千早「『弓と矢』、再び」(704)

このSSは>>1がSS速報VIPに書いた 春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」 というスレの続編です。
「弓と矢」は「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。
過度な期待はしないでください。

あれ?速報とここじゃ酉違うのか まぁいいや
速報のテストスレ>>161>>1です

「765プロは、もういらない」

未だかつてない765プロの危機に、アイドル達が立ち上がる!



愛「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」

絵理「わからない。いつの間にか…あった?」

アイドル事務所に次々と現れる「弓と矢」!



P「あなたは高木順二朗…社長!」

順一朗「順一朗だ」

小鳥「生きていたんですね、社長!」

順一朗「順一朗だ」

生きていた高木社長!

???「疑問に思ったことはありませんか? どうして自分は『スタンド』が使えるのか」

千早「ええ、それは…」

???「教えてあげましょう。1文字300円で」

明かされる謎!



律子「私の『ロット・ア・ロット』が捉えたこの映像…」

伊織「こ…これは…!!」

律子「私達765プロの宿敵…961! そしてやつのこの衣装は!」

律子「このくそったれ社長の首から下は私達の先輩ワンダー・モモの服をのっとったものなのよおおおーおおお!!」

キモい…!

やよい「えへへ、千早さんが無事でよかった!」

千早「た…高槻さ…ん…」

BB『さい…己を解き放ちなさい…』

千早(『ブルー・バード』が…私に語りかけてくる…!?)

BB『さぁ…やよいをペロペロするのよ…さぁ…!!』

千早「あ…あああ…!」

千早…暴走!?



FS「萩原雪歩」

雪歩「えっと…なんですか?」

FS「雪歩…ト呼ンデモイイデショウカ」

雪歩「はい?」

禁断の恋!?

??「オラァッ!」

あずさ「あ…」

??「やれやれだぜ」

あずさ「あ、あなたは…!!」

亜美「そう、亜美です」

亜美!!!!



春香「私は、765プロを…」

春香「みんなを守る」

ドォーン

『弓と矢』第二部



千早「『弓と矢』、再び」



近 日 公 開 ッ ! !

嘘です。
ほとんど嘘です。



でも二部は本当。
春香さんの誕生日4/3に1話目を間に合わせたいと思います。

始めます。

とはもう言わなくていいんですね…この圧倒的開放感
そして落ちてたせいで春香さんの誕生日に間に合わなかったという圧倒的絶望感

「3…2…」

暗闇の中に、炎が揺らめいている。

静まり返った場には、カウントダウンの声だけが響く。

「1…………0」

フッ

カウントがなくなると同時に、炎が消え…

パンッ

辺りに、破裂音が響いた。

「「「たんじょ…」」」

愛「おたんじょうび、おめでとうございまーーーーーーす!!!!!!」

キーン…

愛「あれ!!? みなさん、どうしたんですか!!?」

石川「ちょっと、愛…もうちょっと…静かにしてくれないかしら」キーン

千早(ここは、カーテンで閉め切られた一室…)

尾崎「み、耳が…」パチン

千早(尾崎プロデューサーが壁のスイッチを押すと、部屋に照明の光が広がった)

愛「だってだって、今日はめでたい絵理さんの誕生日ですから!!!」

絵理「愛ちゃん、ありがとう」

愛「はいっ!!! 絵理さん、もう一回!! おたんじょ…」

絵理「でも、うるさいから…静かに?」

愛「そんなー!!」

やよい「でもでも、愛ちゃんの言う通り今日はとってもおめでたい日ですよっ!」

亜美「うんうん、一年に一度、あるかないかの日だよね!」

真美「………」

千早(今日は、私と高槻さん、亜美と真美…)

伊織「絵理、おめでとう。この伊織ちゃんからのプレゼントよ、ありがたく受け取りなさい!」

絵理「伊織さん、ありがとう」

千早(そして、765プロの中では水谷さんと一番仲のいい水瀬さん)

千早(私達は彼女の誕生会に出席するため、この876プロの新事務所に来ていた)

絵理「みんな、今日は、楽しんでいって?」

亜美「うん、もちろんだよ絵理お姉ちゃん!」

千早(水谷絵理さん…765プロと交流のある芸能事務所、876プロのアイドル)

亜美「………」キョロキョロ

絵理「探してるのはこれ? 余ったクラッカー」

亜美「あっ、これこれ! 絵理お姉ちゃん、ありがとー!」

絵理「…どういたしまして」

千早(もの静かだけど、周りの事をよく見ていて…)

絵理「亜美ちゃん、クラッカー何に使うの…? 強盗?」

亜美「ふぁ!? そんなん、どうやってやるのさ!」

千早(そして、独特の感性を持っている…ご、強盗って…くくっ…)

尾崎「みなさん、絵理の誕生日に…忙しい中、よく来てくれたわね」

千早(876の尾崎プロデューサー。元々はフリーだったのだけれど、今は876プロで水谷さんの専属プロデューサーをやっているようね)

尾崎「特に如月さん。最近はとても忙しいようだったけど」

千早「プロデューサーに、少しは休めと言われていましたから。ちょうどいい機会でした」

伊織「今年になってみんなスケジュールギチギチなのよね。私達はたまたま空いてたけど…」

やよい「伊織ちゃん、今日には予定を入れないようにって律子さんに頼んでたよね?」

伊織「ちょっ…!?」

絵理「…そうなの?」

伊織「違っ…だ、だから、たまたまって言ってるでしょ!」

石川「ま、これでも集まった方よね。うちも、涼が出払ってて誕生会に参加できないし」

千早(876プロの石川社長…弱小の876プロを、それなりに盛り上げて来たやり手ね)

伊織「社長が誕生会に参加してて大丈夫なの、この事務所…」

石川「私だって、人の誕生会にかこつけて騒ぎたいことくらいあるわよ。あなた達のところの社長もそうでしょ?」

千早「え? いえ、高木社長は…」

やよい「涼ちゃん来れないんですか?」

亜美「一日中仕事があるわけじゃないっしょ。夜になれば涼ちんも絵理お姉ちゃんのお祝いに来るって」

絵理「…わたしも夜になったら仕事。誕生日だから、お誕生日企画?」

尾崎「だからこうして、昼に皆さんをお招きしたわけです」

千早「昼から夜まで誕生会だなんて…」

石川「素敵よね。一日中ずっと祝ってもらえるなんて」

千早「大へ…いえ、そうですね。素敵ですよね」

愛「ほんとうは、涼さんや夢子さんも、765プロの皆さんとも一緒にお祝いしたかったんですけど…」

愛「でもっ!! あたしがここにいないみなさんの分まで、絵理さんをお祝いしまーす!!!」

絵理「あ、ありがとう…」

千早(そして、日高愛…彼女も、876プロのアイドル。知らない人はいない伝説のアイドル、『日高舞』の娘)

やよい「愛ちゃん、元気いっぱいですね!」

千早(元気一杯なところは高槻さんに似てるわね)

亜美「ね、ね、真美! これでさ…」

真美「ふぇぁー…」クラクラ

亜美「わわっ、愛ぴょんの横にいた真美が目回してる!」

愛「うわっ!!! 真美ちゃん、大丈夫っ!!?」

千早(何より…声が大きい…)キーン

千早(歌手としては、彼女の声量は少し羨ましいけれど…近くで騒がれると、たまったものじゃないわね)

真美「はひー…」

絵理「真美ちゃん、真美ちゃん…」ユサユサ

絵理「駄目、返事がない…ただのしかばね…」

伊織「さっきから、妙に静かだと思ったら…」

石川「あっちの部屋にベンチがあるわ。尾崎さん、運んでくれる?」

尾崎「は、はい」ヒョイ

千早(尾崎プロデューサーは、真美の身体を優しく持ち上げ…)

スタスタ…

千早(奥の部屋に歩いて行ってしまった)

愛「これって、もしかして…あたしのせい…?」

絵理「そうかも…」

やよい「そ、そんなことないですよ。愛ちゃんは絵理さんのお誕生日を祝ってあげたかっただけなんですよね」

伊織「アンタがもう一回声かければ飛び起きるんじゃないの?」

愛「そ、そうですね!!」

愛「わかりましたっ!! 真美ちゃんにおきろー!! って声かけてきたいと思います!!」

亜美「わわっ、そりゃ逆効果だよー!!」

愛「へ?」

千早(元気一杯には間違いないけど…感情の起伏が激しいわね。嵐のような子だわ)

千早(しばらくすると、尾崎プロデューサーが戻って来た)

尾崎「真美ちゃんはロッカー室のベンチに寝かせておいたわ」

亜美「ありがとー、おざりん!」

尾崎「お、おざりん…?」

絵理「伊織さん、律子さんとあずささんがいないってことは…『竜宮小町』、解散しちゃった?」

伊織「解散したと言うか…そういう枠組みが薄れてるのよね。みんなまとめて、765プロのアイドルって感じで」

尾崎「決まったメンバーでなく、色々な組み合わせを試しているというわけね」

亜美「だから、最近は真美と一緒の仕事も増えてきたんだ!」

伊織「ま、今も『竜宮小町』としての活動もしてるわよ」

絵理「そうなんだ…」

愛「やよいさん、やよいさん!!」

やよい「どうしたんですか、愛ちゃん?」

愛「歌の事で相談したいんですけど…」

やよい「歌のことなら、千早さんに聞いてみるといいかも」

千早「何? 日高さん」

愛「最近、なんか上手く歌えない気がして。行き詰まってると言うか…」

千早「えーと、そうね…日高さんなら、例えば別ジャンルの曲に挑戦してみるのはどうかしら」

愛「え? でも、歌い方がヘンになったりとかしちゃうんじゃ…」

千早「それは違うわ、日高さん。歌はただ歌詞通りに読み上げるものじゃないでしょう? どこで力を入れるか、どこで息を吸うか…考えて歌うわよね」

愛「はい。そうですね」

千早「異なった視点で見る事が出来れば…同じ曲でも、経験の違いでまた新たな味が出てくるわよ」

愛「なるほど、経験ですね!!」

千早「日高さん。こちらからも聞きたい事があるのだけれど、いいかしら?」

愛「はいっ!! どうぞ!!」

千早「876プロの活動は、プロデューサーのいる水谷さん以外は、基本的にセルフプロデュースだったのよね?」

愛「はい!! 」

愛「最初の頃は、あたしにもマネージャーがいたんですけど…」

愛「レッスンの日とか、休んだりとかのスケジュールは、ほとんど自分で決めてました!!」

千早「よければ、だけど…そのことについて詳しく話してくれないかしら」

やよい「あっ、それ、私も聞いておきたいです!」

愛「はい、いいですよ!!」

………

……



愛「と、こんな感じです。どうでした?」

やよい「お話、とっても、面白かったです!」

千早「そうね。日高さんの独自のプロデュース法と言うのか…興味深いわ」

やよい「私、やってみたいこと色々あるかも!」

愛「でも、765プロさんってプロデューサーがちゃんといるんですよね? 必要あるのかなぁ?」

千早「プロデューサーがいても、自分の事を他人に丸投げにするというのは…よくないことだと思うの」

千早「私達が自分で調整が出来るようになれば、プロデューサー達の負担も少しは減るはずよ」

やよい「愛ちゃんだったら、プロデューサーに何も言われなくても準備できるし、予定についての話し合いもできるよね?」

愛「あっ…なるほど!!」

石川「面白い話をしているわね」

愛「あ、石川社長!!」

石川「アイドルの意識が高いのはいいことだけど、事務所の方もちゃんと活躍できるよう環境も整えなきゃね」

石川「765プロって、プロデューサーやマネージャーはちゃんと足りてるのかしら? うちなんかに比べるとアイドルの数も多いし…」

千早「それ…私達が言ってもいいんですか?」

石川「まぁ、本来はアイドルと話すようなことじゃないと思うけど。今日は誰も来れないみたいだから」

やよい「えっと、新しい人は入ってきたんですけど…」

千早「ちょっと、高槻さん。そんな簡単に…」

やよい「?」

千早(いえ、話してもいいか…876とは姉妹事務所のようなものだから…)

千早「まぁ、高槻さんの言う通り、新入社員は雇ってますね。流石に三人でいつまでも回すのは無理があるので」

愛「ちゃんと入ってきてるなら、大丈夫ですね!!」

千早「ですが、人数の問題ではなく…」

石川「?」

千早「社長として…ちゃんと事務所を動かせる人間が必要だと思うんです」

千早(半年前の事件で、高木社長が亡くなって以来…765プロにはちゃんとした経営者がいない)

千早(今は、プロデューサー達が協力しながらやっているけれど…やはり、本職ではない。限界がある…)

千早「けれど、何故か誰もやってくれる人が出て来ない…」

石川「…? どうして?」

千早「どうしてって、私に聞かれても…」

石川「いえ、そうじゃなくて…」

バンッ!!

千早(事務所の入り口のドアが勢いよく開き、その音に石川社長の声はかき消された)

彩音「センパーイ! 誕生日、おめで…と…」

シーン…

千早「…どちら様?」

彩音「うわっ…ナンか思ったよりいっぱいいる…!? センパイの誕生日なのに…」

絵理「それ、どういう意味…?」

亜美「あっ、あの時の姉ちゃんだ! おひさ~!」

彩音「あれ? そこのチビっ子、確か…」

亜美「亜美だよ! 絵理お姉ちゃんと一緒に765プロに来た事あるよね!」

伊織「そうなの?」

亜美「えーと、確か…さ、さ…佐藤さん?」

彩音「佐藤ちゃうわ!」

尾崎「そうよね、鈴木さん」

彩音「鈴木ともゆーな! このロン毛!」

彩音「って、そんなことよりセンパイの誕生会は…」

絵理「…サイネリア、もうとっくに始まってる?」

彩音「え」

やよい「絵理さん、この人は?」

絵理「サイネリア…本名、鈴木彩音。私のネットアイドル時代の後輩…」

彩音「…ドモ」ペコ

千早「そう言えば…水谷さんは元々ネット上で活動していたらしいわね。よくわからないけれど」

伊織「ああ、思い出した。なんかいつも絵理にくっついてる奴ね」

彩音「は?」

伊織「なによ、間違ってないでしょ? 私が絵理に会いに行くといっつもいるくせに」

絵理「会いに…行く?」

伊織「あっ、違うわよ! たまたま会った時に見かけるのよ!」

絵理「ふふ。わかってるよ、伊織さん」

伊織「何よ、その顔は! 違うって言ってるじゃない!」

彩音「ぐぬぬ…」

彩音「このデコ! センパイに近付きすぎ!」

伊織「ちょっ…誰がデコよ! 謝りなさい!」

尾崎「やめなさい、鈴木さん。絵理は今、水瀬さんと話してるんだから」

鈴木「鈴木言うな、ロン毛!」

愛「鈴木さん!! こっちで一緒にお話しましょー!!」

彩音「そこの豆も!」

石川「何を怒っているの鈴木さん」

亜美「そうだよー鈴木さん」

やよい「さい…さう…鈴木さん!」

千早「えーと…鈴木さん?」

彩音「キー!!」

千早(鈴木さん…は怒って部屋の隅っこの方に行ってしまった)

絵理「くすっ…サイネリアったら、顔真っ赤にしちゃって…」

伊織「アンタ、いい趣味してるわね…」

絵理「…サイネリア、もっとみんなと仲良くしたらいいのに…」

伊織「そうね。この伊織ちゃんみたいに、どんな奴にだって寛大で平等な精神で接するべきだわ」

絵理「それは…」

伊織「ま、アイツがどうしようと私の知ったこっちゃないけど」ス…

千早(水瀬さんが、テーブルの上のカップに手を伸ばした…)

千早(けど…これは…)

やよい「伊織ちゃん!」

伊織「へ?」コト…

彩音「あーっ、ムカツク!」

彩音「特にあのデコ! あいつ、センパイに馴れ馴れしすぎ! 違う事務所のクセに!」

尾崎「鈴木さん」ヌッ

彩音「うわっ、ロン毛! 何よ、つーか鈴木言うな!」

尾崎「水瀬さんのことだけど、こういう時でなければ集まる事も少ないし、今日くらいは大目に見た方がいいと思うわ」

彩音「余裕ねロン毛…」

尾崎「あなたが余裕なさすぎるだけだと思うわよ?」

彩音「アタシがセンパイと一番付き合い長いのに~…」

尾崎「鈴木さん、あなたは絵理がネットアイドルをやっていた頃の知り合いでしょう?」

尾崎「アイドルとしてはあなたよりも水瀬さんの方が付き合いは長いわよ」

彩音「ぬぬぬ…」

尾崎「まぁ、アイドルとして一番付き合いが長いのは絵理をスカウトした担当プロデューサーの私だけど」

彩音「ロン毛のコトなんて知るか!」

パリィィィィン!!

尾崎「!?」

彩音「え、何?」クルッ

タッタッタ…

絵理「伊織さん!!」

やよい「伊織ちゃん、大丈夫!?」

伊織「だ…大丈夫よ…」

千早(水瀬さんがカップを落とし、割れた。床には破片が散らばっている)

伊織「痛っ…」ズキッ

愛「ああっ!! 伊織さん、足から血出てる!!」

・ ・ ・

彩音「………」

伊織「うわっ、本当だわ…伊織ちゃんの美しい足が…」タラ…

亜美「いおりん、ティッシュ、ティッシュ」

伊織「あ、ちょっと。危ないからこっちに近付かないでよ」

尾崎「絵理、水瀬さん、動かないで。今、片付けるわ」

愛「あたし、救急箱取ってきます!」ダダッ

石川「あ、ちょっと待ちなさい、愛! …待てって言ってるのに」

伊織「救急箱って。そんな大げさにならなくても。やよ…」

やよい「へ?」

伊織「あ、いえ…なんでもないわ」

絵理「?」

伊織(やよいなら治せるけど、急に傷が塞がったら驚くわね…)

伊織(救急箱を取ってくると言っていたから…絆創膏か包帯でも巻いたら治してもらいましょう)

愛『うわーっ!!』ガゴーン!!

伊織「って何、今の音…」

絵理「愛ちゃんの声…何かあった?」

石川「だから待てって言ったのに、あの子は…」

千早(石川社長と尾崎プロデューサーはカップを片付けている…水谷さんは動けない)

千早「私、日高さんの様子を見て来ます」

やよい「あっ、それなら私も行きます!」

亜美「亜美も行く! あっちの部屋には真美もいるし」

千早「高槻さんと亜美はここにいて。そう何人も来ると動きづらいわ」

やよい「あ、そうですね。わかりました」

亜美「えー、つまんなーい。ぶーぶー」

ガチャン

千早「日高さん?」

愛「あ、千早さん…ててて…」

千早(ロッカールームに行くと、日高さんが仰向けに倒れていた)

愛「うぅ、すみません~、起こしてくださ~い!」

千早(ベンチとロッカーの間に挟まって…)

真美「きゅー…」

千早「………」

千早「日高さん…どうして、そうなったの…?」

愛「急いでたら、ベンチにつまづいちゃって、それで…」

真美「うぁー…」

千早(恐らく、その時に膝でも入ったのね…大丈夫なのかしら…)

………

……

愛「ふぅ…助かりました!! ありがとうございます!!」

千早「日高さん、落ち着いて行動しましょう。貴女が怪我をしたらどうするの…」

愛「そうですよね…ごめんなさい」

千早「それで、何しに来たのだったかしら」

愛「あっ、そうだ!! 伊織さんが危ない!!」

千早「そうだったわね。危ないとまではいかないけれど、救急箱は…」

愛「ここです!!」ガチャ

千早「ちょっと待って日高さん、そこは『石川』って…」

千早(って、なんで石川社長のロッカーがこんなところに置いてあるのかしら…)

キラ…

千早「…え?」

ゴゴ

愛「あ、間違えちゃった…こっちです!!!」パタン

千早「ちょ、ちょっと待って! 今のは…」

ゴゴゴ

千早(今、一瞬見えたのは…)

愛「?」

ゴゴゴゴ

千早「このロッカーの中に見えたものは…!!」バッ

愛「あ、千早さん!! 駄目ですよ、勝手に開けちゃ!!」

千早(日高さんの静止も聞かず…私は、石川社長のロッカーに手を伸ばし、もう一度その扉を開いた)

ガチャン!

・ ・ ・ ・

千早「これは…」

千早(見間違い…じゃあ、ない…)

ゴゴゴゴゴ

千早(私が目にしたのは、ここにはあるはずのないものだった)

千早「どうして…? これは、あの時に壊したはず…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

千早(忘れるはずもない。あの、事務所を巻き込んだ大事件を引き起こしたきっかけとなった…)

千早(人間の眠っている力、才能を引き出し…『スタンド使い』を生み出す…)

千早「『弓と矢』…!!」

ゴゴゴゴゴゴ

…………

彩音「………」ス…

パーティ会場にいた彩音は、血の付いたティッシュを1枚拾い、それを持ったまま流し台の方に歩いて行く。

彩音「ダレも見てないわよね…」キョロキョロ

流し台に着くと、棚から新しいコップと、冷蔵庫からブラッドオレンジのパックを取り出した。

彩音「………」キラリ

安全ピンを取り出し、左手の人差し指に刺す。

彩音「いてっ…」プク…

傷口から、ぷっくりと赤い玉が膨れ上がっていく。

彩音「はぁ…コレ、もうちょっとなんとかならないもんですかね…メンヘラかっつーの」

右手に持ったティッシュの端を、中指と親指でつまんだ。

彩音「行け…」

スゥーッ

人差し指に浮かぶ血の球が、まるで磁石に吸い寄せられるかのように動き出す。

彩音「あの伊織とかいう人には、もうちょーっとイタい目にあってもらおうかしら」

親指からティッシュを辿り、血の付いた部分に辿り着くと、下に置いたコップに一滴、赤い雫が落ちた。

ドドドドド ドドド

彩音「アタシの…『ワールド・オブ・ペイン』でね」

本日分はこれで終了です。

最初に言っておくべきでしたが、二部は一部に比べるとオリジナル要素がさらに増えてくると思います。ご了承ください。
何か質問があればもちろん受け付けます。
HTML化後に第一部を読んでくださった方も、第一部でわからない点がありましたらどうぞご質問ください。

次回は多分4/10に投下します。

時は1987年、日本。
「悪霊に取り憑かれた少年」空条承太郎は、祖父ジョセフ・ジョースターから悪霊の正体…
そして、彼に降り掛かるその血の運命を告げられる。
先祖ジョナサン・ジョースターと共に海に消えた邪悪の化身、DIO!
ジョナサンの身体を乗っ取ったDIOは、100年の時を越え現代に復活していたのだ!
ジョースターの血を絶やさんと、次々と襲いかかるDIOの刺客!
そして承太郎の母ホリィにも、DIOの呪縛が襲いかかる!
承太郎は母を救うため…そして全ての因縁に決着をつけるため、DIOの待つエジプトに旅立った!!
生命のエネルギーが生み出す力、幽波紋(スタンド)…正義と悪、二つのスタンドがぶつかり合う!
ジョースター家とDIOの100年に渡る血塗られた歴史が、再び幕を開けた…!!
TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険第三部 スターダストクルセイダーズ』、本日4/4より各局で放送開始ッ!

前回までのあらすじ

伊織「絵理、おめでとう。伊織ちゃんからのプレゼントよ、ありがたく受け取りなさい!」

絵理「伊織さん、ありがとう。開けてもいい?」

伊織「ええ。この場で開けてちょうだい」

バリバリ

伊織「やめて」

絵理「…これって」

伊織「給料三ヶ月分の指輪よ…」

絵理「…!」

伊織「絵理、私と結婚して」

絵理「うれしい…よろこんで」

ちゅっちゅ

HAPPY END

千早(何故…)

ドッ ドッ ドッ ドッ

千早(何故、こんなところにあの『弓と矢』が…?)

キラ…

千早(一目でわかる、これは765プロに持ち込まれたものと、全く『同じ』ものだわ…寸分違わず…)

千早(けれど…あの時、あの『矢』は皆で壊そうと決めた筈…どういうこと?)

愛「………」

千早「ハッ!」

ドドド ドドドド

千早(待って…ここに、『弓と矢』があるということは…)

千早(日高さん…彼女も、もしかしたら…)

愛「あっ!!」ヒョコ

千早「!」バッ

自分の後ろから顔を出した愛の方に振り向き、『矢』を背中に隠すようにして構える。

愛「この『弓と矢』、こんなところにあったんだ!!」

しかし、愛はおかまいなしに、千早の脇からロッカーに手を伸ばした。

千早「ちょっ…動かないで!」

愛「へ?」ピタ

ゴゴゴゴゴ

千早(思い出す…半年前、春香が『弓と矢』を手にしておかしくなってしまった、あの事件を…)

千早(『こんなところにあった』…? 『矢』は隠されていた、何のために?)

愛「千早さん?」

千早(わからない…けれど、誰か個人の手に渡すのはまずい。特に…)

愛「どうしたんですか?」

千早(彼女が…『スタンド使い』であるならば…)

千早「日高さん、貴女…この『弓と矢』を知っているのね?」

愛「知ってますよ!!」

千早「では、この『矢』が一体、何なのかも…」

愛「はい!!」

千早「!」

愛「これ、石川社長が持ってきたんです!!」

千早「え?」

愛「なんか、珍しいものだったから覚えてたんだけど…ロッカーの中にしまってあったんですね!!」

千早「あ、あの…日高さん…」

愛「はい?」

千早「そういうことではなく…貴女も、使えるのよね?」

愛「つかえる…? 何かつっかえてて取れないんですか?」

千早「いえ、だから…貴女も持っているのでしょう?」

愛「………ああ!! 絵理さんが言ってた、『じゃきがん』ってやつですね!!? うっ、右腕が…」グッ

千早「その『じゃきがん』が何なのかは知らないけれど、違うわ…」

千早(しらばっくれているの…? それとも、本当に知らない…?)

千早「………」

ズ…

ズズ…

千早の背後から、千早と同じくらいの身長をした人型の像が現れる。

千早(半年前…私達は、この『弓と矢』によって、ある能力に目覚めた)

千早(傍に立つもの…『スタンド』)

千早(『矢』に貫かれた上で、生き延びた者は、身体に眠る力を引き出され…この精神の力『スタンド』を使える『スタンド使い』となる)

千早(私は、正直この『矢』に貫かれた覚えはないのだけれど…)

千早(765プロのアイドル全員が、この『弓と矢』によって『スタンド使い』となった)

千早(そしてこれが…私の意思で自由に動く、私のスタンド『ブルー・バード・インフェルノ』)

ヒュゥゥゥ…

シュゴーッ

千早のスタンドの両腕についた穴から、『熱』と『冷気』が吹き出ている。

千早(『スタンド』は、スタンドを持ち、それを心の目で見る事が出来る者…『スタンド使い』にしか見えない)

千早(これで…日高さんに攻撃する。もちろん、直前で止めるけれど)

千早(もし、見えるのなら…何らかの反応を示す筈よ)

千早(行きなさい、『インフェルノ』!)ヒュン

愛「千早さん!! その『矢』、あたしにもよく見せてください!!」バッ

千早「!?」ビクッ

千早(こっちの方に突っ込んで来た…!? 『インフェルノ』を止め…)グイッ

ガァン!!

千早「くっ」ガク

千早は殴り掛かったスタンドを止めるが、その反動で背後のロッカーのふちに衝突し、座り込む。

愛「うわっ、どうしたんですか!?」

千早「い、いえ…ちょっとバランスを崩してしまって…」

千早(逃げるばかりか、向かってきた…? 見える人がこんな行動をしてくるの…?)

愛「千早さん、立てますか!? 手、貸しましょうか!?」アタフタ

千早(考えすぎかもしれない…)

千早(日高さんは嘘をつけるような人じゃあない…『スタンド使い』では、ない)

グラ…

ゴォォォォ

千早がロッカーにぶつかった衝撃で、『矢』が愛の方に引っ張られるように倒れ込んで来た。

愛「きゃっ!? 『矢』が…」

鈍く鋭く光る鏃が、愛の皮膚を切り裂く…

パシィ!

愛「あ…」

千早「………」

前に、千早が箆(の)の部分を素手で掴み、止めた。

千早「矢は危険物だから…気をつけて、日高さん。触れては駄目よ」

愛「は、はい!! ありがとうございます、助かりました!!」

千早(今の動き、『矢』が反応した…? ということは、素質はあるのかもしれないけれど…)

千早は、立ち上がって服を払うと、『矢』をロッカーの中に押し込み、『石川』と書かれたドアを閉めた。

千早(知らないのなら、これ以上『スタンド使い』を増やす必要も、巻き込む必要もないわ)

千早「日高さん、この『矢』を最初に見たのはいつ?」

愛「えっと、確か…半年くらい前、だったかなぁ?」

千早(半年前…私達765プロに弓と矢が来た時期と、同じね…)

千早(うちと違って、アイドル全員が『スタンド使い』になったわけでもないようだし、石川社長も亡くなってはいないようだけれど…)

愛「確か、知り合いの人に貰ったんだったかなぁ…ごめんなさい、ちょっとよくわからないです」

千早「わかったわ、ありがとう。この話はこれで終わりにしましょう」

愛「あの、千早さん。千早さんは、その『矢』のこと知ってるんですか?」

千早「いえ、ぜんぜん」

愛「?」

千早「それより、日高さん。私達は救急箱を取りに来たのではないのかしら」

愛「あ、そうだった!!」

………

……

尾崎「ふぅ…これで、片付け終わったかしら」

伊織「ごめんなさい。このカップ、事務所の備品でしょう? 弁償するわ」

石川「いえ、紙コップにしなかったこちらが不用意だったわ。なんとお詫びすればいいのか…」

伊織「い、いいわよそんなの。気にしなくても(どうせ治せるし…)」

ダダダダッ

愛「救急箱取ってきたよー!!」

伊織「あら、随分遅かったわね」

絵理「尾崎さん、伊織さんの手当て、お願い」

尾崎「ええ、わかってるわ」シュッ

伊織「痛っ…」

尾崎「消毒液がしみるかもしれないけど、我慢して。痕が残ったりしたら大変よ」

伊織(尾崎プロデューサーが消毒した傷口の上にガーゼを置き、包帯を巻いてゆく…)

尾崎「これで、よし」

亜美「おざりん、手当て上手だね!」

尾崎「プロデューサーだから。いざと言う時の応急処置くらいは心得てるわ」

亜美「でも、亜美も負けないよ! なんせパパがお医者さんだから!」

尾崎「そ、そう…?」

伊織「ちょっと切ったくらいで包帯巻くなんて、大げさね…」

絵理「伊織さん、自分の身体は大切にしないと」

やよい「そうだよ、伊織ちゃん。ケガしちゃったら、治すのは本当はとっても大変なんだから」

伊織「…そうよね。その通りよね」

伊織(『スタンド』に関わって来たことで、少し、感覚が麻痺していたかもしれない…)

伊織(私達は、『スタンド使い』である前にアイドルなんだから…)

千早「水瀬さん、ちょっといいかしら」

伊織「ん、何? 千早」

千早「さっき、向こうの部屋に…」

彩音「みなさーん!」

千早「!」ビクッ

伊織「千早?」

千早「…後で話すわ」

絵理「サイネリア。まだいたの?」

彩音「ヒドっ!」

石川「どうしたの、鈴木さん?」

彩音「あ、いや。ジュースでもいかがデスか? って」

彩音が手に持っているお盆には、人数分の紙コップが置かれていた。

尾崎「鈴木さん、ジュースってあなた…さっきのを見てなかったの?」

彩音「だからこそ、飲みそびれてるデショ? 紙コップだから大丈夫だって」

伊織「ふーん、まぁ確かに喉は渇いてるけど…」チラ…

伊織「ブラッドオレンジ! もちろん果汁100パーセントよね」

彩音「へ? ま、まぁ多分…」

伊織「なによ、気が利くじゃないの」

亜美「ファントムブラッド? なにそれ」

石川「ブラッドオレンジは、赤い果肉を持ったオレンジよ。ブルーベリー等に含まれるアントシアニンという色素で赤い色を持つの」

亜美「へーっ、よくわかんないけどすごそう!」

愛「鈴木さん、ありがとうございます!!」

絵理「サイネリア、機嫌、直った?」

彩音「エエ、センパイの誕生日ですから! いつまでもブスっとしてちゃ勿体ないですよ!」

やよい「そうですね! みんな仲良しが一番です!」

彩音「よっと…」

彩音はお盆をテーブルの上に置くと、自分の手前の方にあるコップを、真っ先に伊織の前に置いた。

伊織「ん?」

彩音「ハイ、どーぞ…」

亜美「ありがとー! うわ、赤っ!!」

伊織「ちょっと待ちなさい」

彩音「」ギクーッ

彩音「ハ、ハイッ!? 何か…」

伊織「アンタ、このコップ…」

彩音(ま、まさかバレた…? ヤバっ…)

伊織「血がついてるじゃない。ほら、ここ」

彩音「あっ…あーっと、それは多分ブラッドオレンジが…」

伊織「違うわ」

彩音「…!!」

伊織「アンタ、指から血が出てるわよ。これがコップについたのね…どこかに引っ掛けたの?」

彩音「あ、イエ、これは…」サッ

伊織「引っ込めなくてもいいじゃない。ほら、見せなさいよ」

ドドドド ドド

彩音「く…」スッ…

伊織「ほら、やっぱり…」

彩音「………」タラ…

彩音の額に汗が浮かぶ。

伊織「誰か、絆創膏と消毒液取って」

彩音(…アレ?)

やよい「はい、伊織ちゃん」

伊織「ありがと。用意がいいわねやよい」

やよい「たぶん、使うと思ったから」

彩音(バレて…ない?)

伊織「ほら、じっとしてなさい」

彩音「あ…」

伊織は彩音の人差し指に消毒液を吹きかけてから、絆創膏を巻いた。

伊織「ったく、気をつけなさいよ?」

伊織「よくわかんないけど、ネットアイドルだって、アイドルなんでしょ? 自分の身体は大切にしないと」

亜美「いおりん、絵理お姉ちゃんの受け持ちだー」

伊織「うっさい!」

尾崎「受け売りね」

彩音「………」

彩音(考えてみれば…)

彩音(アタシの『ワールド・オブ・ペイン』のことを、アイツらが知ってるワケがなかったわね)チラ…

絆創膏が巻かれた人差し指を見る。

彩音(…アイツら、あのセンパイがあんなに仲良くするんだし、悪いヒトじゃないのかもしれない…)

彩音(でも…ここまで来たらアタシには止められないし。仕方ないわ)

伊織「さてと、こいつを頂こうかしら」スッ

彩音(さぁ、飲め…)

亜美「あーあ。真美も起きてれば、一緒に飲め…」スッ

パァン!!

亜美が持っていたクラッカーをテーブルの上に置こうとした時、それが暴発した。

伊織「ひゃっ!?」ビクッ

伊織はその音に驚いて、コップを宙に放り投げる。

バッシャァァ

千早「………」ポタポタ

そして、コップの中身は…伊織の向かい側にいた、千早の頭の上に降り注いだ。

伊織「あ、あの…千早、大丈夫…?」

千早「ええ、大丈夫…大丈夫よ」ゴクン

千早は頭から滴ってきた液体を、少し飲み込んでしまう。

スルッ!

彩音(! ヤバっ…!)

絵理「目が笑ってない…?」

千早「元々こんな目よ」

やよい「亜美! ダメじゃない、こんな時に鳴らしちゃ!」

亜美「ち、違うよ! なんか勝手に…」

やよい「言いわけしない!」

亜美「うう…」

愛「千早さん、ティッシュ!! ティッシュ!!」

千早「ありがとう…」フキフキ

石川「向こうにシャワールームがあるわ。着替えは涼のものを使ってちょうだい」

千早「そうさせてもら…」スッ

ズ…

千早「…うっ!?」ズキン

ガクッ

千早は立ち上がると同時、強烈な痛みに膝をついた。

亜美「どったの?」

千早「ちょ…ちょっと…お腹が…」

ギリギリギリ

千早「くああああっ!?」ブルッ

伊織「ち、千早!?」

やよい「だ、大丈夫ですか、千早さん!?」

愛「おトイレ行きます!!?」

絵理「アイドルはトイレなんて行かない…?」

伊織「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

千早「こ、これはそういうタイプの痛みじゃあないわ…」

千早(何、これは…!? 胃に穴が空いたみたい…)

石川「しょ、消防車を…」

伊織「消火してどうすんのよ!」

彩音「ちょっと!」グイッ

彩音が千早の腕を引っ張る。

尾崎「あっ、鈴木さん! 動かしたら…」

千早(え?)

彩音「腹が痛いのなら、コッチで横になりましょう!」

千早(痛みが…少し、和らいだ…?)

千早がその場を離れる度に、少しずつ痛みがなくなっていく。

彩音「さぁ、ここで横になっててください!」

千早「え、ええ…」

真美「うーん、手が…でっかい手が…」

ロッカー室の、真美の寝ている横にあるベンチに寝かされる。

千早(まだ痛みは残っているけれど、大分楽になったわ…どうして?)

千早(と、言うより…さっきの痛みは、一体…)

千早「申し訳ないわ…事務所を、ジュースで汚してしまって…」

彩音「い、いえ…イイんじゃないですか、緊急事態ですし…」

千早(…? 目が泳いでいる…)

彩音「それじゃ、アタシはこれで。ゼッタイに、動かないでくださいね」

パタン…

千早(鈴木さん…だったかしら。なんだか、怪しいわね…)

千早(けれど、私の腹痛は引いたわけだし…)

ズキン

千早「…!!」

千早(い…『痛い』…! また、お腹の中が…!!)

ギリギリギリ

千早「うっ…あああっ…!」ガバッ

千早(まるで、胃が押し上げられるような…何なの、これは…!)

バンッ

伊織「千早!」

やよい「千早さん!」

千早「た…高槻さん、水瀬さん…」

やよい「お腹、痛いんですよね。私の『ゲンキトリッパー』で治せるかなーって思ったんですけど…」

伊織「ねぇ、千早…おかしいと思わない?」

千早「な、何が…」

伊織「何なのかはわからないけど…さっきからなんか、『奇妙』なのよ…」

千早「み、水瀬さん…そこのロッ…ぐっ!」ズキン

伊織「千早!」タッ

やよい「千早さん! 今、治します!」タタッ

千早(これは…二人が近付いてくるたびに、痛みが強くなる…!?)

千早(上ってくる…『なにか』が、私の腹の中からこみ上げてくる…!)

千早(これ以上、二人を近づけさせてはならない…何故か、そんな気がする…!)

ガリガリガリ

千早「~~~~!!」

千早(痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!)

千早(痛みで体中の筋肉が…喉が凍る! 声が…出せない!)

千早(こうなったら、『インフェルノ』で…二人に、どうにかして伝えるしか…)

ズ…

伊織「えっ? 『ブルー・バード・インフェルノ』が…」

やよい「ち、千早さん? どうしたんですか?」

ズキン!

千早「~~~…!!」

千早(ああ、駄目…痛みで集中できない…!)

ズズズズズ

千早(胃から、食道…喉まで…)

千早(『痛み』が…痛みがどんどん…上に昇ってくる…!!)

千早「~~…~~~~…!!」ギリギリギリギリ

プチュ

千早「う」

タラ…

口から一筋、赤い線が流れた。

伊織「…………え?」

千早「あぅっ」プププッ

ビチャァ!!

千早が口から、血を噴き出した。

伊織「きゃ…きゃああああああああああ!?」

やよい「ち…千早さんッ!!」

伊織「こ、これはまさか…スタンド攻撃ッ!?」

>>72

本日分はこれで終了です。

忘れてた
特に言及なければ毎週木曜に投下します

スタンド名:「ブルー・バード・インフェルノ」
本体:如月 千早
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:A 射程距離:E(2m) 能力射程(能力が続く範囲):D(7m)
持続力:D 精密動作性:B 成長性:C
能力:吹雪のような力強さと、炎のような速さを併せ持つ千早のスタンド。
触れたものの「熱」を「奪う」、あるいは触れたものに「熱」を「与える」能力を持つ。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

前回までのあらすじ

千早「かはっ」

バタン!

伊織「千早!?」

ドクドクドク

伊織「ひっ…!」

やよい「血が…血が、止まりません…!」

ドドドド ドドド

伊織「止まって…お願い、千早…止まって…」

ゴク

伊織「ハッ!? これはブラッドオレンジ!」

こうして、千早の死体は765プロの天井裏に安置されることになった。

765プロはブラッドオレンジのジュースを販売する企業になり、伊織の末代になるまで栄え続けたと言う…

ビチャ ビチャッ

千早「ぅ…か…」

バタン!!

やよい「ち…千早さん!」

伊織(私達の目の前で…)

千早「」ビクッ ビクン

ドクドク

伊織(千早が、血を吐いて倒れた…)

やよい「は、はやく『くっつけ』て治さなきゃ…」タッ

伊織(!)

伊織「待って、やよい!」

やよい「えっ?」ピタッ

伊織「…それ以上近付いちゃ駄目よ」

やよい「で、でも、血が…」

伊織「いきなり血を噴き出すなんて、普通じゃあないわ」

やよい「そうだよ、だから千早さんをこのまま放っといたら…」

伊織「落ち着いて、やよい。『ゲンキトリッパー』は遠隔操作でしょう? 離れたままでも治療はできるわ」

やよい「え? なんで…」

伊織「いいから、やよいはそこから動かないで」

やよい「う、うん。『ゲンキトリッパー』!」

ワラワラ

やよいの背後から小柄なスタンドが姿を現し、指が崩れだす。

そこから生まれた無数の粒の一団が、千早の口の中に飛び込んでいった。

伊織(やよいのスタンド、『ゲンキトリッパー』は米粒みたいな小さな『スタンド』の集合体)

伊織(そして、能力は『くっつける』こと! その力は超強力!)

伊織(細胞のように細かいスタンドは、傷ついた部分も『くっつけ』て埋めてしまい、痕も残らない)

モゾモゾ…

伊織「やよい、何か異常はない?」

やよい「千早さんのお腹の中、引っ掻かれたみたいになってるよ…」

伊織(やよい自身には、何か起こってる様子はないわね)

伊織(『スタンド』と本体は一心同体…『スタンド』が受けたダメージは、本体にも影響を与えるんだけど…)

伊織(『ゲンキトリッパー』は細かい一部分が潰されても大してダメージにはならない。狭い場所を調べるには持ってこいだわ)

伊織(だから、『原因』が千早の体内に残っていれば、何かわかると思ったんだけど…)

やよい「ふぅ…とりあえず、傷は『くっつけ』たよ」

伊織(何かが、おかしい…嫌な予感がする)

千早『…後で話すわ』

伊織(千早は、何かを伝えようとしていた…)

千早『さっき、向こうの部屋に…』

伊織(千早が来たのは、ここよね…何かあるの?)

千早『そこの、ロッ…』

伊織(…ロッカー?)

伊織「………」チラ…

伊織(調べてみるか…)

モクモクモク

伊織の身体から、白い『煙』が上がる。

『煙』はどんどん広がっていき、部屋に置いてあるロッカーを覆った。

伊織(これは…私の『スタンド』、『スモーキー・スリル』)

伊織(『煙』のスタンドは広い範囲のものを掴み、動かすことが出来る)

ガタ ガタッ

伊織の『スモーキー・スリル』が、『ロッカー』の扉を一斉に引っ張る。

バンッ!!

やよい「わっ!?」ビクッ

やよい「何やってるの、伊織…ちゃ…」

・ ・ ・

やよい「こ…これって…」

伊織「悪い予感は…当たるものね…」

キラ…

伊織(『弓と矢』! 千早の話ってのは、これのことだったのね…)

伊織(そして、『弓と矢』がここにあるってことは…千早がやられたのは、やっぱり…)

やよい「もしかして、これって『スタンド使い』のせいかも…」

伊織「ええ、それは確かね」

伊織(でも、それらしき姿は見えないわ…)

伊織(どこの誰がどうやって千早を攻撃したのか、全くわからない…)

ズキン

伊織「!?」

伊織は突然足に、鈍い痛みが走るのを感じた。

伊織「い…『痛い』!」

やよい「伊織ちゃん?」

ドド

伊織「何なの、一体…!?」

ドドド

モゾ

伊織が視線を落とすと、小さな赤黒い塊が、足にくっついていた。

伊織(なに、これ…)

モゾモゾ

伊織(『血』?)

ギッ

伊織「痛っ…!」

やよい「伊織ちゃん!」

伊織(こいつ、締め付けてくると言うか…皮膚を突き破ろうとしている!?)

伊織「ち…通りで見つからないわけだわ、千早の吐いた血と一緒に出てきたのね…」

モクモクモク

伊織は『煙』を近くに集中させ、自分の体を持ち上げる。

伊織「伊織ちゃんのおみ足に…いつまでもくっついてるんじゃあないわ!」ブオンッ

空中で弧を描くように大きく足を払い、遠心力で『血』を剥がした。

ピッ

伊織「!」

ビチャン!!

伊織(く…剥がした時に、ちょっぴり皮を切られた…)タラ…

やよい「伊織ちゃん、今『くっつけ』るね!」

伊織「ええ、ありがとうやよい…」

ツゥーッ

伊織(血の塊が、こっちに近付いてくる…)

伊織「そんなちっぽけな『スタンド』で、私達をどうこうできるとでも思ってるのかしら? やよい!」

やよい「うん、止める! 『ゲンキトリッパー』!」パラパラ

ウー ウッウー

小さなスタンドの粒が、血の球に向かっていく。

伊織(やよいの『ゲンキトリッパー』に捕まったら、動けるスタンドはない!)

スルッ

しかし、『血』は改札を抜けるように平然と、『ゲンキトリッパー』を通り抜けていった。

やよい「えっ!?」

伊織「ちょ、ちょっとやよい!?」

やよい「なんか、ヘンかも…『くっつか』…ない…?」

伊織(『くっつか』ない…? そんな、バカなこと…)

伊織「なら、『スモーキー・スリル』で!」モクモクモク

スルルッ

『煙』で掴もうとするが、逃げるようにすり抜けてしまう。

ツゥゥーッ

伊織「つ…」

伊織「掴めないッ! そうか、『液体』だから…」

ツルルルル…

伊織(『血』のスタンド! どうやって止める…?)

ウッウー ウゥー

伊織「…あら?」

やよいの小さなスタンドが、向こうの部屋からガラスのコップを運んでくる。

やよい「伊織ちゃん、あれを!」

伊織「コップ? …なるほどね!」モクモクモク

『煙』が部屋の入り口の方まで飛んでいき、コップを掴む。

伊織「『スモーキー・スリル』!!」ヒュッ

カコン!!

それを逆さまにして地面に『くっつけ』、『血』を閉じ込めた。

伊織「よし、捕まえたわ!」

やよい「はわっ…!」

伊織「ち…!」

勢いよく飛んで来た破片が、伊織の目の前で止まる。薄い『煙』の膜が、ガラスを掴んでいた。

ガシャ カラァァン

ズルズル

伊織「こいつ、見た目より…『パワー』が強い!」

やよい「伊織ちゃん、もっと離れよう!」

伊織「ち…それしかないか」

サササッ

ス…

伊織(!)

スゥーッ

伊織(追いかけてくる…スピードはあまり速くはないけど…)

伊織(どうする? この部屋にいては、引き離せないわね…)

伊織「やよい…部屋を出るわよ」

やよい「………」キョロキョロ

伊織「やよい? どうしたの?」

やよい「えっと、なんで真っ直ぐこっちに向かって来てるのかなーって」

伊織「え?」

やよい「だって、私の『ゲンキトリッパー』みたいに遠くまで行ける『スタンド』って、ちゃんと見ないとちゃんと動かせないよ?」

伊織「確かに、そうね…」

伊織(『遠隔操作』は遠くに行けば行くほど正確な動きはできなくなるはず…私の『スモーキー・スリル』もそう)モクモクモク

伊織(『煙』のセンサー…この部屋の周りを調べてみたけど、動きは感じられない…)

伊織(本体が近くで見ているわけじゃあ…ない?)

伊織「………」モクモク

カラン

進行方向に、ガラスの破片を置いてみる。

キン!

『血』はそのまま真っ直ぐ進んで、破片を弾き飛ばした。

伊織(こっちに向かってくるだけ…間に何があろうとおかまいなし…か)タタッ

伊織「…もしかして、こいつ『自動操縦型』のスタンドなんじゃあないかしら」

やよい「じどう…そうじ?」

伊織「本体の意思とは無関係に、勝手に動くスタンドよ」

伊織「こいつは真っ直ぐ正確に私達の方に向かって来てる。砂糖に群がろうとするアリのように…」

やよい「うん…勝手に動くけど、動きは決まってるかも」

伊織(『自動操縦』の中でも『自立行動型』…ひとりでに考えて行動するタイプもあるけど…)

伊織(この血の塊に、目や考える頭があるようにも見えないわね)

伊織「そして、『自動操縦』は本体と離れてもパワーが落ちることはない」

やよい「うん、そうかも…『スタンド』が勝手に、向かってくる…伊織ちゃんの言ってるやつで合ってると思うよ」

伊織「自分で考えて行動しているわけでなければ、対処法はいくらでもあるわ」

伊織(ただ…『自動操縦型』は、何か攻撃のスイッチが必要なはず)

伊織(こいつは、何を基準にして攻撃しているの? それがわからない…)

伊織(わからないうちに本体を叩きに行くのは、少なからずリスクがある…)

ズ キ ン

伊織「ぐっ!?」ビクッ

やよい「え、伊織ちゃん!?」

伊織(え…?)

ズキン!!

伊織「うっ!」

伊織(また、『痛み』が…なんで? 原因である『血』は、そこにいるのに…!?)バッ

ギュム…ギュムギュム

伊織「ま…また…足に…『血』がくっついてる…!!」

伊織(いつ、くっついたの…!? こいつは、どこから来た…!?)

伊織「『スモ…」

ズキン!

伊織「うああああああ!?」

伊織(い…『痛い』! 痛覚を直接掴まれたような…ゆっくりと鋭い痛みがッ!!)

ブチュゥッ!!

伊織の足から、血が勢いよく吹き出た。

伊織「あああっ!!」

やよい「伊織ちゃん!」

伊織(私の皮膚を…貫いたッ!!)

ビチャ! ビチャッ

やよい「『ゲンキトリッパー』!!」

ウー ウッウー

やよいのスタンドが、空いたばかりの傷口に入り込んでいくと、すぐに塞がった。

伊織「…! やよい…! 何やってんの…!」

やよい「あ…」

治してから、やよいも気づいた。『血』のスタンドが、伊織の皮膚を突き破ったということは…

伊織(わ、私の体内に『スタンド』が…)

伊織「……………?」

やよい「な…なんとかして、身体から出さないと…!」

伊織「…いえ、その必要は…ない…かも」

やよい「へ?」

伊織「妙な感じが、全然しないわ…『スタンド』が、私の体内で消えてしまった…」

やよい「?」

やよい「…あっ!? 伊織ちゃん!」

伊織「へ?」クル

先程吹き出して地面に落ちた血が、集まって塊となり…

ズル…

ゆっくりと、動き出した…

伊織「嘘でしょ…」

やよい「ど、どうしよう…」

伊織(どういうこと…? 私の血が『スタンド』に…? 私の…)

伊織「…あ、そっか」

やよい「…え?」

伊織「これは『私の血』だッ! さっき傷つけられた皮膚から出た血が、スタンド化していたのよ!」

やよい「伊織ちゃんの血が…?」

伊織「そして…!」スゥ…

クギュュン!!

集中した『煙』が、伊織だけを入り口の方に飛ばす。

スタッ!

ズル…

ズズズズ

伊織が着地すると同時、部屋の中の『血』が、一斉に伊織の方に向かっていく。

伊織「この、追いかけてくる『血』も私のだッ! 私の血が、私の身体の中に戻ろうとしているんだわ…!」

伊織「そして、この『血』は…血に触れることで、同じように『スタンド』にしてしまうのよ!」

伊織「触れる度に、仲間を増やしていく! 屍生人(ゾンビ)のように!」

伊織「これでもう、ぜ~んぶわかったわ! 種は全部割れた」

伊織(でも、そうなると…)

伊織「やよい!」

やよい「えっ、何?」

伊織「この『スタンド』は、私だけを追いかけてくる! やよいは自由に動けるでしょう?」

やよい「う、うん。そうみたい」

伊織「だから…やよい、お願い! 本体をブッ倒してこの攻撃をやめさせて!」

やよい「えっ、でも…本体、誰かわからないかも…」

伊織「そんなもん、どう考えても、あの鈴木とかいうソバカス女に決まってるわ!」

やよい「えっとサイ…サ、サ…鈴木さんが? どうして?」

伊織「どうしてって…」

伊織「ブラッドオレンジなんて用意して…ぶっかけられた千早があんなことになって、無関係とは言わせないわよッ!!」

やよい「あっ!」

やよい「それで…伊織ちゃんはどうするの!?」

伊織「もちろん…逃げるわ」チラ

ツツツーッ

キュッ キューッ

伊織「ったく、『スタンド使い』になってから…どうしてこうも逃げなきゃならない場面が多いのかしら」

ガチャ

伊織「とにかく…頼んだわよ、やよい!」

タタタッ

シーン…

やよい「伊織ちゃん…」

クルッ

やよい「千早さんに、真美…みんなを、こんな目にあわせて…」

やよい「鈴木さんは悪い子です! うぅ~っ、頑張らないと!」グッ!

スタスタ…

千早「…う…」

真美「うぅーん…なにそれ、ホトケさん…?」

伊織達が去っていったロッカールーム。

ズ…

先程、吐き出して地面に付着した、千早の血が…

ズズ…

ひとりでに、蠢いていた…

スタンド名:「スモーキー・スリル」
本体:水瀬 伊織
タイプ:近距離~遠隔操作型・不定形
破壊力:B~D スピード:B~C 射程距離:D(5m)~B(50m) 能力射程:B(50m)
持続力:B 精密動作性:B~D 成長性:D
能力:不定形の「煙」であることから、高い柔軟性と応用性を持つ、伊織のスタンド。
一カ所に集めるか、広げるかによって性能が変化し、近距離から遠距離までを使い分ける事ができる。
「気体」であるがために、直接相手を攻撃することはできないが、相手に殴られることもない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ゲンキトリッパー」
本体:高槻 やよい
タイプ:遠隔操作型・分体
破壊力:E スピード:C 射程距離:B(30m) 能力射程:B(30m)
持続力:A 精密動作性:E~A 成長性:C
能力:物体を「くっつける」ことができるやよいのスタンド。
小さな粒が細胞のように固まっている集合体で、分裂して各々行動することが可能。
「くっつける」能力で傷ついた細胞を埋め、傷を治す事もできる。
小さくなればなるほど動きは正確になり、半年前の戦いの中で細かい動きに特化するようになった。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

導入編なので次でさっさと終わらせます
あと、やっぱり毎週金曜更新にします☆



更新日が決まってるのは嬉しいわ

千早の血は何で伊織に向かったんだろうな

前回までのあらすじ

ズ キ ン

伊織「ぐっ!?」ビクッ

やよい「え、伊織ちゃん!?」

伊織(え…?)

ズキン!!

伊織「うっ!」

伊織(また、『痛み』が…なんで? 原因である『血』は、そこにいるのに…!?)バッ

P「………」カプ…

伊織「………」

ボギャァァ

P「マジ最高!!」ピクピク

パチ

真美「うーん…?」ムクッ

真美「ありゃ…ここはどこ私は真美…?」

真美「えーと、確か今日は絵理お姉ちゃんの誕生会に来てて…何があったんだっけ?」

フラッ

真美「うひー、頭ガンガンする…」

真美「みんなはどうしてるんだろ? 戻らないと」

ズルッ

真美「わわわっ! っと…」バタバタ

真美「もう、何!? なんで床が濡れて…」

ヌル…

真美「え、なにこれ。…『血』?」

千早「………」

真美「ハッ、千早お姉ちゃん…」

真美「ま、まさかこれは…殺人事件!? 真美が寝てる間に、第一のギセー者が!」

千早「ん…」

真美「って、なんだ。生きてら」

真美「じゃ、これってなんだろ? 千早お姉ちゃんが鼻血ブーでもしたのかな?」

真美「謎はゼッタイ解き明かす! じっちゃん、ばっちゃん、それからりっちゃんの名にかけて!」バンッ

ズ…

真美「ん?」

シーン…

真美「うーん、見間違いかな? なんか今、『血』が動いたような…」

ズズズ…

真美「ありゃ、やっぱ動いてる」

ズオッ!

真美「って、なんで『血』が動いてるの!? まさか、『スタンド』!?」バッ

スル…

真美「あら、スルー? ははーん、真美に恐れをなして逃げ…」

ツィー

千早「………う…」

真美(じゃない! 後ろにいる千早お姉ちゃんの方に向かってるんだ!)

真美「千早お姉ちゃん! 危ないッ!!」

千早「う…ん…?」

………

……



トタトタ

やよい「みんな!」

亜美「あ、やよいっち!」

やよい「亜美、ちょっと今…」

亜美「なんか、いおりんが走って出て行っちゃったけど。どったの?」

やよい「えっと、それは…」

亜美「絵理お姉ちゃんもいおりん追いかけていっちゃうしさー」

愛「絵理さんは主役なんだから、わざわざ行かなくてもよかったのに…」

やよい「それより! 鈴木さんはどこ?」

石川「高槻さんまで、水瀬さんと同じ質問をするのね」

亜美「何かあったの?」

やよい「いいから、教えてください!」

尾崎「鈴木さんなら、お手洗いに行ったわ。すぐ戻ってくると思うけど」

やよい「それって、どこですか?」

尾崎「え? えーと…3Fの、階段上った奥の方にあるわよ。ここは2Fだから、上の方…」

やよい「ありがとうございます!」ガルウィーン

タッ

尾崎「あ、ちょっと!?」

愛「やよいさん、どうしたんだろう?」

亜美「うーん…」

………

コツ コツ

彩音(まさか、こんなことになるなんて…)

彩音(あの『伊織さん』とかいうヤツは下に降りて、外まで出て行ったみたいね)

彩音(私の仕業だってことはバレてないはず…隠れてやり過ごして、こっそり逃げよう…)

ピタ…

彩音「あ、あれ…」

グイッ グッ

彩音「あ、足が動かない!? ホイホイに捕まったゴキブリみたいに…!」

ドドド

彩音「ハッ!?」

やよい「鈴木さん」

ドドドド

彩音「ア…アンタは…」

彩音(あの、『伊織さん』と一緒にいた…)

やよい「伊織ちゃんが、『血』に追いかけられてるんですけど…」

やよい「あれって、鈴木さんの『スタンド』ですよね?」

彩音「」ギクッ

やよい「止めてください」

彩音(な…なんでアタシのだってわかったの…? ど、どうする…?)

やよい「…ダメ、なんですか?」

ゴゴゴゴ

彩音(断ったら、何をされるかワカんない…)

彩音「と…」

彩音「止めろとか言われても、知らナイわ! 『スタンド』なんて知らないわよ!!」

やよい「へ? ほんとに…?」

彩音「本当だっての! いきなりそんなこと言われても、意味わかんないわ!」

やよい「そ、そうなんですか? うぅ、ごめんなさい…」

彩音(なんだ、コイツちょろいわ! 簡単にごまかせた)

やよい「うーん…じゃあ、伊織ちゃんの勘違いなのかなぁ」

彩音「それより、この足どうにかしてよ!」

やよい「あし?」

彩音「しらばっくれないで! アンタのせいでしょ、足が『くっつい』てるのは!」

やよい「…なんで?」

彩音「なんでって、足が『くっつい』て、それからアンタが現れた! そう考えるのが当然デショ!」

やよい「確かに、やったのは私ですけど…どうやって?」

彩音「…へ!?」

やよい「私が、どうやって足を『くっつけ』たと思ったんですか?」

ドドドドド

彩音「ど、どうやってって…あらかじめ、ワナを仕掛けておいたとか…」

やよい「876プロは、最近ここに引っ越ししてきたばかりだって聞きました。私が来たのも、今日がはじめてです」

やよい「それなのに、なんで私がこの上の階に、鈴木さんを捕まえるワナをしかけたと思ったのかなーって」

ドドドド

彩音「そ、それは…」

やよい「それに、そんなことしたらこの階の人の迷惑になっちゃうと思います」

彩音「そ、そう! そうなんだ、じゃあアタシの勘違いだったわ! アンタのせいじゃないのね」

やよい「…やっぱり、なんかヘンかも」

ヌ…

彩音(『スタンド』を出した…)

彩音(見ちゃダメだ、露骨に目を逸らしてもダメ、何もないように扱うのよ)

やよいの『ゲンキトリッパー』の集合体が、ゆっくりと彩音の方へと歩いていく。

彩音(ち…近付いてくる…?)

やよい「あのー…違ってたらごめんなさい」

彩音(まさか、コイツ…)

やよい「伊織ちゃんが、大変なんです」グッ…

『ゲンキトリッパー』が、拳に力を込めた。

彩音「チッ!」カリッ

彩音が左手の親指で、人差し指のかさぶたを引っ掻く。

ブンッ

ポタ

腕を振る。指の傷から『血』が一滴、床に落ちた。

やよい「…?」

ゾゾ

やよい「あっ!」

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』ッ!!」

シュパァ!!

落ちた血が『ゲンキトリッパー』に飛びかかり、腕に傷をつけた。

やよい「わっ…!」ブシュ

ポタッ

ダメージがやよいにフィードバックし、血が垂れる。

彩音「アンタ…」

ゴゴゴ

彩音「無害そうな顔して、結構図太い奴ね…」

ゴゴゴゴ

やよい「この、『血』のスタンドは…」

やよい「やっぱり、鈴木さんがやったんですね!」

彩音「ええ、そうよ。これがアタシのスタンド」

やよい「伊織ちゃんを追いかけてるスタンドを、止めてください!」

彩音「止めなかったら…?」

やよい「止めてください」

彩音「ザンネンだけど、もう止まらないわよ」

やよい「え?」

ゾゾゾ

地面に落ちたやよいの血が、やよいに向かって動き出す。

やよい「わっ…『ゲンキトリッパー』!」

彩音「無駄よ。アンタのスタンドじゃあ、アタシの『血』のスタンドをどうこうできないでしょ?」

彩音「できるなら、わざわざアタシのところに来るまでもないカラ」

やよい「うう…!」ブシュ

『血』がやよいの足に食らいつき、新たな傷を作る。

ゾゾゾ…

その傷からから吹き出した『血』が、また、やよいに標的を定めた。

やよい「はわ…」

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』が他人の血に触れると、自動でその持ち主を襲い、血の中に戻ろうとする『リビング・デッド』を作り出す」

彩音「そして、『リビング・デッド』はまた新たな『リビング・デッド』を生み出すわよ」

ウー ウッウー

『ゲンキトリッパー』の欠片が、やよいの傷を塞いでいく。

彩音「ありゃ。その『スタンド』、傷を塞げるのね」

彩音「でも、意味ナイわよ。傷は治せても、出てしまった『血』はもう戻せないのだから!」

やよい「うぅ~」

やよいの『ゲンキトリッパー』には、一発で彩音を気絶させられるような『パワー』はない…

色々なものを『くっつけ』重みで潰したり、動けない彩音相手に天井から何かを落として攻撃することは可能だが…

そのためのものを持ってくる前に、『ワールド・オブ・ペイン』の餌食になってしまうだろう。

彩音「アンタ達が悪いのよ…アタシはそこまでする気はなかったのに…」

3つの『血』の塊が、やよいににじり寄ってくる。

彩音「さぁ、食われたくなかったらアンタも逃げた方がイイわ!」

やよい「う…」ズリ…

やよいの足が、一歩後ずさる。

ドン

やよい「わっ!?」

と、背中に何かがぶつかった。

??「やよいっち。こんな奴に逃げる必要なんてないって」

クルッ

やよい「亜美!」

亜美「なーんか、みんな変だったから来てみれば…面白そうなことやってるじゃん?」

彩音「何人増えようが、アタシの『スタンド』の敵じゃあないわ!」

『血』が、やよいの方に向かって真っ直ぐ進んでいく。

亜美「自動で、持ち主を襲うって?」

彩音「あら、聞いてたの?」

亜美「ってことはさ、こいつが襲ってくるのはやよいっちだけなんだよね?」

亜美が、やよいと『リビング・デッド』の間に割って入る。

彩音「『リビング・デッド』は進行上にある障害物を傷つけながら進むわよ!」

彩音「それに、『ワールド・オブ・ペイン』だって残ってる! アンタはネコの目の前にわざわざ出てきたネズミよッ!」

ヒュバッ!

その場にある『血』が、一斉に襲いかかる。

亜美「『スタートスター』」グッ

亜美の正面に、立ちふさがるように人型の『スタンド』が出現し、構える。

彩音「なによそれ…叩き落とすつもり? 腕を怪我するダケよッ!」

亜美「おらおらおらおらおらおらおら!!」ズババババババ

『スタートスター』は滅茶苦茶な腕の動きで、次々と飛びかかってくる『血』に触れていく。

亜美「………」グッ

シン…

彩音「…?」

亜美「どじゃぁぁん」パッ

亜美が手を開くと、そこには何も残っていなかった。

彩音「な!?」

亜美「んっふっふ~、亜美のスタンドはなぁ…触れたものを『消滅』させてしまうのだ! どうだ!」

やよい「そっか、真美のところまで『ワープ』させたんだね!」

亜美「やよいっち! バラしちゃあダメじゃーん!」

彩音「な、何…? 今の『スピード』…滅茶苦茶なヤツ…」

亜美「さぁ、君はもうキョウイさせている! コクフクしたまえ!」

彩音「包囲? 降伏?」

亜美「そうとも言う!」

亜美「………」グッ

シン…

彩音「…?」

亜美「どじゃぁぁん」パッ

亜美が手を開くと、そこには何も残っていなかった。

彩音「な!?」

亜美「んっふっふ~、亜美のスタンドはなぁ…触れたものを『消滅』させてしまうのだ! どうだ!」

やよい「そっか、真美のところまで『ワープ』させたんだね!」

亜美「やよいっち! バラしちゃあダメじゃーん!」

彩音「な、何…? 今の『スピード』…滅茶苦茶なヤツ…」

亜美「さぁ、君はもうキョウイさせている! コクフクしたまえ!」

彩音「包囲? 降伏?」

亜美「そうとも言う!」

間違えて二回同じ場所やってもうた
>>117はなかったことに

彩音「フン、何を勝ち誇ってんだか…」

亜美「鈴木のお姉ちゃんの『スタンド』は、飛ばしちゃったよ。もうないんだよ?」

彩音「『スタンド』がない? それがカンチガイだって言うのよ!」

亜美「へ?」

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』は、アタシの『血』から生み出される『スタンド』…」

彩音「『血』が続く限り、無限に作り出せるッ!」

ビンッ

シーン…

彩音「…アレ?」

バッ

彩音(ゆ…指の傷が…塞がってる!?)

ウッウー ウー

彩音「な、なにコレ!? ア…アタシの指になんか『くっついて』るッ!?」

やよい「指の傷は、『くっつけ』ました。これで、もう『スタンド』は出せないんですよね」

亜美「んっふっふ~、一気に大逆転、だね!」

やよい「さぁ、鈴木さん! 伊織ちゃんを追いかけてる『スタンド』を止めてください!」

彩音「そ…それは…」

亜美「駄目なの? んじゃ、しょうがないね。鈴木のお姉ちゃんには気ぃ失ってもらうよ」

彩音「う…」

やよい「伊織ちゃんが大変なんです。止めてくれないなら…しょうがないかなーって」

彩音「く…」プルプル…

ガリッ!

亜美「!?」

やよい「はわっ!?」

彩音「………」

ポタ…ポタ…

彩音が下唇を噛んだ。

やよい「な…何やってるんですかっ!!?」

ポタ…

彩音「これで…また『ワールド・オブ・ペイン』が作り出せる…」

亜美「へ、へんだ! また来ても亜美の『スタートスター』で…」

ズ… ズズズズ…

亜美「って、数多っ!?」

ゾゾゾゾ

ズアッ!

やよい「か、囲まれちゃった…」

彩音「うおおおおおおおおお行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

ギョォン!!

亜美「わーっ!!」

やよい「ううっ!!」

彩音が叫ぶと同時、やよい達の周囲から、『血』の群れが一斉に飛びかかった。

>導入編なので次でさっさと終わらせます
終わりませんでした☆

スタンド名:「スタートスター」
本体:双海 亜美/双海 真美
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:D スピード:A 射程距離:E(2m) 能力射程:A(500m以上)
持続力:C 精密動作性:D 成長性:A
能力:亜美と真美がそれぞれ1つずつ持っている、2体で1組のスタンド。
触れたものや自分自身を、もう一方の「スタートスター」の射程距離内に「ワープ」させることができる。
片方がスタンドを使える状態になかったり、二人があまりにも離れて能力射程の外に出てしまうと、能力を使う事が出来ない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ワールド・オブ・ペイン」
本体:鈴木 彩音
タイプ:近距離パワー型・同化
破壊力:B スピード:B 射程距離:D(5m) 能力射程:D(5m)
持続力:D 精密動作性:C 成長性:B
能力:サイネリアこと鈴木彩音の「血」から生まれたスタンド。
本体の血をスタンド化させており、血が出る限りはいくつでも生み出せる。
他人の血に触れる事で、自動操縦スタンド「リビング・デッド」を作り出す。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

第一部をコミカライズしてもらいました!
コマ割りや演出がいい雰囲気を出しています!
【アイマス】『弓と矢を破壊せよ!』【ジョジョ】
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42373730

↓前作、「弓と矢」第一部はこちら
春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」
春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1342373584/)
伊織「スタンド使いを生み出す『弓と矢』…」
伊織「スタンド使いを生み出す『弓と矢』…」 - SSまとめ速報
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真「『弓と矢』を…ブッ壊すッ!」
真「『弓と矢』を…ブッ壊すッ!」 - SSまとめ速報
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やよい「『弓と矢』と765プロ」
やよい「『弓と矢』と765プロ」 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379527373/)

忘れてた

>>99
千早の血が向かったわけではなく、伊織に向かっていったのは伊織の血です。
伊織の血から作った「リビング・デッド」をブラッドオレンジに仕込み、それを千早が飲んでしまったというわけです。

すみません、眠いんで寝ます
明日が終わるまでには投下しますので…

前回までのあらすじ

彩音「『リビング・デッド』は進行上にある障害物を傷つけながら進むわよ!」

彩音「それに、『ワールド・オブ・ペイン』だって残ってる! アンタはネコの目の前にわざわざ出てきたネズミよッ!」

亜美「ウミネコだ」

彩音「ひとりブッ殺すッ!!」

亜美「ス、『スタートスター』!」

ヒュンヒュン

亜美のスタンドが腕を横に払うと、『血』の雨が消しゴムをかけたように、目の前で消える。

亜美「一度に『ワープ』させるのは、これが限界…」

しかし、消えたのは一部。周囲に散らばった『血』は、まだ半分以上残っている。

彩音「フフ…」

ポタ…ポタ…

さらに、彩音の下唇から滴り落ちる血によって、『ワールド・オブ・ペイン』は次々と生み出されていた。

ヒョォォォォォ

亜美「うわあああ、もうダメだー!!」

やよい「亜美、落ち着いて!」

亜美「でも、こんな量じゃ全部『ワープ』させられないよー!」

やよい「別に、『血』の方を飛ばさなくてもいいでしょ!」

亜美「あ、そっか! 亜美が『ワープ』すればいいんだ!」

・ ・ ・ ・

亜美「って…今、『ワープ』使っちゃったから無理じゃん!」

やよい「亜美! 何やってるの!?」

亜美「やよいっちがもっと早く言えばよかったんだよ!!」

ギュン ギュギュン

亜美「うあー、やっぱもうダメだー!!」

やよい「………」

亜美「やよいっち! 何、ボーっとしてんのさ!」

『血』が目と鼻の距離まで近付いている。もう、避けることもできない。

亜美「うあああああー!!」

ビチャア!

『血』が、腕に食いついた。

………

伊織「げ…こっち、行き止まりじゃあないの…」

路地の裏側、ひと気のないビルの壁が、行く手を塞いでいる。

伊織(『血』から逃げているうちに、こんなところに…)

スゥーッ

伊織の血から作られた『リビング・デッド』は、休む事なく追跡を続けている。

伊織(横から抜ける…? いや、あいつは磁石が引かれるかのように、常に最短距離でこっちに向かってくる…)

伊織「やっぱ、こっち行くしかないわよねぇ…」

伊織「やっ!」タッ

ビルの壁に、足から飛びついた。

ガシッ!

モクモク…

ググググ…

伊織は『スモーキー・スリル』で自分の体を押し上げながら、壁をよじ登って行く。


ツイーッ

ガリガリガリガリ

おかまいなしに、『血』も機械的に平面を登る伊織の後を着いていく…

いや、打ち上げ花火のように高度を上げて行くそれは、壁を削りながらどんどん伊織との距離を縮めて行った。

伊織「壁も、地上と同じ速度で登ってくる…」

スタンドの力を借りなければ登ることすら困難な伊織と、常に同じスピードで追いかける『自動操縦』。縦の動きでは、明らかに『リビング・デッド』に分があった。

伊織「でも、そんなもん最初っから予想してるわ」グ…

タッ!

伊織がビルの壁を蹴った。小柄な体が、背中から宙に放り出される。

伊織「『スモーキー・スリル』」モクモクモク

ボフゥ!!

地面に衝突する前に『煙』が、仰向けになった自分の体を受け止めた。

伊織「………」タタタ

クク…

ポトッ

伊織が地面に降りて走り出すと、『血』は磁力を失った磁石のように、壁から剥がれ落ちる。

ツイーッ

地面に着くと、再び伊織を追いかけ始めた。

伊織(そう何度もやってられないわね。アレと違って、こっちは体力に限りがある…)

伊織(やよいは、まだ本体を倒せていないの…?)

伊織(『ゲンキトリッパー』は『血』のスタンドを『くっつけ』られない…返り討ちにされたって可能性も…)

伊織(いえ…ありえないわ。やよいが…765プロのアイドルが、コソコソしてるような奴に負けるなんて)

伊織(私に出来ることは、信じて待つことだけ…我ながら、情けないわね…)

ズルル…

伊織(でも…触ることすら出来ないこいつを、一体どうしたらいいわけ…?)

ス…

伊織「!?」

路地から脱出しようとする伊織の視界の中に、人影が現れた。

絵理「ぜぇ、ぜぇ…」

伊織「絵理…!?」

絵理「伊織さん…こんなところにいた…」

伊織(事務所から、後を着いて来てたのね…ぬかったわ…)

スルル…

伊織(コイツは、絵理の存在なんておかまいなしに追いかけてくるわ…)

絵理「伊織さん…?」

伊織「絵理! そこをどいて、じっとしてて!!」

絵理「その、後ろからついて来てるのって…何?」

伊織「!?」

ズズズ…

ゴゴゴ ゴゴ

伊織(スタンドが見える…!? まさか、絵理も…?)

絵理「赤い…何? グミとか…『血』みたいに見える」

伊織(いや…スタンド化していると言っても、元々は私の血…『スタンド使い』でなくとも見えるか)

絵理「どうしたの、伊織さん」

伊織「私はあの『血』に追われてるのよ! 何を言ってるのか分からないでしょうけど!」

伊織「アレは自動的に直線距離で私を追いかけてくる! その間にあるものに攻撃しながらッ!! しかも、『血』に触れれば増えて『血』の持ち主を追いかけ始める!」

伊織「絵理、アンタが巻き込まれたらアンタも襲われることになるのよ!!」

絵理「そう、なんだ?」

スッ

伊織「え?」

絵理「………」

伊織「何をやってるの、絵理!? 私の前に飛び出したら…」

ズァッ

伊織「え…」

絵理「『クロスワード』」

絵理の目の前に、人型の像(ヴィジョン)が立ちふさがる。

伊織(これは…スタ…ンド…?)

絵理のスタンドは、黒を基調とした、角のないシンプルなフォルムをしていた。

絵理「………」ス…

『クロスワード』が左の手のひらを、飛び上がった『血』へと向ける。

手の中には、カメラのレンズのような水晶体がついていた。

パシャ

十の字が描かれたレンズが、その姿を捉える。

伊織(絵理のスタンド…今、何をしたの…?)

ズズズ

ヒュッ

絵理「!」

ピッ

進行を邪魔された『リビング・デッド』が、飛び上がり、『クロスワード』の腕を切る。

伊織「ちょっ…? 何やってるのよ、絵理!」

絵理「うーん…」

伊織(今のはなんだったの…? 何ともなってないじゃない!)

『血』はそのまま、背後の伊織の方へ飛んでいった。

伊織「ちっ…!」モクモク

絵理「………」

パシャ

ピチャン!

伊織「え? !?」

『クロスワード』の右手からシャッター音が鳴ったと思うと、絵理のいる奥から水滴が落ちる音が聞こえた。

・ ・ ・ ・

飛び上がった『血』が伊織の目の前で動きを止める。

伊織「こ…」

いや、よく見れば僅かながら動いていた。…空中で、落ちることなく。

スッ

伊織が逆方向へと回り込む。ゆっくりと、伊織の方に進行方向を変えた。

伊織(追いかけてくる…ということはこの目の前の物体は、さっきまでの『血』と『同じ』もの…)

しかし、『血』は無重力の宇宙に放り出されたかのように、宙に浮いていて…

何より、この浮かんでいる物体は『液体』でなく、紛れもない『気体』だった。

伊織「これは…!?」

絵理「『クロスワード』。空気と血の性質を『入れ替え』た」

赤い塊が伊織の肌に触れる。

絵理「『血』は空気のような『気体』に、そして空気は『液体』になる…」

死霊が肌を食い破ろうとしているのだろうが、その感触は僅かなもので、まるで圧力を感じない。

伊織「ス…『スモーキー・スリル』!」ボフッ

スゥーッ…

同じ『気体』。『煙』のスタンドで赤い塊を包み込み、遠ざけていく。

伊織から離れていくごとに、『血』は少しずつ空気に溶けるように消えていった。

絵理「…大丈夫だった? 伊織さん」

伊織「絵理、アンタ…」

絵理「?」

伊織(今、起きた現象。あの能力は、紛れもなく…)

伊織「アンタも…『スタンド使い』なの…?」

絵理「うん」

………

ジュゥ!!

白い蒸気が吹き出る。

亜美「…あれ?」

それは、亜美の目の前にいる人物…そのまた前にいる者の腕から出ていた。

彩音「な…」

??「『なんでアンタがここにいる』…」シュゥゥゥ…

彩音「なんでアンタがここにいる…!」

千早「かしら? 鈴木さん…」

パラ…

水分を失い固まった血が、千早の『インフェルノ』の手から剥がれ落ちた。

やよい「千早さん!」

千早「どうやら、危ないところだったみたいね」

千早が、二人の少女を守る騎士のように、そこに立っていた。

真美「おっ、結構いいタイミングだった?」

亜美「真美真美、ありがとー! どうなるかと思ったよー!」

真美「んっふっふ~、真美に感謝するがいい!」

彩音「アンタの…スタンド能力…なの…?」

真美「その通り! 正解した鈴木のねーちゃんには、はなまるをあげよう!」

彩音「くっ…なんで、こんな三流アニメのご都合展開みたいにちょうどいいタイミングに…」

やよい「私の『ゲンキトリッパー』は、遠くまで行けるスタンドなんです」

彩音「は?」

やよい「それで、バラバラに分かれることが出来るんです」

彩音「一体、何の話…」

やよい「その『血』は、くっつけられないから『ゲンキトリッパー』はあまり役に立たないかも…」

やよい「そう思って、下の階まで、行かせてたんです」

・ ・ ・ ・

千早「まだ、わからないの?」

彩音「…! まさか…」

………

ゴゴゴゴ ゴゴゴゴゴゴ

誰もいなくなった、876プロのロッカールームの床…

『きて』

やよいの『ゲンキトリッパー』が、文字を作っていた。

………

彩音「メッセージを送っていたなッ! 下の、コイツらのいるところまで…!!」

やよい「えへへ…千早さん達に気づいてもらえてよかったです」

千早「さぁ…観念したらどうかしら? でなければ、痛めつけられた借りは返すけれど」

ポタ…ポタ…

ウッウー

ピョコ ピョコ

彩音「んっ!」ピタァ…

『ゲンキトリッパー』が彩音の足下から這い上がり、唇の傷が塞がれる。

彩音「…チョーシに…乗るな…!」

彩音「『ワールド・オブ・ペイン』ッ!!」

ズオッ!!

千早「無意味よ」コォォォォ…

ビシュン

飛びかかってきた『ワールド・オブ・ペイン』から、『インフェルノ』が一瞬で熱を奪う。

パキ ピキン!

カランッ

『血』は凍って結晶となり、地面に落ち、割れた。

彩音「は…」

千早「私のスタンド、『ブルー・バード・インフェルノ』は触れたものの『熱』を『奪い』『与える』スタンド」

千早「『液体』は凍り、『個体』に…あるいは蒸発し、『気体』となる」

彩音「ア、アタシの『ワールド・オブ・ペイン』が…」

千早「残念だけれど…」

彩音「う…」

千早「その程度の血では、『地獄の業火(インフェルノ)』は消せないわ」

千早「………」ザッ ザッ

彩音(に…逃げ、られない…奥は行き止まり…そもそも)

ピタ…

彩音(足が『くっつい』て動かない…!!)

彩音「な、なんなの…アンタらは…」

彩音「一体なんなのよォォォォォォッ!!」

千早「私達は…」スッ

ヒュオン!!

『インフェルノ』が目にも止まらぬ速さで、彩音を殴り飛ばした。

ッギャアアァァーン!

彩音「うぶっ…!」グググッ

バタン!

千早「アイドルよ」

ジュゥゥッ!!

彩音「うああああ、ひいっ…!! あ、『熱い』…!」ゴロゴロ

やよい「さぁ、伊織ちゃんへの攻撃を止めてもらいます!」

千早「どうしても止めないというのなら、もう一発…」

彩音「ちょ、ちょっと待ちなさい…」

千早「………」スッ

彩音「待ってって! 待ってクダサイ!!」

亜美「なに? 言い残したことがあるなら早く言ってよ」

彩音「アタシを気絶させても無駄ですよ! 『リビング・デッド』は、アタシにも止められないんデス!」

やよい「へ…止められない…?」

千早「本当かしら…」

彩音「本当ですって! だから、アタシに攻撃しても意味ナンてないんです!」

真美「殴られたくないから、てきとー言ってるんじゃあないの?」

やよい「本当だったら、最初からそう言ってくれればよかったのに」

彩音「だって、話し合いが通じるような雰囲気じゃなかったじゃあないデスか…止められないと言ったらナニされるか」

亜美「とにかく今、いおりんがピンチでパンチなんだよね?」

亜美「だったら、それをどうにかする方法教えてよ」

彩音「…言わなかったら?」

千早「スタンドが『戦闘不能』(リタイア)するまで攻撃するだけよ」

彩音「デスヨネー」

彩音「『リビング・デッド』を止めるのは、なんとか血をこぼれさせず、本人の血の中に戻すか…」

亜美「血を出さずに戻すのなんて、無理っしょ」

彩音「それか、そこのヒトがやったみたいに蒸発させたり凍らせたりして『液体』じゃなくせばイイです」

千早「そこの人…」

彩音「『血』はあくまでも物質なので…『太陽の光』とか『ライター』なんかでもいいハズ」

やよい「でも、今日は曇り空だし、お日様の光で水がばーってなるのも期待出来ないかも」

千早「なら、私が直接…」

やよい「早く伊織ちゃんを追いかけなきゃ!」

真美「でも、いおりんがどこに行ったかなんてわかんないし、追いつけるかどうか」

やよい「う…」

伊織「…私がどうかした?」ヌッ

千早「へ…? ………」

亜美「い、いおりん!?」

伊織「って、なによ。もう終わってるじゃない」

やよい「い、伊織ちゃん…『血』は…」

彩音「『リビング・デッド』をなんとかしたんデスか!? 一体、どうやって…」

伊織「あんなもん、この伊織ちゃんには通用しないわよ」

亜美「な、なんだってー!?」

伊織「と、言いたいところなんだけど…」

絵理「…サイネリア?」

彩音「セ、センパイ!」

千早「水瀬さん、何故、水谷さんと…?」

伊織「それは…」

ズ…

亜美「!」

真美「これって…」

絵理「私…『スタンド使い』」

伊織「まぁ、絵理のスタンドに助けられたのよ」

彩音「セ、センパイが…『スタンド使い』…?」

絵理「あの『血』って、サイネリアのスタンドだったんだ…」

彩音「うっ!」

やよい「鈴木さん…どうして、こんなことしたんですか…?」

亜美「そうだよ! せっかく楽しかったのに、めちゃくちゃになっちゃったじゃん!」

彩音「ほ、本当はこうなるハズじゃなかったんです…」

千早「本当は? はずじゃなかった?」

伊織「よく言うわ、『血』入りのブラッドオレンジなんて用意しちゃって」

彩音「あれは、アンタ…水瀬さんに飲ませるつもりだったんデス」

伊織「は?」

彩音「誤って、そこのヒトが飲んでしまいましたけど」

千早「………」

伊織「…え、何。私に飲ませて、どうするつもりだったの?」

彩音「『リビング・デッド』には胃の壁を破るほどのパワーはナイんです」

やよい(ガラスのコップは壊してたけど…)

伊織(…固くて薄かったのと、やよいの『ゲンキトリッパー』で固定させてたから負荷が大きすぎたのね。多分)

彩音「胃の皮をちょっぴりだけ切って…すぐ吸収されて血液の中に戻るから、腹痛が起きるだけで終わるハズだったんです。ハイ」

彩音「伊織さんが、センパイとベタベタしてるのが気に入らなくて…つい…」

真美「それが、千早お姉ちゃんが飲んじゃったから変なことになったんだね」

亜美「まぁ、それならちょっとしたイタズラで済むか」

伊織「なんでよ。この伊織ちゃんの胃が破壊されるところだったのよ」

千早「それに、事情がどうあれ、私達が重大な迷惑を被ったのは事実よ」

彩音「そ、ソレは…」

やよい「鈴木さん?」

絵理「サイネリア」

彩音「はい…みなさん、スミマセンデシタ…」ペコリ

亜美「これで、一軒着陸だね!」

絵理(『うわー! 家が降りてくるぞーっ!』『避難しろーっ!!』)

伊織「せっかくの絵理の誕生日だってのに、どっと疲れた…」

千早「いえ…待って。まだ、全て解決はしていないわ…」

真美「え? まだなんかあるの?」

やよい「あ、もしかして…」

伊織「! そうよ、『弓と矢』…!!」

千早「鈴木さん」

彩音「鈴木って…もういいデスよ。なんですか?」

千早「貴女、876プロの事務所で『矢』に触れたわね?」

彩音「え、ええ…よく、ワカりますね」

伊織「絵理…アンタもよね」

絵理「うん…」

彩音「そうですよ。アタシは、アノ『矢』に触れてから『ワールド・オブ・ペイン』を使えるようになったんです」

絵理「私も…同じ?」

伊織「『スタンド使い』になってしまったのは、もう仕方がない…」

伊織「でも、あの『矢』は破壊すべきよ。あれは災厄をもたらすものだわ」

やよい「『スタンド使い』が増えたら…また、ヘンなことが起きちゃうかも」

真美「はるるんの時みたいなこともあるかもしれないしね」

千早「幸い、この事務所では日高さんはまだ『スタンド使い』ではないらしいけれど」

絵理「へ?」

千早「部外者の鈴木さんまでが『スタンド使い』になっているということは…放置していては危険ね」

伊織「絵理、どう?」

絵理「あれを持ってきたのは石川社長」

絵理「…だから、社長に聞いて」

伊織「…わかったわ」

………

……

石川「みんなで戻ってくるなり…何? 『弓と矢』?」

石川「えぇ、確かに私が保管しているけど…あれが、どうかしたの?」

伊織「単刀直入に言うわ。あの『弓と矢』を破壊してちょうだい」

尾崎「は、破壊って…」

石川「えーと…邪魔だし、あなた達がそう言うのなら手放すのは別にいいけど」

石川「結構貴重なものらしいし、骨董品屋にでも売るわけにはいかないのかしら」

亜美「売ったりなんかしたら、もっとメンドーなことになっちゃうよ!」

愛「メンドーなことって?」

石川「あの『矢』に何かあるの? まさか、呪われてるとか…」

千早「呪われてる…ある意味、そうなのかしら」

やよい「あの『矢』には、不思議な力があるんです!」

尾崎「不思議な力って、あなたね…そんな、ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから…」

石川「あなた達…どうしたの? 何か変よ」

亜美「…どうすんの?」

千早「仕方ないわ。『弓と矢』の所有者が石川社長なら、説明して、納得してもらうしか…」

伊織「だったら、私に任せて」

石川「何を話しているの?」

モクモクモク…

『煙』が、石川社長の体を覆う。しかし、彼女の目からは、何も見えていない。

ズズズズ…

石川「へ…は…!? な、なにこれ…!?」スゥ…

愛「わわっ!!? 社長の体が浮いてる!!?」

パッ

石川「うひゃっ…」ドサッ

尾崎「しゃ、社長! 大丈夫ですか!?」

伊織「見えた? 気づいた? 今のが、『弓と矢』の呪いよ」

石川「な、何…今の…? て、手品…じゃ、ないの…?」

尾崎「手品とかそういうレベルを越えてるような…」

やよい「これは、『スタンド』っていう…えっと、ちょーのーりょくのようなものです」

石川「スタ…ンド…?」

千早「『スタンド』はそれを扱える者…『スタンド使い』ではない一般人には、見ることすらできない」

パリン!!

石川「ひ…! ガラスのコップが、ひとりでに割れた…!?」

千早「『スタンド』によっては、このようにガラスのコップを握り潰す程度簡単にできる」

千早「だから、誰にも気づかれず…犯罪を起こすことすら可能なんです」

石川「…!」

伊織「そして…『矢』は、その『スタンド使い』を生み出すのよ」

石川「ゆ…『弓と矢』…が…?」

伊織「やっぱり、知らなかったのね…やれやれだわ」

伊織「もしも、たまたま誰かがこの事務所に訪れて『矢』に触れてしまったりしたら」

伊織「スタンドを悪用するようなヤツが『スタンド使い』になったりしたら…大変なことになる」チラ

彩音「こっち見んな! …見ナイでくださいよ!」

伊織「冗談よ…でも、私達も以前、この『弓と矢』によってとんでもないことになった」

千早「私達はこの『弓と矢』により『スタンド使い』になってしまった…」

千早「だからこそ、これらの恐ろしさは、誰よりも知っているつもりです」

石川「あなた達の所にも、この『弓と矢』があるの…?」

伊織「それはこっちも言いたいわ…なんであの『弓と矢』がここにあるの?」

伊織「あの『弓と矢』は一体どこで手に入れたの!?」

石川「え、えーと、あれは…人から貰ったのよ」

千早「貰った? 誰からです?」

石川「誰って…」

石川「…高木社長よ…あなたたちのところの」

伊織「…は?」

ゴゴゴゴ

伊織「え…ちょっと待って、なんでその名前が出てくるわけ?」

石川「なんでと言われても。あれは高木さんから貰った、それだけのことだけど…」

ゴゴゴ

伊織「ありえない…」

伊織(高木社長があの『弓と矢』を渡せるわけがない)

伊織(だって…高木社長はもう、この世にはいないのだから。私も、葬式に出た…)

伊織(死んだはずの高木社長が、この事務所に『弓と矢』をもたらすなんて、そんなの…)

千早「待って、水瀬さん。ありえないというのは違うと思うわ」

伊織「え?」

千早「日高さんの話によると、この事務所に来たのは半年前くらいだそうよ」

千早「これは、高木社長が存命の頃に渡されたものじゃあないかしら」

伊織「…絵理。この『弓と矢』がいつの日に来たのかって、知ってる?」

絵理「えーと…」

絵理が、壁にかかっているカレンダーをめくる。

絵理「去年の…この日?」ピッ

石川「ああ、そうそう。ちょうどこの頃だったわ」

伊織(765プロに、『弓と矢』が来たよりも前ね…確かに、この時ならまだ高木社長は生きてる)

千早「社長は骨董品屋で、『弓と矢』を見つけ、気に入った…そして、『弓と矢』は複数あった」

千早「だから、知り合いの事務所にも配った。そういうことじゃないかしら」

伊織「確かに…それで、辻褄は合うわね…」

伊織(死んでるとか死んでないとか、どうでもよかった…生きてる間に持ち込まれたもの…なのね…?)

伊織(けど、何かしら。なにかが、引っかかる…)

伊織(いえ…気にしても仕方ないか、それより…この『弓と矢』よ)

千早「この『矢』…破壊してもいいでしょうか?」

石川「まぁ、仕方ないわね…そんな危ないものだったのなら、処分した方がいいわ」

愛「はい、そうですね…あたしも、それがいいと思います」

千早(あら、日高さん…やけに、物わかりがいいわね?)

千早(彼女のことなら『あたしも、「スタンド使い」になりたいです!』とか…言い出すと、思ったのだけれど)

千早(ちゃんと、スタンドが危険なものだと理解しているのね)

尾崎「え、絵理…絵理は大丈夫なの?」

絵理「多分…」

石川「高木さんは、このことを知ってこれを渡してきたのかしら…?」

やよい「知らないと思いますけど」

石川「あら、それはどうして?」

亜美「どっちでも、確かめようはないよね」

真美「うん、そうだね…」

石川「…?」

パラ、パラ…

千早(そして、私達は…『弓と矢』を、コナゴナに破壊した。誰の手にも、渡ることのないよう…)

亜美「よーし、いっちょあがりだねっ!」

やよい「これで、もう大丈夫ですね!」

千早「ええ…これ以上、『スタンド使い』が増えることはないはずよ」

伊織「絵理は誰かに迷惑をかけるような奴じゃあないし、あの鈴木とかいうのも、もうスタンドを悪用はしないでしょう」

真美「めでたしめでたし、だね!」

千早(こうして、876プロの『弓と矢』は破壊され…それで、全て解決した)

千早(と…この時は、そう思っていた)

千早(思えば…前兆は、既にあった)

千早(この日の時点で…876プロに『弓と矢』があるとわかった時点で、私達は、事の異常さに気づくべきだった)

千早(そして、それは…『弓と矢』の存在だけでなく…)

彩音「アレ?」

絵理「? どうしたの、サイネリア」

彩音「なんか、センパイの『手』…ちょっと…変、と言いますか…」

・ ・ ・ ・

彩音「…え?」

絵理「………!」サッ!!

ゴゴゴゴ

絵理「あまり…見ないで?」

ゴゴゴゴゴ

彩音(今…)

彩音(センパイの手の傷口が、ちょっと見えた…)

彩音(けど…何? あれは…骨が、見えていた…)

絵理「ねぇ、愛ちゃん」

愛「はい、なんです?」

彩音(いや、そんなことはドーでもいい…そんなに深い傷なのに、血が、全く出ていない…!?)

絵理「千早さんが『スタンド使い』じゃないとか言ってたけど…『あれ』はどうしたの?」

愛「えへへ、ちょっと秘密にしちゃいました!!!」

彩音「!?」

絵理「それにしても…」クル!

彩音「…!」ゾクッ

絵理「サイネリアも、『スタンド使い』だったんだね」

彩音(この『目』…アタシを見てるけど、アタシを、見ていない…)

絵理「それじゃ、これからも…」

彩音(センパイ…?)

ゴゴゴゴ

絵理「仲良く、しよ?」ニコ

彩音(イヤ…『これ』は、本当に…)

彩音(センパイ、なの…?)

To Be Continued…

スタンド名:「リビング・デッド」
本体:鈴木 彩音
タイプ:自動操縦型・同化
破壊力:C スピード:C 射程距離:A(ほぼ無限) 能力射程:A(ほぼ無限)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:なし
能力:「ワールド・オブ・ペイン」が作り出した死霊。
他人の「血」をスタンド化させ、血の持ち主を自動的に追いかけていく。
持ち主のもとに辿り着いた血は、皮膚を突き破って血液の中に戻ろうとする。
本人の血の中に戻るか、血が状態を保てなくなると消滅する。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

前回までのあらすじ

765プロの歌姫、如月千早は色々あってアイドルトーナメントに挑むことを決意した!

初戦の相手は優勝候補の一人、東豪寺プロ所属、魔王エンジェルの東豪寺麗華!

麗華の圧倒的なパフォーマンスに、審査員達の目も釘付け!

ダンスは完敗、胸も完敗! しかし彼女のダンスの中に、プロデューサーの目が何かを捉えた!?

自分のために! 高槻さんのために! あとついでに春香やプロデューサーとかのために!

信じられるのは自分のみ、真っすぐ進め如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!

春香「どこまで♪ 堕ちる 堕ちる このまま♪」

春香「ふたりで♪ いける いける 高みに♪」

春香「どれだけ! 燃える! 燃える 一途に!」

春香「求めて! 翔べる! 翔べる! どこまでッ!!」

春香「………」

シン…

一瞬、場内が静まり返る。

春香「………」スッ

ワアアアァァァァァァ!!

春香が観客席に向かって手を振ると、辺りが歓声に包まれた。

春香「よしっ、今日も大成功だったね!」

千早「えぇ」

ライブが終わり、舞台裏の集会用テントの下に春香と千早の二人が集まっている。

休日の昼間。765プロの二人は、都心の野外ステージでフェスに参加していた。

千早「凄い人気ね、春香は。まるで相手になっていなかったわ」

春香「えへへ、まぁね」

千早(春香は…)

千早(あの事件以来、いつも『自信』を持って舞台に挑んでいる。目ではっきりとわかるくらいに…)

春香「まだまだ、新人の子達には負けないよ~」

千早(私は…最近、少し伸び悩んでいる気がする)

千早(かつては私も、トップアイドルの一角などと言われたこともあったけれど…)

千早(春香の舞台に比べると、明らかにレベルが落ちている…自分でもわかる)

千早(まぁ、春香は春香、私は私…比べても、仕方のないことだけれど…)

??「お疲れ様ですっ!」

二人の下に、眼鏡をかけた、ジャージ姿の女性が走ってくる。

千早「大海さん」

大海「あ、これ。スポーツドリンクですよ!」スッ

春香「ありがとうございます、大海さん」

大海「はい!」

千早(大海さんは、最近うちの事務所に入った新人マネージャー)

千早(よく気がつく…とは言い難いけれど、不器用ながらもいつも明るくて、一生懸命なひとだ)

千早「しかし、何故、ジャージなのですか…? 学校の部活動のマネージャーじゃあないんですから」

大海「裏方ですし、動きやすい服装がいいと思って!」

千早「はぁ」

千早(少し、ズレた部分もあるけれど)

大海「ささ、そこのパイプベンチに横になってください! マッサージします!」

春香「えっ、そんなのいいのに」

大海「遠慮しないでください、そのためのジャージです! 私、マッサージは得意なんですよ!」

春香「それじゃ、お言葉に甘えて…肩、お願いします」

大海「はい!」モミモミ

春香「足も」

大海「はい!」ギュッ ギュッ

春香「あぁ…次は…」

千早「春香」トントン

春香「へ…?」

フェスの対戦相手のアイドル達が、春香のことを見ていた。

「流石、現代のアイドルの頂点と言われる天海春香さん…」

「マネージャーを子分扱い…」

春香「はっ!?」

春香「うぅ、私のイメージが…」

千早「他のアイドル達からのイメージとは、そう変わらないのではないかしら」

春香「千早ちゃんまで! そんなんじゃないのに~!」

大海「ご、ごめんなさい春香ちゃん! 私、そこまで気が回らなくて…」

春香「い、いえ! こういうイメージも大物っぽくてかっこいいですよ! あはは!」

千早(やる気は充分すぎるくらい…だけど、少し空回りしているわね…)

春香「ところで大海さん、今日この後の予定は?」

千早(ちなみに…事務所のみんなは、誰も彼女のことを『マネージャー』とは呼ばない)

大海「ちょっと待ってくださいね、えーと…」

手帳を取り出し、パラパラとめくる。

大海「今日は…春香ちゃんは18時から番組の収録、千早ちゃんは17時から新曲のレコーディングですね」

春香「夜までは何もないのか…それじゃ、一旦事務所に帰ろうかな?」

千早「そうね」

春香「大海さん、タクシー呼んでもらえますか?」

大海「はい、わかりました!」タッ

千早「へ?」

タッタッタ…

千早(大海さんは、走ってタクシーを探しに行ってしまった)

千早「電話で呼べばいいのでは…今タクシーを探しても、フェスの帰りの人で混雑しているでしょうし」

春香「まぁまぁ。のんびり行こうよ」

大海「うわっ!?」

ビターン!!

春香「あ、転んだ」

千早「そうか…」

春香「? どうしたの、千早ちゃん」

千早「大海さん…誰かに似てると思ったら、春香よ。なんだか彼女、昔の春香に似てる気がするわ」

春香「え、私に? そう?」

千早「雰囲気もそうだし…見た目も結構似てるんじゃあないかしら」

春香「そうかなぁ? そんなに似てる?」

千早「どうして、今まで気づかなかったのかしら…背丈も同じくらいだし」

千早「年齢の割に若くも見えるし、眼鏡を取ってリボンをつけて髪型を同じにしたら見分けがつかないかも」

春香「あはは。それなら、亜美と真美がやってたように入れ替わったりとかできたりして」

千早「春香、それは…」

春香「なーんて…」

千早「へ?」

春香「うそうそ。自分と似てるだけの誰かに、簡単に取って代わられるような…そんなつもりで、アイドルやってないよ」

千早「…そうね」

春香「ま、大海さんがアイドルになったとして…私の所に来るまでは、10年はかかるね!」

千早「春香…貴女は何年アイドルをやっているのかしら?」

千早(自信に満ちあふれている…と言うか、ちょっと自信過剰すぎやしないかしら? 最近の春香は…)

………

……



春香「遅いなぁ…大海さん…」

千早「だから言ったのに…」

大海マネージャーが去ってから結構な時間が経った。

既に二人は私服に着替え、舞台は片付け始められている。

千早「今からでも彼女に連絡を取って、改めてタクシーを呼んだ方が早いんじゃないかしら」

春香「もう観客の人達いなさそうだし、そろそろ捕まえられてもおかしくないと思うんだけど」

春香が舞台裏から、表の様子を見にひょこっと顔を出す。

春香「あれ…」

千早「春香?」

春香「………」タッ

千早「ちょっと、どこへ行くの春香? ここで待っていないと…」

クルッ

千早が呼び止めると、春香が立ち止まってから振り返る。

春香「千早ちゃん…あの子、迷子なのかな?」ピッ

春香が指差した先には、女の子が独りぼっちで突っ立っていた。

千早「そう…かもしれないわね。こんなところに一人でいるなんて…」

春香「だよね」タッ

千早「あ、春香!」

春香は少女の近くまで走っていくと、かがみ込んで目線を合わせる。

春香「ねぇ、お嬢ちゃん。どうしたの?」

少女「…だれ?」

春香「へ?」

千早「春香、急に走らないでほしいのだけれど…」

少女「あ、ちはやちゃんだ!」

千早「え? ええ、こんにちは」

春香「千早ちゃんのこと知ってるんだ?」

少女「うん!」

春香「…私は知らなかったのに…」

千早「あの…春香? 大丈夫?」

春香「平気平気。お嬢ちゃん、一人で来たの?」

少女「ううん、おとうさんと」

春香「お父さんはどこに行ったのかな?」

少女「わかんない…」

春香「やっぱり、迷子かぁ…」

千早「いつ、お父さんとはぐれたのかしら」

春香「お父さんはいついなくなったのか、わかる?」

少女「わかんない。ちはやちゃんのうた、きいてたら…」

春香「あ、聴いてたんだ? 私も歌ってたんだけど」

千早「こんな小さな子供をライブに連れてくる父親がいるのね…」

春香「まぁ、まぁ、いいじゃない。せっかく、千早ちゃんの歌を聴きにきてくれたんだよ?」

春香「それに…それなら、遠くには行ってはなさそうだね」

千早「とりあえず、近くの交番に連れて行った方がいいんじゃないかしら」

春香「そうだね…ねぇ、お嬢ちゃん。お姉ちゃん達に着いてきてくれる?」

少女「えっと…」チラッ

千早「?」

少女「うん!」

………

春香「で、交番まで来てみたけど…」

「バッグ、届いてません!? 大切なものが入ってるんです!」

「帰りの電車代がないんスよ! どうにかしてくださいよォーッ」

「あの~役所までの地図書いてもらいたいんですけど~」

「やかましいッ! 順番にしろッ!!」

千早「…どうやら、取り込み中のようね…」

春香「あの中に、お父さんいる?」

少女「………」フルフル

春香「そっか…よし!」

千早「春香?」

春香「ねぇ、千早ちゃん! この子のお父さん、私達で探してあげようよ!」

千早「…本気? アイドルである私達が? こんな小さな子を勝手に連れ回すの?」

春香「え…で、でも…」

千早「ふぅ…」

春香「ち…千早ちゃん…」

千早「止めても…放っとけないのでしょう? 貴女は」

春香「あ…! えへへ、ありがと千早ちゃん」

少女「?」

春香「ねぇ、お姉ちゃん達がお父さん探してあげよっか?」

少女「ほんと!? ちはやちゃんも!?」

千早「ええ。私と、このお姉ちゃんよ」

少女「わぁ…ありがとう、ちはやちゃん!」

春香「私は…?」

春香「…まぁ、いっか。それじゃ、行こう」

少女「うん!」

スタスタ…

タッタッタ

大海「お待たせ、タクシー呼んできましたよ!」

大海「…あれ? 春香ちゃーん、千早ちゃーん?」キョロキョロ

春香「さて、どうしようか…」

千早「無闇に捜しまわるよりも、この子から情報を聞いておいた方がいいんじゃあないかしら」

春香「それもそっか。ねぇ、質問していいかな?」

少女「しつもん?」

春香「えっと…ききたいことがあるんだけど、いい?」

少女「なに?」

春香「お父さんってどんな人?」

少女「アイドルがだいすき!」

春香「へぇ、そうなんだぁ…まぁ、そうだよね…」

春香「じゃないじゃない、えーと…今日はどんな服着てたの?」

少女「あおくて、ひらひらしたふく! とってもかわいかったの!」

春香「え…」

千早「春香、この子が言っているのは今日私が着ていた衣装のことよ」

春香「あっ、そういえば…」

春香「えーと…あ、そうだ」

少女「?」

春香「あなたの、おなまえは?」

少女「………」

少女は少し考えてから、千早を指差す。

少女「ちはやちゃん!」

千早「…警察に引き渡しましょう、春香。私達の手には負えないわ」

春香「ひ、引き渡すってそんな犯罪者見たいに…」

千早「話がまともに通じないわ。これでは父親の手がかりすらわからない」

春香「わ、わからなくてもなんとかなるって!」

千早「高槻さんやあずささんならば、こういう小さい子の相手は慣れていたのでしょうけど…」

春香「ちょっと、千早ちゃん! 私だって、765プロのお姉ちゃん役として立派にやってるんだから!」

千早「…え?」

春香「そう言えば…千早ちゃんもお姉ちゃんだったんだよね?」

少女「おねえちゃん?」

春香「あっ…ち、千早ちゃん、ごめん!!」

少女「ちはやちゃん、おねえちゃんなの?」

春香「え、えっと…」

千早「いいわ、春香。そんなに気を遣わなくても」

千早(優…交通事故で亡くなった弟のことは、忘れることはないけれど…もう、あまり気にしてはいない)

千早(彼がどうなっていても…きっと私は、歌の道を選んでいたでしょうから)

春香「あ、そうなんだ。あのね、千早ちゃんには優くんっていう弟さんがいてね、それから…」

少女「ふーん…」

千早「春香…」

………

……

春香「あの人は?」

春香が、通行人の男性を指差す。

少女「………」フルフル

少女は悲しそうな表情で目を瞑りながら、首を横に振った。

千早「駄目ね…やはり手がかりなしで人を探すなんて、無謀だったわ」

少女「おとうさん、もうかえっちゃったのかな…」

春香「そんなことないよ!」

千早「こうまで捜しても見つからないということは…」

春香「ち、千早ちゃん!」

千早「交番で待っているんじゃないかしら」

春香「へ?」

千早「いくら所内が忙しいと言っても、子供を捜す親にとっては関係のないことでしょう」

春香「あ、そっか…! あはは、なんだ! 私、てっきり…」

千早「てっきり、何かしら…?」

春香「ううん、なんでもない!」

少女「おとうさん、こうばんにいるの?」

春香「うん、いるいる! 絶対いる!」

少女「じゃあ、なんでここまできたの? ちかくにこうばんあったのに」

春香「うぐっ!」

千早「ごめんなさい。このお姉ちゃん、ちょっとドジなの」

春香「ち、千早ちゃんっ!?」

少女「へー、はるかちゃん、ドジなんだー」

春香「ああ、私のかっこいいトップアイドルのイメージが…」

千早「え?」

春香「もう、さっきから何、千早ちゃん!」

千早「いえ…行きましょう」

少女「あおい~とり~♪」

春香「機嫌良さそうに歌っちゃって…」

千早「お父さんに会えるとわかったからじゃあないかしら」

春香「それもそうだけど…本当に、千早ちゃんの歌が好きなんだね」

千早「ふふ…そうね」

春香「千早ちゃん、嬉しそうだね」

千早「誰かにそう思ってもらえるというのは、素直に嬉しいものよ」

少女「あのそ~らへ~♪ わ~た~しは~とぶ~♪」

少女は踊るようなステップで、横断歩道の白線を進んでいく。

千早「………」チラ…

千早「…!! 止まって!!」

少女「え?」

ゴォォォォォォ

千早が何気なく目を向けた右方向から、大型トラックが突っ込んできていた!

春香「きゃああっ!?」

ドライバーから見て、信号はちょうど赤になったところだったが…

「お…やっぱりだ、アイドルの天海春香と如月千早だ。この辺でライブやってたんだっけチクショー」

トラックのドライバーが春香達の存在に気をとられ、信号の変化に気づいていなかったのだ!

春香「お嬢ちゃ…!」

千早「」スッ

飛び出そうとする春香を、千早が手で静止する。

春香「え? 千早ちゃ…」

春香の足が止まる前に、千早は自ら道路へと飛び出した!

春香「ち…千早ちゃん!?」

「ま、まずい! ブレーキを…」

前方に子供がいると気づいた運転手が慌ててブレーキを踏むが、車体は止まらない。

少女「ちはやちゃん!」

千早「大丈夫…」ニコッ

ギュッ

千早は微笑んでから、少女を腕の中に抱きしめる。

ズズズ

千早「『ブルー・バード』」

千早の正面に、ちょうど少女と同じくらいの背丈をした、仮面をつけたスタンドが現れる。

千早(私のスタンドは…成長の度合いによって複数の形態を使い分けることが出来る)

千早(これは最初の形態、『ブルー・バード』…能力は『重量』を…『奪い』、『与える』こと)

ビュン

ズダッ!!

『ブルー・バード』がトラックに飛びつき、両手で車体を真っ向から押す。

千早「………」ググ

ズリッ

春香「『ブルー・バード』は『重く』なればなるほど『パワー』が上がるスタンド…『重く』して止めるつもりなの…?」

ゴゴゴゴゴ

春香「無茶だよ、千早ちゃん…! そこから『重く』しても、トラックを止めるほどの『パワー』にするには間に合わない! 止められないよ!」

千早「いいえ、春香。私は止めようだなんて、まったくこれっぽっちも考えていないわ」

千早「逆よ。トラックに触れているのは、私達の『重量』を『与える』ため」

ゴゴゴゴゴ

千早「トラックが動けば風が動く…」

フワ…

ビュゥゥゥッ

ビニール袋が風に飛ばされるように、千早と少女の体が飛んでいった。

少女「わ…」

千早「どんな力も、空気を掴むことはできないわ」

………

……



春香「ふぅ、あやうく大騒ぎになるところだったね」

千早「無事だったからと、ドライバーは帰したけれど…あれでよかったかしら」

少女「………」

春香(この子、静かになっちゃったね…)

千早(無理もないわ…とても怖い思いをしたでしょうから)

春香「あ…交番が見えてきた」

「!」

中にいた警官が、こちらに気づいて走り寄ってくる。

「もしかして、迷子の子ですか?」

千早「ええ、父親を捜しているのだけれど」

「いやー、タイミングがいいんだか悪いんだか…」

春香「?」

「娘を捜してるっていうお父さんが来てまして…ついさっき、捜しに行ってしまったんですよ」

春香「あちゃぁ、入れ違いになっちゃったんですね」

「結構歳いってるオジサンだったんですけど…こんな小さなお子さんだったんですねぇ、意外だなぁ」

少女「おとうさんだ!」

千早「そうなの…? 見たことないから私からはどうとも言えないけれど…」

春香「これで一安心かな…?」

「じゃ、あとは任せておいてください。…ところで、あなた達…どこかで見たような…」

春香「それじゃ、私達はこれで! 失礼します!」

「へ? ああ、はい。ご協力ありがとうございました」

スタスタ

少女「あ、あの…!」

春香「?」クルッ

少女「ありがとう! またね、おねえちゃん!」

千早「!」

春香「いやぁ、いいことすると気持ちいいね!」

千早「………」

春香「それにしても、千早ちゃんが道路に飛び出した時にはびっくりしたよ」

千早「………」

少女『またね、おねえちゃん!』

千早(お姉ちゃん、か…)

春香「…千早ちゃん? どうしたの?」

千早「いえ、なんでもないわ」

春香「そう?」

千早(まぁ、春香に言ったのかもしれないけれど。ああ呼ばれるのは…随分と久しぶりだわ)

春香「ねーねー千早ちゃん、帰りにスイーツ食べていかない? ちょっと行ってみたい場所があって」

千早「もう…いいわ、付き合うわよ」

春香「えへへ…やった、千早ちゃん大好き!」

千早「…ところで春香」

春香「ん、なに?」

千早「何か忘れているような気がするのだけれど…心当たりない?」

春香「あ」

千早の言葉に、春香は何かに気づくと、鞄の中から携帯電話を取り出す。

春香「あー…」

画面を見て、頭に手を置いた。

………

大海「………」ポツーン

「なぁ、姉ちゃんよぉ。あんたの言うアイドルの娘達ってのは、いつになったら来るんだい?」

大海「うぅ、春香ちゃーん…千早ちゃーん…」

To Be Continued...

スタンド名:「ブルー・バード」
本体:如月 千早
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:E~A スピード:B 射程距離:C(12m) 能力射程:C(12m)
持続力:E 精密動作性:E 成長性:C
能力:「ブルー・バード」のもう一つの姿。千早の身長に対し、非常に小柄な姿をしている。
触れた物体の「重量」を「奪い」、あるいは「与える」ことができる。
「重量」は本体である千早と連動しており、「奪う」ことで物体を軽くすれば、体重は千早に加算される。その逆も可能。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

多分今週無理です
来週に…できれば2週分投下します

前回までのあらすじ

大方の予想を覆し、優勝候補、魔王エンジェルの一人・東豪寺麗華(71)を下した765プロの歌姫・如月千早(72)!

敗れていった仲間達のため、共に歩んで来た高槻さんのため、そして、天国の弟に届けるため…千早は、必ず優勝すると、決意を新たにするのだった!

しかし、そんな千早の前に立ちはだかったのはCGプロの刺客、脅威の超大型アイドル及川雫!

千早と同年齢にして、その差なんと33cm! 圧倒的存在感を持つ雫の前に、圧され気味の千早!

しかし負けてはいられない! 天国から弟が見ている! 観客席からも、高槻さんが見ているぞ!

すでに色々負けているような気もするが、それでも頑張れ如月千早! 

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!

千早(876プロで『弓と矢』を発見した、水谷さんの誕生会)

千早(私と春香の、迷子の父親捜し…ちょっとした事件が続いた後)

千早(私達の身の身の回りでは、しばらく何もない…いつも通りの日々が続いていた)

千早(そう、何もない。けれど…それは、私達がそう思っていたというだけで──)

千早(私達が、何も気づいていなかったというだけで)

千早(本当は、もう既に…異変は始まっていた…)

~765プロ 二階 事務室~

ガーッ

デスクの引き出しを開ける。

伊織「『弓と矢』事件…」

伊織「高木社長によって765プロに持ち込まれた『弓と矢』を春香が手にし、765プロのアイドルを全員『スタンド使い』にした」

伊織「他のアイドル達は、『スタンド使い』を生み出す『弓と矢』の存在を危険視していた…」

伊織「けれど、春香は自分のスタンド『アイ・ウォント』…そして、『矢』の力でそれを押さえ込もうとした」

伊織「しかし、765プロのみんなで春香に立ち向かい、最終的に『アイ・ウォント』と『弓と矢』は消滅した」

伊織「…この、そもそもの発端…『弓と矢』…」

伊織「それを持ち込んだ、高木社長…『弓と矢』によって死んだということになっているけど…」

ゴソゴソ…

伊織「あったわ。これもそうみたいね」スズッ

誰もいない事務室のデスクの中から二冊ほどのファイルを取り出し、机の上に並べる。

いきなり変だ…修正

>デスクの引き出しを開ける。
誰もいない事務室に、デスクの引き出しが開く音が響く。

>誰もいない事務室のデスクの中から二冊ほどのファイルを取り出し、机の上に並べる。
デスクの中から二冊ほどのファイルを取り出し、机の上に並べる。

伊織「ああ、つっかれた…ったく、伊織ちゃんにこんな苦労かけさせるなんてひどい事務所よね」

伊織「移転前の事務所は社長室があったみたいだから、そこを探せばよかったけど…」

伊織「人もいないくせに、無駄に広いのよねぇこの事務室…」

伊織「机もこんなに並べちゃって。ちょっと探すだけでも、面倒ったらありゃしないわ」

伊織「まぁ、いいわ。これで…高木社長の遺した資料は全部かしら」

机の上に手を伸ばし、一冊のファイルを手に取る。

伊織「と言っても、量はそんなにないわね」パラパラ

伊織「社長の葬式の時に処分されたのと、真が前の事務所をブッ壊した時にほとんどなくなっちゃったみたい」

伊織「っと、前の事務所が壊れた件はこの伊織ちゃんにも、責任がちょっと…ほんの少ーしはあるらしいわね」パサッ

適当に目を通し終わると、ファイルをまとめて一カ所に積み上げる。

伊織「中身は、何の変哲もない。アイドルについての資料ばっかり…」

伊織「こんなもの、調べたところでなにかわかるとも思えないけど」スッ

伊織「よいしょっと」ヒョイ

机の上に積み上げられたファイルを、両腕でまとめて持ち上げた。

伊織「まぁ、いいわ。誰か来る前に運んじゃいましょ」

キィ…

スタスタ…

事務室の扉を開き、廊下に出て、資料を運び始める。

ゴゴ…

その後ろから、影が一つ近付いてくる…

ゴゴゴ…

??「伊織」

伊織「ひっ…!?」ビクゥッ

パサ バサッ

背後からの声に驚き、持っていたファイルが、手からこぼれ落ちる。

貴音「あ…と、申し訳ありません」

伊織「誰よ…って、なんだ、貴音じゃない。脅かさないでよ…」

貴音「そこまで驚かれるとは、思っておりませんでした…声をかける時には、もう少し気をつけた方がいいようですね」

伊織「まったくよ、もう…」

貴音「して、伊織…」チラッ

貴音が、床に散らばったファイルに目を向ける。

ドドドド

貴音「これは…」

ドドド

伊織「何? どうかしたの?」

貴音「…伊織。貴女は、何をしているのでしょうか?」

伊織「…調べものよ。ちょっと、気になることがあって」

貴音「調べもの…ですか」

伊織「そうよ。どうでもいいけど、拾ってくれる、これ?」

貴音「………… …何故、私が?」

伊織「何故って、アンタね…アンタのせいで落としたんだから…」

貴音「………」

伊織「貴音?」

貴音「伊織、昨日は何をしていました?」

伊織「いきなり何よ。昨日?」

貴音「…答えてください」

伊織「昨日は、営業に出かけてたわよ。結果は…あんまり話したくはないわ」

伊織「事務所に帰ってきた後、マネージャーの大海にジュース買って来るよう命令したら、春香と間違えちゃった。まぁ、そのまま買いに行かせたけど」

貴音「なるほど。そのようなことがあったのですか」

伊織「なんだったら、春香に聞いてもいいけど?」

貴音「では、先週は?」

伊織「…何? さっきから。ちょっと変よ、アンタ…」

貴音「質問に答えてください」

伊織「答えろったって、一週間前のことなんていちいち覚えてないわよ」

貴音「覚えてない? 本当に、覚えていないのですか?」

伊織「だから、そう言ってるじゃない」

貴音「なるほど、そうですか…覚えていない…ふふ」

伊織「…何なの? マジにおかしいわよ、アンタ…どうしたの?」

伊織「そんなことより、そこの書類拾って…」

貴音「『フラワーガール』」ヒュッ

伊織「は?」

ピッ

指先が、鼻の頭を掠めた。

タラ…

薄皮が切り裂かれ、血が滲む。

・ ・ ・ ・

伊織「………え?」

ドドドドド

貴音「………」

ドドド

貴音の身体から、下半身が『花』になったスタンドが出現していた。

伊織「な…貴音、今…何したの、アンタ…」

貴音「『フラワー…」ジリ…

伊織「…!!」バッ

咄嗟に、床に落ちているファイルを一冊拾い上げる。

伊織「やっ…!」

バサァ!!

貴音「…!」

貴音の顔に向かって投げつけた。

パサァ…

床に落ちる。

貴音「………」

伊織「」タッタッタ

貴音が怯んだ隙に、全速力でその場から逃げ出していた。

ゴゴ

貴音「…伊織…」

ゴゴゴゴ

タッタッタッタッ

伊織「はぁ、はぁ、な…」

伊織「なんで! なんで貴音が私を襲ってくるのよッ!!」ピト

スッ

指を鼻の頭に這わせてから、目の前に持ってくる。

伊織「血が…出ている…程度の問題じゃあないわ、仲間を襲うなんて…もう冗談じゃ済まされないわよッ!」クルッ

振り返って、廊下の奥の方を見た。

貴音「………」ツカツカ

貴音が、ゆっくりと歩いている。

伊織「まだ近い、ヤバい、来る…」

伊織(貴音のスタンド、『フラワーガール』は…)

伊織(強烈な『パワー』、目にも止まらぬ『スピード』、『正確な動き』…そして20m近くまで届く長い射程距離を兼ね揃えたスタンドッ!)

伊織(少なくとも、射程距離の半分…10mは離れないと危険ッ! それでもまだ安全とは言えない!)

伊織(けど、弱点はある…)

伊織(『フラワーガール』は強力なスタンドだけど、その代わりに燃費がとても悪い…スタンドを出しているだけでどんどん体力を消費していく)

伊織(なんとか攻撃をやりすごしていれば、勝手に倒れてくれるわ)

伊織「やり過ごす、か…もしも『フラワーガール』がこっちに近付いてきたら…やるしかないか…」

貴音「………」ス…

伊織「ん…?」

伊織(どうしたのかしら? スタンドを仕舞ったわ)

伊織(出しっぱなしだと体力は消費するけど、出さなければ私にスタンドを近づけて攻撃することもできないのに…)

貴音「………」

伊織「まぁ、いいわ。今のうちに離れておき…」

ヒュ

花の部分がドリルのように鋭く尖った『フラワーガール』が、『弓』から放たれた『矢』のように飛んでくる。

伊織「ましょ…!?」

ゴォォ

伊織「きゃ!?」バッ

その場に伏せて躱す。

ォォッ

スゥ…

伊織の横を通り過ぎると、『フラワーガール』の体が消えた。

伊織「な、何よ、今の…」

伊織「『フラワーガール』を飛ばしたの? この距離を、スタンドを出してない状態から…」

伊織「飛んでくるまで、何の前触れもなかった! 日本刀の『居合い抜き』のように鋭い一撃…!」

伊織「貴音はあまり目がよくない。この距離じゃあ正確に捉えることはできない…真っ直ぐ飛ばすしかないみたいだけど」

伊織「こんなのが飛んでくるなら射程距離の外…20m以上離れなければ安全じゃあないわ!」

貴音「………」

伊織「考えてる時間は…」

ヒュ

伊織「ないみたいね…!」

伊織「」バンッ!

近くにある部屋のドアを開く。

ポンッ

部屋の中から、貴音に向かって何か丸い物体が飛んできた。

貴音「!? 『フラワーガール』」

キキィッ

ガシッ

突っ込む『フラワーガール』にブレーキをかけ、体勢を整えながらその物体を掴む。

貴音「…これは…」

リンゴだ。

伊織「」タッタッタ…

貴音「…はて」ス

貴音はその逃げる後ろ姿を見送りながら、リンゴを一口かじろうとして…

貴音「………」

口元から離した。

伊織「はぁ、はぁ…」トットットッ

伊織「誰か…誰かいないの…?」

真「! 伊織?」

階段から降りていると、踊り場に真が立っていた。

伊織「真! はぁ、ちょうどよかったわ…」

真「どうしたのさ、そんなに慌てて」

伊織「貴音がおかしいのよ! 突然、『フラワーガール』で私に襲いかかってきたりして…」

真「スタンドで襲いかかってきただって…? 貴音が? そんな馬鹿な…」

伊織「この伊織ちゃんこんな冗談言うヤツだと思ってんの!?」

真「お、思ってないって。何があったの?」

伊織「私にだってわからないわよ! 私が一週間前何をしていたか答えられなかったら、突然…」

真「それは…奇妙だなぁ。そもそも、何か理由があっても貴音が伊織のことを襲ったりするなんて…」

伊織「奇妙でもなんでも、事実、私は貴音に襲われているのよ…真、なんとかして」

真「…え? 貴音の『フラワーガール』と戦えって…? どっちも、無事じゃあ済まないよ…」

伊織「………」

真「…伊織?」

伊織「あのさ、ちょっと気になったんだけど…どうでもいいことかもしれないけど」

伊織「貴音貴音って、貴音のこと『貴音さん』って呼んでなかった? アンタ」

真「え… ………」

ゴゴ ゴゴゴゴ

真「あ…」

真「ああ、そうか。そうだったね…」

グッ

真が、拳を握りしめる。

伊織「ま、別になんでもいいけど。それより、貴音はすぐにでも来るわ」

伊織「さっさと準備して、真」

真「…ああ。『ストレイング・マインド』」

ピキ ピキピキ

氷が熱で割れるような音とともに、真の手足の先から黒い結晶が現われ、全身を覆っていく。

伊織(真のスタンドは、全身に纏う黒い『鎧』)

伊織(能力は触れたものを『固く』すること。『固く』なったものはガラスのように割れやすくなる…)

伊織(身に纏うスタンドだから、射程距離はないに等しいけど…『パワー』は765プロの中でも最強、その腕で殴られれば…)

真「オラァッ!!」ゴォッ

伊織(何だろうと、コナゴナに…)

伊織「え…」

バッリィィィィィン!!

伊織の背後の壁に、大きな穴が空いた。

真「………」

パラパラ

拳を引っ込めると、破片が真の腕から落ちる。

伊織「じょ…冗談、でしょ…?」

真「………」

伊織「真、アンタも…なの…?」

ザッ

伊織「う…!」

ドドドドドド

貴音「………」

伊織「だ…誰か…」

伊織「誰か…! 助けて…」

真「誰か、だって…? おいおい…」

貴音「これはまた、妙な事を言うものですね」

伊織「誰もいないの!? た、助けて…!!」

真「うるさいっ!」

伊織「!!」ビクッ

伊織「ま…真…貴音…冗談でしょ…? まさか、アンタ達…私を…」

貴音「伊織」

伊織「な、何…?」ブルブル

貴音「貴女は、高木社長の資料を調べると言った…先週も、同じ事をしていましたよね」

伊織「え…!?」ギクッ

貴音「…やはり、覚えていないのですね」

伊織「ちょ、ちょっと待って…『先週』? ですって…この伊織ちゃんが…?」

真「ボクが、貴音のことを『貴音さん』と呼んでいたと…そう言ったよね? それは合ってる」

真「でも、この前キミにも話したろう? 『貴音』って呼ぶことにしたって。いつまでも『貴音さん』じゃあ他人行儀だからね。そう呼ぶようになった」

伊織「は…え、あ…」

真「単に忘れてしまったのか…あるいは、何者かのスタンド攻撃で記憶が混乱しているのか…」

真「とも思ったけど…まだ、気になることがあるんだよ」

伊織「気になることって…なにが?」

貴音「私達に襲われているという、この状況です」

伊織「そ…そうよ! 『フラワーガール』に『ストレイング・マインド』…そんな強力なスタンドで私をよってたかって…」

伊織「アンタ達、おかしいわよ!」

真「ああ、おかしいね」

真「…それで、どうしてキミはそんなおかしい状況を自分でなんとかしようとしない?」

伊織「え…」

ドドドドド ドドド

貴音「伊織はかつて…疲れ果てていようとも、私が倒れようとも、それでも敵に挑んで行きました」

真「ああ、ボクがまともに戦えない状態にあった時…体もボロボロだってのに、それでも一人でも戦おうとした」

伊織「あ、あの時と今とじゃ、状況が違うわ…」

真「そして、これが一番重要なことだ」

伊織「………」

真「キミは、『どうして、「スモーキー・スリル」を出さない』んだ?」

伊織「………………」

真「出せば、ボクの攻撃から身を守るくらいはできるだろう?」

伊織「ア…アンタ達を…傷つけたくなかったから…」

真「『スモーキー・スリル』は『気体』のスタンドだよね?」

真「ボクの『ストレイング・マインド』と違って、間違えて傷つけるなんてことはないと思うけど?」

伊織「それは…違う、えーと…」

真「第一、伊織だったら…ボク達が相手だろうと、間違ったことをやっていれば容赦はしないはずだ」

伊織「だ、だって…」

貴音「先週、私とぶつかってしまった伊織は、同じように資料を床に撒いてしまっていた」

貴音「ですが、私の手など借りず、そちらの方が手っ取り早いからと…自分で拾っていましたよ」

貴音「…『すもぉきぃ・すりる』で」

伊織「………」

真「ちょっとした違和感だった。間違っていれば、すぐにでも謝るつもりだった」

真「でも…こうして話しているだけでも、疑惑はどんどん膨らんでいく…」

ドドドド

伊織「………」

真「伊織! 『スモーキー・スリル』を出せ!」

ドドドドド

真「出せば、こんな馬鹿な真似は…ああ、馬鹿な真似だ! すぐにでもやめるさ!」

ドドド

伊織「………」

真「ボク達のスタンドの知識はあるんだろう? 自分のスタンドだけ『忘れている』ってことはないだろう?」

伊織「………」

真「………伊織」

貴音「真。もう、いいです」

真「貴音」

貴音「茶番はもう、終わりにしましょう」

貴音「私の『フラワーガール』が見えるということは、貴女は間違いなく『スタンド使い』でしょう」

貴音「ですが…これは、なんしょうか?」スッ

真「貴音、それは…?」

貴音が取り出したのは、先程投げられたリンゴだった。

しかしその皮は緩みきって、剥かれたミカンのように果肉が剥き出しになっていた。

貴音「これは、貴女のスタンドが起こした現象でしょう…『すもぉきぃ・すりる』には、このような能力はない」

貴音「結論を言います。『貴女は、水瀬伊織ではない』」

伊織「………」

貴音「そうですね?」

伊織「………………」

伊織「」スッ

左手に持っていたうさぎのぬいぐるみを、右手に持ち直す。

伊織「ねぇ、聞いてくれる…? こいつら、さっきから変なことばっか言うのよ…」

そして、無邪気な子供のように遊び始めた。

真「ふざけてるのか、おまえっ!!」

伊織「はぁ…」

真「!」ゾク

突如、伊織と同じ姿をした…彼女の雰囲気が変わった。

ゴゴゴゴゴゴ

伊織「………」

冷たく鋭い視線が、真と貴音を射抜く。

真(これは、『敵意』…?)

真(半年前、『弓と矢』で事務所を支配しようとした春香と同じような…いや、それ以上の純粋な『敵意』…)

ゴゴ

真「キミは…」

伊織「………」

真「キミは…誰だ?」

伊織「そんなに…知りたい? 私が何者なのか、そんなに知りたいわけ?」

ゴゴゴ ゴゴゴ

伊織「『リゾラ』」ズ

ズ ズ

伊織と同じくらいの身長をした、サンバイザーをつけた人型のスタンドが姿を現した。

ゴゴゴ

真「やっぱり…『スモーキー・スリル』じゃあ…ない」

他のあらゆるスタンドと同じように透けてはいるが、その身体は『気体』では…『煙』のスタンドでは、ない。

伊織「どいつもこいつも…なんでわざわざ知らなくていいことをわざわざ知りたがるんだか…」

伊織「知ってどうすんのよ? 私に倒されるしかないアンタ達がさァァ~ッ」

ゴゴ ゴゴゴゴゴゴ

スタンド名:「フラワーガール」
本体:四条 貴音
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:A 射程距離:C(19m) 能力射程:C(19m)
持続力:E 精密動作性:A 成長性:完成
能力:高い戦闘能力と、それに見合わぬ非常に広い射程距離を持つ貴音のスタンド。
精神力と共に、貴音自身の体力をスタンドパワーへと変換することができる。
しかし、その消費量は激しく、「フラワーガール」を出しているだけで貴音のエネルギーは著しく消費されていく。
「エネルギー」供給が尽きると花は枯れ、「つぼみ」へと戻ってしまい、また本体である貴音も力を使い果たし倒れてしまう。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ストレイング・マインド」
本体:菊地 真
タイプ:近距離パワー型・装着
破壊力:A スピード:A 射程距離:なし 能力射程:D(5m)
持続力:B 精密動作性:D 成長性:D
能力:黒い鎧を身に纏い、全身を守るとともに、高い身体能力をさらに引き出す真のスタンド。
触れたものを「固く」して壊れやすくし、あらゆる物体をその拳で粉砕する。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

2週分は無理でした、ごめんなさい

前回までのあらすじ

ついにアイドルトーナメントの第二戦が開幕!

その種目は、最悪の水着対決! 千早と雫の実力差が際立つ!

悲しき対決の火蓋は落とされ、ステージではB105の超大型がばいんばいん揺れる!

千早が取った作戦は…小細工なしの真っ向勝負!? プロデューサーの真意とは…?

心折れても膝折るな、立って戦え如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!

伊織「『リゾラ』…」

ドド ドドド

真「どことなく『南国』っぽい感じのスタンドだね…」

貴音「一つはっきりしているのは、このスタンドは『すもぉきぃ・すりる』ではない。つまり…」

真「こいつは、伊織じゃあない…」

伊織「………」

真「おまえは、何者だ!?」

伊織「さっきから、『誰』だの『何者』だの…」

伊織「いいわ。なら教えてあげる、私は…」

真「…!」

伊織「水瀬伊織よ。水瀬財閥の長女」

真「…は?」

伊織「両親は健在。兄が二人。お父様もお兄様達も、尊敬はしてるわ」

伊織「好きなものはオレンジジュースかしら…果汁100%のやつね。炭酸はダメ、ピリピリして口に合わないわ」

伊織「他は、旅行。色々な国の景色や文化に触れるのは好きよ。すぐ近所では手に入らないものだから」

伊織「宝物は、このぬいぐるみ…おべっか使う他人と違って、この子は普通に接してくれた。名前は…そう簡単に他人に話したりはしないわ」

伊織「アイドルを始めた理由は…まぁ、この美しさを放っておくのって世の中にとって損じゃない?」

真「なんだ…何をベラベラと…」

伊織「自己紹介だけど? アンタ達が、『誰?』なんて言うから」

真「自己紹介って…お前が言ってるのは…それは、伊織のことだろう!?」

貴音「貴女が水瀬伊織ではないのはとうにわかっています」

真「ボク達が聞いているのは、おまえのことだ! おまえは誰かと聞いているッ!」

伊織「はぁ。だから…」フルフル

首を横に振る。

伊織「私は正真正銘、伊織ちゃんだっての」

真「違う、おまえは伊織じゃない」

伊織「いいえ、私は水瀬伊織」

イオリ「…そう。私が本物の、水瀬伊織になる」

・ ・ ・ ・

真「『なる』…? なるって言ったのか、おまえ」

イオリ「確かにアンタ達の言う通り、私は以前この事務所にいた水瀬伊織じゃあないわ」

貴音「これはまた、面妖な表現をするものですね」

イオリ「でも…これからは私が、水瀬伊織として生きる。それだけの話よ」

真「伊織に成り代わる気か…? そんなこと、不可能だ」

イオリ「そう? 結構いけると思うけど」

真「いけるって? どこが。こうして、ボク達にバレてるだろう」

イオリ「はぁ、よく言うわ。この『一週間』…ずっと私のことに気づかなかったってのに」

真「は…」

イオリ「何よ、その顔。まさか、私がついさっき、ここに来たばかりだなんて思ってたの?」

ゴゴゴゴゴ

真「なんだって…『一週間』?」

真「おまえは一週間前から、伊織と入れ替わっていたっていうのかッ!?」

イオリ「ええ、そうよ。何も気づかずマヌケ面してるアンタ達と、仲良く仕事してましたァ~」

イオリ「貴音、アンタだってそうよ。さっきまで、私の…水瀬伊織の異変に、全く気づいていなかったんでしょう?」

貴音「それは…」

真「けど! ボク達は気づいた! お前の記憶の綻びから!」

イオリ「ええ、それは失敗だったわね。ちょうど入れ替わった時に、そんな出来事があったなんて知らなかったのよ」

ドドドド

イオリ「それ以前なら、水瀬伊織の記憶は全部ある…ボロを出すことはないわ。そのはずだった」

真「記憶は全部ある…どういうことだ? おまえが伊織の記憶を持っていると?」

貴音「それが本当だとして何故、一週間前の記憶だけがないのです?」

イオリ「アンタ達が知る必要はないわ」

イオリ「そう、アンタ達は私の『正体』を知ってしまった」

ゴゴ

イオリ「でも…逆に言えば、真、貴音。アンタ達二人を始末すれば…」

ゴゴゴゴ

イオリ「この事務所に、私のことを知るヤツはいない。そうでしょう?」

ゴゴゴ ゴゴゴゴ

イオリ「元々、そうするつもりだったし」

貴音「…私達も始末し、伊織と同じように偽物に成り代わらせるのでしょうか?」

イオリ「だから、話聞いてんの? それを知ってどうすんのよ、時間のムダだわ」

真「本気で言っているのか?」ググ…

パキ!

右手の人差し指を曲げると、鎧に覆われた指が鳴った。

真「ボクと貴音を始末できるなんて、本気でそう思っているのか?」パキパキパキ

指を手の内側に押し込んで握り込み、拳を作る。

イオリ「出来もしないことを…」スッ

イオリのスタンド『リゾラ』が、制止するように手を出す。

真「オラァッ!!」ゴォ

真は構わず、右腕で外側から大きく引っ掛けるように、目の前に立つイオリに殴り掛かった。

イオリ「得意気に言ったりしないわよ、この伊織ちゃんは!」

バンッ!!

真「!?」

突然『ストレイング・マインド』を被っている真の顔付近で、爆発が起こる。

真「な…なんだ、今のは…爆発した!?」

その衝撃に怯んで、真の拳が止まる。左手で頭を押さえた。

イオリ「」カン カン カン

その隙に、イオリが階段を駆け上がっている。

貴音「『フラワーガール』」ヒュオッ

貴音のスタンドが、一瞬にして距離を詰めた。

イオリ「うお…」

ヒュバ!!

左手で、イオリの喉元に向かって手刀を繰り出す。

イオリ「リ、『リゾラ』ッ!」バッ

イオリのスタンドがその前に立ちふさがった。

チリッ

ドスゥ

イオリ「ぐえっ!」

『フラワーガール』の一撃は『リゾラ』の手に掠り、その鎖骨あたりに突き刺さった。

真「スタンドへのダメージは、本体へのダメージ…スタンドが殴られれば、本体も同じ衝撃を受ける」

ギャァァン

『リゾラ』が、本体のイオリごと階段の上まで吹っ飛ばされる。

ドサァ!!

真「よし! 入った!」

貴音「いえ…」

イオリ「フゥー…」ムクッ

タタッ

イオリは地面に落ちてすぐに立ち上がると、真達から見て左側の廊下へと走り出した。

貴音「浅い…」

タタタ

イオリ「あの二人、どちらに気をつけるべきかと言えば貴音の『フラワーガール』ね…」

イオリ「体力を大きく消費するという弱点はあるけど…あのパワー、あのスピードであの射程距離…どうかしてるわね」

イオリ「でも…これで『半分封じた』」

イオリ「そして…」

カン!!

真が、階段に足をかける。

真「貴音、追いかけよう! あいつを野放しにするわけにはいかない」

貴音「ええ、わかり…」

トス

・ ・ ・ ・

貴音の身体が、左側にある手すりに寄りかかった。

真「さっきの『爆発』…あれが、あいつのスタンドの能力なのか…?」

真「………」

クルッ

貴音「………」ググッ

真が振り向くと、貴音は右腕で左手を押さえていた。

真「? どうしたの、貴音」

ダラン

真「………」

ゴ ゴゴ

貴音「左腕が…動かないのです…」

真「なんだって?」

貴音「腕の筋肉が『弛緩』して元に戻らない。力が…入らない」

真「ど、どうして…」

貴音「先程、『フラワーガール』の左腕があのスタンドの手に触れた…ような気がします」

貴音「恐らく、これがあの者の能力なのでしょう」

真「おいおいおいおい、ちょっと待ってよ」

真「じゃあ、さっきの『爆発』はなんだっていうのさ? 間違いなく、ボクは攻撃を受けた」

貴音「ええ、私も見ました…が、なんらかの方法で私の腕が『弛緩』されているのも事実」

真「スタンドは、一人一能力のはずだろう!? 千早の『ブルー・バード』だって、『奪い』『与える』という同じ能力!」

真「あいつは、二つの能力を使えるのか!?」

貴音「同じ能力、かもしれません」

真「同じ能力…どういう能力なら、こんな現象を起こせるんだ…」

貴音「どのような能力を持っていようと…」

貴音「彼女が私達を狙っていること…そして、彼女が765プロにとって『敵』であることに、変わりありません」

真「やるしかない、か…随分離れてしまったけど、伊織と同じくらいの身体能力ならすぐ追いつける」コッ

二人が、階段を上り始める。

真「『リゾラ』だったっけ? あのスタンドの情報が少なすぎる。そして、あいつの言ったことが本当なら…」

貴音「私達の能力は筒抜けでしょうね。二対一でも、有利ということはない…」

ズッ

・ ・ ・ ・

貴音の足下。階段から、二本の手が出現した。

貴音(一つ…わかっていることがあった)

ズオッ

手が、貴音の足を狙って襲いかかる。

貴音(わざわざ私達から離れるということは…『遠隔操作型』のスタンド…!!)

貴音「『フラワー…」

ガッ!

貴音「!」

スタンドを出す前に、両足を掴まれる。

真「え?」

貴音「真…」

真「た、貴音…」

貴音「今…攻撃されました。しかし、見ていなければこのような正確な動きはできない…」

貴音「あの者は、すぐそこにいるはず。私には構わず…行ってください」

ガクン!!

貴音の膝が折れる。

ガンッ!

ゴロン ゴロン

ドギャァァァア!!

そのまま力なく崩れ、体を階段に叩き付けながら下まで転がっていった。

ドドドドド

真「え…」

貴音「………」

真「」クルッ

真は貴音が転げ落ちる様を見ていたが、すぐに、階段の上に視線を移す。

ドドドド

イオリ「………」

真「お…おまえ… …ッ!!」

階段の上、柱の影に、イオリが立っていた。

イオリ「私のスタンド、『リゾラ』。その能力は『弛緩』…『緩ませる』こと」

イオリ「身体に触れれば、もう力を入れられない。足が『弛緩』すれば、立つことすらできない」

真「何をベラベラと…! 貴音に不意打ちを仕掛けたくせに、これで正々堂々のつもりか!?」

イオリ「別に。貴音の『フラワーガール』さえ潰せれば後はどうだっていいわ」

真「おまえを…ブッ倒すッ!」

イオリ「ハッ! そんなこと言う前にさっさとかかってきたら? だからダメなのよアンタは!」

真「」ダッ!!

『ストレイング・マインド』で向上した脚力で思い切り跳躍し、イオリに飛びかかる。

真「オラァッ!!」ドン

空中で真っ直ぐに拳を突き出す。

イオリ「そして、『ブッ倒す』…ね」

イオリ「残念だけど、アンタじゃあ無理よ、真。私の『リゾラ』には絶対に勝てない」スッ

真「!」ブルンッ

最小限の動きで、大振りの攻撃を避け…

イオリ「」サッ!

トン

空振った真の右腕に、『リゾラ』の左手が触れた。

真「!」ガクン

右腕が落ちた。

イオリ「スタンドへの攻撃は本体への攻撃! 『鎧』を纏っていようが関係ないわ!」

真「く…」

イオリ「右腕を封じた、こうなったらもうアンタはポンコツよ」

真「駄目だな、これじゃ…冷静になるべきか」パキッ

左手を握り込む。

イオリ「フン…」

イオリ(冷静になったところで…右腕を失えば、あとは左腕しかないでしょう? 片足を封じられたら、もう終わりだから)

イオリ(真のスピードは速い…でも、左腕で来るとわかっていれば充分避けられ…)

真「オラァッ」グオッ

バリィィン!!

真が左腕で、柱を殴った。

イオリ「!」

ヒュン ヒュヒュン

『ストレイング・マインド』の能力で『固く』なり、真の拳で砕かれた柱の欠片がイオリに向かって飛ぶ。

イオリ「そうか、『固く』した物体を殴り飛ばす『硬化散弾銃』…」

ゴォォォォ

イオリ「これがあったわね…!」ダッ

ゴロゴロ

横っ飛びして、転がりながら躱す。

真「」タンッ

イオリ「!」ムクッ

イオリが起き上がる前に、真が右足を踏み出している。

真「行くぞ『ストレイング・マインド』ッ!!」グッ

イオリ(左が来る…)

グイッ

イオリ「ん?」

真は右足を軸足に、左の腿を振り上げ、右側に身体を捻る。

真「『緩ませる』スタンドだって…?」

ガッ

サイドスローのピッチャーが投球するように、右腕をしならせた。

イオリ「な…『右』!? 遠心力で…!」

真「鎧には緩む筋肉もないだろう! 叩き付けるッ!!」

イオリ「く…」

真「オラァ!!」グイン

イオリ「」ガクッ

イオリ(この立ち上がる体勢がまずい…前か後ろか、倒れ込まないと躱しきれない…)

イオリ(いや、でもそうしたらその隙に左腕を叩き込まれる…)

イオリ「だったら…」

スッ

イオリのスタンドが、左手を肩あたり、真の右腕の軌道線上まで上げた。

真「!?」

イオリ「………」

真「受け止める気か…!?」

ゴォォォ

真(ボクの『ストレイング・マインド』は、触れたものを『固く』する…)

真(『固い』ものは割れやすい…その特性上、この拳は何だろうがブッ壊す凶器となる)

真(『リゾラ』の能力があっても、この腕は既に『緩んで』いる…能力で受け止められるわけがない、自殺行為だ!)

真(…けど、こいつは伊織じゃない、それにこの『緩んだ』腕はボクにも止めようがない)

真(構わない、このままブチ抜くッ!!)

真「オラァァッ!!」

イオリ「『リゾラ』ッ!」

バシィィィィッ!!

真「………」

イオリ「………」

ボロ…

カラン カラ

破片が、崩れ落ちる。

ブシュ

真「バ…」

指先から、血が吹き出す。

真「バカな…」

イオリのスタンドには、傷ひとつ、ついていない。

イオリ「やっぱり、無理ね…アンタには。私を倒すなんて…」

駄目ですわ、日付が変わるまでには

前回までのあらすじ

審査員が貧乳好きで事無きを得た千早! 見事三回戦へと進んでいく!

しかし、次の相手はなんと…同じ事務所の仲間であり、そしてアイドルトーナメント参加のきっかけであった高槻さん!

彼女は持ち前のガッツで本選を勝ち進んでいたのだ!

「高槻さんのために始めたこと、その高槻さんが勝ち進んでいるのなら…」なんと千早は棄権を決意!

棄権しようが負けは負け、それでいいのか如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!

真「」ズル…

ダラン

勢いを失った真の右腕が、床の方向へ垂れ下がる。

イオリ「やっぱ、『765プロ』の中で相手にするなら… ……」ザッ

真から距離を取った。

イオリ「アンタが一番楽ね。いくら『パワー』があっても、その『身に纏う』スタンドじゃあね…」

真「ぐっ…!」

ポタ ポタ

真(『鎧』が…あいつのスタンドの手に触れた部分が、クッキーみたいにボロボロになっている…)ボロッ

真「『ストレイング・マインド』の指先が…崩れるッ!」パラ パララッ

真「何故だ!? ボクのスタンドの能力は『固く』すること、その能力の中心にあるこの鎧は最強の硬度を持つ…」

真「割れることはあっても、こんな風に崩れるなんて! 一体何をしたッ!? なんなんだ、そのスタンドはッ!」

イオリ「全部言ったわ。私のスタンド、『リゾラ』の能力は『緩める』こと。ただ、それだけよ」

真「それだけ…だって…?」

真「『鎧』には、筋肉のように緩む部分なんてない…」

真「それだけのスタンドが、『ストレイング・マインド』を破壊できるわけがないだろうッ!」

イオリ「この世のあらゆる物質は原子で構成されている」

真「………」

真「なに?」

イオリ「『スタンド』だって、恐らく例外ではないわ。エネルギーが発生している以上はそこにはなんらかの原子があるはず」

イオリ「そして、原子同士は『電磁気力』という力で結びついている。だから物体は形を保ってられるわけ」

イオリ「それを『緩め』たら…」ズゥッ

『リゾラ』が真に近付きながら、右手を伸ばす。

イオリ「どうなると思う?」

真「」ピキャン

左手の指を、壁に突っ込む。

イオリ「!」

ググ…

ギ ピキン

真「オラァッ」

パリィィン

指の力で引っ掻くように、壁を抉り取り、飛ばす。

イオリ「」スッ

『リゾラ』の右腕を上げ、手のひらを飛んでくる破片に向けた。

ヒュォォォ

イオリ「原子が『弛緩』した物体は、非常に不安定な状態になる」

スッ

イオリ「そして、一瞬でも不安定になった物体は、元に戻る際自らの原子同士を結びつける力によって…」

ボロッ…

真「!」

イオリ「鉄だろうがダイヤモンドだろうが、焼き菓子みたいに簡単に崩れる!」

イオリ「触れただけで、どんな物体でも破壊できるのよ! 真、アンタの『ストレイング・マインド』以上にね!」

パラパラ

飛ばした壁の破片が、砂のようになって地面に落ちる。

イオリ「そして、『スタンドはスタンドでしか倒せない』。それがルール」

イオリ「鎧を破壊すれば、アンタの攻撃は『リゾラ』には届かない」

真「原子を『緩める』か…」

真「随分と、スケールが大きい話だね…いや、小さいのか?」

イオリ「スタンドは精神力のエネルギーよ。発想のスケールが小さいヤツじゃあスタンドの能力をフルには引き出せない!」

真「だとすると、ひとつ…妙なことがあるなぁ」パキッ

ダッ

左手を握りしめ、イオリに向かって走り出す。

イオリ「話聞いてたのかしらァ~ッ?」バッ!

イオリのスタンドが、両手を持ち上げた。

真「オラァッ!!」ビュバッ

構わず、左手の拳を突き出した。

イオリ「アンタの攻撃は…」

ゴォォォォォ

イオリ「通用しないって言ったでしょうが!」

ォォォォォォ

真の腕は止まらない。

イオリ「…チッ!」

グアァーッ

『リゾラ』が向かってくる腕の内側に身を捻って、ギリギリで躱す。

イオリ「」バッ

左腕に向かって、手を伸ばす。

真「」ガッ パギィィ!

右足を地面に叩き付け、めり込ませる。

イオリ「!」

真「」ギュルン!!

その足を支点として、身体を回転させた。

イオリ「………」ス…

リゾラが伸ばした腕は空を切り…

真「」グオォォォォッ

遠心力で勢いを持った真の右腕が、イオリに襲いかかる。

イオリ「」パシィ!!

ポロッ パラパラ

・ ・ ・ ・

『リゾラ』の右手で受け止め、『ストレイング・マインド』の鎧を崩壊させる。

ク…グンッ

鎧を破壊された真の右腕が、手をすり抜けた。

グルン

真「オラァッ!」ドン

回った勢いのまま、再び左腕で殴り掛かる。

イオリ「」バッ

後ろに飛んで躱した。

真「うおっ」ブルンッ

ガシャァァァァン!!

思い切り体勢を崩し、地面に叩き付けられる。

真「………」

ドドドドドド

真「…やっぱりな」ムクッ

すぐに立ち上がる。ダメージが入った様子は全くない。

真「どんな物質でも破壊できる…と言ったね」

真「だったら、なぜボクの右腕や貴音の足の原子を『緩めて』破壊しないのか」

イオリ「………」

パキ パキ パキ

黒い鎧が、破壊された部分を埋めるように真の右腕を覆っていく。

真「できないんじゃあないのか? 最初、ボクの右腕に触った時は『鎧』は破壊されなかった」

真「なにか他に『緩む』ものがあれば…より大きな『緩む』ものがあったら…そちらを優先するしかないんじゃあないのか?」

イオリ「フン!」

真「『鎧』には緩む部分がないと言ったけど」

真「逆なんだね。『緩む』部分がないからこそ、原子まで『緩め』させ…『ストレイング・マインド』を破壊できた」

イオリ「ええ、そうね。どの道、腕の筋肉が緩めば終わりだけど」

真「いや、全然違うよ。腕の筋肉が『緩んだ』としても、『ストレイング・マインド』が破壊されなければ…」

ゴゴゴ

真「一発分…キミの腕をフッ飛ばすくらいはできるからね」

ゴゴゴゴゴ

イオリ「………」

真「」ダッ!!

真っ直ぐに、イオリの方に突っ込んでいく。

イオリ「」ズズッ

真「!」

『リゾラ』が、横の部屋の、開いているドアの根元に触れている。

ギュルン

シュパッ シュパン!!

ドアの金具を留めているネジが思い切り『緩み』、真の方に飛び出していく。

真「………」

グラッ

いつの間に触れていたのか、天井にある蛍光灯も『緩み』…

ズオォッ

真の頭上へと落ちていく。

イオリ「『リゾラ』!」

イオリが一緒に、スタンドを突っ込ませた。

真「………」

ガシャァァァン!!

蛍光灯が頭にぶつかって割れる。

ガシャ ガシャン

破片が地面に落ちた。

カッ! ガガッ!!

飛んできたネジが、『鎧』に弾かれる。

避けたり、反応したりはしない。

イオリ「」ピタッ

そんな真の様子を見て、『リゾラ』の動きを止めさせた。

真「こんな…」

イオリ「………」

真「こけおどしが通用すると思ったのか」

イオリ「流石に冷静みたいね…肝の据わったヤツ」

真「」パラッ

顎を引き、頭の上に残っていた蛍光灯の破片を落として、左手に乗せる。

パキッ!!

握り潰した。

真「オラァッ」

ヒュゥォン!!

手の中でコナゴナになった破片をイオリに投げつける。

タッ!

同時に身をかがめて、長距離ランナーがスパートをかけるように加速した。

イオリ「来た来た来た来た…」

イオリ(破片を避ければその後に攻撃が来る、攻撃を避けるためには破片は受ける覚悟が必要…)

真「」ガッ ガ ガ ガ

イオリ(どっちも避ける…なんて無理ね。このスピードじゃあ、避けて体勢を崩した瞬間ジ・エンド)

イオリ「私が同じことやってもこけおどしにしかならないのに…チッ、パワーもスピードもあっていいわねぇアンタのスタンドは…!」

ゴォォォォォ

イオリ「でも…この伊織ちゃんの美しい顔に傷をつけるなんてできやしない…わッ!」タッ

イオリは左方向…真から見ると、腕が動かない右方向に飛んで躱す。

真「」ス…

ガンッ!

ピキ パリ ピキィッ

左腕を下げ、右の膝を腕へと叩き付ける。左腕の鎧にヒビが入った。

イオリ(……… …? 何やってんの? ついに気が触れた?)

真「オラァッ!!」ビュァッ

地面から掬い上げるような拳が、イオリへと襲いかかる。

イオリ「…やっぱり…」

横に飛んだばかりだ。避けることはできない。

イオリ「…無傷で勝とうなんて虫のいい話だったわね」バッ

『リゾラ』の右手で受け止めようと、手を出す。

グシャァァァァ

そのまま、真の拳が右手に入った。

イオリ「ただし…」グググ

真「!」

ポタ…ポタ

パラ パラパラ

左手の鎧が崩れている。

『リゾラ』の右手の後ろに、左手が重なっていた。

イオリ「右手だけよ…それ以上は許さない」

ブシュ

右手がコナゴナに破壊され、血が吹き出す。

イオリ「両腕はこれで封じた! アンタもこれで終わりよッ!」

真「これで終わり?」

真「気が早いなぁ。まだ何も終わっちゃいないってのに」

イオリ「ハッ! 手がでなけりゃあ足でも使う?」

ピ…

・ ・ ・ ・

イオリ「…その、腕…」

真「スタンドを破壊することで、攻撃は無力化できるみたいだけどさ…受け止めた時の衝撃まで消えるわけじゃあないよね」

ピキ ピシピシ

真「『鎧』の『硬化散弾銃』…」

『ストレイング・マインド』の左腕のヒビが大きくなっていく。

真「この距離なら、まぁ…届くだろ」

パァリリリィィン

左腕の鎧が割れ、その破片が、手の横を抜けイオリの顔面へと飛んでいく。

イオリ「な…何ですってェーッ!!」

真(よし…! これで…)

シュー…

・ ・ ・ ・

真(なんだ、この音は?)

ドボンッ!!

真「!?」

突如、真のイオリの間に爆発が起こる。

イオリ「きゃぁっ!!」ブアッ

真「ぐっ」ガシャン!

その衝撃で、真とイオリが引きはがされるように吹っ飛んだ。

真「な…なに…!?」

『硬化散弾銃』は命中していない。

真(まただ…なんだ、今の爆発は…)

イオリ「やってくれるわね、真…」

真「く…」

真(左腕も…落とされた、両腕が使えない…)

イオリ「でも、やっぱり…アンタは、もうこれで終わりよ」

真「うおおおおおっ!」

前回までのあらすじ

なんやかんやあって高槻さんと戦うことを決意した千早!

三回戦の種目は、歌! 千早の得意分野!

しかし、高槻さんもめきめきと実力をつけてきた侮れない相手!

千早は、どう立ち向かっていくのか!

誰のためでない、自分のために! 進め、歌姫如月千早!

負けたらプロデューサーのセクハラ地獄が待っている!

シュゥゥゥゥ…

イオリ「」クイッ

左手で、顔についた焦げ目をなぞる。

ポタ ポタ

イオリ「ああ、痛い…肌に傷がついたし、右手が…人差し指と中指が千切れてるわ…」プルプル

身をかがめて、右手の小指と薬指で落ちた指を拾い上げる。

イオリ「けど…」スッ

顔を上げた。

イオリ「これでアンタを倒せると思ったら…あんまり悪い気はしないわね」

真「はーっ…」

真(両腕の…筋肉が…)

ガクン

真(『緩み』きって…動かせない…!)

プルプル…

真はふらつきながらも、足の力だけでゆっくりと立ち上がった。

真(体の動きというのは、つまるところ筋肉の収縮作用だ…)

真(『縮む』『緩む』…どちらか片方しかできなくしてしまえば、体は動かなくなる…それはわかる)

シュゥゥゥ…

真(だが…! 今の爆発は…なんだ?)

真(あいつの能力が本当に一つだけなら…これも『緩ませる』能力によるもののはず…)

真(気になるのは、さっきの『シュー』とかいうあの妙な音…あれは、確か…)

ゴゴゴ

ゴゴゴゴゴ

真(あいつの持っているうさぎのぬいぐるみ…)

真(よく見ると、鼻の辺り…なにかおかしいぞ、パイプか…? パイプが伸びている)

真(爆発…パイプ…)

真「………ガス?」

イオリ「あら」

真「その中にガスボンベでも仕込んであるのか」

イオリ「察しがいいわね、そうよ」

真「『リゾラ』の能力で…可燃性ガスの分子を『緩め』ているのかッ!」

イオリ「ええ。『緩んだ』状態になったガスを空気中に放出しておく…」

イオリ「そして、能力を解除する。すると、元に戻る時に発生するエネルギーで、反応が起こる」

イオリ「一度反応が起こってしまえば、その際に発生するエネルギーで連鎖的に反応を起こし…大きなエネルギーが発生する」

真(そして、爆発する…ってわけか)

イオリ「私の『リゾラ』…能力は申し分ないけど、ちょっと『パワー』が足りなくてねぇ…」グイッ

左腕のぬいぐるみを持ち直す。

イオリ「これで補ってるってわけ」

真「」パキッ

膝が鳴った。

真(両腕が上がらない)

真(…『チアリングレター』を使うか?)

真(いや、『チアリングレター』を使うには『ストレイング・マインド』のガードを下げる必要がある)

真(今は『鎧』に包まれているから無傷だったけど、あの『爆弾』がある以上…規模によっては、ただじゃあ済まないか)

イオリ「両腕が使えないアンタなんて…」ズッ

イオリは自らのスタンドを、真に近づけていく。

真「…!」

イオリ「羽根を取られたトンボと同じよッ!」

真(向こうから来た…もう、ボク相手に受け身に回る必要なんてないってことか…)

イオリ「」グオッ

『リゾラ』が真に向かって手を伸ばす。

真「オラァ…!」

ブルンッ

真はその腕に向かって、右足を蹴り上げる。

ヒュ

イオリ「………」

ビィィ…ンッ

真「うっ…!」クラッ

しかし、蹴り上げた足は狙いを外して空を切った。体がぐらついてしまう。

真(駄目だ、両腕の筋肉が緩みまくってるせいで身体のバランスが安定しない!)

真(こんなんじゃあ、腰の入った蹴りも撃てやしない!)

イオリ「右足! 貰ったッ!」ゴォ

真「オラァッ!!」ヒュッ

イオリ「!」サッ

真が上がった足を振り下ろしたのを見て、咄嗟に『リゾラ』の手を引っ込める。

ガギィィン

ヒュン ヒュン

『ストレイング・マインド』の鎧の覆われた踵が床を砕き、破片が飛び散る。

イオリ「『リゾラ』」パシ パシ

ポロ…

スタンドの手で掴み取って、難なく対処する。手の中でボロボロになった破片が、床に落ちた。

イオリ「で、次は?」

真「………」

イオリ「ないわよねぇ。転ばないようにバランスを整えるのが精一杯よ」

パシィィッ!!

『リゾラ』の左手が、真の右足を引っ叩いた。

真「うおっ…」グラッ

右足が『緩み』、膝をつきそうになるが、片足で踏みとどまる。

イオリ「そんな状態で何ができるんだか…」

イオリ「チェックメイトよ! もうアンタは詰んだ!」

真「く…」フラ…

イオリ「ん?」

ピョコ ピョコッ

真が片足でケンケンしながら、イオリに背を向け動き出す。

イオリ「あら、逃げようっての? もう打つ手がないから、私から逃れようっての?」

ピョコ ピョコン

イオリ「逃がすか、バーカッ! 『リゾラ』!」ズォォッ

イオリのスタンドが回り込み、真の進行方向正面に立ちふさがる。

真「く…」ギリッ

『鎧』に覆われた中で、歯ぎしりをした。

真「オラァッ」グオン!

イオリ「おっと」サッ

せめてもの抵抗とばかりに前方の『リゾラ』に頭突きをかますが、これも避けられた。

ガシャア!!

頭から地面に叩き付けられる。

真「」ゴロゴロゴロ…

そのまま二、三回前方に回転し…

グバッ カラァァン!

仰向けになって倒れた。

イオリ「無様ねぇ…ええーっ、真!?」コツ コツ

真「気安くボクの名前を呼ぶな…」

イオリがスタンドの後から、ゆっくりと真に近付いていく。

真「………」モゾモゾ

真は大の字になったまま、体を捻らせている。

イオリ「悪足掻きはもうやめなさいよ。苦しみが長引くだけだわ」スッ

パシッ

『リゾラ』の左腕が真の『ストレイング・マインド』に覆われた左腕に触れると…

ボロッ

真「ぐ…!!」ブシュ

その部分が崩れ、血が噴き出す。

イオリ「ほらほら!」 パシ パシッ

真「うあああっ!!」ブシュゥゥッ

イオリのスタンドが体のあちこちに触れ、真の鎧を破壊していく。

真「………」フッ

真の身に纏っていた『鎧』が、消えた。

イオリ「あら。気絶しちゃった? 『ストレイング・マインド』が解除されたわ」

イオリ「この状態で何かできるとは思わないけど…」

イオリ「念のため、『リゾラ』の能力を解除しても動けないくらいには痛めつけておくか」コッ コッ

イオリが真の傍に立ち、ぬいぐるみの口を向ける。

イオリ「これで、私の勝ちよ。所詮、『ストレイング・マインド』もこの伊織ちゃんの敵じゃなかったわね」

真「いや、違う。ボク達の勝ちだ」

・ ・ ・ ・

イオリ「なんだ、まだ起きてたの。アンタ」

真「やけに勝負を急いでるね…もっとゆっくり、気をつけながら事を運べばいいのにさ」

イオリ「…?」

真「まぁ、それもそうか。もたもたしてれば騒ぎが大きくなるかもしれない」

真「他の誰かが駆けつけてくるかもしてない。ボクを始末するなら、さっさと決着をつけたいはずだ」

イオリ「…何? アンタ、今の状況わかってんの?」

真「わかってるよ。文字通り、手も足も出ない…」

真「おまえの言う通り、ボクの『ストレイング・マインド』でその『リゾラ』に勝つのは不可能みたいだ」

イオリ「………」

真「けれど、おまえの言った通り、そのスタンド自体にパワーはほとんどない。攻撃を止めたのだって直接受け止めてるわけじゃあないし」

真「鎧の原子を『緩めて』破壊すればボクにもダメージはあるけど…」

真「『ストレイング・マインド』を解除したボクに決定的なダメージを与えるには、その『爆弾』を使うしかない」

イオリ「それがどうしたってのよ! この死に損ないがッ!」

真「いや…つまり、おまえがボクを倒したかったら、自分自身で近付くしかないってことさ」

イオリ「………」

真「ボクはただ、ここに誘き寄せたかっただけだ」

真「そしておまえは『射程距離内』に…入った」

イオリ「『リゾラ』の能力は解除してないわよ?」

真「まだ、わからないかなぁ」

・ ・ ・ ・

イオリ「…『達』? ………」

ドド

イオリ「アンタ、さっき…『ボク達』って言った…!?」

真「………」

イオリ「」バッ!

イオリは自分の立っている位置…ちょうど、廊下の突き当たり。そこから右の方…階段の下に、目を向けた。

ドドドドド

貴音「ぐれぇと」

ドドドド

イオリ「貴音…!!」

先程階段から転げ落ちた貴音が、そこに座り込んでいた。

イオリ(私を…見上げているッ…!!)

真「スタンドなら引っ込めればいいけど…自分の体はそうもいかないだろう」

イオリ(真の奴…貴音から私の姿が見えるように、自分を囮にしたッ!)

貴音「『フラワーガール』」キュル

ギュン!!

イオリ「あああああ!!」

貴音のスタンドが、戦闘機のような勢いで突っ込んでくる。

ドォ

イオリが、スタンドを自分の正面に立たせる。

イオリ(突っ込んでくるなら、私に攻撃が突き刺さる前に…逆に『リゾラ』で…体をフニャフニャのグニャグニャにしてやるッ!)

イオリ(できる! できなかったら…終わるッ!)

イオリ「うおっ、おおお『リゾラ』ッ!」ヒュン

スカッ

左手で手刀を繰り出したが、その腕は空振る。

イオリ「へ…」

『フラワーガール』の軌道がイオリを外れ、背後まで飛んでいったからだ。

クルン

イオリが首だけ振り向くと、フラワーガールの体がこちらに向いて、花弁が花開くように舞っていた。

貴音「感謝いたします」

イオリ「あ…」

貴音「貴女が私を早々に動けなくしてくださったことで…逆に、体力に余裕ができました」

真「手に触れるだけで攻撃を無力化するスタンド…どうやって倒すべきか?」

真「答えは簡単だ、正面から突っ込まずに回り込めばいい」

真「ボクの『ストレイング・マインド』では少し難しいけど、『フラワーガール』のスピードなら…」

真「楽勝だ」

貴音「ここ…」グッ

イオリ「ひ…」

ヒュオッ

イオリ「うべらっ!!」ゴギッ

『フラワーガール』の右拳が、イオリの右顎に突き刺さる。

グ ギギ

貴音「この角度が、いい」

グギャァ!!

ギュルルルン!

ドグシァァア

その一撃はイオリの頭を揺らしながら、体ごと回転させ、地面に叩き付けた。

イオリ「う…うが…あ…!!」

真「!」スクッ

貴音「………」スッ

真と貴音が、同時にその場から立ち上がった。

イオリ「あ、ああうううあああああ…がほっ、げほっ…!」

貴音「『緩める』能力が…」カツ カツ

貴音が階段を上がってくる。

真「…解けた。スタンドを保ってられなくなったようだね」クルッ

イオリ「ひ…」

真が、イオリの方を見下ろす。

イオリ「ひいーっ」ズルズル

イオリは体を引きずりながら、廊下の方に逃げようとする。

真「逃がさないよ」スタッ

イオリ「うあ…」

その前に、真が回り込んだ。階段から上がってくる貴音とは、挟み撃ちの形になる。

真「さて…おまえには聞きたいことが山程ある」

イオリ「はぁーっ、はぁーっ」

イオリ(まだ…まだよ、まだ私は『負けていない』…何か、逆転の手が…)

貴音「真。スタンドを出せぬうちに『固く』して手足を封じてしまいましょう」

真「そうだね。その方がよさそうだ」ス

パキ パキ

真がイオリに右腕を伸ばす。その腕が、『ストレイング・マインド』に覆われていく。

イオリ(手が…!)

???「あっ!?」

真「!?」

貴音「!」

やよい「な…なに、やってるんですか…? みなさん…!」パタパタ

真「やよい」

イオリ「…!」

真の背後、廊下の奥の方からやよいが走ってきた。

やよい「真さんと貴音さんが、伊織ちゃんを…え?」

イオリ(これよ…誰かが来るのを待っていた!)

貴音「やよい。これは…」

イオリ「助けて、やよいッ!」

やよい「え…」

真「なに?」

イオリ「こいつらがおかしいのよッ! 突然私を襲ってきて…殺されるわッ!!」

やよい「伊織ちゃん…? あ、あの…」

真「な…何を言ってるんだ! おまえはッ!」

イオリ「ほら、このケガ…ひどいでしょう!? こいつらにやられたのよ!」

やよい「え、えっと…治そっか…?」

イオリ「そんなのは、後でいいわ! それより、はやくこいつらを『くっつけ』て止めて!!」

真「…!」

イオリ(やよいの『ゲンキトリッパー』…『くっつけ』る能力で、真と貴音を足止めしてもらえば…)

イオリ(『アイツ』を連れて来れる…)

イオリ(『アイツ』さえ来てくれれば…真と貴音、そしてやよいを始末すれば…!!)

真「やよい! 言うことを聞いちゃ駄目だ、そいつは伊織じゃあない!」

貴音「やよい。『くっつけ』るのなら、そちらの方です。逃がしてはなりません」

やよい「あう…」

イオリ(やよいは何も知らない! 私が以前の水瀬伊織でないだなんて、わかりっこないわ!)

イオリ(私とあいつらのどっちが正しいのかなんて、咄嗟に判断できるわけがない!)

やよい「…『ゲンキトリッパー』」

ウッウー ウー ウッウー

やよいの体から大量の細かいスタンドが現れ、真達の足下に広がっていく。

ピタッ

貴音「足が…『くっつい』た」

真「や…やよい…!」

イオリ(やったわ!)

イオリ(さぁ、今のうちに逃げ…)

ピタ

イオリ「え…」

イオリ(足が…動かない)

グ

イオリ「わ…」ググ

イオリ「私も『くっつけ』られている…!?」

やよい「………」

やよい「なんか、伊織ちゃんと真さん達…どっちが正しいのか、よくわかんないから…」

やよい「みんな、『くっつけ』ることにしました」

イオリ「な…何してんのよッ、アンタッ!」

やよい「へ…!? い、伊織ちゃん…?」

真「いや、いいぞやよい! それでいい、そいつを逃がさないで!」

貴音「………」

イオリ(まずい…まずい、まずい!! どうすれば…)

やよい「とりあえず…伊織ちゃん、そのケガ『くっつけ』て治さないと」ヒョコッ

やよいがイオリのすぐ近くまで歩いていく。

イオリ「…!!」

真「や…やよい! そいつに近付かないでッ!」

やよい「へ?」

イオリ「『リゾラ』ッ!!」グイッ

やよい「はわっ!?」

『リゾラ』の腕が、やよいの首に手を回す。

真「やよいッ!!」

イオリ「アンタ達…よくも…よくもやってくれたわね…」

やよい「あ、あれ…これ、伊織ちゃんのスタンドじゃな…」

イオリ「さぁ、やよい…アンタのかわいい顔に傷をつけたくなかったらこいつらの『くっつけ』る能力を解除するんじゃあないわ」

イオリ「アンタ達も…変な動きを見せたら『リゾラ』の手がこいつの細胞を引き裂くわよ」

貴音「…外道」

イオリ「こんな足を『くっつけ』たくらい…分子の結合すら『緩め』られる『リゾラ』に、通用はしない」

ス…

やよいを連れたまま、イオリが歩き出す。

イオリ「逃げてやる…逃げ延びて、アンタ達を始末してやるわ…にひひ…!!」

貴音の横を抜け、階段の方にゆっくりと向かっていく。

やよい「………」チラッ

真「……!」

貴音「………」

やよいが、二人に目配せをした。

真「」チラッ

貴音「」コクッ

真と貴音が、目を合わせる。

真「逃げ切ったとして…」

イオリ「ん?」クルッ

イオリが足を止め、真の方に振り返る。

真「おまえは伊織にはなれないよ。絶対に」

イオリ「フン。負け犬の遠吠えね」

真「負け犬ってのは誰のことかな?」

イオリ「そりゃ、もちろん…」

真「ああ、おまえか」

バキッ!!

イオリ「!?」

貴音「『フラワーガール』」メリメリ

貴音のスタンドが、貴音のすぐ傍でドアの板を持ち浮かんでいる。

イオリ(足が『緩ん』だりして動かなくなっても、スタンドは感覚で動かすもの…だから関係はない)

イオリ(けれど足を『くっつけ』ていればスタンドの足も『くっつい』ているも同然…その場から動かせなくなるはず…)

イオリ「『ゲンキトリッパー』を解除したなッ、やよい!」

やよい「えへへ…わかってもらえてよかった」

真「」パキ パキ パキ

真の体が再び、『ストレイング・マインド』の黒い鎧に覆われていく。

貴音「………」

イオリ「ハッ…で、そのドアをどうすんの? 『硬化散弾銃』で撃ち出すつもり?」

イオリ「やよいが人質になってんのよッ! まさかやよいごとやるつもりじゃあないでしょうねェ~ッ!?」

真「」パキッ

両手の拳を握りしめる。

貴音「真」ポイッ

タッ

真「オラァッ!!」ドォッ

貴音が投げたドアに向かって、思い切り殴り掛かった。

バッギャァァァーァン

コナゴナになったドアの破片が、イオリに向かって飛んでいく。

イオリ「しょ…」

やよい「………」

イオリ「正気か、アンタ達はッ!!」

ゴォォォォ

イオリ「だったら…お望み通り、やよいを盾にしてやるわッ!!」バッ

やよい「わっ」

イオリはやよいの体を掴んで前に出し、その陰に隠れた。

ドス ドッ ドグァッ

『硬化散弾銃』が、やよいの身体に突き刺さる。

真「やよい!」

イオリ「なーにが『やよい!』よッ! こうなることも予想できないの!?」

イオリ「これはアンタ達がやったのよ! アンタ達が悪いのッ!!」

イオリ「アンタ達が…」

モゾモゾ

イオリの腕あたりで、何かが蠢いている。

ウー ウッウー ウー ウー

やよいを掴んでいる腕から、欠片を持った、粒のような『ゲンキトリッパー』が這い上がってきた。

イオリ「…………… な…」

ピタッ ピタ ビタァァ

イオリ「! ………」

『ゲンキトリッパー』は次々とイオリの身体に這い回り、ドアの破片を『くっつけ』ていく。

真「オラァ!!」パリン

イオリ「う!」

ヒュン

そうしているうちに、次の『硬化散弾銃』が撃ち出される。

イオリ「リ…『リゾラ』!」バッ

ポロ ポロ

破片は『リゾラ』の手に触れ、さらに小さな欠片になって崩れ落ちるが…

ウッウー ウーウー

・ ・ ・ ・

ピタ ピタ

それも『ゲンキトリッパー』が拾い上げ、イオリの体にどんどん『くっつけ』られる。

真「物体を触れただけでバラバラに崩してしまうおまえの『リゾラ』に『硬化散弾銃』は通用しない…」

真「でも、その破片を『くっつけ』てしまえばどうだ?」

貴音「やよいを人質にしている以上…『くっつけ』る能力からは逃れられない」

イオリ「あ…あああ…あ…!!」

ビタ ビタァ

イオリ(まずい、このままじゃ…落とさなくては…体に『くっつい』た破片を『緩め』て落とさなくては!)

貴音「真!」ヒョイッ

貴音がドアを剥ぎ取って持ってきて…

真「オラァッ!!」バギャィィン

真が殴って撃ち出し…

やよい「『ゲンキトリッパー』」ウッウー

やよいが『くっつけ』る。

ピタッ ピタ

イオリ「うおっ」

イオリ(こ…こいつらのペースの方が圧倒的に早い…全然間に合わない…)

ガチッ ガチ

イオリ(そして…もう腕が曲がらない! ドアの破片がくっついて…)

イオリ「こ、この…この伊織ちゃんが…こんなヤツらにッ!!」

真「おまえの存在そのものが、伊織に対する侮辱だ。ゲス野郎め」

真「オラオラオラオラオラオラオラオラ」

バギ バギュ バガスッ バギャァァ バギュン

ビタ ビタァ ビタッ ビタァン

イオリ「きゃあああああああああああああ」

ドドドドドド

体がどんどん破片に覆われていく。

イオリ「ま…負ける…私が…『負け』…あああっ」

ドドドドド

イオリ「あああああああああああああああッ!!」

ガァァーン!!!!

そして、イオリはドアに包まれ、団子のようになった。

貴音「どうやら、これで…もう動けなくなったようですね」

やよい「ふぅ…」ヘタッ

やよいがその場に座り込む。

真「大丈夫だった、やよい?」

やよい「はい~っ、ちょっと怖くてドキドキしちゃったかも」

真「ごめんごめん」

貴音「さて…まだ、これで終わったわけではありません」

真「そうだね」クルッ

イオリ「………」

瓦礫の山に顔を向ける。

真「話してもらおうか、色々」

真「今から質問をする。ボク達の聞いたことに答えろ」

真「答えるたびに、その瓦礫をどかしてあげるよ」

イオリ「…………」

真「まず…本物の伊織はどこだ?」

イオリ「…………」

貴音「どうやって伊織に化けたのです? 他に、仲間が…顔を変える『スタンド使い』でもいるでしょうか」

イオリ「…………」

やよい「あの、重くないですか…?」

イオリ「………………」

真「返事をするつもりはない、か…」

やよい「このまんまじゃ、苦しくて答えられないのかも…」

真「そうだなぁ…うーん…」

イオリ「」

貴音「…? 待ってください、何かが妙です」

貴音「やよい、『くっつけ』る能力を解除してくれませんか」

真「え、でも貴音…」

貴音「…中から、息をする音が聞こえないのです」

真「え!」

やよい「そ、それって…まさか…」

貴音「わかりません。ですが………嫌な予感がします」

真(まぁ…何かあっても、貴音の『フラワーガール』がいれば大丈夫か…)

真「わかった。それじゃ、やよい」

やよい「は、はい」

ガラララララ…

『ゲンキトリッパー』の能力が解除され、瓦礫が重力に引っ張られていく。

真「ボクがどかすよ。貴音、見張りをお願い」パキッ

貴音「ええ」

ガラガラ…

真が『ストレイング・マインド』に覆われた腕で、山をかきわけていく。

真「……………ん?」

ガサッ ガサッ

真のかき分ける手が早くなっていく。

ガシャ! ガシャァッ!

乱暴なまでに激しく割いていく。

真「なんだって…」

やよい「真さん、なにかあったんですか?」

真「…ない」

真「いないんだ、奴が!」

貴音「いない…?」

やよい「たいへん、探さなきゃ!」

真「逃げたのか、この状況から!? どうやって!?」

ガシャ ガシャ

真「くそっ、出てくるのは破片と砂ばかりだ!」

貴音「………」

貴音「逃げた………」

貴音が瓦礫の中に手を入れ、掬い上げた。

貴音「いえ、彼女がこの瓦礫の山からどうにかして逃れたとは考えにくい。逃げたところを誰も見ていないのですから」

貴音「何かのスタンド能力だとしても…体中に『くっつけ』られたこれから人間だけを抜き出すのは不可能かと思われます」

貴音「…と、なると…」サラ…

貴音の指から、砂がこぼれ落ちる。

貴音「何故…扉の欠片の中に、このように大量の砂があるのでしょう」

真「……… まさか…」パサッ

・ ・ ・ ・

真が何の気もなしに払った砂の下から、服が顔を出す。イオリが身につけていたのと同じものだ。

貴音「これが…この砂が、恐らく…先程まで水瀬伊織を名乗っていた者です…」

真「そんな馬鹿な!? 人間が砂になったって言うのか!?」

やよい「うそ…」

真「くそっ! なんだっていうんだ一体!? 何が起こってるんだッ!!」

To Be Continued...

スタンド名:「リゾラ」
本体:ミナセ イオリ
タイプ:遠隔操作型・標準
破壊力:E スピード:C 射程距離:B(50m程度) 能力射程:B(50m程度)
持続力:B 精密動作性:D 成長性:C
能力:謎のまま消滅した伊織の偽物のスタンド。
触れたものを「弛緩」させる。そこには縮んだもの、くっつけられたもの、固定されたものがなければ始まらない。
それらを「弛緩」させるということは、つまりは緩みっぱなしにしたり、無理矢理引き離したり、不安定な状態にさせたりするということだ。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

あ…やっちまった、血出ないんだった…
修正

>>206
>タラ…

>薄皮が切り裂かれ、血が滲む。

パクッ

薄皮が切り裂かれ、傷口が開く。

>>263
>ブシュ

>右手がコナゴナに破壊され、血が吹き出す。

ボロッ

右手がコナゴナに破壊され、指が落ちる。

>>270
>ポタ ポタ

ポロ ポロ

前回までのあらすじ

アイドルトーナメントに敗退した千早!

プロデューサーのセクハラ地獄が待っている!

やよい「ふぅ、ちょっと疲れちゃったかも…」

貴音「お疲れ様です、やよい」

ゴゴゴゴゴ

戦闘後の事務所の廊下。

粗方はやよいの『ゲンキトリッパー』の能力で修復が終わり…

ゴゴゴ

真「こいつは…」

そこには、伊織と同じ姿をしていたものであった砂だけが残されていた。

真「一体…なんだったんだ? 人間ではない…とは思うけど」

貴音「しかし、スタンドは精神の力…『スタンド能力』があるということは…精神を持っているということです」

やよい「伊織ちゃんと入れ替わってたんですよね…ぜんぜん気づけませんでした…」

真「こいつが伊織と入れ替わって何をしようとしていたのか、こいつはどこから来たのか、そして本物の伊織がどこに行ってしまったのか」

サラ…

真「聞き出そうにも、これじゃ…くそっ!」

ガサ ガサッ

真とやよいはロッカー室に移動し、バッグをひっくり返していた。

真「あいつが持ってきた荷物の中に、何かないかな…」ゴソゴソ

真「あ、携帯がある。そうだ、伊織の携帯に連絡すれば…」

やよい「真さん、これ、本物の伊織ちゃんのけーたいです」

真「…そっか。そうだよね」スッ

携帯をいじくり回し、中身を調べる。

真「メールアプリとかを一通り調べてみたけど…」

真「不審な点はないみたいだね。何かあってもきっとすぐに消してるんだろう」

やよい「うーっ、他は鏡とかちょっとしたお化粧品とかそういうのばっかりです…」

真「手がかりになるようなものは、何もない…か…」

ガチャ

貴音「お待たせしました」ズズッ

部屋の中に、ファイルを抱えた貴音が入ってきた。

ドサッ

ロッカー室に備え付けられたのベンチソファの上に、ファイルを置く。

やよい「わ、いっぱい」

真「貴音、これは? さっき、何か気になるって言って一緒に来なかったけど」

貴音「これは、あの偽物が持ち出そうとしていた資料」

貴音「私の記憶違いでなければ、先週…伊織が調べていたものと同じものです」

やよい「資料…ですか?」

真「…伊織は何を調べていたの?」

パラッ

貴音はファイルのうち一冊を手に取り、開いてみせる。

貴音「この書類は全部、今は亡き高木社長の資料です」

真「高木社長…」

貴音「なので、それに関係のあるものかと」

真「伊織は、なんで高木社長のことを?」

やよい「あ、もしかしたら…」

真「? 何か知ってるの、やよい」

やよい「えっと、876プロに『弓と矢』があったってこと、この前話しましたよね?」

真「ああ…でも、それは壊したんでしょ?」

やよい「それを持ってきたのが…高木社長だって、876プロの石川社長が」

ゴゴゴ ゴゴ

真「それも聞いた気がするけど…でも、骨董品屋でたまたま数本見つけて、顔見知りに配ったんだとか…」

貴音「そうでなかったとしたら?」

真「え?」

貴音「たまたま見つけた…765プロだけなら、そうと言えるのかもしれません」

貴音「ですが、複数の事務所に『弓と矢』があり…『スタンド使い』を生み出した。これは、本当に偶然なのでしょうか」

真「…何が言いたいのさ」

貴音「『弓と矢』は意図的に、事務所に持ち込まれたのだとしたら?」

ゴゴゴゴゴゴゴ

真「つまり…」

真「高木社長が、何か目的を持って『スタンド使い』を増やしていたと…そういうことか?」

貴音「少なくとも、伊織はそう思ったのでしょう」

真「いや、でも! 高木社長が『弓と矢』を持ち込んだのなら、あんな…」

やよい「そうですよ、高木社長はその『矢』によってケガしちゃって…そのまま…」

真「…!!」

やよい「真さん?」

真「さっきの…伊織の偽物からは…『血』が、出ていなかった」

やよい「…あ………」

真「あの時…高木社長から…『血』は、出ていたか…?」

貴音「半年以上前のことですから…正確に覚えているわけではありませんが」

貴音「服に穴が空いていましたが…血はついてなかったように思います」

ゴゴゴゴ

真「『偽物』…!?」

真「でも…! おかしいよ、伊織の偽物はこうして砂になって」

貴音「そうでしょうか。血が出ないということは、脈がないということです」

真「!」

貴音「ですから、例え本当には死んでいなくとも、『死んでいると思わせる』ことは可能ではないでしょうか」

やよい「あの、貴音さんは…高木社長が犯人だって、そう思ってるんですか?」

貴音「少なくとも…疑いを向けるには充分すぎると思います」

真「…全ての元凶が高木社長だったとして…わからないことが、いくつかある」

真「まず、どうして自分を死んだと見せかけようとしたんだ? わざわざ姿を消す必要なんてない」

真「二つ目は、何の目的があって伊織を偽物と入れ替わらせたんだ?」

真「そして、三つ目…何かの目的があって、伊織を偽物と入れ替わらせたとして…」

真「何のためにボク達を『スタンド使い』にしたんだ!? 今みたいに気づかれれば、障害にしかならないだろう!?」

貴音「…そう、ですね…『高木社長』、『弓と矢』、『偽物』…一見繋がっているようでそうでないのかも…」

貴音「安易に結びつけるのは危険かもしれませんね…」

>>312
訂正というか追加
>真「でも…! おかしいよ、伊織の偽物はこうして砂になって」
真「でも…! おかしいよ、伊織の偽物はこうして砂になっているじゃあないか!」

真「社長も、あれが偽物だったとしたら、砂にならないと…」

やよい「でも…高木社長が怪しいんですよね?」

貴音「ええ、ですから…」チラッ

ベンチソファの上に山積みになったファイルに目を向ける。

貴音「これに、何か残されていないかと思いまして。持ってきました」

真「高木社長の資料か…本人に関すること、本人が関わってきたこと、本人がまとめていたファイル…色々あるけど」

貴音「伊織の偽物は、この資料を持ち出そうとしていました」

貴音「…何のために?」

やよい「隠しちゃうため…ですか?」

貴音「ええ。その通りです、やよい」

やよい「弟達が、テストで悪い点取っちゃった時とか…こっそりとどこかにしまっちゃうんです。それと同じかなーって」

真「ふーん、弟が…ね」

やよい「わ…私もたまに隠しちゃったりして…えへへ」

貴音「それはさておき。伊織の偽物はこれを持ち出そうとしていた」

貴音「この資料の中に、何かに繋がることが残されている可能性があります」

真「何か…」

貴音「今はまだ、何もわからない。何か目の前にあることはわかっていても…それもはっきりとしない」

貴音「ですが、何か一つでいい、道標があればそれに真っ直ぐと向かっていけます」

やよい「伊織ちゃん…どこ行ったんだろ…」

真(やよい…)

真(そうだ。今、何が起きているのかはわからない…けど、このまま放っといたら伊織はきっと帰ってはこない…)

真(まずは…この資料を調べる!)

貴音「」パラ

真「」パラパラ

やよい「? ??」パラ…

それぞれ、ファイルを手に取って調べ始める。

パタン!

やよいがバインダーを閉じた。

やよい「ごめんなさいーっ、よくわかんないかも…」

真「…みんなに、全部話そう。これは手分けして探した方がいいな」

本物の伊織はどこに行ってしまったのか?

伊織の偽物は一体どこから来たのか?

高木社長は本当に死んだのか? それとも、偽物だったのか?

時は、一週間前に遡る…

………

……

ドンッ!!

伊織「きゃ…!」

貴音「…!」

パサ バサッ

765プロ事務所の廊下。伊織は貴音とぶつかり、手に持っていたファイルを床に落とす。

伊織「ちょっと、気をつけなさいよ!」

貴音「…申し訳ございません、伊織」

伊織「って、貴音。珍しいわね、アンタとぶつかるなんて」

貴音「運びものでしょうか? 拾いましょう。私のせいですから」

伊織「別にいいわよ、そんなの」

モクモクモク

伊織「『スモーキー・スリル』コイツに拾わせた方が手っ取り早いし」

貴音「そう…ですか」

バサッ バサ

伊織の体から出てきた『煙』が、床に落ちたファイルを拾い集め、伊織の腕の上に積み上げる。

貴音「その資料は…?」

伊織「事務所でスタンバイしてる時間、退屈すぎて死にそうだし…ちょっとした調べものをね」

貴音「調べもの、ですか」

伊織「あ、そうだ貴音」

真「貴音!」タッタッタ

伊織が何か言いかけると同時、真が下の階から、階段を駆け上がってきた。

真「こんなところにいた。そろそろ出発の時間だよ、行こう」

貴音「ええ、わかりました。今参ります」

真「あ、伊織。ごめん、貴音連れてくから」

伊織「…アンタ達、最近仲良さそうね」

真「え? 何のこと?」

伊織「呼び方よ。前は『貴音さん』だったじゃない」

真「ああ」

貴音「私が頼んだのです、いつまでも『貴音さん』では少々距離を感じてしまいますから」

伊織「ふーん、そう。ま、いいんじゃない、そっちの方が」

貴音「ところで、伊織。先程何か言いかけておりましたが」

伊織「これから、仕事なんでしょ? 別にいいわよ。大したことじゃあないし」

貴音「そう、ですか…」

真「ほら、急いで!」

貴音「ええ。伊織、それでは」

パタパタ…

二人は下の階の方に、急ぎ足で去っていった。

伊織(時間あったら、貴音にも手伝ってもらおうと思ったんだけど…仕事じゃあ仕方ないわね)

伊織「………」

伊織(気になるのは、876プロにあった『弓と矢』…)

伊織(あんなものが、どうして何本もある…? 高木社長に貰ったって…本当にそれだけのことなの…?)

伊織(なにか、陰謀めいたものを感じるわ…)

伊織「なーんて…」

伊織「考えすぎかしらね。まぁ、気になるのは確かだし暇潰しにはなってくれるでしょ」ガチャ

二階の待合室に入る。

亜美「あれ? いおりん、お勉強?」

大海「伊織ちゃんは真面目ですね。私、学生時代勉強なんてほとんど…」

伊織(中にいるのは亜美と、大海マネージャーか…)

伊織「別に勉強じゃあないわよ。単なる調べもの」

バサバサ

ドサッ!

テーブルの上にファイルを広げ、ソファに背中から飛び込む。

伊織「あ、そうだ亜美。アンタ、今ヒマ?」

亜美「ちっちっち…いおりん、亜美はね…常に世の中の面白いものを探して…」

伊織「あ、そう。ヒマなのね。なら一緒に手伝いなさい」

亜美「あいあいさー。もう、いおりんは亜美がいないと駄目なんだからさ~」

伊織「はいはい…」

大海「伊織ちゃん、調べものですか? 私も手伝いますよ!」

伊織「えーと…アンタは別にいいわ」

伊織(コイツは『弓と矢』の件に何も関係ないし…巻き込むのもね)

大海「えーっ、そんな! 私だって暇なんですよ!」

伊織「知らないわよ。だったらジュースでも買ってきてちょうだい」

大海「はい、わかりました!」ダッ

伊織「あら。なかなか従順じゃない」

ピタッ

大海「あのー、何を買ってくればいいんですか…?」

伊織(………)

伊織「今の気分だと…フルーツ系ならなんでもいいわ。100%のやつね、炭酸のヤツ買ってきたら承知しないから」

亜美「亜美はスプライトね! 透明だから!」

伊織「流行ってんの、それ…?」

亜美「ほへ?」

大海「フルーツジュースに、スプライトですねっ! わかり…」ガッ

大海マネージャーが再び走り出そうとするが、自分の足に足を引っかけてしまう。

大海「わわわわっ!!」

バガッシャーン

その場で大きく転倒する。

伊織「ちょっ…何やってんのよ、アンタは!」スクッ

亜美「お姉ちゃん、大丈夫?」

伊織がソファから立ち上がった。

大海「いたた…ご、ごめんなさい…」

コッ コッ

伊織「ほら、立てる?」スッ

伊織は大海マネージャーの方に近付いていくと、手を伸ばした。

大海「は、はい。ありがとうございます伊織ちゃん」ギュッ

伊織の手を掴み、立ち上がる。

伊織「どこかケガはない?」

大海「あ、はい。手がちょっと擦れたくらいで」バッ

伊織に手のひらを見せる。

伊織「血は…出てないわね」

伊織は、大海の手と、自分の掴まれた手を一瞥してから言う。

大海「皮膚が厚いんですかね? 血は滅多に出ない体質なんですよ」

伊織「ふーん…」

伊織(ま、春香もあんな転んでても滅多に傷作らないし、そんなものなのかしら)

大海「それより、おニューのスーツが痛んじゃいました…うぅ…」

伊織「そ、そう…」

大海「そうだ。ジュース買ってこなきゃ…」タッ

伊織「あ、ちょっと」

呼び止める前に、大海マネージャーは出て行ってしまった。

伊織「…変なヤツ」

亜美「どっちが年上なのかわかんないねー」

亜美「にしても、いおりんは優しいですな~」

伊織「うっさいわね! いいでしょ別に!」ドサッ

再びソファに腰を掛ける。

伊織「それより、これ! アンタも目通して、何か怪しいところがあったら言って」

亜美「なんなの、これ?」

伊織「876プロに『弓と矢』があったでしょう? あれを持ち込んだのは高木社長だという…何かありそうじゃない?」

亜美「それで、高木社長のこと調べんの? それはちょっと面白そうだけど…このファイル全部? なんか面倒かも…」

伊織「どうせ暇なんでしょ」パラ…

亜美「………」

伊織「亜美?」

・ ・ ・ ・

伊織が顔を上げると、そこには既に亜美の姿はなかった。

伊織「ア… ………」

伊織「アイツはッ! 嫌だからっていきなり『ワープ』で消えたりする!? 普通!」

伊織「いえ、落ち着け私…普通は『ワープ』するヤツなんていないわね」

伊織「はぁーっ、仕方ない…」

伊織「一人でも、調べてやるわ、ええ!」

ペラ ペラッ

伊織(何かある、なんて私の勝手な思い込みだけど…何もないとは言い切れないわ)

伊織(もしかしたら…高木社長は何らかの意図があって『弓と矢』を持ち込んだのかもしれない)

伊織(そのせいでうっかり亡くなってしまったけど)

伊織(高木社長について調べて、どこかに『弓と矢』に繋がるような情報があったら…)

「何をしているのかね?」

伊織「調べものよ。もう一人でやることにしたからあっち行ってて」

・ ・ ・ ・

伊織「…………え?」クルッ

「おお、これは失礼した。取り込み中だったかね?」

伊織(………嘘、でしょ? コイツ…いや、この人は)

順二朗「久しぶりだね水瀬君。元気そうで、何よりだ」

伊織「は…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

だめだ あした

前回までのあらすじ

あみまみちゃん

亜美「亜美です」

真美「真美です」

プラント「プラント」ビン

ボーンナム「ボーンナム」ビビン

「「「「血管針攻撃!!」」」」」パバァーッ

ゴゴゴゴゴゴゴ

ゴゴゴ

順二朗「移転したという話は聞いていたが…」

順二朗「うんうん、やはり新しい事務所とはいいものだな」スゥーッ

事務所の壁を撫でる。

伊織(高木社長について調べようと思ったら…本人が…出てきた…)

伊織(『これなら手っ取り早いわ、やった! ラッキィ~』)

伊織(なんて、そんな問題じゃあない! こんなことはありえない…)

順二朗「ところで水瀬君」クルッ

伊織「!」

順二朗「何を調べているのかね? なにやら、見覚えがあるファイルだが…」スッ

伊織「私に近付くんじゃあないわッ!!」

順二朗「ム!?」ビクッ

伊織(高木社長は死んだ! 葬式もやった、いなくなった後の事務所も私は見てきた!)

伊織(こんな…何もなかったような顔して出てこられて『はいそうですか』と受け入れられるほど伊織ちゃんの常識は崩壊してないわッ!)

順二朗「あの、水瀬君…私が何かおかしなことでもしたのかね…?」

伊織「何かした…ですって…!?」

順二朗「み、水瀬君…? 怒っていては可愛い顔が台無しだよ、ほらスマイルスマイル」

伊織「アンタが生きてるのがそもそもおかしいのよッ!!」

順二朗「なっ!?」

グラ…

ドン

その言葉にショックを受けたのか、高木社長はふらついて背中を壁につく。

順二朗「それは…1年近くもの間事務所を空けていたのは事実ではあるが…」

順二朗「生きてるのがおかしいなど…そこまで言われれば、私だって傷つく」

伊織「え?」

伊織「ちょ、ちょっと待って…」

順二朗「水瀬君が私のようなオジサンをいじめるとは…悲しいぞ私は…」

伊織「いえ、そうでなく…『1年近く事務所を空けていた』!?」

順二朗「? うむ、正確には10ヶ月だが…予定よりは早く終わったのだ」

伊織(10ヶ月…ですって? 高木社長の葬式は半年前の事件の始めに起こったことだから、8ヶ月くらい前の話よ…)

伊織「その間…何をやっていたの…?」

順二朗「聞いていないのかね? 私も経営者としてまだまだ未熟だと痛感してね。1年間の海外研修だよ」

順二朗「まぁ、社長という身分で研修に行くというもどうかと思ったが…彼の勧めで、その間のことも…」

伊織(1年間の…海外研修…? 国外にいたってこと…?)

伊織「…その間、事務所に帰ってきたことは…?」

順二朗「ないが…時々様子を見たくなることもあったが、ずっと海外にいたよ。昨日帰ってきて、今日事務所に着いたところだ」

伊織(そもそも…高木社長は、ずっと事務所に『いた』わ…一日だけじゃあない)

伊織(高木社長が本当に海外にいたというのなら、あの頃事務所にいたのは…『誰』だっていうのよ…?)

伊織「あなたは死んだはずなのよ…」

順二朗「ま、またかね…こうしてピンピンしているのだが…」

伊織「…事実だけを言うわ。私達765プロのみんな、高木社長が死んだと思っている」

順二朗「な、なんだって!? 別に向こうで事件や自己に巻き込まれたとかそういうのはないぞ!?」

伊織「私達の目の前で死んだのよ」

伊織「それも、海外じゃあない…この国、前の事務所で、『弓と矢』によって!!」

順二朗「『弓と…矢』…? ?」

伊織「その『弓と矢』を事務所に持ち込んだのも、高木社長、あなたよ…!」

順二朗「はぁ……? ??」

順二朗「水瀬君は、その…弓道も嗜んでいるのかね?」

伊織「うぐ…!」

伊織(なによ~、そのトンチンカンな会話は…『こいつが何を言っているのかよくわからないけどとりあえず話は合わせておこう』みたいな発言…)

伊織(いえ、実際わからないんだわ…目の前にいるこのオッサンは、何も知らない…自分が事務所にいたことも、『弓と矢』を持ち込んだことも、そして死んだということも…)

順二朗「な、なぁ、水瀬君…みんな私が死んでいると思っているというのは…?」

伊織「今言った通り、みんな見てるのよ。あなたの死を…」

順二朗「な、なんだね、その不気味な話は…私はそういった冗談はあまり好きでないのだが…」

伊織(冗談なら、どんなによかったことか…)

伊織「他の連中には会ってないの…?」

順二朗「ああ、みんなを驚かせようと思って連絡は入れずに帰ってきてね」

伊織(マジに驚いたわよ…私達は死んだと思っていたんだから…)

順二朗「しかし、下の部屋ではなにやら取り込み中だったので、まずはこの新しい事務所を見て回ろうと思ったのだが…」

順二朗「そんな話があるとは…みんなに確認を取らねば」ダッ

伊織「!」

高木社長が、駆け足で二階の待合室から出て行く。

伊織(あまりのことに頭の中はこんがらがってるけど…)

伊織(今、一番怪しいのはコイツよ…! 目を離すわけにはいかないわ!)

伊織「『スモーキー・スリル』ッ!!」

スゥーッ

伊織の体から出現した『煙』が高木社長を取り囲み…

ガシッ

順二朗「ン!?」

両手足を押さえつける。

順二朗「な、なんだ…これは…!? 体が…」

伊織(見え… ………)

伊織(て…ない)

順二朗「私の体が引っ張られる! と、透明人間か!?」

伊織(昔から、おべっか使うような連中の顔色を見て来たからわかる…とぼけているわけじゃあ、ない)

伊織(スタンドのことを存在すら知っていない…)

順二朗「み、水瀬君! 助けてくれ! 何者かが私の体を!」

伊織「………」ス…

『煙』が伊織の下へと戻っていく。

順二朗「お、あ、あれ…」

伊織(『弓と矢』を持ち込んだのは、やはり単なる偶然ってこと…?)

伊織(いや、違うわ…それ以前の問題よ…この高木社長は、『弓と矢』自体を知らない)

順二朗「こ、こほん…いや、なんでもない…なんでもないぞ! はっはっは!」

伊織(少なくとも…これが演技でなければ、目の前の高木社長は、『弓と矢』とは全くの無関係よ…)

伊織「すみません、色々と無礼なことを…」

順二朗「む? あ、ああ…別に構わないが…ん?」

伊織(海外研修をしていたという話…裏を取らないと)

伊織(そして、もしも…この高木社長が本物だったとしたら)

伊織(765プロで高木社長を演じていたのは…事務所に『弓と矢』を持ち込んだのは…一体、誰?)

順二朗「それにしても、私が死んだなどと…何故そんな話が出てきたのか…」

ドンッ

順二朗「うおっ!?」

「きゃ…!」

階段の前の曲がり角で、高木社長と誰かがぶつかる。

「いたた…」

伊織「大海?」

順二朗「大丈夫か?」

春香「………え?」

伊織「いや、春香か」

春香「あ、あれ…な、なんで…え?」

順二朗「すまない、怪我はなかったかね?」

春香「な…なんで高木社長がここにいるの…?」

順二朗「ぐむっ…!」グサッ

春香「い、伊織…これって一体どういうこと…?」

伊織「私にもよくわからないけど…これが事実みたいよ」

順二朗「ほ、本当に私は死んだ事になっているのか…? みんなで口裏を合わせているわけではないのか…」

伊織「連絡も入れてなかったんでしょう? いきなりそんなこと無理ですよ」

順二朗「そ、そうなのか…」

春香「連絡を入れてない…?」

伊織「ええ、どうやら1年くらいずっと海外にいたみたいで…昨日戻って来たそうなのよ」

春香「…どういうこと?」

伊織「私も正直よくわかってないわ、ただ一つ言えるのはあの頃事務所にいた死んだ高木社長とは別人ってことよ…」

春香「高木社長、伊織以外に誰かと会った?」

伊織「? いえ、会ってないみたい。今からみんなのところに顔出しに行くつもりらしいわ」

春香「ふーん…」

ヒュッ

伊織「………」

伊織「ん?」

伊織(視界の隅に何か映った…何?)クルッ

グボァ

順二朗「っぶぅ!?」

・ ・ ・ ・

伊織が振り向くと、人型の像が高木社長の腹に腕をめり込ませていた。

春香「無駄無駄」ヒュン ヒュン

ゴシュ

ズギャァァン

そのまま右腕、左腕のワンツーで高木社長の身体が宙に舞い…

ドシャァ!

落ちた。

ゴゴゴゴ

伊織「……… ……………」

ゴゴゴ

伊織「何、やってんの…アンタ」

春香「予定より早かったなぁ。そうじゃなきゃこうならずに済んだのに」

伊織(三つ、おかしなことがある)

春香「今帰って来られると、色々と面倒なんだよね…」

伊織(春香は何故高木社長を殴り飛ばした? 何のために)

春香「まぁ、でも…そうなる前に気づいてよかった」

伊織(春香は何故スタンドが使える? 春香の『アイ・ウォント』はあの時消滅したはず)

春香「高木社長は死んだ。帰ってきてもいない」

伊織(そして…春香のこのスタンドは何故…『アイ・ウォント』じゃあ、ないの…?)

春香「あとは…伊織が黙っていればね…」

ゴゴゴゴゴゴ

伊織「アンタ… ………」

伊織「気でも狂ったの!? 得体が知れないとは言え、社長を…」

伊織(ああ、違う! 何を言ってんのよ私は! そうじゃあないでしょ!?)

春香「だって、高木社長が生きてるとわかったら…調べるでしょう? 『弓と矢』はどこから来たのか」

伊織(こいつは…)

春香「まずいんだよね…あと少しで全部終わるっていうのに、こんなところで邪魔されちゃ」

伊織(こいつは…春香じゃない!!)

ハルカ「だから、社長は始末しなければならない」

伊織「………」

伊織「アンタ…『誰』よ?」

ハルカ「私は天海春香」

伊織「何故、当然のように春香を名乗ってここにいるの」

ハルカ「それは私が天海春香だから」

伊織「ふざけてんの、アンタは…!?」

ハルカ「わかんないかなぁ、別にどうだっていいけど」

ハルカ「さて、社長が生きていると知った伊織…あなたも始末しなきゃならないわけだけど」

伊織「私を始末…ですって? ハッ、やれるもんならやってみなさいよ!」

伊織(もちろん負けるつもりはないけど…こいつが仮にこの伊織ちゃんを倒したとして)

伊織(私がいなくなればみんな異変に気づくわ! そんなことも考えられないのかしらこのバカは?)

ハルカ「と…その前に」スチャ

トン トン

携帯電話を取り出し、どこかに連絡を始める。

ハルカ「もしもし…私です、春香です」

ハルカ「伊織が一人必要になりました。用意してくれますか?」

・ ・ ・ ・

伊織(え…何?)

ハルカ「これでよし」

伊織(私が一人必要? 『用意』する? 何を言ってるの…?)

伊織「………」

ハルカ「その顔…もう何がなんだか、わからないって感じだね」

ハルカ「でも、考える必要はないよ。伊織はここで倒されるんだから、考えるだけ無駄」タッ

ボフッ

ハルカ「んっ!」

グググ

『煙』が、ハルカの身体をその場に縛り付ける。

伊織「ええ、その通りね。意味のわからないことの連続でもうさっぱりお手上げだわ」スッ

伊織「けど、アンタは全部知ってるのよね」ポイッ

ボールペンを、ハルカに向かって投げる。

伊織「だったら、アンタをブッ倒して聞くことにするわ。それが一番手っ取り早い」

ギン!

『煙』がボールペンを掴み、先端をハルカに向けた。

ハルカ「『スモーキー・スリル』…」

ハルカ「実体のない『煙』のスタンド、集中すれば結構なパワーは出る…人間なら身動きできなくなるくらいには」

伊織「知ってるなら話は早いわ。さっさとアンタのスタンドを出したら?」

伊織「このボールペンは肩にブッ刺してやるわッ!」

ハルカ「それは…痛そうだね」

ヒュッ

キン!!

ハルカの身体から出現したスタンドの腕に、煙の中からボールペンだけが弾き飛ばされる。

伊織「!」

ドドドド

ハルカ「『アイ・リスタート』」

ドドドドド

煙の中で、ハルカのスタンドが全身を現す。

伊織「それが、アンタのスタンド? 『スタンド使い』でもない社長に不意打ち喰らわせるヤツにしてはちょっぴりスマートでかっこいい感じじゃない」

ググググ

伊織(あのスタンドもアイツと一緒に『煙』の中にいる…)

伊織(パワーはどう? 『スモーキー・スリル』を吹き飛ばせるようなら、それに合わせて戦法を考えるわ)

ハルカ「………」

伊織「『スモーキー・スリル』!」

スゥ…

・ ・ ・ ・

伊織「…?」

伊織(触れた感触が…ない?)

ヌ ッ

伊織「………!? は…」

ハルカ「『アイ・リスタート』」

伊織(『煙』の中から、アイツのスタンドがあっさりと抜け出て来た…!? 幽霊が壁をすり抜けるように…!!)

ドドドド

ハルカの『アイ・リスタート』が、ゆっくりと伊織に向かってくる。

伊織「ス…『スモーキー・スリル』ッ!」モクモクモク

スゥーッ

スルッ スカッ

『スモーキー・スリル』が手前に戻って掴もうとするが、そこに何も存在しないかのように『煙』は空を切る。

伊織「な…触れない…!!」

ハルカ「伊織の『スモーキー・スリル』って、触れないスタンドなんだっけ?」

ハルカ「私のも、そうなんだよ。『アイ・リスタート』は実体のないスタンド」

ハルカ「ただし、攻撃の痛みは…」スッ

伊織「う…」

ハルカ「ちゃんと本物だけどね」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドン ド ドグォ ドグバァ

伊織「うあああああああっ…!」ドグシャッ

『アイ・リスタート』のラッシュが、伊織に叩き込まれた。

おっと本日分はこれで終了です
連投規制ないから半即興でダラダラ書けるけどあんまよくないっすね…

前回までのあらすじ

美希「デコちゃーん」

伊織「てめー 私の額がどーしたと こら!」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄」ドシュ ドシュッ

ハルカ「無駄ァッ」ドッガァ

伊織「うああ…!」グボォ

ハルカのスタンドの攻撃で、伊織の体が吹き飛ばされる。

モクモクモク

バフッ!!

『煙』を集めてクッションのようにし、背中から突っ込む。

伊織「…く…」

ハルカ「おっと、『スモーキー・スリル』で吹っ飛んだ衝撃を受け止めたのかぁ」

伊織(な、何よ…今のは…本体は『スモーキー・スリル』の『煙』で押さえ込んでいたのに、スタンドがすり抜けてきた…)

伊織(いや、『掴む』ことすらできなかったわ! 実体のないスタンド…ですって!?)

伊織「そんな、バカな…! この殴られた感覚は、確かに現実のものだった!」

伊織「私のスタンドだって、直接殴ることはできない! 実体がないのなら、どうして私に攻撃できるの!?」

ハルカ「それは、『アイ・リスタート』が精神上に存在するスタンドだから」

伊織「!?」

ハルカ「『アイ・リスタート』は現実に発現しているわけじゃあない。カメラを通してのみ確認できる拡張現実…ARのように」

ハルカ「あるいはホログラム映像のように…人間の精神の中にだけ姿を現す」

伊織「…見せかけだけの紛い物ってこと?」

ハルカ「…まぁ、そうだね。見えるし、聞こえるけど、どんな人物もスタンドでも『アイ・リスタート』に触れることは絶対にできない」

ハルカ「つまり…」ズオッ

伊織「!(また攻撃が来る…)」

モクモクモク

『煙』が、伊織を守るように包み込む。

ハルカ「無駄ァッ!」

ドグォ

『アイ・リスタート』の攻撃は『煙』を抜け、直接伊織の腹に突き刺さる。

伊織「うご…! …っ!」

ググ

身体がくの字に曲がる。

ハルカ「そうやって、守ったりもできない」

ハルカ「無駄無駄無駄」ドン

伊織「」ボヒュ

『スモーキー・スリル』が伊織の身体を後方に打ち出し、追撃を躱す。

伊織「っふぅ…」

ハルカ「おっと、どんどん廊下の方に戻っちゃってるね」

ハルカ「みんな下の階にいるのに…これじゃ階段を下りて、助けを呼べないんじゃない?」

伊織(まただわ…『スモーキー・スリル』では掴むことすらできないのに、私にはダメージがある…)

伊織「ふ…触れることができないなら、何故そのスタンドの攻撃は私に当たるの…?」

ハルカ「精神上に存在するということは、『アイ・リスタート』は直接精神に攻撃」

伊織「精神を攻撃…ですって? 吹っ飛ばされたのも、身体が折れ曲がったのも肉体的な動きだわ…」

ハルカ「精神と肉体は密接に結びついている」

伊織「…!」

ハルカ「伊織の精神が『殴られた』と認識すれば、それはもう伊織を殴ったのと同じじゃない」

ハルカ「『アイ・リスタート』が精神に与えた影響は、現実のものとなる」

ハルカ「これが能力…わかった? 私は伊織以上に一方的に攻撃ができる」

ハルカ「どんなに激しい攻撃も、どんなに堅牢な守護も無力。『アイ・リスタート』は無敵」

伊織「攻撃されることもなく、さらに攻撃を防ぐこともできない、か」

伊織「春香の『アイ・ウォント』は…相手の『六感』を支配して狂わせるという滅茶苦茶なスタンドだったけど…」

伊織「アンタのそれも負けず劣らず滅茶苦茶なスタンドね…」

ハルカ「まぁ、私は天海春香だから」

伊織「確かに、そいつは無敵よ。認めるわ」

伊織「けど…打つ手はある」

ハルカ「打つ手? それって?」

伊織「」クルッ

ダッ

伊織は、ハルカに背を向けて走り出した。

ハルカ「あっ!?」

伊織「」タッタッタ

ゴォッ

伊織のすぐ後ろに、『アイ・リスタート』が迫っている。

伊織「…!」

ハルカ「なーんて、ね。伊織が逃げるなんてわかってたよ。もう、それしかないもんね?」

ハルカ「まぁ…逃がさないけど。他のみんなに私のことを知られたら、そっちもすぐ始末しなきゃあならなくなる」

ハルカ「今日は伊織だし…それは避けておきたいんだよね…」

伊織「………」タッタッタ

ハルカ「『アイ・リスタート』! 伊織を始末しなさい!」グオッ

伊織「…わかってたわ。アンタは私を逃がさないように戦っている、そう簡単に逃げきれるわけはないと」

モクモクモク

伊織「でも、『スモーキー・スリル』は…持つものがないとまともに戦えないのも事実なのよね」

ハルカ「走っていたのは…」

ハルカ「部屋の中から、ものを持ってくるためか」

伊織「この伊織ちゃんが逃げる時、それは敗走じゃあないわ…勝つための第一歩よッ!」

伊織「喰らえ、『スモーキー・スリル』ッ!!」ドシュ ドヒュゥゥ

『煙』の中から、置き時計とガラスの小物入れを撃ち出す。

スゥ…

『アイ・リスタート』の体をすり抜けた。

ハルカ「無駄無駄…『アイ・リスタート』には当たらない」

伊織「でしょうね。最初からスタンドなんて狙ってないわよ」

ゴォォォオ

伊織「例えスタンドは無敵でも…本体のアンタはそうじゃないでしょう!?」

伊織「そしてそのスタンドが、精神上にのみ存在するっていうのなら! アンタも、私の攻撃から身を守ることはできな…」

クルッ

ハルカ「無駄無駄」

ガン ガシャ

ハルカのスタンドがハルカの方へ振り向き、飛ばされたものを叩き落とす。

伊織「………」

ハルカ「何か言った? 伊織…」

ハルカ「」ヒョイッ

廊下の隅に落ちているボールペンを拾う。

ハルカ「忘れたの? さっき伊織が刺そうとしてきたボールペン…これは私が叩き落としたんじゃあない」ピンッ

指で弾き、再び床に落とす。

ハルカ「身を守ることはできない? そんなことはないよ」

ハルカ「『アイ・リスタート』が精神に与えた影響は、現実のものとなるって言ったよね」

ハルカ「伊織に影響を与えるなら、『アイ・リスタート』が伊織の『精神』に直接攻撃しなければならない」

ハルカ「けど、精神を持たない物質なら…私の『精神』が物体を叩き落としたと認識した時! それが現実となるッ!」

ハルカ「精神の力が現実を凌駕する、それが『スタンド』だよ!!」

伊織「ふーん」

ハルカ「………」

ハルカ「何、その態度」

伊織「まぁ、そうよね…ボールペンを叩き落とされた時、他に動きは感じなかった。薄々そうなると思ってたわ」

ハルカ「強がりを言っちゃって…わかってる? 伊織には私を倒す手段はないんだよ」

伊織「アンタこそ、わかってないわね」

ハルカ「…?」

ズル… ズルズル

部屋の中と廊下の先から、ベンチソファや観葉植物がいくつも引きずり出されてくる。

・ ・ ・ ・

ハルカ「は…」

伊織「伊織ちゃんの『スモーキー・スリル』はあんな小物しか持ってこれないような貧弱なスタンドじゃあないっての」

ハルカ「ちょ、ちょっと待ってよ…」

伊織「待たない。私は今からこいつをまとめてアンタにくれてやるわ」

伊織「そして、その前にその無敵の『アイ・リスタート』を私に叩き込めばいい…と、アンタはそう思っている」

ハルカ「………」グッ

伊織「無理ね。アンタのスタンドは確かに無敵かもしれないけど、『パワー』や『スピード』は並よ」

ハルカ「私の『アイ・リスタート』よりその『煙』のスタンドの方が素早く動けると?」

伊織「ええ。守ってもいいけど…そんな『パワー』ないでしょう」

伊織「玉砕覚悟で来れば相打ちにはできるかもしれないけど」

ハルカ「…どうかな」

ゴゴゴゴゴ

伊織「………」

ハルカ「………」

ゴゴゴ

ハルカ「『アイ・リスタート』ッ!!」ゴッ

ハルカの『アイ・リスタート』が動いたと同時に…

伊織「行けッ、『スモーキー・スリル』ッ!!」

ドッギュゥゥゥゥン

『スモーキー・スリル』が、持っているものを一気に投げつけた。

ゴォォォォォ

ハルカ「ベンチソファが迫ってくる…」

ハルカ「けど、守っている暇はない…伊織はここで片付けなければならない!」ゴォッ

ものが飛んでくる先に、『アイ・リスタート』がどんどん突き進んで行く。

ハルカ「『スモーキー・スリル』が物体を撃ち出している…その先…」ジッ

ものが飛んでくる間から、伊織の姿を探す。

ギンッ

ハルカ「見えた、そこだッ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」グォォォ

ブルンッ

ハルカ「!?」

ス…

ハルカ「手応えが…『当たった』という感覚がない!(実体のない『アイ・リスタート』も殴れば感覚は伝わるはず)」

ズズ

ハルカ「これは、『煙』が映し出した虚像…? 伊織はどこに行ったの…!?」

ドシャ

ハルカ「うばっ」

ハルカの上に、ベンチソファがのしかかる。

グシャ グシャ グシャ

ハルカ「うおっ、うおああああああああっ!!」

メシャァァァッ!!

次から次へと飛んでくるソファや観葉植物の下敷きになった。

スゥ…

伊織「…勝ったわね」ムクリ

伊織「はぁ…緊急事態とは言え、伊織ちゃんが廊下に寝転がるなんて…」パッ パッ

起き上がり、服を払う。

伊織「『スモーキー・スリル』で寝ている私の姿を映したわ。反撃を受けないため…念のためね」

伊織「さてと」

ゴチャ…

伊織「流石にこれほどぶつけてやれば気絶したでしょうけど…あんまり近付きたくないわね…」

伊織「向こうの階段は遠いし、窓から飛び降りるのが一番手っ取り早いかしら」

伊織「…社長のこと、そしてこの春香の姿をした誰か…みんなに伝えないと」ガラッ

廊下の窓を開き、顔を出す。

コォォォォ…

伊織「う、うーん…半年前の事件とか876プロの時は無我夢中だったけど、結構高いわね…『スモーキー・スリル』でちゃんと受け止められるかしら…」

「無理だよ」

伊織「!?」クルッ

ガシィ!!

伊織「な…」

『アイ・リスタート』が、伊織の足を掴んでいる。

グイッ

伊織「きゃぁぁぁっ!!」

ダンッ!

足を引っ張られ、背中から地面に叩き付けられる。

伊織「ぐ…」

シャン…

観葉植物の葉が鳴った。

伊織「そんな…嘘でしょ…」

グググ…

ハルカ「あー…」ズイッ

ハルカが、ソファの下から這いずり出てきた。

ハルカ「逃がさないって…伊織に逃げられたら面倒なんだよ…」

伊織「な、なんで…」

伊織「なんで、ピンピンしてんのよ…! あれだけぶつけてやれば気絶するはず…」

伊織「いえ、そうでなくても! 普通の人間なら、ケガで動けるわけがない!」

ハルカ「それは私が『完全なアイドル』だから…かな」

伊織「は…? 完全な…アイドル…?」

ハルカ「まぁ、私もよくわかってないんだけどね。ただ、私達は『普通の人間』じゃあない…のかな」

ハルカ「だから、この程度じゃあ『負け』を認めるわけにはいかない」

伊織(何を言っている…?)

ハルカ「そんなことより…やってくれたね、伊織」

伊織「…!」

ハルカ「もう、好き勝手はさせない。好き勝手やらせると伊織のスタンドは侮れないとわかったからね」

ハルカ「さっさと始末させてもらうよ」

伊織「ス… ………」

伊織「『スモーキー・スリル』!」モクモク

ハルカ「『アイ・リスタート』」ヒュッ

ドグォ

伊織「っが…!」

伊織がスタンドを出すが、ハルカはおかまいなしに攻撃する。

ザザッ

ハルカ「気絶…気絶か。うん、それが一番いいね。意識があったら何をするかわかんないから」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドン ドガ ドガァッ グギャ

伊織「ああ、うああ…!!」

バッギャァァーン

ドグシャア

『アイ・リスタート』のラッシュに吹っ飛ばされ、地面に転がる。

伊織「うぅ…」ズルズル

這ってハルカとは逆方向に動こうとする。

グシャ

伊織「あああっ…!」

ハルカが、伊織の手を足で踏みつけた。

ハルカ「だから、もう好き勝手させないって」

伊織「ぐっ、うう…!」

ハルカ「伊織が残り少ない体力で必死こいて少しでも恐怖から逃れようとしてるだけだとしても」グリグリ

伊織「………」

ハルカ「いや…伊織だったら、そういう時は潔く降参するかな…」

伊織「アンタが…」

ハルカ「ん?」

伊織「アンタが私の何を知ってんのよ…この醜悪な化け物が…!」

ハルカ「ひどいなぁ」

ドンッ

伊織「ぐ!」

壁に叩き付けられる。

伊織(だ…駄目だわ、コイツには勝てない…このままでは始末されてしまう…)

伊織(伝えなきゃ…)

伊織(今、わかっている『事実』…)

伊織(私だけが知っている『事実』だけを! これだけは…みんなに、伝えなくては)

伊織(そして、これ、を…)

ハルカ「伊織…さっきから、その腕の下で、こそこそ何かやってるよね」

伊織「!」ビクッ

ハルカ「なーにやってんのかなぁ!?」グイッ

伊織「く…!」

ハルカ「血文字? 壁の隅っこに小さな文字で、『ハルカ』…か」

伊織「………」

ハルカ「甘いなぁ、伊織は。こんなの、今気づかなかったとしても伊織を始末した後にすぐ片付けちゃうのに」

伊織「………」

ハルカ「まぁ、これはカモフラージュで…本命は別にある…でしょう?」

伊織「…!」

ハルカ「そこの部屋の中!」バンッ

伊織「ちょっ…」

モクモクモク

ズルズル

ハルカ「私の携帯電話…いつの間に抜き取ったの? 『スモーキー・スリル』でどこかに隠しておくつもりだったんでしょうけど」ヒョイ

伊織「く…」

ハルカ「メールとかは… ………」ペタペタ

ハルカ「送ってないみたいだね。まぁ、見ている中で流石にそこまではできないだろうけど」

ハルカ「あ、伊織の携帯は鞄の中だよね?」

伊織「………」

ハルカ「まぁ、この携帯が他の人に見つかったらちょっとまずかったかもね」

ハルカ「誰かに何か、メッセージでも残そうとしたんだろうけど…」

ハルカ「無駄無駄、そういうことはさせない」

伊織「………」

伊織(終わった…)

伊織(もう、私にできることは何もない…)

ハルカ「もう、いいかな。そろそろ、頼んでおいた『伊織』も『できてる』頃だろうし」

ハルカ「伊織が散らかした廊下や高木社長も片付けておかないと」

伊織「………」

ハルカ「じゃあね、伊織」

ドグシャア!!

………

ガチャ

亜美「いおりーん? もう終わったー?」ヒョコ

大海「亜美ちゃん。どこ行ってたの?」

亜美「ありゃ、お姉ちゃん。戻ってたんだ」トスッ

亜美「わ!? ソファが土で汚れてる!? もう、なにこれ!?」

大海「…さぁ、誰かのイタズラかなぁ」

亜美「ぶー、もう帰ったらママに怒られちゃうよ!」

亜美「まぁ、いいや。それよりお姉ちゃん、いおりん知らない?」

大海「伊織ちゃんなら、さっき会ったよ。今は下にいるんじゃない?」

亜美「え、そうなの?行き遅れになっちゃったかなぁ…」

大海「…もしかして、行き違い?」

亜美「そうそう、それそれ。行き遅れは確か、そう。ピヨちゃんのことだよ」

大海「いやいや小鳥さんもまだまだ若いから…」

大海「あ、そうだ亜美ちゃん。飲み物買ってきたよ。伊織ちゃんにはもう渡してあって」

亜美「おお! でかしたぞ姉ちゃん!」

大海「時間経ってぬるくなっちゃったけど…」

亜美「えー、そーなの? ま、いいや。氷入れて飲むから」

大海「はい、カフェオレ」

亜美「ゼンゼン違うよ!?」

大海「あれ?」

亜美「亜美が頼んだのはスプライトだよ。もう、しっかりしてよーお姉ちゃん。はるるんの他にドジキャラはいらないよー」

大海「え…? そう…」

亜美「そういやさ、はるるんって仕事行ったの?」

大海「春香ちゃんなら、今日は事務所に来る予定なかったと思うけど」

亜美「へ? でも、なんかさっきいおりんと別れた後、はるるんのこと見たような…」

大海「…あれ? さっきまで事務所にいたんだっけ…」

亜美「まったく、しっかりしたまえよキミー。またりっちゃんに怒られるよー?」

大海「頑張ります…」

そこから一週間。

765プロの日常は、何もなかったかのように過ぎて行った…

そして、時は再び現在へと戻る…



……

………

事務所一階の待合室。

千早「………」ペラッ

雪歩「………」ペラッ

響「………」ペラッ

バサッ

響「あーっ、駄目だ! それっぽいことなんて何も残ってないぞ!」

真、貴音、やよいに加え千早、あずさ、雪歩、響の7人が集まってファイルを調べていた。

貴音「響、ちゃんと調べましたか?」

響「自分、本とか読むのは結構自信あるけど、『弓と矢』や『スタンド』に関係することとか、何かおかしいこととか、気になることとかそういうのはなかったよ」

あずさ「えーっと… ……………」

ペラッ

あずさ「うーんと… ……………」

ペラッ

真「あずささん、そんなゆっくり読んでたら日が暮れちゃいますよ!」

あずさ「あっ、ごめんなさいね~。じっくり読んだ方が何かわかると思ったから」

雪歩「うーん、うーん…」

やよい「雪歩さん、なにかわかりました?」

雪歩「ううん、なんにも…本当に、何かあるのかなぁ…」

千早「高槻さん達に話を聞いたけれど、水瀬さんの偽物は…」

千早「何故、この資料を持ち出そうとしたのかしら」

響「そこだよね。何もないなら、こんなもの放っとくぞ」

貴音「相手が意図していないとはいえ、これから伊織が偽物だとわかったのですから…何かあると思ったのですが」

真「…ボクは、はっきり言って今回の事件…高木社長が怪しいと思っている」

雪歩「え? でも、社長は…」

真「もし、生きていたら? その可能性は結構高いと思う」

やよい「私も、もしかしたら生きてるかもって思います」

あずさ「社長がもしも生きていたら…プロデューサーさんや律子さん達も、ちょっと楽になりますね~」

真「………」

パタン

雪歩「私の方も何もなかったよ」

やよい「私も、よくわかんないですけど…多分、何もないと思います」

響「やっぱり、真の言う通り高木社長が関わっていて何か証拠を消すため…なのかな」

貴音「そう考えるのはいささか早計に思えますが」

千早「本当にそうなら、わざわざこんな怪しまれることしないと思うけれど」

雪歩「そもそも、その消すべき証拠が見つからないんだよね…」

あずさ「あ!」

コロン

真「? どうしたんですか、あずささん」

あずさ「ごめんなさい、この最後のページに何か挟まってて」

ヒョイ

千早「…これは、ボールペン? かしら」

雪歩「このファイルの端っこ、何かこぼしたんでしょうか? 汚れてます」

真「いや、これは…」

響「血だ。誰かの血がファイルにくっついてる」

雪歩「ひっ…!? ち、血…?」

千早「しかも…何かしら? この血…」

貴音「どうかしたのですか?」

ススーッ

千早がファイルの血の跡をなぞると、指と一緒に移動する。

千早「張り付き方が明らかに緩いわ。乾いてから張り付けられているのよ…妙だわ」

やよい「…あれ?」

あずさ「やよいちゃん? どうしたの?」

やよい「えっと、ここのところなんですけど…」

千早「表紙の裏側の部分ね。血がついているけれど…他に、何か?」

やよい「ちょっと、ひっかいたあとが残ってます。なにか、書いてあるような…」

響「な、なんだって!?」

真「雪歩! 事務室から紙と鉛筆を持ってきて!」

雪歩「う、うん! ちょっと待ってて…」

千早「…面倒だわ。この資料から一枚貰いましょう」

響「え、それって…いいの?」

あずさ「書くものは、ボールペンでいいかしら?」

千早「ええ。まぁ、大丈夫でしょう」

貴音「そうでしょうか…?」

やよい「なんかちょっと心配かも…」

真「…まぁ、いっか。今は緊急事態だ」

千早「そういうことよ。『インフェルノ』」

千早のスタンドがボールペンを持ち、ファイルの窪みの上に、紙を一枚乗せる。

千早「………」ス

シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!

素早い動きでその上を擦っていく。

やよい「紙の上に、文字が浮かび上がってます」

真「これが…ボク達の探していたものなのか…?」

貴音「一体、何が…」

シャシャシャシャシャシャシャ

あずさ「あら~? なんか、いくつか文章が書かれてあるみたいね…」

響「何が書いてあるんだ…?」

雪歩「うぅ、ちょっと怖いですぅ…」

ゴゴゴゴ

ゴゴ

『XXX-XXXX-XXXX』

『”?カニ&ヲ>ケロ』

『タカギしャ$#うハイ#?イる』

ゴゴゴゴゴゴゴ

千早「こ…これは…?」

To Be Continued...

スタンド名:「アイ・リスタート」
本体:アマミ ハルカ
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:C スピード:B 射程距離:D(5m) 能力射程:D(5m)
持続力:C 精密動作性:B 成長性:C
能力:人の精神の中にのみ存在できる、実体のないスタンド。
人から見れば実際にそこにあるのと変わらないように見えるが、触れることはできない。
「アイ・リスタート」の攻撃は人間の精神に作用し、さらには現実にも影響を及ぼす。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

最後までサブタイトルに気づかないという痛恨のミス
すみません今回のは「その4」です

修正

>>358
>ハルカ「精神上に存在するということは、『アイ・リスタート』は直接精神に攻撃」

ハルカ「精神上に存在するということは、『アイ・リスタート』は直接精神に攻撃ができるスタンドということ」

前回までのあらすじ

やよい「紙の上に、文字が浮かび上がってます」

真「これが…ボク達の探していたものなのか…?」

貴音「一体、何が…」

シャシャシャシャシャシャシャ

あずさ「あら~? なんか、いくつか文章が書かれてあるみたいね…」

響「何が書いてあるんだ…?」

雪歩「うぅ、ちょっと怖いですぅ…」

ゴゴゴゴ

ゴゴ

JOJO♡ERINA

エリナ「まぁ! ジョジョったらいけないひとッ!」

ゴゴゴゴ

千早「高木社長のファイルから…」

千早「文字が浮かび上がってきたわ…これは一体…」

貴音「まさに、書き殴ってあるという形容が似合う字ですね。相当切羽詰まった状況で書かれたもののようです」

やよい「これ…伊織ちゃんの字に似てるかも」

雪歩「そうかな…? …そうかも。崩れてるけど、これ、伊織ちゃんの文字だよ!」

響「ってことは、これは…」

真「伊織の残したメッセージ…ってことか」

ドドドドド

千早「内容は…」

『XXX-XXXX-XXXX』

千早「数字の羅列ね。どういう意味を持っているのか」

あずさ「えっと、これは…電話番号じゃないかしら?」

真「これは、他の文字と比べて結構正確に書かれてるね。携帯電話の番号かな」

響「でも、自分の携帯にみんなの番号入ってるけど…どれとも違うぞ?」

貴音「知らない電話番号、ですか…」

雪歩「誰の番号なんでしょう」

やよい「犯人だったりして」

シーン…

千早「…犯人って? 高槻さん」

やよい「偽物の伊織ちゃんを連れてきて、本物の伊織ちゃんをどこかにやっちゃった人です!」

千早「そんな人がいるの…? 単独犯ではないの」

真「いや、でも…結構、ありうるんじゃあないかな…それ」

千早「真?」

真「あの偽物には謎が多すぎる、伊織と同じ姿をしていたけど、人間でもない…」

真「何か、大きなものが動いてる気がしてならないんだ。裏で誰かが手を引いていても不思議じゃあない」

貴音「そして、その誰かは私達全員を、伊織と同じように偽物と入れ替わらせるつもりなのかもしれません」

千早「そう、かしら。私は直接見たわけじゃあないからどうとも言えないけれど…」

真「そういう存在がいて、奴らに指示を与えているのだとしたら…連絡を取る手段が必要なはずだ。つまり…」

雪歩「携帯電話…」

貴音「伊織が、何らかの手段でこの番号を知ることができたというのなら…」

響「これは、伊織が残した大きな手がかりだ!」

真「ちょっと待って、伊織の携帯にも…」スッ

真「やっぱり! 同じ番号が残ってる! 名前は入ってないけど」

貴音「この電話の主が、全ての元凶である可能性は高いですね」

やよい「それなら、さっそくかけてみましょう!」

真「そうだね、こうしてる間にも伊織はどうなってるかわからないし」

あずさ「うーん…ちょっと、待って」

やよい「あずささん?」

あずさ「これ、かけちゃってもいいのかしら」

響「これが繋がれば、犯人がわかるんだよ!」

千早「繋がれば、わかる…果たして、そうと言えるのかしら」

真「…どういうこと?」

千早「電話をかけて、元凶が出たとして…その相手が『誰』かわかるものかしら?」

千早「知っている人ならば、声でわかるかもしれないわ。でも、そうでなければ本人を特定するのは不可能よ」

雪歩「もし、その人に気づかれて、別の電話とか使うようになっちゃったら…この番号、意味なくなっちゃうよ」

やよい「あぅ…」

響「そっか…そうかも…」

真「で、でも…これが犯人の正体に繋がるかもしれないのに、使えないなんて…」

雪歩「電話をかけなくても、番号から調べることはできる…と思う」

真「! 確かに…そういう手もあるのか。それなら、相手には気づかれにくいかも」

貴音「…申し訳ございません。私には何が何やら…」

雪歩「あっ、えっと、つまり…」

あずさ「こういうのは、律子さんが詳しそうね。聞いてみましょう~」

響「他に、こういうのを調べられそうな人っていないの?」

千早「いたとしても…スタンドに関わることよ。一般人はあまり巻き込まない方がいいわ」

すみません、今の状態でこれ以上書き進めるのは無理だと判断しました
続きは明日書きます

真「残りのメッセージは…」

『”?カニ&ヲ>ケロ』

『タカギしャ$#うハイ#?イる』

真「上の方は読めないなぁ…蟹? ケロ? どういうことなんだろ」

千早「蟹とカエル…かしら? この二つから連想するものと言えば…」チラッ

やよい「はい?」

響「やよいとは絶対関係ないと思うぞ…」

真「最初の2文字がどうしても読めないな…11? アルファベットのNにも見えるし、ただ擦っただけな気もするし…」

やよい「うぅ~、せっかく伊織ちゃんが書いてくれたのに、読めなきゃイミないかも…」

あずさ「下の方は、『高木社長はい…』うーんと、あとは…よく、わからないわね~」

貴音「高木社長…やはり、今回の件に関係あるのでしょうか」

雪歩「この残されていた電話番号は、高木社長が死ぬ前に使っていた番号とは違うみたいですけど…」

千早「それで正体が分かるようなら、相当間が抜けてるわね」

雪歩「だ、だよね…連絡に同じ携帯を使ってたら、番号だけですぐにバレちゃう」

真「わかるのは、切羽詰まった状況の伊織が高木社長についてわざわざ書いたってこと」

千早「恐らく、『高木社長は生きている』ということね」

雪歩「そう言われてみれば、この文字もそう読めるような…」

やよい「高木社長が、犯人なんですか?」

響「自分、やっぱり高木社長が怪しいと思うぞ! 死んだと思わせて、裏で変なことしてるんだよ!」

あずさ「それを決めるには、わかってることがちょっと足りないかもしれないわね」

貴音「とりあえず…今断定できることは、二つ…ですかね」

雪歩「二つって? 四条さん」

貴音「まず、この文字を残したのは間違いなく伊織ということ」

貴音「あの偽物からは血は出ません、伊織もそれをわかっていたのでしょう。この血は伊織のつけた目印です」

真「血は固まれば『固体』になる、そうなれば『スモーキー・スリル』で運べるからね」

千早「………」

貴音「筆跡も、荒れてはいますが伊織と同じものです。他の人物がこのように資料の裏というわかりにくい場所に言葉を用意する理由が何も考えられません」

あずさ「二つって言ったけど。もう一つは何かしら?」

貴音「少なくとも、敵は身近にもう一人いるということ…です」

やよい「えっ!?」

真「もう一人、だって? 伊織の偽物だけじゃないのか!? 伊織は、あいつにやられたんじゃ…」

千早「…電話番号ね」

貴音「ええ。偽物の持っていた携帯電話は伊織本人のものです。入れ替わった時に取り上げられたとして…伊織はどこでこの番号を知ったのでしょう」

あずさ「あ、そっか。伊織ちゃんがどこかに行く前には、携帯電話にその番号は入ってないのね」

貴音「つまり、この電話番号を使った人物が、他にいるということです。そして、その者は恐らくあの伊織の偽物と同じように何食わぬ顔で事務所で過ごしている」

雪歩「この番号、伊織ちゃんが個人的に知り合った人の番号って可能性はないの? それなら伊織ちゃんが知ってるのも、携帯電話に履歴があるのも変じゃないよ」

真「伊織の携帯に残っていた同じ番号は、全部1週間以内にかけられている。それより前にはかけた様子はないし、携帯の電話帳にも載ってない」

響「素直に考えれば、入れ替わった後に使い始めた番号ってことだね。やっぱり、この連絡先の奴が犯人なのかな」

真「やっぱり、この番号…調べてみたいなぁ。すぐ目の前に手がかりがあるっていうのに…」

千早「…水瀬さんの命がかかっているかもしれない。不用意な行動は慎むべきよ」

真「………そう…だね。うん、そうだよね…」

雪歩「や、やっぱり…事務所にいる誰かが偽物ってことですかぁ…?」

貴音「あるいは、全員…この中にもいるかもしれませんね」

響「じ、自分は本物だよ!」

真「怪しいなぁ。本当かなぁ?」

響「嘘じゃないってばー!」

あずさ「何か、本物と偽物を見分ける方法とか、ないのかしら~?」

やよい「えっと、スタンドを出してみればいいと思います! いつも通りのスタンドなら、本物だってわかります!」

あずさ「確か、偽物の人はスタンドが違うのよね~? なら、『ミスメイカー』」ズッ

響「『トライアル・ダンス』! よし、これでいいよね!」バン

千早「『ブルー・バード・インフェルノ』」ヒュゥゥゥ

雪歩「………」

やよい「あれ? 雪歩さん、どうしたんですか?」

雪歩「あ、あの…私、スタンドの出し方がわからないんだけど、どうすれば…」

響「雪歩のスタンドって、確か…」

真「自我を持って一人歩きするスタンド、『ファースト・ステージ』…雪歩は自分でコントロールできないのか」

響「ゆ、雪歩…もしかして…偽物なのか!?」

雪歩「ち、違うよ! うぅ、どうすればいいの…?」

真「見分ける方法はもうひとつあるよ」ヒョイ

真が、伊織のメッセージを写した紙を右手で拾い上げる。

雪歩「へ?」

真「『ストレイング・マインド』」パキパキ

紙を持った手を、手首まで黒い鎧が覆い…

ヒュッ

ピッ

左腕に、紙を振り下ろした。

プツッ

先端が腕を掠め、切り口から血が滲んだ。

雪歩「ひ…! ま、真ちゃん! 何やってるの…!?」

真「血だよ。あいつらは血が出ない、こんな風に切ってみて血が出なかったらそいつは偽物だ」

雪歩「て、手当てしなきゃ…アイドルが傷なんて作っちゃ駄目だよ!」

真「目立たないところを切ればいいし…やよい」

やよい「はいっ! 『ゲンキトリッパー』」

ワラワラ…

やよいの細かいスタンドが真の腕の傷口の中に入り込んでいき、切り口を塞いでしまう。

真「ほら、『ゲンキトリッパー』で綺麗に塞げば傷は残らないよ」

雪歩「」クラ…

雪歩の足がふらつく。

雪歩「な、なんか…真ちゃんが大事なものを失っちゃってるような…」

あずさ「気持ちはわかるわ、雪歩ちゃん。でも、『スタンド使い』ならこれくらいは普通なのよ」

雪歩「そ…そうなんですか…?」

貴音「それでは、雪歩が本物かどうか確かめましょうか」

雪歩「え」

真「ほら、動かないで雪歩。痛くしないようにするから」

雪歩「ひ…ひぃっ!」

響「雪歩も、本物みたいだね! よかったよかった」

雪歩「うぅぅぅ…」ブルブル

貴音「まず、すべきことは獅子身中の虫を見つけ出すこと…ですね」

真「そして、電話番号を調べる…伊織が残した三つのメッセージからだと、できることはこれくらいかな」

千早「…いえ、メッセージは三つではないわ」

やよい「へ? いち、に、さん…三つですよ?」

あずさ「千早ちゃん…もしかして、疲れているのかしら? ソファに横になる?」

千早「違います!」

響「メッセージが三つじゃないって、どういうこと?」

千早「この『血』も、水瀬さんが残したメッセージだと考えられるわ」

貴音「『血』? それは、単なる目印では?」

千早「問題は、この血が『誰のものか』…ということよ」

真「誰のって、そりゃ伊織のでしょ。わざわざ乾いてから張り付けられてるんだから、うっかりついたとは考えられないよ」

千早「ええ。そう、これは水瀬さんの『血』よ」

千早「だから…『血』に辿らせればいい。そうすれば、水瀬さんの居場所がわかるわ」

雪歩「ち、血に辿らせる…って?」

やよい「あ! あの人のスタンドですね!」

響「? どういうこと?」

千早「そういうスタンドがあるのよ。確か、『リビング・デッド』と言ったかしら」

あずさ「ああ、この前話してくれた…876の鈴木ちゃんだったかしら~? その子のスタンドね」

千早「正確に言うと876プロ所属というわけじゃあないそうですけどね」

やよい「『血』をスタンドにして、持ち主のところに勝手に向かっていく…あれなら、伊織ちゃんのいるところ、わかるかも!」

千早「電話番号から調べるのは時間がかかりますし…事務所に潜む偽物を見つけても、根本的な解決にはなりません。これが一番手っ取り早い方法かと」

貴音「少なくとも…伊織を助けることはできるかもしれませんね」

やよい「それじゃ、すぐ鈴木さんに連絡しないと!」

真「…誰か、知ってるの? その人の連絡先」

千早「水谷さんに頼めば呼んでくれると思うわ」

やよい「あれ、でも…確かあれって乾いたり凍ったりしてたら動かなくなるんじゃ?」

千早「そんなもの、水で戻せばいいわ」

やよい「そ、それで本当に…大丈夫なんでしょうか…?」

千早「わからない…けれど、試してみる価値はあると思うわ」

千早「水瀬さんが心配だし…早い方がいいわね。それこそ、明日にでも」

響「そうだね! 千早、頼むぞ!」

千早「私? 無理よ、明日はドラマの収録が入っているもの。他の人はできないかしら?」

雪歩「えっと、私達、明日から県外でイベントがあって…泊まりで…」

やよい「あ、私も一緒です…」

あずさ「ごめんなさい~、私も明日は大事なオーディションがあって…」

響「自分達は、明日はレッスンだけだけど…」

貴音「しかし、本番は三日後…」

真「本番前の明後日に休みを入れる分、明日はみっちりやっておきたい」

「……………」

………………………………

………

……



律子「…で…」

律子「私が駆り出されるのね…はぁ…」

ブロロロロ…

翌日。律子が、車に乗って876プロに向かっていた。

絵理『サイネリアに、用事?』

絵理『…わかりました。2時くらいに、事務所に来てください』

律子「水谷さんも鈴木さんも、知らない仲じゃないし約束は簡単に取り付けられたけど」

律子「まったく、あいつら私を便利屋かなんかと勘違いしてないかしら? 電話番号のことも、後で調べないとだし…」

美希「すぅ、すぅ…」

車の後部座席では、シートベルトに巻かれた美希が横になっていた。

律子「美希! そろそろ着くわよ、起きなさい!」

美希「むにゃ…着いてから起こしてー」

ブルルル…

876プロ事務所の前に、車を停める。

バンッ

後部座席のドアを開いた。

律子「ほら、着いたわ! 起きる起きる!」

美希「律子一人で行ってきてよ。ミキはここで待ってるから…あふぅ」

律子「ワガママ言ってないで降りなさい! それと律子さん!」グイッ

美希を引っ張て無理矢理引きずり下ろす。

美希「用事って、ちょっとしたことでしょ? ミキが来る必要ないって思うな」

律子「…念のためよ」

美希「なんでミキなの? 千早さんとか、真クンとか、テキニン? は他にいるって思うな」

律子「事務所のボードに書いてあったでしょう、他はみんな忙しいの」

美希「フーン。暇なのは律子だけだったんだね」

律子「私だってそんなに暇じゃないわよ、暇なのはあんただけ。用事終わらせて帰ったら、さっさと仕事片付けないと…」

ガチャ

ビルの二階にある事務所の扉を開き、中に入る。

律子「おはようございます」

愛「あれ? 律子さん!! おはようございまーす!!」

美希「あ、愛だ。おはようなの」

愛「あっ、美希センパイも!! お久しぶりですっ!! どうしたんですか!?」

律子「今日、水谷さん達と約束をしているんだけど…」

愛「絵理さんなら、さっき外にお菓子を買いに行っちゃいましたよ」

律子「…入れ違いってこと?」

美希「間が悪いの」

律子「………」

愛「今は、私一人でお留守番ですっ!!」

律子「一人で、ってことは、他には誰もいないのね?」

愛「そうですね、ちょっと寂しかったけど、お二人が来てくれてよかったです!!」

美希「座っていい?」ドサッ

律子「座ってから言わない」

愛「はいっ、絵理さんが戻ってくるまで待っててください!!」

律子「…それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」コトッ

律子がテーブルの上に菓子パンほどの大きさをした、透明の円柱状の入れ物を置く。中に、赤い液体が少量入っているのが見える。

美希「それ、なに?」

律子「プラスチックのケースよ。この中に伊織の血が入っている」

律子「この『血』をスタンド化させれば、『コンパス』のように伊織の居場所を指し示すようになるわ」

律子「薄いガラスくらいなら割ってしまうそうだから、強度は結構強めのを選んだのよ」

美希「このテーブルの上に置いてあるケーキ、食べていい?」モグモグ

律子「だから、食べてから… ………」

愛「はいっ、どうぞ!!」

愛「………」

ス!

愛が、懐から包丁を取り出す。

ゴゴゴゴゴ

美希「美味しい! いいとこのケーキに違いないの!」

律子「2個はやめておきなさいよ」

愛「………」

ゴゴゴ

美希も律子も、後ろを向いている。

美希「律子のケチー」

律子「ケチとかじゃなくて、甘いものばっかり食べてると…」

愛「………」グ…

手に持っている包丁を、ゆっくりと上げる。

愛「とりゃー! くらえーっ!!」グオン

ドシュゥウゥゥゥゥウ

美希に向かって、包丁を投げつけた。

美希「『リレイションズ』」パシッ

後ろを向いたまま、背後にスタンドを出して空中で掴み取る。

ヒュッ

愛「わっ!?」バッ

包丁を投げ返すが、間一髪で避けられた。

ドスゥ

壁に突き刺さる。

愛「な…なんで…」

美希「お客さんに対して、あんまりなサービスじゃないカナ」クル

ソファから立ち上がり、振り向く。

愛「私が攻撃を仕掛けることがわかったんですかっ!!?」

美希「本気で言ってるの、それ?」

律子「嘘が上手い下手以前の問題よ、時間を決めて待ち合わせしているのに、直前で買い出し?」

律子「ケーキが置いてあるのに、お菓子を買いにいった? どうかしてるわ」

愛「わわ、全部バレてる…」

律子「それでもって、今のかけ声…馬鹿にしてるの?」

愛「? 何か言いましたっけ、あたし?」

美希「…ほっぺた」

愛「え?」

美希「今ので、ちょっと切れてる」

愛「あ…ほんとだ」スッ

ほっぺたに触る。うっすらと切り傷がついている。

美希「血が出ないってことは…偽物なの」

アイ「…あぁ~」

ゴゴゴゴゴ

律子「876プロにも『弓と矢』があったと聞いて、こっちもそうなのかと思ったけど…案の定ね。美希を連れてきて正解だったわ」

美希「765プロとはそこまでカンケーないし、ニセモノさん達が何がしたいのかはよくわかんないケド…」

美希「ミキ達を襲ってきたってことは、敵だってことだよね?」

ググ…

律子(? 今…壁に刺さった包丁が、動いた? 刺さり方が不安定なのかしら)

グルン

・ ・ ・ ・

ギュオン!!

包丁はひとりでに壁から抜け、刃先を美希の方に向けると、真っ直ぐに飛んでいく。

美希「へ?」

律子「ロ…『ロット・ア・ロット』!」ヒュン

ガゴッ!!

箱状の人工衛星のようなスタンドが美希の前に現れ、包丁を受け止める。

アイ「もう知られちゃってるんですね、私達のこと…」

アイ「だったら、もうやっつけちゃいますよっ!! 私のスタンド、『フラワー・サークル』でっ!!」

前回までのあらすじ

響「千早、頼むぞ!」

千早「私? 無理よ、明日はドラマの収録が入っているもの。他の人はできないかしら?」

雪歩「えっと、私達、明日から県外でイベントがあって…泊まりで…」

やよい「あ、私も一緒です…」

あずさ「ごめんなさい~、私も明日は大事なオーディションがあって…」

響「自分達は、明日はレッスンだけだけど…」

貴音「しかし、本番は三日後…」

真「本番前の明後日に休みを入れる分、明日はみっちりやっておきたい」

「……………」

真「伊織のことはいいか…」

貴音「仕方のないことです」

千早「仕事だって、大切だものね」

伊織「おい」

キュル キュル

律子「包丁がひとりでに飛んできた…」

律子(スタンド能力…? でも、スタンドのヴィジョンは見えなかったわ…)

美希「危なかったぁ…律子、ナイス!」

アイ「まだ終わってないですよ!!」

ピキッ!!

律子「ん!」

律子(『ロット・ア・ロット』にヒビが入っている…飛んできた勢いは、受け止めた時に止まったはず…)

ミシミシ

律子(この包丁自体が意思を持って動いている!?)

律子「美希! 伏せなさい、突き破ってくるッ!」

バガッ!

律子「!」

受け止められた包丁が、箱を貫通し美希へと襲いかかる。

美希「わざわざ伏せるなんてしなくていい」

シュパ!

ガシッ

美希のスタンドが、素早い動きで持ち手の部分を掴んで押さえつける。

ドドドド

美希「目の前から来ても、来るとわかってれば受け止めるのなんてカンタンなの」

アイ「速い…」

グ…ググ

包丁が、手の中で震えている。

律子「み、美希…」

美希「けっこー強いパワーで動いてるの。ミキの『リレイションズ』の方が強いみたいだケド」グ

グニャァ

包丁の刃を先端から渦を巻くように丸めて…

ブチン

根元を捻り切ってしまう。

アイ「ああーっ! なんてことしちゃうんですか!」

美希「この包丁を飛ばすのがキミのスタンド能力?」カラン

『リレイションズ』が、アスパラに巻かれたベーコンのように丸まった包丁を地面に放りなげる。

アイ「半分正解で、半分違いますよ美希センパイ」

カタカタカタ…

美希「!」

律子「テーブルの上の食器が震えている…」

アイ「行けっ!!」

美希「『リレイションズ』!」

ボギャァァアア

テーブルを蹴り上げた。

ガシャン ガシャン

その上から食器が落ち、割れる。

律子「え!?」

しかし、テーブルは宙に浮いたまま、そこに留まっていた。

アイ「それっ、喰らえーっ!!」

グォォォォ

律子「きゃぁぁ!!」

テーブルが美希と律子に飛びかかってくる。

美希「なのっ!」ヒュン

ボゴン

『リレイションズ』で殴るが、勢いは止まらない。

アイ「壊すにはちょっとパワー不足みたいですね!!」

美希「ちょっとだけね」

<LOCK!

テーブルの、殴った部分に円形の印が浮かぶ。

美希「もう一回!」ヒュッ

バギャァァ

ガンッ!

その印を正確に攻撃すると、綺麗な穴が空き、テーブルは地面に落ちた。

アイ「わわっと! そんなっ、あっさり壊されちゃうなんて…」

美希「行けっ!」

ギュン

『リレイションズ』が、アイの方に向かっていく。

アイ「なんちゃって…」

律子(? 動かない?)

ゴォォォォ

アイ「ふふっ、全部わかってますよ! 美希センパイの『リレイションズ』は殴ったものに『ロック』をつける能力」

アイ「『ロック』への攻撃は、同じ物体の『ロック』された部分全体に及ぶ…ダメージが倍、倍に増幅する。だからテーブルくらい簡単に壊せるんですね」

アイ「さらに、そこを目印に自分の攻撃を引っ張らせることができる。スピードも上がるし、自分の体を引っ張って射程距離を縮めることもできます」

アイ「でも、攻撃さえ当たらなければ『ロック』されないです! 『リレイションズ』の射程距離はたった1m…」

アイ「あたしとの距離は、2m近くは離れている! 『ロック』されてないあたしに、ミキ先輩の攻撃はここまで届かな…」

ォォォオォォ

ボゴォ

リレイションズの攻撃がアイの顔面に入った。

アイ「ぎゃぁ!?」ギュルン

バッキャァァァ

美希「全く動かないから何かあるのかと思ったら、何にもなかったの…」

アイ「な、なんで…? もしかして、射程距離が伸びてるの…?」

美希「『リレイションズ』を出せるキョリはそんな変わってないって思うケド」

美希「さっきの包丁、かすったよね? 顔に」

アイ「あっ!?」バッ

<LOCK!

美希「そして、これで二つ目」

美希「『リレイションズ』が投げたものも、『ロック』に引っ張られる」スッ

ピンッ

ポケットの中からおはじきを出し、『リレイションズ』の指が弾き飛ばす。

アイ「いたっ!!」ピシッ

<LOCK!

美希「そして『ロック』をつけたものをぶつけると、ぶつけた所にまた『ロック』できるの」

アイ「くぅ…」

美希「デコちゃんがいなくなっちゃってさ…」

美希「美希ね、今けっこー怒ってるから」

アイ「………」

美希「同じニセモノ…デコちゃんと何かカンケーあるなら、手加減ナシなの」ザッ

律子「美希、気をつけなさい。まだ相手のスタンドの正体が掴めないわ」

美希「それなら、律子もなんかやってほしいって思うな」

律子「しょ、しょうがないでしょう。私のスタンドはこの距離じゃほとんど役に立たないし…」

美希「それに…ここでブチのめせばスタンドなんてどうだっていい」

ゴゴゴ

アイ「………」ジリッ

美希の迫力に、アイの足が少しずつ後ずさっていき…

ドンッ

アイ「あっ!?」

背中が壁にぶつかった。

美希「『リレイションズ』!」

その一瞬の隙を見て、一気にスタンドで距離を詰める。

アイ「うわ…」

ヒュッ

ドゴバァ!!

『リレイションズ』の拳がアイの顔面の位置に突き刺さった。

律子「や…」

律子「やったの? あっけなさすぎる気もするけど…」

美希「………」

律子「…美希?」

ゴゴゴゴ

壁「ぷはァ~…ぁぁ~」

ゴゴゴゴゴ

律子「な…!?」

アイの顔面が、壁にめり込んでいる。

と言うより、アイの体が底なし沼に沈み込むように壁の中に入り込んでいた。

美希「なに、これは…」

顔面は完全に壁の中に沈んでおり、『リレイションズ』の拳は壁を殴っていた。

スル スルスルスル

やがて、アイの全身が壁に飲み込まれて消えていった。

律子「き…消えた…!」

美希「隣の部屋に行ったみたい」

律子「ヘ?」

美希「『ロック』をつけたら大体の場所はわかるの。他の場所に『ロック』はしてないし」

律子「ちょ、ちょっと待って!」カタカタカタ

ノートパソコンのような端末を出し、キーボードを叩く。

ブオン

端末の画面が、ロッカー室にいるアイの姿を映し出した。

律子「出た…『ロット・ア・ロット』のカメラで見つけたわ。確かに隣の部屋にいるみたいね」

美希「…律子、ついでにスタンドの数増やしといて」

律子「へ…?」

カタ カタカタカタ

美希達の周囲に置いてあるものが、一斉に震えだす。

律子「こ、これはまさか…」

美希「思ってる通りだと思う」

ガタ!

流し台の引き出しが勝手に開く。

ピン ピンッ

ポスターの画鋲が壁から抜ける。

バガン

部屋の隅に置いてあった段ボールが開いた。

律子「み、美希…」ビタッ

律子と美希が背中合わせになる。

ギュン! ギュギュン!

食器、文房具、中身入りのペットボトルなど、周囲の物体が二人の方にひとりでに飛びかかってきた。

律子「『ロット・ア・ロット』!」

フォン フォン

ゴガッ! ガゴ

律子は周囲に大量の衛星を出し、飛んでくるものを止める。

ミシ ミシ ミシ

律子「ああ…!」

律子(駄目だわ…! 一時的に動きを止めたとしても、すぐに襲いかかってくる! 止まらない!)

ゴォォォォ

律子(それに、引き出しのように箱の大きさを上回るものは『ロット・ア・ロット』には止められない!)

律子「ぐぁ!」

ドス! ドスッ

手足にフォークが突き刺さる。

律子「み…美希ッ!!」

ボトン ボト

・ ・ ・ ・

美希の方に飛んできた物体が次々と、電池の切れたラジコンの飛行機のように地面に落ちていく。

美希「それっ」キュッ

ボトン

『リレイションズ』の手が表面を撫でると、引き出しはあっさりと勢いを失った。

律子「…美希?」

美希「あれ、律子。なんか大変そうだね」

美希「ほいっと」ススッ

同じように律子に刺さっていたフォークを撫でる。

ポトッ

抜け落ちた。

律子「………」

美希「こんなものカナ? もう飛んでくるものはないの」

律子「…どういうこと? 糸の切れたマリオネットみたいに止まったわ…」

美希「ああ、これこれ」ヒョイ

地面に落ちた引き出しを拾い上げ、裏面を律子に見せる。

律子「これは…何? ひまわりの花が描いてある?」

美希「ちがうちがう。はなまるなの、『リレイションズ』の指でなぞったからこんななってるケド」

律子「はなまる…」

美希「そ、包丁とか飛んできたものには全部これが描いてあったの!」

律子「………」

美希「テーブルにも描かれてたし、なんかカンケーあるのかなって思って撃ち抜いたら止まったの」

律子「………」

美希「消したらこんな風に止まるし、タブンこれで操ってるの」

律子「………」

美希「律子?」

律子「わかったのならちゃんと言いなさい!」

美希「ひゃ!」

律子「…なるほど、『はなまる』を描かれたものをスタンドにして操る能力ね」

美希「最初から、そこら中のものゼンブに描いておいたんだと思う」

律子「今日、この時間に私達が来ることはわかってたでしょうからね」

律子(すると水谷さんも日高さんと同じ…? だとしたら鈴木さんはもう…)

律子「さて、能力もわかったことだし…」

美希「あの愛の偽物を倒さないとね」

律子「待ちなさい美希。今日のところは引き上げるわよ」

美希「…へ? なんで?」

律子「相手はこの事務所全体に罠を仕掛けているわ。そんなところにわざわざ飛び込んでいく必要はないでしょ」

律子「それに、私とあんたで行く必要もない。765プロには有利に戦えるスタンド使いがたくさんいるんだから」

美希「その間に逃げられたり、ミキ達を襲ってきたら?」

律子「襲ってくるなんて、できるもんならとっくにやってくるでしょ」

律子「恐らく、人の目がある間は向こうから積極的に襲ってはこないと思う。こっちにはスタンド使いが大勢いるから、それも抑止力になっているんでしょう」

律子「それに、逃げることもないわ。あいつらの目的は本物と入れ替わることよ、伊織の偽物は1週間ずっと765プロにいた」

美希「でも、逃げるのってどうなのカナ? なんかヒキョーな気がするケド」

律子「美希、これは遊びじゃあないの。伊織は行方不明なのよ、危険な橋は渡るべきじゃあないわ」

美希「はーい、わかったの」

律子「そうと決まったら、こんなところさっさと出るわよ…」

アイ『そうは…させませんよ!!』

・ ・ ・ ・

アイ『いつまで経ってもこっちの部屋に来ないから、どうしたのかなって思ったら…』

美希「このうるさい声は…どこから?」キョロキョロ

律子「コンサートホールみたいに響いてくる…」

アイ『まさか、逃げるだなんて! そんなこと言い出すとは思いませんでした!!』

律子「わ…私達の会話が筒抜けになっているッ!!」

律子(そういえば…彼女は隣の部屋にいたのに、周囲の物体は私達のいる場所に飛んできた…)

律子(わかるの!? 私達のいる場所が、私達のやっていることが!)

アイ『でも! あたしの「フラワー・サークル」は逃がしません!!』

律子「美希! 走るわよ!」タッ

美希「おっけー!」ダダッ

ズボッ

律子「きゃ!?」

グボッ

美希「あれ!?」

ズブズブ…

律子「足が! 沈んでいくッ!」

アイ『この事務所に来た時点で、もう遅いんですよ…』

律子(『はなまる』をつけた物体を自身のスタンドにする能力…)

律子(さっき、彼女はこの事務所の壁を抜けていた…『はなまる』をつけられてスタンドになったのは、事務所に置いてあるものだけじゃあない…)

律子「この事務所が! この建物全体が、スタンドになっているッ!!」

アイ『あなたたちはもう、あたしのお腹の中なんですっ!!』

ズブブブブ…

律子「ああああああ…!!」

美希「………」

スタンド名:「リレイションズ」
本体:星井 美希
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:C スピード:A 射程距離:E(2m) 能力射程:C(10m)
持続力:A 精密動作性:A 成長性:D
能力:触れたものを「ロック」し、狙った相手は逃がさない美希のスタンド。
「リレイションズ」の拳や、投げたものは半自動的に「ロック」を追尾する。
「ロック」への攻撃は他の「ロック」へと伝わり、同じ量の衝撃が走る。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ロット・ア・ロット」
本体:秋月 律子
タイプ:遠隔操作型・群体
破壊力:E スピード:E 射程距離:A(数km以上) 能力射程:A(数km以上)
持続力:A 精密動作性:A 成長性:完成
能力:羽のついた小箱のような小型スタンドを操作できる律子のスタンド。
PCのような端末型スタンドで呼び出し、カメラのついた個体から本体の端末に映像を送れる。
動きは非常に遅く、破壊力も皆無だが、射程距離はとても広く、数も多い。また、正確に動く。
箱の中にものを入れることができ、また射出することもできる。
数が多いため破壊しても律子へのダメージはほとんどなく、また下手に破壊すると「麻酔液」が出てくる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「フラワー・サークル」
本体:ヒダカ アイ
タイプ:特殊型・憑依
破壊力:? スピード:C 射程距離:C(15m程度) 能力射程:C(15m程度)
持続力:? 精密動作性:E 成長性:C
能力:愛の偽物のスタンド。「はなまる」を描いた物体を自身のスタンドとして操作できる。
操作する物体の性質により、性能は大きく変化する。巨大なものほどパワーは強く、また多くのスタンドパワーを要する。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

オレ キョウ ムリ
アシタ カク

前回までのあらすじ

大統領「これは…」

大統領「わたしの父の「かたみ」だ 何にでも日付けを書く習慣のあった父親でこのハンカチには」

大統領「──わたしの「誕生日」が刺繍されている」

大統領「わたしの心のささえだ…大切な時はいつも持ち歩いている…」

大統領「父が戦争へ行く時持って行ったそうだが 父が戦死したあとわたしの所へ戻って来たものだ」

大統領「このかけがえのない大切さは 誰にも理解できないものかもしれないが この亡き父の「ハンカチ」にかけて誓う」

大統領「ジョニィ・ジョースター 『決して報復はしない』 全てを終りにすると誓おう」

ジョニィ「………」

???「ジョースターさん…気をつけろ! 信じるなよそいつの言葉を!」シボッ

大統領「ヌムッ!?」キッ

SPW「『誰だ?』って聞きたそうな表情してんで自己紹介させてもらうがよ おれぁおせっかい焼きのスピード

ゴゴゴゴゴ

律子「あああああ…!」

ズブブブ

律子「沈む…! 床の中に体がどんどん沈んでいくわッ!」

美希「………」

律子「美希、何をボーっとしてるの!? あんただけでも『リレイションズ』で逃げなさい!」

美希「…一応、やってみるケド」ブゥン

ガガッ

<LOCK! LOCK!

『リレイションズ』が床を叩くように殴るが、ビクともしない。

美希「床を壊すには… ………」

美希「ちょっと時間が足りそうにないってカンジ。その前にゼンブ床の中なの」

律子「く…」

アイ『ふっふっふ、これで終わりですねーっ!!』

律子「私達をこのまま生き埋めにするつもり…!?」

アイ『ああ、安心してください。命まで取るつもりはありませんから!!』

美希「…へぇ?」

アイ『まずは気絶させて、体の自由を奪って、そして引き渡したら作って…入れ替わらせてあげます!!』

美希「なんか、いいコト聞いたかも」

律子「何がよ!? 私達を『再起不能』させるって…」

美希「だって、この人達ミキ達を殺す気はないんでしょ?」

美希「なら、デコちゃんも多分生きてるってことなの」

律子「! そうか…」

律子(考えてみれば、相手には私達を生かしておく必要なんてないわ…何か理由があるの?)

律子(それに…『作る』? 作るって言ったわね…そういう『スタンド使い』がいる?)

律子(だとしたら…そいつが、全ての『元凶』?)

律子「でも…」

律子「そんなのがわかったところで、何だって言うのよッ! 私達はこのまま沈むッ!」

美希「沈むまでにはまだ時間があるの。律子、『ロット・ア・ロット』で…」

律子「本体を叩けって? 相手の姿はとっくに捉えているわ! 隣の部屋にいる!」

キュルキュル

律子「でも、『ロット・ア・ロット』の攻撃は箱の中身を射出するだけ、数発で相手を気絶させられるような威力なんてないわよ!」

律子「破壊すれば『麻酔液』が出るけど…他の個体に破壊させるまでの時間で逃げられるし、体を麻痺させてもスタンドは止められない!」

律子「いえ、そもそも血が流れていないような相手…肉体が麻痺するかもわからないし、例え包丁を突き刺した所で倒せるとは思えない!」

美希「律子」

律子「無理! もう、止められないわ…!」

美希「律子…誰が本体を叩けとか言ったの?」

律子「へ?」

美希「忘れたの? 操るには『はなまる』が描いてないといけない。この部屋の床に沈むっていうなら…」

律子「あ…ロ、『ロット・ア・ロット』!」カタカタ

バン!

部屋の中に、カメラのついた衛星が散りばめられる。

キュルキュル

ジーッ

律子「! あったわ、電気スタンドの裏にマークが! この位置からじゃ見えないところにあったのね」

美希「律子!」ポイッ

カラン

美希が足下に落ちているフォークを放り投げ、衛星の箱の中に入れる。

律子「よし、行けッ!」カタカタ

フォン

フォークを入れた衛星が、一瞬で電気スタンドの裏に移動し…

ドシュゥゥゥゥ

そのうらの『はなまる』マークに向かって中身を飛ばす。

ガッ

フォークの先端が、『はなまる』を削る。

律子「よし、やっ…」

ズブブブ…

・ ・ ・ ・

しかし、沈む速度は落ちない。

キュルキュル

ジーッ

フォークを飛ばした『ロット・ア・ロット』のカメラが、律子の手元の端末に映像を送る。

律子「だ…」

律子「駄目だわ…見えないけど、フォークでちょこっと削ったくらいじゃあ、あのマークは『はなまる』のまま…消せない」

ズブブ

既に胸あたりまでが床の中に入っている。

律子「『ロット・ア・ロット』でもっと飛ばそうにも、もう間に合わ…!」

訂正

>律子「駄目だわ…見えないけど、フォークでちょこっと削ったくらいじゃあ、あのマークは『はなまる』のまま…消せない」
律子「駄目だわ…ォークでちょこっと削ったくらいじゃあ、あのマークは『はなまる』のまま…消せない」

見えます

<LOCK!

律子「………」

美希「ううん、これで間に合った。フォークに『ロック』をつけておいたの」ジャラ

美希は、先程周囲から飛んで来た物体をいくつも近くにかき集める。

美希「『リレイションズ』っ!!」シュバッ

ヒュ ヒュ ヒュ ヒュン!

それらを部屋の隅にある電気スタンドから左にずらした方向に投げると…

ククッ…

その手前で、餌を見つけた魚の群れのように一斉に曲がり…

ドドッ ガシャァァァ

電気スタンドの後ろの床に、次々と叩き込まれる。

ドドドドドド

美希「よし」ズズ

律子「」ズズズ

『はなまる』は消え、二人の身体が元の高さへと押し戻された。

ドドド

美希「これで、脱出完了かな」

律子(やっぱり…)

律子(真面目にやってさえくれれば、美希は誰よりも頼りになるわね…口には出さないけど)

美希「さて、と。律子、愛の偽物はそっちの隣の部屋だったよね?」

律子「え?」

美希「確かロッカー室だっけ? このまま乗り込んでやるの」

律子「ちょ、ちょっと、待ちなさい!」

律子「さっき言ったでしょう! 危険な橋は渡るべきじゃあない、外に出るわよ!」

美希「大丈夫なの。あの能力じゃ今以上のことはできないって思うから」

律子「よく考えてみなさい。彼女は壁に飲まれて姿を消した」

律子「ってことは、今私達を引きずり込もうとしたみたいに自分を下の階に移動させることだってできるし、逆に上の階に移ることだってできるはずよ」

律子「あんたの『リレイションズ』が壁や床を壊すには時間がかかるでしょう?」

律子「私達が階を移動するには階段を使うしかない。永遠に追いつくことはできないわ」

律子「奥の部屋に行くなんて、鼠が自分で猫の口に飛び込んでいくようなものよ!」

美希「そんなの、今みたいに『はなまる』を消していけばなんの問題もないって思うな」

律子「…それよ」

美希「?」

律子「『はなまる』を消せば止まる…弱点がはっきりしている。だからこそ、何の対策もしてないとは考えられないわ」

美希「あの抜けっぷりで、そんなことまで考えてるの?」

律子「…なんだか私も自信なくなってきた」

美希「ここから出るなら、倒してからの方が楽だって思うな」

律子「確実に倒せるなら、私だってそうしたいわ。外に出るにも、何か仕掛けているのかもしれないし」

律子「でも、深追いして窮地に陥る可能性がある以上ここは引くべきよ」

美希「あふぅ…メンドーなことはここで終わらせた方がいいの」

美希「それに、あの偽物には聞かなきゃいけないことがいっぱいあるでしょ? デコちゃんの居場所とか、鈴なんとかって人はどうしたのとか」

律子「それは…」

美希「はぁ…もう、いいよ。律子が来なくてもミキ一人で行くの」

律子「なに?」

美希「律子はもう帰ったらいいの。じゃあね、バイバーイ」タッ

律子「ま、待ちなさい!」

律子(こんなところにあんた一人で置いていけるか…って、それが狙いかっ!?)

律子(く…どの道、美希が行くなら私も行くしかないじゃないの!)

カラ…

美希「…ん?」クル

律子「え?」クルッ

コロコロコロ…

音のした方に振り向くと、赤の油性ペンが転がっている。

キュポ!

ペンのキャップが、ひとりでに外れた。

スゥッ

宙に浮き、ペン先が地面に向く。

美希「………」

律子「ま…まさか」

シュゥッ

律子「『ロット・ア・ロット』!」カタカタ

ドッ

床に落ちようとしていたペンを、衛星が受け止めて阻止する。

律子「ペンを操って…! これで『はなまる』を書いて私達が消したものを再びスタンド化させるつもりだったのね…!」

律子「危なかった、『ロット・ア・ロット』で止めなければまたここの床に沈まされるところだったわ!」

美希「………! 律子!」

コロ

律子「………」

コロコロ

律子「………………」

カラカラカラカラカラカラ

律子「うおおおおおおおお!?」

ゴゴゴゴ

律子「た…大量のペンが転がってくる! どこにこんな量が隠れてたの!?」

ズルズル…

律子「あ…! 『ロット・ア・ロット』の中に入れたペンも…這い出てくる…!」

ゴゴゴゴゴゴ

美希「………」

美希「…律子、逃げるの」

律子「み、美希?」

美希「確かに…これはちょっとヤバそうかも」

律子「あんたねぇ…」

律子(とは言っても…こんなのを見せられたら『消せばいい』で済まないのは誰にでもわかるわね)

律子「!」

キュキュッ

ドドドドド

律子「ペンが一斉に床に『はなまる』を描き始めたッ!」

美希「律子、走ろう! ドアまでダッシュ、なのっ!」

ダダダダダッ

律子「」カタカタカタ

美希「」ヒュッ ヒュヒュッ

『ロット・ア・ロット』でペンを押しのけたり、『リレイションズ』で拾い上げたりして妨害しながら、入り口のドアに向かって行く。

アイ『ふふん、あたしは「逃がさない」ためにこの舞台を用意したんですよ?』

アイ『あなたたちが向かっているドアは「フラワー・サークル」で固く閉ざされているッ!!』

アイ『しかも「はなまる」マークは外側! そこからじゃあ余程のパワーがなければ開きませんよっ!!』

律子「パワー? そんなもの、必要ないわ。『ロット・ア・ロット』」

ブゥン

ジー…

外に出現した『ロット・ア・ロット』が、扉の外側を映し出す。

美希「『リレイションズ』」ズズッ

美希のスタンドが壁をすり抜け、衛星の箱の中に入ったペンを受け取り…

ヒュッ ヒュッ

扉の『はなまる』に×印をつける。

美希「でいやっ!」バガァァン

そのまま、ドアを蹴り開けた。

アイ『………!』

美希「!」

ジャラァァッ

事務所の外の廊下には、パチンコ玉が敷き詰められていた。

ズルッ

律子「きゃっ…!」ドタン

足を取られ、尻餅をつく。

アイ『これはどうですかっ!! まともに立てませんよ!!』

律子「いたたたたっ! く、食い込むっ!」

美希「律子、それよりこれ…」

ズズズズズ

美希「パチンコ玉が回って…動いてる…!」

律子「階段の方に向かっている…?」

アイ『階段の方に進みたいなら、進ませてあげますよ!』

アイ『このまま突き落として、大怪我させちゃいますっ!!』

ゴォォォォ…

貨物列車のような勢いで運ばれていく。

美希「律子、出せるだけ出して」

律子「ええ、わかったわ」カタカタ

ブン ブン ブォン

美希の周りに、大量の『ロット・ア・ロット』が出現する。

美希「それっ」ヒュババ

<LOCK! LOCK! LOCK!

『リレイションズ』がそれに片っ端から触れ、『ロック』をつけていく。

アイ『…? 何をやってるのかわかんないけど…』

アイ『これで終わりですっ!!』

ゴワッ

律子「きゃ…!」

美希「わわっ」

階段の所で道が途切れ、二人は宙に放り出された。

律子「」カタカタ

フォン

衛星が下り階段の2mほど上に、等間隔で段階的に並ぶ。

律子「美希!」ガシッ

律子が、空中で美希の身体に掴まる。

美希「やっ」ヒュッ

グオン

『リレイションズ』が衛星に向かって拳を突き出すと、二人の身体が僅かに引っ張られる。

美希「たっ」バヒュ

ググッ

ググググググググ

衛星についた『ロック』に身体を引っ張らせながら、ゆっくりと階段の下まで降りていく。

スタッ

タタタタ

1Fに足から着地すると、二人は外まで走っていった。

律子「よし、脱出成功ね…」ガチャ

車に乗り込み、キーを差し込む。

律子「美希、シートベルト締めて」

美希「追ってこないかな?」

律子「屋内なら強力なスタンドだったけど、外だと大したことないでしょう。それにこっちは車よ、仮に追いかけて来ても追いつけっこないわ」

ブロロロロ…

車を出す。

律子「恐ろしいスタンドだったわ…中に入ってあれくらいで済んだのは運が良かったわね」

律子「でも、765プロには多くの『スタンド使い』がいる。これでもう私達が勝ったも同然よ、ふふふ」

美希「なーんか、フに落ちないってカンジだけど」

美希「結局、『血』でデコちゃんを探すのは無理になっちゃったね」

律子「そうね…鈴木さん…彼女はどうしちゃったのかしら」

ズン!!

ガタガタ

美希「わ!? 何、地震?」

シーン…

律子「地震…にしてはすぐ収まったわね」

律子「それに、今の音は…?」

ズン!!

ガタガタガタ

律子「まただわ、何かしら…」

美希「うーん、近くで何かあったのカナ…?」キョロキョロ

美希「………………………嘘」

律子「何? どうしたの、美希?」

美希「り、律子…うしろ…」

律子「後ろ…?」クイッ

バックミラーを調整する。

ズン!!

鏡に、何かが上から落ちてくるような姿が映る。

律子「………は」

…ビルだ。

ググ…

…ッズン!!

ビルが、少しずつ飛び跳ねながら、車を追いかけて来ていた。

律子「はぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!?」

アイ『「フラワー…サークル」っ!!!』

アイ『言ったじゃあないですか…逃がさないって!!』

前回までのあらすじ

ポルナレフ「ゆるせ小僧! あとでキャラメル買ってやるからな」ザバッア

バッ

小僧「うああーッ 目に砂がーッ」

花京院「まずい…失明の危険がある 車を出そう 早く医者の所へ連れていかねば…」

アイ『おりゃー!!』

ズゥン!!

律子「ぐっ」ガタガタ

背後から迫り来るビルが着地する衝撃で、車体が上下に揺れる。

律子「『はなまる』を書いたものを操る能力…ビルから出れば安全だと思っていた」

グゥン…

律子「まさか、ビルそのものを操るなんて! どういうスタンドパワーしてるのよっ…!」

ズン!!

美希「わわわわわわ」ガタガタガタ

美希「ど、どんどん揺れが大きくなってる…近付いてきてるの!」

律子「って言っても…」グルルッ

キッ

ギュゥゥーン

ハンドルを左に切り、ブレーキを軽く踏みながら交差点を曲がる。

律子「あの図体じゃすぐには曲がれないでしょう! 全体を交差点の真ん中あたりまで持っていかないと、横の建物に引っかかるわ」

美希「り、律子!」

律子「何よ!?」

メグッ

ビルの壁が生き物のようにグニャグニャと変形し、交差点の角にある建物や、その傍の信号機に絡み付いた。

美希「そのまま突っ込んでくる…」

メリュリュリュリュ

周囲の物体を食い込ませながら、876プロ事務所のビルが無理矢理その体を押し付け…

ブリュンッ

その空間を押し通った。横の建物には、傷一つついていない。

ブチブチ…

通り過ぎた場所にある信号機とガードレールがビルに食い込んだまま、移動とともに地面から引き抜かれていく。

ドスン!!

ズン ズン

再び、律子達の乗っている車を追跡し始めた。

律子「こ、こんな無理矢理曲がってくるなんて…!」

美希「このままじゃ追いつかれて…」

ブロロロ…

対向車線から、車が向かってくる。

美希「!」

「うわああああ!? なんだありゃッ!? と、止ま…」

グォ…

ドズン!!

ビルの下敷きになった。

ゴゴゴ

美希「つ… ………」

美希「潰されたッ! 人が、死んだ…!」

ゴゴゴゴゴゴ

律子「いや…」

ズブズブ

「な、なに…? オレが車ごと飲み込まれて…」

潰されたと思った車が、ビルの下の部分と一体化していた。

律子「辛うじて生きているみたい」

「ひぃぃ~っ、助けて! 誰かッ!!」

ズドン!

「半年前に買ったばかりの新車が潰されるゥゥゥーッ! ローンもまだまだ残ってるのに!」

ズドン!

ミシミシ…

ビルに触れた車が、どんどん壁に食い込み、取り込まれていく。

律子「なるほど、私達を潰す気かと思ったら…ああやって生け捕りにしようとしていたのね」

律子「同じくらい大きな建物を取り込むのは流石にできないみたいだけど」

グム…ムムム…

壁にめり込んだ車体がどんどん内側へと飲み込まれていき、見えなくなる。

律子「………」

律子「流石に、スタンドパワーは無限とはいかないみたいね」

美希「うん、ああやってモグモグ食べてるうちはこっちに向かう動きが遅くなってるの」

アイ『取り込んでいる間は動かない!!』

美希「!」

アイ『だから逃げ切れる…そう思ってますか!?』

律子「何を…」

アイ『ふふふ、違いますよ!! こうやって車を取り込んでいるのは…』

メキ…メキ

ビルの形状が変わっていく。

アイ『さらに! 追いつきやすくするためですっ!!』

ズモッ!

ビルの下に、巨大なタイヤが出現する。

・ ・ ・ ・

グギ ガギギギギギ

やがて、ビル全体が大きなトラクターのような形状に変化していった。

美希「こ、これは…」

律子「もう…なんでもアリね」

ギュルルルルル…

タイヤが回転を始める。

アイ『GO!』

バオン!!

グアァァーッン

四輪駆動のビルが、驚異的なパワーで襲いかかる。

グォォォォォ

美希「り…律子! どーするの!? デカい分、すっごく速いの!!」

律子「ち…」ガッ

アクセルを思い切り踏み込む。

ブォォォォォォォォ

アイ『あーっはっはっは! 無理ですよォォーッ、この圧倒的スタンドパワー!』

アイ『スピードを出した所でこっちの方がもっと速いです!!』

律子「………」ギュルルルルルル…

アイ『それに…』

律子「!」ガッ

キィィーッ

スピードはそのままに、前方の車をハンドルさばきで無理矢理追い越した。

パァーッパッパッパァーッ

辺りにクラクションの音が鳴り響く。

アイ『他にも車は走ってるんですよ? 私に追いつかれる前に事故っちゃいますって!!』

ガッ

ミシミシミシ…

ビルのタイヤに踏みつぶされた車が、タイヤの中に飲み込まれていく。

アイ『事故をすれば死ぬこともある…でもあたし達は命だけは助けてあげますよ!!』

アイ『さぁ、車を止めて大人しく踏みつぶされてくださいよォォ~ッ!!』

ゴォォォォォォ…

美希「くぅ…あいつ、勝ち誇ってる…」

律子「…頭にカッチーンって来るわね」

美希「このままじゃどうせ追いつかれるってカンジ。だったら…」

律子「どうするつもり、美希?」

美希「こっちから取り込まれてやるの。中に入って『リレイションズ』を叩き込む」

律子「無理に決まってるわ。さっき床に沈められそうになったでしょう? 一度捕まったら身動きなんて取れやしない」

美希「でも!」

律子「けど…」

律子「『リレイションズ』を叩き込むってのはいいわね。やってきなさい」

美希「!?」

律子「………」

美希「今、自分でムリって言ったのに…言ってることメチャクチャだよ、律子」

律子「………」

美希「こんなことなら! やっぱりさっきビルの中にいた時に、あいつのとこまで飛び込んでいった方がよかった!!」

律子「ねぇ、美希。さっきまでと今とで決定的に異なっている点があるわ。何かわかる?」

美希「同じなの! さっきも今も、あのビル全部が襲いかかってきてる! 変わらないでしょ!!」

律子「違うわ」

律子「いい、美希? 私達は、今あのビルの『外』にいるのよ」

美希「それが何?」

律子「わからない?」

グォォォーォォォォン

律子「あの事務所全体があいつのスタンド…その中の状況を全て把握していた」

律子「でも、今はそうじゃあない。外にいる私達の情報を、神のように見通すことはできない」

美希「だったら? あのどデカい車は、こうやってこっちの方に向かってきてるの」

律子「ええ、そうね。じゃあ、あいつはどうやって私達を正確に追いかけて来ているのかしら」

美希「……… …!!」バッ

後部座席から振り向いて、向かい来る怪物に目を向ける。

カシャ カシャ

カシャ

『リレイションズ』の眼が、四階の窓にその姿を捉えた。

美希「見てる…! 愛の偽物が、ミキ達のことを…!」

律子「そう、単純。私達を見つけるには直接『見る』しかないってことよ」

美希「で、でも…だから? それでさっきと何が違うの?」

律子「いいや、全然違うわ。さっきまではどこにいても居場所がわかった、だから部屋の奥に隠れて篭っていればよかった」

律子「けど、今はそうじゃない。見なければいけない。つまり…」

アイ『………?』

律子「あいつは、窓際に立たなければいけない! 窓の外から飛び込んでいけば、確実に一撃入れられるッ!」

美希「窓の外から…どうやって?」

律子「あそこまで登ればいいわ」

美希「登るったって、あんな高いトコジェット機でゴーって行ったりしないと無理でしょ。ミキはジェット機じゃあないの」

律子「心配しなくても、そこまでの道は私が作るわ」

美希「道を…作る?」

律子「アイドルの進むべき道を切り開く、それがプロデューサーの役目でしょ」

美希「律子」

律子「違うわ、美希」

律子「律子さん、よ」

キィィーッ!!

アイ『ん!』

律子達の乗る車が急ブレーキをかけ、勢いのまま車体が横に向く。

アイ『おっと~、ついに観念したみたいですね!! 逃げるのは無駄だって』

アイ『さぁ、その車も美希先輩や律子さんごと「フラワー・サークル」で一体化させちゃいますよー!!』

グォォォォオ

グシャァァァァァ

ビルの車輪が、車と衝突する。

律子「美希…!」ビリビリビリ

美希「はいなの!」バンッ

美希が反対側のドアを開き、身を乗り出した。

美希「んーっ…!」モゾモゾ

スッ

そのまま車によじ上り、ビルの壁に手を伸ばす。

アイ『?』

アイ『あれ、なにやってるんですか? まさか、ここまで登ってくるつもりですか?』

美希「………」プルプル

アイ『でも、無理だと思いますよー。この高さまで生身で登るなんて人間には不可能だし…』

アイ『中に入ろうとしても、外から登るにしても…この「フラワー・サークル」でスタンド化したこの事務所は、触れたものはなんでも取り込んじゃいますから』

律子「へぇ、触れたものはなんでも取り込むのね」カタカタ

ヒュン

律子「だったら、取り込んでもらおうかしら」

ガッ!

ズブブゥ

律子が召喚した『ロット・ア・ロット』が、壁の中にめり込んでいく。

美希「なのっ!」ガッ

『リレイションズ』が、壁に埋め込まれた『ロット・ア・ロット』を掴んだ。

・ ・ ・ ・

アイ『は…』

律子「私の『ロット・ア・ロット』には、さっき美希がつけた『ロック』が残ってるわ」

ガッ ガッ

美希「なのなのっ」ヒュ ヒュッ

ガシィ!!

高い位置に出現した衛星を、次々に掴んでいく。

律子「それに自分の体を引っ張らせれば…」カタカタカタ

ヒュン ヒュン

ガッ ガガッ!!

アイ『えーっ!!? な…なんだってェーッ!!?!?』

美希「なのなのなのなのなのなのなのなの」ヒュバババババババババ

『リレイションズ』が、美希が凄まじい速度で壁を駆け上がっていく。

ドドド

・ ・ ・ ・

ドドドド

アイの目の前に、美希の姿が現れた。

美希「なのっ!!」ヒュッ

ガシャァァァァン

窓を割りながら、建物の中へと飛び込んでいく。

アイ「ふ…ふんだ!! ここまで来たのは凄いですよ、でも…」

グォォォォォ

美希「!」

美希の周りに、様々な物体が飛んでくる。

アイ「忘れちゃいましたか!!? この建物の中は、全部私の『スタンド』なんです!!」ズブブブ

そして、アイの足は床に沈み始めている。

シャァァッ

カーテンが閉まり、美希の視界を奪おうとする。

アイ「さぁ、これで私の姿は見えなくなります!! その間に逃げさせてもらいますよーっ!!」

シャァァァッ

アイの姿がカーテンに隠れ、美希の視界から消えるその刹那…

美希「」ググ

ピンッ

『リレイションズ』が指で、パチンコ玉を弾き飛ばす。

ヒュゥゥゥッ

パスン

アイ「え」

<LOCK!

カーテンの隙間を縫うように飛ばされたパチンコ玉はアイの喉元に命中し、『ロック』が出現した。

ズブ…

美希「」グッ

美希「そこっ」グオン

アイ「うごッ」バギャァァ

『リレイションズ』の拳が、アイの喉に突き刺さる。

アイ「げ、げほ…」

美希「もう逃げられない」シャッ

カーテンをどかし、アイの前に立つ。

美希「『リレイションズ』は、逃がさない」

アイ「そ、そんな…視界を奪われる直前に私の姿を捉えて玉を当てるなんて…」

美希「姿を捉えて? そんなことしてないの」

アイ「え…? じゃ、じゃあ…なんで私の喉に正確に…」

美希「声がでかいから」

アイ「あ」

美希「さて、と。色々聞きたいんだケド」

美希「デコちゃんは? 本物の愛はどこ? 鈴木なんとかさんは? キミ達のボスって誰なの?」

アイ「………」

アイ「答えてあたしに何の得があるんですか? 馬鹿馬鹿しい」

美希「だったら、いいよ。律子…さんに何か言われるかもしれないけど、このまま『再起不能』(リタイア)させるの」

アイ「アイドルが『再起不能』するのは人々の記憶から消え去った時だけですよ」

美希「………」

アイ「もしも…アイドルが真に永遠の存在となったなら、それは『完全なアイドル』と言えるんじゃないですか?」

美希「…カンゼン?」

美希「イミわかんない。どゆこと? 何が目的なの?」

アイ「答える必要は…」ギラン

ズヒュゥゥゥゥゥッ

美希「!」

美希を取り囲むように、十数本の刃物が飛びかかる。

アイ「ないんですよォォーッ、美希センパイッ!! 今ここであなたは消えるんですからねェェッ!!」

アイ「『あの人』の命令では殺すなと言われてたけど…かまわないですよね!! どうせ古いアイドルなんだし!!」

美希「ミキが…古いアイドル?」

美希「その古いアイドルを『カンゼンなアイドル』ってのにするのがキミ達の目的なの?」

アイ「だから答える必要はないですって!! どうせ、あたし達の前には765プロだってこの876プロのように一人たりとも残らないでしょうからね!!」

アイ「この場面を切り抜けられても希望なんて残ってない!! 『完全なアイドル』は次々とあなた達を襲うッ!!」

美希「ふーん、そう…」

ヒュッ

アイ「ごっ」ガッ

喉を裏拳で殴り飛ばす。

アイ「がががっ」バリバリバリ

重ねられた『ロック』分の衝撃がアイの喉に走る。

美希「襲ってくるなら、それでいいよ。その人達からボスに辿り着けばいい」

アイ「『フ…』」

美希「デコちゃんも取り戻すし、876の人達も…みんな元に戻す」

アイ「『フラワー・サークル』こいつを串刺しにしろォォォォッ!!」

美希「なのなのなのなのなのなの」

ドス ドス ドス ドス ドス ドス

アイ「うばっ、ぎゃあああああああああああああああ」

喉の一点のみに『リレイションズ』のラッシュが叩き込まれ…

アイ(『勝て』…『ない』『負け』)サラ…

バリバリバリバリ

衝撃が何十倍にも膨れ上がる。

アイ「あああああああああああああああ」サラサラサラ…

パァン!!

アイの身体は砂となり、弾け飛んだ。

カラン カラン

刃物が地面に落ちる。

美希「…真クン達が言ってた、倒したら砂になるってのはホントだったの」

ゴゴゴゴゴゴゴ…

美希「ひゃ!? ゆ、揺れてる…地震!?」

『いっぱい♪いっぱい♪いっぱい♪いっぱい♪』

美希「あ、電話だ」スッ

ポケットから携帯電話を取り出す。

美希「もしもし、律子…さん?」

律子『美希…日高さんの偽物を倒したのね』

美希「うん、やったの」

律子『そう、倒しちゃったのね…』トン トン

美希「? 律子…さん、なにやってんの?」

律子『…こんなド派手にやらかしてくれたもんだから。後始末をしなきゃあならないのよ』

美希「後始末…あ、そういえばビルと合体してた車はどうなったの?」

律子『取り込まれていた車は、全て外に吐き出されて元に戻ったわ』

律子『壁の中に取り込んで巨大なタイヤを作って…ってのはスタンドの能力で無理矢理形状を変化させていたみたいね』

美希「人がいっぱい巻き込まれたの。大丈夫?」

律子『ケガ人はいないみたいだけど…巻き込まれた、ってのが二番目に厄介なのよね。目撃者が大勢いるってことだから…』

美希「? 二番目?」

律子『…ま、これは私でどうにかするわ。少なくとも美希、あんたの名前が出てくるようなことには絶対にしない』

美希「ねーねー律子、二番目に厄介って…一番は何?」

律子『………』

律子『…美希、本当に…本体の、偽物は倒しちゃったのね?』

美希「うん、砂になって消えちゃった」

律子『そう。じゃあ…』

律子『この、国道のど真ん中に立ってるビルを、どうやってどかせばいいのかしらね…』

美希「………」

美希「このままでいいんじゃない?」

律子『いいわけあるかっ!!』

To Be Continued...

すみません、一週間空きます
今後の展開を考えての判断であり今日がヴァンガードの新弾発売日だということとは一切関係ありません

前回までのあらすじ

アヴドゥル「なにかわけがあるな…こいつ…JOJO!」

承太郎「うむ」

ドギューン

ビチャ ブチャ グニッ

ジョセフ「うええ~この触手がきもち悪いんじゃよなァ~肉の芽をはやく抜きとれよ! 早く!」

ポルナレフ「ブヘックショォ!」

承太郎「何ッ!」

ジャン・P・ポルナレフ ー死亡ー

P「すまん千早、あの番組にはやよいが出ることになった」

千早「え…」

P「でも千早、お前最近伊織の休業の穴を埋めるために他にもいくつか入ってるだろ?」

千早(水瀬さんの失踪は、プロデューサー達には『家の都合による休業』として伝えられている)

千早(しかし、水瀬さんがいない水瀬家ではもう捜索が始まっている)

千早(律子が盾になって耳に入らないようにしているけれど、プロデューサー達にはいつ知られてもおかしくはない…)

P「最近働きすぎだと思うんだよ。ちょうどいい機会だ、羽を伸ばしてこい」

千早「私はやれます」

P「駄目だ駄目だ、もう決まったことだ」

千早「………」

千早(こうして、不本意ながらもオフの日ができてしまった。いえ、プロデューサーは最初からそうするつもりだったのでしょうね)

千早(とはいえ、プロデューサーの言う通り、ちょうどいい機会なのかもしれない。私が疲れているとかそういう話ではなく…)

千早(水瀬さんが失踪した、この事件のことを調べるため。そのための時間ができた)

千早(先日、876プロに出かけた律子達は言った…)

律子『日高さんは既に「偽物」だった…私達を襲ってきた』

律子『でも、それよりも重要なのは…私は今回のことは水谷さんにしか話していない。誰にも言うなと釘も刺した。それなのに、伝わっていた』

律子『水谷さんも…いえ、ひょっとしたら涼も…876プロの全員が「偽物」に成り代わっているのかもしれないわ』

千早(そして、結局その後鈴木さんが見つかることはなかったらしい)

律子『ネットで調べてみたけど…彼女、最近顔を出していないみたい』

千早(つまり…私達は、最も重要な手がかりを失ったことになる)

千早(そして、私は…あることが気になっていた)

千早「765プロも876プロも、『弓と矢』があり…そして、アイドルが『偽物』と入れ替わっていた…」

千早「ということは、他のアイドル事務所もそうなのでは…?」

千早「そして、私達765プロも…いずれそうなってしまうのでは!?」

千早「だとしたら…いいえ、断じてさせるわけにはいかないわ。そんなことは…」

千早(美希の話によると、彼女達は『完全なアイドル』を名乗っていたらしい)

千早(この世に完全なものなどない…なんて話は置いておいて)

千早(その『完全なアイドル』が…私達の中に潜んでいる)

千早(何食わぬ顔をして765プロの中に入り込み…そして、水瀬さんをどこかにやってしまった)

千早(この獅子身中の虫! これだけは一刻も早く取り除かなくてはならないッ!)

千早(けれど、私達はアイドル…この前はたまたま予定が合ったけれど、忙しくて顔を合わせることもできない日々が続いている)

千早(その間にも奴らの魔の手は伸びているかもしれない…)

「千早ちゃん?」

千早「!」

春香「送りの人がいないみたいだけど…今から帰り? 早いね」

千早「春香…」

春香「ま、私もなんだけどね。予約してたスタジオが急に閉まっちゃって…」

千早「春香…それ以上近付かないで」

春香「え?」

ゴゴゴゴゴ ゴゴゴ

千早(そう…奴らは何食わぬ顔で他人に成り代わっている)

千早(確証を持てるまで、誰が相手だろうと油断はできない)

ズ…

春香「え、千早ちゃん?」

千早「春香…スタンドを出して」

春香「………」

春香「や…」

春香「やだなぁ~、千早ちゃん。私があれ以来『アイ・ウォント』を出せなくなったのは知ってるでしょう?」

千早「…そう、だったわね」

千早(流石に、偽物だったとしてもこんなことに引っかかるくらい迂闊ではないか)

春香「千早ちゃん、どうしたの? なんか怖いよ」

シュパ!

千早の『インフェルノ』が、千早の指をうっすらと切る。

タラ…

千早「じゃあ春香、貴女からは血が出る? 見せてくれないかしら」

春香「えぇ? 痛いよ、なんでそんなこと…」

千早「見せなければ、貴女だろうが容赦はしない」

春香「千早ちゃん…?」

春香「………」カリッ

春香は、左手の親指を口に入れ、噛んだ。

ポタッ

千早に向けた親指の腹から、赤い液体が滴り落ちた。

春香「これで…いい?」

千早「…ええ、いいわ春香。ごめんなさい、ありがとう」

春香「千早ちゃんが意味もなくこんなこと言うわけないからね」

春香「どういうことか、説明してくれる?」

千早「…聞いていないの?」

春香「何が?」

千早「実は…」

………

春香「伊織が…」

千早「何の目的があるのかはわからないけれど…」

千早「876プロは既に手に落ちた、敵は強大よ。このまま指を銜えて待っていてはいずれ全滅するわ」

春香「私達の中に敵が潜んでるって…やられたのは伊織だけじゃあないってことだよね。誰かわからないの?」

千早「いえ、わからない…けれど、見分ける方法はある」

春香「それがさっきの?」

千早「ええ。奴らはスタンドが違う…それと、血が流れていない」

千早「…この方法で見分けていないのは春香、貴女だけだったのよ」

春香「私だけ?」

千早「亜美と真美は常日頃から『ワープ』を使っているから。片方でも偽物なら『スタートスター』は使えなくなるはず」

千早「いなくなってしまった水瀬さんを除けば、春香以外の全員は白だったわ」

千早「だから、私は…貴女がそうだと思っていたのだけれど」

春香「本当に、そんな人がいるの?」

千早「いるはずなのよ。入れ替わっていなければ…同じ人物が二人もいれば、誰かしらが気づくはずだわ」

千早「それに…水瀬さんが一人になるタイミングを見て、彼女を始末することも難しいと思う…」

千早「のだけど…わからない。こうしてアイドル全員が白だというのなら、そうじゃあないのかもしれない…」

春香「アイドル以外の人は?」

千早「アイドル…以外?」

春香「765プロにいるのは、私達だけじゃあないでしょ。プロデューサーさんとか、小鳥さん…あるいは」

春香「マネージャーの大海さんとか」

千早「………大海さん」

春香「876プロにもあったってことは、犯人は『弓と矢』をばらまいている…」

春香「何かは知らないけど、きっと『スタンド使い』になることと『偽物』は関係があるんだと思う」

春香「プロデューサーさんも小鳥さんも、『スタンド使い』じゃあない…それは私が保証する」

春香「でも、大海さんは? 今年になって入ってきて、私達は彼女のことを何も知らない」

千早「彼女が『スタンド使い』かもしれないということ?」

春香「あるいは…大海さん自体が、『偽物』なのかもしれない」

ゴゴゴゴゴゴ

千早「そ…そんなこと…」

春香「ありえないと思う?」

千早「………」

春香「この前、千早ちゃんも言ってたよね。大海さんは私に似てるって」

千早「い、言ったけれど…だからと言って、そうと決めつけるのは早いのではないかしら」

春香「それだったら…思い過ごしなら、それでいいんだけどね」

千早(でも…確かに、敵が潜んでいるというのなら他に考えられない)

千早(違うのなら違うで…春香の言う通り、それでいい。事務所の中に、『偽物』など潜んでいないということなのだから)

千早「そうね…調べてみる価値はあるわ」

春香「そうと決まったら!」

千早「行くしかないわね…」

春香「…で、大海さんって今どこにいるんだろ?」

千早「…プロデューサーに聞いてみましょう」

千早(プロデューサーの話によると、大海さんは美希と我那覇さんを送って都内のフェスにいることがわかった)

千早(私と春香はそれを聞くとすぐにタクシーでそこまで向かうことにした)

千早(そして…)

……………

千早「………」

大海「あれ!」

春香「おはようございます、大海さん」

大海「春香ちゃん、千早ちゃん。どうしたんですか、こんなところに」

大海「あ、どうぞどうぞ椅子がありますから! 座ってください!」ザザッ

千早「い、いえ…ここで座って話をするために来たんじゃあありませんから…」

大海「それじゃあ美希と響ちゃんのこと見にきたんですか? それなら表からの方がよく見えますよ。フェスはチケットいりませんからね~」

千早「そうじゃあないの、大海さん」

大海「………?」

千早「私は貴女に話があってここに来たんです」

大海「私に…? なんですか?」

千早「ここでは話せません、人目につきますから。一緒に来てくれないでしょうか」

大海「…いいですよ」

千早(なにか、こっちが悪いこと企んでいるように思えるわ…)

千早(いえ…世間から見れば、充分に悪いことなのでしょうね)

千早(何故なら、私はこれから人をひとり消すことになるかもしれないのだから)

千早(でも、事務所を…765プロを守るため、私はやらなくてはならない)

千早(そして、私と大海さんは人目につかないところまでやって来た)

大海「それで、話っていうのは…」

大海「まさか、愛の告白!? 駄目だよ千早ちゃん! そんな…女の子同士でなんて!」

千早「………」

大海「そんな顔しないでくださいよ~、ちょっとした冗談ですから」

千早「…今日は裏方でもスーツなんですね」

大海「はい。こないだのこと、律子さんに話したらこっぴどく怒られちゃいまして…」

大海「でも、やっぱりジャージの方がよくないですか? 痛んでもあんまり気にならないし!」

大海「ほら。このスーツ、買ったばかりなのにもうこんなになっちゃってるんですよ…」

千早(よく見ると、結構汚れてるわ…)

千早(普通の人なら、買ったばかりのスーツをこんなに汚すことはないと思うのだけれど)

千早(さぁ、どうしましょうか…)

千早(『貴女は偽物ですか?』などと、そのまま言っても話すことはないでしょう。なら…)

ズッ

千早の背後に『インフェルノ』が現れる。

大海「千早ちゃん?」

千早(見えてない…いえ、そうと思わせてるだけかもしれない)

千早(日高さんの時、私は彼女がスタンドが見えていないと…『スタンド使い』ではないと思った)

千早(しかし、日高さんは『スタンド使い』そして『偽物』だった)

千早(『完全なアイドル』というのは、多少のことで精神が揺らいだりしないのかもしれない)

大海「…?」

千早(ならば、強攻策に出るわ。例え彼女が本当に無関係だったとしても…多少、ケガをさせてでも見分ける)

千早「ごめんなさい、大海さん」

大海「あ、あの? 千早ちゃーん?」

千早「『インフェルノ』ッ!!」ヒュッ

千早のスタンドが、大海に向かって襲いかかる。

ゴォォォォォ

大海「やめて」

千早「…!」ピタッ

『インフェルノ』の腕が止まる。

大海「本気で…私に攻撃するつもりだったよね? 今…」

千早「見えて…」

千早「いるのね、貴女は…!」

大海「………」

千早「貴女は、『スタンド使い』…!」

大海「………」

千早(そして、春香の…)

大海「もう一度言うよ。やめて、千早ちゃん」

千早(肌に少し傷をつければ…血が出なければ、はっきりする!)

千早「『インフェルノ』!!」ヒュ…

ドボォ

千早「…!?」ギギギ

『インフェルノ』が攻撃する前に、千早の背中に、何者かの腕が突き刺さる。

千早「ぐぅっ」グラッ

千早(スタンド攻撃…!? いつの間に、見えなかった…)

大海「無駄無駄ァ」ヒュ ヒュン

千早「がっ…!!」ボコ ボゴォ

バタン

背中から衝撃を受け、千早はうつ伏せになって倒れる。

大海「こうなったらもう…今はあなたの相手はしていられない」クルッ

タッ

千早「ま、待って…!」ムクッ

・ ・ ・ ・

千早「」キョロ

千早「いない…」キョロキョロ

千早が立ち上がると、もう大海の姿は見えなくなっていた。

千早「………」ザッ ザッ

ザワザワザワ

千早(? ステージの方が騒がしいわ…)

「おい、美希ちゃんの姿が見えないぞ!響ちゃんもだ!」

「アイドルが…まとめて消えちまった!」

千早「え…」ドクン

ドクン ドクン ドクン

鼓動が早まっていく。

千早「春香…」

バッ

千早「春香! どこ、春香!!」

………

辺りを見回して呼びかけるが、彼女の姿は、どこにもなかった。

千早「く…」

千早「ああああああああっ…!!」

前回までのあらすじは死んだ、もういない!

タッタッタッタ

千早「はぁ、はぁ、はぁ」

大海を見失った千早は、急いでタクシーを呼び、事務所の前まで戻ってきた。

千早(春香、美希、我那覇さん…みんな消えてしまった)

千早(嫌な予感がする…他のみんなは無事なの…!?)

ブロロロロ…

一台の車が、事務所に向かう千早とすれ違うように出て行く。

・ ・ ・ ・

千早(今の車…)

千早(事務所では見かけない車だわ。何故、今ここから出て行ったの? 怪しすぎる…)

千早(それに、なにかしら…運転していた『男性』? 後ろ姿にどこか見覚えがあった)

千早(追うべきだと思う…けれど)

千早(…私の足で車には追いつけない。それに、事務所にいる人達が心配だわ)

シン…

建物の中に足を踏み入れるが、物音一つ聞こえない。

バンッ

手前の部屋から扉を開いていく。

千早「誰か…」

バンッ

千早「誰か、いないの!? 誰か!」

「う…」

千早「!」

「ぅぅ…」

千早(奥の部屋から呻き声が…)ガチャ

P「………」ダラン

千早「プロデューサー!」

千早「だ…大丈夫ですか!」タッ

部屋に入り、奥で倒れている彼の下にすぐさま駆け寄っていく。

P「………」

千早(気を失っている…外傷はあまりないけれど)

千早(嫌な予感が、現実のものに…『偽物』達が、ついに動き出した!)

千早(私達アイドルだけでなく、プロデューサーまでが巻き込まれて…!)

ピラッ

千早「………?」

視界の隅で、何かがめくれた。

ペラペラ

真っ黒な何がが旗のようにはためいている。

千早「」スッ

右手を伸ばして掴もうとするが…

千早「…え?」

右腕の、肘から先が、なかった。

ゴゴゴゴゴゴ

切断面を見ると、まるで剣の達人が藁の束を切ったかのような綺麗な切り口だった。

出血はないが、肘から先がそのまま透明になってしまったかのように、切断面の血管から血が行き来するの流れているのが見える。

千早「な…なに、これは…! 『スタンド攻撃』!?」

千早(感覚はある…でも、見えなくされたわけじゃあない…確かにある、でもここにはないッ)

ピラピラ

千早「あら…?」

ゴゴゴ

千早(黒い布のようなものがはためいていると…それだけだと思っていた)

千早(でも…それだけじゃあない! 私の目の前から、窓際まで…)

ズズズズズ…

千早(プロデューサーがいた場所が、空間が真っ黒に塗りつぶされている!!  プロデューサーがいない…!)

ピラピラ

千早「こ、この裏…いえ、表側は…!」バッ

ゴゴ

回り込み、黒い布の表側を確認する。

その表面には、部屋の窓、プロデューサー、そして、千早の右手が描かれていた。

千早「『空間』が…『めくられて』いるッ!!」

千早(奇妙だけれど、そうとしか言いようがない! プロデューサーと私の腕が、部屋ごと巻き込んでめくられている!!)

千早(そしてめくった後に、この黒い何もない空間が残っている…『空間』の裏側とでも言うのかしら、触るのはやめておきましょう)

スゥ…

千早(! 入り口に誰かがいるわ…あそこにいるのが本体?)グッ

千早「!?」

千早「う、動けないわ…! 右腕が、何かに引っかかっている!」

千早「この、『めくられた空間』の中に私の右腕があるから…? 本体の方まで向かって行けない…!」

スッ

千早(あの手の動き、何かをしようとしている…『空間』をつまんで…)

ググ…

ブワッ

千早(空間が私に、覆い被さるように閉じていく…めくられた『空間』を、元に戻すつもり…?)

千早(今、私は裏側にいる…! 完全に閉じた時、裏側にあるものはどうなるの…?)

千早「」タッ

空間が完全に閉じる前に、黒い空間の外へと逃れようとする。

グッ

千早(…! 腕が引っかかる…ここが限界なの…?)

千早(右腕が少し、閉じる『空間』に巻き込まれる…)

千早「くっ!」

ガオン!!

・ ・ ・ ・

『空間』が閉じ、千早の右腕も元に戻る。

ブシュッ

しかし、空間の裏側に巻き込まれた千早の腕の中の辺りが、数ミリほど削り取られており、血が噴き出す。

グラ…

繋がってる部分が半分以下となってしまった右腕の先が曲がりかけるが…

千早「『インフェルノ』…」ガシッ

ピキピキピキ

左手で受け止めると、凍らせて傷口を塞ぎ、くっつけた。

千早「随分な真似をしてくれるわね」キッ

千早は、入り口に立っている少女を睨みつける。

???「あれ?」

千早「貴女は高槻さん…の、『偽物』…かしら」

???「ちがいますよー」

ゴゴゴ

千早「………」

ヤヨイ「私がやよいです」

ゴゴゴゴゴゴ

千早「他のみんなはどうしたの?」

ヤヨイ「みんなですか? みんな、元気ですよ!」

千早「…全員、なの?」

ヤヨイ「伊織ちゃんは、もうちょっと時間かかりそうだけど」

千早「」ギリッ

千早(遅かった…? みんな、やられてしまったの? 私は、間に合わなかった…)

ヤヨイ「それにしても、千早さん…だったんですか。おかしいなぁ」

千早「私がいたら、なにか不都合でもあるのかしら」

ヤヨイ「はい。今日は千早さんはいないって言ってたのに。それに…」

千早「?」

ヤヨイ「…千早さんは、別にいいって」

千早「別に…いい?」

千早「それは一体、どういうこと? 私を倒す必要はないということ?」

ヤヨイ「私もよくわかんないですけど、そうじゃないかなーって思います」

千早(私を倒す必要はない…なぜ?)

ヤヨイ「あの、千早さん。間違えてケガさせちゃって、ごめんなさい!」

千早「…何故謝ったりするの?」

ヤヨイ「だって、これからは私が『高槻やよい』ですから! 仲良くしましょう!」

千早「貴女は高槻さんじゃあないわ。高槻さんのフリをするような人と仲良くなんてなれない」

ヤヨイ「もしかして、まだ戦うつもりなんですか? やめた方がいいと思いますけど。腕、取れかかってますよね?」

ヤヨイ「それに私、千早さんと戦う理由なんてないかも」

千早「貴女達がどうでも、私には戦わなければならない理由がある」

ヤヨイ「もう、千早さんひとりしか残ってなくても?」

千早「それでもよ…! 貴女達を全員倒し、みんなを取り戻すッ!!」

千早「」タッ

駆け足でヤヨイの方に向かって行く。

ヤヨイ「千早さんの…『ブルー…』えっと」

ヤヨイ「『イ…イ』…スタンド、すっごい速くて強いらしいですけど」ス

ピッ ピッ

空中で『匚』の字を描くように、指を動かす。

ピラッ

千早「!」ガッ

千早の左腕が『空間』ごとめくられて引っかかり、その場で足止めを食らう。

ヤヨイ「近づけなければ何も怖くないかなーって」

千早「なるほど、『空間』を平面の絵として捉え…切り取ったりめくったり…」

千早「そうやって、『空間』を操作してるのね」

ヤヨイ「はい。これが私のスタンド、『ゴー・マイ・ウェイ』ののーりょくです」

千早(彼女の視点から見える『空間の裏側』に、私の左腕の切断面があれば…そこは自由に動けるようね)

ヤヨイ「千早さん、今、私から見て裏側のところにいますよね」

ヤヨイ「この『空間』を閉じれば、千早さんの全身は削り取られて、終わり…ですけど」

千早「………」

ヤヨイ「殺したら駄目みたいだし、とりあえず足のところだけパタンってやっちゃいますね」スッ

ヤヨイ「逃げようとしても…その右手みたいに、左手だけは貰っちゃいます」

千早(『空間』を閉じる…逃げようがないように思えるけれど)

千早(切断面と『めくられ』た『空間』が完全に一致すれば、めくられる前と何も変わらず元に戻る…はず)

千早(けれど…この能力は『空間』を平面で捉えているのに対して、私の行動するこの世界は『立体』…)

千早(単純な位置だけでなく角度や高さなども完全に合わせなければならない、そんなのは不可能に近いわ)

ヤヨイ「一度巻き込まれたら、もう『ゴー・マイ・ウェイ』から逃げる方法はないですよ!」ピッ

ヤヨイが『めくれ』た『空間』の端を掴んだ。

千早「逃げる方法はない? それは嘘ね」

ヤヨイ「?」

千早「私の腕は切断された…ように見える」

千早「けれど、それは『空間』の一部が切り取られているからそう見えるだけで…本当は繋がっている」

千早「切られた腕が消えたわけでもない。感覚もあれば、この『めくられた空間』の中にちゃんと存在しているわ」

ヤヨイ「それがどうかしたんですか?」

千早「この『空間』だって、切り取られたというだけで…なくなったわけではない!」

ヤヨイ「うぅ~、よくわかんないです! とりあえず、閉じちゃいますね」ペラッ

千早「私の腕はこの閉じようとしている『空間』の中に存在している、ということは」ヒュン

左腕を真横に伸ばし、『空間』に合わせるように、後ろから前に振り抜く。

ドドドドド

千早の左腕が、元に戻った。

ドドド

千早「左腕との切断面が一瞬でも一致すれば、私の腕は『めくられた空間』から引っ張り出せるわ」

千早「しかも、『空間』の中にある私の腕も、同じ動きをする…合わせるのは簡単よ」タッ

パタン!

そのまま、閉じて行く空間の外側へと逃れる。

ヤヨイ「………」

ドドドドド

千早「射程距離内に入ったわ。『ブルー…』」

ピラァ!

千早「うっ!?」

グォォォォォォ

千早(床が動いている…いえ、私のいる『空間』ごと切り取られている!?)

ヤヨイ「『ゴー・マイ・ウェイ』で切り取った手を戻したのはちょっとびっくりしちゃったけど…」

ヤヨイ「よく考えたら、最初からこうすればよかったかも」

ゴォォォォ

千早「私ごと…この部屋全部を『めくって』いるの…?」

ヤヨイ「はい! このまま壁にくっつけて…」

千早「『閉じ込めちゃいます』?」

ヤヨイ「閉じ込めちゃいます!」

ヤヨイ「はわっ!?」

千早「無理よ。だって、貴女はもう負けているもの」

ヤヨイ「負けてる? 全然そうは見えないかも」

ヤヨイ「千早さん、そんなこと言っちゃめっ! ですよ!」

千早「まだわからないの?」

シャッ! シャッ!

カーテンを閉める。

ヤヨイ「う?」

千早「この『めくられた空間』は、私も含め『平面』になっているわ」

千早「そして私の『インフェルノ』には…腕を凍らせるために奪った『熱』が有り余っている」ヒュッ

チリッ

シュボ!!

メラメラメラ

『インフェルノ』が指で擦ると、カーテンに火が点いた。

千早「炎はプロデューサーと私も巻き込む…けれど、『インフェルノ』で熱を逃がせるわ。でも、貴女のスタンドにそういう機能はないでしょう」

ヤヨイ「え? え?」

千早「その掴んでいる『空間』の端、放した方がいいと思うわよ。…もう遅いけれど」

ゴォォォォォ

ヤヨイ「わ…あ、ああっ!」ゴォッ

ゴロゴロゴロ

空間の端から伝ってきた火が、ヤヨイへと燃え移り、のたうち回る。

ペラ…

千早「…『空間』が」

ゴォォォォ…

『インフェルノ』の左手の中に、カーテンの火が吸い込まれていく。

シュゥゥゥゥーッ

腕の排気口から、大量の蒸気が吹き出した。

千早「元に戻った」

ヤヨイ「あ…」

千早「能力を解除するなんて、冷静さを欠いたわね」

千早「『完璧なアイドル』…と聞いていたけれど。不測の事態には対応できないのかしら?」

千早「本物の高槻さんならこれしきで能力を解除することはなかったでしょうね」

ヤヨイ「う…うぅ…」

千早「さて…」

ヤヨイ「!」

千早「決着はつけるわ。高槻さんと同じ姿を殴るというのは、心が痛むけれど」

千早「いえ、あまり痛まないわね…結局、貴女は高槻さんではないのだから」

ヤヨイ「………」スス

ヤヨイ(『インフェルノ』の射程距離は2m…まだ、ちょっと遠い。それに千早さんは…右腕をケガしてる)

ヤヨイ(『ゴー・マイ・ウェイ』の方が一瞬早く発動すれば…まだ、勝てる!)

千早「『インフェル…」ヒュオン

ヤヨイ(遠い!)スッ スッ

ペラッ

再び、千早の左腕ごと『空間』が『めくられ』る。

ヤヨイ「『ゴー・マイ・ウェイ』!! 両腕、封じまし…」

グッ

パリィィィィィン

ヤヨイ「あぐっ!?」

ヤヨイに凍り付いた『インフェルノ』の右腕が叩き付けられ、氷の破片が弾け飛んだ。

ヤヨイ「おぐ…ぉ…」

千早「何か… ………」

千早「言ったかしら。まぁ、なんでも、いいけれど」

今日の分はこれで終わりです。あとその1って書きましたがいらないんでなかったことにしてください。
色々とすみません…

スタンド名:「ゴー・マイ・ウェイ」
本体:タカツキ ヤヨイ
タイプ:特殊型・無像
破壊力:なし スピード:なし 射程距離:E~C(目の届く範囲) 能力射程:E~C(目の届く範囲)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:C
能力:自分の見ている景色を「二次元」として認識し、切り取って「めくる」ことができるスタンド。
「めくった空間」に一部が巻き込まれた時、切り取られた面は「めくった」部分に閉じ込められる。
「空間」を「めくる」際、その裏には何もない真っ黒な領域が残り、「空間」が閉じて元に戻った時、その裏側にあるものはなんであろうと削り取ってしまう。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

始めます

ズズ

左腕を巻き込んだ空間が元に戻る。

千早「…さて」

ヤヨイ「う、うぅ…!?」ジュゥゥゥゥゥ

千早「『インフェルノ』で炎の『熱』を与えた。もうこれ以上は戦えないでしょう」

ヤヨイ「………」ジュゥゥゥゥ

千早「私の勝ちよ。目の前から消えてくれるかしら」

ヤヨイ「…? 止め…刺さないんですか?」

千早「刺す必要があるのかしら? まだ向かってくるのでなければ、私もこれ以上痛めつけたりはしない…」

ヤヨイ「………」

サラ…

千早「!」

ヤヨイ「私の…『負け』…です、千早さん」サラサラ

千早「か、身体が砂に…!」

千早(真達や美希の言う通り…倒したら、砂になってしまうの…!?)

千早「あ、貴女は…どうなってしまうの…?」

ヤヨイ「たぶん、消えちゃうんでしょうね…」

千早「消える…」

ヤヨイ「でも…気にすること、ないと思います。千早さんが思ってる通り、私達は人間じゃあないですから」

ヤヨイ「千早さんが私を『高槻やよい』として認めないなら…むしろ、消えてもらった方がいいんじゃあないですか?」

千早「そんなこと…! 私は…いえ、誰だって思ってるはずはない!」

千早「私達を傷つけたり、仲間と入れ替わろうとしていることを憎んでも…消えてしまってもいいだなんて…」

ヤヨイ「どっちにしても、私は『負け』た。もう『完全なアイドル』ではいられない」

千早「なんなの…その『完全なアイドル』というのは…」

千早「一度負けたくらいで砂になって消えてしまう? それの何が『完全』なの!?」

ヤヨイ「………」

千早「駄目よ、消えては! 消えてしまっては何もかも終わってしまう、貴女はそれでいいの!?」

ヤヨイ「私は…千早さんに『高槻やよい』であることを否定された」

千早「え…?」

ヤヨイ「私は『高槻やよい』にはなれなかった」

ヤヨイ「だったら…もう、私の生きている意味なんて、ない」サラサラ

千早「待って…」

パラ…

千早「……… ………」

千早「………」ス…

左手で、ヤヨイだったものを拾い上げる。

サラサラ

指の間からこぼれ落ちる。

千早「高槻さんになれなければ、生きている意味がない…? ですって」

千早「誰…?」グッ

拳を握りしめる。

千早「誰がこんな事をしているの」

千早「彼女達を利用し、私の仲間達を傷つけ…そんな者がいるというのなら…」

千早「私は、許さない…!!」

P「う…」

千早「! プロデューサー!」

千早(気がついたのかしら…右腕は背中に隠さないと、心配はかけられない)サッ

P「み、みんなは…」

千早「プロデューサー、大丈夫ですか!?」

P「ひっ!?」バッ

千早「!」

P「い、いや…ち、千早…本物の千早か…?」

千早「はい、私ですプロデューサー」

千早(一瞬、私を警戒する姿勢を…)

P「千早…ここにいたら危ない、早く外に逃げるんだ…」

千早「何があったのですか? 他の皆は?」

P「みんなは…くっ」

千早「プロデューサー…?」

P「あまりにも無茶苦茶な話で、信じてもらえないかもしれないが…」

千早「信じます。だから話してください」

P「…ついさっき、みんな…何人かのアイドルがまとめて事務所に来たんだ」

P「俺は何事かと思ったよ、仕事中のはずの奴や、上の待合室にいたはずの奴もいたんだ! 何より、そいつらはみんな様子がおかしかった!」

千早「様子がおかしかった…とは?」

P「具体的には何とは言えないが…明らかに普通じゃあなかった。無表情で、人形のような顔をしていた」

千早「人形…」

P「そいつらは超能力のような『なにか』で、事務所にいたみんなを襲って…どこかへ連れ去ろうとして…」

千早(『スタンド能力』…見えないプロデューサーには何が何やらわからなかったでしょうね…)

P「俺は…みんなを守ろうとした…けど…できなかった…」ギリッ

千早「誰か他に無事な人は?」

P「わからない…今まで気を失っていたからな。でも、ここにいた奴はみんな連れて行かれてしまったと思う…」

P「俺は…アイドルでないからか? 連れて行かれなかった。と言うより、最初から眼中にないようだった」

千早(…私が、ここに来た時に見たあの車…)

千早(もしかしたら、あれに…誰か乗っていたのかもしれない)

千早「プロデューサー」

P「なんだ?」

春香「その人形のような顔をしていたアイドル達の中に…春香はいましたか?」

P「ああ、いた。あいつが先陣を切って指示を出しているようだった」

千早(大海さん…いえ、やはり彼女は、春香の偽物だったのね)

千早(春香を連れ去り、もう偽る必要もなくなったから、春香としてこの事務所を襲撃しに来た)

P「あいつらは、もう行ってしまったのか…?」

千早(スタンドのこと…『弓と矢』のこと…そして『偽物』のこと…プロデューサーに言うべきか、言わないべきか)

千早(…言うべきなのでしょうね。こうして、プロデューサーは巻き込まれてしまったのだから)

千早(けれど、今はまずい…さっきの高槻さんの『偽物』のように、まだ彼女達は事務所に残っているはず。プロデューサーをここから遠ざけなくては)

千早「プロデューサー、まずはここから出ましょう」

P「あ、ああ。それはもちろんだが…その前にいいか、千早」

千早「? なんでしょうか」

P「何故右腕を隠している?」

千早「…それは」

P「お前、怪我をしているんじゃないか。それを俺に見せまいとしている」

千早「………」

P「もしかして、お前も襲われたのか…?」

千早「…はい。なんとか逃れられましたが」

P「あの『超能力』から? 逃れられた…だって?」

千早「………」

P「千早、お前…何か知っているんじゃあないのか」

千早「何か…とは?」

P「今回のこと…あいつらのことや、あの不思議な力のこと…妙に冷静になって聞いてたよな」

P「お前…前から、知っていたんじゃあないのか」

千早「…知ってたら、なんでしょうか?」

P「え?」

千早「確かに、私は今回の事…何が起こっているのか、少しは知っている」

千早「ですが、それはプロデューサーとは関係のないことです」

P「関係ないって…」

千早「」チラ…

先程までヤヨイだった砂の山を一瞥する。

千早「まだ彼女達は事務所にいるはず。ここは危険です、速やかに去りましょう」

P「千早…?」

千早「これ以上、貴方を巻き込みたくはない」

P「巻き込みたくないって、お前だって普通の…」

フワ…

P「!?」

プロデューサーの身体が宙に浮かぶ。

千早「…普通じゃあ、ないです」

千早「詳しくは後で話しますが…私、いえ私達は貴方の言う『超能力』のようなもの…」

千早「スタンドを持つ、『スタンド使い』と呼ばれる存在です」

P「ス、スタンド…使い? なんだそれは」

P「なんで千早、お前がこんな…」

千早「………」

千早(やはり…こうなってしまうのね)

千早(『スタンド使い』でないプロデューサーにとっては、あの『偽物』達も私も変わらないのかも…)

P「…わかったよ」

千早「え?」

P「まずは脱出だろう? 下ろしてくれ」

千早「…あ…ありがとうございます」

P「後で詳しく聞かせてもらうからな」

タッタッタ

部屋を出て、出入り口に向かって事務所の廊下を駆け抜ける。

千早(プロデューサーを逃がしたら…765プロを奪還する)

千早(彼女達から、みんながどこに連れて行かれたのかも聞き出さなければならない)

タッタッタッタ

???「はい、そこまで」カタン

千早「!」

入り口近くの階段から、何者かが降りてくる。

カタン カタン

ゴゴゴ ゴゴゴゴ

P「お、お前は…!」

千早「貴女はッ…!!」

ハルカ「ここから先には…行かせない」

P「春香…」

千早「違います、プロデューサー。彼女は…」

ハルカ「って、なんだ。千早ちゃんにプロデューサーさんか」

ハルカ「なんで千早ちゃんがここにいるのか知らないけど。もしかして、わかっちゃった?」

千早「ええ。全て…貴女が春香の偽物だということも」

千早(どんなスタンドを持っている? この右腕でいけるかしら…?)

ハルカ「ま、いいや。どうぞどうぞ」スッ

千早「え?」

ハルカ「ん、どうしたの? ほら、逃げるんでしょ? いいよ」

千早(わ、罠? いえ…)

千早(私を倒すつもりなら、フェス会場の時にやられている…)

千早(プロデューサーも同じ、何故かは知らないけれど、私達に用はない…ということ?)

P「千早、お前は怪我をしている…通してもらおう」

千早「………」

P「千早?」

千早「聞いて、いいかしら」

ハルカ「何?」

千早「その服は、春香から奪ったの?」

ハルカ「うーん、服って言うか。このリボンも靴も鞄も携帯も…」

ハルカ「『天海春香』…ぜーんぶ、私が奪っちゃった」

千早「春香は…本物の春香はどこに行ったの」

ハルカ「ここにいるよ」

千早「…事務所に?」

ハルカ「違う違う。ここ」

千早「………」

ハルカ「これからは、私が本物の天海春香なんだから。仲良くしよう? ね、千早ちゃん」

千早「…春香はどこ」

P「おい、千早…」

ハルカ「だから~」

千早「答えなさいッ!!」

ハルカ「死んだ」

千早「な…」

フラ…

P「千早!」ガシッ

千早(し…)ガクッ

千早(死んだ…?)

P「死んだ…だって?」

P「お前、春香を…殺したのか!?」

ハルカ「ええ。今の天海春香はスタンドは見えても、使うことはできない。その辺の子供泣かせるより簡単でしたよ」

千早「殺しはしないと…そういう話だった、のでは」

ハルカ「一応、そう言われてたんだけど」

ハルカ「なんて言うか…気持ち悪くない? 同じ人間が二人もいるのって」

千早「…………」

ハルカ「デパートの屋上から突き落としてあげたよ。死体の処理はちょっと面倒だったけどね」

P「なんて、ことを…」

ハルカ「まぁ、いいじゃないですか。私がいるんだから」

ハルカ「私がいなくなったら『天海春香』はこの世から消えちゃいますよ」

ハルカ「それに、私の『アイ・リスタート』は無敵…私が負けることはありえない」

ハルカ「だったら、別にオリジナルなんていらないでしょ?」

ハルカ「『天海春香』は、二人もいらない」

P「…………」

千早「………ド…」

P「…千早?」

千早「『ブルー・バード』ッ!!」ゴッ

ギュン!!

『ブルー・バード』を猛スピードでハルカに突っ込ませる。

ハルカ「へぇ、ほんとに………なんだ。でも…」

ハルカ「『アイ・リスタート』!!」ズッ

その前に、スタンドが立ちふさがった。

千早「あああああああああ!」

グワッ

千早のスタンドが、左腕で『アイ・リスタート』に殴り掛かる。

スゥ…

千早「!?」ヒュン

しかし、その拳はその体をすり抜け、空を切った。

ハルカ「無駄」ヒュ

ガン!

千早「うっ!」グラ

『ブルー・バード』の頭部が殴られ、千早の頭が揺れる。

P(俺には二人が何をやっているのか、わからない…)

P(だが、これだけはわかる…千早には怪我もある、圧倒的に不利だ…!)

ハルカ「無駄無駄…全部、無駄」

弓と矢、撮影開始

ハルカ「無駄無駄」ヒュ ヒュッ

千早「くっ!」バッ

『ブルー・バード』を引っ込めて、ハルカの追撃を躱す。

ハルカ「ふぅー…」

ゴゴゴゴゴゴ

P「千早、大丈夫か!?」

千早「ええ…」

ハルカ「………」

ゴゴゴゴ

千早(冷たい目で私を見ている…)

千早(『弓と矢』の事件の時のあの時の春香と同じ…)

千早(けれど…彼女は春香では…ない)

千早「はーっ、はーっ、はーっ」

千早(春香を…殺した!? ですって…)

グ…ググググ

左手の拳を、血が出るほどに握りしめる。

千早(こいつが…春香を!?)ガリッ

P「ち、千早! 落ち着け、あまり興奮するな」

千早「私は落ち着いていますッ!!」

P「ちは…」

・ ・ ・ ・

P「ち…千早」

千早「…?」

P「千早、お前その腕は…!!」

千早「へ…あっ」サッ

右腕を、背中側のプロデューサーに見えないよう前の方に隠す。

ポタ…

右腕の傷口から、溶け出した血が滴り落ちる。

P「その傷は! ザックリと切断されて、凍っている…!?」

千早「後で説明します。だから…」

P「そんなことを言いたいんじゃあない! お前、そんなケガで戦うつもりなのか!?」

千早「………」

ハルカ「ふぅーむ、なるほど。誰かと戦ってたのかな? 千早ちゃんが勝ったみたいだけど、結構なダメージを負っちゃったわけだ」カツッ

ハルカが、階段を数段上がる。

ハルカ「ま…私としては最初から逃がすつもりだったし。プロデューサーさんとその出口から出ていくといいよ」

千早「………」

ハルカ「千早ちゃんがどうしても私が憎いって言うのなら話は別だけど」

千早「ええ、そうね…許せそうもないわ…とても」ザッ

P「待て、千早!」ガシッ

千早「放してください」

P「千早、お前があいつと同じ能力を持っているってのはわかった…お前の能力がどれだけ強いのかも俺は知らない」

P「だが、その上で言う! あいつは化け物だ! そのケガで挑むなんて、三輪車でダンプに向かって行くようなものだ!」

千早「そんなもの…関係ありません」

P「それに、あいつを倒した所で…もう、みんなは…」

ハルカ「んー、どうだったっけ…全員捕まえたような、そうじゃないような」

ハルカ「自信がないなぁ。もしかしたら、事務所にまだ誰か残ってるかも?」

千早「なるほど。まだ連れてかれていない人もいるかもしれないのね?」

千早「どの道、貴女を倒すことには変わりないけれど」

千早「プロデューサーは出口から逃げてください。警察は…呼ばない方がいいでしょうね」

P「おい、千早ッ!」

千早「」ザッ

ドドドド

ハルカ「………」

ドド

千早「………」

千早(彼女のスタンドには『ブルー・バード』の攻撃が当たらなかった…)

千早(それだけではなく、一方的に攻撃された。彼女のスタンドの能力なのかしら?)

千早(けれど…どんな能力だろうと、関係はない)

シュゥゥゥ…

千早(私の『インフェルノ』なら…射程距離内に入れば一瞬で叩き潰せる)

千早(『インフェルノ』の射程距離は2m…まだ遠い)スッ

ハルカ「」カツッ

千早が近付くと、それに合わせて階段を上がっていく。

千早(相手もわかってるようね。つかず離れず戦うつも…)

ズズ

千早の背後に、『アイ・リスタート』が立っている。

千早(スタンドが、いつの間にこんな近くに…)クル

春香「『アイ・リスタート』ッ!」ゴォッ

千早「『インフェルノ』」シュバッ

スゥ…

『アイ・リスタート』が動いた直後に『インフェルノ』が手刀で横に払うが、身体をすり抜けていった。

千早(やはり、攻撃は当たらない…)

8行目、ハルカで

ゴォォォ

千早「」スッ

スタンドで攻撃をガードしようとするが…

ハルカ「無駄ァッ」ヒュン

千早「くっ!?」ボゴ

『アイ・リスタート』の拳は『インフェルノ』をすり抜け、千早に直接命中した。

千早「ぼ…防御もできない…!?(威力はそこまでではないけれど)」

ハルカ「そう。私の『アイ・リスタート』は精神上にのみ存在する実体のないスタンド」

ハルカ「攻撃は受けない、そして防御する事も出来ない」

ハルカ「相手がスタンドでも関係ない。私が『当たった』と意識しない限り何者の干渉も受けない」

カツ カツ カツ

ハルカが階段を上がっていく。

ハルカ「この位置関係…理想的だねぇ。私が上、千早ちゃんが下」

ハルカ「私の方に戦う理由はないけど、これからの関係を円滑にするためにも千早ちゃんを叩きのめしておくのも悪くないかも」

千早「実体のないスタンド…なら」ピキピキピキ

『インフェルノ』の腕に、氷柱が出来ていく。

千早「ふっ!」ヒュッ

ハルカに向かって氷柱を飛ばした。

ハルカ「おっと」スッ

パキン!!

千早「!」

千早の飛ばした氷柱は、『アイ・リスタート』の手で空中で砕かれた。

ハルカ「伊織の方が察しはよかったみたいだけど…実体がないなら、精神のない物体には干渉できないとか思った?」

ハルカ「出来るんだなぁ、それが。むしろ、精神のない物体の方が自分の認識だけでいいから簡単に干渉できるよ」

ハルカ「精神を持った相手なら、私の認識に加えて『攻撃を受けた』という相手の認識が必要だけど」

千早「」カンッ

ハルカ「上ってくるか。そうだよねぇ、『インフェルノ』の射程距離に入らなきゃいけないからねぇ」

ハルカ「でも、そんなことさせると思う? 『アイ・リスタート』は千早ちゃんを一切近づけさせない!!」

千早「」カン カン

ハルカ「階段じゃあ、そうやって真っ直ぐ向かってくることしかできない! 無駄ァッ」ゴォッ

千早に向かって、拳が繰り出される。

千早「」タッ

階段の上で、跳んだ。

ハルカ「!」ブオン

フワァ

千早の身体が、宙に浮かぶ。『アイ・リスタート』の拳が空を切った。

千早「『ブルー・バード』」フ…

ハルカ「自分の『体重』をどこかに『与えた』のかッ!」

千早(勢いはつけてある…このまま『インフェルノ』の射程距離内まで入る)

ハルカ「『アイ・リスタート』」ヒュッ

・ ・ ・ ・

千早「」ギュッ

ハルカ「目を…閉じている?」

千早(私が認識しなければ…攻撃は受けないのでしょう? 風圧で飛ばすことも、許さないわ)

千早(『弓と矢』の一件で、耳や他の感覚だけで周囲の状況を掴み取れる程度には訓練してある。距離は、わか…)

ハルカ「無駄無駄無駄無駄」ドン ドッ ドッ ドゴ

千早「うぶっ」グシャ

ギュゥゥゥゥン

千早の身体が、空中で回転しながら飛んでいく。

ハルカ「おっと…体重を『軽く』してるんだっけ。階段の下まで突き落としてあげようかと思ったのに」

千早「かは…」

ハルカ「目を閉じたくらいで、防げると本気で思ったの!?」

ハルカ「無駄だよ、無駄! 私達『スタンド使い』はスタンドを目で見ているわけじゃあない、心、精神で見ているんだよ! 目を瞑っても無駄!」

ドサ!

千早が階段に落ちる。

千早(目を瞑ったくらいでかわすなどは、流石に考えが甘かった…けれど、違う。今のは…)

千早(私は、風圧で飛ばされそうになっても構わないと…そのまま彼女のもとまで辿り着く方法は考えていた、だけど、今のはッ!)

千早「今の攻撃! 空気より『軽く』なった私に、どうして当たるの…!?」

ハルカ「はぁ…? 当たり前じゃない。『アイ・リスタート』は完全に『実体のないスタンド』なんだよ?」

ハルカ「攻撃する時に風なんて起こらないよ」

千早「あ…」

ハルカ「そんなのも、考えつかなかったの? 駄目だねぇ千早ちゃんは」

千早「………」

ハルカ「さて、千早ちゃんは戦意喪失したみたいだし…残した人がいないかどうか見に行きますか」

カツ カツ

踊り場を折り返し、さらに上がっていこうとする。

千早「…った」

ハルカ「ん?」クルッ

千早「入ったわね…射程距離内に」

ハルカ「………」キョロキョロ

ハルカ「…どこが? 射程距離ってのは平面じゃないんだよ? 千早ちゃん、そんな下の方にいるのに」

千早「少し、熱いと思わないかしら」

ハルカ「………」

千早「いえ…貴女には熱を受け取る感覚がないのかもしれないわね」

千早「下の方と言ったけれど、そうでもないわ。そして、平面的な距離も離れて見えるのかもしれないけれど」

シュゥゥゥゥ…

ユラユラ

『インフェルノ』が蒸気を吹き上げ、千早の姿が揺らめく。

千早「思っているよりも、私達ふたりの距離は近いはずよ」

ハルカ「蜃…気楼…」

ブワァ!!

熱気が吹き飛ぶと、実際の距離が明らかになる。

直線距離で見れば、千早は明らかにハルカの位置の2m圏内に入っていた。

千早「もう一度言うわ。入ったわね、射程距離内に」

ハルカ「………」

千早「『インフェルノ』ォォーッ!!」ギュン!

シュバァ!!

ドグォ!

ハルカの身体に、『インフェルノ』の左腕が突き刺さる。

ハルカ「………」

千早「な…」

千早「なんですって…」ボコォ

が…ダメージを受けたのは、千早の方だった。

ハルカ「だーから…駄目だって言ってるんだよ千早ちゃんは」

ハルカ「回り込んでこられたら、『アイ・リスタート』だって手出ししようがないのに…真っ直ぐ突っ込ませたりして」

ハルカ「いくら千早ちゃんの方が速くても、正面から私に攻撃してくるとわかっていれば懐に潜ませて打ち合える」

ハルカ「そして、『アイ・リスタート』は打ち合いになれば必ず勝つ」

千早「………」

ハルカ「ま、仕方ないか。『インフェルノ』は射程距離が短い…回り込もうと思えばまだこれ以上近付かなければならない」

千早「『インフェルノ』!!」ヒュ

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ドゴゴゴゴゴゴゴ

千早「ぐっ! うう…!」バギャオン

千早(浅はかだった…)

千早(プロデューサーの言う通りだった、私はもっと落ち着いて…冷静に行動すべきだった…)

ドグォ!!

衝撃で千早の身体が吹っ飛ばされ、壁にぶつけられる。

ハルカ「はい、射程距離『外』」

千早「く…うぅ…」

ハルカ「さて…」ブオン

『アイ・リスタート』がゆっくりと千早に近付いていく。

ハルカ「徹底的に痛めつけてあげる。千早ちゃんが私に歯向かおうだなんて思わないようにね…」

ダダダ

P「千早っ!!」バッ

千早「え?」

ハルカ「!?」クルッ

プロデューサーが階段の下から駆け上がってきて、ハルカに飛びかかった。

ハルカ「無駄ァッ!」ヒュン

ス…

『アイ・リスタート』で攻撃しようとするが、プロデューサーには当たらなかった。

ハルカ「えっ!?」

P「俺にはお前達が何をやっているのかは見えないが…」

P「見えないなら…その『スタンド使い』ってやつじゃないなら、その『アイ・リスタート』ってのは攻撃できないんじゃあないのか!?」

ハルカ「…… …!」

P「だぁっ!」ガシッ

そのまま、ハルカを取り押さえる。

千早「プ、プロデューサー…何故逃げていないのですか」

P「馬鹿、アイドルが戦ってんのに逃げるプロデューサーがいるか!」

ハルカ「く…放してください…!」ジタバタ

P「千早、こいつに近付けばいいんだよな!? 今のうちにやれっ!」

千早「! はい、わかり…」

ガンッ!!

千早「ました…」

ハルカ「………」ピキ ピキ

ハルカが、手に氷の破片を握っている。

P「う…」ズル…

ガク

プロデューサーは脱力し、その場に崩れ落ちた。

千早「プロ、デューサー」

ハルカ「はぁ、まさか…無敵だと思ってた『アイ・リスタート』にこんな弱点があったなんて…」

ハルカ「ねっ!」ヒュ

P「おぐっ…!」ドボォ

ハルカが、倒れたプロデューサーの腹を蹴り上げる。

ハルカ「でも、まぁ…私は『完全なアイドル』。生身でも、プロデューサーさんにいつまでも取り押さえられることなんてないし」

ハルカ「それに、千早ちゃんが手っ取り早い方法用意してくれたし…ね?」ポイ

ガシャン

氷の破片が、地面に当たって砕けた。

千早「ああああああああああ」

千早(私は…冷静になるべきだと…そう言われた、自分でも思った)

千早(けれど、こんな…こんな! 冷静になんてなれるわけがない! 無理よッ!!)

千早「『インフェルノ』ォォォォーッ!!」ゴォッ

ハルカ「無駄」ヒュ

パリィン!

千早「うっ…!」

右腕を出すが、そこを殴られ、凍った血が砕ける。

ハルカ「無駄無駄ァ」ドン ドン

ボコ ボコ

千早「くっ、あああああ…!!」

怯んだ隙を見逃さず、懐に数発入れられる。

千早「」ギリッ

千早「そこっ」ギュン

食いしばって、再び攻撃を繰り出すが…

ハルカ「無駄」パァン

見透かされているかのように叩き落とされた。

千早「あ…う…」フラ…

ガクン!

ダメージは大きく、膝をついてしまう。

ハルカ「何度やっても無駄だよ、無駄。千早ちゃんの攻撃は私には届かない」

千早(悔しい…)

千早(私は、なんて無力なの…?)

千早(大切なものを踏みにじられて…一方的に蹂躙されるしかないの…?)

ハルカ「あ、そうそう」

千早「…?」

ハルカ「まだ誰か残ってるかもって言ったけど、あれ、嘘」

ハルカ「事務所にいたアイドルは7人…みんなもう、ここにはいないよ」

千早「……………………」ピシッ

あ、ちがう…伊織が元々いないから6人の間違いです

>ハルカ「事務所にいたアイドルは7人…みんなもう、ここにはいないよ」
ハルカ「事務所にいたアイドルは6人…みんなもう、ここにはいないよ」

千早「もう…」

ハルカ「ん?」

千早「もう、無駄なの…? すべて…」

ハルカ「あはは、そうだね。全部無駄なんだよ。無駄」

ハルカ「千早ちゃんはもう折れちゃったみたいだけど…」

ハルカ「こっちも誰か一人倒されてるみたいだし…完全に折りきらないとね」

千早「………」

ハルカ「最後に…もう一発!!」ヒュゴ!!

千早に、『アイ・リスタート』の手刀が振り下ろされる。

ゴォォォォォ

「無駄なんかじゃないよ」

ハルカ「!?」ピクッ

「ヴァイ!!」

ドグシャア

ハルカ「うごっ!?」

突然、ハルカの身体が千早の後方へと吹き飛ぶ。

千早「…?」チラ…

千早が声のした方へ目を向けると、誰かが階段の上に立っていた。

??「千早ちゃん、あなたの頑張りを…」カツ

??「無駄になんて、私がさせない」カツ カツ

階段から降りてくる。

ドドドド

千早「…え?」

ハルカ「あなたは…」

ドドドドドド

千早「大海…さん…!?」

大海「人のいない間に、随分と…好き勝手やってくれたみたいだね」

ドドドドド

大海「」チラッ

P「………」

大海「プロデューサーさんまで…」

千早(な、なんで今更…え? 大海さんが、この春香の『偽物』だったんじゃあないの!?)

大海「頑張ったね、千早ちゃん。後は私に任せて」

千早「あ、あの…」

ハルカ「なんで、大海さんがここに?」

千早「は…? あ、あなたが大海マネージャーだったのでは…!?」

ハルカ「はぁ? 何の話、さっき一緒に大海さんに会いに行ったじゃない」

千早「な、なに…え? どういうことなの…? さっきって…あの春香は本物でしょう!? 指から血が…」

ハルカ「ああ、口の中に血糊仕込んで…それだけで信用してくれるんだもん、ちょろかったよ」

千早「は…」

ハルカ「千早ちゃんを遠ざけるためにやったんだけどね…なんでこんなに早く事務所に戻ってくるかなぁ」

千早「………… …………」

ハルカ「だいたい、1ヶ月前からもう私は『天海春香』だったんだから。私が大海さん? なんで大海さんになる必要があるの?」

ハルカ「まぁ、そんなことはどうでもいっか。大海さん、あなたは何者?」

大海「………」

ハルカ「さっき私が殴られたのは、見えなかったけど…間違いなく『スタンド攻撃』だった」

ハルカ「大海さん、ただのマネージャーだと思ってたけど。あなたも『スタンド使い』だったの?」

大海「…まだ気づかない?」

ハルカ「………え?」ゾク

ハルカ(な…に…今の寒気は…)

大海「」スッ

頭に手を伸ばす。

グッ

スパン!!

大海が頭の上から何かを掴み、床に叩きつけた。

千早「…カツラ?」

千早(長い髪の…カツラ)

千早「」ハッ

千早は弾かれるように大海の顔を見る。

大海「」ス…

大海は眼鏡を外し、スーツの胸ポケットに仕舞った。

千早「あ…」

ドドド

ハルカ「お…おまえは…生きて…いたの…?」

ドドドド

千早「あ、貴女だったの…」

ドドドドド

春香「」バァーン

千早「春香…!!」

ハルカ「天海…春香ッ…!!」

ドドドドドドドドドドド

千早『大海さん…誰かに似てると思ったら、春香よ。なんだか彼女、昔の春香に似てる気がするわ』

春香『え、私に? そう?』

千早『雰囲気もそうだし…見た目も結構似てるんじゃあないかしら』

春香『そうかなぁ? そんなに似てる?』

千早『どうして、今まで気づかなかったのかしら…背丈も同じくらいだし』

千早『年齢の割に若くも見えるし、眼鏡を取ってリボンをつけて髪型を同じにしたら見分けがつかないかも』

千早(リボンはないけれど…ああ、間違いないわ…)

千早「春香! 無事だったのね!!」

ハルカ「嘘だ…」

ハルカ「ありえないよっ! あの時、確かに殺したはずなのに…!」

春香「殺したはず、ね…」

春香「だったら、『地獄から甦ってきた』とでも言っておこっか?」

始めます。

一ヶ月前。千早達が、876プロで『弓と矢』を発見するさらに前…

とあるデパートの屋上の物陰で、それは行われていた。

ハルカ『屋上ライブ、お疲れ様』グイッ

春香『あっああああっ!』

春香の頭のリボンが、乱暴に引っ張られる。

ブチブチ

バタン!

リボンが髪から解け、春香の体が地面に叩き付けられた。

春香『い…痛い…!』

頭を押さえる。

ハルカ『情けないなぁ。これが、「天海春香」?』

春香『な、なんなの…? あなた、なんで…私と同じ姿をしているの…?』

ハルカ『それは、私が「天海春香」になるから。情けないあなたに代わって、ね』

春香『私に代わって…?』

ハルカ『悪いけど、質問に答えてる暇はないんだよね…誰かに見られたらまずいし』

ハルカ『だから…手っ取り早く終わらせるよ。「アイ・リスタート」』ブオン

ハルカの前に、人型の精神力の像が現れる。

春香『スタ…ンド…!』

ハルカ『無駄ァッ』ヒュ

春香『うっ』ドグォ

ガシャァァァ

『アイ・リスタート』の拳に吹っ飛ばされ、金網に体が叩き付けられた。

・ ・ ・ ・

春香「」ズル…

磔の状態から、地面へとずり落ちる。

ハルカ『命までは取らない…とあの人に言われてるけど』

ハルカ『あなたは危険すぎる…スタンドが戻り「ジ・アイドルマスター」が発現すれば全てを台無しにしかねない』

春香『………』

ハルカ『それに、私が「天海春香」になるんだから。「天海春香」は二人もいらない。でしょう?』

春香『』バッ!

ハルカ『無駄ァッ』ドン

春香「う…!」ガシャ

ハルカ『逃げようとしても…無駄。「アイ・リスタート」は一切の抵抗を許さない』

ハルカ『無駄無駄無駄無駄無駄』ドン ドン ドン ドン

春香『あっ、うあっ、あああっ』ガシッ ガシャ ガシッ

金網にどんどん押し込まれていく。

ブチッ

春香『え…』

金網が切れ、春香の身体が宙に放り出される。

ハルカ『さようなら』

春香『うわ、あああああああっ』

ヒュゥゥゥゥゥゥ

メギャァア!

ハルカ『んん~…いい音』

辺りに、骨が砕ける音が響いた。

………

……

ドドド ドドドドド

ハルカ「あの時…」

ハルカ「あの時! 確かに殺したはずの…天海春香が…」

春香「………」

ハルカ「何故ここにいる…!」

千早「は、春香…春香よね、間違うはずがないわ」

春香「そう。私だよ、千早ちゃん」

千早「何故、貴女が大海さんのフリを?」

春香「大海さんの家に匿ってもらっててね…事務所の様子を教えてもらってたんだけど」

春香「伊織がいなくなったって話を聞いて、もしかしたら…って思って入れ替わってたの。本物の大海さんは家で寝ぼけてるよ」

春香「まさかこんな早くに仕掛けてくるとは思わなかったけど。しかも、私の外出中に…」

ハルカ「………」

ハルカ「何故あなたが生きているのか…そんなのはどうでもいい。こうして私の目の前にいる以上は…」

ハルカ「でも、だったら…『アイ・リスタート』!!」ズアッ

千早「!」

ハルカ「もう一度全て奪ってあげる! このリボンを奪ってやったあの時のようにねッ!」

春香「私は、さ…」

ハルカ「?」

春香「あなたと同じように、765プロの『敵』だった。取り返しのつかないことをしたと思った」

ハルカ「いきなり何? 死ぬ前に懺悔でもしたいの?」

春香「でも…それは違った。取り返しのつかないことだって思ってたのは私だけで…」

春香「みんなは、私のことを『仲間』だと…そう言って受け入れてくれた」

千早「春香」

春香「私は、765プロを…みんなを守る」

春香「いや…守るんじゃあない。765プロとして、みんなと戦う! 一緒に!」

ハルカ「だから? どうするって言うの? スタンドもないのに私と戦うつもり?」

春香「ねぇ、疑問に思わないの? なんで誰も、私が大海さんに変装していると気づかなかったのか」

ハルカ「………」

春香「疑問に思わないの? なんで死体を確認までした私が今、ここにいるのか」

春香「どうでもいいって? 冗談。それが一番大事なことでしょう?」

ハルカ「そっか…」

春香「『アイ・ウォント』!!」

シン…

・ ・ ・ ・

ハルカ「」キョロ キョロ

春香「ヴァイッ!!」

ハルカ「がっ…!!」ボグォ

ハルカは、見えない何者かに殴り飛ばされた。

グデン グデン

ドンガラガッシャーン

階段の下まで転がり落ちていく。

春香「どうするって? 決まってるでしょう」

春香「あなたを…倒すッ!!」

千早「春香…戻って来たのね、『アイ・ウォント』が」

春香「千早ちゃん。プロデューサーさんのそばにいてあげて」

千早「え? ええ…でも、春香…」

春香「あの子は私が倒す」

ゴゴゴゴゴ

ハルカ「………」

階段の下から、憎しみを込めた目で春香を見上げている。

ハルカ「『アイ・ウォント』…能力は『六感支配』…」

ハルカ「見た者の『視覚』を、聞いた者の『聴覚』、触れた者の『触覚』を『支配』するスタンド」

ハルカ「なるほどね。あの時にはもう目覚めてたってわけかぁ」

春香「うん。死体はデパートにあったマネキンで偽装した」

ハルカ「スタンドさえ使えれば、私に勝てると思ってる?」

春香「思うよ。私は765プロの『天海春香』だから」カツ

春香「ただの『天海春香』でしかないあなたには、負けない」カツ カツ

ハルカ「意味がわかんないよ」

カツン!

春香が、階段の下まで降りてきた。

ハルカ「………」

ゴゴゴ

春香「………」

ゴゴゴゴ

千早(『アイ・リスタート』は無敵のスタンド…)

千早(けれど、春香なら…春香の『アイ・ウォント』なら…)

フッ

ハルカ「!」

ハルカの視界から、春香の姿が消え去る。

ハルカ(『視覚支配』…『聴覚支配』もか。何も聞こえない…)

春香「無駄無駄無駄無駄」ヒュ ヒュン

ハルカ「ぐっ…!」ドグォ

ズザザ

ハルカ「そこっ」ブンッ

スカ…

『アイ・リスタート』の手が空を切る。

春香「違う。そこじゃあない」

ハルカ「………」

千早(『アイ・ウォント』、敵だった頃は恐ろしいスタンドだった…)

千早(でも、味方になれば、これほど頼もしいスタンドはない!)

P「う…」

千早「! プロデューサー、気がつきましたか!」

P「…千早! 無事だったか!? よかった…」

P「そうだ、春香の『偽物』…あいつはどうなったんだ!?」

千早「それなら、下です」

春香「ヴァイ!」ヒュ

ハルカ「ぐうううっ」グシャ

バッ

肩に手刀を叩き込まれ、後ろに飛び退く。

P「春香!?」

ハルカ「ふぅ…」クイ

肩を押さえる。

春香「どんな気分?」

ハルカ「………」

春香「何もできず、一方的に嬲られる気持ち…」

ハルカ「これで…勝ったつもり?」

春香「なに?」

ハルカ「あなたが知ってるかどうかはわからないけど、私達は『完全なアイドル』。体の構造からしてあなたとは違う」

春香「その、血が出ない体のこと?」

ハルカ「そう。血が出ないってのはどういうことかわかる?」

ハルカ「血液は体の隅々に酸素を送るために流れている…私達にはそれがない」

ハルカ「つまりさ、心臓も鳴らないし呼吸もいらないんだよ」

春香「それが、何?」

ハルカ「対して、そっちは血が流れている。心臓も鳴れば、空気が触れる僅かなストレスに体は反応する」

春香「」ドクン ドクン

スゥー ハァー

ピク ピクッ

ハルカ「音は『聴覚支配』で聞こえない。でもね、私達は余計な音や動きがない分感覚には優れているんだよ」

ゴゴゴゴゴ

春香「………」

ハルカ「例えば…呼吸で震える空気や、地面の揺れを肌で感じ取れるくらいには…ね」

春香「『アイ・ウォ…」

ハルカ「『アイ・リスタート』ッ!!」

ドグシャア!!

春香「……… …………」

ブシュ

春香の脇腹辺りから血が吹き出る。

千早「!」

P「春香ッ!」

ハルカ「居場所さえわかれば、『アイ・リスタート』が負ける道理はないね」

千早(空気や地面の揺れで春香の居場所を感じ取っている…?)

千早「だったら…」スクッ

ハルカ「おっと! その怪我で動かない方がいいよ千早ちゃん、今動くものはなんだろうと私は容赦しないし」

ハルカ「さらに!」ブシュ

春香「うっ!」

ハルカ「香水をかけた。匂いでわかるようにね」

春香「………」

ハルカ「あなたについた匂いで『嗅覚』は奪われるけど…かまわない」

ハルカ「これで、『アイ・ウォント』の能力は完全に封じた」

春香「」ズズ

ハルカ「無駄ァッ!!」ボギャア

春香「~っ!!」

ガクッ

ハルカ「もう『アイ・ウォント』を使おうが無駄。千早ちゃんが邪魔しようが無駄」

千早(春香の『六感支配』が…通用しない…!?)

P「ち、千早! 春香の『スタンド』ってやつは感覚を操作できるんだろう!?」

P「自分の感覚を遮断して、あいつのスタンドを無効化することはできないのか!?」

千早「い、いえ…春香が『支配』できるのは『2つ』が限界ですし、それに…」

ハルカ「『アイ・ウォント』は自分の感覚を支配することはできないでしょう?」

ハルカ「まぁ、出来たとして…『アイ・リスタート』を感じるのは、『六感』とはまた違う。無駄だけど」

ハルカ「千早ちゃんが万全ならまだ勝機はあったのかもしれないけどね」

ハルカ「一対一なら、『アイ・リスタート』は無敵! 誰にも負けない!!」

春香「人の精神の中に、直接入り込むスタンド…」ス…

ハルカ「無駄だよ無駄! 言ったでしょう!?」

ハルカ「逃げようとしても無駄! 「アイ・リスタート」は、一切の抵抗を許さない!!」

春香「『アイ…」

ハルカ「無駄よ、無駄ッ!」ヒュ

春香「きゃ…!」グシャ

ハルカ「それにしても、弱い…『アイ・ウォント』の状態でも恐ろしいと聞いてたけど、この程度?」

春香「………」

ハルカ「スタンドが消えてた間に、精神力が錆び付いてるんじゃあないの?」

ハルカ「そんなことでよく私に勝つなんて言えたもんだね!」

ハルカ「『弓と矢』の…『ジ・アイドルマスター』のないあなたなんて、何も怖くはない!」

春香「うぅ…」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄!」シュッ

春香「!」バッ

顔を狙ってきたのを見て、咄嗟に腕でガードする。

春香「きゃ…!」ブシュッ

千早「春香…!!」

ポタ

ハルカの頬に、返り血がつく。

ペロッ

それを、舌を伸ばして舐めた。

ハルカ「あははははは!! スタンドさえあれば私に勝てると思った!?」

春香「………」

ハルカ「無駄無駄無駄無駄! あははははははは」

ハルカ「私が…! 私こそが…『天海春香』なんだッ!!」

スタンド名:「アイ・ウォント」
本体:天海 春香
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:B スピード:B 射程距離:D(5m) 能力射程:C(10m程度)
持続力:D 精密動作性:C 成長性:A
能力:相手が認識した「感覚」を支配する、春香のスタンド。
支配可能な感覚は「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」に「直感」を加えた「六感」。
春香や「アイ・ウォント」を見れば「視覚」を、触れれば「触覚」を、脳が無意識に認識しただけで「直感」を奪うことができる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「ジ・アイドルマスター」
本体:天海 春香
タイプ:?
破壊力:? スピード:? 射程距離:? 能力射程:?
持続力:? 精密動作性:? 成長性:?
能力:かつて存在した、「弓と矢」の力により「アイ・ウォント」の先に到達したスタンド。「アイ・ウォント・レクイエム」。
自分の「精神」を「過去」に飛ばし、既に起きた「過去」の出来事を再現する。
「過去の世界」では一度決まってしまった運命は確定していて、「ジ・アイドルマスター」以外は何者も変えることはできない。
「ジ・アイドルマスター」によって変えられた出来事は、春香の意識が「現在」に戻ってきた時、書き換えた後の「結果」だけが残る。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

次回は日曜。

始めます。

ハルカ「わかる…」

春香「」ザッ

スゥ…

ハルカの頭の中に、春香の軌道が正しく映し出される。

ハルカ「居場所がわかる! いくら感覚をズラそうとも、他の感覚はあなたを捉えている!」

春香「ヴァイ!」ヒュ

ハルカ「そっちじゃない」クルッ

バキィ!!

『アイ・リスタート』が、見えない攻撃を叩き落とした。

春香「…! !!」

ハルカ「ふぅーむ、感触がないから手加減がわからないなぁ」

ハルカ「みっともなく逃げればいいのに。いつまで無駄なことを続けるの?」

春香「………」

ハルカ「…まさか!!」ヒュン

春香「ひゃっ!?」

ペタ ペタ

『アイ・リスタート』が、春香の体をまさぐる。

ハルカ「…違うか。その余裕は『矢』を持っているから…と思ったけど」

ハルカ「もう『矢』はあの人の持つ1本以外すべて処分したはずだから…持ってるわけがないか」

春香「たっ!」ヒュッ

フ…

『アイ・ウォント』を出して攻撃するが、やはりすり抜ける。

ハルカ「…何のつもり? 『アイ・リスタート』に攻撃は一切通用しない。わかってるでしょ?」

春香「駄目、か…」

ハルカ「無駄ァッ」ゴォッ

春香「」バッ

『アイ・ウォント』が、『アイ・リスタート』の攻撃の前に立ちふさがるが…

スゥ…

ハルカ「無駄無駄無駄無駄」

ドゴ バキ ズガ ギャン

春香「がはっ…!!」

ドッギャァァーン

無意味。ラッシュを叩き込まれ、吹き飛ばされた。

千早「春香!!」

春香「………」

スゥ…

『アイ・ウォント』が消える。

ハルカ「ありゃ」

千早「あ…ああ、春香…!」グッ

P「春香ッ!」プルプル

二人はふらつきながらも立ち上がり、階段を下り始める。

ハルカ「ありゃりゃ。千早ちゃんにプロデューサーさん、あんなケガなのにムチャしちゃって」

ハルカ「まぁ、もう間に合わないし…手負いの二人が来たところで何も出来ないだろうけど」

春香「………」

ハルカ「助けに入ったつもりが助けられるなんて、惨めだねぇ」

ハルカ「………」キョロキョロ

ハルカ「…『六感支配』はもうおしまい? もう『アイ・ウォント』を出す力も残ってないか」

春香「」ユラ…

ゆっくりと立ち上がってくる。

ハルカ「スタンドを出すこともできないってのに…」

ハルカ「そんなに殺されたいかッ! 『アイ・リスタート』!!」ゴッ

メキャ…

『アイ・リスタート』が攻撃を叩き込み、辺りに鈍い音が響いた。

千早「春香!」タッ

P「大丈夫か、春香!」

二人がちょうど、下の階まで降りてきた。

ズルズル…

二人は、目の前で俯いている春香ではなく、その後方に向かって歩いていく。

ハルカ「………」

千早「しっかりして、春香!」グイッ

千早は誰かを抱き起こしている。

ミシ ミシ

ハルカ「……?」

ハルカが、先程『アイ・リスタート』で攻撃したのと同じ自分の右腕を見ると…

プラン

ハルカ「…え?」

右腕は、折れるはずのない方向に曲がっていた。

春香「」グワッ

ハルカ「!」

『アイ・リスタート』の正面にいる春香が、いきなり顔を上げた。

春香「無駄ァッ」ヒュ

『アイ・リスタート』の折れた右腕に向かって拳を繰り出す。

バギィィィッ

ハルカ「………」

メキャ ビキ ビキ ビキ

ハルカ「…………え…?」

春香「………」シュゥゥゥ…

ハルカ「うっぎゃあああああーっ!!?」メギャ ギャギャン

『アイ・リスタート』の右腕と一緒に、ハルカの右腕がグチャグチャに破壊された。

千早「え!?」

P「ん!?」

二人が、ハルカの悲鳴を聞き目を向ける。

ハルカ「な、何!? 何が起こってるの!? なんで私は攻撃されてる!?」

春香「………」

ハルカ「なんでスタンドですらない生身の天海春香が、『アイ・リスタート』に攻撃できる!?」

千早「な…何? どうしたの…?」

P「いや、わからん…」

ハルカ「ハッ!?」

春香「………」

ハルカ(天海春香が…千早ちゃんに抱えられている…)

バッ

春香?「………」

ハルカ(すると、こっちの天海春香は…? あの二人には見えていないの?)

ハルカ(天海春香が『二人』いる…!!)

春香「ふふ…ふふふふふふふふあははあははははっはあはは」

千早「」ビクッ

P「は、春香? どうしたんだ、いきなり笑い出して。無事なようでなによりだが…」

春香「よかった…上手くいったみたいだね」

ハルカ「天海春香…! あなたがやっているの!? これは何…!?」

春香「いや、ね…全部あなたのお陰なんだよ」

ハルカ「は…?」

春香「『アイ・リスタート』、『精神上にのみ存在する』…無敵のスタンド」

春香「それで思いついた。私も、精神の中にスタンドを構築すればそれは無敵のスタンドになるんじゃあないかって」

ハルカ「!?」

春香「あなたの『六感』は全て奪った。そして、上手くいった」

ハルカ「『アイ・ウォント』の能力で私の『アイ・リスタート』をコピーしたってこと…!? そんなこと、できるわけがない!」

春香「私の能力は『六感支配』だよ? できて当たり前だよ」

春香「ま、途中まではどうしても出来なくて焦っちゃったけど…あなたの攻撃で『アイ・ウォント』が消えちゃったでしょ?」

春香「それで、感覚でわかった。スタンドパワーを全部こっちに回せばいいって」

春香「あなたの目の前にいるのが…それだよ」

ハルカ「く…」

春香?「」ズズ

ズズズ

ハルカの『アイ・リスタート』と同じような姿に変わっていく。

ガシャン ガシャン

どこからかリボンのような装飾が飛んできて、頭の両側にくっついた。

春香「ここが私の再出発」

春香「これが私の『自分Rest@rt(アイ・リスタート)』!」

千早(何をしているのか、私にはわからないけれど…)

千早(春香は手にしたのね、新たな力を…! あいつを倒せる力を!)

ハルカ「『アイ・リスタート』…? スタンドの名前まで私のものを…」

ハルカ「そんな紛い物に、私のこの無敵のスタンドが、負けるわけがない!」

春香「そうかな? やってみなきゃわからないよ」

ハルカ「『アイ・リスタート』!!」ヒュ

春香「『アイ・リスタート』」ガッ

ハルカの『アイ・リスタート』の左腕での攻撃を、春香の『自分Rest@rt』が受け止める。

ハルカ「無駄無駄無駄」ヒュ ヒュ ヒュ

春香「」パシ パシ パシ

連続で攻撃するが、すべて受け止められる。

ガシィ!

春香「掴んだ」グググ

ハルカ「フン!」

ドス!

グチャグチャになった右腕を、春香のスタンドに叩き込んだ。

ハルカ「腕が折れたくらいで、私が殴れないとでも…」

シュゥゥゥゥ…

春香「」

ドドドド

右腕での不意打ちも、まるで当たり前のように受け止めていた。

春香「そろそろいい?」

ハルカ「待…」

春香「ヴァイ!!」ヒュ

ハルカ「うぶっ!?」バギャ

上方からの攻撃で、スタンドと一緒に地面に叩き付けられる。

春香「精神上に存在するって言っても…他のスタンドと同じように、殴られればちゃんとダメージは共有するみたいだね」

ハルカ「この…」ヒュン

春香「」スッ

ハルカ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」ズダダダダダダ

春香「」スゥーッ

無闇に繰り出される攻撃を、紙一重で躱していく。

春香「無駄ァッ!!」ギュン!

ハルカ「がは…!!」ドグシャア!!

ドギュン! ズザザァ!!

腹への一発で吹っ飛ばされ、地面を滑る。

ハルカ「くぅっ、ぐぐぅ…」プルプル

春香「」カツッ

ハルカ「!」ブルッ

春香が近付いてくる足音に、震え上がった。

春香「やってみたら、こんなもんか」

ハルカ「な、なんで…勝てないの…?」

ハルカ「そっちの『アイ・リスタート』は所詮、スタンドの能力の一部でしかないのに…」

春香「だって、『六感支配』で構築した私の理想のスタンドだもん」

春香「真の『チアリングレター』より固いし、美希の『リレイションズ』より正確だし、千早ちゃんの『インフェルノ』より速いし…」

春香「伊織の『スモーキー・スリル』よりも自由」ギャン!!

『自分Rest@rt』の右腕にロケットのような装置が出現する。

ゴォォォォォォ…

春香「『アイ・リスタート』!!」ゴバッ!!

ギュォォォン

腕が伸び、もの凄い勢いでハルカに迫っていく。

ハルカ「嘘でしょ…?」

ハルカ(だ、大丈夫だ…真っ直ぐ飛んでくるなら、避けられ…)

グ

グオ

ハルカ「え…」

腕が近付くにつれ、どんどん巨大化する。

ハルカ「おぼがぁーっ!!」グッシャァァァアア

通路を埋め尽くす拳から逃げることはできず、衝突した。

ハルカ(ヤ…ヤバい、このままじゃ…)ゴォォォォ

ハルカ(で、でもこうして吹っ飛べば『六感支配』の外に逃げられる…そうすればこのスタンドも…)

ガシ!

ハルカ「え…」

触手のようなものが、ハルカの手足にまとわりつき…

ギュン!!

ハルカ「いぎゃああああああああああああ!?」

凄まじい勢いで引っ張られる。

ドスン!!

ハルカ「う、う…」

春香「こんにちは」

ハルカ「あ、あああ…」

P「す、凄い…あいつをまるで赤ん坊扱いしている…俺には見えないが…」

千早「え、ええ…私もプロデューサーと全く同じ感想です…」

春香「あのさ、一つ気になったことがあるんだけど」

ハルカ(やっぱり、私は正しかった…)

春香「なんでわざわざ香水なんて持ち歩いてたの?」

ハルカ(こいつだけは…)

春香「本当は、心の中でずっと恐れてたんじゃないの? 私の存在を」

春香「いつかまた私が目の前に現れて、あなたを倒しにくるのを…ずっと」

ハルカ(天海春香だけは、どうやっても殺しておくべきだった…!)

ハルカ「殺す…」

春香「ん?」

ハルカ「殺…してやる…!」

春香「無理だよ。あなたの精神力は私よりも弱い」

ハルカ「そんな…そんなはずはなァァァァいッ!」ヒュ

春香「!」

スタンドの方ではなく、春香を狙って『アイ・リスタート』で攻撃する。

ボコォ!!

ハルカ「ははっ、腹を貫いてやった…」

・ ・ ・ ・

グニャ グニャリ ググ

春香の腹に、ぽっかりと穴が空いていた。…攻撃を避けるように。

ビキィ!!

腹の穴が閉じ、『アイ・リスタート』の腕を捕らえる。

ハルカ「うっ…! うぅう」ビクッ

春香「はい、捕まえた」

ズズッ

春香と、『自分Rest@rt』の姿が入れ替わる。

ミョーン

ブオン

『自分Rest@rt』の腕が触手のように伸び、そして肘の先からが5本の腕に分裂する。

春香「無駄無駄無駄無駄無駄」

ハルカ「うやああああああああああああああ!!」

ド ゴ ゴ ゴ ゴ ゴゴ

拳が頭上から、雨のように叩き付けられた。

ハルカ「あ…あ…」

腕が捕まっているので、逃げられない。スタンドを引っ込めることもできない。

春香「さて…もう一回」スッ

ハルカ「ひっ!」

春香「…『完全なアイドル』ってのも、恐怖は感じるんだね」

ハルカ「ご…ごめんなさい…許して…」

春香「どうしよう? 事務所のみんなをどこかに連れて行って…」

ハルカ「う…! だ、だったら私が連れ戻してくるから…」

春香「千早ちゃんやプロデューサーさんも、あんなに傷つけて」

ハルカ「治せるスタンド使いを…そうだ、やよいが戻ってくれば治せるじゃない!」

春香「…許すと思う?」

ハルカ「ど、どうすればいいの!? 何でもするから…」

春香「じゃあ…あなた達のボスの名前を言える?」

ハルカ「………」

春香「言えないんだね。何でもじゃ、ないじゃない」

ハルカ「う…」

春香「ま、いいか…」

シュル!

ハルカ「え!?」

ハルカの手が解放される。

春香「どこへでも行けばいいよ。もう、私達の目の前に現れないなら」

P「春香!? い、いいのかそれで!?」

千早「…みんなの居場所を吐かせなくてはいけないわ」

春香「裏にいる人の名前も言えないんじゃ、居場所なんて言うわけないよ」

千早「でも…」

P(千早。春香は、あいつを流すつもりなんじゃないか? 尾行していけばみんなの居場所がわかるかも…)

千早(そう、ですか…?)

春香「ふぁ…」

千早(そこまでは考えてはいないと思うのですが…)

ハルカ「」ス…

春香「あ、そうだ。携帯電話…それとリボンとか、色々。返して」

千早「…! 春香、違うわ! 彼女は…『負け』を認めていない!!」

ハルカ「もう遅い!」ポチ ポチ ポチ

春香「…どこに連絡したの?」

ハルカ「ふ、あはは…この事務所に何人来てると思ってるの…?」

千早「知らないけど…」

春香「私も」

P「一人二人じゃあないな…」

ハルカ「千早ちゃんが倒したのは一人だけ…そして天海春香も、他の全員を倒すような時間はなかったはず…!」

ハルカ「まだこの事務所には私の仲間がいるッ!!」

春香「………」

千早(春香は何故彼女を止めなかったの…? 『六感支配』をもう解除してしまったの…?)

ハルカ「あなたの『自分Rest@rt』は強かった…でも、スタンドパワーはギリギリだったんだよね?」

ハルカ「二人以上には使えない…違う?」

春香「…そう、だね」

千早「でも、春香は一人じゃあない。私がいるわ…」

ハルカ「あははは! そんな、千早ちゃん一人いたところで…」

千早「!」

ゴゴゴゴゴゴ

階段の上に、美希と響が立っている。

ハルカ「これで三人…まだいるよ? どうにもならないって」

千早「く…『インフェルノ』!」ズ

春香「」スッ

千早「え?」

春香が、千早の前に手を出す。

ハルカ「さてと、まずは天海春香を…」

ダムッ!!

響が階段の上から飛び出していく。

ハルカ「痛め…」

ドムゥ!!

ハルカ「づっ…!?」グギャ

ゴロゴロゴロ

頭から、ハルカに突っ込んで弾き飛ばした。

響「ねぇ美希、こいつなんで自分達に命令してるんだ?」

美希「さぁ? 誰かとカンチガイしてるんじゃないの」

千早「ほ、本物!?」

P「二人とも…無事だったのか!」

ハルカ「そ、そんな…なんで…?」

響「なんでって、いたらそんなに変か?」

美希「あ、千早さんにプロデューサーだ。やっほー」

千早「あの時、二人の姿が消えたのって…」

春香「私が連れてきたからだよ。二人にはあらかじめ全部説明してて、事務所の『偽物』退治してもらってたの」

千早「ちょっと待って、春香。連れてきたって…どうやって?」

春香「社用車があるでしょ? それで。千早ちゃんよりは早く着いたよ」

千早「…貴女、免許持ってたかしら?」

春香「私、まだ17歳だよ? 取れるわけないじゃない」

千早「は」

春香「大海さんの免許は持ってきてるし、慣れれば結構簡単だったよ」

千早「…………」

スタンド名:「アイ・リスタート(自分Rest@rt)」
本体:天海 春香
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:なし スピード:A 射程距離:C(10m程度) 能力射程:C(10m程度)
持続力:D 精密動作性:A 成長性:なし
能力:「アイ・ウォント」の「六感支配」により、「六感」全てを支配された者の精神上に構築されたスタンド。
精神を支配した相手にのみ影響を及ぼすスタンドであり、精神上の出来事を現実に反映させるハルカのものとは別物。なので、物体を破壊することはできない。
精神と肉体は繋がっている。精神を完膚なきまでに屈服させる「アイ・リスタート」は肉体をも屈服させる。
想像力は無限。「アイ・リスタート」は無敵。一度発動されたら、どんなスタンドだろうと「アイ・リスタート」には勝つことはできない。
多くのスタンドパワーを使うために、「アイ・リスタート」発動中は「アイ・ウォント」の発動はできない。
また、「六感」すべてを奪っていても、複数人に対し「アイ・リスタート」を構築する事もできない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

スタンド名:「トライアル・ダンス」
本体:我那覇 響
タイプ:特殊型・憑依
破壊力:B スピード:A 射程距離:なし 能力射程:C(10m)
持続力:D 精密動作性:E 成長性:C
能力:生物に取り憑き、「野生」を呼び覚ます響のスタンド。
取り憑かれた者は「凶暴化」し、身体能力が大きく上がるが、判断力などの思考能力が低下する。スタンド使いが取り憑かれた時、その影響はスタンドにも及ぶ。
スタンドに取り憑かれたものが一時的に本体となり、本来の本体である響から離れていても充分な「パワー」と「スピード」を出すことができる。
本来の本体である響に取り憑いた場合、その能力は100%引き出され、目にも留まらぬほどの超スピードを発揮する。
普段は霊体のようなスタンドであり、生物に触れて取り憑かなければ物体に干渉する事はできない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

色々中途半端ですが、本日分はここまでにします

明日…

始めます

ハルカ「だ、誰か…」

春香「………」

ハルカ「誰かいないの!? 誰も残ってないの!? 私の『仲間』達は…」

美希「うん、全部ミキ達でやっつけちゃった」

美希「…『偽物』の他は小鳥くらいしか残ってなかったケド」

P「そう…か…」

ハルカ「う、嘘だ…」

響「えっと、こいつで最後?」ザッ

ハルカ「…!」

ハルカ(響ちゃんの『トライアル・ダンス』は…超高速で移動できるスタンド…)

ハルカ(相手にしたら『アイ・リスタート』でも分が悪い…しかも、響ちゃんだけでなく美希までいる…)

サラ…

ハルカ「!」バッ

千早(右手が先端から砂になっている…)

美希「心の中で『負け』を認めちゃったんだね。なんにもしなくても、このまま消えてくの」

ハルカ「ち、違う、私は…!」

春香「私は、勝ちだとは思わないけど」

ハルカ「え…?」

響「春香?」

春香「結局、私達は間に合わなかった。みんな連れて行かれてしまった」

春香「あなたの勝ちだよ。少なくとも、この場以外では」

ハルカ「………」サラ…

美希「春香、こいつ逃がす気?」

春香「うん。ここで追いつめても何も吐かないだろうし…」

春香「また向かってくるようなら、また私が止めるよ」

響「でも春香、自分達だってこいつらの仲間だって倒したんだし、引き分けじゃないか?」

春香「そうだね。でも、少なくとも『勝ち』とは言えない」

ハルカ「…何のつもり?」サラサラ

春香「全部言った。あなたのやった事は許せないし、許すつもりもない。でも見逃す」

春香「私の『アイ・リスタート』を思い知ったでしょう? もう充分だよ」

春香「携帯と、リボンと…私の持ってたものを返してくれれば、あとはどこにでも行けばいい」

ハルカ「」ス…

ハルカは、自分のリボンに手を伸ばし…

ハルカ「」バリバリィッ

千早「!?」

滅茶苦茶に引き裂いた。

春香「………」

ハルカ「違う…」

ハルカ「違う、違う! 違う!!」サラサラサラ

千早(彼女の崩壊が止まらない…)

ハルカ「伊織も、千早ちゃんも、みんな…倒したとか、攫ったとか、そんなのはどうだっていい!」

P「おまえは…」

ハルカ「私は、『天海春香』なんだ! 『天海春香』にならなきゃ…」

ハルカ「『天海春香』に勝たなきゃ、意味がないんだよ!!」ズゥッ

叫びながら、『アイ・リスタート』を出す。

春香「…そっか。それがあなたの選んだ道なんだね…」

春香「いいよ。そんなことを許すわけにはいかない。全部叩き潰してあげる」ドォン

『アイ・ウォント』が立つ。

響「」スッ

響が、千早達のところまで下がってくる。

美希「………」

千早(我那覇さんも、美希も二人とも手出しはしないようね)

ハルカ「………」

ドドドド

春香「」

ドドド

P「千早、さっきの春香の『アイ・リスタート』だったか? あれは使わないのか、それとも使ってるのか」

千早「…春香の今のスタンドは『アイ・ウォント』です。恐らく、本当に『六感支配』は解除してしまったようですね」

千早「でも、春香なら…私の知ってる春香なら、絶対に、勝ちます」

P「…そうか。そうだな、あいつを信じよう」

ハルカ「『アイ・リスタート』ッ!!」ゴォッ

春香「『アイ・ウォント』」ヒュッ

お互いのスタンドが、真っ直ぐ相手に向かっていき…

スゥ…

止まる事なく交差し、すり抜ける。

ハルカ「無駄ァッ!!」ヒュ

春香「ヴァイ!」ヒュン

ドグォ!!

ハルカ「………」

春香「………」

春香「うっ」ゴキッ

『アイ・リスタート』の左腕が、春香の肩に突き刺さる。

『アイ・ウォント』の右腕は、あと数センチのところで、ハルカには届いていなかった。

ハルカ「や…」

ハルカ「やった、倒した! 天海春香を、倒…」

春香「………」

ハルカ「………」

ハルカ「…無駄ァ!!」グオッ

春香「ぐえっ」ドスゥ!!

腹に一発拳が叩き込まれ、身体が折れ曲がる。

ハルカ「倒し…」

春香「………」フラ…

ハルカ「…くっ!」ヒュン

春香「………」ガッ

ザザッ

殴り飛ばされそうになるが、踏みとどまる。

ハルカ「倒…」

ハルカ「倒れ…ない」

グイ!

ハルカ「うっ!?」グラッ

『アイ・ウォント』の親指を口の中に突っ込まれ、顎を引っ張られる。

ハルカ「」ガクン!!

バランスを崩し、膝をついた。

春香「ただの『天海春香』…でも、ないな。あなたは」ズズズ

『アイ・ウォント』の姿が『自分Rest@rt』へと変わっていく。

ハルカ「う…」

春香「あなたと『天海春香』では…」

ハルカ(ああ、そっか…)

春香「背負っているものが、違う」

ハルカ(なれるわけがなかったんだ。最初から…)クスッ

春香「さよなら」

春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

メキョ バシュゥ ゴキャ ドグォ

ハルカ「うぐっ、あああああああああああああっ!!」

春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

バキャス ドゴ ドゴ ドガ グガ グシャ ゴガ

春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

ダ ド ダ ダ ダ ド ド ド ド ド グ ゴ ゴ ゴ

春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

ドンドンドンドンドンドンド

春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

ドゴ バキ ドグォ ドグシャ バゴォ

春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」

ズ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ

春香「無駄、無駄…」ス…

ハルカ「あ…ふぅぅっ…」クラ クラ

春香「ヴァイッッ!!」ボグッシャァァン

ハルカ「」ドォォォーン

ガンッ! ガガガンッ!!

ラッシュを叩き込まれ、廊下の遥か奥の方までブッ飛ばされて転がっていった。

春香「………」

響「春香の…勝ちだね」

千早「ええ…彼女は腕がグチャグチャになっても動かせるくらい丈夫なようだけれど」

ハルカ「………」サラサラ

千早「…放っといても、砂になって消えてしまうでしょう」

春香「」スタスタ

P「…春香?」

ハルカ「………」

春香「………」

砂になって、消えかかっているハルカの前に立つ。

ハルカ「何か用…? 笑いに来たの? それとも飲み物でもくれるの?」

春香「あなたは色々と卑劣な事をした」

ハルカ「………」

春香「私を殺そうとし…私に成り代わり、伊織達…みんなを誘拐した」

春香「千早ちゃんもプロデューサーさんも…みんなあなたに傷つけられた」

ハルカ「よかったね、そんな私がこんな無様に死んでいくのを見られて」

春香「でも、私にならなきゃと言ったあなたには…まっすぐな、あなた自身を感じた」

ハルカ「………」

春香「だから私も、全力で応えた」

ハルカ「…やりすぎでしょ」

春香「内容はともかく、真っ直ぐぶつかろうとしてきたのは嫌いじゃないよ」

ハルカ「適当な事言って…」

春香「…やっぱり、あなたは私とは全然違うよ」

ハルカ「………」

春香「あなたが『天海春香』にならなくてもよかったのなら、もしかしたら、仲良くなれたかもしれないね」

ハルカ「何を馬鹿な事を…」

春香「そうかな? そういう可能性もあったんじゃないかなって」

ハルカ「…全部奪ってやったつもりだった。『天海春香』になれたつもりだった」サラサラ

春香「うん」

ハルカ「でも、本当は…何一つ奪えちゃいなかったん…だね」サラ…

春香「………」

ハルカは砂になった。

美希「春香」

春香「美希」

P「終わったんだな…」ズルズル

千早「プロデューサー、あまり動かない方が」

P「人の事言える怪我か」

響「やったな、春香!」

春香「うん。勝ったよ、みんな」

響「最後、何話してたんだ?」

春香「それが、自分でもよくわかんないんだよね。怒ったらいいのか、喜んだらいいのか、悲しんだらいいのかもぐちゃぐちゃだし」

春香「でも、何か言わなきゃって。大した事は言えなかったけど」

千早「そう…」

千早「彼女達は、なんなのかしら。何故私達アイドルと同じ姿をしていて、スタンドを持っていて…」

春香「血が流れてなくて、でも自分で考えて生きていて。誰がどうやって何のために生み出しているのかもわからない」

千早「私達は、これからも彼女達と戦わなければいけないの…?」

美希「例えなんであろうと…」

美希「あいつらがみんなを連れ去ったりメーワクなことをしてるのは確かなの」

美希「あいつらはミキ達…765プロの『敵』だよ。そこはカンチガイしないで」

千早「…ええ、わかってるわ」

春香「うん、それとこれとは話が別だよね」

美希「だったら、よし。なの」

千早(みんなを助けるためにも戦わなければならない。そして…)

千早(それはつまり、彼女達に『負け』を認めさせなければならない…)

千早(消さなければならない…ということ)

P「さて、そろそろ聞かせてもらおうか…」

春香「?」

P「今、何が起こってるんだ!? 『スタンド』っていうのは一体なんなんだ? お前達は何故その『スタンド』ってのが使えるんだ!? 春香はなんで大海さんのスーツを着ているんだ!?」

千早「プ、プロデューサー。落ち着いてください」

春香「ひとつずつ、ひとつずつ…」

美希「そだ、響。小鳥が上で倒れてたよね」

響「あっ! ちゃんと手当てしてあげないと駄目だ!」

P「…小鳥さんにも聞いてもらわなきゃか」

千早(私達は二階に上がり、気を失っていた小鳥さん…大して怪我はなく、すぐに目は覚ましたけれど…を介抱して)

千早(そして…二人に、全て話した。半年前の事、『弓と矢』のこと、スタンドのこと、『偽物』達の事)

千早(『信じられない』…などという言葉は出てこなかった。実際に、目にしているのだから。信じる他ない、といった様子だった)

P「そうか…しかし、春香が…」

春香「…はい」

響「ピヨ子、いつだったかはスタンドを取り憑かせてごめんなさい」

小鳥「え? うーん、なんか…覚えがあるようなないような…」

美希「響、そんなことしてたんだ」

響「美希がやれって言ったんだろー! 千早に気づかれないように探りを入れるため、とかなんとか言って!」

美希「そだっけ? あんまり覚えてないの」

響「もうっ!」

千早「まぁまぁ我那覇さん…あの時はみんな必死だったから」

春香「…私のせいで…ね」

P「もう終わったことなんだろ? みんな、納得してるんだろ? だったら、それでいいじゃないか」

小鳥「何があったのかは知らないけど、私達からは何も言わないわ」

千早「そうよ、春香。765プロのために戦うと決めたのでしょう? こんなことで負い目を感じる必要はないわ」

春香「うん…ありがと」

千早「二人は、私が会場で大海さん…の格好をした春香を見失って…その後、話を聞いたのね?」

美希「うん。カツラ取って、一緒に来てって…あの時はびっくりしちゃった」

響「そうそう、腰抜かしちゃうかと思ったぞ」

P「寝床はどうしてたんだ? 『偽物』が家にいるなら帰るわけにはいかなかっただろ」

春香「大海さんの家にお世話になってました」

小鳥「大海ちゃんには、事情は話してあるの?」

春香「はい。私は衣装のままでしたし、大海さんがあの子と別れた後、すぐに出て行って、そのまま匿ってもらったんです」

千早「服装が違ったのね? しかも、別れてすぐ別の方向から同じ人が出てきたらぎょっとするわね」

春香「イタズラじゃないかと疑われたり、私の方が本物だとわかってもらうのに苦労したけどね…」

P「そして…アイドルの『偽物』か…」

小鳥「事務所を襲撃したのも、その『偽物』なのね」

美希「でも、ミキ達がやっつけたの! だから安心していいよ!」

P「でも…また襲って来る可能性はあるんだろ?」

響「それは、そうかもしれないけど」

春香「彼女達が何もないところから勝手に出てきて、動いてるとは思えない…操ってる人が誰かいるんだと思います」

千早(そういえば…)

千早(ここに来た時、車で走り去る人物を見た)

千早(『わざわざ現場に出向いてくるのか?』という疑問はあるけれど、あれは、明らかに怪しかった)

千早「ねぇ、みんな…ここで誰か怪しい男性を見なかった?」

小鳥「怪しい男性…って、どんな?」

千早「へ? えーと…ス、スーツを着た…」

P「…俺?」

千早「いえ、プロデューサーでなく」

P「俺達は見てないと思う。あの『偽物』達から逃げたり、みんなを逃がそうとしたり…結局無駄だったが…それで精一杯だったしな」

春香「その人がどうかしたの?」

千早「ちょうど、事務所が襲われている最中に、ここから車が一台走り去っていったの。それに乗っていた人物が…怪しいと思ったのだけれど」

小鳥「スーツ以外に、他に何か特徴はないの?」

千早「特徴…と言うか、どこかで、見た事があるような気がしたのだけれど…」

P「うーむ…スーツを着ていて、千早に会ったことがある…駄目だ、アイドルとして活動してりゃいくらでも会う」

美希「ねぇ、千早さん。千早さんが言ってたのって黒いやつ?」

千早「え? ええ、確か…」

響「ああ、あれ? 事務所の前に停まってたやつか」

千早「見たの!?」

響「そりゃ、自分達は千早の前に着いてるんだし」

春香「え、そんなのあったっけ?」

千早「では美希、貴女その男性を見たの!?」

美希「男のヒトは見てないけど…じゃーん!」

千早「これは…」

美希「どー見ても怪しいから、車をケータイで撮っておいたの! えっへへ、どう? 偉い?」

千早「…いえ、駄目だわ美希」

美希「へ?」

千早「この写真の車には、誰も乗っていない…」

美希「あ、ほんとだ」

P「何言ってるんだ千早…」

千早「…?」

P「ナンバーが写っている! ここから車を特定できるぞ!」

千早「え…あっ!」

P「小鳥さん。このナンバー、警察に届け出ればわかりますかね?」

小鳥「わかるかもしれませんけど…でも、車の持ち主に連絡が入ったら意味がないと思いますよ」

P「あ、そうか…なんとか一方的に知る方法を考えなきゃですね」

千早「ちょ、ちょっと待ってください!」

P「ん? なんだ?」

千早「プロデューサー、小鳥さん。これは私達『スタンド使い』の問題です、貴方達を巻き込むわけには…」

P「違う。765プロの問題だ」

千早「!」

小鳥「それに、もう巻き込まれてるわ千早ちゃん」

千早「それは…いえ、しかしこれ以上はお二人にも危険が…」

美希「別に、大丈夫だって思うな。狙われてるのはミキ達アイドルだし」

千早「美希…」

美希「いざとなったら、ミキ達が守ればいいの」

小鳥「私達にだって、出来る事はあるわ。関係ないだなんて、指を銜えて待ってろなんて言わないで、千早ちゃん」

響「そうだよ、プロデューサーもピヨ子も…あと大海さんも、みんな揃って765プロだ!」

千早「…そう、ね…すみません、お二人とも。よろしくお願いします」

P「ああ! 俺達にできることがあればなんでも言ってくれよ!」

春香「それじゃ、プロデューサーさんに一つ頼んでいいですか?」

P「おう、なんだ春香?」

春香「…千早ちゃんを病院に連れて行ってあげてください。大至急」

千早「あ…」ポタ ポタ

P「わ、忘れてた…あまりにも平然としてたから…」

←TO BE CONTINUED

すみません、しばらく休止したいと思います
再開日は未定で
落ちたらまた立て直すので

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