてるみたいね。やよいちゃん、見える?」
やよい「はい。わたし、目はいいですから。あれは…」
あずさ「何が見える?」
やよい「えーっと…青い…髪? 人でしょうか、あれは…」
ゴゴゴゴゴ
千早「………」
???「………」ザッザッ
やよい「千早さん…!?」
あずさ「え!?」
あずさ「千早ちゃん…言われてみれば、あれは確かに千早ちゃんだわ。じゃあ、それを抱えているあの人は…?」
やよい「あれは…」
ピタ…
その時、先を行く人物は足を止め…
???「うふふ…」クルッ
長い髪を揺らしながら、あずさ達の方を振り返った。
やよい「あの顔は…」
あずさ「………」
アズサ「ふふふふふ」
やよい「あずささん…!?」
あずさ「はい? 何かしら、やよいちゃん?」
ザッザッ
あずさとやよいの姿を確認すると、あずさと同じ顔をした長髪の女性は、前を向いて再び歩き出した。
あずさ「やよいちゃん? どうしたの?」
やよい「あの人、あずささんですよっ!」
あずさ「…? ?? …?」
やよい「あずささんと同じ顔をしてたんです! 髪型も、昔のあずささんみたいで…!」
あずさ「私のそっくりさんかしら? 世の中にはそっくりさんが3人いるって言うけど、こんなところで会うなんて思わなかったわ」
やよい「あずささんの『偽物』ですよっ!!」
あずさ「え、あの人がそうなの…?」
やよい「はい、伊織ちゃんの…あずささん、見てないんですか?」
あずさ「うーん、会ってないわね。あの時は響ちゃんに会って、突然気を失っちゃったから…」
やよい「それ、響さんの『偽物』ですよ!」
あずさ「あ、そうなのね~。響ちゃんはあの時間は仕事中だって聞いてたから、変だと思ったけど」
やよい「でも、ほんとにそっくりですよね。あのあずささんも…」
あずさ「………」
やよい「………」
>やよい「はい、伊織ちゃんの…あずささん、見てないんですか?」
やよい「はい、わたし伊織ちゃんの『偽物』に会ってますし…あずささん、ここに連れて来られた時に見てないんですか?」
で
タッ!
二人は同時に、アズサの背中に向かって走り出した。
あずさ「やよいちゃん。あれは私の『偽物』なのよね」
やよい「はい。それで、その『偽物』が千早さんを連れて行こうとしてるってことは…」
あずさ「あの千早ちゃんは本物かもしれないわ…!」
アズサ「ふふ」カツ カツ
二人の足音を耳にして、アズサは歩くペースを上げた。
あずさ「やよいちゃん、『ゲンキトリッパー』を…」
やよい「もう行かせてます、でも…」
ウー ウッウー
分裂した『ゲンキトリッパー』の進むスピードは、アズサの歩く速度と同じくらいだった。
やよい「うぅー、『ゲンキトリッパー』のスピードじゃ追いつけないかも…伊織ちゃんや貴音さんのスタンドなら、びゅびゅーんって行けるんですけど」
あずさ「距離が離れすぎてるわね。もっと近づかないと」
あずさ「あっちは千早ちゃんを抱えている。その分、走るのはこっちの方が速いから追いつけるはずよ」
やよい「はい!」
タタタタタ
走るごとに、アズサとの距離がぐんぐん縮まっていく。
やよい「もうちょっと…! 千早さん、待っててください…!」
アズサ「ふふ、元気ねやよいちゃん…」
やよいの方が、あずさの少し先を走っている。
アズサ「『ゾーン・オブ・フォーチュン』」ブオン
やよい「!」
アズサの近くに、全身の至る所から棘が生え、鎖やロープなどが腕に巻きつけられている、過剰な装飾がなされた人型のスタンドが出現する。
あずさ「これが彼女の…私の『偽物』のスタンド…」
あずさ「『ミスメイカー』とは全然違う形なのね」
アズサ「えいっ」ス…
アズサのスタンドが両腕を上げると…
ダンッ!!
地面の煉瓦に振り下ろし、叩きつけた。
やよい「!」バッ
やよいは、飛んでくるであろう攻撃に身構えるが…
やよい「…? なんにも起こらない…」ス…
煉瓦には何の変化もなく、やよいは構えを解いてそのままアズサを追いかけようとする。
あずさ「! やよいちゃん、待って…!」
やよい「へ?」カチリ
やよいが『ゾーン・オブ・フォーチュン』の手が触れた辺りの地面を踏むと…
ガン! ガガンッ
やよい「わっ!?」グラッ
煉瓦が剥がれ、ひとりでに道の両脇に積まれていく。やよいはそれに足を取られ、体勢を崩した。
アズサ「こんなところで何をしてるのかなって思ったけど…やっぱり、ここから出ることを諦めてないのね~」
アズサ「そのためには、仲間が必要…千早ちゃんを餌にしたら、思った通り追いかけてきたわ」
アズサ「うふふ♪ だったら、もう反抗する気も起きないほどに痛めつけてあげるわね~♪」
ガラガラガラ!!!
道脇に積み上がった煉瓦が、やよいに襲いかかるように崩れだした。
スタンド名:「ミスメイカー」
本体:三浦 あずさ
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:D 射程距離:E(3m) 能力射程:C(10m)
持続力:B 精密動作性:C 成長性:E
能力:生物だろうが物体だろうが「91秒」で「眠らせ」る、あずささんのスタンド。
触れたものには「カウント」がつき、「カウント」の数字がゼロになるとその対象は「眠る」。
「眠らせ」たものは一時的にその機能を停止し、能力を解除することで再び動き出す。
既につけた「カウント」に触れていると数字は早く減っていき、また、意識のない物体であれば「91秒」を待つことなく一瞬で「眠らせ」ることが可能。
胴体と同じくらいに巨大な両腕は非常に高いパワーを誇るが、本体であるあずささんののんびりとした性格を反映したように、スピードはそれほど速くはない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
お待たせしました。続きは明日書きます(明日書くとは言ってない)
ガラ ガラガラ
崩れてきた煉瓦は、やよいを押し潰そうとしながら、元の板状の形に戻ろうとする。
グォォォォォォォォ
やよい「わーっ!」バッ
やよいは頭を守るように腕を被せ、体を丸めた。
やよい「………?」チラ…
煉瓦が襲ってこないので、顔を上げると…
あずさ「………」グググ
『ミスメイカー』が両腕を広げて、倒れくる煉瓦の壁を押し留めていた。
やよい「あずささん! あ、ありがとうございます」
あずさ「いいえ、お礼なんて大丈夫よ~」
グッ!!
『ミスメイカー』の腕が、少しずつ壁に押されている。
やよい「!」
あずさ「だって、まだ助かったわけじゃないもの…!」
やよい「あずささんの『ミスメイカー』でも止められないんですか…!?」
やよい「あっ、でも能力で『眠らせ』れば!」
あずさ「いいえ、やよいちゃん…もう『眠らせ』てるの。でも…」
ゴゴゴゴ
あずさ「この壁は止まらない! それに、力も凄く強いわ…! 『ミスメイカー』で抑えているけど、長くは保たないわ!」
やよい「わわっ、大変ですっ」
ピョコッ ピョンッ
やよいの背中に乗っていた『ゲンキトリッパー』の分体が、壁へと飛び跳ねていく。
やよい「んしょっ!」バッ
ウー ウウーッ
やよいが立ち上がって抜け出しているうちに、『ゲンキトリッパー』は煉瓦の隙間へと入り込み…
ドジャァァーン
隙間を『くっつけ』、壁の動きを止める。
やよい「『くっつけ』ました! けど…」
ミシッ…
やよい「すぐに倒れてくるかも…あずささん、早く!」
あずさ「ええ!」タッ
『ミスメイカー』の手を放し、あずさもその場から脱出した。
バタァァァン
直後、煉瓦が倒れ込み、元の石畳に戻る。
やよい「危なかったです~」
あずさ「あのスタンドの能力かしら」
やよい「どんな能力なんでしょう…」
あずさ「うーん、そうねぇ…」
アズサ「………」スーッ
やよい「…追いかけながら考えましょう!」
タッタッタ
アズサ「そーれっ」ドンッ
アズサが『ゾーン・オブ・フォーチュン』で地面を殴りつける。
あずさ「!」バッ
やよい「!」ババッ
それを見て、二人はそれぞれ左右に広がり、ルートを変えた。
あずさ「さっき、あのスタンドが触れた場所をやよいちゃんが踏んだら煉瓦が襲ってきた…」
やよい「あそこを踏んだら危ないかも!」
タタタ
アズサ「あらあら~、避けられちゃったわね~」
やよい「?」
チラ…
アズサの様子に何か違和感を覚え、やよいはあずさの方を見た。
ザワザワ
道を挟んで左方、脇に立ち並ぶ木が揺れている。
アズサ「そこを踏まなければ…大丈夫だって、思ったかしら~?」
やよい「あずささん!」
あずさ「?」
カチリ
・ ・ ・ ・
ビュ!!
木の幹から、一本の枝があずさに向かって槍のように伸びてきた。
あずさ(触れてないのに、木が襲いかかってきた…)
あずさ(だめ、『ミスメイカー』じゃ間に合わ…)
ビタン
その時、あずさの足が地面にピタリと『くっつい』て止まった。
あずさ「え? きゃっ!」バタン!
そのままの勢いで、あずさは膝をついて倒れる。
ギュォン!
鋭く伸びた枝が、あずさの頭上を貫いていく。
アズサ「あら…」
やよい「あずささん! 大丈夫ですか!」
あずさ「ええ、ありがとう。『ゲンキトリッパー』のお陰でお団子にはならずに済んだわね…」
やよい「どういうことなんでしょう、あんなところに触ってないはずなのに」
あずさ「わからないわ。一つだけ言えるのは…」
千早「………」
アズサ「ふふっ」
あずさ「だからって追いかけないでいると、千早ちゃんを連れてかれちゃうってことよね」
ゴゴゴゴゴ
二人がアズサを追いかけていると、白い壁が目の前まで迫ってきて来た。
アズサ「うふふ」
ガチャ
アズサは扉を開け放し、壁の向こうへと進んで行く。
タタッ
あずさとやよいはためらうことなく、その後に続いていった。
あずさ「! これは…」
リンゴン リンゴン
木馬がきらびやかな屋根の下で回っている。
ゴォォォォォ…
高所を走るレール、ゆっくり回転する観覧車、コーヒーカップ、サーキット場…
やよい「わぁ…」
あずさ「まぁ」
壁の中は、遊園地だった。
やよい「誰もいませんね」
あずさ「ここにお客さん来るのかしら?」
アズサ「お客さんは、あなた達よ~」
カチリ
あずさ「あっ!」クルッ
通ってきた起動音に、あずさ達が振り向く。
あずさ「扉が…」
やよい「消えちゃいました…!」
アズサ「その入り口は私のスタンドの能力で作ったもの。役目を終えれば自動的に消えるわ」
あずさ「あなたの『スタンド能力』…?」
アズサ「私のスタンド『ゾーン・オブ・フォーチュン』は…触れたものを『罠』に変える。それが能力」
やよい「!」
あずさ「!」
アズサ「ふふっ、『どうしてバラすのか?』って不思議そうな顔ね~」
アズサ「だって…今ここにいる時点で、もう既にあなた達は私の『罠』に嵌っているんだもの」
>通ってきた起動音に、あずさ達が振り向く。
通ってきた扉の方から聞こえてきた起動音に、あずさ達が振り向く。
やよい「もう罠にはまってる…?」
あずさ「つまり、ここに閉じ込めた時点で目的は達成されている…」
あずさ「この遊園地全体があなたの『罠』…ってことかしら?」
アズサ「うふふ、よくできました。その通りよ~」
やよい「だったら、『罠』を仕掛ける前に『くっつけ』ちゃいます!」バッ
ウッウー ウーウー
『ゲンキトリッパー』の分体が、アズサに向かっていく。
ズァァァァァ
カチリ
ブシュゥゥゥゥーッ
しかし、アズサの手前で石造りの地面から噴水が上がり、『ゲンキトリッパー』が跳ねあげられた。
やよい「わっ!?」
あずさ「『罠』が起動した…」
あずさ「何故…? そのスタンドは、どこも触ってないのに…」
アズサ「一つ言い忘れたけど、『罠』は一度仕掛ければ『射程距離』で能力が解除されることはないわ」
あずさ「能力の『射程距離』がとても広いのね」
アズサ「少なくともこの島の中なら、ね」
あずさ「…島?」
やよい「えっ!? 島だったんですか、ここって?」
アズサ「そんなこと言ったかしら~?」
あずさ「聞き間違いかしら…」
やよい「確かに聞きましたよ!」
アズサ「うふふ」
やよい「うふふじゃありませんっ!」
アズサ「ま、ここがどこだって関係ないと思うけどね」
アズサ「だって、『ゾーン・オブ・フォーチュン』の『罠』が張り巡らされている以上…」
アズサ「あなた達がこの遊園地から出ることはできないのだから」
ゴゴゴゴゴゴゴ
あずさ「いいえ、出る方法はあるわ」
アズサ「?」
あずさ「目の前のあなたを倒せばいい。『射程距離』で解除されなくても、スタンドを止めれば能力も解除されるでしょう?」
アズサ「ふふ、なるほどね。でも、私の周りにはまだ『罠』が仕掛けてあるかもしれないわよ~?」
タッ
アズサ「あら」
あずさがためらうことなくアズサへと向かって走っていく。
あずさ「少なくとも、今やよいちゃんの『ゲンキトリッパー』が通った場所…そこには『罠』は仕掛けていない」
アズサ「そうね~。でも、そこからじゃスタンドを飛ばしても届かないわよ?」
あずさ「えいっ!」バッ
走り幅跳びのように、その場で踏み切る。
ズズッ
あずさ「『ミスメイカー』!」
空中で、紫の巨人が巨大な腕を振りかざした。
あずさ「例え地面に『罠』を仕掛けてあったとしても…」
あずさ「踏まなければ、踏む前に攻撃すれば…!」
ゴッ!!
『ミスメイカー』の腕が、アズサに向かって振り下ろされる。
あずさ(頭に触れれば…いえ、どこでもいい。どこだろうと『眠らせ』さえすればもう逃げられない!)
アズサ「えっと、もう一つ言い忘れてたけど」
カチリ
ドボン!!
床から、石が砲弾のように打ち上がる。
あずさ「え…?」
アズサ「別に、『罠』は触れられなくても発動できるの。私が見える範囲なら」
やよい「あずささんっ!」
ドス ドス
あずさ「うっ!!」ドサァ!!
石に弾き飛ばされ、あずさは地面に落ちた。
アズサ「うふふ…」クルッ
スタスタ
アズサはそれを見ると、千早を連れたまま遊園地の奥へと歩いていった。
やよい「あずささん、大丈夫ですか!?」
あずさ「うん…なんとか、ね」
やよい「今治します!」
あずさ「えーと…そうね、お願いするわ」
やよい「はいっ」
ピョコピョコ
あずさの傷口に小さなやよいのスタンドが入り込み、埋めていく。
やよい「あっ、あずささんの『偽物』はっ!」バッ
アズサ「ふふ」
やよい「あっ、よかった…まだ追いつけそうなところにいます!」
あずさ(………)
やよい「行きましょう! 『罠』なんて、私の『ゲンキトリッパー』で全部使わせちゃいます!」
あずさ「待ってやよいちゃん。『ゲンキトリッパー』を使う必要はないわ」
やよい「へ? でも、そのまま行こうとしたら、そこらじゅうにもういっぱいいーっぱい『罠』が仕掛けてあるから…」
あずさ「それはないわ」
やよい「へ?」
あずさ「『罠』同士は近くに仕掛けられないか、あるいは個数か…何かしらの制限はあるはずだから」
やよい「な、なんでわかるんですか?」
あずさ「だって、何の制限もなく本当にそこらじゅうに『罠』を敷きつめられるのなら…」
あずさ「私たちはとっくに『再起不能』させられているだろうし…彼女がああやって千早ちゃんを連れていく意味がないもの」
*
あずさ「荷物になる千早ちゃんを置いて、自分はさっさと園外に出てしまえばいい。そして『罠』を起動! それで勝ちよ」
やよい「あ…」
あずさ「そうしないってことは、千早ちゃんを解放したら、その方法で100%私たちを始末できる自信がないってこと」
あずさ「つまり、能力を無制限に使えるわけじゃあない」
やよい「それなら、あんまりムダ使いできないかも…」
あずさ「そうね。だから千早ちゃんを連れて、私たちをさらに誘き出そうとしているのよ」
アズサ「………」テクテク
やよい「どこかに向かってるみたいですけど、追いかけていったら…」
あずさ「恐らくその先には大量の『罠』が仕掛けているでしょうね」
やよい「じゃあ、その先の『罠』を『ゲンキトリッパー』で…」
あずさ「待ってやよいちゃん」
やよい「うぅ~、なんですかあずささん?」
あずさ「さっきのはやっても無駄だから待ってと言ったけど…今度はやってはいけないわ」
やよい「なんでですか?」
あずさ「いくらダメージが分散されると言っても、もしも全て…いえ8割でも潰されればやよいちゃんは死んでしまうかもしれない」
やよい「え…」
あずさ「それくらいのことはやってくる…あるいは起こりうる相手だということよ」
あずさ「ここは、彼女を倒すことに集中しましょう。倒せばどの道『罠』は全て解除される」
やよい「…はい、わかりました」
タタタッ
アズサ「あら、まっすぐ向かってきわね」
あずさ「ええ。考えた限りあなたがこの道でそれほど多くの『罠』を仕掛けているとは思えなかったから」
アズサ「そうね。あなた達の話してたことはだいたい正解よ」
やよい「あれ、聞こえてたんですか?」
アズサ「私たち『複製』…『完全なアイドル』は感覚に優れているから」
あずさ「『複製』?」
やよい「『複製』って、どういうことですか!? あずささんのことを機械とかでガーってやってできたんですか!?」
アズサ「そんなこと言ったかしら~?」
あずさ「聞き間違いかしら…」
やよい「確かに聞きましたよ!」
アズサ「あら~?」
やよい「あら~? じゃありませんっ!」
アズサ「まぁ、私のことなんてどうでもいいわ」
やよい「どうでもよくないですよっ」
アズサ「それより…」ズッ
『ゾーン・オブ・フォーチュン』が、アズサの中に戻っていく。
あずさ「どこかに『罠』を仕掛けたわね」
やよい「どこから…」
カチリ
グワッ!!
コーヒーカップの柵が触手のように伸び、背後から二人の足を掴もうと襲い掛かる。
ビタッ
が、その直前で動きが止まった。
やよい「来ても…大丈夫です、『くっつけ』て止めました」
ウー ウー
二人の後ろを追いかけるように、『ゲンキトリッパー』の大群が走っている。
アズサ「わからないのよね~。そこまでわかっていたのに、どうして遊園地の入口を探して逃げようだとか思わなかったの?」
アズサ「もちろんそこにも『罠』は仕掛けてあるけど、こっちに来るよりは賢いと思わなかった?」
あずさ「えっと、ごめんなさい…何を言いたいのかがよくわからないわ」
アズサ「そうよね~。だから私もここに来たんだけど」
カンカンカン
アズサが階段を登っていく。
あずさ「………」カンッ
あずさもその後に続いていこうとするが…
あずさ「…やよいちゃん?」クル
振り向くと、やよいは階段の下で立ち止まっていた。
やよい「あ、あの…あずささん、ここって…」
あずさ「あ…」
あずさ(やよいちゃんは高いところが苦手だったわ…この先は…)
カチリ
あずさ「あら?」ガシッ!
やよい「へっ!?」ガシッ!!
二人の足が、床に固定された。
ガタガタガタガタ
やよい「えっ、えっ!?」
階段がエスカレーターのように、ひとりでに動いて二人を上まで運んでいく。
あずさ「『ミスメイカー』で止め…」
アズサ「ふふ、もう遅いわ」
ドザァ!!
あずさ「きゃ!」
やよい「はわっ!」
二人が運ばれた先は、ジェットコースターの…最後部座席だった。
キリ…キリキリキリ
二人を乗せたコースターが、ゆっくりと動き出す。
やよい「えっ、えっ…」
あずさ「………」ジ…
あずさは先頭に目を向ける。横になっている千早と、こっちを向いて座っているアズサの姿が見えた。
アズサ「さぁ、ここからが本番よ…」
アズサ「アトラクション、楽しんでくださいね♪」
スタンド名:「ゾーン・オブ・フォーチュン」
本体:ミウラ アズサ
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:C スピード:D 射程距離:E(1m程度) 能力射程:A(数km)
持続力:A 精密動作性:C 成長性:C
能力:触れたものを何だろうと「罠」にするアズサのスタンド。
「罠」は直接触れるかアズサの意思で起動し、一度発動すると、元の形に戻る。
一度設置した「罠」は相当離れても、消えたりせずその場に残る。
ただし、「罠」を設置するためのスタンド自体の射程距離は短い。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
今回はこれでようやく終わりです。
今後は出来次第書けた分を投下する方式にしようと思います、どうしても進まなければ自分で指定するかもしれませんが…
ゴゴゴゴゴ
キリキリキリ
レールの底にあるチェーンリフトが、コースターを押し出している。
やよい「駄目っ、駄目ですっ、このままじゃ…」
アズサ「うふふ、やよいちゃんはもういっぱいいっぱいみたいね~」
アズサ「もちろん、この先のレールにもたーっぷり『罠』があるわ。無事に抜けられるかしら~?」
あずさ「いえ、抜ける必要なんてないわ」
あずさ「やよいちゃん、『ゲンキトリッパー』を。出る前にローラーを『くっつけ』て止めちゃいましょう」
やよい「あっ…! そ、そうですね! それじゃ、今…」
アズサ「もちろん…あなた達が座っているそこにも『罠』は仕掛けてある」
カチリ
ガン! ギン!
あずさ「うっ!?」
やよい「わっ!?」
ジェットコースターの安全レバーが、二人をシートに挟み込んだ。
アズサ「大人しくしててね。少なくともこのコースターが坂道を登り始めるまでは」
やよい「『ゲンキトリッパー』が…出せませんっ…!」ググッ
あずさ「『罠』自体が『スタンド能力』だから…押さえ込まれちゃうのね」ググ
あずさ(いち、に…先頭まで、座席がいっぱいだわ…そして、恐らくそのほとんどに『罠』が仕掛けられているでしょう)
キリキリ…
あずさ(このままジェットコースターがびゅーんって落ち始めたら、一番前を目指すのはちょっと大変かもしれないわ)
あずさ(…その気になれば、このレバーが上がった瞬間、レールに降りて逃げることはできなくもない。やよいちゃんの『ゲンキトリッパー』を使えば安全にレールの上に落下できる)
あずさ(でも…)チラリ
コースのちょうど中間あたりに、足場と、隣接した階段が見える。
あずさ(緊急用の出口がある。あそこで降りられたら、私たちが降りて下から向かおうにも間に合わない…間に合ったとしても『罠』が仕掛けられているはず)
アズサ「うふふ」
あずさ(あの人もそれをわかって、ああやって一番前に座ったまま何もしないのね)
ゴゴゴゴゴゴ
やよい「うぅ、止まってください~…怖いです~っ!!」
あずさ(やよいちゃん…高いところが怖いのね、かわいそうに…降ろしてあげたいけれど)
あずさ(でも…)
あずさ「やよいちゃん」ギュ
やよい「え…?」
あずさが、やよいの手を握った。
あずさ「聞いて。もし、このコースターから逃げられたとしても、この園内には『罠』が仕掛けられているってことはあの人が言ってたわよね」
やよい「は、はい…」
あずさ「それを解除しない限り、私たちは無事に出ることはできないわ」
あずさ「何より、千早ちゃんを助けられない」
やよい「………」
あずさ「千早ちゃんを助けて、私たちがここから出るには、ここであの人を倒すしかないわ」
あずさ(やよいちゃんの力がなければ…きっと勝てない)
あずさ(二人じゃないと、あの人を倒すことはできない)
やよい「………」
あずさ「怖いのはわかるわ。私も…怖いから」ブルブル
やよい「!」
あずさの手が震えている。
あずさ「ふふ…ダメね。こういう時、ちゃんとお姉さんらしくできたらいいんだけど」
やよい「あの…あずささん」
あずさ「うん」
やよい「私、やっぱり怖いし、何もできないかも…」
あずさ「何もできないなんてないわ」
やよい「でもっ、私だって千早さんを…みんなを、助けたいです!」
あずさ「そうよね。私も同じよ」
やよい「気合入れて、バババーって行きましょう!」
あずさ「ええ、頑張りましょう。二人なら、ぜったい勝てる」
やよい「でも、やっぱりちょっと高いところは怖いです…落ちそうだし…」
あずさ「大丈夫よ。このレバーに掴まってれば、落ちることはないから」
ガンッ!!
レバーが上がった。
やよい「あの、あずささん」
キリキリキリ
コースターはどんどん坂を上がっていく。
あずさ「やよいちゃん、大丈夫よ」
やよい「レバー、上がっちゃいましたけど…」
あずさ「大丈夫よ。大丈夫…落ち着いて」
キリキリキリキリキリキリキリキリ
やよい「あっ、あっ、落ちちゃいますよっ」
あずさ「やよいちゃん、落ち着いて。う~んと…」
あずさ「そうだわ、レバーが上がったから『ゲンキトリッパー』は出せるはずよ。足元を『くっつけ』ましょう」
やよい「あっ! は、はいっ!」ズズッ
ゴォォォォォォォォォ
『くっつけ』るのが間に合わず、ジェットコースターが落下を始めた。
あずさ「きゃあああ…!!」ゴォォォォォォォォォ
やよい「わーっ!! やっぱりムリかもーっ!!」ビュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
フワ…
やよい「あっ!」ガシッ
体が少しずつ浮き始め、二人は必死にコースターの縁に掴まる。
アズサ「あらあら~、大変そうね~」
アズサはレバーを降ろした先頭座席で、あずさ達を眺めている。
あずさ「く…」ズッ
グッ!
『ミスメイカー』が二人の体を座席に押し込む。
ピタ…
座席の底に仕掛けた『ゲンキトリッパー』により、足が『くっつい』た。
ゴォォォォォォォ
やよい「うぅぅぅぅっ…!」
ジェットコースターがカーブする度に、体に重力がかけられる。
あずさ「…やよいちゃん、もういいわ。私の『ゲンキトリッパー』を解除して」
やよい「えっ?」
あずさ「ここにいるだけじゃあ、彼女は捕まえられない」
ガッ
背もたれの上に足をかける。
あずさ「私が、一番前まで行くわ」
やよい「そんな、危ないですよっ!」
あずさ「ええ、危ない…だから、やよいちゃん。後ろの席から私を手伝って」
やよい「そんなこと…」
ポンッ
下を向くやよいの頭に、手を置く。
あずさ「お願いね」
ドクン ドクン ドクン
あずさ「ふぅ…」スッ
ピタ…
やよい「………」
あずさ「ありがとう、やよいちゃん」
ゆっくり、慎重にコースターを移動していく。
アズサ「そんなゆっくりで…私のところまで着くのはいつになるのかしらね~」
あずさ「ゆっくりでも、近づいていけばいつか辿り着くと思うの。方向は間違ってないから」ス…
トンッ
言いながら、あずさは前のシートに足を着いた。
アズサ「わかってる? 『くっつけ』ながら向かってくるってことは…」
カチリ
あずさ「!」
アズサ「私が仕掛けた『罠』から逃げる暇がなくなるってことよ?」
バガッ
コースターの中心が広がり、ドーナツのように穴が空く。
やよい「あ…!!」
ズズッ
あずさ「きゃ…!」グラッ
シートも手前の方に引っ張られ、足を取られる。
あずさ「っ!」ガシィ!!
前のシートの背もたれを掴み、橋を作るような体勢で踏みとどまった。
ゴォォォォォォォ
あずさ「う…」
目の前でレールが流れている。
アズサ「頑張るわね~。そこからどうするの?」
あずさ「何も…しないわ」
ズズズズ…
あずさ「一度起動した『罠』は、しばらく経てば元に戻る…でしょう?」
ガシッ ガッ
あずさ「ふぅ、ふぅ」
走るジェットコースターの上を、あずさは慎重に進んで行く。
アズサ「一つ、いい?」
あずさ「…なにかしら?」
アズサ「どうして、そこまでする必要があるの?」
あずさ「そこまで…っていうのは、どういうこと?」
アズサ「私達の目的は『完全なアイドル』としてあなた達の代わりをし、アイドルとしてのあなた達を永遠に残すことよ」
アズサ「あなた達を傷つけることが目的じゃあない…あなた達がそうやって向かってくるからそうせざるを得ないだけ」
あずさ「………」
アズサ「この島で不自由なことはできる限り対処するし、いつまでも閉じ込めておくつもりはない。私たちの存在が受け入れられるようになれば、あなた達は自由に生きられるわよ」
あずさ「でも…私は…」
アズサ「運命の人を見つけたいのよね? だからアイドルを始めた」
アズサ「でも、それなら私が代わりに探すわ。あなたの記憶を持っているんだもの。きっと見つけられる。そして、あなたがその人と結ばれた後も、アイドルとしての三浦あずさはこの世に残り続ける」
アズサ「いいこと尽くめじゃない? こんな死ぬような思いをしてまで逆らう必要が、どこにあるの?」
あずさ「確かに…結果だけ見れば、いいことばかりに思えるわね」
アズサ「でしょう?」
あずさ「でも、それだけよ」
アズサ「? それがすべてでしょう?」
あずさ「違うわ。それは結局、与えられただけ。そうなった時点で、もう私の夢じゃなくなっちゃうわ」
アズサ「…?」
あずさ「やっぱり…あなたは私とは違うわね。私の記憶を持っているみたいだけど、持っているだけ」
あずさ「夢は、自分で掴み取ってこそ自分のものになる。自分にとって、価値があるものになるのよ」
アズサ「そのために、痛い目に遭うかもしれないのに?」
あずさ「痛いのは、嫌だけど。譲れないものもあるの」
あずさ「夢を叶えた時に、ちゃんと胸を張っていたいから」
アズサ「理解できないわね…」
あずさ「あなたは生まれた時からすべてを持っていた。だから、わからないのね」
あずさ「理解できなくてもいい。いくら、夢見がちだって言われても…」
あずさ「私は、私の夢を、くだらないものにされたくはない」
アズサ「…やよいちゃんは?」
やよい「えっ?」
アズサ「『複製』が稼いだギャラは、ちゃんとやよいちゃん本人に入るようになるわ」
アズサ「それだったら、別にやよいちゃんがわざわざアイドルのお仕事する必要はなくなるわよ?」
やよい「家はちょっと貧乏で大変かもですけど…」
やよい「何もしてないのに、お金だけ貰うなんて、そんなのよくないですよ!」
アズサ「でも、家計のためにアイドルをしているんでしょう?」
アズサ「それに、ここまで地位を築いてきたのはやよいちゃん本人。そのご褒美みたいなものよ、ちょっとくらい楽をしたっていいんじゃない?」
やよい「わたし、たしかにお仕事して、家族を助けられたらって思ってますけど…」
やよい「でも、みんなの前で歌って踊って、それでワーって拍手とかしてもらえるのが嬉しくって、楽しくって、ドキドキするんです!」
やよい「それが、好きだから…じゃなかったら、わたし…アイドルやってません!」
アズサ「ああ、そう…」
カチリ
あずさ「!」
グゴオ
あずさが踏んだシートが勢いよく隆起する。
ゴォォォォォォ
あずさ「んっ!」バッ
上の方で交差しているレールが目の前に迫ってきたが、かがんで潜り抜けた。
アズサ「………」スッ
やよい「! あずささん! あの人、何かやろうとしてますよ!」
アズサ「『ゾーン・オブ・フォーチュン』ッ!!」ピタッ
カチリ
アズサが足元のレールに触れ、新たな『罠』を仕掛けた。
ザン!
やよい「なんっ…!?」
アズサのスタンドが触れた部分が、柱のように変形してせり上がり、コースターの隙間に入り込んだ。
ギギギギギギギ
あずさ「ゆ、揺れる…!」
ギッギギギギギ
あずさ「この軋み方…駄目だわ、切り離される…!」
フラッ
あずさ「え?」
あずさの足が、シートから離れた。
あずさ「『ゲンキトリッパー』が…やよいちゃん!?」
やよい「あ………」
ブチン!!
コースター同士を接続している金具が切れ…
ブワッ
あずさ「きゃああああああああああああああああああああああ」
やよい「うわあああああああああああああああああああああ」
後部座席は横向きに弾け飛び、二人は宙に放り出された。
あずさ「やよいちゃん…!」バッ
やよい「っ!」
ガシッ!!
『ミスメイカー』が空中で手を伸ばし、やよいがそれに掴まる。
アズサ「もう、どうにもならないわね~」
アズサ「二人仲良く…ぺっちゃんこになっちゃいなさい!!」
あずさ「いえ、まだよ…」
ドドドドド
吹っ飛ばされた軌道上には、レールが走っている。
あずさ(このレールを掴んで上に登れば…コースターはこのレールを通る、彼女は先頭にいる! 『ミスメイカー』のパワーなら迎え撃てるわ…!)
あずさ「『ミスメイカー』…! レールを掴んで…!!」バッ
スカッ
しかし、『ミスメイカー』が伸ばした腕は数センチの差で空を切った。
あずさ「あ…」
あずさ(届…かない…駄目…だわ…)
ヒュォォォォォ
二人はコースターからどんどん離れるように落ちていく。
アズサ「ほら…逆らおうとするかこうなるのよ」
アズサ「これに懲りたら、もう大人しくしてなさい? 生きてたら、だけど」
あずさ(落ちる…もう、どうしようも…)
ワラワラ
あずさ「え?」
ウーウー ウッウー
あずさ「これは…!」
『ミスメイカー』の腕に、小さなスタンドが次々『くっついて』いく。
やよい「あずささん!」
あずさ「やよいちゃん…!?」
やよい「これで、どこかに…!」
あずさ「…!」
アズサ「『ゲンキトリッパー』を腕につけて、『くっつけ』られるようにしたのね~」
アズサ「でも、それが何? もう『くっつけ』られる場所なんてどこにもないわよォ~ッ」
あずさ(確かに、もう手の届く場所なんてない…『くっつけ』ようにも、『くっつけ』るような場所なんてない)
あずさ(それでも…)
やよい「あずささん…!!」
あずさ(諦めたりなんて、ぜったいにしない…!!)
あずさ「『ミスメイカー』!!」バッ
横に向かって、思い切り両手を広げた。
ゴォッ
アズサ「!?」
その後ろから何かが近づいてくる。
ォォォ
オオォォォォォォォォ
アズサ「回転…ブランコ…!?」
ピタ
『ミスメイカー』の指先が、空を駆ける回転ブランコの鎖に『くっつい』た。
アズサ「な…何ですってェェェーッ!?」
グゥゥーン
あずさ「くぅぅ…!」
やよい「うぅぅぅぅ…!!」
アズサ「で、でも! そんなものに指先だけくっつけたところで、遠心力に振り回されるだけよ!」
あずさ「『ミスメイカー』…!!」
カチ!!
鎖の触れている部分に、『0』のパネルが表示される。
あずさ「『眠って』!!」
ブチブチブチ
鎖が、繋ぎ止めるという機能を停止し、緩んだ。
ブワッ
二人は腕に『くっつい』た回転ブランコごと、再び宙に放り出される。
ゴォォォォォォォ
ちょうど、コースターの移動先に向かって飛んでくる。
アズサ「嘘よ…」
アズサ「こんなの、嘘に決まってる…!!」
あずさ「はっ!」バッ
ズガァン!!
腕にくっついた『ブランコ』を地面に叩きつけるように、先頭の一つ前のシートに落ちた。
カチリ
メキメキメキメキ
シートが肉食動物のように口を開け、ブランコを捕食する。
あずさ「着いたわ。射程距離内に」
アズサ「…………」
あずさは噛み砕かれたブランコの上に乗って、アズサを見下ろしていた。
やよい「っとと」
ウッウー ウーウー
その下ではやよいがバラバラになったブランコを『くっつけて』いる。
あずさ「さぁ、千早ちゃんを返してくれるかしら?」
アズサ「まだよ…まだ、『ゾーン・オブ・フォーチュン』で直接攻撃すれば…」
あずさ「………」
アズサ「ウシャァッ!」バ
あずさ「『ミスメイカー』」グオッ
アズサ「ぐぶっ…」ドボォ
アズサのスタンドの攻撃が当たるよりも前に、その腹に『ミスメイカー』の腕がめり込んだ。
あずさ「『罠』を張って戦うスタンド…それ自体はあまり強くないのね」
アズサ「あっ!!」ブワッ
ヒュルルルルル
ガコン!!
『ミスメイカー』の拳に打ち上げられたアズサは、コースターの一番後ろのシートに落ちて叩きつけられた。
アズサ「あ…ぐ…」
やよい「やりました! 倒しましたよっ!」
あずさ「ふぅ…」チラ…
千早「………」
先頭の座席に横たわっている千早を見る。怪我などはない。
やよい「終わったから、早く降りましょう。地面に着きたいです~っ…」
あずさ「待っててね。千早ちゃんが起きたら、『ブルー・バード』で軽くして…」スッ
眠る千早の肩に手を置く。
カチリ
・ ・ ・ ・
あずさ「…え?」
シュルシュル
ガシィ!!
千早の手足が、あずさの全身に絡みついた。
あずさ「っ…!?」ガクッ
両手両足を固定され、あずさは座席の下へと倒れる。
やよい「あずささん!? え、え…!?」
アズサ「『ゾーン・オブ・フォーチュン』は…」グ…
やよい「!」バッ
やよいが振り向くと、後部座席で、アズサが体を起こしていた。
アズサ「触れたものを『罠』に変えるスタンド…」
あずさ「触れた…もの」
アズサ「そう…! 千早ちゃんだって例外ではないわ!」
あずさ(身動きが…取れない)
千早「ぐっ…こ、これは一体…!?」
あずさ「目を覚ましたのね、千早ちゃん…見ての通りよ」
アズサ「さぁ、仕上げよ!」
カチリ
ギギギ…
前方のレールが変形し、発射台のように空に向く。
アズサ「これからコースターごとコースから外し…墜落させる…!!」
アズサ「私は『完全なアイドル』…これくらいの高さから落ちてもなんともないけど、あなた達はどう…!?」
やよい「ど、どうしましょう…!?」
あずさ「千早ちゃん、『ブルー・バード』を出せない…?」
千早「駄目です…! 腕が、自分のものでないように動きません…」
あずさ「そう…だったら、やっぱり…やよいちゃん」
やよい「!」
あずさ「まず、私たちの体をコースターに『くっつけ』て。やよいちゃん自身もね」
やよい「は、はい…」
あずさ「そうしたら、『ゲンキトリッパー』でローラーをくっつけてコースターを止めて」
やよい「あっ、そっか、止めればいいんだ…!」
アズサ「うふふ、止める…ね、そんなことはできないわ」
やよい「え…?」
アズサ「もちろん、ローラーにだって『罠』を仕掛けてあるッ! 起動した瞬間、ローラーは座席から外れる!!」
アズサ「『くっつけ』て止めたところで、勢いまでがなくなるわけじゃあない! そのままこの座席は真っ逆さまよ!!」
あずさ「………」
アズサ「『ゲンキトリッパー』でローラーを止める? いいでしょう、やってみるといいわ」
アズサ「その瞬間、『罠』が起動するッ! 逃れることはできないッ!」
千早「『ブルー・バード』さえ…出せれば…!!」
やよい「どうしましょう、あずささん…!?」
あずさ「…構わないわ、やって。やよいちゃん」
千早「え!?」
アズサ「話を聞いていたの!?」
あずさ「ええ、聞いていたわよ~。いいから、やっちゃって、やよいちゃん」
やよい「…はいっ!! わかりましたっ!」
アズサ「ふん…それじゃ、これで終わりね、『ゾーン・オブ・フォーチュン』ッ!!」
ギッ!
ガガガガ…
ピタァ…
発射台となったレールの直前で、ジェットコースターが止まった。
やよい「………」
あずさ「………」
千早「………」
アズサ「と…止まった…」
アズサ「何故!? ど、どうして…どうして、『罠』が起動しないの!?」
あずさ「あなたのその『罠』だけど…」
アズサ「はっ!?」
カチ…
ローラーの上に、プレートが浮かんでいる。
あずさ「私が『ミスメイカー』で、『眠ら』せたから。だから、起動しないの」
アズサ「は…………は!?」
アズサ「な、何!? あ、ありえないわ…!!」
あずさ「ありえないって、何が?」
アズサ「そもそも! あなたは千早ちゃんに押さえ込まれて『ミスメイカー』を出すことなんてできないはずでしょう!?」
あずさ「そうね…今は」
アズサ「今…?」
あずさ「あなたを飛ばしたすぐ後かしら。千早ちゃんに触れる前に、触れておいたの」
アズサ「そんな、嘘よ! そんなの、わかるわけがないわ!!」
あずさ「わかるわ。だって、そこしかないでしょう?」
アズサ「え…」
あずさ「私たちが集まったところでまとめて片付けようとするなら…『罠』を仕掛けるとしたら、ここに仕掛けるしかないのよ」
アズサ「………………」
あずさ「まさか、千早ちゃんにまで『罠』を仕掛けてあるとは思わなかったけど」
千早「あ…」シュルシュル
『罠』が解除され、千早の手足がほどけていく。
あずさ「それじゃ、みんな。降りましょうか」
アズサ「まだ、まだ…まだよッ!! まだ私は負けていない!!」ダッ
アズサが後部座席から、前の方に向かってくる。
あずさ「………」
ピタ…
アズサ「ん!? あ、足が…『くっつい』て…!」
やよい「『ゲンキトリッパー』、捕まえましたっ」
アズサ「やよいちゃん…!!」
あずさ「さて…『ミスメイカー』の能力は『眠ら』せることよ」
あずさ「能力を解除すれば…起きるわ」
ガギンッ!!
シートがローラーと切り離され、打ち上げられた。
ゴォォォ
アズサ「ふふ…これで勝ったつもり…?」
アズサ「さっきも言ったけど、これくらいの高さなんて、私たち『複製』には…」
フワフワ
アズサ「って…風船みたいに浮いてる…?」
千早「『ブルー・バード』…」
千早「コースターを『軽く』しました。空気よりも、もっともっと…」
アズサ「し、しかも『くっつい』てるから離れられない…」
アズサ「ちょ、ちょっと…あ~れ~」
アズサはコースターごと浮いたまま、どこかへと飛んで行った。
三人は、レールの上に座っている。
あずさ「千早ちゃん、ここに来てたのね~。私たちが捕まったあの場には、千早ちゃんはいなかった気がするけど」
千早「ええ。皆を助けるために、残りの皆でこの島に来たんです」
千早「助けに来たつもりが、助けられてしまいましたが…」
あずさ「でも、こうして無事でよかったわ」
千早「あずささんと、高槻さんも…無事なようで安心しました」
あずさ「あ、その前に…」
千早「?」
あずさ「まずは『軽く』して、下まで降ろしてもらえるかしら? やよいちゃんが…」
やよい「………」グッタリ
千早「あ…は、はい。そうですね」
To Be Continued…
やよい「ふぅーっ…やっと落ち着きましたぁ…」
あずさ「よしよし、頑張ったわねやよいちゃん」ナデナデ
戦いが終わり、三人は遊園地のベンチに座っていた。
あずさ「それで、千早ちゃん」
千早「はい、なんでしょうかあずささん」
あずさ「ここ、島のどの辺りかわからない?」
千早「私に聞かれても…私も、ここに来たばかりですし」
あずさ「そうよねぇ」
やよい「やっぱり、元の場所に戻ることはできないんでしょうか…」
千早「…寮みたいな場所だったかしら。そんなところに戻る必要はないわ」
やよい「え?」
千早「この事件を起こしたあの人を倒せば、それで全て終わる」
やよい「あの人、ですか?」
あずさ「何か知ってるのね、千早ちゃん。話してくれるかしら?」
千早「それは…わかりました、話します」
あずさ「まさか、高木会長が…」
やよい「信じられないです…」
千早「あの人は誰よりもアイドルに対して真っ直ぐだった。だからこそ…ああなってしまったのかもしれない」
あずさ「とにかく、会長を止めるべき…なのよね」
千早「ええ。恐らく、島のどこかにはいるはずなのですが」
千早「…この霧さえなければ、律子が『ロット・ア・ロット』ですぐに見つけてくれると思うのだけれど」
やよい「そういえば、さっきのあずささんの『複製』、千早さんをどこに連れて行こうとしたんですかね?」
あずさ「確かに…そう、よね」
あずさ「うーんと、私たちが来た方角からコースターの非常出口の方角を考えると…あっちの方向かしら」
やよい「そっちじゃなくて、あっちだと思います」
千早「行きましょう。その先に、何かあるかもしれない」
………
……
…
ザワザワ
島の施設、その中の一つがざわめいている。
「765プロのアイドル達がこの島に乗り込んできたらしい」
「三浦あずさと高槻やよいが外出したまま戻ってきてないそうよ」
「数名は確保したけど、星井美希と我那覇響が…」
ゴゴゴゴゴ
その陰で、職員達の会話を聞いている人物がいた。
雪歩「………」
雪歩だ。
タッタッタ
雪歩は見つからないように、施設のある一室に向かう。
ガラッ
雪歩「真ちゃん!」
真「お、雪歩」ガーッ
扉を開くと、その中で、真が一人エアロバイクを漕いでいた。
真「よっと」タンッ
エアロバイクの上から飛び降りる。
雪歩「はい、水」
真「ありがと」
グビッグビッグビッ
真「ぷは…」
雪歩からペットボトルを受け取ると、一気に飲み干した。
真「で、どうだった?」
雪歩「うん。真ちゃんの言った通り、みんな動いてるみたい」
真「そっか。思ってたより早かったな」グイッ
真「んーっ…」グーッ
真は肩にかけたタオルで汗を拭うと、体を伸ばした。
真「みんなが動き出したのなら、ボクもじっとしてはいられないな」
真「お待たせ」
シャワー室から、トレーニングウェアから着替えた真が出てくる。
真「さ、まずはここから出ようか」
雪歩「でも…どうやって出るの?」
真「ん?」
雪歩「なんか、ピリピリしてるみたいだし…入り口にもいっぱい職員の人がいるよ。出ようとしたら、すぐ捕まっちゃうよ」
真「わざわざ出入り口から出る必要はないよ」ピキピキ
真は右手に『ストレイング・マインド』を纏わせると…
真「オラァッ」
近くの壁を殴り、ブチ抜いた。
パラパラ
真「よっと」
壁に人が通れるくらいの大きな穴が空き、真はためらわずにそこをくぐった。
真「さぁ。誰か来る前に行こう、雪歩」
雪歩「う、うん…」
ガサッ
真と雪歩が、二人で森の中をかき分けながら進んで行く。
雪歩「真ちゃん、これからどうするの?」
真「んー、どうしようか。まずは誰かと合流したいところなんだけど」
雪歩「ここって、牢獄…ってのがあるんだよね。真ちゃんも暴れて捕まってた」
真「う…ま、まぁ本当のことだけどさ」
雪歩「そこに行けば、誰か捕まってるんじゃないかな」
真「…あそこに閉じ込められたら、出ることは不可能だよ」
雪歩「え」
真「あの牢獄の番人…あのスタンドはヤバすぎる。どうしようもなさでは春香の『アイ・ウォント』以上かもしれない」
雪歩「そ、そんなに…?」
真「前まではしばらくすれば帰してもらえたけど」
真「今の騒ぎじゃ、765プロが全員捕まらない限りは出してもらえないだろうな…」
真「だからこそ、今まで大人しくしてたんだよね。いざって時に捕まったままじゃ話にならないから」
雪歩「真ちゃんがそこまで…」
真「とにかく…あそこは後回しにするしかない。ボク達だけじゃあ絶対に勝てない」
雪歩「真ちゃん…」
真「だから、まずは残ってるみんなと合流しよう」
雪歩「う、うん。そうだね、まだ捕まってない人もいるらしいし…」
真「美希と響は無事なんだよね?」
雪歩「それと、あずささんとやよいちゃんも見つかってないみたい」
真「そっか。それじゃ、まずはその誰かと合流するのを目指すか…」
雪歩「うん」
真「ボク達だけじゃあどうにもならないかもしれないけど…」
真「みんな一緒なら、誰が相手だって勝てる。…たぶんね」
雪歩「…うん、そうだね」
雪歩(でも…)
雪歩(その『みんな』の中に、私って入っているのかな)
雪歩(私は、自分でスタンドを使うこともできないのに…)
ザッザッザッ
真「うーん…」キョロキョロ
真が雪歩の先を歩きながら、周囲を見渡している。
雪歩「…ねぇ、真ちゃん」
真「ん? なんだい、雪歩」
雪歩「誰かと合流するって言ったけど…どうやって合流するつもりなの…?」
真「え、それは普通にこうやって探し回るつもりだけど」
雪歩「真ちゃん…それで、見つかるの…?」
真「見つかるまで歩こう」
雪歩「………!」
真「それが一番手っ取り早いと思うんだ」
雪歩「そ、そう…かな…?」
雪歩(だ、大丈夫…なの…? もっと、いい方法があるんじゃ…)
雪歩「………」
雪歩(うぅ、何も思いつかない…! ダメダメな私…)
雪歩「ふぅ、ふぅ…」
真「雪歩。少し、休もうか?」
雪歩「ううん、大丈夫。これくらいでへばってたらアイドル失格だよ」
真「…そっか、じゃあ行こうか」
雪歩(何もできないなら…せめて、真ちゃんの足を引っ張らないようにしなくっちゃ…)
真「ん?」
タタタ
しばらく歩いていると、真が何かを見つけ、駆けていく。
雪歩「真ちゃん?」
真「建物だ…こんな森の中に」ピタ…
真は壁に手をつく。
真「………」スッ
耳をくっつける。
真「中で金属がぶつかるような音がする」
雪歩「え!」
真「…よし。中に入ろうか」
雪歩「え!? 危ないんじゃないかな…回り込んで行った方がいいんじゃ…」
真「いや。このまま回り込んでも遠回りだ、それに中に誰かいるかもしれない」
雪歩「そう…なの? そうかもしれないけど…」
ピキピキ
バガン!!
『ストレイング・マインド』で壁をブチ抜く。
真「進もう」
雪歩「………」
雪歩(なんだろ…ちょっと強引だなぁ真ちゃん…)
雪歩「ここは…」
カン! カン! カン!
ジ…ジジジ…
真「工場…かな。作ってるものは…」
雪歩「椅子とか、鉄骨とか…だね。何に使うんだろう」
真「ここに誰か、隠れてたりしないかな」ザッザッ
雪歩「あ! 待って、真ちゃん…!」
真「っと、ごめん。足元に気をつけて…」クルッ
バチッ
・ ・ ・ ・
真の視界の隅で、何かが光る。
雪歩「?」
ガッ
シュバァ
真が、ベルトコンベアの上から鉄の棒を拾い上げ、雪歩の顔面に向かって投げた。
雪歩「は…」
バチィ!!
雪歩「きゃ…!?」
雪歩の目の前で、『電撃』が弾けた。
カランカラン
シュゥゥゥ…
鉄の棒が地面に落ちる音が、室内に響く。棒は溶けたようにひしゃげていた。
雪歩「な、何…?」
真「…出てこい」
シーン…
呼びかけるが、返事はない。
真「………」キョロ
キョロ
工場内を左右に大きく見渡す。人影は見当たらない。
ゴウンゴウンゴウン…
機械は何事もないかのように作業を続けている。
真「機械の陰に隠れてるのか…?」
バリバリバリ
真の背後のベルトコンベアで、金属を『電撃』が伝ってくる。
雪歩「真ちゃん!」
真「!」ピキピキ
雪歩の声に反応すると、腕に『ストレイング・マインド』を纏い…
真「オラァッ!!」バキィィィッ
振り向きながら、裏拳でベルトコンベアを粉砕した。
パリッ
…しかし、真の腕には僅かに『電撃』が流れている。
バリバリ
真「うあああああ!?」バリバリバリバリ
その『電撃』が腕で増幅し、迸った。
雪歩「ま、真ちゃんッ!!」
真「大丈夫…腕が少しコゲただけだ」シュゥゥウゥ…
真は、煙が立ち上る腕を抑えている。
雪歩(これって、『スタンド攻撃』…? でも、どこから…)
ゴウンゴウンゴウン
雪歩(隠れるなんていっぱいある…ここで、姿を現さずにああやって『電撃』だけで攻撃してこられたら…)
真「雪歩。危ないから、ちょっと外に出てくれない?」
雪歩「え、でも…」
真「いいから」
雪歩「う、うん…」
壁にあいた穴から、雪歩が工場の外に出る。
雪歩(私は…『スタンド使い』…だけど、自分でスタンドを操れるわけじゃあない…)
雪歩(私がここにいても、真ちゃんの足手まといにしかならない…)
雪歩(でも、真ちゃん…相手が見えないのに、どうやって戦うつもりなの…?)
真「ふーっ…」ピキピキピキ ビキッ ビキ
真の全身が、『ストレイング・マインド』の黒い鎧に覆われる。
カシャン ガシャン
タッ!!
すぐ近くで動く機械の一つに突っ込んでいくと…
真「オラァッ!」バッキャァァァァァンン
思いっきり、殴り飛ばした。機械はバラバラになって、部品が宙に舞う。
雪歩「え…!?」
真「オラオラオラオラオラオラオラオラ」バンッ ドンッ バキバキッ メキャッ バキャン
工場の中のものに片っ端から殴りかかり、どんどんブッ壊して地面を平らにしていく。
パリパリ
途中、どこかから『電撃』が襲いかかってくるが…
真「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」ベキッ バキバキバキ メシャッ バキャン バギャア
真に届く前に、破壊された欠片ごとブッ飛んでしまう。
真「よし」
バァーン
工場の床に、機械の残骸だけが散らばっている。
真「これでもう、隠れる場所はない…そうだろ?」
ドドドドド
ユキホ「ふーん…」
ドドド
雪歩と同じ姿をした『複製』が、そこに立っていた。
雪歩「わ、私が…いる…」
真「雪歩の『偽物』か」
ユキホ「『偽物』って呼ばれ方は…」
ユキホ「あんまり好きじゃないなぁ。なんだか、そこにいる本物さんに劣ってるみたいだから」
雪歩「えっ…?」
ユキホ「そうでしょう? なんでもかんでもダメダメダメダメ…今もそうやって外から見てるだけの人に」
雪歩「………」
真「こそこそ攻撃してきたヤツの台詞とは思えないな」
ユキホ「別に。スタンドは有効に使ってこそでしょう?」
真「で? 雪歩の『偽物』がこんなところで何をしてるんだ」
ユキホ「………フー」
物憂げにため息をつく。
ユキホ「もうわかってるだろうし、わからなくても知ったところでどうでもいいから言うけど…」
ユキホ「今、ここの外から確保に失敗した765プロのアイドルが来ている」
雪歩「!」
ユキホ「そして…それを知ってか知らずか、確保済みなのに勝手に動き回ってる人もいるみたいだし」
真「………」
ユキホ「たかが数人だけど…集まると厄介なことになるかもしれない。だから、私たちが散らばって確保に来てるってわけ。今度は好き勝手できないようにね」
真「知ったところでどうでもいい、っていうのは…」
ユキホ「決まってるでしょう。真ちゃん達は、ここで私に倒されるからだよ」
真「………」
ゴゴゴゴゴゴゴ
雪歩「真ちゃん…」
真「雪歩は下がってて。ボクが戦う」
雪歩「う、うん」
ユキホ「そうやって、真ちゃん一人に戦わせるつもり?」
雪歩「…!」
真「なんだ、ボク一人じゃあ不満かい?」
ユキホ「………」
真「かかってきなよ」クイッ
ユキホを指差すと、その指を引いた。
ユキホ「言われなくても…」
バチッ!!
真「!」
ユキホの体から火花が散る。
ユキホ「これが私のスタンド『コスモス・コスモス』。能力は…」パリッ
バチバチッ
壁に通っている鉄製のパイプに、『電気』が走っていく。
ユキホ「『電流』を流す。そして…」
バリバリバリ
その途中で、『電撃』が、爆発するように広がった。
ユキホ「拡散する…それだけ」
真「………」
シュゥゥゥゥ…
広がった後の鉄パイプが、溶けてひん曲がっている。
ユキホ「それだけだけど、鉄が熱でねじ切れるくらいのパワーはあるよ」
ユキホ「真ちゃんの『ストレイング・マインド』でも、流されたら無事じゃあ済まないかもね」
真「………」ザッ
パキッ
足を開き、腰を落とす。関節から割れるような音が鳴った。
タッ
壁際のユキホに向かって、真は跳ぶように真っ直ぐ突っ込んでいく。
ユキホ「………」ス…
パチッ
ユキホはそこから一歩も動くことなく、右手を上げた。指先から、火花が散る。
ユキホ「『コスモス・コスモス』」ヒュッ
床に振り下ろした。
バチバチバチ!!
ユキホの足元から真に向かって、『電撃』が亀裂のように地面を走ってくる。
真「うお…!」タッ
大きく跳び上がって、躱す。
真(そうか、『電気』のスタンド…ってことは)
バリバリィッ
真のちょうど真下で、『電撃』が爆発する。
真(電気が伝わる限り、この工場全体が射程距離か…!!)
真「ぐっ!」ピシ!
火花が『ストレイング・マインド』の表面にかすり、僅かにヒビが入った。
真「っと」スタッ
ユキホ「………」パリ
着地し、再び向かっていくが、ユキホは指を向けたまま何もしてこない。
真(『電撃』は、連続しては撃てないらしい…チャージする時間が必要なんだろうか)
ユキホ「………」
真(恐らく、撃てるようになるまでそうは時間はいらないだろう…なら)タッ
走り幅跳びのように踏み切り、ユキホに飛びかかる。
真「『電気』を通る物体のない空中からなら…!」
スッ
ユキホ「甘いよ」
バチィッ!!
今殴りかかろうと言う瞬間、目の前で火花が弾けた。
ドッ
ゴロゴロゴロ
その衝撃で真は吹き飛ばされ、床を転がった。
ユキホ「ふぅ」
真「………」シュゥゥゥゥ
真が身につける『鎧』から、煙が立ち上る。
ユキホ「空気にだって電気は通るんだよ? 雷は空気を通って地上に落ちるでしょう?」
ユキホ「まぁ、金属に比べれば通る距離なんて『静電気』みたいなものだけど。近くから撃てばこんなものだよ」
真「………」
雪歩「真ちゃん!」
ユキホ「さてと。次はあなただよ」ジロッ
雪歩「ひっ!?」ビクッ
ユキホ「その怯えた態度…本当にイライラするなぁ。こんなのが私の元って考えるだけで虫唾が走るよ」
ユキホ「殺すなとは言われてるけど…」
ユキホ「それ以外なら、何やってもいいんだよ? アイドルとして『再起不能』にすることも」
ガシャ!
ユキホ「………」クルッ
金属が擦れる音に、ユキホは目を向ける。
真「待てよ…」ユラ…
見ると、真がゆっくりと起き上がっていた。
真「ボクはまだ倒れちゃあいないぞ…!」
ユキホ「ふーん…」
真「雪歩!」
雪歩「!」
真「こいつはキミに強い殺意を抱いている…ボクが戦っているうちに逃げるんだ」
ユキホ「ふふっ」
真「何がおかしい?」
ユキホ「だって、真ちゃん。スタンドも扱えないあの子が一人で逃げたところで、一体何の意味があるの? いずれ捕まるだけだよ」
真「それは…」
ユキホ「萩原雪歩だって、それくらいわかってる。だから、逃げない。逃げられないんだよ、一人になるのが怖いから」
雪歩「わ、私は…」
ユキホ「そうでしょ? 私はあなたの記憶を持ってるんだよ、だからわかる。だから、何もできないくせにそこにいる」
雪歩「私…は…」
真「おい、おまえ…」
ユキホ「それと…一人になるのが怖いってのは、真ちゃんにも当てはまるよね」
真「!」
ユキホ「中から、聞こえてたよ。強引にここを行こうって、ここに誰かいるかもしれないって入ってきたんだよね」
ユキホ「どうして? 萩原雪歩の言ったように、遠回りすればよかったのに。私みたいに、敵がいるかもしれないのに」
ユキホ「慌てちゃって…そんなに早く、誰かと合流したかったの?」
真「う…」
ユキホ「ま…それもそっか。765プロが攻められた時、みんななすすべもなく捕まっちゃったんだもんね」
ユキホ「それもこれも、みんな一人でいたから。バラバラだったから」
真「ううう…」
ユキホ「ねぇ。一人で戦うのって、そんなに怖い? 一人になるのって、そんなに怖い?」
真「うわあああああああああ!!」
ユキホ「焦るよね…萩原雪歩がやられたら、真ちゃんは本当に一人になっちゃうから」
ダッ
色んなものを振り払うように、真がユキホの方へと向かってくる。
ユキホ「真ちゃんのスタンド。いくらパワーが強くたって、近づけさせなければいいだけだよね」ヒョイ
ユキホ「『コスモス・コスモス』」ジジッ
金属片を拾い上げ、『電気』を通す。
ユキホ「はい」ヒュッ
それを、真に向かって投げた。
コォォォ
真(殴ってブッ壊す……いや、ダメだ! あの小さい金属片に詰まった『電流』を、モロに流されることになる…!)
真「く…!」タッ
横っ飛びで、躱す。
バチチィッ!!
真「ぐあっ…!」ガリ ガリ
金属片から放出される爆発するような『電撃』が、鎧を削った。
真「はぁ、はぁ」ガシャン
その場に、膝をついた。
真(威力が強い…! 『ストレイング・マインド』のガードも、お構いなしかっ…!)
真(しかも発動も、攻撃自体もとにかく速い! このままじゃ…)
ユキホ「もう一個」ポイッ
フワ…
放られた金属片が、真へと迫る。
真(やられ…)
ヴンッ…
その時。真の視界の横から、金属棒が飛んできた。
カンッ!
棒が、金属片とぶつかる。
バリバリバリ!!
カラン
移動してきた『電撃』によって折れ曲がり、地面に落ちた。
真「…え?」
ユキホ「…何のつもり?」
雪歩「………」
ユキホ「萩原雪歩…!!」
棒を投げてきたのは、雪歩だった。
真「ゆ、雪歩…? なんで…」
ユキホ「なんで、工場の中に入ってきたの? 怖くないの? 怖いでしょう」
雪歩「怖いよ…」
雪歩「でも、私が何もできなくて…そのせいで真ちゃんが傷つくのを見ている方がよっぽど怖いよ…!!」
真「…!」
ユキホ「真ちゃんが傷つくのが怖い、ね…」
ユキホ「でもさ。それって真ちゃんの方にも言えることだよね?」
ユキホ「それが嫌だから、何もできないあなたには外にいてもらってたのに…身勝手だとは思わないの?」スッ
話しながら、ユキホは床に向かって手を伸ばす。
真「オラァッ!!」ドヒュゥウウウ
届く前に、真はユキホに金属片を投げつける。
ユキホ「………」サッ
カイン!!
ユキホはたやすく避け、金属片は後ろの壁にぶつかった。しかし、攻撃は中断されている。
真「…雪歩」
雪歩「…ごめんね、真ちゃん。勝手な真似して」
真「ううん、こちらこそ。情けない姿を見せちゃったね」
ユキホ「大変だね。スタンドも使えないその子に出しゃばられると、邪魔でしょう?」
真「そう、思うかい?」
ユキホ「…?」
真(ボクは何を焦っていたんだ…何を勘違いしていたんだ。これじゃ、あの『ファースト・ステージ』と同じじゃあないか)
真「雪歩の『偽物』。悪かったね、手を抜いてて。ここからは、本気で行くよ」
ユキホ「手を抜いてた…? そうは見えなかったけど」
真「すぐに…」ス…
真が両腕を前に出すと…
ギッ!!
鎧の背中が、大きく割れた。
真「わかるよ」
スタンド名:「コスモス・コスモス」
本体:ハギワラ ユキホ
タイプ:一体化型・発動
破壊力:A スピード:A 射程距離:D(電流の届く範囲) 能力射程:D(電流の届く範囲)
持続力:D 精密動作性:E 成長性:C
能力:ユキホの体から発する「電流」のスタンド。
どんな生物も、その身体ではごく僅かで微弱な「電気」が流れている。
血の流れていない「複製」も、体を動かすためには脳からの電気信号が必要であり、例外ではない。
「コスモス・コスモス」はその「電気」を体内で限りなく増幅させ、攻撃に転換する。
一度体内から放たれた「電撃」は、一度だけユキホの意思で拡散する。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
ギギギギギギギ
全身を覆っていた鎧が、音とともに少しずつ両腕に集まっていく。
ユキホ「これは…」
ギギギギ
蝶が蛹から羽化するように、真の姿が露わになっていく。
ギッ!
やがて真の両腕が、巨大な黒い手甲に覆われた。
ギギギ
両手の指を、人差し指から波打つように、感覚を確かめるように曲げる。
真「『ストレイング・マインド… ………」
ググ…
ギッ!!
拳を握りこむと、軋む音が鳴った。
真「『チアリングレター』」
ユキホ「『チアリングレター』…それが本気の表れ? 私にはガードを下げたようにしか思えないけど」
真「………」タッ
ユキホ「動きも…全身に纏ってるわけじゃあないから、こっちに向かってくる速度が遅くなってるよッ!」バチッ
バリバリ
真に向かって、『電撃』が走っていく。
真「オラァ…!」グァン!!
バッキィィィーン
真は腰を落とし、拳でアッパーをかますように地面をすくい上げた。
ユキホ「!?」
ジッ!
機械の残骸が打ち上げられ、地面を走る『電撃』が真の前で途切れる。
真「『電気』が通る道をなくせば、ここまで攻撃は届かないだろ…!」
パラパラ
真がすくい上げた鉄の破片が、宙に舞っている。
ユキホ「…その防ぎ方は間違いだね」
バチィッ!!
攻撃が途切れた場所で、『電撃』が拡散する。
ヒュン ヒュン
その衝撃で、真が打ち上げた鉄の破片が手榴弾のように飛散した。
ユキホ「ほら! そうやって腕だけに鎧を集めたら…!」
バババババ
真に襲い掛かった破片が、彼女の周囲から消えた。
・ ・ ・ ・
真「集めたら…なに?」バラッ
ガシャン
真が手を開くと、掴み取った破片が落ちた。
ユキホ「………」チラッ
雪歩「ふーっ…」
真の後方では、雪歩がユキホの方を見据えながら足元の瓦礫をどかしていた。
ユキホ「………」ジ…
雪歩の立っている位置から自分の位置までを、視点で辿り、足元を見る。
グオッ
雪歩「!」
視界の隅から、真が懐に向かって潜り込んできた。
真「たっ」ヒュッ
ユキホ「っと…!」バッ
すくい上げるようなアッパーを、飛び退いて躱す。
パチッ
真「!」ババッ
ユキホの指から火花が走るのが見えると、真はすぐさま離れていった。
ユキホ「………」
真「どこを見ているんだい?」
ユキホ「…やっぱり、まずは真ちゃんからか」
スッ
ユキホが真に向かって人差し指を向ける。
真「!」タッ!
それに反応して、真は横に大きく跳んだ。
ユキホ「………」スゥ…
真「!」
逃げる真の姿を、ユキホは指で追っていく。
キキッ
真「オラァッ」ダッ
真はブレーキをかけると、ユキホに飛びかかった。
ユキホ「逃げきれないと判断したのはいいけど、向かってきたのは失敗だったね」
バチッ
ユキホ「『コスモス・コスモス』」
バリバリバリ
ユキホの指から放たれた『電撃』が、空中で拡散しながら真へと襲いかかる。
真「オラァッ」グオッ
バッチィィィィン!!!
真は正面から殴りつけ、拳と『電撃』がぶつかり合う。
真「ぐあっ!?」グオッ
ガシャン!!
衝撃で真は弾き飛ばされ、背中から地面へと叩きつけられた。
ユキホ「…!」
真「くっ、なんてパワーだ…!」バッ
すぐに起き上がり、ユキホの射程距離から外れる。
ユキホ(なんてパワー…?)
ユキホ(それはこっちの台詞だよ、『コスモス・コスモス』とまともにぶつかりあって無事でいられるのがまずおかしい…)
ユキホ「とは言っても…」
ダダダ
真はジグザグにステップを踏みながらユキホへと近づいていく。
ユキホ(『硬化散弾銃』を除けば、真ちゃんのスタンドは基本的に近づかなければ攻撃することはできない)
ユキホ(どういう形であれ、最終的には私に向かってくる)
タッ
真が再びユキホの射程距離内へと踏み込んだ。
ユキホ(私は魚が網にかかるのを待つように、近づいてきた真ちゃんを狙えばいい)スッ
バチバチッ
ユキホ(この距離なら逃げられない、入った!)
真「うおおおおお」グォォ
真は前方に向かって手を広げ…
真「だっ!」パシィ!!
ユキホ「は…?」
宙に放たれた『電撃』を、拡散する前に握り潰した。
ジッ…
ギッ ピシッ パキッ
真「うぐっ…!」ビリビリ
『チアリングレター』の手の中で『電撃』が増幅し、僅かにヒビが入った。
ユキホ「………」
真「ふーっ…」パリッ
ダッ!!
体の痺れを振り払うように、すぐさま突っ込んでいく。
雪歩「やった…これで『電撃』は出せない、真ちゃんのチャンスだよ!」
真「オラァァァッ!!」ドォォ
『コスモス・コスモス』を撃ち終わったユキホに、真の拳が迫り来る。
ユキホ「………」パリッ
真「え!?」ビクッ
バチバチィッ!!
しかし、それが命中する前に、ユキホの体から宙に向かって『電撃』が走った。
真「くっ!」バッ
真は自分の体をかばうように両腕を交差させ…
バチィッ!!
そこに『電撃』が叩きつけられた。
真「うおおおおおおおおお」ビキビキビキッ
『チアリングレター』のヒビが広がっていく。
ドサァ!!
その場に尻餅をついた。
ユキホ「連続しては撃てない…誰がそんなこと言ったの?」
ユキホ「『コスモス・コスモス』は私の体に溜まった『電流』を放出するスタンド。溜められる『電撃』の量には限りがあるけど、それ以内なら何回でも撃てる」
ユキホ(ただ…出力を抑えたとはいえ『コスモス・コスモス』を握り潰して止めるなんて)
ユキホ(二発目も、しっかりと防がれた…ガードを空けたと言っても、隙ができたわけじゃあない…か)
真「………」ギギッ
ユキホ(『チアリングレター』を完全に破壊するには今と同じ出力であと2発…いや、3発ってところかな)
ユキホ(最大出力なら1発で破壊出来るかもしれないけど、外したら…あれも一撃必殺のスタンド、慎重に行こう)
雪歩「真ちゃ…」フラッ
雪歩は真の方へと近づこうと金属の床に足を踏み出すが…
バチィッ!!
雪歩「っ…!!」
その手前で『電撃』が弾ける。
ユキホ「あなたはそこでじっとしてて。ご主人様から『ステイ』を言い渡された犬のようにね」
雪歩「う…」
ユキホ(こうして出てきたところで、あなたに出来ることなんて、ほとんどないでしょう?)
ユキホ(出しゃばってこないで怯えて隠れていればいいのに)
真「………」
ユキホの目が雪歩に向いているのを、真は座りながら眺めていた。
真「『ファースト・ステージ』」ボソッ
FS「…呼ンダカ、菊地真」ズズ
真が呟くと、彼女の体を盾にして、ちょうど雪歩には見えないように、瓦礫の中から白い頭が生えてくる。
真(『ファースト・ステージ』…雪歩の意思とは全く無関係に行動する自立型のスタンド)
真(雪歩にスタンドのことを教えようとする者を無差別に攻撃するというはた迷惑なヤツだった)
真「いたのか。さっさと出てこいよ。お前の能力なら、あんなスタンド楽勝だろ」
真(能力は、こいつが受けたダメージを、触れることで相手に『返す』…)
真(自動操縦型であり雪歩に攻撃が帰ってこないため、こいつ自身がダメージに対しほぼ無敵。それに加えてこの能力…ボクもこいつには酷い目に遭わされた)
FS「知ッテイルダロウ? 私ハ、雪歩ニ姿ヲ見セラレナイノダ」
真(欠点は雪歩のスタンドにも関わらず、雪歩が見える範囲に現れることはできないということだ)
真(雪歩を守るために存在しているのに、雪歩の前には決して現れない…矛盾したスタンド)
真「雪歩はスタンドのことを受け入れた、もうそんなルール守る必要はないだろう」
FS「ソウハ イカナイ。『萩原雪歩ヲすたんどカラ遠ザケル』…ソレガ私ガ生マレタ理由ダカラダ。私自身ガ ソレヲ破ルワケニハイカナイ」
真「役立たず…」
FS「役立タズカ…ソウカモ シレナイナ」
FS「私ニハ 何モナイ…水瀬伊織ニ存在ヲ否定サレ、天海春香ノ事件モ終ワッタ。モウ私ハ空ッポダ…『すたんどノヌケガラ』」
FS「出テ行ッタトコロデ…今ノ私ニハ アノ『こすもす・こすもす』ハ 倒セナイ」
真「…なぁ、『ファースト・ステージ』。雪歩のあの姿を見たか」
FS「萩原雪歩ノ事ハ見ナクテモ ワカル」
真「どう思う」
FS「…危険ダ。出テキテ ホシクハナイ」
真「ああ、そうだね。ボクも危険だと思う」
真「でも、それは雪歩に戦う手段がないからだ。戦う手段がないから、ああやって危険でも出てくるしかないんだ」
FS「………」
真「『ファースト・ステージ』。今の雪歩に何かが必要だとしたら、それは雪歩を危険から遠ざけることなんかじゃあない」
FS「ナラバ、私ハ ドウスレバ…」
真「もう、わかってるだろう?」
FS「ソレハ…」
真(………)
真はヒビの入った『チアリングレター』を見つめる。
真「『ファースト・ステージ』、もしボクが… ………いや」
真「行ってくるよ」
FS「菊地真…?」
真はユキホに向かって再び走り出す。
真「うおおおおっ」
ユキホ「おっと、やっと来たね…待ってたよ。私の『コスモス・コスモス』も既に充電完了している」パチッ
バリバリバリ
3本の『電流』がバラバラに真に向かっていく。
真(1本だけを引きつけて…)タタタ
バチィッ!!
3本の『電流』のうちの1本に近づいていくと、真の近くで拡散する。
真「たっ!!」ダッ
真はそれを横に大きく跳んで躱した。
ユキホ「そこだよ」クイッ
バリバリバリ
残った2本の『電流』が一斉に、真を追いかけるように曲がった。
真「何!?」
ユキホ「その体勢じゃ逃げられないんじゃない?」
真「………」ギギギ
グッ
真は右腕を地面につけ…
ダヒュン!!
腕の力だけで跳ねた。その勢いで真の身体は半回転し、足が天井に向く。
ユキホ「そうやって避けるのも計算通り」スッ
真「!」
既にユキホは標準を真に定めている。
ユキホ「空中じゃ避けられない」
真(しまっ…)
ブラン!
真「!?」
ユキホ「なに?」
その時、天井からクレーンのアームが降りてきた。
真「これは…」
雪歩「真ちゃん!」
真「雪歩…!?」
雪歩が壁のレバーを操作し、クレーンを下ろしていた。
ユキホ「長さがちょっと足りないみたいだね」
クレーンのアームは、天地が逆になっている真の膝ぐらいに位置している。
ユキホ「関係ない、このまま撃つ…『コスモス・コスモス』ッ!!」
ガッ!!
ユキホ「!?」パリッ
真「………」グ…
足に纏っている鎧の形が手のように変化し、クレーンのアームを掴む。
真「おおっ」グオッ
バリバリ
上体を起こし、躱す。宙に放たれた『電撃』が、空に溶けていった。
真「ふっ!」タッ!!
真は振り子の要領で勢いをつけ、ユキホの方に翔ぶ。
ギッギッ
真「おおおおおおおおおおお」
『チアリングレター』を腕に戻し…
真「オラァァァ」ビュ
ユキホ「…!!」
バッキィィィィィン!
ユキホの片腕を、拳で粉々にブッ飛ばした。
雪歩「あ…!」
真「よし…!」
パリッ
・ ・ ・ ・
着地した真の指に、『電撃』が走っている。
真「なに…」
ユキホ「…『コスモス・コスモス』」
真「うわあああああああ!!」バリバリバリバリ!!
真の腕で、『電撃』が拡散する。
雪歩「真ちゃん!?」
ユキホ「『コスモス・コスモス』は私の体に流れる『電流』を増幅させるスタンド…」
ユキホ「つまり、私の身体には常に『電流』が流れている…それに触れるってことは、こういうことだよ。真ちゃん」
真「く…」ピキピキピキ
『チアリングレター』全体にヒビが走っていく。
ユキホ「さぁ、わかったでしょう? 真ちゃんじゃ私には勝てない。よくて相打ちだよ」
タッ
真「オラァ!」ブンッ
ユキホ「!?」バッ
ためらわず、ユキホに殴りかかる。すんでのところで躱した。
ユキホ「なっ…何考えてるの…!?」タタッ
真「………」ダダダダ
逃げるユキホを追いかけていく。
ユキホ「何も… ……… 何も考えてないの…!?」
真「オラオラオラオラ」ゴォッ
ユキホ「く…ああああっ!!」
バリバリバリバリ!!!
ユキホは残った片腕で、地面に大量の『電撃』を流した。床に『電撃』が迸り、破片を吹き飛ばしていく。
真「うおっ」バッ
雪歩「きゃ…!」
直撃でないのでヒビが大きくなることはなかったものの、その勢いで真の身体もユキホの近くから飛ばされた。
ユキホ「はぁ、はぁ、はぁ…」
真「なんだ。『完全なアイドル』ってのは案外ビビリなんだね」
ユキホ「くっ…! …!!」
真(精神的にボクが追い詰めている…勝てる!)
真(雪歩は戦う手段もないのに精一杯頑張った…せめてこいつは、このままボクが倒す!)
真「ふっ!」ガンッ!!
足を思い切り地面に叩きつけると、瓦礫の中から、金属棒が飛び出した。
ガシッ
真「オラァッ!!」ドヒュゥ
それを空中で掴み取ると、ユキホに向かって投げつけた。
真「ふっ!」タッ
真も一緒になってユキホの方へ突っ込む。
ユキホ「………」
ゴォォォォォォォォォ
ユキホ「うっ!」ドスッ
金属棒は、そのままユキホの肩に突き刺さった。
真「…何!?」ピタッ
それを見て、真は足を止める。
真(今のは食らうような攻撃じゃあない! 避けることも、『電撃』で弾くこともできたはずだ!)
真(なんで、避けなかった…!?)
ユキホ「考えたね、真ちゃん」ス…
近くのパイプに手を伸ばす。
真(なんだ? パイプに『電流』を流すつもりか…?)
ユキホ「その、一瞬の隙が欲しかったの」
・ ・ ・ ・
真「…!!」バッ
振り向きながら、パイプの先を目で辿る。
ゴゴゴゴ
雪歩「う…」
その先には、雪歩がいた。服がねじ切れたパイプに引っかかっている。
真(さっきの…『電撃』の衝撃でか…?)
ゴゴゴゴゴ
真(追い詰めたと思った…)
真(いや、事実そうだ…だけど、だからこそ何をするかわからないんだ…)
真(相手は765プロのみんなと違うんだ、ボクはそれを考えなければいけなかった)
雪歩「うぅ…」
雪歩は先程の衝撃でどこかにぶつけたのか、頭を押さえている。
真(雪歩に、離れろと呼びかけないと…いや)
ユキホ「『コスモス…」バチッ
真(間に合わないか…!?)
真「オラァッ!!」ヒュッ
パリィン
壁の方に飛び込み、拳で殴りつける。パイプが砕け散った。
雪歩「あっ!」バッ
直後に、雪歩が起き上がり、壁から離れるが…
バリバリバリ
しかし、真の腕は既にパイプに触れている。
真「うっ!」ビリィッ!!
パイプを伝ってきた『電撃』が、そこに触れている真の身体に流れた。
雪歩「…え」
真「………」ピリッ
真が、自分の手を見つめた。
真「…ごめん、雪歩」
ユキホ「『コスモス』」
真「うっ…うお…ああああっ!!」
バリバリバリ
真の体から、拡散した『電流』が溢れ出す。
雪歩「ま」
バリバリバリバリィッ
ドサッ
真の体が浮いたと思うと、肩口から地面に落ちていった。
真「………」シュー
シュー シュー
体の所々が黒く焦げ、煙が上がっている。
雪歩「真、ちゃん…?」
真「………」スゥ…
雪歩「…!」
真の両腕から、『チアリングレター』が消えた。
ユキホ「これで、真ちゃんは片付いた」
雪歩「い…」
雪歩「いやああああああああああああああああああああ」
ユキホ「さて、次はあなたの…」
雪歩「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
ユキホ「あんまり大声出さないでくれないかな…耳障りだよ」
スタンド名:「ストレイング・マインド・チアリングレター」
本体:菊地 真
タイプ:近距離パワー型・装着
破壊力:A スピード:A 射程距離:なし 能力射程:D(5m)
持続力:C 精密動作性:B 成長性:D
能力:最強の硬度と最強の破壊力を持つ、真のスタンド。
本来の真のスタンドは全身を纏う鎧だが、それを一部に集中することで何者にも破壊されない質量と、正確な動きを得た。
基本的には手甲のように両腕に装着する他、足や身体のごく一部など、様々な場所に出すこともできる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
スタンド名:「ファースト・ステージ」
本体:萩原 雪歩
タイプ:自動操縦型・自律
破壊力:D スピード:D 射程距離:A(ほぼ無限) 能力射程:A(ほぼ無限)
持続力:E 精密動作性:D 成長性:C
能力:雪歩を守るためだけに存在する自立行動スタンド。
雪歩のスタンドに対する未知への恐怖心から発現し、雪歩にスタンドについて話すことをスイッチとして出現し、話した者を追跡していた。
しかし、雪歩がスタンドのことを認識したことで未知への恐怖心は薄くなり、また「ファースト・ステージ」本人にも以前のような強い意思がなくなったため、現在、能力は著しく劣化している。
殴ることで、自分に蓄積したダメージを、与えた相手に「返す」。返したダメージは、「ファースト・ステージ」からは消え、回復してしまう。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
グッ グッ
ユキホが肩に突き刺さった金属棒を引っ張っている。
ユキホ「…片手じゃあ抜けないか」スッ
諦めて、手を放した。
ユキホ「腕は…まぁ、仕方ないか。一本で済んだだけマシだね」
真「………」シュー シュー
倒れる真の体から煙が立ち昇っている。
雪歩「あっ、あああっ…!」
雪歩(あぁ、私だ…私のせいだ…真ちゃんは私を助けようとして…)
ユキホ「さて、かわいそうだけど…いや全然かわいそうだとは思わないけど」
ユキホ「あなたも一応765プロだし、見逃すわけにもいかないよね」
雪歩「………」グッ
ベキッ
雪歩は壁のパイプを掴み、熱で曲がった部分をもぎり取る。
ユキホ「…?」
雪歩「………」ス…
両手でパイプを構え、ユキホに向けた。
ユキホ「なに、それ。そんなので私に勝てるとでも思ってるの?」
雪歩「思ってない…」
その姿勢は堂々としたものではなく、腰が引けている。
雪歩「真ちゃんがやられたんだもの、私が勝てるわけがない…」
ユキホ「だったら、なんでそんなもの持って向かってこようとするの? 逃げたらいいんじゃない?」
雪歩「嫌だ…」
ユキホ「手が震えてるよ。怖いんじゃあないの?」
雪歩「怖いよ…でも、ここで真ちゃんを置いて逃げたりしたら、私はずっとダメダメなままになっちゃうから…」
ユキホ「………」
雪歩「そっちの方がずっとずっと怖いから」
ユキホ「そう…」パリッ
ユキホの体から火花が飛ぶ。
ユキホ「だったらダメダメなまま終わっていきなよッ!! 『コスモス・コスモス』ッ!!」
雪歩「…!!」
バチバチバチィッ!!
指先から放たれた『電撃』が、真っ直ぐ雪歩へと向かっていく。
雪歩「はぁー…っ」グッ
握り締め、じっと見据える。
雪歩(叩き落として…『電撃』が手元に流れてくる前に放す…)
ジジジジジジ
雪歩(できるわけがない…でも、やらなきゃやられる…!)
ス…
横から伸びてきた手が、雪歩の持つパイプを取り上げる。
雪歩「え?」
「萩原雪歩、ソンナモノヲ振リ回スノハ貴女ニハ似合ワナイ」
パァン!!
その手は雪歩の前に出て、『電撃』を薙ぎ払った。
雪歩「!」
ユキホ「!?」
カラン カラン
鉄パイプが衝撃で弾き飛ばされ、床に転がる。
?「大事ナノハ…萩原雪歩…」
ドドドド
?「立チ向カオウトスル ソノ『意志』デス」
雪歩「あなたは…」
FS「ソレガアレバ、私ハ戦エル」
ドドドドドドド
モデルのようなすらっとした体型をした、雪のように白い人型が、雪歩の目の前に立っていた。
雪歩「スタ…ンド…!?」
ユキホ「これが『ファースト・ステージ』…?」
FS「………」グッ
スタンドは自分の手を見つめて、感触を確かめるように握りしめた。
雪歩「あ、あの…あなたは…」
FS「初メマシテ、萩原雪歩。言ワナクテモ、貴女ナラバ理解デキルデショウ」
FS「私ハズット貴女ト共ニイマシタ。貴女ノ中デ、ズット貴女ノ事ヲ見テイマシタ」
雪歩「あなたが…私のスタンド」
FS「ソウデス。ソシテ今…貴女ノ『意志』ニヨッテ生マレ変ワッタノデス」
雪歩「私も、戦えるんですか」
FS「貴女ガ ソレヲ望ムノナラ」
雪歩「でも、どうすれば…?」
FS「すたんどハ感覚デ動カスモノ…アルイハ『命令』シテクダサイ。ソウスレバ、私ハ動キマス」
雪歩「それじゃあ…あの人をなんとかしてくれますか…?」
FS「ナントカ…デハアリマセン、萩原雪歩」
雪歩「え」
FS「菊地真ヲ助ケヨウトシタヨウニ…アノ『複製』ニ 立チ向カオウトシタヨウニ…モットハッキリト、明確ナ意思ヲ持ッテ戦ウノデス!」
雪歩「あっ、あっ、あの…あの人に、攻撃して! 私のスタンドさん!」
FS「ALRIGHT* 了解シマシタ」
ドドド
雪歩のスタンドがユキホへと向かっていく。
ユキホ「………」
FS「シャァッ」ヒュッ
スッ
振り下ろされた腕を、ユキホは事も無げに躱した。
FS「!」
ユキホ「『コスモス…」パリッ バチバチ
ユキホの体に『電撃』が迸り、肩に突き刺さった鉄の棒に集まっていく。
FS「ウシャア」グオッ
構わず攻撃に行こうとするが…
ピク…
FS「ヌ…」
しかし、その手を直前で止めた。
アーニャ「美波、 セ ッ ク ス しまショウ」
アーニャ「美波、 セ ッ ク ス しまショウ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445180574/)
完結したから読んでね三´>ω<`三
ユキホ「コスモス』」
バシュゥ!!
肩から、『電撃』の銃弾が発射される。
FS「チィッ」バッ
退いて攻撃を避けようとするが…
バリバリバリバリ!!
FS「オオッ」ビリッ
『電撃』が空中で一気に拡散し、衝撃を食らう。
雪歩「きゃっ…!」ビリビリ
そして、スタンドが受けた『電撃』の衝撃が雪歩にも伝わった。
ユキホ「失った片腕…真ちゃんが刺してくれたこれが代わりになってくれそうだね」
ユキホ「ううん、それ以上かな? 集中してるからか空中に撃ってもそれほど抵抗を受けない」
FS「ヌ…」シュゥゥゥ…
直撃は避けたが、白いボディが少しコゲついている。
ユキホ「そして『ファースト・ステージ』…真ちゃんと比べたらパワーもスピードも足りなすぎる。何の威圧感もない」
雪歩「だ、大丈夫…?」タタッ
雪歩がスタンドへと駆け寄る。
雪歩「ちょっとビリっときたけど…」
FS「チッ、ボケナスガ…」
雪歩「えっ?」
FS「『ぱわー』モ『すぴーど』モ 以前ノ水準マデ戻ッタダケカ…シカモ、コレハ…」
雪歩「あ、あの…スタンド…さん?」
FS「オット、失礼。貴女ノ清ラカナ耳ニ 口汚ナイ言葉ヲ聞カセテシマッテ…申シ訳アリマセン」
雪歩「え、えっと、あの…それより、攻撃は…」
FS「結論カラ言ワセテモラウト…『無理』デス」
雪歩「ええっ!?」
FS「私ノ『ぱわー』ト『すぴーど』ハ 人間ヨリ少シ上ト イウ程度…アノ クソッタレ野郎ニ決定打ヲ与エルコトハ デキマセン」
雪歩「で、でも何かしないと…もう一回攻撃して!」
FS「貴女ノ命令デモソレハ聞ケナイ 萩原雪歩」
雪歩「どうして…!?」
FS「モウ一度私ガ行ッタ所デ 『電撃』ヲ喰ラウノガ『おち』デス。今マデナラ、ソレデモ ヨカッタノデスガ…」
FS「私ハ『遠隔操作』ノすたんどトシテ 生マレ変ワリマシタ。ソノコトデ、私ト貴女ノ間ニ繋ガリガ出来テシマッタ。他ノすたんどト同ジヨウニだめーじモ共有スル」
雪歩「えっと…それって、つまり?」
FS「簡単ニ言ウト、私ガ死ネバ 貴女モ死ンデシマウノデス。困ッタ事ニ」
雪歩「死…」サァァ
FS「他デモナイ貴女ノ頼ミ、出来ルコトナラ私モ聞イテ アゲタイノデスガ…」
雪歩(せっかくスタンドが使えるようになったのに…これじゃあ、何にもできない…)
FS「萩原雪歩…ソレジャア、駄目デス。ソウヤッテ怯エラレテハ 私モ本来ノ『ぱわー』ヲ発揮出来マセン」
雪歩「で、でも…発揮したところで、あの人を倒すことはできないんでしょう…?」
FS「イイエ、萩原雪歩。私ハ、貴女ヲ守ルタメニ生マレタ『すたんど』。ソノタメナラ、ナンダッテ出来マス」
雪歩「なんでも…? 嘘だよ、現にこうやって追いつめられてるじゃない…!」
ユキホ「思わせぶりにスタンド出して、もう終わり?」
ユキホ「だったらさっさと眠っちゃいなよ、『コスモス・コスモス』!!」
バチバチ
雪歩「ひ、『電撃』が…」
バチバチバチ
『電撃』が宙に広がりながら、雪歩に襲いかかってくる。
FS「萩原雪歩、命令ヲ」
雪歩(命令…何を? どうすれば…)
雪歩(今、どうすればいいかなんて、決まってる)
雪歩「躱さないと…!」
FS「ALRIGHT*。ソレナラ『可能』デス」
雪歩「え?」
ヴォン
ユキホ「なに?」
雪歩の足元に、ぽっかりとマンホール大の『穴』が開く。
雪歩「きゃっ」スポン
逃れようとする間もなく、雪歩はその『穴』の中に落ちた。
バチバチバチ
そして『電撃』が、その上を通り過ぎていった。
ユキホ「萩原雪歩が…地面に空いた『穴』に入った…!?」
雪歩「………」
真っ暗な空間の中に、雪歩の体が浮いている。
雪歩「こ…これは…!」
天井の『穴』を見上げる。そこから、外の様子が見えた。
FS「地面ニ『穴』ヲ空ケマシタ。何ガアロート、奴ハ コノ中ニハ手出シ出来マセン」
スタンドも、雪歩と一緒に『穴』の中に入ってきている。
ユキホ「避けた? なら…」バッ
雪歩「!!」
ユキホが『穴』の真上に立つのが見えた。
ユキホ「その『穴』に直接ブチ込んであげる!」バチバチ
雪歩「うぅ…!」
今すぐにでも自分に向かって『電撃』が放たれようとしているが、『穴』の中に逃げ場はない。唯一の逃げ道も塞がれている。
雪歩(一時的に『穴』の中に逃げたって…意味なんてない! やられる…)
バチバチバチ!!
ユキホの撃った『電撃』が、『穴』の中に撃たれ…
FS「大丈夫デス」
ジッ…ジジジジ
雪歩「え…!?」
雪歩の体をすり抜け、『穴』のさらに奥の方へと吸い込まれていった。
雪歩「………」
FS「何ガアロート、ト言イマシタ」
FS「コノ『穴』ノ中ハ貴女ノ領域。コノ『穴』ノ中ニ存在スルモノハ全テ 貴女ノ物デス、萩原雪歩。無論私モ含メテ」
FS「奴ガコノ『穴』ノ中ニ攻撃シテモ、貴女ニ命中スルコトハナイ」
ユキホ「う…どうなったの? こっちからじゃあ見えない…」
ユキホ「スタンドの能力を生み出した『穴』が消えないってことは…」
雪歩「…私がどういう状態なのか、見えてないの?」
FS「エエ。穴コチラカラハ 見エルシ 聞コエマスガ、アッチニハ届キマセン。まじっくみらート同ジデスネ。真ッ暗ナ『穴』ニシカ見エナイハズデス」
ヴォン…
雪歩達は『穴』の中に入ったまま出てこない。
ユキホ「…そこにずっと籠もってるつもり?」
スッ
ユキホ「それなら、出てくるまで待ってあげる。出てこないことにはそっちから私に攻撃もできないでしょう? 出てきたところで同じことだろうけど」
FS「フム…」
雪歩「…『穴』がここにあるから、ああやって待ち伏せてるんだよね」
FS「萩原雪歩?」
雪歩「だったら…」
ツーッ
ユキホ「!?」
ズズズズズ
ユキホ「『穴』が…滑るように移動していく…!?」
雪歩(できた…!)
FS「アア、萩原雪歩…貴女ハ最高デス」
雪歩「え?」
FS「イエ…ソノ調子デス、萩原雪歩。『すたんど』ハ『直感』デ操ルモノ。貴女ハ モウ、立チ向カウタメノ手段ヲ知ッテイル」
雪歩「あの…ところでスタンドさん…」
FS「何デショウカ」
ピタ…
雪歩「なんでさっきからずっと私の背中にぴったりくっついてるの…?」
FS「私ハ 貴女ノ『すたんど』、背後ニ立ツノハ当タリ前デス」
雪歩「最初はくっついてなかったよね? それに、これって立つとは言わないんじゃ…」
FS「ソノ…コウシテイルト 落チ着クノデス。駄目…デスカ?」
雪歩「い、いえ…駄目じゃあないけど…」
雪歩(なんだろう、スタンドってこういうものなのかな…? みんなこんなこと言ってなかったけど…)
ズズズ
『穴』は地面から壁に伝って動いていく。
ユキホ「あの『穴』…」
ユキホ「追いかけて撃ってもいい。けど、恐らく私の攻撃は届かない…『コスモス・コスモス』には容量がある、無駄にするわけにはいかない…」
ツーッ
ユキホ「………」
『穴』はユキホの動きを伺うようにゆっくりと移動している。
ユキホ「ずっとそこに籠ってるつもり…?」
ユキホは『穴』から目を離すと、ある場所を目指して歩いていく。
ユキホ「なら、それでもいいよ」スッ
雪歩「…?」
ユキホがしゃがんだ。その足元に何かが転がっているのが見える。
ユキホ「真ちゃんに何をされてもいいのならね」
真「うぅ…」
雪歩「!」
ユキホ「仕方ないでしょう? あなたに手を出せないなら、真ちゃんを『再起不能』させることくらいしか私にはできないから」
ユキホ「やれることからやる…当然のことだよ」
雪歩(私がこの中に隠れてたら、真ちゃんを…)
雪歩「スタンドさん、真ちゃんもこの中に入れ…」
FS「ソレハ『無理』デス。コノ中ニ存在デキル生命体ハ雪歩、貴女ダケデス。他ノ生物ハ コノ空間ニ入ルコトスラ出来ズ追イ出サレマス」
雪歩「それじゃあ、真ちゃんが…!」
FS「菊地真ヲ…助ケタイノデスカ? 萩原雪歩」
雪歩「当たり前だよ!」
FS「ソレハ、何故? 菊地真ニ 助ケラレタカラ?」
雪歩「貸し借りなんかじゃあなくて…私が嫌だから!! 真ちゃんに何かあったりしたら!」
雪歩「そうしなきゃいけないんじゃあなくて、私がそうしたいから!」
FS「ソレデイイ、萩原雪歩」
雪歩「え?」
FS「強ク想ッテクダサイ、萩原雪歩。貴女ノ ソノ想イガ、私ヲ強クスル」
FS「貴女ガ誰カヲ守リタイト言ウノナラ! 私ハ ソノタメノちからト ナリマショウ!」
ユキホ「ん…?」
シュルシュルシュル
ユキホ「もしかして、先に真ちゃんを『再起不能』にさせる必要もないのかな」
ユキホ「『穴』が小さくなっていく…いつまでもその中にいるとまずいんじゃあないの?」
雪歩「きゃっ」ドサッ
『穴』が完全に閉じると、雪歩とスタンドが壁から飛び出してきた。
ユキホ「『穴』はしばらくすると消える…そして、消えると追い出される。いつまでもその中に籠ってることはできないみたいだね」
雪歩「………」
FS「行クゾ」タッ
そう言うと、スタンドは明後日の方向へと走っていく。
ユキホ「なに、あれ? あなたのスタンド、逃げちゃったけど」
雪歩「追いかけた方がいいと思うよ」
ユキホ「ふっ…それより本体のあなたを始末した方が早いでしょう!!」ダッ
真が倒れてる地点から、雪歩の方に走っていく。
雪歩「…いいんだね、それで」
FS「フッ」シュルッ
ヴォン
スタンドが地面に触れると、そこに『穴』が空いた。
ユキホ「はああっ!!」バチバチッ
それを気にも留めず、ユキホは雪歩に向かって『電撃』を放つ。
クルッ
雪歩「えいっ」トン
雪歩は振り向いて、壁を人差し指で突く。
ヴォン
ユキホ「!」
すると、こちらにも大きな『穴』が空いた。
スポン
雪歩の体は、そのまま作り出した『穴』に吸い込まれた。
シュゥゥゥ…
そして雪歩を追いかけるように、『電撃』も『穴』の中に入っていく。
ユキホ「また『穴』…それなら、消えるまで待…」
シュバ!!
雪歩「たっ」スタッ
ユキホ「なっ…!?」
雪歩が、スタンドの空けたもう一方の『穴』から飛び出してきた。
ユキホ「『穴』同士で…移動できるの…!?」
雪歩「あなたは、私が気に入らないんだよね。本当は、真ちゃんより私の方を始末したくて仕方なかったんだよね?」
雪歩「でも、あなたには私を捕まえることは…できないよ」
ユキホ「…!」
ユキホ「スタンドを使えるようになったからって…調子に乗らないで」
ダッ!!
『射程距離』に入ろうと、ユキホが走って近づいてくる。
雪歩「………」
ユキホ「今ある『穴』は私から見て手前…つまり僅かに私の方にある…飛び込もうとしたらそこに『電撃』を叩き込む!!」
スッ
雪歩が地面に空いた『穴』から、向かって来るユキホから離れた。
ユキホ「また『穴』を作るつもり…? それなら、その前に仕留める! 本体だろうとスタンドだろうと!」
ユキホ「私の『コスモス・コスモス』のスピードを舐めないで…!」
雪歩(わかる…)
雪歩(私がやるべきこと…進むべき道が…見える!)
ユキホ「『コスモス・コスモス』!!」パリッ
『射程距離』に入ったのか。雪歩が出てきた『穴』の手前あたりで、ユキホが立ち止まる。
雪歩「そこですっ!」
その瞬間、雪歩は叫んだ。
アーニャ「美波、セ ッ ク スしまショウ」美波「!?」
アーニャ「美波、セ ッ ク スしまショウ」美波「!?」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1445509576/)
http://dic.nicovideo.jp/a/%E7%99%BD%E3%81%94%E3%81%BE%E3%81%B5
完結したから読んでね三´>ω<`三
ヴォン
ユキホ「!?」
バリバリバリバリ
ユキホ「きゃあああああああああああああ!?」
『穴』の中から『電撃』が吹き出し、ユキホを襲った。
ユキホ「かはっ…」ダンッ ダムッ ダスッ
その衝撃でユキホはブッ飛び、地面に数度叩きつけられる。
雪歩「ふぅ…」
ユキホ「な…なんで…私が『電撃』でダメージを…」フラッ
FS「オット…立テルノカ。『複製』ト イウヤツハ無駄ニ丈夫ナノダナ」
ユキホ「コ…『コスモス・コスモス』は…私のスタンド…の…はず…それに、今の威力は」
FS「コノ『穴』ニ入ッタ瞬間、モウソレハ 貴様ノモノジャアナクナル」
FS「ソレガ二発分ダ。テメーノ一発分ジャア 足リナイ」
ユキホ「うぅぅ…」ビリビリ
FS「貴様ノ攻撃…『返サセ』テ、モラッタ。ドンナ気分ダ?」
雪歩「これが…」
FS「エエ、ソウデス萩原雪歩。『穴』ニ吸イ込ンダ相手ノ攻撃ヲ『返ス』」
FS「相手ガ悪意ノ刃ヲ向ケルノナラ…ソレヲ相手ニ刺シ『返シ』テヤリマショウ」
FS「ソレガ私ノ…イヤ貴女ノ能力」
雪歩「あの、スタンドさん」
FS「ハイ。ナンデショウカ」
雪歩「あなたの名前は?」
FS「私ノ名ハ『ふぁーすと・すてーじ』…イエ」
FS「萩原雪歩、貴女ハ 新タナ一歩ヲ踏ミ出シタ…私ノ名前ハ…」
FS「『ふぁーすと・すてっぷ』デス!!」
雪歩「『ファースト・ステップ』」
FS「サァ、萩原雪歩。奴ヲ、倒シマショウ!」
雪歩「うん…うん、『ファースト・ステップ』! 戦おう、一緒に!」
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完結したから読んでね三´>ω<`三
雪歩「行こう、『ファースト・ステップ』」
FS「ソノ前ニ、萩原雪歩。一ツダケ…」
雪歩「? 何?」
FS「雪歩…ト呼ンデモ イイデショウカ」
雪歩「はい?」
FS「イエ、出過ギタ真似ヲ シマシタ…申シ訳アリマセン、忘レテクダサイ」
雪歩「え、えっと…それくらいなら、別にいいけど」
FS「ホントウニ!?」ズイッ
雪歩「う、うん…」
FS「デ、デハソノ…ユ…雪歩」
雪歩「はい」
FS「ヨシ…」グッ
雪歩「あの…?」
FS「イエ。行キマショウ、雪歩」
ユキホ「ぐぐ…」シュゥゥゥ…
グラッ
ユキホの足元がふらついている。
ユキホ「私の『コスモス・コスモス』を…」
ユキホ「『穴』に撃ち込んだ攻撃を『返す』! ですって…?」
雪歩「うん。これでもうあなたの攻撃は私には届かない、全て『返す』よ」
ユキホ「調子に乗らないで」
FS「調子ニ乗ッテイルノハ貴様ダ。ヨクモ雪歩ニ 好キ勝手言ッテクレタナ、土下座シロ土下座」
ユキホ「私たち『複製』は『スタンド使い』としての訓練を積んでいる」
ユキホ「765プロの他のアイドルは『弓と矢』の事件で鍛えられた…だから私たちと戦える。でも、あなたは今やっとスタンドを使うことを自覚したばかり」
雪歩「………」
ユキホ「あなたに何が出来るの! さっきまで怯えて震えてたあなたに!」
雪歩「…私は」
ユキホ「?」
雪歩「みんなが春香ちゃんを止めようとしていたあの時、やっぱり外側から見ている事しか出来なかった」
雪歩「怯えて震えている…そうだね。ずっと、それしかできなかった。蚊帳の外は嫌だって…そう言っていたのに」
ユキホ「………」バチッ
タッ
姿勢を低くして、雪歩へと向かってくる。
FS「私ノ役目ハ雪歩ヲ守ルコト…ズット ソウ思ッテイタ。ダガ違ウ」
FS「私ハ雪歩ト共ニ戦ウ、私ガ雪歩ノ刀トナル。雪歩ト一緒ニ戦ウ! ソノタメニ 生マレテキタ!」
雪歩「そう、一緒…」スッ
ゆっくりと手を上げ、前に向ける。
ユキホ「そこに『穴』を作れる壁はない!」バチィッ!!
肩から伸びる棒の先端から、『電撃』を放つ。
ウォン…
・ ・ ・ ・
雪歩「みんなと一緒に、私も…戦う」
ユキホ「空中に…『穴』が…!?」
雪歩の前方に空けられた『穴』に、『電撃』が吸い込まれていき…
雪歩「『返し』て、『ファースト・ステップ』」
FS「ALRIGHT*」ヴォン
バチバチバチ
『ファースト・ステップ』が空中に手を伸ばすともう一つ『穴』が開き、そこから『電撃』が飛び出す。
ユキホ「『コスモス・コスモス』ッ!」バチッ
パァァァン
ユキホはそれに自分の『電撃』をぶつけ、相殺する。
シュゥゥゥ…
ブオッ
発生した煙の中から、『ファースト・ステップ』が飛び出してくる。
ユキホ「!」
FS「ウシャア」ブオン
ユキホ「たっ」ザッ
後ろに傾きながら、『ファースト・ステップ』の拳を躱す。
ババッ
ユキホはそのまま跳び退いて間合いを取った。
FS「チ…素早イ ヤローダ」
ユキホ(萩原雪歩のスタンド、私の『電撃』がことごとく『返さ』れる…)
ユキホ(迂闊に攻撃はできないし、今のように守るため撃ち尽くせばそこを狙われる)
ユキホ(今のが真ちゃんだったら…『ファースト・ステップ』よりもパワーもスピードも数段上だったら…)
雪歩「引く気がないのなら…あなたを倒す」
ユキホ(見ている…)
ユキホ(何、その目は…? さっきまで、ペットショップから知らない家に連れてこられたばかりの子犬みたいな顔してたくせに…)
雪歩「………」
ユキホ(目が据わってる…追いつめられてからの、この精神力…)
ユキホ(これが…これが、本当にさっきまで隅っこで震えていた、あの萩原雪歩なの…!?)
ユキホ(私の中にあるのは、内側から見た『記憶』でしかない…これが、外から見た萩原雪歩…)
ユキホ(それが今、スタンドを得た…意思が明確な形となって襲ってくる…!)
ユキホ「でも…それが何? その程度で私に勝てるとでも…?」
雪歩「………」
FS「引カナケレバ好都合ダナ。攻撃ハ全テ『返ス』」
ユキホ「やってみなよ…」
パリッ
ユキホの体に『電流』が戻ってくる。
ユキホ「うあああああっ!」ダッ
闇雲とも言える勢いで、ユキホが突っ込んでくる。
ユキホ「えいっ!」バチバチッ
肘の先のなくなった腕を、『電撃』を纏わせながら振るってくる。
雪歩「んっ!」バッ
雪歩はそれを難なく躱すが…
ユキホ「ふっ!」グオッ
雪歩「うっ」ドス!
もう片方の腕が、雪歩のボディに叩き込まれる。
ヴォン…
ユキホ「………」
しかし、そこには『穴』が浮かんでいた。ユキホの拳が『穴』の中に刺さっている。
雪歩「そこっ」ヴォン
ヒュ
『穴』を開く。そこから拳の形をしたエネルギーの塊が飛び出し、ユキホに襲いかかる。
バキッ
雪歩「!」
ユキホはそれを避けるそぶりすら見せず、体で受け止めた。
ユキホ「これしきで怯むと思った…?」ズッ
バチバチバチッ
『電撃』を発しながら、雪歩へと手を伸ばす。
雪歩「きゃ…!」ヒュン
作ったばかりの『穴』に飛び込む。自分の体より小さな『穴』に、雪歩の体が吸い込まれていった。
ユキホ「へぇ…」パチッ
ズルッ
ズズズ
『穴』は空中から地面へと落ち、ユキホから離れるように移動する。
ユキホ「『穴』ができたのはあくまでも空中…じゃなきゃあ入ることもできない」
ユキホ「今の状況でそうしたってことは、自分自身には『穴』は開けられないみたいだね」
ユキホ「それにもう一つ『穴』を作れば、『返せ』たはずなのに…そうはしなかったってことは二つより多くは出せないんでしょう?」
ニュ
雪歩「………」
ユキホの射程距離の外に着くと、雪歩が『穴』から出てくる。同時に、『穴』が消えた。
雪歩「はぁっ…」
FS「大丈夫デスカ」
雪歩「大丈夫じゃ…ないかも、怖いよ…」
雪歩「アイドルのオーディションとは違う、直接敵意を向けられて本気で私を倒そうとしてくる…」
FS「雪歩…」
雪歩「でも、みんなこの怖さに向き合ってきたんでしょう。私一人だけ泣き言なんて言ってられないよ…」
FS「………」キュン
FS(雪歩…決意ニ燃エル貴女ノ瞳ハ ナント美シイノデショウ…)
FS(ソレヲ間近デ見ラレルコトノ、ナント幸セナコトカ)
FS(アア、コノ感動ヲ誰カニ伝エタイ…共有シタイ…)
雪歩「『ファースト・ステップ』」
FS「ア、ハイ。ナンデショウカ」
雪歩「私たちであの人に…勝とう」
FS「Yeah. OK, Yukiho. ALRIGHT*!」
ドドドドドド
ヴォン
雪歩「えいっ」ヒュッ
『穴』を作り、『ファースト・ステップ』と一緒にその中に飛び込む。
ズズズ
『穴』はユキホの周囲を、大きく円を描きながら移動する。
ユキホ(『穴』はそのうち消える…出てきた瞬間を…)スッ
手を『穴』の方に向け、雪歩が『穴』から出てくるのを待ち構えるが…
ユキホ「…いや」
引っ込める。
雪歩「ふぅっ」ヒュッ
ユキホ(『穴』は一つ…ここで撃てば、もう一つ作られて『返され』る)タッ
雪歩が『穴』から飛び出したのを見て、直接走っていく。
ユキホ「攻撃を『返す』能力…確かに厄介だけど」
ユキホ「私が不用意に『電撃』を撃たなければ、萩原雪歩自身には決定的な攻撃手段はない!」
ユキホ「そして『穴』は萩原雪歩自身には作れない…触れて流せば『返す』ことはできない!」
ユキホ「近距離で一発で確実に…倒す!」
雪歩「………」
ツーッ
ユキホ「ん!?」
雪歩が出てきた『穴』はまだ消えておらず、ユキホへ向かって移動している。
ユキホ「出てきたのは萩原雪歩だけ、スタンドはあの中か…」
ユキホ「でも、どうするの? 私に近づいてきても返す『電撃』はない…スタンドの運動能力も萩原雪歩本体と大差はない、何も変わらない!」
ユキホ「『コスモス・コスモス』! 『穴』から出てきたら最後、スタンドに直接この『電撃』を叩き込む!」バチバチバチ
ヴォン
ユキホ「………」
雪歩「………」
雪歩が、足元に『穴』を開けている。
ユキホ(何をしているの…? 何のために、そんなところに『穴』を…?)
ズズッ
『ファースト・ステップ』が『穴』から姿を現わす。
ゴゴゴゴ
FS「………」
ユキホ「う…?」
ゴゴゴ
その手には、鉄パイプが握られていた。
ユキホ(萩原雪歩が『穴』を開けたのは、スタンドにこれを渡すため? でも、それが一体…)
ズズズ
ズズズズズズ
ユキホ「…!!」
『ファースト・ステップ』が出てきた『穴』が、そのまま鉄パイプへと移っていく。
ユキホ「あ…」
ユキホ(萩原雪歩やスタンド自身には『穴』を開けることはできない…)
ユキホ(でも、持っている武器になら…)
FS「シャァ」ヒュッ
ユキホ「あああっ!」
ガンッ!!
叩き下ろされたパイプを、腕で防ぐ。
ユキホ「あ…」
バチバチバチ
ユキホ「あああ…!」
ユキホの体に流れている『電流』がパイプへと流れ、そのまま『穴』の中へと吸い込まれていった。
カラン
『ファースト・ステップ』の手からパイプが落ち、『穴』も消えた。
雪歩「捕まえた」
ユキホ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ユキホ(『電撃』が撃てない…全部、持って行かれた!)ダッ
ユキホは『ファースト・ステップ』に背中を向け、必死に距離を取ろうとする。
FS「………」
ユキホ(空中からの『電撃』なら問題ない…地面を伝って来たら…絶対に避ける!)
ユキホ(まだ…まだ、私は負けたわけじゃあない!)
ユキホ「負けたくない…萩原雪歩、あなたにだけは負けない…!」
雪歩「ううん、違うよ」
雪歩「あなたはもう負けてるし、その相手は私でもない」
FS「『返ス』ゾ」ヴォン
『ファースト・ステップ』が、ユキホに向かって『穴』を開けた。
ユキホ「!」
バチバチッ
空気中を、広がるように『電撃』が走る。
ユキホ「空中に…駄目だよそれじゃ、私までは届かな…」
バリバリバリ
ユキホ「!?」
放たれた『電撃』は、ユキホに近づくにつれて一点に集まっていく。
ユキホ「なに…『電撃』が真っ直ぐこっちに向かってくる…!? しかも集中して…!?」
雪歩「真ちゃんと戦ってる時、あなたは真ちゃんに勝てないと悟って私を狙ってきた。その時点で、もうとっくに…あなたは負けてる」
ドドドドド
雪歩「電気は、抵抗の大きいところから抵抗の少ないところに流れていく…」
ユキホ「あ…」
ザンッ
ユキホ「あああ…!?」
雪歩「真ちゃんあなたの肩に刺した…その棒は避雷針! 絶対に逃げられないよ…!!」
バチバチバチ
ユキホの肩の棒に、『電撃』が吸い込まれていく。
ユキホ「おっ」パリッ
ユキホ「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
バリバリバリバリ
『電撃』が、ユキホの体で爆発した。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…
ユキホ「………」
ユキホは煙を吹きながら倒れた。微動だにしない。
雪歩「か、勝った…の…?」
真「………」
雪歩「あ…! 真ちゃん!」タッ
倒れている真の下へ駆け寄っていく。
雪歩「真ちゃん、しっかりして!」ユサユサ
雪歩は、両手で真の体を揺さぶる。
真「………」
雪歩「息は…してるみたいだけど…」
FS「ナラ平気デショウ。コイツモ無駄ニ丈夫デスカラ」
真「ま…」
雪歩「あ、真ちゃん! よかった、目を覚まし…」
真「まだ…だ、雪歩…」
雪歩「え?」
バチバチバチ
ドゴォォォォォン
雪歩達に向かって『電撃』が襲いかかり、近くで激しく拡散する。
雪歩「きゃ…!?」ブオッ
真「がっ」ドサッ
その衝撃で雪歩と真の体が吹き飛ばされ、離れ離れになってしまった。
雪歩「な、何…!?」グッ
雪歩が立ち上がり、顔を上げると…
ユキホ「はぁー、はぁー、はぁー」
雪歩「…!」
倒れていたはずのユキホが、起き上がっていた。
雪歩「あなた、まだ…」
FS「シブトイやろーダ」
ユキホ「うっ!」
ポロッ
雪歩「!」
ユキホの指先が崩れ落ちた。
パラパラ
ユキホ「私の体が砂になってきている…私はもうすぐ消滅する…」
雪歩「あなたは…」
FS「サッサト消エロ」
ユキホ「消えるのは…嫌だ」フラ…
おぼつかない足取りで歩く。
ユキホ「何もできずに消えるのだけは…」
雪歩「!」
ユキホ「それだけは嫌だ…!!」
真「………」
雪歩「真ちゃん!」
ユキホは、雪歩から十数メートル離れた位置で倒れている真の傍に立つと、自分の腕を彼女に向けた。
雪歩「真ちゃん! 起きて!」
真「………」
真からは返事はない。今のショックで気を失ったようだ。
ユキホ「萩原雪歩…認めるよ、あなたは私が思ってたよりもずっと強い人間だった」
ユキホ「でもね…あなたはやっぱり何もできないんだよ」
雪歩「うぅ…」
ユキホ「そこからじゃあ、私を止めることはできない」
FS「マタソレカ。菊地真ヲ道連レニデモ スルツモリカ? ツマンネー事ヲ スルンジャアナイ、下衆野郎ガ」
ユキホ「つまらない事…ふふ、そうかもね」
ユキホ「でも…私だって765プロを一人くらい『再起不能』させないと…! それさえできず消えるなんて、私が生まれた意味がない!」
FS「雪歩」
雪歩「………」
『ファースト・ステップ』が雪歩の顔を伺う。
ユキホ(さぁ、どう出るの…? どうしようが私の『コスモス・コスモス』の方が速い!)
ユキホ(それでも、もし…もし、止められるのなら…萩原雪歩は…)
雪歩「…放してください」
ユキホ「………」
雪歩「真ちゃんから手を放して…ください」
FS「ぼけなす野郎。雪歩ガ コウ言ッテイルノダ、サッサト放スガイイ」
ユキホ「頼み事なんてしてないで、自分で止めてみなよ!」
雪歩「………」
雪歩は動くことなく、じっとユキホを見つめている。
ユキホ(諦めたの…? 所詮…この程度なんだね、萩原雪歩というアイドルは…)
ユキホ「だったら…お望み通り真ちゃんを片付けてあげる…!」バチッ
雪歩「………」
ユキホ「『コスモス・コスモス』ッ!!」バチ バチ バチ
ズアッ!!
『電撃』を纏った腕が振り下ろされ…
ドス!!
真の体を貫いた。
真「う…」
・ ・ ・ ・
ユキホ「は…」
ヴォン…
ユキホ「こ、これは…菊地真…真ちゃんの体にある『これ』はッ!」
雪歩「止めることは…」
雪歩「もう、してる。私は『放して』って頼んだんじゃあなくて…」
FS「心優シイ雪歩ハ、ワザワザ貴様ニ忠告シテイタノダ。『放シタ方ガイイ』トナ」
ユキホ(服に隠れて見えなかった…真ちゃんの背中に、『穴』が…!!)
ユキホの腕が、真の背中に開いた『穴』に突っ込んでいる。
FS「貴様ノ言ッタ通リ、雪歩ヤ私自身ニ『穴』ヲ空ケルコトハ 出来ナイガ…」
FS「ソレ以外ナラバ、壁ダロウガ、水ダロウガ、空気ダロウガ、ソシテ人間ダロウガ…何ニダッテ『穴』ハ作レル」
ユキホ「ははっ…」
雪歩「空けても傷にはならないみたいだから…真ちゃんの体に『二つ』、空けておいた」
ズビュ!
真の背中に空いたもう一つの『穴』から、『電撃』が飛び出し…
ユキホ「あああッ!!」
バリ バリ バリ バリ
避ける事もできず、ユキホの体に駆け巡った。
ユキホ「…あはっ」ビリッ
ユキホ「あはははははっ! 萩原雪歩…」
雪歩「………」
ユキホ「これが、私の元になったアイドルか…あはははははは」
ユキホ「はっ!」
バルルッ ジャジャジャジャギャギャァァン
『電撃』が弾け、眩いばかりに発光する。
シュー シュゥゥゥ…
雪歩「…さよなら」
収まる頃には、ユキホの姿は跡形もなく消え去っていた。
FS「終ワリマシタネ」
雪歩「…うん」
FS「貴女ヲ危機カラ守ルノデハナク、貴女ト一緒ニ危機ニ立チ向カウ」
FS「『立チ向カウ者』…ソレコソガ、私ノ アルベキ姿ナノデスネ」
雪歩「あっ、あのっ」
FS「ドウカサレマシタカ、雪歩?」
雪歩「その…ありがとう」
FS「礼ナド言ウ必要ハアリマセン。私ハ貴女ノすたんど…ヤッタノハ『貴女自身』ノ意思ナノデス、雪歩」
雪歩「私…自身」
FS「私ハ イツデモ貴女ノ傍ニ イマス。必要トナッタラ、マタ 呼ビダシテクダサイ」ス…
そう言うと、『ファースト・ステップ』は姿を消した。
雪歩「…でも、ありがとう」
真「ううん…」
雪歩「真ちゃん! しっかりして、真ちゃん!」
To Be Continued...
スタンド名:「ファースト・ステップ」
本体:萩原 雪歩
タイプ:遠隔操作型・自律
破壊力:C スピード:C 射程距離:C(20m程度) 能力射程:C(20m程度)
持続力:C 精密動作性:C 成長性:A
能力:「ファースト・ステージ」が次のステップへと進んだ、雪歩が戦うための力。
自動操縦型から遠隔操作型のスタンドに変化し、以前の「ファースト・ステージ」の、自分が受けたダメージを触れた相手に「返す」能力は完全に消滅した。
二つまで「穴」を空け、その中の空間に入ることができる。空間を通り抜けて、「穴」同士を移動すること、も可能。
「穴」の中の空間にはあらゆるものを入れることができるが、生物は雪歩と「ファースト・ステップ」以外は入ることができず、押し返されてしまう。
「穴」に入った攻撃のエネルギーはもう片方の「穴」へと通り抜けて、「返す」ことができる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
真「よっと」グイッ
起き上がって、体を捻る。
雪歩「真ちゃん、もう動いても大丈夫なの?」
真「うん、痺れも抜けたし問題ないよ。それにしても…」
サラ…
工場を風が吹き抜け、瓦礫の隙間から砂が舞い上がる。
真「ボクが敵わなかった相手を、一人で…すごいな雪歩は」
雪歩「ううん、それは違うよ」
真「?」
雪歩「えーと、この辺りに…」スッ
雪歩は熱で変形した金属棒を拾い上げた。
真「これは…」
雪歩「私一人じゃきっと勝てなかった。真ちゃんと一緒だったから、勝てたんだよ」
真「…そっか」
真「それにしても、あの『ファースト・ステージ』がねぇ…」
FS「違ウ、菊地真」ズッ
真「わっ!?」
雪歩「ファ、『ファースト・ステップ』…さん?」
FS「サン、ナドト他人行儀ナ呼ビ方ヲシナイデ ホシイデス、雪歩」
FS「会社ノ上司ガ部下ニ接スルヨウニ、気軽ニ呼ビツケテ クダサイ」
雪歩「は、はぁ…」
FS「ソシテ聞イタナ? 菊地真、私ノ名前ハ『ふぁーすと・すてっぷ』ダ。『ふぁーすと・すてーじ』トハ 二度ト呼ブナ」
真「えらっそうだなぁ…さっきまでいじけてたくせに…」
FS「君ハ一度沈ンダラ 永遠ニ沈ンデイルノカ? ドン底ノ人生ダナ」
雪歩「駄目だよ、『ファースト・ステップ』。ちゃんと真ちゃんとも仲良くしないと」
FS「ハイ。雪歩ガ ソウ言ウノナラ従イマス」
真「………」
FS「ト、言ウ訳ダ菊地真。君トモ仲良クシテヤル、感謝シロ」
真「おまえな~、雪歩とボクとで態度が違いすぎないか?」
FS「当タリ前ダ。君ニ媚ヲ売ッテ 一体何ニナルト言ウノダ」
真「雪歩に媚を売ったら何になるのさ」
FS「ソレハ…フヒッ」
真(気持ち悪いスタンドだなぁ…)
FS「ソレデ…コレカラ ドウスルツモリダ? 菊地真」
雪歩「このまま、島を回ってみんなを探すの?」
真「いや…」
真「やっぱり、牢獄を目指そう。そこに捕まってるみんなを助けるのが一番手っ取り早い」
雪歩「でも、そこの門番が凄く強いんじゃあ…?」
真「もちろん、闇雲に突っ込んだりするつもりはないよ。戦う必要はない…戦闘が目的じゃなければ、風穴くらいは空けられるかもしれない」パンッ
拳を手のひらに打ち付ける。
FS「フム」
真「さっきまでのボクは勘違いしてたんだ。なんでも一人でやろうって、やらなきゃいけないって」
雪歩「真ちゃん」
真「でも…うん、二人ならきっと行ける。着いてきてくれる、雪歩?」
雪歩「もちろん!」
雪歩(私も戦う…戦えるんだ、もう真ちゃんを一人で戦わせたりしなくていい)
雪歩(進もう、きっとみんなもどこかで戦ってるはずだから)
………
……
…
ピチャ…
響「うぎゃっ!」
P「どうした、響!? 敵か!?」チカッ
響「まぶしっ! 天井から水滴が落ちてきただけだぞっ、ライトこっち向けないでっ」
P「あっ、すまん…湿気が多いのかな? 霧も出てるし…」
美希「狭いとますますジメジメしてヤなの」
P「嫌って、美希…」
ピチャン…
暗い洞窟の中、懐中電灯の明かりと水滴の音だけが存在している。
P「お前がこの中を進んでみようって言ったんじゃあないか」
響「見るからに怪しい洞窟に飛び込んでいくからびっくりしたぞ…」
美希「それにしてもプロデューサー、よく懐中電灯なんて持ってたね」
P「何があるかわからなかったからな…鞄の中に色々入れてきたんだ」
美希「この奥、何があるんだろ?」
響「何かはありそうだけど…実際に確かめないとわかんないぞ」
P「危険なものじゃなければいいが」
美希「この島にいる以上、キケンじゃないコトなんてないと思うケド」
P「それはそうかもしれないけどさ」
響「ま! 何かあっても自分たちがなんとかするから、プロデューサーは安心してていいぞ!」
美希「響! 危ない!」
響「えっ!? 敵か!? どこから…くっ、見えないぞ…」キョロキョロ
美希「うそうそ、なんにもいないよー♪」
響「…もー! 美希ー!!」
P「お前ら、もう少し緊張感をだな…」
「きゃああああああっ!!」
P「!?」
美希「奥から悲鳴が…行こ!」
響「うん!」
P「あ、待て、走るなお前達!」
響「あっち、明るくなってる…」
美希「何かあるに違いないの」
三人は明かりの灯る方向に、ぐんぐん進んでいく。
カッ!
美希「!」バッ
天井から降り注ぐ照明を、手で遮る。
ゴゴゴゴゴ
P「開けた場所に出たな…」
響「なんだ? 洞窟の中なのに、上の方に電気がついてる…」
美希「なんか、工事現場か…それか秘密基地? みたい」
???「来たか」
美希「!?」
響「誰かいる…!」
岩肌に囲まれた空間の中心に、女が一人立っている。
ゴゴゴゴゴゴ
サラサラ…
その足元には小さな砂山が一つ。
???「どこかから逃げてきた『複製』相手じゃ、あまりに退屈すぎてね…」
P(砂…敗北した『複製』か…? 同士討ち…?)
???「待ってたよ。765プロの『スタンド使い』達」
P(黄金のウェーブがかった髪、均整の取れた磨き抜かれたスタイル…左右で異なる色をした、まっすぐな瞳)
美希「このヒトは…」
響「おまえは…! オーバーランクの…」
P「レモン…!」
レオン「レオンだっ! 柑橘類じゃあない!」
レオン「と…そんなことはどうでもいいんだ」
レオン「星井美希…それと我那覇響か。まずはここに来てくれたこと、歓迎するよ」
P(アイドルランクという枠組みの外にいるオーバーランクアイドル…その実力は、あの日高舞にすら匹敵すると言われている現代の伝説)
P「あの玲音が相手なのか…!?」
響「こいつは本物の玲音じゃあない。関係ないぞ」
レオン「本物じゃあない、か。確かにアタシは玲音の容姿と記憶を持っただけの『複製』にすぎない」
P「ちょっと待て、どうして玲音の『複製』がこんなところにいるんだ…?」
P「本物の玲音に成り代わって、アイドルになること…『複製』はそのために生み出されたんじゃないのか?」
レオン「それは高木が勝手に言ってることだ。アタシの生きる意味はアタシが決める」
P「は…」
レオン「アイドルにはそれほど興味はないし…高木が考えていることなんて、アタシには関係がない」
P「か、関係ない…?」
レオン「まぁ、アイドルをやれと言われたってアタシ自身にやる気がなければどうしようもないし、高木からはここを…」チラッ
空間の奥に、不自然に扉が取り付けられている。
レオン「正確に言えば、あの扉の中にあるものを任されてるわけだ」
響「あの扉…あの奥に、何かあるのか?」
美希「もしかして、会長が隠れてるとか?」
レオン「それは、教えられない。知りたかったら…」スッ
服の中から、カードを1枚取り出して見せる。
レオン「アタシに勝てばわかる。カギはアタシが持ってる」
美希「ふーん。勝てばいいんだ?」
レオン「ああ。勝てなければそれまでだ」
P「おい、美希…」
美希「わざわざこうやって誰かが守ってるってことは、何か大事なものがあるに違いないの」
響「それに…こうして会っちゃったら、逃がしてもらえるわけもないぞ」
レオン「構わないよ」
響「へっ?」
サラ…
小さな砂山が散らばり、地面に溶けていった。
レオン「どうにも、この程度の相手では満たされなくてね…」
レオン「尻尾を巻いて逃げるのなら追いはしない。そんな精神力ならどの道この島じゃ生き残れない」
レオン「そんなヤツとは…戦う価値もない」ズッ
美希「!」
ゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴ
レオンの傍に、四本足で地に立つ獣のようなスタンドが出現する。
レオン「これがアタシのスタンド『アクセルレーション』」
美希「見たことないカンジのスタンドだね…」
レオン「強いよ。アタシはこいつと『スタンド使い』の頂点を目指す」
響「『スタンド使い』の頂点…?」
レオン「ああ。生まれたからには頂点を目指す。生き物として自然なことだろう?」
美希「生き物って、『複製』でしょ? 血も流れてない」
レオン「心臓が動いていれば、それで生きていると言えるのかい?」
美希「……………」
レオン「戦うため…そして勝つため。アタシはそのために存在している。それだけだ、『複製』だとか人間だとかアイドルだとか、そんなものはどうでもいい」
美希「行こ、響」
響「うん」
P「大丈夫なのか…? あいつ、なんかヤバいぞ…」
響「わかんない…けど、確かにあいつの言う通りここで逃げ出すならこの先やっていけないぞ」
P「そうか…」
美希「ま、プロデューサーは心配しないでいいよ。勝ってくるから」
P「そうだな…」
P(きっと大丈夫だ。美希と響は事務所にやってきた『複製』達のほとんどを二人だけで倒してしまった。こいつらは強い)
美希「行くよ、『リレイションズ』」ズッ
美希の前にスタンドが立った。
レオン「さぁ見せてくれ、キミ達のスタンドを…」
響「行くぞ、『トライアル・ダンス』!」シュン
響の体に、スタンドが憑依した。
レオン「…キミ達の強さをッ!」
グッ
響「だっ」ビュン!!
響が脚をバネにし、ロケットのようにレオンに突っ込んていく。
響「ドラ…」ヒュ…
・ ・ ・ ・
蹴りを見舞おうとするが、その場にレオンの姿はない。
レオン「おっと」ズザザ
響「ん!?」キキッ
後方からの声に反応し、響はそのままブレーキをかける。
レオン「待つのは性に合わないようだね、お互い」
響(なんだ…!? なんでそんなところにいる…?)
響(自分が飛び出したのと同じ瞬間に、あいつも自分のいた方に向かって飛び出してきたのか…!?)
レオン「アタシの『アクセルレーション』と速さ比べと行くか…」
美希「よそ見ゲンキン! なの!」
レオン「と、まずは星井が先か」
美希「えい!」ドォ
レオンに向かって拳を繰り出す。
レオン「遅い」
「ヴォヴ…」
美希「う…!?」ギィン!!
獣が唸り声を上げたかと思うと、爪が『リレイションズ』の腕を跳ね上げていた。
レオン「行くよ…『アクセルレーション』」
美希「守…」バッ
ヒュオッ
美希「っっっ!?」グシャア!
守ろうと交差した腕をすり抜け、『リレイションズ』の胴体に前足が叩きつけられる。
美希「こ…このパワー…」ギリギリ
美希「ああああっ!?」ドッギャァァァン
ドバン!!
美希はスタンドごと吹っ飛ばされ、岩盤に体を叩きつけられた。
響「へ…」
P「は…み、美希…?」
レオン「これで終わりじゃないだろう? 立て、星井」
美希「……う…」
レオン「今の一撃でもう立てないのかい? この程度なのか? キミは」
響「おおおおおおおおおっ!!」ダヒュン!
レオン「ん!」
ダム! ダム! ダム! ダム! ダム! ダム!
響が、洞窟の中を跳び回る。
レオン「へぇ…」
ダムッ!
P「うわっ!」バッ
縦横無尽に跳び跳ね、プロデューサーの近くをも掠めていく。
P「ひ、響の奴、俺達まで巻き込むつもりか…!?」
パラパラ…
壁を蹴るたびに洞窟が削れ、砂となって落ちている。
レオン「………」キョロキョロ
レオンは跳び回る響の姿を目で追おうとするが、ゆっくりとした動きで全く着いていっていない。
響「うおおおおおおおおおおお」
レオン「速いね、目にも留まらない」
ヒュン
しかし次の瞬間、『アクセルレーション』が、響の背中にぴったりと張り付いていた。
響「………は?」
レオン「でも、アタシの『アクセルレーション』にとってはそうじゃないみたいだ」
ズシャァ!!
響「んがっ!?」バキャ
ドォォォォン!!
『アクセルレーション』の一撃で、響は地面へと撃ち落とされた。
P「ひ…響ッ!」
レオン「確かに速い…だけど、追えなくもないな」
響「う…」ググ…
膝をついたまま、両手をついて顔を上げる。
響「じ、自分の『トライアル・ダンス』より速いなんて…そんなの、ありえないぞ…それに、このパワー…」
響「能力じゃあない、たかねの『フラワーガール』みたいに素で強いんだ…!」
P「まさか、会長の言っていた『最強の三体』…その一体がこいつなのか…!?」
レオン「並び立つようなものを最強とは言わないさ」
響(スタンドだけじゃあない…こいつ自身も、今までの奴らとは全然違う…)
響(例えば、涼の『複製』も本物とは全然違ったけど…あれだって、自分の思う『アイドル』ってやつを演じてただけだ)
響(『スタンド使い』として戦うこともあるけど、それは自然じゃあない…あくまでも本分は『アイドル』なんだ。自分たちだってそう)
響(でも、こいつは違う! これが、自然体なんだ! 『スタンド使い』の頂点を目指すと言っていた…こいつは自然に『スタンド使い』として存在してる…!)
レオン「………」カツ カツ
響「う…」
レオンが、ゆっくりと響の方に歩いてくる。
ゴゴゴゴ
レオン「どうしたんだ? まさか、今ので戦意喪失したわけじゃあないだろう?」
ゴゴゴゴゴゴゴ
P(俺はスタンドが見えない…だから何が起きているのか正確にわかるわけじゃあない…)
P(だが、これだけは理解出来る…あいつは強すぎる! 美希も響も…あいつに対してまるで歯が立たない…!!)
響「く…」
P「響、駄目だ! 一人じゃ敵うわけがない!」
レオン「まだ目は死んでいないか」
ヒュン
そう言うと同時、『アクセルレーション』が響の目の前に現れるが…
響「たっ!」ダム!
響は後ろに思いっきり跳び退いた。
響「…!」
しかし、『アクセルレーション』は響の動きを予想していたかのようにピッタリ着いてくる。
レオン「そこだ!」グオッ
響「ドラァ!」ヒュッ
キン!
空中で、響の脚とスタンドの前脚がぶつかり合う。
響「わっ…!」ズザザザザザ
レオン「!」ザザッ
その衝撃で、お互いに弾かれた。後方に跳んでいた響の方が大きく跳ね飛ばされる。
響(パワーもスピードも、自分より上…)
レオン「撃ち合うだけじゃあ浅い。アタシには勝てないよ」
響(プロデューサーの言う通り、こんな奴に一人じゃ敵うわけがない…確かにその通りだ)
ドドドドドド
美希「………」
響(でも、自分は一人じゃない!)
跳ね飛ばされたレオンの背後に、ちょうど美希が立っている。
響(不意打ちはズルいか…? いや、最初からこれは自分と美希との戦いだ!)
美希「『リレイションズ』ッ!!」シュバッ
レオンに向かって拳を撃ち出す。
レオン「ん!?」クルッ
予想外と言わんばかりに、レオンが美希の方を振り返った。
響(今気づいても遅い!)
響(スタンドがいくら速くても、本体は違う! スタンドを動かすまでには考える時間が必要…)
美希「なのっ!」ドォ
遮るものはない。次の瞬間には、『リレイションズ』の拳がレオンに叩き込まれる。
ヒュン
・ ・ ・ ・
キィィィン!!
響「は…」
そう思った瞬間、『アクセルレーション』がそこにいて、美希の攻撃を弾いていた。
美希「これは…」
レオン「そこだッ!」ゴッ
美希「んっ!」バッ
ズガン!!
ドサァ!
すぐさまもう片方の腕を差し出すが、その上からそのままスタンドの腕を叩きつけられる。美希の体が大きく地面を跳ね、そのまま背中から落ちた。
P「な…なに…」
レオン「なるほどね、狙いはよかったかもしれない」
響「さっき、自分に着いてきたのもそうだった…」
響「速いとかそーいうレベルじゃあない! 今のは、完全に読まれていなきゃおかしい! 未来が見えているのか…!?」
レオン「半分正解だ、我那覇。少なくともアタシには未来なんて見えない」
「グゥゥゥ…」
レオン「でも…『アクセルレーション』、こいつはジャジャ馬でね。アタシが考えるより、アタシが動かそうとするよりさらに早く動くことが出来る」
レオン「数秒先の未来を『先取り』できる…と、そう言った方がわかりやすいかな?」
響「未来を…『先取り』する…だって!?」
レオン「頭の中でギアを入れる…すると、『アクセルレーション』は『1秒先』、『2秒先』へと進む」
レオン「『2秒先』の『アクセルレーション』は我那覇、キミが後ろに跳ぶのを知っていて、キミにそのまま攻撃しようとしている」
レオン「例えアタシの死角を突こうが、ガードしようが、避けようが、フェイントを入れようが…『アクセルレーション』は既にそこにいる」
響「そんな能力が、なんであんなに正確に…」
レオン「自分のスタンドも使いこなせず何が頂点だい? まぁ、使いこなせるようになるまでに時間はかかったけどね」
レオン「とにかく…アタシに不意打ちは通用しないし、どれだけ速かろうが『アクセルレーション』に追いつくことはできない」
<LOCK!
レオン「!」
レオンと『アクセルレーション』の左腕に、『ロック』の模様が浮かび上がる。
美希「ふぅっ…」ムクッ
レオンが美希を見ると、ちょうど体を起こしていた。
レオン「なるほど、あくまでも『アクセルレーション』が存在できるのは能力を使った時点での『1秒後』…それに対応することで、未来を変えたってことか」
美希「そんな大層なものじゃないと思うケド」
レオン「そして、地面に叩きつけられた衝撃もスタンドで防いだか…やるね、星井。それでこそだ、アタシに直接能力をつけた『スタンド使い』はキミが初めてだよ」
美希「そんな上から目線で褒められたってゼンゼン嬉しくないってカンジ」
レオン「さて、こうして『ロック』が一つついたわけだけど」
ドドドドド
レオン「次は何を見せてくれるのかな? 星井」
美希(………)
レオン「まさか、これ一つ程度で勝利への道が拓けるだなんて思ってないだろう?」
美希「………」スッ
構える。
レオン「吼えろ『アクセルレーション』!!」
「クアアアアアアアアアアァァァッ!!!」
ヒュン
地面を揺るがすほどの叫び声を上げると、凄まじい速度で美希へと襲い掛かる。
美希「『リレイションズ』!」シュ
それに合わせ、躊躇いなくスタンドの腕を振り下ろすが…
ヒュン
軌道上から『アクセルレーション』が姿を消す。
ズガッ
美希「う…っ!」
レオン「『1秒』…」
『リレイションズ』の体に前脚が叩きつけられ、美希の体が折れ曲がった。
P「美希!」
美希「なのっ」バッ
レオン「もう『1秒』」
シュン
『アクセルレーション』に手を伸ばすが、一瞬でレオンの下へ戻っている。
美希(戻るのも速い…)
レオン「『アクセルレーション』の能力はスタンドに流れる時間を少し進めるだけ、ごく単純なものだ」
レオン「だけど、単純がゆえに強い。単純がゆえに、対抗できない」
レオン「まだまだ行くぞッ!」
「ゥォォォォォオオ…!」グオッ
美希「!」
レオンがスタンドと一緒になって突っ込んでくる。
美希(射程距離は5mくらい…でも、本体のレオンもスタンドに体を引っ張られてすごいスピードで動いてくる!)
ビュォォォ
美希(『複製』だからあのスピードに着いていっても平気なんだ…!)
レオン「せぇやっ!!」ヒュゴッ
槍のように、スタンドの前足を鋭く突き出す。
美希「なのっ」ブンッ
シュバァ
レオン「遅い!」キキッ
それに合わせて美希が大きく腕を振り回すが、『アクセルレーション』は既に美希の反対側に移動している。
美希「!」ブンッ
それに引っ張られてレオンも射程の外へ一瞬で動き、腕が空を切る。
レオン「一発当てられたから、また当てられると思ったか?」
美希「ううん、思ってないの」
響「うりゃあ!」キキッ
レオン「!」
美希「いくら速いったって、そっちは一人でしょ!」
『アクセルレーション』が移動した地点に、響が現れる。
響「ドラァ!」シュッ
美希「なのっ!」ゴォッ
『リレイションズ』の拳と響の脚が、同時に襲いかかる。
レオン「ふっ…!」
シュッ
キィン!!
美希「んっ!」
レオンは一瞬笑ったかと思うと、『アクセルレーション』で美希の腕を弾き飛ばした。
ヒュン
響「うお…」
それと同時に、響の目の前に攻撃したばかりのスタンドが現れ…
レオン「一人でも…コイツなら二人の相手はできるよ」
キィン!!
P「あ…!」
響に攻撃を叩き込んだ。
響「ぐぐ…」ブルブル
レオン「ん!」
腕を震わせながらも、攻撃を受け止めている。
響「まだ…まだ!」
レオン「怯まないか…!」
美希「なのっ!」シュゴッ
レオン「!」
続けて美希が攻撃を仕掛けてくる。
レオン「はぁっ!」ダンッ
響「わっ」フラッ
響を思い切り突き飛ばすと…
ヒュン
ズガァ!
スタンドの時間を『1秒』進めて美希の攻撃を防ぐ。
響「うおおっ!」シュバ
レオン「そう来るか…」
しかし、次の瞬間にはもう響が攻撃を仕掛けている。
美希(攻撃を当てるには…絶え間なく攻撃すること! やっぱり、一人じゃ限界があるの!)
美希(それに、スタンドだってそんな何秒も何秒も飛ばすことはできないハズ!)
レオン「…次で『5秒』か」
ゴォッ!
響「んっ!?」
『アクセルレーション』が響の目の前に詰め寄る。
レオン「はあああぁッ!!」ガガガガガガガガッ
響「うわっ!!」
そして、次々と攻撃を叩き込み…
レオン「だっ!」シュバァ
響「うぎゃぁっ!!」ズギャァァン
吹っ飛ばした。
美希「飛ばせるのは全部で『5秒』くらいが限界みたいだね」
レオン「!」
美希「ここっ!」バッ
レオン「………」
しかし、無防備になったレオンの『ロック』めがけて、『リレイションズ』が襲いかかる。
響「よし、行けっ!」
美希(一瞬あればスタンドは戻ってくる…)
美希(でも、一瞬あれば充分! それまでの間に、いっぱい『ロック』つけちゃうから!)
美希「なのなのなのなのなのなの」ズババババ
美希はレオンに向かってラッシュを放とうとする。
バサッ
美希「!?」
レオン「………」
拳が届く直前、砂にまみれた服が、美希とレオンの間に現れた。
響「あ、あいつ…さっき砂になった『複製』の服を引っ張り出して…!?」
バキィ!!
服の上から、『ロック』をつけた部分に拳が打ち込まれる。
レオン「く…」
・ ・ ・ ・
しかし、『ロック』による拡散は起こらない。
美希「な…なのっ!」ドン ドン
レオン「………」
ヒュン
ガァ!!
数発打ち込んだところで、『アクセルレーション』が戻ってくる。
美希「うぅ…!」
レオン「ふぅ」ズル…
レオンが顔に被さった服を退かすと…
レオン「ぜあっ!!」
「グルァッ!!」
バキィィィン!!
獣が吼えた。
美希「わっ」ヒュオ…
ドサッ!!
『アクセルレーション』の方がパワーは断然強く、美希はスタンドごとブッ飛ばされる。
響「く…」
美希「ミキの『リレイションズ』の『ロック』を…あんな方法で…」
レオン「一番怖いのは『ロック』を重ねさせることだからね。アタシが可能な限りそれはさせない」
美希(油断ってのがゼンゼンないの…)
美希(さっき『ロック』をつけられたのは反撃されると思ってなかったから…それがわかった今、当てさせないつもりなんだ)
P「いや…でも当たった…俺でもわかる、確かに攻撃は当たったぞ!」
レオン「ああ。今のは良かったよ、多少強引だったが」
響「でも…」
美希「うん…」
レオン「二人はわかってるみたいだね」
P「え?」
美希「今みたいにやってても勝てない…たとえ『ロック』を防がれなかったとしても…」
響「『複製』の体は丈夫だ…それに、あのスタンドもパワーが違う…自分達の腕や脚が先に潰れちゃう」
P「そんな…」
レオン「そこまでわかっていても…」
美希「………」
レオン「まだ目の輝きは死んでいないか」
美希(ちょっとやそっとじゃあの人には敵わない…)
美希(きっと、勝つためには…全部出し切らないとダメなの)
響「美希」
美希「?」
響「あれ、やってみよう」
美希「あはっ、響も同じコト考えてた」
レオン「フフッ、次は何を見せてくれるのか…」
タッ!
レオン「!」
美希が、レオンに向かって駆け出した。
ドドドドドド
レオン(星井単独で…? それに、自分から…?)
美希「………」
ドドドド
レオン(何を企んでるのかわからないが…)
レオン「正面から叩き潰す! それが頂点を目指すってことだ」グオッ
『アクセルレーション』が地を蹴る。
美希「行くの…」
『リレイションズ』が美希の前に飛び出し…
美希「響ッ!」
響「うん!」ズオッ
響の体から、『トライアル・ダンス』が抜け出る。
レオン「…!?」
スゥッ
そして、『リレイションズ』の中に入っていった。
レオン(これは…)
ゴゴゴゴゴゴ
『リレイションズ』の体に、虎のような文様が浮き出る。
ギラン
瞳が、水色に光った。
レオン(我那覇のスタンドが、星井のスタンドに取り憑いた…?)
レオン「関係ない…喰らえッ!!」
ヒュッ
美希「………」
ゴォッ!
レオン(速い! けれど…)
ヒュン
腕の動きに反応し、スタンドを『1秒』先に進める。
レオン「『アクセルレーション』は、常にその上を行…」
ユラ…
バチィィィィィン!!
レオン「………!?」
<LOCK!
『アクセルレーション』が『進められた』その瞬間、『ロック』に吸いこまれるように一撃が叩き込まれた。腕が大きく弾かれる。
美希「ドラァッ!」ゴォッ
レオン「………」
間を置かず、『リレイションズ』の攻撃が襲いかかる。迫る拳を見ようともせず、レオンは『ロック』を打ち込まれた左手を見ている。
ヒュヒュン
そして、『アクセルレーション』が時間を『進め』た。
レオン(入る…このタイミングで反撃なんて…)
ドギャァン!!
レオン「ッ!?」バリバリバリ
そう思った瞬間に、既に『リレイションズ』の腕が左腕に突き刺さっていた。
レオン「ぐあ…っ!?」
美希「ドラララララララララ」シュン
・ ・ ・ ・
レオン(拳の動きが…見えない!)
ドッギャアァァァァァァン!!
レオン「うおおおおおっ!?」
ズザザザザザ
殴られたのか、衝撃で飛ばされるが、踏みとどまった。
<LOCK! LOCK! LOCK! LOCK!
しかし、全身に『ロック』がつけられている。
レオン(速い…なんてもんじゃない、なんだこれは…!?)
美希「『リレイションズ…」
響「オーバーマスター』」
美希「『スタンド使い』の頂点を目指すとか言ってたよね」
美希「だったらそれを超えて、ミキ達が頂点に立つ」
シュゥゥゥゥゥ…
P(風向きが変わった…)
P(何かわからんが、美希と響の有利な方向に)
ドドド ドドド
美希「行くよ、『オーバーマスター』」
レオン「! 『アクセ…」
ガッ
レオン「っっ…!」
気付いた時には、レオンにつけられた『ロック』に腕が突き刺さっている。
グググ…
バチィィン!!
押し込まれる腕を、『アクセルレーション』で思い切り弾いて振りほどく。
美希「ドララララララ」ゴォッ
レオン「うおっ…」バッ
追撃が来るが、後ろに跳び、ギリギリ攻撃が届かない場所まで出た。
美希「ふぅ…」
レオン(射程距離は『リレイションズ』と同じか…?)
響「ん、ちょっと遠かったか」
レオン(『トライアル・ダンス』と一体化しているんだ、星井の射程と我那覇の射程が重なる部分があのスタンドの射程距離になるのか)
レオン「ぐっ…」
ビリビリ
レオン(重い…腕がまだ痺れている)
<LOCK! LOCK!
レオン(そして速い! 今ので2発…)
<LOCK!
レオン(いや、3発…)
レオン「うあああっ!!」バリバリバリ
衝撃が、全身の『ロック』に伝わっていく。
レオン(『ロック』に引き寄せられ、どんどん強く、速く、そして正確になっていく…)
ザッ
レオン「!」
ゴゴゴゴ
美希「………」ザッ ザッ
ゴゴゴゴゴゴ
レオン(星井が近づいてくる…)
美希「………」
ゴゴゴゴ
レオン「く…『アクセルレーション』!!」
ヒュン
美希「………」ジッ
ヒュン
美希「んっ!」
時間を『進め』、左右にフェイントをかけながら距離を詰める。
キュイイン
レオン(『リレイションズ』の眼が見ている…これがあの高速反応を可能にしているんだ)
レオン(そして…『オーバーマスター』のスピードは、『アクセルレーション』を完全に上回っている!)
レオン「だが…」
ヒュン
美希「!」
『1秒』後の『アクセルレーション』が、美希の背後に回っている。
レオン(眼の届かない死角なら…!)グオッ
美希の脇腹を抉ろうと、爪が迫る。
ユラ…
・ ・ ・ ・
ズバァ!!
レオン「…っ!?」ビリビリビリ
『オーバーマスター』が振り向いたと思うと、既に『アクセルレーション』の攻撃は薙ぎ払われていた。
ブオッ
増幅した衝撃で、レオンの身体が飛ぶ。
レオン「あっ…がっ…!」バリバリバリ
自分の体を抱くように押さえつけ、その場に踏みとどまった。
レオン「はぁぁぁ…」
美希「流石に頑丈だね」
レオン「『ロック』を使ったのか…? でも、タイミングも合わせずこんな鋭い攻撃が出来るのか…?」
美希「タイミングはわかってたよ」
レオン「見えていた…? 『リレイションズ』の眼は全方向見通せるのか…?」
美希「ゼンゼン。ミキからはどこにいるかわかんないの」
レオン「なに? だったら、今のは…」
響「自分のこと、忘れてないか?」
レオン「! そうか…我那覇、キミが…」
響「うん。『オーバーマスター』は自分のスタンドでもあるんだぞ」
響「こいつはただ乗り移って凶暴化してるのとは違うからね、自分からもある程度は動かせるぞ」
レオン「このスタンドの練度…付け焼刃じゃあないな」
美希「うん。いっぱい練習したの。半年前の事件の時に」
レオン「天海春香が『弓と矢』を使い、キミ達全員を『スタンド使い』にした事件か」
響「あの時、春香の『アイ・ウォント』を倒すために二人で特訓したんだ」
美希「結局、使うことはなかったケド」
レオン「………」
美希「ミキの『リレイションズ』の『ロック』と『正確性』…」
響「自分の『トライアル・ダンス』の『パワー』と『スピード』」
美希「これがミキ達の切り札、『オーバーマスター』! なの!」
レオン「ふ…」
響「? 笑ってるのか?」
レオン「あの程度で終わるとは思っていなかったが…まさか、こんな牙を隠していたなんてね」
美希「それはどうもなの」
レオン「いや…死角からの攻撃なんて、小細工だった…」
響「で、どうするんだ?」
レオン「どうする? 愚問だな…」
ダッ
美希「!」
響「!?」
『オーバーマスター』に向かって真っ直ぐに突っ込んでくる。
レオン「正面突破…それ以外にないッ!!」
響(『オーバーマスター』の動きは見ているはず…何考えてるんだ!?)
「ァァァァァァァァアアアアアアアア!!」
美希「ん!」ビリビリ
『アクセルレーション』の咆哮に、空気が震える。
レオン「そこだッ!!」ヒュン
美希「………」
キュオン
『オーバーマスター』の眼が、目の前に現れる『アクセルレーション』を捉える。
美希「ドラァ!」ゾゥン!
美希はそのまま攻撃に移ろうとするが…
レオン「『アクセルレーション』ッ!!」
ヒュン
・ ・ ・ ・
能力を発動した『アクセルレーション』が、より懐に入り込んだ。
レオン「はぁっ!!」
ドグォッ!!
美希「きゃっ!?」
響「うぎゃっ!?」
『オーバーマスター』と共に、美希と響が弾き飛ばされた。
P「美希! 響!」
美希「だ、大丈夫…!」
響「これくらい、なんともないぞ!」
レオン「なるほど、一体化したスタンド…ダメージも二人分、か」
美希「今のは…」
響「ギリギリまで、本当に攻撃する直前までスタンドを『進め』たのか…」
レオン「ああ、そうだ」
ヒュン
美希「また来た…!」
響「ドララララララララ」
シュババァ
牽制するように、『ロック』に引っ張らせ何発ものジャブを放つ。
チリッ
レオン「う…!」ビリッ
一発かすった腕のダメージが、全身に何倍にも増幅する。
レオン「うおおおおおっ!!」
ヒュン
ズギャン!!
美希「うあっ…!」
響「ぐあっ…!」
獣の前脚が、思い切り『オーバーマスター』の腕を弾いている。
レオン「アタシに対してその程度の攻撃が足止めになるとでも思うのか!?」
美希「ドラァ」ヒュバァ
レオン「見てから反応できる…?」
ヒュン
バキィ!!
美希「ん…!!」
スタンドの腹に、脚が突き刺さる。
レオン「だったら、見る時間を潰す! キミ達のスタンドが0.01秒で反応するのなら、アタシは0.001秒の隙を突く!!」
ギン! ガンッ! ガガッ!
美希「ううっ…!」
響「あっ! ぐぅっ…!」
ほとんど一方的に、『アクセルレーション』の攻撃を喰らい続ける。
レオン「はああっ!!」
・ ・ ・ ・
突然、『アクセルレーション』の攻撃が止んだ。
美希「ドララララララ」ズバババババ
レオン「ぐっ! ぐああっ…」ガッガガガガギガガギガガッ
能力が使えない『アクセルレーション』に、ここぞとばかりに『オーバーマスター』の嵐のような攻撃が叩き込まれる。
レオン「『5秒』が切れれば反撃されるか…そうだろうね、だけどそれがなんだい!? キミ達の全力を、無事で済まそうなんて虫のいい話だ!」
ヒュン バキャッ!!
美希「く…っ!」
再びギリギリのタイミングまでスタンドを『進ませ』、美希の体をブッ飛ばす。
レオン「言ったろう!? どれだけ速かろうが『アクセルレーション』には追いつけないと!」
P(また、風向きが変わっている…俺にも、あいつらが押されているのはわかる…)
P(できることならなんとかしたい、だが…)
P(俺にスタンド攻撃ができない春香の『複製』相手の時でも、俺はほとんど役に立たなかった…)
P(ここで飛び出していっても、あいつらの足を引っ張るだけだ)
P(何より…)
美希『勝ってくるから』
P(あいつらは勝つと言った。言った以上、絶対に勝つ!)
美希「くぅ…」
響「『オーバーマスター』でも追いつけないなんて…」
美希「考えてみればトーゼンなの、攻撃の瞬間だけを切り取れるんだから時間でも『止め』られなきゃあれに追いつけるスタンドは存在しない…」
響「時を止める!? そんなスタンド、あったら無敵だろ!」
美希「ま、無い物ねだりしてもしょーがないケド」
響「どうするの、『5秒』が切れた一瞬しかまともに当たらない…5秒間は一方的に殴られ続ける!!」
美希「しかも、相手は『複製』…ミキ達より丈夫、か」
レオン「さぁ続けようじゃないか、どちらかが倒れるまでッ!」
美希「あんなこと言ってるケド、続けたら負けるよね」
美希「…ならさっさと終わらせよっか。響」
響「どうやって?」
美希「ボコバコ殴り合ってても勝てないの。『複製』を倒すなら、ミキ達が精神力で買って、負けを認めさせるしかない」
美希「だから、『アクセルレーション』の能力を破る。それしかないって思うな」
響「…なるほどね。それも難しそうだけど…それしかないなら、やるさ」
レオン「キミ達は強い…アタシが戦った中でも三本の指に入る」
レオン「だが、それに勝ってこそ価値がある! 『スタンド使い』として、より高みに行ける!!」
美希「勝手に行ってろってカンジ…」
レオン「行くぞッ、『アクセルレーション』!」
ヒュン
響(この、『5秒』先まで行動を『進め』られるスタンド…)
響(それを完全に破るには…)
美希「『リレイション…」
レオン「遅いッ!!」ズギャン!!
美希「うぅぅぅぅ…!!」ドボォ
美希の体が折れ曲がる。
レオン「そこだ!」
ザシュゥ!!
美希「かは…!」
畳み掛けるように、『アクセルレーション』の牙が『リレイションズ』の喉笛に食らいついた。
レオン「これで終わりかい…?」
ドドドド
レオン「ん…?」
ドドドドドド
美希「はーっ、はーっ…」
ググググ…
『リレイションズ』の両手が、『アクセルレーション』の顎を掴んでいる。
「グァァァァァ…」
グッグッ
顎は今にも閉じられようとしているが、震える手で押し戻している。
美希「喉はアイドルの命…ゼッタイ、手は出させないの」
レオン(なんだ…?)
美希「ぐぅぅぅ…」ギリギリ
レオン(星井が攻撃を止めている…それだけじゃあない、なにか違和感が…)
ダムゥ!!
レオン「! この音は…!」
レオン(そうだ、スタンドが『オーバーマスター』じゃあない!)
美希「殴り合いじゃ勝てない…だったら、『オーバーマスター』は捨てる」
レオン「星井は囮…本命は…」クルッ
響「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」ギュォォォォォォォオオオオ
レオン「こっちか…!!」
レオンが振り向くと、『トライアル・ダンス』を憑依させた響が壁から弾丸のように突っ込んできている。
レオン「だが、『アクセル…」
美希「なのっ!」
ガシッ
レオン「がっ!?」
『リレイションズ』が、顎をこじ開けるように押さえつける。
美希「離さないよ。少なくとも5秒間は、ゼッタイ」
レオン「う…」
響「ドラァッ!!」
レオン「おおおおおおおおおお」
ドボガァ!!
レオン「ご…がっ…!!」
響の体が、レオンの背中に突き刺さった。
ズザザザザザザ
二人の体が、地面を転がる。
P「や、やったか…!?」
響「うぅ、どうだ…?」ムクリ
響は立ち上がると、美希の近くまでゆっくりと歩く。
美希「これで『アクセルレーション』の能力は破ったの」
レオン「…破った…?」
響「!」
倒れたまま、レオンは呻くように声を出す。
ゴゴゴ
レオン「こんなことで…アタシの『アクセルレーション』を…破ったって…?」
ゴゴゴゴゴゴ
P「こいつ、まだ…!」
響「だったら、何度でも倒してやるぞ…!」
ゴゴゴゴゴゴ
美希「…いや、待って響」
レオン「う……」プルプル
響「え…?」
レオン「うぁ…あぁぁ…うぅ…」
P「な、なんだ…?」
美希「この人、とっくに限界だったみたい…」
レオン「立て…ない…体が…動かない…」
レオン「あぁ…さっきまでずっと立っていられたのに…一度倒れてしまったら、こんなにも立ち上がるのが難しいのか…」
美希「無理しない方がいいって思うな」
レオン「はは…まさか、もったいつけて出した『オーバーマスター』を囮に使うなんて思わなかったよ」
美希「自分で言ってたでしょ? いくら速くても追いつけないって。だったら、止めるしかないの」
響「スタンドが一つじゃあ、動きを止めても攻撃できないからね…だから、分かれたんだぞ」
レオン「『オーバーマスター』があったから、アタシは思い切り攻撃に行かざるを得なかった…そこを突いたのか」
美希「響が、言わなくてもわかってくれて助かったの」
響「わかるぞ。半年前…いや、ずっと一緒に頑張ってきたしっ」
レオン「キミ達は、力を合わせることで信じられないパワーを発揮してくるね」
美希「凄いパワーは出たケド、あんまり役に立たなかったの」
レオン「『オーバーマスター』のことじゃあない。スタンドの性能を越えた、何かもっと大きな力だ」
響「うん…」
レオン「ま、一人ならアタシの方が強いけどね」
響「往生際が悪いぞ!」
美希「負けは負け、素直に認めるべきだって思うな!」
レオン「ああ…」
サラサラ
レオンの体が、指先から砂に変わっていく。
響「あ…」
レオン「認めてるよ。アタシの『精神』は、ちゃんと認めている。キミ達の勝ちだって」サラサラ
レオン「鍵はもう取り出せないが…アタシが消えたら持っていてくれ」
響「う、うん…」
美希「ねぇ、他の『最強の三体』について教えて」
レオン「ああ…彼女達も、強いよ。キミ達が戦うかはわからないが」
レオン「能力については言えないが、あの能力にはアタシも勝つのは難しいかな…」
美希「………」
サラサラ
美希「消えるん…だね」
レオン「そうだな…」
レオン「でも、いい。満足だ。キミ達と戦えて…よかった」
そう言うと、レオンは消え去った。
サラサラ
その場には彼女の着ていた服と、彼女だった砂だけが残されていた。
P「美希、響…勝ったんだな…」
美希「さてと」ヒョイ
美希はレオンの服を拾い上げ、ポケットの中からカードキーを取り出す。
P「ちょ、ちょっと待て美希、労いの言葉くらい言わせてくれよ」
美希「ミキ達には、止まってる時間なんてないの。進まなきゃ」
P「はぁ…ま、とりあえずお疲れ様…」
響「ありがと。ふぅ、どっと疲れたぞ…」
P「ああ、見えなくてもあいつが強かったのは伝わったよ。こんなのがまだ二人もいるんだな…」
響「その二人だけじゃなく、まだまだ『複製』はいっぱいいると思うぞ。それに、会長も…」
P「…あの扉の奥、何があるんだろうな?」
響「うーん、お菓子とかいっぱい入ってたり…?」
P「そんなものを門番に守らせるか…?」
美希「えいっ」ビッ
ギギギギ…
美希が傍についているリーダーにカードキーを読み込ませると、扉が開いていく。
ゴゴゴゴゴ
美希「え…? なにこれ。部屋?」
P「さっきまで岩肌に囲まれてたのに…なんだここは、マンションの一室か…? しかも家具まで置いてある…人の住めるようなスペースだ…」
響「! ベッドの上! 誰かいるぞ!」
???「ん…」ゴシゴシ
中老の男がベッドから上体を起こし、目をこすっている。
P「あれは…」
???「君達は…なんだ、これは夢か…?」
美希「見覚えがあるの…」
響「高木…会長!?」
???「え?」
美希「ここにいたのッ!」
響「くたばれッ!!」
二人はベットの上の人物をボコボコにしようと飛び込んでいく。
???「おおっ!?」
P「ま、待て待て待て待て! 落ち着け! 似てるが、違う!」
響「へ?」
美希「あれ、言われてみると…」
???「き、君…星井君に、我那覇君まで…本物、なのか…?」
美希「もしかして、社長?」
順二朗「ああ…まさか、君達が来てくれるとは…」
美希「…社長って、こんな顔だったっけ?」
響「あれ、言われてみれば確かに…最後に見た社長の顔と違うな」
P「いや、だからあれは社長じゃなくて会長の『複製』が社長を名乗ってただけで本物の社長は海外に…えーと…こんがらがってきた」
美希「とにかく、本物なんだね? スタンドも見えないみたいだし」
順二朗「む、君達が『スタンド使い』になったというのは本当のことだったのか…」
響「あ、スタンドのことは知ってるんだ」
P「で、どうして社長がここに…?」
順二朗「それは、話すと長くなるのだが…」
響「春香の『複製』…あいつが…」
美希「デコちゃんはその時に入れ替わったんだね」
順二朗「ああ。気付いた時には、私はこの部屋に閉じ込められていた」
P「帰ってきてたのなら、まず俺達のところに顔出してくれれば…」
順二朗「いや、そのだな。君達を驚かせてあげようと…思ったのだが…まさか、こんなことになっているなんて…」
美希「会長って、ほんとはた迷惑なの」
順二朗「これも順一ちゃんなりに、アイドルの未来を考えての行動なのだろう…だが、こんなことをしてまでやることではない…」
響「全部、『弓と矢』のせいだぞ! 『アイ・ディー・オー・エル』が使えるようになったから、会長はおかしくなったんだ!」
P「どこかに割り切れない気持ちがあったのかもしれませんね。俺だって、みんなのアイドル活動の終わりを考えたら、会長の気持ちはわからなくもない…」
響「自分、まだまだアイドルやめるつもりはないぞ」
美希「終わりのコトなんて、今から考えても仕方ないってカンジ」
P「そうだな…気持ちはわからなくもないが、それでも今、会長のやってることに賛同はできない」
響「うん」
美希「止めよう、ゼッタイに。こんなことは、やめさせなきゃなの」
P「それにしても、会長はなんで社長をこんなところに…? 門番をつけて守らせてまで…」
順二朗「門番…」
響「すっごい強かったぞ。ま、自分達で倒したけどね」
順二朗「恐らく、それは私ではなく…あれのためだろうな」
美希「あれ?」
順二朗「ちょっと待ってくれたまえ、えーと、こっちに…」ペタペタ
順二朗は部屋の壁を探り始める。
順二朗「えーと、確かここに…おお、あった」
カパッ
ポチ
壁の一部が開き、中のスイッチを押す。
ゴゴゴゴゴゴ
すると、部屋の奥がゆっくりとこじ開けられていった。
ゴゴゴゴゴ
開いていく壁の隙間から、額縁のようなものが見える。そして、中には何かが飾られていた。
P「…!?」
ゴゴゴゴ
順二朗「…これだ」
中のものが、完全に姿を現わした。そこにあったのは、一組の…
ゴゴゴゴゴゴゴ
P「こ、これは…まさか…!」
響「ここにあったのか…!? きっと、これがオリジナルの…」
美希「…『弓と矢』!」
TO BE CONTINUED→
スタンド名:「アクセルレーション」
本体:レオン
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:A 射程距離:D(5m程度) 能力射程:D(5m程度)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:C
能力:四足歩行の獣のような姿をした、レオンのスタンド。「最強の三体」のうちの一体。
野生の獰猛さ、力強さ、瞬発力を兼ね揃え、しかもあらゆるスタンドを上回る。
スタンドに体を引っ張らせることで、本体のレオンも高速の移動が可能。(常人ならば筋肉や骨に異常が出るが、「複製」であるレオンはある程度耐えられる)
スタンドの時間を「進め」、最大で「5秒」先までの未来の状態を先取りできる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
スタンド名:「リレイションズ・オーバーマスター」
本体:星井 美希&我那覇 響
タイプ:近距離パワー型・複合
破壊力:A スピード:A 射程距離:E(美希から2m以内かつ響から10m以内) 能力射程:D(美希から5m)
持続力:D 精密動作性:A 成長性:?
能力:美希の「リレイションズ」に響の「トライアル・ダンス」が憑依した姿。
「トライアル・ダンス」の能力射程と、「リレイションズ」の射程距離の重なる部分が射程距離となる。
「リレイションズ」の能力はそのままに、荒々しい獣のような「パワー」と「スピード」を得た。
その脅威は嵐のように、際限なく増幅していく。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
>>635の「/おわり」はミスです
カチャ…
美希が、壁から『矢』を手にする。
響「765プロにあったのは、『アイ・ディーオー・エル』で『複製』したものだったんだよね。きっと、これが大元…」
美希「事務所にあったやつと、同じにしか見えないの」
P「『スタンド使い』を生み出す『弓と矢』…」
P「なぁ、これがあったら俺もスタンドが使えるようになったりするのか?」
美希「プロデューサーは触らないほうがいいって思うな。死ぬから」
P「死ぬのか!?」
響「プロデューサーが『スタンド使い』になれるなら、半年前にとっくになってるはずだからね」
P「そ、そう…か…」
順二朗「私はこの部屋に隠されていたのを、たまたま見つけただけだが…順一ちゃんが番人を用意してまで守っていたのは、私ではなくこれだろうな」
響「なるほどね」
P「でもなぁ、今更これがあっても役に立たないんじゃ…?」
美希「ううん、そうでもないよ」
P「え?」
響「『矢』があれば…あれが、使えるはずさー」
P「あれ…? って、なんだ?」
美希「『ジ・アイドルマスター』。半年前の事件の、最後の敵。最強のスタンド」
…
……
………
美希「見た目は、ピカピカしたマネキンみたいなカンジ。アイドルっぽい衣装を着てて、『矢』が左手首に腕時計みたいにくっついてるの」
千早『空気中から集めた「熱」を、ありったけ…叩き込むッ!』プシュゥゥゥゥ…
バキィ!!
回想の世界。『インフェルノ』が、排気口から大量の蒸気を吹き上げながら、春香を殴り飛ばしている。
春香『うあっ…あぐっ… ………』ジュゥゥゥゥゥゥウウ…
攻撃が直撃し、春香は床を転がる。与えられた『熱』で、身体が灼けついていた。
美希「『パワー』とか『スピード』とかは、千早さんの『インフェルノ』よりは弱かったかな」
美希「でも、能力は最悪。一度発動すれば…」
春香『「ジ・アイドルマスター」』
ドォ……………ーン
千早『…え?』ベトォ…
千早が頭に手をやると、指先が血にまみれる。受けてもいない傷が、つけられている。
春香『千早ちゃん…頭から血が出てるよ』
逆に、春香からは先ほど受けた攻撃による傷も、『熱』も、一切が消え去っていた。
美希「自分の都合のいいように、『過去』の出来事を変えられる」
………
……
…
美希「と、そんなカンジなの」
響「うーん、思い出すだけでもゾッとするぞ…」
美希「さっきの『アクセルレーション』も、『オーバーマスター』も…あれの前じゃ全く歯が立たないって思うな」
P「そんなのを、お前たちはどうやって倒したんだ…?」
美希「まぁ、終わったコトだしどうでもいいんじゃない? 最後にやったのはデコちゃんだし」
響「伊織もよくわかってない感じだったしな」
P「…とにかく、『矢』があれば、その『ジ・アイドルマスター』ってのが使えるんだな?」
順二朗「どうすれば使えるのかね?」
美希「春香は、自分のスタンド…『アイ・ウォント』にこの『矢』を刺してた」
スチャ
美希「ミキの『リレイションズ』に刺してみるの」
順二朗「それで、星井君のスタンドが変わるのかね? 私には見えないから、よくわからないが」
響「『ジ・アイドルマスター』そのものではないと思うけど、それくらいのスタンドにはなると思うぞ」
P「それほど強いスタンドなら…会長も止められるな。これで全てが終わるのか…」
美希「………」
響「どうしたの、美希?」
美希「なんか、刺すのって痛そう」
響「美希…」
美希「ジョーダンなの。それじゃ、行くね」ス
ザシュ
美希が手に持った『矢』で、『リレイションズ』の肩を刺す。
美希「ん…?」
ブシュ
カラン
傷口から血が噴き出し、『矢』が弾かれた。
響「美希!」
美希「大丈夫、ミキの肩はなんともないの」
順二朗「『矢』が空中で弾かれたように見えたが…」
P「まさか、失敗か…!?」
美希「きっと、ここから…」
カタカタカタ…
P「『矢』が…動いている」
ズルルルル
『矢』がひとりでに、『リレイションズ』に引き寄せられていく。
美希「うん、これで…」
・ ・ ・ ・
ウゾゾゾゾゾ
『リレイションズ』の体が、溶け出す。
美希「あれ…」
ドロドロ
美希「なんか、春香の時と違うような…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
地震でも来たかのように、島が…いや、地球全体が震えだす。
順二朗「うっ…!」ガクッ
P「社長!? …うっ!」
順二朗とプロデューサーが、その場に崩れ膝を着いた。
響「プロデューサー!? 社長!」
順二朗「い、痛い…」
P「あ、頭が…頭が…割れるッ!!」
響「な、何が起きてるんだ…」
ズズズズズズ
溶けた『リレイションズ』が、別のモノに変化しつつある。
響「あがっ…!? うぎゃああああああっ…!」
響も頭を押さえ、蹲ってしまった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
美希「これは…」
P「うあああああ…! あああ…!」
順二朗「ぬぅっ…! がぁ…ぎぃっ…!」
響「ああっ…あーっ、ああああああああ…!」
ズルズルズル
『リレイションズ』だったモノが、自分に引き寄せられる『矢』に手を伸ばす。
美希「っ!」バッ
美希は、それが掴むよりも前に、『矢』を取り上げた。
シン…
途端に、揺れは止まった。
P「う…? 頭痛が…」
順二朗「はぁ、はぁ…治まった…」
倒れていた三人が起き上がる。『リレイションズ』も、元に戻っている。
美希「みんな、大丈夫!?」
順二朗「あ、ああ…」
P「なんだったんだ、今のは…」
美希「失敗…みたいなの。ごめんなさい」ペコ
P「別に、美希が謝ることじゃ…」
響「美希…」
美希「響、ダメだったみたい。響も試してみる?」
響「やめとく…美希が無理なら、自分も…っていうか、春香以外無理だぞ」
美希「そうかな」
響「今の…世界そのものが別のものへ変わっていく感じ…『ジ・アイドルマスター』と同じだ」
美希「ちょっとコントロール利かないカンジだったケド」
響「春香は…」
響「春香は、こんな『力』を支配してたっていうのか…?」
美希「今はこれ、使えないね」
響「うん…春香と合流するのが一番よさそうだね」
P「本当に、大丈夫なのか…?」
美希「うん。春香なら今みたいになったりはしないって思う」
響「この『矢』は触ったら危ないから、先っぽに布巻きつけておくぞ」シュルッ
P「これを持ち運ぶのか…」
美希「ねぇ社長~、これ持っててちょーだい♪」
P「こら、社長を荷物持ちに使うな」
順二朗「いやいや、私なら構わないよ。これくらいはしなくてはね。君も荷物を持っているようだしな」
P「…それなら、いいんですが」
美希「それじゃ、春香を探すの!」
響「やっぱり、バラバラにされたのは痛いなぁ。春香、今どこにいるんだろ?」
………
……
…
ゴウンゴウンゴウン
複製A「うぅ…」
複製B「あぁ…」
島に点在する倉庫の一つ。その中、物資運搬用ベルトコンベアの近くで、二体の名も知らぬアイドルの『複製』が頭を押さえている。
複製A「なんだったの、今のは…まるで、精神が引き剥がされるような痛みが…」
春香「………」
その傍らには春香が倒れている。気を失っているようだ。
複製B「それより、早いところこいつを牢獄に運びましょ。今ので、いつ目覚めるかも知れないわ」
複製A「そうね。あそこなら、例え天海春香でも逃げることは絶対にできない」グイッ
春香「………」ズル…
春香を二人で担ぐと、倉庫の外に歩きだす。
複製B「………」
複製A「はぁ、はぁ、はぁ…」
複製達は、春香を抱えながら山の中腹道を進んでいる。
複製A(もし、天海春香がここで起きたら…ここで目覚めたら、私達は…)
複製B「そうだわ…」
複製A「?」
複製B「連れて行かなくても、ここで片付けてしまえばいいわ」
コォォォォォ…
複製B「そう。そこから、崖にでも投げ込んでやれば…」
複製A「なっ!? それは、まずいんじゃあないの!?」
複製B「こいつはあの『弓と矢』の力を使いこなしたこともある…危険すぎるわ。生かしてはおけない」
複製A「…そ、そう…? た、確かに天海春香は危険すぎる…わね」
複製B「そもそも、私達二人だけでこいつをなんとかしろってのが無理なのよ」
複製A「あいつ…自分が765プロの『複製』だからって…戦闘の経験を持ち合わせた謂わば格上だからって、私達に全部押し付けて…」
複製B「そうよ。あいつが任務を放棄したのが悪いのよ。私達は悪くないわ」
複製A「そうと決まったら、やりましょう…」
コオオォォォォォォォ…
春香を抱えたまま、ピッタリと同じ歩幅で崖へと近づいていく。
複製B「ふふ、不安要素が消える…私達のも、高木さんにとっても、すべて!」ザッ
複製A「いいことずくめだわッ! 早く落としてしまおうッ!」ザッ
春香「うん、いいんじゃないかな」
複製A「あ?」
複製B「へ?」
ズル…
二人がまだ地面があると思って踏み込んだそこには、何もなかった。
複製A「うわああああああああああ!?」
複製B「きゃああああああああああああ!?」
ゴロゴロゴロ
バランスを崩し、そのまま揃って奈落へと落ちていく。
春香「まぁ、落ちるのはあなた達の方だけど」
春香「『視覚支配』、そして『触覚支配』。あの倉庫にいた時から、もうとっくに起きてたよ」
春香「ちょっと気の毒だけど…『複製』がこれくらいで死ぬとも思わないし、私のことを殺そうとしたんだから…ま、おあいこってことで」
春香「それにしても、さっき言ってた牢獄ってところに連れて行ってもらえると思ったんだけどなぁ。どこだろ、ここ」キョロキョロ
周囲を見回すが、目立つ建物は見えない。崖の下にも、森が広がるばかりだ。遠くの方は、霧に遮られて見えない。
春香「とりあえず、進んできた方に向かおっかな。方角的には、そっちにあるのは確かだろうし」
春香「そうと決まったら…」ザ…
一歩踏み出そうとするが…
春香「ん」
プルプルプル
ふと、右腕が震えていることに気づく。
ガシッ
春香「………」
左手で押さえつける。2、3秒経つと、震えは止まった。
春香「よし。行こう」
再び、歩き出した。
春香「………」ピタ
しばらく歩いたところで、春香は足を止める。
春香「誰? 出てきてくれる?」
シン…
返事はない。
春香「…出てくるわけないか」
スタスタ
春香は数歩歩いてから…
春香「ふっ!」ダッ
突然ペースを変え、駆け出した。
ダン! ダン!
先程までいた位置に、春香の身長くらいの岩石が2つ落ちてくる。
春香(やっぱり、攻撃されてる…殺気がだだ漏れだよ)
ダン!
春香めがけて、次々と岩が落とされる。フェイントをかけながら、踊るように移動して躱す。
春香(空から、岩が降ってくる…)クイ
見上げるが、空は霧に覆われている。
春香(駄目かぁ。この空じゃ、どう降ってくるのかもよくわからない…)
ヒュン ヒュン
春香「無駄ァッ!!」ヒュ
降ってくる岩石に、『アイ・ウォント』の拳を合わせる。
バガン
バラバラバラ
春香「うっ…!」バキッ
岩は脆くも崩れるが、その破片が春香を襲った。
春香(思ったよりは硬くない…けど、壊そうとするのはあんまりよくないみたい)
タッ!
その場から逃げるように、駆け出す。
ダンッ ダンッ
細い道を進んで行く。落ちてくる岩に、退路を塞がれる。
春香(攻撃されている…さっきから、ずっと殺気を感じる)
春香(敵が見ているのもはっきりと感じる。でも、どこからどう私を見ているのか、それがわからない…)
春香(『視覚支配』で撒くのは無理か…能力が…どう攻撃しているのかわかれば、そう難しくはないんだけど)
春香(とりあえず『聴覚支配』と『直感支配』はかけているけど…はっきり見られている上に相手は『複製』、効果はあんまりなさそうだね)
ゴロゴロゴロゴロ
春香「?」
頭上から降り注いでくる音に目を向けると…
ゴッ
春香「うぇぇ…」
山の上から、トレーラーの積荷ほどもある大木が転がって、落ちてきた。
春香(潰…される…)
春香(これも壊せる…かもしれない。でも木の繊維は鋭利、ズタズタになる…! それにこの大きさ…『アイ・ウォント』のパワーじゃあ完全には破壊できない!)
春香「!」
ゴゴゴゴゴ
ゴゴゴ
道の途中に、ちょうど春香が入れそうな、直径2m程度の横穴を見つける。
春香(あの中に逃げ込めば…降ってくる木は躱せる…)
春香(でも、このタイミングで…都合が良すぎる。飛び込んでいいのかな…)
ゴォォォォ…
大木がすぐそこまで迫ってきている。
春香(………)
バッ
ズザザッ
春香は、横穴に飛び込んだ。
ゴウン! ゴウン
大木は、地面をバウンドして崖の下まで落ちていった。
春香「ふぅ…」チラッ
穴の奥に目を向ける。
春香「あっちは行き止まり…ただの横穴か」
ゴゴゴゴゴゴゴ
春香「!」
土が盛り上がり、洞窟の入り口がだんだんと閉じている。
春香「早く外に…きゃっ!?」グラッ
ドンガラガッシャーン
穴の外に出ようとするが、その場で足がもつれ、転んだ。
春香「いたた…なんで、こんな時に…」
シュル…
春香「これは…『糸』…!? 『糸』が、私の足に絡まっているッ!!」
ズズズズズズ…
足を取られているうちに、穴はゆっくりと、カメラのシャッターのように閉まっていく。
春香「『アイ・ウォント』…」ズッ
春香はスタンドだけを、入り口の前に行かせ…
春香「無駄無駄無駄無駄」ドン ドン ドン
ボロッ
壁を殴る。殴ったそばから崩れていくが…
ズズズズズ…
春香「ダメだ、崩しても穴が閉じていく方が速い…!」
ズズズズズ
穴の出口はどんどん小さくなっている。
春香「でも、これは…わかった、敵の能力は…」
ズズズズズズズズ
春香「………」
そして、春香の世界から光が消えた。
………
「あはっ」
ミキ「大成功、なの! 穴の中に春香を追いやって、閉じ込める作戦!」
美希の『複製』が、盛り上がった壁の前に立っている。
ミキ「あの二人と別行動を取った甲斐があったの! ミキの『マリオネット・ハート』が、春香の『アイ・ウォント』を倒した!」
シン…
ミキ「穴が閉じてから、もう20分も経ってる。穴の中には空気が入らないから、春香はもう酸素がなくてフラフラになってるって思うし…そろそろ、開けてもいいかな」パチン
ズズズズズズズ
指を鳴らすと、壁にひとりでに穴が開いていく。
春香「………」
その中に、春香が倒れていた。
ミキ「春香、生きてるー? 船乗りさんでも20分はキツいし、死んじゃってたりして」ヒョイ
ミキが顔を覗き込もうとすると…
カリ…
・ ・ ・ ・
春香「ヴァイッ!!」ブオンッ!!
『アイ・ウォント』が、地面からアッパーを放つ。
ミキ「ッ!!」バッ
一瞬反応が速かったか、ミキは跳び退いて躱した。
春香「…外した、か…『触覚』を『奪え』ると思ったんだけど」
ミキ「は、春香…? ??」
春香「何を驚いてるの? 驚いたと言えば、美希の『複製』…あなたがここにいることに驚いたけど」
ミキ「え、だって…あんな閉め切った空間にいて、なんでそんなピンピン…」
春香「閉め切った空間? 何の話?」ズイ
ミキ「え…」
春香は『アイ・ウォント』の腕を見せつける。その周りには、土が付着していた。
ミキ「…?」
春香「わからないかなぁ。閉め切ってなかったんだよ。『アイ・ウォント』の腕を、閉じる寸前の穴に挟み込んだ。引き抜けば、この腕一本分、空気の通る穴が残る」
ミキ「そんな穴、どこにも………あ…!」
春香「『視覚支配』」
春香「さーてと、ようやく姿を見せたね。ここからだよ」
今更前の話の抜けを発見してしまった…
>>558と>>559の間
ユキホ「さぁ、萩原雪歩! どうするの!? そのスタンドで、あなたに何ができる!?」
ユキホ「私を止めてみなよ、できるものならッ!」
雪歩「………」
雪歩「真ちゃんを放して、攻撃をやめて」
ユキホ「は…?」
FS「萩原雪歩ガ コウ言ッテイル。サッサトヤメルガイイ」
ユキホ「はっ…」
鼻で嗤う。
ユキホ「放して!? やめて!? なに、それ!? それで、本気でやめてもらえるとでも思ってるの!?」
雪歩「………」
ユキホ「頼み込むんじゃなくて、自分で止めてみなよ!!」
雪歩「…もう一度、言うよ」
雪歩「真ちゃんを放して。攻撃をやめて」
ユキホ「…!」
と思ったら専ブラのフィルタ設定でNGになってるだけでした…
失礼
ザワザワザワ
島の宿泊施設の一つ。そこを管理する『複製』達の集まりは、蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
「他の施設で、脱走したアイドルがまだ戻ってこないそうだ!」
「主力の『複製』がまた一人撃破されたわ!」
「なんでも、あのレオンが敗れたらしい!」
「765プロの連中はそんなに強いの!?」
貴音「………」
モグモグ
貴音は食堂の中から、食事をしながら騒がしい廊下の様子を眺めていた。
貴音「何やら、騒がしいですね」
真美「ヒトゴトみたいに言うけどねお姫ちん」
「………」
「………」
真美「めっちゃ見られてるよ、真美達」
以前抜け出したのがバレているのか、あるいは警戒態勢のためか。常に二人以上の『複製』が、貴音達を見張っていた。
真美「みんなこの島に来てるみたいなのに、真美達だけ動けないなんて…」
貴音「この施設にいる『複製』全員を敵に回すのは流石に分が悪いですね」
真美「うあうあー! このままじゃ生おろしだよー!」
貴音「生殺しと言いますが真美、皆来ているのならば、『すたぁとすたぁ』で亜美と合流できるのでは?」
真美「え? でも、真美のスタンドは『ジェミー』になったから、もう元の『スタートスター』は…」
貴音「千早のように、スタンドを切り替えることはできないのですか?」
真美「切り替える…? そういうの、考えてなかったな…ちょっちやってみる」
ピキン
真美「!」
貴音「しっ」スッ
真美が口を開く前に、貴音が指で静止した。
貴音「できるのですね?」
真美「うん。射程距離内に亜美がいるのも感じるよ」
貴音「では、真美。早速『ワープ』を」
真美「でも、向こうどうなってるかわかんないよ。もしかしたら…あんま考えたくないけど、例のローゴクってとこに捕まってるかも…」
貴音「だとしても、この建物の中で燻っているよりはいいでしょう」
真美「…そだね。お姫ちん、真美の手掴んで」
貴音「はい」キュッ
「貴様ら、さっきから何を話している!」
真美「うげ、気づかれた」
貴音「問題ありません。行きましょう」
「怪しいな、脱走を企てているのなら牢獄送りに…」
ヒュン
「………」
真美と貴音は、『スタートスター』で建物の中から『ワープ』した。
ヒュン
「何…!?」ビクッ
『ワープ』で辿り着いた先に、一人の女性が立っていた。
貴音「ふっ」ヒュオン
貴音は即座に『フラワーガール』の手刀をその人物の喉元に突きつける。
「…速いわね。速すぎるくらいに」
貴音「………」
三つ編みのおさげを二本ぶら下げた彼女は、眼鏡越しに貴音を睨みつける。
真美「りっちゃんの『複製』!?」
リツコ「なるほど、『スタートスター』か…迂闊だったわ」
ヴヴン…
律子「………」
亜美「………」
真美「亜美! りっちゃん!」
真美のすぐ傍に、バスケットボール大の黒い球体が二つ浮かんでいる。その上に、律子と亜美が載せられていた。
真美(この黒い球…)
ググ
真美(なんか、真美の体が引っ張られてる…ような)
貴音「二人を解放してもらえるでしょうか」
リツコ「断ったら?」
貴音「貴女の首が飛ぶことになるかと」
リツコ「やってみる?」
貴音「………」
ゴゴゴ
リツコ「………」
ゴゴゴゴ
リツコ「はぁ…わかったわよ。向かい合ってよーいドンじゃ、『フラワーガール』にはとても敵わないわ」
フッ
黒い球体が消え、二人の体がコンクリートの地面に落ちようとする。
ヒュバッ
トス
『フラワーガール』が律子の体を掴み、優しく地面に置いた。
真美「わっ」ガシッ
真美「わわっ」グラッ
真美「わーっ!」ドサッ
真美も自分の腕で亜美を受け止めようとするが、バランスを崩して倒れ、亜美の下敷きになった。
真美「もー! 亜美重いよー!」
スタスタ
リツコはもう真美達には興味もないとでも言うかのように、立ち去っていく。
真美「ありゃ、背中なんて向けちゃって。よし、『ジェミー』で一発…」
貴音「真美。まだ二人が気を失っています、巻き込まれれば被害が及ぶ。見逃しましょう」
真美「えー!? でもでも、あんなドヨービなんだよ!? お姫ちんの『フラワーガール』でやっちゃえばいいじゃん」
貴音「無防備だろうと、今の状況で能力のわからない相手に手を出すのは得策ではありません」
真美「ぶー。お姫ちんがそこまで言うなら我慢するけどさー」
………
亜美「ん…真美…? もう朝…?」
真美「朝? じゃないよ! 寝ぼけてないで起きろー!」
亜美「あれ、真美!? なんでここに!? ってかココドコ!?」
真美「ここがどこかは真美も知らん!」
律子「あんたら、うるさい…」
貴音「律子嬢、目を覚ましましたか」
律子「うぅ…確か、いきなり狭いところに閉じ込められて…」
真美「りっちゃん達、連れ去られそうになってたから助けに来たんだよ!」
貴音「偶然ですが」
律子「とにかく、助けられた…みたいね。ありがと」
亜美「真美たちが来なかったら、めっちゃヤバかったみたいだね…」
貴音「二人が無事で、何よりです」
律子「さて…と。目も覚めたことだし、働かないとね」スッ
律子が『ロット・ア・ロット』のパソコンのような端末を取り出す。
真美「あ、そうだりっちゃん。さっきりっちゃん達を運んでた『複製』だけど」
律子「ちょっと、後にして。今『ロット・ア・ロット』を飛ばしてるから」カタカタカタ
ヒュン
キュルキュル
律子が端末を操作すると、『衛星』が一つ目の前に現れる。
キラ…
ヒュウゥゥゥン
すると、どこからともなく『花びら』の群れが降ってきて、『衛星』に向かってくる。
バキャァ!!
『花びら』は四方八方から『衛星』に突き刺さり、バラバラに破壊された。
律子「あーっ、やっぱり駄目かっ! 他の場所にもいくつか出してみたけど、全部破壊されちゃう!」
貴音「ふむ」キラ…
貴音の手の中で何かが光る。
貴音「氷…ですね。この『花びら』は氷で出来ています」
律子「貴音!? それ、捕まえたの…!? いつの間に…」
真美「お姫ちん、それ触ってたら危ないんじゃ!?」
貴音「心配無用。『フラワーガール』の指から逃れられるような力はほとんど感じません。形状はとても薄く鋭い…」
律子「質量を減らすことで一つ一つに使うスタンドパワーを抑えつつ、殺傷力も上げてるのね…一石二鳥だわ」
貴音「『霧』と『花びら』は同じスタンドなのかもしれません。『霧』は水蒸気で出来ていますから。凝固させて『花びら』を刃とする…理にかなっています」
律子「島を覆うほどのスタンド…か…なんで、私達を直接攻撃してこないのかしら…?」
真美「人の区別ついてないんじゃないの? この島、『複製』いっぱいいるし」
貴音「なるほど、それで狙いを律子嬢のスタンドに絞っているのかもしれませんね」
真美「ま、直接来てもよっぽどノロマじゃなけりゃ守れるっしょ」
律子「ノロマなスタンドで悪かったわね…」
貴音「『霧』を利用して攻撃しているのか、あるいはこの『霧』自体がスタンドなのか…どこかに本体はいると思いますが」
律子「そいつを倒すしかないか…でも、どこにいるのかしら…調べようにも『ロット・ア・ロット』は使えないし…あーもう、面倒くさいわね…」
真美「まぁ、こうして4人も集まったわけだし、テキトーに歩き回ってもなんとかなるっしょ。ね、亜美」
亜美「………」
真美「亜美? どしたの、なんか静かだけど。何かお悩みかね?」
亜美「ねぇねぇりっちゃん、大丈夫かな」
律子「何が?」
亜美「真美の言う通り、亜美達はこうして集まれたけどさ…あの『シークレット・コーラル』ってスタンドに、みんなバラバラにされちゃったじゃん。ミキミキも、千早お姉ちゃんも、はるるんも…」
律子「なんだ、そんなこと。あいつらがそう簡単にやられると思う?」
亜美「でも…亜美はりっちゃんと一緒になったけどさ。他のみんなは一人になってるかも…」
律子「一人だろうが、あいつらが…特に、あの春香が負けるわけないでしょ」
真美「うんうん、はるるんの『アイ・ウォント』はちょー無敵だよ!」
貴音「皆を信じましょう」
亜美「うーん…」
………
……
…
春香「『奪った』」
春香「あなたは私の姿を見た。もう『視覚支配』から逃げられないよ」
ミキ「そうだね」
春香「あれ。なんだか余裕だね」
ミキ「そりゃ、余裕ない春香に比べたらね」
春香「…? 余裕がない? 私が? 挑発でもしてるのかな?」
ミキ「ううん、事実なの。今、上手く『視覚支配』を使えばもうちょっと楽に『触覚』も奪えたんじゃない?」
春香「『複製』は呼吸や地面の振動からでも動きを読み取るでしょう。無駄なことはやらないんだよ」
ミキ「ふーん。まぁ、なんでもいいケド」
春香「…『アイ・ウォント』」ズズ
『視覚支配』を発動する。ミキの視界を何も見えない暗闇に変えていく。
ミキ「んー…やる気満々みたいだけど…」
ミキ「ここじゃ、戦うにはちょっと狭いかな」
ピシュッ
ミキは指先から、上の方に向かって、探るように『糸』を飛ばした。
春香「!」
シュルルッ
フヒュン
木の幹に『糸』が触れると、そこに巻きつく。ミキは崖の上へと飛んで行った。
春香「なんだ、逃げるの? 逃げるなら追わないよ。バイバイ」
春香はそのまま立ち去ろうとするが…
クイ…
・ ・ ・ ・
引っ張られる感覚とともに、左腕がひとりでに上がる。
春香「え?」
キュッ
春香(私の腕に『糸』が巻き付けられてる…!?)
グゥゥーン
春香「きゃ…!」
春香の腕に巻きついた『糸』が収縮し、魚を釣り上げるように、勢い良く宙に放り出される。
ゴォォォォォォ
崖上の木が、春香に迫っている。
春香(これを避けても、地面に叩きつけられる…なら…)
春香「『アイ・ウォント』! 掴んで!」
ガシッ
春香は空中で木の枝を掴むが…
バキ
勢いの方が強く、あっさりと折れる。
ドサァ!!
春香「ぎゃっ…!」
春香は、うつ伏せの姿勢で地面に衝突した。
ミキ「『アイ・ウォント』でぶつかるショックを防いだね。それくらい、できてトーゼンだケド」
クイッ
春香「う…」フラッ
腕の『糸』に引っ張られ、無理矢理体を起こされる。
崖の上は拓けており、木が点在し、石が転がる広場のようになっていた。
春香「この『糸』…いつの間に…」
ミキ「さっき、殴りかかってきた時。そんなことにも気づかなかった?」
春香(『触覚支配』を試してるけど…効いてる感じがしない)
春香(『糸』自体がスタンドっていうよりは、『糸』をスタンドパワーで操って伸ばしたりできるスタンドなのかも)
春香「『糸』か…美希と繋がってても、あんまり嬉しくないなぁ。『複製』なら尚更」
ミキ「わかってないの? それとも気づかないフリしてるだけ?」
ヒュパ!
指から伸びた『糸』の一本が、転がっている石を掴む。
ゴゴゴゴゴ
『糸』で持ち上げると、石はどんどん『大きく』なっていく。
ビンッ!
春香「う…!」
春香を縛る『糸』は強く張り、体が引っ張られた。
ミキ「春香の居場所は『糸』から伝わる。こうして繋がってる以上、春香の『六感支配』はもう意味ないよ」
グググ
春香「く…」
春香はなんとかその場で踏みとどまっている。
ミキ「さっき、逃げられないとか言ってたケド。本当に逃げられないのは春香の方だよ」
ヒュン
石がミキの体を覆うほどに『大きく』なると、春香の頭上に向かって投げた。
ゴォォォォォ
春香(やっぱりか…触れたものを『大きく』する! それが能力!)
春香「無駄ァッ」ヒュッ
バガァ!!
縛られていない右腕で、襲いかかる石を殴ると、粉々に割れる。
ガガガガッ
春香「うっ!」
その破片が、春香の体に降り注いだ。
春香「………」
春香(私がなんともないのを見るに、生き物は『大きく』できないみたいだね)
春香(『大きく』されたら、質量は変わらない上に的がでかくなる…木と木の間に挟まれて身動きを取れなくされる、なんてこともされてたかもしれない)
ミキ「『六感支配』は意味をなさない、使えるのも右腕だけ。もうゼーンゼン怖くないってカンジ」
春香「………」ズズズ
春香は自分の姿を、風景に溶けるように消す。
ミキ「はぁ~…」グッ
ピンッ!
ミキ「無駄だよ。こうやってピーンと張ってれば、どこにいるかなんて丸わかりなの」
春香「張ってれば、だよね?」
タッ
春香はミキに向かって突っ込む。一瞬、『糸』が緩んだ。
ミキ「えい」ググッ
春香「ん…!」
だがすぐに『糸』は引っ張られ、つんのめる。
ミキ「無駄だって。春香が動く速さより、『糸』を引っ張る速さの方がゼンゼン速いんだから」
春香「………」
ゴゴゴゴ
春香は、右腕に先ほど折った棒を持っていた。『糸』に押し付けると、どんどん『大きく』なっていく。
春香(見えないでしょう? 『六感支配』はまだ死んでないよ)
春香「無駄ァッ」ブンッ
『大きく』した棒を、ミキに向かって投げた。
ミキ「投げたね? ミキの『糸』を利用して、『大きく』した木の棒を」
・ ・ ・ ・
シュルシュル
パシッ
ミキは指から春香のいる方角に『糸』をいくつか放つ。『糸』が棒に触れると、巻きついてあっさりと受け止めた。
春香「あ…」
ミキ「だから、全部伝わるんだって。春香が腕を、足を、体をどう動かしてるのか、どう動かそうとしてるのか、全部」
ミキ「用意してくれて、ありがとなの」クイッ
ヒュッ
『糸』を巻きつけたまま、大きな棒をハンマーのように叩きつける。
春香「くぅっ…!」ガァン!!
パラパラ
直撃し、割れた木屑が春香の頭から落ちる。
ミキ「頭はちゃんと守ったみたいだね」
春香(見た目よりは軽い…けど、いくつか体に刺さった…)
春香(さて、どうする…?)
ミキ「あはっ」
春香「…何、笑ってるの? それは勝ち誇った笑い?」
ミキ「ううん、違う違う。春香が、あんまりにもおかしくって」
春香「おかしい? 私が? 確かに、あなたから見れば今の私の状況はさぞかし滑稽に見えるだろうね」
ミキ「ごまかさなくてもいいよ。『糸』から伝わってる」
春香「…何が」
プルプル
ミキ「震えだよ! 春香の体が震えてるの!!」
春香「…ッ!」
ミキ「マジメな顔してても、強がってミキのこと睨みつけてても、本当は怖いんだ!」
春香「そ…そんなことッ!」
ミキ「隠しても無駄だよ! 『糸』から全部わかるの! 春香の怯えが、ミキに伝わって来る!」
春香「うるさいよっ!!」ダッ
ミキの言葉を振り払うように、春香は突っ込んでいく。
ミキ「よっと」クイッ
春香「あっ」フワッ
それに合わせて糸が引っ張られ、春香の体が浮いた。
ドンガラガッシャーン
砂埃を巻き上げながら、春香は地面を転がる。
ミキ「星井美希の記憶にある春香は本当に怖くて、強かった。自分のやってるコトが悪いコトだなんてちっとも疑ってなくて、まっすぐだった」
ミキ「ミキも迷わない。これと決めたら真っ直ぐ突き進むの」
ミキ「だからミキは強い。だからミキは負けない」
春香「………」
ミキ「でも…今の春香は違う。ずっと迷ってるみたいにあやふやだし、すっごい臆病なの。そんなの、ゼーンゼン怖くなんてないって思うな」
ズルズル…
春香は倒れたまま、『糸』で引きずられる。
春香「………」
『こっぴどくやられたね』
そんな春香に、声をかける人物がいた。ミキではない。
春香「………」チラ…
『私』
春香が目を向けると、そこにはリボンをつけた…半年前の春香が立っていた。
春香(『アイ・ウォント』…? いや、違う…)
『ぜーんぶ、見透かされちゃってるね。あなたに、隠し事なんてできないんだよ』
『怯えてる…そりゃ、そうだよね。あなたの「複製」も、さっきの人達も、この美希の「複製」も、みんながあなたを殺しにくるんだもん』
『他のみんなは命だけは取られないっていうのに、あなただけにはみんな殺意を持って襲いかかってくる』
『こうやって、化けの皮が剥がれれば、何もできないただの女の子でしかないのにね。あはは、「アイ・ウォント」と同じだ』
春香(私だ…私の弱い心が、私を責め立てる)
『でも、仕方ないよね。「ジ・アイドルマスター」…あれを使ったから。半年前、あれで好き勝手やったから。だから、みんながあなたを危険視してるんだ』
『ま、他のみんなは同じように危険視されてもちゃんと戦えるけどね。でも、あなたには無理。何もしなかったから』
『そうでしょう? あなたがやったことと言えば、「アイ・ウォント」でみんなを脅して戦わせただけ。「弓と矢」がなければ何もできない』
春香(………)
『罰なんだよ。自分のしでかしたことの責任を、今取らされている』
『糸に雁字搦めにされるように、運命に絡め取られて追い詰められている』
ミキ「あはっ」
『ほら、美希があなたを殺しにくるよ』
春香(違う…あれは美希じゃない)
『ねぇ…死ぬのは、怖い?』
春香(…怖いよ)
『でしょう? でも、あなたは逃げられない。自分でそうしてしまったから』
『怯えも迷いも、全てを見透かされ、みっともなく、無様に死んでいくんだ』
春香(迷い…私が、何を迷ってるって言うの)
『わかってるでしょう?』
春香(私は、765プロのために…みんなのために戦うと決めた。迷いなんて、あるわけない)
『なんで、みんなのために戦わなきゃいけないの?』
春香(理由なんてないよ。みんなだって、そうしてる)
『あなたは違うでしょう?』
春香(何が…)
『他のみんなは、みんなのためを思って戦っている。でも、あなたはみんなに受け入れてほしいと思ってるから、戦っているだけ。自分のためだよ』
春香(っ…!)
『あなたはずっと迷っている。あんなことした自分が、みんなの仲間でいる資格なんてあるのかって』
春香(………)
『それが苦しいから。半年前の事件を忘れたがってるんだ』
春香(違う…)
『リボンをつけないのだって、そう。半年前の自分を思い出したくないから』
春香(違う…)
『みんなのために戦って、あの出来事をなかったことにしたいんだ。そんなこと、できるわけないのに』
春香(違う! みんなはあんなことをした私を、受け入れてくれた…許してくれた! もう、半年前のことなんて関係ない!)
『許してくれた…そうかもね。みんなは優しいから、あなたのような奴でも許してくれる』
『そう、頭ではわかってる』
『でもね…私だけは、いつまでも許せないんだよ。自分のことを』
春香(あ…)
『あの事件でやったことを覆す何かがなければ、いつかきっと拒絶される。そんな考えが、あなたの頭から離れない』
『あなたは永遠に過去に縛られ続ける。あなただけが、いつまでも止まっている。あなたはずっと重い十字架を背負って生きるの』
春香(あああ…あああああ…!)
『でなければ、死ね』
ミキ「いつまで眠ってるつもり?」
春香「………」
ミキ「だったら…こうする…」ヒュ
ブワッ
『糸』に引っ張られ、春香の体が、木を越え、高く高く放り投げられた。
ミキ「のっ!」グンッ
ゴォォォォォ
『糸』はそのまま遠心力をつけ、春香は頭から、地面に落とされていく。
春香「………」
春香は、動かない。『糸』の行くままに、そのまま身を委ねているようだった。
ミキ「ほら! 何やってるの!? ちゃんと受身とらないと、本当に死んじゃうよ!」
春香(死ぬ、か…)
春香(もう…それでいいや。私が生きている資格なんて…)
ォォォォォ…
春香(ない)
ゴォォォォォオ
どんどん地面が近づいてくる。
春香「………」スッ
春香は、全てを受け入れるが如く目を閉じた。
すると、春香の頭の中に一つの映像が浮かぶ。
自分を照らす、眩しいライト。
隣に立ち、自分と一緒に踊り、歌う仲間。
舞台裏から、自分を見つめる視線。
暗い客席に光る、サイリウムの海。
場内を包み込む熱気。
スコールのように飛んでくる、歓声。
いつか立った、ステージだった。
ドゴォォォォォォォン
春香が地面に叩きつけられ、激しい砂煙が上がる。
ミキ「あーあー。今度こそ死んじゃったかな? ホントにやっちゃうと、後で言い訳するのがメンドーなの」
ミキ「ん?」ピクッ
ミキ「『糸』が…反応してる。なんだ、春香まだ生きてるんだ」
シュゥゥゥゥゥ…
煙が風に散らされ、春香の姿が浮かび上がってくる。
春香「………」
春香は、座り込んだまま身じろぎもせず、放心したような顔を浮かべていた。
春香「『アイ・ウォント』…守ってくれたんだ」
ピッ ピッ
傍に立つ『アイ・ウォント』が、返事をするように電子音を鳴らす。
春香(今…)
春香(色んな人の顔が浮かんだ…プロデューサーさんや千早ちゃん…事務所のみんなだけじゃあない…)
春香(次は負けないって私に言ったオーディションのライバル、ラジオ番組で私の失敗を笑って流してくれた先輩アイドル)
春香(慣れた風に私から会話を引き出してくれた大御所タレントの人、厳しかったけど最後には褒めてくれた番組ディレクター)
春香(設営に気合入れすぎて転びそうになってるスタッフの人、私に向かって指を立てる照明さん)
春香(ガチガチになって握手会に参加してくれたファンの人、後ろの方でサイリウム持ったまま涙を拭ってる観客の人)
春香(みんな…みんな、笑顔だった。そして…)
ワアァァァァァァァ…
記憶の中の舞台。歌いながら、踊りながら、満面の笑みを浮かべる春香の顔が、そこにあった。
春香(立ちたい…)
春香(私は、もう一度ステージに立ちたい…)
春香(私は、アイドルを続けたいッ!!)
春香「………」
ミキ「結構、しぶといね。死んじゃってもよかったのに」
春香「死んだよ」
ミキ「は?」
春香「さっきまでの臆病な天海春香は、今死んだ」
グ…
握りしめた右手をじっと見つめる。
春香(もう、大丈夫。震えは止まった)
春香「みんなのためじゃない、か…だったら、それでいいよ。私は、あくまでも自分のために戦う」
春香「仲間でいる資格がなくても、私はずっとみんなの仲間でいる。例えそれでみんなに後ろ指さされようと、構わない」
春香「生きる資格がないというのなら、そんなものはいらない。私が生きるのを許さない人なんて、全員この手で潰してあげる」
ミキ「な、何を言ってるの…?」
春香「ねぇ…今の私は怖くないって、そう言ったね」
ゴゴゴゴゴ
ミキ「うっ…?」
ミキの視界が変化する。血が頭からどんどん溢れ、視界を塞ぐ。枯れ木はグズグズに腐り、異臭を放つ。足元では異形がケタケタと嗤っている。
春香「だったら、見せてあげるよ。あの時の私を。『アイ・ウォント』の本当の恐ろしさを」
ミキ「ふ…ふんっ、そんなコト言ったってゼンゼン怖くないの。こんな見せかけの『六感支配』なんて、こうして『糸』で繋がってれば通用しない!」
春香「ふふっ」
ミキ「何笑ってるの?」
春香「いや…『複製』も怖さで震えるんだなぁ、って思って」
ミキ「!」
春香「『糸』の震えが伝わるのは、そっちだけじゃないよ」
ミキの視界の中に、春香の歪な笑い顔が妖しく浮かび上がった。
ゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴ
春香「…負けるな。私」
自分にだけ聞こえるように、春香はそっと呟いた。
スタンド名:「マリオネット・ハート」
本体:ホシイ ミキ
タイプ:遠隔操作型・同化
破壊力:C スピード:B 射程距離:B(20m程度) 能力射程:B(50m程度)
持続力:B 精密動作性:C 成長性:C
能力:ミキの指先から伸びる細い「糸」のスタンド。
「糸」は遠くまで届き、近くであれば自由自在に操れる。刃物で簡単に切れないほど強度も高い。
能力は触れたものを「大きく」すること。「大きく」しても質量は変わらず、「大きく」すれば「大きく」するほど中身はスカスカになり脆くなっていく。
また、生物を「大きく」することはできない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
シュルシュルシュル
ピッ
ミキが、左手から伸びる『糸』を巻き取る。
ミキ「状況、わかってるの?」
春香「………」
ミキ「春香は全然ピンチから抜け出せてない。こうして『糸』で繋がってる限り」
春香「わかってないのはそっちだよ。別に、私を檻に閉じ込めたわけじゃあないんだから」
春香「あなたがやったのは、私を鎖で繋いだだけ…そして」ズッ
暗闇の中から腕が現れ、ミキを指差した。
春香「その鎖はあなたに繋がっている」
ミキ「………」
ドドドドドド
ミキ「春香がどうしようが…『六感支配』はミキには通用しない。能力が使えない『アイ・ウォント』なんてガラクタ同然なの」ヒュッ
左手の『糸』で石を二つ拾い上げ、投げつける。『大きく』なった石が春香に襲いかかる。
ミキ「ガラクタの『アイ・ウォント』でミキの攻撃は守れない!」
春香「ほいっと」ヒュ
バキッ
投げつけた岩は、大きな手のひらにはたかれて飛んで行った。
ミキ「ふふっ…」
ように、見えた。
ミキ「『視覚支配』でごまかすなんて、セコいね」
春香「………」
ミキ「ごまかしても、ちゃんと命中したのはミキに伝わってるよ」
春香「うるさいなぁ、ミキミキミキミキ…『複製』のクセに」
ミキ「ふん…なんて言ってもいいよ、どうせ春香には何もできない」ザザッ
ミキは『糸』を使って石をかき集め…
ミキ「なのなのなのなのなのなのなのッ!」
次々と投げつける。石は空中で『巨大化』し、雪崩のように降り注ぐ。
春香「はぁ」
春香は飛んでくる石を眺めたまま、動きすらしない。『糸』にも動きはない。
ミキ(何を余裕ぶってるの…? 記憶の中の…半年前の春香は、完全にミキ達を手玉に取っていた。だから、春香の余裕も怖かった)
ミキ(でも、今は違う! 化けの皮は剥がれてる、そんなことして何になるの?)
ミキ「ブッ潰れるのッ!」
ガン! ガン!
ミキ「え!?」
春香「………」
しかし、石は見えない壁に阻まれたかのように、春香の目の前で落ちていった。
ゴロ…
その一つたりとも春香には届いていない。
ミキ(何が起きたの…? また『視覚支配』…?)
ミキ(いや、弾かれたのは本当なの…地面の揺れや『糸』からもそれが伝わってきた…)
ミキ(春香は…何をしたの?)
春香「ねぇ」
ミキ「!」ビクッ
春香「こんな『糸』で何がわかるっていうの? 触覚だけじゃ限界があるでしょ」
春香「私が何かしていることはわかっても、何をしてるかまで細かくわかる?」
ミキ「う…」
春香「ねぇ…本当に『アイ・ウォント』が無意味だと思ってる?」
ゴロ…
ミキ(…! まずい、『糸』が投げた岩に引っかかってる…動きがが伝わってこない! 能力を解除しなきゃ…)
シュゥゥン
『大きく』させていた岩を、ただの石ころに戻す。
ミキ「えい!」グッ
『糸』が自由になるのを確認すると、引っ張った。ミキから見て右の方向に、引っかかる感触。
ミキ(春香は…こっちに移動してる! 出遅れた!)
ブルッ
ミキ(この感覚…何かを殴った? 何を?)
シン…
ミキの視界にはドロドロに溶けた世界しか映っておらず、何も聞こえてこない。
ミキ(春香は何をしてるの…?)
ミキ「! そっか、これは…!」シュルル
『糸』を編み込んで盾にし、春香が何かを殴った方向に向ける。
サクッ サク
向けた直後、盾に何かが刺さる。
ミキ(木の破片…)
春香「うーん、真のようにはいかないか」
ズズ
世界が元に戻る。春香は、えぐれた木の裏側からミキの様子を伺っていた。
ミキ(わかった…『マリオネット・ハート』を利用して、木を『大きく』脆くして、殴って飛ばしたんだ)
ミキ(さっきもそうだ、転がってる石かなんかを腕に絡みついた『糸』で『大きく』して盾にしたんだ!)
ミキ「…あはっ」
春香「どうしたの? 嬉しそうだね」
ミキ「何をやってるのかと思えば。種が割れれば、くだらないの」
ミキ「こんな小細工に頼るなんて、春香はよっぽど攻撃の手段に困ってるんだね。今のなんて、仮に守らなくてもなんのダメージにもならなかった」
春香「攻撃の手段に困ってるのは、そっちもでしょう? チマチマ石を投げてきても勝てないよ」
ミキ「これでも、気遣ってるんだよ? 春香が本当に死んじゃわないか。ミキだって春香が抵抗しないなら何も殺したいなんて思わないの」
春香「はぁ…」
ミキ「…なに、そのため息は」
春香「余裕ぶるのやめてくんないかなぁ。痛々しくて見てられないよ」
ミキ「………」
シュルッ
春香「んぐっ」キュッ
右手の『糸』を伸ばして、春香の体ごと木に巻きつける。
ミキ「なんだって…?」
ギッギッギッ
木はどんどん『大きく』なり、『糸』を押し広げながら春香の体を締め付ける。
ミキ「余裕ぶるって言った? ううん、事実だよ。『六感支配』…大層な能力持ってても、現実では何もできないクセに」
ギギギ
春香「………」
ミキ「苦しい? 木が『大きく』なれば、どんどん春香の体を締め付け…」
・ ・ ・ ・
ミキ「ちがう…」
シュルッ
『糸』を解く。同時に木が元の大きさに戻っていく。
ミキ「春香は…木に巻き付いちゃいない! いや、それどころか…」シュルッ
右手の『糸』を引っ張る。春香の腕に結ばれているはずのそれが、巻き取られて指へと戻ってきた。
ミキ「『糸』が外されてるッ!! どうやって…」
ゴゴゴゴゴゴ
ミキ(いや、そんなことより…)
シン…
ミキ(いる…見えないけれど、春香が…この近くに)
ミキ「でも…焦るようなことじゃあない」シュッ
指の『糸』を周囲の地面にばらまく。
ミキ「やるね、春香…ミキを出し抜くなんて」
ミキ「何も見えない暗闇の中で手探りで戦ってるようなものだから、どうしても後手に回される…なんだかんだ『六感支配』は強力なの」
ミキ「でも、春香自身は何もできない。それは事実」
コツッ…
ミキ「そこなの」シュルッ
ミキは音が鳴った場所…ではなく、石を投げた春香の息遣いを察知して『糸』を巻きつける。
ビッ!!
春香「………」
ミキからは見えない。しかし、間違いなく春香の左腕に巻きついたのが『糸』の感触でわかる。
ミキ「手探りでいい。『触覚』さえ『奪われ』なきゃ、春香の居場所はわかる」
ミキ「いくら『六感支配』を使っても、春香を見失うことはない。ミキは春香にはゼッタイに負けないよ」
ミキ「逃げたのなら『アイ・ウォント』の射程距離の外に出る。でも、春香の姿は見えなかった。ってことは、まだ『アイ・ウォント』の射程距離内にいるってコト」
ミキ「逃げずに向かってきたのは褒めてあげるの」
シュルッ
左手の『糸』を、自分を挟んで春香の反対側にある木に結びつけた。
ミキ「でも、これで終わり…なのっ!」グイッ
グゥゥーン
木を支えにして、春香の体を思い切り引っ張りながら、高く高く打ち上げる。
ミキ「今度は本気なの…『アイ・ウォント』で守っても、ただじゃあ済まない!」
ブワッ
『アイ・ウォント』の射程距離の外へ飛び出し、『糸』の先に春香の姿が現れた。
グォォォォォォ
先程と同じように、遠心力をつけて春香を地面に叩きつけようとする。
ミキ「『六感支配』もそこからじゃあ使えない! もうどうすることもできない!」
春香「別に…」ス…
『アイ・ウォント』が右手を上げ…
春香「射程距離があるのは『アイ・ウォント』だけじゃあないでしょ」ヒュ
スパァ!
ミキ「!」
手刀で『糸』を引きちぎった。
ガササッ
春香はそのまま飛んで行き、木に引っ掛かって落ちた。
ミキ「なに…」
春香「スタンドは本体から遠ざかるほど力を発揮できなくなる…こんな基本的なルールも忘れたの?」パラッ
春香の服から、引っ掛かった木の葉が落ちる。
春香「あれだけ離れればいくら『アイ・ウォント』でも切れるって」
ザッザッ
春香が近づいてくる。
春香「『アイ・ウォント』が通じないって言ったけど、本当に通じないのはどっちの方なんだろうね」
ミキ(落ち着け…)
ザッザッ
ミキ(落ち着いて地面から…『糸』から伝わる感覚を頼りに…)
タッタッタッタ
ミキ(見えている春香は本物じゃない、そこを走っている!)
ヒュン
飛ばした『糸』が空を切る。
ミキ(避けた、小賢しい!)
ヒュ ビュン
両手の『糸』が、うねりながら獲物へと飛びかかる。
ミキ「遅い、遅い遅いのッ! ミキの『マリオネット・ハート』からは逃げられない! そして!」
シュルルルルルル キュッ
ミキ「両手を縛った!」
ミキの右手と春香の左手、ミキの左手と春香の右手がそれぞれ『糸』で繋がった。
ミキ「カンタンなの、片手で切れるならこうやって両腕を封じればいい!」
ミキ「今度は切ったりできない! もう春香は操り人形も同然なの!」
春香「飛行機ってさ」
ミキ「は?」
春香「いや、自転車も車も新幹線もみんなそうだけど、ちゃんと動くまでには凄い力いるんだよね」
ミキ「…なに、なんの話? ?」
春香「いや、木に引っかけたりもしないで、私を持ち上げるまでにどれくらいかかるかな? って」
ミキ「何を言うかと思えば…『マリオネット・ハート』のパワーは少なくとも『アイ・ウォント』より上」
ミキ「確かにいきなり持ち上げたりはできないけど、遠心力をつければ振り回せるよ。こんな風に!」グッ
ミキは春香の体を引っ張ろうとするが…
ミキ「ん!?」グイッ!!
逆に、春香の方に引き寄せられる。
ググググググ
ミキ「な、なに…このパワーは…?」
春香「やっぱり、飛行機とかと同じだ」
ズルズルズルズル
ミキ「おっ、おおおっ!?」
必死に引っ張るが、どんどん春香の方へと吸い込まれていく。
ミキ(離れれば離れるほど『糸』を結んだ春香を動かすのに力が必要になる…だからここは『六感支配』の影響を受ける範囲内)
ミキ(でも、これは一体何!? 春香はどうやって、こんな力を…!)
ガリ…
・ ・ ・ ・
ガリガリガリ…
ミキ「『糸』が… ………」
ミキ「地面を引っ掻いてる…まさか…」
コォォォォォォ…
ミキ「崖から飛び降りたのかッ! 春香はッ!!」
ミキ(ここは崖の近く…『視覚支配』でごまかしながら、そっちに近づいていた…!)
春香「『マリオネット・ハート』のパワーは人一人振りまわせるくらい強い…」
春香「だけど、それを支えているのはあくまでもあなた。いくら『複製』は丈夫ったって、身体能力は元の美希とそう変わらないでしょう?」
ミキ(違う…それだけなら、それがわかっていれば、まだ『マリオネット・ハート』のパワーだけでも引っ張り上げることはできる)
グググ…
ミキ(『糸』から、途中でどこかに引っかかってるのが伝わる…『アイ・ウォント』が崖を掴んでるんだ…!)
春香「せいぜい、私のために頑張ってね」
ミキ「あっ、あああっ」ズルズルズル
風がミキの頬を叩いた。崖へと一歩一歩近づいていくのを感じる。
ミキ(ミキは『複製』…『マリオネット・ハート』もある…落ちること、それ自体は問題ない…春香が大丈夫な高さなら、ミキだって大丈夫なハズ…)
ミキ(でも今は春香の『視覚支配』がある! 春香と一緒に落ちて、何も見えないままになるのはまずいッ!)
ミキ(そもそも…本当に、落ちても大丈夫なの? どれくらいの高さにいたんだっけ?)
ミキ(落ちたら、絶対にまずい!!)
ミキ「落ちたら…ね」
シュルルルルル
春香「!」
ミキ「はい、『糸』を外した。馬鹿正直に引っ張りっこなんてする必要ないの」
ゴォォォォォォォ
ミキには見えないし、伝わらないが、春香は崖下に落ちているのだろう。
ミキ「あはははははっ! 落ちるのは春香一人でいいのッ!」
春香「そうだよねぇ、放すよねぇ…」
ミキ「…?」
春香「その『糸』は触れたものを『大きく』するんでしょう?」
ミキ「………」
ズッ
景色が元に戻っていく。
春香「伝わらなかった? 『糸』が崖をずっと引っ掻いていたのを…」
ズズズ
崖の一部分だけが、不自然に膨らんでいる。
春香「引っ張るのに夢中で気づかなかった? 自分の足元が『大きく』、脆くなっているのを」
ズズズズズズ
その先端に、ミキは立っていた。
春香「まぁ、気づくはずないか。そのための『直感支配』だし」
ミキ「逃げ…」
春香「ヴァイ!」ドス
春香は膨らんだ崖に、『アイ・ウォント』の拳を叩き込む。
ピキピキピキ
美希「う…」
バッガァァァアアン
美希「うわあああああああああああああ!!」
ミキの足元の地面にヒビが入っていき…崩れた。
ヒュゥゥゥゥゥウ
崖の下は、何もない暗闇になっていた。ミキの体はそこへ吸い込まれていく。
ミキ(落ちる! 落ちてる! どこに!? 落ちるまで、あと何秒!? 地面は…どこ!?)
ミキ「っく…『マリオネット・ハート』!」シュルルルルルル
両手から『糸』を絞り出す。
ミキ(これをどこかに引っかけられればいいけど…引っかけるものが見えない、失敗すれば地面にぶつかる)
ミキ「こうするしかないッ!」キュルルル
『糸』を編み込んで、パラシュートを作った。
ミキ「止まれっ…!」グググ
ガサッガサッ
パラシュートが機能する前に、ミキの体が葉っぱに包まれる。
ミキ「木に引っかかった…?」
シュルル
ガサッ!
木に引っかかったパラシュートを解くと、ミキの体は地面へと落ちた。
ミキ「そっか、下は森なんだった…」
バッ!!
周囲を見回す。ちゃんと感覚どおり、森の中にいるように見える。
ミキ(春香は…)
春香「………」スッ
木陰から春香が姿を現わす。
ミキ「春香…」
春香「落ちてきたね」
ミキ「なんだか、平気そうだね。春香の方も木がクッションになったのかもしれないケド…」
春香「………」
ミキ「でも、『複製』でもないのにあの高さから落ちたら、ただじゃあ済まないよね」
春香「………」
ミキ「本当は、立ってるのも辛いんじゃあないの?」
春香「ふーっ…」
ダッ!
ミキ「ん!」
春香がミキに向かって一直線に突っ込んでくる。
ミキ(真っ直ぐ突っ込んでくるなんて、破れかぶれもいいとこなの。どうせこれも『視覚支配』なんだろうケド)
ダッダッダッ
ミキ(一応、本物かどうかは足音で判別…)
ミキ「!」
パラパラ
ミキ(上の方から、さっき崩れた崖の砂利が落ちてきてる…春香の足音がわからない!?)
春香「………」ダダダ
ミキ(ってコトは…この春香が本物かどうか、地面からの感覚じゃあ確かめられない!)
ミキ「でも…『マリオネット・ハート』!!」シュルルル
バンッ
辺りの木に、自分を囲む柵を作るように『糸』をめったやたらに巻きつけた。
ミキ「『糸』の結界…どこから来ようと、少しでも触れれば居場所はわかる!」
グググ
ミキ「そして、木も『大きく』なる! ミキに近づけないし…春香が近くにいれば押し潰してやるの!」
春香「ふっ!」バッ
春香は、『糸』の隙間に飛び込んだ。
ズシャア
結界をすり抜け、落ち葉の中へとダイブする。
ミキ「………」
ミキ(今の春香に、こんなことができるわけがない…)
春香「ふぅ…」
ザッザッザ
春香は起き上がると、再びミキに向かって歩き始める。
ガラガラガラ
崖から落ちてくる石や砂が、ミキの体にぶつかってくる。
ミキ(大丈夫、この春香は『視覚支配』…)
ザッザッ
ミキ(あの高さから落ちて、こんな風に走ってこれるわけがないし…そもそも、最初から姿を見せる意味がない)
ザッザッ
ミキ(大丈夫…な、はず…)
春香「ああ…」
ミキ「うっ…!」ゾク
ミキ(違う、これは…この春香は…)
春香「あああああああああああああああああああああああああああ!!」
春香が、雄叫びを上げた。
ミキ(この春香は、最初から…!)
シュルルルルルル
ミキは急いで結界を巻き取る。
ミキ「『マリオネット…!」
春香「ヴァイッ!!」ヒュ
パァン!!
ミキ「ッ…!?」
しかし『糸』を巻きつけるその前に、春香から伸びる『アイ・ウォント』の手が、そのままミキの頬へと叩きつけられた。
シン…
乾いた音の後、少しの間静寂が流れる。
春香「『奪った』」
ミキ「………」
ミキは、頬を押さえている。
ミキ「…それが、なに?」
春香「………」
ミキ「今のは流石にやられると思った…でも、この一発だけ? バカにしてるの?」
ミキ「『触覚』を『奪った』程度でなんなの…それで、私に勝てるとでも思ってるの…」
ミキ「どこまでも対応してやる…私の『マリオネット・ハート』で追い詰めて殺す…!」
春香「………」
ミキ「やってやる…やってやるの…!」
春香「ううん、もう終わってる。あなたはもう絶対に私には勝てない」
ドロドロドロドロ
春香の『アイ・ウォント』が、足元から炙られた氷像のように溶けていく。
ミキ「は…」
春香「今の一発でいい。口を開いたね…残りの感覚を『奪う』にはそこに一発だけ触れればいい」
春香「私はあなたの『六感』すべて、『奪った』」
チャポン
やがて、その全身が溶けきると…
春香「『アイ・リスタート』」ズズズ
水溜まりの中から、『それ』が姿を現した。
残り10レスあるかないかなんで明日で
リスタートって鏡の空間で使ったやつだっけか?
ミキ「なに…それ?」
春香「ふーっ…」グッ
春香「行くよっ!」
ヒュン
ミキ「は…」
『アイ・リスタート』の姿が消えたかと思うと、一瞬でミキの目の前に現れる。
春香「ヴァイッ!!」バシュゥゥ
ミキ「うご…!?」
チュドォン!!
目にも留まらぬ一撃でミキはブッ飛ばされ、崖下の岩盤へと叩きつけられる。
ミキ「っく…このスピード、そしてパワー…」パラ…
めり込んだ壁に手をつき、すぐに身を起こそうとするが…
グゥゥーン
『アイ・リスタート』の手だけが伸びて、ミキを掴んだ。
ミキ「ありえない…!」
グイッ
ミキ「わああああっ」ポーン
思いっきり引っ張られ、宙に放り出されて春香の方へ飛んでいく。
ゴォォォォ
ミキ「く…『マリオネット・ハート』!」シュルルルルッ
春香に向かって、両手から『糸』を放つ。
春香「『アイ・リスタート』」ギラン
春香のスタンドの指の一本一本が、メスのような鋭い刃に変わり…
春香「それっ!」ヒュッ
バラッ
そっと一払いすると、伸びた指先の刃物が走り、『糸』を細切れにした。
ミキ「は…ああああっ!?」
ズシャ
ミキはそのまま仰向けで地面に落ちた。
ミキ「な、なんなの、これは…」
春香「『アイ・リスタート』。もう演技はやめたよ、これが私の新しい道だから」
ミキ「また、幻覚を見せてるだけなの…」
春香「うん。『アイ・リスタート』は見せかけだけのスタンド、現実には存在しない」
ドドドドドド
春香「でも、あなただけには本物。だよ」
ギャルン!!
『アイ・リスタート』の右腕が、ガトリング砲に変形し…
ズダダダダダダダ
そこから、飴玉の弾丸が絶え間なく撃ち出される。
ミキ「うががががががががが」
口の中に放り込まれた飴玉はドロドロに溶け、喉の奥へ入り込んでいく。
ミキ「うげっ、うごぉ…!」ドムン
ギリギリギリ
強烈な痛みが、ミキの腹の中を襲った。
ミキ「げほっ、げほっ…」
春香「まだまだ、いっくよー…」
ミキ(ヤバい…なんなの、これは!?)
ミキ「『マリオネット・ハート』! ミキを守るのッ!」バッバッ
シュルルルッ
『糸』が編みこまれて、盾を作る。
春香「よーし…そこ!」
キュ
『アイ・リスタート』が、盾の端っこからちょこっとだけ出た『糸』を掴むと…
春香「えいっ!」グイ
引っ張る。
バアアアアァァーン
ミキ「あっ、ああああ、ああっ」
次の瞬間、『糸』の盾はバラバラに解かれていた。
春香「『アイ・リスタート』は負けない」
ゴゴゴゴゴ
ミキ「うぅ…」ブルルッ
『アイ・リスタート』から放たれる威圧感に、ミキは震える。
ミキ(無理だ、ムチャクチャすぎる…)
ゴゴゴ
ミキ(『勝てない』…)
サラ…
ミキ「!」バッ
砂になりかけた指先を、隠すように手で押さえる。
春香「『負け』を認めたみたいだね」
ミキ「ち、違う!」
春香「それなら、もういいよ。これ以上戦う気がないなら、見逃してあげる」
春香「いや、意味ないんだったっけ…『負け』を認めた時点でもう終わりか」
ミキ「違う…私をナメるな…!」
ミキ「まだ…まだなのっ!」シュルルルル
ガッ ガッ
ミキが指から出した『糸』が、周囲の木を片っ端から掴む。
ゴゴゴゴゴ
木々が『巨大化』し、全てを押し潰さんと迫ってくる。
ミキ「私にとっては本物でも…『大きく』なる木を止めることはできないでしょう!」
春香「………」
ズズズ
木と木の隙間が閉じ、春香の姿が見えなくなっていく。
ミキ「無駄なのッ! 潰れろ! 潰れろ! 潰れろッ!」
春香「ふーっ」スッ
『アイ・リスタート』が左腕を高く掲げる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ミキ「な…」
木が『大きく』なるよりも早く、『アイ・リスタート』の拳が大きく、大きく、際限なく巨大化していく。
春香「私が歩いて来た道…全部」
春香「全部、無駄なんかじゃない…無駄なんかにしない」
ミキ「あ、ああ…」
春香「ヴァイッ!!」ゴォッ
春香が、巨人の左腕を振り下ろす。
ズォォォォォォォ…
ミキ「ああああああああああああ」
迫り来る圧力。どうすることもできない。
ズズゥゥン…
ミキの世界で、地球が大きく揺らいだ。
シュゥゥゥゥゥゥゥ…
フッ
『アイ・リスタート』が消えた。
ズズズズズズズ
『巨大化』していた木が、元に戻っていく。
春香「…はぁ」
ミキのいた場所を見る。そこには、砂の山と、細切れになった『糸』だけが残っていた。
『そうやって…たったひとりで、どこまで行けるつもり?』
背後に振り向く。そこには誰もいない。
春香「どこまで行ける、か…どうなんだろうね」
春香「それでも前に進むよ。そう決めたから、私は。天海春香は」ザッ
宛てもなく、春香は歩き始めた。
To Be Continued...
ガシャ! ガシャン!
薄暗く冷たい牢獄の中で、檻が揺れている。
看守「うるさいぞ! また貴様か、いい加減にしろ!」
彩音「ケッ、いい加減にするのはどっちよ」ガシャン!
看守が様子を見に来ると、鈴木彩音が檻に蹴りを入れた。
看守「やめろ! そんなに収監を伸ばされたいのか!?」
彩音「どうせ、ここから出られたところであのホテルみたいな場所に閉じ込めるんでしょーが。どこいても同じよ」
看守「はぁ…何が不満だ? 何か不足があれば用意すると言っているはずだが」
彩音「ほー、じゃあ言ったらノーパソとカメラとマイク、用意してくれるワケ?」
看守「用意ならできるが…」
彩音「ネットには繋げられんの? 別にここのことバラしたりしないから」
看守「ここから外部への通信は全面的に禁じている」
彩音「ほーらコレよ。な~にが望むものは用意するよ、ネットに繋げないんじゃ何もイミないっつーの」
看守「…我々のボスはアイドルの将来のため動いているのだ。ネットなんてどうでもいいだろう」
彩音「どーでもいいかどうかはアタシが決めることよ。アタシにとっちゃアイドルの将来なんざどーだっていいっての」
看守「何ぃ!? 自分さえよければいいのか貴様!?」
彩音「じゃなくて、そもそもアタシはネットアイドルなの!! リアドルのことなんて知るか!」
看守「ん? つまり…アイドルだろう?」
彩音「イマドキ、ネトアも知らないの!? あーやだやだ、これだから流行に疎い老害ドモは…」
看守「…とにかく、次騒いだらただでは済まないと思え」
彩音「おい、逃げんな! ったく、もう…」ドカッ
手を後頭部に回し、壁に寄り掛かって座る。
「よく飽きないわね…」
彩音「あん?」
寄りかかった壁の向こうから声が聞こえてくる。
彩音「逆よ、逆。ここでの生活に飽き飽きしてるから暴れてんの。ってか、アンタ誰」
麗華「…東豪寺麗華よ、魔王エンジェルの。名前くらい聞いたことあるでしょ?」
彩音「魔王エンジェルぅ? なにそれ、知らな~い」
麗華「はぁ!? 知らないわけないでしょ、貴女もテレビくらい観るでしょ!?」
彩音「テレビなんて見てないっての。つまんない番組しかやってないじゃない」
麗華「なんで観てもないくせにつまんないってわかるのよ…アイドルのことバカにしてんの?」
彩音「別に。リアドルはリアドルでラクなもんじゃないってのは知ってるわ、ただアタシとは住む世界が違うってだけ」
彩音「それにしても、なんでも用意するとか言ってるクセにパソコンも用意できないとかホントありえないわよ」
麗華「能天気なヤツね…」
彩音「あ゛あ!? こちとら真剣だっつーの! ああ、こうしてるうちにもランキングが…」
麗華「はぁ…貴女ね、今の状況わかってんの!? そんなランキングなんてどうでもいいでしょうが!」
彩音「だから、アタシにとっちゃリアドルのゴタゴタなんて関係ないんだっつーの!!」
「うるっさいわね、ギャーギャーギャーギャー。静かにしてくれる? ただでさえ寝心地悪いんだから」
麗華「その声…」
「あら、誰かと思えば東豪寺さんのとこの麗華様じゃない。アンタも捕まってたのね」
彩音「アンタ、センパイの知り合いのデコ!?」
「あっ、ああ、え、えーと……………」
「………佐藤?」
彩音「鈴木よ! 鈴木彩音!」
彩音「イヤ鈴木でもない! アタシは電子の妖精サイネリアよ!」
「はぁ…で、その電子の鈴木さんがどうしてこんなところにいんのよ? アイドルでもないのに」
彩音「メンテナンスのオッサンみたいに言うな! アタシだってよくわかんないわよ」
彩音「センパイの様子がおかしいと思って、876の事務所に忍び込んで気づいたらここに連れてこられて…ああもう、なんでアタシがこんな目に…」
「アンタも一応『スタンド使い』だったわね。だからじゃないの?」
彩音「一応ってナニよ! あーもう、好きでなったワケでもないのに!」
「自分の都合で使ってよく言うわ…」
麗華「スタンド…」
「ここにいるってことは、アンタも『スタンド使い』にされたんでしょ? あの『弓と矢』で」
麗華「そうよ、あの『弓と矢』が来てから全部おかしくなったのよ…」
「ああ。やっぱり、876だけじゃなかったのね。アンタのところにも…いいえ、きっとあらゆるアイドル事務所にあの『弓と矢』は現れた」
麗華「なんなのよ、スタンドとか『弓と矢』とか…なんで私達はこんなところに閉じ込められなきゃならないの…!」
彩音「なによ、今の状況わかってんのとか言って、そっちだってわかってないんじゃない」
麗華「閉じ込められてるのは事実でしょう!」
「だーから。うるさいっての、キーキー騒いでも何も変わんないでしょうが」
麗華「なんで貴女はそうやって平然としていられるのよ…」
「色々あったのよ。色々」
彩音「って言うか…ナニ? アンタら知り合い?」
「ま、昔からちょっと…ね」
麗華「そうね。アイドルになる前からの付き合いかしら」
彩音「フーン…まぁ、アンタ達のことはいいわ」
彩音「デコ、アンタのスタンドでここから脱出とかできないの?」
「無理ね」
彩音「つっかえないわね…そこらの看守からヒョイっとカギ奪えばいいだけじゃない。そんなのもできないの?」
麗華「偉そうね貴女…」
「鍵を奪い取るのも、檻から出るのも…それ自体は簡単にできるわ」
彩音「じゃあやんなさいよ。アタシの『ワールド・オブ・ペイン』じゃ滑って上手くいかないのよ」
麗華「貴女は出来ないのね…」
「無駄よ。例え逃げ出したとしても、すぐに捕まるわ。アイツがここにいる以上、誰も逃げられやしない…」
「いや、アイツらか…ったく、あんなのが三人もいるなんてどうかしてるわ」
麗華「貴女にしては弱気ね。まぁ、無理もないけど」
「勘違いしないで、ビビってるワケじゃあないわ。強がったところでできないことはできないのよ」
「そもそも、牢屋から抜けたところでここは孤島。出られやしないわ」
麗華「島? 島なの、ここ?」
彩音「アンタ、それをどうやって…」
スゥ…
麗華「! 『煙』…?」
牢獄の中を、うっすらと『煙』が漂う。
「情報はここから勝手に聞こえてくる」
麗華「貴女…スタンドを使いこなして…」
「麗華。アンタもスタンドの使い方くらい覚えておきなさい、使いこなせば便利なモンだから」
麗華「え? でも…」
「そこの田中だって使えんのよ。使う気があれば誰だって使えるわよ」
彩音「誰が田中だ!」
「今は、待つ時だわ」
彩音「待つって…ナニを?」
「それは…」
………
……
…
真「あれ?」
ザザ…ン
真が森を抜けると、海岸沿いに出た。
真「牢獄って…こっちでよかったっけ?」
雪歩「私に聞かれても」
真「だよね…うーん、参ったな」
雪歩「本当に、こっちで合ってたの?」
真「方向は合ってたと思うんだけど…この『霧』だし、森なんて全部同じに見えるからな…どこかでズレたのかな」
雪歩「一回引き返す?」
真「戻ろうとしたら、余計迷う気がするなぁ。このまま牢獄を探した方が…」
雪歩「でも、無闇に動いたら、もっともっと迷っちゃうと思うよ」
真「うーん…」
真「ん?」
雪歩「『ファースト・ステップ』、なにかわからない?」
FS「フム、『ふぁーすと・すてーじ』ノ頃、一帯ヲ歩キ回ッタ事モ アルノデスガ…シカシコノ『霧』デハ目印ニ ナルモノモ見エマセン…」
真「………」
雪歩「真ちゃん?」
FS「ドウシタ、菊地真。コンナ時ニ何ヲ 呆ケテイル」
真「何かが近づいてくる…」
雪歩「なにか?」
FS「近ヅイテクルト言ッテモ『霧』デ見エナイシ、音モ シナイガ」
真「いや、ボクも何も見えないし聞こえない…でも、何かが近くに来るのはわかる」
FS「ぼけタカ?」
真「凄い勢いだ、車か…?」
ギャルルルル…
雪歩「! 聞こえた…こっちに来る」
FS「確カニ、何者カガ向カッテキテイルヨウデスネ」
ゴゴゴゴゴ
ギャルルルルルルル
『霧』の中から、直径1m程度の前輪が姿を表す。
雪歩「バ、バイク…? 『自転車』…?」
真「いや、スタンドだ…」
ギュイイン
走ることよりも轢くことを目的としたような大げさな両輪をつけた真っ黒な単車のような形状をしたスタンドが真達を横切る。その上に、誰かが乗っている。
真「ボクだ…!」
マコト「止まれ、『ザ・バイシクル』」
ギュリィィィ
単車がブレーキをかけ、地面を引っかきながら回転し、真達に車体の側面を向ける。
マコト「………」
ゴゴゴゴゴゴ
雪歩「真ちゃんの…」
真「ボクの…『複製』か!」
スッ
マコトはハンドル片手に、もう片方のふわりと伸ばし、手のひらを上向きで差し出した。
マコト「さぁ…迎えに来たよ。プリンセス達」
真「………」
雪歩「………」
FS「………」
真「………………」
マコト「お城から抜け出したりして…いけない子達だ」
真「………………………………………」
マコト「あれ、お気に召さなかったかい?」
真「な、な、な、な、なんのつもりだ…!? あああ…? ふざけてんのか…!?」ババッ
真は体を震わせながら、手を交差させて身構えた。
マコト「駄目だよハニー。ふざけてんのか、なんて。そんな乱暴な言葉、キミには似合わない」
真「うあああああ…」ゾゾゾゾ
真の全身に鳥肌が立つ。両肩を抱きすくめて掻き毟った。
雪歩「髪が短い…」
マコト「おっと、長い方が好みだったかな?」
雪歩「…本当に、真ちゃんの『複製』なんだね」
真「ええ!? なんで今ので納得したの!?」
マコト「そうさベイビー。ボクは『アイ・ディー・オー・エル』の能力でキミの記憶から生まれた」
マコト「そしてアイドル菊地真そのもの…となれば、演出するべきはかっこよさ…皆の王子様、だろう?」
真「ゆ、雪歩、本当にアイドルやってる時のボクってあんななの…?」
雪歩「え? うーん、まぁ…ちょっと極端かもしれないけど、大体あんな感じ…かなぁ?」
真「えぇぇぇ…」
雪歩「そんなに恥ずかしい?」
FS「イツモ自分デ ヤッテルクセニ」
真「自分で演じるのと外から見るのは違うよ! いつもならファンのみんなも盛り上がってるから気にならないけどさ…!」
マコト「ボクのためにキミを悲しませちゃったみたいだね…すまない、ハニー」
真「くぅぅ…! 倒す、コイツだけは倒さなきゃダメだ…!」
マコト「ああ、ボク達は戦わなければいけない運命なのか…」フルフル
額に手を当て、首を振った。
真「やめろよ、そのわざとっぽい喋り方…!」
マコト「キミ達を傷つけたくはない…でも、仕方ない…ボクの『ザ・バイシクル』で」
ギャルン!
真「!」
スタンドの両輪が『回転』し、走り出す。
マコト「倒す…出来るだけ、早く。ボクにできるのは…それだけだ」
ブオン
その姿が、『霧』の中に消えた。
真「…こっちのセリフだ。一刻も早く終わらせよう」ギギギ
『チアリングレター』を両腕に纏う。
雪歩「行こう、真ちゃん」
真「いや。雪歩は下がってて」
雪歩「え…?」
雪歩「ちょっと待ってよ真ちゃん。私、前はスタンドを扱えなかったけど、今は違うんだから…!」
真「雪歩には、アイツの能力を観察してほしい」
雪歩「え?」
真「恐らく、『近距離パワー型』だとは思うけど…どんな能力か、まだ全部はわからない。だからまず、ボクが打って出る」
真「『ファースト・ステップ』の能力ならやり過ごせるだろう? 『穴』に潜って、あのスタンドの能力を分析してほしいんだ」
雪歩「………」
真「任せて、いいかな?」
雪歩「…わかった。そういうことなら…気をつけて、真ちゃん」
真「うん」
ヴォン スゥーッ
雪歩は『穴』の中に入り込み、真のいる場所から離れていった。
真(さて…)
ゴゴゴゴゴゴ
真(どこから来る?)
ズオン
マコト「オラァ…!」
『霧』を破って、真の背後からマコトがウィリーしながら突っ込んでくる。
真「やっぱり、『近距離パワー型』か…?」ギッ
振り向きながら、腕を畳んで握りこむ。
真「なんにしても、ボク相手に近接戦闘を挑むのは間違いだよ」ギギ
ギャルルルルルル
真「オラァッ!!」ギュオッ
腰に捻りを入れ、『回転』する前輪に向かって拳を叩き込んだ。
ガッシィィィィィン
マコト「………」
真「砕けろッ!!」
ギュル…
真「ん…!?」
車輪に撃ち込んだ拳が、下へと逸れていく。
マコト「間違いはキミの方だよ。残念だけど」
ギャルルルルルル
『回転』に巻き込まれ、真の腕がどんどん車体の下へと引きずり込まれる。
真「な…何…!?」
マコト「雪歩にボクの能力の分析を頼んでたみたいだね。でも『ザ・バイシクル』の能力は『回転』するだけ、ただそれだけさ。分析するまでもない」
キュイイン
真「うおっ…」ガクン
バタン!!
真は腕に引っ張られるようにバランスを崩し、倒れる。
マコト「でも…『回転』の力は、無敵だ」
グオッ
『ザ・バイシクル』の前輪が倒れた真を踏み潰そうと襲い掛かる。
真「くっ!」
ガッ!!
真は腕をタイヤと自分の間に挟み込んで身を守った。
ピタ…
後輪の動きが止まった。
マコト「それも間違いだ。キミがやるべきは、守ることじゃなく逃げることだった」
ギャリリリリリリリ
真「ぐっ! うああああああ…!」
前輪の『回転』が、『チアリングレター』を蝕んでいく。
真(バカな…! 『最硬』の『チアリングレター』だぞ…砕くならともかく削っている、だって…!?)
真(それだけじゃあない、ボクの攻撃もあっさりと防いでいた…! これが『回転』の力なのか…!?)
ギャルルルルル
マコト「どうした、これで終わりかい!? 亀みたいに丸まっていても、助けは来ないよ!」
ツーッ
マコト「ん?」
『穴』が一つ、真の下へ滑るように移動してくる。
ニュッ
穴の中から、白く細い手が現れ…
グイッ
真「おおっ!?」スポン
真を掴み、『穴』の中へと引きずり込んだ。
マコト「!」ガッ!
ギュルルルルル
ズバッ!
前輪はそのまま砂浜の上の穴へと落ち、引っ掻く。5m近くの砂柱が上がり、パラパラと落ちた。
シュルルル…
『穴』は意に介すこともなく、小さくなってひとりでに消えていった。
マコト「…なんだい、そのスタンドは?」クル
雪歩「………」
真「うぅ…」
マコトの視線の先に、仰向けに倒れた真を抱きかかえる雪歩がいた。
真「ゆ、雪歩…雪歩以外の生物は『穴』には入れなかったんじゃ…」
雪歩「中に入るのはね。通り抜けるだけならできるよ」
真「ありがとう、助かったよ…」
雪歩「真ちゃん。礼を言うのはあの人を倒してからだよ」
FS「ソノ通リ。マダ戦イハ終ワッテイナイノダ、甘エルナヨ菊地真」
真「べ、別に甘えてるわけじゃ…」
マコト「へぇ、面白いな」ザッ
マコトが、砂浜の上に立つ。
真「! スタンドから降りた…」
マコト「その雪歩の能力、記憶の中の情報にはなかった」
雪歩「………」
マコト「動く『穴』の中に入る…そして、『穴』から『穴』へ移動させられる。『ファースト・ステージ』からの進化ということは、これも『返す』能力なのかな」
真「! こいつ…」
マコト「せっかく能力を見せてくれたんだ、隠していたら雪歩に失礼だな。ボクも、全部見せてあげよう」
真「なに?」
マコト「さぁ、真の姿を見せろ『ザ・バイシクル』」
ガシャン ガシャン
スタンドが戦隊モノのロボットのように変形し、二本の足で立った。
キュイイイイイン
二つついていた車輪は両腕の先に位置し、『回転』を始める。
マコト「さぁ、第二幕の始まりだよ。お嬢様方」
真「『自転車』のスタンドが、人型に変形した…!」バッ
真は立ち上がって構えをとる。
雪歩「真ちゃん」
真「え、なに? 雪歩」
雪歩「やっぱり、一緒に戦おう。そっちの方がいいよ」
真「あ、ああ。そうだね…あいつ、『スタンド能力』を隠す気もないみたいだし…」
雪歩「うん。行こう、真ちゃん、『ファースト・ステップ』」
FS「ALRIGHT* Yukiho. シッカリ着イテコイ、菊地真」
真「くぅ…」
本日、4月1日(4月2日)は…
アニメ『ジョジョの奇妙な冒険第四部 ダイヤモンドは砕けない』放映開始日!
日本、杜王町で起こる奇妙な事件! 絡み合うそれぞれの思惑! そして激化するスタンドバトル!
TOKYO MXではこの後24:30から放送開始! 見逃すなッ!!
ウィィィィン…
両腕の先に付いた車輪を電動ノコギリのように『回転』させながら、スタンドが二人へと迫る。
真(ボクの『チアリングレター』も削る車輪が、腕に二つ…)
ザッ
真「!? 雪歩!?」
雪歩「はっ」ヴォン
雪歩が前に飛び出して行き、空中に『穴』を開ける。
マコト「オラァ!」ギュゥオ
『回転』する車輪が『穴』に突き刺さった。
雪歩「この『回転』の力を『返せ』れば…」
ピキッ
雪歩「えっ!?」
空が割れた。
FS「駄目デス雪歩…『穴』ノ展開ガ間ニ合ワナイ、さいずガ大キスギル」
パリィィン
『穴』が、引き裂かれるように砕け散った。
雪歩「っ…!」
マコト「オラァッ」ギュイイン
『ザ・バイシクル』が腕を振り上げ、雪歩に向かって振り下ろす。
真「だっ!」
ギィン!
マコト「!」
真が横から入ってきて、腕を弾き飛ばした。
雪歩「真ちゃん…」
マコト「へぇ、流石にやるね」
真(全然効いていない…あの『回転』で、殴った衝撃が分散されてるのか!)
マコト「オラァ!」ウィン
真「オラァ!」ゴォッ
ガァン!
至近距離で、車輪と拳がぶつかり合う。
マコト「オラオラ」ヒュン ヒュン
真「オラオラオラ」ガシッ ガシ
お互いの手数が増えていき…
マコト「オラオラオラオラオラオラオラオラ」ギュルルルルルルルルル
真「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」ガンガンガンガンガンガン
やがてラッシュの撃ち合いになる。
ガガガガガ
真(こっちの方が多く撃ち込んでるのに…)
ダダダ
真のラッシュを撃つ腕が、どんどん開いていく。
真(『回転』に弾かれる…ガードがこじ開けられる!)
マコト「だっ!」キンッ
真「う…!」スカッ
真の両腕が『回転』によって弾かれ、正面ががら空きになる。
マコト「そこだ!」ギュオン
真「………」パッ
真が両手を広げて見せる。鎧がない。
マコト「!」ピタッ
それを見て、マコトは『ザ・バイシクル』の腕を止めた。
ギギギギギ
『チアリングレター』が真の右足に集まっている。
真「オラッ…!!」ズオッ
マコト「ちっ」バッ
ガィン!!
真が放った蹴りを、左腕の車輪で受け止めた。
ギュイィィィイ
真「うおっ」グルンッ
『回転』により、脚が車輪の上を滑っていく。その勢いで、真の体が天地逆転しながら宙に浮いた。
真「ふっ!」バタン!
背中から落ちる。受け身を取るが…
マコト「オラァッ!」
立ち上がる暇もなく、『ザ・バイシクル』の腕が迫る。
キュイイイン
真(車輪の横からなら…ブレードの隙間に指を挟み込めば…!)グオッ
マコト「内側から破壊できる…と、考えているのかな?」
ジャキン!
車輪の内側にカバーが現れ、車輪から円板状に変形する。
真「何!?」
真(剥き出しにしていたのは罠か…! でも、このまま行くしかない!)
ギュルルルルルル
真(真ん中なら、『回転』の力は少ないはず…)
真「オラッ!」グアシッ
両腕で、円盤の中央を挟み込むように殴った。
キュイイイイ…
真「ぐあっ!」ジリジリジリ
しかし、『回転』する円盤に拳を削られ…
バチィン!!
弾かれた。
真(ダメだ! 真ん中でもこれほどまでに強いのか、この『回転』は…!)
マコト「さぁ、終わりだ」キュィィィィィン
真(やられる…!)
ガシッ
真「え?」
足が掴まれる。見ると、地面の『穴』から手が伸びていた。
グイッ
マコト「何!?」ガキィ
『穴』が移動し、真の体を引っ張った。行き場を失った円盤が地面に叩きつけられる。
マコト「オラオラオラオラ」ダンダンダンダン
真「いたたたたたたた!?」ズルズルズル
真は倒れたままの姿勢で砂浜を引き摺られ、マコトの攻撃を避けながら離れていく。
FS「雪歩、菊地真ヲ救出シマシタ」ズズ
雪歩「ありがと、『ファースト・ステップ』」
『ザ・バイシクル』の射程距離外に出ると、『穴』の中から『ファースト・ステップ』が出てくる。
真「くあーっ、髪! 後ろだけ坊主になってたりしてないよね!?」
雪歩「大丈夫、綺麗な髪だよ」
マコト「逃がしたか…」
マコト「まぁ、今のでわかったかな。『ザ・バイシクル』はキミの『チアリングレター』よりも上だ」
真「くそっ…! 『回転』の力に勝つのは無理なのか…!?」
雪歩「あの車輪…円盤以外を攻撃するのはできないかな? 本体を直接狙うとか」
真「不可能…ではないけれど、あいつのスタンドは本体の近くにくっついている『近距離パワー型』だ。難しいと思う」
雪歩「スタンドの、腕以外の部分を狙うのはどう?」
真「それも難しいな…ボクのスタンドがこうだからわかる。気をつけるべきなのが両腕だけと言っても、正面からあの両腕を避けて攻撃するのは並大抵のことじゃないよ。しかも、あっちの方がパワーは上だ…」
雪歩「…正面から、行かなければ…」
真「え?」
雪歩「お願い『ファースト・ステップ』」
FS「ALRIGHT*」タッ
『ファースト・ステップ』が単独で『ザ・バイシクル』に向かっていく。
マコト「オラァッ!!」
FS「フン」ヴォン
スポ
マコト「!」ブゥン
『ファースト・ステップ』が目の前に『穴』を作ると、その中に入り、『ザ・バイシクル』の攻撃を空振らせる。
雪歩「真ちゃん! この『穴』に!」ヴォン
真「オラァッ」ヒュ
スポ
雪歩が真に向かって『穴』を作ると、示し合わせたように拳を撃ち込む。
ゴォッ
撃ち込んだ拳が『ファースト・ステップ』の入っていった『穴』から飛び出し、マコトに襲いかかる。
マコト「『ザ・バイシクル』」ヒュ
グワァァン
だが、割って入った『ザ・バイシクル』の腕に平然と受け止められた。
真「何…」
マコト「発想は悪くない」
マコト「でも、雪歩。キミの『穴』には充分に警戒している。あらかじめ予測できれば、こんなものは…」
マコト「こうだッ!」ギィン
真「ぐあっ!」グリッ
『回転』に腕を引っ張られ、『穴』に引きずり込まれそうになる。肩が『穴』に締め付けられている。
マコト「ボクのもとに引き寄せたいけど…キミが通り抜けるには、そっちの『穴』はちょっと小さいみたいだ」
真(ダメだ、腕を引っ込めないと…腕を折られる!)シュポン
真「はぁっ!」ドサッ
腕を引っこ抜き、その反動で尻餅をついた。直後、『穴』が消える。
マコト「何をしようとボクには勝てない! 『回転』の力は無敵だ!」
ヴォン…
・ ・ ・ ・
『ザ・バイシクル』の足に『穴』が開いた。
雪歩「『ファースト・ステップ』」
マコト「………」チラッ
FS「………」ズッ
『穴』から出た『ファースト・ステップ』の手が、足に触れていた。腕はそのまま『穴』の中に戻っていき、『穴』ごと消える。
マコト「スタンドに空いた『穴』からボクを直接狙うつもりか…? 離れろ、『ザ・バイシクル』!」スッ
『チアリングレター』の腕が届かない程度に、スタンドに距離を取らせる。
マコト「ボクをスタンドから分断させるか? それとも…」
マコト「この『穴』から腕を出しても、せいぜい握り潰すくらいしかできない。『チアリングレター』のパワーなら脅威だが…その前に『ザ・バイシクル』の腕が削り落とすよ」
キュイイイイイン
さらに『回転』のスピードが上がる。
雪歩「いくら『回転』させても、一つだけ絶対に攻撃が届かないところがあるよ」
マコト「なに?」
ツゥゥーッ
右腕の円盤に移動する。
雪歩「『回転』してる上なら…!」
雪歩「あそこなら、『穴』も一緒に『回転』する! コーヒーカップに乗ってる時みたいに、あの腕の円盤は回ってないのと同じだよ!」
ズッ
マコト「は…」
円盤上の『穴』から、『チアリングレター』が顔を出し…
ガシィ!
円盤を掴んだ。
ギリギリ
マコト「うお…!」
『チアリングレター』が、円盤を握り潰そうとする。
マコト「オラァ!」ヒュ
『回転』する左手を叩きつけるが…
マコト「ぐぅっ!?」バチィッ!!
弾き飛ばされる。
真「同じ『回転』同士だ! 止めようたってそうはいかないよ!」
ミシ…
掴まれた円盤から、僅かに軋む音がした。
マコト「『回転』を止めろ『ザ・バイシクル』ッ!」
ピタ…
真の腕が出た右腕だけが、『回転』を止めた。
真「うおっ!」スポン
それを見ると、真は慌てて『穴』から腕を引き抜いた。
真「か、片方だけ止められるのか…」
雪歩「大丈夫、今度は…」
ギャルルルルルルルルルル
雪歩「え?」
バイクの形に変形した『ザ・バイシクル』が、雪歩に襲いかかってくる。
マコト「来い!」グイッ
雪歩「きゃ…!」ブワッ
真「雪歩!」
『穴』の中に逃げる間もなく、雪歩はマコトの腕に攫われる。
ギャルルルルルルルル
真「くそっ、待て!」ザッザッ
浜辺から森の方に走っていくマコトを追いかけるが、砂浜に足を取られてどんどん離されていく。
ダン!!
雪歩「うっ!」
森の入り口に辿り着くと、マコトは木の幹に雪歩の体を叩きつけた。
マコト「よくわかったよ。まずは雪歩をどうにかするのが先だとね」ガシッ
『穴』を作れないように、雪歩の腕を押さえつける。
キィィィィィィ…
雪歩「!」
マコト「キミを傷つけるのはボクの心も痛むが…『再起不能』してもらう」
人型に戻った『ザ・バイシクル』の『回転』する腕が、後ろの木を削りながら、雪歩の体を引き裂こうとする。
FS「貴様ッ…!」
マコト「じっとしていろ『ファースト・ステップ』、おまえをズタズタにしてもいいんだぞ? そうなれば雪歩も同じようになるけどね」
雪歩「………」
マコト「恐怖で声も出ないかい? 悪く思わないでくれよ、コイツは手加減できなくてね…」
雪歩「恐怖? ううん、怖くないよ。だって、私は一人じゃあないから」
マコト「菊地真のことか? 彼女が来るよりも、『ザ・バイシクル』がキミの腕を引き裂く方が早…」
パァン!!
マコト「ぶ…!?」
マコトの顔で、何かが爆発した。
パラパラ…
マコト「ぺっ、ぺっ…これは…砂!?」ゴシゴシ
目を閉じて、顔に張り付いた砂を拭う。
マコト「『チアリングレター』で砂を『固め』て、投げつけてきたのか…! くそっ!」ブルッ
砂を払い落とすように首を振ると、ゆっくり目を開いた。
真「………」
ドドドドドドド
その視線の先に、真が立っていた。
マコト「はっ…」
ズボッ
『ザ・バイシクル』が、木を削っていた腕を引き抜く。
ドドドドド
マコト「やる気か? ボクに敵わないのは身を以て知っただろ」
真「あいにく、物覚えがいい方じゃあなくてね」ギギッ
真は、感覚を確かめるようにゆっくりと左手を開く。
雪歩「真ちゃ…」
マコト「おっと」グイ
雪歩「うっ!」ドガッ
マコトが雪歩を木に押しつける。
マコト「ごめんね。彼女がどうしても先に相手をして欲しいって言うから…さぁ」ズ…
『ザ・バイシクル』が、ゆらりと真の前に立ちはだかった。
ウィィィィィィィン…
右腕の円盤が『回転』をはじめ…
マコト「オラァ!」
ギロチンのように、振り下ろされた。
真「………」ス…
ガシッ!
真はその場から動くことなく、左手だけで円盤を受け止めた。
キュルルルルルルルルル
『チアリングレター』が、『回転』によってどんどん削られていく。
マコト「どうだ! 『回転』の力は無敵だッ! 指がなくなるぞッ!」
ピシ!
マコト「え…」
『回転』中の円盤に、ヒビが入った。
ピシピシピシ
マコト「な、なに…?」
『チアリングレター』の指がそこを通る度に、亀裂は大きくなり…
グシャッ
穴が空いた。
真「うおおおおおおおおおおおお」
バキバキバキバキバキバキ
真「オラァッ!!」
ブチィッ!!
その穴の中に指を突っ込むと、円盤は真っ二つに引き裂かれた。
マコト「うわっ、ああああ…!?」ポロポロ
マコトの右手の指もそれに連動してひび割れて、落ちていく。
雪歩「っ!」グイッ
マコト「あっ!」バッ
捕まっていた雪歩が、掴んでいる腕を振り払って逃げ出す。
真「キミの言う通り、指がなくなったようだね」
マコト「なんで…どうしてだ…『回転』の力は、無敵のハズなのに…」
真「『回転』の力は無敵でも、キミのスタンドが無敵なワケじゃあないだろ?」
マコト「…!」
真「その腕が驚異的な力を発揮できたのは、完全な円盤だったからだ。一点でも綻びがあれば…」
真「そこから返って来るッ! その、無敵の『回転』の力が!」
マコト「さっき、『穴』から出てきた『チアリングレター』にこの腕を掴まれた時…」
マコト「あの時にこの腕に僅かにダメージが入っていたのか…」
真「これで、片方の円盤はなくなった」
雪歩「真ちゃん…ありがとう」
FS「ヨクヤッタ菊地真、礼ヲ言ウ」
真「雪歩も自由になった。勝負は決まったようなものだと思うけど」
マコト「よくも…」
真「?」
マコト「よくも『ザ・バイシクル』を…ボクの指を…!」
真「………」
ギッ ガシャ ギギギッ ガシャン
マコト「許さない…」
『ザ・バイシクル』が、一輪だけの『自転車』へと形を変える。
マコト「菊地真、おまえだけは絶対に…!」バッ
ギュルルルル…
その上に乗り込むと、前輪となった円盤が『回転』を始めた。
FS「アレデ ブツカッテクル気カ…? 破レカブレダナ」
雪歩「真ちゃん、走り出す前に叩こう」
真「いや」
雪歩「え?」
ギュルルルルルルルル
真「真ん中なら『回転』は少ないとか、一緒に『回転』すれば無回転だとか…」
真「そんなのは全部無駄だ、そんなことを考えて戦ってちゃダメだったんだ」
雪歩「ダメ…?」
ギュルルルルルルルルルルルルルルル
真「スタンドは精神力のエネルギー、心の底から負けを認めさせなければ…」
グッ
真が拳を握り締める。
真「真っ向から打ち破らなきゃ、こいつに勝ったことにはならないんだ!」
雪歩「真ちゃん…」
真「心配そうな顔しなくても大丈夫だよ雪歩。ボクは負けない」
ギギギギギギ
改めて、『チアリングレター』の右手を固く固く握り締めた。
真「そうだ…」
真「ぶつかり合いなら、ボクの『ストレイング・マインド・チアリングレター』は最強のスタンドだ! 誰にも負けるワケがないッ!!」
マコト「轢き殺してやる…!」
真「来いよ、『偽物』」クイッ
左手で、マコトに向けた人差し指を自分の方に引いた。
ギュン!!
マコトを乗せた『ザ・バイシクル』が、弾丸のような速度で突っ込んでくる。
真「オラァッ」グォォ
ドグォォォォオン
『チアリングレター』の右腕と、『ザ・バイシクル』の前輪がぶつかり合った。
ギギギギギギギギ
『チアリングレター』と『ザ・バイシクル』どちらのものか、悲鳴が上がっている。
ギャルルルルルルルルルル
『回転』する円盤が、真の腕を削る。
真「ぐ…」
マコト「バカが…! 格好つけてるつもりか!? おまえも認めていただろう、『回転』の力は無敵だと!」
マコト「片方の車輪は壊されたが、もう片方は万全だ! 『ザ・バイシクル』に勝てると思うな…!」
真「ぐぅっ…」ズリ…
真は押されていた。少しずつ、砂浜へ向かって体が押し出されていく。
ガッ
真「ん!?」
真の背中が、壁にぶつかって止まる。
FS「シッカリシロ、菊地真…!」ググッ
雪歩「一人で戦おうとしないでよ、真ちゃん…!」ググググ
いや、壁ではなかった。雪歩と『ファースト・ステップ』が、彼女の背中を支えていた。
真「雪歩…」
雪歩「私、ダメダメだから…こんなことしか、できないけど…」
雪歩「一緒に…力を、合わせようよ…!」
マコト「はっ、それがどうした」
ギャルルルルルルル
雪歩「んんん…!」ズズッ
健闘虚しく、三人の体はどんどん押されていく。
FS「ク…ドウイウ ぱわーシテヤガル、コノ野郎…」
マコト「力を合わせるだって!? そんなカスみたいな力を合わせたところでどうにもならないだろ!」
真(合わせる…)ス…
『チアリングレター』の左手で…
ガシッ
右腕を掴んだ。
真「うおお…」ギ
マコト「この音、『チアリングレター』が限界を迎え…」
ギギギギ
真「おおおおおおおおお」
マコト「うっ…!? ち、違う…」
真のスタンドが変化しているのが、『ザ・バイシクル』を通してマコトに伝わる。
ギギギギギギギ
左腕の鎧が、右腕へと吸い込まれていく。
真「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ギギギギギギギギギギギギギ
真「おっ!」キッ
『チアリングレター』が、真の右腕の拳だけに全て集まった。
ピシ!
マコト「な…」
『ザ・バイシクル』の前輪に、『回転』の力に、ヒビが入った。
マコト「バカな…」ピキピキ
マコト「ボクの…ボクの『ザ・バイシクル』が…」ピキピキピキピキ
FS「行ケ…!」
雪歩「行って…!」
マコト「うお…」
真「オラァッ!!」グッ
ギュルン
正拳突きのごとく、拳に捻りを加える。
バックアァァァァア
マコト「うわああああああああああ」
一点に集中された『チアリングレター』が、『ザ・バイシクル』を貫いた。
マコト「ああああああああああああああああああああ」ギュォォォ
チュドォォォン!!
そのパワーでマコトの体はブッ飛ばされ、後ろの木にまで衝突する。
バタン!
マコトはぶつかった反動で、仰向けになって地面に落ちた。
雪歩「真ちゃんが…勝った」
真「はぁ、はぁ、はぁ」ギギギ
真は肩で息をしていた。『チアリングレター』が、元の両腕に戻る。
マコト「う…がほっ!」
マコトは四つん這いになって咳き込んだ。口からは何も出てこない。
マコト「なんで…なんでだ…ボクの『ザ・バイシクル』が、真っ向から…こんな…」
ミシ…
雪歩「…!」
真「!」
グラ…
削られていた木が、衝突の衝撃で折れてしまったのか、傾いている。
マコト「うぅ、なんで…」サラ…
マコトの体は既に砂に変わりつつある。倒れてくる木には気づいていない。
雪歩「真ちゃん…!」
真「ああ!」
マコト「あ…?」
雪歩「『ファースト・ステップ』!」
FS「了解」ズッ
ツーッ
『ファースト・ステップ』が入った『穴』が、木の根元へと滑っていく。
真「オラァ!」
ガッシィィン
真は雪歩が作った『穴』に腕を突っ込む。すると、もう片方の『穴』から『チアリングレター』の腕が伸び、倒れてきた木を受け止めた。
マコト「…!?」
真「っとぉ!」
ズズゥン…
投げ飛ばすと、木はマコトから逸れて倒れた。
雪歩「ふぅ…」
マコト「なんだ…何をしている…?」
真「何って…」
マコト「何のつもりだよ…どうせ、ボクはこのまま消えるだけなのに…」
真「…そうだよね。『複製』は『負け』を認めたら消えてしまう」
マコト「そうとわかって、なんで助けたんだ…!?」
真「知らないよ、そんなこと…仕方ないだろ、そうせずにはいられなかったんだ。ボクも、雪歩も」
マコト「………」
サラサラ…
マコト「やっぱり…」
マコト「かっこいいなぁ…本物は…」サラ…
真「あ…」
マコトの体は砂へと変わり、潮風に運ばれ砂浜へ溶けていった。
真「…ねぇ、雪歩」
雪歩「なに?」
真「なんなんだろう、『複製』って。何のために生まれて、何のために消えていくんだ」
雪歩「…わからないよ。でも…」
真「でも?」
雪歩「『複製』さんを使って、私たちを閉じ込めて、何かをしようとしてる人がいる。だから…」
雪歩「765プロのみんなが揃って、その人を止めることが一番いいと思う。私たちにとっても、『複製』さん達にとっても」
FS「ソウダゾ菊地真。感傷ニ浸ル暇ナド ナイ」
真「お前はなんなんだよ『ファースト・ステップ』…でも、そうか。そうだよね」
真「だったら、また牢獄を目指さないとね。どこにあるんだろう…?」
雪歩「たぶん、あっちの方じゃないかな」
真「え、なんで?」
雪歩「真ちゃんの『複製』さんが来たのが、あっちからでしょう? 牢獄じゃなくても、何かあると思うよ」
真「…抜け目ないなぁ」
To Be Continued...
スタンド名:「ザ・バイシクル」
本体:キクチ マコト
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:B 射程距離:E(2m) 能力射程:E(2m)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:C
能力:真の「複製」のスタンドだ!両腕に車輪がついており、超高速で「回転」させることができる!
スタンドモードでは、この「回転」する車輪を武器として敵と戦う!
「回転」の力は無限大!その力を両手に宿す「ザ・バイシクル」は強力無比だ!
さらにこのスタンドは、なんとライドモードに変形が可能だ!
両腕の車輪は二輪となり、その名の通り「自転車」のように乗って移動することができるぞ!
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
千早(何かが…)
カッ カッ
千早(私のことを呼んでいる…)
導かれるように、ぐんぐんと舗装された道を進んでいく。
やよい「千早さーん!」
千早「!」ピタッ
呼び止められ、足を止めた。
あずさ「待って~、千早ちゃ~ん」
千早「あ…ごめんなさい、あずささん」
千早(あんなに遠くに…知らない間に、こんなに先を歩いていたの…)
やよい「もう千早さん、一人で行ったら、めっ! ですよ!」
あずさ「どうしたの?」
千早「えーと…歩きやすかったので、つい…」
あずさ「待ってくれると助かるわ。千早ちゃんとはぐれたら、迷っちゃいそうだから」
千早「一本道ですけど…」
やよい「それだったら…」
キュッ
千早「!」
やよいが、千早とあずさの間に入って二人と手を繋ぐ。
やよい「みんなで手を繋げば、はぐれたりしませんっ!」
千早「高槻さん」
やよい「この先、何があるかわかりませんよ。みんな一緒がいいです!」
千早「…そうね。皆で行きましょう」
あずさ「ふふ、よかった」
千早(この先の、何かが待っているようなこの感覚は気になるけれど…)
千早(一人で行くのは危険ね…二人がいなかったら、今頃どうなっていたか)
千早(でも…一体、この先に何があるの? 何が近づいているの…?)
ゴゴゴゴゴゴゴ…
三人が道を進むと、やがて金網に囲まれた、灰色の無骨な建物が見えてきた。
やよい「ここ、なんでしょう?」
あずさ「おっきなコンテナなんかも置いてあるし…工場かしら?」
千早「いえ…」
千早「あの金網の上の方、有刺鉄線になっている…これは…」
ガシャン!!
あずさ「!」
金網が揺れる音がして、三人はその方向に目を向ける。
女の子「はぁ、はぁ…」
体を土で汚した女の子が、千早達の反対側で金網を掴んでいた。
女の子「そ、そこの人達! 助け…」
フワ…
千早「!」
女の子の体が浮いていく。
ザッザッザ…
建物の中から黒いスーツに身を包んだ二人の『複製』が現れる。
女の子「ああ…」
グイッ
黒服は浮かんでいる女の子を取り押さえると、建物の中へと引っ張っていった。
??「スタンドを使える人が増えてきた…警戒を強める必要がある」
連行する二人とすれ違いに、やよいと同じくらいの身長の少年が出てくる。
あずさ「あれは…」
やよい「千早さん…? でも、小さいです」
千早「ユウ君…」
ユウ「千早さん…やはり、貴女だったのですね」
フワッ
少年は自分の体を浮かせると…
スタッ
金網を飛び越えて、千早達の前に降り立った。
千早「やはり、ということは…あなたも同じように感じていたのね」
ユウ「ええ。『ブルー・バード』が引かれあっているのでしょうか? まぁ、なんでも、いいですけれど」
千早(ユウ君…会ったら、話したいことが、沢山あったはずなのに)
千早(何も、頭に浮かんでこない…)
あずさ「千早ちゃん、この子は…」
やよい「ユウって、たしか…千早さんの弟と同じ名前ですよね」
あずさ「『複製』というのは『スタンド使い』が元になっているのよね?」
千早「ええ、高木会長が言っていました。そうでなければ精神が宿らないとか」
あずさ「優くんは『スタンド使い』だったの?」
千早「そんな事実はなかったはずです、少なくとも私が知る限りは」
あずさ「じゃあ、これはどういうことなのかしら…?」
ユウ「僕は他の『複製』とは成り立ちが違いますからね。『完全なアイドル』には程遠い」
千早「高木会長曰く…空っぽな人形から『弓と矢』で精神を持った、最初の『複製』…だそうです」
あずさ「え? それって、おかしくないかしら? どうして会長は、優くんの『複製』を…?」
ユウ「………」
ユウ「僕のことはどうでもいいでしょう。それより、まさかこんな形でここが見つけられるとは…迂闊でした」
千早「牢獄…よね、ここは」
ユウ「そうですね」
やよい「765プロのみんな、ここにいるんですか?」
ユウ「答える必要はないです」
あずさ「あなたが、ここの番人ということかしら?」
ユウ「本来は僕の所轄ではありませんが、今はそういうことになっていますね」
あずさ「本来は所轄じゃあない?」
ユウ「ええ。先日、独断で行動をしたのですが、その罰とでも言ったらいいんですかね」
千早「………」
ユウ「番人とは言いますが、前任者と比べるとあまり上手くは出来てなくて…見たでしょう、今も脱走を企てられる始末でして。この外見もあって、甘く見られているのでしょうかね」
ユウ「まぁ…今の所脱走に成功した人はいませんが」
千早「ユウ君、そこをどいて。あなたと戦いたくはないわ」
ユウ「そういうわけにもいきません。今は、僕がここの主ですから」
ゴゴゴゴゴ
千早「どうしても、戦わなきゃ駄目なの」
ユウ「どうしても…と言うなら、千早さん。僕が優君として生きることを認めてくれませんか。それさえ叶えば、はっきり言って僕にとって他の事はどうでもいい」
あずさ「千早ちゃんの弟さんの代わりになりたいと…?」
千早「まだそんなことを言っているの…言ったはず、それは無理よ」
ユウ「そうですか…やはり弟さんのことが大事ですか」
千早「違う…そういうことじゃあない」
ユウ「まぁ、いいでしょう。高木さんの宿願が叶えばアイドルの世界…貴女の身の回りの全てを『複製』が支配する」
千早「…‥‥」
ユウ「そうなれば、千早さん…貴女だって言うことを聞かざるを得なくなる」
千早「それが目的なら、私にこの島の存在を教えたのは何故? どうしてわざわざ引き込むようなことをしたの?」
ユウ「ここにくれば、すぐにわかるからですよ」
やよい「わかるって、なにがですか?」
ユウ「それは…」ズズッ
少年の背後から、同じくらいの身長の青い体のスタンドが現れる。
ユウ「僕達に逆らおうが無駄ということが、ですよ」
ゴゴゴゴゴ
あずさ「『ブルー・バード』…」
やよい「ほんとに、千早さんと同じスタンド…」
千早「…ユウ君。本当に、私達は戦わなければいけないの」
ユウ「くどいです」
千早「あの日、一緒に遊んだこと…話してくれたこと…あれは全て嘘だったの!?」
ユウ「…僕は所詮『複製』…高木さんに生み出された道具にすぎない」
やよい「道具って…」
ユウ「他の『複製』は…道具として立派に役目を果たしている。でも、私は…」
ユウ「私には何もない…生まれてきた意味も、生きる意味も…空っぽな人形だった頃と何も変わらない…!」
千早「ユウ君…」
ユウ「だから、私は勝ち取らなければいけない…! 自分の居場所を!」
ユウ「高木さんのためじゃあない、私…僕は自分のために…」
ゴゴゴゴ
ユウ「貴女達に勝つ、そして認めさせる。『複製』としては出来損ないの僕でも、『スタンド使い』としては『最強』の一人だ」
フワ…
少年の体が地面から浮いていく。
やよい「あっ!」
ウーウー
足元を這い進んでいた『ゲンキトリッパー』の粒が、行き場を失う。
あずさ「どこにも触れてないのに…」
千早「空気に『重量』を『与え』られる…能力」
ユウ「そう…僕の『ブルー・バード』は千早さんのものとは違いますよ」タッ
背後の金網に足を乗せると…
ゴォッ
蹴り出し、千早の方に飛んでくる。
ユウ「ふっ!」シュバ
千早「はっ!」ヒュ
ガキィ!!
振り下ろした腕と打ち上げた腕、二つの『ブルー・バード』がぶつかり合った。
ググッ
千早(重い…!)
下にいる千早の方が押され、膝が折れ曲がる。
あずさ「『ミスメイカー』」グワッ
ユウ「!」
大きな腕が、少年を頭を狙って襲いかかる。
ググ… バッ
少年は千早の腕を押し、空中へと飛び上がって逃げる。
千早「っ!」
ユウ「………」フワ…
やよい「飛んでる…」
千早「『重量』を空気に『与え』たり『奪っ』たりできる…つまり、自分の『重さ』も自由自在ということだわ」
あずさ「本当に、千早ちゃんのとは違うのね」
ユウ「これくらいで驚いてもらっても困るのですが」
あずさ「大丈夫よ。千早ちゃんといっぱい特訓したから、『ブルー・バード』の相手は慣れてるわ~」
あずさ「えーいっ!」
ブオン!!
ユウ「!」
『ミスメイカー』の腕を大きく振るう。その風圧で、少年の体が金網の方に吹き飛ばされていく。
グ…
千早「はっ!」ブワッ
そして、地面に『重量』を『与え』た千早が、一緒に飛びかかった。
ユウ「金網に押し付ける気…? 千早さんが僕に追いつく前に、金網を蹴って空にでも逃れ…」
ウー ウッウー
ユウ「!」
金網に『ゲンキトリッパー』が待ち構えている。
ユウ「『重く』して着地…いや、地面にも『ゲンキトリッパー』はいるはず…」ゴォォォォォ
千早「はぁぁぁっ!」グォッ
少年の背後には金網が、前方からは千早の攻撃が迫っている。
ユウ「…これしかない」
ブワッ!!
千早「え!?」
少年の周囲に砂埃が巻き起こり、千早もその中に巻き込まれる。
あずさ「え、な、何…?」
やよい「あ…」
やよい「空気を『重く』したんです! 土とか『ゲンキトリッパー』が、空気より『軽く』なって浮き上がっちゃいました!」
千早「く…」
バババッ
ブオォー…ン
『ブルー・バード』のラッシュで、砂埃を吹き飛ばす。
・ ・ ・ ・
千早(ユウ君がいない…一体どこに…)キョロキョロ
ユウ「………」
千早「!」
少年は既に千早から離れ、近くに置いてあるコンテナに手をかけている。
千早(何をする気…まさか…)
ヒョイッ
少年は自分が何十人も入るもであろう大きなコンテナを、空のダンボール箱でも拾い上げるかのようにいとも簡単に持ち上げ…
ユウ「んあっ!」グアン!!
千早「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
千早に向かって投げてきた。
あずさ「千早ちゃん!」
やよい「千早さんっ!」
千早「こ…来ないで!」
ゴォォォォォ…
コンテナは空中で本来の『重量』を取り戻し…
ズズゥゥゥン…
千早を下敷きにして、地面に落ちた。
ユウ「え…!?」
やよい「うそ…」ヘタン
やよいはその場にへたりこんでしまう。
あずさ「千早…ちゃん…?」
ユウ「……………」
ガリッ
ユウ「くっ!」タッ
少年は歯を食いしばると、コンテナへと駆け寄る。
ユウ「こんなことになるとは思わなかった…! なんで、千早ちゃん…『ブルー・バード』を使えば、潰されることはなかったのに…!」バッ
『ブルー・バード』の手をコンテナに向かって伸ばす。
バガン!!
ユウ「!?」
すると、コンテナの側面が破裂するように開き…
ガシィ!!
そこから出てきた手が、『ブルー・バード』を掴んだ。
ユウ「うっ…!?」
千早「…ふかまへは」モガモガ
コンテナに空いた穴の中から、焦げたバンを咥えた千早が姿を現わす。
千早「ぺっ…中身は食料だったのね」
ユウ「『イン…フェルノ』…!」
千早「『ブルー・バード』で『軽く』してもよかったのだけれど、それではあなたの思惑通りになるでしょう」
千早「だから『インフェルノ』。『熱』をありったけ集めて、コンテナにぶつけて熱量でブチ抜いた。真なら、そうまでしなくても殴っただけで壊せるんでしょうけれど」
ユウ「く…」
千早「!」フワ…
『体重』を『奪わ』れ、千早の体が浮いていく。
ユウ「こんな腕、振りほどいて…」ググッ
ユウ「離れない…!? どうして、『重量』を『奪え』ばパワーはこっちの方が上の筈…ハッ!」
やよい「『ゲンキトリッパー』…やらせていただきました!」
千早「あなたが地面から打ち上げた『ゲンキトリッパー』を拾わせて貰ったわ」
やよい「これで、もう離れられません!」
ユウ「くっ…!」
ピキピキピキ
少年の足元が『熱』を『奪わ』れて凍りつき、地面に固定される。
ユウ「僕は『複製』ですよ、凍らされた程度で…」
千早「負けは認めない。そう、わかってるわ。だから…」
ズッ…
ユウ「…!」
大きな手が、少年に覆いかぶさり…
ピト…
その指先が、頭に触れた。
あずさ「『ミスメイカー』」
カチッ
触れた部分に、『91秒』の『カウント』が発生する。
千早「『眠って』もらうわ、ユウくんには。全て終わるまで」
あずさ「ふぅ…これで、決着ね~」
ユウ「………」ス…
千早「!」タッ
千早の『体重』が元に戻り、地面に降り立つ。
ユウ「これで、勝ったつもりですか」
千早「『ミスメイカー』の能力が起動すれば勝ちよ。そして、逃すつもりはないわ」
ユウ「………」ピキ…
少年の足元は依然凍っている。
ユウ「ふふ…」
ユウ「ふふ、あは、ははは、あははははは!」
千早「ユ、ユウ君…?」
ユウ「千早さん、貴女は何もわかってない」
千早「わかってない…? 何が?」
ユウ「『ブルー・バード』で…こんなスタンドで、僕が高木さんに『最強の三体』と呼ばれるようになったとでも、本気で思っているのですか」
千早「…え?」
ユウ「千早さんは『ブルー・バード』の他にこの『インフェルノ』という本来のスタンドを持っていますよね」
ゴゴゴゴゴゴ
ユウ「あるんですよ…千早さんの『インフェルノ』のように、本来のスタンドが。僕にも」
千早「本来の…スタンド…?」
ユウ「…今から、お見せしましょう」
ゾワッ…
千早「…!!」バッ
千早は全身の毛が逆立つような感覚とともに、少年の手を放すと…
バババッ
あずさと共に、やよいのいる所まで下がった。
やよい「ご、ごめんなさい千早さん…『くっつける』能力を解除しちゃいました…」
千早「い、いえ高槻さん…むしろ、解除してもらっていてよかったわ…」
ユウ「………」
ゴゴゴゴ
千早「な、何…? 何か…あのまま近くにいたらヤバいッ! そんな予感がした…!」
やよい「な、何が起こるんですか…?」
あずさ「だ、大丈夫よ…まだ『カウント』もついているし、足も凍ったままだから…」
千早(それで…本当に、そんなことで安心できるの…?)
ゴゴゴゴゴゴ
千早(この感覚、まるで…春香の『ジ・アイドルマスター』を見た時のような…)
ユウ「さぁ、『ブルー・バード』」
ビキキッ!!
千早「!」
少年の『ブルー・バード』の顔に、大きなヒビが入る。
パラパラパラ
ヒビは全身へ広がり、殻が破れるように、今までの体が落ちていく。
千早「あ…」
ユウ「これが、僕の本来のスタンド。『インフェルノ』とは違う、『ブルー・バード』の到達点。『最強の三体』の一つ」
キラリ
ユウ「『ブルー・バード・アルカディア』」
千早「『ブルー・バード…アルカディア』…」
やよい「金ぴかの…」
あずさ「『ブルー・バード』…」
キラキラ
チカッ チカッ
少年のスタンドの体が、眩いばかりに輝いている。
ユウ「これが…僕の『アルカディア』。僕の本来のスタンド。これを出した以上…」
『72』
千早(え…?)
あずさ「あら…?」
『72』
千早(『ミスメイカー』の『カウント』が…止まっている…?)
ユウ「もう、貴女がたの勝ちの目は消えた」グ…
ピキピキ
少年の足を封じている氷に、少しずつ亀裂が混じる。
やよい「氷を割ろうとしてます!」
あずさ「あの子の足が自由になったら…」
千早「動き出す前に、なんとかしなくては」グッ
・ ・ ・ ・
踏み出そうとした足が、地面にとどまっている。
千早(足が動かない…能力…じゃあ、ない)
ドクン ドクン ドクン
心臓が、痛みを感じるほどに警鐘を鳴らしている。
ユウ「………」
キラ…
千早(私の本能が、あれに近づくなと言っている…)
千早「~~~っ」ブルブル
千早は目を瞑り、歯を食いしばって、強く頭を振る。
千早(駄目よ、戦う前から負けていては…気持ちを強く持たないと)
ユウ「『インフェルノ』の能力で凍らされた足…そう簡単にはとけないか」
バキィ!!
千早「!」
『アルカディア』が足元の氷を殴りつける。
ビキキ
パラッ
ひび割れ、足から1枚剥がれた氷を目にすると…
千早「…くっ!」タッ
それに急き立てられるように、千早は金色のスタンドへと飛び込んでいく。
やよい「千早さん!」
千早(あの金色の『ブルー・バード』の能力がどうあれ、ユウ君はまだ動けない状態だわ)
千早(やるなら、今しかない!)
千早「『インフェルノ』ォォォーッ!!」グオッ
ヒュバババッ
無数の拳が、『アルカディア』に襲いかかる。
ユウ「不正解ですよ、千早さん」
・ ・ ・ ・
千早「………」
振り向く。
ユウ「貴女は僕のことなんて放っといて牢獄に向かうか、あるいは逃げるべきだった」
そこに、『アルカディア』の顔があった。
ズキン
千早「うぐっ…!?」
ブォォォォオオオン
千早が腹に痛みを感じたと思うと、体が吹き飛ばされていた。
ガシャア!!
千早「な…」ズルッ
金網に叩きつけられる。そのまま、重力に引っ張られて落ちた。
千早「なに…?」
千早(今、何が起きたの? 回り込まれた…そして攻撃を…された?)
ツカツカ
少年がゆっくりと千早の目の前に歩いてくる。
千早(足が抜け出している…いつの間に…)
ユウ「何が起きたのかわからない、といった顔ですね」
千早「く…んあっ!!」ヒュオ
少年が射程距離内に踏み込んできたギリギリで、『インフェルノ』を飛ばす。
フッ
千早「え?」
しかし、拳が届く前に少年の姿は消えてしまった。
ブワッ
千早「あ…? あ…?」
千早の体がひとりでに浮かび上がると…
ゴォォォォォォォォ
千早「きゃあああああああああああああ」
そのまま前方に向かって、引っ張られるように飛んで行った。
ギュォォォォォォ
千早(ど…どんどん加速していく…! どうにかして止めなくては…)
ォォォォォォォォォ
フ…
ユウ「ん?」
吹き飛んでいる千早の体が、僅かに浮かび上がった。
あずさ「『ミスメイカー』!!」グワッ
ガシィ!!
飛んでくる千早の体を、『ミスメイカー』が受け止める。
千早「あああああああああ!」
あずさ「ううううううううう…!!」
ザザザザザザッ
しかし抑えきれず、一緒になって押し込まれ…
シュゥゥゥゥ…
10mほど地面を引っ掻いたところで、ようやく止まった。
ユウ「………」
千早「あ…ありがとうございます、あずささん」
あずさ「…いえ…」
千早の体が地面に降りる。
千早「気がついたら、攻撃を受けている…」
千早(『ジ・アイドルマスター』を思い出す…あんなものが二つとあってはならないけれど…)
千早(でも…何をされているのか、それ自体がわからない! それは、あのスタンドと同じだわ!)
あずさ「なんて、ことなの…」
千早「…? あずささん?」
やよい「ち、千早さん…今の…」
千早「高槻さんも…」
ユウ「お二人は、見ていたようですね」
千早「まさか、あのスタンドのことがわかったの!?」
あずさ「え、えぇ…全部…」
千早「なんですって…!」
千早(私は何をされているかもわからなかったのに、二人からは見えていた…? いえ、まずは…)
千早「あずささん、高槻さん、ユウ君は一体何をしたの!?」
やよい「千早さんの後ろに回り込んで、攻撃してました…」
千早「…は?」
あずさ「そして…金網にぶつかった千早ちゃんに近づいて、後ろに放り投げた…」
千早「ちょ、ちょっと待ってください。それだけ…ですか?」
あずさ「そうとしか、見えなかったわ…」
千早(確かに、やられたことを考えればそうなのかもしれないけれど…それでは、あまりにも…)
やよい「ただ…」
千早「ただ?」
ユウ「………」ユラ…
千早「!」
話している間に、少年が近づいてきている。
あずさ「んんっ…!」バッ
あずさが、千早とやよいの前に立った。
やよい「ムチャですよ! そんなことしたら…」
あずさ「二人とも、逃…」
ユウ「逃がしませんよ」ズズズズ
あずさ「げ~て~~は~~~や~~~~~く…」
・ ・ ・ ・
少年が近づくほどに、一番距離が近いあずささんの動きがゆっくりになっていく。
千早「あ…?」
千早(あずささんの動きが…遅い!?)
千早(こんな時までのんびりしている…というわけじゃあない、これは…)
ユウ「これが…」
あずさ「………」ピタ…
少年があずさの傍らに立つと、あずさの体の動きが完全に止まった。
ユウ「僕の『ブルー・バード・アルカディア』の能力」
千早「あずさ…さん…?」
ユウ「心配しなくても、死んではいませんよ」
やよい「千早さんの時と同じですっ! 近づいていったら、体が止まっちゃうんです!!」
千早「まさか…『アルカディア』の能力というのはッ! 『時を止める』能力!?」
ユウ「正確に言うと、違います」
千早「!」
ユウ「『ブルー・バード』は『重量』を、そして千早さんの『インフェルノ』は『熱』を『奪い』ますが…」
ユウ「それと同じです。僕の『アルカディア』は…『時間』を『奪う』」
千早「『時間』を…『奪う』…!?」
ユウ「そう。何かが僕に近づくほど、その『時間』は『奪わ』れ停止していく」
ユウ「誰かが近づけば、先程の千早さんやこのあずささんのように止まってしまいますし…スタンドも同様です。僕の頭についた『ミスメイカー』の『カウント』も、これ以上進むことはない」
ユウ「いえ、僅か…ごく、ほんの僅かながら進んではいますが、『アルカディア』が発動している限り、みなさんが生きているうちに『ゼロ』になることはないでしょう」
ユウ「そして、近づくほどに止まっていくということは…」ス…
トンッ
少年が、あずさの体を軽く押す。
あずさ「………」グ…
歩くよりも遅い速度で、ゆっくりと動きだした。
千早「ま、まさか…」
やよい「千早さん!」バッ
千早「ええ!」ダッ
『ゲンキトリッパー』が千早の右手に触れると、彼女はあずさに向かって走りだす。
あずさ「う……ううううううう」ズズズズズ…
少年からの距離に比例して、あずさが動く速度がだんだんと速くなっていく。
千早「くっ…!」バッ
千早はあずさに手を伸ばし…
ピタ…
右手をあずさの体に『くっつけ』た。しかし…
千早「うっ!?」ビン
あずさ「ち…はやちゃん、駄目…」ズズ…
ブワァァアアァ
千早「きゃあああああああああああ!?」
勢いは止まるどころかどんどん増していき、千早も巻き込まれるように飛ばされていく。
やよい「千早さん! あずささんっ!」
千早「『ブルー・バード』…!」ズッ
ズズズ…
ズズ…ン
千早「はっ…!」
自分の体重を『重く』して、止めた。
ユウ「………」
あずさ「ありがとう、千早ちゃん」
千早「お互い様です」
ユウ「…まぁ、いいでしょう。なんでも」
千早「今…いえ、さっきもだわ。ただ押されただけなのに、その勢いが何倍にも加速した…」
ユウ「近付けば近付くほど、遅くなる…」
ユウ「その逆なら…そう。『アルカディア』から外に向かっていくほど、加速していく」
ゴゴゴゴ
やよい「近づくことすらできないスタンドなんて、そんなの…」
あずさ「どうやって倒せばいいの…」
ユウ「理解できたようですね」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ユウ「もう、貴女達は僕に勝つことはできない」
千早「勝つことができない…? そんなの、わからないわ!」ジャラ
ヒュバッ!!
小石を拾い上げ、投げつける。
ゴォォォォォォ
ユウ「無駄ですよ…無駄」
ォォォォ…
ピタ…
石は、少年の目の前で完全に止まった。
千早(無機物も…関係なく止めてしまうの…!?)
ユウ「………」ス…
ピンッ
ズル…
制止した指で石を弾くと、ゆっくりと動きだし…
ギュオン!!
3mほど離れた辺りで、凄まじい勢いで加速していく。
千早「…っ!」
あずさ「千早ちゃん!」バッ
千早をかばうように、『ミスメイカー』が手を出すが…
パァン!!
その手のひらに、風穴が空いた。
あずさ「あ…! う…あ…」ガク
あずさの手からも血が流れだし、膝をつく。
千早「あ…あずささんっ!」
ユウ「やめた方がいいですよ…自分のせいで誰かが傷つくのを見たくはないでしょう? 僕だって嫌だ」
やよい「いま、『くっつけ』て治しますっ!」
ウーウー
小さく分裂した『ゲンキトリッパー』が、飛び散った肉片をかき集めている。
千早「あずささん…ああ、私のせいで…」
あずさ「に…逃げるのよ、千早ちゃん…私達ではこの子には勝てない…」
千早「それは…」
ユウ「逃がしませんよ。射程距離内に入りさえすれば、『時間』は『奪われ』ていく。僕からはもう絶対に逃げられない」
千早「………」
ユウ「大人しく捕まってください」
千早「あずささん、すみません。それは認められません」
あずさ「………」
千早「どんなスタンドが相手だって…私達は、諦めなかった。そうでしょう?」
あずさ「千早ちゃん…」ピタ
『ゲンキトリッパー』に埋められ、あずさの手の穴が塞がった。
ユウ「なら、どうするつもりですか?」
ブワッ!!
ユウ「!?」
近くの木から、大量の葉っぱが降り注いでくる。
あずさ「『ミスメイカー』…木を『眠らせ』たわ」
ザァァァァァァァァ…
抜け落ちた葉は、少年の周りを取り囲む。
あずさ「そうね、千早ちゃん。どんな相手でも、勝てないと諦める…それだけは、違うわよね」
千早「『インフェルノ』…!」ボゥッ
メラ メラメラメラ
千早が『熱』を集めて葉っぱに火を点けると、どんどん燃え広がっていく。
千早「これなら、どう…!?」
ユウ「どう…とは?」
ピタ…
少年の周囲の葉が、炎ごと静止している。
ユウ「炎でも、氷でも、同じです。全ては僕の目の前で止まる」
ユウ「普通の人間ならば、炎で囲めば酸欠で気を失うでしょうが…僕は『複製』です。呼吸を必要としません」
シュババァ!!
『アルカディア』が拳を振るうと、一拍遅れて少年を取り囲む炎が消し飛び、消し炭となった木の葉が飛び散る。
あずさ「うぅ…!」
ユウ「貴女達が何をしようと、僕には届かない」ザッ
千早「………」ノロー…
少年が近づいてくる。それに伴って、千早達の動きもゆっくりになっていく。
ユウ「さぁ、観念して…」
ビタッ!
ユウ「!?」
少年の足が止まった。
ユウ「これは…足が…動かない、この効果は…」
やよい「『ゲンキトリッパー』」
ユウ「高槻…さん…」
やよい「やっと…地面に、『くっつき』ました」
あずさ「あなたには届かなくても、あなたから来てもらうことはできるみたいね」
ユウ「能力は能力、『時間』を奪っても『くっつける』効果は消えない…か」
やよい「靴を脱いだりしても、その先にも『ゲンキトリッパー』は仕掛けてあります!」
ユウ「…僕の動きを止めたから、なんだと言うのですか。貴女達は僕に攻撃することはできない」
ザラッ
地面から、石を拾い上げる。
ユウ「僕は動けなくたって攻撃する手段はありますよ」
千早「…そうね」
ザッ
ユウ「!」
千早達は、ユウの動きを警戒したまま距離を離していく。
ユウ「逃げるのですか?」
千早「…そうなるわね」
千早(牢獄は…入り口がユウ君に塞がれている、このまま突入することはできない…)
やよい「あのスタンド、『ゲンキトリッパー』より射程距離は長くないから…たぶん、このまま逃げられると思います」
あずさ「いいのね、千早ちゃん」
千早「ええ。今、この場で決着をつけようとすれば、ただでは済まない」
千早「会長を止める。それが、私達の一番の目的ですから」
ユウ「………」
千早「でも、諦めないわ。勝つことも…」
ユウ「……?」
千早「…行きましょう、あずささん、高槻さん」
あずさ「ええ。わかったわ」
やよい「はい!」
タタタタ…
ユウ「………」
少年は、遠ざかっていく背中をただ見送っていた。
ユウ「…『ゲンキトリッパー』の効果が消えた。追いかけるべきか…?」
ユウ「いえ、やめておきましょう。まずは、確かめなければいけないことがある」
ツカツカ
少年は牢獄の奥に向かって進んで行く。
ユウ(さっきの戦いの中で…何かが壊れる音が聞こえた。ごく小さな音だけれど、私は気づいた)
看守「あ、ユウどの! どうでしたかあの連中は!」
ユウ「…逃げられた。侵入は防げたけれど…」
看守「おお、765プロのスタンド使いを3人も相手に…流石は『最強の三体』ですね!」
ユウ「それより、何か聞こえなかった?」
看守「ああ…例の鈴木とかいう奴がですね、また口うるさく…」
ユウ「………」スタスタ
看守「あれ?」
看守の横を通り過ぎていく。
ユウ(聞いてないのか…しかし、もしも来たとしたら彼女の所しかない)
ある牢屋の前に立つと、その中を覗き込む。
「………」
その中に変わった様子はない。少女が背中を向けて、壁際のベッドの上に座っているだけだ。
ユウ「………」
看守「ああ…そこですか? さっき、何か物音がして駆けつけたんですけどね。結局何もないし、隣の奴が騒がしくしてただけでしたよ」
ユウ「…なるほど」
スタスタ
少年は、牢獄の出口に向かって急ぎ足で歩いていく。
看守「あ、あれ? どこ行くんですか? はぁー…」
看守はため息をつくと、気怠げに巡回に戻っていった。
麗華「………」
隣の牢屋にいる麗華が、誰も見ていないのを確認すると…
麗華「戻っていいわ」
ズムッ ズムムッ
ベッドの上の少女と、その後ろの壁が、ぐにゃぐにゃと形を変えていく。
ゴゴゴゴゴゴゴ
ズッ
変化したスタンドが、麗華のもとに戻る。残された牢屋の中には、何かに壊された壁がぽっかりと空いていた。
麗華「あいつら、私達のスタンド能力にはてんで無関心ね。どうせ使えるわけないと思ってるんでしょうけど」
彩音「事実、さっきまで使えなかったクセに」
麗華「うるさいわね。使えるようになればそれでいいのよ」
彩音「これで、デコは逃げられたわね」
麗華「あのユウってヤツには気づかれたかもしれないけど…まぁ、時間稼ぎにはなるわ」
彩音「はぁ、アタシもついでに出して貰えばよかった」
麗華「貴女が一緒に行っても、足手まといになるだけでしょ」
彩音「チッ…ま、アタシはやることやったし、あとはゼンブデコ達に任せればいいか」
麗華「しかし、765プロの高木会長が元凶だなんて…信じられないわ」
彩音「アイドルを全部『複製』に入れ替えて世の中に残す、ねぇ。アタシにとっちゃどーでもいいケド」
麗華「くだらないわね。本物を残すために、全部偽物にしてどうすんのよ。…ほんと、くだらない」
彩音「?」
麗華「頑張りなさいよ、765プロ…伊織。こんな茶番劇、全部ブッ壊しちゃいなさい」
To Be Continued...
美希「春香ー」ヒョイ
崖から身を乗り出して、その下を覗き込む。
美希「はーるーかー」
そこらの茂みの中に呼びかけてみる。
P「美希…」
美希「?」
P「そんなところに、春香はいないと思うぞ…」
ザザ-ン…
洞窟を出た美希達は、海岸沿いの崖に立っていた。
響「春香を探すって言ったものの…」
響「あーっ! どこにいるかなんてわかんないぞ!」
美希「響、匂いでわからない?」
響「自分、犬じゃないから…そんな遠くまでわからないさー」
美希「いぬ美でも連れて来ればよかったのに」
順二朗「携帯は、繋がらないのかね?」
P「かけてはみたんですが…誰にも繋がらないんです。この『霧』のせいか…?」
美希「その『弓と矢』から変な電波でも出てボーガイされてるんじゃない?」
響「ないだろ。仮に繋がったとしても、バラバラになった時にみんなの携帯は取り上げられてると思うぞ」
グゥゥゥゥゥ…
ふと、誰かの腹の虫が鳴った。
美希「…響?」
響「え!? 違う、自分じゃないぞ!」
P「まぁ、無理もない。島に来てから、食事する暇もなかったもんな」
響「だから、自分じゃないってー!」
順二朗「…すまない、今のは私だ」
P「え、社長?」
美希「キンチョー感ないの」
響「捕まってた時、食事は出なかったの?」
順二朗「閉じ込められていてはどうにも食欲がなくてな、あまり手をつけなかったんだ。だが、外に出たら急に空腹を感じてきたよ」
美希「ねぇ、この戦いが終わったらさ。みんなでなんか美味しいものでも食べに行かない?」
P「お、そうだな。みんな頑張ってるし…終わったらパーっとやるか」
順二朗「いいなぁ。長らく海外にいたから、食べたい店がたくさんあってねぇ。うーむ、楽しみだ」
響「よし! そのためにも、会長を止める! 『弓と矢』を、春香に渡さなきゃ!」
順二朗「これを、天海君にか…順一ちゃんを直接、というわけにはいかないのかね?」
美希「そっちでもいいんだけどね。でも、『ジ・アイドルマスター』を使うのが一番手っ取り早いって思うな」
順二朗「そうか…」
P「でも、春香はどこにいるんだろう」
響「やっぱり、この『霧』がジャマだね。これさえなければ、律子のスタンドで全部わかるんだけど」
美希「でっかい扇風機でゴーって飛ばすとかできたらいいのに」
響「そうだな、できたらいいな」
ゴォォォォォ…
話していると、辺りに風を切るような音が響く。
美希「あれ、この音…」
響「え!? 嘘でしょ、まさか本当に…?」
順二朗「どうかしたのかね?」
響「え? ほら、ゴーって聞こえない?」
P「俺には何も聞こえないが…」
美希「! プロデューサー達に聞こえないってコトは…」
響「スタンド攻撃だ!」
ヒュルルルルル…
美希「!」バッ
響「!」バッ
二人は一斉に空を見上げた。
P「な、なんだ…?」
美希「『霧』の中で影になって、よく見えないケド…」
響「上だ! 落ちてくるぞォォーッ!!」
カッ
落ちてきた球体のなにかが、発光した。
響「プロ…」バッ
響がスタンド使いでないプロデューサーと順二朗を見るが…
P「………」スッ
・ ・ ・ ・
プロデューサーは、美希の方を指差している。
響「美希っ!」ダムッ
美希「んっ」グイッ
美希を引っ張りながら、響は発光したものから跳んで離れる。
チュドォォォォォン!!
響「ッ!?」
バァァァァァン!!
発光体が弾け、空から破片の雨が降り注ぐ。
響「うおおおおおおおおおおおおおおお」バリバリ
離れていた響達にも襲いかかってきたが、かする程度で済んだ。
シュゥゥゥゥゥゥ…
今の衝撃で辺りの土が舞い上げられ、砂埃が『霧』と混じる。
響「プロデューサー! 社長!」
P「俺は大丈夫だ! …社長!」
順二朗「ぐっ…足が…」
順二朗が地面に座り込んでいる。足からは、血が流れていた。
響「野郎ッ!」
響の視線は、先ほど爆発した球体に向かう。
ガシャン
響「!」
球体から、水晶体の頭部が飛び出す。
ガキン ガシャン
ジャキン
続けて二本の足、そして腹部から一本の砲筒が伸びた。
コォォォォ…
響「あの頭、レンズになってるのか? 光を集めてる…」
パキパキパキ
光が集まるにつれ、爆発によって剥がれた装甲も再生していく。
美希「なるほど、貴音の『フラワーガール』と同じで外からエネルギーを補うタイプだね。光を『チャージ』するスタンド…それで、本体もいないのにあんなパワーが出たんだ」
響「あの爆弾スタンドは『遠隔操作』か…? 本体はどこだ?」
美希「探さなくても、あのスタンドをブチのめせば本体にダメージは行くの」タッ
響「美希!?」
美希はためらいもせず飛び込んでいく。
響「危ないぞ! また爆発するかも…」
コォォォォォ…
美希「いや…あんな攻撃をするなら、それだけエネルギーが必要なの。爆発したばっかりなら…」ドォン
『リレイションズ』を出し…
美希「まだ『チャージ』は少ない、大した攻撃はできないはず! なのっ!」ヒュン
まっすぐ殴りかかった。
ドガァ!!
拳がぶつかる感覚が美希の手に伝わってくる。
響「ん!?」
美希「これは…」
ゴゴゴゴゴゴ
爆弾スタンドの周囲に、白い壁が浮かんでいる。
響「『雪』…!? そいつの能力か!?」
美希「いや、違う…」
チャキッ
爆弾スタンドの銃口が美希に向けられる。
ブワッ
そして、盾になっていた『雪』が広がり、美希の逃げ場を遮るように取り囲む。
美希「別々の能力…敵は二人いるッ!」
ドン ドン ドン
美希を狙う筒口から、何発ものエネルギーの弾丸が放たれた。
フワフワ
「さぁ、もう逃げらんないよ~。これでミキミキは終わりだね」
「んっふっふ~、レオレオを倒したっていうからどんなもんかと思ったけど…ラクショーだね」
上空に浮かぶ『雪』の船。その上から、二つの影が美希達の様子を眺めている。
美希「………」
キュイン
『リレイションズ』の目が光る。
バババッ
最小限の動きで、弾丸を回避した。
「!? なに、今の動きは…」
美希「『リレイションズ』の目ならこれくらいの距離でもハッキリ見える」
美希「そんでもって、今『雪』につけた『ロック』は一緒になって広がってる」
美希「それを使えば狭くっても割と自由に動ける。避けるのもカンタンなの」
「ちょっと、スタンド引っ込めてよ! あれのせいで当たんないじゃん!」
「はぁー!? なかったら余計当てられないっしょ! そっちこそ引っ込めなよ、エネルギーのムダ使いだよ!」
響「亜美と真美の『複製』か」
マミ「!?」
響が、空に浮かぶ『雪』の船の縁にぶら下がっている。
アミ「なんでアミ達が空にいるって…」
響「あの爆弾スタンドは上から落ちてきたんだ、そこしかないだろ!」
マミ「『マイルド・スノー』、ひびきんを落とせ!」ブワ
マミは響の掴んでいる部分を崩して落とそうとするが…
パッ
マミ「へ?」
そうするまでもなく、響は自分から手を離すと…
響「ドラァ!!」ガァン!!
アミ「うわ!」グラッ
空中で『雪』の船に蹴りを叩き込み、大きく揺らした。
ヒュルルル…
アミ「ぎゃ!」ドサァ!!
マミ「ぐわ!」グシャ
アミとマミは『雪』の上から落とされ、二人まとめて地上に落ちる。
響「っと」スタッ
遅れて、響も地面に着地した。
マミ「たた…」
美希「上からコソコソ見てたんだね」
アミ「!」
響「でも、落とした。さて、おしおきだな」
マミ「ちょ、アミ! ヤバいっぽいよ、『デイブレイク・スターライン』の第二射の準備を…」
コォォォォ…
傍らで、爆弾スタンドがレンズから光を『チャージ』している。
アミ「やってるよ! でも、『霧』があるから光が集まんないんだよ! そんな早く撃てないって!」
マミ「あー!! もう、だからムダ使いすんなって言ったじゃん!」
ダダダダダダダ
光を『チャージ』するスタンドに、響が向かう。
マミ「お、アミの『デイブレイク・スターライン』を狙うつもり…?」
ヒュルルル
爆弾スタンドの周囲に、『雪』が渦巻くように集まっていく。
マミ「フン、でも問題ないね。マミの最強の盾、『マイルド・スノー』で守…」
響「ふっ!」ダッ!!
マミ「へ?」
響はスタンドの手前で踏み切り、方向を変えると…
アミ「うっ!?」ガシッ
スタンドではなく、本体であるアミの体を掴み…
響「ドラァ!!」グワッ
アミ「ぬわあああああああっ!!?」
バヒューン
海の方角へと、思いっきり投げ飛ばした。
ザザーン…
マミ「………」
アミは崖の下に落ちて見えなくなった。
フッ
マミ「………」
そして、『デイブレイク・スターライン』の姿も消える。
美希「なのっ!」ヒュォ
マミ「はっ!?」
ガッ!!
呆けているマミに美希が攻撃するが、『雪』の盾に防がれる。
<LOCK!
しかし、『ロック』をつけた。
美希「なのなのなの」ヒュヒュン
マミ「ぬぬぬ…」バババ
これ以上『ロック』をつけられるのを避けるために追撃から離れるが、崖まで追い詰められていく。
マミ「くぅっ、『マイルド…」
キュイイン
美希「なのっ!」グィン
マミ「ぐわっ!」バキィ!!
『リレイションズ』の眼が『雪』のガードの隙間を捉え、『ロック』により加速した拳で射抜いた。
マミ「つ…強い…」
ガッ
崖から落ちそうになるが、ギリギリのところで『雪』で止めて支える。
響「『遠隔操作』のスタンド二つ、この距離で負けるわけないだろ。自分達はそんなのよりよっぽど強い『スタンド使い』と戦ってきたんだ」
美希「たった二人で来るなんて、ナメられたもんなの」
「違うよ。ナメていないし二人でもない」
・ ・ ・ ・
美希「『リレイションズ』!」バッ
美希は振り返りながら、背後から声をかけてきた者に殴りかかる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
響「え…?」
そこにいたのは、破れたリボンを頭につけた少女だった。
順二朗「…天海君?」
P「違う、こいつは…!」
ハルカ「『アイ・リスタート』」
スゥ…
『リレイションズ』の腕は、スタンドの体をすり抜け…
ズガァ
美希「うぐっ」
美希の方だけが、一方的に攻撃を叩きつけられる。
ハルカ「無駄無駄無駄無駄」ババババ
美希「っ…!」バッ
ゴロゴロ
崖から落とされないよう、横に跳び込むようにラッシュを躱し、そのまま地面の上を転がった。
美希「なんなの…」ムクッ
ハルカから充分な距離を取ったのを確認し、体を起こした。
ブゥゥゥーン…
アミ「うぅ…」ゴォォォ
『デイブレイク・スターライン』が上にアミを乗せ、腹部の銃口からエネルギーを噴射して崖の下から飛んでくる。
マミ「あー、そっちもまだ生きてたんだ」
ハルカ「お疲れ様、アミ。よかった、あのまま落ちてたらもう使えなくなってたところだったよ」
P「なんで…」
ハルカ「ん?」
P「春香の『複製』はあの時、本物の春香に倒されたはずだ! なんでお前がここにいるッ!」
ハルカ「『地獄から蘇ってきた』」
P「は…?」
ハルカ「なんてね。ま、ちょっと考えればわかることでしょう?」
???「そう。実に、単純なことだ」スッ
ハルカの背後に何者かが立っている。
美希「さっきから一緒にいたみたいだね」
響「まだ、誰かいるのか…!?」
P「いや、待て…」
ゴゴゴゴゴ
P「この人は…」
ゴゴゴ
順一朗「作り直したのだよ。私が、この『アイ・ディー・オー・エル』の能力でね」ス…
そこにいたのは、ケミカルライトのような棒状のスタンドを持つ、初老の男性だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ
響「高木…順一朗…!」
P「会…長…」
順二朗「順一ちゃん…」
美希「向こうから来やがったの」
ゴゴゴゴ
順一朗「さぁ、返してもらおうか。その『弓と矢』を」
スタンド名:「デイブレイク・スターライン」
本体:フタミ アミ
タイプ:遠隔操作型・標準
破壊力:A スピード:A 射程距離:B(20m) 能力射程:B~A(20~100m程度)
持続力:E 精密動作性:E 成長性:C
能力:亜美の『複製』の持つ爆弾スタンド。頭部のレンズから光を『チャージ』し、エネルギーを蓄えて攻撃に転換する。
腹部の銃口からエネルギーの弾を発射して攻撃したり、ガスのように噴射して移動に使うこともできる。
『チャージ』で溜めたエネルギーを全て使って爆発することもできる。爆発自体にそれほどの殺傷力はないが、装甲の破片が飛び散る勢いは恐ろしい威力となる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ
書き忘れましたが本日分はこれでおわりです。続きは次の土曜に投下します。
本日7月19日はジョジョリオン13巻の発売日なので、それを読んでお待ち下さい。
P(高木順一朗、会長…)
ゴゴゴゴゴ
P(『複製』を生み出し、アイドル達と成り替わらせようとしている全ての元凶…みんなが戦っているのも、会長を止めるためだ)
P「会長が、なんでこんなところで出てくるんだッ!?」
順一朗「私が来たことに驚いているようだが、それはお互い様というものだ。私の方も、とても驚いている」
P「…何故ですか?」
順一朗「君達がその『弓と矢』を持っているからだ」
P「『弓と矢』…」
美希「それって、ミキ達がレオンを倒したからってこと?」
順一朗「ああ、その通り…彼女は本当に強かった。私の作った『複製』の中で、彼女ほど戦いに対して貪欲な者はいなかった。だから彼女にあそこを任せた」
順一朗「しかし、『弓と矢』は今君達の手にある。まさか、君達がそれほどまでに強いとは予想していなかった。いや、本当に驚いている」
響「………」
順一朗「だから私が来た。『最強の三人』である彼女でも倒せないとなると、他の二人を行かせるか、あるいは…」
ゴゴゴゴ
順一朗「私自身が出るしかあるまい」
順二朗「順一ちゃん…」
順一朗「なんだ、順二ちゃん? お前がわかってくれないからだろう、あそこに閉じ込めたのは」
順二朗「私のことはどうだっていい、やはり考え直してはくれないのだな」
順一朗「もう、後戻りなどできんよ。あとは765だけだ…私の理想が、もうじき叶うのだ」
順二朗「何が理想だ! お前が目指したものというのは、こんなものなのか!? アイドル達を傷つけてまでやるべきことなのか!?」
順一朗「ならば、彼女達の終わりを見届け続けろと言うのか!?」
順二朗「むぅ…」
順一朗「アイドル達が輝ける時間はあまりにも短い。日高舞のように歴史に名を残すようなアイドルは一握り…」
順一朗「いや、それすらもだ! 歴史に名を残そうと、それはもはや記憶でしかない! 記憶は時が経てばただの記録となり、人々は彼女達の輝きなど忘れてしまう! 私はそれが耐えられないのだ!」
順一朗「君達は考えたことはないのか? 自分の手がけたアイドルが…自分が応援するアイドルが、永遠に夢を与え続けてはくれないか…と」
P「それは…」
順二朗「君の言うことはわからないでもない…だが、これは…」
美希「プロデューサー、社長。こんな言葉聞く必要ないよ」
順一朗「美希君…」
美希「なんか色々言ってるけど、それって全部、会長の都合でしょ? ミキ達にはカンケーないの」
順一朗「関係ないということはないだろう。君達はまだ若いから、私の言うことが実感できないのだ」
美希「なんだかんだ言っても、つまりは『複製』の代わりにこの島にいろってコトでしょ?」
順一朗「いつまでも、閉じ込めておくつもりはない。『複製』はいずれ『完全なアイドル』という別個な存在として、世の中に認知させるつもりだ。そうなれば君達も元の人物として、今まで通りの生活もできる」
美希「でも、アイドルをやるのは『完全なアイドル』なんでしょ? そんなの、ミキにしてみれば引退してるのと何にも変わんないって思うな」
順一朗「アイドル『星井美希』は永遠に世界に残る。ビデオ映像と同じだ。名声も利益も元となった君達のものになる」
美希「ふーん、それはラクそうなの」
順一朗「そ、そこか…美希君らしいと言えばらしいが」
美希「でも…ミキは、ミキに向けられるファンのみんなの笑顔も、ステージからのキラキラした景色も、何も見られない」
順一朗「む…」
美希「ミキはもっとアイドルの世界を見ていたい。それを邪魔するなら、許さないの」
ゴゴゴゴゴ
P「美希」
順一朗「………」
響「自分は美希とは思ってることは違うけど…やっぱり、『複製』に自分の代わりなんてさせたくないぞ」
順一朗「我那覇君…」
響「自分、トップアイドルを目指してる。他の事務所のアイドルにも、765プロの仲間にも…誰にも負けないつもりだ」
響「そして、それは自分だからできるって信じてるんだ。『複製』なんかに任せられない!」
P「響…」
順一朗「考えを改めては…くれなさそうだな」
響「改めるのはそっちだッ!」タッ
叫ぶと同時、響は順一朗に飛びかかった。
順一朗「………」
響「ドラァ!」ヒュ
ガガッ
順一朗に蹴りを放つが、『雪』の盾に阻まれる。
響「!」ズザザザ
蹴った勢いで飛び退き、間合いを取った。
マミ「んっふっふ~、そーカンタンにはやらせないよ~ん」ヒュルルル
『雪』が、順一朗の周囲を守るように取り囲んでいる。
アミ「高木さんをやりたかったら、まずはアミ達を倒してからにするのだー!」
ハルカ「入れ替わるのが嫌って言ってるけど…」
ハルカ「私たちはやるしかないんだよね。だって、そのために生まれてきたんだから」
ゴゴゴゴゴゴ
美希「響、一気に片付けるの」
響「ああ!」ズッ
響の体から『トライアル・ダンス』が抜け出し、美希の方に飛んでいく。
アミ「そういうのは、させないよ」
響「うぶ…!?」ドゴォ
しかし、その隙に後ろ向きの『デイブレイク・スターライン』が飛んできて響の腹に叩き込まれた。
ゴォォォォォ
響「こ、こいつ…!」
腹からロケットのようにエネルギーを噴射し、どんどん響を押し出していく。
美希「響、『トライアル・ダンス』を戻すの!」
響「ん!」ギュン
自分の体にスタンドを戻すと…
響「ドラァ!」ゲシィア
アミ「んがっ」
強化した脚力で『デイブレイク・スターライン』を蹴り飛ばす。
響「く…美希と離れちゃったぞ」スタッ
そのまま、着地すると…
ハルカ「やっほ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
目の前にハルカが立っていた。
響「おまえ、自分の相手をするつもりなのか?」
ハルカ「そうなるかな」
響「忘れたの? 事務所で、自分のスピードについていけなくてやられたのを」
ハルカ「だからだよ。つけられた傷はほんのちょっぴりだけど…そのままにしてちゃあ気が済まないからね」
美希「で、ミキの相手は二人がかりってワケ」
マミ「悪く思わないでよ。ミキミキだって、二人がかりでレオレオ倒したんだからさ」
アミ「ひびきんのところには行かせないよ~ん」
美希「………」チラッ
足を怪我した社長と、その傍のプロデューサーを横目で見る。
マミ「そっちが気になる? 安心していいよ。マミ達、ミキミキとひびきん以外は狙わないから」
美希「そんな言葉、信じられないの」
マミ「だってさ、考えてもみてよ? マミがそこの兄ちゃん達を人質にして勝ったとするじゃない? そしたらさ、ミキミキは『あの場に足を引っ張るプロデューサーがいなければ』とか思っちゃうでしょ?」
P「く…」
マミ「そういうのって、マミ達が求めてる勝利とはちょっと違うんだよねぇ。希望の芽を残しちゃう」
アミ「大体、そういうヒキョーな手を使うような精神力は弱いからね。人を身代わりにしたりね? ねぇ、マミ?」
マミ「なんか言った?」
美希「なるほどね。合理的なの」
マミ「でしょ?」
美希「そうしないでミキ達に勝てるなら、だけど」
響「うおおっ!」ダッ!
駆け出した。
ギュン!
ハルカ「………」チラッ
ギュギュン
ハルカ「速いね、相変わらず」クルッ
物凄い勢いで、ハルカの横を通り過ぎていく。ハルカはその姿を全く追えていない。
響(こいつのスタンドは正面からじゃ倒せない…だから!)
ザザザザザザ
ハルカの周りを、渦を巻くように高速で動いていく。
響「どうだッ! 自分の動きに着いてこれるかッ!」
ハルカ「………」
ハルカはその場から身動ぎ一つせず、棒立ちになっている。
バッ
響「ドラァ!」ビュオ
前触れも見せず、響は突如進路を変えて、蹴りかかった。
ハルカ「『アイ・リスタート』」ズッ
ドゴォ
響「うぐ…!?」ドサッ
しかし、『アイ・リスタート』に正確に姿を捉えられ、叩き落される。
ハルカ「無駄無駄無駄」ズド ド ズド
響「うおおっおおお」ゴロゴロゴロ
追撃が来るが、転がって躱した。
響「これじゃダメか、だったら…」ギュン
今度は、正面からハルカへと突っ込んでいく。
ハルカ「どういうつもり? 『アイ・リスタート』がどういうスタンドか、忘れたわけじゃあないでしょ」
響「………」ダダダ
そう言われても、響はスピードを緩めない。
ハルカ「無駄ァ!」ヒュン
攻撃が届く距離に入ると、『アイ・リスタート』が拳を放つ。
響「ふっ」タッ
ブワァァアアアアァ
響はそれを、跳んで躱した。
響「ドラァ!」グオン
そしてそのまま蹴りを放つ。響の脚が、ハルカの後頭部に迫る。
ガシィ!!
響「何!?」
しかし、蹴りが入る前に『アイ・リスタート』に脚を掴まれてしまう。
ハルカ「無駄、無駄」
ズドン!!
響「うぐぇ」
そのまま、思い切り脚を引っ張られて地面に叩きつけられた。
ハルカ「フンッ」グイッ
脚を掴まれたまま、響は逆さまになって持ち上げられる。
響「な、なんで…」
ハルカ「?」
響「なんでだ…? あの時は、まるで着いてこれてなかったのに…」
ハルカ「なんで? わからないの? 本当に?」
響「なに…?」
ハルカ「響ちゃんのスタンドは速いよ。本当に。私の『アイ・リスタート』ではとても敵わないくらいね」
ハルカ「でも、それだけ。速いだけなんだよ。だから、ちょっとくらい動きが遅れても捕まえられる」
響「速い、だけ…?」
ハルカ「覚えてる? あの時、私達がどこにいたのか」
響「事務所の、廊下…」
ハルカ「そう、狭い廊下の中。あそこでの響ちゃんは速いだけじゃあなかった。壁を縦横無尽に駆け巡り、どこから襲ってくるのかわからない奇襲性があった。私じゃあどうしようもなかった」
響「………」
ハルカ「ここでの響ちゃんはどう? 蹴られるような壁はない。速すぎるスピードを制御する必要もある。動きも素直。室内とか森の中ならともかく、こんな拓けた場所で負けるわけないでしょう?」
美希「響…!」
アミ「ほらほら、余所見してるヒマあんのミキミキ!?」
ドシュゥゥゥゥウウ
アミが、『チャージ』したエネルギーを弾丸にして発射してくる。
美希「ち…」バッ
横に動いて避けようとするが…
ドンッ
美希「んっ」
『雪』の壁に進路を阻まれた。
シュォォォォォオ
エネルギー弾が迫る。
美希「おおおおっ!」ガリガリガリ
バシュッ!
ドォォォーン
『リレイションズ』の指先で『マイルド・スノー』を引っ掻いて飛ばし、エネルギー弾にぶつけて相殺した。
マミ「おおぅ、やるねぇ。でも…」
美希「う…」ポタッ
『マイルド・スノー』を引っ掻いた指先から、血が出ている。
マミ「マミの最強の盾を削ろうなんて、あんまムチャしない方がいいっぽいよ?」
アミ「ま、あのままアミの攻撃を受けてたよりはマシっぽいけど」
美希「………」
アミ「ねぇねぇ、なんで今までミキミキ達が『複製』達に勝ててたのか教えてあげよっか?」
美希「なに?」
アミ「それは、『複製』達がみんな一人ずつで戦ってたからだよ。そっちは常に二人以上、そりゃ勝てるって」
マミ「二人で行ったのにあっさりやられちゃったのは誰だったっけ」
アミ「うるっさいなぁ、あれはあっちも二人だったじゃん。過ぎたことをネチネチと…」
美希「………」
ズズズズ
美希(『ロック』の数はどんどん増えてる。このまま行けば、この二人は倒せるハズ)
美希(でも、その前に響が…)
順一朗「ふむ、私が来なくても三人だけで充分だったかね? だとしたら拍子抜けだが」
響「くそっ…『オーバーマスター』が使えれば…」
ハルカ「それをさせないようにやってきたんだよ、私たちは。できないことを言ってもしょうがないんじゃないかなぁ」
響「ぐ…」
ハルカ「まぁ、今となったらそれでもいいんだけどね。それって、そうしないと私には勝てないって響ちゃんが認めるってことでしょ?」
響「くっ…! うおおっ」ジタバタ
響が掴まれた脚を放そうと暴れるが、『アイ・リスタート』はビクともしない。
ハルカ「まぁ…行かせないけど」
響(こいつ、いくら動いても手を放さない…)
響(いや、動いてもムダなんだ…自分が何をしても、『アイ・リスタート』には届かない…)
ハルカ「さて…」
ボグォ
響「うぶ…!」
『アイ・リスタート』が響の腹を殴りつける。
響「げほ、げほっ」
ハルカ「本当は自分でやりたいんだけどね。近づいて蹴られたりしたら逃げるチャンスを与えちゃうからさ」
順二朗「く…私にはスタンドは見えないが…我那覇君が痛めつけられているのか…」
順二朗「順一朗、やめさせるのだ! 彼女達を傷つけるな!」
順一朗「ハルカ、彼女達に必要以上に手を出すな」
ハルカ「いえ高木さん、これは必要なことですよ。765プロのみんなは、一度徹底的に叩き潰さないと」グイッ
両手で脚を掴み…
ハルカ「二度と逆らう気が起きないように…ねッ!」ドシャァ
響「うぎゃあああああああ…!」
もう一度、地面に叩きつけた。
順二朗「順一朗、お前の理想はわかった…だが、こんなことが…こんな、アイドルを傷つけるようなことが、正しいわけがあるかッ!」
順一朗「お前にもアイドルにも、いくらでも恨まれよう。だが、それでも私は…」
・ ・ ・ ・
順一朗「『弓と矢』はどうしたのだ? 順二…お前が持っていたはずだが…」
順一朗「それに…彼は、一体どこに…ハッ!」
響「あ…あぁ…!」
ハルカ「ああ、いいよ響ちゃん。その悲鳴…自信ってものがどんどん湧いてくる…今の私なら、天海春香にだって…」
ザクッ…
ハルカ「…はい?」クルッ
ハルカは背中に妙な感触を味わい、首を後ろに向ける。
P「………」
ハルカ「あれ、プロデューサーさん。一体何しに…」チラ…
プロデューサーが手に何かを持っていることに気づき、目線を下に向ける。
ゴゴゴゴゴ
ハルカ「………」
『矢』だった。プロデューサーが持つ『矢』が、ハルカの背中に突き刺さっていた。
ハルカ「…何、やってるんですか?」
P「半年前、事務所にいた社長…いや、社長だと思っていた奴は会長の『複製』だった」
ハルカ「は…」
P「その『複製』は…死んだ。動かなくなったんだ、『矢』が腕に刺さってな…」
ハルカ「うっ!?」ビクン
ハルカの体が大きく震える。
ハルカ「う、うおお…! ああ…!?」ガタガタガタ
そのまま、震えはどんどん大きくなり…
バタン!
ハルカ「………」シン…
糸が切れたように倒れると、そのまま動かなくなった。
P「やったか…あまり気分のいいもんじゃないな…」
「ええ、ほんと。最悪の気分ですよ」ヌッ
P「え?」クルッ
背後から声がして、振り返ろうとすると…
「無駄ァッ」グシャァッ
P「ぐお…!?」グラッ
足を思い切り蹴りつけられ、膝をついた。
P「お、おまえ…」プルプル
ハルカ「ふぅーっ」
ゴゴゴゴゴ
プロデューサーが顔を上げると、無傷のハルカがそこに立っていた。
順二朗「な、なに…!? 彼女は今倒れたのに…いや、今も倒れている彼女がそこにいるのに!」
順一朗「『アイ・ディー・オー・エル』」シュゥゥゥゥ
順二朗「!」
順一朗の持つ光る棒の先端が、ハルカのいる方に向けられている。
順一朗「私のスタンドには戦闘能力は全くない。彼女達のスタンドに比べれば、風に吹かれただけで飛んでしまうタンポポの綿毛のような存在だ」
順一朗「だがな…私自身が戦う必要などないのだよ。『複製』を作り出す能力! 私がいる限り、『複製』は何度でも蘇る!」
P「………」カラン
プロデューサーの手から『矢』が落ちる。
順一朗「なるほど、『矢』を使うか…確かに、『スタンド使い』でない者への攻撃ができない『アイ・リスタート』に対しては有効な手段だ。大したものだな」
順一朗「だが、それは所詮一時しのぎにしかならない。本当の意味で彼女達に勝つのは、『敗北』を認めさせるのは、『スタンド使い』でなければできない」
順一朗「尤も、『敗北』を認めさせても同じことだが。例え一人や二人『敗北』しようが、私はいくらでも、君達に勝てる『スタンド使い』生み出せるのだ」
順二朗「何度でも…それは、つまり…」
順一朗「そう! 君達がいくら『複製』を倒そうと、無駄だということだ!」
順二朗「そんな…バカな…」
P「『複製』を倒したところで無駄、か…わかってますよ、そんなこと」
順一朗「む?」
P「だって、わざわざあなたが出てくる理由なんて、それしかないでしょう」
順一朗「そこまでわかっているのなら、何故あんな行動に出たのだ? 守られるばかりの自分に耐えられなかったのかね?」
P「俺はただ、隙と時間を作りたかっただけです。美希と響が合流できるように」
・ ・ ・ ・
P「あなた達が何よりも警戒してる、あれを使わせるために」
ドドドドド ドドド
響「はぁ…はぁ…」
美希「………」ズズズ
美希が、響に肩を貸している。その傍らには『オーバーマスター』が立っていた。
ハルカ「やられた手前あんま強く言えないんだけどさ…何やってたの、アミ、マミ?」
マミ「い、いや、だって、ひびきんが急に飛んできたから…」
アミ「ミキミキも、ひびきんの方なんて見ないでまるで示し合わせたみたいに…」
ハルカ「はぁ…」
ゲシィッ!!
P「うぐっ!」ビクン
八つ当たりのように、ハルカはプロデューサーに蹴りを入れた。
ハルカ「響ちゃん、認めるんだ? 私には勝てないって」
響「ああ…認める。自分一人じゃあ、その『アイ・リスタート』には勝てない」
ハルカ「へぇ、いいのそれで?」
響「うん、どうだっていい」
ハルカ「………」
響「今、一番大事なことは会長を止めること! だったら、自分のプライドなんていらないだろ! 喜んで敗北するぞ!」
美希「今からって時に敗北されちゃあ困るんだケド」
ハルカ「ふーん、そう…」
美希「あ、そうだ会長」
順一朗「む?」
美希「ミキ達が『複製』を倒しても無駄とか言ってたけど、そうでもないよ」
順一朗「何故そう思うのかね?」
美希「だって、ミキ達がレオンを倒したから、会長はわざわざ出てきたんでしょ? そして…」
順一朗「………」
ドドドドドド
美希「ここで会長をブッ倒せばそれでゼンブ終わる。そうでしょ?」
ここから週一投下目指して頑張ります。
順一朗「私を倒す…そう言ったのかね?」
美希「そだよ。春香に『弓と矢』を渡すつもりだったけど、ここで終わらせればその必要もないの」
順一朗「まぁ、落ち着きたまえ。ここにいる『複製』は、今は三人だけだ。しかし、私は十人でも、百人でも…何人でも呼び出せるのだぞ」
順一朗「それをたった二人で…たった一つのスタンドで? 正気とは思えんな」
響「こんな狭いところに百人も呼べるのなら、やればいいぞ。呼んだところで、なんくるないけどね」
順一朗「…私は君達を軽く見ているわけじゃあない。レオンを倒したということは重く受け止めている」
美希「別に、これで勝ったワケじゃあないけどね。あいつ、バケモノみたいな強さだったの」
順一朗「だったら、尚更だ。君達こそ、我々を軽く見ているのではないかね?」
響「話してないで、さっさと来ればいいぞ。でないなら、こっちから…」
順一朗「いや。露骨に動けばそれが合図となる…もう既にいくつか手は打たせてもらっている」
響「………」
ピカアアァァァァァ
美希「!」クルッ
美希達の背後で、爆弾スタンドが光を放っている。
アミ「ハッハ、行っけー!」
順二朗「彼女が攻撃しているのか…だとしたら、私の足をやったあれが来るのか…!?」
美希「また、社長やプロデューサーを巻き込むつもり?」
アミ「しょーがないっしょ、そこにいるのが悪いんだから!」
美希「………」
アミ「さぁ、弾けろ『デイブレイク・スターライン』!!」
カッ!!
爆弾スタンドが、激しく発光する。
美希「『オーバーマスター』」
シュルッ
・ ・ ・ ・
『オーバーマスター』が手を動かすと、光が収まった。外殻は飛び散ることなく、その場に留まっている。
アミ「あれ…? 爆発…しない?」
アミ「んっ!?」メキョア
アミの腕が、内側にひしゃげられた。
アミ「ああああああああああああ!?」メキッメキッメキメキ
全身が、グシャグシャに押しつぶされていく。
マミ「な、なに!? 何が起こってんの!?」
美希「このスタンド、爆発して体の外側を弾き飛ばすでしょ? それをさせないように、爆発の瞬間、外側の殻を押さえつけたの」
マミ「は…? 『デイブレイク・スターライン』の全開パワーだよ…? それも、爆発の瞬間の一番強いヤツ…」
ハルカ「いや、それより…そんなことしたら、爆発のエネルギーは内側に全部…」
アミ「あああああああああああああああああああ」グググ
パァン!!
サラサラ
アミの体は、砂となって弾け飛んだ。
美希「まず一人」
コォォォォォ
美希「!」
マミ「『マイルド・スノー』」
そうしている間に、『雪』が美希達を取り囲んでいる。
順一朗「なるほど、確かに言うだけの実力はあるようだ」ジジジジ…
順一朗は、『アイ・ディー・オーエル』を使い新たな『複製』を生み出している。
順一朗「だが、手を休めるつもりはないぞ。絶対的な数の力…君達は耐えられるかね?」
ズモッ!!
『雪』はかまくらのようなドーム状に積もり、美希達を閉じ込めてしまう。
ハルカ「ドームだね、マミ。『アイ・リスタート』ならこの壁を越えて攻撃できる」タッ
ハルカはスタンドを展開して『雪』のドームに近づいていく。
マミ「今度は隙間なんてないよ! さぁ、どうする!?」
ハルカ「無…」ドオ
ドームごと貫こうと、拳を突き出すが…
<LOCK!
ハルカ「…!」ピタ…
『雪』の壁に『ロック』が一つ浮かび上がり、ハルカはその手前で攻撃を止めた。
マミ「ちょ、ハルルン! なんで攻撃やめちゃうの!?」
ハルカ「いや…」
<LOCK! LOCK! LOCK!
マミ「ん!」
LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!
LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!
LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!
LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!LOCK!
マミ「は…」
白い『雪』の壁が、どんどんフレッシュグリーンの『ロック』に塗りつぶされていく。
ハルカ「これは、ヤバい…!」バッ
ハルカは一足早く、そこから離れると…
「ドラァ…ッ!!」
バッリィィィィイン
マミ「な、何ィィィッ!?」
次の瞬間、『雪』のドームが粉々に砕け散った。
マミ「ウソっしょ…マミのさいきょーの盾がコナゴナに…」
響「壊れるなら、別に最強でもなんでもないんじゃないのか?」
美希「ふーっ、狭いところは勘弁してほしいの」
バリバリバリバリ
ドームの中から出てきた二人に、横から『電撃』が襲いかかる。
美希「んっ」ヒュ
パァン!
『オーバーマスター』の腕で叩き落とすが…
バチィッ!!
美希「きゃっ!?」ビリビリ
響「ぎゃっ!」ビリビリ
腕に流れた『電流』は腕で拡散し、二人は同じようにダメージを受けた。
ユキホ「腕の振りが速いなぁ…『コスモス・コスモス』がほとんど霧散しちゃった」バチバチ
攻撃が放たれた方向には、雪歩の『複製』がいた。
ユキホ「ちゃんと入ってれば一発で片付いてたのに」
マミ「ユキぴょん!」コォォォォォ
ユキホ「うん、わかった。『コスモス・コスモス』」バチィッ
ブワァァァッ
『電流』を乗せた『マイルド・スノー』が、広がりながら二人に襲いかかる。
美希「………」
キュィィン
『リレイションズ』の眼が光り…
美希「ドラララララララ」ズバババババ
降り注ぐ『雪』に向かって、拳を振るった。
シン…
パァン! グッパァン!
マミ「なっ!? 『雪』が勝手に爆発した!?」
ユキホ「『電流』の流れてないやつだけを狙って、流れてるやつにぶつけたんだ…!」
響「………」ドドド
二人は足並みをピッタリ揃えながら、ユキホの方へと向かっていく。
ハルカ「ユキホ、逃げて! 近づかれたらヤバい!」
ハルカが呼びかけるが…
ユキホ「ううん。向かってくるなら、好都合だよ…一緒に片付ける」スッ
ユキホは逃げずに、地面に腕を向ける。
響「………」
ユキホ「『コスモス・コスモス』ッ!」
バンバンバンバンバン
地面に向けて、ありったけの『電撃』を放つ。
バチチチィッ
『電撃』が草や土の上を走って、二人に襲いかかる。
ユキホ「さぁて、響ちゃんに肩を貸してて、どうやって躱すのかな?」
美希「ドララララララ」シュバッ
バオン!!
ユキホ「な…」
『オーバーマスター』は地面を掘り起こして、土ごと『電撃』をひっぺがした。
ブワァァァア
ユキホ「うぶっ!?」バリバリバリ
ユキホに『電撃』の混じった土がかかる。
ユキホ「けほ…」
だが、砂まみれになっただけで『電撃』によるダメージは一切ない。
ユキホ「ふんっ…『返す』能力ならともかく、私の『コスモス・コスモス』を直接返したところで…」
響「ドラァッ!!」ゴォッ
ユキホ「意味なんて…」
気づいた時には、『オーバーマスター』の拳はもう目の前に迫っていた。
ユキホ「なっ」パァン
ユキホは一瞬で砂になり、空中にばら撒かれる。
ブゥン…
響「え?」
ズモモモモッ
すると、ばら撒かれた砂が、『オーバーマスター』に吸い寄せられるようにまとわりついた。
響「なんだ、これ…」
キュゥゥン!
響「!」
砂の上から、今度は『雪』が『オーバーマスター』の体を覆う。
マミ「『マイルド・スノー』…」
アズサ「うふふ…『ゾーン・オブ・フォーチュン』」
マミの隣に、あずさの『複製』が立っている。
アズサ「ユキホちゃんに『罠』を仕掛けたわ。砂になっちゃっても効力はあったみたいね~」
響「仲間を『罠』にするなんて…」
シュルルルル
響「うぐ!」
さらに、『雪』の上に『糸』が巻きつけられた。
ミキ「『マリオネット・ハート』」
美希「あ、ミキの『複製』なの」
ミキ「あはっ。もう逃げられないって思うな」
響「うぎっ! 『雪』が膨らんで締め付けられる…!」グググ…
三重に抑え込まれ、『オーバーマスター』は身動きが取れない。
順一朗「ふむ。ここまでか」
マミ「流石にこれはもう動けないっしょー」
ミキ「さ、ハルカ。マコトくん。やっちゃってなの」
マコト「ああ。今やる」ヌッ
キュイイィィン
真の『複製』が、二人から少し離れた場所にいた。両腕についた車輪が『回転』している。
ハルカ「待って、マコト」
マコト「?」
ハルカ「イオリ。念のため、両手両足も封じておいて」
イオリ「あら? 何よハルカ、ビビってんの?」
ハルカの傍には、伊織の『複製』もいる。
ハルカ「…念のためね」
イオリ「はいはい、わかったわよ。『リゾラ』で体グニャグニャにしてやるわ、にひひっ♪」
ググググ…
ミキ「でこちゃん急いでなの、もしかしたらあんまり保たないカモ」
イオリ「はっ、言われなくてもさっさとやるわよ」
タタタ…
響「ドラァ…!」ググ
プチン!!
イオリが近くまで来る前に、『糸』を引きちぎった。砂と『雪』が飛び散る。
ミキ「あっ!?」
マミ「うぇ!?」
アズサ「あら…」
ハルカ「ミキ! 『マリオネット・ハート』の能力で『マイルド・スノー』が脆くなったんじゃ…」
ミキ「いや、そんなはずはないの…確かに『大きく』するほど脆くはなる…」
ミキ「でも、今のは内側だけに『大きく』してた…押しのけなきゃいけない質量は変わんないし、むしろ締め付けられて力入んないはずなの!」
イオリ「うおおっ『リゾラ』っ」ヴォン
ガシィ!
拘束から解放されると同時に、イオリのスタンドに腕を触られてしまう。
響「!」プランッ
すると、神経が途切れてしまったかのように、腕が『緩んで』落ちてしまった。
イオリ「安心しなさいアンタ達! このイオリちゃんが腕を封じてやった…」
響「ドラァ!」ヒュガッ
イオリ「ごはっ!?」ブワァ
『オーバーマスター』が脚で『リゾラ』を思い切り蹴り上げた。イオリも宙に浮く。
響「ドララララララララララララララ」ズガガガガガガガガガ
イオリ「うぶぇ」ヒュパンッ
そのまま空中に放った蹴りのラッシュで、あっという間にイオリを砂に変えてしまった。
グッ パッ
手のひらを閉じ、開く。
美希「よし、治ったの」
マコト「オラァッ」キュイイン
美希「!」ギュン
ギィン!
息をつく暇もなく、『回転』する車輪が襲いかかってきて、受け止める。
美希「わっ」グラッ
受け止めた拳は『回転』に引っ張られ、軌道が逸れていく。
<LOCK!
美希「ドラァ」ヒュッ
だが、『ロック』はついた。そこに向かってもう一発攻撃を撃ち込むが…
キィン!
美希「わわわ」フラッ
それも弾かれてしまう。
マコト「そのスタンド、力は凄いみたいだけど…ボクの『ザ・バイシクル』は力じゃ倒せないよ」
美希「………」
マコト「オラァ!!」ゴォッッ
『オーバーマスター』に向かって車輪を振り下ろす。
キュイ…
クル クル
『リレイションズ』の眼で、『回転』の動きを捉えると…
美希「ドラァッ」ヒュ
ピキッ
マコト「え?」
バッガァァァァァン
マコト「うわああああああああああ!?」
拳で、車輪を粉砕した。
マコト「な、なんっ…何をしたんだ!?」
美希「そのスタンドの腕、すっごく『回転』してるケド…腕をその『回転』と同じように動かしながら攻撃すれば、回ってないのと同じなの」
マコト「何を言って…」
美希「ドララララ」ヒュン
バキィッ!!
マコト「くあああっ、ダメだ…!」サラサラ
バファッ!
もう片方の車輪も破壊すると、マコトは霧散した。
ヒュルルル
直後、美希達の後方から『糸』が飛んでくる。
美希「そこ」パシィ!
ミキ「うえっ!?」
しかし、『オーバーマスター』にあっさり掴まれた。
美希「ミキ達に不意打ちなんて通用しないよ。ミキと響と『リレイションズ』、目は3つあるから」
響「いや、目は6つでしょ」
美希「ドラァッ」グイッ
ミキ「ぎゃっ!」ギュン
美希は『マリオネット・ハート』の『糸』を思い切り引っ張り、ミキを振り回すと…
バキィッ!!
マミ「ぐぇっ」
アズサ「きゃ!」
マミとアズサに叩きつけた。
美希「そこの人に、ミキは任せらんないの」パッ
『糸』を放し、そのまま腕を下ろそうとするが…
ガッ
美希「ん!」
途中で引っかかって動かなくなった。
ヤヨイ「『ゴー・マイ・ウェイ』! 空間を『めくり』ました!」
美希「………」
やよいの『複製』が、左手で空間の切れ端を掴んでいる。『オーバーマスター』の右腕があった場所が、黒い空間に塗りつぶされていた。
美希「これは、千早さんが言ってた…」
順一朗「ここまでやるとは、正直言って予想以上だったが…しかし、こればかりは君達にもどうにもなるまい」
ヤヨイ「はいっ! 空間の中に閉じ込めちゃいましたから! いくら速くて、いくら強くたって、もうダメです!」
響「とか言ってるけど美希、どうする?」
美希「うーん、そうだね…」
ヤヨイ「よーし、もう片方の腕も『めくって』…」
美希「えい」ピンッ
ヒュ
ヤヨイ「?」パシッ
『オーバーマスター』が左手から何かを弾き飛ばす。ヤヨイはあっさりとそれを掴み取った。
ヤヨイ「おはじき?」
<LOCK!
ヤヨイ「あっ!」
ヤヨイの右手に『ロック』が浮かぶ。
美希「ドラァ!」ギュン
ヤヨイ「うごがっ」メキョア!!
ヤヨイが掴んでいる切れ端の中から、『ロック』の途中にあるヤヨイの顔に拳が叩きつけられた。
美希「『めくられ』た空間は二次元…そのままだと、動かそうとしてもどうにもならない」
美希「でも、三次元に向かっていく方向を決められれば…ミキの『ロック』なら、飛び越えていける。逆に、近づく手間が省けたの」
ヤヨイ「うぅ、空間を元に戻…」
美希「ドララララララララララララララ」ズゴボガガガギギ
ヤヨイ「うっ、ううううっ」メギャン
サラサラ
戻す暇もなく、ラッシュを顔面に受けて砂となってしまう。
美希「ふぅ」グッ
ピシャン
空間が元に戻る。位置を調整し、腕は1ミリも巻き込まれることはなかった。
ザッザッザッ
二人はゆっくりと順一朗に向かってくる。
ハルカ「順一朗さん!」バッ
その前に、ハルカが立ちはだかった。
ハルカ「いくら強くても…速くても…『アイ・リスタート』には…!」
ズ…
・ ・ ・ ・
『オーバーマスター』は既に、ハルカの真横にいた。
ハルカ「う…」
響「借りは、返すぞ」
ハルカ「うわあああああああああああああああああああああああああ」
パァン!!
ドサァ!
サラサラ
撃ち上げられたハルカは、すぐ傍に転がっている自分の抜け殻の上に落ち、砂に戻った。
順一朗(なんだ、これは…)
サラサラ…
順一朗「はっ!」
残った三人の『複製』が、砂に戻りつつある。
マミ「つよすぎる…」
ミキ「いくらやっても、無理なの…」
アズサ「こんなの『最強の三人』以外、いくら束になっても…」サラサラサラ
ザンッ
消えた。
順一朗「………」
美希「で?」
順一朗「バ…」
美希「いくらでも作れるんだよね、次は誰?」
順一朗「バカな…」
P「追いつめている…」
P「美希が! 響が! 会長を! 追いつめているぞッ!」
順一朗(『オーバーマスター』…確かに、こんなものは『最強の三人』でなければどうにもならない…)
順一朗(だが、レオンは彼女達に敗北している。一度敗北を認めた『複製』は二度とその相手に勝てない、呼び出したところで無意味だ)
順一朗(残りの二人だが…同じ人物は二人以上同時に『複製』できない。彼女達はまだ砂になっても精神を失ってもいない、『アイ・ディー・オー・エル』で再び生み出すことはできない)
順一朗(だが…)
美希「もう終わり?」
順一朗「はぁ、はぁ、はぁ」
響「降参するんだ。そうすれば、自分達も会長を傷つけないで済む」
順一朗「降参など…」
順一朗「するものか…私の理想があと一歩のところまで来ているのだ…もう、自分では止められないのだ…」
美希「そう…」
グッ
『オーバーマスター』が拳を握りしめた。
美希「だったら、ミキ達が止めてあげる」
美希「『リレイションズ…」
響「オーバーマスター!』
シュバァ!!
『オーバーマスター』の攻撃が、順一朗へと迫る。
P「見えないが、きっとこれが最後の攻撃…これで、全部終わ…」
スッ
P「…え?」
その人物は、ふらりと現れた。プロデューサーの横を通り抜け、美希達の方へ向かう。
スタスタ
クルリ
歩きながら、美希達を…『オーバーマスター』をも追い抜き、その前に立って、振り向く。
ピタ…
完全に動きが静止した『オーバーマスター』を…
「んあっ!」ボギャア
金色のスタンドが、殴り飛ばした。
美希「う…!?」ググ
響「は…!?」ググググ
殴られた二人は、ゆっくりと動き出し…
グォォォォォォォオ
美希「きゃあああああああああ!?」
響「うおおおおおおおおおおおおおおお!?」
P「美希! 響ッ!」
ズガガガガ!!
思い切り吹き飛ばされ、地面を転がった。
美希「な、何が…」
響「起こったんだ…?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
順一朗「間に合ったか…ユウ」
ユウ「………」
少年が、順一朗の前に立っていた。
間に合わないんで明日…
ユウ「どうやら、間一髪…と言ったところみたいですね」
ゴゴゴゴゴゴ
順二朗「彼女…? いや彼…か? あれは、いったい…」
P「こいつは、会長の家に行った時の…」
美希「千早さんの弟の『複製』…」
ユウ「………」
響「スタンドが『ブルー・バード』じゃあない…? いったい…」
ユウ「あんな不完全なスタンドとは違いますよ。これが、僕の本来のスタンド。『ブルー・バード・アルカディア』です」
順一朗「ユウ、助かった。君が来なかったら全て終わっていたかもしれない」
ユウ「たまたま近くにいて助かりました。『霧』が伝達手段として機能してませんから」
順一朗「ああ…天海君の『アイ・ウォント』の影響だろうな」
響「どうして、ここで戦ってることがわかったんだ…? 何か連絡取ってたようには見えなかったのに…」
ユウ「僕も『複製』ですから。『アイ・ディー・オー・エル』の発動も、順一朗さんの場所もわかりますよ」
響「初めて聞いたぞそんなこと…」
ユウ「まぁ、そうでなくとも駆けつけていたでしょうけど。あそこまで派手な音を出していれば…ね」
ユウ「しかし…」
シュゥゥゥゥゥ…
サラサラ
辺りには砂の山がいくつも積み上げられている。
ユウ「順一朗さんがあれだけ『複製』を作り出していたのに、誰も残っていないなんて…」
順一朗「ああ…レオンを倒したのだ、一筋縄ではいかないとは思っていたが…まさかここまでやるとは私も思わなかった」
ユウ「………」スッ
少年が、『矢』を刺されて抜け殻になってしまったハルカの傍で座り込む。
ユウ「危険視すべきは春香さんの『ジ・アイドルマスター』だけだと思っていましたが」ヒョイ
そして、近くに転がっている『矢』を拾い上げると…
ユウ「………」
ゴゴゴ
ユウ「高木さん、これを」スッ
順一朗「うむ」パシッ
少しの間それを見つめた後、順一朗に手渡した。
順一朗「やはり、自分で持っているのが一番安全だな」
ユウ「さて…あとは貴女達だ」ギロリ
少年は、美希達を睨みつける。
美希「その目…あの時、春香に向けてた目と同じだね」
ユウ「………」
美希「怒ってるの? 仲間がやられたから」
ユウ「………」
美希「そんなの、ミキだって同じだよ。みんなバラバラにされて傷つけられて、とっくにプッツン来てるの」
ユウ「………」
ゴゴゴゴゴゴゴ
美希「『リレイションズ…」
・ ・ ・ ・
美希「あれ?」
『オーバーマスター』が元の『リレイションズ』に戻っている。
美希「響?」
響「美希…」ザザッ
響は少年から離れていた。
ユウ「我那覇さんの方が冷静のようですね。意外と…なんて言ったら失礼でしょうが」
響「あいつ…と言うかあのスタンド、なんかヤバいぞ…」
美希「………」
P「俺にはスタンドは見えない…スタンドが違うと言われても、そもそも変わるものなのか? としか思えないが…」
ゴゴゴゴ
P「だが、あの子は…あの子から漂う雰囲気は前見た時と全然違う! それは俺の目でもはっきりとわかる!」
順二朗「それだけじゃあない…彼も見ていただろうが、その子は今決着をつけんとしていた君達の後ろから現れ、平然と回りこんでいったんだ! 君達の動きを止めてッ!」
ユウ「ええ。社長の言う通りですよ美希さん。隠す意味もないので言ってしまいますが、僕の『アルカディア』は近づくものすべての『時間』を『奪う』」
美希「………」
ユウ「『オーバーマスター』の事は僕も聞いています。けれど…貴女達が何をしようと僕には届かない。届かなければどんなに強い力を持とうと、どんなに速く動こうと、届かなければ意味はない」
美希「………」
ユウ「貴女ほどの『スタンド使い』なら先程の一撃だけでも理解できたでしょう? 貴女達では僕には勝てない」
美希「だから?」
ユウ「だから、って…」
美希「ボスが目の前にいるのに、ここで退くわけにはいかないの」
順一朗「ふむ」
響「でも、美希…」
美希「それに響」
響「なに?」
美希「近づくほど『時間』を『奪う』…そんな能力なら、どっちみちもうミキ達は逃げられないんじゃない?」
響「う、それは…」
美希「逃す気もないみたいだし…ね」
ユウ「そうですね。我々にとっての最大の不安要素は『ジ・アイドルマスター』でしたが、こうして『矢』を確保した以上…」
ユウ「貴女達はたった二人であれだけの『複製』を全滅させられる『スタンド使い』…危険すぎる」
ゴゴゴゴゴ
響「…腹、括るしかないか」
ザッ
美希と響が、少年の前に立ち並ぶ。
P「美希、響…」
美希「プロデューサー達は逃げて。誰かにこのスタンドのことを教えてほしいの」
P「逃げて、だって…? 俺達にお前らを見捨てて、逃げろって言うのか…」
順二朗「そうだ星井君、今の順一ちゃんに捕まったら何をされるか…」
美希「じゃあ、二人はなんかできるの? ケガしてるんじゃ尚更でしょ」
P「う…」
響「自分達が今負けたとしても…765プロは負けない。そのためにも…頼むぞ」
順二朗「美希君、我那覇君…」
P「………」
順二朗「…わかった。行こう、彼女達の気持ちを無駄にしてはいけない」
P「…はい」
ザッザッザ…
プロデューサーは足を怪我している順一朗に肩を貸して、去って行った。
ユウ「無駄ですよ。貴女達が足止めしてまで彼らを行かせたとしても全部無駄」
ユウ「教えるも何も、僕は元々隠す気もない。知られたところで、何も困りませんから。僕の『アルカディア』を倒せるスタンドは765プロにはいない」
順一朗「方便だろう。彼らを逃がすための…」
順一朗「しかし、残念だが…私にもすべきことがある。彼らは見逃してもいいが、君達を逃がすわけにはいかないな」
美希「逃げる気なんて…最初からないのッ!」
バッ!
そう言うと、美希は駆け出した。
ユウ「とりあえず向かっていけばなんとかなると…?」
美希「む…」フラ…
一歩も動いていない少年に近づくたびに、どんどん動きが遅くなる。
響「うおおおっ」ズザザザザ
順一朗「お!」
一方、響は美希の反対側に回り込み、少年の後ろにいる順一朗に襲いかかる。
ユウ「『オーバーマスター』ではなく別々に来るのですか。確かに、『アルカディア』に対してはそっちの方がいいでしょうね」
ユウ「まぁ…結果は同じですけれど」スッ
少年は美希に自分から近づいていくと…
ユウ「はっ!」ヒュッ
美希「んぐっ…!」グボァ
殴り飛ばす。
ユウ「何をするかと思えば。この程度ですか」
響「ドラ…」ググッ
順一朗「む、はや…い…」ノロ…
ユウ「高木さんが遅くなっているんですけどね」クルッ
スタスタ
そして、今度は響の傍まで歩いていき…
ユウ「ふっ!」ドォ
響「んがっ」ドンッ
その体を押した。
ユウ「無駄ですよ。自分でも逃げられないとわかっていたのでしょう? これくらいの距離なら、僕はいつでも追いつける」
美希「きゃっ!」ゴロゴロゴロゴロ
美希は『アルカディア』が離れたために『時間』が戻り、殴られた勢いを受けて転がった。
美希「!」
ユウ「見えますか、美希さん」
グググ…
響の体が崖の方へ少しずつ押し出されている。
順一朗「ユウ、これは…」
ユウ「大丈夫ですよ。彼女はそんなにヤワじゃあないでしょう」
美希「くっ!」タッ
美希はすぐに響のもとへ駆けつけようとするが…
ユウ「………」
美希「う…!」グググ
少年の周りにいるだけで、体の動きが遅くなってしまう。
ゴォォォォォォォ
ユウ「………」
美希(周りの時間の進み方が早くなってる…! こいつは何もしてないのに…)
響「うっ…ぐっ」グググ
響の体の動きも、少しずつ速くなっていき…
美希(間に合わない…!)
響「ぎゃっ…!」ブワッ
宙に放り出された。
美希「ああああああああああああああああああ」
ユウ「さぁ…どうします?」
美希「く…」グッ
『アルカディア』の射程から抜けた美希は、地面に触れると…
ギャァァァン!!
響を追うように、崖から飛び出した。
響「美希…!?」
美希「響、捕まって!」バッ
ガシッ
言われるがままに、響は美希の手を掴む。
ゴォォォォォオ
手を繋いだまま、二人は海へと落ちていく。
響「で、どうするんだ!? 岩場にはちょっと遠いぞ!」
美希「大丈夫」
<LOCK!
美希が飛び出す前に触れた地面に『ロック』が浮かび上がった。
美希「なのなのなのっ」ヒュババババ
『ロック』に向かって『リレイションズ』の拳を突き出す。飛べはしないが、『ロック』に引っ張られて崖の岩肌に近づいていき…
ガシッ
崖を掴んだ。
ユウ「着水の音がしませんね」
順一朗「ああ、では…」
グワッ!!
響「うおおおおおおっ」
スタッ!!
崖の下から、美希を背負った響が上がってきた。
順一朗「戻ってきたか…」
美希「あれくらいで、戻れないと思った?」
ユウ「いいえ。戻ってくることはできたでしょうね…」
ユウ「でも、そうする必要はない。戻ってきても、やるだけ無駄だとわかっていますよね?」
響「そうだな…」
ユウ「なら、何故貴女達は立ち向かおうとするのですか? 抵抗しなければ、僕も危害は加えなくて済むのに…」
響「諦めてないから」
ユウ「諦めていない…? 勝てないと理解しているのに?」
美希「確かに、ミキ達はキミには勝てないって思う」
ユウ「………」
美希「ミキはね…アイドルやっててイヤなコトとかメンドーなコトとかも、いっぱいあるの」
ユウ「…?」
美希「でも…楽しいからちょっとくらい我慢できる。ミキはアイドルが好き」
順一朗「……!」
美希「アイドルをやって、キラキラできるジブンが好き」
響「自分も。みんなと一緒に頑張ったり、ぶつかり合えるアイドルが大好きだ」
順一朗「く…」
美希「ミキは、それを諦めたくない! だから、戦うの!」
響「何もしないで失うくらいなら、無駄でもなんでも…最後まであがき続けるぞ!」
ユウ「う…」
順一朗「ううううう…!」
ユウ「た、高木さん…?」
順一朗「はぁ、はぁ…いや…大丈夫だ…」
ユウ「…貴女達に譲れないものがあることはわかりました。でも…」チラッ
倒れて動かないハルカの人形を見る。
ゴゴゴゴゴゴ
ユウ「僕達にだって、譲れないものはある。貴女達には、ここで終わってもらう」ゴゴゴゴ
美希「………」タラ…
響「ふぅ…っ」
ザッ
ユウ「!」クルッ
順一朗「む…?」
足音が聞こえ、少年は向き直った。
ザッザッザッ
ユウ「『霧』の奥から誰か来る…」
P「………」ザッ
響「え?」
順一朗「なんだ、君か…何しに戻ってきた?」
美希「プロデューサー、なんで…」
P「やっぱり、お前達を見捨てるなんて出来ないからな…まぁ、偉そうなこと言って俺にはやっぱり助けることなんて出来ないが…」
美希「!」
ザッザッザッ
P「でも、道案内くらいはできる」
プロデューサーの後ろを何者かが着いて歩いている。その姿は『霧』でぼやけて見えない。
P「あいつの能力は…」
「言わなくていい。知ってるから」
ユウ「…誰でもいい。僕が片付けます」
順一朗「まぁ、待て。君が行くまでもない」スッ
順一朗は『アイ・ディー・オー・エル』を取り出すと…
ジジジジ
ミキ「あふぅ」
イオリ「にひひっ」
二人の『複製』を作り出した。
ミキ「『マリオネット・ハート』!」シュルッ
「!」グルグルグル
P「あ…!」
『霧』の中の人物はあっという間に『糸』を巻き付けられ…
イオリ「あとは…」タタタ
そこへイオリが向かっていく。
イオリ「さぁ、アンタのスタンドを出しなさいよォーッ」
「………」
イオリ「出さないの? まぁ、出したとしても『リゾラ』でフニャフニャにしてあげるけどーッ」ヒュッ
『リゾラ』の手が迫る。
「気づかない? さっきからずっと出してんのに」
イオリ「ん…!?」ピタ…
『リゾラ』と一緒に、イオリの動きが空中で止まった。
イオリ「な、なによこれ…? 近付けない…」
シュゥゥゥゥゥ…
ユウ(『霧』が濃くなっていく…いや、あれは『霧』じゃあない)
「『スモーキー・スリル』」
ユウ(『煙』だ!)
ドグシャア!!
イオリ「かは…!」
空気に押し潰されたかのように、イオリは地面に叩きつけられた。
「やっぱ『偽物』は『偽物』よね」
スパッ
ミキ「え!?」
巻き付いていた『糸』が、突然切れてしまう。
「にひひっ」
スゥ…
『煙』が薄れて、中にいた人物が姿を表す。
ドドドド
響「あれは…! あのスタンドは…!」
ドドドドドド
響「真っ先にいなくなって、『偽物』と入れ替わっちゃった…」
「余計なこと言わなくていいわ、響」
ドドドド
美希「デコちゃん…!」
「デコちゃん…」
ドド
伊織「言うなっての、美希ッ!」バァーン
水瀬伊織が、そこにいた。
続きは明日
ドドドドドドド
伊織「随分と、好き勝手やってくれたわね。アンタが元凶なんでしょ?」
順一朗「水瀬君か。君のことだ、とっくに私がやっているということは知っていると思うが…」
伊織「…? アンタ…誰よ」
順一朗「ム…? おいおい水瀬君、忘れてしまうとは流石に酷くないかね。確かに、長らく会ってはいなかったが…」
伊織「違うわ。私の知ってる高木順一朗はどこか抜けてて、厳しいところもあって、でも誰よりもアイドルのことを考えてる憎めないオッサンだったけど…」
伊織「アンタはそうじゃあない、表面はテカテカなのに内側はドロドロに腐ったタマネギのような奴よッ!!」
順一朗「…私のことなど、どうでもいいだろう」
伊織「チ…」
順一朗「それより、君はこの島に来て以来ずっと暴れていたので、牢獄に閉じ込めていたはずだが」
ユウ「申し訳ありません、高木さん。脱獄を許しました。交戦の後だったので、捕らえることもできず…僕の失態です」
順一朗「いや、謝る必要はない。君は今私の助けに来ているのだ。あそこに君がいないのなら、どの道、彼女は逃げていたことだろう」
ユウ「………」
ユウ「しかし…わざわざこうして僕の前に現れるとは」
伊織「ま、ね…正~直言ってアンタとは顔も合わせたくもなかったけど」
P「すまん、伊織…」
伊織「だけど、コイツが美希と響がピンチだって言うじゃない」
美希「デコちゃん…」
伊織「だったら、このスーパーアイドル伊織ちゃんがなんとかするしかないでしょ?」
イオリ「なにが、スーパーアイドル伊織ちゃんよ」スクッ
倒れていたイオリが立ち上がってくる。
伊織「あら、まだ全然ピンピンしてるわね。『複製』ってヤツは無駄に頑丈でやんなるわ」
ユウ「水瀬さん、貴女はハルカさんに敗れて捕まっていたのでしょう?」
伊織「ええ、忌々しいことにね」
ユウ「助けに入る以前に、僕の前に辿り着けるのですか?」
伊織「やれやれだわ。ナメられたものね」
イオリ「ナメる? 事実じゃあないの、アンタなんて『最強の三体』が相手するまでもないわ!」ズッ
『リゾラ』を出して襲いかかる。
伊織「はぁ…」シュゥゥゥゥ
伊織の前に、『煙』が集まっていく。
イオリ「そんなもの、払ってやるわ!」バババ
ブワッ!!
『リゾラ』が腕を大きく振るい、『煙』を吹き飛ばすが…
・ ・ ・ ・
イオリ「え…」
キラ…
その中から漆黒の鎧が現れ、鈍く光った。
伊織「あのねぇ、いくらこの伊織ちゃんが強くて賢くてビューティフルでこの物語の主人公だったとしても…」
ゴゴゴゴ
伊織「一人でどうにかなると思ってるほど自惚れちゃいないわよ」
ミキ「ミキの『マリオネット・ハート』が切られた…流石に『スモーキー・スリル』にやられるほどヤワじゃあないの」
ゴゴ
ミキ「デコちゃん一人じゃない! 他にもいるッ!」
イオリ「うっ…」
ゴゴゴゴゴ
真「やぁ、久しぶり」ギギギ
黒い鎧が、真の片腕に集まっていく。
イオリ「ま…真…」
真「オラオラオラ」ドゴドガドゴ
イオリ「うばァーッ!!」
パァン!!
真に殴られると、イオリは溶けるように砂になっていった。
ミキ「こ、こんなあっさり…」
順一朗「菊地君は、一度彼女を破っている…これでは勝てないか」スッ
『アイ・ディー・オー・エル』で次の『複製』を作り出そうとするが…
響「ドラァ!」ヒュオッ
響がそこを狙って蹴りを放ってくる。
ユウ「順一朗さんには指一本触れさせ…」バッ
その前に、少年が立つが…
響「………」ピタ
順一朗「………」ピタッ
響と一緒に、順一朗の動きも止まってしまう。
美希「その、『アルカディア』…確かに強いケド、仲間もカンケーなく巻き込んじゃうね」
ユウ「………」
美希「一人だけの最強…『ジ・アイドルマスター』と同じ。孤独な能力なの」
ユウ「それが…なんだって言うんですか」
美希「なんか、かわいそうだなって」
グググ…
ミキ「『糸』が…『煙』に引っ張られて思うように動かない…!」
伊織「完全に止めるのは無理だけど、アンタのスタンドみたいなのにはよく効くでしょ? そんでもって…」
真「行くぞ」ヌッ
ミキ「ひっ」
ミキの目の前に真が近づいてきて…
真「オラオラオラオラオラオラ」
ガシャァァァァン
ユウ「!」
ミキの体は粉々に砕け散った。
真「………」
伊織「何を苦虫噛み潰したような顔してんのよ。やんなきゃいけないこと、わかってるでしょ」
真「ああ、わかってる…行こう」
ユウ「この二人も侮れないか…」ドガッ
動きの止まった響を殴り飛ばす。
響「うわ…!」ブワッ
美希「っとぉ!」ガシッ
ズザザザザザ
美希は加速する前に響を受け止め、崖スレスレで止まる。
スッ
ユウは順一朗が動ける程度まで距離を取った。
ユウ「順一朗さん、『複製』は作らなくていいです。と言うより、この距離では恐らく誰を出したところで無駄でしょう」
順一朗「む…そうか」パッ
『複製』が中断され、『アイ・ディー・オー・エル』が順一朗の手から消える。
伊織「あら、自分からやめちゃうわけ? ま、賢明な判断よね。アンタも仲間がやられるのは見たくないでしょ」
ユウ「で?」
伊織「………」
ユウ「何人来ようと同じことですよ。『ジ・アイドルマスター』のような規格外ならともかく、雑輩のスタンドが何体集まろうと僕の敵じゃあない」
伊織「アンタの敵じゃない? 何を偉そうに。強いのはアンタのスタンドでしょうが」
ユウ「…ええ、そうですね。ですが、現実誰も僕の『アルカディア』には敵わないでしょう」
伊織「………」
ユウ「水瀬さんは、能力は知っていますよね。誰も僕に近づくことは出来ないし…貴女の脱走も何度も止めたこともある」
伊織「そうね。どうあがいても逃げられなかったし、あれには参ったわね」
ユウ「それがわかっていて、どうしてここに来たのですか!? 彼女達を助けようだなんて、そんな考えは無駄だ!」
伊織「はぁ。無駄なんて言葉はね…」
ユウ「?」
伊織「とっくに聞き飽きてんのよ私はッ! 近づけないなら…真!」
真「オラァッ!」グオッ
ドスゥ!!
真が、『チアリングレター』の拳を地面に撃ち込んだ。
ビキビキビキビキ
崖にヒビが入り、どんどん広がっていく。
P「そうか、近づけなくても足場を崩してやれば…! だが…」
ビキビキビキ
美希「ちょっ、真クン…」
P「美希達がまだそっちに残ってるぞ!?」
響「が、崖が崩れる…逃げるぞ、美希!」ガシッ
響は美希の体を掴んで、安全な場所まで逃げようとするが…
ユウ「逃げる必要、ないですよ」
ピタ…
P「なに…」
ユウ「こんなことをしても、無駄ですから」
崖は崩れることなく、その場に留まっていた。
P「あの子に近づくものは、全て止まる…」
P「足場を崩そうとしても、崖の方が止まってしまうのか…!!」
伊織「ま、こうなるわよね」
ユウ「?」
ブワァァァ
ユウ「!」
『スモーキー・スリル』が、繭のように少年を包んだ。
伊織「近づくほど止まるって言っても、ある程度は近づけるわ」
ユウ「『煙』が僕の周りに…」
モクモクモク…
少年の視界を、『煙』が覆い尽くす。
伊織「どう? 何も見えないでしょ」
ユウ「………」
ユウ「それが…一体なんです? 僕の視界を奪ったところで、それで何か変わるんですか?」
タタタ…
ユウ「これで、美希さん達を逃がすつもりですか? しかし、僕は『複製』だ…足音もその振動も人一倍伝わっている」タッ
少年は、逃げようと動く美希達を止めに向かう。
ユウ「無駄ですよ、全部無駄! 貴女達のやっていることには、何の意味もないッ!」
伊織(………)
順一朗「ユウ、落ち着きたまえ。彼女達はまだ何か考えている」
ツーッ
ゴゴゴゴ
『穴』が、背後から順一朗に迫っていた。
順一朗「………」
伊織(よし、スキだらけよ…行け、雪歩ッ!)
順一朗「と、ここらで萩原君が来るのかね?」クルッ
伊織「!」
順一朗は突如振り向いて、近づいてくる『穴』を見据えた。
ユウ「そちらは…大丈夫ですね高木さん。他の人は僕がどうにかします」
順一朗「菊地君がいるということは、萩原君もいるはず…『ファースト・ステップ』だったか? 全部知っているさ。姿を現さない以上、こうして私を狙ってくるであろうこともな」
真「駄目だ雪歩! 全部バレてる、逃げろッ!」
ズズッ
真の呼びかけにも反応せず、『穴』はそのまま順一朗に向かっていく。
順一朗「出てくるところに『アイ・リスタート』をぶつけるか…それとも『ゴー・マイ・ウェイ』で穴ごとめくってしまうか…」
ズズズ
順一朗「何にしても、この距離はいい。逃げるには近すぎるし、攻撃をするには遠すぎる」
伊織「雪歩!」
順一朗「萩原君が私に何かするよりも、『アイ・ディー・オー・エル』で『複製』を生み出す方が早いッ!」
ヒュパッ!!
順一朗「何!?」
その時、『穴』の中から赤い液体が飛び出してきた。
順一朗「なんだこれは…? だが、こんなもの簡単に避け…」スッ
ククッ
順一朗「うっ!?」スパァ!
赤い液体は、順一朗を追いかけるように軌道を変え、頬を切った。
伊織「よしッ!」
真「成功だ!」
ユウ「え…? 何が起きたんですか、高木さん!? くっ、見えない…」
ツーッ…
伊織「あら。頼んだわ真」
順一朗の頬を切った赤い液体は、そのまま伊織に向かって真っ直ぐ進んでくる。
真「よっと」グシャ…
それを押し潰すと、地面に染み込んで止まった。
順一朗「なんだ、今のは…私に向かって飛んできたが…」
伊織「『リビング・デッド』よ、私の血から作った。アンタじゃなくて私を追いかけてきたのよ。私がアンタに合わせて動いて、誘導したの」
順一朗「『リビング・デッド』…? なんだそれは、スタンドの名前か…?」ツーッ
伊織「ま、アンタは島に連れてきたヤツのスタンドなんて、いちいち全員分覚えてないでしょうね。使えないヤツがほとんどだもの」
伊織「さて…本人がいないんで言わせてもらうわ、『リビング・デッド』。今度は正真正銘アンタのものよ」
ポタッ
順一朗の頬から流れた血が、地面に落ちた。
スパッ!
順一朗「うぐ!?」ブシュ
自身の『血』が順一朗の足を切り裂いた。
ユウ「高木さん! 一体何が…」
順一朗「わ、私の『血』が…私に襲いかかる…!」
ポタッ
ズズズズ
順一朗「ぐああ…!」ブシュ
『血』が傷を作り、そこからまた新たな『血』を生み出していく。
ユウ「何に襲われているんだ…? なんでもいい、『アルカディア』で止めなきゃ…」バッ
少年は順一朗の方へ向かおうとするが…
響「伊織!」タタタ
ユウ「はっ!」
その間に、響達は伊織達のいる場所まで合流した。
ピタ…
少年が順一朗の近くまで行くと、順一朗ごと『血』の攻撃は止まった。
ユウ「数が多すぎる、なんだこれは…?」
スゥ…
ユウ「この『煙』が邪魔だ…!」シュバァ
腕を振るって吹き飛ばそうとするが…
グググ
『煙』は『アルカディア』の能力のせいで時間差で動いている。
ユウ「すぐに…飛んでいかない…!」
ブワァ
モクモクモク
『煙』は吹き飛ばされる前に、次々とまとわりついてくる。
ユウ「どうするつもりですか…」
伊織「逃げるわ。アンタ自身はどうにもならないことには変わりないもの」
ユウ「待て、逃さない…! 僕の『アルカディア』から、逃げようだなんて、そんなこと…」
美希「追ってきていいの? キミが離れたら会長はまた『リビング・デッド』に襲われるって思うな」
響「それだけじゃあないぞ。崖だって崩れる…」
ユウ「くっ…」
伊織「アンタの『アルカディア』は強い。どうしようもない、倒す手段なんて何も思いつかないくらい」
伊織「でも、どんなに強いスタンドを持っていたって、アンタは所詮一人よ。一人で出来ることには限界があるわ」
真「…行こう、みんな」
ザッザッ
ユウ「ま、待て…! 待って…」
ザッザッ…
足音が、少年から離れていく。
スゥ…
やがて『煙』も消え去った頃、少年と順一朗以外、誰もそこには残っていなかった。
………
順二朗「おお、君達! 無事だったか!」
伊織達が逃げてくると、森の中に両手に木の枝を持った順二朗がいた。
P「社長、何をやってるんですか?」
美希「仮装?」
順二朗「いや、足手まといにならぬようここにいたのだが…誰かに見つかるかと思ったら気が気でなくてな。どうかね? 上手く擬態できているだろうか?」
P「は、はぁ…」
響「それにしても…ほんと助かったぞ、伊織! 真! 雪歩! ありがとう!」
雪歩「はぁ…っ…うん、どういたしまして」
真「お疲れ、雪歩」
伊織「お手柄だったわよ、雪歩!」
響「でも…みんながあんなに頑張ったのに、逃げることしかできなかった…」
美希「そうだね。あと一歩のところだったのに、結局、会長を逃しちゃったの…」
伊織「あら? アンタ達まさか、私達がアンタ達を逃がすためだけにあんなことやったと思ってんの?」
美希「?」
伊織「雪歩、ちゃんと取れたわよね?」
雪歩「うん、バッチリだよ」スッ
雪歩がプラスチックのケースを伊織に手渡す。
伊織「これ、何かわかる?」
ズルッ…ズズズズ
響「うげ!? これって…『血』? 動いてる…」
伊織「会長の血から出来た『リビング・デッド』よ。ケースの中に閉じ込めておいたわ」
真「閉じ込めたのは雪歩だけどね」
伊織「とにかく…会長の方に向かって動くコンパスみたいなものよ」
美希「あ、それって律子…さんが言ってた!」
P「じゃあ、これがあれば…!」
順二朗「順一ちゃんがどこにいようと見つけられるというわけか!」
真「はい。あのユウってヤツだって、四六時中一緒にいるわけじゃないし…他のみんなも集まれば、何かいい方法が見つかるかもしれない」
伊織「そしたらどこへ逃げようが…果ての果てまで、追いかけてあげるわ。にひひっ♪」
To Be Continued…
あ…あした書いて…やらあ!
だめでした…来週土曜で…
ヒュゥゥゥゥゥ
崩れた崖の上に、順一朗達は取り残されていた。
順一朗「逃したか…」
ユウ「申し訳…ありません」
順一朗「いや、謝るのはこっちの方だ。私の油断で逃げられたようなものだからな…君一人ならばそんなことはなかったはずだ」
ユウ「ですが…」
順一朗「『矢』は回収した。一番危険な目は消えた、それで充分だ」
ユウ「しかし、『リビング・デッド』と言いましたか…逃げる時に高木さんの『血』を回収しているなら、もう高木さんの居場所は彼女達に筒抜けになる」
順一朗「ふむ…となると、逃げた彼女達は集まって、より希望を持って立ち向かってくることになる…」
ユウ「…『風花』を使いましょう。もう手は抜かずに一気に殲滅すべきかと」
順一朗「なに? いやいや、あれを使えばどうなるかは想像できるだろう、君…」
ユウ「あれを使うのが一番手っ取り早いです。それに、思っているようなことにはならないでしょうし」
順一朗「…不安なのかね? 彼女達が、君を上回るのではないかと」
ユウ「僕の『アルカディア』は無敵です。765プロの全員がまとめてかかってきても、負けはしない」
ユウ「しかし、みすみす合流を許す必要もない。集まれば、もう対抗できるのは僕と『最強の三人』の残り一人…彼女くらいになってしまうかもしれません」
ユウ「彼女達は本当に強いです、僕だって完全な護衛ができるとは言えません。本気で行かなければ、貴方の理想も潰えてしまう可能性すらあるでしょう」
順一朗「…わかった。君の言う通りにしよう」
ユウ「ありがとうございます。高木さん」
順一朗「そうなると地上にはいられんな…『シークレット・コーラル』を使って地下のルートを通るとしよう」
ザッザッ
順一朗はそう言って少年の先を歩いて行く。
ゴゴゴゴゴ
少年の手の中に、布で包まれた小さな欠片がある。
ユウ(僕や彼女が負けることはない…しかし、彼女達の標的は高木さん)
ユウ(この人が負ければ、私達『複製』は全て用済みになる。もちろん、そうはさせない…けれど、彼女達は本当に強い)
ユウ(もしも…もしも彼女達が『風花』まで攻略するようなら、その時は…)スッ
それを、順一朗に見えないようポケットの中に入れた。
………
……
…
美希「………」
響「………」
雪歩「み、美希ちゃん…響ちゃん…?」
美希「………」
響「………」
雪歩「ど、どうしたの…? なんか、深刻そうな顔…」
P(無理もない…あそこまで追い詰めたのに、たった一人にひっくり返されたんだ。レオンを倒して手に入れた『矢』も奪われてしまったし…悔しいだろうな…)
響「よし、それじゃさっさとみんな集めて会長をぶっ飛ばすぞ!」
P「って、ありゃ」
伊織「元気そうね、安心したわ。これからって時にウジウジされてたんじゃ面倒だもの」
美希「そんなヒマないの。あの会長とチビっ子をギャフンと言わせてやらないと!」
順二朗「うむ、元気で頼もしい限りだ!」
P「あ、社長。足は大丈夫ですか?」
順二朗「ああ、菊地君のお陰でね。いやはや、凄いなスタンドと言うのは」
真「治ったんじゃなく、『固めて』塞いでるだけですから気をつけてくださいね。完全に治すにはやよいと合流しないとなぁ…」
響「でも、どうやって他のみんなを見つければいいんだろ…」
美希「真クン、牢獄には他に誰かいなかったの?」
真「765プロのアイドルで、牢獄に捕まってたのは伊織だけだったよ。ボクと雪歩は宿泊施設にいたんだ」
伊織「私だって好きで捕まってたワケじゃあないわよ」
響「春香達もいなかったの? それじゃ、みんな逃げられたのかな」
雪歩「他の宿泊施設に行けばいいんじゃ?」
真「どう、だろうなぁ…ボク達と同じように、みんな別々に動いてるような気がする…」
伊織「だからよ。こういう時は一箇所に集まるべきなのよ、それなのにみんなバラバラに動いてたんじゃあいつまで経っても合流なんて出来ないじゃないの!」
真「まぁまぁ」
美希「律子の『ロット・ア・ロット』が使えればいいんだけど」
響「無理だぞ。最初に試したけど、出しても出してもこの『霧』に破壊されちゃうみたい」
P「結局は、この『霧』か。どうすればいいんだろうな、別に直接襲いかかってくるわけじゃあないが…」
ザンッ
P「…ん?」
プロデューサーの肩に、氷の『花びら』が突き刺さっている。
P「なに…」ジワ…
氷は体温で溶け、空いた傷口から血が滲み出す。
ヒュゥゥゥゥゥゥ
P「ッ!?」
そして、続けてプロデューサーへと何枚もの氷が降ってきた。
響「ドラァッ!!」バヒュゥ
パキィィン
響が飛び上がって蹴りを放ち、軽く砕いた。
響「なんだ、『霧』が攻撃してきた!?」
美希「しかも、プロデューサーに向かって…」
バラッ
美希「!」
ズザザザザッ
雨のように、鋭い氷の刃が無数に降り注いでくる。
伊織「違うッ! 無差別よ! 無差別に攻撃してきた!」
美希「なのなのなの」ヒュンヒュン
響「ドラララララ」ズバババ
FS「雪歩、コノ中ニ」ヴォン
雪歩「う、うん」スッ
真「『ストレイング・マインド』…」パキパキパキ
殴って叩き落したり、『穴』の中に避難したり、『鎧』を纏ったり…各々、別々の方法で迎え撃つが…
順二朗「うおおっ」ザクッ
P「ぐあ…!」ズバッ
『スタンド使い』でない二人は身を守ることができず、切り裂かれていく。
伊織「ち…真!」
真「オラァ!」ガッ
メキメキメキ
真が近くの木から皮を剥がし…
伊織「『スモーキー・スリル』!」ブワッ
伊織がそれを『煙』で受け取ると、傘にした。
伊織「ほら、この下に!」
P「あ、ああ」
順二朗「すまない…」
プロデューサーと順二朗が傘の下に入ってくる。
伊織「謝るのなんてどうでもいいから、身を守ることだけ考えなさい!」
美希「ふぅ、助かったの」
響「これ全部防ぐのは流石に無理だぞ…」
美希と響も、次々と集まってきた。
ガガガガガ
『花びら』が木の皮を引っ掻くが、傷一つつかず弾き飛ばす。
伊織「『ストレイング・マインド』で『固く』なってるわ。これならしばらくは保…」
ザシュ
伊織「デッ!?」ブシュ
氷の刃は斜めや横方向からも飛んできて、伊織の腕を切った。
伊織「上だけじゃ…防ぎきれない…!?」
ヒュン ヒュン
横や斜めからの『花びら』が、傘の下にいる伊織達に向かって飛んでくるが…
パキィィィィン
伊織「!」
伊織の足元に動いてきた『穴』が中から氷を飛ばし、降り注ぐ氷を相殺した。
雪歩「大丈夫!?」ヴォン
雪歩が『穴』の中から出て、傘の下に入ってくる。
伊織「え、ええ。助かったわ」
ビュォォォォォ
響「くそっ、でもきりがないぞ!」
順二朗「『霧』だけに…かね?」
P「言ってる場合ですか! まるで吹雪だ!」
美希「………」カシャ カシャ
美希が、『リレイションズ』の目を光らせ…
美希「あっちに洞窟があるの、ひとまずあそこに隠れよ!」
岩肌に穴があるのを見つけ、指差した。
ダダダダダ
全員で足並みを揃えながら横穴に向かって走る。
ガリガリガリ
氷の『花びら』は、風景の木や岩などにも容赦なく襲いかかり削り取っている。
伊織「うおおおお島の形が変わっていくッ」
順二朗「ぐ、足が…」ズキン
順二朗の足が痛み、移動スピードが落ちた。
雪歩「『ファースト・ステップ』!」ヴォン…
ポポポポッ
雪歩が前方の『穴』を作り、その中に氷を閉じ込める。
真「オラオラオラオラ」ガリガリガリ
傘の外にいる真が、周りから来る氷を壊す。
順二朗「あ、ありがとうみんな」
真「ゆっくりでいいです! でも急いであの中に!」
響「おおおおおおおおおっ」ダダダッ
バッ
全員が横穴の中に入ると…
伊織「そりゃっ!」パタムッ
木の皮で蓋をした。
順二朗「はぁ、はぁ…」
ガリガリガリ
雪歩「ひっ」
氷の刃が木の皮を引っ掻いている。
真「大丈夫…ボクの能力で『固く』してる。傷をつけるのが目的のあの形状なら、そう簡単には破れないよ」
P「暗いな…明かりを点けよう」パチッ
懐中電灯で中を照らす。
P「ぐ、肩が…」
真「あ! プロデューサー、今止血します!」
ガガガガガ
外からの攻撃は絶え間なく続いている。
P「な、なぁ、本当に大丈夫なのか…? 元は薄っぺらい木の皮だろ…?」
真「デカい氷とか使って、強い力で叩かれたりしたらヤバいかもですけど…」
響「島全体を覆うスタンドだぞ、そんな器用なこと出来ないし力もないって」
美希「だからあの形なの。切られたり刺さったりしたら危ないケド、パワーはゼンゼンないってカンジ」
真「しかしなんだって、こんな無差別に攻撃してきたんだ? これじゃ、会長達だってタダじゃあ済まないんじゃないかな…」
順二朗「この島には、建物もここのような穴も地下道なんかもたくさんある。他の者は皆隠れているのだろう」
真「そうなんですか。でも、あのユウってヤツは平気だろうな…まだ外にいるかも」
雪歩「そ、それじゃ『霧』の中を歩いて私達を狙ってくるかも…!?」
伊織「どうでしょうね。こっちが会長の居場所がわかるってこと、アイツらは気づいてるでしょ。こっちは会長さえ倒せば勝ちなんだから、アイツもそれを防ぐためにまだ会長の近くにいると思うわ」
雪歩「そっか、そうだよね…」
響「この氷、島に来る時は真っ直ぐ向かってきたよね? なんで今回は島全体に攻撃してるんだ? スタンドパワーの無駄じゃあないか?」
美希「『アイ・ウォント』…じゃないかな」
響「『アイ・ウォント』?」
P「それって、確か…春香のスタンドだよな? 曲名だし」
美希「うん。この『霧』って、デコちゃんの『煙』みたいに、動きを感じ取れるんだよね?」
P「ん、『煙』…?」
美希「『六感支配』を使ってそれを感じなくされたりいじられたりしたら、少なくとも春香の正確な位置はわからなくなるでしょ? 島に来る時もそうされたんだし」
響「そっか。この規模だ、いちいち個別に狙うのも逆に神経を使うかもね。だったら春香を取り逃がす可能性もあるし、無差別攻撃した方が楽ってことか…」
真「春香だけでも無事なら…『矢』さえ取り戻せば、『ジ・アイドルマスター』という逆転の切り札が使える。それを防ぐため…か」
伊織「で、これからどうする?」
美希「…本体もどこにいるかももわからない、探しに行こうにも外は氷の雨…すっごいピンチかもね」
雪歩「で、でも、この中にいれば安全だよ」
伊織「ここには水も食料もないし、暗いしジメジメして気持ち悪いわ。いつまでも中にいるわけにもいかないでしょ、閉じ込められてるのと同じよ」
雪歩「それは…」
響「少なくとも、自分達の体力がなくなるまで攻撃は続くだろうな…これはこれで会長の思う壺か…」
伊織「…真。外に行って本体を探してきて」
真「え?」
伊織「アンタの『ストレイング・マインド』なら外に出ても平気でしょ」
真「行けない…」
伊織「は?」
真「ボクが行ったら、『ストレイング・マインド』の能力が消えるだろ。いくらこの氷にパワーがないって言っても、『固く』してない木の皮くらいは破ってくるよ」
伊織「だったら、代わりに岩かなんか持ってきて塞ぐわよ」
真「さっき、島の景色が変わってるのを見ただろ? しばらくは保つかもしれないけど…岩程度、いずれ破壊される」
伊織「それくらい、私たちでなんとかするわ。壊されても次運んでくればいいのよ」
真「いつまで? ボクが本体を倒すまでか? そもそもボクは本体の居場所もわからないんだぞ!?」
伊織「じゃあ、どうすんのよッ!」
雪歩「い、伊織ちゃん落ち着いて…」
伊織「雪歩は黙ってなさい!」
雪歩「うぅ…ひどい~…」
美希「ミキはデコちゃんが間違ってるって思うな。真クンが出て行っても、無理なの」
伊織「…美希、アンタにはなんかいい考えでもあるわけ?」
美希「それは今考えちゅー」
伊織「アンタねぇ…はぁ、でも確かにコイツが行ったところで無駄か…」
P「…なぁ。ちょっといいか?」
伊織「? なに?」
P「伊織のスタンドって、『煙』なんだよな?」
伊織「そうだけど、それがどうかしたの?」
P「俺は『スタンド使い』じゃあないから伊織のスタンドは見えないんだけどさ」
伊織「はぁ、言いたいことあんならさっさと言いなさいよ」
P「だったら、なんでこの『霧』や降ってくる氷の『花びら』は見えるんだ…?」
伊織「!」
順二朗「む、言われてみれば確かにそうだな。スタンドにも見えるものと見えないものがあるのかね?」
響「島に来る前は、見えるって言われてもそういうもんだって思ってあんまり気にしてなかったけど…これってどういうことなんだ?」
美希「確か、写真にも写ってたの」
雪歩「見えるスタンド…」
伊織「鈴木の『ワールド・オブ・ペイン』…あれも肉眼で見えるわ。元は人の『血』だから…」
真「ってことは、この『霧』も…もしかしたら、元になるものがあるってことか!?」
美希「『霧』だったら、やっぱ霧が元ってコト?」
響「島の外はカンカンに晴れてるぞ。霧が発生するとは考えられないんじゃないか?」
真「だったら、スタンドを使って発生させている…のか?」
雪歩「『霧』って、水からできてるんだよね? じゃあ…」
伊織「水…本体は、水場の近くにいる…? じゃなかったら、少なくとも新しく『霧』を作ることはできない…」
美希「きっとそうだって思うな。そうでもないのにこんな規模のスタンドを操るなんて、精神力がすっごくスゴくないとできっこないの」
真「いや、ダメだ…水場って言ったって、島なんだから海に覆われている。海岸を回るなんて、何日かかるか…」
響「海岸…なのか? 外から見た時、『霧』はちょうどスッポリ島を覆う感じだったぞ。わざわざ偏らせてるの?」
伊織「島の端にいて、ちょうど全体を覆うようにしたら、濃い場所薄い場所はハッキリ出るでしょうね。この規模の『遠隔操作』でそんな繊細なコントロールはできないもの。それなら濃い場所に本体がいるわ」
美希「でも、ミキが写真見た時はそんな場所なかったの」
雪歩「あの、社長。さっき、島のことを話してましたよね。詳しいんですか?」
順二朗「ああ…この島に連れてこられた時、順一ちゃんに案内されたのだ。その後、彼に反発して閉じ込められたが…」
雪歩「じゃあ、島の中に水のある場所は…」
順二朗「島の中心部にも水場はある…」
響「そこだッ! 本体はきっとそこにいる!」
順二朗「だが…」
響「?」
順二朗「水場があると言っても、一つ二つではないぞ。この島には様々な施設があるから、その分あちこちにあるのだ。天然のものも合わせると、ゆうに10は越える…」
真「10…それくらいなら、ボクが出て虱潰しに行けば…」
雪歩「でも、そんなにあるんなら本体さんも一箇所にいないで移動するかも…」
真「あ!」
順二朗「それに、水場にいるとも限らないだろう。島には地下水も通っているのだ、何らかの手段でそこから『霧』を作っているなら…」
伊織「『霧』の様子から海岸じゃあなく中心部にいるってことは確かでしょうけど…ちょっと範囲が広すぎるわね」
順二朗「第一、歩いていくのかね? 行けない距離ではないが、海岸のすぐ近くのここからだと、それだけでも1時間はかかる。菊地君は平気らしいが、この吹雪の中だ。それ以上かかるかもしれない」
真「でも…だったら、どうすれば…」
美希「何もしなくていいって思うな」
真「な、何もしない!? 何言ってるんだよ、美希!」
ブゥン
人工衛星のようなパネルとカメラのついた緑色の箱型スタンドが一つ、洞窟の中に出現する。
美希「だって765プロは、ミキ達だけじゃない…でしょ?」
…
……
………
チャポ…
銀髪の令嬢…貴音の『複製』が、水辺に足をつけている。
サァァァァァ…
そこから『霧』が発生し、既に漂っている空気の中へと溶け込んでいく。
バキ…
タカネ「おや? この感触…」
タカネ「律子嬢が『ロット・ア・ロット』を使っているのでしょうか? はっきりとはわかりませんが」
タカネ「まぁ、いいでしょう。仮にそうだったとしても、そちらに気を遣うよりは天海春香を取り逃す方が恐ろしい」
ビュオオオオオオオ
『霧』の中で氷の『花びら』が縦横無尽に駆け巡っている。『霧』の濃いタカネの近くでは、隙間もないほどだった。
タカネ「余りに目に余るようであれば、こちらも何か手を打たせてもらいますが…」
タカネ「問題ないでしょう。永遠に続く『風花』から逃れる術はないのですから」
すみません駄目です
来週です
すみません、まだ時間かかります…
次スレです。このスレが埋まったらこっちに続きます。
千早「『弓と矢』、再び」その3
千早「『弓と矢』、再び」その3 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1474043666/)
タカネ「おや…皆、洞窟の中に隠れてしまいましたか」
タカネは『霧』から伝わる感覚から、行動を読み取っている。
タカネ「天海春香の居場所は感じ取れませんが…まぁ、彼女も同じでしょう。『アイ・ウォント』ではこの吹雪の外を出歩くことなどできませんから」
タカネ「しかし隠れていては、私を見つけることなど永遠に不可能。食事などで体力の補給もできない。所詮、その場凌ぎにしかなりません」
タカネ「一方、『複製』である私は無休で攻撃を続けられる。仮に外に出られる者が…菊地真の『ストレイング・マインド』がそうでしょうか…いたとして」
パキ…グオッ!
タカネの近くで、削り取られた木が自重に耐え切れず、倒れていく。
ザザザザッ
パラパラ…
木は地面に落ちる前に、氷の『花びら』によって粉々に切り裂かれた。
タカネ「ふふ…果たして私の下まで辿り着けますかね…?」
タカネ「さぁ、いかがなさいます? 765プロの皆様方」
………
……
…
ジーッ
『衛星』にくっついたレンズが、美希達を見ている。
美希「『ロット・ア・ロット』…やっぱり見つけてくれたの、律子!」
律子『さんをつけなさい。無事なようで安心したわ、美希』
『衛星』の中から律子の声が聞こえてきた。
順二朗「なに? 律子君がどうかしたのかね?」
律子『! 社長ですか!? 本当に生きていたんですね』
伊織「『ロット・ア・ロット』を通した声じゃ、聞こえないわよ」
P「恐らく、律子のスタンドがここに来たんですよ社長。スタンドを通して会話ができるらしいです」
順二朗「そんなことができるのか…他の者に聞こえる声が聞こえないというのは寂しいものだな…」
律子『伊織、あんたも無事だったようで…』
伊織「今は世間話なんてしてる場合じゃあないでしょ?」
律子『…そうね。その通りだわ』
伊織「そっちはどうなってんの? そっちはモニターで見えるんでしょうけど、こっちからじゃあ何も見えないわ」
律子『そっちの状況と大体同じよ。とんでもないスタンドね…あの「霧」は』
真「律子、よくここまでスタンドを持ってこれたね」
律子『ええ、今は「霧」の攻撃が無差別になってるでしょう? だったら逆に、「霧」に狙われていた「ロット・ア・ロット」へのマークは薄れてるんじゃないかって思ってね』
雪歩「それなら、もしかして本体も見つけてたり…?」
律子『いや、まだそこまではわかってないわ。あんた達を真っ先に見つけたのよ』
雪歩「そうなんですか…」
律子『この島は広い…あんた達を見つけられただけでも幸運だったわ』
美希「律子…さん。さっきみんなで話してたんだけど、もしかしたら本体がいるかもしれない場所がわかったの」
律子『え、本当!?』
美希「うん。この『霧』って、『スタンド使い』じゃなくても見えるみたいでしょ? それでね…」
………
律子『なるほど、水場か…確かにこの射程距離でこの激しさ、何か別の物の力を借りていると考えるのが妥当ね』
伊織「アンタの『ロット・ア・ロット』なら調べられると思うんだけど。どう?」
律子『まぁ…私しか出来ないわね。わかったわ、やってみる』
真「よしっ! 居場所がわかったらすぐに教えて、とっちめに行くよ!」
響「…ねぇ、律子」
律子『? 何、響』
響「さっきから律子の声しか聞こえないけど…他のみんなは?」
律子『………』
響「まさか…」
貴音『いえ…ここにいます』
響「あれ? なんだ、いたんだたかね」
貴音『ええ。私だけでなく、亜美と真美も…』
響「いるなら、声くらい出してほしいぞ。律子とたかねと真美と亜美と…他は?」
貴音『…いえ。ここにいるのは4人だけです』
伊織「他は、やよいとあずさと千早と…それから春香ね。あいつらのことだから、無事だとは思うけど…」
真「貴音…元気なさそうだけど、何かあった? ケガしたとか…」
貴音『いえ、私は…ケガは、ないです』
真「…?」
律子『とにかく、本体を探すわ。一旦、通信切るわね』
雪歩「え? なんでですか?」
律子『集中しないといけないから。繋げっぱなしだとそっちに気回さなきゃでしょ?』
貴音『………』
伊織「…任せて、いいのよね」
律子『ええ、任せて。絶対に本体を見つけてみせるわ』
フッ…
『ロット・ア・ロット』が消える。
響「なんか…ヘンじゃなかった? あっち…」
伊織「変でも何でも、律子に頼むしかないわ…あの中を宛てもなく彷徨うなんて真似は私たちにはできないわ」
ガガガッ
ポロ…
P「ちょっ、なんか入り口が崩れてきてないか!?」
真「そんなバカな、入り口のフタは最高の硬度を持ってるんだぞ!?」
雪歩「もしかして、洞窟の壁の方が削られてるんじゃ…」
美希「律子…」
………
……
…
律子「よし…それじゃ、やるとしますか」
仄かに明かりの差し込む洞窟の中で、端末のパネルが光っている。
律子「あいつら、今は無事みたいだけど…急がないと、どうなるかわかんないわね」
貴音「律子嬢…」ググ
律子「貴音、起きないで寝てなさい。あんたが休まないなら、あいつがバテた後誰がここを守るのよ」
亜美「オラオラオラオラオラオラオラオラ」バキバキバキバキ
入り口で、亜美の背中から伸びる六本の『右腕』が、襲いかかる『花びら』を次々と叩き落としている。
真美「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…」
地面には疲れ果てた真美が寝転がっていた。
貴音「やはり、助けを呼ぶべきだったのでは…」
律子「あっちもいっぱいいっぱいみたいだし、この中を助けに来いなんて言えないわよ」
貴音「しかし…」
律子「それより、本体の目星がついたほうが大きいわ」
貴音「………」
律子「本体を倒すのが一番よ。本体を倒せば、この『霧』も本体と一緒に消える。全部解決するわ」
このSSまとめへのコメント
最近1から見ました!面白い!期待してます!