悪魔のリドルのSS。
多分ギャグ。
細かいことは気にしないでもらえると助かる。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399151775
あたしの名前は寒河江春紀。つい先日まで、ミョウジョウ学園一年黒組の生徒だった。
だった、つまり過去形なのはあたしはもうあの学校には在籍していないからだ。
ルームメイトだった伊介様に別れを告げて、部屋を出たのは二日前。
なんとなく家に帰りづらくて昨日は漫喫に泊まった。
金無いって言ってんのにな。何やってんだろ。
だけど仕方が無いだろ。金を持って帰ってくると信じている家族の元に手ぶらで
帰るなんて真似したくなかったし、そうせざるを得ないこの状況をすぐに受け入れ切れなかった。
あとは、次の仕事がいつ入るかなんてわからないし、当面の食い扶持をどのようにして稼ぐか、
今後のプランを一人で考えたかったってところか。
後者は後付けの言い訳くさいが、事実、切迫した問題だ。
適当なバイトをして暗殺の依頼が入るのを待つ、というのが一番現実的だろうけど。
もちろん、接客はアウト。コンビニなんて持っての他だ。
なんでって、誰かに顔を覚えられるのはマズいだろ。
引っ越し業者辺りが一番妥当だと思う。
ネイルのことを考えるとちょっと憂鬱だけど、そんなことは言ってられない。
あぁ、清掃員も悪くないと思ったけど、あまり金にならなさそうだから候補から外した。
昼も夜も掃除屋、なんてものちょっと面白いと思ったんだけどな。
そういえば、伊介様にヒモにならないか?って言われたっけ。あっちもまさか本気では言ってないだろう。
でも、有り得ない話だけど、そうやって人に恥ずかしげもなく甘えられる性格だったら
ある意味楽だったのかも、と少し思った。
暗殺で家族を支えているあたしの金が綺麗だとか汚いだとかそんな話をするつもりはない。
ただ暗殺で手に入った金は、あたしが仕事をした対価であって、誰かに施してもらった金ではないから。
誰かに家族ごと飼われるなんてまっぴらごめんなんだ。
「……でも、あたしだけなら……まぁ有りかも。家にいる間は家事とかやればいいワケだし」
口に出してから、更に少し後。
ただの夫婦じゃねーか、と吹き出してしまった。
そうして、腐っていてもしょうがない、と区切りをつけて、観念したように家に向かった。
のが、今から2時間くらい前の話。
なんだけど。
おい。
「おかえり!お邪魔してまーす」
「……どうしてお前がここにいるんだ」
「ごっめーん♪しばらく匿ってくんなーい?」
家に帰って一番に出迎えてくれたのは可愛がってる妹でも弟でもない。
かつてのクラスメートである、変態サイコシリアルキラーだった。
春紀「なんであたしの家知ってるんだよ」
乙哉「んー?鳰ちゃんが教えてくれたんだぁー♪」
春紀「鳰のやつ……!」
乙哉「ごめんねー。ジジイの刑事がしつこくてさー」
春紀「しつこくてさー、じゃないっつの。あたしだけならまだしも、家族まで巻き込みやがって」
乙哉「大丈夫だって。ここの場所は割れてないみたいだし?」
春紀「なんでそんなことわかんだよ」
乙哉「そーゆーじょーほーなの。実は、鳰ちゃんと個人的に簡単な約束をしたんだー」
春紀「はぁ?」
乙哉「何かの事情があって鳰ちゃんが動けない時はあたしが駒になる、その代わりあたしが逃げられるように協力してってね」
春紀「そういうのは約束って言わないだろ、ただの交換条件だ」
乙哉「ま、確かにね。でも利害が一致して助かったよー。鳰ちゃんも駒が消えたら意味ないって思ってるのか、結構まめに連絡くれるしねー」
春紀「あいつ何者だよ……って思ったけど止めた。あいつのバック、すごそうだもんな」
乙哉「ねー♪」
春紀「事情はわかった、でもそれとこれとは話が別だ。出てってくれ」
乙哉「ちょっとだけ、ね?」
春紀「家族を危険に晒すつもりはないんでね」
冬香「大丈夫だよ」
春紀「冬香!?」
冬香「武智さん、家の手伝いもしてくれるし、弟達とも遊んでくれるの!それに、えっと……」
乙哉「あー、それは言わなくていいよ、冬香ちゃん」
春紀「……なんだよ、言え」
冬香「……え、えと……あ、ご飯、作るね」パタパタ
春紀「あ、おい!待ちなよ」
乙哉「春紀さんって案外かわいいねー」
春紀「あぁ?」
乙哉「っていうかここは春紀さんの家じゃん?早く靴脱いだら?」
春紀「誰のせいでこうなってると思ってんだよ」
居間
春紀「はぁー……………もういい、妹もああ言ってることだし……しばらく泊まってけ」
乙哉「ホント!?いいの!?」
春紀「よく言うよ。ホントはハナからそのつもりだったんだろ」
乙哉「そりゃそうなんだけどねー。でも春紀さんに直接許可貰えてよかったー」
春紀「それと、武智」
乙哉「……」
春紀「返事しろよ」
乙哉「下の名前って呼んでくれたら返事しよっかなー」
春紀「クソ変態サイコシリアルキラーでいいか?」
乙哉「悪くないけどレズが抜けてるかな」
春紀「やっぱり出てって」
乙哉「で?なに?」
春紀「昨日泊まったならわかるだろ。うち、ホントにヤバいんだ。食費とかは」
乙哉「それはもう昨日払ったよー」
春紀「は?」
乙哉「冬香ちゃん言いにくそうにしてたでしょ?あれ」
春紀「…………いくらだよ」
乙哉「どう考えても多いと思うけど気にしないで。春紀さん家はお金がない、あたしは居場所がない。あたしと鳰ちゃんと同じ、利害の一致ってやつだよ」
春紀「……………」
乙哉「それに、聞くつもりじゃなかったけど。聞いちゃったんだよね、お母さんのこと」
春紀「あいつら、余計なことを……」
乙哉「ま、余った分は薬代の足しにでもしてよ」
春紀「……礼は言わないぞ」
乙哉「あったり前じゃん、言われたら逆に困っちゃう」
春紀「にしてもすごいんだな。あんたも金持ちの娘なのか?」
乙哉「ううん、ちょっと前までお金持ちのお姉さんのヒモやってたから」
春紀「とことん冗談みたいな話を地で行くよな」
乙哉「殺しちゃったけど」
春紀「大体察してたけど聞きたくなかったわ」
乙哉「あ!あたしロリコンの気はないから安心してね!どっちかって言うと年上好きだから!」
春紀「とりあえず妹達の心配はしなくていいみたいだけど、そういうの大きい声で言うのやめような」
乙哉「そう言えばあたしは春紀さんのことなんて呼んだらいいかな?春っち?」
春紀「無視すんな、っつかその呼び方はやめろ」
乙哉「そうだよね、そうしたら晴っちと被っちゃうもんね……晴っち……殺したかったな……名前似てるし、春紀さんで発散してもいいかな……」
春紀「どう考えても駄目だろ。名前の響きが被ってるからって殺されるとか、自分が不憫でたまらないわ」
冬香「ご飯できたよー」
春紀「おぉ。よーし、飯にすっかー」
乙哉「いただきまーす」
春紀「………」
乙哉「どうしたの?」モグモグ
春紀「随分と豪勢だな」
乙哉「まねー、昨日あたしが一緒に買い出し行ったの」
春紀「お前なぁ……」
冬香「ねぇねぇ、お姉ちゃんと乙哉さんって仲良かったの?」
春紀「いんや、全く」
冬香「えぇー……すごい仲良しだって聞いてたのに……」
乙哉「そんな本当のこと言わないでよー寂しいじゃーん」
春紀「こいつ入学して1週間くらいで退学になったからな」
冬香「そんなの有り得るの?っていうか可能なの?」
乙哉「まぁ色々ね。事情っていうのがね」
春紀「今回、その事情に巻き込まれたこっちはたまったもんじゃないけどな」
乙哉「ま、いいじゃん。しばらく仲良くしよーよ」
春紀「……家事は分担だからな」
乙哉「さっき冬香ちゃんも言ってたじゃん?あたしちゃんと手伝ってるからね」
冬香「そうだよ!乙哉ちゃんすごいんだよ!マイ鋏で野菜とかお肉とか切ってくれるの!」
春紀「そこは包丁使えよ」
乙哉「あたし、刃物はあれ以外上手く扱えないんだー」
春紀「だからって」
乙哉「あれ……?そういえば最後に使ってから洗ったっけ………?まいっか」
春紀「おいちょっと待て」
ちょっと外す
春紀の部屋
春紀「仕方がなく入れてやってるんだからな。余計なことすんなよ」
乙哉「春紀さん、自分の部屋なんてあったんだ……」
春紀「う…まぁ、一応な。それに、さすがに暗殺の道具を家族の前で手入れしたりできないじゃん」
乙哉「なるほどね。春紀さんも暗殺するときは何か道具使うんだねー」
春紀「……!とにかく、身を隠すんだろ?大人しくしてろ。んじゃあたしは寝る」バサッ
乙哉「おっじゃまー♪」ゴソゴソ
春紀「入ってくんな!!!」ゲシッ!
乙哉「だぁーって、そうじゃないとあたし、床だよ?いいの?床に女の子を転がすなんて、そんなことしていいの?」
春紀「お前はそういう経験無いのか」
乙哉「いや、何人かしたね。しかも殺してから」
春紀「改めて聞くとアンタってホントに極悪人だよな」
春紀「変なことしたら本当に殺すからな」
乙哉「だからそれは無いって。安心してよー、あたしとりあえず満たされてるから」
春紀「……そういえば、さっき言ってたよな?最後に使ってから手入れしたっけ、って」
乙哉「言ったねー」
春紀「最後に使ったの、いつなんだ」
乙哉「先週」
春紀「めちゃくちゃ最近じゃねーか」
乙哉「まぁね」
春紀「ちょっとは自重しろよ……あんた……」
乙哉「仕方ないよ、シたくなっちゃうんだもん」
春紀「こんな奴と同じ布団で寝るのヤダ」
乙哉「ま、次そうなったら我慢するか出てくかするから安心してよ。春紀さん、明日の予定は?」
春紀「……バイトの面接受けてこようと思うけど」
乙哉「へー。あたしはどうしよっかなー」
春紀「どうしよっかなーじゃない!家で大人しくしてろって言ってんだろ!」
乙哉「そうしたいのも山々なんだけどさー」
春紀「なんだよ」
乙哉「春紀さんの面接についていきたいんだよねー」
春紀「なんで『そういう事情があって仕方がなくそうします』みたいな言い方したんだよ、あたしの面接についてきたいとか完全にお前の好奇心だろ、我慢しろ」
乙哉「えー」
春紀「匿ってるの、わかってるか????」
乙哉「はぁ……はぁーい。明日は家で大人しくしてまーす……」
春紀「明日は、じゃない。あたしの家にいる間はずっとそうしろ。いいな」
乙哉「あれ?何気に”明日”って限定したのバレちゃった?もう、わかったよ。大人しくしてる」
春紀「よし」
乙哉「大人しくあなたの帰りをこの部屋で待ち続ける」
春紀「次その気色悪い言い回ししたらボンレスハムみたいに縛り上げるからそこんとこよろしく」
翌日
乙哉「おっはよ!春紀さん!」
春紀「………はよ。朝からウザいな、あんた」
乙哉「そこは元気って言おう!?」
春紀「晴ちゃんだったら可愛げがあったんだろうけどなー…あんたじゃなー……」
乙哉「えー、ひどい」
春紀「まぁいいや、支度して面接行ってくる」
乙哉「履歴書とか要らないの?」
春紀「一応書いて持ってくよ。って言っても書けるようなこと、ほとんど無いんだけどね」
乙哉「特技:暗殺、とか?」
春紀「不採用&逮捕だろ」
玄関
春紀「それじゃ、行ってくる」
乙哉「なるべく早く帰ってきてねー」
春紀「……あたしがいない間、任せたよ」ナデナデ
冬香「うん!いってらっしゃい!」
乙哉「え、あたし今すごい華麗に無視されたよね」
春紀「あんたはまぁ、冬香の言うこと聞いてろ」
乙哉「はいはい。っていうか今更だけど、いきなり面接とかしてくれるんだ?」
春紀「さぁ。でも随時募集って書いてあったから。日を改めるならそれでいい。とりあえず履歴書置いてくるだけでも」
乙哉「そっか、あまりのんびりしてられないよね、貧乏だもんね」
春紀「そういう本当のこと言うのってイジメなんだぞ」
夕方
春紀「ただいまー」ガラッ
冬香「おかえりー!遅かったねー」
春紀「あぁ。でもバイト受かったぞ」
乙哉「やったじゃん!」
春紀「……」チラッ
乙哉「?」
春紀「そうだ、冬香。今日の晩ご飯は?」
乙哉「また無視!?ごめんって!」ギュー
春紀「抱きつかないでくださーい」
乙哉「敬語!?なんで!?なんで!?」
春紀「面接に行く途中で気付いたけど……アンタ、あたしが寝てる間にあたしの前髪ちょっと切ったろ」
乙哉「………ごっめーん★」
春紀「あたし私怨で人殺したいと思ったの初めてだわ」
冬香「二人とも大きいから、くっついてると威圧感がすごいね」アハハ
乙哉「えー冬香ちゃんひどいー!女の子二人で絡んでるのに威圧感とかー、ねぇ?春紀さん」
春紀「うるっさい、離せ」
冬香「ご飯まだだから、できたら呼ぶね」
春紀「あぁ。じゃあそれまで部屋にいるから」
冬香「うん!」
乙哉「じゃねー♪」
春紀「……………………………………………」ギロッ
乙哉「っやぁ、違うんだって。お手伝いしなきゃなのわかってるよ?でも、お手伝いも大事なんだけど、春紀さんと二人きりで話したいことが」
春紀「………………二人きりじゃないと駄目なのか?」
乙哉「え?うん」
春紀「……………」サッ
乙哉「なんで気まずそうに視線逸らすの?違うよ?変なことしないよ?」
春紀「なんかさっきからベタベタ触ってくるし………」
乙哉「これは、あたし元々こんなんじゃん?!他意はないよー…もー確かにあたしレズだけどさあ」
冬香「!!?!?!?」バッ
春紀「おい武智、冬香のこと怖がらせるな」
乙哉「ご、ごめんねー、気にしないでお料理してて?ね?……ほら、春紀さん、行こうよ」グイグイ
春紀の部屋
春紀「で、話ってなんだよ。どうでもいい話だったらただじゃ済まさんよ?」
乙哉「どうでもいい話じゃないと思うよ。ただ、その前に一つ質問させて。バイトいつから?」
春紀「制服がなー……あたしのサイズが無いとかで、来週辺りにまた連絡するって言われた」
乙哉「そうなんだ。じゃあ丁度いいね」
春紀「何がだ、もったいぶらんで早く言え」
乙哉「実は鳰ちゃん経由で暗殺の依頼が入ったんだよ」
春紀「!?」
乙哉「って言ってもあたしはあまり派手に動けないし。正直、暗殺なんてしたことないからさー。鳰ちゃんは春紀さんにこの仕事依頼したいって言ってる」
春紀「報酬は?」
乙哉「これだって」チョキ
春紀「20万か」
乙哉「はいぃ?ゼロ一個足りないよ、200万だよ」
春紀「そうか200……って、はぁ!?」
乙哉「っえー……?だって、人殺すんでしょ?あたしは相場とか知らないけど、それくらいもらって当然なんじゃないの……?」
春紀「ターゲットと依頼人によるさ。あたしの場合、そんなデカい仕事は依頼されなかったな。っていうか殺すだけでいいなら十万そこらで某隣国のチンピラが雇えるって話だし」
乙哉「へぇー……そんな物騒なんだぁ………」
春紀「報酬無しで気に入った女を惨殺する奴がなんか言ってる」
春紀「で、ターゲットは?まさか晴ちゃんとは言わんだろ?」
乙哉「うん、全然違う。っていうか知らない人。依頼人も不明だし。鳰ちゃんに言われた人をとりあえず消せばいいんじゃないかなーって感じ」
春紀「ふぅん。で、どんな奴なんだ?」
乙哉「金本興業ってとこの社長」
春紀「どういう筋からの依頼か、会社名聞いただけでわかった気がする」
乙哉「?そう……?で、警備がそれなりに厳重だから、まぁ上手いことやってきてって鳰ちゃんが」
春紀「……チャカとか出てくるんだろうなぁ」
乙哉「よくわかんないけど、あたしからの連絡は以上だよ。春紀さん、頑張ってね」
春紀「何言ってんだ、あんたも連れてくから」
乙哉「いや、あたし暗殺とか無理だし」
春紀「ただでさえ鳰の奴には嫌な思いさせられてんだ。あんな奴の言うこと、鵜呑みにするつもりはない」
乙哉「どういうこと?」
春紀「まぁ、あんたそれなりに鳰の隠し球として大事にされてるみたいだし?人質だよ、人質」
乙哉「えー、ひどーい。こんな酷い人初めてかも……」
春紀「快楽殺人者ってやっぱ頭おかしいんだな」
乙哉「邪魔するつもりはないけどさぁ。足引っ張っちゃうと思うよ?」
春紀「なんでだよ……」
乙哉「しょうがないじゃん、隠密行動とか、そういうのはあたしの専門外だもん」
春紀「……アンタは仕事じゃなくて自分の趣味で殺しやってたんだもんな」
乙哉「そうそう、だからあたしを連れてっても」
春紀「 何 度 も 言 わ せ る な 」
乙哉「あい……」
春紀「で、現場の住所と期限は?」
乙哉「はいっス!現場住所は○○区△△町っス!期限は一週間!よろしく頼むっスよ!」
春紀「滅茶苦茶似てるし滅茶苦茶イラッとした」
乙哉「あたしも自分で言っててすっごいイラッとした」
深夜 外
乙哉「なんでこんな時間に……」
春紀「○○区ならこっから近いからな。まずは下見だよ、下見」
乙哉「えー、下見なのぉー?あたし鋏持ってきちゃったよー」
春紀「はぁ……?って、オイ!フル装備じゃんか!!」
乙哉「んー、結構重い」
春紀「そりゃ重いだろうさ。はぁ、もう。帰ろう」
乙哉「え???」
春紀「あのなぁ、こんな夜中に帽子かぶってマスクして腰に鋏ジャラジャラぶら下げてる奴が警官に見つかりでもしたら」
警官「ちょっとそこの二人、いいですかー」
春紀「ってな感じになるだろ、バカ」
乙哉「あははー………ちょっとマズいかもー………」
警官「君たち、これからどこに行くの」
春紀「って言っても帰るところだったんですけど」
警官「そう、家は?近く?」
春紀「はい、××町なんで」
警官「はいはい。で、君は?その腰に付けてるの何?」
乙哉「鋏です」
春紀「!………(え、これ助け舟出した方がいいのか?)」
警官「鋏ぃ?怪しいねぇ……ちょっと調べさせてもらうよ?」スッ
乙哉「待って!!!!!!!!!」
春紀・警官「!!!?」
乙哉「大きな声を出してしまってすみません、ただ…商売道具なもので。大事に扱ってくださいね。はい、どうぞ」スチャッ
警官「あ、ありがとうございます。えと、美容師さんか何か?」
乙哉「そうなんです、あたしカリスマ美容師なんです」
春紀(なんでわざわざ”カリスマ”つけた)
乙哉「出張でお客さんのところに行ってて、ちょっと急いでて、うっかりそのままの格好でお店出て来ちゃったんです」
春紀「……(バカみたいな嘘だけど、確かに突き抜けた嘘って逆にバレにくいって言うもんな。実際鋏はいいもの使ってるんだろうし。いけるか?)」チラッ
警官「なるほど……」
乙哉「あとこれはあたしの弟子です。怪しい者ではありません」
春紀「うぃっす(あとでシバく)」
警官「そうですか。じゃあ、念のため……お店の名刺とかはお持ちですか?」
乙哉「いいえ。うっかりしてるときに名刺だけ忘れずに持っていくハズないじゃないですかー」
警官「ですよねぇー……」
乙哉「あ、代わりと言ってはなんですけど、この場でカットしましょうか?」
警官「い、いや結構です。とにかく、早く家に帰ってくださいね。鞄は持ち歩いてないようなので、今回は持ち物検査はしませんから」
春紀「いやぁ、ご面倒おかけしてすんません」
警官「はいはい、それじゃ」
春紀「……………」スタスタ
乙哉「……………」スタスタ
春紀「……………」
乙哉「……っはぁー、どうなることかと思ったよー」
春紀「ねぇ」
乙哉「なに?」
春紀「カリスマって、何さ?」
乙哉「あたしの自分設定」
春紀「あんたはあれか、中二病か何かか」
乙哉「違うよ。でもカリスマ美容師ごっこ楽しかったー」
春紀「二度とないだろうけど、あんたとだけはもう仕事したくない」
乙哉「えー、寂しいこと言わないでよ!」
春紀「あんたこそ、悲しいこと言わんでくれよ」
乙哉「悲しいこと?」
春紀「あんたとまた組まなきゃいけなくなるなんて悲しい」
乙哉「なにそれあたしも悲しい」
深夜 春紀の部屋
乙哉「っていうかさ、何もしないで終わったよね」
春紀「あんたのせいだろっ」
乙哉「でもさー?普通あんな作った顔で『行くぞ………』って言われたら本番だって思うって、普通」
春紀「別にそんなキリってしてなかったろ、あたし」
乙哉「してたしてた。何事かと思ったもん」
春紀「そこまで!?」
乙哉「まーさ、下見は明日行こうよ」
春紀「いいけど……」
乙哉「というわけで、まずはあたしと予習しよ」
春紀「予習?」
乙哉「そ、鳰ちゃんからメールが入ったんだよねー。ターゲットの情報だってさ」
春紀「あるなら最初に出せよ、捻るぞ」
乙哉「まず、これが現場事務所の図面ね」
春紀「いきなり下見の必要なさそうな資料出てきたよ」
乙哉「2階建てなのかな?ただ2階は倉庫としてしか使われてなさそう」
春紀「ふーむ…」
乙哉「あとこれがターゲットの写真」
春紀「重要資料バンバン出てくるな」
乙哉「厳ついよねーこの人」
春紀「ヤクザだろうな、会社名からしても……ま、こいつはあたしに任せろ」
乙哉「そういえば春紀さんってどうやって暗殺するの?」
春紀「そういえばまだあたしの獲物見せてなかったか。待ってな」ゴソゴソ
乙哉「切り裂く系だったら萌えるー♪」
春紀「これだ」サッ
乙哉「なにこの中学二年生が好きそうなデザインの武器は」
春紀「お前いま喧嘩売ったな?」
乙哉「だってこれ……ださ」
春紀「ダサいって言ったらこれ付けて殴る」
乙哉「……」
春紀「おい」
乙哉「これで撲殺するの…?暗殺っていうか、ただの殺じゃ……」
春紀「あんたと一緒にすんな。あたしはこれで暗殺するんだよ」シャッ!
乙哉「あ、紐だ」
春紀「紐って言うな!ワイヤーだ」
乙哉「ごめんね。今の、ウィッグのことヅラって言うくらい酷かったよね」
春紀「お前あたしに喧嘩売り過ぎ」
乙哉「とにかく、資料に関してはこんなところかな。いつ決行するの?」
春紀「…明日だ。早いほうがいいだろ」
乙哉「なるほどね」
春紀「一応会社だから営業時間とかもあるのかな」
乙哉「どうなんだろ?そういえば。貰ってた出勤パターンのデータと照らし合わせないと。明日は……あれ?社長さん来ないっぽいね」
春紀「資料に関してはこんなところかなーって言った直後にコレだからね」
乙哉「忘れてたんだよ?悪意はないよ」
春紀「あったらシメてるっての。他には?もう無いんだな?」
乙哉「えーと」
乙哉「……こんなとこかな」
春紀「名前、家族構成、どっちも重要だったろ…」
乙哉「確かに名前はね。でも家族構成は?」
春紀「こいつ独身なんだろ?子供が居たりしたらちょっと後味悪いからなぁー…少なくともあたしにとっては重要な情報、かな」
乙哉「ターゲットの家族なんてどうでもいいじゃん」
春紀「あんた根っからの殺人鬼だよな、マジで」
乙哉「で。明日は出勤しないみたいだけど、どうするの?」
春紀「うーん…とりあえず現場付近で張り込みするか。何かヒントになることがあるかもしれないし」
乙哉「なるほどね。リスク回避できるならそっちの方がいいもんね」
春紀「そーゆーこと」
乙哉「あ、そういえばターゲットの乗ってる車の車種と色、ナンバーも聞いてるんだった」
春紀「おい」
二日目 夕方 現場付近廃ビル
春紀「デカい声禁止な。一応このビルには人はいないだろうけど、かなり近いから」
乙哉「そう言われるとはしゃぎたくなるよね」
春紀「右ストレートかますぞ」
乙哉「あっ!」
春紀「どうした!?」バッ
乙哉「言ってみただけー♪」
春紀「歯ぁ食いしばれ」
春紀「にしても、社員は登録上5人だったんだろ?随分多いような…」
乙哉「しかもみんなガラ悪いよね」
春紀「まぁ、構成員なんだろうな。きっと」
乙哉「はぁ…野郎には興味ないんだけどなぁー…」
春紀「それは報告しなくても結構です」
乙哉「そういえばさ」
春紀「なんだー?あっ、くだらないことだったらぶん殴るからな」
乙哉「……」
春紀「オイ」
乙哉「春紀さんにとってくだらないことでもあたしにとっては重要な問題なんだよ?」
春紀「はぁー…なにさ」
乙哉「春紀さんの武器の話なんだけど」
春紀「あたしの?」
乙哉「うん、あのワイヤーってどこで買ってるの?手芸屋さん?」
春紀「手芸屋さん怖すぎだろ」
乙哉「店員さんに言って出してもらうの?」
春紀「それはもう手芸屋さんじゃない」
prrrrrrr
春紀「おい、ケータイ鳴ってるぞ」
乙哉「今の、何かを舐めた系の音じゃないの?」
春紀「 い い か ら 出 ろ 」
乙哉「んもー、冗談が通じないんだから。もしもーし」
春紀「早めに切れよ?」
乙哉「あ、鳰ちゃん?元気ー?」
春紀「!?」
乙哉「うん、今やってるよー。今日は下見っていうの?期限までには終わらせるって春紀さんがドヤ顔で言ってたよ」
春紀「ドヤ顔はしてないだろ」
乙哉「かわろっか?」
春紀「えー…」
乙哉「はい」ヒョイ
春紀「あー、もしもし?」
鳰『どもっスー♪いやぁー、春紀さん元気でした?』
春紀「耳腐りそう」
鳰『酷くないっスか!?』
乙哉「わかるー♪」
鳰『わかる!?』
春紀「ったく、世話話してる時間も余裕も無いんだがな」
鳰『それはそれは。とにかく、依頼受けてもらえてよかったっスよー』
春紀「っていうか元からそれが目的だったんだろ?だから武智を家に」
鳰『それは違うっスよー。だってウチ、一応春紀さんの連絡先も知ってるっスからね』
春紀「言われてみれば…」
鳰『武智さんに春紀さんの家を教えたタイミングと被ったのはたまたまっス。これでも春紀サンの家族のこと、ウチも気になってたんスよ』
春紀「大きなお世話だ。だけど、まぁ、有り難いわ」
鳰『っスよねー♪いやぁーいいことしたっス』
春紀「調子に乗るな」
鳰『!?』
乙哉「乗るな」
鳰『その舎弟みたいなキャラやめろって武智さんに言っといて欲しいっス』
春紀「これ、どういう経緯の依頼なんだ?」
鳰『さぁー?ウチも斡旋しただけっスから。お二人に頼んだのは退学になった生徒の中で一番成功率が高そうだったからってのもあるっス。でもホント、それだけなんスよ』
乙哉「なるほどねー」
春紀「神長かわいそう」
鳰『神長さんは、ほら、アレじゃないっスか』
乙哉「わかるわかる。アサシンが絶対に持ちあわせてはいけないドジっ子属性持ちだもんね」
春紀「人が絶対に持ちあわせてはいけないヤバい属性持ちのお前が言うな」
乙哉「みんなは元気?」
鳰『元気っスよー。ただ、しいて言うなら首藤サンが元気ないっスかねぇ』
春紀「首藤が?何かあったのか?」
乙哉「やっぱり神長さんがいなくなっちゃったからかな?」
春紀「あぁ、結構仲良かったもんな。あの二人。しばらく経ってみて寂しくなったのかもな」
鳰『いやいや、ワシの席の周りの生徒がいなくなっていく…って嘆いてたっス』
春紀&乙哉「なんかごめん」
春紀「!!!」
乙哉「どうしたの?」
春紀「鳰、悪いけど切るぞ」ピッ
乙哉「春紀さん?」
春紀「見ろ、あの車…昨日言ってたナンバーの車だ」
乙哉「ホントだ……ね、ねぇ」
春紀「どうした?」
乙哉「いま出てきた人がターゲットだよね?」
春紀「あぁ、写真の通りの悪人面じゃんか」
乙哉「指…足りないように見えたんだけど……」
春紀「こりゃいよいよマジだな……」
ちょっと外す
夜には戻る
乙哉「事務所の人達が慌てて出てくよ!」
春紀「なんだ??」
乙哉「……」
春紀「……」
乙哉「お出迎えっぽいね…?」
春紀「よくわからんけど、そういうのうるさそうだもんな、あの世界」
乙哉「あ、なんかおじさんが土下座してる」
春紀「なんだろ…」
乙哉「なんて言ってるのかはわからないけどターゲットの怒鳴り声が聞こえてくるね…」
春紀「あのおじさんが何かミスをやらかしたっぽいな」
パァァァン!!!!
春紀&乙哉「!!?!?!?」
乙哉「……今のって」
春紀「銃、だな……あちゃー…やっぱ持ってたか」
乙哉「あの人、殺されちゃったよね…?」
春紀「あぁ、多分な。頭を撃ち抜かれたんだ…下手したら即死だろ……」
乙哉「大丈夫なの?」
春紀「何が?」
乙哉「あの人のこと殺すんでしょ?」
春紀「戦う訳じゃない、あくまで暗殺だからね。ヘマはしないさ……マズい!武智!伏せろ!」グイッ!
乙哉「へっ?」
ッパァァァン!!!ガキィィ・・・ン!!!
乙哉「!?」
春紀「逃げるぞ!」
春紀の家
乙哉「さっきの、なんでバレちゃったのかな」
春紀「陽の光を双眼鏡が反射させちまったんだろ」
乙哉「あぁ…!なるほどね。こっわー……」
春紀「気付けてよかったよ」
乙哉「ありがとね」
春紀「……」
乙哉「え?何?あたしおかしいこと言った?」
春紀「いや、あんた、普通に礼とか言えるんだな」
乙哉「春紀さんってあたしのこと宇宙人か何かだと思ってるよね」
春紀「とりあえず、現場の様子とターゲットのことはわかったな」
乙哉「うん、やっぱり銃持ってたね」
春紀「あぁ、しかも相当勘がいいな」
乙哉「明日、どうするの?」
春紀「警戒されてるだろうし、あの廃ビルに明日も行くのは危険だ。道具集めといこうか」
乙哉「道具集め?」
春紀「あぁ、念の為にトランシーバー買っとこう」
乙哉「あっいいかも!でもそんなの買うお金あるの?」
春紀「武智の財布に入ってるだろ」
乙哉「目の前にジャイアンがいる」
3日目 外
乙哉「この電気街、久々に来たなぁ」
春紀「久々って…こんなところに用事あったのか?」
乙哉「へ?」
春紀「ここいらは専門店ばっかりだから用事がないと来ないだろ?」
乙哉「よくわかったねー。あたしが行ってたのはあそこ」
春紀「……アイドル専門のライブハウス?」
乙哉「うんっ」
春紀「ああいうの好きなのか…」
乙哉「可愛い子が居たんだよー?もう死んじゃったけど」
春紀「何があったのか察した」
乙哉「この近くなの?」
春紀「あぁ。あたしもこっち系は疎くてな。神長にメールしたら教えてくれたよ」
乙哉「確かに、爆破装置作るのに来てそうだよね、こういうところ」
春紀「そうそう、ビンゴだったよ。住所を聞いてるから行ってみよう」
乙哉「探検みたいでワクワクしてきたなー」
春紀「女殺す以外にもワクワクできるのか、アンタ」
乙哉「あれはゾクゾク」
春紀「聞いたあたしがバカだった」
乙哉「……」
春紀「……」
乙哉「……」チラッ
春紀「おい、あたしじゃないぞ」
乙哉「いーのいーの、春紀さんも多感な時期だもんね。うんうん。あたしはこういうのキョーミ無いけど付き合うよ?」
春紀「だから違うって言ってるだろ!!!」
乙哉「照れなくていいのにー」
春紀「やめろ!!っくっそぉー……神長のやつ……なんでこんな怪しげなAVショップの住所なんか……」カチカチ
乙哉「何してるの?」
春紀「神長にメール打ってる」
乙哉「あぁー。またドジやっちゃったねー。神長さん」
春紀「そういえば、なんで武智が神長のドジとか、そういう話を知ってるんだ?」
乙哉「鳰ちゃんから聞いたんだよー。あと、生田目さんと柩ちゃんがソートーアヤしいとか」
春紀「あの二人については触れてあげるな」
~~~~♪
春紀「あ、メール来た」
乙哉「なんて?」
春紀「……間違いないってさ。もしかしたら店の中に入ったらわかるかもしれないな。入るか」
乙哉「あたしは別にいいけど」
春紀「……あたしは…実は結構嫌だ……」
乙哉「喜び勇んで入ってったらそれはそれで面白いけどね」
春紀「はぁ…行くか」
AVショップ内
春紀「……」
乙哉「さっきからだんまりだけど」
春紀「あんた、周り男性客しかいないのわかってるか…?すごい視線感じるんだけど…」
乙哉「あー、ね。やっぱり珍しいのかな?女性客って」
春紀「それもそうだし、あたし達が成人に見えないんだろ…」
乙哉「なるほどー。しかもあたし達がいま立ってるの、レズAVコーナーだしね」チラッ
春紀「一刻も早く離れるぞ」
乙哉「恥ずかしいのー?」
春紀「普通恥ずかしいだろ!それもあんなところでずっと立ち話してたなんて……」
乙哉「あたしは別にって感じだけど」
春紀「アンタは普通じゃないだろ」
乙哉「まぁ、それはそうなんだけどねー」
春紀「これだけ歩き回っても何もないんだ、とりあえず出よう」
乙哉「ねぇ!これすごい!うなぎ入れるんだって!?」
春紀「コアなの持ってくるな!!!!///」
乙哉「こっちはSMだってー?でもわかってないなぁー…こんなごっこ遊びじゃつまんないのに。ねぇー?」
春紀「 あ た し に 同 意 を 求 め る な 」
乙哉「んもう、春紀さんって冗談通じないよねー」
~~~♪
春紀「?神長からメールだ」
乙哉「なになに?」
題名:すまん
本文:やっぱり住所間違ってた
春紀「あいつ本当に許さない」
夜 春紀の部屋
春紀「ちょっといらん寄り道しちゃったけど、とりあえず道具は手に入ったな」
乙哉「本当にあたしの財布で買い物するとか酷いよねー」
春紀「報酬が入ったら返すって」
乙哉「体で返してくれてもいいよ?」
春紀「イコール死じゃん」
乙哉「あ、でも足りないかな……?」
春紀「あたしの命は4万以下かよ」
乙哉「命っていうか体…?魅力……?」
春紀「おいやめろ」
乙哉「で?明日決行?」
春紀「あぁ。段取りを考えよう」
乙哉「あたし考えたよ!」
春紀「なに!?どんな計画だ?」
乙哉「まず、春紀さんがあの事務所にピンポンか、ノックをするんだよ」
春紀「き、危険じゃないか…?まぁいいや、続けてくれ」
乙哉「うん。それでね、社長のところまで走ってって、ワイヤーでしゅっ!って」
春紀「あたしは鉄砲玉か」
乙哉「名付けて、作戦【神風】!」
春紀「あたし死ぬの前提じゃん」
乙哉「ちなみにあたしは冬香ちゃん達と家にいるから」
春紀「いい加減にしろ」
乙哉「んもー、冗談だよー」
春紀「はぁ…何度も言ったと思うけど、これは暗殺だ。他に誰もいない状況ってのが望ましいんだ」
乙哉「うん…でも、あの事務所、営業時間とかそういうのなさそうじゃない?会社っていうよりもたまり場って感じだったよ」
春紀「…だな」
乙哉「あのおじさんの自宅が分かればいいのに…」
春紀「そうだなぁ……鳰からの情報にもなかったし、それを知りたいなら自分で探らないと、だな」
乙哉「せっかくトランシーバー手に入れたんだし、明日はなんとかターゲットの自宅を探らない?別にターゲットを事務所内で殺せ、なんて言われてないんだし」
春紀「……」
乙哉「何?」
春紀「武智が、まともなこと言った……」
乙哉「その心底驚いたっていう顔」
4日目 夕方 廃ビルにて
春紀「ん。ターゲットの奴、机から立ち上がったな」
乙哉「そろそろ事務所、出るのかな?」
春紀「あたし達も行くぞ」
乙哉「うん。でも、本当にアレ、あたしが運転して大丈夫なの?」
春紀「言ったろ。何かあったとき、あんたの獲物よりあたしの獲物の方が対応しやすいって」
乙哉「紐ちゃん大活躍だね」
春紀「紐って言うなって言っただろバイクで轢くぞ」
外
ブゥン!!
乙哉「それにしても、相談してみるものだね」
春紀「あぁ。まさか鳰の奴が足を提供してくれるなんてね」
乙哉「このバイク、学園からの支給って言ってたけど…あたし達のターゲットってやっぱりあの学園に絡んでるのかな」
春紀「おそらくな。ま、黒組があるくらいだ。あの学園の裏側だってどうせ真っ黒だろ。勘繰るだけ無駄だって」
乙哉「そだね」
春紀「トランシーバーのイヤホンマイク装着したか?」
乙哉「うん!あ、トランシーバーの電源入れてないや」
春紀「可及的速やかに入れろ」
乙哉「はいはい…じゃ、ヘルメットはかぶった?行くよー!」
ブゥゥゥーン!!
春紀「!?」
乙哉「なにこれ!楽しい!」
春紀「スピード出し過ぎだ!おい!!おいって!!!!」
乙哉「えー、だって見失っちゃうよー」
春紀「感付かれたら元も子もないだろ!一定の距離を取れ!」
乙哉「あー、そっか!わかった、やってみる」
ブゥゥ・・・ン
春紀「よし、いい感じだ」
乙哉「っていうかさー」
春紀「なんだ?」
乙哉「事務所の下見とか置いといて最初からこうすればよかったよね」
春紀「言うな」
乙哉「トランシーバーの件も鳰ちゃんに相談してみればよかったなぁ」
春紀「あ、それについてはあたしは何も痛い思いしてないから別に」
乙哉「ひどい」
春紀「うっせ」
乙哉「それに痛い思いしたでしょ。AVショップに意味なく入ったり」
春紀「本当にうるさい。バイクのエンジン音の5倍はうるさい」
乙哉「なんかどんどん何も無いところになってきたね」
春紀「あぁ、こんなとこがあったんだな」
乙哉「運転疲れたから帰らない?」
春紀「コラ」
乙哉「だってー、もう一時間は運転してるよ?免許も持ってないあたしがノリでここまで運転できたのなんて奇跡だよ」
春紀「いま鳥肌立ったわ」
乙哉「だから、ね?」
春紀「助手席のねーちゃん、すごい美人だったぞ」
乙哉「あたしは諦めない…!!絶対に……!!!!」ブゥゥゥン!!
春紀「ここまでアレだと扱いやすくて助かるな」
乙哉「待っててね!お姉さん!」
春紀「……武智」
乙哉「何?」
春紀「鋏、持ってきてるか?」
乙哉「うん、腰についてるよ」
春紀「今日、家に辿りつけたら……そのまま殺ろう」
乙哉「え?でも」
春紀「あの車にはターゲットの女しか乗っていない。誰か見張りがいるようならまた考えるけど」
乙哉「そっか、チャンスだよね。それに毎日ターゲットが家に帰るとは限らないし」
春紀「あぁ。あとこんな危険なバイクの後ろもう乗りたくない」
乙哉「そっちが本音でしょ」
ターゲットの家付近
乙哉「……着いちゃった」
春紀「あぁ。ビンゴだ」
乙哉「途中でルート変更して正解だったね」
春紀「だってあのまま後ろ付けてたら絶対気付かれてたろ?」
乙哉「うん。で?これからどうするの?」
春紀「あの車が家に着いてから家の明かりがついたんだ。きっと、家の中には誰もいないだろ」
乙哉「だね。外に人がいる様子もなかったし」
春紀「とりあえずは待つか」
乙哉「わかった。寝静まってから…ってこと?」
春紀「……!」
乙哉「あたしがちょっとまともなこと言ったらすぐこれだからね」
春紀「にしても、ありゃ別荘だな」
乙哉「っぽいねー」
春紀「金、あるところにはあるんだなー…」
乙哉「貧乏な人が言うと重みが違うね」
春紀「うるさい」
乙哉「こんばんは別荘で愛人とお楽しみ、ってことかなー?」
春紀「はぁ、のん気なもんだな。これから殺されるってのに」
乙哉「え?何?ノンケ?」
春紀「うるせぇレズ」
4~5日目 深夜・屋外
春紀「武智、おい。武智ってば」
乙哉「はっ」
春紀「起きたか?」
乙哉「ごめんごめん」
春紀「しっかりしてくれよ?ま、いいけどさ」
乙哉「昨日弟くん達に折り紙教えてて疲れちゃったのかな」
春紀「結局鶴すら折れなくて折り紙切り刻んだ人がなんか言ってる」
乙哉「ねぇ、いま何時?」
春紀「1時だ。もう5日目だな」
乙哉「そっか。でも突撃するわけだし、失敗は許さない。実質もう最終日みたいなもんだよね」
春紀「あぁ、もし失敗した場合は、ターゲットは行方をくらますだろ。ヘマは許されない」
乙哉「って言っても、あたしは1階の見張りだけだから気楽なもんだけどねー」
春紀「異常があったらすくに知らせてくれよ?」
乙哉「だいじょーぶ!それくらいならできるよ」
春紀「部屋の明かりが消えてからもう一時間は経ってる。行くか」
乙哉「いよいよだね」
春紀「あぁ。あ、そうだ。バイクのヘルメットは被ってけよ?念のため、な」
乙哉「りょーかい!」
・・・
・・・
春紀「大丈夫だと思うけど、聞こえるか?どーぞ」
乙哉『ばっちり聞こえるよー、どーぞ』
春紀「そりゃよかった」
乙哉『ねぇ、結局あたし春紀さんの言ってたお姉さんの顔見れてないんだけど。どーぞ』
春紀「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ、どーぞ」
乙哉『えー、春紀さんだけズルいー、どーぞ』
春紀「どーぞじゃないだろ、ぶっ飛ばすぞ。どーぞ」
乙哉『ひどい』
春紀「……」シャッ!
乙哉『こちら武智、1階につきました。どーぞ』
春紀「こっちも登れそうなところ見つけてワイヤー張ったとこだ、どーぞ」ヨイショ
乙哉『窓が開いてたから、あたしは見つからないように室内で待機してます、どーぞ』ガラガラ…
春紀「了解だ、どーぞ」
乙哉『綺麗なお姉さんと目が合いました、どーぞ』
春紀「」
乙哉『愛人っぽい人に見つかりました、どーぞ』
春紀「あんたホントいい加減にしろ」
乙哉「こんばんは、お姉さん」カチッ
女「…あんた、いま何をしたの?」
乙哉「目ざといねー。お楽しみの前にトランシーバーの音切ったんだー」
女「お楽しみ…?いや、それよりも他にも仲間がいるってこと……?あんたら、どこの組のものなの?」
乙哉「さぁ?しいて言うなら黒組かな?」
女「聞いたことないね……」カチャ…
パァン!!
乙哉「!?」
女「ちっ、外したか!」
乙哉「……あはははははははは!!」
女「!?」
パァァン!!パンパン!!
乙哉「あははは、全然狙い定まってないよー。……そんなことよりさぁ」
女「……?」
乙哉「お姉さん、綺麗だねー?」
女「ひっ……!」
2階 窓の外
春紀「ったくあいつ何やってんだよ……トランシーバー切れたし……」
パァン!!
春紀「銃声…!?ターゲットはそこで寝てる、ってことは…あの女か……!こうなったら強硬手段だ」バリーン!!
ターゲット「……!?」
春紀「よぉ。お目覚めのとこ悪いんだけど、永眠してくんね?」シャッ!!
ターゲット「ぬぐゎぁ!?」
春紀「……!」ギリギリギリ…!!
ターゲット「……!……!!」
春紀「……」ギリギリギリ…
ターゲット「…………」ガクッ
春紀「終わったか。呆気ないもんだな」
「きゃああああああああ!!!」
春紀「どっちの悲鳴だ!?武智、待ってろ…!」ダッ!
1階
乙哉「ねぇねぇねぇねぇ?????もうさっきみたいに叫ばないの???????」
女「う、うる、さい……」
乙哉「上はあたしの相方が片付けてくれてるから安心して?助けなんてこないから」
女「ま、待って……」
乙哉「あたし達のお楽しみだもんね。絶対に邪魔されたくない。……絶対」ザシュッ!!
女「ああぁぁっぁあ!!」
乙哉「こんな手じゃ、もうテッポー持てないね?次は?耳?耳いっちゃう????」ハァハァ
女「ひぃ…はぁっ……」
乙哉「怖くて声も出ないの?つまんなーい」
女「……!」
乙哉「あーもう、サイッコー…!その反抗的な目!……どーせ今から死ぬくせにね」ザシュッ!!
女「ああっぁぁぁぁぁぁぁ…!!!!!!!」
春紀「待て!武智!やめろ!!」ガシッ!
乙哉「はぁ???何?邪魔するの?」
春紀「ターゲットはもう殺した!行くぞ!」グイッ!!
乙哉「離してよ」パシッ
春紀「……!」
乙哉「あたし、この人のこと殺してからいくかr」
春紀「……」ガスッ!!
乙哉「!」
バタッ・・・!!
春紀「よいしょっと…」チラッ
女「……」
春紀「あの女も気絶してるだけみたいだな。ほっといても死にはしないだろ」
春紀「…とりあえずここを離れるか」
春紀「……」ズルズル……
春紀「さすがにバイクのところまで運ぶのはしんどいかもな……武智のこと、気絶させなきゃよかった……」
バイク前
乙哉「……」
春紀「気付いたか?」
乙哉「あれ?あたし、確か…」
春紀「お前が暴走してたから無理やり連れてきたんだよ」
乙哉「そうだ、あのお姉さんは!?」
春紀「さぁ。ま、死んではないさ」
乙哉「……」
春紀「?」
乙哉「そういえばターゲットは消せたんだっけ」
春紀「あ、あぁ」
乙哉「どうしたの?」
春紀「いや、どうして止めたんだって怒るかと思ってたから」
乙哉「んー、怒らないよ」
春紀「意外だな」
乙哉「今回の目的は元々ターゲットを殺すことだったんだし、気絶して目が覚めちゃったらそういう気分でもなくなっちゃったし」
春紀「そういう気分って?」
乙哉「もー、性的な気分に決まってるじゃん。いくら気に入った人がいたからって、あたしにだって気分の上がり下がりはあるよー」
春紀「気分の上がり方が最高に変態じみてるよな」
乙哉「ほら、なんていうの?どんなにいやらしい男の人でも常時おっきしてるわけじゃないじゃん?そんな感じ」
春紀「どんな感じだよ。あとおっきって言うな」
乙哉「ま、あのお姉さんのことはいいよ。とりあえずね」
春紀「とりあえず…?」
乙哉「鳰ちゃんが言ってたんだー♪ターゲット以外の人間を巻き込んだ場合は教えてくれって」
春紀「ふぅん。それとこれと、どう関係するんだ?」
乙哉「場合によってはその人達の殺すのかなーって思ったから」
春紀「まぁ、可能性はあるな」
乙哉「そうなったらあたしがヤりに行くよ……ふふ…あはははは……」
春紀「お、おい、武智…?」
乙哉「あたし、自分がつけた傷跡を上書きするの、初めてだ……どうしよう、興奮する……」
春紀「怖すぎて泣きそう」
乙哉「やっばぁ……濡れてきちゃったかも……?」
春紀「あたしの頬も恐怖の涙で濡れてるよ」
やらかした
?→?ハートマーク
乙哉「いやー、終わったんだね」
春紀「…あぁ、帰るか」
乙哉「うん。改めて言うけどさー……」
春紀「うん?どうした?」
乙哉「これからしばらくの間、よろしくね」
春紀「……あぁ。帰ったら鳰に報告しよう」
乙哉「そだね」
こうしてあたし達の奇妙な数日間は終わった。
来週からはバイトもあるし、心機一転で頑張るとしよう。
来る時は暗くて気付かなかったけど、ターゲットの別荘は海辺に建てられていたようだ。
朝日を反射して海がキラキラと光っている。
あたしは武智の運転するバイクの後ろからそれを延々と眺めた。
在学中はよくわからない奴だと思っていて、その印象のまま学園を去った彼女。
まさかこんな形でつるむことになるなんて思いもしなかった。
少々、いや、随分とイカれてるけど、振り返ってみると悪くない日々だった。かも知れない。
きっと、こいつはいつか捕まってしまうだろう。
ただ快楽の為に人を殺すような奴が警察から逃れ続けるなんて不可能だと思う。
鳰の話によると、学園に来る前からかなり危なかったみたいだし。
檻の中であたしと過ごした日々を思い返す武智を想像すると、胸がちくりと傷んだ。
無線機の電源を切って、あたしはしがみついていた武智のその細い腰を一層強く抱いた。
武智の体が僅かに反応したような気がするけど、どうだっていい。
声は届かない。
そうしてあたし達は言葉を交わさないまま家路についた。
乙哉「やぁーっと帰ってきた」
春紀「あぁ。とりあえず寝よう。報告はそのあとだ」ガラガラ
「おかえりなさい」
春紀「冬香か?随分と早起き、だ……な……………」
乙哉「…ええぇぇぇ!?神長さん!?」
神長「爆弾を誤爆させて施設の一部、と言っても私の部屋なんだが…を破壊してしまった」
春紀「……」
神長「謹慎を兼ねて、しばらく帰ってくるな、とシスターが……それで、走りにここを紹介してもらったんだが……」
春紀「……」
神長「昨日尋ねてみたらお前らがいなかったから、悪いとは思ったがそのままお邪魔させてもらった。えっと、これからしばらく世話になる」
春紀「……ふざっけんなぁーーー!!!!!」
おわり
というわけで終わり。
気が向いたら続編書く。
そんじゃ
このSSまとめへのコメント
悪魔のリドルの長編ssキタコレ!!もっと増えろ
春乙もいいですわね
めちゃくちゃ面白かった
このコンビいいな…!
あと安定の香子ちゃんww