勇者「ボランティア……?」 戦士「ああ」 (92)

ここはよくある剣と魔法のファンタジー世界
物語は島国、エンパイア帝国から始まる


――退魔連盟

魔法使い「修練を終えて、今日から正式に君は退魔連盟の一員になったわけですが」

魔法使い「まあ、引き続き私が君の上司として指導をしていくんで。これからもよろしく」

勇者「はーい。よろしくお願いします」


魔法使い「さて、では最初に、もう一度退魔師としての心構えを確認しておこうか」

魔法使い「我々の使命は帝国内の魔物を討伐することであるわけだけど、その際に最も重要となることは何かな?」

勇者「はい、それは隠密性です。一般人は魔物の存在を知らないため、秘密裏に始末することが重要となります」

魔法使い「よろしい。まあ、とは言っても政府もマスコミも抑えているから、そこまで神経質になることはないけどね」

魔法使い「あまり派手にやり過ぎるなってことだね」

勇者「了解です」


勇者「……で、魔法使いさん。今日は何をすれば?」

魔法使い「うーん、正直仕事が入らない間は暇なんだよね」

魔法使い「大抵は修行したりダラダラしたりしてるんだけど、初日からそれはちょっとアレだしなあ」

魔法使い「パトロールでもする?」

勇者「なんか、随分と緩いですね」

魔法使い「うちはお役所じゃなくて古くから続く秘密組織みたいなもんだからねえ」

魔法使い「今は魔王軍もあまり騒がないよう魔物を統制してるから戦闘もそれほど無いし」

勇者「平和ですねえ」

魔法使い「この国は世界でも格別に魔物や魔力を持った人間が生まれやすいから、数百年前までは結構激しく戦ってたらしいけどさ」

魔法使い「今ではお隣のフェデレ連邦に比べれば天国ってくらい安定してるよ」

勇者「ああ。内戦状態なんでしたっけ、隣」

魔法使い「そうみたいだねー。連盟の中にも海渡って連邦に行った奴がいたよ。ボランティアするとか言って」

勇者「へえ。それはまた結構なことですね」

魔法使い「あ、そうだ。君のお父さんも連盟の人だよね。お父さんも勇者?」

勇者「いえ、父は戦闘系じゃないので隠滅部門のマスコミ対策室に勤めてます」

魔法使い「あー、そっちか。隠滅部門の方はあんまり知り合いいないんだよねー」

魔法使い「連盟の人間は代々魔力を持つ家系出身者が大半だから、狭い世界ではあるんだけど、ほとんど関わらない部門もあるからなー」


ピーッピーッ


魔法使い「あ、通信だ。喜べ新人君、仕事が入ったっぽいよ」

勇者「はあ」


魔法使い「もしもし……はい。はい……え、マジですか? はい、はい……わかりました」ピッ

魔法使い「なんか城門前広場で魔物が通行人を食べ荒らしたんだって」

勇者「うわ、酷いですねそれは……珍しいんですか、こういうことは」

魔法使い「人食いの魔物自体は結構いるんだけど、こんなに派手に暴れ回る奴は珍しいねー」

魔法使い「もしかしたら、最近魔物に変化した元人間かも。滅多にないケースだけど」

勇者「なるほど」

魔法使い「とりあえず現場に向かおうか。新参なら魔力の跡もバンバン残してそうだし、楽に討伐できると思うよ」

勇者「はい」

――裏路地

魔物「へへ……へっへっへっへ。人間がこんなに旨いとはなあ」

魔物「目が覚めたら牙と爪が生えてた時はどうしようかと思ったが、こんな楽しい思いが出来るなんてな」

魔物「この力があればマフィアなんて目じゃねえし、警察どころか軍だって怖かねえ!」

魔物「これからあの偉ぶったボスをぶっ殺して、俺が新たなボスになってやる!」


「おい」

魔物「あ?」


ガンッ


魔物「ガハッ……!?」ドガッ

魔物(な、何だ……殴られた!?)

魔物(殴られただけで何でこんなに痛いんだよ……さっきは剣で斬られてもほぼノーダメージだったんだぞ!?)

魔物「な、何なんだテメェらッ!!」

「我々は魔王軍の者だ」

魔導士「私は魔導士で、いま君を殴ったこの男はゴーレム」

摩導士「乱暴してすまなかったね。彼はどうも粗暴でいけない」

ゴーレム「ふん」


魔物「ま、魔王軍……? 何、言ってやがる……?」

魔導士「ああ。やはり新参、か」

魔導士「つまりだね、君のような存在は君が考えているよりも遥かに大勢存在していて、独自の組織も作っているということだよ。それが魔王軍だ」

魔物「お、俺の同類ってことか……? 人間にしか見えねえぞ……?」

魔導士「姿を人間に変える魔法があるんだよ」


魔導士「ところで、だ。あまり時間がないから本題に入ろう」

魔導士「我々魔王軍は世情の混乱を望まない。人間社会を活用しつつ、出来るだけ快適に魔物が暮らせるようにするのが我々の目的だ」

魔導士「だから、君のように無軌道に暴れ回られると非常に困るんだよ」

魔導士「魔力の無い者に我々を傷つけることは出来んが、中には魔力を持って我々を殺せる人間達もいる」

魔導士「このような騒ぎが頻発すれば、彼らが大規模な魔物狩りに動き出しかねない」

魔導士「君一人の身勝手が、魔物全体の迷惑となるわけだ……理解してくれたかね?」

魔物「…………」

魔物(……ち、畜生! この力を持ってんのは俺だけかと思ったのに!)

魔物(俺が新参者だと!? しかも、俺たちを狩る人間がいる? 冗談じゃねえぞ!)


魔導士「それで、どうするかね。我々と共に来るかい?」

魔物「なに?」

魔導士「魔王軍に加われば食うには困らないし、人間社会に溶け込む術も得られる」

魔導士「一人が良いというならそれも自由だ。大きな騒ぎを起こさない限り、我々は干渉しない」


魔物「……お、俺は人間だったときマフィアの下っ端だったんだ」

魔物「せっかくこんな力を手に入れたってのに、また下っ端になるなんてごめんだ! 俺は1人でやる!」

魔導士「……まあ好きにしたまえ。ただし、今度また同じような騒ぎを起こした時は、人間だけでなく我々からも狙われることになるぞ」

魔物「チッ」ダダッ



ゴーレム「……ありゃダメだな。気配を隠すことすら出来てねえ。すぐに連盟に見つかって殺されるぞ」

ゴーレム「今ここで殺っときゃ良かったんじゃないか」

魔導士「人間が殺すというのなら奴らにさせれば良い。一応は同胞なんだ、わざわざ我々の手を汚すこともないさ」

魔物(クソが! せっかくすげえ力を手に入れたってのに、どうしてこう上手くいかねえんだ俺の人生は!)

魔物(だが、これからどうする……人間を食うにしても、派手な動きをすれば殺されちまう)

魔物(夜中に路地裏にでも潜んで地道に狩るか?)


魔物「! そうだ!」

魔物(売春させる為の不法移民共を匿う組織のアジトがあったはずだ!)

魔物(不法移民なら消えたところで発覚もし難い。見張りの連中も今の俺なら簡単に皆殺しにできる)

魔物(ククク、冴えてるぜ! 見張りも移民共もまとめて腹一杯食ってやる!)


――マフィアの縄張り

魔物(入り口には見張り、か。確か女共は二階にいたな)

魔物(ここは窓から侵入するか。騒いでりゃどうせ見張りが上がってくるから、死体を中に入れる手間が省ける)

魔物(楽しみだぜ。剣を持っただけで強くなったと勘違いした馬鹿共に、本当の強さってもんを教えてやるのがなあ)

シュタッ

チンピラ「ん?」

魔物「よお」ニヤニヤ

チンピラ「あ? 誰だお前……」

ヒュンッ

チンピラ「ぎッ!」ブシュッ

魔物「くっくっく。爪で引っ掻いただけで一撃かよ」


ガチャ

三下「どうかしたか……ヒッ!?」

魔物「おいおい、どうした? マフィアのくせに死体にビビってんのかよ?」

三下「う、ああ……て、テメェ! 何しやがった!?」ダッ

キンッ

三下「は!?」

魔物「そんなナマクラで俺を殺せるとでも思ったのかァ?」

三下「ひ……ひいい……」

「何事だ?」

『不明です。二階で騒ぎがあったようで見張りが中に入っていきました』

『おそらく、移民が反抗したか、構成員同士の喧嘩でも起きたのではないかと』

「……混乱に乗じる好機、か。よし」

「連中は既に剣を抜いているかもしれん。抵抗するようならば迷わず殺して構わんが、女共には被害が出ないよう気をつけろ」

『了解』

魔物「さーて、ゴミ共の掃除はこんなもんか」

魔物「女どもの部屋はこっちかな?」


『突入!』

魔物「ん?」


バンッ!


魔物「なっ!?」

隊長「動くな! 移民管理局、だ……!?」

隊員A「ま、マフィア共が、死んで……!?」

隊員B「ば、化け物ッ!!」

隊長「貴様!! 何者だ!?」チャキッ


魔物「い、移民管理局だと……」

魔物(よりにもよって今日、強制捜査なんて……クソッ、ついてなさ過ぎだろ!)


魔物「クソがああああ!!」ググググッ

隊長「く、来るぞ! かかれっ! 殺せェ!!」

隊員A「ああああああ!!」ダダダ


ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ

隊員A「」ドサッ

隊員B「」ガクンッ


隊長「……は」ガクガクガク

魔物「移民管理局だろうが何だろうが、俺様の前では雑魚なんだ……」

魔物「ここまで来て腹も満たさず逃げてたまるかァッ!」

隊員C「た、隊長……」

隊長(ぶ、部下の半分を一瞬で……な、何だこの化け物は……どうすれば、どうすれば良い)


ピリリリッ

隊長(!! 通信! しかも、これは撤退の合図!)

隊長「撤退だ! 総員撤退せよ!!」ダダッ

魔物「あ?」

ダダダダダダダッ

魔物「……逃げやがった。まあ当然か」

魔物「だが、援軍を連れてくるに決まってる。とっとと食えるだけ食っておさらば……」


キイイイイ

魔物「……? 何の音だ」


キュンッ!


ピキ;ィンッ

魔物「ぎゃあああ!」ドガッ

魔物「な、何だ……急に衝撃が……!?」

魔物「……!? う、腕……腕が! 凍って……!?」



魔法使い「あらら。足を狙ったのに外しちゃった」

魔物「!?」

勇者「これが魔物なんですね。生きている奴は初めて見ます」

魔物「……だ、だれ……誰だてめえら!? 俺の腕に何しやがった!?」

魔法使い「私たちは君を退治しに来た者で、それは氷雪魔法だよー」

魔法使い「まったく、大騒ぎにしてくれちゃってさ。隠滅部門は何日か徹夜だねこりゃ」

勇者「うちの父はもう中年なんで徹夜はキツそうだなあ」


魔物(ま、魔法……まさか、こいつらが魔王軍の言っていた……)

魔法使い「どうする? 念のため、足も凍らせとく?」

勇者「いえ、大丈夫だと思います」

魔法使い「そう? 怪我だけはしないでよね。危なそうだったら手出すよ?」

勇者「了解」チャキッ


魔物「……く、くそが」

魔物「舐めんじゃねえええこのボケが」

シュンッ

魔物「ああぁぁぁ……?」コロン

魔物(頭)「あ?」

勇者「やっぱり生命力強いんだな」ザクッ

魔物(頭)「ぎゅ」

勇者「終わりました」

魔法使い「やるねー。接近戦なら私でも負けるかも」

勇者「はい。この距離なら魔法使いさんを殺せる自信があります」

魔法使い「そういうことは言わなくていいの」


魔法使い「さてと。そろそろ事後処理班も来るだろうし、移民管理局に挨拶して帰ろうか」

勇者「はい。……あ、そういえば」

魔法使い「ん?」

勇者「魔物や連盟の存在は政府機関でも一部の人間しか知らないと聞きましたが、ここの現場責任者は知っているんですね」

魔法使い「ああ、そだね。前の政権の政策で移民が増えたでしょ?」

魔法使い「特に不法移民は死んでも露呈しにくいからさ、今回みたいに彼らを狙う魔物が多かったのよ」

魔法使い「んで、連盟は移民管理局と協力するようになって、私たちのことを知ってる人が結構いるってわけ」

勇者「なるほど」

魔法使い「まー、でも今の左派政権になってから移民をガリガリ追い返すようになったから、最近ではそんなに無い事例だけどねー」

勇者「政治のことはよく分かりません」

魔法使い「私だって似たようなもんだよ。世情に干渉せず、が連盟の基本だしね」

官憲「無事に終わりましたか?」

魔法使い「はい、始末しました。後始末は処理班が行いますので」

官憲「そうですか、そうですか。いやあ、ホッとしました」

官憲「話には聞いていましたが、私も直面するのは初めてだったもので焦りましたよ」

官憲「あなた方が来て下さらなかったら全滅していたかもしれません」

魔法使い「亡くなった隊員の方達のことは残念です」

官憲「ええ、まさかこの作戦でこれほどの犠牲が出るとは……遺族への説明は上や連盟の方と相談して決めねばなりませんが」

官憲「実行部隊の隊長には全て説明しました。まだ半信半疑といった様子ですが。その他の隊員達はどうするか……」

魔法使い「その辺りは連盟に専門の者がおりますので。真実を伝えるにしろ、そうでないにしろ適切に対応するでしょう」

官憲「はあ、助かります……」


勇者「…………」

勇者(何か魔法使いさん別人みたい。似合わねー)

ザワザワザワ

勇者「ん?」


隊員「さあ、早く馬車に乗れ!」

移民「……」トボトボ


勇者「あれは?」

官憲「ああ、不法移民達ですよ。今回の作戦目的は彼女らと、入国を手引きした連中の逮捕でしたからね」

官憲「残念ながらここにいたマフィアの連中は全員殺されてしまいましたが、まあ、女共の証言でも次に繋げられるでしょう」

勇者「彼女たちはどうなるんですか?」

官憲「当然強制送還です。無断で我が国に入国したわけですからね」

官憲「まあ、有益な情報でも吐けば幾何かの金を握らせてから帰してやりますがね。ハッハッハッハ」

勇者「国に帰ったら、彼女たちはどうするんでしょう」

官憲「……はい? いや、それは私に訊かれても困りますが……まあ何とかするんじゃないですか。何せ祖国ですし」

官憲「大体、人間は生まれた地で生きて、生まれた地で死ぬべきなんですよ。それを前政権の無能共が……おっと、失礼。今のはオフレコで」

勇者「はあ」


官憲「ところで、移民管理局まででよろしければお送りしましょうか? 確かそちらの隠れ里は官庁街の近くでしたよね?」

魔法使い「本当ですか? では、お言葉に甘えて」

勇者「ありがとうございます」

――移民管理局前

官憲「ここまででよろしいですか?」

魔法使い「はい。ここからならゲートまで近いので。ありがとうございました」

官憲「いえいえ。では、私は次の仕事がありますので、この辺で……」


旅人「官憲さん」

官憲「お、っと……あんたか。もう来ていたのか」

旅人「約束の時間は過ぎていますよ」

官憲「ああ、悪い。ちょっとトラブルがあってな」

官憲「……その子が例の」

少女「……」

旅人「ええ」


勇者(褐色の肌……あの子は連邦の人間かな)

勇者「あの、その子は?」

官憲「え? あ、ああ……」

旅人「……その方達は?」

官憲「……あー、内務省の人だよ」


官憲「ええと、彼女はですね、何というか……難民なんですよ」

勇者「難民?」

魔法使い「へえ。珍しいですね」

官憲「まあ、彼女の場合、支援団体との協議で共和国に移送することになりまして。一時的な滞在を認めたわけなんですよ」


官憲「こちらは、その難民支援団体の旅人さん」

旅人「……どうも」

官憲「さて。時間も無いので、我々はそろそろ……」

魔法使い「ああ、すみません。引き留めてしまって」

官憲「いえいえ。では、失礼します」ペコッ


少女「……」

旅人「行こうか」

少女「……」

勇者(……?)

――連盟

勇者「……」

魔法使い「どったの? 考え込んじゃって」

勇者「いえ、あの女の子のことが気になって」

魔法使い「なに? 一目惚れ? ロリコン?」

勇者「何でですか。ボクとそんなに歳変わらないくらいだったでしょ」

勇者「いや、そういうんじゃなくて。あの子の虚ろな目がどうも頭から離れないんですよね」

魔法使い「あー……。まあ難民なわけだし、色々辛い目に遭ったんじゃない?」

魔法使い「あんまり考えすぎるのも良くないよー、そういうのは」

勇者「それは解っているんですけど……」

魔法使い「それよりも、今は報告書を書き上げるのが先でしょー」

『魔法使いさーん』コンコン

魔法使い「ん? なんだろ? はーい」


ガチャ


職員「お客さんが来ていますよ」

魔法使い「客?」


戦士「よお。久しぶりだな」ヒョコッ


魔法使い「……ええと、どちらさまで?」

戦士「ひでえな。たった2年会わなかっただけでもう上司の顔を忘れやがったのか」

魔法使い「……え? もしかして戦士さん?」

戦士「ようやく思い出したか」

魔法使い「うわー。久しぶりですね。髭面のオッサンが現れたから誰かと思いましたよ。不潔感が増しましたね」

戦士「……何でそうはっきり言うかね」

魔法使い「まあまあ。髭生やしたら前よりワイルドな感じにはなりましたよ。不潔感は増しましたが」

戦士「二回言わなくてよくない? つーか、増したってことは髭生やす前から不潔感があったってことか?」

魔法使い「…………」

戦士「おい、黙るんじゃない」

勇者「あのお」

戦士「お、何だ? お前の部下か?」

魔法使い「ええ。今日から正式に入ったばかりの勇者君です」

戦士「お前も部下を持つようになったか……」

魔法使い「もう2年前みたいな子供じゃないんですよ」

戦士「何だか一気に歳を取った気分だぜ」


戦士「よろしくな、勇者君。俺は戦士ってもんだ」

勇者「よろしくお願いします……あの、魔法使いさんの上司だったんですか?」

戦士「ああ。短い間だったけどな」


魔法使い「ほら、今朝話したでしょ。ボランティアするとか言って連邦に渡った人」

勇者「え!? もしかして、戦士さんが?」

戦士「そっ。内戦の報道を聞いてるうちに居ても立ってもいられなくなってなあ」

戦士「つい単身で飛び出しちまったってわけよ」

勇者「へええ……」

魔法使い「それで? ボランティアを終えて連盟に戻るんですか?」

戦士「いや、ちょっと事情があって戻ってきただけでな。それが済めばまたあっちに行くよ」

魔法使い「は!? まだ続けるんですか!?」

戦士「まあ、まだまだやり残したことが色々残ってるからな」

魔法使い「貴方って人は……というか向こうで何やってるんです? 傭兵ですか?」

戦士「ボランティアじゃねえだろそれ。難民キャンプの支援だとか、復興の手伝いだとか、そういうことだよ」

魔法使い「へー。意外ですね。てっきり私はボランティアは方便で戦いを楽しみに行ったんだとばかり」

戦士「お前は俺を何だと思ってたんだ……」

魔法使い「ちょっと頭のおかしいオジサン」

戦士「だからはっきり言うんじゃない」

戦士「むしろ逆だよ逆」

勇者「逆?」

戦士「魔物と戦うのに嫌気が差してきてな。それで戦い以外の何かをする為にあっちに行ったんだよ」

戦士「……それでも血で血を洗う内戦にも気が滅入って、今はむしろ戦乱から遠い、比較的安定した地方を巡ってる」

魔法使い「……今は、幸せですか?」

戦士「ああ。帝国とは違った文化と触れ合えて、中々楽しくやってるよ」

戦士「いま暮らしてる村は特に俺のことを受け入れてくれてな」


戦士「だが、中でも一番色々世話してくれた一家に不幸が降りかかった」

戦士「俺がこの国に戻ったのはそれが理由だ」

勇者「不幸?」

魔法使い「どういうことです? なぜその一家と帝国が……」

戦士「その一家の娘が帝国人に拉致された」

勇者「!?」

魔法使い「帝国人? まさか戦士さんのお仲間とか?」

戦士「いや、今は俺は一人で行動してるからな。俺とは別に村にやってきたボランティアだ」

戦士「そいつも村に歓迎されて、俺も良い奴だと信用していたんだが……まんまと騙されたよ」

戦士「俺が少し村を離れている間に、仲間を呼び込んでな。娘さんをさらって逃げたらしい」

魔法使い「つまり、貴方はその男を追って帝国に戻ったということですか」

戦士「そういうことだ」

勇者「警察には知らせたんですか?」

戦士「いいや。あっちの警察はアテにならないし、何の証拠もない話だから、帝国警察だって動いちゃくれねえさ」

戦士「だからこそ、俺が探しに来た。必ず……必ずあの子を家族の元に返す」


魔法使い「でも、どうやって探し出すんですか? 何か手がかりでも?」

戦士「帝国に向かったことは解ったんだが、奴の素性も詳しくは聞いてなかったからな。手がかりは全く無い」

勇者「それじゃ捜しようが……」

魔法使い「……ああ、なるほど。もしかして」

戦士「そうだ。連盟には人の居所を探る魔法が使える奴がいるんだよ」

戦士「そいつに彼女の居場所を捜してもらうつもりでここに来た」

勇者「へえ。そんな人がいたんですね」

魔法使い「でも、あの人は任務以外の私的な理由では決して魔法を使ってくれませんよ?」

戦士「そこなんだよな……だが、あいつに頼る以外に手はないし、土下座でも何でもして頼み込むつもりではあるが」

魔法使い「どうでしょうね。融通が利かない人ですから」


魔法使い「ああ、それから捜索魔法には対象の持ち物や写真が必要ですよ」

戦士「それは問題ない。あの子が作ったペンダントと、写真も持ってきてる」ゴソゴソ

戦士「これだ」ピラッ

勇者「……一家の写真ですか」

魔法使い「戦士さんもいますね。もう一人の方は……え!?」

戦士「ああ、その男が例の誘拐犯なんだが……どうかしたか?」

勇者「この人……それに、この女の子も……」

勇者(この子、さっきと全然違う……明るい、幸せそうな顔で笑ってる……)


魔法使い「……戦士さん。私たちは彼らのことを知っています」

戦士「なに!? 本当か!? どこで!?」

魔法使い「今日の仕事で移民管理局の人間と会ったんですが、彼がこの2人と話していました」

戦士「移民管理局だと……!?」

勇者「何でも、男の方は難民支援団体のメンバーで、難民であるこの子を共和国に移送するとか……」

戦士「……クソッ」

戦士「解った、恩に着るぜ」ガタッ

戦士「挨拶がてら捜索魔法を使って貰うアイディアを相談しに来ただけだったんだが、まさかお前らから情報が得られるとはな」

勇者「どうするつもりですか?」

戦士「とにかく移民管理局まで行って色々探ってみる」

魔法使い「……私たちも手伝いましょうか?」

戦士「ありがたいが止めておいた方が良い。どういう事情か移民管理局の人間が絡んでるとなれば面倒なことになるかもしれん」

戦士「お前らは何も知らなかった、で通せ」

魔法使い「…………わかりました。あまり無茶なことはしないでくださいよ」

戦士「おう。ありがとな」


戦士「じゃあ、勇者君。魔法使いをよろしく頼むぜ」

勇者「はい」


ガチャッ


魔法使い「…………」

剣士(…………)タッタッタッタッタ


――2ヶ月前

少女『……ふふ』

戦士『なに見てるんだ? ペンダント?』

少女『!? ……あ、なんだ、戦士さんか』ホッ

戦士『綺麗だな。どうしたんだ、それ』

少女『ふふ。あのね。貰ったの』

戦士『ほほお。誰にかね?』ニヤニヤ

少女『……そ、村長さん家の子』

戦士『あいつかー。大人しそうな顔して中々隅に置けん奴だ』

戦士『それで、プレゼントを見ながら、少年のことを思い出してたわけだな』

少女『…………うん///』

戦士『わはは、照れるな照れるな』

戦士『良いねえ。俺も若い頃を思い出すぜ』

少女『あ、あの。お父さん達には秘密に……』

戦士『分かってるって! その代わり、結婚式には呼べよ』

少女『も、もう!』

戦士『わははは!』

少女『あ! そうだ』

少女『良かったらこれ……』ジャラ

戦士『ん?』

少女『わ、私が作ったペンダントです……大した材料は買えないから、みすぼらしいけど……』

戦士『良いのか? 彼氏に渡すつもりだったんじゃねえの』

少女『いえ、単に作ってみただけです。誰に渡すとかは決めてなくて』

少女『だから、いつもお世話になってる戦士さんに貰ってほしいな、って』

戦士『……そうか。ありがとな。大切にするよ』ジャラ

戦士『どうだ? 似合うか?』

少女『はい!』


少女『あ、あと! あの人は彼氏とか、そういうのじゃ……///』

戦士『照れんな照れんな! わっはっはっは』

――数週間前

戦士『おう、お婆ちゃん。帰ったぜー。ほら、土産が……』

老婆『……』バタンッ

戦士『……あれ? 聞こえなかったんかな』


戦士『オッチャン、それ一杯頂戴』

村人『……はいよ』

戦士『ありがとよ。それからこれ! 町で買った土産なんだけど……』

村人『悪いけど、受け取れないね』

戦士『……なあ、俺なんかしたか? オッチャンだけじゃなく村中がなんか冷たいんだが』

村人『……あんたは関係ないのかもしれないけど、今はまだ、ね』

戦士『え?』

村人『あの家に帰ってみれば事情が分かるよ』

戦士『……ただいま、帰りましたよー』

少女父『……!!』ダダダッ

戦士『あ、親父さん。俺の留守中に何か……』

父『この野郎っ!!』ブンッ

戦士『うお!?』ガシッ

戦士『ちょちょちょ! 何なんだ! いきなり殴りかかるなんて!』

父『この……人でなしの帝国人め!!』グググッ

戦士『……!?』


少女母『あなた!』

少女兄『父さん、止めて! その人は関係ないだろ!』バッ

父『ハァ……ハァ……』


戦士『……一体何が』

戦士『少女ちゃんは? それから、旅人も』

父『…………あんたは、何も知らんのか?』

戦士『……聞かせてくれ。何があったんだ』

戦士『そんな……旅人が、少女ちゃんを……』

母『うっ……うっ……』

兄『……』ギリッ

父『……あの子が……あの子が攫われたままじゃ……私たちは生きていけない』

父『だけど、私たちの力じゃ……どうしようも……』


戦士『分かった。俺が取り返す』

父『え!?』

兄『ほ、本当に!?』

戦士『ああ。絶対に少女ちゃんを貴方達の元に戻す』

母『……お、お願いします!! どうか、どうかあの子を!!』ギュウッ

戦士『約束する。だからもう泣かないでくれ』

母『うっ……ううう』

兄『あ、ありがとうございます!』

父『あああ……』ヨロッ

父『頼みます……もう……私らには、あんただけが頼りなんだ……』

戦士『なあに、これまで散々世話になってきたからな。その恩返しだよ』

父『お……おおぉ』ガバッ

父『ありがとうございます……ありがとうございます……!!』


――――――
――――
――

戦士(……旅人。お前だけは絶対に許さん)

戦士(必ず取り戻す。あの子を……家族のところへ!!)

――夜

魔法使い「……」スタスタスタ

勇者「行くんですか?」

魔法使い「!? 勇者君!?」

勇者「今も移民管理局の辺りにいるとは限りませんよ」

魔法使い「……どうしても気になっちゃってね」

勇者「ボクも行きますよ」

魔法使い「でも、勇者君が付き合う義理は……」

勇者「ボクは魔法使いさんの部下なんですから。上司が行くところ、どこへだって着いていきますよ」

魔法使い「ヘンタイ」

勇者「……おかしいな。思ってた反応と違う」


魔法使い「……ありがとね、勇者君」

魔法使い「よし! じゃあ、急いで移民管理局に向かおう!」

勇者「はい! 了解であります!」

すまん、用事が入った。19時に再開する
ID変わってると思うから一応酉つけとくわ

再開

――官庁街の外れ
――馬車の中

御者「先に宿屋でよろしいので?」

官憲「ああ、2人を宿で降ろしてからうちへ向かってくれ」

御者「はい」


官憲「……いよいよ明日だな」

旅人「ええ。共和国の組織も準備を終えたようです」

少女「…………」

官憲「ようやく俺も肩の荷が一つ降りるよ」

旅人「……今回は利害が一致して協力し合いましたが、この子を共和国に移送したら、貴方ともまた敵同士ですね」

官憲「おいおい、物騒なことを言うなよ。俺だって仕事でやってんだ」

旅人「……」

官憲「まあ少なくとも明日までは仲良くしようじゃないの」

ガラガラ……

ピタッ

官憲「ん? 宿についたか?」

官憲「……まだじゃないか。おーい、どうした? こんな道で止まって」

御者「…………」

官憲「……?」

旅人「……返事がありませんね」

官憲「おい! 何かあったのか!?」

御者「……」



「眠ってもらったのさ。御者も馬もな」

官憲「!? だ、誰だ!?」


官憲(剣を持って……強盗か!? 眠らせた……御者は殺されて………!?)


官憲「ま、待て。分かった。金ならあるだけやる。冷静になるんだ」

戦士「強盗じゃねえよ。御者は魔法で眠らせただけだ」

官憲「ま、魔法!?」

官憲「あんた、連盟の……?」


旅人「……一体なんなんです?」

旅人「……!?」

少女「え……!?」


少女「せ、戦士……さん?」

旅人「何で貴方がここに!?」

戦士「お前さんらを追ってきたんだよ。とりあえず馬車から降りてくれるか?」

旅人「戦士さん、一体何を……」


戦士「降りろ」チャキッ

旅人「……!?」

少女「え……?」

官憲「わ、分かった。降りるから剣を向けないでくれ……

官憲「……何なんだ、これは」

官憲「……それで、貴方は連盟の人間、なんですよね? この2人と知り合いで?」

旅人(連盟?)

戦士「ああ。彼女の村で一緒だった」

官憲「それで……それで、一体こんなことをして、目的は何なのですか?」

戦士「決まってんだろ。彼女を家族のところへ返す」

官憲「は?」

旅人「!?」

少女「……戦士、さん」

官憲「ど、どういうことだ……」

旅人「……戦士さん。貴方は多分誤解している」

旅人「僕はこの子を誘拐したんじゃない。彼女を救うために連れ出したんだ」

旅人「村の連中に何を吹き込まれたのか知らないが、それは嘘だ」

旅人「彼女を村に返してはいけない。彼女の身が危険なんだ」

戦士「誤解なんてしちゃいねえよ」

戦士「何もかも知ってる。全てな」

旅人「だからそれは……」

戦士「彼女は嫁入り前にも関わらず、掟を破り村長の息子とキスをし、それを村人に見られた」

旅人「!?」

戦士「彼女の家族は汚された名誉を取り戻す為に、彼女を焼き殺さなくてはいけない」

戦士「そんで、彼女が焼き殺されることを知ったお前は彼女を守る為に、仲間に連絡して彼女を連れて逃げ出した」

戦士「これで合ってるだろ?」

少女「……なん、で」

官憲「……!? ……!?」

旅人「そ、そうだ。しかし、一体」

旅人「それが分かっていながら、なぜ、彼女を家族の元へ、なんて……」


戦士「決まってんだろ。彼女の家族の為さ」

戦士「その子を殺せなかったあの人達がいま村でどんな立場にあると思う?」

戦士「村八分にされて、口もきいてもらえねえ」

戦士「あの人等を救うためには、その子を焼き殺すしかねえんだよ」

少女「…………あ、あ」

官憲(おいおいおいおい!)


旅人「……ば、馬鹿な」

旅人「そんな野蛮なことが許されていいわけがない!!」


戦士「許す? そんなこと、お前が決められるわけないだろ」

戦士「野蛮? 他人様の文化を捕まえて野蛮だと? お前は一体何様だ?」

戦士「許す? 野蛮? お前はあれか、神にでもなったつもりか?」

戦士「自分はあの村の掟を蔑ろに出来る上位存在だとでも?」

旅人「そ、そんなことは……」

戦士「いいや、お前がやったことはそういうことだ」

戦士「他者の文化を悪と決めつけ、他者の土地で彼らを踏みつけにした」

戦士「善だの悪だのはその文化によって違う。そして別々の文化に優劣など存在しない。それはただ『違う』というだけだ」

戦士「てめえは自分達の文化こそが唯一絶対的に正しいなんていう狭隘な価値観で、他人様の文化を汚したんだよ!!」

少女「…………」

旅人「ぼ、僕はただ、彼女を……」


官憲「……それで。我々をどうするつもりなんだ」

戦士「別に。あんたのことはどうもしねえよ」

戦士「あんたのことも眠らせても良かったんだがな」

戦士「一応経緯を説明したかったってのと、この人気のない夜道で眠らせたままにしとくのは危険だと思ってな」

戦士「大人しく彼女を渡してくれりゃあ何もしねえ」


官憲(……となると、もう選択肢はないな)

官憲「分かった。言う通りにしよう」

旅人「!? こ、この子を売る気か!?」

官憲「そういう問題じゃない。あんたは知らんだろうが、彼は我々の手に負える相手ではないんだ」

戦士「そいつは知ってるぜ。村でよく魔法を見せてたからな」

官憲「ならあんたも分かってるだろう。他に手はない」


官憲「ただし、上には有りのままを伝えるがそれで良いな? 連盟の人間に襲撃を受けたと」

戦士「ああ、構わねえぜ。ただし、『元』連盟だけどな」

旅人「ふざけるな! それでも人間かお前達!?」

旅人「だから移民管理局は……!! 国籍が違うというだけで、救える人を救おうともしない!! いつもいつもお前らは……ッ」


戦士「声がでけえよ」スパッ

旅人「」ブシュッ


官憲「な……!?」

少女「……! た、旅人さん!」


官憲「な、なぜ殺したんだ!?」

戦士「帝国に泥を塗った野郎だ。生かしちゃおけねえ」

官憲「そんな……」

戦士「さて、始めるか」

官憲「始める?」

戦士「火炎魔法でこの子を焼き殺す」

官憲「は!?」

少女「……」

官憲「ま、待て待て待て待て! 何を言ってる!?」

戦士「さすがに彼女を連れたままの渡航は危険すぎるからな」

戦士「幸い連盟の連中に作らせた映像記録魔具を持ってるんでね」

戦士「焼き殺す映像と遺体の一部を持ち帰って証拠とすることで村長も納得させた」

官憲「こ、ここで殺すのか?」

戦士「時間も無いからな。どうしても見たくないなら眠るか?」


官憲「………………い、いや。見ている」

官憲「見殺しにするんだ……せめてそれくらいは、逃げるべきじゃないだろう……」

少女「……」

官憲「残念だ……だが、どうしようもないんだ」

戦士「よし、魔具の起動は完了だ」カチッ

戦士「安心しろ。火炎魔法には自信があってな。一瞬だ。苦しむことはない」ゴオオ

少女「……」

戦士「……何か、言い残すことは?」

少女「……」

少女「……どうして、ですか」

戦士「……」

少女「どうして……」

戦士「…………お前が掟を破ったからだろうな」

戦士「じゃあな」ゴオッ


ピキィンッ


戦士「!?」

少女「……!? 凍った……?」



魔法使い「ふう。間に合った」

官憲「!? あ、貴方達は……」

戦士「……魔法使い」

勇者「……どういうことですか? 戦士さん。なぜその子を殺そうとしたんです?」

戦士「さっきも説明したばかりなんだがな……まあいい」

戦士「彼女は村の掟を破り、嫁入り前にも関わらず男とキスをした」

戦士「家の名誉の為に家族は彼女をを焼き殺す必要があったんだが、そこで転がってる野郎が彼女を連れて逃げた」

戦士「で、彼女の家族に頼まれて俺が彼女を焼き殺すことになった」


戦士「言うなればボランティアだな」

勇者「ボランティア……?」

戦士「そうだ」


勇者「……そんな、馬鹿げた話が」

魔法使い「……」

戦士「お前はあんまり驚かねえんだな、魔法使い」

魔法使い「嫌な予感はしていましたからね」

魔法使い「言ったでしょう? 貴方は良い人で尊敬もしていますが、ちょっと頭がおかしいんですよ」

魔法使い「だから何となく、何かしでかすんじゃないか不安だったんですよね」

魔法使い「さすがにその子を殺そうとしてるとは思ってもいませんでしたけど」

戦士「……だが、話は分かっただろ? 邪魔をしないでもらおうか」

魔法使い「そういう訳にはいきませんね。我々連盟の敵『魔物』は、人の世に仇なす魔性の者のこと」

魔法使い「貴方も討滅対象なんですよ、戦士さん」

戦士「道理ってものがあるだろう。その子を連れ出し、村の文化に唾を吐いたのは、そこに転がってる俺たちの同胞だ」

戦士「なら、俺たち帝国人がそれを贖うのが筋ってもんじゃねえか?」

勇者「……ここは帝国だ。その村じゃない」

勇者「帝国にいる以上は帝国の文化を守ってもらう。それが道理ですよ」


戦士「……なるほど、一理ある」

戦士「だが帝国人が他人様の文化を侵したのも事実。何より俺は約束しちまった」

戦士「邪魔するなら、悪いが容赦はしねえ」


魔法使い「容赦しないはこちらの台詞です」

戦士「勝てる気か? お前が、この俺に」

魔法使い「貴方こそお忘れでは? あれからもう、2年も経ったんですよ!」キイイインッ

戦士「!」

バシュッ!!

戦士「……」ダダッ

戦士(なるほど、威力も速さも……)

勇者「ハアアッ!」バッ

戦士「遅ェよ!!」ガキンッ

勇者「!」

戦士「はっ」ヒュンッ

ザシュッ

勇者「がっ……!?」

魔法使い「勇者!」キィィィン

戦士「ふんっ」ドガッ

勇者「ゲホッ」ドゴッ

魔法使い「チッ」バシュンッ!

戦士「!」バッ

魔法使い「くっ……」バシュンッバシュンッ

戦士「当たらねえな」キィィィィン

戦士「はッ!」ダッ

魔法使い「……! 防御魔法!」

戦士「おらァッ!!」ガギンッ

ギギギギギギッ!!

ピキッ

魔法使い(や、破られ……)

バリンッ

魔法使い「きゃあッ!」ドガッ

魔法使い「う……」


勇者「うああああ!!」ヒュンッ

戦士「おっと」シュッ

勇者「ぐっ……!」

戦士「服を掠っただけだぜ」ザシュッ

勇者「うあっ!」ブシュッ

勇者「う、ぐ……」

戦士「分かるだろ? 俺はいま敢えてお前らに追撃をしなかった。殺せるのに殺さなかったって話だ」

戦士「だが、今ので最後だ。次、向かってきたら、もう生かしてはおかない」


魔法使い「く……ッ」

魔法使い(ダメ、やっぱりレベルが違う……)

勇者(隙がない……ボクの腕じゃ太刀打ちできない)ヨロッ


官憲「……あるいはと思ったが」

戦士「そう上手くはいかねえもんさ」キィィィン


戦士「待たせちまったな」ゴオオオ

少女「……」

戦士「今度こそケリをつける」オオオオ

少女「…………はい」

戦士「…………行くぞ」






パキンッ

戦士「ん?」

官憲「……?」


カシャンッ


官憲(首元から何か落ちた?)


少女「……あ」

戦士「………」

少女「……ネックレス」

戦士「……」


少女「着けて……くれてたんですね」ニコッ

戦士「――――――」

少女『だから、いつもお世話になってる戦士さんに貰ってほしいな、って』

戦士『……そうか。ありがとな。大切にするよ』

戦士『どうだ? 似合うか?』

少女『はい!』




ザクッ

戦士「――――はっ」

勇者「あああああ!!」ググッ

戦士「こ、の……!」ドガッ

勇者「ぐあ……ッ」

勇者「ッ……魔法使いさん!」

魔法使い「ハアアァッ!!」バシュンッ


ピキィィン…

戦士「…………」パキッ


パキパキパキパキッ


戦士「……たしかに、な」パキパキパキパキッ

戦士「成長……した、みた……」パキンッ

戦士「……」


魔法使い「…………」

魔法使い「……貴方は、弱くなりましたよ。きっと」

――1週間後
――港

官憲「……彼女の見送りですか?」

魔法使い「はい。貴方は?」

官憲「保身のために見殺しにしようとした身ですからね。とても見送りには」

官憲「延び延びになってしまいましたが、ここまで送り届けて、ようやく私の仕事は終わりです」

魔法使い「……そうですか」

官憲「私はこれで。次の仕事が山ほど待っているもので」

魔法使い「はい。では、また」

少女「あ、魔法使いさん、勇者さん」

勇者「こんにちは」

魔法使い「見送りにきたよー」

少女「わざわざありがとうございます!」

魔法使い「……共和国かー。良いところだといいねー」

少女「はい。支援団体の人達はとっても良い人達ばかりだから、きっと何とかやっていけると思います」


少女「……あの」

魔法使い「んー?」

少女「戦士さんは、やっぱり氷が溶けて戻ったりは……?」

魔法使い「あー。残念だけど、それは無理だね。凍った時点で心臓から何から全部止まっちゃったし」

少女「……そうですか」

魔法使い「良いの、良いの。君のことを殺そうとした野郎なんだからさー。気に病む必要はないよ」

少女「いえ……元はと言えば私が悪いから……私が、断らなかったから……」

勇者「……そのネックレス、戦士さんの?」

少女「あ、はい。元々は私が戦士さんに差し上げたものなんですけど……着けていたくなって」


勇者(なるほど……あの時、隙が生まれたのはそういう理由か)


勇者「似合ってるよ」

少女「……えへへ。ありがとうございます」


「少女ちゃん、そろそろ船に」


少女「あ……はい。すぐに行きます」

少女「それじゃあ、魔法使いさん、勇者さん。本当にありがとうございました」

魔法使い「なんのなんの。私たちは自分の仕事をしただけだよー。ね?」

勇者「はい。魔法使い殿の仰るとおりであります」

少女「……ふふ」

少女「お二人とも、お元気で! 向こうに着いたら手紙書きます!」

魔法使い「はーい、少女ちゃんもねー」

勇者「ボクらも手紙書くよー!」

――――――
――――
――


勇者「……見えなくなりましたね。船」

魔法使い「そだねー」


ピーッピーッ


魔法使い「おっと、喜べ新人君。仕事が入ったみたいだよ」

勇者「はい! 新人勇者、全力で頑張ります!」


おわり

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