ネクロマンサー♀「といれ……」人形遣い「またかよ」 (205)

ネクロ「ついてきて……」

人形遣い「お前な……いい加減一人で行けるようになれよ。もうすぐ15だろうが」

ネクロ「正確には明日で15」

人形遣い「だったら尚更だろうが。もういい歳なんだから夜の便所くらい一人で行けるようになれ。ほら行ってこーい」

ネクロ「いや」

人形遣い「……一応聞いておくが、理由は?」

ネクロ「お化けが出そうで怖い」

人形遣い「常日頃から死霊取り扱ってるお前が言うな」

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ネクロ「え?」

人形遣い「え?じゃねぇよ。お前が術に使ってるあいつらの事だよ」

ネクロ「どの子だろう……。サブリナ?ミカエラ?アルジャーノン?それともまさか……ベンジャミン?」

人形遣い「あいつら名前あったのかよ。初耳だよ」

ネクロ「その発言は失礼。人の名前を冒涜することは人権を侵すということ」

人形遣い「どうでもいいわ!っていうか俺にはそいつらの方がよっぽど怖えぇよ!今更お化け怖いとか言ってんじゃねぇよ!」

ネクロ「そんなことない。みんないい子だよ?」

人形遣い「ええー……?」

ネクロ「サブリナ、出ておいで」

ゾンビ「アア……ウァ……」

人形遣い「うおっ!?いきなり呼び出すなよ馬鹿!びっくりするだろうが!!」

ゾンビ「アゥ…ァ……」

人形遣い「な、なんだよ……?」

ネクロ「サブリナが落ち込んでる。あなたが失礼な態度を取るから」

人形遣い「いやわかんねーよ。顔面腐りかけてるし」

ゾンビ「ァ……ウウ……」

ネクロ「そんなこと言っちゃだめ。サブリナは乙女だから、そういう何気ない発言で傷付いちゃうこともある。あなたは乙女心をもっと勉強するべき」

人形遣い「知らんわ」

ネクロ「ごめんねサブリナ。この人の言うことは気にしないでね」

ゾンビ「ァウ……アア……」

ネクロ「うん。サブリナは腐ってても魅力的な女の子だよ。わたしが保証する」

ゾンビ「アァ…ア…ヴゥ……!」

ネクロ「最近太った?わたしはそうは思わないけど」

ゾンビ「ゥゥ……!アアゥ……!」

ネクロ「わかった。次に戦う時は、あなたに頑張ってもらうことにするね」

ゾンビ「アア…ウ…!」

ネクロ「うん、期待してるからね。それじゃあ、おやすみ」

ゾンビ「ウゥ…!」




ネクロ「サブリナは美容にとても気を遣っててえらい。あなたも見習うべき」

人形遣い「いやいやいや」

人形遣い「っていうか何であいつが怖くねぇんだよ。妖魔もびっくりレベルのスプラッターじゃねぇか。あいつのほうがよっぽど怖えぇだろうが」

ネクロ「?どうしてわたしがサブリナを怖がるの?」

人形遣い「心底不思議で仕方ないって顔してんじゃねぇよ。あれが平気ならお化けなんざ、万が一出たとしても問題ねぇだろ」

ネクロ「あなたが何を言ってるのかわからない……お化けはこわいよ……?」

人形遣い「いや……ってもういいわ。突っ込む気力も失せるっての」

ネクロ「じゃあ、一緒にきて……?」

人形遣い「面倒くせェ……あ、そうだ。よっと」


人形「コンバンハ!ワタシ、メリー!」

人形遣い「ほれ、こいつと一緒なら怖くねぇだろ。というわけで俺は寝る」

人形「ネクロチャン!ワタシトイッショニオトイレイキマショ!」

ネクロ「………」






ネクロ「気持ち悪い……」

人形遣い「しばくぞ」

ネクロ「これは無理…あなたの神経を疑う……」

人形遣い「お前のゾンビに比べればマシだろうが。顔だって愛嬌あるだろ?」

人形「エヘッ☆」

ネクロ「………」

人形遣い「………」


ネクロ「お友達なら…わたしや戒さまがいる。だから、落ち込まないで……」

人形遣い「人を人形しか友達がいない可哀想な奴扱いしてんじゃねぇよ。お前だって死霊がお友達だろうが」

ネクロ「うん。みんなお友達。だからわたし、寂しくないよ」

人形遣い「イヤミで言ってんだよ!!」

破戒僧「騒がしいですね…目が覚めてしまいましたよ」

ネクロ「戒さま、おはよう」

破戒僧「おはようございます……という時間でもなさそうですが。まぁ、おはようございます」

ネクロ「うん。みんなも、ご挨拶して?」

ゾンビ「アァ……」

破戒僧「おはようございます、サブリナさん。今日もお美しいですね」

スケルトン「カタカタカタカタ」

破戒僧「はい、ミカエラさん。僕は今日も元気ですよ」

レイス「………」

破戒僧「おや、アルジャーノンさん、少し顔色が悪いですね。後で治療しますよ」

グレムリン「キキキッ!イヒヒッ!」

破戒僧「ふふっ、ベンジャミンさんは相変わらず面白い事を企んでいますね」





人形遣い「やべぇよこいつら…何なんだよ……」

人形「イミワカンナーイ」

破戒僧「ところで、お二人はこんな時間に何をなさっていたのですか?何やら言い争っていたようですが」

ネクロ「パペちゃんが、お友達いなくて寂しいって」

破戒僧「それは…何ともお可哀想に……」

人形遣い「ちげェよ。お前が一人で便所に行けねぇって話だったろうが。あと人形遣い《パペットマスター》だからってパぺちゃん言うな」

ネクロ「あっ、そうだった。お化けが出そうで怖いの」

破戒僧「成程。それで、パぺさんについて来て頂けるよう頼んでいたと」

ネクロ「うん。でもパぺちゃん、面倒だって一緒に来てくれない……」

破戒僧「それはそれは……困ったパペさんですね」

ネクロ「わたし、パペちゃんに嫌われてるのかな……?」

破戒僧「大丈夫ですよ、パペさんは少し素直になれないだけです。所謂ツンデレというやつですよ」

ネクロ「そう……パペちゃんはツンデレ。ならよかった」

人形遣い「だからその呼び方やめろ。それとツンデレじゃねぇよ」

破戒僧「まったくあなたという人は。お手洗いくらい、一緒に行ってあげてもいいじゃないですか」

人形遣い「うるせェな。俺はこいつのお守じゃねぇんだよ」

ネクロ「えっ……?」

人形遣い「衝撃の新事実発覚!みたいな顔してんじゃねぇよ。当たり前だろうが」

破戒僧「おやおや。では、あなたはこの子の何なのでしょう?」

人形遣い「んなもん決まって………ハッ!?」


ネクロ「じーっ……」

破戒僧「決まって、何なのでしょうね?是非お聞かせ願いたいものです」ニヤニヤ

人形遣い「(こ、この野郎……っ!!)」

人形遣い「………」

ネクロ「………」

破戒僧「ふふ……」


人形遣い「……ただの知り合」

ネクロ「え……?」ウルッ

人形遣い「くっ……!か、家族、だろ…!俺達はっ……!」

ネクロ「……!うんっ!わたし達は、家族……!」




破戒僧「いやぁ、寝起きからいいデレを頂きました。ごちそうさまです」

人形遣い「うるさい腐れ僧侶!死ね!」

ネクロ「家族……わたし達は家族……えへ」

破戒僧「よかったですねぇ」

ネクロ「うん。あ、戒さまもちゃんと家族だよ?安心してね?」

破戒僧「それはそれは。とても有難いお言葉をありがとうございます」

人形遣い「もうやだこいつら……っていうか便所はどうしたんだよ便所は!そもそもの目的はさぁ!」

ネクロ「あ」

破戒僧「あぁ」

人形遣い「忘れてんじゃねぇよ!お前は便所に行きてぇけど一人で便所まで行くのが怖いってんでオレに便所までの付き添いを要求してきたんだろうが!!」

ネクロ「パペちゃん、声が大きいよ……」

破戒僧「便所便所と大声で連呼するのは頂けませんね。人形遣いさん、はしたないですよ」

人形遣い「~~~~!!!!」

ネクロ「どうしよう、思い出したら我慢が……」

破戒僧「あーあ……」

人形遣い「俺が悪いみたいな目で見てくるんじゃねぇよ。だったらお前が付き添ってやれよ」

破戒僧「いえ、僕も一応は聖職者を志していたものですから。女性とトイレの個室に二人きりというのはちょっと」

人形遣い「しれっと中まで入るつもりでいるんじゃねぇよ。外で待ってりゃいいだろうが」

破戒僧「それだと、僕が真夜中に女子トイレの前を徘徊しているような変態だと思われてしまうじゃないですか。それはご勘弁願いたいものです」

人形遣い「元々似たようなもんだろが。常にニヤケ顔の優男なんざ変態でも違和感ねぇよ」

破戒僧「酷いです……好きでこんな顔に産まれたわけじゃないのに……!あなただって毎日人形弄り回していやーんあはーんとか言わせてる人形フェチ異常性癖者のくせに……!」

ネクロ「パペちゃん、言いすぎ……戒さまに謝るべき」

人形遣い「酷いのは俺の扱いだよ!!」

ネクロ「仕方ない……みんなについて来てもらうしかない」

破戒僧「みんなというと、あなたの死霊達ですか?」

ネクロ「うん。みんなが一緒なら、わたしも怖くない」

人形遣い「最初からそうしろよ!俺だけ罵られ損じゃねェかよ!!」

ネクロ「ちょっと、静かにしてて」

人形遣い「あ、はい」


ネクロ「サブリナ」

ゾンビ「アゥゥ……」

ネクロ「ミカエラ、アルジャーノン、ベンジャミン」

スケルトン「カタカタカタ」

レイス「………」

グレムリン「キヒッ!キキキッ!」


人形遣い「(屍霊術ってのは高位の術式を用いるらしいが……こいつは死霊どもをほとんどタイムラグなしで呼び出しやがる。相変わらず人間離れしてやがるな。中身はガキそのものだが)」

ネクロ「ラミー、レイン、シャクヤク、エレン、トーラ、オルステッド、コンスタンツ、エリーテ、マリーカ、ランド、ザラク、ジョニー、ギュスタヴ、ラグランジュ、サーナイト、リシェーナ、ロイド、ゴルドン、ギルバート、フェンベルク、クラード、マリエル、キルシェ、ハリー、ザルツブルグ、カイエン、アレク、ウェイン、スタンフォード、バルムンク、ゼリグ、レオン、ティート、エレノア、ダミアン、あと他のみんなも」

死霊達「「「「「「「「ギシャァァァーッ!!」」」」」」」」


人形遣い「」

破戒僧「おやおや。随分と賑やかになりましたね」

ネクロ「これなら、怖くない」

破戒僧「それはよかった。では、いってらっしゃい」

ネクロ「うん。行こう、みんな」

死霊達「「「「「「「「ギシャァァァーッ!!」」」」」」」」


人形遣い「やべェよこれ……百鬼夜行かよぉ……」

人形「アリエナインデスケドー…」

破戒僧「ふふ。可愛らしいじゃないですか、一人でお手洗いに行くのが怖いだなんて。いくら屍霊術の才能があるとはいえ、やはり普通の子供なんですねぇ」

人形遣い「あれだけの死霊に囲まれて平然としているガキを普通とは言わねぇよ。俺でも怖いっつの」

破戒僧「あなたは元々怖がりでしょうに。……っと、どうやら一件落着のようですし、私はもう一度寝直すとしますよ。あなたはどうしますか?」

人形遣い「俺も寝る。っつーか眠みぃ。こっちはお前よりも早くあいつに叩き起こされてんだぜ?」

破戒僧「それはそれは、ご苦労様です。でも、満更ではないのでしょう?」

人形遣い「ハァ?どこをどう見たらそうなるんだよ。腐れ僧侶は脳ミソまで腐っちまったか?」

破戒僧「ふふ、そうかもしれませんね。それでは、おやすみなさい」

人形遣い「とっとと寝ろボケ。……オヤスミナサイ」

人形遣い「あー……どっと疲れた……。死霊どもがいるならあいつも怖がる事はねぇだろうし、俺ももう一眠り───」

下級妖魔「お休みのところ失礼します!!」

人形遣い「どわぁっ!?い、いきなり出てくるんじゃねぇよ、びっくりするだろうが!ただでさえお前の顔グロいんだから!!」

下級妖魔「えっ……?グロい、でありますか……?」

人形遣い「あ、いや、その……ごめん。なんつーか、ちょっと気が立ってただけで……べ、別に本心じゃねぇんだ、悪かったな」

下級妖魔「!?い、いえ、頭を上げてください!私の顔がグロいのは遺伝ですから、もう諦めてます!!」

人形遣い「遺伝なのかよ……お前も苦労してきたんだな……」

下級妖魔「は、はぁ……。って、私の顔の事はどうでもいいです!それどころではないのです!!」

人形遣い「なんだよ切羽詰まった顔して。こんな真夜中だってのに……」




下級妖魔「勇者です!勇者一行が魔王城の目の前まで迫っています!!」

人形遣い「ハァ?」

人形遣い「いやいやいやいや。冗談だろ?」

下級妖魔「こんな時に冗談など申しません!既に防衛ラインは半壊し、城門を突破されるのも時間の問題です!!」

人形遣い「ええー……?だってさぁ、勇者ぶっ殺すのはあいつの仕事だろ。あいつだよあいつ、あのリーダー気取りのヘタレ剣士。あいつは何やってんだよ?」

下級妖魔「そ、それが……魔封じの洞窟にて勇者一行と交戦の後、音信不通と……」

人形遣い「使えねぇぇぇぇぇっ!!魔法使わねぇ癖に魔封じの洞窟で殺られてんじゃねぇよ!剣士だろあいつ!!」

下級妖魔「報告によると、魔封じの洞窟において勇者一行の攻撃・回復魔術能力を奪った上で殺害するつもりが、洞窟の効力によって自身の持つ魔剣の力までもが封印されてしまい、歯が立たなかったとの事で」

人形遣い「馬鹿かっ!!」

下級妖魔「『運が良かったな、今日は魔剣の調子が悪いようだ』と言い残し、逃走しようとしたところを……背後からバッサリと」

人形遣い「死ね馬鹿!いや死んでるけど!!」

人形遣い「あいつあれだよな!『フッ、今宵も余の魔剣が血に飢えておる……』とかすっげぇイタい発言残して自信満々に出てったよなぁ!?それで返り討ちとかダサすぎるだろ!!」

下級妖魔「部下の者が最後に聞いたのは、『勝利の美酒を貴様らの血と死体で飾ってやろう……かかってくるがいい!!』と勇者一行に向けて言い放った言葉だそうです」

人形遣い「イタすぎんだろ!尚更殺られてんじゃねぇよ!!

下級妖魔「さ、更に、どうやら魔剣の他にも魔術防具で身を固めていたようで……これがどういうことなのかといいますと……」

人形遣い「魔術防具まで持ち出してたのかよ、すっげぇ本気じゃねぇか。でもそれで殺られるとか、お前……」

下級妖魔「持ち出した魔術防具は勇者一行に略奪された上、本気だったということもあって相手方に莫大な経験値が……」

人形遣い「あ、やっべぇ、頭痛てェ。もう寝ていい?」

下級妖魔「お、お待ちください!もはや我々では手がつけられないのです!どうかお力添えを!!」

人形遣い「ええー……?」

人形遣い「……と、断り切れずに城門前までやって来たわけだが」



勇者「はぁっ!!」

妖魔A「グギャッ!?」

戦士「セイッ!!」

妖魔B「ギャアアアアッ!!」

魔法使い「フレアー!!」

妖魔C「ギ……」


上級妖魔「怯むな!勇者一行は疲弊している!そのまま押し切るのだ!」

僧侶「神の癒しを!ヒーリング!!」

上級妖魔「ごめんやっぱり無理!退却していいぞ!!」


人形遣い「負け戦じゃねぇかよ……」

人形遣い「っていうか夜襲とか……勇者()のやることじゃねぇだろ……」

戦士「勇者!門の前に誰かいるぞ!」

勇者「残りの四天王か!?だが、奴らのリーダーは倒した!残るは取るに足らない相手だ!!」

魔法使い「援護は任せて!」

僧侶「勇者様、サポートします!!」


勇者「そこを退けぇぇぇぇーっ!!」

人形遣い「うるせぇ」



勇者「」






戦士「は?」

魔法使い「え?」

僧侶「勇者様……?」

勇者「」

僧侶「あ、あの、勇者様、首が」

勇者「」

僧侶「勇者様の、首が……」


人形遣い「んだよーあの馬鹿!魔剣が使えないからってこんな雑魚共に負けてんじゃねぇよ!」

人形「キャハッ!ヨワッチイノネェ☆」


戦士「っ!?お、オイ僧侶!ボサっとしてねぇで回復を」

人形遣い「2」

戦士「」


魔法使い「ちょ、ちょっと、嘘でしょ……!?なによこいt」

人形遣い「3」

魔法使い「」


僧侶「勇者様……勇者様の、首……」

人形遣い「4」

僧侶「」

人形遣い「片付いた。寝る」

上級妖魔「は、はっ……!加勢に感謝致します!」

人形遣い「あー、死体は片付けなくていい。連中、どうせ死んでも『神の御加護』とやらですぐに最寄りの教会で復活するんだと。……どこぞのゾンビどもよりタチが悪りィっつの」

上級妖魔「そ、そうですか……」

勇者「」

人形遣い「にしてもまぁ。周りに鋭利なワイヤー張り巡らせただけで、こうも簡単に勇者サマが自滅してくれるとはな。注意力散漫ってやつ?」


戦士「」

魔法使い「」

僧侶「」

人形遣い「他の連中もイレギュラーに弱えぇっつーか、俺みたいなタイプと戦った事がねぇんだろうなぁ。誰がお前らなんかと正々堂々戦ってやるかっての。ばーか」

人形遣い「あーねみィ……そろそろ限界……」

ネクロ「おかえり」

人形遣い「うおおっ!?いたのかよ!てか何で俺の部屋にいんだよ!!」

ネクロ「アルジャーノンが教えてくれた。勇者が来たって」

人形遣い「あー、ああ……。っつっても大したことなかったぜ?勇者とかいうガキの頭吹っ飛ばしてやったら、他の連中はあっさり戦意喪失しやがった。でもって一人一人首を吹っ飛ばしてやってジ・エンド。噂だけで大した奴らじゃねぇよ、あんなの。俺一人だって余裕で───」

ネクロ「………」

人形遣い「な、なんだよ……」


ネクロ「……次は、わたしも呼んで」

人形遣い「は?」

ネクロ「勇者は、きらい。いつもいつも、わたしの家族を奪おうとする」

人形遣い「………」

ネクロ「だから、次はわたしを呼ぶべき。あなたが一人で行って、万が一のことがあったら、わたしも戒さまも……悲しい」

人形遣い「……あー、はいはい。了解ですよお姫様。次に勇者が来たらお前も一緒に戦ってもらう。それでいいんだろ?」

ネクロ「……!うん……!わたし、がんばる……!」

人形遣い「ふん、勝手にしろ……」










ネクロ「……、それはそうと……」

人形遣い「今度は何だよ?」

ネクロ「……アルジャーノンの報せを聞いて飛んできたせいで、といれに行けなかった……」

人形遣い「は?」

ネクロ「正直言って、そろそろ限界。あなたの眠気よりも先に、私の膀胱が限界を迎えそう」

人形遣い「年頃の娘が膀胱とか躊躇いなく言うんじゃねぇ。そして便所に行け」

ネクロ「お化けが出そうで怖い……」

人形遣い「あーはいはい。お友達の死霊にでもついて来てもらえ」

ネクロ「あなたを待ってる間に魔力が尽きた。ついでに言うと、わたしが一度の術で呼び出せるのはさっきので精一杯。よってわたしは今、誰も呼び出すことができない」

人形遣い「魔力の無駄遣いしてんじゃねぇよ!!」

ネクロ「だめ……あなたの叫び声が起こす僅かな振動ですら、今のわたしには刺激が強すぎる……」

人形遣い「漏らすなよ!?絶対漏らすなよ!?フリじゃねぇからな!?」

ネクロ「あ……おとうさん…おかあさん……」

人形遣い「便所の我慢しすぎで走馬灯見てんじゃねぇよ!!」

ネクロ「も…むり……だ、めぇ……!」プルプル

人形遣い「だ、誰かァァァーッ!破戒僧ォォォーッ!!!」

出掛けるので一旦終わり!

こんな感じでゆるゆると勇者一行から魔王城を防衛するSSです。

人形遣い「………」

ネクロ「あの」

人形遣い「喋んな」

ネクロ「……うん」

人形遣い「随分とまぁ……盛大にやらかしてくれたもんだな?」

ネクロ「ごめんなさい」

人形遣い「あー、ったく……ベッドのシーツがぐしょぐしょじゃねェかよ……」

ネクロ「その言い方は卑猥。あなたは言葉の表現方法を改めるべき」

人形遣い「うるせぇ耳年増。ちったぁ反省しろ」

ネクロ「反省ならさっきからしてる。ごめんなさい」

人形遣い「謝ればいいってもんじゃねぇんだよ。14にもなって小便漏らす奴なんざそうそういねぇぞ」

ネクロ「それは少し違う」

人形遣い「あ?」

ネクロ「ついさっき、日付が変わったのを確認した。よってわたしはもう15歳」

人形遣い「うるせぇ馬鹿!!」

人形遣い「クソ、こっちはさっきから眠くて仕方ねぇってのに……どうしてくれんだよ」

ネクロ「本当に反省してる。お詫びにわたしの部屋を使っていい」

人形遣い「あんな死臭漂う部屋で寝られるか」

ネクロ「前はよく一緒に寝てくれた」

人形遣い「あの頃はお前はまだガキだったから、仕方なく付き合ってやってたんだよ。中身は今でもガキだけどな」

ネクロ「一緒に寝るのは楽しい。わたしはすき」

人形遣い「お前だけならまだしも、傍で腐乱死体やら骸骨やらが蠢いてるんだぞ。夢見心地最悪だっつの」

ネクロ「そんなことない。夢の中でもみんなと遊べる」

人形遣い「俺はカタコンベでアンデッド共とキャッキャウフフしてる夢なんか見たくねぇよ」

ネクロ「楽しいのに……」

ネクロ「じゃあ、あなたはどんな夢がすき?」

人形遣い「あ?そうだな……俺h」

ネクロ「あ。やっぱりいい。その先は言わないでほしい」

人形遣い「ハァ?お前から聞いてきたんだろうが」

ネクロ「あまり卑猥な想像を口に出されると、サブリナ達の教育によろしくない。みんな、そういう話題には疎いから」

人形遣い「人を年がら年中卑猥な夢ばっかり見てる奴みたいに言うんじゃねぇよ。そんな夢滅多に見ねぇよ」

ネクロ「滅多に見ないということは、たまには見るということ。どちらにしても不純」

人形遣い「んなもん、誰だって一度くらいは見んだろ。そういうお前はどうなんだよ」

ネクロ「………」

人形遣い「おい?」

ネクロ「この話題はもうやめにするべき。これ以上は不毛」

人形遣い「おっとぉ?何かなァその反応は。人を散々卑猥だの不純だの言っておいて、そう言うお前はどんな夢を見てるっていうのかなァー?」

ネクロ「……別に大した夢は見ない。あなたに身体の制御を奪われて恥ずかしい恰好をさせられる夢や、術に失敗して死霊達にあんなことやこんなことをされる夢なんて、一度たりとも見たことはない。決して」

人形遣い「(耳年増ェ……)」

人形遣い「お前……ガキの癖してなんつー夢見てんだ。流石の俺も引いたわ」

ネクロ「それは違う。今のは単なる例え話であって、決してわたしが見た夢というわけではない。そのことを理解したのなら、この話題は早急に打ち切るべき」

人形遣い「へいへい。つーか何気に気になったんだけど、あのゾンビ共ってお前が教育してんの?教育されてるんじゃなくて?」

ネクロ「『ゾンビ共』じゃない。みんな一人一人、ちゃんとした名前がある。あなたも覚えてあげて」

人形遣い「んなこと言われてもな。サブリナ、ミカエラ……あと何だっけ」

ネクロ「ラミー、レイン、シャクヤク、エレン、トーラ、オルステッド、コンスタンツ、エリーテ、マリーカ、ランド、ザラク、ジョニー、ギュスタヴ、ラグランジュ、サーナイト、リシェーナ、ロイド、ゴルドン、ギルバート、フェンベルク、クラード、マリエル、キルシェ、ハリー、ザルツブルグ、カイエン、アレク、ウェイン、スタンフォード、バルムンク、ゼリグ、レオン、ティート、エレノア、ダミアン。それと生前の名前を忘れてしまった低級霊のみんなだよ。一度で覚えるべき」

人形遣い「無茶言うんじゃねェよ」

人形遣い「あれだ、元は人間だった奴も結構いるんだろ?今更教育する必要なんてあんのか?」

ネクロ「必要だよ。この子達の魂は、一度は器から離れてしまっている。それをわたしの術で繋ぎとめているけど、これは普通に考えたらとても不自然な状態。そんな状態が長く続けば続くほど、だんだん生前持ってた記憶との齟齬が生まれてくるの」

人形遣い「ほぉ……死人ってのも大変なんだな。ちなみに、齟齬が起きるとどんな風になっちまうんだ?」

ネクロ「例えば……マリーカは生前、好きだった子にこっぴどくフられて自殺してしまった女の子」

人形遣い「いきなり重いなおい」

ネクロ「マリーカは死んでからもやっぱりその子が好きだったけど、死んだことで少しだけ記憶の齟齬が起きてしまったの。その結果、自分は生前その子とラブラブカップルだったと思い込んでしまっている」

人形遣い「ちょっと待った」

ネクロ「その子は今は他の人とお付き合いしているけれど、マリーカは記憶の齟齬によってその子を自分のものだと思い込んでいるから、隙あらば相手の女の子を呪い殺そうと毎晩呪術に磨きをかけて───」

人形遣い「記憶の齟齬でも何でもねェよ!ただのストーカー女だよ!!」

ネクロ「流石に殺すのはだめだから、せめて非通知の魔法通信で嫌がらせする程度に留めておくよう言い聞かせてる」

人形遣い「そういう問題じゃねぇよ!!」

人形遣い「やべェよその女……とんだ悪霊じゃねぇかよ……」

ネクロ「乙女心は複雑怪奇……わたしですら、未だに全容を把握するには至らない」

人形遣い「乙女心の一言で片付けていい問題じゃねぇけどな。その女、ちゃんと術で拘束しておけよ?」

ネクロ「わたしの術はそんなことはしない。みんなはあくまで自分の意思で、勇者と戦うために力を貸してくれているだけ」

人形遣い「そうなのか?屍霊術ってのは魂を死体に無理矢理縛り付けてるもんだって聞いたがな」

ネクロ「世間一般では、そう。黄泉の国から霊魂を呼び戻して、生前の肉体に束縛するの。その際、仮初の身体は術者の魔力によって激しい痛みを伴う。その苦しみを少しでも和らげようと、彼らはまだ生きてる人間の血肉を求めて彷徨いだすの。鮮度の高い血や肉は、死者にとって最高のごちそうだから。そうして動き出した屍を魔力で従えて、自分の手足のように操るのがわたし達ネクロマンサー」

人形遣い「(え、何、こいつ普段そんなえげつない術使ってんの?ヤバくね?)」

ネクロ「他にも死霊を直接相手の体内に送り込んで、宿主の魂を喰い尽くして身体の主導権を奪ったり、そのまま呪い殺したりすることもできる。屍霊術はとてもバリエーション豊富な魔術」

人形遣い「やめて何か怖くなってきた」

ネクロ「といっても、それは嫌がる霊を無理矢理抑え込んでいるから起こる話。わたしの場合はみんなが自主的に協力してくれている。よって、魔力で束縛する必要もない」

人形遣い「そりゃつまり……あいつらは生きてる人間の血肉に飢えずに済んでるってことか?」

ネクロ「みんな普段は自由行動。わたしが呼び出した時だけ来てくれるようになっている。魔力による束縛をしていないから、激痛を伴うということもない。記憶の齟齬が起こってしまうのは、仕方のないことだけど……」

人形遣い「だからそれは記憶の齟齬じゃなくてストーカー……ってもういいわ。しかしまぁ、お前のお友達は随分といい環境にいるんだな。世間一般のネクロマンサーとは大違いだ」

ネクロ「うん。今もサブリナとシャクヤクとコンスタンツ、ザラクとギュスタヴとレオンの6人が3対3の合コン中」

人形遣い「おい」

ネクロ「サブリナはギュスタヴに片思い中だけど、コンスタンツもギュスタヴを狙ってる。シャクヤクとレオンはお互い一目惚れで、今はほとんど相思相愛状態。あと一押しあれば付き合うことになると思う」

人形遣い「生きてる俺達より青春満喫してんじゃねぇよ。死霊同士のカップルとか非生産的すぎんだろ」

ネクロ「ザラクは引っ込み思案だから話題に入れていないけど、元々この合コンには付き合いで参加しているだけだから問題ない。彼は故郷に残してきた幼馴染一筋だから」

人形遣い「知らねぇよ。っていうかザラク死んでんじゃねぇかよ、幼馴染不憫すぎるだろ」

ネクロ「サブリナは今回かなり本気。だけど困ったことに、サブリナとシャクヤクは親友同士……。わたしとしてはサブリナを応援したいけど、シャクヤクはこれが初恋。初恋の相手が親友と付き合い始めたなんてことになれば、彼女はとても傷付いてしまう……。ねえ、わたしはどっちを応援するべきだと思う?」

人形遣い「知らねぇよ!!」

>>43

ネクロ「少し言い間違えた。親友同士でお互いにギュスタヴを狙っているのはサブリナとコンスタンツ。シャクヤクはレオンと相思相愛」

人形遣い「だから知らねぇよ!!」

というわけでここまで!

ネクロ「残念……あなたなら相談に乗ってくれると思ったのに」

人形遣い「俺に聞くなっての。大体、俺らの周りなんて妖魔だらけじゃねぇか。まともな恋愛経験あるわけねぇだろ」

ネクロ「妖魔にもいい子はたくさんいる。人を見た目で判断することはよくない」

人形遣い「いや、無理だろ……どいつもこいつも異形じゃねェか」

ネクロ「それを言うなら、あなたの人形も」

人形遣い「メリーはいいんだよメリーは!可愛いだろうが!!」

ネクロ「え……?」

人形遣い「ぶっ殺すぞ」


ネクロ「出会いがないというのであれば、わたしが誰か紹介───」

人形遣い「いらねぇよ。お前のお友達っつったらどう転んでもアンデッドじゃねぇか。俺にそんな趣味はねェ」

ネクロ「そう、残念……。今ならリシェーナがフリーだったのに」

人形遣い「名前だけならまともなんだがな……。ちなみに聞いておくが、そいつはゾンビか?それともスケルトンか?」

ネクロ「ううん、違うよ。リシェーナはライカン族の女の子。すらりとした美脚が自慢」

人形遣い「しれっと俺をライカンスロープの仲間入りさせようとしてんじゃねェよ。人間卒業しちまうじゃねぇか」

ネクロ「大丈夫。もし人間じゃなくなってもわたしがお世話する」

人形遣い「そういう問題じゃねぇよ!!」

ネクロ「あなたは贅沢。誰かに好かれるというのは、とても幸せなこと。その幸せを大切にするべき」

人形遣い「そりゃそうだが、だからといって俺はアンデッドと異種交配するつもりはねぇぞ。他を当たってくれ」

ネクロ「それは残念。あなたはみんなの間で人気者だったのに」

人形遣い「それは初耳だぞ」

ネクロ「あなたは『今をときめく死霊女子が選ぶ!生き血を啜りたい男子ランキング』で栄えある一位に輝いた。これはとてもすごいこと」

人形遣い「色々言いたいことが多すぎて何から言えばいいのかわからんのだが、どこがどうすごいんだ」

ネクロ「投票理由は『眷属にしたい』『人形フェチなところもかわいい』『パペちゃん萌え』『思わず取り殺したくなるくらい好き。好き好き好キスキ愛してる愛シてる愛死テるアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル……』などなど。面食いが多い死霊女子達の間でこれほどの票を得るのはとても難しい。よって、あなたはとってもモテモテ」

人形遣い「全然嬉しくねぇっていうか……え、何、俺ってあいつらからそんな目で見られてたの?っていうか最後のやつ明らかにヤバくね?束縛しといたほうがよくね?」

ネクロ「投票理由の中には少し過激なものも含まれていたけど、こうしたランキングではよくあること。恋する乙女は何かと暴走しがちだから、大目に見てあげてほしい」

人形遣い「おい待てそれで片付けるな!悪い事は言わねぇから今すぐそいつを拘束しろ!!」

ネクロ「これでわかったでしょ?あなたはみんなの間でとても人気」

人形遣い「嫌ってくらいにな。聞かなきゃよかった……」

ネクロ「無理強いはしないけど、どうしても人恋しくなったら言ってほしい。あなたの頼みということであれば、みんな喜んでお付き合いしてくれるはず」

人形遣い「んな気遣いいらんわ。あいつらに頼むくらいならお前に頼んだほうがマシだ」

ネクロ「……え?」

人形遣い「なんだよ?」

ネクロ「いえ、あの……今」

人形遣い「あ?だから、あいつらと付き合うくらいならお前と付き合ったほうがマシ……って違げェ!例え話だ例え話!変な意味で捉えんな馬鹿!」

ネクロ「うぅ……」

人形遣い「頬を赤らめるな。上目遣いで見てくるな」

ネクロ「あ、あなたの気持ちはとても嬉しい……だけど、わたしは人形に欲情するような人とはお付き合いできない。ごめんなさい……」

人形遣い「何で一方的に俺がフられたみたいな流れになってんだよ、例え話だっつってんだろうが。あと欲情とか平気で口に出すんじゃねぇよ。してねぇよ」

ネクロ「それに、わたしとお付き合いしたいならバルムンクを説得しなければならない。お付き合いするなら自分より強い相手じゃないと許さないと、いつも口酸っぱく言い聞かされている」

人形遣い「どこの箱入り娘だお前は」

ネクロ「ちなみにバルムンクは生前、とある霊峰に住む竜族の長をやっていた。世間ではエルダードラゴンと呼ばれている」

人形遣い「伝説級のバケモノじゃねぇか。お前の攻略難易度高すぎだろ」

ネクロ「そう、バルムンクはとても強い……。だけど、それでもあなたが諦めきれないというのであれば……応援くらいはしてあげてもいい……」

人形遣い「かわいらしく赤面しながら物騒なこと強要するんじゃねェよ!誰が挑むか!」

ネクロ「そう……それは残念。とても残念」

人形遣い「いや常識的に考えて無理だろうが。何が楽しくて一瞬で軍隊一つ消し炭にするようなバケモノと一騎打ちしなけりゃなんねぇんだよ。マゾヒズムにも限度があんだろ」

破戒僧「やれやれ、女心がわかっていませんね。とんだ朴念仁です」

ネクロ「まったくだよ……パペちゃんの朴念仁」

人形遣い「何で俺が責められなきゃならねぇんだよ。そしてどこから湧いたクソ僧侶」

破戒僧「どこからと聞かれれば、そうですね……窓からですが」

人形遣い「ここ最上階だよな。地上から数十メートルはあるはずなんだがな」

破戒僧「いやあ。ロッククライミングは久々なもので、僕としたことが些か緊張してしまいましたよ。危うく転落死するところでした」

ネクロ「大丈夫。戒さまが死んだら、わたしが呼び戻してあげる」

破戒僧「おお、なんと慈悲深い……。あなたはとてもいい子に育ってくれましたね、僕は嬉しいですよ」

ネクロ「えへ」

人形遣い「普通に扉から入って来いよ。いちいち命の危険冒してんじゃねぇよ。あと優しくねぇよ怖えェよ!!」

ちょっと短いけどここまでなんじゃ

破戒僧「ところで先程から気になっていたのですが、何故あなたのベッドシーツが濡れているのですか?」

人形遣い「あー、これはだな……」

破戒僧「まさかあなた、その歳になって粗相を……?こればかりは流石に僕もフォローのしようがないのですが……」

人形遣い「俺じゃねェよ!漏らしたのはこいつだこいつ!」

ネクロ「ごめんなさい」

破戒僧「そうですか、では何ら問題ありませんね。この話はこれで終わりということで」

人形遣い「問題大有りだろうが。そして俺との扱いの差は何なんだよ」

破戒僧「わかりませんか?成人男性と15歳の少女では、粗相は粗相でもその価値には雲泥の差があるんですよ。成人男性の粗相など犬畜生の糞ほどの価値もありません。それに引き換え、思春期の少女の粗相というのはまるでk」

人形遣い「それ以上喋るな腐れ変態僧侶が!粗相に価値も糞もあるか!!」

破戒僧「やれやれ、あなたなら理解してくれると思ったのですが……まぁ仕方ありませんね。価値観の違いというものは、人間関係には必ず付きまとうものです。……時に姫、その際に装着していた下着はもう処分されてしまったので?」

ネクロ「ううん。穿いてなかったよ」

破戒僧「!?」

人形遣い「ブフォッ!?」

ネクロ「ベンジャミンがいたずらして、わたしの下着を全部隠しちゃったの。仕方がないから、今はローブの下には何も付けてな───」

人形遣い「とっととあの馬鹿グレムリンを制裁して取り戻せ!そして穿け!!」

破戒僧「姫……折り入ってお願いがあるのですが、ローブの端をつまんでお辞儀してみて頂けないでしょうか。なるべく深いお辞儀でお願いします」

人形遣い「お前は黙ってろ!!」

人形遣い「とりあえず寝ろ。でもって魔力が回復次第、そのド阿呆グレムリンをしばいて下着のありかを吐かせろ。そして穿け。いいな?」

ネクロ「わかった。ベンジャミンには少しお仕置きが必要。まかせて」

人形遣い「甘やかすなよ?んじゃ、そういう事でとっとと部屋に戻れ」

ネクロ「うん。おやすみなさい」


人形遣い「ったく、何考えてんだあのガキは……。俺らが男だって事を忘れてんじゃねぇのか」

破戒僧「ふふ。少しズレているところも可愛らしいではありませんか、我らが姫は。もし許されるのであれば、すぐにでもお持ち帰りしてしまいたいくらいですよ」

人形遣い「お前みたいな変態がいるから尚更だっつの。エルダードラゴンに焼かれて死ね」

破戒僧「これはこれは、随分と手厳しいですねぇ。そうですね、僕としてもバルムンクさんのブレス攻撃は遠慮しておきたいところです。大丈夫、そんな顔をしなくても姫には手を出しませんよ。かつて崇めていた神を捨てた身とはいえ、これでも僕は僧侶の端くれですから」

人形遣い「お前みたいな奴が一度でも僧侶になれた事に驚きだよ。神様ってのはお前と同じで腐ってやがるんだろうな」

破戒僧「ふふ、“あの”神様はそうでしょうね。腐った存在だからこそ、僕のような存在がこうして生き長らえているのですから。いやはや、世の中というのは皮肉なものです」

人形遣い「……悪りィ」

破戒僧「いえいえ、気にしていませんよ。ただ、姫にはくれぐれも内密にお願いしますよ?」

人形遣い「ああ……」

破戒僧「何だか妙な空気にしてしまいましたね、すみません。僕もこれでお暇しますよ」

人形遣い「ん、わかった。悪かったな」

破戒僧「お気になさらず。それと、女心に疎いあなたに一つ助言……というよりも、忠告を」

人形遣い「ああ?」

破戒僧「ああ見えて、姫は意外と嫉妬深いです。人形に欲情するのは程々にしておいた方がいいかと」

人形遣い「してねぇよ。お前は俺を何だと思ってるんだよ」

破戒僧「そして、姫は耳年増の割には純粋です。あまり背徳的なプレイを強要する事は避けた方が」

人形遣い「しねぇよ!俺とあのガキはそんなんじゃねぇよ!!」

破戒僧「おや、それは失礼致しました。余計なお世話だったようですね」

人形遣い「いいから出てけ馬鹿!!」

破戒僧「ふふ、それではおやすみなさい……はっ!」

人形遣い「窓から出るのかよ!扉から出てけばいいじゃねぇかよ!!」

破戒僧「……っ!ふっ!!」

下級妖魔「ヒッ!?な、何事かっ!?敵襲かっ!?」

破戒僧「ふぅ……久しぶりでしたが上手くいくものですね。いやはや、僕もまだまだ捨てたものではないようです。……おや?これは失礼、誰かいるとは思いませんでしたよ」

下級妖魔「な、なんだ、破戒僧殿でしたか。てっきり敵襲かと思いましたよ……」

破戒僧「これはこれは、驚かせてしまったようで申し訳ありません。いえ、部屋に戻る前に軽く見回りでもと思いまして。つい数時間ほど前に、勇者による夜襲があったと聞いたものですから」

下級妖魔「は、はぁ……今までどこにいらしたので?」

破戒僧「人形遣いさんの部屋にお邪魔していました。少しばかり話し込んでしまいましてね、すっかり寝る時間を過ぎてしまいましたよ」

下級妖魔「(いきなり上から降って来たかと思えば、5点接地で着地……ここから最上階まで軽く100mは超えてるってのに、何事もなかったかのような顔してるよォ……この人怖いよォ……)」

破戒僧「おや、どうしました?顔色が優れないようですが、どこか具合でも?」

下級妖魔「い、いえ、お構いなく!私の顔色が悪いのも、顔がグロいのも遺伝ですので!」

破戒僧「そうですか。でも、何かあればいつでも仰ってくださいね。僕でよければ治療しますよ」

下級妖魔「お心遣い、痛み入ります。で、では、私は見回りの仕事がありますので、これで」

破戒僧「はい、おやすみなさい」





破戒僧「……さて、僕も行くとしましょうか。この期に及んで我らが魔王様に仇なそうとする、不逞の輩が近付いて来ているようですし、ね……」

みんなのレスが嬉しくてついつい二回更新してしまった。
今度こそここまで!

魔法使い「……見えたわ、あそこが調査隊の発見した抜け道よ。幸い、まだ塞がれていないみたい」

戦士「いやに静かだなオイ。また待ち伏せされてるんじゃねぇのか?」

僧侶「い、いえ、索敵には何も引っかかっていないです。この近辺に妖魔の気配はありません」

勇者「よし、ここまでは順調だ。このまま城に忍び込む!魔法使い、頼むぞ!」

魔法使い「はいはーい。隠蔽魔法、発動。いつもより多く魔力を注ぎ込んだ自信作よ。並大抵の妖魔じゃ気配の欠片すら察知できないはずだわ」

戦士「そりゃ頼もしいが、俺としては少しくれぇ暴れたいもんだなぁ。さっきは悔しい思いをしたしよぉ」

僧侶「そ、それはちょっと……同意できかねます……」

魔法使い「そうよ馬鹿。アンタ、アイツにあっけなく瞬殺されたじゃないの。一人で粋がってるんじゃないわよ」

戦士「な、なにをぉ!そういうおめぇだって、俺のすぐ後に一撃死くらったって話じゃねぇか!人の事言えんのかよ!」

魔法使い「う、そ、それは……」

僧侶「あ、あの、お二人とも……今はその話は……」

勇者「僧侶の言う通りだ。それに、順番でいうなら真っ先に殺されたのはオレだ。いくら相手の強さが未知数だったとはいえ、仮にも勇者の癖に瞬殺されてしまうなんて。我ながら情けないよ」

魔法使い「ち、ちが、私はそういうつもりで言ったんじゃ……」

勇者「ああ、わかってる。だから、次は同じ手は食わない。そして今度こそ魔王を倒すんだ。オレ達の手で!」

戦士「おうよ!腕が鳴るぜぇ!」

魔法使い「ふ、ふんっ、まあいいわ。とにかく、私はもう二度とあんな殺され方するのはゴメンよ!慎重に行くわよ、慎重に!」

僧侶「サ、サポートは任せてくださいっ!」

勇者「行くぞ、みんな!!」







破戒僧「これはこれは。ようこそいらっしゃいました、勇者御一行様」

勇者「っ!?」

戦士「誰だ!?オイ僧侶、妖魔の気配はしないんじゃなかったのかよ!」

僧侶「そ、そんな!私の術には、確かに何も……!」

魔法使い「そんな事より、私の隠蔽魔法があっさり見破られた!?なんで!?」

勇者「何者だ!?」

破戒僧「何者かと聞かれれば、そうですね……あなた方が四天王と呼んでいる存在の一員、といったところでしょうか」

魔法使い「し、四天王って……アイツと同じ……?」

僧侶「ひっ……!?」

破戒僧「ええ。人形遣いさんにはもうお会いしたようですね。そこのお嬢さん方は顔色が優れないようですが……ふふ、その様子だと随分とこっぴどくやられたようですね。何分、彼も大人気ないところがありますからね。ここはどうか、僕に免じて許してあげてくださいませんか?」

戦士「テメェ、ふざけてんじゃねぇぞ!」

勇者「戦士、よせ。さっきの事をもう忘れたのか?闇雲に突っ込むのは危険だ」

戦士「で、でもよぉ……!」

破戒僧「ふふ、勇者さんは話の分かる方のようで助かります。僕としても、争い事は極力避けたいのですよ。なにせ、見ての通りの聖職者なものですからね。ふふ……」

勇者「………」

破戒僧「おやおや。皆さん、そんなに怖い顔で睨まないでもらいたいものですね。特にお嬢さん方、折角の美しいお顔が台無しですよ?まぁ、うちの姫ほどではありませんがね、ふふ……。どうしても腑に落ちない、といった様子ですねぇ。何故僕が索敵魔法にかからず、おまけに隠蔽魔法すらも見破ってみせたのか……それが気になるといったところでしょうか」

僧侶「うぅ……」

魔法使い「くっ……!」

破戒僧「何、簡単な事ですよ。僧侶さんの使っていた術式は、『人間に対する敵意』を感知する事を目的とした索敵魔法です。ふふ、これは実に便利な代物です。この術式を考案した人には表彰状を差し上げたいくらいですよ。魔王城に住む者だけに限らず、全ての妖魔は人間に対して何らかの敵意を持ち合わせているものですから、この術式一つでほぼ全ての敵を感知できると言っても過言ではないでしょう……普通は、ね。ですが生憎、僕が敵意を向ける相手は『人間』ではなく『神』です。そう、僕が憎いのはあなた方の信仰する神であって、人間自体はどうでもいいのですよ。これが姫や人形遣いさんであったなら、人間に対する敵意を感知されていたところでしょうが……ふふ、運が悪かったと言う他にありませんねぇ」

僧侶「神を、憎む……?」

破戒僧「魔法使いさんの隠蔽魔法に関しては、答えは実に単純明快です。単なるあなたの力量不足ですよ」

魔法使い「な、なんですってぇ!?」

破戒僧「あの程度の隠蔽魔法では、精々が中級妖魔を欺くので精一杯といったところでしょうね。魔王様に近しい我ら四天王は当然として、ある程度の力量を持ち合わせた上級妖魔であれば看破するのは造作もない事です。ふふ、あなたは随分と自信があったようですが……歴代の勇者一行に比べて、何とも御粗末と言わざるを得ませんねぇ」

魔法使い「………」

破戒僧「それにしても……つい数時間ほど前に返り討ちに遭ったばかりだというにも関わらず、懲りずに奇襲を仕掛けて来るとは。勇者様御一行は、よほど自らの力に自身がおありなのでしょうね。魔王様の下に辿り着く事さえできれば、後は勝ったも同然であるとお思いなのでしょうか?」

勇者「………」

破戒僧「それとも、単なる焦りでしょうか。時が経ち、魔王様が今以上に力を蓄えれば、自分達の力では追い付く事が出来なくなる……と。ふふ、勇者さんの顔から察するに、正解は後者のようですねぇ。どうやら勇者さんは自身の力量を弁えていらっしゃるようです。実に感心致しますよ、くくっ……!」

勇者「………」

破戒僧「まぁ、それはこの際置いておきましょうか。どちらにせよ、ここを通すわけにはいきませんので。……僕としては争い事は遠慮したいのですが、あなた方がこの城に忍び込むというつもりなのであれば、四天王の一員として戦わないわけにはいきません。悪い事は言いません、大人しくお国に帰って頂けませんか?」

勇者「……悪いが、それはできない。オレ達は自分達の都合だけでここにいるわけじゃないんだ」

破戒僧「そうですか……それは残念です。ええ、とても残念ですよ……」

勇者「っ!みんな、構えろ!!」

僧侶「勇者様!」

魔法使い「やってやるわよ!私の魔法を馬鹿にした事、後悔させてやるんだから!」

戦士「へっ!偉そうにグダグダ御託並べても、結局やる事はやるってワケだ!所詮は魔王の腰巾着だな!!」

破戒僧「ふふ、若いというのはいいですねぇ。血気盛んで微笑ましい事です」

戦士「四天王だ何だいっても、所詮は僧侶だろうが!一人で何ができるってんだ、ぶっ潰してやるぜ!!」

破戒僧「ええ、僕はしがない一僧侶に過ぎません。ですから、戦いはなるべく避けたかったのですが……まあ、文句を言っても始まりませんね。それでは始めるとしましょうか……っと、その前に」

戦士「あァ!?今更命乞いかァ!?」

破戒僧「おや、おやおやおや。よくよく見れば、皆さん傷を負っていらっしゃるではないですか。その傷はどうなさったのですか?」

魔法使い「な、何よ……!」

破戒僧「大方、この辺りの森に棲むゴブリン達と戦闘にでもなったのでしょうか。彼らは非常に好戦的ですからね。いやはや、妖魔の中にも困った輩というのはいるものです」

戦士「だったら何だってんだよ!!」

破戒僧「いけませんねぇ、実にいけません。戦いというものは正々堂々、お互いにベストコンディションの状態で行われなければ。あなた方が傷を負っていて僕だけ無傷というのは、この場においてフェアではありません。そうですね、ここは僕が回復して差し上げましょう」

僧侶「え……?」

破戒僧「傷付きし者達に、我らが神の祝福があらんことを……」

魔法使い「回復魔法!?」

戦士「な、何の真似───」






戦士「がはっ!?」

勇者「!?戦士、どうし───ぐっ!?」

破戒僧「おや、どうなさいました?皆さん揃って地面に這いつくばって。勇者さんの国で行われている、戦いの前の儀式か何かでしょうか?」

勇者「き、きさま、一体何を……っ!」

破戒僧「何を、と申されましても。僕はただ、あなた方の傷を癒そうと……あぁ、これは失礼。僕としたことがうっかりしていましたよ」

勇者「な、に……!?」

破戒僧「今しがた僕があなた方にかけた魔法は、間違いなく回復の呪文です。これはそちらのお嬢さんならお分かり頂けるでしょう?」

僧侶「は、はい……間違いない、です……」

魔法使い「だ、だったら何だっていうのよ、この……呪いをかけられた時みたいな、圧迫感は……!」

破戒僧「何、簡単な事ですよ。回復の呪文というのは元来、自らの信じる神に祈りを捧げ、その見返りとして治癒や加護といった祝福を授かるというものです。現在人類共通の神として崇められている存在といえば、あなた方に勇者の力と加護を与えた光の神でしょうか。同じ神を崇める者同士、回復魔法の効果も倍増するというわけです。ここまで言えばお分かりですか?」

僧侶「っ!?ま、まさか……!」

戦士「何だってんだよ……ワケわかんねぇよ!!」

破戒僧「戦士さんは察しが悪いですね、流石は野蛮な戦闘職といったところでしょうか。それに引き換え、僧侶さんは何か感付いたようですねぇ。ふふ……」

戦士「オイ僧侶!どういう事だよ!?」

僧侶「わたし達僧侶は……光の神に忠誠を誓い、全てを捧げた者です。その信仰心が強ければ強いほど、光の神から与えられる祝福の力もより大きく、より強力になっていきます……」

戦士「あァ!?んなもん今更言われなくてもわかってんだよ!それとこれがどう関係するんだよ!」

僧侶「……現在この世界に住む人々で、光の神を信じていない人はいません。わたしのような僧侶が使う回復呪文も、全世界共通のものとして知れ渡っています……でも」

勇者「…っ!まさか、こいつは……!」

僧侶「はい、勇者様……。たった今使われた回復魔法……傷を癒すはずの呪文が、わたし達を縛り付けている事から察するに……彼の信仰する神とは、恐らく……」

破戒僧「魔王様、ですよ」

勇者「!!」

勇者パーティーはまたおんなじ連中か…
違うパーティーもいるのか?

破戒僧「おや、どうなさいました?別に驚く事ではないでしょう。神に全てを捧げた身でありながら、妖魔達を統べる四天王として魔王様の傍に置いて頂いている……戒律にうるさいあなた方の神様が、そんな背信行為を許すはずがないでしょう?その事を留意した上で考えれば、僕にとっての神が誰なのか自然と気が付くはずですよ」

僧侶「魔王崇拝……光の神に背を向けし者……」

勇者「きさま、破戒僧か……!」

破戒僧「おや、今頃お気付きになりましたか。僕としては、最初から見破られていると思っていたのですがね……くくっ、僕もまだまだ捨てたものではないようです」

魔法使い「じゃ、じゃあ、この圧迫感の正体は……」

破戒僧「同じ『神の祝福』であっても、あなた方と僕とでは崇拝している神が違う……我らが魔王様は、あなた方の光の神にとって対極ともいえる存在です。そんな忌むべき相手の祝福をその身に受ければ……後はどうなるか、お分かりでしょう?」

僧侶「拒絶、反応……!」

破戒僧「ええ、正解ですよ。僧侶さんは実に聡明な方でいらっしゃる。ふふ、姫の次くらいにはお持ち帰りしたい対象になりましたよ。いやはやお恥ずかしい、年甲斐もなく昂ってしまいそうです。一度は聖職者を志した身としては、そのような煩悩は捨てなくてはならないのですがねぇ……くくっ」

戦士「何が、何が正々堂々だ……!この卑怯モンが……!」

破戒僧「おやおや、いけませんねぇ。結果的に逆効果となってしまったとはいえ、僕はあくまで善行を行ったつもりだったのですがね、くくっ……。僕としたことが、神の祝福を授かる者として重要な事を失念してしまっていましたよ。その結果、勇者様御一行に祝福どころか呪いをかけてしまう事となろうとは……いやはや、これでは僧侶失格ですね。破戒僧というのは、僕にはこれ以上ないほどお似合いの言葉かもしれません。くくっ……!」

魔法使い「う、あ……!」

勇者「く、くそっ……!こんなもの……!」

僧侶「っ!?勇者様、だめですっ!!」

破戒僧「くくっ……お嬢さんの言う通りですよ。互いに信仰対象が違うとはいえ、これは紛れもなく『神の祝福』にカテゴライズされる力です。言ってる意味が分かりますか?この力に逆らえば、あなた方は自分達の神から与えられる祝福すらもまとめて跳ね除けてしまうという事になります。……つまりここでこの力を否定すれば、あなた方は二度と神からの祝福を授かる事の出来ない身体となってしまう。索敵や身体強化といった便利な術はおろか、回復魔法すら受け付けない体質になってしまうでしょうねぇ。ましてや僧侶さんは、光の神に全てを捧げた身。そんなあなたが神の祝福を真っ向から否定すれば……僕と同じ、破戒僧の仲間入りというわけですよ。くくっ、何ならあなたも今から魔王様に鞍替えしますか?今なら僕が手取り足取り、魔王様の素晴らしさについて教えて差し上げますよ……!くっくく……!」

勇者「き、きさ…ま……」

魔法使い「」

僧侶「う、うぅ……」

破戒僧「おやおや、お可哀想に。随分と辛そうですねぇ……くくっ。ですが気に病む事はありません、あなたもすぐに楽になれますよ。そこで転がっている、一足先に逝ってしまわれた魔法使いさんのようにね……くっくく……!魔法使いさんは呪術に対する抵抗力はあっても、神の祝福に対しては無防備だったようですねぇ……!お気の毒に……!」

勇者「」

僧侶「」

破戒僧「ふふ、眠ってしまいましたか。苦痛に満ちた顔も素敵ですよ、我らが姫の次くらいにはね。それでは、おやすみなさい……くくっ……!」

戦士「勇者…僧侶ォ……!ちくしょおぉぉ……!」

破戒僧「おや、これは意外ですねぇ。あなたのように魔術の心得のない方は、てっきり真っ先に逝かれるものだとばかり思っていたのですが、無駄に有り余る体力に救われましたか。くくっ、あなたのような脳筋でも少しくらいは得をするものですねぇ……いえ、この場合は苦しみがより長く続く分、むしろ損をしていると言うべきでしょうか?まぁどちらでもいいですがね、くくっ……!」

戦士「畜生…畜生っ…!」

破戒僧「時にあなた……先程から随分と口が達者でいらっしゃいましたね。ぶっ潰してやるだの、腰巾着だの……くくっ、血気盛んな若者であるが故の言動でしょうね。彼我の力量差を察する事が出来ないというのも、いかにも野蛮人である戦士さんらしいといったところでしょうか」

戦士「………」

破戒僧「いえいえ、別に悪い事だとは言っているわけではありませんよ。男子たるもの、時には後先考えずに行動するだけの無鉄砲さも必要です。僕も一応は僧侶の端くれですからね、そうした若者を見守る事も仕事のうちです。ですが、一つ助言……というよりも、忠告を」

戦士「あ…あァ……?」



破戒僧「神の手駒風情の糞餓鬼共が、魔王様をナメんじゃねェぞ」

戦士「」



破戒僧「おや、もう聞こえていませんか?最近の若者は大口を叩く割には根性が伴っていませんねぇ、実に嘆かわしい事です」

戦士「」

破戒僧「僧侶さんや魔法使いさんのような麗しい女性方ならまだしも、あなたのようなむさ苦しい男性の苦しむ顔を見ても何もこみ上げてくるものはありませんねぇ。どうせなら全員年頃の娘を選んで力を与えてくれればいいものを、光の神というのは何とも悪趣味なものです。やはりあなたは僕が憎むべき神そのものですよ。くくっ、まあいいです。僕も一応は僧侶、死に逝くものを弔う事くらいはして差し上げましょう」

戦士「」

破戒僧「我らが神よ。どうかその深き御心で、この罪深き者達を許したまえ。願わくば、彼らに祝福があらんことを。……神といっても、魔王様ですがね。くっくく……!」

下級妖魔「(あー疲れた……この城、無駄にだだっ広いからなぁ。ぐるっと一周するだけで1時間以上かかるってどういう事なの……)」

破戒僧「おや、お勤めご苦労様です」

下級妖魔「げぇっ、破戒僧殿!!」

破戒僧「そんなに驚かなくてもいいでしょう?いくら僕でも傷付いてしまいますよ」

下級妖魔「こ、これは失礼致しました!いえ、破戒僧殿は自室にお戻りになられたとばかり思っていたものですから……!」

破戒僧「ふふ、冗談です。そんなに畏まらなくても結構ですよ。四天王といえど所詮僕らは人間、あなた方は妖魔です。より優れた種族に属するあなた方が、僕のような人間風情に気を遣う必要はありません」

下級妖魔「お、お戯れを……!」

破戒僧「やれやれ、あなたは何とも生真面目ですねぇ。僕としてはもっとこう、フランクな感じで接したいのですが」

下級妖魔「い、いえ、私が生真面目なのも、顔色が優れないのも、顔がグロいのも遺伝ですから。お気遣いなく」

破戒僧「そうですか。遺伝では仕方がありませんね」

下級妖魔「は、はい、遺伝ですから」

破戒僧「そうですね、遺伝ですね。ふふっ……」

下級妖魔「は、ハハッ……」




下級妖魔「(もうわけがわからないよォ……!)」

破戒僧「さて、それでは僕は今度こそ部屋に戻りますよ。いい加減に寝なければ、生活のリズムが狂ってしまいますから」

下級妖魔「は、はぁ。こんな時間まで何をしていらっしゃったので?」

破戒僧「……知りたいですか?」

下級妖魔「ヒャイッ!?」

破戒僧「どうしても、知りたいですか……?事によっては、あなたの命の保証はできかねますが……それでも知りたいですか……?」

下級妖魔「あ、あああああのあのあの、わわわ私は……」

破戒僧「冗談です、そんなに怯えないでください。何、ただの補修作業ですよ。この時期、魔王城にも野生の獣が入り込もうとするものですからね。城壁に一片の綻びもないよう、こまめに補修しておかなければいけません」

下級妖魔「そ、そうですか……それは、それは……お疲れ様です」

破戒僧「ありがとうございます。では、僕はこれで。あなたもお勤め、頑張って下さいね」

下級妖魔「は、はい、ありがとうございます……」

破戒僧「ふふ、それでは失礼しますよ。……はっ!!」

下級妖魔「………」




下級妖魔「(15mはある城壁を、壁キックでいとも簡単に登っていったよォ……そこらの妖魔でもそんな事できないよォ……)」

戦闘シーンは2、3レスで済ませるつもりがついつい長引いてしまった。
ちなみに個人的な破戒僧のイメージは杉下右京さん。

>>75
勇者の故国では兵士の他に、特殊な訓練を受けた勇者候補生が何人も存在しています。
その中でも光の神の加護を受けた者達だけがその代の勇者+仲間達となれるため、残った勇者候補生達は主に国王直属の遊撃・諜報部隊に回されます。
ちなみに候補生達は勇者パーティのように死んでも復活するという事ができないため、直接魔王城に乗り込む事はできません。
万が一今代の勇者パーティが神の加護でも復活できない程の大ダメージを受けて死亡(前例はない)、もしくは魔王によって魂ごと消滅させられてしまった際、残った候補生の中から次代の勇者を生み出す必要があるため。

……という設定が一応あるにはあったりします。
中二病全開でさーせん!

ゾンビ「アァ……ア……」

人形遣い「………」

スケルトン「カタカタカタカタ」

人形遣い「…う……ん」

レイス「………」

人形遣い「………」

グレムリン「キキキッ!イヒッ!」

人形遣い「……うるせぇなぁ……もう少し寝させ……」

屍犬「アオーン」

人形遣い「って、うおおおおおおおっ!?」


ネクロ「おはよう」

人形遣い「ば、馬鹿野郎、もっと普通に起こせよ!心臓止まるかと思ったわ!」

ネクロ「あなたの寝顔はとてもほっこりするから、みんなにもお裾分けしてあげてたの」

人形遣い「起きたら周囲360度死霊共に囲まれてた俺の身にもなれよ。ほっこりしたままあの世行きになるかと思ったぞ」

ネクロ「大丈夫。黄泉の国はなかなかいいところだって、スタンフォードが言ってた。あなたもきっと気に入るよ」

人形遣い「何がどう大丈夫なのか俺には理解できねぇよ。というかお前は俺に死んで欲しいのか」

ネクロ「………」

人形遣い「何だよ?」

ネクロ「冗談でもそういうことは言っちゃだめ。わたしがあなたに死んで欲しいと思っているわけがない。怒るよ?」

人形遣い「えっ」

ネクロ「次からは、そういう冗談はやめて」

人形遣い「あ、はい」

ネクロ「わかればいい。いいこいいこ」

人形遣い「(腑に落ちねぇ……)」

人形遣い「まぁいいけどよ、こいつらも少しは見慣れてきたし。寝起きでいきなり目の前にいたら流石に怖えェけど……」

ネクロ「それはとてもいいこと。あなたがみんなと仲良くなってくれると、わたしも嬉しい。おはようの挨拶もしてくれると、もっと嬉しい」

人形遣い「この状況じゃ断るに断われねェじゃねぇか。遠回しに強要してんじゃねぇよ」

ネクロ「じゃあ、最初はサブリナから」

人形遣い「へいへい。おはようさん」

ゾンビ「アァ…!ウウ……!」

人形遣い「なんて?」

ネクロ「おはようパペちゃん。寝起きのあなたもすてきね、惚れてしまいそうよ。そう言ってる」

人形遣い「(こいつ昨日合コンしてた奴だよな?ギュスタヴとやらにはフられたのか?)」

スケルトン「カタカタカタカタカタ」

人形遣い「えっと、ミカエラ……だっけか。おはよう」

ネクロ「ミカエラはとっても気配り上手。あなたが寝不足じゃないか心配してる」

人形遣い「その点は問題ないな。こんな起こされ方したら眠気も吹っ飛ぶっつの。次は……」

レイス「………」

ネクロ「アルジャーノンはとても無口。だけど、あなたのことは気に入ってるみたい。よきライバルとして認めてるって」

人形遣い「知らんわ。何のライバルだよ」

レイス「………」

ネクロ「ハニーは渡さん、だって」

人形遣い「ハニーって……ま、まさかメリーか!?メリーのことかっ!?」

レイス「………」

ネクロ「俺もいつか、ハニーを名前で呼んでみせる……そう言ってる」

人形遣い「やかましい!どこの馬の霊かもわからんお前にメリーはやらん!!」

グレムリン「キキッ!キキーッ!」

人形遣い「てめぇベンジャミン!お前のせいで昨夜は散々だったんだぞ!!」

ネクロ「ベンジャミンの名前、憶えててくれたの?」

人形遣い「あれだけのことしでかしたら忘れようにも忘れらんねぇよ。つーかこいつ、お仕置きはどうなったんだよ?」

ネクロ「その点は心配ない。ベンジャミンにはこれから一ヶ月の間、ごはん抜きを言い渡しておいた」

人形遣い「思ってたより罰が重いんだが」

ネクロ「みんな元々死んでるから、食べなくても問題ない」

グレムリン「キキ……キィ……」

人形遣い「目に見えて落ち込んでやがるな……自業自得だけど。ちなみに聞いておくが、こいつらの飯って普段何食ってんだ?」

ネクロ「人間の血と、人間のはらわた……」

人形遣い「!?」

ネクロ「……をそれぞれ模した、トマトジュースと肉料理」

人形遣い「びっくりさせんじゃねぇよ!一瞬ゾクってなったわ!」

ネクロ「トマトジュースは妖魔の集落からの輸入品だけど、肉料理はわたしが作ってる。こう見えても料理は得意。あなたも食べる?」

人形遣い「はらわたに似せた料理なんていらねぇよ!」

ネクロ「そう……残念。ちなみにみんな消化器官の活動は停止しているから、一定の量を食べて満足したらそのまま吐き出──」

人形遣い「それ以上言うんじゃねぇよ!そんな豆知識いらねぇよ!!」

ネクロ「それは残念。あなたにみんなのことを、少しでも知ってもらいたかったのに」

人形遣い「いらん知識は色々と付いたけどな。とりあえず死霊共が俺らより快適な暮らしをしてるってことは分かった」

ネクロ「そうでもない。人間には人間の、死霊には死霊の気苦労というものがある。ね、アレクサンドリア」

屍犬「ばうっ」

人形遣い「おい」

ネクロ「いいこいいこ。あなたはとってもチャーミングだね」

屍犬「アオーン」

ネクロ「ふふ、そんなに舐めたらくすぐったいよ。あなたはとっても甘えん坊さん」

人形遣い「おいちょっと待て」

ネクロ「?」

屍犬「アウ?」

人形遣い「揃って不思議そうな顔してんじゃねェよ!そいつ昨夜はいなかっただろうが!!」

ネクロ「そう、アレクサンドリアは新人さん。ワイルドドッグの女の子だよ」

人形遣い「そういうことを聞いてるんじゃねぇよ。そいつ、寝る前に会った時にはいなかったよな」

ネクロ「朝起きて、お城の周りをお散歩してる時に見つけたの。たぶん、昨日の勇者との戦いに巻き込まれたんだと思う」

屍犬「アゥゥ……」

ネクロ「まだそんなに時間が経っていなかったから、この子は自分が死んだことをわかっていなかった。かわいそうだったから、術で呼び戻してあげたの」

人形遣い「なるほど。しっかし、出会ったばっかりだってのによく懐いてんなぁ。蘇らせてくれた恩義でも感じてんのかね?」

ネクロ「うん、アレクサンドリアはとってもいいこ。今日からこの子も家族だよ」

屍犬「ばうっ!」

人形遣い「家族ねぇ。随分と大所帯なこって」

ネクロ「家族が増えるよ。やったねパペちゃん」

人形遣い「何か知らんがその言い方は縁起でもないからやめろ」

一旦ここまでなんじゃ

人形遣い「家族、ね……。世間一般のネクロマンサーとは違って、お前に使役される霊達は幸せかもな」

ネクロ「うん。みんながいると、わたしもしあわせ。あなたも屍霊術を勉強してみる?」

人形遣い「あー、遠慮しとくわ。俺にはメリーがいるしな」

人形「ネー☆」

ネクロ「………」

人形遣い「何だよ」

ネクロ「寂しいなら、そう言ってほしい。あなたの寂しさを少しでも癒すためなら、わたしも戒さまも協力を惜しまない」

人形遣い「だから勝手に人を哀れんでんじゃねぇよ。別に寂しくねぇよ」

ネクロ「その歳にもなってガールフレンドの一人もいない、人形が恋人というのは……ちょっとどうかと思う。将来はどうするつもりなの」

人形遣い「急にリアルな事言うのやめろ。まだ心配されるような歳じゃねェよ。お前は俺のお袋か」

ネクロ「……ちなみにわたしは今日、15歳になった」

人形遣い「あ?それは昨夜聞いたぞ?」

ネクロ「わたしはまだ、誰ともお付き合いをしたことがない」

人形遣い「そりゃそうだろ、お前死霊以外に友達いねぇじゃん」

ネクロ「こう見えてもスタイルには自信がある。無駄な贅肉は一切付いてない」

人形遣い「無駄な贅肉っつーか、ガリガリだけどな。もう少し飯食った方がいいんじゃねぇか」

ネクロ「……わたしは最近成長期に突入した。よって、胸も大きくなりつつある。サキュバスも顔負け」

人形遣い「嘘をつくな嘘を。服の上からでもわかるレベルの絶壁じゃねぇか」

ネクロ「………」

人形遣い「………?」



ネクロ「いじわる……」

人形遣い「何がだよ」

ネクロ「あなたはとてもいじわる。わたしに謝罪するべき」

人形遣い「え、何怒ってんのお前。何で俺が謝らなきゃいけねぇんだよ」

ネクロ「………」

人形遣い「? まぁ、よくわかんねぇけど……悪いな?」

人形「ゴメンネー☆」

ネクロ「………」



ネクロ「……バルムンク」

エルダードラゴン「ギャオオオオォォォォォォッ!!」

人形遣い「うおおおおおおっ!?何してんだお前!?ばっ、馬鹿野郎、今すぐ戻せ!部屋がブッ壊れるだろうが!!」

ネクロ「あなたはわたしに謝罪するべき」

エルダードラゴン「グオオオォォォォォッ!!」

人形遣い「やめろ、吠えるな!壁が壊れる!天井が崩れる!!」

ネクロ「謝罪するべき!」

エルダードラゴン「ガアアアァァァァァァッ!!」

人形遣い「さっき謝っただろうが!何なんだお前は!!」

人形遣い「クッソ、何考えてんだお前は!城ごと吹っ飛ばすつもりか!」

ネクロ「ごめんなさい」

人形遣い「ったく、バルムンクとやらが朝に弱くて助かった……ブレスでも吐かれてたらここら一帯消し飛んでたぞ」

ネクロ「そう、バルムンクはとても低血圧。午前中は半分寝ているから、午後にならないと本領を発揮できない」

人形遣い「あれで半分寝てるのかよ。本領発揮されたらとんでもない事になるじゃねぇか」

ネクロ「うん、本気のバルムンクはとてもすごい。前に本気を出した時は、自分の棲んでた霊峰の上半分が消し飛んだって言ってた」

人形遣い「物騒すぎるだろそいつ。野放しにしてんじゃねぇよ」

ネクロ「そのバルムンクを倒さなければ、わたしとお付き合いすることはできない。よって、あなたはもっと身体を鍛えるべき」

人形遣い「誰も挑むとは言ってねぇよ。むしろお断りだ」

ネクロ「ちなみにバルムンクの弱点は髭。あなたのワイヤーで髭を縛り付ければ、勝率はぐっと上がるはず」

人形遣い「だから挑まねぇよ。勝率ぐっと上がったところで、0%が0.1%になるだけだろ」

ネクロ「ブレス攻撃は今のところ有効な対策はない。あなたの人形を囮にでもすればいい」

人形遣い「しつけぇぞ!挑まねぇって言ってんだろうが!あとメリーに何の恨みがあるんだよ!!」

ネクロ「それは残念。バルムンクはやる気満々なのに」

人形遣い「何でやる気に満ち溢れてんだよ、冗談じゃねぇぞ。伝説級のドラゴンが人間相手にマジになってんじゃねぇよ」

ネクロ「いつも恨みがましくあなたの名前を呟いてるよ。バルムンクと何かあった?」

人形遣い「俺が聞きてぇよ!何なんだあの過保護ドラゴンは!!」

ネクロ「次に見かけたらドラゴンブレスをお見舞いしてやるって言ってる。バルムンクのブレスはとっても危険。気を付けて」

人形遣い「さらっと死刑宣告してんじゃねぇよ。そのドラゴン、間違っても俺の前で呼び出すんじゃねぇぞ」

ネクロ「あなたが相手だと、バルムンクは何故かとても怒りっぽくなる……何故だろう。普段は大人しい子なのに」

人形遣い「どこがだよ。俺にはどう見ても凶暴なドラゴンにしか見えなかったぞ」

ネクロ「そんなことない。バルムンクの趣味は巣穴の掃除と髭の手入れ。普段のあの子はとても女子力が高い」

人形遣い「ドラゴンに女子力なんて必要ねぇだろ!あとあいつメスなのかよ!」

ネクロ「その発言は失礼。ドラゴンだって美容には敏感。ちゃんと女の子扱いしてあげるべき」

人形遣い「あの発言を聞いた後でそんな気になれるわけねぇだろ!出会い頭にぶっ殺すとか言われてんだぞ!!」

ネクロ「バルムンクがそんなことを言うのはあなたに対してだけ。つまり、あなたは特別。……もしかして、バルムンクはあなたのことが好きなんじゃ」

人形遣い「どう考えても違げぇだろ!!」

みんな魔族じゃないの?
パペさんは人間?

さっきからやたらと電話がかかってきて集中できやしないので、ちと短いですが今日はここまでにさせてください。
申し訳ありませぬ。

>>109
魔王城勤務の兵士は全員妖魔。ネクロ、パペさん、破戒僧、剣士は人間です。



ちなみに剣士のことは忘れてないから大丈夫だよ!剣士は嫌われ者じゃないよ!

ネクロ「どうしよう。もしもあなたとバルムンクがお付き合いすることになってしまったら、わたしはお邪魔虫になってしまう……」

人形遣い「付き合わねぇから。いらん心配だ」

ネクロ「だけど、これを機にお互いを意識し始めるかもしれない。バルムンクは一途だから、一度惚れてしまえばグイグイ攻めるタイプ。あなたもそのうち落とされてしまうかも」

人形遣い「落とされねェよ。俺の恋愛対象にドラゴンは含まれてねぇ」

ネクロ「あなたのお部屋に遊びに来た時に、あなたとバルムンクが、その………最中だったら、困る」

人形遣い「だから何の心配してんだお前は!俺に竜姦の趣味なんざねェよ!!」

ネクロ「……そうなの?あなたは人形に欲情できる人だから、てっきりドラゴンもそういう対象なのかと」

人形遣い「欲情してねェつってんだろうが!っつーかさっきからやましい想像ばっかりしてんじゃねぇよ、この耳年増が!」

ネクロ「パペちゃんは無機物からゾンビまで幅広い守備範囲を持っているから、油断しないようにって戒さまが言ってた」

人形遣い「あの腐れ僧侶、いつかブッ殺す……!」

人形遣い「とにかく俺の恋愛対象は人間だ、人間。あんまりあのクソ僧侶の言う事ばっかり真に受けてんじゃねぇぞ」

ネクロ「それは安心。わたしはシェイプチェンジの魔法は専門外だったから」

人形遣い「シェイプチェンジ……確か変身魔法だったよな。お前は使えないんだな」

ネクロ「うん。だからもし、あなたがドラゴンや人形にしか欲情できないような性癖を持っていた場合、わたしでは要望に応えることができない」

人形遣い「そんな要望出した覚えはねぇよ、いらん世話だ」

ネクロ「そう……それはそれで、残念」

人形遣い「? というかお前、専門外の魔法とかあったんだな。何でも使えるんじゃないのか」

ネクロ「ううん、わたしはそんなにすごくない。屍霊術以外はあまり得意じゃないよ」

人形遣い「そうなのか?ドラゴンやらライカンスロープやらを簡単に呼び出してるし、召喚術でも使えんのかと思ってたが」

ネクロ「あれは召喚術とは違う。みんなの魂をいつでも呼び出せる状態にしておいて、生前の身体の一部を使って実体化させているだけの屍霊術」

人形遣い「ああ、そういやそうだったな……。それじゃ、召喚も専門外なのか」

ネクロ「うん。前に父さまの書斎で召喚術の本を読んだけど、どれも術式が複雑すぎて理解できなかった。精々使えるようになったのは、悪魔召喚術くらい」

人形遣い「えっ」

ネクロ「悪魔は死霊に近いものがあるから、召喚術が苦手なわたしでも割と簡単に契約することができた。今も呼び出せるよ、会ってみる?」

人形遣い「い、いや、遠慮しとく……」

ネクロ「そう、それは残念。屍霊術以外も使えるところを見せたかったのに」

人形遣い「もう少し穏便な魔法はないのかよ。というか悪魔とか洒落になってなくねェか」

ネクロ「悪魔といっても、伝承に出てくるような悪魔ではないから大丈夫。命までは取られない」

人形遣い「流石のお前もそこまでヤバい奴は呼び出せなかったんだな。そう簡単に名のある悪魔なんざ呼ばれたら堪ったもんじゃねェけど」

ネクロ「うん。わたしは専門外だから、名前もないような低級悪魔を呼び出すのが精一杯だった。できることといったら、不特定多数の相手に生涯消えない呪いをかけることくらい」

人形遣い「全然大丈夫に見えねぇよ。物騒極まりないじゃねぇか」

ネクロ「呪いの種類も千差万別。机の脚に必ず小指をぶつけてしまうようになってしまう呪いから、抜いても抜いても同じ箇所に白髪が生えてくる呪いまで、多種多様なものがある」

人形遣い「地味だなおい。悪魔名乗れるほどのレベルじゃないんじゃねェか、そいつ」

ネクロ「そんなことはない。中には本当に恐ろしい呪いだってある。そう、口に出すのも憚られるほどに……」

人形遣い「いまいち信憑性が薄いんだが……まぁ、一応聞いておくか。どんな呪いだ?」

ネクロ「ご飯を残すと、もったいないお化けが出てくる呪い……」

人形遣い「子供かよ!!」

ネクロ「もったいないお化けが、夜な夜なわたしを囲んでぐるぐる回る……考えただけでも恐ろしい……」

人形遣い「恐ろしくねぇよ!だからお前はネクロマンサーだろうが!お化けにビビってんじゃねぇよ!!」

ネクロ「そう、わたしはネクロマンサー。だけど、屍霊術が使えるからといってお化けが怖くない理由にはならない。職業差別はよくないと思う」

人形遣い「知らんわ。とりあえず、そいつは滅多な事でもない限り呼び出すんじゃねぇぞ。地味にうぜぇ呪いばっかりだし」

ネクロ「あなたがそう言うのなら、そうする。わたしも爪を切ったら必ず深爪になったり、頼んでもいないのに毎朝出前が届いてしまうような呪いをかけられたくはない。この子を呼び出すのはなるべく自重する」

人形遣い「呪いってそんなのばっかりなのかよ。嫌がらせ以外の用途が見当たらない悪魔じゃねぇか」

ネクロ「もっと高位の悪魔だと、相手から生気を奪い尽くして干からびさせたりもできるけど……生憎、わたしにはそんな悪魔を呼び出せるほどの術式は使えなかった。次に披露する時までに呼べるよう、召喚術の勉強も頑張っておこう」

人形遣い「んなえげつねぇもん呼ぶんじゃねぇよ。頑張らんでいいわ」

ネクロ「それは残念。少し頑張ればすぐに理解できそうな術式だったのに」

人形遣い「お前の才能が色々な意味で怖えぇよ。あんまり物騒な術ばっか覚えんなよな」

ネクロ「そうでもない。わたしは物騒な術式以外もちゃんと使える」

人形遣い「屍霊術も十分に物騒っていうかエグいけどな。普通の魔法もあるのか?」

ネクロ「うん。例えば、何もないところから飴玉を生み出す魔法。一度に50粒ほど生産できる」

人形遣い「いきなりファンシーだなおい。そんな可愛らしい魔法も使えたのかよ」

ネクロ「ちなみに、その飴玉は魔翌力による遠隔操作で爆発させることも可能。よって、相手が飴玉を飲み込んだのを確認してから爆破すれば、どんなに装甲の硬い相手でも内側から───」

人形遣い「前言撤回だ馬鹿野郎!物騒以外の何でもねぇよ!!」

ネクロ「えー……」

ネクロ「そう、わたしはネクロマンサー。だけど、屍霊術が使えるからといってお化けが怖くない理由にはならない。職業差別はよくないと思う」

人形遣い「知らんわ。とりあえず、そいつは滅多な事でもない限り呼び出すんじゃねぇぞ。地味にうぜぇ呪いばっかりだし」

ネクロ「あなたがそう言うのなら、そうする。わたしも爪を切ったら必ず深爪になったり、頼んでもいないのに毎朝出前が届いてしまうような呪いをかけられたくはない。この子を呼び出すのはなるべく自重する」

人形遣い「呪いってそんなのばっかりなのかよ。嫌がらせ以外の用途が見当たらない悪魔じゃねぇか」

ネクロ「もっと高位の悪魔だと、相手から生気を奪い尽くして干からびさせたりもできるけど……生憎、わたしにはそんな悪魔を呼び出せるほどの術式は使えなかった。次に披露する時までに呼べるよう、召喚術の勉強も頑張っておこう」

人形遣い「んなえげつねぇもん呼ぶんじゃねぇよ。頑張らんでいいわ」

ネクロ「それは残念。少し頑張ればすぐに理解できそうな術式だったのに」

人形遣い「お前の才能が色々な意味で怖えぇよ。あんまり物騒な術ばっか覚えんなよな」

ネクロ「そうでもない。わたしは物騒な術式以外もちゃんと使える」

人形遣い「屍霊術も十分に物騒っていうかエグいけどな。普通の魔法もあるのか?」

ネクロ「うん。例えば、何もないところから飴玉を生み出す魔法。一度に50粒ほど生産できる」

人形遣い「いきなりファンシーだなおい。そんな可愛らしい魔法も使えたのかよ」

ネクロ「ちなみに、その飴玉は魔力による遠隔操作で爆発させることも可能。よって、相手が飴玉を飲み込んだのを確認してから爆破すれば、どんなに装甲の硬い相手でも内側から───」

人形遣い「前言撤回だ馬鹿野郎!物騒以外の何でもねぇよ!!」

ネクロ「えー……」

人形遣い「なんつー危ねぇ魔法覚えてんだよ。そんなえげつねぇ術使う奴、妖魔の中にもそうそういねぇぞ」

ネクロ「便利なのに……」

人形遣い「何がだよ。金輪際、お前から飴貰っても絶対に食わねぇからな」

ネクロ「あなたには使わないから大丈夫。わたしは術の使いどころはちゃんと心得ている」

人形遣い「どこがだよ……無駄な術にしか思えねぇぞ」

ネクロ「これは対勇者用に考案した術式。勇者がどんなに加護のある防具で身を固めても、内側からの爆発には耐えられないはず」

人形遣い「勇者対策にしてはしょうもない魔法だなおい。そもそもどうやって連中に飴なんか食わせるんだよ」

ネクロ「作戦は考えてある。その点については心配ない」

人形遣い「……言ってみろ」

ネクロ「まず、ミカエラが旅の行商人を装って勇者一行に近付く」

スケルトン「カタカタカタカタ」

人形遣い「はいボツ。一から考え直せ」

ネクロ「え?」

人形遣い「え?じゃねぇよ!そいつどう見てもアンデッドだろうが!」

ネクロ「大丈夫、こう見えてもミカエラは演技がうまい。生前は舞台役者だったから」

人形遣い「そういう問題じゃねぇよ!全然大丈夫じゃねぇよ!!」

人形遣い「もういい、お前の作戦に期待した俺が馬鹿だった」

ネクロ「いきなり決め付けるのはよくない。人の話は最後まで聞くべき」

人形遣い「この時点で大体予想つくけどな……一応、最後まで言ってみろ」

ネクロ「うん。それで、旅の行商人を装ったミカエラが勇者達にこう言うの。『そこの勇者さん、飴玉をあげるからこっちにおいで』」

人形遣い「変質者じゃねぇかよ」

ネクロ「勇者のことだから、飴玉をあげると言われればきっと食いつくに違いない。勇者一行が飴玉を口にしたところで、わたしが魔力を操作して遠隔爆破。これで勝利は確実」

人形遣い「食い付かねェよ!お前の中の勇者像はどうなってんだよ!」

ネクロ「ちなみにこの作戦は、今まで勇者一行が取った行動の統計に基づいて考案している。よって、作戦が成功する確率は極めて高いといえる」

人形遣い「えっ」

ネクロ「偵察部隊に所属する妖魔からの報告に、勇者一行……中でも僧侶という女の子は、甘いものに目がないという証言があった。前に一度、美味しいお菓子をあげると言われて人買いに攫われかけたこともあるそう」

人形遣い「んな露骨な罠に引っかかってんじゃねぇよ!仮にも勇者の仲間だろうが!」

ネクロ「また、戦士という男の人は拾い食いの癖があるそう。道端に落ちている種などをよく口にしているという報告があった」

人形遣い「頭ン中お花畑の女と拾い食いが趣味の男かよ。勇者も仲間は選ぶべきだろ」

ネクロ「勇者一行の進路に飴玉を落としておくことで、戦士は高確率でそれを口にするはず……その瞬間が、勇者の最期。遠隔操作による爆破で、4人まとめて瞬殺」

人形遣い「末代まで笑い者にされそうな勇者一行だなおい!あとその魔法も十二分に物騒じゃねぇかよ!!」

人形遣い「ったく、お前の発想は突飛というか何というか……そんな作戦聞いたことねぇぞ」

ネクロ「だめ?」

人形遣い「上手くいくなら効果的ではあるけど、勇者共もそこまで馬鹿じゃねぇだろ。……多分」

ネクロ「それは残念。他の作戦を考えないと」

人形遣い「やる気があるのは結構だが、あんまりヤベェのは……まぁ、勇者が相手ならいいか。そのかわり、なるべく余計な人間は巻き添えにすんなよ?親父さんに怒られちまう」

ネクロ「うん、わかってる。父さまの言いつけはちゃんと守るよ。わたしの敵は、あくまで勇者だけ……」

人形遣い「……ま、俺一人でも余裕で片付けられるくらいだし、勇者なんざお前の敵じゃねぇだろ。あの腐れ僧侶もいることだしな」

ネクロ「………」

人形遣い「あ?どした?」



ネクロ「……剣さまが、勇者と戦ってから行方不明だって聞いた」

人形遣い「っ!」

人形遣い「お前それ、どこで……」

ネクロ「お城の見回りをしてた妖魔から聞いた。捜索隊は派遣してるから、わたしは何も心配しなくていいって」

人形遣い「あの馬鹿、余計な事教えやがって……」

ネクロ「わたしは魔封じの洞窟では何もできない。だから、今は剣さまが見つかることを信じて待ってる……でも」

人形遣い「………」

ネクロ「もしもまた、勇者がここにきたら……その時は、わたしも戦う。戦って、剣さまの居場所を聞き出す。あなたがだめと言っても、絶対に」

人形遣い「……わかった。昨夜の約束もあるし、俺は止めねぇよ。あの馬鹿剣士の事は俺も気になるしな」

ネクロ「うん」

人形遣い「ただまぁ、これは勘なんだけどな。あいつ、俺らが思ってるよりも頑丈だし……多分、大丈夫だと思うぞ?」

ネクロ「そうだといい。剣さまは、きっと無事に違いない」



人形遣い「(王国兵に捕まって拷問されてる可能性もあるけどな。まぁ、生きてさえいりゃ大丈夫だろ。あいつドMだし)」

部隊長「おい、捕虜の様子はどうだ。何か喋ったか?」

王国兵A「そ、それが……」

剣士「………」

王国兵B「依然、黙秘を保ったままです……」

部隊長「フン、だんまりか。勇者殿との戦闘前には、かなりの饒舌だったようだが……さしもの四天王といえど、ああも一方的に完敗したとあってはプライドがズタズタだろう。……黙秘を続けるのは、その意趣返しのつもりか?」

剣士「………」

部隊長「貴様ッ!いい加減、何か喋ったらどうだ!」

王国兵A「ヒッ!?」

王国兵B「で、出た…部隊長の弁慶殺し……!しかも軍用ブーツの爪先で……!」

王国兵C「(あれ絶対痛いわ……あいつ、何で平然としてられるんだよ……)」


部隊長「貴様のようなッ!人間の癖に魔族共に加担するような奴がいるからッ!戦いが終わらんのだッ!!」

剣士「………」

部隊長「痛いかッ!?苦しいかッ!?オラッ、何とか言ってみろッ!!」

剣士「………」

部隊長「言えッ!貴様らの、魔王軍の目的は何だッ!何もかも全部、洗いざらい吐けッ!!」

剣士「………」

部隊長「はぁ、はぁ……。チッ、どうやら口だけは硬いようだな。腐っても四天王、魔王軍の中枢を担う一員という事か」

王国兵A「部隊長、そろそろ……」

部隊長「フン、言われなくとも。強情な捕虜にいつまでも付き合ってやるほど、私も暇ではないのでな。後は貴様らに任せるぞ」

剣士「………」

部隊長「魔王に義理立てするのは結構だが……斬首台を前にしてもその態度を貫き通せるか、精々楽しみにさせて貰うとするぞ」

剣士「………」

部隊長「チッ……!おい貴様ら!護送の準備が完了するまでの間、こいつを徹底的に痛めつけてやれ!方法は問わん!」

王国兵B「ハ、ハッ!」

剣士「………」





剣士「(男勝りの美女に踏まれながら、罵声を浴びせられる……ククッ、悪くはないな……!余は今、まことに興奮しているぞ……!ククク……!)」

王国兵C「(やべぇよ何かニヤニヤしてるよ……怖えぇ……)」

ここまでー。
少しはスランプ脱却できそうなんじゃ。

下級妖魔「い、以上が、王国軍からの声明であります……」

破戒僧「……ふむ、困りましたね」

下級妖魔「………」

破戒僧「剣士さんの護送準備が整い次第、速やかに連行の後処刑の予定。交渉条件は全軍の武装解除及び、残る四天王の王都への出頭……ですか。ふふっ、交渉とは名ばかりの脅迫ですねぇ、これは」

下級妖魔「あの」

破戒僧「そもそも剣士さん1人を救出する為に、残る3人の四天王が捕まってしまっては本末転倒でしょうに。普通に考えれば、こんな無茶苦茶な要求が通る筈もない……」

下級妖魔「あ、あの……」

破戒僧「にも関わらず、わざわざ『交渉』などと余裕をちらつかせるという事は……まぁ、彼らにとってはどちらでもいいのでしょうね。我々が剣士さんを見捨てればそれまで、民衆には『仲間を見捨てる非情な魔王軍』と印象付ける事が出来る。仮にこちらが交渉に応じた場合でも、敵軍幹部を3人まとめて捕虜に出来る……というわけです」

下級妖魔「あ、あの、破戒僧殿……」

破戒僧「この姑息なやり方からして、恐らく発案者は勇者ではないでしょう。自ら魔王城に突入しようなどと考える者達が、こんな出来の悪い搦め手に縋るとは思えません。となると……一向に現状を打破できない事に焦った最高司祭の横槍、といったところでしょうか。今やあの国で一番力を持っているのは、王族ではなく教会ですからね」

下級妖魔「は、はぁ……」

破戒僧「神の威光に背く者には、神聖なる裁きを下せ……ですか。あの頃から何も変わってはいませんね、教会というものは」

下級妖魔「………」

破戒僧「尤も光の神にとっては、現状はこの上なく好都合なのでしょうがね。教会の力が強くなればなるほど、自らを信奉する忠実な手駒が勝手に増えていくのですから。あとは『神のお告げ』という名の『命令』を下せば、手駒達は自らの望む理想を実現しようと躍起になるわけです。ふふっ、実に便利なシステムですよ……反吐が出る程にね」

下級妖魔「………」

破戒僧「実質的にあの国を牛耳っている最高司祭も、所詮は神の下僕に過ぎません。当然、教会とその管理下にある勇者───ひいては勇者候補生達も、神の言いなりというわけです」

下級妖魔「………」

破戒僧「くくっ、『王国』とはよく言ったものです。王の統べる国を名乗っておきながら、国の実権を握っているのは最高司祭ただ一人。教会の権力剥奪を実行に移そうとしていた旧王族は、10年前の暗殺事件によって皆殺し……。何とも教会にとって都合のいいタイミングで事件が起こったものです。そう、不自然な程に……ね」

下級妖魔「………」

破戒僧「くくっ、あの国が『王国』から『教国』に変わる日も、そう遠くはないかもしれませんねぇ……くくっ」

下級妖魔「(あ、これめっちゃ怒ってる時の笑い方だ)」

破戒僧「……さて、どうしたものでしょうね?」

下級妖魔「は、はい、どうしましょう……」

破戒僧「僕達としては当然、こんなふざけた要求を呑むわけにはいかないのですが……交渉を蹴るとなると、剣士さんが王都へ連行されてしまいます。さて、するとどうなってしまうでしょう?」

下級妖魔「へっ!?あ、あの、四天王を1人でも捕らえたとなれば、ますます王国軍を勢い付かせる事となってしまい、ます……。更に四天王の一員を欠いてしまったとなれば、我が軍の士気も著しく低下してしまう、かと……」

破戒僧「正解です。あなたはとても飲み込みが早くて助かりますね、ハナマルをあげましょう」

下級妖魔「は、はぁ……」

破戒僧「その通り、彼らは今以上の勢いで進軍してくる事となるでしょうね。ただでさえ、我々は王国軍に数で劣っています。境に魔封じの洞窟があるから何とか持ち堪えているとはいえ、いつ均衡を崩されてもおかしくはありません。その上、あちらには勇者という切り札が存在していますからね。これは由々しき事態ですよ?」

下級妖魔「(ハナマルって何だろう……)」


破戒僧「そういうわけで、僕達がこの状況を打破する為には、何としても剣士さんを奪還しなければなりません。最悪、駐在している王国軍と全面衝突する事になったとしてもです」

下級妖魔「だ、奪還と申されましても、前線の砦には王国軍の主戦力が集まっているんですよ!?」

破戒僧「主戦力、ね……このまま僕が乗り込んで、勇者もろとも皆殺しにしてやっても構いませんが?」

下級妖魔「ヒッ!?は、破戒僧殿ッ!?」

破戒僧「……ふふっ、冗談ですよ。戦いによる被害を極力抑えろという魔王様の意思に、しもべである僕が背くわけにはいきませんから」

下級妖魔「そ、そうですか……それは、安心しました……」

破戒僧「いえ、何とも言えないやるせなさが燻っていたもので、つい。すみませんねぇ、驚かせてしまって」

下級妖魔「(この人の冗談、分かり辛すぎるよォ……!)」

破戒僧「まぁ、やろうと思えば簡単ですが。流石に僕も、進んで血を流すような事は避けたいのですよ。一応僧侶ですからね」

下級妖魔「(皆殺しが簡単とか、この人何者なんだよォ……!)」

破戒僧「まぁ……剣士さんの救出については、指定された時間までに策を練りましょう。それまで、この事はくれぐれも内密に。全体の士気に関わりますからね」

下級妖魔「ハ、ハッ!了解致しました!」

破戒僧「特に姫にはくれぐれも、くれぐれも内密にお願いしますよ?剣士さんが行方不明だということも、ぎりぎりまで伏せておくよう心がけてください」

下級妖魔「ハッ!姫様にはくれぐれも内密に───えっ?」

破戒僧「姫は家族思いですからね、少々行きすぎとも言える程に。そんなあの子がこの事を知ればどうなるか、想像がつくでしょう?」

下級妖魔「……単身で敵陣に乗り込み兼ね…ません……」

破戒僧「ええ。恐らく我々が静止したところで、家族を助け出す為なら止まりはしないでしょうね」

下級妖魔「………」

破戒僧「尤も、単身で乗り込んだところで姫が負ける事はないでしょうが……それでも心配なのですよ、僕達としては」

下級妖魔「ぼ、僕“達”……と、申されますと……」

破戒僧「僕はともかく、人形遣いさんは心配性ですからね。もし姫が単身で乗り込んでしまったという事態なれば、荒れに荒れる事間違いなしです」

下級妖魔「」

破戒僧「前に姫が森で迷子になった時なんて、八つ当たりで上級妖魔数人が犠牲になりましたからね。あ、いえ、勿論命に別状はなかったのですが。護衛の癖に目ぇ離してんじゃねェよ!と物凄い怒りようで……おや、顔色が悪いですよ?」

下級妖魔「」

破戒僧「まぁそういうわけですから、くれぐれも内密に。剣士さんについては僕達が何とかしますから、あなたは姫に悟られぬよう、この件は心の奥にでもしまい込んでおいてください」

下級妖魔「」

破戒僧「それでは、僕はこれで。……本当に、お願いしますよ?」

下級妖魔「」

下級妖魔「」

下級妖魔「」

下級妖魔「」


下級妖魔「や」









下級妖魔「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいよォォォォーー!!姫様に思いっ切り喋っちゃったよォォォ!!」

下級妖魔「おいどうすんだよこれまじでぇぇ!ぶっ殺されるの確定じゃんかよォォォ!!」

ネクロ「誰に?」

下級妖魔「人形遣い殿にですよ!あの四捨五入すると三十路になる人形マニアの過保護四天王にですよォ!!」

ネクロ「パペちゃんに?どうして?」

下級妖魔「剣士殿が行方不明だって事を姫様に喋っちゃったからですよ!しかも剣士さん今は砦に拘束されてるらしいし!準備が終わり次第王都に連行されるらしいし!!」

ネクロ「え……?」

下級妖魔「連行されたら絶対死刑だよこれ!でもって私は人形遣い殿から私刑だよこれ!ああもうどうしよォォォ!!」

ネクロ「そう、剣さまが……」

下級妖魔「王国軍も何だってそんな面倒臭い声明出してくるんだよ!最初から交渉する気なんてないなら黙ってろってんだよォ!!」

ネクロ「………」

下級妖魔「ああもうこれどうすればいいんだよォ……!姫様が知ったら絶対助けに行くって言い出すじゃんかよォ……!!」

ネクロ「うん。わたしは剣さまを助けに行く」

下級妖魔「そうそう、そう言うに決まって───えっ?」



ネクロ「教えてくれて、ありがとう。ちょっと出掛けてくるから、みんなにはそう言っておいて」

下級妖魔「」

王国兵C「お、おい……どうするんだよ、こいつ。やるのか?」

王国兵B「どうするって言われても……やるしかねぇだろ、命令なんだからよ」

剣士「………」

王国兵B「(まだニヤニヤしてるよ……)」

王国兵C「(できれば関わりたくねぇ……怖えぇよぉ……)」


王国兵B「ま、まずは全身隈なく痛め付けてやろうぜ。四天王っつっても所詮は人間だ、あの魔剣がなけりゃ何もできやしねぇよ」

王国兵C「そ、そうだな。手枷も嵌めてあるんだ、何もできるわけねぇよな……」

剣士「……ククッ」

王国兵B「!?」

王国兵C「」


剣士「ククッ…貴様ら……!手枷如きで余の動きを制限できると……本気で思っているのか……!」

王国兵B「なんだと……?」

王国兵C「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!?!?」

王国兵B「うるせぇ!」

王国兵B「おい貴様!今の言葉はどういう意味だ!」

剣士「ククッ……!どういう意味も何も……!そのままであろう……!」

王国兵B「(何だ?手首は枷によって拘束されている、武器はなし。制限も何も、完全に丸腰じゃねぇか。だってのに……何なんだ、この余裕は?)」

王国兵C「お、おい……!こいつ、ひょっとして脚力も半端ないんじゃないか……!?それこそ、蹴りで牢をブチ破れる程に……」

王国兵B「馬鹿が、そんなわけあるか!」

王国兵C「で、でもよぉ!だったらこいつ、何でこんなにニヤニヤしてられるんだよ!このままだと死刑なんだぜ!?何か奥の手でもなけりゃ、こんな余裕でいられるわけないじゃねぇか!」

王国兵B「そ、それは……」

剣士「クク…!クククッ……!」

王国兵B「………」

王国兵C「………」



王国兵B「この余裕ぶり……お前の言う通りかもしれねぇな。念の為、足枷も嵌めておけ!」

王国兵C「お、おうっ!すぐに持ってくる!」

剣士「………」

王国兵B「ふんっ!何を企んでるか知らねぇが、貴様の思い通りにはさせねぇからな!」

剣士「………」




剣士「(ククッ、馬鹿め……!そんな脚力などある筈もなかろう……余は根っからのインドア派だ……!さぁ、もっと余を縛り付けるがいい……!身動きも取れぬ程にな……!クククッ……!)」

ここまでなんじゃー。
間空いた割には短くて申し訳ありませぬ。

破戒僧「先程、姫がバルムンクさん───エルダードラゴンに乗って前線方面へと飛び去って行ったと、他の妖魔達から報告がありました」

人形遣い「………」

下級妖魔「ごめんなさい」

破戒僧「困りましたねぇ……こうなる事を未然に防ぐ為に、姫にはくれぐれも内密にとお願いしたはずなのですが」

人形遣い「………」

下級妖魔「ごめんなさい」

破戒僧「こうなってしまった以上、剣士さんの救出は姫に任せておくべきなのでしょうが……万が一という可能性も、無きにしも非ず……ですから、ねぇ?」

人形遣い「………」

下級妖魔「ごめんなさい」

破戒僧「いやぁ、困りましたねぇ。王国軍と戦うのは僕達の役目だというのに、自ら敵陣のど真ん中に突入してしまうとは、本当に困ったお姫様です。尤も、そんな放っておけないような所もまた性よk……失礼、噛みました。保護欲を掻き立てられるのですがね、ふふっ」

人形遣い「………」

下級妖魔「(突っ込みが……突っ込みがない……!すっげぇ怒ってるよォ……!)」

破戒僧「さて、どうしたものでしょうね……人形遣いさん?」

人形遣い「………」

下級妖魔「(前の時は上級妖魔数名が犠牲になったって言ってたっけ……。私、どうなっちゃうのかなあ……?)」

破戒僧「今から我々が発ったとしても、飛行中のエルダードラゴンに追い付くのは並の飛竜では不可能でしょうからね。腐っても竜族の長といったところでしょうか。あ、今のは別にドラゴンゾンビとかけたわけではないですよ?ふふっ」

人形遣い「………」

下級妖魔「(怖い……この沈黙が一番怖いよォ……!助けて姫様ァ……!)」




人形遣い「……お

下級妖魔「ごめんなさいごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいィィィ!!反省してます!反省してますからぁ!!」

人形遣い「うるせぇな!まだ何も言ってねェだろうが!!」

下級妖魔「どうか、どうか私めに御慈悲を!お願い、殺さないで!殺さないでくださいィィx!!!」

人形遣い「勝手に被害妄想拡大してんじゃねェよ!殺さねぇよ!」

下級妖魔「そんな事言って、私に乱暴するつもりでしょう!?口では何もしないとか言いながら、頭の中ではどうやって私をグチャグチャのネチャネチャにしてやろうか考えてるんでしょう!?」

人形遣い「しねェよ馬鹿!何言ってんだお前は!」

下級妖魔「その糸で私の身体の自由を奪って[ピーー]や[ピーー]や[ピーー]みたいな事をするつもりなんでしょう!?そして悔しがる私の顔を見ながら[ピーー]を[ピーー]して[ズキュゥゥゥン!!!]するつもりなんでしょう!?いつも姫様にしてるみたいに!!」

人形遣い「してねぇよ馬鹿!人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ!誰かに聞かれたら誤解されんだろうが!!」

破戒僧「ふむ……?その時の様子、出来れば詳しくお聞かせ願いたいのですが。映像等の参考資料はないのですか?」

人形遣い「お前も反応してんじゃねェよ腐れ僧侶が!!」

人形遣い「ったく、人を何だと思ってんだお前は……。あのガキが厄介事を持ち込むのはいつもの事だし、んな事でいちいち誰かに八つ当たりするわけねェだろうが」

下級妖魔「(あれ?何か想像してた反応と違う……)」

人形遣い「お前はここに来てから日が浅いから知らねぇだろうけどな、あのガキがこんな風に暴走するのはよくある事だ。別に今に始まった事じゃねぇんだよ」

下級妖魔「そ、そうなんですか、破戒僧殿……?」

破戒僧「ええ、割と頻繁に。つい最近では、人形遣いさんが構ってくれないので家出すると言って飛び出して行った事もありますね」

人形遣い「あれは仕方ねェだろ、人形のメンテの真っ最中だったんだからよ」

破戒僧「まったく……あなたという人は。 ……それにしても、あの時の姫は大層可愛らしかったですねぇ。僕とした事が、一瞬何もかもかなぐり捨ててむしゃぶりついてしまうところでしたよ」

人形遣い「お前ほんと何で僧侶とか目指してたんだよ。どこからどう見ても煩悩まみれじゃねぇか」

破戒僧「おや、あなたは何も感じなかったのですか?思春期の美少女に涙目で『ばかっ!』と罵られるようなシチュエーションなんて、僕としては大変羨ましい限りなのですが……あれで少しも興奮なさらないとなると、それはそれで問題があると思うのですが」

人形遣い「やかましいわ変態が!お前と一緒にするんじゃねェよ!」

下級妖魔「(人形に欲情するのも大概だと思うけどなァ……っていうか、えっ?なんか話違くね?姫様が飛び出したら人形遣い殿がブチ切れるんじゃなかったの?あれっ?)」

人形遣い「……ま、あのガキの事は気にすんな。なるべく兵を無駄にはしたくねぇし、馬鹿剣士共々俺達で連れ戻してくるさ」

下級妖魔「は、はぁ……あの、人形遣い殿?」

人形遣い「あ?何だよ?」

下級妖魔「私へのしょばちゅ……処罰はないのでありますか?自分で言うのも何ですが、剣士殿の件を姫様に……」

人形遣い「いや、別に?どうせあのガキが碌すっぽ話も聞かずに飛び出してったんだろ?んなもん、もう慣れっこだっつの」

下級妖魔「で、ですが、人形遣い殿……?以前姫様が森で迷子になった時には、上級妖魔を数名ボッコボk

破戒僧「んんっ!……さて、それでは姫の救出はあなたにお任せしますよ、人形遣いさん」

人形遣い「あ?んだよ、結局俺がお守しなきゃなんねェのかよ……まぁいいけどさぁ」

下級妖魔「(え、あれっ?今わざと遮られなかった?)」


人形遣い「つってもまぁ、今頃とっくに砦に突撃仕掛けてる頃なんじゃねぇのか?正面突破じゃ救出もクソもあったもんじゃねぇぞ」

破戒僧「念の為ですよ。例の人形、姫はいつも持ち歩いているのでしょう?」

人形遣い「まぁな。いくらあのガキが術師として優れてるっつっても、魔封じの洞窟みたいなイレギュラーもあるわけだしな。一応持ち歩いとくようには言ってある」

破戒僧「では、あなたはそれを使って姫と剣士さんの誘導をお願いします。僕はこの後少しばかり、下級妖魔さんとお話があるので……ね?」

下級妖魔「ひゃいっ!?」

人形遣い「へいへい。そんじゃま、一旦部屋に戻っとくわ。言っとくが、勝手に入ってくるんじゃねェぞ」

破戒僧「ふふっ、安心して下さい。姫のようなうら若き乙女ならともかく、20過ぎの男性の無防備な姿には別段興味はありませんので。どうぞごゆるりと、ありのままの自分をさらけ出していてください……ふふっ」

人形遣い「気色悪りィ言い方すんじゃねぇよ!くたばれド阿呆が!」

破戒僧「行ってしまいましたか。まったく、乱暴な扉の閉め方ですねぇ」

下級妖魔「あ、あの……?」

破戒僧「それにしても、まさか本人に直接確認しようとするとは思いませんでしたよ。前々から思っていましたが、あなたは口の軽さのせいで余計な不幸を招くタイプのようですね、ふふっ」

下級妖魔「ハ、ハッ、申し訳ございません!何分、私の口が軽いのも顔色が悪いのも、顔がグロいのも遺伝ですので……!」

破戒僧「そうですか、遺伝ですか」

下級妖魔「は、はい、遺伝です」

破戒僧「それはそれは……遺伝なら仕方ありませんね。ふふっ……」

下級妖魔「ハ、ハハッ……」

破戒僧「ふふっ……」

下級妖魔「ハハ…ハ……」

破戒僧「ですが、今回の件に関しては……いくら遺伝といえど看過できませんねぇ。あれほど姫には内密にと、人形遣いさんの名前を使ってまで脅かしておいたというのに……事もあろうに、それよりも前の段階で既に口外してしまっていたとは。あなたは機密事項という言葉の意味を理解しているのでしょうか。それとも、アガリ症なせいでついつい口が滑ってしまうだけなのでしょうか……まぁどちらにしても、年頃の少女をわざわざ戦場に立たせるような真似をしてしまった事だけは頂けません。ええ、頂けませんよ。いえ、別に怒っているわけではないんです。怒っているわけではないんですよ?……ですが、僕が何の為に釘を刺しておいたのかという事を少し考えてみて欲しいところですねぇ。勿論、姫の実力を疑っているわけではありませんよ。彼女が本気になれば、王国軍を壊滅させる事など造作もないでしょう。……ですが、もしも万が一、億が一にでも姫の顔に傷でも付いてしまったらどうしますか?姫の柔肌に、一生消えない傷跡が残ってしまう……ああ、なんと恐ろしい事でしょう!?想像しただけでも身震いしてしまいそうですよ!いいですか、思春期の少女というのはそれだけで価値があります。いわばステータスです。それも、姫のような美少女ならば尚更に。まるで小鳥のさえずりのように可憐な声。白魚のように細く華奢な手指。白くきめ細かい肌。美しく艶やかな髪……着飾る必要など何処にもない、思春期の少女特有の美しさが其処にはあるのです。そんな少女の姿を見ただけで……ああ!汚れた神による偽りの光で埋め尽くされていた僕の世界が、真実の光によって照らされていく……!なんという喜悦、なんという愉悦!正に美の化身……その美しさたるや、まるで現世に降臨した天使のようです。そんな少女に見つめられ、薔薇の花びらのように可憐な唇から紡ぎだされる声を聞いただけで……あぁ、そのまま果ててしまいそうですよ……ふふっ……。 ……おっと、話が逸れてしまいましたね、これは失礼致しました。要するに僕が言いたいのは、今回のようにむざむざ少女を戦場に立たせるのは頂けないという事です。姫のように可憐な少女の代わりに戦う事が、僕達男性の務めなのですから。それ故に、今回あなたの失言によって姫が敵陣の真っ只中へと単騎で向かってしまった事は……僕としては、まことに遺憾であると言わざるを得ません。そうですね……あなたには少しばかり、お灸を据える必要がありそうです。ああ失礼、これは極東の島国の言い回しなのですが……要は、お仕置きという意味です。おっと、安心してください。こう見えて僕も聖職者の端くれ、お仕置きといっても暴力沙汰になるような事はしませんよ。ふむ、そうですね……あなたには今後このような事───少女を危険に晒すという事がないように、何故僕達が少女を全力で守らなければならないのか、その意義をたっぷりと教えて差し上げましょう。手取り足取り、ね……。ああ、そんなに怯えずとも大丈夫ですよ。このお説教が終わる頃には、あなたも少女を守る戦士として生まれ変わっている事でしょうから……ふふっ。さぁさぁ、ここはお説教をするには些か騒がしいです。腰を落ち着けてゆっくりと、じっくりと少女の何たるかを語り合う為に……僕の部屋へ参りましょう。ふふっ……」

下級妖魔「」

破戒僧の台詞書いていく度に自分の中の何かが音を立てて崩れていくような気がする。

3日以降とか言いつつフライングさーせん!ここまでなんじゃ!

ネクロ「……? 誰かの霊圧が……消えた……?」

スケルトン「カタカタカタカタ」

ネクロ「ううん……きっと気のせい。ごめんね、なんでもないよ」

スケルトン「カタカタカタ」

ネクロ「うん、あそこに剣さまがいるって妖魔達が言ってた。……剣さまを、助けなきゃ」

スケルトン「カタカタカタカタ」

ネクロ「大丈夫、作戦通りにやればきっと大丈夫だよ。行こう、ミカエラ」

スケルトン「カタカタカタ」








門番「………」

ネクロ「………」

スケルトン「カタカタカタカタ」

門番「………」

ネクロ「………」

スケルトン「カタカタカタカタ」

門番「(あ…ありのまま今起こった事を話すぜ。『おれは砦の入口を見張っていたと思ったら空から白骨死体と女の子が降ってきた』。な…何を言ってるのかわからねーと思うが…おれも何が起こっているのかわからない……頭がどうにかなっちまいそうだ……)」


ネクロ「………」

スケルトン「カタカタカタ」

門番「……な、何者だ」

ネクロ「わたし達は、旅の行商人」

スケルトン「カタカタカタカタ」

門番「………」

ネクロ「おいしい飴玉を売りに来た。中に入れてほしい」

スケルトン「カタカタカタカタ」

門番「………」





門番「て、敵襲だァー!!誰か来てくれェー!!」

ネクロ「あれ……?」

王国兵α「なんだなんだ!」

王国兵β「敵襲か!? ……って、女の子ぉ!?」

王国兵γ「おいおいどういう状況だよこれは!」

門番「わからん!わからんが露骨すぎるくらいに怪しいヤツだ!とりあえずひっ捕らえろ!」


ネクロ「おかしい……作戦通りに行商人のふりをしたのに」

スケルトン「カタカタカタ…」

ネクロ「ううん、ミカエラが悪いんじゃないよ。あなたの演技は完璧だった」

スケルトン「カタカタカタカタ」

ネクロ「うん、大丈夫。あなたは立派な舞台役者だよ。サブリナもコンスタンツもシャクヤクも、他のみんなもそう言ってる」

スケルトン「カタカタカタッ」

ネクロ「元気でた? ……そう、よかった。あなたが元気でいてくれると、わたしも嬉しい。人間も死霊も元気が一番」

ぬいぐるみ「この状況で呑気な事言ってんじゃねぇよ!あいつら殺る気満々じゃねぇか!」

ネクロ「……え?」

ぬいぐるみ「ったく、予想通り正面突破かよ……!ちったぁ見つからずに忍び込む努力くらいしろっての……!」

ネクロ「……パペちゃんからもらった、ぬいぐるみが……」

ぬいぐるみ「1人で勝手に突っ走りやがって……あの馬鹿剣士ならそう簡単に死なねぇっつっただろうが。それでお前まで捕まったらどうすんだよ」

ネクロ「ぬいぐるみが……」

ぬいぐるみ「まぁ来ちまったもんは仕方ねぇ、とっととあの馬鹿剣士を連れて帰るぞ。言っとくが、俺はこの状態じゃ碌に戦えねぇからな。雑魚は責任持ってお前が何とかしろよ?」

ネクロ「しゃべった……」

ぬいぐるみ「にしてもまぁ、ガキ相手に4人がかりとは随分と大人気ないこって。護送の準備でピリピリしてんのはわかるが、王国兵ってのはガキ相手に寄ってたかって剣突きつけるのが趣味なのかねぇ?」

ネクロ「………」

ぬいぐるみ「ま、勇者ならともかく一般兵士なんざお前の敵じゃねぇだろ。とっとと蹴散らしちまえよ。勿論殺すんじゃねぇぞ?」

ネクロ「………」



ネクロ「………」

ぬいぐるみ「……おい、何後ずさってんだよ」

ネクロ「………」

ぬいぐるみ「だから無言で後ずさるんじゃねぇよ!何なんだよ!」

ネクロ「………」






ネクロ「ぬいぐるみがしゃべった……こわい……」

ぬいぐるみ「隣に白骨死体並べてる奴が何言ってんだよ!!いいからこっち来いよ!!」

ネクロ「い、いや……!こっちに来ないで……!」

ぬいぐるみ「手の平サイズのぬいぐるみ相手に本気でビビってんじゃねぇよ。お前のお友達のほうがよっぽど怖えェだろうが」

ネクロ「お化け……本物のお化けが出たよ……!誰かたすけて……!」

ぬいぐるみ「だからそれはお前のお友達の事だろうが!あとお化けじゃねぇよ、俺だ俺!」

ネクロ「ぬいぐるみのお化けがオレオレ詐欺を仕掛けてくるよ……たすけてパペちゃん……怖いよ……!」

ぬいぐるみ「だから俺がその人形遣いだって言がはぁっ!?」



ゾンビ「アァ……!アウァ……!」

スケルトン「カタカタカタカタ」

レイス「………」

グレムリン「キキッ!キシャァーッ!!」

ぬいぐるみ「おい馬鹿やめろ、何殺る気満々になってんだよ!俺だって言ってんだろうが!」

ネクロ「みんな……わたしを守ってくれるの……?」

ゾンビ「ウゥ……!」

スケルトン「カタカタカタカタ」

レイス「………」

グレムリン「キキッ!キキキッ!」

ネクロ「みんな……ありがとう。わたし、みんなとお友達になれて、本当によかった……!」

ぬいぐるみ「何ちょっといい話みたいになってんだよ!いいからやめさせろよ!!」

ゾンビ「アァ……ゥア……!」

グレムリン「キキッ!イヒヒッ!」

ぬいぐるみ「あ、こら、お前らぬいぐるみ相手に大人気ねぇぞ!ちょ、顔近付けんじゃねぇよ、このサイズだと視界いっぱいにお前らのグロ顔が───あ、だからやめっ、口開けんな中までくっきり見えちゃう!見えちゃうだろうが!や、やめろ!やめろってばぁぁぁ!!」




王国兵α「」

王国兵β「」

王国兵γ「」

門番「(もう何がなんだかわからねぇ……)」

上級妖魔「失礼致します」

破戒僧「おや、上級妖魔さん。どうなさいました?」

上級妖魔「先程から私の部下の姿が見当たらないのですが……破戒僧殿、何か御存知ありませんか?」

破戒僧「あぁ、下級妖魔さんでしたらここにいますよ。すみませんねぇ、少しばかり話し込んでしまいまして」

上級妖魔「そうでしたか、お話の邪魔をしてしまって申し訳ございません」

破戒僧「いえいえ、お構いなく。ちょうど一段落ついたところですので」

上級妖魔「そうですか……では、私の部下を呼んで頂いても?」

破戒僧「ええ。下級妖魔さん、上官の方がお呼びですよ。下級妖魔さん?」

下級妖魔「すみません、お待たせ致しました。出動命令でしょうか?少女を守る為の」

上級妖魔「あ、ああ……そうだが(少女……?)」

下級妖魔「そうでしたか。では、この城に少女を脅かす敵が迫って来ているという事なのでしょうか?」

上級妖魔「少女を脅かすかどうかは知らんが……姫様と剣士殿の不在を狙って、勇者が乗り込んで来る可能性も考慮するべきだという話になってな。念の為、防衛線を強化する事となったのだ」

下級妖魔「なるほど……こちらの戦力が低下中だと判断した勇者一行が、ここぞとばかりに攻め込んでくる可能性があるわけですね。少女を攫いに」

上級妖魔「そういう事だ……別に少女を攫いに来るわけではないと思うが。そもそもこの城に少女はおらんだろう……姫様以外は」

下級妖魔「そういう事でしたらその命令、謹んでお受け致します。姫様がお戻りになられるまで、勇者共からこの城を死守致しましょう。少女の為にも」

上級妖魔「あ、ああ、お前は第3防衛班と合流だ、指示はそちらの隊長に従え。この魔王城は姫様と剣士殿、そして何より魔王様の御住まいだ。何としても守り通せ……少女は関係ないと思うが」

下級妖魔「ハッ!これより第3班と合流し、防衛ラインの強化に努めます!少女を守る為に!」

上級妖魔「(だから少女って何の事だよ。少女より魔王様を守れよ)」





破戒僧「(見違えましたよ、下級妖魔さん。僕の目に狂いはなかった。あなたには素質があったようです……ふふっ)」

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