勇者「やい魔王! 覚悟しろ!」 (13)
魔王「すやすや寝ていたら勇者に襲撃された」ムニャムニャ
魔王「どーしましょー困っちゃったわー」
勇者「おい、何を呑気に髪をセットしている! 俺はこっちだ!」
魔王「さーてと、目玉焼きでも焼こうかな」
勇者「俺よりも目玉焼きの方が価値が高いだとッ……!?」ガーン
勇者「良いか!? 俺は王から直々に魔王討伐の命を受けておるのだ! 貴様の首を持ち帰らねば俺は勇者としての面目が丸潰れなのだ!」
魔王「そうだ、卵切らしてるんだったー。しょうがない、トーストにしよ」
勇者「卵が無いだのトーストにするだの関係ない! 貴様には死んでもらうッ!!!」ドヒューン
魔王「めんどくさい子だなぁ……ほれ」ゴウッ
勇者「なっ……!? 炎が部屋一面に……ぐあぁ! 暑いッ!!!」ゴロゴロ
魔王が指を鳴らすと勇者の鎧を焦がしていた炎はパッと消えた
魔王「ホントに炎を出したと思ってるのー? 今のは幻覚だよ、幻覚」
勇者「ま、魔王が幻を見せるなど……事前情報には書いていなかったぞ!」
魔王「事前情報?」
勇者「そうだ、出発前に王から魔王の住処や弱点、その他プライベート関係何から何まで記された書を賜ったのだ」
魔王「勇者さんって全部人任せなんだねー。だから弱いんだよ」
魔王「その情報もきっと国王の妄想だからガセだし」
勇者「確かに、魔王の外見はフンコロガシに酷似していると書には記されているが実際は……」
勇者「綺麗なJKではないか……」
魔王「お仲間さんはどうしたの?」
勇者「仲間? そんな者はいない!」
魔王「あらら、途中で死んじゃったのかな」
魔王「ここに来るまで大変だったろうねぇ。野獣の谷に死の砂丘、それを越えたと思ったら最後に一酸化炭素の充満した森」
勇者「違う! 俺は……」
魔王「ん?」
勇者「俺は、俺は……」グスン
勇者「ボッチだったんだ……それも国単位のいじめさ」
勇者「父上が、母上が……いや、町の皆が俺を無視するのだ」
勇者「国王はガセ情報以外仲間も、武器も、金すら与えてくれなかった」
勇者「別に殴られたり蹴られたり肉体的な苦痛じゃ無いんだが、精神的に来るものがあった」
勇者「魔王よ、貴様は毎日気楽に過ごせてさぞ愉快であろうな」
魔王「ううん、そうでもな……」
勇者「そうでもない? よくそんなことが言えたな!」
勇者「ここで貴様を殺し首を王に献上すれば、俺の人生は180°変わる。皆も俺を無視しなくなる」
勇者「ストレスの溜まり切った世界はもうたくさんだぁ!」
勇者は再び安物の剣を手に取ると、魔王に向かって駆け出した
魔王「性懲りも無くまた戦いを挑んで来たかぁ……」
魔王が右手人差し指をくるくると回すと、今度は指の先端から矢が飛び出し勇者のふくらはぎを貫いた
勇者「うがぁぁ! あ、足がいてぇ~~~~!」
魔王(少し可哀想だけど、この技が薬になるのなら仕方ないね)
魔王「勇者さん、あなたは国王に騙されてるだけだよ」
勇者「だ、騙されている? そんな話誰が信じるか!」
魔王「冒険するのに十分な装備を与えない王なんて、ハナからあなたを殺しにいってるよ!」
魔王「魔王討伐は建前上で、本当は勇者さんを間接的に殺すのが目的だったのかも」
勇者「バカな、懐柔しようとしたってそうはいかんぞ!」
勇者「俺は王を信じている! だからこそ下された命には従わねばならんのだ!」
愚かな男は痙攣する足を押さえ、よろよろと立ち上がった
勇者(誰からも褒められず、信じられず、ただただ『空気』の様に生きてきた)
勇者(だが王は、俺を信じて大任を任せてくれた)
勇者(報いなければ……報いなければ人間として最低な……)
直後、魔王の業火が勇者を包み込む
灰燼と化しつつある勇者を魔王は悲哀に満ちた目で見つめていた
~数時間後~
灰の中から生まれた幼き竜に魔王は微笑みを浮かべた
魔王「勇者さん、これからは私があなたの主君だよ」
魔王「私は絶対に裏切らないから……良かったね、本当の『味方』ができて」
竜「ピィピィ」
竜の鳴き声は少し悔しそうで、そして幸せそうであった
ふと、焦げた匂いが魔王の鼻についた
魔王「なんだろ、変なにお……」ハッ
魔王「いやぁああああ! パンが焦げちゃってるー!!」
魔王「これじゃあ食べられないよ……お腹空いたなぁ~」トホホ
今日も世界は平和です
~完~
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