提督「この青い海で」 (152)
初スレ立て&初SSです。
艦これのSSでもあります。
脳内設定、キャラ崩壊注意。
句読点が非常に多いのも注意。
時々どこかで見たようなネタが混ざります。
気まぐれ更新
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406208690
照りつける太陽の中最も目立つ建物へと歩を進める。
飛行機から降りて僅か数分だというのに額に汗がにじむ。本土の季節は春。しかし赤道付近であるこの場所では常に常夏である。
興奮の為か僅かに服装の選択を間違えたことを内心悔みながらその建物の全容が見える場所へとたどり着く。
緑溢れる大地に対して不相応にならぬよう設計された南国風の木造3階建ての建物。気候も考慮されており風通しも良くさ
れている。
??「あれは・・・」
その建物の正面玄関であろう場所の日陰になっている所に青い袴をはいたサイドテールの女性が立っている。
これ以上彼女をこの気温の中室外に立たせるのは酷だと考え歩を早める。彼女は自分に気が付いたのか姿勢を正した。
大和「初めまして。大和型1番艦大和です。これから宜しくお願いいたします!」
彼女の前で敬礼をし挨拶をする。
加賀「此方こそ初めまして。南東方面第1鎮守府第2秘書艦空母加賀です」
怜悧さを感じさせる穏やかな声で加賀もまた答えた。
加賀「説明事項等があるので私についてきてください」
一刻も長く室外に居たくないのだろうか。加賀は事務的に大和にそう伝えると扉を開き内部へと足を進めていく。大和もまた加賀に続いて内部へと足を進めた。
加賀「どうぞ」
エアコンの効いた応接室で加賀から差し出されたのはグラスに注がれた冷茶である。氷もいくつか浮かべられており氷同士がぶつかり合う音により一層の清涼感を醸し出している。外気により水分を失っていた大和はそれを一息に飲み干すと加賀に頭を下げた。
加賀「よろしいですか。では改めて初めまして。空母加賀です宜しくお願いいたします」
加賀「訳あって時間が押しているので最低限のことだけお話しさせていただきます。養成学校で聞いたことも含まれていますが聞いてください」
それから加賀が口にしたのは学校でも耳にした深海棲艦と人類との戦争に関する歴史であった。
6年前に第3次世界大戦が勃発したこと。
その終結直後から世界各地の海で深海棲艦が発生し次々とシーレーンを破壊したこと。
従来の海軍戦力はこれに応戦するものの深海棲艦の兵装圧縮技術の前に全面敗北したこと。
それによりいくつもの海洋国が滅亡させられたこと。
その後突如謎の生物「妖精」が発生し彼らに対抗するための兵器「艤装」が開発され、その適合者は第2次世界大戦中に存在した艤装と同じ名前の艦の記憶を引き継ぐ存在「艦娘」という存在になる事が判明したこと。
国が存亡をかけ艦娘を養成し護国及びシーレーンの回復を目的とした大規模な国家プロジェクトが立ち上がり、世論の支持を得て今に至る事が説明された。
加賀「次に当鎮守府についてです。着任指令が出た時点でお察しいただいているとは思いますが、ここは『7英雄』の着任している鎮守府の1つです。7英雄についての説明は必要ですか?」
大和「噂程度なら知っていますが・・・」
加賀「では説明させていただきます。7英雄とは現在総提督数が3ケタいるなかで階級が大将である7名の提督の総称です。その指揮能力は極めて高く1名につき中将5名以上に匹敵する戦果を挙げることからその名が付きました。しかし、あなたがご存じの噂はもう1つの総称に対するものなのではないのでしょうか」
大和「はい。『7つの大罪』についてです」
加賀「7つの大罪とは7英雄個々の性格特性が7つの大罪に類似していることから付いたあだ名です。あなたの不安ももっともです。性格特性との相性次第では作戦行動に支障が出かねませんからね」
大和「はい・・・」
大和は自らの発言の中にあった僅かな澱みを読み取られたことに対し内心驚愕した。戦場において信頼関係ほど重いものは無く、それが無い部隊は遅かれ早かれ最悪の形で瓦解することを学校で口酸っぱく言われ続けていたからだ。
加賀「それについてはある程度安心なさっても結構です。ここは『怠惰』の提督が指揮する鎮守府。基本的には我々艦娘の自治によって成り立っているからです」
大和は胸を撫で下ろした。自治が認められている以上提督による無法が通ることはあまりないと推測したからだ。
それを察したのか加賀は釘を刺すようにこう続けた。
加賀「1つ先に訂正させていただきますが、怠惰と無能は全くの別物です。提督は怠惰ですが断じて無能ではありません。そうでなければ7英雄たりえませんしね」
断じての部分をより強調していることから加賀は提督に対して良い感情を抱いているのが伺えた。たとえ悪意なく無意識に近くとも自らの敬愛する上司が貶められるのには抵抗があったのだろう。
加賀「・・・っ。時間がかなり押しているので手短に内部組織について簡単に説明させていただきます。」
加賀「ここは戦艦・空母・重巡・軽巡・駆逐の5艦種に艦種長と副艦種長という役職が割り振られています。潜水艦に関しては提督直属の部隊ですので存在しませんが・・・。この2役職に就かれている方は実戦経験が多くまた業務能力に秀でる方がなるので不明な点があれば彼女たちに聞いてくださればと思います」
加賀「そして炊事に関してですがその能力に特に秀でるものが数名特別に任命されており一任されています。また有志による者の手伝いも許可されています。ただし・・・金剛型2番艦比叡に関しては調理場への入室を一切禁じられています。発見した場合実力行使による強制退出も許可されていますのでお願いします」
比叡に関することを話す加賀には、調理場から比叡放逐すべし慈悲は無い。という強い意志が込められているのを感じ大和は気圧された。
大和「は・・・はい・・・」
加賀「説明しなければならないことはまだ多くありますが時間のようです。後は後任の武蔵さんにお任せさせていただきます。グラスはそのままで結構です。それでは」
加賀は急いで立ち上がると足早に退出した。その直後に褐色の肌の露出の激しい艦娘が入室した。
武蔵「・・・というわけで後を継がせてもらう大和型2番艦武蔵だ。よろしく頼む。ここで座っているのも難だろう鎮守府内を案内しながら話すとしよう」
大和「はい。お願いします」
そういって大和は立ち上がると武蔵について行くように応接室を後にした。
武蔵「まずは食堂へと案内しよう。案内や荷解きで時間を食うからな食べれるときに食べんとな」
大和「そうですね。私も長距離の移動であまり食べられませんでしたし・・・」
武蔵「だろうな。本土から安全を考慮すれば最短で13時間。深海棲艦発生前の倍もかかるからな」
武蔵「食事については安心してもらっていいぞ。絶品なうえに『事故』は今日に限っては起きんしな」
大和「『事故』?」
武蔵「知らぬ方が幸せなことなどいくらでもあるということだ」
そう言うと2人は食堂に到着した。
大和「広いですね・・・何人くらい入れるのですか」
武蔵「理論上ここに着任可能な艦娘全員分+αだ。昼食にするには少々早いためか人はいないな。まぁいきなり大量の同僚に会うのも疲れるだろうしいい判断だな」
そういうと武蔵はトレーを手に取り一番奥へと向かう。大和もそれに倣った。
武蔵「今日は金曜か期待できそうだな。大和よ。ここの食事は基本3種の中から選べるようになっている。好きなものを頼むといい」
大和は張り出されている黄色の紙に目を移し本日の昼食のメニューを確認する。
5月○日金曜 昼食
A:天ぷら蕎麦
B:冷やし中華
C:冷製パスタ
今日の昼食は麺類のようだ。サンプルも置かれている。大和はどれにしようか考えていると不意に母性をたたえた穏やかな声が聞こえてきた。
??「初めまして新人さん。作り手的にはお蕎麦がお勧めなのですけど」
武蔵「なら私は蕎麦にしよう。鳳翔が勧めるなら間違いはないだろうからな」
現れたのは上はみかん色下は紺の袴をはいた和服姿の女性であった。
鳳翔「軽空母鳳翔です。ここの台所を任されている1人です。よろしくお願いしますね。大和さん」
大和「此方こそよろしくお願いします」
武蔵「わざわざ来てくれるとは。大和よ。鳳翔の料理はこの鎮守府でも2位の腕前。期待してもいいぞ」
鳳翔「褒めても何も出ませんよ?」
鳳翔は悪戯っぽく微笑んだ。
武蔵「それでもだ」
大和「なら・・・私も蕎麦で」
鳳翔「ふふっ。ありがとうございます。天ぷら1つサービスしておきますね」
そういうと鳳翔はすぐに麺をゆで始めた。
大和「そういえば・・・お蕎麦は冷たいのでしょうか?」
武蔵「無論だ。誰がこの常夏の地で熱いものを食いたがる。増々汗が止まらなくなるぞ」
大和「それもそうですよね」
そう雑談に花を咲かせていると鳳翔がいくつかの器を置いた。
鳳翔「お待たせしました。腕によりをかけて作ったので頂いてくださいね」
武蔵「うむ」
そういうと武蔵は色違いの器とせいろをトレーに乗せ移動し始めた。大和は鳳翔に一礼すると武蔵に追従し席に着いた。大和の天ぷらの皿には白身魚の天ぷらが1つ追加されていた。
大和・武蔵「「いただきます」」
そういうと2人は蕎麦をすすり天ぷらを口にした。
大和「美味しい・・・!」
武蔵「だろう。普段鳳翔は食堂にはおらず許可を受けて『居酒屋鳳翔』を営んでいる。その為鳳翔の料理が食堂で食えるのは稀なんだ」
大和「それでも2位って・・・1位の方は一体・・・」
武蔵「1位に関しては振る舞われた回数が通算で5度しかないほどだ。私も1度も口にしたことが無い。だが・・・」
武蔵が続けるよりも先に鳳翔が割って入った。
鳳翔「私よりも遥かに美味しいですよ。最初口にした後に「料理を教えてほしい」って懇願した位には」
蕎麦と天ぷらというシンプルな料理でありながらここまでの味を出せる鳳翔が懇願するほどの腕前。大和の想像力範疇から現実が逸脱した。
大和「ますます分からなくなりました・・・それと料理で1つ思いました。比e・・・」
直後大和は武蔵の手によって口を塞がれた。
武蔵「いいか大和。食事中にその名を口にするな。この鎮守府での不文律の1つだ。いいね?」
大和(アッハイ)
有無を言わせぬその迫力に大和はただ頷くしかなかった。手を外してもらった後さらに続いた。
武蔵「アレは最早一種の災害に等しい」
鳳翔「しかも本人には悪意が一切ないのがまた扱いに困るのですよね・・・」
空気が僅かに重くなる。大和は自らの失態を悟った。何とかして場の空気を変えなければ・・・!大和はそう考え全く別の話題を振った。
大和「そ・・・そういえば提督は執務をなさらない様に思えたのですが実際にはどうなのでしょうか」
武蔵「提督は執務を「やらない」のではない。「できない」のだ。もうそろそろ立てる程度には回復してもいい頃合いなのだが・・・」
鳳翔「私もお食事には気を使っているのですが一旦悪くなると一気に酷くなりますからね・・・」
武蔵「あの輸送船さえ沈められなければ・・・っ」
武蔵が歯噛みし空気が更に重くなる。大和は墓穴を掘ったことを自覚した。それと同時に提督が相応に慕われていることを知った。
武蔵「空気が重くなってしまってすまない。そろそろ騒がしくなる時間帯だし移動しようか」
いつの間にか蕎麦は空になっている。空気が重くなりながらも箸が止まらなかったことに大和は驚きを禁じ得なかった。
武蔵は立ち上がると大和の分のトレーをもって食器返却を行い付いてくるように指示をして食堂を後にした。大和は鳳翔に一礼すると小走りで武蔵について行った。
その後工廠・演習場・ドッグを見て回り寮に到着した。
寮の部屋は養成学校の寮よりも広く、空調設備もあり手入れが行き届いている。
武蔵「言い忘れたが私とお前は同室だからな。よろしく頼む。荷解きくらいは手伝おう」
そういうと武蔵は既に届いていた段ボールを開け始めた。
1時間ほどたった頃であろうか。急に何か思い出し確認するように武蔵は尋ねた。
武蔵「大和よ。まだ『洗礼』は受けていないよな。加賀のあの調子だとその暇さえないのは容易に想像がつくが・・・」
大和「『洗礼』?なんでしょうか・・・」
武蔵「いや。知らないのならいい。すぐに分かる。恐らく今日の22時までには呼び出しがかかるだろうからな」
大和は首をかしげるばかりである。
武蔵「簡単に言えばこの鎮守府に着任した意味を説明されるということだ。『洗礼』の後に提督と話すことによって書類上でも実質上でも正式に配属された扱いになるからな」
大和「武蔵がそれをできないのですか?」
武蔵「不可能だ。『洗礼』をするのは各艦種の中でも最も強く最も実戦経験が多いものがやることになっている。自分では彼女の前では手も足も出ないさ」
大和「大和型のスペックを以てしても・・・ですか?」
自分は大和型1番艦大和という誇りが彼女にもあった。それは太平洋戦争下で旧日本軍が作り上げた最高傑作である大和型それが他の艦に後れを取るはずがないというほんの僅かな慢心でもあった。
武蔵「先取りして言ってしまうのはルール違反だからな・・・軽くしか言えぬが」
武蔵は軽く咳払いをすると強い意志を持った瞳で大和を見てこう断言した。
武蔵「ここでは同艦種における艤装のスペックの差による優位など一切存在しない。一切だ」
大和は僅かに気圧された。しかし追撃するように武蔵は言い放つ。
武蔵「僅かに気圧されたな。だが本物はこの比ではないぞ。何せ相手はこの鎮守府旗艦の戦艦。つまり7英雄の鎮守府の1つのトップを占める存在。数えきれないほどの戦場と数多くの死線を戦い抜いた一騎当千の強者だ。私も着任当初は同じような僅かな驕りを持っていたがそれを跡形もなく消し飛ばすだけの威力は十二分にある」
大和「そうなのですか・・・」
武蔵「そうだ」
武蔵は更に断言する。その後思い出したように時計を見ると時間はもう19時前であった。
武蔵「もうこんな時間か。夕食を食べに行くぞ。金曜の夜はカレーが相場と決まっているしな」
大和「そうですね。鎮守府内をいろいろ見たのでお腹が空いちゃいました」
そういうと武蔵に続いて部屋を後にした。
時間なのでここまで。
wordからペーストしているので表記が乱れるかもしれません。
拙いSSですがよろしくお願いします。
そして提督が出るのは結構先というタイトル詐欺。
お疲れしたー
ワードよりメモ帳のほうがいいかもしれないかなーって
偉そうに言える立場じゃないけど
句読点をもっと上手に使えば読みやすくなると思うよ
今のままだと皆早口で喋ってるように見える
事あるごとに時間がないっていってるから正しいんじゃね
>>12メモ帳のほうがいいのですね。ありがとうございます参考にさせていただきます。
>>13ここからの投下文は意識的に句読点を少し減らしてみました。問題があったらまた教えて下されば幸いです。
>>14句読点が多いのは素です。ですが加賀さんが時間に追われているのも本当です。
投下は基本的に21時前頃~23時までを基本として投下します。
現在書き貯めは前章終了まで書き終わっているので投稿は安定しそうです。
では投下させていただきます。
武蔵「まずは食堂へと案内しよう。案内や荷解きで時間を食うから食べれるときに食べんとな」
大和「そうですね。私も長距離の移動であまり食べられませんでしたし・・・」
武蔵「だろうな本土から安全を考慮すれば最短で13時間。深海棲艦発生前の倍もかかるからな」
武蔵「だが食事については安心してもらっていいぞ、絶品なうえに『事故』は今日に限っては起きんしな」
大和「『事故』?」
武蔵「知らぬ方が幸せなことなどいくらでもあるということだ」
そう言うと2人は食堂に到着した。
大和「広いですね・・・何人くらい入れるのですか」
武蔵「理論上ここに着任可能な艦娘全員分+αだ。昼食にするには少々早いためか人はいないな、まぁいきなり大量の同僚に会うのも疲れるだろうしいい判断だ」
そういうと武蔵はトレーを手に取り一番奥へと向かう。大和もそれに倣った。
武蔵「今日は金曜か期待できそうだな。大和よここの食事は基本3種の中から選べるようになっている。好きなものを頼むといい」
大和は張り出されている黄色の紙に目を移し本日の昼食のメニューを確認する。
5月○日金曜 昼食
A:天ぷら蕎麦
B:冷やし中華
C:冷製パスタ
今日の昼食は麺類のようでサンプルも置かれている。大和はどれにしようか考えていると不意に母性をたたえた穏やかな声が聞こえてきた。
??「初めまして新人さん。作り手的にはお蕎麦がお勧めなのですけど」
武蔵「なら私は蕎麦にしよう鳳翔が勧めるなら間違いはないだろうからな」
現れたのは上はみかん色下は紺の袴をはいた和服姿の女性であった。
鳳翔「軽空母鳳翔です。ここの台所を任されている1人ですよろしくお願いしますね。大和さん」
大和「此方こそよろしくお願いします」
武蔵「わざわざ来てくれるとは。大和よ鳳翔の料理はこの鎮守府でも2位の腕前期待してもいいぞ」
鳳翔「褒めても何も出ませんよ?」
鳳翔は悪戯っぽく微笑んだ。
武蔵「それでもだ」
大和「なら・・・私も蕎麦で」
鳳翔「ふふっ。ありがとうございます天ぷら1つサービスしておきますね」
そういうと鳳翔はすぐに麺をゆで始めた。
大和「そういえば・・・お蕎麦は冷たいのでしょうか?」
武蔵「無論だ。誰がこの常夏の地で熱いものを食いたがる。増々汗が止まらなくなるぞ」
大和「それもそうですよね」
そう雑談に花を咲かせていると鳳翔がいくつかの器を置いた。
鳳翔「お待たせしました。腕によりをかけて作ったので頂いてくださいね」
武蔵「うむ」
そういうと武蔵は色違いの器とせいろをトレーに乗せ移動し始めた。大和は鳳翔に一礼すると武蔵に追従し席に着いた。大和の天ぷらの皿には白身魚の天ぷらが1つ追加されていた。
大和・武蔵「「いただきます」」
そういうと2人は蕎麦をすすり天ぷらを口にした。
大和・武蔵「「いただきます」」
そういうと2人は蕎麦をすすり天ぷらを口にした。
大和「美味しい・・・!」
武蔵「だろう。普段鳳翔は食堂にはおらず許可を受けて『居酒屋鳳翔』を営んでいる。その為鳳翔の料理が食堂で食えるのは稀なんだ」
大和「それでも2位って・・・1位の方は一体・・・」
武蔵「1位に関しては振る舞われた回数が通算で5度しかないほどだ。私も1度も口にしたことが無いが・・・」
武蔵が続けるよりも先に鳳翔が割って入った。
鳳翔「私よりも遥かに美味しいですよ。最初口にした後に「料理を教えてほしい」って懇願した位には」
蕎麦と天ぷらというシンプルな料理でありながらここまでの味を出せる鳳翔が懇願するほどの腕前。大和の想像力の範疇から現実が逸脱した。
大和「ますます分からなくなりました・・・それと料理で1つ思いました。比e」
直後大和は武蔵の手によって口を塞がれた。
武蔵「いいか大和。食事中にその名を口にするな。この鎮守府での不文律の1つだ。いいね?」
大和(アッハイ)
有無を言わせぬその迫力に大和はただ頷くしかなかった。武蔵は大和の口から手を外すと後さらに続けた。
武蔵「アレは最早一種の災害に等しい」
鳳翔「しかも本人には悪意が一切ないのがまた扱いに困るのですのよね・・・」
空気が僅かに重くなる。大和は自らの失態を悟り何とかして場の空気を変えようと全く別の話題を振った。
大和「そ・・・そういえば提督は執務をなさらない様に思えたのですが実際にはどうなのでしょうか」
大和は加賀から聞いた『怠惰』のフレーズから提督の仕事ぶりを聞こうとした。執務をせずに遊びほうけているのなら笑い話の1つにはなると推測したからだ。
それに対する武蔵の回答は意外なものであった。
武蔵「提督は執務を「やらない」のではない「できない」のだ。もうそろそろ立てる程度には回復してもいい頃合いなのだが・・・」
鳳翔「私もお食事には気を使っているのですが一旦悪くなると一気に酷くなりますからね・・・」
武蔵「あの輸送船さえ沈められなければ・・・っ」
武蔵が歯噛みし空気が更に重くなる。大和は墓穴を掘ったことを自覚したがそれと同時に提督が相応に慕われていることを知った。
武蔵「空気が重くなってしまってすまない。そろそろ騒がしくなる時間帯だし移動しようか」
いつの間にか蕎麦は空になっている。空気が重くなりながらも箸が止まらなかったそのそばの旨さにに大和は驚きを禁じ得なかった。
武蔵は立ち上がると大和の分のトレーをもって食器返却を行い付いてくるように指示をして食堂を後にした。大和は鳳翔に一礼すると小走りで武蔵について行った。
その後工廠・演習場・ドッグを見て回り寮に到着した。
寮の部屋は養成学校の寮よりも広く、空調設備もあり手入れが行き届いている。
武蔵「言い忘れたが私とお前は同室だよろしく頼む。荷解きくらいは手伝おう」
そういうと武蔵は既に届いていた段ボールを開け始めた。
1時間ほどたった頃であろうか。急に何か思い出し確認するように武蔵は尋ねた。
武蔵「大和よまだ『洗礼』は受けていないよな。加賀のあの調子だとその暇さえないのは容易に想像がつくが・・・」
大和「『洗礼』?なんでしょうか・・・」
武蔵「いや。知らないのならいい。すぐに分かる。恐らく今日の22時までには呼び出しがかかるだろうからな」
大和は首をかしげるばかりである。
武蔵「簡単に言えばこの鎮守府に着任した意味を説明されるということだ。『洗礼』の後に提督と話すことによって書類上でも実質上でも正式に配属された扱いになるからな」
大和「武蔵がそれをできないのですか?」
武蔵「不可能だ『洗礼』をするのは各艦種の中でも最も強く最も実戦経験が多いものがやることになっている。自分では彼女の前では手も足も出ないさ」
大和「大和型のスペックを以てしても・・・ですか?」
自分は大和型1番艦大和という誇りが彼女にもあった。それは太平洋戦争下で旧日本軍が作り上げた最高傑作である大和型それが他の艦に後れを取るはずがないというほんの僅かな慢心でもあった。
武蔵「先取りして言ってしまうのはルール違反だからな・・・軽くしか言えぬが」
武蔵は軽く咳払いをすると強い意志を持った瞳で大和を見てこう断言した。
武蔵「ここでは同艦種における艤装のスペックの差による優位など一切存在しない。一切だ」
大和は僅かに気圧された。しかし追撃するように武蔵は言い放った。
武蔵「僅かに気圧されたなだが本物はこの比ではないぞ。何せ相手はこの鎮守府の旗艦の戦艦つまり7英雄の鎮守府の1つのトップを占める存在。数えきれないほどの戦場と数多くの死線を戦い抜いた一騎当千の強者だ。私も着任当初は同じような僅かな驕りを持っていたがそれを跡形もなく消し飛ばすだけの威力は十二分にある」
大和「そうなのですか・・・」
武蔵「そうだ」
武蔵は更に断言する。その後思い出したように時計を見ると時間はもう19時前であった。
武蔵「もうこんな時間か夕食を食べに行くぞ。金曜の夜はカレーが相場と決まっているしな」
大和「そうですね。鎮守府内をいろいろ見たのでお腹が空いちゃいました」
そういうと武蔵に続いて部屋を後にした。
食堂内は多くの艦娘でごった返している。メニューの描かれている紙には大きくカレーと書かれておりそれ以外の選択肢が無いことを表していた。
丁度良く空いていた席の正面には1人の艦娘が座っている。
武蔵「相席いいかな」
武蔵がそう尋ねると肩までかかる緑色の髪を持ち、服装はいかにも学校の制服を思わせる服を着ている艦娘は快活に答えた。
??「お。武蔵じゃん。ちーっす!相席ならいいよ!」
口調もいかにもいまどきの女子高校生といった感じで彼女は答えた。そして彼女は大和を品定めするように見ると挨拶をした。
鈴谷「ほぅほぅ・・・彼女が噂の大和さんだね。最上型重巡鈴谷だよ!よろしくね!」
大和「此方こそよろしくお願いします」
鈴谷「や~っぱどー見ても姉妹艦には思えないよねー。パッと見あの人には負けるけど大和撫子って感じだし」
遠慮のない素直な高評価に大和は照れくさくなった。
武蔵「ほう。では私はどう見えていたんだ?」
鈴谷「だって武蔵の初登場のセリフが・・・「フッ・・・随分と待たせたようだな」だよぉ?アクの強いのが来ちゃったなぁって思ったくらいだし」
武蔵「ほぉう・・・」
武蔵のこめかみに血管が走る
鈴谷「でもこれで提督がひっくり返るのも当分は無くなったんだよねー。娯楽の1つが無くなるのが悔しいって考えるか、執務が上手く回るって喜ぶべきかビミョーなところだねぇ」
武蔵「これであの2人のデスマーチも一旦終わりを迎えたんだ。私は喜ぶがな」
大和「あ・・・あの・・・提督がひっくり返る?どういうことなのでしょうか・・・」
艦隊の指揮を預かる将官がひっくり返るという状況を大和はイメージできなかった。
武蔵「大和型そしてビスマルクの艤装建造の為にかかる資材が半端じゃないのだ。しかもそれだけつぎ込んでも建造確立は1ケタ%というから驚きだ」
大和「実際にはどれくらいの資材を・・・」
鈴谷「提督が回したのは 4000/6000/6000/2000だよー」
大和「っ!?」
大和は思わず吹き出しそうになった。資材の言う順は燃料/弾薬/鋼材/ボーキの順で軍紀で統一されている。しかし彼女が聞いていたのは「建造に使う資材の最大値はそれぞれ999が上限である」というものであった。
また資材1単位(数値上の1)は現実の重さで10グラムつまりは艤装1つ建造するのに燃料40リットル、弾薬60キロ、鋼材60キロ、ボーキ20キロという莫大な資材を消費されたことを意味していた。
武蔵「そうか。大型建造を知らんのだな。まぁ無理もないか・・・それができるのは中将以降が所属する鎮守府で資材に余裕のある時のみという条件付きだものな」
そして、「1ケタ%」「ひっくり返る」「デスマーチ」これらの意味するところは・・・
大和「そういうものがあるのですか・・・それで何回失敗なさったのですか?」
恐る恐る大和は尋ねた。
鈴谷「聞いた話だとおおよそ20回らしいねー」
大和は失神しかけた。つまりは自らの艤装1つ作るためにトン単位の資材が消し飛んだことを意味したからだ。
大和「そ・・・それを娯楽って・・・」
鈴谷「だって提督の反応が面白いんだもの。しょーがないじゃーん」
武蔵「提督の反応は必見だからな。それが減るのは少々寂しい気もするな。そういえば鈴谷は成功時の反応は見れたのか?」
鈴谷「見れた!見れた!チョー面白かったよ!」
武蔵「どんな感じだったのだ?」
鈴谷「最初に8時間って出た時には大きい声で「ファッ!?」って驚いてその後狂ったように「バーナー」って連呼したね。そして大和さんの艤装が出来た時には・・・「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!キタ━━(゚∀゚)⌒Y⌒(。A。)⌒Y⌒(゚∀゚)━━!!」ってのたうち回ってた。秘書艦2人もそれを微笑ましく見ていたんだけど・・・提督が急に「アバッ!?」って言って痙攣して「アババババババーッ!」って悪い意味でのた打ち回ったから秘書艦2人が真っ青な顔して提督を医務室に担ぎ込んでいったねー」
武蔵「そして肝心の医務室の薬が無くなってた上にタンカーが襲撃されて医薬品が滞った結果今に至る・・・というわけか。見たかったな・・・」
大和「笑い事ではないような気もしますが・・・」
鈴谷「提督が使い物にならないなんてウチじゃ珍しいことでもないしー。提督もそれを見越して組織運営させてるから想定の範囲内って感じ?」
大和「で、でも出撃とか遠征の管理とかは提督の執務ですよね・・・?」
武蔵「提督の体調のいい時にローテーション表が渡されて基本的にはそれに従うだけだしな。特筆事項としては秘書艦がその時の状況に応じて多少変更することが許されるということぐらいか」
大和「そ、そうなのですか・・・」
大和は改めてここが異質な鎮守府であることを認識させられた。
武蔵「さて。食事も終わったし荷解きの再開でもするか」
武蔵がそういうと大和は己の手元を見た。カレーは綺麗に完食されていた。
鈴谷「正式な歓迎会は『洗礼』が終わって提督が復帰してからになるかなー。その時はまたよろしくね!」
武蔵「しかしもう寝込んで5日にもなる。そろそろ復帰してもいい頃合いだとは思うが・・・」
鈴谷「鈴谷が思うにあと2日は寝込むと思うね!でも明日には薬の乗ったタンカーが来るからなぁ・・・まぁ提督次第じゃね?」
武蔵「そうだな・・・それではまた」
鈴谷「じゃ~ね~!」
手を振る鈴谷を後ろに食器を戻し2人はまた自室に戻り引っ越し作業を進めた。
きりがいいのでここまで。明日の更新は16時前ごろか更新しないかもです。
つーか食ってばっかだな今回の更新・・・でも続きからはその描写が少し減るのでご安心を。
読んでいて気が付いた方もいらっしゃると思いますが忍殺ネタが初登場した投下でもあります。
ニンジャスレイヤーが大好きで原作小説は全巻買いました。キョート・ヘル・オン・アースが早く読みたい。
今後は忍殺ネタが多く使われるところがありますのでよろしくお願いします。
乙
大和・武蔵メインは他にないから楽しみだな
ぼちぼち再開。
>>23 一応その2人セット+もう2人がメインでお話が進んでいきます。短編集とかもちょくちょく交えるかも。
21時30分。引っ越し作業も終わりお風呂も入り本土から受信できるTVを見ていた2人にノックの音が聞こえた。
霧島「こんばんは霧島です。大和さんはいらっしゃいますか?」
大和「はい。ここに居ます」
そういうと大和はドアを開け来訪者を出迎えた。
霧島「初めまして大和さん金剛型4番艦霧島です。よろしくお願いしますね」
大和「はい。此方こそよろしくお願いします」
霧島「私戦艦の艦種長も務めていますので不明な点があれば私に聞いてくださいね。それと夜分遅くに済みませんが今から応接室の方へ向かっていただけますか?」
大和「はい。了解しました」
これが武蔵や鈴谷の言っていた『洗礼』であることは容易に想像がついた。大和は部屋を出ると応接室へと向かって歩き始めた。
霧島「それでは私はこれで失礼しますね」
そう言うと霧島もまた大和とは別方向へと歩き始めた。応接室への道は分かっているので問題はない。
応接室へと歩く。緊張が否応なしに高まる。あの部屋で待ち構えるは7英雄の鎮守府の旗艦。この鎮守府最強の戦艦。全鎮守府の中でも最高クラスの戦力。もう少しだけ心を整えたいそう思いつつ歩くも思ったより早く到着してしまった。
??「どうぞ」
自分が来たことを察したようで内側から声が来る。意を決して扉を開ける。
??「まずはお席へ」
凛とした美しさのある声で彼女は椅子へ座るよう促し、大和が席に着くと彼女は自己紹介をした。
榛名「それでは初めまして。南東方面第1鎮守府第1秘書艦、金剛型3番艦榛名です。よろしくお願いいたします」
彼女はそういうと微笑んだ。その飾り気のない美しさは鈴谷の「彼女ほどではないが~」の意味を理解するには十分であった。
大和「大和型1番艦大和着任しました。ご指導ご鞭撻よろしくお願いします」
大和もまた自己紹介を行った。
その後養成学校のこと、本土のこと、艦娘を志した理由、好きな料理などなど・・・2人は他愛のない雑談を少し交えた。
榛名は驚くほど聞き上手で抱いていた緊張感が和らいでいくのを感じた。
榛名「消灯時間もありますし本題の方に入らせていただきますね」
きりのいいところで榛名はそう切り出した。消灯は23時で現在時刻は22時丁度である。大和は気を引き締めた。
榛名「当鎮守府に所属する艦娘は例外を除いて3つの任務の内どれか1つを担っています」
榛名「1つは哨戒・遠征任務。ここ南東方面第1鎮守府・・・通称ショートランド泊地は現在わが国が展開している深海棲艦防衛圏の中でも東端にあります。つまり物資の補給、資材の確保という点が他の鎮守府と比較して厳しいことを意味していますので、より多くの資材の確保並びに配給物資の確実な受給が死活問題となっています」
榛名「仮に連続で5度配給物資を積んだタンカーが撃沈された場合この鎮守府の備蓄が底をつくことを意味しますので地味ではありますが極めて重大な役割です」
榛名「2つ目は通常戦力です。防衛圏の東端にあるということは我々よりも西にある鎮守府の盾であり敵地侵攻の為の鉾の先端でもあることを意味します。その為どれだけ僅かな懸念であっても確実に排除し後顧の憂いを絶つのが目的となります」
榛名「そして3つ目。あなたに割り振られる任務・・・それが決戦戦力です」
空気が、変わる。
榛名の目つきが鋭くなる。穏やかな表情は消え、戦いに赴く者の強い意志を湛えた瞳に変わる。
大和はこの空気を知っていた。養成学校卒業試験として課される深海棲艦との実戦の時の緊張に張りつめた空気なのだ。しかし今ここに流れる空気はそれを何倍にも煮詰めたものだった。
榛名「この役割は去年の秋の大規模侵攻作戦の後に新設されたものです。この役割を与えられた者に求められるのはたった1つだけ。確実に、敵を、沈める。ただそれだけです」
最早殺気が籠っていると錯覚してもおかしくないほど空気が張り詰める。しかしそれだけ自分の与えられた役割が重大であることを大和は本能で理解させられた。
榛名「通常戦力の方々にも同じことは求められますが決戦戦力の方々はより一層確実に敵を沈めていただかなければならないのです。決戦戦力の方々は榛名以上の練度を最終的に求められると考えてください」
大和「それだけの理由が秋の侵攻作戦にあった・・・ということですか?」
大和は怯えながらも尋ねた。
榛名「はい。去年の秋の作戦『アイアンボトムサウンド』の後半の作戦は艦娘による防衛・侵攻システム成立以来最も過酷かつ最悪のものでした。現在艦娘の死亡率は総数が増えたこともあり1%を下回っていますが当作戦終了時の死亡率は3.5%と凄惨極まるものでその中には歴戦の者もいました。そして作戦完了時にリタイアしなかった提督は15%に満たなかった作戦なのです」
歴戦の者でさえ生還できぬほどの戦場があったこと。そして物資よりも貴重な人的資源が3%以上も失われたこと。完遂者が15%もいない事に対するその作戦のおぞましい難易度に大和は戦慄した。
榛名「そして・・・最悪の事態を避けるためにやむを得ず取られた『最悪な戦術』も。この『最悪の戦術』に関することはその後の軍紀改正において口にするのが禁じられたほどのものです」
榛名「この『アイアンボトムサウンド』の経験から1つ教訓を得ました。それが確実な撃破は何よりも重いということです。あの作戦で最も致命的だったのが敵の旗艦の撃ち漏らしで、その結果として無駄に戦闘が長引き要らぬ犠牲が発生してしまいました。その為高練度かつ高火力な艦隊を編成し侵攻作戦に備える。それが決戦艦隊の役割なのです」
榛名「これが功を奏しその後の冬、そしてこの前終結した春の侵攻作戦では犠牲数は極端に減少し、完遂者も多くなりました」
大和「そうなのですか・・・」
榛名「火力の高いものが確実に撃破するのが理想形です。しかしその両方を兼ね備える者は極端に少ないのが現状でもあります。ですので大和さんにはこの理想形に ど う し て も なって頂かなければならないのです。此方の命にもかかわる事ですので」
榛名「そのために必要なものは全て揃えると提督も仰っています。努々決戦艦隊に配属された理由を忘れぬようお願いします」
空気が弛緩し大和は安堵する。呼吸さえ忘れかねないほどの緊張感は武蔵の「この比ではない」という意味を理解するには十分であったからだ。時間は22時25分消灯約30分前である。
榛名「それでは話を終わりたいと思います。夜分遅くに申し訳ありませんでした」
榛名は一礼する。
大和「此方こそありがとうございました」
そういうと2人は退出し各々の部屋へと戻っていった。
ノックをし、部屋へ戻ると武蔵が自分の顔を見る。
武蔵「表情が変わったな。『洗礼』を受ける前とではまるで別人だ」
大和「武蔵も・・・ですか?」
武蔵「あぁ。私も決戦艦隊の1人で当然洗礼済みだ。まぁ彼女の練度に追いつくのは至難の業でまだ私では足元も見えん。だが一歩一歩確実に歩んでいけばいいと私は考えている。そうだろ?」
大和「そう・・・ですね」
練度はそう簡単に上がるものでもなく急いてもマイナスの効果しかないことを大和も知っていた。
武蔵「明日は艤装の調整があるからな。眠っておくに越したことは無いぞ」
武蔵がそう催促すると大和はそれに従い床に就いた。
大和「おやすみなさい」
武蔵「お休み」
スイッチを押し電気が消える。驚くほど早く大和は眠りに落ちた。
翌日11時30分工廠前射撃場
??「遥かにいい!やっぱ大和型の艤装は―――」
艤装を装着した大和は作業服を着た緑がかった髪のポニーテールの艦娘に視姦されていた。
武蔵「おい・・・そろそろ解放してやったらどうだ・・・」
武蔵も呆れながら彼女にそう言うが彼女にはその声が聞こえていないようだ。
どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?大和は困惑と諦念の目をしながら思考にふけっていた。
遡る事1時間半前。
朝食を食べ軽い運動をした後昨日武蔵が言っていた艤装の調整の為に工廠を訪れていた。
大和「これが私の艤装・・・」
大和型1番艦大和の艤装には取り違えが無いようここでは名乗ることのない自分の本名が刻まれている。
養成学校では1人に1つの艤装が与えられるわけではなく適合者数に対応したレンタルの艤装が最低限存在するだけだ。大和は自分以外にもあと2人大和適合者がおり、彼女らと艤装をシェアして使っていることを思い出した。
その艤装は随分使い込まれていたためか、いくらか損傷していたり色褪せたりしていたが今自らの目の前にある艤装は新品であり自分の為にある艤装だと思うと感慨深いものがあった。これが自分の武器であり盾であり命綱であることに大和は気を引き締めた。
??「はーい。お待たせ!準備ができたから装着してね」
艤装の調整を行ったであろう艦娘が大和に声をかけた
夕張「初めまして軽巡夕張よ。提督に任命されてここの工廠長をやっているわ」
大和「はい。お願いします」
大和はそういうと艤装を装着し始めたその時
夕張「あーっ!そんな風に扱わないでー!艤装は結構デリケートなの。丁寧にね」
大和「は・・・はい」
自分でも丁寧に扱っているつもりだが彼女にはそう見えなかったらしい。
夕張「そうそう・・・そういう風に丁寧に・・・慎重に・・・あいたっ」
上から軽く振り下ろされた拳骨に夕張は顔をしかめた。
。
武蔵「気にすることは無いぞ自分の慣れたようにやるのが一番いい。被弾してしまえば皆同じだからな」
同伴していた武蔵からの拳骨だ。自分も同じ時にそう言われたのだろうか呆れた顔をしている。
夕張「ちょっと武蔵!艤装っていうのはね妖精さんと人類の英知の結晶で――」
抗議する声を無視して武蔵は続ける。
武蔵「夕張の兵装艤装に対するこだわりは最早病気の域だ。一々構っていたららちが明かんぞ」
大和「分かりました」
そういうと大和は手早く艤装を装着し隣にある射撃場の水面に立った。それまでに聞こえた抗議の声は聞かなかったことにする。
夕張「・・・まぁいいわ。取り敢えず的に2・3発撃ってみてもらえないかしら」
艦娘の思考と艤装はリンクしている。手足を動かすのにわざわざ意識する必要性が無いように艤装を動かすのにも意識する必要はないのだ。
いざ発射しようとしたとき大和は1つの違和感を覚えた。育成学校での大和艤装の砲装は46センチ3連装砲と41センチ連装砲である。しかしこの艤装は46センチ3連装砲が2つなのだ。
大和「これは・・・」
大和の疑問を察したのか武蔵が発言する。
武蔵「うちの鎮守府では戦艦の基本砲装は46センチ3連装砲オンリーだ。提督曰く戦艦に貧弱な豆鉄砲は不要らしいからな」
46センチ3連装砲の開発は非常に難しいはずだ。それを全戦艦分揃えるのは7英雄ならではなのだろうか。
再び照準を合わせ発射する。轟音と共に弾が発射され目標の中心よりも左に逸れて命中した。
もう1発発射するが結果はあまり変わらない。
夕張「ん~・・・ここをもう少し右に調整すべきなのかなぁ・・・」
そういうと夕張は立ったままの自分に対しそのまま艤装の調整を行う。かなり手際が良く30秒も経たぬうちに夕張は大和から離れた。
夕張「これでもう2発撃ってみて」
発射する。直撃する。今度は僅かに右下に逸れて命中した。
夕張「ここをもう少し左かぁ・・・。でもかなり筋はいいわよ。数回の調整で終わりそうなんて久しぶりだから」
そしてまた大和の艤装を調節する。
数回の微調整の後に大和の主砲の弾は中心に9割以上の確率で命中するようになった。
しかしそのころから夕張の様子がおかしくなり始めたのである。
そして最初に戻る。
大和は「助けて武蔵」と視線で訴えるが武蔵は首を横に振るばかりである。どうにもならないと諦めているようだ。射撃音を聞きつけた加賀も歩いてくるが現状を認識した瞬間足を止め知らないふりをした。
しかしこの場所に近づく影が1つ。惨状の為か自分たちの近くに来る小さな影に4人とも気が付いていないようだ。
??「なのです!」
ドゴォ!という凄まじい音と共に夕張にアンカーが振り下ろされる。
夕張「グワーッ!いったぁ・・・ちょっと誰よ・・・!!」
夕張が抗議しようと振り返った瞬間フリーズした。それどころか武蔵もそして加賀までもがフリーズした。
??「 ま た なのですか?夕張さん」
非常に幼い声だが有無を言わせぬ迫力がある。『洗礼』の時の榛名とは違う圧倒的武力を持ったものの声だった。
夕張「アイエエエエエ!イナヅマ=サン!?イナヅマ=サンナンデ!?」
夕張が恐怖のあまり叫びだす。
イナヅマ=サン「静かにしてほしいのです」
夕張「ハイ。ゴメンナサイ」
イナヅマ=サンがそう告げると夕張は途端に静かになった。
電「初めまして大和さん暁型駆逐艦4番艦電です。よろしくお願いしますね」
大和「は・・・はい。よろしくお願いします」
差し出された小さく幼い手と握手をする。その時大和は彼女の持つ莫大な武力を感じ思わず足が震えそうになった。
加賀「電さん工廠にまで何のご用でしょうか。何か粗相でもございましたか」
加賀が緊張した面持ちで電に尋ねる。
電「いえ。新しい子が来ると司令官さんから伺ったので夕張さんの病気が出ないかどうか見に来ただけなのです。あと・・・この紙面について青葉さんにインタビューをしようかと思っただけなのです」
電は笑顔のまま手に持っていた紙を握り潰す。どうやら鎮守府内で発行されている新聞のようだ。
急に膨れ上がった見えない圧力にその場に居た4名は恐怖で竦み上がった。
そんな圧倒的武力を持った存在に気が付かず新艦娘という新たなスクープを求めて近づいてくる艦娘(元凶)が1人。これはまさにモスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイア!
電「それでは失礼させていただくのです」
電は4人にそう告げると視界から一瞬にして消え去った。
その直後
「ドーモ。アオバ=サン。イナヅマなのです。またゴシップ記事とは反省の念が見えないのです」「アイエエエエエ!イナヅマ=サン!?イナヅマ=サンナンデ!?」「これからあなたにインタビューをさせていただくのです」「アイエエエエ!お慈悲を!」「慈悲は無いのです」
というやり取りが聞こえ直後に
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」
「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
「イイイイイイイヤァァァァァァァァァーッ!」「アババーッ!」
というカラテシャウトと重い打撃音そして断末魔が聞こえそれっきり静かになった。
大和「えっと・・・彼女は一体・・・」
静かになった空間で鎮守府ニュービーの大和が当然の疑問を投げかける。
加賀「彼女は・・・電さん」
武蔵「この鎮守府最初にして最強の艦娘」
夕張「そして最高の執務能力を持った艦娘よ」
よく知られた公式の様によどみなくリレー形式で話す3人。それほどまでに彼女の威が知られているこということである。
大和「えっと・・・つまり・・・」
大和はまだ事情が呑み込めない。
加賀「駆逐艦という艦種のせいで前線からは退いているけれど対人対艦娘の戦闘能力は最強。そして秘書艦2.5人分の仕事をこなす初代秘書艦よ」
武蔵「現在は遠征要員かつ鎮守府内の風紀を取り締まる憲兵の役割をしている」
大和「それほどまでに優秀なのになぜ秘書艦から退いたのですか?」
優秀なものを登用するのは基本だが彼女は優秀すぎたのだ。それを説明するように加賀が口を開く。
加賀「電さんの執務能力を私は間近で見たことは無いのだけれど聞いた話によると・・・当時の執務は電さん1人で回していた。けれどその執務量から長時間拘束されておりそれを申し訳なく思った提督が第2秘書艦を設けて秘書艦の補佐を行うことによって拘束時間を減らそうと考えたの。その時の第2秘書艦が榛名さんだったわけだけれど・・・」
加賀は一旦一息つくと彼女の能力について語りだした。
加賀「第2秘書艦が不要なほどに電さんの能力が高くて榛名さんがノイローゼに陥ってしまったの。それを重く見た提督が電さんを秘書艦から解雇して榛名さんを第1秘書艦に格上げしてその補佐として私が入ったの。そして秘書艦から解雇された電さんにはその戦闘能力の高さから鎮守府内の風紀を取り締まる役職に就いて頂いたというわけ」
夕張「おかげで名実共にこの鎮守府における艦娘ヒエラルキーの頂点に立っているのよね・・・」
場の空気が悪くなる。それを切っ掛けに加賀は伝えるべきことを思い出し大和に伝える。
加賀「あと大和さん提督がお目覚めになられたので明日には提督にご挨拶が出来そうです。頭に入れておいてください」
大和「了解しました」
そういうと4人は悪くなった空気から逃げ出すように各々のすべきことに戻った。
短いけどここまで。
うちの鎮守府の初期艦は電でしたので表立たせてみました。
このイナヅマ=サンはもう1人の人格を飼っていたりいなかったりしています。
しかし本人は「中の人などいないのです!」●ワ● と否定している様子。
あと2日分くらいの投稿で前章は終わります。1章に関しては大和&武蔵の艦娘紹介になりそうです。それでは。
早いけど再開。さっさと続きを書かなきゃ・・・
大和「電さんには助かりました・・・あのまま後どれくらい拘束されるか不安で不安で」
大和が安堵の声を上げるのも無理はない。夕張の病気に1時間近く付き合わされていたからだ。
武蔵「夕張は艤装や兵装が絡むとアレだが彼女も極端に優秀だぞ。潜水艦狩りのエキスパートでありその無慈悲な戦い方から潜水スレイヤーというあだ名まで持っているし、メンテナンスの腕は体験した通り超一流だ。工廠妖精と比較しても何の遜色もない」
大和「改めてすごい所に来たんだなぁと実感します」
武蔵「そうだな。ここに来た艦娘の第1目標が彼女たちと比較しても見劣りしない事になる事も多いからな」
武蔵「さて!昼食を食べに行くか。久しぶりの砲撃で腹もすいただろう」
大和「そうですね。食べに行きましょう!」
意気揚々と食堂へ向かう2人。しかしその食堂で『事故』が起きたことをまだ知らない。
普段は艦娘で溢れている食堂だが本日は不気味なほど無人であった。
食べる者どころか調理するものすら居らず僅かに漂う異臭が緊急事態を知らせいる。
メニューが書かれている紙には上から塗りつぶすように『事故発生』という赤い字が大きくショドーされており恐るべき事態が発生したことを伝えている。
武蔵はそれですべてを悟り幸運を与えてくれた神に感謝した。食べられないのならまだ代替手段はあるからだ。
大和「これは一体・・・!」
見た瞬間にわかるほどの異常事態に大和が臨戦態勢に入る。
武蔵「大和。昼食の場所を変えよう。代金は私が出すから一刻も早くこの場から立ち去ろう」
大和「でも・・・」
武蔵「いいから」
武蔵はそう言うと大和の反応を待たずに踵を返し足早に移動し始めた。
大和は武蔵に申し訳ないと思いながらもこの不気味な空間に居たくない事に加え、この状況下での適切な行動選択ができないと自覚していたため武蔵について行った。
武蔵に連れられた場所は『甘味所間宮』という所であり、落ち着いた洋風の内装でありながら人で溢れかえっている場所であった。
明らかに自分と年の近い男勝りな黒髪の艦娘がアイスクリームを前にキラキラしているが見なかったことにしている。
2人は少し並んだあと案内された席に座りメニューを開いた。内装から予想できた通り洋食の料理とデザートが主流の店のようであり価格は特段の物を除けば600円~1200円ほどで防衛圏の東端にも拘らず本土よりも2割程度安い。
武蔵「好きなものを選んでくれて構わんよ。昼食の代わりだしな」
武蔵がそう告げる。艦娘の給与は本土のカチグミ・サラリマンよりも高いと聞いているので遠慮なく注文させてもらうことにした。
写真つきメニューを読み進めるとャンボプリンパフェのところで目が留まった。付近の土地から取れるフルーツがふんだんに使われている上に大量の生クリームと大きいプリンが乗っていて価格は1000円と極めて良心的である。本土で同じものを食べるのならば最低でもその倍はかかるだろう。
大和「じゃぁ・・・ジャンボプリンパフェでいいですか」
恐る恐る大和は尋ねた。
武蔵「奇遇だな。私も同じものを頼もうとしていたところだ。決まったのならば早めに注文するとするか『事故』で今日は回転率が高いだろうしな」
武蔵はそういうと手元のベルを押した。
??「はーい!今行くよー!」
皐月「おお!君が新規配属の大和さんだね!ボクは睦月型の皐月!よろしく!」
大和「はい。此方こそ」
皐月「それで注文は何かな?」
武蔵「ジャンボプリンパフェを2つだ」
皐月「分かったよ2人とも!すぐに間宮さんに頼むからね!」
そういうと皐月は伝票を手早く扱い厨房へと駆け込んだ。
大和「皐月さんも艦娘ですけれど・・・なぜここで働いているのです?」
武蔵「時給が出る上に賄い料理があるから仕送りをする艦娘にとっては理想のバイト先だ。それに18時からは営業形態が一変するから残業の可能性も低いしな」
大和は与えられる給与をすべて自分で扱えない艦娘が居ることを再認識した。シーレーンの破壊などによる経済活動の停滞は本土における貧富の格差を広げ就職難を発生させていたのだ。その結果『最後の手段』として自らの娘を艦娘養成学校に入学させ艦娘にし、その給与を仕送りしてもらうという方法を取っている家庭も生まれたのだ。
大和がそう物思いに耽っていると皐月が大きなパフェを2つお盆に乗せ運んできた。
皐月「お待たせ!ジャンボプリンパフェ2つだよ!それじゃぁ!」
そういうと風の様に皐月は去って行った。
武蔵「それでは・・・頂くとしますか」
大和「そうですね」
そういうと2人はスプーンを手にしパフェを食べはじめた。
空腹と甘味の為か本土でもそう簡単に食べれないボリュームのあるパフェを完食するのにそう時間はかからなかった。
大和「甘すぎず控えめ過ぎない甘さ加減が絶妙でした・・・。美味しかったです」
大和は夢心地で口にする。
武蔵「私も久しぶりに甘いものを腹いっぱい食えたからな・・・満足だ」
武蔵もまた同じようであった。
武蔵「和風の物が食べたいなら『居酒屋鳳翔』に行くといい。『和の鳳翔・洋の間宮』と並び称されるほどだからな。ちなみに双方とも18時を超えるとアルコールを取り扱い始めるが扱うアルコールも1流の物ばかりだ。値段はかなり張るけどな・・・」
大和「私はあまりお酒が得意ではないので・・・」
養成学校卒業時に振る舞われすぐに酔い潰れたことを大和は思い出した。
武蔵「そうなのか。では済まないが後続が結構いる為すぐに席を立つとしよう」
その武蔵の言葉を皮切りに2人は会計を済ませ素早く店を後にした。
その後大和は必要書類の記述・確認に追われたが夕食時間が終わるころには全て片づけていた。また食堂は『事故』から復旧されており人で溢れかえっていた。
夜寮の部屋にて大和は武蔵に『事故』のことについて切り出した。
大和「武蔵『事故』とは一体何なのですか?ある程度の想像はついていますが説明してほしいのですが・・・」
武蔵「そうだな。食前でもないから話すとするか。『事故』とは比叡が食堂の厨房に入り込み、素材、完成品、調味料に至るまでのどれか1つに手を加えたことが発覚した場合に使われる隠語だ」
大和「それほどまでに壊滅的な腕なのですか・・・?」
武蔵「壊滅的なんてもんじゃない。あれは一種の天才だ。どう間違ってもまずく作りようのない料理さえ提督が卒倒するような味に仕立てあげることが出来るのだからな」
武蔵「以前『事故』に気が付かず皆食べてしまったことがあってな。味は酷くなかったのだがそれが災いしてその後食べた全員に食中毒のような症状が現れ、丸2日鎮守府そのものの機能が停止したことさえあった」
大和は思わず絶句した。
武蔵「しかも救いが無いのが本人には悪気が一切ないという点だ。悪びれないのではなく悪気が無いのだ。良かれと思ってやっている善意である為に尚更たちが悪い」
武蔵「そのために我々が取った行動が『消極的な排除』だ。積極的に排除すると良心の呵責を受けるほどの純真さだからな比叡は」
その後も比叡の天才ぶりを聞いている内に消灯時間が来た。
武蔵「明日は提督との顔合わせだ気を引き締めていけよ。腐っても病んでも7英雄。眼光の鋭さと力強さは榛名以上だからな」
大和「はい・・・気を引き締めます・・・おやすみなさい」
武蔵「お休み」
直後全艦娘寮の電気が一斉に消えた。
翌日朝食の後執務室に来るよう呼び出された大和は必要書類を持って執務室の扉の前に立っていた。
何時までもこうしていることは許されないのでノックをする。
??「どうぞ」
内側から男性の声が聞こえると大和は扉を開けた。
執務室は和を基調とした涼しげな部屋であった。本土の季節感をせめて出そうと石楠花が一輪挿しにささっている。
提督の執務机には必要最小限の書類しかなくがらんとしているがその隣では秘書艦2人が書類の山と格闘していることから『怠惰』もあながち嘘ではないと大和は感じた。
それよりも目を見張ったのが提督の容姿である。身長は170センチほどで中肉中背であり白の長ズボンに半袖の制服とここまでは他と大差ない。
しかしその傍らには点滴台があり提督は今も点滴を受けている状態である。回復したばかりなのか肌は青白く唇は紫がかっており脂肪というものを見つけるのは極めて難しく長い闘病生活を伺わせた。
そのような体でありながら眼光は鋭く力強いため病症の身でありながら強い意志を持った人間であるというのが大和の提督に対する第一印象になった。
大和「大和型1番艦大和着任しました。よろしくお願いいたします」
大和は敬礼をし挨拶をする。それに返答するように提督も挨拶をした。
提督「東南方面第1鎮守府の提督だ。よろしく頼む。好きなように呼んでくれて構わないよ」
そういうと提督は手を指しだし握手を求め、大和はそれに応えた。
提督の手は予想通り冷たく血行が悪いことが一瞬にして分かったがそんなことが些細に思えるほど力強い手をしていた。生半な鍛え方ではない。病を得ていなければどれほどの身体能力があるのか大和は興味を抱いた。
提督「俺の病気は感染するものじゃないから安心していいよ。それじゃぁ先に必要書類だけ出してもらっていいかな」
大和「はい」
そういうと大和は書類の入った封筒を手渡した。
提督「うん。ありがとう。ちょっと拝見するよ」
そういうと提督は手早く封筒を開け10枚にも上るであろう書類を読み終えた。1枚当たり3秒も経っていない驚きの早さである。
提督「榛名」
榛名「はい」
必要最小限のやり取りで提督は書類にクリップをして榛名に渡すと榛名はそれを手早くあるべき場所へと置いた。
提督「特に問題はなさそうだね。それじゃぁ養成学校やあの2人では話せないことを話すとしようか。まぁ一般的にいう軍事機密と重要事項ってやつだね」
提督はそういうと艤装の事について語り始めた。
提督「まぁ驚くとは思うけれども昨日夕張にチューニングしてもらった艤装あるでしょ?あれ装着した時点で君の肉体の老化・成長スピードって普通の人の10分の1以下になったんだよね。しかも艤装装着時は完全にストップするおまけつき」
大和はとんでもないことをさらっと言われ目が点になる。
提督「で。それがいつまで続くかというと専用の艤装が解体されるまで。解体後の肉体に関しては急激に成長・老化することなく普通に成長していくみたいだよ」
重要そうなことを日常会話の様に言われ大和は茫然とし始める
提督「あと艤装に本名が刻まれていたと思うけどアレやったら一切レンタルできなくなるからね。名前を持った1個人と艦を結びつけるために必要な儀式の1つらしくて、それをすることによって艤装を外しても艦の力が伝わるようにしているらしいからね。そのせいか艦娘自体の方も名前の刻まれた艤装以外を受け付けなくなるみたいだし」
後半部分に関しては推測がかなり多いことと一度に与えられた情報の重大性と量に大和はさらに困惑した。
提督「まぁ後半部分に関してはまだ科学的に解明されていない領域だし俺もよくわからん」
丸投げである。
提督「このことはアンチエイジング狙いで艦娘になろうとするクズ共を内部に入れないためにも軍事機密って扱いになってるだけだけどね」
その発言から大和は過去にそれが狙いで艦娘になろうとした、もしくはなった者がいることを知った。
提督「アンチエイジングのいい実例が1つあるんだけど・・・電にはもう会った?」
大和「はい。電さんには会いました。すごい人ですよね・・・」
提督は悪戯っぽく笑う。
提督「あいつああ見えて16だぜ。もう高校生の年齢だな」
大和「!?」
聞いていた加賀が思わず吹き出しそうになる。榛名は加賀をジト目で見つめた。
大和はあの容姿で16ということに驚愕した。そして他に思いつくことがあったので記憶をたどり始めた。
確か駆逐艦艤装の適合者の最も多い年齢層は11歳6か月~13歳まで。艦娘による対深海棲艦の国家プロジェクトが起動したのが5年前でその後実戦配備に1年ほどの時間を要したと教科書に書かれていたので最古参の艦娘は今から4年前の適合者になる。
つまり単純計算であっても電さんそして提督はプロジェクト最初期の構成員であることが分かった。まさに歴戦の戦士である。
提督「あと何があっても避けねばならないのが轟沈だ。艤装が轟沈して生還できた適合者は5%にも満たん。無論、艤装はロストしたため退役になる」
轟沈しても生き残る可能性がある。大和は少し安堵した。
提督「だが仮に生き残ったとしてもPTSDに苦しむものも多く、その戦闘で四肢を失う者もいる。更に艦隊の士気にも大きくかかわる上に、徴兵制を取っていないので艦娘になるのは志願制だ。好き好んで死地へ赴く奴など1人もいない。轟沈は人的資源の供給にも大きくかかわるのだ」
戦場からまともに変えれる方法は少ない事を大和は悟った。上げて落とされたような気分である。
提督「万一采配ミスで轟沈しそうになったら命令違反でも構わんから撤退しろ。全責任は俺が取る。『帰ろう。帰ればまたこられるから』という金言も存在するからな」
僅かに空気が重くなる。
提督は空気を換えるように大きく一息つくと大和に歓迎会の説明をした。
提督「まぁこんなところだ。歓迎会に関しては本日17時食堂にて行う。遠征組も帰ってきて全員揃うからな。料理は間宮さんと鳳翔さんが腕によりをかけて作ってくれているから期待しておいてくれ。以上だ期待しているよ」
大和「はい!では失礼します」
そういうと大和は執務室を後にした。
22時15分。消灯時間1時間近く前だが寮の電源は全て落ちているが誰も起きている者はいないので何の問題もない。
秘書艦もいない執務室で提督は電話を取り直通のボタンを押すと応答を待った。本土との時差は1時間なので向こうは21時15分である。しかし提督はどれだけ時間時差があろうと向こうが何時であろうと電話をかけていただろう。
ガチャという音と共に通話状態になった。相手の言葉を待たずに提督は話し始める。
提督「俺だ」
??「古めかしい詐欺の手法を使うな。俺は騙されんぞ」
おどけた初老の男性の声が聞こえる。
提督「随分と早いボケが来たな。今度行った時に斜め45度の角度からぶっ叩くとしよう。頭のおかしい奴を相手にするのにはこの手に限るからな」
??「この手しか知らないだろ!つーかまだ死にたくない」
提督「なぁにぃ?聞こえんなぁー!」
??「まだ死にたくない」
提督「聞こえないぞ!もう1度繰り返せ」
??「死にたくない死にたくない」
提督「 だ め だ な 」
??「アイエエエエエエエ!」
どこかで見たネタのオンパレードであるがこのくだらないやり取りは提督にとって心安らぐやり取りでもあった。
元帥「とまぁおふざけはここまでにして。この元帥に何の用かな?」
相手は国家プロジェクトの長であった。普通ならば軍法会議もののやり取りだったが全く気にしていないようだ。
提督「今日のタンカー。心当たりは」
元帥「何のことだ?」
提督の眉間に皺がよる。
提督「1から説明する必要性がありそうだな。やはり今度斜め45度から叩いた方がよさそうだ」
元帥「ナンデ!?暴力ナンデ!?」
悲鳴を無視して続ける。
提督「今日は新しく来た大和の歓迎会を行ったんだ。実に平和に行われたよ。『美味しい清涼飲料水』に手を付ける前まではな」
嫌味を込めて提督は大げさに起きたことを語り始める。
提督「なんと!その『美味しい清涼飲料水』は日本酒だったんだ。それも俺でさえ最初は気が付かないほどの超上物。味もよかったのが災いして被害はかなりの広域に渡っていて気が付いたときには時既に時間切れ。どいつもこいつも出来上がっていた」
提督「それからはもう悲惨なもんだったよ。未成年にまで酒が回った上に泣き上戸、笑い上戸、絡み酒、酒乱・・・酒に関するありとあらゆる癖が出て混沌とした空間になった」
提督「最初は俺も頑張って収拾させようとしたが数の力は恐ろしい。どうにもならなかった。頭に来たから全速力で離脱してガスマスクを装備して宴会場に催眠ガスをバラ蒔いて眠りに落ちた艦娘全員を寮まで担いだ上に宴会場を1人で片づけるハメになったんだ」
元帥「災難だったな・・・」
他人事のように言いやがって・・・!怒りで笑い出しそうになるのを提督はこらえた。
提督「それでだ。どうしてこうなったと思い発注書を読み返してみたんだが俺がそんなものを発注した記録が一切ない。そもそも『美味しい清涼飲料水』なんて怪しいものを発注すること自体ありえんしな」
元帥「どこかで混入したということか」
提督「ああ。俺もそれを疑ったよ。だから関係先に片っ端から電話して確かめたんだ。だがどこも分からないようだった。そして最後の関係先がお前なんだよ」
しばしの沈黙。
電話口で元帥は目をそらした。これはいわゆるオーテ・ツミの状態!
元帥「・・・バレた?」
提督「バレバレ」
元帥はあっさりと認めた。
提督「そもそも発注データを受け取り、指示するのは元帥府の仕事。書き換えがあるとすれば元帥府以外ありえん」
元帥「ですよねー」
提督「おかげで明日は多分俺を除いて全員2日酔い確定だぞ。第1鎮守府が機能停止する意味を知らんわけではないだろうに。先に言ってくれりゃぁ対応できたのに―――」
提督の憤りももっともである。西南・南方・東南にある第1鎮守府はそれぞれの防衛の要であり最前線である。それが機能停止するということは鎮守府には襲撃される可能性が生まれ、後続の中将に負担を強いることを意味しているからだ。
本土にとっても対岸の火事ではない。第1鎮守府は本土防衛のため他の鎮守府ではありえないほどの広範囲の索敵と敵の各個殲滅を行っているからだ。機能停止中に漏れた場合本土付近にまで新型もしくはフラグシップ級の深海棲艦が襲撃に来る可能性があることを意味していた。
提督「でもまぁ・・・送ってくれことに感謝はするよ。こっちじゃ上質のアルコールは滅多に手に入らないからな」
物資の送られてくるタンカーの中身は基本必需品優先である。また鎮守府の備蓄に余裕を持たせなければならないため嗜好品を乗せるスペースはかなり制限されているのだ。その為本土では2000円もするパフェが1000円で食える代わりに本土では1000円の酒がこちらでは2000円するという現象が起きているのだ。
元帥「それで・・・最重要品は確保できたのかな?」
提督「無論だ。あいつらに飲ませるにはもったいなさすぎる酒だ。特に隼鷹と千歳にはな」
そういう提督の机には『能代』と赤い字で書かれたラベルを持つ1.8リットルの瓶が3本置かれておりそのうちの1本の封は開いている。この酒は 特別大吟醸 朱金泥能代 醸蒸多知。日本酒の中では最高級品であり年間60本しか生産されない逸品で本土であっても1本10万超えの価格なのだ。
提督はついである酒を口にすると口調を変えた。
提督「それで」
空気が変わる。先ほどの楽しげな空気は消え、張りつめた仕事の空気に変わった。元帥もそれを察し真面目になる。
元帥「ああ。前回のタンカーの沈没だがまた仕組まれた可能性が高い。魚雷が直撃した割には爆破跡がおかしいからな。極めて巧妙に爆薬を配置し魚雷直撃に仕立て上げたと考えるのが妥当なところだ。我々でなければ見逃しているほどにな」
提督「しかもその時には深海棲艦のタンカー襲撃があった。あまりにも出来過ぎている。俺の薬が乗っている船は毎度毎度襲撃されるから身構えもするさ」
元帥「お前にだけはどうしても死んでほしいようだな。彼らは」
提督「それだけのことをしたんだ。命を狙われることは慣れてるよ。だが・・・この国を巻き込むことには感心しないな」
元帥「どうする?」
提督「決まってるだろ。必ず見つけだし、どこまでも追い詰め、例え便所に隠れていても息の根を止める。それだけだ」
元帥「分かった。死ぬなよ『』」
提督「お前もな『』」
お互い今は名乗ることもない名を呼び合い電話を切った。
提督は日本酒を見つからない様に暗所冷蔵の場所に隠すと呟く。
提督「寝るか・・・」
15分後。鎮守府から全ての明かりが消えた。
短いけどここまで。一応これが前章に当たる部分です。
投稿すると以外にストックが早く消えていく・・・これ書くのに3日かかったのに・・・
というわけで次の投稿は72時間以内になりそうです。
次の章に当たる部分は大和&武蔵の鎮守府メンバー紹介と大和の練度を上げるお話になる予定です。
ちなみに最終章まで構想ができていたりする。あとは文章にするだけなんや・・・!
最後にこのSSのコンセプトとして
「自分の考えた艦これ像をフィクションとネタを交えて書いてみよう」です。妙に細かいところがあるのはそのためだったりします。
それでは。
72時間以内と言ったな。すまんありゃ嘘だった。
ごめんなさい。約24時間ほど遅れましたが再開です。
歓迎会の翌日大和は目が覚めると凄まじい頭痛に襲われた。立ち上がろうとするが足がふらついてベットに倒れてしまう。
武蔵「起きたか・・・大和」
口調から察するに武蔵も今目覚めたようで非常に気怠そうである。
大和「えっと・・・確か昨日は・・・」
大和は頭痛にさいなまれながらも歓迎会のことを思い出し始めた。
大和「確か17時から食堂で私の歓迎会が行われて・・・鳳翔さんと間宮さんのお料理を食べて・・・有志の方々一発芸をしてくださって・・・」
そこから記憶がおぼろげになる。
大和「それで・・・確か・・・誰かが暴れ始めて・・・あれ?」
そこから先の記憶が一切抜け落ちていることに気が付いた。どうやって宴会が終わったのか、どうやって自室まで移動したかも抜け落ちている。
大和「一体・・・何が?」
その疑問に答えるように武蔵が言葉を口にした。
武蔵「おそらく昨日の宴会に出された飲み物の中に酒が混ざっていたんだろう。それも酒とは気が付かないほどの超上物のがな」
武蔵「それで酒癖の悪い奴らが暴れ始めて提督が収拾に入ろうとしたんだが跳ね飛ばされたらしい。そこから先の記憶は私でもおぼろげだ」
超上物の酒が混ざっていてそれに気づかず飲んでしまったのかと大和は納得した。
飲み物の中に妙に美味しいものがあってそれを好き好んで飲んだのでそれが酒なら全て説明がつくからだ。
武蔵「しかし酔った大和は凄まじかったぞ。まさかあんなことをしだすなんて―――」
武蔵がそう言い始めたところで大和は武蔵の肩を掴むと揺さぶり始め早口でまくしたて始めた。
大和「私が何をし始めました?脱ぎ始めました?泣き始めました?暴れ始めました?どれでも最悪です。自分の痴態なんて聞きたくないです。言わないで武蔵ー!」
武蔵「や、やめてくれ大和。私だって2日酔いなんだ。これ以上派手に揺さぶられると粗相をしてシーツが汚れる。頼むからやめてくれー!」
武蔵の叫びを聞き大和は正気に戻る。
大和「ご・・・ごめんなさい。取り乱しました」
武蔵「い・・・いや。此方こそ悪かった。まさか即席のジョークを真に受けるとは・・・因果応報というやつだ。実際のお前はすやすやと眠り始めたよ」
大和の反応を楽しもうとした嘘だったらしい。大和は安堵する。
大和「それにしも随分長く寝ていた気がします。目覚ましの音もしなかったですし・・・」
そういうと大和は時計を確認する。
現在時刻は10時45分。寝過ごしたどころの騒ぎではない。大和は再びパニックに陥り掴んだままの武蔵の肩を再び揺さぶり始めた。
大和「10時45分ってなんですか!朝食の時間どころが始業時間さえ既に過ぎているじゃないですか!初出勤にして大遅刻とかどの顔下げて皆さんに合えばいいんですか―――」
武蔵「おいやめろ馬鹿。この綺麗なシーツは早くも終了ですね。時既に時間切れ。英語で言うとタイムアップ!」
今度は武蔵の悲鳴さえ聞こえない。
ピンポンパンポーン♪
その状況下で館内放送が流れる。大和は呼び出しを覚悟した。
提督「あー・・・。俺だ。寮の至る所から悲鳴が上がったようだからある程度は目覚めたようだな。単刀直入に話すぞ。本日の業務についてだが・・・終日休みとする」
提督「酔いつぶれなかった俺が朝から付近の中将のところに電話して頭下げまくって取った休暇だ。 あ り が た く享受するように」
ありがたく の部分を相当強調しているので本当に何度も頭を下げたのだろう。
提督「それに酔いが残っているのにまともな判断ができるやつなどいない。そんな奴が業務を行っても迷惑なだけだ。故に今日は終日お休み。いいね?」
提督「あと『居酒屋鳳翔』と『喫茶店間宮』も休業状態に加えて食堂も解放できんから各自部屋の備蓄を使って今日いっぱいしのいでくれ」
提督「備蓄は無い奴らは自業自得だと思って諦めてくれ。以上だ」
提督がそういうと放送は切れた。
大和「助かったみたいですね・・・武蔵」
大和はそういうと武蔵を見ようとするが武蔵は目の前に居ない。
直後トイレの扉が開くとこめかみに血管を走らせた武蔵が現れた。
武蔵「私は助かっていないがな・・・」
胃液で喉を焼かれためか地獄の最下層めいた声になっている。
武蔵「取り敢えず・・・反省しようか。な」
武蔵は笑顔で大和に伝える。
大和「はい・・・」
武蔵の笑顔が怖く大和は素直にそれに従う。
11時5分執務室。放送を終えた提督は昨日処理できなかった業務を始めた。『怠惰』とはいえ執務を完全に滞らせるわけにはいかないからだ。
あいつに次会ったら斜め45度からチョップを叩き込んでやると元凶に対して内心毒づきながら執務を進めていると不意にドアの開く音がする。
提督「今日は終日休暇だと言ったはずだが――」
叱責しようとして言葉を止める。
提督「いや。いいか・・・すっかり忘れていたな。この鎮守府には俺以上のザル・・・いや最早ワクとでもいうべき奴が1名いるのを」
現れたのはばつが悪そうな顔をした榛名であった。
彼女も酔いつぶれて眠っていたが2日酔いにはならなかったようでその足取りは確かなものだった。
提督「とりあえず業務を手伝ってくれるか。そんなにはかからんが・・・」
榛名「はい。榛名は大丈夫です」
榛名はそういうと提督の補佐に入った。
この2人の間に余計な言葉はいらないのだ。
榛名「でも・・・こういう事が無いと提督と2人きりになれる機会はそうそうないので榛名はちょっぴり幸せです」
榛名が少しだけ嬉しそうに語る。
提督「そうだな・・・」
そう答える提督の顔も穏やかであった。
11時30分。武蔵にこってり絞られた大和は頭痛がぶり返したのかベットで寝転がっている。2日酔いのせいで全くと言っていいほど食欲が無い。
武蔵「昼食は・・・いいよな。私は何も食べる気がしない」
武蔵もまた同じように寝転がりながらそう言った。1時間前に大和に盛大が揺さぶったせいで粗相をしたので飲料水以外喉を通らないようだ。
大和「私も昼食はいいです・・・」
大和はそう答える
今の2人は寝間着姿でベットの上に転がっている状態だ。傍目から見れば仕事もせずに転がっている怠惰な艦娘―――『怠惰』の鎮守府にある意味相応しい不名誉な状態であった。
何もすることが無いが携帯端末やTVを見る気にもならない。画面の点滅が目にくるからだ。かといって何もせずに時間を過ごすのは苦痛であるというジレンマに2人は陥っていた。
武蔵「そうだ・・・一応鎮守府のなかでも有名な奴でも紹介しようか150人規模相手では覚えきれないのも無理はないしな」
武蔵は現在の状況下で出来ることを見つけ大和に提案した。
大和「そうですね・・・お願いします。私も酔ったせいで大半は抜けてしまったみたいですし」
大和もその提案に賛成した。
武蔵「じゃぁどこから始めるとするかな・・・」
そんな流れで武蔵の艦娘紹介が始まった。
武蔵「まずは戦艦からにしようか。トップバッターは私からの方がいいだろうし」
武蔵「私は大和型2番艦武蔵。この鎮守府に来た時は秋の侵攻作戦直後だからまだ半年ちょっとの新参者だな」
武蔵「ここに来た時の最初の印象は『暗い鎮守府』だったな。提督も含む皆の顔がやつれていて榛名の『洗礼』も時期が時期なだけにきつかったからな」
武蔵「だから当初私は噂のブラック鎮守府についてしまったのではないかと懸念したな。実際はその真逆であったが」
武蔵「理由は『アイアンボトムサウンド』これだけで察することが出来るだろうから割愛する」
大和「そういえば鈴谷さんにアクが強いと言われていましたね・・・」
武蔵「私なんてまだましな方だとは思うがなぁ。慣れというのは恐ろしい」
制服時のあの風貌でまだましな艦娘などもう指折り数えるしかいないような気もするが大和は黙っておく。
武蔵「まぁ私はこんなところだ」
武蔵「では次に・・・金剛にしようか。アクの強い奴の筆頭に数えられるからな」
武蔵「金剛型1番艦金剛。金剛型で来たのは一番遅いという話だが妹たちに劣らず活躍をしているな」
武蔵「問題はその性格なんだが・・・一言で言えば「行き過ぎた提督Love」だ。異常に提督に懐いているから時間も場所もわきまえない。その様を提督はこう例えている「超懐いて鬱陶しいくらいにまとわりつく大型犬」」
武蔵「理由としてはどうやら金剛の好みに提督がドストライクだったらしくて本人としては積極的にアピールしているつもりのようだ」
武蔵「だがその積極的なアピールは時に提督の体調を崩す原因となり電さんによく懲罰房にぶち込まれているな」
大和「提督の体調を崩させるほどのアピールって一体・・・」
武蔵「軽いものから言えば飛び込みタックル。一番ひどいものだと夜這いだそうだ」
提督から艦娘へのセクハラはあれどその逆があるとは・・・大和は驚いた。
武蔵「料理に関しては妹の比叡はアレにも関わらずイギリス料理という点を除けば相当に旨い方だ」
武蔵「しかし旨いのにも関わらず提督は相手をしないようだ。態度から察するにどうやら提督の方にイギリス料理がらみでなんらかのトラウマがあるみたいだ」
大和「一体何が・・・」
武蔵「まぁこれくらいでいいだろう。次は鎮守府の災害比叡だな」
武蔵「比叡はボーイッシュな少女をそのまま大人にしたような感じだ。良くも悪くも純真無垢という言葉が一番似合うな」
武蔵「姉の金剛Loveだが提督を目の敵にすることは無いようだ。手を出すと金剛が怒り出すからかもしれん」
武蔵「料理の方は・・・割愛させてくれ。思い出しただけで吐きそうだ」
どうやら武蔵は比叡の料理の犠牲になったことがあり、それが強烈な不快感として記憶されているようだ
武蔵「実力の方は他の2名と同列だな。それでもこの鎮守府トップクラスだが」
大和「榛名さんは含まれていないのですね・・・」
武蔵「榛名の練度は最早別次元だ。それは追って話そう」
武蔵「榛名は飛ばさせてくれ。最後の方に話した方がいいだろうからな。次は霧島か」
大和「長身のスラッとした方ですよね」
武蔵「ああ。性格も見た目通りの頭脳派だ。脳筋という噂が立っているが私は違うと思う」
武蔵「戦艦の艦種長を務めているから分かると思うが実務能力も戦艦内では最高だしな」
武蔵「ちなみに彼女は他の頭脳派を集めて定期的に勉強会をしているそうだ。興味があれば行ってみるといい」
武蔵「金剛型に関してはこれくらいだ。次は長門型を一気に紹介しよう」
武蔵「1番艦長門だが・・・可愛いものと甘いものに特に目が無い。その2つが関わると戦果が1.3倍くらいになるな。提督曰く「普段からそれくらい頑張ってくれ」だそうだ」
大和「『喫茶店間宮』でキラキラしていた方ですよね」
武蔵「あと手先が信じられんほど不器用だ。兵装の調節を行おうとして壊したなんてことがざらだった時期もあったみたいだな。夕張が「長門に2度と兵装を扱わせるな」と激昂したこともあったな」
大和はその光景が容易に想像できた。
武蔵「2番艦陸奥だが彼女は戦艦の副艦種長を務めている。ただし艤装の記憶に引っ張られているのか火が相当に怖いようだ」
武蔵「それ以外は蠱惑的な大人のお姉さんといった感じだな」
武蔵「また元帥府の方から『かた陸奥り』なる生物を捕獲できたら捕獲してくれという依頼があるようだが彼女との関連は不明だ」
武蔵「戦艦勢はこれくらいだろう。次は空母勢を紹介しよう」
武蔵「まずは空母筆頭の加賀だな。怜悧冷徹で機械的な人間だと思われがちだが実際には表に出ないだけでかなりいい女だな」
武蔵「着任当日に応接室で冷茶が出されたようだが私の時はそんなものはなかった。恐らく加賀がお前が来るのを見越してあらかじめ淹れておいたのだろうな」
武蔵「それに私の時には出迎えすらなく鎮守府内を応接室求めて少々彷徨ったからな。事情がなければ相応の気配りができる女だと私は考えている」
大和は何気ない加賀の気配りに内心感謝した。
武蔵「能力に関しては秘書艦という時点でお察しなレベルだ。あの艦載機運用は圧巻の一言に尽きる。お前もいずれ彼女と艦隊を同じくして出撃することがあるから目に焼き付けておくといい」
武蔵「普段から無表情な加賀だがかつて嬉しそうに微笑んだ写真が出回ったことがあるようだ。直ぐに本人の手で回収されて元凶は磔にされたが写真を見た艦娘曰く「クールさがサブウエポンに思えるほど超可愛かった」そうだ」
武蔵「あと何気なく提督の所有権を主張してくる程度には提督を好いているな。当然金剛とよく対立するが面倒事は一切起こさないから電さんの制裁も顔パスだ」
武蔵「しかも驚くことに艦娘→提督な感じではなく提督→艦娘という構造のようだ。金剛が嫉妬するのは当然だろうな」
武蔵「次に赤城だな。赤城はよく加賀と組んで出撃しているし私と一緒の艦隊になったこともある。鎮守府の中では相当の古株のようだが・・・彼女も電さんによく絞られている」
武蔵「理由としては暴食だな『怠惰』の鎮守府には似合わない内容だが被害は甚大だ。彼女のせいで夕食のカレーの量が半分になって顰蹙を買うくらいには食べたからな」
武蔵「一体どこにあれだけの量の料理が収まるかは全くの謎だが実力は加賀と並ぶほどに確かだ」
武蔵「正規空母の人はこの2人以外特筆事項が無いくらいに平和的だな」
武蔵「だが軽空母にはその反動かどうか知らんが良くも悪くも特徴的な奴が多い」
武蔵「まずは鳳翔から行かせてもらおう。彼女は前線に出ることはほぼないが体験してもらった通り料理は絶品だ。穏やかな性格から一切波風が立たない「鳳翔の周りでは時間の流れが遅い」と提督が称するほどに落ち着く空間を作る方だ」
武蔵「その料理の腕と人柄から『居酒屋鳳翔』を任され商っている。居酒屋とは言ったものの騒がしい雰囲気ではないから落ち着きたい時に行くといい。たまに提督も訪れるようだしな」
武蔵「次に龍驤だが本人が表だって言うことは無いがそのスタイルに相当のコンプレックスを持っている」
武蔵「以前TVで4人?5人?の男性アイドルが無人島で舟屋作りをしていた番組で「まな板にしようぜ!」という言葉を連呼していたらいきなり発狂しだしてな。即刻電さんに鎮圧されたが皆「やっぱり気にしてるんじゃん」という反応だったな」
武蔵「瑞鳳、大鳳、瑞鶴ととても仲が良いな。通ずるものがあるのだろう」
武蔵「あと関西弁であるがそれは本人がガチの関西圏出身だからのようだ。タコ焼きとか作らせると実際に旨いしな」
武蔵「実力に関してはその尖った運用の仕方から哨戒任務において大活躍している」
武蔵「次に2人まとめてになるが千歳と隼鷹だな。この鎮守府内で一番酒の消費の多い2人だがどうやら酔うことが目的で味はあまり興味が無いらしい」
武蔵「以前提督が高い酒を買ってきて2人にあげたそうだが湯水のごとく消費されて憤慨したそうだ。聞いた話だと1本3万ほどする酒だったらしくポケットマネーから出ていたようだな」
武蔵「アクは強くないが・・・特徴的なのが龍鳳だな。とはいえ彼女は潜水母艦『大鯨』でいる時間の方が長い上に『居酒屋鳳翔』に弟子入りしているとか」
武蔵「料理に関してはもともと才能があったのかすごい勢いで上達していき鳳翔から「不在時にはここをお願いします」と言われるほどのようだ。潜水艦からは慕われており『潜水おかん』なんて言われて照れくさそうにしていたな」
武蔵「『居酒屋鳳翔』絡みで言えば瑞鳳だろうか。彼女も一応弟子入りしているようだ。とはいえ実力の方がそこそこあるせいか海に居ることが多く「学ぶ時間が欲しい」と嘆いているようだ」
大和「軽空母の皆さんは『居酒屋鳳翔』絡みが多いですね」
武蔵「そうだな。軽空母の話し合いは『居酒屋鳳翔』で行われているようだし親しみがあるのだろう」
武蔵「空母勢はこれくらいだな。次は重巡勢と行くか」
武蔵「重巡筆頭と言えば愛宕と皆考えているようだな。重巡の艦種長も務めているからよく知れ渡っている」
武蔵「理由としては『アイアンボトムサウンド』にて敵の旗艦に止めを刺したからだそうだ。その為か重巡の中では重宝され練度は重巡内で一番高い」
武蔵「底抜けに明るいのか彼女が編成に加わった艦隊は皆上々の成果を挙げているようだ。高雄型は珍しく同型艦で艦種長・副艦種長であるから実務能力も相応なものだと考えている」
武蔵「次に私を散々に言ってくれた鈴谷だが・・・今時の女子高校生という感じそのものだな。実力も中堅どころで一般的と言えるだろう」
散々に言われた腹いせか辛口評価気味である
武蔵「それと・・・青葉から買った情報だが以前提督に対して意味深な言葉でセクハラをしていたそうだ。そしたら提督が「お前処女だろ。無理するな」と言った所図星だったらしく顔を真っ赤にして逃げたという過去を持つ」
大和「何故提督はそれを見抜けたのでしょうか・・・」
提督の無遠慮な発言に若干引きながらも大和は尋ねた。
武蔵「曰く「そういう発言をしているときの一挙手一投足に初々しさが感じられた」からだそうだ。我々も迂闊に提督に手を出すと素性まで見抜かれそうだな」
武蔵「鈴谷つながりだと熊野だ。超絶方向音痴なのとお嬢様気質なのを除けば一般的だな。しかし特筆すべきは鈴谷との関係だ」
武蔵「公言しているから言ってしまうがあの2人は血のつながった双子の姉妹だ。これは志願制なのに加えて鎮守府の要望に応じて艦娘が配置される現行システム上稀だ」
武蔵「姉妹仲がよくて担当者が引きはがすのを躊躇したかそれとも単なる偶然か。珍しいこともあるようだな」
武蔵「そして欠かせぬのが青葉だな。この鎮守府1のトラブルメーカーだ。独自の新聞を発行して情報提供をしているのだが・・・内容はほぼゴシップだ」
武蔵「極稀に役立つ情報がある時があるのでその時は「きれいな青葉」と称されるな。何度電さんにシメられてもやめないその不屈の精神は賞賛に値する」
武蔵「だが隠密能力はかなりレベルが高くこの鎮守府のメンツ出なければ見つけられないほどだそうだ。実際それで大手のブラック鎮守府を1つ壊滅に追い込んだ実績もある」
武蔵「だからこそ提督は青葉から印刷権を奪わないのだろうな。そういう意味では信頼のおける者だと評価されているようだ」
武蔵「重巡は1名を除き他の艦種と比べて平和だな。次に行こうか」
武蔵「軽巡なのだが・・・簡単に言えば精鋭だ。アクがかなり強い奴が多くて電さんも頭を抱えている」
武蔵「筆頭は夕張なのだが・・・既に体験済みだから説明は不要だな」
大和「ですね・・・」
夕張に付き合わされた大和には説明は不要だった
武蔵「次に川内だが・・・重度の夜戦馬鹿だ。ことあるごとに夜戦夜戦と騒ぎ立てるが夜戦の実力は鎮守府1だ」
大和「夜戦の実力『は』?一体どういう・・・」
武蔵「川内は提督に特別扱いされており出撃することは稀だ。だが川内が編成に加わることは目的海域の深海棲艦を何としても撃破するという強い意志の表れでもある」
武蔵「だが更に特別視されていて夜戦想定海域まで一切砲雷撃戦を行わないんだ。理由としては十全の状態の川内の夜戦は榛名よりも強いからだそうだ。夜戦時における榛名とのレートは川内7榛名3と聞いている。圧倒的だな」
武蔵「夜戦時の川内は私はこの目で見たことが無いが聞いた話だと無慈悲な殺戮者になるらしい。榛名ですら「2度と相手にしたくない」と言っていたようだ」
武蔵「ただ十全であることと夜戦であるという条件がネックなせいで特殊兵力扱いのようだ。提督も使い時に悩んでいるな」
武蔵「次に大井・北上・木曾の3人だな。彼女らはハイパーズと呼ばれ雷撃を扱う者たちからは英雄視されているほどの雷撃のエキスパートだ」
武蔵「雷撃を扱う者たちの位置を表すとこんな感じだな」
武蔵は手元にあった紙とペンで簡略的に何かを書くと大和に渡した。紙には 北上<大井<<木曾<<<雷巡の壁<<<潜水艦s<<<<<<その他 と書かれている
大和「『雷巡』?聞いたことのない艦種ですが・・・」
武蔵「雷巡は雷撃を扱う者の中でも特に優れたものを特別枠として扱うときに与えられる称号のようなものだ。軽巡・重巡はそのまま雷巡と名が変わるが駆逐・潜水艦は艦種の前に雷巡が付くな」
武蔵「全盛期には戦艦棲姫すら1撃で沈めるほどの瞬間火力があったが向こうも馬鹿ではないらしく対策され始めたせいか最近は思う様に振るわないらしい」
武蔵「しかしそれさえ伝説視されているのが恐ろしい所。なにせ「深海棲艦が初めて艦娘に対して対策を取った艦種」だからな」
大和「すごい方々ですね・・・」
武蔵「性格の方も1名はすごいことになってるぞ。残りの2人はその1人に当てられたかかなりの常識人だからな」
武蔵「問題児の名は大井。一般的な素行は常識人なのだが・・・同僚の北上へのセクハラが半端じゃない」
武蔵「あの金剛ですら「さすがのワタシでもそれはしないデース・・・」と引いた内容さえあったたからな」
大和「一体何をしたのでしょうか・・・」
武蔵「詳しいことは電さんと提督から「館内の風紀を著しく乱す恐れあり」として一切教えてもらえなかった」
武蔵「青葉は内容を調査したのか知っているようだが「これを口にするのは相当躊躇いますねぇ・・・」と煙に巻く始末。知らないほうが幸せな事パート2だな」
武蔵「しかし北上が普通に大井に接していることから少なくとも北上には分からぬよう水面下で行われたことであると予測できるな」
武蔵「軽巡はこれで終わりだ。次は駆逐なのだが如何せん数が多い。もっとも代表的な6名だけ取り上げよう」
武蔵「まずは・・・第6駆逐隊だな。暁・響・雷・電さんの4人で構成されている。鎮守府のマスコットみたいな存在だ。全員16だけどな」
大和「全員16ということはまさか・・・」
武蔵「察しがついたな。あの4人は4つ子のようだ。特に雷と電さんは一卵性双生児らしく片方がもう片方の姿を真似たところ提督以外は見分けがつかないほどだった」
武蔵「性格の方は暁は大人びた少女といった感じだな。提督に「お前もう16だろ。そろそろ一人前のレディになってもいいんじゃないか」と言われ半泣きになったことがある」
武蔵「響に関しては長女と末っ子がアレなようで相当の常識人+かなり冷静な子だな。提督がいたく気に入っていて「将来は超絶可愛い子になるか超絶美人になる。間違いない」と絶賛している」
武蔵「ただし1つの面倒事を起こそうとする奴や、姉妹を酷く侮辱する奴にはシベリアのような目をするようだ。その時だけさん付けして皆呼ぶことからかなりの眼光のようだな」
武蔵「次は雷だが・・・ロリおかん。それだけで十分なほどの説得力のある性格をしている。容姿は幼いのに母性の塊・・・ある提督が「雷は私の母になってくれた女性かもしれない」とのたまい憲兵隊にしょっ引かれたことがあるくらいだ」
武蔵「電さんについては最後に回させてもらおう」
武蔵「次は・・・島風だな。鎮守府のつむじ風の異名を持つほど足が速い。艤装を外していても艦の力が伝わることを示す代表的な例の2つの内の1つだな」
武蔵「艤装無しの状態でも100メートル走の世界記録を塗り替えるほどだから驚きだ。それと『連装砲ちゃん』なる可愛い半生物を連れている」
武蔵「連装砲ちゃんは言葉は発しないもののこちらの言葉は理解できていて感情表現を行うほどに高性能だ。あと可愛い。長門が「ゆずってくれ。たのむ!」と島風に頭を下げるほどに可愛い」
大和「可愛い・・・」
やまと は うずうず している!
武蔵「今度会ったときに触らせてもらえばよかろう。持っていきそうでなければ快諾してくれるしな」
武蔵「性格は・・・なんというか・・・表現しにくい。快活と言えば快活だし・・・早さに対していじらしいと言えばいじらしい。私のボキャブラリーの貧弱さが憎い。だが悪い子ではないのは確かだ」
武蔵「能力は駆逐艦の中でもトップクラス。持ち前の早さを生かした神がかり的な回避は圧巻だし、大切な文章を付近の中将に速達で送るなど内政面でも活躍しているな」
武蔵「ただ対潜に至っては同じ場所にとどまっているのが嫌いらしくやりたがらない。やらせてみれば嫌々ながらも好成績を残すほどには優秀だがな」
武蔵「次に雪風だな。幸運の化け物。幸運という概念が服を着て歩いているなど彼女の幸運を讃える・・・というか恐れる愛称はいくらでもあるほど幸運だ」
武蔵「宝くじ、麻雀、トランプ・・・運の絡むことで彼女の右に出る者はいない。提督から「そういうことに関わらないほうが幸せになれると思う」とまで言われる始末だ」
武蔵「実戦にもその影響が出ていて・・・彼女は出撃頻度はそう少なくないはずなのに1回の被弾もない。もはや異能生命体の域だな。運命操作でもしているんじゃないだろうか」
武蔵「性格は比叡から料理に関することを抜いてそのまま小さくしたと言えば適格であろうか。癒し枠だな」
武蔵「最後に夕立なのだが・・・一言で言えば子犬だ」
武蔵「髪の毛が改2になってはねたせいか容姿でも犬っぽさが加速している。さらにいつもぽいぽい言っているせいでついたあだ名が『ぽいぬ』だ」
武蔵「性格も人懐っこいからまさに犬だな。提督も「金剛と違い透けて見える物のない純粋な懐き」として好評価だ」
やまとは また うずうず している!
武蔵「能力に関しては駆逐艦の中でも最大の火力を誇るな。その為島風・雪風・夕立が水雷戦隊内にいると不可能なことが無くなるな。提督もこの3人の組み合わせは重宝している」
武蔵「以上が駆逐艦の特徴的な奴らだ。潜水艦に関しては接する機会があまりないので説明が出来ん。すまんな」
武蔵「さて。最後に3名の紹介といこう。まずは電さんからだな」
武蔵「能力に関しては説明済みなので省略するぞ。説明するのは性格の方だ」
武蔵「好戦的だと思われるが実際は害をなす奴以外は人畜無害そのものだ。ただ害をなす奴には無慈悲な憲兵に早変わりするがな」
武蔵「ただ・・・あまりにも彼女の耐えられる憤りの範囲を超えた事態が起きるともう1つの人格とも呼ぶべき存在が目を覚ます」
大和「多重人格なのでしょうか・・・。それでどうなるのですか」
武蔵「多重人格説も一理あるが真相は不明だ。『目覚めた電さん』は・・・さらに無慈悲になる」
武蔵「物理攻撃のみならず精神攻撃も平然とやらかす。かつて青葉が外傷以外の理由で1週間ほど大人しくなった時期があるそうだがその原因が『彼女』だそうだ」
武蔵「人のコンプレックスを平然と抉り、見られたくない現場を押さえたものを本人の前で見せびらかし言葉攻めをする。その餌食になったようだ」
大和「お・・・恐ろしいですね」
武蔵「あの状態の電さんは青葉すら凌駕する情報収集能力があるからな・・・」
大和「通常の電さんとその状態の電さんを見分けることはできますか?」
武蔵「簡単だ。その状態の電さんは言葉に濁点が多くなることに加え・・・何とも言えん顔になるな。実際にやって見せよう」
武蔵はそういうと ●ワ● のような顔になったが維持が難しいのかすぐに元に戻った。
大和「大体わかりました・・・。電さん本人はそのもう1人の電さんについてご存じなのですか?」
武蔵「私も聞いてみたが曰く「中の人などい゛な゛い゛の゛で゛す゛」●ワ● だそうだ。まさにシュレティンガーの電さんだな」
武蔵「あと・・・最後の説明するが『提督の秘密』の片鱗を知る2人のうちの1人だ。提督からの態度が妙に違うからな」
武蔵「では次に榛名に行こうか」
武蔵「榛名はこの鎮守府の旗艦にして最強の戦艦で執務能力も電さんには敵わないが相当なものだ」
武蔵「彼女の戦闘は最早未来予測の領域に片足を突っ込んでいるといっていい。彼女曰く「弾道予測を予測すればだれでも真似できます」だそうだ。できるか!」
大和「弾道予測を予測って・・・」
武蔵「私もそう思う。だが「行動の前には必ず予備動作がありますのでそれを察知すると同時に体を動かせるようになればできます」だとさ。無茶苦茶だ」
武蔵「だがそれを可能にしているだけの実戦経験と練度があるから一切の異論をはさめないのがさらに恐ろしい」
武蔵「それで「最終的には榛名以上の練度を目指していただきます」だとさ・・・あとどれくらいかかるのやら」
大和「ぜひ一度お手合わせしてもらいたいものです・・・いい経験になるでしょうし」
武蔵「今のお前じゃ戦闘にすらならんよ。ただの浮いてる大きい的だ。彼女と立ち会うには最低でも規定練度99は必須と考えていい」
武蔵「性格の方だが・・・こちらは説明不要なくらいにはっきりしている。大和撫子。ただそれだけだ」
武蔵「物腰の柔らかさ、言葉使い、素行。何をとっても欠点が無い。男性の求める理想の女性像の1つを結晶化した性格と考える者も多いようだ」
武蔵「提督とかつて『何か』があったらしく提督は彼女を絶対的に信頼している。榛名の方もまた『提督の秘密』について何かしらを知っているようだ」
武蔵「青葉がその『何か』について榛名にしつこくインタビューしたところ烈火の如く怒ったので諦めたそうだ」
武蔵「だが榛名が私憤でそうなるとは思えないからその『何か』は提督絡みだろうな。明らかに提督に好意を寄せているし提督もそれに気が付いているようだからな」
大和「羨ましい関係性ですね・・・そこまで信頼し合えてるなんて」
武蔵「そうだな・・・。最後に提督なのだが・・・」
武蔵が急に言葉を濁し始めた
>>54
北上<大井<<木曾<<<雷巡の壁<<<潜水艦s<<<<<<その他
雷巡カスすぎるやろ(白目)
>>58しまった。不等号真逆や。脳内保管してください。お願いします
武蔵「提督について分かっていることが少なすぎるんだ。この鎮守府で最も謎多き人物と言える」
武蔵「現在分かっているのは性別、おおよその年齢、好きな動物、料理の腕、指揮能力、体調、性格だけだ」
武蔵「性格に関しては常に不測の事態に備えるほど慎重深く、人的損失を何よりも恐れ、上下関係をあまり重んじず、フレンドリーなことを好むが私的領域に入られることを極端に嫌う。これだけで十分だ」
武蔵「料理に関しては全てのジャンルで鎮守府1。ただ体力を多く使うようで料理するのは極極稀だ」
武蔵「指揮能力と体調に関しては省略するとして、おおよその年齢は35歳未満だ。35歳?と聞かれたところ結構凹んでたからな」
武蔵「好きな動物は主にネコ科で気まぐれなところがものすごく可愛いようだ。例外も多いけどな」
武蔵「以上が提督に関して分かっていることの全てだ」
大和「あまりにも少ないですね・・・」
武蔵「そうだ。本名に始まり年齢、経歴、趣味、特技、血液型、病気の内容・原因、身体能力、交友関係などなど・・・分からないことが多すぎる」
武蔵「青葉もその調査に乗り出しているようだがそれを裏付ける資料や供述が一切なく、実体のないものを相手にしているようだと匙を投げかけている」
武蔵「だが榛名と電さんはその内容を知るための『鍵』に近いものを知ってはいるようだが一切口にしない。その為ますます謎が深まるんだ」
大和「得体のしれないお方ですね・・・」
武蔵「私もそう思う。しかも知られている情報以外を明かさないように一挙手一投足にまで気を配って居そうだしな」
武蔵「「いずれは話さなければならない時が来る」とは言っているが少なくとも今ではないな」
武蔵「だがこの鎮守府に配属されている以上提督の命令は遵守事項だし、海戦指揮下における提督の指示は絶対に近い。何せ榛名以上の未来予測能力を持っているからな」
武蔵「以上が鎮守府の人間の紹介だな」
大和「ありがとうございました」
2人がそう話し終えると空はもう闇に包まれていた。
武蔵「もうこんな時間か・・・夕食も・・・いいな。明日の朝には朝食が食えるんだし」
大和「ですね」
空腹さえ覚えないほどに2人は話し込んでいたようだ。
武蔵「さて・・・風呂に入り早めに寝るとするか。明日も酔いが残っているとさすがに示しがつかん」
そういうと武蔵は着替えとお風呂セットを持って浴場へと向かい、大和も同じことを思い行動した。
本日投下文終了。次は5日±2日くらいになると思います。はい。
雷巡に関してのところは不等号真逆ですので脳内補完お願いします。
次回:大和さん初めての実戦 です
これでこの物語に出てくる登場人物の8割がたの紹介が終わりました。残すは残りの『大罪』くらいでしょうか。
提督の個人情報が少ないのにもしっかりとした理由がありますのでご心配なく。
補足としては
『規定練度』:艦これで言うレベルのこと。測れない練度と測れる練度をごちゃまぜに『練度』と表記しますが私の文章力の不足の表れなので大目に見てください・・・
それではまた。
乙
電ちゃんだけ「さん」付なのです!
>>62 オウフ・・・そうでした。今後修正させていただきます。
只今難航中。何が一番厳しいかって所属地域と出撃地域の時差です。
日本と3-2-1のあるキスカ島の時差は17時間。
日付変更線は無視するとしても昼夜の逆転があるのでそこをどう説明付けするかが悩みどころです。
舞台となるショートランド(パプアニューギニア)とキス島(アラスカ)との時差は19時間なのでまだ調整できますが・・・
その他もろもろの世界の法則に反しないレベルの事情は全て妖精さんの技術で片を付けます。ご了承を。
あとコメントをくださると非常に励みになります。お願いします。
乙
今更だけど読点がないと文章の違和感が凄まじいことになるよ
>>65これから書く書き貯めではそれも修正していきたいです。
時差問題は19時間というぶっちぎった内容のおかげであっさり片付きました。
というわけで再開です。
翌日2日酔いから復帰した艦娘たちは食堂にて朝食を取っていた。そこに館内放送が流れ提督の声が聞こえる
提督「俺だ。今日も基本いつも通りなのだが・・・第一艦隊のみ編成を変更する。目的は大和型の育成だな」
提督「長く話す気もないので手短に伝えるぞ。旗艦榛名、大和、武蔵、168、北上、大井以上6名だ。海域は3-2-1で20週くらいしてもらう予定だ。陣形は単縦陣。もはや言うまでもないな」
提督「編成表にも載せておくので該当艦は指定時刻には所定位置にて集合しているように。以上だ」
そういうと放送は切れた。
武蔵「どうやら私たち大和型の為の編成のようだな」
朝食の焼き鮭定食を食べながら武蔵が口にする
大和「まさか榛名さんとの編成がこんなに早く来るなんて嬉しい限りです。でも・・・資源は大丈夫なのでしょうか」
ご存じの通り大和型は艤装スペックが戦艦内最高である為出撃にかかるコストも尋常ではないのだ。
武蔵「それを考えていない提督ではないだろう。考えていなかったら今頃電さんに簀巻きにされている所だ」
武蔵「詳しいことは集合後に旗艦・・・つまりは榛名から聞くことになるな。大和からすれば初実戦。気を抜くなよ」
大和「はい!大和頑張ります!」
そういうと2人は残りの食事をかき込み食堂を後にした。
7時時30分第一艦隊控室にてブリーフィングが行われていた。
作戦前の意思疎通は必須ともいえ誰か1人でも作戦内容と編成理由を忘れると想定外の事態になり、想定以上の被害を生みかねないのだ。
榛名「―――というわけで今回は大和型のお二方の練度向上を目的とした編成になっています」
榛名「帰還条件としましては168さんの小破以上の被弾、及び皆さんの疲労を考慮して行われます。以上ですが・・・何かご質問はございますか?」
すると北上が手を挙げた。
北上「はーい。なんで今回の編成には空母の方がいないのかなー。下手するとT不にもなりかねないよ?」
榛名「はい。提督が仰るには「陣形において体験できるだけのことは体験させておいた方が損はない」ということですのでT不にすることも想定の1つなのでしょう」
北上「ほーい。了解ですよー」
すると今度は大和が手をあげて発言した
大和「えっと・・・なぜこの編成に雷巡のお二方がいらっしゃるのでしょうか。過剰戦力にも思えますが・・・」
当然の疑問である。戦艦3、雷巡2、潜水1。想定される戦力から見ればどう見てもオーバーキルである。
榛名「はい。雷巡のお方は甲標的にて開幕雷撃が出来る上に15,5センチ3連副砲の射程によって敵に先んじて砲撃を行うことが出来る為です」
榛名「「被害は出来る限り小さいに越したことは無い」と提督も仰っていましたし、出来る限り砲撃に集中できる実戦環境を整え良質な経験を積んでほしいという提督のご配慮があったと考えられます」
大和「了解です」
すると武蔵が手をあげて発言した
武蔵「私はいつも通りで構わないのか」
榛名「はい。大和さんが狙っている敵艦以外であれば自由にして構わないと榛名は考えています。もちろん脅威となる敵艦から沈めていただくのが理想です」
武蔵「あい分かった」
榛名「それと開幕雷撃をされるお三方には、なるべく旗艦の軽巡か雷巡を狙って頂きたいです。被弾率を下げ、被害を少なくするにはそれが一番いいと思われますので」
榛名「大井さんに至っては提督から「北上に見とれて同じ奴に雷撃ぶち込むなよ。故意にそうしたら木曾と変えるからな」という言伝を頂いております」
大井「ッチ。ばれてた・・・」
大和は苦言を呈する大井の小さい声を聞いた。
榛名「何か問題でもございましたか」
大井「いいえ。何でもありませんよ。ウフフ」
榛名の意味深な問いに対し大井も手慣れたように回答した。
榛名「168さんは何かご質問はありませんか」
168「私は特にないかな。非被弾回数の自己ベスト更新狙ってるしいい采配だと思うわ」
榛名「それでは準備もできたようなのでブリーフィングを終了したいと思います」
実によどみのないブリーフィングであった。
榛名「それでは高速船の方に搭乗しましょう」
榛名がそういうと6名は中型の高速船に乗り込んだ。
榛名「妖精さんお願いします」
榛名はそう舵のあるところにいる妖精さんに話しかける
妖精さん「マカセトケ!」
妖精さんがそう答えると船は急加速し始めた様に思えた。
近場であれば通常の小型船によって移動するのだが3-2-1海域は本土の北方にあり艤装の能力では燃料切れと膨大な時間がかかると予想される。その時に使うのがこの高速船である。
この高速船は妖精さんが開発した船でありトンデモ性能を持っている。あまりのオーバーテクノロジーに人類はその技術の一切を転用、解析、応用できなかったほどの技術が詰め込まれている。
そのトンデモ性能の具体的な内容は「海上においてのみ効力を発揮する船型の『瞬間物質移転装置』」だ。当然船としての機能も十分に発揮する。
また船の操縦は妖精さんのみにしかできず、人類には扱えない。
その地理的要因を無視した移送装置に官民問わずその船を求めたが妖精さんはその全てに首を横に振り艦娘移送にのみ使われている。
遠い地での訓練や出撃に対応して作られているので船の内部にはある程度の補充物資があり、休憩スペースが存在しているが入渠施設は設置できなかったようだ。
急加速したと思った直後に船が大きく揺れ大和は舌をかみそうになった。どうやら目的海域の付近に着水したようだ。
榛名「ここから先は通常運航になりますので揺れには注意してください」
榛名はそういうとおもむろに備品の羅針盤を持ちだし勢いよく回し始め、示された方角に船を進めるよう妖精さんに頼んだ。どうやら羅針盤は北を指したようで船は北へと移動し始めた。
驚くほど揺れの少ない艦内で大和は初対面である艦種潜水艦の168に話しかけた。
大和「168さんわざわざ編成に加わって頂きありがとうございます」
168「いいのよ。司令官のご命令だし小破した時点で撤退っていう優しい条件にしてくれてるもの」
大和が168に敬語を使うには訳がある。水雷戦隊を相手取る場合潜水艦が1名いると潜水艦に攻撃が集中し、他の艦種には砲撃が行われないのだ。
大和は養成学校時に現役艦娘から話を伺う機会がありその時に3-2-1での潜水艦デコイ戦術について知っていたのだ。
大和「それにしても脅威となる戦艦や雷巡の方々がいらっしゃるのに168さんを集中砲火なんて・・・」
大和が敵の戦術に疑問を持つ。
168「無理もないわ。潜水艦という艦種に対応できるのは対潜装備を満載した航空戦艦、軽空母、軽巡、駆逐艦の基本4艦種のみ。それ以外の艦種はどれだけ強力でも潜水艦には対応できないの」
168「かつて司令官が中将との演習に挑んだ時相手の編成は戦4空2で練度も相当に高かったわ。その時提督が「対潜警戒をしない恐ろしさ存分に味あわせてやる」っていって編成したのが私たち潜水艦オンリーの艦隊」
168「イムヤ、ハチ、ゴーヤ、イクの4人で中将の主力艦隊を一方的に蹂躙するのは気が引けたわ・・・」
そういう割には楽しそうな顔をしている168の顔を大和は見逃さなかった。ジャイアントキリングこそ潜水艦の本願であるからだ。
大和「そういえばなぜ羅針盤を回すのでしょうか・・・」
大和は至極当然の疑問を168に尋ねた。
168「噂では深海棲艦を発見する装置とも海の流れを制御する装置とも言われているわ。もっとも今分かるのは制作は妖精さんがしたらしくて通常の羅針盤の皮をかぶった何かだってことかしら」
大和「羅針盤の指した方向にしか向かえないのでしょうか」
168「無理ね。軍紀に羅針盤の指した方向に従う様にって明記されているし、違反者はかなりの厳罰に処されると聞いたわ」
大和「厳しいのですね・・・」
大和は腑に落ちない顔をしたが軍紀である以上従わなければならない。
168「もう少し話したかったけどそろそろ目的地のようね」
船が止まり赤いランプが点灯した。
榛名「ここからは敵艦隊との交戦が予想されるので出ましょう」
そうすると皆ぞろぞろと船から降り始めた。
168「それじゃぁ潜らせてもらうわね」
皆が着水した直後にそう告げると168は海へと潜っていった。
その後提督の指令順に各員25メートル間隔で縦に沿って移動し始めた。168の位置と被弾状況は旗艦の榛名に逐次電子端末で報告されている。
榛名「! 敵水雷戦隊を確認。数5。旗艦軽巡ホF級ですね。会敵までの予測時間35秒!」
榛名がそう叫ぶと一気に空気が引き締まった。
会敵までの時間が短いが偵察機無しでの索敵を考慮すれば上々である。
深海棲艦はその特性上急浮上による奇襲を得意とし、レーダーでは認識不可能なほどの電子ステルス性を誇る。
しかし浮上の前兆があるため深海棲艦の補足は肉眼で行われるのが最善手とされる。
そのため艦娘の電装は、名こそ『電装』であるが実際は人間の5感を鋭くする装置であったりもするのだ。
卒業試験の時とは違う本物の実戦の空気に大和は気圧された。
15・・・14・・・13・・・大和は心の中でカウントする。敵水雷戦隊は既に視認できるようになっていた。そのうちの旗艦に位置する敵艦は黄色の光を湛えている。
榛名「会敵!」
榛名がそう叫ぶや否や3本の魚雷がそれぞれ違う敵に向かっていく。168・北上・大井の魚雷による先制雷撃だ。
敵が魚雷発射を察知し回避行動を行おうとするが3名の魚雷は既に必殺の間合いに入っていた。
轟音と共に水柱が上がり軽巡ホF級と駆逐ハ2体は海の藻屑となった。
動揺し慌てふためく駆逐ロに対し接近しついに砲雷撃戦の距離に入る。お互いが同じ方向に移動しているので同航戦だ。
榛名「主砲!ほーげき!開始!」
そう榛名が叫ぶと46センチ3連装砲が駆逐ロに対し火を噴いた。
駆逐ロは回避しようと行動をするが弾速が非常に早く移動に至るまでに弾丸が直撃し爆発四散した。
榛名「大和さん。まずはいつも砲撃するように撃ってみてください」
大和「はい! 大和!砲雷撃戦、始めます!」
そういうと大和は駆逐ロに対し照準を合わせ砲撃した。
轟音と共に弾丸が発射され駆逐ロに直撃し、爆発四散する。どうやら1撃で仕留めきることが出来たようだ。
戦闘は一方的に終了した。此方の損害はゼロ。判定は完全勝利である。
榛名「それでは再出現するまで一旦この海域を離れましょう」
そう榛名がいうと168は浮上し皆といっしょに高速船の中に入り始め、高速船は一旦当該海域から離脱した。
その船内にて
榛名「大和さん。砲撃に関しては今見たところ基本に忠実ないい砲撃でした。今後もそれを維持しつつ戦場に適応できるような砲撃法を模索してくれればと考えます」
榛名から上々の評価をもらった大和は嬉しそうだ。
榛名「しかし、この海域での実戦は制御された戦いであるということは肝に銘じておいてください。高難易度の海域では砲撃による混戦もありえますので」
大和「はい。これからも精進します」
榛名「それでは再出現までに10分ほどの時間がありますので休憩としましょう」
砲撃の反動は体を疲労で蝕むため休憩は必須だ。その為ヒット&アウェイの戦術は新参者を鍛えるのにはもってこいの戦術なのだ。
榛名はこの作戦を聞いた時のことを思い出す。
執務室にて
榛名「提督・・・榛名がこの作戦に加わるのは少々過剰戦力なのではないのでしょうか」
榛名の実力からすれば当然の疑問である。5-5海域でさえ十分に立ち回れるほどの実力者に3-2-1海域旗艦は役不足なのだ。
提督「俺もそう思う」
北上「じゃぁなんで榛名を連れていくのさー」
大井「私は北上さんと一緒に出撃できるのでどうでもいいです」
武蔵「確かに傍目から見ても過剰戦力だな」
三者三様の反応である。執務室には大和を除くメンバー全員が集結していた。全員提督からのダイレクトメールで呼び出されたのだ。
提督「だがしかし戦場をコントロールするためにはこれくらいの戦力が必須なのだ」
168「戦場をコントロールするの?なんで?」
戦場はコントロールできるものではない。それは提督が経験上十分に理解していた。しかし戦場をコントロールするという世迷言を言うには相応の理由があるのである。
提督「半分は報告書から。もう半分は俺のカンだな。今から紙を渡すから全20回の出撃をこの紙の通りに調整してくれ」
提督はそういうと全員にA4用紙を半分に切った用紙を渡した。
北上「提督さー。これちょっと悪趣味じゃない?」
目を通した北上がそうぼやく。
その用紙には3-2-1海域における敵の出現パターン全てと、戦闘回数に応じてどの敵艦を残し、どのような戦闘状況下にするかが事細かに書かれていた。
提督「出来れば同航戦とかも指定したいが贅沢は言えんな」
榛名「異例の待遇ですね・・・」
武蔵「提督よ。私の時にはこのようなことは無かったと思う。そうすると・・・大和に何かあるのか」
提督「ああ。1つかなり気がかりなことがある。具体的に何なのかは帰還後に再び集まってもらい説明するが当然大和には秘密だ」
提督「これを踏まえた上で指令を出す。全20回の3-2-1出撃全て大和に注意を向けて観察してくれ。特に6回目と17回目の出撃は更に注意深く見てほしい」
6回目と17回目には大和に被弾させるように書かれている。
提督「作戦後21時にここに集まってもらい榛名には一般戦術上から、武蔵には大和型として、他の皆からは随伴艦として感想を聞くことになる。以上だが・・・何か質問は」
武蔵「この紙はどうするのだ?大和には見せることはできんのだろう」
提督「ああ。今ここで全員全部暗記してもらう。その後即座に破棄する」
その場に居た提督を除く全員が「無茶を言うな!」という顔をするが提督はあえて無視をする。
提督「じゃぁ暗記タイムだ。集合時間まであと30分もないが頑張ってくれ。成功した暁には俺が5名に対してケーキを作ってご馳走しよう」
その瞬間5名の目の色が変わった。提督の手料理は滅多に食べることが出来ずその味は天にも昇るものだという。
加賀が提督に対して物欲しそうな眼を向けるが提督がそれに気づき首を横に振るとがっくりとうなだれた。
そして場面は戻る。
榛名(提督も無茶を言ってくださいます。ですがそれ相応の理由があれば榛名も納得できるので今は指令を忠実に実行することだけを考えましょう)
提督の無茶は2つある。1つは戦場のコントロール。もう1つは「大和に悟られないようにする」ことである。その打ち合わせを含めて20分程度は無茶振りを通り越して最早ムリゲーであった。
そう思いふと時計を見ると10分ほど経過していた。
榛名「それでは皆さん!再び出撃しましょう!」
榛名のその一声を皮切りに再び艦隊は戦闘態勢に入った。
20時30分大和武蔵の寮室にて大和は今日の出撃に対しての感想を述べていた。
大和「やはり養成学校の管理された戦いと実戦はまるで違いました・・・」
武蔵「戦場なんてそんなものさ。戦場をコントロールすること自体がかなりの無茶だからな。それを可能にしている本土の7英雄と元帥殿に感謝だな」
今回の3-2-1周回は大和からすれば波乱に満ちたものであった。
5回目までは順当に上手く回っていたが6回目にそれが激変したのだ。開幕雷撃が全て同じ敵旗艦へと向かい敵を減らせず、更に榛名の砲撃が避けられるという非常に珍しいことが起きたのだ。
168の回避は絶好調であったもののその回は雷撃戦までもつれ込み大和は魚雷の至近弾を受け艤装に僅かなダメージが通った。結果として大和の艤装は帰還後しばらくの間ドックに居たのだ。
そこから先の記憶は雷撃の衝撃もあってあまり鮮明ではない。気が付けば無我夢中で砲撃し、戦場の空気に適応していたのだ。
17回目も同じように雷撃戦にもつれ込んだが必死こいて回避したため至近弾を食らわずに済んだのだ。
それによって一定の冷静さを取り戻したのか残る2回は好調であった。
これが最低限なレベルの戦場を先輩たちは戦いぬいていたのだと思うと大和は先達の方々に敬意を覚えた。
大和「武蔵も初出撃の時はこんな感じでしたか」
武蔵「ああ。私も戦場の空気というものに慣れるのに苦労したな。当たり前のことが戦場で当たり前に出来るようになるまで大変だったな」
武蔵「なにせできる時と出来ないときで砲撃の命中率が劇的に違うし体感も大きく違ったからな。「それを均一化されていくということが練度が上がることでもあります」と榛名に諭されたな」
武蔵は自らが着任し出撃したときのことを大和に述べる。
武蔵「っと。提督に呼び出しを食らっているんだった。消灯前には戻れると思う」
そう大和に伝えると武蔵は執務室へと向かった。
大和「いってらっしゃい武蔵」
大和はそれを何の疑問も持たずに見送った。
武蔵は執務室のドアを開けて入ると既に全員が集まっていた。
提督「ナイスタイミング。今丁度ケーキを切り分けるところだ」
切られているのはホール状の苺のショートケーキ。提督も食べるらしく6等分にされるようだがそこそこ大きい。
6等分にしケーキをお皿に盛ると提督は手馴れた手つきで6つのカップに紅茶を注いだ。
提督「それじゃぁ適当に持って行ってくれるかな」
そう提督が言うと一斉に10の手が伸びケーキとフォークの乗った皿と紅茶の入ったカップを持っていった。
提督「うん。今日も上出来だねぇ」
提督は早速食べており自分のケーキに自画自賛していた。
武蔵は夢にまで見た提督の初手料理である苺のショートケーキをフォークで切ると口へ運んだ。
武蔵「~~~~っ。美味しい・・・」
思わず言葉が詰まるほどの美味しさである。クリームの糖分は絶妙な加減にされておりスポンジはとてもしっとりとしている。それでありながら出来立てであるためか苺の水分で湿っておらずまさに絶品であった。
この美味しさを表現できない自分の語彙力の貧弱さを恨めしくも思ったが味の前に一瞬にしてその感情は消え去った。
他の4名も様々な反応をしているが皆ケーキの美味しさに酔いしれているようだ。
数十分後ケーキを食べ桃源郷へと赴いていた皆が戻ってくるのを待って提督は切り出した。
提督「じゃぁ今回の作戦の理由を話すとしようか」
提督「まぁ主な理由としてはこれなんだけど・・・」
そういうと提督は机から1枚の書類を皆に見せた。どうやら養成学校からの内申書である。
提督「まぁ成績に関しては中の上って感じなんだけどさ。問題はそこじゃなくて特記事項のとこ」
特記事項の欄には「稀に砲撃の実技において極めて優秀な成績になる場合あり」と書かれている
北上「これが・・・どうかしたの」
提督「ああ。この極めて優秀な成績が気になって問い合わせてみたんだ。すると帰って来た回答が「百発百中な上にリロード時間が非常に短かった」そうなんだ」
提督「さらに聞いてみるとその状態下では規定のリロード手段を取らずに独自のリロードを行っていたようだな」
提督「それを踏まえた上で皆の大和の感想を聞かせてほしい。特に6回目以前と以後の差と17回目以降についてね」
提督が任務報告を聞きにかかる。
大井「そうですね・・・6回目以降の大和さんはこう・・・何か頼もしく思えるような雰囲気を纏っていましたね」
北上「でも6回目前と17回目以後は普通のニュービーって感じだったかなぁ」
提督「武蔵は?大和型として何か思うところはあったか」
武蔵「確かに6回目以降の大和は凄まじい命中精度を誇っていたな。それ以外については着任当初の私を見ているようだったが」
武蔵「だが大和型の艤装を初実戦であそこまで扱えるのは異常に思えるな」
提督「そうか。榛名は」
榛名「そうですね。6回目以前の砲撃はまさに教科書通りと言ってもよい砲撃でした。しかし6回目以後の砲撃は実戦に即した極めて実用的な砲撃で、照準を合わせる速度に至っても別人のようでした」
榛名「また移動や反動制御に関しても砲撃と同様のことが言えたと榛名は感じます。ビキナーズラックにしてはあまりにも出来ている気がします」
提督「それで6回目と17回目には敵の攻撃を大和に被弾させることが出来たんだよな」
榛名「はい。直撃とまではいきませんでしたが至近弾でダメージは艤装の方へ行ったと思われます」
そこまで聞き終えると提督は一息つき、切り出した。
提督「皆・・・これは機密情報だから口外禁止になるが聞いてくれ。艦娘には実は2種類いる。片方は総数の99%以上を占める通常の艦娘。もう片方が総数1%未満の『過剰適合者』だ」
提督「『過剰適合者』は文字通り艦の記憶と本人の人格が通常の艦娘よりも大きく結びついている艦娘を指す」
提督「そして規定練度の基準とは、艦娘本人と艦の記憶との結びつきがどれくらい強くなったかで規定される」
提督「規定練度が高ければ艤装の力を大きく活かすことが出来、戦闘も優位に運べるので練度水準を示す標識のひとつなのだが・・・」
提督はおもむろに机の引き出しを開けると小さな箱を取り出し、その箱から1つの指輪を取り出した。
提督「『過剰適合者』は特定条件下において『これ』を付けている艦娘以上に適合率が高い。規定練度で言えば最低100以上だ」
提督「『これ』はそもそも規定練度上限に達した艦娘と艦の記憶との結びつきを強める言わばオーバークロッカーのようなもの」
提督「だが『過剰適合者』たちは天然でその状態にいるというわけだ」
通常規定練度は99が上限でありそれ以降は存在しなかった。しかし戦域が拡大するにつれ新型や上位互換の深海棲艦と戦う様になったため、その上限値に達した者のみに有効な上限を突破する装備が作られた。それが今提督が手にしている銀色の指輪である。
それは戦力把握のため元帥府に届出をしなければ支給されず、更に装備を有効にさせるには左手の指に装着せねばならないため付いたあだ名が『ケッコンカッコカリ』である。
規定練度99と100以降の差は大きく、1つの鎮守府の除き中将以降の鎮守府にはケッコン済み艦娘が最低1名はいるほどだ。
提督「『過剰適合者』が十分にその威を発揮できる特定条件下は「艦娘本人が自分の肉体の主導権を半ば離している状態」のようだ。要は無我夢中の状態下で規定練度100以上の状態になるようだな。それを確かめたかった」
榛名「そうだったのですか・・・でもなぜ分かっていながらそのようなことをなさったのですか?」
提督「嫌な予感がした。ただそれだけだ」
艦娘s「「「「「はあ・・・」」」」」
そんな他愛もない理由でとてつもない労力を払ったと思うと皆脱力するしかなかったようだ。
提督「お前ら第6感を舐めてるだろ。いいか6感というのはだな、人間に備わっている野性的な本能から―――」
提督の薀蓄が始まった。こうなると長くなるため艦娘たちは部屋を後にしようとした。無礼だろうが何だろうが知ったことではない。
提督「あ、榛名。明日大和連れて5-4行くからよろしく。ブリーフィングで説明するけどね」
榛名「へ!?」
突拍子もない無茶苦茶な発言に流石の榛名も愕然とするしかない。他の艦娘たちは言葉を失っている。
提督「詳しいことは朝説明するから今日はもうお休み」
そういうと提督もまた自分の私室へと向かい始めた。どうやら今日はこれ以上話をする気が無いようである。
それぞれがそれぞれの寮室へ帰るが提督を除きその心は一致していた。
「大和(さん)かわいそう・・・」
武蔵は大和と共同で生活している寮室の扉を開ける。時刻は既に22時35分消灯時間寸前だ。
大和「おかえり武蔵。何かあったのですか」
武蔵「い・・・いや。そう大したこと・・・・・・いや。大したことか。取り敢えず明日になれば分かるから今日はもう寝ようか。うん」
かなり歯切れが悪いようだが武蔵が強引に会話を終わらせ就寝準備に入ったため大和は何も聞き出せなかった。
大和「おやすみなさい。武蔵」
武蔵「あ、ああ。お休み」
就寝準備を終わらせた2人はそういうと電気を消し床に就いた。
翌朝7時丁度。朝食を食べ終えた大和と武蔵は電光掲示型の編成表を見ていた。
大和はそれを見てフリーズしているが無理もない。配属された艦隊を見ると
1:榛名改二
2:大和
3:鈴谷改
4:熊野改
5:加賀改
6:赤城改
どう見ても主力艦隊であり、大和を除いた平均レベルは約97と非常に高い。
大和は凍ったままの表情で武蔵に話しかけた。
大和「あ・・・ありのまま今起こったことを話します」
大和「編成表を見たら私が主力艦隊に配属されていました」
大和「な・・・何を言っているのかわからないと思いますが、私も何が起こっているのかわかりません」
大和「頭がどうにかなりそうです」
大和「尖った采配だとかウルトラCだとか。そんなものでは断じてありません」
大和「もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました」
それに対して武蔵は沈黙で答えた。
大和「何か言ってください武蔵~!」
大和は半泣きである。だが武蔵は大和に言わねばならないことがあった。
武蔵「大和・・・出撃海域の確認はしたのか」
それを聞いた大和は「艦隊のレベルを知ってもらういい機会だ」として3-2-1なのかもしれないと希望の目で編成表を見つめなおした。
第一艦隊
出撃先:5-4
1:榛名改二
2:大和
3:鈴谷改
4:熊野改
5:加賀改
6:赤城改
大和は再びフリーズした。その眼には 出撃先:5-4 の文字が映っている。
普段の大和ならばパニックを起こしているが事態が事態なだけにパニックさえ起こせず逆に妙に冷静であった。
大和(ここで質問です。出撃先が5-4ということをどう受け止めるでしょうか)
大和(3択です―ひとつだけ選びなさい)
大和(答え1:頭脳明晰な大和はこの出撃先か自分の配置が間違いであることに気付く)
大和(答え2:武蔵が「これは夢だ。起きろ大和」と言って起こしてくれる)
大和(答え3:事実である。現実は非常である)
数十秒フリーズしている大和にばつが悪そうな顔をした武蔵が決定的な言葉を投げかける。
武蔵「これは現実だぞ大和。昨日提督が会議で「明日大和連れて5-4行くからよろしく」と言っていたからな」
答え―3 答え3 答え3
その後の大和の記憶は極めて曖昧である。
黄色い目をした戦艦ルや空母ヲやら『姫』『鬼』と言った深海棲艦の中でも精鋭の存在と戦った記憶があるような無いような感じである。
それどころか自分の被弾状況や戦果、どうやって鎮守府に帰ったかさえ曖昧だ。
本人の感覚からすれば「気が付いたら夜でベットの上にうわの空で座っていた」という状況である。
しかしブリーフィング時に榛名から言われた「取り敢えず敵を撃って沈めてください」という彼女らしからぬ大雑把過ぎる指示だけは頭に残っていた。
武蔵が「お疲れ。大和」と肩を優しく叩くと大和の意識はブラックアウトしそのまま眠りについた。
20時30分執務室。提督の爆笑が室内に響き渡っている。
提督「いやぁまさかそんな戦果が上がるなんて思わなかった。しかも出撃後本人はずっと上の空っていう―――」
加賀「提督」
榛名「笑い事ではないかと思われますが・・・」
提督の机上には本日の5-4出撃の戦果が書かれた用紙が置かれている。大和の戦果は主力艦隊と比較しても何の遜色もない極めて上々のものであった。
平時であれば3度ほどの出撃で最深部の制圧が出来る海域であるが本日は1発成功ということも提督の爆笑の要因の1つなのかもしれない。
しかし共に出撃した秘書艦2人の懸念ももっともである。出撃後の大和はずっと上の空で外界からの刺激に極めて鈍感であったからだ。
ただ単に精神的疲労でそうなっているのかそれとも―――
提督「アバッ!?」
笑い続けた提督が突如短く痙攣するが敢えて2人は動かない。そう重篤なものではないと経験的に分かるからだ。
それによって正気に戻ったのか提督はいつもの調子に戻る。
提督「まぁとにかく・・・あの状態の大和は使い物になる。これだけ分かれば十分だな。あの状態の大和には要所要所で活躍してもらうことにしよう」
提督は艦娘を非常に大事に扱う反面時に数字でものを見ることをすることがある。一見矛盾した行いであるがそれがまたこの鎮守府が戦果の高い理由の1つでもあるのだ。
提督「2人の仕事も俺の執務も終わったことだし今日は早めに終わりに―――」
提督が業務終了を言いかけた時に電話が鳴った。元帥府とのホットラインである。
提督「俺だ」
提督は相手を確認することなく電話に出る。提督は電話相手と少し喋ると次の言葉を呟き電話を切った。
提督「26日から31日まで臨時会合?分かった。付近との中将へ連絡よろしく」
なんともドライなやり取りであったが見慣れた光景である為2人は一切言及をしなかった。
提督「だってさ。明日の朝正式に連絡するよ。やったね皆!お休みが増えるよ!」
秘書艦2人の思う所は同じであるが口にはださない。彼女たちも色々『訓練』されたが認めたくないのだ。
提督「さて・・・今日はおしまい!」
榛名・加賀「「お疲れ様です」」
提督「うん。お疲れ」
3名はそういうと執務室を後にした。
翌朝6時30分執務室。提督は始業準備を終えると会合の旨を伝えようと放送室へと向かおうとしていた。
榛名「提督!これをご覧下さい!」
そこに榛名が飛び込んでくる。タイミングが悪かったうえに榛名がドアを勢いよく開けたためドアが顔面に直撃した提督のダメージは尋常ではない。
提督「~~~~~~~っ!」
提督は蹲り激痛に悶える。脆弱な肉体で痛みを耐えたため血圧が上がり鼻血が流れ出す。
榛名「だ、大丈夫ですか提督!」
提督「大丈夫だ。問題ない」
心配そうに寄り添う榛名を手で制す。
榛名「も、申し訳ございません。ですがこれをご覧ください!」
鼻を赤くし涙目になりながらも提督は榛名から手渡された用紙を受け取った。青葉が発刊している鎮守府内新聞だ。
提督は大和にご執心?超采配の真相は如何に?!
先日の編成表を見て驚いた方も多いでしょう。我が鎮守府に来てからまだ数日で実践経験も浅い大和さんが主力艦隊に配属されあろうことか5-4に出撃させられるという珍事が発生しました。
通常の提督であれば3-2-1で最低限の練度を上げ、その後4-3にて高速育成を行い十分な練度に達してから5-4海域の編成に組み込むはずです。この珍事の理由は何でしょうか。青葉取材してみました。
遡れば10日ほど前提督は大型建造にて大和さんの艤装を建造し、喜びのあまり血圧が上がりそのまま1週間の寝たきりコースになりました。その時から色々おかしかったのです。
あの提督が艤装建造1つに狂喜乱舞し自分の体調が見えなくなることは異常です。ですので何らかの執念か思惑かが提督の中にありそれが達成されたことに対して狂喜乱舞したとすれば何らおかしくはありません。
決戦戦力の補充完了や大型建造苦節20回の成功であると思いますがそれでもあの狂喜乱舞の様相には一つインパクトが欠けます。
青葉の有力筋の取材によれば恐らく提督の過去の女説が有力かと思われます。深海棲艦発生前に何らかの理由で大和さんに似た恋人が奪われ―――
最初の方は事実とまともな推測が書かれているが「有力筋の取材によれば」の部分から徐々におかしくなっていく。
記事中盤の艦娘Kへのインタビューで艦娘Kがないことないこと言いまくった為、さらに暴走が過熱し挙句の果てには「榛名第一秘書艦と旗艦の座の危機!」とあり得そうもないことまでもが書かれている。
どう見ても序盤以外はゴシップ記事その物であり事実1割嘘9割と言ったところか。
提督「放送内容が1つ増えたな・・・」
提督はため息をつくと榛名に朝食を済ませるよう指示して自らは放送室へと向かった。
提督「俺だ。今月26日から31日まで臨時会合が入った。君たちからすれば非常に喜ばしいことだが臨時である為延長休暇は認められない。あと電は朝食終了後執務室に来てくれ。以上だ」
そういうと放送を切り自分もまた朝食を取りに向かった。
大和「すごいですね・・・昨日の出来事が今日既にここまでの文章になっているなんて」
大和と武蔵は食堂にて朝食を取りながら新聞の話題に花を咲かせていた。大和は青葉の情報収集能力に感心していた。
どうやら大和は茫然自失の状態から復活し普段の調子に戻っていたようだ。
武蔵「だが電さんが呼び出されたことを考えると8割がた嘘だな。インタビューの内容もあり得なさそうなことばかりだし」
武蔵「事実でまともな推測が出来ているのは恐らく3行目まで。それ以外は青葉の捏造だな」
大和「そうなのですか・・・」
大和は少しだけがっかりする。確かに題材発見、インタビューを含む記事作成、印刷、発刊を1人でやるには1日では足りないような気もするからだ。
大和「ところで臨時会合や休暇延長ってなんなのでしょうか」
大和は聞きなれない単語の意味を武蔵に尋ねる。
武蔵「あぁ。そのことについては落ち着いてから話そうかと思ったが臨時なら仕方ないな」
武蔵「提督の言う会合というのは我々の間では『7英雄会合』と言っている。通常は3か月に1回行われ元帥と7英雄が顔を合わせ重要な事について決定したり作戦の指針を決めたりする会議だな」
武蔵「会合時には7英雄全員が本土の元帥府に召集されるため艦隊の運用が止まるんだ。もっともこの鎮守府では提督が居なくても回るようにはなっているがな」
武蔵「そのため7英雄の鎮守府に所属する艦娘は何もしなくて良い状態になる。会合中の通常任務は付近の中将が分散して請け負うため休暇状態だな」
武蔵「だが何もない鎮守府で待機させるのも非情だということで7英雄鎮守府所属の艦娘は会合期間中は本土に戻り好きに行動していいということになったのだ」
武蔵「そのため会合は我々にとって連休がもらえたのと同義だな。それに加えて事前申告し認められれば会合終了後も休暇を使い本土に残ることもできる」
大和「でもなぜわざわざ対面して更に数日間も会合するのでしょうか」
武蔵「わからん。そこに関しては一切我々には伝えられないようにしているからな。私は休暇がもらえたことを喜べばいいと思うぞ」
大和「そうですね。お財布にはあまり余裕がありませんが連休を楽しみたいと思います」
武蔵「なに。来月になれば財布に余裕などいくらでもできるからな。散財してくるといい」
武蔵「さて!25日までまだあるし今日も頑張るとするか。大和も早くここに慣れろよ」
大和「頑張ります!」
そういうと2人は食事を終え片づけると、どこからか聞こえる青葉の悲鳴をBGMに編成表の確認へと向かった。
投下終了。次回は『7英雄会合』です。提督メインでお話が進んだりします。投下は今日から7日±2日くらいです。
このSSの設定には大きく3種あったりします。
1つは基礎設定。これは艦娘は人なのか、それとも艦の生まれ変わりなのか。といった他のSSでも見られるものです。
2つ目はこじつけ設定。これは高速船の瞬間物質移転装置設定などの「これをしなければ艦これの仕様上にどうしてもならない」というものです。これからも登場します。
そして3つ目はオリジナル設定です。これは当SSのほぼ完全オリジナルな設定で『過剰適合者』や第3次世界大戦などがこれに当たります。オリ設定がある理由としては、物語の進行を早くし冗長になるのを防ぐ狙いがあったりします。
完全に分類されるものではありませんが基本この3つの設定でこのSSは回っていきます。
少しだけネタバレすると登場人物中一番のチートスペックは提督だったりします。当然ほぼオリ設定の世界の住人です。
それでは。
こんばんわ。E-1から地獄を見るとは思いませんでした。
でも秋E-4よりはましでしたね。
というわけで再開です。
5月25日午前7時30分。鎮守府の飛行場には200人ほどが座れそうな大型の飛行機が着陸している。内部の椅子には鎮守府の全艦娘が思い思いの席順で座っていた。
提督「それじゃぁ出発するぞ。シートベルトは締めておけよ!」
提督が浮かれる艦娘たちに檄を飛ばす。
提督「それではお願いします」
提督がパイロットにそういうと飛行機はゆっくりと動き始めた。
会合は26日からだが安全を考慮した航路で行けば13時間ほどかかる。その為その前日には出発する必要性があるのだ。
武蔵「大和からすれば2週間で里帰りか。実感が沸かないだろう」
大和「そうですね。でも養成学校の皆とも会いたいですし、話せるネタは十分に手に入ったので話題には困らないと思います」
大和が来てから約2週間が経過していた。5-4采配のようなことはあの日以来一切起きていない。しかし未来の艦娘たちにはありふれたことでも十分な体験談になるのだ。
武蔵「だろうなぁ・・・実戦2回目にして5-4は話題になるよな」
大和「ソウデスネ・・・」
大和が遠い目をする。あの日以来その話題を振ると心此処に在らずといった調子になるのだ。
武蔵「そういえば本土でやりたいことや食べたいものは調べたのか。せっかくの本土での連休がもったいないぞ」
武蔵が強引に話題を変える。
大和「はい。いろいろ調べました。でも食事に関してはあのお二方に勝るものがあるかどうかといった感じでしたが・・・」
武蔵「それはあの2人が別格なだけだ。実際そこのところは1つの災害を除いて恵まれていると思うぞ」
そんな話に花を咲かせていると飛行機が安定飛行に入った。それと同時に大和は1つの懸念を思い出す。
大和「そういえば武蔵。私たちの滞在先はどうなるのでしょうか」
武蔵「それについては問題ない。ほら」
武蔵が指差すと提督が2つの箱を持って歩き始めている。
提督「ほれお前ら。滞在先のホテルのキーとホテルの周辺地図だ。適当に持って行ってくれ。部屋割は寮と同じだからそこのところはよろしく」
武蔵「な」
大和「そうですね・・・」
これだけの規模の人数が動くとなればホテルの貸切くらいはあるようだ。
大和「なにか休暇中に注意すべきことはありますか」
武蔵「そうだな・・・避けなければならないのは事件事故に巻き込まれることだな。我々は艦娘、本土防衛を担うものだ。その人的損失は大きな痛手だからな」
武蔵「それと・・・非推奨なのは男を作ることか。我々は国家公務員でもある。当然一般には開示出来ない情報に触れることも多々あるからな。それの漏えいを防ぐ措置だろう」
武蔵「それくらいだと思う」
大和「服装に関しては・・・」
武蔵「本土休暇中は例外で私服での行動が許されているぞ。元帥府もそんなガチガチな頭はしていないし、元帥の性格がアレだからな」
どうやら武蔵は元帥の性格を知っているようだ。
提督「それと分かってると思うが、俺と皆とでは止まる場所が違うからな。何かあったら艦種長に連絡するように!」
鍵を配り終わった提督の声が響く。
大和「そうなると提督は一体どこで滞在するのでしょうか・・・」
武蔵「あの提督のことだ。きっと帝国ホテルのスイートルームでも取って優雅に過ごすんだろうよ」
大和の素朴な疑問に武蔵は少しばかしの嫌味を込めて答えた。
提督「 何 故 ば れ た し 」
いつの間にか武蔵の横に提督は立っていた。
武蔵「うぉぉぉぉおおおお?!」
いきなりの提督とのエンカウントに武蔵は驚きの声を上げる。
提督「こうでもしないと金がたまる一方でつまらないんだし・・・」
提督は拗ねた声でぼやくと2人の近くを後にした。
大和「提督ってかなり財産がおありのようですね・・・」
帝国ホテルのスイートとなると1泊でも相当の費用がかかる。それを6日間借り、更に十分な余裕がありそうな財力は相当なものだ。
武蔵「だな・・・。しかし藪を棒でつつくものではないな。いつ蛇が出るか分からん」
謎に満ちた提督の素性がまた1つ明らかになった瞬間であった。
21時空港入口。無事に着陸し荷物を受け取った鎮守府一同はここで2手にわかれた。
片方はリムジンに迎えられ入っていく提督。もう片方は数台の大型バスに乗り込む艦娘たちである。バスの表札には「ショートランド泊地艦娘御一行様」と書かれている。
一旦大まかな艦種に分かれ、荷物を詰め込み皆がバスに乗り込むと移動し始めた。
バスでおおよそ30分くらい移動すると目的のホテルが見えてくる。一見質は悪くなさそうだ。
バスはホテルのロータリーで停車すると皆が次々に荷物を受け取ってホテルの中へと入っていく。大和と武蔵も同じような行動をとった。
ホテルの質は見た目通り悪くなく、部屋も清潔に掃除されていた。
長旅の疲れからか皆軽くシャワーを浴びるとさっさと眠り込んでしまったようで、大和と武蔵も同じように眠り込んだ。
一方の提督もチェックインを済ませると部屋に入りシャワーを浴びて就寝準備を終え、電気を消すとベットに入った。
提督(眠りたい時に眠れる喜びをこっちに来るたびに思い出すな・・・)
提督(昔は眠りたくとも眠れる状況でなかったことが多かったからな・・・。夜襲もあって皆で交代制で見張っていたこともあったっけ)
提督(まぁ今となっては些細な事に過ぎないけどな・・・)
そう思い出に耽りながらも睡魔には勝てずに瞼が落ちていく。昔は睡魔ごときは制御できたはずだが、一応平和になったことで制御する必要が無くなったのだ。
そして提督もまた微睡の中へ落ちて行った。
翌日8時。提督は制服に着替えるとホテルのエントランスでタクシーを手配していた。彼の周囲はまるで結界でも張られたかのように往来が無い。
それも無理は無い。提督の白い制服には山ほど勲章が付いており、その雰囲気は高貴さを湛えていたからだ。
外に出てタクシーを待つ間でも、提督の周りは人が避けて通る。悪い意味で避けられているのではないことはスマートフォン片手に彼の写真を撮る利用客をみればお分かり頂けるだろう。
やがてタクシーが来ると提督はそれに乗り込み元帥府の住所を告げる。タクシーは言われたとおりにその住所へと提督を運んだ。
提督は目的の建物に入ると迷わずエレベーターに乗り込み特定の順序で階のボタンを押す。するとエレベーターは高速で下降し始めた。
数分後停止したエレベーターの扉から提督が出てくる。そしてそのまままっすぐに地面むき出しの道を歩いて行く。
するとすぐに白いフローリングの床となった。どうやら目的の地下施設に着いたようである。
そのまま提督は指定された会議室へと足を運んだ。
提督「入るぞ」
そう言ってドアを開けると、そこは8つの席が用意されたドーナッツ状の円卓であった。円卓の空洞部分には何かしらの機械が埋め込まれている。
??「お前が2着か。まぁ順当だな」
既に所定の位置に座っていた坊主頭の大男が声をかける。その声は闘気に溢れておりバトルジャンキーなら喜んで殴りかかるだろう。
身長は190センチ弱で筋肉隆々である。体重は軽く100キロはあろうか。基礎代謝が高いのか暑がりなのか顔は常に赤みがかっている。
提督「まぁいつも通りに集まるんじゃね?『憤怒』」
提督はさして動揺することもなく同僚に答えた。
憤怒「いつも通り・・・か。そうなるとあいつの件についても増えていそうだな『怠惰』」
提督「今のうちに刃でも磨いておくか?そろそろ風紀的に斬らなきゃいけなさそうな感じがするし」
するとまたドアが開きいかにも寝不足そうな髪の長い男が入ってきた。
身長は175センチほどだが提督と比較しても細目に見える肉体をしている。
??「つまりあいつは斬られなきゃならないほど食ったって事か。羨ましい」
その声は妙に気怠そうである。
憤怒「よう『嫉妬』。羨ましいということは人間性は真似できないようだな」
嫉妬「あいつの人間性は真似しようとさえ思わない」
提督「だよなぁ。あれだけは真似したくないわ。あいつ絶対他の文化圏から来たって」
??「そう思って俺は既に刃を磨いてあるぞ!HAHAHA!」
開いていた扉から整髪剤でガチガチに髪を固めた男が入ってきた。
提督とほぼ同じ体格だが肌は極めて健康的な色をしている。それどころか日焼けしていて真っ黒だ。
嫉妬「相も変わらず未来予測と事前準備がお得意なことで・・・」
憤怒「しかもその予測や準備が一度も裏切られたことが無いってのがまた・・・」
提督「予測や準備は必要なことだが全能ではない。舐めてかかるといつか痛い目を見るぞ『傲慢』」
傲慢「その『いつか』の時の為に備えるのだよ!」
憤怒「これで半分か。だがあの2人は絶対に遅れるぞ。賭けてもいい」
??「あの2人っていうのは一体誰の事なんでしょうかねぇ・・・」
身長155センチほどの小太りの男性が入ってきた。その手にはコンビニの袋が下がっており、新発売のスイーツが入っていた。
傲慢「おや。今日はどこかで寄り道して来なかったのか。学習能力が遂に身に付いたようだな」
嫉妬「いーや違うね。こいつが寄り道しないなんてありえない。きっと入口付近に店が無かったんだろ。コンビニの袋がいい証拠だ」
憤怒「いい加減その食欲を抑えたらどうだ。いざという時に脂肪が邪魔して動けないなんて末代までの恥だぞ『暴食』」
暴食「2か月前は問題なく動けてたから大丈夫だし!」
提督「で。あの2人の内の1人が来たわけだが何を賭けたんだ?敗者には敗者の務めがあるだろ」
憤怒「い、いや。もう1人の方で私は賭けたぞ。指定場所が悪ければ一番遅い可能性も・・・」
??「ねぇよ筋肉ダルマ。最近は満たされてんだ」
身長180センチ弱のサングラスをかけた金髪の男性が入ってきた。
傲慢「おやおや。あなたが満たされるなんて珍しい。明日は雹でも降るのでしょうか『強欲』」
強欲「ちげぇよ。俺もやっと手に入れたいものが手に入って・・・その・・・」
嫉妬「あなた意外と一途ですからね・・・」
提督「犯罪者には堕ちてないだろうな。お前まで斬らなきゃならないなんて面倒だ」
強欲「落ちてねーし!」
暴食「でも資源や新装備なんかは未だによく欲しがるよな。25万常時備蓄なら十分だと思うが」
強欲「脂肪を欲しがるお前に言われたくねぇ。で、何を賭けたんだ筋肉ダルマ。賭けに負けたんだから何か寄越せよ」
憤怒「う・・・ぐぐぐぐぐぐ・・・」
憤怒が唸っているのをニヤニヤと眺める強欲。しかし突如強欲は蹴り飛ばされた。
強欲「アバッ!?」
元帥「後がつかえてるんだ。さっさと入れ」
強欲は恨めしそうな目を向けるが、扉の前で立っていたのが悪い。
室内にいる6名より多少老い、白髪交じりの男性が入ってきた。元帥である。
元帥「丁度今定刻なわけだが・・・あいつは居ないな。時間にルーズなのは相変わらずか」
嫉妬「夜に頑張るのは想像が容易ですけど」
傲慢「あの男の場合、朝も頑張りかねませんからね・・・」
暴食「俺から見てもあいつは食いすぎだ」
強欲「それを毎日できる体力が俺にも欲しいぜ」
提督「でもそんな面倒な奴も今日で終わり」
憤怒「斬る準備は出来ている」
元帥「じゃ。今日で死ぬ奴は抜きにして会議を始めるとしますか」
そういうと元帥は持っていた携帯端末を操作する。すると円卓の中心から衛星画像が現れ、ある海域が示される。
強欲「旧『アイアンボトムサウンド』にして現5-4・5-5海域か。クソみてぇな思い出しかねぇな」
元帥「ああ。だが問題はそこよりも北東の海域だ」
全員がその海域の北東の海に目を向ける。
傲慢「黒い点がありますね・・・深海棲艦ですか。現 時 点 で は あまり脅威には見えませんね」
元帥「相変わらず察しが良くて助かる。この画像は今年の1月に撮影されたものだ」
元帥「そしてこれが・・・2月、3月、4月、そして5月だ」
元帥は手元の端末を操作し画像を変えていく。
提督「いくら衛星からの深海棲艦特定の難易度が高いとはいえ短時間で集まりすぎだな。恒常戦力ではなさそうだ」
海上にある黒点は僅かづつではあるが確実に増えている。
憤怒「『アイアンボトムサウンド』の奪還か。小癪な真似を・・・」
性格に難があるとはいえ全鎮守府トップの提督たちである。相手の目的を見抜くのに時間は要らなかった。
嫉妬「おそらく襲撃時期は8月でしょうかね。私ならそうします」
暴食「8月には大規模な敵地侵攻作戦があるから守りも薄くなるしな」
傲慢「そうすると我々の任務はこの深海棲艦の壊滅ということになりますね」
元帥「お察しの通りだ。可及的速やかにこれを排除しなければならない」
しかし「じゃぁやろう」という空気にはならなかった。
艦娘による対深海棲艦との戦いは、今まで例外を除きほぼ奪還作戦である。攻勢にでる深海棲艦を相手取るのは初めてなのだ。
しかも現在の衛星画像から分かる戦力は恐らく平均的な1鎮守府のおよそ10倍。見えている数の20倍は居ると考えるのが提督たちの常識なのだ。
衛星画像は不鮮明かつ粗いもので敵の艦種は分からない。しかしこれ以上深海棲艦の隠蔽技術を掻い潜る偵察衛星を作るのは現段階での技術では不可能に近い。
そのため実際に現地で戦闘をしなければ敵の具体的な戦力は分からないのだ。
戦争は情報が命。正体不明の相手を殲滅するのが如何に難しいかは当人たちが一番よく知っている。
提督「つまりうちの鎮守府が事前偵察を行い情報を入手してから攻め込むわけか」
提督「それも可能な限り早く・・・」
元帥「そうなってしまうな」
これ以上の戦力が結集してしまえば更なる激戦は必至。しかし無策で突っ込むわけにもいかないというジレンマに陥った。
艦娘による敵戦力の偵察は極めて難易度が高い。深海棲艦は通常海底にいるとされ、浮上兆候が無い限り発見は極めて困難である為だ。
また海上という特殊な地形上、物陰に隠れる事も出来ず、すべては天候次第という運要素が極めて強いものなのだ。
戦艦・空母などの大型艦種で行けば水の揺らぎや音で発覚しやすく、駆逐、軽巡で行けば発見されたときの被害は甚大。
潜水艦は敵が浮上しているときこそ有効な艦首だが、海中は基本深海棲艦のテリトリーである為さらに発見されやすい場合がある。
これが攻勢作戦であれば瞬間的な物量に物を言わせることも出来ただろう。しかし5-5以上の難易度であることは容易に想像がつくため、物を言わせる物量自体が不足しているのだ。
室内に重い空気が立ち込める。何としても索敵方法を探らなければならない。
傲慢「ステルス迷彩の低騒音の偵察船の使用」
提督「NON。時間がかかりすぎる上に、砲撃されたら1発でお陀仏だ」
嫉妬「超音速戦闘機による高速偵察」
提督「NON。奴らの対空砲火を掻い潜れるスペックを持った戦闘機が存在しないし、一発勝負過ぎる」
暴食「抵騒音のタービン開発」
提督「NON。妖精さんが開発できる圧縮兵装は基本第2大戦下の物だけだ」
憤怒「複数の偵察部隊を編成し陽動しながらの偵察」
提督「NON。想定被害が大きい上に、それではもはや戦闘と変わらん」
強欲「・・・出撃は」
提督「NON。誰が担当すると思ってる。俺を更に早死にさせる気か」
各々が策を提案するが、どれもデメリットが大きすぎる。
元帥「結論は・・・低被害かつ高隠密性を持ち、会敵したときに他へ知らせる余裕無く殲滅できる偵察方法か」
そんな都合の良い偵察方法など―――
??「いやー。ごめんごめん。遅れちゃった・・・って何この空気」
突如ドアを開け入ってきたのは身長180センチほどの男。
その容貌はヴィジュアル系の男性アイドルと言われたら何の違和感もない。さらに服装ははだけており、さらにその容貌を輝かせた。
その腑抜けた感じに場の空気は図らずも弛緩した。
7名「出たな。クズめ」
??「人を見るなりクズ呼ばわりって酷くね!?」
元帥「事実だろうがクズめ。まずは遅れた理由を聞こうか『色欲』」
色欲「理由は・・・寝坊による遅刻です」
傲慢「その寝坊の理由ですよ。理由」
色欲「到着が夜遅くになってしまって・・・」
嫉妬「羨むほどにここから近いじゃないですか・・・あなたの鎮守府。遅れようもないと思いますがね」
状況証拠は最初から揃っている。吐くのを待つだけなのだ。
強欲「さっさとゲロっちまえよ。楽になれるぜ」
色欲「う・・・ぐ・・・」
提督「それに我々が気が付かないとでも思っているのか。微かだが・・・女臭い。お前の体臭に加えて違和感のある臭いがある」
憤怒「それも1つや2つではないな。最低2人の別人の臭いがする」
色欲は冷や汗をかきながらそっぽを向いた。明らかに図星である。
これ以上事実の追及をしても無駄だと感じた一同は別の質問に変えた。
傲慢「まさか無理やりじゃないでしょうね」
色欲「無理やりするわけないだろ。合意の上だ」
この段階で墓穴を掘っているがあえて無視して話を進める。
元帥「またいつもの様に落としたのか。貴様一体何人その手で落としてきた」
色欲「100から先は覚えていないな」
ドヤ顔で色欲が口にする。しかし致命的なミスを犯したことに気が付かなかった。
提督「100から先・・・ということは少なくとも100人か」
傲慢「確か・・・艤装適合者種数は現在140前後だったな」
色欲「!」
色欲が失態を悟る。しかし既に手遅れであった。
憤怒「内駆逐艦適合者種数はおおよそ60弱・・・アウトだな」
1鎮守府に同じ艤装の適合者がいれば問題ないと思うかもしれないが、軍紀にて基本1人までと決まっているのだ。
暴食「そして駆逐艦適合者の最も多い年代層は12弱~13歳まで。食っちゃいけないラインを越えたな」
元帥「・・・決まりだな」
ガタッ。色欲と提督以外の全員が一斉に立ち上がる。
色欲は逃げ出そうとするが6人相手では分が悪く、6名全員に肩を抑えられる。
傲慢「身内から性犯罪者が出るとは思いませんでした・・・。一線だけは超えてないと思ったから大目に見ていましたが・・・」
元帥「遺言はあるか?」
色欲「アイエエエエエエ!」
凄惨な処刑が始まろうとしていた。6人と色欲の意識はそれに向かっている。しかし提督は何かを考えるように室外へと出て携帯端末を操作し電話をかけた。
提督「休暇中すまない。俺だ。重要な話をしたいんだが・・・20分ほど時間が取れるか?」
提督「済まない。助かる。え。外野がうるさい?済まん。こっちも少し静かなところに移動しよう」
提督はヤメロー!と叫ぶ声が聞こえなくなる場所まで移動した。
提督「済まない。ここなら大丈夫か?よし。なるべく手短に話す。詳しいことは鎮守府に戻ってからになる。済まない」
そこから提督は端的な質問をいくつかした。書類上では知っているが実情がどうなのかは扱う人間に実際に聞いてみるしかない。
提督「そうか・・・それで1つ頼みごとがある。まずは可能か不可能かだけ教えてほしい」
提督は自らのアイディアを相手に伝える。
提督「―――――ということなんだが可能か?」
電話口の相手は困惑している。
提督「出来なくもない・・・か。そうか。かなり無茶を通すことになるが、それが出来る前提で話を進めてしまう。許してくれ」
電話口の相手はかなり難色を示す。
提督「不満は分かっている。だが元帥府のお墨付きになる事は確実だ。俺もそれ相応のことをする。だから協力してくれ。頼む」
電話口の相手は渋々納得したようだ。
提督「有難い・・・本当に有難い」
提督は謝辞を述べる。手元の時計を見ると既に15分以上が経過していた。
提督「貴重な休暇を済まない。話は終わりだから切ってくれて構わないよ。ああ。ありがとう」
提督がそういうと電話は切れ、提督は会議室へと戻り始めた。
色欲「ヤメロー!ヤメロー!」
憤怒「諦めるんだな。性犯罪者の最後なんてこんなもんだ」
暴食「禁断の果実を食った者は楽園から追放されたという。まさに今のお前だな」
戻ってみると色欲は壁に押さえつけられている。その正面には元帥が抜刀しており、その切っ先は色欲の股間へ向かっている。
提督「お前ら一旦ヤメだ。解決策に近いものが見つかった」
元帥「分かった。その策は後で聞こう。今はこいつを処刑するのが先だ」
提督「そのクズのおかげで発端が見つかっても・・・か?」
一同「・・・・・・」
元帥「処刑は後だ。皆、手を放してくれ」
押さえつけていた5人が一斉に手を放す。
色欲「助かった~!サンキュー『』」
後にするということは見逃すことと同義である。その為色欲は九死に一生を得た形となった。
提督「その名前で今は呼ぶなと言ったはずだが・・・やはり斬り落とした方がいいか?」
色欲「アイエッ!?」
色欲が提督の覇気に当てられて悲鳴を上げる。
元帥「・・・それで解決策とやらは?」
今度は元帥が助け舟を出す。
提督「そうだったな。皆、席についてくれ」
そういうと全員が所定の席に座った。
提督「それで解決策なんだが・・・」
そう提督は切り出した。
提督「―――――という方法なんだが」
傲慢「無茶じゃないのかね・・・」
憤怒「それはないと思うぞ・・・」
強欲「無理くせー・・・」
歴戦の提督たちですら難色を示す内容であった。
またクズのお蔭でイメージが沸いたというが、そのクズが何をしたかは明白である。こいつの頭の中も案外ピンク色じゃねぇか。と一同は思ったが口に出さないでおく。
元帥「確かに全ての問題を解決しそうな手ではあるな。だが今度は可能かどうかという壁が立ちはだかるぞ」
提督「それについては問題ない。お前らがバカやっている内に連絡を取った」
嫉妬「回答の方は?」
提督「出来なくもない・・・だそうだ。賭けてみる価値はありそうだが」
元帥「そうだな・・・やってみないと分からんし、これ以上いい手があるとは思えない」
提督「採択でいいんだな?」
元帥「異論のあるものは?」
一同「異議なし」
元帥「だそうだ」
提督「それについて1つ頼みがある。作戦遂行者に元帥府から特別手当の支給を頼みたい」
元帥「無論だ。相当の難易度だから支払わなければ割に合わんだろう」
提督「感謝する。此方も相応の対応はする」
話題は終わり安堵のため息がそこかしこから漏れる。
「それで・・・俺たちが呼び出された理由はそれだけじゃないだろ」
誰かが切り出す。
「そうだな」
そう誰かが答えると壁際にあるスイッチを押し何かの装置を起動させ、室内の電気を消す。
「さて・・・ここから『本題』に入るとしようか」
談義は更に深いものへと入っていった。
6月1日午前6時半。空港
提督「よし。全員いるな。それじゃぁ帰るとしようか。お願いします」
提督がそう言うと機体が動き始めた。
大和「あうあう・・・」
大和は狼狽している。
武蔵「物欲には勝てなかったな。鎮守府はまさに物流の孤島だ。押さえつけられた欲求が爆発しても無理はない」
大和「給料日は何時なのでしょうか・・・」
武蔵「25日付けで入るぞ。少額だが大和の通帳にも入っていたはずだ」
大和「あと24日もあるんですね・・・」
大和が達観したような目をする。どうやら財布の中は空に近いようだ。
武蔵(少々刺激が強すぎたようだな)
武蔵「まぁ今度からは計画的に使うようにな」
大和「はい・・・」
少額入っていたとはいえ、あくまでそれは艦娘からして少額である。一般的に見れば平均的なサラリーマンの月収強の金額が丸々入っていたのだ。
艦娘の定期会合での移動は行きは通常の大きさの飛行機であるが、帰りはその1.5倍の大きさの飛行機が必要となる。
その余剰スペース全てが荷物に費やされることからどれだけの量の物を買ったかは想像に難くないだろう。
また御用達の店からも艦娘は上客中の上客であり、利益率が先月比250%を達成する店もあるのだ。
武蔵「私は寝るぞ・・・戻ったら明日1日で復旧作業だからな」
朝4時半頃に起き、身支度を整え、荷物を整理し空港へと向かうので睡魔に襲われるのは当然であった。
大和「私も寝ます・・・」
そういうと2人は眠りに落ちた。
22時鎮守府執務室。
他の艦娘たちが室内で荷解きや就寝準備をしている時に彼女らは召集され多少不機嫌であった。
大井「それで、何のご用です?くだらない用事なら撃ちますよ?」
北上「何の用なのさ提督ー。アタシ眠いんだけど」
木曾「この時間帯に呼び出すのは非常識だと思う」
58「てーとく。ごーやもう眠いよぉ・・・」
8「静かに本を読んでいたかったのですが・・・」
401「zz・・・zz」
401に至っては半ば眠りかけている。
提督「不満は十分分かってる。だから手短に終える」
提督「臨時会合にて重大な問題が発生した。その内容なのだが―――」
提督は会合の内容の前半を説明する。
それぞれが何かを言おうとしたがそれを遮るように提督は続ける。
提督「それでその解決策なんだが―――」
それを聞いた反応は予想通り厳しいものであった。
大井「事情が事情なだけに分からなくもないですが・・・無茶です」
8「可能か不可能かで聞かれましたので、出来なくは無いと答えましたが・・・任務遂行となると無理に近いですね」
提督「それでもやってもらわねばならないのだ。悪夢の再現を防ぐために!」
401「通常任務と併用は無理だと思うよ」
提督「それに関しては問題ない。特別任務枠を設けてそれに所属させる」
北上「元帥府のお墨付き・・・って言ってたよね。ぶっちゃけ報酬の方はどうなのさー。無報酬じゃとても無理だよ」
提督「それに関しては・・1人これくらいは出る」
提督が数字を書いて提示する。
木曾「多すぎないか!?」
提督「上限はこの倍まで出してもいいと言われてる」
書かれた数字は艦娘の給与の1年分であった。特別報酬にしたってその額は異常であった。
8「それだけ事態は逼迫しているということですね・・・。分かりました。やります」
8がその内容を承諾した。それを皮切りに全員が作戦に同意した。
報酬の面で全く問題が無いことに加え、『アイアンボトムサウンド』絡みならば遂行せざる負えないと全員が判断したのだ。
提督「済まない。本当に感謝する」
そして提督は意を決したように言葉をかける。
提督「『アイアンボトムサウンド』の悪夢を海の底に沈めたままにするぞ。絶対にな・・・」
全員が頷く。
提督「ならば今日は解散だ。詳しいことは追って知らせる」
そういうと皆ぞろぞろと執務室を後にし、各々の自室へと戻っていった。
投下終了。提督を除く7英雄さんはチョイ役ですのであまり本編にはでてきません。
次回の投稿は番外編に近いもので「大和さんの初連休」になります。
あと作戦内容と遂行状況は書いた方がいいでしょうか。本筋上書かなくても問題なく進むのですが・・・。
時々ネタが混ざりますがガチでシリアスな部分では一切入りません。ですのでネタがあるときは日常的な事だと考えて下されば幸いです。
次回の投稿は前回と同じく7日±2日くらいです。では。
生存報告です。
只今イベントに取り込み中で投稿ができません。E-6?知らない子ですね。
なぜかSS速報VIPを開いていると一定時間でPCがフリーズするのでイベと投稿の同時進行は無理臭かったようです。
29日の21時半には投稿できますのでお待ちください。
なお書き貯めの方は順調に進んでおり、現在大規模作戦編のブリーフィング完了時まで進みました。
それでは。
お待たせしました、再開です。
今回のテーマは「大和さん恥をかく」です。
5月27日13時半。艦娘養成学校応接室。
先日都内を軽く見て回った大和は養成学校にアポイントメントを取っていた。
あまり大したことは話せないけれども、それでも役に立てることがあるのなら・・・と彼女は講演会を提案したところ2つ返事が返って来た。
それに加え、大した話なんて例の5-4しかないから私も行こう。と武蔵も同伴してくれることになり、それを伝えると千載一遇の機会だとして来賓クラスでもてなされることとなった。
教官A「いやぁ助かるよ。現役艦娘2人の話をじっくり聞けるなんてこれが初めてだからな。感謝するよ『』と『』」
大和「いえ。私も現役艦娘の方の話を聞いて感動したので、私もそういう立場になりたいと思っただけです」
武蔵「ここ半年で更に老けたな。そろそろ引退じゃないのか」
武蔵が妙にニヒルな笑顔で教官に告げる。
教官A「バカ言え。まだあと15年は余裕で行けるわ!」
教官Aは大和も武蔵も面識のある教官である。引退を示唆されるほど老けてはいないが、口調から察するに武蔵とは常にこのやり取りが行われていたようだ。
武蔵「私たち以前には誰か来ていないのか?」
教官「残念だがここ半年ほど誰も来ては居ない。皆多忙の身であるから致し方はないがな・・・。だからこそ来てくれて助かった」
艦娘は多忙の身である。さらに大型艦種になればなるほど出撃のせいで帰省は難しくなるのだ。その為出撃経験豊富な艦娘の話を聞ける機会など滅多にない。
大和「話す内容について打ち合わせはしますか」
教官A[いや。必要ないな。我々が聞きたいのはリアルな現場の声だ。原稿を作る必要はないぞ」
大和「ソウデスカ・・・」
大和が妙にしょんぼりする。彼女は昨日自分が話すことを粗方紙に書いていた。
教官A「堅苦しくなるのも問題だしせっかく2人いるから、2人の対談形式で進めてはどうかな?」
武蔵「そうしようか。そのほうがより現場の感じが出るだろうしな」
武蔵が再びニヒルな笑いを僅かにしたのを教官Aは見逃さなかった。この顔の武蔵は何かとんでもないことをしでかす顔だ。
大和「はい。それではそうしたいと思います」
大和は純粋に答える。それを見て教官Aは内心涙した。純粋な為にいつも振り回されてきた彼女を見てきたからだ。
教官A「それでは部屋の方に向かってくれ。ぶっつけ本番だがそれがいいと思う」
大和「え!?」
武蔵「了解した。向かうとするか」
動揺する大和を尻目に武蔵はツカツカと歩き出す。大和はそれに遅れて駆け足で武蔵について行った。
14時第一大教室。軽く700名は入れそうな教室である。その壇上に2つの席が向かい合う様に用意されていた。
ざわめく室内を制するようにスピーカーから声が響く。
教官B「静かに。今日はあの7英雄の鎮守府から現役の艦娘が来てくれた。しかも2人来てくれて、2人とも戦艦な事に加え卒業生だ。心して聞くように」
戦艦という艦首に在校生の心が躍った。戦艦の艦娘の話が聞けるのは稀だからだ。
教官C「マイクよし・・・。それじゃぁ2人とも頼むよ」
そう教官に送り出され2人は壇上の中央に立った。
教官B「必要ないとは思うが・・・一応自己紹介をお願いします」
大和「初めまして。覚えている人がいると思いますが『』です。今回は南東方面第一鎮守府戦艦大和としてここに来ました。よろしくお願いしますね」
武蔵「そして私だ。当然覚えているだろうな。今回は『』・・・もとい大和の補佐としてここに来た。よろしく頼む」
あの2人が同じ鎮守府なのか・・・というざわめきが起きる。2人とも在校中は有名人だったのだ。
教官B「着席の方をお願いします」
教官B「今回は2人同時に来てもらっている上に、同じ鎮守府ということで対談形式で進めてもらう事になった。退屈はしないだろうから寝るなよ!」
教官B「あと2人の配属先の鎮守府についての最低限の知識は教えてあるから安心してくれ」
そう教官Bが2人に告げると室内は静かになった。
教官B「ではまず所属鎮守府の提督の話をしてくれるかな」
武蔵「何から話したものかな。いろんな意味で印象に残る男だとは思うが」
大和「そうですね。提督はとても印象に残る方ですし・・・」
2人は提督について語りだした。
武蔵「私も始めてみた時は驚いた。何だあの顔色の悪さは。一瞬死体が歩いてるかと思ったくらいだ」
大和「ちょっと不気味でしたよね・・・。私の時は点滴までしていましたし」
武蔵「おそらく患っているのは循環器系の内臓だろうな。そうでなくばあそこまで青白くはならん」
武蔵「更に血圧が上がると倒れ、走れば10秒も持たずに息切れし、重いものを持てば鼻の血管が切れて鼻血を出す。『怠惰』というよりは『病弱』だな」
大和「でも病弱な事を除けばかなりハイスペックなお方ですよね」
武蔵「確かに。料理は絶品な上に、未来予知と言っても差し支えないほどの指揮能力。そしてあの眼光の鋭さ。噂ではあの電さんに武術を仕込んだとか」
大和「本気モードの眼光の鋭さは凄いと聞きますけど・・・」
武蔵「事実だ。いくつもの修羅場を潜り抜けている眼だからな」
大和「でも私最近になって気が付いたことなのですけど・・・」
大和「提督の眼光って榛名さんと似てませんか?」
武蔵「私もそう思う。恐らく提督から榛名に移ったのだろうな。だが榛名は実際に戦場に立っている分、数段怖いと感じるがな」
大和「あれだけの場数をこなしていれば当然ですよね・・・」
武蔵「藍より青しというやつだな」
武蔵「しかし榛名の練度は一体何なんだ?榛名1人で一般的な艦隊丸1つ分の殲滅力がある様に見えるんだが」
大和「回避や旗艦砲撃なども凄まじい精度と命中率ですしね・・・」
武蔵「噂では榛名の砲撃の命中率は99%よりも多いそうだからな」
大和「むしろ100%にかなり近いと言った方が適切ですよね」
武蔵「相手側からすれば榛名は練度による理不尽の塊」
大和「ほぼ100%を誇る砲撃命中率も、夜戦における重巡リF級の連撃を全弾回避する回避率も」
武蔵「軽空ヌF級の開幕航空攻撃を三式弾による砲撃で壊滅させるのも、『鬼』クラスの敵を連撃で沈めるのも」
大和・武蔵「「榛名(さん)故致し方なし」」
武蔵「この一言で片付くからなぁ・・・」
大和「ですよね・・・」
武蔵「弾道予測を予測すればいいだとか」
大和「もはや超人の域ですよね」
武蔵「それで「榛名以上の練度を最終的に目指して頂きます」とか。寝言は寝て言って欲しいものだ」
大和「でも・・・そのクラスにならないと鎮守府の、そして防衛圏の最先端には立てないということでもありますからね」
ここで会話が途切れる。武蔵が教官Bに目配せすると彼は箱を手に持ってきた。
大和「これは?」
教官B「事前アンケートをした用紙が入っているから、適当に引き抜いて書いてある質問に答えてくれ」
武蔵「あいわかった」
そう言うと武蔵は置かれた箱に無造作に手を突っ込み中から紙を取り出した。
中を読んでみると「現役の艦娘に聞いてみたいことはありますか」と明朝体の印字で書かれ、それに対する回答が手書きで書かれている。
武蔵「「セクハラはあるのですか」か。うちの鎮守府では基本的にない。余所はどうか分からないがな」
大和「私たちの鎮守府では提督からのセクハラは無いですね。ただし同性に対する艦娘のセクハラや、艦娘から提督に対して行われているセクハラは日常的ですが」
武蔵「知っているとは思うが軍紀にて提督から艦娘へのセクハラは当然禁止されている。しかしそれをした提督を処罰する憲兵隊があることを考えれば、配属先次第ということになるな」
武蔵「噂である鎮守府では、提督による艦娘ハーレムが築かれているとかいないとか。まぁそこに当たったら運が悪かったと諦めてくれ」
大和が武蔵に目配せをすると武蔵は頷いた。
大和「では次に参りましょう。「艦娘の給与はどれくらいなのでしょうか」ですか。私はまだ配属されて間もないのであまりわかりません」
武蔵「だから無理臭くないかと言ったんだ。配属されてまだ半月も経ってないのに質問に答えるのは厳しいぞと」
武蔵「だが分かりませんで終わらせるのも問題だからな、私が答えよう。まず一概にこれくらい貰えます。とは言い切れないものだと思ってくれ」
武蔵「艦娘の給与体系については2つの段階がある。1段階目は基礎手当、2段階目は活動手当だ」
武蔵「基礎手当というのは基本給だと思ってくれればいい。艦娘は形式上は国家公務員だからな。それに恥じない分の金額はあると思っていい」
武蔵「活動手当についてだが・・・これは大まかに4種類ある」
武蔵「出撃手当、遠征手当、執務補助手当、その他の4つだ」
武蔵「出撃手当とは文字通り出撃することによって1回単位で貰える手当だ。高難易度の海域になればなるほど金額は大きくなる」
武蔵「ただし、1-5と3-2-1の出撃では1-5の方が手当てが大きいことを推測すると、単純に海域ナンバーが大きければ大きいほど多くもらえる訳ではなさそうだ」
武蔵「遠征手当も同様だ。基本的に長時間の遠征になればなるほど金額は大きくなる。例外としては支援艦隊くらいだろうか」
武蔵「執務補助手当については秘書艦に1時間単位で与えられるもののようだ。私は秘書艦になったことが無いから分からないがな」
武蔵「そしてその他。これは提督の方が元帥府に申請する必要のある手当だ。先述の3種以外に手当を要することがあった場合に支給される」
武蔵「うちの鎮守府ではもう1人の秘書艦である第2秘書艦、各艦種を取りまとめる艦種長、副艦種長、工廠を管理する艦娘にも与えられているな」
武蔵「哨戒任務には手当がつかないのか。と思う者も居るだろうが、艦娘の基本的な役割である為基礎手当扱いだ」
武蔵「以上の全てを考慮して、提督が毎月24日0時0分から23時59分までに専用ソフトで作戦発令時点で報告し、25日の午前10時には振り込まれる仕組みだ」
武蔵「余談になるが毎月24日はどこの提督もかなり忙しいと思われる。出撃も遠征も何もかも最小限に抑え、終業時刻もかなり早いからな」
武蔵「なぜ今月分の給与がその月の内に支払われるのか。という質問に関してだが・・・私にもよくわからん」
武蔵「一説では轟沈の可能性を考慮するだとか色々言われているが、知っているのはかなりの上層部のみだろうな」
武蔵「これが一応回答になるのだが・・・大和よ。なぜお前も納得したように聞いているのだ」
大和「私もこのことは初めて知りましたし・・・それに配属されてまだ半月経っていないのにそれは無理かと」
武蔵「それはそうだが言いだしっぺはお前だぞ」
大和「うぐぐ・・・」
武蔵「まぁ時間を浪費するわけにもいかないからな。次の質問に行こうか」
大和「そうですね・・・。「中破、大破する時の痛みってありますか」ですか。これは、あります」
大和「いくら艤装がダメージを引き受けてくれるとはいえ、肉体にかかった衝撃まで全て緩和されるわけではないですからね」
武蔵「簡単に例えるなら、思いっきり殴られてもダメージはあまり残らないが痛みはある。という感じか」
大和「それに至近弾によるかすり傷や、軽減されるとはいえ直撃弾の衝撃による身体へのダメージは全て面倒を見てくれないようです」
武蔵「あくまで艤装が防いでくれるのは直撃そのものによる一次的ダメージという感じだな」
大和「服もズタズタになりますしね・・・」
武蔵「では次の質問に行こうか。「服は制服以外の選択肢はありませんか」タイムリーな質問が来たな」
武蔵「これは基本的にないと思ってくれ。艤装と我々との適合率を上げるためのようなもので、いろいろ実験された結果こうなっているようだ」
大和「ですが休日に関しては私服でOKなのでそこだけは安心してください」
そうして2人は艦娘候補からの質問に答え続けた。
武蔵「時間も限界に近いし最後の質問としようか」
手元の時計で確認すると16時半になっていた。
大和「ですね。最後の質問は・・・」
取り出した用紙を見て大和がフリーズする。
それを感じ取った武蔵は問答無用で大和から紙を取り上げ読みだした。
武蔵「なになに・・・「艦娘となって印象に残ったことはありますか」か。あるぞ。取って置きでしかもつい最近の出来事がな」
武蔵は満面の笑みで言う。
大和「武蔵それだけはだm―――ムグッ!?」
抗議しようとする大和の口を武蔵は片手で抑え込んだ。
武蔵「この学校を卒業して配属されても普通は使い物にならない。理由は察していると思うが実戦と試験では求められる技量が桁違いだからな」
武蔵「だから通常は戦闘海域の中でも『管理された』海域を使って実戦の練度を上げていく。一番有名なのが3-2-1だな」
武蔵「だが・・・」
大和「~~~~!?~~~~~!!」
抗議しようとする大和の口にかけている手の力を強め、更に何も言えないようにする。
武蔵「この大和だけは少々事情が違う。なにせ実践2日目で主力艦隊に混ざって5-4出撃をさせられたからな」
武蔵「編成表を見た時の大和は傑作だったぞ。錯乱して普段は言わなさそうなことを言い放ったからな」
武蔵「信じられるか?あの大和の口から古臭いネットスラングが飛び出してきたんだぞ」
武蔵「しかも帰ってきてからは茫然自失状態。口から言語としては成立していない言葉をブツクサと言い続けていたからな」
大和は在校中皆が憧れるほどの性格と容姿を持っていた。故にこの暴露は大和にダメージを与えるのには十分であった。
武蔵「お膳立てはしてやったぞ。存分に5-4の体験談を語るといい」
そういうと武蔵は大和の口から手を放した。
大和「はい・・・大和の体験談でいいならお話ししましょう」
大和の口調が明らかにおかしい。目は何も捉えていないかのように虚ろである。
武蔵「・・・大丈夫か」
大和「はい。大和は大丈夫です」
どうやら大和は再び茫然としてしまったようで、榛名の性格がインストールされているようだ。
大和「では―――」
大和は自らの体験を語り始めたが、武蔵の予想に反して体験談は鮮明に語られた。
大和が語り終えると武蔵は閉幕を宣言し、大和を介護するように連れて壇上を後にした。
その後の別室での教官からの謝辞の時も大和はまだ茫然としていたが、「この子はパニックに陥るとこうなるので放っておけば治ります」と彼女に馴染みの深い教官の一言で片付いた。
17時30分養成学校正門。
武蔵「大和・・・大和!」
大和「ふえ?!」
このままでは滞在先に帰れないと判断した武蔵の18回目の呼びかけに大和はようやく反応した。
武蔵「ようやく戻ったか・・・滞在先に戻るぞ」
武蔵がそう言い大和の顔を見ると、彼女は涙目であった。
大和「武蔵のバカー!話の振り方ってものがあるでしょうに!」
大和はそういうと武蔵をポカポカと叩き始めた。
武蔵「あの話をするためにわざわざ公聴会を開いたのだろう」
武蔵「それにそうしなければ話し始めるまでに10分はかかっていたと思うが」
大和「うぐ・・・うぐぐぐぐ・・・」
図星を突かれ再び大和が黙りだす。
武蔵「お前は馬鹿ではないから分かっていたと思うが・・・なぜ開いた。こうなる事くらい予想できたはずだろう」
大和「それは・・・」
武蔵「ここによほどの思い入れがあるのか?」
大和「はい。ここは家のようなもので、教官方は親のようなものでしたので少しでも役に立ちたいと・・・」
武蔵「そうか・・・」
大和「はい」
武蔵はそれ以上追及せず大和と共に帰路に着いた。
その道中にて
武蔵(そうか・・・大和は艦娘に『された』側に近い立場なのだな。地雷を踏んだか・・・)
大和の発言と、養成学校を見る目に混ざる黒い感情から武蔵はそう判断した。
艦娘は大きく分けて3種類いる。
正義感に燃え艦娘を志願する者
経済状況から止むを得ず艦娘になる者
そして・・・複雑な事情により艦娘にされる者
この3つである。
世間からの本当の意味での「理解」で艦娘になるものは『志願者』という形で意識上区分される。
しかしこの「理解」以外にもう2つの理解のされ方が存在する。
1つは経済面的な理由でのされ方である。
艦娘は配属された時点で国家公務員扱いである。艦娘になるのに適正下であれば年齢、学歴、試験、経済状況といった項目は一切関係が無い。
さらに養成学校は全寮制であり、その養成費も国がほとんど負担している為家庭への圧迫は極僅かである。
その為経済状況の厳しい家庭が、娘を艦娘にすることにより食いつなぐという方法が存在しているのだ。
つまり彼らにとって艦娘とは「出稼ぎ」と同じ意味で理解されたのだ。
そして彼女らは『なる者』として意識上区分された。
もう1つは本当に色々な理由での理解である。
戦災孤児、捨て子、権力闘争による左遷などなど。適正年齢に達した少女たちの処分に困る所はごまんと存在する。
しかし艦娘に一度なってしまえば滅多に戻ってくることは無く、養成学校の負担も極端に軽い。
その為彼らにとって艦娘とは「最高の人間廃棄先」として理解されたのだ。
本来であれば前者はともかく後者の非人道的な理由は避けられるべきである。
しかし逼迫した状況による需要と供給が一致してしまったため、まかり通ってしまったのだ。
この理由による者は『される者』として区分されたのである。
武蔵(色々なことをそつなくこなせる理由はそこにあったのか・・・)
武蔵は納得させられた。彼女と生活を共にして半月も経っていないが、あらゆる家事能力が秀でているのが分かるには十分な時間であったからだ。
気が付くと滞在先の玄関前まで戻ってきていた。普段であれば大和が話しかけてくるが感傷に浸っているのだろうか、無口であった。
武蔵「明日は色々と豪遊しようか。滅入った気分を癒すには持って来いだ」
大和はその言葉に対して頷くと滞在先の部屋へと戻っていき、武蔵もそれに続いた。
僅か数日で大和の給与分がまとめて消えたのはこの豪遊のせいだとお察しいただけるだろう。
短いですが投下文終了です。番外的なお話なのでこれぐらいが丁度いいかと。
「艤装はダメージをすべて肩代わりしてくれるわけではない」という設定は中破絵に苦痛を浮かべている絵から想像しました。特に参考になったのが摩耶、鳥海さんあたりです。
次に「艦娘の給与体系」ですがこれは今の自衛官よりも危険な現場+大半がまだ未成年ということを考慮した結果かなり高額になってます。
「養成学校」に関しては『陽炎、抜錨します!』の設定を少し頂戴しました。
次回は「大規模特殊作戦ブリーフィング編」です。戦闘描写などをすると非常に長くなってしまう書き方ですので、偵察編はキンクリしています。
それと現在書き貯めが「戦闘編」が完了したところまで進みました。この後しばらくの展開は短編集の日常編になります。
そこで「この艦娘に出てほしい」というご要望があれば、その子を主軸に書いてみようかなと考えています。
都合上すべて叶えられるわけではありませんが、ご要望の方お待ちしております。締切は「戦闘編」終了までを予定してます。
では次こそ7日±2日で投稿したいです。それでは
7日±2日と言ったな。あれは嘘だ。
予想以上に筆が進んでいて書き貯めの管理が大変ですので、明日の21時半に投稿いたします。
現在「大和と連装砲ちゃん」の執筆まで終わりました。リクエストはまだまだお待ちしております。
ちょっと早いですが再開です。
今回は「大規模作戦ブリーフィング編、前編」です。
6月5日13時20分執務室。外はスコールに見舞われていた。
室内には重苦しい空気が立ち込めている。秘書艦2名も雰囲気に気おされ黙って執務を続けていた。
提督の机上には書類が6枚並べられている。うち4枚は統計報告書であり、残りの2枚が『奪還部隊』の偵察報告書であった。
ここ数日続くスコールのお蔭で偵察は成功。昨日の21時に報告書が提出された。
提出した北上の表情から戦力は相当のものと予想されたが、実際は想像以上であった。
新型と思われる深海棲艦が数種類に加え、鬼・姫クラス、更にはレ級と思わしき艦影も確認したと記述されている。
その程度の戦力であれば大将7名による一斉攻撃でどうにかなるはずであった。
しかし特筆事項の欄に「確認した艦影は全て黄色と水色の光を発していた」とある。
深海棲艦はランクによって色を放つ。Eならば赤、Fならば黄色、F改ならば水色を放つ。
つまりは・・・最悪戦レF改級が出現する可能性があるということを意味していた。
戦艦レ―――現在確認されているのは5-5海域における無印とE級のみである。
しかしE級であっても攻撃性能を見れば、空母機動部隊並みの制空力、重雷装巡洋艦クラスの雷撃に加え、深海棲艦では初となる開幕雷撃、そして戦艦クラスの砲撃力を備える最凶の深海棲艦である。
そのF級もしくはF改級のスペックを想定するだけで震え上がる。
さらにそれの数を揃えようとする動きさえ統計報告書から読み取れた。
5-5海域における戦艦レ及びそのE級との遭遇率が先月比-75%ということは、奪還部隊に戦レが更に多く配属されることを意味していた。
戦レF改級ともなればたった1体に対して1艦隊の総力を挙げねば倒せないほどの脅威であることは明白だ。
それを1艦隊で撃破し、更に鬼・姫クラスを相手取る。無理無謀にも程がある。
その内容に閉口しながらつい5時間ほど前に元帥府へと報告書を提出したところだった。
直通電話が鳴るとワンコールさえ待たずに電話を取る。
元帥「・・・酷いな」
提督「だろ」
元帥に普段のおどけた感じは皆無であった。
提督「どう考えても普通の艦隊編成では殲滅不可能に思える」
元帥「だから・・・連合艦隊の編成を試験的に導入してみようかと思う。どちらにせよ再来月に控えた侵攻作戦では必要なことだしな」
提督「12名でも厳しいな。戦レF級相手でも最低で烈風ガン積みの空母4隻は必須に近い。それに加えて対潜、砲雷撃戦を考えると・・・」
元帥「百も承知だ。だから・・・12名ではなく24名の連合艦隊になる」
提督「対潜、砲火、雷撃、制空か。確かにそれなら行けるな。鎮守府はもぬけの殻になるがな」
元帥「大将府は中将に守ってもらうさ。物資輸送も考えれば本当に空っぽになるからな」
元帥「それで・・・『あいつら』は確認されたのか」
提督「仮に『あいつら』が居たら偵察部隊は全滅だよ」
元帥「だよなぁ・・・」
提督「侵攻作戦よりキツイな」
元帥「まったくだ」
提督「他の6人に話は行ったのか」
元帥「お前が最後だよ」
提督「そうか・・・決行は何時だ」
元帥「3日後。これ以上増えられたら詰む」
提督「だろうなぁ・・・」
元帥「俺の方からも艦隊を出すから久々に皆で戦場に出ることになるな」
提督「現場指揮必須か・・・酔い止め飲まなきゃ」
元帥「そういえばお前、車・バス・船・電車。空中を移動するもの以外の全ての乗り物に酔うんだったな」
提督「久しぶりに地獄を見そうだ・・・」
元帥「取り敢えず6月8日10時に指定海域に居てくれ。8方面から畳み掛ける」
提督「了解。それじゃぁ」
そういうと提督は電話を切った。
提督「加賀。今すぐ館内放送で各艦種長を執務室に呼び出してくれ」
加賀「わかりました」
そういうと加賀は立ち上がり執務室を後にした。
20分後各艦種長が執務室に一同に会していた。
霧島「何のご用ですか?指令」
赤城「私たちを集めるとなると再来月のMI作戦の件では・・・」
愛宕「でもそれだと時期尚早じゃないかしらー」
北上「・・・」
電「なんでしょうか。司令官さん」
提督「あー・・・。唐突で悪いんだが・・・3日後、この鎮守府の全戦力を使って深海棲艦の特別部隊を撃滅する」
「「「「は!?」」」」
あまりにも唐突に告げられた大規模攻勢作戦に空気が凍った。
3名が思考をフリーズさせる暇なく凄まじい破裂音が響き渡る。
いつの間にか電が執務机の正面に立ち、両手を机に置いていたことから破裂音はその音だと判明した。
電「司令官さん・・・どういうことですか。納得のいく説明をお願いしますね」
電の笑顔が恐ろしい。下手な回答すれば間違いなく胸ぐらを掴まれ、そのまま執務室から外へ放り出されそうな威圧感を放っていた。
提督「電!殺気を湛えた笑顔で俺を見ないでくれ。寿命が縮む!」
電「説明をお願いしますね」
提督「あー・・・。唐突だとは思うが俺からしても唐突なんだ。先月末にあった臨時会合でその旨が伝えられたんだからな」
それならば仕方ないと電の殺気が萎んだ。
提督「取り敢えずこれを見てくれ」
そう言って提督は机に衛星写真を広げる。
執務机に秘書艦2名を含めた計7名が集まる。電の周りだけ妙にスペースが空いているのは気のせいではないようだ。
霧島「深海棲艦・・・ですか。結構な規模ですね」
提督「今月の2日に撮影されたものだ」
愛宕「そしてこの海域・・・『アイアンボトムサウンド』の近くですね」
電「ということは・・・狙いはあの海域の奪還ですか」
提督「察しが早くて助かる。それでだ・・・昨日一昨日と北上を筆頭とした特殊編成部隊で偵察してきてもらった。その結果がこれだ」
提督は写真の上に偵察報告書を置くと報告書に視線が集まる。
霧島「・・・・・・戦艦レF改級ですか」
榛名「榛名でも砲撃戦で勝てるかどうか・・・」
愛宕「通常の艦隊ではここの攻略は無理そうですねー・・・」
一同に重い空気が漂う。
提督「それで、だ。元帥の方から最大規模の連合艦隊の編成命令が下りた」
電「最大規模の連合艦隊・・・ですか」
提督「ああ。再来月に予定されているMI作戦に本実装される艦隊を試験運用することになった。本来であれば12名編成なのだが・・・」
提督「今回は24名編成だ」
加賀「この鎮守府の全戦力を挙げるということですね」
提督「それだけではない。他の大将及び元帥も同じように動くことになった」
赤城「だから大規模作戦・・・ですか。しかし通常の攻勢作戦の様には行かないのですか?そちらの方がリスクは低いと思われますが」
提督「相手は特殊編成の為撃滅すればそのままだと推測されるし、中将以下では練度が基本的に足りていない。それに万一最中に攻められたら壊滅は必至だ」
提督「それにF改級を相手取るのがどれだけ労力がいるかは・・・想像がつくだろ。そこにお荷物になる可能性は不要だから守りを固めてくれって判断だそうだ」
提督「多少逸れたが本題に入るぞ。24名の連合艦隊だがそれを4分割しそれぞれに役割を持たせる」
提督「今の第1艦隊を空母部隊、第2艦隊を砲撃部隊、第3艦隊を雷撃部隊、第4艦隊を対潜部隊で編成し、その4艦隊を合体させて連合艦隊とする」
提督「残った戦力は連合艦隊への補給部隊及び代替要員として機能させる」
提督「しかし・・・だ。24名というバカげた規模と想定戦力ののせいで装備に制約が発生する」
提督「空母部隊に関しては烈風・烈風改・震電改・彩雲以外の搭載は不可とする」
赤城「つまり・・・私たちの仕事は制空権の絶対的な確保ということですね」
提督「ああ。戦レF改級の想定スペックは恐らく艦載機数は300近くになりかねない。たとえ8割撃墜できても加賀の主力部隊がモロに来る計算だ」
提督「故に・・・要求撃墜比率は85%オーバーだと考えてくれ。その為に戦闘機と偵察機しか載せないんだ」
加賀「了解しました」
提督「次に砲撃部隊だが・・・三式弾と水上機、対空火器の搭載は不可。それに加え砲装は46センチ3連装砲と徹甲弾のみとする」
提督「理由は全てフレンドリーファイアを防ぐためだ。41センチでは射程が短く、三式弾は味方戦闘機を誤撃墜しかねず、水上機は空戦の巻き添えを食らって撃墜確実だからな」
霧島「確かに前方に2艦隊あることと、大規模空戦をを考えれば妥当ですね・・・」
提督「雷撃部隊は禁止装備は無い。ただし砲撃戦には参加しないから魚雷ガン積みってところくらいか」
提督「そして恐らく・・・戦レF改級相手に唯一通用する攻撃方法だとも考えている。砲撃では奴の装甲を貫くのは厳しそうだからな」
北上「まーそうなるよねー」
提督「対潜部隊は・・・軽空母を除き三式セットに加え必ず缶を搭載すること。雷撃部隊の妨げになってはいけないし、一番敵と接近するから想定被害も大きい。それに対潜は今作戦の要の1つだからな」
電「了解なのです」
提督「以上のことを明日の終日までに周知すること」
提督「明後日には編成発表をして3日後には出撃だ」
提督「かなり急だがこれ以上増えられると殲滅出来なくなるからな。兵は神速を貴ぶってやつだ」
提督「話は終わりだ。解散」
各艦種長が一斉に敬礼すると部屋を退出していった。
さて!執務を再開しようか。と提督が言いそうになった瞬間榛名がおずおずと発言した。
榛名「提督・・・差し手がましいようですが・・・もっと前からこの状況についてご存じだったはずではありませんか」
榛名「衛星写真の規模からすると遅くとも先月の段階で分かっていたはずですが・・・」
提督「確かにな。ネタバレすると2か月前の段階でもう判明していてもおかしくない規模だった」
榛名「では何故・・・」
提督「1艦娘はおろか大将の提督でさえ手を出しにくい領域があるんだよ。この防衛システムは創始者の意に反して大きな闇を抱え込んでしまったからな」
提督「まぁ今は作戦のを成功させるしかない。闇の部分に関してはいつか・・・必ず・・・」
そういうと提督は黙り込んでしまった。
20時30分。大和と武蔵の寮室
霧島「よろしいですか」
ノックの音と共に霧島の声がする。
武蔵「あぁ。構わない。入ってきてくれ」
2人の寮室は突然の来客にも対応できるよう室内は綺麗にしてあったので混乱は無かった。
霧島「失礼します。突然で申し訳ないのですが・・・重大な話があるので」
大和「分かりました」
そういうと大和はリコモンでTVの電源を切った。
大和「お茶でも淹れましょうか」
霧島「いえ、お構いなく。大和さんもご着席ください。貴方にも関係のあるお話しですので・・・」
大和は霧島の発言に従い席に着いた。
霧島「ありがとうございます。唐突で申し訳ないのですが―――」
霧島はそこで執務室で言われたことを要約して伝えた。要点が綺麗に整理されており、更に端的に纏められていたので理解に時間はかからなかった。
武蔵「・・・なるほど、総力戦か。他の者には伝えたのか」
霧島「はい。お二方で最後です」
大和「当然大和もそのメンバーに含まれるのですね」
霧島「恐らく・・・初期配置になるかと」
大和「・・・」
武蔵「恐らく大和が砲撃部隊の要になるだろうな。榛名は金剛型というメリット兼デメリットを背負っているし」
霧島「私もそう考えます」
大和「えっ」
霧島「ご存じないかと思われますが・・・大和さん。貴方は特定条件下では榛名に匹敵するほどの練度をお持ちですよ。十分主力艦隊です」
武蔵「ただ・・・その特定条件下に自分の意思でなれないっていうデメリットがあるだけだけどな」
大和「えっ・・・ええ!?」
武蔵「まだ有意識下で扱えていないようだが、恐らく今回の作戦でその尻尾を掴める可能性があるな」
霧島「他の艦隊に大和さんと似たような方がいらっしゃるので、お時間があれば行ってみるのもいいかもしれませんね。その時は紹介します」
大和「・・・ハイ」
自分の知らないところではかなり期待されていたようだ。大和は混乱した。
武蔵「取り敢えず1日残したのは覚悟する時間と考えていいのか」
霧島「ええ。それがあるのとないのとでは戦果に差が出るというデータが出ています」
武蔵「わかった。済まないなこんな夜分に」
霧島「与えられた使命ですから。それでは」
そういうと霧島は立ち上がり部屋を後にした。
武蔵「さて・・・この大和はしばらく放置すれば元に戻るのだったな」
武蔵は戻ってきた大和が聞くであろう質問を予測し、その対策を練った。
大和「・・・はっ」
武蔵「戻ってきたか」
大和がようやく戻ってきたようだ。今日は20分ほど意識の彼方へと旅をしていた。
大和「・・・なぜなんですか。なぜ私にこんな力があるんですか・・・」
武蔵「大和よ。お前は区分上『過剰適合者』と呼ばれるもののようだ。私も提督の話を聞いて初めて知った内容だ」
大和「『過剰適合者』・・・?」
武蔵「ああ。通常の艦娘よりも遥かに船とのリンクが強い艦娘を指す言葉だ。これに該当する艦娘は規定練度100以上の領域に居るという」
大和「規定練度100以上って・・・!」
武蔵「凄まじい数値だろ。だが・・・お前を見ていると、どうやら何かのトリガーでその状態になるようだな」
武蔵「提督はそのトリガーを現段階では「無我夢中の状態」と認識しているようだ」
大和「じゃぁ2回目の出撃の5-4海域って・・・」
武蔵「その検証の為に編成されたようなものだ。ネタ晴らしをすると初出撃の内容も全て提督が指示し、戦況を操作するよう命令していた」
大和「なっ・・・」
武蔵「凄まじい手間をかけたが、それほどまでに『過剰適合者』は即席かつ長く使える戦力として認識されているようだ」
武蔵「だが・・・お前はまだ余りにも未熟すぎる。艦の記憶の濁流に飲まれて自分の意識をかなり手放していると思う」
武蔵「まだ着任してから半月程度だからまだいい。だがいつまでもその状態だとかけた労力が報われなくなる。 使 え な い と思われ始めるぞ」
武蔵「だからこそこの作戦で何かを少しでも掴むんだ。最終的にそれを有意識下で扱えれば晴れてトップエースだ」
武蔵「 誰 も お 前 を 使 え な い と は 思 わ な く な る ぞ 」
大和「っ!!」
大和の体が急に強張った。
武蔵(当たりか・・・)
武蔵は大和の事が気に入っていたが、公聴会での一件で大和の出自に興味を抱いた。
なんでもそつなくこなせる能力に加えて、滅私奉公ともいうべき働き方・・・その理由が生育環境にあると踏んだ。
様々な振る舞いに加え、生家にいい思い出が無いと考えると、彼女は高貴な家の腹違いとして生まれたと予測していた。
この反応によってその予測は見事に的中した。ドラマや小説の世界でしかないと思っていたことが現実にあり、大和はその世界の住人であったのだ。
武蔵(残酷な事をしたな・・・だがこれも強く生きてもらうため・・・)
戦場では何らかのトラウマを持ち、それを刺激され意識を乱した者から死んでいく。一瞬の気の迷いですら命取りの世界なのだ。
武蔵は大和に死んでほしいとは思わなかった。まだ半月の付き合いではあるが、人は良く、愛嬌があり、能力も高いことはよく分かったからだ。
仮にそれを抱えたまま生き残って終戦を迎えたとしても、彼女は一生負い目を背負って生きていくことになる。そんなことにもなって欲しくはなかった。
人は死を目の前にすると自分を偽れないという。
だからこそ乗り越えなければ死ぬという戦場で克服してほしいと願ったのだ。
武蔵「私は外で少し涼んでくる。何か飲むものを買ってこようか」
大和「いえ・・・大丈夫です」
武蔵「そうか・・・」
武蔵はそういうと部屋を後にし、大和は1人きりになった。
大和「私は・・・」
そう呟く声だけが部屋に響いた。
短いですが投下文終了です。
次回は「ブリーフィング編後編」です。作戦時の行動について具体的な言及に入ります。
前編と後編の文章比率は4:6ですのでそこそこ長くなる予定です。
次回の投稿は3日後程度を目安にしています。
まだまだ「日常編」の艦娘は募集しております。
現在
「大和と連装砲ちゃん」
「赤城と提督の淡泊な関係」
の2本が書き終わっています。
あと内定組として
青葉
第六駆逐隊
電
の3つは執筆の方が決まっています。
それでは
再開です。「大規模作戦ブリーフィング編後編」です
6月7日午前8時食堂。
大規模攻勢の件は既に周知されており、今日でその編成が発表されることから空気は少しばかり強張っていた。
そこに館内放送のアナウンスが流れる。
提督「俺だ。知らされている通り明日大規模攻勢をかける。そのメンバーの発表だ」
提督「まずは空母部隊。加賀、赤城、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴。以上が初期メンバーだ。それ加え大鳳、龍驤、千代田、千歳が交代要員として入る」
提督「戦艦部隊は榛名、金剛、長門、陸奥、大和、武蔵が初期で、霧島、比叡、ビスマルクが交代要員」
提督「雷撃部隊は北上、大井、木曾、58、19、8が初期、401、108が交代要員」
提督「対潜部隊は夕張、五十鈴、伊勢、島風、雪風、瑞鳳だ。交代要員は日向、夕立、時雨、電、響、飛鷹、隼鷹、阿賀野型、球磨型が入ってくれ」
提督「他の者は現場への資材輸送及びその護衛、被害拡大時には補充要員として入ってもらうこととなる」
提督「特記事項として明石は修理用具を積んだうえで俺の近くに布陣してもらう。以上が編成だ」
提督「指名されたものは10時に食堂に集合。具体的な戦術について話す。その後14時にそれ以外の者に対して食堂にて説明を行う。以上だ」
提督はそういうと館内放送を切った。
食堂内がざわついている。24名の同時出撃など前例がないが、大規模な作戦であることは理解できたようだ。
大和「やはり・・・来ましたか」
武蔵「私としても初めての死線を超える戦いになるな」
榛名「どうあっても提督とこの国の為に戦うだけです」
金剛「久しぶりの極限状態の戦いになりそうだネー」
北上「まー頑張るしかないよねー」
大井「北上さん。一緒にがんばりましょうね」
夕張「敵潜水艦死すべし。慈悲は無い・・・」
などなど・・・反応は様々であった。
10時食堂。指名された艦娘全員が揃っていた。
提督「それじゃぁこの作戦のブリーフィングを始めるぞ」
そういうと提督は長机の上に模造紙を置いた。
提督「まず・・・基本的な形態についてだが、俺と明石を頂点とした扇状形の布陣を取る。具体的に描くとこんな感じだ」
そういうと提督は模造紙に黒の極太マジックで陣形を書き始めた。
予備部隊
空空空空空空 行
方
戦 戦 戦 戦 戦 戦 向
↓
雷 雷 雷 雷 雷 雷
潜 潜 潜 潜 潜 潜
提督「この理由だが・・・俺は全体を把握する必要があるのに加え、偵察機からの情報は早いほどいいからな。空母部隊との距離は短くしている」
提督「戦艦に関しては発射時の衝撃が艦載機発着艦に影響を及ぼしかねんから空母部隊とは距離を取っている」
提督「雷撃部隊は特になしとして・・・」
提督「対潜部隊は早期警戒の為、本部よりも一番遠いところで布陣してもらう」
提督「これが基本的な布陣だ。なお行軍速度は20ノットで統一する」
電「司令官さん。よろしいですか」
電が挙手をして質問をする。提督は目で発言を促した。
電「この布陣ですと対潜部隊が一番敵の攻撃に晒されます。その対策はおありですか」
提督「それを今から説明しよう」
提督「電の発言通りこれでは前方にある部隊ほど危険にさらされるし、後方の部隊は命中率、火力が落ちることは必定だ」
提督「そこでだ。ローテーション制を敷くことにする」
提督「対潜部隊は偵察機からの報告を受け、敵潜水艦が居た場合、会敵直後に一斉に対潜攻撃を行ってもらう。要は開幕対潜攻撃だ」
提督「これを行った後素早く二手に散会して戦艦部隊の後ろへと回り込んでもらう」
提督「そうすると雷撃部隊が先頭に来るわけだ。そこですかさず雷撃部隊は開幕雷撃を行い戦艦部隊の後ろ側へと回り込んでもらう。図式にするとこうだな」
提・明
空空空空空空
潜 潜 潜 潜 潜 潜
雷 雷 雷 雷 雷 雷
戦 戦 戦 戦 戦 戦
提督「そして先頭に立った砲撃部隊が砲撃戦に持ち込むわけだ」
提督「砲撃戦後の雷撃は雷撃部隊が戦艦同士の合間を縫って雷撃を行う」
提督「これで相手の損害状況を考えて夜戦判定を行う。夜戦の場合はこのままの形態で行うから覚えておいてくれ」
提督「これで相手の損害状況を考えて夜戦判定を行う。夜戦の場合はこのままの形態で行うから覚えておいてくれ」
提督「行わない場合には雷撃、対潜部隊は前に出て陣形を初期配置に戻すというわけだ」
提督「交代は小破が出た戦闘直後で行い、小破であれば明石の修理で、中破以降であれば高速船による帰還を行い、高速修復材により回復。すぐにまた高速船で戻ってきてもらい、交代要員に入る」
提督「これが基本だ。しかしこの陣形には大きな欠点がある」
提督「まず進行方向に対して敵が居たとして、同航戦、T有に持ち込むための動きがしにくいということだ」
提督「これに関してはT有の状態を捨てる。常に同航戦もしくは反航戦に持ち込むようにする」
提督「そしてもう1つは進行方向ではなく横っ面に敵が居た場合だ」
提督「この場合は偵察結果が出次第艦隊の進行方向を変える」
提督「言うは易し行うは難しなのは分かっている。故にある装置を使う」
提督が模造紙の上に置いたのは小さな電飾のようなものであった。
提督「作戦遂行者全員はこの電飾の光が常に見える位置にこの電飾を装着してもらう」
提督「この電飾は無線操作で赤、青、紫、黄色、黒、無色の6色に点灯・点滅する仕組みだ」
提督「色によって指示がある。赤は時計回りに、青は反時計回りに移動。紫は無いと思うが後退で、無色は前進・もしくは異常なしだ」
提督「黄色は進行方向の垂直に対して右へ、黒は左へ平行移動という指示だ」
提督「基本的にこの電飾に従って動いてもらう」
提督「以上がこの作戦の基本戦術だ。言うまでもなくこれは空母の偵察に懸っている。空母部隊はより一層気を引き締めるように」
提督「ここまでで何か質問はあるか」
瑞鶴「提督さん。中破以降は帰還して修復材っていうけど・・・帰還はいいとしてどうやって本体に戻るの?私たちじゃ高速船は操作できないし・・・」
提督「それに対しては対応策がある。そもそもなぜ新海域に行けるようになった時に高速船が対応していると思う?」
提督「それは俺たちが高速船に座標登録を行っているからだ。確実に安全と思われる座標を侵攻作戦時に調査・予測し、それを登録しているんだ」
提督「つまりだ・・・座標を入力さえできれば高速船はどこへでも移動できるというわけさ」
提督「だから本体帰還時には鎮守府の高速船に俺の乗っている船の座標を入力してくれればいい。無論、入力用の座標は少しずらしているけどな」
瑞鶴「でも入力とか難しそう・・・」
提督「そこらへんは人類の情報技術でGUI化しているし、高速船同士でリンクしているから問題はないよ」
瑞鶴「はーい」
提督「他にはあるか」
夕張「提督!燃料弾薬の補充ってありますけどそれはどういう方法で行うのですか」
提督「燃料に関しては以前俺とお前で作った容器が活躍することになる。元帥府に提出したところ好評でね。幾度かの改良は経たけれど、こういう時の為に本土で量産されてたんだよ」
夕張「えっ・・・じゃぁ」
提督「ああ。お前の給与が高いのは手当だけじゃないってことだよ。しっかりと開発に関わった特許量が入っている」
周囲の目が一斉に夕張に集まるがそれを無視して提督は続ける。
提督「他にはあるか」
赤城「私たちの仕事は制空権の確保ということは分かりましたが、エリアごとに深海棲艦が出現するとは限りません、常に戦闘状態ということもあり得ます。その場合の艦載機の補充はどうするのですか」
提督「随時補給だ。だからこそ空母6隻を一番近くかつ密に配置しているんだ」
提督「ぶっちゃけこの作戦はエリア単位とかじゃなくて決戦になると思うから、常時艦載機を飛ばし続ける事になると思う」
赤城「了解しました」
提督「他には・・・無いようだな。説明に戻ろう」
提督「陣形というのは機能している間は強いが、崩されると一気に役立たずになる。その場合の作戦を説明する」
提督「中大破が多く陣形に穴が開いたところを付け込まれたり、敵の物量に押され崩れたりした場合を『混戦状態』と定義する」
提督「この場合対潜部隊は空母のところまで撤退。中大破艦の収容及び補給部隊として入ってもらう」
提督「また潜水艦についてもフレンドリーファイアの恐れがあるのでこれと同じとする」
提督「雷巡は遊撃部隊として敵を引っ掻き回してくれ。この場合大物は狙わず確実に相手の数を削ぐ様に攻撃を行ってくれ」
提督「戦艦部隊と空母部隊に関してはそのままだ。つまり24名の連合艦隊から12名の連合艦隊へと移行する」
提督「この時の指示は電飾の赤点滅によって行う」
提督「そして周囲に敵正反応が無く、ある程度の領域があった場合は陣形を再編成する。この指示は電飾の青点滅によって行う」
提督「皆の損害状況はこちらにリアルタイムに送られてくるので、それを鑑みて指示を出す。その為青点滅の指示は全員に行くものではないと考えてくれ」
提督「ここまでが基本戦術だ。ここからは特殊事項について説明する」
提督「もし・・・戦艦レF級もしくはF改級と会敵した場合だ。あくまでこれは陣形が機能している場合とする」
提督「対潜部隊は潜水艦の有無によって変わるが、なければ即座に混戦状態と同じ行動を取ってくれ。あった場合は開幕対潜攻撃後混戦状態と同じ行動を取ってくれ」
提督「次に雷撃部隊だが、敵の随伴艦がどうであろうと戦艦レを狙ってくれ。想定被害は その他<戦レF級 だからなるべく損害を与えたい」
提督「その後は通常の陣形と同じ行動をとってくれ。仮に砲撃戦後も戦レが残存状態であった場合は雷撃戦も戦レに集中させてくれ」
提督「以上が今作戦の戦術だ。全編を通じて質問はあるか」
雪風「しれぇ!特定の部隊を後退させる場合は電飾による指示ですか?それとも各自判断ですか」
提督「それに関しては此方で電飾の指示を出す。だが身の危険を感じたり、指示が遅かった場合などは各自判断で動いてくれ。損害さえなければリカバリーはできるからな」
提督「他にはあるかな」
榛名「提督・・・今作戦の完了条件はご存じですか」
提督「それを言い忘れていたな・・・」
提督「今回の作戦の完了条件は3つ。1つは敵戦力の9割以上の撃滅、もう1つは階級を問わず戦レの殲滅、最後は鬼、姫クラスの殲滅。この3つ全てを達成した時点で完了だ」
提督「要は徹底的にやれってことだな」
提督「他には」
霧島「指令。今作戦の想定時間と消費資材量のめどは立っていますか」
提督「作戦時間は6時間未満としたいところだ。これ以上はみんなの疲労を考えると厳しい。消費資材量は戦レにもよるが各4万~6万を想定している」
提督「現在の備蓄量は燃料21万3700、弾薬18万9200、鋼材22万3300、ボーキ29万7300、バケツ1736個だからまったく問題にならんな」
霧島「備蓄・・・すごい量ですね」
提督「それほどでもない」
提督「他には・・・無いな」
提督「最後に2点ほど。この電飾はここと鎮守府各所から取れるように箱を設置しておく。本日21時に点灯テストを行うのでそれまでに取っておくように」
提督「当日の集合時間は9時半、外の出撃地点だ。遅刻をしない様に」
提督「あと作戦完了後3日後に祝賀会をやろうと思う。今回は俺も何か作る予定だから期待しておいてくれ」
随所からおお・・・という声があがる。提督の手料理を食いたい者が山ほどいる証拠だ。
提督「よし、では解散とする。明日に備えて英気を養ってくれ」
提督がそういうと皆思い思いの場所に移動し始めた。時刻は既に11時半。お昼時である。
提督「俺も昼飯食って次の説明の準備するか・・・」
そういうと提督は『居酒屋鳳翔』の方へと向かい始めた。
14時食堂。出撃メンバー以外の全員の艦娘が集合していた。
提督「さて・・・今から今作戦の補給部隊の説明を始める」
提督「戦場に出れない不満もあるだろうが、この作戦において補給は戦闘と同等の価値がある」
提督「燃料、弾薬、ボーキが減れば減るほど砲雷撃戦や航空戦の火力は低下する。この作戦において火力は作戦の成否に深く関わるほどに重要だ」
提督「理想論の述べれば、今作戦では1戦分の消費をした時点で補給が入る様にしたいとさえ考えている」
提督「その所を分かって協力して欲しい」
提督「まず燃料の補給についてだが・・・これを使う」
提督は長机の上に3種類の缶のようなものを置いた。
その缶は歪な形こそしているが、燃料を零さない様にかつ素早く注げるように設計されている。
また移動中どれだけ揺れようとも燃料が溢れない様に蓋までしっかりと設計されていた。
提督「俺から見て左から順に戦艦・空母用、軽巡用、駆逐・潜水用となっている」
提督「これに燃料を規定まで注ぎ、現地で陣形を取っている各艦種に適した缶で補給してもらう」
提督「溢れる分には構わないが足りないと困るのでな。不足なきように補給してくれ」
提督「次に弾薬だが・・・」
提督はそう言うと一旦食堂の外に出て荷台を押してきた。
そこには弾薬の入ったカードリッジのようなものがある。それを長机の上に並べた。
提督「俺から見て左から順に、伊号潜水艦、暁型、陽炎型、白露型、島風型、夕張型、球磨型、阿賀野型、長良型、金剛型、長門型、大和型、軽空母、正規空母の弾薬庫だ」
提督「弾薬庫は1艦娘当たり3~5個の予備がある。それを使うというわけだ」
提督「それで・・・交換時、使用中の弾薬庫にどれだけ余裕があろうとも必ず取り替えてもらう」
提督「弾薬庫の余った弾薬は鎮守府に戻った後全て取出し、使っていない弾薬庫の方に補充してくれ」
提督「これが弾薬の補充方法になる」
提督「そして最後に空母のボーキの補充だが・・・これを使う」
提督が机の上に乗せたのは大小2つの頑丈な布製の巾着袋であった。
提督「この袋一杯にボーキを入れて空母の皆に渡してもらう」
提督「大きい方が正規空母で小さい方が軽空母だ。艦載機減少の際に袋から取りだし補充することになる」
提督「今作戦では恐らく一番ボーキの消費が予想されるので気を付けてほしい」
提督「これが補充方法だ。例え艦種が違えど補給方法は基本的に統一されているから問題はないだろう」
提督「次に・・・補給の際の動き方だ。我々本体は基本こういう陣形で動いている」
そういうと提督は戦闘部隊の時に使った模造紙を広げた。
提督「このように各艦種ごとに一列になって前後を開けて20ノットで統一して行軍している。補給の際にはこの開いている隙間を通って補給してくれ」
提督は模造紙に戦闘部隊とは別の色のマジックで書き加えた
→ 提・明 進
空空空空空空 行
補給 → 方
戦 戦 戦 戦 戦 戦 向
→ ↓
雷 雷 雷 雷 雷 雷
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潜 潜 潜 潜 潜 潜
提督「でだ、補給にムラがあることも時間がかかることも好ましくない。その為補給部隊は本体よりも大規模になる」
提督「戦闘部隊1人に付き1人+6名が1回の補給部隊となる」
提督「この+6名は全て重巡洋艦で構成され、補給開始時に隙を作る為のロングレンジ支援射撃を行ってもらう。無論、ダメージは度外視だ」
提督「それで使用済みの弾薬庫を持ったうえで高速船まで退避。中大破した艦娘を乗せてすぐ鎮守府に戻るというのが一連の流れだ」
提督「この補給部隊を2つ編成し、10~15分間隔でピストン輸送を行う。ただし補給完了時の時間を基軸とするため、最短7分で第2陣が出ることになる」
提督「もしかしたら戦闘部隊よりもキツいかもな」
提督「でだ。より効率的に行うために2つの役割に補給部隊を分ける」
提督「片方は戦艦・空母補給部隊。これは大型艦種になればなるほど補給物資は重くなるため、軽巡洋艦及び高馬力の駆逐艦で構成する」
提督「もう片方は雷撃・対戦補給部隊。この2つの部隊は広く陣形を取っている為高速の駆逐艦のみで構成する」
提督「艦種によって弾薬庫が違うと言ったがそれは、この鎮守府配属時に渡された携帯端末でリアルタイムで反映させる。それを見てくれ」
提督「これが補給部隊の主な任務だ」
提督「なお戦闘時間は6時間未満を想定し、作戦完了3日後に祝賀会をやる予定だ。俺も何か作るので期待してくれ」
提督「以上だが・・・何か質問はあるか」
鳳翔「提督。私はどのように動けばいいのですか」
提督「そうだったな・・・砲撃外の重巡は鎮守府にて容器や弾薬庫に燃料弾薬の補充を行ってくれ」
提督「鳳翔さんと間宮さんは片手間で食べれるものと飲めるものを作ってほしい。特に飲み物はスポーツドリンク系統が望ましい」
提督「いくら燃料弾薬があろうとも空腹や渇きで倒れられたら意味が無いからな」
提督「他にはあるか・・・無いようだな」
提督「ではこれで説明を終了する。補給は非常に重要だ。皆の頑張りを期待しているよ。解散」
そういうと皆食堂から退出し始めたが提督は鳳翔をい呼び止めた。
提督「鳳翔。今から『居酒屋鳳翔』に戻ったとして何か作れるか?早めに夕食を取りたいのだが・・・」
鳳翔「できますよ。随分早いお夕食ですけれど・・・何かご予定がおありですか?」
提督「ああ。俺にもいろいろ準備があってな・・・」
鳳翔「それならばお任せください」
提督「済まないな・・・」
その後提督は『居酒屋鳳翔』にてかなり早い夕食を取った。
その後放送室に向かい何事かを録音し、簡易なプログラムを組むと執務室へと向かった。
18時提督私室。
今日は作戦前日とあってほとんど活動していなかったため書類はかなり少なく、かなり早い時間で業務が終了した。
榛名と加賀に業務終了を伝えると提督は私室へと戻り、シャワーを浴びた。
私室は2つの大きな本棚とクローゼット、上質なベット、丈夫な机、目覚まし時計、いくつかの医療器具、空調設備、パソコンなどが置かれている物の少ない部屋である。
提督私室は基本的に立ち入り禁止であり艦娘は入れない。例外として榛名、加賀と電のみが自分の体調の悪い時のみに入室する程度である。
提督は寝間着に着替えると本棚に手をかけ、横へとスライドさせた。
すると本棚はあっさりと動き、奥から多種多様な薬品が現れた。瓶詰のものもあれば、点滴に使うもの、注射器に入っている物もある。
提督はそこからいくつかの点滴用の薬品と注射針を取り出すと本棚を元に戻した。
そして手慣れたように点滴の準備をすると、自らの腕に刺し、更に酸素吸入器を起動させ装着すると床に就いた。
提督(大規模作戦ともなれば一時的にではあれ現役の頃のスペックを取り戻さなければならない)
提督(24名の艦娘を同時指揮しながら周囲の敵のことまで考える・・・今の状態じゃ間違いなく10分も持たずに倒れる)
提督(ったく。さっさと治療できればこんなことにはならないはずだったんだがなぁ)
提督(でも本格的に治療!ってなると3か月はかかるからなぁ・・・鎮守府を留守にはできないし。どうしたものか)
提督(残りの薬品も数少ない。このペースで消費となると、あと半年持てばいい方か)
提督(それまでに・・・それまでに何とか・・・しなければ・・・)
将来のことを懸念しつつ提督は早い眠りに落ちた。
21時大和・武蔵の寮室
そろそろ放送が来るかと思った矢先にアナウンスが流れた。
「ザザッ・・・あー俺だ。今多分寝ているからこれは録音になる。電飾の方はプログラミングしているので何ら問題はない」
「ではまず―――」
録音による電飾のテストが始まったが、大和武蔵両名の電飾はなんら問題なく作動した。
「もし不具合があったら明日の朝変えてくれ。その場でチェックを行うから。以上だ。ザザッ」
武蔵「・・・なんといい加減な」
大和「提督が指揮をなさる場合はいつもこうなのですか」
武蔵「いや・・・いつもは22時頃就寝するはずだと思うのだが妙に早いな」
大和「そうですか・・・」
そこで会話が途切れる。無理もない、大和にとっては早すぎる初の侵攻作戦であり、それに加え武蔵の言葉が突き刺さっていたからだ。
武蔵「緊張しているか」
大和「はい・・・」
武蔵「私も春の作戦の時はそんな感じだったが・・・大和とは比較にならんな。あまりにも早すぎる」
今の大和は心此処に在らずというよりは、常に何かを考えていて外に対して鈍いという状態であった。
武蔵「・・・戦場に出てまだ半年ちょっとの若輩者だが・・・いくつか分かった事がある」
武蔵「まず心の在り方で違う結果を生むって事だ。僅かな懸念や後ろめたい気持ちはすぐに表れる」
武蔵「そしてもう1つ。殺さなければ殺されるってことだ。相手を沈める時ほんの些細な迷いがあったら、間違いなく敵はその隙をついて沈めに来る」
武蔵「悩みたかったら生き残って悩めばいい。死んでしまえばそれまでだからな・・・」
武蔵「・・・・・・私はもう寝るとしよう。寝不足で実力を発揮できませんでした。ってなったら笑えないしな」
武蔵「電気・・・消すぞ。いいか」
大和「お願いします・・・」
大和の回答を聞いてから武蔵は電気を消した。
武蔵「お休み・・・大和」
大和「お休みなさい」
そうして武蔵は眠りに落ちた。
6月8日9時提督私室
提督「・・・っ。朝か・・・」
提督は酸素吸入器と腕に刺さった針を取り外し起き上がった。時計を見ると午前9時。寝坊ではないが遅い時間ではあった。
提督「・・・決戦か・・・よし」
そういうと寝間着姿からいつもの服装へと着替える。薬のお蔭かいつもの青白い肌は消え、きれいな肌色をしている。
提督は上裸のまま点滴の針を然るべき所に廃棄し、本棚を横へスライドさせた。
今度は様々な薬品の中から注射器に入っている薬品を取りだし、針を装着する。
それを自らの首へ刺し、中の薬品を体内に注入する。
提督「・・・ッ」
薬品が体内に入ると直ぐに効果は表れた。
自らの体内に流れる血流の音が聞こえ、遠くで話しているであろう艦娘の声が聞こえる。
目はかなり冴え、視認できないような小さな埃や棚のささくれまで見える。
ほとんど認識できない僅かな薬品の臭いも、今は自らの知識と組み合わせそれが何の薬品であるかさえ分かる。
手に触れている介護用の棒の僅かな歪みさえ感じ取れ、気温や湿度まで肌触りでわかる。
身体の代謝が上がり、体温が上昇する。
普段考えるよりも遥かに頭の回転が速くなり、一瞬で出立までのスケジュールを組み上げることが出来た。
昔では当たり前の感覚が戻ってきたのだ。
身体を素早く動かすと、現役の頃ほどではないが自分のイメージに近い動きが出来ている。
提督「・・・行くか」
針を処理し、上着を着ると私室を後にした。
9時15分集合地点。
そこには3隻の超大型高速船が配置されていた。軽く50人は入れそうだろう。
既に補給部隊を含めた鎮守府に居る全員が集合しており騒がしくなっているが、決戦前の適度な緊張感は生まれていた。
武蔵「この空気・・・身が引き締まるな」
大和「そうですね。皆さんこの空気を何度も体験しているのですね・・・」
朝起きて武蔵はまず大和のことを案じたが、本人はいつも通りの調子に戻っており、ひとまず胸を撫で下ろした。
食事中も目立ったことは無く、量もしっかりと食べていた。
しかしあれほどの問題である。恐らく無理やり押さえつけたかやせ我慢をしているのだろうと推測した。
そんなやせ我慢も特殊海域という状況下では容易く破壊される。その時どうなるかが武蔵には恐ろしかった。
そんなことを考えていると不意に体が反応した。それと同時に大和に伝えるべきもう1つのことを思い出した。
武蔵「大和・・・もう少しで提督が来るが・・・今から来る提督と普段の提督は別人に近い。心しておいてくれ」
大和「それはどういう・・・」
武蔵「すぐに分かるさ。本気モードの7英雄、そう拝めるものではないからな」
大和は首を傾げるばかりであった。
数分後
大和「ッ!?」
大和の体が急に強張った。それに呼応して騒がしかった空間が水面に石を投げいれたかのように静かになる。
武蔵「来たか・・・」
武蔵がそう小さく呟くのが聞こえたが現実感を伴わなかった。
体が微かに震え始め、全身が総毛立つ。何か得体のしれない大きなエネルギーが近づくのを感じた。
自らの人生の中でもこれほどの出来事は体験したことが無い。
提督を視認すると驚愕に見舞われた。肌は健康的な色に近くなり、意思を持った強い瞳はさらに磨きがかかっている。
甘さだとか緩さを湛えていた雰囲気は跡形もなく消し飛んでいる。
顔つきも体つきも同一であるはずなのに別人にしか思えない。武蔵の「別人に近い」という発言に偽りはなかった。
提督が自分の5メートル手前で停止する。
提督「定刻5分前なのに全員揃っているようだな。関心関心」
声も同じものであるはずなのに同一人物とは思えないほど力に溢れている。
提督「少し早いが・・・現時刻0925を以て深海棲艦特殊侵攻作戦を発令する」
提督「総員・・・戦闘配備!」
艦娘「了解!」
提督の激に半ば身体が反射的に敬礼の行動を取り、自然と声が出た。
幼さを残している駆逐艦娘どころか歴戦の榛名や加賀さえも全く同じ行動を取っている。
生育環境から敬意を払うことには慣れていたが、それとこれとは次元が違う。頭で考えるよりも先に体が反応したのだ。
真に敬意を払うというのは意識的に行うことではなく、半ば本能的に行ってしまうのだと大和は学んだ。
肩を叩かれる感覚で我に返る。
武蔵「ほら大和、乗り込め。後がつかえ始めてる」
しかしすぐには体が動かなかった。
提督「皆先に乗り込んでいてくれ」
武蔵「分かった」
提督がそういうと大和を素通りして皆乗り込んでいく。
提督は大和に向きなおすとこう言った。
提督「この状態では初めまして、かな。南東方面第一鎮守府の提督だ。よろしく頼む」
その声、その顔、その表情―――全て初めて会ったときと同じである。しかし人間はここまで変わるものなのか。
大和は今『7英雄』と真に呼ばれる者の前に立っていた。
その前では自分の下らないセンチメンタリズムなど塵同前と感じ、前向きになれたように思えた。
大和「・・・はい!」
提督「じゃぁ乗り込もうか」
提督がそう促すと大和は高速船に乗り込み、最後に提督が乗り込んだ。
提督は高速船内のコンソールに一瞬で相当の桁数を入力すると妖精さんに頼んだ。
妖精さんはそれに応え入力された座標へと高速船を転移させた。
投下終了。ブリーフィング編終了です。
ここまで入念に練っても戦闘編では9割9分キンクリするという。
いちいち書いていたらきりがないし・・・
次回は5日後程度を予定してます。リクエストもまだまだ募集中です。
それでは
1日遅れましたが再開です。
今回は「大規模作戦戦闘編前編です」
6月8日9時35分。南緯2度59分14秒、東経166度43分24秒。旧ナウル共和国近海
提督「・・・よし。陣形展開は完了したようだな」
高速船内にあるノートパソコンを見ながらそう判断すると、右耳だけのヘッドフォンを装着し繋いであるマイクに話した。
提督「此方『怠惰』陣形展開完了。いつでも行けるぞ」
「此方元帥、了解だ。今日は1着だな」
「此方『憤怒』、展開完了だ。遅刻が出ないといいけどな」
「此方元帥、了解。今日は2着だな。先を越されたぞ」
この作戦は1人では行わない。大将7名と元帥1名で行われる同時作戦である。故に連携は必須なのだ。
「此方『強欲』展開終わったぜ」
「此方元帥、了解だ。今日は真面目だな」
「此方『強欲』。今日真面目にならなくてどうすんだ。つーかお前はどうなんだ元帥。もう終わってるんだろうな」
「此方元帥、無論だ。一応総指揮官だからな」
しかし半端な連携では意味がない。相手は特殊戦力とはいえ深海棲艦の大艦隊。1人で先走ったり足並みが乱れると、そこに一斉に戦力が集中する恐れがあるのだ。
「此方『傲慢』展開完了だよ」
「此方元帥、了解した。期待しているよ」
「此方『強欲』、おい元帥。俺と態度が180度違えじゃねーか」
「此方『傲慢』、君とは期待値が違うのだよ」
「此方『強欲』、言うじゃねぇか。だったら戦果競争でm・・・」
提督「此方『怠惰』、貴様らオープンチャンネルでベラベラ喋るな。聞こえにくいだろうが」
2人の声が重なるがまだ2人なので聞き取れる。だが戦闘になれば何重もの声から情報を引き出さなければならなくなる。その労力は半端ではない。
「此方『暴食』、展開終了」
「此方元帥、時間内じゃないか。普段もこれくらい時間内にして欲しいな」
今回の作戦は特殊戦力の深海棲艦に対し8艦隊、192名の同時8正面作戦を仕掛けるものなのだ。故に少なくとも視界範囲内には友軍は居ない。その為無線でやり取りをしているのだ。
元帥含む8名の艦隊は旧ナウル共和国を半円状に包囲する形で布陣している。東側の包囲は背後からの襲撃の可能性もあるので棄却された。
「此方『嫉妬』・・・展開・・・完了」
「此方元帥、了解だ。相変わらず朝に弱いな。だが戦闘になれば目も覚めるだろう」
そこで一旦通信が無言になる。
時刻は既に9時52分。またあいつは遅刻か・・・と無線内で無言のやり取りが成されようとした直後である。
「此方『色欲』、展開終わったよ」
「此方元帥、了解だ。今日は遅刻してないのか。明日は雹が降るな」
「此方『色欲』、それって酷くない!?」
「此方『憤怒』、普段の行いを鑑みろ。当然の対応だ」
「此方元帥、各位この通信が艦娘に聞こえるように解放してくれ」
その無線を受け提督はスピーカーをONにした。
布陣してから20分。大和は凄まじい緊張感に襲われていた。作戦開始寸前のこの張りつめた空気が自らの5感を過敏にしているように思えた。
ザザッ・・・後ろから聞こえるノイズに大和は激しく反応した。
「こんにちは、元帥だ。今日ここに集まってくれた艦娘諸君、そしてそれを支援してくれる諸君全員に感謝する」
聞こえてきたのは元帥の声だった。どうやら作戦開始の音頭を取るようだ。
「この作戦は旧『アイアンボトムサウンド』の奪還部隊と思われる深海棲艦の特殊戦力を撃滅するものである」
「『アイアンボトムサウンド』については苦い思い出もある者も多いだろう。その作戦をもう2度と発令するわけにはいかない」
「その為にこの先に居る戦力を撃滅し、制海権を確かなものとする重要な作戦だ」
「我々も頑張る。だから君たちも奮戦してくれ。頼む」
「では、本日1000を以て作戦開始とする。各軍、前進を開始してくれ」
演説としてはよい内容であった。だが気まずい沈黙が一帯に横たわる。何というかこう・・・締まらない。
「 締まらない
締まらねぇ・・・
締まらんな
これはない
無いわー
下手くそ・・・ 」
大和「っ!」
どうやらほかの提督率いる艦隊も同じような反応であったらしい。
元帥の言葉が締まらない事に対する大将たちの遠慮ない呟きに、大和は思わず吹き出しそうになった。
隣を見ると武蔵が、そして遠くにいる榛名までもが笑いをこらえている。
そういている間にも提督たちは丸聴こえの無線で元帥をなじった。
「ちょっ!それって酷すぎない!?」
「 黙れ下手くそ。士気が落ちる。
無いわーここまで締まらないのは無いわー
向いてないのは分かっていたがここまでとは
書類上ではイケメンなのに・・・
残念すぎるな 」
大和「・・・っ!・・・っ!」
大和は遂に笑い出した。一応声を出して笑うのはかなり失礼と思い、声は我慢している。前も隣も皆同じ反応であった。
「お前らぁ・・・!」
抗議する声を無視して会話が続く。
「 どうする?代打を頼むか?
元帥にもう1度やらせてもなぁ・・・
アイツに任せるか
異議なし
俺かよ・・・ 」
どうやら代打で誰かがしゃべる様になったようだ。
「あー・・・締まらない発令で済まない。これも元帥ってやつが悪いんだ」
「俺は南東方面第一鎮守府提督、『怠惰』だ。俺が代打で発令をすることになる。あんな貧弱な号令では話にならん」
「ポンコツな上司の代わりにやるのは屈辱だが、このまま足並みが乱れたままではまずいからな」
煽っていくスタイルという言葉を聞いたことがあるが、実際はこういうことなのかと大和は思った。
「4分遅れてしまったな。本日1004を以て深海棲艦特殊部隊殲滅作戦を発令する」
「総員・・・進軍開始!」
『怠惰』鎮守府艦娘s「了解!」
力強い発言に今度はちゃんと締まったようだ。
武蔵「生き残るぞ。大和」
大和「はい!」
大和は徐々に艤装の出力を上げ、20ノットで前進し始めた。
短いですが終了です。戦闘編は3編に分けるのでこれくらいが妥当と判断しました。
次回「大規模作戦戦闘編中編、戦レF改級 です」
それでは。
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