……
幼馴染「男ーっ、一緒に帰ろっ!」
男「……あ、ああ、うん。帰ろう」がたり
幼馴染「んふふふ」ぎゅっ
男「あんまりひっつかないでくれ……」
ガララッ ガララッ
ひそひそ ざわざわ
友「……」がたっ
友(いつものように、突然親の転勤が決まって、この学校に転入したけれど)
友(今回は、何かがおかしい)
クラスメイトA「よう転校生。親睦深めるためにもカラオケとかどーよ」
友「んー……いや、やめとくよ。初日から帰りが遅くなると親がね」ははっ
A「ま、しゃーないか」
友「そうだ、あのさっき帰ったバカップルみたいな奴らだけど――」
A「あー……男なぁ。あれはちょっと、なんというか」
A「あんまり関わらないほうがいいと思うぞ、うん」
友(やっぱり彼――男君は、クラスで浮いた存在だ)
友(避けられている、というより、除け者にされている)
友(恐らく彼が、『主人公』であるはずなのに)
友「ありがとう。なんとなく察しはついた」
A「おお、助かるよ」
――帰路
友(前にも、主人公がいじめられているパターンはあった)
友(けれどその時、彼に味方はいなかった。周りにいるのは敵か傍観者だけだった)
友(だから、僕は彼が立ち上がれるように勇気付けて、いじめっこにささやかな仕返しをさせるだけでよかった)
友(けれど、幼馴染さん)
友(男君にまとわりつく彼女の存在が、妙だ)
友(僕と同じ、あるいはそれにヒロインとしての資質を組み合わせたような人かとも思ったけど、違う)
友「――って、ん?」
……
幼馴染「ねえ男、今日の学校はどうだった?」
男「っ、あ、その」
幼馴染「――また、いっぱいいじめられた?」
男「っ!」びくっ
幼馴染「やっぱり」くすっ
幼馴染「でも大丈夫だよ。私は男をいじめない」
幼馴染「男のことが、昔も今も、未来もずっと大好きなんだもん」
幼馴染「絶対に、男をいじめたりしないよ」
男「……、ああ」
幼馴染「だから、怖がらなくていいんだよ?」
幼馴染「大丈夫。いじめられっぱなしで何もできないからって」
幼馴染「男のことを嫌いになったりしないよ?」
男「……」
幼馴染「だって、私がいじめられていても何もできない男だもん」
幼馴染「自分がいじめられても、何も仕返しできなくて当然だし、ね?」
男「……やめて、くれ」
幼馴染「ううん、責めてるわけじゃないの」
幼馴染「男がどんなになっても、私は男のことが大好きって言いたかっただけ」
……
友(……これは)こそっ
友(いったい、これは何だ?)
――数日後、図書室
友「……」パラッ
友(あれから暫く、男君の周囲を見て分かったことがある)
友(男君へのいじめはたいてい男子生徒によるもの。女子生徒は手を出している様子が無い)
友(いじめられている男君を心配そうに見る女子生徒はいた。みんな美少女で、濃いキャラクターをしている)
友(けど、それだけ。おそらく彼女らは、メインかサブかは分からないけどヒロインだった)
友(……この話はきっと、本来僕が関わる必要がなかった話)
友(けれど、何かがあって――)
図書委員「――やあ、少年。何か思い悩んでいるようだねぇ」
友「……、?」
友(誰だ、――いや、これは)
友「何だ、お前は」
図書委員「ひどいことを言う。こんなに美少女である私に」
図書委員「まあそれはともかく、少し君に興味がわいてね」
友(……分かる。これとは関わらないほうがいい)
友(何がとははっきりといえないが、異常な存在だ)
友(……けれど)
友「……何の用だ」
友(この話に起こったと考えられる『何か』に関わるとしたら、多分こいつのような異常な存在だ、とも思う)
図書委員「いいね。いつもの茶番には飽きていたし、ささっと話を進めよう」
図書委員「いや、私の友人というか恋人というか下僕というか」
図書委員「まあそういう奴がいて、君は彼とけっこう雰囲気が近いんだ」
図書委員「であれば、彼と同属である私とも近いんじゃないかと内心わくわくしている」
友「……、何の話だ?」
図書委員「何、私はただ友達を増やしたいだけだよ」
図書委員「その第一歩として、君が今、まさに思い悩んでいることについて話してくれないかな」
友「人間だからな。誰だっていつだって悩みくらいある」
友「あたかも僕の心を読んだかのように胸を張るものじゃないよ」
図書委員「ふむ、ひっかからないか。私の力が届いていないのか、あるいは届いた上でこうなのか」
図書委員「何にせよ、楽しいことになるのは変わらないからいいのだがね」にまぁ
友(……何を言っているのか、分からない)
図書委員「まあ仕方ない。それならそれで私にも手がないわけではない」
図書委員「また会う日を楽しみにするといい、少年」
友「……一つだけ聞かせてくれ」
図書委員「うん?」
友「男に、何をした?」
図書委員「あー……あれなあ」
図書委員「私がやったことといえば、精々付き合って別れたくらいだが」
友(それがどう関わって……、いや)
友「『私が』、だと?」
図書委員「ま、詳細はまた次の機会に、だ。今日はもう帰りたまえ」
――翌日
生徒会長「よい、しょと」ふらふら
友(……生徒会長。恐らくヒロインだった女の子達の一人)
友(ダンボール箱二つを重ねて抱えている)
友(通常通りであれば、男君が通りかかって、彼女の手伝いをするところだろうけど)
男「……」
幼馴染「んふふー、今日のお弁当も張り切ったからねー」ぎゅっ
友(……仕方ない、か)
友「一つお持ちしますよ、生徒会長さん」
生徒会長「っ、え、えと。ありがとう。幼馴染さんのクラスの友君だったっけ」
友(幼馴染さんの、ねえ)
……
生徒会長「ありがとー。二つ一緒に持ってると前が見えなくてさ」
友「いえいえ。……代わりといっては何ですが、教えて欲しいことがありまして」
生徒会長「ん、そうだね。転入してきたばかりだし、いろいろと――」
友「男君と、図書委員のことについて」
生徒会長「――」ぎくっ
生徒会長「……ええ、と。あの、二人は」
生徒会長「ごめん、私からは、何もいえない」
友(……やっぱり、何か)
友「いえ、すみませんでした」
生徒会長「手伝ってもらっておいてなにもできなくてごめんね」
生徒会長「けど、これだけはいえる」
生徒会長「……図書委員ちゃんとは、仲良くしないほうがいい」
――数日後、図書室
友「……」
友(あれから、幼馴染さんを除く何人かの元ヒロインと思われる人物に接触したけれど)
友(男君や図書委員の話をすると、皆決まって生徒会長と同じような反応をした)
友(ろくな情報を得られなかったし、男君をいじめから救い出す算段もつかない)
友(――だから)
図書委員「待ってたよ、少年。一日千秋とは言わないまでも、そこそこ首が伸びてきたところだった」
友(元凶と思われるこれと、接触する必要がある)
図書委員「あれから君の事を調べさせてもらったんだ」
図書委員「といっても、知人に頼んで調べてもらっただけだが」
図書委員「結構代償が高くついたからな。おもちゃを一週間も奴に預けるはめになった」
友「相変わらず、何を言っているのかわからないな」
図書委員「君が居ない物語だよ。すべての物語に君が関わるわけじゃないってことはよく知っているだろう」
友(……こいつ、本当に)
図書委員「しかしまあ、哀れなことだ」
図書委員「永遠の脇役、というのはいったい、どういう気分なんだい?」
友(……こいつから、情報を引き出そうとしたら)
友(既に、僕のことを調べつくされていた)
友(他に何を知っていようが、何を知っていなかろうが)
友(僕の根元にあるものを知られている以上、相手はこちらを完全に把握しているといっていい)
友「どういう、と言われてもね」
友「知ってのとおり、僕は生まれてこの方そう生きてきた」
友「これまでどおり、これからもそうするだけだ」
図書委員「――悔しい、とは思わないのか?」
友「……?」
図書委員「君は非常に高い能力を持っている。何かに特化しているわけではないが」
図書委員「逆に言えば、状況に応じてたいていのことは何でもできる」
図書委員「――そんな君が、無能な主人公とやらを縁の下から持ち上げるだけ、など」
友「……いや、別に」
図書委員「……、あれ?」
図書委員「……いやいや、君に助けられるだけで」
図書委員「甘い汁を吸って舞台上で光を浴びる無能共に、痛い目をみせたいとか」
友「無い」
友「さっきも言ったけど、生まれてからずっとこうだからね」
友「それを疑問に思うことはない」
図書委員「……」
友「むしろ嬉しいくらいだよ。生きる意味を探している人に比べれば」
友「僕は早いうちから運命を自覚できた」
図書委員「……、あー」
図書委員「やはり君は駄目だ。彼に似ているというだけで、私には似ていない」
図書委員「ああ、とんだ骨折り損だ。私の骨が折れることは無いが」
友「嘆息しているところ悪いが、この前の質問に答えてもらおう」
図書委員「この前?」きょとん
友(……本当に忘れている顔だ)
図書委員「ああ、いや、そうだな。この前の質問の答えだ」
図書委員「仕方ないな。君の時間をとってしまった侘びとしても答えてやろう」
友「……」
図書委員「――恋人もどきはいるが、私は処女だ」
友「何の話だ」
――翌日、昼休み
友(結局、図書委員からは何も聞きだせずじまい)
友(多分あの様子じゃあ、今後何か教えてくれることも無いだろう)
友(仕方ないが、自力でなんとかするしかない)
幼馴染「はい男、あーん」
男「……」
友(……どうやって?)
友(いじめの主犯格を捕まえて殴り飛ばす?)
友(けれど、見たところ誰か一人が先導している様子は無い。皆が皆、それぞれ男君をいじめている)
友(それに、僕一人で解決してもそれは男君が主人公に戻ることにつながらない)
友(……どうすれば)
幼馴染「あ、そうだ」がたっ
幼馴染「ねえ友君、放課後一緒に帰らない?」
友(……、は?)
男「……っ」
幼馴染「ごめんね男、今日はちょっと友君に用事があるの」
幼馴染「だから、今日は一人で帰ってくれるかな」
男「ぇ、いや、えっと」
幼馴染「本当にごめんね、男と一緒に帰りたいのはやまやまなんだけど」
男「……あ、うん」
友(……何で、これと一緒に帰れないだけで、絶望したような顔になるんだ)
友(むしろ君は、幼馴染さんから離れたほうがまともな物語に復帰できるはずだ)
幼馴染「で、どうかな、友君」
友(……断るべき、かもしれないけど)
友「ああ、分かったよ」
友(こういう物語だと信じて、流れに従おう)
――放課後、ファミレス
友(……何の会話もなしに、ここに連れてこられて)
友(幼馴染さんが店員に、待ち合わせであることを告げて)
友(この席に連れてこられたのだけど)
青年「……あー、やあ。友君、だったね」
友(やつれた男の人がいた)
幼馴染「お久しぶりです青年さん、最近お会いしませんでしたけどどうしたんですか?」
青年「ちょっと生贄にね。詳しくは聞かないでくれ」
友(やつれている、けど、なんだろう)
友(どこか、そう、僕に近いような)
青年「始めまして、友君」
青年「――俺が、君が探していたであろう原因だ」
友「――っ!」
友(……いや、落ち着け)
友「どういう、ことだ?」
青年「どうもこうも、言葉通りだよ」
青年「彼を主人公から引き摺り下ろしたのは、俺だ」
友(……男君の現状に関わっていて、そして僕に似ている)
友(恐らくは、こいつが図書委員が言っていた『彼』だろう)
青年「ああ、しかし勘違いして欲しくないんだけど」
青年「別に男君に恨みがあってとか、そういうわけじゃない」
青年「ただ、幼馴染さんの恋を応援したかったんだ」
友「……つまり」
友「男君を孤立させて、その上で幼馴染さんに寄り添わせることで」
友「二人を恋仲にした、と」
青年「そう、その通り」
青年「しかしそのせいで、君を困らせることになってしまった」
友「ああ。非常に迷惑している」
青年「けどさ、別に君が困る必要は無いんだよ」
青年「いじめられているのは君じゃなく、男君なんだから」
友(……確かにそういえば、そうだけれど)
友「彼を主人公というなら、お前にも分かるだろ」
友「僕は脇役だ。主人公の舞台を支えなきゃいけない」
青年「――それだ。それがおかしい」
青年「君が彼を助ける理由なんか、無いんだよ」
友「何度も、言うけど」
青年「いいかい友くん。君は今まで主人公になれなかっただけであって」
青年「これからも主人公ではないわけじゃないし、主人公の手助けをし続ける必要も無い」
友「……お前に、僕の何が分かる」
青年「当然君も、何かしらの抵抗はしたんだろうな」
青年「君の能力の高さがそれを物語っているよ」
友(……確かに、僕は)
友(この運命を受け入れる前、いろいろなことを試してきて)
友(その結果として、大体のことは表彰台の一歩手前までやれるようになった)
青年「やるだけやって、諦めて、それを主人公達の補助に役立てているつもりだろうけど」
青年「君はどうして、昔駄目だったことが今も駄目だと思うんだ」
友(こいつは、何だ)
友(図書委員と似ているのであれば、こいつもクズだ)
友(その上で僕にこんなことを言うのだとすれば、何か裏がある)
友「……僕に男君の手助けをさせずに、男君をさらに突き落そうというのか」
青年「あー……そうなるよねえ」
青年「分かった。じゃあこうしよう」
青年「男君のお話を終わらせるよ。もちろん、バットエンドにはしない」
青年「その後、君は自分の物語を作ればいい」
友「……、は?」
青年「幼馴染さん」
幼馴染「はい、青年さん」
青年「男君に告白しよう。準備はもう万端だ」
幼馴染「……ああ、やっと」うっとり
青年「いじめについては問題ないよ。妹を動かしている」
青年「自己顕示欲の強そうな奴が男君をいじめるように調節してきたからね」
青年「排除する手はSNSを探れば幾らでも出てくるだろうね」
友「……お前」
友「いったい、何が目的なんだ」
青年「……何、ちょっとしたボランティアさ」
……
友(宣言どおり、男君へのいじめは瞬く間に消失した)
友(クラスメイト数人が、未成年飲酒やら喫煙やらで停学になったのと無関係じゃないだろう)
友(いじめに加担しないまでも、我関せずを貫いていた奴らも)
友(徐々に男君との友人関係を戻し始めていた)
幼馴染「やっほー男、お弁当たべよ」
男「ん、おお。今日はどんな弁当かな」
友(幼馴染さんもずいぶん落ち着いた)
友(穏やかで、以前の印象強さをあまり感じないほどに)
友(男君からも、何も感じない)
友(没個性的で、どこを探しても数人居るような人間)
友(この前まで主人公だったとは考えられない)
友(……やっぱり、彼が言うところの『話が終わった』ということだろうか)
友(……じゃあ、僕はこれから何をすればいいんだ?)
友(新たな主人公が来るまで待つか、あるいは別の主人公のところに行くことになるのを待つか)
友「……」
友(――あるいは)
――放課後、コンビニ
友「……、あれ」
友(なんとなく立ち読みしてたけど、そもそも何が目的で寄ったんだっけ)
友(……最近よく分からないことがよく起こるから、疲れてるのか、僕)
友(特に買うものもないし、さっさと帰って――)
ふわり
友(……何だったか、この匂い)
友(特別いいにおいじゃないけど、なんとなく懐かしいような――)くるっ
少女「……」
友「……」
友(知らない女の子。……目が合ってしまった)
少女「……」ぺこっ
友「……ああ」ぺこっ
友(――まあ、会釈してさよならだ。会うことは無い)
――翌日、放課後
ザワザワ ガヤガヤ
「あー、部活たるいわー」
「大会終わると気ぬけるんだよなー」
友(……そういえば、まだ部活を決めてなかったな)
「このクソ暑い日になんでボールおっかけなきゃいけないのか」
「文化部うらやましいわほんと」
「室内もそんな涼しくねーよ」
友(……確かに、暑い)
友(……水泳部とか、いいかもなあ)
――屋外プール
水泳部顧問「まあ適当に見てって。プールサイドでも暑いから水分補給忘れずにね」
友「はい」
友(……校庭よりプールサイドのほうが暑くないか、これ)
友(にしても、我ながらなんで水泳部見に来たんだろう)
友(暑いから涼みに、って言っても一年中暑いわけじゃないし、それだけで決めるのもどうかと思うし)
顧問「次、飛込み練習。一回あがれー」
ザバァッ
友「――、あ」
友(次々にプールからあがる水泳部員。プールサイドで一度帽子とゴーグルをはずしている部員の中に――)
少女「……、あれ、コンビニに居た」
友(ああ、そうか。だから水泳部に来たのか)
友(あの時、彼女から漂った塩素の匂いのせいだったのか)
――青年宅
青年「……何でお前が、俺の部屋にいる」
巨乳「いいじゃあないですか。乳繰り合った仲なのですし」
青年「というか、生贄にされた俺が一方的に陵辱されたんだけどな」
巨乳「ええ。図書委員さんが嫌がるだろうと思っての交換条件だったのですが」
巨乳「思ったより平気な顔してましたからねえ。残念です」ぽにょん
青年(……巨乳)
青年(悪趣味な代償を要求するが、頼んだことは何だってできる、ひとでなし)
青年(ひとでなし、というのは外道とかそういう意味ではなく、人間ではないということそのままの意味)
青年(ちなみに、図書委員が友君の情報を欲した際は俺を一週間監禁させるという条件を出したそうだ)
青年(無論、俺の了解は無い)
巨乳「それで、青年さんの目論見どおり、彼は水泳部に入ったようですね」むにむに
巨乳「水泳部の女の子を彼と遭遇させろだの、その翌日に真夏日にしろだのと回りくどいことを私にさせましたが」
巨乳「何の前触れもなく、では駄目だったのですか?」
青年「ああ。舞台に上がるまでの準備も主人公には必要だ」
青年「その過程でヒロインを作れればなおいい」
青年「メインヒロインとサブヒロインの区別がはっきりするから、物語も運びやすくなるし」
巨乳「ああ、最終的にくっつけばハッピーエンドですしね」
巨乳「ところで青年さんは私とくっつくんですか?」ぷにっ
青年「この流れでよくそんなことを言える」
巨乳「そうは言いますが、図書委員さんも眼中に無いのでしょう?」
青年「まあね。自分に似てる奴と付き合いたいとは思えないし」
巨乳「そういえば、何故水泳部に入らせたのですか?」
青年「あー、基本的に個人競技だからね」
青年「自分はサポートが向いていると思い込んでいる友君が主人公になるには向いているし」
青年「モブが海パン野郎でも許されるし、彼自身水泳経験があまり無いという情報だったから」
巨乳「経験が浅ければ、主人公の成長も物語の一部になりますからね」
青年「それもあるが、彼のポテンシャルの高さを考えれば最強主人公枠も狙える」
巨乳「なるほど。最近流行ですからね」
巨乳「……青年さんは、そういう主人公を目指したりは?」むにっ
青年「……彼には可能性があったが、俺には無かった。それだけだ」
巨乳「っふ、ふふ」だきっ
青年「……離せ」
巨乳「本当に、可愛いですねえ青年さんは」
巨乳「今までひたすら、主人公を壊し続けていたのに」
巨乳「似たような境遇の子を見つけたら、それを主人公にしてしまうなんて」
青年「……これからだよ。楽しみにするといい」
巨乳「虚勢を張らなくたって大丈夫ですよ。あなたの事はすべて分かっていますから」
巨乳「これまでしたことも、これからすることも」
青年「……本当に、気色悪いよお前らは」
巨乳「さて、これからどうなさるのですか?」
巨乳「恐らく図書委員さんはお怒りになるでしょう。突き落とすどころか引き上げてしまったのですから」
青年「当然。さっさと逃げさせてもらうよ」
青年「正直アレの機嫌を損ねると、俺に何が起こるかわかったものじゃないからね」
巨乳「ああ、体重が腕一本分減ってしまえば当然そう考えますよねえ」ぷるん
青年「案外片腕無くてもなんとかなることを実感できたのは面白かったが、両腕もがれたら流石にどうしようもない」
巨乳「けれど残念なことに、彼女はご都合主義の人外」
巨乳「あなたが幾ら遠くへ逃げようが、彼女はそこに現れますよ。ちょっとした旅行の、途中下車した駅ででも」
青年「……あれってただのポジティブシンキングじゃないのか」
巨乳「半分正解、半分不正解です」
巨乳「というわけで――また、私を頼りませんか?」むにぃっ
青年「……」
青年「遠慮しておくよ。正直これ以上お前に頼ると何をされても文句を言えなくなるからね」
巨乳「つれない方ですね。おっしゃる通りではございますが」
巨乳「しかし、どうやっても彼女はあなたを叩き落しに来ますよ?」
青年「まあ、どうにでもしてやるよ」
青年「あんなクズに二度もしてやられるほど、俺も間抜けじゃあない」
青年「――何せ、天才なんでね。他人にできた俺にできないことはないと言ってもいいくらいには」
巨乳「拍手とか?」
青年「……本当に、お前らのことは好きになれない」
巨乳「私としては青年さんのこと結構好きですけどね。顔とか」
巨乳「それで、これからのご予定は?」
青年「さっき言ったとおり、まずは図書委員の処理だよ」
青年「あいつをどうにかしない限りは何も始まらない」
巨乳「いえいえ、そうではなく」
巨乳「その更に後。青年さんの将来についてです」
青年「……将来、ねえ」
巨乳「母性溢れる身としては、あなたの行く末が気になるのですよ」
巨乳「母乳を溢れさせることもできますが」むにぃっ
青年「……そうだな、とりあえず」
青年「友君の一件で、ああいう主人公になれないと思い込んでる奴を主人公に押し上げることはできるとわかったし」
青年「また同じようなことしていこうかな」
巨乳「あらあら、ひたすら図書委員ちゃんに嫌がらせですか?」
青年「いや、いつまでもあいつの相手をする気もない」
巨乳「……では、またボランティア?」
青年「んー、とも違うな」
巨乳「教えてくださいよ、青年さん」
巨乳「せっかくですし、あなたの口で」
青年「……もし」
青年「今まで沢山の人を陥れ、沢山の人を不幸にしたようなやつが」
青年「何食わぬ顔をして、幸せになれない人を幸せにして」
青年「幸せになれるはずだった人間を不幸にしていく」
青年「――それはそれで、また面白いんじゃないかな」
終われ。
後でおまけで青年君幼少期書く
――
青年「……ん」
気がつくと、俺は小さな男の子を俯瞰していた。
まだ幼稚園にもいっていないような年齢の子が、砂場で城を作っている。
……というか、これ、俺だ。
小さいころの、そして自分が何者か気づいたときの。
何故今更になってこんな夢を見るのか検討がつかない。
けれど、別にトラウマというわけでもないしいいか。
人助けだなんて柄じゃないことをしてしまったところだし。
折角だから、自分が何者かを思い出すためにも。
この茶番につきあってやることにしよう。
このころから、俺はやってやれないことはない子供だった。
誰に教えられたわけでもなく、たいていの事は一を見るだけで十を学べた。
今作っている砂の城だってそうだ。
そのままでは崩れる砂でも、バケツで固めたり少し水を加えれば崩れにくくなると直ぐに気づいて応用していた。
そんな俺を、親がどんな気持ちで見ているかまでは想像できていなかったけど。
改めて確認してみると、少しはなれたところで幼い俺を見ている母親が唖然としている。
……まあ、それはさておき。
問題はこの次、今幼い俺に駆け寄ってきた男の子だ。
彼の名前を、俺は知らない。
殆ど関わったことがないから。
記憶の通り、彼は幼い俺を遊びに誘う。ボールやらなにやら、様々な道具を持って。
けれど俺は無視していた。目の前の作業が終わっていなかったのが、自分なりに気に食わなかったからだと記憶している。
誘っても誘ってもまるで反応せず、ただただ砂を積み上げている俺を目の前にして。
小さな彼は、とうとうかんしゃくを起こし、砂の城に体当たりをした。
いくら固めているとはいえ、いくら小さな子供とはいえ。
全体重をかけた遠慮の無い突進を受ければ、当然砂の城は崩壊する。
それでも俺は、特に反応を示さなかった。
完成直前というところであったが、作り終わったら壊すつもりだったし、その手間が省けた、くらいには思ったが。
崩れた残骸を救い上げ、黙々とバケツの中につめていると、知らない大人が近づいてくる。
先ほどの男の子の母親であった。小さな俺は何の気なしにそちらを見ると、その人が慌てふためいているのが分かった。
その人は俺に対してあやすように謝罪すると、次に男の子を抱えあげて俺から引き離し、男の子に説教を始めた。
当然だ。
けれど問題だったのは。
叱られて大泣きする男の子を見て、産まれて始めて「楽しい」と思ってしまったことである。
感情の起伏が少ない子供だった、と当時を振り返って思う。
やれば何でもできたから、何かができるようになってうれしい、何てこともなかった。
何かをすると親や兄、姉からよく褒められたが、俺にとってはできて当然だからやっていたのだ。
けれど彼らが俺を褒めるとき、絶対に笑っているので、そういうものだと思って笑顔らしきものを作っていた。
しかし正真正銘、心の底から「楽しい」と感じたのはそれが初めてで。
同時にそれはふさわしくない感情だということも理解していた。
家族が笑うときは、たいていその場の全員が楽しそうにしていたからだ。
他人が泣いているときは心配するのが普通で、つまり自分の感性は以上であると、そのとき知った。
……ああ、そうか。
困惑を知ったのもこのときだったか。
心配して駆け寄ってくる自分の母親に対して、どういう反応をすればいいか判断しかねて。
とりあえず向こうで泣いている奴の真似をして泣き始めたんだった。
母親には、砂の城を崩されてびっくりして泣いたのだと思われたけれど。
その後、俺は自分の趣向を封印し、それまで以上に周りに合わせるようになった。
そういう点において、兄と姉、それからこの後生まれてくる妹には感謝している。
彼らは俺に感情を見せてくれて、そのおかげで擬態できたのだから。
――
……場面が変わったか。
ええと、兄がいて、姉がいて、妹がいて、俺がいて、川。
ああ、あのときだ。
前日の雨で、川の流れが強くなっていたとき。
それでも構わず、兄が俺たちを遊びに連れ出した日。
兄も流石に川の中には入らなかったが、度胸試しといわんばかりに川沿いぎりぎりを歩いていた。
姉は少々臆病だったこともあり、少し離れたところで兄を説得していたな。俺は当然離れて傍観していたけど。
で、妹は兄と一緒に遊びたくて、兄の後ろをついていった。
まあ案の定、妹は足を滑らせて落ちる。
気づいて悲鳴を上げたのが姉で、それで振り向いて気づいたのが兄。
気づいて直ぐに立ち上がり、その場から立ち去ったのが俺。
子供だけで川に入るな、と言われていたのだ。同じ子供である俺が助けに行ったところでどうにもならないし、被害者が二人になるだけ。
だから近所に住む大人に助けを請うことにして、なるだけ早いほうがよかろうと思い駆けたのだ。
近所の家のチャイムを鳴らし、出たおっさんに助けを求めた。
おっさんは直ぐに奥さんに救急車を呼ぶように言って、自分は俺をかかえて川に向かう。
……そういえばこのおっさん、兄の死体の第一発見者になる人じゃないか。
いろいろ迷惑をかけて申し訳ない。
閑話休題、俺とおっさんが川につくと、既に妹は岸にあがっていた。
隣にはずぶぬれのまま妹にしがみつかれている兄と、泣き喚く姉。
飛び込んで助けたのであろう、ということは当然分かったし、別段疑問に思うことでもなかった。
だから問題はその次、兄がどういう扱いを受けたかということだ。
川沿いで遊んでいたことを、おっさん、救急隊員、両親にこてんぱんに叱られた後。
その誰にも、妹を助けた勇敢さを褒められていたのだ。
まるで、わけがわからなかった。
正しい判断に基づいて正しい行動をしたのは、俺だというのに。
もちろん、俺がまるで無視されていたわけではない。
兄の後に、思い出したかのように判断力を褒められた。
けれど話しの中心にいたのは兄で。
褒められるのも、叱られるのも、感謝されるのも兄だった。
考えても分からないことが悔しくて、延々と考えて。
最終的に、自分の感性が狂っていることを思い出して。
そこでやっと気づいたのだ。
自分は永遠に主人公になれないと。
たとえどんなに有能でも、たとえどんなに正しくても。
あくまで俺は引き立て役にもなれず、ただ主人公のそばに生きているだけなのだと。
そのことを知ったところで、対して思い悩みはしなかった。
まあそういうものなのだろう、と直ぐに受け入れることができた。
その辺が友君との違いなのかもしれない。
いや、決定的に違うのはクズか否かって話なんだけど。
何にせよ兄は主人公で、姉や妹はヒロイン、ないしは重要なサブキャラで。
俺は画面の端でピントを外されているモブキャラだと知って。
何の能力も無いくせに、周囲に認められていい気になっている奴が、ただ不快だった。
嫉妬でもなんでもなく、ただただ、不快だった。
――
青年「……ん」
長い夢だった。
そもそもこの程度、普通に覚えているというのに何故改めて夢で見なければならないのか。
青年「さてさて、どうしよっかなー」
今後何をするにしても、図書委員の存在は邪魔になる。
ついでに巨乳も。散々こき使っておいて何だが、代償にいったい何をさせられるのか見当がつかないし。
今後使える駒は、まあ妹くらいか。
姉はなんか兄への罪悪感を綺麗さっぱり食べられてしまっていて、利用しづらそうだ。
それに比べて妹は扱いやすいし何でもしてくれる。
死ねといえば死ぬんじゃなかろうかと思うほど従順だからな。気持ち悪い。
青年「……ま、どうとでもなるだろ」
図書委員と遭遇する前から、何でも対処してきた俺だし。
片腕の有無はハンデにもならない。
図書委員も巨乳もそう簡単にあしらえる相手ではないかもしれない。
けれど簡単でないというだけで、手間をかけれてどうとでもしてやる。
そうしてこれからも俺は、表に出ない害として。
舞台の床を腐らせる。
終わり。
前作でうっかり「あと一回続くよ」とか言っちゃったんで書いただけでございます。
ここまで読んでた人いたら半分ごめん。半分ありがとう。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません