妹「不甲斐無い兄と姉を持ちました」(375)
教室-昼休み
友「お兄さんとお姉さんがどうかしたの?」
妹「私は知ってるんですよ」
友「なにを?」
妹「人間とは、動物です」
友「うん。理科の教科書に書いてあったね」
友「妹ちゃんは生き物のお勉強が好きなの?」
妹「人間の男と女は、つまり動物の雄と雌です」
友「そうだね。『性別』って言うんだったよね」
友「動物だけじゃなくて、虫にも植物にもあるんだよね」
妹「友ちゃん。どう思いますか?」
友「どう思うって?」
妹「人間には性別があります。私には兄と姉がいます」
妹「両者の仲はとてもとってもとーっても良好です」
妹「これについてはどうお思いますか?」
友「私、ひとりっ子だから羨ましいなあ」
妹「ですよね。性を交えるべきですよね」
友「せいをまじえる?」
妹「さっさと子作りしろって言ってるんです」チッ
友「えぇー……」
妹「わたしは兄と姉の仲を取り持ちたいんです」
妹「どっちにもその気はあるのに、もたもたしてるんです」
妹「だから今の状態がすごく辛いんです。煮え切らないんです」
友「鳥もち……もたもた……にえきらない……」
友「妹ちゃんはお雑煮が好きなんだね」ニコ
妹「どういうことですか?」
友「だって、お餅を煮たいって」
妹「花壇にある友ちゃんのひまわりだけ引っこ抜きますよ」チッ
友「なんで?!」
妹「頭の悪い友ちゃんですね」
友「ううー……テストは点数いいもん」
友「妹ちゃんよりは低いけど」
友「で、でも友達の数なら妹ちゃんよりも」
妹「あ?」
友「な、なんでも……ないです……」
妹「私のことなんていいんです」
妹「悩みの種は兄と姉です」
友「なんで悩んでるの? だって仲がいいんでしょ?」
妹「友ちゃんはハチミツは好きですか?」
友「なんでハチミツ?」
妹「いいから答えてください」
友「好きだよ。甘くてとろとろで美味しいもん」
妹「パンは好きですか?」
友「うん。大好き。ふわふわしてて美味しいよね」
妹「パンにハチミツをかけて食べるのは?」
友「っ!」
友「そんなの大好きに決まってるよ! あまふわトロモチだよ!」
妹「ですよね。でも、そこでルールを作ります」
友「ルール?」
妹「朝食は絶対にパンとハチミツしか食べられません」
友「うわーっ。幸せすぎて死んじゃうかも」
妹「ですが、パンとハチミツを合わせて食べてはいけません」
友「うわーっ。死んじゃうかも」
妹「どう思いますか?」
友「そんないじわるはよくないと思う。ずるい」
妹「ずるくはないと思いますけど」
友「私はパンもハチミツも好きだけど」
友「ハチミツを塗ったパンはもっと好き!」
友「そんないじわるは許さない!」
妹「そう感じますよね。私もそうです」
友「妹ちゃんもパンにハチミツが好きなんだ」
妹「友ちゃんの使ってる鉛筆を反対側からも削りますよ?」チッ
友「なんで?!」
妹「相性のいいパンとハチミツは合わせて当然。そうですよね?」
友「うん」
妹「それと同じです。相性のいい兄と姉をもっと仲良くさせたいんです」
友「あいしょうってなあに?」
妹「仲良くなれる性格みたいに思ってください」
友「なるほど」
妹「どうすればいいと思いますか?」
友「うーんと、そうだね」
友「そういう難しいのはよく分かんないけど」
妹「ですよね」
友「でも」
妹「でも?」
友「妹ちゃんって優しいんだね」ニヘラ
妹「……ぶん殴りますよ?」
友「なんで?!」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
教室-放課後
『友ちゃーん。一緒に帰ろー』
『帰ったら勉強して遊ばない?』
友「えーと……」
妹「私にはいないお友達からのお誘いですよ」
友「うぐっ。妹ちゃん怒ってる?」
妹「ぜんぜん。事実に腹を立てても事実ですからね」
友「うー……」
『妹ちゃーん、どうしたの?』
『あそぼーよー』
妹「私との約束は二の次でいいですよ」
妹「いの一番に友情を選んでどうぞ」
友「……だから嫌われるんだよ」
妹「あ?」
友「お話ししてくるから待ってて」
妹「ちょっと待ってください。今なんて、こらっ」
『おまたせ。なあに?』
『一緒に帰らない?』
『あたらしいお人形買ったんだよ。遊ぼうよ』
ワイノワイノワヤワヤ
妹「花盛りめ」チッ
妹「……」
妹「帰ろっと」
友「お待たせーっ!」ダキッ
妹「にあっ?!」
友「いっしょにかーえろ?」
妹「なにを言ってるんですか。誘われてたんですよ」
友「楽しそうなお遊びよりも楽しそうなお悩みが先だよ」
友「頭のいい妹ちゃんのお手伝いなんて、なかなかできないもん」
友「妹ちゃんのお兄さんとお姉さんを仲良くさせないと、ね」
妹「……好きにすればいいです」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
妹の家
妹「ただいまー」
友「お邪魔しまーす」
妹「まあ、誰もいないですけどね」
友「お仕事?」
妹「共働きです。兄と姉は高校です」
友「高校生かあ。かっこいいね」
妹「じきになりますよ。こんなものかって思うはずです」
友「もうちょっと夢見ようよ。お洒落な制服だよ」
妹「ネットで買えますよ?」
友「だから夢を見ようよって……」
妹「私の部屋に先に行っててください」
友「はーい」
妹「ついでに私のランドセルもお願いします」
友「うん。いいよ。んっしょ」
友「じゃあ、先に行ってるね」タッタッタッ
妹「飲み物はなにがいいですか?」
『なんでもいいよー』
妹「お茶でいいですよね。お茶しかないですけど」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家-妹の部屋
妹「お待たせしました」ガチャ
友「あ」
妹「私のタンスにどんなご用事ですか?」ニコ
友「あー……えっと……あっ」
友「く、くまさんパンツかわいいね」
友「ウサギさんのプリント可愛いなあ」
友「私はもう履いてないから懐かしいなあって」
友「え、えへへ、えへ……えへ?」
妹「……」
友「……」
妹「ひまわり。鉛筆」
友「ごめんなさい! すぐに片付けます!」
――――――
――――
――
妹「作戦会議を始めます」
友「はい」ヒリヒリ
友「ほっぺが痛いです」
妹「叩かれたのは自業自得です。反省してください」
友「はい」
妹「ではどこから話しをしましょうか」
友「妹ちゃんは、もうゴールみたいなものを決めてるの?」
友「お兄さんとお姉さんがどうなったら成功、みたいな」
妹「そうですね。そこはまだ考えてませんでした」
友「そこから決めようよ。じゃないとずっと終わらないかもしれないよ」
妹「そうなると……教会で愛を誓った口づけを見るまで」
友「そこまで?! そこまでしちゃうの?! させちゃうの?!」
妹「なにか不満でも?」
友「不満って……だって、お兄さんとお姉さんは兄妹なんだよね」
妹「兄妹ですよ。兄が産まれて、姉が産まれて、私が産まれました」
友「だったら結婚はできないよ。国の決まりだから」
妹「そんなのお国が勝手に決めた我儘じゃないですか。知りませんよ」チッ
友(ええー……)
妹「それともなんですか。愛する二人の仲を引き裂く嗜虐心に目覚めましたか?」
友「ひきさく? しぎゃくしん?」
妹「嫌がらせが楽しいですかってことです」
友「嫌がらせが楽しいわけないよ。でも……うーん、これは……」
妹「友ちゃんは私を引きとめに来たのですか」
友「お手伝いしにだよ。お手伝いだけど……」
妹「だったら手を貸してください。知恵を貸してださい」
妹「私のお手伝いをすればいいんです。それ以外に頭を使わないでください」
妹「道徳に反するとか、社会に背くとかいらぬ心配です。それは私の責任です」
友「う、うん」
友(はんする? そむく? せきにん?)
妹「最終目標が結婚であることに異議はありませんね?」
友「さいしゅう……いぎ……」
妹「結婚を目指して頑張るということでいいですよね?」
友「あ、うん。そうだね」
妹「友ちゃんはもっと国語を勉強するべきです」
友「妹ちゃんが難しい言葉を使いすぎてるんだと思う」
友「習ってないのにどうしてそんなに喋れるの?」
妹「読書をする習慣の成果です。それだけです」
友「せいか……」
妹「……」チッ
友「だ、だって難しいんだもん」
友「ねえ、妹ちゃん」
妹「なんですか?」
友「やっぱり結婚を目指すのはやめない?」
妹「あ?」
友「ひっ?!」
妹「頷いて肯定したじゃないですか。なんですか。取り下げるんですか?」
友「ち、近いよ。近い。怖い顔が近いよお」
妹「女に二言はないですよ。取り消すなら遺言にしてやりますよ」
友「ふええ、私の分かる言葉で話してよー」
妹「尋ねますけど、やめたくなった理由はなんですか?」
友「その、あのね。お兄さんとお姉さんは何歳?」
妹「高校三年生と二年生です」
友「そうなると……私と妹ちゃんが小学校……十七歳くらい?」
妹「それくらいになりますね」
友「結婚ができるのは、たしか男性が十八歳くらいからだから」
妹「またお国の我儘を持ち出しますか」
友「私をそんな目で見ても困るよ。だってにっぽんの決まりだもん」
友「お兄さんが大学に進むなら、結婚は大学を卒業してからになるよね」
妹「そうなりますね」
友「大学は四年間あるってお父さんが言ってたから」
友「ひーふーみー……あと五年くらいかかるよ」
妹「そうですか。わりと近い未来ですね」
友「五年間も見守るの?」
妹「必要ならばそれもありえます」
友「もうちょっと簡単な目標つくろうよ」
友「妹ちゃんがよくても、私は五年はつらいなあ」
妹「じゃあ、交接ですね」
友「こうせつ?」
妹「交合のことです」
友「こうごう?」
妹「同衾と言えば分かりますよね」
友「ど、どうきん?」
妹「交尾ですよ、交尾!」
友「こ……こう、び?」
妹「舐めてるんですか? 清純ぶってるんですか?」
妹「『きゃー、妹ちゃーんって物知りー! 私ウブだからわっかんなーい』」
妹「とでも言いたいんですか?」
友「ほ、ほんとにわかんないのー。怖い顔近いよー。ひー」
妹「まったく。これだから同級生は」
友「もっと分かりやすい言葉で教えてよー」
妹「えっちのことです」
友「え……っ!」ボッ
友「えっち……お兄さんと……お姉さんが?」
友「わ、わーっ。わーっ! うわーっ!」
妹「伝わったみたいですね」
友「ほ、本当にさせちゃうの?」
妹「させますよ。兄も姉もしたくてたまらないはずです」
妹「朝の挨拶とか、握手とか、お喋りだけじゃ足りなくなってるんです」
友「えっち、か……。ね、ねえ妹ちゃん」
妹「はい」
友「そ、それって……私たちでできることなのかなあ」
妹「私と友ちゃんでえっちですか?」
友「え、あっ! 違うよ! そういう意味じゃなくて!」
友「私と妹ちゃんとじゃなくて、お兄さんとお姉さんをくっつけることがって!」
妹「ふーん」
友「その目はやめてよおー」
妹「シたいんでしょ?」
友「…………誰にも言わない?」
妹「私が言いふらしても信じてくれる人なんていないですよ」
友「でも秘密だよ。約束だからね」
妹「うん」
友「あの、ね。い……妹ちゃんとなら……ちょっとだけ」
妹「友ちゃんのえっち」
友「――――っ!!」
――――――
――――
――
『ただいまー』
友「あ、誰か帰ってきたみたいだよ」
妹「兄ですね。ちょっと行ってきます」タタタッ
友「いってらっしゃい」
ガチャ バタン
友「……」
友「妹ちゃんって、いろいろ大人だなあ」
友「色んな言葉知ってるし、色んなこと知ってるし」
友「お兄さんとお姉さんの心配もできるし」
友「ぜんぜん敵わないなあ。すごいなあ」
『兄よ、お帰りなさい』
『ただいま』
友「これは、その……しかたなくです。しかたなくなんです」
友「盗み聞きじゃなくて勝手に聞こえてくるだけだもんね」
友「仕方ないよね。ドア、近いし、耳当てて…仕方ないよね」
友「……」
『はい、これ。お土産』
『おっ、おおっ!』
友(む、いいなあ。あとで半分だけ分けてもらおっかな)
『ほんとにこれ好きだよな。そんなに美味しいか』
『パセリに敵うおやつはないです』
友(パセリ?! お土産のおやつにパセリ?!)
『味がいいんです。ありがとう』
友(いいんだ! 妹ちゃん、パセリもらって嬉しいんだ!)
『兄よ。その袋はなんですか?』
『DVDだよ。帰りにレンタルショップで借りてきたんだ』
『なんのでーぶいでーですか』
友(妹ちゃん! でぃーぶいでぃーだよー!)
『ちょっと前に流行った映画だよ。俺が熱だして見に行けなかったやつ』
『ああ、あれですか。あれは最後にですね』
友(すとーっぷ! 妹ちゃんすとっぷ! それ以上は言っちゃだめええっ!)
『こらこら。お兄ちゃんはまだ見てないの。ネタバレは禁止な』
『む、そうですね。失礼しました』
友(ほ……)
『妹ちゃんはすぐ部屋に戻るの?』
『はい。知り合いを待たせてるので』
友(し、知り合い……友達じゃなくて……知り合い……)
『友達来てたんだ』
『べつに友達とかじゃないです』
友「友達……じゃない……」
『ではまたお夕飯に』
『おう』
タタタタッ ガチャッ
妹「お待たせ」
友「お、お帰り。もういいの?」
妹「お喋りは夕飯のときでもできるし」
友「そうだね。うん」
妹「どうしたの?」
友「な、なにが? どうもしてないよ」
妹「ふーん。まあ、いいや」
妹「ということで、時間がもう夕方なので、今日決めたことを確認します」
友「うん」
妹「最終的な目標は、兄と姉が一つの布団で夜を共にすること」
妹「それでいいですね?」
友「あれ。一緒に寝るだけにしたの?」
妹「男女がひとつの布団で寝るって言ったらえっちするという意味なんです」チッ
友「そ、そうなんだ。ごめんね」
妹「それでいいですか」
友「うん。……やっぱりちゅーまでにしない?」
妹「接吻くらい勇気を出せば誰とでもできるでしょ」
友「せっぷん?」
妹「キスのことです。いちいち可愛い子ぶらなくていいですから」
友(なんで妹ちゃんは恥ずかしくないのかなあ……)
妹「というわけで、明日からはもっと念入りで綿密な作戦を立てていきますよ」
友(ねんいり……めんみつ……)
友「おーっ!」
まで
続き明日
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
教室-昼休み
『友ちゃんって頭いいよね。羨ましいなあ』
『塾に行ってたりするの?』
友「そんなに頭はよくないよー。塾にも行ってないし」
『すごーい』
友「私よりも妹ちゃんの方が凄いよ。全部私よりも点数高いよ」
『あー……妹ちゃん……』
『うん。妹ちゃんね……』
友「うーん……」
『あ、妹ちゃんがこっち見てる』
『……あっち行こっか。友ちゃんも』
友「私は……」
妹「友ちゃん。ちょっと」
友「う、うん。あの、ね。えっと……」
『……』
『……』
友「……行ってくるね」
『うん』
『じゃあね』
タタタタッ
友「なあに、妹ちゃん」
妹「屋上に行こ。誰もいないから」
友「うん」
ガララ… ガララ
『……』
『……キモ』
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
屋上-昼休み
友「うわー、気持ちのいい風だね」
妹「昨日はずっと兄と姉を観察してました」
友「うん。どうだった」
妹「何も変わらずにいつも通りの普通でした」
妹「ただいつも通りに、変に気まずい空気でした」
友「そっか。見てない私にはその空気は分かんないけど」
友「大変そうだね」
妹「うん」
友「……」
妹「……」
友「……」
友「え、それだけ?」
妹「うん」
友「えー……」
妹「友ちゃんが帰ってからは、すぐにお夕飯だった」
妹「甘口カレーおいしかった」
友「妹ちゃんはカレーだったんだね」
友「私のお夕飯はグラタンだったんだ」
妹「そう。……で?」
友「で、って……えっと……それだけ」
妹「そう」
友「……」
妹「……」
友「妹ちゃん!」
妹「なに?」
友「会話のお勉強しようよ! おしゃべり上手になると楽しいよ!」
妹「けっこうです。うるさい人は嫌いです」
友「――っ!」
妹「今日はどうするの。みんなと帰る?」
友「そのお話はまた後で。今はもっと別のお話しをします」
妹「でも話すことなんてないですよ」
友「何もないことを私に教えたかったの?」
妹「情報の共有は大事だから」
友「じょうほう……きょうゆう……」
妹「同じことを知っていれば便利ですよね」
友「うん。そうだね」
妹「それだけです。全部話しました。それでは」
友「だから待ってーっ!」グイッ
妹「だからなによ」
友「もっと妹ちゃんのお話聞きたいな!」
友「そういえば、いつも髪の毛は下ろしてたよね!」
友「今日はポニーテールな気分なのかな?」
妹「……ウザ」
友「うぐっ!」
友「あ、あのね。妹ちゃんはもっとお喋りになった方がいいと思うの」
友「ううん。もっといろんな人とお話しできるようになるべきなの」
妹「何かの気の迷いで誰かが話しかけてきたら」
妹「少しだけなら会話くらいしてあげてもいいですよ」
妹「でも私からは嫌です。そんなことに労力を使いたくありません」
友「ろうりょく?」
妹「自分から話しかけに行くのが疲れるという意味です」
友「それがよくないんだってばー」
妹「あ。ひとつ思い出しました」
友「ん?」
妹「そういえば、兄が部屋の前に立ってたんです」
友「誰の部屋の前に?」
妹「兄の部屋の前にです」
友「なにをしてたの?」
妹「それを尋ねたら『確認してる』と言いました」
友「なんの確認ですか?」
妹「そこまでは聞きませんでした」
友「それじゃ分かんないよー」
妹「そんなことを言われても私も分からないです」
友「なんだろうね。扉の閉まり具合を見てたのかも」
妹「なんのためにですか?」
友「それは、えっと……古いお家だと」
妹「古い家に見えましたか?」
友「見えませんでした」
妹「ですよね。まだ築二年です。馬鹿にしないでください」
妹「まだまだ立て付けに問題が出るような年数じゃないです」
友「はい。ごめんなさい」
妹「それとですけども。兄の部屋から話し声がありました」
友「会話?」
妹「くぐもってよく聞こえませんでしたが、男の喋り声でした」
友「くぐもって?」
妹「ようするに聞こえづらかった、という意味です」
友「お兄さんもお友達を呼んでたのかな?」
妹「ないですね。それは友ちゃんも知ってますよね」
友「だよね。玄関にお客様の靴は私のしかなかったし」
友「お兄さんは携帯電話もってるの?」
妹「持ってますよ」
友「わかった! きっと電話だよ!」
妹「たぶん違いますね。そんなに小さな声ではありませんでした」
友「ううん。携帯電話にはね、話し相手の声を大きくする機能があるんだよ」
妹「でも違いますよ」
友「えっとね。……これこれ」
妹「携帯電話もってるんですか」
友「私のはそんなに高いものじゃないんだけどね」
友「お母さんがね、GPSがうんたらって言ってた」
妹「じーぴーえす?」
友「私もよくわかんないけど、それはいいの」
友「携帯電話のここのボタンあるでしょ」
妹「うん」
友「ここを押すとハンズフリーモードになるんだよ」
妹「どういう機能ですか?」
友「電話を耳にあてなくても相手の声が聞こえるの」
妹「そうなんですか。便利ですね」
友「だからね。きっとお兄さんは電話中で」
妹「電話の相手を一人で喋らせながら、自分は部屋の外に出て」
妹「閉めた扉を眺めてなにかの確認をしていたんですね」
妹「その間は会話の相手をずっと放っておいたと考えたんですね」
友「……ごめんね。違うね」
妹「うん。違うと思います」
友「あ、DVD」
妹「でーぶいでー?」
友「妹ちゃん。ダメ。でぃーぶいでぃーって言って」
妹「でいーぶいでー」
友(可愛くない。全然可愛くないよ妹ちゃん……)
妹「でーぶいでー。でいぶいでー……んー?」
友「お兄さんのお部屋にテレビはありますか?」
妹「ないですよ。リビングにしか置いてないです」
友「なら、パソコンは」
妹「それはあったと思います。薄くてたためる凄いのが」
友「わかった! 完璧に分かったよ!」
妹「そうですか。では教えてください」
友「お兄さんはDVDを再生してたんです」
友「それで、部屋から音が漏れるかどうかを確認してたんです」
妹「なんのために?」
友「それは……うるさいと迷惑だから?」
妹「工事現場の音くらいなら迷惑ですけれども、家族の住む家ですよ」
妹「些細な音漏れに目くじらをたてるほど心の狭い人はいないです」
友「ささい……めくじら……」
妹「誰も気にしないくらいの音量だったってことです」
友「そっか」
友「聞こえる声は気になるくらいだった?」
妹「会話の内容が気になるくらいでした」
妹「気に留めるほどの騒音ではなかったです」
友(きにとめる? そうおん?)
友「たぶんDVDは正解だと思うんだ」
妹「そこは私もそうだと思います。昨日借りてましたし」
友「あとはなんだろう。音……聞こえる……確認……あっ」
妹「あー」
妹・友「聞こえなくなる音量を確認してた(!)」
妹「そうなりますよね」
友「だよね! そうだよね! わー、すごい! すっきり!」
友「答えが一緒だったね! わーっ! 妹ちゃんと一緒だ!」
妹「でも、そんなことをする必要があるんですか?」
友「どういうこと?」
妹「兄が借りてきたのは映画のDVDですよ」
妹「外部に漏洩して損をするようなものじゃないです」
友「がいぶにろうえい?」
妹「誰かに聞かれて困るものではないということです」
友「あ、うん。そうだね。聞かれて困るDVDかあ」
友「……」
妹「……」
友「もしかしてえっ――」
妹「友ちゃん。それ以上言ったら怒るよ」
友「なんで?!」
妹「兄はそんなのを見る人じゃないです」
友「でも、それ以外は」
妹「兄は姉だけに夢中なの。他の人のは汚れて見えるの」
友「そういうものなの?」
妹「そういうものなの」
友「だけど」
妹「他にも理由はあります」
友「喋らせてよー」
妹「いいけど怒るよ」
友「むー」
妹「兄には将来を約束するべきである姉がいるんです」
妹「ふところを痛めてまで見る必要がどこにありますか」
妹「それにです。借りてきたDVDは短くても一泊二日」
友「その……『他人には言えないDVD』は当日だったかもしれないよ」
妹「兄は間違いなく映画のDVDは借りてきてました」
妹「当日だったらあの袋を持ってまた夜に出かけてたはず」
妹「でもそれはなかったので、数泊で借りてたという証拠になります」
友「『他人には言えないDVD』だけが当日だったなんて」
妹「なんのためにそれだけ当日限りで借りるんですか。ないです」
妹「そうだとしても兄は夜に外出してないとおかしいです」
友「だよね。返すときはいっぺんにだもんね。普通は」
友「『他人には言えないDVD』は」
妹「直接的な表現をされると不快になると言いましたけど」
妹「『他人には言えないDVD』を代名詞として使うのもやめてください」
友「うっ。はい」
友(ちょくせつてき? ふかい? だいめいし?)
妹「それにですね。兄はまだ十七歳です」
妹「帰宅当時は学生服でした。それで借りられますか?」
友「借りられないの?」
妹「学生服ではまず借りられないと思ってください」
妹「十八歳未満を疑われる人間には身分証の提示を義務付けているんです」
妹「学生服の兄がほんの出来心でよくないDVDを借りたくなっても」
妹「出せるものは学生証だけです。学生証には生年月日が書かれています」
友「あー……なる……ほど?」
友(みまん? みぶんしょう? ぎむ? レンタル? せいねんがっぴ?)
妹「やましいDVDに触れるなんてありえないんです」
妹「兄はやましいDVDなんて借りていません。白です。明白です」
友「そう……だよね。ごめんね。変なこと言っちゃって」
友「でも残念だなあ。妹ちゃんと同じ答えが出せたのに違ってるんだもん」
妹「たぶん似たような正解があったんですよ」
妹「それに繋がる何かを見落として気付けなかったんです」
友「そうだよね。うーん、くやしいなあ」
友(つながる……みおとし……)
キーンコーンカーンコーン…
妹「予鈴ですね」
友「そうだね。教室に戻らないと」
妹「……ごめんね」
友「ん? なにか言った?」
妹「なんでもないです。鍵を閉めてと言ったんです」
友「ん、わかった。えい」
ガチャッ
友「よし。教室にもどろっか」
妹「うん」
友(分からなかった言葉は後で辞書で調べておこっと)
まで
続き夜
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
教室-放課後
妹(今日はどうしようかな)
妹(誘わなくてもいいですよね)
『今日は一緒にかえろー』
『友ちゃんと遊びたいなあ』
友「うーん。どっしようかなー」
『もしかしてまた妹ちゃんに呼ばれてるの?』
『今日は私たちの番だよ』
友「そう……かなー」チラ
妹(人だかりの中ですもんね。相も変わらず人気者ですね)
妹(嫌われピエロはご退散ですよ)
友(あ……行っちゃった。今日はいいのかな?)
『どこ見てるの?』
友「うーうん。どこも。帰ろっか!」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
通学路-妹
妹(これからどういうふうに動けばいいのでしょうか)
妹(兄と姉に悟られずにくっつけるのは容易ではないです)
妹(デートのきっかけを作ったところで、積極的になるとは思いません)
妹(もっと扇情的な刺激を与えなければ……)
「ねえ、妹ちゃんよね」
妹「ん?」
女子「ちょっとお話ししない?」
妹「お話しですか? 話すことなんて特にないですよ」
女子「私があなたに用があるの」
『くすくす』
『うふふ』
妹「隣で笑ってる二人も私に用事ですか?」
女子「そうね。四人で仲良くお話しましょ」
『けらけら』
『んふふ』
妹「いいですよ」
女子「じゃあ、決まりね」
女子「立ち話に向かないから、いい場所に連れてってあげる」
妹「いい場所?」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
妹の家
友(遊ばずに帰ってきちゃった)
友(帰ってきたって言っても、妹ちゃんのお家の前なんだけどね)
友(妹ちゃんが先に学校出てたもんね。もういるよね)
ピンポーン
友「……」
友「…………」
友「あれ?」
ピンポーン
友「…………」
友「お昼寝してるのかな?」
友「妹ちゃん、いつも眠たそうな目してるし」
妹「してないですよ。べつに常時睡魔に襲われてるわけではないです」
友「うわっ?!」
妹「驚きすぎです。鍵開けるので待っててください」
友「妹ちゃん、私より先に教室から出てたよね」
友「どこか寄り道してたの?」
妹「知り合いと駄菓子屋さんに行ってました」
妹「お話しが弾んだせいでなかなか帰ってこれなかったんです」
友「ふーん、そっか」
友「あれ? 髪の毛、下ろしたの?」
妹「束ねるとぴこぴこ跳ねて鬱陶しいことに気付きました」
妹「しばらくは結ばないことにします」
友「もったいないなあ。可愛いかったのに」
友「……」
妹「……」
友「ねえ、妹ちゃん。誰とお話ししてたの?」
妹「ただのお友達ですよ」
ガチャッ
妹「開きました。お先にどうぞ」
友「おじゃましまーす」
妹「ランドセル置いておくので、また先に部屋に行っててください」
友「ねえ、妹ちゃん。あっち向いてみて」
妹「なんでですか?」
友「いいから」
妹「理由がないのに相手に背を向けるのは失礼なことですよ」
友「向いて」
妹「なにもないですって」クルリ
妹「背中にゴミでも見つけましたか?」クル
友「……誰に会ったの?」
妹「なんの詮索ですか? 男との密会じゃないので安心してください」
友「『せんさく』とか『みっかい』は分からないけど」
友「たぶん女の子とだよね。会ってたのは。何人?」
妹「推理を始めても面白いことなんてないですよ」
妹「玄関を開きっぱなしにするのはよくないですので」
友「あとでお部屋でね」
妹「……」
まで
続き明日
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家-妹の部屋
友「脱いで」
妹「は?」
友「妹ちゃんの体を確かめたい」
妹「セクハラですか?」
友「真面目なお話をしてるの。だから脱いでください」
妹「なおさら余計に怖いです。私にそういう趣味はないです」
友「趣味とか分かんないけど、うりゃーっ!」
妹「にあっ?!」
友「捕まえた」
妹「不埒、淫靡、猥褻、痴女、淫乱、発情魔」
友「どれも私には分からないから平気だよ」
妹「むぅ」
友「私は心配してるんだよ。だから言うこと聞いて」
妹「心配されるようなことは何ひとつないです」
友「隠したって駄目だよ。えい」プニ
妹「にっ!! 痛いんですけど……っ」
友「ほらね。やっぱり脇腹が痛いよね」
友「叩かれたの? 蹴られたの?」
妹「……転んだんです」
友「妹ちゃんは嘘が下手だから分かるよ」
友「真っ直ぐ目を合わせて、何秒かして目が逃げたら嘘」
友「だから今のは嘘」
妹「転んだのは本当です」
友「転んだだけで痛くなったのは嘘だよね」
妹「……」
友「隠そうとするなら当てちゃうよ」
友「当てちゃったら逃げられないからね」
妹「なにを当てるんです。転んだ場所ですか」
友「髪の毛を束ねてたゴムはどこに置いてきたの?」
妹「……黙秘します」
友「もくひ?」
妹「黙秘です」
友「それはどういう意味?」
妹「黙秘と言う意味です。つまり黙秘は黙秘です」
友「うわっ! 大人げない!」
妹「黙秘です」
友「いいよ。手加減しないからね!」
友「まずひとつめです。はっきり言います」
友「妹ちゃんの知り合いは私だけです。他にいません」
妹「んなっ! それはさすがに失礼ですよ!」
友「事実に腹を立てても事実です」
妹「ぐぬぬ……」
友「駄菓子屋さんに行ったことは本当だとしましょう」
友「でも知り合いと会っていたというのは真っ赤な嘘です」
妹「……」
友「妹ちゃんは、顔を知ってる誰かに誘われて駄菓子屋さんに行きました」
友「そこで商品を選んでいるときに、突然押されて転びました」
友「転んだだけで脇腹を痛くすることはないと言いましたよね」
友「いじわるな妹ちゃんの言う事です。だからそこもお見通しです」
友「ひらべったい地面に転ぶ前に、棚の角に脇腹をぶつけたんだよね」
友「どう?」
妹「……それで終わりですか?」
友「まだあります」
友「髪の毛をほどいた理由は、そのときに首にも傷を作ったからです」
友「駄菓子屋さんに寄り道したので帰る時間が遅くなりました」
友「だから、お兄さんかお姉さんが先に家にいるかもしれない」
友「なので、首の傷を見つけられたくなくてゴムを外しました」
友「合ってますよね?」
妹「友ちゃん」
友「違ったら違うって言っていいよ」
妹「すごく気持ち悪いです」
友「きも……っ!」
妹「友ちゃんの言うとおりですよ。そのまま全部正解です」
友「嘘は」
妹「嘘はありません。見破られたら認めるしかないですよ」
妹「知り合いでもない、顔だけ知ってる人と駄菓子屋さんに行きました」
妹「押されて転んで怪我を作って、それが発覚すると面倒なので隠したかったんです」
友「はっかく? めんどう?」
妹「騒ぐ人に見つかるのが嫌だったんです。だから隠そうと思いました」
友「嘘だ。妹ちゃんの隠し事はそんな理由じゃないよ」
妹「私は聖人君子でも神の子でも無いです」
妹「相手を庇い立てる義理も道理もありません」
妹「誰かに知られたら、押した子が怒られるじゃないですか」
妹「そうすると私が吹聴したんだと決めつけられる」
妹「嫌がらせをした人たちが一層に嫌悪感を抱く」
妹「いらぬ敵対心を煽るだけの悪循環で誰が得するんですか」
妹「だったら黙っていた方が得策です。感情で動けば自分の首を絞めるだけ」
妹「私は賢明なので、そういった計算ができるんです。そいうことです」
友「妹ちゃん……」
妹「泣き寝入りとかじゃないですから」
友「妹ちゃんがね、なにかすごく大事なことを言ってるのは分かるんだ」
友「でもね。だけどね、妹ちゃん」
友「難し過ぎて半分も分かりませんでした」
妹「妹ちゃんのノートを糊で封してやりましょうか」
友「……妹ちゃん」
妹「なんですか。覆いかぶさったまま溜め気味に名前を呼ばないでください」
妹「なんだか言葉にしてはいけない類の恐怖を感じます」
友「私は妹ちゃんの事、友達だって思ってるからね」
友「知り合いじゃなくて友達だよ」
妹「それは……考え方は友ちゃんの自由でいいです」
まで
続き夜
――――――
――――
――
女子『一匹狼ぶって目障りなのよね』
『けらけら』
女子『頭がいい私は馬鹿と話せませんみたいな』
『うふふ』
女子『賢いからなんですか。見下してますよね。気に食わない』
『けたけた』
女子『あなたみたいな人、大っ嫌いなんです』
『んふふ』
妹「んー……」
妹「友ちゃんって、私よりも馬鹿ですよね」
友「うえ?!」
友「う、うん。そうだけど」
友「そういうことはあまり言わない方がいいよ」
妹「純然たる事実を突き付けられて激昂する人がいるんですか」
妹「愚醜さを自覚してるのに沽券の擁護に走る人は正真正銘ですよ」
友「うーん……分かんない」
妹「馬鹿なのに馬鹿じゃないと言い張る人は馬鹿ということです」
友「でも誰かに言われていい気分はしないよ。馬鹿って言葉は」
妹「その感覚が私には分からないです」
友「それは妹ちゃんが言われたことないからだよ」
友「……」
友「妹ちゃん」
妹「なんですか」
友「ば、ばーか」
妹「……」
妹「僻みですか?」
友「ひがみ?」
妹「妬みですか?」
友「ねたみ?」
妹「友ちゃん」
友「はい」
妹「私が友ちゃんに馬鹿と言われて馬鹿にされてもいい根拠を証明してください」
妹「私は初等教育で義務付けられた五教科では、友ちゃんよりも優秀な成績を収めています」
妹「それ以外の分野で友ちゃんよりも劣っている部分があった場合、それを示すべきです」
妹「友ちゃんが明示した個別の分野の点数評価を考慮した私の総合点数を算出し」
妹「それと全く同じ手法を用いて友ちゃんの個人点数もはじきだした後に」
妹「双方の視覚化された点数を比較する相対評価で優劣を付けるべきだと思います」
友「……はい」
友(妹ちゃん……ぜんっぜんわからないです……)
妹「どんな確信があって私を馬鹿と貶しましたか?」
妹「納得できる理由はありますか?」ズイッ
友「ひっ!?」
妹「えいっ」ドンッ
友「にゃっ!」ドテッ
妹「私は力比べでも友ちゃんに負けない自信があります」
友「むぅ……」
妹「友ちゃん。私は友ちゃんよりも馬鹿ですか?」
友「も……」
妹「も?」
友「黙秘します」
妹「言いなさい! こらっ!」
友「言わないもん! 黙秘! 黙秘ぱわー!」
妹「黙秘パワーってなんですか! 馬鹿っぽいです!」
妹「はっきり言いなさい! どうなんですか!」
友「じゃ、じゃあ私のうえから降りて! そしたら言う!」
妹「言うまで逃がさないです!」
妹「友ちゃんは私の事どう思ってるんですか!」
友「それは――」
兄「んー、ごほん」
友「それは……それ……は……」
妹「……兄?」
兄「その……なんだ、あれだ。ただいま……うん」
兄「なんかな……賑やかな声がしてさ……」
兄「昨日は挨拶してなかったし、今日はって思ってたんだけど……」
兄「あー……うん。ごめんな。邪魔してごめん。うん……ごゆっくりー……」
…バタンッ
妹「……」
友「……」
妹「私、すっごい馬鹿をしたみたいですね」
友「……うん」
妹「兄! 待てっこら!」
友(妹ちゃんの顔、近かった……)ドキドキ
――――――
――――
――
友「ばいばーい」
妹「ばい」
ガチャッ
妹「はあ……大失態です」
トテトテ ガチャッ
兄「ん? 友達はお帰りに?」
妹「たった今さっき見送ったところです」
兄「そっか……」
妹「……違いますからね」
兄「なにが?」
妹「私と友ちゃんはそういう関係じゃないですからね」
兄「はは、大丈夫だよ。ちょっとびっくりな光景に驚いただけさ」
兄「仲のいい友達なんだろ。知ってるよ」
妹「兄。友達とはなんですか」
兄「なかなか難しい質問をぶつけてきたね。友達……うーん……」
『たっだいまー』
兄「お、助っ人が帰ってきた」
妹「なりうる?」
兄「姉ちゃんも頭いいからな。なにせ俺と同じ学校に通ってるし」
妹「それは遠回しな自慢ですね」
兄「バレたか」
ガチャッ
姉「およ。ふたりともリビングに居たんだ。ただいま」
兄「おかえり」
妹「おかえり」
姉「なにかお話ししてたの?」
兄「友達とはななんですか、だって」
妹「友達と知り合いの境界はどこですか?」
姉「友達の意味を知りたがる子はいるけど」
姉「その境界がどこかと言い出すのが妹ちゃんらしいね」
姉「そうだねー。信頼できるかどうかかな」
妹「信頼ですか?」
姉「秘密を打ち明けても大丈夫だなと言える人のことだと思う」
姉「秘密を守って、それが悩み事なら相談に乗ってくれて」
姉「問題の解決までいかなくとも、その糸口を一緒に模索してくれる人」
姉「たぶん、そういう人のことを友達って言うんだと思う」
妹「なるほどです」
兄「姉ちゃんは頭がいいね」
姉「お兄ちゃんだってこれくらい言えたでしょ」
兄「まあ、それはそれよ。さとい妹ちゃんなら言わずとも気付くかなと」
姉「自主学習が得意でも、これはきっと教えてあげないと難しいよ」
姉「変なところで頭が固い子だもの。ねー」
妹「そんなことないです」ムスッ
姉「あ、拗ねた」
兄「ははは。妹ちゃんは可愛いなあ」
兄「さて、兄妹揃ったことだし、ご飯でも作りますか」
姉「手伝おうか?」
兄「まだ昨日のカレーが残ってる。サラダとスープを作るだけだよ」
兄「一人でできる作業だから大丈夫。ありがとう」
姉「そっか……」
兄「……」
姉「……」
兄「そうだ! スープ、頼んでもいい?」
姉「え、うん! 着替えてくるね!」
兄「おう」
妹「ねえ。兄と姉は好き合ってるんですか?」
姉「へあっ?!」
兄「おまっ! いや、きょ、兄妹だし……そんな……なあ」
姉「ね、ねえ。そうだよね。えへへ」
姉「や、やだなあ、妹ちゃんは。変なこと言って年上を驚かせないの。ねえ?」
兄「おう。まったくだ。はは、ははは……」
姉「へへ、えへへ……着替えてくるね!」
兄「おう!」
妹「意気地なし」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家-姉の部屋
コンコン
『はーい』
妹「失礼します」
『どうぞー』
妹「姉は勉強中でしたか」
姉「抜き打ちの小テストが近いからね」
妹「テストですか」
姉「小テストなのに成績表に反映させるのよ。悪い趣味よね」
妹「抜き打ちなのに近日中だと分かるんですか?」
姉「それは先生が遠回しにほのめかしてくれるからよ」
姉「生徒の成績が悪いと先生が保護者に怒られちゃうもの」
姉「生徒は点数を出すために勉強に励む。教師は生徒の親に褒められる」
姉「ほら。win-winの関係で素敵でしょ」
妹「まるで進学校のすることじゃないです」
姉「でも生徒が自主的に勉強をすれば、それが正解の手段ってことでしょ」
妹「ふうん。そうなんですか」
姉「妹ちゃんも解いてみる?」
妹「私はいいです。それよりも姉に聞きたいことがあるんです」
姉「聞きたいこと?」
妹「兄がやましい映像を好んで見てたらどう思いますか?」
姉「やましい映像?」
妹「成人男性が喜んで観賞する、男女の性を全面に押し出した映像作品のことです」
姉「……えっちなDVDってことかな?」
妹「幻滅しますよね」
姉「お兄ちゃんは見てたの?」
妹「確認は取ってないので断定はできないですけれど」
妹「でも、知り合いと協議した結果は、その可能性があると」
妹「疑惑が濃厚で捨てきれないという結論に至りました」
姉「そう考えることになったきっかけを教えてほしいな」
妹「兄が扉の外で立っていました。『確認している』と言ってました」
妹「部屋の中でフェイク用のDVDを再生して、音漏れの度合いを確かめていた」
妹「それが私と知り合いの推測です」
姉「クロね。ちょっとお兄ちゃんの部屋に行ってみましょ」
妹「直接問いただすのですか?」
姉「ううん。お部屋の整理をするの」
妹「兄がいるかもしれませんよ」
姉「ついさっきお風呂に行ったよ。だから三十分は大丈夫」
姉「汚れたお部屋だと、お兄ちゃんが健康に暮らせないでしょ」ニコ
妹「で、ですね」ゾクゾク
まで
続き明日
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
教室-昼
友「それで『他人には言えないDVD』は見つかったの?」
妹「見つかりませんでした。ベッドの下にも本棚の裏にも無かったです」
友「お勉強の本を買うと、たまにDVDがついてきたりするよね」
妹「各種参考書も端から姉が確認しました。引き出しの裏側も探りました」
妹「カムフラージュがしやすそうな場所は全部網羅しましたよ」
友「かむふらーじゅ? もーら?」
妹「怪しい場所は調べたということです」
友「そっか」
妹「いったいどこに隠したのですかね」
友「なんだかんだで、妹ちゃんもお兄さんの事は疑ってたんだね」
妹「……友ちゃんに言われた時は、兄を信じたい気持ちでいっぱいでした」
妹「兄がそんなことするはずがないって思い込もうとしたんです」
妹「でも、思い込もうとするほどに、あの兄の姿が不可解なものになって」
妹「だから諦めて友ちゃんの推理を受容するしかなかったんです」
友「難しい言葉使えていいなあ」
友「『ふかかい』と『じゅよう』の意味が分からないや」
友「なんとなくだけど、妹ちゃんの言いたいことは伝わったよ」
友「あのときに妹ちゃんは、見るはずがないって言いきったでしょ」
友「だから悪いことしちゃったなあって思ってたんだ」
友「もしかしたら、もっとちゃんと謝らないと駄目かなって」
妹「悪かったのは私の方です。もっと冷静になるべきでした」
妹「友ちゃん、ごめんなさい」
友「ううん。私はぜんぜん怒ってないよ」
友「そうだ。そのことで妹ちゃんとお話ししたかったんだ」
妹「DVDの在り処ですか?」
友「ありか?」
妹「隠してある場所という意味です」
友「うん。昨日の夜に頑張って調べたの」
妹「じゃあ、学校が終わったら家にきてください」
友「でも今日は妹ちゃんが掃除当番だよね」
妹「むう。そうでしたね。忘れてました」
友「図書館で待ってればいい?」
妹「いいですけど、図書館も掃除の時間ですよ」
友「先生にお願いすれば図書準備室に入れてもらえるの」
妹「そうなんですか。いい伝手をもってますね」
友「つて?」
妹「図書館の先生と仲がいいんですね」
友「掃除の時間だけなんだけどね」
妹「掃除が終わったら友ちゃんを迎えに行けばいいですか?」
友「うん。本読んで待ってるから声かけてね」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
教室-放課後
妹「やったー、掃除が終わったーって喜んでたんですけど」
妹「そちら三人は私のランドセルでなにしてるんですか?」
『くすくす』
『うふふ』
女子「前に言ったでしょ。あなたみたいな人が嫌いだって」
『けらけら』
『んふふ』
妹「私が嫌いだとランドセルにちょっかいを出すんですか?」
妹「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とは有名なことわざですが」
妹「私はべつにあなたの家族に手を出したとか、そんな覚えはないですよ」
女子「賢しことを自慢したいのね。嫌なやつ」
妹「そんなふうに思えるんですね」
女子「ねえ。どの教科書なら無くなってもいい?」
『けたけた』
『くふふ』
妹「どれでもいいですよ」
『けらけ……え?』
『うふふ……ん?』
女子「は? どれでもいい?」
妹「小学校の勉強なんて、どれもとっくに終わってますので」
妹「国語は現代文とか古典とか漢文を。算数の時間は数学ⅡとBですね」
妹「社会の時間は現代社会が一昨日終わったばかりでどうしようかなって」
妹「先にするべきは日本史か世界史のどっちでしょうね。迷ってるんですよ」
妹「理科は科学を勉強中です。みんなはひまわり育てて喜んでますけど」
妹「私が育ててるんは自分で交配した植物の種です」
妹「メンデルの法則を自分の目で見ておきたかったんですよ」
妹「花壇の隅に柵で囲いがありましたよね。あそこは勝手に借りました」
妹「あまりにも狭いのが難点ですけど……まあ、実験ごっこですからね」
妹「だからどうぞ。気が済むまでその教科書で遊んでいいですよ」
妹「古紙回収に出すのが面倒でランドセルに突っ込んでただけですし」
妹「なんならそのランドセルごと持ち帰っていただいても構いませんよ」
女子「この子なに言ってるの?」
『わかんない』
『こてん? かんぶん?』
妹「そういうことでお先に失礼しますね。図書室に友ちゃんを待たせてるので」
妹「遊び飽きたら机にあげといてください。明日の朝に片付けておきます」
妹「それじゃ、また明日」
女子「ち、ちょっと待ちなさいよ!」
妹「なんですか。私のランドセルが好きなんでしょ?」
女子「そいうわけじゃないわよ!」
女子「あんた、頭おかしいんじゃないの?! 悔しくないの?!」
妹「なんでおかしいんですか?」
女子「なんでって……それは……」
女子「自分の持ち物に悪戯されてるのよ!」
女子「少しくらいは嫌な気分になるでしょ! 普通は!」
妹「なるんですか?」
妹「……なるもの?」
『なる』
『嫌だよね。されたら』
妹「そう。……まあいいや。じゃあね」
女子「ああもう! えいっ!」ドンッ
妹「にあっ!」ドテッ
妹「いきなり押し倒してなんですか。痛いんですけど」
女子「ふんっ。私はあなたをどうしてもイジメたいの」
女子「悔しくて悔しくて泣いちゃいたくなるまで」
女子「それまで手加減しないから」
妹「その理由は、わたしみたいな人が嫌いだからですよね」
女子「ええ、そうよ。あなたみたいになんでも知ってる人がね」
女子「知ってることを自慢するように喋る人が嫌いなの」
女子「言葉で押さえつけて、何も言えなくなったらムカつく顔するじゃない!」
妹「だったら私が『私みたいな人』をつれてくれば解決しますよね」
女子「かいけつ? かいけつってなに?」
『しらない』
『初めて聞いた』
妹「私の替わりを連れて来ればいいですかという質問です」
女子「それは……よくないわよ。その子が可哀相じゃない」
『うん。よくないね』
『だって泣くまでイジメるんだもんね。可哀相』
妹「泣けば許してくれるんですか?」
妹「それならこれから泣く準備をしますね」
妹「それまで暇でしょうから、私の教科書で時間を潰しててください」
女子「ほん……とに……」プルプル
女子「さっきからなんなのよ、あなたは!」
女子「どうしてよ! 三対一なんだから少しは怖がるものでしょ!」
女子「なのになんで! ひっく、こんなに……私が馬鹿みたいじゃない!」
妹「泣くの?」
女子「うるさい、ばか! 嫌い! 大っ嫌い!」
女子「ちょっとくらい怯えてよ! ぐすっ、ひっく……わ、私だけ……」
女子「だから嫌いなのよ! 相手にしてよ!」
妹「そう言ってるから教科書とランドセルを好きにしていいって」
女子「うるさい! 知らないわよ! 頭の良い人間なんか大っ嫌い!」
女子「妹ちゃんもみんな死んじゃえ!」
女子「うえーん!」タッタッタッ
『あ、待ってー』タッタッタッ
『ランドセル、返すね。ここに置いておくよ、ね!』
妹「うん。ばいばい」
『ばいばい。待ってー』タッタッタッ
妹「……」
妹「なんだったんだろう」
妹「友ちゃん待たせ過ぎちゃったかもですね」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
図書室-放課後
ガラガラ
妹「友ちゃんいる?」
友「きた! ここだよ。窓の近くの席って気持ちいいよね」
妹「運動場側の席に座ればよかったのに。中庭側なんて」
友「中庭側の方が面白いよ。教室や廊下にいる子が見れるんだもん」
妹「そう。その本は借りてくの?」
友「ううん。借りないで返すよ。読書したくて来たんじゃないもの」
妹「ふうん」
友「妹ちゃん。なにかあったの?」
妹「特になにも」
友「そう? ならいいんだけどね」
友「なにか変なことがあったら話してくれていいんだよ」
友「妹ちゃんは私の大切な友達なんだから」
妹「私が友ちゃんにとっての友達だと」
妹「友ちゃんは私にとっての友達になるんですか?」
友「なるよ!」ズイッ
妹「わっ」
友「なる! すっごくなる! すっごく友達になるよ!」
妹「そ、そうなんだ」
友「うん! うん!」
妹「つまりは言ったもの勝ちなんですね」
友「そういうこと言うから友達が増えないんだよ」
友「妹ちゃんはデリカシーがないんだから」
妹「どうしよう。もう帰る?」
友「ここで今日の分のお話ししよ」
妹「ここで?」
友「あのね。私、いっぱい調べたの」
友「それでお兄さんに聞かれたら困るものが出てきてね」
妹「だから私の家では話せないんですね」
友「うん。えっと……」ガサゴソ
友「あった。これ。このメモに書いてあるのを調べてほしいの」
妹「だぶりゅーえむぶい(wmv)、えーぶいあい(avi)」
妹「このアルファベットはなんですか?」
友「私も詳しいことは分からないんだけどね」
友「拡張子っていう名前なんだって」
妹「拡張子?」
友「妹ちゃんほどお話しが上手じゃないけど許してね」
友「ここにランドセルと、よいっしょ。逆さにしてだばー」
ドササ
友「色んな教科書やプリントがあります」
妹「うん」
友「パソコンには動画の他に写真を入れておくことができるんだって」
妹「そうなんだ」
友「ランドセルがパソコンだとして、プリントが写真ね」
友「教科書が動画で、ノートはテキストかな?」
友「プリントは『プリント』って名前でまとめられるよね」
友「教科書も『教科書』って名前でひとまとまりにできるでしょ」
妹「うん」
友「プリントと教科書は、ひと目で違いが分かるように作られてるの」
友「それと同じ。写真にはじぇーぴーじー(jpg)とかぴーえぬじー(png)とか」
友「写真にしかない苗字がつけられてるらしいの」
妹「写真と同様に動画限定の苗字をメモに書きだしたってこと?」
友「それは、えっと……どういうこと?」
妹「動画だけの苗字を調べて書いたの?」
友「うん。そういうこと」
友「写真や動画をごちゃごちゃに入れてても、その拡張子があれば」
友「こんなふうにパソコンの中に片付けても」トストス
友「どれが写真でどれが動画かが見分けられるんだって」
妹「そうだんなだ。便利なんだね」
友「でも写真や動画がそれぞれどんなものかは分からないの」
友「このプリントは給食のだね。このプリントは保護者懇談会の」
友「プリントは平べったいから縦に並べてると薄っぺらくて」
友「上から見るだけじゃ、書いてあることまで見えないよね」
妹「教科書もノートも同じですね」
友「うん。取り出すまでは中身は秘密なの」
妹「どうしても見分けはつかないのですか?」
友「写真にも動画にも苗字と名前も書いてあるから」
友「それを見ればちょっとだけ分かるかもしれない。……たぶん」
妹「調べて慣れるなら構わないです。片っ端から探していくだけです」
友「メモに調べる方法も書いておいたよ」
妹「部屋を漁って現物を見つけた方が早いと思いますけどね」
友「難しい言葉使われると分かんないよお」
妹「動画よりもえっちなDVDそのものを探した方が早い気がするんです」
友「ううん。妹ちゃんがどんなに探しても出てこないと思う」
妹「どうしてそう思うのですか?」
友「お兄さんが部屋の前に立ってたから」
妹「それだけで?」
友「それだけ」
妹「それがDVDの有無と関係するとは思えないです」
友「有無の意味は知らないけど、DVDの場所は関係するよ」
友「いつでも好きなときに見れるなら、音量の確認なんていらないもん」
友「だって誰もいない時間に見ればいいんだから」
妹「あ」
友「たぶんだけど、お兄さんはすぐに見ないといけなかったんだと思う」
友「決まった時間に見ないといけない理由があったんです」
友「見た感想を電話で聞かせてほしいとか言われてたら、どうかな?」
妹「感想だなんて、なんのためにですか?」
友「なんでって聞かれても……なんでだろう」
妹「まあ、仮に兄を急かしていた要因が他にあったとしても」
妹「それは動画が見つかってから聞きだせばいいだけです」
妹「だけども情けないですね。近くに都合のいい姉がいるというのに」
友「お店で借りたDVDは、パソコンで簡単にコピーできるんだって」
妹「それはDVDならなんでもできるんですか?」
友「コピーできないようにされてる特別なものもあるよ」
友「でも、できる物もあるの」
友「それで、話したいのはここからなんだけど」
友「お兄さんが持てる『他人には言えないDVD』はね」
友「もしかしたら、お店で借りたものじゃないかもしれない」
妹「借りたものじゃない?」
友「借りたものじゃない」
妹「……」
友「……」
妹「そ、そそそそれは、あ、兄が、自分で、さ、ささ撮影したとか」
友「落ち着いて妹ちゃん。それはないはずだから安心して」
妹「すーはー、すーはー……」
妹「うん、大丈夫。おちつきました」
友「お兄さんは知り合いの誰かからえっちなDVDを借りたって考えてるの」
友「それはすぐに見なければいけないものだった」
友「それと同じく、誰かに見つかってもいけないものだったんだと思う」
友「見つかったら言い訳ができない人から借りたもの」
友「だからお店で他の映画のDVDを借りてきたの」
妹「それと一緒の袋に入れて偽装しておけば」
妹「知り合いから借りたと思われないからですね」
友「うん。……ぎそうってなに?」
妹「嘘をつくことです」
友「ありがとう。そう。そういうことだよ」
妹「兄がそんな細工をする必要があったのはなんででしょうか……」
友「お兄さんの知り合いが自分で撮ったえっちな動画のDVDだとしたら」
友「見た感想をすぐに教えてと言われていたら。どうかな」
友「それかだけどね。ずっと手元に持ってるとよくないDVDだったりとか」
妹「兄はそのやり取りがあったことを私と姉に悟られたくなかった」
妹「だから早めに物として残るDVDだけは処分したかったと」
友「さとられる? つじつま? しょぶん?」
妹「知られたくないということです」
友「そうです。知られたくなかったんです」
妹「でもですよ。DVDが借り物なら捨てることはできないですよ」
友「貸した人が自分で作ったなら、たぶん元の動画は他にあるはずです」
友「ひとつしかない動画を誰かに貸すなんて、たぶんしないです」
妹「友ちゃんは機械に詳しいんですね」
友「そうでもないよ。妹ちゃんが勉強したらすぐに追い抜かれちゃうもん」
友「お兄さんはどこの学校に通っていますか?」
妹「県で一番いい高校です。県外の人も受験しに来るらしいです」
妹「アパートでひとり暮らしをしながら勉強する人もいると言っていました」
妹「兄という人は……姉がいるのに……なんてことを……っ!」ギリリ
友「妹ちゃん、落ち着いて。まだ、こうかもしれないってお話しだから、ね」
妹「もしそれが事実だとしたら、兄と知り合いがしていることは看過できません」
妹「風紀を乱す要因は学校側が認めないはずです」
妹「兄を問いただして、返答次第では熱いお灸を据える必要もあります」ギリッ
友「妹ちゃんからよくないオーラが出てる……」
妹「つまり、友ちゃんの予想をまとめますと」
妹「兄は知り合いからえっちなDVDを入手しました」
妹「でもそれは、校則に違反するような行為であり」
妹「その出所をごまかすためにレンタルショップで他のDVDを借りたと」
妹「新学校の威信が揺らぎかねない問題に発展する可能性も無きにしも非ず」
妹「ということですね?」
友「後半がね。さっぱりだったの」
妹「私が理解できたので友ちゃんへの説明は無しです。めんどくさい」
友「ええー」
妹「でもそうすると、友ちゃんがくれたこのメモは」
友「借りた次の日にはDVDそのものは、どうにかしてると思うけど」
友「たぶん、パソコンのどこかにそのコピーが残ってるはずです」
妹「なるほど。そういうことですね」
妹「兄め。姉を裏切ったことの重大さがどれほど大罪になるのか」
妹「しっかりと魂に刻み付けてあげますよ。ふふ、うふふふふ」
友「ひいっ?!」
まで
続き明日
書き直し前のテキストから投下してた
明日スレ立て直して、ここまでの分と明日の更新分をまとめて投下する
やり直しのスレ立てたらここに誘導用のURL張るから許して
ほんとにすまん
ミスに弱い人間はよくないな
普通に考えたらここでやり直すべきだわ
ということで次からまた一から貼り直す
スマソ
>>1の部分から
教室-昼休み
友「いきなりどうしたの?」
妹「私は知ってるんですよ」
友「なにを?」
妹「人間とは、動物です」
友「うん。理科の教科書に書いてあったね」
友「妹ちゃんは生き物が好きなの?」
妹「人間の男と女は、つまり動物の雄と雌です」
友「そうだね。『性別』って言うんだったよね」
友「動物だけじゃなくて、虫にも植物にもあるんだよね」
妹「友ちゃん。どう思いますか?」
友「どう思うって?」
妹「人間には性別があります。私には兄と姉がいます」
妹「両者の仲はとてもとってもとーっても良好です」
妹「これについてはどうお思いますか?」
友「私、ひとりっ子だから羨ましいなあ」
妹「ですよね。性を交えるべきですよね」
友「せいをまじえる?」
妹「さっさと子作りしろって言ってるんです」チッ
友「えぇー……」
妹「わたしは兄と姉の仲を取り持ちたいんです」
妹「どっちにもその気はあるのに、もたもたしてるんです」
妹「だから今の状態がすごく辛いんです。煮え切らないんです」
友「鳥もち……もたもた……にえきらない……」
友「妹ちゃんはお雑煮が好きなんだね」ニコ
妹「どういうことですか?」
友「だって、お餅を煮たいって」
妹「花壇にある友ちゃんのひまわりだけ引っこ抜きますよ」チッ
友「なんで?!」
妹「頭の悪い友ちゃんですね」
友「ううー……テストは点数いいもん」
友「妹ちゃんよりは低いけど」
友「で、でも友達の数なら妹ちゃんよりも」
妹「あ?」
友「な、なんでも……ないです……」
妹「私のことなんていいんです」
妹「悩みの種は兄と姉です」
友「なんで悩んでるの? だって仲がいいんでしょ?」
妹「友ちゃんはハチミツは好きですか?」
友「なんでハチミツ?」
妹「いいから答えてください」
友「好きだよ。甘くてとろとろで美味しいもん」
妹「パンは好きですか?」
友「うん。大好き。ふわふわしてて美味しいよね」
妹「パンにハチミツをかけて食べるのは?」
友「っ!」
友「そんなの大好きに決まってるよ! あまふわトロモチだよ!」
妹「ですよね。でも、そこでルールを作ります」
友「ルール?」
妹「朝食は絶対にパンとハチミツしか食べられません」
友「うわーっ。幸せすぎて死んじゃうかも」
妹「ですが、パンとハチミツを合わせて食べてはいけません」
友「うわーっ。死んじゃうかも」
妹「どう思いますか?」
友「そんないじわるはよくないと思う。ずるい」
妹「ずるくはないと思いますけど」
友「私はパンもハチミツも好きだけど」
友「ハチミツを塗ったパンはもっと好き!」
友「そんないじわるは許さない!」
妹「そう感じますよね。私もそうです」
友「妹ちゃんもパンにハチミツが好きなんだ」
妹「友ちゃんの使ってる鉛筆を反対側からも削りますよ?」チッ
友「なんで?!」
妹「相性のいいパンとハチミツは合わせて当然。そうですよね?」
友「うん」
妹「それと同じです。相性のいい兄と姉をもっと仲良くさせたいんです」
友「あいしょうってなあに?」
妹「仲良くなれる性格みたいに思ってください」
友「なるほど」
妹「どうすればいいと思いますか?」
友「うーんと、そうだね」
友「そういう難しいのはよく分かんないけど」
妹「ですよね」
友「でも」
妹「でも?」
友「妹ちゃんって優しいんだね」ニヘラ
妹「……ぶん殴りますよ?」
友「なんで?!」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
教室-放課後
『友ちゃーん。一緒に帰ろー』
『帰ったら勉強して遊ばない?』
友「えーと……」
妹「私にはいないお友達からのお誘いですよ」
友「うぐっ。妹ちゃん怒ってる?」
妹「ぜんぜん。事実に腹を立てても事実ですからね」
友「うー……」
『友ちゃーん、どうしたの?』
『あそぼーよー』
妹「私との約束は二の次でいいですよ」
妹「いの一番に友情を選んでどうぞ」
友「……だから嫌われるんだよ」
妹「あ?」
友「お話ししてくるから待ってて」
妹「ちょっと待ってください。今なんて、こらっ」
『おまたせ。なあに?』
『一緒に帰らない?』
『あたらしいお人形買ったんだよ。遊ぼうよ』
ワイノワイノワヤワヤ
妹「花盛りめ」チッ
妹「……」
妹「帰ろっと」
友「お待たせーっ!」ダキッ
妹「にあっ?!」
友「いっしょにかーえろ?」
妹「なにを言ってるんですか。誘われてたんですよ」
友「楽しそうなお遊びよりも楽しそうなお悩みが先だよ」
友「頭のいい妹ちゃんのお手伝いなんて、なかなかできないもん」
友「妹ちゃんのお兄さんとお姉さんを仲良くさせないと、ね」
妹「……好きにすればいいです」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家
妹「ただいまー」
友「お邪魔しまーす」
妹「まあ、誰もいないですけどね」
友「お仕事?」
妹「共働きです。兄と姉は高校です」
友「高校生かあ。かっこいいね」
妹「じきになりますよ。こんなものかって思うはずです」
友「もうちょっと夢見ようよ。お洒落な制服だよ」
妹「ネットで買えますよ?」
友「だから夢を見ようよって……」
妹「私の部屋に先に行っててください」
友「はーい」
妹「ついでに私のランドセルもお願いします」
友「うん。いいよ。んっしょ」
友「じゃあ、先に行ってるね」タッタッタッ
妹「飲み物はなにがいいですか?」
『なんでもいいよー』
妹「お茶でいいですよね。お茶しかないですけど」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家-妹の部屋
妹「お待たせしました」ガチャ
友「あ」
妹「私のタンスにどんなご用事ですか?」ニコ
友「あー……えっと……あっ」
友「く、くまさんパンツかわいいね」
友「ウサギさんのプリント可愛いなあ」
友「私はもう履いてないから懐かしいなあって」
友「え、えへへ、えへ……えへ?」
妹「……」
友「……」
妹「ひまわり。鉛筆」
友「ごめんなさい! すぐに片付けます!」
――――――
――――
――
妹「作戦会議を始めます」
友「はい」ヒリヒリ
友「ほっぺが痛いです」
妹「叩かれたのは自業自得です。反省してください」
友「はい」
妹「ではどこから話しをしましょうか」
友「妹ちゃんは、もうゴールみたいなものを決めてるの?」
友「お兄さんとお姉さんがどうなったら成功、みたいな」
妹「そうですね。そこはまだ考えてませんでした」
友「そこから決めようよ。じゃないとずっと終わらないかもしれないよ」
妹「そうなると……教会で愛を誓った口づけを見るまで」
友「そこまで?! そこまでしちゃうの?! させちゃうの?!」
妹「なにか不満でも?」
友「不満って……だって、お兄さんとお姉さんは兄妹なんだよね」
妹「兄妹ですよ。兄が産まれて、姉が産まれて、私が産まれました」
友「だったら結婚はできないよ。国の決まりだから」
妹「そんなのお国が勝手に決めた我儘じゃないですか。知りませんよ」チッ
友(ええー……)
妹「それともなんですか。愛する二人の仲を引き裂く嗜虐心に目覚めましたか?」
友「ひきさく? しぎゃくしん?」
妹「嫌がらせが楽しいですかってことです」
友「嫌がらせが楽しいわけないよ。でも……うーん、これは……」
妹「友ちゃんは私を引きとめに来たのですか」
友「お手伝いしにだよ。お手伝いだけど……」
妹「だったら手を貸してください。知恵を貸してださい」
妹「私のお手伝いをすればいいんです。それ以外に頭を使わないでください」
妹「道徳に反するとか、社会に背くとかいらぬ心配です。それは私の責任です」
友「う、うん」
友(はんする? そむく? せきにん?)
妹「最終目標が結婚であることに異議はありませんね?」
友「さいしゅう……いぎ……」
妹「結婚を目指して頑張るということでいいですよね?」
友「あ、うん。そうだね」
妹「友ちゃんはもっと国語を勉強するべきです」
友「妹ちゃんが難しい言葉を使いすぎてるんだと思う」
友「習ってないのにどうしてそんなに喋れるの?」
妹「読書をする習慣の成果です。それだけです」
友「せいか……」
妹「……」チッ
友「だ、だって難しいんだもん」
友「ねえ、妹ちゃん」
妹「なんですか?」
友「やっぱり結婚を目指すのはやめない?」
妹「あ?」
友「ひっ?!」
妹「頷いて肯定したじゃないですか。なんですか。取り下げるんですか?」
友「ち、近いよ。近い。怖い顔が近いよお」
妹「女に二言はないですよ。取り消したら、それは遺言です」
友「ふええ、私の分かる言葉で話してよー」
妹「尋ねますけど、やめたくなった理由はなんですか?」
友「その、あのね。お兄さんとお姉さんは何歳?」
妹「高校三年生と二年生です」
友「そうなると……私と妹ちゃんが小学校……十七歳くらい?」
妹「それくらいになりますね」
友「結婚ができるのは、たしか男性が十八歳くらいからだから」
妹「またお国の我儘を持ち出しますか」
友「私をそんな目で見ても困るよ。だってにっぽんの決まりだもん」
友「お兄さんが大学に進むなら、結婚は大学を卒業してからになるよね」
妹「そうなりますね」
友「大学は四年間あるってお父さんが言ってたから」
友「ひーふーみー……あと五年くらいかかるよ」
妹「そうですか。わりと近い未来ですね」
友「五年間も見守るの?」
妹「必要ならばそれもありえます」
友「もうちょっと簡単な目標つくろうよ」
友「妹ちゃんがよくても、私は五年はつらいなあ」
妹「じゃあ、交接ですね」
友「こうせつ?」
妹「交合のことです」
友「こうごう?」
妹「同衾と言えば分かりますよね」
友「ど、どうきん?」
妹「交尾ですよ、交尾!」
友「こ……こう、び?」
妹「舐めてるんですか? 清純ぶってるんですか?」
妹「『きゃー、妹ちゃーんって物知りー! 私ウブだからわっかんなーい』」
妹「とでも言いたいんですか?」
友「ほ、ほんとにわかんないのー。怖い顔近いよー。ひー」
妹「まったく。これだから同級生は」
友「もっと分かりやすい言葉で教えてよー」
妹「えっちのことです」
友「え……っ!」ボッ
友「えっち……お兄さんと……お姉さんが?」
友「わ、わーっ。わーっ! うわーっ!」
妹「伝わったみたいですね」
友「ほ、本当にさせちゃうの?」
妹「させますよ。兄も姉もしたくてたまらないはずです」
妹「朝の挨拶とか、握手とか、お喋りだけじゃ足りなくなってるんです」
友「えっち、か……。ね、ねえ妹ちゃん」
妹「はい」
友「そ、それって……私たちでできることなのかなあ」
妹「私と友ちゃんでえっちですか?」
友「え、あっ! 違うよ! そういう意味じゃなくて!」
友「私と妹ちゃんとじゃなくて、お兄さんとお姉さんをくっつけることがって!」
妹「ふーん」
友「その目はやめてよおー」
妹「でもしてみたいんですよね?」
友「…………誰にも言わない?」
妹「私が言いふらしても信じてくれる人なんていないですよ」
友「でも秘密だよ。約束だからね」
妹「うん」
友「あの、ね。い……妹ちゃんとなら……ちょっとだけ」
妹「友ちゃんのえっち」
友「――――っ!!」
――――――
――――
――
『ただいまー』
友「あ、誰か帰ってきたみたいだよ」
妹「兄ですね。ちょっと行ってきます」タタタッ
友「いってらっしゃい」
ガチャ バタン
友「……」
友「妹ちゃんって、いろいろ大人だなあ」
友「色んな言葉知ってるし、色んなこと知ってるし」
友「お兄さんとお姉さんの心配もできるし」
友「ぜんぜん敵わないなあ。すごいなあ」
『兄よ、お帰りなさい』
『ただいま』
友「これは、その……しかたなくです。しかたなくなんです」
友「盗み聞きじゃなくて勝手に聞こえてくるだけだもんね」
友「仕方ないよね。ドア、近いし、耳当てて…仕方ないよね」
友「……」
『はい、これ。お土産』
『おっ、おおっ!』
友(む、いいなあ。あとで半分だけ分けてもらおっかな)
『ほんとにこれ好きだよな。そんなに美味しいか』
『パセリに敵うおやつはないです』
友(パセリ?! お土産のおやつにパセリ?!)
『味がいいんです。ありがとう』
友(いいんだ! 妹ちゃん、パセリもらって嬉しいんだ!)
『兄よ。その袋はなんですか?』
『DVDだよ。帰りにレンタルショップで借りてきたんだ』
『なんのでーぶいでーですか』
友(妹ちゃん! でぃーぶいでぃーだよー!)
『ちょっと前に流行った映画だよ。俺が熱だして見に行けなかったやつ』
『ああ、あれですか。あれは最後にですね』
友(すとーっぷ! 妹ちゃんすとっぷ! それ以上は言っちゃだめええっ!)
『こらこら。お兄ちゃんはまだ見てないの。ネタバレは禁止な』
『む、そうですね。失礼しました』
友(ほ……)
『妹ちゃんはすぐ部屋に戻るの?』
『はい。知り合いを待たせてるので』
友(し、知り合い……友達じゃなくて……知り合い……)
『友達来てたんだ』
『べつに友達とかじゃないです』
友「友達……じゃない……」
『ではまたお夕飯に』
『おう』
タタタタッ ガチャッ
妹「お待たせ」
友「お、お帰り。もういいの?」
妹「お喋りは夕飯のときでもできるし」
友「そうだね。うん」
妹「どうしたの?」
友「な、なにが? どうもしてないよ」
妹「ふーん。まあ、いいや」
妹「ということで、時間がもう夕方なので、今日決めたことを確認します」
友「うん」
妹「最終的な目標は、兄と姉が一つの布団で夜を共にすること」
妹「それでいいですね?」
友「あれ。一緒に寝るだけにしたの?」
妹「男女がひとつの布団で寝るって言ったらえっちするという意味なんです」チッ
友「そ、そうなんだ……ごめんね」
妹「それでいいですか」
友「うん。……やっぱりちゅーまでにしない?」
妹「接吻くらい勇気を出せば誰とでもできるでしょ」
友「せっぷん?」
妹「キスのことです。いちいち可愛い子ぶらなくていいですから」
友(なんで妹ちゃんは恥ずかしくないのかなあ……)
妹「というわけで、明日からはもっと念入りで綿密な作戦を立てていきますよ」
友(ねんいり……めんみつ……)
友「おーっ!」
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
教室-昼休み
『友ちゃんって頭いいよね。羨ましいなあ』
『塾に行ってたりするの?』
友「そんなに頭はよくないよー。塾にも行ってないし」
『すごーい』
友「私よりも妹ちゃんの方が凄いよ。全部私よりも点数高いよ」
『あー……妹ちゃん……』
『うん。妹ちゃんね……』
友「うーん……」
『あ、妹ちゃんがこっち見てる』
『……あっち行こっか。友ちゃんも』
友「私は……」
妹「友ちゃん。ちょっと」
友「あ、うん……あー……」
『……』
『……』
友「……行ってくるね」
『うん』
『じゃあね』
タタタタッ
友「なあに、妹ちゃん」
妹「屋上に行こ。誰もいないから」
友「うん」
ガララ… ガララ
『……』
『……キモ』
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
屋上-昼休み
友「んーっ、気持ちのいい風だね!」
妹「昨日はずっと兄と姉を観察してました」
友「うん。どうだった」
妹「何も変わらずにいつも通りの普通でした」
妹「ただいつも通りに、変に気まずい空気でした」
友「そっか。見てない私にはその空気は分かんないけど」
友「大変そうだね」
妹「うん」
友「……」
妹「……」
友「……」
友「え、それだけ?」
妹「うん」
友「えー……」
妹「友ちゃんが帰ってからは、すぐにお夕飯でした」
妹「甘口カレーがおいしかったです」
友「妹ちゃんはカレーだったんだね」
友「私のお夕飯はグラタンだったんだ」
妹「そう。で?」
友「で、って……えっと……それだけ」
妹「そう」
友「……」
妹「……」
友「妹ちゃん!」
妹「なに?」
友「会話のお勉強しようよ! おしゃべり上手になると楽しいよ!」
妹「けっこうです。うるさい人は嫌いです」
友「……っ!」
妹「今日はどうするの。みんなと帰る?」
友「そのお話はまた後で! 今はもっと別のお話しをします!」
妹「でも話すことなんてないですよ」
友「何もないことを私に教えたかったの?」
妹「情報の共有は大事だから」
友「じょうほう……きょうゆう……」
妹「どんなことでも知っていれば便利ですよね」
友「うん。そうだね」
妹「それだけです。全部話しました。それでは」
友「だから待ってーっ!」グイッ
妹「だからなによ」
友「もっと妹ちゃんのお話聞きたいな!」
友「そういえば、いつも髪の毛は下ろしてたよね!」
友「今日はポニーテールな気分なのかな?」
妹「……ウザ」
友「うぐっ!」
友「あ、あのね。妹ちゃんはもっとお喋りになった方がいいと思うの」
友「ううん。もっといろんな人とお話しできるようになるべきなの」
妹「何かの気の迷いで誰かが話しかけてきたら会話くらいしてもいいですよ」
妹「でも私からは嫌です。そんことに労力を使いたくありません」
友「ろうりょく?」
妹「自分から話しかけに行くのが疲れるという意味です」
友「それがよくないんだってばー」
妹「……あ」
友「ん?」
妹「そういえば、兄が部屋の前に立ってました」
友「誰の部屋の前に?」
妹「兄の部屋の前です」
友「……そう」
妹「なにをしてるか尋ねたら『確認してる』と言いました」
友「なんの確認ですか?」
妹「そこまでは聞きませんでした」
友「それじゃあ分かんないよー」
妹「そんなことを言われても」
友「なんだろうね。扉の閉まり具合を見てたのかも」
妹「なんのためにですか?」
友「それは、えっと……古いお家だと」
妹「古い家に見えましたか?」
友「見えませんでした」
妹「ですよね。まだ築二年です。馬鹿にしないでください」
妹「まだまだ立て付けに問題が出るような年数じゃないです」
友「はい。ごめんなさい」
妹「それとですけども。兄の部屋で話し声がありました」
友「話し声?」
妹「くぐもってよく聞こえませんでしたが、男の声でした」
友「くぐもって?」
妹「ようするに聞こえづらかった、という意味です」
友「お兄さんもお友達を呼んでたのかな?」
妹「ないですね。それは友ちゃんも知ってますよね」
友「だよね。玄関にお客様の靴は私のしかなかったし」
友「お兄さんは携帯電話もってるの?」
妹「持ってますよ」
友「じゃあきっと電話だ」
妹「たぶん違いますね。そんなに小さな声ではありませんでした」
友「ううん。携帯電話にはね、話し相手の声を大きくする機能があるんだよ」
妹「でも違いますよ」
友「えっとね。……これこれ」
妹「携帯電話もってるんですか」
友「私のはそんなに高いものじゃないんだけどね」
友「お母さんがね、GPSがうんたらって言ってた」
妹「じーぴーえす?」
友「私もよくわかんないけど、それはいいの」
友「携帯電話のここのボタンあるでしょ」
妹「うん」
友「ここを押すとハンズフリーモードになるんだよ」
妹「どういう機能ですか?」
友「電話を耳にあてなくても相手の声が聞こえるの」
妹「そうなんですか。便利ですね」
友「だからね。きっとお兄さんは電話中で――」
妹「電話の相手を一人で喋らせながら、自分は部屋の外に出て」
妹「閉めた扉を眺めてなにかの確認をしていたんですね」
妹「その間は会話の相手をずっと放っておいたと考えたんですね」
友「……ごめんね。違うよね」
妹「うん。違うと思います」
友「あ、DVD」
妹「でーぶいでー?」
友「妹ちゃん。ダメ。でぃーぶいでぃーって言って」
妹「でいぶいでー」
友(可愛くない。全然可愛くないよ妹ちゃん……)
妹「でーぶいでー。でいぶいでー……んー?」
友「お兄さんのお部屋にテレビはありますか?」
妹「ないですよ。リビングにしか置いてないです」
友「なら、パソコンは」
妹「それはあったと思います。薄くてたためる凄いのが」
友「わかった! 完璧に分かったよ!」
妹「そうですか。では教えてください」
友「お兄さんはDVDを再生してたんです」
友「それで、部屋から音が漏れるかどうかを確認してたんです」
妹「なんのために?」
友「それは……うるさいと迷惑だから?」
妹「工事現場の音くらいなら迷惑ですけれども、家族の住む家ですよ」
妹「些細な音漏れに目くじらをたてるほど心の狭い人はいないです」
友「ささい……めくじら……」
妹「誰も気にしないくらいの音量だったってことです」
友「そっか」
友「聞こえる声は気になるくらいだった?」
妹「会話の内容が気になるくらいでした」
妹「気に留めるほどの騒音ではなかったです」
友(きにとめる? そうおん?)
友「たぶんDVDは正解だと思うんだ」
妹「そこは私もそうだと思います。昨日借りてましたし」
友「あとはなんだろう。音……聞こえる……確認……あっ」
妹「あー」
妹・友「聞こえなくなる音量を確認してた(!)」
妹「そうなりますよね」
友「だよね! そうだよね! わー、すごい! すっきり!」
友「答えが一緒だったね! わーっ! 妹ちゃんと一緒だ!」
妹「でも、そんなことをする必要があるんですか?」
友「どういうこと?」
妹「兄が借りてきたのは映画のDVDですよ」
妹「外部に音声が漏洩して損をするようなものじゃないです」
友「がいぶにおんせいがろうえい?」
妹「誰かに聞かれて困るものではないということです」
友「あ、うん。そうだね。聞かれて困るDVDかあ」
友「……」
妹「……」
友「もしかしてえっ――」
妹「友ちゃん。それ以上言ったら怒るよ」
友「なんで?!」
妹「兄はそんなのを見る人じゃないです」
友「でも、それ以外は」
妹「兄は姉だけに夢中なの。他の人のは汚れて見えるの」
友「そういうものなの?」
妹「そういうものなの」
友「だけど」
妹「他にも理由はあります」
友「喋らせてよー」
妹「いいけど怒るよ」
友「むー」
妹「兄には将来を約束するべきである姉がいるんです」
妹「ふところを痛めてまで見る必要がどこにありますか」
妹「それにです。借りてきたDVDは短くても一泊二日」
友「その……『他人には言えないDVD』は当日だったかもしれないよ」
妹「兄は間違いなく映画のDVDは借りてきてました」
妹「当日だったらあの袋を持ってまた夜に出かけてたはず」
妹「でもそれはなかったので、数泊で借りてたという証拠になります」
友「『他人には言えないDVD』だけが当日だったなんて」
妹「なんのためにそれだけ当日限りで借りるんですか。ないです」
妹「そうだとしても、兄は夜に外出してないとおかしいです」
友「だよね。返すときはいっぺんにだもんね。普通は」
友「『他人には言えないDVD』は」
妹「直接的な表現をされると不快になると言いましたけど」
妹「『他人には言えないDVD』を代名詞として使うのもやめてください」
友「うっ。はい」
友(ちょくせつてき? ふかい? だいめいし?)
妹「それにですね。兄はまだ十七歳です」
妹「帰宅当時は学生服でした。それで借りられますか?」
友「借りられないの?」
妹「学生服ではまず借りられないと思ってください」
妹「十八歳未満だと疑われる人間は、身分証の提示を義務付けられているんです」
妹「学生服の兄がレンタルショップでDVDを借りれば、年齢の確認を必ず受けます」
妹「出せるものは学生証です。そこには生年月日が書かれています」
友「あー……なる……ほど?」
友(みまん? みぶんしょう? ぎむ? レンタル? せいねんがっぴ?)
妹「やましいDVDに触れるなんてありえないんです」
妹「兄はやましいDVDなんて借りていません。白です。明白です」
友「そう……だよね。ごめんね。変なこと言っちゃって」
友「でも残念だなあ。妹ちゃんと同じ答えが出せたのに違ってるんだもん」
妹「たぶん似たような正解があったんですよ」
妹「それに繋がる何かを見落として気付けなかったんです」
友「そうだよね。うーん、くやしいなあ」
友(つながる……みおとし……)
キーンコーンカーンコーン…
妹「予鈴ですね」
友「そうだね。教室に戻らないと」
妹「……ごめんね」
友「ん? なにか言った?」
妹「なんでもないです。鍵を閉めてと言ったんです」
友「ん、わかった。えい」
ガチャッ
友「よし。教室にもどろっか」
妹「うん」
友(分からなかった言葉は後で辞書で調べておこっと)
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
教室-放課後
妹(今日はどうしようかな)
妹(誘わなくてもいいですよね)
『今日は一緒にかえろー』
『友ちゃんと遊びたいなあ』
友「うーん。どっしようかなー」
『もしかしてまた妹ちゃんに呼ばれてるの?』
『今日は私たちの番だよ』
友「そう……かなー」チラ
妹(人だかりの中ですもんね。相も変わらず人気者ですね)
妹(嫌われピエロはご退散ですよ)
友(あ……行っちゃった。今日はいいのかな?)
『どこ見てるの?』
友「うーうん。どこも。帰ろっか!」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
通学路-妹
妹(これからどんな風に動けばいいのでしょうか)
妹(兄と姉に悟られずにくっつけるのは容易ではないです)
妹(デートのきっかけを作ったところで、積極的になるとは思いません)
妹(もっと扇情的な刺激を与えなければ……)
「ねえ、妹ちゃんよね」
妹「ん?」
女子「ちょっとお話ししない?」
妹「お話しですか? 話すことなんて特にないですよ」
女子「私があなたに用があるの」
『くすくす』
『うふふ』
妹「隣で笑ってる二人も私に用事ですか?」
女子「そうね。四人で仲良くお話しましょ」
『けらけら』
『んふふ』
妹「いいですよ」
女子「じゃあ、決まりね」
女子「立ち話に向かないから、いい場所に連れてってあげる」
妹「いい場所?」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
妹の家
友(遊ばずに帰ってきちゃった)
友(帰ってきたって言っても、妹ちゃんのお家の前なんだけどね)
友(妹ちゃんが先に学校出てたもんね。もういるよね)
ピンポーン
友「……」
友「…………」
友「あれ?」
ピンポーン
友「…………」
友「お昼寝してるのかな?」
友「妹ちゃん、いつも眠たそうな目してるし」
妹「してないですよ。べつに常時睡魔に襲われてるわけではないです」
友「うわっ?!」
妹「驚きすぎです。鍵を開けるので待っててください」
友「妹ちゃん、私より先に教室から出てたよね」
友「どこか寄り道してたの?」
妹「知り合いと駄菓子屋さんに行ってました」
妹「お話しが弾んだせいでなかなか帰ってこれなかったんです」
友「ふーん、そっか」
友「あれ? 髪の毛、下ろしたの?」
妹「束ねるとぴこぴこ跳ねて鬱陶しいことに気付きました」
妹「しばらくは結ばないことにします」
友「もったいないなあ。可愛いかったのに」
友「……」
妹「……」
友「ねえ、妹ちゃん。誰とお話ししてたの?」
妹「ただのお友達ですよ」
ガチャッ
妹「開きました。お先にどうぞ」
友「おじゃましまーす」
妹「ランドセル置いておくので、また先に部屋に行っててください」
友「ねえ、妹ちゃん。あっち向いてみて」
妹「なんでですか?」
友「いいから」
妹「理由がないのに相手に背を向けるのは失礼なことですよ」
友「向いて」
妹「なにもないですって」クルリ
妹「背中にゴミでも見つけましたか?」クル
友「……誰に会ったの?」
妹「なんの詮索ですか? 男との密会じゃないので安心してください」
友「『せんさく』とか『みっかい』は分からないけど」
友「たぶん女の子とだよね。会ってたのは。何人?」
妹「推理を始めても面白いことなんてないですよ」
妹「玄関を開きっぱなしにするのはよくないですので」
友「あとでお部屋でね」
妹「……」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家-妹の部屋
友「脱いで」
妹「は?」
友「妹ちゃんの体を確かめたいの」
妹「セクハラですか?」
友「真面目なお話をしてるんだよ。だから脱いでください」
妹「真剣ならなおさらに怖いです。私にそういう趣味はないです」
友「趣味とか分かんないけど、うりゃーっ!」
妹「にあっ?!」
友「捕まえた」
妹「不埒、淫靡、猥褻、痴女、淫乱、発情魔」
友「どれも私には分からないから平気だよ」
妹「むぅ」
友「私は心配してるんだよ。だから言うこと聞いて」
妹「心配されるようなことは何ひとつないです」
友「隠したって駄目だよ。えい」プニ
妹「にっ!! 痛いんですけど……っ」
友「ほらね。やっぱり脇腹が痛いよね」
友「叩かれたの? 蹴られたの?」
妹「……転んだんです」
友「妹ちゃんは嘘が下手だから分かるよ」
友「真っ直ぐ目を合わせて、何秒かして目が逃げたら嘘」
友「だから今のは嘘」
妹「転んだのは本当です」
友「転んだだけで痛くなったのは嘘だよね」
妹「……」
友「隠そうとするなら当てちゃうよ」
友「当てちゃったら逃げられないからね」
妹「なにを当てるんです。転んだ場所ですか」
友「髪の毛を束ねてたゴムはどこに置いてきたの?」
妹「……黙秘します」
友「もくひ?」
妹「黙秘です」
友「それはどういう意味?」
妹「黙秘と言う意味です。つまり黙秘は黙秘です」
友「うわっ! 大人げない!」
妹「黙秘です」
友「いいよ。手加減しないからね!」
友「まずひとつめです。はっきり言います」
友「妹ちゃんの知り合いは私だけです。他にいません」
妹「んなっ! それはさすがに失礼ですよ!」
友「事実に腹を立てても事実です」
妹「ぐぬぬ……」
友「駄菓子屋さんに行ったことは本当だとしましょう」
友「でも知り合いと会っていたというのは真っ赤な嘘です」
友「妹ちゃんは、顔を知ってる誰かに誘われて駄菓子屋さんに行きました」
友「そこで商品を選んでいるときに、突然押されて転びました」
友「転んだだけで脇腹を痛くするようなことはないと言いましたよね」
友「いじわるな妹ちゃんの言う事です。だからそこもお見通しです」
友「ひらべったい地面に転ぶ前に、棚の角に脇腹をぶつけたんだよね」
友「どう?」
妹「……それで終わりですか?」
友「まだあります」
友「髪の毛をほどいた理由は、そのときに首にも傷を作ったからです」
友「駄菓子屋さんに寄り道したので帰る時間が遅くなりました」
友「だから、お兄さんかお姉さんが先に家にいるかもしれない」
友「なので、首の傷を見つけられたくなくてゴムを外しました」
友「合ってますよね?」
妹「友ちゃん」
友「違ったら違うって言っていいよ」
妹「すごく気持ち悪いです」
友「きも……っ!」
妹「友ちゃんの言うとおりですよ。そのまま全部正解です」
友「嘘は」
妹「嘘はありません。見破られたら認めるしかないですよ」
妹「知り合いでもない、顔だけ知ってる人と駄菓子屋さんに行きました」
妹「押されて転んで怪我を作って、それが発覚すると面倒なので隠したかったんです」
友「はっかく? めんどう?」
妹「騒ぐ人に見つかるのが嫌だったんです。だから隠そうと思いました」
友「嘘だ。妹ちゃんの隠し事はそんな理由じゃないよ」
妹「私は聖人君子でも神の子でも無いです」
妹「相手を庇い立てる義理も道理もありません」
妹「誰かに知られたら、押した子が怒られるじゃないですか」
妹「そうすると私が吹聴したんだと決めつけられる」
妹「嫌がらせをした人たちが一層に嫌悪感を抱く」
妹「いらぬ敵対心を煽るだけの悪循環で誰が得するんですか」
妹「だったら黙っていた方が得策です」
妹「感情で動けば自分の首を絞めるだけ」
妹「私は賢明なので、そういった計算ができるんです。そいうことです」
友「妹ちゃん……」
妹「泣き寝入りとかじゃないですから」
友「妹ちゃんがね、なにかすごく大事なことを言ってるのは分かるんだ」
友「でもね。だけどね、妹ちゃん」
友「難し過ぎて半分も分かりませんでした」
妹「妹ちゃんのノートを糊で封してやりましょうか」
友「……妹ちゃん」
妹「なんですか。覆いかぶさったまま溜め気味に名前を呼ばないでください」
妹「なんだか言葉にしてはいけない類の恐怖を感じます」
友「私は妹ちゃんの事、友達だって思ってるからね」
友「知り合いじゃなくて友達だよ」
妹「それは……考え方は友ちゃんの自由でいいです」
――――――
――――
――
女子『一匹狼ぶって目障りなのよね』
『けらけら』
女子『頭がいい私は馬鹿と話せませんみたいな』
『うふふ』
女子『賢いからなんですか。見下してますよね。気に食わない』
『けたけた』
女子『あなたみたいな人、大っ嫌いなんです』
『んふふ』
妹「んー……」
妹「友ちゃんって、私よりも馬鹿ですよね」
友「うえ?!」
友「う、うん。そうだけど」
友「そういうことはあまり言わない方がいいよ」
妹「純然たる事実を突き付けられて激昂する人がいるんですか」
妹「愚醜さを自覚してるのに沽券の擁護に走る人は正真正銘ですよ」
友「うーん……分かんない」
妹「馬鹿なのに馬鹿じゃないと言い張る人は馬鹿ということです」
友「でも誰かに言われていい気分はしないよ。馬鹿って言葉は」
妹「その感覚が私には分からないです」
友「それは妹ちゃんが言われたことないからだよ」
友「……」
友「妹ちゃん」
妹「なんですか」
友「ば、ばーか」
妹「……」
妹「僻みですか?」
友「ひがみ?」
妹「妬みですか?」
友「ねたみ?」
妹「友ちゃん」
友「はい」
妹「私が友ちゃんに馬鹿と言われて馬鹿にされてもいい根拠を証明してください」
妹「私は初等教育で義務付けられた五教科では、友ちゃんよりも優秀な成績を収めています」
妹「それ以外の分野で友ちゃんよりも劣っている部分があった場合、それを示すべきです」
妹「友ちゃんが明示した個別の分野の点数評価を考慮した私の総合点数を算出し」
妹「それと全く同じ手法を用いて友ちゃんの個人点数もはじきだした後に」
妹「双方の視覚化された点数を比較する相対評価で優劣を付けるべきだと思います」
友「……はい」
友(妹ちゃん……ぜんっぜんわからないです……)
妹「どんな確信があって私を馬鹿と貶しましたか?」
妹「納得できる理由はありますか?」ズイッ
友「ひっ!?」
妹「えいっ」ドンッ
友「にゃっ!」ドテッ
妹「私は力比べでも友ちゃんに負けない自信があります」
友「むぅ……」
妹「友ちゃん。私は友ちゃんよりも馬鹿ですか?」
友「も……」
妹「も?」
友「黙秘します」
妹「言いなさい! こらっ!」
友「言わないもん! 黙秘! 黙秘ぱわー!」
妹「黙秘パワーってなんですか! 馬鹿っぽいです!」
妹「はっきり言いなさい! どうなんですか!」
友「じゃ、じゃあ私のうえから降りて! そしたら言う!」
妹「言うまで逃がさないです!」
妹「友ちゃんは私の事どう思ってるんですか!」
友「それは――」
兄「んー、ごほん」
友「それは……それ……は……」
妹「……兄?」
兄「その……なんだ、あれだ。ただいま……うん」
兄「なんかな……賑やかな声がしてさ……」
兄「昨日は挨拶してなかったし、今日はって思ってたんだけど……」
兄「あー……うん。ごめんな。邪魔してごめん。うん……ごゆっくりー……」
…バタンッ
妹「……」
友「……」
妹「私、すっごい馬鹿をしたみたいですね」
友「……うん」
妹「兄! 待てっ、こら!」
友(妹ちゃんの顔、近かった……)ドキドキ
――――――
――――
――
友「ばいばーい」
妹「ばい」
ガチャッ
妹「はあ……大失態です」
トテトテ ガチャッ
兄「ん? 友達はお帰りに?」
妹「たった今さっき見送ったところです」
兄「そっか」
妹「……違いますからね」
兄「なにが?」
妹「私と友ちゃんはそういう関係じゃないですからね」
兄「はは、大丈夫だよ。ちょっとびっくりな光景に驚いただけさ」
兄「仲のいい友達なんだろ。知ってるよ」
妹「兄。友達とはなんですか」
兄「なかなか難しい質問をぶつけてきたね。友達……うーん……」
『たっだいまー』
兄「お、助っ人が帰ってきた」
妹「なりうる?」
兄「姉ちゃんも頭いいからな。なにせ俺と同じ学校に通ってるし」
妹「それは遠回しな自慢ですね」
兄「バレたか」
ガチャッ
姉「あら。ふたりともリビングに居たんだ。ただいま」
兄「おかえり」
妹「おかえりです」
姉「なにかお話ししてたの?」
兄「友達とはななんですか、だって」
妹「友達と知り合いの境界はどこですか?」
姉「友達の意味を知りたがる子はいるけど」
姉「その境界がどこかと言い出すのが妹ちゃんらしいね」
姉「そうだねー。信頼できるかどうかかな」
妹「信頼ですか?」
姉「秘密を打ち明けても大丈夫だなと言える人のことだと思う」
姉「秘密を守って、それが悩み事なら相談に乗ってくれて」
姉「問題の解決までいかなくとも、その糸口を一緒に模索してくれる人」
姉「たぶん、そういう人のことを友達って言うんだと思う」
妹「なるほどです」
兄「姉ちゃんは頭がいいね」
姉「お兄ちゃんだってこれくらい言えたでしょ」
兄「まあ、それはそれよ。さとい妹ちゃんなら言わずとも気付くかなと」
姉「自主学習が得意でも、これはきっと教えてあげないと難しいよ」
姉「変なところで頭が固い子だもの。ねー」
妹「そんなことないです」ムスッ
姉「あ、拗ねた」
兄「ははは。妹ちゃんは可愛いなあ」
兄「さて、兄妹揃ったことだし、ご飯でも作りますか」
姉「手伝おうか?」
兄「まだ昨日のカレーが残ってる。サラダとスープを作るだけだよ」
兄「一人でできる作業だから大丈夫。ありがとう」
姉「そっか……」
兄「……」
姉「……」
兄「そうだ! スープ、頼んでもいい?」
姉「え、うん! 着替えてくるね!」
兄「おう」
妹「ねえ。兄と姉は好き合ってるんですよね」
姉「へあっ?!」
兄「おまっ! いや、きょ、兄妹だし……そんな……なあ」
姉「ね、ねえ。そうだよね。えへへ」
姉「や、やだなあ、妹ちゃんは。変なこと言って年上を驚かせないの。ねえ?」
兄「おう。まったくだ。はは、ははは……」
姉「へへ、えへへ……着替えてくるね!」
兄「おう!」
妹(意気地なし)
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家-姉の部屋
コンコン
『はーい』
妹「失礼します」
『どうぞー』
妹「姉は勉強中でしたか」
姉「抜き打ちの小テストが近いからね」
妹「テストですか」
姉「小テストなのに成績表に反映させるのよ。悪い趣味よね」
妹「抜き打ちなのに近日中だと分かるんですか?」
姉「それは先生が遠回しにほのめかしてくれるからよ」
姉「生徒の成績が悪いと先生が保護者に怒られちゃうもの」
姉「生徒は点数を出すために勉強に励む。教師は生徒の親に褒められる」
姉「ほら。win-winの関係で素敵じゃない」
妹「まるで進学校のすることじゃないです」
姉「でも生徒が自主的に勉強をすれば、それが正解の手段ってことでしょ」
妹「ふうん。そうなんですか」
姉「妹ちゃんも解いてみる?」
妹「私はいいです。それよりも姉に聞きたいことがあるんです」
姉「聞きたいこと?」
妹「兄がやましい映像を好んで見てたらどう思いますか?」
姉「やましい映像?」
妹「成人男性が喜んで観賞する、男女の性を全面に押し出した映像作品のことです」
姉「それはもしかしなくても、えっちなDVDってことかな?」
妹「幻滅しますよね」
姉「お兄ちゃんは見てたの?」
妹「確認は取ってないので断定はできないですけれど」
妹「でも、知り合いと協議した結果は、その可能性があると」
妹「疑惑が濃厚で捨てきれないという結論に至りました」
姉「そう考えることになったきっかけを教えてほしいな」
妹「兄が扉の外で立っていました。『確認している』と言ってました」
妹「部屋の中でフェイク用のDVDを再生して、音漏れの度合いを確かめていた」
妹「それが私と知り合いの推測です」
姉「クロね。ちょっとお兄ちゃんの部屋に行ってみましょう」
妹「直接問いただすのですか?」
姉「ううん。お部屋の整理をするの」
妹「兄がいるかもしれませんよ」
姉「ついさっきお風呂に行ったよ。だから三十分は大丈夫」
姉「汚れたお部屋だとお兄ちゃんは健康に暮らせないでしょ」ニコ
妹「で、ですね」ゾクゾク
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
教室-昼
友「それで『他人には言えないDVD』は見つかったの?」
妹「見つかりませんでした。ベッドの下にも本棚の裏にも無かったです」
友「お勉強の本を買うと、たまにDVDがついてきたりするよね」
妹「各種参考書も端から姉が確認しました」
妹「引き出しの裏側も、タンスの背中も探りました」
妹「カムフラージュがしやすそうな場所は全部網羅しましたよ」
友「もーら?」
妹「怪しい場所は調べたということです」
友「そっか」
妹「いったいどこに隠したのですかね」
友「なんだかんだで、妹ちゃんもお兄さんの事は疑ってたんだね」
妹「……友ちゃんに言われた時は、兄を信じたい気持ちでいっぱいでした」
妹「兄がそんなことするはずがないって思い込もうとしたんです」
妹「でも、思い込もうとするほどに、あの兄の姿が不可解なものになって」
妹「だから諦めて友ちゃんの推理を受容するしかなかったんです」
友「難しい言葉使えていいなあ」
友「『ふかかい』と『じゅよう』の意味が分からないや」
友「なんとなくだけど、妹ちゃんの言いたいことは伝わったよ」
友「あのときの妹ちゃん、見るはずがないって言いきったでしょ」
友「だから悪いことしちゃったなあって思ってたんだ」
友「もしかしたら、もっとちゃんと謝らないと駄目かなって」
妹「悪かったのは私の方です。もっと冷静になるべきでした」
妹「友ちゃん、ごめんなさい」
友「ううん。私はぜんぜん怒ってないよ」
友「そうだ。そのことで妹ちゃんとお話ししたかったんだ」
妹「DVDの在り処ですか?」
友「ありか?」
妹「隠してある場所という意味です」
友「うん。昨日の夜に頑張って調べたの」
妹「じゃあ、学校が終わったら家にきてください」
友「でも今日は妹ちゃんが掃除当番だよね」
妹「むう。そうでしたね。忘れてました」
友「図書館で待ってればいい?」
妹「いいですけど、図書館も掃除の時間ですよ」
友「先生にお願いすれば図書準備室に入れてもらえるの」
妹「そうなんですか。いい伝手をもってますね」
友「つて?」
妹「図書館の先生と仲がいいんですね」
友「掃除の時間だけなんだけどね」
妹「掃除が終わったら友ちゃんを迎えに行けばいいですか?」
友「うん。本読んで待ってるから声かけてね」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
教室-放課後
妹「やったー、掃除が終わったーって喜んでたんですけど」
妹「そちら三人は私のランドセルでなにしてるんですか?」
『くすくす』
『うふふ』
女子「前に言ったでしょ。あなたみたいな人が嫌いだって」
『けらけら』
『んふふ』
妹「私が嫌いだとランドセルにちょっかいを出すんですか?」
妹「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とは有名なことわざですが」
妹「私はべつにあなたの家族に手を出したとか、そんな覚えはないですよ」
女子「賢しことを自慢したいのね。嫌なやつ」
妹「そんなふうに思えるんですね」
女子「ねえ。どの教科書なら無くなってもいい?」
『けたけた』
『くふふ』
妹「どれでもいいですよ」
『けらけ……え?』
『うふふ……ん?』
女子「は? どれでもいい?」
妹「小学校の勉強なんて、どれもとっくに終わってますので」
妹「国語は現代文とか古典とか漢文を。算数は数学ⅡとBですね」
妹「社会の時間は現代社会が一昨日終わったばかりでどうしようかなって」
妹「先にするべきは日本史か世界史のどっちでしょうね。迷ってるんですよ」
妹「理科は科学を勉強中です。みんなはひまわり育てて喜んでますけど」
妹「私が育ててるんは自分で交配した植物の種です」
妹「メンデルの法則を自分の目で見ておきたかったんですよ」
妹「花壇の隅に柵で囲いがありましたよね。あそこは勝手に借りました」
妹「あまりにも狭いのが難点ですけど……まあ、実験ごっこですからね」
妹「だからどうぞ。気が済むまでその教科書で遊んでいいですよ」
妹「古紙回収に出すのが面倒でランドセルに突っ込んでただけですし」
妹「なんならそのランドセルごと持ち帰っていただいても構いませんよ」
女子「この子なに言ってるの?」
『わかんない』
『こてん? かんぶん?』
妹「図書室に友ちゃんを待たせてるので、お先に失礼しますね」
妹「遊び飽きたら机にあげといてください」
妹「明日の朝にうまく片付けておきます」
妹「それじゃ、また明日」
女子「ち、ちょっと待ちなさいよ!」
妹「なんですか。私のランドセルが好きなんでしょ?」
女子「そいうわけじゃないわよ!」
女子「あんた、頭おかしいんじゃないの?! 悔しくないの?!」
妹「なんでおかしいんですか?」
女子「なんでって……それは……」
女子「自分の持ち物に悪戯されてるのよ!」
女子「少しくらいは嫌な気分になるでしょ! 普通は!」
妹「なるんですか?」
妹「……なるもの?」
『なる』
『嫌だよね。されたら』
妹「そう。……まあいいや。じゃあね」
女子「ああもう! えいっ!」ドンッ
妹「にあっ!」ドテッ
妹「いきなり押し倒してなんですか。痛いんですけど」
女子「ふんっ。私はあなたをどうしてもイジメたいの」
女子「悔しくて悔しくて泣いちゃいたくなるまで」
女子「それまで手加減しないから」
妹「その理由は、わたしみたいな人が嫌いだからですよね」
女子「ええ、そうよ。あなたみたいになんでも知ってる人がね」
女子「知ってることを自慢するように喋る人が嫌いなの」
女子「言葉で押さえつけて、何も言えなくなったらムカつく顔するじゃない!」
妹「だったら私が『私みたいな人』をつれてくれば解決しますよね」
女子「かいけつ? かいけつってなに?」
『しらない』
『初めて聞いた』
妹「私の代わりを連れて来ればいいですかという質問です」
女子「それは……よくないわよ。その子が可哀相じゃない」
『うん。よくないね』
『だって泣くまでイジメるんだもんね。可哀相』
妹「泣けば許してくれるんですか?」
妹「それならこれから泣く準備をしますね」
妹「それまで暇でしょうから、私の教科書で時間を潰しててください」
女子「ほん……とに……」プルプル
女子「さっきからなんなのよ、あなたは!」
女子「どうしてよ! 三対一なんだから少しは怖がるものでしょ!」
女子「なのになんで! ひっく、こんなに……私が馬鹿みたいじゃない!」
妹「泣くの?」
女子「うるさい、ばか! 嫌い! 大っ嫌い!」
女子「ちょっとくらい怯えてよ! ぐすっ、ひっく……わ、私だけ……」
女子「だから嫌いなのよ! 相手にしてよ!」
妹「そう言ってるから教科書とランドセルを好きにしていいって」
女子「うるさい! 知らないわよ! 頭の良い人間なんか大っ嫌い!」
女子「妹ちゃんもみんな死んじゃえ!」
女子「うえーん!」タッタッタッ
『あ、待ってー』タッタッタッ
『ランドセル、返すね。ここに置いておくよ、ね!』
妹「うん。ばいばい」
『ばいばい。待ってー』タッタッタッ
妹「……」
妹「なんだったんだろう」
妹「友ちゃん待たせ過ぎちゃったかもですね」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
図書室-放課後
ガラガラ
妹「友ちゃんいる?」
友「きた! ここだよ。窓の近くの席って気持ちいいよね」
妹「運動場側の席に座ればよかったのに。中庭側なんて」
友「中庭側の方が面白いよ。教室や廊下にいる子が見れるんだもん」
妹「そう。その本は借りてくの?」
友「ううん。借りないで返すよ。読書したくて来たんじゃないもの」
妹「ふうん」
友「なる! すっごくなる! すっごく友達になるよ!」
妹「そ、そうなんだ……」
友「うん! うん!」
妹「言ったもの勝ちなんですね」
友「そういうこと言うから友達が増えないんだよ」
友「妹ちゃんはデリカシーがないんだから」
妹「どうしよう。もう帰る?」
友「ここで今日の分のお話ししよ」
友「妹ちゃん。なにかあったの?」
妹「特になにも」
友「そう? ならいいんだけどね」
友「なにか変なことがあったら話してくれていいんだよ」
友「妹ちゃんは私の大切な友達なんだから」
妹「私が友ちゃんにとっての友達だと」
妹「友ちゃんは私にとっての友達になるの?」
友「なるよ!」ズイッ
妹「わっ」
妹「ここでですか?」
友「あのね。私、いっぱい調べたの」
友「それでお兄さんに聞かれたら困るものが出てきてね」
妹「私の家だと話せないんですね」
友「うん。えっと……」ガサゴソ
友「あった。これ。このメモに書いてあるのを調べてほしいの」
妹「だぶりゅーえむぶい(wmv)、えーぶいあい(avi)」
妹「これはなんのアルファベット?」
友「私も詳しいことは分からないんだけどね」
友「拡張子っていう名前なんだって」
妹「拡張子?」
友「妹ちゃんほどお話しが上手じゃないけど許してね」
友「ここにランドセルと、よいっしょ。逆さにしてだばー」
ドササ
友「色んな教科書やプリントがあります」
妹「うん」
友「パソコンには動画の他に写真を入れておくことができるんだって」
妹「そうなんだ」
友「ランドセルがパソコンだとして、プリントが写真ね」
友「教科書が動画で、ノートはテキストかな?」
友「プリントは『プリント』って名前でまとめられるよね」
友「教科書も『教科書』って名前でひとまとまりにできるでしょ」
妹「うん」
友「プリントと教科書は、ひと目で違いが分かるように作られてるの」
友「それと同じ。写真にはじぇーぴーじー(jpg)とかぴーえぬじー(png)とか」
友「写真にしかない苗字がつけられてるらしいの」
妹「写真と同様に動画限定の苗字をメモに書きだしたってこと?」
友「それは、えっと……どういうこと?」
妹「動画だけの苗字を調べて書いたの?」
友「うん。そういうこと」
友「写真や動画をごちゃごちゃに入れてても、その拡張子があれば」
友「こんなふうにパソコンの中に片付けても」トストス
友「どれが写真でどれが動画かが見分けられるんだって」
妹「そうだんなだ。便利なんだね」
友「でも写真や動画がそれぞれどんなものかは分からないの」
友「このプリントは給食のだね。このプリントは保護者懇談会の」
友「プリントは平べったいから縦に並べてると薄っぺらくて」
友「上から見るだけじゃ、書いてあることまで見えないよね」
妹「教科書もノートも同じですね」
友「うん。取り出すまでは中身は秘密なの」
妹「どうしても見分けはつかないのですか?」
友「写真にも動画にも苗字と名前も書いてあるから」
友「それを見ればちょっとだけ分かるかもしれない。……たぶん」
妹「調べながら慣れるので構わないです。片っ端から探していくだけです」
友「メモに調べる方法も書いておいたよ」
妹「部屋を漁って現物を見つけた方が早いと思うんだけど」
友「難しい言葉使われると分かんないよお」
妹「動画よりもえっちなDVDそのものを探した方が早い気がするんです」
友「ううん。妹ちゃんがどんなに探しても出てこないと思う」
妹「なんでそう思うんですか?」
友「お兄さんが部屋の前に立ってたからだよ」
妹「それだけ?」
友「それだけ」
妹「それがDVDの有無と関係するとは思えないです」
友「有無の意味は知らないけど、DVDの場所は関係するよ」
友「いつでも好きなときに見れるなら、音量の確認なんていらないもん」
友「だって誰もいない時間に見ればいいだから」
妹「あ」
友「たぶんだけど、お兄さんはすぐに見ないといけなかったんだと思う」
友「決まった時間に見ないといけない理由があったんです」
友「見た感想を電話で聞かせてほしいとか言われてたら、どうかな?」
妹「感想だなんて、なんのためにですか?」
友「なんでって聞かれても……なんでだろう」
妹「まあ、仮に兄を急かしていた要因が他にあったとしても」
妹「それは動画が見つかってから聞きだせばいいだけです」
妹「だけども情けないですね。近くに都合のいい姉がいるというのに」
友「お店で借りたDVDは、パソコンで簡単にコピーできるんだって」
妹「それはDVDならなんでもできるんですか?」
友「コピーできないようにされてる特別なものもあるよ」
友「でも、できる物もあるの」
友「それで、話したいのはここからなんだけど」
友「お兄さんが持てる『他人には言えないDVD』はね」
友「もしかしたら、お店で借りたものじゃないかもしれない」
妹「借りたものじゃない?」
友「借りたものじゃない」
妹「……」
友「……」
妹「そ、そそそそれは、あ、兄が、自分で、さ、ささ撮影したとか」
友「落ち着いて妹ちゃん。それはないはずだから安心して」
妹「すーはー、すーはー……」
妹「うん、大丈夫。おちつきました」
友「お兄さんは知り合いの誰かからえっちなDVDを借りたって考えてるの」
友「それはすぐに見なければいけないものだった」
友「それと同じく、誰かに見つかってもいけないものだったんだと思う」
友「見つかったら言い訳ができない人から借りたもの」
友「だからお店で他の映画のDVDを借りてきたの」
妹「それと一緒にして偽装しておけば知り合いから借りたと思われないからですね」
友「うん。……ぎそうってなに?」
妹「嘘をつくことです」
友「ありがとう。そう。そういうことだよ」
妹「兄がそんな細工をする必要があったのはなんででしょうか……」
友「お兄さんの知り合いが自分で撮ったえっちな動画のDVDだとしたら」
友「見た感想をすぐに教えてと言われていたら。どうかな」
友「それかだけどね。ずっと手元に持ってるとよくないDVDだったりとか」
妹「兄はそのやり取りがあったことを私と姉に悟られたくなかった」
妹「だから早めに物として残るDVDだけは処分したかったと」
友「さとられる? つじつま? しょぶん?」
妹「知られたくないということです」
友「そうです。知られたくなかったんです」
妹「でもですよ。DVDが借り物なら捨てることはできないですよ」
友「貸した人が自分で作ったなら、たぶん元の動画は他にもあるはずです」
友「ひとつしかない動画を誰かに貸すなんて、たぶんしないです」
妹「友ちゃんは機械に詳しいんですね」
友「そうでもないよ。妹ちゃんが勉強したらすぐに追い抜かれちゃうもん」
友「お兄さんはどこの学校に通っていますか?」
妹「県で一番いい高校です。県外の人も受験しに来るらしいです」
妹「アパートでひとり暮らしをしながら勉強する人もいると言っていました」
妹「兄という人は……姉がいるのに……なんてことを……っ!」ギリリ
友「妹ちゃん、落ち着いて。まだ、こうかもしれないってお話しだから、ね」
妹「もしそれが事実だとしたら、兄と知り合いがしていることは看過できません」
妹「風紀を乱す要因は学校側が認めないはずです」
妹「兄を問いただして、返答次第では熱いお灸を据える必要もあります」ギリッ
友「妹ちゃんからよくないオーラが出てる……」
妹「つまり、友ちゃんの予想をまとめますと」
妹「兄は知り合いからえっちなDVDを入手しました」
妹「でもそれは、校則に違反する行為であり」
妹「その出所をごまかすためにレンタルショップで他のDVDを借りたと」
妹「新学校の威信が揺らぎかねない問題に発展する可能性も無きにしも非ず」
妹「ということですね」
友「後半がね。さっぱりだったの」
妹「私が理解できたので友ちゃんへの説明は無しです。めんどくさい」
友「ええー」
妹「でもそうすると、友ちゃんがくれたこのメモは」
友「借りた次の日にはDVDそのものは、どうにかしてると思うけど」
友「たぶん、パソコンのどこかにそのコピーが残ってるはずです」
妹「なるほど。そういうことですね」
妹「兄め。姉を裏切ったことの重大さがどれほど大罪になるのか」
妹「しっかりと魂に刻み付けてあげますよ。ふふ、うふふふふ」
友「ひいっ?!」
続き夜
多めに更新
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家
ガチャッ
妹「ただいまです」
『おかえりー』
妹「これは兄の声」
妹「焦っていけません。まだ勝負の刻ではないです」
タタタタッ ガチャッ
妹「ただいまです」
兄「おかえり。今日はちょっと遅かったね」
妹「友達と図書館でお話ししてました」
兄「妹ちゃんのことだから勉強のお話しかな」
妹「……」
兄「ん、なに?」
妹「なんでもないです。パソコンを借りてもいいですか?」
兄「いいよ」
妹「兄。私はあまりパソコンに詳しくないです」
妹「でも知識を増やすためには情報の海を泳がなければいけません」
妹「海に隠された宝を掴む。私はそういった冒険がしたいのです」
兄「なんとも大げさな言い回しを」
兄「ネットが使えるように画面を出しておくよ」
妹「ありがとうございます」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
家-兄の部屋
カチャ…
妹「兄はのん気にリビングでテレビを見てますね……よし」
妹「画面左下のスタートのボタンを押してっと」
妹「次は、ええと『長方形の欄に拡張子を入力』と」
妹「うっすらと『プログラムとファイルの検索』と表示されてるここですね」
妹「そこに、メモにあるアルファベットを入力して」
妹「何かでてきましたね。それっぽいものはないですけど。なるほど」
妹「名前の後ろにあるアルファベットに引っ掛かって出てくるんですね」
妹「兄よ。恥部を全て暴かせてもらうですよ」
――――――
――――
――
『――――っ――――!』
『……――っ――っ!』
『――――…………っ』
『――――――っ!!』
妹「ふ、ふふ……うふふ、ふ、ふふふ」
妹「本当に友ちゃんの推測通りじゃないですか」
妹「そうですか。ありましたか。見つけちゃいましたか」
妹「これはこれは、精緻な美貌を持った女性ですね」
妹「でっかい胸しやがってるじゃないですか。姉が泣きますよ」
妹「全裸で抱かれてますけども、体操着やスクール水着やら」
妹「それに加えてランドセルまでベッドに投げて」
妹「高校生が小学生を演じるなんて。愚かも愚かですよ。ですよね、兄よ」
妹「性的倒錯もここまで来ると気持ち悪いですね」
妹「サイズの合わない服を着て行為に及ぶ姿に興奮するなんて考えられないです」
妹「兄と姉をくっつける目標は変えませんが、反省が先決ですよね」
妹「女性は姉に近い年齢かもですね。もしかしたら同学年の誰かです」
妹「浮ついた男子の足をしっかりと捕まえました」
妹「創作物でも浮気は浮気。兄には痛い目に遭ってもらいますよ」
妹「ふふ、うふふ、ふふふ、ふふふふうふふうふうふ」
――――――
――――
――
ガチャ…
兄「妹ちゃん、調べ物の進行具合は順調かな?」
妹「ああ、兄ですか。捗りすぎて怖いくらいです」
兄「そっかそっか。それで、今はなにを検索して――」
『……――――っ! ……っ!』
『――――っ、――っ!』
兄「どこでなにを検索してるのお?!」
兄「ストーップ! それ以上見ちゃダメ!」
兄「ほんとに! よくない! 妹ちゃんにはまだいらない知識!!」
カチカチッ タ-ンッ!
妹「むっ。なんで消すんですか」
兄「妹ちゃん。さすがに俺だって怒るよ」
兄「ネットを使いたいって言ったからパソコンを貸したんだぞ」
兄「なのに、こんな……人のプライバシーを勝手に……よくないよな!」
妹「兄は勘違いして腹を立ててるみたいですね」
妹「『ネットを使いたいからパソコンを貸して』なんて頼んでないですよ」
妹「隠してあるものを掴みたいと言ったんです」
兄「それは屁理屈だ。ごまかそうたって、そうはいくか」
妹「私は最初からこの動画があることを知っていました」
妹「だから拡張子をしらみつぶしに検索して探ったんです」
兄「だったらなおさらにタチが悪いだろ」
兄「今回ばかりは開き直っても許さないからな!」
妹「兄のプライバシーなんて今はどうでもいいんです」
兄「どうでもいいだあ? さすがにお仕置きだ」
兄「立て、ほら! こっちこい!」
妹「ちょっと! 痛いですよ!」
妹「そんな強く腕を引っ張らないでください!」
兄「ちゃんと反省するまで許さないからな!」
『ただいまー』
妹「むっ。姉のお帰りですね」
兄「関係ない。リビングで叱る」
ガチャッ
姉「ただいまあー……って、あれ? なんか空気重いよ?」
兄「姉ちゃんは部屋に行ってて。妹ちゃん叱るから」
姉「妹ちゃん、なにかしたの?」
妹「見つけました」
姉「見つけたって、なにを、をー……」
兄「いいから。夕飯作ったら呼ぶ」
姉「妹ちゃん。見つけたの?」
妹「見つけました。しっかりと」
姉「へえー、見つけたんだ。そっかそっかあ」
姉「ねえ、お兄ちゃん」
兄「なんだよ」
姉「妹ちゃんを叱るよりも先に」
姉「私と大事な大事なお話ししませんか?」
兄「……」
兄「姉ちゃんはそこでちょっと待ってて」
兄「そして妹ちゃん。ちょっとこっち来て」
妹「今度は強く掴まないんですね」
兄「そんなことはどうでもいいから」
兄「なあ、あのさ。もしかしてだけど……姉ちゃんはあの動画のこと」
妹「知ってますよ。昨日ふたりで大元のDVDを探しましたから」
兄「うそんっ。冗談だよね?」
妹「確かめてみればいいじゃないですか」
妹「まあ、兄が尋ねるよりも先に詰問が始まると思いますけども」
兄「……」
姉「ねえ、お兄ちゃん。妹ちゃんが見つけたえっちなDVD」
姉「是非とも私にも見せてもらいたいなあ。見たいなあ」
兄「……はい」
妹「痴話喧嘩が終わったら呼んでください」
妹「私も兄にいくつか聞きたいことがありますので」
姉「うん。わかったよ」
姉「それじゃ、お兄ちゃんのお部屋に行こっか」
兄「はい」
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
朝-学校
妹「友ちゃん。おはようございます」
友「妹ちゃん、おはよう!」
妹「友ちゃんの言った通りでしたよ」
妹「兄はこってりと搾られました」
友「こってり? しぼられる?」
友「ラーメン食べに行ったの?」
妹「友ちゃんのこと搾りましょうか」
友「よくわかんないけど怖い……」
妹「怒られたということです」
友「あらら、怒られちゃったんだ」
妹「兄が姉に泣いて謝ってました」
友「そっか……お兄さん可哀相だね」
妹「自業自得ですよ。姉がいるのに動画に浮気したんです」
妹「お金を払ってまで手に入れたのだと白状しました」
妹「姉は寛容でしたよ。人間としての器が完成してました」
妹「二時間の正座と動画の削除を条件に許したんです」
妹「私なら首を跳ね飛ばして道路に晒すまではしましたね」
友「うわー……」
妹「それはいいとして。少しだけ質問してもいいですか?」
友「質問? なんの質問?」
妹「兄は、いくつかの動画のうちの一本を買った、と言っていました」
友「うん」
妹「DVDを購入したきっかけは、他の友人に誘われてだそうです」
友「こうにゅうって?」
妹「買うと同じ意味です」
友「そうなんだ。誘われたんだ」
妹「兄が選んだのは、一番安いものだそうです」
友「でもきっと高いよね」
妹「三千円したと」
友「高い……」
妹「元の値段は四千円だと」
妹「値切り交渉の末になんとか千円下げたとのこと」
妹「交渉は『撮影技術のほう助』を条件にまとまったそうです」
妹「ようするに『次の収録が近いから、改善点を当日中にさっさと教えろ』と」
妹「『そうすれば翌日に千円札を返してやる』なんてやり取りをしたらしいです」
友「えーっと、それは……」
妹「悪いところ教えてくれれば感謝の割引をしてもいいよ、ということです」
妹「友ちゃんの推理が大方で正解でしたね」
友「そんなお話しがあったんだね」
妹「あんな低俗で卑猥なものにお金を使うなんて信じられないです」
妹「兄に好意を抱いていた姉は機嫌を損ねますし。なにをしてるんですかね」
友「男の人にしか分からないなにかがあったんだよ。きっと」
妹「ちなみに、二万円のものもあったそうですよ」
友「ええっ! た、高すぎるよ……」
妹「それを買わなかった理由も教えてくれました」
妹「『俺は間違っても手を出そうとは思ないから』だそうです」
友「さすがに二万円は……ショートケーキ何個分?」
妹「そんなの自分で店に行って、値札と万札を見比べて計算してください」チッ
友「舌打ちするほど?!」
妹「それよりも、どうですか。おかしいと思いませんか」
友「そこまで冷たくされるのはおかしいよ。ぐすん」
妹「違います。兄の供述です」
友「きょうじゅつ?」
妹「『俺は間違っても手を出そうとは思ないから』と兄は言ったんです」
友「だって二万円だもん。そんなに大きなお金は払えないよ」
妹「にぶちん。それなら『俺』を強調しなくてもいいんです」
友「どういうこと?」
妹「『間違っても手を出そうとは思わないから』で意味は通じるんです」
妹「兄はどうしてわざわざ『俺は』を加えて自分のことを強く主張したんですか」
友「他の人とは違うってことを言いたかったんだよ」
友「お金があっても買いませんよって。だから『俺は』って……あれ?」
妹「金銭の問題ならただ『買わなかった』と言えばいいんです」
友「じゃあ、どういうことなんだろ」
妹「それに――」
キーンコーンカーンコーン
妹「むっ。予鈴が鳴っちゃいました」
友「続きはお昼休みでいい?」
妹「うん」
――――――
――――
――
『みなさん、おはようございます』
『おはようございます!』
妹(分かりそうで分からない。もやもや感が気持ち悪いなあ)
『それじゃあ、名簿順に出席の確認をしますね』
妹(あのときは兄の恥部を暴露した優越感で流しましたけど)
『――ちゃん』
『はい』
妹(その後の尋問は、その点だけ明らかにはぐらかしていました)
『――ちゃん』
『はい』
妹(さっさと気付いて追及しておけばよかったです!)
『友ちゃん』
『はい!』
友(『俺は』と言ったのは、お金のことじゃないのかなあ)
『――ちゃんは病欠と』
友(他の人ができるけど、自分だけはしないこと)
『――ちゃん』
『はい』
友(うーん、わかんないよお。妹ちゃんみたいに頭がよかったらいいのに!)
『――ちゃん』
『はい』
友(他の人に聞いてみるなんてこともできないし。うあああ)
『女子ちゃんも欠席と』
『――ちゃん』
『はい』
妹(一人で考えて出ないんです。焦って答えを探すよりも友ちゃんを頼りましょう)
『――ちゃん』
『はい』
妹(友ちゃんは……頼れるお友達なんです)
『――ちゃん』
『はい』
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
学校-お昼休み
友「妹ちゃーん。お手上げだよー。ぜーんぜん分からないの」
妹「順番に考えましょう。頭からです」
友「頭から……どこから?」
妹「一日目に、私は両想いの兄と姉をくっつけたいと相談しました」
友「されました」
妹「相談した日に、私は兄の奇妙な行動を目撃しました」
友「目撃しました。意味は?」
妹「へんなことをしてる姿を見つけたということです」
友「見つけました」
妹「私はそれを友ちゃんに持ちかけて謎解きをしました」
友「しました。そしたらDVDがあるかもしれないと」
妹「次の日に私は、姉とともにDVDを探しました」
妹「でも結局はDVDは見つからず仕舞いでした」
友「というのは?」
妹「部屋から持ち出された後だということです」
友「ということです」
友「その日に妹ちゃんが怪我をしたんだっけ?」
妹「それはべつにいいですよ。兄と姉の問題に関係しないです」
友「だけど妹ちゃんが怪我したんだよ。放っておけないよ」
妹「私がいいって言ってるんです。だからいいんです」
友「じゃ、じゃあ。せめてなんて言われたか教えてよ」
友「黙って押されておわりじゃなかったんだよね」
妹「『頭がいい人が嫌い』みたいなこと言われたんです」
妹「他はなにもないですよ。満足ですか?」
友「妹ちゃんの問題を先にやっつけないといけない気がする」
友「大怪我してからだと遅いんだよ」
妹「後回しでも間にあいます。私の話は終わり。はい次」
友「よくないんだけどなあ……」
妹「そのまた翌日に、友ちゃんがメモをくれました」
友「それが昨日のことだよね」
妹「そうです。それで兄を騙してパソコンで調べると」
友「保存されていた動画が見つかった」
妹「うん。それが昨日までの出来事です」
友「……ねえ、これって何をしてるんだっけ?」
妹「なにって。兄の言い訳がおかしいから……」
妹「あれ?」
妹「ふたりでなにしてるんでしょうね」
友「だよね。そうだよね。そうなるよね」
友「私たちが考えないといけないことは違うと思うんだ」
友「お兄さんがお姉さんに嫌われちゃったんだよ」
妹「動画のことばかりを考えて、それをすっかりと忘れていました」
友「お兄さんがどれだけ怒られたかは、私には分からないんだよね」
友「『えっちなのだめです!』くらいで済んでたら簡単なのに」
妹「そんなわけないじゃないですか。だって悪い趣味でしたよ」
友「お兄さんはえっちな動画を見るのが趣味だったんですか?」
妹「違います。そんな趣味だったら家から追い出します」
妹「でも家から追い出してもいい内容でした」
友「そうなんだ。……どんなの?」
妹「顔が赤いですね」
友「だ、だって……恥ずかしいんだもん」
妹「なら聞かなきゃいいじゃないですか」
友「だって気になるんだもん」
妹「友ちゃんは私のお兄さんと会ってますよね」
友「うん。一昨日に。かっこよかったです」
妹「同年齢くらいの女性が小学生の体操着を着るんです」
友「小学生の……え?」
妹「ランドセルとか、水着もありましたよ」
友「え、ええー……」
妹「たぶん、あれを着て交尾をするんでしょうね」
友「そんなえっちのしかたがあるんだね。そっか……」
友「それで、どうだったの?」
妹「どうだったとは?」
友「着ながら……その……えっちしてるとこ……見たんだよね?」
妹「着ながらのシーンはありませんでしたよ。見たのは途中まででしたけどね」
妹「でも、後半になって服を着るなんて非効率なことはしないですよね」
友「うん。たぶんしないと思う。そういうの見たことないけど」
友「ん……あれ? 妹ちゃん、もう一回言って」
妹「だからですよ。裸になってるのに、また体操着や水着を着るなんてことは」
友「ないよね。でも、あったんだよね。体操着と、水着と、ランドセル」
妹「ありました」
友「おかしいよね。なんで使ってない物が出てるの?」
妹「それはきっと立て続けの撮影だったんですよ」
妹「一回目に使ったものを片付け忘れてたとか、そんなので説明できます」
友「お兄さんが買ったのは、一番安いDVDだったんですよね」
妹「そうですよ」
友「体操着を着たり、水着になってみたり」
友「撮影中にランドセルを背負ったら二万円になるんですか?」
妹「なるんじゃないのですか?」
友「なるの?」
妹「もしくは伊勢海老やアワビを咥えさせて、キャビアを体にふりかけますか?」
妹「トリュフとかツバメの巣を頭に乗せて性行為に励めば高級感くらい出ますよ」
友「お兄さんは『俺は間違っても手を出そうとは思わないから』って言ったんだよね」
妹「言いましたね」
友「それがDVDの値段が高いから買わなかったという意味じゃなかったら」
友「他に間違えるようなことってあるんですか?」
妹「社会規範から逸れた非道徳的なおこないではないですか」
妹「例をあげるとすれば、公序良俗を犯した公然の場での行為とか」
妹「そういった本来はしてはいけない、法に触れたものです」
友「難しいよお」
妹「ようするに、普通ではしてはいけないことをしたから」
妹「それに合わせて値段が高くなったのではないかと」
妹「でも場所を変えただけで値段が飛び跳ねるとも思えないですね」
妹「道路や公園で撮影したとしても、それに価値を感じる人がいるかは別です」
妹「売値と見合う内容でなければ高値で買う人は出ないですし」
友「たぶんね、変えたのは場所とか服装じゃないと思うんだ」
友「たとえば人とか」
妹「人? 撮影者の腕が悪いからプロに依頼したとかですか?」
友「よーく考えて、妹ちゃん。DVDにはなにが映ってましたか?」
妹「ですから、カップルの痴態ですよね」
妹「他人には見せるべきではない情事の一部始終です」
友「わかんないけど、他には?」
妹「他と言われても……あとは服とか小道具が……」
友「小道具ってなんだっけ」
妹「水着やら体操服といった……」
友「しちゃいけないことを映したDVDが二万円だよ」
妹「な、なに言ってるんですか。そんな……友ちゃんは馬鹿ですね」
妹「だって……たまたま道具が映り込んでただけですよ。なのに」
友「妹ちゃん。私は妹ちゃんより頭は悪いけど、馬鹿じゃないよ」
妹「じゃあ、なんですか。妹ちゃんは大真面目に考えてるんですか」
妹「二万円のDVDには小学生との行為が映っているなんて」
友「私は妹ちゃんより頭は悪いです。だから教えてください」
友「私の考えは間違ってますか?」
妹「常識的じゃないです! そんなことが言えるなんて普通じゃないです!」
友「間違ってるんですね」
妹「間違いも間違いです! 頭おかしいですよ!」
妹「校則どころか法律違反です! お国が許すわけ」
友「お兄さんの言葉を思い出して」
友「『俺は間違っても手を出そうとは思わないから』だよ」
妹「許すわけ……なく……て……」
妹「……は、はは……ほんとですね」
妹「そうでしたね。馬鹿兄が言ってましたね……」
妹「兄はなんで隠したんですか……馬鹿だからですかね」
妹「DVDを売る友達がそんなに大事でしたか……情けない」
友「探さないと。私たちが見つけて、ダメだよって言わないと」
妹「どうやって探すんですか。見つけようがないですよ」
友「お兄さんに教えてもらお!」
妹「簡単に口を割ると思ってるんですか?」
妹「兄は内容を知っていても相手を咎めなかったんですよ」
妹「それどころか別のDVDを買って、撮影方法の指南までしてるんです」
妹「私たちが気付いたことを知らせれば、兄が友達に報せるかもしれない」
妹「内通者になったらDVDの証拠を隠滅する可能性があるんです」
友「えっと……ごめんね。どういうこと?」
妹「兄を頼れば失敗する可能性もあると言ったんです」
妹「兄がそこまで落ちぶれてるとは思わないですが……でも」
友「なら、お兄さんの動画を他のDVDにコピーして先生や警察に」
妹「見つけた動画は姉が消しました」
友「あ……」
妹「無いですよ、方法なんて。手詰まりです」
友「あります! お兄さんと同じ学校に通ってる人を探すんです!」
妹「探してどうしますか。片っ端から問い詰めますか?」
妹「売買に関与した人は、売った人間との関係を絶対に否定しますよ」
友「妹ちゃんの知り合いで、きょうだいがお兄さんと同じ学校の人は」
妹「私に友ちゃん以外の友達はいません。知り合いだって皆無です」
友「そうだった……」
妹「友ちゃんはどうなんですか。友達は多いって自分で言ってましたよね」
友「言ったけど、そんなことを聞いたことは……うーん……」
友「あ! そうだ!」
妹「全校生徒七百人に聞くなんて馬鹿な提案はしませんよね」
友「……やっぱりなんでもないです」
妹「だー、もう! なんで県内で一番優秀なのが馬鹿校なんですかね!」
妹「姉みたいに頭のいい人ばかりならよかったのに!」
妹「姉や私みたいな人ばかりだったらこんな阿呆な……」
『頭がいい私は馬鹿と話せませんみたいな』
妹「私みたいな……」
『賢いからなんですか。見下してますよね。気に食わない』
『言葉で押さえつけて、何も言えなくなったらムカつく顔するじゃないの!』
『あなたみたいな人、大っ嫌いなの』
妹「……いた」
友「へ?」
妹「知り合い、いました。でもいないです」
友「いた? いない? どういうこと?」
妹「女子ちゃんです」
妹「女子ちゃんは、私みたいに頭のいい人が嫌いって言ってました」
友「それは妹ちゃんが嫌われやすいだけで……」
妹「今は許してあげます。あとで怒りますけど」
妹「女子ちゃんは、私みたいにって言ったんです」
妹「私じゃなくて、みたいにって」
妹「なんで頭のいい人が嫌いなんですか?」
友「女子ちゃんって欠席だよね。風邪でって」
妹「でも昨日は元気でした」
友「……職員室、行こ」
妹「行ってどうするんですか」
友「先生に女子ちゃんのお家の場所を聞くの」
友「それと、女子ちゃんにお兄さんがいたら聞くの!」
妹「何にもなしに教えてくれるわけがないですよ」
妹「遊びに行くために住所を教えろと言う気ですか?」
友「ううん、違う。ちゃんと理由はあるよ」
友「今日の分のプリントを届けてあげないと」
妹「……」
妹「友ちゃんは賢いですね」
友「今はまだお昼休みだけどね」
友「でも、だけど、だから家にいると思うんだ」
妹「……行きましょう」
友「うん」
※-※-※-※-※-※-※-※-※-※
外-お昼休み
友「はぁっはぁっはぁっ」
友「よかったのかな。ま、まだお昼休みなのに学校抜け出して」
妹「それこそ『そんなことを言ってる場合じゃない』です」
妹「だって居たじゃないですか。女子ちゃんに兄が。学校も同じで」
友「ふっふっふっ。うん」
友「あとどれくらいだっけ?」
妹「次の角を曲がってすぐのアパートです」
友「け、けっこう、遠いね。女子ちゃんのお家も、次の角も」
友「はぁはぁ、しゃいっ!」
妹「走るのに疲れたなら休憩してていいですよ」
妹「私はちっとも疲れてないので先に行きますけど」
友「私も、疲れて、ないもん!」
妹「ここ右です」
友「とわっ、とと!」
妹「減速が下手ですね。運動音痴ですか」
友「今はそ、そんなこと、いい、のっ! あとで怒るけど!」
妹「一軒目、二軒目、三軒目の……ここです。着きました」
友「着い……た? はー……はー……ひゅー……ひゅー……」
妹「着きましたよ」
妹「友ちゃんは塀の影で休んでてください」
友「うん」
妹「お部屋は105号室……105号室……ここだ」
妹「扉に耳を当てて内部の様子を確認」
『や――っ! ――ねが――てっ!』
『う――なっ! はや――よっ!』
『い――っ! おね――いっ!』
妹「ふっふーん。二万円みーつけたです」
妹「近日中の撮影は今日だったんですね」
妹「お日様が出てるというのに真っ盛りとは」
友「ふーふー……ここ?」
妹「友ちゃんは休んでてよかったんですよ」
友「やだよ。妹ちゃんだけだと危ないもん」
妹「お庭の方に回ろっか」
友「なんで?」
妹「玄関はどうせ鍵かかってます」
友「そっか」
妹「それにね。猛烈にガラスを割りたい気分なんです」
友「え?」
妹「兄に対してとか、女子ちゃんにいわれのない悪口とか暴力とか」
妹「ここでその鬱憤を全部晴らすんですよ」
友「そ、そう。気を付けてね」
妹「私が中に踏み込んだら、このガラス扉を開きます」
妹「そしたらカーテンを力ずくでちぎって床に敷いてください」
妹「裸足の子がガラスを踏んだら危ないですからね」
友「うん」
妹「防犯ブザーは好きな時に鳴らしていいです」
友「りょーかい」
妹「覚悟するがいいですよ、欲に堕ちた男ども」
妹「誰がどんなに泣いても、もう許さないですからね」
妹「さて、いきますよ。準備はいいですか」
友「いつでも大丈夫だよ。……あれ?」
友「妹ちゃん。どうやってガラスの割るの?」
妹「そんなの決まってるじゃないですか」
妹「力いっぱいのパンチですよ」
友「……へ?」
ガシャーンッ
ピロロロロ――
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
病院-放課後
友「妹ちゃーん、こんにちは。お見舞いにきたよー」
妹「なんの用ですか?」
友「だからお見舞いに来たんだって」
妹「お菓子は?」
友「私、妹ちゃんのこと嫌いになりそう……」
妹「毎日来なくてもいいんですよ。他の患者さんの迷惑になりますよ」
友「そんなことないよ」
友「だって妹ちゃんは個室だもん」
妹「うん」
友「お兄さんとお姉さんはもう来ましたか?」
妹「兄は部活があるから遅めに。姉はこれからです」
友「お兄さん、またDVDの件で怒られちゃったみたいですね」
妹「そうですか。懲りない男ですね」
友「妹ちゃんの用事が落ち着いたかららしいですよ」
友「忙しいときは怒る時間が取れないもんね」
妹「兄が兄であることが情けないです」
友「あのね。最初に決めた、その……目標まではダメみたいだったけど」
友「お兄さんがお姉さんに好きですって言ったみたいなの」
友「それでちゅーしたって」
妹「その続きは?」
友「続き? 続きは無いよ」
妹「思春期を迎えてるのにキスどまりってなんですか!」
妹「牡と牝がいるんだから性を交えるのが常識じゃないですか!」
友「こ、声が大きいよっ。個室でも大声で言っちゃいけないことだから、ね」
妹「まあ、進展があっただけまだいいです」
妹「あとは時間と性欲に任せれば円満に収まることでしょう」
友「妹ちゃんはたぶんとんでもないこと言ってるんだよね」
妹「そのお話しはだれから聞いたんですか?」
友「女子ちゃんが言ってました」
妹「あー、そうでしたね。私の家でのうのうと居候してるんですっけね」
友「のうのう? いそーろー?」
妹「極悪な性犯罪者を塀の中に送ってやったというのに」
妹「まだ一言もお礼とか謝罪とかないんですけどね」
妹「なんともまあ、我が家の住人は寛大な心の持ち主ばかりで困ります」
友「ごくあく? しゃざい? かんだい?」
妹「優しい人だなあと皮肉ったんです」
友「ひにく?」
妹「馬鹿にしたんです」
友「それはよくないよ」
妹「本人に向かって言ってやりたいくらいですよ」
妹「それを耐えて堪えて抑えて忍んで我慢してるんです」
友「その気持ちは分からなくもないけどね」
友「そういえば、女子ちゃんは?」
妹「来てませんよ」
友「お見舞いには何回か来てたよね」
妹「顔を忘れるほど久しく会ってないです」
友「ふうん、そっか。おかしいなあ。毎日来るって約束だったのに」
妹「べつにいいですよ。気にしてませんし」
妹「逆に気にしてるのは女子ちゃんの方じゃないですか」
妹「なにせあんな姿での泣き顔を同級生に見られて――」
ガララッ!
女子「そ、それ以上言ったら怒るわよ!」
妹「来てたんだ」
友「女子ちゃんね。いつも病室の前まで来てたんだよ」
妹「なら、顔くらい見せていくべきだと思いますよ」
女子「……悪かったわね。感謝くらいしてるわよ」
女子「こ、これ。お見舞いのお菓子とゼリー」
妹「おお。豪華ですね」
女子「それとこれ、クッキー。パセリ入りの」ポイッ
妹「仄かに香る手作りの匂い」
女子「……不味かったら捨てていいから」
妹「クッキーから食べたいです。手が使えないのでお願いします」
友「取りだすから待っててね。わー、ラッピング可愛い」
女子「そんなの普通よ。袋も紐もどこにでも売ってるわ」
友「私も作ればよかったなあ。はい、あーん」
妹「あー」
女子「……えいっ」ドンッ
友「ひあっ?!」
妹「むっ。パセリクッキーが」
女子「わ、私が食べさせてあげる」
友「んなっ! ダメだよ! 私の役目なの!」
女子「なんでよ! 私が焼いたのよ!」
友「私はちゃんと毎日来てるもん!」
妹「そんなことで揉めなくてもいいじゃないですか」
妹「そばで騒がれると傷に響くんですけど」
妹「それにクッキーが欲しいです」
友「でも」
女子「私が食べさせてあげるの!」
友「私!」
女子「私です!」
妹「どっちでもいいですうーっ!!」
おわり
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