伊織「家出春香」 (52)
伊織「ただいまー」
春香「あ、おかえり伊織ー」ゴロゴロ
伊織「やっぱり居た……アンタ、まだ帰らないわけ?」
春香「帰らない!」
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伊織「しかも酔ってる、お酒くさっ」
春香「ビール買ってきたんだ。一緒に飲もうよ」
伊織「あいにく無理よ。明日は運転しなきゃいけないの」
春香「えー、いけずー」スリスリ
伊織「貴音じゃないんだから……」
春香「それにしても、伊織もすっかりプロデューサーだね」
伊織「ライバルが居なくなったら別の道に行くしか無いでしょ。日高舞といっしょ」
春香「ライバルかー……伊織のライバルになれる人なんて、なかなか居ないよね」
伊織「ええ、目の前に居たんだけどね」
春香「えっ、缶ビール!?」
伊織「ちゃうわ」
春香「泡立ちマスターだねぇ」
伊織「酔っぱらいは寝たら? 会話、だいぶ支離滅裂だけど」
春香「伊織が帰ってくるの、待ってたんだもん」プクー
伊織「なによ、その夫婦みたいな会話」
春香「夫婦じゃん!」
伊織「春香とあのバカは夫婦ね、確かに」
春香「プロデューサーさんの話はやめて!」
伊織「そろそろ連絡しなさいよ」
春香「向こうから連絡来ないと、私許さないもん」
伊織「もう3日目よ? アイツの目も死んでたし、この家に乗り込んでくるんじゃないの」
春香「えっ、プロデューサーさんは知ってるの?」
伊織「ここに住んでること? そりゃ、人妻を預かってるんだから伝えてるわよ」
春香「そんなぁー……」
伊織「失踪届がどうのって言ってたら、流石に言うしか無いでしょう?」
春香「えー……」
伊織「ほら、電話してみれば? そろそろ謝ってくれるかもしれないわよ」
春香「無理だってば。あの人、頑固だもん」
伊織「……私、どうしてアンタたちが喧嘩してるのかは知らないけど、ちゃんと話しあえば……」
春香「あれ、そうだっけ」
伊織「聞いてないわよ」
春香「プロデューサーさんが、私のプリン食べたんだよ」
伊織「……は?」
春香「朝から並ばないと買えないサムロディーアの高級プリン!
帰ってきたら空っぽの容器が置いてあって! ひどいと思わない!?」
伊織「喧嘩の理由がひどすぎるわね」
春香「なんで! 共感してよぉ!」
伊織「そんなバカな理由で家出したヤツを泊めておくほど、うちに余裕はありません」
春香「そんなぁ」
伊織「ったく……電話するわよ」
春香「やめっ」
伊織「えっと、スマホ……」
春香「やーめーてー!」ガシッ
伊織「きゃっ!」
春香「電話はダメ!」
伊織「ちょっ、ギブ、ギブっ」
春香「電話はしちゃダメ!」
伊織「分かった、分かったから!」
春香「ごめんね、伊織。いたかった?」
伊織「痛いに決まってるでしょ、この酔っぱらい!」
春香「ひぃ!」
伊織「それで、本当の理由は?」
春香「え?」
伊織「本当にプリンうんぬんの喧嘩で電話したくないんだったら、お互いのために別れなさい」
春香「……っ」
伊織「別に理由があるんじゃないの?」
春香「そ、それは」
伊織「……暴力?」
春香「ち、違うよ! プロデューサーさんはそんな人じゃ!」
伊織「どうして喧嘩したの?」
春香「……あんまり喋りたくないけど」
伊織「じゃあ、喋りたくなった時に喋りなさい」
春香「ううん。いま、喋る。笑わない?」
伊織「ええ」
春香「……プロデューサーさん、最近新人の娘をプロデュースしてるでしょ」
伊織「ああ、そうね」
春香「家でもずっとその娘の話をするから、私怒っちゃって」
伊織「つまるところ、嫉妬ってこと?」
春香「嫉妬、まあそうかな……」
伊織「それで家出したの?」
春香「それもあるけど、プリン」
伊織「え、プリン?」
春香「プロデューサーさん、勝手にプリン食べちゃってさ。そこから口論になって」
伊織「ああ、プリンも原因の一端を担ってるのね」
春香「それで、出てきちゃった」
伊織「なるほどね……はぁ」
春香「ほとんど何も持たないで出てきたから、どこに行こうか迷ったんだけど」
伊織「……春香の私物が多いここに来たってこと?」
春香「そういうことかな、千早ちゃんはアメリカだし」
伊織「はぁ、いい迷惑ね。捨てときゃ良かったわよ」
春香「ごめんってば」
伊織「最初からそう話してくれたら良かったのに。家出するほど酷いわけ、それ?」
春香「うん。私のこと、全然見てくれないから……」
伊織「あの娘は成長株だから、ある程度は仕方ないかもね。
アイドルコースと女優コースはビルが違うから、アンタは知らないんじゃないかしら」
春香「プロデューサーさんから教えてもらっただけ、だね」
伊織「同期で芸能活動してる娘もかなり減ってきたわね」
春香「アイドルコースには亜美が残ってるんだっけ」
伊織「ええ。千早は事務所移ったし、引退した娘もいるし」
春香「また、みんなでステージに立ちたいなぁ」
伊織「ちなみに春香」
春香「ん?」
伊織「私の担当アイドル、知ってる?」
春香「うん、知ってるよ。シホちゃんだよね」
伊織「ええ、正解」
春香「この家にある資料を読んでたら覚えちゃった、あはは」
伊織「……資料読んだの!?」
春香「そこに重ねてあったし」
伊織「そんあ……社外秘なのよ、それ」
春香「こんな所に置いちゃダメだよ! それに私、一応社内の人間だから大丈夫」
伊織「大丈夫じゃないわよ、タレントに資料読まれるなんて大問題でしょ!」
春香「ほとんど覚えてないからへーきへーき、えへへ」
伊織「なら良いけど……喋らないでよ? 私、クビにされるわ」
春香「喋らないって、プロデューサーさんに散々言われてるもん」
伊織「アイツ、そういう管理はちゃんとしてるからね」
春香「ああ、プロデューサーさんは……ね」
伊織「……電話したら?」
春香「嫌だ」
伊織「そんなに嫌?」
春香「嫌、いまのプロデューサーさん、きっとなんで私が家出したのか分かってないよ」
伊織「ああ……」
春香「どうせプリンが原因だって思ってるんじゃないの? 鈍感なんだからさ」
伊織「でも、それならちゃんと伝えなきゃダメだって思うわよ」
春香「……私が悪いんだ、って分かってるよ。勝手に嫉妬して、些細なことで怒って」
伊織「ええ」
春香「でも、向こうにだってちょっとぐらい、責任はあるよね?」
伊織「フィフティーフィフティーなんじゃない? お互いに謝るのが一番よ」
春香「うん……よし、決めた」スック
伊織「春香、千鳥足だけど大丈夫?」
春香「だいじょーぶ。プロデューサーさんに、電話してくるね」
伊織「あ、ええ……」
春香「ベランダ行ってくるっ」
伊織「ちょ、ベランダはダメよ!」
春香「風にあたって頭を冷やしたいんだよ」
伊織「酔っぱらいがベランダ行ったら落ちるわよ」
春香「それじゃ、ここで電話するから……伊織は横で聞いてて」
伊織「分かった」
春香「……はぁ」
伊織「怖い?」
春香「ちょっとだけ」
伊織「それじゃあ、最初は私が出ましょうか」
春香「……電話?」
伊織「そうよ」
春香「分かった、お願い」
伊織「……あー、もしもし? 伊織だけど」
春香「……」
伊織「……うん、うん。元気にしてるわよ」
春香「……っ」
伊織「ねえ、アンタはどうして春香が出て行ったのか、解ってるのよね?」
春香「……分かってないでしょ、どうせ」
伊織「……あら。いつもと違って鋭いじゃないの」
春香「え?」
伊織「アンタだけに非があるとは言わないわよ、でも」
春香「ちょ、ちょっと伊織、電話貸して!」
伊織「ま、春香」
春香「もしもし、プロデューサーさん!」
伊織「……?」
春香「はい、はい……すみません」
伊織「アイツ、結局春香に怒ってるわけ? ダメ男ね」
春香「……そうですよ、寂しいですよ」
伊織「……」
春香「今日は、伊織の家に泊まります。明日、帰りますから」
伊織「はぁ!? ちょっ、ま」
春香「おやすみなさい」
伊織「……ちょっと」
春香「ありがとう、伊織。多分仲直りできそう」
伊織「泊まるの?」
春香「えっ?」
伊織「アンタさっき、今日はここに泊まるって言ったわよね」
春香「だって、もう終電無いし」
伊織「……私、そんなに話してたのね、アンタと」
春香「てっきり泊めてくれるんだと思ってたから」
伊織「しょうがないわね」
春香「やったー! 伊織、飲もうよ」
伊織「だから飲まないってば、アンタも明日に向けて、もう寝たら?」
春香「明日、って?」
伊織「仲直り、するんでしょ」
春香「明日のことは、明日考える!」
伊織「バーカ、計画性無いわね」
春香「多分帰ったら、滅多に誰かの家に泊まったり出来なくなるもん」
伊織「……春香」
春香「だから、伊織」
伊織「……あー、もう! 一杯だけだからね!」
春香「いえーい!」
伊織「アンタが思ってること、いろいろ聞かせなさいよ」
春香「うん。明日は元々お仕事無いし、飲むぞー」
伊織「あ、あと春香」
春香「ん?」
伊織「あのキャリーバッグに、仕事で使ったモノ全部入れておきなさいよ」
春香「うぇー、めんどくさい」
伊織「私物も持って帰りなさいよ、ほんとに!」
大人春香さんはかわいい。百合じゃないです、お疲れ様でした。
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