初のスレ立てになります。
宜しければお付き合いください。
pの名前はアニマスから赤羽根さんの名を借りています。
また、外見の設定もアニメ準拠です。
書き溜めはありです。
【765プロ初日】
春香「今日もお仕事は無しかぁ」
千早「仕方ないわ、まだ私達は新人なのだし」
春香「でも、私達も竜宮小町みたいに活躍したいよ」
千早「確かに律子達の充実した顔を見ていると、そう思ってしまうわね……」
私は765プロに所属しているアイドル(デビューはまだなんですけどね)の天海春香です。
仕事の無い私達は事務所に来てるだけで、後はレッスンをするくらい。
オーディションに受からないのが悪いんだってことは分かってるんですけど……
今、この事務所には私達二人のほかに事務員の小鳥さんがいるだけ。
春香「律子さんが竜宮小町にかかりきりだしなぁ、新しいプロデューサーさんとか来ないかなぁ」
千早「さぁ?社長次第じゃないかしら」
事務所には12人のアイドルが在籍していて、そのうちの3人が竜宮小町というユニットなんです。
そのプロデューサーに律子さんが付いているので、私達はセルフプロデュースを余儀なくされてるんですが、中々上手くいきません。
真「おはようございまーす!」
雪歩「おはようございますぅ」
春香「あ、真に雪歩!おはよう!」
千早「おはよう、真、萩原さん」
小鳥「おはよう、真ちゃん、雪歩ちゃん」
真「今日は……またレッスンだけかぁ」
雪歩「そうだね……あ、小鳥さん、お茶入れてきますね」
小鳥「ありがとう雪歩ちゃん、お願いするわね」
春香「あ、雪歩。私にもお願いしていいかな?」
雪歩「うん、皆にも入れてくるね」
千早「ありがとう、萩原さん」
真「雪歩、ありがとね」
事務所に真と雪歩がやってきました。
やっぱりこの二人もやることはレッスンだけみたい。
響「はいさーい!」
ドアが勢いよく開いて、元気な声が聞こえてきました。響ちゃんのようです。
春香「おはよう、響ちゃん」
千早「おはよう、我那覇さん」
真「響、おはよう」
小鳥「響ちゃん、おはよう」
響「皆は何をしてるんだ?」
春香「特に何も……仕事もないし……」
響「今日もなのか……いい加減デビューしたいぞ」
真「まずオーディションに受かってからだよ」
千早「それは言えてるわね……」
雪歩「あ、響ちゃんおはよう。皆、どうぞ」
お茶を持ってきてくれました。いつも美味しいので密かな楽しみなんです。
響「あ、自分の分もあるのか、ありがと雪歩!」
雪歩「どういたしまして」
真美「やあやあ諸君、おはよう!」
貴音「おはようございます」
真美と貴音さんが来たみたい。
春香「おはよう。珍しいね、二人一緒なんて」
真美「ちょうど事務所前で会ったんだよ。ね?お姫ちん」
貴音「はい、なので共に挨拶した次第です」
雪歩「あ、二人にもお茶入れてきますね」
貴音「おや、ありがとうございます」
真美「ありがとゆきぴょん!」
貴音「して、小鳥嬢。本日は何か仕事は入っていますか?」
小鳥「残念だけど、最近受けたオーディションは全滅です……」
貴音「左様ですか……上手くは行かないものですね」
響「まあまあ貴音、頑張ってればいつか絶対合格出来るって!なんくるないさー!」
貴音「響……そうですね。落ち込むよりも精進せねばなりません」
真美「最近、亜美ばっかり仕事あるんだよねー。真美も早く亜美に追いつきたいよ」
千早「真美、焦っても仕方ないわ。それに竜宮が出来てからまだそれほど経ってもいないわけだし」
真美「そうは言ってもやっぱ寂しいよー」
やっぱり仕事したいですよね。私達はアイドルなんだし。
高木「おはよう。皆揃っているかね?」
小鳥「あ、社長。おはようございます」
一同「おはようございます!」
高木「うん、元気が良くて結構結構!だが全員揃ってるわけじゃなさそうだね」
小鳥「はい、竜宮小町はやることがあるそうでもう少し遅れるみたいです。後は美希ちゃんとやよいちゃんですね」
真美「やよいっちがまだ来てないなんて珍しいね」
春香「そうだね、いつもは早いのに」
千早「家の用事でもあるんじゃないかしら?」
真「そうだね、やよいは家の手伝いしてるわけだし」
響「そう言えば社長、皆になにか話でもあるのか?」
雪歩「あ、社長、お茶どうぞ……」
高木「うむ、重大な事だ。おっと、萩原君ありがとう」
雪歩「い、いえ……」
小鳥「重大な事とは?私は何も聞いてませんけど」
高木「ああ、そうだね。いや何、新しいプロデューサーの事だよ。といっても、私の知人だがね」
なんと、新しいプロデューサーさんが来るそうです。優しい人だといいなぁ。
春香「どんな人なんですか?」
響「自分も気になるぞ!」
雪歩「お、男の人ですか?」
高木「質問は一つずつにしてくれたまえ。最初に言っておくが男性だ」
雪歩「うう……大丈夫かなぁ……」
真「大丈夫。雪歩はボクが守ってあげるよ」
雪歩「ありがとう、真ちゃん……」
千早「で、どんな人なんですか?」
高木「難しいが、そうだね。結構ドライな性格、かな?」
春香「ドライ……ですか?」
高木「まあ、会ってみるのが一番早いだろう。キミ、入ってきたまえ」
社長がそう言うと、扉が開いてその男性が入ってきました。
背は170cmぐらいで、眼鏡をかけた、見るからに普通の人だったんですけど。
p「初めまして、赤羽根です」
眼つきだけが違っているようでした。事務所にいるアイドル達を見通す様な目で……
春香「は、初めまして……」
ちょっと怖気付いちゃいました。挨拶だけは出来たんですけど……
千早「初めまして」
真「初めまして!宜しくお願いしますね!」
響「宜しくだぞ!」
雪歩「うぅ……初めまして……」
真美「よろしく兄ちゃん!」
貴音「宜しくお願いします」
小鳥「初めまして、一緒に頑張りましょう!」
高木「挨拶は終わったかね?質問があれば彼に聞いてみるといい」
春香「あ、じゃあ私質問してもいいですか?」
p「どうぞ」
春香「えーと、年はいくつなんですか?」
p「24です」
真「じゃあ僕も!趣味は何ですか?」
p「趣味は……何か新しい事をする事かな」
響「新しい事?」
p「自分のしたことの無いスポーツとか、勉強とかですね」
亜美「ただいまー!」
そこで、亜美が扉を勢いよく開け放ち、帰ってきました。
竜宮小町の4人と……美希とやよいも一緒のようです。
律子「ただ今戻りました、あら?」
あずさ「あら~、見かけない人ですね?」
伊織「どちらさまでしょう?」
美希「あふぅ、まだ眠いの……」
やよい「おはようございま―っす!って美希さん、寝ちゃだめですよー!」
高木「いい所に来てくれた、紹介するよ、新しいプロデューサーの赤羽根君だ」
律子「新しいプロデューサー?聞いてませんよそんなこと?」
高木「何せ私が急に連れてきたんだからね」
律子「そう言う事は相談してからにして下さいよ……」
亜美「おー新人君ですかな?よろしくね兄ちゃん!」
あずさ「よろしくおねがいします~」
やよい「うっうー!よろしくお願いしま―っす!」
伊織「そう。頑張るといいわ」
美希「でこちゃん、早速本性出てるよ?」
伊織「いーのよ。どうせこの事務所で働くなら猫かぶる必要もないわ」
亜美「いおりん、割り切ってますなー」
伊織「無駄なことはしないだけよ」
小鳥「社長、知人と言ってましたけど、どういう関係なんですか?」
伊織「知人?じゃあコネで入ったってことなの?まあ私もあんまり人のこと言えないけど」
千早「水瀬さん、流石に初対面の人にそれは失礼だわ」
伊織「そ、そうね。ごめんなさい」
p「いえ、お気になさらず」
高木「関係といっても、昔ちょっとした交流があってね」
p「アイドル事務所を立ち上げたと言うので、興味があって久しぶりに連絡したんです」
p「そこでプロデューサーの話を持ちかけられまして、今に至ると言うわけです」
春香「そう言えば24歳なんですよね?前は何の仕事をしてたんですか?」
聞くと、プロデューサーさんはちょっと迷った様子で
p「仕事ですか……分かりやすく言えばニートですね」
春香「はい!?」
予想の斜め上の回答が返ってきました。
律子「ニート!?社長!何でそんな人を雇ったんですか!」
千早「社長、私もニートはどうかと……」
やよい「美希さん、ニートって何ですか?」
美希「さぁ?ミキにも分かんないの」
真「ニートっていうのは仕事してない人の事だよ」
響「要するにプー太郎ってことだぞ」
雪歩「響ちゃん、言い過ぎなんじゃ……」
響「そうかな?」
あずさ「ちょっと心配になってきたわ~……」
貴音「同感です、仕事の出来ない者を起用するなど……」
高木「まあ待ちたまえ!彼の能力は私が保証するよ、安心していい」
伊織「ニートの能力を保証したって安心できるわけないでしょ!ちょっとあんた、何年ニートしてたの!?」
p「確か――三年くらいですね」
伊織「三年もニートだった奴が使えるとは到底思えないわ……」
p「そう思われても仕方ないですね」
伊織「なんで他人事なのよ!」
美希「でこちゃん、うるさいの……」
伊織「あんたは黙ってなさい!」
律子「伊織、あんたも落ち着きなさい。しかし社長、伊織の言う事にも一理ある筈です。せめて採用理由を聴かせて頂けませんか?」
高木「採用理由と言われても……。彼の能力は知っているし、プロデューサーが足りなかったのも事実だからね。誰かいい人材はいないものかと考えた矢先に彼を思い出して、そのままお願いした次第だよ」
律子「そんなアバウトな……」
真美「ねえ亜美。なんかついてけないね?」
亜美「そうだね真美。亜美達何だか籠の鳥って感じだね」
小鳥「それは蚊帳の外よ亜美ちゃん」
亜美「そうだっけ?」
真美「そうなんじゃない?」
やよい「お仕事してないと駄目なんですか?」
小鳥「普通の人は高校か大学を卒業後に働くのよ。だからそうじゃない人は何らかの欠陥があるって思われちゃうの」
やよい「けっかん……?ってなんですか?」
律子「足りてないってことよ」
高木「まあ落ち着いてくれたまえ。このままでは話が進まん」
社長がそう言って仕切り直しています。でもニート(過去)のプロデューサーさんって……
高木「取り敢えず自己紹介をして貰えるかね?」
p「そうですね、では改めまして、赤羽根です。この度765プロで働かせて頂くことになりました。誠心誠意頑張らせて頂きます」
春香「じゃあ次は私かな……えと、天海春香です。趣味はお菓子作とカラオケです」
p「春香さんですね」
春香「あ、あと私達には敬語じゃなくていいですよ?」
p「しかしいきなりタメ口というのも嫌では?」
春香「皆もいいよね?」
千早「私は構わないわ」
真「僕もいいですよ」
雪歩「は、はい、構いません」
響「自分もいいぞ」
真美「真美も!」
亜美「亜美も!」
伊織「好きにするといいわ」
貴音「わたくしも構いません」
美希「ミキもいーよ」
あずさ「気遣いはなくてもいいですよ?」
律子「まあ年上ですし……」
やよい「私もいーですよ!」
小鳥「まあ楽な方でいいんじゃないでしょうか」
p「流石に目上の方には敬語で話しますが……そのようにしましょう」
千早「次は私でいいのかしら?如月千早です。趣味は音楽鑑賞とトレーニングですね」
真「じゃあ次はボクで!えっと、菊地真です。趣味はスポーツと、ぬいぐるみ集めです」
雪歩「え、えと、萩原雪歩です……趣味は、お茶です……」
響「自分の番だな。我那覇響だぞ!趣味は編み物、卓球、散歩だぞ!」
真美「次は真美かな?双海真美!趣味はメールとゲームだよー」
亜美「じゃあ次は亜美で、双海亜美だよ!趣味はメールとエコかなー。あと亜美は竜宮小町のメンバーだよー!」
貴音「四条貴音と申します。趣味は天体観測と歴史です」
あずさ「三浦あずさです~。趣味は、えーと、犬の散歩とカフェ巡りです。あ、私も竜宮小町なんですよ~?」
美希「星井美希なの……えっと、趣味は……おしゃべりとネイルアートかな、あふぅ」
やよい「私は高槻やよいです!趣味はオセロと野球と家庭菜園ですー!」
伊織「水瀬伊織よ。趣味は海外旅行と食べ歩きね」
律子「秋月律子です。竜宮小町のプロデューサーをしています。趣味は資格の取得とかですね」
小鳥「音無小鳥です。事務員をやっていて、趣味はtvを見る事です」
p「ありがとう、大体把握したよ」
自己紹介をしている間、プロデューサーさんは黙っていましたが、伊織の時だけ、考え込むような仕草をしていました。
何か気になる事でもあったんでしょうか?
p「そういえば、伊織はあの水瀬家の人間なのか?」
伊織「そうだけど、それが?」
p「いや、世間は狭いと思ってな。お父上は元気でいらっしゃるのか?」
伊織「何でニートのあんたがお父様の事を知ってるの?」
p「以前お会いしたことがあるだけだ。近く、挨拶に伺うとしよう」
伊織「あんた、本当にニートだったの?」
p「仕事をしていない事を世間一般にニートというのだろう?ならそれで間違いないが」
伊織「だから何でそのニートがお父様と面識あるのかって聞いてるのよ!」
p「以前お会いしたと言った筈だ」
伊織「だから……!いえ、平行線ね。もういいわ」
p「そうか、ではお父上に宜しく言っておいてくれ」
伊織「分かったわよ……」
高木「秋月君、音無君、ちょっと会議室まで来てくれたまえ」
律子「社長?わかりました」
小鳥「はい」
社長が律子さんと小鳥さんに何やら耳打ちしていました。
どうやら会議室に行くようです。何かの打ち合わせかな?
必要ない部分が多すぎてダレる……
【会議室】
高木「二人に来てもらったのは他でもない、彼の事なんだが」
律子「だと思いましたけど……何か問題でもあるんですか?」
高木「いや、問題ではなく、二人だけは彼の経歴を知っておいた方がいいかと思ってね」
小鳥「経歴ですか?」
高木「うむ、同じ職場で働く者、特に事務に携わる以上は彼の能力に疑問を覚えるだろうしね」
小鳥「そうですね。やはりニートと聞いてしまうと不安があります」
律子「私もです」
高木「なので話しておこうと思うのだが、彼は今から八年前に会社を立ち上げていてね」
>>24
申し訳ない……
結構な長編になっているので、暇つぶしにでもして貰えると幸いです
律子「八年前!?高校生じゃないですか!」
小鳥「いくらなんでも作り話では?」
高木「いや、違うよ。簡単に言うとそこで五年間社長として働いていたんだが、あることが起きて会社を移譲したんだ」
律子「もしかしてその移譲先って……」
高木「そう、水瀬財閥だよ。さっき彼が水瀬君に言っていたね、お父上と知り合いだと」
小鳥「なるほど、そう言う繋がりだったんですね」
高木「うむ、そこから三年間ニートだったのも確かだが、彼は別に親の脛かじりという訳でもないのでね。安心していい」
律子「それ以上の事はやはり話せないんですか?」
高木「ああ、個人情報だからね、あまり過去を探るのも良くない」
小鳥「社長との面識はどういう経緯で?」
高木「彼が社長だった頃、水瀬財閥の総帥に会いに行った時に知り合ったんだ」
高木「驚いたよ。総帥の所に行ってみればまだ幼い顔つきの青年が対等に話し合っていたんだからね」
高木「私も少しは若かったとはいえ、なにぶん彼とは30程は違ったからね、もちろん総帥とも」
小鳥「まあ、社長の知り合いなら大丈夫でしょうか」
律子「にわかには信じがたいですが、彼の仕事ぶりを見ればいいだけの話ですか」
高木「そう言う事だ。では仲好くやってくれたまえ」
小鳥「分かりました」
律子「はい」
どうやら、話は終わったようです。
こっちではプロデューサーさんが質問攻めにあってますけど、全部綺麗にかわしてます。
なんだか、質問してるこっちが遊ばれてるみたいです。
春香「あ、そうだ!プロデューサーさんって恋とかしたことあるんですか?」
定番の質問です。でもなんだか一瞬、目が細められた気がしました。
さっきまで笑っていたのに、笑ってない瞬間があったような……
p「うん?定番の質問だな春香。残念ながら俺にはないよ、春香はどうなんだ?」
春香「うぇ!?わ、私ですか?私もまだ……」
私もかわされちゃいました……それに聞き返されて追求出来ない空気になったし……
律子「さて、竜宮小町は営業に行くわよ!さっさと準備をしなさい!」
伊織「分かったわ」
亜美「はーい!」
あずさ「あら、じゃあ行ってきますね」
4人は営業に行くみたいです、私達はどうしようかな。
高木「キミ、アイドルたちのレッスンに付き合ってみたらどうかね?」
p「そうですね、皆の力量も知りたいですし」
p「今日から三日間で三人ずつ力を見ていくから、覚えておくように」
p「最初は春香だ。レッスンスタジオへ行くぞ」
春香「はい、プロデューサーさん」
最初は私からかぁ、緊張するなぁ。
人に付いてきて貰うなんて。それも初めてのプロデューサーに。
【レッスンスタジオ】
p「ではダンスからだ」
春香「はい!」
音楽の通りに踊っていく。
緊張からか、ちょっとぎこちなくなったけど、でも自分的には合格かも。
p「次はヴォーカルだな」
春香「あーあーあーあーあー」
トレーナーさんのピアノに合わせて声を出していく。
やっぱり震えちゃったけど、悪くない出来かも。
春香「どうですか?」
p「そうだな、ダンスもヴォーカルもこれといって悪過ぎる点はない」
春香「ホントですか!?」
p「だが、同様に特筆すべき点もない」
春香「うぐっ……」
そう言われるとちょっと傷つく。でもホントの事なんだよね……
p「緊張しているな?お前はもっと弾むように歌うものだと思っていたが」
春香「あ、ばれちゃいましたか」
p「先ほどの自己紹介で人柄は掴んだつもりだ。お前はその明るい雰囲気が売りなのではないか?」
春香「でも、さっき言われた通り、私は特徴ないですし……」
p「そう暗くなるな。セールスポイントは明るいところだと言った筈だ」
p「ダンスやヴォーカルの技術については練習でどうにかなる。それは俺が助けてやろう」
春香「ありがとうございます!」
褒められたのかな?
そういえばさっきからこの人は笑わないなぁ。
春香「あの、プロデューサーさんってあまり笑わないんですね」
p「そういう性分だ。事務所に戻るぞ」
春香「あ、はい!」
なんだか、ニートって聞いていたのにまともなアドバイスだったな。
本当にニートだったのかなぁ。社長はあんなに自信満々だったし。
p「ただいま戻りました。早速だが……千早、レッスンに行くぞ」
千早「はい」
事務所に帰るなり折り返してレッスンスタジオに行ってしまいました。
こういう所がドライってことなのかな。
【レッスンスタジオ】
p「お前、ヴォーカルはいいのに何でそんなにダンスは駄目なんだ」
千早「私は歌にしか興味がありませんので」
千早「プロデューサーにもそれは知っておいて貰いたいです」
p「歌以外の仕事は蹴ると?」
千早「そう捉えて頂いて構いません」
p「お前はアイドルだろう」
千早「私は歌でトップになりたいんです。それ以外の事は、回り道でしかありません」
p「歌だけで目指せるほど易い世界だと?」
千早「自慢ではないですが、歌では私の方がそこらの歌手より優れているかと」
どうも、自分の未熟さを知らないようだな、千早は。
歌しかない奴なんて、他人が見るとは到底思えない。
p「そうか……ではお前にはバラエティや歌関係以外の仕事にも積極的に出て貰うこととしよう」
千早「なぜです!?私は先ほど嫌だと言ったじゃないですか!」
p「どうも、思考回路が違うようだな。一つずつ確認していくか」
p「まず千早、うちの事務所はなんだ?」
千早「馬鹿にしてるんですか?アイドル事務所でしょう?」
p「違う、会社だ」
p「次に、会社が存続するのに必要なものは?」
千早「お金ですか……?」
p「そうだ。ではその金はどうやって稼ぐ?」
千早「それは仕事で……」
p「その仕事は主に誰が行う?」
千早「アイドルです」
p「では、お前の場合歌が仕事な訳だが、この時、歌は何だと思う?」
千早「何って……歌は歌でしょう?」
p「不正解。答えは商品だ」
千早「ふざけてるんですか?いい加減にして下さい」
p「ふざけてなどいない。で、歌は商品な訳だが、その価値は何だと思う?」
千早「上手く歌っていることです」
p「なるほど。それがお前にとっての歌のセールスポイントか。だがそれは違う」
千早「何が違うんですか!私の技術は誰にも劣っていない筈です!それが……!」
p「落ち着け。歌の価値はそこに乗る感情や表現力だ。お前は春香の歌を聞いたことがあるか?」
千早「ありますけど……」
p「技術的には未熟な春香の歌だが、お前の歌より劣っていると思うか?」
千早「……思いません」
p「なら分かるだろう。そもそも、俺が購入者の立場に立った時、プライベートやその他が一切分からないお前のアルバムと、バラエティや私生活が見える春香のアルバムなら、間違いなく春香の方を選ぶ。たとえお前の歌が上手かろうとな」
p「上手いだけの歌なんてそこら辺の人を捕まえてもいるが、その人たちを起用して売れるとは到底思えない」
p「まずは人間的な魅力があることが条件だ。それが欠けているお前の歌なんて、誰かにカバーされたらその人の歌になってしまうだろうな」
千早「……確かに、言いたいことは分かります。でも、私には歌しか……」
p「歌しかない、と思うからそうなるんだ。自分から可能性を狭めてどうする」
p「それに、最短距離で歌を仕事にするなら、やはりアイドルである以上ダンスやヴィジュアルにも力を入れねばならない」
p「回り道などではない、仕事は全て歌に繋がるんだ」
千早「分かりました……騙されてみます」
p「素直じゃないな」
千早「ニートを信じろという方がそもそもの間違いでは?」
p「あの紹介が仇になったか……」
千早「仇以外の何になると思ったんですか……じゃあ、信じてもいいんですね、と言い換えましょうか」
p「無論だ」
千早「では、信じます。これからお願いしますね、プロデューサー」
p「ああ、では事務所に帰るとするか」
説得は成功したようだ。
これからはダンスレッスンにも力を入れていくとしよう。
幸いなことに、ヴィジュアル面はアイドル事務所に所属しているだけあって申し分ない。
さて、次は真か。
p「真、レッスンに行くから準備してくれ」
真「やっと僕の番ですね、よろしくおねがいします!」
【レッスンスタジオ】
p「ダンスに光るものがあるな、ヴォーカルも文句はない」
真「やーりぃ!どうですプロデューサー!」
p「ああ、驚かされるな。ヴィジュアル面でも言う事はないし」
真「もう、照れちゃいますよ」
p「ヴォーカルは粗を直していくようにして、ダンスをもっと伸ばしていけばいいな。後はどういう方向性で売るかだが」
真「フリッフリな衣装とかだと嬉しいです!」
p「フリフリ……?お前のヴィジュアルにそれはあまりに似合わないんじゃないか?」
真「うっ……プロデューサーまでそんな事言うんですか……?ボクはもっと女の子らしいカッコがしたいのに……」
p「しかし、似合わないのは事実だろう?ちなみに、俺の他には誰がそう言っていたんだ?」
真「雪歩とか美希とかですけど……」
p「なるほど、その二人のセンスは大丈夫そうだな」
真「流石に傷つきますよ、いくらボクでも」
p「気を落とすな。まあフリフリとは言わないまでも、お前は女らしくなるだろうから安心しろ」
真「そうかなぁ……ホントにそう思ってます?」
疑り深い奴だな。自分の事を理解していないのか。
女が美少年に見えるという事がどういう事なのか教えるとしよう。
p「いいか。女が男装して美少年に見えると言うのは、顔立ちが相当整っていないと無理な事なんだ」
p「あと数年すればまず間違いなくかなりの美人になる。そう落ち込むな」
真「び、美人って……恥ずかしいです……」
p「自信を持て。まあ、数年後の話だから、今は美少年方向で売っていくがな」
真「やっぱりそうなるんですね……でも、いつか絶対、女の子らしい方向で売って下さいね!」
p「いいだろう。約束する」
p「では、いい時間だし事務所に戻るとするか」
真「はい!プロデューサー!」
真も見終わったか。
後は事務所に戻って書類を片付けるだけだな。
p「ただいま戻りました」
真「ただいまー!」
小鳥「あ、おかえりなさい、プロデューサーさん、真ちゃん」
真「他の皆は?」
小鳥「今日は特に何もなかったし、レッスン後は直帰してもらったのよ」
真「そうですか、じゃあボクも帰りますね」
p「待て真、送っていこう」
真「大丈夫ですよ、ボクこう見えて結構強いですから!」
p「暴漢に襲われても撃退できると?しかし、アイドルが顔に怪我でもしたら大変だ。それにこれからデビューする奴が暴力沙汰なんてもってのほかなんだが」
真「そう言われると……でも大丈夫ですよ。走って逃げますし」
p「そこまで言うか。じゃあ100メートル走のタイムとかあるか?」
真「100メートル走ですか?12秒ぐらいですけど」
p「ちなみに俺は10秒台だ。それに……」
真「ちょっ!?プロデューサー、何するんですか!?」
小鳥「プロデューサーさん!?」
真の右腕をつかみ、自分の方へ引きながら背後を取る。その後、自分の右半身を背に当て、壁に押し付ける。
真からすれば左手は自由でも肘打ちすら出来ない。急所は全て狙えない。呼吸も苦しい筈だ。
右腕の拘束も解くことは出来ないだろう。
p「これでも襲われて大丈夫と言えるか?」
真「ぐっ……はぁっ……分かりました、プロデューサー。今日は送られます」
p「賢明な判断だ」
p「では音無さん、送ってきます」
小鳥「え、ええ。いってらっしゃい……」
真「お先に失礼します」
【車内】
真「プロデューサー、格闘技でもやってたんですか?」
p「昔、少しだけな。お前も格闘技の覚えがあるようだが」
真「ありますよ。だからプロデューサーに負けるとは思わなかったんですけど……」
p「まあ不意打ちみたいだったからな。だが、これで分かっただろう?」
真「はい。男の人の力って凄いんですね」
p「お前も女だったという事だ。それに、格闘技を習ったからといって対人戦で勝てると思わないことだ」
p「相手が長物を使ったり、目潰しをしてくる事もある」
p「そもそも、多対一になれば勝ち目もない」
p「だから、あまり勇み過ぎるな」
真「今日思い知りましたよ……ちょっと怖かったですし」
p「すまないな。まあ、いい教訓だと思っておけ。っと着いたぞ」
真「そうですね。じゃあプロデューサー、お疲れさまでした」
p「ああ、お疲れ。良く休むように」
真「はいっ!ありがとうございます!」
p「ではまた明日」
p「事務所に戻るか」
【事務所】
p「ただいま戻りました」
小鳥「あ、プロデューサーさん、お疲れ様です。コーヒー入れましょうか?」
p「お願いします」
コーヒーを入れる音が静かに響く。
同時に馥郁たる香りが鼻をくすぐってきた。
小鳥「どうぞ」
p「ありがとうございます」
小鳥「さっき、真ちゃんを押さえつけた時はどうしようかと思いましたよ」
p「驚かせてしまいましたね。すみません」
小鳥「いえ、真ちゃんを思っての事なんでしょう?」
p「まあ、意識改革の為ですね」
小鳥「だったらいいです。来て早々、馴染めているようですし」
p「いい子達ばかりですからね、俺としてもありがたいです」
小鳥「ところで……」
p「はい?」
小鳥「いえ、あの……社長から経歴の事を聞かされたんですよ」
p「ああ、経歴がニートでは信用もないでしょうしね」
小鳥「どうして会社を移譲したんですか?って聞いてもいいんでしょうか、これって」
p「まあ、個人的な理由ですよ。ちょっと塞ぎ込んじゃいましてね」
小鳥「言いにくいならいいですよ。無理に聞き出そうとは思いません」
p「助かります。それには触れたくありませんから」
小鳥「じゃあ聞きません。あ、そうだ。今日終わったら飲みに行きませんか?歓迎会代わりに」
p「いいですよ。社長も誘いますか」
小鳥「ええ。お酒飲めるのは後はあずささん位ですけど、あんまりアイドルがお酒っていうのは……」
p「そうですね。じゃあこの書類終わらせてしまいますね」
p「まあ二時間もあれば終わるので、九時位に行きましょうか」
小鳥「はい。じゃあ社長に連絡しておきますね」
小鳥「あ、もしもし、社長?」
【たるき亭】
高木「では、765プロの新たな仲間に乾杯!」
小鳥「乾杯!」
p「乾杯」
小鳥「んくっんくっ……はぁ、美味しい」
高木「飲むねぇ、音無君は」
p「ええ、美味しそうに飲みますね」
高木「ほら、キミも飲みたまえ」
p「頂きます」
小鳥「プロデューサーさん、何食べます?」
p「砂肝で。社長は?」
高木「唐揚げでも頼もうかな、音無君はどうする?」
小鳥「私は串焼きにします。あ、すいませーん!」
高木「赤羽根君、キミには期待しているよ」
p「突然ですね」
高木「なにぶん、プロデューサー不在だったからね。彼女たちを埋もれさせたままなのは惜しいし、申し訳なかったんだよ」
小鳥「律子さんが竜宮にかかりきりな以上、他の子達は自分たちで頑張る以外になかったですから」
p「皆、才能を感じさせる子ですからね。そう思う気持ちも分かります」
高木「だが、9人同時プロデュースというのは流石のキミでも難しいのではないかと思ってね」
p「問題ありません。以前の会社の事を思えば、さして難しくもないですし」
高木「そういえばそうだったね」
小鳥「あのー、以前はどんな会社だったんですか?」
p「簡単に言えば、落ち目の会社を吸収・合併して経営方針のアドバイスをする様な会社です」
高木「株式会社フェニックスという名だったんだが、聞いたことはないかね?」
小鳥「うーん、私はその方向には疎いので……」
p「まあ無理もないですね。あんまり有名になり過ぎないように宣伝はしませんでしたし」
小鳥「何で移譲先が水瀬財閥なんですか?」
高木「水瀬財閥なら大規模な会社を受け入れられるからじゃないかね」
p「それもありますが、以前に水瀬の総帥と会う機会があったので。人柄も知れましたしね」
p「良くも悪くも利益優先で有能な人材を求める人だったので、俺の会社は好都合だったんですよ」
高木「そういえば、キミの経営方針を聞いたことはなかったね」
p「経営方針ですか?やった事と言えば、学歴重視の制度を廃止した事ぐらいですね」
p「人間性と、即戦力となる能力のある人間を学歴不問で審査するんです」
p「中卒の人や定年退職したご老人でも、能力、ノウハウがあれば採用します」
p「他には社内での敬語を徹底したり、仕事の邪魔となる言動をする輩は即刻クビにしたりもしますが、基本的には働きたい人間が集まるので他人の邪魔はしなかったですね」
p「ちなみに、吸収した会社の人間は全員審査を受けて貰います。社長であろうと幹部であろうと」
小鳥「幹部の人たちとか社長ってそんなの受けようとはしないんじゃ……」
p「だから落ち目の会社を吸収するんです。もう倒産して借金を作る機構になる前に、土地、人員、建築物等の財産を譲り危機を脱す」
p「借金を抱えるよりは、自分が審査を受けるぐらい何てことないでしょう?」
p「まあ、この条件を飲んでから吸収するので、受けたくないなんて駄々をこねる人はいませんよ。無職は嫌ですし」
小鳥「無職が嫌って……ニートだった人が言う言葉じゃないですね」
高木「それは言わない約束だよ、音無君」
p「痛い所を突いてきますね……まあ、お金は死ぬまで困らないので気にする必要もないんですけどね」
高木「もしかして給料が要らないと言う事かね?」
p「払わないと労働基準法に反しますよ?」
高木「それは勘弁願いたいね」
小鳥「あ、料理来ましたよ!ささっ、プロデューサーさんも飲んでください!」
p「頂きます。社長もどうぞ」
高木「ありがとう、頂くよ」
高木「ところでキミ、大丈夫なのかね?」
p「何がです?」
高木「アイドルたちの事だよ」
p「恋愛はご法度、でしょう?弁えていますよ」
高木「そういう事じゃないんだがね……」
小鳥「どういう事なんですか?」
高木「いや、何でもないよ。まあ、今は料理を楽しもうじゃないか」
【765プロ二日目】
春香「おはようございます」
小鳥「おはよう、春香ちゃん」
p「おはよう春香」
春香「今日は誰のレッスンを見るんですか?」
p「今日は雪歩と響と真美だな」
雪歩「おはようございますぅ」
春香「あ、雪歩!おはよう」
小鳥「雪歩ちゃん、おはよう」
p「雪歩、あはよう」
雪歩「ひっ!おはようございます……」
p「そこまで怯えなくとも何もしない」
雪歩「す、すみません……」
p「まあいい、今日はお前のレッスンを見ることになっているだろう?準備してくれ」
雪歩「は、はいぃ」
【レッスンスタジオ】
p「雪歩は……ダンスもヴォーカルも悪くないが、致命的に体力が足りてないな」
雪歩「すみません……」
p「ヴィジュアルは大丈夫な訳だし、基礎体力を付けることが先決か」
p「何か好きなスポーツはあるか?」
雪歩「いえ、特に……」
p「ランニングはどうだ?」
雪歩「あんまり好きじゃないです……」
p「体力トレーニングは全くしていないのか?」
雪歩「殆どしてないですぅ」
p「良くそれで今まで来れたな……」
雪歩は男性恐怖症だったな。
しかしこれから仕事をしていく以上、慣れて貰わねばなるまい。
雪歩「ううっ、私なんてひんそーでダメダメで……」
p「待て」
雪歩「ひぃ!ご、ごめんなさい!」
それより先に、このネガティブシンキングをどうにかする事からか。
後ろ向きな人間ほど使えない奴も居ない。
p「いや、謝らなくていい。というより、そういう自分を卑下するような事を言うのはやめろ」
雪歩「す、すいません」
p「謝るなと言っているんだが……」
p「いいか雪歩。言葉というのは人間の心を大きく左右する」
p「お前が自分でそうやってひんそーだとかダメダメだとか言ってると結果も駄目になる」
p「前向きになれとは言わん。せめて後ろ向きをやめろ」
雪歩「そ、そうはいっても……私は美希ちゃんみたいにスタイルがいいわけじゃないし、真ちゃんみたいに体力もないし、千早ちゃんみたいに歌も上手くないし……」
p「人の長所と比べるな。自分より何かが優れた人間なんて必ずどこかに居るんだ。その差を糧に頑張るならまだしも、それを言い訳にネガティブになるなど言語道断」
p「そもそも、お前のスタイルは悪くないし、体力はこれから付ければいいし、歌もこれから上手くなればいい」
p「何故可能性から目を背けるんだ」
p「お前にあって人に無いものもあるんだぞ」
雪歩「そ、そんなのあるんですか?」
p「ある。儚げな雰囲気とか、お茶の知識とかな」
p「何もない人間なんて居ない。必ず長所がある筈だ」
雪歩「でも、私は……」
p「でもじゃない。大体、何の為にアイドルになったんだ」
雪歩「私は……自分の弱虫な所を直したくて……」
p「ならこれを契機とするといい。まずは男に慣れる所から始めてみろ。ここを逃せば、お前はずっとそんなままだぞ」
雪歩「それは嫌です!」
p「なら変わる決意をしろ。逃げて変わる物なんてロクなもんじゃない」
雪歩「分かりました……私、頑張ってみます」
p「その意気だ。では明日から早朝のランニングを始めるか」
雪歩「うぅ、頑張ります……」
雪歩も終わったか。
しかし、765プロのアイドルは能力はいいものの、中身に問題のあるやつしか居ないのか?
さて、事務所に戻ろう
p「ただいま戻りました」
雪歩「ただいまですぅ」
響「あ、おかえりだぞ!プロデューサー、雪歩!」
p「響、来ていたのか。いいタイミングだな。レッスンに行くぞ」
響「え?休んでいかないの?プロデューサー」
p「俺はレッスンを見るだけだ。さして疲れるわけでもない。という訳で音無さん、行ってきます」
小鳥「行ってらっしゃい、響ちゃんも頑張ってね」
響「行ってくるぞぴよ子!ああっ、プロデューサー待ってよぉ!」
雪歩「行ってらっしゃい」
【レッスンスタジオ】
p「高いレベルでダンス、ヴォーカルが纏まっているな」
響「でしょー?自分完璧だからね!」
p「なるほど、完璧を自称するのも頷けるな」
響「もっと褒めるがいいさー」
p「ヴィジュアルも申し分無し……敢えて欠点を挙げるとすれば身長が低いくらいか?」
響「自分ちっちゃくないぞ!」
p「いや、背が低いのは事実だろう。まあ、背の割にスタイルもいいし、ダンスも躍動感に溢れているし、正直欠点が見当たらんな」
響「さらりとセクハラだぞ……」
p「プロデューサーがアイドルのスタイルに付いて言及して何故セクハラになるんだ?お前たちのスリーサイズは全部頭に入っているというのに」
響「それもセクハラ!どんだけ変態なんだプロデューサー!」
p「変態でもなんでもないわけだが……しかし俺はお前に何を指導すればいいのやら」
p「スタイルよし、ルックスよし、ダンスよし、ヴォーカルよし、後アイドルに必要なのは……明るさか?それも持っているし……」
響「何をブツブツ言ってるんだ?変質者みたいだぞ」
p「変態扱いから離れろ。そうだな、お前の欠点は人の話を聞かない所と思い込みの激しい所だな」
響「無理に欠点探さなくてもいいでしょ!?」
p「いや、話を聞かないのは致命的だな……もうちょっと落ち着け」
人の話を聞かないが欠点だ、なんて。
逆に言えば、アイドルとしては欠点がほぼ無いって事なんだが。
p「あと一つ思いついた。お前はファッションショーとかは無理だな」
響「何で!?さっきスタイルいいって言ってたのは嘘だったのか!?」
p「言っただろう、身長が低いと」
響「だからちっちゃくないぞ!」
p「ああそうだな、響はちっちゃくないなー」
響「心にもない事をー!」
響の扱いは取り敢えず流すことだと覚えておこう。
欠点はないし、ファッションモデルも最悪ヒールを履かせれば出来るだろう。
ヒールを履いたものばかりになってしまいそうだが。
p「さて、レッスンも終わった事だし帰るとするか」
響「まだ話は終わってないぞ!」
【事務所】
p「ただいま戻りました」
響「ただいまだぞ!」
p「はいさいとは言わないのか?」
響「そこまで便利な言葉じゃないよ……」
小鳥「おかえりなさい。真美ちゃん来てますよー」
p「ありがとうございます音無さん。真美ー、レッスン行くぞー」
真美「はいはーい!ちょーっと待っててねん!」
p「じゃあ行ってきます」
真美「早いよー!あ、いってきまーっす!」
響「いってらっしゃーい!」
小鳥「気を付けて下さいねー」
【レッスンスタジオ】
真美「どーだった?兄ちゃん」
p「そうだな、ダンスは粗が目立つが、特筆すべきはヴォーカルだな」
真美「もちっと簡単におねげーしやすぜアニキ」
p「ダンスは下手だがヴォーカルはいい感じ、という事だ」
真美「下手とか……流石に真美でもへこむっしょー……」
p「ああ、別に悪いわけじゃない。技術的には未熟だが、楽しそうに踊るしな」
真美「ホント!?やたーっ!」
真美「んでんで?ヴォーカルはいい感じなんでしょ?」
p「ああ、特徴のある歌い方だし、本人も楽しそうだし、音程も外れてる訳ではないし、こっちは心配いらないな」
真美「じゃー真美もすぐに竜宮に追いつけるかな?」
p「竜宮小町は律子監修の下、かなりハードなレッスンをしているからな。もし追いつくつもりなら、それなりの覚悟はしてもらうぞ」
真美「うっ……でも、亜美に置いてかれるのはやだし……でもでも、レッスンがキビシーのは」
p「まあ、追いつけるかどうかはお前のやる気次第だ。逆に言えば、やる気以外の要素は揃ってるな」
真美「そうなの?じゃーいっちょ本気だしちゃいますかー!」
p「その意気だ。俺もサポートするからな」
真美「よろよろー!あ、そうだ兄ちゃん。真美のヴィジュアルはどうなの?」
p「ヴィジュアル?」
真美「ひびきんとかすっごくホメたらしいじゃん?で、真美は?」
p「そうだな、何と言おうか」
真美「あ、もしかして真美のせくしーさに言葉が出ないとか?」
p「後五年経ってから言え」
真美「ぶー。そこは『せくしーだよ、真美』とかいう場面っしょー!」
p「言っただろう。五年後には期待しているぞ」
真美「えっ、え……も、もう、恥ずかしいじゃん……」
p「今はまだまだ子供だがな」
真美「むー。それは言わなくてもいいのにー」
p「いつまでもむくれてるんじゃない。事務所に戻るぞ」
真美「はーい!って、早いよ兄ちゃん!」
真美も終了したな。これで今日の分は終わりか。
明日は貴音、美希、やよいだな。
この中で一番ネックなのは美希か。まあ、頑張るとしよう。
【事務所】
p「ただいま戻りました」
真美「戻ったぞ!であえであえー!」
p「それだと追い出されるぞ」
真美「そなの?まいっか、ただいまー!」
小鳥「おかえりなさい。プロデューサーさん、真美ちゃん」
真美「ねぇねぇピヨちゃん、亜美はー?」
小鳥「亜美ちゃん?もうすぐ帰ってくると思うけど」
律子「ただいま戻りました」
亜美「たっだいまー!」
伊織「ただいま」
あずさ「ただいま~」
真美「おおーみんなおかえり!」
p「おかえり」
小鳥「おかえりなさい、皆」
真美「亜美ーそろそろかえろ?」
亜美「そだね。ね、律っちゃん、もう帰っていい?」
律子「今日は予定もないしいいわよ」
亜美「んじゃ帰るね!みんなバイビー!」
真美「真美も帰るねー。バイバーイ!」
伊織「帰る時まで騒がしいんだから……」
あずさ「まあまあ伊織ちゃん。それがいい所でしょ?」
伊織「否定はしないわ」
p「素直じゃないな」
伊織「悪かったわね。それであんたは仕事出来てるの?」
p「心配せずとも出来ている」
伊織「……ねえ、やっぱりお父様とどういう関係なのか話しなさいよ」
p「俺とお前のお父上がどんな関係だろうと、お前に被害はない筈だが」
伊織「それでも気になるでしょ?ニートとお父様が繋がってる事自体信じがたいんだから」
p「あまりニートと言ってくれるな。俺が悪いみたいじゃないか」
伊織「ニートは悪い事でしょ?そもそも、プロデューサーが身元不明とか勘弁してほしいわ」
p「身元は社長が保証している。何か問題が?」
伊織「ぐっ……ああ言えばこう言うとは、まさにこの事ね」
p「平行線だと言う結論が出た筈だが」
伊織「あくまで話さないつもり?」
p「俺の事を知る前に、レッスンでもしたらどうだ?」
伊織「ちゃんとしてるわ。それに、あんたの事を知ることは決して無意味じゃない筈よ」
律子「伊織、プロデューサーには何を言ってもあしらわれるだけよ」
小鳥「伊織ちゃん。プロデューサーさんの事は私も話を聞いたし、大丈夫よ」
伊織「小鳥まで……分かったわ。これ以上は止めておきましょう」
伊織「でも、いつか絶対話してもらうんだから!」
p「そのときが来ればな」
あずさ「プロデューサーさん、あんまりからかっちゃ……」
p「そうですね、止めておきましょう。あずささんもこう言ってる事だし」
あずさ「あら?何でプロデューサーさんは私に敬語なんですか?」
p「雰囲気です。タメ口は違和感あるので」
あずさ「私も年下なんですけど……」
p「まあ、これは気分の問題なので、理屈じゃないですね」
伊織「あずさの事が好きだったりして」
p「断じてそんな事はない!」
伊織「ど、怒鳴らなくてもいいじゃない……」
あずさ「そんなに強く否定しなくても……」
p「すいません、つい……」
律子「伊織、あずささんも、そろそろ暗くなりますから帰った方がいいですよ」
伊織「そうね、そうするわ。……もしもし新堂?ええ、車を寄越して頂戴」
あずさ「じゃあ、私も帰りますね~。お疲れさまでした~」
小鳥「はい、お疲れ様でした」
律子「お疲れ様です」
さて、事務所には三人だけ。
事務仕事を終わらせるとするか。
律子「へぇ……」
p「律子、どうかしたのか?」
律子「いえ、社長の話もあながち嘘ではなかったと再確認しているだけです」
p「社長と言うと……なるほど、律子にも話したという訳か」
律子「小鳥さんは気にしてないんですか?」
小鳥「私は昨日、飲み会で詳しく聞けたので。それに、事務仕事が早いのも見ましたからね」
律子「飲み会なんてしたんですか。仕事に響かないようにしてくださいね?」
小鳥「大丈夫ですよ、大丈夫」
律子「信用していいのかしら……」
p「律子は納得できたのか?」
律子「詳しく聞きたい気持ちもありますけど、仕事さえこなしてくれるなら文句はないですね」
p「律子はドライだな」
律子「プロデューサーこそ、社長にドライって言われてましたよ?」
p「そうか?まあ、そうかもしれないな」
律子「これからお願いしますね、プロデューサー」
p「ああ、宜しく律子」
小鳥「私だけ仲間外れ……」
p「もちろん、音無さんも宜しくお願いします」
小鳥「はいっ!頑張りましょうね!」
律子「しかし、本当に仕事早いですね……」
【765プロ三日目】
p「おはようございます」
小鳥「おはようございます。早いですね」
p「音無さんこそ早いじゃないですか。ところで、貴音は居ますか?」
小鳥「貴音ちゃんならそこに……」
貴音「呼びましたか、プロデューサー」
p「後ろからいきなりだな」
貴音「驚きましたか?」
p「いや、特に。レッスンに行くぞ。準備してくれ」
貴音「出来ております。参りましょうか」
p「よし。音無さん、行ってきます」
貴音「行ってまいります、小鳥嬢」
小鳥「はい、行ってらっしゃい」
【レッスンスタジオ】
p「ダンスもいいが、ヴォーカルの方が生きるかもしれないな」
貴音「そうなのですか?わたくしには今一つ分かりませんが」
p「自分の事は分かりにくいものだ。さて、ヴィジュアルも大丈夫だし、響と同じぐらい言う事が無いな」
貴音「響と同じですか。光栄ですね」
p「お前達は仲が良いようだな」
貴音「ええ。彼女のように、喜怒哀楽を素直に出せるというのは尊敬に値します」
p「なるほど。貴音は感情を素直に出さないのか?」
貴音「わたくしはあのように振る舞えませんので」
p「そうか。まあ、人それぞれだからな」
貴音「ところでプロデューサー。お聞きしたい事があるのですが」
p「質問か?なんだ?」
貴音「プロデューサーは、一体どのような経歴をお持ちなのでしょう。こうして初めて会ったあいどるを9人も同時に見るなど、常人には難しいのでは?」
p「気掛かりか?」
貴音「はい。これからは苦楽を共にする者。であれば、プロデューサーを知りたいと思うのも必然でしょう」
p「ふむ……貴音、ブーメランを知っているか?」
貴音「ぶーめらん、ですか?いえ、存じ上げません」
p「くの字型をした、適切な投げ方をすれば弧を描いて自分のもとに戻ってくる道具なんだが」
p「まさに今、貴音はそれを投げたんじゃないか?」
貴音「どういう意味でしょう?」
p「トップシークレット。知らない筈はないだろう?」
貴音「成程。わたくしも人の事は言えないという事なのですね」
p「そうだ。ところで、トップシークレットを人に教える予定はあるのか?」
貴音「さて、どうでしょう。わたくしと添い遂げる者には明かすべきなのでしょうが」
p「そうか。貴音に倣うなら、俺には永遠に来ないだろうな」
貴音「そうなのですか……それは寂しくありませんか?」
p「俺が寂しい?ある筈もない」
貴音「とっぷしぃくれっとは明かせませんが……わたくし達を頼って頂いてもいいのですよ」
p「プロデューサーがアイドルを頼るなんて、本末転倒ではないか?」
p「俺は頼られるために居るんだから」
貴音「……そうでしたね。頼りにしていますよ、プロデューサー」
p「任せておけ」
p「いい時間だな。帰るとするか」
貴音「はい。戻るとしましょう」
まさか、貴音が踏み込んでくるとは。
自分の振る舞いを鑑みれば、そんな事はないだろうと思っていたのだが。
会って三日目だ。怪しく思うのも無理はないか。
【事務所】
p「ただいま戻りました」
貴音「ただいま戻りました」
小鳥「あ、おかえりなさい。プロデューサーさん、貴音ちゃん」
貴音「おや小鳥嬢、昼餉ですか?」
小鳥「ええそうよ。貴音ちゃんもこれから?」
貴音「はい、らぁめんを頂こうかと」
p「待て貴音。何故アイドルがラーメンなんて高カロリーな物を食べる」
貴音「美味だからです」
p「ラーメンはやめておけ。体型維持に関わる」
貴音「わたくしは体型が崩れた事など一度たりともありませんが」
小鳥「そうなんですよ……何で貴音ちゃんだけ食べても太らないの……不公平だわ!」
貴音「そう言われましても、体質ですとしか」
小鳥「なんて羨ましい……そういえばプロデューサーさんは何を食べるんですか?」
p「俺ですか?自家製のドーナツとサプリメントですが」
小鳥「ドーナツですか?あの、一つ頂いてもいいですか?」
p「お勧めしませんよ。一つ大体500キロカロリーありますので」
小鳥「500!?こんな手のひら大のドーナツがですか!?」
貴音「プロデューサー、これはぶーめらんなのでは?」
p「違う。俺はこれを昼に四つ食べるだけで、朝も夜もサプリメントのみだ」
小鳥「体壊しますよそんな生活」
p「ところが壊した事無いんですよね。サプリメントを効果的に摂れば後はカロリーを補うだけなので」
p「料理が出来ない訳じゃないですけど、時間効率がいいのでもうずっとこれですね。スーパーで何を買うか迷いませんし」
貴音「プロデューサー。それは健康に悪いです。なのでらぁめんに行きましょう」
p「ラーメンだけの方がよっぽど体に悪い。行くなら一人で行って来い」
貴音「なんと……」
p「何を意外そうにしている」
貴音「仕方ありません。わたくしだけで向かうとしましょう」
小鳥「いってらっしゃ~い」
小鳥「プロデューサーさん、私のお弁当少し食べ、ってもう居ない……」
【事務所階段】
p「美希、遅いじゃないか」
美希「事務所までは来てたの。後は上がるだけだったし、遅くないと思うな」
p「せめて指定時間の5分前には到着するようにしろ」
美希「眠いんだもん」
p「ここで言っても始まらんな。レッスンに行くぞ」
美希「ふぁ~い……あふぅ」
【レッスンスタジオ】
美希「眠いし、サッサと終わらせるの」
p「トレーナーさんに失礼だろう」
美希「そんなの知らないの。それより、ちゃんと見ててね?」
p「ああ」
ステップを踏み、美希が踊りだす。
眠そうなさっきまでの姿を見せず、ブレもしない。
その後、ヴォーカルレッスンも行う。
音程がずれる事もない、完璧な歌唱。
だが、今一歩足りていない。
美希「どうだった?」
p「凄いな。アイドルになるべくして生まれたような奴だ」
美希「でしょ?美希がちょっと本気を出せばこんなもんなの。だから、ゆるーくトップアイドル目指していこうね」
足りていないのは、意識か。
トップを目指す気なんて微塵も感じられないな。
p「美希。お前ではトップには立てん」
美希「なんで?さっきもプロデューサー言ったでしょ、凄いって」
p「才能は認めるが、それだけだな。向上心が足りない」
美希「コージョーシンって努力するってことでしょ?ミキ、努力は嫌いなの」
p「向上心無くしてトップには立てない。そもそもトップを目指してなれない奴がいるのに、どうしてトップを目指さないお前がなれる?」
美希「なんとでもなるの。レッスンしなくたって、本番で失敗しないよ?」
p「それで行ける所なんて高が知れている。その程度で満足なのか?」
p「アイドルになった理由はキラキラしたいからだったな。だが、今のままではそれも叶わん」
p「それに、やる気のない奴が居るだけで他人の迷惑だ。周りに悪影響を与えるだけの邪魔者だ」
美希「そ、そこまで言う事ないの!ミキ、皆の邪魔なんてしないもん!」
p「お前がどう思っていようが、やる気のない奴は邪魔なんだ。トップを目指す意気込みもないなら、もう明日から来るな」
美希「…………」
p「ここまで言われて何も言い返さないのか?なら、お前の夢は所詮その程度だ。普通に学校に行って普通に就職して普通に生きろ」
p「キラキラなんてない、無難な人生を過ごすといい。それがお前の為だろう」
美希「――分かったの。そこまで言うならやってやるの」
美希「その代わり、プロデューサーにも協力してもらうの。ヒドイことこんなに言ったのに、まさか何もしてくれないなんて事ないよね?」
p「やる気になったか。いいだろう、お前の手が届かないところは全て任せろ。それがプロデューサーの役目だからな」
美希「ミキ、絶対トップになるの。もしトップになれたらプロデューサーには言う事なんでも聞いてもらおうかな」
p「そういうのはなってから言え」
美希「なるって分かってるから今言うの」
p「生意気な……事務所に戻るぞ」
美希「はぁーい」
美希のやる気の改善は出来たようだ。
あとはやよいだけ。肩の荷は既に降りたようなものだ。
【事務所】
p「ただいま戻りました」
美希「ただいまなの!」
小鳥「おかえりなさい、プロデューサーさん、美希ちゃん」
p「やよいは来てますか?」
小鳥「居ますよ。やよいちゃーん?」
やよい「小鳥さん?どうしたんですかー?」
小鳥「プロデューサーさんが帰ってきたの、レッスンに行ってらっしゃい」
やよい「分かりましたー!プロデューサー、行きましょー!」
p「ああ。では行ってきます」
小鳥「行ってらっしゃい」
美希「行ってらっしゃいなの」
【レッスンスタジオ】
p「じゃあやよい、ダンスとヴォーカルレッスンを見せて貰うぞ」
やよい「はい!ちゃーんと見ててくださいねー!」
やよいが跳ねるようにトレーナーの下へ走っていく。
ダンスを終え、ヴォーカルを終えると、俺のところへ帰ってきた。
やよい「どうでしたか?」
p「ダンスが苦手なようだな?」
やよい「はい……あんまり得意じゃないんです……」
p「落ち込まなくてもいい。ダンスの技術はいくらでも教えられるしな」
やよい「そうですか?なら大丈夫……かな?」
p「それよりもヴォーカルだ。上手い訳ではないが、明るく楽しく歌えるようだな」
やよい「あ、はい!やっぱり、歌は楽しく歌いたいかなーって」
p「うむ。技術面を底上げすればかなりいい感じになる筈だ」
p「これからはダンスとヴォーカルの両方を基礎からやっていくとしよう」
やよい「分かりましたー!プロデューサー、もう終わりですか?」
p「やる事か?これからの事を言っているなら、体力トレーニングもしたいところだが……」
p「やよい、お前は家事手伝いをしているそうだな」
やよい「はい!家が六人兄弟なので毎日大変で……」
p「だから、体力トレーニングはもう少し先の話だ。体力を作る過程で倒れてしまっては意味がないからな」
p「お前の体力がそこそこ付いてきたときに細々とやっていければいいと思っている」
やよい「そこまで考えてくれたんですか?うっうー!ありがとうございますー!」
p「ああ、体力の限界を感じたら俺に言うようにしてくれ。スケジュールを調整しよう」
やよい「ありがとうございますー!あれ?もうこんな時間」
p「事務所にいったん戻るぞ」
やよい「分かりましたー」
これで全員分のレッスンを見終わったか。
来週からは本格的に動き始めなければ。
今週中に営業開始するか。
【事務所】
p「ただいま戻りました」
やよい「ただいまですー!」
小鳥「おかえりなさい、二人とも」
p「あれ?律子はまだ帰ってないんですか?」
小鳥「明日まで泊まりで仕事があるみたいです」
p「泊まりか、大変だな」
やよい「あ、小鳥さん、プロデューサー、私もう暗いから帰りますね!」
p「やよい、送っていこう」
やよい「いいんですか?ありがとうございます」
p「では少し行ってきます」
小鳥「はい、いってらっしゃい。やよいちゃん、また明日ね」
やよい「はい、小鳥さん。また明日!」
【車内】
やよい「送ってもらっちゃってすいません」
p「構わない。夜道を返して何かあっては遅いからな。事務所はお前達を預かる身。ならば最大限の安全措置を取るべきだろう」
やよい「プロデューサーって優しいですね」
p「そんな事はない。利益の為の行動の副産物みたいなものだ」
やよい「どういう事ですか?」
p「つまり、自分の為にしてる事で、思いがけず相手も喜んでるっていう事だ」
やよい「それが優しいって事なんじゃないかなーって」
p「そうか?まあ、そう思うならそうでもいいか。ムキになって否定する事でもないしな」
やよい「うっうー!素直が一番ですよ!」
p「素直か――皆が皆、素直ならいいのにな」
やよい「はい?」
p「聞き流してくれ。っと、家に着いたぞ」
やよい「ありがとうございました。プロデューサー、また明日!」
p「ああ、また明日」
p「さて、帰るとするか」
【事務所】
p「ただいま戻りました」
小鳥「おかえりなさい」
p「音無さんだけですか?」
小鳥「ええ、もう皆帰りましたよ。誰かに用事でも?」
p「いえ、用事ではないんですが」
小鳥「じゃあどうしてです?」
p「この三日間、一人ずつとは向き合いましたけど、あまり複数人では交流してないものですから」
小鳥「ああ、そうですね。皆が気になります?」
p「気になると言えばそうですね。一対一の顔しか見てないようなものですから」
小鳥「見てみた感想はどうですか?」
p「ええ、やはりいい子たちですね。それに、思いがけず踏み込んできますね」
小鳥「踏み込む、ですか?」
p「ここの家族的な雰囲気がそうさせるのかも知れません……俺の怪しさもあるんでしょうけど」
小鳥「あの子達には話してませんものね」
p「以前社長だった、なんて信じられるとも思えませんし、社長だった人間がアイドル事務所に居るなんてスキャンダルにもなりそうですからね。隠しておいた方が無難でしょう」
小鳥「ふふ、トップシークレット……ですか?」
p「貴音の真似ですか……似てませんよ?」
小鳥「ですよねー……」
p「遊んでないで、仕事を終わらせてしまいましょう」
小鳥「はい。今日は飲みに行きますか?」
p「先日行ったばかりじゃないですか。あまり過ぎると体に悪いですよ?」
小鳥「プロデューサーさんには言われたくないんですが」
p「ドーナツの話ですか?でも事実健康なので」
小鳥「分かりましたよーだ。一人寂しく家に帰ります」
p「夜遅いですし、送りましょうか?」
小鳥「送り狼にでもなるつもりですか?」
p「断じてそんな事はありませんので、安心して下さい」
小鳥「そんなに言われると、かえって傷つきますよ……」
p「大丈夫です、音無さんも美人ですから。襲いませんけど」
小鳥「フォローになってないです……」
p「それで、どうしますか?」
小鳥「帰りに寄りたいところもあるので、今日は気持ちだけ受け取っておきます」
p「分かりました。ではお先に失礼します」
小鳥「え?もう書類片づいたんですか!?」
p「音無さんと話している間に終わりましたが」
小鳥「何だか自信無くしちゃいますね……まあいいです、お疲れ様でした」
p「はい、お疲れ様でした」
小鳥「はぁ……二つ自信無くしたわ……」
【赤羽根宅】
p「明日から営業を開始するわけだが、スーツとネクタイは二着分用意しておくか」
p「初日は美希を重点的に売り込むとしよう。それからあいつに来る仕事を他の奴に割り振る形でいいだろう」
p「幸い、やる気を出してくれた事だし、ヴィジュアルも目に留まりやすい程派手だ」
p「しかし、これならさっさとやる気になっていればよかったものを……もったいない事をしていたな」
p「まあ、プロデューサー不足もあったのだろう。過去を悔いても仕方ない。もう寝るか……明日が楽しみだな」
【翌日、事務所】
p「おはようございます」
小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」
p「美希は来てませんか?」
美希「ミキならここだよ?」
p「今日は早いな。営業に行きたいんだが、ついてきてくれるか?」
美希「分かったの。準備するからちょっと待ってね」
春香「おはようございます」
p「春香、おはよう」
小鳥「春香ちゃん、おはよう」
プロデューサーさん、初日以来だなぁ。
私のレッスン以降、予定が合わなかったから凄く久しぶりな感じがする。
今日は、黒いスーツだ。昨日までは青だったような。
あ、折角だし……
春香「プロデューサーさん、クッキーどうですか?」
p「春香が焼いてきたのか?一つ頂こう」
p「旨いな。趣味がお菓子作りなだけはある」
春香「えへへ、ありがとうございます」
美希「あ、春香!ミキにもちょーだい!」
春香「いいよー。はい、美希」
美希「ん~、美味しいの~」
春香「良かった」
p「美希、そろそろ出るぞ」
美希「はーい。じゃ、行ってきます」
春香「何処に行くんですか?」
p「営業だ」
春香「ああ。いってらっしゃい」
p「行ってくる」
最初は美希かぁ。ちょっと羨ましいかも。
でも、美希は最近急にやる気になってるし、分かる気がする。
心なしか、プロデューサーさんも楽しそう。
私も営業したいなぁ。
【tv局】
p「765プロの新人の星井美希です。宜しくお願いします」
美希「お願いします」
偉い人「はいはい。宜しくね」
p「こちらが資料です。星井美希以外のメンバー分もありますので、目に留まりましたらご連絡下さい」
偉い人「おっと、これはご丁寧に。では受け取っておきますよ」
p「はい、ありがとうございます」
関係者に頭を下げること数時間。
そろそろ飯を食べなければならないが……
美希「ねえプロデューサー。もっとお願いしなくていいの?」
p「今日はお前の印象付け位でいいんだ。むしろ大変なのはこれからだぞ」
p「あまり粘着しても、好印象は持たれないしな。セールスマンみたいに買わせれば勝ちって訳でもない」
美希「ふーん、ミキはその辺よく分かんないな。それよりお腹がすいたの」
p「そうだな、何が食べたい?」
美希「んー、なんでもいいの。強いて言えばおにぎりかな」
p「おにぎり?コンビニのでもいいのか?」
美希「コンビニのもいいけど、おにぎり専門店があってね。そこのがすっごくおいしいの!」
p「米か、久しく食べていないな」
そもそも、以前の会社ほど忙しくないのだから食事を楽しむのもいいかもしれない。
食事は人間の糧だしな。
p「ではそうしよう。案内を頼むぞ」
美希「お任せなの!」
【おにぎり専門店】
美希「ミキはー、えっと、梅とおかかと鮭でおねがいするの」
p「種類が多いな……この子と同じものを」
美希「ふーん……プロデューサーもなかなかやるの」
p「やるとは?」
美希「相手と同じものを頼むのはデートのテクの一つなの」
p「そんなつもりは一切ないが」
美希「プロデューサーって女たらし?」
p「なぜそうなる」
美希「素でやってるならタチが悪いの」
p「種類が多すぎたからな。お前なら外さんだろうと思っただけだ」
美希「つまんないの。カノジョ出来ないよ?」
p「必要ない」
美希「プロデューサーは恋とかしたことないの?」
p「その質問は初日に春香から受けたぞ」
美希「そうだっけ?忘れちゃったの」
p「寝てただけだろう。あの時のお前は本当に腑抜けていたな」
美希「それは言わない約束なの。今頑張ってるし、結果オーライってカンジ」
p「よく言う……来たようだな」
美希「あ、ホントだ。いただきまーす!」
p「はは、お前は本当に旨そうに食べるな」
【事務所】
p「ただいま戻りました」
美希「ただいま~」
春香「あれ?美希、何かいいことあった?」
美希「プロデューサーとおにぎり食べてきたの」
春香「いいなぁ。プロデューサーさん、今度私も連れてって下さいね?」
p「考えておこう」
千早「おかえりなさい」
p「千早か。皆は居るか?」
千早「竜宮小町以外はここに居ますよ。どうせレッスンだけですし」
p「当て付けか?」
千早「違いますよ。当て付けされるほど仕事してないわけでもないんでしょう?」
p「無論だ。仕事はこなす」
真「千早、誰と話してるの?」
p「真か丁度いい、皆を呼んできてくれ」
真「あ、はい。分かりました」
p「集まったら会議室に来てくれ」
【会議室】
p「ここに集まって貰ったのは他でもない。これからの活動についての事だ」
p「突然だが、一週間後にオーディションを受けて貰う」
春香「オーディションですか?」
千早「確かに突然ですね」
真「オーディション受けるのなんて久しぶりだよ。楽しみだね、雪歩」
雪歩「うぅ……今から緊張しますぅ」
響「大丈夫、なんくるないさー!」
真美「ひびきんそればっかだねー」
やよい「でも、みんな一緒なら大丈夫かなーって」
貴音「全力を尽くすのみです」
美希「ミキも頑張るの!」
p「続きを話すぞ。このオーディションで是非とも受かってもらいたい」
p「今はお前たちを売り込んでいるわけだが、実績が無いのは痛い」
p「ルックスだけで仕事が来るとも思えないし、書類だけで判断するのも難しい」
p「竜宮小町も頑張ってはいるが、765プロの話題性がそれだけでは決定力に欠ける」
p「ユニット一つで持っている弱小事務所程度では、個人を起用なんてしてくれない」
p「そこで、お前達が個人の実績を出すんだ」
真美「つまり、真美たちは一人でもイケるよってアピールするの?」
p「察しがいいな。今は竜宮小町の方にばかり仕事が回っている状態だ」
p「ユニット以外の見所を見せるためのオーディションと言う訳だ」
千早「なんのオーディションなんですか?」
p「お前達全員に個別のオーディションを用意してある」
p「春香から順に発表するぞ。春香はお菓子のcmのオーディションだ」
p「千早はcmのbgmのオーディション」
p「雪歩はミニドラマ」
p「真と響はバックダンサー」
p「貴音と美希はファッション誌」
p「真美はゲームのcm」
p「やよいは料理番組だ」
春香「ちゃんと私達のイメージに合わせてくれてるんですね」
p「そうだ。奇を衒って逆効果になるのは避けたい」
雪歩「私がドラマですか……大丈夫かなぁ」
p「雪歩は演技に興味もあるようだし、役に溶け込みやすそうな雰囲気をしている。大丈夫だ」
真「ボク達も得意分野だね、響」
響「真には負けないぞー!」
真美「兄ちゃんも分かってますなー」
やよい「料理なら任せて下さい!」
美希「ファッション誌なら以前もスカウト来たことあるし、ヨユーってカンジ」
貴音「わたくしもですか。初めてですね」
p「お前達に頑張ってもらうのは当然だが、俺もサポートする。一週間後までに各自調整するようにしておけ」
千早「いいんですかプロデューサー。私にはあんな事を言っていましたが」
p「まずは得意分野からだ。これに受かったら仕事も多くなるだろうし、色々な分野で働いてもらう」
千早「なるほど、分かりました。では早速レッスンに行ってきます」
p「皆も連絡は以上だ。詳しい日時は追って指示する」
【一週間後】
結論から言えば、オーディションは受かった。
cmやファッション誌の影響が出始めるのはまた一週間後位か。
バックダンサーについては、局からまた起用したいとの連絡を受けた。
やよいの料理番組も、続かせれば足がかりとしては十分だろう。
雪歩のミニドラマは脇役とはいえ迫真の演技だったそうだ。
春香「プロデューサーさん、見て下さいこのcm!」
p「見たぞ。収録は少々緊張していたようだが、最終的には良い絵になったな」
p「千早の曲もよく出来ている」
千早「ありがとうございます」
美希「見て見て!これミキだよ!」
貴音「プロデューサー。ふぁっしょん誌はご覧になりましたか?」
p「見本誌を頂いている。またお前達を使ってくれるそうだ」
美希「そうじゃなくて、これ見て何か言う事無いの?」
p「ああ、良く撮れているな。美希は言うまでもないが、貴音も派手な格好が似合うな」
p「もっとボディラインが出る服を着てもいいんじゃないか?」
美希「プロデューサー、分かってないの……」
貴音「プロデューサー。それはせくはらでしょうか?」
p「響の入れ知恵か?俺は事実を言ったまでだ」
響「呼んだか?プロデューサー」
p「お前か、貴音にセクハラ云々を教えたのは」
響「それはプロデューサーがセクハラするからでしょ。自分悪くないからね!」
p「まあいい。二人のバックダンサーも好評だったぞ。また仕事を取りつけてくれるそうだ」
響「ホント!?いやー、自分完璧だからね!」
p「真、お前も良くやったな」
真「ありがとうございます!人に褒めてもらえるって、嬉しいですね」
p「そうだな。仕事に成功すればこういう気持ちを味わえる事も、覚えておくといい」
雪歩「あの、プロデューサー……私はどうでしたか……?」
p「ああ、雪歩。あの女優は誰だという問い合わせが局に多数来たそうだぞ」
雪歩「ほ、ほんとですか?嬉しいです……」
p「当面の目標はアイドルだが、その後は女優に転向してもよさそうだな」
雪歩「女優……私が?えへへ……」
やよい「あ、プロデューサー!私の番組、どうでしたか―?」
p「料理が得意とは聞いていたが、見事なものだな。やよいのコーナーの企画案も出ているぞ」
やよい「うっうー!ありがとうございますー!」
真美「兄ちゃん兄ちゃん!真美のはどうだった?」
p「楽しげでとても良かったぞ。ゲーム会社の人も喜んでくれていた。面白そうにゲームしてくれたとな」
真美「あたりまえっしょー!ホントに面白かったしね!」
小鳥「あの~、プロデューサーさん。最近休みって取りました?」
p「唐突ですね。どうかしましたか?」
小鳥「いえ、休んでる記憶がなかったので勤務表見てみたんですけど、一日も取ってない事に気付いたんです」
p「気にしなくとも疲れなんて微塵もありませんが」
小鳥「でも、事務所的には不味いんですよね。という訳で、三日後に休日を作りましたから羽根伸ばしてきて下さいね」
p「今は一社員でしたね。社長ならともかく……」
真美「社長がどうかしたの、兄ちゃん?」
p「いや、何でもない。ではその日は休みますので、お願いしますね音無さん」
小鳥「はい、任せて下さい」
【事務所階段前】
真美「兄ちゃんオフ取ったの?じゃあじゃあ、真美と遊ぼうよ!」
p「遊ぶって、俺と何で遊ぶんだ?」
真美「んー、どっか遊びに行こうよ!そだ、亜美も一緒でいい?」
p「いいぞ。行きたいところは決めているのか?」
真美「ケーキバイキング!」
p「また太りそうなものを……いや、子供だし大丈夫か」
真美「レディーに向かって子供とは失礼な!」
p「子供だろうが……おや、真?」
真美「あれ?まこちんどうしたの?」
真「聞きましたよプロデューサー。ケーキバイキングに行くらしいじゃないですか」
p「もしや連れて行けと言うつもりじゃないだろうな」
真「そのまさかです!いやー、女の子らしいじゃないですか。ケーキって!」
p「まあ、三人くらいならいいか。幸い、まだ仕事も少ない。スケジュールも空くだろう」
真「やーりぃ!亜美と真美も来るんですよね?楽しみだなぁ!」
p「はしゃぐのは家に帰ってからにしろ、暗くなるぞ」
真美「そだね。じゃあ真美も帰るね。バイバーイ!」
真美「あ、事務所に十二時しゅーごーだからね!」
真「うん、バイバイ真美!」
p「では、俺も帰ろう」
【ある休日1】
p「集まったか」
真「昨日楽しみで眠れませんでしたよ」
亜美「真美と遊ぶのも久しぶりですなー」
真美「最近忙しかったもんね」
亜美「それに、竜宮だから兄ちゃんとも遊べてないし。あれ、亜美かなり可哀想?」
p「仕事があるのはいい事だろう」
真「流石元ニートの言葉は重みが違いますね」
p「お前に何かしたか?」
真「何もしてませんよ?」
真美「まこちん。兄ちゃん以外と気にしてるんだから、あんまり言っちゃ駄目だぜい?」
p「お前もフォローになっていない。いつまでニートで弄るつもりだ」
亜美「でも、兄ちゃんが悪いと思うよ?初対面でいきなりニート発言だもん」
真美「真美もそう思うなー。手の施しようがないってカンジ?」
p「もうその話はやめろ。俺だって傷つくんだ」
真「プロデューサーが何かに傷ついてる所なんて想像できませんけど……」
p「ケーキを食べに来たんだろう?さっさと行くぞ」
三人「はーい!」
【ケーキバイキング】
亜美「わー!いいにおいだね真美!」
真美「胸が踊るね亜美!」
真「ああ、女の子っぽいなぁ……」
p「感動するところはそこか?」
真「だって、来たの初めてですからね!」
p「一人で来ればいいだろう」
真「こんなところに一人で来る勇気なんてありませんよ……」
亜美「にーちゃーん!はやくはやく!」
真美「置いてっちゃうよー!」
p「走るんじゃない。迷惑だろう」
真「プロデューサー!早く行きましょうよ!」
p「お前も自制心を持て……」
p「――で、何だその皿は」
亜美「んー?いいでしょー?なんとスイーツてんこ盛り!」
真美「んっふっふー。真美達の手に掛かれば、朝飯前ってね!」
真「もうお昼だけどね」
p「真、お前もか。はしゃぎ過ぎだろう」
真「いやぁ、どれを取るか迷っちゃって」
p「見栄えを考えろ。複数回に分けて行けばいいだろうに」
亜美「あ、これ兄ちゃんの分だよ」
真美「真美達のスペシャルメニューだよ!」
皿の上にピラミッドのようにケーキ(角切り)が積み重なっている。
ぐちゃぐちゃよりは幾分マシだが……マシなだけだな。
p「こんなに食べたら糖尿病になるだろうが」
亜美「兄ちゃん、前までドーナツしか食べてなかったんしょ?ならだいじょぶじゃない?」
p「あれは自分で糖分摂取量を考えて作ったものだ。お前達はケーキに入っている砂糖の量を知らないからそう言えるんだ」
真美「でも残しちゃ勿体ないから全部食べてね?」
p「分かっている。ところで真、ケーキはいるか?」
真「僕もその量はいいです。体型に響きそうなので」
p「薄情者め……」
亜美「亜美達にカンシャして食べてねー?」
真美「そそ。こんな美少女に取ってきて貰って、男冥利に尽きるってやつ?」
p「食欲が尽きそうなわけだが……まあ、ありがとうと言っておこう」
真「素直じゃないですねぇ」
p「生まれつきだ……いや、違うか」
真「はい?」
p「何でもない。では、頂きます」
三人「いただきまーっす!」
【事務所前】
p「少し吐き気がするな」
真「ボクも正直食べ過ぎました……」
亜美「まだまだいけたんだけどなー」
真美「食べ足りないよねー?」
p「子供は元気だな」
真「そうですね」
亜美「あ、まこちんまで子ども扱いする気?」
真美「まこちんは王子様なんだし、レディーは大切に扱わなきゃだめっしょー!」
真「分かっているとはいえ、王子様キャラいつまで続くんだろ……」
p「あと一年はそのままだな。三年後には別路線でもいいが」
真「まあ、ケーキ食べれたし我慢します……」
p「さて、今日はもう解散でいいのか?」
亜美「もっと遊びたーい!」
真美「真美もー!」
p「真は?」
真「折角のオフですし、ボクももうちょっと遊びたいかな、なんて」
亜美「服とかどう?」
真美「さんせ―!」
真「いいねそれ!ナイスアイディアだよ、亜美!」
p「俺も行くのか?」
真美「あたりまえっしょー。今日は兄ちゃんと遊ぶ日なんだよ?」
p「分かった。ついて行こう」
【服飾店】
p「了承したとはいえ、女物の店に男がいると浮くな」
亜美「兄ちゃーん!これどう?」
真美「二人お揃いだよ!」
p「似合っているぞ」
似合っているぞ、と言い続けること二時間。
最初こそ、色合いやデザインに口出していたものの。
女性の買い物がこんなにも長いとは。
真「プロデューサー!見て下さい、まっこまっこりーん!」
p「真、諦めろ」
真「感想すら言われないなんて……」
p「似合わんといった筈だが。あと、冗談でもまっこまっこりーんはやめろ。鳥肌が立ったぞ」
真「そこまで言わなくても……」
p「俺がどう選んでもボーイッシュに落ち着くんだから、一種の才能だな」
真「いりませんよ!そんな才能!」
亜美「まこちん、しばらく見ないと思ったらそんな事を……」
真美「これは真美達も絶句ですな……」
真「二人までボクを苛めるの!?」
亜美「時にはズバッと言うのも優しさだよね、真美」
真美「うん。まこちんが白い目で見られない為なんだよね、亜美」
p「服は決まったか?会計に行くぞ」
真「あ、待って下さいよ。プロデューサー!」
【再び事務所前】
真「何も買えなかった……」
亜美「元気出しなよまこちん。きっといいことあるさ」
真美「そうだね。いつかきっと多分あるかもしれないじゃん」
真「それ、ほぼ無いって事なんじゃ――」
p「真、受け取れ」
真「はい?今ボクは悲しみの中なんです……ほっといて下さい……」
p「何をブツブツ言っている。受け取れ」
真「何ですかこれ?」
p「ネックレスだ。女の子らしい服は無理だったわけだし、この辺が落とし所だろう」
亜美「まこちんズルーい!兄ちゃん亜美には!?」
真美「真美にも!」
p「二人には服を買っただろう。それにネックレスはまだ早い」
亜美「ぶー!いいもーんだ!大人になって後悔しても知らないかんね!」
真美「真美達がせくしーになってから謝っても遅いんだから!」
p「なってから言え」
真「いいんですかプロデューサー?高かったんじゃ……」
p「値段の心配はしなくともいい。それにお前には何も買っていないだろう?」
真「そうですけど、悪いですよ」
p「なら、アイドルに投資したとでも捉えておけ」
真「そうですか……?なら、ありがたく貰っちゃいますね!」
p「それ、男物の服でも似合うデザインだぞ。汎用性が高いな?」
真「最後の一言で全部台無しですよプロデューサー」
p「そうか?今日はよく遊んだな。お前達も暗くなる前に帰れよ」
亜美「うん!今日はありがとね、兄ちゃん!」
真美「また遊んでね!」
真「今日はありがとうございました!」
p「ああ、気を付けてな」
【翌日、事務所】
p「おはようございます」
小鳥「おはようございます」
春香「プロデューサーさん、昨日真美達と遊んだんですか?」
p「耳が早いな」
春香「真美が来てますから」
真美「やっほー兄ちゃん!」
p「どうした?珍しいじゃないか」
真美「今日は竜宮の大事な日なんだって。真美はもっと寝てるつもりだったんだけど、亜美が起きたから目が覚めちゃった」
千早「おはようございます」
春香「千早ちゃん、おはよう」
千早「何の話ですか?」
p「竜宮の話だ。どうにも竜宮小町の勝負の日らしい」
千早「オーディションでもあるんでしょうか?」
p「分からんな。律子はどうにも俺にスケジュールを教えたがらないから」
真美「ライバルって奴かな?」
p「ライバルか……ユニットすら抱えていない俺がライバルと言うのもおかしな話だな」
小鳥「律子さんもあれで焦ってるんですよ」
小鳥「プロデューサーさんが来てから、二週間ちょっとで結構仕事も増えましたから」
p「成程。焦りが悪い結果を招かなければいいですが」
小鳥「しっかりしてますから、大丈夫なんじゃないですか?」
p「まあ、そうですね。ところで、春香と千早は収録がある筈だが」
春香「わわっ!ホントだ、準備してきます!」
千早「私はすぐに行けますよ」
p「では春香待ちだな」
春香「お待たせしました!」
p「よし。では行ってきます」
真美「いってらっしゃーい!」
小鳥「行ってらっしゃい」
【スタジオ】
春香「皆のアイドル、天海春香です!」
千早「如月千早です」
春香「千早ちゃーん?もっと元気に行こうよ!」
千早「そう言われても……」
順調だな。
ここは任せて、雪歩の現場に行くか。
最近、見てやれていないからな。
p「二人にはメールを送っておこう。……さて、行くか」
【雪歩の現場】
p「休憩中のようだな。……すみませーん」
監督「あ、765さん。お疲れさん」
p「お疲れ様です。こちら差し入れですので、スタッフさんと共演者さんでどうぞ」
監督「ああ、ありがとね!雪歩ちゃん、いい感じだよ」
p「ありがとうございます。しかし、また起用して頂けるとは嬉しい限りです」
監督「765さんには期待してるよ?今、乗ってる時期だしね」
p「いや、お上手ですね。照れてしまいますよ」
p「宜しければ、今後もお願いしますね」
監督「ま―かしときなって!雪歩ちゃんに会ってくかい?」
p「そうします。では失礼します」
【楽屋】
p「雪歩、入るぞ」
雪歩「は、はい!どうぞ!」
p「何を緊張している?」
雪歩「なんだプロデューサーかぁ――」
p「何だとは御挨拶だな」
雪歩「ひぅ!ごめんなさい!」
p「冗談だ。驚かしに来たわけではない」
雪歩「じゃあどうしたんですか?」
p「挨拶回りと様子見だ。現場の評判はいいようだな」
雪歩「はい。皆さん良くして下さいますし……男の人は、まだ苦手ですけど……」
p「進歩はあるんだろう?ならそれでいい」
雪歩「ありがとうございますぅ」
p「用は済んだ。俺は営業に行くから、頑張るんだぞ」
雪歩「はい!一生懸命頑張ります!」
p「その意気だ。ではな」
【再び現場】
p「監督」
監督「どうかしたかい?」
p「いえ、雪歩を宜しくお願いしますとだけ。私は仕事に戻りますので」
監督「分かったよ。頑張んな!」
p「ありがとうございます、では」
一度事務所に戻って着替えた後、俺はテレビ局に向かった。
【tv局】
ディレクター「あれ?765プロさん、お久しぶりです」
p「これはディレクターさん。ご無沙汰しております」
ディレクター「いえいえ、いいんですよ。それより、765プロさんを使いたい企画があるんですが」
p「本当ですか?有り難いですね」
ディレクター「今からお時間、宜しいですか?」
p「ええ、構いません」
ディレクター「では、喫茶店にでも入りましょうか」
【喫茶店】
p「765プロの生放送番組ですか?」
ディレクター「ええ。番組名は『生っすか!?サンデー』なんですが、複数のコーナーを設置した番組で、mcを3人置きたいんです」
p「成程。mcはこちらで指定しても?」
ディレクター「はい。むしろ適役を選んで頂きたくてこうして相談を持ち掛けた次第です」
p「そうですか。では天海春香、如月千早、星井美希の3人でお願いします」
ディレクター「分かりました。では残りの人材に合ったコーナーの振り分けですが――」
765プロで生放送枠を一つ持てる所まで漕ぎ着けたか。
あとは、ライブをしてアイドル面を押し出していければ……
その企画も用意しておこうか。
p「ではそのように取り計らって下さい」
ディレクター「はい。しかしここまでスムーズに話が進むとは思いませんでしたよ」
p「そうですか?なら良かったです。お時間も取らせなかったようで」
ディレクター「流石、敏腕と呼ばれるだけはありますね」
p「そんな風に呼ばれてるんですか?」初耳です」
ディレクター「まぁ、765プロさんは、失礼ですが今まで全く表に出てなかった事務所ですから。そこにプロデューサーが1人入っただけでこうも変わればそう呼ばれますよ」
p「評価は嬉しいですが、私はそんなに大した者じゃないんですけどね」
ディレクター「ご謙遜を。おっと、あまり引き留めては早く終わった意味もありませんね」
p「ええ。では、ここは私が持ちましょう」
ディレクター「いえ。こちらが――」
p「まあまあ。代わりと言っては何ですが、次の機会も765プロをお願いします」
ディレクター「はは、上手いですね。そう言う事ならご馳走になります」
【事務所】
p「ただいま戻りました。朗報ですよ」
小鳥「おかえりなさい。どうしたんですか?」
p「まずは、皆を集めて貰えますか?」
小鳥「竜宮もですか?」
p「ええ、お願いします」
小鳥「分かりました。……みんなー、ちょっと集まってくれる?」
春香「どうしたんですか?」
小鳥「プロデューサーさんが話があるみたいなの」
あずさ「私達もですか?」
p「そうです」
伊織「じゃあ765プロ全体の話なのね」
亜美「兄ちゃーん、早く話してよー」
p「なら静かにしてくれ。……765プロの生放送番組が決定した」
p「番組名は『生っすか!?サンデー』だ」
真美「おおー!やりますな―兄ちゃん!」
律子「どういう番組なんですか?」
p「複数のコーナーをアイドルがそれぞれ担当していく番組だ」
p「ちなみに番組のmcもお前達の中から選ばれている」
真「誰なんですか?」
p「春香、千早、美希だ」
春香「ええっ!?私ですか!?」
千早「どうして私が?」
p「俺が推したからだ。春香はトークに向くし、千早には歌以外の面をクローズアップする意図がある」
亜美「ミキミキは?」
p「美希にはmc全体のフォローと空気作りを頼みたい」
美希「ミキに任せとけば大丈夫って思うな」
貴音「成程……美希ならば司会も物怖じせずに出来ると」
響「確かに美希なら納得だぞ」
やよい「美希さん、凄いですー!」
p「あとは各コーナーの説明だが――」
一通りコーナーの説明を終えた。
後は本番でミスさえしなければ、765プロの話題性もより大きくなるだろう。
p「以上だ。次の日曜から収録開始だ。各自、気を引き締めておけ」
一同「はい!」
【『生っすか!?サンデー』収録日】
春香「始まりました!日曜午後の新発見!生っすかー、サンデー!」
千早「この番組は、ブーブーエス赤坂スタジオから、全国のお茶の間の皆さんへ毎週お届けします」
美希「mcは春香とミキと千早さんなの!みんなよろしくね!」
春香「えー、では!コーナー紹介に行きましょう!」
春香「最初のコーナーは……『響チャレンジ』!」
千早「このコーナーは我那覇さんが番組の無茶振りに挑戦するコーナーです……っていいのかしら、これ」
美希「響ー、頑張るのー!」
春香「では中継先の響ちゃん、どうぞー!」
響『はいさーい!自分、我那覇響だぞ!』
響『どんな挑戦でも、なんくるないさー!』
響『で、どんな内容なんだ?』
春香「番組終了までにスタジオまで走って来てね」
響『番組終了までにスタジオまで走って到着!?え、もう始めるの!?』
響『あわわわ、ま、待ってってば……え?始まったの!?』
響『ううー……なんくるないさー!』
千早「これ、帰ってこれるのかしら?」
春香「さぁ?」
美希「春香、軽いの……」
美希「まあいいの。さて、次のコーナーは……やよいー!」
やよい『はーい!』
春香「やよいー?そこはどこなの?」
やよい『ここはたけのこ幼稚園さんですー!今日はお休みなんですど、収録のために集まってくれましたー!』
やよい『あと、今日の助っ人さんはこちらです―!』
伊織『みーんなー!こーんにーちわー!』
あずさ『こんにちわ~』
美希「伊織もあずさもでこちゃんも、その衣装とっても可愛いの」
千早「高槻さん……可愛い……」
あずさ『あら~。ありがとうございます~』
あずささんがスモック姿でクルリとターンしました。
あずささんに園児服って……プロデューサーさんの趣味なんでしょうか?
伊織『ちょ!?シャレになってないわよ!?』
千早「これ、放送できるのかしら?」
やよい『じゃあ皆集まって―!スマイル体操、いっくよー!』
スタッフ「休憩入りまーす!」
p「いいテンポだな」
律子「はい、今のところ、目立ったミスもないですね」
p「このままスムーズに終わればいいが――」
p(あれは……美希、何をしている!?)
俺に向かって手を振っていた。
手を交差させてngのジェスチャーをする。
全く、アイドルが何をしているんだ。
春香が止めてくれているが、意に介していないようだ。
頼むから、これ以上はしてくれるなよ……
スタッフ「スタジオに戻ります!」
やよい『みんなー!またねー!』
千早「先生方、父兄の皆さんもありがとうございました」
美希「みんなありがとうなのー!」
春香「皆の元気がスタジオにも伝わってきたよね」
美希「ミキもあの衣装着てみたかったの」
千早「さて、次のコーナーは」
春香「面白そうなタイトルだよ。題して!『菊地真改造計画』!」
美希「改造?」
春香「詳しい説明は中継先の……ゆーきほー!」
雪歩『は、はいぃ!』
雪歩『皆さんこんにちわ。中継先の萩原雪歩です』
雪歩『こ、このコーナーでは、真ちゃんを女性好みに変身させていきたいと思います!』
雪歩『真ちゃん、もういい?』
真『大丈夫だよー!』
雪歩『じゃあ空けるね?真ちゃん、どうぞ!』
真『きゃっぴぴぴぴーん!まっこまっこりーん!菊地真ちゃんなりよー!』
p(真……あれほどやめろと言ったのに、お前という奴は……)
p(会場も凍りついている……)
真『あれ……?反応が……』
雪歩『駄目だよ真ちゃん!そんなの誰も望んでない!誰も得しないよ!』
雪歩『もう私が選ぶね!?一回スタジオにカメラお返しします!』
真『ゆ、雪歩ぉぉぉ!?』
春香「なんだったんだろう、今の……」
千早「見てはいけないものを見た気がするわ……」
美希「流石にミキもあれはないって思うな」
千早「真の改造なるか?続きはのちほど」
亜美・真美『あみまみちゃん』
亜美・真美『……幽体離脱』
亜美・真美『からの~』
亜美・真美『アジの開き……からの~』
スタッフ「v終わり3分後に開始です!」
千早「本番はあっという間ね……」
春香「私も振り回されちゃって……」
美希「あ!プロデューサー!」
p「お疲れ。水とタオルだ」
美希「ねぇねぇ。ミキ、ちゃんと出来てた?」
p「少し肝を冷やしたが、トークも見事だったぞ」
美希「あはっ!」
p「後半も頑張ってくれ」
春香「はい!」
p「千早、もう少し肩の力を抜け」
千早「は、はい……」
スタッフ「cm明けまーす!」
春香「ん?……こほっ!かはっ!」
美希「生っすか!」
春香が水を飲んでる所にカメラを向けられ、むせている。
すかさず美希がカメラに割り込んでフォローした。
期待通りだ。
千早「ええと、次のコーナーはこちらです」
貴音『らぁめん。それは最早ただの食に非ず』
貴音『日々探求し、進化していく人そのもの』
貴音『らぁめんは文化。らぁめんは進化。らぁめんは可能性』
貴音『四条貴音のらぁめん探訪、始まります』
真美『お姫ちーん、今日はどこ行くの?』
亜美『亜美達お昼食べてないからお腹ぺこぺこだよー』
貴音『今日お伺いするお店はこちらです』
亜美『ラーメン……』
真美『二十郎?』
貴音『では参りますよ……たのもう!』
貴音『ここで先に食券なるものを買うのです』
亜美『めーりょーかいけー、完全前金制だね』
真美『お姫ちん、何にするの?』
貴音『本日はこの大豚だぶるというものを食したいと思います』
貴音さんがお金も入れずに券売機のボタンをプッシュしています。
こういう所が、ミステリアスって言われる理由なのかも。
貴音『はて?券が出てきませんが?』
亜美『まずはお金入れてからだよお姫ちん』
貴音『そうだったのですか。それは気付きませんでした』
真美『買うって言ってたのにそれはないっしょお姫ちん……』
貴音『では、気を取り直して』
店員『どうします?』
貴音『メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ』
亜美『何か呪文みたいだよー!』
真美『何言ってるか全然分かんないよー!』
店員『どうします?』
亜美『じゃ亜美もお姫ちんと同じで!』
真美『真美も!』
亜美『んで、出てきたのがこれなんだけど……』
真美『盛り過ぎてヴィジュアルが凄い事になってるよぉ!』
亜美『あ、亜美には無理だけど真美は行けるよねー?』
真美『ま、真美だってこんなの無理だよー!』
貴音『二人とも、静かに、粛々と食すのです。あまりに遅いと、ろっと、なるものが乱れて他のお客様に迷惑がかかるといいます』
亜美『なんなのそれ……意味分かんないよ……』
真美『食べても食べてももやしが減らない……でも残したらやよいっちに怒られるし……』
亜美『亜美、もう駄目……』
真美『亜美ぃぃぃ!』
美希「貴音ー、ありがとうなのー!」
春香「亜美ー、真美ー。ゆっくりでいいから、残さず食べるんだよー?」
と、全てのコーナーを終え、収録も無事終了した。
あの後、雪歩の暴走に巻き込まれた真が涙目になっていたり、何故か雨の中を必死で走る響の姿もあったが……
しかし、これで765プロの名はかなり広く知れた筈だ。
後で響は迎えに行ってやろう。
【二週間後、事務所】
p「ただいま戻りました……全員で何をしてるんです?」
小鳥「あ、プロデューサーさん。いい所に帰ってきましたね」
p「どういう事です?」
律子「竜宮小町の曲がランキングに入ったんですよ!」
伊織「今からそれが放送されるわ。だから皆テレビの前に居るのよ」
亜美「亜美達のしゅ―たいせーですな!」
あずさ「頑張ったものね~」
『では、竜宮小町の皆さん。曲名をどうぞ!』
伊織『え、えっと……竜宮小町で「smoky thrill」です!』
真美「いおりん、緊張し過ぎっしょー」
伊織「うるさいわね!初めてなんだからしょうがないじゃない!」
春香「いいじゃない伊織。私たちなんてまだ……うぅ」
千早「春香、こっちまで悲しくなるわ……」
響「そうだぞー。今はテレビを見ようよ!」
p「曲が始まるぞ」
『知らぬが~仏ほっとけない♪くぅーちびるポーカーフェーイス♪』
『yoとうだーい♪ もと暗しdo you know!?噂のファンキーガール♪』
真「凄いね……」
雪歩「憧れますぅ……」
やよい「伊織ちゃん。かっこいい……」
貴音「これほどとは……美希?」
美希「……」
明るい曲調、楽しげに歌う反面、激しいダンス。
テレビから音が溢れているのに、事務所はパフォーマンスに圧倒されて静かだった。
p「ここ二週間、竜宮の姿を見かけなかったのはこの為か」
律子「はい。ユニットを結成してからやっとここまで来たんです」
p「これは負けてられないな。また竜宮に人気を持って行かれそうだ」
律子「負けてたのは私の方なんですけど……でも、これからは簡単には行きませんよ!」
律子「あとはどこかでライブ出来ればいいんですけど……」
p「ライブか?草案はまとめてある。あとで詰めよう」
律子「本当に仕事早いですね。もしかして、竜宮がランキング入りするの、見越してたんですか?」
p「そこまでは流石に無理だったが……知名度が少しずつ得られている今、ここでライブを成功させれば一躍有名になると思ってな」
p「以前からライブの企画は立てておいたんだ」
律子「敵いませんね、プロデューサーには。じゃあ会議室で……」
p「ああ、資料を用意してくる。先に行っていてくれ」
【会議室】
p「お待たせ」
律子「はい、コーヒーです」
p「ありがとう。では、始めるぞ」
p「本来は俺の担当だけでするつもりだったんだが、竜宮が勢い付いている以上、オールスターライブに変更しようと思う」
p「予定は一ヶ月後を目安にしているが、予定は?」
律子「午前から地方の仕事ですが、直ぐに戻ってこれば大丈夫です」
p「よし。では、竜宮小町をトリに持ってくるぞ。あと、話題性の獲得にも一役買って貰う」
律子「現状ではそれが妥当ですね……曲構成は決まっているんですか?」
p「それはこれからだ。まず……」
一ヶ月後にライブが決定した。
これからは仕事を少なめにして調整に力を入れていくか。
失敗は出来ない。ここでミスがあれば、人気も急落するだろうからな。
律子「大体決まりましたね。あの子達に伝えてきますか?」
p「俺から話そう。お前は竜宮の方を頼む」
律子「分かりました。それでは」
プロデューサーさんが会議室から出てきました。
何の話し合いをしてたんだろう……と思っていると、美希が突然プロデューサーさんに向かって行きました。
p「お前達、やけに静かだな」
美希「プロデューサー」
p「美希か。どうした?」
美希「竜宮小町のステージを見て、ミキ思ったの。負けたくないって。だからプロデューサー、チャンスが欲しいの。お願い」
p「チャンスとは?」
美希「――ライブをさせて欲しいの。ミキ、絶対頑張るから」
p「その言葉、嘘じゃないな?」
美希「もちろんホントだよ!絶対絶対、成功させて見せる。ガッカリなんてさせないの!」
p「その思いに応えて、という訳じゃないが……皆、聞いてくれ」
春香「何ですか?」
p「これから一ヶ月後に、765プロオールスターライブを開催する」
真「ホントですか!?」
響「やっと自分たちが主役だぞ!」
雪歩「が、頑張ります!」
やよい「楽しみです―!」
真美「だね!やよいっち!」
貴音「いよいよなのですね……」
千早「私が、ステージで歌えるなんて……」
美希「プロデューサー、ありがとなの!」
律子「竜宮小町もトリで参加するわ、気合い入れなさい!」
伊織「このスーパーアイドル伊織ちゃんに任せておきなさい!」
亜美「トリかぁ。亜美達も凄くなったね!」
あずさ「そうね~。責任重大だわ~」
p「これから一ヶ月間は仕事を減らして、ライブの調整に注力してもらいたい」
p「これは失敗できない。ここが、お前達がトップになるか消えるかの分かれ目だ」
p「各自、間違っても当日に体調を崩さないように気をつけろ」
小鳥「プロデューサーさん、社長には言ってあるんですか?」
p「ええ、好きにしろとのことです」
p「これから、会場の確保や広報について社長に報告してきますね」
小鳥「はい、行ってらっしゃい」
p「お前達、今日はもう帰っても構わないぞ」
一同「はい!」
【社長室】
p「失礼します」
高木「おおキミ、待っていたよ」
p「今度のライブについての報告書です」
高木「ふむ……了解した。裏方は任せてくれたまえ」
p「ありがとうございます。しかし良かったのですか?」
高木「何がかね?」
p「多少は売れてきたとはいえ、今だこの事務所は小さいです。そこに賭けの要素の強い企画を通して良かったものかと……」
高木「キミに任せると言った筈だよ。キミの事だ、勝ち目はあるんだろう?」
p「はい。負ける勝負はしませんので」
高木「流石、社長だっただけはあるね。キミを採用して良かったよ」
p「ちょうど職を探していましたしね。そのあたりは感謝しています」
高木「それはお互い様だよ。しかし、キミはあの頃からずっと敬語だね」
p「社長の立場にあったとしても、目上は目上です。それに、敬語はいらない敵を作りません」
高木「変わらないねぇ、そのドライな所は」
高木「だが、アイドル達と遊びに行ったり、多少は変わったともいえるかな?」
p「ええ、他人に振り回されるのは三年振り……いえ、この話はやめましょう」
高木「そうだね。では、キミの働きに期待しているよ」
p「お任せ下さい」
【一週間後のある日】
春香「プロデューサーさん、ドーナツいかがですか?」
p「ドーナツか、頂こう」
春香「どうです?」
p「これは、甘すぎやしないか?砂糖の塊を食べているようだぞ」
春香「糖分は脳にいいんですよ!」
p「限度があるだろう……味はいいがな」
春香「えへへ、ありがとうございます!」
千早「プロデューサー、よければレッスンに付き合ってもらえませんか?」
美希「千早さん、ミキも一緒にいい?」
千早「ええ、いいわよ」
春香「あ、じゃあ私も!」
千早「言わなくても、春香は強制よ」
春香「え?なんで?」
千早「その音程をどうにかするためよ」
美希「納得なの」
春香「二人ともひどいよ!私だって上手くなってるもん!」
千早「でも、まだマシというだけよ。今日でしっかり音程を取ってもらうわ」
千早「じゃあプロデューサー、行きましょう」
p「ああ、車を出そう」
【レッスンスタジオ】
千早「春香、半音ずれてるわ」
美希「リズムもちょっとずれてるの」
春香「二人とも鬼だよ……」
p「だがずれているだろう?」
春香「プロデューサーさんまでそんな事を言う……」
p「千早は流石だな。音程もリズムも完璧だ」
千早「ありがとうございます」
美希「ねぇねぇプロデューサー、ミキは?」
p「美希も完璧だな。安心できるな」
美希「やったぁ!褒められたの!」
春香「そういえば、プロデューサーさんって歌上手いんですか?」
千早「春香、今はあなたの事を言っているのよ」
美希「あ、それミキも聞きたい!千早さんは気にならないの?」
千早「……確かに興味はあるけど」
春香「だよね?仮にも私達を指導するんだし、上手くないとね!」
p「お前に言われる筋合いはない」
春香「いいんです!さっき私の事を馬鹿にしたからです!」
p「そこまで言うなら歌ってやろうか」
春香「じゃあ『キラメキラリ』で!」
p「何故そんな選曲なんだ」
春香「その方が面白そうじゃないですか!」
美希「春香、芸人根性が染みついてるの……」
千早「せめてキラメキラリはやめましょう?プロデューサーが歌うと思うとぞっとするわ」
p「千早、お前が決めてくれ」
千早「なら……『目が逢う瞬間』でお願いします」
p「自分の曲を歌わせるのか」
千早「折角なので。それに、これは難しいですよ?」
p「お前も大概だな。まあいい、歌うぞ」
p「目と目が逢う、瞬間好きだと気づ~いた~♪」
p「あなたは今、ど~んな気持ち~でい~る~の♪」
p「も~どれない、ふ~たりだと、分かっている~けど~♪」
p「す~こしだけ、そのまま瞳、そ~らさない~で~♪」
春香「う、上手い……」
千早「これは、本当に上手いわね」
美希「プロデューサーって歌も出来たんだ」
p「分かったなら春香はレッスンに集中しろ」
春香「いや、まだです!プロデューサーさん、カラオケの最高点数いくらですか!?」
p「96点だ」
春香「負けた……惨敗だよ……」
千早「春香、それはどれぐらい凄いの?」
美希「ミキでも93点ぐらいなの」
春香「私なんて85点だよ……」
千早「よく分かったわ」
p「千早なら100点も狙えるかもしれんな」
千早「いえ、プロデューサーに勝てる気がしません」
p「そうか?以前はともかく、最近では表現力もぐっと上がったように思うが」
千早「実力は伸びていると感じますけど……さっきの歌にはとても感情が籠っているように思いました」
美希「凄く悲しそうだったの……どうして?」
p「気のせいだろう」
千早「そうは思えません。少なくとも、『目が逢う瞬間』では勝てる気がしません」
p「逆効果になってしまったか?」
千早「いえ、参考になりました。今度のライブでは上手く歌えそうです」
p「それなら良かった。さて春香、レッスン再開だ」
p「二人は少し休憩してもいいぞ」
千早「ではお言葉に甘えて」
美希「春香ー、頑張ってねー」
春香「ああ、置いてかないで……」
p「じゃあ始めるぞ。一曲分終わるまで休みなしだ」
春香「助けてぇぇぇ!」
美希「春香、いいなぁ……」
【更に一週間後のある日】
p「今日はやよいと雪歩あたりのレッスンでも見てやるか」
響「あ、プロデューサー!それなら自分達も見て欲しいぞ!」
p「ああ、いいぞ。お前以外にもいるのか?」
貴音「わたくしです、プロデューサー」
p「貴音か。二人ならやよいと雪歩も参考になるな」
p「音無さん、やよいと雪歩は?」
小鳥「確か給湯室ですね。お茶を入れてくれてる筈ですよ」
p「ありがとうございます。おーい、やよい、雪歩。レッスンに行くぞ」
やよい「分かりました。ちょ―っと待ってて下さいね!」
雪歩「小鳥さん、どうぞ。あ、私も準備してきますね」
小鳥「ありがとう、雪歩ちゃん」
p「車で待っている、準備でき次第来てくれ」
p「響、貴音、行くぞ」
響「分かったぞ」
貴音「参りましょう」
【レッスンスタジオ】
p「今日はダンスレッスンな訳だが、着替えは持ってきているな?」
一同「はい!」
p「では始めるぞ。曲は、このメンツだと『自分rest@rt』だな」
やよい「踊ると、千早さんにぶつかってしまうんです……」
雪歩「私もまだきついです……」
p「今日は個人の粗を無くすことだけ考えろ。全体練習はまだ出来る」
響「そうだぞー!自分達が手本になるさー!」
貴音「やよい、萩原雪歩、共に頑張りましょう」
p「音楽かけるぞ」
タッタッターラ♪タッタラッターラ♪
タータッタッタッタラッターラ♪
p「通してみたがどうだ?」
響「自分は大丈夫だぞ!」
貴音「わたくしもです」
雪歩「私はちょっと……」
やよい「私もですー……」
p「響と貴音は問題ないな、休んでおけ。雪歩、やよい。一人ずつ俺の前で踊ってくれるか?」
雪歩「は、はい」
やよい「はいです……」
p「では雪歩から」
雪歩「1234、1234――」
p「ストップ」
雪歩「あの、どこか……?」
p「若干遅れているな。もっと背筋を伸ばしてみろ」
雪歩「こ、こうですか?」
p「そうだ。そのまま踊ってみろ」
雪歩「はい!……ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー」
p「よし、良くなったな。動きの激しい曲だから、重心がずれるとすぐについていけなくなるぞ」
雪歩「わ、分かりました」
p「次はやよいだ。踊ってくれ」
やよい「は、はいっ」
やよい「えーと……わんつーすりーふぉー、わんつーすりーふぉー」
p「そこでストップ」
やよい「どこが悪いんですか?」
p「そこのステップはもう少し思い切ってもいい」
p「でないと、千早に衝突するからな」
p「やよいの体だと、大きめに動かないと皆とずれてしまう。お前は小さいからな」
やよい「じゃあ……こうですか?」
p「よし、それぐらい動けばいい」
やよい「プロデューサー!ありがとうございますー!」
貴音「ところで、プロデューサーはこのダンスを把握しているのですか?」
p「何故だ?」
貴音「萩原雪歩にはともかく、やよいへの忠言はそうでなくては出来ないものでは、と」
p「そうだな。ダンスは頭の中に入っているぞ」
響「プロデューサーってダンスできるのか?」
p「お前達の曲は網羅しているが」
響「じゃあ、自分たちに見せて欲しいぞ!」
貴音「わたくしも興味がありますね」
雪歩「あ、私も」
やよい「プロデューサー、お願いしますー!」
p「雪歩とやよいも休憩しなければならないしな……」
p「よし、では一度だけ踊ろう。雪歩とやよいはその間に水分補給もするんだ」
雪歩「あ、はい」
やよい「分かりましたー!」
p「曲を頼む」
響「始めるぞー?」
p「昨日までのい~きかたを♪否定するだけ~じゃな~くて♪」
p「これからすす~むみち~が見え~てき~た~♪」
響「なんか、無茶苦茶キレがいいぞ……」
貴音「これ程の才能を秘めていたとは」
雪歩「歌まで完璧ですぅ」
やよい「はわー!凄いです―!」
p「こんな感じだ」
響「ダンスとかやってたのか?」
p「独学だ」
貴音「ますます謎は深まるばかりですね」
雪歩「そう言えば、プロデューサーってニートだったんですよね」
やよい「お仕事しない人の事ですよね?」
p「ニートの事は忘れろ。別に、ニートだからってダンスが出来ない理由にはならないだろう?」
響「でもおかしいぞ!何でこんなに完成してるんだ!?」
p「独学だ」
響「うがー!そう言う事聞いてるんじゃないぞ!」
貴音「しかし……れっすんしてからまだ日も浅い筈ですが、いつ振り付けを覚えたのですか?」
p「トレーナーさんが踊っていただろ?あのとき覚えた」
やよい「それって初めての日ですよね?」
雪歩「いつの間に……」
p「まあ俺の事はどうでもいいだろう。今日はもう一回通して終わりにするぞ」
響「分かったさー。はあ、もう諦めよう」
p「賢明な判断だな」
響「なんかムカつくぞ……」
貴音「響。プロデューサーを問い詰めてもいなされるのはいつもの事です」
雪歩「いつの間にか話が変わってるんですよね……」
やよい「何の話ですかー?」
p「気にするな。では、ラストいくぞ」
一同「はい!」
【ある休日2、事務所】
小鳥「プロデューサーさんってば、言わないと休暇取らないんだから」
春香「そんなに休んでないんですか?」
千早「私は休日もここに居るのだけど、もう三週間は休んでないみたいよ」
小鳥「仕事が早いから疲れないっていうのは分かるんだけど、やっぱり心配だわ」
美希「あれ、今日はプロデューサー居ないの?」
小鳥「あ、美希ちゃん。今日はプロデューサーさんはお休みよ」
美希「なーんだ」
春香「プロデューサーさんに用事でもあったの?」
美希「ううん。特にないの。でも、ちょっと気になって」
おや?これは恋バナの予感。
春香「もしかして美希、プロデューサーさんのこと好きなの?」
小鳥「そうなの美希ちゃん?」
美希「んーどうだろ?でも、プロデューサーって普段何してるか全然知らないの」
千早「そういえばそうね。あの人のプライベートは全然知らないわ」
美希「だから気になっちゃって」
p「おはようございます」
いきなりプロデューサーさんがやって来ました。
お休みだったんじゃないのかな?
小鳥「あれ?今日は休みでは?」
p「いえ、書類を忘れたので取りに来ました。では、これで失礼します」
春香「ねえ、二人とも」
千早「とうしたの春香?」
美希「なに?」
春香「尾行してみない?」
千早「やめておきなさい。迷惑よ」
春香「美希はどう?」
美希「ミキはやろうかな」
千早「美希までそんな事を……」
春香「ほらほらー。どうするの、千早ちゃん?」
千早「はぁっ……監視役としてついて行きます、あくまで監視よ」
美希「千早さんも素直じゃないの」
春香「そうと決まれば、さっさと追いかけなきゃ!」
小鳥「気を付けるのよー」
美希「分かってるの!」
小鳥「まあ、プロデューサーさんなら大丈夫かしら?」
【事務所前】
春香「どっち行った?」
千早「あ、あれがそうじゃないかしら?」
美希「そうみたい、じゃあ早速……」
気付かれないようにプロデューサーさんを追う私達。
不審者に見えてないといいけど……
春香「角を曲がるみたい」
千早「どこに行くのかしら」
美希「あっちはショッピングモールなの」
春香「買い物かな?」
千早「何を買うのか見当もつかないわ」
美希「そんな事より見失わないようにするの!」
思えば、美希が居る時点で凄く目立っていんだった。
開き直って、プロデューサーさんを追います。
何度か曲がっていると、プロデューサーさんを見失っちゃいました。
その時、後ろから……
p「何をしている」
春香「ひぃ!」
千早「えっ!?」
美希「あれ?」
p「着いてくる奴がショーウィンドウ越しに見えたと思えば、お前達か」
春香「え、えへへ……見つかっちゃいました?」
p「下手な尾行だな。それよりも……」
p「美希はまだ分かるが、千早まで居るとはな」
千早「これはその……」
美希「プロデューサーの事が気になったからなの」
p「だからと言って、尾行していい理由にはならんだろう」
p「大体、何が気になるというんだ?」
春香「私達って、プロデューサーさんのことあんまり知らないなーって思いまして」
千早「はい。プライベートで何をしているのかも全然知らないので……」
美希「そういえば、前から気になってた事があるの」
p「なんだ?」
美希「何でプロデューサーって外に行く時着替えるの?」
春香「あ、それ私も思ってました。何でなんですか?」
千早「確か、外に行く時は黒いスーツに赤いネクタイで」
美希「事務所だと青いスーツに緑のネクタイなの」
p「よく見てるな。理由は、外に行く時は弱気に見られないように、事務所ではお前達に威圧感を与えないようにするためだ」
春香「そんなこと考えてたんですねー。全然分かりませんでした」
美希「今日はどこに行くつもりだったの?」
p「伊織の家に挨拶にな」
美希「――でこちゃんと付き合ってるの?」
p「笑えない冗談はよせ。伊織のお父上に用があるんだ」
美希「よかった……」
p「はは、おかしな奴だな。何を心配しているんだ」
美希「え!?いや、その……プロデューサーがロリコンじゃなくてよかったって」
p「どういう目で俺を見てるんだ」
千早「しかし、水瀬さんのお父さんですか?プロデューサーがどうして?」
p「お前達の気にする事じゃない。お前達は今日は休みなのか?」
美希「お仕事は朝だけだったの。半分オフだよ」
p「なら俺に構ってないで遊んでくるといい。こうしていても時間の無駄だぞ」
と言って、プロデューサーさんは行ってしまいました。
結局、スーツの事を聞いただけで終わっちゃうなんて。
春香「あれ?」
千早「どうしたの春香?」
春香「いや、プロデューサーさんってあんまり笑わないよね?」
千早「そうね。思い返せば、見た事が無いわ」
春香「でもさっき、笑ってたような……」
千早「気のせいじゃないの?それより、これからどうするの春香?」
春香「んー。じゃあ折角だし、ショッピングでもしようか!」
美希「賛成なの!千早さん、覚悟してね?」
千早「え?私?」
春香「そうだよ?じゃあ、千早ちゃん改造計画開始―!」
美希「おー!」
千早「待って!引っ張らないでぇぇぇ!」
【水瀬邸】
p「お久しぶりです、総帥」
総帥「ああ、久しいな。三年振りか?」
p「ええ、その節はお世話になりました」
総帥「気にせずともよい。結果的には財閥の利益となったのだしな」
総帥「しかし、世間は狭いな。まさか娘と同じ事務所に居るとは驚いたよ」
p「彼女から何か聞いておられるので?」
総帥「あの男は一体何者なのか、といった質問を何度もされたよ」
p「それは……お手数おかけしました」
総帥「構わん。だがいつか話してやってくれると嬉しい。経歴不明の男が一緒では不安なのだろう」
p「そうですね……話すときは近いかもしれません」
総帥「まだあの事を気にしているのか?あれほどの業績を挙げたお主も、やはりまだ若いと見える」
p「お恥ずかしい限りです……いつかは、乗り越えなければならないのでしょうが……」
総帥「まあよい。辛気臭い話がしたかった訳でもないのでな。この辺でやめにしよう」
総帥「して、今日は何か用事でもあったのかね?」
p「いえ。ご挨拶に伺ったまでです。本日はこれで失礼します」
総帥「そうかね……娘を宜しく頼むよ」
p「私の出来る範囲でお力添え致しましょう。それでは」
総帥の部屋を辞し、水瀬邸を歩いていると伊織に出くわした。
怪訝そうな顔でこちらを見ている。
伊織「まさか本当に来るとは思わなかったわ」
p「嘘をついた訳ではないのでな」
伊織「あんたの事は仕事ぶりから認めているけど……やっぱりまだ信用は出来ないわ」
p「仕方無い事だな。だが、お前のプロデューサーは律子だ。さして問題あるまい」
伊織「あんたっていつもそうね。話題を逸らしてばかりいるわ」
p「貴音の言を借りれば、人には言いたくない秘密の――」
伊織「一つや百個はあるって?……もう随分一緒に仕事してきたわ。あの子達にも言えない事なの?」
p「あの子達、というのは俺の担当の事か」
伊織「ええ。私達はともかく、あの子達は信用してあげてもいいんじゃないかしら?」
p「これは……俺の欠点だ。そう易々と人に言う事は出来ん」
伊織「コンプレックスって訳?まあ、分からないでもないわ……」
伊織「でも、いつかは話してあげて。じゃないと、あの子達も可哀想だわ――特に、美希が」
p「何故美希が出てくる」
伊織「分かってない訳ないでしょ?それとも、分からない振りをしているのかしら?」
p「さてな。俺はもう行くぞ」
伊織「あ、待ちなさ……ってもう居ないわ……」
【数日後、事務所】
律子「プロデューサー、ちょっとお話が」
p「律子?どうした」
律子「今日、私は営業で竜宮に付いていられないんです。ですから、あの子達のレッスンを見てあげてくれませんか?」
p「いいぞ。俺もトリがどんなものか、見ておきたかったしな」
律子「私が言うのもなんですが、あの子達は凄いですよ」
p「そこまで言うなら期待しておこう。スタジオはどこだ?」
律子「あ、住所渡しておきますね。これです」
p「ありがとう。今からか?」
律子「はい、お願いします」
p「分かった。音無さん、少し出てきます」
小鳥「はい、分かりました。皆には自主練習って言っておきましょうか?」
p「お願いします。じゃあ行ってきます」
律子「私も行ってきますね、小鳥さん」
小鳥「行ってらっしゃい。二人とも気を付けて」
【レッスンスタジオ】
伊織「で、なんであんたがここに居るの?」
p「律子に急用が出来たのと、お前達の練習を見ておきたかったからだ、と言った筈だが」
亜美「何だかいやーなフインキだよー……」
あずさ「どうしたのかしら……」
p(再会が早かったな……別れ方が別れ方だったから、少し気まずい)
p(だが、それで練習に支障をきたしては困る)
p「伊織。今日はレッスンを見に来ただけだ。それ以上の意味はない」
p「それとも、俺に反発して無様なダンスを見せるのか?」
伊織「ふん!この伊織ちゃんがそんなヘマする訳ないでしょ!」
伊織「亜美!あずさ!こいつに練習の成果を見せつけてやるわよ!」
亜美「アイアイサー!」
あずわ「分かったわ~」
p「曲は『smoky thrill』だな」
伊織「行くわよ!」
「知らぬが~仏ほっとけない♪くぅーちびるポーカーフェーイス♪」
「yoとうだーい♪ もと暗しdo you know!?噂のファンキーガール♪」
以前よりキレのいいダンス。律子の言葉は嘘ではなかったという事か。
伊織を焚きつけたのもいい方向に働いたようだ。俺に対するあの空気は感じられない。
伊織「どう?もうかなり完成してると思うんだけど」
p「粗も目立たないし、何より三人の動きがあっているな。文句はない」
亜美「でしょー?律っちゃんキビシーんだから苦労したよー」
あずさ「あれは疲れたわねぇ」
p「あずささんはダンスが苦手だったように記憶していますが……どうやら、それも過去の事のようですね」
あずさ「いつも律子さんに怒られてましたから」
亜美「兄ちゃん兄ちゃん!亜美は?」
p「亜美も見ないうちに周りに合わせられるようになっている。成長したな」
亜美「えへへー。ありがと兄ちゃん!」
伊織「私はどうなの?」
p「流石はリーダーといったところか。お前が皆を引っ張っていることが分かるダンスだ」
p「しかし自己主張が強過ぎる訳でもない。いい塩梅だな」
伊織「やけに素直に褒めるわね……ちょっと照れるじゃない」
p「長所は素直に評価するのが俺の方針だ。短所があれば指摘もするがな」
伊織(これで他の所も素直だったらねぇ……)
p「なんだ?」
伊織「何でもないわ。後はどうするの?」
p「律子に頼まれて来たのはいいものの、正直あまり直す所が無いな」
p「変に手を加えてクオリティを下げたくもないし、今日はあと何度か通して事務所に戻るとしよう」
伊織「分かったわ。亜美、あずさ、休憩が終わったらもう一回行くわよ!」
亜美「らじゃー!」
あずさ「分かったわ、伊織ちゃん」
この後何度か通して踊り、いい時間になって事務所に帰って解散した。
もうライブまで二週間を切っている。仕上げは抜かり無くしないとな。
【数日後の日曜日】
春香「今日も始まりました!日曜午後の新発見!生っすか!?サンデー!」
千早「この番組はブーブーエス赤坂スタジオから、全国のお茶の間の皆さんにお届けしています」
千早「司会は私、如月千早と」
美希「星井美希でお送りするの!」
春香「私もいるよ!?」
美希「春香はどんどん芸人体質になっていってるの」
千早「そんな事はさておき」
春香「そんな事って!?扱いがひどいよ千早ちゃん!」
美希「話が進まないの。えーっと、いきなりだけど今日は皆に大事なお知らせがあるの!」
千早「なんと、私達765プロのオールスターライブが決定しました」
春香「日時は今日からちょうど十日後、午後三時から東京ドームシティホールで開催します!」
美希「みんな、いっぱい参加してね?」
千早「では、告知も終わったところでコーナーに移りたいと思います。最初のコーナーは――」
【スタジオ裏】
p「告知も十分出来た。後は本番を成功させるだけだな」
律子「はい。絶対成功させましょう」
p「しかし、事務所で番組を持てるのは強いな。宣伝効果も期待できる」
律子「その分、期待に答えないとなりませんけどね」
p「そうでなければ、張り合いもないだろう」
律子「そうですね」
【本番当日】
p「おかしい……律子達、もう会場入りしていなければならない時間だぞ……」
p(着信?律子か)
p「もしもし?」
律子「あ、もしもしプロデューサー」
p「律子、今どこに居るんだ?」
律子「すみません。渋滞で足止めを食ってるんです」
律子「私はどうすれば……本当にすみません……」
p「落ち着け。今お前が嘆いても仕方ない。幸い、竜宮小町はトリだ。それに間に合わせればいい」
p「それまではこちらで何とか場をつないでおく。今は帰って来る事だけを考えろ」
律子「分かりました。お願いします」
p「任せておけ。では切るぞ」
p「さて、セットリストの見直しからだな……」
【律子の車内】
伊織「あいつは何て?」
律子「今は帰ってくることだけを考えろって言われたわ」
伊織「あいつらしいわね……」
亜美「大丈夫かな……もし間に合わなかったら――」
あずさ「亜美ちゃん……今はプロデューサーさんを信じましょう?」
亜美「あずさお姉ちゃん……」
伊織「お願い……間に合って……」
律子(頼みましたよ、プロデューサー)
【会場】
p「皆、聞いてくれ。竜宮小町が渋滞で足止めを食っている」
春香「え!?ど、どうするんですか!?」
p「まずはセットリストの変更からだ。『the idolm@ster』は変更なしだが、その次に『乙女よ大志を抱け』を入れて……」
春香「分かりました!」
p「後は追って指示する。もう時間だ、準備してくれ!音無さんはサポートを!」
小鳥「わ、分かりました!」
一同「はい!」
セットリストに載っていなかった曲も水増しの為に使わなければならない。
早く来てくれ、律子……
響「次は誰の出番だ!?」
貴音「響、そんなに慌てては……」
真「おわっ!?何をするのさ響!びしょぬれじゃないか!」
響「ご、ごめんだぞ……」
貴音「二人とも、少し落ち着いた方がよろしいのでは……」
雪歩「うぅ……」
真美「ゆきぴょん、しっかりしなよ……きっと律っちゃん達もすぐに来てくれるよ」
雪歩「だといいけど……」
やよい「ただいまですー!」
春香「あ、やよい、お疲れ様」
雪歩「あ、あれ?ファスナーが上がらない……」
真美「貸してゆきぴょん!」
千早「真美、そんなに強くしたら……」
布の裂ける音がしました。
雪歩は床にへたり込んで、すすり泣いています。
ライブ、成功させられるんでしょうか……私達は……
雪歩「うぅ、こんなんじゃライブ出来ないよぉ!」
真美「ご、ごめんね?ゆきぴょん……」
やよい「雪歩さん!私繕います!」
雪歩「あ、ありがとうやよいちゃん」
響「ここにあったリボン知らないか!?」
千早「それならさっき……」
セットリストの大幅変更の所為で、皆が混乱しています。
律子さん、早く帰ってきて……
真「あ!ここのセットリスト……」
響「どうしたんだ、真?」
真「美希の出番が二連続になってて、『day of the future』の後に……」
響「『マリオネットの心』じゃないか!いくら美希でもこのダンサブルな曲は――」
p「お前達、今どうなっている?」
貴音「プロデューサー、それが……」
千早「どうも、美希の曲が二曲連続になってるみたいです」
p「不味いな……じゃあ『マリオネットの心』を飛ばして……」
美希「待って、プロデューサー。それ、ミキにやらせて」
p「しかし、これは体力的にきつい。失敗出来ないこの局面では避けたいんだ」
美希「でも、今から変更しても間に合わないでしょ?なら……ミキに任せて欲しいの」
p「――分かった。響、真。美希のサポートについてくれ」
真「わ、分かりました!」
響「了解だぞ!」
美希「いいの……?ミキ、失敗しちゃうかもしれないよ?」
p「はは、さっきの自信はどこに行ったんだ?」
p「お前に期待しているぞ、美希」
美希「……ありがと、プロデューサー」
美希(見ててね。ミキ、絶対成功させて見せるから!)
p「出番だ!ステージへ!」
三人「はい!」
p「竜宮が遅すぎるせいか……会場も沈んでいるな」
美希『やっほー!盛り上がってるぅー?』
「ワァァァ……」
美希『んー、あんまり盛り上がってないってカンジかな?』
美希『竜宮小町が居ないからって、そんなに沈んでちゃダメだよ?』
美希『それでね。実は今、竜宮小町が渋滞で会場に来れてないの』
「じゃあ、竜宮小町はでないってことか?」「なんだよそれ、期待外れだな」
美希『ブッブー!違うの!竜宮小町はちゃんと来るから安心してね』
美希『それよりも今は、ミキ達のステージで盛り上がって欲しいの!』
美希『確かに、ミキ達は竜宮小町の前座かもしれないけど……』
美希『前座で盛り上がっちゃいけないなんて決まりはないの!』
美希『じゃあ行くよー!』
『ねぇ消えてしまっても探してくれますか?』
真(美希、あんなに頑張って……)
響(自分達も、負けないように踊るさー!)
『何も出来ない……それが……マリオ、ネット』
美希(プロデューサー、見ててくれてる?ミキ、全力なんだよ?)
『ほらね、涙、一粒も出ない……心が壊れそう、だよ』
「ウォォォォ!」「キャァァァ!」「あれ誰だ?チェックしとこう」
【舞台裏】
美希「はぁ……っはぁ……」
千早「凄かったわ美希。次は私の番ね」
美希「千早、さん……」
美希が荒い息を吐きながら倒れかかってくる。
とっさに美希を抱きとめる。
美希「プロデューサー!ミキ、キラキラしてた……?」
p「見惚れそうなほど、素晴らしいステージだ。よくやったな、美希」
美希「えへへ……ありがとなの……」
p「次は千早の曲だ。少し休んでおけ」
美希「分かったの……」
そう言いながら、若干ふらつく足取りで楽屋に向かう。
成長したな、美希……
あの頃からは、とても考えられない。
【楽屋】
春香「美希、はいこれ」
美希に酸素缶を渡します。
ダンスが激しかったせいか、あの美希が肩で息をしていました。
美希「ありがとなの、春香……」
春香「美希、凄かったね。今までで一番キラキラしてたかも」
美希「すぅー、はぁー……うん、ミキもそう思うの」
美希「こうなれたのは、プロデューサーのおかげなの」
春香「美希が頑張ったからだよ」
美希「あはっ!嬉しいの!」
美希「ミキ、プロデューサーと約束したの。ライブを成功させるって」
春香「うん、見てたよ。あの時の美希、すっごく真剣だったもん」
美希「プロデューサーはミキをちゃんとアイドルにしてくれたの……やる気のなかったミキを――」
春香「ねぇ美希」
美希「なあに?春香」
春香「プロデューサーさんのこと、好き?」
美希「前と同じ質問だね、春香」
美希「でも、今日は正解。スキに……なっちゃったみたいなの」
春香「プロデューサーさんは、どうなんだろ?」
美希「分かんないの……プロデューサー、何だかその手の事は嫌いっぽいし……」
春香「あぁ……私も恋愛関係の質問、はぐらかされてばっかりかも」
p「二人とも、最後の曲だ!準備してくれ!」
春香「あ、はーい!美希、行ける?」
美希「ありがと春香。最後で失敗する訳にはいかないの」
春香「そうだね。じゃあ行こう!」
【舞台袖】
春香「みんな、いい?」
真「竜宮小町が!」
真美「来るまで!」
雪歩「私達!」
千早「歌って」
貴音「踊って」
やよい「最後まで!」
響「力いっぱい!」
美希「頑張るのー!」
春香「いくよー!765プロー!」
一同「ファイトー!」
ステージは、自分rest@rtが始まっている。
これ以上の延長は出来ない。
律子、まだなのか……?
p(着信!)
p『律子か!?』
律子『はい!今、会場入りしました!』
p『では急いで着替えてくれ!曲もあと二分で終わる!』
律子『分かりました!行くわよ皆!』
【楽屋】
p「間に合ったか」
律子「ご迷惑をおかけしました……」
伊織「今回はあんたに感謝してあげるわ。後は私達の仕事よ」
亜美「兄ちゃんごめんね?亜美達、頑張ってくるね!」
あずさ「見てて下さいねプロデューサーさん」
p「ああ、行って来い」
スタッフ「竜宮小町の皆さん、スタンバイお願いします!」
伊織「じゃあ行ってくるわ」
亜美「さーて、いっちょやりますか!」
あずさ「下手に失敗できないわね~」
【ステージ】
伊織『みんなー!お待たせー!』
亜美『竜宮小町のお通りだよー!』
あずさ『最後まで、楽しんでいって下さいね?』
「待ってましたー!」「竜宮小町サイコー!」
伊織『それじゃあ一曲目!「smoky thrill」!』
【楽屋】
千早「間に合ったようね……」
春香「うん。よかったぁ……」
真「ホントだよ……」
響「すっごく冷や冷やしたぞ……」
真美「もうこんなのはこりごりだよー……」
雪歩「確かにそうだね……」
やよい「でも、成功してよかったですー!」
美希「うん……」
貴音「美希?どうかしましたか?」
美希「な、何でもないの!ちょっと余韻に浸ってたの」
p「お前達、お疲れ様。今日はゆっくり休んでくれ」
真美「ねぇねぇ兄ちゃん。お疲れ様会とかしない?」
春香「あ、それいいかも!どうですか、プロデューサーさん!」
p「今日はやめておけ。どうしてもと言うなら後日時間を作ろう」
真「やーりぃ!さっすがプロデューサー!」
響「自分も楽しみだぞ」
雪歩「私もだよ」
やよい「うっうー!楽しみです―!」
千早「そうね……今回くらいは、はしゃいでもいいかもしれないわ」
貴音「ああ、今から楽しみです。一体何を食べましょうか……」
美希「貴音は食べ物から離れた方がいいって思うな」
p「竜宮の方も終わったようだ。全員、片付けをしてくれ」
一同「はい!」
【数日後の休日】
p「皆、ジュースは持ったか?」
小鳥「はい、皆行き渡りましたよ」
高木「では、765プロオールスターライブの成功を祝して……乾杯!」
一同「かんぱーい!」
律子「いやー、一時はどうなる事かと思いましたよ」
p「それは俺の台詞だ。まさか、初めてとはいえあんなに慌ただしくなるとはな」
小鳥「まぁまぁ。結局成功したんですからいいじゃないですか」
p「そうですね。今日は成功を祝いましょう」
律子「しかし、これで765プロの評判もうなぎ昇りですね」
高木「いやぁ、よくやってくれたねキミィ」
p「彼女達の努力あってこそです。俺はサポートしたに過ぎません」
高木「謙遜しなくていいよ。キミの企画だったんだからね」
p「ありがとうございます、社長」
春香「あ、プロデューサーさん。私クッキー焼いてきたんです。お一つどうぞ」
p「ありがとう春香」
春香から受け取り、食べる。
甘すぎず、かといって味が足りない訳でもない絶妙な美味しさだ。
p「お菓子作りは春香に負けるな」
春香「そうですか?ありがとうございます!」
さて、他の皆はどうしているだろう。
響「貴音ぇ、そんなにがっつかなくてもまだあるってば!」
貴音「響。そうやってもたついていては料理などすぐに消えてしまうのですよ」
響「それは貴音の所為だよ……」
p「お前達は相変わらずだな」
響「あ、プロデューサー!この料理、プロデューサーも作ったのか?」
p「ああ、いくつかは俺の料理だ。味はどうだ?」
貴音「真、美味でございます」
響「プロデューサーって料理も出来たんだね。ま、自分の方が完璧だけど」
p「お前は自信家だな。ま、俺の方が完璧だけど」
響「真似しないで欲しいぞ!」
p「真似をしてくれるな」
響「うぅ~、またそうやってからかう……」
しまった。妙に響は打たれ弱いんだった。
このあたりでやめておくとしよう。
一方、貴音はものすごい勢いでテーブル上の料理を胃に納めて行く。
量は十分だったはずだが……今更心配になってきた。
p「貴音、お前にだけ作ってる訳じゃないんだからな?」
貴音「存じております。しかしこの料理達の美味なること……ああ、幸せです……」
やよい「伊織ちゃん。これどーぞ!」
伊織「ありがとやよい。これはやよいが?」
やよい「そうだよ。どうかな?」
伊織「とっても美味しいわ。ウチのコックに見習わせたいくらいね」
p「伊織、楽しんでいるか?」
伊織「プロデューサー。ええ、楽しんでいるわよ」
p「よかったらこれも食べるといい」
伊織「これは?」
やよい「あー!お肉ですー!」
p「俺の作ったローストビーフだ。味は保証しよう」
伊織「あんたが……?まあ、頂くわ」
p「やよいも食べてみてくれ」
やよい「はいっ!もぐもぐ……美味しいです―!」
伊織「悔しいけど、美味しいわね……」
p「何を悔しがっているんだ」
伊織「正体不明の人間が作った料理が美味しいのが屈辱なのよ」
p「まだ根に持っているのか」
伊織「ニートに言われたくないわ」
p「いい加減時効にしてくれないか?」
伊織「あんたが経歴を言ったらやめてあげるわ」
p「そうくるか……」
伊織はまだ俺の経歴が気になるらしい。
まぁ、その理由はやよいの担当だからだろうが。
あずさ「あ、プロデューサーさん。一杯いかが?」
p「あずささん……もしや飲んでいるのでは……」
あずさ「あら~?飲み物の事ですか?」
p「酒を飲んでますね?全く……いや、今日くらいはいいのか?」
あずさ「今日は無礼講です。ささ、プロデューサーさんも駆けつけ三杯」
p「俺は遠慮しておきます」
あずさ「つれないわ~。あ、律子さんもどうですか?」
律子「私は未成年です!」
p「律子、あずささんの相手は任せた」
律子「あ、待って下さいプロデューサー!」
あずささんは絡み酒のようだ。
律子には悪いが、そもそも彼女のプロデューサーはあいつだ。
責任を持って相手を務めて貰うとしよう。
p「千早、楽しんでいるか?」
千早「プロデューサー。楽しんでいますよ」
真美「千早おねえちゃーん!ほらこれ!美味しいよー!」
千早「ありがとう真美。頂くわ」
p「以前に比べると、ずいぶん明るくなったな、千早」
千早「そうですか?だとしたらプロデューサーのお陰ですね」
亜美「兄ちゃんやるねぇ。千早お姉ちゃんすら陥落するとは!」
千早「何を馬鹿な事を言ってるの亜美。私は感謝してるだけよ」
亜美「そんなこと言ってー!笑うと可愛いんだから!」
真美「だよねー?千早お姉ちゃんはもっと笑うといいよ!」
千早「もう、真美まで……」
p「仲が良いな。今日はしっかり楽しむといい」
亜美・真美「らじゃー!」
千早は最初と比べると格段に笑うようになった。
これからは彼女も、彼女の歌も評価されていくだろう。
真「雪歩、なんでボクはこんな恰好してるのかな?」
雪歩「せっかくのお疲れ様会だもん。真ちゃんもおめかししなきゃ!」
真「だからって、何でタキシードなんだよぉ!」
雪歩「似合うからだよ?」
真「『何言ってるの?』みたいに返されても……あ、プロデューサーからも何とか言って下さいよ!」
p「諦めろ」
真「またそれですか!?いい加減ボクも泣きますよ!?」
雪歩「プロデューサー、真ちゃんにはこれが似合ってますよね?」
p「ああ、悲しい事にな」
真「うぅ、ボクの味方はどこにもいないんだ……」
p「以前ネックレスを買ってやっただろう。我慢してくれ」
真「それは嬉しいんですけど、それとこれとは違いますよ!」
雪歩「あ、そのネックレスカッコイイね、真ちゃん」
真「せめて可愛いって言ってよぉ!」
真と雪歩は平常運転のようだ。
しかし、やはりというか男装が似合う奴だな。
最近は髪も伸びて女性らしさも獲得しつつあるが。
p「美希、こんな所に居たのか」
美希「あ、プロデューサー」
p「こっちに来てくれ、今からケーキを切り分けるそうだ」
美希「分かったの!」
春香「あ、美希も来たね?じゃあ切り分けるよー!」
亜美「よ、待ってましたー!」
真美「待ちくたびれたよー!」
貴音「ああ、早く食したいです……」
響「まだ食べるつもりなのか……」
真「ケーキかぁ。久しぶりだなぁ」
雪歩「春香ちゃんが作ったの?」
春香「そうだよー?」
やよい「春香さん、凄いです―!」
千早「春香はこういうの、本当に得意ね」
伊織「いつもはドジなのにね」
あずさ「んー、いい匂いねぇ」
律子「そうだ、プロデューサー」
p「どうした律子?」
律子「今回のmvpって誰ですか?」
真「あ、それ気になります!」
響「自分も気になるぞ!」
千早「私は何となく予想がつくけど……」
春香「私も分かるかも」
亜美「もしかして亜美かも?」
真美「真美っしょー」
伊織「で、あんたは誰だと思うの?」
やよい「プロデューサー、誰なんですか?」
p「そうだな……あえて一人選ぶとすれば、美希だ」
美希「ホ、ホント?プロデューサー」
p「ああ。お前の頑張りがライブを盛り返してくれた。感謝している」
美希「嬉しいの……ありがと、『ハニー』!」
p「ハニー?どういう意味だ?」
美希「ミキ、ハニーにはホントに感謝してるの。ハニーが居なかったら、アイドルつまんないままだった」
美希「でも、ミキに教えてくれたの!頑張ればキラキラ出来るって!でね……いつの間にか、スキになってたの」
美希「だから、ハニーって呼ぶの。『ハニー』はミキのトクベツなんだよ?」
p「な――」
美希がそう言って抱きついてくる。
柔らかな感触。体温が伝わってくる。
亜美「ワーオ!ミキミキだいたーん!」
春香「ここで告白するなんてね……」
千早「でも、美希らしいと思うわ」
真美「そだねー。ミキミキ自分に正直だもんね」
真「で、プロデューサーはどうなんですか!?」
囃し立てる声が聞こえる。
瞼は見開いたまま閉じる事が出来ない。
体には心臓だけが取り残されているような気さえする。
足に力が入らない。
声は、かすれて……
p「さ――」
美希「ハニー?」
p「触るな!!」
次の瞬間、美希を振り解いていた。
さっきまで騒がしかった事務所から、音が消えた。
美希が尻もちをついたまま、「何が起こったか分からない」という目で俺を見る。
小鳥「プ、プロデューサーさん?」
雪歩「ど、どうしたんですか?」
高木「しまった……」
律子「……どういうことです?社長」
p「あ――俺は……」
美希「ハニー……どうしちゃったの?」
p「――すまない」
居たたまれなくなって事務所を飛び出す。
自分の弱さが、嫌だった。
律子「社長、説明して貰えますか?」
高木「――こうなっては仕方ないね。勝手に語る事を許してくれ、赤羽根君」
美希「あはは……ミキ、振られちゃったの」
高木「星井君、その前にちょっと話を聞いてくれないかね?」
美希「社長……?」
高木「えー、諸君らも聞いてくれ。彼に関する話だ」
貴音「それはもしや、あの方の過去に関する事でしょうか?」
高木「そうだ。いいかね?」
千早「はい、お願いします」
高木「今、彼の経歴はニートだったという事になっているね」
高木「確かにそれも事実だが、実は八年前に会社を興していて、彼はそこの社長だったんだよ」
真美「ええー!?兄ちゃんが社長!?」
亜美「驚きの新事実だよー!」
真「まさかそんな経歴だったなんて……」
響「だからいつもちょっと偉そうだったんだな……」
雪歩「い、いきなりついていけません……」
あずさ「あらあら、人は見かけによらないってことかしら?」
春香「あれ?伊織はあんまり驚かないんだね?」
伊織「お父様に挨拶に来るような奴が普通じゃない事ぐらい分かりきってたもの」
やよい「えーと……プロデューサーが社長で、でも社長が社長で……あれ?」
高木「混乱するのも分かるが落ち着いてくれたまえ。ここからが本題なんだが」
高木「彼がどうして三年前に会社を辞めたのか、という事についてなんだがね」
高木「彼は、21の頃、結婚を考えてる女性がいたらしい」
高木「その彼女が『将来、結婚しても大丈夫なのか不安だ』というものだから」
高木「彼は新しい口座に1000万ほど移して、『貯金はあるから安心して欲しい』と言ったんだそうだ」
高木「だが、彼女は大金に目が眩んで通帳と印鑑を持って消え、音信不通になったそうだ」
千早「そんな事が……」
真「許せないね……」
響「酷過ぎるぞ……」
春香「プロデューサーさん……」
高木「彼にとってはお金なんてどうでもよかったんだが、以来、彼は恋愛感情を持つ人間を信用出来なくなってしまってね」
高木「『好きという言葉が本気なのか、それとも手段なのか分からなくなったんです』と言っていたよ」
美希「ハニー……」
伊織「なるほどね……これで色々納得できたわ」
伊織「何でも出来るからって、一人で抱え込んで。もっと人を頼りなさいよ……」
あずさ「伊織ちゃん……」
亜美「いおりん、兄ちゃんの事心配なの?」
伊織「ば、馬鹿言わないでよ!私が心配なんてする筈ないでしょ!」
伊織「ただ、あいつは765プロのに必要だから、その……今まで頑張ってきたお礼と言うか……」
真美「分かりやす過ぎっしょ……」
貴音「ともあれ、プロデューサーは大丈夫なのでしょうか?」
やよい「うー、心配ですー……」
響「あれ?じゃあなんでプロデューサーはこんな女だらけの所に来たんだ?」
貴音「確かに。色恋に怯えるのであれば、ここは一番来てはならない場所なのでは?」
あずさ「そうねぇ。私とも年は近いし」
高木「そのことかい?まあ実際、彼も同じことを危惧したが」
高木「キミ達のプロフィールや人柄、事務所の活動状況を説明したらokしてくれたよ」
高木「三浦君、秋月君に関しては竜宮小町で活動しているし、中学生組は年が離れ過ぎているからね」
高木「高校生の子達も、まさか元ニートを好きにはならないだろうと言っていたよ」
雪歩「プロデューサーも自分の魅力を理解してないですよね……」
律子「あんなに仕事が出来て、自信満々で、しかも自分達を助けてくれる人が魅力無いってあり得ないわよ」
小鳥「あの、社長?私の事は何か……?」
高木「ああ、音無君は自分が相手にされないと思っていたらしい」
小鳥「ええー?そんな理由ですか?」
響「ぴよ子、積極的に行かないと婚期が」
貴音「響、世の中には言ってよい事と悪い事があるのですよ」
小鳥「貴音ちゃん、それフォローになってると思ってる?」
貴音「はい、そのつもりですが」
小鳥「あぁ……私の味方は居ないのね……」
あずさ「だ、大丈夫ですよ。小鳥さんはまだまだ若いです!」
小鳥「あずささん……」
伊織「あんた達は何をやってるのよ……」
春香「美希、大丈夫?」
美希「ありがと春香……でも、やっぱり大丈夫じゃないかも」
美希「ハニーの事はよく分かったけど……ミキが振られちゃった事に変わりはないんだよね……」
春香「んー……そうでもないんじゃない?」
美希「えっ!?どういう事、春香?」
春香「だってプロデューサーさんって、美希の事好きみたいだったし……」
真「あー、分かるかも。ライブの時、美希にだけ『期待している』なんて言ってたし」
響「そう言えば自分達はそんなこと言われたことないぞ……」
春香「言っても『頑張れよ』ぐらいだもんね」
春香「他にも、美希だけプロデューサーさんと食事してるし」
亜美「亜美達も兄ちゃんと遊んだりしたけど、あれって」
真美「うん、完全にお守りだよね」
真「やっぱりボクもお守りの対象だったのかなぁ」
真美「そうなんじゃない?お姫様路線で行きたいってのを宥めるみたいな感じだったし」
真「自信無くすなぁ……」
春香「それに、あんまり笑わないプロデューサーさんが美希に返事するときは笑ってる時あったし」
千早「そう言われると、美希には笑いかけてたような気がするわね」
春香「思い返せば、最初の営業に行ったのも美希からだし……」
美希「ホ、ホント?」
伊織「本当よ。あいつと話した時、あんたの事を意識してるか聞いたの」
伊織「その時、否定せずに『さてな』って答えたのよ」
春香「あー……恋愛の事聞いた時、バッサリ否定されたのを思い出すよ……」
あずさ「そういえば、一回怒鳴られたわね」
伊織「あの反応と比べれば、否定しないってだけで十分あんたの事が好きよ、あいつは」
美希「じゃ、じゃあミキ、振られてないの?」
雪歩「そうなんじゃないかなぁ」
亜美「ミキミキが振られるとかあり得ないよー」
真美「うんうん。ミキミキはすっごい可愛いかんね!」
高木「あー、キミ達。盛り上がってる所すまないが、事務所としてはちょっと……」
小鳥「社長は黙ってて下さい!女の子の危機なんですよ!?」
高木「そういうなら事務所の危機なんだが……」
律子「でも、どっちにしても危機じゃないですか?プロデューサーが辞めたら765プロは瓦解しますし、美希と付き合ってもスキャンダルが」
高木「あぁ……どうしてこうなってしまったんだ……」
【翌日、事務所】
事務所へ足を向けたものの、ドアを開けようとする手に力が入らない。
もし、今あいつ等に会ったら。美希に、会ったら。
どんな顔をすればいいんだろうか、俺は。
p「おはよう、ございます」
小鳥「あ、プロデューサーさん……」
p「音無さん。すみません、昨日はあんな事になってしまって」
小鳥「いえ、社長から事情も聞きました。気にしないで下さい」
p「……まあ、そうですよね。妥当な判断か」
律子「おはようございます、あ、プロデューサー来たんですね」
p「三年前みたいに放りだす訳にはいかないからな」
律子「それを聞いて安心しました……」
春香「あ、あの~。おはようございます……」
春香に続いて続々とアイドル達が顔を出してくる。
その中には美希の姿もあった。
p「お前達も事情は聞いたのか?」
真「は、はい。あの、何て言ったらいいか……」
響「えと……プロデューサー、なんくるないさー!」
p「はは……ありがとう響」
響「うう……自分じゃどうしようもないぞ……」
雪歩「あのっプロデューサー!元気出して下さい!」
やよい「そうですよ!私、難しい事は分かりませんけど、プロデューサーには元気になって欲しいです!」
あずさ「プロデューサーさん、辛いでしょうけど……」
亜美「兄ちゃん、早く元気になってよ!」
真美「真美達に何でも言ってよね!」
伊織「あの完璧超人なあんたはどこに行ったのかしら?」
春香「私、クッキーでも何でも焼いてきますから!」
千早「春香、それは違う気がするわ」
千早「コホン……プロデューサー、私達を頼って下さい」
貴音「ええ。苦楽を共にした仲間なのですから」
p「――ありがとう」
p(だが、俺はまだ……)
美希「ハニー……」
p「……美希、昨日はすまなかったな」
美希「気にしてないよ。ハニーも大変だったんだよね」
美希「でも、ミキの気持ちは変わらないの」
美希「ハニーは、ミキの事――スキ?」
p「…………俺には、無理だ」
伊織「ちょっと!まだそんな事を言うつもり!?」
美希「でこちゃん、待って。……どうして?」
p「俺には、お前が信じられないんだ。お前の気持ちが嘘に思えて仕方がないんだ……」
美希「……分かった。じゃあ、ミキが本気って事、教えてあげるの」
美希「だから、覚悟しててね、ハニー?」
p「……諦めてはくれないのか」
美希「そんなのありえないの。だって、ミキはいつでも本気だから」
p「美希……」
【翌日、事務所】
小鳥「春香ちゃん、早いのね」
春香「えへへ、今日はちょっとやりたい事があって」
今、ここには小鳥さんと私の二人しかいません。
そこへ、プロデューサーさんがやって来ました。
待ち人来たり、です。
p「おはようございます」
小鳥「おはようございます」
春香「おはようございます!プロデューサーさん」
p「ああ、おはよう」
春香「あの、プロデューサーさん。ちょっとお話が」
p「なんだ?ここでは困るのか?」
春香「あの、あんまり大声で言えるような事でもないので……」
p「そうか。なら会議室を使わせてもらうか」
【会議室】
p「で、話とは?」
春香「あの、言いにくい事なんですけど、プロデューサーさんって美希の事好き……ですよね?」
p「何故そんな話を?」
春香「いえその……もし美希を好きなら、プロデューサーさんから言ってあげてくれませんか?」
春香「美希は、本気なんです。私が口を挟む事じゃないって分かってるんですけど、それでも」
春香「それに、私の考えではプロデューサーさんも美希の事、好きな筈なんです」
p「随分と自信があるようだな」
春香「ありますよ。プロデューサーさんって普段笑わないのに、美希といる時は笑っているのに気付いてませんか?」
春香「ライブの時、何で美希にだけ『期待している』って言ったんですか?私達には『頑張れ』ぐらいだったのに」
春香「その差は、どこから来たんですか?あ、責めてる訳じゃないですよ?」
p「…………」
春香「好きなら、そう言ってあげて下さい。プロデューサーさんに辛い事があったのは知ってます。けど」
春香「告白したのにあんなのは……可哀想です……」
p「美希には、悪いと思っている」
p「だが……俺はいまだに『好き』って言葉を信じられないでいるんだ」
p「信じたら、どこかに行ってしまいそうで……」
春香「やっぱり、好きなんですね?」
p「――そうだ」
春香「なら、勇気を出してみませんか?少しづつでいいんです。少しだけ、頑張れたら」
春香「プロデューサーさんも、乗り越えられるんじゃないか……なんて、生意気ですよね」
p「いや、お前の言うとおりだろうな。俺は今、前に進むべき時かもしれない」
p「それでも。頭では分かっていても、気持ちがついて行かないんだ……」
春香「そう……ですか……」
p「……わざわざすまないな。手を煩わせた」
春香「いえ、私が勝手にした事ですから」
そう言って、プロデューサーさんは会議室を出ました。
私じゃ、説得は無理だったのかな。
でも、むやみに踏み込むのも出来ないし……
と思っていた所に、いつ来たのか雪歩と伊織が居ました。
雪歩「あ、プロデューサー。おはようございます」
伊織「おはよう。朝から何をしてたの?」
p「別段、何もしていない」
伊織「ふーん……」
春香「伊織、雪歩。おはよう」
雪歩「春香ちゃん、おはよう」
伊織「あら、春香も一緒に何かしてたの?」
春香「え!?いや、その……」
伊織「ははーん。なるほどねぇ」
雪歩「どうしたの、伊織ちゃん?」
伊織「いやね、この二人が何をしてたか想像がついたの」
雪歩「なになに?二人で何してたの?」
p「伊織」
伊織「どうしたの?何か困る事?」
p「いや……」
伊織「大方、そこのお節介な春香が美希の事で何か言ったんでしょ」
春香「いいいいや!?違うよ?」
雪歩「春香ちゃん、隠すの下手だよ……」
p「お前達には関係の無い事だ」
伊織「そんな事ないわ。私だってこの事務所に所属している一人だもの」
p「俺個人の問題だ」
伊織「そうやって、一人で抱え込もうとする……それとも、また逃げるのかしら?」
雪歩「い、伊織ちゃん、言い過ぎだよぉ」
春香「伊織、あんまり言っちゃ」
伊織「その話を持ちだした春香に言われたくないわ」
春香「うぅ……反論できない」
伊織「で、あんたは春香になんて言われたの?」
p「教える義理はない」
伊織「はぁ……もう正直に言うわ。私、二人の会話聞いてたのよ」
雪歩「ええっ!?」
春香「伊織!?」
伊織「事務所に来たら、あんたとプロデューサーが二人で会議室に行ったって小鳥から聞いたの」
伊織「このタイミングで話す事なんて美希に関する事以外ないと思ったから、無礼は承知で聞かせてもらったわ」
p「それで、さっきの会話を聞いたとして、お前は俺にどうして欲しいんだ」
伊織「出来れば前向きな答えを期待してたんだけど、あんたには無理だったみたいね」
p「それは――」
伊織「美希から逃げるつもりなの?あんたもあの子が好きなのに?」
p「聞いていたなら分かるだろう。俺には出来ない」
伊織「あんたは『前に進むべき時』と言っていたわ」
伊織「それだけ分かってれば十分じゃない。何が駄目なの?」
p「そうと分かっていても、気持ちがついて行かない……もう構わないでくれ」
伊織「……ここまで言われても駄目なんて、とんだヘタレね」
p「どう言われようと、出来ない事は出来ないんだ……俺はもう――」
雪歩「あのっ!プロデューサー!」
p「なんだ……?」
雪歩「えと、その……プロデューサーが私に言ってくれた言葉、覚えてますか?」
p「雪歩に、言った事?」
雪歩「はい。プロデューサーは、私に変わる決意をするように言ってくれました」
雪歩「『変わるなら、今じゃないとずっと弱いままだ』って」
雪歩「『逃げて変わる物なんて、ロクなものじゃない』って」
雪歩「そう言われてから、頑張りました……男の人も怖かったけど、今はちょっとだけ、大丈夫になりました」
雪歩「もう逃げないように、前を向けるようになれました……」
雪歩「だから……プロデューサーも頑張ってください!」
雪歩「こんな私でも、変われました。プロデューサーなら、絶対出来ます!」
p「雪歩……」
p「そういえば、そんなことも言ったか……」
雪歩「そうです。プロデューサーが勇気をくれたんです」
雪歩「だから、今度は私がプロデューサーに勇気をあげる番なんです」
p「……あの頃から、強くなったな、雪歩は」
p「それに比べて俺は――いや、『ネガティブシンキングをやめろ』とも言ったんだったか」
p「……すまない。目が覚めた。お前達には助けられっぱなしだな」
雪歩「いいんです、私も助けて貰いましたから。これでおあいこです」
伊織「やっといつもの覇気が戻ったわね。全く、手が掛かるんだから」
p「面目ない」
伊織「謝るのはやめなさい。あんたが謝るなんて、何だか気持ち悪いわ」
p「そうか?」
伊織「いつも自信満々なのがあんたでしょ?そんな奴が謝ってきたら調子狂うじゃない」
p「いつも自信満々か……そうだったかな」
伊織「そうよ。出来ない事は何もないと言わんばかりだったわ」
伊織「だから、この弱点も乗り越えて見せなさい。失望、させないでよね」
p「ああ、任せておけ」
p「……春香。お前も心配してくれたというのに、結局踏ん切りをつけられなかった。すまない」
春香「いいんですよ。それに、そういう時は『ありがとう』って言ってくれると嬉しいです」
p「……そうだな。心配してくれて、ありがとう」
春香「はいっ!どういたしまして!」
p「音無さんも、ご迷惑をお掛けしました」
小鳥「いえ、困った時はお互い様ですから」
小鳥「それで、プロデューサーさんはこれからどうするんですか?」
p「美希に向き合ってみます。もう、手を払い除けたりしないように」
p「勿論、まだ少し怖いですけど……」
小鳥「ふふ、その時は、皆を頼ってあげて下さいね?あ、私でもいいですよ」
p「はい。ありがとうございます」
p「ところで、ここ二日ばかり事務を全くしてませんね」
小鳥「あんな事があったんですから、仕方ないですよ」
p「じゃあ、さっと終わらせましょうか」
小鳥「はい。ふふ、やっといつも通りですね?」
p「そうですか?」
小鳥「ええ。……異常なスピードで書類が片付いて行くのもいつも通りですね」
p「何か言いました?あ、終わってないなら手伝います」
小鳥「ううっ……自信無くすのもいつも通り……」
【次の日、事務所】
真「へぇ、そんな事があったんだ」
響「自分達のいない間に解決したんだ」
千早「春香、本当にお節介焼きね」
春香「でも結局、説得したのは雪歩なんだよね」
響「それはそれで、春香らしいぞ」
春香「それって酷くない!?」
真美「あー、ひびきんの言いたい事も分かるよ。よーく分かる」
亜美「うんうん。はるるんがビシッと決めることなんてそんなに無いもんね」
春香「二人まで……いいですよーだ。どうせ春香さんは役立たずです……」
響「いじけたぞ……」
千早「春香、大丈夫よ」
春香「千早ちゃん……千早ちゃんは分かってくれるよね?」
千早「結果が実らない所も春香らしいと思うわ」
春香「酷い……」
千早「あ、その、過程が大事って言うか、ね?」
春香「『ね?』って!それフォローじゃないからね!?」
貴音「しかし、春香が最初に行動を起こしたのでしょう?ならそれは褒められる事では?」
伊織「まあ、お手柄は雪歩だけどね」
真「伊織、今それを言わなくても」
春香「ほーらそうなんだ。春香さんはいらない子なんだ……」
真「またこうなる……」
やよい「春香さんはいらない子じゃないです!」
春香「やよい……ありがとう。やよいだけが心のオアシスだよ……」
伊織「ともあれ、あいつが復活して良かったわ」
あずさ「そうね。プロデューサーさんが元気ないなんて考えられないし」
律子「経緯を考えれば仕方ないですけどね」
律子「雪歩が説得したんだっけ?凄いじゃない」
雪歩「私は、お返ししただけです。プロデューサーは、私をここまで連れてきてくれたから……」
あずさ「私も何か出来ればよかったんだけど……」
伊織「そう思うなら、今後あいつが困ったときに助けてやりなさい。私達は助けられてばかりなんだし」
あずさ「そうね、そうするわ。ありがとう、伊織ちゃん」
律子「そういえば、プロデューサーはどうしました?」
小鳥「今日の朝、美希ちゃんと一緒に早くに出掛けて行きました。もうすぐ帰ってきますよ」
p「ただいま戻りました」
美希「ただいまなの!」
律子「噂をすれば、ですね」
p「何の話だ?そうだ、お前達に大きい仕事が来ているぞ」
真「本当ですか!?いやぁ、あのライブのお陰かな?」
響「自分達頑張ったもんね」
p「そうだ。あれからオファーがひっきりなしで正直手が回らん」
律子「いい事じゃないですか。で、どんな仕事なんですか?」
p「春香、雪歩、やよいにお菓子メーカーからcmの依頼が来てる」
p「他にも、貴音にラーメンチェーン店とタイアップ企画、真と響に秘境巡りのロケ」
p「あずささんメインの番組の企画」
p「千早はレコーディング会社から新曲を貰ってきた」
p「亜美、真美、伊織はバラエティ番組の出演依頼が殺到している」
p「それと、美希は化粧品のcmだ」
p「まだ他にもあるが、それはこちらで調整が出来次第伝える」
p「言い忘れたが、春香と美希にはミュージカルの依頼も来ているぞ」
小鳥「うわぁ……早速一杯持ってきましたね」
p「はい。なので、音無さんと律子にはこれから会議室で今後の予定を調整する手伝いをして貰います」
律子「当然、そうなるわよね――はぁ、有能過ぎるのも時には考え物だわ」
p「愚痴は後だ。書類に全部目を通して貰うぞ」
律子「今日は残業かぁ……」
そう言って律子さん達は会議室に消えていきます。
ここ最近、仕事が一杯なのにまだ貰えるなんて。
以前はこんなこと、考えられなかったのに。
春香「そういえば美希、プロデューサーさんはどうだった?」
美希「どうって?」
真美「好きとか言われた!?」
亜美「ねぇねぇ、どうなのミキミキ?」
美希「そんな事は言われてないの。どうして?」
真「ま、そりゃそうだよねぇ」
響「いきなりは変わらないかぁ」
雪歩「でもでも、今日は美希ちゃんと出かけたんでしょ?なら一歩前進じゃないかな」
貴音「そうですね……あの時のプロデューサーを思えばそれでも十分でしょう」
美希「どういう事?」
千早「ちょっと春香がお節介を焼いて、プロデューサーに美希と向き合うよう言ったのよ」
伊織「まあ、春香じゃ説得しきれなかったんだけどね」
春香「それはもうやめて……」
雪歩「わ、私は春香ちゃんすごいと思うよ?」
春香「雪歩に言われても……雪歩が説得したのに……」
あずさ「まあまあ、春香ちゃん。結果オーライでしょ?」
春香「それはそうですけど……」
美希「あ、だからハニーあんな事言ったんだ」
やよい「何て言ってたんですか?」
美希「『お前を信じられるよう努力してみる。迷惑をかけたらすまない』って」
美希「ミキとの関係の話かなって思ったんだけど、すぐ挨拶回りに行っちゃって、聞くタイミングを逃したの」
伊織「相変わらず無愛想な言葉ね。あいつらしいけど」
あずさ「そうね。とてもプロデューサーさんらしいと思うわ」
貴音「それだけ調子を取り戻したという事なのでしょう」
響「それでもちょっとヘタレだぞ」
千早「今は、それがあの人の精一杯なのかも知れないわね」
やよい「プロデューサー、頑張ってるんですね。じゃあ私達も、もーっと頑張らなきゃです!」
真美「そだねー。兄ちゃんには負けてらんないっしょ!」
亜美「うん!竜宮小町もフルパワーで行くよー!」
伊織「なら、律子には今以上に働いてもらわないと駄目ね!にひひっ!」
あずさ「ええ。もちろん、私達もね」
伊織「当たり前じゃない。あんた達も頑張んなさいよ?」
春香「もちろんだよ!」
美希「ハニーのくれた仕事、手を抜く訳にはいかないの!」
【翌日、事務所】
p「美希、今日の昼どうだ?」
美希「え?」
p「いやその、一緒にご飯でも……」
美希「行くの!誘ってくれてありがと、ハニー!」
美希が抱きつこうとこちらに手を伸ばす。
俺は少しだけ、体を引いてしまった。
美希「あ――」
p「す、すまない美希」
美希「……ううん、いいの!で、どこに行くの?」
p「ああ、最近見つけたパスタの店に行こうかと」
美希「楽しみなの!じゃあ、お昼前には帰ってくるね。行ってきまーす!」
p「行ってらっしゃい」
p「ふぅ……」
昼飯に誘うのも一苦労するなんて。
いつになったらこの恐怖症も治るんだか。
小鳥「プロデューサーさん、一歩前進ってところですか?」
p「見てたんですか?」
小鳥「ええ。頑張って下さいね」
p「ありがとうございます」
やよい「おはようございます。プロデューサー、お仕事行きましょう!」
p「では、やよいの収録なので行ってきますね」
小鳥「はい、行ってらっしゃい」
p「ええ、行ってきます」
やよい「行ってきます!」
【スタジオ】
p「やよい、今日の料理は大丈夫か?」
やよい「任せて下さい!私、料理は自信ありますから!」
p「そうだったな。では行って来い」
やよい「はいっ!」
収録は少しの遅れを見せつつ、昼に近くなった。
そろそろ事務所に戻らなければならないが……やよいには少し申し訳ないな。
やよい「プロデューサー、どうしたんですか?」
p「やよいか。収録はどうだ?」
やよい「ちょっと遅れちゃってますけど、後はお弁当食べてからするみたいです」
p「そうか……」
やよい「あの、何だかそわそわしてませんか?」
p「……そう見えるか?」
やよい「何か用事があるなら言って下さい。私は大丈夫ですから」
p「やよいに見抜かれるとはな……」
やよい「何の用事なんですか?」
p「美希との食事だ。私用で現場に居ないのは、やよいに申し訳なくてな……」
やよい「駄目ですよ、約束は守らないと。私の事は気にしなくてもいいですから!」
p「ありがとう。やよいは優しいな」
やよい「えへへ……私達の事、もっと頼ってもいいんですよ?」
p「そう、だったな……じゃあ事務所へ戻る」
やよい「はい、お疲れ様でした!」
p「お疲れ様」
【事務所】
p「ただいま戻りました」
美希「ハニー遅いの!ミキ待ちくたびれちゃった」
p「美希、こんなに早くに終わったのか?」
美希「ハニーとのご飯の為なの。一発ok出してきたよ?」
p「それはまた……ありがとう」
美希「ねぇ、早くいこ?」
p「ああ、先に車に乗っておいてくれ」
美希「はーい!」
【レストラン内】
美希「どれにするか迷うの」
p「なら無難にカルボナーラでも頼めばどうだ」
美希「じゃあそうするの」
p「分かった。すみません、カルボナーラ二つ」
店員「カルボナーラ二つですね。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」
p「はい」
店員「では、しばらくお待ちください」
美希「一応確認しておくけど、これってデートだよね?」
p「……まあな」
美希「あはっ!やっとミキの事、スキになってくれた?」
p「まだ、その……」
美希「はぁ――あんまり遅いと、ミキ、どっか行っちゃうよ?」
p「え――!?」
美希「あっ……冗談なの!気にしないで?」
p「そ、そうか……」
美希の言動にいちいち心が揺れる。
まだ俺は弱いままだ、と再認識させられる。
美希「ミキはどこにも行かないから。ね?」
p「ありがとう、美希……」
店員「お待たせしました、カルボナーラです」
p「あ、すみません。こっちです」
美希「わぁ!美味しそうなの!」
p「ああ、味はいい筈だ。頂くか」
美希「頂きますなの!」
【食後、事務所】
美希「ねぇ、この後はどうするの?」
p「まだ営業が残っている。美希は午後にレッスンだったか」
美希「うん。だから少ししたら行ってくるね」
p「ああ。俺はもう出る」
美希「はーい、いってらっしゃい、ハニー」
p「行ってくる」
小鳥「ねえねえ美希ちゃん」
美希「あ、小鳥。居たの?」
小鳥「居たわよ――じゃなくて、プロデューサーさん、どうだった?」
美希「どうって?」
小鳥「それは、『好きだー!』とか?」
美希「そんな簡単にトラウマが治ったら誰も苦労しないの」
小鳥「そうだけど……美希ちゃんに正論を言われる日が来るなんて……」
美希「小鳥、ミキの事馬鹿にしてる?」
小鳥「いやっ!?そんな事ないわよ?」
美希「ならいいの」
小鳥「でもいいなぁ。プロデューサーさんが美希ちゃんのこと好きなのは確定なんでしょ?」
美希「そうかも、ってだけだよ。春香達から話を聞いただけだし」
小鳥「でも、今日はデートに行ったんでしょ?」
美希「うん。でも、ミキ的にはハニーの口から『好き』って言って貰いたいっていうか……」
小鳥「あー、そうかもしれないわね。やっぱり直接言って貰いたいわよね」
美希「まあ、ミキの気持ちは変わらないんだし、後はハニーを待つだけなの」
美希「そりゃ、早い方が嬉しいけど……」
小鳥「いいわね、好きな人がいるって」
美希「うん!あ、そういえば小鳥はどうするの?」
小鳥「え?私?」
美希「そろそろいい人でも……」
小鳥「アーアーアー聞こえな―い!」
美希「はぁ……ダメダメなの……」
【数日後、事務所】
ここ数日でプロデューサーさんが入れた仕事は、スケジュール表が真っ黒になるくらいにまで多くなりました。
それだけ売れてきた、って事だから嬉しいんですけど。
ただ、皆が事務所に集まる事はだんだん少なくなっていきました。
春香「ただいま~」
小鳥「春香ちゃん、おかえりなさい。今、お茶入れるわね」
春香「ありがとうございます、小鳥さん」
小鳥「もうすっかりみんな売れっ子ね」
春香「そうですね。以前からは考えられないです」
小鳥「そうだ、春香ちゃん。ミュージカルの方はどうなの?」
春香「美希とどっちが主役をやるのか決めてる所です。決めるのは監督なんですけど」
小鳥「どっちにしろ主役、準主役を765プロから出せるんだから凄いわね」
春香「これもプロデューサーさんのお陰ですね」
小鳥「ええ。あの人が来てから事務所全体の仕事が凄く増えたものね」
春香「はい。本当に完璧超人ってっ感じですもんね」
小鳥「助かってるのも事実なんだけど、仕事が出来過ぎて私自信無くしちゃうのよ……」
春香「そんなに早いんですか?」
小鳥「ええ。二日分の書類なら午前中に終わるわ」
春香「それって早いんですか?」
小鳥「普通は一日の書類を午後に渡って終わらせるの。だから相当早いわよ」
春香「へぇ~。プロデューサーさんって書類仕事してるのあんまり見ないのはそういう事だったんですね」
小鳥「そうよ。その分、自分の遅さが浮き彫りになるんだけど……」
春香「小鳥さんはパソコンで遊ぶのやめたらいいんじゃ……」
小鳥「うっ……言われると辛い……」
【同日、街頭テレビ近く】
真「いやぁ、今日も疲れたね雪歩」
雪歩「そうだね。最近お仕事一杯だもん」
真「今度は秘境巡りって、ボク過労死するかも」
雪歩「大丈夫だよ、真ちゃん体力あるし」
真「誉められてるんだかどうなんだか困るけど……あれ、千早じゃない?」
雪歩「あ、ホントだ。千早ちゃーん」
千早「萩原さん?それに真も」
真「千早も今帰り?お疲れ様」
千早「ええそうよ。お疲れ様二人とも」
雪歩「千早ちゃん、新曲はどうなの?」
千早「私に合ったいい曲よ。リリースも近いわ」
真「新曲かぁ。ボクらも全員で新しいの歌いたいかも」
雪歩「それいいね。また、あの時のライブみたいにやりたいなぁ」
千早「そうね……今度は竜宮小町も含めた全員で」
真「そうなったらいいね。あ、プロデューサーにお願いしてみる?」
千早「あんまりプロデューサーに負担をかけてはいけないわ。あの人は9人も受け持っているのだから」
雪歩「プロデューサー、ちゃんと休んでるのかなぁ」
真「プロデューサーが疲れてる所なんて見ないし、一体いつ休んでるんだろ?」
千早「それは私にも分からないわ。……あ、あそこを見て、二人とも」
雪歩「どうしたの?……うわぁ……」
真「なになに?……あ、あれかぁ……」
千早「美希の化粧品のcm、最近よく見かけるわね」
雪歩「美希ちゃん、綺麗……」
真「ボクもあんな風になれたらなぁ……」
千早「諦めなさい」
雪歩「諦めよ?」
真「ああ、なんか慣れてきたよ……」
千早「冗談はさておき、最近の美希はまさに破竹の勢いといった感じね」
真「冗談って……ま、美希はもともと凄かったしね。それが前のライブで一気に前に出たんじゃないかな」
雪歩「私達も頑張らないとね」
千早「えぇ、負けていられないわ」
真「美希で思い出したけど、プロデューサーとはどうなのかな?」
千早「さぁ?私はノータッチだから、何とも言えないわ」
雪歩「きっと大丈夫だよ。プロデューサー、前向きになるって言ってくれたから」
真「でも心配だよ」
千早「気長に待ちましょう。心の傷は癒えにくいものよ」
雪歩「うん……頑張って、プロデューサー」
【同日、プロデューサーと美希】
p「美希、ミュージカルの練習はどうだ?」
美希「いいカンジだよ?春香には負けられないの」
p「お前達のどちらかが主役、でなくとも準主役をやれるとは……765プロにとって、これ以上はない宣伝材料だな」
美希「――ねぇ、ハニー」
p「どうした」
美希「ハニーは、ミキに主役やって欲しい?」
p「どうだろうな……」
p「俺は、前提としてアイドル9人のプロデューサーだ。誰か1人を優遇したりは、出来ない」
p「と言っても、今更なのかもしれないがな」
美希「今更って、ミキに『期待してる』って言った事?」
p「そうだ。俺は平等に見ているつもりで、お前にだけそう言った……らしい」
美希「ミキは嬉しかったよ?」
p「ありがとう……だがやはり、春香に負けて欲しいとは思えない」
美希「そうなんだ――じゃあ、これはミキが勝手に言うね」
美希「ミキ、このミュージカル全力でやるの。主役を取って見せる」
美希「だから期待しててね、ハニー」
p「……分かった。期待しているぞ、美希」
美希「うん!」
【数日後、事務所】
p「おはようございます」
小鳥「あ、おはようございます」
p「今日はあずささんと貴音の撮影に同行する予定なんですが、二人は?」
小鳥「もう来てますよ。給湯室に居るんじゃないでしょうか」
p「分かりました」
【給湯室】
p「二人とも、もう来ていたんですね」
あずさ「あ、プロデューサーさん。今ちょうどお茶を入れた所なんです、どうですか?」
p「頂きます」
貴音「プロデューサー、おはようございます。今日は良き朝ですね」
p「おはよう貴音。しかしお前は良い朝だとラーメンを食べるのか?」
貴音「らぁめんはわたくしに欠かせないものですので」
p「しかし、朝からラーメンを食べるのは感心しない。体調不良になるぞ」
貴音「そう申されましても……」
p「食べるなとは言わないが、もう少し頻度を減らせ。どうせ昼にも食べるつもりなのだろう?」
貴音「なんと。プロデューサーは超能力者だったのですね」
p「そんなもの、お前の普段の生活を見ていれば容易に想像がつく。ラーメンは一日一食にしろ。塩分過多だ」
貴音「そんなご無体な……!」
あずさ「まあまあプロデューサーさん。貴音ちゃんも体調を崩した事はないですし……」
p「そうは言いますがあずささん。今まで無かったからこれからも大丈夫、という保証はどこにもないんですよ?」
p「むしろ、今まで一度も体調不良を起こさなかったからこそ、今までのツケが回ってそうなるかも知れません」
p「アイドルの体調管理もプロデューサーの仕事です。不安要素は取り除かねばなりません」
あずさ「ええっと、確かにおっしゃる通りなんですが……」
p「考えても見て下さい。朝にカップラーメンを食べ、昼にラーメンを食べ……こんな生活が毎日続いては、心配するなと言う方が無理でしょう?」
p「それに、一食にラーメン一杯ならまだしも、二杯も三杯も食べるのはやり過ぎというものです」
あずさ「そうですね……貴音ちゃん、もう少し量を減らしましょう?」
貴音「あずさ……貴女だけは味方だと信じておりましたのに……」
p「その言い草だと、俺が敵だと言わんばかりだな」
貴音「そうではありませんか。わたくしかららぁめんを取り上げようなど……まさに鬼畜の所業でございます!」
あずさ「貴音ちゃんもそこまで言わなくても」
貴音「そもそも、プロデューサーも正しい食生活を送っていないではありませんか」
貴音「そのような方にわたくしの食生活を指摘される謂われはございません!」
p「つまり、貴音はこう言いたいんだな。俺の心配は一個150円程度のカップ麺にすら劣ると」
貴音「それは――」
p「更に言えば、食生活の正しくない俺はお前の心配をしてはいけないんだな」
p「俺の食生活が悪いのは仕事で手が回らないからだ。それが分かっているから、時間に余裕がある時ぐらいはしっかりとした食事をして欲しいと思っているのに」
p「成程、よく分かった。俺はもう貴音の心配をしない。好きなだけラーメンを食べると良い」
p「もういっそのことラーメンにプロデューサーをやってもらえばどうだ?」
貴音「わたくしは、そこまで言ってはおりません……」
p「そうか?俺には言われたくないんだろう?」
貴音「そんな意地悪をしないで下さい……わたくしも言い過ぎました」
p「分かってくれればいい。ではこれからラーメンは一日一杯までだ」
貴音「うう……プロデューサーはいけずです……」
p「さて、丸く収まった所でそろそろ仕事に向かうとしよう」
あずさ「あの~プロデューサーさん。もしかしてさっきの全部演技なんですか?」
p「なんでですか?」
あずさ「だって、貴音ちゃんが謝ったらすぐに戻りましたし……」
p「まあそうですね。あそこまでしないと貴音は聞かないと思いましたから」
あずさ「本当に意地悪な人ですね、プロデューサーさんは」
p「貴音の体調を思っての事です」
貴音「あの、プロデューサー。先ほどの事が演技と言うのは真でしょうか?」
p「そうだが?」
貴音「なれば、わたくしはらぁめんを一日一食にしなくともよいのでは……」
p「ラーメンにプロデュースして貰いたいなら好きにしろ」
貴音「あう……一日一食でいいです……」
p「物分かりがよくて結構。では行くぞ」
小鳥(うわぁ……絶対にプロデューサーさんは敵に回さないでおこう)
【スタジオ】
カメラマン「はーいokです!いやぁ、いい写真が撮れましたよ」
p「ありがとうございます。また宜しくお願いしますね」
カメラマン「いえいえ。こちらからお願いしたいくらいですよ。ではまた!」
p「はい。お疲れ様でした」
あずさ「お疲れ様でした」
貴音「お疲れ様でした」
p「さて、撮影も終わった事だし、昼食を食べるか」
p「勿論、ラーメン以外で」
貴音「やはりらぁめんは無しなのですね……」
p「朝に食べただろう。今日の分はそれで終わりだ」
p「あずささんは何か食べたい物ありますか?」
あずさ「私はなんでもいいですよ?」
p「なら、ありがちですけどファミレスにしますか」
あずさ「はい」
貴音「らぁめん……」
p「貴音、早く来ないと昼飯すら無くなるぞ」
貴音「ああっ!どうかお待ちください!」
【ファミレス】
p「貴音、ラーメンが無いからと言って、何もうどんにする事はないだろう?」
貴音「わたくしが何を食べようとわたくしの自由です」
あずさ「すっかり拗ねちゃいましたね、貴音ちゃん」
p「もう麺類ならなんでもいいんじゃないですかね」
あずさ「それはそうとプロデューサーさん。今日は美希ちゃんと食事しなくてもよかったんですか?」
p「いきなりですね。どこで食事の話を?」
あずさ「事務所に居たら自然と……皆、二人の仲を心配してますから」
p「まあ、あの年代の子達に『恋愛に興味を持つな』とは言えませんね」
あずさ「はい。ですから、二人が何かするとすぐに話題になってますね」
p「あずささんもそういう話に興味があるんですか?」
あずさ「ありますよ?私だってまだ21ですし」
p「そういえばそうでしたね。忘れそうになりますよ」
あずさ「――そんなに老けて見えますか?」
p「まさか。美人ですよ」
あずさ「そう言って、私の事は相手にしなかったくせに」
p「それは、あのですね……」
あずさ「ふふっ……ちょっと意地悪しちゃいました」
p「心臓に悪いですよ……」
あずさ「貴音ちゃんにした分だとでも思って下さいね?」
p「しっぺ返しを食った、というところですか……」
貴音「プロデューサーがそこまで狼狽するのは珍しいですね」
p「いきなり会話に入ってくるな。……もう食べ終わったのか?」
貴音「はい。わたくしには少々量が足りないようです」
p「一人前なんだからその量で正常だ」
貴音「その話はさておき、美希とは進展していないのですか?」
p「貴音までそんな事を聞くのか?お前はこういう事に興味が無いと思っていたが」
貴音「色恋と言うよりも、友人の行く先に興味があるだけです」
p「そうか……まあ、進展なんてそれほどある訳じゃない」
あずさ「そうなんですか?てっきりもう結構進んだものかと思ってたんですが」
p「お恥ずかしい話ですが、やはりまだ恐怖心があるようです」
p「どうも、美希に会うと硬くなってしまうと言いますか……」
p「なんて、アイドルにする相談じゃないですね」
貴音「プロデューサー、言った筈です。いつでも頼って下さいと」
貴音「私達は苦楽を共にした仲でしょう?」
あずさ「そうですよ。一人で抱え込まなくてもいいんです。私達が居るんですから」
p「二人とも……ありがとう」
p「ですが、この問題は俺が解決しなければならないんです。だから気持ちだけ、受け取っておきます」
貴音「強いのか弱いのか分からない人、ですね」
あずさ「まったくね……ふふ」
【数日後、事務所】
小鳥「あら春香ちゃん。おかえりなさい」
春香「ただいま、小鳥さん」
美希「小鳥、ただいまなの」
小鳥「美希ちゃんもおかえりなさい。一緒だったの?」
春香「はい。あ、ミュージカルの主役が決まったんですよ」
美希「悔しいの……ミキ、春香には負けないって思ったんだけどな」
春香「美希、それ酷くない?私だって、やる時はやるんです!」
美希「今回は完全に負けたの……」
美希「はぁ……ハニーに合わせる顔が無いの」
小鳥「春香ちゃんになったのね。おめでとう」
春香「ありがとうございます!」
小鳥「美希ちゃんも準主役なんでしょう?凄いじゃない」
美希「ありがと小鳥……ミキが主役をやりたかったけど、春香が主役になったのも納得なの」
美希「あんなに悲しそうに演技するなんて。春香、演技上手かったんだね」
春香「うーん。私はそんなに意識してないんだけどなぁ」
美希「ハニーと約束したのに……どうしよう」
春香「プロデューサーさんと何の約束してたの?」
美希「今度のミュージカルの主役、ミキが取って見せるって約束したの」
美希「結局負けちゃったけど……しかも、特に意識してない春香に」
春香「えと……ごめんね?」
美希「謝るのはやめて欲しいの」
小鳥「まあまあ。美希ちゃんだって頑張ったんだし、プロデューサーさんも褒めてくれるわよ」
美希「褒めてくれるだけじゃ、意味ないの……」
春香「美希?どうしたの?」
美希「なんでもない。春香、主役おめでとう」
春香「へ?あ、うん。ありがと、美希」
【ある休日3】
今日はプロデューサーさんがミュージカルの主役決定を労って、遊びに連れて行ってくれるそうです。
当然美希も一緒なんですけど、これって私、お邪魔なんじゃ……
いや、嬉しいのは嬉しいんですけどね。
p「まずは春香。主役おめでとう」
春香「ありがとうございます!」
p「美希も、準主役だがしっかり頑張るんだぞ」
美希「うん……ごめんね、ハニー」
p「謝る必要はない。手を抜いた訳じゃないんだろう?」
美希「そうだけど――約束したのに、ミキ……」
p「気にするな。結果は大事だが、過程も大事だ。お前が努力したことに変わりはない」
美希「ありがと、ハニー」
美希「……じゃあ、今日は目一杯遊ぶの!どこに行くか決めてるの?」
p「お前達の行きたい所にしようかと思っていたんだが。春香はどうだ?」
春香「私ですか?うーん……じゃあ服、見に行きませんか?」
美希「それなら、ハニー、何か選んでくれる?」
p「お前達の期待に添えるか分からないが……やるだけやってみるとしよう。では行くか」
春香「はい!」
美希「レッツゴ―、なの!」
【服飾店】
p「そういえば、お前達も変装しなければならない程有名になったな」
春香「そうですね。今、変装してなかったらファンの人にもみくちゃにされちゃいますよ」
美希「だねー。でも、ミキはなんでかすぐ見つかっちゃうの」
春香「美希は変装が変装になってないからだよ」
美希「えー、そうかな?ちゃんと変装してるつもりなんだけど」
春香「むしろ新手の着こなしになってるよ……恐るべしファッションリーダー……」
p「確かに、美希の格好は『新しいファッション』って感じがするからな」
美希「褒めてくれるの?」
p「まあ、そうだ」
春香「プロデューサーさん、美希には甘いですねー?」
p「そんな事はない」
春香「いいですよー、春香さんは向こうで一人で見てきますよー」
p「機嫌を直せ。お前の服も似合っているぞ」
春香「知りません」
p「はぁ……美希、お前からも何とか言ってやってくれ」
美希「春香、ミキと一緒に見よ?」
春香「う……一緒に見るから上目遣いはやめて……」
美希「あはっ!じゃあちょっと行ってくるね、ハニー!」
p「美希、外でその呼び方は控えろ」
美希「忘れてたの」
p「それは忘れてくれるな……」
【春香・美希サイド】
美希「ねぇ春香、このスカートどうかな?」
春香「いいと思うよ?色もバッチリだね」
美希「ありがと。春香はどれにするの?」
春香「うーん、このシャツにしようかと思ってるんだけど」
美希「ミキ的には、春香ってフリルとか無い方がいいと思うな」
春香「そうかな?これ駄目?」
美希「春香は普通が一番似合うの」
春香「えー……私そんなに普通かなぁ」
美希「良い意味だよ?」
春香「どっちにしろあんまり喜べないんだけど……」
春香「そういえば美希、プロデューサーさんにあんまり構わないんだね」
美希「ミキがそうしたら春香は蚊帳の外だけどいいの?」
春香「良くない……」
美希「だからしないんだよ?っていうのは冗談で」
春香「え!?冗談なの?」
美希「うん。ハ……プロデューサーってまだ抱き付かれるのとか慣れてないから」
春香「ああ……抱き付いた時、あんなだったもんね」
美希「だから抱き付かないようにしてるの。大変なんだよ?」
春香「何が?」
美希「抑えるのが。今すぐ抱き付きたいって思うんだけど、プロデューサーの事を考えるとそれもどうかなって」
春香「美希も考えてるんだね」
美希「失礼な。ミキだって前のミキじゃないの」
春香「お仕事なかった時は寝てばっかりだったもんね」
美希「今は頑張ってるから良いの。さ、決まったならプロデューサーの所いこ?」
春香「そうだね、じゃあこれにしよう!」
美希「ザ・普通ってカンジなの」
春香「美希が言ったんでしょ!?」
【合流後】
p「買いたい物は決まったのか?」
美希「ミキはこれなの!」
春香「私はこれです」
p「成程、二人とも自分をよく分かってるな」
美希「当然なの」
春香「やっぱり、私って普通なんですね……」
p「そんな事を思っていたのか。大丈夫だ、普通には普通の良さがある」
春香「それ、褒めてるんですか?」
p「そうだが?」
春香「もういいです……お会計行ってきます」
p「会計は俺が持つ。美希も渡してくれ」
美希「ありがと、ハ……プロデューサー!」
p「ほら、春香も」
春香「お願いします……」
p「そう落ち込むな。後で良いものをやるから元気を出せ」
春香「良いもの、ですか?」
p「後でな。少し待っていろ」
【会計後、服飾店外】
p「こっちが春香の、こっちが美希のだな」
春香「ありがとうございます」
美希「買って貰えるとは思わなかったの。ありがとね」
p「まあ、ついでみたいなものだ」
春香「あのー、良いものってなんなんですか?」
p「ブローチだ。春香には鳩をモチーフにしたネックレス」
p「美希には蝶のブローチを買ってある」
春香「綺麗……本当に貰ってもいいんですか?」
p「ああ。それはご褒美みたいなものだ」
春香「ありがとうございます!」
美希「ハニーから初めてのプレゼント……大切にするね」
p「喜んで貰えたようでなによりだ。いい時間だし、これから昼食を摂るか」
春香「はい。何にしようかなぁ」
美希「おにぎりがいいの!」
そうして、休日は過ぎて行きました。
結局、美希とプロデューサーさんは手を繋いだりもしなかったけれど、美希はあれで良かったのかな?
【数日後、レコーディング現場】
p「千早、真美。陣中見舞いに来たぞ」
千早「あ、プロデューサー。お久しぶりです」
真美「おひさ―、兄ちゃん!」
p「久しいな。飲み物と菓子をスタッフに渡しておいたから、後で貰うといい」
千早「ありがとうございます」
真美「兄ちゃん、そんな事より」
p「真美が菓子をそんな事呼ばわりする日が来るとはな……」
真美「もー!真美だっていつまでも子供じゃないもん!」
p「分かったから用件を言え」
真美「そだった。あのね、ミキミキとはどうなの?」
p「結局子供じゃないか」
真美「そんな事言われてもさー、気になるじゃん?千早お姉ちゃんも気になるでしょ?」
千早「私は、この件についてはノータッチだから」
p「そうしてくれると助かる」
真美「えー!兄ちゃんは真美達の事、邪魔だって言うの?」
p「そうは言ってない。ただ、これは俺自身の問題であって」
真美「そんな事言いながらもう二週間以上経つよ?」
p「まあ、その……」
千早「真美。あんまり干渉しては駄目よ」
真美「でもでも、二人とも何にもしてないような気がするんだもん……」
千早「それは私達に見えていないだけよ。それに、そんなに早く解決する問題でもないわ」
千早「ですがプロデューサー。このままずるずると曖昧な関係を続けるを黙認する、と言う事でもありません」
p「それは分かっている。ただきっかけがどうしてもな……」
千早「次の」
p「うん?」
千早「次の告白には、ちゃんと答えて下さい。二人の為にも」
p「忠告、ありがとう。俺もその時にはちゃんと答えられるようにする」
千早「はい。そうしてあげて下さい」
真美「ミキミキ悲しませたら許さないかんね!」
p「そうはさせない……つもりだ」
真美「兄ちゃん、もっとシャキッとしてよー」
千早「先が思いやられますね」
p「面目ない……」
【数日後、プロデューサーと美希】
p「音無さんからメールか」
美希「どうしたの?」
p「ああ、美希。それが、今日は一度事務所に戻るようメールが来てな」
美希「ハニー、いつも戻ってるんじゃないの?」
p「いや、お前達全員に来ている筈だ」
美希「あ、ホントだ。大事な話ってなにかな?」
p「俺にも分からん。せめて内容ぐらい書いて欲しいものだが」
美希「きっとサプライズなんだよ。小鳥もお茶目なの」
p「お茶目よりも仕事をして欲しいんだが」
美希「それも事務所に行けば分かることだよ?」
p「はぁ……確かにその通りなんだがな。打ち合わせとかだったら、結局書類が無いと何も出来ない訳だし」
美希「そんなこと考えるより早く帰ろうよー」
p「分かったから急かすな。車に乗っていろ」
美希「はーい。ハニーも早くしてね?」
p「すぐに行く。後、外でハニー呼びはやめろ」
美希「……あはっ!」
p「誤魔化すんじゃない」
【同日、事務所】
p「ただいま戻りました」
美希「ただいまー!」
高木「これで全員揃ったね」
p「社長まで居るんですか?大事な話とは一体……」
高木「それはこれから話すよ。……ゴホン!」
高木「えー……星井美希君!」
美希「はい?」
高木「今年度、シャイニングアイドル賞新人部門、受賞おめでとう!」
真「美希、凄いよ!」
雪歩「おめでとう、美希ちゃん!」
律子「まさかここまでとはね……美希、おめでとう」
伊織「やるじゃない。褒めてあげるわ」
亜美「ミキミキおめっとー!」
あずさ「おめでとう」
貴音「おめでとうございます」
響「やっぱり美希は凄いな!」
やよい「おめでとうございますー!」
真美「ミキミキには敵いませんなー!」
春香「やったね美希!おめでとう!」
千早「美希、おめでとう」
小鳥「おめでとう、美希ちゃん」
p「おめでとう、美希。しかし、いつの間に……」
高木「つい先ほど連絡を受けてね。これは皆で祝わねばと思って音無君に召集をかけて貰った次第だよ」
p「だからあんな曖昧なメールだったんですね」
高木「そういう事だ。……さて、星井君。何か感想はあるかね?」
美希「うーん……その賞って何が凄いの?」
伊織「知らないの!?」
美希「知らないよ?」
伊織「こいつは……よくこれでトップを目指すとか言えたもんだわ」
美希「そんな事より説明して欲しいな」
p「俺から話そう。いいか、シャイニングアイドル賞新人部門というのはな」
p「新人の中で、今現在最もトップに近いアイドルに送られる賞だ」
美希「でもトップじゃないんだよね?」
p「それはそうだが……名誉な賞だぞ」
美希「よく分かんないな……そうだ、ハニーは嬉しい?」
p「無論、嬉しいに決まっている。今までの活動の成果だからな」
美希「なら、これはハニーにあげるね。あ、そうだ」
p「どうした?」
美希「ちょうどいい機会なの。ハニー、ミキのお願い、聞いてくれる?」
p「まあ、祝いの席だ。無茶なお願い以外なら構わないぞ」
美希「じゃあ、ミキの告白、今度は逃げずに答えてね?」
事務所から喧騒が無くなり、こちらに注目する視線が刺さる。
確かに、そろそろはっきりさせなければと思っていた。
今がその時という事なのだろう。
p「……分かった」
美希「ありがと」
美希が俺に向き直り、深呼吸をする。
仕事の時と、変わらない緊張感。きっと美希も、それを感じているのだろう。
……それを何度もさせてしまっているのは、申し訳ない事だ。
美希「……ミキはハニーの事がスキ。ハニーは?」
p「俺は……」
『俺も美希の事が好きだ』と。その言葉が出ない。
逃げてはならない。もう逃げないと約束もした。
だから。
p「俺も、美希の事が――」
だが、震えて、声が出ない。
あと一歩。ただ一言。
『好きだ』と言えれば。
美希「まだ、怖いの?」
p「……ああ」
美希「――ごめんね」
p「……どうして、美希が謝るんだ?」
美希「あの『約束』をミキが守れなかったから」
p「もしかして、ミュージカルの主役の事か?」
美希「うん。……ミキね、ハニーがミキの事を信じられるように、『約束』をして、それを守って、ハニーを安心させてあげたかったんだ」
だからあの時、美希は約束してきたのか。
休日にミュージカルの主役を取れなかった事を謝ってきたのも、俺の事を考えてくれていたから。
p「そこまで考えてくれていたのか……ありがとう」
美希「ううん、いいの。結局、『約束』は守れなかったし……」
p「いや、気持ちは十分に伝わったよ」
美希「でも、まだ怖いんでしょ?」
p「それは――そうだが……」
美希「じゃあ――ちょっと我慢してね?」
そう言って、俺の頭を胸に押し付けるように掻き抱く。
柔らかな感触と共に伝わる体温。
いまだにそれが――怖い。
p「美希!?放し――」
美希「待って!……少し、このままで居て」
制止する声。
引き離そうとする手を下ろした。
p「美希、どうして……」
美希「このまま、もう一つだけ、お願いを聞いて欲しいの」
p「……なんだ?」
美希「耳を澄まして。ミキの音を聞いて」
そう言いながら、頭を抱く手に力が込もる。
耳が胸に当たるように。
美希「聞こえる?」
p「……ああ」
美希「ミキはここに居るよ。どこにも行かないから。……まだ、信じられない?」
耳を傾ければ聞こえる心音。
傷付くのが怖くて、今まで人を遠ざけてきた。
自分が好きにならなければ、傷付きはしないと。
だが、もういいのではないだろうか。
こんなに思ってくれる人が居る。
信じさせてくれた人が居る。
今、確かに傍に居てくれる。
p「――ありがとう」
美希「落ち着いた?」
頭を抱く手が解かれる。
p「ああ。――思えば、助けられてばかりだな」
美希「そうかな?」
p「最初こそ、やる気も無かったが……今では、トップも目前で」
p「ライブも、成功させてくれた」
p「期待に――答えてくれた」
p「だから、いつの間にか惹かれていたんだろうな」
美希「それって――」
p「美希」
美希の言葉を遮るように名前を呼ぶ。
姿勢を正して。
美希に向き直って。
その目を見つめて。
美希「……なぁに?」
p「俺は、お前が――美希が、好きだ」
言えた。
最後の一言を。
俺の目に映った美希は、涙に溢れた笑顔で――
美希「ありがとう!ミキもスキだよっ!」
そう答えてくれたから。
俺は、やっと前に進めたんだ。
亜美「ぶーらぼー!」
……今の今まで、周りの状況をすっかり失念していた。
真美「うぅっ……真美泣いちゃいそう……」
律子「よかったわね、美希……」
小鳥「目にゴミが……」
あずさ「いいわねぇ、美希ちゃん……」
伊織「やっと告白したのね。まったく……」
真「美希、いいなぁ……」
雪歩「うん。羨ましいね……」
響「うんうん。プロデューサーはこうでなくちゃね!」
貴音「真、良き物を見させて頂きました」
春香「ふぅ~……こっちが緊張したよ……」
千早「ちゃんと約束を守ってくれましたね。プロデューサー」
やよい「はわー……ドキドキしました……」
p「しまった……なんて迂闊な……」
美希「ミキは気にしないよ?」
p「俺が気にする。ああ……こんな弱みを見せてしまうとは……」
伊織「それは今更じゃないかしら」
亜美「だよねー。最初の告白の時の兄ちゃん、すっごくカッコ悪かったよ?」
p「ぐっ……」
真「確かに、テンパって事務所を飛び出したプロデューサーって……」
響「うん。すっごくカッコ悪かったぞ」
貴音「仕方のない事です。あの時はまだ傷も癒えていなかったのですから」
あずさ「でも最後にはちゃんと『好き』って言えた事はカッコ良かったと思いますよ?」
伊織「それだって美希のお膳立てがあってこそだけどね」
雪歩「伊織ちゃん、あんまり言っちゃ駄目だよ」
春香「そうだよ伊織。最終的には告白したんだし」
千早「春香が言うと説得力があるわね」
やよい「美希さん、嬉しそうです」
真美「そりゃ嬉しいっしょ。なんたって恋が叶ったんだし!」
伊織「そういえば社長。この二人の事、今回は何も言わないのね」
高木「いやね、何と言うか……三浦君と音無君の視線が怖くてね……」
小鳥「社長。この期に及んで認めないとか言いませんよね?」
あずさ「私も、この二人の邪魔をするのは社長さんでも……」
伊織「なるほどね」
高木「この際、私も腹を括るとしよう。だが……赤羽根君!」
p「社長?」
高木「私は二人の仲についてはもう何も言わないが……キミの抱えるアイドルは1人ではないという事、ゆめゆめ忘れる事が無いように!」
高木「あと、スキャンダルにも配慮してくれたまえよ?」
p「そのあたりの事は大丈夫です。おおっぴらに付き合ったりはしませんから」
p「よしんばスキャンダルがあったとしても、こちらで揉み消しますのでご安心を」
高木「そうかね。ならば、もう私は何も言わないよ」
p「ありがとうございます」
美希「え!?ハニー、付き合ってくれないの!?」
p「付き合うというか……お前はアイドルだろう?やはり、世間体を考えるとな」
p「それに、お前を好きになったのは事実だが、だからと言って他のアイドルのプロデュースを蔑ろには出来ない。分かってくれ」
美希「――なんてね。そんなの分かってるの。でも……」
p「なんだ?」
美希「浮気しちゃ、駄目だよ?」
p「安心しろ。浮気できるような器用な性格じゃない。それに――」
美希「それに?」
p「俺が告白したのは美希だけだ。お前以上に信頼している奴なんていない」
p「だから、その……信じさせてくれて、ありがとう」
美希「……うんっ!」
――end――
以上で終わりです。
思ったより冗長になってしまったかもしれませんが、いかがだったでしょうか?
楽しんで頂けましたら幸いです。
読んで頂けた方が居るとは嬉しいです。
アニメで赤羽根pがカッコ良かったので書いてみました。
本当はコメディにするつもりが、とんだタイトル詐欺になってしまったかな、と思います。
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