軍団長「俺を勇者と呼ぶな!」 (32)

軍団長「軍団長、団長殿、もしくは討伐団長と呼べ!」

エルフ弓兵「えっと……あの、失礼ですが」

軍団長「なんだ?」

エルフ弓兵「その……あなた様は、勇者様ではないのですか」

軍団長(勇者)「そう呼ばれたくないんだよ。英雄一人で世界が救えるか!」

騎士「あ、気にしなくていいからね新入り君」

女魔導師「そうそう。私なんて“だんちょー”って呼んでるし」

騎士「貴女は少し、慎みを持つべきでは?」

女魔導師「幼馴染の騎士君の方こそ、もっと砕けるべきだと思うけどな~」

騎士「親しき仲にも礼儀あり、ですよ?」

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軍団長(勇者)「という訳だ」

エルフ弓兵「いや……何が何だか」

軍団長(勇者)「要するに“勇者”以外の呼び方を使えと言う意味だ」

エルフ弓兵「そんな事……族長に知られたら……」

軍団長(勇者)「大丈夫だって」

騎士「そうそう……族長ぐらいの大物が来てくれるのなんて、年に数回あるかないかですからね」

女魔導師「正直、片手で数えれるよね」

騎士「二か月連続で誰か偉い人が来たら、驚くぐらいですよね」

軍団長(勇者)「そう言う事だ」

エルフ弓兵「……はぁ」

戦士「おう、今戻ったぞ」

軍団長(勇者)「お疲れ様。今日から魔法使い連中にも開墾作業を手伝わせたが、捗ったか?」

戦士「微妙。魔法使い連中に派手に耕させても、派手な魔法は疲れるからな。一人あたり、二~三発撃った所でみんなクワに持ち替えたよ」

戦士「でも、微妙ではあるが。あると無いとじゃ、一応あったほうが嬉しいな」

軍団長(勇者)「じゃあ、明日からも手伝わせよう」

戦士「ところで、こいつ新入り?」

軍団長(勇者)「そう。この間言ってた、エルフ族からの友好の印としての人手だ」

戦士「手数は多いに越した事はない。よろしくな」

エルフ弓兵「は、はい!」

エルフ弓兵「あの……戦士様」

戦士「あ様付けは良いよ。むず痒い」

エルフ弓兵「では、戦士さん。こ、この方は……あの、“勇者様”と呼ぶなと言われたのですが」

軍団長(勇者)「まーだ気にしてたのか」

戦士「うん、勇者って呼ばなくていいよ」

エルフ弓兵「」

女魔導師「カルチャーショック受けてるみたいだね」

騎士「思い出すなぁ……故郷の事……あの情報がなかなか入ってこないド田舎……」

軍団長(勇者)「二度と戻りたくねぇ」

戦士「あ、そうだ……思い出した。開墾作業中にさ、使者が来たんだが」

女魔導師「そこ大事なところでしょー……と言いたいけど」

騎士「さほど重要な話じゃなさそうですね」

戦士「うん。聖なる武具だが道具だか……まぁ、謂れのある何かを見つけたので持ってきました~って話だったから」

軍団長(勇者)「そっちで処理したのか?」

戦士「処理したかったんだが……神聖なものだから、勇者様でなければ~って言われた」

軍団長(勇者)「頭固いな……まぁいいや、楽しい物が見れそうだ。魔道士、来てくれ」

女魔導師「はーい」

騎士「丁度良い機会だ。新入り君」

エルフ弓兵「は、はい!」

騎士「君も来ると良い。古い価値観を壊してあげよう」

使者「これは……勇者様、お初にお目にかかります」

軍団長(勇者)「(帰りてぇ)ご足労かけてしまい、申し訳ございません使者殿」

使者「もったいなきお言葉、ありがとうございます……」

軍団長(勇者)「して、お話とは?何か神聖なものを持ってこられたとお聞きしましたが」

使者「はい……我々は、勇者様のお力に少しでもなれるようにと、方々を駆け回りましてかつての勇者様が遺した忘れ形見を~」

軍団長(勇者)「要点だけ喋ってください」

騎士(おー怖い)

戦士(最近の団長、この手の会話更に苦手になったよな?)

女魔導師(あんたも苦手でしょう?)

戦士(まぁな)

騎士(と言うか我々全員が、だな)

エルフ弓兵「」

使者「は、はい……申し訳ございませぬ」

軍団長(勇者)「使者殿の後ろ手にある、その高級そうな布に包まれた物が……神聖な何か、でしょうか?」

使者「は、はい……我らようやく見つけたのでございます。かつての勇者様が、魔王どもと戦われた折に~

軍団長(勇者)「失礼、中身を検めさせてもらいます」

騎士(おーこの展開は、初めてだな)

戦士(前の使者は、話が長かったからな~。同じ轍を踏みたくないんだろ)

女魔導師(腕が鳴るわね~)

騎士(跡形も残すなよ?)

女魔導師(当然よ)

エルフ弓兵「」


軍団長(勇者)「ふむ……防具ですか。古い割には、綺麗なものですね……加護も感じられるが……しかし、実際に使ってみなくては、本物かどうかはわからない」

軍団長(勇者)「魔導師!こいつの力、試してくれ」

女魔導師「はーい。じゃあ皆、出てきていいわよ」

魔法使いたち ワラワラワラワラ

女魔導師「はーい。いつも通り、この神聖かもしれない物を中心に、円陣を組んで」

使者「ゆ、勇者様、一体何を?」

軍団長(勇者)「ですから、実際に戦場で食らうような一撃を浴びせて、本物かどうかを確かめるのです」

女魔導師「全力で行きなさいよー!」

女魔導師「せーの!!!」

エルフ弓兵「うわぁ!!?」

戦士(あ……これは)

騎士(屋根をぶち抜いたな……)

戦士(大工仕事が増えちまったな……)

騎士(もう良いんじゃないかな?ここ吹き抜けで)


女魔導師「ごめーん、だんちょ…………勇者様、跡形も残さず消し飛ばしちゃった」

軍団長(勇者)「ははははは!偽物だったと言う事だ、気にするな!」

使者「あわわわわわ」

軍団長(勇者)「使者殿、残念な結果ですが……」

使者「ももも、申し訳ございませぬ、勇者様!」

軍団長(勇者)「貴方が気に病む必要はございませぬ。これが、我々流のやり方なのです」

軍団長(勇者)「見聞だけを信じないというのが、我々なのです。本当に勇者の用いた武具ならば、あれぐらいの一撃でも耐えるはずですから」

騎士(よく言うよ……勇者伝説をぶっ壊そうとする、奴等流に言うと、魔王の手先がさ」

戦士(俺たちもそうなんだけどな)

騎士(まぁな。しかしだ、本物の勇者が勇者伝説を壊そうとしてるってのは、中々皮肉だよな)

戦士(笑えてくるよな。下手な喜劇より面白い)

騎士(あ、お前そういうの理解できたんだ)

戦士(うるせぇ)

エルフ弓兵「」

エルフ弓兵「」

軍団長(勇者)「我々は何も、気にしてなどいません(むしろ原型留められた方が、厄介なんだよ)」

軍団長(勇者)「騎士。使者殿を、外までお送りしなさい」

騎士「はい、だ…………了解しました」

戦士(今、団長って言いかけたなこいつ)

エルフ弓兵「」

戦士「あ、やべ。この新入りの事忘れてた」

エルフ弓兵「」

戦士「おーい、大丈夫か?」

エルフ弓兵「あ、あ、あ、あの」

戦士「良かった。意識はあるようだな」

エルフ弓兵「その、貴方達は何者なのですか?」

戦士「世間的には、勇者一行。世間的には、一応まだそうしてる」

エルフ弓兵「せ、世間的?」

戦士「そう世間的。建前って奴だな(その方が寄付も集まりやすいってのは、今はまだ黙っとくか)」

エルフ弓兵「勇者様ですよね!?あの人は!!」

戦士「うん、そうだよ。あいつはそう呼ばれるの嫌がってるし。俺もそう呼ぶのは嫌だと思ってる」

エルフ弓兵「ええええ!?」

女魔導師「あー、カルチャーショック強すぎたかなぁ?」

軍団長(勇者)「良い、俺から話す」

軍団長(勇者)「新入り君。君が色んな人から聞かされた“勇者様”の話、覚えてる?」

エルフ弓兵「もちろんです!」

エルフ弓兵「一声で、暴れ狂う水の流れを沈めたり」

エルフ弓兵「一払いで、眼前の大軍を打ち払ったり」

エルフ弓兵「一つの石ころで、何体もの敵を打倒したり」

軍団長(勇者)「そんな事が出来る存在、見たことある?」

エルフ弓兵「え……いや…………ありません」

軍団長(勇者)「だよねー。いたらスカウトしたい、何が何でも引き込みたい、絶対に戦力になる。色んな意味で」

エルフ弓兵「え、え、え?」

軍団長(勇者)「新入り君。俺が生身でそんな事、出来る風に思える?」

エルフ弓兵「え……っと…………」

軍団長(勇者)「俺がそんな事したって話、聞いた事ある?もう何度も魔物とは戦ったけど、君が聞いているのは、皆で戦ったって話だけのはずだ!」

エルフ弓兵「…………」

軍団長(勇者)「冷静に考えて、そして正直に答えて。俺がそんな、大魔導師何人分もの力を、一人で使えると見える?」

エルフ弓兵「……」

軍団長「答えろ!」

エルフ弓兵「……見えません」

軍団長(勇者)「だよなぁ!」

エルフ弓兵「その……申し訳ありま―

軍団長(勇者)「謝るな!」

エルフ弓兵「」ビクッ

軍団長(勇者)「俺は、自分で言うのも自惚れているようで嫌だが、ちょっとばかし出自が珍しいだけだ!」

軍団長(勇者)「何かしらんが、俺の先祖はすごかったようだが。ぶっちゃけ俺は、ただの人間だ!」

軍団長(勇者)「……確かに。教育は色々とうけた。色々出来るように、教育は受けさせられた」

軍団長(勇者)「その結果、武術魔法儀礼に加えて読み書きや計算と言った学問。いろいろと出来るようになった」

エルフ弓兵「……」

軍団長(勇者)「でも、だ……どれも中途半端なんだ」

軍団長(勇者)「武術なら、戦士のが強い。魔法なら、女魔導師所かそれ専門にやってる魔法使い連中の方がずっと上手い」

軍団長(勇者)「儀礼関係の事柄も、騎士には負ける。読み書きや計算関係の能力も、軍団の財布見てもらってる承認には敵わない」

軍団長(勇者)「器用貧乏って奴だ……弓の技術も習ったが、多分新入り、君の方が上手いはずだ」

戦士「悲劇だよな……何年前の事なのか、そもそもどこまで事実かもわからない伝承を真に受けて、実現させようとしてるんだから」

軍団長(勇者)「傍から見たら喜劇だと思うぞ?」

戦士「いや……さすがに団長と仲の良い俺が、これを傍から見てるだけと言う気分にはなれねぇわ」

女魔導師「じゃあ、私が笑うわね」

軍団長(勇者)「そうしてくれ」

戦士「いや、何か違うだろそれは」

軍団長(勇者)「湿っぽいよりはマシだ」

女魔導師「そうそう。自虐でも良いから、笑ってりゃまだ精神はマシな状態に保てるわ」

戦士「俺、自虐的な笑いあんまりすきじゃないんだけどな」

エルフ弓兵「……」

戦士「んー……この新入り君、意外とタフだな」

女魔導師「そうね、戦士ちゃんなんてだんちょーの人間宣言に放心して、三日ほど立てなかったのに比べたら」

戦士「お、おい!!それは言うな!!」

エルフ弓兵「あはは」

軍団長(勇者)「お、笑った」

女魔導師「壊れた感じでもないわね。よかった」

戦士「……腑に落ちない」

エルフ弓兵「……良かった、出来なくて当たり前なんだ」

軍団長(勇者)「エルフの世界も……なまじ弓の名手が多いだけに、妙な伝説多いよな」

エルフ弓兵「ええ……十歩どころか、何千歩もの先にある的のど真ん中をぶち抜いたとか」

エルフ弓兵「手に持ってるナイフだけを撃ち抜いたとか……これもやっぱり結構な距離から撃ってだし」

エルフ弓兵「……僕がここに来るように族長に言われた理由は、弓術が上手いからだけど」

エルフ弓兵「それでも、僕はその伝説を一つも達成してないから……それで色々と言われましたよ」

女魔導師「それ言ってるやつ、新入り君より下手なのにね」

エルフ弓兵「ははは……ええ、思いましたね」

エルフ弓兵「だから……ここに来ることが決まった時、離れられるのが嬉しいのと同時に、不安でもあったんです」

軍団長(勇者)「俺がマジで伝説通りの事が出来るかも~って思ったのか?」

エルフ弓兵「……はい、恥ずかしながら」

軍団長(勇者)「出来る訳ねぇだろ!」

エルフ弓兵「ですよねー!」

騎士「ただいま……ふん、案外上手くやれてるようだね」

戦士「おう、お帰り。この新入り結構タフだぞ」

騎士「三日三晩部屋から出てこれなかった誰かとは―

戦士「その話はやめろぉ!!」

女魔導師「いやー……無理だね。知ってる人間にとっては、ものすごく面白いから」

軍団長(勇者)「よし!新入りと仲良くなれそうだから」

騎士「飲むか!」

エルフ弓兵「ええ!?」

女魔導師「少年のなりだけど、私たちの倍以上生きてるから大丈夫でしょ?」

エルフ弓兵「いやまぁ……大丈夫ですけど……騎士様は、禁欲が美徳では?」

騎士「酒の無い人生の、なんと無味乾燥な事か」

戦士「あ、あとこいつ。タバコも吸うぞ?」

エルフ弓兵「えええ!?」

女魔導師「ま、おいおい慣れてったらいいよ」


続く

騎士「あばばばばwwwwwwwwww」

軍団長(勇者)「はははは!」

騎士「あばばwwwwばばばばwwぼぼばばびぶべwwwwww」

軍団長(勇者)「そうそう、笑えるよな」

エルフ弓兵「…………」

戦士「よう、新入り。食ってるか?」

エルフ弓兵「え、ああ、はい……」

戦士「遠慮すんなよ、じゃんじゃん食って飲んでくれ」

女魔導師「そうそう。歓迎会にかこつけて、騒ぎたいだけだから」

戦士「ただし……騎士は騒ぎすぎだと思うがな」

エルフ弓兵「ああ……えっと……」

女魔導師「正直に答えていいよ~。酔いが回り切った騎士に引かずにいられるのは、だんちょーだけだから」

エルフ弓兵「ほんとにあの人、騎士職なんですか?」

戦士「ちゃんと装飾付の儀礼服を持ってるから、本物だ。信じられないかもしれないがな」

女魔導師「更に信じられない事に、今の年齢で取れる最上位の位持ちでもあるんだよね」

エルフ弓兵「よく修業期間耐えれましたね……だって、禁欲の極致でしょ?上位の位を持ってるってことは、教会の総本山に何か月もこもったはず」

戦士「そこは、位持ちになればこの討伐団の地位が上がると自分に言い聞かせてたらしい」

女魔導師「泣けるよね~幼馴染のだんちょーの仕事をやりやすくするために、一年以上酒飲めないタバコ吸えない酒飲めないの暮らしだったんだから」

戦士「俺、三日以内に逃げ出す自信がある」

女魔導師「あたしはその日のうちに飛んで逃げると思うww」

エルフ弓兵「……俗っぽいですね、なんだか」

戦士「一応……修行に行く前は、俗っぽいとは言えあれよりはマシだった……はずだ」

エルフ弓兵「“はず”って……何か煮え切らない言葉ですね」

戦士「いや……実はあれがアイツの素なんじゃないのかなーと言うか。表に出る事が修行前は少なかっただけで、見た事あるような気がするんだ」

女魔導師「そこは、騎士ちゃんなりに羞恥心があったんでしょ。修行前は」

女魔導師「修業後は、我慢しすぎたせいでタガが外れちゃったのかもね~」

戦士「何せ、帰ってきてからの第一声が“酒を飲ませてくれ!”だったからな」

女魔導師「それを見越してたのか、帰ってくる一か月くらい前からだんちょーがお酒をかき集めてたよね」

戦士「商人に呆れられてたな。何せ自分のポケットマネーから殆ど出していたんだから」

女魔導師「どうりで、帰ってくる半年前から遊ばないというか、慎ましい生活するようになってたわけだわ……」

戦士「金を貯めてたんだろうな。騎士のお帰りパーティーするのに必要な酒を、かき集めるために」

女魔導師「……羨ましいなぁ。」

戦士「最も、一番驚いたのは。かき集めた酒を、二人で一週間のうちに飲み干した事だがな」

エルフ弓兵「……みなさん、仲が良いんですね」

女魔導師「だんちょーと騎士ちゃんとは特にね……」

戦士「……そうだな。幼馴染だから、そこはまぁ。一番濃くて長いだろう」

戦士「でもまぁ、俺たちだって。かなり、良い線言ってるとは思うぞ?」

女魔導師「だよね?」

戦士「当たり前だろう。うん、だってよ、うん。上手くは言えないがそうに決まってるだろう」

女魔導師「……有難う。お酒のお代わり取って来るわね」

戦士「ああ」

エルフ弓兵「あの、戦士さん……僕、もしかして虎の尻尾踏んづけちゃいました?」

戦士「気にするな。団長と騎士の関係が一番長い物だという事は、女魔導師も解っている」

戦士「まぁ……酒に酔った時は、多少感情的になる。そこだけは気を付けるべきだな……まぁ、でも、そこまでビクつくことはない」

エルフ弓兵「何故ですか?」


女魔導師「だんちょー。飲んでるー?」

軍団長(勇者)「飲んでるぞー!」

騎士「あばばばば!!wwwwww」


戦士「な?ああやって輪に入るだけの度胸があるから、そこまで怖がらなくても良い」

エルフ弓兵「ですね……騎士さんも、立ち上がって何処かに行こうとしてますね」

戦士「騎士も分かってる。あいつは、酒に酔うと何言ってるか分からなくなるだけで、ちゃんと頭は回ってる」

エルフ弓兵「問題は……騎士さんが凄い笑顔でこちらに向かってくる事でしょうか?」

戦士「逃げるぞ、新入り!酔ったアイツの絡みに耐えれるのは、団長だけだ!」

エルフ弓兵「は、はい!!」

翌朝

騎士「ふぅ……朝一番に顔を洗うと、やはり気持ちがいいな」

エルフ弓兵「……凄い。あんなに乱れまくってたのに、何の問題もなく、爽やかに起き上ってきてる」

戦士「言っただろ……何を言ってるか分からないだけで、頭は回ってると……ちゃんと、飲む量には気を使っているんだ」

エルフ弓兵「戦士さん?あ、あの、おはようございます」

戦士「ああ……おはよう」

エルフ弓兵「……戦士さん?」

戦士「あの後、二手に分かれただろう?」

エルフ弓兵「あ……」

戦士「捕まった」

エルフ弓兵「ああ……」

戦士「何語か分からん言葉を聞いてたのが不味かったのかもしれん……騒ぐ横で殆ど寝てたが……何かしらんが疲れた」

軍団長(勇者)「整列!」

騎士「よーし!点呼ぉ!!」

女魔導師「1!」

戦士「あ、あいついつの間に先頭に」


軍団長(勇者)「よし!全員居るな!!」

騎士「各自、持ち場へ迎え!」

ゾロゾロゾロ

戦士「んじゃ、また後でな。俺は開墾に行ってくる」

エルフ弓兵「はい、戦士さん……そういえば、僕は何をやればいいんだろう」

軍団長(勇者)「エルフ君」

エルフ弓兵「は、はい!!」

軍団長(勇者)「昨日は歓迎会にかまけて、何も言ってなかったが……君には女魔導師と一緒に狩りに出てもらう」

女魔導師「よろしくねー」

エルフ弓兵「狩り、ですか?」

軍団長(勇者)「女魔導師、後の説明は頼んだ。騎士、行こう」

女魔導師「はーい。端的に言えば、野菜だけじゃ生きてけないって事よ」

エルフ弓兵「昨日の歓迎会も……歓迎会と言う部分を差し引いても、結構お肉とかあって豪勢でしたよね」

女魔導師「それは私達が、外で獲物を取ってきてるからよ」

女魔導師「最悪、二三日ここを離れて遠出する事もあるから、そこは覚悟しといてねぇ」

エルフ弓兵「いえ、僕はここに来たのは、仕事をする為ですから!」

女魔導師「偉い偉い……と言っても、私の倍以上生きてるのか。調子狂うなぁ~」

エルフ弓兵「あはは……外に出たら、よく言われます。でも、狩りなら森でほぼ毎日やってました」

女魔導師「期待してるよー。弓矢なら、綺麗に獲物を仕留めやすいから、そっちの意味でも期待してるから」

エルフ弓兵「ま、すぐに分かるわよ。帰り道に、商人と初顔合わせするから、覚えといてね」

エルフ弓兵「は、早い!何だ、この馬は!!」

狩人「よう、新入り。女魔導師様からは、余り離れるなよ?」

エルフ弓兵「あ、初めまして……えっと、どういう意味ですか?」

魔法使い「女魔導師様の周辺では、我々の身体能力が上がる」

エルフ弓兵「広域魔法ですか?

狩人「そうだ」

魔法使い「そのお陰で、この馬達の行動半径は飛躍的に伸びている」

狩人「そして、伸びた行動半径のお蔭で。俺たちは近くの狩場以外にも、比較的気楽に移動できる」

魔法使い「狩場を近くに依存しないお蔭で、獲物の数を比較的コントロールできる……」

狩人「狩った獲物の数はしっかり覚えとけよ?個々人の武功は、この軍団ではあまり関係ないが」

魔法使い「同じ狩場で余り取りすぎると、今はよくても後々になると数が減ってしまう」

狩人「でも……俺たちの最大の仕事は。実を言うと、狩りによる肉の確保じゃないんだ」

エルフ弓兵「え……?じゃあ、一体何を狩るんですか?」

魔法使い「魔物だよ」

エルフ弓兵「な、何のために?」

狩人「表向きは、周辺交易路の安全確保」

魔法使い「本当の理由は、換金だ。金にするんだ」

エルフ弓兵「か、換金!?」

狩人「一番金になるんだ。食う所が少ないのに何で魔物を狙う、と考えるかもしれないが」

魔法使い「富裕層が、高く買ってくれる」

狩人「てめぇが狩った物なら、剥製にして飾って自慢する権利もあるとは思うが……」

魔法使い「やめろ。背に腹は代えられない」

魔法使い「エルフ君……我々は、寄付には頼らない。出来うることならば、寄付を得ずに生きて行きたい」

エルフ弓兵「寄付には頼らない……ですか」

狩人「そうだ……じゃねぇと、討伐軍団の勢力を広げるのが怖いんだよ」

エルフ弓兵「……?」

魔法使い「エルフ君は、読み書きは出来るかな?」

エルフ弓兵「は、はい!出来ます!」

狩人「その年で出来るのか……って、俺より年上かww」

エルフ弓兵「ははは。女魔導師さんにも言われました」

魔法使い「どうにも、エルフの年は分からないな」


女魔導師「狩場が近いわよ!速度緩めろ!!」

狩人「おっと、そろそろか」

魔法使い「お喋りはここまでだな。仕事に入ろう」



女魔導師「よし、全員付いて来てるわね!」

女魔導師「今日はこの狩場を使うわよ!この狩場では、食肉はまだ余り取っていないが、余り取りすぎるな!」

女魔導師「それから、獲物は出来るだけ綺麗に仕留めろ!……だが、無理はするな!ズタズタでも、毛皮は繕えば良い値段になる」

女魔導師「エルフ君!あなたは私と来なさい」

狩人「じゃ、またな」

魔法使い「怪我しない程度に頑張れよ。命あっての物種だ」

エルフ弓兵「は、はい!」


続く

軍団長(勇者)「そもそもさぁ……魔王って何?」

騎士「書物によればぁ、この世界の安寧を脅かす……」

軍団長(勇者)「……おい」

貴族風「あの……騎士様」

騎士「分かってる。ちょっとしたジョークだ」

貴族風(やっぱ幼馴染には敵わないな……あの顔見ながらジョークとか言えないよ)

軍団長(勇者)「故郷で腐るほど読んだだろ、その手のおとぎ話は」

軍団長(勇者)「ついでに、お前の場合は教会の総本山の分があるから。俺よりも読んでるはずだ」

騎士「ぶっちゃけ、二度と読みたくない」

軍団長(勇者)「焚書は愚かな行為だとは分かってるが、消え去っても良いんじゃねとは軽く考えてる」

騎士「マジで信じてる連中がいるからなぁ……」

軍団長(勇者)「俺たち人間は、サルから進化したって話あるだろ?」

貴族風「ああ……ありますね……教会がことごとく悪書に指定してますから。教会の影響が強い国じゃ、持ってるだけで命の危険が-

騎士「間違ってはいないんじゃないかな?知恵の働く奴の顔見たら、そう思うが」

貴族風(せっかく玉虫色の表現使ったのに!)

軍団長(勇者)「俺もそう思う」

貴族風(疲れる……)

護衛兵「坊ちゃま、お水飲まれますか?」

軍団長(勇者)「俺は、あんたらにも聞きたいんだが?」

貴族風(来た……)

護衛兵「え……いや、その」

騎士「正直に話して良いよ。今この場には、我々四人しかいない」

軍団長(勇者)「だから心配は要らない」

貴族風「……まぁ、その手の書物は持ってはいないが読んだことはある」

護衛兵「…………坊ちゃま」

貴族風「良いんじゃない……?ここで、この人たちと、この手の話を、明確に拒否しない時点で。教会の意にはもうとっくの昔に反している」

軍団長(勇者)「良い顔してきたじゃないの、坊ちゃん」

貴族風「話の続きだね……感想は、まぁ辻褄はそこそこ合ってるとは思ったよ」

貴族風「騎士様の言うとおり、全部を信じる気はないですが……教会推薦の書物よりは、まともな本じゃないですかね?」

騎士「去年さ……教会の総本山に、サルが人の祖先だって主張の本が聖堂に放置された事件あったろ?」

護衛兵「ありましたね……未だに一部の神官はピリピリしていますよ」

騎士「あれの犯人、俺」

貴族風「」

軍団長(勇者)「マジで!?やるなぁ!」

護衛兵「」

狩場の森

女魔道師「エルフ君、かなり奥の方に行くわよ」

エルフ弓兵「はい……」

女魔道師「狩人や魔法使いから聞いたでしょうから、察しは付いてると思うけど。獲物は魔物よ」

エルフ弓兵「……はい」

女魔道師「少し大物を狙うわ……商人のツテで、討伐報奨金が増額されてるのよ」

エルフ弓兵「あの……質問があります」

女魔道師「何かしら?」

エルフ弓兵「なぜ、そこまで貪欲に稼ぎを得るのですか?」

女魔道師「生きるため、そして戦うためよ」

エルフ弓兵「生きるためは分かりますが……」

女魔道師「……金は、力の上積みに使えるのよ」

女魔道師「極端な話、私たちが非力でも。金の力で武力を買えちゃうのよ」

エルフ弓兵「……なぜ、そこまで。必死になるのですか?」

女魔道師「前に進むためよ…………話は少し変わるけど、エルフ君はぁ、教会に対しての思い入れは?」

エルフ弓兵「……試されているみたいですね」

女魔道師「その通り。試してるのよ」

エルフ弓兵「……答えないという回答は、許されますか?」

女魔道師「構わないわよ」(ニッコリ)

エルフ弓兵「答えの種類としては、かなり駄目な答えのはずですが……随分、機嫌の良さそうな笑顔ですね」

女魔道師「真っ向から教会寄りの答えを出されるよりは良い答えよ……私たちにとっては」

エルフ弓兵「……教会、お嫌いなんですか?」

女魔道師「嫌いとは言わないわ、でも好きではないわ」

エルフ弓兵「じゃあ、僕もその答えで」

女魔道師「あはは」

エルフ弓兵「ふふふ」




女魔道師「さて……そろそろ大物が出てくるわよ」

エルフ弓兵「その、大物の情報はありますか?」

女魔道師「幸い、飛べるような輩ではないわ」

女魔道師「襲われたキャラバンの生き残りが言うには、二本足でも走れるみたいだけど前傾姿勢で走ってるって」

女魔道師「ま、要するに。ごっついサルね」

エルフ弓兵「サルか……群れは作っていないですか?」

女魔道師「どういう訳か、単独行動よ。はぐれ者って奴かしらね?奥に仲間がいそうな気配や、合図を出すような素振りも無かったそうよ」

エルフ弓兵「…………人間でも、いますよね。そういう、はぐれ者」

女魔道師「いるわね」

エルフ弓兵「……」

女魔道師「ふふふ……今度は私が試されてるみたいね」

エルフ弓兵「すいません」

女魔道師「良いのよ、初めにカマをかけたのはこっちだから」

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