春紀「暗殺者だらけで家の中がすごいことになってきた」 (369)


悪魔のリドルのSS。ギャグ。細かいことは気にしてないでもらえると助かる

覚えてる人がいるかわからないけど

春紀「暗殺に失敗して帰ってきたら厄介なことになってた」
春紀「暗殺に成功して帰ってきたのに厄介なことになってた」
春紀「暗殺はせずに大人しく生活してたのに面倒なことに巻き込まれた」
春紀「暗殺の依頼が舞い込んできたけど正直それどころじゃない」

の続き。気が向いたので書きに来た。のんびりやる。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408626496

あたしの名前は寒河江春紀。ミョウジョウ学園、十年黒組の元生徒だ。
ここまでの経緯を知っている人も多いかもしれないが、事の発端は数ヶ月前。
暗殺に失敗して帰ってみると、あたしの家にはかつてのクラスメートがいた。

そいつの名前は武智乙哉。
シリアルキラーとして生きてきた武智は、シリアルキラーらしい動機と目的の為
黒組の暗殺ルールに則りトップバッターを務め、そして学園を去っていった。
その後、警察の目から逃れるためにあたしの家に転がり込んだというワケだ。

そう、武智があたしの家に来た辺りからあたしの受難が始まる。
神長、剣持、首藤。そして先ほど暗殺の仕事を終えたあたし達を出迎えたのは番場と伊介様だった。
逆に言うともうあの教室には英と鳰、兎角サンと晴ちゃんしか残っていないということか。
そこまで考えて、あたしの家の人口密度の濃さに改めてぞっとする。

「ねぇ、アンタ寝ないの?」
「寝るよ。ただもうちょっと起きてる」

同じ布団の中、あたしは伊介様と対峙していた。
ちなみに番場はまだ帰ってきていない武智の布団で剣持と寝ている。

「なんで?」
「……別に?」

これといった理由は無い。ただ仕事から帰ってきて目が冴えているだけだ。
終えたばかりの仕事は長期戦になると踏んでいた為、前日にいつもより多く睡眠を取ったのも無関係ではないだろう。

暗がりだけど目はとっくに慣れている。
あたしは明らかに不機嫌な伊介様を不思議に思いながらも、理由を聞く事はなかった。

「寝なさいよ。疲れてるんでしょ」
「疲れてるけど、いいって。寝れないから」
「……」

あたしの返答のどの辺りが気に食わなかったのかはわからないが、
伊介様は更に険しい表情をして寝返りを打った。
どうやらあたしの顔も見たくないらしい。
放っておこうか迷ったが、これを無視すると翌朝まで引き摺るだろう。
なんて声をかけようか迷っていると、伊介様の方が先に口を開いた。

「そんなに武智乙哉が大事なの」
「………………は?」

なんでそうなるのか、あたしには全くわからない。
は?武智?今そんな話してたか?

「何言ってんだ?伊介様」
「……アイツが帰ってくるまで寝ないつもりなんでしょ?ムカつく……」
「ちょっと、何言って」

あたしの発言はあることによって強制的に中断させられた。
そして心臓が止まるほど驚いたあたしはそのまま言葉を失ったんだ。


prrrrr♪

春紀「………!!?」

伊介「アンタの電話でしょ?早く出て。うるさい」

春紀「あ、あぁ。びっくりしたー……」

ピッ

春紀「もしもし?寒河江です」

乙哉『よかった、出てくれて』

春紀「武智…?どうしたんだよ、随分遅いじゃんか。早く帰ってこいよ」

伊介「……」イラッ

乙哉『うん…鳰ちゃんに連絡したら、PCのデータはすぐにこっちに持ってきて欲しいって言うから届けてきたんだ』

春紀「そうだったのか。あとどれくらいで」

乙哉『あたし、帰らない』

春紀「……は?」

乙哉『ってゆーか、帰れない。もう逃げられそうにないから、最後に春紀さんに直接伝えたくて』

春紀「何言って」

乙哉『今まで、ありがとうね。結構楽しかったよ。みんなにもそう伝えといて』

プッ…ツー………ツー………

春紀「武智!?おい!武智!!」


伊介「後ろでサイレン鳴ってたみたいね」

春紀「……あぁ。多分パトカーのだろ」

首藤「んー……さっきからなんじゃ?……やかましいのう」モゾモゾ

春紀「………」

伊介「よくわかんないけど、武智サンが捕まったんだってさ」

首藤「なっ!それはまことか!」ガバッ

神長「………なんの騒ぎだ?」

首藤「武智が、捕まったらしい…」

神長「……?!」

prrrrrrrrrr♪

春紀「……!!」ピッ

神長「誰からだ?」

首藤「これでドッキリだったら笑えるのう」

神長「殺されても文句言えないレベルだぞ、それ」


鳰『やぁー元気っスか?春紀さん。今回も無事に仕事成功させてくれたみたいで有り難いっスよー』

春紀「………お前、どういうつもりだ」

鳰『何の話っスか?あ、乙哉さんからデータはちゃんともらったっス。抜き出された痕跡があるデータとも今のところ合致しているみたいだし、一安心って感じっスかねー』

春紀「そんなことを聞いてるんじゃねぇよ。わかんだろ」

鳰『…………バカっスねー』

春紀「は?」

鳰『ミョウジョウグループ全体の秘密と、ウチの個人的な使いっ走り。どっちを切り捨てるかなんて分かりきったことじゃないっスか』

春紀「てめぇ……!!」

鳰『あぁ、勘違いしないで欲しいんスけど、ウチは警察に乙哉さんを売ったわけじゃないっスよ?そんなことしてもウチのメリットにならないし。コマはいざというとき、居た方がいい』

春紀「どういうことだよ!現に武智は捕まったんだろ!?」

鳰『そうっス。たった今ウチにも連絡があったっスよ。乙哉さん、お縄を頂戴したみたいっスねー』

春紀「確かに、あいつのしたことは許されることじゃないけど、でも……それ以上にお前のやり方が気に食わねぇ」

鳰『だぁーから勘違いしないで欲しいって言ってるじゃないっスか。トカゲの尻尾切りだと思ってるみたいっスけど、そうじゃないっスよ。……ただ』

春紀「……?」

鳰『PCの入手を優先したんで、周囲を警察が定期巡回してるのをわかった上で届けに来てもらったっスけどね』

春紀「……同じようなことだろ!!」

鳰『ま、ウチが言いたかったのは任務成功おめでとうっスってことだけっス。そんじゃ、ウチ明日もガッコあるんで。おやすみっスー』

プッ……ツー…………ツー………

春紀「あの野郎………!!」


首藤「寒河江、気持ちは痛い程わかる。確かに武智は許さないことをした。繰り返した。裁かれ、罪をあがなうのは当然じゃ。しかしこれはあまりにも……」

神長「走りのやり方、頭に来るな……ホント……」

伊介「ま、いーんじゃない?自業自得でしょ」

春紀「………」

伊介「何よ……」

首藤「さて、とりあえず寝るか」

神長「そ、そうだな。私達が起きてても何もできないし。番場と剣持まで起こすわけにはいかないしな」

春紀「…………そうだな、寝よう」

伊介「はーい♥」

しえな「……………………………」


翌日


春紀「まぁ、というわけで、だ。武智が捕まったらしいんだ」

しえな「……あぁ、そうか」

真昼「そんな……武智さん……」

首藤「剣持、その」

しえな「?どうしたんだ?」

首藤「あ、いや……」

しえな「もしかして、ボクに気を使っているのか?あいつとは同室だっただけで何もないぞ」

真昼「剣持さん……」

しえな「確かに走りのやり方はボクも気に食わないな。要するに情報の入手を優先して乙哉は別に捕まってもいいって気持ちで指示を出したってことだろ?」

神長「クソっ……!!こんなことなら、ボクがあのとき一緒についていけば……!!」

しえな「オイやめろ」

首藤「ボクが代わりにPCの受け渡しをしていれば……こんなことには……!!」

しえな「やめろって言ってるんだ、年寄りは耳が遠いのか」

春紀「いや、でもボクが居たところで事態は何も変わらなかったかもしれない……」

しえな「否定的に考えるところまで再現しなくていいんだよ!!っていうかなんで春紀まで一緒になってるんだ!」

春紀「いつもの仕返し」

しえな「状況考えろよ!!!!」


伊介「ふふ」

しえな「何笑ってるんだ」

伊介「べっつにー?伊介いつも笑顔だしー」

真昼「ない、わー……」

伊介「アンタ、こっそり可愛く言えば許されると思ってんでしょ」


神長「まぁ犬飼が楽しそうなのは仕方がないだろうな」

春紀「は?なんでだ?」

首藤「気付かんのか?鈍感じゃのう。妬いてる相手が消えたのじゃ、そりゃ犬飼は嬉しかろう」

伊介「っっはぁ?そんなんじゃないけど!??」

しえな「図星だったときこういうリアクションする奴いるよな」

伊介「地味メガネは黙ってろ♥」

しえな「ジェラシー巨乳は心置きなく見当違いのヤキモチ妬いてろよ」

伊介「ああぁん??」

春紀「もしかしなくても剣持、やっぱり武智がムショに入って喜ばれたこと怒ってるだろ」

しえな「あぁ、はっきり言ってめちゃくちゃイライラしてる」

首藤「お主なかなか可愛いのぅ」


真昼「あ、あの……とにかく、喧嘩はやめた方が………」

春紀「あぁ、そうだな。二人ともその辺にしておけ」

首藤「そういえば、警察がここに来る可能性も考えないとじゃのう」

神長「ここが割れるのか……?」

伊介「確かに、可能性としては有り得るんじゃない?アンタら退学になってからずっとここで生活してたんでしょ?」

春紀「いや、武智の場合ずっとっていうか、あたしが家に帰ってくる直前から」

伊介「口ごたえすんな」

春紀「……」

しえな「考えにくいけど、乙哉がここのことを言ったら捜査には来るだろ」

真昼「それは、しないと、信じたい、です……」

首藤「あぁ、それはないじゃろう。じゃが、武智が何か捜査のヒントになるものを持っていたりすると……」

神長「……良くないな」

春紀「大丈夫だ」

首藤「じゃが」

春紀「いいや、大丈夫だ」


神長「なんでそこまで言い切れるんだ?」

春紀「あいつは、一番最初にあたしと約束したんだ。逮捕されてしまうようなことがあっても、絶対に迷惑はかけないって」

しえな「そうだったのか……知らなかった」

春紀「といっても、いつものあの軽い調子でだけどな。それでもあいつはそのことを覚えてると思う」

伊介「なんで断言出来るのよ」

春紀「あたしはそれを聞いて、渋々居候をオッケーしたからな。これはあたしとあいつの、一番の約束事なんだ」

伊介「……」

春紀「………」ナデナデ

伊介「気安く触るんじゃないわよ♥[ピーーー]♥」

春紀「伊介様、まぁた機嫌悪くなっただろ」ナデナデ

伊介「知るか♥[ピーーー]♥」

神長「さっきから何度も[ピーーー]って言われてるんだからやめた方が…」

春紀「この声色は満更じゃないときのものだから平気だって」

伊介「ふざけんな[ピーーー]♥」

しえな「物騒なファービーみたいだな」


prrrrrrrr♪

春紀「……鳰からだ」ピッ

伊介「また?」

しえな「走りにも妬くのか?」

伊介「は????それまさかとは思うけど伊介に言ってる???」

春紀「もしもし。なんの用だ」

鳰『やぁ、どーもどーも。乙哉さんの件でわかったことがあったんで電話したんスよ』

春紀「何がしたいんだよ、お前」

鳰『何がって、ウチなんか矛盾したことしてるっスか?昨日は乙哉さんの身よりデータが優先だったからそうしただけっス。何にもなかったらそりゃ気にかけますって』

首藤「そりゃそうじゃろうとも。自分の方に被害が出そうか否か、見極められんものな?」

鳰『ははっ、相変わらず手厳しいっスね』

神長「この際そんなことはどうでもいい。武智は無事なのか?」

鳰『えぇ。留置所にブチ込まれたらしいっスね』

春紀「留置所?少年院とかじゃないのか?」

伊介「バーカ♥それはこれからブチ込まれるの♥」

鳰『そういうことっス。まだ罪の重さが決まってないし、そもそも少年法が適用されるかどうかも不明らしいっスよ』

真昼「シリアル、キラー……だから……?」

鳰『そっス。あんまり度が過ぎる犯罪を犯したら未成年でも少年法が適用されなかったり、死刑になる可能性あるっスよ』

しえな「あいつに死ねだなんて思わないけど、あの変態は死なないと直らないんだろうなぁ…」

春紀「わかる……」


鳰『まぁ武智さんのことは確かにウチにも非があるっスけど、元はといえばあの人の自業自得っスからねー』

春紀「それはわかってるっての」

鳰『乙哉さんは春紀さんの家のことは一切喋ってないみたいっスよ』

伊介「ホントかよ」

鳰『ホントですって。ウチもそこら辺がちょっと心配だったんスけど、まぁ一安心っスね』

首藤「じゃから、お主が心配しておるのは寒河江のことではなく、そこから警察が自分に辿り着かないかどうかじゃろ?」

鳰『うん、まぁぶっちゃけそうなんスけど、お互い良かったじゃないっスか。春紀さんだって家族は巻き込みたくないっスよね?』

春紀「まぁ、な」

鳰『というわけで報告っした。みなさんは安心して生活してほしいっス』

伊介「はいはい、それじゃねー」ピッ

春紀「あ!ちょっと!」

伊介「なぁに?もう話は終わったでしょ?」

春紀「だからって勝手に切るなよ…」

しえな「……犬飼って面倒な彼女だな」

真昼「わかる、ます……」

伊介「聞こえてるー♥」


神長「しかし、安心して生活してくれって言われてもなぁ…」

首藤「そうじゃな、気分は晴れんな」

犬飼「伊介お腹減ったー」

真昼「何か作る、ます…」

春紀「あたしも付き合うよ」

しえな「犬飼、春紀が真昼と付き合うってさ」

春紀「言葉のあやだろ!?」

伊介「……」ギロッ

春紀「なんであたしが睨まれるんだよ!!?」

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前作

ちょっと風呂


台所



冬香「私も手伝うよ」

春紀「おぉ、ありがとな」カチャカチャ

真昼「あの、昨日は、ありがとう、ございますた……」

春紀「?」ジャー

真昼「お布団を、用意してもらったから…」トントントン…

冬香「あぁ!ううん、はーちゃんと用意しないとねーって言ってたから」

春紀「人が増えることを見越して布団買うってタダ事じゃないよな」


真昼「あの、これ…」

春紀「あぁ、ありがと。番場はもういいぞ。くつろいでてくれ」

冬香「うん!あとは私とはーちゃんとでするから大丈夫!」

真昼「でも…」

春紀「いいっていいって」

真昼「……あっち、怖い」

春紀「んー?」クルッ

しえな「……」

伊介「……」

首藤「ま、まぁまぁ二人共」

神長「……首藤、ほっとこう」

首藤「うーん……」

春紀「確かに空気最悪だな」


冬香「はーちゃん」

春紀「どうした?」

冬香「乙哉さん、捕まっちゃったの…?」

春紀「……あぁ。あいつはいま留置所にいるよ」

冬香「そう、なんだ……」

春紀「冬香には話してなかったな。あのな、武智は」

冬香「…ううん、知ってるの。乙哉さん、シリアルキラーなんでしょ?」

春紀「…そうだ。でもどうして?」

冬香「来たばかりのときにそう言われたの。でも怖がらないでって」

春紀「シリアルキラーに怖がらないってハードル高いな」


真昼「でも…ある意味……すごく、誠実だと、思うます……」

春紀「…ま、確かにな」

冬香「あのときは冗談かと思ったんだけど、はーちゃんとの会話を聞いてて、どんどん『あれは本当だったんだ』って思うようになったの」

春紀「にわかには信じがたいよな、アイツの話」

冬香「でもね」

春紀「?」

冬香「私、乙哉さんのこと、好きだよ」

春紀「!!?!?!?姉ちゃんは認めないぞ!!?!?」

真昼「そういう意味じゃ、ないと思うます……」

冬香「安心して」


15分後



一同「いただきまーす」

春紀「おかわりあるぞー」

首藤「やはり美味いのぅ」

春紀「だろ?あ、このおかずあたしが作ったやつな」

首藤「白米の話じゃが」

春紀「泣きそう」


しえな「それにしても乙哉、大丈夫かな」

神長「あいつなら大丈夫だろ」

真昼「わたすもそうだと、思うます……」

春紀「みんなで面会に行くか」

首藤「この大人数の面会は難しいと思うぞ?」

春紀「じゃあ剣持」

しえな「なんでボクなんだよ」

春紀「ほら、武智の奴元気出そうじゃん」

しえな「それ多分出しちゃいけない元気だよな」


神長「犬飼、随分と静かだな」

伊介「べっつにぃー?」

春紀「そんなに腹減ってたのか?」

伊介「な、なんでよ」

春紀「だって、もうおかずなくなってるし」チラッ

神長「それ、さっき寒河江が作ったって言ってた…」

首藤「ふむ」チラッ

伊介「たまたま好きだっただけだしー♥勘違いしないで♥」

真昼「あっ(察し)」

伊介「アンタさっきから要所要所でムカつくわね」


prrrrrrrr

春紀「ん、電話だ」

冬香「私が出るからはーちゃんは食べてて」

春紀「おう、悪いな」

冬香「はいもしもし…あ、かなこちゃん?どうしたの?」

しえな「びっくりした」

春紀「何がだ?」

しえな「この家、電話料金ちゃんと払ってるんだな」

春紀「殺すぞ」

伊介「伊介も思ったー」

春紀「えー、そりゃないよ、伊介様」アハハ

しえな「ボクと犬飼のこの扱いの差な」


冬香「うん……うん、でも、ごめんね。私、弟達の面倒見ないとだから」

春紀「どうしたんだ?」

冬香「あ、ううん、なんでもないよ」

春紀「なんでもないことないだろ。行ってこいよ」

冬香「え」

春紀「友達からの電話なんだろう?行ってこい。弟達の面倒は姉ちゃん達が見てるから」

冬香「でも……」チラッ

春紀「あいつらに任せるのが不安なのはわかるけどさ!?」


冬香「じゃあ、行ってくるね?」

春紀「あぁ。任せとけ」

冬香「もしもし?ごめんね、あの、やっぱり私も行っていいかな?うん、お姉ちゃんが見ててくれるって」

春紀「……」

伊介「どうしたのよ」

春紀「いや、たまに姉貴らしいことできると、嬉しいもんだなと思って」

伊介「……あんたはいつも頑張ってるでしょ」

春紀「伊介様?」

首藤「しかし確かにな。寒河江の普段の行いは姉というより父のようじゃからのう」

神長「そうだな、一家の大黒柱って感じだ」

真昼「乳…柱……?」

伊介「アンタ会話のテンポが悪い上に頭まで悪いの?」


ガチャン

春紀「お、電話終わったか?」

冬香「うん!はーちゃん、ありがとう!」

春紀「気にすんなって。どこ行ってくるんだ?」

冬香「映画観てくるね!ずっとお小遣い貯めてたから、えへへ」

春紀「そっかそっか」

伊介「ほら」

冬香「え?」

春紀「伊介様、それって…」

伊介「映画観て終わりじゃないでしょ?これで美味しいもの食べてきなさい」

冬香「でも」

伊介「いいから。っていうか受け取らないとか、伊介に恥かかせるの?」

冬香「……ありがとう」

伊介「お礼言われるようなことなんてしてないー♥みすぼらしい奴見るのが嫌いなだけ。それにここのお金もまだ払ってないしね」

春紀「素直じゃないなぁ、伊介様。でも、あたしからも礼を言うよ。ありがとな」

しえな「寒河江家夫婦劇場」ボソッ

春紀「オイ今なんつった」


首藤「それじゃ、ワシからもこれを」

冬香「これは…?」

首藤「時計じゃ。可愛いじゃろう?」

冬香「でも私ばっかり」

首藤「いいんじゃ。いつも美味しいご飯を作ってくれているお礼じゃ」

神長「じゃ、じゃあ私からはこれを」スッ

冬香「これは……?」

神長「私の先輩の形見のネックレスだ」

冬香「!?」

春紀「重いわ!!!」



冬香「じゃあ私、支度して行ってくるね」

春紀「あぁ」

しえな「思いっきり楽しんでくるといい」

首藤「じゃな。家のことはワシらに任せておけ」

冬香「はい、それじゃあ」

春紀「さーて。あたしは一番下の見るから、それ以外は手分けして頼めるか?」

伊介「伊介子守なんて無理ー」

春紀「言うと思ったよ。伊介様はあたしと一緒な」

首藤「それじゃあワシらは比較的大きい子達の面倒を見るかの、香子ちゃん」

神長「あぁ。でもなんで大きい子なんだ?」

首藤「一緒に将棋がやりたいんじゃ」

神長「おい」


しえな「じゃあボクは」

春紀「剣持は外だ」

しえな「イジメか!?」

春紀「ここから歩いて30分以上、バスに乗った方がいいな」

しえな「どんだけ!?」


しえな「いいさ…いいさ……ボクはどうせ……」

春紀「勘違いすんなって、除け者になんてしてないぜ」

しえな「これのどこが」

春紀「さっきも言ったろ。武智に会ってきてやれ」

真昼「小さい子達の面倒は、わたすが見る、ます…」

しえな「でも」

春紀「行きたくないのか?」

しえな「……」

春紀「自分に素直になれって。な?」

しえな「行きたくない」

春紀「素直になった結果がそれとか武智いい加減泣くぞ」


伊介「それはいいけど、面会ってもう行って大丈夫なの?」

春紀「あぁ、実は昼食作ってる間に鳰から連絡がメールがきてさ。行っても大丈夫だとさ」

首藤「なるほどのう。確かにそういうことなら剣持が適任じゃな」

しえな「でも」

神長「行ってこい」

真昼「きっと、武智さんも…待ってる、です…」

しえな「…あぁ、もう。行けばいいんだろ」

神長「これが、私達が見た剣持の最後の姿だった…」

しえな「やめろよ!!!」


首藤「タオルとか日用品を持って行ってやるといいぞ」

しえな「え?そうなのか?」

春紀「さぁ?」

首藤「あと喜ばれるのはお金や本じゃな」

伊介「なんでそんなこと知ってるのよ」

首藤「おばあちゃんの知恵袋じゃ」

春紀「おばあちゃん物騒過ぎだろ」

眠い。寝る。
明日、日付変わってからまた来る。あまり進まないと思う。

乙 読みながら待つ
春紀「暗殺に失敗して帰ってきたら厄介なことになってた」
春紀「暗殺に失敗して帰ってきたら厄介なことになってた」 - SSまとめ速報
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春紀「暗殺に成功して帰ってきたのに厄介なことになってた」
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春紀「暗殺はせずに大人しく生活してたのに面倒なことに巻き込まれた」
春紀「暗殺はせずに大人しく生活してたのに面倒なことに巻き込まれた」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400156915/)
春紀「暗殺の依頼が舞い込んできたけど正直それどころじゃない」
春紀「暗殺の依頼が舞い込んできたけど正直それどころじゃない」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402403070/)

ただいま

言い忘れてたけど、今回ちょっとだけ原作のネタが入る
ような気がする

それじゃ始める


しえな「それじゃ、ボクは行ってくるから」

春紀「あぁ、何かあったら連絡くれ」

伊介「ねぇ。あの子グズりそうなんだけど」

妹1(;n;)フエェェ

春紀「なんだろうな、あたし達がうるさいのか、眠いのか。おしめかもなぁ」

伊介「可能性ありすぎ、やってらんなーい」

春紀「伊介様は絶対母親になっちゃいけないタイプの人だな」


妹2「真昼おねーちゃん!一緒にお絵かきしよ!」グイグイ

真昼「え…あ、う、うん……」

弟1「じゃあみんなで春紀ねーちゃん描こうぜ!」

真昼「え…」

妹2「真昼おねーちゃんは絵上手だよね!」

真昼「な、何を根拠に……」

弟1「ぜってーそうだぜ!だって上手そうだもん!」

真昼「あぁ……理不尽にハードルがあがっていく、ます……」


首藤「で、飛車というのは」

弟2「ルールが複雑過ぎてわかんないよぉ」

神長「やっぱり無理だって、首藤」

首藤「無理なものか。お主ぐらいの歳の子達だって立派に指しておるぞ?」

弟3「俺バカだし」

首藤「自らをそのように言うでない。しかし、まぁ、もう少し分かりやすいルールのものの方が良さそうじゃの」

神長「何するんだ?」

首藤「花札って知っておるか?トランプみたいなものじゃ」

神長「変なこと教えるのやめろ」


首藤「で、飛車というのは」

弟2「ルールが複雑過ぎてわかんないよぉ」

神長「やっぱり無理だって、首藤」

首藤「無理なものか。お主ぐらいの歳の子達だって立派に指しておるぞ?」

弟3「俺バカだし」

首藤「自らをそのように言うでない。しかし、まぁ、もう少し分かりやすいルールのものの方が良さそうじゃの」

神長「何するんだ?」

首藤「花札って知っておるか?トランプみたいなものじゃ」

神長「変なこと教えるのやめろ」

は・・・?
まぁいいや、気を取り直して


首藤「香子ちゃんはいけずじゃのう」

神長「子供に何を教えるつもりだ」

弟2「みんなで遊べるのがいいな!」

弟3「そうだな!」

首藤「ふむ、なるほどのう。お主ら、麻雀って知っとるか?」

神長「却下!!!」


春紀「おしめだったか」

妹1(・v・)

伊介「現金ねぇ…笑ってやんの♥」プニプニ

妹1(;n;)フェェ…

伊介「あ、ちょっと、泣かないでよ!?」

春紀「何やってんだよ」


伊介「大体ねぇ、伊介はお守りなんて向いてないの」

春紀「知ってるって」

伊介「それにー」

妹3「……」ジー

伊介「……何よ、アンタ」

妹3「この人、だぁれ?」

春紀「んー、ねーちゃんの友達だよ」

妹3「乙哉ちゃんの方が良かったなぁ」

伊介「……」カチンッ


春紀「ま、待て待て伊介様」

伊介「いいじゃない。やってやろうじゃない」

春紀「闘争心むき出しにするなって」

伊介「あんたは何がしたいの?お絵かき?ゲーム?」

妹3「んーとね、お人形さんごっこ!」

伊介「そうよね、お人形さんごっこ……って、はぁ?お人形さんごっこ?」

春紀「お前それ好きだなー。今日はどの人形使うんだ?」

妹3「これー!」

春紀「ミカちゃん人形か、よし。いいぞー」ハハハ

伊介「なんでこんな歳になってそんな遊び……」ズーン

妹3「あ、伊介おねーちゃんはこれね」ヒョイッ

伊介「なんで伊介だけダダ星人なのよ!!おかしいでしょ!!」ビターン!!

春紀「気持ちはわかるけど床に叩きつけるなよ!」


妹3「じゃあこっち?」

春紀「おぉ、ジャミラじゃないか」

伊介「だからなんで伊介だけウルトラ怪獣縛りなのよ!!」ビターン!!

春紀「ジャミラーーーーー!!!」


妹1(;n;)

春紀「あ、あぁ、ごめんごめん。うるさかったよな。よぉーしよし」

妹1(>ω<)キャッキャ

春紀「……」ホッ…

妹3「じゃあ伊介おねーちゃんはこれね」

伊介「やっとまともなのが……で?この子はなんて名前なの?」

妹3「リンカちゃん!」

春紀「友達なんだっけ?二人は」

妹3「ううん!」

春伊「『ううん!』!?」

妹3「ミカちゃんはお金持ちの家のリンカちゃんを実は妬んでるけど、お茶会とかのおこぼれにあずかれるから友達のフリをしてるの!」

春紀「なんでそんなリアルな設定なんだよ!」

妹3「リンカちゃんはミカちゃんの思惑に気づいてるんだけど、他に友達がいないから何も言わないの!利害の一致ってやつだよ!」

伊介「そんなお人形遊びしたくないんだけど」


妹2「真昼おねーちゃん!見てー!」

真昼「とてもよく描けてると、思うます…」

弟1「俺の方がかっこよく描けてるぞ!」

真昼「こっちの寒河江さんも、素敵だと思うます…」

妹2「ねぇねぇ、はーちゃん見てー!」

春紀「どうした?おっ、似顔絵か?」

妹2「どう?どう?」

春紀「上手いなー」ナデナデ

弟1「俺は!?俺は!?」

春紀「うん、すごく似てるぞ」ナデナデ

伊介「アンタも描いたの?」

真昼「はい……これ……」スッ

弟1「うげ!?」

妹2「何これ…」

妹3「こんなのおかしいよ…」

春紀「なんで手足が無いんだよ怖ぇよ」


伊介「そういえば、幼少期に束縛されたりした体験がある子ってそういう絵描くって聞いたことあるわね」

真昼「えへへ……」

春紀「なんで照れてるんだよ」

伊介「いいじゃない、顔は似てるし♥」

春紀「伊介様あんた1回自分の手足が無い似顔絵描かれてみろよ」


妹3「あたし伊介様描くー♪」

春紀「なんで様つけて呼んでるんだよ…」

妹3「はーちゃんがそう呼んでるから!えへへ」ギュー

伊介「ちょ、ちょっとぉ。離しなさいよぉ」

妹3「乙哉おねーちゃんも好きだけど、伊介様も好きー」

伊介「……」ニタァ…

春紀「その”勝った”って顔」


真昼「……」

春紀「どうした?」

弟1「具合悪いのか?」

真昼「い、いえ…なんか、夫婦みたいだなと思って……」

春伊「!///」

真昼「変なこと言ってごめんなさい…その……」

春紀「べ、別にいいけどさ」

伊介「誰がこんな奴の嫁やるかっての」

真昼「どっちが、どっちとは……言ってませんけど……」

伊介「……!」


妹3「はーちゃんのばか」

春紀「へ!?」

妹3「さっき友達って言ったのにー!」

春紀「あ、あぁ、ごめんごめん。…いや、あたし別に嘘ついてないよな…?」

伊介「伊介知らなーい♥」

妹1(>v<)キャッキャ

春紀「よぉーしよし」

弟2「次は誰描く?」

妹2「伊介おねーちゃん?」

真昼「わたす…上手く描けないので…出来れば手足のない人の方が……」

春紀「そんな人いねぇよ」








その頃


純恋子「はっくしゅん!!……誰か、私の話を?」



さらにその頃



しえな「ここ、か」

「?」

しえな「すみません、面会をお願いしたいんですけど」

「わかりました、こちらへ」

しえな「……乙哉」

しえな(あいつは、こんなところに一人で…)

しえな(さすがに心細いだろうな…今日ばかりは優しくしてやろう…)


15分後 面会室



乙哉「しえなちゃん!来てくれたんだぁー♪」

しえな「前言撤回」

乙哉「へ?なんか言った?」

しえな「お前…なんでそんなリラックスしてるんだよ…」

乙哉「いやぁ、署内で好みのお姉さん見つけちゃってー♪」

しえな「少しは反省しろよ」


乙哉「で、なんで会いに来てくれたの?」

しえな「えーと、なんでって言われてもなぁ。ボクが代表で来たんだ。差し入れも持ってきたぞ」

乙哉「ホント?!ありがとー♪」

しえな「いや、礼はいい。お前、これからどうなるんだ」

乙哉「さぁ。それはあたしが決めることじゃないよ」

しえな「……確かに。だけど」

乙哉「反省した姿勢を見せたら判決は全然違うんじゃないか、って?」

しえな「そうだ」

乙哉「あたしが反省するワケないじゃん。実際すごーく気持ちよかったし」

しえな「お前……!」

乙哉「あたしはね、こういう生き方しか出来ないんだよ。しえなちゃんだって本当はわかってるんでしょ?」

しえな「……やっぱり、相容れないな、ボク達は」

乙哉「というかあたしは誰とも理解し合えないよ。そんなのとうの昔に諦めてる」

しえな「……」


乙哉「これで最後かな」

しえな「……は?」

乙哉「だってそうでしょ?あたし達は春紀さんの家に居たから再会できた。だけどあたしはこうして留置所にいて、きっとこれから刑務所送りになる」

しえな「……」

乙哉「もう、あたしのこと、心配してくれなくていいんだよ」

しえな「どういう意味だよ」

乙哉「もうしえなちゃんはあたしなんかに時間を割かなくていいって言ってるの」

しえな「……」

乙哉「あぁ、もうだめ」

しえな「は?」

乙哉「すみませーん、面会終わりましたー」

しえな「なっ……!お前、ちょっと…!」

乙哉「…じゃあね、しえなちゃん」

しえな「武智、おい!」

限界。寝る

起きた
少し続き書く





ガラッ

冬香「ただいまー!みんな、大人しくはーちゃん達の言うこと聞いてたー?」

弟3「リーチ!」

首藤「ロンじゃ」

弟3「うがー!またやられたぁ!」

冬香「何してるの!?」


春紀「おー、おかえり」

冬香「はーちゃん?これは…」

春紀「いやぁーやってみると面白いな、これ」

冬香「麻雀?」

春紀「あぁ。冬香もあたしのチームに入るか?」

弟2「ズルいぞー!冬香ねーちゃんは俺達のチーム!」

冬香「でも、私ルールわからないし…」

首藤「案ずるな、わし以外きちんと把握している者などおらんからな」ハッハッハッ

冬香「逆に不安なんですけど」


ガラッ


しえな「ただいま」

春紀「帰ってきたか。どうだった?」

しえな「知らない」

神長「へ?」

首藤「お、おい、どこへ」

しえな「ボク、部屋に戻ってる」

春紀「……そこ、本来ならあたしの部屋なんだけどー…」


伊介「そんな小さい声じゃ聞こえないだろ♥」

春紀「…あんな顔した奴にそんなこと言えんよ」

首藤「どうしたんじゃろうな?随分と元気がなかったが」

神長「トイレ我慢してたんじゃないか?」

春紀「そんなワケあるかよ」

神長「私はああなるぞ」

春紀「聞いてねぇよ」

真夜「そうかぁー?トイレ我慢してたら俺は騒ぐぜ!!」

春紀「騒ぐ暇あるならトイレ行けよ」


深夜


首藤「……のう、剣持。留置所で何があったのじゃ」

しえな「……何も」

伊介「何もないってことないんじゃない?様子おかしいの、自分で気付いてないの?」

しえな「わかってる、ほっといてくれ」

伊介「うっざー♥」

春紀「なぁ、教えてくれ。あたしも武智がどんな様子だったか気になるし」

しえな「あいつは、元気だったよ」

真夜「そうなのか?良かったじゃねーか」

しえな「…そうだな」

神長「話してくれないか。何があったか」

しえな「……あいつ、もう来ないでくれって」

春紀「はぁ……?どういうことだ……?」


しえな「もう、自分には構わなくていいって……そう言ってた」

春紀「そう、か…」

伊介「まぁ確かに、あいつの言うことも一理あるわね。伊介達はあそこを退学になってから何の関わりも無いってことになってるし、
そもそも関わりなんてあっちゃいけないのよ。そんなことしてたらしょっ引かれるわよ?」

しえな「あぁ、お前の言うとおりだ」

首藤「まぁの……状況だけみれば、寒河江が正しい…」

春紀「あたし何も言ってないだろ」

首藤「寒河江伊介じゃろ、あやつは」

春紀「勝手に結婚さすな」

伊介「ばーか♥」

神長「今そういう空気じゃなかっただろ」

しえな「お前らホント自由だよな」


神長「でも、剣持はそれでいいのか?」

しえな「……ボクには、どうしようもない話だ。それに犬飼がさっき言ったように」

真夜「違ぇーーーーーーーだろ」

しえな「は…?」

真夜「神長が聞いてンのは剣持の気持ちだろ???そんなこともわかんねーのかよ、ばぁーーーーか」ハッハッハッ

しえな「言ってることは理解できるけどお前すごくムカつくな」


首藤「で、どうなんじゃ?」

しえな「いま番場に言ったことと全く一緒だ」

神長「?」

しえな「わかるけど、ムカつくんだよ……」

春紀「け、剣持……?」

しえな「なんなんだよアイツ!!!いつも『しえなちゃ~んしえなちゃ~ん♥』って寄ってきてたくせに!!
なぁにが『もうしえなちゃんはあたしなんかに時間を割かなくていいって言ってるの(キリッ』だ!!ムカつく!!!」

春紀「わ、わかったから!静かにしろ!!しー!」

しえな「大体なんで捕まりそうになったときボクじゃなくて春紀に電話するんだよ!!バカ!!!!」ガシッ!!

春紀「苦しい苦しい!!」


留置所



乙哉「……」

乙哉「……」

乙哉(あたしはどうしたいんだろ)

乙哉(最近しえなちゃんといると調子狂うんだよなー)

乙哉「はぁ……」

乙哉(きっと、あたしはしえなちゃんのこと……)

乙哉「でも、それはマズいんだよねー」ボソッ

乙哉「……」

乙哉(いつもは一目惚れしたお姉さんが相手だったからなー。こんな時間を掛けたことなかったし)

乙哉「しえなちゃん死んじゃったらつまんないし」

乙哉(本気になる前に離れないとね)

乙哉(あたしは、シリアルキラー。そういう風にしか生きられない、異常者)


乙哉(しえなちゃんのことは忘れないと)

乙哉(……元に戻らないと、ね)

乙哉(殺して、気持ち良くなれて、それでよかったじゃん)

乙哉(あたしがやり残したこと……)

乙哉「……」

乙哉「そうだよ、なんで忘れてたんだろ……」

乙哉「……はっ、あははははは」

乙哉「晴っち、まだ生きてるんだよね…?」


二日後 寒河江家



しえな「……」

春紀「なぁ剣持、元気出せって」

しえな「別に、ボクはいつも通りだ」

真夜「ただでさえ地味なのに、喋らねーとホント空気だぜ?お前」ハハハハ

しえな「夜だけやかましいお前に言われたくないわ!!」


prrrrrrr♪

真夜「おい、電話鳴ってるぜー」

春紀「はいはいっと。……走りからだ」

しえな「……!」

ピッ!

春紀「はい、もしもし」

鳰『どもーっス!みなさんいかがお過ごしスかー?』

春紀「どんな風に過ごしてようがお前にはカンケーねーだろ」

鳰『うぃーっす……』


春紀「ちょっと待てくれ、スピーカーモードにするから」

鳰『はいっスー』

ピッ

春紀「で?何のようだ?」

鳰『いやぁー、皆さんにまぁたまたお願いしたいことがありましてー』

真夜「またまた???何度も依頼受けてるって口ぶりだなァ」

神長「その通りだ。しかし、今は」

しえな「別に、条件が合うなら受ければいい」

首藤「電話が鳴ったときに武智関連のことかと期待したくせに、よぉ言うわ」

しえな「なっ、してない、してないぞ!」

伊介「でも本当はー?♥」

しえな「した。……って何言わせるんだ!」


鳰『武智さん?あぁー、なんっスか。剣持さんってば武智さんに会いたいんスか?』

しえな「別に。もう二度と会う気はない」

春紀「いい加減素直になれって」

しえな「うるさい。で、走り。仕事の話なんだろう?」

鳰『おぉっと、そうっしたねー。今回はペアを組んであることに挑んで欲しいんスよ』

春紀「あることって?」

鳰『脱出ゲームっス』

伊介「ばぁっかばかし」

首藤「面白そうじゃな!」

真夜「オレもこういうの好きだぜー♪」

神長「あぁ、わかってたさ。お前らはそうだろうとも」


春紀「でー。脱出ゲームをしてなんで金になるんだよ」

鳰『なんか紛らわしい言い方しちゃったっスね。脱出ゲームと言っても謎解いたり歩き回ったりするわけじゃないっス』

しえな「はぁ?じゃあ何が」

鳰『語弊があったっス、もうちょっとわかりやすく言うっスよ。みなさんを、監禁させて欲しいっス』

春紀「は、はぁ……?」

伊介「キモーい♥鳰アンタそんな趣味あったの?伊介ドン引きー♥」

鳰『ちょっ!ウチの趣味じゃないっスよ!!れっきとした依頼っス!』

首藤「涼もドン引きー」

鳰『首藤さぁん!?』

神長「帰ってこい、首藤」


真夜「それにしてもわかんねーーな。オレらを監禁してそいつは何がしたいんだ」

春紀「変態趣味の依頼を受けるつもりはないぞ」

鳰『そーっスか?じゃあこれは無しっスかねぇ……?』

伊介「そこで引き下がるってことは、マジでそういう依頼だったってワケ……?引くー♥」

鳰『うーん、ウチは変態趣味じゃないと思うんスけど、確かに監禁の上に監視もされるんでー。あ、ただ金払いは相当いいんスけどねー』

神長「そこがまた怪しい……」

首藤「じゃな……」

春紀「どういう依頼か、もうちょっと詳しく聞かせろよ」

鳰『了解っス。まず、これはセキュリティ部門、及び医療部門からの依頼っス。もちろん、ミョウジョウグループのね』

しえな「へぇ。随分と出所がはっきりしてる依頼なんだな」

鳰『みなさんにはペアになって一日二日ある部屋で生活して欲しいんス』

伊介「目的が見えないわね」

鳰『まぁまぁまだ話は途中っスから。その部屋の中でどのように過ごそうが自由っス』

春紀「自由っていうのは?」

真夜「歌ってもいいのか!?」

春紀「歌いたいのかよ」

神長「好きにしろよ」


鳰『生活に困らないものは一通り揃ってるって話っスから。その範囲内であれば好きに振る舞ってもらって結構っス。あとは……』

神長「あとは……?」

鳰『武器も使用オーケーっス』

伊介「はぁ?」

首藤「ふふ……わかったぞ。つまり脱出しようと試みるものよし、普通に過ごすもよし、ということじゃな」

鳰『さーっすが、察しがいいっスね』

神長「なるほど。セキュリティ部門からの依頼、というのはつまり堅牢さ、耐久性のテストがしたいということか」

鳰『その通りっス!』

伊介「でも医療部門っていうのは?意味わかんなーい」



鳰『まず、みなさんがその部屋に入ったら脈拍や心拍数、血圧など、体の状態が細かくわかるようになってるんス』

首藤「ほう、すごい仕組みじゃのう」

鳰『まずその装置のテストっスね。部屋丸ごとが装置っスから』

春紀「ミョウジョウグループってすごいんだな。聞いたことないぞ、そんな装置。で?第二の目的は?」

鳰『もしその装置が正常に動作して皆さんの体調の把握に成功したら、様々なその時々の条件・シチュエーションに合った新薬を飲んでもらいたいんス』

春紀「あーー………………聞いたことあるぞ」

鳰『はい?』

春紀「いわゆる、治験ってヤツだろ?」

鳰『あったりっス』

しえな「なるほど、通りで金払いがいいワケだ」

真夜「そーゆーモン?」

首藤「あぁ。そーゆーモン、じゃ」


鳰『ここまでで何か質問はあるっスか?』

春紀「ペアって言ってたけど、それはこっちで決めていいのか?」

鳰『駄目っスよー』

伊介「はぁ?うっっっっっざ」

鳰『小さい”つ”多過ぎっスよぉー…。やっぱりペアによって気分の変化、つまり体調の変化に繋がるっスから。こっちで選ばせてもらうっス』

神長「しかしだ、体にストレスのないような相手選びなら自分たちで」

鳰『だぁーれがそんなこと言ったっスか?』

首藤「……ふむ、やはりか」

鳰『そっス。負担のかかるようなペアにすることも想定できるっスよ。とにかく色々なサンプル、パターンが欲しいんス』

真夜「なるほどなー。ま、オレは誰が相手でも変わらねーけどな」

春紀「お前はそうだろうよ」


鳰『というわけで、どうっスか?』

春紀「それ、いつなんだ?」

伊介「待って待って。伊介はそんな怪しげなクスリ飲む依頼、参加したくなーい♥」

鳰『理論上は毒にも害にもなり得ないクスリばっかっスよ?多分。総合的な依頼っスから、そこまでガチなクスリは出されないと思うっス』

伊介「でも嫌♥」

鳰『惚れ薬もあるって噂っスよー……?』

伊介「早く依頼の日がいつなのか答えなさいよ」シャキッ

しえな「いま初めて犬飼のこと可愛いって思った」

真夜「わかる」


鳰『さぁー?いつっスかねー?』

春紀「なんだよ、もったいぶるなよ」

鳰『いえいえ。ウチとしては受けるか受けないか、返事を先にもらいたいんスけど』

春紀「あたしはバイトの日程もあるしなぁ」

鳰『こっち優先してもらうっスよ』

春紀「まぁ、それは問題ないだろうけど。事前に連絡は必要だろ」

伊介「律儀なヤツ」

春紀「そういうもんだろ、普通!」


鳰『さ、どうっスか?返事は早くして欲しいっス』

首藤「受けよう」

一同「なっ……!」

首藤「良いではないか。それにワシも奇病に冒されている身じゃ。医学の進歩には貢献したい」

神長「首藤……」

春紀「ま、そこまで言うなら報酬次第だ。どうだ、鳰」

鳰『基本報酬20万。あとは部屋の破壊実績、飲んだ薬の種類、量によって加算されてくっス』

春紀「決まり。乗った」

しえな「はぁ……金の亡者め……」


鳰『じゃあみなさん、今回の依頼に参加ということでオッケーっスね?』

しえな「はぁ……まぁ、乗りかかった舟だ。やってやるよ」

神長「だな。それに、巡り巡って首藤の治療に役に立つことになるかもしれないし、な」

真夜「オレの答えは最初っから決まってたぜーー?好きに暴れていいんだろ?サイコーじゃねぇか!!」

鳰『りょーかいっス。それじゃ、今すぐ家の外に出て欲しいっス』

春紀「はぁ?」

鳰『今回の依頼はソッコーっスよ。もう家の前にワゴンを待たせてあるんで。それで目的地まで行ってもらうっス』

首藤「なんと。目的地とはどこなんじゃ?」

鳰『さぁー?それはウチも知らないっスから』

春紀「必要なものは?」

鳰『それぞれの武器くらいっスかね。神長さんについては現地で材料を用意しておくって話だったっスよ』

伊介「へぇ。爆弾まで?部屋の破壊って、本当に何でも有りなのね」

鳰『どういうものかはウチもわからないんスけどねー。技術グループはかなり自信あるそうっスよ』


鳰『それじゃ、支度してとっとと家の外に出て欲しいっス』

春紀「わかったよ、それじゃな」ピッ

伊介「あっちにボディソープとかあるのかしら?」

春紀「あるんじゃないか?生活に必要なものは揃ってる言ってたし」

首藤「一応試しはするが、おそらく破壊には失敗するじゃろうな。その時のコンディションに合わせた薬が支給されることがあると言っていたが、正直こちらで稼ぐことを前提に考えた方が良さそうじゃな」

真夜「オレは諦めねぇぜー?持ち物はコイツだけで十分だ。オレはやるぜ!」ダッ

春紀「ハンマー持って走るなって!お前が転んだら大惨事だぞ!」





鳰「……乙哉さんが脱獄したってのは……まぁ黙ってて正解っスよね」

ちょっと出かける
帰ってきたら続き書く

ただいま


車内


春紀「……外、何も見えないな。窓ガラスが真っ黒だ」

伊介「どこに向かってるかわからないように、でしょ?」

神長「きっと無駄な道をたくさん走ってから今回の現場に着くんだろうな」

春紀「なるほど」

首藤「それにしてもこの窓では車検通らないじゃろうなぁ……」

しえな「なんの心配をしているんだ」


真夜「……」クカー

しえな「さっき自信満々で家出たヤツがこれだよ………」

春紀「まぁ、眠かったんだろうな」

神長「…………で、お前は何者なんだ?」

男「……」

神長「聞こえてるのか?助手席に乗ってるお前だ」

春紀「喋る気ないんじゃないか?必要なこと以外」

首藤「不気味なヤツじゃのう……」


30分後


助手席の男「お待たせしました」

春紀「?まだ車は走ってるぞ?」

助手席の男「えぇ。ただ、そろそろ皆様にも準備をしていただかなければいけません」

伊介「ふぅん?どんなー?」

助手席の男「何、簡単なものです」スチャッ

春紀「ガスマスク……!!?」

プシュー…

伊介「あーあ、無駄だと思うけど、少しでも悪あがきしたいなら息止めなさい」

首藤「確かに、そういうパターンじゃのう、これ」

神長「……初めから眠ってるお前はいいな」ツンツン

真夜「……」クカー


????



首藤「いたたた………どこじゃここは……」

首藤「……おぉ、そういえば依頼を受けて……」キョロキョロ

首藤「……香子ちゃん?大丈夫か!!香子ちゃん!!!!!」ユサユサ

神長「んー………?」

首藤「香子ちゃん!どこか痛いところはないか!?」

神長「うぅさいなぁ……ちょっと寝てただけだろ……?」

首藤「今のは床にうつぶせで寝ていたお主が悪いと思う」


神長「それにしても、ここは……?窓も無いし、変な部屋だ」

首藤「まだ寝ぼけておるのか?ワシらは走りからの依頼を受けて、車でここまでやってきたのじゃ」

神長「………あぁ、でも、催眠ガスで気を失って」

首藤「そうじゃ。大分覚醒してきたようじゃな」

神長「あぁ……さてと」

チーン

首藤「なんの音じゃ?」

神長「あっちから聞こえたな」スタスタ


神長「なんだ、これ……?」

首藤「おぉ、珍しいの」

神長「?」

首藤「これは荷物用のエレベーターじゃ。主に食べ物とかを運ぶ」

神長「へぇ……初めて見た」

首藤「そうか。ま、エレベーターとは言ったが、正式にはダムウェーターというものじゃよ」

神長「そうなのか。さすが、伊達に長生きしてないな」

首藤「まぁの……」


神長「で、そのダムウェーターとやらがどうしてここにあるんだ?」

首藤「さぁ、この点滅しておるボタンを押せばいいのかの」

神長「あっ、ばかっ」

ポチッ

ウィーン

首藤「早速薬が入っとるぞ」

神長「!それ、私達に飲めってことか?」

首藤「さぁの、カードが付いてるから読んでみよう。【神長香子への処方箋1:目薬】だそうじゃ」

神長「そんな得体の知れない液体を目に入れるとかいきなりハードル高過ぎだろ!!」

首藤「さらに、【効能:目の疲れを和らげるハズです】とのことじゃ」

神長「”ハズです”ってなんだよ!!」


首藤「というか香子ちゃん、目が疲れておったのか?」

神長「確かに、昨日は遅くまで本を読んでいたから」

首藤「ふむ。ということはワシらのコンディションの把握には無事成功しているということじゃな」

神長「あぁ、言われてみればそうなるな」

首藤「これ、ささんのか?」

神長「……いや、やるよ。そういう選択肢はないんだろう?」

首藤「有りと言えば有りじゃと思うぞ?しかし、ま、失明はせんじゃろ。なんならワシが試そうか?」

神長「いや、私がさすよ」


10分後


首藤「…………埒があかんのう」

神長「違うんだ!私だって本気を出せば!」

首藤「それ、さっきも言っとったぞ……」

神長「うぅ……だって、上から液体が落ちてくるんだぞ!?避けるだろ!!」

首藤「スマンが、ワシは避けんのう。ほれ、貸してみ」

神長「やぁっ……!!」

首藤「じっとせんか。暴れて痛い目を見るのはどっちじゃ?」

神長「でも、首藤……」

首藤「案ずるな。ほれ、いくぞ」


その頃



しえな「会話だけ聞いてるとエロいな、あの二人……///」

しえな「それにしても、部屋の作りはみんな微妙に違うんだな」

しえな「で……各部屋の様子が見れるようになってるのはボクだけ、か」

チーン

しえな「?」スタスタ

しえな「なんだ?」ピッ

ウィーン

【興奮抑制剤】

しえな「そりゃ確かに二人のやり取りちょっといやらしいと思ったけど露骨過ぎだろ!!!」


しえな「まぁ、届いたからには飲むけど……」ゴクゴク

しえな「……別に普通だな」

しえな「さて……窓はない。出入り口は一カ所だけ」

しえな「脱出するつもりならこれを壊せってことか」

しえな「いや、この薬を運んできたエレベーターみたいな装置も……無理か、よく見たら扉の部分は金庫のように頑丈だ」

しえな「というか、これに関しては神長が無理だったらもう無理じゃないか?」

しえな「ボク、武器とかそういうの無いし」

しえな「……とりあえず全部屋チェックするか。あそこ、まだ見てないな」スタスタ


しえな「………」

しえな「これ、武器庫か?」

しえな「わざわざ武器を与えるなんて、ふざけてる。というより舐められてるな」

しえな「しかし、これはグレネードランチャー、だよな……?」

しえな「……これにも耐えるというのか、あの扉は」

しえな「まぁいいか、部屋に戻ろう」スタスタ

しえな「ずっとデバガメしててもしょうがないしなぁ」

柩「そうですよ、デバガメなんて悪趣味ですよ?剣持さん♥」

しえな「出だあぁあああーーー!!!!!」


ガシッ!!

しえな「もがっ……んぅ……!!?」

「うるさい、静かにしてくれ」

しえな「はははへ!?(生田目!?)」

千足「静かにするなら離すが……」

しえな「……」コクコクッ!

パッ

しえな「っはぁ……大丈夫だ、もう落ち着いたよ」

千足「そうか」

しえな「それにしても後ろからいきなり口を塞ぐなんて……何か大声を出しちゃいけない事情があるのか?」

千足「?無いが?」

しえな「え」

千足「個人的にうるさくてイラついたから口を塞いだ、それだけだが」

しえな「お前みたいな優しいヤツにそんなこと言われるって……????精神的ダメージ半端ないんだが……?????」


しえな「というかここってペアでやるんじゃなかったのk」

チーン

しえな「あー、はいはい」スタスタ

柩「お薬ですか?」

ピッ

ウィーン…

しえな「あぁ、生田目あてだな」

千足「私か?」

しえな「えーと、なになに?………うわ」

千足「?」

しえな「【怒りを鎮める効果があります】って書いてある……」

柩「うるさくされたことまだ怒ってるんですか」

千足「……」コクッ

しえな「ごめんって……っていうかちょっと理不尽だろ……あれは誰でも驚くだろ……」


千足「あの扉を壊したら追加報酬、なんだろ?」

しえな「なぁ、ちょっと待ってくれ」

柩「どうしたんですか」

しえな「ボク達は依頼を受けてここにいる。だけどお前らは?」

千足「どういうことだ?」

しえな「ルールは把握しているみたいだし、なんでだろうって思って」

千足「なるほど。私達は別のルートからこの依頼を受けたんだ」

しえな「というか前々から気になっていたんだが、お前らって………その……」

柩「剣持さんって思ってたよりバカなんですね」

しえな「何か言いたいことがあっての発言なんだろうけどその言い回しは酷過ぎる」


柩「よく考えてくださいよ。僕らが死んでたら生体反応なんて出ないじゃないですか」

しえな「確かに……!生田目に薬が届いたということは、そういうことか」

千足「はぁ……」

柩「どうしたんですか?まさか、副作用……!?」

千足「いや、その話で思ったことなんだが……さっきの薬、飲んだけど全然効かないな」

しえな「まだボクにイラついてるのか!!?それも薬でコントロールできない程!!?」


柩「で、どうします?」

しえな「どうするって?」

柩「なんでか3人になっちゃったんです。とりあえず3人で何かしらすべきだと思うんですが」

しえな「そうだな。首藤と神長はやることは一応試してみて、そのあとはダラリとする予定らしいけどな」

柩「ぼく達にその予定は有り得ませんね。千足さんと二人きりなら有り得ましたけどっていうか最初からそうしてましたけど」

しえな「わかってるよ、そんなこと………」

柩「まぁ、そんなにダラリとしたいならそれでも構いませんが……剣持さんをPOISONすれば今度こそすぐに全身がダラリと」

しえな「ボクが可哀想だろ!!!」

千足「そうだ、桐ヶ谷。しえなに謝れ」ギュッ

しえな「……!?///」

柩「?????????」

しえな「怖い怖い怖い」


柩「は………なん、で………?」

しえな「ボ、ボクは何もしてないぞ……?」

柩「はっ!さっきの薬……!!」ガサッ!

【予想される副作用:錯乱】

しえな「錯乱って……」

千足「しえな、痛いところはなかったか?」

しえな「現在進行形で桐ヶ谷からの視線が痛いんだけど」


千足「桐ヶ谷、しえなに謝れ」

柩「え……」

千足「いいか、桐ヶ谷。しえなは私にとって大切な人なんだ」

柩「……?」

しえな「頼む、生田目。やめてくれ」

千足「彼女にもしものことがあったら……私は……」ギュッ

しえな「!?///」

柩「……」カチャカチャ

しえな「離してくれ!ほら!ほらぁ!桐ヶ谷が毒薬構えてるから!!」


柩「許せませんね」

しえな「ボクのせいじゃないだろ!?」

柩「千足さん、ぼくのこと、忘れてしまったんですか?」

千足「………?そんなことよりもしえな」

柩「……そんなこと?」ピキッ

千足「どうして私のことを名字で呼ぶんだ。よそよそしく感じるのだが……?」

しえな「いつも名字で呼んでたよ!!そういうのやめてくれ!」

柩「ぼくは……過去に失敗を犯しました。それは何をしても拭い去れないことです」

しえな「き、桐ヶ谷?」

柩「エンゼルトランペットとして生きてきたこと……そして」

しえな「ちょ、ちょっと待て桐ヶ谷、落ち着け」

柩「あなたを殺さなかったこと」

しえな「!!」


柩「エンゼルトランペットとしての過去はもう取り返しがつきません。でも……
あなたを殺さなかったことに関しては、まだなんとかなりますよね?」ニコッ

しえな「待て待て待て。は、話し合いをしよう」

柩「話し合い……?ぼく達に何か話す事がありますか?」

しえな「こんなことボクは望んでいないし、それは生田目だって一緒だ」

柩「わかってますよ、一時的なものだって」

しえな「わかっててボクを殺そうとするとか酷過ぎるだろ。あっぱれな殺人鬼だよ、お前」


柩「とにかく、ぼくは譲りませんから」

しえな「そんなことをして生田目が」

千足「しえな」

しえな「なんだよ、いま話してるだろ。っていうかいい加減離してくれ」

千足「名前」

しえな「はぁ?」

千足「名前で呼んでくれたら、嬉しい……」

しえな「………」

柩「いま絶対ときめきましたね??????ぼくの目は誤摩化せませんよ?????????」

しえな「い、今のは仕方がないだろ!!?!?」


千足「安心しろ、しえなは私が守る」ギュッ

しえな「おい、よせ!」

柩「千足さん、もうやめてください……!」

千足「お前の武器は毒だ。私が密着しているとしえなには手を出せないだろう」

柩「くっ……!」

千足「勝負あったな」

しえな「この副作用、いつになったら切れるんだ……」


その頃


伊介「ねぇ、春紀」

春紀「なんだ?」

伊介「こんな依頼、何度も鳰から受けたの?」

春紀「確かに鳰から依頼を受けたのはこれでもう5度目だけど……今回のは相当特殊だな」

伊介「ふぅん?」

春紀「あっ、伊介様信じてないんだろ」

伊介「別にー。ただ、あんた金さえ良けりゃ、ホストにでもなりそうだなと思っただけ」

春紀「そりゃないだろー。ホストって男がやるもんだろ?」

伊介「今はそうとは限らないみたいよ?どーする?鳰の依頼で一日ホストやってくれって言われたら」

春紀「金がいいなら受けるさ。あたしで務まるかわからんけどったぁーーーー!!なんでいきなり足踏むんだよ!」

伊介「てめぇで考えろ♥」


春紀「なんかこうしてると2号室にいるみたいだな」

伊介「そう?」

春紀「あぁ。そりゃ部屋の構造が全く違うけどさ」

伊介「でも物足りないわ」

春紀「なんでだ?」

伊介「あんたがポッキーくわえてないんだもん」

春紀「ははっ、確かにな」

チーン

春紀「?」

伊介「見てきなさいよ」

春紀「あぁ」スタスタ


伊介「なんだったの?」

春紀「物用のエレベーター?でこれが届いた」サッ

伊介「ポッキーかよ」

春紀「薬が降りてくる装置だと思ってたんだけど……ポッキーが降りてくるのか……」

伊介「ま、もらえるものはもらっとけば?」

春紀「おう、それにしても久々に食べるな。あ、伊介様もどうだ?」

伊介「伊介はいらなーい」

春紀「そっか」モグモグ


伊介「それよりも、武器庫にバールとハンマーがあったでしょ」スタスタ

春紀「あぁ、あったな」

伊介「あれ使ってみましょうよ」

春紀「ここに置いてあるってことは、”これくらいなら大丈夫”ってことだろ?意味なくないか?あたしはあの武器庫のラインナップを見て完全にやる気を削がれたよ」

伊介「ま、アンタの言いたいこともわかるけどね。伊介が試したいのはこっち」

春紀「……エレベーター?」

伊介「そっ。これ壊れたらどうやって薬持ってくるのかしら♥」

春紀「そういういらん意地悪したがるとこ結構好きだよ」


伊介「わかったなら早く」

春紀「え?あたしが?」

伊介「伊介にバールだの扱わせる気だったの?信じらんない」

春紀「はいはい。じゃあまずハンマーで行くか」

伊介「そうね、それで叩いてみて♥」

春紀「伊介様、危ないから下がってろな。いっくぜー……!」ブォン!!

ッガァァアアァン!!!

伊介「うるっさ……!どんだけ馬鹿力なのよ、アンタ」

春紀「これくらいしか取り柄がないもんでね」

伊介「で?どうなの?」

春紀「…………塗装一つ剥がれてない」

伊介「つ、続けなさいよ!」

春紀「がってん!」ブォン!!


15分後



伊介「嘘でしょ……」

春紀「はぁ………はぁ………くっそ…………」ゼェハァ……

伊介「あんだけやったのに、傷一つつかないなんて……意味わかんない」

春紀「こりゃ、無理だな……出入り口の扉はこれと同じかこれ以上に頑丈なんだろ……?」

伊介「ま、そう考えるのが妥当ね」

チーン

伊介「?」ピッ

ウィーン

伊介「………コレ、あんた宛よ」ヒュッ

春紀「うん?」パシッ

伊介「完全に喧嘩売ってるわね」

春紀「これ、なんだ?」

伊介「酸素スプレーらしいわよ」

春紀「ぜってーあたしのことバカにしてやがるだろ、この機械」


真夜「くっそぉ………」ハァ……ハァ……

真夜「大体よぉー………ペアなんじゃ、なかったのかよぉー!」ブォン!!!

ガァン!!

真夜「……はぁ、はぁ………はぁ……くっそ……!!誰か、オレをココから出せ……」

チーン

真夜「ちっ、またか……」ピッ

ウィーン

真夜「今度はなんだ。また精神安定剤か?」


真夜「………睡眠薬か」

真夜「ははっ……寝ろってか?」

真夜「それともオレの体が限界だってことか?」

真夜「……ま、どっちもだろーな」

真夜「いいぜ、寝てやる。ただし、真昼。オメーはまだ出てくんな」

真夜「……」ゴクゴク……プハッ

真夜「お前には荷が重いだろ?大丈夫、オレがお前を、守ってやる……」

真夜「………即効性があんのかよ、ベッドの上で飲めばよかった……な……」


ドサッ


神長「……駄目だったな」

首藤「じゃな。まぁ、想像しておったが……素晴らしい技術じゃの」

神長「すごいよ、爆風をものともしないなんて」

首藤「それもそうじゃが、この技術の真髄はそこじゃないじゃろうな」

神長「というと?」

首藤「特殊な防犯ガラスなどは今までだって存在した。衝撃にも銃弾に強い、そして斧等の刃付きの得物でも太刀打ちできぬものは前からあったのじゃ」

神長「そうなのか?」

首藤「あぁ。海外のとあるメーカーがその特殊なガラスを使って電話ボックスのような空間を歩道に設置して、その中に賞金を入れるという
デモンストレーションをしたこともあった。見事壊すことが出来た者は持ち帰っていいと横に看板を立ててな」

神長「それ、賞金を手に入れた人はいたのか?」

首藤「おらんよ。つまり、その手の技術は昔から確立されていた、ということじゃ」

神長「なるほど。でもこれは実験段階の全く新しいものなんだろ?」


首藤「そうじゃな。ただ、ワシが言ったのはガラスの話じゃ。扉じゃない」

神長「そうだな。でも、同じようなものだろ」

首藤「確かに防犯的な意味では同じように感じるかもしれん。じゃがこの二つは全く別の技術じゃろう」

神長「……?」

首藤「あの扉は何で出来ているように見える?」

神長「何って、木だな」

首藤「じゃろう?」

神長「何が言いたいんだ?」

首藤「何、大した話じゃない。今までもただ頑丈なものは存在したが、質感まで再現しているものなどワシは見た事がなかった。見事じゃと思っての」

神長「……確かにな。ガラスって、あの透明なガラスだろ?デザインも何もあったもんじゃないよな」

首藤「あぁ。どのような仕組みかはわからぬが、扉の周りを見るとわかるじゃろ。その加工が施された部分とそうじゃない部分が」

神長「あそこにあった椅子も吹き飛びはしたものの無傷、ということはその技術で作られたものだということか」

首藤「じゃな、基本的に部屋の中全体がそのように加工されているようじゃの」


神長「まぁ、壁を破って脱出されたら意味ないだろうしな」

首藤「先ほどの爆発で吹き飛んだのは家具や小物だけ。そして壊れたのは小物だけ、ということじゃな」

神長「……打つ手無しじゃないか。これ以上爆薬の威力をあげれば、私達も危ない」

首藤「やはり最初の読み通り、時間になるまでのんびりとするかの」

神長「あぁ、それがいい。しかしいつまで?」

首藤「……ワシも、実はそこが引っかかっとったんじゃよ」

神長「走りは1日~2日と言っていたが……」

首藤「あの扉がいつ開くかは、正直なところあちらさん次第じゃ」

神長「そうだよな。そして、私達ではどうにもできないことはよぉくわかった」

首藤「……本当に2日程で出してもらえるんじゃろうか」

神長「………」

首藤「すまんな、怯えさせてしもた」

神長「いや、平気だ。でもこれ以上ビビるとまた”チーン”という音と共に精神安定剤辺りが降ってくる気がする」

首藤「背中を撫でてやろう、落ち着くぞ」サスサス

チーン

首藤「何故じゃ」

寝る、おやすみ

起きた。


千足「っあ……つぅっ……ちょ、桐ヶ谷」

柩「もう!千足さんなんて知らないです!」ポカポカ

しえな「き、桐ヶ谷、それくらいにしておいてやれ」

千足「本当に覚えてないんだ、私が剣持に、そんな………」チラッ

しえな「……っ!///」サッ

千足「目を逸らさないでくれ!って、おい、桐ヶ谷、もういいだろう」

柩「ぼくがどれだけ悲しかったか、わかってます?」ポカポカ

しえな「さっきからポカポカなんて可愛い効果音付けてるけど、放ってるのは立派な右ストレートだからな」

柩「ストレート、ジャブ、フックの打ち方くらい知ってますよ」

しえな「生田目はサンドバックじゃないんだぞ」


千足「私が殴られるのは構わない、確かに酷い事をしてしまったし……」

しえな「お前どんだけお人好しなんだよ……」

千足「ただ、桐ヶ谷のような子には暴力は似合わないから……やめてほしい……」

柩「千足さん……でも、どうしよう、ぼく……千足さんのことなかなか許せそうにないです……」ポカポカ

ドゥッ……!!

千足「うっ!」

しえな「可愛い効果音で誤摩化しきれなかった重たい一撃が聞こえた気がするんだが気のせいか?」


5分後


千足「はぁ……はぁ………」

しえな「だ、大丈夫か?」

千足「あぁ、私は頑丈にできている。桐ヶ谷みたいな、か弱い子のパンチくらい、どうってことない」ゲフッ

しえな「吐血しながら言うなよ」

チーン

柩「?何か届きましたね。ちょっと見てきます」スタスタ

しえな「あぁ、よろしく頼む」

柩「また千足さん宛です。中身は鎮痛薬です」

しえな「だろうよ」


千足「………なんか眠くなってきた」

しえな「鎮痛薬の作用かもな。痛みはどうだ?」

千足「いや、それは、その、元から無かったというか……」

しえな「ここまで来てそんな嘘つくなよ」

千足「うっ……とにかく、今は平気だ。少し寝る」

柩「大丈夫ですか?ボクが腕枕してあげましょうか?」

しえな「ビジュアル的に逆だろお前ら」


千足「………」スースー

しえな「本当にすぐ寝たな」

柩「いつもの凛々しい姿も好きですけど、ちょっと子供っぽい寝顔も好きです」

しえな「……わかる気がする。可愛いところあるんだな」

柩「……」POISON…

しえな「”POISON…”!?え、ちょ、待て!」

柩「ついに本音が出ましたね。でも千足さんはぼくのものなんで」

しえな「わかってるわかってる!!ボクはそんなつもりじゃ」ダッ

柩「待ってくださいよー」カシュッ

ブシュー!

しえな「っぶなぁ!待ったら死ぬだろ!!」

柩「だから待てって言ってるんですよ」

しえな「ごわい!!!」


タッタッタッ

しえな「待て、それ以上は……!」ガチャガチャ!!

しえな「くそっ……!開くワケない、か……!」

柩「鬼ごっこも終わりですよ」

しえな「……!!」

柩「さようなら」カシュッ

プシュー!

しえな「……」バッ

柩「しぶといですね」

しえな「まぁな」

柩「さて、おふざけも終わりです」クルッ

しえな「……って、は?なんで扉の方を向くんだ?」

柩「元々ぼくが試したかったのこっちなんですよね」

しえな「ボク本気で怖かったんだぞ」


しえな「でも試したかったのって?」

柩「先ほど神長さん達の部屋の様子をモニターで見た時、この扉は爆発にも耐えていましたよね」

しえな「あぁ。あれを見て思ったよ。自力で脱出は不可能だなって」

柩「実は先ほどからぼくが剣持さんに撃ってたのは、毒じゃないんです」

しえな「そうだったのか……!ならあんな必死になって避けなくても」

柩「特殊な酸です」

しえな「よくなかった。ナイスボク」

柩「人体が触れたら骨まで溶けます」

しえな「毒よりエグい」


柩「見て下さい、この部分」

しえな「ん?……すごい!何をしても傷が付かなかった扉が、溶けてる……!」

柩「これ、いけるかもしれませんね」

しえな「あぁ!ボク、こんなもの撃たれてたんだな……」

柩「ドンマイ」

しえな「誰のせいだと思ってるんだよ!!」


10分後


柩「なんかあっけなかったですね。あのつっかえになってる部分を壊せばおしまい、なんて」

しえな「あぁ。錠前はついていないんだな、この扉」

柩「先ほどの首藤さん達の会話の通り、対破壊のパフォーマンスを知りたかっただけって感じですね」

しえな「だな。……さて、こうして扉が動かせるようになったんだ。脱出しよう」

柩「まさかとは思いますが、千足さんを置いて行くんですか?」

しえな「……まさか、ちゃんと連れてくよ。生田目を起こしてくれないか?」

柩「わかりました、ちょっと行ってきます」スタスタ


柩「………千足さん、扉が開きましたよー」

千足「ん……なに……?」

柩「とびら、開きましたよ」

千足「何……?すごいな……」

柩「体、起こせます?」

千足「あぁ、平気だ。すぐに行こう」

柩「あまり無理しないでくださいね……?」

千足「ありがとう、でも大丈夫だ」

しえな「一瞬この光景に騙されそうになったけど、生田目をボコったのって桐ヶ谷なんだよな」


柩「……というわけで扉が開いたんです」

千足「なるほど、酸か……」

柩「さ、行きましょう」

しえな「ボクトイレ行ってきていいか?」

千足「どこまで続いてるかわからないしな、したいなら先に済ませた方がいいだろう」

しえな「ごめん、ちょっと行ってくる」タッタッタッ

千足「桐ヶ谷は?平気か?」

柩「はい!なので先に行きましょう」

千足「いいのか?」

柩「見たところ一本道ですし、問題ないですよ。ゆっくり歩きましょう」

千足「桐ヶ谷がそう言うなら」


数分後


しえな「お待たせー……って、え……………?」

しえな「………」

しえな「……いや、置いていかれるのは、まぁ……うん」

しえな「想定内というか、心の何処かでわかってたっていうか」

しえな「……そんなことよりも」

しえな「扉が、元通りになってる……」ガクッ


しえな「まぁ、いいさ……ボクが開けた訳じゃないし?やっとある意味一番の恐怖も過ぎ去ったわけだし?」

しえな「なんだったんだ、あいつら……」

チーン

しえな「はぁ、またか。今度はなんだろうな」スタスタ

ピッ

ウィーン

しえな「これは………」

しえな「鍵?」


春紀「のんきなもんだなー」ジュー

伊介「だって仕方がないでしょ。扉は開けられそうにないし」

春紀「だからってなー」

伊介「いーから。っていうかまだなの?」

春紀「あとちょいだよ」

伊介「早くしてね、焼きそば」

春紀「へーへー」


10分後


春紀「冷蔵庫の中、かなり充実してたよな」モグモグ

伊介「っていうか冷蔵庫があることに驚きだわ」

春紀「だなー。でもなんで焼きそばなんだ?他にも色々あったろうに」

伊介「アンタ焼きそば作ってるの似合いそうだと思ったから♥」

春紀「すごい、1ミリもうれしくねー」


チーン

春紀「ん?」

伊介「伊介いま食べてるからアンタ行ってきなさい」

春紀「おう。あたしも食べてたんだけどなー……」スクッ

伊介「早く行け♥」

春紀「わかってるって」スタスタ

ピッ

ウィーン

春紀「……マジか」

伊介「……?」モグモグ

春紀「なぁ伊介様」

伊介「何よ」

春紀「この薬、飲んでくれ」


伊介「何の薬なの?」

春紀「それは、言えない……」

伊介「却下。ばっかじゃないの?」

春紀「でも、あたしは伊介様がこれを飲んでくれたら嬉しい」

伊介「……何よ」

春紀「駄目か?」

伊介「アンタを喜ばせても伊介の得にならないっつーの。却下」

春紀「そっかぁ……そうだよな………」

伊介「………」

春紀「………」シュン


伊介「……仕方ないわね」

春紀「へ?」

伊介「聞こえなかったの?」

春紀「え、でも」

伊介「早くちょうだい」

春紀「………いいのか?」

伊介「伊介の気が変わらないうちにはーやーくー」


春紀「ほら。全部で3錠な」スッ

伊介「はいはい」ゴクッ

春紀「水足りるか?」

伊介「……へーき」

春紀「………」ジー

伊介「なによ。っていうかコレ、なんの薬なの?」

春紀「実は………」


伊介「はぁ???一時的に脳が幼児退行する薬??」

春紀「あぁ。それで、つい、ね?」

伊介「あっきれた……アンタ、ロリコンだったの?」

春紀「はぁ?そんなわけないだろ」

伊介「だってやたら必死だったし」

春紀「それは伊介様がそうなったら可愛いだろうなーって思っただけだって」

伊介「嘘よ……うそだもん……いすけじゃはるきにすきになって、もらえないんだ……」

春紀「い、伊介様??」

伊介「いすけ……はるきがいいのに……はるき……いすけじゃ……だめって……」グスッ

春紀「あ、いや、その…………」

伊介「ふえぇぇ……」ブワッ

春紀「あぁ、よしよしよし、そんなことないそんなことない(かわええええええ)」


伊介「……うぅ」

春紀「そんな睨むなよ。ごめんって、な?」

伊介「はるき いすけのこと すき?」

春紀「おう!すきすき!だから機嫌直せ?な?」

伊介「………ん!」

春紀「へ?」

伊介「んー!」

春紀「……だっこ?」

伊介「ん!はやく!」

春紀「はいはい」ギュー

伊介「へへー」ヨジヨジ

春紀「え、あたしの上に乗るのか……?」

伊介「だめなの……?やっぱり はるきは いすけのこと………」

春紀「のの乗っていいんだぞ!?うん!駄目じゃないって!」


伊介「ほんと?おいしょ」

春紀「重たい……」

伊介「いまなんかいった??」

春紀「い、いいや?でもさ、椅子に座ったままなんて体勢的にキツいだろ?」

伊介「?うーん、いすけ、わかんない!」

春紀「そっかー、わかんないかー(かわいい……!!)」

伊介「はるきはつらい?」

春紀「う、うーん、ほら、あたしまだご飯食べ終わってないから。な?ちょっと降りてもらっていいk」

伊介「いすけがやる!!」

春紀「………は?」

伊介「いすけがはるきに ごはんたべさせる! できる!」

春紀「えー…と、うん、よろしくなー……」ハハハ…


伊介「いすけ やきそばは ふぉーくがいい」

春紀「んー?お箸使う練習。ほら、頑張れ」

伊介「わかった……」モチョモチョ

春紀「伊介様、あたしの上から降りないのか?」

伊介「すわったままでも!できる!」

春紀「あ、はい……」

伊介「あーん」

春紀「あーん」モグモグ

伊介「おいしい?」

春紀「んー?あぁ」

伊介「へへ、ほめられた……♥」

春紀「作ったのあたしなんだけどな」


伊介「もういっかいたべさせる」モチョモチョ

春紀「い、いいって。あたし自分で食べれるし」

伊介「え………」

春紀「伊介様が疲れちゃうだろ?だからいいよ、ほら。お箸返して」

伊介「いすけ……はるきのやくに……たてないんだ………やくただずなんだ……」

春紀「っていうのは冗談、冗談な」

伊介「……!はるき!あーんっ」

春紀「あーん」モグモグ

伊介「へへー」ギュー

春紀「……(天使か)」ナデナデ


伊介「いーこいーこ」ナデナデ

春紀「あたしがいいこなのか?」

伊介「ちゃんとたべるから、いいこ」

春紀「お、おう」

伊介「ごほーび」チュッ

春紀「」

伊介「……?はるき?」

春紀「…………………………………/////」

伊介「はるき?いやだった……?」

春紀「いや、いやじゃ、ない、けど……その、あれだ。ちょっとびっくりしただけだ」

伊介「ほんと?」

春紀「あぁ、本当だよ。伊介様がほっぺにちゅーしてくれたんだぞ?嬉しくないわけないだろ」ナデナデ

伊介「んー♥」

春紀「あっ!ちょっと」

ベチャッ

春紀「あーあ……」


伊介「やきそば……こぼしちゃった……」

春紀「そうだな。でも流石だな、そこにこぼすのか」

伊介「そこって?ここ?」

春紀「そうそう、お胸な」

伊介「おむねー」キャッキャ

春紀「伊介様、拭いてやるから動かないようにな。ティッシュは……あったあった」サッ

伊介「はるきふいてくれるの?」

春紀「あぁ。じっとしてろな」

伊介「………」ウズウズ

春紀「幼くなってもあたしの言う事聞こうとしないところは変わらんのか」


伊介「んー」ムニュー

春紀「こら、おっぱいはオモチャじゃないんだぞ」

伊介「いすけのだも!すきにする!」

春紀「ダーメ。ほら、動くな」

伊介「えいっ」ムニュッ

春紀「あ!谷間に焼きそばが落ちてった!!」

伊介「……」ジー

春紀「なんで大人しくしろって言ったのに言う事聞かなかった?悪い子だぞ?」

伊介「んー、わかんないっ」

春紀「……小さくてもちゃんと伊介様なんだなぁ……」


春紀「ほら、取り出してこいって」

伊介「え?」

春紀「え?じゃない。お洋服脱いで焼きそば取ってくるんだ、わかるか?」

伊介「やぁ」

春紀「伊介さまぁー……だって、そんなの胸に挟まったままなんておかしいだろ?ばっちぃよ?」

伊介「これは ひじょーしょく」

春紀「そんな非常食やだよ」


伊介「んぅー……」

春紀「わかった、じゃああたしがやってやるから。それでいいか?」

伊介「うん!!」

春紀「よし。じゃあ……」

伊介「?」

春紀「本当にいいのか?」

伊介「??」

春紀「いや、いいんだよな……それじゃ、ちょっと失礼して」


伊介「………」

春紀「あぁ、ここ、こうなってるのか。よし、じゃあこれを外せば」

伊介「…………」

春紀「ほっ…。やっと脱げたな」

伊介「ここ……?」

春紀「あぁ。拭くだけだからな、すぐ終わる。……っわ、おっき……」

伊介「………」

春紀「あぁ、あったあった。この焼きそばも作られてる最中はまさか胸の谷間に挟まることになるなんて思ってなかっただろうな」ポイッ

伊介「…………」

春紀「よし、終わり。伊介様、服自分で着れるか」クルッ

伊介「……たい」

春紀「は?」

伊介「変態!すけべ!ばぁーーーーっかじゃないの!!?!?」

春紀「はぁ!!?!?!?」


伊介「え………?なんで伊介、上だけ裸なの……?あんたが脱がしたの……?」

春紀「いや、そりゃあたしが脱がしたけど……!覚えてないのか!?」

伊介「なんのことよ。この、どすけべ!あんたがこんなスケベだとは思わなかったわ」

春紀「だから違うって、あたしはそういうつもりじゃなくて」

伊介「じゃあなんで伊介の服脱がしたのよ」

春紀「胸の谷間に焼きそばが落ちたからだよ!!」

伊介「小学生でももっとマシな言い訳するっての!!」ギリギリ

春紀「ちょ……待って……マジなんだって………」


首藤「しかしなかなか来んのう」

神長「何がだ?」

首藤「薬じゃ。せっかくじゃしの、積極的に色々なものを飲もうと思ったのじゃが……」

神長「そうだな。この部屋にいると私達の体調が把握されるんだろう?」

首藤「らしいのう。そして状況に応じた薬を出してくれるという話じゃ」

神長「私達は何もしないからいけないんじゃないのか?」

首藤「というと?」

神長「ほら、風邪を引いたら風邪薬が必要になる。怪我をしたら鎮痛剤が必要になる。私達も何かアクションを起こしてみたらどうだ?」

首藤「なるほどのう!確かに一理ある!ならば早速、香子ちゃん」

神長「どうした?」

首藤「眼鏡を貸してくれんか」

神長「……いいけど、どうせまたくだらないことするんだろ」カチャ…

首藤「くだらないとは失礼な」


神長「……私の眼鏡かけて、楽しいか?」

首藤「あぁ。しかし世界が歪んで見えるの」

神長「そりゃそうだ。私もそれをかけると少し歪んで見えるんだ」

首藤「何故じゃ??外してると、ではなくて?」

神長「しばらく眼鏡直しに行ってないから、度が変わってるんだと思う」

首藤「爆弾を扱う人間としてそれはマズいと思うぞ、香子ちゃん」


チーン

神長「お、早速か」

首藤「ワシが見てこよう」スタスタ

神長「……」

ピッ

ウィーン

スタスタ

首藤「……」

神長「なんだった?」

首藤「なんだかよくわからないものじゃ」

神長「誰宛だ?」

首藤「ワシじゃ。どういうことじゃ……?」


神長「カードが付いていただろう?」

首藤「あぁ、じゃがワシはいま眼鏡をかけとるからの、上手く見えんのじゃ」

神長「残念だけど私も、今は眼鏡をかけてないから文字は読めない」

首藤「そうか……どうしたらいいかのう……」

神長「首藤が私に眼鏡を返してくれれば全て解決するんだが?」


首藤「なになに?幻覚が見える薬……?」

神長「マジック的なマッシュルーム的な……?」

首藤「いやいや、もしかしたらハーブ的なアレかもしれんぞ……?」

神長「首藤、確かに医学に貢献するのはいいことだと思うが、これはやめておけ」

首藤「うむ……しかし何故ワシにこんな薬を飲ませようと……?」

神長「たまたま血圧とか、そういうものが条件にかかったんだろう?とりあえずこれは無しだ」

首藤「ふーむ」

神長「まだ説明を読んでるのか?」

首藤「あぁ。ただの幻覚剤をこんなところで出すわけじゃない、と思っての」

神長「どうしたいんだ」

首藤「ふむ……よっと」グビッ

神長「あーーーー!!」


首藤「ぷはっ……ドリンク系はいいのう。飲みやすいわ」

神長「ばか!なんで飲むんだよ!!」

首藤「何故と言われてものう。効果が気になったんじゃよ」

神長「効果って?幻覚症状なんだろう?」

首藤「見たいものが見えるかもしれないと書いてあったからのう。つい」

神長「それで何かあったらどうするんだよ…」

首藤「まぁ、それでもワシは構わぬよ」

神長「でも」

首藤「ワシは今……見たいものを見ておる」

神長「鏡……?」


首藤「何が見えているのか、気になるじゃろう?」

神長「あぁ、首藤の目には何が見えているんだ?」

首藤「……」

神長「ちょ、泣く程のものか?首藤??」

首藤「大丈夫じゃ、ワシは、ちゃんと香子ちゃんの声が聞こえている。変わっているのは視界だけ、じゃ」

神長「首藤、答えてくれ。何が見えているんだ」

首藤「……大人になった自分の姿じゃ」

神長「……!」

首藤「ワシだけじゃない、香子ちゃんも大人に見えるぞ」

神長「なんだよ、その薬……」

首藤「まぁ、姿についてはワシの脳が作り出した全くの偽物じゃろうけど……それでも」

神長「……どんな気分だ?」

首藤「……変じゃのう。いつもよりも香子ちゃんの視線が高いんじゃ」

神長「ほう。ということは、首藤の予想では私はまだ身長が伸びるということか。そう願いたいものだな」

首藤「予想というか、ただの理想かものう」

神長「そこまで言われたら意地でもその身長まで伸びないといけない気がしてくるな」


首藤「香子ちゃん、大きくなったのう…」

神長「って、どこ見てるんだ!?」

首藤「ん?香子ちゃんの顔じゃが?」

神長「視線の高さおかしくないか!?」

首藤「そんなことないぞ、香子ちゃんは将来ここまで伸びるんじゃ」

神長「2mはあるだろ!!」

首藤「大丈夫じゃ、頑張ればきっと……!」

神長「そんな努力したくない」



「………やさん」

「……んや、さん」

真夜「……………?」

「よかった、目が覚めましたのね」

真夜「純恋子……なんで………?オレ、夢でも見てるのか……?」

純恋子「夢ではありませんわ。お恥ずかしいことですが、暗殺に失敗してしまって」

真夜「はぁ……?暗殺に失敗して、なんでここに……?」

純恋子「一ノ瀬さん達とのバトルで少々怪我をしてしまいまして……そのときでここを紹介されたんですの」

真夜「物好きだな……お前……」

純恋子「真夜さんと真昼さんが参加してると聞かされては……行かないという選択肢はありませんわ」

真夜「二回も同じこと言わせんなよ」

純恋子「何か?」

真夜「物好き」

飯食ってくる

戻った


純恋子「とにかく、この扉の破壊は無理ですわ」

真夜「なんで言い切れる」

純恋子「真夜さん、ハンマーでは既にお試しになったのでしょう?」

真夜「あぁ……ビクともしなかったぜ……」

純恋子「あれに似た効果のある扉や壁を見た事がありますの。手を尽くすだけ体力と時間の無駄、ですわ」

真夜「そーかい……ま、とりあえず純恋子が来てくれて助かったぜ」

純恋子「え?」

真夜「オレも真昼も、閉じ込められるのは苦手なんだ」

純恋子「……」

真夜「とりあえずは治験バイトに専念すっか」

純恋子「……りますわ」

真夜「へ?」

純恋子「頑張りますわ」

真夜「はぁー?何がだよ、ただ薬飲んでりゃいいんだろ?……おい!何処行くんだよ!」


純恋子「こちらの装置から薬が降りてくると伺っていますわ」チラッ

真夜「あぁ。嫌味なくらい正確なタイミングで色々降ってくるぜ」

チーン

純恋子&真夜「!?」

真夜「なんだぁ?」ピッ

ウィーン

真夜「……アンタ宛だ」

純恋子「なんですの?」

真夜「さぁ……?わからん……」

純恋子「……???」

【工業用潤滑油】

純恋子「誰が機械か!!!」ズバン!!

真夜「床に叩きつけんなよ!」


しえな「っていうかこれ何処のカギなんだ……?」

しえな「鍵の大きさからいって、普通のドアのものか……?」

しえな「小物入れか何かかとも思ったんだけど……こんなんじゃないよな、多分」

しえな「あーもー。あの二人には置いて行かれるし、扉は直ってるし」

しえな「一体なんだって言うんだ……」

しえな「考えがまとまらない……あ、そういえばあの興奮抑制剤、まだ残ってたっけ?」ゴソゴソ

しえな「効かなかったけど、気休めくらいにはなるだろ」

しえな「……ん?」

しえな「【予測される副作用:幻覚】だと……?」

しえな「………」

しえな「……いや、まさか、な」

しえな「だって、ちゃんと薬は降りてきたし、それに……」

しえな「……それすらも幻覚だと言われたら、もうどうしようもないな……」


しえな「あの二人は、ボクの見た幻覚だったのか……?」

しえな「いや、今はそんなことを考えていても仕方がない。鍵穴を探さないと」

しえな「でも壁は全部見たし……あとは、床?」

しえな「一番怪しいのはこの武器庫だろうな」ガチャ

しえな「……床を調べるとなると、多少武器をリビングに移動した方が良さそうだな」

しえな「はぁー……もう、めんどくさい………」


春紀「伊介様ー?機嫌直ったかい?」

伊介「直ってない」

春紀「はぁ……どうやったら直るんだよ」

伊介「アンタもあの薬飲みなさいよ」

春紀「あたしが飲んでも効かないんじゃないか?」

伊介「そういえばあの薬、副作用とかなかったワケ?」

春紀「あー……言われてみれば、チェックしてなかったな」

伊介「ばぁーっかじゃないの!?そんなの伊介に飲ませたのっていうの?」

春紀「わ、悪かったって。あのときは可愛い伊介様が見たくてさ」

伊介「ったくもう。えーと、副作用は………………………」ガサッ

春紀「どうしたんだ?」

伊介「なんでもないわ、いいから早くあんたもこの薬飲みなさい♥」

春紀「いや気になるだろ!副作用はなんだったんだよ」グイッ

【副作用:死】

春紀「怖っ!!!」

伊介「こんなもの飲まされた伊介のが怖いってのー♥」

春紀「副作用を知ってもなお、あたしにそれを飲ませようとする伊介様のが怖いよ」


伊介「あーあ。アンタの分も変な薬くればいいのにー」

春紀「ま、さっきはあたしが飲んでもらったからな。次に面白そうなのきたらちゃんと飲むよ」

伊介「ホントにー?」

チーン

伊介「伊介が行くー♥」パタパタ

春紀「……(可愛いな)」

伊介「言ったそばから来たわよ、あんた宛の、変な薬」

春紀「へぇー?効果は?」

伊介「伊介に飲ませるときは教えてくれなかったくせに」

春紀「それは話したら伊介様が飲んでくれないと思ったからだよ。あたしはちゃんと飲むって」

伊介「ふぅーん?まぁいいわ。トイレが異様に近くなる薬なんだけど」

春紀「ホントに変な薬きたな」


伊介「ほら、飲みなさいよ」

春紀「いいけど……伊介様だってこんな効果、期待してなかったんじゃないか?」

伊介「べっつにー?また変なのがきたらアンタに飲ませればいいだけだし」

春紀「はぁー……」ゴクッ

伊介「水は多めに飲みなさいよ、つっかえたら大変だからね」

春紀「あ、あぁ。優しいな」

伊介「伊介はいつだって優しいの。決してこれから襲い来る尿意を促進させようとなんて思ってないから」

春紀「下よりも先に目から体液出そう」


春紀「あぁ、そういえば」

伊介「何よ」

春紀「この薬の副作用って?」

伊介「記憶障害って書いてあったわ」

春紀「さっきから副作用怖い薬ばっかりだな!!?」


伊介「で?どう?効果出てきた?」

春紀「ない。で、伊介様はどうしてあたしの腕を掴んでるんだ」

伊介「べっつにー?本当に薬効いてないの?」

春紀「あぁ、全然平気だ」グイッ

伊介「何よ、伊介が折角手握ってあげてるのに振りほどこうとしたワケ?サイテー生意気ー」

春紀「……悪かったよ。でも別に振りほどこうとしたつもりじゃないんだ」

伊介「ふぅん?」

春紀「ほら、離せって」

伊介「……アンタ」

春紀「な、なに?」

伊介「……薬、効いてるんでしょ?」バッ!!

春紀「っぶねぇ!!」サッ!

伊介「案外素早いのね。下腹部押して決壊させてやろうと思ったのに」

春紀「さすがにこの歳で人前で漏らしたら生きていけんよ」

伊介「もしかしたらその為の副作用なのかも」

春紀「目を背けてる感ハンパないな」


ジャー・・・

春紀「ふぅ」

伊介「すっきりした?」

春紀「あぁ。トイレが近くなるみたいだけど、どれくらいで次に行きたくなるんだろうな」

伊介「さぁ?」

チーン

春紀「なんだ?」スタスタ

伊介「なんだったの?」

春紀「またあたし宛だ。えーと、中身は……」

伊介「?」

春紀「却下」ポイッ

伊介「ちょっと、見せないよー」ガサッ

【効果:下剤】

伊介「たかが下剤でしょ?飲みなさいよー」

春紀「トイレから出て来れなくなるだろ!」


伊介「ちょっとした冗談じゃない。ま、これは飲まなくてもいいわ」ポイッ

春紀「あぁ。じゃああたしはちょっと横になるな」

伊介「寝るの?」

春紀「いんや。ソファでごろごろするだけだよ。なんか疲れたんだ」スタスタ

伊介「そう」テクテク

春紀「なんで伊介様もついてくるんだよ」

伊介「伊介もごろごろしたーい」

春紀「じゃあ伊介様ソファな。あたし床でいいや」

伊介「ばか、アンタがソファでいいわよ」グイッ

春紀「え、でも」

伊介「ほら、遠慮しない」トンッ

ボフッ

春紀「……いいのか?」

伊介「まーね。伊介、あんたの上でごろごろするから」

春紀「え」


伊介「ちょっと、動かないでよ。伊介が落ちちゃうでしょ」

春紀「伊介様、ちょっと待て。それはマズいって」

伊介「今はお腹の上じゃなくて股の上座ってるからセーフでしょ」

春紀「そういう問題じゃないだろ!」

伊介「何赤くなってんの……?あぁ、もしかして騎乗位みたいとか思ってる?だったら引くー♥」

春紀「お、おお思ってない!っていうか降りてくれ、トイレ行きたい」

伊介「もう?」

春紀「あぁ。結構ヤバい」

伊介「伊介がタダで降りると思う?」

春紀「どういうことだよ」


伊介「質問に答えて」

春紀「うっ……」

伊介「騎乗位みたいだと思った?」

春紀「……思った」

伊介「それで?どう思ったの?」

春紀「別に……」

伊介「へぇー……ここ、押しちゃおっかなぁー」

春紀「ちょっ!膀胱はやめろって……!」

伊介「どう思った?」

春紀「……ドキドキしました」

伊介「よろしい」ヨイショ

春紀「漏れる!」ダッ


しえな「や……やっと見つけた……」ゼェ…ハァ…

しえな「まさか本当に武器庫の床に鍵穴があるとはな」

しえな「……よし、開けるぞ」カチャカチャ

ガシャン…!!

しえな「…鍵は回ったけど、扉は?」

しえな「言われてみれば、スライドして開きそうな部分も見当たらないな……」

しえな「……もしかして、ただのダミー?」

しえな「だとしたらなんか、ボクだけすごくコケにされてるような」

ガー・・・!!

しえな「!?」

しえな「床じゃなくて壁に扉が出現するだなんて……随分凝った演出だな」


しえな「……これに触れば、開くのか?」

しえな「ちょっと怖いな」

しえな「……」

しえな「……ええい!女は度胸だ!」ピッ!

【指紋認証システムを起動します。表皮・真皮、適合レベル共にクリア】

しえな「!?な、なんだなんだ??」

ピー

しえな「!」

プシュー………

しえな「あ、開いた……!?…けど、げっほげっほ……なんだよ、この煙は……」

「え…ちゃん……」

しえな「へ?」

「……しえな、ちゃん?」

しえな「……乙哉?」


乙哉「行き止まりだと思ってたのに……びっくりしたぁ」

しえな「お前、どうして…」

乙哉「なんでここにしえなちゃんがいるの?」

しえな「ボクは仕事でここにいるんだ」

乙哉「あたしは色々あって鳰ちゃんにここに連れて来られてね。ずっと歩いてたんだけど行き止まりで困ってたんだよー」

しえな「ちょっと待て。色々……?どういうことだ?」

乙哉「やぁー、まぁ、ほら、話すと長くなっちゃうし。とりあえずしえなちゃんを手伝うよ。何してたの?」

しえな「お前には無理だからいい」

乙哉「えーーーーひどいよーーーできるよぉーーー」

しえな「じゃあ聞くけど、神長が爆弾使っても突破できなかった扉、お前に壊せるか?」

乙哉「は?無理に決まってんじゃん、そんなの」

しえな「ボクのこと頭のおかしい人みたいな目で見るな!お前が出来るって言ったから言ったのに!」


乙哉「だってぇー。いきなり変なこと言うんだもん」

しえな「そういう依頼なんだよ。お前は何も知らされないであの扉の前に立っていたのか?」

乙哉「あたしに選択権は無かったもん、仕方ないじゃん」

しえな「……さっきも話逸らそうとしてたけど、お前は一体何やらかしたんだ?」

乙哉「やらかすとか、人聞き悪いよー」

しえな「じゃあ何したんだよ」

乙哉「脱獄」

しえな「極悪」


乙哉「ま、結局こうして捕まっちゃったんだけどね」

しえな「さっき走りに連れて来られたって言ってたよな……?」

乙哉「うん、そだよー」

しえな「つまりミョウジョウ学園がお前の足取りを追って捕獲したのか?だとしたら思ったよりあの組織に大事にされてるんじゃ……?」

乙哉「違う違う。晴っちを殺したくて脱獄したんだけど、学園内でしくじっちゃってさー」

しえな「何してるんだよ怖いよ」


乙哉「だぁって、殺したいなーって思ったんだもん。しょうがないよー」

しえな「……二度もしくじるなんて、バカな奴」

乙哉「しくじるどころか実行に移せなかった人に言われたくないよ」

しえな「……」グスッ

乙哉「ごめんごめん!冗談だって!」

しえな「いや、いい……事実だ……」

乙哉「まぁね」

しえな「……」ブワッ

乙哉「しえなちゃんって面倒くさ可愛いよね」


しえな「にしても、なんで今更一ノ瀬を殺そうとなんかしたんだよ……違う人で発散させてたんだろ?」

乙哉「しえなちゃんには関係ないよ」

しえな「……まぁ、確かにそうだな。とにかく、二度も失敗して命あってよかったな」

乙哉「まーね。それに殺したい人も増えたしね♪」

しえな「はぁ……?気の多い奴だなぁ」

乙哉「ねぇねぇ誰か知りたくない?」

しえな「ボクの知ってる人なのか?」

乙哉「うん!黒組の生徒だよ!」

しえな「うーん、東とか?」

乙哉「あ、無理。あたしああいうの好みじゃないから」

しえな「東に同情した」


乙哉「正解はねー、英さんだよ♪」

しえな「へぇ、英かぁー……って、はぁ!?」

乙哉「どうしたの?そんなリアクションしちゃって」

しえな「いや……なんか、意外なところにいったなと思って」

乙哉「そう?英さんは魅力的だよ。強いし、綺麗だし」

しえな「へぇ。あいつ強いのか……病弱なんじゃなかったか……?」

乙哉「病気してるというよりかは、まぁ、どっちかっていうと怪我してる感じかな」

しえな「そうだったのか」

乙哉「サイボーグなんだよ、サイボーグ」

しえな「あー、はいはいすごいすごい」

乙哉「そのリアクション、絶対信じてないでしょ」


しえな「まぁ大体の流れはわかったよ。それで走りに捕まってここに連れてこられたんだな」

乙哉「うん。鳰ちゃん怖いんだもん」

しえな「お前の方が怖いだろ……」

乙哉「え?あたし?なんで?」

しえな「自分にそういうが要素ないと思ってるのか……?頭大丈夫か……??」


乙哉「……まぁ、そういうわけだから」

しえな「?」

乙哉「……」サッ

しえな「何してるんだよ。そこに何かあるのか?」

乙哉「あー…うー、うん」

しえな「絶対嘘だろ。こっち見ろ」

乙哉「……」

しえな「……」

乙哉「……」

しえな「……乙哉。あんな別れ方しといて、今更顔合わせにくいのはわかる。でも」

乙哉「……ホントだよねー」アハハ

しえな「……」

乙哉「もう二度と会わないと思ってたのに」

しえな「……お互い様だ」


乙哉「話は戻るけど、あたしに今回の依頼は手伝えないね。爆弾には敵わないし」スタスタ

しえな「……」

乙哉「奥にも部屋あるんでしょ?ベッドある?ちょっと疲れちゃってさー」

しえな「……」

ガチャ

しえな「……乙哉」

乙哉「……」ピクッ

しえな「この部屋を出る前に一つだけ答えろ」

乙哉「あたしにその義務はないけど」

しえな「うるさい。答えろ」

乙哉「……」

しえな「……なんであんなこと言ったんだ」

乙哉「さぁ。気まぐれかな」

しえな「お前っ……!!」ガシッ

乙哉「!」

しえな「言っていい嘘と悪い嘘があるだろ!!!」


乙哉「はっ……あははは……」

しえな「な、なんだよ」

乙哉「ねぇ……言っていい嘘って何?」

しえな「は、はぁ?屁理屈言うなよ……」

乙哉「答えてよ」

しえな「それは、その……小さな嘘とか、その場を取り繕うために仕方なくつく嘘とか……良くはないけど、きっと許されるだろ」

乙哉「今のもそういうものだったとしたら?っていうか嘘って決めつけるの酷くない?」

しえな「お前が言ったことは嘘だと思うし、ボクはそれが許せない。あれ、気まぐれで言ったワケじゃないんだろ?」

乙哉「……」

しえな「乙哉、なんか言えよ」

乙哉「はぁー……」

しえな「ちょっと、聞いてるのk」

乙哉「いいよ、わかった。じゃあもう一個嘘をつくね」

しえな「は?」

乙哉「『あたしはしえなちゃんを殺したくない』」

しえな「……………は?」


真夜「なぁ、純恋子。こんな優雅に過ごしてていいのか?」

純恋子「これから少し体を動かしますし、その前にお茶くらいしても罰は当たりませんわ」

真夜「ハァ?」

純恋子「言ったでしょう?頑張りますわ、と」

真夜「あー。そーいやさっきなんか言ってたっけなー」ズズズ

純恋子「わたくしが必ずここから出して差し上げますわ」

真夜「無理だろ。それはアンタも言ってたじゃねーーか」

純恋子「この閉鎖空間がお二人を苦しめるなら話は別ですわ」

真夜「はぁ……?でも、どーすんだよ」

純恋子「……」

真夜「アンタの体が普通じゃないってのは知ってるぜ?だけどなぁ」

純恋子「だから、ですわ。真夜さんは」

真夜「無理すんなよ。よくわかんねーけど、メンテナンスが必要だったりすンだろ?その体」

純恋子「……」

真夜「どこかがイカれちまったとき、オレは何もしてやれねぇ。降りてくる薬だって」

純恋子「わかってますわ。ちょっとやってみてダメだったら諦めますわ」

真夜「……本当か?」

純恋子「ふふ。さぁ」


真夜「じゃあ、オレは手出ししないからな」

純恋子「えぇ。もう少し離れて下さいます?」

真夜「はぁ?……わぁーったよ」ザッザッ

純恋子「行きますわ……!」ガシャカシャカシャ!!

真夜「!?」

純恋子「っはぁああああ!!!」ガスガスガス!!

真夜「………やべー」

純恋子「まだまだぁ!!!」ガガガ!!

真夜「お、おい、純恋子、それくらいにしとk」

純恋子「ふんっ!!!!!!!!」ドゴォォォォ!!

真夜「」

純恋子「全ては真夜さんのため……!!」バァァァン!!

真夜「……純恋子がもう少し離れてろって言ってくれなかったら、今頃ミンチになってたな」


首藤「薬の効果が切れてきたようじゃ」

神長「もう普通に私のことが見えるのか?」

首藤「あぁ。残念じゃがの」

神長「そうか。でも、薬の効果が切れてくれてちょっと嬉しい」

首藤「それは何故じゃ?」

神長「話すとき、首藤の視線の位置が高かったろ」

首藤「じゃな。さっきも言ったが背が高く見えてたのじゃ。それがどうかしたのか?」

神長「えっと……」

首藤「なんじゃ?」

神長「私を見てもらえてないみたいで、その」

首藤「……すまなんだな」

神長「いや、私こそつまらないことを言った」

首藤「安心せい、香子ちゃんは大体つまらん」

神長「泣きそう」


首藤「さて。次の薬が降りてくるまで大人しくしているか、それともどうにかして脱出する方法を模索するか」

神長「ずっと気になってたんだが」

首藤「なんじゃ?」

神長「あの武器庫だ」

首藤「あの中のものを試してみたいということかの。しかしワシはあまりそういったものの扱いに長けておらん」

神長「なんで首藤が使う前提なんだ?」

首藤「香子ちゃんがあんなもの扱ったらワシらが怪我するじゃろ」

神長「心外だ」


神長「しかし私が言いたいのはそういうことではない」

首藤「というと?」

神長「あの武器庫のラインナップ、随分と偏ってると思って」

首藤「ふむ…?ハンマー、バール、銃、グレネードランチャー、大体のものは揃っていたじゃろ」

神長「全部銃とか衝撃を与えるような、そういう種類の武器だろ?」

首藤「言われてみれば……」

神長「斬撃系の武器が無かったように思える。斧とか、あっても良さそうだろ」

首藤「……じゃな」

神長「何か、ヒントが隠されてる気がする」

首藤「香子ちゃんはこの部屋から脱出したいと思うとるのか?」

神長「……わからない、だけど……このまま指を咥えて見ているのはやっぱり嫌だ」

首藤「ふむ。では本格的に考察するとするかの」

神長「首藤……!」


首藤「まず、先ほど爆風で吹き飛ばされた椅子。ちょっと引っかかっておったのじゃ。何か特殊な素材で作られているのであれば、質量も異なる可能性が高い」

神長「そうだな。しかしあの椅子は普通だった。普通の木製の椅子だ。重くも軽くもない」

首藤「そうじゃ。しかし爆破をものともしなかった」

神長「首藤はさっき特殊なガラスの話をしてくれたときに言っただろう?『ここまで質感を再現しているのは素晴らしい』と」

首藤「あぁ。あのときは何か特殊な素材で扉や家具を作ったのだと思っとったのじゃよ」

神長「だよな。でも、実際は違うかもしれない」

首藤「……おそらくは既存のものに特殊なコーティングを施しておるのじゃろうな」

神長「私もそうだと思う。で、刃物だとそのコーティングが剥がれやすいのかも……?」

首藤「試す価値はありそうじゃの」


神長「しかし武器庫に刃物はない……どうしたものか」

首藤「刃物ならあるじゃろ、そこに」

神長「台所……?」

首藤「包丁だって、立派な刃物じゃぞ」

神長「なるほど……!試してみるか」


春紀「いーすーけーさーまー?」

伊介「何よ」

春紀「あたしもうあれ収まったから」

伊介「ふぅん」

春紀「信じてないだろ」

伊介「うん」

春紀「……あたしの下腹部を押すのやめろ!!!!」


伊介「だぁーって退屈なのよ」

春紀「退屈だったらあたしの腹押すのかよ」

伊介「他にやることないし」

春紀「……いや、あるにはあると思うけど」

伊介「もうあんな怪しげな薬飲むのやーよ」

春紀「でもそれが仕事だしな」

伊介「じゃあアンタが」

チーン

春伊「?」

伊介「春紀」

春紀「へいへい」スタスタ


ピッ

ウィーン

伊介「なんだったの?」

春紀「……」

伊介「ちょっと、聞いてんのアンタ」

春紀「これ、どっちが飲んでもいいらしいんだけど」

伊介「効果は?」

春紀「…………」

伊介「アンタ、また伊介に効果教えずに薬飲ませる気?」

春紀「なっ!こんな薬飲ませるわけないだろ!!///」

伊介「だからどういう効果なのよ」バッ

春紀「あっ!ちょ、返せ」

伊介「指図すんな♥えーと……媚薬?」

春紀「……みたいだな」

伊介「……」

春紀「なんでちょっと嬉しそうな顔してんだよ」


伊介「遂に出たわね、変な薬」

春紀「さっきあたしが飲んだ薬の方が変だっただろ」

伊介「薬モノの定番って感じ」

春紀「まぁ確かに」

伊介「でー?副作用は?」

春紀「あぁ、そーいや読んでなかった。えーと………濡れなくなる、だとさ」

伊介「意味ないじゃない!!!!」

春紀「怒り過ぎだろ!!!」


チーン

春紀「今度はなんだよ……」スタスタ

伊介「次から次へと……」

春紀「もしかしたら伊介様がイライラしてっから、それを和らげる薬だったりしてな」ハハハ

伊介「絶対飲まないっつの♥」

ピッ

ウィーン

春紀「………」

伊介「なんだったの?」

春紀「……媚薬」

伊介「また……?一応聞くけど、副作用は?」

春紀「一時的に目が見えなくなる、だとさ」

伊介「!!!!」


伊介「…………ま、まったく、さっきからくだらない薬ばっかり。伊介、嫌になっちゃう」

春紀「ホントにな」

伊介「それ、伊介が捨てといてあげるから貸しなさい」

春紀「え……」ジー

伊介「な、何よ」

春紀「いや、自分で動くのを嫌う伊介様がわざわざ捨ててくれるって、変な気がして」

伊介「っは、はぁ!?そんなのただの気まぐれじゃない!いいから寄越しなさいよ!」グイッ

春紀「い、嫌だ!ちょっと待てって!」グイッ

伊介「っていうかまさか自分がこれ飲まされると思ったワケ!?自意識カジョーにも程があるっての!」グイッ

春紀「自意識過剰で結構だっての!」グイッ


しえな「乙哉、私を殺したくないって、それって」

乙哉「でも、嘘であって嘘じゃないんだよね」

しえな「何を言ってるのかわからない……」

乙哉「しえなちゃん、これ以上あたしに関わるとマジでヤバいよ」

しえな「……なんか意外だな」

乙哉「へ?」

しえな「だって、一ノ瀬の時も、ボクは詳しく聞いてないけどきっと英にだって……そんな警告しなかっただろ」

乙哉「そうなんだよねー。っていうかそもそもあたしがあまり認めたくない感じだし」

しえな「は?」

乙哉「おさげは好きだけどそれだけだしねー。スタイルがいいわけでもないし、顔も悪くはないけど地味すぎっていうか」

しえな「本当にムカつくなお前」


乙哉「とにかく、そんな感じでどうしたらいいわからないから、もう会いたくなかったんだよ」

しえな「……なんていうか、ボク、いまかなり崖っぷちじゃないか?」

乙哉「ま、しえなちゃんがあたしに殺されそうになっても自衛できるくらい強ければいいだけだけどね」

しえな「無理なの知ってて言ってるだろ」

乙哉「へへ、まぁね。しえなちゃんってそういうタイプじゃないでしょ?」

しえな「あぁ、そうだよ。……なぁ、乙哉」

乙哉「んー?」

しえな「例えば、例えばだぞ?せめて、その、普通に」

乙哉「無理」

しえな「まだ最後まで言ってないだr」

乙哉「しえなちゃんが何を言おうとしてるか、手にとるようにわかるよ」

しえな「……]

乙哉「あのねぇ、そういう風に出来たらあたしはそもそも人なんて殺してないんだよ」

しえな「言ってることはわかるけど、それで死ぬのボクだからな」


乙哉「だぁーってしょうがないじゃん、なんでかそういう目で見るようになってきちゃったんだからさー」

しえな「いままでだって何回かそういうことあったろ」

乙哉「あれはただちょっとイジメたかっただけだもん、今回は違うの!」

しえな「ボクがイジメ嫌いだって何億回言ったら理解するんだ????」


しえな「とりあえずその……ボクとのことは保留にしといてくれ、今は任務に集中したい。できるか?」

乙哉「よゆーだよ。今だって、悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなるくらい普通」

しえな「気のせいだったんじゃないか?ボクのこと殺したいって」

乙哉「気のせいではないけど、なんだろ。例えば今、しえなちゃんが殺していいよって言ってくれてもほっといて寝るかな」

しえな「なんて失礼な想像してるんだお前は」

乙哉「波があるっていうかさー」

しえな「っていうかさっきはさらっと流したけど、お前でも悩むことってあるんだな」

乙哉「時間差でなんなの!」


乙哉「ねぇ、寝ていい?」

しえな「ダメだ。脱出に付き合え」ズルズル

乙哉「はぁー………この部屋だけ?カメラとモニターついてるの」

しえな「あぁ、みたいだ」

乙哉「……香子ちゃん達、何やってるの?」

しえな「さぁ……?でも、まだ脱出は諦めてないみたいだな」

乙哉「だねー」

しえな「爆破してみてダメだったら諦めるって言ってたのに」

乙哉「何か思いついたのかな?」


しえな「………あ」

乙哉「なになに?」

しえな「あれ、神長が持ってるの包丁じゃないか?」

乙哉「言われてみれば、そう見えるね」

しえな「なんか変な構え方してるけど」

乙哉「ファイナルファンタジーシリーズにああいうのいたよね」

しえな「包丁持っただけでトンベリ扱いは酷い」

乙哉「でもどっちかって言うとあれはしえなちゃんか」

しえな「おいやめろ」

乙哉「みんな(集団下校)のうらみ()」

しえな「やめて」


乙哉「でもなんで包丁なんだろうね?」

しえな「さぁ。あんなキッチンに置いてあるのわざわざ使わなくても武器庫にあるだろうに」ゴソゴソ

乙哉「もしかして置いてある武器の種類、ちょっと違うとか?」

しえな「そうかなぁ。そんな風には思わなかったけど……」

乙哉「何してるの?」

しえな「武器庫にあったもの、結構移動しちゃってるから。何か包丁に近いものを探してるんだよ」

乙哉「なーるほど」

しえな「……でも、あいつら、包丁であのドアを切る気か?」

乙哉「そりゃ木製っちゃ、木製だけど……ねぇ、あたし達も何か試してみようよ」

しえな「……あいつらが包丁を使ってる意味がわかったかも」

乙哉「へ?」

しえな「ダメだ。この武器庫に刃物はない」

乙哉「こんなにあるのに?」

しえな「無いものはないんだよ。それと……」

乙哉「何?」


しえな「……ボクの憶測では、この扉は表面さえどうにかしてしまえば、あとは普通の扉だと思う」

乙哉「何かコーティングされてるってこと?」

しえな「わからないけど、さっき桐ヶ谷が特殊な酸でドアを溶かして生田目と一緒に出てったんだ」

乙哉「あの二人も参加してたの!?」

しえな「あぁ、僕らは3人で同じ部屋だった」

乙哉「置いてかれてるじゃん、うっそーそんなことって有り得るの?」アハハハハハハハハ

しえな「笑い過ぎだろ殺すぞ」


乙哉「でもさー、あの二人ってイマイチ実態がないっていうかさー。幻覚だったんじゃない?」

しえな「ボクもそうかもしれないと思ってたんだが……さっき見つけたんだ」グイッ

乙哉「?」

スタスタ

しえな「見ろ、これ」

乙哉「……床に穴が空いてるね」

しえな「桐ヶ谷のカートリッジに入っていた酸がやったんだと思う」

乙哉「ホントに?たまたまじゃなくて?」

しえな「疑うならお前もこの部屋で暴れてみるといい。”たまたま”で傷が付く程、この部屋はまともじゃない」

乙哉「……でもなんでこんなとこに酸が?扉にも近くないし、不自然じゃない?」

しえな「これはボクが桐ヶ谷に狙われたときに空いたんだ」

乙哉「今さらっとすごいこと言ったよね」


しえな「とにかく、今のヒントはこれしかない。乙哉、やろう!」

乙哉「……うん」

しえな「どうした?」

乙哉「いま、ふと殺したくなっちゃった……」

しえな「なんか黒ひげ危機一発みたいで怖いんだけど」

乙哉「でもあたしはあんな一刺しで終わらせたりしないよ!?」

しえな「嬲り殺しの方がエグいだろ!!!」


10分後



しえな「というわけで、頼む」

乙哉「ねぇおかしくない?なんでわざわざあたしの鋏使うの?」

しえな「元はと言えばお前が勢いよく扉に突き立てて包丁折ったからだろ!!!」

乙哉「だってさー、あんな確信めいた感じで刃物持ったら思いっきりいくじゃん、フツー」

しえな「思いっきりいってもいいけど、やり過ぎだ。折れるってどういうことだよ」

乙哉「まぁ確かにちょっと手元狂ったけどさー。あたしの鋏、高いからあまりこういう雑な扱いしたくないんだけど」

しえな「自業自得だと、何度言えばわかるんだ??」グリグリグリ

乙哉「痛い痛い!!グリグリ攻撃は反則でしょ!!みさえって呼ぶよ!?」


しえな「ほら、鋏を突き立てるんでもなんでもいいから」

乙哉「分かったよー」ヒュッ!

スカーン!!

しえな「ど、どうだ?」

乙哉「……うん、確かに。思ったより脆い感じだね。普通の木よりかはもちろん硬いけど……何回か繰り返せば、表面くらいは剥がれそう」

しえな「ほ、本当か!?」

乙哉「あ、でも、さすがに鋏で扉壊すのは無理だよ?わかってると思うけど」

しえな「あぁ。ある程度コーティングを剥いだら、一度グレネードランチャーで破壊してみようと思う」

乙哉「それがいいね。よぉーし、張り切っていきますかー」

しえな「ボクも手伝うよ、鋏借りていいか?」

乙哉「うーん……いいけど、大事に扱ってね」サッ

しえな「あぁ、わかった。さって、神長達よりも早く脱出できるといいな」ヒュッ!!バキッ!!☆

乙哉「ねぇいま早速バキッ!!☆って聞こえたんだけど」

しえな「ボクちょっと疲れたから仮眠とるから」

乙哉「逃げないでよ!!今あたしの鋏折ったでしょ!!!」


真夜「これでもまだ壊れねぇってのか、この扉は……」

純恋子「……でも、かなりボロボロですわ」

真夜「信じらんねぇな。さっきはビクともしなかったってのに」

純恋子「斬撃を与えてから衝撃を与えると、僅かにですが耐久値が落ちる感じがしましたわ」

真夜「なるほど、斬撃か……はっ、そりゃオレには出来ねぇ仕事だったな」

純恋子「真夜さんはまだ休んでいてください。ここは私が」

真夜「待てよ、純恋子」

純恋子「……!」

真夜「オレァこいつに散々苦しめられたんだ。最後くらい、てめぇの力で突破させてくれよ」

純恋子「……そう、ですわね。ただ、傷付いてきていると言ってもまだかなり頑丈ですわ。気を付けて!」

真夜「誰に言ってんだァー!?オレァな、番場真夜様だぜーー!」ヒュッ……!

ッガァァァァァン!!

純恋子「………!」

真夜「………どうだァ!!」バッ

純恋子「ビクともしてませんわ」

真夜「空気読めよ!!バカ扉!!!クッソ!!!」


施設内 通路



ドゴーン!!

首藤「おぉ!香子ちゃん!やったぞ!」

神長「本当か!?よし!」

首藤「さぁこっちじゃ。足や腕を破片に引っかけんようにの」

神長「あぁ。それにしても、上手くいってよかった」

首藤「コーティングを剥いでから爆発させる。ダメ元じゃったが、まさかこうも上手くいくとはな」

神長「そうだな。私も、まさかあの爆弾があんなきちんと爆発するとは思わなかったよ」

首藤「……………いま、かなり聞き捨てならない台詞が聞こえた気がするんじゃが?」


神長「さて、この通路……どうする?」

首藤「主催者がいる様子もないしの。適当に進もうではないか」ザッザッ……

神長「……私達は依頼を終了したんだ。脱出報酬とか、出るのかな」

首藤「出るじゃろうな。あまり医学に貢献できなかったのは残念じゃが」

神長「そういえば、首藤がこの任務に参加したかったのって」

首藤「あいや、気にするでない。例え幻覚であったとしても、ワシは大人の姿の自分を見る事ができて、嬉しかった」

神長「……そうか」

ドガァァァァン!!

神長&首藤「!!?!?!?!?」

真夜「だらっしゃぁー!!」

純恋子「さすが真夜さんですわ」

真夜「だろー!?」

首藤「あれ……英?ワシはまだ幻覚を見ているのかのう」

神長「私、その薬飲んでないハズなのに効いてる。現代の医学ってすごいな」


真夜「こんなもんオレ様が本気出せば……って、お前ら!先に脱出してたのか」

神長「まぁ、な。にしても」チラッ

純恋子「ふふ、ごきげんよう」

首藤「破壊した扉の前でのご機嫌はどうじゃ?麗しいか?」

純恋子「そこそこですわ」

首藤「お主も来とったのじゃな」

純恋子「えぇ。あとから合流という形となってしまいましたけど」

神長「暗殺はどうなったんだ?ここにいるってことは……」

純恋子「……失敗しましたわ。一ノ瀬さんに義手を蹴り落とされて、建物の屋上から真っ逆さま……」

首藤「一ノ瀬がそこまでするわけないじゃろ」

神長「つくならもっとマシな嘘つけよ」

純恋子「ファック」

今日中に終わらせたかったけど限界。寝る

戻った。書く。


ドゴォォォン!!!

しえな「ホ、ホントに空いた……!」

乙哉「ホントに空いたって言うけどさー、あたししかほとんど働いてないじゃん」

しえな「うっ」

乙哉「ま、いいけどね。あ、破片とか気を付けてね」

しえな「あ、あぁ。外はどうなってる?」ヨイショ

乙哉「通路だね。適当に歩いてみよっか」

しえな「あぁ、ちょっと待ってくれ……扉に中途半端に穴が空いたせいで、くぐるのが……」

乙哉「あー。もうちょっと下狙えればしえなちゃんでも楽だったかな?」トンッ

しえな「っぶなぁ!!?!?押すなよ!!木片が体に刺さるだろ!!」グラッ

乙哉「ごめんねー。跨いでるときに転んだら股間血まみれになるかなーって思ったらつい」アハハ

しえな「やっぱお前嫌いだ!!」


乙哉「じゃ、こっち行こー!」

しえな「あぁ、お前の好きな方にしろ。ボクはこういうの、とことん運がないからな」

乙哉「わかるー。なんてったって剣持フェードアウトしえなだもんね」

しえな「ボクに変なミドルネームをつけるな」


乙哉「ねぇねぇ、これって扉だよね?」

しえな「あぁ。しかもボク達がいた部屋の扉と、おそらく一緒だ」

乙哉「ということは……?」

しえな「誰か、とにかくこの中にはペアがいると考えるのが妥当だな」

乙哉「そうなるよねー」

しえな「……どうする?」

乙哉「しえなちゃん達がなんて言われたかは知らないけど、あたしは説明受けてないよ」

しえな「へ?」

乙哉「他の部屋の扉を開けちゃいけない、だなんてね」

しえな「……なるほど。奇遇だな、ボクもだ」

乙哉「このボタン押したら開くんだよね?」

しえな「……じゃないか?」


ピッ

ウィーン

しえな「開いた…!」

春紀「だぁーから!渡さないって言ってるだろ!」

伊介「いいから寄越しなさいよ!伊介の言うこと聞けないっていうの!?」

春紀「こればっかりは駄目だ!!っていうかあたしの上から退けろって!」

伊介「アンタがそれ渡したら退けるわよ!」

乙哉「……」

しえな「……」

春紀「!なんだ?扉が…」

伊介「開いた……?」

しえな「……」ピッ

ウィーン

春紀「閉まった!?」

伊介「ちょ、ちょっと!開けなさいよ!」

しえな「あいつらほっといて先に進まないか?」

乙哉「あたしもそうしたい」


5分後


春紀「全く、なんで閉めるんだよ」

乙哉「だってなんか変なことしてたし」

伊介「っていうかアンタ、捕まったんじゃないの?」

乙哉「色々あって今はここにいるの。っていうか伊介さん久々だねー」

伊介「ふんっ」

春紀「まだ怒ってんのか…」

伊介「べっつにー」

乙哉「んー?あたしなんか怒られるようなことしたっけ?」

春紀「わからんけど目の敵にされてんぞ、アンタ」

乙哉「えー、理不尽じゃない?」

伊介「アンタのしてきたことのがよっぽど理不尽だっての♥」

しえな「この手のツッコミ、今まで何回されてきたんだろうな、こいつ」


春紀「にしても、ここにいるってことは刑務所には戻らなくていいのか?」

乙哉「うーん、その辺りはなんにも言われてないんだよね」

春紀「そうなのか」

乙哉「だからストップかけられない限りは一緒に帰るよ!ねー?」

しえな「なんでボクに同意を求めるんだ」

伊介「っていうか、”帰る”って?どこに帰るつもりよ、アンタ」

乙哉「え?春紀さんの家」

春紀「当然のように言ってくれやがって」


しえな「そういえば、さっき二人は何を取り合ってたんだ?」

春紀「いや、えっと」

伊介「なんだっていいでしょ」

しえな「でも、二人ともすごい必死な顔してたから」

乙哉「なんか面白い薬でも出された?」

春紀「まぁそんなところだ」

乙哉「いいなー。あたし結局何も飲んでないんだよー。みんな色々飲んだんでしょ?」

しえな「羨むことか?」

乙哉「いいじゃん、あたしも幻覚見たりしてみたいよ」

伊介「別にそういうヤバイ薬だけじゃないわよ」

乙哉「そうなの?」

伊介「こいつなんかアレが激しくなる薬出されてたし」

春紀「ちょっ」

しえな「アレってなんだ?」

伊介「尿意」

春紀「言うなよ!///」

乙哉「おしっことか、ヤッバイ」アハハハ

しえな「大丈夫か?トイレ行こうか?」フハハハ

春紀「うるせぇ小便かけんぞ」


伊介「あっ」

春紀「どうした?」

伊介「アレ、あげたら?」

春紀「……いや、うん、いいかもしれないな」

しえな「どうしたんだ?」

乙哉「何?何かくれるの?」

春紀「薬、飲みたいんだろ?」

乙哉「くれるの?」

伊介「ただし、効果は教えないわよ」

乙哉「二人が取り合ってたくらいだもん、飲んで得する薬でしょ?なんでもいいよー」

しえな「もうちょっと慎重になったらどうだ?」

乙哉「えーでもさぁー」

春紀「これ飲んで、武智の変態が治ってくれるなら安いもんだよな」ボソッ

伊介「ま、効果あるかはわからないけどね」

春紀「それでも、だ。マイナスになることはないだろ」

伊介「そうだといいけど」

乙哉「?」


春紀「ほら」サッ

乙哉「ありがと!液体なんだ?飲みやすくていいね」

しえな「ボクは知らないぞ?」

伊介「伊介も知らなーい」

しえな「お前が言い出したんだろ」

伊介「前から気になってたんだけど、伊介のことお前って呼ぶのやめてくれる?」

しえな「お前」

伊介「殺すぞ♥」

春紀「喧嘩すんな」

乙哉「っぷはー!不味い!もう一杯!」

しえな「青汁かよ」

春紀「あんたらホント自由だよな」


しえな「なんともないのか?」

乙哉「うん、いまのところへーき」

春紀「そうか。効かないのかもな」

乙哉「えー、つまんなーい」

伊介「っていうかこれ、どこまで歩けばいいのよ」

春紀「さぁ。暗くてよく見えんけど、ずーっと道が続いてるからとりあえず進むしかないんじゃないか?」

しえな「これ、何かの施設なんだろ?」

春紀「あぁ、それもきっとバカでかい施設内だ」

伊介「でしょうよ。部屋がそのまま大掛かりな装置になってたみたいだし、それが少なくとも4部屋あるんでしょ?」

しえな「まぁ、そうだよな……神長達と合流した方がいいような気もするんだけど」

春紀「それもそうだな。あたし達みたいに脱出諦めてる可能性あるし」


伊介「そういえばアンタら、どうやって脱出したのよ」

しえな「ボクの部屋にはモニターがついてて、各部屋の様子が観れるようになってたんだ」

春紀「そうだったのか」

しえな「あぁ。部屋によって内装がちょっと違ったりしてた。それで、神長達の部屋を映してるモニターを観てたらあいつら包丁で何かやってて」

伊介「包丁?」

しえな「そうだ。ちょっと説明するとややこしいんだけど、桐ヶ谷と生田目と同室だったんだ、ボク」

春紀「あいつらも来てたのか」

伊介「え…?死んだんじゃなかったんだ……えーと」

春紀「まさかと思うけど、下の名前忘れたとか言わんよな?」

伊介「覚えてるわよ!柩ちゃんと百足さんでしょ!」

しえな「千足だよ」

乙哉「ムカデって」

春紀「なんで900引いちゃったんだよ」


しえな「まぁいい。で、乙哉はあとから合流してきたから、3人でしばらく部屋で過ごしてたんだけど、桐ヶ谷が特殊な酸でドアを溶かして扉を開けたんだ」

伊介「なるほど、酸ねぇ」

しえな「それを見て神長達の行動とくっついたんだ。もしかしたら何かしらのコーティングがされてるかもしれないって。だから」

春紀「待て待て、剣持はその段階で脱出しなかったのか?」

しえな「トイレ行ってる間に置いてかれたんだよ。とにかく、それで僕らも試してみようって話になって乙哉の鋏で」

伊介「え?置いてかれたの?」

春紀「トイレに行ってる間に?」

しえな「そうだってば。で、コーティングを剥がしてからグレネードランチャーで」

春紀「確認するけど、置いて行かれたんだよな?」

しえな「何回も聞くなよ!!悲しいだろ!!!!」


しえな「とにかく、ボク達はそんな感じで扉を壊して脱出したんだよ」

春紀「なるほどなー」

しえな「気付いたか?あの武器庫、斬撃与える系の武器は一切置いてなかったんだ」

伊介「言われてみればそうだったかもしれないわね」

春紀「ってことは、神長達も脱出は成功してる可能性が高いってことか」

しえな「そうだ。ペアは神長と首藤、それと番場と英だ」

伊介「英さん?あの人も来てるの?」

しえな「あぁ。それについては乙哉が知ってるハズ」

春紀「そーいやさっきから大人しいな、武智」クルッ

乙哉「……」

伊介「ちょ、ちょっと?」

乙哉「ねぇ、ここ、こんなに、暗かった……?」

伊介「は?」

乙哉「前、見えない……どうしよう……」

春伊「!!!」


しえな「乙哉!?大丈夫か!?」

春紀「待て!剣持、近づくな!」ガシッ!!

しえな「はぁ!?」

伊介「アンタ、今どんな気分よ」

乙哉「アンタって、あたしのこと……?うーん……誰でもいいから刻みたい、かな」ハァ・・・ハァ・・・

春紀「」

伊介「そう……媚薬が効いてもアンタはあくまでそっちなワケね……」

しえな「はぁ!?媚薬!?」

春紀「そうだよ。あたし達が奪い合ってたのは媚薬だ。副作用で一時的に目が見えなくなる、な」

しえな「お前ら何しようとしてたんだよ…」

春紀「うっ……べっ、別にいいだろ!///」

伊介「アンタには関係ないでしょ地味眼鏡!」

しえな「言い過ぎだろ!」

乙哉「三人共、そこにいるの……?」

春紀&伊介&しえな「!!」


しえな「乙哉!?大丈夫か!?」

春紀「待て!剣持、近づくな!」ガシッ!!

しえな「はぁ!?」

伊介「アンタ、今どんな気分よ」

乙哉「アンタって、あたしのこと……?うーん……誰でもいいから刻みたい、かな」ハァ・・・ハァ・・・

春紀「」

伊介「そう……媚薬が効いてもアンタはあくまでそっちなワケね……」

しえな「はぁ!?媚薬!?」

春紀「そうだよ。あたし達が奪い合ってたのは媚薬だ。副作用で一時的に目が見えなくなる、な」

しえな「お前ら何しようとしてたんだよ…」

春紀「うっ……べっ、別にいいだろ!///」

伊介「アンタには関係ないでしょ地味眼鏡!」

しえな「言い過ぎだろ!」

乙哉「三人共、そこにいるの……?」

春紀&伊介&しえな「!!」

うわ


乙哉「そっかぁー……これ、媚薬、だったんだぁ……ふふふ、はははははあはは……」

春紀「お、落ち着け、な?」

伊介「そ、そうよ。とりあえず」

乙哉「誰でもいいから刻ませてよ」バッ!

しえな「!!」

春紀「ヤバい!!逃げろ!!」ダッ!!

伊介「言われなくても!」

しえな「あっ!ちょっと!待て!!」

乙哉「ひどいなーみんな……ちょっとくらい、楽しませてくれたって、いいのに…ね?」ダッ!!


春紀「!!?武智の奴、速い!」

伊介「アンタ!なんとかしなさいよ!」

春紀「飲ませてみればって言ったのは伊介様だろぉ!?」

しえな「お前ら二人の責任だろ!なんとかしろ!」

春紀「あたしの武器はあいつの獲物とは相性が最悪なんだよ!わかるだろ!!」

伊介「あー……紐だったっけ」

春紀「ワイヤーって言え!!!」


神長「なんだ?騒がしいな」

真夜「猫でもいるんじゃねーーの?」

首藤「いるわけないじゃろ……ここは施設内じゃぞ?」

純恋子「でも確かに……あっちの方から」チラッ

「ああぁぁぁぁぁ!!」

神長「!!?」

首藤「これは、寒河江の声!?」

真夜「あいつらも脱走に成功したってことか?」

純恋子「それにしてもこの声は……」

「待て待て待て!!!ボクなんか切っても楽しくないぞ!!」

首藤「剣持!?」

真夜「おい!向こうから人影が!」


伊介「アンタら!走りなさい!!」

純恋子「犬飼さん!?」

春紀「っぶねー!いま鋏かすったぞ!」

しえな「春紀、ほっぺから血出てるぞ!」

春紀「そんなの気にしてる場合じゃないだろ!!」

神長「よ、よくわからないけど、とにかく逃げるぞ!」ダッ!!

首藤「全く、息つく間もないのう」

真夜「追ってきてるの、武智じゃねーか?」

純恋子「みなさん、これはどういうこと!?」

春紀「説明はあとだ!!とにかく、死にたくないなら走れ!!」

神長「なんで武智が私達を!?」

しえな「こいつらが乙哉に媚薬を飲ませたんだよ!」

首藤「なんと……!」

乙哉「ねぇー待ってよーあたし目ぇ見えないんだよー?」

神長「目が見えないのに私達とほとんど同じスピードで走るのか…!」ドテッ!!

春紀「おいいぃぃぃぃ!!」


神長「ヤバい……!」

乙哉「今、誰か転んだよねー???????」

神長「……!!(怖い怖い怖い)」

乙哉「どこにいるのー?」

神長「……」ガタガタガタ

首藤「こっちじゃ武智!」

乙哉「……?」クルッ

純恋子「今ですわ!」ガシッ!

乙哉「!」

純恋子「元クラスメートのよしみで生け捕りにして差し上げますわ」ギリギリギリ

乙哉「くっ……!英さん……?ふふ……あはははは……丁度よかった……」

純恋子「?」

乙哉「殺したいなぁって、思ってたんだよね」ヒュッ!


純恋子「!!」

真夜「伏せろ!純恋子!」ブォン!!

ガァン!!

乙哉「いったぁ……」

ドサッ……

春紀「とりあえず、収まった……のか?」

伊介「さぁ。でも気絶してるみたいだから平気じゃない?」

しえな「怖かった……」

神長「私の方が怖かったぞ!!!」

春紀「アンタが転ぶからだろ」

首藤「大丈夫か?香子ちゃん」

神長「あぁ……ありがとう、ありがとう」ギュー

首藤「よしよし」


純恋子「忘れてましたわ。私、武智さんにターゲットにされてましたの」

しえな「あぁ、さっきそんなこと言ってたな……」

真夜「武智のやろー……よりにもよって純恋子に目ぇつけるとは」ギロッ

しえな「人騒がせな奴だよ、ホント」

春紀「全くだ」

伊介「嫌んなっちゃう」

しえな「元はと言えばお前らのせいだろ!!!」


「はいはい、そこまでっスー」

一同「!?」

首藤「その声は……鳩!」

鳰「鳰っス!!!!!!」

春紀「なんだよ、鳩か…」

神長「ただの鳩か……」

伊介「驚かせるなっつーの♥」

真夜「ったくよぉ」

純恋子「私としたことが、鳩如きに驚いてしまいましたわ」

鳰「8対1はさすがに酷いっスよ、集団イジメっスよ」

神長「大丈夫だ、武智は気を失っているから7対1だ」

鳰「それ全然大丈夫じゃないっスよね」


春紀「で?あんたもこの施設内にいるのか?」

鳰『んー、惜しいっスねー』

伊介「どういうことよ」

鳰『ウチはいま、施設敷地内の駐車場にいるっスよ』

首藤「ほう?」

鳰『もうわかってると思うっスけど、みなさんを回収しにきたっス』

真夜「つまり任務完了ってことだな!?」

鳰『そっス!お疲れ様っした!いやぁー、まさか脱出するとは思わなかったっスよー』

伊介「こんなの朝飯前だっての♥」

鳰『言っとくっスけど、まともに脱出できなかったの春伊ペアだけっスからね』


しえな「迎えに来てくれたはいいけど、どこまで歩けばいいんだ?」

鳰『その通路を真直ぐ歩いてきて欲しいっス。出口で待ってるっスよ』

純恋子「出口に繋がってるとなると、結構長い道のりになりそうですわね」

鳰『そぉんなことないっスよー?あ、ちゃんと武智さんも回収してもらえるっスか?』

春紀「放置じゃダメなのか……」

鳰『同じ布団で寝た仲じゃないっスかー!ちょっと冷たいんじゃないっスか??』

伊介「は?あんた、そうなの?」

春紀「ちょ、妙な言い回しすんなよ!」

伊介「答えなさいよ!」

春紀「ね、寝たけど本当にそれだけだから!」

首藤「はぁー…こやつらは毎度大変じゃな……誰か、武智を担いでやれぬか?」

真夜「オレがおぶるぜ」

しえな「へぇ……なんか意外だな」

真夜「さっきは手加減なしでぶん殴っちまったかんなー。正直目を覚ますか心配なんだよ」ヨイショット

しえな「乙哉!?おい大丈夫か乙哉!!」

春紀「普通死ぬよな、あんな殴り方されたら」

伊介「そうね。伊介も『あ、そんな強かに殴るんだ』って引いたもの」

しえな「乙哉ぁーー!!」


首藤「ま、大丈夫じゃろ。ほれ、先を急ぐぞ」スタスタ

しえな「なんでそんなことが言い切れるんだよ!」

乙哉「やっほー☆」

しえな「……………………」

首藤「ほれ、言ったじゃろ」

しえな「なん、で……」

真夜「オレ、手加減しなかった筈なんだけどな。とりあえず下ろしていいか?」

乙哉「あーっ待って待って!あたしまだ目見えないからしばらくこのままじゃ、ダメ?」

真夜「……ったく、しゃーねーなー」

乙哉「えへへ、ありがとー」ギュー

純恋子「……………ロス………タケ……コロ……ゼッタ………コロス………」

神長「隣から呪詛のようなものが聞こえるんが」


春紀「もう、その、切りたいとかはなくなったのか?」

乙哉「うん。なくなったっていうか普段通り?って感じ」

しえな「さっき殴られたところは平気なのか?」

乙哉「あれ殴られたんだ?」

神長「そうか、目が見えないからわからなかったのか」

乙哉「うん、なんとなく何かが来たのは分かったから手で防いだんだけど……すごい衝撃でそっから先は覚えてないや」

真夜「おいおい、手でって……骨折とかしたんじゃないのか?」

乙哉「ううん、あたしじゃなくて英さんの手だから」

真夜「純恋子ー!!!」


純恋子「私はチタン製のアームを使っているから問題ありませんわ」

しえな「出たチタン」

春紀「おっと」ピタッ

首藤「どうしたんじゃ?」

春紀「鳰のやつ。真直ぐって言ってたよな?」

伊介「言ってたわね。これじゃ無理だけど」

神長「どういうことだ?」

純恋子「まさか、行き止まり……?」

春紀「あぁ……あれ、暗くて見にくいけど壁だよな?」

鳰『みなさん着いたっスねー』

春紀「鳰!おい、どういうことだこれは」

鳰『壁にボタンがついてるっスからそれを押して欲しいっス』

伊介「あー、扉になってるのね」

鳰『そんな感じっス♪』


真夜「オレが押す!」

純恋子「とのことです。くれぐれも邪魔をしないように」

春紀「しねぇよ」

伊介「どんだけ過保護なのこいつ」

しえな「犬飼に言われるってすごいな」

伊介「ちょっとそれどーゆー意味よ」

真夜「よし、押すぜ!」

乙哉「えいっ」ピッ

真夜「なっ!てめぇ!人がせっかくおぶってやってたのに!!」

乙哉「そんな楽しみにされるとブチ壊したくなるじゃーん♪」

真夜「性格悪ぃ……っていうか目ぇ見えるようになってたなら言えよ……」

純恋子「いま真夜さんの楽しみを奪った馬糞以下の単細胞吐瀉物女はどこのどいつですの?」

乙哉「確かにボタン押したけどそれ言い過ぎだと思うんだぁ」


春紀「何も起きないじゃんか」

乙哉「みんなが扉の前に立ったら開くんじゃない?」

伊介「ふぅん」スタスタ

首藤「何にしても、早く帰って風呂に入りたいのう」

神長「だな」

ガコッ!!

一同「!!?!?!」

真夜「落とし穴かよ!」

春紀「ざっけんな!!」


ドサーー……!!

春紀「いたたたた……」

伊介「ここは……駐車場?」

しえな「だな。なるほど、あまり施設内の関係のない場所を歩かせたくなかったのかもな」

首藤「じゃろうな。それにしても荒っぽいやり方じゃがの」

神長「最先端の医療や防犯を研究するならもっとこういうところにも気を使って欲しいものだな」

真夜「お前ら全員の下敷きになってるオレに対してももうちょっと気を使って欲しいところだけどな」


鳰「いやぁ、お疲れさまっした」

春紀「久々だな、鳰」

鳰「そっスねー。武智さんと英さんは……まぁ、数日ぶりっスね。ま、細かい話は車の中でするっス」

神長「みんなで乗れるのか?これ」

鳰「もちっス!中は広いっスよー!」

真夜「いいからオレの上から降りろよ!!」


車内


春紀「こんな高級車に乗る機会がやってくるなんてなぁ」

真夜「すっげーーーな!椅子の向きからして違うもんな!」

純恋子「うちに来れば毎日乗り放題ですのよ?」

真夜「お?」

首藤「英のやつ、ガンガン攻めるの」

神長「そうでもしないと伝わらないんだろ、あいつには」

真夜「いまオレのこと馬鹿にしたろ」


鳰「さーてと、報酬の話なんスけど」

春紀「なんだ?」

鳰「脱出ボーナスは春紀さんと伊介さん以外に出るっス」

伊介「なっ!」

春紀「そこをなんとか。な?」

伊介「伊介達も脱出したでしょーが」

鳰「出してもらっておいて何言ってるんスか」

春紀「ケチ」

伊介「サメみたいな歯」

鳰「ボーナス出ないってわかった瞬間これっスからね」


鳰「あと、飲んだ薬に関してはものによって価格が変わってくるんで、集計後に各自振込むっス」

首藤「心得た。しかし、あれは一体どういう技術じゃったんじゃ?」

鳰「技術?あぁ、壊れない扉の話っスか?」

首藤「そうじゃ、既存のものになにか加工を施したのじゃろう?」

鳰「んー……ま、いっか。そっス、あれはスプレーっス」

春紀「スプレー?」

鳰「はいっス。吹き掛けると強度をあげるスプレー、それが技術部の開発したものなんスよ」

首藤「なんと……ただスプレーするだけであのような……」

乙哉「香子ちゃん、爆破しちゃった部屋の改装が終わったら全体にスプレーしてもらえば?」

春紀「あたしも言おうと思った」

神長「お前ら……!!」

伊介「何よー怒るの?」

神長「名案だな!!!」

春乙「まぁな(まぁね)」


鳰「そうそう、その話で思い出した。神長さん、謹慎が解けたって知らないっスよね?」

神長「そうなのか!?私のところにはなにも連絡は……」

鳰「一時的に預かってたケータイに昨日連絡があったんスよ。勝手にとらせてもらったっス」

純恋子「勝手に電話に出るだなんて、プライバシーの侵害ですわ」

神長「いや、いい。それにしても、そうだったのか……」

鳰「あと、伊介さんもっス」

伊介「え?」

鳰「ママさんから伝言っス。パパが寂しがってるから顔を見せてくれ、って」

伊介「……ママの頼みなら、仕方ないわね」

春紀「よくわかんないけど、みんな家に帰るってことか?つまりやっと平穏が訪れるってこと、か……?」

純恋子「そうですわ。真夜さんは私の方で引き取らせていただきます」

真夜「なんかオレだけ犬みてーな扱いだな」

純恋子「犬だなんてとんでもない。特別扱いなだけですわ」

真夜「そうか、オレは犬じゃなくて特別だったのか!」キラキラ

春紀「ペディグリーチャムでも食ってろよ駄犬」


しえな「そうか。随分と寂しくなるな。ボクらの家も」

春紀「ら?????あそこの家に元々住んでたのはこの中じゃあたしだけだぞ??」

鳰「それと、剣持さんも呼び出しかかってるっスよ」

しえな「………………うそ」

鳰「嘘じゃないっス。所属してる組織から連絡入ってるみたいっスよ?」

しえな「うぅ……絶対一ノ瀬の件で怒られるんだろうな………」

春紀「そーいや、武智はどうなるんだ?」

鳰「そりゃもちろん刑務所に戻すっスよ」

春紀「そうか……」ホッ……

鳰「うちの気が向いたときに」

春紀「………はぁ?」


乙哉「えーと?あたしまだ刑務所に戻らなくていいの?」

鳰「その……理事長が手ぇ回しちゃったみたいで……」

乙哉「どういうこと?」

鳰「駒として残しておいたならもっと上手くやれって説教されたっスよー、もー」

乙哉「まぁ、鳰ちゃんあたしのこと切り捨てたしねー」

鳰「切り捨てたわけじゃないっスよ、あくまでも学園の利益を優先した結果っス」

乙哉「ま、あたしは自業自得だから別にいいけど」

鳰「っていうか乙哉さんはウチにあんまり強く言えないだけじゃないっスかぁ?」

乙哉「うっ……まぁ、っていうかあんまりくっつかないでよ」

伊介「あそこ、なんかあったの?」

春紀「さぁ?なんかあいつ、鳰が相手だと本当に嫌そうな態度取るんだよな」

伊介「嫌われてるのかしら」

春紀「今更だろ?」

鳰「全部聞こえてるしその内容はさすがのウチでも傷付くっスよ」


鳰「まぁとにかく、しばらく春紀さんの家に厄介になって欲しいっス」

春紀「待て待て待て、あたしは知らないぞ?鳰が手下として置いておいたんだ、あたしは関係ない」

乙哉「春紀さんに見捨てられたらあたしどうなっちゃうの!?」

春紀「見捨てるとか人聞きの悪いこと言うなよ!!」

乙哉「だって事実そうじゃん!」

伊介「アンタは自分の居場所くらい自分で探しなさいよ」

乙哉「えー伊介さんまでそんなこと言うの?」

首藤「というか、犬飼は自分がいない間に武智が寒河江の家にいるのが嫌なんじゃろ」

伊介「なっ!別に!///」

乙哉「あたしと春紀さんは何もないから!っていうか伊介さんと春紀さん超お似合いだと思うし!あたし応援してるし!」

伊介「そ、そうなの……?」

乙哉「もっちろん!」

伊介「………アンタ、ちょっとくらい泊めてあげれば?」

春紀「チョロ過ぎるだろ!!!!!!」


鳰「どうするっスか?荷物もあることだし、とりあえずは春紀さんの家の前でいいっスか?」

春紀「そうだな、それでいい」

神長「送ってくれないのか」

鳰「んー。みんな場所割れるの嫌でしょうから、駅とかまでなら送ってくっスよ?」

首藤「ほう、それはありがたいの」

神長「え?首藤?」

首藤「ワシも一緒に行くよ、香子ちゃん」

神長「えっ」

首藤「……組織、抜けるんじゃろ?」

神長「………あぁ。実は、ずっと機会を窺っていた」

首藤「じゃあ決まりじゃ。微力ながら手伝わせてもらうとするかの」


鳰「あ、でもウチは春紀さんの家の前に降りるっスよ」

春紀「は?乗っていかないのか?」

鳰「ウチもウチで忙しいんスよ。あとは運転手さんに適当な場所言って連れてってもらって欲しいっス」

春紀「ということは家に残るのは……お前だけか」

乙哉「よろしくー♪」

春紀「……よりにもよって、またアンタなんだな」

乙哉「えー。あたしはわりと嬉しいけどなー、また春紀さん家に泊まれるの」

春紀「……はっ。言ってろって」


この会話の凡そ30分後、鳰が車を降りた。
いつもの軽い調子で挨拶して間もなく、あいつの後ろ姿は学園の敷地内へと消えていった。

外は日差しがかなりキツかった。
てっきり夜だとばかり思っていたのに、実際は昼過ぎだという。
来るときと同じで車内から外の景色は見えない。
しかし、この建物からあたしの家までの時間ならだいたい分かる。
降りるように言われたのは鳰が降りてから一時間後。車が停まった。

そうして家に戻ったあたし達はそれぞれ荷物をまとめて車に乗り直した。
まずは神長と首藤を最寄り駅で下ろすことになった。
この馬鹿でかいリムジンは駅前のロータリーで一際目立っていた。

「それじゃな」
「また近いうちに遊びにいくでの」
「来なくていいっつの!」
「遠慮するな。冬香にもよろしく言っておいてくれ」
「伝えとくよ。……頑張れな」
「あぁ、お主もな」

そしてそこからすぐ近くのタクシー乗り場で剣持と伊介様を降ろす。
途中まで相乗りしてくのかと思ったけど違うみたいだ。
まぁお互いに事情があるんだろうから何も言わないけど、やはりちょっともったいないと思ってしまう。
わかってる、あたしが貧乏性なだけだ。

「それじゃ、しばらく戻ってるから」
「うん、それじゃね」
「お前、またボクに会わないとか言うつもりなんだろ」
「どーだろ。ま、とりたてて会いたいとは思わないかな」
「そうか。お前が好き勝手やってきたように、ボクだって好きにさせてもらう」
「どゆこと?」
「気が向いたら会いに行くよ。寒河江の家だろうと、ムショだろうと」
「……ふーん」

この二人にはどことなくぎこちない空気が流れているような気はしていたが、なるほど。
それにしてもなんとも不思議な関係だな。
恋人でも友達でもない、かといって仕事の相棒に成り得るかと言われるとそれもまた未知数だ。
お互いに掴み合って、睨み合って、主導権を渡さないようにしているような。
それでいて、心のどこかで求め合っているような。
二人の今の関係が絶妙なバランスの上に成り立っているのは確かだろう。
少しでもぐらつけば、武智は剣持を……。おせっかいか。だろうな。

「また気が向いたら来てあげるわよ」
「そうなのか?」
「そうよ」
「……伊介様も忙しいのは知ってるんだけどさ」
「?」
「また来てよ」
「……」
「また会いたいんだ」
「……誰も、気が向かないなんて言ってないでしょ」
「はは、伊介様らしい答えだな」

じゃあな。そう言ってあたし達は車に乗り込んだ。
番場と英は他の車が迎えに来るからと、比較的わかりやすい通りで降ろした。
あいつらが降りるとき、また近いうちに会うことになりそうだなんて言ってたけど、どういうことだ。


数日後
寒河江家


乙哉「あたし達だけになっちゃったよね」

春紀「……だな」

乙哉「っていうか冬香ちゃんはー?」

春紀「兄弟は親戚の家に行ってるって言っただろ。もうしばらくあっちにいるんじゃないかな」

乙哉「ちぇー、早く会いたいなー」

春紀「お前らなんだかんだ仲良かったもんな」

乙哉「そーそー、あたしら超ラブラブだったよー」

春紀「つぎ冗談でもそういうこと言ったらマジで殺すから」

乙哉「へへーん、ラブラブラブラブー♪」

春紀「てめぇっ!」ダッ

乙哉「家の中で走ったら危ないって」アハハハ

ピンポーン

春乙「……?」


乙哉「冬香ちゃん達、帰って来た?」

春紀「自分の家に帰ってくるのにインターホン押す奴がいるかよ」

乙哉「……どうしよう、面白い予感がする」

春紀「やめろ!ちょっと見てくるから待ってろ」

乙哉「あたしも行くー」

春紀「いいから座ってろって!」

乙哉「いいじゃんいいじゃん。はーい!」ガラッ

春紀「あっ!おい!」

乙哉「って……うっそ」

春紀「冗談、だろ……」

兎角「諸事情により、しばらく厄介になる。よろしく」

春紀「厄介だってわかってんなら帰れよ!!!!!!」




おわり

というわけで終わり
最初にも書いたけど、細かいことはスルーしてくれると助かる
続編は気が向いたらやる。それじゃ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月22日 (金) 06:30:21   ID: u38SoW-F

楽しみにして待ちます(≧∇≦)
今回ちたひつは出そうですかね?
でさせてくださると嬉しいですm(_ _)m

2 :  SS好きの774さん   2014年08月24日 (日) 19:00:43   ID: Lv6MEfRx

前にコメを出したものです
ちたひつがあったのでとても嬉しかったです(≧∇≦)
面白いし読みやすいので、大好きです
応援してます
頑張ってください(^O^)/

3 :  SS好きの774さん   2014年08月27日 (水) 02:59:31   ID: 2uZ4UBqo

相変わらず面白く、読みやすかったのでとても楽しめました!!そして次回はついに春紀さん家に黒組の全員が集まり、仲良く卒業記念パーティーをするんですよね!\(//∇//)\楽しみだなぁww続編も期待しているッス(≧∇≦)

4 :  SS好きの774さん   2014年08月27日 (水) 06:30:42   ID: oRS6RB5T

よかった
続編に期待

5 :  SS好きの774さん   2014年08月28日 (木) 03:42:51   ID: UUv4bdIU

今度はポンコツさんか 寒河江家 マジ楽しい

6 :  SS好きの774さん   2014年08月29日 (金) 14:16:37   ID: 75hqDbhc

すげぇ待ってた、ありがとう!

7 :  SS好きの774さん   2014年09月08日 (月) 14:18:46   ID: Kkwk2huz

ホントこのシリーズはハズレないのなっ!
今回も凄く面白かったです!

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