健夜「せめて思い出に須賀る」 (1000)

思い出を抱えていると生きるのに不便だ。

それが眩しければ眩しいほど。

私はずっと続く牢獄の様な道を歩いている。

死ねない。

消せない。

外れない。

抜け出せない。

そんな道をずっと。

そして……きっと、これからもずっと……


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朝、目が覚める。

まず確認することがあった、起きて手や足を見る。

華奢な体。

およそ11~12歳くらいだろうか。

またここからかと思いつつカレンダーの日付を確認した。

やはり思った通りの年だった。

中学に上がる前の私。

麻雀を始める前の私。

まだ彼は産声を上げていない。

そして私の退屈になるかもしれない人生が始まる。


――中学一年――


(中学かぁ……どうしようかな……)


私は中学へと上がり、どう時間を潰すか悩んでいた。

やはり麻雀でもやるべきなのだろうか。

茨城の片田舎中学に集まる面子なんて高が知れてるから、私は一人でこつこつ何かやることになるけど。

とりあえず顔だけ出してみようかな……

部室のあるところに歩を進めてみる。

中には十人程の男女が居て卓を囲んでいる。

私に気付いた女子が声をかけてきた。

一応私よりは年上だろうか。


「貴女入部希望者?」


「えっと……見学……ですね。」


「そう、よかったら実際に打っていってね?」


「あ……はい。」


果たして私が入って打っても良いのだろうか?

まだ肉刺すら出来てない手を見て躊躇った。


「ほらほら、実際に打ってみようよ、楽しいよ?」

「あ、その前に麻雀の役とかわかる?」


「えっと……はい、一応。」


「じゃあ大丈夫だね。」

「名前は何て言うの?」


「小鍛治です。」


そう言って始まった対局。

辿辿しい運指の子も居ればしっかりと打つ子もいる。

多分半荘に一回和了れば問題ないか。

カチャカチャと牌が擦れる音がする。

子供らしい少しうるさくて幼稚な会話を聞き流しながら適当に打っていた。

私は外から見て不自然に見えないようにわざと裏目を引いたように見せて打った。

まともに打ったら碌なことにならないのは眼に見えて分かっていたから。



オーラス。

私はツモで削られて18300点になっていた。

別にこのまま負けても良いんだけどそうするとお節介な女子が関わって来そうな気がしたので適当に和了っておくことにした。


「立直。」


10巡目に立直をかける。

大体次の巡目に何が来るのか予想は出来ている。


「ツモ、立直・一発・平和・ドラドラ。」


無いとは分かっているけど一応裏ドラを確認する振りはしといた。


「裏はないから3000・6000。」


「うわ、まじかよ。」


「私は逃げ切り一位!」


「お前らはいいじゃん、俺焼き鳥だぜ?」


「あはは、ざまぁ。」


終局後、中学生らしい和気藹々とした会話が流れていた。

ああ、それにしても麻雀が退屈だ。

でもだからといって本気で打つわけにも行かないので手を抜いて打ってるわけで。

先ほど誘ってきた女子が声をかけてくる。


「ねぇ、どうだった? 麻雀。」


「え、面白いですね。」


とりあえず取り繕っておいた。

実際のところ入部とかどうしようか。

いっそのこと周りの子を鍛えるかな……

そう思いながら次に打った局の点数は29600だった。



何だかんだあり一応は入部した。

でも基本的にはマネージャーの真似事みたいなことをしながらだった。

皆が打ってる所を余所に牌を磨きながら何となく卓を見る。

あの子とあの子は筋に弱いとか。

あの子はちょっと立直を多用しすぎかなとか。

そんなことを思いつつ雑用をしていた。

対局が終わり、一息吐いた所にそれとなく促す。

牌譜を書いていて気付いたとか、そんな体で。

経験上言ってしまえば雑用より麻雀指導の方が楽だ。

前に子供教室の先生を請け負ったことが活きているのだろうか。

というか雑用の方が大変。

今までの人生全てお母さんや彼に面倒見てもらっていたから家事などの女子力が皆無だった。

今更気付かされた、雑用ってこんなに大変だったのか。


インターミドルの季節になって部内の士気が上がる。

どうやら彼(女)らは優勝目指して頑張ろうとしているみたいである。

私も時たま卓に着いては30000点前後を行ったり来たり。

そして3位4位になった子にアドバイスをしておいた。

そうすることでメンタルケアにもなるし、部全体の実力をあげることが出来るからだった。

そしてそれが終わると再び雑用に勤しむ。

私マネージャーに向いてないんじゃないかなと思い始めた。

家事をやるお母さんや彼に感謝したくなった。


インターミドルに行って戻ってきたとき。


「小鍛治さん、ありがとうね。」


「え?」


感謝の言葉を貰った。


「小鍛治さんのアドバイスや雑用のおかげで私たち良い所まで行けたし。」

「だからお礼を言っておきたくて。」


「そんなことないよ、皆が頑張ったから準決勝までいけたんだよ。」


「それでもお礼、言っておきたかった。」


「あ、俺も、小鍛治のおかげで全国行けたんだから。」

「去年なんて県予選敗退だったし。」

「小鍛治には礼を言っておきたい。」


「あたしもあたしも!」


次々と男女問わずにお礼を言ってくれた。

人からお礼を言われた久し振りな気がした。

恨みがましい目や怯えた目で見られたことは数え切れないほどあるが心の伴ったお礼はいつ振りだろうか。

彼も雑用をしているときこんな気持ちになったのだろうか?

それは本人に聞いてみなければ分からないけど、今となっては聞き様が無い。


とある日、家に戻りお母さんの手伝いをする。

その内お父さんも帰ってくる。

家はこの三人で暮らしている。

ただ、私としてはお父さんもお母さんも知らない、私の弟が家族の中にいないのが寂しい。

彼とは、あんなに一緒だったのに。

今でも私の隣は少し寒い。


最初彼は私の弟だった。

そのときはあくまで義理であり、血の繋がりなど無かったが。

だけど目一杯可愛がったし、面倒も見てあげていた。

そしてその弟を失ってから私の輪の中を歩む人生は始まった。

次に彼はどこかの御曹司だった。

そこでの彼は母親を失って色々傷付いていたけど気付いたことも築いたものもあった。

途中助けてあげたいとも思ったけど彼は自分で立ち上がる強さがあったし周りの協力もあって立ち直った。

だから私の手は必要なかった。

その次は誰かの彼氏として出会った。

そのときは彼自身が立ち直るのではなく、むしろ支える側に彼の立場はあった。


何回も過ぎていく人生。


きっと……私一人だけ、世界に置いてけぼりなんだ。





ああ……神様は残酷だ。




――高校一年――


高校に入っても麻雀部を続けた。

そこでもマネージャー紛いのことをしていた。

ただそこは女子高で、しかも私を含めて5人しかいない麻雀部だった。

なので私は雑用をしながらインターハイの選手としても出場しなければならなかった。

今の私は一年生だし頭数を揃えるための要員なのでそこそこの活躍をすればいいだろう。

そんな想いだったが三年生である部長に大将を押し付けられてしまった。

何を思って私をそこに置いたのかは不明だった。

私はあくまでマネージャーポジションを強く主張していたつもりだったのだけれど。

先行逃げ切りのための大将なのだろうか、それとも気まぐれや弱小麻雀部の記念出場だからと思って適当に決めたのだろうか。


インターハイ前日に部長から呼び出された。

そのとき部長は私が纏めていた牌譜を眺めて部室で待っていた。


「あ、小鍛治来てたのか。」


「はい、えっと……それで何の用ですか?」


「ん? いやちょっと小鍛治と本気で打ってみたかったからさ。」


「私なんかと打っても面白くありませんよ。」

「それに私とはいつも打ってるじゃないですか。」


「まぁ確かに打ったことはあるよ、手を抜いた小鍛治とはね。」

「牌譜、みたよ。」


部長には見抜かれていたようだ。

しかし何処でバレたのだろうか。

牌譜で分かるようなうち方はしていないはずなのに……


「なんで部長はそう思うんですか?」


「点数。」


「え?」


「小鍛治の打ったときの牌譜、中学とかのも遡って見たんだけどさぁ……大体が29600~30600の間なんだよねぇ。」


それがどうしたのであろう。

特段上手くない人だったらそのくらいはおかしくないとも思えるのに。

少なくとも打ち方で分かる迷彩のレベルでは無いはず。


「いや、小鍛治さぁ……一回も振ってないんだよねぇ。」

「防御重視かなとも思ったけどそれにしても毎度2位の収支±0はおかしいじゃん。」


「え?」


部長から牌譜を受け取り目を通してみる、確かに収支が±0だった。

今更気付いたが余り目立たないために打ってた手抜きがよもやこんなことになろうとは。


「で、小鍛治はなんで本気で打たないの?」



「本気出したら色々と壊しちゃいますから……」


「ああ……なるほどねー。」


どうやら部長は理解してくれたようだ。


「だったらインターハイでは適当に打って適当に勝ってくんない?」

「本気出さなくていいからさ。」


「それでいいなら……」


「んじゃよろしくー。」


なんとも適当な部長だった。

まぁでも都合は良かった。

部内で打つときは適当に勝ったり負けたりしとけばいいのだから。

あれ、そういえば打ってみたかったって言ってたのに打ってない。

結局、事の真実を確かめたかっただけだったのか。



そして翌日のインターハイ。

適当に打っていた。

失礼な話だがインターハイの県予選程度では遊びで打っていた。

大将戦で如何に100点だけ勝って一位抜けするかをやっていた。

つまり相手が100000ならこっちは100100で抜けて行くのだ。

それでもかなり簡単だったが。

部長以外は「ひやひやした。」とか「ギリギリで勝ったねー。」とか言ってた。

当の部長はなんかニヤニヤしてた。

そのあと全国に行ったが準々決勝では珍しく本気を出そうと思っていた。

赤土さんと久し振り打つなぁと思っていたが阿知賀の名前が無い。

しまった、一年早かった。



準々決勝、若干今は劣勢である。

副将戦に差し掛かると部長が意気揚々と言ってのける。


「ちょっと相手校トばしてくるわー。」


そう言って部長は出て行ったが戻ってきたときには凹んでいた。


「ごめん、大将まで繋げんかった……」


何だろう、このお約束感……

その後お詫びということで部長のおごりでラーメンを食べて帰った。

夜中にこってりとしたラーメン食べても体形の心配しなくてもいい女子高生の体最高。

いや、まじで。



翌年のインターハイ。

ついに阿知賀がやってきて瑞原プロや野依プロとも(今はまだぷろじゃないけど)とも打てるのか。

そんな思いでやってきたけど後続が事故ると怖いので今回の先鋒の私はトぶ寸前かトばしておいた。

阿知賀や朝酌、新道寺とも当たったけど件の三人は先鋒じゃなかったので会わなかった。

そしてそのまま優勝。

手を抜いたら裏目るし、楽しみにしていても裏目る。

何なのもう。


――高校三年――


進路を考えてなかったので担任の先生に呼び出された。


「なぁ小鍛治、お前進路どうするの?」


「えっと……実は何も考えてないです……」


「……一応お前の学力だと普通に受験しても受かるだろうし特待制度もあるからそっちからでも大学に行ってもいいと思うぞ。」

「麻雀プロの道もあるだろうし悩むとは思うがちゃんと考えておけよ。」

「お前の人生はお前のだけの物だから先生としては好きな道を選んで欲しくはあるが。」


生まれてこの方麻雀以外でお金を稼いだことが無い私は大学に行ってプロデビューか大学等を行かずにプロデビューしか選択肢が無かった。

そこで私はほんの思いつき言ってしまった。


「長野の大学に……教育学部に行きます。」


「何でまた教育学部に……しかも何で長野なんだ……」


「えっと……先生みたいになりたいから?」


「それで先生になって子供に麻雀を教えるとかか?」


「そういうことです。」


我が事ながらかなり適当なことを言ってしまった。

若干嬉しそうにしている先生には申し訳ない気分だ。



――長野――


高校卒業とともにやってまいりました長野へ。

一人暮らしに不安は残るもののお母さんたちにはきっちり太鼓判を押された。

やっててよかった部活の雑用とお母さんの手伝い。


小中高は4回分勉強したが大学は初めてだ。

まぁ何とかなるよね……

そして今日から私の城になる借家。

城と言うにはちょっとぼろっちいけど一人暮らしに一軒家は贅沢だから文句は言わない。

というか長野は土地が余っているらしく近くに良いアパートやマンションが無かった。

とりあえずご近所さんに挨拶しておこう。

えっとまず隣の須賀さんの家に挨拶しておこうかな? かな?

あっれれー? おっかしいぞー? 隣が須賀という苗字とはきぐうだなー

今日はここまで


そして迎えるお正月、流石の須賀さんも何とか休暇をとって京太郎君と一緒にいられるらしい。

咲ちゃんは鍛えた腕でお年玉争奪戦を迎えに行った。

二人ともそこらの中学生には負けないくらいには強くしておいた。

一方の私は実家に里帰りして久し振りにグータラ生活。

時にはお母さんを手伝って料理もしたがそのときには腕が上がったと褒められて私は気をよくしていた。

お母さんからは「これでいつでもお嫁にいけるわね。」と言われ。

お父さんからは「まだ気が早いんじゃないか?」と言われた。

まぁお嫁に行くって言っても相手もいなければ、今までの私の経験上、彼氏が出来るというスケジュールはスッカスカなんですけどね。



そして実家から戻り未だに大学の冬休みを堪能している私の所に京太郎君と咲ちゃんがやってきた。

戦果を聞いてみると咲ちゃんはボロ負けすることはなかったが以前より取られるお年玉が少なくなったらしい。

前は2000円しか残らなかったお年玉が3000円になったみたいでそのお金で本を買ったと意気揚々と述べていた。

一方の京太郎君の方は途中で須賀さんが職場から呼び出されてゆっくり出来なかったらしい。

消防士と言う職業柄上仕方ないのかもしれないがこれは由々しき事態なので今度何か言ってあげよう。

こうして向かえた新年は中々に新鮮だった気がした。


ある日大学のサークルに顔を出すと見知らぬ人が居た。

まぁ私も滅多に顔を出さないから面識のない人が居てもおかしくはないなと思いながら先輩と打っていた。

ここのサークルは名前の通り研究が主なので余り勝ち負けには拘らないせいか負けた人たちもあっけらかんとしている。

勝負の世界で生きてきた私としてはここのそういう雰囲気が私は好きである。

打ち終わった後先輩が話しかけてきた。


「なぁ小鍛治、最近何してんの?」


「? 相変わらずですよ。」


「いやさ、最近小鍛治の雰囲気が変わったから男でも出来たのかなって。」


「彼氏なんて出来ませんよ……ただ教える子が一人から二人になりましたけど。」


「ふむふむ、つまり京太郎の母親から二人の子持ちになったわけか。」


「なってません。」

「ところでさっきからこっちの方を見てるあの人って誰ですか?」


「ああ、あの人か、あの人は麻雀所属事務所のスカウトだよ。」


「へぇ~……」


「小鍛治の打ち筋見て狙っているのかもな。」


そう言って先輩はケラケラと笑う。

嫌なフラグを立ててしまった気がするんだけど……



今日も今日とて京太郎君が家に遊びに来る。

何でも今日は須賀さんが休みらしいのだが夜勤明けでぐっすりらしい。

最近思うのだけれど流石に京太郎君ここに入り浸りすぎではないだろうか。

私としては構わないけど親子のコミュニケーションが心配ではある。

咲ちゃんもちょくちょく家に来ては打っていくが京太郎君ほどではない。

何でも面白い本を見つけて黙々と読んでいると時間が何時の間にか過ぎ去っているのだとか。

咲ちゃん知ってる? 文学少女ってね、コミュ障の隠れ蓑みたいな物なんだよ?

つまりようこそ喪女の道へ。

歓迎しよう、仲間として。

そんな時先輩から呼び出しが掛かってきた。

何でも先日のスカウトさんがどうしても私と話がしたいとのことだった。

先輩に呼び出されたんだったら仕方ないと思いながらも二人を残すのも忍びないと思い家に呼んだ。

すると数十分後、スーツを着た女の人と先輩が並んで立っていた。

うん、ペラい、どこがとは言わないけど少なくとも京太郎君の好みではないタイプだ。

スカウトさんが自己紹介してきた。



「私、佐久フェレッターズのスカウトしている――」


佐久フェレッターズ……ああ、藤田さんのところの。

と言ってもまだ入ってるかどうかもわからないけど。

後ろから咲ちゃんと京太郎君がやってきて聞いてくる。


「おねえさん、その人だれ?」


「あんまり聞いてない方がいい?」


「えっと……」


「あ~……小鍛治、俺この子達と隣の部屋で遊んでるな。」


「変な遊び教えないでくださいよ?」


「小鍛治は俺を何だと思っているのか。」


戸惑っている京太郎君と咲ちゃんを見て先輩が気を利かせたのか三人で別室に行ってしまった。

ちゃっかり遊びに使えそうな物を持って。



「それで、ご用件と言うのは?」


スカウトが来る用件なんて一つしかないけど一応礼儀上聞いておいた。


「はい、単刀直入に申しますとうちに来――」


「いやです。」


「うぇ!? 早くないですか!? まだ言い切ってないですよ!」


スカウトさんが言い切らぬ内に返答する。

だって京太郎君と居た方が楽しいもん。

そこを喰い下がってくるスカウトさん。


「うち今やばいんです! 小鍛治さんに入っていただかないとうちが無くなってしまいかねないです!」


「でも私大学生だし、何よりあの子たちの面倒を見ている方が楽しいんで……」


「大丈夫! ちょっときてちょっとだけ打ってくれればいいだけだから!」

「それにプロとして入るのも楽しいと思うんで!」


いや、元々プロだったわけだからどういうものか分かってるから。

その言い訳は聞かないです。


「あの、でも麻雀って長丁場になるものじゃないですか……」


「大丈夫ですから! 先っちょだけ! 先っちょだけ打てばそれで大丈夫なんで!」


「え~……」


涙目を浮かべて懇願するスカウトさんが必死すぎて怖い。

佐久フェレッターズってそんなに崖っぷちなのだろうか……

何かこの人が気の毒に思えてきた。


「……まぁ気が向いたときだけでいいなら。」


「本当ですか! やったー!」


「あ~……ホントちょっとだけですよ? しかも好きなときだけですからね?」


「ありがとうございます! 本当にそれでいいんで来てください!」


なんかすごい喜んでいた。

スカウトさんは少し契約などの話をして帰っていただいた。


そしてそれが終わると隣に居た三人の下へ赴く。

すると何ということでしょう、三人が仲良くしているではありませんか。


「カン! ツモ! りんしゃんかいほー!」


「ロン! 3900!」


「おお~いい感じいい感じ、あれ? 小鍛治話し終わったのか?」


「何教えているんですか先輩……」


「いや~オカルトについて教えたんだけどさ、中々に筋良いね。」


しかも先輩オカルト教えてた。

咲ちゃんなんか嶺上開花ばっかりしている。

京太郎君も何か感じ取っているみたいだし。

私の役割取られてない?

まぁどうせだからと言って結局二人の観察をしながら四人で打ったけどさ……

ナイスバディ先輩に八つ当たりしていた。

しかしそれでもふざけているナイスバディ先輩の心は砕けない。

これはあれか、胸についた緩衝材が心を守っているのだろうか。

この憎たらしいおっぱいめ。

今日はここまで

夜遅くに眼が覚めてしまったので投下


須賀さんを誘ってみたが仕事があっていけないとのことだった。

仕様がないので咲ちゃんを誘って京太郎君と三人で遊びに行く。

この車の名前はRitz(リッツ)日本だとスプラッシュって言う名前だけどこっちの方がしっくり来るからインドの名前で呼ぶ。

今回は遊園地に来た、そこで三人分の入場料を払って(フェレッターズからチケットを貰ってた)入ると人も疎(まば)らだった。

ここら辺は子供が少ないのだろうか。

まず最初にジェットコースターを選ぼうとする子がいたがもう片方は乗り気ではなかった。

で、何とか小さめではあるもののちゃんとしたジェットコースターに乗ったものの今私は若干グロッキー気味で……

小さい頃は絶叫系とか大丈夫だったのになぁ……

その次はティーカップに乗って咲ちゃんと京太郎君が猿の如く回して私は更に気持ちが悪くなる。

そのあと少し休んでメリーゴーランドに乗って休む。

須賀さんが来れなかったのは残念だけど二人が楽しそうで良かった。

その次にお化け屋敷に行ったら咲ちゃんは完全に泣いてた。

京太郎君は「あんなの作り物だから。」と言って完全に冷めていた。

もしかして君のそれはフォローのつもりかい?

最後に迷路にでも行ってみようかと私が誘う。

京太郎君は若干苦虫を噛み潰したような顔をしていたがその前にもじもじし始めた咲ちゃんをお手洗いに連れて行った。

そして一人で出来ると言った咲ちゃんをお手洗いに残して京太郎君の所に戻った。

それから十数分が経つも中々戻ってこない。

お手洗いに一回戻って様子を見てこようとしたとき迷子のアナウンスが聞こえる。


「長野からお越しの宮永咲ちゃん――」


完全にあの子の名前だった。

ちょっと待って、迷路に入る前に迷うってどういうこと!?

急いで迎えに行ったら涙目の咲ちゃんが申し訳なさそうに待っていた。

係員さんが私を見て反応する。


「あのすみません、咲ちゃんを迎えに来たんですけど。」


「あ、はい、咲ちゃん、お母さんが来たよ。」


なんですと!? 私が7歳の子持ちに見えるの!? 私まだ10代だよ!

結局訂正すると面倒くさいのでそのまま咲ちゃんを引き取って迷子センターを後にした。

迷路には行かず他の所を楽しみながらその日は帰った。



今日は珍しく誰も来ずゆっくりしていたのでTVを見ていた。

チャンネルをザッピングしていると知り合いの顔が映った。

赤土晴絵。

何か知らないけどいつの間にかプロになっていたようだ。

でも本来なら赤土さんはまだプロになってないはずなんだけど……

……ああ、そうか。

インハイで私とぶつかってないからか。

あの時はひどいことしちゃったなぁ……

まぁ今更気にしても仕方ないことなのかもしれないけど。

夕方前に京太郎君がやってきた、誕生日に貰ったお気に入りの麻雀牌を持って。

そしてまた今日も夕飯を一緒に食べて麻雀を教えて、一緒に寝る。

こうしているとあのときを思い出して懐かしむ。

前よりは大きくなった京太郎君の意識と共に夜の帳は落ちていく。


夏になり面倒臭いシーズンに入る。

この時期プロたちは鎬を削って覇を競い、オリンピック出場枠を巡って争う。

フェレッターズもそれは例外じゃなかった。

漸く入ってきた新人の子を鍛えて戦力にするために事務所は躍起になっている。

余り私を巻き込んで欲しくないなぁとも思いつつも私目当てに来てくれた人を邪険にするわけにも行かず後進の育成を手伝わされていた。

京太郎君や咲ちゃんと同じように麻雀を教えるわけにも行かず、正直麻雀教えるのはダルイと思った。

スカウトさん最初に言ってた契約内容と違うじゃないですかー、やだー。


家に戻って京太郎君に麻雀を教える。

日課と言うか日々の癒しである。

今日の京太郎君の席はいつもの指定席だ。

咲ちゃんが居ると私の膝の上に座ろうとしない。

女の子の前だからといって意地張らなくて良いんだぞ~?


「お姉さん、ここはどうした方がいいの?」


「あ、ここはね……」


あ~やっぱり京太郎君や咲ちゃんに麻雀教えている方が性にあってる。

まだまだ発展途上だから教えたいことは一杯だしやらせたいこともあるけど子供故に素直に伸びてくれる。

まるで砂が水を吸うように覚えていく様は教えている方も気持ちがいいものだ。



結局新規の人が一定基準のところまで育ってくれず私が個人で出ることになる。

そもそもこんな短期間で実力を伸ばすというのが土台無理な話であって私は悪くない、現にうちの教え子はちゃんと実力を伸ばしているんだから。

個人出場枠の方は手なりで打っていたらいつの間にか出場選手になっていた。

赤土さんとは出場枠が違ったから搗ち合わなかったけど出来れば久々に打ってみたいものだ。

個人で頑張るのは教え子二人に少し良い所を見せたいというのが本音ではあるが、同時に私を楽しませてくれる人が居るかどうかを確認するのも重要である。

そうして迎えるリオデジャネイロでの東風フリースタイル戦。

もし相手がつまんない人だったら軽く千切って世界貰ってきますか。




まぁ……その……色々ありまして……


取っちゃったよ……世界……


どうしよう、世界取ったら誰も打ってくれないだろうからこの世界から足を洗う気だったのに事務所抜けるに抜けられないじゃん。

世界タイトル取った人間が即座に引退宣言とか面白いよねとか思いつつ打ってたけどよくよく考えれば周りがそれを許してくれる訳ないよね。

あー……どうしよ……

……そうだ、京太郎君に麻雀教えて嫌なことは忘れよう。

うん、そうしよう。

今日?はここまで

ちょこちょこ始めます


夕飯に肉じゃがを作っていたときのこと。

私は京太郎君にお袋の味と言うものを知ってもらいたくてお袋の味の代表格、肉じゃがを作ることにした。

まずじゃが芋・人参・玉葱・牛肉・サヤインゲン・しらたき・白菜を下準備。

サラダ油を敷いて玉ネギがしんなりするまで炒める。

次にしらたきと人参投入。

全体的に油が絡んだら白菜を足して水分を出す。

白菜が柔らかくなったら出し汁をひたひたになるまで注ぐ。

出し汁が煮立ったら中火にして灰汁を取る。

10分ほど経ったら竹串で刺して確認。

そのあと時々混ぜながら煮詰めて汁が少なくなってきたらサヤインゲンを追加して一回混ぜて一煮込み。

そして火を止めて少し待ったら完成。

更に盛り付けて食卓に並べる。

あれ、なんか忘れている気がする……

まぁいっか。


京太郎君が食卓に着き、食べている。

美味しいと言ってくれてほっと一安心。

私も料理に箸を付けていると京太郎君が聞いて来た。


「お姉さん、これ何て言う料理?」


「肉じゃがだよ?」


「え……?」


京太郎君が何故か戸惑っていた、自分が食べた肉じゃがとは違ったからだろうか?

料理を見ながら考えているとあることに気付いた。

と言うか致命的なミスをした。


「……あ、お肉とじゃが芋入れるの忘れてた。」


「肉とじゃがいもがない肉じゃがってなに……?」


今回のは和風ポトフってことで……

……ダメ?



今日この日、私は大人になります。

さよなら十代、お久し振り二十代。

ということでお酒を堂々と呑める年になりました。

京太郎君の前じゃ飲まないけどね。

ある日、咲ちゃんと京太郎君が家の前で立っていた。

京太郎君は涙目になりながらそのままに放心して、咲ちゃんは泣きながら謝っている。

京太郎君、その濡れた背中と黄色い液体はどうしたの?

私は何かを察して咲ちゃんの着替えを用意してあげた。

京太郎君、君は悪くない。

咲ちゃん、貴女はもうちょい早めに用を足そうね。


咲ちゃんや京太郎君に麻雀を教えて結構経つ。

そろそろお年玉争奪戦で勝てるんじゃないかな。

そう思いながら迎える年末。

須賀さんは例の如く仕事で居ないので私は京太郎君と一緒に実家に帰った。

電話で事前に連絡しておいたが一応京太郎君に挨拶させる。


「すが京太郎です、お世話になります。」


「あらぁ、ちゃんと挨拶できるのね、えらいわ。」


「あ、お母さん、私この間リオデジャネイロに行って来たんだけど……」


お母さんには開口一番リオデジャネイロの事を言おうとした。

だが返答は……


「健夜、お土産は?」


「ええ~……自慢話くらいさせてよ……」


世界一位の権威なんてこの人には関係なかった。

娘の栄光よりブラジル土産だった。

お父さんは京太郎君の相手をしながら頻りに呟いていた。


「いやぁしかし……娘婿が来る前に孫が来るなんて……たまげたなぁ……」


いやいや、気が早いってお父さん。

とりあえずブラジルの自慢話をした。

南米の主婦層では「女としてはあの中では8番目。」とか言われてたらしいけど……

世界一位ですよ。

「危うく三位になるかもしれなかったけど」と言ったものの、ぶっちぎりの世界一位ですよ。

……これ私の鉄板ネタにしようかな。



正月が明けて家に戻ったら程なくして咲ちゃんがやってきた。

だが何処となく陰鬱な感じだった。

大負けしてお年玉を取られたのかなと思って聞いてみるとどうやら違ったみたいだ。

むしろ勝って前より増えたとのことだった。

ではどうして暗い顔をしているのか。

それは勝ちすぎて反感を買ったみたいだった。

おいおい、普段お年玉を取っておいて勝ったら怒るってそりゃないんじゃないの?

咲ちゃんが今にも泣きそうな顔をしながら聞いてくる。


「すこやお姉さん、私どうすればいいのかな……」


勝ったら怒られる、負けたらお年玉を奪われる。

応えに困窮した私は何とか知恵を絞って思いつき、答えを出した。


「勝っても負けてもいけないなら勝ちも負けもしなければいいんだよ。」


「? どういうこと?」


「要は±0にしちゃえばお年玉を取られないし怒られないって事だよ。」


「本当?」


「うん、とりあえず私がお手本を見せてあげるから。」


うん、今私良い事言った気がする。

幸いにも私には学校のとき目立たなくするための±0にしていたそのノウハウがあるのだし。

まぁこれで咲ちゃんの悩みも解決。

私って結構頭良くない?


「咲ちゃん、お姉さん、早く麻雀やろうぜー。」


だから君はもう少し間を読もうか。


そうして始まった±0特訓。

最初は中々上手く行かなかったけど咲ちゃんは嶺上開花を使って±1~2ぐらいまで調整できるようになった。

そういえば私も昔はやったなぁ、点数調整。

今日はここまで

すこやんって見た目本田千鶴に似てるよね。

ぼくらのを見たことないけど

途中休憩挟みながら投下



先日のお話。

私はフェレッターズに呼び出されていた。

夏季オリをぶっちしたのがそんなにいけなかった?

どうやらそういうわけでもないらしい。

元々好きなときに来て好きなときに打つという内容の契約だったからそこは何も言わないとのこと。

それよりも問題なのは中学の方だった。

同業者やらファンやらが私が着ぐるみを着ていたいことを見られていた。

そしてそれが所属事務所に行った。

苦情の内容は概ねこんな感じ。


「何故世界一位にあんなことをやらせているの?」

「今回夏季に出なかったのは所属事務所のせい?」

「小鍛治プロがあんな格好してるなんて幻滅しました、はやりんのファンやめます。」


などなど。

放っておけ、余計なお世話だよ。

私の人生なんだから私の好きなように生きさせてよ。

世間では私の事を牌に愛された女とか何とか言われてるけど正確には違う。

私は牌に愛されてるのではなく、牌が私に媚び諂ってるだけ。

だから牌は私に嫌われないように私が可愛がる京太郎君にも媚び諂う。

プロで私に勝てる人三人くらい寄越してよ。

私が本気で打っても戦えるくらいの三人を。

でもいないんだよね、この世界には。

私が本気出すと一方的になっちゃう。

ねぇ、一回でいいから私にも普通の麻雀させてよ。

あと最後、瑞原プロは関係ないでしょ、いい加減にして!



やってまいりました、小鍛治健夜宅開催第一回お菓子杯。

賞品をお菓子にしてやったらみんなやる気になるかなと冗談みたいな思い付きで開催したんだけど思ったより乗り気でよかった。

というか照ちゃんの目がマジ過ぎて怖い。

そのときにオカルトの併せ技を披露してきたのは驚いた。

京太郎君の辺りに振りまく炎に照ちゃんのトルネードツモ。

これが合わさって炎の竜巻になる。

炎と竜巻の威力は何倍にもなる『火災旋風』と言ったところかな。

逆に咲ちゃんの嶺上開花と京太郎君の炎を組み合わせた時には人の心を惹く『花火』を咲かせる。

火災旋風と花火。

花火は見る人の目を惹きつけて止まない。

火災旋風は見た人を目が離せないくらいに怯えさせる。

どちらも見た者はその姿に釘付けになる。

その姿の恐ろしさと華やかさで。

全くもって末恐ろしい子供たちだ。

でもまぁ滅多に使う機会はなさそうだね、ほぼタッグ打ちに限られるし。

何か勿体無いなぁ……



色々有って私の誕生日や年末年始や京太郎君の誕生日などが過ぎる。

その間にも京太郎君たちは成長していく。

京太郎君のオカルトはどんどん伸びて南場だと優れた武器になっていた。

そして迎えた春。

照ちゃんと福路さんが三年生になり、京太郎君と咲ちゃんが中学一年生になって私たちがいる中学校に入ってきた。

二人に一応聞いておく、何処の部活に入るかを。


「おっぱい部。」


「そんな奇天烈な部は無いからね!?」


「冗談だって、俺はちゃんと入るよ。」

「麻雀部。」


「あ、私も。」


やったー、正式に部員が増えたぞ!

といっても普段と変わりないわけですが。

正式な部員4人に教師1人やっと部活っぽい感じ。

え? 部と呼ぶには最低でも顧問1人に部員5人いないとダメなの?

あちゃー、結局同好会止まりかぁ……

でもまぁ実績あるから部と言ってもいいよね?

あ、ダメなものはダメ? やっぱり同好会のままですか?

功績を認めて前年より予算出すからそれで我慢して、と。

まぁいっか、予算出るなら。



インターミドルが近づく頃、私は子供たちの成長に関して頭を悩ませていた。

照ちゃんは福路さんに負けて、福路さんは照ちゃんに負けて、その悔しさを発条にして成長してきた。

二人はいいライバル関係だ。

同年齢で公式試合に出れるライバルが居ることはいいこと。

だが咲ちゃんと京太郎君は同学年ではあるけどライバル関係には到ってない。

誰とでも仲良くなれる京太郎君に引っ込み思案の咲ちゃん。

二人は相性はいいけどライバル関係にはなっていない。

咲ちゃんはまだライバルになりそうな子が居るからいいとして、問題は京太郎君である。

京太郎君には目標に出来る人は居てもライバルになる男の子が居ない。

これでは成長の仕方が偏ってしまう。

京太郎君には初の挫折を味わってもらわないといけない。

だがしかし、たしか京太郎君と同年代の男子ではレベルが足りない。

というか男子のレベルが年々下がっているので期待できない。

人口多いし、中々の打ち手は居るけどただそれだけ。

ぱっとしないというか中堅どころが一杯居る感じ。

多分後進を育てるのをおざなりにしていた報い。

大沼プロや南浦プロの年代層はすごく渋くてかっこよかったんだけどなぁ……

二人ともお歳だし、一線を退いてるから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。

痺れる様な打牌、ひりつく様な卓の空気、気の抜けない心理の読み合い。

当時小さかった私がテレビの前で見ていて手に汗握るくらいかっこよかった。

年とは残酷なものだ……

それは女性にとってはより残酷だけども。

おっと、話が逸れた。

とにかく京太郎君が更に成長するには敗北と挫折を味わせないといけない。

さて、どうするか。

ちょっと知り合いに頼んでみますか。



迎えたインターミドル。

照ちゃんと福路さんは最後のインターミドルとなるけれど心配はしていない。

問題は大会など初出場の京太郎君と咲ちゃん。

咲ちゃんにとっていいライバルと巡り会えるか目標が決まると良いんだけど。

不意にメールが届いた。

どうやら知り合いに頼んでいたことが上手く行きそうだ。

私も運営側に掛け合って知り合いの子を飛び入り参加させることを了承させた。

私は女の子三人を見送ったあと、京太郎君と待つ。

女子と男子は時間がずれているので男子が始まるまで女子の観戦が出来るのだ。

女子決勝は案の定私の教え子三人。

その中に入った暫定4位の子は可愛そうだとは思うけど頑張ってね。

咲ちゃんが刻子を抱えている状態で照ちゃんは好配牌。

福路さんも中々だけど多分一歩足りない。

始まって数巡で安牌として残していた南を切り照ちゃんが立直。

そこを福路さんがずらす。

福路さんの向聴数は変わらず。

傍目から見たらただの一発消しにも見えるけど違う。

次の巡、照ちゃんが生牌をツモ切りする。


「カン。」

「もういっこカン。」

「ツモ、嶺上開花・断ヤオ・中、責任払いの6400。」


福路さんがずらして咲ちゃんが取った。

これが福路さんの強み。

周りを利用して一番警戒すべき相手を和了らせないようにする。

つまり逆を言えば福路さんは照ちゃんを最大の敵だと認めているということだ。

でも咲ちゃんも利用されっぱなしという子でもない。

少しでも気を抜いたら福路さんだろうが実の姉だろうが容赦なく和了るだろう。

それは真剣勝負だから当たり前のことなのだろうけど。

次の局、福路さんが捨てた牌を鳴いた咲ちゃん。


「ポン。」


多分次の巡目で加槓できると思ったんだろう。

実際に牌をツモってきた。

そして咲ちゃんはそのまま鳴いた牌に追加する。



「カン――「ロン。」」


「槍槓・ドラ3、7700。」


だがそこに照ちゃんが槍を突き立てた。

いつもと気迫が違う。

そしてそれは三人とも……

結果としては咲ちゃんが3位、照ちゃん2位、福路さんが優勝。

咲ちゃんの集中力が途切れた途端、勝負は決まった。

初出場にしてはいい結果だと思う。

誰が勝ってもおかしくなかったあの状況では御の字だと思う。



試合が終わって三人が戻ってきた頃、京太郎君が試合に向かう準備をしていた。

それを見て私は一言発破を掛ける。


「京太郎君、全力で行きなさい。」

「初の試合だから気合入れて行くんだよ。」


「うん、わかった。」


「京ちゃん、頑張ってね。」


「いつも通りに打てば大丈夫よ。」


「行ってきます!」


京太郎君が対局室に向かい、私達はモニターを見ながら試合を観戦している。

京太郎君の対面に座った子が居た。

見覚えがある。

帽子を目深に被った子供。

身長は中一の京太郎君と同じくらい。

名前は『氷見木 太郎』。

というか頼んだ子だった。

まさか一回戦で当たるとは。

私としては僥倖である。

それにしてももうちょっとアレは何とかならなかったのかな……

始まった対局、京太郎君にとっては初の公式の場。

いい経験を積んで欲しい。



対面、氷見木の配牌は絶一門だった。

そこから萬子を切り出す。

打一萬、ツモ四筒、打三萬、ツモ五筒。

僅か4巡目で混一ドラ3、ダマの跳満確定の聴牌が出来上がりだ。

しかもそこから尚も攻める。


「立直。」


そして次の巡。


「ツモ、立直・一発・混一・ドラ3、4000・8000。」


流石の高火力と言ったところか。

東一局で倍満を叩き出すとは思わなかった。

京太郎君は驚いているようだったが焦っては居ないようだった。

多分後半で巻き返す気満々なのだろう。

その後は京太郎君が邪魔をしつつも氷見木が満貫と跳満を和了り南場に突入。

点数は京太郎君が18000。

下家が8000。

上家が12000。

対面の氷見木が62000。

その差44000。

京太郎君はかなりきついはず。

如何に南場に入ったと言ってもこの点差をひっくり返すのは簡単ではない。


京太郎君がオカルトを最大出力にして対面に狙いを絞る。

京太郎君が北を切る。

運がいいのか、流れが分かるのか、とんとん拍子で有効牌が来る。

そして聴牌。

牌姿はこうだ。


12399m123p23789s


一四索待ちの純全三色も見える平和。

四索は残り三枚、でも他家に全て使われている。

それに対して一索は一枚。

かなり分が悪い。

そんなことは分かっているのだろう。

それでもツモらないといけない。

京太郎君は巾着袋をぎゅっと握ってツモる。


「ツモ、平和、三色純全、3000・6000。」


だけどあの子は引いた。

もしかして京太郎君のキー牌なのかな?



南二局。

速攻で攻める京太郎君、立直を掛ける。

綺麗なメンタンピン。

そしてツモった。


「ツモ、メンタンピンドラ、2000・4000。」


南三局、京太郎君の親。

対面は動かない。

あくまで動かない。

動かないことを確信してこれ幸いにと京太郎君が立直をかけた。

対面が鳴く。

一発消し……ではなく、動いたのだ。


「ポン。」

「チー。」

「ロン、8000。」


立直したところを、動けなくなったところ見計らって鳴いてずらし、一気に噛み付いた。

結果として京太郎君は放銃。

また44000差。

だが京太郎君の目は諦めていなかった。


オーラス。

京太郎君の炎が周りを苦しめてかつ京太郎君が有利な状況。

配牌でかなり偏っていて、今では索子の清一が一向聴だ。

京太郎君がツモる。


1344556677889s


牌姿がこのようになり、立直を掛ける。

だが対面も立直をかけた。

そして次の巡。


「ロン、立直一発・清一・三暗刻・対々・ドラ2。」

「32000。」


京太郎君が切った牌に刺さる。

京太郎君はその日初めて出場して初めて箱を割った。

呆然としている京太郎君。

挨拶されると我に返り、挨拶を返す。

ショックは大きかったようだけどいい経験になったはずだ。



京太郎君が戻ってきた。

京太郎君は俯いたままだった。

顔を上げたと思ったら照ちゃん達をみてまた俯いてしまった。

私は一緒に居た照ちゃんに向かって言う。


「照ちゃん、先に帰っててくれるかな?」


「……わかった。」


照ちゃんは色々と言いたい事がありそうだったが飲み込んでくれた。

多分照ちゃんは気付いているだろうな、氷見木のこと。

二人きりになって京太郎君が口を開いた。


「ごめん、健夜さん……」

「俺、負けちゃった。」

「健夜さんの顔に泥塗っちゃった……」


「そんなこと気にしなくていいんだよ。」

「それより人と打ってどうだった?」

「他人に負けてどう思った?」


「……悔しい。」

「すっげぇ、悔しい……」

「悔しいよ……」


京太郎君が私に抱きついて泣いている。

ああ、やっぱり京太郎君も男の子なんだ。

負けたら悔しいし、泣きたくても女の子の前では泣けない。



     私の胸
だから泣ける場所で泣くしかない。

     私の元
だから吐ける場所で吐き出すしかない。


まるでかつてのような寂しい場面を髣髴とさせるけど、この子は彼とは違う。

京太郎君が泣き止んだ頃、タイミングを見計らって言う。



「周りは京太郎君のの涙を拭くことは出来るけど、男の子だから自分の涙は自分で拭きたいでしょ?」

「君の悔しさは君だけのものなんだから。」

「だから、その足で立って。」

「その足で走って。」

「その手で掴みに行くんだよ。」

「君自身の手で。」

「君だけの勝利を。」

「君だけの答えを。」


京太郎君は静かに頷いた。

負けて落ち込んだばかりのあとにこういうこと言うのもなんだけど、鉄は熱い内に打たないとね。



少しして私の携帯にメールが届く。

件の氷見木太郎さんからだ。


『やっほー、小鍛治さん、坊主は元気してるかい?』

『いやーわっかんねーもんだねぃ、このあたしが久し振りに熱くなっちゃった。』

『周りまで熱くさせてくれるなんて将来有望だねぃ、さすが小鍛治さんの御眼鏡に適った子だ。』

『それじゃあたしは仕事終わったし大会は棄権しておくから。』

『PS.ところで小鍛治さん、その子が大きくなったらあたしにくんない?』


ぜったいあげない!

誰が合法ロリにくれてやるもんか!

わざわざ長野まで来てくれたのはありがたいけど今すぐ横浜に帰れ!

ちょっと休憩

因みに「氷見木太郎(ひみぎたろう)」はアナグラムです



インターミドルが終わり、一人やる気満々の子がいる。

張り切りボーイ京太郎君である。


「よし、やるぞー!」


「京ちゃん、気合入ってるね。」


「ああ、ちょっと勝ちたい相手が出来たから。」


「あ、もしかしてこの間の?」


「来年は氷見木に絶対勝ってやるんだ。」


「そっか、頑張ってね京ちゃん。」


そんなやり取りを咲ちゃんとしていた。

どういう練習を組むか考えてる私に照ちゃんが話しかけてきた。


「健夜さん、京ちゃんに言わなくていいの?」


「本人のやる気になるんだから言ったらだめかなって……」


「そうですか……」

「あの小鍛治先生……」


一応引退したはずの三年生がジトーっとした目で私を見ている。

やめて! そんな目で見ないで!

私が悪いってのはわかってるんだから!


「健夜さん、俺もっと強くなりたい!」

「強くなって来年には氷見木にリベンジするんだ!」


「うん……そうだね……」


ごめん京太郎君……

実はその人男子じゃなくて女子でしかも21歳なんだ……

だがそんなこと今更言えるはずもなく、申し訳なさから罪悪感だけが積もっていく……

そして三年生からの私の株がリアルタイムで急落していくのがわかる……

だって仕方ないじゃん……もう来年には三年生は居ないんだから……

臨時免許も切れそうだし……これは更新するとしても。

来年色々とどうしよう……



京太郎君の練習に付き合ってオカルトの練習とかツモ切りの練習とか観察眼の練習とかをする。

オカルトばかりに傾倒するのは良くないと常日頃から言っているし、それは京太郎君が一番分かっているはずだ。

だからデジタルやロジカルの打ち方も徹底的にする。

その甲斐あって京太郎君は現在進行形で以前とは見比べられないほど成長している。

やっぱりインターミドルがいい経験になったんだろうね。

それにしても京太郎君、最近背が伸びてきてるね。

麻雀だけじゃなく体も成長しているって事かな?


季節はやがて秋になり、私の誕生日がやってきた。

この日だけはどうしても好きになれない。

さよなら二十代前半、こんにちは二十代中盤。

絶対後半なんて言わない。

あーもーみんなしねばいいのにー。

ちきゅうなんておわっちゃえー。

でもちゃんと京太郎君たちが作ってくれたケーキは美味しく頂きました。

プレゼントもありがたく頂きました。


進路指導などが入る時期。

それはご多分に漏れずうちの教え子二人にもである。

福路さんは既に行くところを決めているからいいとして、問題は照ちゃんのほうだ。

実は照ちゃん何となくでしか決めてないらしい。

照ちゃん曰く、担任からは麻雀を活かす為にも名門の風越か東京の学校に行くように勧められたらしい。

だが照ちゃんはそんな気はないらしい。

何故かと聞いたら「東京は遠いからやだ、風越は女子高だからやだ。」だそうだ。

で、結局そんな話が私のほうにもお鉢が回ってきた。

正直うちなんて今まで同好会だったから何処でもいいと思うんだ。

照ちゃんの腕だったらどの学校に行っても個人でいい成績残せそうだし。

団体に出て打ちたいって言うなら話は別だけどね。

でも別にそんな感じでもなさそうだ。

照ちゃんはマイペースに自分の好きな方向に進むべきだと思う。

まぁ、迷ったなら誰かに助けてもらえばいいじゃない。

迷うことだってあるさ、人間だもの。



結局進路が遅めに決まり各々の好きな道をとったみたいだ。

照ちゃんは近いからってだけで選んだらしいけど。

そんなことより京太郎君と咲ちゃんの練習を見てあげないといけない。

二人が来れなくなってから三麻ばかりするようになってしまった。

多少力加減はしているけどやっぱり実力が拮抗してる方がいいよね。

あー来年は部員入ってくれるといいなー。

隣の学区は青く見えるよー……

高遠原から多少生徒ちょろまかしたらいけないかな? いけないよね……



時間は飛んで、色々有って迎えた春。

三年生は卒業して高校生になり、漸く中学二年になった二人と共に麻雀部の勧誘をしていた。


「ま、麻雀いっしょにやりませんか……」


「咲、そんなんじゃ聞こえねぇって。」


完全におっかなびっくりやってる咲ちゃんと呆れてる京太郎君。

何だかんだ言うけど相性のいい関係なんだよね、この二人。

私にもそういう人は来ないかな……

もういっそのことお見合いしてみるかな……

お見合いしても相手が尻込みするから上手く行った例がないんだけどね……

…………畜生。

で、まぁ勧誘はしてみたものの。


「いつも通りだね。」


「去年と変わらず、いや、二人が卒業しちゃったからむしろ悪くなってるんじゃ……」


「今年一杯はずっと三麻かな……」


「まぁまぁ、いざとなったら健夜さんに雀荘に連れて行ってもらおうぜ。」


そんな二人の会話を聞いていて思った。

下手に雀荘行けないんですよ、プロなのも有るけど教育者としても連れて行き辛い……

何か方法考えないとなぁ……

今日はここまで

【咲SS】京太郎「あれ俺がいる……?」
【咲SS】京太郎「あれ俺要らなくね……?」
【咲SS】京太郎「太陽はまた昇る」(5スレ分)

京太郎「神代の守人」シリーズ(全八種類)
和「お前ネコかよー!?(驚喜)」京太郎「ンアーッ!(≧Д≦)」

書いたのは大体こんなもの


投下できたらいいなー



部活動をしていたときの話。

咲ちゃんがノートに何か書いている。

何を書いているのか尋ねてみると咲ちゃん曰く……


「いいポエムが浮かんだので書き留めてるんです。」


あー……あれかー、中学生特有のやつかー。

私もそんなことしていた時期もあったなー……

今思い出すと無茶苦茶恥ずかしいけどね。

まぁ何にせよ咲ちゃんはこのまま放っておこう。

そういうのは生暖かい目で見守らなくちゃ。

もう一方の京太郎君もこの間やってたし。


「闇の炎に抱かれて消えろ!」


とか何とか。

黒歴史確定だね。

ふふふ、二人とも大きくなったときそれを思い出してベッドの上で苦しみ悶えるがいい!

因みに私は黒歴史な過去は克服した!

たまに現在進行形で黒歴史を作ったりしちゃうことも有るけど……

小鍛治健夜は過去を振り返らない女なのさ!

そこ、学習しない女とか言わない。




ちょっと時間が経って夏の終わりに入った頃。

うちの部室にお客さんが来ていた。

といっても元部員だけど。


「あれ、照ちゃんどうしたの?」


「今日は部活休みだから。」

「だから打ちに来た。」


「……あ……ふーん。」


「…………」


「照ちゃんが良ければいつでも来ていいよ。」


「普段は部活で忙しいから……」


「まぁそういうことにしといてあげるよ。」


見栄を貼っちゃって。

本当は寂しくなって来たくせに。

そういえば清澄って部員は居るんだろうか?

咲ちゃんたちが高一のときは団体でインターハイに出場してたけど、今の時点ではどうなってるんだろ?

教え子のことが気になって部活のことを聞いてみるが何か濁していた。

まぁ言いたくないんならいいけどさ。

それからもちょくちょく照ちゃんはOGとして部室に来ていた。

福路さんは照ちゃんほどではないけどたまに来る。

しかも照ちゃんと一緒に。


更に時期が飛んで冬。

私の年はケーキの売れ時を過ぎた年齢となり、冬の厳しさを感じていた。

しかも既に12月の中旬を過ぎている。

そして来るべき12月25日。

今日は大掃除をする日です。

他に何か大きなイベントがあるかもしれないけど私には関係ない。

え? クリスマス? 知らない子ですね。

今までクリスマスなんて行事はしてきませんでしたし。

だから今日は家に籠もって大掃除する日なんだよ! 誰がなんと言おうと!

だって今外に出たら長野の冬の厳しさを感じさせないムードが流れてたりするじゃないですか……

それを見た私は余計に冷え込むじゃない……

畜生……カップルなんて雪に埋もれて凍えればいいんだ。

ああ、でもサンタさん、叶えてくれるなら健夜はいい子にしてますから私に素敵な旦那さんをプレゼントしてください。

出来れば若くてかっこよくて性格良くて堅い職業に就いてる旦那さんを私にプレゼントしてください。。


年末年始が過ぎ、実家に戻ったことによって体力や精神力が回復した。

実家ってやっぱりいいよね、のんびり出来て。

京太郎君と一緒に行ったから更に回復力アップ。

現在の私のライフポイントは30000くらい。

今の私は阿修羅すら凌駕してる!


「そういえば突然だけど……健夜さん、彼氏作んないの?」


きょうたろうくんのふいうち!

ぐほぉ……

今のでライフポイント29900くらい持ってかれた……

健夜さん大ピンチ。


「ま、まぁいい人と中々巡り会えなくてね……」


「ふ~ん、本当かなー?」

「あ、でも健夜さん有名人だから表向きには言えないよね。」


「そ、そうかもね……」


「でも健夜さんほどの人なら相手なんてより取り見取りだろうな。」


必死の抵抗をしたのに追加で1000ポイント削られた!

もうやめて……私のライフポイントはトび終了よ……


「あ、そういえばこの間健夜さんと一緒に実家行った時におじさんとおばさんが……」

『そろそろ健夜も結婚する年齢か。』

『健夜に浮いた話や、若しくは京太郎君の周りによさそうな人はいないかい?』

「なんて言ってましたね。」

「まぁ健夜さんは良い人と結婚できそうだけど。」


「うん……そうだね……出来るといいね……」


「出会いが無いんならお見合いでもいいんだし。」


やめて! それは マジで やばい!

『まさかの京太狼』君による不意打ちはとても効きました……



私は須賀さんと家に居た。

そして須賀さんがお礼と言いながら服を脱いでくれる。


「小鍛治さん、普段京太郎を見てくれてるお礼だ。」

「俺のをみせてやるよ。」


「うわぁ……すごい……」


とても厳つくて、見るもの目を惹き魅了するそれは私を虜にする。

多分こんな人に抱かれたら一発でノックアウトだ。


「触ってもいいよ。」


須賀さんが笑顔で私の心を擽って来る。

私は恐る恐る手を伸ばして須賀さんのそれに触れた。


「これ、すごい……」

「太くて……硬くて……逞しい……」

「今まで写真とかでしか見たことなかったけど……直に触れるととっても熱い……」


そう言いながら私は須賀さんの鍛えられた筋肉を撫で回していた。

普通の人だったら腹直筋ばかり目に行くが鍛え難い外腹斜筋もすごい。

肩の盛り上がった三角筋から流れる上腕二頭筋と上腕三頭筋は丸太のようで頼もしい。

首筋の男らしい胸鎖乳突筋と厚い胸板の大胸筋。

背中の大きい筋肉、僧帽筋と広背筋は美術品の彫像と変わらないくらい。

ズボンで隠れているけどお尻の分厚い大殿筋とそこから繋がる大腿二頭筋と大腿四頭筋が太くて逞しい。

一見見え難いヒラメ筋もかなり……


「健夜さん。」


「え、京太郎君……?」


声が掛かった方向に振り向くとそこには上着を脱いだ京太郎君が立っていた。


「俺も父さんを見習って鍛え始めたんだ。」


「わぁ……こっちも若い筋肉で瑞々しい……」


「小鍛治さん、俺と京太郎の筋肉……」

「どっちがいい?」


「そんな……選~べ~な~い~♪」



――――――
――――
――


「……はっ!?」


私は気付くと自分のベッドで寝ていた。

なんだ、今のは夢だったのか……そりゃそうだよね……

でも夢の中とはいえ二人ともすごい筋肉だったなぁ……

あ、保健の授業で習ったから知ってるだけで決して筋肉フェチとかではないです、はい。

でもなんであんな夢見たんだろう……欲求不満なのかな私……



ある日、咲ちゃんにこんなことを聞かれた。


「健夜さんって服は何処で買ってるんですか?」


「えっと……」


「健夜さんって洋服お洒落だったりするから教えてもらおうと思って。」


「えっと……友達から貰ったものをコーディネートしてるだから何処で売ってるのかは分からないんだ……」


「そうなんですか……」


私は困窮した。

だってこれ社長や周りの人が私の私服が余りにひどいからといってスタイリストさんに見繕ってもらったものなのだ。

普段一人で買いに行くとなったら、適当にで済ませようとしています。

だからごめん、咲ちゃんの質問には答えられないよ……

あ、そうだ。


「咲ちゃん、今度私の行きつけの店に連れて行ってあげるよ。」


「本当!?」


「うん。」


よし、今度しま○らかジャ○コ辺りに連れて行ってあげよう。

そのときになればきっと私のファッションセンスが光るはずだよ!



中学校で実施される身体測定の日。

女の子たちは戦々恐々と体重計に乗り、男の子たちは競って背を比べる。

そして教師陣はそれを記録していく。

記載事項の不正は許しません。

特に体重。

京太郎君の身長と咲ちゃんの身長を見てみるとやっぱり伸びていた。

京太郎君は今160台で私よりちょっと大きい。

咲ちゃんは140台で私よりちょっと小さい。

二人とも昔と比べたら大きくなったよね。

ちょっとした成長が嬉しくも寂しい。

昔を懐かしむようになったらおばさんになったみたいだと言われそうだ。


今現在、私は炬燵の中に囚われている。

最近はストーブを焚かなくても良くなったけどそれでもまだ肌寒い時期だ。

だから私はおんぼろの隙間風が入るようになった一軒家で炬燵の温かみを甘受していた。

そしてそれは私の家に訪れた人もそうである。

次から次へと連鎖的に人を捕獲していくモンスター炬燵。

麻雀を打つにしても炬燵を使っている。

動くときは立ってる者は親でも使う精神なので誰も炬燵から動こうとしない。

ああ、せめて福路さんが居れば楽なんだろうけどなぁ……

でも居るのはポンコツ姉妹にまったりモードの金髪少年だけである。

なんもかんも微妙に寒い温度と炬燵が悪い。


春になり、季節も陽気になり始めると京太郎君と咲ちゃんも上級生になった。

今年も新入部員獲得のために頑張るが状況は芳しくない。

なぜだろう、実績があるのに誰も来ないとはそんなの絶対おかしいよ。

だが最近妙な噂を聞いた。

どこどこの学校の中学は魔王と大魔王と覇王と破壊神と邪神がサバトを開きながら麻雀やっている。

知らずに入った部員はミサの生贄にされて蝋人形にされるとかなんとか。

ツッコミどころが盛りだくさんである。

ミサなのにサバトとはこれ如何に。

そもそも中学校の麻雀部に魔王とかいるわけないでしょ。

というか蝋人形って明らかに閣下じゃん、魔王じゃないじゃん。

もういっそメイクでもして悪魔声でもだしてやろうか。

そんなこんなで結局新入部員はゼロ。

折角京太郎君に踊ってもらったのに。

このままだと来年には廃部かな……



初々しい新入生が落ち着いてきた頃。

今日は一年に一回の健康診断である。

片目を隠して指を刺したりするアレである。

そして私たち教師陣も健康診断かぁ……

……いやぁ、よかった、血糖値とか血圧が正常値で。

診断する項目が子供たちと違うのって何か哀愁を感じる。

肝臓の値とか子供は調べないもんねー。

なんにせよ健康は大事だよね。

今日は早いけどここまで

すこやんの淫夢はガチのエロを書こうかとも思ったけどやめました。

因みに内容はすこやんが処女なのですごく優しくしてもらったのすこやん視点でってのと

電話してる最中に致し始めて声を押し殺して悟られない様にする話


どっちも夢オチだけどスレの趣旨とは違う気がしたので書きませんけど


あと私はノンケです(迫真)



そろそろ秋も近くなって肌寒い空気が入ってくる頃。

私は須賀家に来ていた。


「健夜さん、今日は何か食っていきますか?」


「ん~、何が食べたい?」


「聞いてるのは俺なんだけどなぁ……」


「私が作るから良いんだよ。」

「今日須賀さん居ないんでしょ?」


「うん、父さん今日は夜勤らしいから。」

「ま、それはそれとしていつも健夜さんに世話になりっ放しだからさ。」

「たまには俺がご馳走作ろうと思って。」


「京太郎君が料理? 大丈夫かなぁ……」


「大丈夫だって、そりゃ健夜さんほど上手くは出来ないかもしれないけどさ。」

「誠心誠意作らせて貰います。」


「じゃあ、期待して待ってようかな?」


おどけたように言っておいた。

火の克服してから京太郎君はよく手伝いをしてくれたし家でも料理していたみたいだから心配はしてないけどさ。

でも京太郎君の手料理かー、久し振りな気がするなー。

体感時間で何世紀振りだろうか。

そんなこと思っていながら京太郎君の手元を見てると本人が「集中し難いからテレビでもみて待っててくれ。」と言って台所から追い出されてしまった。

私は勝手知ったる須賀家でのんびりしていると仏壇の方に目をやった。

そこには京太郎君の母親らしき女性が写っており、その顔見て違和感を持つ。

あれ? どこかで見た気がする……

最初の世界? それともその次の世界? はたまた京太郎君が御曹司の世界? もしかして京太郎君が照ちゃんとイチャイチャしてる世界?

私は思い出そうとしても思い出せないもどかしさを感じながらいると京太郎君から声を掛けられてはっとした。


「健夜さん、ご飯出来たよ。」


「あ、うん、今行くね。」


一体誰だったんだろうか……

いや、多分京太郎君の母親以外の誰でもないんだろうけど。

すまない今日は全然進まないと言うかネタが浮かばない
なのでここまで

ちょっとしたブームに乗った神代小ネタ




京太郎「俺思ったわけですよ。」

京太郎「小蒔ちゃんは神様なんじゃないかって。」

霞「何言ってるのかしらね、この子は。」

京太郎「だって考えてみてもくださいよ、小蒔ちゃんの可愛さと言ったらマジで信仰対象として存在できるレベルですよ。」

京太郎「しかもスタイルだって抜群だし性格だって聖人ようで笑顔なんて女神の微笑じゃないですか。」

京太郎「もうこれは小蒔ちゃんを御神体にして神社を建てるべきじゃないですかね!」

霞「そこまで言うなら建てればいいんじゃないかしら……」ハァ

京太郎「え、本当ですか?」

霞「ええ、出来るものならね。」

京太郎「ちょっと家の御祭神から胸毛貰ってきます。」タタタタッ

霞「……え!?」

巴「……そういえば建速須佐之男命って木の神様でもあったね。」

巴「確か体毛を植えると木になってそれを資材として宮や船を作れって……」

霞「……あの子なら本気でやりかねないわ。」

春「…………失策。」ポリポリ

霞「余計な事言ったかしら……」

春「京は馬鹿。」ボソ

京太郎「今気付いたんですけど俺の実家も小蒔ちゃんの実家であるここも神社なんですよね。」

春「……やっぱり京はバカ。」

京太郎「それで代わりに分社を建てようと。」

霞「思い留まってくれたわけじゃないのね……」

初美「何を祀るんですかー?」

京太郎「おっぱい祀って乳神神社に!」

京太郎「勿論御神体は小蒔ちゃん、霞さん、春と明星ちゃん。」

初美「……私たちは何処行ったんですかー?」

京太郎「……あ。」

初美「どすこーい」ドンッ
巴「どすこーい」ドンッ
湧「どすこーい」ドンッ

京太郎「張り手で押し出さないで!?」

湧「兄ちゃんが悪い。」ムスッ

明星「京太郎さんが悪いです。」

京太郎「悪かった! 俺が悪かったから!」

カンッ

あと今回のスレは猫と神代は繋がっておりませんのであしからず

投下していきます



部室で部活動しているときの話。

と言っても京太郎君も咲ちゃんも引退した身だから部活と言えないし、来年廃部確定なんだけどさ。

手慰みとして麻雀を打ちながらふと話題として思いついたことを聞いてみる。


「そういえば二人は進学先どうするの?」


「俺は今のところは特には決めてないっすね。」

「あ、風越とかだめすか?」


「あそこは女子高だよ……」


「なんだと……」


京太郎君の突飛な発言に呆れつつも突っ込んでおく。

もう一方の咲ちゃんはどうやら決めているようだ。


「私も特には無いけど清澄に行こうかなって。」

「お姉ちゃんも居るし。」


「咲は清澄に行くのか。」

「俺はどうするかな。」

「風越行けたらそれで確定だったのに。」


「だから風越は女子高だって。」


「近くの高校って言ったら龍門渕と鶴賀くらいか。」

「二つとも結構遠いけど。」


結局進路どうすんのさ。



季節は過ぎ行き、向かえた11月。

私は悟りを開いたような顔をしていたと思う。

もう今年で今年で27になる。

既にアラサーの圏内。

やばい、三十路の足音がひたひたひたひたと聞こえてくる。

やめて! 来ないで! 私まだ充分に若いよ!

三十路なんてもう来なくていいのに!

ああ……京太郎君が高校三年生になる頃には三十路かぁ……

そのあと教え子達に祝ってもらい、いい気分になった私は教え子帰した後、須賀家に行って酒を呑んでいた。

須賀さんは例の如くさっさと夜勤に行ってしまった。

私がお酒を呑むと同時にそそくさと。

まぁいいよ、私は今はお酒呑んでいい気分なのだ~。


「はい健夜さん。」


「どうも~。」


京太郎君がお酒のつまみを作って寄越してくれる。

よく出来た子ですよ本当。

私はお礼も兼ねて酔っ払った勢いで抱きついてチューしようとした。


「やめてくださいよー。」


「よいではないかーよいではないかー。」


「あーはいはい、わかりましたわかりました。」


「私は本気でお礼をだねー……」


「健夜さん酒くさい。」


「なんだよ~、恥ずかしがっちゃって~。」


「ああ、もう、こんなに呑みやがって……健夜さん大して酒強くないのに……」


連れないなー京太郎君はー。

京太郎君は私のお礼のチューを躱しながら締めのお蕎麦を茹でてくれた。

もう旦那さん作るのはやめて一生京太郎君に世話をしてもらおう。

うんそうしよう、それがいい。



次の日起きると京太郎君がとなりで寝ていた。

どうやら私ががっちり掴んだまま寝てしまったようだ。

なんか申し訳ないね。

若干二日酔いの傾向だけど幸いにも今日と明日は休みなので迎え酒と洒落込みますか。

そうとなればお酒と肴の確保だ。

そういうことで京太郎君よろしく。



また別のある日。

私は藤田さんと呑んでいた。

事務所の話とか冬季オリンピックの話とか。

あとは来年高校生になる二人の話とか。


「そういえば小鍛治さん、京太郎の火の鳥って小鍛治さんが教えたんですか?」


「うん、そうだよ。」

「結構厄介でしょ?」


「勘弁してくださいよ、アレのせいでよくオーラスの連荘止められたりするんですから。」

「しかも咲と同卓したときは更に手がつけられない。」


「でも藤田さんもプロなんだからそのくらい何とかしないと。」


「わかってますよ、別に負けっぱなしって訳でもないですし。」

「ただ捲くる時に厄介ってだけであって。」


「私の教え子は優秀だからね。」


「小鍛治さんの教え子なだけあって将来有望ですね。」


そんなことを話していた。

暫くすると私はぐでんぐでんに酔っ払っていたようで藤田さんが京太郎君を呼んでくれたようだ。

京太郎君が私を背負って藤田さんと話している。

私は結構酔っているせいか話が頭に入ってこない。

まぁいいや。

それから少しして京太郎君が歩き出す。

大きくなった京太郎君の背中に揺らされながら私の家に向かっていった。

ああ、そういえば前にもこんなこと有ったっけ……

とても懐かしい光景。

でも彼は居ない。

彼は、彼とは違う。

彼はあの子じゃない。

あの子は彼じゃない。

分かっていても重ねてしまう。

いつからだったんだろう、彼に縋って生きるようになったのは。

いつの間にこうなったんだろう、彼を忘れることが出来ない人生を送るようになったのは。

私の中では未だに答えは出ていない。



その晩、酔っていたせいか抽象的な、若しくは印象を象った夢を見る。

闇に吸い込まれていく手。

私はいつも間が悪く、その手を掴めない。

多分私では彼の手は掴めない。


自分で言うのもなんだけど私の手って結構綺麗で整っているんだよね。

でもね、大事なものはいつもするりと手から抜けて行くの。

どんなに大事に持っていても。

どんなに必死に掴もうとしても。

手から抜け落ちていってしまう。

まるで掬った水が指の隙間から零れて行く様に。

きっと私の手はそういう風に出来ているんだよ。

だから似たようなものを掴んでそれを本物だと思い込んでた。

彼にとっての私は母親の代替かもしれないけど。

私にとっての彼は彼自身の代替なのかもしれない。

私は京太郎君の母親には似ても似つかないけど、彼の母親代わりになれるならそれでもいいと思っていたことも有った。

私も似たようなものだったから。

でもここの彼はあのときの彼じゃない。

彼は二度と戻ってこない。

当たり前のことなのに、分かりきっていたことなのに。

多分心のどこかではこのままじゃいけないとは思っていたけど止められずに居た。

でもよくないんだよね、このままじゃ。

縋って生きてるだけじゃどうしようもないんだ。

だから、もう進もう。

新たな形へ。

どんなに歩みが遅くても、一歩一歩進んでいこう。

あのときの彼と違っても、今ここに居る彼と新しい思い出は作れる。


朝になり、起きて色々とうだうだ考えながら時間を無為に潰す。

今日は折角の休みだからダラダラとしよう。

教え子の誰かが来たら麻雀打ってもいいし。

そう思っているとやっぱりいつも通りに宮永姉妹と京太郎君がやってきた。

おいおい、照ちゃんはいいけど君たち二人は受験生だろうに。

こんなところで油売ってていいのかい?

咲ちゃんは問題ないとしても京太郎君の成績は中の上ってところでしょ。

まぁ清澄行くなら問題ないだろけどさ。

何だったら現役教師の私が教えても良いんだけど。

そういえば私は来年どうするか考えてなかった。

人のことは言えないものですね。



色々とやってると時間はあっという間に過ぎていくわけで。

たまにこーこちゃんが押し掛けて来ること以外はいつも通りな訳だけど、それでも仕事やっていると色んな人と出会う。

大沼プロとか南浦プロとか。

あ、息子さんとかお孫さんで妙齢の男性は居ませんか?

あ、いない、そうですか。

もうなんかそういうことを聞くのが自分のキャラのような気がして半ば義務になっていた気もする。

話が逸れてしまったが時間が過ぎると教え子二人も成長しながら進路を決めたりするわけで。

結局二人とも清澄に行くことになった。

私はどうするべきかな。

そういえば何か忘れているような……



冬に入りそろそろ寒さに弱さが出来た頃。

京太郎君の火の鳥がちゃんと出来上がっていてこれからどう伸ばそうかと思いつつ新たな考えを探す。

うーん、火にプラスして何かにするかそれとも火の鳥にプラスして何かにするか。

火の鳥に何かするとしたら何がいいだろう。

火の鳥単体はカウンターみたいなものだけど更に追加すると攻撃的に出来そうな感じがする。

流石に一朝一夕と言うわけには行かないけど多分大丈夫。



人生の区分点と言うものは過ぎるとあれよあれよと進んでしまうものである。

進路のことや卒業式の準備で慌しい日々を過ごすといつの間にか時間は過ぎ去る。

そして訪れた卒業式の日。

友と友が涙を流し別れを惜しむ日がやってきた。

あるものはこれから訪れる新しい日々に不安を抱えたり。

あるものは先輩の第二ボタンなどを貰いに行ったり。

教師陣と言えばある意味肩の荷が下りたと一区切りつけたりと様々である。

私はというとこれから巣立っていく生徒たちと話したあと職員室でまったりしていた。

知ってる子がいなくなると一気に寂しくなるものだなぁ……

そんな風に黄昏ていると校長先生から呼び出された。


「あ、小鍛治先生、一つ聞いておきたいんだが……」

「中学の臨時免許の更新ってどうなっていますか?」

「どうにも今年は忙しくて聞きそびれていたんですが……」

「例外とはいえ6年まで中学校の教師をするならまずちゃんとした教育免許を取った方が……」


云々かんぬん。

あはははは、何か忘れてたと思ったらこれだったかー。

いっけなーい、臨時免許の更新忘れてたー。

これじゃ中学の先生出来ないやー。

でも幸いなことに高校の教育免許持ってるから高校の先生でもやろうかなー。

仕方ないよね、免許更新忘れてたんだからー。

ちゃんとした教育免許は10年更新でよかったー。

そんなこんなで中学の先生を続けることが出来なくなった私は泣く泣く高校の先生をやるしかなくなった。

場所は近いところの高校がいいなー。

具体的に言えば清澄高校みたいな?

今日はここまで
次から高校編ですね
臨時免許の特例更新を忘れていたなら仕方ない

投下すると宣言して自分を追い込む



新たな就職口を探して高校に面接を受けに行った。

時期も遅かったのにあっさり通っちゃった。

こういうとき私のネームバリューはすごいと思う。

すごく便利です。

入学式の挨拶のときはどよめきがすごかった。

もっと黄色い悲鳴をあげてもよかったんだよ?

例えば『すこやんかわいい!』とか『すこやん結婚して!』だとか。

まぁそれはそれとして早速部活の顧問をすることになりました。

私は部室の位置を確認するためにもふらっと旧校舎に行き、苦も無く探し当てた部室に入るとそこには……


「失礼します。」

「……あれ?」


まだ誰も来ていなかった。

しかも部室と言うには余りに殺風景な部屋である。

ここにはまだ何も運んでないのか何も無い。

おかしい。

さきほどから十分くらい経ってるのに誰も来ない。

更に十分ほど待つ。

やはり誰も来ない。

もしかして今日は部活ない日だったり……?

ありえてくるのがこわい。



もうちょっとだけ待ってみると扉が開いた。

扉を開けたのは馴染みのある顔触れだった。

私は空かさず挨拶する。


「照ちゃん、咲ちゃん、やっほー。」


「……部屋間違えました。」


そう言って二人は部屋を出て行こうとした。


「ちょちょちょ!? 二人とも待って!」


「でも部屋間違えたのは事実。」


「え。」


「咲を連れて行こうと思ったら道に迷っ……部屋を一つ間違えた。」


「お姉ちゃんそうなの?」


「うん。」

「健夜さんは間違ってここに来たみたい。」

「だから健夜さんはとんだおっちょこちょいだね。」


あの、照ちゃん?

多分それは真っ直ぐ貴女に戻っていくブーメランだと思うよ?

西城秀樹も秀樹感激しながらつい歌っちゃうレベルの。



姉妹二人と一緒に部室に行くとそこには三人の少女が居た。

照ちゃんはその中に居た年長者の学生議会長である竹井さんに声を掛ける。


「久、新入部員確保してきた。」


「本当? これでやっと女子団体戦に出れるわね。」


「後でもう一人来る予定だけど。」


「もしかして照が言っていた京ちゃん?」


「うん、そう。」


「あ、私は今日から顧問になる小鍛治健夜だよ。」

「若いからって学生と間違えないでね?」


「ははは、中々個性的な先生ね……」


「健夜さん、ナイスジョーク。」


竹井さんが乾いた笑い声を上げて照ちゃんが茶化す。

あ、やばい。

これは私が火傷するパターンだ……

上手いこと流してみんなの事を聞いてみる。

それからお互い自己紹介をする流れに。



「片岡優希! 一年生だじぇ!」

「麻雀は好きだがタコスがあるから清澄に来ました!」


うん、いかにも元気印って感じの子だ。


「わしは二年の染谷まこじゃ。」

「よろしくな。」

「実家の雀荘を手伝うことも多いけぇ、抜けることも有るじゃろうけど……よかったら家の雀荘にも寄ってきんさい。」


実家が雀荘なのか、大変そうだね。


「私は竹井久、知ってるとは思うけどここの部長よ。」

「あとついでに学生議会長でもあるわ。」

「皆よろしくね。」


堂々としてるなー。

流石は学生議会長なだけあって人前で話すことがしっかりしてる。


「宮永照です、みんなのために頑張って全国制覇目指します♪」


誰だお前。

所謂インタビュー用というか外面用なんだろうけど流石にやりすぎではなかろうか。


「宮永咲です。」

「お姉ちゃんや京ちゃん、そして健夜さんとはよく打っていましたが他の人とは余り打ったことないので下手かもしれませんがよろしくお願いします。」


咲ちゃん、女子インターミドルで二年連続覇者になった貴女がそういうのは嫌味に聞こえるよ。

本人にはそんなつもりは無いんだろうけど。



今部室に居る全員の自己紹介が終わった後、お互いの実力を測るためにも早速麻雀をすることになった。

入る人間は染谷さん、片岡さん、咲ちゃん、竹井さんの四人。

照ちゃんは今お菓子に夢中。

暫くすると部室の扉が開けられた。


「こんにちはー。」

「っと、対局中でしたか。」


「京ちゃんこっち。」


「あ、照さん。」


「遅かったね京太郎君、何処行ってたの?」


「ちょっと学食のチェックをしてたんですよ。」

「今まで給食だから気になっちゃって。」


「京太郎君は色気よ食い気だね。」


「食い気もそうですけど打ち気もありますよ。」

「出来れば今すぐにも俺も打ちたいんだけど……って。」

「皆今打ってるんだもんな。」


「京ちゃん京ちゃん。」


残念そうに言う京太郎君に照ちゃんが反応して何か取り出す。

照ちゃんがその何か持って手招きしている。

その何かに気付いた私は躊躇いがちに聞く。


「照ちゃん、それ……」


「健夜さんもやる?」


「いいけど……まさか麻雀部でそれやるとは思わなかったなぁ……」


「なんすかそれ?」


「ドンジャラ。」


京太郎君の問いに対し、照ちゃんは得意そうにそう答えた。



「えっと、そのドラ○もんポン。」


「……あ、和了った。」


「くそぉ……ドンジャラだと勝手が分かんねぇ……」


「やっぱチェスとか囲碁とかオセロの方がよかった?」


「何で麻雀部にそんなものがあるんですか……」


「まこが来るまでは久と二人でやってた。」


なんか悲しいなぁ……部員が集まらないのって……

しかしまさか女子インハイチャンプと世界一位と男子インターミドルチャンプが揃ってドンジャラするとは……

ここは本当に麻雀部なのだろうか……



本物の卓の方が漸く決着がつき、京太郎君と照ちゃんの出番が回ってきた。

入るのは京太郎君に照ちゃんと先ほど入っていた咲ちゃんに片岡さん。

さっきちょろっと見てたけど片岡さんの実力だったらトばなければ御の字と言う感じかな。

賽が回りだすと京太郎君が口を開いた。


「この面子っていうか咲と俺と照さんが同卓するの久し振りだな。」


「うん、私も四麻自体久し振り。」


「京ちゃんとお姉ちゃん相手だと本気出さないとだめだよね。」


「ちょっとー私も居るんですけどー?」


「わりぃわりぃ、片岡さんだっけか?」

「ちゃんと真面目に打つから許してくれよな?」


「構わないじぇ、私は心が広いからな。」

「それよりも金髪、お前こそトばないように気をつけろよ?」


「ま、頑張るさ。」


何で片岡さんはそうやってフラグ立てちゃうかなぁ……

しかもよりによってこの面子相手に。

ああ、修羅場。

南無片岡さん。



「ぐぁぁぁ……世間は厳しいじぇ……」


そう言ってへたれ込む片岡さん。

対局は案外あっさり終わった。

まず結果を言います。

片岡さんのトび終了。

照ちゃんは二位の咲ちゃん三位。

そして京太郎君が一位。

最初ロケットスタートを切った片岡さんが4000オールをツモ。

そのあとは鏡で見終わった照ちゃんが片岡さんから連続和了で巻き上げる。

それを止めるように咲ちゃんが照ちゃんの捨牌を連槓で削る。

宮永姉妹の点数が並んだくらいで京太郎君が親となりそこへ片岡さんが親倍を振り込んでトび終了。

なんともむごい。

片岡さんは頻りに「タコスがあれば……タコスさえあれば……」と呟いていた。


「何で金髪はそんなに強いんだじぇ……」


「こう見えても京ちゃんはインターミドルのチャンピオン。」


「なぬ!? お前そんなに偉かったのか!?」

「私女子しか興味が無かったから知らなかったじぇ。」


「俺なんて大したこと無いけどな。」

「未だにリベンジ出来てない相手が居るし。」


「うおぉ……男子って魔境なのか……」


魔境なのは私たちと年がら年中打ってた京太郎君だけだと思うよ……

しかも京太郎君の負け越しの相手はプロだし。

片岡さんと京太郎君が喋っていると竹井さんが声を掛ける。


「ほらほら、次の面子入れるわよ。」


次の対局が始まる。

面子は連卓で京太郎君に宮永姉妹と染谷さんだ。

染谷さんならトびはしないだろうし上手く立ち回れるとは思うけどきつい戦いになると思うな。

京太郎君が卓に着いてる状態で聞く。



「あれ、部長さんは入らないんですか?」


「え、私?」

「だってほら、その……」

「私が入ったら皆トんじゃうでしょ?」


「言ってんさい。」


「健夜さんも打ちたいとか言いませんね。」


いやいや、流石に学生に混じって打ちたいなんて言わないよ。

大人だから我慢するもん。

そう思った私は竹井さんの言葉に便乗して言う。


「私が入ったら皆潰しちゃうでしょ?」


「…………」

「…………」

「……さて打とうか。」


「流さないで!?」


「だって健夜さんのは洒落になってない。」


「ひどいよ! 流石の私でもそんなことやらないよ!?」


「『出来ない』じゃなくて『やらない』なのが怖いな……」


「健夜さんは麻雀で人を殺せるって噂が有るけど、あれ本当なんじゃ……」


「ああ……ドツボに嵌っていく……」

「違うんだよ……違うんだよぉ……」



私の呟きも空しく消えて行く。

流石に麻雀で人を殺したことは無いよ。

だって目覚めが悪いじゃん。

というかそんな変な噂流したの誰だ! 出て来い責任者!

暫くすると対局の結果が出た。

染谷さんがラス、京太郎君が三位。

照ちゃんが僅差で一位、咲ちゃんは二位。

染谷さん、貴女は相手と運が悪かった。

私の教え子達は打ち筋に甘さがないから少しでも牌が浮いたら必然的に集中砲火を受ける破目になるもの。

少しでも打牌が甘くなれば集中砲火。

調子を少しでも崩せば集中砲火。

凹んだところに集中砲火。

ひどい教え子に育ったものだ。



対局が一頻り終わった頃に照ちゃんが聞いてくる。


「そういえば健夜さん、中学校の先生をやっていたんじゃ……」


「残念だったね、トリックだよ。」

「というのは冗談だけど。」


「健夜さん、もしかして嫌いな先生に麻雀を楽しませたんじゃ……」


「そんなことしてないよ!?」


君たちの中で私はどんな人物像なのさ!

というか付き合い長いんだからそんなことわかるでしょ。

私は自分の汚点を恥ずかしそうに言った。


「実は臨時免許の更新忘れてて失効しちゃった……」


「……え?」


「うわぁ……」


「健夜さん……」


教え子三人の目が何ていうかダメな大人を見る目だった。

やめてよ、そういうの本当に心に来るから……

昨日はお酒呑んで寝ちゃったすまない。
ちょっとずつ投下しよう(自己暗示)



片岡さんの試合がある程度進むとお昼を買いに行っていた京太郎君が帰ってくる。

割と遅かったので理由を尋ねてみた。

すると迷子を見つけたので案内していたとの事。

君は何かと迷子に縁が有るね。

事前に片岡さんへ出した注文は極単純なもの。

『出来るだけ稼いで失速したらベタオリか安手で流せ。』

それ通りにやってくれた片岡さんは最初に40000点近く稼いで10000点吐き出す。

それを二回やった。

つまり計60000点ほどの稼ぎ。

結果としては各高校の点数は……

龍門渕は堅実な打ち方で52500点。

鶴賀は守りが上手かったがツモで削られ63500点。

風越は場慣れしていない選手だったのか周りの勢いに呑まれて失点し78900点である。

うちは片岡さんが頑張って注文を守ったおかげで205100点だ。

トップのうちと二位の差は126200点差。

まだ二人分打てるとは言ってもかなり厳しくなってる。

折角竹井さんが上手く調整したにも関わらずこれである。

しかも副将は試合巧者の染谷さんに大将は咲ちゃん。

多分クソゲーと言われても仕方ない。



お昼ごはんを食べた後、副将戦が始まる。

対局室に向かう染谷さんにアドバイス。

『南場過ぎたらロンは禁止。』

『あと龍門渕より鶴賀に注視する。』

たった二つだけど染谷さんは要領も察しも良い方だからこれで問題ない。

慌てず騒がず、目立たず、さりとて相手を活かさず殺さず。

それが染谷さん。

副将戦、始まります。



染谷さんは探る。

相手を探り河を視る。

そこからアナログとロジカルの組み立てが始まる。


『ロン、3200ですわ。』


『風越による龍門渕への振込み!』

『最初に和了ったのは龍門渕透華選手!』



それから染谷さんはちょこちょこ和了っていく。

清澄へ風越が放銃。

龍門渕へ風越が放銃。

清澄へ龍門渕が放銃。

染谷さんが的確に河を形成していくので周りは和了りづらくなっていた。

後半、鶴賀に対し龍門渕が放銃。

全くの無警戒の所に突き刺さる。

これを視て染谷さんは驚いた表情をした後、察したように口角を上げる。

次の瞬間染谷さんはメガネを外して頭に乗せる。

あれで見えないものを見えるようになれば苦労はしないが染谷さんは振り込まなかった。

だからと言って直撃を取れたとはいえないけど。

龍門渕が鶴賀に二回振り込んだ後、風越は他の三校に削られていく。

染谷さんの打ち方がデジタルにシフトして鶴賀を見抜く。


『そいつじゃ。』

『7700の一本付けで8000。』


まだ隠れ切れていなかったらしい東横選手の尻尾を掴んで叩き込んだ。

多分デジタルのシフトと鶴賀に注視している事、それに眼鏡を外したのと隠れ切れていなかったことが直撃に繋がった。

東横選手はその後も鳴りを潜めて染谷さんを警戒していたが普通の打ち方にシフトして風越から点を奪う。

そして副将戦オーラス。


『おお、すまんツモった。』

『8000・16000じゃ。』

『どうやら分はわしらにあったようじゃのう。』


『副将戦終了!』

『清澄が緑一色で和了りました!』

『龍門渕は稼ぎましたが清澄や鶴賀に削られ43200点。』

『鶴賀も盛り返すも役満の煽りを受けて64400点。』

『風越は全校から削られて33400点。』

『そして清澄、役満を和了って259000点で他を全く寄せ付けません。』

『これはもう清澄の勝利が確定でしょうか。』



副将戦を終わらせて帰ってきた染谷さんが疲れたといった感じで喋りだす。


「いや~、小鍛治先生のアドバイスが無かったら振り込んでたとこじゃった。」

「本当はもうちょい稼ぐつもりじゃったんだがのう。」


「よく言うわよ、50000点オーバーを叩き出したくせに。」


そう言った竹井さんはやれやれと言った感じで首を振った。

残るは大将戦のみ。

うちの大将は咲ちゃん。

しかも259000点持ち。

これはひどい。



咲ちゃんが対局室に向かう際京太郎君が送ってくれることになった。

京太郎君は世話焼きだね、それじゃあダメな女の子増えちゃうね。

でもこのまま行ったら京太郎君が私の世話してくれるから将来安泰。

あ~女としてダメになるぅ~。

不意に咲ちゃんが向き直って聞いてきた。


「健夜さん。」

「私団体戦って初めてなんですけど終わった後って何を言えばいいんですか?」


そういえば悉く先鋒や次鋒がトばしてしまったから咲ちゃんまで回ってなかったっけ。

特に言うこともないし普通に「ありがとうございました」でいいんじゃないかなとも思ったけど。

可愛い教え子の質問だ、多少緊張を解す為にも何かアドバイスしておこう。


「『楽しかったですね』とか。」

「若しくは『また打ってください』とかでいいんじゃないかな?」


「わかりました、ありがとうございます。」


そう言った咲ちゃんはぺこりとお辞儀して京太郎君に連れて行かれた。

数分して京太郎君が戻ってくると持ってきたノートパソコンを開きだす。

しかも照ちゃんを誘ってネト麻をしだす始末。

余りのことに思わず竹井さんが聞いた。


「二人とも咲の試合を見ないのかしら?」


「大丈夫ですよ、咲は負けませんから。」


「ん、それよりも多分下手したら見ないほうがいいかもしれない。」

「今の咲は浮かれているから普通の人は精神衛生上よろしくない。」


「照にそこまで言わせるなんて……」


「二人とも薄情だじぇ。」


「絶対の信頼があるからとも言えるが……それよりも先輩の発言が気になるのぉ。」


何となく分かった。

そうこうしている内に大将戦が始まる。

もしここで咲ちゃんが負けたら罰として私結婚してあげるよ。



大将戦の東一局が進み咲ちゃんが一向聴から動かない。

天江選手から点を取って勝ち進もうと言うオーラが画面越しにひしひしと伝わってくる。

咲ちゃんが少し悩んで切る。


『ロン、12000。』


『龍門渕の天江選手、跳満の和了です!』


振り込んだ咲ちゃんの顔を見るとにっこりと喜色満面笑みを浮かべていた。

サキチャンヨカッタネ、イイオトモダチガデキソウダネ。



東二局。


『ポン。』


速攻で鳴いて行く咲ちゃん。

ずらされた分を元に戻す天江選手。

明らかに実験で和了りを潰している。

四面子一雀頭だからどうやっても鳴けるのは一人四回まで。

しかも咲ちゃんには加槓があるからさらに鳴ける回数が増える。

槓すると嶺上牌が繰り上がって海底牌がずれる。

咲ちゃんはそこを理解して海底を握り潰す気だろうね。


『ツモ、海底ドラドラです。』


咲ちゃんは何で皆和了らないの?って顔をしている。

多分和了らないんじゃなくて和了れないんだよ。

天江選手すごい驚いてるよ。



東三局。


『ポン。』


またもや鳴いて攻めていく咲ちゃん。

明らかに槓を想定した鳴き方だったので鶴賀の選手が狙っている。

咲ちゃんが加槓するのかと思ったが手を止めて別の牌を切った。

そうだね、散々福路さんと照ちゃんと京太郎君相手に槓対策を講じられてたもんね。

今更槍槓に何か掛からないね。

一巡後別の牌を暗槓して嶺上牌を摘み取る。

聴牌したあと敢えて待ちが少なそうな方を切る。

しかもその後槍槓狙っていた相手に直撃。

咲ちゃん相手の手牌読みすぎ!


その後のDieジェストはひどいものだった。

槓して削る。

普通に和了って削る。

直撃して削る。

減らしすぎたら露骨な差込で延命処置。

麻雀打てなかったことに相当不満抱えていたんだろうね。

いかにも『今まで楽しめなかった分取り返すぞ!』って表情でした。

前半戦が終わる頃には龍門渕が2600点、鶴賀は2300点、風越は咲ちゃんから延命を受けての300点。

ただただむごい。



まだ後半戦は始まってないのにカタカタと三人は震えている。

一人は俯き、一人は涙目で。

そして最後の一人が何かブツブツと呟いている。

マイクでは拾えなかったけど唇を読んで理解した。

『トばすならトばせよ……』だそうだ。

まるで裁判を待つ被告人のような三人に同情は湧くけど我慢してとしか言いようがない。

そして時間が来て後半戦というか公判が始まった。


東一局。

咲ちゃんは和了らない。

全員和了らない。

しかも全員不聴。

これに腹を立てたのか咲ちゃんからオーラが飛び出ている。

なんというか「さっさと和了れよ」と言ってるようなオーラだ。

やたら三人がびくびくしてる。

ああ、他の人が和了らないと点数動かないもんね……

そこから無理矢理咲ちゃんが他の人を和了らせていく。

そのまま南場に突入。

そして南二局が過ぎた頃一気に回収し始めた。

解説実況までもが絶句していた。

そして迎えたオーラス。


「カン、ツモ、1300・2600です。」

「ありがとうございました。」


「「あ、ありがとうございました……」」


カタカタと震えて目の光がなくなった鶴賀。

涙を流しながら俯く龍門渕。

突っ伏して身動き一つない風越。

最終点数は清澄400000点ピッタリ。

他の三校オール0点。

しかも咲ちゃんは個人で前半戦135800点稼ぎ、後半戦だけを見ると30200点で±0である。

知ってる? 咲ちゃんこれでまだ本気出してないんだよ……?

だって家で打ってたときは裸足だったもん。

こんなにひどい状況になったのはすこやん悪くない。

フラスト溜めさせた姉と部長の二人のせい。

すこやん悪くない。


そうしてすっきりした咲ちゃんが周りを見て何か言葉を出そうとする。

フォローのつもりなのだろうけど。


「そ、その……」

「ま、麻雀って楽しいよね!?」

「もっと一緒に楽しもうよ!」


その言葉に天江選手も池田選手も加治木選手も驚き慄いていた。

流石の私でもその状況では追い討ちになるからその言葉のチョイスはしない。

何か言葉を掛けようとした結果がこれ。

魔王咲ちゃんここに爆誕である。

将来が有望だなぁ……



そうしてすっきりした咲ちゃんが冷静になって周りを見ると自分がやったことに対する惨状が分かったのか何か言葉を出そうとする。

多分フォローのつもりなのだろうけどかなりテンパっていたものだった。


「そ、その……」

「ま、麻雀って楽しいよね!?」

「もっと一緒に楽しもうよ!」


その言葉に天江選手も池田選手も加治木選手も驚き慄いていた。

流石の私でもその状況では追い討ちになるからその言葉のチョイスはしない。

何か言葉を掛けようとした結果がこれ。

魔王咲ちゃんここに爆誕である。

将来が有望だなぁ……


涙流しつつ怯えている天江選手が呟く。


「衣……なにかわるいことしたのかな……」


空かさず池田選手が口を挟む。


「天江は悪くないし! 何にも悪くないし!」


そういって池田選手は天江選手に抱きついて一緒に泣いていた。

鶴賀の加治木選手も一緒になって抱き合って泣いてる。


「私たちは無力だ……だからもっとお互いに強くなろう……!」


わぁ……ラグビーのノーサイドみたい。

お互いの健闘を讃えたりして友情を育むんだろうなぁ……

その内天江選手が抱きついてる二人に話す。


「衣と……衣と友達になってくれないか……?」


「ああ、勿論だとも!」


男気溢れる加治木選手の返答。


「何言ってるし! もう華菜ちゃんたちは友達だし!」


すごく良い子そうな池田選手返答。

そこに恐る恐る近づいて聞く咲ちゃん。


「あ、あの……」


「「「ヒィ!?」」」


三人は轢き付けを起こしかけていた。

尚も咲ちゃんは続ける。

割と人付き合いが苦手な咲ちゃんにとっては勇気を振り絞って。


「私も友達に……なってもいいかな?」



「「「は、はい……」」」


三人は萎縮したように剣を飲むように申し出を飲み込んだ。

正しい友達付き合いになるかな……


京太郎君が暢気な声を出して聞く。


「あ、大将戦終わりました?」


「ええ……」


竹井さんが信じられないものを見たと言った感じに答えた。

照ちゃんはそんな竹井さんを見て言う。


「だから見ないほうが良いって言った。」


「まさかこんなことになるとは思わなかったじぇ。」


「とりあえずうちの学校が優勝したんだし、咲ちゃんの迎えに行こうか。」


そういって私は空気を変えようとした。

対局室の惨状から目を逸らしながら。


そうして県予選女子団体は幕を閉じた。

色んな犠牲を払って。

私は打ち上げと称して車でファミレスに行き皆に好きなものを頼ませた。


「腹減ったな。」

「照さんや咲は何を食べる?」


「私はパスタかな。」


「パフェ。」


「ご飯食べた後にしろよ。」


「問題ない。」


キリッとした顔で京太郎君の質問に照ちゃんが答えるが全くもって決まっていない。



竹井さんがかなり悩んでいる。

私も結構悩んでいる。


「ハンバーグおいしそう……」


「小鍛治先生も目に留まりました?」


「うん、でも結構時間遅いから体型が……」


「でも疲れた後だからがっつり食べたいですよね。」


「そうなの。」


「部長、ハンバーグ美味しそうですよ。」


「わかってるわよ、でもね男の子の須賀君には解らないかもしれないけど乙女はこういうのにデリケートなのよ?」

「デリカシーのない男は嫌われるわよ。」


「へぇ~そうなのか。」

「俺は気にしてなかったし、周りの女の人も気にするような人が居なかったから勉強になります。」


「いやいや、京太郎君、私すごく気を使ってるよ?」

「一応これでも教職者だし京太郎君にご飯作ってあげるとき栄養バランス気を使ってたんだからね?」


「まじっすか。」


多分京太郎君の中では気付いてなかった上に近くに居た女の子が宮永姉妹と福路さんくらいだったからそういうのに疎いのだろう。

過去のことを掘り返しつつも素晴らしき保護者人生と自分で褒めていた。

突如片岡さんから声が上がる。


「決まったじぇ!」

「エビフライとハンバーグが入ったタコスを注文するじょ!」


体型に気を使わない女子一人追加。

畜生、女子高生の体が羨ましい。


料理が揃う前に染谷さんと京太郎君が飲み物を持ってきてくれた。

流石気遣い男に聖人染谷さん。

本当はビール飲みたかったけど生徒の前だし何より車なので我慢した。

全員に飲み物が行き渡ると竹井さんに音頭を取らせる。


「今日は団体戦お疲れ様、まだ個人戦は有るけど明日は休息を取れるから安心して。」

「それでは乾杯!」


「乾杯!」


あ~体に沁みるよ~ジュースの糖分が体に沁みるよ~。

明日は頑張って運動しないといけないかな。

料理が運ばれて各々食べ始めると京太郎君がぽろっと話す。


「そういえば俺ネット麻雀打ってたんだけど中々に強い人が居てさ。」


「え、いつ?」


「大将戦のとき。」


「何で京ちゃんは私の出番のときにネト麻やってるの!?」


「咲なら負けないって信頼してたからな。」


「ひどいよ京ちゃん……」

「まぁ信頼されてるってのは悪い気はしないけど。」

「それでどんな打ち筋だったの?」


「無駄のないデジタルって感じかな?」

「とにかく牌効率が完璧で付け入る隙がないと言うか。」

「まるで機械が打ってるんじゃないかと思うくらいだ。」


「ふ~ん、で、勝った?」


「ぎりで勝った。」

「オカルト使えなかったからかなり苦戦した。」


「どんなハンドルネーム?」


「えっと確か『のどっち』?だったっけ。」

「あと『とーか』って人もいた。」


「ふ~ん。」


京太郎君と咲ちゃんは軽く話してそれで終わった。

因みに照ちゃんはその二人とは当たらなかったがネットでは散々だったらしい。

照ちゃん曰く「オカルトが使えないのは不公平だ」とのこと。

宮永姉妹と福路さんは本当に機械ダメだよね。


皆がご飯を食べ終わると車に乗って皆を送る。

途中車内で竹井さんがこんなことを言い出した。


「あ、そうそう、明日皆水着持って部室に集合ね?」


「「「……え?」」」


みんなの満腹感に水を差す一言だった。

もっと早めに言おうよ、そういうことはさ……

さっき体型の話したじゃない……

今日はここまで。
それにしても強敵でしたね
でもそれより強いすこやんは……

それではおやすみなさい

そろそろクリスマスが近いですね

ハギヨシが仕事仕事で彼女作る暇もなく
今年も仕事かと思いながら透華と一緒に商店街にいく。

京太郎は京太郎で雑用で彼女作る暇もなく
仕方ない今年は一人寂しくカピーのお世話するかなと思っていると咲から買い物に付き合ってと言われて荷物持ち

お互いのペアがお互いを見るとカップルにしか見えなくて内心リア充爆発しろと思ってしまう男共のSS


もしくは京太郎と咲がクリスマスデートをして二人して手を繋ぎながらリア充爆発しろとのたまうSS


が書かれるといいなと思いました(小学生並みの感想)

少ししたら頑張って投下します


翌日部室に行くと既にみんなが集まっていた。

全員が揃ったことを確認して竹井さんが用件を述べる。


「はーい、皆集まったわね。」

「今日は水着で部活。」

「水着で部活よ。」

「というわけでこれからスポーツランドに行って特訓よ。」


何故二回言った。

というかなんでスポーツランド?

そう思っていたのは私だけではなく疑問に思っていた咲ちゃんが聞いた。


「部長、なんでプールなんですか?」


「団体戦のお疲れ様会と個人戦に向けたリフレッシュみたいなものかしら。」


そんなこんなで京太郎君が自動卓を部室から運んで車に乗せる。

流石男の子、力持ち。

その後生徒たちを乗せてスポーツランドに向かう。

私たちは更衣室で着替えてプールに行くとそこには既にパーカーを羽織った京太郎君が居た。


「お待たせ。」


「はーい?」

「おおう……」


京太郎君が私たちの水着を見て声を漏らしていた。

私は薄い黄色のセパレートで竹井さんは濃いオレンジに腰にロングパレオを巻いている。

染谷さんは緑と白のボーダーで照ちゃんは白のフリルが付いた水着だ。

咲ちゃんと片岡さんは……うん。

似合ってると思うよ。


片岡さんがプールに飛び込んで京太郎君に言う。


「おら! 京太郎もパーカー脱いで泳げ!」

「そんでもってゴムボートの動力源になるんだじぇ!」


「おいおい、誰が動力源だ。」


竹井さんがにじり寄って須賀君の後ろに寄る。

スッとパーカーに手をかけて剥ぐと結構いい体が露わになる。


「うお!?」


「そんな格好じゃ泳げないわ……」

「!」


それと同時にあれも。

私は見慣れていたし宮永姉妹も知っているから特に驚かなかったがパーカーを剥ぎ取った竹井さんは固まっていた。


「これ……」


「ああ、これっすか? これは小さい頃に火災で負った火傷です。」


「ごめんなさい、須賀君。」


「いやいや、別に気にしないでください。」

「俺も泳ぐつもりだったんだしどっち道パーカーは脱ぎましたよ。」


竹井さんが申し訳なさそうにしているのを見て京太郎君がフォローしている。

京太郎君本人は気にしていないのだが竹井さんが気にしているようだ。

若干固まった空気を動かす為か照ちゃんが京太郎君にお願いをする。


「京ちゃん、泳ぎ教えて。」


「……え?」


「私泳げない。」


「あー、はい、わかりました。」

「すいません部長、ちょっと照さんの泳ぎのコーチしてきます。」


「ええ、わかったわ。」


直ぐ様照ちゃんを連れて京太郎君がプールに入っていった。

私はパーカーを受け取って竹井さんや染谷さんとともにプールサイドのチェアーに腰掛けた。

ついでに京太郎君のパーカー着ておく。

ほら、私の体って男の子には刺激的なスタイルだから……


折角大き目のパーカー手に入れたのに脱がないといけないじゃないですか。

さっきまで背筋伸ばして誤魔化してたのにまた常時背筋を伸ばさないといけないのは辛い。

あと泳いだりしたら疲れるじゃない。

私には帰りの運転があるのだよ。

だがお断りしようとしたら更なる追撃が襲う。


「小鍛治先生、最近運動不足ですよね?」

「昨日も美味しいハンバーグ食べてましたし。」

「ここで泳いでおかないと……」


ぐはぁ……

きつい一言ですよ……

でも誘うのはやめてよ……私次の日膝と腰に来るんだから……

しかも余ったお肉を見せたくないです……

>892ミス抜けてた




横では染谷さんが準備運動している。


「神伝流の泳ぎは準備運動は欠かせんからのう。」


「小鍛治先生も一緒に泳ぎません?」


そういう竹井さんの顔は悪い表情をしていた。


「私はちょっと……」


折角大き目のパーカー手に入れたのに脱がないといけないじゃないですか。

さっきまで背筋伸ばして誤魔化してたのにまた常時背筋を伸ばさないといけないのは辛い。

あと泳いだりしたら疲れるじゃない。

私には帰りの運転があるのだよ。

だがお断りしようとしたら更なる追撃が襲う。


「小鍛治先生、最近運動不足ですよね?」

「昨日も美味しいハンバーグ食べてましたし。」

「ここで泳いでおかないと……」


ぐはぁ……

きつい一言ですよ……

でも誘うのはやめてよ……私次の日膝と腰に来るんだから……

しかも余ったお肉を見せたくないです……



私は飲み物を買って来るとはぐらかして逃げ出した。

暫くすると皆は各々楽しみ始めた。

一年生三人組と照ちゃんはビーチバレーをしているし染谷さんはさっきから古式泳法をしながら浮いている。

そして私はチェアーの上でパーカーで体を隠して寝そべっていた。

竹井さんはというと……


「え~、ちょっとくらい良いじゃない。」


「困ります、こんなものを持ち込まれては……」


係員さんに雀卓を持ち込んできたことを咎められていた。

一応顧問である私に責任の火の粉が掛からないうちに動き出した京太郎君たちと合流してスポーツランドの廊下を歩く。

廊下を歩いている京太郎君が突如こんなことを言い出した。


「そういえばさっきそっちにVIPルームっていうのがあってさぁ。」


「きっと私のために用意された部屋だじぇ。」


「ええ~何のために……」


「おお、あれあれ。」


そういって京太郎君指差す方向の向かい側から少女たちが出てきた。


「……無理泳ぐ必要はないと思いますわ。」


「とーかは泳げないんだよね。」


「何をお言いなさりますですか!?」

「庶民と同じ水に入りたくないからと言っておりますでしょう!」


出てきた金髪の背の高い方が小さい金髪の子供に言い訳染みた事を言っている。

あ、そういえばあの顔は龍門渕の……



「お?」


「と、透華、前……」


「へ?」


見ていた私たちに気付いた一人が声を上げて龍門渕選手に告げる。

当然私たちから見えると言うことは相手方からも見えると言うわけで。

相手側はこっちの素性に気付いたようだ。

こっちも相手の素性に気付いた京太郎君が声を上げる。


「龍門渕高校!」


「お前たちも遊びに来たのか?」


「あ、遊びに~!?」

「ここは私の家の所有物ですわ!」


そういえばスポーツランドの名前が龍門だったっけ?

なるほど、そういうことか。


「へへーんすごいだろ。」


「お前がすごいわけじゃないじょ。」


井上選手が胸を張って言った。

それに片岡さんが突っ込む。

まずい、京太郎君の視線が釘付けになっている。

今の戦力は私、照ちゃん、咲ちゃん、片岡さん。

ダメだ、圧倒的に戦力が足りない!

これでは井上選手や沢村選手どころか龍門渕選手とどっこいどっこいである。

せめて最大戦力の竹井さんと染谷さんが居れば……

他人の褌で相撲をとっても空しいだけなので考えるのをやめた。

咲ちゃんが龍門渕の邪魔をするのは悪いと思ったのか去ろうとした。


「じゃあ、私たちはこれで……」


「お待ちなさい!」


でも龍門渕選手は言いたい事があったのか私たちを引き止めた。


「団体戦では負けましたが個人戦ではそうは行きませんでしてよ!」


「個人戦……」


「そうですわ、週末の個人戦、どちらが上か白黒つけてあげますわ!」


おいおい、貴女が戦ったのは染谷さんでしょうに……

しかも多分貴女が冷えない限り染谷さんに勝つのはきついと思うよ?

絶対とは言わないけどさ。

龍門渕さんは言い切ってすっきりしたのかすごいご満悦な顔していた。

その脇から小さい子が出てきた何か携帯のマナーモードのように震えている。


「清澄の大将、さん。」

「サクヤノケッショウセンハタノシカッタデス。」

「マタアソンデクレマスカ?」


何で片言……

しかも何で敬語……?

明らかに社交辞令なのは分かっていたけど咲ちゃんは聞く。



「衣ちゃん個人戦に出ないの?」

「個人戦に出ればまた私と打てるよ?」


「衣は個人戦には出ぬぅ!」

「……衣はもう、昨日の団体戦で満足したのだ。」

「暫く麻雀は要らない。」


おおう、もう。

これはひどいね……


「昨日の団体戦で……そう。」


明らかに残念そうな咲ちゃんが呟くと慌てて天江選手が付け足す。


「マタコロモトウッテクレマスカ?」


「うん!」


でもやっぱり片言でした。

あ、わすれてた<迷子

迷子のくだりはころたんに心の余裕が無かったってことで



私たちが戻って竹井さんたちと合流するとまた各々遊び始める。

私と染谷さんと竹井さんは相変わらずチェアーの上だ。


「まさか全国に行けるとはのう。」


染谷さんは遊んでいる四人組みを見据えながら誰に言うとも無く呟く。

そして視線を同じ方向に向けた竹井さんが染谷さんに言う。


「言ったでしょう? 狙うは全国優勝だって。」


「そんな簡単に行くかのう?」


「大丈夫よ、うちには宮永姉妹というエースに小鍛治先生がいるんだから。」


いきなり話を振られるとは思わなかった。

まぁ出来る限りのことはするけどさ。

皆が一頻り遊んでリフレッシュしたらそろそろ帰ろうということになった。

京太郎君が声を掛けてくる。


「健夜さん、パーカー。」


「え……ちょっと待って。」


私は即座に息を吸って腹を凹ました後、背筋を伸ばしてパーカーを脱いだら京太郎君に渡した。

さぁ、更衣室で着替えるまで我慢だ。

皆が着替えて車に乗せると出発する。

今は皆遊び疲れたのか揺れる車内でぐっすりだ。

あー疲れた。

明日筋肉痛になるかも。

それより週末は個人戦か、みんなの調整しないとね。

一旦休憩


個人戦当日。

個人戦は男女で分かれているけど同じ時間帯にやるので誰をみるのか決めておかないといけない。

女子はまぁ大体順位が分かるね。

宮永姉妹と福路さんが三本指に入るでしょ。

となると京太郎君のほうが問題だ。

技術的なほうは大丈夫だけど私がフォロー入れないといけないところがある。

全員が思い思いに向かっていく個人戦。

結局私は京太郎君についていくことにした。

京太郎君が対戦表を見て愕然とした。

というか怒っていた。


「なんで氷見木がいないんだよ!」


「えっと京太郎君。」


「あ、すみません騒いじゃって。」


「ううん、それは良いんだけど……氷見木太郎だっけ? その人の話。」

「風の噂で聞いたんだけど今横浜に居るんだって。」

「だから全国に行けば会えるんじゃないかな?」


「そうだったんですか?」

「それじゃあ三位以内に入らないとな。」


私がそういうと京太郎君が納得して気合を入れなおす。

まず京太郎君が負けることは無い。

私も出場者名簿に目を通したのでそれは保証できる。

オカルト全開で行けば京太郎君に追いつける男子はまずいない。

少しすると京太郎君の出番がやってきた。

あ、今日の屠殺会場はここですか?

炎で焼いてついでに焼き鳥も出来るから便利ですね。


始まる京太郎君インターハイ初試合。

京太郎君が北家でラス親になる。

まず京太郎君は跳満を振り込み次の局に跳満を仕返しする。

次に倍満をツモられるが取られた分は取り返した。

最後に京太郎君の親。

火の鳥で場が温められた状態でのラス親スタート。

火は充分に撒き散らして周りは火の海だろう。

多分もう京太郎君以外は和了れない。


その後はただ只管京太郎君が和了り続ける。

それは誰かがトぶまで続いた。

県予選程度ならまだ新技は使わなくて大丈夫だね。

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