健夜「せめて思い出に須賀る」【アラ4LOOP】 (920)

・細かい事は気にしないスタンスで行ける
・遅筆
・京太郎成分多し
・キャラ崩壊
・クオリティ低し

この物語は小鍛治健夜目線で繰り広げられるお話です


前前前スレ
健夜「せめて思い出に須賀る」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1383822071/)

前前スレ
健夜「せめて思い出に須賀る」【2LOOP】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387788251/)

前スレ
健夜「せめて思い出に須賀る」【3LOOP】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1393856630/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406139226



さてさて、個人戦が始まる前に休日を挟むわけだけど。

ここで注目しておかないといけないのは個人戦でしか出てこない選手と団体戦では本領を発揮していなかった選手だ。

一応京太郎君と室橋さんの調査で目ぼしい選手はピックアップできている。

普通なら私の仕事なのにやらせてしまって申し訳ない。

照ちゃんが在学していて彼が一年のときは私がやってたんだけどいつの間にか……

それでも対策立ててるあたり私って偉いと思わない?


調査した結果、個人戦に出場する選手で目をつけたのは以下の選手。

白糸台の原村和、大星淡。

永水女子の十曽湧、石戸明星、滝見春。

千里山女子の二条泉。

平滝の南浦数絵。

晩成の新子憧、岡橋初瀬。

阿知賀女子の高鴨穏乃。

有珠山の真屋由暉子。

劔谷の森垣友香、安福莉子。

覚王山の対木もこ。


大体こんなあたりだろうか。

全員に当たるわけではないけど全員分の対策は考えておかないといけない。

かなり面倒くさ、骨の折れる作業だなぁ。

いっそ部長達にも手伝ってもらおうかな。

今日はここまで
このスレで完結できたらいいな

話が中々進まん、なんもかも誘惑の悪魔が悪い
書き溜めはないけどひっそり投下



そして個人戦当日となったわけだけど、結局部長二人に手伝ってもらって私のお肌を守ってもらった。

ほら、この歳になると睡眠不足はお肌の大敵らしいから。

それに部長とかって分析とかできないとまずいじゃない。

だからその練習も兼ねている。


個人戦に出場するのは咲ちゃんと京太郎君と片岡さんの三人なので私たち4人は観戦である。

出場三人に多少注意するところを伝えているときに声を掛けられた。


「おもちの同士よ、ひさしぶり。」


「玄さん……お久しぶりです……」


「団体戦は残念だったね。」


ちょっと待って、何でいるの?

君高校卒業したよね?

その疑問を咲ちゃんが代わりに聞いてくれた。


「あの、何でここに?」


「私の高校の後輩を応援しに来ました!」


「あーもしかして高鴨選手?」


「そうです。」


そっかー応援かー応援なら仕方ないねー。

決しておっぱいを眺めにわざわざ東京くんだりまで来るわけないもんね。



「石戸選手は本当に惜しかったね……」


「ええ……」


……ないよね?



京太郎君を見送り咲ちゃんと片岡さんを見守る一団の中に傍らで松実玄がいる。

当然のように馴染んでいる。

しかもウチの後輩たちに胸の成長に関する雑学を語っている。

本当に彼女は何しに来たのか。

呆れながら思っていたが試合が始まるので意識をそちらに持っていった。

咲ちゃんや片岡さんが方々で奮戦している。

というか暴れている。


「穏乃ちゃん頑張って!」


もう一方で彼女が応援する高鴨穏乃はカーディガンを上に羽織った阿知賀女子の制服姿だった。

やる気満々の彼女、応援してるほうも熱が入っている。



試合が進み、南場に入ると何と無く感じていた松実玄に対する違和感の理由がわかった。

高鴨選手が試合中に突然こんなことを言い出す。


「すいません、暑いので脱いでも良いですか?」


審判がこれを承諾。

咲ちゃんも靴下を脱ぐこともあるしありえないことではない。

しかし暑くなるのがわかっているのならなぜカーディガンなんて暑苦しいものを着てくるのか。

ただ単に私の女子力が足りないだけなのかもしれない。

前にこーこちゃんがオシャレは我慢と言ってたし。

話が逸れたが高鴨選手がカーディガンを脱ぐと下に着ていたTシャツが顕わになる。

ブラウスではなくTシャツだ。

それも「松実館」のロゴと連絡先入り。


「よし! その調子だよ穏乃ちゃん!」


熱心に応援していたのはこれか。



「え、何で高鴨選手は貴女の実家のTシャツを着ているの?」


「それはですね……」


松実さんに話を聞いてみると今の阿知賀女子には麻雀部という物が無いらしく同好会止まりだったらしい。

部になるほどの部員を確保できなかったため急遽決まった全国出場に足りない分の予算申請が間に合わず(これは顧問がいないせいでもある。)自腹で東京に。

しかし一介の高校生にそんなお金がすぐに用意できはずも無く困ったところに先輩でもある松実館の次期若女将が。

自身も全国に出るとき同じパターンの苦労を経験したためか親身になって相談に乗り結果として松実館がスポンサーになった、というわけなのだ。



「しかし大丈夫かな……放送的に……」

「下手したらモザイク処理とかされるんじゃ……


「生中継と聞いたから映ってしまえばこっちのものです。」


そこまで計算の内か。

この子結構黒い。



更に時間が進み、別の相手と打っている咲ちゃんが映る。

どうやら今から始まるようだ。

相手は石戸明星選手・二条泉選手・真屋由暉子選手。

あれ、この三人って……

既に着いた三人の後に咲ちゃんが座り三人が反応する。


「げえっ! カンう!」


ジャーンジャーンジャーンってね。

ダンディな髭おじさんだと思った?

残念、咲ちゃんでした!

三人とも咲ちゃんの被害者だった。

更に言うなら私の教育の被害者でもある。

魔王式公文術。

赤(土)ペン先生と二分する教育。

ちょっと今思い付いただけだけどよく考えたら赤土さんこっちでは先生やってないや。

今日はここまで
sageてもすぐに見つかるので下げないことにしよう

まぁ待っている人がいるということはありがたいことで。

そういえば今月8日から20日間だそうですね
(要はその期間更新遅れるかもしれません)

投下します



石戸選手と真屋選手、そして二条選手が結託して咲ちゃんを抑えようとしている。


「ツモ、2000・4000や。」


二条選手が先制でツモった後、咲ちゃんが深呼吸をして一言だけ言う。


「そろそろ本気出すね。」


まるでこれから駆逐するかのような宣言、卓を介した一同に緊張が走るのがわかる。

そして案の定咲ちゃんが和了る。


「ロン、8000。」


真屋選手への直撃満貫。

中々にきつい一撃。

そのままの勢いで咲ちゃんが連続で和了るのかと思いきや意外な人物が和了る。


「ロン、12000や。」


「え……?」


二条選手が和了った相手は真屋選手。

相手からしたらいきなり横からぶん殴られたような衝撃だったのだろう。

そのまま動揺が牌に伝わっている。


咲ちゃんが意外に思っているのか二条選手に話しかける。


「どうしたのいきなり? 二人を裏切って大丈夫なの?」


「だいじょうぶや、わたしはしょうきにもどった。」


二条選手裏切った!


「いやむしろなんで私をそこの二人の味方だと思うん?」

「私にとっても巨乳は敵や!」


成長したといっても貧乳から抜け出てないもんね。



そのあとは二条選手が溺れる犬を叩いて沈め咲ちゃんと一緒に連対(ワンツーフィニッシュ)を決めた。

一方の高鴨選手、先ほどとは別の試合に出ているが流石に審判がまずいと判断したのか「松実館」ロゴ入りのは駄目だと注意したらしい。

それを受けてから松実館シャツは着ていなかった。

そう、「松実館」シャツは。


「ふぅ~暑いなぁ~……あの脱いでもいいですか?」


「松実館の宣伝で無ければ。」


「はーい。」


出てきたのは高鴨選手のご実家のTシャツである。

きっちり実家を宣伝しているあたりこの子も大分ちゃっかりしてるね。


更にもう一方では片岡さんが奮戦している。

タコスを片手に奮戦している。

ウチの中で一番の良心って彼女じゃないかな。

咲ちゃんあんなんだし。

咲ちゃんに関してはまぁ人のことは言えないし、元凶が言える事でもないけど。


それから咲ちゃんや片岡さんは高鴨選手や原村選手・大星選手などと打って行き、全ての個人戦が終わった、

結果としては咲ちゃん一位、片岡さんが二位で三位に原村選手だった。

案外原村選手が健闘してたね。

とはいえアベレージ上では高鴨選手も大星選手も原村選手とはかなりの僅差だったので惜しかったといえば惜しかった。

悲しいことに一位には遠く及ばないけど。

今日は早いけどここまで

エキシビジョンに爺さん出そうと思うんだけど南浦爺と大沼老師のどっちが良いかな

虫刺されで利き手の指が動かし辛い
短めの投下だけどがんばる



男女共に個人戦が終わり表彰式典とかも終わった後はエキシビジョンマッチに突入する。

実は今回出張るプロを私は事前に知っていた。

一人は大沼プロ。

とあることが切欠で、以来一線を退いてシニアプロとして活動するようになったとはいえ未だに中高年からの人気が高いスタープレイヤー。

私もかつての打ち筋に憧れた。

一線を退いた原因でもある、病で倒れてからは今ではその打ち筋も鳴りを潜めてしまったが。

もう一人は三尋木プロ。

言わずと知れたトップランカー、京太郎君とはかなり深い因縁もある。

去年は別の仕事が入っていたらしく(ウチの佐久フェレッターズとの試合)出れなかったが一昨年の大会では京太郎君は惜敗している。

今年は京太郎君に咲ちゃん、そして大沼プロに三尋木プロのエキシビジョンが開かれる。



「部長、宮永先輩、頑張って来て下さい。」


「おう、任せとけ。」


「咲ちゃん、負けんなよ。」


「うん、わかってるよ。」


「京太郎君、咲ちゃん、行ってらっしゃい。」


「「行ってきます。」」


皆で京太郎君と咲ちゃんを送り出した。

生徒達を先に戻らせたあと、私は対局室の近くで待機していた。

少しすると大沼プロがやってくる。

お互いに知らない仲でもないので軽く挨拶をしたがまるで覇気を感じられない。

果たしてこの人は大丈夫なのだろうか?

打っている途中でポックリ逝かないか不安だ。

挨拶もそこそこに大沼プロは対局室に向かっていく。

そのあとには三尋木プロもやってきた。

こちらも知らぬ仲ではないので軽く挨拶を済ませる。



「どーも。」


「こんにちは、三尋木プロ。」


「今年は取らせてもらうよ。」


「ウチの子二人は強いよ。」


「ああ、わっかんねーと言い張りたいけど知ってるさ、小鍛治プロの教え子の強さは去年・一昨年と味わったからねぃ。」


「5年前は倒してくれ頼んだけど今年は頼まないよ。」

「頼まなくたって気持ちは変わらないでしょ?」


「当たり前だろ、この咏様が高校生相手に負けるわけにはいかないんだよねぃ。」

「ほら、あたしの沽券にも係わるじゃん?」


「負けず嫌いだもんね。」


「そういうこった。」

「っと、そろそろ行かないと爺さんたちが待ちくたびれちまう。」


三尋木プロはそういうと対局室に入って行った。

私といえば今度は実況室に足を向けて入る。

今回何故私が出場者のことを知っていたのか、その答えはこれだ。



「すこやーん、遅いよー。」


「ごめんねこーこちゃん、ちょっと話してたら遅くなっちゃった。」


「いいよ、教え子たちの最後のインターハイだもんね。」

「何か言いたくもなるよね。」


「うん。」


対局室から選手達の会話が聞こえる。

三尋木プロが京太郎君と話をしているようだ。


「よー、久しぶりだねぃ。」

「前よりは強くなったんだろうな?」


「ええ、貴女に負けないくらいに。」


そう言って京太郎君は卓にあった牌をひっくり返した。

牌は「北」だ。

そのあと何かを思い出したかのように京太郎君が席に着く前に咲ちゃんに忠告をした。


「咲、今からお前も含めて全員敵だ。」

「変に気を遣ったり手を抜いたりなんて無粋な真似すんなよ?」


「当たり前だよ。」

「むしろ京ちゃんは私が手を抜くと思っていたの?」


「いや、念のためだよ。」

「真剣勝負に水差されたら堪ったもんじゃないからな。」


そんな会話を見ていた三尋木プロが横から口を挟む。


「悪いけど今回も負けてあげられないかんねぃ。」

「特に今回は賞品がかかってるんでねぃ。」


「勝ちは貰いませんよ、奪いに行くんで。」


「言ってくれるねぃ。」


対局が始まるまで軽口を叩きながら火花を散らす中。

大沼プロだけが沈黙を貫いていた。

今日はここまで闘牌練ってきます

ぬう、半荘一回だと短くて全荘だと冗長
どうするか

投下します
大体闘牌は1k行くらいです



始まる対局。

親は咲ちゃん。

並べられた牌山から手牌を作っていく。

十二巡した後に声が上がる。


「ロン、16000だよん。」

「まずは景気付けの挨拶だ、粋だろ?」


『おっと三尋木プロ開幕に倍満ー!』

『須賀選手これは痛い!』


三尋木プロは口端を歪めて言った。

それにつられて笑顔の京太郎君。

振り込んだのにこの余裕。

次の局、親は三尋木プロ。

牌が配られてから三巡後に声が上がった。


「ロン、16000です。」


『今度は須賀選手の和了ー!』

『まるでお返しといわんばかりだー!』


火の鳥が喰らいに行った。

傷と、人を。

喰った本人が口角を上げて意地悪そうに言う。


「御返杯。」


彼の能力が使われて場の空気が暖まっていく。

結果的に点数は元通りだがお互いまだ小手調べだ。

だけど麻雀というのは4人でやるもの。

決して決闘のように相手だけを見ていればいいというわけではない。



「カン。」

「もういっこカン。」

「ツモ、1200・2300。」


『70符2飜のレア技ー! 宮永咲選手の華麗な和了りだ!』


卓上に花が咲く。

その一輪の花は綺麗だがどこにでも咲ける生命力と力強さが感じられる。

続いて東四局。

京太郎君の親だ。

咲ちゃんから奪われたのは1200点。

これと同じ点数はロンでは出せないので火の鳥は使えない。

そもそも何回も使うような技ではないが。

なので場を継続するなら自力で和了り続けないとまずいのだが……


「ツモ、3000・6000じゃね?」


『三尋木プロが今度は跳満で和了ったー!』



京太郎君の親被り。

当然子の0本場で6000点というピンポイントな点数は存在しないので火の鳥は使えない。

結構研究されているということだろうか。

何にせよ京太郎君の親は流されてしまった。

そしてそのまま南場に突入する。

南場に入った時点の点数は咲ちゃんが26700点。

三尋木プロが35800点。

大沼プロは19700点。

京太郎君は17800点。

今回半荘一回のみなのでここが折り返し地点だ。

その理由はシニアプロである大沼プロが加齢と持病の為、長時間対局できないとの事。

加齢か……私にも経験があるんだけど加齢臭って結構きつい。

臭いが染みるときつい。

加齢の臭い染み付いてむせる。

まぁ誰でも歳を取れば加齢臭くらいするよね、例え京太郎君でも最近須賀さんも香ってきたし。

これも炎のさだめかな。

でも大沼プロは何で今回出てきたのか。

先ほど三尋木プロが賞品が掛かっていると言っていた。

多分、ドラフト指名権だろうね。

毎年毎回競合するから事前に裏で決めておいてドラフトの枠を潰さないようにしているもんね。

照ちゃんと福路さんのときドラフト指名ひどかったし。

つまり揉めないというかスムーズに事を進めるために二名まで絞って勝った人が独占的にドラフト指名するということだろう。

話がそれたので閑話休題して一旦戻す。

南場に入り後半戦は熱を帯びていく。



「へいへい、このまま行ったらあたしの勝ちじゃね?」

「そろそろ本気出してくんね?」


あからさまな挑発。

トラッシュトークで平常心を乱そうということか。

更に三尋木プロが続ける。


「もしかしてあたしと会わないうちに弱くなったとかいうんじゃねーだろうな?」


「安心してください、俺は弱くないですよ。」

「弱い奴ってのはすぐに諦めたり投げ出したりする奴のこと。」

「逆に強い奴ってのはボロボロになっても最後まで諦めずに食って掛かる奴だ。」

「俺は俺と打ってきた奴を見てそう思いました。」


「諦めが悪いってことかい?」

「でもそれって男子のことだろう? 今や質の下がった男子のことを言われてもあたしにはわっかんねーし。」

「女子では技量と運を持っている奴が勝つんじゃね? わっかんねーけどさ。」


明らかに適当に言っている。

本人もそう思ってはいないのだろうけどあえての挑発だと思う。

京太郎君が何か言い返すかと思ったらそこに口を挟む老人が居た。



「麻雀に男も女も関係ない。」

「ここは雀卓で、点棒を奪い合うところだ。」

「強い奴が残って弱い奴は去る。」

「ただそれだけだ。」


「じいさん、それはプロとしての言葉かい?」

「それとも……」


「……さあな。」


言い淀んだ後、それ以上は何も語ろうとはしない。

京太郎君が仕切りなおして宣言していく。


「俺からも言いたいことは色々あるけど今は打牌で応えることにしますよ、だから……」

「一方的な試合になると思うなよ。」

「三尋木プロ。」

「俺の打ち筋、その目に焼き付けな。」

「チー。」


そういった京太郎君が鳴いた。

鳥が鳴くように。

そしてその鳥が羽ばたくように手を進める。


「ポン。」


京太郎君の切った牌を咲ちゃんが拾っていく。

槓材に仕立ててきたということか。


「チー。」


だが咲ちゃんが切った牌を京太郎君がまたもや鳴く。

鉄火の鳥が飛んで行く。

だがいつもとは少し違う。

加速の仕方がいつもと違う。


「ポン。」



加速。

加速。

更に加速。

加速し続けていく。

そこをすんなり通す相手でもない。

三尋木プロがリズムを狂わしていく。


「簡単には和了らせないよ、っと。」


「和了るぜ。」


「来させるわけ無いだろ。」


「いいや、来るね。」

「俺が引く。」

「チー。」


四回目のチー。

そして単騎待ちからの一巡後。


「ツモ、500・1000。」


和了った瞬間、対局室の室温が上がった気がした。

まるでこっちにまで熱気が伝わってくるようだ。

気が付くと卓の辺りは既に火の海になりかけていた。




続く南二局。

京太郎君の加速の仕方がいつもより早いことに気付いた。

そのいつもの差の理由がわからなかったが彼のビジョンを見て漸く理解した。

ジェット噴射のように噴出している炎に集中力や体力という名の燃料を更に注ぎ込んでいる。

これによって一度点火した炎が更に燃えて一段と加速が上がる。

つまり所謂アフターバーナーというやつだ。


「チー。」

「ポン。」

「ポン。」


加速。

加速。

更に加速。

加速し続けていく。

誰も追いつけないほどの加速をしていく。


「ツモ、1000・2000。」



六巡以内のツモ、かなり速度だ。

南三局に入っても続く。

加速。

加速。

更に加速。

また加速し続けていく。

逆巻く炎で相手が動けないところを彼は加速していく。

そして空気の壁にぶつかる。

音の壁にぶつかる。

そこからも尚も加速していく。

折り返し鍛えてきた技術の鉄が鎧となって守ってくれた。

それが風除けにもなり、空気抵抗を減らしてくれる。


そのうちやがて、音の壁を突き破る。

今まで邪魔になっていた風が武器になる。

その衝撃波が辺りを吹き飛ばす。

京太郎君、よく諦めずに頑張ったね。


     この空
今、卓の制空権は紛れも無く君のものだよ。


「ツモ、2000・4000。」




オーラス
南四局。

このまま加速している状況で行けばまず勝てる状況だ。

だけど京太郎君の持ち点は31800点。

三尋木プロは31300点。

容易にひっくり返せる点差だ。

空を取ったからといって油断は出来ない。

何せ相手はプロと女子インハイチャンプなのだから。

だけどもこの加速は簡単に止められるものではない。


「チー。」


「! ポン!」


京太郎君が鳴いた後に三尋木プロが鳴く。

これで加速はすこしは抑えられると考えたのだろうか。

咲ちゃんもそれに合わせて手を進めて行ってる。

だけどこのままだと京太郎君が和了ってしまうだろう。

既に十二分に加速している京太郎君を抑えるのは並大抵のことではない。

だがそれをやってのけようとする人が居た。



「五月蠅い蠅だな。」


そういった老人がオカルトの幻影を見せ付ける。

ハットを被り、スーツを着た男がトンプソン機関銃を構えて鉄火の鳥に向かって撃ち放つ。

まるで映画に出てくるギャングやマフィアのような格好だがばら撒いた弾丸が鉄火の鳥に当たり墜ちていく。

そしてそれは周りをも巻き込んだ。


「ツモ、2000・4000。」


和了宣言と共に開かれる手牌。

大沼プロお得意の多面待ちだった。

久々に見た大沼プロのBarrage(弾幕)。

相手を追い込むような手腕から今まで潜って来た場数の多さと老獪さが窺える。

オーラスを和了った老人が言う。


「あまりロートルの身体に鞭を打たせるな。」


貴方のような老人がどこにいるのかと言いたい。

少なくともこれで油断出来ない相手だと京太郎君たちはわかっただろうね。



さて、オーラスが終わったのだが一つ問題がある。

一つ目は大沼プロが入ったことによる急遽変更された半荘戦。

本来なら半荘二回か全荘一回なのだけど大沼プロがご高齢なので短めになったことを留意してほしい。

そして現在の各家の点数はこうだ。

咲ちゃんは20700点。
三尋木プロが29300点。
大沼プロが22200点。
京太郎君が27800点。

全員三万点に満たないのだ。

この場合本来なら西入するかどうか決めておくべき何だろうけど突然のルール変更だったので確認してなかった。

不安に思ったこーこちゃんが小声で話しかけてくる。


「ねぇすこやん、これ西入でいいの?」


「実は聞いてないんだよね。」


「げっ、どうすんの……」


そんなときに内線が掛かってきた。

こーこちゃんがとって応対する。

あれ? こーこちゃんが思ったより丁寧に応対している。

失礼と無神経が服を着ているようなもんだと思っていたのに珍しい。

やがてこーこちゃんが内線を切ると話を切り出した。



「すこやん、全員の許可が取れれば西入しても良いって局のお偉いさんが!」


なるほど、上司だから丁寧な対応だったのね。

事情はわかったので審判を通して対局者達に伝えてもらった。

対局室で京太郎君が三尋木プロに問いかける。


「どうします? 三尋木プロが現状トップなんで聞いておきたいんですけど。」


「その言い方だとまるであたしのトップが棚ぼたみたいに聞こえんだけど。」


「実際そうだろう。」

「儂が坊主を撃ち落さなかったら和了られていたな。」


大沼プロの言に三尋木プロは懐から出した扇子を広げて口元を隠して言う。

口は隠れているがその瞳は不適に笑っている。


「くく……気に食わないねぃ、爺さん。」

「いいぜぃ、西入しようじゃないか。」

「というか元よりそのつもりだっつーの。」


「いいんですか? 今のまま終わらせたら三尋木プロのトップですよ?」


「わっかんねーなー、だってエキシビジョンだぜ?」

「この試合、ここで終わらせるのはもったいないだろ?」


「そうだよ京ちゃん。」


「それになんでかわっかんねーけどさぁ……」

「あんたと打つとあたしの方まで熱くなっちゃうんだよねぃ。」


「話は纏った様だな。」


大沼プロがぼそりと言った言葉を皮切りに三尋木プロと京太郎君が吼える。




      西入
「「さぁ、延長戦と行こうか!」」




二人と一緒に吼えはしなかったけども咲ちゃんもやる気満々と言ったところか。

大沼プロも少しはやる気を出したのだろうか?

微かに上がった口角に、昔見た大沼プロの面影を見た気がした。



西一局。

所謂ネト麻の西入サドンデスとは違って雀荘などでは一度西入すると西場が終わるまで対局は終わらない。

誰かがトぶか、もしくは西場が終わったときに三万点を越している者がいれば終われる。

巡目進むにつれ配牌から手牌に加えられるツモ牌まで違和感を感じる。

先ほど撃ち落された時の失速が響いたのか京太郎君の手は伸びていなかった。

それに今まで猛り狂ったように逆巻いていた炎が弱まっているようにも見える。

そこに追い討ちを掛けるように三尋木プロは攻撃をする。

このチャンスを見逃すほど甘くは無いってことだろう。


「そいつだ。」

「ロン、8000じゃね?」


この段階での8000点の失点はかなり痛い。

更に言うなら三尋木プロがトップの状況なのにそこへ点棒を与えるのはかなりまずい。

このまま行けば点差は開く一方だ。

こーこちゃんが小声で問いかけてくる。


「ねぇねぇすこやん、あの子達大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。」

「私が骨の髄まであの子に技術を叩き込んできた。」

「それはしっかりとした背骨となってあの子を支えてくれる。」

「大丈夫、あの子は負けない。」


とは言え苦しいのは事実。

それでもあの二人は諦めていないだろう。



「カン。」

「カン。」

「ツモ、1300・2600です。」


私の予言に応えるかのように西二局を制したのは咲ちゃんだった。

2飜80符という普通に和了った方が楽な和了り方だと思える点数を和了る。

というよりは点数が低いから槓して無理矢理上げたのだろうけど。



西三局。

不可解なことがある。

場を見る限り京太郎君の能力が発動していないように見える。

失速したとは言え加速できたはずなのにしない。

それに先ほどまで辺りを囲んでいた炎は今では鳴りを潜めている。

そもそも何故火の鳥をしなかったのか。

確かに何回も使うものでもないし使えるものでもないけど使えた状況はあったはず。

少なくとも三尋木プロのロン8000は返せた。

それなのに彼は返さなかった。

大沼プロの能力によるものなのだろうか。

それとも……

私が考え込んでいるうちに巡目はそれなりに進んでいた。


「ちっ……ポン。」


大沼プロが何かに気付いたのか微かな舌打ちをした後、鳴いてずらす。

その答えは三尋木プロが持っていた。


「ツモ、4000・8000。」

「残念、直撃は取れなかったか。」


つまり三尋木プロは大沼プロを狙って撃とうとしていたということだ。

それに対し大沼プロはそれを察知し鳴いてずらす。

本来自分に対しての直撃だったものをツモに変える。

通称『爆発反応装甲』、大沼プロの防御率の高さの所以がこれだ。

とはいえ点差は絶望的になってきた。

トップの三尋木プロが52000点。

二位の咲ちゃんですら21900点。

現在三位の京太郎君は13200点。

ラスの大沼プロは僅差で12900点だ。

かなり不可解な状況ではあるけどどう凌いでどうひっくり返すのだろうか。




西四局。

正真正銘のオーラスになるだろうこの局。

如何にして動くのか見物である。

わずか六巡目。

それは起きる。


「立直だ!」


「立直でそいつを切ってよかったのかい?」


京太郎君が切った牌を曲げて宣言する。

その切った牌を見て三尋木プロは問いかけた。

その問いに対して京太郎君は答える。


「意地があんだよ、男の子には。」


「いいねぃ、だけどポンだぜそれ!」


口端を歪めて呼応する三尋木プロ、一発消しのためかその牌を鳴く。

それを見た京太郎君が幽かに揺らぐ。

それはまるで陽炎のように。

京太郎君が今まで火の鳥を使って和了らなかった理由がここにある。

砕けた鉄の鎧を掻き集めて作った鉄の箱。

中身の知れぬ謎の箱を。

三尋木プロは開けてしまっていたのだ。



          パンドラの箱
今、この瞬間にブラックボックスが開かれる。

その箱の中身は私にも解らない。

だけどそれはすぐにわかる。

何故なら今から箱の中身が見えるからだ。


「待っていた。」

「このときを、その牌を。」

「待ち焦がれた。」


開けた箱の中身は小さな炎。

とてもとても小さくなった炎。

だけどもそれはすぐに変容する。

今までチアノーゼに罹っていた炎が開かれた場所から流れてくる酸素を得て大きく呼吸をする。

そうすると瞬く間に炎は体積を増やして膨れ上がり周りに衝撃を与えた。


「ロン。」


京太郎君が三尋木プロが捨てた牌を指して宣言し手牌を開く。


1123455678999s


京太郎君が出した役は索子の九連宝灯。

奇しくも和了った牌は一索だった。


「俺の取っておき、痺れましたか?」


ここで全てをひっくり返した彼がいた。

オーラス親で、全てをひっくり返したのだ。




先ほどの能力に関してだけど大体の考察は着いた。

ちょっとした理科の話だ。

それは時間は掛かるけど少量の火種で良い。

密閉された空間で火が焚かれるとそのうち酸素が無くなり火が弱まる。

だがそこに酸素を再び送るとどうなるだろうか。


『バックドラフト』


およそ消防士である須賀さんから受けた着想。

だけどあんな技、教えたことも無ければ使っているところを見たこともない。

もしかして密かに技の練習していたのだろうか……?

……いや、思いついたんだ、打ってる中で。

オーラスが終わったときに三尋木プロが京太郎君に聞いた。



「しかし四索切るかい、ふつー?」


「こいつ(一索)を引きたかったんで。」


「それなら五索切りでもよかったろ。」


「それだと三尋木プロは出さないでしょう?」

「それに何より真ん中が二つあるほうが形的にかっこいいですから。」


「ま、そうかもね。」

「楽しかったよ、これで終わりと思うと尚のことな。」


「何言ってるんですか、まだ点棒は残っていて、俺の親でしょう?」

「俺はずっと待っていたんだ、だからもうちょっと付き合ってください。」


「……ったく、しょうがない男だねぃ。」

「そんなに熱い口説かれ方されちゃあ、袖には出来ないだろ。」


まさかの和了り止めをせずに続行。

燃え滾ったその空気の中、一人の笑い声が木霊する。



「くくくく……」

「坊主、中々面白いものを見せてもらった。」

「少し本気を出そう。」


そういった大沼プロは薬を取り出して口の中に含んだ。

周りの何をしているのかという訝しげな表情を見て老人は応える。


「ただの持病の薬だよ。」

「ただ、誰かがこれを揶揄して儂のことを『火薬』と呼んだがな。」


笑いながらそういうと配牌を取っていく。

配牌を取り牌を並べ替えると大沼プロがまた言い直した。


「そうそう、さっきはいいものを見せてもらった。」

「これはその礼だ。」


大沼プロがそういうと牌を曲げて宣言する。


「立直。」


まさかのダブル立直。

ほぼ最速の状況から爆弾の投下。

あまりに突然なことに周りにいる人間は対応できない。

刻一刻と大沼プロのツモ番は近付いてくる。

それは止まらない時限爆弾のように。

それは消せない導火線のように。


「ツモ。」

「12飜で6000・12000の一本付けで横浜の嬢ちゃんのトびだな。」

「今回は裏は捲らないでおいてやる。」



大沼プロの和了りに三尋木プロは汗をかいており、咲ちゃんは呆然としていた。

大沼プロはその中でにべもなく席を立ってその場を離れながら京太郎君に忠告する。


        遊び
「今回はエキシビジョンだからな。」

「多少は遊んでもいい。」

「だが勝ちを取れるときには取れ、真剣勝負はそういうもんだ。」

「次に会うとき、坊主が望むなら今度は本気で打ってやる。」


そういうと大沼プロは対局室から出て行った。

それから三尋木プロは誰に言うでもなく言い放つ。


「全くとんでもない爺さんだな、おいしいとこ全部持ってきやがった。」

「ほんと、底がわっかんねー。」


大沼プロが捲らなかった場所。

多分裏ドラは乗っていた。

つまり実質役満だ。

もし裏を捲っていたら京太郎君は100点差で負けていただろう。

そしてそれはあの対局室に居た全員が気付いているはず。

これは大沼プロの挑発なのかもしれない。

ただそこの卓には……

咲ちゃん15800点。
三尋木プロ-2100点。
大沼プロ37200点。
京太郎君49100点。

そんな仮初の点棒表示が虚しく残っていた。

今日はここまで

この後何するか決めてないけど投下準備



祭りが終わり、閉会式などを終わらせて恒例行事に付き合う。

参加メンバーは照ちゃんに福路さん、靖子ちゃんとか他のチームのプロといえばわかるだろう。

そこに加えて今回は京太郎君と咲ちゃんと片岡さんも連れてきた。

お酒は絶対に飲ませないという条件で入れてもらった未成年たちに目を光らせながら私は他のプロと世間話をしている。

隣から靖子ちゃんと京太郎君の会話が聞こえる。


「靖子さん、靖子さん。」

「あの、あちらの方々からすごい熱い視線が……」


「バカ、目を合わせるな、あの人たちと目を合わせると就職先が決まっちまうぞ。」


「あ、はい、気をつけます。」


トキメキ熱視線を送ってくるスカウトやアラサー三人。

ちなみにアラサーというのはキツイプロとレジェンドプロとプンスカプロのことである。



何故こんなに熱い視線を送っているのか。

スカウトやアラサー共が狙っている理由。

実は言ってしまえば京太郎君や咲ちゃんより強い人はいる。

今回負けてしまったとは言え勝ち越している三尋木プロ。

一線を引いたとは言え実力があり、今回実質優勝者の大沼プロ。

私たちと一緒に打って尚も腕を磨いた福路さんに照ちゃん。

その妹であり女子インハイチャンプの咲ちゃん。

そんな将来性が洋々たる面子相手でも即戦力のレア度で言えば京太郎君の方が上である。

今男子の花形プレイヤーが減っているため、各チームは挙って有望な男子を取り入れるか、

さもなくば半ば男性部門を切り捨て女性部門に重点を置いてスカウトしているのが現状なのである。

つまり京太郎君は咲ちゃんと大して腕は変わらないとは言え男子というだけでかなり稀少なのだ。



本来のそれとは別の人もいるようだけど。


「あんた試合見取ったで、中々の男前やんな。」

「これはうちのヒロにはもったいないな、絹とかどうや?」

「私に似て胸も大きいし気立てもよくて美人なんやけど。」


「あははは、俺にはもったいないっすよ。」


別のスカウトしてる方がいますね。

あと京太郎君適当に会話しすぎ。

それもある意味処世術だけどさ。

そういえば以前、合宿のときに京太郎君が「勝ってやりたいことがあるんだ。」って言ってたけど結局何がしたかったんだろう?

本人は実質負けだと思ってそうだから中止にしてそうだけど。

短すぎるけど今日はここまで
ルートは三つほどありますけどこの後の展開考えてない

書き溜めなし投下



それから少しすると宴も酣になり解散になった。

途中京太郎君と大沼プロとお孫さんの付き添いで来ていた南浦プロが話をしていた。

就職活動かなー?

まぁいいや、どうせウチのチームにくるだろうし!

それかホテルに戻って皆で軽くお疲れ様会をしてから明日は一日遊んで帰ることにした。

それを聞いた生徒達が連絡を取っていた。

何でも個人戦で仲良くなった子とか白糸台の子と遊びに行くらしい。

若いって素晴らしい。

流石の私でも高校生に混じるのは難しいので私はその間適当にぶらつくことにした。


そして翌日、遊びに行くという子供達を見送り私は引率者が集まる場に向かった。

別に出なくてもいいのだけれど、というか今まで出たこと無かったのだけれど手持ち無沙汰なので出ることにした。

そこにはプロの集まる飲み会とは違って引率者が多く集まっていた、とはいえ元プロや現役プロもいるにはいるけど。

私は誰か知っている人がいないかと見回して知っていそうなのが戒能プロと愛宕元プロと赤阪監督を見つけた。

何でまたこの場に戒能プロが?

私は疑問に思いつつも挨拶をして軽い歓談をする。

そんな時、ふと後ろから声を掛けられた。


「お、小鍛治じゃないか。」


「え……」


掛けられた声のほうに振り向くと懐かしい顔があった。



忘れもしない強烈な人。

印象は男前でしかし姉御肌の面倒見良し、私もお世話になったこともあった。

顔は割りとイケメンだけどそれ以上に女性的な体。

女が惚れると同時に嫉妬しそうな悩ましさ。


「何でここにいるんですか、ナイスバディ先輩……」


「久しぶりなのに『何で』とはずいぶんな挨拶だな。」

「しかも未だに俺のことその呼び方なのかよ。」


「で、なんでここにいるんですか?」


「いやいや、ここにいてもおかしくないだろ、俺も教師なんだし。」


そういえばそうだった、同じ学部学科の先輩だから教師でもおかしくないんだよね。

ナイスバディ先輩は続ける。


「いやまぁ、大学卒業した後、実家の鹿児島に一旦帰る羽目になってさ。」

「今は奈良で何とか教師やってるよ。」


「鹿児島?」


「知らない? 霧島神宮ってところ。」

「俺そこの派生した分家なんだ。」

「といっても結構遠縁だけどな。」

「そこにいる良子とは付き合い長いけど。」


「ああなるほど。」


私は得心した。

その乳は家系だったんですか。



ここで疑問に思ったことを聞いてみる。


「そう言えばさっき先輩奈良に居るって……しかもここに居るって事は教師として引率してるって事ですよね?」


「ん? ああ、阿知賀女子学院ってところなんだけど、個人で出てた高鴨や去年の松実玄はわかるか?」

「一応そいつらに麻雀教えてやったりしてる。」

「子供相手してるようであいつらホント手が焼ける。」

「そっちはどうだ?」


「こっちも似たようなものですよ、手が焼けるけど京太郎君が面倒見良いから何とかなってます。」


「直に見たわけではないけどあいつらも成長してたな。」

「もっとも咲の方は成長してなかったけど、どことは言わんが。」


「本人が聞いたら怒りますよ。」


「そんくらい受け止めてやるよ。」


「多分二人とも会いたがってるのであとで会ってあげてくれませんか?」


「おうともよ。」


あっさりと快諾してくれたナイスバディ先輩。

伊達に男前ではない。

そのあとは適当にアレクサンドラ監督や他の監督などと話してホテルに戻った。

そして二人を呼び出して部屋に招く。

二人の第一声はこうだった。


「ナイスバディお姉さん……」


「ナイスバディさん……」


「なぁ小鍛治、あいつら俺の名前忘れてるわけじゃないよな?」


「違うと思います。」


多分。

でも正直その胸を見たら名前なんて覚えてられないくらいのインパクトだから仕方ないね。

私も久しぶりとは言え忘れてたし。



ナイスバディ先輩がアイコンタクトで京太郎君と私を部屋から出させて咲ちゃんと二人きりになった。

数分後、中から盛大に響く泣き声。


「うわあああああん! 妬ましいよおおお!」

「大きいおっぱいが妬ましいよおおお!」


気になってちょっとドアを開けて中を覗き見るとそこには……

咲ちゃんは泣きながら何度も何度も先輩の胸を揉んでいた。


「羨ましいよおおおお!」

「私にもこんなおっぱいがほしかったよおおお!」


「おおよしよし。」


慰めてる先輩に号泣しながら胸を揉む咲ちゃん。

なんともシュールな光景だ。

今日はここまで
注意散漫のときは危険

風邪引いて体調良くないので今回は少しだけ投下



それからそわそわしている彼を宥めて待っていると二人が出てきた。


「終わったよ、色々とね。」


そういった先輩に続いて咲ちゃんが口を開いた。


「何で私あんなに巨乳に拘ってたんだろうね……」


多分周りのせいだと思う。

ナイスバディ先輩(嫉妬の対象)と私(嫉妬の権化)と京太郎君(嫉妬の助長)とか。


「ナイスバディお姉さんに胸を揉ませてもらってるとき天から声が聞こえた気がしたんだ。」

「『競うな! 持ち味をイカせッッ!』ってね。」

「そこで気付いたよ、私には胸はなくても尻とふとももがあるんだ。」

「だから胸は無くても良いんだって。」


進歩したね、咲ちゃん。

多分それは天からの声じゃなくて一種の悟りだとおもうよ。

まぁ何にせよこれでこれ以上巨乳の子が咲ちゃんによって泣くことはないね。

めでたしめでたし。

あれ、何か忘れてるような……



それから東京を満喫した後、長野に戻って初めての部活をする。

と言っても三年生の引退と部長の引継ぎだけど。

京太郎君が次期部長に注意するところやアドバイスをしている。

室橋さんは普段から見てるし京太郎君も普段から教えているから軽めだったけどね。


「しかし悪いな、ムロ。」


「へ? 何がですか?」


「いやさ、俺らがもっと人員獲得出来ていれば来年も麻雀部は安泰だっただろ。」

「それを思うと申し訳なくてな。」


「いえ、須賀先輩からは既に色々大事なことを教わってますから。」

「それだけで十分ですよ。」

「それよりミカやマホに声を掛けて上げて下さい。」

「そっちのほうがありがたいです。」


「そっか、わかったよ。」

「一応俺たちはこれで引退にはなるけどちょくちょく顔は出すから困ったときはいつでも言えよ。」


「ありがとうございます。」


軽く会話した彼ら。

確かに来年部員を獲得できなかったら部ではなく同好会に格下げである。

さて、どうするか。



その日三年生の労いも兼ねた送別会を執り行った。

長野にちょうどいい場所が無かったので私の家で。

ご馳走は私の手料理である、女子力高くて困っちゃうね。

料理が揃って飲み物を注いで準備する。


「ではかんぱーい!」


「「「「「「かんぱーい!」」」」」」


本当はお酒が飲みたかった。

でも後片付けがあるのでお酒が入ると面倒になると予想できるので我慢。

この三年間色々あったけど楽しかったなぁ……咲ちゃんはそう言いながらジュースを飲んでいた。

片岡さんは食べ物を口一杯に頬張り旨い旨いと食べてくれていた。

京太郎君は何か物思いに耽っている。

本当に色々あったし思うことはあるだろうね。

終わった最後のインターハイ。

そしてこれからの進路。

色々区切りが終わって色々始まる。

三尋木プロとのリベンジが終わったけど大沼プロとの因縁が始まった。

もしかしたらあっさり決着が付くかもしれないけど付かないかもしれない。

しかしそんな先のことはわからない。



送別会が終わって生徒を帰らすと京太郎君が戻ってきた。

どうやら咲ちゃんと片岡さんと加藤さんを送ってきたみたいだ。

夢乃さんと室橋さんを送った私の代わり送ってくれたのである。


「お疲れ様。」


「お疲れ様です。」

「何か他に手伝うことありますか?」


「後は片付けだけだから休んでいていいよ。」


「じゃあ皿洗い手伝います。」


「君は人の話を聞かないね。」


「性分なんで。」


「知ってた。」


私がゴミの分別やら何やらをしていると彼が皿洗いをしてくれた。

それらが終わる頃にはすっかり祭りの後は綺麗になっていた。



全てが終わり、一息付く為にお茶を入れる。


「はい。」


「ありがとうございます。」


「ううん、こっちこそ手伝ってもらって助かったよ。」

「それより、何か言いたいことがあるんじゃないの?」


「あ、そういうの分かっちゃいます?」


「何年君達と一緒に居ると思ってるのさ。」


「じゃあちょっと話を聞いてもらっていいですか?」


「うん。」


多分彼にとってそれなりに重要なことだとは分かる。

雰囲気で掴み取れるものだ。

付き合いが長いってのもあるけど。

今日はここまで
皆さん季節の変わり目には気をつけましょう
体調管理はきっちりと

今後気になることがあっても>>1レス1行
余裕あったら明日辺り投下します

今日はちょっとだけ投下




彼が神妙な面持ちで口を開く。


「それで、話って言うのはこの間言ってた『インハイ終わったら』ってことに関係していることなんですけど。」


この雰囲気……もしかして愛の告白?

駄目だよ、彼とは幼馴染でもあるが今は教師と生徒。

それは許されぬ恋愛。

それなのに将来有望な男の子を誑かしてしまうなんて私って罪な女。

なんてくだらないことを考えていたが彼はそんなことは露とも知らず喋りだす。


「実は俺、大学に行こうと思ってるんです。」


「え?」


思わず私の口から洩れ出てしまった声。

私はてっきり高校卒業後はプロになるんだと勝手に思っていた。



「プロにはならないの?」


「咲や優希のやつはそうみたいですね。」

「俺はプロもやりたいけど……」


「京太郎君はインカレで打つのかな?」


「……打たないでしょうね。」

「打ちたい相手がプロにしかいないんで。」


「じゃあ、麻雀やめちゃうの?」


「……許されるなら、大学とプロの二足の草鞋で行きます。」

「学費のこともあるんで。」

「父さんに負担を掛けたくないし。」


「ああ、学費かぁ……」


お金の問題は切実だとは思う。

それに大学とプロの両立はかなり大変である。

しかし彼の家は片親で裕福とは言えないけど困窮しているというほど苦しいわけではないはずだ。

そこで私は気になったことを聞く。



「行きたい大学って特待取れるんじゃないの?」


「俺の目指す学部は麻雀の特待を取って無いんですよ。」

「そもそもさっき言った通りインカレで打つ気は無いので。」


「そっか……」

「ねぇ、行きたい学部ってもしかして……」


「ええ、分類としては公務員です。」


やっぱりだった。

この件は私が手助けしないといけない気がする。

先生として、身近な大人として。

人生と麻雀の先輩として。

そして手本を見せた先駆者として。

私は彼を導かないといけない。

そんな思いに駆り立てられる。


「わかった、社長に私からもお願いするよ。」

「一応成績が良いのは知ってるけど、京太郎君も受験に向けて勉強頑張ってね。」


「はい、ありがとうございます。」


「ねぇ、外を歩かない?」


「わかりました。」



外に出ると夏も過ぎたせいか日は沈んで辺りはすっかり真っ暗になっていた。

空にはぽっかりと綺麗な月が浮かんでいる。

それを見た彼がふと溢す。



「良い月ですね。」


「うん、綺麗だね。」

「綺麗なんだけどね……」


「どうかしましたか?」


意味深なことを言った私に、彼は訝しげな表情をしている。

私は構わず続けた。


「私は嫌いだな、夜。」

「だって暗いし、怖いし、気持ちが暗くなる。」

「……だから私は好きになれない。」


全てを飲み込んでしまいそうな闇夜。

自身が吸い込まれそうな黒なせいか、つい綺麗な月と星を妬んでしまいそうになる。

こんな夜は小さな彼を抱いて眠る過去を思い出す。

私が嫌いな黒、お別れの黒。

でも離れられるようなものではない。

しかもその黒に気を許せば孤独が隣人のようにやってくる。

そんな気がする。

夜は暗くて、怖くて、切なくて。

本当、名前通りで嫌になる。

そんなことを思い、耽っていると隣から声が返ってくる。



「俺は好きですよ、夜が。」

「夜は邪悪だと言われるけど、夜がなければ世界はもっと病んでいたかもしれない。」

「俺が健やかで居られるのは夜があるおかげです。」


彼がにこやかに言った言葉。

私を勇気付けようとして言ったのだろうか?

「夜があるから健やかで居られる。」か。

ありがたい言葉だね。

でもね、京太郎君。

私には勇気付けられるような資格は無いんだよ。

私が貴方を歪(イビツ)に歪めてしまったんだよ。

今までの君が直面した困難や苦労を用意したのは私で。

そして咲ちゃん達の性格が本来とは違って捩じ曲がっていく中で、君だけは変わらないようにしていた。

きっと取り返しの付かないことだけど、もう元には戻せないけど。

私は君に精一杯のことをするよ。

話している内に散歩は終わり、彼の家に着いてしまった。

遠回りしたとは言え隣なのだから当たり前なのだけど。

家を見て私は最後に一つ聞いてみることにした。



「なんで公務員になろうと思ったの? やっぱり須賀さんの影響?」


「……健夜さんの真似ですよ。」

「俺健夜さんのことが好きですから。」

「別に返事がほしいわけでもないんで聞きませんけど。」


そういうと京太郎君は家の中に入って行った。

君はさらっと言ってくれるね。

並みの女ならば今の不意打ちの科白でコロっと行ってしまうだろう。

憖(なまじ)顔格好がよろしいから言う方も言われる方も危険なのである。

私も好きだよ、君は掛け替えの無い存在だから。

勿論、咲ちゃんや照ちゃんも大切だけどね。

今日はたまたま京太郎君の進路相談を受けたけど咲ちゃんや片岡さんはどうするんだろ?

二人ともプロになるっぽいけど直接は聞いてないから何とも言えない。

それはまぁ置いといて、今後やるべきことが色々出来たから忙しくなりそうだ。


今日はここまで

全然関係ないですけど
WOTのティーガーとポルシェティーガーどっちが強いですかね?
教えてえろい人
あと安かったのでテラリアを買ってしまった……
時間が喰われる……

吃驚するほど書けないけど頑張って投下



インハイが終わり、夏が過ぎて秋が来る。

秋にもなると暑さも控えめとなり汗ばむ陽気も鳴りを潜める。

ある日、暇を持て余した咲ちゃんと片岡さんが部活中にこんな話をしてた。


「最近、ミカがボクシングジムに通ってるらしいじぇ。」


「なんでボクシングに?」


「それはさっぱりだじぇ。」

「ただ、ミカ曰く強くなりたいらしいじょ。」

「麻雀しながらボクシングとは斬新だな。」


え、何で……?

麻雀とボクシング関係ないよね!?

チェスとボクシングでもミスマッチなのに……

もしかして私に対するお礼参りとか!?

いやいや、加藤さんに限ってそんなことは……ないよね?

私は不安に思いつつも雀荘に行かせた下級生三人を信じて待つ。

今頃靖子ちゃんとかと打ってるはずだけど大丈夫だよね?




進路相談などで忙しくなる10月も軽くこなして咲ちゃんを祝う。

はぁ。

来月か。

というか来月なんてすぐだった。

当たり前だ、咲ちゃんのは27日だもの。

そして少し日にちが経つとその日が近付いてくる。

それは私の嫌いな日である。

いつの間にか今日で最後の二十代。

明日からは三十路を名乗ることになる。

三十路。

それは一つの区切り。

三十路。

それは逃れられぬ宿命。

三十路。

それは、大台。

……明日から二十九歳(と十二ヶ月)ってのは駄目かな?

くだらないことを考えて現実逃避していると家のインターホンが鳴る。

誰だろうと考えなくても誰だか見当が付く。

玄関の扉を開けるといつものメンバーが雁首揃えているわけで。

こんなに三十路を祝われるとは思わなかったよ。

今までで一番の三十路を祝われ方だった。

でもまぁ、悪い気はしないかな。

先生やってて良かった気もする。



それから少しすると彼らの進路がより確かなものになっていく、

片岡さんと咲ちゃんはプロになれそうだし、京太郎君はきっちり推薦を取れそうだ。

彼に関しては今までの輝かしい功績や部長という責任ある立場があったので推薦枠はすんなりと通った。

勿論普段から学生の本分である勉学もしっかりやっていた上に受験勉強も余念が無かった。

進路はほぼ確定だけど未来のことはわからない。



クリスマス。

バレンタイン。

リア充爆発しろ。

そんな風に思えるイベントは全部流して学生最大のイベント。

卒業式。

受験はあっさりとクリアして行ったので割愛するけど卒業式はそうはいかない。

私も手伝いをする破目になったんだけど結構大変。

司会進行とかやる人とかすごいと思う。

卒業式とかやってる最中って感極まって泣く子とかいるよね。

リハーサルのときは泣かなかったのに、まぁ気持ちはわかるけど。

あと加藤さん泣いてた。

貴女の卒業式ではないのに泣くのか。

きっと貴女が卒業するときはもっと泣くんだろうね。



卒業式が終わり、一息ついたので旧校舎に向かう。

部室に入るとそこには同じ考えを持った人がいた。

今日、卒業する三年生三人が卓の前に立っていた。


「打っていく?」


「ええ、お願いします。」


「今日が学校で打つ最後の麻雀だね。」

「皆準備はいい?」


「もちろんだじぇ。」


「それじゃあ打とうか。」


感慨深いのか皆一手一手ゆっくりと打つ。

皆して能力の使用はせず普通に打っているのだ。

それでも少しずつ少しずつ巡目は進む。

そしてやがて終局する。


「お疲れ様でした。」


「お疲れ様。」


「お疲れ様だじぇ。」


「お疲れ。」

「最後の麻雀はどうだったかな?」

「やっぱり寂しい?」


「うーん、別にもう打てないわけじゃないし、この面子とはまた毎日顔を付き合わせるわけだけど。」

「やっぱり高校最後となると感慨深いじぇ。」


「俺は毎日顔を出すとは思うけど大学が忙しいときは出れないかもしれないぞ?」


「何だと!? それじゃあ私のタコスは誰が作るんだじょ!?」


「知・ら・ねー。」


「多分あんまり変わらないね。」

「お姉ちゃんとも同じチームになるし京ちゃんとも離れるわけでもないし。」

「高校からプロには移るけど顔は同じだもん。」


確かにあまり代わり映えしないというか実家のような安心感のあるチームではある。

というのも、よく佐久フェレッターズの面々とは交流があったからである。

生徒の練習にも良く付き合ってもらったね。



打った後、三人が帰っていく。

私は少し部室に残って外を眺めていた。

京太郎君たちが坂を降りていく途中、向こう側から人影が現れた。

どうやら加藤さんが走って三人を新校舎から追いかけてきたようだ。

別に声が聞こえるわけでも口が見える距離でもないので何を言ってるのかわからないけど、咲ちゃんと片岡さんが二人を置いて先を行く所を見る限り何か重要なことを言おうとしているのだろう。

どうやら何か言ってる様だ。

そのあと加藤さんが目線を下げて待っていると京太郎君が頭を掻いて頭を下げた。

加藤さんは頷いた後にもう一度、頭を下げた後に京太郎君の胸に向かって腕を動かして何かを持っていった。

多分第二ボタンだと思うけど何でそんなに強引に……

というかボクシングを習っていたのはそのためか。

そもそも普通に言えば彼だって渡しただろうに。

傍から見てて何とも不可思議な光景だった。

今日はここまで

違うの、SKYRIMが安かったのが悪いの……500円は買っちゃう
投下がんばる



ウチのチームに新しくメンバーが加わる。

知っての通りの三人。

長期スパンでみると強い京太郎君。

彼は大学の関係もあるから少し特殊な雇用契約がなされているけどそこは問題ないだろう。

これからの男性の部の星として頑張って頂こう。

咲ちゃん、言わずと知れたチャンピオン。

彼女は割りと団体戦のほうが強いのでそっちをメインに行くと思う。

ちなみに彼女の雇用契約は京太郎君とは違って倍の期間の二年更新。

最後に片岡さん。

彼女はもう東風戦特化の対局に絞る。

かつての私みたいに東風フリースタイルとかそっち一本である。

彼女も咲ちゃんと同じタイプの契約。



「今までもよく来ていましたけど改めて、今後もよろしくお願いします。」


「本当によく入り浸ってもんな。」


靖子ちゃんや照ちゃん福路さんと話を盛り上げる三人。

そのあとも挨拶周りなどをして一日は終わる。

幸いにして学校はまだ春休みなので三人に係わってあげられた。

室橋さんたちには少し悪いけど今はこっちが重要なのだ。



色々終わって京太郎君と二人で須賀家に向かう。

今日は休みの取れた須賀さんと就職&入学祝いを行うとのことだった。

咲ちゃんや片岡さんもそろぞれの家庭で祝うらしい。

そういえば何か照ちゃんが張り切っていたけど嫌な予感しかしないのはなんでだろう。

宮永家に一抹の不安を抱きつつもご馳走を用意する。

途中京太郎君が手伝いにやってきたけど追い返しておいた。

主役は座って待ってなさい。

須賀さんと共同で作っていたが意外や意外で案外料理の手際がいい。

考えてみれば男やもめが長いんだから料理出来ないわけがない。


「あいつ変な味の物が異様に好きなんだよな。」


「ああ、確かに。」

「京太郎君良く変なタコス作ってました。」


「そうなんだよ、それでいてちゃんとしたものも食べる。」

「小鍛治さんには感謝してますよ、でも変な味が好きなのは誰に似たんだか……」


「あはは……」


軽い会話をして流しておいた。

一方京太郎君はといえば仏壇に手を合わせたあとカピちゃんの相手をしていた。





「乾杯!」


「「乾杯!」」


京太郎君の乾杯の音頭で食事を取り始める。

彼は未成年でまだお酒を飲めないからジュースだけど私たちはお酒だ。

いやー悪いね、京太郎君のお祝いだけど私たち思いっきり楽しんじゃってる。

しかも須賀さんによる「大魔王」と言うチョイス。

厭味かこんちくしょう。

お酒が大分進み、良い感じに酔っ払うと片付けが面倒臭くなってくる。

結局須賀さんと二人してばたんきゅー。

京太郎君が敷いてくれた布団で寝て京太郎君が後片付けしてくれた。




朝になるとぬーぬー言ってる鳴き声で起きる。

鳴き声の主はカピちゃんだった。

昔はキュルルルって鳴き声だったのに今ではおじさんが唸っているような鳴き声。

というかカピちゃんも結構なおじさんだった。

君とも結構長い付き合いだね。

起きて今に行くともっさい須賀さんときっちり朝ごはんを用意している京太郎君がいた。


「おはようございます、朝ごはんどうします?」


「あ、うん、いただこうかな。」


おかしいなぁ、今回朝早く起きて作ってあげようと思ったいたのにいつの間にか彼に作られていた。

彼の女子力が上がるのは最早運命力とか世界の強制力とかなのかな?

堕落の悪魔(別名ダメ人間製造機)になりそうで怖いよ。



事務所に向かうとダメ人間製造機代表と会う。

京太郎君の世話焼きな性格は福路さんの影響もあると思う。

福路さんも良い子だけどダメ人間製造機な上に駄メンズに引っかかりそうで怖い。


「あ、先生、スタイリストの方が呼んでましたよ。」

「何でも衣装合わせがしたいとのことでしたけど。」


「ありがとう、後でいくよ。」

「あと福路さん、ここで先生っていうのはどうなのかな……」


「あらすみません。」

「でも小鍛治先生は私にとって先生ですよ。」

「勿論チームの先輩後輩になった今でもです。」


「あはは……」


何か小恥ずかしいからやめて。

早々に話を切り上げてスタイリストさんに会いに行く。

残念女子力の私でも何とか姿格好だけでも整えられるのは偏(ひとえ)に彼女のおかげである。

当然それは私の後継者と言われている宮永姉妹も例外ではなく今後は姉妹揃ってお世話になりそうだ。



学校が始まり職員室に向かうと割りと話すことの多い国語担当の先生が話しかけてきた。


「小鍛治先生、貴女に伝えておきたいことがあります。」


「は、はい。」


「実は、この度私結婚することになりまして。」


「……はい?」


「年上の小鍛治先生よりもお先に籍を入れるのは心苦しいけど私も今年で29なんでぶっちゃけ待ってられないです。」


「あっはい。」


今年一番目のショックな出来事。

お仲間だと思っていた年下の同僚が結婚することになりました。

くやしい。

今日はここまで

ちょこっとだけど投下


「小鍛治さんもチェックお願いします。」


「あ、宣材出来上がったんだ。」


「ええ、一応プロの人に補正や加工とかやってもらったんですけどね。」


「毎年だもんね。」


そう言って広報の人から写真を貰う。

この間撮った宣材写真が出来上がったのでそれに目を通すのだ。

これをちゃんとやらないとあとでクソコラと呼ばれる類のものが出来上がるので大変である。

と言っても全員やるわけでもない。

靖子ちゃんや照ちゃん、福路さんは一昨年に撮っているので変わらず。

咲ちゃんと片岡さんが新しく入ったのと私は29とXX月過ぎたのでその節目にという理由で撮った。

京太郎君は正規雇用ではないので撮ってないらしい。

しかし仕事の一環とは言え宣材写真の方は毎年では無いけどプロカードは毎年更新なので面倒くさいものである。

今年から30表記かぁ……毎回のこととは言えやっぱりクるなぁ。



さて、今年もやってきました。

毎年恒例のインハイの麻雀より死に物狂いになってやること。

「部員確保のお時間」です。

今年は室橋新部長と加藤さんのペア。

そして私は夢乃さんとのペアで部員の勧誘を行うことにした。

毎年皆で一塊になって勧誘するから威圧感があったりエンカウントが少なくて失敗するんだ。

だから今回は二手に分かれる。

これで片方が失敗してももう片方は大コケしないという目論見である。

二手に分かれる前に私が念を押す。


「わかってるとは思うけど今年インハイに団体出場出来るかどうかはここに掛かっているからね。」

「しっかりやろう。」

「……あと先生としてはあまり大きな声では言えないけど多少は強引に行って麻雀を楽しませるのも手だと思うよ。」

「ほら、『麻雀の面白さを知ったら入りたくなる』でしょ?」


「「! はい……!」」

「……? はい。」


加藤さんと室橋さんが言った意味を理解してくれて嬉しい。

夢乃さんは純粋なのか額面通りに受けたようだ。

出来れば君はこのままでいてほしい。

それにしても確実に黒い部活になって行ってるなぁ。




数時間後。

部室に数人連れ込み加藤さんと私、新部長と副部長が頑張って接待していた。

私たち側は多少腕に覚えがある人を受けて打っている。

部長達側は初心者に優しく教えながら打っている。


「えっと自分のツモ番のときに立直をして和了ると一つ役がプラスされるから……」


「はい、あ。」

「和了れました!」


「すごいですね! マホも嬉しくなっちゃいます!」


「ありがとうございます! 麻雀って面白いんですね!」


あっち側は楽しそうにしているね。

一方こっちはというと……



「た、助け……」


「もうやだなぁ、そんな大げさだよ。」


「もう点棒が……」


「大丈夫だよ、練習だからハコ下ありだから。」

「マイナスになっても麻雀を楽しめるね。」


「ひぃいぃ……」


いやぁ、部員確保はいつもついつい力が入るね。






で、結果は私たちが相手していた子が悲鳴を上げて逃げ出してアウト。

その異様な雰囲気を察した部長達側の初心者さん達もそそくさと逃げていってアウト。

見事なゲッツーである。


「どうしよう。」


「どうしようじゃないですよ先生、何してくれてるんですか。」


「いやね、ちょっと本気で逃がさないようにしようとしたら力が入っちゃって……」

「……ごめん。」


新三年生二人から溜息で漏れる。

そこに夢乃さんが発言をする。


「大丈夫です! マホたちは個人戦でも頑張れます!」

「例え部員が来なくても先輩達の顔に泥を塗るような打ち方はしません!」


「夢乃さん……」


「集まらなかったものは仕方ないですし、マホの言う通り個人戦頑張りますか。」


ナイスフォロー夢乃さん。

そして英断室橋さん。

やっぱり君達部長の器だよ。

今日はここまで

新海域と戦車乗っていたら手が回らない
投下ガンバる




今年は奇しくも新規部員を逃し、あわや部から同好会に格下げかと思ったら過去の実績と私の輝かしい栄光のおかげで難を逃れた。

オリンピック優勝がこんなところで役に立つなんて……

何かの役に立つかなと思って取っておいて良かった。

部室に向かうと既に生徒達が待っていた。

私に気付いた室橋さんが口を開く。


「で、どうでしたか?」


「あ、うん、何とか部として続けられるみたい。」


「そうですか、それはよかったです。」

「部員確保できなくて団体戦に出れない上に部としても存続できなかったら先輩方に顔向けできないじゃないですか。」


「あっはい。」


部長の笑顔がとても怖い。

それもこれも原因は私がやらかしたせいなんだけど。

そこで私は言い訳や言い逃れを考えて取り繕う。


「でもでも、今年のインターハイは個人戦だけだけどそこで活躍しておけば部員が中途入部して秋季やスプリングで団体戦が……」


「今までインターハイ以外の団体戦に出れた例しがなかったじゃないですか。」

「まあ今年はそのインターハイすら出れていませんが。」


「うう……ごめんってば。」


あっさり返されたあげく薮蛇で更にダメージである。

13も年下の教え子に情けない話だ。

そこに横から口を挟む人が。


「別に私は元から個人戦だけでも構いませんでしたよ。」


「え、そうなの?」


「はい、団体戦に出れればそれで良かったですけれど私にとっては個人戦のほうが大事なので。」



そう加藤さんがさらっと言うと卓に着いて打つ準備を始める。

それを見た夢乃さんが自分も、と用意をする。

最後には室橋さんも諦めて卓に着いた。

加藤さんがこっちを向いて言い出す。


「先生、早く打ちましょう、個人戦まで時間が無いんですから。」


「焦らなくても加藤さんたちなら十分優勝できると思うよ?」


「勝ちたい相手が出来たんです。」

「それもすごく強い相手です。」


「ああ、その人に負けたくないんだ。」


「ええ、『負けたくない』ですから。」

「絶対に。」


加藤さんからは言い知れない気迫を感じた。

一体何が彼女をここまで駆り立てるのか。

勝ちたい相手とは誰なのか、私には知りようの無いことだった。



事務所での話。

私が事務所に向かい、咲ちゃん達と談話していたときのこと。


「そういえば最近京ちゃん見ないですね。」


「ん? ああ、京太郎君なら社長と一緒に色々回ってるみたいだよ。」


「へぇ~、最近会ってないから何しているのかと思ったらそんなことしていたんだ。」


照ちゃんが気の抜けた返事をしながらお菓子を食べている。

彼は仕事と勉学の両立しないといけないから大変である。

勿論大人としてサポートはしているけどそれでも本人がしないといけないことはごまんとあるから多少顔を合わせなくても仕方ない。

でも福路さんが居てよかった。

私だけだと照ちゃんや咲ちゃん、片岡さんの面倒は見切れないからね。

その後、社長と京太郎君が帰ってきたあと京太郎君は咲ちゃん達のところで談話し始めた。

社長は帰ってきてからすぐに私の元へ来て仕事の打診をしてくる。


「実は今度のインターハイの仕事なんだけど……」


「解説ですか? 別に良いですけど。」


「いや、それもあるけどそれとは別件でもう一つあるんだ。」

「それに関しては京太郎君も絡んでいる。」


「え?」


只でさえ忙しいのに更に仕事を積むのか。

まぁ彼を売り出したくて半ばアイドルみたいな感じみたいになってるのはわかるけどさ。

顔悪くないし、実力あるし男性の部の花形プレイヤーだから営業したくなるのも仕方ない。

ただ、先輩としてはまだまだ仕事面が気になるので補佐するためにも受けて置こう。


「わかりました、京太郎君が関わってるなら私も受けます。」


「そうか、ありがとう。」

「後で仕事の詳細を教えるから読んでおいてくれ。」

「あと、インハイの仕事だからって暴れすぎないように。」


「わかってますって。」


社長に釘を刺された。

顧問として暴れまくった過去と解説としてちゃんと仕事した実績を混ぜて考えないで貰いたい。

ちゃんと学校は学校、プロはプロとしてやりますから。

多分。



今年も合宿の季節がやってまいりました。

とは言っても今回学校でお泊り会をするだけですが。

部が同好会に降格しなかったとは言え人数が減ったのと予算確保に回せる人手が減ったのでこの体たらくだ。

きっちり予算を確保していた歴代の部長さん達には本当に頭が下がる思いです。

土日の一泊二日だけどそれなりに数は打てるはず。

というか私含めてきっちり4人なので休めない。

今更遅いがチームから誰か呼んでおくべきだった。




そして時間は流れてついにインターハイ予選だ。

一応敵情視察も含めて団体戦も見ておいたのだけれど大会の雰囲気と言うか選手の雰囲気がおかしかった。

何と言うか皆笑顔。

皆して笑顔で楽しそうに打っている。

中には感涙を流しながら打ってる人も。

涙を流していたり晴れやかな笑顔をしていたのは大抵二年生三年生とコーチ・監督枠の人たちばかりだった。

久保さん何て仏のようなスマイルでびっくりした。

貴女私の知っているところでは鬼のような形相だったりかなり怖い感じでしたよ?

人って変われば変わるもんだね。



「あ、見てください! 須賀ぶちょ、先輩が解説してますよ!」


夢乃さんの声に釣られてモニターのほうを見る、そこには金髪の彼が映っていた。

そういえばあまりに会場の異様な雰囲気で吹っ飛んでいたけど、今回実はウチのチームからも解説が来ている。

仕事のオファーだから仕方ないけど京太郎君が何故か女子の方の解説をしているのだ。

まだプロに入ってから日の浅い彼に男子なら兎も角何故女子に?

と疑問に思っていたけど周りに聞いたら理解した。

実は彼は女子アナや同業者からの人気が高いのである。

実況や解説を回す現場の人間から人気が高いと言うことはその分オファーも多い。

しかも大体二十代後半からの要望が強かったとのこと。

要は行き遅れの心配をしたアラサー女子共が将来有望な青年に唾を付けておこうとしていたのである。

希少価値というのはそれだけでも目立つし有難がられるものだ。


「それにしても大丈夫かな。」


「何がですか?」


「あの子解説の仕事なんて初めてなのにちゃんとできるのかなって。」


「大丈夫ですよ、今回私がついてますんで。」


「あれ、靖子ちゃんも来てたんだ。」


「ええ、私は男子の方の解説だったんですけど早めに終わったんでこっちに回ってきました。」

「京太郎の奴初心者にもわかりやすいように丁寧に解説してますよ。」

「余程下級生に教え慣れてるのかかなり優しい口調ですけどね。」


解説と言う仕事は自分が理解して且つ人に理解させる仕事だ。

だからデジタルの理論なり牌読みを理解していないといけないし、噛み砕いた説明をするためには選手の心境なども読まないといけない。

優しい口調というのは普段の彼が如何に後進の育成に力を注いでいたのかを表している言葉だ。

部長としての経験がこんなところで役に立つとはね。

今日はここまで

ちょっとだけ投下



京太郎君の解説をBGMにしながら試合を見ていく。

笑顔の団体戦が始まっているがあまりぱっとしない。

風越女子は順当に進んでいるが平々凡々と言ったところか。

それ以外は言っては悪いが誰かの言葉を借りれば有象無象だ。

そこいらに埋まっているじゃがいも同然である。

食べるほうとしては美味しいけど。



団体戦は特筆することも無く終了し後日の個人戦に移っていく。

だけども何のことは無い、地方の個人戦なんてのにいきなりすごい子なんて出てくるわけでもないのだから。

ウチの生徒達が暴れて、はい終了。

個人戦のTOP3はうちが頂いた。

それにしても夢乃さんは能力的に極悪度が増した気がする。

性格はいいんだけどね。

レパートリーが増えて真似出来る範囲が増えたからだろうね。

それにしても個人戦は団体戦と打って変わってお葬式モードだった。

天国の団体戦、地獄の個人戦。

どうしてこうなった。



個人戦が終わった後、帰りにラーメンを食べに行った。

最近気になることがある私はとある言葉をふと洩らす。


「この時間に食べると太りやすいんだよね。」

「あ、大将、私ラーメン小で。」


「あいよ。」


「……私もラーメン小で。」


「私も……」


「マホもです。」


三人とも一様に注文していく。

皆、少食だなぁ。

夢乃さんは本当に少食っぽいけど。

私と一緒に御腹周りを気にしようよ。




皆を送り届けた後、家路に着くととある方から連絡が来ていた。

私は家に戻った後に折り返し電話を掛ける。


『もしもし、小鍛治か、オレオレ。』


「先輩、新手の詐欺ですか?」


『え、なにそれこわい。』


ナイスバディ先輩に掛かった電話。

最近再会してからは時折こうして連絡を取っている。

情報交換や子供の育て方というか接し方とか。

といってももう結構慣れてるんですけどね先生になってからそれなりに経ったし。

その後の話の流れで私の愚痴が始まる。


「それでその人結婚したんですよ、私より先に。」


『成るほどね、仕方ないな。』


「仕方ないって何ですか、先輩も私と似たようなもんじゃないですか。」


『え、そうなの?』


「そうですよ、一緒にこのまま独身のまま売れ残りましょう。」


『え、あれ、言ってなかったっけ?』

『俺結婚したんだよ、地元の幼馴染と。』


ブルータス、お前もか。

先輩の言葉を受けて視界がぐにゃりと歪む。



『悪い、悪い。』

『多分言うの忘れてたと思うけど今は子供も居るんだわ。』


ここでまさかの追い討ち……!

考えてみれば当然……!

男勝りだがふとみせる女らしさ……!

女の私でもつい見てしまうほどのスタイル……!

そして私からの理不尽な仕打ちでも笑って流せるくらいの器量持ち……!

世の男が放って置く訳が無い……!


『でも気にすんなよ、人生結婚が全てじゃないぞ。』


先輩の慰め……! 要らない……!

そんなの上っ面の慰め……!

麻雀で勝てても人生で負けたらダメ……!

女は例え仕事で勝ち組になっても結婚出来なかったら負け犬同然っ……!

もしかしたらと思っていたけど現実は非常……! 残酷……!

何だかもうその日は飛散したい気分だった

今日はここまで

投下します




先輩曰く結納婚姻は地元ですると決まっていたらしくそれなら身内だけで済ませてしまおうとなったらしい(と言っても霧島の身内だけでも相当多いとのことだが)。

その後、簡素だけど各方面の親しい人に葉書を認めて送ったらしいのだが私は知らない。

ほら、ナイスバディ先輩は悪く言うと大雑把だし。

うちのお母さんも悪く言うと適当で私は悪く言わなくてもズボラだ。

だから見逃してても仕方ないし届いてなくても仕方ない。

でも数年前から来ている友人達の結婚・出産葉書を漁って見る。

写真が写っている物はどれも幸せそうで独り身としては見るのが辛い……

しかし漁っても漁ってもナイスバディ先輩の葉書が見つからない。

ここで一つ私は重要な事に気付いた。



私、先輩の本名覚えてない。



そりゃ葉書なんて見付かるはずも無い。

先輩曰く写真載せてないらしいし。

今更先輩の名前なんでしたっけなんて聞けない。




インターハイ予選が終わり夏休みのなかのとある日。

私は家に帰った後ゴロゴロとしていた。

学校は無いけど部活はあったので半ドンだけやって事務所に寄ってから家に戻ったのだけどすることがなかったのだ。

しかし疲れていたのかそうしている内にいつの間にかうたた寝をしてしまい微睡みから抜けた頃にはすっかり辺りが暗くなってしまっていた。

また無駄な時間を過ごしてしまったと後悔していると家の戸が叩かれる。

私が戸を開けるとそこには誰も居らず、ただ「なき声」がした。

その声がどこから聞こえていているのかと姿無き声を探していると須賀さん宅の間にある茂みからなにやら物音が聞こえる。


「きゅるるる。」


「あ、何だカピちゃんかぁ。」


およそ抜け出したであろうカピちゃんがうちに来ていたみたいである。

カピちゃんとはよく遊んだり可愛がったりしていたしカピちゃんの小屋と私の家は目と鼻の先ではあるが家に来るのは珍しい。

顔だけ出したカピちゃんは三回ほど頭を振るとお辞儀のような格好をしてまた茂みに入って戻っていった。

一体どうしたんだろう、遊んでほしかったのかな。







翌日、カピちゃんは息を引き取っていた。



たまたま非番だった須賀さんがカピちゃんの異変に気付き動物病院に運んだけど病院に着く頃には既に事切れていたらしい。

死因は老衰、大体12年くらい生きてたけどカピバラとしては長生きだったんだろう。

天寿を全うしたとは言え京太郎君は目に見えて気落ちしていた。

須賀さんは悲しくないわけではないのだろうけど死に直面しすぎていたのかあまり感情を表に出していない。

三人でカピちゃんの遺骸を埋葬してあげたあと須賀さんが私に耳打ちしてきた。


「すみません、京太郎のことお願いします。」


須賀さんが申し訳なさそうにそう言うと会釈して去っていった。

残った私と京太郎君。

彼は俯いたまま何も言わない。

私も何も言わずに背中を擦ってあげた。


「……すいません。」


「別にいいよ。」

「悲しいときは泣いてもいいよ。」


「泣かないっす。」


「何で?」


「だって男が泣くのは格好悪いじゃないですか。」


「確かに今は京太郎君にとって格好悪く思えるかもしれないよ、でもね。」

「私はそれ以上に貴方の格好良い所を知っているから。」


「健夜さん……」

「……じゃあ、ちょっとだけ泣いてもいいですか?」


「うん。」


彼の顔を見ないようにして胸を貸す。

私は何も言わずにただただ背中を擦った。

カピちゃんの死。

だけどあの子は家に来た。

もしかして昨日カピちゃんが来たのって最期の挨拶だったのだろうか。

今は「なき声」が耳に残っている。

ちょっと今日はここまで
11月の7までに終わらせられるように頑張りたいね

ぱぱっと投下します



長い休みも明けてインターハイに出場するために都心に向かっていた。

私は生徒を監督しないといけないので京太郎君達とは一緒に行けないけどそこはチームメイトがフォローしてくれるだろう。

現にこの間だって事務所に出たときに京太郎君の異変に気付いた咲ちゃん達がそれとなく気遣っていたもん。

チームには靖子ちゃんも福路さんも咲ちゃんも照ちゃんも片岡さんもいるのだ(最後二人はカウントできないかもしれないけど)。

京太郎君は気遣われたことに対してこんな事を言っていた。


「俺ってそんなにわかりやすいですかね?」


「麻雀以外だと割と。」


「もっとしっかりしないとなー。」


「京太郎君は年の割りに十分しっかりしていると思うけどね。」


照れ隠しにそんな会話をしていた。

案外この世界では私が居なくても彼の周りは上手く回っているのかもしれない。

そもそも本来なら長野とは関わっていないはずなので上手く回らないほうがおかしいのだけれど。



現地入りして開会式に出て個人戦まで待つ。

その間ちゃんとマークするべき相手はマークした。

うちは今回団体戦が無いので解説の仕事をしながらだったけど。

それより京太郎君が団体戦の解説の仕事をしているのが気になる。

アナウンサーの佐藤さんに粗相をしないか不安だ。

なにしろ彼女は胸が大きいからね、年齢が10歳差あるから大丈夫だと思うけど。

佐藤アナは今年で28ですってよ。

アラサーですよ、アラサー。

みそじょしの私が言うのもなんだけど。

みそじょし、今何となく思いついた言葉。

三十路と女子をくっつけた、決して味噌っかすの味噌ではない。

三十代ならまだ女子だしおっけーおっけー。



個人戦に入ると永水女子の石戸明星選手と十曽選手が要注意と言ったところか。

逆に言ってしまえばこの二人にさえ注意すればいいのだ。

その二人も加藤さんや室橋さんに掛かれば問題ないだろう。

夢乃さんはまぁ運が悪いと負けないかもしれないけど勝てないかも。

彼女は錯和は完全になくなって腕は上がったし能力の幅も増えたけど時折残念な判断をすることがあるからね。

コピー能力があっても使いどころを間違えたり、使い方がワンパターンだったり、コピーだと役に立たない能力を使ったり……

そこさえ何とかなれば一級品なんだけれども如何とも上手くいかない。

こればっかりは他の能力系専任の人のほうがいいのかな?

例えば熊倉さんとかナイスバディ先輩とか、あとかつての赤土さんとか。

主にオカルト系を扱ってる方々。

私は先生をやっていてなんだけどお世辞にも教えるのが上手いとはいえない。

一流のプレイヤーが一流の指導者とは限らないのだ。

これは逆もそうだけど、大概どちらかの方に才があることが多い。

もし私が一流の指導者に見えるのなら多分私はプレイヤーとしては超一流と言うことだろう。





終始朗らかで笑顔の絶えない団体戦も個人戦に入れば空気が変わる。

ここからが本当の地獄の始まりと言わんばかりの空気。

多分県予選で派手に暴れたのが耳に届いているのだろう。

戦々恐々と言った雰囲気である。

インターハイ個人戦はあっさりと終わる。

最早実力的に出来レースとか言われているけど頑張れば勝てなくも無いと思うんだよね。

順位は加藤さん一位、室橋さん二位。

夢乃さんは不運が重なり五位。

では三位・四位は誰かというと石戸明星選手と十曽選手である。

手牌事故と振込み事故が無ければ三位は確実だっただけに夢乃さんは涙目になって悔しがっていた。

君は来年頑張ろう、来年麻雀部があればだけれど。

そしてそれと別に今回派手に暴れた加藤さん。

今まで京太郎君や咲ちゃんの陰に隠れて目立たなかったけど世代が変わって日の目を見た彼女にも二つ名が付いた。


スチールハート。

これが今の加藤さんについている二つ名だ。


盗むのstealと鋼のsteelを掛けているのだろう。

鋼のような心臓で大胆な打ち方をして見ている者のハートを盗むから。

心臓の弱い彼女に付いた皮肉のような二つ名である。

今日はここまで

毎回闘牌で悩みます
しかしこのペースで十一月終了目標はむりぽ
じわじわ投下します




個人戦が終わり、その後に来るのはエキシビジョンマッチ。

毎年恒例のインターハイの目玉だ。

エキシビジョンは毎回個人戦の一位、二位の男女とプロが闘牌するのが通例である。

今回の出場するプロの一人は私です。

実は事務所のからオファーが来ていた仕事はこっちがメインだった。

ただそれを始まる前に告知した結果、私が出場すると聞いた男子個人戦優勝者が突然の腹痛を訴えて棄権した。

明らかな仮病、失礼極まりないね。

では男子の準優勝者はと聞いた所「小鍛治プロと打つなと家訓にあるんで。」とか抜かして辞退していた。

そうか、家訓なら仕方ないね。

で、結局女子の個人戦の優勝者・準優勝者がエキシビジョンに出ることになったわけだけど……

もう一人のプロについて私は聞いてない。

そしてその答えは今知ることとなった。

卓に着くとき、見慣れた彼がやってくる。

そして私に一瞥した後、口を開く。


「健夜さん、今日はよろしくお願いしますね。」


「う、うん。」


彼の何とも言えない気迫に私は気圧されてしまう。

一体何をそんなに気負っているのか。

そしてその後やってきた加藤さんと室橋さんも挨拶をしてくる。

室橋さんは面子を見た後少々顰めた面をしながら卓に着く。

加藤さんも一言呟いてから席に着く。

誰に対して言ったとも取れないくらいの呟きだったがその言葉にはとても強い情念を感じた。



「私、負けませんから。」



妙に頭の中に残る言葉だった。



始まった対局。

公式の場ではあるが何とも見慣れた面子なわけで。

見事に身内の勝負になってしまった、それもこれも個人戦の男子が逃げたからだ。

ところでこの勝負、生徒に華を持たせるべきか、後輩に華を持たせるべきか。

それとも私が勝ちに行くべきなのか。

なんとも悩ましい問題である。


東一局。


悩んだ私はとりあえず様子見と行くことにした。

京太郎君は気炎を揚げてガンガン攻める。

加藤さんもそれに追随するかのように反応している。

室橋さんにはあまり動きが無い、私と同じく状況が動くまで静観しているのだろうか?


「ロン、8000。」


最初の和了りは京太郎君だった。

表情には出ていないが室橋さんの苦い顔が目に浮かぶようだ。

今の彼の能力的には一度波に乗られると止めるのは容易ではないだろう。

つまり彼に和了らせないか奇襲か何かで無理矢理にでも止めないといけないのだ。

さて、彼の後輩たちはどう出るか見物だ。


東二局。


「ロン、12000。」


僅か五巡目での出来事。

今度は加藤さんが毟られた。

明らかなオーバースピードな上しかも跳満。

高校生じゃ対応に苦しむだろう。

親も流されて踏んだり蹴ったりである。

しかし後輩とは言え容赦なく毟っていくね。



東三局。


周りは全くと言ってもいいほど手が進まない中、彼は悠々と和了っていく。


「ツモ、4000・8000。」


室橋さんには痛い親被り。

これで一番点差が近い私と彼でも40000点差になった。

爆炎を吐いて加速しながら辺りを火の海に沈める。

彼からは何か鬼気迫るものがある。



東四局。


彼の親番であるが二人じゃ流せないだろうね。

私はまだ動く気無いし次局まで待っていることにした。

すると時間を待たずに宣言が出てくる。


「ツモ、4000オール。」


これで彼は73000点。

私は17000点のほか二人は5000点ずつ。

さて、そろそろ動き始めますか。



東四局一本場。


ついに動き始めることにした私だがいまいち考えが纏まらない。

誰に勝たせるか、もしくは私が勝つかを未だに決めていないのである。

私が勝つべきか、それとも事務所の後輩に華を持たせるべきか。

はたまた事故を装ってウチの生徒を勝たせるのか。

傍から見たら多分相当悩んで打っているように見えただろう。

麻雀ではなく勝者を決めかねてだが。

私はそのくらい無駄に悩んで打っていた。

悩んで打っているうちに麻雀のほうは無意識でやっていた。

ふと自分の手牌を見て気付く。

そして思わず癖で口に出してしまった。


「あ、ツモ。」


しまった。

つい言ってしまった。

しかし和了宣言してしまった以上点数の申告をしないといけない。

私は自分のしたことを失敗した思いながら点数を口にした。


「……8000・16000は8100・16100です。」


思いがけぬ形で試合終了。

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした京太郎君。

がっくりと肩を落とし溜息をつく室橋さん。

室橋さん共々トんで顔面蒼白な加藤さん。

つい役満出しちゃった。

二位だけどまぁ連対だからいいか。



何かあっさりとエキシビジョンが終わってしまった。

が、終わってしまったものは仕方ない、表彰式やら閉会式やらがあるのだから次に切り替えていこう。

そう思って挨拶して卓を後にしようと思ったのだが加藤さんの様子がおかしい。

彼女の息が荒く見るからに倒れそうで立っているのもやっとのようだ。

先ほどから顔面蒼白だったとは言えこれはちょっとやばい。

すぐに医務室に連れて行こうとして手を引いて廊下に出た矢先、引いていた手が離れて後ろから彼女の倒れる音がした。


「加藤さん? 加藤さん!」


私の呼びかけにも反応せずただ苦しそうにしている彼女。

正直私ではどうしようもない。

私では彼女を医務室に運ぶ力はないのだ。

私が人を呼びに行こうとした時、袖を掴まれた。

きっと何か私に伝えたいことがあるのだろうか。

それとも一人では心細いから行くなと言いたくて掴んだのだろうか。

どちらにせよ人を呼ぶか携帯を取りに行かないといけない。

そう思っていたときに横から声を掛けられる。


「健夜さん、俺がやります。」


気付いたら金髪の彼が横に居た。

そしてそのまま加藤さんに人工呼吸を施す。

最近はなかったとけど加藤さんはよく練習中とかに倒れその度に人工呼吸されていた。

しかし今回は無意識とは言え久しぶりに私が本気を出した結果彼女が倒れてしまった。

彼がたまたま居合わせたからよかったものの人が居ないときにこれが起きていたら彼女は本当に危なかったかもしれない。



京太郎君が人工呼吸をした後、彼に抱えられて医務室に運ばれた加藤さん。

一応暫らく安静にして居たおかげか加藤さんは目を覚ました。


「あの、ここは?」


「医務室、試合の後に加藤さんが倒れたから京太郎君が運んでくれたんだよ。」


「そうなんですか……」


加藤さんの顔に少し翳りが見えた。

京太郎は何も言わず去ろうとしたとき、彼女が引き止めた。

それはまるで一縷の望みを掛けるような、そんな風に感じるか細い声だった。

今日はここまで

しまった

>>437

京太郎は何も言わず去ろうとしたとき、彼女が引き止めた。

京太郎君は何も言わず去ろうとしたとき、彼女が引き止めた。

に修正で

何とか次のすこやんの誕生日までに終わらせたかったけど無理っぽい
投下していく所存



引き止めた彼女が彼に聞いた。

動いた彼女の体重で医務室のベッドが微かに軋む。


「なんで先輩は、私を助けてくれるんですか……?」

「私のこと、放って置いてくれればいいのに……」


「……大事な後輩だからな。」


顔すら合わせない彼。

相当後ろめたいことがあるのだろうか。

彼女が淡々と問う、その目元は微かに煌いていた。


「嘘でも『好きだから』って言ってくれないんですね……」


「……悪い。」


「良いんです、知ってましたから……」


彼の苦々しい表情と、彼女の諦めたような表情。

ああ、何となくだけどわかった。

わかってしまった。

きっと卒業の日のアレは告白だったんだ。

彼女が再びベッドに潜ると京太郎君に頼み事をした。




「……先輩、お願いがあります。」

「私が眠るまで……手を握って貰っていても良いですか?」


「……ああ。」


彼は彼女の手を握り、布団を掛け直してあげる。

まるで宮永姉妹や片岡さんにするかのように。


「先輩……もう一つお願いがあります。」


「何だ。」


「これからも変わらず、貴方をずっと好きでいても良いですか……」


「…………」


彼は何も言わない。

何も言おうとしない。

恐らくだが彼は彼女を振ったのだから、何が言えようと言うのだろうか。

何も言えない彼に彼女は笑顔で返す。

最初から自分の問いに対し沈黙が帰ってくるとわかっていたかのように。


「では勝手に想ってますね。」

「そのくらいのわがまま、許してもらっても良いですよね……」



彼女の瞼が静かに下りる。

暫らくすると彼女は寝息を立てていた。

京太郎君は握っていた手をベッドの中に入れてあげた後真剣な顔つきで口を開く。


「健夜さん、改めてお話があるんで後で時間貰っていいですか?」


「ここじゃダメなの?」


「大事な話なんで。」


「そっか……うん、わかった。」


「健夜さん、俺は待ってますから。」


そういうと彼は医務室から出て行った。

残っているのは私と寝ている彼女だけだ。

私も少し加藤さんの様子を見た後に戻ろうとしたら声を掛けられた。


「先生。」


「加藤さん……寝た振りだったの?」


「先輩がいると言えないこともありますから。」


「私に何か言いたいことがあるんだね。」


「ええ。」

「今から言うのはただの懺悔みたいな物で先生が特にどうこうって話ではないので気にしなくてもいいんですけど。」

「まあ、その、ちょっとした愚痴です。」


加藤さんが何か前置きをしておく。

そして一呼吸置いてから話し始めた。



「この間、負けたくない相手が出来たって言いましたよね。」


「うん。」


「あれ、実は今回のエキシビジョンのことだったんです。」

「先輩、『今回のエキシビジョンでけりをつけたい』って言っていたんです。」

「先生にも出てもらうような口ぶりでしたし。」

「先輩の『けりをつける』の意味、何となくわかってましたから。」

「それで、先輩の邪魔したくなっちゃいまして。」

「……嫌な女ですよね、私。」


「もしかして卒業式の日に?」


「見られていたんですね……」

「……ええ、卒業式の日に私、先輩に告白したんです。」

「でも、振られました。」

「そのときに先輩がインターハイで何をするか聞いていたんです。」

「私そのとき悔しくて先輩の第二ボタンとって逃げ出しちゃったんですけどね。」


そういった彼女は自嘲的な笑みを浮かべた。

無理して笑っているのがわかる。

私は聞いてしまった。

彼女の核心を。


「やっぱり加藤さん、京太郎君のこと……」


「はい、好きですよ、先輩が。」

「勿論、LIKEじゃなくてLOVEのほうで。」

「って、さっき先生の前でも先輩に言ったじゃないですか。」



「これ以上のことは教えません。」

「あとは先生が自分で考えることです。」


それを言うと彼女はベッドに潜って寝てしまった。

言葉の真意はわからないが自分で考えないといけないことなのだろう。

それから暫らく彼女の様子を見て医務室をあとにした。



事後処理とか人との付き合いやらで彼との対話が遅くなってしまった。

辺りはすっかり夜に覆われてしまっている。

しかし今夜は凄く綺麗な月が出ている。

こんなに月が輝く日には、小さな君を抱いて眠る夜を思い出す。


そういえばこっちの彼の力の本質は分かるけど、私が最初に会った彼の力は何だったのか。

魂の分化?

でも他の女子を真似る様な能力を持っていた。

としたら鏡が近いのかな?

でも只の鏡ではないような……

そこで彼の苗字はとても神話に深く係わっていることを思い出す。

神話で鏡と言えば三種の神器の八咫鏡。

でもこれは天照大神かその孫の物であって須佐之男命には関係ないのでは?

そういえば他にも鏡の話があった。

太平記か何かに載っていた水鏡。

須佐之男命が棚の上に置いた稲田姫が水鏡に映り、それを見た八岐大蛇が水の中に姫が居ると勘違いして八千石湛えた酒を飲み干すと言う話。

恐らくそれがあのときの彼の力、だと思う。

その水鏡に彼の姿を映すことによって分身を作ることが出来て尚且つ人の技を真似ることが出来た。

確かめられれば確実だけど今となっては確かめる方法など無いから只の推測で終わるけど。



考えても仕方ないことを考えていると京太郎君が待ってる場所に着いた。

そこホテルの屋上なのだが凄く見晴らしがいいところだった。

眼下にはネオンや街灯が煌びやかに灯されている。

京太郎君が私に気付いて話しかけてくる。


「今晩は、いい場所でしょう?」


「うん、いいスポットだね。」


「街も綺麗だけどここだと月が綺麗に見えるんです。」

「無駄な灯りが無いからなんですけどね。」


「それで、話って何かな?」


「……つまり『月が綺麗ですね。』ってことです。」


「はい?」


多分私の口から間抜けな声が出たと思う。

そのくらい唐突だった。


「俺、前に言いましたよね。」

「健夜さんが好きだって。」


そういえば言われたことがあった。

そのときはもっと軽い感じに受け止めていたけど。


「改めて言います。」

「俺は健夜さんが好きです。」

「一人の女性として。」



まさに青天の霹靂、嵐の神様らしいね。

少しくらい前兆があってもいいと思った。

例えばそれらしい態度とかサインとか。

いや、彼はサインを出していたのかもしれない。

ただそれを私が見落としていただけで。

今までの好きはLIKEの方だと思っていたし、LOVEのほうの行動は所謂昼ドラの茶番の延長くらいに思って流していたのかもしれない。

何よりそう思っていたのは私が『人が私に対する心の機微』について疎かった。

もっと正確に言うなら長い時間のせいで麻痺していたのだろう。


「前に返事は要らないって言いましたけど撤回します。」

「健夜さん、俺の事は好きですか。」


まっすぐ私のことを見つめる目。

私では彼のことをまっすぐ見れない。

私は伏目がちに聞いた。


「もしかして改めて告白してきたのって、加藤さんのことが関係しているの?」

「卒業式の日に告白されたんでしょ?」


「……関係なくは無いですね。」

「ミカに告白されて、告白される側に回って気付いたんです。」

「中途半端なままはよくないなって。」


「そうだね……」

「よくないよね……」

「でも私は……」


自分でも分かっているがはっきりしない態度だ。

彼のことは好きではあるのだが、だからと言ってそれが男女のものかと言われたら悩まざるを得ない。

そのくらい私の中の彼への気持ちはあやふやなのだ。

そんな悩んだ私を見かねたのか京太郎君は一呼吸してこんなことを言い出した。



「俺、今から健夜さんに抱きつきます。」

「嫌だったら拒絶してください。」


そういった彼の声は若干上擦っている。

彼にとって相当勇気を出して言った事だと言うことだろう。

今まで築いて来た関係が壊れる可能性を考慮して言ってるのだから当たり前なのかもしれない。

彼が軽く腕を広げてゆっくりと一歩ずつ歩み寄ってくる。

残り五歩。

四歩。

三歩。

二歩。

……一歩。



そして彼は私を抱きしめた。

とても暖かい彼の体。

夏とは言え屋上の夜風で冷えた私の体を温めてくれる。


「よかった……」


安堵したかのような声。

恐らく拒絶されなくてよかったと言う意味だろう。




だが彼に抱きつかれて気付いたことがある。

彼の腕は温かく心地よいものだ。

でも違和感があった。

多分私は彼に抱かれたいのではなく、彼を抱いていたいのだ。

もしかしたら、これから先、彼を男として認識できないのかもしれない。

それほどまでに私は、私と彼との思い出を綺麗にしすぎていた。







だから



私は……




「ごめんね。」



「勘違いだよ。」

「それは京太郎君の勘違い。」


彼の温かい腕から逃れ、そう言って逸らかした。

彼の顔を見れない。

怖くて直視出来ない。

もし君がとても悲しそうな顔をしていたら私は耐えられない。

彼の声が聞こえる。



「なんで健夜さん泣いてるんですか……」


私の頬を伝う雫。

私には泣く資格なんて無いのに。

泣きたいのは彼のはずなのに。


「健夜さん……もしかして俺じゃあ貴女と釣り合いが取れませんか?」


違うんだけど声は出せない。

涙声なんて聞かせられない。

違うの、私が君を拒否した理由は違うんだよ。

だって京太郎君に私のような女は似合わないもん。

私は京太郎君が好きだから、京太郎君にはより幸せになれる人と結ばれて欲しい。

ちゃんと幸せになれる可愛い女の子と一緒になって欲しい。

私のような汚く醜い女を好きになっちゃ駄目。

私が一緒になれないのは。

君のことが好きだから。

そしてなにより。

私の心が弱いから。

もし京太郎君と一緒になったらそれは幸せだと思う。

でも。

そんなに大きな幸せを貰ってしまったら、きっと私は壊れてしまう。


私は何も言わず彼を置き去りにしたまま逃げて、部屋に戻った。


結局私はいじけて、拗ねて、羨んで、そのくせ逃げ出して。

何も変わってない。



落ちたままでいればいいと思った夜の帳が開けてしまう。

次の日なんて来なくいいと思ったのに来てしまう。

鏡を見るとひどい顔だった。

それをメイクで誤魔化して生徒を束ねて長野に戻ることにした。

幸い彼とは顔を合わさずに帰ることが出来たがこの先どうなるだろうか。

今日はここまで

書き溜め無しだけど書いていきます



明くる日、憂鬱な気持ちで事務所に向かう。

彼と会ったらどんな顔をすればいいのだろうか。

いつも通り過ごせばいいんだろうけどその自信が無い。

平静を装うことに努められればいいのだが……

事務所に入ると既に皆が居る。

いや、厳密には女子の部は、だ。

社長と数名の男子プロが居ない。

元々うちのチームは人数がそこまで多くないので欠員が出ると目立つ。


「社長とかはどうしたの?」


「社長はいつも通り京ちゃんと外回り。」

「他の人は知らない。」


「ふ~ん、どうしたんだろうね。」


気の無い返事をしたが内心ほっとしていた。

もし彼と会って気まずい雰囲気になったらとても辛い。

安堵した私の横で照ちゃんが黙っている。


「…………」


「どうしたの?」


「お菓子食べる?」


「え?」


「要らないなら別にいいけど。」


「あ、ありがとう。」


照ちゃんがそう言うと袋の中に入っていた御菓子をくれた。

どうやら気を遣わせちゃったみたいだ。



その後は適当に他チームと試合をして午後には事務所でまったりとしていた。

靖子ちゃんはカツ丼を頼み片岡さんはタコスを食べて照ちゃん御菓子を食べている。

咲ちゃんは読書をしていて福路さんは全員分のお茶を淹れてくれている。

そのうちカツ丼とタコスが切れたのか最初の二人はどこか行ってしまった。

私の隣で本を読んでいる咲ちゃんが小声で話しかけてきた。


「健夜さん、京ちゃんと何かあったの?」


「……よく分かるね。」


「何となくそうなんだろうなって。」

「京ちゃんとも健夜さんとも、付き合い長いしね。」

「多分お姉ちゃんと美穂子さんも気付いていると思うよ。」

「二人とも人のことよく見ているから。」


「うん……」


全く持ってその通りでした。

照ちゃんからお菓子貰うなんて相当だと思うよ。



「で、何があったんですか?」


お茶のおかわりを出してくれた福路さんが単刀直入に聞いてくる。

意外だった。

彼女はもうちょっと遠回し聞いてくる人間だと思っていたから。

普段の彼女は照ちゃんのフォロー役、気を遣う側で照ちゃんとは対照的な役割だった。

だけど今回は照ちゃんが気を遣っているから福路さんがズバッと来ているのだろうか。

若しくは福路さんがそう来ているから照ちゃんが気を遣っている?

何にせよいつもとは逆の立ち回りをしているのだ。


「……京太郎君から何か聞いた?」


私が恐る恐る聞いた質問に対し福路さんは首を振る。

単純に察せられたということだ。

そりゃそうだ、彼はそういうことを自分で話すタイプではないのだから。

とはいえ大体バレてるも当然なので観念して白状する。


「えっと、多分お察しの通りです。」


そのあと事の顛末を洗いざらい喋った。



「はぁ……」


「ふぅん。」


「…………」


三者三様の反応。

一人は呆れたような反応。

一人は何か納得したような反応。

そして最後の一人は無反応、というか無言。

まず福路さんが口を開く。


「京太郎君がかわいそうです。」


「うっ……」


「以前から好意を向けてたのにそれを悉く気付かれてなかったり。」

「一度は希望を持たせておいてそこから拒絶するなんて。」

「断るにしてもやり方や傷を浅く済ませる時期が有ったのでは?」


はい、聖女福路さんにそう言われたらぐうの音も出ません。

小さくなった私に福路さんは呆れているようだった。

普段性格の善い人にこういうこと言われるとかなり堪える。

そこへ今まで無口だった照ちゃんが口を開いた。


「健夜さん勿体無い。」

「京ちゃんの申し出を受けておけばこれからの人生安泰だったのに。」


私は別に恋愛を打算で決めてるわけじゃないよ!

と思わず言いかけたけど実際には客観的に見たら勿体無いのは確かなのだ。

最後に咲ちゃんが口を開いた。



「でも健夜さんの気持ちはわかるかな。」

「今までずっと家族みたいな感覚だったんだから急に言われてもピンとは来ないかも。」

「勿論京ちゃんの気持ちもわかるけど多分お互いのために気持ちの整理をする時間が必要なんじゃないかな。」


珍しく咲ちゃんが良い事を言ってるようで感心したが咲ちゃんの持っている本が恋愛小説だった。

完全に本に影響されてる気がする。

そこへ照ちゃんが口を挟む。


「時間が必要ってのもわかるけどそんなに時間は無いかもよ。」

「京ちゃんモテるかもしれないし?」

「あと健夜さんあと少しで31歳だし。」


京太郎君に関しては断言してあげなよ!

というか年に関しては触れないで!

とはいえ後が無いのも事実。

悲しいかな、嫁の貰い手なんてここで逃したらこの先もう無いだろう。

それでも私の中で踏ん切りがつかないのは彼がとても大切であるからだ。




それから少しの間三人と話していた。

終わったあと自宅に戻り、自分と彼との関係を見つめ直す。

これからどうするべきか。

どうしたいのか。

どうあるべきか。

中々決まらないまま布団に潜った。



その数ヵ月後、私の31の誕生日が迎えられた。

あのあとからは運がいいのか悪いのか彼とは会えていないままである。

常にウチの社長に引っ付いて外を回っているから仕方ないといえば仕方ないのだが。

しかしそれとは別に気になる噂も聞こえてくる。

彼が大沼プロや南浦プロに誘われて裏で打っているという噂だ。

しかも大学を休学してまで。

彼から事情を聞きたいけど会えない上に今更どんな顔して会えばいいのか分からない。

今はもう彼にとやかく言える立場ではないのだ。

今日はここまで

今日の夜時間があったら投下

蟲師の「香る闇」を最近見ました
無限ループって怖いね

投下します



いつも通り学校に行くと部室に顔を出した。

そこには加藤さんと室橋さんと夢乃さんがいた。

引退してるはずの二人が何故居るのか。

実は部長の引継ぎは既に済んである、済んであるのだが……

今正式な部員は夢乃さんしか居ないので私と夢乃さんで部活を切り盛りしている状況。

加藤さんと室橋さんは夢乃さんが心配なのか引退してからもちょくちょくやってきては彼女の相手をしている。

来年は部員増やさないとマジでやばい。

気合入れて勧誘しなきゃ……



12月に入り、冬の特番などで慌ただしくなってきている。

その最たる例が彼なのだが社長は完全に稼ぎ時と言った感じで彼を出ずっぱりにしている。

最近アイドル路線気味なせいか牌のお姉さんとバッティングしてるね。

彼女の野獣のような鋭い眼光が何か怖いですね。

周りに大人が居るから大丈夫だろうけどさ。



近頃京太郎君の噂がまた流れてきた。

裏で打っているとかそういうのではなく彼がチームから抜けるのではないかという話だ。

あくまで噂だから鵜呑みには出来ないけどもしそれが本当だったのならチームを抜ける理由は私にあるのだろうか?

もしそうだとしたら申し訳ない気分だ。

しかし彼は休学して、その上ウチの事務所から抜けたとしたらこの先どうするつもりなのか?

私にはそれを聞く度胸も面の厚さもないからわからないけど。



年度末の前に、その答えは返ってきた。

端的に言うと彼は事務所を抜けた。

契約を満期になったときに更新しなかったようだ。

簡素な挨拶をして事務所去って行った。



そして彼と共に去った人物が二人。

何故簡素な挨拶だったのか。

それは実に簡単なことだ、次は敵として会いましょうということだ。

去った二人も彼についていって一緒に打ちたいということだ。

彼が1からチームを作るのには心配では有る。

でも今思えば京太郎君は社長とよく一緒に動いていたね。

それを織り込み済みで同行していたのかも。

彼が新しく立ち上げるチームはどんなものになるのだろうか。

若手達が担う新たな時代になるのかそれとも……



数ヶ月して事務所に案内通知が届いた。

そこには新規チーム名と登録されているプロの名が記載されていた。


『吉野ファイアドラゴンズ』


・天江衣

・松実宥

・高鴨穏乃

・原村和

・大星淡

・宮永照

・福路美穂子

・池田華菜


代表取締役:須賀京太郎


多分チームの名前とかホームの場所とか掲載順で揉めたであろう事が容易に想像できる。

しかし彼の交友関係には驚いた。

まさかここまでの面子を揃えるとは思わなかったからだ。

特に福路さんと照ちゃん、そして京太郎君の三人が組むととても厄介な指導者になるだろう。



それから間もなく彼らは頭角を現した。

メインには元々強かった照ちゃん福路さんに前より強化されている天江さんや高鴨さん。

露出する頻度はメインに比べて少ないものの松実選手に原村さんや大星さんも控えている、あと池田。

何とも灰汁の強いメンバーである。

それで上手く回るというのが世の中不思議だ。

出てきて数ヶ月でこの強さなら今後更に強くなる可能性が高い。

彼らがウチを抜けたのは心情として複雑だが個人的には楽しみではある。

今日はここまで
咲さんと優希は契約期間の都合上合わない

宥「うう…照さんがやられちゃったね」
美「ふふ……彼女は四天王の中でも最弱ですからね」
和「おもちのせいで肩がこらないとはお餅勢の面汚しですね」

という会話が容易に想像できるバランスだなそれ

ちょっとずつ投下



年度末の新チーム立ち上げのせいですっかり失念していたが……

加藤さんと室橋さんが卒業して夢乃さんが最高学年になった。

それと同時に麻雀部は廃部になった。

当たり前だ。

如何に過去の栄光が輝かしいものだとしても、部員一人では部とは言えない。

顧問は付いてていいからこれからは同好会扱いになりますよってこと。

やっぱりちゃんと私が部員勧誘を手伝うべきだった。

そうしていれば意気揚々とドヤ顔Wピースして出て行く夢乃さんが泣き顔Wピースになって帰ってこなくてもよかったかもしれない。

まぁあれだね、ドンマイ!

練習相手なら佐久フェレッターズに咲ちゃんとか片岡さんとか靖子ちゃんが居るから大丈夫!



ふとテレビをつけてみる。

ザッピングしている私の目を留めたのは料理特番だった。

出演者は最近売れに売れている吉野ファイアドラゴンズのメンバーだ。

といっても全員出ているわけではない。

京太郎君を筆頭に原村さん、福路さん、照ちゃんに池田が出ている。

料理技術では完全に照ちゃん浮いちゃってる。

京太郎君や福路さんが料理上手いのは前々から知っていたけど原村さんと池田が上手いとは知らなかった。

何でも池田は妹の世話がどうとか言ってたから日常的にやっていたのだろう。

スタジオの客席から黄色い声が聞こえる。


「きょうたろうく~ん。」


ニコニコと笑顔で返す彼。


「和ー結婚してくれー!」


「みっぽー! 俺のために毎日味噌汁作ってくれー!」


別のところからは男性の声が。

その声を受けて手を振って返す二人。


「いけだー! ずうずうしいぞー!」


「さんをつけろし! ちびっ子どもー!」


子供にいじられる池田。

女性人気の京太郎君、男性人気の原村さんと福路さん。

あと実は子供から人気な池田。

照ちゃんはさっきおばちゃんたちからお菓子貰ってずっと食べている。

あまりにおいしそうに食べるものだから皆調子に乗って与えている。

フリーダム過ぎる番組だ。



また別の日。

その日は試合がある日でその時はファイアドラゴンズと他2チームとの対局だった。

抜けた女子二人分の戦力の整っていないフェレッターズで戦うのだけれど苦戦を強いられる。

先鋒の靖子ちゃんに天江さん。

中堅の咲ちゃんに照ちゃん。

大将の私には福路さんが当てられた采配。

今のウチには基本的に大将型の打ち手ばかりなので戦略が立てにくい。

片岡さんを東風専門にしたのがあだとなったかな。

それでも私が何とか盛り返して一位をもぎ取った。

佐久フェレッターズが一位。

吉野ファイアドラゴンズが僅差で二位だ。

これで十代から二十代前半のチームなのだから末恐ろしい。



試合の後、咲ちゃんと一緒に照ちゃんと福路さんに会った。

そこで「吉野ファイアドラゴンズ」の設立話などを聞く。

何でも最初は別のところにホームを建てる予定だったんだけど松実宥選手の都合で吉野になったらしい。

それで吉野を拠点にナイスバディ先輩や高鴨さんにも協力してもらったらしい。

あと天江さんに関してはチームを作るときに福路さんや照ちゃんと一緒に龍門渕に出向いて勧誘しに行ったとのこと。

元フェレッターズの二人を除いたら最初の一人目なのだと。

ただそこで事はすんなり行かなかった。

待ったを掛けたのはあの龍門渕のお嬢様。

天江さんの意思は尊重するが任せられる相手かどうかそこで試したかったらしい。

対局したそのあと天江さんが入るということなら援助すると申し出たとのこと。

実力なら高校のときに知ってるはずなのにね。

そのあと東京の二人を誘ったり池田が福路さんの後を付いてきて仲間になり前述の吉野に居を構えたとの事。

詳しい話がよく分からないし、らしいらしいばかりだが伝聞なので仕方が無い。

今日はここまで

何か途中途中しか書けなくて不覚にも時間を空けてしまいました
期間が開いたからこれはリハビリが必要かも知れんね
一周年で完結目標は諦めました

自然に会話の場を設けるって難しい

ぼちぼち書いていきます



ついにこの季節がやってきた。

インターハイのお時間です。

と言っても夢乃さんしか居ないから個人戦の手続きも簡単である。


「先生、マホ行ってきます!」


「いってらっしゃい。」


夢乃さんを見送って観客席に着くと退屈な時間の始まりである。

だって夢乃さんが勝つのが目に見えているし。

それから戻ってきた夢乃さんを車に乗せてラーメンを食べに行った。

そういえば夢乃さんあまり身長が変わらないなぁ。

もし彼女に部の後輩が出来てたら可愛がられていたのかも知れない。




インターハイで全国に行く前に仕事のスケジュールを確認しているとこんな話を事務所で聞いた。

何でも赤土さんが所属している事務所が潰れるとのこと。

博多エバーグリーンズといい、あの人不運だよね。

不運なのは雀士として致命的な気もするけど勝負運とこういう運は別物なのだろう。

果たして彼女はこれからどうするつもりなのか。


そして時間が流れてインターハイ全国。

前は隆盛を誇っていた清澄も流星の如く消えかかっている。

下らない事を考えてないでもうちょっと本気で勧誘するべきだったか。

いや、頑張ったところでダメな気がする。

何と言うか飽くまで私の直感だけど。

もう呪いか何かじゃないかな、人が寄ってこないのは。

ということで夢乃さんはあっさり個人戦優勝いたしました。

ちなみにエキシビジョンは去年の惨劇のせいで誰もやりたがりませんでした。

今回私は出ないんだけどなぁ……



私こと小鍛治健夜は今凄いことに気付きました。

最近自堕落な生活を送っていたのは事実ではありますがまさかこんなことになるなんて……

スカートのホックが留まらない。

やばい。

マジでやばい。

これはあれだ。

ラーメンとか食ってる場合じゃなかった。

節制を心掛けないと……



夏が過ぎ、茹だる様な気候も涼しくなって食欲の秋が到来する。

ただそれはウチで言うなら片岡さんと靖子ちゃんが該当するが私と咲ちゃんは違う。

咲ちゃんにとっては読書の秋で私にとってはスポーツの秋である。

本当は食欲の秋を堪能したかったけど節制を心掛けないといけないので仕方が無い。

食っても太らないとかいう人も居るけど後で泣きを見ればいい。

さてこのあとのスケジュールは……

そんな……グルメ番組で美味しいもの食べることになっている……

こんなところでまさかの万事休すである。



そして気になるロケ地は奈良の松実館である。

つまりおもち問題児の松実さんのご実家だ。

今回はこーこちゃんと一緒にロケに来ていた。

こーこちゃんはさっさと自分が楽しむだけ楽しんでお酒を飲んでは寝てしまった。


「お久しぶりです。」


「あ、どうも。」


松実館の一室に居た私の前に現れたのはかつての問題児の松実玄である。

そしてその後ろから出てきたのは彼女の姉の松実宥。


「あの……少しお時間貰ってもいいですか?」


「ええ、いいけど……」


彼女の提案を受けたはいいが私は彼女との接点を直接持ち合わせては居ない。

彼女は妹が部屋から出て行くのを見届けてから私を一瞥して話を切り出した。



「彼から聞いた通りですね。」


「へ? あ、もしかして京太郎君のこと?」


「はい、彼から小鍛治プロのことを聞き及んでいますから。」


私はその言葉に違和感を覚えた。

彼は自分から進んでそういうことを洩らす人間ではないはずだからだ。

もちろん彼の近くには照ちゃんや福路さんといった気心知れている人物が居るのだから多少の事情は聞けるだろうけど彼女は「彼から聞いた」と言ったのだ。

彼女は京太郎君と何かしらの接点があるのだ。

チームメイト以上の何かが。


「貴女と京太郎君との関係って何かな?」


「……まずはこれを見てほしいんです。」


単刀直入に聞くと彼女は厚めに羽織った上着に手を掛けた。

ここにも違和感を感じていた。

いくらこの時期冷えてくるとは言え厚めの格好すぎる。

だがその疑問は彼女が答えてくれた。

彼女が手を掛けていた上着を肌蹴させるとそこには炎の翼が生えていた。

まるで彼の翼と対になるかのような翼だった。


「分かってもらえましたか?」


「……彼と同じ火傷の痕だね。」


「はい、彼のお母さんが私を守ってくれた証です。」

「彼はそのことについて覚えていなかったけど……」


理解した。

松実宥と京太郎君の接点が。

彼女は尚も続ける。



「この火傷のせいで体温の調節が上手くいかないし、見られたくないからいつも長袖なんです。」

「でも救ってもらった命だから……」

「だから恩返しも兼ねているんです。」


「兼ねている?」


「はい、私の体質もあるんですけど玄ちゃん……妹には実家の事を任せっきりで。」

「だから彼に誘われてプロになるときにせめておウチの宣伝とかして手伝えたらって。」


「へぇ……」


確かに不思議に感じてはいたがそんな事情があったとは。

だが新たな疑問が生まれた。


「ところで何でその話を私に?」


「貴女には伝えておかないといけないと思ったんです。」

「私を助けてくれた彼のお母さん代わりに、彼を育ててくれたんですから。」


「ああ、そういうことか……」


そのあと話を軽くした。

彼の幼少期とか、彼が片親で苦労してなかったかとか。

そんな話ばかりだった。

もしかしたら彼女も免罪符を探しているのだろうか……

ちょっと早いけど今日はここまで

ゆっくり投下



松実姉と話した後、戻る彼女を見送って私は売店に足を運んだ。

今はもう寝てしまっているが先ほどまでこーこちゃんが呑んでいたのを思い出して私も飲みたくなったのだ。

そうして私は売店でおつまみとお酒を吟味していると気になる方向があった。

まるで鳥が羽ばたいた時の風斬り音のような物が聞こえた気がしたのだ。

少しの間その方向に注視をしていると見慣れた顔がやってきた。

今まで偶然とは言え半ば避けて居るようなものだったのに何故このタイミングになって会うのだろうか。

しかも売店で。

しかし彼らの根城にしているところなのだから彼が居ても何ら不思議ではない。


「あれ、健夜さんどうしてここに?」


「えと、仕事でね、ここに泊まる事になったの。」


「そうなんですか、ここは良い所なんで満喫して行ってくださいね。」

「あ、照さんや福路さんとは会いましたか?」


「ううん、松実さんには会って話したけど二人とは会ってないよ。」


「そうですか、『ナイスバディ』さんも居ますから時間があったら会いに行ってあげてください。」


「う、うん。」



告白の後、久しぶりに会うというのにいつも通りの対応だった。

私といえば若干拙々しい受け答えをしてしまったというのに。

彼自身あまり気にしていないのだろうか?

しかし彼も忙しいのだろうか、軽く挨拶して用事を早々に済ませようとしていた。

考えてみれば当たり前だ。

彼はプレイヤーでもあり経営者であり監督なのだから。

監督は一人やるわけではないだろうけど社員を纏めないといけない。

いくらウチの社長からノウハウを学んだと言っても一朝一夕で物にできるものでもあるまい。

子供みたいな容姿のせいでほぼマスコットみたいな天江さん。

一応営業モードも出来る照ちゃん。

天真爛漫な魅力の大星さん。

ポスト牌のお姉さんと噂される原村さん。

元気一杯で周りを活気付ける高鴨さん。

包容力の高いお姉さんポジションの松実宥&福路さん。

皆愛されながらも(主に子供に大人気)弄られキャラの池田ァ。

こんな憖アイドルみたいな事務所メンバーなのでメディアへの露出が多い。

瑞原プロが何故か対抗心を燃やしていたくらいだ。

兎にも角にも仕事忙しい彼だ。

そんな彼が軽く挨拶してその場を去ろうとしたとき、私は思わず呼び止めて聞いてしまった。

どうしていつも通りにいるのか。

どうしてそんな平然としているのか。

どうして……どうして……

色々聞きたいことがあったのに一番最初に出てきた言葉はそのどれでもなかった。



「何で私のこと好きになってくれたの?」

「別に私じゃなくてもいいんじゃないかな?」

「君の周りには素敵な女の子が沢山居るわけだし。」


一瞬の間。

彼は答える。


「俺にとって健夜さんの代わりは居ないですよ。」


彼が放ったありふれた言葉。

だけどその後に来た言葉はありふれていなかった。


「例え俺が貴女にとって何かの身代わりだとしても。」


「!」


「俺にはそれが何か分からないけど別にそれはどうでもいいんです。」

「いつか俺を見てもらえるよう理想の男になりますから。」

「例えそれが貴女の理想の紛い物に過ぎないとしても。」


まるで自身の臓腑を大きな手で掴まれた様な錯覚するほど息苦しかった。

見透かされていたのかもしれない。

自分で意識していないとしても彼を彼自身の代替品にしていたことを。

あまりに失礼な話なのに彼はそれに対し意にも介していないようだった。

私はその後のことをあまり覚えていない。

気付いたときには自分の部屋の布団で寝ていた。

そしてそのとき私を起こしたのはこーこちゃんのうるさくもありがたい能天気な明るい声だった。



「すこやーん、お目覚め?」

「顔色悪いけど二日酔い?」


「え、あ、うん。」

「大丈夫だよ……うん、大丈夫。」


「あんまり大丈夫な様には見えないけど……」

「顔の小皺が増えたとか?」


「まだ皺は増えてないよ!」


機嫌よくやってきたと思ったらこれだ。

こーこちゃんといるといつも彼女のペースに持ってかれる。

それはある意味救いでもあるが。

彼女が私の調子が戻ったのを確認してかこう言い出した。


「すこやんの悩みは分からないけどさ、自分の手に負えなくなったり自分じゃ分からなくなったりしたら周りの人に相談してみるのも手だよ?」


彼女の言葉を聞いて不思議と少しは話してみようと思った。

彼女以外にだが。

だって絶対弄るためのネタにされるもん。

今日はここまで

・京太郎「麻雀部・性の裏技」
・京太郎「真夏の夜の淫ハイ」
・京太郎「部長こわれる」
・京太郎「ドラゴン松実」
・エイスリン「悶絶少年」

全部R-18のノンケストーリーだけど次は書くかな……書きたくない?

チョコチョコ投下



番組の収録が終わると直ぐ様とある場所に向かった。

私と彼の関係を知っている人物で頼れそうな人はそんなに多くない。

先輩に頼ろうかとも思ったけど名前が未だに思い出せないので下手に突いたら薮蛇臭い。

だとしたら他の大人だ、と向かった先には私にとって一番頼りになる人が居る家である。


「あら、健夜どうしたの。」


「お母さん、相談乗ってもらっていいかな。」


「ふ~ん……ま、まずは家に入りなさい。」


自分の実家だというのにお邪魔しますと言って上がる。

久々の実家なのに落ち着けない。

そういえばお父さんは居ないのだろうか。

ああ、まだ定年じゃないんだっけ。

じゃあ私とお母さんの二人きりなのか。


「はい、どうぞ。」


「ん、ありがとう。」


「で、相談って何。」


「うん、その……ね。」

「京太郎君のことなんだけどさ……」


お母さんが出してくれたお茶に手を付けて話を切り出す。

厳密には言い出そうとして言葉に詰まった。

今更ながら何と説明すればいいのかわからなくなってしまったのだ。



「なんて説明すればいいのか分からないけどさ。」

「京太郎君が好きだって言ってくれたんだよ。」

「私のことを。」

「それは嬉しいんだけど。」

「私は、その時は受け入れられなかった。」

「彼のことは好きなんだけど……でも、それは家族みたいなものであって……」

「男の人としては見ていなかったからびっくりして……」


お母さんが何も言わず聞いてくれている。

お茶を飲みながらだったけど。

それでも何も言わずに聞いてくれた。

私が訥々と辿々しく喋っていて時間が掛かっても。

全てを話し終えたあと、お母さんが口を開いた。



「あ、終わった?」


「お母さん真面目に聞いてたんじゃないの!?」


「だってあんたの話し長いんだもん。」


「人が折角勇気を振り絞って全部話したのに……」


まったく、こんな恥ずかしい話、親にはしたくなかったのに。

お母さんが改めて聞いてきた。


「で、何でOKしなかったの?」


「え、さっきも言ったんだけど……」


「あんたは自分の欠点が嫌なんでしょ。」

「さっき自分は京太郎君に相応しくないって言ってたんだから。」


「あ、うん……」

「だって私麻雀くらいしか取り柄ないし。」

「ズボラだしグータラだし甘えてるし。」

「嫌なところ一杯有る上。性格悪いって自覚してるもん。」



お母さんがお茶を飲み干し、軽く溜息を吐いた後に言い出す。


「あんた、あの子と何年いるの?」


「……もうすぐ出会って12、3年くらいになる。」


「だったらあんたの嫌なところわかってないわけないでしょ、京太郎君が小さい頃から一緒にいるんだから。」

「あの子は健夜のそういうところを承知の上であんたを好きでいるんだよ。」


「う……」


「それに幸せになれるかどうかなんて当人同士一緒になってみない限りわかんないって。」

「健夜、あんただけではそれは決められないことだよ。」

「あの子の幸せがどういうものかなんてあんたが勝手に決めていいものじゃない。」


「……はい。」


こう言われてはぐうの音も出ないです。

流石私のお母さん、頭が上がりません……



「それにあんた口では何だかんだ言ってるけど、多分前とは認識が変わってきていると思う。」

「あんた前は家では『彼』なんて言い方してなかった。」

「せいぜい『京太郎君』か『あの子』って言い方だったよ。」

「健夜の中で確実に男としての京太郎君の存在が大きくなっているんじゃない?」


「……うん、そうかもしれない。」


「あー、ここで聞いておくけどさ。」

「想像してみて。」

「もし京太郎君の近くにあんたの知らない女が近付いてきたとして。」

「あの子が他の女に取られても平常でいられるの?」


「どうだろう……」

「あまりいい気分ではないけど……」


「じゃあ次だ。」

「あの子が家族になるのに抵抗があるか。」


「今でもほぼ家族みたいなものだと思ってるよ。」

「でもそれは姉弟みたいなもので……」


「夫婦や家族の形なんてそれぞれだよ。」

「私とお父さんだって家族だし。」


「それは夫婦だからじゃ……」


「それじゃ最後に聞くけど。」

「あの子が望むなら子供を産めるか。」

「ここが聞きたい。」


「え……」

「わかんないよ、そんなの……」


「そう、だったらいいか。」

「私とお父さんね、所謂幼馴染というか腐れ縁みたいなもんだったのよ。」

「半ば家族みたいなもんだったしお父さんのこと男として見たこと無かった。」

「でも世の中不思議なもんで、結婚してあんた産んで今ではこうしてお父さんと暮らしている。」


「どうしてお母さんはお父さんと結婚したの?」


「お父さんのお母さん、つまりあんたから見れば御祖母ちゃんが亡くなった時に泣いてたお父さんを放って置けなくてね。」

「思わずお父さんに向かって「私があんたの家族になってやる!」って言っちゃったんだよ。」

「そのあと付き合ったりして結婚してあんた産んだ。」



親の馴れ初めにケチ付ける訳ではないが、何かロマンチックさの欠片も無い話だ。

お母さんの言い分では多分そのときには既にお父さんの子供産んであげようと思ったんだろう。

お母さんが更に続けた。


「健夜、あんた子供産めるかって聞いたら『分からない』って言ったよね。」

「『嫌だ』とか『産めない』じゃなくて。」

「家族だとしても親兄弟のだったら子供産もうとは思わないんじゃないの。」

「ま、つまりはそういうことでしょ。」


何となく、自分の気持ちはわかっていた。

でもそうすると、何か申し訳ない気持ちがあった。

前の彼への気持ちに対して申し訳ない気持ちが。

そしてそれを引きずってしまえば今の彼に対して後ろめたさが生まれてしまう。

だから私は受け入れなかった。

でも……今はどうだろうか。

私にはまだ踏ん切りがつかない。

今日はここまで

投下、始めます



実家で一晩泊まって長野に戻りお隣に顔を出す。

その人もまた京太郎君と私の関係を知る一人だ。

インターフォンを鳴らしてみるが反応が無い。

仕事なのだろうか。

ドアに手を掛けるとあっさり開く、田舎ではよくあることだけど無用心である。


「お邪魔しまーす。」


そう家中に響く声。

声は返ってこない。

勝手知ったるこの家だが一応家主には自由に出入りして良いと許可は貰っている。

と言っても大分前の話だが今でもおよそ有効であるはずだ。

ならばと思い、中に入って私はとある部屋に向かう。

そこに着いたら一枚の写真の前に座った。

彼の母親の遺影。

仏壇の前で手を合わせて心中で問う。



ねぇ、私はどうすればいいかな。

貴女に聞いても答えは出ないだろうけど問わずにはいられなかった。

私たちは別に深い仲という訳ではないがそれでも顔は覚えている。

そうそう、貴女の救った女の子は立派に育っていたよ。

須賀さんから聞いたけど貴女が家族に執着していた理由が何となく分かったよ。

貴女は家族に執着していたらしいけど自分の息子を自身と似た境遇にしてしまうとは皮肉だね。

暫らくすると後ろに気配を感じて振り返る。


「どうしたの? そんなに熱心に拝んで。」


「いえ、須賀さんに話が有って来たんですけど。」

「インターフォン鳴らしても反応なかったので不躾だとは思いましたが勝手に上がらせてもらいました。」


「ああ、成る程、悪いね俺寝てたんだ。」

「それで話って?」


須賀さんに、京太郎君のお父さんに今までのことを掻い摘んで話した。

彼はあーとか、うんとか生返事をしている。

私が一頻り話すと彼は腕を組んで何か言葉を探し始めた。


「京太郎がいきなり大学を休んでどっか行ったと思ったらそういうことがあったのか……」

「しかし京太郎のやつ……」


「知らなかったんですか? 若しくは何か話さなかったんですか?」


「あー、そのなんだ。」

「今まで放って置いたツケというか今一話すのに切っ掛けが……」

「今更父親面して何か言うのも憚られるというか。」


父親として呆れた物言いだが私も人の事を言える立場ではない。

それでも彼は京太郎君との距離を測りかねていたとは言え心配はしているようだ。

須賀さんは続けてこう言う。



「俺の意見としては小鍛治さんの自由にするべきだよ。」

「小鍛治さんの心の問題なんだし。」

「ただ結論を出すならちゃんと出した方いいと思うよ。」

「中途半端なままだと進むことも諦めることも出来ない。」

「振るなら振るでいいけどお互い後腐れなく、後悔しないように。」

「ずっと京太郎を貴女に任せていた俺が言えるような話ではないけど。」

「それでも二人が幸せになってくれるといいなとは思っている。」

「どんな形にせよ、どんな結論にせよ、どんな結果にしろ、ね。」


そういうと須賀さんは身支度を始めた。

どうやらこれから出勤らしい。

私は家に戻って色々と考えて悶々としていた。

私は彼とどうなりたいのだろう。

彼に会う前は姉のような存在として傍らに居たいと願っていた。

それは最初の彼との思い出によるものだ。

でも今はどうだろう。

最初の、弟として彼と居た期間より今の彼と過ごした期間の方が長くなってしまっていた。

昔の彼の思い出が失われるわけではないけど新しい彼との思い出がより多く、より鮮明に、そして上塗りされるように代わっていったのを分かっていた。

答えなんて半分出掛かっているようなものだけどそれでも自分の心境に戸惑っている。

だから今はもうちょっとだけ時間が欲しい。

ちゃんと胸を張って答えを言えるようになるまで。




それから数ヶ月、かつての流れた噂が現実として固まる。

赤土プロが「吉野ファイアドラゴンズ」の一員になるというものだ。

彼女としては潰れたチームから移籍出来て渡りに船で嬉しいだろう。

しかも地元とくれば尚更だ。

しかし個人的には厳しいんじゃないかと思う。

だって完全に一人だけ浮いた年齢になってるし確かあの人アラサーだよアラサー。

比べてチームの基幹を成しているのは若くてキャラクター性のあるマスコットやアイドルのようなメンバー。

……その中に赤土晴絵プロ(アラサー)は中々にきついと思う。

一部の人間には人気は出そうだけど。

短いけど今日はここまで

追記:E-4はクリアしているので時間はとれるはず

確か最初のスレが
京太郎「あれ、俺がいる」
だったはず。
スレタイちょっと違うかもしれないけど、その辺は俺より詳しい人に聞いてくれ。
あと短編一つと永水編と京照編があった気がするけどスレタイ覚えてないんで

>京太郎「あれ、俺がいる」
……あれか!憶えてる憶えてる、最初だけ(その後SS速報読みに来てなかった)
色々教えてくれてみんなありがとう
京太郎・照「太陽はまた昇る」と【咲SS】京太郎「あれ俺要らなくね……?」はわかったが
永水の守人ってのは、京太郎「神代の守人」から石戸霞「神代の良人」までのシリーズのことかな?
途中から知って長そうなんで読んでなかったが○人のまですこやんループもののシリーズだったとは恐れ入った

確か猫が京太郎になって和に会いに行くssも書いてたよね
ほのぼのとしてるけどどこか切ない話を書くのがうまい

>>662
和「おまえネコかよぉー」ってスレタイのやつだっけ
あれもここの>>1のだったか

【咲SS】京太郎「あれ俺がいる……?」
↑これが最初
【咲SS】京太郎「あれ俺要らなくね……?」
太陽はまた昇る
↑これはちょい役ですこやん出てる
↓一応書いた奴だけど今回のSSとは関係なし
和「お前ネコかよー!?(驚喜)」京太郎「ンアーッ!(≧Д≦)」
神代の守人シリーズ

いまから書けるだけ書く



今年ですこやさんじゅうにさいになりました。

気を遣われてお祝いするかどうかを相談されてるとは思いませんでした。

そういえば咲ちゃんこの間二十歳になったんだよね?

二十歳のお祝いしないとね!

皆でお酒呑みに行こうか!

自分の限界知っておかないとお酒で人生破滅しかねないからね!

大丈夫片岡さんも一緒だよ!



それからまた暫らくすると進路を決定する時期になる。

夢乃さんが引退してからなり寂しくなった部室はしんと静かになって誰かを待っている。

私は何となく放課後ここで仕事をしていたりすることがある。

時々誰かがここにやってくるからだ。

それは歴代の部長だったり部員だったりするわけだけど。

そうそう、夢乃さんの進路が決まったそうだ。

私のチームや他のチームからスカウトが来ていたが彼女が選んだ場所はそのどれでもなかった。

「吉野ファイアドラゴンズ」

彼女は誘いを断り自ら進んでその門を叩いて入っていく。

今十二分なほどの指導を与えられるあそこは彼女にとって一番いいところだろう。

彼女個性もそこの方向性ともマッチングしているし。

……赤土さんはよりきついことになるだろうけど。



それから更に少し経って2月の2日。

彼もついに二十歳になったんだろうなと思いながらも近くで祝えないことが悲しい。

前はあんなに一緒だったのにね。

もうこんなにも会ってない時間が長く感じられる。

降り積もるような感傷的な心が鬱陶しい。

私、前はもっとドライな人間だと思ってたのにな……

部室からは誰も彼もが居なくなり一人で居るには寂しすぎる広さがある。

きっと彼は私とは違って今居る仲間に祝われているだろう。

私も何かお祝いしたいけど今更何を送ろうか。

名を出すのは憚れるので匿名でプレゼントを買って送ろう。



卒業式。

夢乃さんを見送る。

これで私が受け持つ麻雀部員は完全に居なくなってしまった。

チームの先輩として指導することは有っても顧問としてはもうないかも知れない。

だけどきっともうウチの部に入ろうとする者は居ないだろう。

そんな気がするのだ。

だから私は部室でここでの思い出に浸ると備品を締め出して掃除して綺麗にした。

綺麗になった部室を見てこれで最後かと思いながらも部室から出て扉を閉める。

そして思い出と一緒にそっと部室の扉に鍵を掛けた。

毎度短いけど今日はここまで

投下頑張る



夢乃さんがデビューして久しいこの頃。

春が過ぎてもやはり麻雀部を立て直したいと言う酔狂な生徒は現れなかった。

そして春先から告知されていたプロチーム用のイベントマッチが始まる。

あらゆるプロが3人1チームで参加するトーナメント形式の大会。

ウチも参加の予定だがそんなに余裕あるのかな?

一応ベンチメンバーとして一人追加できるらしいけどそんなことしたらウチの主力がガラガラになってしまうね。



1事務所最大3チームまで出場できるらしいけど一度決まったメンバーは固定とのこと(ベンチメンバーとの交代はあり)。

つまりポジションが結構重要になるわけだけど私は当然大将として咲ちゃんと靖子ちゃんをどうするか。

先鋒は片岡さんとして中堅中継ぎを靖子ちゃんと咲ちゃんのどちらにするか。

無難なところで咲ちゃんにしておいて面倒臭くなったらベンチの靖子ちゃんに投げよう。



今大会の各チームのオーダーが出ていた。

私はそれを読みながらふと気になる名前を見かけた。

加藤ミカ。

なぜ加藤さんがこの人と一緒に……?

他には瑞原はやり・三尋木咏・野依理沙・戒能良子などが各々参加している。

それより彼らのチームはどんなオーダーを出したのか。

読んでいくとそれが顕になった。


『吉野ファイアドラゴンズ』

1チーム
宮永照・天江衣・京太郎

2チーム
松実宥・高鴨穏乃・赤土晴絵

3チーム
美穂子・原村和・大星淡


一体私たちは誰と当たることになるのだろうか。

まだ見ぬ戦力に私はどこか胸を躍らせ期待していた。

今日はいつもより短いけどここまで
対戦順番や試合とか闘牌とか練ってきます

ネタが一切思い浮かびません
手も進まないけど頑張ろう



売れ残りのアラサーアイドル雀士。

半ばコミュ障口下手アラサー雀士。

アラサーに突っ込んだロリ系雀士。

そして私ダメ人間言い訳多目雀士。

う~んこの面子……

ひどいものだ。

というかここ来ている女子プロの内何人が男を漁り、もとい出会いを求めてきているのだろうか。

三尋木プロは何となくライバルを見に来た感は有るけどあの子も確か今年29歳だしね。

アラサーですよ私たちと同じアラサーですってよ。



「お疲れ様でした。」


結局何がどうするわけでもなし、私が周りを潰して一位上がりである。

二位である三尋木プロも一応トーナメントの関係上一緒に上がるのだけれど彼女は終始苦い顔をしていた。


「よーし! これから男の人と出会いを探しちゃうぞ☆」


「仲間!」


「……ああは、なりたくないねぃ。」


「うん? 何か言ったかな★」


「いえ、何でもないっすわ。」


黒いはやりん☆(33)が三尋木プロに絡んでいるのをよそに私はそそくさとその場を後にする。

三尋木プロがこっちを恨めしい目で見てた気がするけど私は絡まれたくないんです。

というか瑞原プロと野依プロは赤土プロと一緒に昔私から折檻麻雀を受けたのにまだ懲りてないのか。

多分結婚するまで懲りないんだろうなぁ。

結婚できる未来は見えないけど。



続いての対戦相手は意外や意外の組み合わせだった。

私側の佐久と横浜は分かっているのだけれども片方は二つとも吉野ファイアドラゴンズだった。

抽選の結果だからこういうこともあるのだろうけど同じチームが食い合うなんてね。

吉野の2チームと3チームなら京太郎君とは対峙しないだろうけどそれでも苦戦は強いられるのではないか。

特に福路さんを先鋒に置いてあるという事は先鋒で稼いで後は逃げの戦法が考えられる。

が、先鋒でトばして来る場合だって十分にありえるのだ。

流石にウチの面子がトぶことはないと思いたいが何が起こるかなんて分からないのが麻雀なのである。



先鋒戦。

吉野ファイアドラゴンズ第2チーム、松実宥。

吉野ファイアドラゴンズ第3チーム、福路美穂子。

この二人と片岡さんは戦わないといけない。

松実宥はまだしも福路さんは幾度となく打ってきた相手。

お互い手の内は分かっているはずだが福路さんのほうが上手なので片岡さんはかなり不利。

横浜ロードスターズは無名のだから気にしなくてもいいけど下手したらそっちを庇わないといけない可能性もある。

自分のガードを固めていたら横浜がトばされて吉野がワンツーフィニッシュとか目も当てられない事態だ。

まぁ例え片岡さんがぼろぼろになっても咲ちゃんまで回してくれれば何とかなるはずだ。

さて、お茶でも飲みながら観戦しようかな。



「ツモ、8000オールだじょ。」


まず最初に片岡さんの先制ツモ。

これで簡単にはワンツーフィニッシュとはいかなくなったわけだけどまだ油断は出来ない。

南場に入った途端に福路さんが全力で削ってくるはずだからだ。

しかも東場・南場に限らず赤い牌が入らない。

恐らく松実宥の能力だろうけどこれが半ば他家を絶一門にしているのだ。

最初以外片岡さんの手が伸びないのも仕方ないことだった。


「戻ったじぇ……」


結局戻ってきた片岡さんはボロボロにされていた。

咲ちゃんが片岡さんにフォローを入れた後気合を入れて言い放つ。


「じゃあ、行ってきます。」


「咲ちゃん頼むじぇ~。」


「頑張ってこいよー。」


「油断せずにね。」


「あ、健夜さん。」


「うん?」


「別に全部ゴッ倒しても構わないんですよね?」


あれそれ負けフラグじゃなかったっけ?

ちょっとマジで進まない
今日はここまで

マジで闘牌が浮かばない

1闘牌のクオリティ低くても確実に時間を進めるか
2それとも時間は掛かるが闘牌のクオリティを上げるか

どっちがいいか

夜遅くに出したアンケに反応してくれてありがとう
今夜時間有ったら続き書きます

少しだけでも投下しよう



中堅戦。

咲ちゃんの相手は原村さんと高鴨さん。

うん、原村さんに負けてるね、何がとは言わないけどさ。

あ、でも今はもう気にしてないんだっけ、流石ナイスバディ先輩。

と言っても咲ちゃんが原村さんに嫉妬して八つ当たりしているところを見たこと無いけどさ。

元々友達だからかな?

咲ちゃん他人の巨乳には容赦なかったけど身近な人には危害を加えないもんね。

試合が始まり咲ちゃんが取られた分の点棒を点数調整で取り返していく。

とはいえすんなりとは行かない。

伊達に京太郎君たちと打ってない。

恐らく対策や研究も済ませて有るだろう。

それでも地の分咲ちゃんの有利は覆せないが。

あ、そういえば高鴨さんって賽の出目で能力が……


「ロン! 6400!」


「わたしのイーピン……!!」


ぐにゃあっと歪む空間。

咲ちゃん、カメラに映せない顔になってるよ。

後カメラさん、一番カメラ映えするからって原村さんばっかり映すのやめてよ。

咲ちゃんを映すときも原村さんの胸越しに映してるし。

完全カメラさん遊んでるよね、こーこちゃんと同じ匂いがするもん。



やがて中堅戦が終わり、咲ちゃんが先鋒戦で奪われた点差をフラットにして戻ってきた。


「ふぅ、疲れた。」


「お疲れだじぇー。」

「のどちゃん元気だったな。」

「とくにあのおっぱいが。」


「優希ちゃん、人の体調を胸で判断するような真似はよくないよ。」

「確かに元気なお胸でしたけど。」


何か後で会いに行こうという話をしながら和気藹々としている。

咲ちゃんにしては珍しく明るい話題だとも思ったが関係人物は彼との共通関係も有って奈良に集中しているんだよね。

仕方ないといえば仕方ないのかな。

それから少しして私は時間になると対局室に向かう。

そこには三尋木プロと赤土プロと大星さんが待っていた。



「や、ども。」


対局者と軽い挨拶をして席に着くと何やら気になる行動をしている人物が一人。


「私は空気、私は星、私は……」


何か大星さんがブツブツ言っている。

そこに空かさず赤土さんがフォローを入れる。


「ああ、今回に限って彼女は気にしないであげて。」

「私のお願いを聞いてサシウマに協力してくれてるだけだから。」


「サシウマって私と?」


「ええ、ダメですか?」


「私はいいけど……そっちはどうかな。」


そう言って三尋木プロに目線を向ける。

目のあった三尋木プロは肩をすくめた。


「別にいいんじゃね?」

「ただしあたしとしては隙あらば二人から掠め取るよ。」


「分かってるよ。」


そういう受け答えがあった。

大会だと言うのに何か適当過ぎやしませんか?

それともあれか、もうどうにでもなれ精神なのかな?



大将戦。

始まったのはいいけど手牌を開いて辟易した。

しかしそんなこちらの事情は関係ないと言わん勢いで赤土さんは仕掛けてくる。


「前はホテルで野依プロや瑞原プロと一緒に打ったけど今回は真面目に打ちます。」

「インターハイ、貴女とは直接打ってないけどトび終了なんて屈辱を払拭するためにも全力で。」

「私は、貴女を超えないと前に進めない。」

「だから貴女をここで倒す!」


「ロン、64000。」


赤土さん第一打で持ち点の50000失ってトび終了。

何かガチ凹みしていて見ていて可哀想だった。

必死にチームメイトが慰めていたが年下に慰められて余計惨めだったのか子供みたいに捨て台詞を吐いて泣きながら走って去っていった。

どうしてこうなった。

今日はここまで

一度でいいから見てみたい、健夜が化粧をしてるとこ。どうも咏○です
最近書こうと思ったら寝ちゃって起きたら朝になっている

ちょっとだけ投下します



赤土プロをトばして控え室に戻ったら京太郎君チームが気になってきた。

しかしそれとは別の試合に目が移る。

彼のチームが既に試合を終えているというのもあったがそれ以上に目を引いたのだ。

モニターの中では延岡スパングールズの大将の大沼プロがメガン・ダヴァンと打っている。

見た感じダヴァン選手の方が若干優勢といったところか。


「お爺さん、無理しない方がいいでスよ。」

「若者に合わせるのは辛いでショウ?」


これは暗に「貴方の古い打ち方では私には勝てない。」と言ってるのだろうか。

皮肉も余裕もたっぷりだ。

しかし大沼プロはダヴァン選手に口数少なく返していた。


「御託はいいさ。」

「抜きな、ヤンキーの嬢ちゃん。」

「どっちが早いか勝負しようか。」


「いいでスネ、ソレ。」

「スピードでは負けセンヨ。」



見えるビジョンは荒野の西部劇に出てきそうな酒場の前。

大沼プロもダヴァン選手もテンガロンハットやカウボーイハットを被っている。

まるでビリー・ザ・キッドかパット・ギャレットのような出で立ちだ。

二人が再び会話を始める。


「What's going on?」
《調子はどうだ?》


「That's tight.」
《最高ですね。》


大沼プロが流暢な英語を喋ったのが驚きではあるがそんなことはお構い無しに試合は進んでいく。

ダヴァン選手が唐突に銃を取り出した。

鳴り響く銃声。

彼女が片手に取り出したライフルを構えた。

そう思ったときには彼女は撃たれていた。


「ナ!?」


「ロン、8000。」


「What the fuck!?」


「どうやらこっちのアナクロの方が早かったみたいだな。」

「ま、年季の差って奴だ。」


まるで西部劇のガンマンのような早撃ち。

相手が銃を引き抜くより早く大沼プロは相手を撃っていたのだ。

若干彼女の語彙が放送コードに引っかかりそうな気がするけどこの際そこは目を瞑ろう。



「次はもっと早いでスヨ。」


ダヴァン選手が先程より早く仕掛ける。

さっきより早く、そして無駄の無い動き。

だが銃声が鳴ったのに立っていたのは大沼プロだった。


「Just made it.」
《ギリギリだな。》

「Do you want to try again?」
《まだやるかい?》


「Off course.」
《もちろん。》



ダヴァン選手が大沼プロの問いに答える。

そして何度も鳴り響く銃声。


「Do you want to try again?」
《まだやるかい?》


「I'm Fine.」
《大丈夫。》


鳴り止まぬ銃声。

倒れる女。



「try again?」
《まだやるかい?》


「Once more.」
《もう一回。》


問いかける言葉。

途切れぬ返答。


「Once more……」


「…………」


「Once more again!」



必死な声を上げて続きを強請る。

しかし終わりは告げられる。


「Not now.」
《今はやめておけ。》

「Game is over.」
《試合は終わりだ。》


試合は既に終了していた。

ただ、熱くなったダヴァン選手が気付いてなかっただけで。

点数なんてとうにひっくり返っていたのに。

熱くなりすぎるのも問題か。

書き溜め終了そして眠いので申し訳ないが今日はここまで

クライマックスが近付くとケツの方から書いてしまうので目の前の部分が疎かになる

業務連絡:少し時間が開きますけど土日空いてたら書きます

ちょっとだけ投下



大沼プロ達の試合が終わったのを見て息を漏らす。

明らかに全盛期に近付いている。

年齢と言う錆を感じさせないくらいの打ち筋だった。

私はその後大将を靖子ちゃんに預けて暫らく休んでいた。

来る決勝まで休んでいた。

休みたかった。

けどとある人物に会ってしまった。


「あ、さっきはどうも。」


「こちらこそ、さっきはトばしちゃってごめんね。」


そう、ボラーレでヴィーアなことになったあの赤土プロ。

挙句、基本の世界の教え子達に慰められて捨て台詞を吐きながら逃げ去ったあの赤土プロ。

より具体的に言うと「麻雀なんて嫌いだー!」と泣きながら出口にの方に走ったかなり大人として恥ずかしいあの赤土プロだ。


「いえ、気にしないでください。」



「そうですか、それではこれで。」


「ちょちょちょ、ちょっと。」


何か止められた。

私は早く休みたいのに。

そのために態々靖子ちゃんに大将を押し付け、もとい頼んだのに。


「私は今回負けてしまったけどいつかリベンジするから。」

「覚悟しておいてください。」


「あ、はい、頑張って。」


「気のない返事だな……」


そんな事言われても私は今寝転がりたいの。

正直どうでもいいの。

そう思っている私のことをどこ吹く風で赤土プロは考え始める。




「そういえば小鍛治プロって世界一位なんだよね?」


「ええ、まぁおかげさまで。」


「そして私はインターハイのとき小鍛治プロ以外に負けてない。」


「まぁそうだね。」


「つまり……」

「小鍛治プロが世界一位なら私は世界二位ということだな!」


何その謎理論。

これ以上付き合うとハイテンションのこーこちゃんを相手しているとき並に疲れそうだから早々に切り上げようとした。


「あ、じゃあ私はここで……」

「お疲れ様です。」


「うん、お疲レジェンド。」


「え……?」


「お疲レジェンド!」


ちゃんと聞こえてるから。

二度も言わなくていいから。


「え、何その語尾……」


「いやー、私地元では阿知賀のレジェンドって呼ばれててさ。」

「それでキャラ付けも兼ねて。」


「だからと言ってお疲レジェンドって」


「あ、気に入ったからって取っちゃダメだぞ?」


「取らないよ!」


思わず突っ込んでしまった。

この人前より鬱陶しい感じになった。

うわぁって感じ。


本気と書いてマジで休もうと離れようとしたとき赤土さんがポツリという。


「そういえばこのあいだ、彼宛てにプレゼントが届いていたんだよね。」


「…………」


「彼は後生大事に持っていたよ。」

「彼自身何も言わなかったけど凄く大事そうだった。」

「きっと誰かさんからの贈り物は大事な大事な宝物だったんじゃないの?」


「…………」


「これ以上は本人同士の話だから私の口を挟む余地は無いんだけどね。」

「一体誰なんだろうね。」

「プレゼントの送り主は。」


そう言った赤土プロは面白いおもちゃを見つけた子供のようにニヤニヤしていた。

凄く引っ叩きたい表情だ。

よし、決めた。

次に会った時は完膚なきまでに叩きのめす。

二度と調子に乗らないように。



赤土プロを追っ払い、それから少し休んで決勝まで時間を潰すと控え室に戻った。

何か靖子ちゃんぐったりしてたから訳を聞いたらカツ丼が届かなくて空腹らしい。

靖子ちゃん片岡さんと似たようなキャラになってきたね。

さて最後の対戦相手は誰なのか、そう思いながら状況を確認する。

吉野の代表チームと横浜に延岡、横浜は私のチームと一緒に上がってきたようだ。

決勝戦で当たる組は大体予想出来ていたとは言えここまで完璧だと出来レースだといわれても仕方ないね。

以外だったのは吉野第2チームがトんで第3チームまで落ちた件だ。

仕方ないといえば仕方ない。

あれは事故みたいなもんだし。

今日はここまで
池田とレジェンドは吉野では愛され(いじられ系うざ)キャラ設定

ちょっとずつ投下



色々面倒臭いことがあったが一応決勝戦まで休むことが出来た。

といっても私は大将戦まで何もすることは無いんだけど。

少し時間を潰すと予定の時刻になると同時にアナウンスが掛かる。

始まる先鋒戦。

横浜ロードスターズの先鋒はあまり聞いたことの無い選手。

佐久フェレッターズの先鋒、片岡優希。

吉野ファイアドラゴンズの先鋒、宮永照。

そして、延岡の先鋒の名前は、加藤ミカ。

何故彼女が延岡に就職したのか。

それは私には分からないことだが大沼プロが気に入ったのであろうことは何と無く分かった。

彼女の打ち方から大沼プロの打ち筋が垣間見えたのだ。

どうやらそれなりに仕込まれているようだ。

片岡さんは東場の勢いで突風を起こして突き進む。

照ちゃんはその風を絡め取って自身の周りに聖域を齎す。

加藤さんは嵐の中を翻弄される布のように身を任せている。

そして横浜の先鋒はトばないようにその場で踏ん張っていた。

誰が最初に音を上げるのか、それは意外にも照ちゃんだった。

そして先鋒戦が終了したときには照ちゃんがトップで二位のウチとの差は5200点差だった。

この中で一番強いのは誰がどう見ても照ちゃんだし、正直片岡さんには悪いけどかなりの点差を開けられることを覚悟していたのに。

加藤さんも以前よりも強かったとは言え照ちゃんに勝てるレベルではなかった。

それなのに点数はそこまで減っていない。

解せないと思っても本人以外にはわからないことだ。



続いての中堅戦。

実質咲ちゃんと天江さんの一騎打ち。

今日は満月で今は夜中ではあるけど天江さんがどれくらい耐えられるか楽しみだ。

咲ちゃんが攻める。

ただ只管攻める。

横浜から。

延岡から。

そして吉野から搾取する。

無意識に。

無差別に。

無慈悲に。

点棒を奪っていく。

しかし天江さんも最大限の抵抗をしたおかげか中堅戦が終わったころには一位になったウチとは12000点差程度で抑えられていた。

中々の健闘だったのではないのだろうか。

ただそれでも天江さんは少し気落ちした様子だった。

点を守れなかったことが悔しいらしい。

京太郎君や照ちゃん、福路さんなどに揉まれて急成長したであろう彼女と言えども咲ちゃんを相手にあそこまで抑えたのだ。

脳と能を最大限使ってここまで耐えた。

これは褒められることだ。

それだけのことを彼女はやってのけた。



最後の大将戦。

延岡の大将、大沼秋一郎。

横浜の大将、三尋木咏。

吉野の大将、須賀京太郎。

そして佐久の大将である私こと小鍛治健夜。

悪いけどこの状況で見ると三尋木プロにはかなり厳しいだろう。

誰がどれほど奥の手を持っているのかは分からないけどパッと見、大沼プロ、京太郎君、三尋木プロの順番の強さなのだ。

大沼プロは全盛期にどれだけ近付いてるのか分からないので京太郎君との差はわからない。

そして京太郎君がどれだけ研鑽を積んだのか分からないので三尋木プロとの差はわからない。

ただ漠然とした私の指標なので相性の関係や切り札次第で簡単に勝敗が決まるかもしれないがそれは当然読んでくる。

気の抜けない戦いではあるが順位の優劣はほぼ決まりだと思う。



私は適当にやばい部分だけを抑えて振り込まず、かつ振り込ませずに打っていた。

手作りで出来上がりそうな四暗刻を対々と三暗刻にしたり。

九連宝灯を作りかけては鳴きの清一色に落としたり。

そのまま行けば緑一色が出来そうになっても混一色で済ませたり。

その甲斐有ってか絶望的な点差が出来ずに南場に移れた。

南場に入っても未だ私の一人浮きではあるが簡単に引っ繰り返せる点差だ。

エンジンが掛かってきたのか京太郎君のオカルトが発動している。

大沼プロもやる気になっている。

三尋木プロも隙を見せれば喰いに来るのがわかる。

それでも私は気の抜けない戦いで適当に打っていた。

大沼プロの仕掛けを潰したり三尋木プロの攻撃をいなしたり。

京太郎君に点数調整も兼ねて点棒を上げたり。

それらが終わった頃には私は二位に落ちていた。

そのまま試合が終わるとトップの京太郎君は何も言わず目を伏せていた。

途中でやる気が削がれたのか失速して三位になった大沼プロが席を立つ際にこう言った。


「……とんだ茶番だったな。」

「小鍛治プロ、次は本気で打ちたいものだ。」


「……私の本気ですか。」


誰にも聞こえないような小さな呟き。

私が本気を出したって誰も得をしない。

そう思って全力で打つのは控えていた。

真面目に打つときは打つけどそれでも全力で打ってはいなかった。

それに対して文句を言われたのだろう。

大沼プロが去り際に京太郎君に耳打ちしていく。

彼は一瞬固まり、そのあと私のほうに目線を向けた。

今の彼はどんなことを思っているのだろう。

私には彼の心が。

何より人の心がわからない。

今日はここまで
クライマックスは何時来るのか

今更ながら気付いた
クライマックスが近い
書き溜めはないけど今から書きます



あのあと、何も告げずにその場を去った。

靖子ちゃんにその後のことは任せて私は逃げ出した。

忘れられないあの瞳。

悲しそうな彼の目がこちらに向いたとき、私は耐えられなくなった。

だから逃げ出した。

全くもって懲りない人間である。

私は何時になったら学習するのか。



それから数日後。

私は家でグダグダとあーでもないこーでもないと悩む。

あの場面でどうするのが正解だったのか。

本気を出せば再起不能になる人間が出るかもしれない。

かといって手を抜けばこの間のようになっていた。

答えなんて無いんじゃないかと思いながらも必死になって考える。

彼との関係のことも。

今のままでいいとは思ってはいないけど距離を測り損ねていたままでは何ともよろしくない。

それはこのあいだ須賀さんとも話していたことでもある。

とはいえ簡単に答えなど出るわけも無く、結局時間だけが過ぎていった。

そんな折、私の携帯電話にメールが届く。

送り主は京太郎君からだった。

いや、正確には彼の携帯からだった。

メールには画像が添付されている。

画像には体が縛られ、そして顔には打撲痕などが付いた彼が横たわった姿が映っていた。

画像の下には一言添えられている。


「坊主は預かった、下記の場所に来い。」


私はソレを見た途端、激情に駆られた。

頭の中を支配されるような真っ赤な怒りに、腹の底から沸き立つような真っ黒い何か。

私は携帯を握り潰しそうになるかと自分で思うくらい力を込めていた。

私は取る物も取り敢えず外に出た。

多分相当焦っていたと思う。

家から出たときちょうどそこには須賀さんが居たのだが面を食らっていた。

なのに私は一瞥をくれる時間も惜しくて走っていった。

それほど彼のことしか頭の中に無かった。



私が走っていって着いた先。

そこはつい最近閉鎖されて廃墟となったビルの一室。

元は須賀家に因縁のあるあのデパートだ。


私は走ってきて乱れた息を整えながら足を踏み入れる。

暗い通路を進んでいくと開いた扉から微かな明かりが漏れていた。

その扉を開けて入ると一室の真ん中には一台の雀卓と老人が一人。

老人は振り向きもせず言葉を発した。


「来たか。」


「彼を返して。」


「慌てるな。」

「まだ面子が揃ってない。」


そう言った大沼プロが雀卓に向き直り私に座るように手を向けた。

私が座って少しすると扉から人が入ってきた。


「まったく、こんなところに呼び出して……」


入ってきた人物はモノクルに白髪の老女。

元宮守女子の監督をしていた熊倉トシだった。

それから更に少ししてまたも扉から人が入ってきた。


「おいおい、ただの老人会にしちゃあ随分と若い奴が交じってんな。」


タバコを咥えながら入ってきたその人物は南浦聡プロその人だった。

どうやらこの二人はただ呼び出されただけのようだ。

面子は揃ったようなので本題に移るために私は問いかける。



タバコを咥えながら入ってきたその人物は南浦聡プロその人だった。

どうやらこの二人はただ呼び出されただけのようだ。

面子は揃ったようなので本題に移るために私は問いかける。


「私は何をすればいい?」


「これを足に。」

「どちらの足でもいい。」


そう言った大沼プロは手錠を3組雀卓に置いた。

私は何も言わずに右足に手錠をかけてもう片方を椅子にかける。

事情を察したのか後から来た二人も私の後に続いて椅子と自分の足に手錠をかける。

その間に大沼プロは後ろの部屋の鍵を開け、中に入って行った。

少しして戻ってくると彼を担いで戻ってきた。

大沼プロは乱暴に彼を放り床に寝かせた。

京太郎君が横たわった瞬間呻き声が出ていた。

生きている。

彼はまだ生きている。

それだけ確認できてよかった。

次に大沼プロは部屋にあったシーツを引っぺがして中にあったものをばら撒き始めた。

異臭のする液体。

妙な箱。

嫌な予感しかしない。


「おい南浦、ヤニはやめとけ。」


そういった大沼プロが南浦プロからタバコを奪って捨てる。

イラついたような表情をした南浦プロが聞く。


「おい爺さん、一体俺らに何をやらせようって言うんだ。」


「博打だ。」


そういった大沼プロはサイコロを回していた。



大沼プロが卓に着き、自身の足にも手錠をかけてルールを説明しだす。

といってもたった一言だった。


「勝った奴が出られる。」

「それだけだ。」


そういうと自動卓のスイッチを押す。

牌が迫り出してる時に熊倉さんは問いただした。


「大沼、あんたなんでこんなことを。」

「ついに狂ったか。」


「耄碌するよりはいいと思っただけだ。」


熊倉さんの言葉を返した大沼プロは少々間を置いてからまた語りだす。


「この前、うちのかみさんが逝った。」

「と言っても所謂内縁の妻だがな。」

「儂の連れ合いにしてはよく出来た女だった。」

「もう儂にはこれしかない。」


大沼プロは牌を指しながら言うと手を整えた。

熊倉さんも手を整えながら言い放つ。


「さぞ死んだ奥さんがあの世で泣いてるだろうよ。」


「違いねぇな。」


「他に家族は?」


「娘が一人。」

「こっちはとっくに事故で死んでる。」

「とんだ親不孝者だった。」


そんなことを言っていた。

別段興味も無い。

だけど大沼プロは語り続ける。



「娘が死んでからだったか、心臓病が判明してな。」

「体を労わり一線から引退すると同時に相手に張り合いが無くなった。」

「それからどんどん麻雀が味気無く感じてきてな。」

「気付いたら腑抜けになっちまってた。」

「そんなときに坊主と打った。」

「あのインターハイだ。」


言い出した大沼プロに目に炎が宿る。

まるでずっとソレを求めていたかのように。

渇望していたものが目の前に現れたかのように。


「坊主と打って、くすんだ自分の世界に色が出た。」

「それからだよ。」

「いつ心臓の爆弾が爆発するかとびくびくしていたが、なんて事は無い。」

「火薬のように生きてやろうと決めたその日から気にならなくなった。」

「その礼に坊主にちょっと技術を教えてやった。」


微かに口角を上げた大沼プロが私を見据えて言い放つ。


「一緒打ったからわかるが……」

「坊主は根っからの麻雀狂いだ。」

「およそお前さんの影響だろうけどよ。」

「だが坊主はわかっていなかったみたいだったからな。」

「教えてやったのさ。」

「『お前に麻雀の面白さを教えた人物は麻雀の面白さを知らない。』ってな。」

「お前さん、麻雀打ってるとき如何にも『つまらねえ』って面してたぜ。」

「坊主は面食らってたな。」



「さて、そろそろか。」


そう言った大沼プロが手牌をいじって立てる。


「分かりきっている勝負なんかにゃ興味は無え。」

「本気出したお前さんと打ちたいんだ。」

「そのために坊主を打ん殴って態々呼び出した。」

「そしてこんなところを指定したのは理由がある。」

「大分ここもキナ臭くなって来ただろう?」

「下はもう火の海だ、直にここにも火の手が回るだろう。」

「もたもたしてると坊主共々焼け死ぬぞ。」

「坊主を生かしたいんなら本気を出せ。」


本気を出さないと私が、引いては京太郎君が死ぬといっている。

そんなこと言われなくてもわかっている。


「儂は……いや俺は全てを賭けてお前を倒す。」

「麻雀って言うのは賭博にも使われる競技だ。」

「俺はそれに、人生を賭けて打っている。」

「俺はそれに、生涯を賭けて打っていく。」

「お前には何か賭けているものがあるのか?」


大沼プロの問い。

私の答えは決まっていた。

今までもこれからも変わらない感情。

人はソレを愛というが私のこれは愛なのだろうか?

多分、歪であっても愛なのだろう。



「私は……」

「私は私の全てを賭けて彼を助ける。」

「例えこの世の全てを壊すことになっても。」


覚悟は……

決めた。


「いい目だ。」

「今ここにいるのは麻雀プロの大沼秋一郎ではない。」

「博打打の大沼だ。」

「さぁ、俺と打とうか。」

「華々しく花火のように散らせてくれ……!」


この老人の目はおよそ年老いたそれとは思えないくらいにギラギラとしていて、まるで餓えた獣を彷彿とさせた。

それは完全に博打打ちの目だった。

今まで燻っていた火薬に火を点けたのだ。

博徒大沼が不敵な笑みを浮かべた。

今日はここまで

結構その場のノリで書いてるので意味が有ったりなかったり
傍目には意味が無くても当事者達には意味があったりなかったり
ちょくちょく急展開になるのは用意してあったところに無理矢理繋げたり
つまり結構ガバガバだったりラジバンダリ
書き溜めなしだけど書きます




揃えた牌から熱を感じる。

かつてこんな熱を感じただろうか。

ツモる手に気持ちが籠もる。

かつてこんなに勝ちたいと思ったことがあろうか。

今までの、どの一戦より私はこのときに力を込めた。


「ツモ、4000オール。」


「ほう、やはり命が掛かると違うな。」


「引けないんです。」

「負けられないんです。」

「ただ、それだけです。」


目の前の敵に集中する。

普段だったら一発でトばすくらい余裕なのに簡単にはいかない。

それだけ相手方も本気だということだ。

大沼さんは何を思って打っているのか。

熊倉さんは?

南浦プロは?

普通なら考えるかもしれないけど今はそんなこと知ったことではない。

ただ眼前の敵を打ち倒すだけだ。



「すこしは火がついてきたようだな。」


「ええ。」


大沼さんがそういうと私は簡単な相槌を打った。

大沼さんが続けて言う。


「更に火が着くことを教えてやる。」


「その後ろにある箱は所謂C4爆弾と呼ばれるもんだ。」


C4爆弾。

所謂プラスチック爆弾と呼ばれるものであるが普通手に入るものではない。

それを訝しげに思ったのか熊倉さんが聞いていく。


「そんなもんどこで……」

「ブラフじゃないだろうね?」


「信じる信じないはそっちの勝手だ。」


「……大沼、何でそこまでする?」


「火薬庫で火遊びをする理由はな……」

「スリルがあるからだよ。」

「危険であればあるほどいいものだ。」


「……狂ってる。」


「狂わなければ到達出来ない場所もある。」

「狂気に身を委ねてこそわかる境地がある。」

「言っただろう、今の俺は博打打だと。」

「ツモ、2000・4000は2100・4100。」


大沼さんは何かを見抜くように言っている。

もしかして私に対して言っているのだろうか。

確かにずっと廻り続ける人生など狂気なのかもしれない。

もしかしたら私は既に狂っているのか。



必死に足掻いてループから抜け出せないのは何故なのか。

藻掻いても藻掻いても抜け出せない。

だけどいつも心の中には彼がいる。

たったひとつの譲れない者。

この人たちにもあるのだろうか。


「ツモ、2000・4000。」


「お前らしい和了り方だな。」


「あんたを止めるためだ。」

「ここであんたの凶行を終わらせる。」


熊倉さんが和了り大沼さんに揶揄されていた。

この二人には何か因縁があるのだろうか。

だが私にはそんなことを気にしている余裕は無い。


「そしてお前も死ぬのか。」


「私はそれでいい。」


「簡単には終わらせん。」

「こんなに楽しいことは一生で一度きりだろうからな。」



最初で最後になるであろうこの闘牌。

それはそうだろう。

本気でこれは死の麻雀なのだから。

だけどこれ以上付き合う気は無い。

大沼さんが楽しもうがつまらないと思おうがこっちは手加減しない。

私はかつて使って封印した能力を使う。


「悪いですけど、今ここで瞑(潰)れて貰います。」


「!?」

「……ふん、そういうことか。」

「お前さんは目を奪えるんだな。」


それは相手の目を奪う能力。

その名も『闇法師』。

これを喰らったものは基本的に盲牌によるツモでしか和了れなくなる。

しかも盲牌というのは慣れてないものには神経を擦り減らす事になるだろうことは容易に想像が付く。

過去にこれを使ったのは照ちゃんくらいだろうか。

それぐらい使うのに躊躇う代物だ。


「確かにこれはきついな。」

「公式で使えないのも理解できる。」

「だが今更だ。」

「ここには端から振り込む奴なんざいねえよ。」


確かにそうだ。

だけど見えるのと見えないのとでは違うのだ。

それとも大沼さんは元々河なんて見てないのだろうか。


「ツモ、3000・6000。」

「悪いですけど手を緩める気は有りませんよ。」


「それで結構だ。」

「この前みたいに手を抜かれたら困る。」

「そのために態々こんな舞台を用意したんだ。」



言い切る大沼さんが手牌を新たに揃える。

舐める様に指を滑らせて盲牌していく。

伊達に歴戦の雀士ではない。


「お前さん、俺の目を奪って意味があると思うのか?」


「いえ、気は抜きませんよ。」


「いや、まだ温い。」

「もっと本気を出せ。」

「でないと意味が無い。」


再び大沼さんの口角が上がった。

何か秘策があるのだろうか。

答えは次の瞬間わかる。


「ツモ、1300・2600。」

「どうだ、気を抜いては意味は無いだろう?」


そういう大沼さんは得意気に言い放つ。

私が張った闇の中を一瞬だけ爆炎が辺りを照らしていた。

火薬を燃やしたのだ。

その一瞬だけで掴んだんだ。



南場に入り更に熱量が上がる。

室温も上がっている。

下の階はとっくに火の海だろう。

時間が無い、急いで決着をつけなければ勝ったとしても焼け死んでしまう。

もう一つの能力も使うことにする。

『闇法師』とは違い割りと使いやすい能力。


「影、踏ませてもらいます。」


その名は『影法師』。

これを喰らうと能力がまともに使えなくなる。

およそ今熊倉さんがモノクルを通して大沼さんの和了り目を潰しているだろう。

更にそこへ私が能力を潰せば完全に封殺出来る。


「……やれば出来るじゃねぇか。」


会話など気にせず私は宣言する。

他を寄せ付けないように。


「立直。」


「チー。」


私の宣言に南浦プロが反応する。

だけどそれでは私の和了りは止められない。

次の一巡後には私は和了っている。

だけどそこに一声掛かった。


         後半
「人生も麻雀も南場から本番だぜ?」

「ツモ、2000・4000。」


ここへ来ての南浦プロの和了りである。

完全に失念していた。

南浦プロの能力は南場から勢いが付く。

大沼さんだけを見ていれば良いわけではないのだ。



更に私は手を変える。


「ぬお!?」


「すみませんが潰させてもらいます。」


私は大沼さんから南浦プロへと影法師を掛ける事にした。

今ここで勢いに乗られると拙いし親番を継続されるのはもっと拙い。

だからここで能力を封じないといけないのだ。


「ロン、8000。」


例えそれで私が満貫を熊倉さんに振ることになったとしても。

これで熊倉さんとの点数は2300点差まで縮まってしまった。

南三局に入る前にこれは危険だ。

確実に勝つ。

たったそれだけなのに。

今、こんなにも苦しい。



もう一度大沼さんに影法師を掛け直す。

南浦プロも危険だけど大沼さんは何をしでかすかわからない。

熊倉さんはどちらにターゲットを絞っているのか。

願わくば良い方に転がることを祈ろう。

だがそんな願いも虚しく空振りに終わる。


「良い風だ。」

「今、南場の風が最高に吹いてやがる。」

「ツモ、3000・6000。」


南浦プロが上がった跳満。

一躍トップに躍り出た南浦プロ。

オーラス前のこの土壇場でこの状態。

たかが4000差だけど負けたら彼を救えない。

そして私も…………



それだけは許さない。

何があっても彼は救う……!

決めたのだ、とっくのとうに覚悟は!

全てを壊してでもこの勝負に勝つ!


「ぐ!」


南浦プロの苦悶の声。

それに続いて周りの呻く様な声。

私の背中から這い出る夜。

それらが全てを包んでいく。

そこにはもう。

他者の和了り目なんて無い。


「ツモ、1000・2000。」


私は人の命を犠牲にしても彼の方が愛しいのだ。



全てが終わり火に包まれていく中、大沼さんが話す。


「鍵はこいつだ、持って行け。」

「ああ……楽しかった……」

「これで……思い残すことも無い……」


満足そうに言ったあとは何も語らず牌を眺めていた。

私は鍵を受け取り自身の足の錠を外す。

その後は京太郎君に駆け寄り肩を貸した。

部屋から出るとき熊倉さんに声をかけた。


「すみません、どうしても彼だけは救いたかったんです。」

「でもそうすれば貴方方には……」


「何、いいさ。」

「老い先短い老人の死が早まっただけだよ。」


満足そうな大沼さんを眺めて熊倉さんは言った。

南浦プロからも「気にするな。」と言われる。

ふと大沼さんが思い出したかのように言い放つ。


「小鍛治。」

「坊主が大事なら俺らのようにするんじゃねえぞ。」


「はい。」


私はそれだけ返事をして燃え盛る部屋から出た。

「俺ら」の中には私も入っているのだろうか。

そんなこと確かめる余裕は無かった。



部屋から出て通路に出る。

まずい、通路まで火の手が回っている。

人には耐え難いほどの熱風が私達を焦がす。

私は彼が煙を吸わないようにハンカチを口に当てた。

彼の顔からは口を切っているのかそこから血が出ている。

意識が朦朧としている彼の体はとても重い。

それもそのはず、彼の体は15歳の時には180cmを越しているのだ。

対する私は150台前半。

体重も体格も違いすぎた。

それでも引き摺る様にして出口を求め進む。

階段を探して降り、記憶を頼りに進んでいく。

エントランスまで辿り着いた。

あと少しで出口だ。

もう少しで。

あと少しで。

あと少しなのに。

あと少しなのに体が動かない。

煙を吸いすぎたのだろうか気持ちが悪くなって四肢の力が抜けていく。

思わず倒れこんでしまう体。

背中の焼ける感触。

熱い、熱い。

こんなことなら家でぐうたらしてないで体を鍛えていればよかったと後悔する。

後悔先に立たずとはまさにこのことか。

そんなことを思っていると影が視界の中に映る。

その影は人の形をしていてこんなことを私達に言った。



「よかった。」

「今度は間に合った……」


それが私の耳に届いた言葉。

彼は私たちを助けたことで自分の縛めから解き放たれたのだろうか。

何にせよ、私達は助かったみたいだ。

今日はここまで

昨日の時点でC4のくだりを書いておくべきだったけど
後ですこやんにC4のことを語らせようかと思ってたらどうやってもそんな知識無い事に気付いた

よし、今日の最後に私から若干説明することにします
じゃあ投下していきますよ




悪夢のような時間から解き放たれ、目が覚める。

白い天井。

白いカーテン。

白いベッド。

ああ、そっか。

私入院しているんだ。

そこで私ははっとなる。

京太郎君は?

私がここにいるということは一緒にいた京太郎君も搬送されているはず。

私は起き上がろうとして目が眩んだ。

だけどそんなことは気にならなかった。

彼の安否の方が重要なのだ。

そう思って体を起こして立ち上がろうとしたとき、病室の扉が開く。

白衣を着た50歳くらいの人。

多分お医者さんだろうことは風貌でわかった。

医師が私を見て話し出す。


「小鍛治さん、気が付かれましたか。」

「お加減はどうですか。」


「ええ、大丈夫です。」

「それより私と一緒にいた男性は?」


「大丈夫ですよ、ここの隣の部屋で療養してます。」


「そうですか。」


それだけ聞けたらあとはどうでもいい。

だが医師は続ける。


「小鍛治さんの体に関してちょっと言っておきたいことがあります。」

「貴女の背中は重度の火傷を負ってですね、後遺症というほどでは有りませんが通常の治療では消えない痕が残ってます。」

「火傷痕が気になるのでしたら、もしよろしかったらこちらから整形外科の方の紹介もいたしますが。」


「いえ、結構です。」


「そうですか、今は目が覚めたばかりですから落ち着いてからでもいいですよ。」

「もし気が変わったら整形外科などに相談してください。」


そういうと医師が検診をして戻っていった。

私は背中の火傷を鏡で見てみた。

やっぱり想像通りだ。



鏡を眺めながら身嗜みを整えて隣の部屋に向かう。

中を覗くとおよそお見舞いの品を食べてる照ちゃんとフルーツをナイフで向いてる京太郎君が見えた。


「照ちゃん入院してる人に何やらせてるの……」


「皮剥き。」


ちがう、そうじゃない。

私が言いたいことはそうじゃない。


「照ちゃんは何をしに来たのかな?」


「お見舞い。」


「うん、そうだね。」

「だったら普通そこは照ちゃんが剥くべきなんじゃないかな……」


「だって私が刃物持つと皆が止める。」

「皆して大人しくしていろって……」

「だから私は悪くない。」

「悪いのは京ちゃんと美穂子が主だと思う。」


何と言うしょうもない子に育ってしまったのか。

福路さんと京太郎君が甘やかすから……



どうやら話を聞く限り大勢で見舞いに行くのも拙いから代表として照ちゃんが来ることになったらしい。

人選に問題があるように思えるが決めた方法が長野に実家がある人間で麻雀したらしい。

そうなると腕の問題で福路さんか照ちゃんになるんだろうけど福路さんの性格だと照ちゃんに譲りそうだし……


「京ちゃん、りんごまだ?」


「直ぐ剥けますよ。」


いっそのこと福路さんと一緒に来たらよかったのに。



それから数分後、同じく見舞いにやってきた咲ちゃんに連れられて照ちゃんは帰っていった。

彼女は顔を見に来ただけなのかな。

というか見舞いとは何かと思い悩む。


「健夜さん、すみません助けてもらってしまって。」


「ううん。」

「こっちこそごめんね、私が発端でもあるみたいだし。」

「それに……今まで避けちゃって。」


「いえ、俺が勝手に好きになっただけですから。」

「これからも好きなままですけど。」


臆面無く彼は言ってのける。

こんな私のどこがいいというのか、理解に苦しむ。

今回の事件で改めて気付かされたけどやはり彼は愛おしい存在だ。

掛け替えの無い存在だ。

代わりなんてない。

そう思わされた。

これからする問い。

これに全て答えたら私も彼に応えよう。



「ねえ、私のことが好き?」


「ええ、好きですよ。」


「私と付き合いたいほどに?」


「出来れば結婚を前提に。」


「私実はズボラでグータラだよ?」


「知ってます、全部お世話するつもりでいます。」


「それに最近太っちゃったし……」


「痩せてるよりは魅力的です。」


「私、重いよ……?」


「俺と比べたら軽いくらいです。」


「……ほら、私胸そんなに大きくないし。」


「女性の価値は胸だけじゃないです。」


「なにより私、もうおばさんだよ……?」


「俺にとっては大人のお姉さんです。」


「私と居たら時間を無駄にするよ? 一生を棒に振るかもよ?」


「俺は有意義な時間を過ごせると信じています。」


「…………」


「他にありますか?」


私の問いに対し即答で返してくる。

どうしよう、言い訳全部、潰されちゃった。

他に何か言い訳が無いか探して考える。

だけど思いつかない。

そこに更に追い討ちを掛けてくる。



「俺は、ありのままの貴女が。」

「等身大の小鍛治健夜が好きなんだ。」

「俺は一生を使ってでも貴女と一緒にいたい。」

「こんなのただの俺のエゴですけど。」

「でも、それでも俺は。」

「貴女には笑顔でいてもらいたい。」

「俺はもう一度言います。」

「何度でも言います。」

「俺は健夜さんが好きです。」

「誰よりも貴女が好きです。」

「これが俺の本心です。」

「今度は誤魔化さないでちゃんと返事を聞かせてください。」


そんなこと言われたら、お引き受けするしかないじゃない。


「後悔しても遅いからね……?」


そう言って私は彼の頬にキスをした。

小学生のようなほっぺにキス。

これが私の精一杯である。


「今はこれで我慢してね?」


そのあと私は部屋を出て自分の病室に戻る。

それと同時に彼の声が聞こえた


「よっしゃああ!!」


そのあと彼が彼の父親に怒られたのはご愛嬌。

ああ、それにしても恥ずかしかった。

32歳でやっとほっぺにキスとか恋愛経験無さ過ぎてこれが限界とか終わってる。




これから恋人になって行くのかも知れないけど経験が無いから何をすればいいのかわからない。

だけど焦る必要なんて無い。

彼は傍にいる。

私の傍にいる。


私の夜は彼の火で灯されている。

これからの未来は明るい。

ここまで

というかここで終わらせてもいいとも思った

C4に関してのくだり。

ダイナマイトなどの引火したら爆発する火薬。
本物の場合:引火して対局の途中爆発したら大沼が麻雀を楽しめない。
偽物の場合:引火してるのに爆発しなかったらブラフだと気付かれる危険がある。

C4の場合だと信管や起爆装置が必要だけど燃えても爆発しないからブラフかどうかわからない。

C4が本物かどうかは大沼本人にしかわからない。

一応最後まで書けた
が、これ当初通りだけどこれで行っていいのかと思って悩む

ちょっと一晩寝かせます
昼頃に投下

どうでもいい豆知識:京太郎が飼ってるカピバラのカピの一人称は「ボク」

ラストの投下します




それから数日後、退院してから須賀家に戻って報告。

須賀さんはやけにあっさりしていた。

ただ結婚するときは教えてくれとか言ってたけど。

それと須賀さんは憑き物が落ちたような感じに顔に翳りは無くなっていた。

やはり心の閊えが取れたのだろうか。

それでも日課のトレーニングは欠かしていないらしいが。

それからお互いのチームに挨拶に行きました。

吉野にも佐久にも迷惑かけたからね。

周りの子達は口々に「やっとか。」とか「傍から見ていてさっさとくっつけと思っていた。」とか言われた。

本当に申し訳ないです。

あと赤土さんは「仲人はお任せあレジェンド!」とか言ってるけど不安で仕方ない。

さらにそのあと「次は私の番だな。」とか言ってたけど結婚を考えられる男を捕まえるには相応の時間が掛かるとだけ言っておく。



特段隠していた訳ではないが結構簡単に人の噂というものは流れるもので世間には私と京太郎君が付き合ってるという話が出ていた。

ネットや世間の意見はさまざまである。

曰く「ああ、小鍛治プロやっと引き取られたのか。」とか。

曰く「押し付けられたな。」とか「須賀プロ可哀想。」とか。

挙句の果てには「残念! 大魔王すこやんからは逃げられない!」なんていうコラとかも。

中には暴言的なものも有って「行き送れのBBAと付き合うとか正気の沙汰じゃない。」とか書いた後に「小鍛治プロは男に必死すぎwww」なんて書いてた。

それに対して寄せられたレスは「こいつ赤土だろ。」というもの。

追撃で「赤土プロも結構いい年だよな。」とか「あいつもアラフォーだろwww」とか「ハルちゃんはまだアラサーで若いし……」などのフォローが入っていたが荒れていた。

まぁ何とでも言うがいいさ、今や私は勝ち組だからね。

今日は彼の自宅でご飯を食べるのだ。

彼と家デート、しかも手料理付き。

彼の手料理はおいしいぞと自慢してしまうほどに幸せではある。

一応入院中に頬にキスくらいはしたけどその先は結婚してからという事になっている。

京太郎君は「今まで待たされたんですからそのくらいは待てますよ。」と言ってくれた。

ごめんね、私所謂喪女だったから恋愛に奥手なんだ……

あとはお酒呑みながら御摘み作ってもらったりしていた。

……あれ、やってることって付き合う前というか昔とあまり変わって無くない?

流石にこれは拙いと思い、彼に聞いてみることにした。


「ねえ、どこか行きたい所はないの?」


「健夜さんとならどこでもいいですよ。」


「うーん、そうじゃなくて……京太郎君がデートに誘いたいところとか……」

「何て言うか恋人と行きたい場所。」

「そこに私をエスコートして欲しいんだ。」

「一度は夢見たデートプランくらいはあるでしょ?」


「……まぁありますけどね。」



少し彼は気恥ずかしそうにはにかみながら答える。

彼も一応男の子なのだからそういうことを夢見ていたのだろう。

そしてそれが漸く叶う。

私も嬉しくなって笑顔で言った。


「期待しているからね?」


「はい、お任せあれ!」


当日、彼の主導によるデートが始まる。

社会人としての範囲で目一杯お洒落した彼に聞いてみる。


「今日のご予定は?」


「えっと……色々あるんですけどまずは……」

「動物園に行って、レストランに行って、映画を見て……それから……」


彼が嬉しそうに語る。

私達は車で行こうとして運転席に私は座ろうとした。


「運転しますよ。」


「免許取ったんだ。」


「ええ、長野でも奈良でも必要だったんで。」


「じゃあ任せようかな……?」


「? どうしましたか?」


「今日は車じゃなくて電車かバスで行かない?」


「別にいいですけど。」


私達は気を改めてバスと電車を使ってデートスポットに足を運ぶ。

駅のホームに入るとちょうど電車が来ていた。



「京太郎君、電車行っちゃうから急いで!」


「一本くらい遅れても大丈夫ですよ!?」


「次の電車は三十分後だよ!」


そんな会話を走りながらして電車に乗り込もうとする。

田舎は電車の本数が少ないのだ、だから一本逃すと結構時間が開く。

そう思うと自然と足が早くなるのだ。

私たちが急いでいると私は人とぶつかる。

そして、よろける体。

このままの体勢だと階段から真っ逆さまだ。

そう私の脳裏に浮かんだ瞬間彼の腕が抱きかかえてくれた。


「大丈夫ですか?」


「う、うん。」


「時間には余裕がありますからもっと落ち着いていきましょう。」


「そうだね。」


今のは結構ひやりとした。

私はちょっと神経質になっているのかも。

もしかしたら取り戻そうとしているのだろうか?と。

一度落ち着き電車に乗って動物園に向かう。



「見てください健夜さん、キリンですよキリン!」


「もう、ちゃんと見えてるよ。」


まるで子供のように明るい顔ではしゃいでいる。

そんな彼の顔を見ていると昔に戻ったような錯覚すら感じた。

ゾウやサイを見た後はフレンチレストランに行き舌鼓を打つ。

そこのレストランは山と川が望める綺麗な景色を眺められる場所だった。


「よくこんなところを知っていたね。」


「ここは知り合いに教えてもらったところなんですけどね。」

「その人に『こんな感じのイメージなんですけどありませんか?』って聞いたらすぐに教えてくれて……」


「あ、もしかして執事さん?」


「ご明察、あの人すごいですよね。」


「ふふ、あの人一体何者なんだろうね?」


談笑しながら料理を堪能する。

流石執事さんが紹介してくれただけあって料理はおいしいし見晴らしもいい。

人の手料理も美味しいけどプロの料理はやっぱり違うものだね。

そのあとは映画館に向かい、今話題の恋愛映画を見ることにした。

待ち時間の間に喉が渇いたのでジュースを買いに行くことに。

自販機には彼が行って私は席を確保して待ってた。



「お待たせしました、これどうぞ。」


「うん、ありがとう。」


私は彼からジュースを受け取って飲むことにした。

が。


「ぶふぉ!?」


「大丈夫ですか健夜さん!?」


あまりの独特な味に噴出しかけてしまった。

一瞬盛られたかと思うくらいには。

館内が暗くて缶のラベルを確認出来なかったので彼に直接聞いてみる。


「あ、うん、ごめんね……ところでこれなんてジュース……?」


「つぶつぶドリアンジュースです。」


「ああ、あれか……」


当時"相当きつい"と巷で不評を買っていたのにまさか復刻していたとは……

読めなかった、このスコヤの目をもってしても……

ジュースのインパクトで吹き飛びかけていたが映画を見に来ていたんだった。

しかし映画の感想は正直微妙。

詰まらないと言う訳ではないけど前情報で期待してたほどかと言われると首を傾げてしまう。

映画が終わり帰路に着く。


「京太郎君ありがとうね、今日は楽しかった。」


「俺も、楽しかったです。」

「次もまた行きましょう。」

「出来れば面白い映画がやってる時に。」


「うん。」


楽しかったデートが終わる。

だがまた次の休みにでも行けばいいだけの話だ。

そうやって楽しい日々が過ぎていく。



幸せの日々。

幸せに罅。

皺寄せの罅。

幸せなんか長く続くわけが無い。

やっぱり私には不釣合いなのかもしれない。

幸せなんて贅沢なのかもしれない。


「ねぇ、須賀君……その女が悪いんでしょ……」


何度目かの彼とのデートの途中、刃物を持った知らない女が詰め寄ってきた。

恐らく彼の熱狂的なファンなのだろうが彼をアイドル視しすぎていたのだろう。

私と言う女が彼の恋人になることが許せないらしい。

女が私に突っ込んでくる。

手に持った刃物を腰撓めに構えて突進してくる。

ああ、やっぱり嫉妬の対象は私か。

だが京太郎君は女の手から刃物を取り上げて女を取り押さえた。

周りの人も手伝ってくれて迅速に警察に通報してくれたおかげもあって私たちは無事だった。

私たちはほっとしてその場を離れてデートの再開をしようとした。



しかし今度は坂の上の方から車が走ってきた。

運転手は焦燥している、きっと機械の故障でも起きたのだろう。

正直そろそろ来る頃だと思ってたけどまさかこのタイミングでくるとは。

もし居るとするならば運命の神様は余程私のことが嫌いなのだろう。

いや、もしかしたら私の幸せが妬ましいのか若しくは幸せを許せないのか。

運命は私を事故で殺そうとし、それで死ななかったら事件で殺そうとし、それでも死ななかったら病で殺そうとするのだろう。

どちらにせよ私は運命に殺されるのだ。

彼が動く、私の前に体を差し出す。

彼のしようとしている事が手に取るようにわかる。


もういやだ、これ以上彼を失う人生なんて歩みたくない。

君を失う怖さも、君の居ない生活を送る寂しさも知っている。

だから……だからこそ。

君が居る人生が、幸せだってことをこの身で実感できる。


私はとっさに体を捻り、彼と私の位置を反転させていた。

車が私の体にぶつかり、跳ね飛ばす。

二人の男女が空中に放り出される。

ただその瞬間、彼にも衝撃が伝わるはずなのだが彼は羽に守られていた。

彼を守った鳥の羽根が舞い落ちる。

没してから二十余年だというのに。

死して尚子供を守ろうとする彼女の心が見えた。

だが私たちは重力によって地面に叩きつけられた。

彼は直ぐ様起き上がり私の体を気遣ってくれる。

でも私も彼の体が心配だ。



「健夜さん……」


「京太郎君……だいじょうぶ……?」


「俺は大丈夫だよ……」

「それより健夜さんのほうが大丈夫じゃないだろ!」

「こんなに一杯血が出てるのに……」

「何自分の心配じゃなくて俺の心配してんだよ!」


「あはは……いつかと逆だね。」


「何言ってんだよ健夜さん!」


もう彼の幻影なんて見ないと決めていたのに。

結局見てしまった。

ダメだね、ダメダメだね、ダメなお姉ちゃんだったよね。


「痛いなぁ……体が痛いよ……」

「でもね……京太郎君が無事ならそれでいいんだぁ……」


「何、言ってんだよ……」

「何言ってんだよ健夜さん!」


「京太郎君の体ってあったかいね……」

「もうちょっとだけ……手を握っててもらって、いいかな……?」


「手だったら幾等だって握っててやるよ! だから……」


開かない私の瞼に水滴が落ちてくる。

雨かな……?

このままだと京太郎君、風邪引いちゃうよ……?

余り声が聞こえなくなってきちゃった……

ちゃんと言うべきことを言わないと……



「これでお別れかなぁ……」


「お別れとか言うなよ!」

「まだ一杯人生楽しめるんだぞ!?」

「まだまだ遊べるんだぞ!」


「でも……きっと……また逢えるよ……」

「私と君だもの……」


「なんで……」


「きっと……廻り会える……」


「だから何で……」

「そんなに幸せそうな顔出来るんだよ……」


格好つけたのはいいけれど、本当は後悔で一杯。


やだ、やだやだ……いやだよ……

本当は君と離れるなんて……

この温かい幸せを離すなんて……

したくない……

もっと君とお喋りして居たかったよ……

もっと君と一緒に居たかったよ……

もっと君を愛したかったよ……



でもね、私って案外意地っ張りなんだ。

大人だから痩せ我慢したり、理不尽なものも飲み込んで。

そうしてかっこいいお姉さんで居たかった。

特に君の前ではね。



だから。

せめて。

君の前だけでは『お姉さん』で居させて……



私の体に夜が訪れる。

眼に闇が覆って暗くしていく。

ああ、この感覚……いつものやつだ。


思い出を抱えていると生きるのに不便だ。

それが眩しければ眩しいほど。

私はずっと続く牢獄の様な道を歩いている。

死ねない。

消せない。

外れない。

抜け出せない。

そんな道をずっと。

ずっと歩んできた。

いつもそう思っては廻ってしまう。

眠り落ちて、生れ落ちるときはいつもそうだった。



そして再び朝が訪れる。

私の体は大人のままだった。

私はホテルの一室で寝ていたようだ。

日付を確認するとどうやら私は今27歳で時期は夏。

私は仕事でインターハイの解説に来ているようだ。

状況を更に確認する。

名簿を見ると女子団体戦に阿知賀女子が入っており、白糸台の先鋒は照ちゃんになって、男子個人戦にはあの子の名前は入ってなかった。

また最初からだ。

私が長野で築いたものは全てリセットされているだろう。

まるで積んでは崩す積み木遊びのようだ。

繰り返して、繰り返して。

私はずっとぐるぐる回る。


 around
アラウンド。

よくいじられたネタだけどその意味は周囲・周り。

そして『周回』。

アラサー・アラフォーって私に誂えたようなあだ名だね。


廻って、巡って。

私はずっとぐるぐる回る。

ぐるぐると回る、周回する私にはぴったり。


         Go around
きっとこれからも『周回』するのだろう。



インターハイの仕事の時間が来るまで私はぶらつく事にした。

気持ちを紛らわすために歩いていると会場近くに咲ちゃんがいた。

その隣には片岡さんと清澄の原村さんもいる。

どうやらこの世界は本来の流れに近いみたいだ。

私は足早にその場から離れる。

少し早めに歩き続けて考え事をしてしまう。

彼女が私に気付くことはないはずだが彼女とどんな縁があるのかわからない。

下手に近付くのはよそう。

そう思ってその場から去ったのだ。

そうやって足早に去って考え事をしていたからか人にぶつかってしまって転んでしまった。

ぶつかったその人は声をかけながら私の手を取って起こしてくれる。


「すみません、大丈夫ですか!?」


「あの、こっちこそごめんね、私余所見して……」


そこまで言って私は固まった。




ああ……神様は本当に残酷だ。





およそ彼女達の所に向かっているであろう彼が目の前にいた。

私の目の前に。

ああ、彼は無事なのか。

ここにいる前の私が見た彼は事故に巻き込まれた瞬間の彼であったのでそう思ってしまった。

ここの彼とは関係ないのに。

ここの彼とは関係ないのに、安堵からか涙が流れる。

はらはらと。

私の頬を伝う。

彼が心配して私に声をかけてくれる。


「大丈夫ですか!? 今のでどこか怪我でも……」


「ううん、違うの……ちょっと目にゴミが入って……」


「大丈夫に見えないですよ……」


「え、大丈夫だよ。」


「だってお姉さん、何か凄く辛そうですし。」


「お姉さん」か……

それを聞いて私の胸は苦しくなる。


「俺に出来ることがあったら言ってください。」

「お姉さんの助けになれることもあると思いますから。」


「どうしてそこまで……」


私の出した質問。

彼は私のことを知らないはずなのに。

彼は手を握ったままその疑問に対して答えてくれた。



「俺は貴女のことを知らないけれど、この手を放しちゃいけない気がするんだ。」

「俺の心がそう言ってる。」

「この手を放したら、きっと俺の大事なものまで放してしまう、そんな気が……」


やめて……

私にこれ以上貴方の匂いを染み付けないで……

そうじゃないともう離れられなくなっちゃう……


「貴女のその表情が、その眼が、何かに重なるんだよ……」


きっと彼の魂には、私と同じで記憶が刻み込まれているんだ……

それが心を揺さぶっている。

それが心の中に残っている。

これ以上はきっともう取り繕えない……


「ねぇ、お姉さんに付き合ってくれない?」


神様がくれたなら。

神様がくれるなら。

私は、喜んで受けよう。

例え運命とは関係ない神様でも。

例え幸せを取り上げる運命でも。



彼とデートをしてみることにしてみた。

まずペットショップに寄ってみる。

本当は動物園がいいのだけれど近場にそういうのがないから仕方ない。

ペットショップには犬や猫がケースの中やケージに入れられていた。

それを眺めては買いも飼いもしないのに動物に触れて遊ぶ。


「あの……」


「うん? なに?」


「どうしてペットショップに?」


「動物嫌いだった?」


「いえ、好きですよ。」

「家ではカピバラを飼ってるので。」


「へー。」


「あれ?」


「どうしたの?」


「いや、初対面の人にカピバラ飼ってるって言ったら普通は驚くか珍しがられるので。」

「もしかして周りにカピバラを飼っている人でもいたんですか?」


「え? ああ、うん。」

「まぁ、そんなところかな。」



適当な返事をしてしまったけど彼に言っても理解できないだろうからあえて言わないことにした。

その後はプールに行って一泳ぎすることにした。

幸いなことに今の私はピチピチお肌の27歳。

弛んだお肉なんかもない見事な体形。

ただ今後これを維持するのはきついけど。

彼が水着を着けてやってきた。


「どうかな?」


「目のやり場に困りますね。」


「ほほー、お姉さんの魅力に参っちゃったかな?」


「ソウデスネ。」


若干棒読みなのが気になるけどそれは置いといてあげよう。

泳いでいる時に彼の体を見てみる。

背中には何もない。


「? どうかしましたか?」


「ううん、何でもないよ。」


怪訝な顔をした彼にそう返すと私は飲み物を買いに行く。

二人分買って戻ると彼に一本渡した。

彼が缶の蓋を開けて口をつけると噴出した。


「ふごぉ!?」

「何ですかこの不味い飲み物!?」


「ふふふ、つぶつぶドリアンジュースだよ。」

「不味かった?」


「ぶっちゃけ美味しくないですね。」


私はくすりと笑いながら彼の零したジュースを拭く。

それらが終わると彼の泊まっている宿泊施設に送ってあげた。

デートもどきは楽しかったがそれもいつか終わる。

彼との別れ際に話をする。



「今日はありがとうね。」


「いえ……」

「あの、何か俺に出来ることはないですか?」


「……じゃあ、時々でいいからお姉さんと会ってくれないかな?」

「私はそれでいいんだよ。」


「本当にそれだけでいいんですか。」

「他に俺に何か出来ることはないですか。」

「俺は……貴女のその目が気になるんです。」

「貴女はまるで俺のことを知っているようで何か違うものを見てる。」

「俺に教えてください。」

「俺のこと、貴女のこと。」


「多分言っても解らないよ……」


「確かに解らないかもしれない、でも……!」

「解らないから聴くんだよ!」

「解りたいから聴くんだよ!」

「あんたは、一体、俺の何なんだ!?」


「私は……私は君の姉になれなかった者だよ。」


私は二つの意味で彼の姉になれなかった。

そのせいで感情の波が揺れ動く。

どうしていいか解らぬまま、どうしたいかも解らぬまま。

止め処無く溢れる感情が、涸れていた涙を引き起こす。

涙なんてあの時涸れたと思っていたのに……

何度も流れる涙。

何度も流した涙。

彼を失ったときに。

彼と再び会えたときに。

流れていった涙。

心の中で流れていったその涙。

頬に流さないのは私の性格ゆえか。



「それって一体……」


「京ちゃん……?」


彼が言いかけたときに咲ちゃんがやってきた。

その後ろには片岡さんや原村さんも。


「おい京太郎、私らが会議しているときナンパとはいいご身分だな。」

「そんな暇あるならタコスを作って私に献上しろ!」


そういって片岡さんが京太郎君に絡む。

やっぱり気が変わった。

さっきまで素直に言おうかと思ったけど。

素直に言ってこれ以上関わらなくしようと思ったけど気が変わってしまった。


「ねえ、京太郎君。」

「さっき言い忘れてたけど……」

「私ね、意地っ張りで意地悪なんだ。」

「だから……」

「これ以上は……」

「簡単には教えてあーげない!」


そう言って頬にキスをした。

片岡さんと咲ちゃんのすごい声が響き渡り、京太郎君は固まっている。

引っ掻き回してみると楽しい光景も見えるものだ。

今度は彼との関係は別の形にしてみよう。

今回はもっと積極的にしてみよう。

今までの分を取り返すくらいには。



今まで何度も迷った。

今まで何度も躊躇った。

今まで何度も傷付いた。

今まで何度も間違えた。

今まで何度も失った。

今まで何度も廻った。

何度も。

何度も、何度も、何度も……

でもその度に君と出会えた時を思い出す。


君が私のことを忘れていてもそれは別にいい。

また思い出を作ればいい。

人生は案外楽しく生きていけるものだから。

君と廻る人生はとても楽しい。

生きる糧があればそれでいい。

私には縋れるものがある。

それを糧にし、支えに出来れば何の問題もない。


きっと何度も廻る人生だけど、君との思い出に縋る事が出来るから。

縋れるから生きていける。

ねぇ、これからも……



君と作れた思い出に縋ってもいいかな?




カン

今まで長い間お付き合いくださりありがとうございました
最初にエンドを決めていたのでENDはこんな感じです
元々用意していたイベントを無理矢理繋げたら急展開になっちゃった
特にチーム作成の話
一日くらい置いたらHTML依頼出します

終わり!閉廷!以上!皆解散!

HTML依頼出してきました
母親に関してはご想像にお任せします
では改めて長い間お付き合いしていただいてありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom