「おい、苗木はどこだ?」
「苗木君なら今日はお休みよ」
「休みだと!?」
「えぇ、有給を取って」
「そもそもこの未来機関に有給などあったのか!?」
「十神君、この国には労働基準法というものがあるのよ。知らないの?」
「それぐらい知っている!馬鹿にしているのか、霧切!」
「俺が言いたいのは世界がこんな状況であるのに法だの有給だの言っている場合ではないということだ!」
「世界がこんな状況であるからこそ以前までの考え方を大切にするのは重要だと思うけど?」
「だからと言ってこの多忙な時に勝手に休みなど取るのはおかしいだろう!」
「見ろ、処理しなければならない書類がこんなに残っているんだぞ!」
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「苗木君なら一ヶ月ぐらい前には既に有給の申請を出していたわ」
「何だと!?俺は知らんぞ!そんなもの!」
「十神君に言えば面倒なことになるから敢えて言わなかったんじゃない?」
「ふざけるなっ!連れ戻してくる!」
「ヤツはどこに行った!?」
「市街地跡」
「何ィ!?絶望の残党達がどこに潜んでいるのかわからないんだぞ!?」
「市街地跡など襲ってくれと言っているようなものではないか!」
「どこまで愚かなんだ!?アイツは!」
「そうね、考え無しの実に愚かな行為だわ」
「それでも行かなければならない用事があるんでしょう?」
「なんなんだ、その用事は」
「人に会いに」
「…人?」
「誰だ?苗木がそのような危険を冒してまでして会う人間というのは」
「…」
「十神君、今日って何の日か覚えてる?」
「ソロモン諸島がイギリスから独立した記念日だが?」
「そんなどうでもいい記念日は忘れなさい」
「今日は七夕よ、十神君」
「あぁ、あったなそんな庶民共の慣習が」
「7月7日、七夕の一日だけ天の神様の計らいで彦星は織姫に会えるのよ」
「だから今日ぐらいは彼も…」
「ふん、成る程」
「やはり愚民の考え方は理解できんな」
「死人に会いに行ってどうすると言うのだ」
苗木「…」
苗木「痒っ!」
苗木「くっそ!虫除け塗ってくればよかった!痒い!痒い!」ボリボリ
苗木「はぁ…今日だけで何匹に刺されたかな」
苗木「…」
苗木「はぁ…」
苗木「星…綺麗だなぁ」
苗木(明かりの無い都市)
苗木(破壊し尽くされ、絶望に満ちた都市)
苗木(だからこそ)
苗木「だからこそ、星が良く見える」
苗木「はぁ…」
「さっきからため息多いけどどうしたの?」
「ため息一つで幸せが一つ逃げていくらしいよ」
苗木「みんなどこにいるかなぁって思ってさ」
苗木「大和田クンとかあれかなぁ?なんだっけ?あの星」
「アンタレスだよ」
苗木「そうそう、アンタレス」
苗木「じゃあ、そのアンタレスの近くにいるちょっと弱そうに光ってるのが不二咲さんかな」
「あれはシャウラかなぁ」
苗木「へぇ、さすが物知りだね」
「でも僕を創ってくれたご主人タたまはちょっと弱そうなんかじゃないと思うなぁ」
苗木「ははっ、そうだね。うん」
苗木「じゃあ、あっちの一番明るい星は?」
「こと座のベガ、つまり織姫様だよ」
「それで右の方にあるのがアルタイル、つまり彦星様」
「それと上のほうにある白鳥座のデネブを結んで夏の大三角っていうんだよ」
苗木「…」
苗木「それじゃ、あのアルタイル、つまり彦星がボクなんてどう?」
「ご主人たまはまだお星様にはなってないよ?」
苗木「そっか、そうだったね」
苗木「ボクはまだここにいるんだった」
苗木「…」
苗木「それじゃあ、この暗闇で一番輝いてる織姫様が」
苗木「舞園さんかな」
苗木(織姫と彦星の間柄は天の神によって引き裂かれる)
苗木(本当は一年に一度きり天の神が作る橋を渡って織姫と彦星は会えるんだけど)
苗木(その天の神はボクが殺した)
苗木(だからもう彼女には会えない)
苗木(彦星はもう二度と織姫には会えない)
苗木「ねぇ、アルターエゴ」
「んー?」
苗木「いつかさ、この廃墟が昔みたいに明るい都市に再生したらさ」
苗木「この星空はどうなっちゃうかな?」
「お月様ぐらいは見えると思うけど」
苗木「あんなに明るい星も見えなくなるのかなぁ?」
「ベガはゼロ等星で強い光だけど都市の明かりの方がずっと強いから…」
苗木「…そっか」
苗木(この世界は江ノ島盾子の死によって)
苗木(絶望に満ちた世界から希望に満ちた世界へと変わっていくだろう)
苗木(いや、ボク達が変えてみせる)
苗木(必ず変えてみせる!)
苗木(…)
苗木(…じゃあ)
苗木(この星空はどうなる)
苗木(消えていく?)
苗木(絶望と共に希望にかき消されていく?)
苗木(世界の中から)
苗木(ボクの中から)
苗木(消えていく)
苗木「舞園さんが消えていく」
苗木「一生引きずって生きていくと決めたのに」
苗木「否応無しに消えて無くなる」
「…」
苗木「彼女の笑った顔が消えて」
苗木「困った顔が」
苗木「泣いた顔が」
苗木「真面目な顔が」
苗木「恥ずかしそうな顔が」
苗木「冗談を言った後の顔が」
苗木「絶望に沈んだ顔が」
苗木「死に顔が」
苗木「消えていく」
苗木「ボクの中から消えていく」
苗木「ボクにはそれが」
苗木「とても」
苗木「とても怖いんだ」
「消えないよ」
苗木「消えるんだよ」
苗木「どんなに頑張って覚えていようとしても」
苗木「人は前に進めば進むほど忘れて失っていくんだ」
「消えない」
苗木「消えるんだよッ!」
苗木「人はお前みたいに全部覚えとけないんだよ!」
苗木「集積回路があって、数値化して、そうやって全部覚えとくことなんて人間にはできないんだよ!」
苗木「だからボクは―」
「消えないッ!」
「消えたりしない!!」
「苗木君が前に進むことを忘れない限り…」
「私達はずっと隣にいるよ」
「苗木君」
苗木「―ッ!!」
苗木「ま…」
「んー?」
「あ!ご主人たま!?」
「ごめんね、なんだかさっきから端末の方の調子が悪くて…」
「あれ?ご主人たま?」
「泣いてるの?」
苗木「…ぁ」
苗木「…ううん、大丈夫。なんでもない」
苗木「心配してくれてありがとう、ボクは大丈夫だよ」
「…?」
苗木「さ、そろそろ帰ろうか、アルターエゴ」
苗木「霧切さん達が心配してるかもしれないし」
「うん!」
苗木「…」
苗木「…舞園さん」
苗木「誕生日おめでとう」
苗木(青白く光るその星が)
苗木(少しだけ瞬いた気がした)
終わりっす。html出してきます
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十神くんがあほでわろた