春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」(1000)


このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。


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春香「これ、プロデューサーさんの?」

P「いや、社長の私物だよ。社長室に飾っておくんだとさ」

春香「結構汚れてますね、古いものなんですか?」

P「なんでもこの前の旅行の時に骨董屋で見つけたらしくてな。俺も詳しくは知らないんだが」

春香「そうなんですか」

キラリ…

春香「なんだか、ちょっと気味が悪いですね…」

P「そうか?」

春香「なんか、この『矢』…」

春香「見た目は古いんですけど、この刃の部分…ピカピカで…」

春香「吸い込まれそうな…」ス…

ソーッ…

P「おい春香、危ないぞ! 怪我でもしたらどうするんだ!」

春香「わ、そうですね!」バッ

春香(危ない危ない、何やってんだろ私…)

P「誰かが怪我したら大変だな…とりあえず、部屋まで持っていって…」

千早「あの…」ス…

千早「プロデューサー。少しいいですか?」

春香「千早ちゃん?」

P「ん? 千早か。どうした?」

千早「話し中ごめんなさい春香。プロデューサーと少し相談したいことがあって…」

春香「ううん、大丈夫だよ」

P「相談か。わかった、会議室で話そう」

千早「ありがとうございます」

P「あ、春香。悪いけど、それ社長室まで持っていってくれないか?」

春香「いいですよ。社長室に置いておけばいいんですよね?」

P「ああ、頼む。怪我しないように気をつけてな」

春香「はいっ」

千早「それじゃ、プロデューサー…」

P「ああ、今行く」ス…

バタン!

シィィーン…

春香(プロデューサーさんと千早ちゃんは行ってしまった)

春香(千早ちゃん、最近頑張ってるよね…テレビにもよく出てるし…)

春香(アイドルになったのは私と同じくらいの時期なのに、どんどん先に行っちゃって…)

春香(それに比べて私…全然駄目だなぁ…)

春香(才能、ないのかなぁ)

春香(ううん、弱音なんて吐いてちゃだめ! 私ももっと頑張らないと!)

春香「それにしても、この矢…」クル

ドドド

春香(あれ…? 矢は?)キョロキョロ

ドドドドドドド

ズキッ!

春香「え…」

ズズズ…

・ ・ ・ ・ ・

春香(矢が…勝手に、私の手に刺さ…)

春香「痛っ!!」ブンッ!

ガシャァ!

春香「はぁ、はぁ…うっ」ズキッ

春香「あ…」ボタボタ

ブシュゥゥゥゥゥゥ

春香「ひいっ!?」

ゴゴゴゴゴゴゴ

春香「あ…あああっ! 血が…」

ゴゴゴゴ

春香「だっ、誰かッ!!」

ガチャリッ

P「春香! どうしたんだ!?」

千早「今何か、凄い音がしたけど…」

春香「プ、プロデューサーさん! 千早ちゃん! 血が、血がこんなにッ!!」

千早「…?」

P「別に、血なんて出ていないが…」

春香「はっ!?」

ピタァ…

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

春香(血が…もう止まっている…!? 床にも何もついていないッ!)

P「春香…?」

春香(なに、今の…)

春香(わたし…幻覚を見たとでも言うの…?)

春香(いや、指にはかすかに感覚が残っている…確かに、私は怪我をしたッ!)

春香「した、はず…多分…確か…うーん…」

千早「春香、大丈夫…?」

P「…えーと…何かあったのか?」

春香「あっ、そうです! 矢、矢が私の手に刺さって…」

千早「矢…? 矢って、その床に転がっているやつかしら」

P「その割には傷は見えないが…」

春香「本当なんです!」

P「ああ…別に嘘だなんて思ってないよ」

P「多分、引っ掛けたけど肉までは達していなかったんだろう」

春香(『引っ掛けた』…?)

春香(矢は私の手を思い切り貫いてた…)

千早「大した怪我じゃなくてよかった…」

春香(と思ったんだけど…傷跡もないし…これで貫いてたって方が無理がある…)

春香(うーん…やっぱり変な思い込みとかだったのかなぁ…)

春香(そうだ、見間違いだ。矢が私の方に倒れてきたもんだからびっくりしちゃっただけだよ)

P「一応、手当しておこう。古い物だ、変な菌が付着しているかもしれない」

春香「そうですか…? でも血も出てないし痛みもないしそこまでしなくても大丈夫ですよ」

千早「ちゃんとやっておいた方がいいと思うけれど…」

P「そうだぞ。春香に何かあったらどうするんだ」

春香(プロデューサーさん、私の体を心配して…)

P「アイドル活動にも支障が出るかもしれないからな」

春香(ですよねー)

この後、私は千早ちゃんに(プロデューサーさんにではないのです…トホホ)手当てしてもらい、午後からのレッスンに出て今日の活動は終わりました。

そしてその夜…

私は信じられないような高熱を出し、翌日のアイドル活動を休み…

そして、さらに次の日…

熱が引いて事務所に着いた私は、そこで思いもよらないことを耳にするのでした…

春香「おはようございます!」

P「春香…」

P「風邪は、もう大丈夫か…?」

春香「はいっ! 一日休んだら、すっかり元気になりました!」

P「そうか…」

春香(あれ? なんだか、プロデューサーさんの顔が暗い…)

ズゥゥゥン…

春香(いや、プロデューサーさんだけじゃない…事務所にいるみんな伏し目がちだ)

春香「…あ、あの…プロデューサーさん?」

P「…なんだ?」

春香「私が休んでる間、何かあったんですか?」

P「あ、そう言えば春香…お前…」ゴソゴソ

春香「は、はいっ? 私ですか!?」ドキィ

ゴゴゴゴゴ

P「お前…」

春香「は、はい…」タラ…

ゴゴゴゴゴゴゴ

P「一昨日、携帯忘れてっただろ。ほら」スッ

春香「あっ…」

春香(事務所にあったのかぁ…どおりで見つからないわけだ)

春香「預かっててくれたんですね、ありがとうございます」ペコ

P「いや…」

春香(えーと、とりあえずメール確認…)

P「ちょっと待て、メールにも書いてあるが直接話す」

春香「へ?(何を?)」

P「春香、落ち着いて聞いてほしい」

ドドド

春香「な、なんですかあらたまって…」

P「お前が休んでいた昨日、社長が…」

ドドドドド

春香「社長? 高木社長がどうかしたんですか?」

P「亡くなった。倒れて病院に運ばれてから、すぐに…」

春香「………え」

ドドドドドドドドドドドド

春香「高木社長が…死んだ…?」

P「………」

春香「やっ、やだなぁ~っプロデューサーさん! そんな冗談笑えませんよ~」

P「本当だ。明日には葬儀を行う」

春香「………」

P「すまないな…今は大事な時期だってのに」

春香「ど、どうしてプロデューサーさんが謝るんですか…」

P「………」

春香「…高木社長、何かの病気だったんですか?」

P「…矢だ」

春香「…え」ゾク

春香「矢って…あの…『弓と矢』…?」

ドドドドド

P「ああ…昨日、社長があの矢を腕に引っ掛けたんだ…」

P「傷はちょっとしたもんで、しばらくはスーツに穴が空いたことばかり気にしていたんだが」

P「昼過ぎにいきなり苦しみだして…そのまま…」グ…

春香「わ、わかりました…もういいです、はい…」

P「春香…顔色が悪いぞ。大丈夫か…?」

春香「あ、あはは…やっぱり…そう見えちゃいます…?」

春香(正直言って『怖い』…高木社長が死んだ…? しかも、あの『矢』のせいで…)

春香(私も怪我をした、あの矢の…せいで…)ゾゾゾ

P「風邪、治ったんだよな。体調は本当に大丈夫なのか…?」

春香「は、はい…むしろ前よりも元気になってるくらいで」

P「そうか…」

P「律子に頼んである。今日の帰り、病院で診てもらってくれ」

春香「え、でも私は別に…」

P「春香!」

春香「…っ…」ビクッ!

春香「は、はい…」

P「あ…すまん、脅かすつもりじゃあないんだが…」

P「社長にあんなことがあった後じゃ…」

春香「心配、してくださってるんですよね。ありがとうございます…」

春香「私も…ちゃんと調べてもらって安心したいって気持ちはあるので、ちゃんと診てもらいますね」

P「ああ、頼む」

………

P「今日はこれで終わりにする」

P「社長の葬式には出たい奴は、後で俺か小鳥さんのところに来てくれ」

小鳥「それじゃみんな、気をつけてね」

アイドル達「「「ありがとうございました」」」

千早「…それでは」

伊織「そう言えばあの矢って、まだ社長室に置いてあるわけ…?」

真「うん、誰も怪我しないように包んであるけど…」

やよい「ちょっと怖いです…」

春香「………」

P「律子、春香を頼む」

律子「はいっ、わかりました」

春香「あの、プロデューサーさんは?」

律子「色々やることがあるのよ…ほら、行きましょ」

…………

ブロロロロロ…

律子「うちの事務所、小さいからね。こういう時の対応マニュアルみたいなのができてないのよ」

律子「帰ったらプロデューサーと小鳥さん、死んでたりして」

春香「うわぁ、縁起でもない」

律子「小鳥さんと言えば、いつもは割とちゃらんぽらんなのにこういう時はちゃんと年長者の顔になるのね。びっくりしたわ」

春香「あはは、そうなんですか」

律子「ところで、春香は行く?」

春香「へ?」

律子「社長の葬儀のことよ。私は色々世話になったし、出席するけど…」

春香「い、いえ…明日は仕事もありますし…」

律子「そう…まぁ、無理に来いとは言わないわ」

キキィーッ

ガチャ

律子「それじゃ、お大事にね」

春香「はい、ありがとうございました」

ブロロロロロ…

春香(既に検査は受けてきた…)

春香(結果は…『異常なし』…)

春香(社長はいきなり苦しみだして死んだとプロデューサーさんは言っていた)

春香(私も同じように…そうなるのか? 気が気でなかった)

春香(もう寝よう。何もしてないけど、今日は疲れちゃった…)

………

………

?「ぇ…」

春香「………」

?「ね………きて…」

春香「………ん…んん…?」

?「ねぇ、起きて…」

春香(私を呼ぶのは誰…?)

春香「はっ!?」バッ!

ゴゴゴ

?「ようやく起きてくれたのね…」

ゴゴゴゴ

春香?「『私』」

ゴゴゴゴゴゴ

春香(これは…私!?)

春香(どういうこと…『幻覚』…?)

春香?「幻覚じゃあないわ…」

春香「あなたは誰! どうして私と同じ姿をしているのッ!!」

春香?「私はあなた…あなたの分身…」

春香?「側に立つもの…『スタンド』」

春香「スタ…ンド…? なに、それ…?」

春香?「『弓と矢』によって発現したあなたの内なる『力』」

春香「『弓と矢』…まさか、高木社長を殺したのは…」

春香?「違う…私はあなた…あなたは昨日家にいた、あなたは社長を殺してなどいない…」

春香?「確かに私は『矢』によって生まれた存在。そして、社長はその『矢』によって死んだ」

春香「う、うん…」

春香?「でも、私自身は社長の死には関係ない。同じ『矢』による現象でも因果関係はない…」

春香?「それは『理解』した? Do You Understand?」

春香「え、えーと?」

春香?「あの『矢』は人の才能を引き出すもの」

春香「才能を…引き出す…?」

春香?「そう。だから矢に選ばれたあなたの才能が目覚め…」

春香「そして…あなたが出てきた…」

春香?「その通り。そして、引き出す才能がなければ…」

春香「…なんとなく…わかりかけてきた」

春香「私は引き出されたものがあったから死なずに済んだ…」

春香?「ええ、それで正解」

春香「あなたは…」

ドド

春香?「私はあなたの『スタンド』」

春香「私のスタンド」

ドドド

春香?「そう」

春香「私の…才能」

ドドドドド

春香?「そう!」

春香「私には…才能がある…!」

ドドドドドドドドドド

………

春香「………」パチ…

春香「夢…」

春香「いや…」

ズズ…

春香?「………」

春香「『スタンド』…」

春香「今、すべて『理解』した」

春香「社長には素質がなかったんだ。だから死んだ」

春香「スタンド使いとしての…」

春香「アイドルのしての素質が…!」

春香「そして…!」クル!

春香?「………」ズ…

春香「私には、『ある』ッ! 素質が…『力』が!!」

春香?「………」ズズ…

春香「さぁ、私の『スタンド』ッ!! 真の姿を現しなさいッ!」

春香?「………」ズズズ…

春香(『私と同じ姿』…これは私のイメージ。夢の中で聞こえていたのは私の『心の声』)

春香(スタンドの姿が変わっていく…より『強く』、より『洗練された』…本来の形に…!)

スタンド「………」ズズズズ…

キラ…

ゴゴゴゴゴゴ

春香「これが私のスタンド…名前は、私の曲から取って…」

ゴゴゴゴゴゴゴ

春香「『アイ・ウォント』」

春香「『アイ・ウォント』と名付けるッ!」

バァーン

春香「誰もいない社長室…高木社長はもういない」

春香「だったら、765プロのために…新しい社長が必要だよね…」

春香「実力からいって…次の社長は私かな」

春香「なーんて、それは冗談だけど…」

春香「まぁ、社長についてはプロデューサーさん達がなんとかするでしょ」

春香「案外、プロデューサーさんが社長になっちゃったりして」

春香「………」

春香「765プロは変わる」

ゴゴゴゴ

春香「いえ、変えてみせる…私がこの『スタンド』で」ス…

ガシィ!!

春香「この『弓と矢』で…ね」キラリ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

To Be Continued...

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織(少し前から…)

ゴゴゴゴゴゴ

伊織(事務所の雰囲気がおかしい…)

バァーン

水瀬伊織 15歳
アイドル

やよい「伊織ちゃん、おはよう!」サッ!

伊織「ええ、おはようやよい」

亜美「いおりーん、りっちゃんが死にそうな顔してるよー」トテトテ

伊織「経営に事務職にプロデュースに…疲れてるのよ。放っときなさい」

伊織(みんなの様子はいつもと変わらない…)

伊織(ただ、事務所に漂っている『空気』が違うような…そんな漠然とした感覚)

伊織(だけど確実に、『何か』が違っている…)

伊織(社長が死んだから? それもあるけど、それだけじゃあないと私は思う…)

伊織(社長が亡くなって一ヶ月が経った)

伊織(適任が他にいないから、今はプロデューサーが後任として経営を行ってる。経営の勉強をしている律子はそのサポート、小鳥は…うん)

伊織(最初は引き継ぎやら何やらで冗談抜きで死ぬほど忙しかったみたいだけど、今は少し落ち着いてきている)

伊織(しかし、プロデューサーが経営をすることになり、今までよりもプロデュースの方に手を回せないにも関わらず…私達アイドルは以前よりもむしろ仕事が増えてきていた)

伊織(そうなるとやっぱり765プロは人手不足で、もう少し人員を…出来ればちゃんとした経営者を代わりの社長として雇いたいと言っていたけど、なかなか見つからないみたい)

伊織(私の所属する『竜宮小町』とか、千早や美希あたりは元々人気はあったから仕事量はあまり増えたわけじゃあないけど…)

伊織(春香、雪歩、やよい、真、真美、響、貴音…今まで芽が出ていなかったアイドルが、今やみんなが雑誌に載るのも珍しくないほどに力を伸ばしてきた)

伊織(その躍進っぷりたるや、プロデューサーが『俺必要ないのかなぁ』と泣き言を言い出すほどだ)

伊織(その中でも…)

春香「それじゃ、行ってきます!」

真美「うげっ、はるるんまた仕事!?」

雪歩「最近凄いね…春香ちゃん」

伊織(春香…)

伊織(春香はこの一ヶ月でアイドルとしてどんどん上へと上り詰め、ついには私達『竜宮小町』や千早・美希を抜き去り、紛れもない765プロのエースとなった)

伊織(その人気たるや、この一週間でテレビで春香の姿を見ない日はなかったくらいだし…)

伊織(来月にはなんと司会として新番組を担当することが決まっているほどだ)

伊織(最近の芸能界は移り変わりが激しいし、活動期間を見ればありえないことではないけれど…)

伊織(まぁ、同じ事務所の仲間として喜ぶべき…なのかしら…)

伊織(でも、なぜか…負け惜しみじゃあなくて…春香の成長について、私は『悔しい』とか…『絶対に負けない』とか…)

伊織(不思議と、そういう気持ちは、なかった)

………

伊織「………」

クル…

キョロキョロ

伊織(夜になったわ。もう『竜宮小町』の仕事を終え…)

伊織(メンバーの『亜美』と『あずさ』とは、さっき外で別れた)

伊織(『律子』は社長室に閉じこもっているけど、帰ってきた時、事務所には鍵がかかっていた)

伊織(小鳥も臨時のマネージャーとして出向いているんでしょう。つまり、いまここにいるのは『私一人』…)

伊織「気になるのは…」

伊織「社長の死因となったあの『弓と矢』…」

伊織「さっき、律子のところに相談に行くフリをして社長室を確認したけど、やっぱり『なかった』…」

伊織「どこに行ったのかしら、あれ」

伊織(なんとなくだけど、あの『矢』…)

伊織(最近の事務所の異様な雰囲気と、何か関係がある気がしてならない。そんな気がするわ…)

伊織「早いとこ探し出して…」

ガタン!

伊織「!」

タッ! タッ! タッ!

伊織(ああ、もう…誰よ! 『今から帰ってきます』と言わんばかりに階段鳴らして!)

伊織(今から探そうと思ってたって言うのに…!)

ガチャリッ

春香「ただいまー!」

・ ・ ・

伊織(春香…)

春香「あれ? 伊織ー、ただいまー」

伊織「おかえりっ!」

春香「な、なんで怒ってるの…?」

伊織「うるっさいわね! 怒ってないわよ!」

春香「あ、あはは…」

春香「伊織一人?」

伊織「そっちに律子がいるわ。他はみんな帰ったんじゃない」

春香「そっか…」

春香「あーっ、つっかれたー!」ポスッ

伊織(ソファに座った…『探索』はもう諦めるしかないのかしら…)

春香「あー…あついー…伊織、何か飲み物取ってくれない…?」

伊織「この伊織ちゃんを使おうだなんていい度胸ね。自分で取りなさいよ」

春香「だって、本当に疲れてるんだもん…」ゴロゴロ

伊織(今、ここにいるのは私と春香だけか…)

伊織「はぁ…何飲むわけ?」

春香「なんでもいいよー」

伊織「そういうのが一番困るのよ」

春香「んー…じゃ、コーラで」

伊織「コーラぁ?」

春香「あ、やっぱやめ。スプライトにする。透明だから」

伊織「はぁ? しかしあんた、炭酸好きね…」

春香「好きって言うか、すっきりしたい気分なんだよね、今。とにかく炭酸お願い」

伊織「はいはい」

春香「ところで…ねぇ伊織、この後、何かあるの?」

伊織「え? いえ、もう仕事は全部終わったわ」

春香「じゃあさ…」

ドドド

春香「なんでまだ、事務所にいるのかな…一人で…」

ドドドドドド

伊織「……」

ドドドドドドド

伊織「何か…」

伊織「問題でも、あるわけ…? なんとなくよ…」

春香「それもそっか…私もそういう気分の時、あるし…」

伊織「なんなのよ、もう…」

伊織「………」ス…

伊織「…そう言えば、春香」

春香「何?」

伊織「あんた、あの…」

ガッ

伊織「…?」

キラリ

伊織(あれ…冷蔵庫の隙間に…なにか…)

ゴゴゴ

伊織(これは…)

ゴゴゴゴゴゴ

伊織(『矢』…)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織(間違いない、社長を殺したあの『矢』だ…)

伊織(どうして、こんなところに…)

グラ…

伊織「え?」

サクリ…

伊織「は…」

伊織「な…何ですってェーッ!?」

伊織(私の指に! 吸い寄せられるように…!!)

ビュクッ

ブシュゥゥーッ

伊織「きゃああああっ!!」

春香「『矢』が反応した…やっぱり伊織も『ある』みたいだね…」

ドドドドド

伊織「あっ、あっ…!」ドクドクドク

ドドドドド

伊織(社長を殺した『矢』が! 私の指に…!!)

伊織「し、『死ぬ』…!!」

春香「死なない死なない。大丈夫だって」

パチパチ

伊織「!?」クル

パチパチパチ

春香「おめでとう。伊織も選ばれたんだよ、『弓と矢』に」

春香「でも…ま、当然と言えば当然か…言われてみれば確かに『ある』方だからね、伊織は」

春香「うん、当然。当たり前のこと」

伊織「は…春香…?」

伊織「この『矢』…社長を殺したあの『矢』よね…」

春香「うん」

伊織「あんたが仕掛けたの!? こうやって、冷蔵庫を開けようとすると刺さるように…」

伊織「この人殺しッ!!」

春香「大丈夫だよ」

春香「その『矢』、才能のない人には反応しないから」

伊織「は…?」

春香「社長は本当に偶然触っちゃったみたいだけど」

伊織(何を言ってるの、こいつは…?)

春香「伊織は才能あるから、刺さっても大丈夫。むしろ、だから矢が引き寄せられて刺さったんだよ」

伊織(会話が全然噛み合わない…!)

春香「伊織は選ばれたの。よかったね、伊織!」ニコ…

伊織「…っ」ゾワッ

伊織「あ、あんた…そんな気持ち悪い笑顔浮かべるヤツだったのね…」

春香「へ? そんな顔してた?」

伊織「第一、死なないって…この出血見なさいよ! 信じられるわけ…」

春香「出血? 何言ってるの?」

伊織「はっ!」

ピタ…

伊織(傷が…傷跡すら、残ってない…)

春香「まぁ、私の時もそうだったから。とりあえず、死ぬことは絶対にないから安心していいよ」

伊織「は、はぁ…」

春香「さて…これで伊織も『スタンド使い』になったわけだけど」

伊織「………」

伊織「え、何? スタンド…?」

春香「まぁ…念のため確かめておこっか…」ズ…

ゴゴゴ

春香「伊織…」

ゴゴゴゴゴ

春香「『これ』が、見える…?」

伊織「なに…それ…」

春香「うん、ちゃんと見えてるね。よしよし」

伊織「その春香の後ろにいるのは…」

春香「これが『スタンド』。精神力のエネルギー」

春香「そして、私の才能」

伊織「『スタンド』…才能ですって…?」

春香「『弓と矢』に貫かれた人は、この『スタンド』能力に目覚めるんだよ」

春香「人によって、スタンドのそれぞれ姿かたちは違ってくる…」

春香「私としては、見せてくれると…嬉しいんだけどなぁ、伊織のスタンドも」

伊織「わ、私のスタンド!?」

伊織「見せろとか言われても…出せないわよ、そんなもの!」

春香「出せるよ。私の『アイ・ウォント』が『見える』ってことは、もう間違いなく『スタンド使いになった』ってことだから」

伊織「そんなの知らないわ! あんたさっきから…」

春香「!」

春香「なんだ…やっぱり出せるんじゃあない…」

伊織「意味のわからないこと…」

春香「それが伊織のスタンドかぁ」

伊織「ばっかり…」チラ…

モクモクモク

伊織「…!?」

ドドドド

春香「『煙』のスタンド…かぁ…なんか『意外』というか」

伊織「きゃあああああああああああああ」

ドドドドドド

伊織「な、何よこれっ!(私の体から煙が出ているッ)」

春香「それが伊織の『スタンド』だよ」

春香「あ、ちょっと動かしてみてくれない!?」

伊織「う、動かす…?」

伊織(動かすったって…どうやって…?)

春香「それを出したみたいに、『自分の手足』を動かすようにやればいいんだよ」

伊織「そ、そんなこと言われても…自分の意志で出したわけじゃあないわよ…」

春香「へ? そうなの?」

春香「まぁ、『スタンド使い』として目覚めたばっかりだし、仕方ないのかなぁ」

伊織「………」

伊織「って言うか…」

春香「?」

伊織「春香、あんたの目的は何?」

春香「目的?」

伊織「この…『スタンド』だっけ? 人をこんなもの出せるようにして何がしたいわけ…?」

伊織「こんな『煙』が出るようになったら、人前に出られないし商売上がったりなんだけど」

春香「自分で制御すれば大丈夫。すぐ慣れるよ。それに、スタンドはスタンド使いにしか見えないから」

伊織「…スタンド使いってのは、あんたや…認めたくないけど、私のようにその『スタンド』ってのが出せる人のことよね」

伊織「だから、さっき確認するようにあんたの『スタンド』を見せてきたのね?」

春香「そうそう。さっすが伊織!」

春香「そして、目的だっけ? 色々あるんだけどまずは…うん!」

春香「伊織はアイドルをやる上で大切なことってなんだと思う?」

伊織「…は? なにそれ。あんたの言う『目的』と何か関係あるわけ?」

春香「うん。結構大事なこと」

伊織「…アイドルに大切なことって、そりゃ…色々あるんじゃないの? 才能とか、テクニックとか…」

春香「うん、そうだね。それも大事。伊織らしい答えだね」

春香「でもさ…私は『自信』。自信を持つことが一番大切なことだと思う」

伊織「自信?」

春香「『歌には自信がある』とかそんなんじゃあない…どんなことがあっても揺らぐことのない、『絶対の自信』」

春香「以前の私は、この『自信』がなかった。『アイドルになりたい』『皆の前で歌いたい』とかそういう気持ちがあっても、『本当になれるのか?』『私の歌は通用するのか?』…不安で仕方がなかった」

伊織「………」

伊織(春香も色々抱えてたのね…何も考えてないと思ってたけど)

春香「でも、余計な心配だったんだね…私には、ちゃんと才能があった!」

伊織「『才能』… ……」

伊織「あんたさっきから、その言葉よく使うわね」

春香「だって、こんな素晴らしい力が、私達には使えるんだよ? そうでなければ社長みたいに死ぬ…私達は選ばれたの!」

春香「これが才能でなくて、何だって言うの?」

伊織「………」

春香「スタンドは才能。『アイドルとしての才能』が明確に目に見えれば、それは『絶対の自信』に繋がる」

伊織「だから…私をスタンド使いにしたの…? その『絶対の自信』とやらを持たせるために」

春香「うん! だって私達みんな、仲間だもんね!」

伊織「なるほどね…でも、それであんたが自信を持つのは勝手だけど…」

伊織「生憎、伊織ちゃんはこんな『スタンド』なんかに縋らなくたって、『自信』くらい持ってるのよ」

伊織「だから…」

春香「『嘘』」

伊織「…っ!」

春香「今は成功してるからいい。だけど、いつ『勢いが止まるか』? いずれ『誰かに追い抜かれやしないか』? いつもビクビクしている」

伊織「あんた…」

春香「図星かなぁ…その反応…」

春香「気にしなくていいよ、誰だってそうだから。私だって、伊織だけがそうだと思って言ったわけじゃあない」

春香「それに、伊織にも紛れもなく才能がある。もうそんな心配しなくていいんだよ」

伊織「『スタンドがあるということは、アイドルとしての才能があるということ』…つまり、あんたはそう言いたいわけ?」

春香「そう。何かおかしかった?」

伊織「…そもそも」

伊織「数学者としての才能と野球選手としての才能が関係がないように、アイドルとしての才能はその『スタンド』ってやつの才能は関係ないでしょ」

春香「関係あるよ~」

伊織「ないわよッ!! さっきから意味不明なことばっか、変な能力に目覚めて頭がおかしくなったんじゃあないの、あんた!?」

春香「………」ジ…

伊織「!」ビクゥ

春香「えー…?」グリッ

伊織「……」ゾワワッ

伊織(こ………)

伊織(『怖い』…)

伊織(なんて冷たい目で人を見るの、こいつ…)

春香「フゥゥ~…」

伊織「!」ビクッ

春香「なんでわかってくれないのかなぁ~っ…」

伊織「わ…わかりたくもないわよ」ジリ…

春香「だって、これさえあれば何でもできるんだよ?」

春香「例えば…」

ドォ

伊織「!」バッ

ガチャ…

伊織(春香の『スタンド』が…)

伊織(冷蔵庫を開けて、飲み物を…?)

春香「ほら、こんな風に離れたものを取りにいくのなんて簡単だし」ス…

春香「壁も抜けられる。冷蔵庫と壁の隙間に矢を仕掛けたのもこれだし」パシッ

伊織「そ、そう…」

春香「それに…」プシュ

春香「嫌な相手を事故に見せかけて殺すことだって…できる」グビッ

伊織「なっ…!」ゾクッ

春香「ま…もちろん、そんなことはやらないけど」プハァ

春香「『できる』っていうのが大事なの」

春香「どんな嫌なことがあっても…『絶対の自信』…『絶対の精神的優位』…それがあれば、何も気にならない。どんなことにだって耐えられる」

伊織「人殺しさえ『できる』能力ですって…」

伊織「そんな危険なものを増やしてるの、あんたは!? 戻しなさい!!」

春香「戻せないよ」

春香「一度スタンド使いになったら…『戻す』スタンドでもなければ、戻すことはできないんじゃないかな」

伊織「なんですって…!」

春香「もう、伊織は深刻に考えすぎだよ」

伊織「あんたが軽く考えすぎなのよ!」

春香「伊織は誰かを殺そうだなんて、考えたりしないでしょ?」

伊織「…は?」

春香「え…もしかして、伊織…」

伊織「い、いえ…そうだけど…」

春香「だ、だよね~! よかったよかった」

春香「さっきは、殺すだとか変なこと言っちゃったけど…」

春香「『スタンド』はハサミとか包丁と同じなんだよ」

春香「危険だけど、使いこなせば便利なんだから」

伊織「あんたにとって…これって、そういう認識なのね…」

春香「あはは…例え、変だったかな?」

伊織(な、なんだ…いつもの春香じゃない…)

伊織(あの冷たい視線は…少し、気になるけど)

伊織「はぁ…わかったわよ」

春香「!」

伊織「『スタンド』のことよく知らないのに、騒ぎすぎたわ」

伊織「もしも『殺人鬼』とかが持ったら大変だけど、普通の人なら何の問題もない。そういうもんなのね」

春香「わかってくれたんだ、伊織!」

伊織(最初は得体が知れなくて不気味だったけど…持ってるだけなら、別に問題はなさそう)

伊織(むしろ、春香がさっきやったみたいに、遠くのものを取りに行ったりできるなら便利かもしれないわ)

伊織「ただあんた、何の説明もせず『矢』を仕掛けんのやめなさいよ? 心臓止まるかと思ったわ」

春香「えへへ…」

伊織「笑ってんじゃあないわよ。本ッ当に、やめなさいよ…」

春香「ご、ごめんごめん…」

伊織(春香はおかしいけど、別に『悪意』を持ってやってるわけじゃあないみたいだし…)

伊織(不意打ちみたいなことをやられなければ、これ以上『スタンド使い』とやらが増えることもないでしょ)

伊織(説明された上で受け入れるんなら自己責任。伊織ちゃんの知ったことじゃあないわ)

春香「でもさ…」

伊織「ん?」

春香「他に何人か、伊織に話したことと同じことを言ったんだけど…」

伊織(………)

伊織(は?)

伊織(この話をしたのは、私一人じゃあない…?)

伊織(いえ、この『矢』が事務所に来てからもう一ヶ月も経ってる…むしろそっちの方が自然…)

春香「『この矢を壊せ』だなんて言い出してきた子がいたの。しかも、2人も!」

伊織「…そう」

伊織(当然よね。なんだかんだで危険なものには変わりないもの)

春香「確かに、この矢のせいで社長は死んじゃった…けど…!」ギュゥゥゥ

伊織(「けどって何よ! 私も同じ意見、そんなもんすぐに壊しなさい!」)

伊織(正直そう言いたいわ。でも春香のことは… ………)

伊織(あまり、刺激しない方がいい気がする…)

伊織「まぁ、私は死んではいないわけだし…」

伊織「この『スタンド』も…よくわからないけど、あんたの話によると悪いものではないみたいね」

春香「そうだよね!」パァッ

伊織(この嬉しそうな顔…)

春香「それなのに、壊そうだなんて言ってくるんだよ…ひどいよね?」

伊織「はいはい、そうね」

春香「伊織がわかってくれてよかったー」

伊織(『スタンド使い』になったから。それで意識が変わって、春香達は急成長したのね)

伊織(となると、事務所の空気が変わったのも同じ理由ね。ここ数日の違和感はそれが原因かしら)

伊織(はっきり言って『矢』とか『スタンド』が不気味なことには変わりないけど…)

伊織(春香はそれを使って誰かを『殺そう』だとか、そんなことは考えてはいない。なら危険はないわ)

伊織(『矢』を壊そうと言っている2人のことは気になるけど…伊織ちゃんには関係ないことだし)

伊織(…長引くようならその時は考えなきゃいけないかもしれないけど…)

伊織「ところで春香、そろそろ帰らない? もう遅いわ」

春香「あ! ちょっと待って伊織!」

伊織「何よ。まだ何かあるの?」

春香「さっき言った『2人』なんだけど」

ドドド

伊織「………」

伊織(空気が変わった…)

春香「なんか、2人ともすっごく強い『スタンド』持ってて…私の『アイ・ウォント』でも結構手こずりそうなんだよね…」

伊織「………」

ドドドドド

春香「だから、協力してほしいんだ! 伊織みたいに、この『矢』のこと、ちゃんとわかってもらうために!」

伊織「…その、『スタンド』でわからせるってこと?」

春香「できるだけ、そういうことはしたくないつもりだけど…」

春香「でも、あっちも『矢』を壊すためにスタンドを使ってくるから」

伊織「ふーん…」

春香「それで、伊織は手伝ってくれるよね?」

伊織「それは嫌。一人でやってちょうだい」

春香「…え」

伊織「話はいい? もう帰るわよ」

春香「…手伝ってくれないの?」

伊織「ええ」

伊織(どっちかと言えば私もその2人と同意見だし)

伊織「あんたがそれを大事なものだと思ってるんなら、別に折ることはないと思うけど」スタ

春香「仲間なのに?」

伊織「『アイドル』としては同じ事務所の仲間だと思ってるけどね」

伊織「どうしても、って言うならそいつらと話し合いくらいしてあげるけど、『スタンド』を使えっていうならお断りよ」スタスタ

春香「ふーん…」

伊織「だいたい、複数人で…」

春香「じゃあ、伊織は敵だ」

・ ・ ・ ・ ・

伊織「………」ピタ

伊織「は…」クル

ゴゴゴゴゴ

春香「『アイ・ウォント』」

ゴゴゴゴゴ

伊織「ちょっ…」

春香「ねぇ、伊織…」

伊織「……」タラ…

伊織(矢を壊す…)

伊織(その理由がわかった。やっぱり春香はおかしい…!)

伊織(『危険はない』…今はまだそうかもしれない。でも、こいつに矢を持たせ、野放しにしていたらいずれ大変なことになる…!)

春香「早めに考え直してくれると…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織(『スタンド』…殺人さえできる『能力』! それを向けてきている…私に!)

春香「ありがたいんだけどなぁ」

伊織(春香の目は本気だ…マジにやる気なの!?)

ドドドドドドド

伊織「ほ…」

伊織「本気なの…?」

伊織「頼みを断ったくらいで『敵』だなんて…おかしいわよ、あんた」

春香「むしろ、なんで断るかなぁ…仲間なら、仲間である私の手伝いくらいしてくれていいよね?」

春香「嫌ってことは、つまり私とは仲間になるつもりがないってこと…でしょう?」

伊織「それは…」

春香「伊織、正直に話してくれていいよ。何かあったら今のうちに聞いておこうかなって」

春香「どうせ、最終的に考えを改めてもらうことになるから」

伊織「なにそれ。脅しのつもり…?」

春香「別にそういうつもりはないんだけど」

伊織「私をどうする気…?」

春香「どうもしないよ。私だって仲間相手に手荒な真似はしたくないし」

伊織「仲間相手に、ね…」

春香「そう。伊織が仲間になってくれるなら、だね」

伊織「嫌って…言ってんでしょ」

春香「ふーん…まぁ、そう簡単に考え直してはくれないよね伊織は…」

春香「じゃあ、いいよ。その気になるまで追いつめるだけだから」

伊織「人を『スタンド使い』にしておいて、協力しなければ消す…」

伊織「随分勝手な言い草ね…」

伊織「嫌なら、最初から『矢』なんて使わなければいいのに」

春香「ええ? だって…私達がみんな持ってるのに、伊織が一人だけ『スタンド』を持ってない…なんて『不公平』だよね?」

伊織「は…」

春香「ちゃんと事務所のみんなで共有しなきゃ」

伊織(こいつ…『善意』だ…)

伊織(善意でこんな得体の知れないものを使って、『スタンド使い』を増やしている…)

伊織(『スタンド』はこいつの中では『ステキなもの』でしかなく、相手を『スタンド使い』にすることを、自宅で作ってきたクッキーをみんなに振る舞うようのような感覚で考えている…!)

春香「まぁ、だからスタンドは関係ない」

春香「だけど、伊織が私に協力しないというなら、それはもう『仲間』じゃあない…『敵』でしょう?」

伊織「…それで…敵ならどうするってのよ?」

伊織「私を殺すの…?」

春香「うーん…とりあえず、二つ約束するね」

伊織「?」

春香「まず一つ、伊織を殺したりは絶対にしない」

春香「だから安心していいよ。伊織の言う通り、一応アイドルとしては今まで通り仲間だしね」

伊織「………」

春香「それともう一つ、伊織の気が変わって『仲間』になるっていうならすぐにでも攻撃をやめる」

春香「だけど、それ以外のことと…もしも伊織が『仲間になる』といいつつ裏切るようなことがあれば…」

伊織「しないわよ、そんなこと…」

春香「今言ったことは、何も保証できないかなぁ」

ドドドドドド

伊織(…給湯室の冷蔵庫の前…)

伊織(壁と仕切りに囲まれ、出られる通路は一カ所)

伊織(とりあえず…考える時間が欲しいわ)

伊織「殺さないと言ったけど…」

春香「うん」

伊織「それって、『殺すより酷い目に遭ってもらう』とか…そういう意味かしら…?」

伊織(その通路は春香に塞がれている)

伊織(出口はすぐそこにあるのに…)

春香「さぁ…どうだろうね」

春香「私もスタンドを完璧に使いこなせるわけじゃないから、手加減とかはあんまりできないし」

伊織(! 『スタンド』…)

伊織(そうよ、スタンドなら私にも使えるはず…だったら、これでどうにか…!)

モクモク…

伊織(ああ、もうっ! やっぱり煙が出てくるだけじゃない! これでどうしろって言うのよ!)

春香「伊織、そろそろいい?」

伊織「!」

春香「考えたところでどうにかできるとは思わないけど…伊織に思惑通り長引かせるのも…ね」

伊織「…!!」

春香「『アイ・ウォ…」

伊織「ちっ…」スッ

ドシュゥゥ

春香「んっ!?」シュッ!

バキャッ!!

春香「何か投げてきたようだけど…」

春香「全然意味ないよ~。これくらいのものを叩き落とすなんて簡単なことなんだから」

伊織「あんたが今叩き落としたそれ…よく見なさいよ」

春香「え?」

春香「コーラの…缶?」ギギギ…

伊織「炭酸でも喰らってなさい!」

ブシュゥゥゥ!!

春香「きゃっ!」バシャァァァ

伊織(今よ!)ダッ!!

伊織(この給湯室は仕切りに囲まれ、出口も春香に塞がれている…でも!)グググ…グイッ

ガシャァァァン

春香「え、何?」ゴシゴシ

伊織(この仕切りを倒せば、関係ない! 事務所の入り口はすぐそこにあるわ!)バッ

春香「うぇ、服がベトベトだぁ…」

伊織(今の春香とはまともに話し合える気がしないわ、相手にしない方がいい)ガチャ

伊織「………え?」

ドドドド

伊織(扉の外は…)

ドドドドドド

伊織(また、『事務所の中』…!?)

伊織(何かがおかしい、『奇妙』…!)

春香「伊織ぃ~っ」

伊織「!!」ビクゥ!

春香「まさか伊織があんなことしてくるとは思わなかったけど…」

春香「逃がさないよ?」ガシッ

伊織「ひっ…」

ズリズリズリズリ

伊織「きゃあああああああああああ」

伊織(春香の『スタンド』に引っ張られる…ッ!!)

ポイ!

伊織「きゃっ!」ドサ!

伊織「く…」

伊織(事務所のソファ…出口が遠のいてしまった)

春香「はぁ…ビチャビチャだよ、もう…」

伊織「そ、そんなことより春香…」

春香「ん?」

伊織「さっきのは何…?」

春香「さっきのって?」

伊織「私が事務所を出ようとしたら、また事務所が…」

春香「ああ…」

春香「それって、こういうこと…?」グニャァーッ

伊織「!?」

デロデロデロデロ

伊織「な、何よこれッ!!」

ドロドロ

伊織(天井は溶け…足場は真っ暗…事務所の壁には目が…)

春香「これが…」ズル…

ゴロン

伊織「ひっ!?」

伊織「あ、あんた…頭が…」

春香「これが私の『アイ・ウォント』の能力」ギョロ

伊織「能力…?」

春香「うん、スタンドにはそれぞれ特別な力があるの。ただ動いたり飲み物を取ったりするだけが能じゃあない」ゴロゴロ

伊織(で、でも…まさか、首が取れるのが能力とか…そんなわけないわよねぇ~っ…?)

伊織「あ、あんたの能力…」

伊織「『幻覚』を見せる能力ね!? こんな悪夢のような光景が、現実のはずが…」

ピタ…

春香「まぁ、確かに…」ヒョイ

春香「今、伊織が見ているのは幻覚。だけど、『アイ・ウォント』はそれだけじゃあない」トス

伊織「それだけじゃないって…」

春香「スタンドは精神力のエネルギー」

ス…

伊織(景色が戻った…)

春香「だから、卑怯な手を使ったり…自分の手中を隠すような人のスタンドは『弱い』」

春香「『公正さ』は力。フェアであること、それはすなわち自分の手を明かしても負けるはずがないと確信できる心」

伊織「一体何の話…?」

春香「だから、言うね」

春香「私のスタンド『アイ・ウォント』の能力は『五感支配』」

ドドドドド

伊織「は…」

ドドドドドドド

伊織「五感支配…ですって…?」

春香「そう、『支配』。『剥奪』じゃあない…まぁ、やろうと思えばそれもできるけど」

春香「『視覚』、『聴覚』、『嗅覚』、『味覚』、そして『触覚』」

春香「ゲームのコントローラで画面の中のキャラクターを動かすように…私は人の五感を自由に操ることができる」

ドドドドドドドド

伊織「…………」

伊織「じゃあ、今のは…」

春香「伊織の『視覚』を奪って見えないものを映したの。実際は今見てる通り、いつも通りの事務所」

伊織「さっきの出口も…」

春香「伊織の目には事務所の中に見えたけど、廊下と階段があっただろうね」

伊織(…っ! なんてこと、あのまま外に出てれば…)

春香「構わず外に出てたら逃げられた…そう思ってる?」

伊織「!」

春香「違うんだなぁ。伊織があそこで足を止めたのは、伊織の意志でしょ?」

伊織「あんたの能力がわからず躊躇しただけで…」

春香「そうだね。でも、あの時点ではそんなこと知りようがなかった」

春香「いや、知ってても伊織の目からは事務所の中にしか見えない。階段を踏み外すかもしれない。踏み出す勇気はある?」

伊織「それは…」

春香「人はよく『運が悪かった』とか『あそこでああしてればよかった』とか言って後悔するけど…」

春香「物事は全て必然なんだよ。偶然だと思ったことも、自分の意志で決めたと思っていることもすべてなるべくしてなっている」

伊織「物事の結果はすべて決まってる…だから逆らっても無駄だって…そう言いたいわけ?」

春香「違うよ伊織、私が言ってるのはそういうことじゃあない」

春香「例えば、オーディションでランクが上のアイドルと対決することってあるよね?」

伊織「な、なによいきなり…」

春香「そういう時、私は気合いを入れて臨み…レッスンで身につけたことを生かし…そして、勝つ」

春香「周りは番狂わせとか何とか言うけど…私はそうは思わない。だって努力してるんだもん。オーディションの時点でどっちが上だなんて、誰もわからない」

春香「そして、私の方が上だったから…あるいは、審査員の贔屓もあるかもしれない…でも、勝利したのならそれは偶然ではなく必然…でしょう?」

伊織「………」

春香「大事なのは成功を必然に変えようとする『意志』なんだよ、伊織」

伊織「…なんとなく、わかったわ…」

伊織「どの道…あの時点では私は逃げることなんて出来なかった」

伊織「だけど、これからはわからない。だから、私は自分にとってよい方向に行けるようにするべきだって、そういうこと…?」

春香「イエス!」

春香「…と言いたいところだけど、少し違うかな」

春香「伊織がどれだけ抵抗しようが、どれだけ逃げようとしようが」

春香「最終的に私の『アイ・ウォント』に屈することになる。これも…」

春香「必然だよ、伊織」

伊織(得意気にペラペラ喋ってるけど…)

伊織(無防備極まりないわ、自分のスタンドにそれだけの自信を持っていると言うことなんでしょうけど)

伊織(自信は慢心…だったら、春香の弱点はきっとそこにある…これも『必然』よッ!)

伊織(だけど、こっちはスタンドすらまともに操れない…どうする…?)

ドドドドドドド

伊織(春香は『油断』している…)

伊織(なら、倒せないにしても…出し抜いて逃げることはできるはず…)

春香「伊織が何考えてるかわかるよ」

伊織「!」

春香「私から逃げようと考えてるでしょう?」

春香「無理、無駄無駄。私の『アイ・ウォント』からは逃れられない」

伊織「…せいぜい調子に乗ってなさい」

春香「ねぇ、伊織。スタンドは才能だって私言ったよね?」

春香「こんな素晴らしい才能を手にしてしまったら、調子になんて乗らずにいられないよ」

伊織「私にはそんなにいいものとは思えないけど」

春香「伊織も、そのうちわかるよ」

伊織「わかりたくも…ないわ」

春香「さてと」

伊織「…!」

春香「いつまでもお喋りしてても時間の無駄だよね。無駄」ザッ

伊織(来る…!! ソファから逃れなくては…)

春香「ヴァイッ!!」ブオン!

伊織「うおおっ!?」ゴロン

春香「んっ」ドムッ!

伊織(ちょっとは速いけど…避けられないものでもない…)

伊織(それに、ソファを見るにパワーも大したことはないわ…)

伊織(な、なんだ…スタンドってもっとヤバいと思ってたけど、どうしようもないようなもんじゃあないのね…)ドッドッドッドッ

伊織「あ…あんたどこに目ついてるのよ、全然見当外れのところを殴ってるわ!」

春香「違うよ…これで、スイッチは入った。伊織の『聴覚』は私の『アイ・ウォント』が出した音を捉えた」

伊織「え…?」

春香「今の風を切る音…あるいは、ソファを叩く音…聞いたよね? それがスイッチ」ボソッ

伊織「ひっ!?」ゾワッ

伊織(後ろから…! 耳元で話しかけられるこの不快感ッ…!)チラ

春香「後ろ見ても誰もいないよー?」

伊織「あ、ああ…」

伊織(春香は目の前にいるのに…声が変な方向から…)

春香「伊織って毎日美味しいもの食べてるんだよねー、いいなぁ」
春香「ねぇねぇ、先週のライブどうだった? どうだった? どうだった?」
春香「あははははははははは」

伊織(いや…それだけじゃあない、あちこちから春香の声が聞こえる…ッ!)

伊織「あああああ…っ!!」バッ

春香「耳を塞いでも無駄だよ、『聴覚』に直接訴えかけてるんだよ?」
春香「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
春香「ねーねースタンドまだ?」
春香「はぁ…疲れてるプロデューサーさんの肩揉んであげたい」

伊織(これが…『聴覚支配』…春香の『スタンド』の能力…!)

春香「ね…これだけでいいんだよ。私の『アイ・ウォント』を『五感』に知覚させる…」

春香「臭いを嗅がせれば『嗅覚』、肌に触れれば『触覚』、さらに舌に触れれば『味覚』も、私の想い通りになる」

春香「本当はさっき冷蔵庫を開ける『音』を聞かせた時点で『聴覚』は奪ってはいたんだけど…こうした方がわかりやすいでしょう?」

伊織(知覚した瞬間…ですって!?)

伊織(つまり…『視覚』は春香のスタンドを見た時点で既に奪われているということ…!)

伊織(視覚や聴覚から得られる情報量は多い…そして、その二つを優先的に奪われる…ということ…!!)

伊織「春香、この声を止めなさい…!!」

春香「えー」

伊織「止めろって言ってんのよッ!!」

春香「やだよー。伊織が降参して謝るならすぐにでも止めてあげるけど」

ゴチャゴチャペチャクチャクチャクチャ

伊織「ああああっ…!!」

伊織(気が変になる…!)

春香「ほらほら、降参しなよ? 脳が破裂するよ?」

伊織「あんたが止める気ないって言うなら…」ガシッ

春香「あ…傘。誰かが置き忘れたのかな?」

伊織「その元凶を止める…!!」グオォ

春香「『アイ・ウォント』を狙う気…?」

ブオン!!

スゥ…

・ ・ ・

伊織「あ…」

伊織「当たらないッ!! どうして!?」ブンッ!!

春香「スタンドはスタンドでしか倒せない」

春香「スタンドからものに触ることはできるけど、その逆はできない。無駄だよ」

春香「もちろん、伊織もスタンドを使えば『アイ・ウォント』には触れるけど…」

伊織「ぐ…」

春香「できたらもうやってるよね?」

伊織「だったら、操ってるあんたを…」

春香「え?」

伊織「…叩く!」ブンッ!!

春香「わっ!?」バッ

伊織「はぁ、はぁ…」

春香「や…やめなよ伊織、そんなの人に振り回しちゃ危ないよ」

伊織「うるさいっ!!」ブンッ

バキッ!!

伊織「!!」

春香「………」フラ…

バタン!

伊織「あ…」

ドクドクドク…

伊織「ひっ…!」

伊織(な、なんで避けないのよ…!?)

伊織「ああ…春香…!」

春香「あーあ、伊織がそういうことするなんてねぇ」

伊織「!?」バッ

春香「うわ、モニターが完全に割れちゃってる…みんながっかりするだろうなぁ」

伊織(テレビが壊れている…私が殴ったのはこれか…)

伊織「い、今の…『視覚操作』ね…」

春香「そうだよ。一度奪った感覚は『射程距離』の外に出るまではいつでも支配できる」

伊織(射程距離…? 能力には範囲がある…?)

伊織(それより、いつ切り替わったの…? 全然気づかなかった…)

春香「でも、本当に私に当たってたら、今伊織が見たようになってたんだよ? 結構本気で殴ってたよね」

春香「ひどいなぁ、伊織」

伊織「う…」

伊織「………」

ドサ

春香「あ、捨てちゃうんだ? 持っててもよかったのに」

伊織(スタンドだとか…殺すだとか…)

伊織(何が現実で何が幻覚なのかもわからなくなる…このままだと春香にじわじわと心を壊されていくわ、きっと)

伊織(そうなったら、自分でさえどういう行動に出てしまうかわからない…)

伊織(だけど、『アイ・ウォント』…わかったこともある)

伊織「春香…いつの間に『視覚操作』に切り替えたのかは知らないけど、『聴覚操作』は消えていたわ」

伊織「あんたが操れる『感覚』は、一度につき『ひとつ』までのようね」

春香「うん、そうだよ」

伊織「く…」

伊織(こいつ、少しも動揺しないわ…慢心が過ぎる)

伊織(能力の制限がバレることなんて、蚊に刺されるほども気にしていない…)

伊織(でも、一度につき『ひとつ』…『ひとつ』の感覚しか操られないのなら…)

伊織「………」ピタ…

春香「あれ? どうしたの伊織。降参?」

伊織「別に…あんたは直接手を出してこないみたいだし、下手に動かない方がいいと思っただけよ」

伊織「私から動かなければ、『視覚操作』はあまり意味をなさないわ。変な幻惑見せられたところでどうってことないし」

春香「へぇ、じゃあ…」

ゴチャゴチャワサワサガーンゴーン

伊織「!」

伊織(来た…『聴覚操作』!)ダッ

春香「あ」

ペラペラカサカサペラペラ

伊織(くうっ…うるさい!! だけど、我慢しなきゃ…)

伊織(『視覚操作』されていては正しい出口もわからないけど…『聴覚操作』されているならそういう心配はない!)

伊織(逃げないと…とにかく、春香から遠くへ…!!)

………

伊織(音が消え…『視覚操作』!?)

伊織「あうっ!?」ドンガラガッシャーン

伊織(つまずいた…何よ、こんな時に…!!)

春香「大丈夫伊織? 手貸そうか?」

伊織「わ…私に近づくなッ」ダッ

伊織「きゃっ!?」ドンガラガッシャーン

伊織(ま、また…? こんな何もないところで…)

春香「ひどい転びっぷりだねぇ」

伊織「あんたに言われたく…」グイ…

伊織「ひゃっ!!」ドンガラガッシャーン

伊織(立てない…! 何度やっても転んでしまう!)

春香「『触覚操作』」ザッ

伊織「…!!」ビクッ

伊織(追い…つかれた…)

春香「熱いものに触れれば手を引っ込めるように…人間には経験や本能による反射行動が身体に刻み込まれている」

伊織(逃げなきゃ…春香から逃げなきゃ…)スクッ

春香「踏み出した瞬間、グイッ! と足を引っ張るような感触があれば…」

伊織「うっ!?」ガクッ

春香「体性反射により足の筋肉は硬直して…」

伊織「きゃあああっ!!」ドンガラガッシャーン

春香「何もなくても、バランスを崩して、転ぶ」

伊織「あ…あんたのせいなの…? あんたの『アイ・ウォント』がやってるの…?」

春香「痛覚とか熱を感じる神経は厳密には『触覚』とは違うから、私の『アイ・ウォント』じゃあ支配できないんだよね」

伊織「そんなことを聞いてるわけじゃ…」グッ

伊織「あ…れ…」ガクガク

春香「そして、行動によって生まれる『痛み』は体に刻み込まれ…」

春香「『立とうとすれば転ぶ』、それを学習した肉体はやがて立つこと自体を拒否し始める」

伊織「そんな…こと…」

伊織「う…」ブルブル

春香「もう、伊織は立てない」ザ…

伊織「あ…」

伊織「あああああああああっ!!」ガバッ

春香「そこに跪いて」

伊織「あぐっ…!」ドサァ

ドドド

伊織(春香からは手を出してこないのは…)

春香「これで逃げられないのはわかってくれたと思うけど」

伊織(こっちが何をしても、無駄だとわからせるため…)

春香「次はどうされたい?」

伊織(こうやってじっくりと、私の心を折るためだ…)

ドドドドド

春香「『視覚支配』で失明ギリギリの光を浴びせるとか」

伊織(ヤバい…)

春香「『聴覚支配』でさっきみたいにあちこちから話しかけるとか…」

伊織(思った以上に『無敵』すぎるわ、春香のスタンド…)

ドドドドドドド

春香「『触覚支配』で死ぬほど笑わせるとか」

伊織(『春香が相手なら大丈夫…なんとかなる』)

春香「『味覚操作』で変なものを味わせるとか? 舌に触らないと駄目だけど」

ドドドドドドドド

伊織(そう、心のどこかで思っていたのかもしれない)

春香「『嗅覚操作』で…伊織、ドブの臭い嗅いだことある?」

伊織(油断していたのは…私の方…?)

春香「ねぇ、どうされたい? 伊織」

ドドドドドドドドド

伊織「私…」

伊織「さっき、傘を持って暴れたけど…その時に、結構大きな音が出たはず…」

春香「そうだね」

伊織「何で誰も気づかないの…律子は…」

春香「さぁ…どうしたんだろう?」クスッ

伊織「…!」ゾワ…

伊織(『アイ・ウォント』が支配できる感覚が、『一人につきひとつ』だとしたら…)

伊織(いや、それとも…)

春香「ほら、早く降参してよ伊織」

伊織(どっちにしろ、助けも期待できない…)

春香「強情張ってもいいことなんて何もないよ」

伊織(必然…)

伊織(私は、最初からすでに追いつめられていた…)

春香「伊織、もう一度聞くね。私に協力して」

春香「協力してくれるなら、『再起不能』(リタイア)にはさせないであげる…『アイ・ウォント』もすぐ解除するね」

春香「ねぇ、いいでしょ伊織?」

伊織「………」

伊織「わ…」

春香「一緒にトップアイドル目指そうよ!」

伊織「!」

春香「?」

伊織「………」

伊織「春香…一緒にトップアイドル目指そう…ですって? 冗談じゃあないわ」

伊織「こんな得体の知れないものを使って人を傷つけるような奴と…何を目指せってのよッ!!」

春香「なんで伊織がそこまで拒むのか、私にはわかんないよ…」

伊織「他の奴らにも聞いてみなさいよ…あんたに着いていく奴なんて…」

春香「もう765プロメンバーのうち7人…半分以上は私の方につくと言っているけど、それでも?」

伊織「………」

ドドドドドドドド

伊織「え…」

伊織(7人…? もう、事務所のメンバーのほとんどはスタンド使いで…)

伊織(そのほとんどが春香の味方ってこと…?)

ドドドドド

春香「あの2人とあの厄介なスタンド…」

春香「それらを倒せるくらいの戦力はもう揃っている」

春香「でも、やっぱり伊織にも本当の意味で『仲間』になってほしいから」

伊織(………)

伊織「あんた、私に『仲間』になってほしいのよね」

春香「うん!」

伊織「私が『仲間』になると言えば…もう手は出さないと約束してくれるのよね?」

春香「うん、うん! それじゃあ…」

伊織「嫌よ」

春香「………」

春香「は…?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「私の体…ボロボロよね」

春香「それは伊織が転んだから」

伊織「あんたがやったのよ」

春香「だって伊織が逃げようとするから」

伊織「相手を思いやれないヤツに、本当の『仲間』なんてできるわけがない」

春香「………」

伊織「以前のあんたはそれができる奴だった…でも今のあんたは違う! 相手を恐怖で『支配』して、それが『仲間』であると思い込んでいるだけよッ!!」

伊織「アイドルとして…人として、あんたの仲間になんて絶対にならないわ…!」

春香「……はぁ」

春香「言いたいことはそれだけかな」

伊織「春香ッ!!」

春香「伊織がそこまで嫌だって言うなら、もういい…」

春香「もう、引き止めることはしない。これからは『敵』と見なす」

春香「『団結』を乱す伊織には、消えてもらうよ」

ゴゴゴ

春香「『アイ・ウォント』」

ゴゴゴゴゴゴ

春香「私の誘いを断ったことを後悔するといい」

伊織(やっぱり…今の春香には何も通じないみたいね…)

伊織(だったら、やっぱりこんな奴の下につくなんて…)

伊織(死んでもごめんだわ)グッ

モクッ!!

春香「わぷっ!?」ボフッ

伊織「!?」

春香(『煙』…天井に溜まっていた…!?)

伊織(う、動いた…私のスタンドが…)

伊織「っ!」ダッ

春香(伊織の『スタンド』…)

春香(さっきまで全然動かなかったのに、追いつめられて力を発揮したのかな)

春香「伊織、待…」

ググググ

春香「きゃっ!!」ドテッ

春香(煙に押し戻…される)

伊織(逃げる…みっともなくたって、今は春香から逃げることが最優先!)

春香(前が見えない…そして、この『パワー』…)グイグイ

春香(『押す』力が強い! 窮鼠猫を噛むと言うけど…この伊織のスタンド、パワーは『アイ・ウォント』よりも上…!)

春香「でも逃がさない…『触覚操作』」グイ

・ ・ ・

春香「…………?」

春香(倒れる音がしない…?)

ズル!

春香「!」

ズルズルズル…

春香(………)

春香(この『煙』…私を押し戻すだけじゃなく、伊織を引っ張っている…?)

春香「邪魔…ヴァイッ!!」ゴオ!

ブオン!!

スゥ…

春香「………」キョロキョロ

春香「伊織…?」

春香(『アイ・ウォント』の手応えがない。もう射程距離の外…ということは)

スタスタ…

春香「……」ガラッ

ダッダッダッ

春香(伊織はもう窓の外)

春香「うーん…」

春香「逃げられちゃったかぁ」

伊織「はぁ、はぁっ!」ダッダッダッ

伊織「私の『スタンド』…不意打ちみたいなものだったけど、春香に通用したわ…」

伊織「でも、逃げるのが精一杯…春香の…」

伊織「…はぁっ! 『アイ・ウォント』… ………」

伊織「『五感支配』…ですって? あんなもん、どうやって倒せっての…!?」

伊織「っていうか…逃げたはいいけど」

伊織「明日また事務所で顔合わせなきゃならないじゃない! どうすんのよ畜生ッ!」

To Be Continued...

スタンド名:『アイ・ウォント』
本体:天海 春香
タイプ:近距離パワー型・人型
破壊力:C スピード:C 射程距離:D(5m) 能力射程(能力が続く範囲):C(10m程度)
持続力:D 精密動作性:C 成長性:A
能力:相手の五感を支配する、春香のスタンド。
相手に『アイ・ウォント』を知覚させることで、その感覚を奪うことが出来る。『触覚』『味覚』以外は直接触れる必要すらない。
姿を見せるだけでいいので、スタンド使い相手なら『視覚』はとりわけ容易に支配できる。
『五感支配』にスタンドパワーの多くを割いているため、スタンド自体の性能はそれほど高くなく、『人間より強い』程度のパワーしかない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

伊織(私が春香の手によって『スタンド使い』にされてから…)

伊織(数日が…経った)

あずさ「伊織ちゃん、おはよう~」

伊織「おはよう。あずさが私より先に来てるなんて珍しいわね」

美希「デコちゃーん、ミキのおにぎり知らない? ここに置いといたんだけど」

伊織「知らないわよそんなの。それと、デコちゃん言うな!」

伊織(なんて言うか…私が心配していたような出来事は何もなく、みんなの態度も拍子抜けするくらいいつものままだった)

伊織(この中のほとんどが『スタンド使い』だなんて…とても信じられない)

春香「おはよー!」

伊織「…っ!」ビクッ

春香「あれ、どうしたの伊織? おはよう!」

伊織「………」

伊織「ええ、おはよう春香」

伊織(春香もまた…以前と変わらぬように私に接してくる。少なくとも表面上は…)

真美「ピヨちゃーん、ここのボスが倒せないよー! 攻略法教えてー」

小鳥「うぇぇ…ごめん、ちょっと後にして…徹夜でねむい…」ガクゥ

響「うわっ、ピヨ子が倒れたぞ!」

伊織(事務所は何一つ変わっていない。少し違和感はあるけれど、私がスタンド使いになっても以前と同じように動いている)

伊織(こうもいつも通りだと、あの出来事自体が何かの間違いなんじゃないかと思いたくなるわね)

伊織(だけど…)チラ…

春香「………」

ドドドドド

伊織「………」

春香「………」ジ…

ドドドドドドドド

伊織(監視… ……)

伊織(されている…春香に…)

春香(流石に、こんなところで堂々と手は出してこないみたいだけど)

伊織(あの顔…『伊織なんていつでも始末できる』…そういう顔をしてるわね)

律子「春香」

春香「はい? 律子さん?」

律子「もうすぐ仕事でしょう? 送ってくわよ」ガチャ

春香「あ、はい。お願いします!」タッ

バタン!

伊織「ふぅ…」

伊織(春香は今や押しも押されもせぬ有名アイドル。スケジュールはギチギチ…)

伊織(それに、敵対者は私の他にもあと『2人』いる)

伊織(今は私の相手をしている暇なんてないんでしょうね)

伊織(でも、春香も納得はしていないでしょう。スタンドもろくに使えない私を一方的にいたぶって…その上逃げられたんじゃ…)

伊織(いずれ、仕掛けてくるはず…)

伊織(とりあえず、遅くまで事務所に残るのはやめておいた方がいいか…)

やよい「伊織ちゃん!」

伊織「あら、やよい。どうしたの?」

やよい「えっと、今日、弟のお誕生日パーティーをやるんだけど…」

伊織「へぇ、そうなの?」

やよい「せっかくだし伊織ちゃんにも来てほしいかなって」

ゴゴゴゴゴゴ

伊織「………」

伊織「やよい、他には誰か来るの?」

やよい「えっと、響さんと…千早さんと…」

伊織「あいつら…」

やよい「それと、春香さんも!」

伊織「!」

やよい「伊織ちゃん、来てくれるかな…?」

ゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「………」

伊織「い… ………」

伊織「行けないわ。今日の夜は、予定があるのよ」

やよい「そっかー…」シュン

伊織「ごめんなさい、やよい」

やよい「ううん、予定があるなら仕方ないよね…」

やよい「それじゃ、今日も頑張ろうね!」

伊織「ええ」

トタトタ

伊織(やよいが私を騙すとは思えないけど…)

伊織(万が一ということもある…春香が来る以上、安全とは思えないわ…)

ザ…

真「あれ? 伊織、どこ行くのさ」

伊織「ちょっと、外の空気を吸ってくるわ」ガチャ

バタン

伊織「………」

伊織(春香を…)

伊織(春香を倒さなくては…)

伊織(春香を倒さなくては、私は一生春香の影に怯えて生きなくてはならなくなる! そんなのは嫌ッ!)

伊織(あいつのせいで、私は事務所の仲間をも疑わなければいけない…こんなの、耐えられないわ!)

伊織(だけど、私は一人…それで春香を倒す…できるの?)

伊織(…矢を壊そうとしている『2人』…できれば、協力して春香を倒したいけど…)

伊織(誰が『敵』で誰が『味方』なのかもわからない…)

伊織(春香の側は、春香を入れれば『8人』…下手に誰かに話しかければ、その中に当たってその場で始末されてしまうかもしれないわ)

伊織(まず、さっき話しかけてきたやよい)

伊織(敵とは思いたくないけど、やよいは何も疑わず仲間に加わるタイプね…)

伊織(あずさもそうかしら? いや、意外とそういうところはしっかりしている気もする…)

伊織(うーん…考えれば考えるほどワケわかんなくなってくるわね…)

伊織(待てよ…)

伊織(春香は、スタンド能力を『アイドルとしての才能』と言っていた)

伊織(その話が本当かどうかはともかく…春香がそう信じているということは、アイドルじゃない人間は『スタンド使い』ではないということ!)

伊織(小鳥は経歴が結構謎だし、律子はアイドルやってた時期があるから可能性はゼロじゃないにしても…)

伊織(少なくともプロデューサーは春香の仲間ではない!)

伊織「あーっ、だからなんなのよ~っ…! スタンド使いじゃないなら何の役にも立たないじゃない…」

伊織(一人一人考えるのはやめましょう。『春香の仲間にならないであろう人物』を考えた方が早そうだわ)

伊織(『スタンド使い』になり、春香に誘われた上で『矢を壊した方がいい』と言うようなのは…)

伊織(真、貴音、律子…可能性があるとしたらこのあたりかしら?)

伊織(律子は…あの日、事務所にいたにも関わらず、私達のいざこざに対し無反応だった)

伊織(春香の『聴覚操作』にやられていた可能性もあるけど…もしかしたら、もう…)

伊織(でも、真と貴音で断定できるわけでもないわ。そもそも、この中にいるとも限らないし…)

伊織(………)

伊織「あーっ、もう!」

伊織(考えるだけ時間の無駄! どうせ周りは敵だらけなのよ!)

伊織(だったらリスクを冒してでも動かなきゃ、最終的にやられるだけ!)

伊織(仲間を増やせれば儲けもの、春香の仲間に当たったら…)

伊織(返り討ちにしてやるわ! 春香の戦力を一人でも減らすッ!)

伊織(私の『スタンド』…)

モクモクモク

伊織(この『煙』のスタンド、練習して少しは使いこなせるようになった)

伊織(できることと言えば…)

…モクモクモク

ググ…

グオン!

伊織(昨日やったみたいに、ものを押したり引いたり)

伊織(それと…)

ガシッ

ヒュン!

伊織(掴んで投げるってことはできる)

伊織(『高校球児』よりはいい球投げてるんじゃあないかしら? よくわかんないけど)

おっと、まちがい

>伊織(昨日やったみたいに、ものを押したり引いたり)

伊織(この前やったみたいに、ものを押したり引いたり)

伊織(でも…)

ドォ!

ボフッ!

モクモク…

伊織(何かを殴ったりすること…これは、『不可能』…煙をぶつけた瞬間、スタンドは散ってしまう)

伊織(そして、『距離』…)

スゥゥゥーッ…

伊織(50mくらいは届く。かなりの『遠距離型』のようね)

伊織(でも、遠ざかれば遠ざかるほど…)

グ…

シン…

伊織(『パワー』も『スピード』も『正確さ』も落ちる…)

伊織(射程距離ギリギリでは本当に目くらまし程度にしか使えないわね…実際に使うとなると20mから30mくらいまでが限度かしら…)

伊織(10m以内なら、結構な『パワー』が出るわ。また春香が襲ってきても、パワーはこっちの方が上)

伊織(逃げる…だけなら、確実にできる…はず。戦うとなると、あの『五感支配』…ただでは済まないわね)

伊織(私が使えるのはこの程度。これで、どうにかするしかないか)

伊織「………」ガチャ

亜美「あ、いおりんおかえりー」

伊織「ただいま…」

伊織(今事務所にいるのは…やよい、真、雪歩、千早、美希、あずさ、亜美、真美、小鳥の9人…)

伊織(やよいと千早はパーティーがあるから駄目ね…まぁ、誰に話しかけるかなんて決まっているけど)

伊織「真」

真「ん?」

美希「あ、デコちゃんなの」

雪歩「伊織ちゃん、どうしたの?」

伊織「ちょっと真と話したいことがあるんだけど。来てもらっていいかしら?」

真「え? ここで話しちゃ駄目なのか?」

伊織「駄目よ、ちょっと大事なことなの」

美希「まさか…デコちゃん愛の告白?」

雪歩「え、そうなの!?」

伊織「違うわよ! あんた達と一緒にしないでちょうだい!」

美希「ちょっとしたジョーダンなの…」

真「ま、まぁ…ボクは構わないけど…」

雪歩「ええっ!? 真ちゃん、伊織ちゃんと付き合うのっ!?」

真「いや、そうじゃなくて…」

真「それで、話って何?」

伊織「春香のことよ」

真「春香…?」

伊織「テレビにグラビアに…大活躍でしょ。この伊織ちゃんを差し置いてあの活躍っぷりはちょっと生意気だわ」

真「あ、ああ…」

真「最近、凄いよね。ボクも負けてられないや」

伊織「そうよね、このまま負けっぱなしじゃ悔しいわ」

伊織(………)

モクモク…

真「!」

伊織(『煙のスタンド』…やっぱり、真も『見える』…みたいね…)

伊織「それで…」

伊織「春香は今日の夜、やよいの家のパーティーに出るみたいなのよ」

伊織「だからその間に…二人で春香を打ち負かすにはどうしたらいいか話し合いたいんだけど…」

伊織「来てくれるかしら?」

真「………」

真「みんながいなくなるまで…事務所に残ってればいいのかな…?」

伊織「ええ、そうね」

伊織「鍵をかけるまで律子かプロデューサーか小鳥の誰かしらが残るだろうから、事務所のどこかに隠れていましょ」

真「…わかった」

伊織(…これで、とりあえず真と二人で話せる)

伊織(話し合うにしても、戦うことになるにしても、二人きりの方が都合がいいわ)

伊織(戦うことになったら…大丈夫よ、この『スタンド』は強い。この伊織ちゃんのスタンドなんだから)

小鳥「………」キョロキョロ

小鳥「もう、誰もいないわね? 電気も消して…これでよしっと」

ガチャッ

………

……



パチッ!

伊織「ふぅ…やれやれだわ、暗い中でじっとしてるのって冷や汗出るわね」

真「伊織、電気つけちゃまずいんじゃあないか…?」

伊織「真っ暗な中で話し合いするわけ? 嫌よ私は」

伊織「小鳥が行ってからしばらく経ってるし大丈夫でしょ」

真「そうかなぁ…」

伊織「何か飲む? 冷蔵庫に入ってるものだけだけど」

真「うーん…水でいいや」

伊織「そう。台所に紙コップがあるから自分で汲んでちょうだい」

真「あれ、伊織が入れてくれるんじゃないのか?」

真「それで、話したいこと…」

真「春香のことだったっけ?」

伊織「…その前に一つ確認しておきたいんだけど」

伊織「真、あんた『スタンド使い』よね? 春香に『弓と矢』で貫かれて…発現した」

真「ああ、そうだ。あの『煙』…伊織もそうなんだよね」

伊織「じゃあ、どうして私がこうやってあんたを呼んだのかもわかるわよね?」

真「まぁ…ね」

伊織「まどろっこしいのは嫌いなんで単刀直入に聞くわ。あんた、春香の『敵』? 『味方』?」

真「………」

真「伊織はどっちなのさ?」

伊織「質問を質問で返すってのは感心しないわね。でも、ま…こっちから答える必要はあるか」

伊織「私は春香の『敵』よ」

真「………」

伊織「事務所のメンバーとしては今でも『仲間』だとは思っているけど…あいつのやっていることは許せないわ」

真「そっか…そうだよなぁ…」

真「ボクも…同じ意見だよ、伊織」

伊織「!」

伊織「それじゃ真、あんたは…」

真「…春香は『弓と矢』を使って『スタンド使い』を増やしている」

真「それだけならまだいい」

伊織「………」

真「春香は『仲間』を集めている」

伊織「断る相手は『アイ・ウォント』で脅して無理矢理…ね」

真「そう…」

真「伊織も、『スタンド使い』になったってことは、春香の『アイ・ウォント』を見たってことだろう? よく逃げられたね…」

伊織「まぁ、この伊織ちゃんにかかればね」

伊織「でも…逃げるだけが精一杯だったわ。まともに使いこなせなかったとはいえ、戦うとなると…一人じゃあまず勝てないでしょうね」

真「だからボクに声をかけたのか? 仲間を増やすために」

伊織「ええ、春香には敵対者が『2人』いるらしいから。真がそうだと思ったんだけど…」

真「仲間を増やしたところで…」

真「無理だよ。何人集まろうと、春香の『アイ・ウォント』には勝てない」

伊織「例えそうだとしても…私は春香を倒すわ。倒さなければいけない!」

真「いや、倒されるのはキミの方だよ。ここで、ボクにね」

伊織「!」バッ

ヒュッ

パリィィン!!

伊織(何かが天井にぶつかって割れた…)

伊織「ちっ!!」ババッ

ガシャァァァ

真「へぇ…悪くない反応だね。流石は伊織だ」

伊織「真、あんたは…」

ドドドドド

真「まさか、そっちから接近してくるとは思わなかったけど…」

伊織(春香に敵対する『2人』は『矢を壊そうとしている』人物…)

真「伊織が春香を倒そうとしているなら…放っておくわけにはいかないな」

伊織(真は…違うわ…)

ドドドドドドドド

真「ここで『再起不能』(リタイア)してもらうよ、伊織」

真「さぁスタンドを出せ、伊織」

真「ボクは春香のように甘くはないよ」

伊織「…あんたが春香の方に付くなんて思わなかったわ、真」

真「ボクとしては、伊織がそっちにいることの方が意外だったけどね」

伊織「はっ、冗談…誰が好き好んで、あんな奴の仲間になるもんですか」

真「なんでそんなに拒むのさ」

伊織「春香と同じことを言うのね…」

真「春香は仲間としてやっていこうって、そう言ってるんだよ?」

伊織「『仲間』ですって? あんた気づかないの、真…」

伊織「私達を見る春香の視線は『仲間』を見る目じゃなかったわッ! 利用すべき道具、『家畜』を見るような目よッ!」

真「………」

伊織「春香は許せない…そう言った時、同じ意見だって言ったわよね、あんた」

真「あれは…本心だよ」

伊織「へぇ…じゃあ、そう思いながらも春香に付いてるわけ? 本心をごまかしながら」

伊織「格好悪いわね、真」

真「伊織も体感しただろ? 春香のスタンド、『アイ・ウォント』を」

真「あれに勝てるスタンドなんて、存在しないよ」

真「ボク達はアイドル…自分だけの体じゃあないんだ。逆らわない方が身のためだろう」

伊織「あんたはそういう不可能にも立ち向かっていく勇気を持っている…そう思っていたけど。過大評価だったかしら?」

真「勇気だって? 勝ち目の全くない戦いに挑んでいくことが勇気なのか?」

真「そんなものは勇気とは言わんなァ~ッ、ノミと同類よォ~ッ!」

伊織「腐ってんじゃあないわよ、この愚図ッ!!」

真「…ボクはキミを尊敬するよ、伊織」

伊織「は? なによ、いきなり」

真「春香の『アイ・ウォント』を体験しておきながらまだそこまで逆らう意志があるなんてね…」

伊織「………」

真「それとも、まだスタンドを使いこなせないから…使えるようになれば『勝てる』とか…そんなことを考えているのかい?」

伊織「どうせ、春香は倒さなきゃいけないわ。なら同じことよ」

真「…春香は倒さなきゃいけない…ボクだって、そうは思っていたさ」

真「だけどボクの攻撃は一発も春香には届かず、戦意を折られ、希望を折られ、逃げることもできず…」

伊織「………」

真「ボクは春香に服従した。そうせざるを得なかった」

真「春香は強すぎる! そして、何を考えているのかもわからない!」

真「ボクは…春香が怖い…!!」

伊織「何を言うかと思えば…」

伊織「倒さなきゃいけないと…そう思っていた、ですって?」

伊織「でも、実際あんたはそうやって春香の『味方』になってるんじゃない」

伊織「結局、あんたは春香にビビって屈したってだけでしょ? 情けないわね」

真「そうかもね」

伊織「真…」

真「…それでも、春香を敵に回したくはない」

伊織「あんた…」

真「だから…」

ゴゴゴゴゴ

真「ここでキミを倒す」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「倒す、ね…」

伊織「悪いけど…あんたに先手を打たせるほどのんびりしてないのよ、この伊織ちゃんはッ!」

真「なに?」

伊織「はっ!」ドシュゥゥゥ

真(これは…伊織のスタンド、話してる間にも投げるものを用意していたのか…?)

真「灰皿か!?」ヒュン

伊織(は、素手で叩き落とすつもり!? 無理よ、腕が折れ…)

パァァン!!

パラパラ

伊織「な!?」

伊織(真が右腕で殴った灰皿が…)

伊織(粉々に…砕け散った!?)

真「能力はないようだな…ただ、投げてきただけか…」ピキピキピキ

伊織(あれは…)

伊織(真の右手が…何か、黒いものに覆われている…?)

真「結構勢いはあったが、ボクの方がパワーは上のようだね」

伊織「く…」ジリ…

ジャリ

伊織「!? …これは…」

伊織(さっき真が天井に投げた…なにこれ、紙コップ…の、『破片』…?)

伊織「これは、一体…その右手は…」

真「これがボクのスタンド、『ストレイング・マインド』だ」

真「その能力は、物質を『硬く』すること」

伊織「物質を『硬く』する…スタンドですって…」

真「それは、紙コップを『硬く』して割れるようにした」

真「そして今のは、『灰皿』をさらに『硬く』し…このスタンドの拳で、粉々にブッ壊した」ピキピキ

伊織(『硬く』した灰皿を砕いたって…何よ、それ…どういう『パワー』してるわけ…?)

伊織「………」ジリ…

真「どうした伊織? さっきまで威勢がよかったのに、そんな逃げ腰でさ」

伊織「あんたのスタンド…」

伊織「あまり遠くには出せないようね…距離を取られると、攻撃手段がないんじゃないかしら?」

真「………」

真「ああ、確かに…ボクのスタンドは『超近距離型』だ。この腕の届く範囲までしか出すことはできない」

真「だけど…遠くに攻撃する手段はあるよ」サッ

伊織(印刷用紙…何をするつもり…?)

真「『硬さ』において、重要なのは質量だ。例えば、金庫のドアのように分厚いものなら、『硬く』すればより壊れなくなる」

真「だけど、逆にこういうペラッペラな紙なら…」パッ

ググ…

真「オラァッ!!」ドォッ

パリィィィン

ヒュン!

伊織「!」バッ

伊織「うぐっ!!」サクッ

真「簡単に割れる。冬の朝、水たまりに張った氷のようにね」

真「そして、『薄い』ものは刺さりやすい。ただの紙も、『硬く』すればナイフよりも危険なものになる」

伊織「この…真…」ググッ

ドロ…

伊織「よくもこの伊織ちゃんの肌に傷をつけてくれたわね…」

真「おいおい、抜かない方がいいよ伊織。血が出てるぞ」

伊織「うっさい! 返すわよ、あんたに!」ドシュゥ!

真「そんなものが、通用するか!」

バキャス! バシィ!

真「それで終わりか、いお…」

モクモクモク…

真「…!」

真(この『煙のスタンド』、一カ所に固めることもできるのか…)

真(『スピード』が上がっている…ボクが紙の破片を撃ち落としている間に、目の前まで…)

伊織「まさか。んなわけないでしょ、食らっときなさい!」

真(だけど、ボクのスタンドに比べれば全然遅い)

真「オラァッ!!」ドォ

伊織(え!? 速…)

ボフン!!

伊織「ああっ!」

伊織(スピードも速い! こっちは『煙』を集中して『パワー』や『スピード』も上がっているのに…)

伊織(まぁ、このスタンドは元々殴れないから…今のは注意を引かせて、距離をとることが目的だけど)

伊織(とにかく、近距離戦じゃあ勝ち目はなさそうね…!)

真「………」

真「『煙』のスタンド… ………」

真「スタンドに攻撃が当たらないのか…ボクの『ストレイング・マインド』も、気体を『硬く』することはできない」

真「不用意にスタンドを出してきたかと思ったら、こういうことか?」

伊織「は…? 何の話よ?」

真「知らないのか? スタンドへのダメージは本体に帰ってくるんだ」

真「スタンドが攻撃を受ければ傷になるし、スタンドの腕を切り飛ばされれば、同じように本体の腕も飛んでいく…」

伊織「え…な、なんですって…?」

真「まぁ、そのスタンドなら攻撃を受けることもないだろうし、無理もないか…」

伊織「じゃあ、さっきの攻撃…」

真「ああ。仮に、伊織のスタンドがその『煙』のスタンドでなかったなら、ボクの『ストレイング・マインド』のパワーと能力…」

真「もう、伊織の右手はなかったはずだ」

伊織「!!」ゾクゥ

伊織(べ…別に、ビビる必要なんてないわ…)

伊織「そう…ってことは、私のスタンドは他にはある弱点がないってことよね」

真「そうだね。まぁ、『気体』に攻撃を加えられるスタンドもあるかもしれないが」

伊織「少なくとも、あんたのスタンドには攻撃する手段はないでしょ?」

真「あぁ…ボクにこのスタンドを捕まえる手段はない」

伊織「………」

真「つまり…ボクは本体であるキミを直接ぶっ叩くしかないってことさ」

ゴゴゴゴ

伊織「そう…」

伊織「だったら、私はあんたが近づいてくる前にぶっ倒せばいいわけね」ズズズズ…

ゴゴゴゴゴゴ

真「なっ…!」

伊織「そこら辺に転がってるもん…片っ端から、拾わせてもらったわ」

真「おいおい…一体いくつのものを持てるんだ、そのスタンドは!」

真(『煙』だから、形は関係ない! だから、好きな形状にしてこういうことができるのか…)

伊織「あんたのスタンド…『スピード』が速いと言っても、この数…避けられるかしら? それとも、さっきみたいに撃ち落としてみる?」

伊織「食らえ、真ッ!!」

ドシュゥ! バシュゥ! ドォォォ!!

真「厄介だな、そのスタンドは…春香が取り逃がしたってのもわかるよ…」

伊織「はっ、何よ? 今更気づいたわけ?」

真「でも、相手が悪かったね」

ピキピキピキピキ

伊織「!」

伊織(真の全身が黒い鎧に覆われていく…)

伊織(まるでヒーローショーに出てくる、戦隊もののヒーローみたいな…)

真「『ストレイング・マインド』」

バキ!

ドッ!! ガシャァァ

カラン

伊織(『避けたり』『弾いたり』…そんなことすらしない…!)

伊織(しかも、真のスタンドには…傷一つついていない!!)

真「『硬くする』能力を生み出す…ボクのスタンドはこの世の何よりも『硬い』」

真「傷をつけることができる物質は、ない!」

伊織(右腕だけじゃあない…身に纏う『スタンド』…ですって!?)

真「さぁ…覚悟しろ、伊織!」ダダダッ

伊織「ッ!」

伊織(真の動きが速い…! さっきは腕の動きだけだったけど…)

伊織(あのスーツ、ただ身に纏うだけじゃなく身体能力を上げる効果もあるのね…)

伊織「ちっ、こっちに来るんじゃあないわよッ!」

ボフッ!

真「ン!」グッ!

ググ…

伊織「残念だけど、それ以上は近づかせないわ…」

真「押し戻す気か…」ググ

伊織(真との距離は10mもない、これなら…)

真「でも…」ググググ

伊織「うっ!?」グッ!

伊織(逆に…押し返される! 真の凄まじい『パワー』がスタンドを通じて伝わってくるわ…!!)

真「その程度の『パワー』でボクを止められると思っていたのか?」ググオ オ ォ ォ ォ

伊織(このスタンド…春香の『アイ・ウォント』よりも…圧倒的な『パワー』を持っている…!!)

真「オラァッ!!」ブオンッ

ブワッ!!

伊織「きゃあああっ!?」

伊織(『煙』がまた吹っ飛ばされた…こんなにもあっさりと!!)

真「ボクの『ストレイング・マインド』は…」

真「『超近距離型』のスタンドだ。こうして身に纏うのが射程距離の限度で、伊織のように離れたところまで動かしたりはできない」

真「けど、その分『パワー』と『スピード』は最強…接近戦なら、誰にも負けはしない!」

伊織(あらゆるものを『硬く』し、砕く『破壊力』…この世の何よりも硬いという『防御力』…)

伊織(『アイ・ウォント』とこの『煙』だけ見て、そういう特殊な能力を持っているだけだと思ってたけど…スタンドってこんなヤバいものなの…?)

伊織「だけど…こんなところで負けるわけにはいかないのよ、この伊織ちゃんはッ!!」

スタンド名:『ストレイング・マインド』
本体:菊地 真
タイプ:近距離パワー型・装着系
破壊力:A スピード:A 射程距離:なし 能力射程:D(5m)
持続力:B 精密動作性:D 成長性:C
能力:黒いスーツを身に纏い、全身を守るとともに、高い身体能力をさらに引き出す真のスタンド。
スタンド自身の強力さの反面、射程距離は非常に狭く、身に纏う以上の距離を出すことはできない。
能力は触れたものを『硬く』すること。気体でなければ、紙だろうが水だろうが何だろうと『硬く』してしまえる。
『硬く』するということは『硬度』を上げることなので、一概に壊れにくくなるわけではなく、厚みのない物質ならば逆に壊れやすくなる。
打撃パワーに優れる真の『ストレイング・マインド』は、殴っただけであらゆるものを粉砕するだろう。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

伊織(春香の言葉…)

伊織(「スタンドは事故に見せかけて誰かを殺すことさえできる…」)

伊織(私はその言葉を、少し大げさだと思っていた)

伊織(春香の『アイ・ウォント』も、私の『煙のスタンド』も、人間よりは強いけど…そこまで言うほどの『パワー』はない)

伊織(スタンドはスタンド使い以外には見えないらしいから…それで言ってるんだと考えていた)

伊織(人間だって、その気になれば誰かを殺すことは…できるもの)

伊織(だから、スタンドは特別な力があるだけの…そういうものばかり思っていた…こいつを見るまでは…)

真「この腕で、キミに一撃叩き込む…」

真「それで終わりだ。一発で決着する」

ドドドドド

伊織(真のスタンド…『ストレイング・マインド』…)

伊織(常識外のパワーと高い殺傷力を持つ、正真正銘の凶器…!)

伊織(流石に、真に殺す気はないとは思うけれど)

伊織(もしも、間違って頭に食らってしまえば…一発でブチ割られて死ぬ…!)

伊織(私にとっては、春香の『アイ・ウォント』よりもこっちの方がよっぽど恐ろしいわ…!!)

伊織(だけど…)

伊織(気持ちで負けてはいけない!)

真「ぐ!」グイ!

真「また、煙か…」ググ…

伊織(春香は、スタンドは精神のエネルギーだと言っていたわ)

伊織(気持ちで勝っていれば、真相手でも…きっと勝てるはずよ)

真「オラオラァ!!」

バヒュッ!

真「そのスタンドじゃ…ボクは止められないぞ、伊織!」

ガシャ! ガシャァ!

パラパラ…

伊織「………」

伊織「無理ね」クルッ

真「あっ!?」

ダッ

真「逃げるのか、伊織!」

伊織「うっさいわね、逃げて何が悪いのよ! あんたのスタンドと正面からやりあうなんてバカのやることだわ!」

伊織(戦うにしろ、この狭い事務所…真にとって圧倒的に有利!)

伊織(まずは拓けた場所に出た方が絶対にいい!)

伊織(幸い、こっちは玄関側…鍵を開ける必要はあるけど、ここは室内。余裕よ)

伊織(まずはこの密室から出ること…せめて階段まで行ければ…)

真「………」ガシャガシャ

伊織(真のスピードと、この距離…行ける!)

伊織「よし!」ガチャ!

ガラガラ

伊織「ん?」チラ

伊織(なに、今の音…)

ゴオオオオオ…

伊織「何ィッ!」

伊織(し…仕切りが飛んできた!?)バッ

ドガシャァン!

伊織「く…」

ズゥン…

伊織「玄関が塞がれて…」

伊織「だけど、こんなもんすぐどかし…」モクモク…

ヒュッ

伊織「かっ…!?」ササッ

ドス! ビス!

伊織「か、傘が…刺さって…!」

真「これで…玄関からは逃げられない」

伊織(手元の部分まで食い込んでるわ…どうすればこうなるってのよ!)

伊織(私のスタンドじゃ、『ドアをブッ壊す』なんて無理…! 完全に塞がれてしまった…!)

伊織(滅茶苦茶やってくるわね、真の奴…!!)

真「さぁ…次はどうするんだ?」

伊織「やっば…」

伊織(正面からは真、左は社長室…壁になってるわ)

伊織(となると、右の給湯室の方に逃げたいところだけど…)

真「この距離なら、逃がすことはないと思うけど?」ズ…

伊織(真も、きっとそう考えてる…でしょうね…)

伊織(左は駄目、右も駄目、正面も駄目…)

伊織(だったら…)

真「オラァッ!!」ドン

伊織「上よッ!」

ボヒュッ!

真「何!?」スカッ

クッギュゥゥゥゥーン

伊織「飛べた…!」スタッ

バキィ!

真「ぐっ!? 腕が…」ググ…

伊織「はっ、自分で仕掛けた仕切りに突っ込むなんてざまあないわね」

伊織「そこで見てなさい、伊織ちゃんの脱出劇を!」

真「…そのスタンド、機動力はなかなかだね」

真「やっぱり、これくらいは通り抜けるか」

フ…

伊織「ん?」

フワ フワ

伊織「…これは…」

伊織(この、浮かんでいる…ガラスの球体みたいなものは…!)

真「たぶん、玄関を塞がれれば…伊織は窓を目指すだろうから…」グググ…

真「先に手を打たせてもらったよ」パキィ!

フワ フワ フワ

伊織「『シャボン』…『玉』ッ!」

伊織(まずいッ! これも、スタンドで『硬く』しているとしたら…)

伊織(絶対に触れてはならないッ!)

真「触れなくても同じことだよ、伊織」

パチン

伊織「え…」

ピキ! パリパリパリィィン

伊織「ちょっ…!?」

真「別に、近づく必要もなかったな…」

真「シャボン玉の表面を、一部だけ『硬く』した。察しの通り、触れただけですぐ割れるし…」

真「そうでなくとも『硬く』していない部分は空気中で勝手に弾ける」

真「そしてこのシャボン玉、さっきの紙よりもさらに薄い。その破片は、ガラスのようによく突き刺さるよ」

パラパラパラ

伊織「そう…」

フワ…

伊織「触れても、放っといても壊れるって言うなら…」

スゥゥーッ

ピタ…

真「シャボン玉を…『煙』で包み込んで…」

伊織「こっちから壊してやるわ」

パチン! パチン!

真(煙の中で次々と割られていく…破片も飛び散らない)

パラパラパラ

伊織「そのシャボン玉…こうして『煙』を私の回りに広げておけば…」

ドドド

伊織「防ぐのはそう難しいことじゃあないわ」

ドドドドドド

伊織「何か別の手を考えた方がいいんじゃない? あんたの『遠距離攻撃』は私には通用しないわ」

真「そうかな…」

伊織「あんたの策…玄関を塞いだり、シャボン玉を罠として仕掛けたり…」

伊織「どっちも私には無駄だったわ! 私のスタンドの方が強い!」

真「シャボン玉を罠として仕掛けた…?」

真「伊織、ボクがそのためにこれを飛ばしているのかと思ったら…」

真「大間違いだよ」ス…

伊織「ん!」

伊織(さっきの紙のように、破片を飛ばす気ね…)

真「オラァ!!」

パリィ!!

伊織「そんなもん、止めて…」ブワッ

ズバ!

伊織「は!?」

伊織(貫通した!? よ、避け…)

グサァ

伊織「あ…」

伊織「あああああああああああああ」ダラダラ

真「浮かんでいるものを『煙』が掴んで止める…それも想定のうちだ」

真「だけど、そのためにはそんな風に『煙』を薄く伸ばす必要がある…それじゃあ殴って勢いをつけた破片は、止められないだろう」

真「シャボン玉の散弾銃だ。キミのスタンドでも防げないよ」

伊織「だったら…!」

伊織(『煙』をまとめて、飛んできたのを掴めば…)

パチン

伊織「ぐっ!?」ヒュ

バババ

ドバァ

伊織(だ、駄目だ…掴み…きれない…)

サクゥ!

伊織「痛っ!」

伊織(まとめると、周囲に浮かんでいるシャボン玉の方が…)

伊織(この状態だと、掴める範囲も狭い…破片から身を守るのは難しいわ…)

真「能力が続く範囲なら、この通り…これでも通用しないと?」

伊織(敵わない…近距離の破壊力でも、遠距離の攻撃でも…)

伊織(この貧弱な『煙』のスタンドじゃ、まともにやっても勝てやしない!)

真「降参しろ伊織。そうすれば、これ以上は何もしない」

伊織「………」

伊織「春香と…似たようなことを言うのね、あんた」

ス…

真「ん?」

ボッ

パリィィ

ドドドド

伊織(真の方にあるシャボン玉は新しい…勝手に割れることはない)

伊織(そして、方向も決まっている…奥の方にあるシャボン玉さえ割っていけば…)

グワシャァン

伊織(まとめていても、破片にやられることはない)

ドドドドドド

真「おい…」

真「何のつもりだ、伊織? こっちに近づいてきて…」

伊織「このまま距離を保っていても、シャボン玉か、『硬化散弾銃』にやられるだけよ…」

伊織「だったら、こっちから仕掛けてやろうと思って…ね」

真「ボクに接近戦を挑むつもりか…? 三輪車でトラックに飛び込んでいくようなものだよ」

伊織「あんたの『パワー』はわかってる…んなもん、承知の上よ。『覚悟』したわ…」

真「『覚悟』した…だって? 無策のまま敵に近づいていく…」

真「それはただの『自棄』と言うんだ!」

真「オラオラオラオラ」

パキ! バキバキ

グアシャァン

ヒュン ヒュヒュン!

伊織「ちっ! この野郎、片っ端から…!」

真「この数! 掴みきれるか、伊織!!」

ヒュ!

パシ!

伊織「やってみなきゃ…」

ヒュヒュッ!!

パシィ

伊織「わからないわよ!」

グッ!

伊織「く…」

伊織(『硬化散弾銃』を受け止めるにはこの密度じゃないと…)

パシィッ

伊織(だけど、やはり…掴める面積が…狭い!)

ググイッ!

伊織(よし、なんとか…)

真「これで終わりだと思ったかい?」

伊織「え?」

真「駄目押しだ」フワ…

伊織「なっ…!」

真「もう一発…食らえッ!!」

ドシュゥッ!!

伊織(駄目…もう掴める場所が…)バッ

キィィン!!

ガシャ! ガシャア!

伊織「んっ!?」

真「何!?」

伊織(撃ち落とした!? 私のスタンドは、殴ることはできないはず…)

伊織(………いや…)

伊織(私は防ぎきった、それが事実よ…それより…)

ゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「真…」

伊織「これで、あんたの目の前まで来た」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

真「ああ…ボクの目の前」

真「そして、ボクの『ストレイング・マインド』射程距離内でもある」

伊織「………」

真「伊織…キミがやったのは、ただ自分の寿命を減らすだけの行為だ」

伊織「そうかしら?」

真「そうだよ…」ス

真「オラァッ!」ドォ

伊織「うおっと!」スル!

バタン!

真(倒れ込んで回避したか? だが!)

真「もうこれで避けられない! 死ね、伊織ッ!!」グ…

伊織「誰が…避けられないですって?」

ボオッ

スゥゥゥ…

伊織「はずれ…」

ヒョイ…

バキィ!

真「え?」

真(移動した…)

真(転んだ体勢のまま、スタンドで引っ張ったのか…?)

伊織「この伊織ちゃんが…」

伊織「何の策もなしに飛び込んでいくと本気で思ったわけ?」

真(これか…)

真(伊織はこれで、春香の『触覚支配』から逃れたのか…!)

真「だけど、それで…ボクもなんとかできると思ってるのかい」

真「『ストレイング・マインド』のスピード、忘れたわけじゃないよね?」グ…

伊織「………」

真「キミが、スタンドで自分を引っ張っているとわかれば…」ス…

グイッ!!

真「オラァ!」ブンッ

ザザァ!

真「!」

バキィィッ

真「く…」

伊織「にひひ…」

真「なんだ…」

真「どうして当たらない!? スピードはボクの方が速いってのに!」

伊織「あんたのスタンド、確かに動くスピードは速いわ。かなりのものね」

伊織「でも、それは単にあんたが動く速さだけが上がっているだけ…判断し、攻撃をしかけるまでのスピードは人間並みよ」

真「はっ!?」

ウゥ…

真「これは…」

真(薄い『煙』が、ボクの周りを取り囲んで…)

伊織「煙の『動体センサー』よ」

伊織「あんたが『動こうとした』その瞬間…私の行動は既に決定している」

真「馬鹿な…! そんなこと、できるはずが…」

伊織「今やってるんだけど?」

真「ぐっ!」ドヒュ!

サササ

バキャァ!

伊織「ほーら、あんたの攻撃なんて寝てても避けられるわよ?」スゥ…

真「カ…」

真「カサカサと…ゴキブリみたいに…!」

伊織「ゴ、ゴキブリって…あんたには見えないわけ!? この優雅に舞う伊織ちゃんの姿が!」

真「地面を這っておいて、何が優雅だよ!」

伊織「ぐぬぬ…」

真「オラァ!」

カササッ

バキ!

真「オラオラァ」

ヒュヒュゥ

バキャス!

真(当たら…ない…!)

伊織「あんたこの程度なの、真?」

伊織「これじゃ春香にビビるのも無理ないわね」

真「く…」カチン

真「だったら…」グググ…

伊織「!」

真「これならどうだッ!!」バヒュッ!

ボフッ!!

真「オラオラオラオラオラオラオラオラ」ズバババババババ

クギュン

真(ちっ! また上…!)

バキャ!

バキバキバキュン!!

ストッ

伊織「ほら、今のは優雅でしょ?」

ピシ!

真「ん?」

伊織「え?」

伊織(あ、さっきから真が外してる攻撃で…床が…)

ビキビキビキビキィ!!

伊織(割れた…のね…)

ガッラァァァン

伊織「うおおおおおおおッ!」ヒュゥゥゥルルルル

真「伊織ッ!?」

ドス!

伊織「いったたた…」

伊織(ここは…2階か。机が並べてある)

伊織(765プロとは関係ないからあまり気にしていなかったけど、何かの事務所なのかしら)

伊織(真っ暗ね…上からの明かりでかろうじて見えるくらいだわ)

ヒュッ

ガシャン!!

伊織「っ!」ビクゥ!

真「これを…」ズ…

ゴゴゴゴゴ

真「狙っていたのか、伊織」

真「二階には『ロック』をかけていないし、シャボン玉もないからね…」

伊織(やっぱり、降りてきたわね…!)

ゴゴゴゴゴゴ

真「だけど、逃がさない…」

真「ここで『再起不能』(リタイア)させて、春香に突き出してやる…!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「………」タタタ

ガチャ! ガチャガチャ!

伊織(机の上にゴチャゴチャと色々置いてあるわ…落ちる…)

真「そこか!」ゴォッ

伊織「…!」サッ

バキャッ!!

伊織(………)

スス…

真「逃がすか!!」ガシャガシャ

伊織「………」ガタタッ

伊織(あいつはこんな障害物なんてものともしない…すぐ追いつかれる…)

真「寝てても避けられるだって…? 寝言は寝て言うことだ!」

真「オラァッ!!」ドシュ

伊織「………」サササッ

バキ!!

パラパラ…

真「ちっ!」ガシャ!

伊織「………」

伊織(相変わらず滅茶苦茶やるわね、この野郎ッ…!)

真「いつまでもちょこまかと、逃げられると思うな…!」

バキィィ!

真「オラァ!」バキッ

伊織(『硬化…散弾銃』!)

ズドドドド

バキィィィィィィィィ

伊織「………」フラ…

ピタ…

真「もう鬼ごっこは終わりか、伊織?」

伊織「………」

真「結構手こずらせてくれたけど…その程度で春香に逆らおうだなんて、どの道無理だったな」

真「オラオラァ!」シュババ

ズド! ズム!

バッキャァァーン

真「…伊織…」

スゥ…

真「…!? これは…」

伊織「あんたのスタンド、マジにヘヴィね…」

ドドドドドド

真「何だって…!?」クル

伊織「壁が粉々…あんた、本当に手加減する気あるわけ?」

伊織「人間に向けるもんじゃないわよ、それ」

ドドドドドドドドド

真「反対側…窓際に…」

真「どうしてそんなところにいるんだ…伊織…!?」

真「『瞬間移動』…でも、したってのか!?」

伊織「そんな能力、ないわよ」

伊織「私が使ったのは、これ。暗くて見えないだろうからちゃんと明かりの下に出してあげるわ」

モクモク…

伊織「感謝しなさいよね」

真「こ…これは…」

グググ…

バァーン

真「『煙』でできた…伊織の人形ッ!!」

伊織「ええ。煙を…私くらいの大きさにして囮にしたのよ」

伊織「物を掴んで落とせば、音くらい出る。あんたの動きに合わせて、足音を意識させないようにさせるのはちょっとだけ苦労したわ」

伊織「ま、春香の『五感支配』に比べれば粗末なもんだけど」

伊織「それでも、暗かったら案外騙せるものね」

真「い…伊織…」

真「何故、今自分の場所を明かすような真似をした…一体…何を企んでいる…?」

伊織「今、済んだわ。真…あんた、自分が何やったのかわかってる?」

ミシッ! ピシ パキパキパキ

真「この音は…」

伊織「あんたが私の操作する『煙』を殴った箇所…」

伊織「全部ビルの壁…柱の部分よ。四カ所も壊れている…もう危ないわ」ガラッ

真「崩れ…るのか…?」

伊織「窓からでも階段でもどっちでもいいけど…あんたも早く逃げた方がいいんじゃない?」ヒュォォォ…

真「うおおおおおおおおおおお!!」ダッ

伊織「まぁ…遅いか」ヒョイ

ミシ…

ガラガラガラ

ドギャッシャァァーン!!

伊織「おっと」スゥーッ

ボフッ!!

伊織「着地は成功、二階程度なら問題ないわね。さて、と…」

伊織「あんたのスタンド…これしきでくたばったわけじゃないでしょ? 真」

伊織「さっさとその瓦礫の下から這い上がってきなさい」

ゴゴゴゴゴゴ

真「イカれ…」

ガシャァ!!

真「てるのか…?」

真「ボクを倒すために事務所をビルごとぶっ壊すだなんて…そこまでやるか、普通…?」

ガラ…

伊織「あら、壊したのはあんたじゃない。責任の押しつけはやめてちょうだい」

真「窓から飛び降りて…スタンドで自分の体を受け止めたのか」

伊織(この様子じゃ、ダメージは…そこそこってとこね)

伊織「ビル一つ崩してこれか…やれやれだわ」

真「少し、頭も冷えた…もう小細工は終わりだろう?」

真「ボクに勝てるのか、その『煙』のスタンドで」

ピシ

伊織「『スモーキー・スリル』」

真「…?」

伊織「『煙のスタンド』じゃあ味気ないわ」

伊織「あんたの『ストレイング・マインド』とか…春香の『アイ・ウォント』みたいに…」

伊織「この伊織ちゃんのスタンドにも名前をつけるべきよね」

伊織「だから、今名付けた。私のスタンドの『名前』」

伊織「いい? 『スモーキー・スリル』よ」

真「『スモーキー・スリル』…」

伊織「『理解』したわ。私の進むべき『道』…」

伊織「真、まずは…あんたを倒すッ!!」

『春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」』のご愛読、ありがとうございます。
なぜ、突然、この書き込みを書くのか?
それは、前回、このスレで書き終わってる次回分を投下すると言ったのですが、その次回分の投下に対して、思ったより今回分が長過ぎるという考えが、『春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」』を投下している最中の頭に、あったためです。

そこで、次回分は来週の水曜ということにして、ここでおわびするために、この書き込みを書いたのです。

私はウソつきではないのです。 まちがいをするだけなのです……。

それでは、これからも『春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」』の応援、よろしくね。

ゴゴゴゴ

真「ボクを…」

真「『倒す』だって…? 伊織…」

伊織「そうよ」

真「わかってるのか? 『ストレイング・マインド』は『最硬』のスタンド」

伊織「………」

真「そして、『スタンドはスタンド』でしか倒せない」

真「衝撃は受けたけど…さっきのビル倒壊だって、正直言って…決定打にはなっていない」

真「キミは、ただの一発も決定打を与えてはいないんだ」

真「それなのに、ボクを倒す…? できるわけがない、不可能だよ」

ゴゴゴゴゴゴ

伊織「『倒せる』か…『倒せない』か、なんてどうでもいいのよ、この伊織ちゃんには」

伊織「『倒す』! そして…『勝利する』! それだけよ…それが、私の『道』!」

伊織「最初から不可能だなんて決めてかかるなんて、バカのやることよ!」

真「その意気は買ってやりたいけどね」

伊織「『スモーキー・スリル』」

ズ

真「………」

真(伊織のスタンドが…)

ズズズ

真(不定形の『煙』から、人型に変わっていく…)

ピョコ

伊織「どう?」

真「その耳は…」

真「兎のイメージかい? 白い…『煙』の兎…」

伊織「いけてるでしょ」

真「見た目が変わったからといって…」

真「能力が変化するわけでもないだろ」

伊織「あら、見た目って大事よ? あんたもアイドルならわかるでしょ」

真「で、その形…」

真「ボクと『殴り合い』でもしたいのか?」

伊織「そう言ったら?」フ…

真「………」ス…

伊織「行け!」ボン

真「オラァ!」ドオ

ブオフゥッ!!

伊織「………」

真「………」

真「集めたって、『煙』は『煙』…」

真「そもそも…そのスタンドで、ボクを殴ることはできないようだね」

真「できるのなら、『硬化散弾銃』だってわざわざ掴んで防ぐ必要はない」

真「ま、殴れたところでボクの『ストレイング・マインド』…スタンドの腕が逆に折れちまうだろうが」

伊織「ええ、直接殴ることはできない」

スゥゥ…

モクモクモク

真(ん…)

ズ…

伊織「でも…」

真(人型に戻った伊織のスタンドが…何か持っている…?)

伊織「『スモーキー・スリル』、掴んだものを叩き付けることは…『可能』よ」

真(瓦礫…ボクの背後にあった崩れたビルの破片を掴んでいるのか!?)

伊織「わかったのは偶然…さっきあんたの言った、『硬化散弾銃』を叩き落とした時だけど…ね」

伊織「あんた、言ってたわよね? 『質量』が大事だって。『質量』がなければ、『硬い』のはむしろ『割れやすい』…」

真「………」

伊織「『硬い』ことは、『無敵』ということではない」

伊織「だったら、あんたのスタンドを上回る『質量』を叩きつければいい!」

真「『質量』が上回ってるからどうした。それだけで勝てるとでも?」

真「キミのスタンドではボクの『パワー』に対抗できない!!」

伊織「そいつは…どうかしらね!」ヒュン

真「『ストレイング・マインド』!!」ゴォ!

ビシッ!!

伊織「………」

グ…

ググ…

真「な…!?」

ググググググ…

真「ぐあっ!?」バキィ

ドサァ

真「な…」

真「なんで…だ…?」

伊織「さっきまで『弱い』なんて思ってたけど、やっぱ伊織ちゃんのスタンドだけあるわ。『叩きつける』パワーはかなりのものね」

真「確かに…」

真「上から『叩き付ける』攻撃には『重力』が加わって強力になる…『質量』もそっちの方が上…」

真「だけどボクの『ストレイング・マインド』は『近距離パワー型』…『パワー』ならこっちの方が圧倒的に上のはずだ!」

真「どうして『遠隔操作型』の『スモーキー・スリル』に押し負けるッ!?」

伊織「『近距離』とか『遠隔操作』だとか、そういうのはよくわからないけど」

伊織「春香が言ってたわ…スタンドは『精神力』のエネルギーだって」

真(『精神力』…!)

真(今の伊織から感じられるこの光り輝くような意志…! それで、パワーが上がっているのか…?)

真(だが、それだけで…それくらいのことで、あの『煙のスタンド』がボクの『ストレイング・マインド』のパワーをひっくり返せるはずが…)

伊織「真…あんた…」

伊織「私と戦ってる間、ずっと怯えてるわよね」

真「!」

伊織「私にじゃあない…私に負けたら、自分に制裁を加えるであろう『春香』に」

真「う…」

伊織「そんなあんたの…」

ゴゴゴ

伊織「春香に屈したあんたの『精神力』が!」

ゴゴゴゴゴ

伊織「私に勝てるはずないでしょうがッ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

真「だ…」

真「誰が、何にビビってるって…!?」

伊織「何度も言ってるじゃない。春香ごときにビクビクしてるんじゃあないわよ、このビビリ野郎がッ!」

真「うるさい…伊織に何が…っ!!」ビュッ

伊織「『スモーキー・スリル』!」ビュン!!

グシャ

真「うっ!!」バキ!

ピキ…

真(『ストレイング・マインド』の腕に…ヒビが…)

バキャァ!!

真「がっ!」バタン

伊織「春香は『スタンド』をアイドルとしての『才能』と言っていた…そのことが、少しわかる気がする…」

ドドド

伊織「『アイドル』も…『スタンドバトル』も…」

伊織「精神力が『上』の方が、勝つッ!」

ドドドドドド

真(押されている…そんな、馬鹿な…近接戦なら、ボクのスタンドは誰にも負けないはず…)

伊織「さて、終わりよ…真」ス…

ガラガラガラ…

伊織「もう一度…」ズ…

伊織「生き埋めになってもらおうかしら?」ズズズ…

真「あ…」

ズズズズズズ…

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

真(ビルの瓦礫を…あんなに…)

真(あれを全部…ぶつけてくるつもりか…?)

真(あれには伊織の『スタンドパワー』が入っている…さっきの倒壊とは違う…)

真(負けるのか…?)

真(ボクが…ボクのスタンド、『ストレイング・マインド』が…?)

ズズ…

伊織「くらえッ!!」ズオッ!

ボシュッ ドダダァ ビヒュゥ!

ゴオオオオオオオオオオオ

真「ま…」

ピキピキ

真「負けるかああああああ!!」パキパキパキパキ

伊織「!!」

真「オラァ!!」ドオオッ

パキィン

真「オラオラオラオラオラオラオラオラ」バ バ バ バ バ バ バ バ

バリィ!!

真「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」ドゴォ ドォ ド ドド ドゴ ドゴ

バリバリバリバリ

真「オラァァッ!!」ヒュ

ドパァ

ボフン!!

シュゥゥゥ…

真「や…」

真「やりぃ…勝った…! 伊織のスタンド…『スモーキー・スリル』のパワーに!!」

伊織「まぁ、勝てるでしょうね。あんたのスタンドなら」

スゥ…

真「え…」

ガシィ!

真(霧散した『スモーキー・スリル』が…また集まって…)

真(巨大な…手に…)

伊織「人間、勝利を確信した時が一番油断するもんよね」

真「ぐ…」ググ…

真(しっかり抑え込まれている…単純な『パワー』じゃ剥がせない…)

真(気体だから『硬く』して砕くこともできない…!!)

伊織「ねぇ真」

真「え…」

伊織「あんたのスタンド、ビルの『質量』くらいなら受けきれるみたいだけど…」

ドドドド

伊織「それじゃ、地球の質量には勝てるのかしら?」

真「………」

ドドドドドド

真「ちょ…嘘だろ…?」

伊織「このまま…地面に叩きつけるッ!!」

ギュオオォォン

真「…う…」

真「うわあああああああああああああああ」ゴォォォ

バリャァァ!!

真「がっ…!!」

ピキィィィィィン

真「ボ…」

真「ボクの… ………」

真「『ストレイング・マインド』が、砕け…」

真「た」ブシュゥゥ

伊織「!」

伊織(真の体から血が吹き出した…)

伊織(なるほど、スタンドに対するダメージは本体に対するダメージ…)

伊織(私が真の鎧を砕いたから、そのダメージは真に行った…こういう、ことなのね…)

真「………」シーン…

伊織「…ふぅ…」

伊織「それにしても…」

モクモクモクモク…

伊織「『スモーキー・スリル』…やるじゃない、あんた」

伊織「流石はこの伊織ちゃんのスタンドね! にひひっ」

・ ・ ・

真「はっ!?」パチ

ガバッ!

伊織「あら、気がついたわね」

真「ここは…」

伊織「公園よ。あっちは人が集まってきたから逃げてきたわ」

真「…負けたのか、ボクは…」

真「この『ストレイング・マインド』が…伊織のスタンドに…正面から挑んで…」

伊織「真、あんたの敗因は…」

伊織「『春香』よ」

真「!」

伊織「あいつは言った、みんなに『絶対の自信』とやらを持たせるためにスタンド使いにした…と」

伊織「でも、今のあんたはどう? 『自信』なんて程遠い、ずっと春香の存在に怯え、本来の実力も出せないでいた」

伊織「あんたが全力を出せていたのなら…」

伊織「ま、この伊織ちゃんが負けるなんてありえないけど」

伊織「もっと苦戦とダメージをしいられていたでしょうね」

真「………」

伊織「やっぱり…」

伊織「春香は間違ってるわ。だから…」

伊織「正しい道に戻してやるのが、本当の『仲間』よ」

真「!」

伊織「真。あんたもそう思わない?」

真「伊織、キミは…」

真「春香を倒すつもりか…勝てるのかッ!!」

伊織「そんなの、無理に決まってるじゃない。単純なパワーとかではなく『アイ・ウォント』は強すぎる…負けるわよ、絶対」

真「ちょっ」ズルーッ

真「駄目じゃないか、それじゃ!」

伊織「一人なら…ね」

真「え?」

伊織「真。この伊織ちゃんの方につきなさい、春香を倒すために」

真「は…」

真「…ボクに…」

真「『寝返ろ』って…春香を敵に回せって…そう言うのか…?」

伊織「どうせ、私に負けたと知れたら春香のところになんていられないでしょ?」

真「それは…わからないけど…」

伊織「ま、もしかしたら許してもらえるかもしれないわね」

伊織「でも、春香に負け、私に負け…そんなあんたが、許してもらったところで、ちゃんと前を向いて歩けるの?」

伊織「断言するけど、春香のところに戻れば、もうあんたはその先惨めな生活を送るしかなくなるわ。アイドルとしても、スタンド使いとしても…人間としても…ね」

真「う…」

伊織「今、私達は本当の意味で『団結』しなくてはならない」

伊織「困難に立ち向かうために。自分達の道を切り開くためにッ!」

真「自分の道を…切り開くため…」

伊織「さぁ真、男だったらはっきり決めなさい! 私の方に付く? それとも春香のところに尻尾巻いて帰る!?」

真「男…」

真「じゃあ…ないんだけどなぁぁぁ~っ…」ガクーッ

真「でも…確かに、そうだ」

伊織「!」

真「わかった」

真「ボクは、伊織…キミに協力するよ」

伊織「真!」

真「ボク一人なら、春香に勝てる要素なんて何一つない」

真「でも、一人じゃなければ…」

真「少しでも勝つ『可能性』があるのなら…ボクはそっちに賭けてみたい」

伊織「はっ…いい目になってきたじゃない、真。それでこそあんたよ!」

真「へへっ…」

ドドドドド

ドドドドドドドドドド

伊織(春香…)

伊織(あんたのこと、『アイ・ウォント』で上っ面だけの『仲間』を集めて『団結』しているつもりでいるんでしょうけど…)

伊織(だったら、私は逆にあんたの『仲間』全員、こっちに引き込んでやる…! 本当の『仲間』として!)

伊織(あんたに見せてやるわ…本当の『団結』ってやつを!!)

真「ところで伊織…」

伊織「? 何よ」



……

………

ザワ、ザワ…

真「………これさ…」チラ…

伊織「ええ、思い出した…わかってるわ…」ソーッ

ズゥゥゥーン…

真「事務所…壊れちゃったなぁ…」

伊織「嫌だけど…みんなのためにも、パ…」

伊織「お父様に頭下げるしかないわね…はぁ…」

To Be Continued...

スタンド名:『スモーキー・スリル』
本体:水瀬 伊織
タイプ:近距離~遠隔操作型・不定形
破壊力:B~E スピード:B~D 射程距離:D(5m)~B(50m) 能力射程:B(50m)
持続力:B 精密動作性:B~E 成長性:B
能力:不定形の煙であることから、高い柔軟性と応用性を持つ、伊織のスタンド。
一カ所に集めるか、広げるかによって性能が変化し、近距離から遠距離までを使い分ける事ができる。
煙の状態では「押す」「引く」「掴む」の三つのことができ、密度によってその行動の範囲とパワーやスピードも変わってくる。
直接何かを殴ることはできないが、掴んだものを「投げ」たり、また「叩きつける」ことは可能。
「煙」で形成されているため特定の形はないが、兎のような外見にするのが伊織は気に入っているようだ。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

伊織「ねぇ真、聞きたいことがあるんだけど」

真「何? 後にしてくれないか」

伊織「そう言わずに…あんま聞かれたくない事だから小声でね」ズイッ

真「おい、あまりくっつくなよ…」

伊織「真、あんた…私を本気で攻撃してきてたけど…」

真「………」

伊織「あんたの『ストレイング・マインド』…狙ったのは私の腕とか足だったけど、もし当たってたらどうするつもりだったのよ?」

伊織「たぶん、一発でブッ飛ばされてたでしょうね…片腕失っちゃ商売上がったりなんだけど」

真「そのことか…」

真「春香の『仲間』には…」

真「どうやら、傷を治すことができる『スタンド使い』がいるらしい」

伊織(らしい…?)

真「だから、もしも誰かと戦うことになっても…殺しさえしなければ大丈夫だと、春香は言っていた」

伊織「そうは言っても、春香に引き渡して、そいつに治してもらうまでには時間がかかるでしょ?」

伊織「腕一本持ってかれたら出血多量で死ぬじゃないの」

真「その点は大丈夫。『ストレイング・マインド』は『液体』でも『硬く』できるからね。シャボン玉を『硬く』したのは見ているだろ?」

真「止血くらいなら、ボクにもできるからね。両手両足を奪って、傷口と吹っ飛ばした手足を固めておけば大丈夫ってわけさ」

伊織「………」ソーッ…

真「ん? どうしたんだい、伊織?」

伊織「ま、まぁ、いいわ…それで…」

伊織「誰なのよ? その、『治療が出来るスタンド使い』ってのは」

真「知らない」

伊織「は? 知らない…?」

真「春香は…誰が春香側で、誰がそうでないかはボクには教えてはくれなかった」

伊織「はぁ…? それじゃ、誰が敵で誰が味方かわからないじゃないの」

真「それでいいんだと思う。春香は『最後には、事務所のみんな仲間になるから』って…」

真「『今は誰が敵とか味方とかなんて考えず、いつも通り過ごして』と。そう言っていた」

伊織「春香に信用されてないのね、あんた…」

真「いや…たぶん、みんな同じ事を言われていると思う。だから、表面上はいつも通りでいられる」

真「誰が敵で、誰が味方か…すべて知っているのは春香だけなんじゃないかな」

伊織「そう…」

真「そういうことなら後でいくらでも話すからさ…」

真「今はこの備品! 運ぶの手伝ってくれよ!」

春香「んしょ、んしょ…」

美希「あふぅ…メンドーなの…」

雪歩「えっと、これはこっち…あれ、こっちでしたっけ? うううっ、どっちでしたっけ、プロデューサ~っ!」

配達員「ちわ、お届けものです。765プロさん、印鑑かサインを…」

小鳥「はいはい! 今行きます!」

伊織(アイドル総動員で、配達員が持ってきた備品をどんどん部屋に運んでいく)

伊織「って言うか、こういうのって普通業者に部屋まで運んでもらうもんじゃないの? なんで私達がやんなきゃなんないのよ」

真「みんなが自分達でレイアウト決めた方がいいって…」

真「と…話してる間に…これで全部かな?」

伊織「はぁ…疲れたわね」

真「伊織は何もやってないだろ!」

P「みんな悪いな、ごくろうさま」

やよい「うっうー! ここが新しい事務所になるんですねー!」

貴音「この場所も以前とはまた違う趣があり…新鮮ですね」

響「なんか落ち着かないぞー。前の方がよかったなー」

千早「こんな時期に移転なんて…」

亜美「やー、仕方ないっしょー」

真美「前の事務所が、あんなことになっちゃったんじゃ…ねぇ」

伊織「………」

P「倒壊事故だなんて…なぁ…」

真「………」

小鳥「社長が亡くなってから嫌なことばかり起こりますね…」

律子「ま、いい機会です。これで心機一転、気持ちを入れ替えて活動に臨んでいかないと!」

あずさ「あらあら~、ポジティブなのね、律子さん」

律子「そうでも思わなきゃやってられないんですよ…」

真「伊織…」

伊織「…わかってる、わかってるわよ…」



……

………

一日前…

アイドル達「「事務所が移転!?」」

P「ああ…仕方ないよ、これじゃあ…」

ゴッチャァ…

やよい「わ…事務所が…なくなっちゃってます…」

春香「そんな、ひどい…」

P「近所の人の話によると、昨日の夜、突然崩れだしたみたいだ」

P「結構古い建物だったし、老朽化が進んでいたのかもしれない」

真「………」タラァーッ

伊織「………」ドキドキ

P「誰もいない時間に崩れたそうだから、奇跡的に怪我人はなかったみたいだけどな…」

真「………」

律子「真? 大丈夫、顔色が悪いわよ」

真「え、えーと…だ、だって…」

律子「まぁ、無理もないわね…私だって結構ショックよ…」

真「う、うん…」

真(伊織ィィ~ッ!? 親父さんになんとかしてもらうんじゃなかったのか!?)

伊織(結局、お父様には言えなかったわ…事務所のこと…)

伊織(いくら水瀬財閥とは言え、私のワガママでビル一つなんて建てられないっての! 時間もかかるし…費用だって、ヘリ飛ばしたりとはわけが違うものッ!)

真(ま、まぁ…それは確かに…)

伊織(第一、どう説明する気!? スタンドを使って戦闘を行ってたら崩れたとでも言うの? 医者呼ばれるわ!)

真(わかったから…落ち着いて、伊織…)

………

……

伊織(そういうわけで、結局765プロ事務所は『移転』という形になった)

伊織(話によると、うちは前々から移転しようとしてたみたいで、こうして目を付けていたというこの物件に来たというわけだ)

伊織(それにしたって、昨日の今日…異様に手際が良くて少し不気味だけど…)

伊織(大事な書類とかはちゃんと律子達が管理している。備品を失ったこと以外のダメージは少ないけど…)

伊織(前のビルのオーナーや…『たるき屋』とか、同じビルの人達のことを考えると心が痛まないでもないわ…)

伊織(あーもうっ…それもこれも全部…)

伊織(『春香のせい』よッ! 許さないわ、春香…!!)

ドドドド

千早「………」

ドドドドドド

ペッタァァーン

如月千早 B72
アイドル

千早(水瀬さん…)

千早(なんだか雰囲気が変わったわね)

千早(前も芯は強い感じだったけど…なんだか今はより明確な…確固たる意志を持っているような…)

千早(…雰囲気が変わったと言えば…)

春香「ふー…大変だったね、千早ちゃん」

千早「春香…ええ。この忙しい時期に…仕方のないことだけれど」

春香「でも、こういうみんなで一緒に何かするっていうのはいいよね」

千早(春香…)

千早(今の春香は…正直、あまり好きではない)

千早(前は周りにも元気をくれるような子だったのに、今は少し不気味で…何か『ドス黒い』ものを感じる…)

春香「………」

春香「千早ちゃん、ちょっと話したいことがあるんだけど…今日の夜、事務所に残ってもらっていいかな?」

千早「? それは、電話で話すわけにはいかないのかしら。今日はあまり遅くまで残るのは、ちょっと…」

春香「えーと…」

律子「春香、そろそろ出るわよ。外で車準備して待ってるから」

春香「あ…」

春香「わかりました。すぐ準備します!」

千早(仕事かしら? 本当、最近の春香はすごいわね…)

春香「千早ちゃん、ごめんなさい。話はまた今度ね…」

千早「? ええ…」

千早(春香の話したいこと…何かしら…)

千早(直接話したいこともあるのだろうけど…用件くらいは言ってくれてもいいのに)

バタン!

春香「真が動いたのかぁ…ああやってビルをブッ壊せるのは真の『ストレイング・マインド』くらい」

春香「そして、あの様子…真は負け…そして、伊織の方に寝返ったんだね…」

春香「負けるのは別にいい…でも裏切るってのはどういうことだァ~ッ!?」

春香「やはり伊織は『団結』を乱す者…! 新しい765プロに、そんなのはいらない」

春香「『仲間』を集めて伊織を倒す! それが私に課せられた『使命』…」

春香「さてと、まず真は引き戻すとして…『ストレイング・マインド』、敵に回すと結構厄介」

春香「やっぱり…千早ちゃんは引き込みたいところだよねぇ~っ、色んな意味で」

春香「だけど先に『スタンド能力』に目覚めさせてからでは伊織やあの2人の時みたいに、また逃げられるかもしれない…」

春香「だからまずは確保が最優先…事情を話して仲間になってもらうのが先決…」

春香「千早ちゃんに『弓と矢』でスタンド使いになってもらうのは…」

ゴゴゴゴゴゴゴ

春香「その後でいい」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

春香「でも、千早ちゃんとはスケジュールが合わないんだよねぇ…」

春香「事務所の雰囲気に気づいてても、伊織みたいに行動に移すタイプじゃあないし…」

春香「はー、どうしたものか」

伊織「それで…真」

伊織「例の『2人』はどうしてるのよ? あんた、何か知ってる?」

真「『2人』って、矢を壊そうとしてるっていう?」

伊織「そうよ。あんたはその『2人』と戦ったことはない?」

真「ボクの能力は、相手を無力化するのには向いてるけど…捕らえるには向いてないからね」

伊織「ま…あんたみたいなド派手なスタンドを送り込めば、何かしら騒ぎにはなるか」

真「でも、誰かしら刺客を送り込んでいることは確かだと思う」

伊織「春香が自分だけで動いて、直接手を下してるってのはないのね?」

真「春香は忙しいからね…それに、その『2人』は『アイ・ウォント』から逃れられるスタンド使いだ。しかも、春香を警戒している」

伊織「ま、『アイ・ウォント』でどうにかなるなら最初から敵に回さないわね」

真「スタンドには相性がある。相性のいいスタンド使いを一人送り込むだけなら騒ぎにもなりにくいし…」

真「捕まえるなら、それで充分だろう」

真「ボクは矢を壊そうとしている『2人』が誰なのかは知らないし…伊織が春香と敵対したことだって、伊織から聞くまでは知らなかった」

真「だけど、その『2人』のことを知っているスタンド使いはいるはず」

伊織「そう…」

伊織「結局、あんたが味方で春香が敵ってこと以外…何一つわかりはしないのね」

真「いや、そうでもないよ。春香の『仲間』…少しは見当がつく」

伊織「え…本当、それ?」

真「ボクの考えでは、『律子』と『あずささん』…この二人はまず間違いないと思う」

伊織「へぇ? それはまた、なんでよ」

真「まず単純に、『律子』は春香と接する機会が多い」

伊織「そうかしら? 言われてみればそんな気もしないこともないけど…」

真「今、春香の送り迎えは大体律子がやってるだろ? 律子が忙しい時にはタクシーを使ってるけど、今まではプロデューサーがやってたのに」

伊織「あいつは今社長代理だから、忙しいんでしょ」

真「だったら小鳥さんでもいいじゃないか。ボクは小鳥さんが春香を送っていったのを見たことがない」

真「キミの所属している『竜宮小町』を専任してた頃に比べ、明らかに春香の面倒ばかり見ている」

真「普通なら、自分の立ち上げた方を優先したいのが人情だろ?」

伊織「律子はそういうことはしないと思うけど…でも、だとしたら春香の相手ばかりするのは尚更不自然よね」

伊織「それに…律子は私が事務所で春香とやりあってる時、隣の部屋にいたのに気づかない様子だった。あの時には、もう春香の方に付いていたのかも…」

真「そうか…まぁ、断定はできないけどね」

伊織「だけど、『あずさ』はどういうわけよ? 春香が話してるところなんて見たことないわ」

伊織「そりゃ挨拶だとか世間話だとかはするけど、だったらあずさよりも春香と話している奴はいっぱいいるわよ」

真「…伊織が律子を疑っているのと似た理由かな。あずささんが、春香に協力していると思ったからだ」

伊織「なんですって?」

真「あの日、ボクがレッスンから帰ってきた時、事務所には春香とあずささんだけがいてね…」

真「しばらくくつろいでいると、突然目の前が真っ暗になったんだ」

真「気がついたら、あずささんの姿はなくて…ボクは『弓と矢』で、春香に『スタンド使い』にさせられていた」

真「『矢』による傷はすぐになくなって、ボクの体には傷一つなかったから…多分、スタンドの能力で気絶させられたんだと思う」

伊織「あずさのスタンド…相手を傷つけることなく気絶させられる能力か…」

真「実のところ、『いきなり気絶させられた』ということ以外は何もわからないんだけどね。その時、ボクはスタンドなんて見えなかったし…」

真「もしかしたら、春香の『アイ・ウォント』にやられたのかもしれないが…」

真「でも、あのいきなり意識が落ちる感覚は『五感支配』とは違うような気がする」

伊織「『律子』、『あずさ』…」

伊織「じゃあ『亜美』もそうかしらね?」

真「知らないけど…性格からして、『弓と矢』を破壊しようだなんて考えるタイプじゃあないよね。むしろ、スタンドを『遊び道具』か何かだと考えるタイプだ」

伊織「アンタが春香側にいたことを考えると、確信は出来ないけどね」

真「ボクを引き合いに出すのはやめてくれないかな…まぁ、可能性は高いんじゃないか?」

伊織(となると、『竜宮小町』は私以外ほぼ黒ってわけ…やれやれだわ)

伊織「ま、いいわ…」

伊織「だけど、春香は何故『仲間』に『スタンド使い』の情報を教えないの?」

伊織「騒ぎになりやすいとかそういうのを抜きにしても、誰が『敵』なのかははっきりさせといた方がいいと思うんだけど」

真「もしさ、ボクが『敵』だとわかってて…」

真「伊織はこうして話しにくるのか?」

伊織「…なるほどね」

伊織「もし、私が『敵』だとはっきりしてれば…当然、春香の『仲間』は私を避けてくるはず…」

伊織「そうなると、私には誰が『敵』で誰が『味方』かなんて丸わかりだわ」

真「今の状況…誰が『敵』かも『味方』かもわからない。表面上はいつも通りだけど、孤立している」

真「そうなると…人は弱い。誰かを疑わなければならないそんな状況に、いずれ耐えられなくなり…」

伊織「最終的に、春香に下ると。本当、いい趣味してるわねあいつは」

真「だから、逆に言うと…こうしていつも同じ二人でまとまっているのは、周りから見れば『敵』だというわかりやすいサインになるわけだけど?」

伊織「好都合ね。襲って来るというなら…」

伊織「返り討ちにしてこっちに引き込むだけよ」

真「伊織ならそう言うと思ったよ」

真「さて…話すことはそれくらいかな」

伊織「そうね。喋ってばかりじゃしょうがないわ」

真「ボクは…そろそろレッスンに行かなきゃかな」

伊織「ええ、この後から? みんなぐったりしてるわよ」

真「うん。春香にもそうだし…伊織にだって、負けてられないからね」

伊織(『アイドルとしても上』と言ったこと…気にしてるのかしら)

真「伊織も一緒に来る?」

伊織「いえ…私は、今日の夜には収録があるから…」

真「そっか。じゃあね伊織」

バタン…

伊織(さて、と…)

伊織(今は春香がいない…あずさあたりに探りを入れてみようかしら)

伊織「あずさ、ちょっといいかしら」

あずさ「伊織ちゃん? どうしたの?」

伊織「話があるわ。来てくれないかしら?」

あずさ「ごめんなさい、今ちょっと千早ちゃんを探してて…」

伊織「へぇ、同じ『竜宮小町』のメンバーの伊織ちゃんよりも、千早の方が大事ってわけ?」

あずさ「伊織ちゃんのいじわる~…」

伊織「…冗談よ。千早ならあそこにいるけど?」

千早「………」

あずさ「あ、本当…」

あずさ「千早ちゃ~ん」フリフリ

千早「………」スタスタ

あずさ「あ…行っちゃうわ…」

伊織「はぁ…」

スーッ…

伊織「千早! ちょっとこっち来なさい!!」

千早「…!?」クル…

あずさ「あら~、伊織ちゃんが呼ぶと気がつくのね」

伊織「あんた、呼ぶ時の声が小さすぎんのよ。あれじゃ気づいてもらえるわけないでしょ」

伊織「じゃ千早との話が終わったら、後で…」

あずさ「あ、ちょっと動かないで…」ス…

伊織「え?」

サワ…

伊織「っ!!」クルッ

ゴゴゴゴゴゴ

あずさ「髪の毛に…ついてたわよ、テープが」

伊織「そ…」

ゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「そういう時は口で言ってくれないかしら…自分で取るわ」

あずさ「あら…ごめんなさい伊織ちゃん…」

伊織(ぬかった…真の言う通りなら、あずさは春香の『仲間』である可能性が非常に高い…)

伊織(警戒を怠ってはいけなかったのに…)

ゴゴゴゴゴ

千早「水瀬さん、何かしら?」

タタタ…

伊織(千早…そうだ、あずさは千早に用がある…私にじゃあない)

伊織(それに、向こうは私が春香と敵対していることは知らないはず)

伊織(触られてしまったけど、体はなんともない。大丈夫…よね)

伊織「千早。あずさがあんたに用があるそうよ」

千早「あずささんが?」

あずさ「ありがとうね、伊織ちゃん」

伊織「ええ。私は行くわ」

伊織(こっそりと監視するか…あずさが怪しい動きを見せたら、その時は…)スタ…

千早(…あら?)

千早(水瀬さんの頭…)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

『77』

カチ! カチ!

『76』『75』

千早(何かしら、あれ…)

あずさ「どうしたの、千早ちゃん?」

千早「あ、いえ…」

千早「なんだか、新しい事務所というのは落ち着かないものですね」

あずさ「そうね~。だけど住めば都、すぐに慣れると思うわ」

あずさ「それに、前の事務所よりも広いし、新鮮じゃない?」

千早「まあ、なんでも、いいですけれど」

千早「なるべく早く、ここにもなじめれば、と思います」

千早「それより…私に用というのは?」

あずさ「あ、用…そうよね…」

あずさ「えーっと…」

千早「…あずささん?」

あずさ「…忘れちゃったわ」

千早(…?)

千早(この顔、『用なんて元々考えてない』みたいな顔だわ…)

千早(なんなのかしら…)

あずさ「思い出すまでに時間がかかるかもしれないわ…ごめんなさいね?」

千早「え、ええ…」

千早(春香といい…あずささんといい…様子がおかしい)

ズ…

千早(最近忙しくなったし、移転もあって疲れているのかしら…)

ズズ…

ゴゴゴゴゴゴゴ

あずさ(『ミスメイカー』…)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

あずさ(このまま、千早ちゃんの頭に触れ…)

ス…

・ ・ ・ ・

千早「!」バッ!

ピシ!

あずさ「!?」

千早「……?」キョロッ

あずさ「…どうしたのかしら、千早ちゃん?」

千早「あ、すみません…何か気配を感じて…」

あずさ「そう」

千早(何だったの、今のは…?)チラ…

千早(あれ、右手に何かくっついてる)

千早(これは何かしら…数字? 『72』…『71』…)

千早「は!? 65…64…63…な、何なの…これは!?(数字が減っていくッ)」

あずさ「え…?」

千早「あ、あずささん! 見て、私の腕に…」

あずさ「………」

あずさ「そう…『見える』のね、千早ちゃん…」

千早「…!?」

あずさ「春香ちゃんの話ではまだ『矢』に貫かれてはいないということだったけど…」

あずさ「『スタンド使い』でなければ私のスタンド、近づけば触れるのは容易だと思ったのに…」

千早「あ…あずさ…さん…?」

あずさ「スタンドがなくても素質がある人には見えるのかしら? それとも…千早ちゃん、あなた…」

千早「な、何の話を…」

あずさ「その数字…それは私のスタンド『ミスメイカー』によるものよ」

千早「は? みすめ…すた…んど…?」

あずさ「見える? この実体のあるヴィジョン…これが、『スタンド』よ千早ちゃん」

千早「それは…一体…」

あずさ「私の『ミスメイカー』に触れられたものは、今の千早ちゃんの腕のように数字が浮かぶ」

あずさ「そして、その数字が『ゼロ』になった時…」

千早(『ゼロ』って…もうすぐだわ…3…2…1…)

千早「!」ガクン

千早(ひ…右腕が…)

グイ!

グ…

千早「う…動かない! 人形の糸が切れてしまったようにッ!!」プラン

あずさ「その部分は『眠る』わ。今、千早ちゃんの右腕は『眠った』の。解除するまで起きることはない」

あずさ「最初はもっと時間がかかったんだけどね。なんとか91秒にまで縮めることに成功したのよ~」

千早「くっ」

千早「どうして…こんなことをするんですか…!?」

あずさ「春香ちゃ…ある子から頼まれてるの。千早ちゃんを傷つけずに捕まえてって」

千早「春香が…? こんなことまでして、私に何の用が…」

あずさ「えっ…千早ちゃん、どうして春香ちゃんだって…」

千早「あなたが言ったのよッ!!」

あずさ「あら…そうだったかしら~」

あずさ「とにかく、千早ちゃん…一度春香ちゃんと話してくれないかしら。悪いようにはしないから」

千早「嫌…です」

あずさ「あら?」

千早「春香が話したいことがある? それなら、直接話せばいいのに…」

千早「『眠らせて』…だなんて…どうしてこんなことをする必要があるのか、私には理解できないわ…!」

千早「悪いようにはしない…そんな言葉、信じられるものですかッ!!」

あずさ「『信じる』にしても『信じない』にしても…あなたに拒否権はないわよ~」

千早「くっ…」

あずさ「『ミスメイカー』…大人しくしていれば、怪我することはない…大丈夫よ、千早ちゃん」

千早「大人しく…」

千早「悪いですけど、それは聞けませんね…」ス…

ダッ!!

あずさ「あら」

千早(新しい事務所…場所はまだよくわからないけれど、隣の部屋にみんないるはず)ガチャ

ダダダ

あずさ「あらあら、千早ちゃん…どこに行くの?」スト

千早(プロデューサー…)

千早(プロデューサーなら、助けてくれるわ…!)

千早「?」チラ…

ゴゴゴゴゴ

伊織「………」

ゴゴゴ

千早(水瀬さん…? どうしてそんなところで倒れているのかしら…)

千早(いえ、今はそれどころではない…! 早く行かなくては…)

バタン!

千早「プロデューサー!」

P「………」

千早「プロデューサー、助けてください! あずささんが…!」ガシッ

P「………」グラ…

バタン!

千早「え…」

シィーン

千早「プロ…デューサー…?」

P「………」ダラン

千早「はっ!!」

ドドドドド

響「………」

小鳥「………」

雪歩「………」

亜美「………」

千早「こ…これは…! 事務所にいるみんなが…!」

ドドドドドドドドド

あずさ「みんなには…」

あずさ「片っ端から『眠って』もらったわ…悪いけど…」

千早(そういえば…水瀬さんの頭についていたあの数字…)

千早(あの時には、もう…)

あずさ「千早ちゃんも同じように『眠らせて』…」

あずさ「春香ちゃんの元に連れて行く」

ドドドドドドドドドド

千早(『重い』…右腕を封じられたこともあるけれど)

千早(体に重圧がかかってくる…! なんて『威圧感』なの…?)

ズ…

あずさ「…?」

あずさ(千早…ちゃん?)

ズズ…

………

P「………」ピク…

千早(私は…)

ゴゴゴゴゴ

千早(夢でも見ているの…?)

ゴゴゴゴゴゴゴ

千早(あずささんが私を襲ってくる…)

千早(しかも、その理由は『春香』に引き渡すためだという)

シーン…

千早(そのために…事務所のみんなを『眠らせて』…)

ドドドド

千早(そして、この『動かない右肩』…)

千早(あずささんの言うことが、冗談でもなんでもないという事実を突きつけてくる…!)

ドドドドドドドドド

あずさ「『ミスメイカー』」

ゴゴゴゴ

千早「…っ!」

あずさ「千早ちゃんは振り向いた時に触れた『右腕』を『眠らせた』けど…」

あずさ「ここにいるみんなは『頭』を『眠らせた』と…いうわけ」

あずさ「人間は脳で考え行動する…頭を『眠ら』せれば意識も『眠る』」

あずさ「事務所のみんなのように…千早ちゃんにも『眠って』もらうわよ~」

千早「あずささん…『眠らせる』能力…と言いましたよね」

千早「と、言うことは…『起こす』方法もあるのかしら」

あずさ「今のままだと…ないわね」

千早「今のままだと…?」

あずさ「『ミスメイカー』の能力射程は私を中心として10m…」

あずさ「その射程の外に出られなければ、『眠った』ものが起きることは絶対にないわよ~」

千早「射程…?」

千早(この能力は使える『範囲』があるということ…かしら…)

千早「だったら、その外に出れば…」

あずさ「ええ、『ミスメイカー』の影響は消える。『眠った』部分を『起こす』こともできるわ」

千早「! それじゃ…」

あずさ「出られると…」

ゴゴゴ

あずさ「思う? 千早ちゃん…」

ゴゴゴゴゴ

千早「………」

千早(この部屋の出口はあの入ってきた扉が一ヵ所のみ…)

千早(だけど、そこから出られればあずささんから10m…そう難しいことでは…)

あずさ「この『扉』から出て、私から走って逃げればいい…そう考えてるのかしら」

千早「!?」

あずさ「残念だけど…もう、不可能よ。それは」

キィィ…

パタン

千早「なっ…」

千早(ドアがひとりでに閉まった…!)

あずさ「『眠る』ということは、その機能を『停止』するということよ」

あずさ「こうやって、扉を『眠らせ』て閉めてしまえば、起こすまで開くことはない」コンコン

千早「そ…」

千早「そんな馬鹿なッ…! ハッタリよ…!!」

あずさ「なら、試してみる? 千早ちゃんが危険を冒して飛び込んでくるなら、私としては楽なんだけど…」

千早「くっ…」

あずさ「ふふ…」プラプラ

千早(近づいてくる…)

あずさ「『近距離パワー型』って密室だと有利よね…」

千早(逃げようにも…『どこへ』…? 奥の方へ行けば、それだけ追いつめられるわ…)

あずさ「あまり逃げない方がいいわよ~、動かれると、直前で止められないかもしれない」

あずさ「この『ミスメイカー』、『パワー』はかなり強い…だけど、能力で『眠ら』せれば痛みはないから」

ゴオ

千早(『頭』を『眠ら』されたら、その時点で終わり…)

千早(頭だけは…)

ガクン

ドサァ!!

あずさ「!?」ブンッ

カスッ!

千早「あ…」

カチリ

千早「うっ…足に『カウント』が…!」

あずさ「………」

千早(このあずささんの…能力…)

千早(頭にさえ触れられなければ大丈夫、というわけでもない…)

千早(むしろ、長引けば長引くほど将棋の熟練者を相手にした時のように…一歩ずつ、確実に追いつめられるわ)

千早(まず、あの『スタンド』というものの動きを止めなくては)ス…

あずさ「あら、ボールペンかしら」

千早「ふっ!」ビッ!

ドシュゥゥゥゥ

あずさ「………」

スー…

千早「え!?」

カタン!

千早「ボールペンが…すり抜けた…?」

あずさ「『スタンド』は…」

あずさ「『スタンド』でしか倒せない」

あずさ「あらゆる力はスタンドに触れることすらできず、今のボールペンのように通り抜けるわ」

あずさ「スタンドが投げたものというのなら話は別だけど…」

千早「そんな…」

あずさ「スタンドの使えない千早ちゃんに、『ミスメイカー』をどうこうすることはできないわよ」スス…

千早(距離を取った…?)

千早「なぜ離れるんですか…? 射程の外に出られたら困るのでしょう…」

千早「私はスタンドに攻撃する手段がないと言うのに…理解できません」

あずさ「そのことだけど…」

あずさ「千早ちゃん、あなたも…『スタンド使い』よね」

千早「は…?(私が…?)」

あずさ「『スタンド』が見えると言うことは、そういうことなのよ」

あずさ「春香ちゃんの言葉通りだと、千早ちゃんは『弓と矢』に貫かれてはいない…」

あずさ「なぜ『スタンド使い』になっているのかはわからないけど…」

千早「だけど、私は『スタンド』なんて…」

あずさ「ええ、わかってるわ。使えるのなら、とっくに使っているでしょう」

あずさ「だけど…何かの拍子に、千早ちゃんのスタンドが目覚めて…」

あずさ「『不意打ち』のように攻撃を食らうのは、避けておきたいわ」

あずさ「さっき頭に攻撃しようとした『ミスメイカー』…それを無意識に回避したのも恐らく、あなたの『スタンド』によるもの…」

あずさ「既に発現はしているのよ」

千早「………」

あずさ「あるいは千早ちゃんが、『スタンド』を使えるにも関わらず隠しているのかもしれないし」

千早「そんなこと…」

あずさ「何にしても、不用意に攻めるよりは…」

カチ!

千早「うっ!」グラ…

あずさ「『91秒』経ったわ」

あずさ「こうやって少しずつ…確実に、追いつめていった方がいいと思って」

千早(触れられた…『足首』あたりの部分が…動かなくなっている)ガクガク

ズリ…

千早(歩きにくい…だけど、歩けないというわけではないわね…)

千早(『膝』だとかの関節を狙われたら完全に動けなくなってしまうかもしれないけれど…)

千早(それよりも問題は…)

あずさ「これで…千早ちゃんが『10m』の外に出ることはできなくなったわね~」

千早(もしも逃げようとしても、この足では追いつかれてしまう…ということ)

千早(あずささんの言う通り、射程の外に出ることはできない…何らかの手段で、足止めをしない限りは…)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

千早(『スタンド』…)

千早(私にも…使えるの? 本当に…?)

あずさ「このまま追いつめていくわ…木に止まっているセミに網を被せようとする子供のように慎重にね…」

千早「………」

千早「春香は…」

あずさ「?」

千早「春香は、どうしてあずささんにこんなことをさせるの…?」

あずさ「さぁ…春香ちゃんの考えなんて、私にはわからないわ」

千早「………」

ズリ…

あずさ「無駄よ千早ちゃん、奥へ逃げれば逃げるほど…」カツ カツ

バカッ!

あずさ「あなたは追いつめられて…」カツッ…

キィ…

あずさ「………」

千早「私があずささんの『10m』の外に出ることは出来ない…」

千早「けれど、私との距離を『10m』に保たないといけないのなら…」

千早「この部屋の広さ、『眠った扉』の方を『10mの外』に出すことは…できます」

あずさ「そうね。だけど、それは千早ちゃんから扉への距離も『10m以上』あるということ」

あずさ「ここまで追いつめてしまえば、もうドアを閉める必要はないのよ」

ジリ…

千早「あずささんも…」

千早「春香が何を考えているのかはわからないんですよね」

あずさ「ええ、そうね」

あずさ「だけど一つだけことわっておくと、春香ちゃんは千早ちゃんに危害を加えようとしているわけではないわよ」

千早「そう…」

あずさ「だから…大人しく眠りなさい!」バボォーッ

千早「だったら…春香に直接聞くことにするわ」

ズ…

あずさ「!」ピタ…

ドドドドドドドドドド

あずさ「これは…」

千早「これが…」

千早「これが私の『スタンド』…!」

ドドドドド

千早「………」

チマァ…

あずさ「あらあら、その仮面をつけた子供が千早ちゃんのスタンドかしら~」

あずさ「ちっちゃくて、かわいいわね~」

千早「くっ」

千早(見た目は関係ない…)

千早(重要なのは…これで何が出来るか、よ!)

ビュン!!

あずさ「え?」

ブオン!!

あずさ「きゃっ!?」サッ!

あずさ(速い…)

千早「春香が私に会いたがっているというなら…」

千早「望み通り会ってあげましょう。あずささん…あなたを倒してから」

「おわり」つけるの忘れた…あしたとか言っておきながら土曜なんですがポコの「あした」も「次の日」という意味じゃなかったのでいいですよね別に
連投規制とかいうやつでかなり手間取りました、串通したらいけましたが
今までは何故か平気だったんですが、今になって影響が出てしまいかなりの窮屈さを感じております
今月末あたりになれば一応当てはあるのですが、色々と乱れは出ると思いますのでご了承ください

シュ!

バウッ

キララァーン

千早「『スタンド』…これで私も、使えるようになった」

ドドドドド

千早「状況は五分よ、あずささん」

バァーン

あずさ「あら、そうかしら?」

千早「何を…」

あずさ「スタンドに目覚めたのはこっちの方が先…」

あずさ「私は『ミスメイカー』の『強み』も『弱み』も理解しつくしているわ」

あずさ「千早ちゃんはどうかしら。発現したばかりのスタンド、右も左も、能力さえもわからない…でしょう?」

千早「それは…」

あずさ「それに…忘れていない? 千早ちゃんは今、『右腕』も『片足』も封じられている…ということ」

あずさ「この状況で、五分…本当にそう思っているのかしら?」

千早「………」

千早「確かに、スタンドの扱いでは一歩遅れているかもしれませんが…」

千早「だけどさっきの速度…見たでしょう?」

千早「私のスタンド…あなたのものと比べ、『スピード』は比べ物にならないほど速い!」

あずさ「ええ、そのようね…」

あずさ「私の『ミスメイカー』、動きはそんなに速くないから…千早ちゃんのスタンドの速さには驚いちゃった」

あずさ「だけど…」

千早「行きなさい!」ゴオ

あずさ「………」ス…

スカッ

千早「あっ!?」

あずさ「やっぱり…」

あずさ「まだ、扱いに慣れていないのかしら…? 動きが『単調』で避けやすいわ」

千早(くっ、体が『重い』…)

千早(『眠らされ』た部分がそのまま負担になっているのかしら…)

千早(自由が利けばもう少しまともに戦えるのに…と、言ってても仕方ないわね)

千早(なら…)スス…

あずさ「あら、迂回して…向こうのドアを目指すつもり?」

千早「こうやって奥の方でじたばたしているよりは…ましかと」

あずさ「そうね…いい判断だわ」

クルッ

あずさ「だけどいいのかしら、背中を見せて」ズ…

千早(隙を見せれば、向こうから攻撃を仕掛けてくる…)

千早(だけど、こっちのスタンドの方が『スピード』は速い…『後出し』でも充分いけるわ)

千早(あずささんが攻撃してきたら、居合い抜きの達人のように素早く…カウンターを決める…!)

あずさ「『ミスメイカー』」ス…

千早(今よッ!)

ドオッ

千早(やっぱり、『スピード』はこっちの方が上! このまま…)

シャッ!

千早「!」ビクッ

千早(カーテンの閉まる音…)

千早(これくらいで、動揺するとでも…)

フッ

千早「え…」

千早(光が…消えた!?)

千早(あずささんの姿が見え…ない…!)

フラ…

あずさ「そこね」

ヒュン

バキィ!

千早「ぐっ…うぐっ…!?」ズキリ

カチリ

千早「ひ…左腕が…!」

あずさ「この部屋の照明を『眠らせた』わ。スイッチを押さなくても消せるのって便利よね~」

千早「くっ…」

千早(これくらいはお見通し…と、言うわけ…)

千早(そして一つわかった、このスタンド…)

千早(慣れてないだとか…体の自由が利かないせいだと思っていたけれど、そうじゃあない…)

千早(私とこの『スタンド』とでは、体格が違いすぎる! だからコントロールできないんだわ…)

千早(そ、それよりも…)

千早「殴られたのは私のスタンドなのに…なぜ、私の腕にも『カウント』が…」チッ チッ

あずさ「ああ、千早ちゃんは知らないのね…」

あずさ「スタンドは、人の精神力が生み出すエネルギー体…」

あずさ「『スタンド』と『スタンド使い』…『本体』は一心同体。スタンドへのダメージは、本体へのダメージよ。逆もしかり」

千早「そうですか、なら…」

千早「こっちもあずささんのスタンドに攻撃すれば、あずささんにダメージが行く…ということですよね」

あずさ「…これで『両腕』を封じたわ」

あずさ「千早ちゃんのスタンド…恐らく『ミスメイカー』と同じで『触れて』能力を発動するタイプ」

あずさ「もう能力は使えない」

千早「いえ、この『左腕』は殴られただけ…」

あずさ「あらあら」

千早「まだ『眠って』はいない…!」

ドドドドドド

千早「ふっ!」ボヒュ

あずさ「そうやって…」

ススス…

スカ…

千早「う…」

あずさ「闇雲にスタンドを突っ込ませて、どうにかなると思ったのかしら…?」

ガシッ

あずさ「いくら速いと言っても…」

あずさ「まっすぐ突っ込んでくるだけなら…ほら、捕まえるのも簡単」

カチカチカチ…

千早「なっ!?」

千早(『カウント』の進みが早い…!)

あずさ「『ミスメイカー』は通常触ってから、『眠る』まで『91秒』の時間がかかる…」

あずさ「だけど、こうして触っていれば『カウント』は早く進む。もっと短い時間で『眠らせる』ことができるわ」

千早「このまま触れさせておくわけには…」

千早「いかな…」グイ!

シン…

・ ・ ・ ・ ・

千早(振りほどけ…ない…)

あずさ「千早ちゃんのスタンド…」

あずさ「小さい分『スピード』は速いけれど…『パワー』はとても弱いようね~」グ グ グ

千早(『パワー』が違いすぎる…)

千早(こんなもの、小学生くらいの子供がプロレスラー相手に腕相撲をしているようなもの…ビクともしない…)

カチカチカチ…

カチリ!

千早「あ…」ストン

あずさ「将棋で言うなら…『王手』と言ったところかしら?」

バッ

千早(このままでは…一方的にやられるだけ…)

ズリ…

千早(私のスタンドにも…恐らく、あずささんのものと同じで…何らかの『能力』があるはず)

千早(殴れなければ、どんなものかもわからないけれど…このスタンドの能力は使うことすらできない)

千早(ならまずは『10m』…射程の外に出なければ…)

千早(だけど、こんな足じゃ…)

グキッ

千早「くっ!」

千早(挫いた…無理に走ろうとするから…)

あずさ「やっぱり、足を『眠らせた』のは正解だったわね~」

千早「!」

あずさ「こうして、逃げられそうになってもすぐに追いつける…から」

あずさ「まだ抵抗する?」

千早「質問を質問で返させてもらいますが…」

千早「諦めると…思いますか?」

あずさ「そう」グオン

千早「!」

フッ…

千早「え?(バランスが…)」

グラ…

千早「きゃっ!」ドタァン

ブルン

あずさ「………」

千早「痛…」

あずさ(やはり…)

あずさ(千早ちゃんの避け方、これは『偶然』ではないようね)

あずさ(無意識のうちに、『能力』を使っている…と見た方がいいわ)

あずさ(でも、どういう能力なのかしら…?)

あずさ(春香ちゃんの『アイ・ウォント』みたいに、感覚を操作して転んでいるとか…? まさかね…)

ズル…

千早「く…」ズリズリ

千早(手が不自由だと、立つのも一苦労だわ…)

あずさ「避けたのはいいけど…それが逆に『ピンチ』を招いているわね、千早ちゃん」

あずさ「今のあなたは手も足も出ないッ!」

ゴゴゴゴゴゴ

千早「手は出ないけれど…」

ヒュッ

バキャッ

あずさ「ん!」グキ

千早「足は出るわよ、この通り…」グググ…

ギャァァン

あずさ「うぐっ!」バキィ

ドサァ

あずさ「うう…」フラ…

千早「………」ズル…

あずさ(スタンドで蹴りを…そして、その反動で廊下の方まで進んだのね…)

あずさ(『戦闘のセンス』…才能がある子って、何をやらせても上手いものよね)

あずさ(春香ちゃんが私を差し向けてまで千早ちゃんを確保しようとする理由…わかる気がするわ)

千早「廊下に出られた…」

千早「だけど…」

千早「これから、どうするの…? あずささんは、すぐに…」

ヌ…

あずさ「追いついてくる…わよ?」

千早「…!」

あずさ「さぁ、どうするのかしら?」ズズ…

ガシィ!!

千早「う…」

あずさ「ちょこまかと動き回られたら面倒だから…」

千早(廊下に出たらなんとかなるかと思ったけれど…)

あずさ「こうやって腕を押さえつければ、今度こそ…もう逃げられないわよ~」

千早(どうにも、なりそうもない…)

あずさ「さぁ、あとは『頭』に触れ…」ス…

『届かないメッセージ 不可視なラビリンス』

あずさ「!?」ビクゥ

ゴゴゴゴゴゴ

伊織「………」

ゴゴゴ

『心の安らぎ 導いてよ』

あずさ「伊織ちゃん… ………」

あずさ「の…携帯電話からか…びっくりしちゃったわ…」

ビシィ!

・ ・ ・ ・

あずさ「………」

千早「はぁ、はぁ…」グ…

あずさ「千早ちゃん…?」

ズル…

あずさ「『右腕』は『眠らせた』はず…」

千早「動かないのは『右肩』だけ…」

千早「肘から下は…少しだけ、動くわ」

あずさ「…そう」

グオン

バキィ!!

千早「がっ…!」

あずさ「油断…しちゃったかしら、ちょっと…いえ、だいぶ」グイッ

カチカチカチ…

フ…

ガクン!

千早(右腕が…もう動かせない、どこも…)

あずさ「これで今度こそ『両腕』を封じた…」

あずさ「終わりよ、千早ちゃん」

カチ!

千早「あ…」

あずさ「頭に触れた…」

千早(もう…駄目なの…?)

カチカチカチ

あずさ「このまま触れていれば…『30秒』くらいですぐに『眠る』わ」

あずさ「千早ちゃんのスタンドの能力がなんであれ…」フ…

あずさ「大きな影響が出る前に『眠らせ』ちゃえば…」フラ…

あずさ「あれ…?」フワワ…

千早「え?」

あずさ「あ、あら~?」フワァーッ

千早「こ、これは…」

あずさ「千早ちゃんのスタンド…」

あずさ「か、体が浮く…!」

あずさ(これは、まさか…物体を『軽く』する能力…!?)

千早「っ!」フラ…

ズリズリ

あずさ「あっ、千早ちゃん…!」

あずさ(スタンドの能力は、発動の鍵は手だけど…)

あずさ(能力自体は、スタンド自身のものだから…手を『眠らせ』ても消えない…)

あずさ「これじゃ追いかけられないわ…詰めを誤ったわね…」プカプカ

スタンド名:「ミスメイカー」
本体:三浦 あずさ
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:D 射程距離:E(3m) 能力射程:C(10m)
持続力:B 精密動作性:C 成長性:E
能力:攻撃を当てた対象を「91秒」で「眠らせる」、あずささんのスタンド。
既にカウントが表示されている部分に触れると、カウントが早く進んでいく。
「眠らせ」たものはその機能を停止し、能力を解除することで再び動き出す。「ミスメイカー」自身の射程距離は広くはないが、能力の効力が続く範囲は広め。
本体であるあずささんがのんびりとした性格なのでスピードはそれほど早くはないが、その分パワーはとても高く、並のスタンド相手ならば押し負けることはまずない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

これで今回分は終了です。支援ありがとうございました。

広瀬康穂の幼馴染である東方常秀の家、東方家に引き取られることになった「謎の青年」…名前をつけられ「東方定助」!
そしてその家長、東方憲助の末娘である東方大弥の世話を命じられた定助は、彼女のスタンド、「カリフォルニア・キング・ベッドちゃん」により「記憶」を次々と奪われていく!
謎を解き明かす手がかりとなるかもしれない「謎のマーク」、そして、定助が唯一信じられる相手である「康穂」…
次に奪われるのは何の「記憶」か? 定助は、大弥に勝利し、前に進むことができるのだろうか…?
東方家に漂う「謎」の気配…立ち入りを禁じられた「上の部屋」には、一体何があるというのか…!?
「東方」、「吉良吉影」そして「ジョースター」…東方定助を待ち受ける運命とは…!
「ジョジョリオン」第3巻、来週水曜、9月19日発売ッ!

当てが外れました。どなたか支援お願いします

グ!

フラフラ

あずさ「うーん…」グ…

フワァ…

あずさ「やっぱり駄目、足がつかないわ…」

あずさ「今、『空気』と同じくらいの重さ…無重力状態にされているのね…」

あずさ「こんな状態でちゃんと動けるなんて凄いわね、『宇宙飛行士さん』は…訓練には5年以上かかるらしいけど…」

あずさ「うぅ、そんなことを言ってる場合じゃないわ…」

あずさ「射程の外まで行かれたら、千早ちゃんに逃げられてしまう…!」

フ…

あずさ「え?」

ドサァ!

あずさ「きゃあっ!」

あずさ「こ、これは…もしかして…」

千早「はぁ、はぁ…」

ズリ…

・ ・ ・

スゥ…

千早「!」

ドドドドドドドド

千早「足が…!」パタパタ

キュッ

千早「それに、腕も動く…! 体も軽くなったわ!」

千早「『射程距離』の外に出られたようね…これで、あずささんの『スタンド』の効果はすべて消えた!」

千早「だけど…」

千早(この場で逃げ切ったとしても…)

千早(事務所ではいつも顔を合わせる…あずささんのスタンドで気づかないうちに『眠らされ』れば、対処しようがないわ)

千早(だったら、今この場で決着をつけた方が…)

千早「一度、戻ろう…かしら」

あずさ「その必要はないわ」

千早「!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

あずさ「もうとっくに逃げてると思ったけど、まだ、こんなところにいたのね…」

千早「あずささん、どうして…? 能力は解除していないはず…」

あずさ「『射程距離』よ」

千早「射程距離…」

あずさ「よくよく考えてみれば、私の『ミスメイカー』に『射程距離』があるように…」

千早「なるほど、私のスタンドにも、あるはずですよね…」

あずさ「これで、今度こそ『五分』かしら? 負ける気はないけれど」

千早「そうですね…」ジリ…

ダッ!

あずさ(逃げた! …いえ)

あずさ(千早ちゃんは、わざわざ私を待っていた…そしてさっきの千早ちゃんの言葉…逃げる気は…ない?)

あずさ(だとしたら、これは…おびき寄せている? 私を…)

あずさ「いいわ、千早ちゃん。あなたの誘いに乗ってあげる」

………

……



千早「………」ピタ

ドドドドドドドドド

あずさ「どこへ行くかと思えば、外に来ただけ…?」

あずさ「確かに…室内にいるよりは有利かもしれないけど」

千早「ここなら…」

千早「遮るものも、ぶつかる壁もない」

あずさ「『軽く』するものもね。こんなところじゃ、小細工もできないわよ?」

千早「小細工? 必要ありませんよ」

あずさ「…なんですって?」

千早「堂々とこのスタンドを叩き込むだけです」

あずさ「ずいぶんと甘く見られたものね…」

あずさ「やってみるといいわ…正面からぶつけて、勝てるというのなら!」

千早「行きます」

バオォ!

あずさ「ふっ!」ドン!

ドギャア!!

あずさ「………」

ピシッ

千早「!」ブシュ

バガァ!

千早「うっ、ぐっ…!」ズリ…

ドッギャァーン

千早「くっ…」ズササァ

ブシュゥゥ-ッ

千早「…スタンドの腕にヒビが…」

カチ!

あずさ「拳と拳…正面から打ち合って、本当に勝てると思っているの…?」

あずさ「胴体に打ち込んで、『軽く』すれば逃げることは出来るわ…! そうしないのかしら…!?」

千早「しない…」

千早「正面からぶつかってあなたに勝つ」ズ…

ヒュッ!!

あずさ「それでなんとかなると…本気でそう思っているの!?」

バキ!!

千早「がっ…!」グキ!

あずさ「世の中にはどうにもならないこともあるのよ」

千早「二発じゃ…駄目なのかしら」

あずさ「何発来ようと通用しないわ! 『カウント』もあと少し、どうあがいてもあなたは勝てやしない!」

千早「うおおっ!!」ヒュッ!

あずさ「学習能力がないのかしらァ~ッ!?」ドォォン

ドガァァン

あずさ「正面から打ち合えば『ミスメイカー』のパワー」

あずさ「そんな鉛筆の先で突っついているようなパワーでどうこうできるものじゃない!」ググググ…

千早「………」グ…

フワ…

あずさ「私の体を少しずつ『軽く』しているみたいだけれど…」

あずさ「それだけの能力では私には勝てないわよ、千早ちゃん!!」

千早「…『軽く』している?」

カチカチカチ

千早「違いますよ、あずささん」グ…

あずさ「…?」

千早「むしろ逆…『重く』しているんです」

あずさ「『重く』…どういうことかしら?」

千早「さっきから妙に体が重いと思ったら…」

千早「このスタンド、奪った体重は私に加算されるみたい」

千早「『軽く』するのではなく『重量』を『奪う』、それが能力」

千早「『眠らされ』たから重いのだと思っていたのですけれど、私自身の能力だったみたいですね」

千早「さっきはこのスタンドの『射程距離』の外に出たから能力が解除され、軽くなった」

あずさ「それが一体…」

千早「わかりませんか…?」ググ…

あずさ「うっ!?」グ…

千早「パワーというものは、重ければ重いほど…」

あずさ「な、なんですって! こ、このパワーはッ!!」

千早「ヘヴィになっていく」

あずさ(このスタンド、『ミスメイカー』の…私の『重量』を奪い…)

あずさ(重くなった分が、そのまま『パワー』に加算されているということッ!?)

グ グ グ

あずさ(それだけじゃあない…こっちのパワーも『重量』と一緒に…)

グ グ グ グ グ

あずさ「わ…私の…『ミスメイカー』が、押し負け…」

グオン!

あずさ「きゃあッ!!」

ドギャア!

千早「小さいけど、その身体には大きな可能性を秘めている…」ドクドク

カチ!

ピタァ…

千早「この能力…『ブルー・バード』とでも名付けようかしら」

千早「さぁ、決着をつけましょうか?」

千早「もう『パワー』はこっちの『ブルー・バード』の方が上ですけど」

あずさ「う…」

あずさ(スタンドは精神のエネルギー…正面から挑んで負けてしまった、もう私の『ミスメイカー』の『パワー』は役に立たない…)

あずさ(千早ちゃんは…スタンドバトルの本質を『直感』で理解しているの…? だから、こんなことを…)ズリ…

千早「逃げる気ですか? この期に及んで…さっきまでとは、立場が逆になりましたね」

千早「その怪我で動けるのは『軽く』しているから…どの道、射程の外までしか逃げられませんよ」

あずさ「はぁー、はぁー…」

あずさ「逃げる…ね、違うわ…私の『ミスメイカー』…忘れたのかしら…」

千早「…?」

あずさ「『油断』…したわね、千早ちゃん」

千早「!」ガクン

千早(『両膝』…! いつの間にか触られていた…)

あずさ「そしてッ!」

あずさ「『ミスメイカー』ァァァァッ!!」ドボォ

千早「………」ドヒュン

バキャァ!!

あずさ「ぐっ!」グキッ

あずさ「こっちは…両手あるのよ、片腕だけじゃ…!!」

あずさ「防げない!!」ゴォオ

ピタ…

あずさ「………」

オ オ オ オ オ オ オ

千早「………」

カチ!

あずさ「触れたわ…頭に…」

あずさ「これで、私の勝ちよ! 千早ちゃん!」

千早「…そう思う? 本当に…」

あずさ「私を『軽く』して動けなくも、千早ちゃんは『能力射程』の外まで行くことはできない! 這って行こうとしても、その前にカウントは『ゼロ』になる!」

あずさ「これは『詰み』よ! 打つ手はないわ!」

千早「別に…私が動く必要はない」

あずさ「え?」

千早「何のために外へ出てきたと思っているの?」

千早「私の足が動かないというなら…」

千早「あずささんに、射程の外まで出て行ってもらえばいい」

あずさ「な…」

あずさ(まさか…! まずい、距離が近すぎ…!!)

千早「『ブルー・バード』!」

ドグオ

あずさ「うぐっ… …!」

あずさ「あ…」フワ…

千早「あずささん…」

千早「あなたの体重を空気より…もっと、『軽く』…」

千早「限りなくゼロにした」

ガィィーン

あずさ「きゃあああァァァァッ!!」ブオン!!

千早「飛んで行きなさい、鳥のように優雅にとはいかないけれど」ファサッ

スゥ…

千早「数字が消えたわ。能力射程の外に出たようね」

千早「そして…」

千早「私の『ブルー・バード』の能力も、消える」フ…

ヒュゥウウウウ…

千早「さて…もう一撃」ス…

バキャア!!

ヒュルルルル…

あずさ「ぐへ!」グシャ

千早「………」

千早「ちょっと…」

千早「やりすぎたかしら…いえ、手加減しては逆に私がやられていたかも…」

千早「ごめんなさいね、あずささん」

あずさ「う、うぅ…千早…ちゃん…」

千早「!」

あずさ「効いたわ…とても…」

千早「あの高さから落ちて生きているッ!(別に殺す気はなかったけれど) 気を失ってもいない!」

千早(どうやら…クッションになったようね…豊満なバストが!)

ドタプゥゥーン

千早「くっ」

千早「なら、もう一度『ブルー・バード』を叩き込んで『再起不能』に…」グッ

あずさ「待って…千早ちゃん」

あずさ「降参…降参よ。これ以上やりあうつもりはないわ」

千早「………」ピタ…

あずさ「あの高さから叩き付けられて無事なのは…あなたの『ブルー・バード』に殴られたお陰…ちゃんと理解している」

あずさ「私の…負けよ」

千早「…そう」

千早(勝った…のね、私は…)

千早「では、あずささん…教えてください」

千早「『スタンド』のこと…そして、『春香』のこと」

千早「あずささんがが知っていること…すべて話してもらう」

あずさ「…わかったわ」

ドドドドドドドド

ドドドドドド

………

千早「『春香』…『弓と矢』…『スタンド使い』…」

あずさ「春香ちゃんは…スタンド使いを増やして『仲間』を増やしているわ」

千早「そんなことをして、春香は一体何を…」

あずさ「さっきも言ったけれど、春香ちゃんが何を考えているかはわからない」

あずさ「ただ、『仲間』を増やすこと…それを目的としていることは確かよ」

千早「………」グッ

あずさ「千早ちゃん…? まさか、春香ちゃんを倒そうだなんて考えてないわよね…?」

千早「そのまさかと言ったらどうするんですか…?」

あずさ「『アイ・ウォント』の能力! 説明したでしょう!? 千早ちゃんの『ブルー・バード』…『重量』を『奪う』能力では到底敵わないわ!」

あずさ「悪いことは言わない…今は春香ちゃんに近づくことはやめて」

千早「そういうわけにもいきません」

千早「今の私があるのは、プロデューサーと…春香のお陰です」

千早「その春香がみんなに迷惑をかけているのなら、私は彼女を止めなければいけない」

あずさ「春香ちゃんを止める…今のあなたじゃ、できっこないわ。そんなこと」

千早「私では春香には勝てない…そう思っているのですか?」

千早「だけど、先延ばしにするわけにもいきませんよ。私のように、何もわからず襲われる…そんなことを、春香にはさせたくない」

あずさ「本気…なのね…?」

千早「はい。春香は夜になれば帰ってきますよね?」

あずさ「なら、仕方ないわ…」

カチ!

千早「!?」グラ…

あずさ「………」

千早「なに、を…」

バタン…

あずさ「千早ちゃん…春香ちゃんを倒せないと思っている…? むしろ逆よ」

あずさ「春香ちゃんの『アイ・ウォント』を倒せる可能性があるのは…春香ちゃんに会っていない、あれに対する『恐怖』を持たず、精神を折られていないスタンド使い…」

あずさ「あなたしかいないのよ、千早ちゃん」

あずさ「だからこそ…あなたを春香ちゃんに会わせるわけにはいかない」

あずさ「今は雛鳥の『ブルー・バード』が、『アイ・ウォント』を倒せる力となる…その時まで」

ヒュゥゥゥゥゥゥ…

To Be Continued…

スタンド名:「ブルー・バード」
本体:如月 千早
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:E~A スピード:B 射程距離:D(7m) 能力射程:C(10m)
持続力:E 精密動作性:E 成長性:A
能力:物体の「重量」を「奪う」ことができる千早のスタンド。
「重量」は本体である千早と連動しており、「奪う」ことで物体を軽くすれば、体重は千早に加算される。
通常時のパワーは非常に弱いが、「重量」が増えることで、そのパワーはどこまでも上がっていく。
一度に二つまでの物体の重さを「奪う」ことが可能。「重量」は「ゼロ」になるまで奪うことができ、物体を「空気」より軽くすることもできる。
スタンド像がなぜか千早の身長に対し非常に小柄なため、操作が難しく、あまり正確な動きはできない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

本日分はこれで終了です。支援ありがとうございました

いつも最後にageようと思ってるのにまーた忘れた 今回は冒頭でageてるんでいいんですけど
読み返してみると誤字脱字とか何やってるのかわからんところ多いですね…
なんで「ここ何やってんの?」など、質問があればネタバレにならない範囲で受け付けることにします。返答は次回のおまけで

殴った物しか重量奪えないの?

乙!
千早は加算される重量の部位をコントロールできるんだろうか。
要するに加算される重量を胸に集めることはできるんだろうか。
謎は尽きないな

二回分とか適当に言ってたら出来てしまったんで投下させていただきます
つきましてはどなたか支援お願いします

ゴチャ…

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

真「………」

やよい「真さん、お団子みたいになっちゃってますね」

真「………」

やよい「そうなったらもう『すとれ…なんとか』でも動けないかなーって」

真「………」

ゴゴゴゴゴゴ

 千早の『ブルー・バード』とあずさの『ミスメイカー』が決着する頃…

 765プロ新事務所の建物内で行われていた、もう一つの戦闘に決着が着こうとしていた。

 時は、菊地真が水瀬伊織と別れレッスン場へ向かおうとする時まで遡る…

バカッ

真(トレーニングウェアと…タオルと…水は途中で買っていけばいいか)

真(新しい事務所は、ロッカールームがちゃんとあるのが嬉しいよね)

ガチャ

春香「あ」

ドドドドド

ドドドドドドドドド

ド ド ド ド ド ド ド ド ド

真「!!」バッ

春香「そう身構えられると傷つくなぁ」

真「…もう、出たんじゃなかったのか」

春香「ちょっと忘れ物を、ね…」

真「忘れ物…ボクのことかい…?」

春香「ちがうちがう。本当にただの忘れ物だって」

真「ボクを始末するか…?」

春香「え?」

真「もう、知ってるんだろう? ボクが伊織に負けたこと…」

真「そして、伊織の方に付くと決めたことを」

春香「まぁ、知ってるけど…」

真(春香と…ボクの間で…)

真(温度差がありすぎる…なんだ、この話したことのないクラスメイトを相手にした時みたいな反応は…)

春香「それなんだけどさ、真…聞いていいかな?」

真「なんだい?」

春香「どうして伊織の方に? 負けたから、逆らえないってこと?」

春香「だったら、すぐにでも真のために伊織を倒すよ」

真「…ボクのためだって?」

真「違うね。春香がやってるのは全部自分のためだろ」

春香「………」

真「春香は事務所のみんなを『仲間』にしたいんだろ?」

真「ならないのなら…『アイ・ウォント』で力づくでも…」

春香「どうしてか、みんな嫌がるからね…仕方ないよ」

真「ボクも伊織も、今の春香のそういうところが嫌なんだ」

真「伊織に負けた…それだけじゃ、キミを敵に回す理由にはならないよ」

春香「…真の中では、私はもう『敵』なんだね」

真「…春香は、事務所のみんなを『仲間』にしてどうするつもりなんだ?」

春香「どうもしないけど…同じ事務所でいがみ合ってるのって悲しいじゃない」

真「…春香。本当にそう思っているのなら、『矢』を壊すんだ」

真「もう『スタンド使い』になってしまったものは仕方がない…」

真「だけど、その原因である『弓と矢』は違う…あれさえなければ、みんなすぐにでも争うのをやめるはずだ」

春香「それは駄目」

真「どうしてだよ、わかってるのか!? ボク達が春香といがみ合ってる理由こそが、あの『矢』なんだぞ!」

春香「未知のものだもん、戸惑ってるだけ。最後にはみんなわかってくれるよ」

真「そんなこと…!」

春香「いや…ちがうか…」

春香「わかってもらう」

真「…!」ゾクッ

春香「もちろん、伊織にも…真にも…ね」

ゴゴゴゴゴゴゴ

真「だったら、ここでやるか…?」

真「わかっていると思うけれど、前の事務所を壊したのはボクだ…やりあえば、キミだってただでは済まないと思うけど?」

春香「あはは、真…それ、本気で言ってるの?」

真「………」

春香「別に…今は忘れ物を取りに来ただけ。いずれ、そういう時が来るかもしれないけど…今は違う」

春香「時間があればやってもよかったんだけど…そうだったら困るのは、真の方でしょう?」

ガチャ

春香「ふんふんふーん♪」ゴソゴソ

真(無防備…ボクのことなんて、まるで眼中にない…)

ゴゴゴゴゴゴゴ

春香「おとめよーたいしをいだっけー♪」

真(『不意打ち』は…正々堂々じゃあない、スタンドパワーを『弱く』する行為だ…)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

真(だけど、今の春香を倒すためなら…それに、少しくらい弱くなっても『ストレイング・マインド』の能力…)

真(…やるか?)

春香「やめといた方がいいよ、真。そんな震えた手じゃ何もできやしない」ボソッ

真「!!」ビクッ

真「『聴覚支配』…!」

春香「『視覚支配』だよ? 今、実際に真の耳元で話しかけてる」

ピト…

真「は…」

春香「『奪った』」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

春香「『ストレイング・マインド』…確かに、『破壊力』なら私が見たスタンドの中でも最強…」ズズ…

真(景色が元に戻る…いつ、奪われたんだ…?)

春香「真ほど事務所のビルを簡単に壊せる人はいない、私の『アイ・ウォント』でも不可能」

春香「でも」クルッ

真「うっ…!」バッ

ピキピキ

春香「そんな真のスタンドでも…私を倒すことは、もっと不可能。反抗するだけ無駄無駄無駄無駄…」

春香「そのことを忘れたって言うのなら…」

真「………」

春香「思い出させてあげる」

ゴゴゴゴゴゴゴ

真「………」タラ…

プルプル…

真(止まれ…)プル

真(止まれよ、ボクの手…!)プルッ

ゴゴゴゴゴゴ

春香「…と」

春香「言いたいところだけど…」

春香「本当に、もう行かないと。スタッフの人達や律子さんを待たせちゃいけない」

真「………」

春香「こんなことで穴を空けるのも…ね」

春香「それじゃあね、真」フリフリ

パタン…

シィーン…

真「………う」プハッ

真「はぁ、はぁ…!」ダラダラ

真(汗が…運動前だってのにビチャビチャだ)グイ

真「くそっ!」ドンッ!

真(『こんなこと』…春香にとっては、しょせんその程度でしかないのか)

真(実際…そうだろうな。仮に今、戦うことになっていたら…)

真(スタンドを身に纏ったところで、春香の『五感支配』は容赦なく襲いかかる…)

真(逃げるだけなら…出来ると思う。新しい事務所に穴が空くことになるけど…)

真(だけど、戦うとなると…)

真(………)

真(伊織は…春香と戦うつもりでいる…)

真(仲間と一緒なら、春香も倒せるはずだと…そう言っている)

真(ボクも春香を裏切り、伊織と一緒に戦うことを決めた)

真(それが、春香に相対しただけでこのザマだ…)

真(ボクは…)

真(ボクは本当に、春香と戦えるのか…?)

バタン

真「…レッスン、行くか」ス…

グイ!

真「………」

グググ…

真「なんだ…ロッカーから手が離れない…!?」

ゴゴゴゴゴ

真(この気配…)

真「誰だ!」クルッ

やよい「うっうー! 成功ですっ!」

ゴゴゴゴゴゴゴ

真「やよい…」

真「これは…やよいがやったのか?」

やよい「えへへ…私のすた…すた…えーと…『ゲンキトリッパー』」

やよい「『くっつける』能力ですっ! 真さんの手をロッカーに『くっつけ』ました!」

真「はぁ…」

バキ!

やよい「へ?」

メキメキメキメキ

やよい「はわっ!?」

真「『くっつける』能力…それで、ロッカーに『くっつけた』のか…このままだと邪魔だな…」ス…

ゴン!

バリィィィン

真「くっついた部分だけは離れないか」

やよい「ロッカーのドアのところがコナゴナに…」

真「やよい…誰に頼まれてきた? さっき出て行った春香か?」

やよい「それは…えっと、はい…」

やよい「真さんや伊織ちゃん達、春香さんとケンカしてるって…」

真「伊織のことも…知ってるんだね」

やよい「ケンカは、よくないと思います! みんな仲良くしないと!」

真「喧嘩ね…」

やよい「春香さんに頼まれました。真」

真「そっか…で、さ…」

真「こうしてボクの前に出てくるってことは、覚悟はできてるんだろうな? やよい…」

ドドドドドドドドド

真「一つ警告すると…ボクの『ストレイング・マインド』の破壊力は春香も最強だと認めている」

やよい「さいきょー…ですか」

真「今見せたように、『ロッカー』を破壊することなんて、砂の城を崩すようにたやすい」

真「大怪我しないうちに逃げるか…降参した方がいいと思うけど」

やよい「そーしたら春香さんに怒られちゃうかもです…」

真「ボクの方ならどうこうできると思っているのか…?」

やよい「なんとかします!」

真(しかし…)

真(伊織の時は、ボクも必死だったし…それに、倒したら春香に引き渡して治してもらうなんてわけにはいかない…)

真(ボクの『ストレイング・マインド』は、破壊力が高すぎる)

真(やよいの身体を破壊してしまえば、それを治す手段はあるのか?)

真(やりにくいな…)

やよい「うっうー、行きますよ!」

真「やる気か…いいよ。なら来い、やよい!」パキッ

やよい「『ゲンキトリッパー』!!」ドォーン

真(あんな入り口の離れたところから…)

真(伊織の『スモーキー・スリル』と同じ…『遠隔操作型』か。だから部屋に入る前からロッカーに仕掛けられた…)

やよい「うっうー!」ボヒュ

真(ロッカー…どうせ壊れてるなら、全部使うか)パキパキ

バキッ

真「オラオラァ」ドン! ドン!

パリィ!!

やよい「へっ!?」

ヒュン!

ドス!

やよい「あうっ!?」

ブシュゥ

真「ん!」

真(やっぱり、ボクの能力じゃあ殺傷力が高すぎるか…)

真(やよいをあまり傷つけたくはない…念のためだ、伊織を呼ぶか…)ピポパ

やよい「あれ…真さん、誰かに電話するんですか? えっと…伊織ちゃんかな?」

真(『スモーキー・スリル』なら、『くっつけ』られることはないはず…)

トゥルルルル…

・ ・ ・ ・ ・

真「出ない…?」

やよい「上では、あずささんが誰か捕まえるために何かやってるみたいです」

やよい「だから…真さんが伊織ちゃんを呼ぶのはちょっと無理かなーって」

真「あずささんが…?」

真(意識を落とすスタンド…それでか…?)

やよい「春香さんはそう言ってました」

真「春香ッ…!」

真(あの態度…『自分で手を下す必要はない』と…そういうことか…!)

真(電話が帰ってこないということは…伊織はあずささんと戦っているか…あるいは、もう…)

やよい「伊織ちゃん、もうあずささんに負けてたりして」

真「…あの伊織が負けるなんて想像できないな」

真(とはいえ…助けは期待できない。やよいの方はなんとかしますか、ボク一人で)

真「伊織の助けが期待できない以上…」

真「仕方ないな。ボクの手で『再起不能』にさせてもらうぞ、やよい」

やよい「うー、負けませんよ! 私も、ガンガンいっちゃいます!」タタタ

真(近づいてきた? 『遠隔操作』なのに…)

やよい「『ゲンキトリッパー!』」グオン

真(…ん?)

・ ・ ・

真(さっきロッカーを飛ばしてついたやよいの傷が…塞がっている? まさか…)

やよい「うー!」ヒュオッ

真「………」サッ

ゴシュ!

やよい「はわっ!?」ビリビリ

やよい「うぅ、この腕…硬いです…」

真「ボクのスタンド、『ストレイング・マインド』はこの世の何よりも『硬い』能力だ」

真「生半可な攻撃は通用しないと思った方がいいよ」

真「そして、この身に纏うスタンド…射程距離は短いけど、純粋な近接戦闘の『スピード』なら春香の『アイ・ウォント』よりも上」

真「『パワー』だって半端じゃあない。一撃食らえばやよいの体のパーツもさっきのロッカーようにフッ飛ぶ」

真「やよい。はっきり言ってボクは手加減している…これ以上やると言うなら身の安全は保証できない」

やよい「そーですか…」

ピト

真「!?」

真(今の攻撃、ダメージを与えるためではなく…)

真「くっ!」ブンッ!

ピタァ…

真「近づいて来たのは…」

真「『くっつける』ためかッ!! 自分の体を直接ッ!」

やよい「えへへ…はい」

やよい「真さんのそれ…着る感じですよね?」

真(振りほどけない…! ボクの腕にピッタリくっついて…!)

やよい「だったら、こうしとけばもう私には攻撃できないかなーって」

真「そんな馬鹿な…」グイ!

やよい「んっ!」グ!

真「うぐ…」グイ!

真(確かに…こうくっつかれると打撃が加えられないぞ…!)

真(『ストレイング・マインド』は、身に纏っているスタンドは『硬く』できるがボクの体自体を『硬く』することはできない…)

真(やよいの『ゲンキトリッパー』にはそういう制限はない…のか)

やよい「とと…」モゾモゾ

真「うひゃぁ!?」ゾクゾクッ

真(腕はくっつけたまま…背中の方に…回り込んでる…)

やよい「後ろからなら、真さんは叩いたりできないからお得です!」

真「く、『くっついた』ままじゃ、やよいだって攻撃できないだろ?」

やよい「あ! 考えてませんでした…」

真「………」

真(だけど…もしかしたら、あずささんがこっちに来る可能性があるかもしれない…)

真(このままくっついていられるのは少しまずいか…?)

真(と、言っても…腕も『くっつけ』られているし…後ろにくっつかれたままじゃ攻撃できやしない)

やよい「あ、いいこと考えました」

真「なに?」

やよい「こうやって…」ギュッ

真「ん!」

ピタ…

真(指が…開かない…!)

やよい「真さんの体を、体の別のところに『くっつけ』れば、動けなくなるかなーって」

真「く…」

真(これは少しまずいな…このままくっついていられたら、全身封じられてしまうぞ)

やよい「えっと、次は腕を…」

真「そうはさせないよ」

やよい「!」

真「『ストレイング・マインド』ッ!」パキパキパキ

やよい「わ、なんかかっこいいです!」

真(『ストレイング・マインド』を全身に纏っても背中や指は『くっついた』まま…剥がせない…か)

真「だが…」グッ

やよい「へっ?」ガクッ

バヒュゥゥゥン

やよい「はわっ、すごいジャンプ力…」

真(背中から…飛び込む!)グラ…

ゴオオオオオオオオオ

真「さぁ、このままだと地面に叩き付けられるぞ! 離れるんだッ!」

ペタ

真「…え?」

やよい「じゃあ…背中の方にいなければ」ペタペタ

真「なっ!?」

真(『手』をくっつけて…空中で、ボクの体を登っているッ!?)

やよい「逆に、真さんが地面に叩き付けられることになりますよね」

真(『くっつける』能力! こんなこともできるのか…)

やよい「えへへ、真さんの胸にくっついてるとなんだかお姫様になったみたいな気分」

真「やよい…呑気なこと言ってて嬉しいやら悲しいやら複雑な気分だけど」

真「ボクがただやよいを地面にぶつけるために飛び込んだと思ったのかい」

やよい「えっ?」

真「オラァッ!!」ビュッ

ガン!!

パリィィィン

やよい「地面が『硬く』なって…割れ…」

真「破片が飛び散るぞッ! 離れろ、やよいッ!」

やよい「はい、そうします」グイ!

ヒョイ

真「な!?」

真「ぐっ!!」ドザァ!

バリバリバリ

ガシャァァァ

やよい「わ…散らかっちゃっいました…あとで片付けないと…」

真(やけにあっさり…離れていったな…)

真(と、とにかく、やよいからは離れることに成功…)グッ…

真「…え」グ…

真「ゆ、床が…『離れない』ッ!!」

やよい「『ゲンキトリッパー』。真さんを床に『くっつけ』ました」

真(あ、腕も足も頭もピッタリと…!)

真(くっ、『ストレイング・マインド』のパワーでもビクともしない!)

やよい「これでもう、動けません」

真「で、でもやよい…やよいのそのスタンド…『くっつける』能力は大したものだけど…」

真「パワーは全然ないじゃあないか。それじゃボクの『ストレイング・マインド』の防御は破れないだろ…?」

やよい「うーん…そうなんですよね…うぅー…」

真(やよいにボクをこれ以上どうこうすることはできない…まだ、負けたわけでは…)

やよい「それじゃ、あずささん…呼んでこよっかなー」クル!

真「何ィッ!?」

やよい「あずささんなら、真さんの…す…す…なんとかしてくれたりして!」タタッ

真「ま…待て、やよいッ!!」

パタン…

真(『くっつける』スタンド…)

真(思っていた以上に厄介だ、手加減なんてしている場合じゃあなかった…)

真(今の時点でも動けないが、あずささんのスタンド…もし呼ばれたら、完全に勝機はなくなる…!)

真「まずい…」

真「…なんて。これしきで焦ることなんて何もないな」

フ…

グイッ

真「『ストレイング・マインド』を解除した…身に纏うタイプのスタンドってのが幸いしたな」

真(ボクの体に直接『くっつけ』られたものは剥がせないが…スタンドにくっついたものなら別だ)

真(やよいは足は速い方だけど…あくまでも同年代の中でだ。ボクの足ならすぐに追いつける!)スッ

ガチャ

バァァーーンンッ!!

真「あがっ!?」バキィッ!!

真(ド…ドア…が…)

ドシャァ!!

やよい「わっとっと」フラ…

真(やよい…もう行ってしまったと思わせて…待ち伏せしていたのか…)

真(『くっつけた』扉に、思い切り体重をかけて…)

真(う、腕が…折れたか…? それに顔も焼けるようだ…)

真(今のダメージはまずい…モロに喰らってしまった…)

真(い…一度スタンドを身につけてから行くべきだった…)ポタ…

やよい「わっ、真さん鼻血が出てます! だ、大丈夫ですか!?」

真「白々しいぞ…やよい…」

真「こうなることがわかってやったんだろ、今のは…」グイッ

やよい「でも…」

真「あーもう…本当やりにくいなァァ~ッ! 戦ってる相手の心配なんてするなよッ!」バキィ

やよい「はわっ!?」

やよい「うぅ…そ、そーですよね…」

やよい「わかりました、ファイトで行きます!」グッ

真「と…気合いを入れてもらったところ、悪いんだけど…」

やよい「へ?」

真「手が届くくらいの距離…ボクの射程圏内だ」

やよい「あ…」

パキパキパキパキ

やよい「『ゲンキトリッパー』、もう一度くっつけ…」

真(こんなドア…)

真「『ストレイング・マインド』!!」ゴオッ

パリィ!!

ヒュ ヒュン

やよい「わっ!!」バッ

ゴロゴロゴロォォ

ドズドズドズ!

やよい「ふぅ…」ムク…

真「何を安心しているんだい?」ス…

やよい「うっ!」

ドドドドドド

真「ボクとまともにやりあおうだなんて…」

やよい「う…」

真「思うんじゃあないぞ、やよい…」

ドドドドドドドド

真「待ち伏せなんてしてないで、さっさと逃げるべきだったね。この距離なら…」

真「負ける理由がないよ」

やよい「………」

ドドドドド

「ブルー・バード」について質問があったので、答えさせていただきます。

>>429
一般的なスタンドと同じように、「ブルー・バード」で重量を奪うことができるのは、触れた時だけです。射程距離内にあっても、触れることなく重量を奪うことはできません。
一度重量を奪ったものは能力射程の外に出るか、千早が解除するまで戻ることはありませんが、「能力を解除し、元に戻す」以外の方法で重量を操作することはできず、再び重量を変えるためにはもう一度触れる必要があります。

>>431
千早に加算される重量については、ほぼ均等、あるいはできるだけ千早に負荷がかからないように調整されます。
奪う方に関しては、「頭部」「腕の骨一本」など、特定の部位を一つのパーツとして認識すればできるかもしれません。
それと、仮に重量を特定の部位に加算できたとしても、質量が変化するわけではないので重くなっても72のままです。

今日の分はこれで終了です。支援ありがとうございました

今更ですが>>470でミス
>やよい「春香さんに頼まれました。真」
やよい「春香さんに頼まれました。真さんを捕まえて、って」

「助け」が必要だ…読んでくれる者がいるのなら…
俺のレスのあとに支援をくれ

ドドドドド

やよい「真さんのすた…えーと…」

真「ボクのスタンドの名前は『ストレイング・マインド』…だが」

やよい「それ、ズバババーって感じですごいパワーですね」

ドドドド

やよい「でも、だからこそ真さんは私に攻撃できないんじゃないですか…?」

真「だから?」

やよい「だから、そんなこと言われてもあんまり怖くないかなーって」

やよい「真さんがそういうつもりなら、『ゲンキトリッパー』の方が有利かも!」

真「そう思うか?」

やよい「………」ビク!

真「そう思っているのなら、好きなだけ飛び込んでくるといいよ」

真「そうでないなら、逃げろ。まずはやよいの両腕をブッ飛ばしてやる」

やよい「う…」ジリ…

ヒョイ

やよい「『ゲンキトリッパー』!」バシュ

真「『ストレイング・マインド』」

パキパキパキ

コン!

ダダッ

真(逃げる方を選んだみたいだが…)

真(やよいは結構やんちゃなところがある)

真(目を離したら、『くっつける』能力…何をしてくるかわからない怖さがある)

真(逃がしはしな…)グッ…

真「………」

ゴゴゴゴゴゴゴ

真(足が『くっついて』いる…?)

真(何故だ…? ボクはやよいに触れられていないぞ)

やよい「これで、追って来れないです!」タタタッ

真「だが…逃がすか」

バキッ

真「ドアを壊した言い訳は…後で考えるか」

ポイッ

真(左腕が動かないな…ダメージは流石に大きい)

真「オラァッ!!」パルィィ

真「オラオラオラオラオラオラオラオラ」ズガ ドグォ バリバリバリ

やよい「!」

ヒュ ヒュン

やよい「うっうー!」ドォ-ン

真「スタンドで身を守るか? この量! そんなスピードで、叩き落とすことは不可能だろ!」

ドス!

やよい「うっ!」ブルッ

グニュ…

真「!」

ピタ… ピタリ

・ ・ ・ ・

グニュ…

真(『硬化散弾銃』を…『くっつけ』て止めたのか…?)

ガシャ ガシャン

やよい「はぁ…ふぅ…」

グニャリ グニャリ

真「!」

真(そして、やよいのスタンドが傷を塞いで…『くっつけ』ている…!)

タタタッ

真「やっぱりあのスタンド、普通の人型じゃあない…」

真「伊織の『スモーキー・スリル』みたいに…特殊な形状をしているのか」

グイッ

バリィ!!

真「『ストレイング・マインド』、さっきみたいに剥き出しのコンクリートにくっつけられたならともかく…」

真「たかが床のビニール一枚程度、簡単にひっぺがせる」

真(とはいえ…)

やよい「『ゲンキトリッパー』!!」ズ…

ズズズ

真(やよいのスタンドが床に触れながら移動している…)

ズズズズズズ

真(あそこを通ればまた足が『くっつく』…ってことか)

真(飛び込んで行って、いちいち足を取られてたら追いつけるものも追いつけないな)

真「だけど、ま…幸い」

真「ちょうど引っ越し直後、ダンボールがそこら中に置いてある」ヒョイ

ドドドドドド

真「これを…」バッ

真「『硬く』する!」

ドドドド

真「オラオラオラオラオラオラオラオラ」

ガシャ! パリ

パリィィィン パラパラ

ガシャァァァ

真「この上を歩けば… ………」

真「床を剥がす必要はない」

グニュ! ググッ

真「………」ス…

パキパキパキ

ポイ!

グイッ

ドバァァァ

やよい「わっ! 真さん、もう追いついて…」

真「止まれ、やよい! 大人しくしていれば何も危害は加えたりしない」

真「『くっつける』能力、大したものだが…ボクには通用しない!」

やよい「………」

やよい「いえ、私、なんかいいこと思いついちゃいました」

やよい「もう真さんは私に勝つのは無理かもです」

・ ・ ・

真「…なんだって?」

ドサ!

真「ん?」

ヒュゥゥ ヒュルルル

真「これはッ!」

真(天井に物を『くっつけ』て…)

真(『遠隔操作』で、そこらの部屋から持ってきているのか!)

真「下の次は上かッ!」バッ

ドス! グァシャァ!

やよい「うっうー!」テトテト

真(く、いちいち避けていたら逃げられるか!)

真(やよいがわかっててやってるとは思えないが、天井に張り付いてる物には『重力』がかかっている…)

真(離せばさっきのドアのように、かけられた分の重力が降り注いでくるだろう)

真「だが…それがどうした」

ヒュン!

バキ!!

真「『最硬度』ッ! これしきの衝撃で砕けはしな…」

ピタ…

真「………」

真(くっついて…いる…?)

ヒュン ヒュン ヒュン

真「うっ!?」サッ

バキ! バキ! バキィィ!

真「!」

ウー

真(これは…)

真(落ちてくるもの一つ一つに、ように小さなスタンドが『くっついて』いるッ!)

ウッウー

真(やよいの『ゲンキトリッパー』は、この小さなスタンドが蜜柑の粒みたいに集まって構成されているのか!)

真(天井から落ちてくる物体に、小さく切り離されたスタンドの一部分がくっつけられている…!)ググッ

ピタァァ

真(『くっつける』のはやはり『スタンド能力』…力では離れない…)

真(やよいの狙いは、ダメージではなく…こうして、『くっつける』ことか…?)

真(このまま進んでいけば、一体いくつの物がボクにまとわりつくことになることになる?)

真(この数…避けるのは至難の業だ、いちいち避けていては追いつくこともできない…)

真(スタンドを解除もできない…落ちてくるものによっては生身だとシャレにならない)

真(…引くわけにはいかない。ここで引いたところできっと春香やその仲間はもっと周到にボクを潰しにくるだろう)

真(何より、スタンドは『精神のエネルギー』…これしきで逃げてしまうような『精神力』では…)

真(ボクは春香になんて、絶対に勝てやしない!)

真「このまま…進むッ!!」

ドス!

ペタ…

ドドドドドドドド

やよい「はわっ」バババッ

真(引き離されはしないが…)

ドドドドド

真(距離が縮まらない…)

ドス!

真(…『くっつく』ものの数が多くなってきたな。このままだとまずいか…一気に距離を縮める!)

ドバァ

やよい「あ、真さん…近くまで来ましたね」

ス…

やよい「えいっ!」ヒョイ

真「うおおっ!?」

真(地球儀!? 誰が持ってきたんだよ、亜美真美か!? これも、当たったら『くっつく』…!)

真(いきなり横からも来られたから避けられ…ブチ砕くしかない!)

真「オラァ!!」ドゴォ

バリィ!!

ウッウー ウー

ビタ ピタァ

真(破片が…)

ビタァァ!

真「う…」

真(これ…)

真(ヤバく…ないか…?)

真(『ストレイング・マインド』はこうやって動きを封じられ…距離をとられながら戦われては何も対抗する手段がない…一方的に)

真(引き離されはしないが、距離が縮まらない…逆だ)

真(距離を空けすぎると、能力は無力化するし、こうやってやよいから攻撃することもできない…)

真(道中に罠を仕掛け、逃げながら戦う…これが、『くっつける』能力の真骨頂…!)

真(このままでは、いくら『ストレイング・マインド』のパワーでも、いずれ動けなくなり…負ける)

真(『くっつける』能力を解除するためには…『射程距離』の外に出るくらいしか方法はない)

真(『ゲンキトリッパー』の『射程距離』はどれくらいだ? 『遠隔操作』…結構な距離はあるはず…)

真(そもそも…そうしようとしたなら、やよいは逆にボクを追ってくるはず…逃げたところでどうしようもない)

真(例えそうでも、進行方向には罠が仕掛けられている以上ここは引くべき…と思うかもしれないが、それはNOだ)

真(何故なら…)チラ…

ゴゴゴゴゴ

ゴゴゴゴゴゴゴ

真「罠は、既にッ! 退路の天井にまで仕掛けられているッ!!」

真(やよいにはそうする余裕があるということ…! 『ストレイング・マインド』のスピードが、もうそこまで落ちているのかッ!)

真(どうする…)

バラッ

真(近づかなければ、ボクがやよいに勝つことはまずできない…)

ササッ

真(この状況で、どうすればやよいに近づける! 考えろ!)

やよい「うっうー! 『ゲンキトリッパー』!!」ヒョヤッ

真「くっ…」ドッ

ヒュン ドス!!

真「う!」

ピタァ…

真(ああ、くそっ!)

スタンド名:「ゲンキトリッパー」
本体:高槻 やよい
タイプ:遠隔操作型・分裂系
破壊力:E スピード:C 射程距離:B(60m) 能力射程:B(60m)
持続力:A 精密動作性:E 成長性:B
能力:物体を「くっつける」ことができるやよいのスタンド。
小さな粒が細胞のように固まっている集合体で、「ゲンキトリッパー」が何かに触れる事でその一部が切り離され、それが「くっつける」素となる。
そのため、スタンドの一部を罠のように仕掛けることもできる。
スタンド自体のパワーはほとんどないが、「くっつける」能力は真の「ストレイング・マインド」でさえ剥がせない。
「くっつけた」ものに加えられた負荷は「ゲンキトリッパー」に蓄えられ、能力を解除した瞬間に解き放たれる。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

酉はあまりつける気はありませんね、なりすましが出るとも思いませんし…ただ報告の方は可能性があるかもしれませんが
つけるとしたら名前欄が長くなるな…

本日の分はこれで終了です。いつも支援ありがとうございます。
イーモバが連投規制されて2年目みたいなんですが解除する気はあるのだろうか…

なるほど、クサレ脳みそだからそこまで考えがいかんかったですわ
じゃあ今後の報告の際はこれで行きたいと思います

ミスが多すぎる…俺の下はスタンドだッ!

>>539
>真(『ストレイング・マインド』はこうやって動きを封じられ…距離をとられながら戦われては何も対抗する手段がない…一方的に)
「一方的に」はガオンで

これは 「支援」だ
続きを書くための「支援」を オレは受け取った

やよい「えいっ!」ドシュッ

ヒュン ヒュン

真「ぐっ…!」ガクッ

真(『上』と『前方』…)

ズ…

真(そして『横』からも…! 『ゲンキトリッパー』が襲ってくる…!)

真「オラァ!」ドオ

ヒュバ

真(『ゲンキトリッパー』は近くには来るが…)

真(ボクの射程距離内には決して踏み込んではこない)

ドス! バス

ピタァ…

真「く…」フラ…

ゴトリ

真(『くっついて』いる物質が…)

真(『ストレイング・マインド』のパワーで支えきれないほど多くなっている…!!)

ガタ ガタッ

やよい「うっうー!」

真(部屋の中から…今度は何だ…!?)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

真(椅子…ローラーがついてる…あれを並べて…)

やよい「えいっ!」

ガァァァァッ

真「うおおおおおおおお」

真(椅子が転がってきたッ!! これをくっつけられたら…)

真(しかし、触れたら『くっつく』! 飛び越えるしか…今の状態でできるのか…?)

フワ…

バサ バサッ

真「何ィッ!?」

ビタッ

やよい「にんぽー、紙吹雪! ですっ!」

真(ま、前が見えない…! タイミングが…)

ガス!

真「あ…!!」

真「あああああああああああああ!!」

真(前が見えない! 体も重い! 怪我もある…!)

真(やよいはボクに近づかない! 罠も万全、どうすることもできない!)

真(『ストレイング・マインド』と『ゲンキトリッパー』、相性が悪すぎる! ボクは『被食者』だッ!!)

ウッウー ウゥー

真「ちくしょう…うおおっ!」ブンッ

ヒョイッ

真(見なくてもわかる! また避けられ…)

パキ…

真「……ん?」

真(椅子の重みが…消えた?)

真(そして、この手応え…ブッ壊したものがくっついていない…)

真(今ので椅子を破壊したのなら、『くっついて』いる『ゲンキトリッパー』がボクの腕に破片を『くっつける』はずじゃあ…)

真(いや、待てよ…もしもそうだったら、そもそもボクにくっついている『ゲンキトリッパー』はボクの足を『くっつけ』ている…少し『くっつけ』られたら、その時点でアウトだ)

真(『くっついて』いる部分は、離すことはやはりできないようだが…)

真(一度くっつけた『ゲンキトリッパー』は二度『くっつける』ことはできないのか…?)

真(つまり、一度『くっついた』ものは、『くっついて』いる部分以外が『くっつく』ことはない…)

真「………」

やよい「真さん、もうやめましょう」

やよい「ちゃんと春香さんと仲直りしないと、めっ! ですよ」

真「春香に何を吹き込まれてるのか知らないけど…」

真「可能性がある限り、ボクは諦めないよ」

やよい「うぅ~、やっぱりダメなんですね…」

やよい「って、可能性ってなんですか?」

真「オラァッ!」

バキョァ!!

やよい「へっ!?」

パラ…

真「視界は良好」タラ…

やよい「自分の顔に…パンチした…?」

真「行くぞ、やよい…!」

ザッ

やよい「うっ!」

やよい「で、でもここから先は…『ゲンキトリッパー』を置いてあります!」

やよい「さっきみたいにダンボール置かないと…」

グ!

真「うお…」

ピタァ…

真「おおおおおおおおおおおおお」

バリ!

バリィ

やよい「はわっ…」

タタタッ

やよい(だ、大丈夫…あんなんじゃ真さんは私のとこまで近づいてこれないから…)

やよい「真さん! そんなムチャやっても意味ないかもですよ!」

真「…ふふっ」

やよい「あ、あれ…真さん、どーして笑ったんですか?」

真「いや、奇妙なもんだと思ってさ…」

真「ボクと戦った時…無茶をやろうとする伊織相手にボクは『自棄』だと言った」

真「今、ボクはその伊織と同じ『自棄』みたいなことをやろうとしている」

やよい「? ?」

真「やよい…キミにはボクと戦うための意志がない。春香の頼みを聞いて来ただけだから当たり前だが」

やよい「え、えっと…?」

真「ボク達は明確な意志を…『覚悟』を持って春香に反抗している」

真「その『覚悟』を今から見せてやるよ」

やよい「真さんの言ってるのはよくわかんないですけど…」

やよい「いっぱいくっつければ、動けなくなっちゃうはずです!」

真「来い…!」

やよい「はいっ、行きます!」ポポイ ポイ

ヒュドド

ガラァァァ

真「オラァ!」バシィ

ビタァ

ビッ

やよい「うっうー!!」ヒュゥ

バッシャァァァ

ゴッ

真「オラオラァ!!」バヒュォ

ピタ!

真「オラ…」グイ

グ…

真(………)

フラ…

ズゥン

ガシャァァァン

やよい「ふぅ、止まりました…」

真「………」

やよい「真さん、お団子みたいになっちゃってますね」

真「………」

やよい「そうなったらもう『すとれ…なんとか』でも動けないかなーって」

真「………」

やよい「亜美と真美が事務所でよくやってる…『かたまりだましい』ってゲームありますよね」

やよい「ちっちゃいボールにいろんなものをくっつけて、おっきくしちゃうやつです」

やよい「最初はスーパーボールとかみたいにちっちゃいんですけど…そのうち、家とかもくっつけられるくらいでかくなりますよね」

やよい「でもあれって、ヘンですよね? 色々くっついちゃうと、動けなくなっちゃうと思います、今の真さんみたいに」

真「………」

やよい「動けなくなったら…」

やよい「夜、春香さんが戻ってくるまで待って、春香さんとちゃんと話してもらいます」

シーン…

やよい「………」

やよい「え、えっと…真さん、大丈夫ですかー? ちょっとやりすぎちゃったかも…」トテトテ

ズ…

やよい「?」

「オラァッ!!」

バッキャァァァ

バヒュゥ

やよい「へっ!?」

ババッ

やよい「えっ、あれっ!?」

「ようやく、近くまで来たねやよい」グイ!

「完全に封じ込めたと思ったら…ボクの様子を見に近づいてくると、そう思った」ス…

真「『再起不能』にされることが、やよいに近づくための唯一の方法だった」

やよい「えーっ!? 真さん…!?」

やよい「な、なんで…あんなに『くっつけ』てあったのに…」

やよい「それに、『ゲンキトリッパー』でくっつけたものは私しか離せないのに…」

真「ああ、そうだね…今の状態でも結構色々『くっついて』るよ」

やよい「どうやって、離したんですか!? ここに転がってる団子みたいなのはどうやって…」

真「知りたいなら、『ゲンキトリッパー』の『くっつける』能力を解除してくれ。種明かしをしよう」

真「今、ボクに『くっついて』いるものは、もはやボクの動きを制限するようなもんじゃあないしな…」

やよい「わ、わかりました…」

ズギュン

ガラ…

真「素直だな、やよいは…だからこそ、この『くっつける』力も強力なんだろうが」グボッ

ガラガラ

ドドドドドド

真「折れてしまって動かないなら…」ガサガサ

やよい「え…?」

ドドドドドドドドド

真「くっついて離れないなら…」ヒョイ

やよい「…!!」

真「そんな部分、取り払ってしまえばいい」

ドドドドドドドドドドドドドド

やよい「あ、ああ…」

真「ここで転がってたのはボクの片腕だ…キミが投げてきた『ゲンキトリッパー』の一部でこっちにくっつけて切り離した」

真「『くっついて』いない部分を砕いて動かない左腕の方にまとめてくっつけるのは、結構骨が折れたけどね」

やよい「真さん、左腕が…!!」

真「そして『ストレイング・マインド』…」スッ

真「紙を折ってカッターを作った。刃は通るほど薄く、腹は折れないくらい厚いのがいい」

ポイ

真「血は液体だから『固め』られる。片腕あれば…」

真「充分、だ。やよいを倒すためにはね」

やよい「だ、だいじょーぶですっ!」

ビュッ

真「!」

ウー ウッウー

ビタ ピッタァァ

真(瓦礫の中に『ゲンキトリッパー』を仕込んだのか、いつの間に…)

やよい「また、『くっつけ』ました! これで真さんの手もお団子みたいに…」

真「オラァ!」ガンッ!!

パリ…パリ

やよい「はわっ!? 床が…」

真「試してみるか?」

ドドドドド

やよい「え?」

真「これしきで…ボクの『ストレイング・マインド』のパワーを封じられるかどうか…試してみるか、やよい」

ドドドドドドドドド

やよい「う…」

やよい「うっうー!! 『ゲンキ…」バオン

真「オラァッ!!」ドギャァ!

やよい「うっ、ううっ!?」グラッ

真「やっぱり…そこまでの威力はないな。色々まとわりついたせいで先の方まで『硬く』する能力が届いてないのかな」

真「この右腕にくっついているもの…これらが衝撃を吸収しているってのもあるか」

真「まぁ…逆に好都合だよ」

やよい「あ…」

真「思いっきり殴ってもいいんだからなッ!!」

やよい「『ゲンキトリッパー』! 真さんの腕にくっつ…」ビュッ

真「オラァ!!」ビシィ

バチィッ!!

やよい「えっ…あっ…」

真「オラァッ!」バシュゥ

やよい「あう…!」ビクッ

ピタ…

トン

やよい「あ…」ヘナ…

ガクン

真「ボクの、勝ちだね」

やよい「ま…」

やよい「真さん…なんで、最後止めたんですか…? 思いっきり殴るとか言ってたのに…」

真「単なる脅し文句だよ。無意味に傷つける必要なんてないだろ?」

真「やよいだって、色々『くっつけ』てもボクを傷つけることはしなかったしね。まぁ、ドアの一撃は効いたけど」

やよい「ご、ごめんなさい…」

真「いいよ。できればもっと穏便に済ませたかったけど、ボクのスタンドがこれじゃあな…」

真「はぁ…ボクもやよいみたいなスタンドがよかったよ」

やよい「………」

やよい「あの、真さん…」

真「ん?」

やよい「真さん、春香さんと仲直りするの…そんなに嫌なんですか…?」

真「そのことだけど…やよい、一つ言っておく」

やよい「え?」

真「やよいは、ボク達と春香が喧嘩していると言ったが…別に喧嘩してるわけじゃあない」

やよい「でも、春香さんは…」

真「…やよいは、春香に『仲間』になろうと言われたのか?」

やよい「はい、私達はずっと仲間ですよって言いました」

真「それを断った場合、どうなるか知ってるか?」

やよい「え…?」

真「やよいのやった『くっつけ』て捕まえようだなんて生易しい。『恐怖』と『力』で相手を『支配』するのがあいつのやり方さ」

やよい「え、えっと…?」

真「喧嘩っていうのはさ、対等な者同士でやるものなんだよ。もしも自分の方が上なら、喧嘩なんてする必要はない。一方的に言うことを聞かせられる」

真「春香はそれができるくらいの力を持ってしまった。そういうのを通り越した先に春香は行ってしまったんだ」

やよい「………」

真「喧嘩すらできない。そんな冷たい関係が『仲間』だなんて、ボクは認めない」

真「だからボク達は春香と対立している。これは『反乱』だ」

真「やよい、春香のところに戻るのなら…」

真「春香にも話をよく聞いておくんだ。何も知らないまま流されてちゃダメだ」

やよい「………」

真(さてと、この左腕)

真(やよいを上手く引き込めれば『くっつけ』てもらえると思ってたんだけど…)

真(『固めて』あったから血は出てない、すぐ病院に行けば大丈夫か…?)

やよい「待ってください、真さん!」

真「! やよい…」

ウー

ピョコ ピョコ

ウッウー

真「『ゲンキトリッパー』が…」

ピタ…

やよい「とりあえず、その手は…『くっつけ』ておきます」

モゾモゾ

真「わっ、傷口から中に!?」

やよい「はい、治すときはこうやってやるのが一番いいんです」

真「な、なんか変な感覚だな…」

ピク

真「! 指が動く…」

真「骨も折れてたのに…」

真「神経までくっつけられるのか…滅茶苦茶痛いけど…」

やよい「真さん、あんまり無茶しちゃダメですよー」

真「『くっつける』能力…凄いなぁ…ありがとう、やよい」

やよい「はい! どういたしまして!」

真(………)

真「…やよい、ボク達の方に協力してくれないか。キミの力が必要だ」

やよい「え?」

真「春香と一緒にいたら、きっとボクか伊織は、またやよいと戦うことになるかもしれない…」

やよい「え、えっと…」

真「ボクはキミを傷つけたくないんだ」

やよい「うー、あう…」

真「やよい。ボク達と一緒に、春香と戦ってほしい」

やよい「うっうーっ!!」

真「わっ!?」ビクッ

やよい「真さんが言ったことの意味はよくわかんないですけど…」

やよい「ケンカもできないって…それがよくないことだっていうのはわかります」

やよい「さっきの真さん、プロデューサーみたいな『いっしょーけんめいなひと』の目でした」

やよい「だから…真さんのこと、信じてもいいですよね!」

真「! それじゃ!」

やよい「はい! 私も、真さん達と一緒に春香さんと戦っちゃいます!」

真「やよい…!」

真(こうしてボク、伊織、そしてやよい…ボク達の仲間は三人になった)

真(これで一件落着ってとこかな…)

真「………」

やよい「………」ピタ…

真「あのさ…やよい。なんでボクの腕に…そんなぴったりくっついてるんだ?」

やよい「すた…えと…『ゲンキトリッパー』って、遠くに行きすぎると『くっつける』のがなくなっちゃうんです」

真「うん?」

やよい「だけど、近づけば近づくほど『くっつける』力がぐぐぐ~って強くなるんです」

真「そ、そうなんだ…」

真(元々『遠隔操作』だからか…そこまで『くっつく』力の差は感じなかったけど)

やよい「体がかってに治らないと、『くっつけ』ても元に戻っちゃうんですけど…」

やよい「だけど、『くっつける』力が強いと、体の治る力も強くなって、キズも早く治るんです!」

真「そ、そっか…」

真(長引くと色々面倒なことになりそうだし、やよいの言う通りなら、まぁ…このままでいいか…)

千早「ふぁ…」

千早(眠いわ…あずささんの『ミスメイカー』、どうして解除しても眠気が残るのかしら…)

あずさ『千早ちゃん…あなたの「ブルー・バード」はいずれもっと強力なスタンドとなるはずよ』

あずさ『いつか、「アイ・ウォント」を超えるまで…千早ちゃんは、春香ちゃんと戦っては駄目…いいわね…?』

千早(私を止めるために『眠ら』せるなんて…)

千早(春香のスタンド…そんなに、ヤバいものなの…?)

真「………」スタスタ

千早「あら…あれは真…」

千早「!?」

やよい「他のキズも塞ぎましたよー」

真「なんか…鼻、ちょっと変になってないか?」

真「ところで、事務所の方は…どうにかならないかな…」

やよい「できるだけ、やってみます」

千早「高槻…さん…?」

千早「真…!」バッ

真「ち、千早…!? どうしたんだい、そんな血相変えて…」

千早「どうして高槻さんとそんなにくっついているのかしら…」

真「え!? そ、それは…」

千早「高槻さんも、アイドルがそんな恋人みたいに人とくっついていてはいけないわ…!」グイッ

やよい「わっ、だ、駄目ですよ!」ピトッ

千早「いいから…ほら、高槻さん、離れて…!」

やよい「嫌です! 離れません!」

千早「くっ…」

ギリギリギリギリ…

真(ち、千早…なんか怖いぞ…)

真「や、やよい…あっち行こうか…」

やよい「はいっ、真さん!」

千早「………」ギリギリギリ…

真(ひぇぇ…)

響「ふぁぁ…」

真「あ、響。なんだか眠そうだね」

響「おー、真かー…」

響「なんか眠くて…さっきまで事務所の床で眠っちゃってたぞ…」

真「せめてソファか何かに寝なよ」

やよい「響さん、おねむなんですか?」ピトッ

響「!? ま、真! なんでやよいと腕組んでるんだ!? ずるいぞ!!」

真「あのさぁ…」

響「やよいー、自分とも腕組んでほしいぞー!」

やよい「えっと、すみません…真さんは特別ですから」

響「と、特別!?」

真(な、なんか変な誤解受けてるような…)

響「そんな…うう…」

真(う、うーん…)

伊織「ちょっと、真!」

やよい「伊織ちゃん?」

真「あ、伊織! 無事だったのか!」

伊織「気がついたら廊下で眠ってて…服が汚れちゃったわ」

やよい「伊織ちゃんも? もう、みんなちゃんとお布団敷かないと駄目だよ」

伊織「それとなーんかやることがあった気がするけど思い出せないのよね…なんだったかしら…」

真(やよいの話によると、上にはあずささんがいたはず…その口ぶりだと、伊織は『眠ら』されていたのか…)

真(しかし、伊織は無事…狙いはなんだ…?)

真(あずささんが絡んでいることは間違いなさそうだが…上の階で何があった…?)

伊織「それより真…」

真「え?」

伊織「私が眠ってる間に…」

伊織「やよいとそんなにくっついて…一体どういうことよッ!!」

真「ああ、もう…」

To Be Continued…

本日分はこれで終了、おまけはないです。
支援ありがとうございました

真が「滅茶苦茶痛い」とか言ってる割にあまりにもリアクションが薄いので>>602を修正



モゾモゾ

真「わっ、傷口から中に!?」

やよい「はい、治すときはこうやってやるのが一番いいんです」

真「な、なんか変な感覚だ…」

ズキャァァァァ

真「なぁ…」

真「うがああああああぁぁぁ!? あがががががっ…!!」ビクゥ!!

やよい「はわっ! ま、真さん大丈夫ですか!?」

真「いっ…! な、なんだよこれはっ…!!」ブルブル

ピク

真「! ゆ…指が動く…」

真「骨も…折れてたのに…」

真「そ、そうか…神経をくっつけられるのか…滅茶苦茶痛いけど…」

やよい「真さん、あんまり無茶しちゃダメですよー」

真「『くっつける』能力…凄いな…ありがとう、やよい」

やよい「はい! どういたしまして!」

真(………)

スタンド名:「関西の名無しNIPPER」
本体:>>1
タイプ: 自立型
能力:>>1の後にすかさず空白支援する。その速さは超スピードのようなチャチなものではない。今時珍しい硬派NIPPERである。

ところで君たち『続き』と言うものはどうすれば書けるか知っているかね?

真「お!」

タタッ

真「伊織、やよい、おはよう」

やよい「真さん、おはよーございます!」ガルウィーン

伊織「おはよう。元気そうね、あんた」

真「ん? そうかな?」

やよい「うー! 元気が一番です!」

伊織「あんた、左腕を…大丈夫なの?」

真「え、何? 心配してくれてるのか、伊織?」

伊織「べっ、別にそんなんじゃあないわよ!」

伊織「つーか『くっついた』ものを取るために腕を切り落とすって…そこまでやる? 普通…」

真「ボクを倒すために事務所をブッ壊した伊織に言われたくはないな」

やよい「えっ!? 前の事務所って…伊織ちゃんが…壊しちゃったの…?」

伊織「…その話は今度ね。とりあえず、壊したのはこいつよ」ビッ

真「まぁ、なんだ…それについてはお互い様ってことで」

伊織「そうね…」

伊織「で、どうなの…? 自分がそうなったと思っただけで痛いんだけど」

やよい「ちゃんと『くっつけ』たからだいじょーぶだと思うんですけど…」

真「そうだね。綺麗に切断されてたし、切り離した腕も固めてそのままだったから、思ってたよりは早くくっついた」

真「ほら見てよ、痕も残ってないだろ?」スッ

伊織「へぇ、色気のない引き締まった二の腕だこと」

やよい「けっこーガッシリしてますね」

真「二人とも、どこを見てるんだよ!」

やよい「えっ? ご、ごめんなさい?」

伊織「いいじゃない、アンタらしいわよ」

真「傷つくなぁ…」

伊織「そんなに嫌ならジム通いの回数減らせば?」

真「それはなんか…」

伊織「まぁ、とりあえず…平気みたいね、その腕は」

真「ああ。『ストレイング・マインド』も問題なく使える」

やよい「」

真「『ゲンキトリッパー』の治療」

真「ただ…やよいがくっついてる時のあの視線、あれにはちょっと参ったかな…」

やよい「?」

伊織(あれか…やよいが腕に抱きついて、まるでカップルのような…)

伊織(私も怪我すれば、やよいにくっついてもらえるのかしら…)

やよい「伊織ちゃん?」

真「伊織、なんか変なこと考えてないか…?」

伊織「はぁ? 何が? ぜーんぜん考えてないわよ、そんなこと。ばっかじゃないの?」

伊織「…それより」

伊織「『スモーキー・スリル』…『ストレイング・マインド』」

真「ああ」

伊織「そして『ゲンキトリッパー』」

やよい「はい?」

伊織「ここに、三人のスタンド使いが揃ったわ」

伊織「案外、もう春香は倒せるんじゃない?」

真「…どうやって?」

伊織「『ゲンキトリッパー』で足止めして、『スモーキー・スリル』で探知。あとは『ストレイング・マインド』でどうにでもできるでしょ」

真「そう、上手く行くとは思えないけどね。まず、『くっつけ』られるのか?」

伊織「床にバラまけば、大丈夫でしょ」

真「…あれの前ではどれが現実で、どれがそうでないかわからない。『くっつけた』と思っても、春香は踏み込んですらいないなんてことも考えられる」

真「間違えて伊織の頭をブチ抜いたら、ボクは二度と立ち直れない自信があるよ」

伊織「嫌なことに自信あるのねアンタ…」

真「慎重になりすぎるということはないと思うんだ。『アイ・ウォント』に対しては」

伊織「………」

やよい「あの、いいですか?」

伊織「? なに、やよい?」

やよい「あい…春香さんのすた…」

真「スタンド」

やよい「春香さんのすたんどって、どーいうのなんですか?」

伊織「『アイ・ウォント』を知らないの…?」

真「そういえば…やよいは、二つ返事で春香の要求を飲んだんだったか…」

伊織「春香のスタンドの能力は『五感支配』よ」

やよい「ごかん? えっと…?」

伊織「…って、どう説明したものか」

真「うーん…そうだな、何も見えてないのに何か見えるとか、何も食べてないのに食べ物の味がするとか…」

やよい「はわっ、何も食べてないのに食べ物の味が!? す、すごいです!」

真「そう、凄いスタンドなんだ。ボクはあの『アイ・ウォント』相手に…」

伊織「なんか認識に食い違いがあるみたいなんだけど」

……

………

千早「………」ゴソゴソ

春香「…千早ちゃん」スッ

千早「春香?」

春香「ちょっと、いいかな」

千早「ごめんなさい、これからレッスンに行こうと思っているの」

春香「そう…」

千早「春香も来る?」

ドドドド

春香「………」

ドドドドド

春香「ううん。私、後で仕事あるから…」

千早「そう。それじゃあ」

バタン…

春香「………」

あずさ「春香ちゃん…」

春香「あ…あずささん」

あずさ「約束のものだけど…持ってこれなかったわ、ごめんなさい」

春香「うん…知ってる」

あずさ「ごめんなさい…ちょっと、予想外のことがあって」

春香「いいですよ。あずささんにできないのなら、他の人にも無理ですから」

あずさ「そんなことは…ないと思うけど」

春香「………」

春香「約束のものは、また今度持ってきてくださいね。待ってますよ」

あずさ「ええ…春香ちゃん、この後…3時からお仕事よね? 頑張ってね」

春香「はい。ありがとうございました」

春香「ふぅ…っと」ドサ!

春香「やよいも、伊織の方に付いたみたいだね…ミイラ取りがミイラになっちゃったか…」

春香「『ゲンキトリッパー』なら『ストレイング・マインド』に負けるとは思わなかったんだけど…ちょっと予想外だったかな」

春香「だけど、それ以上に予想外だったのは…」

春香「千早ちゃん…あの『ミスメイカー』で捕まえられなかった?」

春香「捕獲力…その点においては、私はあずささんのスタンドをかなり信用している」

春香「だけど、連れてくることはできなかった…いや、『しなかった』のかも…」

春香「ま…仮にわざと見逃したとしても…それならそれで、逃がすに足る理由があるということ」

ドドドドド

春香「千早ちゃんは…『スタンド使い』だってことか」

ドドド

春香「どこかで、『矢』に触ったのかな…? それとも…」

春香「まぁ、いいや。考えても、事実は変わらない」

春香「当面の問題は伊織と…あっちの方か」

春香「特に伊織…真に加え、やよいまで引き込んでしまった」

春香「このまま行けば、いずれ千早ちゃんやあの二人とも合流し…どんどん勢力を伸ばしていくかもしれない」

春香「だったら、いっそ…」

ブブブブブ

響「わっ! ハチだ! 窓からハチが入ってきたぞ!」

真美「ほほう、我々の新秘密基地に侵入してくるとはいい度胸ですな」

亜美「これは制裁が必要ですな!」

P「おい、やめろ! 刺激すると刺されるぞ!」

あずさ「あらあら、どうしましょ~」

美希「あふぅ…うるさいの…」

ワー ギャー

春香「…結論を急ぐことはないよね」

春香「いくつか手は打ってある。そっちが失敗した時にまた考えればいい」ヒョイ

カチッ

シュボ

春香「それに…例え事務所のスタンド使い全員が敵に回ったとしても」

ブゥーン

フラフラ

春香「私が負けることは…ありえないからね」

ジュ!

ギュサァーッ…

春香「………」チラ…

春香「あの~…プロデューサーさんって、煙草吸いましたっけ?」

P「え? ああ、そのライターはこの前の花火のやつだろ。俺は吸わないぞ」

春香「あっ、そうですよね! 吸ってるなら臭いがするはずだし」

亜美「…あれ? ハチは?」

P「ん…? あれ、どっか行ったか…?」

真美「ふ、真美達に恐れをなして逃げたか…ハチ、敗れたり!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ブ…ブッ

ピクピク…

………

伊織「向こうが騒がしいわね」

真「伊織。まずは、仲間を集めるのが先だ。三人じゃまだまだ少なすぎる」

伊織「…わかったわよ。とりあえず、春香のことは置いておくわ」

真「ああ。そうしてほしい」

伊織「だとすると、まずは…」

やよい「春香さん、頼んだらおいしいものの味やってくれるかなぁ…」

真「今はやめてくれよ…春香に酷い目に遭わされるかあずささんに眠らされるのがオチだ」

伊織「そうだ…何か忘れてると思ったらあずさのことだったわ」

やよい「あっ、あずささんもスタ…ンド使いです! 名前は確かみすめ…なんとか」

伊織「知ってるの?」

やよい「昨日、真さんを捕まえようとした時に春香さんから聞きました」

真「『近距離パワー』か『遠隔操作』かわかる、やよい?」

やよい「はい、きんきょりだったと思います」

伊織「『眠らせる』スタンド…『遠隔操作』だったらヤバいけど、近距離なのね。ちょっと安心したわ」

真「と、言うことは…昨日はあずささんを近づかせたってことだよね? 伊織…」

伊織「しょ、しょうがないじゃない! 遠くからコソコソやるなんてこの伊織ちゃんの性に合わないのよ!」

やよい「『パワー』は強いけど、『速さ』は私の『ゲンキトリッパー』よりちょっと遅いくらいです」

やよい「それと『眠らせる』ためにかちょっと時間かいるって…知ってるのはそれくらいかも」

伊織「そう…助かったわ、やよい」

真「あずささんのスタンド、大体見えてきたな。うん、不意打ちさえされなければ行けそうだ」

やよい「えへへ…役に立ったらよかったです」

伊織(私達『竜宮小町』は今日は午前で仕事は終わり。あずさはちょうど事務所にいるし…)

伊織「それじゃ、これからあずさをとっちめに行きましょ」

真「えーと…ごめん。ボクは行かない」

伊織「え!? どうしてよ?」

真「昨日は結局レッスンには行けなかったから、これから行こうと思って。アイドルの仕事を蔑ろにするわけにもいかないだろ」

伊織「アイドルの仕事って言うなら、私だってそうよ」

真「それとさ。最近戦い続きでちょっと精神的に疲れているんだよ」

伊織「あ…そう。はぁ…それじゃ仕方ないわ」

伊織「二人で行きましょ? やよい」

やよい「あーっと…私もちょっと今日は…」

伊織「え? やよい、今日仕事あったかしら…?」

やよい「仕事じゃあないんだけど、もうちょっと後で特売があって…」

伊織「ちょっ、ちょっと…特売とあずさを倒すのと、どっちが大事なの!?」

やよい「うぅ、でも…」

伊織(はぁ…無理強いはできないわね…)

伊織(ま、伊織ちゃん一人でもなんとかなるか…)

真「いざって時は連絡してくれ。できるだけ早く駆けつけるからさ」

伊織「そういう気があるんなら最初から手伝って欲しいわ、まったく…」

やよい「伊織ちゃん、私にも連絡してね! 忙しくなかったら、すぐに行くから!」

伊織「忙しかったら来ないのね…と言うか、やよいの家だと、歩くとなるとちょっと遠くないかしら…?」

………

……

伊織(さて、と…)

伊織(あずさのスタンド、名前は…なんて言ったかしら。『ミスメなんとか』?)

伊織(一回、油断して触られて『眠ら』されている…あずさには、触られたら終わり…だけど)

モクモクモク

伊織(『スモーキー・スリル』…)

伊織(この『煙のスタンド』なら、触られることなく一方的に攻撃ができる)

伊織(能力のことを考えなければ、あずさのスタンドはスピードの遅い『近距離パワー型』)

伊織(私は最初に『近距離パワー』では恐らく最強のパワーとスピードを持つ『ストレイング・マインド』と戦っている。負ける気はしないわ)

伊織(問題は、流石にみんなのいる中でドンパチやるわけにはいかないから、どうやってあずさをおびき寄せるかってこと…)

伊織(それと…この時間、まだ春香がいるはずなのよね…大丈夫かしら)

伊織(しかし、こうして長い廊下歩いてるとあの狭い事務所が懐かしいわね)

カツ…

ゴゴゴ

伊織「!」

伊織(足音…!)

カツ カツ カツ

伊織「………」

ゴゴゴゴゴ

伊織(近づいてくる…)

ス…

貴音「………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「貴音!」

ユラ…

パッ

ヒュン!

伊織(貴音の周りに小箱に『人工衛生』のパネルがくっついたような飛行物体が…)

伊織(ゆっくり動いては消えて…現れてを繰り返している)

伊織(あれが貴音のスタンド…?)

ゴゴゴゴゴゴゴ

伊織「貴音、止まりなさい!」

貴音「………」

カツ カツ

伊織(止まる気はない…か)

伊織「『スモーキー・スリル』」モクモクモク

伊織「止まらないなら…こっちも準備はできているわよ」

キュッ ウィーン

貴音「………」

伊織「その浮かんでるヤツがあんたのスタンドかしら?」

貴音「………」

カツ カツ カツ

ヒュン ヒュン

伊織(何も言わない…ゆっくりとこっちに歩いてくるだけだわ)

伊織「最後に一つだけ聞くわ。貴音、あんたも…春香の『仲間』ね?」

貴音「…!」ピク…

伊織「だったら、ブッ倒して…」

貴音「………」ズ…

伊織「え?」

伊織(貴音からスタンドが…あの浮かんでるやつとは違う…?)

貴音「『フラワー・ガール』」ヒュン

バキ!

ベキ! ベキ! ベキ!

伊織「え!?」

伊織(攻撃…した!?)

伊織「その浮かんでるやつ…あんたの仲間とかじゃないの…?」

貴音「違います伊織…私も狙われているのです、この面妖なるスタンドに」

本日分はこれで終了です。今回もおまけはないです。
支援ありがとうございました。

Oh...>>651が出来上がってなかった



伊織「まぁ、とりあえず…平気みたいね、その腕は」

真「ああ。『ストレイング・マインド』も問題なく使える」

やよい「ちゃんと治ってよかったです!」

真「『ゲンキトリッパー』の治療、かなりのものだよ。体内の傷も『くっつけ』て治せるみたいだし」

真「ただ…やよいがくっついてる時のあの視線、あれにはちょっと参ったかな…」

やよい「?」

伊織(あれか…やよいが腕に抱きついて、まるでカップルのような…)

伊織(私も怪我すれば、やよいにくっついてもらえるのかしら…)

やよい「伊織ちゃん?」

真「伊織、なんか変なこと考えてないか…?」

伊織「はぁ? 何が? ぜーんぜん考えてないわよ、そんなこと。ばっかじゃないの?」

伊織「勝ったッ!!SSッ完!!!!!」

春香「私が倒れたといつから錯覚していた?」

伊織「なん…だと…?」

春香「錯覚だ」

『汝!わたしの支援をするか!』

ドドド

貴音「伊織、ただ今春香の名前を出しましたが…」

貴音「その口ぶり伊織は春香と敵対している…そういうことですね?」

貴音「ならば、私にとって伊織は『味方』と…そう考えて、いいのですね?」

伊織(貴音もこのスタンドに狙われている…ですって?)

伊織(経験上、スタンドは一人一体のはず…別のスタンドを出してはいるけど…貴音は信用してもいいの…?)

ブシュ!!

伊織「はっ!」

タラ…

伊織(破壊された『浮遊スタンド』から何か垂れてきてる…あの液体はッ!?)

伊織「貴音! その液体、なんか危険よ! 防がないと…」

伊織(でも、どうやって…? 『スモーキー・スリル』は気体、液体の盾にはならない)

伊織(そもそも、あの液体…スタンドでも触れればただでは済まないかも…貴音のスタンドだって…!)

貴音「『フラワー・ガール』」ヒュン

ベキッ…

伊織「え?」

伊織(何、今の音…?)クル…

貴音「伊織…少しの間動かずにいて貰えるとありがたいのですが」

伊織「えっ?」ピタッ

ヒュッ!

ドォーン

ギュルルル

伊織(貴音の頭上に板みたいなものが飛んできた!?)

ビチャ…ジュゥ!!

伊織(あれは…扉? 貴音は一瞬で、私の背後にあるドアを剥がしたの!? 全然見えなかったわ!)

伊織(なんて『スピード』と『パワー』! 私にドアをぶつけない『正確性』! そして『射程距離』!)

貴音「伊織、くれぐれも…」

貴音「この『液体』には触れないでください。この物体を破壊すると出て来るのですが」

貴音「これに触れると、少々厄介なことになります」

伊織(全てにおいて強力! 規格外! こんなスタンド…どういう『精神力』してんのよ、貴音は!?)

伊織(私達以外の、春香と敵対する『スタンド使い』の『2人』…)

春香『2人ともすっごく強い『スタンド』持ってて…』

伊織(貴音はそのうちの1人…なのかしら…)

伊織「ね、ねぇ、貴音…」

貴音「すみませんが伊織…」

ブオン

貴音「新手はすぐに湧いてきます。話は歩きながらでもよろしいでしょうか」カツッ

貴音「とりあえず…皆のいる事務室まで向かいましょう」

伊織「わ、わかったわ…」タッ

キュルキュル

伊織「結局、何なのこいつは? 誰のスタンドよ?」

貴音「それは私にもわかりませんが…動きは我々が『歩く』速さよりは遅いですね」

伊織「だったら、走って引き離せば…」ダダッ

ヒュン

伊織「歩く速さよりは…なんですって? 貴音…」

貴音「壊してもすぐに直ったものが出てくるので、ある程度の座標を選択して『転送』しているのではないかと」

貴音「して、伊織。何か言いかけておりましたが…何でしょうか?」

伊織(このスタンドの方が、味方のものという可能性もある…貴音を100%信用するのは危険…)

伊織(一応、確かめてみる必要はある…わね)

伊織「貴音…春香と敵対しているのよね…」

伊織「やっぱり、春香の『アイ・ウォント』で脅すやり方はよくないって…そう思う?」

貴音「ええ…現在、春香からは邪悪なる意志すら感じます」

貴音「しかし…それよりも、危険なのはあの『矢』…」

伊織「!」

貴音「『あれ』はこの地球上のものではありません」

伊織「は? 地球上のものではないって…どういうこと? 隕石かなんかで作られてるとでもいうの?」

貴音「何にしても…私の『フラワー・ガール』も『矢』によって発現したものですが…」

貴音「あれはこの765プロに災いを呼ぶ物。あってはなりません」

伊織「………」

伊織(貴音の言っていることはよくわからないけど…目的は『矢』! 味方である可能性は、かなり高いと思う…)

伊織(だ、だけど…春香は『2人』が『矢』を狙っているとはっきり言っていた…もしかしたら、それを聞いた上で騙しているのかも…)

伊織(って、なんでここまで来て貴音を疑わなきゃあならないのよ! これじゃ春香の思う壷じゃない…!)

貴音「しかし、こうして伊織と合流したので…余裕が出てきましたね」

伊織「え?」

貴音「このスタンドを観察しましょう。そうすれば色々な事柄が見えてくるはずです」

伊織「え、ええ…そうね」

伊織(…貴音は味方よ。今はそう思うことにしましょう)

貴音「とりあえず、私が知っているのは動きが遅いということ、攻撃すると液体が出てくること、それと…」

伊織「その前にいいかしら。これって5、6体浮かんでるけど、スタンドは一人一体じゃあ…」

貴音「いえ、厳密に言うと違います。スタンドは一人、一能力です。これにも例外はあるのかもしれませんが」

伊織「一人一能力、このスタンドはまとめて一つの能力ってこと?」

伊織(やよいの『ゲンキトリッパー』…これは少し違うわね。一個一個が完全に独立して動いてる)

伊織「っていうか、さっきから思ってたんだけどこいつ…逃げる必要あるの? 攻撃しなければ、液体も出てこないし…」

ガシャ!

伊織「へ?」

バヒュ!!

伊織(箱の開いてる一面から…野球の…硬球を射出してきた!?)

ガキィ!!

伊織「!」

貴音「…このように、」

貴音「伊織。そちらを守ることが出来ぬかも知れませんので、自分の身は出来る限り自分で守ってくださりますよう」

伊織「わ、わかってるわ。今のはちょっと油断しただけよ」

伊織(『パワー』はやはりと言うか少し劣るけど、攻撃の『スピード』は真の『ストレイング・マインド』と同じくらいか…?)

伊織(いえ、もしかしたら反応速度の分こっちの方が…)

伊織「…貴音、あんたのスタンド…」

貴音「はい? 『フラワー・ガール』がどうかしましたか」

伊織「パワーとかスピードの割に、結構射程距離が長いみたいだけど…どれくらいなの?」

貴音「射程距離は6丈3尺…20めぇとるに少しばかり届かぬくらいですかね」

伊織「………」

伊織「20…メートル…? 今、『20m』って言った、アンタ…?」

貴音「はい。その半分…10めぇとるくらいならばあまり性能を落とすことなく使用できます」

伊織「そ、そう…」

伊織(10mまで、あの出力が可能…? どう考えてもおかしい、道理に合っていない…)

>貴音「…このように、」
→貴音「このように、この『浮遊スタンド』…物体を飛ばして攻撃してきます」



伊織「じゃあ、『硬く』するだとか、『くっつける』だとか…そういう能力は?」

貴音「春香の『あい・うぉんと』みたいな、『能力』ですか? いえ、そういうことは…」

伊織「え、ない…?」

貴音「はい。強いて言うならば、この出力がそうと言えますが」

伊織(能力のないスタンド…?)

伊織(そういうのもあるのかしら? それとも、貴音は何か隠している…?)

伊織「だけど…そんなに強力なスタンドが、こんなスットロくてパワーもないスタンドに苦戦するの…?」

貴音「ええ。如何に優れた刀を持とうと、相手がいなければどうしようもありませんから」

伊織「本体がいなくても、スタンドを壊せば…」

貴音「それは私も試しました…が」

貴音「次々と出てきて限がありませんでした」

伊織「スタンドを攻撃しても本体にダメージがない…?」

貴音「全くない、というわけではないとは思いますが…恐らく数が多いため、1体や2体倒したところで、大した痛手にはなっていないのでしょう」

フッ

パッ

ドシュゥ!

伊織(さっき中身を出した個体が消えて…こうしてまた打ち出してくるってことは…)

伊織(別個体! 一体何体いるわけ、こいつは!?)

貴音「それに…見てください」プルプル

伊織「右手…?」

伊織(白くて細い指だこと…)

伊織「これがどうかしたの、なんか震えてるけど」

貴音「このスタンドから出てくる液体…あれは『麻酔液』です。触れると体を上手く動かせなくなる」

伊織「え!? あんた、もう触れ…」

貴音「触れてから時間が経過しているため、少し感覚は戻ってきてはいます。が、完全な状態とはとても言い難いですね」

貴音「そんなわけで…私がこれを倒すためには、本体を見つけなくてはならないのですが…」

伊織「本体が誰なのかも、どこにいるのかもわからない…強力な『フラワー・ガール』も身を守るのが精一杯と…そういうわけ」

貴音「はい。そういうものなのです、『スタンド』というのは」

伊織(確かに…この『浮遊スタンド』の射程距離がどれくらいなのかは知らないけど、本体にダメージを与える手段がないとなると…辛いわね)

ドシュ!

バッ

伊織「こいつは…やっぱ『遠隔操作』なのかしら?」

貴音「『自動操縦』…の可能性もありますが…」

伊織「え、『自動操縦』? なによ、それ?」

貴音「…いえ、忘れてください」

伊織「…?」

貴音「この物体には意識があるようには見えませんが、しかし正確な動きをしている。それに…」シュ

ドゴ

バキバキバキ

サッ

ビチャッ

貴音「力はほとんどありません。何の抵抗をされることもなく『破壊』できます。無論、この『麻酔液』には気をつけねばなりませんが…」

伊織「動きもかなり遅いわ。その分を射程距離だとか正確性に回しているのね…」

コツ コツ コツ

伊織「しかし、この動き…このスタンドの本体、何か特別な方法で私達を『見て』いるわね」

貴音「? どういうことでしょうか」

伊織「『遠隔操作』ってヤツは、よく見ないとこういう正確な動きはできないのよ」

伊織「他のスタンドがどうかは知らないけど、私のスタンドは遠くに行けば『正確性』は落ちるわ。性能自体もそうだけど、遠くのものは大雑把にしかわからないから」

貴音「伊織のスタンドも『遠隔操作』なのですか?」

伊織「ええ、こいつほど徹底した『遠隔操作』って感じではないけど」

伊織「仮にこのスタンドが一つ一つがものを見られるとしても…こんだけ多いと、本体は何が起こってるのかワケがわからなくなるはずだわ」

貴音「だから、何かの手段で私達の姿を見ていると…そういうことですか」

伊織「そうよ。そうやって聞いてるあたり、目星はついてないわね」

伊織「貴音でも気づいていない…となると、一体どうやって…」

ゴゴゴゴゴ

キュルル

ゴゴ

ジー

伊織「…貴音」

貴音「はい」

伊織「アンタ…本当にあれに気づかなかったわけ?」

貴音「あれ…とは…?」

伊織「あの横にカメラが付いてる個体よッ! ちょっと離れた場所に違う形、丸わかりじゃない!」

貴音「申し訳ありません、遠くのものを見るのは少し苦手でして…」

伊織「はぁ…もういいわ。とりあえず、あれをブッ壊せば…」

スゥ…

貴音「近くで見ると…これは、『煙』のスタンド…」

ドシュゥゥゥ

伊織「って、これも中身を発射してくるのね…!」

バ!

ギュルルルル

グ…

伊織「なるほど。確かに『パワー』はないわね、『スモーキー・スリル』で簡単に掴めたわ。当たったら痛いことには変わりないだろうけど」

貴音「『すもぉきぃ・すりる』と言うのですか…ぐれぇと…」

伊織「なにそれ?」

貴音「プロデューサー様の教えで英国語の練習を…『ぐろぉばる』の時代らしいので」

伊織(英語と言うか、単なる横文字じゃない)

伊織「さて、この球…あんたに返すわ…よっ!」ドシュゥゥゥ

貴音「あっ、伊織…」

ギュオォォォォォ

ガゴッ!!

伊織「へ?」

伊織(あっさりと受け止められた…ブルペンで投球を受けるキャッチャーみたいに…)

バシュ!!

伊織「うおおっ!?」サッ

ドス!

貴音「あの物体には、飛び道具の類いが通用しないのです」

伊織「そ、そういうことは早く言いなさいよ!」

貴音「止めようとは思ったのですが」

伊織(叩き付ければよかったわ…手放したら、攻撃できない…)

伊織「た、貴音…あんたの『フラワー・ガール』で…」

貴音「…わかりました。あの遠くにある、黒い物がついた個体を狙えばいいのですね?」

伊織「黒いものって…まぁ、それでいいわ」

貴音「『フラワー・ガール』」ドォーン

ヒュッ

バ! バッ!!

伊織「く、他の個体が盾に…」

バキ! ドキャァ

ビチャッ ビチャ

伊織「…も、ならないわね…速すぎでしょ…」

ス…

バギャァァ!!

伊織「! やったわ! 一瞬消えかけたけど、それすらも間に合わない!」

フッ

ブゥン

伊織「…え?」

貴音「こちらにも、予備が用意されているようですね」

ジー

ドシュ! バシュ!

ドシュゥゥゥゥン

伊織(隙が出来たと見るや一斉砲撃ッ!?)

貴音「………」

キィン! ガキャ!

ズドム!!

貴音「…ふぅ…」グイッ

伊織(私の『スモーキー・スリル』が行っていれば弾く必要もなかったんだけど…でも、貴音にも全然通用してないわね)

貴音「あのかめらがついているという個体からは『麻酔液』が出ませんでしたね」

伊織「どうせ殴っても無駄だから、何の役にも立たないわね…」

コッ コッ

伊織「!」

ザワ ザワ

伊織「着いたわ、事務室よ!」

伊織(ドアが開いてる…中にいるのは春香、あずさ、亜美、真美、響、小鳥!)

伊織(真が来る前には、美希とプロデューサーがいたと思ったけど…出ていったのかしら? いや、それより…)

伊織(春香がいる…それに、あずさも…貴音が本当に春香の敵だって言うなら、確実に介入してくるわね…)

伊織「貴音、本体をどうやって見分ける気? それに、この中に本体がいなかったら…」

カツ カツ

伊織「へっ!? な、なに通り過ぎてんのよ!? この『浮遊スタンド』の本体を探すんじゃあ…」

貴音「いえ、伊織。本体はこの事務所にはいません」

貴音「考えてもみてください。こんなスタンドを使うような者が、私達が近くにいるというのにのんびりとしているでしょうか」

伊織「そ、それはそうだけど…じゃあ、なんでここまで…」

貴音「『ここにいない者』が本体です。これで大分絞り込めました」

伊織「! そういうこと…」

貴音「さて、これから外に出ようと思っていますが…」

キュルキュル

ユラァ

伊織「…ここぞとばかりに待ち伏せてるわね。相手は私達が上の方に来るのを待っていたのかしら」

貴音「一気に走り抜けましょう。この数は脅威ですが…スタンドで身を守れば多少なら平気なはずです」

伊織「走る必要なんてないわ。飛び降りるわよ」

貴音「は」

ガラッ

ヒュオォォォ

貴音「伊織…本気で言っているのですか…」

伊織「大マジよ、アンタも早く飛び降りなさい!」ヒョイ

貴音「…わかりました」ヒュッ

ゴオオオオオ

伊織「『スモーキー・スリル』!」モクモク

ガシッ!!

貴音「わぷっ」モプッ

伊織「着地成功っと。じゃ、行くわよ」

貴音「ぐれぇと…」

パ!

キュルキュル

伊織「やっぱり、外に来ても追ってくるわねこいつら」

貴音「ええ…ですが、攻撃に関しては道が広い分避けやすくなったと言えるでしょう」

伊織「ところで貴音。絞り込んだはいいけど、どうやって本体を見つける気?」

貴音「それは…虱潰しに当たっていくしかないでしょうね」

伊織「家にいるのかもわからないわよ。そんなんじゃ、絶対捕まらないわ」

貴音「伊織、何か考えがあるのですね?」

伊織「ええ。貴音、あんた携帯持ってるでしょ? 貸して」

貴音「携帯…携帯電話、ですか? 構いませんが…」スッ

伊織「じゃあ、今からちょっと準備するけど…」

伊織「貴音…アンタの『フラワー・ガール』、カメラだけ壊すってこと、できる?」

貴音「近づけば可能だとは思いますが…伊織?」

伊織「じゃあ、近づきましょ。どうせ、あんなスットロいスタンドじゃあ私達の動きに対応できないわ」

貴音「…?」

………

ドドドドドドド

?「ん…」

ジィィィ…

ダダダ

伊織『行くわよ、貴音!』

貴音『はい…』

?「二人がこっちに向かってくる…」

?「また『カメラ』を狙ってくる気? 懲りないなぁ…」

………

ウィーン

バシュゥ

伊織「おっと!」パシ!

貴音「参ります…」ズ…

ヒュゥ

ドス!

ピキキキ

貴音「かめらを破壊…しました、伊織」

伊織「よし…喰らえッ!!」ドシュ

ガゴォ!!

フッ

貴音「!」

パッ!

貴音「伊織、また出てきましたが…」

伊織「いいのよこれで。このまま上手くいけば…」

………

?「よし、『転送』」ポチッ

?「何度壊しても、このスタンドに対しては無意味だって、どうしてわからないかなぁ」

?「さて、と…壊されたやつを『修復』しなくちゃ」

?「…あれ?」

ゴゴゴゴゴ

?「何か入ってる…」

ゴゴゴ

?「そういえば、カメラを破壊してから何かを投げられたみたいだけど…」ヒョイ

?「…携帯電話?」パカッ

『今いる場所を調べています』

・ ・ ・

?「こ…これはッ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ

………

……

ブルッ

伊織「!」

伊織「来たわ。正直、上手くいくとは思わなかったけど」

貴音「何ですか、それは?」

伊織「GPSよ。あんたの携帯から電波を発信した」

伊織「その電波によると、この地図の、このポイントに本体がいるわ」

貴音「よくはわかりませんが、本体はこんなに離れた場所にいるのですね…」

貴音「それで水瀬伊織。私の携帯電話は?」

伊織「この場所には何もないはずだけど…こんなところにいるということは…」

伊織「恐らく、本体は車で移動しているのね。やれやれだわ」

伊織(この事務所で車が運転できるのは三人…プロデューサーと小鳥は事務所にいた…となると…)

伊織「本体は律子よッ! なるほど、言われてみれば律子らしいスタンド!」

貴音「携帯…」

………

ドルルルルル

律子「伊織の奴…! こんな方法で私の正体を見破るなんて…!」

律子「だけど、一度場所が分かったくらい…あんた達のスタンドでも、車には追いつけないでしょ!」

律子「携帯は…捨てる必要はないわね。GPSを切っておけばいいわ」ポチッ

グイッ

カタカタ

ブオン

律子「『ロット・ア・ロット』…」

律子「この大本の端末が壊されない限り、この群体スタンドは何度でも『修復』し、何度でも『転送』できる!」

律子「単純な『パワー』だとか『スピード』なんて…他の要因でどうとでもひっくり返せることを思い知らせてやるわ」

スタンド名:「ロット・ア・ロット」
本体:秋月 律子
タイプ:遠隔操作型・群体系
破壊力:E スピード:E 射程距離:A(数km以上) 能力射程:A(数km以上)
持続力:A 精密動作性:A 成長性:E
能力:羽のついた小箱のような小型スタンドを操作できる律子のスタンド。
PCのような端末型スタンドで『修復・転送・帰還』などの指示を出し、細かい動きは送られてきた映像を見て操作する。
小型スタンドは中に『麻酔液』が詰まった個体、『カメラ』で本体に映像を送る個体の二種類あり、そのどちらも箱の中のものを『射出』したり飛び道具を受け止めることが可能。
性能はどれもほぼ同じで、動きは非常に遅く、破壊力も皆無だが、射程距離はとても広く、数も多い。
遠隔操作だが、律子の真面目な性格を反映したように、非常に正確な動きが可能。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

今日の分はこれで終了です。支援ありがとうございました。

現在、1週間おきに投下してますが…
なんか6日間他のことやって月曜の1日だけで書き上げてるのが現状なので、週2にしたいと思っています。
というわけで次回は金曜で

今回細かい部分でミスが多い…まとめて修正

>>702
>貴音「その口ぶり伊織は春香と敵対している…そういうことですね?」
貴音「その口ぶりからすると、伊織は春香と敵対している…そういうことですね?」

>>712
>伊織(やよいの『ゲンキトリッパー』…これは少し違うわね。一個一個が完全に独立して動いてる)
伊織(言われてみれば、やよいの『ゲンキトリッパー』もそうか…でも、これは少し違うわね。一個一個が完全に独立して動いてる)

>>716
>伊織「だけど…そんなに強力なスタンドが、こんなスットロくてパワーもないスタンドに苦戦するの…?」
伊織「だけど…そんなに強力なスタンドが、こんなスットロいスタンドに苦戦するの…?」

>>744
>伊織(この事務所で車が運転できるのは三人…プロデューサーと小鳥は事務所にいた…となると…)
伊織(この事務所で車が運転できるのは三人…小鳥は事務所にいた…)

伊織(そして、プロデューサーは恐らくスタンド使いではない…となると)

ミスがジョジョ本編の誤植よりもやたら多いですが、言い訳させてもらうと、連投規制のせいです
一応、全体を大まかに見直してから投下はしているのですが、支援が要ると『はやく投下しなくては』という気持ちがあって投下前に一回ごとに細かい部分を見直すということができないのです…
俺は悪くねぇ!

そいや音までは聞こえてないのか?

やれやれ 間に合ったぜ…

バキ!

貴音「取れましたよ、伊織」

伊織「『フラワー・ガール』…自転車の鍵のチェーンもあっさり引きちぎれるのね」

貴音「しかし、他人の所有物を勝手に使用するというのは、どうも…」

伊織「んなこと言って、『再起不能』させられたりしたら目も当てられないわよ」

伊織(相手は自動車、こんな自転車でどうこうなるとは思えないけど…)

伊織「…徒歩で移動するよりは全然いいわ。後ろに乗って、貴音」

貴音「二人乗り…一台でいいのですか?」

伊織「二台で行くと的が大きくなる。貴音の携帯も律子に奪われたし、一台の方がいいわ」

貴音「………」

貴音「ですが、私が乗っては運転する伊織の体力が…」

伊織「それなら、心配ないわ」

モクモクモク

ガシィ!

貴音「『すもぉきぃ・すりる』で… ………」

伊織「ペダルを回す。貴音、しっかり掴まっておきなさい」

貴音「…はい、了解しました」

グゥゥゥーン

伊織「思ったよりスピード出るわね、これ」

貴音「さて、伊織。どうやって律子嬢を…」

伊織「それは…」

伊織「ちょっと待って、前に何か…」

キュルキュル

伊織(律子からは私達が『自転車』で移動していることもわかっている…)

伊織(この『浮遊スタンド』では自転車のスピードには追いつけない、だから『待ち伏せ』…していたのね!)

伊織(足下を狙って…)

伊織「ちっ!」ガッ!

キィィッ

グルルルル

伊織「っぶないわねぇ、この伊織ちゃんが怪我したらどうすんのよ!」ギュン

貴音「伊織、右後方からです!」

伊織「へっ?」チラ…

ドシュゥ!!

伊織(今度は私を狙ってきたか、だけどこれはちょっとスピードを落とせば…)グイッ

伊織(避けられる!)

ヒュゥゥン

伊織(よし…)

ガコッ!!

・ ・ ・

伊織「え?」

伊織(球を飛ばした先に…『浮遊スタンド』が…)

ボヒュ!

伊織「うっ!?」バッ

ガゴ!

バヒュン! ドシュン!

伊織「うおおおおおおおおお」

伊織(そこら中から攻撃が飛んでくる…! 避けられ…!)

ガキン!

バキャ!!

貴音「大丈夫ですか、伊織」

伊織「え、ええ…」

貴音「ふぅ…」

伊織(『フラワー・ガール』、この『スピード』…どの方位から来てもおかまいなしね)

貴音「敵スタンドからの攻撃…」

貴音「出来る限りは対応させて頂きます。伊織は運転に集中してください」

伊織「…わかったわ」

伊織(私は、貴音のことを99%信用している…)

伊織(だけど、1%…完全に信用しきれてはいない)

伊織(少なくとも、律子を追っている間は安全だと思う…だけど、もしも律子を倒した後…)

伊織(貴音が私を襲ってくる…そんな可能性がないと言い切れるか…?)

伊織(そうなったら、『フラワー・ガール』…私の『スモーキー・スリル』でどうこうできるの…?)

伊織(…貴音が、『そう』でないことを願うしかないわね…)

伊織(それより…このままでは、律子を倒すことすらできない…か)

伊織「律子は…どこにいるのかしら」

貴音「町中のどこかにいるとは思うのですが。『遠隔操作型』とは言え、このスタンドが県外まで届くとは思えませんし」

伊織「町と言ったって、かなり広いわよ。何か、律子を引きずりだす策を考えないと」

貴音「引きずり出す策、ですか…どのような?」

伊織「例えば…『ガソリン』が切れるまで待ってmガソリンスタンドで待ち伏せるとか…」

貴音「がそりん…『燃料』ですか? なくなるまで、どの程度耐えればいいのでしょうか」

伊織(律子なら、仕掛ける前に『満タン』にしているわよね…)

伊織(それなら、いくらうちの車がオンボロの中古車でも少なくとも2時間以上はかかる…そんなに耐えられるか…?)

伊織「じゃあこのスタンド、攻撃するためには何かを『飛ばす』必要があるから、それがなくなるまで…」

伊織「…いえ。これも難しいわね。さっきのを見る限り、飛ばした球はまた再利用してるみたい」

伊織(どうする? このまま無闇に探しまわっても、いずれこっちがやられるわ)

貴音「伊織、さっきの携帯電話の画面…」

伊織「GPS? あの場所からはもう移動してるでしょ」

貴音「じぃぴぃえすはよくわかりませんが…地図を見せてください」

伊織「地図…いいけど、はい」スッ

貴音「ありがとうございます」グッ

伊織「地図なんか見ても、どの辺にいるのかもわからないわよ」

貴音「いえ、律子嬢の現在位置についてはまずは置いておきましょう」

貴音「この自転車でも、『自動車』に追いつくことはやはり不可能です」

伊織「ええ、そうね…」

貴音「相手もそれをわかっている。ですから、私達がある程度近づくか…何か行動を起こすまでは移動はしないはず」

伊織「…だから?」

貴音「道を塞ぎましょう。あらかじめ、退路を断っておくのです」

貴音「この地図を見てください。仮に律子嬢がこちらの領域にいるのならば、ここと…ここと、ここを封じれば…」

伊織「律子は『カメラ』で町中の情報を手に入れられるわ」

伊織「私達がそこらの道を封鎖してる間に、他の道を通られて逃げられるだけよ」

貴音「そうですか…いえ、そうですね…」

伊織「…いや、やっぱ待って。いけるかも、それ。携帯返して」

…………

カタカタカタ

律子「止まっている間はエンジンは切る…ガソリンが勿体ないからね」

律子「自転車に乗られて、追いつけないから音はちょっと拾いにくいけど…」

律子「『ロット・ア・ロット』は町中の全てに『監視カメラ』をつけているようなもの」

律子「あんた達がどこで何をしようと、その情報は私に筒抜けよ」

ジーッ

ヒュン ヒュヒュン

律子「ん?」

ガララ…

律子「工事現場から、木材を道路に…」

律子「道を通行止めにでもしようってのかしら? 無理無理、この一帯に何本の道があると思って…」

ジー

ブロロロ…キキィッ

律子「………」

………

キィッ

貴音「伊織…近くに木材や鉄骨が見当たらないのですが…」

伊織「じゃ、そこの塀を崩せばいいわ」

貴音「了解しました」ドヒュ

ガキッ!

貴音「………」ガガガガガガガ

パッ

ドシュゥゥゥ

ボフッ!

伊織「『スモーキー・スリル』。邪魔はさせないわ」ギュルルル…

伊織(私達が止められるのは、道のほんの一部だけ…)

伊織(でも、どの道にも『車』は通っている…少しの通行止めも、思った以上の渋滞を引き起こすものよ)

伊織(しかも、邪魔をするのは車体そのものだけではなく、『車の流れ』…車に乗っているアンタはこの流れを意識しながら移動しなければならない)

伊織(…別に、それで捕まえられるとは思っていない…だけど、それを知ったらアンタは何か行動を起こすはずでしょう? 律子…)

ジー…

………

律子「私を包囲するつもり…? 伊織、貴音…」

律子「無駄な行為ね。他人の迷惑になるだけだわ」カタカタ

ヒュン

ジー…

律子「…だけど、自転車とは言え移動速度が結構速い…しかも、的確なポイントに仕掛けてくる…」

律子「それに、伊織達から逃げるように動き続けるのは…この地理じゃよくないわね」

律子「念のため…移動するか」カタッ

パッ

・ ・ ・ ・

律子「よし、OK…普通に車は通っている…」

律子「大通りには、あんた達が道を塞げるようなものはないわ。せいぜい、ガードレール程度。まさか、人が乗ってる車をどうこうするわけにはいかないでしょう?」

律子「それに、この広い道を完全に封鎖する…そんなことに時間をかけてる場合でもないわよね?」

カタッ

律子(進行方向を見るに、私がここに来ることを読んでいるのか、伊織達も少しずつ大通りに向かっているみたいね…)

律子(だったら、あえてここを通る! あんた達のスタンドも、行動も、『情報』の前では無力よッ!)

ブロロロロロ…

律子(こういう時、脇道からこっそりと移動するのもいいけれど…)

律子(こっちの方が、選択肢は多いわ。このまま進んでいきましょう)

キィィーッ! プオーッ

律子「!?」

律子(ブレーキ音…それにクラクション! まさか、事故!? こんな時に…)カタカタ

ヒュン!

律子(前方の映像は…)

ジー

律子「な…何ィッ!!」

キキィッ!

律子(事故でも起きたのかと思ったら…何も起きていない!)

律子(そう、何も…たくさんの車が止まっていて、その一台も動いていない…!!)バタン

律子「ちょ、ちょっと…何故こんなところで止まっているんですか!?」

「そんなこと、こっちが聞きたいぜ!」

「急に地面にピッタリと『くっついた』ように動かなくなっちまったんだッ!」

「買ったばかりの新車なのにッ!! ローンもたっぷり残ってるッ!」

「通してくれーっ、大事な会議があるんだよォォ~ッ!」

律子(車が動かない…!? 『スモーキー・スリル』や『フラワー・ガール』にそんな能力は…)

律子(伊織の仲間…他の、スタンド使い…!?)

律子「どこもかしこも大渋滞じゃない…! 伊織の奴ッ…」

律子(ん…あれは…!)

やよい「『ゲンキトリッパー』」

やよい「車を道路に『くっつけ』ました。なんか、凄いことになっちゃったけど…」

律子(やよい…!?)

律子(まずいわ、やよいのスタンドが何なのかはわからないけど、あんなことをできるほどのスタンド…近づいては勝ち目はない!)

律子(と言うか、私の『ロット・ア・ロット』…不用意に近づかれたら、誰が相手でも勝てない!)

律子(『ロット・ア・ロット』で…いえ、変に攻撃したら警戒されてここにいることに気づかれる可能性が…)

やよい「これでいいんですよね、伊織ちゃん?」ゴソッ

伊織『ええ、お手柄よやよい。これで律子はこの道を通ることはできない』

伊織『封鎖の難しさ、私達からの距離…そして、行ける道の多さ…律子だったら、必ずこの道を通る』

伊織『だけど、律子には他のスタンド使いの…やよいの「情報」はない。この道は抜けられないわ』

やよい「こんなことやって大丈夫なのかなぁ…」

律子(車を止めて道を封鎖するなんて、やってくれるわね、やよい…!)

律子(だけどこれくらい、なんてことはないわ! そのためにあえてこの大通りを選んだんだもの!)

律子(私の車は『くっつけ』られていない、バックして横道に入れば…)

「回り道だ、引き返せばまだ会議には間に合う…」

キキィ…

・ ・ ・ ・

「うわぁーッ! なんで後ろから来るんだよぉぉっ!!」

「てめーらこそ、なんでこんなところで止まってんだッ!!」

「ぶつけるぞオラァ!」

「なんだと!? オレに新車にキズをつけようってなら、ただじゃあおかねぇッ!」

律子(は、挟まれた…)

律子(まずい、いつまでも留まってたらやよいに気づかれる…)

律子(伊織や貴音もここに来る…)

律子(くっ…車を捨てて、隠れるしか…)タッ

やよい「あれ?」

タタタ

やよい「あれって…」

伊織「やよい!」キィッ

やよい「あ、伊織ちゃん! それと貴音さん!?」

貴音「おはようございます、やよい…律子嬢は?」

やよい「あっ! 律子さんなら、さっきそっちに走っていきました!」

伊織「近くにいるのね? こうなっちゃあ車に乗ってるわけにもいかないわよね」

貴音「逃げられても困ります、追いかけましょう」

やよい「頑張ってください、伊織ちゃん! 貴音さん!」

貴音「やよいは来ないのですか?」

やよい「えっと、もうすぐ特売があって…その…」

伊織「ああ、わかったわ。いいわよ、行ってきて」

伊織(やよいも来た方が心強いけど、この自転車に三人乗りなんてするわけにもいかないし…)

律子「ふぅ、ふぅ…」

律子(まずい…まずいまずい、しくじった…!)

律子(とにかく、近くにいたらまずい…逃げなくては…逃げて隠れなくては…!)

………

貴音「あちらの方…とやよいは話しておりましたが」

伊織「いない…どっちへ行ったのかしら…」

貴音「…二手に分かれますか?」

伊織「分かれたところで。右? 左? まっすぐ? 右行ってから左? 見つけられる可能性は少ない」

貴音「ですが、追いかけぬことには始まりません」

伊織「…近くにはいるのよね? だったら…」

………

律子(追ってこない…?)

律子(…このまま隠れれば、いけるか…?)

律子(そうよ、私のいる正確な位置を、伊織達は知りようがない!)

律子(同じ場所にいたら最近だと『twitter』だとかで場所を突き止められる可能性があるから、車で移動していたってだけで…)

律子(時々移動する必要はあるけど…あんた達が私の居場所を突き止める方法はないわ!)

律子(さて…そこらの喫茶店で一息つかせてもらうとしますか)

ボヤ…

律子(ん…?)

律子(何か、視界がぼやけてるわね…眼鏡が曇ってるのかしら…?)

ブルルルルル…

律子(!)ビクッ

律子(電話? 伊織から…)

律子(出るわけないでしょ。それに、マナーモードだから音も聞こえない。私の場所がわかるわけでも…)

律子(………)

律子(違う! これは…まずい、伊織に居場所がバレた…!!)

………

伊織「! 携帯のバイブレーションが聞こえた…律子はあっちの方にいるわ!」

貴音「『すもぉきぃ・すりる』で…聞いたのですね、伊織」

伊織「『見る』ことはできないけど、『音』は空気の振動でわかる。律子が逃げる『足音』を捉えたわ」

伊織「さぁ…もう逃がさないわよ、律子」

律子「はぁ、はぁ…」

ビィィィーッ

律子「あ…!」

伊織「! いたわ!」

貴音「距離を詰めてください、伊織。私の『フラワー・ガール』で…」

伊織「いえ、それくらい近づけば私の『スモーキー・スリル』で十分よ!」

律子(相手は自転車、しかもスタンドの力で速度を上げている!)

律子(このまま走っていたらすぐに追いつかれるわ…!)

律子「く…この手は使いたくなかったけど…!」カタカタ

ヒュン

伊織「ん!?」

バシャァ

伊織「『浮遊スタンド』から液体が…『麻酔液』!?」

貴音「いえ、この臭いは…」

キュルキュル

シュボッ

ポイッ

伊織「まさか…!!」

ボウッ!!

伊織「ガソリンかっ…!」キィィィィッ

タッタッタ…

ゴオオオオオ…

伊織「ち…!」

伊織「この道が塞がれたら、また遠回りしなきゃじゃない…! その間に逃げられるッ!」

貴音「伊織のスタンドでどうにかなりませんか?」

伊織「どうにかしたいところだけど…」モクモク…

伊織「熱っ!!」

伊織「難しいわ…スタンドでも、自分から触ろうとすると炎は熱いのね…」

貴音「では、私がやるしかないようですね…」タラ…

伊織(貴音が汗をかいてる…? この炎じゃ仕方ないか…)

貴音「『フラワー・ガール』、心頭滅却すれば…」ブオン

伊織「ちょ、ちょっと!? 何する気よアンタは!?」

貴音「冗談です。直接触らずとも…」

ドオン ヒュゥ バオッ

シュゥ…

貴音「風圧で火を弱めました、あとは伊織のスタンドで…」

伊織「え、ええ…!」バッ

貴音「………」タッ

クギュゥゥゥーン

伊織「飛び越えるッ!!」

スタッ!!

伊織「よし」

貴音「ふぅ…」

伊織「自転車はもう使えないけど…走って追いかけるわよ、貴音」

貴音「………」

伊織「貴音?」

貴音「…伊織、少々よろしいでしょうか」

伊織「何? 早く追いかけないと…」

貴音「お腹が空きました。何か食べるものを持ってはいないでしょうか」

伊織「………」

伊織「今はないわ。律子をブッ倒すまで我慢してちょうだい」

貴音「そうですか…」

貴音「ならば、私はここまでのようですね…」

伊織「は? 何よそれ、また冗談? 今はそんなこと言ってる場合じゃあないわ」

貴音「しかし…」

伊織「何よッ! お腹が空いたのはわかったわよ、でもこの一刻を争う状況で言うようなことじゃあないでしょうが!」

貴音「…そうではありません、伊織…」

貴音「『フラワー・ガール』が『つぼみ』になってしまいました」シュン

ヴ…

伊織「え?」

貴音「私のスタンド…『フラワー・ガール』は非常に燃費が悪く…」

伊織「え…何? 『燃費』が何ですって…?」

貴音「私の体力を常に吸い続け…吸い尽くせばこのようにつぼみに戻ってしまう」

貴音「そろそろ限界です…何かを口にしなければ、これ以上、行動はできません…」

伊織「貴音、あんた…」

貴音「伊織…まこと勝手な願いですが、このまま律子嬢を倒してください」

貴音「伊織が倒してくれれば、私は助かります」フラ…

伊織「あんた、何を言って…」

貴音「律子も…私の命を取るまではしないでしょう」

貴音「私のことは置いていって…ください。足手まといになるだけです…」ドサ

伊織「た…貴音ッ!」

ジーッ

………

律子「はぁ、はぁ…よし」

律子「あの『フラワー・ガール』、何かあるかと思ったけど…やっぱり、そういうことか。そして…」

律子「あんたが貴音を見捨てていくわけないでしょう? 守りながら戦えるかしら、伊織」

律子「それとも、案外貴音を置いて追いかけてくる? ま、どっちでもいいけど…」

………

伊織「貴音…」

貴音「………」

伊織「アンタ黙ってたのね、『フラワー・ガール』の弱点…」

伊織「恐らく、使用を温存することで私に負担をかけさせないために…」

伊織(私は…アンタのことを信用できるかどうか、ずっと考えていたってのに…)

貴音「………」

伊織「く…」グッ

伊織「フザけんなッ! 無理して倒れられたら、そっちの方が迷惑に決まってるでしょうがッ!!」

ドォ-ン

キュルキュルキュル…

伊織「貴音はもう戦えない…なら…」

伊織「なんとかするしかないようねぇ~っ、この伊織ちゃん一人で…」

バシュッ!

伊織「ここぞとばかりに一斉に出してきたわね…チャンスだと思った、律子…?」

伊織「だけど…」フワ…

貴音「………」フワ

ガスン! ドギャ!

伊織「『スモーキー・スリル』」スゥ…

伊織「こうやって『煙』をまとめれば、人の1人や2人くらいなら余裕で動かせるわ」フワァ

伊織「『足手まといになるから置いていけ』…ですって? 貴音…」

伊織「見くびらないでちょうだい、こんなもの『足手まとい』になんてなりはしないわよ!」

伊織「見てんでしょ? さぁ、覚悟しなさい律子…この伊織ちゃんを敵に回すとどうなるのか、思い知らせてやるわッ!」

スタンド名:「フラワー・ガール」
本体:四条 貴音
タイプ:近距離パワー型・標準
破壊力:A スピード:A 射程距離:C(19m) 能力射程:C(19m)
持続力:E 精密動作性:A 成長性:D
能力:高い戦闘能力と、それに見合わぬ非常に広い射程距離を持つ貴音のスタンド。
通常、「スタンド」は本体からの「精神力」や、本体が存在しないようなスタンドでも、この世に残った「恨み」などの…要するに、「精神のエネルギー」によってパワーを得て行動する。
「フラワー・ガール」は、「精神力」だけでなく体内の「熱量エネルギー(要するにカロリー)」もスタンドのパワーとして使うことが可能であり、そのために、通常のスタンドとは桁違いの出力が可能である。
しかし、その消費量は激しく、「フラワー・ガール」を出しているだけで貴音のエネルギーは著しく消費されていく。
「エネルギー」供給が尽きると花は枯れ、「つぼみ」へと戻ってしまい、また本体である貴音も力を使い果たし倒れてしまう。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

>>763
カメラのついている個体からは聞こえます。

本日の分はこれで終了です。支援ありがとうございました。

ジョセフ『10分たってわしらからなんの合図もなければァァ…』

ジョセフ『館に火を放てッ! いいな…アヴドゥル…ゥゥ』

ゴゴゴゴゴ

アヴドゥル「すでに10分たった 館に火をつけるぞポルナレフ」

ポルナレフ「ああ…」ゴクリ

第三部完!



始めます。

ジー…

律子「伊織…」

モクモクモク

律子「『煙のスタンド』に乗って移動している…?」

律子「筋斗雲に乗る孫悟空かあんたはぁ~っ」

グオォォォン…

律子「まずいわね、移動スピードが結構速い!」カタカタカタ

ヒュン

律子「『ロット・ア・ロット』で妨害はするけど… ………」

律子「このままだといずれ追いつかれるわね…!」

律子「相手はあと伊織一人…あの場所へ…」

律子「あの場所へ行きさえすれば…」

………

……

ギュイィーン

伊織(『スモーキー・スリル』、歩くよりはマシだけど…)

伊織(自転車と比べるとスピードも遅いし、流石にパワー使うわね…)

ヒュン ヒュヒュン

伊織「出たわね…」

ドシュウ バフォ

伊織「移動にスタンド使ってるから無防備に見えた? 止める」ニュ…

ガシ! バシ!

シュゥゥゥ…

伊織(『移動』『探知』『防御』…一度に色んなことをやるのは流石に疲れるわね…)

伊織(まず、律子を視界に収めれば…『探知』の分のエネルギーは使わなくて済む…)

伊織(でも、飛ばしているとすぐにバテる…もどかしいわ…)

ヒュン!!

パッ

伊織(また出たか…)

伊織「こいつら…しつっこいのよ…!」

キュルキュル

バオン!!

伊織(この角度なら、防御するまでもない。最小限の動きで…)スッ

伊織(避ける!)

ゴォ

伊織「さて、反対側…これは流石に防…」

ゴギャ!

伊織「え?」

ミシミシミシ

伊織(受け止めず…そのまま、ぶつけた…の?)

伊織(何のために…って、決まってるでしょうが、そんなもん!)

バキャ!

バシャァッ

伊織「うわああああああああ」

伊織(『麻酔液』が降ってくる! 防がないと…どうやって!?)

モクッ

ス…

パシャ!

伊織「ぐっ!」バッ

伊織(『麻酔液』が…煙の『スモーキー・スリル』じゃ防げない…)

伊織(とっさに左手でかばったけど、これでまた動きにくく…)

キュルキュル

伊織「う…」ズズズ…

………

律子「やった、かかったわ!」

律子「これは、上手くやればいけるか…?」

律子「まだ距離はある、攻撃の手を緩めないでいけば…」カタカタカタ

ズオッ

伊織「!」

コォォ…

キュラキュラ

伊織(また『麻酔液』が来る…いや、直接撃ってくるかも…避けられるの…?)

伊織「避ける…」チラ…

貴音「………」

伊織「………」

伊織「避けるだとか…バテるだとか…」

伊織「そんなこと考えてたら、いつまで経っても追いつけないわね」

ズズズ

伊織「『スモーキー・スリル』」

グオン!

伊織「叩きつけるのなら硬球でも充分。片っ端から…」

バキャァッ

伊織「ブッ壊すッ!!」

バッシャァァァ

伊織「そして…」グゥゥゥ…

伊織「飛ばすわよ『スモーキー・スリル』!」

ギュン!!

バチャァァン

………

ジーッ

律子「な、何をやってんのよ伊織は、あんなに飛ばして…」

律子「それに『ロット・ア・ロット』をいくら壊したって、すぐに…」

律子(いや、あのスピード…攻撃してももうあまり当たらないだろうし、『修復』するにしろ、新しく『転送』するにしろ走りながら操作していたら…すぐに…)

律子(これ以上の妨害は難しい、やっぱり、行くしかないかっ…!)

律子(伊織はこれでまた疲労するわ…辿り着きさえすれば100%勝てる!)

律子(あーっ、もう! デスクワーク派だってのになんでこんな走らなきゃならないのよ!)

律子(もう少し、あと少しよ…! 追いつかれる前に…!)

伊織(律子の奴、ペースを上げたみたいだけど…私の方が全然速い! もうそこに近づいてる)

伊織(視界に捉えれば、またスピードは上げられる…)

伊織(この速度なら、こっちの体力が切れる前に追いつくわ!)

ゴォォォォ

タッタッ

伊織(この角を曲がれば…)

律子「はぁ、はぁ…」

伊織(見えた…!)

クルッ

伊織「ん!?」

律子「ふぅ…」ガチャ…

バタン!!

伊織(家の中に入っていった…?)

ヒョイッ

伊織「ここは…」

伊織(『秋月』…ここが、律子の家なのかしら…?)

伊織(元々はアルバイトだったらしいし、前の事務所の近くにあったのね。今のからもそこまで遠くはないけど)

グッ

ガガッ…

伊織(鍵をかけていったか…)スゥゥ…

ガチャッ!

キィ…

伊織「…スタンド使いって、不法侵入し放題よね」

伊織「お邪魔します…」

シーン…

伊織(返事がないわ…)

伊織(人の気配もあまりない。今、家には誰もいないのね…律子以外は)

貴音「………」フワ…

トサッ

伊織(流石に…疲れた。体もボロボロ…)

伊織(けど、貴音はもっと…こんな、倒れるまで無理してスタンドを使っていた)

伊織(こんなんで弱音吐いちゃいられないわ)モクモク

スゥーッ

伊織(律子は…上にいるわね)

貴音「………」

伊織「貴音、ここでしばらく休んでなさい。決着をつけてくるわ」

カチャッ…

律子「ノックくらいしたらどう、伊織…?」

伊織「律子…アンタのスタンド、相当厄介なもんだったけど…」

伊織「こう近づいたら、自分の身を守るには物足りないわ…袋の鼠ってやつね」

律子「袋の鼠…?」

律子「それを言うなら、伊織…あんたの方がネズミ取りの罠に引っかかった哀れな鼠よ」

伊織「なんですって?」

バタン!!

伊織「は…」クル!

ガタガタ

伊織(細工してある…? ホテルのドアのようにビクともしない!)

ゴトゴト

伊織(『スモーキー・スリル』でも駄目か…!)

伊織(…だから何よ、元から逃げるなんて選択肢はないわ)

律子「私はね、伊織。あんたを少し甘く見ていたのよ」

伊織「は…? 何よ、いきなり」

律子「貴音の『フラワー・ガール』…あれと比べたら、『スモーキー・スリル』は大したスタンドだとは思わなかった」

律子「だけどあんたの決断力、そして実行力…正体を見破られ、車を止められ、場所を見つけられ…」

律子「私の行動は次々と裏目に出て、ここまで追いつめられた」

伊織「………」

律子「けど、もう油断はない。最後には勝つわ」

伊織「私を閉じ込めたくらいで…何を勝ち誇ってんのよアンタは?」

律子「残念だけどね伊織…この部屋に入った時点で、もうあんたの負けよ」

伊織「はぁ…? そういうことはね…」

伊織「勝ってから言うもんよ、このウスバカがッ!」

伊織「行け、『スモーキー・スリル』!」ボウッ

律子「硬球で頭カチ割るつもり…? 野蛮ね」

伊織「んっ!?」クラ…

ピタ…

律子「やれ」

シューッ

伊織「んぷっ!? うあっ…あ…」

ダラダラ

伊織(これは、催涙スプレー…!? 目が…)

伊織(いや、それもそうだけど…今の目眩は、律子が『何か』したの…?)

律子「伊織。あんたの『煙』のスタンドって、吸い込んだら体に害はあるのかしら?」

伊織「は…? 何を…」ボタボタ

律子「『ロット・ア・ロット』の『麻酔液』は…」

律子「地面に落ちれば、温度ですぐに揮発してしまうわ」

伊織「…!」

律子「だけど、蒸発しても気体になるだけで、なくなるわけじゃあない」

伊織「ま、さか…」

律子「この通り、この空気中に漂う…『麻酔ガス』に早変わりよ」

伊織「律子…!!」

律子「もっとも、こうやってある程度密封されていて広さもない場所じゃないと使えないけど」

クラ…

伊織(頭が…またクラっと来た…)

律子「ま、念のためってこともあるし…『催涙スプレー』であんたの動きは二重に制限させてもらった」

伊織「ぐ…」ボタボタ

伊織「り…律子ォォォォォォォォォッ!!」

伊織(息を抑えなくては…肌に触れても効果があるのかもしれないけど、多く吸い込むのはヤバい!)

伊織(ドアから外に…は出られない、そのための鍵かッ…!)

伊織(なら…)

伊織「あああ、ああああ…!」ダラダラ

ドドドド

伊織(『スモーキー・スリル』!)

スゥッ…

伊織(『窓』! 目が見えなくても…場所くらいはわかる…)

伊織(こいつに硬球を投げつけて窓ガラスを割る…!)

ドシュゥーッ

律子「おっと」

ガゴォ

伊織(あ…)

律子「これで窓ガラスを割られて終わり、ってのもなんだか間抜けじゃない」

律子「『ロット・ア・ロット』。数体をあらかじめこの部屋に配置しておいたわ」

伊織(律子の…『浮遊スタンド』…)

伊織(闇雲に投げても、あれに阻まれる…)

律子「貴音やあんたには結構な数がやられちゃったけど…」

律子「飛び道具ならどんな力で襲ってこようが、痛くも痒くもないわよ」

伊織「く…」

伊織「だったら、直…接…」グラ…

ガクン

伊織「え、あ…」ガクガク

伊織(な…体が…)

伊織(どうしてこんな急に…吸い込む量は抑えてるはず…)

律子「この部屋の『麻酔ガス』、正直吸い込んだだけで影響があるような濃度じゃあないわ」

伊織「え…?」

律子「自分のスタンドだから大丈夫だとは思うけど…濃すぎると、先に部屋にいた私が倒れる可能性もあるし…」

律子「それに、多く撒くためにはその分『ロット・ア・ロット』を壊さなければならないし、そんな量を破壊したら私にまでダメージが及ぶ」

伊織(え…じゃあ…どういうこと…?)

律子「もし貴音の方がここに来ていたら、こんな手段は取らなかった。あの『フラワー・ガール』相手にこんなことをしても無意味だもの」

律子「でも伊織、あんたが相手なら話は違う。こっちの方が残ったのは、私にとって幸運だった」

伊織「一体どういう…私は… …!」

モクモクモク

伊織「まさ、か…」

律子「『スモーキー・スリル』は『煙』のスタンド! そして、スタンドと本体は一心同体!」

律子「気体の『スモーキー・スリル』にこの『麻酔ガス』が混ざったら…それはもう、あんたの体内にあるのと同じこと」

律子「ただの薬品とかじゃあ同じことはできないでしょうけど…『麻酔ガス』は『ロット・ア・ロット』の一部…この空気中に漂っているガスも、スタンドなのよ」

伊織(意識が朦朧としてきた…立て、ない…)フラ…

ドサアッ

律子「はぁーっ…」クタ…

律子「やった、やってやったわ…ギリギリだったけど…」

律子「あとは、念のために下の階に置いてきた貴音にも『麻酔液』をかけて…それで終わりね」

カタカタ

ジーッ…

・ ・ ・

律子(あれ…)

律子(貴音が…いない…?)

ガチャッ!!

律子「!?」

律子(ドアノブが…まさか、そんなはずは…)

ゴトッ ゴドォ

律子(でも、もし本当にそうなら…鍵が閉まってても、ドアを破ってくる…!!)

バキャッ!!

?「私が…どうかしましたか?」

キラ…

律子「『ロッ…」

ヒュッ

パリィン!!

律子「は…速すぎ…でしょうが…」

スゥゥーッ

伊織「うっ…」パチ

伊織「ふぅ、はぁ…」フラ…

伊織「う…目痛っ…」ググ…

?「『フラワー・ガール』。この距離、窓硝子を割るくらいならば雑作もありませんね」

律子「あんたは…」

伊織「た…貴音…!」

貴音「いえす、あいあむ」チッチッ

伊織「貴音…アンタ、どうして…」

律子「貴音はエネルギーを使い果たして『再起不能』したはずでしょうッ!?」

ドドド

貴音「冷蔵庫の中に…」

ドドドドドド

貴音「食材があったので…」

ドドドドドドドドド

カッラァァーン

貴音「頂かせてもらいました。生のままだったのであまり美味ではありませんでしたがねッ!」

伊織「火くらい通しなさい…腹壊すわよ…」

律子「それより、人ん家のもの勝手に食べないでちょうだい!」

貴音「緊急事態でしたので…やむを得ないことです」

貴音「さて、満腹となり…これで私の『フラワー・ガール』も全力を出せます…が」

ゴゴゴゴ

伊織「どうするわけ、律子…? 私も、まだちょっとは戦えるわ…」フラ…

律子「降参、降参よ!」バッ

律子「こんな距離で私の『ロット・ア・ロット』があんた達に勝てるわけないでしょうが!」

貴音「なるほど、正体が掴めぬ間は恐るべきスタンドでしたが…この距離となれば話は違うようですね」

伊織「でも、ここで逃がしたら、また仕掛けてくるんじゃ…」

律子「正体もバレてるし…同じようなことをして同じように負けるほど馬鹿じゃあないわよ」

伊織「手変えてくればいいんじゃない? あんたのスタンド、応用性高そうだし」

律子「また窓割られたり、冷蔵庫の中身を食べ尽くされるのは勘弁願いたいわ…あんた達のこと、最悪車も壊されかねないし…」

貴音「懸命ですね」

伊織「否定しなさいよ、そこまで野蛮じゃあないっての」

伊織「あーっ…目洗ってきていいかしら…」

伊織(一応元、ってことになってるけど自分の担当アイドルに催涙スプレーなんて吹きかけて…痛くて仕方ないわ…)

………

……



伊織「それで、律子…」

伊織「あんたは春香側よね」

律子「…ええ、そうよ。笑いたきゃ笑いなさい」

伊織「あーっはっはっはっは!」

律子「あんたね…はぁ…」

貴音「律子嬢は…本日は休日だったのでは?」

律子「ええ、そうよ…久々の休暇だったのに、春香から貴音を倒せってね…」

伊織(もう貴音のことは100%信じていたけど…これでちゃんとした確証を持てた、101%信じられる)

伊織(なんか…変に疑ってた自分がバカみたいね)

伊織「貴音」

貴音「はい? なんでしょうか」

伊織「…一緒に春香をブッ倒しましょ。そして、『矢』を壊す」スッ

貴音「ええ、そのつもりです。よろしくお願いします、伊織」ギュッ

グー

貴音「…お腹が空きました」

伊織「さっきまで戦ってたってのに、緊張感ないわねまったく…」

伊織「じゃ、そこらの店に食べに行きましょ。律子の奢りで」

律子「はぁ? ちょっと待ってよ、なんで私がそんなこと…」

伊織「私達に負けたんだからそれくらいいいじゃないの」

律子「あーもう…わかったわかった、近くの食べ放題でいいわね? 普通の店じゃ財布が持たないわ…」

To Be Continued…

四条貴音…バイキングの料理を食べ尽くした後、帰っていった。

水瀬伊織…バイキングの食事が口に合わず大いに愚痴を吐く。食後は町を回り、滅茶苦茶やった場所を直しに行く。

秋月律子…道のど真ん中で放置していたため、レッカーで移動させられていた車を回収。その後もバイキングで嫌な視線を店員に向けられたり、伊織達に町の修復に付き合わされたりで、せっかくの休暇は散々な結果に終わった。

高槻やよい…この後、特売に行った。

菊地真…昨日の分も合わせ、無事予定していたレッスンを終える。絶対に途中で呼び出されると思っていたので、少し複雑な気分だったらしい。


本日分はこれで終了です。支援ありがとうございました。

律子みたいにカメラでも春香は支配できるのか?

ティンときた!まとめずにはいられない!!俺はまとめるぞ!ジョジョーーー!!!

スモーキースリル >>140から
ミスメイカー >>262から
ストマvsゲンキ >>446から
フラワーガール >>647から

はるかっか: アイ・ウォント>>125
まっこまっこりーん: ストレイング・マインド>>177
いおりん: スモーキー・スリル>>253
あずささん: ミスメイカー>>361
ちひゃー: ブルー・バード>>421追加解説>>502
うっうっー!: ゲンキトリッパー>>546
>>1:関西>>628 (悩んだけど一応)
りっちゃん: ロット・ア・ロット>>749
おひめちん: フラワー・ガール>>821

まだ追加すると思われ
足りないのあったら追加しますんで

プロローグ >>2から
アイウォント >>40から
スモーキースリル >>140から
ミスメイカー >>262から
ストマvsゲンキ >>446から
フラワーガール >>647から

はるかっか: アイ・ウォント>>125
まっこまっこりーん: ストレイング・マインド>>177
いおりん: スモーキー・スリル>>253
あずささん: ミスメイカー>>361
ちひゃー: ブルー・バード>>421追加解説>>502
うっうっー!: ゲンキトリッパー>>546
>>1:関西>>628 (悩んだけど一応)
りっちゃん: ロット・ア・ロット>>749
おひめちん: フラワー・ガール>>821

連投スマソ
最初の忘れてた

露伴「たとえば一般人なら普通気持ち悪いといって否定するだけのこの春香さんフィギュア!」

露伴「どういう風に身体が作り込まれていてパンツの色は何色かとか職人のこだわりがどこにあるとか飾る場合収集家は見て知っていなくてはいけない」

春香「うええッ!」

P「へ…変態だッ!」

露伴「変態!? ど素人の小僧がこの『岸辺露伴』に意見するのかねッ!」バーン

P「い」

P「い…いえ 意見だなんてそんな! すみません」

露伴「味もみておこう」ペチャリ ペチャ

春香「おえェ~ッ」



始めます。

「「お疲れ様でしたー!」」

千早「ふぅ…」

P「撮影お疲れ様、千早。ほい、着替え」ガサッ

千早「ありがとうございます、プロデューサー」

P(今日の仕事は、雑誌のグラビアに載せるための水着撮影だった)

千早「この後、何か予定はありましたっけ?」

P「いや、何もないよ。着替えたら帰ろう」

千早「あ…はい。そうですね」

P「しかし、悪いな。最近、歌の仕事あまり取れなくて」

千早「いえ…こうして知名度を上げていくことも、多くの人に歌を聴いてもらうために必要なことですから」

P「はは…」

P(最初会った時と比べると、千早も随分丸くなったな。お堅いのはあまり変わらないけど)

千早「?」

P「おっと千早、まずは着替えて来い。そろそろ寒くなってきたし、風邪引くぞ」

千早「………あ… は、はい…そうですね」タタッ

カチャ パタン

千早「お待たせしました」

P「よし。じゃ、帰るか」

千早「…はい」フイッ

P「………」

P(最近、千早の様子がどこかおかしいな…)

P(いや、千早だけじゃないけど…)

P(だけどこの前律子に話したら『勘違いじゃあないですか?』って言われるし、調子が悪いってわけではないみたいだ。気にするほどのことじゃあないのか…?)

P(俺にもっと時間があるなら、とことん話し合うのもいいと思うんだが…)

千早「どうかしましたか、プロデューサー」

P「え? いや、その…」

P「…あのさ、千早」

千早「はい?」

P「俺に何か、隠してないか?」

千早「何か…とは」

P「それは…わからない、けど…」

千早「私が何か隠していると…どうして、そう思ったのですか」

P「なんだか最近、様子がおかしいと思ったからさ」

千早「そんなこと、ないと思いますけど…」

P「いや、絶対おかしい。俺なりに、千早のことはちゃんと見てるつもりだ」

千早「………」

千早「あの、プロデューサー」

P「ああ、何だ?」

千早「見えますか?」

P「え? 見えるって、何が…」

千早「私の『腕』…見えますか?」

P「?? そりゃあ、見えるけど…」

千早「そうですか…」

P「千早…?」

千早「いえ、大したことじゃあないんです。自分でなんとかできますので」

P「??? そうか…?」

ブロロロロ…

P(千早は、一体何を言いたかったんだ…?)

P(腕…別に、なんともなってなかったよな?)

千早「あ、ここでいいです。止めてください」

P「あ、ああ。もうこんなところか」キィッ

バタン

千早「今日はありがとうございました、プロデューサー」

P「あ、そうだ! 千早」

千早「はい。なんでしょうか?」

P「明日はちゃんと事務所に来てくれよ」

千早「? 明日は事務所全体で休日ではありませんでしたか」

P「もしや、と思ってたが聞いてなかったのか…」

千早「何か、あるのですか? 単なる集まりでしたら…遠慮させて頂きたいのですが」

P「うーん…それが一応、今日の仕事とも関係あって…」

千早「仕事と関係? 一体…取材では、ないですよね」

P「ああ。それは…」

~次の日~

P「身体測定だ!」

アイドル達「「身体測定ッ!!」」

千早(昨日、プロデューサーから聞いた話によると…)

千早(以前の測った時のデータからもう半年。そろそろ新しいデータが欲しいと、出版社から要請があったそうね)

P「前までは小鳥さんと律子と社長でやってたんだが…まぁ、そういうわけで俺が測ることになった」

春香「え、プロデューサーさんが…? 何やるんですか…?」

P「いつも通り、スリーサイズと、身長体重の計測だ」

真美「うわーっ、兄ちゃんがスリーサイズ計測だって亜美~」

亜美「兄ちゃんに脱がされて隅々まで調べられちゃうのかな真美~」

美希「いや~ん、エッチなの~」

わいのわいの

P「こら、おまえら騒ぐんじゃあないぞッ!」

P「サイズ計測をするのは『小鳥さん』だ! 俺は身長と体重だけを測るッ!」

真美「えーっ、ピヨちゃんがやるのー?」

亜美「まぁ、兄ちゃんがそんなことできるワケないかー」

美希「ちょっとガッカリってカンジ」

P「………」

律子「あの、計測は私がやりますよ。プロデューサーはデータ集計の方をお願いします」

P「いやいや、律子も測るんだしそれじゃ効率が悪いだろう」

律子「ああ、そうですね…」

律子「…ってちょっと待ってください、今サラリと言いましたけど、私もやるんですか?」

P「ああ、そうだけど」

律子「どうして?」

P「だって、先方が律子のデータも欲しいって言ってるし…」

律子「あのですねぇ…私はもうアイドルじゃあないんですから、そういうのは断ってくださいよ」

P「すまん…でも、OK出しちまったし、出せなかったらなんて言われるか」

律子「はぁ…わかりました、でもそういうことなら先に計測させてもらいますよ。そっちの方が効率がいいので」

小鳥「え…律子さんのデータを取ると言うことは、この美人事務員の私もデータを取らなきゃですかッ!」

P「いえ、小鳥さんは測定の方に集中してください」

小鳥「あ、はい」

千早(会議室でプロデューサーが身長体重の計測、その隣の待合室で音無さんがスリーサイズ計測…)

千早「………」

千早(どっちの方に先に行けばいいのかしら…)

千早(ん?)

真「………」ペラペラ

伊織「………」ゴミャゴミャ

千早(あれは、水瀬さんと真…あんなところで話してる…)

真「貴音さんが…? それは心強いね」

真「それじゃ、律子も一緒に戦ってくれるってわけ?」

伊織「いえ。律子は立場上、春香と接する機会が多いから…」

伊織「表面上は、まだあっち側ってことにしてもらってるわ」

伊織「一応向こうの状況は聞けるかもしれないけど、戦闘に加わってもらうのは難しいわね…」

真「そっか…ま、でも春香の方から情報を貰えるのはありがたいな」

千早(何を話しているのかしら? 『春香』とか『律子』とか聞こえたけれど…気になる…)

千早(…いえ、今はみんな事務所にいる。変に騒ぎを起こすのは危険ね…)

雪歩「あうぅ…」ドヨーン

千早「ひっ!?」

雪歩「あ…千早ちゃん…」

千早「は、萩原さん…身体測定は終わったの…?」

雪歩「こんな私が、みんなと一緒に身体測定なんて恥かくだけだよ…」

千早「え…?」

雪歩「ううっ、だって、だって…! 聞いてください、千早ちゃん…!!」

千早「ちょ、ちょっと萩原さん…」

………

……



雪歩「…だから、私みたいなひんそー体型じゃ他の人と…」

千早「萩原さん、あなたさっきから自分の体型がどうのこうの言っているけれど…」

千早「だけど、人の魅力はそれだけじゃない。あなただって、自分で誇れるような何かの一つや二つ、持っているはずよ」

雪歩「えっと、それは…」

千早「体型という一つの要素だけでアイドルとしての価値が決まるわけじゃあないでしょう?」

雪歩「そ…そうだよね…! 私みたいなひんそーでひんにゅーでちんちくりんでも、他で頑張ればいいんだよね…!」

千早「………」

雪歩「ありがとう、千早ちゃん。私、行ってくるね」

ヒョコヒョコ

千早「………」

千早(くっ…何故かはわからないけど非常に腹立たしいわ…)

千早(話を聞いていたら結構時間が経ってしまったわね…水瀬さん達も行ってしまった)

千早(私も…行きましょう。いつまでもプロデューサー達を待たせるわけにはいかない)

シャッ

小鳥「次、入ってきてください」

千早「はい」

小鳥「あら、千早ちゃん。いよいよ真打ち登場ね…」ゴクリ

千早「は?」

小鳥「いえ、なんでもないのよ。気にしないで」

千早「………」

小鳥「それじゃ、正確なサイズを測るため…上に着ているもの脱いでくれる?」

千早「…はい」ス…

ズッ パサ

カチャカチャ ジッ スラッ

小鳥(…本当はこのカーテンの外で脱ぐんだけど…)

小鳥(まぁ~…いっかッ! 眼福眼福…)

千早「では、お願いします」

小鳥「それじゃ、失礼して…」ビーッ

小鳥「………」

千早「…どうか、しましたか…?」

小鳥「千早ちゃん!」ガシッ

千早「ひゃっ!?」ビクン

小鳥「うわ、このピチピチの肌!」サワサワサワ

千早「ちょっ…く、くすぐったい…やめっ、やめてください!」プルプル

小鳥「ああっ、ごめんなさいね」バッ

千早「ま、真面目に計測してください音無さん…セクハラじゃあないですか、これは…」

小鳥「もう、千早ちゃんったら。堅いこと言いっこなしよ」

千早「………」

小鳥「お…おほほ、ごめんなさい…ちゃんとやるから…」

小鳥「はぁ、雪歩ちゃんもなんだか凄かったし…若い子はいいわね…」

小鳥「ってもう、私だってそんなに老けてないですよーだ!」

千早(はやく終わらせてほしい…)

ジーッ

小鳥「しかし…」ピト…

千早「…?」

小鳥「本当スベスベね、千早ちゃん…」クル!

ススス…

千早「あ、あの…」

小鳥「やっぱりサプリメントとか、健康には気を遣ってるからかしら…?」

千早「ほ、放っといてください。と言うか、どうして音無さんがそんなこと知ってるんですか…」

小鳥「それは、えーと…」

スゥ…

小鳥「!」

千早「あまりベタベタと触られるのは…早く測ってください」

小鳥「スベスベの…ピチピチ…」

ポロ…

千早「あれ…メジャーが落ちましたよ、何をやって…」

ガシィ!!

千早「うっ!?」

ゴゴゴ

小鳥「うらやましいなァ~ッ」グイッ

ゴゴゴゴゴゴ

千早「お…音無さん!?」

小鳥「私によこせッ! その肌ッ!!」ギリギリギリ

千早「痛…っ!?」

千早(凄い力で腕を掴まれてる…振りほどかなくては…!)

バッ

小鳥「おっ!?」

千早「くっ!!」クル!

ガシッ

グググ

小鳥「取っ組み合いなら…」

千早「うっ!?」

ググググググ

小鳥「負けっかよォォ~ッ、そんな細腕でこの私を止められるかァ~ッ!」

千早(つ、強いッ!! とても2X歳女性の力とは思えないわ…!)

小鳥「その肌引きはがして…」

小鳥「プルプルのパックにしてやるぜェ~ッ!」ズ…

千早「!」

千早(今、音無さんの体からうっすらと何かが見えた…音無さんもスタンド使い…!?)

千早(なら…)

千早「『ブルー・バード』!」ボシュゥ!

小鳥「…?」

小鳥「ぐへ!」バキ!!

グシャァ!

千早「え?」

小鳥「………」ピクピク

千早「あっさり入ってしまった…」

千早「ど、どうしましょう、これ…」

ガチャ…

やよい「お願いしまーす! なんかヘンな音しましたけど、何か…」

千早「あ、高槻さん…」

やよい「千早さん…? なんだか今、すごい音が…」

小鳥「………」

ゴゴゴゴ

やよい「え…なんで、小鳥さんが…倒れて…」

千早「は…」

ゴゴゴゴゴゴ

千早「こ、これは違うわ! 話を聞いて高槻さん!」

やよい「え、えっと…」

スゥ…

やよい「はわっ」

千早「これは、音無さんが…」

やよい「千早さんはいけない人です…」

千早「へっ!? い、いけない人…!? 一体何の話…」

やよい「いーわけしようだなんて、千早さんは悪い子です…」

千早「え!? い、いえ、これは言い訳ではなくて…」

やよい「悪い子には、おしおきしなきゃダメですよね…」

千早「た…高槻…さん?」

ドォーン

ウー

ウッウー

千早「こ…これはッ!!」

やよい「うっうー! ブッこぉしてやれぅ!」

千早「ちょっ…ちょっと、高槻さん!?」

千早(高槻さんも…スタンド使いだったの…!?)

やよい「行けーっ、『ゲンキトリッパー』っ!」ビュゥ

ボッ

千早「『ブルー・バード』!」

ガシィ!

やよい「あれー…」

やよい「千早さんも使えるんですね、すた…んど」

千早(スピードは私の『ブルー・バード』と同じくらいね…パワーはあまりないけれど)

やよい「ま、別になんだっていいかなーって」

ピタ…

千早「これは…」

千早(『ブルー・バード』の腕に高槻さんのスタンドが『くっついて』いる…!)

やよい「んー…くっつけてー…どうするんだったっけ…」

やよい「あー、なんかもーめんどーかもー」ガシッ!

やよい「このまま『くっつけ』てれば千早さんは動けないから、このペンで頭グシャーってやっちゃえ」

千早(高槻さんの様子が…)

千早(明らかにおかしい! スタンド使いになったせい…なの…?)

千早「くっ…」グ…

千早(体が動かせない、『ブルー・バード』が『くっつけ』られてるからこっちまで動きが…)

やよい「うっうー! のーしょーブチまけちゃってくださーい」ズアッ!!

フ…

やよい「…?」

千早「………」

やよい「あれ…」フワー…

やよい「わ…浮いてる…」

千早「『ブルー・バード』…触れられているのなら、こっちも触れればいい」

千早「スタンドを通じて、高槻さんの体重を『奪った』わ。これで動けないのはお互い様ね」

やよい「あう…フワフワーってなって足がつかないです…」

千早「高槻さん…」

千早「まずは話し合うのがいいんじゃあないかしら。戦うにしても、今はやめましょう?」

やよい「………」

バッ!

千早「! 腕が放れた…わかってくれたのね、高槻さん!」

やよい「違いますよ」

千早「え…?」

やよい「放したのは、そのまま『くっついて』ると、もっと『軽く』なって駄目だと思ったからです」

千早「高槻さん…」

千早「状況がわかって、言っているのかしら…? あなたが話し合う気がないと言うなら、私も『ブルー・バード』を解除はできない…」

やよい「別に…しなくていいかなーって」

千早「は…?」

ピョコ!

千早「え!?」

ピョン ピョン

千早(色んなものが高槻さんの方に集まってきた…)

ウー

ウッウー

千早(これは…よく見ると、小さいスタンドが運んでいる…?)

ウー

ピタ!

千早「!」

千早(運ばれてきたものが高槻さんの体に『くっつい』ている…)

ビタ ビタッ

ズ…

千早「あ…」

ドドドド

やよい「こうやって『くっつけ』て重くすれば…」

やよい「『軽く』されてもあんまり意味ないかも」ゴチャ

ドドド

千早「な…何ですって…!?」

千早(くっ、なら『ブルー・バード』を解除…)

千早(いえ、したところで高槻さんは『くっついた』ものを放すだけ…どうすれば…)

やよい「それじゃ…」

やよい「おしおきの続き、しちゃいますね」

>>897
結論だけ言うと「ロット・ア・ロット」のカメラ相手なら出来ます。通常のカメラの映像は支配できません。
ただし「ロット・ア・ロット」のカメラが受け取った情報は直接律子本人に届くわけではないので、間違った映像や音声を大本の端末に送ることくらいしかできません。

そろそろ>>1000が近づいてきたので新スレを立てたいと思いますが…
この回線、スレ立てもできないんでスレタイ
伊織「スタンド使いを生み出す『弓と矢』…」
でどなたか代理を、今立てても投下とかはできないので11/12(月)にお願いします

おっと、今日の分はこれで終わりです。支援ありがとうございました。

>>957
読み返してみたら何言ってるのかわからんので修正

>千早「『ブルー・バード』…触れられているのなら、こっちも触れればいい」
千早「『ブルー・バード』…触れられているということは、こっちからも触れているということ」

ジョルノ「『指の骨』は外に捨てたぞッ! 今 完全に機外に投棄したッ! さわってもいないッ!」

ノトーリアス・B・I・G「てめー 頭脳がまぬけか? 冷蔵庫を全部外に出して…かたづけてねーぜ!」



始めます。

 如月千早が、765プロに入った少し後…この事務所に、初のプロデューサーがやってきた頃。

 今でこそ社長業を兼務しながらプロデュースを行っている彼だが、新米の頃はそこまでの余裕はなく…

 まずは、一人のアイドルをプロデュースしてみようということになり、そこで千早に白羽の矢が立った。

 一刻も早く上を目指したい彼女にとっては願ってもいない事であり、今後の活動に期待を膨らませていた。

 しかし、実際にプロデュース活動が始まると、彼女は今まで自分の想い描いていたビジョンと、現実とのズレを感じ始める。

 周囲からの扱い、ファンとなるべき人々の態度、同業者からの嫌がらせ…

 何より千早が疑問を持ったのは、自分の味方であるはずのプロデューサーが歌に関係のない仕事ばかりを取ってくることだ。自分が歌いたい、ということは彼にも話してあるはずなのに…

 このことをプロデューサーに話すと、『これも必要なことだ』とそう言われ…千早は引き下がるが、心の中ではこの事についていつも不満を抱いていた。

千早(私はまだ無名…『アイドル』として売り出している以上は、こういったような扱いも仕方ないのかもしれない…)

千早(だけど、プロデューサーが取ってくるのは歌が関係しないような仕事ばかり…私の希望とは逆…納得できないわ)

 そんなことを思いながら活動を続けていたある日、プロデューサーが千早にとって初めてとなる、オーディションの話を持ってくる。

 もちろん、断る理由などない。人前で歌えるのだ。彼女はすぐにその話に飛びついた。

 そのオーディションは現時点での千早の評価からすると少し要求するレベルは上だったが…彼女の実力ならば充分に合格できるものだと、プロデューサーはそう判断していた。

 しかし、アイドルのオーディションでは、単に歌えればいいというわけではない。

 いや…それは千早もプロデューサーも承知の上であったが…レッスンで見守られながら歌い踊ることと、審査員に見守られながら演じることは違う。

 それはなんてことのないダンスのミスだったが、「本番で失敗した」という事実が、彼女の心を苛む。

 内に生まれた不安は波紋のように広がり、失敗が失敗を生み、それはついに彼女の最大の強みである歌にまで及ぶ。

 結果は、惨敗。確かに周囲のランクも実力も高かったが…千早の実力から言えば、落とすはずではなかったはずだ。

 『失敗したのは自分の実力が足りないからだ』『もっとレッスンを増やしてほしい』そう千早は提案するものの…

P「いや、今週は休もう」

 プロデューサーは千早の焦りを察し、まずは彼女を落ち着かせようと休業を提案する。しかし…

千早(こんなことをしている場合ではない…)

 やるべきことがあるのに、できない…休むことで逆に、彼女の心には焦燥感ばかりが生じていった。

 仕事に戻った千早は、今まで以上に必死になって練習に打ち込むようになる。ダンスに対しても、病的なまでに熱を入れるようになった。

 しかし、そんな焦った気持ちで物事が上手く運ぶはずもなく。

 レッスンでも、今まではありえなかったようなくだらないミスをするようになり、オーディションを受けては落とされ…

 そんなことを繰り返していくうちに、やがて千早は自信を失っていく。プロデューサーが、あれだけ望んでいた歌の仕事の話を持ってきても、『今の自分にはその資格はない』と拒否するようになってしまった。

 『彼女の自信を奪ってしまったのは自分だ』…プロデューサー自身もまた自分を責めるようになり、こうなってしまっては、もはやこのまま二人揃って潰れていくだけであった。

 そんな時のことだ。

 千早が急き立てられるようにレッスンに打ち込んでいると、一人の少女に声をかけられる。

少女「如月千早ちゃん…だよね?」

 見覚えのある顔…同じ事務所に所属する少女だった。

 千早は彼女のことをあまりよくは知らなかったが、いつも失敗してはヘラヘラしているようなこの少女を、千早は『プロ意識の足りないやつ』と心のどこかで軽蔑していた。

少女「千早ちゃん…って呼んでもいいかな」

 わざわざ否定はしなかったが、馴れ馴れしい態度を取る少女に千早は少し苛立つ。

少女「千早ちゃんのダンス、見てたけど…すっごい上手だね!」

 『あなたが下手なだけでしょう?』千早は口に出かかったその言葉を飲み込む。事実、千早が特別上手いわけではなく、彼女のダンス技術はお世辞にも高いとは言えなかった。

千早「必要…だから。この世界では踊りが上手くできなければ、歌うこともできないでしょう」

少女「千早ちゃんは、歌いたいの?」

 その言葉に対し、千早は胸の中に溜まっていたものを吐き出すかのように啖呵を切った。

千早「当然でしょう!? そのために事務所に入った! やりたくもないダンスも覚えた! だけど…!」

指定通り、
伊織「スタンド使いを生み出す『弓と矢』…」
で立てておきました

そして支援!!

 少女はそんな千早の様子を見て、怒るでもなく謝るでもなく…少しだけ驚いた顔をすると、同じような調子で告げた。

少女「千早ちゃんは、どうして歌が好きなの?」

千早「どうして、って…」

 歌こそが自分にとっての全てであり、自分から歌を取ったら何も残らない。

 それは当たり前の事。この世界に足を踏み入れる前から、変わらなかった事実。

 しかし、どうして…? 何故、自分はそう思うようになった…?

少女「私は、千早ちゃんの歌好きだよ。なんか、上手く言えないけど…あったかいから」

千早「あったかい…?」

少女「私の勘違いかもしれないけど…」

少女「千早ちゃんはきっと誰かのことを想って歌っているんだって…なんか、そんな感じがするから」

 少女のその言葉は、千早にとって、鉄の板で頭を撃たれたような衝撃であった。

 自分は何故、ここまで歌に執着するのか?

 自分が歌ってあげたい相手…それは、誰だったのか?

 思い出す必要がある…

 千早の頭を支配していた謎の強迫観念は、己の内に湧き出た疑問によって霧散していた。

 次の日、千早が事務所に顔を出すことはなかった。

 事務所の中に、その日に彼女が何をしていたのかを知る者は、彼女以外には誰もいない。だが、彼女にとっては必要な事で、決して無駄ではないことだったのだろう。

 そして…

P「いい顔になったな、千早」

 無断欠席に頭を下げる千早に、プロデューサーは何があったのか詳しくは聞かず、そう言った。

 何も連絡を入れなかったことだけに注意をすると、彼はすぐに仕事に移ろうとしていた。

 千早の表情には、もう焦りも不安も残ってはいない。そのことを理解した彼の目には、再び情熱の火が灯っていた。

 彼が最初に持ってきたのはオーディション。内容は彼女の望んでいた歌の仕事。当たり前のように、千早はそのオーディションに合格する。

 千早も、プロデューサーも、差して驚きはしなかった。プロデューサーが賛辞の言葉を送ると、千早は礼を返し、当たり前のように収録に向かっていった。

 色眼鏡を外してみれば、プロデューサーは新米という事もあり物足りない部分はあったが…とても一生懸命な男で、アイドルのことを第一に考えてくれる人間であった。

 彼はいつでも千早のことを信頼してくれていて、そのことがわかると、千早もだんだんとその信頼に応えたいと思うようになる。そしてやがて彼女自身も、彼のことを信頼するようになった。

 そうなったら、元々実力はあったのだ。千早はもう止まらない。

 一つの仕事を完璧にこなすと、プロデューサーがすぐ次の仕事を持ってきて、それもまた、次々と成功させていく。

 歯車がピタリと噛み合ったような手応えを…千早も、プロデューサーも感じていた。

 歌う機会も増え、彼女は世間に向けてその美しい歌声を披露していく。そうしているうちに、やがて彼女の名は世間に知れ渡るようになった。

 こうして如月千早は、トップアイドルの一人となったのである。

P「それにしても、俺が何もしなくても一人で立ち直って…俺、必要ないのかなぁ」

千早「私はそんなことは思ってはいません。変な事を言わないでください、プロデューサー」

千早「…それに、一人で立ち直ったわけじゃあ…」

 自分を見つめ直す…立ち直るきっかけとなってくれたあの少女。

 彼女に一言、謝りたい…そして、礼を言いたい。千早が、少女に会いに行くと…

千早「あの時はごめんなさい。それと…ありがとう」

少女「立ち直ったのは千早ちゃんの力だよ。でも、私の言った事がきっかけになってくれたのなら…ちょっと嬉しいかな、えへへ」

少女「よかったら…これからもよろしくね、千早ちゃん」

千早「…ええ、こちらこそ」

 彼女はアイドルとして特別優れているわけでも、人気があるわけでもなかったが…

 事務所のみんなのことをいつも気にかけてくれるような子で、そして周りも元気にしてくれるような笑顔がとても印象的な少女で…

 彼女はプロデューサーとともに…彼とは違う方法で、いつも千早のことを支えてくれる。

 いつしか、その少女は千早にとって、親友とも呼べる存在となっていた。



 少女の名前は、天海春香と言った。

ありがとう>>985 本当に…

>>990まで来たんで続きは次スレで投下させていただきたいと思います。
このスレは埋めちゃってください

伊織「スタンド使いを生み出す『弓と矢』…」
伊織「スタンド使いを生み出す『弓と矢』…」 - SSまとめ速報
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