春紀「暗殺の依頼が舞い込んできたけど正直それどころじゃない」 (206)


悪魔のリドル、ギャグ


春紀「暗殺に失敗して帰ってきたら厄介なことになってた」
春紀「暗殺に成功して帰ってきたのに厄介なことになってた」
春紀「暗殺はせずに大人しく生活してたのに面倒なことに巻き込まれた」

の続編

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402403070


あたしの名前は寒河江春紀。元十年黒組の生徒だ。学園は随分前に退学になった。
と言っても、退学からまだ数ヶ月だ。随分前に、という表現はおかしいのかもしれない。
だけど退学してからの数ヶ月、本当に濃い時間を過ごしたあたしにとって、
あの学園で過ごした日々は遠い昔のことのように感じられるのだ。
きっとあたしの人生史上最大の修羅場の連続だったろう。
そしてその修羅場は現在進行形だったりする。

歩き慣れた道を一人行きながら小さくため息をついた。
バイト帰りのこの道はあたしにとってもはやお馴染みになりつつあった。

で、だ。あたしの家はいま大きな問題を抱えている。
というのも、十年黒組の退学処分になった生徒たちが続々とあたしの家に居候にくるからだ。
武智乙哉、神長香子、剣持しえな、首藤涼、この四名があたしの家の闖入者達。
特に首藤に関してはやってきたばかりの新入りだ。

最初は部屋が狭くなるくらいでなんの問題もないように思えた。
首藤は剣持同様落ち着いているし、神長のようなドジもやらかさない。
そしてこれは暮らしてみて分かったことだが、生活の知識がずば抜けていた。
昨日だって冬香に効率的な掃除の仕方だとか裏技を伝授しているのを見かけた。
あぁ、本当に問題ないんだ、助かってるくらいだ。

神長とイチャつくことを除けば。

あたしは電柱に手をついてうなだれそうになるのをぐっと堪えた。
傍から見たらきっと普通に歩いている女子高生に見えることだろう。そうじゃなきゃ困るってんだ。
神長と首藤のやり取りは明らかに怪しげだった。
あたしがそういう見方をするからそうなんじゃないかって?あぁ、きっとそれもある。
だけどな、食事の度にあーんだのされて、就寝の度に手繋がれてみろ、そうとしか思えないだろ。

元同室同士で仲がいいと言ったら剣持と武智もそうだ。
だけどあの二人は剣持が距離を保とうとしているせいか、それなりにバランスが取れている。
(この間武智が剣持のおさげを切ろうと追いかけ回していたがあれはあたしの記憶から抹消したことになってる)

最近は鳰の奴からも連絡が来ないし、どうも家の中に平和ボケしたような空気が流れてる。
それ自体は構わないんだが、メンツがメンツなせいか、あたしはなんだか落ち着かなかった。


春紀「ただいまー」

乙哉「おかえりー!」

しえな「お疲れさま。今日も怪我無くやれたか」

春紀「あ、あぁ。お前は玄関で何やってるんだ?」

しえな「乙哉の靴に画鋲仕掛けてるんだ」

乙哉「やめて!?!?」

春紀「あんたイジメきらいなんじゃなかったのか」

しえな「ボクにもそう思っていた時期がありました」

乙哉「なんで敬語なの!?っていうか過去にするのやめよう!?」


春紀「どーせまた怒らせるようなことしたんだろ」

乙哉「えー。ちょっと眼鏡切っただけだよ?」

春紀「何事だよ」

しえな「酷いだろ?お陰で予備の出番だよ」

春紀「武智、眼鏡はやめてやんな。修理代が馬鹿にならんだろ?おさげにしとけ」

しえな「その理屈はおかしい」

乙哉「えー、でも、あたしちゃんと眼鏡の修理代出してるよ?」

春紀「そうなのか。なら良し」

しえな「よくない!!!!!」


首藤「騒がしいと思ったら、帰ってきとったのか」

春紀「あぁ。冬香は?」

神長「買い出しに行った。ただ、財布を忘れたみたいだから届けに行こうと思って」

春紀「はぁ……何やってんだよ、あいつ。悪いな、二人とも」

首藤「なに、気にするでない。ワシらが行ってくるから寒河江は適当に寛いでいてくれ。場所の目星は大体ついとるでの」ガラッ

春紀「そうか。よろしくな」

神長「あぁ、安心しろ。じゃ、行ってくる」ピシャッ

「って、どこ行くんじゃこーこちゃん!こっちじゃこっち!」

「え!?」ドテッ!

「だ、大丈夫か!膝、擦りむいとらんか!?」

春紀「何やってるんだあいつら」

乙哉「外に出て5秒で道間違って転ぶってプチ快挙だよね」

しえな「言ってやるな……」


春紀の部屋



春紀「あんたらさ」

乙哉「なにー?」

しえな「どうした?」

春紀「いつになったら出て行くんだ?」

乙哉「………?」チラッ

しえな「………」フルフル

春紀「なんで『この人が何を言ってるかわかる?』『いいや、わからない』みたいなジェスチャーするんだよ殺すぞ」


乙哉「だって春紀さんが悲しいこと言うんだもん、ねー?」

しえな「あぁ。ボクら、友達だろ?」

春紀「黒組にいた連中が”友達”とか、正気かよ」

しえな「まぁまぁそう言わずに、な?」

春紀「はぁ……特にあんたは病院戻れって……」

しえな「ぼくだけ除け者にするつもりだな!」

春紀「違ぇよ」

しえな「いじめだ!」

春紀「他人の靴に画鋲仕込んでた奴に言われたくないわ」


乙哉「最近平和だよねー。鳰ちゃんからも連絡ないし」

春紀「そうだな。ま、あんたらも食費入れてくれてるし、そこそこまともな生活は出来てるから別にいいけどな」

しえな「お母さん、良くならないのか?」

春紀「そんなすぐによくなるモンじゃないんだよ。ところで剣持」

しえな「なんだ?」

春紀「お前、うちに入れる金どうやって作ってるんだ?」

しえな「なんでボクだけに聞くんだ?」

春紀「武智には前に聞いたしな」

しえな「そうなのか」

乙哉「あたしはヒモやってた頃にもらったお金があるんだよー」

しえな「どうせ相手は綺麗な女だろ」

乙哉「さっすが!しえなちゃんったらあたしのことよくわかってるー♪もう死んじゃったけどね、そのお姉さん」

しえな「うわ…………聞きたくなかった……………」

春紀「あたしもその話聞いたとき似たようなリアクションしたこと思い出した」


しえな「乙哉はやっぱり非常識だな……ありえない……」

乙哉「えー、ひどくなーい?お金の出所としては普通でしょー?」

春紀「普通じゃねーよ、羨ましいわ」

乙哉「春紀さんも綺麗なお姉さん好きなの?」

春紀「そこじゃねーだろ」

しえな「あぁ、まぁ犬飼もそんな感じだもんな」

春紀「伊介様の名前出すな」

乙哉「わかる、すらっとしておっぱい大きいお姉さんに甘えたいんだね。かっわいー♪」

春紀「頼むからあたし達で変な妄想しないでくれ。ほら、質問に答えろ剣持。金はどこから出てる」

乙哉「すごい強引な話の逸らし方するね」

しえな「病院から盗んできた薬を売り捌いてるだけだ」

春紀「極悪非道かよ」


乙哉「そういえば、春伊の話で思い出したけどさー」

春紀「その略し方やめろ」

乙哉「首藤さんと香子ちゃん仲良いよねー」

しえな「あそこは元々あんな感じだったぞ?」

春紀「え?そうか?」

しえな「いや……ちょっと寒河江家に来てからスキンシップ多めな感じはあるけど……」

春紀「だよなぁ」

乙哉「なに?羨ましいの?」

しえな「心配しなくても、そろそろ犬飼の出番だろ」

春紀「伊介様にくっつけるな。あとそろそろ出番とか言うな」


春紀「いやそうじゃなくてさ。イチャイチャしてんなーって思って、そんだけだよ」

乙哉「あれはあたしとしえなちゃんをも凌駕するよね」

しえな「っていうかボク達はイチャついてないから」

乙哉「は?」

しえな「あ?」

春紀「頼むから妙な喧嘩はやめてくれ」


乙哉「でも家のことはあたし達以上にやってくれてるし、別にいいんじゃない?」

春紀「以上にっていうか、アンタは何もしてないだろ」

しえな「こないだ弟達のこと泣かせてるの見かけたぞ」

春紀「なんだと…?」

乙哉「ご、誤解だよ!?あたしの似顔絵描いて持ってきてくれたけど似てなかったから『誰これ』って言っただけだよ」

春紀「泣くに決まってんだろ」

しえな「嘘でもとりあえず喜べよ」


ドゥルンドゥンドゥルンドゥンドゥルンドゥンドゥルンドゥンドゥードゥ♪


乙哉「あ、あたしの携帯だ。もしもーし」ピッ

しえな「なんでドラクエで呪われた時のSEを着信音に設定してるんだよ」

乙哉「鳰ちゃんでしょ?わかるよーそろそろ来るかなーって思ってたもん♪それに鳰ちゃんは着信変えてあるしね♪特別だよっ♪」

春紀「鳰専用の着信音かよ」

しえな「着信音知った時、走りはどんな顔するんだろうな」


乙哉「いいよー。あ、ちょっと待って。みんなに聞こえるようにするから」ピッ

鳰『もしもーし!お久しぶりっスー!皆さん元気だったっスかー?』

しえな「当たり前だ」

春紀「朝昼晩と服薬してるお前が言うな」

鳰『また皆さんにお願いしたいことがあるんスけど、お願いできるっスか?』

乙哉「もっちろんだよー。ま、お金次第だけどね。でしょ?春紀さん」

春紀「はっ、アンタもわかってきたじゃんか。その通りだ」

鳰『皆さんお揃いっスか?』

春紀「いや、いま神長と首藤が外してる」

鳰『そうっスか。出来れば人数が多い方がいいんで皆さんに協力してもらいたかったんスけど…』

春紀「その辺りは問題ない。この間と同じ、報酬次第で依頼は受ける。あたしが受けると判断した場合、こいつらに拒否権はない」

乙哉「ホント、素晴らしいジャイアニズムだよね」

投下はやいな
書きためアリッスか?

>>19
適当にだけど途中まであり。今回長いから出来るだけさっさと投下してく


鳰『そうっスか。じゃあ仕事の話に移るっスよ。今回皆さんにお願いしたいのはズバリ人探しっス』

春紀「人探し?」

鳰『そうっス。とある学園関係者を見つけ出して欲しいんス。その人物は学園の機密データを盗み出してジャーナリストに横流しをしようとしてるっス』

乙哉「ジャーナリスト?」

鳰『はいっス。真実を暴くということを信条としている人物らしいっスけど、冗談じゃないっスよ。見つけ出してそのデータを回収、及びその裏切り者を始末して欲しいっス』

乙哉「人探しっていうよりも普通の殺しの仕事の前に一仕事増えてる感じな気がするなー」

春紀「だな。探して殺せなんて、質が悪い」

しえな「で?報酬はどうなんだ?」

鳰『報酬っスか?ははっ………無いっスよ』

春紀「はぁ?そんなもん受けるワケないだろ」

鳰『いいんスか?持ち出したデータの中には歴代黒組のデータ、つまり春紀さん方のプロフィールも入ってるっスよ?』

一同「!!?」


鳰『つまりそれを奪い返さないと皆さんの顔写真付きのプロフィールがネットや、下手したらテレビに晒されることになるんス。現行の黒組っスからね。その可能性は高いと思うっスよ』

春紀「なん、だと……」

乙哉「いま真面目な話してるんだからBLEACHの真似はやめて」

春紀「してねぇよ」

鳰『乙哉さんは警察に足取り掴まれることになると思うっス。他の方だって、暗殺者として続けていくのは厳しいんじゃないっスかね。顔が割れて、さらに失敗したことすら白日の下に晒されるんスから。証拠さえ揃えば逮捕も十分考えられるっスね』

しえな「にしても、報酬無しとは、随分と足元を見ているんだな」

鳰『ま、その代わりと言っちゃなんっスけど、捜索で必要なものがあったらこっちで用意するっスよ』

春紀「1000万用意しろ。使わないけど」

鳰『小学生みたいなこと言わないで欲しいっス』


乙哉「でも、あたし捕まるのはゴメンだよ。悔しいけど、乗るしか無いかな」

春紀「あたしもだ。顔が割れるのは困る」

しえな「ボクもそうだ…」

春紀「で、その人物の詳細は?」

鳰『それについてはあとでデータで送るっスよ。名前はもちろん、写真もあるっス』

しえな「でもそれだけ理解っても、どこでそのデータをやりとりするかがわからないと厳しくないか?海外だったら…」

乙哉「確かにね。だとしたらあたしは行けないかな。足がつきそうだし」

春紀「それもそうだな。ホント厄介な奴だよな、アンタ」

乙哉「……///」

春紀「褒めてない。顔を赤らめるな」

しえな「随分と仲がいいんだな、お前ら」

春紀「妬くなよ」


鳰『受け渡し場所は市内っスよ。例のジャーナリストがいつも受け渡し場所に指定する場所があるみたいなんスが、今回もそこで行われる可能性がかなり高いっス』

春紀「そうなのか。で?それはどこなんだ?あぁ、それもデータで住所送ってくれるってことか?」

鳰『それを皆さんに探ってもらいたいんス』

乙哉「えー、わからないの?」

鳰『過去にジャーナリストと取引した人物に当たって、なんとか大まかな位置は吐かせたんスけどね。それ以上は出来なかったんスよ』

しえな「なるほどな」

ガチャッ!!

一同「!!?!?」

首藤&神長「話は聞かせてもらった!!」バーン!!

春紀「うお!?な、なんだよ、静かに入れよ…」

乙哉「話は聞かせてもらったって、どこから?」

神長「最初からだ。あの呪いの着信音も聴いたぞ」

春紀「居たなら入って来いよ」

鳰『ちょっと待つっス、呪いの着信音ってなんスか』


しえな「お前ら、すごく訳知り顔だが、もしかして心当たりがあるのか?」

神長「いいや」

首藤「ないぞ」

しえな「なんなんだよ!!」

鳰『とにかくそんな感じっス。受け渡し日は二日後。盗聴の業者にそこまでは調べさせたんスが、場所の特定には至らなかったんス』

神長「なるほど。あまり時間がないな」

乙哉「そのジャーナリストと接触したことのある人にもう一度聞き直すっていうのは?」

首藤「無駄じゃろうて。どうせ葬られてしまったんじゃろう?」

鳰『さっすが、察しがいいっスね。その通りっス』

乙哉「そんな…ひどい…」

春紀「世間一般的にはアンタのがよっぽどひでぇよ」

しえな「気に入った女を惨殺だもんな」

乙哉「それとこれとは別だから」

神長「サイコパスってそういうこと言うよな」


鳰『じゃ、電話切ったらすぐにデータ送るんで。頼んだっスよ』

首藤「あぁ、任されたぞ」

春紀「待て、走り」

鳰『なんスか?』

春紀「もうあたしの家に人を送り込んでくるな。いいな」

鳰『首藤さんだけハブなんて可哀想じゃないっスかー』

首藤「そうじゃ、はぶりんちょは良くないぞ」

春紀「うるせぇよ」

鳰『最近、伊介さんと番場さんが面白い動きしてんスよねー』

春紀「へ、へぇ」

鳰『次に仕掛けるのはあの二人かもしんないっスねー』

春紀「あ、あっそ…」

鳰『いいんスか?』

春紀「……死ね」

鳰『春紀さんって案外わかりやすいんスね』


乙哉「言っちゃえばいいのにねー。番場は駄目だけど伊介様はウェルカムだ!って」

春紀「それあたしの真似か?殴っていいか?」

神長「やっと伊介様の番か…!」

春紀「やめろ」

首藤「伊介様があたしの部屋に…どうせ汚いとか狭いとか言うんだろうな…でも、それでもあたしは…!」

春紀「おいコラ」

しえな「伊介様が来たら一緒に寝よう。枕は一つでいい、あたしは伊介様のおっぱい枕を」

ゴツン!!

しえな「~~~~~~~~~!!!!」

春紀「お前ら、いい加減にしろ」

しえな「だからどうしてこういうときボクだけ暴力で突っ込まれるんだよ!!!」


鳰『それじゃ、切るっスよ』

春紀「あぁ。わからないことがあったら武智から連絡させる」

乙哉「えー!やだよー!しえなちゃんよろしく!」

しえな「断る」

神長「私も拒否する」

首藤「わしも嫌じゃな」

鳰『何もまだ電話繋がってる状態でたらい回しにする必要ないじゃないっスか!』

神長「そ、そうだよな…電話切ってからすべきだったな…すまない」

鳰『それもそれでかなり傷付くっスけどね』


鳰『それじゃ、本当に切るっスよ』ピッ

乙哉「今回は人探しかぁ」

春紀「と言っても始末することになってるけどな」

首藤「データの複製が心配じゃな」

神長「確かに。受け渡しにはフラッシュメモリ等が使われるんだろうけど、そいつの家のPCにコピーしてる可能性も考えられるな」

春紀「思ったより厄介な仕事かもな」

乙哉「でも自分たちの人生が掛かってるって言っても過言じゃないよね。絶対成功させないと」

神長「あぁ…!失敗は許されない…!」

首藤「香子ちゃんがそうやって意気込むと大体ミスするから程々にの」

神長「本当のこと言わないで」


春紀「二日で取引場所の特定と、ターゲットの拠点の特定、か。骨が折れるぜ」

乙哉「骨が折れる?それは美しくないね。やっぱり流血しないと」

春紀「黙れ」

乙哉「美しくない」

春紀「喧嘩売ってんのか」

首藤「それよりも、まだ詳細は送られて来ないのじゃろうか。電話を切ってもうしばらく経っとるが…」

乙哉「あぁ、さっき来たよ」

しえな「言えよ」


乙哉「えーと、ターゲットの名前は山田華子さん、だって。何この名前…」

春紀「絶対イジメられるだろ…」

しえな「守ってあげたい…」

乙哉「で、写真がー………………」

首藤「どうしたのじゃ?」

神長「武智?」

乙哉「……この人、殺していいんだ?ふふ、ふふふ…」

春紀「どういう人か大体わかった」


首藤「それにしても、すごい別嬪さんじゃのう」

しえな「乙哉、好きそうだな」

乙哉「うん、だぁいすき…!こういうキツい美人すごく好み……」

神長「今さらだけど、武智ってアブないよな」

春紀「本当に今更だな」


首藤「で?どうする?取引場所は市内、それしかヒントがないのじゃろう?」

乙哉「待って待って。他にも、ジャーナリストの名前、ホームページのURLがあるよ」

首藤「ほう、それは興味深いな」

神長「寒河江、パソコンは?」

春紀「そんなもんうちにあるわけ無いだろ」

しえな「だろうな」

春紀「お前ホントムカつくな」


乙哉「ホームページならあたしのタブレットから見れるよ」タンタンッ

春紀「おぉ。どんなサイトだ?」

乙哉「うーん、ブログだね。情報収拾及び配信用、って感じだね」

神長「顔写真付いてるな。へぇ、テレビにも出たことあるのか、このおじさん」

首藤「……?」

春紀「どうした?首藤」

首藤「いや、なんでもない。それより最新の記事を読んではみんか」

乙哉「そうだね。えーと、【ずっと追い求めていた巨大組織について重要な情報が入る目処がたちました。
その裏付けが取れた暁にはこのブログにてご報告させていただきます。またこのことは各マスコミにも協力を仰ぎ、徹底的に追求致します。
現時点で公表できるのはここまで。八日後が待ち遠しいです。】だってさ」

神長「記事の日付は?」

乙哉「六日前、だね」

春紀「ということは巨大な組織、重要な情報ってのは…」

首藤「ワシらが携わっとる件と考えるのが妥当じゃな」


しえな「だけどこれじゃあまだヒントが足りない」

乙哉「どうしよっか」

首藤「何、簡単じゃ」

春紀「どういうことだ?」

首藤「見てみぃ。右端のプロフィールの欄じゃ」

神長「?主な来歴と…あとは好きな音楽や食べ物だ。どう考えてもヒントになるとは思えない」

首藤「じゃろう?好きな音楽、食べ物。ジャーナリストとして必要な情報か?」

春紀「いや、無いだろ」

首藤「そういうことじゃ。ブログの見出し一覧から察するに、ジャーナリストの活動とは程遠いものがちらほら見受けられる」

乙哉「なるほどつまり…!!」

首藤「お主にもわかったか」

乙哉「ううん♪」

首藤「黙っとれ」


神長「片っ端から記事を読んでいくこととしようじゃないか、ってことか」

首藤「香子ちゃんには分かったみたいじゃの」

神長「あぁ。この人物は自己顕示欲が高い。一つ前の記事、ジャーナリストに必要なもの読んでみろ。長々と高説垂れている」

乙哉「うわ、ホントだ…っていうかこれ特定の同業者叩いてるっぽくない?」

しえな「馬鹿だな…」

春紀「つまり、記事にヒントが隠れている、と?」

首藤「そうじゃ。余計なことを言いたがる人物みたいじゃからのう。ヒントが落ちてる可能性もゼロではないじゃろ」

しえな「他に手がかりは無いしな…よし、やろう」

乙哉「あたしパス。この人の文章、無理。すごく偉そうで読んでると刻みたくなる」

しえな「うるさい、やるぞ」

春紀「武智がこんなオッサンを刻みたくなるなんて、相当だな」


冬香「お姉ちゃん達、ご飯だよ」

春紀「おぉ、もうこんな時間か」

冬香「作業してるみたいだったから弟達は先に食べさせちゃったよ?」

春紀「そうだったのか。気使わせたね」

冬香「それじゃ、待ってるから急いできてねー」

春紀「おー。……っつーワケだ。続きは戻ってきてからにしようぜ。……って、誰もいねぇ」

しえな「何一人で喋ってるんだ、早くしろよ。おかわり無くなるぞ」

首藤「冬香ちゃんはいい嫁になるぞ。何しろ白米の炊き加減が絶妙じゃからの」

乙哉「それわかるー!」

春紀「人の家で自由に過ごすコツでもあるなら是非教えてくれよ、お前ら」


3時間後



首藤「話を総合するぞ」

春紀「あぁ、頼む」

首藤「取引場所は海と高層ビルが見える場所。なおかつ車で真近まで向かえる静かな場所。夜景について書かれていることから取引時刻はおそらく夜」

しえな「馬鹿だな、こいつ」

乙哉「思った」

神長「市内で条件に当てはまりそうな場所を書き出して明日はそれぞれそこに向かおうか」

首藤「じゃな」

乙哉「でもなんで人混みの中でさらっと取引しちゃわないんだろ?簡単そうじゃない?」

首藤「ワシの勘じゃが、雰囲気重視なんじゃろ」

乙哉「何の根拠もないけど、この人の文章読んだ後だとすごい説得力…」


春紀「ジャーナリストってみんなこうなのか?」

乙哉「さぁ?さすがに違うんじゃない?この人が気取り屋で自信過剰な人ってだけで」

神長「情報の取引相手にこいつを選んだのはターゲットの誤算だったかもな」

しえな「それは言えてるな。もっと慎重な奴ならボク達にこうもヒントを与えたりはしなかっただろ」

首藤「これが全てブラフ、という可能性を忘れてはおらんか?お主ら」

春紀「……確かに、だとしたらお手上げだ。その上あたしらは無駄に時間を浪費することになる」

首藤「ま、こやつの記事から読み取ろうというのはワシが言い出したことじゃがの。様々な想定をしておくのは大事なことじゃろうて。これ以上のヒントは走りが情報を寄越さない限り増えないはずじゃ。今はこれを追うしか無い」

春紀「だな。よし、じゃあとりあえず今日はもう寝るか」

乙哉「だねー。じゃ、しえなちゃん」

しえな「待て待て。ボクは今日、春紀と寝る」

乙哉「………………………………………」

春紀「覚醒モードの目であたしを見るな」


しえな「お前とは昨日一緒に寝ただろ」

乙哉「そうだね?でもしえなちゃんは『ご飯?昨日も食べただろ?』って言われて納得できる?出来ないね?」

しえな「説得力あるようなないようなこと言うのやめろ」

春紀「っていうかあたしは剣持とは寝ないぞ」

しえな「っはぁ!!?」

春紀「当たり前だろ。あたしは冬香と寝る。あたしが剣持と寝たら武智と冬香が寝ることになるだろ。それはダメだ」

乙哉「何度も言うけどあたしロリコンじゃないよ」

春紀「じゃなかったとしてもなんか嫌なんだよ、察しろ」

しえな「武智は外に転がしておけばいいだろ」

乙哉「イジメ嫌いな人とは思えない発言が飛び出たね」


しえな「じゃあ神長か首藤」クルッ

首藤「……」スピー

神長「……」クークー

しえな「酷過ぎる」

乙哉「また手繋いでるし……」

春紀「ま、諦めろ。それに武智は”そーゆーこと”への関心がないんだ、身の安全は保証されてるだろ」

しえな「ボクこないだこいつにおさげ切られそうになったんだぞ!?」

春紀「大丈夫、死にゃしないよ」

しえな「それだけじゃない!首を切られそうにもなった!」

春紀「死にゃしない死にゃしない」

しえな「首だぞ!!?逆に生き延びてみろよ!!!」


春紀「まーさ、アンタらはアンタらでイチャついてていいから。頼むから弟達に変な影響でないようにな」

乙哉「そういえば昨日、あの子たち香子ちゃん達の真似してたよ」

春紀「さっそく悪影響出てるじゃねーか」

乙哉「『こーこねーちゃんとすずねーちゃんごっこ』って言って抱き合ってたよ」

春紀「しかも重大な悪影響じゃねーか」


春紀「はぁ……まぁいいや。そんじゃ、あたし行くから」ガチャッ

しえな「………わかった、おやすみ」

乙哉「おっやすー♪」

バタンッ

乙哉「さーて、春紀さんもいなくなったことだし?」

しえな「いなくなったから何だって言うんだ」

乙哉「やーん、そんなリアクションされたら寂しいー♪」

しえな「……………」ギロッ

乙哉「……はい、寝ようね、うん……」

しえな「わかればいいんだ」


リビング



春紀「よっ」

冬香「はーちゃん!」

春紀「もう寝るとこか?」

冬香「うん。ちょうどお布団敷き終わったところだよ」

春紀「そっか。疲れてるとこ悪いんだけどさ」

冬香「うん、わかってるよ。気にしないで入って」

春紀「悪いね」モゾモゾ

冬香「新しいお布団、もう一組買わないとね?」

春紀「だなー。っつっても敷くところがな……まぁ、もう一組ならあたしの部屋に敷けなくもない、か?」

冬香「ギリギリだけど、うん、多分大丈夫じゃない?」

春紀「いつまでも冬香の邪魔するわけにもいかないしなぁ……」

冬香「もう一人増えたらお布団買うんでも全然いいよ?」

春紀「増える前提で話さないでくれ」


冬香「私、実は楽しみなんだよね」

春紀「何が?」

冬香「伊介さん、どんな人なんだろーって」

春紀「は……?」

冬香「よく話に出てくるでしょ?伊介さんって」

春紀「そうか?」

冬香「今日もお財布持ってきてくれたとき、首藤さん達に仲いいですねって言ったら寒河江と犬飼には負けるさって言ってたの」

春紀「なんだそりゃ……(あいつらぜってーーーーーしばく)」

冬香「犬飼って伊介さんでしょ?」

春紀「ま、まぁ……」

冬香「はーちゃんと同室だったんでしょ?楽しみだなー」

春紀「あのさ、あたしと伊介様は別に」

冬香「え」

春紀「なんだよ」

冬香「様付けて呼んでるの……?」

春紀「………あ………いや……………おう」


春紀「誤解すんなって。これはあっちがそうしろって言うからだぞ。特に深い意味はない」

冬香「自分で様付けで呼べって命令する人なの……?なんかイメージと違ったかも……」

春紀「あれで結構可愛いところもあるんだけどなー。きっと冬香が考えているような人ではないよ」

冬香「うん、っぽいね……」

春紀「わがままだし、高飛車だし、人の話きかないし、興味のあることしかしない人だよ」

冬香「最低じゃん」

春紀「うぃっす」


冬香「うーん、そっかぁー」

春紀「まぁそう言うなって」

冬香「はーちゃんそういうのがタイプなんだ……」

春紀「別にタイプとかそういうわけじゃないから。あまり神長達に言われたこと真に受けんなって」

冬香「はぁい。でもやっぱり、伊介さん、会ってみたいなー」

春紀「……ほら、寝んぞ」

冬香「うん。おやすみー」

少し外す

戻った


翌日 午後 市内にて



春紀「あー、こちら寒河江。見つかったか?どーぞー」

乙哉『こちら武智。あたしはいま駅前のロータリーにいるよ。見つからないよ、どーぞー』

しえな『ボクは北の外れにある整備工場にいる、ここにも気配はない。どーぞー』

首藤『ほんっとうにすまなんだ……ワシが香子ちゃんの言葉を信じたばっかりに……どーぞー』

春紀「いや。あたしらも神長が行方不明になる可能性を見落としていたからな。首藤だけのせいじゃないさ」

首藤『そうかそうか。じゃあもう落ち込むのはやめにするでの』

春紀「気にするなって言ったのはあたしだけどその返しはなんかムカつくな」


乙哉『それにしてもどこ行っちゃったんだろー。トランシーバーもケータイも通じないなんて』

首藤『香子ちゃんのことだから連絡取れていないことに気付いていない可能性も考えられるのう』

しえな『でも有り得るか?手分けして取引場所を特定しようってときに、仲間と連絡が取れないことに気付かないだなんて』

乙哉『しえなちゃんは香子ちゃんのこと、何もわかってない』

春紀「おい。って言いたいところだけど、今回ばかりは武智に同意する」

首藤『まぁそういうところが香子ちゃんの魅力なんじゃが?』ドヤッ

しえな『随分と嫌な魅力だな』

首藤『シリアルキラーに尻に敷かれてるお主に言われとうないわ、どーぞー』

しえな『ボクと乙哉はそんなんじゃない、いい加減にしろ。どーぞー』

春紀『お前ら神長の心配してやれよ』


乙哉『まさかとは思うけど、あたし達が逆に狙われてる、とかないよね?』

春紀「どういうことだ?」

乙哉『あたし達、場所のチェックで今日はみんなバラバラに行動してたでしょ?』

しえな『あぁ、そっちの方が効率がいいからな』

乙哉『向こうはあたし達がバラで行動するのを待ってた、とかさ』

首藤『………………さ、寒河江』

春紀『あんたの言いたいことはわかる……えっと、極まれにまともなこと言うんだ、こいつ』

首藤『そうじゃったか……驚いたわ……』

乙哉『二人ともあとで酷いからね』


しえな『しかし確かにその可能性は否定できない。向こうはこちらのデータを持っているんだろ?走りのあの口ぶりだと学園内部の人間が裏切って
情報を盗み出したって流れみたいだし、もしかしたらある程度腕には自信のある人物なのかも知れないな』

乙哉『でもそれで香子ちゃんを狙うっていうのが姑息だよね。あたしを狙ってくれればよかったのに』

春紀『お前はターゲットとヤりたいだけだろ』

首藤『ヤりたいって、お主……』

しえな『なんか乙哉に感化されてきたな、春紀も』

春紀『しばらく一緒に暮らしてると大概の事って慣れるらしいな、あたしも今の自分の発言に驚いた』

乙哉『……あたしや春紀さんを狙わないことに、何か意味があったのかな』

春紀「……?」

乙哉『首藤さんは何かしら体術を使えてもおかしくない。しえなちゃんはフェードアウト()しちゃったから実力がわからない。
あたしと春紀さんは戦うと分が悪いことが目に見えてる。だから香子ちゃんを……?って、考え過ぎかな』

しえな『おいいま絶対ボクのこと馬鹿にしただろ』

首藤『武智の言う事も一理ある。推測の域を出ないが、向こうが追われていることに気付き、先手を打とうとしている、と……』

しえな『無視するな!謝れ!』


春紀「……どうする?神長は西の方の担当だったんだよな?」

乙哉『あたしが行くよ。中心地にいるし、多分一番近いでしょ?』

首藤『いや、単独行動はマズいじゃろ。こういう時こそ冷静に、急がば回れ、じゃ』

乙哉『それはわかるけど』

首藤『じゃあそこで待っておれ。くれぐれも動くなよ』

乙哉『香子ちゃんのこと、助けたくないの?』

首藤『助けたいに決まっておろう!!』

春紀&しえな&乙哉『!?!?』

首藤『……すまなんだ。じゃがそれでワシらが取り乱せば、あちらさんの思うツボじゃ』

乙哉『…そだね』

しえな『今のは乙哉が悪いよ』

乙哉『うん、ごめんね』

しえな『あとさっきボクのことフェードアウト()って言った件についても』

乙哉『そうと決まればみんな早く来てね!あたし待ってるから!』

春紀「任せとけ!大急ぎで向かってやるさ!」

首藤『あまり遅いと置いて行かれるぞ?剣持』

しえな『おい!謝罪は!?』


10分後


乙哉「あとどれくらいかなー。みんな」

乙哉「それにしても……香子ちゃん、何もないといいけど……心配だな……」

乙哉「はぁ……今までのお仕事は何気に順調だったからなぁ……こんなの初めてだよ……」

ドンッ!!

乙哉「きゃあ!!?!?」

「だげぢーーーー!!」ギュー!

乙哉「香子ちゃん!!?!?」

神長「うわぁぁぁん」ギュウゥゥ

乙哉「ど、どこ行ってたの!??心配したんだよ!??」


30分後 駅前、喫茶店



春紀「はぁー………じゃあ説明してもらうぞ、神長」

神長「あ、あぁ。まず、私が誰かに襲われたりしたことはない。安心してくれ。何も取られてもいないし、後をつけられてもいないと思う」

首藤「とにかく香子ちゃんが無事で何よりじゃよ」サスサス

神長「心配かけてすまなかった……」

しえな「なんで首藤は神長の手をさすってるんだ?」ボソッ

乙哉「おばあちゃんってああいうことしてくるよね」ボソッ

しえな「確かに」

春紀「やめてやれよ」


神長「私が向かったのは西の工場だ。あのときはトランシーバーも繋がっていたし、わかるだろ?」

春紀「あぁ。電波が途絶えたのはそのすぐ後だ」

神長「結局工場はそれっぽい場所じゃないと判断したんだ。夜も稼働してるみたいだし、そうすると周辺は”静か”という条件から外れてしまうからな」

乙哉「うんうん、それで?」

神長「ただ、非常用の出入り口から忍び込んで、私は気になる光景を見かけた。それは倉庫群だ。調べる価値はあると思ってそこに向かったんだ」

首藤「なるほどのう。じゃが、そうであったならその段階で一言言ってくれてもよかったんじゃないかの」

神長「あぁ……すまない……冷静じゃなかったな」

しえな「で?そこに行ったんだろ?」

神長「そうだ。あの倉庫に着いてから連絡を入れ忘れていることに気付いた私はトランシーバーを手に取ったんだ」

春紀「なるほどな」

神長「そこで気付いたんだが、電波が無かった。ケータイの方も同様だった」

春紀「そのあとどうしたんだ?」

神長「せっかく来たからな。それにそんなおかしいことだとは思わなかった。街中でも何故か電波が悪いとこってあるだろ?」

首藤「まぁそうじゃが…」


神長「だから私はとりあえずその場所を調べる方を優先した。あの場所は条件に当てはまる場所だと思う。それを確認した私は引き返そうとしたんだ」

乙哉「………まさか、迷子になった、とか?」

神長「その通りだ」キリッ

しえな「それキリッってしながら言うことじゃないからな」

神長「すごく怖かった。辺りは全部似通った景色だし、思ったより広かったんだ、そこ」

首藤「なるほどな……香子ちゃん、その場所というのは地図で言うとどの辺りになるかわかるかの?」

神長「あぁ。武智、タブレットを貸してくれ」

乙哉「はぁーい」スッ

神長「この辺りだったよ。衛星写真にして…っと、ほら、ここに倉庫群が見えるだろ?これだ」

首藤「……」

春紀「どうした?」

首藤「いや、なんでもない。なるほどのぅ」

しえな「?」


その日の夜



神長「首藤、ちょっといいか」

首藤「なんじゃ?逢い引きか?」

神長「……なんでもいい、散歩にでも行こう」

乙哉「え!?お散歩行くの?あたし準備してくるから!10分待ってて!」

しえな「空気読めよ」


首藤「それじゃ、ちょっと行ってくるでの」ガラッ

しえな「あぁ。春紀には風呂から上がったらボクから伝えとく」

神長「多分すぐ戻るから」

しえな「うん?別にすぐに戻らなくてもいいんだぞ?」ニヤニヤ

神長「おっお前!何を考えている!///」

しえな「はは、冗談だ。ほら、あまりのんびりしてると乙哉がついて行こうとするぞ」

首藤「野暮な彼女にはしっかり首輪でもつけといてくれんかのう」

しえな「誰が彼女だ。いいから早く行け」グイグイ

神長「ちょ、押すなって」

ピシャン!!

しえな「これでよし、と」


夜道



神長「なぁ」

首藤「なんじゃ」

神長「お前、なんか隠してるだろ」

首藤「さぁの」

神長「首藤……」

首藤「ふふ、別に大したことではない」

神長「それなら」

首藤「大したことじゃないから言いとうないのじゃ」

神長「………」

首藤「それにワシの思い違いという線も否定しきれないでの」

神長「で、でも……それでも……」

首藤「………」


神長「私じゃ、頼りないか」

首藤「ワシは香子ちゃんを頼りにしとるぞ」

神長「だったら!」

首藤「サクセス!」

神長「今そうやってふざけるタイミングじゃなかっただろ、なんで男性用シャンプーのCMっぽくした」

首藤「正直スマンかった」


首藤「時がきたら話す。それまでワシを信じて待っていてはくれんか」

神長「……そういう言い方は、ズルいと思う」

首藤「ふふ、年寄りとは狡猾なものじゃよ、香子ちゃん」

神長「年寄りってなんだよ、喋り方が確かにそれっぽいけど、年齢は同じくらいだろ。そんな言葉で誤摩化されないぞ」

首藤「それはすまなんだ。こんなことばっかり言ってると嫌われてしまうかの」

神長「……それは、無いけど………」

首藤「………」

神長「……………」


首藤「……はっきりとは言えんがの」

神長「?」

首藤「ワシは、今回追っているジャーナリストに会ったことがあるような気がするんじゃ」

神長「なん、だって……?」

首藤「言ったろう?はっきりは言えん、と。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

神長「………」

首藤「これ以上、追求しないんじゃな」

神長「だって…首藤は、されたら困るんだろう?」

首藤「………そうじゃな」


神長「帰ろう。冷えてきた」

首藤「あぁ」

神長「今は無理でも、いつか聞かせてもらうからな」

首藤「あぁ、ワシも、いつかは聞いてもらいたいと思っとるよ」

神長「……」


神長「ただいま」ガラッ

春紀「おぉ、帰ってきたのか」

首藤「あぁ。武智と剣持は?」

春紀「二人とは罰として、いま一緒に風呂に入ってる」

神長「なっ!あの狭い風呂に、か?」

春紀「あぁ、そうだ。あの狭い風呂に、だ」

首藤「何をしとるんじゃ、あの二人は……」


春紀の部屋



首藤「で。一体何があったんじゃ?」

春紀「何があったなんてもんじゃないっつの。武智が剣持に抱きつこうとして飛びついたときに食器割ったんだよ」

神長「それ、剣持は一つも悪くない気が……」

首藤「そして風呂が一緒で嫌がるのも剣持、と」

神長「だろうな。武智はむしろ喜んでそう」

首藤「どこまでいっても不憫な奴じゃな……」


春紀「ま、武智は鋏もってなきゃ安全だろ」

神長「まぁ確かにな。嬲り殺しにしないと駄目なんだっけ?」

首藤「失血死がお好みらしいからの、まぁ何もないじゃろ」

ダッダッダッダッ  ガチャ!

春紀「!?」

しえな「助けてくれ!」ダキッ

春紀「うを!?お、おまっ!服はどうしたんだよ!」

神長「バスタオルでうろつくなって言われてるだろ」

しえな「そんなの着てたら」

乙哉「しえなちゃーん」

しえな「っぎゃーーー!!!!」


乙哉「……………………………………は?」

春紀「ど、どした?武智?」

乙哉「なんで春紀さんがしえなちゃんのことハグしてるの?それもほぼ全裸に近い形で」

春紀「アンタが風呂上がりの剣持を襲おうとしたからだろ!」

乙哉「しえなちゃんは春紀さんの方がいいんだ………?」

しえな「いや、どっちにもそんなつもりないっていうか……」

乙哉「あたしのお気に入りに手ぇ出すんだ?」ギロッ

春紀「…………………どうぞ」グイグイ

しえな「あっ!ちょっと!裏切り者!!」

春紀「か、勘違いすんな、あたしは元々協力するなんて言ってないし、っていうかあの状態の武智に逆らうなんて馬鹿のすることだろ!」

しえな「んな!」

乙哉「しえなちゃーん。痛いことしかしないからちょっとこっちおいでー♪」

しえな「痛いことしないなんて言っておいて……って、はぁ!?痛いことしかしないから!?そんなの言われて行くわけないだろ!」

乙哉「はいはい、いいこだねー」ズルズル

しえな「びゃーーーーーー!!」

春紀「びゃーーーーーーってなんだよ」


春紀「行ったな」

首藤「そうじゃな」

神長「可哀想に……」

首藤「武智もあれで顔とスタイルはいいからのう。せめて快楽殺人者じゃなければ剣持もそれなりに幸せになれた気がするが……」

春紀「でもあいつ、普通にそういうので満たされるようになっても、平気で気に入った女のことレイプしそう」

神長「わかる」

首藤「ワシも否定できんな。ま、死ぬよりマシじゃろ」

春紀「どっちにしろ剣持は究極の二択を強いられることになるんだな」


神長「明日はどうする?確か、ターゲットの生活拠点は取引後に尾行して探るんだろ?」

首藤「そうじゃな。そちらは武智が手配しているじゃろ。ワシらは今日の下見の結果を総合して張り込み場所を決めねばならん」

春紀「今日見回ってきたところの中では、神長が見つけた倉庫群が唯一条件と合致してるんだよな」

首藤「成る程。では武智が戻ってきたらタブレットを見るとしよう」

春紀「タブレット?」

神長「また調べものか?」

首藤「あぁ、昨日も見たじゃろ。あのサイトで確認したいことがあるんじゃ」

神長「……まぁそういうことなら仕方がないけど」

春紀「またあの気取り屋の文章読むのか……きつ……」

神長「文章一つで人をここまで不快にさせれるってすごいよな」

春紀「ある意味才能だよ、あいつ」


ガチャ


春紀「お、帰ってきたか」

しえな「お前らが助けてくれなかったこと、ボクは一生忘れない……!」

首藤「まあまあ。で?今回は何をされたのじゃ?」

しえな「切られたよ……」

神長「えっ……今まで体切られたことは無かったのに、か?」

乙哉「しえなちゃんったら大げさだよ」

しえな「あぁ!切られたよ!あのときお前らが助けてくれていれば無事だったかもしれないのに……!」

春紀「でも怪我してるようには見えないな……どこを切られたんだ?」

しえな「爪」

春紀「解散」

しえな「はぁ!?おい!解散ってなんだよ!ちょっと!?」

眠い。限界。おやすみ。

言い忘れた。
明日も来るけどかなり遅くなる。
そんじゃ。

帰ってきた。
それと、昨日言い忘れてた。
ハイランダー症候群は本来、見た目が老いないだけで寿命が長くなるワケではない(らしい)けど、
リドル公式から”首藤は普通の人間よりも寿命がはるかに長い”と設定が出ているので、
このSSではハイランダー=老いない&長寿、ということにして書いてる。

もうちょいしたら始めるけど、思ったより帰りが遅くなったので今日中の完結は多分難しい。


首藤「あれだけ騒ぎ立てておいて爪って……恥ずかしい奴じゃのう……」

しえな「なんでだよ!めちゃくちゃ怖かったんだからな!!」

神長「わかる……私もよく爪切ろうとして深爪し過ぎて流血するから……」

しえな「そんな事情で共感しないでくれ」

春紀「むしろ神長は武智に爪切ってもらった方がいいんじゃないのか……?」

乙哉「切らせてくれるの!?」ビュン!

神長「っひぃいぃぃぃ」

春紀「オイいま武智の奴、瞬間移動しなかったか…?」ボソッ

首藤「ワシにもそう見えた…」ボソッ


神長「そ、そうだ!武智、タブレットだ、タブレット」

乙哉「?持ってるけど、それがどうしたの?」

首藤「少し、確認したいことがあっての」

乙哉「??いいけど…はい」

首藤「しかしまた読み直すのは骨が折れるのぅ。致し方ないことじゃが」

神長「首藤は何が見たいんだ?場所に関する記載があった記事ならURLをメモしているぞ」

首藤「なんと!さすが香子ちゃんじゃ」

神長「べ、別に……///」

春紀「なんでだろうな、見ててイライラする」


10分後



しえな「……で?結局、新しい発見は無かったように思うけど」

首藤「そうか?お主の目は節穴じゃのう」

乙哉「酷いよ!そりゃ確かに変な眼鏡してるけど!」

しえな「お前の方がよっぽど酷いから。この眼鏡可愛いだろ、謝れ」

乙哉「ごめんぷー」

しえな「謝る気ないだろ!!!!!」


首藤「みんなはどうじゃ?何も思わなかったか?」

神長「…た、確かに、そうだな、うん」

首藤「やるのう香子ちゃん」

春紀「あ、あたしもわかったぜ」

首藤「そうじゃろうな。うんうん」

乙哉「あ、あたしも!なるほど!って感じ!」

首藤「おぉ、お主もか」

神長&春紀&乙哉「…………」

首藤「褒めたの返してくれ、3人とも」


首藤「いいか。此奴は現場から直接書き込みを一度もしていないのじゃ」

乙哉「現場…?」

首藤「そうじゃ。取引現場という意味じゃ」

しえな「言われてみればそうだな」

首藤「他の関係のない記事のことは覚えておろう?どこで何をしているのか、現場で直接記事を書いておることが何度もあったはずじゃ」

乙哉「それは覚えてるよー。高級レストランでフレンチを食べてるーとか、そういうのが色々あったよね」

神長「あぁ、思い出すだけで吐き気がする」

首藤「じゃが、取引の現場からの書き込みはない。それは何故か」

しえな「……なるほど!」

春紀「そういうことか…!」

乙哉「つまり現場ではそれくらい緊張感があった、ってこと…!」

神長&首藤&春紀「違う」


春紀「つまり、現場では何らかの事情で記事の更新が出来なかった。だろ?」

首藤「あぁ、その通りじゃ。待ち合わせ前に【これから情報提供者と接触する】くらい書きそうじゃからの、此奴なら」

春紀「だろうな。で、その記事が更新できない事情ってのは、おそらく……電波、だろ?」

乙哉「ってことは…香子ちゃんが見つけたあの場所…!」

首藤「そうじゃ。あの場所はおそらく正解じゃろうて」

しえな「やったな、神長」

神長「あぁ!」

乙哉「……あたしもあの場所怪しいと思ってたわー」

春紀「嘘つくなよ」


しえな「場所の特定は出来たな。あとは段取りだけど」

乙哉「ねぇ」

春紀「そうだな。午前中を準備にあてるべきなんだろうけど、必要なものを考えないとな」

乙哉「ねぇってば」

神長「たまたま迷い込んだあの場所が正解だったなんてな」

乙哉「ちょっと」

首藤「たまたまではないじゃろう。あの場所を怪しいと思えたのは香子ちゃんの嗅覚じゃ」

乙哉「いい加減泣くよ」


春紀「なんだよ、武智」

乙哉「あのさぁ。この人の更新の時間、おかしくない?」

しえな「そいつにはそいつの生活スタイルがあるだろ」

乙哉「いやそうじゃなくて」

神長「どうした?遂にアレか?」

乙哉「今の質問絶対に悪意あったよね」


乙哉「見てよ。間に他の記事がいくつか挟まってるから気づきにくいけど、【四日後に情報が入る】って4月21日になったばかりの0:08に
記事を更新してるのに、その四日後の4月25日の夜、23:03に【本日、◯◯議員の汚職事件について情報が入った】って言ってる」

しえな「こいつは情報を仕入れたらすぐに発信することを信条としている。別に不自然でもなんでもないだろ」

春紀「そうだよ、当たり前だろ」

乙哉「そうかな。春紀さんは犬飼さんから深夜零時過ぎに電話があって『明日駅前で待ち合わせね』って言われてたらどうする?」

春紀「例文なんとかしろ」

乙哉「答えてよ」

春紀「……寝て起きたら普通に待ち合わせ場所に行くよ」

乙哉「でしょ?普通、この場合の”四日後”って、24日を指すと思わない?」

神長「あっ……!」

乙哉「20日の気分で記事書いちゃうの普通だと思うけどなー。明け方とかならともかく、あたしはちょっと不自然に感じたね」

春紀「……」

神長「……」

しえな「……」

首藤「……」

乙哉「それ、『武智がまともなこと言ってる…』ってリアクションだったら端から順に切ってくからね」


首藤「確かに……成る程な……」

乙哉「もしかしたら、あたし達のターゲットは明日じゃなくて明後日ターゲットに接触するのかも。最新の記事に戻って」

しえな「そうだな、更新日付だけを見てあの時武智は”五日前”と言ってたけど、時間によっては…」

首藤「……!更新時間、0:12じゃ」

乙哉「ということは…」

神長「あぁ、取引が行われるのは明日ではなく、明後日、ということか」

乙哉「ま、あくまで可能性の話だけどね。もしかしたら何か事情があって接触する日がズレただけかもしれないし」

春紀「確かになぁ。でも、こいつの場合、それは有り得なさそうだな」

しえな「だな。そんなことがあったらまたブログで【本日仕入れるはずの情報が諸事情により~】なんて記事を書きそうだ」

乙哉「うわぁー……やりそー……」


首藤「じゃが、一応明日もその現場で張り込みはしようじゃないか」

乙哉「あたしもそれがいいと思う。ただ、明日何もなくても想定内ってことだね」

春紀「だな。むしろその可能性の方が高そうだ」

しえな「明日も今日と同じように分かれて、この倉庫群に入るルートの見張りをしよう」

首藤「そうじゃな。幸い港に面しておるから、ルートはある程度絞れる筈じゃ」

春紀「だな。あ、もちろん手は抜くなよ。ただしバレそうな武器もアウトだ」

神長「爆弾は武器に入るか?」

首藤「構わんが、30cm未満のものだけじゃぞ」

春紀「遠足のおやつじゃねーんだぞ」


乙哉「ここならバイクも隠せそう」

しえな「ストリートビュー便利過ぎだろ」

春紀「まさかグーグルもこんな使い方されると思ってないだろうな……」

神長「本当にターゲットの始末をお前に任せていいのか?」

乙哉「もっちろん!」

首藤「では、武智はこの場所を動けんということになるのぅ」

春紀「だな。バイクから離れ過ぎて出遅れても意味ないし。ここから見張りをしてもらうことになるな」

乙哉「まかせて!」

神長「で、私達はそれぞれどの倉庫で取引があるのかを取引開始前までに突き止める、ということになるな」

首藤「かなり広いからの。ある程度目星をつけて行こうかの」

しえな「どういうことだ?」


首藤「端から順にローラー作戦をするよりも、使われていそうなところから探して行った方が早いということじゃ」

しえな「なるほど。優先順位を決めてそこからつぶしていくのか」

首藤「そうじゃ。もちろん、状況によって回る順番は変えても構わない」

乙哉「そうだ!じゃあさ、明日バイク取りに行くついでにみんなにタブレットも用意してもらってくるよ!」

春紀「はぁ?どうすんだよ、そんなもん」

乙哉「みんなでペイント機能付きの地図を共有するんだよー」

春紀「……?」

乙哉「春紀さんってそういうの疎いよね、原始人みたい」

春紀「デカい石のお金で殴り殺すぞ」


乙哉「登録した地図を共有できるアプリっていうのを見た事があるんだよね。元は道案内に使うアプリっぽいけど」

春紀「便利なもんだな」

乙哉「チェックし終わった倉庫に印をつけていけば、同じところを回らなくて済むし、いいと思わない?」

首藤「確かにそれは名案じゃ。アプリの使い方に関してはまた明日、タブレットを受け取ってから覚えるとしよう」

神長「今度は迷子にならなければいいんだけどな……」

しえな「そういえば迷いやすいんだっけな。ボクも気をつけないと」

首藤「お主はバイク付近の倉庫をいくつかチェックするだけで良いぞ」

しえな「へ?」

神長「どうしてだ?使えないからか?」

しえな「さらっと酷いな、お前」


首藤「違う違う。武智がターゲットのところへ向かう時に一緒に行かんのか?」

神長「あぁ、そういうことか」

春紀「確かに、武智一人っていうのも心配だしな」

しえな「そ、そうか?」

乙哉「駄目だよー」

しえな「へ?」

乙哉「駄目。あたし一人で平気だよ」

春紀「でも」

乙哉「倉庫は広いんだよ?本当は4人でも全然足りないくらい。あたしの方に人手を割くくらいなら絶対倉庫にいた方がいいよ」

首藤「そうか……」

神長「お前、わりとそういうのシビアに考えられるんだな」

乙哉「まねー♪」

しえな「……しくじるなよ」

乙哉「やだなー。あたしが綺麗なお姉さんの前でヘマするわけないじゃん」

春紀「これ、晴ちゃんのことつっこんだ方がいいのか?」

首藤「いや、そっとしておこう」

乙哉「優しさがつらい」



しえな「かなり忍耐強く待たないといけないかもな」

乙哉「だろうね。明後日だったとしても明後日の0時過ぎに取引をするのか、20時に取引をするのか、でかなり違ってくるもんね」

春紀「冗談抜きで携帯トイレとか持ってくか?

首藤「もよおしたら海にすればよかろう」

春紀「ワイルドだな」


乙哉「明日はあたしが朝に家を出てバイクをとってくるから。みんなは各自準備しててね」

神長「わかった、準備(睡眠)しておくな」ニコッ

乙哉「いくら香子ちゃんでもそれは怒るかなっ」ニコッ

しえな「ボクは特にないな。規則正しく寝て起きて、体調が悪くならないようにしないとな」

首藤「ワシもじゃ。明日は武智がバイクで帰って来てから、皆別々に家を出ようではないか」

春紀「なんでだ?」

首藤「現地で散り散りになるところを万が一目撃されておったら、目も当てられなかろう?」

神長「確かに……かなり間抜けだ……」

春紀「じゃあそれでいいな。あと、適当に目立たない格好してこいよ?」

しえな「あぁ、もちろん」

乙哉「あたしはバイク乗りやすい格好でなんか考えないとかー、うーん」


神長「ずっと言おうと思ってたんだが、誰も言わないからいいか?」

首藤「なんじゃ?」

神長「電波について何かしら対策をとらないと、きっと明日はトランシーバーもタブレットも使えないと思う」

春紀「そういえばそうだったな…」

首藤「もしかしたらジャミング装置があるのかもしれない。あった場合、それを壊せば電波は復活するじゃろうが」

しえな「一発でアウトだろうな。ボクらのことが勘付かれる」

首藤「じゃろうな」

春紀「ジャミング装置ってなんだ?」

首藤「電波を妨害している装置が設置されているようだ、という話じゃ」

春紀「なるほどなー。じゃああたしらだけで使える電波とか飛ばせないのか?」

首藤「………………」

しえな「……………いけるかもしれないな」

春紀「マジ?じゃあそれで決定じゃんか」

神長「武智、装置を学園から借りることは?」

乙哉「あたしもよくわかんないけど、そういうものがこの世に存在するなら可能なんじゃない?多分」

神長「なるほど……電波の対策が取れそうなのは有り難いな」

首藤「香子ちゃんは迷子になるからのう」

神長「あぁ///」

春紀「あぁ///じゃねーよ」

今日は寝る
明日は日付変わる前に帰ってこれると思う
おやすみ

帰ってきた
再開する


翌日 夕方



春紀「こちら寒河江。あたしはもう持ち場についてる。あんたら首尾はどーだ?どーぞー」

首藤『こちらは問題無しじゃ。どーぞー』

春紀「そーかい、他のみんなはどうだ?」

乙哉『あたしは周辺適当にバイクで流してるよー。暗くなってからこっそり駐輪しにいくねー』

春紀「了解。気を付けろよー」

しえな『ボクは西側から倉庫に向かってるところだよ。神長はもう連絡つかないのか?』

春紀「あぁ。もう装置の取付け倉庫群に入ってるぜ。このまま上手くいけばいいんだけどな」

首藤『おそらく問題ないじゃろ。香子ちゃんはやる時にやる子じゃ、ドカンとな』

春紀「ドカンとなったらマズいんだよ!!!」


神長『あー、こちら神長。聞こえるか?』

春紀「おぉ!聞こえる!装置の設置に成功したんだな」

神長『あぁ。おそらくこれで、トランシーバーとタブレットの電波だけ復旧しているはずだ』

首藤『なるほどの』

春紀『ケータイは?』

神長『ケータイは使えないままだ。私のケータイが圏外だから間違いない』

乙哉『香子ちゃんやっるー♪』

しえな『これで動きやすくなったな』

春紀「それじゃ、ターゲット及び例のジャーナリストの捜索を本格的に始めるぞ」

乙哉『がってん!』

春紀「お前はバイクだろ」

乙哉『気分だけでも一緒にと思って!』

しえな『はぁ……』


30分後



春紀「どんな感じだ?」

首藤『それらしき人物は見当たらんのう』

しえな『ボクもだ』

神長『まぁ、まだ夕方だしな』

春紀「ん?今なんか人影が……っと、今のは首藤か……?」

首藤『????おぉ、なんじゃ、すぐそこにいたんじゃな』タンタンッ

春紀「ホントだ。タブレット見てればすぐわかったのにな。まだ慣れないな」

乙哉『でも便利だよねー。まさかみんなの位置まで把握できるとは思ってなかったよー』

神長『そうだな。走りには感謝しないとな』

乙哉『それはどうだろ?あたし達報酬無しだし、どっこいってところかなー』


しえな『異常なし、と……』スッ…トン…

春紀「そこも異常なしか」

神長『………こっちもだ。印つけとくな』トントンッ

首藤『しかしなかなか大変じゃのう』

春紀「ま、仕方がないだろ」

神長『疲れたら無理をしないで休んだ方がいい。きっと長期戦になる』

春紀「あぁ。ただしその場合は人目につかないところにちゃんと移動しろよ……オイ!地図の端にうんこ描くな!」

首藤「剣持……お前って奴は……タブレット如きで浮かれ過ぎじゃ……」

しえな「ボクじゃないだろ!!文字の色でお前だっていうのは分かってるんだからな!首藤!!!」


しえな『にしても、そろそろ暗くなるぞ?あれつけとくか?』

神長『あれって、暗視スコープか?』

しえな『あぁ。乙哉がせっかく用意するように言ってくれたんだし』

乙哉『あたしったら気が利くよねー』

春紀「そうだな、完全に暗くなる前につけるか。思ったより人通りもないし。特に怪しまれることもないだろ」

乙哉『こういう無視、一番悲しい』


首藤『これ、付け方がわからんのう…』

春紀「こっちに来い。あたしが付けてやるよ」

首藤『おぉ、すまんのう。寒河江は……ここを曲がったところにおるのか』ヒョコッ

春紀「おっ、いたいた……って、オイ!!」

首藤「なんじゃ?」

春紀「なんだよその格好!!!」

首藤「何って…目立たない格好じゃが…?」

春紀「目立ちまくりだよ!!なんのつもりだよ!!」

乙哉『え?首藤さん変な格好してるの?現地で着替えるって言ってたけど…?』

首藤「変なものか。これは黒衣といって」

春紀「倉庫群に黒衣がいたらおかしいだろ!着替えてこい!!」


10分後


首藤「結局いつもの格好に戻ってしもうた…」

春紀「あんな変な格好より千倍マシだ」

首藤「かなり前に買って一度も出番がなくて、ようやっと着れると思ったんじゃが…」

春紀「なんでそんなもの買ったんだよ…数年前のアンタを叱り飛ばしたい気分だぜ…」

首藤「数年前?……あぁいや、なんでもない」

春紀「?」

首藤「スコープはこうやって被ればいいんじゃな?」

春紀「あぁ。それでここのスイッチで…どうだ?」カチッ

首藤「おぉ、よく見えるぞ。お前さんの下着までバッチリじゃ」

春紀「透視じゃなくて暗視スコープだからな、それ」


春紀「それじゃ、お互い持ち場に戻るか」

首藤「じゃな。またあとで」

春紀「おう。……まさかとは思うが」

乙哉『どうしたの?』

春紀「いや、あんたら……まさか各自変な格好してる訳じゃないよな?」

乙哉『まっさかー。あ、ちなみにあたしはライダースーツ着てるよー』

春紀「なるほど、まともだな」

神長『私もだ』

春紀「え?」

神長『ライダースーツ』

春紀「おかしいだろ!!!!!!!!!」


しえな『神長…お前……着替えとけよ?』

神長『そんな……』

しえな『はぁ…お前ら、ちょっとはボクを見習ったらどうだ?』

春紀「あんたはどんな格好してるんだ?」

しえな『普段着だよ』

春紀「なるほど、比較的まともだな。目立たない格好にしろと言ったが、まぁ元々地味だからいいか」

しえな『今のイジメだからな』


乙哉『でも、家出る前にサングラスとか用意してなかった?』

春紀「!?」

しえな『あぁ、サングラスとマスクとニット帽被ってる』

首藤「それは逆に目立つじゃろ」

しえな『お前にだけは言われたくない』

春紀「お前ら目立ちたがり過ぎだろ」


数時間後



乙哉『ねーーーまぁだぁーーーーーーー?』

春紀「あたしに聞くな。それにそろそろ日付が変わる頃だ。もう少しの辛抱だろ」

乙哉『そんなのわかんないじゃん。もしかしたら日付が変わって20時間後とかかもよ?』

しえな『その為に仮眠の時間も割り振ったんだ。長期戦になるのは承知の上だろ。つべこべ言うな』

神長『事前の見回りで一箇所だけ鍵の開いてる倉庫があったろう?やはりそこが怪しいと思う』

春紀「だな。ただ、ダミーやたまたまだったって可能性もある。気は抜くなよ」

首藤『あぁ。わかっておる』

神長『あっ!!……ターゲット発見!!』

首藤『何!?』

春紀「神長、追ってくれ!」

神長『いまカロリーメイト食べてるから無理』

春紀「いいから走れ馬鹿」


神長『ターゲットが例の建物に入ってく。やはり鍵の開いていた倉庫だ。念の為、場所はタブレットで確認してくれ』トントンッ

春紀「おう、あたしは到着までに結構時間がかかりそうだ。剣持と首藤は?」

しえな『ボクは比較的近いな。すぐ向かう』

首藤『発見したのはターゲットの方じゃ。くれぐれもあの気取り屋には見つからんようにな』

しえな『あぁ、わかってる!』ダッ!

乙哉『楽しそー。ね、あたしも行っていい?』

春紀「作戦が台無しじゃねーか」


神長『窓から中が確認できる位置まで来た』

しえな『ボクもだ。神長とは違う位置にいる』

春紀「よし、そのまま待機してくれ」

首藤『ワシは入り口に向かう。寒河江は二人がマークしていないところを頼んだ」

春紀「あぁ、任せとけ」

乙哉『あたしは!?』

春紀「だからそこで待っとけっつってんだろ」


春紀「着いた…神長、剣持、中の様子は?」

神長『…私の見間違いだろうか』

しえな『あぁ、ボクもそう思っていたところだ』

春紀「はぁ?」ヒョイッ

首藤『どうしたのじゃ?』

春紀「……!!」

神長『寒河江も気づいたか』

春紀「あぁ…あたしには、どう見てもあのブログのオッサンがいるようには見えないな」

乙哉『どういうこと?』

しえな『どこから入ったかは分からないが、女がいるんだ。ターゲットの他に、若い女が一人』

乙哉『なにそれ!!聞いてないよ!ズルい!!』

春紀「怒るなよ」


神長『あの女はいつどこから入って来たんだろうか……』

春紀「さぁな……東の方はかなり道が多いからな、カバーしきれなかったんだろう」

しえな『しかし、ボクらのことを察知していれば取引は中止にするはずだ』

首藤『うむ。ここまではセーフ、今の状況がそれを物語っておる、ということじゃな』

神長『とりあえず物音は立てるなよ。くれぐれも慎重に、な』

首藤『わかっておる』

しえな『っ!!』ブッ

春紀「剣持、何やってんだ。静かにしろってあれほどブフッ!!」

神長『 う ん こ を 描 く な 』

首藤『剣持、寒河江、アウトーじゃな』

春紀「首藤お前ホントにいい加減にしろ」

しえな『ふっ……ははっ……うんこって……ははは』

春紀「剣持が戻って来れなくなっただろ!」


10分後


首藤『……どうやら受け渡しが終わったようじゃの』

春紀「あぁ。そうみたいだな。情報の確認も済んだみたいだ」

神長『とりあえずはあの女の持ってるパソコンの破壊をすればいいのか、私達は』

しえな『だな。にしても、ジャーナリストに仲間がいるなんて聞いてないぞ』

首藤『いや、それはどうかの』

春紀「?」

乙哉『わーお』

神長『どうしたんだ?』

乙哉『タクシーが来たよ。多分、これに乗って帰るつもりじゃないかな、ターゲットの人』

春紀「もう片方の女かも知れないだろ。追う時は慎重にな」

乙哉『わかってる。でも丁度良かったかも。歩きよりも尾行しやすいや』

首藤『確かに、徒歩に対してバイクじゃ気付かれてしまいそうじゃのう』


しえな『ターゲットの女、出てったな……』

春紀「武智、どうだ?ターゲットはタクシーに向かったか?」

乙哉『うん、いま乗ってるとこ。あたし、このまま追いかけるね』

首藤『うむ、頼んだぞ』

神長『任務自体はお前の手に掛かってるんだ』

乙哉『わかってるって』

しえな『本当にボク、ついていかなくて平気か?』

乙哉『いーのいーの、しえなちゃんはそっちの仕事に専念してね。それじゃ』ブゥン!!

春紀「……なんか変だな、アンタ。普段は剣持にべったりなのに」

乙哉『なんでだろーねー……実はしえなちゃんにはあたしがヤってるとこ、あんまり見られたくないんだ』

しえな『……?』

乙哉『それじゃ、あたし行くから』ブゥゥゥウン!!

春紀「気をつけてなー」

しえな『……帰って、来いよ?』

乙哉『あったりまえじゃん!』


神長『さて、あとはこっちだけど』

春紀「?人影……?誰だ?」

しえな『あれ、首藤じゃないか!?』

春紀&神長『はぁ!!?!?』

首藤『すまんの、いざとなったら援護頼む。それまでは……手出し無用じゃ』

春紀「おい!首藤!?」

神長『何考えてるんだ!』


首藤「やぁ、お嬢様。こんなところで奇遇じゃのう」

「!!?」バッ!

首藤「動くな。そのデータとパソコンを大人しく渡してはくれんか」

「……貴方は!」

首藤「久しぶりじゃの」

「そんな……まさか…………………えぇ……もう、50年振りくらいですか」

首藤「あのインタビューを受けてから、もうそんなに経つのか。感慨深いのぅ」

「そうですよ。私は……あなたのこと、ずっと想っていました」

首藤「大げさな奴じゃのう。ワシのことなんて翌日に忘れてくれて構わなかったのに」

春紀『50年……?』

神長『なんの悪ふざけだ…?』

しえな『どうしよう、ついていけない…』


首藤「あの頃の場所と変わらないところで取引をしてるんじゃな」

「えぇ。ここが好きなんです。倉庫群になってしまった今でも」

首藤「昔は料亭があったはずじゃが、見る影もないのう。お主を追ってる途中、同じ場所だと気付けなかったほどじゃ」

「料亭は30年程前に取り壊されましたよ。周りも開発が進んで、そうですね。残っているのは、海くらいですね」

首藤「そうじゃったか……」

「私はあなたにこの場所で取材をしてから、ずっとこの場所を情報の取引の現場として使ってきました」

首藤「なんじゃ、そんなにここが気に入ったか」

「いいえ。ただ、この場所はあなたが指定してくれた場所でしたから」

首藤「……ワシの方からじゃったか?覚えとらんのう……それにしてもそんなことを50年も引き摺っていたのか。いま流行りのメンヘラというやつか?」

「ふざけないでくださいよ、私は本気なんです」


首藤「お主の言ってることをあの時も疑いはしなかったが、こうして目の当たりにすると驚きじゃの。いやぁ、懐かしいのぅ」

「あの時も私は言った筈です。私達は唯一、時間を共有できる存在なのだと」

首藤「そうじゃったか?すまんのう、ワシは少々忘れっぽくていかん」

「白々しい……あの時、あなたは忘れられない人がいると、そう言って私の手を取ることはなかったのに」

首藤「さぁの。言ったろう?そんな昔話をされても、もう忘れてしまったと」

「……」

神長『二人は何の話をしているんだ?』

春紀『さぁな。ただ一つ言えるのは、二人の会話が本当なら…』

しえな『首藤…ばばくさいとは思っていたが、本当に…』

神長『今そういう言い回しするの反則だろ!』


首藤「すまんのぅ。ワシも、こればっかりは譲れんのじゃ」

「だけど、この情報は」

首藤「黒組のデータも入っているのじゃろう?」

「どうしてあなたが黒組のことを…?」

首藤「簡単な話じゃ。ワシがその生徒じゃったから」

「!」

首藤「さぁ。データを渡してもらうぞ」

「……あなたに、私が撃てるんですか」

首藤「撃つと言ったじゃろう」

「同じ苦しみを抱えている者同士、あなただって気づいているハズ」

首藤「………」

「確かにハイランダー症候群を抱えて生きているのは私達だけじゃない。だけど、数少ないこの病の同志を」

首藤「それはお主じゃろ」

「………は?」


首藤「その病を抱えて生きている同志を探しているのも。長年探してもワシ以外に同志が見つからないのも。……お主の方じゃろ」

「わ、私は……」

首藤「一体何の為にジャーナリストをしておるのじゃ。仲間を見つけて傷を舐め合う為か」

「それは違う!私は、人より長く与えられた命を以て、真実を見つめ続けたかった……!その途中で命を落とすなら、それは本望だって、そう思っています」

首藤「……50年前と同じことを言うんじゃな」

「……やっぱり覚えてるんじゃないですか、前に会った時のこと」

首藤「おっと、やぶ蛇じゃったな」

春紀『……今更だけど、ハイランダー症候群ってなんだ?』

しえな『聞いたことがある……老いない病だ。羨ましいと言う奴もいるかもしれないが、辛いだろうな。周りに取り残されていくなんて』

神長『………そうか、首藤。お前は……』

春紀『神長も知らなかったのか』

神長『あぁ。実は昨日、夜に散歩に行った時にそれを聞いたんだ。ジャーナリストのこと、何か知っているようだったから。でも、はぐらかされてしまった』

しえな『そうだったのか……』

春紀『剣持と武智が皿割る漫才してるときにそんなことがあったのか』

しえな『漫才言うな』


神長『ジャーナリストとの繋がりを詳しく話してもらえなかったのは、きっと病気のことがあったからだな』

しえな『だろうな……』

神長『……』

春紀『まぁ、そんな落ち込むなって。きっと首藤にも考えがあったんだろ』

「このデータを壊して、私に何のメリットがあるんですか」

首藤「……………………」

「確かにあなたは今、引き金に触れている。だけどそれは私も同じこと」

首藤「どういうことじゃ」

「ボタン一つで私の自宅PCと影武者のPCにデータ送信できるようになっているのです。貴方がその指を動かすなら、私もそうするまで」

首藤「………影武者とは、あのブログの男か」

「えぇ。彼で3人目です。”ハイランダー症候群の可哀想なジャーナリスト”としてメディアに晒されるのは御免ですからね」

首藤「なるほど、時が経ったら引退させて別の影武者を探すということか」

「その通りです。というかブログ、読んでたんですね」

首藤「お主を捕まえるために、参考にさせてもらったぞ」

「そうですか……で?どうします?何か分かりやすい条件を提示していただけると有り難いんですが」


首藤「………」

「………黙ってちゃわかりませんよ」

首藤「…………どうせ、金品なんて受け取る気はないんじゃろ」

「察しがいいんですね。やっぱり好きです、あなたのこと」

首藤「………はぁ。変わり者め。まぁ………よいか」

「?」

神長『………?』

首藤「ワシはお主と共に生きよう」

春紀&しえな&神長『!?!?』


首藤「じゃから、そのデータを抹消してくれ」

「………!!」

しえな『お、おい。神長はいいのか……!?』

首藤「お主が望んでいるのは、こういうことじゃろ?」

春紀『さぁな……って、オイ!神長はどこ行った!?』

「……えぇ、その通りです」

しえな『そっちの窓に……って、いない!?』

首藤「……じゃあ、壊させてもら」

神長「ちょっと待ったぁーーーー!!!」バァーーン!!

「!!?」

首藤「香子、ちゃん………?」

春紀『なんだよ、この”結婚式に乱入する元カレ”みたいな流れ』

しえな『今わりと真面目なシーンだったろ、そういうこと言うなよ』


春紀『で、だ。あたし達完全においてけぼりだけど、どうする?』

しえな『帰ってテレビでも観るか』

春紀『賛成しそうになっただろ、やめろ』

しえな『だってそうだろ?ボク達は』

春紀『っぶねぇ!!!!』ザァァァ……!!

しえな『春紀!?大丈夫か!?何があった!?』

春紀『平気だ。ただの気取り屋、いや、違うか。影武者に喧嘩売られただけ、だから』

しえな『気取り屋……?あのブログの男か!この場にいたのか……!』

男「ちっ……!女だと思って油断してしまったようだな。しかし手加減はしない。何かあった時に動くのは契約なんだ、悪く思わないでくれ」バチィッ!

春紀『はっ、あたしにスタンガンで対抗しようってのかい?面白い……』

男「かすっただろう?ダメージは小さくないハズだ」

しえな『……!』ダッ


「誰ですか、あなたは」

神長「私は神長、同じく黒組の生徒だった者だ。悪いが、首藤は渡さない」

「渡さない?すぐに彼女を置き去りにしてしまうくせに、何を寝ぼけたことを言って」

神長「私は首藤を置き去りにしたりしない」

首藤「香子ちゃん……」

「あなたは大人になっていく。だけど私達は」

神長「体のことなんかどうだっていいだろ」

「大体、あなたは彼女のなんなんですか?急に入って来たりして……ずっと見てたんですね、いい趣味してますよ」

神長「何って言われても……私ってなんなんだろうな」

首藤「さぁのう。嫁か旦那か、好きな方を選んでくれていいぞ」

神長「え!?そんな二択!?」

「真面目な話してんのにイチャつかないでください」

神長「首藤はどっちがいい?」

「聞けよ」

首藤「嫁かのう。香子ちゃんはカッコいいしのぅ」

「オイコラ」

神長「えへへ……///」

「えへへじゃねーよ」


「と、とにかく、二人がどういう関係なのかは大体把握しました。だけど、それなら尚更譲れません」

神長「……別にそういう関係ではないけど、ま、いっか」

首藤「すまんな、香子ちゃん」

神長「へ?」

首藤「お別れじゃ」

神長「……でも」

首藤「クローバーホームのこと、知られたらどうするつもりじゃ?」

神長「そ、れは……」

首藤「気に病むでない。ワシがワシの意志ですることじゃ。香子ちゃんのせいではない」

神長「別に、初めからそんなこと気にしてない」

首藤「そう、か。少々厚かましいこと言ってしまったかの」

神長「違う。私は、首藤に申し訳ないとか、ではなくて……」

首藤「?」

神長「私が嫌なんだ。お前と離れるの」

首藤「香子ちゃん……!」


春紀「くっそ……」ハァ……ハァ……

しえな「春紀!大丈夫か!」タッタッタッ

春紀「剣持か。あぁ……体が思うように動けば、こんな雑魚……」

男「ちっ、連絡取り合ってた仲間ってのは貴様か!」

しえな「だったら何だ!お前はボクが相手をする!」

男「地味眼鏡キャラに負けるなんて有り得ない、この勝負もらったな」

しえな「倒して終わりにしようと思ったけど、お前絶対殺すから」


男「はっ、隙だらけじゃないか!全身がら空きだ!首にこいつを当てたらどうなるかな!」シュッ!

しえな「………あぁ、空けてあったからな」

男「何!?」バチッ!!

しえな「ボクにこんなスタンガンは効かない」ババババ!!

男「なっ」

しえな「お返しだ。このスタンガンの威力、その身で体験してみろよ」サワッ

男「うわあぁぁ!!?!?」バチバチバチ!!

ドサッ

しえな「触っただけでノックアウトなんてな、情けない」

春紀「……お前、一体」

しえな「伊達にいじめられてなかったってことさ」

春紀「どんだけハードなイジメされてたんだよ」

しえな「このスタンガンが効かなくなる程度には」

春紀「抱き締めていいか?」


神長「なぁ、アンタ。他に望みはないのか」

「……」

神長「お前らが何十年前に知り合ってようと、私の知ったことではない」

「なっ…………!!」

神長「……首藤のことは、どうしても譲れないんだ」

「………」

神長「………」

首藤「………」

「はぁ。わかった」

神長「……?」

首藤「どういうことじゃ?」

「なら、あなた方がどこまでやれるのか、見せてください」

神長「……は?」

首藤「それって……」


「大体、神長さんの秘密を守るために首藤さんが私と過ごすって、そんなの嬉しくないですし」

首藤「主の立場になってみれば、そりゃそうよのぅ」

「だから、有言実行してみせてくださいな。ずっと一緒にいるんでしょう?」

神長「……」チラッ

首藤「……ワシは、構わんが」

神長「私だって、望むところだ」

「もし失敗すれば。そのときは私が首藤さんを頂きますので、そのつもりで」

首藤「ほう。こんな美人に取り合いされるなんて、ワシもまだ捨てたもんじゃないかのう?」

神長「何ふざけてるんだ。……お前はそれでいいのか?気取り屋ジャーナリスト」

「もうちょっとまともな呼び方で呼んでください」

神長「ジャーナルシスト」

「殺すぞ小童」


「首藤さんが困ること、私にはやっぱりできませんしね。ミョウジョウグループの他にも追っている組織はいくつかありますし、今回は手を引きます」

首藤「ま、あれだけ大きな組織じゃ。お主がやらなくても誰かが目をつけるじゃろ」

「ですね。……あれ?それだと困るんじゃ」

神長「そっちはそっちで対策済みだ。とりあえずは、な」

「そうですか。……じゃ、具体的な話に入りましょうか」

首藤「なんじゃ?」

「まず、このパソコンはどうぞ破壊してください」

首藤「あぁ、そうさせてもらおうかの」

神長「私がやろう。銃よりも爆破の方が確実だろう」

「壊していいとは言いましたけど、まさか木っ端微塵にされるとは思いませんでした」


「あと、私から提示したい条件がもう一つあります」

首藤「なんじゃ?」

神長「私達にできることなら、なんなりと」

「定期的にお二人の取材をさせてください。いつかお二人のこと、本にでも出来たら…」

首藤「……それは、構わないが」

神長「お前、首藤が好きなのにつらくないのか……?私だったら絶対に嫌だな……」

「やめろやそういうの置いといて頑張ってジャーナリストとして振る舞ってんだからほっとけや」


春紀「たたた……」

しえな「春紀、立てるか?」

春紀「あぁ……ったく、情けないな……」

しえな「まぁ、背後を取られたのは確かに不覚だったな」

春紀「全くだ。あんたがいなかったらどうなってたことか。ありがとな」

しえな「別に。ボクはボクの仕事をしただけだ」

春紀「……そういえば、武智の方はどうなってるんだろうな」

しえな「さぁ。さっきから武智の通信だけずっと赤になってるんだ」

春紀「どこまで行ってるんだ?あいつ」

ドゴーン!!!!

春紀&しえな「!!?!?!」

春紀「今の、神長達か!?」

しえな「行こうっ!」ダッ


神長「あー…………………まぁ、なんというか、すまん」

「…………」ポカーン

首藤「ふっ……あははは、香子ちゃんらしいのう」

神長「首藤、馬鹿にしてるだろ……」

首藤「まさか、褒めておるのじゃ」

春紀「おい!今の爆発は!!」

神長「すまん、少しやり過ぎた」

「あなた方は……?」

しえな「説明はあとだ!逃げるぞ!」

首藤「ふむ、やはりそうなるよのう。ワシらは逃げるが……お主はどうする?」

「もちろん、一緒に行きますよ」

春紀「外で伸びてるオッサンがいるんだけど、どうしたらいい?」

「放置で構いません。爆発には関わっていませんし、あとでどうとでもなるでしょう」

神長「じゃ、行くか」

しえな「こっちだ!」


一方その頃



‐今おつり出すんでちょっと待っててくださいね

「結構よ。とっておいて」

‐……まいど

バタンッ

ブロロ……

「……」スタスタ

乙哉「オートロック付き、か。ふぅん」

乙哉「……郵便物のチェックなんてしなきゃいいのに。そんなことしてたら……」

乙哉「あたしに部屋番号バレちゃうよ?おねーさん♪」

乙哉「あ、もしかして誘ってるのかな?……なんてねー」

乙哉「さーてと、目立たないところにバイク停めてこよーっと」ブゥゥン……


マンション エントランス



乙哉「えーと、押してた番号はこれかなー」ピッピッピッ

乙哉「……あれ、違う」

乙哉「……あ、最初にエンターボタン押さないと駄目とか?」ピッピッ

ウィーン……

住人「………」スタスタ

乙哉「!!!」

乙哉「………」スタスタスタスタ……

乙哉「………(びっくりしたー…でも、中に入れちゃったよ。ラッキー♪)」


404号室前



乙哉「……」ピンポーン

乙哉「……」サッ

乙哉「……」

ガチャ

乙哉「……」

ターゲット「……誰もいないの?」

バタンッ

カチャカチャ……

ガチャ

ターゲット「………」キョロキョロ

バァン!!

ターゲット「!!?!?」

乙哉「やっほー♪遊びに来たよ、おねーさん」


室内



乙哉「へー、散らかってるねー。っていうか段ボールばっかりー。引っ越しの準備かなー?」

ターゲット「離して」

乙哉「駄目だよ、おねーさんったら。あんな簡単にドアチェーン外して扉開けちゃ、ね?」

ターゲット「……インターホンで見たとき居なかったけどどこにいたの?」

乙哉「どこって、丁度近くにあった柱に隠れてただけだけど?」

ターゲット「……」

乙哉「あとはわかるでしょ?そのあと、おねーさんが扉開けにくるまでにドアの丁番側に移動したの」

ターゲット「……で、私がチェーンを外して扉を開け直すまで待ってた、と」

乙哉「あったりー♪」

ターゲット「子供騙しに引っかかった自分が恥ずかしいわ。で?私になんの用?」


乙哉「んー、おねーさんはあたしのこと知らない?」

ターゲット「知らないわよ」

乙哉「そっかー。あたしはおねーさんのこと知ってるよー?山田華子さん、だよね?」

山田「……!?」

乙哉「ちょっとごめんねー」ドカッ

山田「いった!?」ドテッ

乙哉「いくよ?あぁ、あたしはまだイけないけど、ね」

山田「はっ……?」

ヒュッ!!

ザシュ……!!

山田「きゃああああぁぁぁ!!!」


5分後



乙哉「おねーさん、動けないでしょ」

山田「はっ……くぅ………」

乙哉「そうだよねー、あたしそうなるように切ったもん。這いつくばってるおねーさんもセクシーだよ♪」

山田「こんな、こと、して………」

乙哉「こんなことー?まだまだだよ?」

山田「なっ……」

乙哉「とりあえず、あー。あの鞄だねー」スタスタ

ゴソゴソ

山田「ちょっと、何をしてるの……?」

乙哉「あったあった。これ、予備のデータでしょ」

山田「……」


山田「あなた、学園に雇われた、んでしょう……?」

乙哉「雇うっていうのはお金を払ってもらって~ってことだよねー」

山田「はぐらかさないで」

乙哉「大事なことだよ。そうだとしたらあたしは誰にも雇われていない」

山田「はぁ……?」

乙哉「………っていうか、おねーさん一人暮らしなんだね」

山田「……だったら、何」

乙哉「んー、なんでもないよ。邪魔が入らなくてよかったーって思っただけ」

山田「私は噂で聞きつけて、それで……」

乙哉「何の話をしてるの?」

山田「そのデータの話よ…!私は、あの女みたいに、正義感で動いた訳じゃない……ただ、金になると噂を聞いたらから……それで……」

乙哉「んー?ちょっとよくわかんないなー。なんでそんな話、今あたしにするの?」

山田「データはあなたが手に持ってるフラッシュメモリと、私のパソコンに入ってるので全部よ。他の誰にもデータは渡してない……信じて……」

乙哉「あぁ。そういう話ね。で?パソコンはどこ?」スクッ


山田「そこのテーブルにあるでしょ」

乙哉「あ、ホントだ。へー、ノートパソコンなんだ?」

山田「そうだけど……?」

乙哉「あたし、データ消すのとかよくわかんないからこれ持ち帰らせてもらうね」

山田「……好きにしろ」

乙哉「あたしも一応仕事だからさー。部屋の中見て回るね」

山田「………」

乙哉「あたしだって嫌なんだよ?人の部屋漁るなんて」

山田「とっとと行きなさいよ……」

乙哉「うん、じゃ。痛いと思うけど、しばらくの辛抱だからね、待ってて」


15分後


乙哉「おねーーーーーーーーーーーーーーーさん?♥」

山田「……!!!!!」

乙哉「駄目だよー、こういうの隠し事って言うんだよ?」

山田「それは、データとは関係ない……!!」

乙哉「でもこんな手提げ金庫見つけちゃったら……ねぇ?で?ダイヤルの番号は?」

山田「待て、それは本当に」

乙哉「………」シュッ!!

ザシュッ…!!

山田「ああぁぁ………!!!」

乙哉「………つぎ口答えしたら、中指ね」

山田「ふぅ……うぐぅ………」

乙哉「あたし拷問って好きじゃないなんだけど、苦手ではないから。そこら辺弁えて喋った方がいいよ、おねーさん」

山田「……」コクコク


乙哉「で?この番号は?」

山田「32と……87……です」

乙哉「ふぅん?でもあたしダイヤルの合わせ方なんてわかんないやー。おねーさんやって?♥」ガシャンッ

山田「でも、私、手が……」

乙哉「人差し指が使い物にならないだけでしょ?いけるいけるっ!♪」

山田「でも、起き上がれないから……」

乙哉「…………えーと、次は中指だっけ」

山田「や、やります……!!」


ガチャン!!!


乙哉「………鍵?」

山田「その、鍵は、貸金庫の鍵なの……」

乙哉「なんで?まさかとは思うけどそこにも」

山田「そこには今回の件の報酬を入れる予定だったのよ……。それと、前金という形でいくらかもらった分が既に入ってるわ……」

乙哉「なーるほどねー。報酬ってあのジャーナリストさんからもらえるの?」

山田「そういうことに、なってるわ……本当は違う誰かが払うのかもしれないけど、私にはどうでもいいことだわ」

乙哉「確かにね。お金さえちゃんと貰えればどーだっていいよねー」アハハ

山田「もういいでしょう……?」

乙哉「そうだね。でもやっぱり不思議だなー」

山田「え?」

乙哉「だっておねーさん、これから死ぬっていうのにお金のことなんて心配してるんだもん」

山田「へ……………………?」


乙哉「あたしに貸金庫の鍵触らせたくなかったって、そういうことでしょ?」

山田「それは、そうだけど……?え…………?」

乙哉「あれ?もしかしてこれで済むと思ってたの?かぁわいい♥」

山田「え、ちょっと待って、だってさっき”痛いのはしばらくの辛抱”って……」

乙哉「あたしが何をしにきたか、わかってなかったんだね」

山田「待って、あなたはどこにも属していないって……」

乙哉「属してないとは言ってないよ。ただ雇われたわけではないんじゃないかなって言ったの。意味わかる?」

山田「こんな状況で、細かい話をするのはこりごりだわ……」

乙哉「そっかー。じゃあわかりやすいように言うね。確かに学園側から情報がきたんだけどね、それだけ。報酬なんてないよ」

山田「つまり……?」

乙哉「あたし、そのデータが世間に広まったら困る側の人間なんだー」

山田「依頼じゃなくて、個人的な目的だったってこと……?なんでアンタみたいな若い子が……」

乙哉「おねーさんさぁ、盗み出したデータの内容くらいちゃんと確認した方がいいよ?」

山田「し、したわよ……アンタのことなんてどこにも…………………………!!!!!!!」

乙哉「あー。心当たりあったって顔だね?」


山田「……あなた、まさか………シリアルキラーの……」

乙哉「あったりー♥」

山田「取引を、しない?」

乙哉「え?」

山田「あなたを匿ってあげる……だから」

乙哉「……あー、なるほど」

山田「どう?いい案でしょう…?」

乙哉「おねーさんは根本的なところをわかってないなぁ」

山田「お、お金のこと……?わかったわ、今回の件の報酬の3割を」

乙哉「違う違う」

山田「………じゃあ、なに?」

乙哉「あたしは殺さなきゃいけないから殺すんじゃなくて、殺したいから殺すの」

山田「……!」

乙哉「あたし、おねーさんのこと気に入っちゃったから。殺さないって選択肢はないよ」

山田「………………………最後に、一つだけいい?」

乙哉「なぁに?おねーさん」

山田「あまり、痛く、しないで……」

乙哉「ふふ、りょーかい♥」


しえな「おい、パトカーが来たぞ!」

「何台ですか?」

しえな「へ!?……えーと、あれ、1台だけだな」

「なるほど。もしかしたら騒音か何かの通報を受けての見回りかもしれませんね」

春紀「確かに、もっと大勢で来ると思ってたけど、この様子だと……」

首藤「しかしあの警察官は何とかせねばいかんな。あとから声をかけたらそちらの方が厄介じゃ」

神長「あぁ。逆に言えば、あれさえどうにか出来ればいい、ということか」


「何か方法があるんですか?」

春紀「悪いけど、あたしには無いな」

首藤「あるにはあるが、あまり銃は使いたくないのう……」

しえな「そうだな。それは最終手段だろ」

神長「私も、あまり爆弾は使いたくない」

春紀「そんなん使ったら事態が悪化するだろ」


首藤「うーむ、どうしたものか」

しえな「警官が二人降りたな。手分けして見回りに行ったみたいだ」

春紀「足音からして、迂闊には動けないさそうだな……」

「でも、このままじゃ挟み撃ちになってしまいますよ」

神長「なんとかできないのか?ナルシストパワーとかで」

「神長さんを警官に突き出してその隙をつくという方法はいかがでしょうか」ニコッ

春紀「喧嘩すんなよ」


警官A「うぅ………!!」ドサッ

春紀「……?なんだ?今の物音」

しえな「さぁ……?だけど、人が倒れたような」

警官B「………………………?」ドサッ

神長「こっちでも!?」

首藤「な、なんなんじゃ?」

「あちらで人が倒れていますね……」

しえな「こっちでもだ…!」


春紀「なんでだ……?もしかして、死んで……?」

首藤「いや、気を失っているだけのようじゃ。………………おや?」

神長「どうしたんだ?」

首藤「これ、どこかで見たことないか?」

神長「さぁ?私はわからないな」

しえな「どれだ?」

首藤「これじゃ」

しえな「っぎゃあああーーーーー!!!!」

一同「!!?!?!?」

春紀「っばか!!!静かにしろよ!!!一体どうしたってんd」

しえな「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「何かはわかりませんが、この方のトラウマに触れてしまったようですね」


首藤「あぁ、どこかで見たことあると思ったら。これ、桐ヶ谷のに似ておるのう」

神長「桐ヶ谷の……?」

首藤「あぁ。毒薬が入ってるカートリッジ(?)にそっくりなんじゃ」

しえな「そっくりっていうかそのものだろ!!」

春紀「声が裏返ってるぞ。落ち着け、剣持」

しえな「これが落ち着いていられるk」

神長「落ち着剣持」

しえな「くっつけるなよ!!!!!」

春紀「いま錯乱状態なんだから、神経逆撫でするようなことすなよ!かわいそうだろ!」


‐はやく行かないと、この人達起きちゃいますよ

春紀「!?」

‐これ、毒じゃなくて催眠ガスなんで

春紀「……アンタ、桐ヶ谷だよな?出来れば出てきて欲しいんだg」

‐千足さーん、えへへ♥ぎゅーってして欲しいです♥

春紀「イチャイチャしてねぇで出てこいやぁ!!!」

首藤「寒河江……さっきから何を言っとるのじゃ……?」

春紀「へっ」

しえな「高田延彦みたいになってたぞ……?」

春紀「くっそ……まぁいい、とにかく今のうちに逃げるぞ!」


駅前



「ここまで来ればもう大丈夫ですね」

首藤「そうじゃな」

「私もここに来るまでに聞いた話で大体事情は掴めました。もちろん、記事にしたりはしませんよ」

しえな「あぁ、助かる。特に武智は本当にヤバいんだ。まぁ、あいつの場合、一回捕まった方がいいような気もするけど」

春紀「ははっ、それは言えてるかもな」

「今日はなかなか面白い夜でした。首藤さん、これを」スッ

首藤「なんじゃ?これは」

「私の連絡先です。言ったでしょう、取材させてもらうって。あとでそちらに連絡いただけますか」

首藤「ほう、うむ。わかった」


「それでは、私はこれで」

神長「あぁ待ってくれ」

「はい?」

神長「これ、私の連絡先」

「………」

神長「あ、あれ……?私、何か変なことしたか?」

「いえ……いいんですか?」

神長「?おかしなことを言う奴だな。約束したろ」

「……」

神長「こっちだけ連絡先知ってるなんてフェアじゃないからな」

首藤「失敬な、帰ったらちゃんと連絡先メールするつもりじゃったぞ、ワシは」

神長「ははっ。ま、私の分も知っておいて損はないだろ。なんならいつでも抜き打ちテストしてくれ」

「へぇ?自信満々なんですね?別れた時が見物です」

神長「別れないよ」

「どーだか」

春紀「………なぁ、あたしら空気じゃね。先に帰ってようぜ」スタスタ

しえな「わかる。そうしよう」スタスタ


帰り道



春紀「なぁ、武智から連絡来たか」

しえな「……それが、来ないんだ」

春紀「はぁ……心配だな」

しえな「………」

春紀「剣持?」

しえな「ボクに、現場見せたくないって、一人で行ってしまった……ボクのせいだ」

春紀「いやその理屈はおかしいだろ」

しえな「わかってるけどそんな冷静につっこむなよ」


春紀「まぁ、気持ちはわからんでもないけど、考え過ぎだ」

ザッ………ザザッ………

しえな「?いま、なんか音しなかったか?」

乙哉『やっほー!聞こえるー!』

春紀「武智!!?トランシーバーからの音声か!」バッ

乙哉『遅くなってごめんねー。無事終わったよ!』

しえな「お前は本当に……心配させるなよ」

乙哉『ごめんごめん。それでね、パソコンのデータの削除っていうのがわからないから持ち帰って来たんだよね』

春紀「あぁ、そうなのか。わかった。剣持、頼めるか?」

しえな「ボクもあまり詳しくはないから、走りのところにバイクを返すときに一緒に持っていった方がいいんじゃないか?」

乙哉『あぁ、なるほど。わかったー♪』


春紀「いまどこにいるんだ?」

乙哉『いまは△△市だよー』

春紀「はぁ!?遠いな!!」

乙哉『あたしだって文句言いたいよーもー。ここからトランシーバー通じてビックリしてるくらいなんだから』

しえな『ということは帰ってくるのにまだ1時間はかかるな』

乙哉『だねー。とりあえず現場から離れる為に走ってるけど、もう少し行ったら鳰ちゃんに連絡しておくよ』

春紀「そうだな、とっとと死体の後始末してもらわないと」

乙哉『それそれ。あと、今言ってたパソコンの処分も頼みたいしねー』

春紀「わかった、気をつけて帰ってこいよ」

首藤「おー、おったおった」

春紀「お、首藤達か」

神長「いま話してるのって武智か?」

しえな「あぁ、トランシーバーが通じるところまで戻ってきたらしい。作戦は成功だ」

首藤「ほう。やるのう、武智」

乙哉『まーねー、ご褒美に綺麗なお姉さん紹介してくれていーよー♥』

春紀「お前に紹介したらその女死ぬじゃん」


しえな「そういえばずっと気になってたんだが、首藤は50年前に何の取材を受けたんだ?」

首藤「ワシはハイランダー症候群を抱えるものとして取材を受けたのじゃ」

神長「本人もそうなのに、なんでわざわざ……」

首藤「今ほど諦めが良くなかったんじゃよ、当時のワシも、彼女も」

春紀「治療法を探してたってことか?」

首藤「あぁ。ま、無駄じゃったがの」

乙哉『え?ちょっと待って?なんかあたし置いてけぼり食らってるよ??ハイランダー?って何?え?』

しえな「これだから現場に居なかった奴は……」

乙哉『仕方なくない!!?!?』

神長「首藤はハイランダー症候群という、老いない病を抱えてるんだ」

乙哉『待って待って、50年前って?首藤さんいくつなの?』

首藤「さぁの。忘れてしもうた。ただ、取材の時も同じ質問をされたんじゃ。彼女に」

神長「………」

首藤「ワシは同じように答えた、”忘れてしまった”と」

春紀「………そうか」


首藤「とにかく、ワシは年齢だけで言うとものすごーく年寄りなんじゃ、わかったな?」

春紀「年齢だけっていうか、趣味や喋り方もそうだけどな」

首藤「それは言わない約束じゃ」

神長「でも、見た目は若いよな。不思議だ」

乙哉『そんな病気あるなんて知らなかったよー』

首藤「これからは年上として敬うようにな、ほっほっほ」

春紀「うるせぇハイランダーBBA」


しえな「はぁー……なんか疲れたけど、とにかく終わりってことでいいんだよな?」

春紀「あぁ。そんで明日、鳰の手配した連中に今日の収穫物を渡したら無事清算完了って感じかな」

神長「そういえばさっき、桐ヶ谷の名前を呼んでいたよな?あれは?」

春紀「あ、えーと、あたしには声が聞こえたんだけど……気のせいだったのかなーって」

首藤「あのときは剣持が冷静ではなかったからのう。もしかしたらワシらも聞き逃したのかもしれんの」

神長「というかきっとそうだろ。理由は分からないが、実際それらしき空のカートリッジが落ちてたり、声が聞こえたり」

しえな「いや、確実だ。ボクにはわかる。あいつらはあの場にいた」

乙哉『まーた、適当なこと言ってると怒られるよー?』

しえな「適当なもんか!見ろ!またボクのポケットにこれが!!」

神長「ぽ、POISON………」

首藤「しかも今回は緑ではなく赤い液体なんじゃな……毒々しい……」


乙哉『また入ってたの?それポケットに戻して?』

しえな「はぁ?」

乙哉『いいから早く早くー』

しえな「なんなんだよ……ほら、入れたぞ」

乙哉『あたしに続いてジェスチャー付きで歌って♪』

しえな「はぁ、嫌だよ」

春紀「剣持に何させるつもりだよ」

乙哉『ほらほらー。やろうよー。 ポケットの中には ビスケット(POISON)がひとつ♪』

しえな「ビスケットの読み方おかしくないですかねぇ!!」


乙哉『ちょっとした冗談じゃん』アハハ

神長「ポケットを叩くと ビスケット(POISON)はふたつ♪」ポンポン

しえな「なに勝手にボクのポケット叩きながら続き歌ってるんだよ!?やめろ!!」

神長「すまん、つい」

首藤「もひとつ叩くと ビスケット(POISON)はみっつ♪」ポンポン

しえな「だからやめろってば!!!お前らはバカなのか!!?」サッ!!

乙哉『叩いてみるたび ビスケットはふえる♪』

しえな「増えられても困るんだよ!!!」

春紀「それくらいにしておいてやれ、剣持が酸欠で死にそうだ」


しえな「全く………って、は………?」ゴソゴソ

首藤「どうした?ポケットの中で容器が割れてたか?」

しえな「それボク無事じゃ済まないだろ」

春紀「ポケットに手ぇ突っ込んで、この世の終わりみたいな顔してってからだろ」

しえな「いや、気のせいだと思うんだけど、よっと」ゴソッ

春紀「?さっきの容器じゃないか」

しえな「………………………………あと、これと、これ」ゴソゴソ

首藤「!!?」

神長「え、本当に3つに増えてる……」

しえな「誰だ……誰の仕業だ……」

乙哉『あはは、桐ヶ谷さんじゃない?』

首藤「じゃろうな」

しえな「あいつ……!!姿も見せずに卑怯だぞ……!!」


老いない病と、時間というものの残酷さ。
あたし達は今日、思わぬ形で首藤がこれまで抱えてきたものを垣間みることとなった。
首藤が体験してきた時間の重さを考えると、きっと簡単に同情していいことではないんだろう。

それでもやはり、あたしがもしその病を生まれ持っていたら、と考えてしまう。
兄弟達に追い付かれ、追い抜かれ、あたしだけが何も変わらないまま生き長らえる。
懐かしい場所も、人も変わって、そして消えていく。辛くないわけがない。

神長は事情を理解した上で首藤と共に生きると宣言したようだけど、これからどうなることやら。
というかそれ自体は一向に構わないが、いつまでもあたしの家でやることではないな。
早く出て行ってくれという気持ちと、もう少しの間ならいいかという気持ちは半々。

だからあたしは何も言わない。
そんで黙っていたら時間は過ぎてそのまま翌日になって、なんだかんだで一日が始まるんだ。
わかってる、きっと明日だってそんな一日であることを。

「ほらほら。もう家の前に着くから静かにしろ」
「じゃな。もうとっくの前に住宅街に入っとったぞ、剣持」
「確かにうるさくしたのはボクかもしれないけど、あまりにも理不尽じゃないか?」
「それじゃ、あたしそろそろ鳰ちゃんに連絡するからまた後でねー」

一瞬ノイズが走って走行音が途絶えた。武智がトランシーバーの通信を切ったのだろう。
あたしはやっと帰って来たと歩き慣れた道を踏みしめる。
ここまで来ればもうバイトからの帰り道と同じだっていうのに、やはりそんな気はしなかった。
なんせ外野がうるさいからな。

最後の角を曲がる。あぁ、さすがにこんだけ繰り返してるんだ。わかってる。
伊達に血の繋がっていない連中をこんなに大勢住まわせてない。

「はぁ……やっぱりか……鳰の奴……」
「ワシのときと同じパターンかのう?」
「っていうか大体一緒だ、神長もそうだったし……」
「げぇっ……よりにもよってあいつか………」

もう増えないでくれと願っていたけど、あたしの願いは天に届かなかったようだ。
家の前で仁王立ちしている影を見て、瞬時に誰が立っているのかわかってしまった。
あたしの受難はまだまだ続くようだ。


真夜「よぉーーー!!待ってたぜぇーーー!」

春紀「っばか!声がデカい!!」

真夜「待ちくたびれちまったぜーへへっ」

首藤「お主も失敗したんじゃの……」

真夜「まぁなー。犬飼の奴がよぉー、ひでーんだぜー」

神長「犬飼?」

しえな「犬飼にやられたのか……?」

真夜「オレは家主が来るまで家に入らない方がいいって言ったんだけどなー」

首藤「どういうことじゃ…?」

春紀「え、っと……?」

「騒がしいわねぇ、なんなのよ」

ガラッ

伊介「!」

春紀「伊介様っ……!?」


伊介「今日は帰ってこないと思ったのに……」

春紀「仕事だったんだよ」

伊介「ふぅーん……」

春紀「で。えーっと……確認するけど、何しにきたんだ?二人とも」

真夜「何しにって……しらばくの間、遊びに?」

春紀「…………」ガクッ

首藤「おぉ、ならばワシと一緒じゃの」ルンルンッ

真夜「おぉっ?そうかっ?」ルンルンッ

しえな「ルンルンッってなんだよ、可愛いなオイ」

神長「お前らなんで腕組んでぐるぐるスキップしてるんだよ」

伊介「バカ共は置いといて、伊介も遊びに来たの。いつ帰るかは未定だけど♥」

神長「犬飼は遊びにじゃなくて嫁に来たんだろ」

伊介「はぁ?」

真夜「やれやれだぜ。そういうのよそでやってくれねーーー???二人とも」

春紀「ここはあたしの家なんだけどな!!!」




おわり


というわけで終わり
今更だけど細かいところはスルーしてもらえると助かる
続きは気が向いたら
そんじゃ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月13日 (金) 17:41:03   ID: cj5PI3z4

相変わらずの安定感
面白いッスね〜!

2 :  SS好きの774さん   2014年06月13日 (金) 23:23:38   ID: rywCc6dA

今の>>1のパワーで続きを
完成させてしまえ~

千足、柩この二人はドラゴンボールでいきけえらせてあげてくれ

3 :  デッドプール   2014年06月14日 (土) 11:20:40   ID: wvqQXOYn

真夜のやれやれだぜってセリフ、ジョジョ第三部のパクリだろ。

4 :  SS好きの774さん   2014年06月14日 (土) 15:57:27   ID: nRSf_chO

新作きてたか!
このシリーズ好きだわ

5 :  SS好きの774さん   2014年06月14日 (土) 20:04:41   ID: Nf_1rDKs

にっおにっおにー

6 :  SS好きのboeing747さん   2014年06月19日 (木) 23:05:53   ID: a3WVVLfz

この作者さんのss超好きだ

7 :  SS好きの774さん   2014年07月03日 (木) 01:27:34   ID: s1OJS7Xa

POISONたそ~がもっとしえなちゃんをいじればいいと思うよ
前回のがツボでした

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