バスガデル家の犬 (80)
バスガデルデー…
モウジキ バスガデルデー…
人気の無い夜の荒野に、得体の知れない獣の鳴き声が響く…
このセンリヤマの地に住む人々にとって、この地獄の魔獣の呼び声は、おぞましい恐怖とこの地に伝わる伝説を思い起こさせる、悪夢の汽笛であった…
そう、もうすぐこの地で起こる恐るべき事件の前触れでもあるのだ…
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メゲロック・スエハラの朝は早い。
今日も、事務所の椅子に腰掛け、遠くより取り寄せた『ナガノ・タイムズ』の隅から隅まで目を通し、何か犯罪の匂いは無いかと目を見張っている。
末原「なんや、ナガノにはこんな格好のナオンがおるんか、水着のほうがはるかに隠せてるやないか、もはや三流新聞のスケベ広告欄やな…」
漫「ふぁ~あ、なんや起きてたんですか…」
末原「当たり前や、一流の探偵たるもの、犯罪は無いかと朝はようから夜おそうまで隈無く目を光らせなあかんからな」
漫「はぁ…普段からそんだけ探偵稼業に精を出してたら、こんなボロアパートに事務所構えんでもええんちゃいますか?」
末原「性はいっぱい出してるんやけどなぁ…」
漫「うるさいですよ…」
末原「そや!漫ちゃん、いや、スズスン君、キミを試す為に一つ推理問題を出そうやないか」
漫「いいですよ、ウチも助手として最近、メキメキと実力を伸ばしてきましたからね」
末原「なら…ほれ、窓を見てみい紳士が傘を持って出掛けてるで、こんなカラッカラの天気やのに」
漫「ホンマですね…日傘やちゃいますか?」
末原「う~ん、普通は男性が日傘さすなんて考えは自然やないな…」
漫「それじゃあ、天気予報で午後から雨とかなんとちゃいますか?」
末原「ふふ…ところが今日、明日は快晴やってテレビで良純が言っとったで、でもあの傘が日傘やのうて普通の傘なんは正解や」
漫「それなら一体…」
末原「よお見てみ、あの男目にクマが出来とる、ようは徹夜やな。それも昨日の夜辺りから朝まで、昨日の夜は突然の土砂降りやったからな。バーで飲んできたにしては酒は入ってなさそう…となるここら辺で徹夜言うたら近くの雀荘での徹マンやな」
漫「な、なるほど」
末原「それにほら、なかなかの身なりやのに行商が売ってるジュースを断った。こんな朝から暑い日やったらジュースの一つでも欲しいなる。それやのに買わへんってことは麻雀に負けて素寒貧ってとこやな…」
漫「すごい!すごい!さすが先輩ですね!」
末原「ふふ…まぁ探偵たるもの、一つの事柄から十以上を推理するのは当然や。例えば気の強い女はアナルが弱いとか、美子はレズとか…」
漫「その二つはどうかと思いますけど…とにかくすごいですね、見直しました」
末原「せやろ?さすがやろ?」
漫(あ、駄目だ…この人ちょっと褒めるとすぐ調子のってチョンボするんだった…)
末原「ふふん♪次はあの女の子の正体やな…」
漫「う~ん、なんか急いでるようですね…服装もみすぼらしいし…」
末原「見たところなんやここら辺の地理にあんまり詳しくないようや…普段はあまり外をであるかん、かといってあの格好から箱入り娘という感じでもないな…」
末原「おそらくは住み込みの家政婦って線やろうな…」
漫「あ!あの娘、ウチらの探偵事務所に入ってきますよ?」
メゲロックの探偵事務所はアパートの一階に構えている。ちなみに二階はアニメイトで、大抵の来客は一階を素通りしてそのまま二階に上がってしまう。しかし、今回はその悲しい法則を破り一階のメゲロック探偵事務所のドアを叩く音が聞こえた。
漫「どうぞ、入って下さい」
咲「し、失礼します…」
咲「あ、あの…探偵事務所ってここですか…?」
漫「あの…つかぬことお聞きしたいんですが…もしかして何処かのお屋敷で働く住み込みのメイドさんやとか…」
咲「え?そうですよ、よくわかりましたね…」
漫「当たってる…いえ、こちらのことなんですけどね…まずはそこのソファーに腰掛けてもらって、今お茶を用意しますし」
咲「あ、ありがとうございます」
このお忍びで来たメイドの前にお茶が出される。
漫「それで、本日はどういったご要望で?」
咲「実は…メゲロックさんに依頼したいことがございまして…」
末原「うち!?う、う、うちはメゲロック・スエハラ探偵さ…」カタカタカタカタ…
漫(ちょっと!?どうしたんですか?)
末原(あかん!めっちゃ好みやこの娘、めっちゃカタカタするで!)
漫(はぁ…依頼人に恋なんて…)
末原(うるさい!カタカタから始まる恋もあるんや!)
咲「あ、あの…」
末原「はい!ぜひ!ぜひ!ぜひ!引き受けさせて頂きます!!」
咲「いえ…まだ何も…」
漫「先輩…とにかく話を聞きましょうよ…」
咲「はぁ…紹介が遅れてすみません、私はミヤナガ・サキと申します、センリヤマにあるバスガデル家に住み込みのメイドとして働いています」
漫「バスガデル家…それなら聞いた事ありますよ。センリヤマでも有数の大金持ちじゃないですか」
末原「咲ちゃんはどんな音楽が好み?好きな上がり牌は?得意な体位は?」
漫「ちょっと黙っててくれますか…」
咲「はい…私が以来したいのはバスガデル家の後継者争いについてです…」
漫「後継者…それがウチの探偵業となにか関係が…」
咲「バスガデル家の犬の伝説はご存知ですか?」
末原「バスガデル家の犬?聞いた事無いなぁ…」
ミヤナガ・サキの口からその『バスガデル家の犬』の伝説の内容が語られる…
話は初代マサエ・バスガデル卿から始まる。マサエ卿には大層可愛がっていた愛犬セーラという犬が居た、マサエ卿とセーラは周囲にも大変知られているほど仲が良かったのだ。
マサエ卿はセーラを実の家族以上に愛していた、セーラもご主人様であるマサエ卿の命令に忠実なとても賢い犬であった。
そんなある時、唐突に二人に別れが訪れる。マサエ卿は戦争に行くこととなりバスガデル家を離れなければならなくなった。その際、愛犬セーラには必ず帰って来るからバスガデル家近く駅前で待っているように言う。
しかし、その言葉は叶わなくなってしまった、マサエ卿は激しさを増す戦場で儚くも命を落としてしまったのだ。
バスガデル家にマサエ卿が戦場で死んだと電報が届く、しかしセーラはそれを聞き入れず、いつまでもバスガデル家近くの駅で主人が帰るのを待ち続けた…
雨の日も、猛暑の日も、雪の日も、たとえ嵐がこようとも毎日欠かさず待ち続けた…
そのうち、幾月の年月が流れとうとうセーラに寿命が訪れる、その命の尽きる最後のひと時までもセーラは主人の帰りを信じて待ち続けたのだ。
やがて、その健気な姿にうたれた周囲の人々はそのセーラの主人を思う心を讃え、その場所に忠犬セーラ公の像と小さなセーラとマサエ卿の像を作った、今でもバスガデル家の近くの駅前にはセーラの像が主人を待ち続けて居るという…
咲「これが『バスガデル家の犬』の伝説のすべてです…」
漫「それが…探偵と何の関係が…」
咲「お願いです!『セーラとマサエ卿の像』を見つけ出して下さい!!」
末原「わわ!ど、どういうことなんですか?」
咲「あ、ごめんなさい…実は先々日、バスガデル家の当主がお亡くなりになりまして…それで早急に跡継ぎを決める事となりました、先代のバスガデル様は地元の様々な公共事業に多額のお金を寄付してますし、バスガデル様が死んでその公共事業も滞っているのです」
漫「それは、なら早く跡継ぎを決めて事業を再開せえへんと…」
咲「跡継ぎの候補には三人居ります。まず、長女のヒロエお嬢様、そして次女のヒロコお嬢様、そして三女で私が使えていますキヌエお嬢様です…」
咲「ヒロエ様とヒロコ様は大変仲が悪く、自分こそが跡継ぎだと毎日言い争いをする始末…心優しいキヌエ様は大層胸を痛めているんです…」
末原「そいつはヘビーやな…」
咲「バスガデル様は遺言に『セーラとマサエ卿の像』を持つものに跡継ぎを任せるとおっしゃられました。ヒロエ様とヒロコ様はその言葉を信じて、それぞれ探偵を雇って屋敷中を探させております。」
末原「なるほど…それでウチらにもその像を探せってわけやな」
咲「はい!お願いします!キヌエ様はこれ以上、肉親同士で争う光景を見せて悲しませたくないんです!『セーラとマサエ卿の像』さえあれば…こんな馬鹿げた跡継ぎ争いを止められるんです!」
末原「わかったで!その依頼引き受けよう!」
咲「本当ですか!」ぱぁ!
漫「では早速…」
末原「まぁ待って…ちょびっと用意するもんもあるさかい、サキちゃんはウチらに地図だけ渡して先に屋敷に戻ってくれんか?何、すぐそっちへと向かうさかい」
咲「わかりました、私も仕事をほっぽり出してこっそりここまで来ましたし…それではお願いします」
末原「任せとき!この名探偵メゲロック・スエハラがまるっと事件を解決したるで!」
咲「ありがとうございます!」
漫「ホンマに大丈夫かなぁ…」
こうして、メゲロック達はバスガデル家の骨肉を争う跡継ぎ争いに巻き込まれることになったのだ…
数時間後…ミヤナガ・サキが先に屋敷へ帰ったのを見計らったメゲロックは、事務所の万年床の下から、滅多に使わない探偵帽とパイプを探り出した。
サキが言った他の探偵というのが気になったメゲロック、自身も少しでも探偵らしい格好をして行きたかったのだろう。
一通り準備が終わると、二人はベイカー街の駅よりJR新快速に乗り、センリヤマへと向かう。
末原「ふふ…サキちゃん…待っててや…」gff…
漫「はぁ…しっかりしてくださいよ…」
末原「まぁ、サキちゃんのことは置いといて、この事件…どうやら跡継ぎ争い以外の何かも潜んでそうやな…」
漫「跡継ぎ争い以外の何かですか?」
末原「そや、ウチはこの事件の裏でとんでもない奴が糸を引いてると考えてる…」
漫「とんでもない奴…」ごくり…
末原(gff…しょうもない跡継ぎ争いだけやったらサキちゃんにええとこ見せられんからなぁ…バイオレンスなスペクタクルでサキちゃんを救い、見事ハートキャッチ!幸せゲットやで!)
「相変わらずの間抜け面だなぁ…メゲロック・スエハラ…」
末原「む!その妙にむかつく声は明智ゆみ!」
ゆみ「ふふ…その間抜け面に間抜けな帽子とパイプ…お似合いだな…ピクニックにでも出掛けるのか?」
末原「いやぁ…それほどでも//」てれてれ
漫「馬鹿にされてるんですよ…」
末原「そや!うちらはピクニックへ行くんとちゃうんや!バスガデル家の像を探すよう依頼されたんや!」
ゆみ「ほぅ…お前もか…私もヒロエ・バスガデルから依頼されてね…」
末原「なんやアンタもかいな」
ゆみ「なるほど…お前がヒロコ・バスガデルに雇われた探偵か…」
末原「ウチはサキちゃんとキヌエ・バスガデルさんから雇われたんやで」
ゆみ「まぁいい…もうそろそろ着いたみたいだ…この続きはバスガデル家の屋敷でしよう…」
明智ゆみとメゲロック達は、センリヤマ駅で一旦別れた。お互いライバル同士、出来るだけ互いの手の内を見せたくないのだろう。
メゲロック達は目的の地へと到着する。たしかにセンリヤマは何も無いところであった、見渡す限りの荒野と少しの森林、人も農家の人と羊飼いがぽつぽつと居るだけである。そのセンリヤマでも一際寂しい場所にバスガデル家の屋敷は建っていた。
末原「邪魔するで、ここがバスガデル家か…」
漫「失礼します…」
咲「お待ちしておりましたメゲロックさん、スズスンさん」
みなも「ましたのだ」
咲「こちらが私の妹のミナモです」
末原「この子がサキちゃんの…こんにちは義妹ちゃん、ほれ、たべっこどうぶついるか?ラクダは最後に食べるって決めてるさかい、それ以外なら何食べてもええで」
みなも「わーい!ありがとうございますなのだ」もぐもぐ
絹恵「アンタらがサキちゃんの言ってた、ようこそバスガデル家へ…ごめんな、こんな醜い争いに巻き込んでしもうて…」
漫「いえいえ、これも仕事ですから」
絹恵「他にも紹介するわ、昨日からウチで働いてもらってる庭師のマセ・ユーコやで」
由子「私は庭師なのよー」
絹恵「お姉ちゃん達も居るはずやけど…」
浩子「来たんか…ふん!私は遺産なんて全然入りませんみたいな顔して、やっぱり跡継ぎを狙っとったんやなキヌ」
絹恵「そんな…ウチは…」
咲「キヌエお嬢様…」
末原「何や!偉そうに!誰や!」
浩子「ウチはそこの腹黒の姉のヒロコ・バスガデルや。みんなはフナQって呼んでるさかい、アンタらも気軽にフナQって呼んでええで」
末原「名前のどこにフナQ要素があるんか知らんけどわかったで」
「あ~あ、自分が『セーラとマサエ卿の像』を見つけられへんからって妹に当たるなんて、全く醜いったらあらへんな~」
浩子「ふん!見つけられへんのはアンタもやろ!ヨウエノキ!」
洋榎「ヒロエや!実の姉に変な呼び方すんなや!それにウチは立派な探偵を雇ったさかいもう大丈夫やで!」
そう言うと奥の方から探偵が現れる、先ほど別れた明智ゆみだ。
ゆみ「任せてくれ、必ずやバスガデル像を見つけ出してみせましょう…」
咲(きゅん!何この人カッコいいよぉ//)
末原「出たな紫髪…」
ゆみ「お前も紫髪だろ…」
咲(同じ探偵ならゆみさんの方に頼むんだった…)しょぼん…
浩子「ふん!それならウチかて頼りになる探偵を雇っとるんやで!」
洋榎「探偵?」
「さ~て問題やで~上は大火事、下は洪水、す~えちゃん~」
末原「さて、漫ちゃんに応用編や、この声の主を推理してみ」
漫「はぁ…解りたくもありませんけど、この先輩と同じくらいくだらない下ネタは…あの人ですね…」
郁乃「そや!ヒメマツが産んだ21世紀のアインシュタインこと、イクノ・モリアーティー教授やで~」
憩「私もいますよーぅ」
洋榎「あんたはおとんの主治医のアラカワ・ケイ…いや、ウチのおとんに引導を渡したゲス!」
憩「そんなー、ゲスだなんて人聞きが悪いですよーぅ」
洋榎「なんやおとんの病名!『突発性一発ギャグ発作病』って!?明らかにおかしいやろ!」
憩「最近発見された新しい病気ですからね、まだ世間では知られてないだけですよーぅ」
浩子「まぁ、そのことは今はええやん、それより速いこと跡継ぎを決めんと…」
郁乃「そうやで~ウチらが組めば怖いもんなしやな~」
憩「最強のタッグですよーぅ」
漫「エド・ゲインとヨーゼフ・メンゲレの悪夢のタッグですね、わかります」
咲「み、みなさん、長旅で疲れたでしょう?夕食にしませんか?」
末原「お!それはええなぁ、ウチはもうお腹ペコペコのペコちゃんやで」
ゆみ「そうだな…夕食の席でバスガデル像についての詳しい話も聞きたいからな…」
メゲロック達は食事を取る事にした、メイドのサキの案内で一行は食堂へ入る。
咲「ささ、こちらが食堂です」
ゆみ「壁にかかっている絵画は…?」
咲「はい、歴代の当主の絵画です//真ん中の一番目立つのが初代マサエ・バスガデル様とその愛犬セーラです」
ゆみ「なるほど…」ふんふむ…
末原「食事やて、楽しみやなスズスン君」
漫「ですね…お昼もマクドの揚げたお芋さんを二人で分け合っただけですもんね」
洋榎「今、お芋さん全品150円やもんな」
メイドのサキとミナモ、そして庭師のユーコ以外がテーブルにつく、そこには様々なごちそうが用意してあった。
ゆみ「それで…跡継ぎの話だが、この家は一体いくらくらいの財産があるんだ?」
洋榎「せやな…とりあえず銀行に預けとるんだけでも百数億くらい、この家の土地や家具なんかも合わせるととんでもない金額になるんちゃう?」
郁乃「百億…」ごくりっ…
憩「このかに玉美味しいですねー…ってひぃぃぃ!!?な、なにするんですよーぅ!?」
ガキーーン!!
郁乃「ヒ…ヒヒヒッ…百億はウチのもんや…ウチ一人のもんやァァ!!」
憩「な、何言ってるんやぁ!?その斧しまいい!?ひぃぃ!?」
郁乃「死ね!死ね!」
浩子「あわわ…やめい!」
洋榎「うわ!?その斧どこから持ってきたんや!?」
ゆみ「やれやれ…馬鹿はほっといてスエハラ、君はどう思う…」
末原「美味い!美味いなぁ!満腹やで、さて食後のデザートはマンゴーのおいしい白くまアイスやな」
漫「あ!ずるいですよ先輩!私かて白くま食べたいですもん!」
洋榎「こら!家主であるウチを差し置いて、勝手にデザートの白くま食うなや!」
ゆみ(何しに来たんだ?コイツら…)
その時、庭師であるユーコの悲鳴が食堂まで轟く…
由子「助けてーバスガデルの魔犬が現れたのよー」
ゆみ・末原・漫「バスガデルの魔犬!?」
末原「どういうことや?サキちゃん…」
咲「すみません、バスガデル家の犬の伝説にはまだ続きがありました…」
絹恵「それはウチから話すで…バスガビル家の犬、セーラは主人の事が諦めきれんと死んでもなお、この世をさまよう魔犬となって夜な夜な家畜や人を襲ってるんや…」
漫「なんや!?その取って付けたような伝説は!?」
バスガデルデー…
モウスグ バスガデルデー…
由子「ひぃぃい!?き、聞こえるのよー」
末原「な、なんや!?何が起こるんや?!」
絹恵「あかん!きっとウチらがバスガデルの像を探しだしてることに怒っとるんや!」
ゆみ「ふん!くだらない迷信だな…魔犬なんて居る訳が無い…」
洋榎「せやかて、現に今も唸り声が聞こえてるやないか!」
ゆみ「あの声は恐らく私たちを怖がらせる為の作り物…バスガデルの伝説を利用して財産を独り占めしようとしている誰かがこの中に一人居るはずだ!」
浩子「なんやて!?」
咲「うぅ…そんな…伝説を利用して財産を独り占めなんて…」
由子「それはおかしいのよー!現にバスガデルの魔犬の姿を見たという人は何人も居るのよー!」
末原「その魔犬も、恐らく”生きた人間”が演じとるんやな…」
浩子「そや!魔犬なんてデタラメや!どうや?キヌエ?お前が跡継ぎを狙ってこの騒動を仕組んだんちゃうんか?」
絹恵「そんな…ウチそんなことは…」
咲「キヌエお嬢様はそんなことをなさる人じゃありませんよ」おろおろ…
洋榎「そや!キヌエがこんなん出来るはずがない、こんなセコいことすんのはヒロコ!お前しかおらんやろ!」
浩子「なんやて!?」
絹恵「やめて!二人とも、そんなことで争わんといて!昔の仲の良かったお姉ちゃん達にもどってえな…」
そう言うとキヌエは泣き崩れた、そのキヌエの背中をサキがなだめる。ヒロエとヒロコはその姿を見ると、少し落ち着いたがまた、すぐに言い争いに戻っていった。
郁乃「ふぅ…ふぅ…なんや?何の騒ぎや?」
憩「ですよーぅ…」ぐったり…
ゆみ「なんだ…こんな時までコントを続けていたのか…暢気な奴らだな…」
郁乃「なんや!このムカつくイケメンは!今すぐ郵送パックで宝塚に送り届けたろうか!」
末原「せやせや!ウチもチルド冷凍の箱に詰める手伝いしたるで!」
漫「先輩はどっちの味方なんですか…」
気がつくと、あの不気味な唸り声は止み、再び夜の静寂が帰ってきた。庭師のユーコが逃げてきた屋敷の中庭を覗くと、何とそこには辺り一面が何者かに荒らされており、そこら中には大きな爪痕と何かの獣の毛のようなものが落ちていたのだ。
メゲロックは周囲を調べたが、何か魔犬の正体を掴めるようなものは落ちてはいなかった。
メゲロック達は魔犬の正体が何であれ、この暗闇の荒野に探索をするのは危険だと考え、今日は早めの就寝とすることになった…
絹恵「うぅ…怖くて眠れへんわ…」
郁乃「しゃーないなぁ…ウチが一緒に寝てあげようか?イヒヒ…」
漫「やめて下さい!あんたが一番危険ですよ…」
由子「ウチに任せて!こう見えて私は催眠術が得意なんやで」
そう言うと由子は何やらキヌエの目に手を掲げてささやく、するとあんなに怯えていたキヌエはたちまち寝入ってしまったのだ。
由子「これでOKなのよー」
洋榎「よし、後はウチがキヌエの部屋まで運ぶで」
絹恵「Zzz…」
次の朝、メゲロックとスズスンは目覚めると周囲の探索に出掛けた。どうやら昨日の話によるとあの魔犬はセンリヤマ中に様々な痕跡を残しているらしいのだ。
仁美「そうばい、ウチが羊達を見に行った時、大きな獣がウチの羊を襲っとったんやけん」
末原「ほうほう…それでそれで…」
仁美「あれは絶対、バスガデル家の魔犬やった…私はとっさに猟銃を魔犬の額へ撃ったんやけど、相手は全然びくともせん、ウチは恐ろしくなってその場を逃げたばい」
漫「本当に居たんですね魔犬…」
仁美「そやけん!魔犬が現れんのもなんもかんも政治が悪い!これも民酒時代の悪政のツケが…」
末原「はいはい…ウチは共散党やからね…政治の話題はそこら辺にして、次の選挙には降伏実現党にでも清き一票を投じたらどうです?」
仁美「な!?まだ言いたいことが山ほど…」
末原「ご協力ありがとうございました~さて、漫ちゃん、朝マクドにでも行こうか」
漫「はい」
漫「しかし良いんですか?魔犬の調査なんかしてて?明智ゆみ以外の他のみんなは全員バスガデルの像を探してますよ?」
末原「まぁバスガデルの像は他に任せといたらええ…ウチらはウチらの捜査や」
漫「はぁ…」
実は昨日の夜に起こった重大な事件は、あの魔犬騒動以外にももう一つあったのだ。それは、あの晩、魔犬が過ぎ去った後、中庭の隅のほうに隠し通路につながる扉があるのをサキが発見したのだ。通路の奥にはなんとバスガデル家の隠し物置部屋となっており、様々な美術品や家具、動物の剥製などがそこで眠っていたのだった。
漫「そこが発見されてから、みんな我先にとバスガデル像を探してますよ?」
末原「まぁ、あそこにバスガデル像は無いやろ…あったとしてもそう簡単には見つけられん…」
漫「はぁ?何でまた?」
末原「恐らくはこの魔犬騒動の犯人に散々探された後やからな…さっきの話で確信した…」
漫「どういうことですか?」
末原「スズスン君、あの隠し部屋には何があった?」
漫「えっと…美術品や短剣などでしょ?家具でしょ?そして動物の…あ!」
末原「そや、動物の剥製から皮を拝借して、短剣とかで爪や牙を作ればあっという間に魔犬の完成や!」
末原「ちょうど大きな熊の剥製がまるまるあったやろ、あの熊の剥製の額、良く見てみるとなんやそこだけ別の動物の毛が使われてたんや、おそらくはさっきの羊飼いに猟銃で撃たれた時についた傷を別の動物の皮で修復した後やろ」
漫「なるほど…それで先輩は…」
末原「まぁあの明智ゆみの奴も気づいとったみたいやけどな…」
メゲロック達は一通り周囲の人達に聞き終えると屋敷へと戻った。屋敷に戻るとイクノや他のバスガデル家の人達はあの隠し部屋にかかりっきりらしく、メゲロック達を迎えてくれたのはメイドのサキとミナモ、そして昨日の後片付けをおこなっている庭師のユーコだけであった。
咲「お帰りなさいませ」
みなも「ませなのだ!」
由子「庭の片付けも大分終わったのよー」
漫「それにしてもえらい大げさに荒らしましたね…あの魔犬…」
咲「私は昨日の魔犬が怖くて怖くて…」
末原「大丈夫やでウチがついとる…それにしてもゆみの奴、サキちゃん達をほったらかして何処行っとるんやろな~サキちゃん、あんな奴信用したらあかんで!ああいう奴は一億総評論家とか吐かしといて、結局肝心なところで何もせえへんからな!」
咲「は、はぁ…」
末原「その点ウチは違うで、なんと地元ではウチは『不規律のジャンヌダルク』って呼ばれてたからな」
漫「初耳ですよそれ…」
咲「た、たよりになりますね…」
末原「いややわぁ~人の事、未来から来たアーノルドシュワルツェネッガーみたいに頼りになるなんて//」
漫「先輩の耳はどういう構造になってるんですかね?」
郁乃「ジャックバウアーより頼りになるいくのんが来たで~」
末原「うわぁ!?」
漫「どっちかというとジャックニコルソンちゃいますか?ジョーカー的な意味で」
末原「それで…バスガデルの像はあったん?」
郁乃「それが全然~飽きてきたしウチも魔犬捜査に切り替えるで~」
憩「ちょ!?せっかくウチが高い金払って雇ってるっちゅうのに、こんなところで諦めるんか!?」
郁乃「せやかて、見つけても百億は”バスガデルの血を引く”正当な後継者にしか与えられんのやろ?そんならウチもやる気でえへんわ~」
憩「ええから隠し部屋に戻るで!どっかに、どっかにバスガデルの像があるはずなんや!ヒロコ様かて、見つけたら礼金たんまりくれるはずや!」
郁乃「嫌や~ウチは百億が欲しいんや~!百億が駄目なら漫ちゃんにセクハラしてたいんや~」
漫「わひゃぁ!?な、なに人の胸揉んでるんですか//」
ゆみ「やれやれ…騒がしいなぁ…シラフでこれだけ騒げるのも世界広しと言えどもお前達だけだろうな…」
咲「明智ゆみ様//」ぽっ…
末原「な!?明智ゆみ!今までどこへ行ってたんや!」
ゆみ「少し隣町まで足を伸ばしてたのさ…それより紹介しよう、私の忠実なる犬の蒲原智美だ…」
蒲原「ワハハ…忠実だなんて照れるなぁ//」
漫「アナタ犬扱いされてるんですよ?そこ怒るところですよ?」
ゆみ「蒲原にも協力してもらってな、少し探し物をしてたんだ…」
郁乃「探し物?バスガデルの像やなくて?」
ゆみ「あぁ…バスガデルの像ならもう…まぁ直にわかるさ…それより魔犬の正体だが…」
末原「へへん!ウチはお前より先に魔犬の正体を掴んだで!」
ゆみ「あの熊の剥製と短剣で魔犬を作ったんだろ?大方、それを確かめる為にわざわざ村の人のところまで聞きに行ったのだろう…無駄足ご苦労だったな…」
末原「な!?」
ゆみ「そんなことしなくても、あの通路に剥製の熊の毛が落ちていた。おそらくは最近持ち出されたため通路に落ちてたのだろう…とすると、わざわざ聞きに行くまでもなくあの熊の剥製が魔犬の皮の部分だというわけだ…」
漫「そんな…知ってたんですか…」へなへな…
ゆみ「ふふ…メゲロック・スエハラの事件に対する無駄な努力と空回りの情熱には本当に頭が下がるよ…」
末原「よせやい照れるなぁ…//」
漫「だから馬鹿にされてるんですって…」
憩「でも!肝心の魔犬の犯人はまだ解らんのやろ!?」
ゆみ「あぁ…検討はついてるのだがな…まぁ今夜あたり解るさ…なんたって魔犬の為の極上の餌をぶら下げておいたからな…」
蒲原「ワハハ、美味しい餌だと羨ましいなぁ」
末原「むむむ!」
一通りメゲロック達を小馬鹿にすると、また明智ゆみ達は屋敷を後にした。残されたメゲロック達は推理をコケにされた悔しさのあまりジタンダを踏むしかなかった。
そうして日が暮れる、明智ゆみを除いた全員は食堂へ集まり、今日の食事とそれぞれの調査の報告をすることとなった。
洋榎「うへぇ…あの魔犬はあの部屋にあった熊の剥製で作ったんかいな…」
末原「そうや、恐らくあの唸り声もラジオかなんかで流しとったんやろ」
絹恵「でも、魔犬は居なくてもウチらを狙う悪い人間がおるっちゅうことやろ…」
浩子「まぁ検討はついとるけどな…こんな馬鹿なことするんは一人しかおらへん…」
そう言うと、ヒロコはギラリとヒロエのことを睨んだ。
洋榎「しらじらしいなぁ…自分が疑われてるからってウチに嫌疑の目を向けてうやむやにしようて腹やろ?」
浩子「ふん!私が魔犬やったら真っ先にアンタの頭を噛みちぎったる。頭噛みちぎったら獅子舞みたいにその馬鹿な頭も少しは良うなるかな?ハハハ!」
洋榎「なんやと!もういっぺん言ってみ!」
漫「あわわ!やめてくださいよ!喧嘩なんて!」
咲「うぅ…お嬢様…」
その時、また昨日の魔犬の唸り声が聞こえてきたのであった…
バスガデルデー…
モウジキ バスガデルデー…
咲「あわわ!ま、魔犬だ!?」
由子「魔犬なのよー怖いのよー」どひゅ~ん
ユーコはあまりの恐怖に一人食堂を後にする、いくら正体をメゲロックに説明されても信心深いユーコにとって魔犬は魔犬なのだろう。
郁乃「なんや今日は随分近くまで来てるみたいやな~」
咲「私怖いよ…」
末原「だ、大丈夫や!サキちゃん!ウチが守ったるで!」
バスガデルデー…
ハヤクセント バスガデルデー…
憩「あわわ…」カタカタ…
洋榎「く、来るんか…」
浩子「ひぃぃ…」
魔犬『バスガデルデー』ゴゴゴ!!!
末原「遂に来よったな魔犬め…お前の陰謀もこれでおしまいやで!」
食堂のドアを蹴破り魔犬が現れた、その姿は全長3m以上はあるのではないかと言うほど大きく、牙や爪には数々の短剣が装備されていた。
漫「あわわ…いくらなんでもあんだけ武器を持った相手に立ち向かうなんて無茶ですよ先輩!」
郁乃「そや!ここは21世紀のトーマスエジソンことイクノ・モリアーティ教授の出番やで~」
魔犬『バスガデルデー!!』
郁乃「くらえ!いくのんパウダーや!」
末原「やった!魔犬が怯んだで!」
漫「それかけるとどうなるんですか?」
郁乃「これかけるとおもろなくなるという恐ろしいパウダーやで~」
洋榎「ずこー…なんやそれ?全然意味ないやん!」
変な粉をかけられ興奮した魔犬は、標的を替えサキに襲いかかる。サキはどうすることも出来ず、ただ肉食獣に追いやられた小動物のように、小さく震えているだけだ。
咲「うぅ…」ガクブル…
魔犬『バスガデルデー!!!』
末原「魔犬!ウチが相手や!」
漫「ちょ!?先輩大丈夫ですか!?」
魔犬『バスガデルデー!!!』ゴゴゴゴゴ!!!!
末原(よく観察するんや…きっとどっかに手がかりが…そや、奴の正体は人間…なら今この中で食堂に居ない人間でなおかつ魔犬に化けそうなのは…)
その時、勢いよく魔犬がスエハラに襲いかかる…
魔犬『バスガデルデー!!!』
末原「魔犬!たべっこどうぶつが落ちとるで?」
魔犬『!?』
末原「今や!」
メゲロックは魔犬の注意を逸らすと、その一瞬の隙をついて魔犬の口の中へと飛び込んだ。すると、魔犬は突然、糸の切れたように萎み始め中から意外な人物がメゲロックと共に出てきたのだ。
みなも「うぅ…ばすが…でる…」
咲「ミナモちゃん!?」
漫「どういうことですか?」
末原「ふぅ…魔犬の正体は義妹さんやったっちゅうわけやったんやな…」
憩「なんや…このちんちくりんが魔犬の正体やったんか!今まで散々脅かして迷惑な奴ですよーぅ!」
みなも「うぅ…私は何をしてましたのだ?」
末原「まぁこの食堂に居ない、なおかつバスガデル家の跡継ぎ争いの近くにいるっちゅうたらこの子しか居らんしな…魔犬の方は風船で膨らませてただけや…」
末原「この子は催眠術かなんかで操られてただけやな…恐らく魔犬の犯人は別におる…」
洋榎「なら、ミナモちゃんを操ってた人物は?」
末原「う~ん…とにかく、明智ゆみの動向が気になるな…中庭の隠し部屋にでも行ってみるか…」
ここは中庭…
薄らと月が出ている少し暗い晩に、ある人物のほくそ笑む姿があった…
「ふふ…あんなところにあったんや全然気づかへんかったわぁ…まぁみんなが魔犬に気い取られてる間に頂いてまうで…」
ゆみ「その像!取る必要なし!」
「誰や!?」
ゆみ「聞こえなかったか?マセ・ユーコ…いや、ユーコ・バスガデル…」
由子「な!?ウチの正体を知ってたんか?」
ゆみ「あぁ…食堂に飾ってある肖像画を見てね、もしやと思って街へ出て色々と調べさせてもらった…お前が初代マサエ・バスガデルの弟の子孫であることをね…」
由子「ということはお前、私がここへバスガデルの像を取りに来ることを知って…」
ゆみ「いや、その像を中庭に置いたのは私だ…勿論、お前を捕まえるための囮としてね…」
先ほどの騒動を終え、メゲロック達が中庭に現れる。そこには月下の元、対峙する明智ゆみとユーコ・バスガデルの二人の影があった。
末原「どういうことや!?明智ゆみ!お前がバスガデルの像を見つけ出してたんか!?」
憩「ウチらがあんだけ探しても出てこうへんかったのに、何処に像があったんや!」
ゆみ「はぁ…バスガデルの像はお前達が探し始めた時にはすでに屋敷には無かったんだ…」
咲「…」
洋榎「どういうことや!?」
ゆみ「まず、バスガデルの像の隠し場所はおそらくそこの隠し部屋だろう…」
由子「な!?そんなはずあらへん!私が探した時には像なんてなかったのよー」
ゆみ「残念ながら先客が居たんだ…そうだろ?ミヤナガ・サキ?」
咲「私が!?」
末原「サキちゃんがバスガデルの像を見つけたんなら真っ先にキヌエお嬢様に渡すはずや!好い加減なこと言うな!紫宝塚!」
ゆみ「だから、お前も紫だと…まぁいい、君たちもご存知の通り屋敷の隅から隅まで探してもバスガデルの像は影も形も出てこなかった…あの隠し部屋にもだ、バスガデル家の三姉妹の誰かが持ち出したなら、その時点でこの跡継ぎ争いゲームの勝利を高らかに宣言しているはずだ…」
ゆみ「だから私はこの屋敷の”誰か”がすでにバスガデルの像を持ち出したと推理した…そしてその中でバスガデルの像を所持しているという事実よりも、バスガデルの像自体の価値を欲している人物…」
末原「なんでそれがサキちゃんになるんや!?」
ゆみ「すまないが蒲原を使って調べさせてもらったよ…君には病気のお姉さんが居るんだってね?」
咲「…」
漫「ホンマなんですか!?」
ゆみ「あぁ…ミヤナガ・テルという女性だ…直接会って病名を聞いてみたよ『急性お菓子過剰接種病』とか言うふざけた名前だったな…どうせどこぞのヤブ医者にでも騙されたんじゃないか?なぁアラカワ・ケイ…」
憩「ぎくっ!?」
ゆみ「ミヤナガサキはそこのヤブ医者に騙され高い薬代がどうしても必要になった。しかし、薬代はメイドのお給金では到底手に入らない…そんな時、屋敷を掃除でもしていて偶然隠し部屋を発見し、偶然手に入れたバスガデルの像をお金に換えたのさ…」
ゆみ「そうとも知らずミヤナガサキからそのお金を貰い、そこのイクノなんとかみたいな胡散臭い奴を雇ったんじゃないか?」
憩「ま、まずいで…」
洋榎「あ!こいつ逃げようとしとるで!」
浩子「にがすか!」
悪事がバレ逃げようとしたアラカワをヒロコとヒロエは二人で協力して縄をかける…
その久々の共同作業が二人の中の氷のような冷たい壁を溶かしたのか、いつしか二人は跡目争いを忘れて笑い合っていた。
洋榎「ヒロコ、やるやないか」
浩子「お姉ちゃんこそ」
絹恵「お姉ちゃん…」ぐすっ…
憩「あわわですよーぅ…」
咲「でも…それなら隠し部屋には他にも宝が、わざわざバスガデルの像をお金に換えなくても他の美術品を持って行けばいいですよね?」
末原「そや!サキちゃんがバスガデルの像を持ってく理由があらへんで!」
ゆみ「あの隠し部屋の美術品か?あぁ…あれなら先代バスガデルの趣味の悪い悪戯だ…
あの部屋自体が薄暗いからわからないが少し明るいところでみると素人目にもわかる偽物ばかりだ…全部売ったって二束三文さ、バスガデルの像を除いてね…」
ゆみ「それに、私が今日の昼頃、ピクニックに出掛けるために隣街を散策したとでも思ってるのか?私はさっきの推理を確かめるべく隣街の質屋をしらみつぶしに当たっていたのさ…」
咲「!?」
ゆみ「おそらく、バレると困るのでこの街の近くの質屋には売らないだろう、彼女の行動範囲から売るなら隣町くらいかと考えたんだが…どうやら当りだったようだ…」
ゆみ「その質屋で像を売った人物の名義を聞いたよ…ウイリアムス・テルとか言ったな…おそらく弓の達人ウイリアムス・テルと自分の姉であるテルとかけてあるんだろう…ほかに店の人は特徴的な角張った髪を持った女性が売っていったとも言ってたな…」
絹恵「サキちゃん、あの話はホンマなんか?」
咲「うぅ…そうです…すみませんお嬢様…」
洋榎「泣くなやサキ…ウチらはもうバスガデルの像のことなんかこれぽっちも気にしてへん」
浩子「そうですよ、むしろサキちゃんが持っててくれたおかげでウチら姉妹またやり直すことが出来たんや、感謝してるで」
ゆみ「さて、次は魔犬についてだ…君たちも知っての通り、魔犬の正体はそこのユーコ・バスガデルに催眠術で操られた哀れな人物…おそらくミヤナガ・ミナモあたりかな?」
末原「あぁ…あってるで…魔犬の中身は催眠術で操られたミナモちゃんやった」
ゆみ「魔犬の中身は恐らく風船かなにかで膨らませていたのだろう…まぁそのことはどうでもいい…」
ゆみ「私は食堂の絵画の件でユーコがバスガデル家の遠い親戚か何かだろうと推測した…この数日でこの屋敷に庭師として潜り込んだのも遺言の内容を何処かで知ったユーコは、バスガデル像を手に入れ自分こそがバスガデルの正当な後継者になるつもりだったのだろう…」
ゆみ「しかし、自分が人目を避けて探したところでバスガデルの像は見つかるはずがない…そこで『バスガデル家の犬の伝説』を利用して自分に有利に像が探せるようにと考えついたのさ…」
由子「…」
ゆみ「私はユーコ・バスガデルをここへとおびき寄せるため、その質屋でバスガデル像を買い戻し、この中庭からすぐに見つかる場所へと置いた…この屋敷の屋根の上にね…」
末原「でも、それじゃあすぐに他の人に見つかるんじゃ?」
ゆみ「みんな地下の隠し部屋に必死になっている…下ばかり向いて誰も空なんかみちゃいないさ…あの隠し部屋に像が無い事を知っているユーコを除いてね…」
由子「!?」
ゆみ「バスガデル像を発見したアンタはすぐにでも取りに行きたい、しかし、像は屋根の上だ取りに行けば目立ってまう、せっかく自分だけが発見したのに他の連中にも像の在処を知らせる事となる…そこで、お前は今日の夜、再び魔犬騒動を起こしその隙に屋根の上の像を取りに行こうとした、そうだろ?」
由子「そ、そんなのデタラメなのよー、た、たしかに私はマサエ・バスガデル卿の遠い親戚やけど、魔犬騒動を仕組んだなんて証拠は無いのよー」
洋榎「こいつ、まだしらを切るつもりか…」
浩子「しぶといなぁ」
ゆみ「あぁ…証拠ならあるさ…お前が催眠術を使う時、対象者の目を手で抑えるだろ?そう思ってミヤナガ・ミナモの顔に闇で光る特殊な塗料を塗っておいたんだ…これでお前が催眠術をミヤナガ・ミナモに対して使った証拠になるぞ…」
由子「な!?」
ユーコは慌てて自分の右の手のひらを見た、だがそこには塗料など何もついていなかった…
ゆみ「ふふ…今の話は嘘さ…」
由子「な!?騙したな!?」
ゆみ「しかし、これでユーコ・バスガデルがミヤナガ・ミナモに対して催眠術を使ったのだと自白してくれたな…」
由子「なんなのよー…」がくっ…
ユーコは糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちる。一連の事件の犯人はユーコ・バスガデルの仕業であったのだ…
計画が破れたユーコ・バスガデルは只、力なく地面に伏しているだけであった…
魔犬の正体を暴いた明智ゆみと、その魔犬を裏で操っていたユーコ・バスガデルを薄い月の光がぼんやりと照らし続けた…
事件から数日後…
末原「ふふ…ウチら大活躍やったな」
漫「はぁ…」
末原「それにしてももう要らんからってこんな趣味の悪い像を貰ってもなぁ…」
『セーラとマサエ卿の像』はベットに裸になりタバコを吸うマサエ卿と同じく裸のセーラが顔を覆っている姿が象られていた…
漫「変な像ですね…こんなもの血眼になって探してたなんて…」
末原「う~ん…バスガデルの像…そうか!わかったでスズスン君!」
漫「わかったってなにが?」
末原「バスガデル家の”犬”はバスガデル家の”ネコ”やったんや!」
漫「どひゃ~」ガクッ…
ちゃんちゃん♪
これで終わりです
推理は結構穴がありますが気にしないで下さい…
それではまた…
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