後輩「明日が何の日だか知ってます?」男「バレンタイン」(74)

後輩「はあー……」

男「どうした? わざとらしく溜息なんかついて」

後輩「違いますよー。明日の事を考えると、自然と出ちゃって……」

男「嫌なことでもあるのか?」

後輩「明日が何の日だか知ってます?」

男「今日が、二月十三日だから…… ああー、バレンタインデーか」

後輩「ええ、愛の誓いの日とされてる日ですよ。日本ではチョコを贈る日って感じですけど」

男「どこかのお菓子メーカーが考えたんだっけ? 上手いことを考えたよな

後輩「先輩は、貰えるアテあります? ちなみに僕はありません」

男「俺は妹から貰えるかもな。去年は貰えたし」

後輩「家族はノーカウントですよ」

男「じゃあ、ないな。恋人もいなければ、モテもしないし」

後輩「それなら先輩も、僕の気持ち分かってくれますよね?」

男「まあ、わからないこともないけど……」

後輩「モテない野郎にとって、明日ほど惨めな日はないですよー……」

男「チョコの数で人の価値が決まるわけじゃないだろう?」

後輩「そう言って、惨めな自分を励ましたい気持ちはわかりますけど。強がることはないですって」

男「べつに、そうじゃないけど」イラッ


男「じゃあ、なんだ? 今から女子に好かれる努力でもするか?」

男「それとも、くれって泣きつくか? それこそ惨めだろう……」

後輩「そういうわけじゃないですけどー。はあー……」

男「もう考えるな。もしかしたら、もしかするかも知れないだろう?」

後輩「ないですよ。今までの経験上、絶対にー……」ハアッ

男「……ここまでくると、相手をするのが面倒になってくるな」

後輩「そんなこと言わないで下さいよー、もう少し傷を舐めあいましょうよー」

男「気持ち悪いこと言うなよ、虫唾が走る」ゾクッ


後輩「ねえ、先輩?」

男「泣きごとなら、もう聞かないぞ」

後輩「友チョコって知ってます?」

男「なんだ、それ?」

後輩「同性の友達にあげるチョコですよ」

後輩「好きな男性がいない女性でも、イベントを楽しめるようにって考えられたものです。……たぶん」

男「もうバレンタイン関係ないじゃないか?」

後輩「いいんですよ。こう言うのは楽しんだもの勝ちですからね」

男「まあ、イベントってのは、そういうものだろうけど……」


後輩「こうなったら僕等もやりませんか? と・も・チョコッ!!」

男「血迷ったのか? 日本のバレンタインは、女性からプレゼントを贈る日だろう?」

男「なんてか、男性が贈る日じゃないって言うか、その……」

後輩「逆チョコなんてモノもあるんですよ。可笑しくないですってー」

男「確かに、海外では男性が贈るけど。それを日本で、しかも贈る相手が同性って変だろう?」

後輩「いいじゃないですかー!? こうでもしなきゃ、辛いだけなんですよーっ!」

男「てか、俺から貰って嬉しいのか?」

後輩「そりゃあ、嬉しいですよ。尊敬する先輩から貰えたとなれば、尚更!」

男「俺は嬉しくないけどな」


後輩「可愛い後輩のためだと思って、人肌脱いで下さいよ。むしろ全裸希望ですっ!」

男「色々と嫌だよ。この時期に野郎がチョコを買うだなんて、罰ゲームだろ」

後輩「コンビニに売ってるチョコでもいいですから、お願いしますよ」ペコッ

男「そこまでして欲しいのか? ……理解に苦しむ」

後輩「理解して下さい。僕は本当、バレンタインデーに良い思い出がなくって……」

男「まあ、コンビニのチョコくらいなら……」

後輩「ヤッター、約束ですよ!!」

男「こんなことで喜べるのか!?」ビクッ

後輩「明日、楽しみにしてますね。それではーっ!」ダダダッ

男「……本当、理解し難い」


友人「よお!」

男「あれ、どうした?」

友人「一緒に帰ろうと思って、待っていた」

男「先に帰ればいいのに…… なんか悪いな」

友人「好きでしていることだ。それよりも委員会、時間かかったみたいじゃないか?」

男「後輩の愚痴に付き合っていただけだよ」

友人「いい先輩なんだな。その後輩が羨ましい」フフッ

男「本当、そう思うよ。今回ばかりは……」

友人「何かあったのか?」

男「いや、なんでもない。さて、帰るか」

友人「ああ、帰ろう」


男「明日、バレンタインデーだってさ。って、お前には関係ないか」

友人「ん? どう言う意味だ?」

男「お前は女子に好かれるから、モテない奴の辛さなんてわからないだろうなって」

友人「酷い話だ。それはそれで辛いものがある」

男「へえー、モテ過ぎて困るって事もあるのか?」

友人「興味ない女性からチョコを贈られてもな。それにホワイトデーなどと言う、イベントまである始末」

男「無理に返す事もないだろう?」

友人「そういう訳にもいかん。真剣な想いには、こちらも真剣に答えねば失礼と言うもの」

男「そんなマメなことをするから、好かれるんだろうな」

友人「そういうものか?」

男「そういうものだろう?」


友人「……男は、異性に好かれたいのか?」

男「どうした、いきなり?」

友人「辛いなどと言うので、少し気になった」

男「まあ、一度くらいは大量のチョコを貰ってみたいかな? 甘いものは好きだし」

友人「俺が羨ましいか?」

男「少しだけな」

友人「嫉妬、するか?」

男「そこまで器の小さい奴ではないつもりだけど?」

友人「そうか、安心した」ホッ

男「人を怨むより身を怨め、だろ? て、ちょっと違うか」ハハッ


男「そうだ。コンビニによっていいか? 後輩に頼まれたものがあってさ」

友人「コピーでも頼まれたか?」

男「いや、チョコを買ってくれって、せがまれたんだよ」

男「女子からチョコを貰えないからって、俺に要求してきたんだ。ふざけた話だよな」

友人「まさか…… 友チョコ、というものか!?」

男「らしいよ。けど、やっぱりなんか間違ってるよな?」

友人「その手があったか、なんという盲点……っ!?」ビクゥッ

男「なんか言ったか?」


友人「や、やらないか!? 友チョコ、俺達も!!」

男「どうした、トチ狂ったのか?」

友人「つまりだ。俺はお前に常日頃、感謝している。それを形にしたいと思ってだな」

男「それは嬉しいけど。べつにバレンタインデーじゃなくてもよくないか?」

友人「しかし、こういう機会でもないと中々に渡せないものだ」

男「誕生日とかあるだろう?」

友人「だが、男は甘いものが好きなのだろう? この時期だからこその限定品が……」

男「べつに変な気は使わなくていいぞ?」

友人「むぅう……」


アリガトウゴザイマシター

男「コンビニでも、ちょっと恥かしいな」ハハッ

友人「お、美味しそうだな。そのチョコレート」

男「そうか? 黒い雷撃だぞ?」

友人「しかし、俺は口にしたことがない」

男「まあ、一目でわかる義理チョコだしな」

友人「義理チョコ専用チョコ、なのか?」

男「広告に書いてあるから、そうなんだろう?」

友人「そ、そうか、義理か……」

男「てか、明日になれば大量にチョコが貰えるんだから、我慢しろよ」

友人「そうだな、止めておこう。義理、だしな。だが、しかし……」ボソボソッ

男「?」

自宅――

男「」ガチャ

妹「お帰り、兄さん」タタタッ

男「ああ、ただいま」

妹「今日は遅かったね、どうしたの?」

男「後輩の愚痴に付き合って遅くなっただけだよ」

妹「無理に付き合う事ないのに……」

男「そうできれば良かったんだけどな」


男「ん? なんか、甘いな……」クンクン

妹「チョコ、作ってたから」

男「明日の? 手作りなのか?」

妹「うん」

男「手作りだなんて、今年は気合い入ってるな。好きな男の子でも出来たか?」

妹「えっ? 去年も手作りだったでしょ? ……覚えてないの?」

男「そうだっけ?」

妹「そうだよ」


男「えと、今年は何チョコを作ったんだ?」

妹「ひみつ」

男「教えてくれてもいいじゃないか?」

妹「明日になれば分かるよ」

男「今年もくれるのか?」

妹「貰ったことは覚えてるんだ」

男「まあ、それは覚えてるよ。……あ、そうだ!?」

妹「どうしたの?」

男「頼みがあるんだ。そのチョコ、俺の後輩にも恵んであげてくれないか?」

妹「どうして?」


男「その疑問はもっともだ。見ず知らずの相手に贈る道理はない。けど、困ったことに……」

男「そいつ、バレンタインにチョコを貰ったことがないらしくて暴走してるんだ。欲しくて仕方がないんだろうな」

男「で、終には、俺に友チョコだとか言って、せがんできて……」

妹「男の子同士で、チョコの交換?」

男「ちょっと気持ちが悪いだろう?」

男「だから、できれば俺もしたくない。けど、勢いに負け、約束してしまったんだ」

妹「それを回避する為に、私からチョコを贈って欲しい。そういうこと?」

男「そうしてくれれば助かる。こんな事をしなくて済むし――」

男「アイツも、俺なんかから貰うより、女の子から貰った方が嬉しいはずだからさ」

妹「で、でも……」


男「難しい頼みだってことはわかってる。けど、他に頼める人もいなくて……」

男「もちろん渡すのは俺だ。後輩に手渡しろとまでは言わない。だから頼むよ」ペコッ

妹「頼まれてあげたいけど。チョコの数がなくて……」

男「だったら、俺のをあげてくれよ」

妹「えっ?」

男「それなら数が足りるだろう? 俺はいらないから」

妹「で、でも……」

男「やっぱり、駄目か?」

妹「……わかった、いいよ」

男「ありがとう、助かるよ」ニコッ

妹「うぅ……」シュン


男「なあ、何チョコを作ったんだ? せっかくだし、教えてくれないか?」

妹「……」

男「秘密にする必要も、もうないだろう?」

妹「チョコケーキ、ハート型の。クッキー砕いて作った……」

男「へえー、手が込んであるみたいだな」

妹「そうかもね」

男「誰のために作ったんだ? 俺は、そのついでだとして、やっぱりクラスの子か?」

妹「え?」

男「あ、いや、ごめん。無枠だったな。本当、気配りができなくて、調子に乗った……


妹「兄さんは、どうして気づかないの?」

男「だから、謝ってるだろう。もう聞かない、詮索しない」

妹「そうじゃない。そうじゃなくて……」

男「どうしたんだ?」

妹「な、なんでもないよっ!!」タタッ

男「おい、待てよ!」

男「……あ、行ってしまったか」ハアッ

男「なんて馬鹿なことを聞いたんだ。年頃の女の子に聞いていいことじゃなかったよな」

翌日 ―2/14バレンタインデー――

男「おはよう。昨日は、その……」

妹「はい」スッ

男「え?」

妹「これ、後輩さんに渡すチョコ」

男「あ、ありがとう」ニコッ

妹「昨日は、ごめんなさい」

男「いや、いいんだ。こっちこそ、ごめん」

妹「今日は何時頃、家に帰れそうなの?」

男「えと…… 用事ないし、早く帰れると思うけど?」

妹「わかった」

男「?」

登校――

友人「元気ないな? どうした?」

男「昨日、妹と喧嘩して。一応、仲直りはしたんだけど……」

友人「普段は喧嘩なんてしないくらい、仲がいいんだろう?」

男「まあ、一般の家庭に比べて仲はいいんじゃないかな?」

男「両親が仕事で家を空けることが多いから、それで必要以上に近いって言うか……」

友人「複雑なんだな」

男「で、まあ、それが喧嘩の原因なんだ」

友人「どういうことだ?」

男「妹の事を気にし過ぎたっていうか、シスコンが過ぎたって言うか……」


男「熱心にチョコを作っていたみたいだから、誰に贈るんだって、つい聞いてしまって」

友人「兄としては気になるところだ。仕方のないことだと思うが?」

男「けど、やっぱり無粋だろう? それに無理なことも頼んだし……」

友人「どんな頼みを?」

男「そのチョコを後輩にあげていいかって頼んだんだ。本命以外のチョコもあったみたいだから」

友人「ほう」

男「その方が、後輩の奴も喜ぶだろう? やっぱり俺から贈るのは嫌だったし」

友人「それで妹さんは?」

男「一応、頼まれてくれたよ。……これがそうだ」スッ

友人「可愛らしい包装だ。これは嬉しいだろうな」

男「そうでなければ困る」


友人「……ところで昨日のチョコはどうした?」

男「昨日のチョコ?」

友人「コンビニで買っていたチョコだ。義理チョコ専用の」

男「ああ、あれか。ここにあるけど……」スッ

友人「どうするつもりだ?」

男「もう必要ないし、後で食べるよ。……けど、今日食べるのは少し虚しいか」ハハッ

友人「なら、そのチョコ、俺にくれないか?」

男「そういえば食べたいって言ってたな。けど、お前は今日、大量に貰うだろう?」

友人「そんなことはまだ分からん。それに、今、食べたいんだ。朝食を抜いてしまい、腹が減っている」

男「じゃあ、はい」スッ

友人「これが、チョコ!? ……お、男からのおチョコ!? ふおおおおん!!」バリバリッ

男「本当に飢えてたのか!? なんか、哀れだなー……」

学校 休み時間――

男「さて、渡してくるかな」ガタッ

友人「行ってくると良い。きっと手放しで喜ぶはずだ」

男「だと良いけど。じゃあ、行ってくる」タタッ

友人「ああ」

女子A「あ、あの、友人くん、その……」モジモジ

女子B「私、友人くんに渡したいものがあるんだけどー」ドタドタ

友人「一人になった途端これか、嫌になってしまう」ボソッ

校舎裏――

後輩「先輩、約束のものは持ってきましたか!?」

男「まあ、約束したからな」

後輩「では早速、交換しましょうよ」

男「はい、どうぞ」スッ

後輩「うわーっ。可愛らしい包装ですねー。これ、本当にコンビニのチョコですか!?」

男「違う、妹の手作りチョコだ。お前のことを話したら、可哀想だから恵んでやるって」

後輩「えっ……」

男「どうだ? 俺の妹のチョコで、義理だけど、一応、女の子からのチョコだぞ?」

後輩「……」

男「なんか、言えよ。それとも感動のあまり、声がでないのか?」


後輩「……」

男「多分、美味いと思うぞ。色々と手を加えてたみたいだし」

後輩「……ちが」

男「兄の俺が言うのも変だけど、うちの妹は可愛い方だと……」

後輩「こんなの、違うッ!!」

男「へっ?」

後輩「僕は、こんなものが欲しいわけじゃなかったんですよ!」

男「ど、どうした!? 昨日は、あんなに女子からのチョコが欲しいって……」

後輩「それは演技―― 嘘だったんです。先輩とチョコ交換する為のッ!!」

男「な、なにを言っているんだ?」


後輩「僕は先輩と楽しく、ホモチョコを交換し合って、食べ合って、イチャイチャし合いたかった」

後輩「それなのに、妹さんのチョコなんかを持ってこられたら……」

後輩「気持ち、そがれちゃうじゃないですかーッ!?」

男「……えっ?」

後輩「僕はね…… 先輩が、僕の為に、恥ずかしさを堪えて買ってくれたチョコが食べたかったんですよ」

後輩「雌の手が入った、雌の気持ちがこもった、そんなチョコなんて、お呼びじゃあないんですッ!」

男「お、お前は、なにを言っているんだ? いや、違うな…… なにを求めているんだ!?」

後輩「一言で言えば、『愛』ですかね?」

男「あい? アイ? ……ラブッ!?」ビクッ


後輩「僕は先輩が好きなんです。だから先輩とバレンタインし合いたかった――」 

後輩「だって、今日は愛を誓い合う日なんですよ?」

後輩「愛されてなくても、まねごとくらいしたいじゃないですかッ!?」

男「……俺が、好き?」

後輩「ええ、ずっと恋焦がれていました。この学校に入学したのだって、先輩がいたからッ!」

男「えと…… なんだ、それ!?」ビクッ

後輩「でも、僕の想いがバレた以上、終わりですね。……先輩はノンケ、僕はホモ」

後輩「相容れない存在。それなのに僕は、気持ちを爆発させてしまった、こんな些細なことで……」

男「えっ? ああ、そうか。引いてくれるのなら、助かるよ」

後輩「うばああああああん」ナキッ

男「ええッ!?」


後輩「どうじででずが!? ぞごば、大丈夫だよっで言うどころでじょ!?」

男「だって、お察しの通り、俺はノーマルだから。お前の愛には答えられない」

後輩「うばあああああ、ぞんなあああああああーー……」

男「汚い泣き面だな。……とにかく諦めろ。俺にとってお前は、ただの後輩でしかない」

後輩「ぜんばああい、みずでないでぐだざいよー。やざじぐじでよーーっ!!」

男「無理だ、不可能だ。悪いが、諦めてくれ」

後輩「あぎらめぎれまぜんよーーっ、愛じでぐだざーい。ラブ、ミー、ラブ、ミー……」

男「き、気休めかも知れないけど、何処かにお前を受け入れてくれる人はいるよ」

後輩「ぜんばあああい。ぜんばあああああい……」

男「じゃ、じゃあ!!」ダダダダ


男「はあッ、はあッ…… ぐぅっ!」

友人「どうした、息を切らせて?」スッ

男「!?」ビクッ

友人「怖がることはない、俺だ」ポンッ

男「そ、そうか」

友人「なにがあった? 例のものを渡しに行ったのではないのか?」

男「それが…… いや、なんでもない」

友人「どうした? 俺にも話せないことか?」

男「本当に、なんでもないんだ」

友人「……わかった、これ以上は追及しない。だが、話したくなったら、いつでも話してくれ」ニコッ

男「あ、ああ。ありがとう」

放課後――

男「はあ…… 帰ろう」

友人「すまんが、今日は一緒に帰れそうにない」

男「?」

友人「複数人の女子に呼び出されていてな……」フゥッ

男「なんか、大変そうだな」

友人「全くだ。だから、先に帰っててくれないか? 待たせるのも悪い」

男「わかった。じゃあ、また」タタッ

友人「あっ…… ああ、また!」


男(結局、今年もチョコレート一個も貰えなかったな)スタスタ

女「あ、あの!」

男(それどころか、あんな告白まで聞かされて……)スタスタ

女「あ、あのーーっ!!」

男(やっぱり、バレンタインなんていいものじゃないな)スタスタ

女「男さん、待って下さい!!」ガシッ

男「!?」ビクゥッ

女「あ、あのー……」

男「な、なに? てか、君は誰?」

女「すみません、驚かせてしまって。何度も声をかけたんですけど……」


男「それは、ごめん。で、俺になに用かな?」

女「えーっと、ですね…… こ、これ、受け取って下さいっ!////」スッ

男「この包みは…… チョコかな?」

女「あわわっ。そ、そうです////」テレッ

男「わかった、渡しておくよ」

女「あれ?」

男「?」

女「わ、渡す?」

男「違うのか?」


女「男さんへ、ですよ。誰かに渡して欲しいわけじゃありません」

男「俺に? 本当?」

女「////」コクンッ

男「驚いた。……いや、ごめん。てっきり、友人に渡して欲しいんだと」

女「受け取ってもらえますか?」

男「もちろん。ありがとう」ニコッ

女「ご用件はそれだけですから…… し、失礼します////」タタッ

男「あ、いや、待て!」ガシッ

女「はわッ!?」ビクッ


女「な、なんですか?////」クルッ

男「無礼を承知で聞きたい。君は…… 女性だよな?」

女「えっ?」

男「だから、女の子だよな?」

女「……」

男「……」

女「……あぅぅ」グスッ

男「ご、ごめん」アセッ


女「いえ、いいんです。ちょっとショックだっただけで……」

男「本当にごめん。君のような可憐な乙女が、野郎なわけがない。それなのに、俺は……」

女「無理しないで下さい。そのチョコだって、いらないのならハッキリそう言ってくれた方が……」

男「いや、違うよ。これは本当に嬉しかった」

男「今まで、女の子からチョコなんて貰った事なかったし、義理も含めて。だから……」

女「き、気を使わなくて、大丈夫ですから……」

男「俺は気を使っていなければ、無理もしていない。凄く嬉しかった」

男「だから疑った。こんな可愛い子が、俺にチョコだなんて嘘だって――」

男「極めつけのオチがあるんじゃないかって。……自分の幸福を疑ったんだッ!!」

女「は、はぅーっ////」カーッ


女「あ、あの…… そ、それは、本当ですか?////」ドキドキッ

男「ああ、本当だ。嘘つく理由なんてないッ!!」

女「では、可愛いって……」

男「君だ。本当、馬鹿みたいに可愛いよ」

女「う、嬉しいです……////」グスンッ

男「あ、いや、そんな大げさに受け止められても……」

男「ほら、俺の目が腐ってる可能性だってあるわけだしさ。えと、なんかごめん」アセッ

女「それなら、腐ったままでいて欲しいと願うだけですよ」

男「なんだよ、それ?」

女「そのままの意味です////」テレッ


女「今日は本当にありがとうございました。受け取ってもらえて、凄く嬉しかったです」

女「それで、その…… ふ、不束者ですが、これから宜しくお願いします」ペコッ

男「えっ?」

女「ま、間違っていませんよね?」

男「あ、ああ。よろしく?」

女「うふふ、嬉しい。……夢みたい////」グスッ

男「いや、感謝するのは俺の方だよ。チョコ、ありがとう」

女「いえ。大したものでもありませんし、中身とかは期待しないで下さいね。えーっと……」

女「では、今日はこの辺で失礼します。また近いうちに」タタタッ

男「ああ、また」

自宅――

男(今年は一個もらえた。嫌な事もあったけど、これでプラスだな)ガチャ

男(どんなチョコだろう? まさか、本命だったりして)フフッ

男「ただいまー」バタン

妹「……」

男「どうした、こんなところで。宅配便、待ちか?」

妹「違うよ、兄さんを待ってたの。……お帰り、兄さん」

男「ああ、ただいま」ニコッ


妹「嬉しそう。なにか良いことあった?」

男「ああ、わかるか? 実は、初めてチョコ貰ったんだよ。女の子から」

妹「初めて? 貰ってたでしょ?」

男「貰ってたかな?」

妹「えっ? もう忘れたの? 昨日は覚えてたのに……」

男「えと…… ああ、そうだな。妹から貰ってたな。けど、それは去年の話だろう?」

妹「今年だって、兄さんが誰かにあげなければ貰えてたよ?」

男「いや、そうなんだけど…… ほら、家族からのはノーカウントが一般的らしいからさ」

妹「一般とか、どうでもいいよ。兄さんは、どう思ってたの?」


男「どうって?」

妹「嬉しかった? 私からのチョコ」

男「それは、もちろん」

妹「なら、どうしてあげたの?」

男「だって、それは……」

妹「うん、知ってるよ。後輩さんが可哀想だったからあげたんでしょ?」

男「あ、ああ……」

妹「でも、私が言いたいのは、そういうことじゃないの」

妹「兄さんにとって私からのチョコは、誰かにあげても構わない程度のものだったの?」


男「あ、いや…… ごめん」

妹「謝るってことは、認めるってこと?」

男「確かに、一生懸命作ったチョコを受け取らず、食べなかったのは悪かった」

男「だけど、お前の気持ちは受け取ったつもりだ」

妹「気持ち?」

男「兄妹ってのは、大きくなればなるだけ離れて行くものだろう?」

男「とくに女の子は、父や兄を邪険に扱ったりしてさ」

男「けど、俺はまだ兄として慕われているんだなって。だから、凄く嬉しかった」

妹「慕う? 違うよ」

男「えっ?」


男「ど、どういうことだ!?」

妹「私のチョコは、感謝の気持ちを形に表したもの―― 家族愛じゃないってことだよ」

男「えっ!?」

妹「鈍い兄さんでも、もう気づいたよね?」

男「いや、わからない。そうでなければ何だ!?」

妹「家族愛が違うなら、一つしかないでしょ?」

男「そう言われても……」

妹「ふぅーん、そう。まだ気づかないの? ふふっ、意地悪だね」

男「気づけ、気づけと言うけど。口で言ってくれなければ分からない、伝わらない!」

妹「そう。直接、言わせたいんだ。……やっぱり、兄さんは意地悪だね」フフッ

男「お前が回りくどいからだろう!?」


妹「わかった。恥ずかしいけど、言葉にするね。だから兄さんも、真剣に受け止めてよ?」

男「ああ、約束する」

妹「私、兄さんが好きなの。兄としてではなく、一人の男性として」

男「へっ?」

妹「愛してるってこと。私、兄さんの全てが欲しい」

男「え、あ、いや…… えっ!?」

妹「伝わった?」

男「あ、ああ……?」

妹「え、とか、あ、とかじゃわからないよ。ちゃんとした言葉で答えて」

男「ええッ!?」


男「そ、それは、本当なのか!?」ビクッ

妹「もう一度、言わせたいの?」

男「そうじゃない。だって、俺達は兄妹じゃないか!?」

妹「だから?」

男「だ、だから…… ライクはいい。けど、ラブはマズイだろう?」

妹「言ったよ。一般とか、どうでもいいって。兄さんは、どうなの?」

男「ど、どうって……」

妹「やっぱり私のこと、異性としては見られない?」

男「兄妹じゃ駄目なのか!?」


妹「昨日までは、それでもよかった。でも、それは駄目だって知ったの」

男「知った?」

妹「今日、偶然見たんだ。兄さんに付きまとう不快な犬を……」

男「いぬ?」

妹「兄さんに可愛いって言われて、調子に乗った雌犬だよ。ぶんぶん尾を振ってたでしょ?」

男「彼女のことを言っているのか?」

妹「そうだよ、そのチョコを贈った人。女性を前面に押し出した、ぶりっ子。私は苦手」

妹「……でも、凄く羨ましかった」

妹「可愛いって言って貰えたり、ちゃんとチョコを受け取って貰えたりして」

男「……」

妹「それを見て知ったの。今のまま―― 妹のままではいられない」

妹「だって、大好きな兄さんが、他の人に奪われるのは嫌だから」


男「その愛は、多くの人に認めてもらえるものじゃない。それでもいいのか!?」

妹「私は構わないよ、大切なのは二人の想いでしょ?」

男「そうか。なら、ハッキリ言おう。俺にとってお前は……」

妹「ただの妹?」

男「違う、大切な妹だ。だから、そんな妹を一人の女性として扱うとか、見るとかは出来ない」

妹「そう、残念」

男「……ごめん」

妹「謝ることないよ。私がこれから頑張れば良いだけのことだから」

男「ん!?」


妹「そうだよね。今までずっと兄妹として接してきたんだもの。妹としてしか見られないのは当然だよね」

妹「だから、これからは意識して欲しい。私も兄さんを愛する、一人の女性だってこと」

男「な、なに馬鹿なことを!?」

妹「諦めると思ったの? それは無理だよ、わかって」

男「けど、俺の気持ちは変わらない。いままでも、これからも、ずっと。……だからっ!!」

妹「そんなことないよ。普通、『愛してる』なんて言われたら、絶対に意識するもの――」

妹「例え、妹からでも……」ズイッ

男「なッ!?////」

妹「ね? 今ちょっと意識したでしょ?」

男「それは、お前が不意に近づくからだろう!?////」バッ

妹「そうかもね」フフッ


妹「あ、そうだ。話は変わるけど、母さんも父さんも、いつも通り遅くなるって」

男「そ、そうか」

妹「今日も二人だけだね。……で、どうする?」

男「なにが?」

妹「ご飯とお風呂、どっち先にする? 聞かないと準備できないでしょ?」

男「えと……」

妹「今、いやらしいこと考えた?」

男「え?」

妹「私は考えたよ。一緒にお風呂とか、いいよね」

男「……」

妹「どうかな?」

男「うああああああああーーッ!!////」ダダダッ

妹「ふふっ、可愛い。私の兄さん」ニヤッ

外――

男「思わず飛び出してしまったけど……」ハアハアッ

男「色々と可笑しいだろ。てか、心の整理が追いつかない!!」

男「ぐぅっ…… なんだ、これ? なんだ、これーっ!?」

友人「おや? どうして、こんなところに?」

男「ゆ、友人!?」ビクッ

友人「俺か? 俺はようやく女子達から解放され、帰路についたところだ」

男「今までずっと掴まってたのか。本当に大変だったんだな」

友人「それより何があった? その汗の量、尋常ではない」

男「いや、べつに……」

友人「話せばスッキリするかも知れん、よければ話してくれないか?」

男「人に話すことでも……」


友人「何もせず、お前を放っておくのは心苦しい、胸が痛い。とても耐えられん」

男「けど……」

友人「話してくれないか。俺はお前の力になりたい」ポンッ

男「実は色々とあって、俺自身、まだ整理できてないんだ。どこから話せばいいのか……」

友人「ゆっくりで構わない」

男「……」

友人「そうだ、こんな道端で話すのも忍びない。公園のベンチに行こう」

男「ああ、それもそうだな」

友人「では、行こう。公園はすぐそこだ」

公園 とあるベンチ――

男「妹のことがわからなくなって……」

友人「わからない?」

男「アイツ、俺のことが好きだって言うんだ。愛してるって……」

友人「なんと!?」

男「俺にとってアイツは大切な妹だ。アイツも、そうでいて欲しかった」

男「けど、アイツはそれ以上のものを、俺に求めている」

友人「なら正してやればいい。お前が理想としている兄妹の在り方を、教えてやるんだ」

男「それは分かってる。けど、どう正せばいいのか…… 俺には分からない」

友人「普段通りに接していけばいいのではないのか?」

男「ああっ!? そうか、そういうことなのか……」

友人「ど、どうした?」


男「それが無理だった。だから俺は混乱した――」

男「俺は、いつも通りに振舞えない。今までのようにアイツが見られない」

友人「男、気を確かに持てッ!?」

男「今、気づいた。俺は、ただ――」

男「なにも出来ない自分に失望し、戻らない日常に絶望しただけだと」ガクッ

友人「大丈夫だッ!!」ダキッ

男「!?」ビクッ

友人「俺がいるッ!」ギュウッ

男「な、なにしてるんだよッ!?」バッ

友人「ハグだが?」

男「はあッ!?」


友人「お前の悲しんだ姿を見ていられなくて、ついな」フフンッ

男「だからって抱きつくとか、どうなんだよ!」

友人「だが、元気が出たみたいじゃないか?」

男「!?」

友人「フッ、その調子だ。後ろ向きの考えでは、いい結果は生まれない」

男「そうだけど……」

友人「大丈夫だ、お前なら出来る。それに駄目だと感じても、俺がまた抱きしめてやる」ニコッ

男「いや、それはいらない」

友人「なにを言う、これは友情の証だ!」ダキッ

男「気持ち悪いだろッ!?」

友人「男ーっ、元気を出せ。お前ならやれる」ギュウッ


男「は、放せッ!」モダモダッ

妹「ついに尻尾を出したね、友人さん」スッ

男「妹!?」ビクッ

妹「大丈夫だよ、兄さん。このホモは、私が駆除するから」

友人「き、君は、男の妹君!?」

妹「ホモ、兄さんから離れてよ」チャキッ

友人「了解した、だから包丁はしまいたまえ」バッ

男「けど、どうしてここに!?」

妹「ご飯が先か、お風呂が先か、それとも私か、まだ聞いてなかったから」

男「そ、それは、ごめん」

妹「大丈夫だよ。お風呂って、もう決まったから」ニコッ


友人「君のことは聞かせて貰った。お兄さんを困らせているようだね?」

妹「困らせる? それは貴方でしょ?」

友人「話を逸らさないで貰いたい」

妹「ホモが私に何か言えるの?」

友人「先程の一件だけで決めつけて欲しくないな」

妹「ふーん。じゃあ、兄さんの目を見て『兄さんのことは愛してない、ただの友達』って言える?」

友人「な、なぜ、そのようなことを!?」

妹「踏み絵と同じようなことだよ」

友人「面白いことを言う。しかし、する意味がない」

妹「してくれたら話も聞くし、貴方達のことは口出ししないって約束するけど?」

友人「な、なにぃ!?」


男(なに話してるんだ。友人がホモ? まさか、そんなことは……)チラッ

友人「……」

男「なぜ黙っているんだ。俺達は友達だろう!?」

友人「俺は男を、愛していな…… ただの、ただのぉ…… くぅっ!?」

友人「うおおおおおおおおおッ!!!!」

男「へっ!?」

友人「嘘など、偽るなど、俺には出来んッ!!」

男「な、なにを言っているんだ?」

妹「正直な人、一時の嘘もつけないなんて……」フフッ


友人「ホモでなにが悪い。近親恋愛の方が、随分と世界の理から外れている!!」

妹「なにを言ってるの? 男女である私の方が、まだ健全だと思うけど?」

友人「それこそ世迷い言。結婚できるゲイこそ、世界に認知されているというもの」

妹「今は、そんなことどうでもいいでしょ?」

友人「どうかな? とにかく君と俺とでは、大s……」

男「もう、やめてくれッ!!」

友人「ハッ! しまったッ!?」

妹「ごめんなさい、兄さん。でも、わかったでしょ?」

妹「こいつはホモ―― 兄さんのお尻を狙う者。汚れの象徴、ノンケの敵!!」

男「そんな、馬鹿な…… うああああああーーッ!!」ダダダッ

妹「待って、兄さん!」

友人「待ってくれ、男。話をしよう!!」

とある通り――

男「はあ、はあ、はあ……」バタッ

男「友人がホモ。確かに、思い当たる節が多過ぎる。じゃあ、やっぱり……」

男「ぐっ、どうしてこんなことに…… 今日一日で壊れてしまった、俺の日常……」グスッ

女「あれ? どうしたんですか?」ヒョコッ

男「!?」ビクッ

女「驚かないで下さい、私ですよ」ニコッ

男「君は、チョコをくれた……」

女「はい、女です」

男「ああ、ごめん。まだ、チョコは食べてないんだ」

女「いえ、いいんですよ。そんな急がなくても」


男「本当は、すぐにでも食べたかったんだけど、色々とあって……」

女「そう見たいですね、大丈夫ですか?」

男「わ、わかるのか?」

女「気づかない方が難しいですよ。男さん、汗だくだし、顔色悪いですから」

男「そんなに!? あ、いや、ごめん。汚いかな?」

女「そんなことないですよ。それよりも何があったんですか?」

男「……」

女「すみません、聞いて良いことじゃないですよね」シュンッ

男「いや俺の方こそ、ごめん。けど、ありがとう、気遣ってくれて。それだけで十分だよ」

女「い、いえ。でも……」


男「心配をかけた。それじゃあ……」スクッ

女「待って下さい」ガシッ

男「?」

女「時間ありますか?」

男「ある、のかな?」

女「それなら私の家で寄って下さい」

男「ええッ!?」

女「い、いやらしいことじゃないです。私の家、パン屋さんだから、お茶でもと思いまして////」

男「ああ、そういうことか。じゃあ、遠慮なく寄ろうかな? 喉も渇いてるし……」

女「やっぱり。では、案内しますね」


パン屋――

女「ただいま帰りましたーっ!」

女母「裏口から入りなさいって言ってるでしょ!?」

女「お客さんを連れて来たんですって!」

女母「お客さん?」

男「ど、どうも、こんばんは」ペコッ

女母「あら、こんばんはー。えーっと……」

女「お母さん、今日話した人ですよ!」

女母「そうなら早くいいなさいよ。……男くん、こんな馬鹿娘だけど、よろしくね」フフッ

男「あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願います」


女「小さい店ですけど、お茶できるスペースもあるので適当に掛けて下さい」

男「えと……」

女「て、言われても困りますよね。案内します。……こちらにどうぞ」スッ

男「ごめん。じゃあ、失礼して」ストッ

女「コーヒー淹れますね。パンも食べますか?」

男「あ、じゃあ、一つだけ」

女「はい。では、どうぞ」スッ

男「ありがとう」

女「どう致しまして、うふふっ」ニコッ


女「じーっ」

男「どうしたの?」

女「ミルクは入れないんですね」

男「コーヒーは苦い方が好きだから……」

女「そうなんですか、覚えておきます」

男「?」

女「次は、すぐ飲める状態で出せるなって」

男「君って人は…… あははっ」

女「あれ? どうして笑うんですか!?」アセッ

男「ただ嬉しかった、それだけだよ」

女「喜んでもらうのは、まだ早いですよ」


男「ここ、何時まで営業してるんだ?」

女「十九時までですよ。売り切れしだい閉店ですけど」

男「じゃあ、もう少し居てもいいかな?」

女「構いません、むしろ大歓迎です」

男「……実は、妹と上手くいっていなくて、帰りづらいんだ」

女「妹さんと?」

男「ああ、色々とあってさ」

女「私もよく喧嘩します」

男「兄弟がいるのか?」

女「はい、一つ下の。すっごい生意気で、私のプリンとか勝手に食べるんですよ」

男「微笑ましいと思うけどな。うちはそういうことしないし」

女「そうなんですか?」


男「どちらかと言うと…… あ、いや……」ハアッ

女「本当に上手くいっていないみたいですね」

男「ああ、どうしていいのか分からない。いや、分かっているのに出来ないんだ」

男「だから逃げたくなった、今ある現実から……」

女「……男さん」

男「ちょっと格好が悪いな。妹と友達から逃げるなんて……」

女「そんなことないですよ。人間関係って、とっても難しいこと――」

女「ときには距離をとったり、時間を置くことも大事だと思います」

女「だから、そこまで自分を責める必要ないですよ」

女「……て、ちょっと偉そうでしたね」

男「そんなことない。……ありがとう、凄く気が楽になったよ」

女「なら良かったです!」ニコッ


男「……」ジッ

女「ど、どうしました? み、見つめられると困りますよ////」ドキッ

男「あ、ごめん。……べつに、深い意味はないんだ」

男「ただ、君と一緒に居ると落ちつくって言うか、安らぎを感じるなって」

女「そ、そうですか?////」テレッ

男「今日は本当にどうしようもない日だったけど――」

男「君に出会えたことだけは、素直に嬉しい。この出会いに感謝してもしきれない」ニコッ

女「お、お母さんも近くに居ますし、こ、困っちゃいますよ。恥ずかしいです////」ポッ

男「ごめん、そんなつもりで言ったわけじゃないんだ」

女「いえ、嬉し恥ずかしなんで…… うわああっ////」カァーッ

男「本当、馬鹿みたいに可愛いな」

女「はぅーーっ////」ボンッ


後輩「ただいまー……」

女母「こらっ! 裏口から入れって言ってるでしょ。それに今、いいところだったのに!」

後輩「そんなの知らないって……」

女母「本当に姉思いの子じゃないねー」

男「ハッ!? この声は…… それに、ただいまって……」

女「もうっ、弟が帰ってきちゃいましたよ。って、まだお外にいたんですかーッ!?」

男「おとうと?」

後輩「へー、姉ちゃん、彼氏いたんだー…… 僕なんか、フラれたって言うn……」チラッ

後輩「!?」ピーンッ

男「……う、嘘だろう!?」


後輩「どどどど、どういうことだよ、姉ちゃん!!」ダダ ガタッ

女「どうと言われましても…… て、邪魔しないで下さいよ。あっちに行ってなさい」シシッ

後輩「行かないよ。とっても大事なことだもん!!」

女「大事と言われましても……」

後輩「だってその人は、僕の憧れの先輩なんだよーっ!」

女「そ、そうだったんですか!?」

後輩「まさか、姉ちゃんと先輩は恋仲!?」

女「だったら、どうなんです?」

後輩「……」ウーン


後輩(ちょっと待てよ。それは、それでアリじゃないか!?)

後輩「ひゃっほほーい!!」ガッツポーズ

後輩「先輩が僕の義兄さんになるーっ、こんなに嬉しいことはないじゃないかーっ!」

女「弟と知り合いだったなんて、不思議な偶然があるものですね」

男「……あ、あ」

後輩「ではでは、これからもよろしくですよ、先輩――」

後輩「改め、お・に・い・さんっ!!」ニカッ

男「うわあああああああああああああーーッ!!!!」ガタンッ


おわり

色々、初めてだったので、変なところや醜い所があると思いますが、
見て下さった方がいたら、お付き合い頂き、本当に有り難うございました。

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