試合会場 教会
みほ「私たちに与えられた猶予は三時間だけ……。完全に包囲されている状態で出ていけば……全滅……」
優季「さむいよぉ」
左衛門佐「ここが死地となるか……!!」
みほ(戦車は修理するとして、このままの状態が続くと士気が下がっていくのは目に見えてる。そうなると私たちに勝機は万に一つもない)
カエサル「また雪像作りたいな」
おりょう「次は西郷隆盛にするぜよ」
みほ「……」
あき「雪合戦してるときは楽しかったのに」
桂利奈「うん……」
みどり子「ここガラスが全部割れているし、壁はあちこち穴があいているわね」
麻子「まぁ、外にいるよりはマシだ。にしても、この建物は老朽化が進んでいるな」
みほ「……そうだ!!」
沙織「どうしたの、みぽりん?」
みほ「みなさん、聞いてください!! 今から作戦を伝えます!!」
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桃「――そんな作戦が上手くいくとは思えないが」
杏「でも、他にないんだし、やってみるだけやってみてもいいんじゃない? ここで降伏するよりはよっぽどマシだしね」
柚子「私もそう思います」
みほ「ただ、問題はこの寒冷です。偵察にはかなりの危険が伴います」
優花里「それなら私がいきますよ、西住殿!!」
エルヴィン「私も行こう。それなりの防寒対策はできている」
みほ「あ、いえ、エルヴィンさんは別にやってほしいことがあります」
エルヴィン「別に?」
みほ「はい。カバさんチームで雪像を作って欲しいんです」
カエサル「アレクサンドロス大王!」
エルヴィン「ヘルマン・ゲーリング!」
左衛門佐「細川ガラシャ!」
おりょう「西郷隆盛!」
カエサル・エルヴィン・左衛門佐「「それだぁ!!」」
みほ「違います」
カエサル「真顔で違うと言われてしまった……」
おりょう「西住隊長、なんか冷たいぜよ」
エルヴィン「寒冷地だからな」
左衛門佐「それだ」
みほ「ウサギさんチームとカメさんチームとカモさんチームは各車輌の修理を大急ぎでお願いします」
梓「はい!」
桃「わかった」
みほ「優花里さんと私、麻子さんと園さんがペアになって偵察に向かいます」
優花里「わ、私が西住殿と偵察ですかぁ!?」
みほ「あ、嫌なら……」
優花里「いえ!! 行かせてください!!!」
みほ「あ、ありがとう」
典子「あの!! アヒルさんチームは何をすればいいですか!?」
沙織「私と華は?」
みほ「沙織さんと華さんとアヒルさんチームには、この作戦の要になることをやってほしいんです」
麻子「よろしく、そど子」
みどり子「その名前で呼ばないで!!」
沙織「これ、やるのはいいんだけどさぁ、上手く乗って来てくれるかなぁ? ただ疲れるだけで終わったら最悪だよ?」
みほ「そこはアヒルさんチームと沙織さんのチームワークでなんとかしてほしいの」
沙織「えー……」
典子「よぉーし!! 雪をも溶かす勢いでやるぞ!!! 根性だぁ!!!」
妙子・忍・あけび・華「「おぉー!!」」
沙織「華!?」
杏「さりげなく全員に仕事を与えたかぁ」
みほ「こうすることで私たちが絶望的な状況であることを少しでも忘れられると思って」
杏「いいと思うよ。よし、みんなぁー、やるぞー」
桂利奈「あいー!!」
あゆみ「やりますかぁ」
みほ「優花里さん、行こ」
優花里「はぁい!! どこへでもいきますぅ!!」
沙織「うぅ……。寒い」
典子「これから嫌でも熱くなります!!」
華「そうですね」
妙子「五十鈴先輩、楽しそうですね。好きなんですか?」
華「はい。わたくし、砲手をしていて気付いたのですが、どうにも当てるのが好きみたいで」
あけび「へぇー。そうなんですか」
忍「私もアタックするのが得意です!!」
沙織「それは微妙に違うような」
典子「大きさはやっぱりバレーボール級でいいですよね?」
沙織「それはでかすぎ!! 死人がでるから!!」
典子「そうですか?」
妙子「私もバレーボールぐらい大きいの作りました……」
沙織「いや、野球のボールぐらいでいいから!!」
あけび「わかりました!!」
典子「よし!! 雪玉を大量に作れ!! 出来上がり次第、雪合戦開始だー!!」
沙織「やー!!」
あけび「ブローック!!! わぷっ!?」
沙織「飛び出てきちゃダメだから。よけて、よけて」
典子「忍!! いくぞ!! そーれっ」ポイッ
忍「アターック!!!」バシッ!!!
沙織「きゃ!? つめたい!!」
典子「やった!! 1ポイントゲット!!」
忍「やったぁ」
華「えーい」シュッ!!!
忍「ぶふっ!?」
典子「忍ー!!! どうしたー!?」
華「やりましたぁ」
妙子「五十鈴先輩……背後からなんて容赦ないですね……」
華「こういうことは本気でやるほうが楽しいんですよ」
妙子「な、なるほど」
カチューシャ「すぅ……すぅ……」
ノンナ「カチューシャ。カチューシャ」
カチューシャ「ん……なにぃ……? あいつら、降伏を受け入れたの……?」
ノンナ「いえ。違います」
カチューシャ「じゃあ、もうちょっと寝るから」
ノンナ「大洗は遊び始めています」
カチューシャ「……は?」
ノンナ「数分前から雪合戦を始めました。まだ数人だけですが」
カチューシャ「なによ。カチューシャたちを挑発してるわけ?」
ノンナ「意図は不明です。ただ、心から楽しんでいるとの情報もあります」
カチューシャ「気に入らないわね。自分達の置かれている状況を理解できていないのかしら」
ノンナ「どうしますか?」
カチューシャ「……放っておいていいわ。どうせ恐怖心を誤魔化しているだけでしょうし」
ノンナ「分かりました」
カチューシャ「それじゃ、ピロシキ~。んっ……すぅ……すぅ……」
沙織「とぉー!!」シュッ
華「はいっ」パシッ
沙織「受け止めた!? そんなのアリ!?」
華「お返しします」シュッ
沙織「きゃ!?」
あけび「ブローック!!! わぷっ!?」
沙織「ちょっと、あけびちゃん。私のことをそんな必死に守らなくていいから、ね? 気持ちは嬉しいんだけど」
あけび「ぐぐ……体が勝手に……」
沙織「勝手に動いただけなんだ……」
典子「うおぉぉ!! あけびの仇だぁー!! そーれっ」ポイッ
忍「アターック!!」バシッ
沙織「つめたっ!? ちょっと!! 何するのよー!!! 狙うなら私じゃなくて華でしょ!!」
妙子「……出てきませんね」
典子「まだ根性が足りないんだ!! もっと気合いをいれて投げろー!!」
妙子「はい!! キャプテン!!」
典子「それそれー!!」キャッキャッ
妙子「ちょっとキャプテン、やめてくださーい」キャッキャッ
沙織「やっぱり乗ってきそうにないよね。これ、みぽりんにしては珍しく失敗じゃない?」
華「ですが、まだ初めて十数分ですし、もう少し様子を見たほうがいいと思いますよ。それにようやく体が温まってきたところですから」
沙織「華はただ雪合戦したいだけでしょ」
華「沙織さんは嫌なのですか?」
沙織「真っ白な私を見ればわかるでしょー!? さっきからなんでか私ばっかり狙われてるんだからー!!」
あけび「すみません。ブロックの壁が一枚では限界が……」
沙織「あけびちゃんはがんばってると思うけどね」
忍「でも、確かにネットがないんじゃスパイクを打った気になれないってのはあるよね」
妙子「そうなの? 私はよくわからないけど」
典子「ネットは?」
あけび「流石に持ってきてません」
典子「なら、雪でネットを作るしかない」
忍「雪でネットを!? できるんですか!?」
>>9
忍「でも、確かにネットがないんじゃスパイクを打った気になれないってのはあるよね」
↓
忍「ネットがないんじゃスパイクを打った気になれないよね」
ノンナ「カチューシャ。同志カチューシャ」
カチューシャ「もう、なによぉ。土下座するってぇ?」
ノンナ「いや、あちらを見てください」
カチューシャ「ん……?」
典子「これでどうだ!!」
妙子「すごい!! 高い!!」
忍「すごいアタックできそうです!!」
あけび「これならブロックもできる!!」
華「なるほど。確かにこうするれば雪もネットになりますね」
沙織「いや。これ、ただの雪の壁じゃん。相手のコート見ないし」
典子「これはスノーバレーと命名しよう」
妙子「ビーチバレーに対抗した新競技ですか!!」
忍「流石、キャプテン!!」
沙織「ちょっと待って! これ雪合戦だから!! 勝手に種目変えないでよぉ!」
典子「あぁ、そうでした。すみません」
典子「そーれっ」ポイッ
忍「はい!!」バシッ!!!
沙織「あぶないっ!!」
華「結局、スノーバレーをするのですね」
妙子「サーブ、いくよー」
あけび「いつでもー!!」
カチューシャ「何してるのよ、あれ」
ノンナ「雪合戦のようなバレーボールですね」
カチューシャ「そんなの見たら分かるわよ。カチューシャが言ってるのはなんでこの状況であんなにも楽しそうにバレーボール風の雪合戦ができるのかってこと」
ノンナ「それは分かりかねますが、あの大きな雪壁は問題ですね」
カチューシャ「え? む……。あそこにあると、カチューシャの戦術に支障が出るじゃない」
ノンナ「はい。それにあの雪壁を文字通り壁として利用されると厄介ですね」
カチューシャ「今から注意しに行きましょうか」
ノンナ「はい」
カチューシャ「ふん。やるじゃない。遊んでいるように見せかけてきっちりカチューシャたちには不利で、自分たちには有利な障害物を作るなんて。でも、詰めが甘かったようね」
典子「今こそ必殺の見えないサーブを見せるときだ!!」
妙子「キャプテン!! 向こう側が見えない所為かとっても打ち辛いです!!」
典子「目隠しでサーブを打つと思えばいい!! いつもの力加減を思い出せ!! あとは根性だ!!」
妙子「はい!!」
沙織「根性根性って言う割りには的確なアドバイスすること多いんだよね」
華「精神論だけではいけないことを知っているのでないですか?」
妙子「せーっの。はい!!!」バシッ!!!!
カチューシャ「ちょっとあなたた――」
ノンナ「あ、カチューシャ」
カチューシャ「ぷへぇ!?」
沙織「え!?」
華「カチューシャさん!?」
あけび「顔面レシーブ!!!」
典子「どうしたー!? そっちでは何が起こっているんだー!!」ピョンピョン
妙子「キャプテン、跳ぶんじゃなくて回り込みましょう」
カチューシャ「ちょっと!! 強襲!? 奇襲!? 何が起こったのよ!? 痛いし冷たい!! ノンナー!!」
ノンナ「大丈夫です。顔の雪玉が直撃しただけですから」ゴシゴシ
カチューシャ「バルバロッサ作戦の再現でもしてるの!? ふざけないで!!!」
ノンナ「カチューシャ、落ち着いて。ほら、ここにも雪が」
カチューシャ「ぶぅー……」
妙子「すみません!! 大丈夫ですか!?」
忍「ごめんなさい!!」
あけび「怪我はないですか?」
カチューシャ「な……」
ノンナ「ええ。なんともありません。私たちが無闇に射程内に入ったのがいけなかったのです」
あけび「妙子はここぞってときにサービスエース決めるから」
忍「それが今なの?」
妙子「ひどい。ちゃんと謝ってるのにぃ」
ノンナ「気にしないでください」
カチューシュ「なによ!! 大きな体で取り囲まないで!! カチューシャをバカにしてるの!? もう少しカチューシャから離れて!!!」
>>15
カチューシュ「なによ!! 大きな体で取り囲まないで!! カチューシャをバカにしてるの!? もう少しカチューシャから離れて!!!」
↓
カチューシャ「なによ!! 大きな体で取り囲まないで!! カチューシャをバカにしてるの!? もう少しカチューシャから離れて!!!」
ノンナ「申し訳ありません、カチューシャ」
カチューシャ「肩車!!」
ノンナ「はい」
カチューシャ「ふん!! これでカチューシャの勝ちよ!!」
忍「くっ……! 負けた!!」
妙子「完敗です」
あけび「どんなアタックも止めてきそう」
カチューシャ「あーっはっはっはっは!! カチューシャは無敵なのよ!!!」
ノンナ(いい人たち)
沙織「カチューシャさんも一緒に雪合戦どう?」
華「楽しいですよ」
典子「寒いこの場所で熱い雪合戦をしましょう!!」
カチューシャ「そうねぇ」
ノンナ「カチューシャ。注意するのではなかったのですか?」
カチューシャ「はっ!! 危ない、まんまと敵の作戦に引っかかるところだったわ。でもね、カチューシャはバカじゃないの。貴方たちのやろうとしてることぐらいお見通しよ!」
沙織「やろうとしてることって?」
カチューシャ「しらばっくれる気? こんなに大きな雪壁を作っておいてよく言えるわね」
典子「これはスノーバレーのネットですけど」
カチューシャ「ふん。そんな言い訳が通用すると思ってるの? どうせこれはカチューシャたちの走行や砲撃を妨害するために作ったんでしょう?」
妙子「そうなの?」
忍「すごい! なんて高度なタクティクス!!」
あけび「じゃあ、この雪のネットたくさん作ればいいんじゃないかな?」
典子「よし!! 手分けして作るぞ!!!」
妙子・忍・あけび「「おぉー!!!」」
カチューシャ「ちょ、ちょっと待ちなさい!!! 作るなって言ってるのよ!! 榴弾でぶっ潰していくわよ!?」
妙子「どうしてそんな酷いことをするんですか!?」
典子「人が積み上げた努力を躊躇なく破壊するなんて!! ここは賽の河原なんですか!! カチューシャ先輩は鬼ですか!?」
カチューシャ「え……」ビクッ
沙織「カチューシャさんが押されてる」
華「アヒルさんチームのみなさんが選ばれた理由、なんとなくわかりましたね」
カチューシャ「ノ、ノンナ……? カチューシャ、間違ったこといったのか……? カチューシャ、鬼なのか……?」
ノンナ「いえ。カチューシャの指摘は至極真っ当なものです。自信を持ってください」
カチューシャ「ノンナぁ……」
ノンナ「私がついていますよ、カチューシャ」
カチューシャ「うん!! ――と、いうわけでこの雪壁の即時撤去を申し付けるわ。できないのなら、貴方たちに与えた三時間の猶予は取り消して、今すぐ攻撃を開始したっていいんだからね」
典子「それは困る!!」
沙織「分かった。分かった。今すぐ、この雪の壁は潰そうよ」
典子「ですが!! このネットがないとスノーバレーが……!!」
沙織「私たちがしたいのはスノーバレーじゃなくて雪合戦だから」
典子「……そういえばそうでしたね」
華「さぁ、すぐに雪壁を取り壊して雪合戦をしましょう?」
妙子「分かりました」
あけび「ちょっと残念……。これが最後のバレーボールだったのかもしれないのに……」
忍「あけび。それは言わない約束」
カチューシャ「最後ってどういうことよ? ここで負ければすぐに帰れるじゃない。そのあといっくらでもバレーボールしたら?」
妙子「……」
カチューシャ「な、なによ?」
あけび「……できないから、最後のバレーボールなんです」
カチューシャ「はぁ? わけわかんないわね」
沙織「私たちの学校、この戦車道全国大会で優勝できなきゃ、廃校になっちゃうんだよね」
カチューシャ「なんですって?」
華「ですから、もう磯辺さんたちは大洗でバレーボールをしたくても、できなくなるんです」
ノンナ「そうだったのですか」
あけび「みんなでバレーボール続けたいのに……うっ……ぐすっ……」
妙子「あけび。泣いちゃダメだよ。離れても私たちの心はいつも一緒だから」
忍「そうそう。いつでもは会えなくなるけど、会えばバレーボールはできるから」
あけび「でも……でもぉ……」
典子「泣くな!! 涙はバレー部が復活したその日のためにとっておけ!!」
あけび「そんな慰めはいりません!! だってもうバレー部は復活できないじゃないですかぁ!!!」
カチューシャ「ちょ、ちょっと……あの……」
典子「それは……」
あけび「私!! キャプテンともっともっと!! バレーボールがしたいです!!」
典子「そ、そんなの私だって同じだ!! あけびと……みんなと……卒業まで……お、おお、あらい……で……」
妙子「キャプテン……」
典子「おお、あらいで……バレーボールがしたいんだぁぁ……うぁぁぁん……」
忍「キャプテン」ギュッ
典子「うわぁぁぁぁ……」
沙織「典子ちゃん……」
華「……」
カチューシャ「……」
ノンナ「カチューシャ。これは試合ですよ」
カチューシャ「分かってるわよ。情けなんてかけないし、同情もしない。そんなの向こうの都合じゃない。カチューシャたちはミジンコほども悪くないわ」
ノンナ「はい」
典子「あぁぁぁん……」
忍「よしよし」ナデナデ
別地点
みほ「うーん……。この視界の悪さじゃ、やっぱり難しいか」
優花里「西住殿、寒くありませんか?」
みほ「え? あ、ちょっと寒いけど、私は平気」
優花里「これを使ってください。使い捨てカイロ、ホッカホカにしておきました」
みほ「嬉しいけど、それは優花里さんが使って」
優花里「大丈夫です。予備はたくさんありますから」
みほ「そうなんだ。それじゃ、一つだけ」
優花里「どうぞ」
みほ「あったかい……。優花里さんが温めてくれたからかな? ありがとう」
優花里「そ、そんなぁ……カイロぐらいで……うれしいですぅ……」
ピリリリ……
みほ「もしもし」
麻子『こちらの偵察は終了した』
みほ「ありがとう、麻子さん。敵車輌の位置を教えてくれる? うん……うん……ここと……それから……ここか……」カキカキ
大聖堂前
沙織「落ち着いた?」
典子「すみません。取り乱しました」
華「いいんですよ。誰だってそういうときはあります」
沙織「さ、雪合戦しよーよ。今を楽しもう!」
典子「はい!!」
妙子「そうですね!!」
忍「あけび!! 雪玉準備して!!」
あけび「うんっ」
カチューシャ「ちょっといいかしら?」
沙織「なんですか?」
カチューシャ「どうしてそこまで雪合戦をしようとするわけ? 負けられないなら諦めずにカチューシャたちに戦いを挑んできなさいよ」
沙織「それは……」
華「戦いは挑みます。降伏するつもりはありません。けれど……もう……カチューシャさんの完璧な戦術を破る術はなく……」
ノンナ「それで最後に与えられた3時間を楽しもうというわけですか」
カチューシャ「そういうこと」
沙織「だから、いいでしょ。この3時間だけ、私たちの自由にさせてよ!!」
典子「私たちは1秒でも長く戦車道をやっていたいんだ!!」
妙子「いい思い出を作りたいんです!!」
忍「楽しかったって、いつか笑い合えるようにしたいんです!!」
あけび「お願いしますっ!!」
華「これがわたくしたちの勝手なお願いであることは承知しております。ですが、カチューシャさんも人の子であれば、わたくしたちの切なる願いを聞き入れてはもらえないでしょうか?」
カチューシャ「……」
ノンナ「どうされますか?」
カチューシャ「思い出作るにしては人数が少ないわね」
ノンナ「そういえば、他の方は?」
沙織「こんなことみんなが賛成するわけないから」
妙子「子どもっぽいですし」
カチューシャ「……でも、試合前は数人が雪合戦してなかった?」
忍「それは、あれですよ、ほら、寒くて体が動かないみたいで……。それにお腹もすいているみたいなので、今は建物の中で身を寄せ合って寝ています」
カチューシャ「ふぅーん」
ノンナ「……」
沙織「(ちょっと無理があったんじゃないかな、今の)」
忍「(ですが他に上手い言い訳が思いつかなくて……)」
典子「私たちが楽しそうにしていれば、みんな出てくるはずです」
華「磯辺さん……」
典子「今はこの6人だけですが、もう少しやっていればみんなは出てくるはずなんです。それでようやく私たちの思い出は完成します」
カチューシャ「……」
典子「お願いします!!! 雪合戦、させてください!!!」
妙子・忍・あけび「「おねがいします!!!」」
沙織「わ、私からもお願い!!」
華「どうかご慈悲を……」
カチューシャ「むぅ……」
ノンナ「カチューシャ?」
カチューシャ「好きにしたら。でも、3時間だけなんだから!! それを忘れないで!! いいわね!!! ふんっ」
沙織「わーい!! ありがとー!! カチューシャさーん!!」
華「ありがとうございます!」
カチューシャ「別に。精々楽しむことね」
典子「はい!! 根性で楽しみます!!!」
カチューシャ「じゃあね、ピロシキ~。行くわよ、ノンナ」
ノンナ「はい」
妙子「雪合戦の許可が出ましたね」
典子「よし!! みんなで雪玉をつくれー!!」
あけび「もう作ってます!!」
忍「いつでもアタックできます!!」
沙織「これで一応、第一段階はクリアだね」
華「ですが、油断はできません。本当の勝負はここからですから」
沙織「うん、そうだね」
華「では、いきますよ。沙織さん?」
沙織「え!? ちょ、まって!? きゃぁ!! つめたっ!! 雪が!! 雪が服のなかにぃ!! もーやだー!!」
大聖堂内
杏「ほぉー。やってる、やってるぅ。やっぱり雪があれば雪合戦だよねぇ」
柚子「楽しそうですねぇ」
桃「本分を忘れてはいないだろうな」
杏「それは心配ないんじゃない?」
梓「あのー!! 修理、終わりましたー!!」
あき「Ⅳ号とⅢ突、あとM3、全部大丈夫でーす」
杏「おつかれぇー。それじゃ、みんなぁ、準備体操しとけぇ」
桂利奈「どうしてですか?」
杏「これだけ寒いんだ、急に動いたら怪我するぞ」
優季「あぁ、たしかにぃ」
あゆみ「わかりましたぁ!」
桃「カモさんチーム、体操の指揮を執ってくれ」
希美「分かりました。では、体を伸ばす運動からー」
杏「いぇーい」
典子「リベロとしてのフットワークを見ろ!!」ダダダッ
妙子「そーれ!」ポイッ
あけび「忍!」
忍「せい!!!」バシッ!!!
典子「ぷふっ!?」
妙子・あけび・忍「「1ポイントかくとくぅ」」
典子「くそぉ!! やられた!! もう一度だ!!!」
華「そーれ、それそれ」
沙織「もー!! 華ぁ!! 私ばっかり狙うのやめてよー!!」
カチューシャ「……」
ノンナ「カチューシャ、寝ないのですか?」
カチューシャ「ノンナはどう思う? あれ、本当に思い出作りだと思う?」
ノンナ「違うのですか? 仮にあれが何らかの戦術だとしても、私たちの包囲網を突破することはできないと思いますが」
カチューシャ「……試したいことがあるのだけど、協力してくれる?」
ノンナ「勿論。同志カチューシャのためなら」
妙子「いきまーす! えい!」バシッ
典子「スノーレシーブ!!」ズサァァ
杏「おーい。私たちもいれておくれー」
沙織「会長!!」
あけび「もういいんですか?」
杏「うん。な、河嶋?」
桃「準備運動も済んでいる。何も問題はない」
沙織「じゃ、みんなで――」
カチューシャ「いいかしら?」
杏「あれ? どうしたの?」
カチューシャ「その思い出作り、私たちも協力してあげてもいいわよ」
柚子「ほ、本当ですかぁ!?」
カチューシャ「もちろんよ。こういうのも戦車道だもの」
杏「おぉ。ありがとう。いい思い出になりそうだ」
カチューシャ「でしょう? 私もできれば楽しく試合したいからね」
ノンナ「私も参加させていただきます」
沙織「やったぁ! ノンナさんまで一緒なんてうれしいな!」
ノンナ「恐縮です」
カチューシャ「あっれぇ? このカチューシャ様が直々に出てきてあげたのに、そちらの隊長さんはでてこないの? これって失礼じゃない、ねえ、ノンナ?」
ノンナ「確かに」
典子「そ、それは……!!」
沙織「み、みぽりんは、こういうことしないから!!」
妙子「隊長は真面目なんです!!」
忍「雪合戦なんて、絶対にしないと思います!!」
あけび「で、でも、みんなで楽しんでいれば出てくるかもしれません!!」
華「はい! もう少し場を温めないと恥ずかしがり屋のみほさんは参加し辛いのだと思いますよ」
杏「今は私らだけで雪合戦しようよ、カチューシャ」
カチューシャ「……いいわ。私が直接説得するから」
沙織「ちょっとまってー!!!!」
カチューシャ「なによ?」
杏「(小山)」
柚子「(まだ西住さんから連絡はないです)」
杏「(まずいね……。ここで西住ちゃんがいないことがバレたら……)」
沙織「い、いきなり誘ったら逆にダメなんだって。ほら、よくいうじゃない? 引きこもりの人を無理やり外に出そうとしてもダメだって」
カチューシャ「そっちの隊長は引きこもりなの?」
沙織「そ、そういうわけじゃないけど……。無理やりはダメかなぁーって」
カチューシャ「無理やりじゃないわ。ただ説得するだけよ。大体、貴方たちが思い出作りのために雪合戦をしようとしてるのに隊長が出てこないなんておかしいじゃない」
沙織「だ、だから、それは……」
典子「無駄です!! だって、隊長はいませんから!!」
沙織「な……!?」
杏「磯辺ちゃん……?」
桃「バカ……!!」
妙子「キャ、キャプテン……それを言っちゃったら……!」
ノンナ(やはり)
カチューシャ(全部演技だったのね。カチューシャの思った通りだわ。隊長自らが偵察にでも出てるのね)
忍「キャプテン!!」
典子「もういい。カチューシャ先輩は全部お見通しみたいだから」
桃「そうだとしても認めていいわけではないだろう!!」
典子「いいじゃないですか!! もう!! 私たちを捨てた、隊長のことなんて!!」
カチューシャ「え?」
ノンナ「捨てた……?」
杏「……!」
典子「そうです。西住隊長は先ほど、全国大会で優勝できなければ廃校になる事実を知ったんです。でも、もうプラウダに勝てる術はない……」
典子「西住隊長は責任から逃れるために逃げ出したんです!!!」
カチューシャ「な、なんですってぇ!?」
ノンナ「……」
杏「そうなんだよねぇ」
沙織「会長……」
杏「今、数人で探してるんだけど、見つからなくてさぁ。それで気を紛らわせるために、こうして磯辺ちゃんや武部ちゃんは雪合戦をし始めたんだ」
カチューシャ「で、でも、去年は川に落ちた戦車の乗組員を助けるために、負けるのを覚悟で戦車から降りたじゃない。そんなことする人が逃げ出すかしら?」
杏「それも西住ちゃんは言ってたよ。プラウダに勝てる見込みが無くなったから、逃げるついでに助けにいったんだって」
カチューシャ「そ、そうなの?」
典子「全く! あんな人だとは思わなかった!!!」
妙子「サイテーです!!」
忍「人間としてゲームセットしてる!!!」
あけび「むしろ悪魔でした!!」
桃「我々が重責を負わせたとは言え、このような形で裏切られるとはな」
柚子「あ、う、うん」
沙織「みぽりん……私の好きなみぽりんは……どこにいっちゃったの……」
華「枯れた花のような心しか持っていなかったのでしょう」
ノンナ「そのような人には見えませんでしたが」
杏「人は見かけに寄らないもんだよ」
典子「私たちもあの温和そうな外見に騙されていたんです」
カチューシャ「ホ、ホントに?」
典子「こんな嘘をついてどうするんですか!?」
別地点
優花里「んー……こっちにはいなさそうですね……」
みほ「優花里さん、もっとくっつこう。冷えるから」ギュッ
優花里「あ……に、西住殿……」
みほ「みんなも頑張ってる。私たちもがんばらなきゃ」
優花里「はい!! 勿論です!!」
みほ「うん」
優花里「西住殿ぉ」ギュゥゥ
ピリリリ……
みほ「はい、もしもし」
梓『あ、あの、西住隊長。まだ、戻ってこれそうにないですか?』
みほ「ごめんなさい。まだ敵フラッグ車が確認できなくて。何かありましたか?」
梓『それが嘘に嘘を重ねている状況で、とんでもないことになっていて……。みんなが西住隊長の悪口ばかり言い出してます』
みほ「え……わ、わたし……みんなにきらわれてたの……」ガクガク
梓『あぁ!! 違います!! みんな嘘をついているんです!! でも、このままだと大変なことになりそうで!! ど、どうしたらいいですか!?』
別地点
みどり子「早く戻りましょう。このままじゃ凍えてしまうわ」
麻子「分かっている。そう急かすなそど子」
みどり子「名前を略さな――」
麻子「静かに」グイッ
みどり子「な、なによ」
麻子「向こう」
典子「西住隊長なんてゴミだー!!」
妙子「人間のクズー!!」
忍「あんな人、生まれてこなければよかったんだぁー!!」
あけび「できるものなら装填してどこかに撃ち込んでやりたーい!!」
カチューシャ「そ、そこまで言わなくていいわよ。落ち着きなさいよ」
ノンナ「話なら聞きますから」
みどり子「な、なによ……あれ……」
沙織「時々、みぽりんは急に人が変わったように暴力を振るうこともあったの……」
カチューシャ「えぇ? そうなの?」
沙織「私が逃げ出すと、すぐに謝ってくるんだけど、暫くするとまた暴力を……うぅ……」
桃「DVだな」
沙織「わたし!! もう耐えられない!!」
杏「でも、西住ちゃんがいないと試合に勝てなかったのも事実だからな」
沙織「だからって……だからって……!! うぅぅ……」
華「沙織さん、可哀相……」
典子「バレーボールは何も面白くないとか言うし!!」
妙子「サッカーのほうが何倍も面白いとかも言われました!!」
忍「バボちゃんはなんか怖いとかわけの分からないこと言ってました!!」
あけび「リベロの意味、良くわかってませんでした!!!」
あき「私たちはどうするぅ?」
あゆみ「あんなの西住隊長が聞いたら泣いちゃうって」
桂利奈「みんな、泣いてる……。あれって、やっぱり罪悪感で泣いてるのかな……」
柚子「私たち西住さんの所為で全く戦車道を楽しめなかった……」
杏「だから……だからせめて……西住ちゃんが逃げたあとだから、私たちだけの楽しい思い出を作ろうって、武部ちゃんと磯辺ちゃんが言い出したんだよね……」
ノンナ「そういうことですか」
沙織「あんな学校生活のままで学校がなくなったら……嫌な思い出しかないよ……。みんなと離れ離れになったら、きっともう同窓会とか絶対にない……」
桃「誰も大洗のことなど、思い出したくもないだろうからな」
華「ですから、せめてわずかな数刻だけも夢を見たい。わたくしたちはそう思って、雪合戦を始めたのです」
カチューシャ「そこまでいくと、同情はしてあげるわ」
沙織「同情なんていらない!! 私たちは、楽しい思い出がほしいの!!」
典子「そうだー!! ゴミクズ隊長のことなんて忘れてみんなで楽しもう!!!」
妙子「はい!! あんな人の皮を被ったような悪魔なんて忘れます!!」
忍「あれだけの恐怖政治をしておきながら蓋をあけてみればヘタレなだけだった!! あんな人を一時でも隊長と呼んでいた自分が恨めしいです!!」
あけび「もう顔もみたなーい!!!」
杏「これはもう雪合戦をして楽しんで、そしてカチューシャたちにボコボコにされるしかないね!!」
ノンナ「みなさんが口を揃えてここまで言うとは……。これも演技でしょうか?」
カチューシャ「いえ、私には分かるわ。全員が流している涙。あれは本物よ。間違いないわ」
別地点
カエサル「ふぅー……。これで何輌目だ?」
エルヴィン「丁度、10輌だな。そろそろ引き返すか?」
左衛門佐「いや、この場で待機せよと、今西住隊長から連絡があった」
おりょう「この場で? しかし、私たちには戦車がないぜよ」
カエサル「誰がⅢ突を動かすつもりなんだ?」
左衛門佐「西住隊長の作戦だと、あんこうチームを分けるらしいが」
カエサル「となると……。乗るのはあいつか」
エルヴィン「作戦開始時間まではまだあるな。……作るか?」
左衛門佐「豐臣秀吉!!」
おりょう「坂本龍馬!!」
エルヴィン「エルンスト・リンデル!!」
カエサル「フィリッポス1世!!」
左衛門佐・おりょう・エルヴィン「「それだぁ!!」」
カエサル「うんうん。これだ」
別地点
優花里「あ!! 西住殿!! 発見しました!! 敵フラッグ車です!!」
みほ「やっぱり町の中に隠れてたんだ」
優花里「これで作戦を開始できますね」
みほ「うん。よかった。といってももう1時間もないけど」
優花里「それはそうと、よかったのですか?」
みほ「なにが?」
優花里「作戦ではプラウダが疑いをかけてきたら、即座に演技を中止して中に入ることになっていたはずですが。下手に演技をし続ければボロが出ますし」
みほ「いいの。聞けば磯辺さんが機転を利かせてくれたみたいだし、それで相手のペースを乱せたなら多少の作戦変更は許容範囲」
優花里「西住殿がそういうのでしたら」
みほ「それに隊長が考えて指示を出して、それにみんなが従う。当然のことだけど、やっぱりある程度は各自で判断しないと劣勢の私たちじゃ強豪とは戦えない」
みほ「そしてその判断を隊長が否定しちゃいけない。みんなが考えたことなら、それを採用したほうが絶対にいい。隊長がその場にいないなら尚更かな」
優花里「もし、失敗してしまったら?」
みほ「失敗は隊長の判断ミス。みんなの所為じゃないよ」
優花里「私……西住殿と一緒に戦車道が出来て本当に幸せなんだなと、今更ながら強く感じています……」
>>41
みほ「それに隊長が考えて指示を出して、それにみんなが従う。当然のことだけど、やっぱりある程度は各自で判断しないと劣勢の私たちじゃ強豪とは戦えない」
↓
みほ「隊長が考えて指示を出して、それにみんなが従う。当然のことだけど、やっぱりある程度は各自で判断しないと劣勢の私たちじゃ強豪とは戦えない」
大聖堂内
梓「西住隊長がフラッグ車見つけたって!!」
あき「やったぁ!! 反撃できるぅ!!」
あゆみ「で、次はどうするって?」
梓「えーと、冷泉先輩」
麻子「なんだ?」
梓「Ⅲ突に乗ってください」
麻子「分かった」
梓「それから桂利奈ちゃんはちょっと忙しいだけど、各戦車を動かして。この表の位置にそれぞれの戦車をもってきてね」
桂利奈「あいー!!」
梓「できるだけ静かに動かして。ここで敵に気づかれた全てが終わるから」
優季「桂利奈ちゃん、がんばってぇ」
梓「手の開いてる人はそれぞれ外の様子を偵察してください。もし敵車輌の配置が変わっていたら西住隊長に報告してください」
紗希「はい」
みどり子「最後の仕上げね。ゴモヨ、パゾ美、いくわよ!!」
大聖堂前
沙織「本当にいいんですか? 私たちのためなんかに……」
カチューシャ「いいって言ってるでしょう? 雪合戦ぐらい付き合ってあげるわ」
沙織「ありがとー!! カチューシャさーん!!」ギュゥゥ
カチューシャ「ちょっと馴れ馴れしくしないで!!」
杏「(なんとかなりそうだねぇ)」
桃「(ええ)」
ノンナ「……」
柚子「あのぉ。提案があるんだけどぉ」
ノンナ「なんでしょうか」
柚子「開始の合図は空砲にしない?」
ノンナ「戦車を使うのですか」
柚子「最後だし、派手にいきたいから」
ノンナ「構いませんよ。私たちの戦車を使いましょう」
柚子「ううん。私たちの戦車を使うから、大丈夫」
ノンナ「いえ。私たちのを使ってください」
柚子「そんな、これ以上は悪いからぁ」
ノンナ「……何か不都合でも?」
柚子「え?」
ノンナ「無いなら、私たちの戦車を使ってもいいでしょう?」
柚子「うっ……」
ノンナ「どうなのですか?」
柚子「は、はい……」
ノンナ「では、伝えてきます」
柚子「あぁ……しまったぁ……」
桃「どうした、柚子」
柚子「それがぁ、空砲で開始合図してくれるって、ノンナさんが」
桃「なんだと!?」
杏「ちょっと雲行きが怪しくなってきたね。河嶋、保険かけといて」
桃「分かりました」
ドォォォン!!!
カチューシャ「いくわよぉ!!! あんなやつら!! 景色溶け込むぐらい真っ白にしてやるんだからぁ!!!」
ノンナ「はい!!」
華「いきます!」シュッ!!
ノンナ「甘いです」サッ
カチューシャ「きゃぷっ!? ちょっと!! ノンナ!! ノンナがよけたからカチューシャが被弾しちゃったでしょ!! どーしてくれるのよぉ!!」
典子「いくぞぉ!!! そーれ!」ポイッ
妙子「忍!!」
忍「アターック!!!!」バシッ!!!!
カチューシャ「ひっ……!?」
あけび「ブローック!!! わぷっ!?」
カチューシャ「あ……」
あけび「大丈夫ですか?」
カチューシャ「う、うん……ありがと……」
あけび「気にしないでください。体が勝手に動いただけですから」
カチューシャ「貴方、背は高いけど腰は低いのね。そういうのカチューシャは好きよ」
あけび「ありがとうございます!!」
杏「いっくぞぉ」
カチューシャ「また来るわ!!」
あけび「どこからきてもブロックする!!」
華「はっ!」シュッ
ノンナ「ふっ!!」ササッ
沙織「なんか、レベルの高いことしてる。でも、華は運動が苦手だから攻撃されると……」
ノンナ「はっ!!!」シュッ
華「はむっ!?」
沙織「あーあ」
典子「五十鈴さんがやられたぁ!!!」
妙子「衛生兵ー!!!」
桃「……今か」タタタッ
ノンナ「む……?」
大聖堂内
桂利奈「戦車の配置、これでいいんでしょー!?」
梓「バッチリー!! 桂利奈ちゃん、ありがとう!!」
桃「お前たち!! 準備はできているか!!」
あき「はぁーい。ばっちりでーす」
あゆみ「いつでもいけます!!」
桃「作戦に若干の変更はあるが、冷静にやれば何も問題はない!! いいな!!」
桂利奈「おっしゃー!!!」
麻子「それより早く五十鈴さんを戻してくれ。このままでは遅れる一方だ」
桃「分かっている。今、抜けるタイミングを計っているところだ」
梓「あれ? 河嶋先輩、何をするんですか?」
桃「私は保険だ」
梓「ほ、保険って?」
麻子「こっそりここから脱出はできなくなったからな。囮は必要か」
桃「とはいえ、1輌だけでは時間などそれほど稼げん。成功の鍵を握るのは、冷泉と五十鈴だ」
沙織「おりゃー!!」
カチューシャ「でやぁー!!」
杏「つめたぁーい!!!」
柚子「あははは。会長、まっしろぉ」
ノンナ「……」
典子「もう一度、サーブからだ!!」
妙子「はい!!」
ノンナ(数が減っている……。やはり……)
ノンナ「カチューシャ!!!」
カチューシャ「な、なによ?」
ノンナ「時間です。3時間経過しました」
カチューシャ「え? ホント?」
杏「何言ってるのさぁ、もうちょっとゆっくりしていきなよぉ」
ノンナ「ここからが本当の試合ですね」
杏「へぇ、気づいてた? でも、まぁ、止められるなら、止めてみぃ」
38t『撃て撃て撃てー!!!!』
ドォォォォン!!!!
杏「おぉ、きたか。河嶋ぁ。みんなぁー!! 戻るぞー!!」
柚子「はぁーい!!」
カチューシャ「あんな位置から撃っても当たるわけないじゃないの」
ノンナ「戻りましょう」
カチューシャ「ええ。全車、建物から出てきた戦車には遠慮なく主砲を使いなさい!!」
ノンナ「雪合戦に参加させることで初動を遅らせようとしたのでしょうね」
カチューシャ「ふん。そんな見え透いた手に乗るわけないのにね」
ノンナ「それは向こうも承知しているはずです」
カチューシャ「つまり裏があるのね」
ノンナ「恐らくは。そして向こうの狙いはこちらのフラッグ車」
カチューシャ「まぁ、最初からフラッグ車を直接狙ってくることは分かっていたわ。だからこそ、隠したわけだし」
カチューシャ「それにどうしたってこの包囲陣を敗れるわけないわ!!」
ノンナ「……」
38t車内
桃「おりゃー!! 雪原に散れぇー!!!!」
柚子「桃ちゃん、当たってないからぁ」
桃「ウルサイ!!」
杏「河嶋、代われ」
桃「はっ」
杏「うっひょー。いるいるぅ。小山ぁ、全方位から砲撃が来るからそのつもりでな」
柚子「わかってますけどぉ」
杏「一秒でも多くの時間を稼げ。この視界の悪さだ。私たちが暴れればそれだけ気づくのも遅れるはずだ」
柚子「は、はいぃ」
ドォォン!!!
柚子「きゃぁ!?」
桃「耐えろ!! 柚子!!」
柚子「わ、わかってるよぉ、桃ちゃん」
杏「西住ちゃん!! こっちは交戦が始まった!! 早めに西住ちゃんの健闘を祈らせてもらうよー!!」
別地点
みほ「は、はい!! なるべく頑張ってください!!」
優花里「雪合戦の開始合図と同時に榴弾を撃ち込めればよかったのですが。それなら囮も必要なかったんですよね」
みほ「ノンナさんかカチューシャさんは私の作戦に気づくことは想定してるから大丈夫。全部が上手くいくほど甘い相手じゃないのことは分かってたし」
優花里「で、ですね」
みほ「できれば、もう少しだけ気づくのが遅れて欲しかったけど」
梓『西住隊長!! カメさんチームだけでは限界があります!! 私たちも敵のほうへ行きます!!』
みほ「え!? でも……!!」
梓『2輌出れば、もっと時間を稼げます!! お願いします!!』
優花里「ウサギさんチームまで出て行くと、守りが薄くなってしまいませんか?」
みほ「……ウサギさんチーム、カメさんチームの援護に入ってください!」
梓『了解!! 桂利奈ちゃん、パンツァー・フォー!!』
桂利奈『アイィィ!!!』
優花里「西住殿……」
みほ「大丈夫。きっと上手くいく」
大聖堂前
38t『いっくぞー』ドォォォン!!!
カチューシャ「1輌だけ?」
ノンナ「いえ、もう1輌出てきました」
M3『これでもくらえー!!!』ドォォォン!!!!
カチューシャ「それでも2輌だけなのね」
ノンナ「やはりあの建物には既に何もないでしょう」
カチューシャ「……こっちも同じことをしちゃおうかしら」
ノンナ「そうですね」
カチューシャ「全車、よく聞きなさい!! 1分ごとに2輌ずつ抜けて隊長車を追ってくるように!!」
カチューシャ「いい!? ゆっくり抜けるのよ!! 相手に気づかれないようにね!!」
ノンナ「行きましょうか」
カチューシャ「フラッグ車のほうへ向かっているなら待ち伏せもできるわね」
ノンナ「ええ」
カチューシャ「先回りよ」
別地点
おりょう「うぅ……ねむい……」
エルヴィン「ねるなー!! 寝れば死ぬぞー!!」
左衛門佐「あぁ……我が祖国……の……土は踏めずぅ……」
カエサル「来たぞ!!」
おりょう「待ちくたびれたぜよ」
エルヴィン「体が冷えた」
Ⅲ突『遅れたな』
カエサル「やはり、乗っていたか」
麻子「――早く乗ってくれ。それで西住さんのところまで頼む」
おりょう「で、壁をぶっ壊して裏から出たのバレてないぜよ?」
麻子「多分バレてる」
エルヴィン「何故だ?」
麻子「そんなに簡単な相手じゃなかった」
カエサル「そういうことか。流石は去年の優勝校だ。この小細工もどこまで通じるか……。アンツィオの真似だからな……」
別地点
杏『ごめーん、西住ちゃん。やられちゃったぁ』
優季『こっちもやられましたぁ。すみませぇん』
みほ「大丈夫ですか!?」
杏『うん。でも、途中から攻撃がかなり優しくなったんだよね。多分、裏に回ったんじゃないかな』
梓『私も気づかれたと思います』
みほ「わかっています。カモさんチーム」
みどり子『はい!!』
みほ「フラッグ車であるアヒルさんを死守してください」
みどり子『まかせてください!!』
優花里「西住殿!! 来ましたよ!! Ⅳ号です!!」
みほ「行きましょう」
優花里「あとはスピードの勝負ですね」
みほ「うん。問題はカチューシャさんたちがどこで仕掛けてくるかだけど……。そうだ。優花里さんはここにいて。敵フラッグ車の動きを見ていてください」
優花里「わかりましたぁ!!」
別地点
カチューシャ「そろそろ、追いつくわね」
『隊長!! 11時の方向に敵影を確認!!』
カチューシャ「動いてる?」
『いえ、止まってるみたいです』
ノンナ『待ち伏せでしょうか』
カチューシャ「フラッグ車を狙うと見せかけて、カチューシャたちを狙っていたというの? 小生意気なことをするのね」
ノンナ『後方から撃ちます』
カチューシャ「全車停止。撃ち方用意」
カチューシャ「――撃てぇ!!!」
ドォォォォン!!!
カチューシャ「どう!?」
ノンナ『……敵車輌ではないようです』
カチューシャ「は? なんだったのよ?」
ノンナ『戦車を模した雪像だったようですね。欺瞞作戦。それも数秒だけ足を止めるためだけの……』
カチューシャ「な……なんですって……!!」
『こちらフラッグ車!! たいちょー!! 敵に見つかりましたー!! 助けてくださーい!!』
カチューシャ「なにやってるのよ!!」
ノンナ『カチューシャ』
カチューシャ「全車全速前進!! 急ぎなさい!!」
ノンナ『やはり、あの建物の裏に何輌か配置したほうがよかったですね』
カチューシャ「……」
ノンナ『何故、感づきながらもそれをしなかったのですか?』
カチューシャ「……」
ノンナ『カチューシャ……』
カチューシャ「違うわ。私は同情はしてないし、情けもかけてない。そんなの相手に失礼でしょ」
ノンナ『そうですね』
カチューシャ「裏に配置したとしても相手は出口を変えちゃうからあんまり意味がなかったのよ。それだけ」
ノンナ『分かりました』
カチューシャ「いくわよぉ!! これ以上、好き勝手にはさせないんだからぁ!!」
別地点 Ⅳ号車内
沙織「みぽりん、まだ敵車輌の影はないって!」
みほ「カバさんチームが作ってくれた雪像のおかげです。たった数秒の足止めですが無駄にしないようにしましょう」
エルヴィン『任せてくれ!!』
おりょう『やっと体が温まってきたぜよ』
ピリリリ……
みほ「もしもし!」
優花里『敵フラッグ車、町の中をグルグル回ってるだけのようですね』
みほ「わかりました。カバさんチーム、追跡を中止してください」
エルヴィン『何をするつもりだ?』
みほ「今から――」
みどり子『こちらカモさんチーム!! 敵に追いつかれましたぁ!!』
沙織「みぽりん!!」
みほ「逃げてください!! こちらでフラッグ車をたたきます!!」
典子『こんじょー!!!』
別地点 八九式車内
ドォン!!!
典子「なんだ!?」
みどり子『こちら、カモ!! やられましたぁ!!』
妙子「怪我はありませんか!?」
みどり子『大丈夫!! アヒルさんチーム!! がんばってください!!』
ドォォン!!
あけび「うぅ……もうダメかもぉ……」
典子「ダメじゃない!!!」
あけび「キャプテン……」
典子「何のために西住隊長を貶したと思っているんだ!!! ここで負けたら私たちは史上最低のゴミクズバレー部になるぞ!!! いや!! バレー部でもない!! ゴミクズ部だ!!!」
妙子「そうですよね。ここでふんばらないと!!」
忍「はい!!」
典子「尊敬する西住隊長に勝利を捧げ――」
ドォォォォン!!!!
典子「うぅぅ……いたぁ……。強烈なスパイクくらったぁ……」
あけび「ど、どうなったんでしょうか……?」
妙子「私たち、走行不能になった……?」
忍「うん」
典子「根性で動かせー!!」
妙子「むりですっ!」
忍「負けた……?」
あけび「そ、そんなぁ」
コンコン
典子「え……?」
カチューシャ「……怪我はなさそうね」
典子「あ、はい」
カチューシャ「貴方たちの勝ちよ。数秒早く、カチューシャたちのフラッグ車が白旗を揚げたわ」
あけび「それじゃあ……」
カチューシャ「決勝進出、おめでとう」
みほ「今日はありがとうございました」
カチューシャ「建物を壊して裏から出る。いい作戦、とは言わないわよ。バレバレだったもの」
みほ「あぅ……」
カチューシャ「その後の欺瞞作戦は少し驚いたけどね。よく3時間であんなにも作ったわね」
みほ「たとえ一秒でもカチューシャさんを止めることができればと思い、カバさんチームのみなさんに作ってもらいました。試合前に手早く雪像を作っていたのでできるかもって考えて」
カチューシャ「その才能は別の場所で活かしてほしいわね。戦車道で使われたから、カチューシャたちが負けちゃったじゃない」
みほ「だけど、戦車の配置を変えられていたら、どうなっていたか」
カチューシャ「変えたら変えたで出て行くところも変えるでしょ。作戦開始直前に偵察をしてないとは言わせないわよ」
みほ「は、はい……」
カチューシャ「今回はあと一歩で負けちゃったけど、次があれば負けないから」
みほ「私も負けないようにがんばります」
カチューシャ「……楽しかったわ。試合も雪合戦も」
みほ「はいっ。私もカチューシャさんと試合が出来てよかったです」
カチューシャ「行くわよ、ノンナ」
ノンナ「はい」
典子「あの!」
カチューシャ「あら? どうしたの?」
妙子「時間があればでいいんですけど、雪合戦しませんか?」
カチューシャ「はぁ?」
ノンナ「ふふ……」
忍「試合中は純粋に楽しめてなかったので、今度は是非カチューシャ先輩と真剣に雪合戦がしたいんです!!」
カチューシャ「でもねぇ」
あけび「カチューシャ先輩!! またブロックします!!」
カチューシャ「……」
ノンナ「思い出作りにはいいのではないですか?」
カチューシャ「それじゃ、一戦だけよ?」
典子「やったぁ!! みんな!! 準備だー!!」
沙織「雪合戦するの!?」
華「わぁ、いいですねぇ」
みほ「あ、私もやりたい」
カチューシャ「えーい!」ポイッ
典子「レシーブ!!」
妙子「トス!!!」
忍「アターック!!!!」バシッ!!!
カチューシャ「あけびぃ!!」
あけび「ブローック!!! わぷっ!?」
カチューシャ「あははは」
あけび「うぅ……つめたいぃ……」
カチューシャ「ちゃんと守りなさい!!」
あけび「はいっ!!」
ノンナ「カチューシャ……。雪合戦に参加してしまったことが最大の敗因かもしれませんね」
華「えい、えい」
沙織「やめてー!! はなぁー!!!」
みほ「いやぁー」
優花里「西住殿に手出しはさせません!!! ブローック!!!」
カチューシャ「あー! つかれたぁ!!」
典子「楽しかったですね」
カチューシャ「ふふふ……あはははは……」
沙織「ど、どうしたの?」
カチューシャ「悔しいはずなのに、変なの。なんでこんなことしてるのかしら」
ノンナ「カチューシャ、そろそろ時間です」
カチューシャ「そうね。そろそろ行くわ」
みほ「ありがとうございました」
典子「また遊びましょー!!」
カチューシャ「決勝戦、見に行ってあげるわ。絶対に勝つのよ」
みほ「はい!」
カチューシャ「それじゃあ、ピロシキ~」
あけび「さよーならー!!」
杏「んじゃ、私たちもかえろっか」
「「おぉー」」
ノンナ「今回の試合、色々と反省するべき点がありますね」
カチューシャ「たとえばー?」
ノンナ「隊長の判断ミスが多かったように思えます」
カチューシャ「それはミホーシャも同じでしょ。囮は1輌だけでよかったのに2輌も出してきた。あのときフラッグ車の護衛に2輌ついていれば余裕で勝ってたはずなのに」
ノンナ「そういえばそうですね」
カチューシャ「どうしてM3まで出てきたのかはしらないけど、危うく3時間を無駄にするところだった。これはミホーシャの過失ね」
ノンナ「結果的には過失ではないですが」
カチューシャ「いいのよ!! そういうことはいわなくて!!」
ノンナ「西住さんがミスをすることを見越していたのですか?」
カチューシャ「……あったりまえじゃない」
ノンナ「そうですか」
カチューシャ「まぁ、負けちゃったら意味はないけど」
ノンナ「でも、雪合戦は楽しかったですね」
カチューシャ「そうね。ノンナ、帰ったらやりましょう。雪合戦。今度大洗とすることがあっても負けないようにしなきゃいけないわ」
ノンナ「いいですね」
数ヵ月後 大洗女子学園 生徒会室
桃「会長、お電話です。プラウダ高校のノンナからなのですが」
杏「ノンナが? もしもーし」
ノンナ『あ、もしもし……』
杏「どうかしたのぉ? 声に元気がないけど」
ノンナ『あのですね……カチューシャが大洗との雪合戦が大変気に入ったようで、戦車道の練習が終われば雪合戦の毎日で……』
杏「あぁ、そりゃ大変だ」
ノンナ『再戦するまではやめそうになく――』
カチューシャ『ノンナ!! 発見したわよー!! てーい!!!』
ノンナ『つっ……!? で、ですので……あの……3時間ほどでもいいので雪合戦をしてもらえませんか……?』
杏「いいよ。いつにする?」
ノンナ『ありがとうございまぷふっ!?』
カチューシャ『どう!? これがカチューシャキャノンよ!!! これでいつでもリベンジできるわ!!』
おしまい。
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