魔法使いのおかん(455)

自宅

おかん「今日の朝食は聖なる業火ホーリーフレイムでつくった聖・目玉焼きよ」

男「いってきます」

おかん「待ちなさい!」

おかん「今日は高校の授業公開日でしょう」

男「参観日じゃないんだから来なくていいよ。小学生じゃあるまいし」

おかん「いいえ、行くわ」

おかん「武器が必要ね」

男「いってきます」

教室

友人「よう男」

男「今日ちょっと保健室で休みたいんだけど、お前保健委員だろ。どうにかしてくれ」

友人「具合でも悪いの?」

男「ちょっと頭痛がするんだ」

友人「お前、まさか今日教室に親来るのか。物好きだよなあ、それとも教育熱心?」

男「いや…」

キーンコーンカーンコーン

教師「えー、今日は授業公開日です。たまに廊下辺りで保護者様方々が出歩いているかもしれませんが、気にせずに普段通りの授業を」

教師「ちなみにニ、三限の間です」

男(それなら一限からは来ないか…)

友人「おい」

男「何だよhr中だぞ」

友人「校庭見てみろ。石灰で何やら紋様を描いてる奴がいる」

男「!」


ザワザワ…

『一限から体育は一年だよな?誰かが悪ふざけしてるんじゃね?』

『先生に怒られてもしらないよ…』

『おい、でもあの人私服だぞ』

男「まずい」

友人「あ?何が」

男「奴がきた」


男「おい!俺は頭痛がするんだ!それもぶっちぎりにだ!早く俺を保健室に!保健室にィ!!」

友人「待て待て落ち着けっ。お前……まさかあの魔法陣みたいなの作ってる奴の正体って」

男「知らん!他人だ!」

教師「面白いことをする人がいますね」

男「面白い要素ねえよ!誰かひっ捕らえろ!今すぐ!」


教師「ここは三階ですからね。大声張り上げるよりは校庭にいる人たちに事態を任せるとしましょう」

男「だな!そうだ。そして俺は保健室へgo!」

友人「普段冷静なお前が今日はやたらとうるさいな」


『おい!魔法陣完成したみたいだぞ!』

『よく見えねえが何やら魔法陣の真ん中で爆転をやりだした!』

『何がしたいんだ…』

男「しまった、緊急事態だ!たった今脳梗塞を引き起こした、病院だ!病院へ行かねば!」


一限

英語教師「あー、先ほどの件だが」

英語教師「とある生徒の保護者であることが判明した」


ザワザワ…

『マジかよ』

『誰の保護者だよ子の顔が見てみたい』

『ウチの教室にくるかもしれないぞ』

男「」

友人「保健室には逃がさないからな。お前の反応であいつの正体は読めてきた」


英語教師「えー。y。ここを訳してみろ」

y「はい。えーと、地球の環境的な面における……」


友人「おい男」

友人「おーい」

男「」

友人「くくっ、こいつは重傷だな」

友人「一限ももうすぐ終わりか」


キーンコーンカーンコーン

男「!」ガバッ

英語教師「今日はこれで終わり……んん、どうした男。トイレでも我慢してたのか」

男「はい!そう、トイレ!!時代は今まさにトイレ!」

友人「待てこのっ」

男「離せ友人!俺は……俺は…トイレにいかなくちゃならないんだ…!死んだ婆ちゃんのためにも」

女「だ、大丈夫?男くん…」

男「……!あ、女、ちゃん」

女「トイレ?」

男「ち、違う違う。チャイムと同時にトイレへ駆け込むような男じゃないよ僕は」

友人(一人称『僕』になってるぞ、分かり易いな…)


休み時間

女「今日の二限の古典、教科書忘れちゃったんだけど……良かったら見せてくれない?」

男「あ、ああ……二限ね。二限。そうか二限かあ…いやあ……どーしょっかなあ……」

友人(今男の中では、色んな思いと思いがせめぎ合ってるんだろうな)


教師「おーい。授業公開だが我が学年は例の件で一限ずらして三、四限になった。」

教師「用はそれだけだ、二限も頑張れよ」

男「教科書一緒に見ようか女ちゃん。席隣だもんね、困った時はお互い様だよ」

女「ありがとう!」

友人「よく言う…」


二限

古典教師「この助動詞の意味を……t」

t「ええと、これは詠嘆で…」

男「」ホワホワ

女「」ニコニコ


友人「早く二限終わらねーかな」

『おい!大変だ!』

『体育館だ!誰かが暴れまわってるらしいぞ!』


男「何ィッ!?」


男「先生、大変だ!これは……パターンゴールデン!第一種戦闘配置!早く生徒を非難させるべきでは?授業公開中止という手も!?」

古典教師「お、何だ男どうした…今日は妙に元気だな。暴れまわってるったって…生徒間の喧嘩か何かだろう。それと授業公開日関係ないだろう」

古典教師「t。じゃあこの活用は…」

『おい男どうしたよ』

『取り乱してんなあ』

『お前案外面白い奴だったんだな』

ドッ

アハハハハ


男「く……う」

女「男くん大丈夫?」

男「大丈夫だ。僕は保健室に行くほどヤワな男じゃない」キリッ

友人(っひひひひひh)


キーンコーンカーンコーン

女「教科書ありがとうー」


男「」ゼイゼイ

友人「大丈夫か?まるで戦場から帰還した兵みたいな体力の減り具合だぞ」

男「俺は…」

男「このままだと俺が俺じゃいられなくなる」

友人「魔人ブウかお前は」

男「次は三限だ。おい友人!今真実を話す。外で石灰使って大きく校庭に魔法陣作ってた奴と、恐らくは体育館で暴れまわっていたであろう犯人は同一人物で、しかもその正体は紛うことなきマイマザー!俺は大恥!助かる道はただ一つ。そう、保健室!!」

男「俺を保健室に連れて行ってくれ!」(←迫真)

友人「うーん…そこまで言うなら」


女「お、男くん。三限なんだけど…」


男「!…ぐっ……」


男の脳内

天使『どうするの?憧れの女ちゃんが(よりによって今日という日に)立て続けに教科書共有閲覧を申し出ててるのよ。今世紀またとないビッグチャンスよ!』

悪魔『バカヤロー。頭のイカれた実の母の酷い有り様をクラスに晒す光景の中で身を小さくしてるよりかは、保健室でスヤスヤのんびりと休んでいた方がずっとマシってもんだろう!』

天使「あなたには愛が分からないの!」

悪魔「分かりたくもないね!」


天使「ならば…」


天使「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

悪魔「ギィヤァァァァ」


男「い……一緒に…m、みみみ見ようか」

女「ありがとうー。男くんって本当は優しいんだね!」

男「そ、そそそんなことないって…」

友人「」ニヤニヤ



『あの体育館の件って三年の先輩たちが教師に逆らってからの騒ぎだったらしい』

『へえ』

『体育館でpspいじる先輩もどうかと思うよなあ』


キーン

男「…」

コーン

男「……」

カーン

男「………」

コーン

男「…………!」

世界史教師「三限だなー、そろそろ腹も減ってきたかぁ?もうひと頑張りだぞー」

男「そう、もうひと頑張り…もうひと頑張り……」

男「……。ね、ねえ女ちゃん!」

友人「!」

女「ど、どうしたの?」

男「その…僕……」キリッ

女(こ、こんなシチュエーションで?そんな…)ドキドキ

男「ほ、ほ、」

女(………………え?頭文字『ほ』?)

男「ほ…保健」





?「燃え盛る炎の神剣!!!!!!轟き渡る雷の神槍!!!!!出よ!!!!!!フレイムバード!ライジングサンダー!」

バァン!


『き、教室の扉が蹴破られた!』


友人「そ、それは……!」

おかん「そう!燃え盛る炎の神剣!そしてこちらは轟き渡る雷の神槍!その名も!!」

男「体育倉庫にあるただのカラーコーンじゃねえか!二本も持ってきやがって!あと二度言わなくていい!」

ザワザワ…

世界史教師「あ、あの……お母様……?」

おかん「気にしないでください。ここに来るついでにここ一帯の魔物を追い払おうとしただけです」

おかん「では」

おかん「続きを」


男「続けられる訳ねえだろ!」

世界史教師「続けるぞ」

男「続けるのかよ!」


ザワザワ…

『あの様子からして…』

『あれはどう見ても男の母親だよな』

『ああ、立ち振る舞いがそっくりだ』

男「どこがだよ!カラーコーン二つ持って教室の扉を蹴破るような立ち振る舞い未だかつて見せたことねえよ!」

女「お、落ち着いて…男くん……」

男「女ちゃん……」

おかん「そなたが勇者、男の姫君か」

男「ちょっと黙ってろお前!」


世界史「えー、それでだ。前漢の武帝が衛氏朝鮮を征服し……」

女「お、男くん汗だくだくだよ?」

男「今日は…あ、暑い……」

おかん「心頭滅却すれば、火もまた涼し」

男「…、」

友人(っひひひひひひh)プルプル

おかん「男。暑いの?」

男(授業中に話しかけてくんなよ…それと汗の原因はお前の存在そのものだ)

おかん「そう。暑いのね」

男「まだ何も言ってねえよ!」


おかん「鴪鯱魍鬟驢駢駟饉餉顰韵鞁靈霓隸陏闌閘鑰鐶鏨錵鍄鈿釶醵醋郛邨遘逋迥辜輳軻躱躁蹇踞跚齎賈貊豁讎譏謦謫謐謠鞫……」

おかん「饒顋齏鞏靹靠霾霄雉隘阯濶閇鑠鐚鏥錏鉤釡醉扈邉逶迢轉輦躬躋蹌跣赱賺豼豈譟譌諛誚誅觀襷褫裙袤衢蟒雖蝗蜍蚫號藥蕭蔔……」

おかん「關閖鐫鎹錻銖釶釉酘扈遨逞辭轎輕軋躇蹙跼赭賣貪豐譬謠諫誑訛觜襷褝裨裄衾蠑蟠螟蜚蛹蚶虧蘢……」



男「うわ…何か唱え始めた……」


男(どういう理由か毎週水曜日にいつもこれを唱えやがるんだ)

『男の母親面白いぞww』ヒソヒソ

『一番面白いのは男じゃなくてその母親だったのか』ヒソヒソ

『ねえちょっと、何か唱えてる……』

男(予想通り注目の的だし)


おかん「……ハァッ!」


『『『!?』』』


世界史教師「……で、でだ。この後に中国東北地方で…」

男(……何だ。何を唱えやがった。今日はいつもの『呪文』とは違った気がするぞ)

男(確か《からあげがめちゃめちゃ上手くなる魔法》とか、《スイカがメロンの味に近づく》とか、《ケチャップがマヨネーズと化す》とか、何故か食べ物関連の魔法ばっか引き起こす『呪文』だった気がする)

おかん「男」

男「……」

おかん「涼しい?」

男「冷や汗でな!」


四限まで終了

キーンコーンカーンコーン…


男「」ゼイ…ゼイ

友人「大丈夫か?まるで太平洋をその身一つで三往復したみたいな疲労困憊っぷりだぞ」

男「あ、あいつは…」

友人「『魔力が足りない。このままでは午後には保ちそうにないからアイテムショップに出掛けくる』ってさ」

男「それ腹が減っただけだよな間違いなく!」

男「…………ん?午後もくるのか!ルールお構いなしだなあいつ!」

女「お、男くん…」

男「女ちゃん…ごめんね。僕……いや俺、もともとこういう気性の荒い男で」

女「す、少しくらい…誰でもそういうところはあると思うな……」

男「女ちゃん…!」

友人「あー暑い暑い」


昼休み、学食

男「はあ…」

友人「お前の母親はあんなだけどさ、もしかしたら父親も同じような調子な訳?」

男「いや、親父は正常だよ。ううん……あの異常な奴と結婚したその精神は正常じゃないかもしれないけど」

友人「はは、言えてるなあ」

友人「……で、お前気付かないの?」

男「何に」

友人「いや、あの女…」

男「お、女ちゃんが何だよ」

友人「……何でもねえよ」


女「おーい!」


男 友人 「「!」」


男「ど、どうしたの」

女「一緒に食べようかな…なんて思ってみたり……」

女「教科書のお礼に何かご馳走もしたいし…」

男「あ、ああ、そんな……でも気持ちだけで充分だって。お金も今月はまだまだ余裕…」

友人「よっ」

男「こらテメッ、俺の財布!」

友人「390円」

男「……」

女「何か奢るよ?」

男「……有難う」


友人「今日の男は感情豊かで面白いなー」


女「今日の学食は保護者の人たちも混ざってるみたいだね」モグモグ

友人「今日みたいな日は生徒以外も使っていいみたいだからなーうちの学校は」

男「なーんか平凡というか平均的というか、本当普通な人ばかりで羨ましいというか…」

男「あの人とか」

女「若いねー、私のお母さんよりずっと若く見える」

男「あの人とか」

友人「うお、格好良いなあ……父方が来てる家族もあるのか」

男「あの人と…」

男「か……」


?「」バクバク

?「」ガバガバガバ

?「」ゴキュゴキュゴキュ

?「」ブリブリブリ


男「待て待て待てーッ!!!」


男「おい!」

おかん「効果音ブリブリブリに騙されたみたいね?残念だったな!ケツだけ星人だよ!」

男「変わらねーよそのケツしまえ!!我が子に学校の食堂で汚いケツ見せるな!」

おかん「排出の方をご希望で?」

男「望んでねえよ露出狂!あといい加減帰れ、授業公開は四限までだ!」

おかん「我の力は時の歯車をも操る」

男「やかましいわ!帰れ!」

おかん「私の魔力にかかれば『ルーラ』で家までひとっ飛びなんて余裕だけどね」

おかん「それでもね、男」

おかん「私はあなたの成長を見守ることの方が重要なの」

男「……」

おかん「だからね、男」

おかん「今日はその成長をもれなく観察するために百の仲間を連れてきたわ」

男「うわああああああ!帰れよおおおおおお」


五限、校庭にて体育

男「あー腹痛い。これは痛い。どうしようもなく痛い。休むしかない。さあレッツ早退!!帰宅部部長の腕の見せどころだ!」

友人「のっけからうるさいぞお前」

男「百だぞ?奴の仲間が今もこの校庭のどこかに百も潜んでるんだぞ?しかも記憶が正しければ、町内会をきっかけに、同レベルの痛々しさを誇る厨二病患者……いや変態が結束して作られた史上最悪のチームなんだ!これは危うい、主に俺が!」

友人「足して百一か。ポケモンに追いつけ追い越せってとこだな」

男「うるせーよお前までボケに回るんじゃねえよ!それと百一ならワンちゃんの方を出すべきだ!」


変態その47「危ないッ!」ガサガサッ

男「うわぁ!」ガバッ


ズザーッ


男「痛てて…な、何だアンタ」

変態その47「見えないのか?強力な魔龍だ!無理もない…ステルス能力を備えているからな。今私が庇わなければ君の身が危なかった。感謝してくれ」

男「一番危ないのはお前の脳内だ!さり気なく『感謝してくれ』って一方的に求めるのもおかしいだろ!」


変態その66「グアアっ!右腕が、私の右腕がぁぁぁ」ダダダダ


男「今度は何事だ!」

変態その66「キョエエエエエエエエエエエエエ!」

男「うわああああっ!」


変態その47「止めないかっ!」

変態その66「キョエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」

?「右腕が……暴走しているのかっ」

変態その66「キョエエエエエエエエエエエエエエエエ」

変態その47「本当は、戦いたくなんかないんだよな」

変態その66「キョエエエエエエエエエエエエエエエエ?」

変態その47「うむ。ならば私が!この群馬のエクソシストと呼ばれたこの私が君を右腕の呪縛から解き放とう!」

変態その66「キョエエエエエエエエエエエエエエエエイwwwww」

友人「ここで笑った!?」

選ばれし変態「来い!コラッタ!」

『お前どこから沸いて来た!?』


変態その66「キョエエエエエエエ……え……あ……。あ、ありがとう、君のおかげだ」

変態その47「直ったみたいだな、是非とも感謝してくれ」

変態その66「しかし…今日を限りに……私の右腕も……もう使い物には……」

変態その47「あ、あんた…!」




男「何だよこの茶番は!!あと長えよ!」


キーンコーンカーンコーン

体育教師「まずはランニングなー、校庭を三周しろ。列乱すなよ。あと声出せ、声小さかったら一周目からやり直しだからな」

一同「ハーイ」

イッチニーイッチニー

男「」ゼイ……ゼイ……

友人「まだ半周も走ってないぞ大丈夫か。まるで片腕で逆立ちしながらエベレストを五回登りきったような疲れっぷりだぞ」

男「今日は厄日なんだ。俺、死ぬんだきっと」

友人「何言ってんだ、まだ死ぬ訳にはいかないだろ」

男「もう未練なんか無い…」

友人「まだこの世には女ちゃんがいるだろ?」

男「ど、どうしてそこで女ちゃんが出てくるんだよ…、」


イッチニーイッチニー


女「……」


体育教師「そのーなんだ、今日は……」

体育教師「鬼ごっこをやろう」

一同「えー!?」


『お、おおお鬼ごっこ?』

『あの鬼の鬼島先生が鬼ごっこ?鬼だけに?』

『前回何やったっけ』

『前回は確か球技でソフトボールを』

『その前は』

『多分それも球技で、それより前が長距離走』

『何で鬼ごっこ…?』


体育教師「鬼は私がテキトーに推薦するから、タッチされたものを鬼として増やしていく形になる。全員鬼になるか、授業が終わったらゲームセットだ」


体育教師「鬼はd組の男だ」

友人「!お前だってよ」

男「今この瞬間確信した」

男「どういう手段を駆使したか知らないけど、あの鬼島の『鬼ゴッコ』提案といい真っ先に推薦するのが俺といい」

男「あいつの仕業だよなこれ!」

体育教師「あとその仲良そうにしてるお前もだ」

友人「俺もッスか?」

男「やったな、道連れだ」

体育教師「それじゃあ後の奴らは散らばれ。30秒数えるから。俺が」

男(お前が数えるんかい)

体育教師「ではイーチ!」


ワーワー


友人「まあ楽しもうぜ」

男「残りの97人と1人を排除出来たならそうしたよ」


男「こういう時、友人なら誰から捕まえる?やっぱり親しい奴からいくか?」

友人「その方がちょっとした逆恨みもされにくいし、楽だからな」

男「じゃあ俺じっとするわ。その方が安全そうだしな」

友人「お前友達少ないもんなあ……俺以外普段誰とつるんでる訳?」

男「うるせえな!省エネだよ省エネ!人間関係は輪が大きければ大きいほど疲れることが多いんだ。お、俺は自分を大切にする男なんだよ」

友人(その台詞、女ちゃんにそっくりそのまま聞かせてやりたい)


体育教師「……30!ほら走れお前ら」


友人「じゃあ俺はc組のnから狙うとするわ。お前も気をつけろよ」

男「おお。cとdクラスだから合計60人ぐらいだろ。本当に二限分で終わるのかこれ…」


男「……」

体育教師「おいお前」

男「ちょっと休ませてくださいよ。そうでなくても今日の僕とんでもなく疲れてるんですから……」

体育教師「お母さんは、好きか」

男「……。はい?」

体育教師「母親いるんだろう」

男「まあ、無駄に健康体ですよ。今日というか、現在進行形でバリバリ元気ですけど。何で急にそんなこと」

体育教師「青春を謳歌できる年の内に、家族愛も友情も恋も堪能した方がいい。来年は三年で受験だろう、大学生にもなれば遊び盛りだ。家族と接する機会も激減する、友達や恋人もうんとつくっておけ」

男「は、はあ」

男(恋人はうんとつくっちゃ駄目だろう)

男(普段怖い先生ほど、中身は優しいっていうけど)

男(これじゃ少し気味が悪いなあ)


友人「おーい男!捕まえたぞー!」

男「おー、早かったな。やっぱり運動神経良いもんだなあお前」


女「…………」ハァハァ


男「!」

友人「捕まえてきた」

男「捕まえてきた、じゃねえ!手始めに女子を狙うなんて男の風上にもおけねえなお前!」

友人「走りもしない男に言われると何か不満だなおい」

友人「まあ、身内から増やしていった方が連携も取れるし」

男「連携ったって……この広い校庭に三人でできる連携プレーなんて」

女「が、頑張ろう男くん!」

男「んー」

女「…………!」

男「わ、分かったよ…頑張ろう」

友人「ようし!」

ワーワー

おかん「どう?我が古の黒き血を受け継ぎし息子は」

体育教師「根は良いやつですなあ。でも」

おかん「でも?」

体育教師「まだ弱いですなあ、彼は。色々と」

体育教師「もっと真っ直ぐな目が見てみたいもんですなあ」

体育教師「いやいや、一教師としてはね、こういうことで協力を仰がれるのは非常に光栄なことですよ」

おかん「フフフ…我が古の黒き血を受け継ぎし息子は」

体育教師(それ全部言わなきゃ駄目なんだ…)

おかん「今日をもって『勇者』からランクアップ!『そこらへんの貧民』になることでしょう!」

体育教師「ダウンしてるじゃねえか」


体育館裏


dクラスの五人組

『何でこの歳で鬼ごっことかしなくちゃなんねえ訳?しかもこれ、噂によると、例の男の変態母の差し金だろ?馬鹿馬鹿しくてやってられねえよ』

『普段はクラスの片隅で友人とつるんでるか、後は本読んでるか、といったところの協調性無しの地味な奴も』

『今日はやたらとはしゃいでたよな』

『何かいっつも冷めた目ェしてるんだよな。自分以外を遠くから見てるような』

『自分には全く関係ないって、見えないバリア張ってるみたいにさ』

『ていうか、あの話本当か』

『女ちゃんって、あの男って奴に惚れてるって話か』

『あーそれそれ。女ってこの学校でもトップクラスの容姿で大人気なのにさ』

『最近、んで今日を境にもっと分かり易く男と話し込んでるんだよな』

『まあ…何ていうか僻みもあるが……それをさっ引いても』

『うざいな。男』

『んー』


校庭隅


cクラス三人組

『鬼島の鬼ごっこも相当笑えない話だけどさ』

『dクラスの男って奴も相当笑えない展開になってきてるよな』

『これ前に聞いた話なんだけどさ…』

『なになに?』

『fクラスのhから聞いたんだけど、中学時代、家庭内暴力だとか万引きだとか結構悪い噂が立ってたらしいよ、男ってやつ』

『あの大人しくて人畜無害においては右に出る者無しッ、って雰囲気のあいつがー?』

『で、……それで』

『最悪、殺人未遂までいったとか』

『……。あははははははは』

『ははははははははっ、いやないない。いくらウザイ奴とはいえ、そんな身も蓋もない噂なんて信じるだけ馬鹿でしょ』

『それでさ、まだ聞いてよ』

『xバスジャック事件――て聞いたことない?』


ワーワー

男「そこ!捕まえて女ちゃん!」

女「……え、ええい!」タタタッ

『ウオッ!?』タタタタ

友人「残念。曲がり角には俺でした……はいタッチ」

『うわ、クソ。何だよ……』ゼイゼイ

友人「三人でもそれなりの連携プレーは出来るんだよ。……にしても校庭って言える範囲から抜けてる奴、結構いるもんだな、これじゃ全員捕まえるとか無理だぞ」

女「で、でも。どうせなら頑張って…」

男「そ……そうだ。ここでcとdクラス全員捕まえてゲームセットにしてみろ!最初に鬼になった俺とお前なんかもう名誉ものだぞ」

友人「そうか…?まあ走るのは俺ら三人だけじゃないからいいけど」

『ええー、いや悪い。俺パス』

男「……っ」


男「い、いやいや。確かに悪いとは思うけど、こんだけ頑張ってやっと君一人捕まえてたんだから、少し休んだら一緒に協力してもらわないと」

『いやいやいや、ここまでで充分楽しかったし』

男「そこを何とか」

『……?なんか妙に必死みたいだけど、全員捕まえて何か褒美貰える約束でもあるの?』

男「い、いやそんなの無いよ。せっかくだし…」

『……努力家だね』


男「」


女「男くん…?」

友人「もういーよ、また誰か捕まえて仲間に引き入れれば良いんだから」

男「ん、ああ」

『……』


校舎三回eクラス教室

『何だか外の奴ら…』

『見たところ、やっぱり』

『どう考えても鬼ごっこだよな、確かcとdの体育を受け持ってるのって鬼島だよな。珍しいというか、あんたら何してんだというか』

『お、メール』ブウーン…ブウーン

『あー、予想的中。本当に鬼ごっこやってるみたいだぜ』

『マジかよ。あの鬼島がねえ…』

『dクラスといえば、校内でもダントツ人気の女ちゃんがいたよな確か』

『いたなあ。最近相手見つけたってもっぱらの噂だぜ』

『ああ、知ってるぞそれ』

『同クラスの…男とか言ったっけ』





男「」ゼイゼイ

女「捕まらないねー…」

友人「捕まらないっつうか…」

男「俺ら以外の生徒がほとんど視界に入らない」

女「隠れてるのかなあ」

友人「……んん、それだと若干別の遊びになってるような」

男「ルールなんてこの際どうでもいい、でも放棄されるのは」

男「正直応える」

女「さ、さっきの人のいうこと気にすることないよ。遊びこそ全力でやるもんだって、私のお父さんもよく言ってるもん」

男「良い親だね……羨ましいよ、切実に」

女「そうかな。私も男くんのお母さん見てると凄く羨ましい」

男「えええ。どこが」


女「ええと。お母さんが羨ましいというか、男くんとお母さんの仲が羨ましい、の方がいいかも」

男「仲。良く見える?」

友人「そこは自覚しとけよお前。家族漫才みたいで、まー面白い面白い」

男「今まで面白がってたのかよ!止めろよ!特にケツだけ星人の場面は!」

友人「俺の親は、まあ言うなれば両方まとも。でも、何つうか距離感が上手く掴めないんだよなあ」

女「どういうこと?」

友人「……。まあ女ちゃんとは、男も交えて仲良くなっていけそうだから言ってもいいかな」

男「引っ掛かる言い方だな。重い話か?」


友人「あ、ああ、少しな。聞き流してくれて構わねえから」




友人「家の両親はさ、再婚してんだよ。つまり一度離婚したってこと。俺は母方に着いてって、母子家庭で十年間過ごしたんだけど……何かのきっかけで二人の仲がまた戻って、そんで再婚」

男「十年」

友人「そ。十年。だからさ、俺上手くイメージできなかったんだよ、三人で暮らしてるって光景をさ。何しろ利金されたのは物心付いてない頃だったもんだから」

友人「十年振りの三人揃いで、はいハッピー、って訳にもいかなかったの。母子家庭の時は生活キツくてさ。俺もそこで母親支えられればよかったのに」

友人「荒れたんだ、かなり」


友人「色々やったな。小遣いほとんど皆無に近い状態が続いてて、俺も自然、金を使う遊びが出来なくて友達付き合いも希薄だった。何でかって、その頃回りの奴らみーんな揃いも揃って背伸びしててさ」

友人「いざ遊ぶとなると都会まで出掛けて服買うなり美味しい店まで外食だったり。小学生がだぜ?最近の小学生はすげーよな、親の子に対する『ペット感覚』って進んでてさ、いささか妙な名前付けたり、異常なほど服を買い与えたり。髪染める奴だって今や珍しくもない。極端な例、夏に外出て虫取りとかは本当に考えに及ばないような奴らばっかり」

友人「公園で球技とかもやらなかったな。スポーツさえ、共有できる奴はいなかった。俺、昔サッカーやってて、それ続けたかったけどやる相手がいなくて、壁当ても馬鹿馬鹿しくて」

友人「んで、その内に引きこもるようになった」

友人「で、母子家庭の引きこもりって、やっぱ屋根の下では王様なんだよ。そういう傾向が多いんだってさ」

友人「色々したよ。金ない反動からか、親の金くすねてゲーム買ったりしてた」

男「…」

友人「まあそれが環境のせいかって話になったら、またそれは違うよな。全部俺自身の責任」


友人「父親も絵に描いたような頑固親父でさ、もう本当「厳しい」の一言に尽きるな。俺に弱みを見せたことねえもん。だからさ、俺は……こう近い距離で父親と言葉交わしたことが少ない…………もしかしたら無いかもしれねえ」

友人「金の件以外で色々母親ともあった。表向きでは綺麗に幕を閉じたけど、心はやっぱ離れてたなずいぶん。再婚後、多分父親もそれを知ったと思う」

友人「家の親父なら絶対に殴ると思った。病院送りも覚悟の上だった。でも」

友人「三人揃って十年振りに囲んだ夕食の机の上は、酷く冷ややかだったよ」


友人「……っていう話。つうか、何だ。はははは、何だコレ。体育の、しかも鬼ごっこの最中にとんでもなくシリアスな話しちまったな。うん、悪い。反省」

女「ん、んーん。今日はちょっと友人くんに近付けた感じがする」

友人「そっか?照れるなあ…」

男「…」

友人「わ、悪かったって。マジで。あんま気にすんな、今はどうにか良い形でやっていけてるよ」

男「いや。気にしてないけど」

友人「……そっか」

友人「取り敢えず、気を引き締め直して残りの奴らとっ捕まえンぞ!」

女「お、おー!」

男「おー」


男(嘘だ)

男(良い形でやっていけてるなんて、嘘だろ)

男(今も友人とその両親の間では、口を開いて話すべきこと、解決すべきことがあって)

男(そういう大きな壁があるのに)

男(三人は壁に背を向けて、見ないフリをしてるんだ)

男(…………家とそっくりだ)

男(だからあいつとは気が合うのか)

男(誰かと仲良くするなんてダルいことを、自然にやってのけてたのか)

男(いや…)

男(俺とあいつは似てなんかない)

男(少なくともあいつは反省してる)

男(俺は……)


校舎一階保健室


cクラスワル四人組

『おーいまだ走り回ってるぞアイツら』

『本当に頑張るねえ。もうほとんどの奴らが鐘が鳴る時間まで各々《校庭以外の場所で》過ごすようにって話が決まってるのによ』

『サボリ切らないところが、またな。逆に言えば鐘が鳴れば戻るんだろ?』

『鬼島はそれだけ恐怖だってこった。……正直俺でも勝てる気がしねえ』

『それで、何して過ごすの?……まだ五限と六限の間の休憩時間も挟んだら75分もあるぞ』

『んー……』



『少し、童心にでも却って悪戯してみますか?』


校庭


おかん「風が語り掛ける……」

おかん「十万石饅頭……」

体育教師「そのネタは埼玉県民じゃないと分からないんじゃないですかねえ」

おかん「」モグモグ

体育教師「ちゃんと持ってきて食べてるし…」

おかん「いります?お茶もありますよ」

体育教師「この暑いのにお茶はちょっと……。それよりいいんですか?」

おかん「」モソモソ

体育教師「聞いてくださいよ」

おかん「」プッ

体育教師「聞けよ!耳の穴かっぽじって聞けよ!」


おかん「はいはい。仕方ないわね圭介は」

体育教師「私の名前は大輝です。鬼島大輝」

おかん「変な名前」

体育教師「失礼な!」


(※実在する全国の圭介さん大輝さん誠に申し訳ありません)


おかん「内容とは?」(パンチパーマを前に寄せ指でいじくる

体育教師「あ、はい。えー、雲行きが怪しくなってきましたよ」

おかん「授業公開日というまたとない聖なる儀式を無事に迎えるために、先日ここ一帯に結界を張らせていただきました。おかげで今日は雲一つ無い晴天なのですが?」

体育教師「ああー、雲行きとは天気の事ではなくてですね」

体育教師「状況ですよ」

校庭


男「大丈夫?少し休もうか?」

女「うん……平気」

友人「ああックソ、いくら何でもいなさすぎだろ!あとどれくらいだ?」

男「大体70分だな」

女「あと10分で五限も終わり…」

友人「……全員は捕まえられそうにないか。一度校舎の中をあたってみよう、これだけ見つからないんだから、十中八九屋内にいるとしか考えられない」

男「そうだな。おまけにやたら日が照ってて暑いから汗が止まらないわ。誰かがここ一帯に結界でも張ったんじゃないの?」

女「あはは」

友人「暑い…はやく中へ」


下駄箱


男「ッ!」

友人「どうした?」

男「い、いや……先行っててくれ。保健室だろ?」

女「先に行ってよう友人くん」

友人「ああ」





男(これはまた古典的な…)

男(今時三文ドラマでもそうはやらねえぞ…上履きに画鋲とか)

男(なんか恨みを買うようなことしたか?)

男(いつもあれだけクラスの奴らは遠ざけて過ごしてるからそれはないか…)

男(じゃあ別のクラス?)

男(別のクラスの奴に恨みを買うようなことなんて…)

男(画鋲だけで済めば何もしないけど…)

男(い、いやいや。これってイジメが進行する時の典型的パターンじゃん)

男(……イジメ?)

男(俺は、イジめられてるのか)

男(……)

男「ははっ」

男「今日は色々なことがある日だな」


保健室

男「お待たせ」

男「……あれ?誰もいない」

男「おかしいな」

男「まあいいや、座って待ってるか」

男「…ふう、」


男(いつもと変わらない日常のはずが…)

男(何故か渡したプリントなんてほとんど目を通さないはずのアイツが公開日を知ってて)

男(あの時以来の、テンションでそのまま学校にきてやらかして)

男(高嶺の花だった女ちゃんとたった一日で大分話すようになって)

男(まるで《仲良しグループ》みたいに三人で)

男(それも、あいつの仕業なんだろうがあの鬼島が鬼ごっこなんか始めさせて)

男(極めつけには、上履きに画鋲か)

男(頭の中もうごちゃごちゃだわ…)

男(良いこと悪いことにいちいち感情揺らして)

男(まともな人間してるじゃねえか、これ)

男(でも画鋲ばかりは笑えないよなあ…)


校舎二回職員室


教職員達

『何だか外の様子がおかしいですねえ』

『どうかされましたか?』

『いえ、今の時間帯は鬼島先生担当の2年cとdクラスが外で体育だった気がするんですが』

『今、時間割りを確認します』

『……そうですね。2-cと2-dは五限と六限は外で体育のはずです』

『厳格なお方でいらっしゃるから、雨も降っていないのに体育館に移動させたり、ましてや校舎まで休ませるようなことは無いと思うんですがね…』

『あの先生はもう20年と随分長いですし、その間何か不祥事を引き起こしたとの話もごく稀です。安心していていいかと』

『うーん…』

『しかし…』

『校庭の真ん中で饅頭を食べているあの方は誰なんですかね……?』


保健室

?「どうだ?」

男「」ビクッ

?「そう驚くなって」

男「……cクラスの人?」

?「そうそう。で、どうだ?」

男「画鋲はアンタか…」

?「まあ引っ掛かるとは思わねーよ。大量に入れたから上履きに触れただけで重量感の差に気付く筈だからな」

男「じゃあ何がしたい訳」

?「トラウマがあるんだろ?お前」

男「は…?」

?「今の時代便利だよなあ」パカッ

男「携帯…それが何」

?「分からねえの?少し交友関係が広ければ見ず知らずの他人の過去まで知れるご時世なんですよ。高校ならなおのこと。一人や二人は同じ小学校の奴がいたって不思議じゃないからな」

男「小学校…」

男「…………お前」


?「いやあ…それにしても今日は暑い中ご苦労さまです」

?「殺人犯」

男「……殴るぞ」

?「喧嘩強そうには見えないけど殴れんの?俺を殴れんの?」

男「聞き直すけど、何がしたい訳。ちょっと洒落にならねえぞこれ」

?「最近イチャ付きすぎじゃないの?あれだけ可愛いとさ、いるんだわ。身内にも好いてしまう野郎がちらほら」

男「……女ちゃんか」

男「はは」

男「――本当、浅ましいよなあアンタ」


?「何」

男「そういうことする奴いるんだな、この平成の時代に。三文ドラマの典型的な悪役みたいなの。滑稽だわ、はは。腹痛いよ、底が知れてるよなあ、本当」


――ガツッ!!!!


男「ッぐ…、」ガタタンッ!!

?「……。スカしてんじゃねえぞ」

男「ぐ……喧嘩が強けりゃ最強かい」

?「力もねえ奴が正義語ってんじゃねえよナルシスト」


男「知るか。正義なんて語ってねえよアホ。つうか苦しいんだよ離せ。で、何?俺は具体的に何すればいいの?」

?「なんで逆らわないのお前。ボコされるのが怖いのか」

男「……はあ。あーあーハイハイ怖いんですよ殴られるのが。だから逆らわないんですよ。こういうことが面倒だから人とか関わらないんですよ。とりわけ、お前みたいな」


ガツッ

バンッ


男「痛っ……やっぱ無事じゃ済まされないのね」

?「何つうかお前、中身がねえよ。空っぽ。あと芯もねえ。見かけ通りストローみたいだ」

男「気は済んだ?」


?「女だけとは言わねえから、お前はもう誰とも関わるな」

?「そうすれば痛い目に合わせないから」

男「痛い目、ね……くく」

ガツッ

?「伝えたからな」ガラッ

トットット…



男「……」

男「……二人、そういえば今どこだ」

男「まあどうでもいいか」

男「ご命令もあるし」


男 自宅

男(……結局、二人ともあの後は出くわさなかったな)

男(帰りのhrも、委員会だとかでいなかったし)

男(都合良すぎないか。二人ともなんて)

男(……)

男(何考えてんだ)

男(どうでもいいだろ)

男(今日あの瞬間、俺はまた独りになったんだから)

男(独りに酔ってるのか?俺)

男(あー確かにナルシストかもしれない。あながちあいつの言ってることも間違ってねえな)

男(それよりも母さ…あいつ……。この怪我見て何も言ってこなかったな。体育で転んだとでも思われたのかな。あれだけ午前中ハイテンションだったのに、夕食時はやたら無口だったし)

男(もう取り繕うことも止めたのか)

男(となると)

男(俺、本格的に独りだな)


翌朝 リビング

男「おーい」

おかん「今魔力溜めてるところだから話しかけないで」

男「……行ってくるから」

おかん「」ブツブツ




男(元々あいつはあんなおかしな奴じゃなかった)

男(友人と一緒だ。あの件以来、ああやって壁作ってんだよな)

男(そういえば…いってきますの一言くらいはあの件以来もあった気がするけど最近はさっぱりだな)

男(いつからだっけ)

男(……俺が『母さん』って呼ばなくなってからだっけか)

男(考えすぎかなあ)

男(まあいいや)


男(どうでも)


公園

男「……で、これだよ」

男「そりゃそうだろ、あんな事あってまた翌日に学校だなんてタフネスな心、持ち合わせちゃいないし」

男「あー、ダルい…」

男「ブランコじゃ寝れないよなあ、ベンチあたりで寝て過ごすか」

男「……いやあ、まだ登校中の小学生もいるし」

男「後、俺制服なんだよな」

男「昼間から公園に制服で寝てる奴がいたら、何かなりそうだしな…」

男「行く場所ねえじゃん」

男「こういう時、漫画とか見てると大体パターンなのが友人の家か」

男「俺ぼっちだしな…」

男「面倒くさいなあ」


?「面倒くさいなあと言われたら、答えてあげるのが世の情け……トウッ」

男「わ!誰っ」

?「世界の何ちゃらを……ええっと?」

男「お前!あの有名なロケ〇ト団の決めセリフを忘れやがったな!しかも一人かよ!ただのロケットじゃんお前!」

?「甘い!ここに…」

ニャー

?「〇ャースがいる!」

男「うるせえよ!バレバレな伏せ字も止めろ!あとお前誰!」

?「お前誰だと聞かれたら!答えてあげるのが世の情け!世界の…………ん?」

男「覚えてないのに再度始めるな!」


?「それで君、悩みがあるなら聞いてやらないでもない」

男「はあ。しかしその海パン一丁の格好をどうにかしてほしいんですが……変質者扱いされて捕まりますよ。いや、もう、何ていうか全開で変質者なんですけど」

?「無理だ」

男「どうして」

?「これが空気中の魔力を体内に溜めるにあたって最善の格好だからだ」

男「なにが最善だよ!もうあんた厨二通りこしてただの変態じゃねえか!ちなみにこいつ海パン一丁で分かる通り男だからな?おっさん!おーい読者さーん!?ここに海パン一丁のおっさんがいまーす!」

?「シッ、静かに!恥ずかしいじゃないか」

男「もっと恥ずべき優先事項があるだろうが!」


?「着替えた」

男「服があるなら始めから着てくださいよ…」

?「遠距離で戦闘が可能な魔術を使用する場合は海パン一丁が最適なんだ。今は仕方ないから近接戦闘モード・オンだが」

男「はあ……ちなみに魔術は何を?」

?「大したことはない」

?「メラゾーマだ」

男「もろにパクったあげく伏せ字もなしかよ…」

男(海パン一丁でメラゾーマ使う筋肉質のおっさん、なんて絵はうまく想像できないよなあ)

?「で、だ」

?「悩みを」

男「何が何でも聞き出したいみたいだな!……ないですよ、別に」


?「しかし…?もあれだから呼び名を『海パン』にしてくれないか。分かりづらいだろう」


海パン「そうそうこうしてくれればいい」


男「俺はシリアスになるべきかギャグに走るべきか今かなり悩んでます海パンさん!」

海パン「で……」

海パン「悩みを」

男「ああもううるさいな……何もありませんよ」

海パン「嘘をつけ」

海パン「顔面に2つも大きな傷の手当ての痕がある」

海パン「制服で昼間から公園にいる」

海パン「学校はどうした?」

海パン「勉強は?」

海パン「パンツは?」

男「お巡りさ―――ん!!ここで―――――す!!!!」

海パン「待て!私が悪かった、海パンが悪かったから!」


ペラペラ


男「……てな訳です。経緯は大まかには話しましたよ、これで全部です」

とても清純で警察などとは無縁な男k「ふむ…」

男「ふむじゃねえよ!長えからせめて海パンにしとけ!」

海パン「すまない」

男「で……」

男「こんな、アホらしくてどうしようもない事態。あなたにどうにか出来るんですか」

海パン「思うんだが…」

海パン「私くらいになれとは言わないから、もっと自分を崩してみてはどうだろうか」


男「…はあ?自分を崩す……?あんまりでたらめな事言って、説得した気にならないでくれませんか」

海パン「いやいや、決してそんなつもりはないよ」

男「俺、本音言うと大人が大嫌いなんです。もともと他人は嫌いだけど、大人はもっと嫌いです」

海パン「どうして?汚いから?」

男「……あなたもそうですが、大人は何を考えているのかよく読めない。汚いのは最近では俺含めガキも同様に言えることだと思いますよ」

男「でもね。表情や言動から相手の意図が読めないのは辛いんです」

男「こっちはどう出ればいいのか…分からないから……」


海パン「ふうむ。むしろ僕は、相手の意図が読めなければ接することができないという説明に納得がいかない」

男「はあ。……ま、価値観の違いか何かじゃないんですか」

海パン「それもあるだろうが、人は自分から相手に好意を示さないと、向こうは好意を示してくれないよ。そう都合良い世の中にはできてないからね」

男「なら、僕は…」

海パン「両親とも、そんな具合なのかい?」

男「!……あんたやっぱり、母の知り合いですか」

海パン「うむ。仲間だ」


男「まあ、身なりで大体予想は出来てましたが。限りなく100パーセントに近い形で」

海パン「お母さんは苦しんでいるよ」

男「そうは見えませんけどね」

海パン「君自身、気付いているんだろう。あれはただのごまかしだって」

男「限度ってものがありますよね…」

海パン「はは。一歩間違えれば警察行きだからね」

男「自覚、あったんですね…」

海パン「とにかく。君の悩みを解決するには、まず今の君をハンマーでも何でも使ってバーンと叩き割ってみることだ」

海パン「そうして今の君を崩して、腹を割って両親と言葉を交わし、そうしたなら、そのお友達とも向き合えるだろう」

男「あんまり理屈になってない…」

海パン「はは、馬鹿だからね私は」

男「……ご相談に乗っていただき、ありがとうございます」

海パン「どこへ行く」

男「どこでもいいでしょう別に」


海パン「まだだ。まだ君はその気になっていない」

男「なる気は毛頭ありませんよ。昨日の経緯は確かに全て教えたから、昨日の僕は知っているんでしょうが、」

男「僕自身の今までは、当然あなたは知らない訳です」

海パン「ふむ」

男「だから、理解も、説得も不可能ってことですよ。じゃあ」

海パン「待った待った」

男「……っ、何なんだアンタ!本当に警察呼ぶぞ!」

海パン「20xx年の、xバスジャック事件」

男「」

海パン「あれの主人公は、君だろう。男くん」

男「あの女……人様にぺらぺらと」

海パン「実の母をあの女呼ばわりは良くない」


男「もう何も話すことはないよ」

男「不愉快だらけでも、少しは話してためになりました」

男「ありがとうございます」


タタタタ


海パン「ふうん…」

海パン「ガードが固いな」

海パン「私もあのくらいの年頃の時は、割り切れないことが多く沢山悩んだものだ」

タタタタタタ

男「はっ、はっ、はっ……」

男「ああ…疲れた……」

男「ここはどこだ」

男「……住宅街に入ったみたいだな」

男「くそ、せっかく見つけた公園なのに、また変態にしてやられた」

男「あいつが、変態百一人衆の1人だとすると、また途方もない面倒が降りかかってくる訳か」

男「たまったもんじゃねえぞ……」

男「ふざけんな、そんな目に合うくらいならこの町から去ってやる」

男「……なんて」

男「無理だよなあ。金も少ないし」

男「ん?この表札…」



男「……女ちゃんの家だ」


男(ここが…女ちゃんの家……)

男(って、いやいや、ただの同性だって可能性も……)

男(ここから二階の部屋も窓際なら見えるか……?)

男(ちょ、ちょっと待て。今は昼間。俺制服。つまり不登校児なのは客観的に見ても明白。そんな奴がよその家をボーっと見つめてる光景って…)

男(犯罪の臭いがするじゃんかこれ)

男(……取りあえず商店街の方にでも)


バンッ


男(音……?)



バンッ


男(上からだ。……あの窓からか)


バンッ


男「……」チラッ


バンッ


男「……ッ!」


男(間違いない。少なくとも見間違える訳がない。それはない。表札のことも踏まえるとあれは間違いなく)

男(女ちゃんだ)

男(引っ張ったかれてる…?)

男(喧嘩?)

男(いや、一方的だ。一方的に暴力を奮われてる)

男(誰にだ)

男(よく見えない……)

男(くそ、カーテンさえ開いてくれればいいのに)

男「」キョロキョロ

男(周りには人がいない)

男(どうせ家出まで発想が届く事態なんだ)

男(今更警察にブチ込まれるくらい……)


――女だけとは言わねえから、お前はもう誰とも関わるな

男「……」


――そうすれば痛い目に合わせないから

男「……」

男(うわ、脚震えてるよ。馬鹿みたいだ。あれだけ強がっておいて、あれだけ嘲笑っておいて)

男(結局俺は……『痛い目』にあうのが怖いんだ)

男(根性ねえなー俺…)

男(正義を語るな、か)

男(語りたくなんかないから)

男(正義のヒーローそのものに、なってみたかった)

男「……」スタスタ



スタスタ


スタスタスタスタ

スタスタ

男「ふう…もうすぐ商店街か……」

男「……」

男(流石に、良心が痛む)

男(本当に痛む時って、息を吸うのも辛いんだな)

男「……」ゼイゼイ

男(今日は、それほど暑くはない、のに…)

男(妙に、体力を吸い取られる、みたいな感覚が、する…)

男(もう心身共にボロボロだな)

男「……」スタスタ

男「……」スタ…スタ……

男「……」ゼイゼイ

バタッ









ニャー




友人「おい男」

男「何」

バキッ

ガッシャーン ガタガタ

男「痛っ……く、何すんだ!」

友人「よくも裏切ったな」

男「……は」

友人「トボけてんじゃねえよ!!!!」

バキッ バキッ バキッ

『……ねえちょっと、あの仲の良い二人が殴り合ってるわよ』

『殴り合ってるっつうより、一方的に殴られてるだけどな』

『ははは。おい見ろよあのざま』

『ついにたった一人の友達にもそっぽ向かれるなんてな』

『化けの皮が剥がれたんでしょ』

『一人が良いならなんでここいんのあいつ?』

『つうかさ、』

『『『お前、邪魔』』』


バキッバキッバキッ

バキッバキッ

バキッ






ニャー





男「待てよ!」

女「嫌っ!来ないで!」

男「どうして駄目なんだよ!俺にはもう誰もいないんだからさ、いいじゃないか!一人くらい!せめて、いやもう友達とか、いらないから、女ちゃんが、女ちゃんが!」

バキッ

ドタッ

男「……痛…」

体育教師「何してんだお前」

男「いや、その……」

体育教師「いや、そのじゃねえよ。何してたんだって聞いてんだよ聞こえないの?」

男「いや、俺……」

体育教師「ああ!ハッキリしねえ奴だなお前はッ!!!」


バキッドカッ

ドカッドカッドカッドカッドカッ










ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ







ニャー





ププーッ

男「うあああああああああああ!!!!!!!」

男「」ゼイ…ゼイ…

男「ここは…」

男「……!」

男「うッ…ぷ」

男「ウォエ…………ゲホッ」

男(バスの……中…)

男(床は…血だまり)

男(おまけに…いや当然……死体)

男(刺殺か…?)

男(誰が…)

男「……!」

男(ま、窓に映ってるのって……)

男(お、俺……?)

男(俺……なのか……この惨状を作ったのは…)

?「おい」

男「え?」


グサッ

バタッ



…………。






ニャー


タタタタタタタタタタタタ

男「あれ…」ゼイゼイ

男「何で俺……走ってるんだろ」

男「これ、うわ。確かずっと欲しがってたサッカーボールじゃん」

男「よし。サッカーするか」ゼイゼイ

男「しかし疲れたな。公園辺りで休んでそれからサッカーを……」

男「いや、一人じゃサッカーは……」

男「……あ、あれ」

友人「」

男「おーい!サッカーだ!サッカーしようぜ!友人お前、確かサッカー大好きだったよな」

友人「……」

男「あれ…なんかお前デカくなったな急に」

男「いや…あれ……俺、なんでこんな縮んでるんだ」

ポン…

男「」ビクッ

?「ねえボク」

男「は、はい…あ、あんた」

?「それ、お金ちゃんと払った?」

男「そ、それ……?」

?「払った?」

?「ねえ?」




ニャー


男「おいこらババァッ!!」

《ど、どうしたの。さっき昼食はちゃんと》

男「俺は麺が食べたいって言ったんだ!老化が早いんじゃねえのか?何だってチャーハンなんかつくってくれてんだよ!」

ガシャンッ パリーン

《ごめんね…母さん今から作り直すから》

男「もう遅えよ!馬鹿じゃねえの?もういい、自分で食うから」

《じゃ、じゃあ…はいこれ。これで好きなもの食べてきな》

男「……えよ」

《ん?》

男「少ねえよ!!!」

バキッ

《……ッ》


ポン…

男「」ビクッ

男「さ、サッカー…ボールは……?あれ?俺……?」

?「やりすぎだ」

男「……父さ、」


バキッ



バキッ



バキッ





ニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャーニャー


男「アアアアアアアアアアあああああああああああああ!!!!!!!!」

男「」ゼイゼイ

男「あれ…俺……」ゼイゼイ

男「何だ?何がどうなってるんだ」ゼイゼイ

男「どうしてこんなに疲れてんだ」ゼイゼイ



ニャー



男「」ビクッ

男「わ、あ、っ、あ……あ」

男「さっきの……ニャースか」


ニャー

男「海パン野郎はどうしたんだ?……と言っても飼い猫じゃあないか」

男「ここ…どこだ……?」

男「何だか…上手くものを見れない。景色が濁ってる……気持ち悪い」

男「吐き気がする」

ニャー ペロペロ

男「あ、ああ…大丈夫だから……」


男「……嫌な記憶みたいなものがドッとフラッシュバックみたいに頭へ流れ込んできた。とか」

男「頭痛、酷いしな」

男「それ以上に吐き気も」

男「頭でも打ったのか熱中症にでもなったのか気でも狂ったのか…」

男「景色が…ぐちゃぐちゃだ」

男「音も…聞き取れない」

ニャー

男「あ、ああ。お前は何故か聞こえてるから安心しろって」

男「……安心されてるのはこっちか」

男「……っ」スクッ

男「た、立てた」

男「平行感覚とかもおかしい気がする…」

男「休む場所…」

男「……も見えないんだよな」


男「もう全てがどうでもよくなってきた…」

男「どうせ死ぬならせめてこの悪夢を見せてる奴の顔面、非力ながら精いっぱいぶん殴ってから死んでやる」

男「……」

男「変な死に方だな」

ニャーニャー

男「傍にいるから。大丈夫だから」

ニャーニャー

男「……?」

ニャーニャー

男「何か伝えたがってるみたいだな」

男「……馬鹿か、俺」

男「俺も案外、変態の仲間入りする資格があるのかも」

男「というかこれが現実なら俺はこれからメラゾーマだろうがステルス機能搭載の魔龍だろうがカラコーンの真価だろうが何だって信じてやるぞ」

男「うぐ、気持ち、悪い…」フラッ


男「俺、そもそもこれ歩けてるのか」

ニャーニャー

男「こいつが脚進めて着いてきてるんだから、前進はしてるはずなんだよな」

男「……」

男「ああ……」

男「くそ…………」

男「ああ!うぜえ!一体何がどうなってやがる!!おかしいぞ!変だぞ!狂ってるぞ!」

男「何慣れてんだ俺。何順応してんだ俺。目を覚ませよ、何だよこの現象は」

男「病気か?これが?そうだよ、ただの病気なんだ…」

男「だから…寝なきゃ……」


ニャーニャー

男「ごめんな」

ニャーニャー

男「俺根性ないんだ…」

男「根性……?」

男「根性…………」

男「」

男「俺」


男「行かなきゃ」


男「あれは確か……《マヨネーズがケチャップの味になる》だっけか《ケチャップがマヨネーズの味に似る》だっけか」

男「いちいち覚えてないわ」

男「とりあえず、覚えてるだけ呪文を唱えてみよう」

男「毎週毎週」

男「毎週毎週毎週毎週、本当毎週耳にタコができるくらい聞いてきたあの意味不明な呪文」

男「今ここで使えば何となくここから出れる気がする」

ニャーニャー

男「うるさいな。もうこれしか思いつかない」

男「行くぞ!」

ニャー



男「」ブツブツ…
























男「」

男「今度はどこだ…?」

男「やたら眩しいぞ…却って景色がぼやけて見える」

男「うーん…」

男「あれ?」

男「ニャースは?」

男「おーい!ニャース!」

男「……消えた」

男「吐き気はない」

男「平行感覚も、正常」

男「視界は……さっきよかマシってところか」

男「うし。歩ける」

男「地に足付いて歩いてる感覚がするぞ」

男「まず行き先は」

男「あそこだ」


バンッ


男「もう何なんだろうな。言葉じゃ説明できない」

男「感覚が、ここだって知らせてる」

男「だから、来れた」


バンッ

バンッ

バンッ


男「おうし。張り切れ、気合い入れろ俺。きっと今から俺は顔面が失敗作のアンパンマンみたいな形になるまで腫れ上がるかもしれんが、」

バンッ

男「ここは、一応男らしく、非力だけど、ヘタレだけど、他人に無関心で人でなしだけど、ストローだけど、」

バンッ

男「一人の女くらい守って潔く散ったらああああ!」

男「もうどうにでもなれえええええ!」


ピンポーン


男「インターホン押してどうすんだよ俺!」


男「ヤバい、気付かれた、どうしよう」

男「逃げるか?ここで?逃げてどうする?さっきまであんなに気合い入れてただろ」

男「そうだ、どうせなら玄関から扉開いて顔出した瞬間、全力で不意打ちをかませば…」

男「勝てる!これなら勝てる!」

男「よし!」

?「あの……?」

男「」

?「どちら様ですか…?」

男「あ、あれ…?」

男「おいおい、冗談キツいぞ」

男「天の神さま、これ以上凡人を混乱させて何が楽しいんだよ」

?「あの…」

男「なんで……お前が」



男「友人」


友人「あなた、俺を知ってるんですか…」

男「知ってるも何も…。ん?友人俺のこと覚えてないの?」

友人「初見としか思えないッスね……同い年くらいですかね」

男「そ、そりゃクラスが……じゃなくて、女ちゃんが!女ちゃんが危ない!」

友人「危ない…?女のことも知ってるんですか」

男「お前、目や耳どうにかなったんじゃねえのか?二階だよ二階!二階の部屋で女ちゃんが襲われてたろ!」

友人「女を知ってるのにも驚いたけど、あなたの奇人っぷりにも驚かされる」

男「……っ、いいからどけ!」

友人「ちょ、ちょっと」


タタタタタ

男「」ハッハッ

男「この部屋か」ゼイゼイ

男「……あれ」

男「音、止んでる……」

男「……?」

男「っ、女ちゃん!」


ガチャッ!


女「!?」ビクッ

男「よ、良かった……無事で」

男「怪我は?大丈夫?叩かれたりしてない?」

女「う…」

男「わ、やっぱりぶたれたの?誰?誰にやられたの?今から俺がストロー根性全開の鉄拳をお見舞いしに」

女「うわーん!」

ガバッ

男「!!!?」

女「うああああああ」ギュッ

男「∈∵ヴθρυχ」

友人「あの……」


女宅 リビング

友人「結論から言うと」

友人「男さんは俺と女の両方を覚えてる」

友人「女は男さんだけを覚えていて俺を知らない」

友人「俺は女を覚えてるけど、男さんのことは記憶になし」

男「ここはもう天国だったんだろうな……俺はもう死んだんだ、ああそうに違いない」

女「ご、ごごごごめんね、知りもしない人に『俺を覚えてないのかっ』て強く押されて心細かったからつい……」

男「いや、天国は伝承通り良いところだった。人間は天国の存在を掴めていたんだ」ポケー

友人「……さておいて」

友人「どうしますかねこの状況」


男「じゃあ。これまでの経緯を話し合おう」

女「ん…………」

友人「それはちょっと…」

男「どうして。まさか……」

男「説明しようのない不思議な現象に巻きこまれて、辛い思いをした――とか」

女「!」

友人「同じッスね…」

男「じゃあここは天国でもなければ、まだ現実でもないのか。夢?異世界?」

友人「それは考えるだけ無駄だと…」


男「どうにか日常に戻れないのか」

女「……」

友人「……」

男「あの…さ。女ちゃんは俺を覚えてるから訊くけど」

女「何?」

男「昨日……ああ、昨日かどうか確証はないけど、この意味不明の現象に巻き込まれる前日のこと覚えてる?」

女「うん…大体…」

男「本当!?」


女「その日は……そう、授業公開日で」

男(ビンゴだ)

女「一限は英語……二限は古典……三限が世界史……四限が自習時間。昼休みを挟んで五限と六限が外で体育、だったかな」

男「そう。そう!」

友人「それは俺も覚えてるッスね」

男「カラーコーン二刀流の変態パンチパーマも来てたよね?」

女「あの人……最初凄いびっくりして」

男「それは良いんだ!あのインパクトには驚くのが常人の神経なんだ!」

男「六限の後のこと覚えてる?……いや、出来れば六限の最中に保健室へ向かったところから」


女「えっと…男くんが先に行ってていいって言うから」

女「一人で保健室に…」

男「…。一人で?」

女「うん」

男「一人で……」

友人「やっぱ記憶に差があるみたいッス。俺はそこまで女と二人だったから…」

男「……一つ言っていいか?」

友人「?」

男「俺に対して妙な敬語の口調を止めろ。そして何より女ちゃんを呼び捨てにするな!」

友人「あ、ああ、了解ッス……いや了解」


男「記憶に誤差があるのはどうしようもない。保健室で誰かに合わなかった?」

女「cクラスの人に…」

男「!」

友人「その記憶は俺も同じ」

男「アイツに出くわしたのは、三人共有の記憶……!」

男「だとしたら…」

男「おいおい……」

男「俺はいつからこんな現象に引きずり込まれてたんだ?」

男「授業公開日からがおかしかったのか?」

男「それとも授業公開日までは世界は正常で、翌日から俺たちの記憶が改変されたのか」


友人「俺もその線が正しいと思う。いや、それ信じなきゃもう精神崩壊しそうで」

女「授業公開日までは、正常だったんだよ!おかしいのは」

男「翌日からの、俺達の記憶」


男「……変なこと訊くぞ?」

友人「どぞ」

男「海パン一丁のオッサンに合わなかったか」

女「海パン一丁の…」

友人「オッサン…」

男「聞かなかったことにしてくれる?」

友人「……話戻すと、保健室でcクラスの奴に出くわして」

女「私は懇切丁寧に校庭に引き返すようにって…」

友人「同じく」

友人「……男は?」

男「俺は……」


男「その、まあ…」

男「ゴタゴタがあったんだ。ちょっとな。少なくとも二人の記憶通りの展開じゃないよ」

友人「ここで記憶分岐か…」

女「ややこしいね…」

男「その後は?」





友人「つまり」

男:
《~六限の頭、下駄箱まで三人、そこから一人で保健室へ》

→《cクラスの人物と遭遇》

→《トラブル発生》

→《後にhrを済ませ帰宅》

友人:
《~六限の頭、女と二人で保健室へ》

→《cクラスの人物と遭遇》

→《校庭へ引き返すように促される》

→《そのまま体育が終わる》

→《hrを済ませ帰宅》

女:
《~六限の頭、下駄箱まで男と二人、そこから一人で保健室へ》

→《cクラスの人物と遭遇》

→《校庭へ引き返すように促される》

→《そのまま体育が終わる》

→《hrを済ませ帰宅》


男「えっと、この事から…」


1.三人共、今この空間で記憶の欠けている人物が、そのまま授業公開日当日の記憶から除外されている。

2.保健室入室後、展開があからさまに異なっているのが男一人。女と友人はいずれも校庭へ引き返し帰宅。

3.男の記憶には、hr中二人が委員会の都合ということで姿が見えない状態だった。

4.男が二人を覚えている以上、記憶の幅が最も広く信用性がある現状。


男「そもそもどうして記憶に誤差が生まれるんだ」

友人「それぞれがそれぞれの記憶を事実としてる以上は、もうどうにも噛み合わないと思うぜ」

女「でも…私は男くんを信じるよ」

男「女ちゃん…」

友人「……何だか遠慮の無い苛立ちを感じる。本当に友達だったのかもな」

男「授業公開日の記憶に誤差…翌日にフラッシュバックと意味不明な空間への遭難…」

友人「何か分かった?」

男「駄目だ何も分からない」

友人「カーッ、もどかしいなあ」


女「あ、」


ガタタタタンッ


男「」

友人「」

女「」


ニャー


男「……ニャースか。ニャース?ニャース!戻ってきたんだな!」

ニャー ペロペロ


女「ね、ねえ……その猫」

友人「というか、その猫の鳴き声が」

男「あ、ああ。俺も同じだよ。でも、その後ここまで来れるよう支えてくれたのもこいつなんだ」

ニャー

友人「わ、悪いけど俺はちょい近寄りがたいかも…」

女「わ、私も……」

男「まあ、無理ないよな…」


《何か分かった?》


男「」

女「……え」

友人「……っ」


《ああ、驚かせたようで》

《男くんには記憶があるはずだよ》


男「……海パンの、オッサンか」


《そうそう海パンのオッサンだよ。この猫を通じて今君たちに話しかけてる》


友人「もう何でもアリって感じだな…」

女「う、うん…」

男「……、で、この状況は何?この世界は何?早く俺たちを連れ戻せよ!魔法でも何でも使ってさ!」


《あれほど馬鹿にしていた魔法を?》


俺「信じざるを得ないだろ、こんな状況。普段なら一笑に付してやるさ。でもさ、これは、こんな辛いことって」


《本当はね。記憶の誤差なんかトラブルでしかないんだ、本当に大事なのは》

《君たちの共通点だよ》


男「共通点」


《君たちは今日、何を見てここまで辿り着いたの?》

《何にもがき苦しんでここまで到達したの?》

《何に負けじとここまで這いつくばってきたの?》

《僕は君たちを元の居場所に戻すとか、夢から覚ますとかはできないけれど》

《ネクストステージには進めてあげられると思う》


女「ネクストステージ……」

友人「テメェ人を馬鹿にするのも大概にしろよ!何がネクストステージだ!ゲームじゃねえんだぞ!!」


《ゲーム……良い表現だね》

《じゃあ君たち。頑張って、己の負を全て拭い去れるように》


男「お、おい!」


《では》





《家族は、大事にね》

《それと、友達も》





























友人「」


友人「あ…?今回はどこに飛ばされた?」

ニャー

友人「」ビクッ

友人「ま、毎度毎度突然出てくるなよ驚くだろ…」

ニャー

友人「例の海パン野郎とはコンタクトできないのか。ってことはただの猫…」

ニャーニャー

友人「うわあ、無理無理。やっぱしばらくは猫に近付けねえな」

?「独り言?夜なんだからなるべく静かにね。隣に声聞こえちゃうでしょ」

友人「あ、すみま……か、母さん!?」

友人母「だからうるさいって言ってるでしょ!」

友人「ああ、ごめん」


友人(母さん?なんで?)

友人(このアパート……)

友人(寝室…)

友人(敷かれた布団二つに俺と母さん)

友人(見るからにアパートって雰囲気だ)

友人(そうそう、下は畳だっけ)

友人(……?身体が軽い?)

友人「」モゾッ

友人「――――!!」

友人「ち、縮んでる!」


ポカッ

友人母「次声出したら外で寝かすから」

友人「ご、ごめん…」

友人(なるほど、時間を遡ってる訳ね。ここは母さんと二人暮らしの時か)

友人(つう事はやっぱり…)

友人(失敗を成功に変えるチャンス、か)

友人(……楽勝じゃん)

友人(精神状態は17の俺のままだし)

友人(同じ失敗繰り返すかっての。人類皆の希望だろ?人生やり直すなんて)


友人(しかも俺の場合まるごとやり直すんじゃなくて、失敗した所を適当に修正する)

友人(悪いことばっかだと思ってたけど、案外良いこともあるじゃん)

友人(それにしてもガキに戻るってのは良いもんだな)

友人(ああ…)

友人(何か、温かったよなあ……この頃の家族って)

友人(二人だけなのに)

友人(三人でそこそこ綺麗なマンションで冷えた飯を食うよりは、こういう慎ましい温もりのある生活の方がうんとマシだな)

友人(そういうことはやり直せないのか?)

友人(無理か…二人が再婚した原因に俺は関係がない)

友人(じゃあこの時空の父さんは今一人…なんだよな)

友人(…………)

友人(ふあ…)


友人(眠い…)


翌朝

友人母「――ろ!」

バシッ

友人「あたッ」

友人母「起きろおおお!!」

友人「おおお起きてる起きてる!その振りかざした新聞紙をしまってくれ!」

友人母「ん。今日は早いわね」

友人「いつも何度俺の顔面に叩き付けてるの?」

友人母「アンタ。それより」

友人「?」

友人母「どことなく、雰囲気が変わったような…?大人びたみたいな……」

友人「き、気のせいだろ?……いや、気のせいだよ?」

友人母「寝ぼけてるのね」

友人(仲良かった頃の母さんは扱い易かったっけか…。ある意味男の家と似たような会話繰り広げるかも分からないぞこれ)


友人母「いただきます」

友人「いただきます」

友人母「!!」

友人「ど、どうしたの」

友人(もう何かトチったか?)

友人母「い、今なんて」

友人「……いただきます」

友人母「」バタッ

友人「母さん!」

友人「止めろ!箸の片方が鼻の穴に刺さった状態で死んでいく親の姿なんて見たくない!」

友人「……失神してんのか、これ?」

友人「いただきますで失神する母親なんてそういないだろうな」

友人「ガキの頃、そんなことも出来なかったっけな……」

友人「やり辛え…」


友人母「じゃあ仕事言ってくるからね」

友人「お、……うん。行ってらっしゃい」

パタン

友人「……」

友人「――ぁぁぁぁぁあああああああああ」

友人「肩こるわこれ…身体小学生だけど」

友人「気苦労するなしばらくは」

友人「さて、と」

友人「まずは情報を集めないと」

友人「時を遡った時のお約束!まずはその時空の情報を集めろってな」

友人「楽しくなってきた」


友人「まずは新聞だよな」パサッ

友人「……んん?」

友人「うおっ、この番組懐かしいなー!」

友人「うっわ馬鹿みてえに流行ったぞこれ、十年も経ってないのに古臭く感じるぜ」

友人「いたなあ、こんなアイドル。一年か二年で姿消したんだよな」

友人「あああー、これ…」

ニャ-

友人「」ビクッ

ニャー

友人「な、何だいたのか…」

友人「毎度毎度驚かせやがって」

ニャー

友人「……ああ、そうそう日にちだ日にち」


友人「」パサッ

友人「」バタバタ

友人「」ガサゴソ

友人「」ジーッ

友人「」パタパタ


友人「……今、小四か。俺」

友人「間違いない、あの日は今でも忘れもしない」

友人「流石海パン様々だぜ」

友人「的確に送り届けてくれやがって」

友人「あの事件は間違いなく」

友人「今日だ」


友人「手間が省けるな。まさかこの状態を数十日、下手すると百日以上なんてチンタラしてられないしな」

友人「で…俺は」

友人「何てことはないな、じっとしてればいいだけだ」

友人「起きたばかりだけど寝るか…やること無いし」


ジリリリリリリリリ

友人「うーん…」

ジリリリリリリリリ

友人「電話か…?うっせえな……目覚まし時計よかうるせえな」

ジリリリリリリリリ

友人「っ、待て待て。条件反射で出ちまうところだった。まずいだろ出るのは」

友人「仮に知り合いだったら……まず話は噛み合わないだろうな」

友人「つうことでシカトシカト…」


ジリリリリリ

友人「……」

ジリリリリリ

友人「……」

ジリリリリリ

友人「だー!留守電サービスとかねえのか!」

友人「ま……何かの勧誘だろ」

ガチャ

友人「はいもしもし」

『おーもしもし友人?』


友人「」

友人(こいつは確か…)

友人(小四時につるんでた奴だ、なんだまだ疎遠な時期に来てなかったのか…)

友人「お、おう。確か……tか」


『確かって……当たり前だろ、何言ってんだお前。昨日会ったばかりなのにもう忘れられたら泣くぞ』

友人「ジョ、ジョークだって気にするなよ」

『――で、今日○×△町に来てほしいんだけど』

友人「何しに」

『昨日テレビで芸能人のkが着てたアレ、ここ近辺に売ってんだ』

友人(ガキが洒落たこと言いやがって……)

友人「えっと…」ガサゴソ

友人(390円)


友人(ん?この金額どこかで……)

友人「ワリ。今金欠だからまた今度な」

『えー?あ、オイ』ブツッ

ツーツー

友人「まあ、今は電話もかけない過去のダチだしな」

友人「心痛まないわな」

友人「390円…」

友人「……あー、」

友人「早く男と女ちゃんのいるとこに帰りてえ――な!?」ズキッ

友人「がっ……!!」

友人「痛ッ……頭が…」


友人「……」ズキズキ

友人「っかしいな…こんな頭痛なんて引き起こしてたか」

友人「治ってきたし…」

友人「」

コロコロ

友人「サッカーか」

友人「良いねサッカー」

友人「でも、こういった遊びに付き合ってくれる奴がいないんだっけ…」


友人「俺も案外交友関係狭かったっけ」

友人「もう男のことは言えねーな」

友人「腹減った」

友人「こういう時どうしてたっけ」

友人「390円もありゃうまい棒39本も買えるし、少し外寄るか」

友人「うまい棒は建前で、懐かしい町並みを見たいだけなんだけどな」

ガチャ

パタン


スタタタタタタタタ

友人「あああああああああああ」スタタタタタタタタ

友人「いぁあああああああああああ」スタタタタタタタタ

クスクス

ニコニコ

友人(おいおい、何とも微笑ましい表情で大人がこっち見てるぞ)

友人(17の姿でこんな風に走ってたら、間違いなく『何だあの頭おかしい高校生は』なのにな)

タタタタ…

友人(お)

友人(で、ここが行き着けのゲームショップなんだよな)

友人(よく無料お試しコーナーで時間潰してたっけ)

友人(はは。今同じことやったらオタクとか言われるのかもな)

友人(昔のゲームでも堪能しに行きますか)

タタタタ…


ピコピコピコピコ

ズダダダダダダ

バンッバンッ

友人「……」

友人(こうして小学生視点で見ると)

友人(高校生集団でスペース占領してるとこ、果てしなく向かっ腹が立つな)

友人(んー)

友人(やっぱり高校生だから出来ることもある訳で)

友人(ここで正面切って『ちょっと一ついいッスか?』なんて無理な話だ)

友人(だー、やっぱり戻りてえな高校生)

友人(あの三人でなら)

友人(面白い高校生活…)ズキッ

友人「……!?…………あッ」

店員「き、キミ、大丈夫かい?」



アパート


友人「……」

友人「結局、家に逆戻りか…」

友人「」ズキズキ

友人「どうしてか…高校生活を鮮明に頭に思い起こそうとすると激しい頭痛がする」

友人「これは…偶然じゃないんだろうな。多分」

友人「……」

友人「……俺、もしかして戻れないんじゃないのか」

友人「おい、どうなんだよ海パン!この頭痛の原因を説明しろ!」

ニャー

友人「…」

友人「……」

友人「はあ」


友人「もういいや、本格的にじっとしてよう」

友人「動き回るとろくなことがない」

友人「…………」チラッ

友人「ん……確かあそこらへんだったか、いつも給料がしまってあるところ」

友人「空き巣でも来たらどうするんだ。atmを……」

ドクン

友人「……?」

ドクン

友人(さっきの頭痛じゃない)

ドクン

友人(これは――)

友人(まずい)

ドクン

《新発売の――》

友人(止め、ろ)

《未クリアのまま売っちまったあの――》

友人(止めろ)



ドクン

店員「まいどありー」




友人「……」テクテク

友人「……ただいま」ガチャ

友人「……」ボーッ

友人「……」フラフラ

友人「」キュイーン

友人「」テッテレッテー

友人「」ピコピコ

友人「」ピコピコピコ

友人「」ピコピコピコピコ




友人「………………ん?」ハッ


友人「俺……」

友人「何してんだ」

友人「あれ……?何だよこれ」

友人「昔見たく、また母さんの金くすねて、」

友人「変だろ。……何なんだ。やり直す?楽勝?ふざけんな」

友人「何ださっきのまるで洗脳されたみたいな――」


ガチャ






友人母「――ただいま」




女「」


女(あれ……?もう、到着?)

女(ここは…いつ?どこ?)

女(私の……部屋)

女(そうだ、カレンダー)

女(うーんと…)

女(……中1の頃だ)

女(中1……?)

女(時を遡って、私がするべきことがこれなんだね)

女(一人で……)

女(頑張らなきゃいけないんだ)

女(きっと今頃、男くんも友人くんも凄く頑張ってる)

女(私もこの時を乗り越えて、強くならなきゃ)


女(私の家庭の場合はとても簡潔で明瞭で、でも凄く解決することが難しい問題)

女(私のお父さんは酷く酒乱で、暴力癖がある)

女(でも大人にはお酒に逃げたい時だってある)

女(お父さんにきっかけを与えてしまったのは……)

ニャー

女「わっ」ガタッ

ニャー

女「ああ……猫」

ニャ-

女(ただ鳴いてるだけなら可愛いのに。瞳の奥が冷えて見える。生き物の目をしてない)

女(この子……)


ピンポーン


女「」ビクッ

女「お、お客さん……?」

ピンポーン

女「誰も、出ない」

女「今この家にいるのは……そう、あの日だとしたら、午前中は確か私だけだったはず」

女「そしてその日に来るお客さんは」

ピンポーン

女「……誰だっけ」

女「うわああ。忘れちゃったよー。どうしよう、あんなに辛いことがあった一日なら出来事全部覚えててもいいはずなのに」

女「そ、そうだ。窓際から外の様子覗けばいいんだ」

女「私何を焦ってるんだろ……」シャッ


女「……お姉ちゃん」

女「うわあああ。お姉ちゃんだ!若ーい!あはははははは」

女「あれ。見えなくなっちゃった」

女「どこ行っちゃったのかな」

女「今も当たり前に充分若いけど、どこか初々しさを感じる」

女「あははははは。面白ーい!」


女「あははははははは」


ポカッ


姉「ちっとも面白くないわ!!」


女「ごめん…」

女姉「二階、アンタの部屋には気配もあったしカーテンも動いてたから……インターホン押しても誰も出ないし、まさかと思って鍵開けて入ったら我が妹が一人部屋で絶賛大爆笑中よ。たまったものじゃない」

女「どうして鍵があるならそれ使わなかったの」

女姉「え?だって面倒くさいし」

女(こういうところ変わらないなあ……昔も)

女姉「で、窓から私覗いて何してたの。何か企んでたの?」

女「何も企んでないよー」

女姉「早く吐けば楽になるわよ……」

女「痛い、痛いってばお姉ちゃん」


女(そう。お姉ちゃんとだけは昔からずっと変わりなく仲が良かった)

女(唯一の寄りどころだったんだ。だって、お母さんには頼れないから)

女(一番この家庭で辛い思いをしてきたのは、お母さんだったから)

女(でも私もまだ中学生)

女(お父さんが怖くて怖くて仕方なくて、どうしようもなく不安で)

女(頼れる人はお姉ちゃんだけだった)

女(お父さんの風当たりが強いのはいつもお母さんだった)

女(でも…この日は)


女姉「で、買い物手伝って。近くのスーパーまで」

女「うん」

女姉「あれ本当に?助かるわー、だって今日の当番私なのに。いいの?」

女(そっか。夕食の買い出しにはいつも当番制があるのが前の決まりだったんだっけ)

女「き、今日は暇で、やることもないから」

女姉「おおー我が妹ながら従順な下僕に育ったものだ」

女「下僕って言わないで…」

女姉「じゃ今すぐレッツゴー」

女「わ、待ってお姉ちゃん」


スーパー


女(家からここまで徒歩十分。景色が懐かしくて思わず何度もにやけちゃった……)

女(この町はここ数年で緑があっという間に激減しちゃったけど、この頃はまだそうでもなかったんだ)

女姉「今晩どうしよっか」

女「……うーん」

女(ここに至るまで色んなことがありすぎて正直まだ混乱してるから、今晩のメニューなんて考える余裕ないよ……)

女「…………カレー」

女姉「よしカレー決まり」

女「意義無いの?」

女姉「いやだって考えるの面倒くさいし」

女「うん…そうだね……」


女姉「こんなところ?」

女「うん、大丈夫。じゃあレジに……」

女姉「いやいや待ち待ちまずいでしょ」

女「え?」

女姉「」スッ

女姉「五本あれば文句ないかな……」

女(そっか、お酒……)

女(何食わぬ顔をして、本当に平然と)

女(飲ませ過ぎない方がいいに決まってるけど、用意しておかなきゃもっと酷い仕打ちが待ってるから)

女(『家にお酒が足りない』なんて状況は、我が家じゃ最大のタブー)

女「……もういいよね、いこ、お姉ちゃん」

女姉「んんー」


トコトコ

女姉「アンタさー」

女「ん?」

女姉「ここ最近のことがあってというか、まあ……それ除いても大人になった」

女姉「もうそんな大人びてくると私もなんだか寂しいな。まだ私と身長差、あるのにね」

女「……」

女(……身長差。あれ?)

女(そういえば私)

女「」キョロキョロ

女(縮んでる!)

女(あれ?おかしいなどうして気付かなかったんだろう)

女(……私、身長にはあまり自信ないんだよね)

女(昔からそう伸びてなかったんだ、きっと)

女「…………」

女姉「あ、あれ?一応誉めたつもりなんだけど落ち込んでるのはどうして?」


ガチャ


?「お帰りなさい」

女姉「ただいまー」

女「わ、あ、」

女「……お母さん!」

女母「どうしたの?顔に何か付いてる?」

女「付いてない付いてないうわあああお母さん若ーい!!」

女姉「……」

女母「……」

女母「来月のお小遣いは少し増やしてあげるわね」

女姉「ちょ!何それ反則!そんなありきたりな戦法で増えるなら私もとっくにそうしてたもん、いやもう何回かした!」

女母「この年になるとねえ、こうして誉められる時に本心で言われてるのかそうでないのか分かるのよね」

女姉「お母さん、若ーい!!」

女母「早くそれ冷蔵庫にしまって」


女宅 リビング


女姉「」ムスー

女「そ、そんなにむくれないでお姉ちゃん」

女姉「どうせ既にあらゆる部分がむくれてるわよ!」

女「静まってお姉ちゃあああん」

女姉「くそ…何が、私との差は何?表情?姿勢?発声?音程?」

女「気持ちだよお姉ちゃん……」

女姉「私の何かをアンタが先越していった感じがしてたまらなく不愉快だわ!」

女(中身の年齢なら同じはずなんだけどね)

女母「二人共、今日はいくつかケーキ買ってきたからお食べ」

女姉「よし!」

女(立ち直り早いなあ…)


女(三人の時はこんなにも平和なのに)

女(どうしてバラバラに崩れちゃったんだろう)

女(決まってる)

女(お父さんのせいだ)

《あんな人、いなくなればいいのに》

ドクン

女「――ッ!!」

《あの人さえいなくなれば、私たち三人は毎日平穏に暮らしていけたのに》

ドクン

《消えろ!消えろ!消えろ!》

ドクン



女「~っ!」

女姉「ちょ……大丈夫!?どうした?」

女「た、食べ過ぎて腹痛が……」

女母「調子に乗るからよ。……でもちょっと痛み方が過剰ね、薬用意しておくから部屋で休んでいなさい」

女「うん…」


部屋

女「……」

女(さっきのは何?)

ニャー

女「!」

女「ずっといたの……」

ニャー

女「……あの時の人とはもう話せないの?」

ニャー

女「だよね…」


女「はあ、心細いよ……」

女(私、依存癖があるから、誰か頼れる人がいなきゃいつも不安なんだ)

女(男くん…)

女(また三人で、鬼ごっこしたいな)


女「――ッ!」ズキッ

女「嫌…あ……」ズキズキ

女「~っ!」ズキズキ

女「痛…い」

女「何、これ……」


女(頭が痛くてたまらないよ……)

女(時を遡るには身体に負担がかかる、とか?)

女(もう……嫌。早く帰りたい)

女「」ズキズキズキズキ

女「あああああああああ」

女「……ッ、……ッ、」

女(何も考えない、何も考えない、何も考えない、何も考えない、何も考えない)

女「…」ズキズキ

女「……」

女「私、元の場所には帰れないのかな」

女「そんなの……嫌」

女「!」ズキッ

女「うう…」ズキズキ


女「求めちゃ…駄目なの?」


夜 リビング


女母「テレビ、消しておきなさい」

女姉「……」ピッ

女母「今日はもう寝なさい、明日学校でしょ」

女姉「別に。女子高生は夜更かしぐらいするし」

女母「もう…どうして……」

女姉「……叩かれない人の方にも痛みがあるっての分からないの!?」

女母「…………」


女姉「ねえ、都合よく妹がいないからこの際また訊くけどさ」

女姉「どうして別れないの?このままじゃ死んじゃうよ!?」

女母「あの人には…私が……」

女姉「このお人好しッ!!!」

女姉「何?意味分かんないっ。どうして傷つけられてもあんな人支えようとするの?」

女母「昔は、あんな人じゃなかったの…」

女姉「昔は昔でしょ!!」

女姉「お母さんがアイツを庇うせいで私と妹が傷付いてるじゃん!それはどうするの?」

女母「私が、一人で…」


女姉「ああ…もう……!お母さん一人袋叩きにされてれば万事解決?変だよ!!」

女母「何もずっとこうしようとしてる訳じゃないの。ただ今からじゃ私はあなた達二人を養う自信がない……!」

女姉「いいよそれくらい。私すぐ働くし」

女母「あのね…」

女姉「それなら文句ないでしょ!ねえ早く別れよう!」

女母「あなた達二人とも私に着いていける保証なんてないのよ……」

女姉「ある!私と妹自身の意志があるもん!ねえだから早く別れて、今すぐにでも!」

女母「落ち着いて、お願いだから…」


部屋

女(ごめんね、お姉ちゃん)

女(私起きてるよ)

女(そうでなくてもそんな大声出してたら起きちゃうよ、本当に後先考えないんだから)

女(扉の隙間から、リビングに響き渡るお姉ちゃんの懇願)

女(重い)

女(この会話は昔聞いた覚えがなかった)

女(今回、この二人の話は聞くべくして聞いたんだ。偶然なんかじゃない)

女(そのために、多分私はここに来たんだから)

女(だから、ね)

女(私……勇気出すから)

ドンッドンッ

女「――」


女姉「――」
女母「――」





女母「今日は…」

女父「ああ、それでいい」

女姉「……」

女父「何だ今日はお前夜更かしじゃねえか」

女姉「普通じゃん。そういう年頃なんだし」

女父「たーっ、んっとに生意気になったもんだ…」グビグビ

女母「今日はもう疲れ切ってそうだから休んだらどうなの」

女父「まーだ数杯飲むまでは寝れるかよ」

女姉(出た)

女姉(いつもそうして杯を重ねてく)

女「お姉ちゃん」

女姉「ちょ、アンタどうして!まだ起きてたの?」

女「夕方に寝過ぎたから起きちゃった」


深夜2:00


女父「……」ボーッ

女姉(マズい)

女姉(もう様子からして、きてる)

女姉(妹寝かさなきゃ)

女(二時…)

女(そろそろお父さんが…)

チッチッチッチッ

女(来る)

――ガシャンッ!!!

女姉「!!」
女「……!」
女母「…」

女父「うぉおッい!!そもそもお前なあ!……」





ガシャンッ

ガタッ

パリーン

女(重なってく)

女(今見えてる光景と、記憶が)

女(フィルムを合わせていくように…)

パリーン

ガシャンッ


『……ッ!』

『――!~~!?』

『……、…………』

『ーッ!……!!』


女(私はこの時お母さんを庇って)

女(そしてお父さんの矛先が私へ向けられて)

女(それ以来、一番の重荷を背負う役目は私になったんだ)

女(お母さんはそれを見かねて)

女(ついに、別れようと決意をした)


女(でもそれは決してハッピーエンドじゃなかった)

女(四人でいる最後の晩、)

女(お父さんはこれまで以上に頭に血が上って、)

女(とうとう)



女(お姉ちゃんを、殺したんだ)


女(殺されたといっても、命を落とした訳じゃないけど)

女(……植物人間なんて、殺されたも同然だ!)

女(私はそれを友人くんや男くんに打ち明けることができなかった)

女(あまりにも陰惨な過去だったから)

女(だから私は今ここで)

女(元の世界で胸張っていられるように、)

女(過去を、変える!)





女(ここでお父さんを――!)

女(コロシテヤル!!!!!!!!!!)

ドクン

女「――え?」

ドクン

ドクン




ドクン





男「」


男「――ん」

男(ここは、どこだ)

男(また何も見えないし、聞こえない)

男(くっそ冗談じゃねえぞ海パン、また逆戻りか?ふざけんじゃ……)

ニャー

男「」ビクッ

男「い、いたのか……お前」

ニャー

男「海パンとは話せないの?」

ニャー

男「コンタクトは無理なのね」


男「ん……」

男「目が…耳が……」

男「戻って――ここ……は?」

ワイワイ

ガヤガヤ

キャーキャー

男「……」



男(教……室?)


男「教室……」

男「おいこれどういうことだ海パン……!」

男「……ニャース?」

男「消えやがった…」

『何ぶつぶつ一人で喋ってるの?気持ち悪いぞー!』

パシッ

男「痛ッ」

男「紙ヒコーキ?……よくやってたなあ」

『うわ、何お前どうしたの?本格的に気持ち悪いぞー!』

男「誰が本格的に気持ち悪いだあ……。ここ…」

ワーワー

男「チビばっかだな」


『お前と大して変わらねーよバーカ!』

パシッ パシッ

男「ああくそ鬱陶しい…」ポイッポイッ

男(目線は同じ…)

男(身体……縮んでるぞ!)


男(ここ…小学校だ)


男(時を遡ったのか)

男(そして小学校…)

男(なるほどね)

男(海パンが言ってた『負を拭い去れ』ってのはこのことか)

男(と分かれば)

男(今俺の学年……いくつ?)

男(こいつらの身長からするに……ああ目線が同じだから客観的に見にくい)

男(小五ってところか?)

男(今休み時間だよな)

男(教室出て札見ればいいか…)テクテク


『男、トイレかー?』

『行かせるかー!!』

パシッ パシッ

男「ふん、紙ヒコーキが何だ。こちとら元の世界でcクラスの極ワル筋肉にボコされ、その後異世界っぽいところをさまよってきたんだ」

パシッパシッ

男「いくらストローな俺でもこの年頃ならそう身体に大差もなし…」

パシッパシッ

男「そう、今俺は何も恐れる必要は…」

パシッ パシッ
パシッ パシッ

男「必要は……」

パシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッパシッ

男「どんだけ作ったんだ!!!」


キーンコーンカーンコーン…

男(くそ…凄まじい数の紙ヒコーキでクラス札の確認すら出来なかった)

男(ストローじゃ、紙ヒコーキには勝てないのか)

男(……泣いちゃだめだ)

先生「始めるぞー1時間目は……」

男(ん?そうだ、問題のレベルから見抜けば何も問題ないじゃん)

男(いっそ難しい問題ガンガン解いてって、他の奴らを見下してやるふふふ)

男(そうすればイジメも解決するかもな)


10分経過

男(…………?)

男(何だこの方程式みたいなの)

男(ヤバい、解けない)

男(くそ!なんでだ!今までで一番の『なんでだ』!)

男(いや、まあ、で、でも時が経てば小学校の問題も解けなくなるのも仕方ないよな、忘れちゃうもんよ)


キーンコーンカーンコーン…

四時間目終了

男(・・・・・・・・・・・・・・・。)

男(まともに出来たのは漢字ドリルだけじゃんか)

男(漢字ドリルって響きがまた懐かしい)

男(……懐古に浸ってる場合じゃない)

男(クラスクラス)


『男がトイレ行くぞー!』

『やれー!!』

ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ

男「!!」

スパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ

『何!?』


男「またつまらぬものをはたき落としてしまった…」


男(……やっぱり小五か)

男(あの漢字小五で習うのかよ……日本人のレベルは高いな!)

?「ねえ」

男「わっと」

?「ちょっとどいてくれない?」

男「ごめんごめ――っ!!?」

男(この子……!)

男(間違いない、初恋の子だ)

男(い、今でもドキッとくるもんだな。相手の姿小学生なのに)

娘「どいてってば。給食の時間なんだから配膳台用意しなきゃ始まらないでしょ?」

男「ご、ごめん…」

男(何たじろいでんだ相手は小五だぞ)

男(凄いツンツンしてるし、おっかないな)




『いただきまーす』

ワイワイ

ガヤガヤ

男(で、この子とは同じ班か……)

男(名前は、娘)

男(でもあまりに端正な顔立ちで外国人っぽいって理由から、名前まるっきり無視してアリスとか呼ばれてたっけ)

男(俺が見惚れる相手っていつもレベル高い人ばっか……高望みだよなあ)

男(これじゃ一生恋人なんてできません)

娘「ちょっと」

男「な、何」モグモグ

娘「こっちジロジロ見ないでよね」

男「ごめん…」

男(迫力…)

男(女ちゃんとはタイプがまるで逆だ)




『体育だー!!』

『メンドクセー!』


男(面倒臭そうにしてる奴らもずいぶんテンション高いな。はしゃぐな小学生か…)

男(ああ小学生か…)

男(にしても給食挟んで体育ですか)

男(俺頭悪いけど文系人間だからもう体育はこりごりなんだよね)

男(小学校の体育って何してたっけな)

男(よく覚えてないけど足速い奴が何故かやたらとモテるのが小学校ってのは記憶に残ってる)

男(まさかまた鬼ごっこやらされたりしてな)

男(はあ…鬼ごっこ……)



男(――早く高校生活に戻りたいなあ)


校庭

ワーワー ワーワー

『でりゃあ!!』ヒュッ!

『うわあ!』バシッ!


男(ドッヂボールかよ!)

男(缶蹴りやりたかったな)

男(体育で缶蹴りはやらないか)

男(そういや俺鉄棒だけはめちゃめちゃ上手かったんだよな)

『オイ行ったぞ男ー!』

ヒュッ


男「よっ」パシッ

『うお!』

『あのモーションからいとも容易くキャッチとは……』

『あいつそんな運動神経良かったっけ』

男(これは…楽しいぞ)シュッ

ヘロヘロ

『投球はヘボい!』

男(あれ…何でだろ)

男(そうか。俺ノーコンなんだっけ)


キーンコーンカーンコーン…

男(ふう)

『おい!お前あのキャッチ格好良かったぜ』パシッ

『投球もちゃんとしろよ!』パシッ

『お前俺の目の前でガード役になれば守護神と投球王で最強タッグになれんじゃね?』

ワーワー ワーワー

男(紙ヒコーキの時から違和感はあったけど…)

男(まだイジメというよりはいじられってレベルだな)

男(そっか、俺そういう立ち位置だったんだっけ)

男(……つまり)

男(アレは……まだなのか)


娘「ねえ」

男「……ああ、娘さん。どうしたの」

娘「…………」

男「?」

娘「な、何でもない」スタスタ

男(昔あんな変なところ見せたっけ?)

男(時を遡っても、何もかもが同じモーションで再度プレイされる訳じゃないんだろうしそんな事もあるか)

男(これで午後も終わり…放課後はどうするかな)

男(まあ、まず帰るんだよな)

男(帰る…?家に?)

男(家に……)


男(この時空に来てから始めにいた場所が小学校だったから余計……緊張する)

男(小五時の我が家……)

男(例えば17の奴が小五時代を振り返って、家族の雰囲気がまるで違ったかって話になったら、そう頷く奴は多くないと思う)

男(家は大きく変わった)

男(おかげでアイツはあんなだし)

男(親父は今も昔もまともだけど)

男(寡黙だからなあ……友人と一緒で距離感が上手く掴めない)

男(思えば大人が苦手だと思い始めたきっかけは実の親父だったのかも)


男宅前

男「……」ソローリ

男「」ドキドキ

男(入る…か)

男(よ、よし……!)

男(ここでストロー根性を)

?「あらぁ、男くん!」

男「!」ドキーン

男「あ、ああ……」

男(近所のおばさんか。少しだけ若返ったな、少しな)


男「hさんこんにちは」

h「はいこんにちはー、今日はこの後友達と遊ぶの?」

男「まあ、そんなところです」

h「そっかあ。楽しんでらっしゃい」

男「どうもです」

男(驚かせるなよ…声大きいんだあの人)

男(さて。今度こそ家に……)



「あら、男ー!おかえりー」



男「」


「どうしたの?今日は汗びっしょり。体育でもしてきたの?」


男「…………」


「顔もどことなく青ざめてる気がするけれど、大丈夫?」


男「…………」


「脚まで震えてる。そんなにバテバテになるまで遊んだの?」


男「…………」


「喉乾いた?暑い?ジュースもアイスもまだたんまりだから遠慮せず食べなさい」


男「…………」


「男?」


男「…………」






男(声音で分かる、親密に言葉をかけてくれていることが)

男(表情で分かる、何も俺に取り繕ってなんかないことが)

男(言葉で分かる、今心から俺に対して気を配ってることが)






男「た…だいま……」

おかん「――おかえりなさい」

男宅 リビング

おかん「」バタバタ

男「……」

おかん「」セッセッ

男「……」

おかん「どうしたの男?今日はやけに大人しいじゃない。昨日よりは暑くないと思うんだけどねえ」

おかん「そ、それとも。誰かにイジメられたりしたのかい?」

男「い、いや…疲れたから眠くて」

おかん「ここで身体大の字にして眠るんじゃないよ、まだ少し掃除しなくちゃいけないから」

おかん「部屋戻りなさいな」

男「うん…」


男(ここが…家……)テクテク

男(たかだか数年振りなのに、まるで別の家にお邪魔したような新鮮味がある)

男(片付いてる)

男(この部屋は確か怪しげなグッズが山ほど保管されてるとこだよな)ガチャ

カラン

男(……物が、少ない。すっからかんだ)

男(少なからず置いてあるものも、清掃用品や古本、洋服に家具……)

男(まともだ)

男(まともな我が家だ)

男(もう吸う空気さえ違って感じる)

男(懐かしい…)


20:00 夕食

おかん「いただきます」

男父「はいいただきます」

男「いただきます…」

男父「今日の男は何というか覇気がないように見える気がするんだが」

おかん「それが聞いてお父さん。男ったら今日ギニュー特選隊に任命されちゃったらしくて」

男「どうしてそこでギニュー特選隊が出てくるんだよ!あと俺をあの化け物五体のプラスαにするんじゃねえ!」

おかん「元気じゃない」

男父「あまり口から物を飛ばすんじゃない」

男「あ、ああ…ごめん。なさい」



男(こういうやり取りは昔からしてたっけ……?)

男(あれ?)

男(じゃあ元の世界のあいつは…何だ)


学校

キーンコーンカーンコーン…

『起立ー』

ガタタタッ

先生「おーい」

先生「おーい、どうした男」

男「あ、す、すみません」ガタッ

先生「具合でも悪いのか?」

男「大丈夫です、至って健康です」

男(最近ちょっと元気なさそうなところを見せるとすぐ身を心配されるような気がする)

男(まあ常套句というか、パターンというか、当たり前の気遣いというか)

男(でも、いざ数年振りにそれをやられると)

男(不意に、来るんだよな)


男「……」

男(待て、俺はこんなボーっと過去の日常を過ごしていくつもりは毛頭無いぞ)

男(早く対策を打たないと)

男(でもなあ)

男(そもそものいじめの発端は…)

男(受動的な事件がきっかけで自発的にしたものじゃない)

――20xx年、xバスジャック事件

――あの主人公は、君だね


男(主人公……ね)


娘「ねえ」

男(……。……、…)

娘「ねえ」

男(……、……~~)

娘「ねえ!」

男「うあっ!」ガタタッ


男「ど、どうしたの…」ドキドキ

娘「何?私のこと嫌いなの?」

男「へ?」

娘「え、いや。そういう意味じゃない!」バシッ

男「ぐぼぁ!」

娘「そんなに無視することないじゃないってこと」

男「少々考え事を…」

娘「ふうん。ま、どうでもいいけど。それより、修学旅行のしおり作成の件、アンタと私になったから」

男「修学旅行…?」

男(修学旅行は小六じゃなかったか)

男(ああ、ここは中学受験に気合い入れる奴が多いから一年早めてるんだっけ。忘れてること多いな本当)

男(……)

男(本当、怖いくらいに忘れてる)

娘「で、作業。今日からだから」




男「…………」

娘「……アンタ、絵下手ね」

男「僕ドラえもんしか描けないよ…」

娘「じゃあドラえもん描けばいいじゃない」

男「しおりの絵描くところ全部ドラえもんにするの?」

娘「高揚感が増さない?」

男「増さないんじゃないかな…」

娘「でも馬鹿は釣られるじゃない」

男「そういう考え方は良くないと思うよ!」

娘「アンタも馬鹿だからドラえもんなんでしょ」

男「だからドラえもん『しか』描けないんだって!馬鹿関係ないよ!馬鹿なのは本当だけど!」

娘「絵描き歌ってあるよね」

男「ま~る描いて……歌わせないでよ!」


2時間経過

先生「やってるね」

娘「先生、荷物リストはこんなところですか?」

先生「……うん、うん。良いと思うよ」

娘「ありがとうございます」

先生「絵はドラえもんか」

娘「まあ」

先生「このドラえもん…」

娘「……」

先生「上手いねえ」

娘「!」


先生「誰が描いたの?」

娘「私です」

男「僕です!!」

先生「国民的キャラクターだけど、なかなか思い浮かばないチョイスだよね」

娘「お褒めにあずかり、光栄です」

男「僕が選びました!僕が!」

娘「ドラえもんは素晴らしいですよね」

先生「そうだね」

男「さっきと言ってること全然違うじゃねえか!」




娘「今日はこんなところでいいかな」

男「一緒にやってて思ったんだけど、娘さんって完璧主義だよね」

娘「そう?」

男「うん」

娘「まあ…そういう育て方をされてきたからかな」

男「そう…」

男(多かれ少なかれどこの家庭も面倒を抱えてるんだな…)

男「それじゃあ僕はこれで」

娘「待って」

男「え?」


娘「アンタ、その、」

娘「少し楽しい」

娘「……と思う、」

娘「かも」

娘「ちょっとだけ」

男(どんどん僕の楽しい比率が減っていくなあ)

男「どうせならここまで進めたかったね」

娘「アンタの家学校からものすごく近いんでしょ」

男「まあ……確かにものすごく近いと思う」


男宅

おかん「麦茶でいいかしら」

娘「麦茶大好物です」

男(麦茶大好物な小学生なんていねえよ普通)

娘「にしてもあれよね」

娘「どうしてここの学校は運動会や修学旅行といった行事の時期が他の所と違うのかしら」

男「運動会は天候の問題で……修学旅行はどうだったか」

娘「進めてる?」

男「一応…」

おかん「にしてもあれよね」

おかん「まさか息子が小五にして」

男「その先は何も言うなよ!分かってんだ、パターンだからな!」

おかん「セッk」

男「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおううううううううい!!!!!!!!!!」




娘「」カリカリ


男(何だろ……初恋の相手だから、この時空に来てから初見の時はドキドキしてたのに)

男(今は胸がザワザワする)

男(嫌な思い出とかあったかな)

男(……小五から変わったんだ)

男(一番嫌いな時期だ)

男(そんな時のことなんて、もう記憶から飛んじゃったよ)

男(でもこういう時の予感は覚えていた方がいい)

男(後々命取りになるからな)

娘「……もう帰る」

男「こっちもノルマは終わったよ」

娘「じゃあ、また明日学校で」

おかん「またおいで」


修学旅行当日


先生「荷物は確認したかー」

『『『はーい』』』

先生「今宵その手中に納める想い人へターゲットを絞ったかー」

『『『はーい』』』

男「はーいじゃねえよ!お前らあのクソオヤジが言ってる意味分かってんのか!」

先生「んじゃ荷物の係員さんに渡して順番に乗り込むようにー」

ワーワー ワーワー

男(……それにしても小五に戻って修学旅行ですか。コ〇ンにでもなったような気分だな)

男(小五の修学旅行って何があったっけ)

男(…………)

男(?)



男(……いくら何でも忘れ過ぎてやしないか、俺)


ブロロロロロ

『――♪』

男(ああ流行ったなーこれ……。時を遡るとこういう感覚に何度も陥ってしまいがちだな)

男(バスのガイドさんの言葉は最初の内はよく聞くんだけど、途中から耳に入らなくなってついには寝るんだよな)

『次しりとりな!』

男(いくら小学生でもしりとりは退屈だろ…)

『三秒以上詰まったら一発芸な!』

男(急激に難易度が高校レベルに!!)


『じゃあ男からな!』

男「俺から?り、りんご!」


『――!』

『………、……』

『~!?』


男「ああ、眠…」ウトウト

男「……」

男「」スー

《バレなきゃいーんだよバレなきゃ》

《日頃から不自由してるんだ一万や二万どうってことないだろ》

《責任は俺を育てた親たちにある。無責任に離婚してガキ苦しめるんじゃねえよ》

《なんで俺ばかりがこんな惨めな思いしなきゃいけないんだ。家庭環境がどうしたってんだよ。当たり前に皆と同じことが出来ないなんて……!》

《親父は俺を殴らない。意味分からねえよ思い切りブン殴ってくれよ、殴られない方が余計に痛いだろうが!!》

《こんな居場所ごめんだ!!!》

《もうお母さんが傷つく姿は見たくない》

《いつもお姉ちゃんばかり辛い目に当たっていって……本当は全部知っているのに。私は無力だ!!》

《今日の運動会。二組の友達のお父さんが凄く格好良かった。五組の友達のお父さんもおおらかで優しそうだった。それに比べて家は――》

《ねえ?どうしてそんなにぶつの?何がそんなに気に入らないの?怒るくらいなら出て行け!!》

《支えが欲しいよ……》

《痛い……、身体中、痛い…………》

《あなたがいるから皆が壊れるんだ!いなくなっちゃえ!》

《コロシテヤル!!!!!!》


男「――!!」ガバッ

『わっ!……お、お前大丈夫か?』

男「今……」ハァ…ハァ…

『汗酷いぞ』

男「あ、ああ。少しおっかない夢見ちゃって」

『旅行中なんだからもっと楽しもうぜ』

男「もちろんそのつもり」




男(……今の声。友人と女ちゃんだ)

男(ただの夢なんかじゃない。そもそも別の時空で見る夢なんか何かあるに決まってる)

男(二人はそもそも今どうしてるんだ)

男(俺と同じように時を遡って、やり直すことに専念してるはず)

男(悲痛な叫び…嘆き…)

男(感情が、直接心になだれ込んでくるような)

男(息苦しい……)


男(修学旅行なんて展開になるから少し有頂天になってたんだ)

男(自分の心配しかしてなかった)

男(二人の負の感情はごくありふれていて、でも深くて暗くて、それでいてとても強かった)

男(セカンド…ステージ……)

男(俺たちは、何かで繋がっているんじゃないのか)

男(……)

ニャー

男「」バッ

ニャー


男「お、お前……」

男「馬鹿、人の頭の上乗るな」

ニャー

男「ご、ごめん。飼い猫が鞄の中に紛れてたみたいで、今どかすから」

『……?何言ってんだお前』

男「いや、だから頭の…」

『頭何か付いてる?猫って何?』

男「…………何でもない。寝ぼけてた。さっきまで熟睡してたんだ」

『次の目的地到着近いんだからあんま寝るなよー』


男(お前……俺以外には見えてないのか)

ニャー

男(ただの猫なのか。もう信じてやるが魔法というものがあって、それで何か細工を施された猫なのか。それとも……この猫が不思議な存在なのか)

男(お前は何だ。俺にとっての何だ。監視役か?話せるんだろ?)

ニャー ニャー

男(よく見るとこいつ…)

男(生き物の目をしてない)

男(猫の姿をした何かか……?)

娘「ねえ!!」

男「うお!」ガバッ

娘「一人考え事するのはいいけど、のめり込み過ぎると周りが見えなくなるわよ」

男「……ごめん」

娘「着いたわ」

見学地

ワーワー

『写真撮ろうぜ写真!』

『おい、こっち見てみろよ!』

『あいつどこ行ったー?』

『集団行動だ!集団行動!』

『ねえ、今回の修学旅行……fちゃん、賭けてるみたいだよ』

『ええー、mくんでしょ?流石に無理っしょー』

『あいつ顔は良いんだけど性格がなあ』

『もし付き合ったらさ…』

『そういう色恋の話もいいけど……』

『――――!』

『……、』

『っ』

『   』




男(呑気な奴ら…)

男(まああれが普通か)

男(……)

――コロシテヤル!!!!

男(女ちゃん…)

男(俺の記憶では……いや元の世界での授業公開日で始まった友人の話)

男(俺はとても表に出せる悩みじゃなかったけど)

男(女ちゃんも、相当辛いこと抱えてたんだな)


男(高嶺の花だった)

男(天使だった)

男(笑顔が眩しかった)

男(話してるだけで元気が貰えそうな、そんな人柄に思えた)

男(本当、花みたいな人で)

男(生まれてから汚れたものに一切触れたことが無いんじゃないかって)

男(でも違った)

男(彼女の両手は真っ黒だった)

男(心は傷だらけだった)

男(多分……、体も)

男(俺は何も女ちゃんのことを知らない)

男(でもそれは仕方がない)

男(けれど)

男(せめてこんな形で彼女を知りたくはなかった……)


男(そういえば二人の声や感情が伝わってきたのは……これはどういう理屈だ)

男(異世界を通じて感じ取ったのか)

男(違う。非常識に非常識を塗り重ねて思考を止めたら負けだ)

男(そうだ、ツールのようなものがあるはずなんだ)

男(何か……)


娘「ねえ」

男「…ん?」

男「今一度で反応できてた?」

娘「…………もうバス戻る時間」


――そもそものいじめの発端は

――受動的な事件がきっかけで自発的にしたものじゃない

――20xx年、xバスジャック事件

――あの主人公は、君だね

――暑い中ご苦労様です、殺人犯



男(ピースは揃いつつある…)

男(後は抜け落ちた記憶を取り戻せればいいのに)

男(くそ、何だよショックで忘れるって。情けない…)


男(起こってからじゃ遅いんだ)

男(きっかけを作ったらもう終わりだ)

男(それじゃ脚本は書き替えられないんだ)

男(思い出せ)

男(思い出せ!!)

ニャー

男(……!)

ニャー

男(そうか……お前)

ニャー

男(ちょっと、悪いな)


ザザ…ザザ……

ピ――……ガーッ

ザッ……ザザ…


男《》

男《…》

男《……》

男《ビンゴだ》

男《あいつは、監視役でも飾りでもなくて》

男《きっと、案内人だったんだ》

男《フラッシュバックが起こった時からこいつの声が聞こえた》

男《異変が授業公開日からだったと仮定しても、やっぱりあれは俺の記憶では事実でしかない》

男《あの時にこいつはいなかったし、声も聞こえなかった》


男《海パンと出会ったのがその翌日》

男《あいつが魔法使いか何かなら、ニャースに仕込みをするくらい出来るはずだ》

男《俺に記憶を見せ》

男《友人と女ちゃんがいたあの家へ案内し》

男《次に曰わくセカンドステージらしい、自分の過去へ案内した》

男《この猫が案内したファーストステージは、まあ異世界といって差し支えないんだろう》

男《そしてセカンドステージは過去、タイムスリップしたとでも思えばいい》

男《そして今俺がいるテレビのノイズ混じりの光景》

男《最初に見たフラッシュバックの原理と同一のもの》

男《その……はず、だ》

男《なら俺は》

男《人の命を……奪ったのか…………?》


男《この猫には不思議な力がある》

男《もしかすると、二人の声はこいつを通して届いてきたのかもしれない》

男《そして俺がこれから見る映像は…》

男《抜け落ちた記憶の欠片》

男《それを埋めて俺は始めて過去をやり直す武器が揃うんだ》

ザッ……ザッ…

ガガッ…

ザザ………

――のか!

――え……のか!

男《ノイズが酷くて見えづらいし聞こえづらい……》

――お…の……か!



――お前の親父が書いたのか!




友人「おい男」

男「何」

バキッ

ガッシャーン ガタガタ

男「痛っ……く、何すんだ!」

友人「よくも裏切ったな」

男「……は」

友人「トボけてんじゃねえよ!!!!」

バキッ バキッ バキッ

『……ねえちょっと、あの仲の良い二人が殴り合ってるわよ』

『殴り合ってるっつうより、一方的に殴られてるだけどな』

『ははは。おい見ろよあのざま』

『ついにたった一人の友達にもそっぽ向かれるなんてな』

『化けの皮が剥がれたんでしょ』

『一人が良いならなんでここいんのあいつ?』

『つうかさ、』

『『『お前、邪魔』』』

バキッバキッバキッ

バキッバキッ

バキッ




男《違う!!!》




男「待てよ!」

女「嫌っ!来ないで!」

男「どうして駄目なんだよ!俺にはもう誰もいないんだからさ、いいじゃないか!一人くらい!せめて、いやもう友達とか、いらないから、女ちゃんが、女ちゃんが!」

バキッ

ドタッ

男「……痛…」

体育教師「何してんだお前」

男「いや、その……」

体育教師「いや、そのじゃねえよ。何してたんだって聞いてんだよ聞こえないの?」

男「いや、俺……」

体育教師「ああ!ハッキリしねえ奴だなお前はッ!!!」


バキッドカッ

ドカッドカッドカッドカッドカッ








ドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッドカッ





男《違う!!!》




ププーッ

男「うあああああああああああ!!!!!!!」

男「」ゼイ…ゼイ…

男「ここは…」

男「……!」

男「うッ…ぷ」

男「ウォエ…………ゲホッ」

男(バスの……中…)

男(床は…血だまり)

男(おまけに…いや当然……死体)

男(刺殺か…?)

男(誰が…)

男「……!」

男(ま、窓……)

男(お、俺……?)

男(俺……なのか……。この惨状を作ったのは)

?「おい」

男「え?」


グサッ

バタッ



…………。





男《違う!!!》




タタタタタタタタタタタタ

男「あれ…」ゼイゼイ

男「何で俺……走ってるんだろ」

男「これ、うわ。確かずっと欲しがってたサッカーボールじゃん」

男「よし。サッカーするか」ゼイゼイ

男「しかし疲れたな。公園辺りで休んでそれからサッカーを……」

男「いや、一人じゃサッカーは……」

男「……あ、あれ」

友人「」

男「おーい!サッカーだ!サッカーしようぜ!友人お前、確かサッカー大好きだったよな」

友人「……」

男「あれ…なんかお前デカくなったな急に」

男「いや…あれ……俺、なんでこんな縮んでるんだ」

男「なんで…」

ポン…

男「」ビクッ

?「ねえボク」

男「は、はい…あ、あんた」

?「それ、お金ちゃんと払った?」

男「そ、それ……?」

?「払った?」

?「ねえ?」



男《……これだ》




男「おいこらババァッ!!」

《ど、どうしたの。さっき昼食はちゃんと》

男「俺は麺が食べたいって言ったんだ!老化が早いんじゃねえのか?何だってチャーハンなんかつくってくれてんだよ!」

ガシャンッ パリーン

《ごめんね…母さん今から作り直すから》

男「もう遅えよ!馬鹿じゃねえの?もういい、自分で食うから」

《じゃ、じゃあ…はいこれ。これで好きなもの食べてきな》

男「……えよ」

《ん?》

男「少ねえよ!!!」

バキッ

《……ッ》

ポン…

男「」ビクッ

男「さ、サッカー…ボールは……?あれ?俺……?」

?「やりすぎだ」

男「……父さ、」


バキッ



バキッ



バキッ




男《……これも、だ》


男《思えばあのフラッシュバックはでたらめだったんだ》

男《心深くの恐怖の具体化、過去の事実、そういったものがごちゃ混ぜになって映し出されたものだったんだ》

男《そして》

――お前の親父が書いたんだろ!

男《父さんは数年前、副業として作家をしていたはずだ》

男《ほとんど口をきかなくなったのは創作に溺れ始めたからだ》

――あまり口から物を飛ばすんじゃない

男《今の父さんだったら……まず俺にそんな言葉なんてかけなかった》

男《異常になったのは母さんだけだった》

男《でも変わったのは両親の二人とも、だったんだ》


男《話作りに狂った親父は》

男《俺をネタにして、殺人事件を描いた本を出した》

男《タイトルは…》

男《xバスジャック事件》

男《出版日は20xx年》

男《しかも不幸に不幸は重なるもので、それは飛ぶように売れ》

男《小学生ですらちらほら読み始める奴も出てきて》

男《設定があまりに酷似してることから、俺だと断定された。主人公の名前はあろうことかそのまま俺の名前だった》

男《それが発端となって俺へのいじりがエスカレートし》

男《事態を知った父さんは、ほとんど言葉を交わしてくれなくなった》


男《家族間にうっすら壁ができたのはその時からだ》

男《父さんの件があって、俺に対して上に出る家族はいなくなった》

男《いじめのストレスのやり場は、まず家庭内だった》

男《友人と同じだ。もうえらい荒れた》

男《心配する母さんを平気で無視した。平気で殴った。平気で暴言を吐き出した。平気で金も取った》

男《家族で最後まで変わらずいたのは、他の誰でもない》

男《母さんだった》

男《その芽を踏み潰したのが俺自身だったんだ》

男《俺自身だったんだ!!》

男《距離は離れて》

男《いつからか、大きな壁ができた》


ッピ――――

ザザッ…ザザ……

ザザ……

男《ありがとう》

男《もういいよ》


――ブツッ



ブロロロロ…

男(なるほどな)

男(あの本をたまたま修学旅行時に誰かが持ち出していたんだ)

男(そこから、芽が生まれた)


男(だから俺はそれを潰すためにこの時空に送られてきたんだ)

男「……ねえ」

『え?どうしたの』

男「ちょっと本持ってない?」

『ああ…暇に備えて昨日買ったのが一冊。まだ読んでないけど』

男「少し貸してくれない?二日目には返すからさ」

『そんなに早く読み終えられるの?』

男「速読には自信があるんだ」

『まあ…いいけど』

男「ありがとう」


修学旅行初日夜・旅館

男「」コンコン

娘「はい」ガチャ

娘「っあ、男……!」

男「少し時間ある?」

娘「じ、じじじ時間……な、ないこともないけど…………でもその」

男「無いならいいんだ」

娘「い、今すぐ行くから!」

男「うん」


空き部屋

娘「勝手に入っていいのかなこんなところ……」

男「僕としては暗いし色々と都合が良いんだよ」

娘「!!?く、暗い所!?その……きょ、今日一日でそこまでいかなくてもいいと思うんだけど」ゴニョゴニョ…

男「僕さ」

娘「は、……はいっ」

男「娘さんのこと、好きだった。初恋だったんだよ」

娘「え、う、あ……」

娘「……『だった』?」

男「この先は何も言わないで聞いてくれる?」

娘「……」コクン

男「僕さ、もしこのままだったらいじめられっ子だったんだ」

娘「……!」

男「で、いじめが数ヶ月続いてエスカレートしていった頃合いに」

男「学校で球技大会があったんだ」


男「種目はサッカー。僕としてはサッカーは好きなスポーツだったから、高価なサッカーボール手に入れてまで猛練習して試合に臨んだ」

男「驚くかもしれないけれど、そのサッカーボールは始め店から盗み出してまで手に入れようとしたんだよ」

男「万引き。立派な犯罪だね」

男「短期間で上達なんかできる訳がない。でも気構えは練習前と後じゃ雲泥の差だったよ」

男「多分小学生時代で一番スポーツ頑張った瞬間だったんじゃないかな」

男「でもね」

男「周りはそんな僕を冷たい目で見てたんだ」

男「その時、君は」

――努力家だね

男「そう、言ったんだ」

男「初恋の相手に言われたんだ。それはもうショックで」

男「以来、もう他人を心からは信じられなくなった」

男「そうして高校生活を惰性で過ごした」


男「信じられない話だと思うけど、その高校生である僕が、今君の目の前にいる僕なんだ」

娘「…………」

男「だから、帰る前に言っておきたくて」

男「逃げだよね。実際、こんな摩訶不思議な現象がなければ告白なんて出来ないよ」

男「……まあ、こんなところ」

娘「……」

娘「じゃあ、あなたは……この時間からいなくなるの?」

男「うん」

娘「もう?今から?」

男「……うん」

娘「……あ、」


娘「あのね、あのね……」

娘「私、あなたを……信じます」

男「……ありがとう」


娘「それと…嬉し、かった……です」


男「…………うん」

娘「な、何であなたが泣いてるのよっ」

男「いやあ、嬉しくて嬉しくて…」

娘「いなくなる前に…一つだけ」


男「え?」





スッ…


男「……………………」

男「女の子にキスされたの、初めて」

娘「……私も、その、初めて……です」

男「……それじゃあもう行くから」

娘「うん」

男「今、凄く凄く苦しんでる友達が二人いるんだ」

男「腐った高校生活だけど、やっと見つけたかけがえのない居場所」

男「僕はこれから、命かけてでも助けにいく」

娘「……」クスクス

男「ど、どうしたの」


娘「他人なんかどうでもよくなったって言ってたけど」

娘「今は、そんなことなさそうだよ」

男「そうかな…」

娘「……私、」

娘「あなたの心に傷を負わせるようなことを言って、他人を遠ざけてしまうような人に変貌させてしまったことを謝りたい」

男「未来の話だよ。それに多分、もうその時間は書き変えられる」

娘「駄目」

娘「……」

娘「未来で逢ったら――」

男「!」

娘「お詫び、するね」

男「…………ありがとう…。待ってる」

男「じゃあ…、」



男「さよなら」


ニャー

男《この本……》

ニャー

男《抹消できるんだろ?魔法の力で》

ニャー

男《そのためにもお前はいるんだろ?》

ニャー

男《だから、お願いだ。燃やしてくれ》

男《俺の『ゲーム』はここでお終い。過去は塗り替えられる》

男《後は友達を助ける》

……ニャー

ボウッ!!!!

ゴゴゴゴ…

男「……さて、長くなったけど」

男「ストロー根性、見せてやる」





店員「まいどありー」

友人「……」ボーッ



男「ちょっと待ったあああああああああああああああ!!!!!!」

ガッシャーン ガラガラ

店員「わ!」

男「○をかける少年、参上!!」

男「にしても痛えっ……もう昨日今日でいい加減身体がズタボロだぞ……」

男「っつうかニャース!もっと上手く転移は出来なかったのかよ!……あれ?いねえ!」


店員「君大丈夫?……そもそもどこからでてきたの?何か今空間に穴みたいなものが空いたような」

男「友人!」

友人「……」ボーッ

男「友人!」

友人「…………」ボーッ

男「ええい!ストロオオオオオオオオオオオオ!!!!」

バキッ

ガッシャーン!!

店員「どわあああ」

友人「……痛ッ」


友人「あれ…お前。男!!どうしてこの時空に……あれ?俺そもそも買っちまってから家に帰って…」

男「ストロオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

友人「ぬぐああああ!」

男「ストロオオオ」

友人「待て!なんだなんだなんだなんだ!」

男「……目、覚めたか」

友人「まあ、おかげさまで。いや、お前なんでここに」


男「僕……あ、いや俺がせっかく苦労して来てやったのにそれか!」

友人「…………僕?」

男「さっきまで小学生だったんだよ!お前もさっさと身体戻して親と和解しろっ」

友人「お、お前解決したの?和解?ちょっと待って理解が追いつか」

店員「そこの君!」

男「やっぱ公の前で高校生が小学生相手に拳はまずかったか…」

友人「ど、どうするんだよ!」

男「おいニャース!」


ニャ‐





友人「ここ…は」

友人母「早く座りなさい」

友人「か、母さん?……ここ、さっきのアパートじゃねえ。マンションだ。あれ、男どこにいった。いや待てマンションてことはこの時空は」

友人父「……うるさいぞ、静かにしろ」

友人「!」

友人(そうか、あいつ…『ここ』に引っ張ってきてくれたのか)

友人(さっきの件で金のことはチャラだし何謝れば……)

友人(いや、そうでなくても暴力とかあったし、謝る以外に色々とこの父親には言わなきゃいけないことがある)

友人「と、父さん!」


友人「……っ」

友人「な、仲良くなろうぜっ!!!」


友人母「……!」

友人父「あ、ああ?」

友人「十年振りだ!元気だったかクソジジイ!シワ増えたな!眼鏡カッチョイーなそれ、老眼鏡?」

友人「俺さ、母子家庭でいる間に色んなことやらかしたんだ。正直母さん思い切りブン殴ってやったこともあった!理由なんかねえ!ただのストレス発散だ!」

友人「他にも……そうだ、金盗んだ!……つっても盗んでないことになっちまったんだがそこは謝らなきゃいけねえ!盗んだ!!二万!!諭吉二枚ドドっと!グイっと!」

友人「せっかく盗んだ金で買ったゲームだってのにこれがまた糞ゲーでよ!終いにはディスク叩き割ってやった!痛快だったね!」

友人「それとな!」


友人父「だあああああああ!!!!」


ドゴォッ


友人「ぐ……お。強え……流石元柔道師範…男が一斉に百人は殴りかかってきた感じが…」

友人父「貴様!十年振りの食卓だと思いきや何事だ!盗み?暴力?ちょっと来い!!!」

友人「ぐッ……え…………元の時空に戻る前に死ぬ……」

友人母「待って!暴力は少しあったかもしれないけど、盗みなんて…」

友人父「だああああああ!!!黙ってそこのすき焼き食べておけ!こいつは今ここで病院送りにする!」

友人母「待って!いくらなんでも」

友人「かかってこいやああああああ!!!!」

友人父「良い度胸だ、その顔失敗作のアンパンマンみたいな形にしてやるぞ!」





ドクン

《…は……だ》

女「……!?」

ドクン ドクン ドクン

ドクン

《それは駄目だ!!》


男「――ストロオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

パシッ

女「きゃあッ!!」フラッ


男「間に合った……」ゼイゼイ

男(流石にグーじゃ殴れなかった)

女「え?あれ?男くん?……どうして」


女姉「キャアアアアアア!」
女母「いやああああああ!」
女父「ぬおおおおおおお!」


男「それは駄目だ!むしろもっと酷い未来に塗り替えてしまうだけだ!何も胸なんか張れないぞ!」

女父「ォ、おおおイ!!お前どこから沸いて出て来やがったァ!」

男「俺は幻覚だ!あんたは酒の飲み過ぎで幻覚を見ているに過ぎない!」

女姉「何か今空間に穴が空いたような……?」


男「簡単なことだろ!何も難しいことはねえ!」

女「ぅえ……?」

男「いうなれば今の俺は上条○麻!!」

男「飲んだくれのオッサン程度なら…」

男「ストロオオオオオオオオオオオオ!!!」タタタタッ!!

バキッ

女父「ぐがッ……!」ドタッ

男「おいあんた!」

女母「は、ハイ!」


男「見るからにひ弱そうだし温厚そうだし俺と正反対で無駄に人が良さそうだけど……あんた強いんだろ?」

女母「は、はい……?」

男「ちょっと今の俺には魔法が使える猫が着いてるからな、対処法を考えるべくこの家族のことは色々調べさせてもらった!」

男「良いんだよ!遠慮するなよ!」

男「そのオッサン以外が殴りかかろうとすれば分かるはずだ、つまり現状では候補は俺一人!」

男「ストロオオオオオオオオオオオオ!!!」

女母「きゃ、きゃあああ」

バキッ

男「ぐがッ……!」ドタッ


女姉「お、お母さ――あ、あれ?」

女「…………???」ワタワタ

男「そら見ろ…。やっぱ強いんじゃん……いや俺も弱いんだけどさ」

女母「……」

男「あんたこのまま現状維持できると思ってるのか?それとも現状維持したところでどうにかなるとでも思ってんのか?」

男「どっちも答えはノーだ!あんたは家族内で誰よりも優しいけど、その代わりアホみたいに不器用だから、家族を守ろうとして却って家族を壊してるんだよ!」

男「先をもっと見据えろよ!もしこの飲んだくれの矛先があんた以外に向いた時はどうすんだ?守り切れるのか?いや、そもそも前提からして間違ってことに気付け高校時代偏差値47!!」

男「どうして攻めないんだよ!それだけの力も意志も理由も揃ってるだろうが!」

男「誰かを失ってからじゃ遅えんだよ!その甘ったれを払拭して、」

男「この飲んだくれに一発ブチかましてやれ!!」


女「……!」

女姉「……!」



女母「……誰だか知らないけど土足で急に家に乗り込んできて、」

女母「魔法の猫だとか訳の分からないことをぐだぐだと…」

女母「ガキの癖に偉そうに大人に向かって説教かまして…」

女母「一番腹立たしいのはその説教が私の中で何か響いたことで…」

女母「そして…私は……」


女父「……」

女母「結婚以来、初めてあなたに牙を剥くわ!!!」

ドドドドドド

女父「ぐがががががががが」


男「あれだけ真面目そうなあの人が高校時代の偏差値低めだったのは、あまりにスポーツやトレーニングにのめり込み過ぎて勉強する時間が少なかったからだそうだ。本当、不器用な人だよ」

女「男くん…どうして……」

男「ああ、理屈は説明しきれないや、また今度」


男「女ちゃん。これで過去は変えられたんだ」

男「多分このまま潔く離婚して、あのお母さんが臨む形の家庭になっていくと思う」

男「でもやっぱり現実は厳しいからさ、経済的なこともそうだし色々上手くいかないこともあると思う」

男「でも遠慮してちゃ駄目なんだ」

男「隠し事はよくないんだ」

男「人は自分から相手に好意を向けなければ、向こう側は振り向いてくれないんだよ」

男「そう都合良い世の中には出来上がってなんかないんだ」

男「家族とか言ってもさ、やっぱり他人は他人だからさ」

男「そういった考えは、実の親にも向けるべきだと俺は思う」

男「面倒がらずに本気でぶつかって、それでも意見が合わないならまた別の形を見いだしていけばいいよ」

男「家族って面倒だけどさ」

男「やっぱ家族だから」

フッ――――



男「」
友人「」
女「」


《おかえり。セカンドステージクリアおめでとうさん》


女「ここは…私の……家?」

友人「あ、あ……今全部思い出した!ていうかさっきの時点で男だと認識は出来てたんだけど、記憶から抜け落ちたピースがすっきりハマったっつうか」

女「私も…。そっか……、全部、終わったんだね」

男「思い出してくれて何よりだよ……」

《男くんは本当に大活躍だったね》

男「試練でも与えたつもりだったのか。ご丁寧にこんなもん寄越してさ」

ニャー

《まあね。それなくしてはどうしようもないからね》


――バンッ バンッ!!



友人「!」

女「うわっ何?」

男「ここは女ちゃんの家だ。初め僕がここに訪れた時、遠くから見てみると女ちゃんが……これまでの事情から察するに父親に、暴力を奮われていたところを見たんだ」

男「女ちゃんは過去を塗り替えることに成功したけど、まだ心のバランスが取れていないんだと思う」

男「ここはそういう世界だ。つまり、あれは記憶の残滓なんだよ」

《……ご名答》

男「つまり俺が倒れてからフラッシュバックを目の当たりにする以前から、既にこの世界の入り口に足を踏み入れていたんだろうな」

男「そこがどこからか分からない。授業公開日の翌日に目を覚ましてからか。もしくは、海パンのおっさんに出くわしてからか。後者が濃厚だとは思うけどね」


《んー、成る程ねえ。まあ普通はそう考えるよね》

男「……違うの?」

《聞いてなかった?これはセカンドステージ、だって》

《友人くん、君が今までにやったゲームの中でセカンドステージなるものをクリアして終幕を迎えるものが存在したかい?》

友人「……おい、お前」

女「おかしいよそんなの!だってもう全部終わったんだよ!」

《うん。終わったよ》




《君たち二人は、ね》

《良いものを見せてあげよう》


プツン――

ザッ…

ザザ……ザザッ


おかん《内容とは?》

体育教師《あ、はい。えー、雲行きが怪しくなってきましたよ》

おかん《授業公開日というまたとない聖なる儀式を無事に迎えるために、先日ここ一帯に結界を張らせていただきました。おかげで今日は雲一つ無い晴天なのですが?》

体育教師《ああー、雲行きとは天気の事ではなくてですね》

体育教師《状況ですよ》


男《これは……授業公開日の五限か六限の時か》


《繰り返すよ》


おかん《授業公開日というまたとない聖なる儀式を無事に迎えるために、先日ここ一帯に結界を張らせていただきました。おかげで今日は雲一つ無い晴天なのですが?》


男《……?》


おかん《授業公開日というまたとない聖なる儀式を無事に迎えるために、先日ここ一帯に結界を張らせていただきました。おかげで今日は雲一つ無い晴天なのですが?》


おかん《授業公開日というまたとない聖なる儀式を無事に迎えるために、先日ここ一帯に結界を張らせていただきました》


《君はこれまでの経緯を通して。どうだい?まだ魔法を信じないかい?まだ奇人変人たちの戯れ言だと思うのかい?》


男《…………いや》


《ふむ》

《確かに君のお母さんは、君との間にできてしまった壁を直視したくなくて、ややおかしい面を見せているところもあると思う》

《でもね。魔法が実在するかしないかなんて》

《それとはまた別問題だろう?》


男《……。…………》


《結界。授業公開日を迎えるために。これが何を意味するのか文系人間の君にならもう察しはついたんじゃないかい?》


男《授業公開日から……世界は…………おかしかった、の、か…》


《そう。そして》

《君のお母さんは君を強くしたいがために、その結界を用意したんだ。良い母親だよね》

《でも僕も同情するよ。今となっては君にとって大切になった一日が、君を強くするために作られた幻想だったんだから》


男《おい……何が言いたいんだよ……》



《――君のお友達二人はこの日のためだけに用意された仮想人間に過ぎない》



男「     」


《ファイナルステージだよ。頑張っておいで》







ニャー

男「」




男「……今度はどこ、だ」

男「…………?」モゾモゾ

男「」ガバッ


男「俺の部屋…のベッド」

男「家だ」

男「また別の時空に飛ばされたのか?」

男「……どうでもいい」


男「今度という今度こそ、もう何もかもどうでもいい」

男「何かが変われる気がした」

男「何かが変わった気がした」

男「でも…俺のあの居場所は」

男「友達は」

男「いや、おかしい」

男「そう簡単に肯定するな男」

男「授業公開日より前から友人とは関係があったし、女ちゃんともたまに話せてた」

男「……その記憶も、嘘だったら」

男「…」


コンコン

男「」ビクッ

『入っていい?』

男(……母さん、か)

男(声音からして、まともな時の)

男(というか異常時のあいつはノックなんかしないし、そもそも部屋に入ってくるはずがない)

男「……いいよ」

ガチャ

おかん「早く支度しなさい」

男(やっぱりまともな母さんだ)

おかん「朝よ、学校遅れちゃうでしょ?」

男「学校……」


男「」ガバッ

男(……身体は、これといった変化が見られない。今から近い時空なのか、それとも元の時空なのか)

おかん「どうしたの?」

男(い、いや。母さんが……あいつがおかしくなったのはここ数年の話だ。あの状態なら数年は遡ってるはずなんだ)

男(俺の身体がおかしいのか)

男(あいつがおかしいのか)

男(時空がおかしいのか)

男(……考え出したらきりがない、もう何でもありだとしたらどんな事象も否定はできない)


男「い、今行くよ」

男「ところでさ」

おかん「ん?」

男「う、うちの……『高校』ってさ、実のところ学費どうなの」

おかん「……学費?」

男「…」

おかん「ちゃんと払えてるし、金額の程度なら平均程度だと思うけれど」

男「そっか」


男(どういうことだ)

男(早速異変が…)

男(そもそも、あいつの言うファイナルステージとやらのクリア条件はなんだ)

男(ファーストステージは、多分フラッシュバックを乗り越えてあの家へたどり着くこと)

男(セカンドステージは、過去に遡って、負を払拭すること)

男(ファイナルステージは……?)

男(俺はニャースの力を借りて本の存在を無かったことにした)

男(つまり俺は小学生時代にいじめらずに済んだんだ)

男(…………これか?)

男(暴力も、万引きも無かったことになって)

男(家族が正常になったのか?)

男(だとするとますます分からない)

男(俺は今ここで何をすればいい)

男(そうだ、ニャース)ガバッ

男(……いない)


男宅 リビング


男「いただきます」

おかん「いただきます」

男父「いただきます」


男「…」モグモグ

男(……テレビを見ていても、元の時空に戻ってるような感じはする)

男(日にちは)

男(今日はいつだ)

男「あのさ」

おかん「――そういえば今日、授業公開日でしょ?」



男「」


おかん「違ったかしら」

男「そう……だと、思う」

男父「いい機会なんじゃないか、日頃どんな姿勢で授業に取り組んでいるのか見てくるといい」

男「と、父さん」

男父「どうした?」

男(…………その表情)


男「何でもない」


男宅 玄関


おかん「行ってらっしゃい」

男「……あのさ」

おかん「何か忘れ物?」

男「授業中に、武器とか持ってきたりしないの」

おかん「武器?」

おかん「……勝負パンツのこと?」

男「んなもん穿いてくるんじゃねえよ!普段通りでいいから!」

おかん「今日の男は少し変よ。取り敢えず走って登校して目を覚ましてらっしゃい。それともまた顔洗う?」

男「……いいよ」

男「行って、きます」

おかん「行ってらっしゃい」

高校正門前


男「……」


男(ヒントがあるとしたら、やっぱりここしか考えられない)

男(俺は信じないぞ)

男(海パンのメラゾーマもあいつの結界も猫の魔力も信じるけど、二人が仮想の人物だったなんて、それだけは絶対に信じない)

男(それだけは曲げてやらない)

男(じゃなきゃ、)

男(……俺は、独りだ)


『おーいおはよう、男』タタタタ


男「お、おはよう」

男(クラスメートだ)

男(こいつこんな俺に対して馴れ馴れしかったっけ)


教室


男「」


男(出席は、済んだ)

男(二人の名前はとうとう呼ばれなかった)

男(……くそっ)

男(これが現実なのか)

男(これが真実なのか)

男(これで俺が強くなったと思ったら大間違いだぞ)

男(これじゃ悪化だ)

男(もう……他人とはどうしたくもない)


キーンコーンカーンコーン…


『あのさ男、昨日の課題なんだけど…』


男(何なんだこいつ)

男(こいつもやけに馴れ馴れしい)

男(そしてその目は、本当に友達に対して向ける目だ)

男(演技だったら大したもんだよ)

男(……いや、演技であってくれ)


『――で、さ』


男(もう…限界だ)

男(気持ち悪い……)


バタッ

ガタタッ

保健室

『――じゃあ、ゆっくりしてろよ』パタン

男(……はは)

男(もしかすると、ファイナルステージってのは現実なのかもな)

男(だっておかしいだろ)

男(そもそも魔法なんか存在する訳ねえじゃん)

男(ここでは、俺にとっての辻褄が合わないことは多々あるけど)

男(少なくとも変態百一人衆の内、誰も俺の前に姿を現さないし)

男(ニャースも消えちまった)

男(魔法だとか言い出す奴もいないし)

男(ここを標準だとした時、不思議な現象はまだ何一つ起きてない)

男(俺が目を覚ました時はベッドの上だった)

男(あの二日間は夢で)

男(これが、現実…)男(いや、それだと矛盾が……)

男(矛盾?)


男(ははっ)

男(何が矛盾だ。夢だったんだよ、人生で最も長くて現実味のあったギネス級の夢)

男(夢なんだから矛盾もへったくれもないんだよ)

男(ほらよく言うじゃねえか)

男(夢は記憶の整理だとか)

男(――自分の憧れ、だとか)

男(あんな友達が欲しかったんだ)

男(身を挺してまで大切な友達が)

男(じゃああの両親は?)


男(俺が憧れる両親の姿はあんなものだったのか)

男(違う…)

男(駄目だ)

男(どうしても夢じゃ片付けられない)

男(諦めることも許されないのか…)

男(魔法は使えないし)

男(ヒントは皆無)

男(目的も不明)

男(難易度高すぎだろ)

男(とんだ糞ゲーだ)


教室 二時限目開始前

ガララ

『あれ、男もういいの?』

『何だよ体調悪いならもうちょい休んでおけば良かったのに。授業サボれるんだし』

男「俺、変なところで真面目だからそれは無理っぽい」

『はははは』

『お前昔からそういうとこあるからなあ、言えてるよ』

男(昔から……)

男(俺はあんたと昔から仲良くしていた覚えなんてない)

男(それは俺の記憶が抜け落ちているせいじゃなくて)

男(ここが現実じゃない、最後の試練であってファイナルステージだからだ)

男「始まるぞ授業」

『おっとと』

『準備準備』

男(古典……)

男(授業公開日、二時限目は古典)

男(女ちゃんがいたら、教科書共有閲覧タイムを堪能できていただろうに)

男(友人もいないし)

男(あの日を起承転結で考えるなら)

男(騒動はあいつ……母さんが学校に訪れてからだ)

男(でも今のところ校庭に石灰で魔法陣描いて真ん中で爆転している変態もいないし)

男(体育館で……)

男(そうだ、確か二時限目の古典の最中に)

男(体育館で暴れてる奴がいるって情報が)

ガララッ

男「!」

『おい!大変だ!』

『体育館だ!誰かが暴れまわってるらしいぞ!』

男「何ィッ!!?」


男「ちょいとお腹が!保健室に行ってきまーす!!」

古典教師「おいコラ男!真っ先に体育館に行く気を少しは隠すつもりでタイミングを見計らえ!!」


タタタタタタタ


男(ヒントだ、ようやくヒントが掴めそうだ)

男(ついに本性を表したかあいつめ)

男(きっと今頃は体育倉庫でカラーコーンを漁って、フレイムバードとライジングサンダーに見合うものを選んでいる最中ってとこだろう)

男(今朝の二人は演技で)

男(やっぱり正体は元の時空の二人のまま!)

男(でなければ、授業公開日が今回もまた一限ズレる事は起こり得ないはずなんだからな!)


体育館



『だからァ、反省してますって言ってるじゃないッスかあ!!』

『ふざけるな!そもそも校内に不要物を持ってくるんじゃない』

『ちょ、ちょっと止めなよe!そろそろ引き下がらないと休学か退学になっちゃうよ!』

『こいつの何を言っても聞かない絶対ルール厳守な態度が気に食わねえんだよ!!今回限りな、とか見過ごす気の利く教師だっているのによ!』

『全員の教師がそうなったら学校は崩壊だ!ルール厳守の何が悪い!!』

ワーワー

ガスッ ガスッ




男「」ハア…ハア…


男「……」

男「違った、のか」


教室


ガラッ

男「……」

『おう、戻ってきたか。どうだった?先輩が教師と乱闘してたんだろ?』

『……何か元気ないな。ショッキングなものでも見たの?』

男「今日」

男「授業公開日、二と三限のはずだよな。どうして一限ズレてるの」

『ズレる?もう普通に二限から授業公開始まってると思うんだけど』

『まあ誰も来ないしな、廊下でちらほら保護者見かけたけど、うちの教室に入ってくるような人はいなかったし』

男「そっか…」


男(授業公開日……来るって言ってたのに)

男(まさか来ないだなんて)

男(何か緊急の用事でもできたってとこか)

男(そりゃそうだ、高校生の息子の授業風景を二時間眺め回しているくらいなら、近所のババアと他愛もない話を麦茶でも飲みながら過ごす方がよっぽど利口ってもんだ)

男(となると)

男(今日は何も起こらないな)

男(まだ残された可能性としては体育の件)

男(cクラスの極ワル筋肉にぶっ飛ばされる事件だ)

男(でもわざわざぶっ飛ばされて何かヒントが出てくるとも思えないし)

男(分かっててぶっ飛ばされたくもないし…)

男(そうか。女ちゃんがいないなら奴が俺に絡んでくる理由もないのか)

男(……)

男(これじゃ平凡な一日じゃねえか)


学食


『今日の学食はいくらか保護者の人たちも混ざってるみたいだな』モグモグ

『今日みたいな日は生徒以外も使っていいみたいだからなーうちの学校は』

男「なーんか平凡というか平均的というか、本当普通な人ばかりで羨ましいというか…」

男「あの人とか」

『若いなー、俺の母さんよりずっと若く見える』

男「あの人とか」

『うお、格好良いなあ……父方が来てる家族もあるのか』

男「あの人と…」

男「か……」

『どうした?』

男「……このカレー、美味いなあと思って」


五限目体育 校庭

キーンコーンカーンコーン…


男「……」


体育教師「まずはランニングなー、校庭を三周しろ。列乱すなよ。あと声出せ、声小さかったら一周目からやり直しだからな」

一同「ハーイ」


イッチニーイッチニー


男「……」ゼイゼイ

男(精神的に凄い消耗してる気がする)

男(こういう時は一日が長く感じるんだよな)

男(しかも、平凡とはいえほぼ同じ一日をまた繰り返してる訳なんだから)

男(退屈もするわな)


体育教師「今日はソフトボールだ。先週と同じく二人一組になってキャッチボールを始めるように」

一同『はーい』


男(やっぱり鬼ごっこは無しか)

『どうした男?何やら古典の後から元気ないような』

男「眠くてさ……ダルいし。俺もともとサッカー以外、あまり運動好きくないし」

『ああ、そうだっけ。でも変な奴だよなあ』

男「何が」

『人にもよるんだろうけど、野球やサッカーやる奴って大抵スポーツ全般得意ってイメージあるからさ。サッカー好きで他の運動は苦手ってのも面白いなって』

男「かもな…」

『そもそもどうしてサッカー始めたの?』

男「え?」


男「それ…は……確か」


男 回想シーン


おかん「あんた、最近だらけすぎなんじゃないの」

男「どいつもこいつも夏休み中は旅行でさー。家も里帰りしようぜ里帰り」

おかん「里帰りの予定はあるけどまだ少し先の話でしょ」

男「里帰り早めてよ。やること無いし」

おかん「それがお母さんの方も今は家を空けているらしくて。ここで向こうに行ってももぬけの殻よ」

男「もういいよそれで」

おかん「わがまま言わないの」

おかん「あら」

おかん「サッカー見てるの?」


男「うん。見るもんないし。選手の名前とかチームとかルールも全く分からないんだけどね。見てる分には好きなんだよ」

おかん「実際にやらないの?そういえば四年生になったらクラブ活動始まるでしょ、何か好きなスポーツみつけておかないと」

男「クラブ?いいよダルいし。俺、運動そのものが苦手だし」

おかん「若い内は身体を動かしておかないと年を取ってから苦労するよ」

男「苦労って何」

おかん「例えば掃除中に足腰が……ああ今もいたたた」

男「掃除しないからいい」

おかん「……」


おかん「決めた!」

男「何を」

おかん「ちょっと待ってなさい。お母さんひと仕事してくるから」

男「よく分からないけど行ってらっしゃーい」

一時間後

おかん「ただいま」

男「おかえり」

男「……それ何」

おかん「見て分からないの、サッカーボールよ」

男「素人目に見ても安っぽそうなのだな……もしかして玩具コーナーで買ったの?」

おかん「サッカーするわよ!」

男「聞けよ!……だから、サッカーは見てるから楽しいんだって。家に籠もって勉強してる方が有意義に」

おかん「全くもう!これだから現代っ子は!」

男「うお、待てって離せよ!」


公園

おかん「行くわよ!」

男「くるなよ…」

おかん「それ!」バシュ

――――ギュオオオオオオオオオオンッ!!!!

男「うおおおおおッ!!!!?」

――――ドシュルルルルルルルルルル!!!!!

男「痛い!痛い!顔面削れる!!ベイブレードより破壊力が凄まじい!!」

おかん「ああ!大丈夫男!」

男「全然大丈夫じゃねえよ!これで俺の顔の片側だけ三センチズレて、『うっわお前の顔面曖昧三センチ』とか罵られたらお前のせいだからな!」

おかん「ごめんね男」

男「もう帰る」

おかん「男!」


翌日

男「……」

おかん「またサッカー見てる」

男「サッカーならやらないよ、僕は見てる方が楽しいんだから」

おかん「私は何が何でも男をプロに育て上げるつもりよ」

男「ふざけんな!ていうかあれだけのシュート力があるなら母さんがプロ目指せばいいだろ!」

男「テレビ越しで見てて、あからさまにお母さんって風体のパンチパーマがプロに混ざって試合してるところなんて想像しただけで興奮してくるぞ」

おかん「」ガシッ

男「うわ!」

おかん「強制連行」

男「待てよー!いーやーだ!!」

公園

男「」ムスー

おかん「そうふてくされないの」

男「俺はプロになんかなる気はないぞ」

おかん「あれは冗談よ、さあサッカーやるよ!」

男「嫌だ」

おかん「行くわよ!!」

男「待って!あのバズーカ砲は勘弁してくれ!!」


おかん「はあああぁぁぁ…」

ズズズズ…

ゴゴゴゴゴ……

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――……!!!!!!!

男「おい!おかしいだろこの音!!何が始まるんだよ!!!」

おかん「おかんシュート!!」ドシュ!


――――ギュオオオオオオオオオオ!!!!!……


男「うわああああああああ」


――――――――シュオオオオオオオオオオオ!!!!!


男「風を纏った!!」

ドシュルルルルル!!!!

男「ぐががががががががが」


男宅 リビング夕食時

男父「そのやり方は少々強引なんじゃないか。お前、時たま人間の限界を越えた力量を発揮するから男の身が持たないんじゃないか」

おかん「そうなのかしらねえ」

おかん「最近あの子ずっと鏡とにらめっこなのよ」

男父「どうして」

おかん「『顔面が削れてるかもしれない』って心配そうなのよ。きっと明日は部屋に籠もって鏡を見つめてるに違いないわ」

おかん「全く可哀想な子」

男「誰のせいだ誰の!」

男父「じゃあ、今度の日曜日に三人でサッカーしよう」

男「えええ」


そのまた翌日 公園

男父「少しでもモチベーションになればと思って、ちょっとまともなサッカーボールを買ってきたぞ」

男「……本当だ。まともかも」

おかん「高かったんじゃないの?」

男父「これくらいどうってことないさ」

おかん「私なんか100円で買ったのに」

男「100円ショップで買ったのかよ!!」

男父「とりあえずお前は加減をしろ。相手は小学四年生だぞ。鉄筋コンクリートを粉砕しかねないシュートは止めておきなさい」

おかん「分かりました」

男(本気を出すと鉄筋コンクリートをも粉砕するのか)


男父「それっ」パシュッ

男「……」パシッ

男父「そうそう。ボールの受け止め方も知ってるんじゃないか」

男「テレビでいつも見てたから。見よう見まねだよ」

おかん「ばっちこーい!」

男「誰が渡すか次こそ命落とすわ!」

男父「もう大丈夫だから」


男「……」パシュッ

おかん「」パシッ

おかん「はいお父さん」パシュッ

男父「はいはい」パシッ

男父「そら男」パシュッ

男「」パシッ

男父「こんな単純な形でも、ボールを蹴っていく内に楽しくなるさ」

男「そうかな…」

里帰り当日

男父「支度は整ったか」

おかん「ばっちりよ」

男「ねえ」

男「サッカーやりたい」

男父「」

おかん「」

おかん「まあ…あれだけ渋ってたのに、里帰り蹴ってまでやりたいの?サッカーだけに」

男「うるせえよ!つまらないから!……誰が焚き付けたんだよ、やろうよサッカー」

男父「帰ったらしよう」

おかん「この際向こうでしましょうよ。今サッカーボール持ってくるわ。物置よね」

男父「向こうでするのか。そいつはいい」

男「今すぐがいい!」

男父「まあまあ」


回想終わり

『……男?いきなり固まってどうしたんだ』

男「んにゃ、どうしてサッカー始めたのか思い出してたんだ。やっぱり忘れたわ」

『忘れた?馬鹿だなあお前』

体育教師「早く行動に移れ!」

『は、はい!』

男「はい!」

男(そういやそんなこともあったな)

男(小学生とはいえ俺ものせられやすい奴だよなあ)

男(だから小五時にあれだけ球技大会に夢中になったのかな)


自宅

男「ただいまー」ガチャ

男「ねえ、どうして今日授業公開覗きに来なかった……」

男「の」


男「」


男「……え?」

男「どうして?」

男「なんで?」

男「これは何を意味してるんだ?」

男「これは何の試練なんだ」

男「唐突過ぎる」


男「……」

男「ウォ……ェ」

男「ゲホッ!ゲホッ!ウェ」

男「」ハァッハァッ

男「」クラクラ

男「だ、駄目……だ」

男「気をしっかり……気をしっかり……」

男「持…て……」

男「ここは…現実じゃ……ない…………!」

男「」ピポパ






おかん「   」


病院


医師「――、……」

男父「――!――!?」

警察「――。……、」



男「」

男(恐ろしく冷静な俺がいる)

男(これほど冷静な自分が怖い)

男(だって、ここはファイナルステージなんだよな。現実じゃないんだよな)


男(やっとヒントが得られたんだ)

男(何を意味するヒントなのかさっぱり分からない)

男(けどこれはヒントなんだ)

男(そう、ヒント、ヒント……)

男(ヒント)



男(母さんが、死んだ)


男宅 リビング

数週間後


男父「お前、一度も泣くところを見せないが大丈夫なのか」

男「うん…いや、大丈夫じゃないけど。俺も高校生だし」

男父「バカヤロウ!!」

男「」ビクッ

男父「高校生だって、まだ、子供だろ……」

男「まあ、そうかも…しれないけれど」

男父「正直に言うと、父さんは今すぐにでも号泣しそうだ。いつ顔をぐしゃぐしゃにして泣き喚いてもおかしくはない状況だ」

男父「でもな」

男父「お前より先に泣く訳には絶対いかない」


男「…………うん」


教室

キーンコーンカーンコーン…


『なあ。お前……その、大丈夫か。あまり目に生気がないというか』

『無理もないけどさ。頑張って学校くることないんだぜ。いつでも相談にのるから』

男「ありがとう…」



男(俺だって仲良くなった覚えもない奴に毎日毎日憐れみの目で見られながら、どう行動を起こせばいいかも分からない状況でこんなところに来たかねえよ)

男(でもヒントは絶対ここのどこかにあるはずなんだ)

男(……これは、海パン曰わくゲームなんだよな)

男(時間制限は?)

男(……)

男(あるのか?)


男宅 部屋

男(あれから海パンとは一つもコンタクトが取れていない)

男(ニャースもいないからトンデモ現象も起こせない)

男(もしここが現実だったらと考えるとゾッとする)

男(実の親がいなくなって……もう二度と姿を見せることはないんだから)

男(そして心細くもある)

男(せめて友人や女ちゃんがいてくれればいいのに)

男(今この世界と俺の意識をつなぎ止めているのは、この世界が虚偽であるものという事実だけ)

男(今にも脱落しそうだ)

男(ヒントは何だ…)

男(俺は何をすればいい)

コンコン

男(父さん…)

男「いいよ」

ガチャ

男「」

男「父さん……それ、何」

男「何に使うの」

男「顔色悪いよ」

男「ねえ父さん」

男「止めろって」

男「冗談キツいぞ」

男「お前、もしかして父さんじゃないとか」

男「魔法で化けたのか。…となるとこれは海パンの仕業か」

男「おいどこにいるんだよこの状況を説明してくれ」

男「海パ」





男父「死んでくれ、男」



グサリ



男「………!」


男「……」


男「…」


男「」







――gameover――
































男「」



男「……今度はどこ、だ」

男「…………?」モゾモゾ

男「」ガバッ

男「俺の部屋…のベッド」

男「家だ」

男「また別の時空に飛ばされたのか?」

男「……どうでもいい」


男「今度という今度こそ、もう何もかもどうでもいい」

男「何かが変われる気がした」

男「何かが変わった気がした」

男「でも…俺のあの居場所は」

男「友達は」

男「いや、おかしい」

男「そう簡単に肯定するな男」

男「授業公開日より前から友人とは関係があったし、女ちゃんともたまに話せてた」

男「……その記憶も、嘘だったら」

男「…」


コンコン


男「」ビクッ

『入っていい?』

男(……母さん、か)

男(声音からして、まともな時の)

男(というか異常時のあいつはノックなんかしないし、そもそも部屋に入ってくるはずがない)

男「……いいよ」


ガチャ


おかん「早く支度しなさい」

男(やっぱりまともな母さんだ)

おかん「朝よ、学校遅れちゃうでしょ?」

男「学校……」


男「」ガバッ


男(……身体は、これといった変化が見られない。今から近い時空なのか、それとも元の時空なのか)

おかん「どうしたの?」

男(い、いや。母さんが……あいつがおかしくなったのはここ数年の話だ。あの状態なら数年は遡ってるはずなんだ)

男(俺の身体がおかしいのか)

男(あいつがおかしいのか)

男(時空がおかしいのか)

男(……考え出したらきりがない、もう何でもありだとしたらどんな事象も否定はできない)


男「い、今行くよ」

男「ところでさ」

おかん「ん?」

男「う、うちの……『高校』ってさ、実のところ学費どうなの」

おかん「……学費?」

男「…」

おかん「ちゃんと払えてるし、金額の程度なら平均程度だと思うけれど」

男「そっか」


男(どういうことだ)

男(早速異変が…)

男(そもそも、あいつの言うファイナルステージとやらのクリア条件はなんだ)

男(ファーストステージは、多分フラッシュバックを乗り越えてあの家へたどり着くこと)

男(セカンドステージは、過去に遡って、負を払拭すること)

男(ファイナルステージは……?)



男(いや待て)

男(そもそもどうしてステージ別に扱う必要がある)

男(そりゃ段階を追った方がいいに決まってる)

男(でも海パンが友人の『ゲーム』って言い方に『いい表現』だという切り返しをした)

男(……引っかかる)


男(俺はニャースの力を借りて本の存在を無かったことにした)

男(つまり俺は小学生時代にいじめらずに済んだんだ)

男(…………これか?)

男(暴力も、万引きも無かったことになって)

男(家族が正常になったのか?)

男(だとするとますます分からない)

男(俺は今ここで何をすればいい)

男(そうだ、ニャース)ガバッ

男(……いない)

男宅 リビング

男「いただきます」

おかん「いただきます」

男父「いただきます」

男「…」モグモグ

男(……テレビを見ていても、元の時空に戻ってるような感じはする)

男(日にちは)

男(今日はいつだ)

男「あのさ」

おかん「――そういえば今日、授業公開日でしょ?」


男「」


おかん「違ったかしら」

男「そう……だと、思う」

男父「いい機会なんじゃないか、日頃どんな姿勢で授業に取り組んでいるのか見てくるといい」

男「と、父さん」

男父「どうした?」

男(…………その表情)

男「何でもない」


男宅 玄関

おかん「行ってらっしゃい」

男「……あのさ」

おかん「何か忘れ物?」

男「授業中に、武器とか持ってきたりしないの」

おかん「武器?」

おかん「……勝負パンツのこと?」

男「んなもん穿いてくるんじゃねえよ!普段通りでいいから!」

おかん「今日の男は少し変よ。取り敢えず走って登校して目を覚ましてらっしゃい。それともまた顔洗う?」

男「……いいよ」

男「行って、きます」

おかん「行ってらっしゃい」


高校正門前

男「……」

男(ヒントがあるとしたら、やっぱりここしか考えられない)

男(俺は信じないぞ)

男(海パンのメラゾーマもあいつの結界も猫の魔力も信じるけど、二人が仮想の人物だったなんて、それだけは絶対に信じない)

男(それだけは曲げてやらない)

男(じゃなきゃ、)

男(……俺は、独りだ)


『おーいおはよう、男』タタタタ


男「お、おはよう」

男(クラスメートだ)

男(こいつこんな俺に対して馴れ馴れしかったっけ)


教室

男「」

男(出席は、済んだ)

男(二人の名前はとうとう呼ばれなかった)

男(……くそっ)

男(これが現実なのか)

男(これが真実なのか)

男(これで俺が強くなったと思ったら大間違いだぞ)

男(これじゃ悪化だ)

男(もう……他人とはどうしたくもない)


キーンコーンカーンコーン…

『あのさ男、昨日の課題なんだけど…』

男(何なんだこいつ)

男(こいつもやけに馴れ馴れしい)

男(そしてその目は、本当に友達に対して向ける目だ)

男(演技だったら大したもんだよ)

男(……いや、演技であってくれ)


『――で、さ』


男(もう…限界だ)

男(気持ち悪い……)



バタッ


ガタタッ


保健室

『――じゃあ、ゆっくりしてろよ』

パタン

男(……はは)

男(もしかすると、ファイナルステージってのは現実なのかもな)

男(だっておかしいだろ)

男(そもそも魔法なんか存在する訳ねえじゃん)

男(ここでは、俺にとっての辻褄が合わないことは多々あるけど)

男(少なくとも変態百一人衆の内、誰も俺の前に姿を現さないし)

男(ニャースも消えちまった)

男(魔法だとか言い出す奴もいないし)

男(ここを標準だとした時、不思議な現象はまだ何一つ起きてない)

男(俺が目を覚ました時はベッドの上だった)

男(あの二日間は夢で)

男(これが、現実…)

男(いや、それだと矛盾が……)

男(矛盾?)

男(ははっ)

男(何が矛盾だ。夢だったんだよ、人生で最も長くて現実味のあったギネス級の夢)

男(夢なんだから矛盾もへったくれもないんだよ)

男(ほらよく言うじゃねえか)

男(夢は記憶の整理だとか)

男(――自分の憧れ、だとか)

男(あんな友達が欲しかったんだ)

男(身を挺してまで大切な友達が)


男(じゃああの両親は?)

男(俺が憧れる両親の姿はあんなものだったのか)

男(違う…)

男(駄目だ)

男(どうしても夢じゃ片付けられない)

男(諦めることも許されないのか…)

男(魔法は使えないし)

男(ヒントは皆無)

男(目的も不明)

男(難易度高すぎだろ)

男(とんだ糞ゲーだ)


教室 二時限目開始前

ガラッ

『あれ、男もういいの?』

『何だよ体調悪いならもうちょい休んでおけば良かったのに。授業サボれるんだし』

男「俺、変なところで真面目だからそれは無理っぽい」

『はははは』

『お前昔からそういうとこあるからなあ、言えてるよ』

男(昔から……)

男(俺はあんたと昔から仲良くしていた覚えなんてない)

男(それは俺の記憶が抜け落ちているせいじゃなくて)

男(ここが現実じゃない、最後の試練であってファイナルステージだからだ)

男「始まるぞ授業」

『おっとと』

『準備準備』

男(古典……)

男(授業公開日、二時限目は古典)

男(女ちゃんがいたら、教科書共有閲覧タイムを堪能できていただろうに)

男(友人もいないし)

男(あの日を起承転結で考えるなら)

男(騒動はあいつ……母さんが学校に訪れてからだ)

男(でも今のところ校庭に石灰で魔法陣描いて真ん中で爆転している変態もいないし)

男(体育館で……)

男(そうだ、確か二時限目の古典の最中に)

男(体育館で暴れてる奴がいるって情報が)

ガララッ

男「!」

『おい!大変だ!』

『体育館だ!誰かが暴れまわってるらしいぞ!』

男「何ィッ!!?」


男「ちょいとお腹が!保健室に行ってきまーす!!」

古典教師「おいコラ男!真っ先に体育館に行く気を少しは隠すつもりでタイミングを見計らえ!!」

タタタタタタタ

男(ヒントだ、ようやくヒントが掴めそうだ)

男(ついに本性を表したかあいつめ)

男(きっと今頃は体育倉庫でカラーコーンを漁って、フレイムバードとライジングサンダーに見合うものを選んでいる最中ってとこだろう)

男(今朝の二人は演技で)

男(やっぱり正体は元の時空の二人のまま!)

男(でなければ、授業公開日が今回もまた一限ズレる事は起こり得ないはずなんだからな!)


体育館

『だからァ、反省してますって言ってるじゃないッスかあ!!』

『ふざけるな!そもそも校内に不要物を持ってくるんじゃない』

『ちょ、ちょっと止めなよe!そろそろ引き下がらないと休学か退学になっちゃうよ!』

『こいつの何を言っても聞かない絶対ルール厳守な態度が気に食わねえんだよ!!今回限りな、とか見過ごす気の利く教師だっているのによ!』

『全員の教師がそうなったら学校は崩壊だ!ルール厳守の何が悪い!!』


ワーワー

ガスッ ガスッ



男「」ハア…ハア…

男「……」

男「違った、のか」


教室

ガラッ


男「……」

『おう、戻ってきたか。どうだった?先輩が教師と乱闘してたんだろ?』

『……何か元気ないな。ショッキングなものでも見たの?』

男「今日」

男「授業公開日、二と三限のはずだよな。どうして一限ズレてるの」

『ズレる?もう普通に二限から授業公開始まってると思うんだけど』

『まあ誰も来ないしな、廊下でちらほら保護者見かけたけど、うちの教室に入ってくるような人はいなかったし』

男「そっか…」


男(授業公開日……来るって言ってたのに)

男(まさか来ないだなんて)

男(何か緊急の用事でもできたってとこか)

男(そりゃそうだ、高校生の息子の授業風景を二時間眺め回しているくらいなら、近所のババアと他愛もない話を麦茶でも飲みながら過ごす方がよっぽど利口ってもんだ)

男(となると)

男(今日は何も起こらないな)

男(まだ残された可能性としては体育の件)

男(cクラスの極ワル筋肉にぶっ飛ばされる事件だ)

男(でもわざわざぶっ飛ばされて何かヒントが出てくるとも思えないし)

男(分かっててぶっ飛ばされたくもないし…)

男(そうか。女ちゃんがいないなら奴が俺に絡んでくる理由もないのか)

男(……)

男(これじゃ平凡な一日じゃねえか)


学食

『今日の学食はいくらか保護者の人たちも混ざってるみたいだな』モグモグ

『今日みたいな日は生徒以外も使っていいみたいだからなーうちの学校は』

男「なーんか平凡というか平均的というか、本当普通な人ばかりで羨ましいというか…」

男「あの人とか」

『若いなー、俺の母さんよりずっと若く見える』

男「あの人とか」

『うお、格好良いなあ……父方が来てる家族もあるのか』

男「あの人と…」

男「か……」

『どうした?』

男「……このカレー、美味いなあと思って」


五限目体育 校庭

キーンコーンカーンコーン…

男「……」

体育教師「まずはランニングなー、校庭を三周しろ。列乱すなよ。あと声出せ、声小さかったら一周目からやり直しだからな」

一同「ハーイ」

イッチニーイッチニー

男「……」ゼイゼイ

男(精神的に凄い消耗してる気がする)

男(こういう時は一日が長く感じるんだよな)

男(しかも、平凡とはいえほぼ同じ一日をまた繰り返してる訳なんだから)

男(退屈もするわな)



男(……こんな受け身の姿勢でいいのか?何か変えようとしていかないと駄目なんじゃないのか?)

男(どうせここは現実じゃないんだ、恥も外聞も捨てろ!)


体育教師「今日はソフトボールだ。先週と同じく二人一組になってキャッチボールを始めるように」

一同『はーい』

男(やっぱり鬼ごっこは無しか)

男(……)ハア

キラッ

男「……ん」

男「これ……友人が付けてたアクセサリー」

男(どうしてここに)

男(……)

男(……)イライラ


男「おい!o!」

o『うお!何だよやる気だな』

男「お前確か体育委員会所属だったよな」

o『まあ…』

男「んでもって委員長だったよな」

o『まあ…』

男「だから俺とお前は仲が良い設定にすり替わってんだよなきっと。こういうところが多分鍵なんだ」

o『??何言ってるのかよく分からないぞお前』



男「先生――――――!!!!」


体育教師「……。どうした?」

男「こいつが!oが!体育委員会所属そして委員長であるこいつが!是非くそつまらないソフトボールなんか止めにして、平成の遊び鬼ごっこをした方がいいと提案をしているのですがそのところいかがなものでしょうか!?」


ザワ…ザワ……


『どうしたあいつ…』

『平成の遊びって』

『oがそんなこと言う訳ないじゃん』


o『おいお前…』

男「ちょい黙ってろ。今度お前が欲しがってたavタダでやるから」

o『黙ろう。静寂に身を任せるとする』


体育教師『……』


体育教師『良いだろう。今日は鬼ごっこでもやるとしようじゃないか』


ザワッ!!


『は?は?鬼ごっこ?マジでやるの?』

『あの鬼島が?どうして…』

『何考えてんだあの人…』



男(……あれ、もっと粘るつもりが案外アッサリ通ったな)

男(もしかして最初の時からこいつがやり出そうとしてたんじゃないのか)

男(それはないか……鬼島だし)


o『うわ。本当に鬼ごっこになっちまったよ』

男「oのおかげだ。ありがとう」

o『それにしても勢いで言っちまったがなんで俺がav欲しいの知ってたの?』

男「え?だってお前顔がエロいし」

バキッ

男「ぐがッ!」


自宅

男「ただいまー」ガチャ

男(何故か今回は半数近くが真面目に取り組んでくれただけに疲れた。半ば言い出しっぺだしな)

男「ねえ、どうして今日授業公開覗きに来なかった……」

男「の」


男「」


男「……え?」

男「お、おい!」


おかん「あら…早いわね」


男「何してんだよッ!!」


おかん「ごめんね。お母さんもう無理」


男「無理……?何が?俺母さんに辛い思いさせてたか?」


おかん「じゃあ…」


男「待てよッ!!!」


おかん「じゃあね。バイバイ、男」







グサリ



男「     !!!!!」


病院

医師「――、……」

男父「――!――!?」

警察「――。……、」



男「」

男(恐ろしく冷静な俺がいる)

男(これほど冷静な自分が怖い)

男(だって、ここはファイナルステージなんだよな。現実じゃないんだよな)


男(やっとヒントが得られたんだ)

男(何を意味するヒントなのかさっぱり分からない)

男(けどこれはヒントなんだ)

男(そう、ヒント、ヒント……)

男(ヒント)

男(母さんが、死んだ)

男(それも……自殺)


男宅 リビング

数週間後

男父「お前、一度も泣くところを見せないが大丈夫なのか」

男「うん…いや、大丈夫じゃないけど。俺も高校生だし」

男父「バカヤロウ!!」

男「」ビクッ

男父「高校生だって、まだ、子供だろ……」

男「まあ、そうかも…しれないけれど」

男父「正直に言うと、父さんは今すぐにでも号泣しそうだ。いつ顔をぐしゃぐしゃにして泣き喚いてもおかしくはない状況だ」

男父「でもな」

男父「お前より先に泣く訳には絶対いかない」

男「…………うん」


教室

キーンコーンカーンコーン…


『なあ。お前……その、大丈夫か。あまり目に生気がないというか』

『無理もないけどさ。頑張って学校くることないんだぜ。いつでも相談にのるから』

男「ありがとう…」

男(俺だって仲良くなった覚えもない奴に毎日毎日憐れみの目で見られながら、どう行動を起こせばいいかも分からない状況でこんなところに来たかねえよ)

男(でもヒントは絶対ここのどこかにあるはずなんだ)

男(……これは、海パン曰わくゲームなんだよな)

男(時間制限は?)

男(……)

男(あるのか?)


男宅 部屋

男(あれから海パンとは一つもコンタクトが取れていない)

男(ニャースもいないからトンデモ現象も起こせない)

男(もしここが現実だったらと考えるとゾッとする)

男(実の親がいなくなって……もう二度と姿を見せることはないんだから)

男(そして心細くもある)

男(せめて友人や女ちゃんがいてくれればいいのに)

男(今この世界と俺の意識をつなぎ止めているのは、この世界が虚偽であるものという事実だけ)

男(今にも脱落しそうだ)

男(ヒントは何だ…)

男(俺は何をすればいい)

コンコン

男(父さん…)

男「いいよ」

ガチャ

男「」

男「父さん……それ、何」

男「何に使うの」

男「顔色悪いよ」

男「ねえ父さん」

男「止めろって」

男「冗談キツいぞ」

男「お前、もしかして父さんじゃないとか」

男「魔法で化けたのか。…となるとこれは海パンの仕業か」

男「おいどこにいるんだよこの状況を説明してくれ」

男「海パ」



男父「死んでくれ、男」





グサリ



男「………!」


男「……」


男「…」


男「」






――gameover――




























男「」



男「……今度はどこ、だ」

男「…………?」モゾモゾ

男「」ガバッ

男「俺の部屋…のベッド」

男「家だ」

男「また別の時空に飛ばされたのか?」

男「……どうでもいい」


男「今度という今度こそ、もう何もかもどうでもいい」

男「何かが変われる気がした」

男「何かが変わった気がした」

男「でも…俺のあの居場所は」

男「友達は」

男「いや、おかしい」

男「そう簡単に肯定するな男」

男「授業公開日より前から友人とは関係があったし、女ちゃんともたまに話せてた」

男「……その記憶も、嘘だったら」

男「…」


コンコン


男「」ビクッ

『入っていい?』

男(……母さん、か)

男(声音からして、まともな時の)

男(というか異常時のあいつはノックなんかしないし、そもそも部屋に入ってくるはずがない)

男「……いいよ」

ガチャ

おかん「早く支度しなさい」

男(やっぱりまともな母さんだ)

おかん「朝よ、学校遅れちゃうでしょ?」

男「学校……」


男「」ガバッ

男(……身体は、これといった変化が見られない。今から近い時空なのか、それとも元の時空なのか)

おかん「どうしたの?」

男(い、いや。母さんが……あいつがおかしくなったのはここ数年の話だ。あの状態なら数年は遡ってるはずなんだ)

男(俺の身体がおかしいのか)

男(あいつがおかしいのか)

男(時空がおかしいのか)

男(……考え出したらきりがない、もう何でもありだとしたらどんな事象も否定はできない)


男「い、今行くよ」

男「ところでさ」

おかん「ん?」

男「う、うちの……『高校』ってさ、実のところ学費どうなの」

おかん「……学費?」

男「…」

おかん「ちゃんと払えてるし、金額の程度なら平均程度だと思うけれど」

男「そっか」


男(どういうことだ)

男(早速異変が…)

男(そもそも、あいつの言うファイナルステージとやらのクリア条件はなんだ)

男(ファーストステージは、多分フラッシュバックを乗り越えてあの家へたどり着くこと)

男(セカンドステージは、過去に遡って、負を払拭すること)

男(ファイナルステージは……?)



男(いや待て)

男(そもそもどうしてステージ別に扱う必要がある)

男(そりゃ段階を追った方がいいに決まってる)

男(でも海パンが友人の『ゲーム』って言い方に『いい表現』だという切り返しをした)

男(……引っかかる)


男(俺はニャースの力を借りて本の存在を無かったことにした)

男(つまり俺は小学生時代にいじめらずに済んだんだ)

男(…………これか?)

男(暴力も、万引きも無かったことになって)

男(家族が正常になったのか?)

男(だとするとますます分からない)

男(俺は今ここで何をすればいい)

男(そうだ、ニャース)ガバッ

男(……いない)

男宅 リビング

男「いただきます」

おかん「いただきます」

男父「いただきます」

男「…」モグモグ

男(……テレビを見ていても、元の時空に戻ってるような感じはする)

男(この番組、確か毎週水曜日にやってたよな)

男(厨二状態の母さんならまた呪文を聞き続けなきゃいけない曜日か)

男(……あの呪文)

男(あの呪文のおかげで、最初のフラッシュバックから友人と女ちゃんがいる所までたどり着けたんだよな)

男(……そうだ)

男(その時だけは、『自力で』魔法が使えたんじゃないか)


男(……日にちは)

男(今日はいつだ)

男「あのさ」

おかん「そういえば今日は授業公開日でしょ?」


男「」



おかん「違ったかしら」

男「そう……だと、思う」

男父「いい機会なんじゃないか、日頃どんな姿勢で授業に取り組んでいるのか見てくるといい」

男「と、父さん」

男父「どうした?」

男(…………その表情)

男「何でもない」


男宅 玄関

おかん「行ってらっしゃい」

男「……あのさ」

おかん「何か忘れ物?」

男「授業中に、武器とか持ってきたりしないの」

おかん「武器?」

おかん「……勝負パンツのこと?」

男「んなもん穿いてくるんじゃねえよ!普段通りでいいから!」

おかん「今日の男は少し変よ。取り敢えず走って登校して目を覚ましてらっしゃい。それともまた顔洗う?」

男「……いいよ」

男「行って、きます」

おかん「行ってらっしゃい」


登校中

男(あの呪文が自力で使える魔法なのだとしたら)

男(あれは何のための呪文なんだろう)

男(脱出や目的地到達のためのワープ系の魔法か何かかな)

男(そもそも魔法使いじゃなくても魔法って使えるんだな)

男(……でも仮に母さんが魔法使いだとしたら、俺はその血を受け継いでいるんだよな)


男「」


男(俺……魔法使いなの?)


男(魔法使いと一般人の差って何だろう)

男(魔法を使える使えないは当たり前として)

男(うーん)

男(魔法への…耐性、とか)

男(耐性……耐性耐性耐性)

男(耐性って言っても、母さんの結界然り海パン然りやられたい放題だしそんなことはないか)

男(でもなあ…)



男(――――!)


――友人「結論から言うと」

――友人「男さんは俺と女の両方を覚えてる」

――友人「女は男さんだけを覚えていて俺を知らない」

――友人「俺は女を覚えてるけど、男さんのことは記憶になし」



男(記憶の、誤差…)

男(そうだ。まだ解明していない謎があったんだ)

男(海パンはトラブルだとか抜かしてたけど)

男(そんな単純に片付く問題じゃない!)


男(あの時の誤差は俺に少しばかりの『耐性』があったからこそ生まれたとしたら)

男(二人は、決して仮想の人物なんかじゃない)

男(――二人はいたんだ!世界に!!)

男(多分、俺に耐性があったからこそ、時を遡ってる時に『俺が体験していなくて二人が体験していること』が存在するはず)

男(今俺にそれを確かめるすべはないけど)

男(二人が仮想の人物でないことが証明できる説が生まれた、これが重要なんだ)

男(すると次に考えるのは海パンの意図だ)

男(……俺を絶望させるため?)


男(向こうの立場になってみろ)

男(大切にしている二人の友達が本当は幻想だった――そう言い残してファイナルステージへ送り出すその意図)

男(…)

男(……)

男(………)

男(…………一人で、成し遂げろ?)

男(そう、言いたいのか)

男(他人を頼るなってことか)

男(単に心を折るためか)

男(これはどうにでも考えてられるから断定は無理だな)

男(この件で、母さんは異常正常問わず、いよいよ本物の魔法使いだってことを認めざるを得なくなった訳か)

男(行くところまで行ったなあ)


キーンコーンカーンコーン…

男(古典……)

男(授業公開日、二時限目は古典)

男(女ちゃんがいたら、教科書共有閲覧タイムを堪能できていただろうに)

男(友人もいないし)

男(あの日を起承転結で考えるなら)

男(騒動はあいつ……母さんが学校に訪れてからだ)

男(でも今のところ校庭に石灰で魔法陣描いて真ん中で爆転している変態もいないし)



男(……母さんを魔法使いと断定するなら、あの魔法陣には意味があったはず)

男(魔法陣を描いたのは校庭。多分、結界とはまた別の魔法。二人が仮想人物の説を否定するなら、結界の意味合いも大きく変わってくる)

男(世界の異変は授業公開日当日から。結界と魔法陣は別もの)


男(そういえば)

男(体育館で……)

男(そうだ、確か二時限目の古典の最中に)

男(体育館で暴れてる奴がいるって情報が)


ガララッ


男「!」

『おい!大変だ!』

『体育館だ!誰かが暴れまわってるらしいぞ!』


男「何ィッ!!?」


男「ちょいとお腹が!保健室に行ってきまーす!!」

古典教師「おいコラ男!真っ先に体育館に行く気を少しは隠すつもりでタイミングを見計らえ!!」


タタタタタタタ


男(ヒントだ、ようやくヒントが掴めそうだ)

男(ついに本性を表したかあいつめ)

男(きっと今頃は体育倉庫でカラーコーンを漁って、フレイムバードとライジングサンダーに見合うものを選んでいる最中ってとこだろう)

男(今朝の二人は演技で)

男(やっぱり正体は元の時空の二人のまま!)

男(でなければ、授業公開日が今回もまた一限ズレる事は起こり得ないはずなんだからな!)


体育館

『だからァ、反省してますって言ってるじゃないッスかあ!!』

『ふざけるな!そもそも校内に不要物を持ってくるんじゃない』

『ちょ、ちょっと止めなよe!そろそろ引き下がらないと休学か退学になっちゃうよ!』

『こいつの何を言っても聞かない絶対ルール厳守な態度が気に食わねえんだよ!!今回限りな、とか見過ごす気の利く教師だっているのによ!』

『全員の教師がそうなったら学校は崩壊だ!ルール厳守の何が悪い!!』


ワーワー

ガスッ ガスッ



男「」ハア…ハア…

男「……」

男「違った、のか」


教室

ガラッ


男「……」

『おう、戻ってきたか。どうだった?先輩が教師と乱闘してたんだろ?』

『……何か元気ないな。ショッキングなものでも見たの?』

男「今日」

男「授業公開日、二と三限のはずだよな。どうして一限ズレてるの」

『ズレる?もう普通に二限から授業公開始まってると思うんだけど』

『まあ誰も来ないしな、廊下でちらほら保護者見かけたけど、うちの教室に入ってくるような人はいなかったし』

男「そっか…」


男(授業公開日……来るって言ってたのに)

男(まさか来ないだなんて)

男(何か緊急の用事でもできたってとこか)

男(そりゃそうだ、高校生の息子の授業風景を二時間眺め回しているくらいなら、近所のババアと他愛もない話を麦茶でも飲みながら過ごす方がよっぽど利口ってもんだ)

男(となると)

男(今日は何も起こらないな)


男(まだ残された可能性としては体育の件)

男(cクラスの極ワル筋肉にぶっ飛ばされる事件だ)

男(でもわざわざぶっ飛ばされて何かヒントが出てくるとも思えないし)

男(分かっててぶっ飛ばされたくもないし…)

男(そうか。女ちゃんがいないなら奴が俺に絡んでくる理由もないのか)

男(……)

男(これじゃ平凡な一日じゃねえか)


学食

『今日の学食はいくらか保護者の人たちも混ざってるみたいだな』モグモグ

『今日みたいな日は生徒以外も使っていいみたいだからなーうちの学校は』

男「なーんか平凡というか平均的というか、本当普通な人ばかりで羨ましいというか…」

男「あの人とか」

『若いなー、俺の母さんよりずっと若く見える』

男「あの人とか」

『うお、格好良いなあ……父方が来てる家族もあるのか』

男「あの人と…」

男「か……」

『どうした?』

男「……このカレー、美味いなあと思って」

五限目体育 校庭

キーンコーンカーンコーン…

男「……」

体育教師「まずはランニングなー、校庭を三周しろ。列乱すなよ。あと声出せ、声小さかったら一周目からやり直しだからな」

一同「ハーイ」

イッチニーイッチニー

男「……」ゼイゼイ

男(精神的に凄い消耗してる気がする)

男(こういう時は一日が長く感じるんだよな)

男(しかも、平凡とはいえほぼ同じ一日をまた繰り返してる訳なんだから)

男(退屈もするわな)



男(……こんな受け身の姿勢でいいのか?何か変えようとしていかないと駄目なんじゃないのか?)

男(どうせここは現実じゃないんだ、恥も外聞も捨てろ!)


体育教師「今日はソフトボールだ。先週と同じく二人一組になってキャッチボールを始めるように」

一同『はーい』

男(やっぱり鬼ごっこは無しか)

男(……)ハア

キラッ

男「……ん」

男「これ……友人が付けてたアクセサリー」

男(どうしてここに)

男(……やっぱり、あいつは実在の人物だ)

男(……)

男「おい!o!」


o『うお!何だよやる気だな』

男「お前確か体育委員会所属だったよな」

o『まあ…』

男「んでもって委員長だったよな」

o『まあ…』

男「だから俺とお前は仲が良い設定にすり替わってんだよなきっと。こういうところが多分鍵なんだ」

o『??何言ってるのかよく分からないぞお前』

男「先生――――――!!!!」


体育教師「……。どうした?」

男「こいつが!oが!体育委員会所属そして委員長であるこいつが!是非くそつまらないソフトボールなんか止めにして、平成の遊び鬼ごっこをした方がいいと提案をしているのですがそのところいかがなものでしょうか!?」


ザワ…ザワ……


『どうしたあいつ…』

『平成の遊びって』

『oがそんなこと言う訳ないじゃん』


o『おいお前…』

男「ちょい黙ってろ。今度お前が欲しがってたavタダでやるから」

o『黙ろう。静寂に身を任せるとする』


体育教師『……』

体育教師『良いだろう。今日は鬼ごっこでもやるとしようじゃないか』


ザワッ!!


『は?は?鬼ごっこ?マジでやるの?』

『あの鬼島が?どうして…』

『何考えてんだあの人…』

男(……あれ、もっと粘るつもりが案外アッサリ通ったな)

男(もしかして最初の時からこいつがやり出そうとしてたんじゃないのか)

男(それはないか……鬼島だし)


o『うわ。本当に鬼ごっこになっちまったよ』

男「oのおかげだ。ありがとう」

o『それにしても勢いで言っちまったがなんで俺がav欲しいの知ってたの?』

男「え?だってお前顔がエロいし」


バキッ


男「ぐがッ!」


ワーワー


男「あれ?」

男(思いの他参加者が多い)

男(何故か今回は半数は鬼ごっこに付き合ってくれてるな)

男(……)


男(――――!)


男(これだ、魔法陣か結界か。どちらかがこれに当てはまってるはずだ)

男(『魔法陣』は校庭に描かれたものだ。効果範囲から言ってもこちらの可能性が高い)

男(となれば、今回は母さんが来ていないことで校庭に『魔法陣』が描かれていないから、こいつらの半数がやる気を出した――そういうことだ!)

男(じゃあ『結界』の方は?)

男(そもそも今回、結界は張られているのか?)


――ポッ ポッ

……ポツポツ

サアー


『うお、雨だ』

『ちょっと、こんな急激に降らなくても』

体育教師「全員体育館に非難しろー!」




男(……答えはすぐに返ってきたな)

男(結界の効果は天候にあったんだ)

男(今回は張られていないから、こうして雨が降ってきた)

男(すると、鬼ごっこをやらせたい理由が母さんにあるはずなんだけど)

男(そうしないと、保健室で俺がcクラスの極ワル筋肉に殴られるシナリオが無くなってしまうから、か)

男(今は女ちゃんがいないから結界を張る理由が無くなった。こうだ)


下校中

男(謎が色々と解けてきた。頭が破裂しそうだ…)

男(まだ思考を止めちゃいけない、ファイナルステージを終わらせるまでは)

男(ファイナルステージ)

男(俺は友人と女ちゃんが実在の人間であることを確信してる)

男(それなら、仮想人物でないのなら、二人がファイナルステージに進む必要のない理由)

男(いや、俺だけがファイナルステージに進まなければいけない理由)


男(俺だけ、まだ解決していない事柄が存在したからになる)

男(――三人、いずれも問題の中心は家族についてだった)

男(友人は過去の罪意識から家族を遠ざけ)

男(女ちゃんは、家庭内での問題が大きく発展し、実の姉に過酷な運命を背負わせることになった)

男(セカンドステージで、二人はその過去を塗り替えた)

男(ステージの意味、役割はこのことなのか)

男(ファーストステージのフラッシュバックは……自分の罪を見つめ直すこと)

男(セカンドステージは、その罪を反省し、向き合い、消し去ること)

男(そして俺だけがファイナルステージ)


男(俺はセカンドステージでイジメの原因を消し去って、家庭内暴力もサッカーボール万引きも塗り替えることができた)

男(だから、多分、今見ている二人は正常になっているんだ)

男(でももし正常じゃないんだとしたら?)

男(正常なふりをしているだけだったら?)

男(まだ俺は解決しなきゃいけないことがあって、そのために一人ファイナルステージに叩き込まれた)

男(まだ…解決していないこと……)

男(考えろ、ここだ、多分ここが一番大きいところのはずなんだ)




ニャー



男「」



男「お、お前!」



男「ニャース!!」



《――よくそこまでたどり着いた》



男「」ビクッ

男「……海パン、か」




《最後のヒントだよ。君の記憶の》





《最後のピースを返してあげよう》


《君はそれを贖って、帰っておいで》


男「最後の…ピース……」



ブツッ





――プー

ザザッ…ザッ

ザザ……ザザッ―――――――


病室


男《……いいの?上手く剥けなかったんだけど。りんごでウサギ作るなんて…》

おかん《ありがとう。充分だよ、一度息子にこれを作ってほしかったの》

男《そっ、か》

男《ねえ。その……さ》

男《もう…最後まで…》

男《頑張らなくてもいいん、じゃ…》

男《…………っ、》

男《いいんじゃないの》


男《もう聞いたよ、俺》

男《どうにもならないんだろ?》

男《そりゃ生きていてほしいよ俺だって!!ずっと!この先いつまでだって!!!!》

男《…………でもさ…》

男《雑巾みたいに、絞って絞って絞られて、それで最後に捨てられるような母さん………………………………見たく、ない……》

男《…ぇ………っ、》

おかん《…》

おかん《……最後は、》

おかん《あんたの好きな、サッカーが……したいわね》

男《無理だよそんな体で…》

男《あああああああああ》

おかん《……》

男《あああああああああ》

おかん《……》

男《あああああああああ》

おかん《……》

おかん《忘れて……しまおっか》

男《……え?》

おかん《こんなに辛いことは、『忘れ』ちゃおう、そうしよう》

おかん《もうあんたの泣いてるところは》












おかん《見たくないから》




《ここのところ『君の記憶が何かと穴だらけだったこと』には疑問を持たなかったかい》


《あのね》


《君のお母さんは、君に記憶操作をしたんだ》


《辛いことを、全て忘れさせたんだ》


《その影響で、それ以外にも多々記憶に穴が空いてしまったようだけど》


《君の記憶では、お母さんは数年前からおかしくなったことになっているはずだ》


《だから、――今どんなにおかしく振る舞っていても不自然には思わない》


《ああして気丈に振る舞って》


《そして、君の成長を最後に確かめるべく、授業公開日に目星をつけた》


《でも見たところ君は酷く他人に無関心で》


《どうしようもなく一人だった》


《だから》


《友達と、恋人を与え》


《そして君を強くするために試練を与えた》


《言ったよね?僕は彼女の仲間だって》


《――友達だったよ》


《それも、とても仲が良い、ね》


《依頼されたよ》


《君のためにね》


《いいかい。彼女は紛れもなく魔法使いだ》


《君は今まで魔法をかけられていて》


《強くもなった》


《最後に》




《――お母さんを、救ってあげなさい》


タタタタタタタタタタタ



男「ああああああああああああああああ!!!!!!!!」



――燃え盛る炎の神剣!!!!!!轟き渡る雷の神槍!!!!!出よ!!!!!!フレイムバード!ライジングサンダー!



男「ああああああああああああああああ!!!!!!!!」



――効果音ブリブリブリに騙されたみたいね?残念だったな!ケツだけ星人だよ!



男「ああああああああああああああああ!!!!!!!!」


――私の魔力にかかればルーラで家までひとっ飛びなんて余裕だけどね

――それでもね、男

――私はあなたの成長を見守ることの方が重要なの





男「ああああああああああああああああ!!!!!!!!」





男「ちくしょうがちくしょうがちくしょうがァァァァああああああああああああああああ!!!!!!!!」





タタタタタタタタタタタ


男「母さん母さん母さん母さん母さん母さん!!!!」




――実を言うとね、君のファイナルステージは三度あったんだ


――その結末も、君に見せようと思う


――目をそらさないで


――君が救うんだ







男「頼むから、死ぬな……!!」


男(何が魔法使いだ)



男(本当に魔法使いなら重病の一つや二つ治すことくらい出来るだろうが!!!!)



男(どうして、ふざけんな)



男(俺はまだこんなにも弱い)



男(一人じゃこんなにも無力だ!!!)



男(あんたいなきゃ友達の一人も作れないどうしようもないただのクズなんだ!!)


男(高校生活なんてとっとと終わればいいと思ってた)



男(高校生活なんて無駄なもんだと思ってた)



男(でもあんたが!光をくれたんだ!)



男(息子の成長見届け、人生に満足し、後は体が痛みに蝕まれる前に自らの手でこの世からさようならか!)



男(自殺なんて……それでも母親か!)



男(間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え、間に合え)


自宅

男「母さん!!!」


バンッ


おかん「!……」

おかん「全て、知ったのね」

男「海パンのオッサンから全部聞いたよ」

おかん「彼が…」

おかん「…」

おかん「ねえ、男」

おかん「一つ、誤算があったの」


おかん「この世界はね、知っての通り、偽りの世界だけど…」

おかん「男は果たすべきことを果たさないまま命を落とすと、永遠にこの世界を繰り返すままになってしまうの」

おかん「お父さんが、あんなことするなんて思わなかった」

おかん「私の自殺は男、あんたのせいだって」

おかん「お前を生んでいなければ私は自殺なんかしないって」

おかん「二度あんたがお父さんに殺されて確信した」


おかん「まずお父さんをどうにかするべきだって」


男「記憶、操作……」


おかん「ねえ、気付いてる?もう終わるのよ」


おかん「この世界が」


おかん「この授業公開日は、私が魔法をかけなかった一度目、私が魔法をかけた二度目、ファイナルステージのループ世界に入って三度目、それがまた四度目、」


おかん「今が、五度目」


おかん「あんたは過去を塗り替えて、背負った十字架を降ろして、ここで今果たすべきことを果たした」


おかん「今、『現在』が塗り替えられて、この状況が本物になるの」


おかん「あなたは強くなって、世界に帰るの」


男「じゃあ、母さんがここで死んだら」


おかん「……ばいばい、ね」


男「果たすべきことって何。何がファイナルステージのクリア条件だったの」


男「それが果たされなかった最初とその次のファイナルステージで何故母さんは自殺したの」


おかん「虚偽の世界が本物にならない限りは、私はこっちの世界で自我を持つことができない」


おかん「果たすべきことは、あんたが……」


おかん「あんたが、最後に私を助けようとしてくれることだったんだと思う」


おかん「今、世界は本物になる」


おかん「世界は生まれ変わるの」


おかん「お父さんはあなたと無事に二人で暮らすし、」


おかん「あの友人くんと女ちゃんも世界に戻ってくるわ」


おかん「二人が仮想の人物だって言った意味は、あんたの推理通り『ここまでを一人でやり抜くこと』『他人を頼らないこと』『強くなること』そういった意味合いがあったのかな」


おかん「強くなったあんたは、友達と……遠くない日に恋人になると思う女ちゃんと楽しい日々を送る」


おかん「これが、私の……」


おかん「ハッピーエンドよ」


男「甘いんだよ!!」


男「ここまでは見事だったと思うよ。見事にのせられた、おかげで前よかずいぶんとマシになれた気がするよ」


男「でもまだ見落としがあるだろ」


男「サッカーは」


男「サッカーやろうって」


男「そう言ったじゃねえか!」


男「あれは、どうするんだよ…」


男「サッカー教えてくれたの、誰だと思ってんだよ」


男「……母さんだろ」


男「ここで無責任に放棄する気かよ!」


おかん「……」ヒュッ


ポン!!


男「!」


男「…………ボール」


おかん「それ」バシッ


コロコロ


男「……」トッ


おかん「これで……完璧」


男「…………」


男(あの化け物じみたシュートは…どうなったんだよ……くそ…………)


男「っ、」グスッ


男「もう、何を言っても生きるつもりは…ないの」


おかん「あんたがそれだけ成長したんだからもう充分さ」


おかん「でもあんたがまだ理解できていないものがある」


男「……何」


おかん「母親の、気持ち」


おかん「どうして死にそうなくらい辛い思いをしてまで腹を痛めて、子を生むんだと思う?」


男「……」


おかん「それだけ、子が大事だから」


おかん「子が生まれたその瞬間から、母親の全てはその子に委ねられるのよ」


おかん「こればかりは実感しないと分からないわね」


おかん「自分の命を賭してまで子を大切にする気持ちも分かると思うの」


おかん「世の中には色々な家庭がある」


おかん「――家庭の数だけ、違った形の家庭があるの」


男「!…」


男「……それを伝えたいためにも、『あの二人』だった訳」


おかん「そうよ。そしてあんたはその二つの形を理解して、どうすれば先に進めるのかを考えて、行動に移した」


おかん「あんたは二人を救ったの」


おかん「立派よ」


おかん「だから、もう……」


おかん「充分」


男「…………」


おかん「ごめんね。母さん根性ないから」


おかん「こうした方が、楽。そのせいであんたを苦しめることになってしまうのが最大の誤算だったわ」


おかん「流石に死んでからじゃ、魔法は使えないから忘れさせてあげることもできない」


おかん「忘れさせた記憶も、彼にいともたやすく思い出させてしまったわ」


おかん「我ながら腕の良い魔法使い友達を持ってしまったわ」


おかん「そして私はまだまだ未熟……」


男「おい」


おかん「それじゃあ、」


おかん「ばいばい、男」

男「待てよ!!!!!!」




おかん「――――いつまでも大好きだよ」












男「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」




























































おかん「――ありがとう」


キーンコーンカーンコーン…

友人「おはよっす」

男「おーす」フラッ…

友人「どうした?相当眠そうだけど。夜遅くまで晩今日でもしてたか」

男「ちょいと調べものをな……」


女「おーい!!」


男「」ドキッ


友人「来たぞ女ちゃん」

男「な、何だよその笑い方は」

女「」ゼイゼイ

男「は、走ってきたの?脚ふらふらだよ……大丈夫?」

女「い、一番に渡したかったから……」

男「一番?渡す?」

友人「……ああ、今日そう言えば」


女「男くん!好きです!!!付き合って下さい!!!」バッ


友人「バレンタインだったな……」

男「お、ぺ、そ、た、わ、£▽∨∵‡ヴπατглхюжп│┼┫┰」

友人「そーら大変なことになっちまったぞ」


オオーッ!!


『あの照れ屋で引っ込み思案っぽい女ちゃんが!』

『朝教室に来て早々に!』

『声を張り上げて告白して!』

『チョコレートををををををを!!!!』


ワーワー


男(もし『あの時』のままだったら逆恨みされて物飛んでくること間違いなしだったな……)

友人「……で、どーすんのお前」

男「お、俺は…」

男「……」


男「宜しくお願いします!!!」


ワァッ!!!


友人「うるさいカップルの出来上がりだな……」

女「で、でも、友人くんも遠慮することないんだよ!これまで通り…」

友人「当たり前だよ。これまで通りに三人でつるむさ」

女「そんな友人くんにもチョコレート」

女「義理だけど。普段仲良くしてくれてる証」

友人「お、おお……サンキュー!!」


『ふざけんな友人!!』

『どうしてお前が!!』


友人「なんで俺だけそんな扱いなんだよ!!!」


男「あはは」


屋上

女「こんなところにいたんだ」

男「!女ちゃん…」

男「……。えっと、本当に俺なんかでいいの?」

女「男くん以外に、考えられません」

男「…ありがとう。……ああ、なんかもう俺今から死んでいい」

女「ダメだよー、せっかく九死に一生を得たんだから」

男「…本当だね」

男「あの世界で、俺は二度も死んだんだよな…」

女「でも、今こうして、この世界で、生きてる」

男「うん、そうだね。二人のおかげだ」

女「え、ええっ。今回の件はどう考えても男くんが」

男「違う。違うよ」


男「今までの、ひとりぼっちの自分だったら……二人を助けてあげることはできなかった」

男「二人に救われたから、強くなれた」

女「そうかなあ」

男「え?」

女「表に出すきっかけがなかっただけで、男くんはもともと、本当に強かったんだと思う」

女「だから、その、わ、私も…」

女「そんな男くんの強さに、惹かれたんだ、と思う……」

男「……すごく、照れくさい」


女「あの世界に行ったこと、後悔してる?」

男「…」

男「……、」

男「いや」

男「してないよ」

男「あのことがあったからこそ、今にたどり着けたんだって」

男「そう……思えるから」

女「そっか」


女「で、ね」

男「?」

女「お返しが……欲しいなって」

男「ホワイトデー?もちろん。何倍返しにしようか今から考えちゃうよ」

女「い、今すぐ」

男「え?今?」

女「ここで…」

男「悪いけど、今390円とハンカチくらいしかもってないよ?」

女「そ、そうじゃなくて……」

男「…」

女「…」

男「あ、もしかして……」


女「…」

男「じゃ、じゃあ、恥ずかしいから、目…閉じて……」

女「わ、私初めてだから…優しくね……」

男「こ、こっちも初め……あ、う、んん…」

女「え?」

男「ちょっと、向こうの世界で…何か…」

女「……え?ま、まさか小学生の体に戻ったのをいいことに」

男「ち、ちちちちちちち違うよそういうんじゃなくて」タタタタ

女「ま、待って男くん!!」タタタタ






友人「何してんだあいつら…」

下校中

男「夕焼けが綺麗でいいな…」

男「貰ったチョコ、どこに飾ろうかな」

男「…………!!」

男「あ、れは」

男「……もしか、して…」

娘「」トコトコ…

男「あ…、」

娘「……」トコトコ…

娘「!」

娘「…………ッ!?」ピタッ

男「……」

娘「……」

男「……」

娘「……」

娘「ばーか」



















男「何だよ、それ」






















娘(――幸せそうな顔しちゃって)

男宅

男「……ただいま」ガチャ

男父「おかえり」

男「あれ?今日は帰るの早かったね」

男父「まあな、今日は早帰りだったからな。それにしてもお前、顔がにやけてるぞ。バレンタインだしチョコレート貰ったんだろ?」

男「も、貰った……よ」

男父「冗談だったのに!」

男「冗談だったのかよ!」

男父「まあ義理くらい貰って初めてスタートラインに立てるのが男ってもの…」

男「……本命」

男父「ん?」

男「本命だよ」

ヒュッ ヒュッ

男「ちょ!物投げんな!」


男宅 夕食

男「……で、どうなの」

男父「ああ、明日には退院するらしい」

男「本当!!」

男父「ああ」

男「やった!これでこんなくそまずい飯ともおさらばだ!!」

男父「くそまずいだと!」

男「くそまずいわ!こんなに黒くなった目玉焼きなんてもはやわざとやってるようにしか思えねえよ!」


男父「……そうなのか」

男「そうだよ」

男父「それで、最近母さんから面白い話を聞いたんだ」

男「どんな?」

男父「簡単に言うとな、魔法使いの親子がいてだな」

男父「息子が最後の最後で魔法を使って、親を救う話なんだ」

男「……へえ。息子の魔法使い、すげえじゃん」

男父「それが違うんだ」

男父「ラストのところを語るとだな」

男「いきなりラストから語っちゃうの?」

男父「そのシーンは世界が生まれ変わる瞬間なんだ」

男「世界が生まれ変わる瞬間……ねえ」

男父「息子の魔法使いは、小さな火も生み出さなければ物を浮かばせることも出来ない貧弱魔法使いだったんだがな」

男「……はあ。貧弱ね」

男父「転移系の魔法だけは習得していたんだ」

男「転移系の魔法ねえ」

男父「息子の魔法使いは、世界が真実になる寸前で母親の魔法使いを異世界に飛ばしてしまうんだ」

男「ファンタジーしてるなあ」

男父「で、その異世界は現実の世界ではないから、そこで死ぬことができないんだ」

男「途中の展開を聞いてないから意味が全然分からないんだけど」


男父「それで、だ」

男父「うちの母さんに負けないくらいの重病を抱えたその魔法使いは、飛ばされた世界で死の淵をさまよってるんだ。死ぬことが出来ない世界だからね、こればかりはどうしようもない」

男父「痛みに耐え続けるしかない。苦しみ続けなければいけないんだ。それでも息子の魔法使いは母親を異世界に飛ばした。どうしてだと思う?」

男「やっぱり、それだけ大切で、死んでほしくなかったからじゃないの」

男父「そうなんだ。そこがグッとくるところなんだ」

男父「でな、余力のない母親魔法使いは現実に戻る魔法も使えず、かれこれ一ヶ月が経つんだ」


男「一ヶ月」

男父「そう、一ヶ月もだ」

男父「そして息子の魔法使いは異世界へ飛び、母親を迎えにいった」

男「……現実に戻してどうするの。死んじゃうじゃない」

男父「それがそうではないんだ。痛みに蝕まれ続け、死の頂点まで上り詰めるんだがな」

男父「登山だってそうだろ?頂上までたどり着けばあとは下るしかない」

男「……上手いこといってるけど、よく助かったもんだね」

男父「病が重いというのが大きなところだったが、一番はその身体が弱かったことにあるんだ」


男父「その一番苦しまなければいけない瞬間は、その身体じゃ保たなかったんだ」

男父「でも異世界でそれこそ死ぬ思いをしておけば、後は現実世界で治せる技術があるのだから解決という訳さ」

男父「でもその母親はそういった病や身体の事情は知らなかった。その一ヶ月の間に、息子が現実世界で死に物狂いで病について調べたんだよ、未熟な魔力が持続するリミット一ヶ月の間にね」

男父「息子の、努力の結果だな」

男父「その息子は母親を救ったんだ、素晴らしい話じゃないか」







男「……そうだね」


翌日 日曜日

男父「おい、ちゃんと部屋は片付けたか」バタバタ

男「うん、もう綺麗になったよ」

男父「よし。こっちもリビングは完璧だ。母さんが入院する以前よりも綺麗になったぞ」

男「この辺り、ワックスかけ過ぎてめちゃめちゃ滑るんだけど」


男父「どーれどれっ」

ツルッ

男父「ぐああああああ」

ズリズリズリズリ

男父「ぐああああああ」


男「頭こすれてる、こすれてる、あは、あははははは」

男父「まさか我が息子に罠を仕掛けられるとは」

男「俺の仕業じゃねえよあんたの自業自得だろうが!」

男父「壁に私の髪の毛が数本!拭き取らなければ!ああ、抜けたのか!鏡、鏡!!」

男「……情けないなあ、本当に」







「あはははははははは」





「あはははははははは」







男「」
男父「」




「あんたたち何してるの?親子万歳?帰宅早々あまり笑わせないでよ病み上がりなんよ私」



男父「……遅くなったじゃないか」

男「それじゃ、まあ…」







男「――おかえりなさい」

おかん「――ただいま」



~終わり~

おかん「くぅ~疲れましたw これにて完結です!」

おかん「実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした。本当は話のネタなかったのですが←」

おかん「ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw」

おかん「以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ」

おかん「みんな、見てくれてありがとう。ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

おかん「いやーありがと!私のかわいさは二十分に伝わったかな?」

おかん「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」

おかん「見てくれてありがとな!正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」

おかん「・・・ありがと」ファサ

おかん「では」

おかん、おかん、おかん、おかん、おかん、おかん「皆さんありがとうございました!」



おかん、おかん、おかん、おかん、おかん「って、なんで俺くんが!?改めまして、ありがとうございました!」

男「さっきから何してんの」

本当の本当に終わり

448の改変コピペは「まどか達×」「おかん達○」が正解

425は「晩今日×」「勉強○」が正解

1は、ハルヒ「ここ一週間キョン見ないんだけど何か知らない?」のスレの1と同じ



言いたいことはこれだけ
ニートはこれから寝ます

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