【咲-saki-ss】ハギ京腐の谷 (62)
第一章『悪魔の家』
マセ・ユーコは悪に対して人一倍過敏であった…という訳ではないが、偶然にもとある悪党の陰謀を知った彼女は、早急にある人物へと向けて秘密の手紙を書く必要があった。
夜通しで書く手紙の内容は決して他人に見られてはならない。万が一見られてしまったとしても、その内容を悟られては彼女のこの告発は台無しとなるのだ。
手紙を書き終えるとユーコはこの秘密の郵便配達を、姉妹の中でも最も口が堅いヒロコ・バスガデルへと依頼することにした。彼女なら手紙を安全に届けることが出来ると絶対の信頼を寄せているのだ。
ユーコは仕事を終え安緒した、これでひとまずは安心だと。
しかし、この不気味な悪は不幸にも告発者たる彼女へとその魔の手を伸ばしたのであった。
彼女のすぐ後ろに迫った影は、ほんの瞬く間も無く彼女の口へと手を伸ばす。
由子「!?」
叫び声も上げられず、連れ去られていくユーコの耳に悪党の囁きだけが響いた…
「マセ・ユーコ…なぁ、スイリしようや…」
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メゲロック・スエハラにお昼休みは無い。
今日も今日とて、アニメイトベイカ街店の休息所の机の一角を占拠し、巷にはびこるありとあらゆる犯罪と言う名の暗闇に対して、その眩いばかりの知力の光を燦々と煌めかせているのだ。
末原「うーん…そや、漫ちゃん…奥まで据え込むんやで…」Zzz…
漫「はーい♪他のお客様の迷惑になられるので、休息所の机の上で寝ないで下さいねー」どこー!
よだれをたらしてグースカといびきを立てていたメゲロックにスズスンの容赦のないブローが炸裂し、メゲロックが飛び起きた。
末原「おぶえあ!?」
漫はメゲロックの探偵業よりはるかな手際の良さで机の上からそのグータラな住人の痕跡を消し去ると、そのすべてをすっかりデュエリストやヴァンガードファイターなどの本来の住人へと返してしまった。
末原「酷いやないかスズスン君!この世に探偵を殴る助手がおるかいな!」
漫「何が探偵ですよ!家賃払えんようになって追い出されたんは何処の誰ですか!もう探偵も廃業でしょ!」
末原「たしかに事務所は無くなったかもしれへんけど、ウチはまだ探偵やで!」
漫「そんなら、ちょっとは探偵らしい事して下さいよ!日がな一日中、寝てるか18禁コーナー物色してるかしかしてないでしょ!」
末原「うぅ…これも立派な探偵業で…」
ゆみ「メゲロック・スエハラは居るか!」
次の瞬間、来訪者の一声に店内は水を打ったように静かになる。明智ゆみは紫の長い髪をたなびかせながらメゲロックへと近づいて行った。
漫「あ、明智ゆみさん」
ゆみ「お前の事務所を訪ねたつもりだったんだが…一階のいつもの部屋を訪ねたら個室ビデオ店になっていたぞ…」
末原「あぁ…家賃払えんで追い出されたんや」
ゆみ「そうか…まぁいいメゲロック、お前に仕事を持って来てやったぞ。失せもの探しだ」
末原「失せもの?なんや、探し物なら梅田駅の地下街にでも出向いたらええやないか。ウチの仕事やないで」
漫「まぁまぁ、これで少しは探偵らしいこと出来ますよ?話だけでも聞いてみたらどうです?」
ゆみ「助手の方はものわかりが良くて助かる。まぁ雇い主がグータラだと人一倍しっかりしなければやっていけないからな」
末原「むかか…」
ゆみ「どうした?本当の事を言われて怒ってるのか?」
末原「ええで!その喧嘩買ったるわ!さぁこい明智ゆみ!その生意気な面をこの無駄にリノリウムで出来たアニメイトの床に沈めたるで!」シュッシュッ!
漫「ここではまずいのですぐ近くの喫茶店で話しませんか?」
ゆみ「はぁ…そうだな」
三人は仕事の話を進める為に、とりあえずその場を後にし、建物の向かいにある喫茶店へと移動する事にした。
末原「旨い!旨いなぁ!人のお金で食べるスパゲティの味は格別やで」
漫「言っときますけど貸してるだけですからね。後でちゃんと返して下さいよ」
末原「お金を返せなくなったウチは漫ちゃんにこの体を抵当に取られ、夜な夜な漫ちゃんに…イヤーン♪」くねりんくねくね…
漫「なるほど、内蔵とか角膜とか高く売れそうですもんね」
ゆみ「漫才もいいが、私の話も聞いてくれないだろうか…」
洋榎「ほんほん…なんやナガノにはこんなスケベな女が居るんかいな…存在感0とか謳っときながらこれじゃあステルスどすけべやな…」雑誌のグラビアよみー
ゆみ「なんでヒロエ・バスガデルがこの場に居るんだ?」
末原「ん?なんでも止むに止まれぬ事情があって家を出て来たらしいで?」
ゆみ「止むに止まれぬ事情?」
洋榎「いやぁ…事件が終わってからというもの毎日パチスロばっか行って過ごしてたら絹がぶちぎれてな、無理矢理家を追い出されて行く宛も無いからしゃあなしにここへ来たっちゅう訳や」
ゆみ「思ったより酷いな」
末原「それで、仕事の内容って何なんや?探し物とか言ったな」
洋榎「ウチらに依頼するくらいやしとんでもないもんやろうな」
ゆみ「そうだ、失せもの探し…探すもの自体は何でも無いのだが」
漫「それならなおさら何故わざわざ探偵に?」
ゆみ「無くした場所、というのが少々問題なんだ。君たちはシンドウジにある『悪魔の家』を知っているだろうか?」
末原「悪魔の家?なんやそれ」
洋榎「聞いた事あるで、なんでもシロウズ家の先々代が建てた家らしいな」
漫「それがまたなんで『悪魔の家』なんて仰々しい名前が付いてるんですかね?」
洋榎「ふふ…それがな、なんでもその家はちょっとばかし異常な作りになっとるんや」
漫「異常?」
ゆみ「先々代の当主、シロウズ伯爵はなかなかの財産家でな、その辺りではよっぽど有名だったらしい。そんなシロウズ家が先々代で身持ちを崩したのはその当時の当主である伯爵のある異常な不安からだったらしい」
ゆみ「生前、伯爵は自分は悪魔に狙われているという妄想にすっかり取り憑かれていた」
漫「悪魔?悪魔って一体?」
ゆみ「それは家族の者にも話していないのでわからないが、とにかく伯爵はその悪魔から逃れる為に自分の住む部屋を中心として延々と家を増築していった」
末原「ほえ~なるほど、やから探すのが厄介なんやな」
ゆみ「そうだ、伯爵は生前家の間取り図というものを一切残さなかったようだからな、他の家に住んでいた家族には悪魔の家のどこになにがあるのかさっぱりなんだ」
ゆみ「まぁどのくらい異常かは実際に見てくれた方が早いだろう。本来なら私に依頼があったのだが、生憎私は別件の『蒲鉾口坂の殺人事件』の方が忙しくてな」
末原「ふ~ん…あんたのお下がりかいな…まぁええで最近何も無くて退屈してたところや」
ゆみ「引き受けてくれるのか」
末原「そや!ウチが解決したる、行くでヒロエ!スズスン君!」
漫「嫌です」
末原「なんでや、さっきまではあんなに乗り気やったやないか!」
漫「あれは先輩を合法的に追い出せるからですよ。それに私はもう探偵の助手やありませんし、只のしがないアニメイトの店員です」
末原「そんな!寂しいやないかスズスン君、なんなら君を助手やのうて同じ探偵として協力してもらうから」
漫「私が…探偵?」どきどき…
末原「そや!私立探偵エロキューリ・ドエロって名前はどうや?下半身裸で前と後ろにキュウリを突っ込み、決め台詞は私のハイエロファントグリーン色の脳細胞が…」
浩子「それ以上はあかんで!」
漫「うわぁ!あなたはヒロコ・バスガデルさん」
浩子「久しぶりやな」
洋榎「なんや浩子、迎えに来てくれたんかいな」
浩子「アホ!違うわ!今日は別の用事でここまで来たんや、そのついでに末原さんに渡しとかなあかんもんがあってな…」
末原「渡したいもの?」
浩子「由子がどうしても末原さんにってこの手紙を、なんやら郵便で済ます訳にはいかへんらしいで」
末原「ふんふむ…」
漫「何て書いてあるんですか?」ひょい
『マセ・ユーコより––
ののののよ のよのよよ よのよのよ|のよよのの ののののよ
のよののの ののののよ ののよよよ のよののよ のよのよよ|よよののよ のよよよよ よのよのよ ののよよの よのよのよ
のよよのの ののよのよ|よののよの ののののよ よのよのよ
|のよののよ ののよのよ
よのよのの よのよのよ のよのよよ|ののののよ のよののよ
|よののよの ののよのよ よののよよ よのよのよ
|よのよのの ののののよ のよよのよ のよののよ
|よのよのの のよよよよ よののよよ のよののよ のよのよよ のよよよよ
頑張ってな~』
漫「ひぃぃ!?とうとうあの人『のよ』しか喋れんようになったんですか!?」
末原「違うな、これは暗号やで」
洋榎「暗号?」
ゆみ「…」
末原「見た所『の』と『よ』の二文字が使われてるな、おそらくこの二文字を使った暗号やろうな」
洋榎「なぁ、暗号はどうやって解くんや?」
浩子「ウチはそれを届けるように言われただけやしな、知らへんで」
今日はここまでです
なにか意見がありましたらどうぞ…
乙
前作のURL貼って欲しいな
のよの暗号は二銭銅貨か?
>>19
これで行けますかね?
バスガデル家の犬 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407045550/)
>>20
『南無阿弥陀仏』のやつですね
参考にしましたが二銭銅貨のより『のよ』の暗号は大分単純です
再開するのよー
ゆみ「…」
末原「見た所『の』と『よ』の二文字が使われてるな、おそらくこの二文字を使った暗号やろうな。よう見てみるとこの『のよ』五文字区切りになっとる、おそらくこの五文字内で何かを表現しとるんやろ」
洋榎「『の』と『よ』か…それで一体どうやって暗号を解くんや?」
末原「そこで二進数や」
洋榎「二進数ってあの0と1で数を表現するあれ?」
末原「そや、0と1をだけを使って一桁目に2の0乗を二桁目に2の1乗をと桁があがるたびに2の2乗を足していき様々な数字を表すんや。例えば『1101』なら1x2の0乗+0x2の1乗+1x2の2乗+1x2の3乗やから…」
漫「えっと1x2の0乗は1で0x2の1乗は0だから…答えは13ですか?」
末原「正解やで、恐らくこの五文字区切りで一つの数字を表してるんやろう、そこから数字ごとに文字をはめ込んでいく、五桁ではひらがなの48文字にはちょっと足らんから多分アルファベットやな」
洋榎「なるほど、答えが1ならA答えが2ならBとABC順に当てはめていくんか」
末原「そうやで、まずは『の』を『0』、『よ』を『1』として考えてみよう。スズスン君、紙に一行目から書き出してえな」
漫「はい、えっと…まずは『ののののよ』やから0と1にすると『00001』か…これは簡単やな計算するのは一桁目だけやから答えは『1』、アルファベットに直すと『A』ですね」
漫「一行目の『ののののよ のよのよよ よのよのよ|のよよのの ののののよ』を全部0、1に置き換えて二進数で計算すると『1、11、21、12、1』でアルファベットに対応させると『AKUMA』か」
洋榎「アクマ?よっしゃ!それらしい単語になったやん」
末原「その調子で二行目以降もたのむで」
漫「それじゃあ…これは『HAGIKYOUFU』と…」
それからかりかりと計算を進めていき、すべてを訳し終えた。
末原「訳せたものを一旦並べてみるで」
漫「アクマ、ハギキョウフ、ネラウ、イエ、ツカイ、タニ、レズ、ヨシコ…何なんでしょうね?」
末原「並び替えるんや、ハギ京腐、谷、使い、悪魔、家、狙うと…これに接続詞を付けて文書にしていくで」
末原「要約すると『ハギ京腐の谷の使いが悪魔の家を狙う、あと美子はレズ』になるな」
漫「悪魔の家?私達がこれから行く所じゃありませんか」
洋榎「ちょい待ち、それなら『悪魔の家の使いがハギ京腐の谷を狙う』とも読めるんちゃうか?」
末原「う~ん、それやと組織名としてちょっと疑問が残る、『悪魔の家の使い』という名称を使うより『シロウズ家の使い』のほうが手っ取り早いやろ?やっぱり『ハギ京腐の谷の使い』の方がより自然やと思う」
末原「いずれにしてもこの狙われた『悪魔の家』に行けばわかるやろ」
ゆみ(うーん、単語の順番がわざわざバラバラにされていたのが気になるな…)
ゆみ(それに、レズのスペルは『RESU』じゃなくて『LEZ』なのだが…)
洋榎「よし、それじゃあ早速『悪魔の家』へ行くで」
末原「そういうことや、スズスン君も支度して」
漫「はぁ…結局私も行く事になるんですね…」
三人は外へ出ると、メゲロックがどこからか自動車を持って来た。
ゆみ「ずいぶんオンボロだな、メーカーは…『TOTO』?」
洋榎「これで行くんか…」
末原「悪いな明智ゆみ、この車三人乗りなんや」
ゆみ「全然、うらやましくないが…」
自動車は四つの車輪にかろうじて箱のような座席が乗っているといった粗末なもので、ガラス窓や屋根などの仕切りも一切無く、吹きざらしとなった車内は常に向かい風に晒されるのだ。
片道4時間以上はかかる移動を、すべてこのオンボロ自動車で済ませるのである。
目的地へ着くまでの苦労を思い、漫は小さくため息を吐いた。
末原「それじゃあ出発するで」
漫「はぁ…大丈夫かな…」
漫の不安は的中する事となった。
車は目的地までまだ3分の1も行っていないところでガス欠を起こす。
末原「おろ?ガソリンが切れたかな?」
漫「うへぇ…まだ一時間も走ってないですよ」
洋榎「給油所もここらには無いで、どうするんや?」
末原「しゃーないし、飲みかけのコーヒーとタバコの吸い殻でも入れておこ…」
もう一度、車のエンジンをかけると軋むような怪しげな音を立て始めた。
末原「動いたで」
漫「マジかよ…」
結局の所、通常の倍以上の時間をかけ、やっと依頼人の元へと到着することが出来た。
昼前に出たと言うのに、辺りはすっかり日が暮れて真っ暗である。
ちなみに、車中にてエロトークですっかり意気投合したメゲロックとヒロエは、尊敬を込めてヒロエのことを主将と呼ぶ事にした…
漫「途中で車が爆発するなんて…」
洋榎「はぁはぁ…おかげで半分以上の道のりを歩かなあかんかったで。ホンマ、元パチスロニートにはキツいわ…」
末原「まぁまぁ…無事、目的地に着けたんやしええやないか」
漫「もう怒る気力もありませんよ…早く依頼人の元へ行って休ませてもらいましょう…」
依頼人の家はシンドウジの村の一番奥にある。
二階建ての大きな家で、ダークグレーの屋根と赤いレンガの壁、そこへ白い窓枠が規則的に並んでいる様は鮮やかなコントラストを感じさせ、とても『悪魔の家』と呼ばれるような仰々しい不動産の持ち主の子孫が住んでるとは思えないものであった。
漫「あの…失礼します…」
姫子「あ!もしかして、探偵さん?」
洋榎「あんた、ここの女中さんかいな?」
姫子「ばってん、ヒメコ言います、ここでメイドとして働いてるばい」
末原「ヒメコさんか…かわええなぁ…gff…」
漫「また鼻の下伸ばしてる…」
末原「ウチらはシロウズさんから依頼があってここへ来たんですよ」
姫子「そいない、とにかくあがって下さい。ご主人様も呼びますよっ」
メゲロック達が居間へと案内される。
哩「おぉ、よう来てくれたばい。私が依頼人のシロウズ・マイルやけん」
漫「あなたが依頼人ですか…」
末原「今後の参考の為、どんな些細な事でもメモを取らせてもらうで」
哩「ヒメコの他の使用人も紹介するばい」
煌「みなさま、すばらです」
末原「ほぅほぅ、すばらさんね…」カキカキ…
煌「あ、これは口癖ですので。ハナダ・キラメと申します」
末原「ややこしいなぁ」ケシケシ…
美子「庭師のヤスコウジ・ヨシコばい…あと、決してレズやなかと…」
洋榎「庭師…と、えっと…名前はヨシコ…レズっと…」カキカキ…
哩「まぁ一通り紹介ば終わったばいね」
末原「探偵はウチらだけですか?」
哩「あぁ、そうそう実は今日来て頂いた皆さんの他にも探偵を一人雇っとると」
部屋の奥より待ってましたとばかりに一人の女性が出て来た。
玄「ふふ…探偵の諸君、お初にお目にかかりますのだ。私は推理小説家のクロチャー・クイーンと申す者ですのだ」
洋榎「推理小説家?なんや探偵やあらへんやないか」
末原「ふん、実際の事件は小説みたいに上手くいかへんのやで」
玄「ちっちっ…私の推理小説で培った観察力と推理力、そのうえアチガ市警の警部、ユウチャー・クイーンを姉に持つ私がたちまちに難事件を解決してみせますのだ」
漫「ユウチャー警部の…そういえば似てるような似てないような…」
玄「今回の事件もこのクロチャー・クイーンにおまかせあれ!」どやっ
哩「いや、事件というほどではないんやけどな。探し物ばい」
玄「探し物?」
洋榎「なんや、知らんかったんかいな…」
哩「なら改めて説明させてもらうばい、私が探偵さん達に依頼したのは我が一族に伝わる家宝の水晶『八百一の瞳』を探してもらう為ばい」
玄「なんだ、探し物ですか」
煌「今日はもう遅いので皆様には明日からお願いします」
末原「せやな、お腹も減ったし」
漫「結局、あの喫茶店から何も食べてませんもんね」
姫子「そいぎ急いで夕ご飯の支度しますね」
煌「私は飲み物の準備を、紅茶でよろしいですか?」
漫「ありがとうございます」
哩「頼んだばい」
末原「ヒメコさんが料理で、キラメさんがお茶の準備ですか?」
哩「そやね、炊事に関してはヒメコとキラメで仕事はわけとる」
末原「へぇ…」メモメモ…
玄「ご飯ですか、楽しみですね」
末原「そう言えばアンタ、どんな作品を書いとるんや?代表作は?」
玄「私の代表作は何と言ってもデビュー作『Wの悲劇』です」ドヤッ
漫「ダブリューの悲劇?」
玄「ノーウェイノーウェイ!”W”と書いて”おもち”と呼びますのだ、ほらWっておっぱいに似てません?だから”おもちの悲劇”と読むのです。ふふ…自分の文才が怖いのですのだ…」
漫「はぁ…さいですか…」
末原(学級王ヤ○ザキでそんなネタあったな…)
そして、次の日の朝。
探偵達は屋敷を出て、悪魔の家へと移動する。目的の建物は村のさらに奥へと進んだ深い森の中に建っている。
悪魔の家へと着くと、メゲロック達はあまりの建物の異様さに驚愕することとなった。建物は三階建てで、同じような作りの部屋が幾つも積み重なっていて、どこを見ても似たような窓と壁が何十も連なる様はまるで九龍城を思わせた。
洋榎「ひぇ…なんやこれ、想像以上の化け物マンションやないか…」
哩「財産のほとんどをこの建物に使ったからな、部屋は全部で144室ある」
末原「ひゃくよんじゅうよん!?そんなんから探すんかいな!?」
洋榎「まぁ、手分けしてやればなんとかなるやろ」
ヒロエは懐からチョコレートを取り出す。
末原「あ!チョコレート、ずるいで主将!ウチにもちょうだい!」
メゲロックを無視して、チョコレートを口元まで持って来ると銀紙が日を受けてギラリと光った、すると辺りをたむろしていたカラスの一匹がヒロエ目掛けて突進をしてきたのだ。
洋榎「あーん…って!?ひぇぇ!!」
カラス「カァーカァー!」
ヒロエは驚いてチョコレートを空中高く放り出した。
カラスはそれをすかさず空中でキャッチすると、どこかへと飛んでいってしまったのだ。
洋榎「ウチのチョコレート返せえ!!」
哩「言い忘れとったけど、ここらのカラスは凶暴で光るもんなら何でも襲って持ってってしまうから気いつけるばい」
洋榎「はよ言ってえな…」しょぼん…
玄「兎に角悪魔の家へ入りますのだ」
メゲロック達は悪魔の家の中へ入っていく。
玄「中はごちゃごちゃしてますね」
末原「部屋の広さはおよそ5m半くらいで長方形になっとるな天井もむちゃ高いなぁ3mはあるんちゃう?」カキカキ…
漫「こんな部屋が144室も…」
洋榎「みんなで手分けして探せばいずれ見つかるやろ」
哩「それが、そうおちおちもしてられんばい」
末原「なんで?」
哩「この屋敷は三日後には人手に渡る事になっとるさかい、はよ探さんといかんばい」
玄「はわわ、それは大変すぐに探さないと」
哩「まぁ、見つからんかったら次の持ち主に頼んで、見つけ次第連絡してくれるよう頼んどる。大丈夫ばい」
漫「それならいいんですが…」
末原「よし、それじゃあスズスン君が隣の部屋、主将は向こう、シロウズさんは上の、キラメさんは正面の、ウチとヒメコちゃんはあっちの部屋でにゃんにゃんしようか」
漫「ちょ、何さらりとセクハラ&さぼってるんですか!先輩もちゃんと探して下さいよ」
末原「はいはい…」
姫子「あはは…」
それからちょうど正午まで、家宝探しは続いた。
哩「ふぅ…この辺で一旦切り上げてお昼にするばい」
姫子「ですね」
洋榎「作りかけのガンプラ、値札の貼った瀬戸物の湯のみ、万博のポストカード…ホンマガラクタばっかりやな…」
末原「ん?この古臭い木箱は?なんや、亀の甲羅を縄で縛ったみたいな絵がついとるで」
哩「おぉ!これはまさしく我がシロウズ家の家紋!」
漫「ずいぶんけったいな家紋ですね…」
洋榎「お?なんやもう見つかったんかいな」
末原「なんや、水晶にしてはえらい軽いで…開けてみよ」
哩「これは水晶やのうて古文書みたいやね」
玄「何か手がかりが書いてあるかもしれませんのだ、帰って検証しましょう」
悪魔の家での捜査を一旦打ち切り、シロウズの屋敷へと帰宅する。
マイルは居間に探偵を集め、木箱に入った古文書をテーブルの上に広げてみせた。
古文書は年季が入ってボロボロであり、時々文字がつぶれてしまう程黄ばんでいたのが、なんとか全文を読む事が出来た。
『八百一の水晶の光、天地をあまねく照らすものなり––
その光の栄光、授かりたもうれば我がシロウズ家の屋根上の風見鶏にはめ込めよ––』
哩「ふむふむ…なるほど…まさかあの水晶にそんな秘密が…」
洋榎「風見鶏って、この家の一番高い場所にあるあれか?」
哩「多分そうやな、ご先祖様は恐らく水晶に何かの仕掛けを隠しとるんやろな」
玄「ほほう、それは何なのですのだ?」
哩「う~ん…わからん、とにかく肝心の水晶が無い事には…」
ピンポーン!
「シロウズさ~ん、郵便やで~ヒヒヒ~」
煌「私が行ってきますね」
哩「あぁ…」
末原「それにしてもみんなで手分けして探してもまだ4部屋も探せてない…このままやと三日経ってまうで」
漫「古文書にもヒントらしきものはありませんしね…」
玄「とにかく今ある情報を整理しましょう、シロウズさん悪魔の家の見取り図か何かありますか?」
哩「確か数ヶ月前に私が書いた見取り図ならあるばい、ヒメコ」
姫子「はい、ご主人様」
末原「ふむふむ、ウチらが探してたんはここやね…」
洋榎「うわぁ、まだまだ探しとらん部屋が一杯あるな」
漫「部屋の特徴はすべて同じ縦4m、横5m半で天井の高さも3mで統一してました」
末原「気になったのは天井の照明やな…数も形もてんでバラバラやし、時々鳥や花、弓やおまけにダーツの的みたいな絵が描いてあるのもあるで」
漫「何も描いてない部屋もありましたね」
哩「もしかしたらそこに何かヒントがあるかもしれんな…」
突如、玄関の方から『すばらっ!』という悲鳴と共に破裂音が鳴る。
一同は、話し合いを一旦中断して急いで玄関に駆け込んだ。
煌「すば…らっ…」ぷすぷす…
哩「ハナダ!?」
洋榎「なんや!?どうしたんや!?」
煌「うぅ…とどけられた荷物の中身をチェックしようとしたら…急に爆発して…」
玄「何が起こってますのだ!?」
末原「もしかすると…スズスン君」
漫「えぇ、例のハギ京腐の使いですか」
哩「どういうことや?」
漫「すみません、こちらの判断で伏せてましたが実はここへ来る前、とある人物から『ハギ京腐の使いが悪魔の家を狙っている』との情報を受け取っていたんです」
末原「悪戯に不安にさせるだけやから黙っとったんやけど…裏目に出てもうたみたいやな…」
哩「は、ハギ京腐!?どういう連中ばい!?」
洋榎「正体は我々にもわからへん、やけどどうやら過激で危ない連中っちゅうことはさっきの爆弾事件で明らかやな」
末原「おそらくは家宝の八百一の瞳が目的やろな」
玄「あわわ…わ、私達はそんな恐ろしい連中に目を付けられたのですか!?」ガタガタ…
姫子「とにかく、ハナダを病院まで連れて行ってきます」
美子「私も着いてくばい、シロウズさんは一刻も早く家宝を見つけてください」
哩「あぁ、ヒメコ、ヨシコ…頼む…」
数時間後、家宝の捜索が再開される。
末原「ウチは今度は家の中を探索するわ、何か持ち主の残したヒントみたいなものがあるかもわからへん」
漫「私はこの見取り図のコピーに部屋の特徴をメモしていきます」
洋榎「それじゃあウチらは一部屋づつ地道に探していくか」
哩「そうやね」
玄「あわわ…怖いよ…お姉ちゃん…」ガクガク…
漫「この人どうするんですかね…何なら、屋敷の方へ帰ってもらっても」
洋榎「一人は怖いんやと…」
哩「すまんけど私はこれから客人に会わなあかんと、少し抜けさせてもらうばい」
洋榎「客人?」
哩「この家の買い手やけん、なんでも今日下見に来るとか」
末原「こんなけったいな家買う奴なんてどんな変人やろか?ちょっと興味あるな」
ピンポーン!
「ヒヒヒ~参ったで~」
哩「おっ、来たばい」
郁乃「こんばんは~21世紀の山中伸弥ことイクノ・モリアーティー教授やで~」
末原「げげっ!?モリアーティー!?」
漫「山中教授は21世紀の人ですよ…」
郁乃「なんや、スエちゃんも来とったんかいな~偶然やな~運命を感じるで~」
末原「私は感じとうないけどな」
洋榎「前の事件でヒロコが連れて来た怪しさMAXのおばさんやないか」
郁乃「酷いな~怪しさMAXやなんて~いくのんはいつでも正々堂々の清純派やで~」
漫「相変わらず先輩と同じくらい意味がわかりませんね」
末原「ほんで、何の企みがあってこの家を購入するんや?」
郁乃「企みやなんてとんでもない、いくのんは只一人のリケジョとしてこの数学的に素晴らしい建物を気に入っただけやもん~」
哩「まぁまぁ、そんな喧嘩腰にならんでも…お茶でもどうです…と言いたい所やけんどもハナダは今病院やからな…」
郁乃「ええで、気にせんでも。いくのんはこのすばらな家を眺めに来ただけやからな~」
哩「そうか」
末原(すばら…?)
郁乃「ほな、眺めさせてもらうで~」
哩「ゆっくりしてくばい」
しばらく家の内外を眺めると、満足したのか一時間もしないうちに帰っていった。
末原「怪しいな…」
洋榎「あのおばはんなら水晶を見つけてもそのままネコババしそうやな」
漫「やっぱり、売るのやめるっていうのは…」
哩「そげんあんな前衛的な家、他に買い手が無か」
末原「まぁ、うちらがその前に見つけたらええだけや」
玄「そうですよ!私達にかかれば朝飯前なのです」どやっ
洋榎「なんや、さっきまでガタガタ震えとったやないかアンタ」
玄「あれは武者震いです!訂正をば」
洋榎「さいでっか…」あきれ…
その後、捜索は夜遅くまで続いたが一向に成果は出なかった。
洋榎「アカン…ホンマ、ガラクタばっかやわ…」
玄「むむ…これは難事件ですね」
哩「メゲロックさんは何かわかったと?」
末原「う~ん…まぁ、仮説やけどな。たぶんこれちゅう考えが浮かんだわ」
漫「とにかくそれにしてもこの見取り図を完成させないことにはどうしようもないですしね」
哩「なんや、教えてくれんのか…」
末原「明日、見取り図が出来たら教えるで」
洋榎「まぁええで、もうくたくたやし早よ休も…」
次の日の朝…
カァーカァー
洋榎「はぁ…朝からあの忌々しいカラスの声で目を覚まさなあかんのかい…しんどいで…」
哩「しゃーなか、ここら辺異様にカラスが多いっちゃ」
姫子「大変ですよ!」
哩「どうしたんやヒメコ?」
姫子「それが、今朝ポストに変な手紙が…」
末原「変な手紙?」
すいしょうは、このはぎきょうふのつかいがうばわせていただきます。ばかなたんていどもよらくらくいただきますよ。このわたくしたちにできないことはありません。だからあきらめてすなおにわたしなさい。
はぎきょうふのつかいより ここまで縮小
洋榎「ハギ京腐!?もしかして昨日の爆弾魔」
漫「やっぱり、あの手紙の内容は本当だったんですね」
今日はここまで
次回で第一章は終わらせたいです
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