男「しあわせのねだん」 (20)

女「あれ、男君、今日もお昼ご飯食べないの?」

男「…………」

女「この前のことはごめんって、反省してるから、許してよ」

男「…………」プイッ

女「ごめんごめん。あ、そうだ、購買で買ってきたパンあげようか? 私の食べかけだけど」

男「ほっほんとうに?」

女「あったりまえじゃん、お腹減ってるんでしょう?」クスッ

男「ありがとう! 女さんいい人、優しい! 才色兼備で八方美人!」

女「悪口混ざってなかった?」

男「八方美人ってもともとはどこから見ても美しいって意味だよ!」

女「あっ、ごめん。落としちゃった」

男「大丈夫、僕、落ちたのも食べれるから」

女「うん、知ってる」ニヤニヤ

男「お腹丈夫だから平気! 今度から落としたのぜんぶ僕のところ持ってきていいよ!」

女「持ってきていいよじゃなくて、持ってきてくださいでしょ? 男君貧乏なんだから」

男「う……うん」

女「…………」ニヤニヤ

男「じゃあ、このパンは僕が……」スッ

女「あ、待って」

男「うん?」

グチャッ

女「あーごめん、足滑っちゃった。これはもう食べられないわね」

男「大丈夫」ヒョイッ

男「…………」モゴモゴクチャクチャ

「おい、あいつ上履きで踏まれたパン食ってるぞ」
「気持ち悪い……」
「きったねえ」

女「…………」ニヤニヤ

女「アッハハハァ! 男君おもしろ~い」

女「あ……笑い過ぎて頬つりそうかも。これからは毎日、私が踏んだパンをあげるわね」

男「…………」

女「いらないの?」

男「……ほしい」

女「私の踏んだパンが欲しいって、男君ってほんとおもしろ~い」ニヤニヤ

委員長「ちょっと、やめなよ女さん」

女「私は可哀相な男君にパンをあげてるだけだよ?」

委員長「だからそれがおかしいって言っているの。踏んだパン食べさせるなんて、それはもう苛めよ」

女「強制はしてないし。文句言うなら男君に毎日お弁当でも作ってきてあげたら」

委員長「それとこれとは話が……」

女「私がやめたら男君はお昼ご飯食べられなくなるだけだけど? 自分が何かしてから言えば偽善者ちゃん」

男「……おひるごはん」

委員長「だからそれとこれとは話が違うって言ってるでしょう? 屁理屈はやめて」

男「やめてよ、委員長さん」

委員長「……あなた、本当にそれでいいの?」

男「…………」

女「答えは一目瞭然みたいね」ニヤニヤ

委員長「わかりました。私が明日から男君のお弁当を作ってきます」

男「え?」

女「は?」

女「あんた、それ本気で言ってるの?」

委員長「私はつまらない冗談は付かないタイプなの」

男「え、えっと、どういうこと? 毎日委員長さんがお昼ご飯くれるの?」

女「……一回でも受け取ったら、一生何もあげないわよ」

男「え?」

女「どうせ委員長さん、すぐ善人ごっこに飽きてやめるわよ? そのとき、もう私は何もしないから」

男「…………」

委員長「大丈夫よ。私、自分で決めたことは曲げたことがないの」

男「じゃあ、お願いしようかな……」

女「……ふ~ん」

委員長「ええ、ただし条件があるわ」

男「じょうけん?」

委員長「女さんと、一切関わらないようにして」

男「え?」

女「…………」

委員長「約束できる?」

男「女さんは……大事なともだちだから」

女「……ッ!」

委員長「…………そう」

女「気持ち悪。勝手にすればいいじゃん」

委員長「らしいわよ、男君」

女「いいわよ、私も関わらないようにしてあげる」

女「でも、私からもひとつ条件いいかな。委員長さんに」

委員長「私に?」

女「期限は……まあ、学年が変わるまででいいかな」

女「お弁当渡すの、二日連続ですっぽかしたら、私から委員長さんに何かぺなるてぃーをあげちゃおっかな」

委員長「別に、御勝手にどうぞ。私にもあんまり話しかけないでね」

男「…………女さん」

__放課後:帰路__

男「変わったことになっちゃったな、なんか」

男「お昼ご飯、毎日食べられるのかな」

男「だと……いいな」

御嬢様「…………」

男(あ……確か、同じ学年の、お金たくさん持ってる人。道路に座り込んで何やってるんだろう?)

犬「ワンワンッ」

男(あ……棄て犬を見てるんだ)

御嬢様「がうううう。よーしよーし」

男「…………」

御嬢様「わたくしの家では飼えないのよね……せめて何か食べられるものがあったら良かったんだけど……」

女『ごめんごめん。あ、そうだ、購買で買ってきたパンあげようか? 私の食べかけだけど』

男(よくわかんないけど、なんだかくやしいなあ)

御嬢様「よしよし、ちょっとスーパー行ってくるから待っててね」タッタッタッ

男「…………」タッタッタッ

男「ねえ」

犬「わう?」

男「なんだかさ、悔しくない?」

犬「くう……」

男「わかるわけないよな、僕何やってんだろ」

犬「…………」

男「僕が拾って『やる』よ。嬉しい?」

犬「ふわぅっ」

男「…………」

犬「くーん」ペロッ

御嬢様「あっ、確か同学年の男くん」

男「…………」

御嬢様「そっか、その子、拾ってくれるんだ」

男(くれるんだってなんだよ……)

御嬢様「男くんって優しい人なんですね」ニコッ

男「そんなんじゃあ、ないよ」

御嬢様「あの……お願いがあるのですが、いいですか?」

男「なに?」

御嬢様「たまに……その子の様子を見に行きたいのです。その、わたくし、ペットを飼うことに憧れていまして」

男「……いいよ」

__翌日:昼休み__

委員長「男君! はい、どうぞ」

男「ほ、ほんとうにくれるんだ」

委員長「当然でしょ、ふふ」

男「…………」チラッ

女「…………」プイッ

男(やっぱり、よそよそしいよね)

「あいつ、委員長さんに何かもらわなかった?」
「さあ、気のせいだろ」

男(変な噂になったらきっと迷惑だろうな)

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