P「振り子と」 男「チーズケーキ」 (74)

これは「振り子とチーズケーキ」という演劇作品をベースに
アイドルマスターの要素を加えて、
まだプロデューサーにもなっていない男が妄想を繰り広げる話です。
あとアイマス要素は出てくるまでの前置きが長いです&割と少な目です

あらかじめご了承ください。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1404053030


スーツを着た男(以下スーツ)『ある人はそれを見て喜んだ。ある人はそれを見て悲しんだ』

『2人が見ていたのはとあるフェスの決着の様子。応援しているアイドルが勝った人と、負けてしまったアイドルのアンコールが見たかった人』

『立場によって、全く違って見えていたんだ』

『ある人はそれを見て「正方形」といった。またある人はそれを見て「長方形」といった。またある人はそれを見て「三角形だ」といった』

『3人が見ていたのは一切れのチーズケーキ、側面と、断面と、上面。角度によって全く違って見えていたんだ』

『3人は全く違うことを言ってるのに誰も嘘をついていない。論点によって尊重される意見が異なる』

『尊重される意見を出した人が偉いというわけではなく、発想を切り替えることで違うものが見えてくるというお話』


青いエプロンを着た男(以下男)「いらっしゃいませー、はい?ああそれだったらこの通路奥の大判書籍のコーナーに。こちらへどうぞ」

スーツ『彼は彼であり、私です。私は彼の頭の中にいる存在』

男「あー、無いですね。あるとしたら876プロ図鑑と573プロマスターガイドの間の所なんですが、売れちゃったかもしれませんね。次回の入荷予定調べましょうか?」

スーツ『このアイドルショップに勤めてもう結構経ちます。最近転職も考えてますが、ここに居ればどんなアイドルの事も知ることが出来るし、今のままでもそこそこ安定してるし、一歩踏み出せずにいます』

男「へぇー、今流行のスクールアイドルの特集記事に推しの子が、良いですねぇ」

スーツ『本当は良いと思っていません』

男「スクールアイドルって知る人ぞ知るって感じで良いですよねぇ」

スーツ『思ってません』

男「全国のスクールアイドルフェスティバル公演を行脚、最高じゃないですか」

スーツ『思ってません』

スーツ『彼の生活は極めて狭い世界の中で完結しています。一人暮らしの自宅と、徒歩20分のショップを、振り子のように往復する毎日』

『ここに勤めてからというもの、この国どころかこの県すら出たことがありません』

男「あー、もう今週は入荷予定無いみたいですね。うちは年末年始は入荷が無いので次の入荷は年またいじゃいますね。はい、またご利用ください」

「ライブツアーを行脚ねぇ」

スーツ『ライブに興味がないわけではありません、それどころか彼の夢はそれ以上のものでした』

男「おっ、765プロオールスターライブの映像化情報が来てる…はい?」

スーツ『高校生のお客さんのようです』

男「友達の話題についていくために流行りのアイドルが知りたい?」

「色々あるよ、秋葉原の学校のスクールアイドルのインタビュー本とか、地方のご当地アイドルのグッズとか、カードゲームを取り入れたカツドウをするアイドルの映画とか」

スーツ『彼の夢は今上げたアイドルたちにも負けず劣らずのアイドルを育て、自分のプロデュースしたライブを開催することでした』

男「765プロアイドル名鑑が気になりました?どれどれ…あー、予約してる人の分しか残ってないですね」

スーツ『彼が予約してる分です』

男「この一角はほとんど765プロのコーナーですからゆっくり見ていってください、はい」

男「…」

スーツ『…』

男「なんか最近気配を感じるな。休憩行ってきまーす」


スーツ『ショップの近くには公園があり、ベンチが並んでいます。彼は休憩時間にはいつもここで弁当を食べ、本を読んだりして時間をつぶします』

男「少年よ、悪いな。765プロアイドル名鑑は俺がいただいた。いやー楽しみにしてたんだこの本。うーん新品のインクのいい匂いだ」

スーツ『巻頭のスナップショット集を楽しもうとした矢先、ベンチになにか置いてあるのを見つけました』

男「誰か、場所取ってるのか?…なんだこれ、ファイルか」


[765プロ プロデューサー決定用自己PRシート]
[これは我がプロダクションに所属するアイドルを適切なプロデューサーに委ねるために各アイドルからの自己PRを募ったものである]

男「なんだって!765プロの!?」

「でもどうしてこんなものがこの公園に…よし、このままここに置いておこう。そうすれば落とし主が探しに来る」

「さてさて、765プロ名鑑の次の記事はー…」

「やっぱり気になる。放置しておいて変な人に拾われたりしたらどうしよう。これ、明らかに重要なファイルだよなぁ。アイドルのプライバシーをのぞき見して興奮するような変態野郎に拾われたりしたら大変だ」

「よーし!彼女たちは!!俺が守…はい?なんだあなたでしたか」

スーツ『常連のサラリーマンです』

男「あなたのファイルじゃないですよね?ですよね。はい?年始の営業時間?いつも通り元旦から10時開店ですよ、はい。よいお年を」

「ふー焦ったー。持ち主かと思った。このタイミングで持ち主が現れたら、俺が持って帰って読もうとしてるみたいじゃねーか。俺はそんなことしない。俺は変態じゃない」

「とはいえ、外見には落とし主の名前も連絡先も書いてないし、でも会社に直接届けたら落とした人は責任を取らされちゃうかもしれない。だから落とし主を探るためにしかたなく中を見るしかないのか…」

「しかし自己PRなんて個人的なファイルだし見るとしても最小限の調査にとどめなくては。書いた人の名前とかさえ見つかればなんとかなる…いや、なんとかする!」

「彼女たちは必ず!俺が守…はい?なんですか」

スーツ『スーツを着たメガネの女の人です。もしかしたらファイルの落とし主かも』

男「もしかしてこれですか?いや別に持って帰って中を見ようとかそういうわけじゃあ違いますかすいません」

スーツ『違いました』

男「この辺にアイドルの専門店?はい、そこの道路の向こう側にあるビルの3階に。はい、すいません。…すいませんでした」



「焦ったー。俺、店の外で、女と喋っちゃったよ。急に話しかけてくんじゃねーよ。女とか言ってワケわかんねー。こっちはせっかくの休憩時間だってのに」

「…よし中を見るぞ」

「…」

スーツ『…』

男「…なんか視線を感じるなぁ。俺の中に後ろめたい気持ちでもあるんだろうか?よし、自分の心の声に耳を傾けてみよう」

スーツ『へっへっへ、今をときめく765プロアイドルの資料、何が書いてあんだぁ?読んでやる、舐めまわすように読んでやる。人には言えないプライベートでのあれこれを赤裸々に』

男「バカッ!俺のバカッ!!」

「後ろめたい気持ちの時に感じる視線って誰の何だろう?…自分か」

スーツ『その通り、私は君自身だ』

男「よし、自分自身に言い訳をしよう」

スーツ『聞こう』

男「私がこのファイルを見るのは、アイドルショップの店員として、果ては一アイドルファンとして、ここに記されているアイドルのプライバシーを守るために、あくまでも必要最小限の調査として読むわけだからね」

スーツ『ほうほう、それでそれで』

男「これが765プロと書いてあって、アイドルの事が書いてありそうな中身だから見るわけじゃないんだからね」

スーツ『ほうほう』

男「例え、これが「株式会社ブラックオアホワイト」とかそういう明らかにアイドル関係なさそうな名前だったとしても、俺は、全く同じ行動をとりますからね」

男「従って、後ろめたさはないんだからね」

男「あくまでも、親切心とか、正義感とか道徳観とか倫理観とか責任感とか…」

スーツ『分かったから!』

[自己紹介の後、理想のプロデューサー像を教えてください]

[天海春香 17歳です。アイドルを目指したのは子供のころから歌が好きだったからです。私を担当するプロデューサーさんは、私が作ったお菓子を食べてくれたり、転んだ時に受け止めてくれるようなやさしい人がなってくれるといいなぁと思います。]

[如月千早 です。プロデューサーの希望ですか?強いて言えば歌の指導をしてくれる人が良いです。え、性格?真面目が一番だと思いますよ。もっと具体的に?強いて言えば、明るい人がいいとおもいます。私はそんなに明るいわけじゃないので…]

[きゃるる~ん!菊地真で~す!ボクの理想のプロデューサーは、お姫様の役とかを取ってきてくれて、ふりふりの衣装とかを着させてくれる紳士的な人がいいとおもいま~す!え?何雪歩。そんなの誰も望んでない!?そりゃないよ~]

[えー?私にも聞くんですか?私はもうアイドルじゃあ…。わかりましたよ、同じプロデューサーとしては…へ?アイドルの立場で考えるんですか?そうね、やっぱり頭のキレる人ですかね。こう頭脳派というかやり手って感じの。…まだ何か?ああ、秋月律子でした]

[水瀬伊織ちゃんでーす!にひひっ。私のプロデューサーになる人なら、芸能界の風雲児で、私の隣にいるにふさわしい都会的な雰囲気を持った人ね。あと、私のいうことに忠実なのは言うまでもないわ]

[四条貴音と申します。私のぷろでゅうさぁへの希望ですか?それはとっぷしぃくれっとです。しかし、私のらぁめん探訪についてこられるような健啖家だと好ましいですね]

[自分は我那覇響って言うんだ。 自分のプロデューサーへの希望はー、うーんそうだなー、仕事の間自分の家族の面倒を見てくれる牧歌的でアウトドア派な人がいいかな]

[高槻やよいです。プロデューサーさんの事ですか?私はみんなと仲良くしてくれる人だといいかなーっって。…そこをもっと具体的に?仲良くしてー…一お買い物を手伝ってくれたり勉強を教えてくれたりする頼りがいのある人がいいかなーっって思います!]

[亜美だYO!亜美のプロデューサーになる兄(c)はねぇ、亜美のせくちーさをパワーアップできる敏カンプロデューサーじゃなきゃね!あとあと、亜美とゲームするんだから機械に弱い人じゃだめだかんね!]

[真美だYO!真美をプロデュースする兄(c)かぁー。やっぱ真美達と対等に戦えるくらいゲームがうまい人じゃないとねー。それからー真美たちがイタズラしても笑って許してくれる心の広い兄(c)がいいなー]


[あふぅ、え?もう始まってるの?…星井美希だよ。ミキのプロデューサーの希望はー、あんまり厳しくないほうがいいなー。あーでもやっぱりミキをトップアイドルにすることにとっても情熱的な人かな]

[三浦あずさです。私のプロデューサーの理想ですか?そうですね、陽気な人とかだと楽しいんじゃないかしら。あと私…よく迷子になるので、私を見つけて導いてくれる、積極的な人がいいですね]

「萩原雪歩です、男の人は苦手なのでプロデューサーの希望と言われても…。あっそうだ、お茶が好きな人ならお話が出来るかも…茶葉の違いが分かる人とかすごいと思います!」


男「全部読んじまった…」

「すごいなー、全員分の聞き取りが載ってるし。その結果プロデューサーになった人の書き込みもすごい量だ」

「ということは、この聞き取りに出てくる理想を全部合わせれば、それが765プロの理想のプロデューサーになるって訳だ」

「えーっと、優しくて」

スーツ『いやぁ、君の作ったクッキーは最高だね!ハハハ…おおっと危ない!転ぶなら俺の方に倒れて来な!受け止めてやるから!』

男「明るくて」

スーツ『さぁ今日はレコーディングだ!!大丈夫!今日も君の歌は最高だ!自信をもって歌ってくるんだ』

男「紳士的」

スーツ『今度の仕事は英国紳士の役だ。俺が手本を見せるから真似して紳士の振る舞いを勉強するんだぞ。英国紳士にとって知識と教養は…ホラ、あれだから』

男「頭脳派で」

スーツ『今日の分の事務処理は全部俺が片づけておいたよ。なに、俺の頭脳をもってすればこれしき、パソコンを使うまでもないことさ』

男「都会的で」

スーツ『ところで、今日は一緒に夕食でもどうかな?行きつけの店があってね、紹介したいなと前から思っていたんだ』

男「健啖家」

スーツ『着いたぞ。ラーメン二十郎インスパイアの優勝亭だ。富士山ラーメン大、ヤサイマシマシニンニクカラメで。ははっ軽い軽い。まだ物足りない?よしじゃあ隣町の二十郎行くか!』


男「アウトドア派で」

スーツ『今週末はみんなでキャンプに行くぞ!バーベキューに釣りにキャンプファイヤー、楽しいぞー!』

男「頼りがいがあって」

スーツ『なに?テントの張り方がわからない?俺に貸してみろ。ほら、こうして、こうだ!今度は火の起こし方がわからない?俺に任せろー!』

男「機械に強くて」

スーツ『山の中で迷子になった?大丈夫、こんなこともあろうかとお前たちに渡した765プロバッチにはGPSがついているんだ。ホラもう場所が特定出来た、迎えに行ってくる』

男「心が広い」

スーツ『ごめんなさい?何言ってるんだ。お前たちが無事で何よりだ!さあ明日は早起きして釣りに行くからもう寝るんだ、おやすみ』


男「情熱的で」

スーツ『さあ今日もトップアイドル目指してレッスンだ!何、眠い?そんなことじゃキラキラなんてできないぞ!!さあ立つんだ!』

男「積極的で」

スーツ『その代り、今日のレッスンをがんばったらご褒美を上げよう。なんだっていいぞ?デートしてほしい?ああいいとも。じゃあ待ち合わせ場所の喫茶店の住所をメールしておくよ、いってらっしゃい』

男「違いの分かる男」

スーツ『この喫茶店は緑茶がすごくおいしいって評判なんだ。マスター、彼女に特製緑茶を。俺はエスプレッソダブルを…ダブルで』


男「自分で想像しておいてなんだけど…居るか?こんなやつ」

スーツ『うーん、このふくよかな香り。レインボーマウンテンだな?』

男「それは缶コーヒーだろ」

スーツ『基本的にはそのファイルにある通りなんだから仕方がないでしょう。まあ随分あなたの想像で補われちゃってますけどね』

『で、どうですか?ファイルの持ち主の事、何かわかりましたか?』

男「それがさ、持ち主個人の情報については全然書いてないんだ。アイドルへの聞き取りとそれに対して書き込みをしてるだけで、名前も住所も連絡先も持ち主の個人像につながるものがないんだ」

スーツ『そうですか、でもそれだとあなた今の所、ただ人のプライバシーを覗き見た人ですよ?』

男「それだけは避けたい」

スーツ『ならば持ち主にたどり着きましょう。まず持ち主の書き込みからおさらいしていきましょう。まず各アイドルのPRについてのコメントから』

[天海春香 普通だった。 初顔合わせだというのに、クッキーを作ってきてくれていた。聞き取りにあった通り突然転んだが、何とか助けることが出来た]

スーツ『おお、このクッキー手作りなんですか。凄いなぁ。あ、天海さんそこにバナナの皮が…危ない!いてて、怪我はない?僕は大丈夫。怪我がなくてよかったよ』

[如月千早 小さかった。歌うことが好きだというのでアカペラで歌ってもらった。既にかなりのレベルに達していたので最初は希望通り歌の仕事を重点的に取ってこようと思う]

スーツ『ちょっと歌ってみてもらってもいいですか?…この歌は、「蒼い鳥」か、いい歌だ。そうだ早速だけどジャズBARのステージの仕事を見つけて来たんだ、やって見ないか?』

[双海亜美 とかちかった。ゲームで勝負しようと言われたが、事務所にあったニンテンドウ765の調子が悪かったようなので診てあげた]

スーツ『親睦を深めるためにゲームで勝負?いいだろう。あれ、ゲーム機の調子が悪いみたいだ。ちょっと待ってな………ほら直った、なぁにいいんだよこれ位、機械弄りは英国紳士の嗜み、コーヒー豆の違いを見分ける位に朝飯前なのさ』

男「いろいろ混ざってきた…」

スーツ『でワトソン君』

男「違うけど」

スーツ『今の所、君はどう推理してるの』

男「そうだなー、これだけ書き込みをしてるってことは几帳面な人かな」

スーツ『はいはいはい、たしかに全員としっかり面談してるみたいだしね。うん、決まりだな』


男「いや、違うな」

スーツ『どうしてそう思うんです?』

男「確かに一見そう思えるけど、第一印象の書き方とか酷いぞ、普通だった、小さかった、とかちかった、大きかった、あふぅかった、デコかったとか。それにここんところ見ろよ」

[音無小鳥 アルテッキ ヤンソン・フレステッセ ブリート カイピリーニャ]

スーツ『カイピリーニャ?』

男「これがなんなのかもわからない」

スーツ『でも、そのあとの行動は比較的まともに書かれてるじゃないか、ホラ』

[三浦あずさ 大きかった。よく迷子になるということを気にしているようだったので、とりあえず最初に連絡用の電話番号とメールアドレスを聞いておいた]


スーツ『電話番号とメールアドレスを聞いておいた』

男「ああっ」

スーツ『電話番号とメールアドレスを』

男「ひぃ」

スーツ『初対面の女性から何の抵抗もなく連絡先を聞き出せる奴!』

男「痛烈な劣等感!!」

スーツ『そんなに女性が苦手なのに、夢はアイドルのプロデューサーなんですよね?』

男「憧れてんの、敏腕プロデューサーな大人の男に。俺の小さな〝向上心”だよ」

スーツ『向上心…素晴らしい』

男「几帳面って線は消えたか…」

スーツ『几帳面って線は消えたな』

男「とはいえ、コメントの様子を見るに初対面からかなり親しくなれてることは確かだ。かなり女性慣れしてる人か?」

スーツ『はいはいはい、初対面から結構落ち着いて分析できてるしね。うん、決まりだな!』

男「いや違うな」

スーツ『どうして?』

[萩原雪歩 白かった。初対面では柱の影から出てきてくれなかった。どうしたものか頭を抱えているうちに、初回の面談時間が終わってしまった]

男「女性慣れしてるってんならこれくらい何とかできるだろ」

スーツ『確かに』

男「それに、連絡先は聞いててもそもそも迷子にならない方法を考えなきゃいけないはずだし、他の面談にしたって女性慣れしてるって言うには行動がどうも…奥手というか」

スーツ『童貞っぽいと』

男「女性慣れって線も消えたな」

スーツ『女性慣れって線も消えたな』

男「…」

スーツ『几帳面って線は消えたな、女性慣れって線も消えたな』

男「おいスーツ」

スーツ『はい』

男「このコミュニケーションって、意味あるのか?」

スーツ『と、申しますと?』

男「俺の想像上の存在であるお前と会話したって…言うなれば自問自答だろ?」

スーツ『はい、そうですよ。でもね、「一切れのチーズケーキも角度を変えれば違って見える、発想を切り替えるんだ」』

男「その台詞なんだっけ?…ああ昔読んだ小説に書いてあった話だ」

スーツ『はい、あなたの頭の中に居る私が、あなたが忘れかけている話を思い出すきっかけになってるわけです。自問自答しなきゃこの現象は起きません』

男「やるじゃないか、よぉし。発想を切り替えて推理しよう」

「この人、全員と顔を合わせてから誰かの担当になったとか、この子を担当したいとかの書き込みが見られないけど。まさか全員を1人で見てるなんてことはないよな、そもそもそんなことが可能なんだろうか」

「もしかしてこの持ち主は…忍者なのか!?」

「忍者なら影分身とかを駆使して765プロ全員をプロデュースするくらいじゃないとできるはずだ」

「いや、こんな地方の公園に忍者は何の用があったんだろうか…」

「もしやプロデューサーに変装した忍者がこの町で重要な密書の受け渡しを…」

「忍者といえば服部半蔵、つまり密書を装ったこのファイルを受け取るのは徳川家康だ!」

スーツ『決まりだな!』

男「そんなわけないだろ!!」


男「ますますわからなくなった」

スーツ『思考が暴走しましたね。これを自問自答の悪循環といいます』

『今のは推理というより、ファンタジーだね。徳川家康出てきちゃったもん』

男「もういい、お前の力は借りない。自分で考える」

「...」

スーツ『落ち着くんですよねトイレの個室が』

男「そう、昔から」

スーツ『ちょっと休憩しますか』


[水瀬伊織 デコかった。最初は礼儀正しいお嬢様みたいな振る舞いだったけど、猫かぶってた。飲み物を買いに走らされ、自販機でオレンジジュースを買って行ったら100%のじゃないとデコからビームを喰らいもう一往復させられた。]

[四条貴音 不思議だった。書類も質問の答えもトップシークレットばかりで最高機密ってなんだっけ、ってなった。面談を一区切りして飯に行こうと思ったら通りでまた会った。せっかくだから一緒に行こうと言うことになった。不思議な雰囲気に流されているといつの間にか彼女のお気に入りのラーメン屋にいくことになってしまった。牛丼屋な気分だったんだけどな。行列に並んでる間は、結構親しく話せたと思う。午後も面談があるのでニンニクは抜いた]

[我那覇響 ちっちゃかった。開口一番に貴音とラーメン屋に行ってたことを突っ込まれたが、動物の話やこれまでの活動の話になると途端に上機嫌で話すようになった。悪いやつに騙されたりしないかちょっと心配になる。彼女は沖縄料理が得意であり好きらしい。自炊のバリエーションを増やしたいし教わってみたい気もする]

男「行列の出来るラーメン屋か、人生の楽しみ方がメジャーだな」

「それにに比べて俺の食生活なんて8割方コンビニで形成されてるもんな」

スーツ『沖縄料理ですって』

男「チャンプルーか、炒めるくらいだったら出来るぞ」


男「さあ、おあがりよ」

スーツ『おぉっと、これは…酷いよ』

男「この煮干しチャンプルーは出来損ないだ食べられないよ」

スーツ『やれやれ、あ!スウェット借りていい?』

男「お前は泊りに来た妹か」

スーツ『妹じゃねーよ、お前の想像上のお前だよ』

男「知ってる知ってる」

スーツ『でも、私だってくつろぎたいんですよ』

男「あのね、別に俺、くつろいでるわけじゃ無いんです。こう見えて考えてるんだから。果たして、このファイルの持ち主は何者か?」

スーツ『単純にこのファイルの持ち主はとんでもない完璧超人ってことなんですかね』

男「一番乱暴な推理だけど、そうでもなきゃ説明がつかないよなぁ」

「彼女達の理想は、優しくて、明るくて、紳士的で、頭脳派で、都会的で、健啖家で、アウトドア派で、頼りがいがあって、機械に強くて、情熱的で、積極的で、違いの分かる、カイピリーニャ」

スーツ『カイピリーニャ?』

男「こんなやつが765プロ理想のプロデューサーなのか」

スーツ『一つ勘違いしてほしくないんですけど、私は厳密には彼女たちの理想像ではないですからね』

男「は?」

スーツ『あくまでもあなたがそのファイルから想像したあなたが想う彼女達の理想ですからね』

男「そうだそうだ、俺の想像も入ってるんだった。」

スーツ『そういうこと』

男「うーん。なぁ、なんか考えつかないのか?俺は」

スーツ『いえ、何も』

男「ちょっと立ってるついでにアイスコーヒー取って」

スーツ『…まったく、人使いの荒い兄貴だ。ねぇ、お正月どうするの?お母さんも心配してるよ。ま、思ってたよりちゃんと暮らしてるみたいで安心したけど』

『俺は泊りに来た妹か!』

男「妹じゃねーよ、俺の想像上の俺だよ」

スーツ『知ってるし今のもお前の想像上の妹だよ』

男「はぁ…」

スーツ『妹が欲しいんですよね』

男「そう、アレがいい。菊地真みたいな子がいい」

「あーあ、ファイルの持ち主はどんなプロデューサーかなぁ」

スーツ『じゃあさ、君だったらどんなアイドルを担当したい?』

男「菊地真」

スーツ『そんな好きか』

男「大好き」

スーツ『じゃあさ、菊地真に、このファイルを返してみたら』

男「これ、公園のベンチに置いてあったぜ」

真(スーツ)『わぁ、これなくして困ってたんです』

男「良かった、じゃあ俺はこれで…」

真『プロデューサー!僕、明日オーディションがあるんです』

『どこまでやれるかわかりませんけど、頑張ってきます!!』

男「真…フレー!フレー!まーこーとー!」

真『はいっ!じゃあ。いつものやつお願いします!せーの、ダーン!やーりぃ!!』

スーツ『なーんてね』

男「ダメだ、これ以上続けると妄想の世界から出られなくなる」

スーツ『でも、この大人っぽい字は菊地真じゃあないかもな』

男「じゃあ誰?」

スーツ『四条貴音』

男「ああ、面妖」

スーツ『面妖』




男「これ、公園のベンチに置いてあったぞ」

貴音(スーツ)『これは…なくして困っていたのです』

男「じゃあ、あっしはこれで」

貴音『お待ちくださいプロデューサー、何かお礼をしなければ…』

男「いやいやそんな」

貴音『そうですね、私のおすすめのらぁめん店をご紹介いたしましょう』

男「いやそれ自分が行きたいだけじゃ」

貴音『ネクタイがしっ』

男「あっ」

貴音『ズルズルズル』


スーツ『いやぁ、素晴らしい想像力ですね』

男「おおぉ、お金払ってもいい」

スーツ『なんて事言うんだ』

男「でもなぁ、高翌嶺の花だよなぁ」

スーツ『どうして、そう思うんです?』

男「だって菊地真と四条貴音を足して2で割ったような人だろ」

スーツ『完全に主観だけになった』

男「それにさ、彼女たちの好みのタイプは優しくて、明るくて、紳士的で、頭脳派で、都会的で、健啖家で、アウトドア派で、頼りがいがあって、機械に強くて、情熱的で、積極的で、違いの分かる、カイピリーニャだぜ」

「どれ一つ俺には当てはまらないよ」

スーツ『そうですか?情熱的な所とか結構あるんじゃないですか』

男「何に?」

スーツ『アイドルのDVD見てる時とか』

男「あのね、DVDとかいろんな趣味の中で情熱を表しにくい部類でしょう」

「うぉおおおおお ってライブでコールはできるよ」

「うぉおおおおお ってオタ芸はできるよ」

「でも、うぉおおおおお ってDVDは見られないだろ」

スーツ『そうやって見てる人は…見てないですね』

男「そういうこと」

スーツ『じゃあ機械に強いとかは』

男「ない、ちょっと見た目がそれっぽいからって店でも〝パソコンが動かないよー”とか、よく言われるけど俺別にパソコン詳しいわけじゃないからね」

スーツ『USBって何の略?』

男「裏表が 逆さまだと バキってなる」

スーツ『携帯はスマートフォンにしないの?』

男「携帯電話なんて電話とメールが出来ればいいだろ」

スーツ『でも職場でLINEのやり取りしてるの見てうらやましくなったりはしてるんでしょ』

『あとWindows95のことをプレイステーション10みたいなギャグだと思ってましたよね』

男「うるさいなぁ、機械なんていうこと聞かなくなったら叩けば直るもんだよ」

スーツ『むしろ違う意味で機械に強いんじゃないかな』

『あ、じゃあ音楽方面とかは?』

男「無理無理」

スーツ『ギター持ってるじゃん』

男「商店街の、福引でもらった」

スーツ『…本当は?』

男「買った、モテようと思って」

スーツ『知ってる知ってる、自分を偽るな』

『何日で挫折したんだっけ?』

男「2時間…」

スーツ『もうちょっと頑張れよ』

「『はぁ…』」

スーツ『情熱的でもない、機械に強くもない、紳士的でもない、頭脳派でもない、都会的でもない、頼りがい…』

男「…」

スーツ『ない』

『後はカイピリーニャか』

男「カイピリーニャな所?ないよ。だって俺カイピリーニャ使ったことないもん」

スーツ『そうですよね。今からカイピリーニャ検定取るには相当勉強しないと』

男「そうそう、昔っからカイピリーニャってるおっさんたちにはかなわないよ」

スーツ『カイピリーニャ日本代表とかの手さばきとか見事だよね』

男「なんかのど渇いたな、カイピリーニャかなんか飲む?」

スーツ『それ使い方あってるでしょ』

男「もうだめ、疲れた、限界」

スーツ『そういう時は、ヤングジャガジン巻頭グラビア。秋月律子』

男「おお」

スーツ『ペラッ、星井美希』

男「おおおっ」

スーツ『袋とじ、ビリビリ、如月千早』

男「…」

スーツ『ペラッ、三浦あずさ』

男「すっげぇ!!」

スーツ『元気じゃないですか。もうちょっと頑張りましょうよ』

男「えー、もういいよ」

スーツ『今のファイルの中にまだヒントが隠れてる気がするんです。もう一度、検証してみましょう』

『水瀬伊織、私のプロデューサーになる人は、…芸能界の風雲児』

男「風雲児…?」

スーツ『ちょっとやってみて』

男「                         わかんないパス」

スーツ『仕事の間自分の家族の面倒を見てくれる…牧歌的』

男「牧歌的…確かに牧場とか嫌いじゃない」

スーツ『あるよ、これはあるよ』

『次は…都会的な雰囲気』

男「あー、それは俺には当てはまらないな」

スーツ『そうですよね、あなたどちらかというと都会というより…干し芋みたいですよね』

男「なんだよ干し芋って」

スーツ『あとは…歌の指導』

男「ダメ、音痴、音感なしパス」

スーツ『次、陽気な人』

男「ダメ、陰気パス」

スーツ『あのさぁ、ちょっとはファイルに合わせる努力をしたらどうなの?』

男「人間には、出来ることと、出来ないことがあるの」

「自転車乗れないやつに練習しろとは言えるけど、蕎麦にラーメンになれとは言わないだろ。いいじゃん素朴で」

スーツ『今の君には蕎麦にすらなれないよ』

男「そーですー、シャーペンの芯でできてますー。筆箱の中で折れてるのがお似合いだよ」

「どうせ俺なんて…」

スーツ『!?』

「意志が弱くて引っ込み思案で平凡で、根暗で田舎者で…」

『   』


男「でもこの牧歌的ってのはヒットしたよなー」

スーツ『   ……そうでしょう』

男「どうした?」

「でも具体的に何したら牧歌的なんだ?」

スーツ『アルパカとか撫でてたらいいんじゃないですか』

男「ああー。でもさ、新たに分からないことが出来た」



スーツ『なんです?』

男「牧歌的で都会的が理想。これって矛盾してない?」

スーツ『そこに気が付きましたか。いいですか、女性というものは、多かれ少なかれ矛盾を孕んだものなんです』

『そういう矛盾する女性の理想を叶えてこそのプロデューサーでしょう』




男「じゃあ、機械に強くて」

スーツ『プリンターが壊れた?どれ見せてごらん。ああパソコンとの接続が途切れてるだけだね、コードを変えてみれば大丈夫なはずさ』

男「でもアウトドア派」

スーツ『この山中で見つけた蔦を使ってコードを作ったんだ。これなら地球にもプリンターにも優しいはずさ』





男「次、違いのわかって」

スーツ『む、この味は!?マスター、もしかしてブレンド変えた?』

男「健啖家」

スーツ『じゃあ今日も大豚ダブルヤサイチョモランマで』

男「こいつは現実世界には存在しえない奇妙なキャラクターだけど」

スーツ『二十郎界の風雲児です』

男「これが彼女たちの理想の塊…」

スーツ『はい、でもね。私はもはや彼女たちの理想ではないんですよ』

男「え?」

スーツ『そもそも彼女らの理想のプロデューサーを合成したのはあなただ、誰もどこにもそんな風には書いてない』






『私は、彼女たちに好かれたいと思っている。あなた自身の理想なんです』


男「俺自身の?」

スーツ『その証拠に、彼女らの主張とは一切関係のない、あなたができるようになりたいと思っているギターを、私はすでに出来ています。さあ、私のようになれるように頑張ってください』

男「あのさぁ…」

「俺別にこのままでいいや」

スーツ『え』

男「無理だよ、何が都会的で牧歌的だ。いいじゃないか、この町だって。新幹線は停まっても、車で10分も行けば田園風景さ。東京以外の県なんて、大概都会的で牧歌的なんだよ」

スーツ『でも、やりたいんでしょう。夢のライブ企画』

男「嫌です。実際には、ただのグッズショップ店員の俺には出来っこないもん」

スーツ『あんなに憧れてたじゃないか』

男「勇気がないんです、元気がないんです、根気がないんです、だから筋トレが続かないんです!」

スーツ『そんなこと言わないで、もっと自分に自信をもって』

男「自信の単位は大学で取り忘れました」

「俺にいい所なんて…一個もないんだ」

スーツ『そんなことはない!!』

『確かに君は、意志が弱くて引っ込み思案で平凡で、根暗で田舎者で。不器用で、機械に弱くて歌でも運動でも音痴で…あと字が下手だよね』

男「お前は敵か、味方か?」

スーツ『わからない、でもお店で働いてる時の君は、結構親切じゃないか』

男「ああそうですよ…男性客にはね」

スーツ『昼間接客してたのもほとんど男子だったね」』

男「女の人って…怖いからね」

スーツ『見下されてるんじゃないかって、思っちゃうんだよね』

男「…そうだよ」

「どうせ俺なんて…」

スーツ『 あまり自分を悪く言うな』

男「お前だって言ってったじゃないかよ」

スーツ『  私は君自身だからだ』

男「意志が弱くて引っ込み思案で平凡で、根暗で田舎者で。不器用で」

スーツ『     』

「機械に弱くて歌でも運動でも音痴で、字も下手、絵も下手」

『      』

『     』

男「段取りが悪くて、ボンクラで、干し芋で」

『   』

『 』

男「あれ、あいつどこ行った?」

男「別にいっか」

「あんな奴いなくたって。…お風呂入ろう」

「面倒くせぇなぁ」

「…別にいっか。一日くらい入らなくったって。冬だし」

「…パジャマ着よう」

「面倒くせぇな」

「…別にいっか。明日そのまま出勤できるし」

「腹減ったな…」

「でも寝る前だしあんま食うのもなぁ」

「…別にいっか。大して太んねぇだろ」

「ロールケーキの一本や二本くらいで、冬だし」


【理想の自分と、嫌いな自分】

【向上心と、劣等感】

【どちらかに偏れば、反対向きに力を蓄える振り子】

【理想に近づくってのは、恐怖だよなぁ?】

男「お前は…誰だ…?」

【知ってるくせに】

男「知ってる…お前は…俺自身だ」

【そのとおり、俺は、お前だ】

男「もう…嫌だよ。なれっこない理想の自分を見るのも…嫌いな自分を見るのも」

【ああ、俺だってやだよ】

男「人の私生活に立ち入ってこないでくれ!」

【俺はお前だろう?】

【他人のプライバシーを覗き見して興奮している変態野郎】

男「その通りだ、もう嫌になった」

【俺が?】

男「俺がだよ。今夜という今夜は、いよいよ自分が嫌になった」

【そうだよ。俺たちは嫌な奴なんだよ】

【意志が弱くて引っ込み思案で平凡で、根暗で田舎者で。不器用で】

【機械に弱くて歌でも運動でも音痴で、字も下手、絵も下手】

【段取りが悪くて、ボンクラで、干し芋で、ココナッツサブレで】

【自意識過剰すぎてスターバックスに入れないんだろ】

男「増えてる…」


【いいことを教えてやろう。自分にできることとできないことぜーんぶ書いてみな】

【びっくりする位なーんにもできないぜ】

男「なんてネガティブな説得力…」

【ネガティブ界の風雲児です】

【いいじゃあねぇか、何にもできるようになるな】

【動くな】

男「よし、もう…お終いにしよう」

「ファイルの持ち主にはたどり着けなくていい。本当は、中を見たことを謝るべきだけど、見られたことを知ったら…気持ち悪いだろうから」

【そうだよ、俺たちは気持ち悪いんだよ】

「ファイルは、公園の管理人小屋に届けておく」

【わざわざ?】

「ベンチの上に…戻しておく」

【わざわざ?】

「捨てる…?」

【…ふふぅあっはははははは】

「あぁ…、楽になった…」

【夢のライブはどうする?】

男「べつにいいよ、なんにもしなくたって。出不精の[ピザ]で何が悪い」

【いいぞ、もっと食え】

【冬だし】

男「ああ食うさ、春夏秋冬甘いものはやめられないね」

「俺、この半径2Kmの生活超快適。どこにも行かなくったってライブはブルーレイが出るし、ネットつなげば大抵の情報は手に入る」


「そうだ、夢なんて叶えられなくったって」


「叶ったふりをすればいいんだ」


「どこにも行かなくたって」


「行ったふりをすればいいんだ」


「ばれない自信、あるね」

「俺は、二十郎で一ロット一人で食いきったことがある」

「俺は、カラオケで全国ランキング1位を撮りまくったことがある」

「俺は、沖縄料理で美味しんぼをあっと言わせたことがある」


「俺は、アイドルを13人同時にプロデュースしたことがある」


「…アイドルは俺が育てたって嘘、つけるな」

「それぞれの子の性格や嗜好は映像や雑誌のインタビューとかを詳しく読み込んでいけば把握できる」

【おい…何を言ってる】

男「1つ1つの情報は些細でも、出版された全部の雑誌・書籍くらいの膨大な量を積み上げれば1人分…いや13人分の個性を再現できる」

【  やめろ】

男「本当に彼女たちのプロデューサーじゃなくても、これくらいの想像は出来る…」

【   】

男「このファイルは…全部ウソなのか?」

「俺、持ち主に真相を聞きたい…」

「ああ、でもそれだと持ち主に会わなくちゃいけないのか」

【…っそ、そうだ】

男「俺は、持ち主に会ってみたいのか」

【 】

男「そうだったんだ、」

【やめろ】

男「俺は、持ち主に会いたかったんだ」

【ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ】

スーツ『よくたどり着きましたね』

男「あ、どこ行ってたんだよ」

スーツ『そのファイルを書けるくらいに、アイドルの情報誌を手広く扱っているお店はこの町には一軒だけ』

男「ウチだ」

スーツ『となれば、765プロのコーナ―をよく観察していれば、きっと持ち主の正体にたどり着けるかもしれない』

男「いろんな本から想像してその妄想をファイルにまとめた…実際に会ったわけじゃないから初対面の感想が一言だったんだ」

「それに対してそのあとの面談の話は…妄想だから詳しくかけたんだ」

「このファイルは全部ウソだ」


「何だよ、面白いことしてくれるじゃねーか」

「この人は誰もプロデュースしていないし、だれとも出会ってない」

スーツ『そして大判書籍のコーナーに、長いこと売れなかったのに今日見たらなくなってた本がありましたね』

男「876プロ図鑑と573プロマスターガイドの間、765プロビジュアルブック」

「まだ765プロが有名になる前に出た知る人ぞ知る本だ」

スーツ『そんな本を知っているくらい他の書籍を読み漁った人となれば…』


「『決まりだな!』」


男「なんだよ、面白いことしてくれるじゃねぇか」

スーツ『ああ、この“デコからビーム”のところで気が付くべきでしたね』

[理想の自分と、嫌いな自分]

[向上心と、劣等感]

[どちらかに偏れば、反対向きに力を蓄える振り子]

[理想に近づく恐怖]

「それよりも恐ろしいのは、揺れることすらせず、その場に留まっていること」

スーツ『翌日、仕事が朝番だった私達は、こっそりと昨日例の本を買った人を調べるため、1時間も早く家を出ました』

『すると、奇抜な蛍光グリーンの、制服のようなものを着た人が。昨日ファイルを拾ったベンチのあたりで挙動不審な事をしていました』


男「あ、あのー、何してるんですか?」

「あ、いえ別にナンパとかじゃなくて仕事に行く途中に通った公園にたまたま困ってる風な人がいたから声をかけただけで下心とかがあるわけじゃあ…は、探し物ですか、そうですか。すいません」

「探し物ってもしかして…このファイルですか?」


スーツ『彼女がファイルの持ち主でした』

『彼は謝りました、持ち去って中を見てしまったことを、そして、こう切り出しました』


男「失礼を承知で聞きたいんですがそのファイルにあることって、全部ウソですよね」

「そういう趣旨の小説か何かなんですか?」

スーツ『彼女は、恥ずかしそうに語りました』

『彼女が、プロデューサーもアイドルもまだ居ない芸能事務所の事務員であること』

『このファイルは全部ウソであり、全部本当でもあること』

男「書いたのはあなたであり、アイドルと会ったのはあなたであってあなたでない…すいません意味がよくわかりません」

スーツ『まだ誰も出入りしない事務所で事務処理をするだけの日々、だから自分でアイドルをプロデュースすることにしたんです。但し、想像の中で』

『そうすることで、“もう一人の自分”がそれを経験してくれるんだと』

男「もう一人の自分ですか…よくわかります」

「あ、このファイル、お返しします」

「じゃあ、よいお年を…すいませんでした」

スーツ『違うだろ』

男「…あ、あっあの、その事務所って、今あなた一人しかいないんですか?」

「あなたと、滅多に顔を出さない社長だけ…」

「あの、人材の募集とか…って」

P「ある人はそれを見て「正方形」といった。またある人はそれを見て「長方形」といった。またある人はそれを見て「三角形だ」といった」

「3人が見ていたのは一切れのチーズケーキ、側面と、断面と、上面。角度によって全く違って見えていたんだ」

「もし、論点が、そのチーズケーキがおいしかったかどうか。だったら」

「それぞれの角度から見ていただけの彼らは、誰も間違っていなくて、誰もウソをついていなくて」

「おしまい」

渋谷凛「へぇ…」

本田未央「プロデューサーとちひろさんはそんな出会いだったんだね」

島村卯月「なんだか、運命って感じの出会いですね」

千川ちひろ「黒歴史ノートを勝手に持って帰られて読まれた出会いを運命って言える卯月ちゃんはすごいと思います…」

P「さぁ、俺の昔話はもういいだろ、仕事に行くぞ」

凛「ねぇプロデューサー、その話のもう一人の自分って今もいるの?」

P「おっと、この子俺の黒歴史をさらに掘り返しに来たよ」

未央「でも、気になるよ。どうなの?」

P「理想の自分にはなかなか追いつけないからなぁ」

「多分今夜も1人で自問自答するんだろうな」



おわり

以上です。

全部読んでくれる人が居たらうれしいです

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