事務所

春香「こんにちはー！」ｶﾞﾁｬ

小鳥「あら、春香ちゃん。こんにちは」

春香「？ あれ、小鳥さんだけですか？ 他の皆は……」

小鳥「珍しくお仕事よ。長いこと弱小弱小、って言われてたけど、遂にうちにも日が差してきたみたい！」

春香「ほ、本当ですか！ そっか、皆お仕事頑張ってるんだあ……なのに、私は……うう」

小鳥「春香ちゃんも今日はオフだけど、明日からはじゃんじゃんオファー入ってるみたいよ。覚悟しておいてね」ﾌﾌ

春香「！」ﾊﾟｧｧ

春香「はい、頑張ります！」

小鳥「それとね、これはまだ皆には内緒なんだけど……」

春香「はい？」

小鳥「今日から、もう一人仲間が増えるみたいよ！」

＊＊＊＊＊＊

P「……着いた。 ここが待ち合わせ場所なんだけど……」

P(相手はまだ来ていない、と)

P(「この間スカウトした子の迎えに行って来て欲しい」……か)

P(まあ、社長のことだからまた「ティンときた！」なんだろうけどな)ﾊｧ

P(今は765プロにとっても転機。ここで新しい風を入れることが吉と出るか、はたまた凶と出るか……)

？？「もし」

P「はい？」

？？「私、四条貴音と申します」

貴音「貴方が765プロの……」

P「ああ、君が例の。俺が君のプロデュースをさせてもらうPだ。これからよろしくな」

貴音「はい。よろしくお願い致します」

P(……うん。これは中々……)

P(顔立ちも端正だし、スタイルも良い。なにより長い銀髪が万人の目を引く)

P(どこか浮世離れした雰囲気を纏った麗人、か。なるほど、これなら「ティンときた！」でも納得出来るな)

貴音「それで、これからのことなのですが……」

P「ああ、うん。とりあえずは車に乗ってもらって、事務所に向かおう。詳しい話はそれからでどうかな？」

貴音「承知しました」

＊＊＊＊＊＊

P「戻りましたー」ｶﾞﾁｬ

貴音「失礼します」

小鳥「おかえりなさい！ あぁ、そちらがーー」

貴音「はい。今日からお世話になります、四条貴音と申します」

P「礼儀正しくて助かるよ。うちの事務所には必要な人材だ」ｱﾊﾊ

P「音無さん、応接室を借りても？」

小鳥「勿論、大丈夫ですよ。綺麗にしておきましたから！」

P「はは、助かります。……さ、こっち」

貴音「はい、それでは」

春香「…………小鳥さーん、もう行きましたかー？」ｺｿｺｿ

小鳥「ええ、もう行ったわよ、春香ちゃん」

春香「ふぁー、体勢辛かったあ……」

小鳥「別に机の下に隠れなくったっていいじゃない。急にどうしたの？」

春香「いやー……私、どうも初対面の人って苦手で」ｱﾊﾊ

小鳥「まあ、分からなくもないけど……これからはあの娘も『仲間』なんだから、ちゃんと慣れて行かなきゃダメよ？」

春香「あ、あはは……」

春香(うーん……)

春香(『余所者』って言い方はヒドいけど……どことなく、そう感じちゃうんだよね)

春香(今まで765プロは11人のアイドルで成り立ってたのに……こんな、急に…………)

春香(はーあ。我ながら偏屈な考え方……)

＊＊＊＊＊＊

P「はい、お茶。コーヒーのほうが良かったか？」

貴音「いえ、そのようなことは」

P「なら良かった」ﾊﾊ

P「幾つか質問させてもらうな？ 名前は四条貴音……年は？」

貴音「18です」

P「18、な。出身地は？」

貴音「……それは」

P「それは？」

貴音「秘密……では駄目でしょうか」

P「ひ、秘密ぅ？ 何か言いたくない理由でもあるのか？」

貴音「ええ、まあ……はい」

P「う、うーん……」

P(でも、社長のスカウトって時点で事務所入りはほぼ確定なわけだし……)

P(それにそういう不思議路線の方がこの子には合ってるかもな……)

貴音「駄目……でしょうか」

P「……いや、いいよ。君はその方が『らしい』かもな」

貴音「御迷惑をおかけします……」

P「いえいえ。じゃ、次の質問だが……」

＊＊＊＊＊＊

P「……はい。じゃあ、こんなもんだな」

貴音「お疲れ様でした」

P「そちらこそ。この後は事務所の皆に挨拶してもらうから、今の内に何を言うか決めた方がいいぞ」

貴音「はい。承知致しました」

P「それじゃ、これからよろしくな！ 貴音！」

貴音「はい、よしなにお願い致します」

小鳥「プロデューサーさーん！ みんな、集まりましたよー！」

P「お、ちょうど良かった。どうだ貴音、やれるか？」

貴音「はい、準備は整っております」

P「じゃ、行ってこい！」

＊＊＊＊＊＊

貴音「皆様、初めまして。四条貴音と申します」

貴音「この度は、私の為にわざわざお集まり頂きありがとうございます」

貴音「精一杯頑張らせて頂きたいと思います。よろしくお願い致します」ﾍﾟｺﾘ

P「だそうだ。みんな、よろしくな！」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

響「よろしくだぞー！」

美希「あふう……ミキはどうでもいい、って思うな」

律子「こら、美希！ ちゃんと歓迎しなさい！」

美希「だって…………」ﾁﾗｯ

春香「……………………」

千早「よろしくお願いします、四条さん」

真「ねえねえ！ 貴音、って呼んでもいい！？」

雪歩「ちょ、ちょっと真ちゃん…………」

亜美真美「よろよろ→！」

やよい「よろしくですー！」

伊織「…………ふんっ」

あずさ「よろしくね、貴音ちゃん」

貴音「はい。皆さん、よろしくお願いします」

ｶﾞﾔｶﾞﾔｶﾞﾔ

小鳥「中々好印象ですね」

P「はい。これならすぐに打ち解けられそうですよ」

小鳥「……何人か、黙っちゃってますが……」

P「直に慣れていきますって」

小鳥「そうですよね。心配しすぎかな」

P「ええ……」

P(貴音を快く思ってないんだろうか……)

P(というより……)

P(新人に対する『村八分』みたいなもんか……)

P(すぐに馴染んでくれるといいが……)

春香「ねえ、美希。ちょっと話があるんだけど……」ｺｿｺｿ

美希「分かってるの。雪歩も来る？」

雪歩「う、うん…………」

伊織「私も行くわよ」

春香「じゃあ気付かれないように事務所を出て……」ｺｿｺｿ

P「？」

P(春香？)

＊＊＊＊＊＊

美希「うんうん。ミキもそう思うの」

雪歩「だ、だよねえ……。良かった、私だけじゃなかったんだ」

伊織「なんとなーーく、きな臭いっていうか、怪しいっていうか。嫌な感じがするのよね」

春香「ちょ、ちょっと……言い過ぎだよ、伊織」

伊織「ふん、春香も思ってることでしょ？ 『今更新人なんて……』って」

春香「それは……そうだけどさ」

美希「ミキ達だけで765は十分だ、って思うな」

雪歩「新人さんともなると、事務所の雰囲気とか、暗黙の了解みたいなのも分からないだろうし……」

春香「まあ、正直ね。でもみんな、嫌がらせとかいじめとかはダメだよ？」

伊織「当たり前じゃない。そこまで子供じゃないわ」

美希「でこちゃんはまだまだちっちゃいの」

伊織「うるさいわね！」

雪歩「わ、私はあんまり関わりたくないなあ……」

春香「そうだね……ハブくわけじゃないけど、関わり合いにならないようにしようかな……」

春香(なんていうかあの人、苦手……)

春香(まるで幽霊みたいな雰囲気とか……『生理的に受け付けない』って言葉の意味が分かったかも……)

美希「なんにせよ、ミキはあの人とはムリ、ってカンジかな」

伊織「そうよね。しばらく様子は見るけど、余所者は所詮余所者だわ」

春香「雰囲気がね……」

美希「それ、分かるの。あの人、なんていうかーー」

とりあえず今日はここまで。

11人？
誰が足りないんだろ

BUCK-TICK？

＊＊＊＊＊＊

それから一週間がして。

貴音「只今戻りました」

P「お。おかえり、貴音。今日の仕事はどうだった？」

貴音「はい。卒なくこなすことが出来たかと」

P「そうかそうか。ごめんな、ついて行ってやれなくて」

貴音「いえ、忙しいのでしょうから」

P(たった一週間で、貴音は驚くべきスペックを遺憾無く発揮していた)

P(歌が元々上手だったのに加え、振り付けもすぐに覚える)

P(トークスキルだって、俺のフォローがなくともインタビューに答えられるくらいだ)

P(それだけじゃない。これは昨日からだが、俺抜きでも貴音は完璧に仕事をこなす)

P(こりゃ、社長の見る目は間違ってなかったな……)

P「疲れてないか？ どうだ、お茶でも」

貴音「いえ、結構です。お気になさらず」

P「そうか」

P(ただ一つ気になることがあるとすれば……)

P(人とあまりコミュニケーションを取りたがらない、ってところだろうか)

P「どうだ？ この事務所にはもう慣れたか？」

貴音「はい。みな、良くしてくれます」

P「そうか。それは何より」

P(……嘘だ)

P(貴音が来てから春香、美希、雪歩……それに伊織。特にあいつらの様子がおかしい)

P(それに最近では真や亜美、律子も……)

P(…………正直言って、俺も貴音はあんまり得意じゃない)

P(こいつを見てるとーー時々、背筋に寒気が走るんだ)

P(何か。得体の知れない何かが隠れてるんじゃないかって)

貴音「……あの」

P「！ あ、な、なんだ？」

貴音「いえ、こちらをずっと見ていたので」

P「あ、や、なんでもないんだ、すまん」

貴音「そうですか」

P「…………………………」

千早「お疲れ様です」ｶﾞﾁｬ

P「お、千早。お疲れ」

貴音「千早。お疲れ様です」

千早「プロデューサーに四条さん。こんにちは」

P(千早は貴音と普通に接してくれているんだな……)

P(千早は実力で人を見るから、当たり前といったら当たり前か)

貴音「千早。今日も歌の収録ですか？」

千早「ええ。最近はそういう仕事が増えて来ていて。……プロデューサーのおかげですね」ﾆｺ

P「そんなことはないさ。千早の実力だよ」

千早「ふふ、そうですか？」

貴音「真、千早の歌は心に染みますから」

千早「四条さんまで。……おだてても何も出ませんよ？」ﾌﾌ

貴音「ふふ、世辞ではありませんよ」

P(千早、明るくなったなあ……)

P(少し前の優くん騒動の時はどうなるかと思ったが……)

P(無事吹っ切れたみたいだな。良かった良かった)

貴音「して千早。今夜もよろしいですか？」

千早「ええ。構わないわ」

P「ん？ 今日の夜、なんかするのか？」

千早「はい。四条さんが泊まりに来るんです」

貴音「昨日も宿泊させて頂きました」

P「へえー、そうなのかー……」

P(千早と貴音ってお泊りするような仲だったんだな、全然知らなかった)

P(些か突然仲良くなった気もするが……ま、友達ってそんなもんか)

P「帰り道には気をつけてな」

千早「はい。……さ、四条さん。行きましょ」

貴音「はい。今晩もよろしくお願い致します」

千早「それでは。プロデューサー」

P「ああ。またな」

貴音「失礼します」ｶﾞﾁｬ

P「ああ」

P(…………あれ？)

P「…………おい、千早」

千早「？ どうしましたか？」

P「お前、なんだかーー」

P「ーーまた、痩せたか？」

千早「……え？ あ、そうですか？」

P「ああ、なんだか前より細くなったような……」

千早「特に変わったことはしてないのですが……」

P「そ、そうか」

P(…………気のせいか？)

千早「強いて言えば、なんだか今日の朝から少しだけ頭がボーっとするくらいですね……」

P「そうか……これからまだまだ忙しくなる。ちゃんと体調管理はするんだぞ」

千早「はい。分かりました」

P「引き止めて悪かった。それじゃな」

千早「はい。失礼します」ｶﾞﾁｬ

P(うーん……)

P(なんとなく、前よりも痩せたように見えたんだが……)

P(いや……痩せた、というよりかは……)

P(やつれた、ように…………)

P(………………気のせいだな、うん)

P「俺も疲れてるのかな……はーあ」




今にして思えば、多分この時だったんだと思う。
『異変』を止める最初で最後のチャンスって奴は。


＊＊＊＊＊＊

導入部分終わりです。

>>14
765の13人からプロデューサーになった律子、まだ来ていない貴音を抜いてカウントしています。
数え間違えていたらすいません。

>>17
タイトルはBUCK-TICKの「くちづけ」ですね。

アイステ聴いてきます

小鳥は…小鳥は含まれないというのか！
と思ったが社長もスルーされてるしまあいっか

>>25
ああー、「アイドルの11人」って意味でした。
言葉足らずでしたね……

書いていきます

翌日

P「おはようございまーす」ｶﾞﾁｬ

小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」

春香「おっはよーございまーす！」

P「お、春香。今日は早いな、どうした？」

春香「朝早く起きちゃったんで……」ﾃﾍﾍ

P「そうかそうか。そんな時もあるよな」

春香「そ、そんなことよりですよ！」

P「うおっ！？ きゅ、急にどうした！？」

春香「二、三日前から、千早ちゃん、変じゃないですか！？」

P「変？……うーん、そうか？」

P「確かに前と比べて明るくなったとは思うが」

春香「それだけじゃなくって、なんか雰囲気が違うっていうか！」

P「ん、んー？ 俺にはそうは思えなかったが……」

春香「こ、小鳥さんは！？」

小鳥「うーん……私にもわからないわ。ごめんなさいね、春香ちゃん」

春香「そ、そうですか……」

春香「絶対何か……おかしくて…………」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

P「春香は千早のことをよく見てるんだな」ﾊﾊ

春香「ひぇえ！？ そ、そうですか！？」

P「だって、俺も毎日千早は見てるけど、春香ほど鋭く変化に気付けないし」

小鳥「ふふ、そうですね」

春香「そ、そんな……か、からかわないで下さい！！」

小鳥「あらぁ？ 春香ちゃん、顔真っ赤よ？」ｸｽｸｽ

春香「こ、小鳥さん！」

春香「もう……あんまり意地悪しないでくださいっ」ﾌﾟｲｯ

P「はは、悪い悪い。反応が面白くてな、ついつい」

春香「…………実は」

P「ん？」

春香「最近になって、いきなり忙しくなってきましたけど……」

春香「こ、今度、土日にオフが入ったら、千早ちゃんを誘って……どこか行こうかな、なんて思ってて」

P「んん？ 春香はしょっちゅう千早とどこか行ってるイメージだったけど、違うのか？」

春香「そ、そういうのじゃなくて！」ｱﾀﾌﾀ

小鳥「プロデューサーさんは鈍いですねえ」ｸｽｸｽ

P「ん？ んんー？ 全然分からんから、説明してくれないか？ 丁寧に、てーーいねいにな」ﾆﾔﾆﾔ

春香「も、もう！ それ、絶対分かってますよね！！」///

P「ん？ 春香は？ 千早と？ デート？ デートしたいって？ んん？」ﾆﾔﾆﾔ

春香「う、うるさいです！」///

春香「ほ、ほら！ お仕事ですよ、お仕事！ スタジオまで送ってって下さいよ！」///

P「はいはい。音無さん、ちょっと行ってきます」

春香「行ってきまーす！」ｶﾞﾁｬ

小鳥「気を付けてね」ﾌﾌ


小鳥「……………………っはあぁぁ」

小鳥「そう……春香ちゃん、頑張ってるのね………………」

小鳥「私の春は……いつ来るのかしら……」ｵﾖﾖ

＊＊＊＊＊＊

P(その日はそれから、春香を送って真を送って、真美のレッスンに付き合ったりした)

P(途中、テレビ局で竜宮小町と律子に会ったが、あっちもあっちで忙しそうだ)

P(それで真美を家まで送って、あとは事務所に戻って来週の雪歩の地方ライブの下準備をするだけ……)

P(中々に激務だが、今が正念場。ここで成功しさえすれば、765プロは一気に大きくなる)

P(俺も頑張らなきゃな……)

P「……ふう。着いた」

P(確か今日はみんな直帰だったかな？)

P「戻りましたー」ｶﾞﾁｬ

小鳥「お疲れ様です、プロデューサーさん」

P「小鳥さんこそ。みんなはもう帰ったんですか？」

小鳥「いえ……」ﾁﾗｯ

P「？ 誰かいるんーーって千早か。今日もお疲れ」

千早「………………………………」ﾎﾞｰｯ

P「…………千早？ おーい」

P(あの、小鳥さん。全く千早の反応が無いんですけど……)ｺｿｺｿ

小鳥(さっき事務所に来てからずっとあの調子で……)ｺｿｺｿ

P(マジですか。こりゃなんか失敗したのかな……) ｺｿｺｿ

小鳥(それなんですけど。さっき、千早ちゃんの営業先の方から電話があって)ｺｿｺｿ

P(なんだって言ってました？)ｺｿｺｿ

小鳥(なんでも『俯いてぼそぼそとしか喋らないから話にならない。お宅のアイドルは皆こんなんか』って……)ｺｿｺｿ

P(うわあ…………。それはまた随分と…………)ｺｿｺｿ

小鳥(すごくお怒りでした。……明日、頑張って下さいね)ｺｿｺｿ

P(は、はい…………)ｺｿｺｿ

P(むむう、千早。また何か悩んでるのか？)

P「おーい！ ち･は･や！」ﾎﾟﾝｯ

P(俺はその時、これから嫌でも何回も見ることになる表情に出会ってしまった)

P(俺が千早の肩に手を置くと、千早はビクッと体を小さく震わし……)

P(まるでブリキのおもちゃみたいなぎこちない動作で首だけをこちらに向けた)

P(瞬間、目が合うーー)

千早「………………………………」

P「」ｿﾞｸｯ

P(その目からは輝きが消えていた)

P(頬には疲れからか、皺が浮かび、口の端が小刻みに震えている)

P「お……おいおい、ど、どうした」

P(冗談の一つでも言えれば、もしかしたら千早は笑ってくれたのかもしれない)

P(でも……俺の余裕は、千早の顔を見た時から消えていたんだ)

今日はここまで。
既に気付いてる方もいるようで嬉しいです

こんばんは
書いていきます。

千早「…………………………」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

P「……え？ な、なんだって？」

千早「……プロ………し……たか………」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

P(？？？ なんて言ってるんだ？)

P「お、おい、千早？ お前、大丈夫か？」

千早「…………………………」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

P(話が通じてないのか？ 一体どうしたんだ…………)

P「千早？ お前、ちょっと病院にーー」

貴音「戻りました」ｶﾞﾁｬ

小鳥「あら、貴音ちゃん。お疲れ様」

P「……貴音？ お前、今日は直帰のはずじゃ、」

貴音「忘れ物を取りに来ただけですので、お気になさらず」

千早「…………ぁ…………しじょ……さ……」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

貴音「！？」

P(む、あの貴音でも流石に驚くか……。そういえば昨日、貴音は千早の家に泊まったんだっけ…………？)

貴音「千早。どうしましたか？ 元気がないようですが」

P「……貴音は何か知らないか？」

貴音「何か？ 何をです？」

P「千早は昨日の帰りまでは普通だったし……昨日の夜とか。何かあったか？」

貴音「はて、心当たりはありませんが……」

貴音「千早。少し失礼します」ﾋﾟﾄｯ

貴音「……………………」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

P(？ なにか言ってる？)

貴音「ふむ……熱があるようです」

P「熱？ これがただの風邪だって言うのか？」

千早「プロ……デューサー……」

P「！？ 千早！」

千早「今日は……すみませんでした。 体調が、優れないので…………もう…………」

P「あ、ああ。詳しい話は後で聞く。出よう、送ってくよ」

貴音「私も千早の自宅に行きます」

P「……貴音？ なんでだ？」

貴音「このような千早を見捨てて帰るわけにはいきません。昨晩、私を泊めてくれたのですから、一宿一飯の恩義を果たさねば」

P「……だそうだが、千早。どうだ？」

千早「ええ……。お願いします、四条さん…………」

P「よし、分かった。貴音、千早をよろしく頼むな。じゃ、行こう」

小鳥「千早ちゃん、養生してね」

千早「はい…………では…………」ｶﾞﾁｬ

貴音「失礼します、小鳥嬢」ｶﾞﾁｬ

＊＊＊＊＊＊

P「ほい、着いたぞ」

P(車内での会話は無いに等しかった)

P(さっきの今で千早に話しかけるのは気が引けたし、貴音もずっと車外の景色を見ていたからだ)

貴音「ありがとうございました。千早のことはお任せを」

P「ああ。頼んだぞ、貴音。千早も早く良くなれよ」

千早「はい…………ありがとう、ございます……」

貴音「それでは」

P「おう、おやすみ。じゃあな」ﾌﾞﾛﾛ

P(千早……どうしたって言うんだ、いきなり)

P(貴音は風邪だって言ってたが……あれは本当に風邪なのか？)

P(なんにせよ俺に出来る事は無い、か…………)

P(………………………………)

P「ん？」

P(車の後ろの席に何か置いてある……あれは千早の携帯か？)

P「ははあ、千早のやつ。忘れてったんだな」

P(今から引き返してもいいが、もう半分以上帰ってきてしまったし……)

P(とりあえず貴音に連絡を取ってみるか)

P「えーと、四条貴音、四条貴音、と……」ﾌﾟﾙﾙﾙ

貴音『もしもし』

P「ああ、貴音。俺だよ。千早の様子はどうだ？」

貴音『今はぐっすり寝ています。食事もきちんとしたものを摂らせました』

P「そうか。それなら良いが……」

貴音『して。何か入用だったのでは？』

P「ああ、うん。千早が俺の車に携帯を忘れてったみたいでな、今から届けようか迷ってて」

貴音『なるほど』

貴音『先程も言いましたが、千早は既に寝ています。今晩は私が傍に居ますので、また後で直接渡せば良いのではないでしょうか？』

P「そうか。……まあ、そうだな。千早のこと、よろしく頼んだよ」

貴音『はい。承知しております』

P「貴音もゆっくり休めよ。じゃあな」

貴音『はい。それでは』ﾌﾟﾂｯ

P(千早……早く良くなってくれよ)

とりあえずここまで。
続きはまた明日に書きます

こんばんは
遅くなりましたが書いていきます

翌日

P「え？ 千早が来ていない？」

小鳥「はい……そろそろ来ないと、次の営業に間に合わないんですが……」

小鳥「連絡もつかないみたいで……」

P(それは俺のせいだな…………)

P「貴音は何か言ってませんでしたか？」

小鳥「貴音ちゃんですか？ いえ、何も……」

P「すみません、ちょっと貴音に電話を」

P(完璧に俺の凡ミスだ……くっ、貴音、携帯を見ていてくれてるといいが)ﾌﾟﾙﾙﾙ

P(………………………………)ﾌﾟﾙﾙﾙ

P(…………………………くそっ！)ﾌﾟﾙﾙﾙ

貴音『はい。もしもし』

P「！ 貴音！ 千早を知らないか！？」

貴音『千早ですか？ いえ、知りませんが……何故です？』

P「千早がまだ事務所に来てないんだ！ そろそろ来ないと営業の時間に遅れてしまうんだが……」

貴音『はて…………』

貴音『私が今朝目覚めた時には、千早は既にいませんでした』

P「！？」

貴音『靴も無くなっていたので、てっきり朝早くから事務所に向かったものなのかと思っていたのですが……』

P「そ、そうなのか……」

貴音『あとのことは私には…………申しわけありませんが』

P「そうか、分かった……。ありがとうな」ﾋﾟｯ

P「おいおい千早……！」

小鳥「どうでしたか？」

P「貴音も知らないそうです」

P「……まだ時間はあるな。よし」

P「すみません音無さん。ちょっと千早を探してきます！」ｶﾞﾁｬ

P(千早、どこに行ったんだ！？)

P(とりあえずアパートだ！ もしかしたら事務所に来る途中で具合が悪くなって帰ったのかもしれない！)

P(そこに居てくれよ……！)

＊＊＊＊＊＊

千早のアパート

P「702号室……ここだ」ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

P「……………………」ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

P「……居ないのか？」ｶﾞﾁｬ

P(嘘だろ、ドアが開いたぞ。貴音は鍵をしていかなかったのか？)

P「すまん、千早。入るぞー」ｿﾛｿﾛ

P(靴は無い……)

P「……いない、か」ｷｮﾛｷｮﾛ

P(貴音が鍵を閉め忘れたのか？ そんなうっかりを犯すような奴ではないと思うが……)

P(特に書き置きだとか、メッセージ性のあるものはないな。……千早らしい簡素な部屋だ)

P「……ん？」

P(部屋を見回していると、目に留まるものがあった)

P(台所に続く床の上に、なにかポツポツと赤黒い模様が描かれている)

P(小さなドット模様。これは、まさか…………)

P「……血？」

＊＊＊＊＊＊

事務所

P(結局、千早に繋がるものは何も発見出来なかった)

P(昨日の営業先と、今日のすっぽかし先への謝罪だけでほとんど一日潰れてしまったな……)

P「血、か……」

P(アレを見てからすぐに部屋を出た)

P(なんだかあの瞬間から、部屋に異様な空気が漂い始めたような気がしたのだ)

P(…………俺も大概怖がりなんだろうか)

P(そもそも、あれは本当に血だったのか？)

P(そうだよなあ。千早は貴音が言うにはただの風邪だったそうだし)

P(千早の流血沙汰にでもなれば、貴音だって俺に言うだろうし……)

P(そうか。そうだよな)

P(料理中に貴音が指を切ったとか、かな？)ﾊﾊ

P(俺の気にしすぎだよな)

P「あ、おい、貴音」

今日はここまで。
展開遅くて申しわけないです

確かシナチクの曲でしたね

こんばんは
書いていきます！

貴音「はい？」

P「お前、今日の朝鍵してこなかったろ。千早の部屋、開いてたぞ」

貴音「はて、そうでしたか？ しっかり確認したつもりでしたが……」

P「うん？ そうか？」

貴音「はい。間違いないかと」

P「そ、そうか…………」

P(貴音の言葉には妙な説得力があった)

P(貴音がしっかり戸締りをしたとなると……千早はやっぱり一度部屋に戻ったのか？)

P「千早は合鍵とかは持ってたか？」

貴音「さて、そこまでは。私は玄関にあった鍵を使いました。これです」ﾁｬﾘﾝ

P「ううむ…………」

P(鍵が開いてたってことは、千早は恐らく合鍵を持ってるってことだよな……)

P(だけど、それなら何故出ていく時鍵を閉めなかった？)

P(分からん……)

P(…………貴音が何か嘘をついている？)

P(………………………………)

P(いや…………貴音がわざわざ嘘をつく理由なんてどこにもないはずだ)

P(ううむ…………打つ手無し、か)

小鳥「あの、プロデューサーさん」

P「はい？ どうしました？」

小鳥「千早ちゃんのことなんですけど……」

P「はい……」

小鳥「親御さんにも電話をかけて聞いてはみたんですが、『こちらも何も知らない』、と……」

P「そうですか……分かりました、ありがとうございます」

P(となると、実家に帰ったって線も消えたわけだが…………)

小鳥「千早ちゃん、どうしちゃったのかしら……」

P「さあ……もしかしたら、その内ひょっこり現れたりして」

P(元々千早はメンタル的に弱い部分があった……)

P(今回もなにか思い悩んでの行動とか？)

P(にしても、失踪はやりすぎじゃないか……？)

P(そこまで常識に欠けることを、あの千早がやるだろうか……)

小鳥「だといいですが……」

P「明日になっても来なかったら、捜索願いを出してきます。貴音以外のアイドルには、まだこのことは伏せておきましょう」

小鳥「はい、分かりました」



………………それから一日経っても、二日、三日と時間が過ぎても、千早は姿を表さなかった。

>>52
BUCK-TICKゥ！

事務所

P(警察の方々も全力で捜索を続けてくれているが、千早のアパートの周辺捜査はあらかた終わったそうだ)

P(なのに、未だに千早は見つからない…………)

P(他のアイドル達にも、不安が伝染しつつある)

P(それはそうだ。今まで当たり前だった存在が忽然と消えたのだから……)

春香「プロデューサーさん」

P「どうした、春香」

春香「千早ちゃん……まだ見つかってないんですね」

P「ああ…………そうだな」

春香「『そうだな』……？」ﾋﾟｸ…

春香「プロデューサーさんは！！ 千早ちゃんのことが気にならないんですか！！」ｶﾞﾀｯ

小鳥「ちょ、ちょっと、春香ちゃん！」

春香「千早ちゃんが居ないんですよ！？ そんなのおかしいじゃないですか！」

P「は、春香、落ち着、」

春香「もしかしたら！！！」

春香「………………もしかしたら、もう会えないのかも、なんて……思わないんですか……」

P「春香…………」

春香「…………すみません、取り乱しました」

P「いや、俺も言い方に気を配るべきだった……すまん」

春香「……聞きたいことがあるんです」

P「なんだ？」

春香「千早ちゃんが消えちゃった前の日……千早ちゃんと一緒に居たのは、貴音さん……ですよね？」

P「っ……………………そうだが……」

春香「分かりました。それだけ聞ければ良かったんです」ﾀｯ

P「春香っ、まだそれはなんの関係もーー！」ｶﾞﾀｯ

P「…………行っちまった」

P(春香は貴音のことを事務所入りの時から良く思ってはいなかった)

P(恐らく、今の質問は言い換えるとこうだ)

P(『四条貴音は如月千早に何かをしたのか？』)

P(確かに…………丸っきり関係がないとは言えないだろう)

P(事実、千早が消える前、最後に千早と行動を共にしたのは貴音だ)

P(……そして、失踪する前日の千早の様子)

P(今思えば……あれは何かに怯えていたのではないか？)

P(そう……例えば貴音になにかされて、とか…………)

P(…………………………)

P(いや、貴音のことを恐がっていたのなら、あの後貴音を家に入れることを良しとはしない筈だ)

P(…………どうも、俺は貴音を犯人に仕立ててしまう節があるな)

P(いかんいかん。冷静にならなくては)ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

P(俺まで事務所の仲間を疑ってどうする……)

やよい「おっつかれさまでーす！」ｶﾞﾁｬ

P「おお、やよい。お疲れ」

P「今日の仕事は任せっきりで済まなかった。大丈夫だったか？」

やよい「はい！ 大丈夫でしたよー！」

やよい「それにそれに、今は大変なことが起きてるから仕方ないかなー、って……」

P「分かってくれるとありがたいよ。やよいは偉いな」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

やよい「えへへ……」

やよい「なんだか今日はスタッフさんも休みの人が多くて、空気がズーンってしてました……」

P「そうなのか……うーむ、風邪でも流行ってるのかもしれないな。やよいも気を付けてな」

やよい「はい！ うちは風邪予防バッチリですから！」

やよい「今日もこれからお買い物です！ 生姜とニラが安売りなのでたくさん買っちゃいます！」

P「おおう、そりゃスタミナが付きそうだ。やよいは良く考えてるな！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

P(はあ……やよいとの会話は癒されるなあ……)

やよい「はわっ！？ もうこんな時間ですかー！？」

やよい「も、もうバーゲン始まっちゃうから帰ります！ お疲れ様でしたっ！」ﾀｯ

P「おう。気をつけてなー」

やよい「……それとプロデューサー！」ｸﾙｯ

P「ん？」

やよい「あんまり無理しちゃダメですよ！ ……きっと、大丈夫です！」

P「……ああ。ありがとな」

やよい「私に出来るのは応援くらいしかないですから……えへへ」

やよい「じゃ、じゃあ行ってきます！」ｶﾞﾁｬ

P「じゃあなー！」

P(…………………………………………………………)

P(…………………………………………………はぁ)

P(やよいは天使だなあ………………)

＊＊＊＊＊＊

やよい「な、なんとか間に合いました……」ﾊｧﾊｧ

やよい「えへへ、今日の夕食は少し豪華になるかも！」ﾎｸﾎｸ

やよい「さ、日も沈んじゃったし早く帰ろーっと！」

？？「おや、やよいではないですか」

やよい「はい？」ｸﾙｯ

やよい「あ、貴音さんだー！ こんばんは！」

貴音「はい。こんばんは」ﾆｺ

貴音「今から帰るのですか？」

やよい「はい！ 今日は特売だったんですよー」

貴音「なるほど、それは初耳です。やよいは買い物上手なのですね」

やよい「えへへ……私が頑張らないと、ですから！」

貴音「まだ小さいというのに、天晴れな心意気です」

貴音「やよいは料理を作ったりはするの ですか？」

やよい「はい！ 大得意ですよー」

やよい「前まではもやしばっかりでしたけど……今はちゃんとお肉とかお魚も食べれるようになってきてて、嬉しいかなーって！」

貴音「日頃の努力の賜物でしょう。偉いですね」

やよい「さ、さっきから褒めすぎですよう！」

貴音「ふふ。そうでしょうか？」ﾆｺ

貴音「なるほど、やよいは料理を…………」

やよい「はい。どうしました？」

貴音「いえ、私は料理がどうも苦手でして……」

貴音「やよいさえよろしければ、今度教えてもらう訳にはいかないでしょうか」

やよい「はい！ 全然大丈夫ですよー！」

貴音「そうですか！ 恩に着ます！」

貴音「私の住まいは事務所からは大分遠いので、やよいの家の方が近いですが……」


貴音「今度、お邪魔してもよろしいでしょうか？」


やよい「いいですよー！ がんばって掃除しときますね！」

貴音「……ふふ。有難うございます」

貴音「ああ、それでは私はこちらなので」

やよい「分かりました！ お疲れ様でした！」

貴音「はい。お疲れ様でした」

貴音「……夜道には気を付けて帰るのですよ」

とりあえずここまで。
やよいは天使だなあ

こんばんは
書いていきます

＊＊＊＊＊＊

電話にて。

春香「うん…………うん。私はそう思う」

春香「うん……どちらにしても、可能性は否定出来ないと思う」

春香「…………手遅れなんかじゃないよ！ まだそう決まったわけじゃない！」

春香「うん……。そう、だけど……」

春香「……え？ あ、ありがとう！」

春香「またまたー。素直じゃないんだから♪」

春香「うん……貴音さんのこと、お願いね」

春香「あはは……流石は水瀬財閥、だね」

春香「うん……そっちも気を付けて。それじゃ、おやすみ」ﾋﾟｯ

春香「…………………………」

春香「四条、貴音……………………」ｷﾞﾘｯ

＊＊＊＊＊＊

翌日
事務所

P「おはようございますー」ｶﾞﾁｬ

貴音「お早うございます」

P「お、貴音おはよう。まだ一人か」

貴音「ええ。小鳥嬢もまだ来ていないようで」

P「そうか……珍しく遅刻かな」

貴音「そうかもしれませんね」ｸｽｯ

P「…………………………」

貴音「時に、ですが」

P「ん？ なんだ？」

貴音「私は貴方様を何と呼べばよろしいのでしょうか」

P「？ 普通に『プロデューサー』とかでいいんじゃないか？」

貴音「私、どうも横文字には弱いものでして……」

貴音「かと言って、いきなり名前や苗字で呼ぶのも、失礼かと思い……」

P「……ぷ」

貴音「？ な、何故笑うのです？」ｵﾄﾞｵﾄﾞ

P「いや、貴音も意外と可愛いところあるんだなーって……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

貴音「な！ 何を！」

P「あはは！ すまんすまん！」

P「呼び方かあ……そういうのは好き好きで良いと思うぞ？」

貴音「そうですか……では『貴方様』でどうでしょう」

P「そのまんまだな……ま、でもそれがいいって言うなら」

貴音「有難うございます、貴方様」ｸｽｸｽ

P「おうよ」

P(…………やっぱり貴音は千早の失踪とは何の関係もない、よな……)

P(良く知らないからって、変に勘ぐって……俺はバカだ)

P(貴音にはすまないことをしたな……)

小鳥「おはようございまーす」ｶﾞﾁｬ

P「おはようございます、音無さん」

貴音「お早うございます、小鳥嬢」

小鳥「今日も一日頑張りましょー！」

貴音「ふふ。元気なのは何よりです」

小鳥「えっへん！ 事務所の空気を明るくするのも私の仕事なんだから！」

P(音無さんって年の割に元気だよな……)ﾌﾟﾙﾙﾙ

P(おっと、電話か)ﾋﾟｯ

P「もしもし？」

？？『あ、姉ちゃんのプロデューサーさんですか？』

P「ん？ 君は長介くん？」

？？『はい、お久しぶりです』

長介『姉ちゃんのことなんすけど……』

P「やよいがどうかしたか？」

長介『なんか様子が変で……』

長介『いつもならもうそろそろ家を出る時間なんですが、部屋から出てこないから見に行ったんですよ』

長介『そしたらまだ寝てて。布団を引っペがしても、話しかけても上の空って感じで反応してくれなくて…』

P「……なんだそりゃ。調子が悪いってことか？」

長介『それがいまいち分からなくて……』

長介『熱も手で測ってみたんだけど、多分無いし……』

P「ううむ……」

長介『姉ちゃんがそんなんだから、今日はお休みさせて欲しいな、って電話を』

P「ああ、分かった。俺、今なら空いてるから、お見舞いに行ってもいいかな？」

長介『大丈夫です』

P「はいよ。じゃ、ちょっとだけ待っててくれ」

長介『はい……それじゃあ』ﾋﾟｯ

P「…………参ったな」

小鳥「どうしました？ プロデューサーさん」

P「音無さん、ちょっと俺出てきます。やよいの家まで！」ﾀｯ

小鳥「え、あ、は、はい！」

P「しばらくしたら帰ってきます！」ｶﾞﾁｬ

小鳥「…………行っちゃった」

貴音「…………………………………………」

＊＊＊＊＊＊

やよい宅

長介「あ、プロデューサーさん……おはようございます」

P「おはよう、長介くん」

長介「上がってください。姉ちゃんの部屋はこっちです」ｽﾀｽﾀ

P「ありがとう」

P(長介くんも見ないうちに大人びてきたなあ……)

長介「ここです」

P「おう。……やよいー、入っていいかー？」ｺﾝｺﾝ

「……………………………………」

長介「多分大丈夫ですよ。朝から返事は無かったんで」

P「そ、そうか。じゃ、失礼して……」ｽｯ

P「おはよう！ やよい！」

やよい「……………………………………」ﾎﾞｰｯ

P「やよい？ おーい……」

P(……！)

P(布団の中で呆けているやよいの表情に、俺は見覚えがあった)

P「同じだ…………」ﾎﾞｿｯ

長介「え？」

P(……失踪する数日前の、千早の顔と同じだ……)ｿﾞｸｯ

P「おい、やよい！ しっかりしろ！！」ｶﾞｯ

やよい「…………………………」ﾎﾞｰｯ

長介「ど、どうしたんですか！ いきなり！！」

P(偶然には思えない……！)

P(このまま放っておいたら、もしかしたら、やよいも……！)

P「長介くん！ 病院だ！ とにかく病院に行かせよう！」

長介「は、はい！ え、えーと、近くの病院はー、」

やよい「…………………………長介っ！！」ｸﾜｯ

長介「う、うわっ！？ 急になんだよ、姉ちゃん！」

やよい「病院には行かない」

長介「え？」

やよい「私はちょっと疲れちゃっただけ。すぐに良くなるよ」

やよい「プロデューサーさんもあんまり人の家庭にまで関わってこないでくれますか？」

やよい「ほっといてくださいよ」

P「っ！」

長介「ちょ、姉ちゃん！ そんな言い方って！」

やよい「別に。……一人にさせて」

長介「なっ……！ 分かったよ、一人にさせてやる！！」

長介「行きましょう、プロデューサーさん！」ｸﾞｲｯ

P「あ、ああ……」

P(立ち上がった時、俺がかろうじて見れたのはーー)

P(何も映していないやよいの瞳だけだった)

長介「すいません、姉ちゃんがどうも……」

P「いや、いいんだ。疲れて苛立ってるだけだろう」

P(正直、少し堪えたけどな……)

P「疲れてるだけなら、やよいの言う通り、すぐに良くなるさ。それこそ明日にでもな」

長介「多分大丈夫でしょう。わざわざ来てくれたプロデューサーさんに文句を言えるくらいですから」

P「はは、それもそうだな」

P「……………………………………」

P「…………長介くん、君に頼みがあるんだ」

長介「なんですか？」

P「出来る限りでいい。やよいを見張っててくれないか」

長介「姉ちゃんを……？ なんでですか？」

P「いや、ただの予感だよ。悪い方の」

長介「？？」

P(やよいは千早と同じ虚ろな目をしていた……)

P(考え過ぎかもしれない。だが、用心するに越したことはない……)

P「とにかく頼んだ。本当に、出来るだけでいいんだ」

長介「？ は、はあ……わかりましたけど」

P「ありがとう。……俺はそろそろ行かなくちゃ」

長介「はい……姉ちゃんのこと、迷惑かけます」

P「大丈夫だ。ゆっくり休め、って伝えてくれ。それじゃ」

長介「はい。それじゃあ」

＊＊＊＊＊＊

今日はこんなところで。
支援ありがとうございます

こんばんは
書いていきます

P「戻りましたー」ｶﾞﾁｬ

小鳥「あ、おかえりなさい。コーヒー飲みます？」

P「お願いします」

P(やよい……………………)

P(俺の考え過ぎだよな？ そうなんだよな？)

P(やよいまで失踪したりなんて……ないよな？)

P(……千早はまだ見つかっていない)

P(部屋に貴重品類は全て置いたままだったそうだから、恐らく金も持たずに消えたのだろう……)

P(きっと大丈夫……と思えるような日数では無くなってきている。千早が失踪してから)

P(…………俺は、無力だな………………)

美希「…………あふぅ」

P「お、美希。居たのか」

美希「……あ、ハニー。お帰りなさいなの」

P「おう、ただいま」

小鳥「はい、プロデューサーさん。コーヒーですよ」ｶﾁｬ

P「ありがとうございます、音無さん」

美希「……ねえ、ハニー？」

P「ん？ なんだ？」ｽﾞｽﾞｰｯ

美希「貴音の話なんだけど……」

P「どうした？」

美希「ミキね、貴音のこと、最初は嫌いだったの」

P「……そうみたいだな」ｽﾞｽﾞｰｯ

美希「だからこの前、貴音に全部思ってるコト、ぶつけたの。気に食わない、つて」

P「…………………………」ｽﾞｽﾞｰｯ

美希「ミキは多分、酷いこと、たくさん言っちゃったと思う……だけどね、」

美希「貴音はミキの何倍も何倍もオトナだった。嫌われるのは慣れてるから、って全部許してくれたの……」

P「…………そうか」

美希「それがなんか悔しくて……しばらくムキーってしてたんだけど」

美希「つい昨日かな？ 考えるの疲れちゃって、謝ったの」

美希「そしたらね、貴音はなんて言ったと思う？」

P「なんて言ったんだ？」

美希「ニコニコしながらね、『今回のことは大変癪に障りました。罰として、明日、私の家に遊びに来て下さい』だって！！」

美希「これって……友達になろう、ってコトだよね！？」

P「はは、そうだな。良かったじゃないか、美希」

美希「うん！ 嬉しいの！」

美希「これから貴音ともーーっと仲良くなりたいな！」

P「なれるさ、美希と貴音なら」

P(良かった。貴音も随分事務所に馴染んできてるな)

美希「それでね、今回は雪歩も誘ってみたの！」

P「お、おう、雪歩もか……あ、あいつは…………」

美希「うん。雪歩もあんまり貴音を良く思ってないみたいだから……」

美希「でも皆、貴音のコト、きっと良く分からないだけなの！」

美希「だからミキは、貴音と皆の架け橋になるって決めたの！ アハッ☆」

P「そうかそうか。頑張ってくれよ、美希！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

美希「えへへっ。がーんばーるのー！！」ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ

P(…………切り込んでみるか)

P「春香はどうだ？」

美希「春香？ 春香がどうしたの？」

P「貴音とどうなのかなー、って」

美希「むむ……」

美希「………………春香は貴音のこと、大嫌いみたい」

P「…………そうか」

P(まあ、予想の範疇だが……)

美希「千早さんが居なくなっちゃったのと、貴音が関係してるんじゃないか、って勘繰ってるみたいで……」

美希「ミキはそんなことないと思うって言ったんだけど……うーん、ってカンジ」

P「そうか……」

P(春香……千早のこと、すごく大事にしてたもんな)

P(何事もなければいいが……)

美希「……なんかいっぺんに話したら疲れちゃった。ミキ、また寝るね？」

P「おう。今日はオフだもんな。おやすみ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

美希「おやすみなさいなのー……。あふぅ……」

小鳥「ふふ、良かったですね。貴音ちゃん」

P「……音無さん。聞いてたんですか」

小鳥「ごめんなさい、聞こえちゃいました。てへっ☆」ﾃﾍﾍﾟﾛｺﾂｰﾝ

P(微妙に古い……かわいいけど)

＊＊＊＊＊＊

スタジオ

響「ふうー……今日の収録もハードだったなあ、真」

真「うん……ボク、アイドル体育大会ってお遊びみたいな物だと思ってたけど、みんな結構本気なんだね……」

貴音「お疲れ様です、二人とも。飲み物ですよ」ｽｯ

響「おっ、サンキュー貴音！」

真「んぐんぐ……っはぁー！ 生き返るなあ！！」

貴音「ほら響、汗の始末をしなければ……」ﾌｷﾌｷ

響「うがー、それくらい自分で出来るぞ！ タオル貸して！」

貴音「これは申し訳ございません。ではこのたおるを取ってみてください、ほら」ｾﾉﾋﾞｰ

響「うがー！！ 背伸びされたら届かないぞー！ 貴音のいじわる！」ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ

貴音「ふふ、響はかわいいですね。はい、たおるです」ｽｯ

響「んー……ありがとうだぞー……///」

真(なんだろう、この空間。すごく空気が甘い……)

ハム蔵「ﾁﾞｭｯ！」ﾋﾟｮﾝｯ

響「お、ハム蔵！ どうしたんだ？ いきなり肩に乗って」

貴音「はむ蔵？ そのはむすたーの名前ですか？」

響「そうだぞ！ 自分、動物が好きで色んなのを飼ってるんだー」

ハム蔵「ﾁﾞｭ！ ﾁﾞｭﾁﾞｭｯ！」

響「……。ん、ハム蔵、何言ってるんだ？」

貴音「なんと！ 真、響は動物の言葉が分かるのですか？」

真「ん。ああ、そうだね。やっぱり付き合いが長いと分かるものなんじゃないかな？」

貴音「おお……面妖な……」ﾜﾅﾜﾅ

ハム蔵「ﾁﾞｭｯ！ ﾁﾞｭーﾁﾞｭｯ！」

響「……はぁ？ ハム蔵、そんなこと言っちゃダメだぞ……」

貴音「響、はむ蔵殿はなんと？」

響「んんー……何でもないぞ。なんでもない、なんでもない」

真「なんか気になるなあ……教えてよ！」

響「だからなんでもないってば！……多分、ハム蔵の勘違いだぞ」

響(まさか…………ね)

＊＊＊＊＊＊

今日はここまで。
書き溜めが無くなった……

事務所

P「はえー……疲れた……」

律子「お疲れ様です、プロデューサー殿」

P「律子も遅くまでお疲れ。竜宮も軌道に乗ってきたな」

律子「ええ！ ここからが踏ん張りどころですかね」

律子「ところでプロデューサー、千早のことですが……」

P「……ああ、うん。なんだ？」

律子「その……言いにくい事ではあるのですが、外向きの状況はどうなってるんですか？」

P「今はとりあえずアイドルとしての活動は休止、ってことにしてる。凍結状態ってやつだな」

P「戻ってきたらすぐにでも復帰出来るように、色々根は回してるよ。千早の奴、そろそろ歌いたくてしょうがなくなってんじゃないのか？」

律子「……もう、千早は、」

P「律子」

律子「っ……」

P「それ以上は言葉にしちゃダメだ。思ってても、な」

律子「はい……すみませんでした」

P「仕事の方はもう終わったのか？」

律子「いえ、まだです……今日は事務所のソファで寝ることになりそうでして」

P「はは、それは奇遇だな。俺もそうなる気がする」

律子「そ、そうならないように頑張りましょうよ！」ｱﾀﾌﾀ

律子「あ、コーヒー飲みます？ あと軽食も。なんなら作りますが」

P「お、ありがとう。そうだな……砂糖たっぷりのトーストと、ブラックのコーヒーが飲みたいかな」

律子「なんか矛盾した組み合わせですね、それ……じゃ、ちょっと作ってきます」

P「サンキューな」

P「さて、あの資料は……確か、こっちの引き出しに……」ｶﾞﾗﾗ

P「……あっ」

P(引き出しの中から俺の目に飛び込んできたのは、千早の携帯だった)

P(そうだ、色々あってすっかり存在を忘れてたな…………)

P(今となっては返す相手もここにはいない、か…………)

P(しっかし、このご時世にまだガラケーか。機械に疎い千早らしいな)

P(ガラケー……なあ。大多数の人は、ガラケーにはロックをかけないんだよな)

P(千早もそうだったりして)ﾊﾟｶｯ

P(あら……。本当にかけてない。全く無用心だな)ﾊﾟﾀﾝ

P(…………………………………………)ｷｮﾛｷｮﾛ

P(う、うーむ…………良心が痛むが、なにか千早に繋がる手がかりが携帯の中にあるかも…………)

P(常識に欠ける……大人として……ううむ……)

P(………………ごめんっ！ 千早！)ﾊﾟｶｯ

P(待ち受けはデフォルトのまま。青を基調としたどこか寂しい壁紙。こんなところまで千早らしい)

P(一番なにかありそうなのは……メールフォルダか？)ﾋﾟｯﾋﾟｯ

P(……ん？ 未送信メールが一件だけある……)ﾋﾟｯﾋﾟｯ

P(日付……おい、確かこの日は！)

P(千早が失踪するちょうど前の日だ！！ その日の昼に作成されてる！！)

P(タイトルは……『プロデューサーへ』……)ﾋﾟｯﾋﾟｯ

P(件名無し。さて、本文に書かれているのは……)





『室井静信』





P(……………………これだけ、か？)

P(『室井静信』。んー…… 人の名前か？)

P(業界に聞き覚えは無いな……ちょっとネットで調べてみよう)ｶﾀｶﾀ

P(あ、出た。『謎の作家、室井静信……』)

P(なになに？ 『小説『屍鬼』の作者だが、『室井静信』という名前しか分かっておらず、これがペンネームか本名なのかすら不明である……』)

P(『何人かの記者が接触を試みるも全て不発。今では『屍鬼』すらも絶版となってしまい、この室井静信騒動も収まりつつある……』)

P(『屍鬼』？ 聞いたことのない小説だな……)ｶﾀｶﾀ

P(どれどれ、あらすじは……)

『人口わずかの村に、ある時余所者が引越してくる。
それから少ししてから、村に謎の疫病が流行り始め…………』

『村の住民は『屍鬼』と呼ばれる人外の存在に成り変わり、夜を跋扈する…………』

P(ふーむ？)

P(吸血鬼みたいなもんが村を喰い散らかす、って話っぽいな)

P(『屍鬼』に血を吸い尽くされて殺された者は、死んで数日後に自分も『屍鬼』になって村人の血を狙うようになる……)

P(『屍鬼』の存在に気付いた村人達は、逆に『屍鬼』を狩ろうと動く……)

P(屍鬼は人の血を吸う。殺す。でも、そうしないと生きていけない。屍鬼だって元は人間だ、生きたいと思ってるーー果たして本当に屍鬼は悪なのか？)

P(見た感じ、そんな話なのかな……)

P(なるほど。最初に引っ越してきた『余所者』が屍鬼の親玉だったわけか)

P(それで村人を次々に襲い、村を屍鬼ばっかりにして乗っ取ろうとした……)

P(……まあ、フィクションだろうな。はて、何故千早はこれを俺に？)

P(まさかオススメの本だから読んで下さいってわけでもあるまいし……)

P(ん…………この項目…………？)

P(『屍鬼の牙からは麻酔液が出ており、それが吸血された人の意識を朦朧とさせる』……？)

P(……朦朧と………………)ｻﾞﾜ…

P(………………まさか………………！？)

P(あの日、千早は確かいつもよりボーッとしていた………………)

P(そして、そうだ。次の日に千早の部屋を訪ねた時。その時、唯一発見出来たもの)

P(……………………キッチンの床の、血…………)

P(……………………………………)ﾌﾞﾙｯ

P(いや、おかしい。あるはずない。そうだろ？ この話はフィクションのはずだ)

P(でも、だったら何故？ 何故千早はこのメッセージを俺に託した？)

P(俺は今、おかしなことを考えてる。妄想。そう、妄想だ)

P(でもその妄想を基に考えると、全てのことに繋がりが見えてくる……)

P(突然おかしくなった千早。かと思いきや次の日には失踪。残された携帯。床の血痕。『余所者』……)

P(……待てよ………………『謎の疫病』？)ﾊｯ

P(……やよい！！！)ｶﾞﾀｯ

律子「はい、出来ましたよ。プロデューサー殿のリクエストしたーー」

P「すまん律子！！ ちょっと出てくる！！！ 本当にすまん！！」ｶﾞﾁｬ

律子「シュガートーストですよー、って……なんなの、もう」ﾊｧ

＊＊＊＊＊＊

やよい宅

P(着いた！！ 家に明かりはないが……！)

P「おーい、誰か開けてくれませんか ー！？」ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

P「おーい、誰かー！！」ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

P(自分の考えに自信は無い……！)

P(けど、胸騒ぎが止まらないんだ…………！！)

P(やよい……無事なんだよな！？)

長介「ふぁーあ……どちら様ですかー……」ｶﾞﾁｬ

P「夜遅くすまん！！ ちょっと上がるぞ！！」ｶﾞﾀｯ

長介「え、あっ、プロデューサーさん？ ちょ、ちょ、ちょっと！？」

P(確かやよいの部屋はこっちだ！)

P「やよい……！」ﾀﾀﾀｯ

P(もうすぐ。もうすぐだ！)

P「やよい！」ｶﾞﾀｯ

P(俺が近づくと、やよいは昼間と同じように布団の中で静かに横になっていた)

P(もしかしたら全部俺の気のせいだったのかもな。だとしたら笑える話だ)

P「やよい……すまんな、騒いで」ｿｯ

P(ふと窓の方に目をやるとカーテンが揺れて、そこから月明かりが漏れているのが見えた)

P(はて、窓を開けて寝たのか？ 夏でもないのに？)

P(そして、やよいの方に視線を戻して……気が付いた)

P(……首元が濡れている？)

長介「ちょっと、姉ちゃんのプロデューサーさん！ いきなりどうしたんだよ！」ﾀﾀｯ

P「すまん、長介くん……明かりを付けてくれるか……」

長介「え？ あ、ああ」ﾊﾟﾁｯ

P(暗闇が照らされ、今まで見えなかったものが見えるようになる)

P(見えていたものは、より鮮明に……)

P(……やよいの首元には、虫に刺されたような赤いポツポツ、そして少しの血液がついていた)

長介「プロデューサーさん？」

P(俺は口元に耳を持っていく)

P(呼吸音は……………聞こえてこなかった)

P(脈を確認、するが…………)

長介「……？ 姉ちゃんがどうかしたんですか……？」

P「………………長介くん。救急車だ。救急車を呼んでくれ」

長介「え……？」

P「いいから早く！！」

長介「あ、は、はい！」ﾀｯ

P「………………やよい…………」ｷｭｯ

P(抱きしめた小さな体からは、最早何の熱も感じられなかった)

今日はここまで。

人狼はそうですね、日光も平気だし、身体能力も屍鬼より高いし、人の血を吸う必要は必ずしもない、まあ、ある意味チートですかね

屍姫は詳しくないので……ごめんなさい

おつ

他には何か書いてるのかな？

こんばんは
ぼちぼち書きます

>>102
過去作のことでしょうか？
でしたら、

凛「ラーメン食べ歩きは最高にゃ！」 凛「ラーメン食べ歩きは最高にゃ！」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407936287/)

雪歩「マリンスノウ」 雪歩「マリンスノウ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413042014/)

の2本です

マリンスノウリアルタイムで読んでたよ

一方その頃、貴音宅

貴音「戻りました」ｶﾞﾗｶﾞﾗ

美希「あ、おかえり！ 貴音！」

雪歩「お、おかえりなさい……」

美希「どこ行ってたの？」

貴音「今晩は月が綺麗でしたから。少し散歩を」

美希「ふーん……風流だね」

貴音「二人とも、湯浴みはしますか？」

美希「ユアミ？ 何それ？」

雪歩「み、美希ちゃん。お風呂のことじゃないかな……」

美希「ああ！ お風呂！」ﾎﾟﾝｯ

美希「んー、でもまだいいかな？ 今から貴音も混ぜて、三人でお喋りタイムなの！」

貴音「ふふ、そうですか。それも面白そうですね」

雪歩「あ、お茶いれますね……」ｶﾞﾀｯ

貴音「いえ、雪歩。ここは私が」

雪歩「え、あ、そ、そうですか？」

貴音「はい。今日は二人をもてなす側なので」

雪歩「あ、じゃ、じゃあ……はい……」

貴音「少し待っていてください」ｽﾀｽﾀ

雪歩「……………………」

美希「………………ゆーきほっ！」ﾀﾞｷｯ

雪歩「ひゃっ！？ な、なに！？ 美希ちゃん！」

美希「んー？ なんか緊張してる？」

雪歩「う、うん……まあ……」

美希「……でも雪歩も今日話してて分かったでしょ？ 貴音は悪い人じゃないの」

雪歩「そうだね……なんていうか、さ」

美希「うん？」

雪歩「私……良く知りもしないで四条さんのこと嫌って……ひどいこと、してたなあって……」

美希「…………………………」

美希「大丈夫なの」ｷﾞｭｯ

雪歩「……美希ちゃん？」

美希「それを言うならミキも一緒なの。……でも、貴音は許してくれた」

雪歩「…………うん」

美希「大切なのは今なんじゃないかな？ 悪いところは直せばいい話なの！」

雪歩「そ、そう……だよね」

美希「うんうん！ 雪歩も勇気を出すの！ きっと貴音は答えてくれるって思うな！」

雪歩「うん！ 私、頑張ってみる……！」

美希「アハッ、その調子なの♪」

貴音「お待たせしました。どうぞ」ｺﾄｯ

美希「わーい、ありがとうなの！」

雪歩「んっ……結構いいお茶っ葉使ってるんですね……」ｽﾞｽﾞ

貴音「おや、雪歩。分かるのですか？」

雪歩「はい……っぷはぁ……。お茶、趣味なんです！」

貴音「ふふ。いい飲みっぷりです。価値が分かる人に飲んでもらえて、このお茶もさぞ光栄でしょう」

貴音「ささ、美希も」ｽｽ

美希「…………美希には、違いがあんまり分かんないの」ｺﾞｸｺﾞｸ

雪歩「あ、あはは……美希ちゃん、普段お茶とか飲まないから……」

美希「むー、なんか悔しいの！」ﾑｰ

貴音「いつか分かるようになりますよ」ﾌﾌ

美希「余裕な態度が逆に腹立つの！」

雪歩「ま、まあまあ……」ｱﾊﾊ…

美希「あ、そうだ。貴音に聞きたいことがあったの」

貴音「はい、なんでしょう」

美希「貴音ってなんでこんな大きい家に一人暮らししてるの？」

美希「部屋だって十室近くあるし、その一つ一つも大きいの」

美希「持て余さないのかなーって」

貴音「ええ……正直なところ、少々持て余しておりますね……」

貴音「同居人が欲しいくらいです」ﾌﾌ

美希「ふーん……隣の部屋入ってみてもいい？」

雪歩「み、美希ちゃん、迷惑だよう……」

貴音「いえいえ、迷惑ではありませんよ」ｸｽ

貴音「しかし、そちらはまだ片付けていないのです……引越しの機材が山積みでして」

美希「えー、つまんないのー」

雪歩「じゃあ、私達はどこに寝るんですか？」

美希「ミキ的にはこのぬくぬくコタツでもいい、って思うな！」

貴音「ふふ、ちゃんと部屋は用意してありますよ」

貴音「この炬燵がそんなに気に入りましたか？」

美希「うん！ ミキ、ダメ人間になりそうなのー……」ｺﾞﾛﾝ

雪歩「炬燵って一度入ると抜け出せないよね……」

美希「…………………………すぅ」

雪歩「……え、美希ちゃん？」

美希「……………………」zzZ

貴音「おや、寝てしまったようですね」

雪歩「ぇええ！？ 美希ちゃーん、起きないとだよーう！」ﾕｻﾕｻ

美希「……んー……」zzZ

雪歩「美希ちゃーん！」ﾕｻﾕｻ

貴音「いいのですよ、雪歩。寝かせて置きましょう」

貴音「……ああ、雪歩も。眠かったら寝ても差し支えありませんよ？」ﾆｺ

雪歩「別に、私は……」

雪歩(……あれ？ なんだか急に眠く……)

雪歩「うう、……四条さ……ごめ……なさ……」ｺｸｺｸ

雪歩「………………きゅう」ﾊﾞﾀﾝ

雪歩「……」zzZ

貴音「…………おやすみなさい、二人とも」ｽｯ

貴音「さて」ｽﾀｽﾀ

貴音「…………」ｶﾞﾗｶﾞﾗ

貴音「美希が入ろうとした時は肝を冷やしましたが……」

貴音「そろそろ頃合でしょうか……」

貴音「しかし、棺の蓋とは重い物です……開けるのにも一苦労とは」ｶﾞｺﾞﾝ！

貴音「おや、まだ寝ているのですか」

ｺﾞｺﾞｺﾞ………………










千早「…………………………」

貴音「起きなさい、千早」ﾍﾟｼｯ

千早「…………………………う……」ﾑｸｯ…

貴音「無事『起き上がれ』ましたか。真、安心いたしました」

千早「四条……さん…………」ｷﾞﾘｯ

貴音「そう睨まないでください」ﾆｺ

貴音「私の『正体』には気付いていたようですね。しかし、一体いつから？」

千早「…………正直に言うと、血を吸われるまでは貴女と仲良くなれると思っていたわ」

千早「血を吸われた時ね、気付いたのは。こんな小説を読んだことがある、と……」

貴音「『室井静信』ですね。全くあのお方はあのような物をよくも…………」

千早「頭はひどくボーっとして、何も考えられなかったけど……それでも歌は歌いたかった、だから、」

貴音「だから事務所に行った、と。……千早。貴女の精神力には感服します」

千早「……………………」

千早「…………私は、屍鬼に？」

貴音「ええ。素質があったようで。重畳重畳」

千早「何が重畳よ、ふざけないで……！！」ｷﾞﾘｯ

千早「私は化け物になんてなるなら、いっそ死んだ方が良かった！！」

貴音「そう言われましても。過ぎた事は取り返しが付かぬ故」

千早「くっ…………！」

千早「……私は人の血なんて吸わない。如月千早は最後まで人として死ぬのよ！」

貴音「はあ。それは些か困りますね……」ﾊｧ

貴音「千早。貴女は『屍鬼』を読んだのですね？」

千早「ええ……ずっと前にですけどね」

貴音「では『人狼』のことは？」

千早「確か…………」

千早「『屍鬼』とは違って、太陽の光を浴びても皮膚が焼けただれない、昼間も活動出来る『屍鬼』のほぼ上位種……だったかしら」

貴音「そうですね。正解です」

貴音「ふふ、私はその『人狼』なのですよ。……千早、この意味が分かりますか？」

千早(分かるか、ですって……？)ﾋﾟｸｯ

千早(……恐らく私はただの屍鬼。日の光で大火傷を負ってしまう、ただの屍鬼……)

千早(それに…………屍鬼と人狼の違いはそれだけじゃない)

千早(屍鬼は太陽が昇ると強制的に眠ってしまう。昼間は活動が出来ないから…………)

千早(でも人狼……四条さんは昼間になって眠らない…………そこも違う)

千早(つまり、四条さんが言いたいのは……)

千早「……馬鹿にしないでください」

千早「四条さんは昼間寝ている私を太陽の下に運ぼうと思えば運べるってことですよね」

貴音「お察しが良いようで」ﾌﾌ

千早「それくらい、耐えてみせます。むしろ、それで楽になれるなら、私は……」

貴音「……本当に良いのですか？」

千早「……？」

貴音「そうですね……では、天海春香の家の庭木にでも貴女を縛り付けておくのはどうでしょうか」

千早「！？」

貴音「ふふ。朝起きて何気無く庭を見ると、最早原形をとどめていないほどに焼けただれた親友の貴方がいた……」

貴音「そんな状況に直面したら、果たして彼女はどうなることでしょう？」ｸｽｸｽ

千早「……ッ！ 貴女ねぇ！」ｶﾞｯ

貴音「おっと」ｽﾙｯ

千早「！？ あっ……」

貴音「ふっ！」ﾊﾞﾀｰﾝ！

千早「ぉあっ…………！」

貴音「忘れたのですか？ 『人狼の身体能力は屍鬼よりも高い』」

貴音「……貴女はもう、私に従うしかないのですよ」ｸｽｸｽ

千早「…………！！」

貴音「手始めに。隣の部屋にいる雪歩の血を吸って頂きましょう」

千早「萩原さんがここに！？」

貴音「ええ。少し愛想良く振舞うだけで、警戒を解いてくれました」

貴音「睡眠薬入りとも知らず、茶の味を語ってくれましたよ」

貴音「……お願い出来ますね？」

千早「……………………」

貴音「……千早？」ｺﾞｺﾞｺﾞ…

千早「……くっ！」

千早(萩原さんを…………でも、春香に迷惑はかけられない……なんてこと……)

千早「………………はい……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

貴音「真、頼りになります」ｸｽｸｽ

とりあえずここまで。

>>105
おお、このような拙作を二度も……
ありがたい限りです

こんにちは
一日空いてしまいましたが、書いていきます

次の日

伊織「やよいが……！？」

社長「…………うむ。病院に運ばれた時はもう既に……」

春香「そ、そんな……！」

亜美「やよいっちぃ……！」ｼﾞﾜｯ

真美「…………うあぁ……！」

P「…………………………」

真「げ、原因はなんだったんですか！？」

社長「失血が酷かったらしい……それが恐らくこのような……」

春香「だ、誰かに襲われたってことですか！？」

社長「いや……目立った傷口も無いらしく……病院側も分からない、と……」

あずさ「やよいちゃん……」

律子「そんなのおかしいですよ！」

P「！」

律子「大きい外傷もないのに、どうして失血死が出来るんですか！ 一体、どうやって……！」

社長「…………そればっかりはもう分からん。ご遺族の方も、検死解剖には反対されたそうだ」

律子「そんなの……！」

律子「そ、そもそも！ 最近うちはおかしいですよ！ 千早のこともですし、今日だって、雪歩と美希……それに貴音は体調不良で休みです！！」

律子「響だって、中期ロケの最中とはいえ顔ぐらい……！」

P「……律子。落ち着け」

小鳥「律子さん……」

律子「こんなの……こんなのって……！」

社長「律子くん。気持ちは痛いほど分かる……」

社長「だが今は、せめて静かに高槻くんを悼んであげよう……」

律子「……はい…………」

社長「……葬儀は三日後だ。明後日が友引だかららしい」

社長「ご遺族の意向で、慎ましくやりたいそうだから、私とプロデューサーくんとだけで行く」

社長「……辛いだろうが、皆は各々の仕事に励んでくれ」

社長「……それでは、解散」

P「…………………………」

P(やよい……俺は……)

伊織「……ちょっとアンタ。話があるわ。付いてきなさい」

P「？ 伊織？」

伊織「それから春香もね。行くわよ」ｶﾞﾁｬ

春香「う、うん…………」

P(伊織が俺と春香に話？ 一体何だ……？)

喫茶店

P「それで伊織。一体何の話だ？」

P「それにわざわざこんなとこまで来なくても……」

伊織「信用出来る人にしか聞かれたくないの。それぐらい察しなさいよね」

春香「伊織。もしかして、話って……」

伊織「ええ、そうよ」

伊織「やよいのこと……そして、貴音のこと」

P「！」

伊織「プロデューサー。今だから正直に白状するわ」

伊織「千早がいなくなった後、春香に電話でこう頼まれたの。『貴音を見張って欲しい』って」

春香「わ、私、どうしても四条さんが無関係だとは思えなくて……」

P「……おう。続けてくれ」

伊織「それでここ最近貴音を水瀬グループで尾行してたんだけど……」

伊織「やよいが休む前の日ね。深夜、貴音がやよいの家に入っていくところが確認されたわ」

P「なんだって！？」ｶﾞﾀｯ

伊織「どこかの窓が開いていたみたいね。少なくとも、招かれて入ったってわけじゃなかったみたい」

伊織「私がもう少し早く行動を起こしていれば…………」ｷﾞﾘｯ

伊織「…………その報告が入った時、私は『次にやよいに会ったら、なにも変わりはないかどうか聞こう』って思った」

伊織「でも、やよいには会えなかった……最後までね」

P「……………………」

伊織「そして一番大事なのはここから」

伊織「昨日の夜も、貴音はやよいの家に行っていたのよ」

春香「！」ｶﾞﾀｯ

春香「じゃ、じゃあもうそれは！」

P「春香。まだ決まったわけじゃない」

春香「で、でも！」

伊織「問題なのは貴音の入り方。昨日はその前の時とは違って、玄関から堂々と入っていったわ」

P「……ん？ 鍵はどうしたんだ？」

伊織「かかってなかったみたい」

P「……閉め忘れ？ そんなまさか」

伊織「そうよね。そこだけがいまいちピンと来ないわ……」

春香「確かに……ご両親だって帰って来てたんだろうし。それに、小さい窓ならともかく、一番注意する玄関の鍵を閉め忘れるのは……」

伊織「それともう一つ」

伊織「貴音がやよいのことに関わっていたとしても、どうやってやよいを殺したのかがまだ分かってないわ」

P「………………」

P(『屍鬼』………………)

P「二人とも、聞いてくれ。これから話すことは馬鹿げていると思うがーーー」

＊＊＊＊＊＊

一箇所春香が「四条さん」って言っちゃってますけど
春香は「貴音さん」呼びですよね……
脳内変換しといてください

P(全部話した)

P(千早の携帯のこと。そこにあったメッセージ。虚ろな目をした千早とやよい。首筋の小さな傷。『屍鬼』)

P(二人とも最初は苦笑いでこっちを見ていたが、俺が話し終わる頃にはどちらも腕を組んで熟考を始めていた)

春香「屍鬼……うーん……」

伊織「無い話ではないと思うけど……少しリアリティに欠けるわね……」

P「俺自身そう思っているが……千早がわざわざ残したものなんだ。俺は千早を信じたい」

伊織「そうするとなに？ 貴音はパチモン吸血鬼で……」

春香「やよいは貴音さんに血を吸われちゃったってことですか？」

P「恐らく。それによく調べてみたら……ほら、ここに」

『屍鬼は血を吸った人間に催眠をかけて操ることが出来る』

P「こういう記述もある。そしたら、玄関の鍵が開いていたことにも納得が行くんじゃないか？」

春香「！」ﾊｯ

伊織「貴音が前日、やよいに催眠をかけて、鍵を開けておくように操ったってことね？」

P「ああ、そうだ」

伊織「確かにそう言われてみれば妙に納得もいくわね……」

春香「室井静信、って人と貴音さんにはなにか関係があるんですか？」

P「それは分からない。さっきも言ったが、『室井静信』については本当になにも分かってないんだ」

春香「そ、そうですか……」

伊織「まあそれはいいわ」

伊織「大事なのは『貴音が本当に屍鬼だったらどうするか』、よ」

伊織「本当にそうなら、765プロはこのまま……」

P「……そうだな。でもそれも今朝確信が生まれた」

P「今日の朝、誰が事務所に来てなかった？」

春香「え、えーと……貴音さんと、雪歩。それに美希と響ちゃん……ですね」

伊織「響はロケ、それと貴音はいいとして……雪歩と美希が気になるわね」

P「その二人は昨日貴音の家に遊びに行っていた。最悪の場合……」

伊織「手遅れ、ってことね」

P「うん。雪歩が休んだ理由はやよいと同じで『酷くぼーっとしている』で、美希が休んだ理由は『高熱が出ている』だった」

春香「高熱ですか？ それはやよいと違うような……」

P「そうだな。屍鬼になる時の特徴とは違う」

P「高熱は……屍鬼よりも厄介な『人狼』になる時の特徴だ」

P「勿論、ただの風邪かも知れないが」

伊織「人狼……っていうのは屍鬼の上位互換みたいなもの、だったかしら？」

P「そうだな。その認識で大体合ってる」

P「もし俺の妄想が正しいなら、貴音はこの『人狼』に該当する」

春香「はー……なんか話が大それてきましたね」ｱﾊﾊ…

春香「そうかあ……貴音さん、やっぱり千早ちゃんを……」ｷﾞﾘｯ

P「…………」

P「千早はまだどうなったかは分からない。一回吸血されたのはほぼ確実だが、今でも普通に生きているかもしれない」

P「意志の強い千早のことだ。貴音の催眠を破って、完璧に逃げるために何も言わず消えたのかもしれない」

P「それに……死んだとして、必ず『起き上がる』とは言えない」

伊織「起き上がる？」

P「ああ、死んでからまた屍鬼として生き返ることを『起き上がる』というんだ。村の言い伝えから来てるらしい」

春香「千早ちゃん……逃げきれてるといいけど……」

伊織「それで？ どうするつもり？」

伊織「まさか指を銜えて見てるだけ、なんて言わないでしょうね！」ｽﾞｲｯ

P「も、もちろん」

P「屍鬼達はお守りだとか、十字架だとか、とにかくそういう神仏系統に弱いらしい」

P「どこまで貴音に通用するかはわからないが……」

伊織「ふむふむ。怯んだ隙にサックリやっちゃうわけね」

P「おいおい……俺はただ捕まえるだけだと思ってたぞ。何も殺さなくても……」

伊織「なに腑抜けたこと言ってんのよ！ こっちは一人殺されてるのよ！」ﾊﾞﾝｯ！

伊織「許せるもんですか……人の皮かぶった狼なんか！」

春香「そうですよ……プロデューサーさん」

春香「悪魔ですよ、あれは……悪魔は退治するものですよね？」

P「そ、それはそうかもしれないが……」

伊織「計画を実行するときは私に声をかけなさい。すぐ片を付けるわ」

P「あ、ああ……」

事務所

P(すっかりあの二人は復讐の鬼になってる……)

P(それほどまでに、765プロの結束は固かったんだ)

P(あの二人が我慢出来なくなって先走る前に、俺がどうにかしなければ……)

律子「…………」

小鳥「律子さん、元気出してください……」

P(律子は今回の件で大きなショックを受けてるらしく、朝からずっとあんな調子だ)

P(今日オフの真は、雪歩のお見舞いに行ったらしい。あの二人も特に仲が良かったからな……)

P「やるべきことをやるしかない、か……」ﾎﾞｿｯ

P「音無さん。少し出てきます。多分すぐに戻りますよ」

P(確かアイドルの住所は……このファイルにまとめてある)

P「っと、その前に。律子、この前の竜宮で使った小道具少し借りるぞー」

社長「キミぃ。どこに行くのかね？」

P「貴音の家まで。心配なのでお見舞いですよ」

社長「そうかそうか……気を付けていくんだよ」

P「はい。ありがとうございます」

P(貴音……今、終わらせてやる)ｶﾞﾁｬｯ

貴音宅

P「貴音、俺だ。お見舞いにきたぞー」ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ

ｶﾞﾁｬｯ

貴音「おお、貴方様……有り難いです……」

貴音「ささ、どうぞ中へ……」

P「おう。失礼するぞ」ｽﾀｽﾀ

貴音「今お茶を……」

P「おいおい。体調が悪い奴にそんなことさせられるかよ。気にしなくていい」

貴音「そ、そうでございますか？」

P「ああ。貴音は寝てろって」

P「なんか食べたいものはあるか？ 作るなり買うなりしてくるが……」

貴音「そうですね……らあめんが食べたいです……」

P「はは、食欲が衰えないことは大事だな。待ってろ、作ってくる。冷蔵庫の中ちょっと使うぞ」

貴音「ええ……お願い致します……」

貴音「それではお言葉に甘えて……」ｺﾞﾛﾝ

P「おう」

＊＊＊＊＊＊

P「出来たぞ、ほら。味噌ラーメン」

貴音「おお、味噌ですか……私は醤油の方が好きですが……」

P「作ってもらって文句言うなっての。食え、旨いぞ」

貴音「いただきます」

貴音「ふむ……これは中々……」ｽﾞﾙｽﾞﾙ

P「口にあったようで良かったよ」ﾊﾊ

P「……………………」

P「なあ、貴音？」

貴音「なんでしょうか？」ｽﾞﾙｽﾞﾙ

P「雪歩と美希も体調が悪くなったらしい」

P「…………なにか知らないか？」

貴音「………………はて」

P「やよいのことは聞いてるな？」

貴音「はい……真、残念なーー」

P「何故お前は真夜中にやよいの家に行っていた」

貴音「…………はて。なんのことやら」ｺﾄｯ

貴音「ご馳走様でした」

P「そうか……」

P「………………………………」ｽｸｯ

P「間違ってたらすまんが貴音、お前のやったことは全部分かってるつもりだ」

P「伊織や春香は本気でお前を消すつもりだが……俺はそこまでする気はない」

P「だから……」ｽﾁｬ

貴音「！ 拳銃とは……どこでそのようなものを、」

P「言っただろ。水瀬が動いてる」

P「この程度でお前が死なないのも知ってる。杭とか、そういう大きなもので体に風穴を開けないと死なないんだってな」

P「でも、頭を吹き飛ばされるのは相当に痛いと思うぞ……なあ、『人狼』」

貴音「おやおや……そこまで調べておられるとは……」ｸｽｸｽ

P「動くな。……撃つぞ」

貴音「撃てるのですか？」

P「お前は撃たれても死なないが俺達は噛まれたら死ぬ。なら、撃つしかないだろ」

貴音「ふふ、この至近距離では外しようもないですね」

P「それに……これもある」ﾁｬﾗｯ

貴音「ひっ……！」ｽﾞｻｯ

P「やっぱりお前にも効果はあるのか……この十字架。律子から借りてきて良かったよ」

貴音「ええ……屍鬼ほどではありませんが……」ｷﾞﾘｯ

P「質問だ。千早はどこにいる」

P「答えるんだ」ｽﾁｬ

貴音「……さて、分かりませんね……」

P「本当に知らないのか？」ﾁｬﾗｯ

貴音「ッ！ ええ……」

P「そうか……」

P(嘘をついている可能性もある。だが、それは後から確かめればいい)

P「さっきも言ったが、貴音。俺はお前を殺そうとは思ってない」

P「ただ……お前を野放しには出来ない。どうか分かって欲しい」

P「お前と俺達。共存は出来るはずだ。解決策が見つかるまで、少しの間拘束させてもらう」

P「ほら。この手錠もドラマの小道具だが、良く出来たもんだろう？ 」ﾁｬﾘｯ

P「腕を出してくれ。なるべく早くどうにかするから……」

貴音「……貴方様」

P「なんだ」

貴音「……………………」

貴音「……その言葉は信じてもよろしいのでしょうか」

P「……なに？」

貴音「私は……いえ、私達はずっと虐げられてきました」

貴音「見た目は人と変わりなく。ただ生存に必要なものが違うというだけで……」

P「…………………………」

貴音「共存の策なら知っています」

貴音「私達は人の血が吸えればそれでいい……なにも殺す必要はないのです」

貴音「なので、定期的に血を供給してくれる人間が数人いるだけで私達は生きていけるのですよ」

貴音「……実際、過去にそうしようとしたこともありました」

貴音「結果…………私達は人間に裏切られたのです」

P「！」

貴音「人間は口では共に生きていきたいと言いつつ……実のところ、私達を疎んでいました」

貴音「自己を犠牲にしてまで、私達を生かしておく利点がないと……いえ、単純に私達が生きているのが気に食わなかったのかもしれません」

貴音「人間はいつもそうです。自分と大きく違う物は許容しますが、自分と似て非なるものは許さない」

貴音「母上に父上は、その時胸に杭を打たれて死にました」

P「……………………」

貴音「私は人を怨みました」

貴音「だからこそ私は芸能の道に進み……世で人の目から隠れている同胞達に声をかけようと思い立ったのです」

貴音「最早恐れる必要はない、人間から世界を取り戻すのだ…………と」

P「……だから手始めに事務所のメンバーを？」

貴音「ええ……」

貴音「私、は………………」

貴音「………………………………」

貴音「貴方様からは……今までの人間とは違う何かを感じます……」

貴音「故に……迷ってしまう」

貴音「ふふ……神は私達に怒り、陽光で粛清しようとしました」

貴音「だのに、貴方様は……」ｸｽｸｽ

貴音「……………………」

貴音「私達の業を……赦す、と」

貴音「そうおっしゃるつもりですか？」

P「…………………………」

P「…………忘れがちだが、俺達だって他の生き物を殺しつつ生きてる」

P「それこそ、過剰な分まで」

P「だから……少なくとも、俺達人間にお前達を裁く権利は無いと思う」

P「幸い、うちは芸能事務所だ」

P「お前がしようとしたように、俺達が世の中に屍鬼と人間の共存を訴えたら……何かが変わるかもしれない」

P「それに賭けてはくれないだろうか？」

貴音「ふふ……」ｸｽｸｽ

貴音「それではまるで……求婚ではないですか」ｸｽｸｽ

P「お、おいおい。茶化すなよ」

貴音「……わかりました」

貴音「貴方様に全てを賭けましょう」

P「！ 本当か！」

貴音「ええ」ﾆｺ

貴音「人間も……それほど捨てたものではないのかもしれませんね」

P「分かってくれたか……内心冷や汗ものだったぞ」

貴音「それほどまでに情熱的に求められては仕方ありませんから」ｸｽｸｽ

貴音「手錠はいりません。近々、人を襲う必要もなくなるのでしょう？」

P「ああ！ 任せとけ！」

貴音「ふふ。期待していますよ、貴方様」

貴音「……ああ、それと。先程は嘘をついてしまいました。申し訳ありません」ﾍﾟｺﾘ

貴音「千早は屍鬼となり生きています」

P「そうかそうか。嘘については気にしてないから安心しろ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

貴音「！ あ、貴方様……急にそのような……」///

貴音「…………ふふ。貴方様をお慕いさせて頂いてもよろしいでしょうか？」

P「お、おま！ そ、それって！」ｱｾｱｾ

貴音「ええ。私は貴方様をーー」
















ﾊﾟｧﾝｯｯ！
ﾍﾞｼｬｯ！

貴音「愛し、て……え？」

P「がっ……はっ…………ッ！」

貴音「え……？ あ、貴方様……？」

社長「ふぅー……間に合ったようだねえ」

P「しゃちょ……う？ ごほっ！」

貴音「貴方様っ！」

社長「大丈夫かい、四条くん。 全くうちの若造が……」

P「な……ぜ……あなた、が……」

社長「何故？」

社長「忘れたのかい？ 四条くんを765に呼んだのは私だよ」

社長「なら逆に聞こう。私が怪しいと何故最初に思わなかったんだね？」

P「は、は……た、かね……」

貴音「あ、貴方様！ しっかりして下さい！」

社長「……ふむ。君のこの銃は偽物か。大方これも小道具のひとつだろう？」

社長「四条くんに危害を加えようとするとは……なんと愚かな」

社長「屍鬼の素晴らしさが何故わからないんだろうねえ……」

P「お、れを……だました……のか……」

貴音「ちがっ！ それは違います！」

P「やっぱり……お前らは、呪われ、てる……よ」

P「神に、見放された……化物、だ……」ｶﾞｸｯ

貴音「あ、貴方様……？」

貴音「ーー貴方様！ 貴方様ぁ！」ﾕｻﾕｻ

P「…………………………」

貴音「あなた、さま…………」

社長「怪我はないかい、四条くん。さ、事務所に戻ろう」

社長「私に屍鬼になる素質はないようだが、君の危機にはこのようにして駆けつけよう！」ﾜｯﾊｯﾊ

社長「それにしても、この若造め。四条くんを脅し、挙句拘束しようとするとは……」

社長「この不届き者め！ このぉ！」ｹﾞｼｹﾞｼ

貴音「………………………………」

貴音(貴方様……)

貴音(やはり人間とは……斯様に穢れたもの……なのですね)

貴音(貴方様すら……私を『化物』と……私を、裏切ると…………)

貴音「…………ふふ」

社長「？ どうしたのかね？」

貴音「少し、その拳銃を見せていただけますか？」

社長「これかい？ いいとも。ほら」ｽｯ

貴音「ありがとうございます」

貴音(やはり人間と私達屍鬼は分かり合えないもののようです…………)

貴音(皮肉にも、貴方様がそれを証明してしまうとは)ﾌﾌ

貴音(迷いは消えました。私は…………)

貴音「高木殿」

社長「ん？」ｸﾙｯ

ﾊﾟｧﾝｯ！

＊＊＊＊＊＊

夜
水瀬邸

伊織「新藤。貴音のことでなにか進展はあった？」

新藤「特には。近くのビルから監視していましたが、昼間にプロデューサー殿と高木社長殿が入ったきり動きはありません」

伊織「……プロデューサーと社長が？ まだ出てこないの？」

新藤「ええ。未だ」

伊織「……そう。ちょっと電話かけてみるわ」

伊織(…………)ﾌﾟﾙﾙﾙ

伊織(…………出ない)ﾋﾟｯ

伊織(参ったわね。単に世間話に華を咲かせてて気付かないのか、それとも何かあって出れない状態なのか……)

伊織(もう！ あのバカは本当に心配させるわね……)

伊織(でもここで、部隊を突入させて。もし何事も起きて無かったら？)

伊織(そうなったら恐らく次のチャンスは無くなるわね……貴音はそこまで馬鹿じゃないわ)

伊織(うーん………………)

伊織「そうだ、新藤。昼間に話した『屍鬼』の調査はどうなってるの？」

新藤「はい。筆者の『室井静信』ですが、ペンネームではなく実在の人物の名前のようですね」

新藤「その昔にあったとある村の坊主の息子だったようです」

新藤「残念ながら、その村自体は山火事によって無くなったとされていますが……」

伊織「そう。室井静信の消息は？」

新藤「はっきりとは。大まかな地域は分かっていますが、接触は絶望的かと」

新藤「なんでも、小さな女の子を連れてるとか……」

伊織「はあ？ なによ、ただのロリコンの変態じゃない……」

新藤「屍鬼についてはまだ何も分かっておりませぬ。なにしろ現物がありませんので」

伊織「まあそうよね。お疲れ様、新藤」

新藤「ありがとうございます」ﾍﾟｺﾘ

伊織(つまり、進展は無し、か……)

伊織(うーん……貴音が出歩かない限り、今日は突入を諦めた方が良さそうね……)

伊織(あのバカプロデューサーが人質に取られたりしたら厄介だし……)

伊織(ったくもう！ 早く連絡よこしなさいよね、あのバカ！)

今日はここまで。


噛まれた段階ではセーフですが、噛まれて失血死すると屍鬼になる可能性が出てきますね

春香の貴音さん呼びですが、下書きの段階では敵意を含めて四条さんにしてましたがとあとで呼称で突っ込まれるともなあ、と思い訂正しました

貴音宅

貴音「貴方様……どうか安らかに」ﾊﾞﾀﾝ

貴音(プロデューサーと社長の亡骸は床下に隠しておくとしましょう……)

貴音(本来ならばきちんと埋葬すべきなのでしょうが……恐らく残されている時間は少ない)

貴音(水瀬伊織が私の正体に気付いている、と貴方様は仰られましたね……)

貴音(となると、最悪の相手は財閥。私兵団……とまではいかないでしょうが、様々な物事の抹消を計るための兵力はあるはず)

貴音(そろそろ目を付けられる頃だとは思ってましたが……)

貴音「さて……」ﾋﾟｯ ﾋﾟｯ

貴音「……………………」ﾌﾟﾙﾙﾙ

貴音(恐らくこうしている今も、水瀬の者が私の屋敷を監視しているはずです。だから、この屋敷からは何人も生きて外に出られない……)ﾌﾟﾙﾙﾙ

貴音(それを見越して……千早を自宅に戻らせておいて正解でした)ﾌﾟﾙﾙﾙ

貴音(脱走される危険性も考慮しましたが、天海春香のことを想うが故に貴女はそれを選べないでしょう…………？)ﾌﾟﾙﾙﾙ

貴音「もしもし。私です」

千早『………………こんばんは』

貴音「おや、元気がないですね。どうかしましたか？」

千早『別に…………なんとも』

貴音「そうですか。……本日は貴女にしてもらうことが幾つかあります。勿論、逆らえば天海春香は……」

千早『………………ええ。なんでもするわよ』

貴音「助かります」

貴音「まずはですねーー」

貴音「ーーというところでしょうか」

千早『……随分、人使いが荒いのね』

貴音「生憎ながら、『人』は使っておりません故」ｸｽｸｽ

貴音「それでは、宜しくお願いします」ﾋﾟｯ

貴音(これで準備は整いました、か……)

貴音(……明日には貴方様の不在が事務所に知れ渡ってしまいますね)

貴音(そうなれば水瀬が動くのは確実。事を構えるのなら、揉み消しが効く夜でしょうか)

貴音(……ふふ。心はこんなにざわつくというのに、月は変わらず明るいのですね)

昨日書いたところ
伊織の執事の「新堂」が「新藤」になってました。気付かなかった……

＊＊＊＊＊＊

翌日
事務所

伊織「おはようございまーす」ｶﾞﾁｬ

小鳥「あら、今日は早いのね、伊織ちゃん。おはよう」

小鳥「オレンジジュースあるわよ、飲む？」

伊織「ちゃんと100％ならね。それ以外なら却下よ」

小鳥「ふふ、分かってるわよ。注いでくるわね」ｽﾀｽﾀ

伊織(アイツは……まだ来てない)

伊織(ううん。多分、『まだ来てない』んじゃない。いつもならとっくに居るはずの時間だもの)

伊織(………………アイツは、結局貴音の家から出てこなかったって。朝、新堂から連絡を受けた)

伊織(一人で何しに行ったんだか。行く時は私に声をかけろって言ったのに……)

伊織(あのバカ…………大馬鹿！)

伊織「ねえ、小鳥。プロデューサーから連絡は来てる？」

小鳥「それがねえ……まだ来てないのよ。どうしたのかしら……」

伊織「そう………………」

伊織(分かってたけど……辛いわね)

伊織(！ そういえば……)

伊織「社長は？ 社長はいるの？」

小鳥「社長？ ……あー」

小鳥「伊織ちゃん。後ろよ後ろ」

伊織「え？」ｸﾙｯ

社長？「おはよう、諸君！ 今日もいい朝だ！」

伊織「！」

伊織(なんで……社長も貴音の家から出てこなかったはずよ？)

小鳥「おはようございます、高木社長」

小鳥「この度は急に、大変でしたねえ」

社長？「いやいや！ どうってことはないさ。若い君たちからパワーを貰えるからね！」ﾜｯﾊｯﾊ

伊織「……急に？ 急にってどういうこと、小鳥？」

小鳥「ああ、そうよね。ごめん、紹介が遅れたわ」

小鳥「この人は高木順二朗さん！ 前の順一朗社長の従兄弟よ」

順二朗「ははっ、従兄弟の順一朗が『世界旅行に出るから事務所をよろしく』っていきなり電話をよこしてね。いやはや驚いたよ」

伊織「…………なるほどね」

伊織(『屍鬼は血を吸った相手に催眠をかけることが出来る』……)

伊織(うまく誤魔化したわね、貴音……)

伊織(……いや、貴音も昨日は家から出ていないはずじゃ？)

伊織(まさか…………協力者……？)

伊織(となると一番怪しいのは行方知れずの千早かしらね……)

伊織(いや………………)

伊織(……そういえば、やよいが起き上がったのかどうかを確認してない)ﾋﾟｸ…

伊織(起き上がってすぐに貴音から命令された、って可能性も無くはない……)

伊織(………………………………)

伊織(……親友を疑うしかないなんて……こんな状況……)

ﾌﾟﾙﾙﾙ ﾌﾟﾙﾙﾙ

小鳥「あら、電話」

小鳥「もしもし、こちら765プローー」

小鳥「………………え？」

小鳥「雪歩ちゃんが亡くなった！？」

伊織「！」

小鳥「ええ……はい。そうですか……」

小鳥「……分かりました。後ほど顔を出させて頂きます……」

小鳥「……はい。失礼します……」ｶﾞﾁｬｯ

小鳥「……………………ええぇ……」ﾍﾅﾍﾅ

伊織(雪歩が…………)

伊織(確実に魔の手は動いてるってわけね…………)

伊織(これはもう迷ってる余裕は無いわね。これ以上被害が出る前に、今夜決行しなきゃ…………！)

亜美「どもども→」ｶﾞﾁｬ

真美「兄ちゃぁーん！……っていないし」ｶﾞﾁｬ

亜美「およ？ ピヨちゃんどったの？ へたりこんじゃって」

真美「これはアレだよ、亜美。ピヨちゃん、ついに腰がやられちゃったんだ！」

亜美「んっふっふー。ピヨちゃんもいい歳ですからなあ」

真美「亜美隊員！ それは言ってはならぬことですぞ！ 即刻謝罪を要求する！」

亜美「はっ、これは上官に御無礼を！ ど、どうか！ どうかお許しをーーってあり？ ピヨちゃん……？」

真美「どったの？ ピヨちゃーん？ おーい」

伊織(はぁ……………………)

伊織(双子は元気でいいわねえ…………)

伊織「私、外行くわ。バイバイ」ｶﾞﾁｬ

？？「うわっ！」ﾄﾞﾝｯ！

伊織「っつつ……あ、あんたねえ！ もっと前をーー」

美希「ってて……デコちゃん、頭かったいの……」ﾋﾘﾋﾘ

伊織「って、み、美希ぃ！？ あんた、どうして、ここに、」

美希「んー？ 熱が収まったから事務所に来ただけだよ？ なんかいけない？」

伊織「え、あ、そ、そうなの……」

伊織(そ、そうだ……プロデューサーも言ってたじゃない。美希はただ熱を出してるだけかもしれないって)

伊織(人狼になってる可能性も無くはないけど……)

伊織「ねえ、美希？」

美希「ん？ なあに、デコちゃん」

伊織「これ……どう思う？」ｽｯ

伊織(人狼なら、この御守りに過剰な反応を示すはず……)

美希「んー？」

美希「……なにそれ？ どこで貰ってきたの？」

伊織(！ 特に何も反応を示さない……っていうことは！)

伊織(美希は人狼じゃない！！)

伊織「っ…………美希ぃ！！」ﾀﾞｷｯ

美希「わっ！ ど、どうしたの、デコちゃん？」

伊織(良かった……こいつまで屍鬼になってたらどうしようかと思ったわ……)

美希「な、なんなの？ 変なデコちゃん……」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

伊織「デコちゃん言うなっ」

美希「寂しかった？」

伊織「ちっちゃなスプーン一杯分ぐらいはね」

伊織「………………その……具合、治ってよかったわ」

美希「美希のコト、心配してくれてたんだ。ありがとう、デコちゃん」ﾆｺ

伊織「ばっ、誰がそんなことするもんですか！！ ……ふんっ！！」ｽﾀｽﾀｽﾀｽﾀ

美希「…………………………」

美希「…………………………アハッ☆」

なんぞ眠くてしょうがないのでボロを出す前に退散します……

なにか間違いに気付いたら遠慮なく指摘していただけると助かります

こんばんは
ぼちぼち書きます

美希「おっはようなのー！」ｶﾞﾁｬ

小鳥「あら……おはよう、美希ちゃん」

亜美「……ミキミキ……」

真美「……………………」

美希「？ なんか皆暗いの。……なにかあったの？」

小鳥「実はさっき電話があって…………雪歩ちゃんが亡くなった、って……」

美希「雪歩が！？」

小鳥「ええ……貴音ちゃんの家に泊まってから調子を悪くしてたんだけど……」

小鳥「…………あら？ そういえば美希ちゃんも貴音ちゃんの家に泊まった次の日に体調を崩してたわね……」

小鳥「……あの日、なにかあったの？」

美希「………………………………」

美希「……………………んー」

美希「特に何も無かったと思うな」

小鳥「そう。…………ま、ただの偶然よね」

亜美「ねえ、真美…………」

真美「亜美？」

亜美「この新聞、見てよ……」ﾊﾞｻｯ

真美「ん…………あ」

真美(お悔やみ？の欄にやよいっちの名前がある…………)

亜美「本当に…………もう会えないんだね…………」ｼﾞﾜｯ

真美「ちょ、亜美！ それは言っちゃ……ダメっしょ…………」ｼﾞﾜｯ

亜美「だって……！」

美希「どうしたの？ 二人とも」

亜美「どうしたのじゃないよ、ミキミキ！！」ｷｯ

亜美「ほら、ここ！ これ見てよ！」ﾊﾞｻｯ

美希「…………あー」

美希「ミキ、今ちょっと目がボヤけてて、ほとんど何も見えないの…………ごめん」

亜美「え？ そ、それって大丈夫なの！？」

美希「んー、多分？ お医者さんは高熱の影響だって言ってたよ。すぐに治るって」

真美(？)ｸﾞｽﾝ

真美(………………熱が出たからって目、悪くなったりするのかな？)

夕方
ファミレス

真「すいません、遅れました！」ﾀﾀｯ

あずさ「あら、真ちゃん。お仕事お疲れ様」

真「どうも収録が押しちゃって……すいません」

小鳥「そんなに謝らないで。気にしてないわ」ｸｽｸｽ

小鳥「ね？ 律子さん？」

律子「ええ。それより早く座りなさいよ」

真「はい！ ……あ、ボク、チョコパフェ食べたいです」

律子「話が終わってからね」

小鳥「これで全員揃いましたねえ」

小鳥「で……話ってなんですか？ 律子さん」

律子「それなんですが…………」

律子「……………………」

律子「最近、事務所の様子がおかしくないですか？」

あずさ「！」

律子「失踪した人もいるし……二人も亡くなってます」

律子「……しかも、こんな短期間で。ですよ？」

律子「…………もう、呪われてるんじゃないか、って…………」

小鳥「そ、そんなことありませんよ！」

小鳥「ぐ、偶然！ 悪い事が重なっただけで……」

律子「偶然で事務所の約四分の一の人数が消えたりしますか……？」

小鳥「そ、それは…………」

真「？ 『亡くなった二人』？」

真「その……言いづらいんだけど……亡くなったのはやよいだけじゃ？」

あずさ「ああ……まだ真ちゃんには連絡が言ってないのね…………」

真「……？」

真「！」ﾊｯ

真「ま、まさか雪歩…………ですか……？」

小鳥「……………………」ｺｸﾘ

真「う、嘘だ！」ﾊﾞﾝｯ！

律子「真！」

真「だってボク、昨日お見舞いに行って、た、確かに雪歩はボーっとはしてましたけど！」

真「で、でも、ちゃんと話は出来て……」

真「そ、それに、二日前までは普通に元気だったじゃないですか！ それなのに、そんな急に！」

小鳥「真ちゃん…………」

あずさ「気持ちは分かるわ……分かる、けど…………本当のことなのよ」

真「そ……んな…………」

真「………………………………」ｶﾞｸｯ

律子「……それも含めて、何かおかしいのよ」

律子「真の言った通り、雪歩は少し前までいつも通りだった……のに、急に逝ってしまった」

律子「やよいにしてもそう……具合が悪くなってから、たった一日で亡くなった」

律子「どちらも詳しい原因は不明だし………………」

あずさ「……た、確かにおかしいですよね」

小鳥「…………関係あるかどうかは分からないんですが」

律子「なんですか？」

小鳥「今日、プロデューサーさん、お休みでしたよね。…………でも、実は本人から連絡来てないんです」

あずさ「そ、それって……！」

律子「千早と同じパターンですね…………」

小鳥「もしかしたら、ですが…………」

律子「……決まりです」

律子「……もうあの事務所から抜け出しましょう」

律子「幸い、プロデューサー業の中で、幾つかのプロダクションと繋がりを手に入れましたし……」

律子「それを頼れば必ず拾ってくれるところはある筈です」

あずさ「……それを話すために私達を？」

律子「ええ」

小鳥「なんでこの四人なんです？ 他の人は？」

律子「最初は竜宮は全員、と思ってたんですけど…………」

律子「あずささんなら分かりますよね？ 最近、伊織の目がいつにも増してギラギラしてること」

あずさ「ええ、まあ……」

律子「なんだか……最近の伊織、あと春香も、ですが……あの二人、最近ずっと怖い目で遠くばっかり見てるんです」

律子「何かに取り憑かれてるかのように……」

あずさ「…………………………」

律子「だから、伊織は連れていきません。…………私は、これ以上厄介事に巻き込まれたくないんです」

律子「伊織を連れて行かないとなったら亜美も連れて行く訳には行きません。そうしたら、竜宮の中で伊織だけが置き去りにされたようになってしまうから」

律子「亜美を連れて行かないなら、真美もです。あの子達は二人で一つですから」

小鳥「それで、春香ちゃんは……」

律子「ええ。伊織と同じ理由です。……あの二人は、この先必ず厄介を持ってきます」

律子「もう嫌なんです…………目の前で誰かいなくなるのは…………」

律子「もう、限界なんですよ…………」

あずさ「律子さん……」

小鳥「美希ちゃんは連れていかないんですか？ それとか、響ちゃんとか」

律子「……正直、急に大人数で押しかけて、全員を一気に採用してくれる事務所があるとは思えません」

律子「みんな一緒でいることを考えたら、上限は四人かな、と…………」

律子「それで、一番問題が無さそうなこの四人に」

あずさ「なるほど……」

あずさ「うーん…………言いたい事は分かるんですが…………」

小鳥「……私は賛成です」

律子「！」

小鳥「確かに……その、幽霊とかは信じてないですが」

小鳥「今回のことは異常過ぎます…………」

小鳥「もう……今すぐ私も逃げ出したいくらいです……」

あずさ「…………………………」

あずさ「私は、まだ決められません…………ごめんなさい」

律子「いえ、構いません。全員即断してくれるとは思ってませんでしたから」

律子「真はどう？」

真「………………」

律子「真？」

真「…………あっ、す、すいません」

真「ボクも……まだ、ちょっと……」

律子「分かったわ」

律子「でも決断はなるべく早い方が助かります」

律子「でないと……私達も呑み込まれてしまうから」

小鳥「そう、ですね…………」

律子「話はそれだけです。……解散」

あずさ「真ちゃん？」

真「なんですか、あずささん…………」

あずさ「雪歩ちゃんのことはショックだろうけど…………」

真「ええ、分かってます。分かってますよ…………」

真「…………ボク、先に帰ります。お疲れ様でした」

＊＊＊＊＊＊

真(雪歩…………)

真(そんなの嘘だよ………………)

真(そんなの………………)

真(………………………………)

真(律子は、765プロを捨てた)

真(それどころか、ずっと765プロを支えていてくれていた小鳥さんまで……)

真(こういう時こそ団結するってもんじゃないの……？)

真(…………………………)

真(ボクの信じていた物が、好きだった物が……)

真(崩れ落ちてく………………)

真「………………………………」

真「……………………ふふ」

真「懐かしいなあ、この道」

真(よく雪歩とここを通って帰ったっけ……)

真(二人でたわいないことを話して……)

真(そうそう。雪歩はいっつもそこのコンビニの角で待っててくれてたな)

真(今でもひょっこり出てきたりして…………)ﾌﾌ

真(…………………………)

真(そんなわけない、のか………………)

真「…………帰ろう」

＊＊＊＊＊＊

夜
貴音宅周辺

男A「あーテステス。全員聞こえるか？」

男B『感度良好。大丈夫です、隊長』

隊長「良し。突入班は揃ってるな……狙撃班七名！」

隊員『はい』

隊長「俺達が逃したらお前達の出番だ。こちらで指示するまでしばらく待機していてくれ」

隊員『了解。……しっかし、ただの人間もどき相手に対物なんて使う必要あるんですかね？』

隊長「なにせ相手は体にでっけえ穴開かねえと死なないらしいからな。念のためだよ」

隊員『これ扱いづらくて苦手なんですけど……了解です』

隊長「よし。オールオッケーだな」

隊長「突入班を三名ずつ三つに分ける。一班は俺と一緒に正面から。二班は屋敷横の窓ガラスを割って入れ。三班は裏口からだ」

隊員『了解』

新堂『部隊長殿。首尾はどうですかな？』

隊長「これから突入をかけます。今のところは予定通りですね」

新堂『流石。頼りにしていますよ』

隊長「はい。水瀬の名にかけて」

隊長「突入班！ 配置に付いたか！」

隊員『こちら二班。ポイントに到着』

隊員『こちら三班。いつでも行けます』

隊長「よし。目標は発見次第射殺せよ」

隊長「ーー突入開始！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

隊長「邪魔するぜ！……っと」ｶﾞﾀﾝ！

隊長(……？ この匂いは……白梅香か)

隊長(ふん。人外でも香りを楽しんだりするのかね)

隊長(香水の瓶でも倒したかってくらい強烈だな……)

隊長(クリア。次の部屋に行こう)ｸｲｯｸｲｯ

隊員「……」ｺｸﾘ

隊長(やけに静かだ……)

隊長(本当にここに目標はいるのか？)

隊長(まあ、もっとも昼間からずっと監視してるから、屋敷から出てないのは確認済みなんだが)

隊長(クリア。ここにもいない)ｸｲｯｸｲｯ

隊員「……」ｺｸﾘ

隊長(他の班もどうやら会えてないらしいな……)

隊長(しかし悪趣味な部屋だ。棺桶なぞ飾って何が楽しいのやら……)

隊長(残された部屋はもう少ない。ここにいなければ……)

隊長(ふむ。いない)ｸｲｯｸｲｯ

隊長(となれば、残りはあと一部屋)

隊長(おっ。二班も来たか。三班は裏口からだから逆側から入ってくることになるな)

隊長「三班。裏口まで戻って待機」 ﾎﾞｿｯ

隊員『了解』

隊長(これで射線が交わることも避けれたな)

隊長(しかし暗い。屋敷の中までは月明かりも入らないから当然だが)

隊長(同時に突入する。合図は三、二、一だ)ｸｲｯｸｲｯ

隊員「……」ｺｸﾘ

隊長(三……二……一！)ﾊﾞｯ！

ｼｰﾝ………………

隊長(？)

隊長(誰も……いない？)

隊員「……」ｽﾀｽﾀ

隊長(待て、歩くな。今明かりを……)ｸｲｯｸｲｯ

隊長「！」

隊長(その時、暗闇の中でも俺には確かに見えた)

隊長(部屋に向かって歩き始めた隊員の足元に糸が張られており……)

隊長(その糸の先にあるものは……)

ﾋﾟｰﾝ

ﾄﾞｶｰﾝ！！

貴音宅 裏口

隊員「う、うわっ！？」

隊員(爆発！？ 屋敷内で何があった！？)

？？「ふっ！」ﾊﾟﾘｰﾝ！

隊員(あれは……目標！ 窓から！？)ｽﾁｬｯ

隊員「撃てェ！」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ！

貴音「っ！」ﾊﾞｯ ﾊﾞｯ

隊員(数発命中……だが、クソ、逃した！)

隊員「目標逃走！ 狙撃班！」

隊員『了解！』

隊員(なんだあの動き……垂直に四、五メートル跳べるとか聞いてねえぞ……)

隊員『こちら狙撃班！ 目標は民家の屋根を走っており、狙撃不可！』

隊員「不可じゃない！ 撃て！ 水瀬の力で事後処理はどうとでもなる！」

隊員『……っ！ 了解！』ﾊﾟｰﾝ！

隊員『……………………』

隊員『狙撃失敗。目標ロスト』

隊員「くそったれ！」ｶﾞﾝ！

隊員(今から追いかけても無駄だ……ありゃ正真正銘の化け物か……！)

隊員「……作戦は失敗だ。三班は今から一班、二班の救助に向かう」

隊員(あんな大規模な爆発で生きていたら、だがな……)

＊＊＊＊＊＊

貴音「はっ、はっ……！」

貴音「ぐぅぅ…………！！」ｽﾞｷｽﾞｷ

貴音(間一髪、ですか…………)

貴音(屋敷に『がす』を充満させ、『こんせんと』を抜く時に出る僅かな火花を利用して爆発を起こす…………)

貴音(聞きかじりでしたが、上手くいくとは……正しく僥倖)

貴音(もっともこちらも相当な痛手を負ったわけですが……)

貴音「くぅ……ここまで、来れば追手も……！」ﾖﾛﾖﾛ

貴音(足に二発。胴に三発、といったところでしょうか…………)

貴音(それに加えて全身火傷…………傷を、傷を癒さねば…………！)

貴音(こればかりは千早に頼むわけにはいかなかった……逆襲される恐れがありましたから……)

貴音(しかし……私の命運もこれまでやもしれませんね……)

貴音(銃弾をまさか身に受けようとは……鈍ったものです……)ﾌﾗﾌﾗ

貴音「ぁ……がぁ……」

貴音(失血が酷い……このままでは朝には……)

貴音(しかし行くあてすらない……)

貴音「ふー、ふー……」ﾖﾛﾖﾛ

貴音「っあっ……」ﾄﾞｻｯ

貴音(志半ばにして……くっ……)

貴音(無念……)

貴音(………………)

ｼｰﾝ……

？？「…………って！ ……い！」

？？「お、おい、いぬ美！ 引っ張らないでってば！」

？？「ほら、もうこんな知らない道に…………ん？」

？？「あれ……人？」

？？「しかもあの銀髪…………もしかして！」ﾀﾀｯ

？？「た、貴音！」

？？「ひ、ひどい傷だぞ！ 大変だ……！」ｱﾜﾜﾜ

？？「今から救急車を呼んでもここは病院が遠いからな…………自分の家に運ぶ方が早い！」

？？「それまで我慢してよ……貴音……！」

今日はここまで。
ようやく響が絡んできた……

今日は更新出来ません……
なんとも申し訳ない。
とりあえず、現状まとめを投下します

P→高木社長(順一朗)に拳銃で撃たれて死亡。

天海春香→千早の失踪をきっかけに、人狼である貴音に復讐しようとする。

如月千早→貴音によって殺害される。のち、起き上がり屍鬼に。

星井美希→貴音宅を訪れた次の日から高熱を出していたが、復帰。

高槻やよい→貴音によって殺害される。

水瀬伊織→人狼である貴音に復讐をしようとしている。水瀬グループの部隊を送り込むも、貴音を取り逃がす。

双海亜美→竜宮小町で活躍中。最近ランクCに昇格し、ウハウハ。

双海真美→ランクDアイドル。妹に先を越されたことを悔しがっている。

萩原雪歩→貴音宅を訪れてから、突然体調を崩し、死亡。

菊地真→萩原雪歩の死を聞き、心神喪失。律子に事務所脱出の計画を聞かされる。

四条貴音→人狼。事務所の乗っ取りを企む。水瀬グループの襲撃により、瀕死の重体に陥る。

我那覇響→アイドルランクB。中期ロケから帰ってきたら、事務所の雰囲気が一変していて戸惑っている。

三浦あずさ→アイドルランクC。伊織の雰囲気が変わり始めているのに気付く。律子に事務所脱出の計画を聞かされる。

秋月律子→竜宮小町のプロデューサー。事務所の異常に気付き、脱出を考えるようになる。

音無小鳥→アラサー。律子の事務所脱出計画を支持している。

高木社長(順一朗)→貴音に拳銃で撃たれて死亡。

高木社長(順二朗)→突然事務所にやってきた、前社長の従兄弟。本人は急に頼まれた、と言っているが真相は……？

同時刻･千早宅

千早(珍しく四条さんから連絡が来ないわね……)

千早(今日は何もしなくていい、ってことかしら)

千早(……………………)

千早(このままじゃいけない……)

千早(四条さんを止めなきゃ、事務所……いや、この地域全体がやがては……)

千早(……でも、私にとって春香は一番の親友で…………一番、大切な人)

千早(春香を守りつつ、四条さんを倒す……それが目標ね)

千早(その為には…………)

「千早さーん！ 遊びに来たからこの窓開けてー！」ｺﾝｺﾝ

千早(貴女を利用させてもらうわ……)

同時刻･水瀬邸

伊織「失敗したぁ！？」

新堂「はい……申し訳ありません」

伊織「申し訳ありません、で済む程世の中平和ボケしてないわよ！」

新堂「まさかあれほどの身体能力を持っているとは思いもよらず……」

伊織「言い訳は結構。貴音の行方は？」

新堂「それも……現在調査中でして……」

伊織「さいっあくじゃない！！」

伊織「アンタ達は大勢で何しに行ったわけ！？ 家一件使ってキャンプファイヤーでもするつもりだったの！？」

新堂「いえ……申し訳ありません……」

伊織「はあ…………全く」ﾊｧ

新堂「今回の件は『不審火によるもの』として、事態の収拾を図っております」

伊織「……せめて、そっちは完璧にやりなさいよね！ なんでもかんでもタダじゃないのよ、タダじゃ！」ﾌﾟﾙﾙﾙ

伊織(……っと、電話か)ｽｯ

伊織「…………えっ？」

新堂「伊織お嬢様？」

伊織「いえ…………なんでもないわ。もう下がって頂戴」

伊織「それと、私、少し外に出てくるから。ついて来ないでよね」

新堂「はっ、了解しました。では……」ｽﾀｽﾀ

伊織(予想はしてたけど…………アンタまで、とはね)ｷﾞﾘｯ

Calling！Calling！
『 高槻やよい 』

町外れの公園

伊織(……ここね)

伊織(ん？ あのフラフラ歩いてるのは真……？)

伊織(何してんのかしら、こんな夜中に)

伊織(危なっかしいったらありゃしない。ちょっと声を……)ｽﾀｽﾀ

？？「…………伊織ちゃん」

伊織「！」ｸﾙｯ

伊織「やよい…………！」

伊織(そこに居たのは私が良く知ってる高槻やよいだった)

伊織(いえ……もう『良く知ってる』とは言えなさそうね)

伊織(だってやよいは死んだ筈だもの…………このやよいは…………)

やよい「伊織ちゃん……」ｽﾀｽﾀ

伊織「……来ないで」

やよい「……えっ？」

伊織「それ以上近付かないで。そこからでも話は出来るでしょ」

やよい「な、なんで！」

伊織「理由はやよいが一番良く知ってるはずよ……残念だけどね」

伊織「随分遠くまで呼び出してくれるじゃない。一体、この伊織ちゃんに何の用かしら？」

やよい「な、なんでそんなに冷たいの……？ 私、なにかしーー」

伊織「黙って。……アンタはもうやよいじゃない」

やよい「な、なにそれ！？ いくらなんでも酷すぎるよ、伊織ちゃん！！」

伊織(……)ｽﾞｷｯ

伊織(化け物……こいつは化け物……やよいじゃない……やよいじゃ、ない……)

伊織「いいから話して。呼び出したからには理由があるんでしょ？」

やよい「………………なんかね、おかしいの」

やよい「私、さっき起きたんだけどね、棺桶の中で寝てたみたいで……おかしいよね？ 伊織ちゃん」

やよい「なんで私こんなところで寝てるんだろう、って……思い出そうとしても思い出せなくて……」

やよい「な、なんか怖くなっちゃって！ 家の他の部屋には、なんかモヤモヤしたバリアー？みたいなのがあって入れなくて…………」

やよい「白い着物は着てるし……これってまるで、死んだ人の着るアレみたいだし……」

やよい「だ、だから！ 心細くなっちゃって……その……」

伊織(これはやよいだけどやよいじゃない……惑わされちゃダメ……)

伊織「……だから私に会いたくなった、って言うの？」

やよい「う、うん！ ……でも……やっぱり迷惑だったよね……こんな時間に……」

伊織(………………)ｽﾞｷｯ

伊織「迷惑……ではないわ……」

やよい「そ、そうかな？ だって、さっき伊織ちゃんなんか怒ってたし……」

伊織「それは…………」

伊織(…………もう！)

伊織「別に…………怒って、なんか……」

やよい「そ、そう？」

やよい「……なら良かった！ 仲直りだねっ！」

伊織「っ……」

伊織(化け物が……やよいの真似をしないでよ…………)ｽﾞｷｯ

やよい「うっうー！ なんか伊織ちゃんと話してると、段々落ち着いてきたよ！ ありがとうね！」ﾆｺｯ

伊織「やよい……」

伊織(やめて…………やめてよ……)ｽﾞｷｽﾞｷ

やよい「……急に呼び出してごめんね？ もう大丈夫だから、かえりまーす！」

やよい「……えへへ。伊織ちゃん、大好きだよっ」

伊織「！」

やよい「じゃあまた明日！」ｸﾙｯ

伊織「……待って！！」

やよい「え？」

伊織(あ……………………)

伊織(私は何を………………)

伊織「あ、いや……」

やよい「あーっ！ もしかして、送ってってくれるの！？」

やよい「うっうー！！ すごく嬉しいかもー！」

伊織(やよい……私は………………)

伊織(例え偽物でも……アンタともう一度話せるなら………………)

伊織「……ええ。とっと行くわよ、ほら」ｽﾀｽﾀ

やよい「わーい♪」

＊＊＊＊＊＊

伊織(はあ……一体何やってるのかしら)ﾃｸﾃｸ

伊織(これじゃあ新堂のことも怒鳴れないわね……)ﾃｸﾃｸ

伊織(情に負けて、屍鬼と一緒に行動するなんて……)ﾃｸﾃｸ

伊織「着いたわよ、やよい」

やよい「………………」

伊織「やよい？」

やよい「うーん……………………」

やよい「なんか…………白いモヤモヤーってしたのがかかってて……入れないみたい、なんだけど……」

伊織「白い靄？ なによそれ、そんなのどこにも……」ﾊｯ

伊織(そうだ……そういえば『屍鬼は内部の人間に招かれない限り、例えそれが自宅であったとしても入れない』んだ……)

やよい「はわわ……ど、どうしよう、伊織ちゃん……」ｱﾜﾜ

伊織「野宿でもすればいいんじゃないかしら？」

やよい「ひどっ！？」

伊織(やよいに道路で焼け死なれたら目覚め悪いしね…………)

伊織(………………………………)

伊織「…………やよい。アンタ、血を吸いたいとか思う？」

やよい「血？ それって人の血ってこと？」

伊織「そうよ。人の血」

やよい「お、思わないよ普通……いきなりどうしたの？」

伊織「そう……」ﾌｲｯ

伊織(…………吸血衝動にまだ目覚めてないのかしら)

伊織(やよいが嘘をつくとは思いたくないわ)

伊織(だったら…………)

伊織「…………うち、来る？」

やよい「うち、って…………伊織ちゃんのお家？」

伊織「そ。伊織ちゃんのお家」

伊織(御守りは……ある。いつでも出せる)ｺﾞｿｺﾞｿ

伊織(少しでも怪しい動きをしたらすぐにでもこれを見せればいい)

伊織(今は………………やよいとまだ一緒にいたい……)

やよい「はわっ！ で、でも、それって迷惑じゃないかなーって……」

伊織「私がいいって言ってるのよ。迷惑なんかじゃないわ」

やよい「うーん……ごめんね、色々」

伊織「良いのよ……こうしてまた話せるだけで私は嬉しいわ……」

やよい「？ 変な伊織ちゃん！ これからもずぅーっとお話し出来るのに」

伊織「ええ……そうだといいわね」

やよい「大丈夫だよ、きっと」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

伊織「………………ええ。きっと、ね」

伊織(体温の無い吸血鬼の手……)

伊織(だけど……)

伊織(今の私には、とても暖かい…………)