エレン「働かなければ食えない…」(39)

キース「オイ…貴様」

アルミン「ハッ!」

キース「貴様は何者だ!?」

アルミン「シガンシナ区出身!アルミン・アルレルトです!!」

キース「そうか!バカみてぇな名前だな!!親がつけたのか!?」

アルミン「祖父がつけてくれました!」

キース「アルレルト!貴様は何しにここに来た!?」

アルミン「御社の勝利の役に立つためです!!」

キース「それは素晴らしいな!!貴様は受付嬢にでもなってもらおう!!次!!」

社員a「やってるな…お前も新入社員の時は初っ端からあれだったろ?」

社員b「懐かしいです。でも…あの恫喝には何の意味が…?」

社員a「通過儀礼だ。それまでの自分を否定して真っさらな状態から社畜に適した人材を育てるには必要な過程だ」

社員b「?…何も言われてない子がいるようですが」

社員a「あぁ…すでに通過儀礼を終えた者には必要ない」

社員a「おそらく2年前の就職氷河期を見てきた者たちだ。面構えが違う」

キース「まずは貴様らの適性を見る!この資料を複写機で写し会議用のレジュメを作るだけだ!!」

キース「これができない奴はお茶汲みにも使えん!就活生に戻ってもらう!!」

社員a「これはまだ初歩の初歩だがこの段階から営業の素質は見てとれる」

社員a「見ろ…あの子だ。まったくズレが無い。んん…今期はできる者が多いようだ」

社員b「あの…彼は…」

社員a「…素質というものだろう。人並み以上にできることがあれば…人並み以上にできないこともある」

エレン(え…?何だこれ…ウソだろ?こんなハズじゃ…)グチャア

エレン「……」

ミカサ「エレン!」ミシッ

エレン「いでッ」

アルミン「気にしても仕方ないよ。明日できるようになればいいんだから」

エレン「明日できなかったら…オレ…どうすりゃいいんだ…情けねぇ…こんなんじゃスピード出世なんか…」

ミカサ「もうそんなこと目指すべきじゃない」

エレン「…は!?」

ミカサ「向いてないのなら仕方ない。ようやくできる程度では邪魔になるだけ。きっと夢も努力も徒労に終わる」

エレン「お…お前なぁ…」

ミカサ「エレンの覚悟の程は関係無い。判断するのはエレンじゃないから…」

ミカサ「私は…エレンだけ会社をやめろと言ってるんじゃない…その時は私も一緒にやめるので…」

ミカサ「だから…そんなことは心配しなくていい」

サシャ「ん?えーと?つまり?それ貰ってもいいってことですか?」

ミカサ「……」

サシャ「……」

キース「エレン・イェーガー、覚悟はいいか?複写機を操ることは社員の最低条件だ。できなければ…」

エレン(やる!オレは絶対やる!!)

エレン(昨日同期の皆に聞いたことは全部やった…!それに…!)

エレン(オレには素質がねぇかもしれねぇけど…根性だけは誰にも負けねぇ!)

キース「始めろ」

エレン(理屈なんか知らん!根拠も無い!でもオレにはこれしかねぇ!)

エレン「これがオレの武器だ!」ガッ

ガションガション…

エレン(やった…できた!!)

ガショ…ヴヴヴィーベリッ

エレン「ああ!!ま…まだ…!」バタバタ

キース「止めろ」

エレン「ま、まだ!!オレは!!」

キース「早く止めろ」

エレン「オレは…」

キース「ワグナー、イェーガーと複写機を交換しろ」

ガションガションガション…

エレン(な…何で!?できたぞ…急に…)

エレン「これは…一体…」

キース「機械の欠陥だ。ここが破損するなど聞いたことはないが…新たに整備項目に加える必要がある」

エレン「で、では…適性判断は…」

キース「問題ない…職務に励め」

エレン(やった!やったぞ!どうだミカサ!オレはやれる!仕事だってできる!!もうお前に世話焼かれることもねぇな!)

アルミン「エレンが目でどうだ!って言ってるよ」

ミカサ「いや違う。これで私と離れずにすんだと思って安心してる…」

アルミン「……」

キース(特別優れているわけでもなさそうだが…この破損した複写機で一時は印刷に成功した)

キース(そんなことをできる者が他にいるだろうか…)

キース(グリシャ…今日お前の息子が…社員になったぞ)


第一話『絶望の中で鈍く光る』 ─完─

カンカンカンカン

イアン「定時だ!!備品を片付けろ!退社するぞ!」

ミカサ「営業2課の退社を支援してきます!!」ダッ

イアン「な…!?オイ…ミカサ!!」



ミカサ「!?なぜ…」

ミカサ(終業の鐘は聞こえたハズ…なぜみんな帰ろうとしない?)

ミカサ「あれは…!?」

コニー「クソッどうするんだよ!?」

ジャン「どうもこうもねぇよ…やっと定時になったってのに…インク切れで俺たちは仕事を終わらせられねぇ」

ジャン「そんでクビだろうな全員…あの腰抜けどものせいで…」

ジャン「気持ちはわかるけどよ…オレ達への補給任務を放棄して帰宅は無ぇだろ…」

コニー「でもイチかバチかやるしかねぇだろ!?重役会議の資料ができてないなんて言ったら本当に終わりだぞ!!」

サシャ「やりましょうよ!!みんなが力を合わせればなんとかなりますよ!」

サシャ「アルミン、一緒にみんなを…」

アルミン「……」

ミカサ「アニ!何となく状況はわかってる…その上で私情を挟んで申し訳ないけど…エレンを見なかった?」

アニ「私は見てないけど仕事を終わらせられた班も…」

ライナー「そういやあっちに同じ班のアルミンがいたぞ」



ミカサ「アルミン!」

アルミン「……」ビクッ

ミカサ「アルミン…大丈夫なの?エレンはどこ?……?」

アルミン「僕達…34班…トーマス・ワグナー、ナック・ディウス、ミリウス・ゼルムスキー、ミーナ・カロライナ…」

アルミン「…エレン・イェーガー…以上5名は自分の使命を全うし…壮絶な過労死を遂げました…!」

ミカサ「……ッ」

アルミン「ごめんミカサ…エレンは僕の身代わりに…僕は…」

ミカサ「…アルミン」

ミカサ「落ち着いて。今は感傷的になってる場合じゃない」

ミカサ「…マルコ。明日の会議の資料さえできればみんなは家に帰れる。違わない?」

マルコ「あ、あぁ…しかしいくらお前でも…複写機が使えない状態であれだけの数は…」

ミカサ「できる」

ミカサ「私は…有能だ…あなた達より…すごく有能だ!…ので私は資料を作ることができる…例えば一人でも」

ミカサ「あなた達は…無能なばかりか臆病で腰抜けだ…とても残念だ」

ミカサ「ここで…指をくわえたりしてればいい…くわえて見てろ」

同期a「ちょっとミカサ?いきなり何を言い出すの!?」

同期b「あの数の資料を全部手書きで写す気か!?そんなことできるわけが…」

ミカサ「…できなければ…クビになるだけ。でも…勝てば残る」

ミカサ「働かなければ、食べられない…」ガリガリッ

ジャン「てめぇのせいだぞエレン…」

ジャン「オイ!!オレ達は仲間に一人で働かせると学んだか!?本当に腰抜けになっちまうぞ!!」

ライナー「そいつは心外だな…」

サシャ「や、やい腰抜けー弱虫ー、あ…アホー」

同期b「ちくしょう…やってやるよ…!」

ウオオオオオオオオオオ

ジャン「とにかく短期決戦だ!オレ達の体力が無くなる前に写し終われ!!」ガリガリ

コニー「しかし…すげぇなミカサは…どうやったらあんなに速く書けるんだ」ガリガリ

アルミン(いや…あれじゃすぐに体力が無くなる…!)

アルミン(いつもみたいに冷静じゃない!動揺を行動で消そうとしてる…このままじゃいずれ…)

ミカサ「……!」フラッ

アルミン「ミカサ!!」

ミカサ(倒れるまで気付かないなんて…)

ミカサ(まただ…またこれだ…また家族を失った)ズキン

ミカサ(またこの痛みを思い出して…ここから始めなければいけないのか)

ミカサ(この世界は残酷だ…そして…とても美しい)

ミカサ「いい人生だった…」

 ─ハタラケ!

ミカサ「……!」

 ─ハタラクンダヨ!

 ─クワナキャ…シヌ…クエバ…イキル…

 ─ハタラカナケレバ、クエナイ…!

ミカサ(…ごめんなさいエレン…私はもう諦めない)

ミカサ(死んでしまったらもう…あなたのことを思い出すことさえできない)

ミカサ(だから…何としてでも働く!何としてでも生きる!!)

ミカサ「うああああああああ!!」

────
──

ミカサ「あの時…ただひたすら困惑した」

ミカサ「非正規のインクで複写機を回すなんて聞いたことがなかったから」

ミカサ「そして…微かに、高揚した」

ミカサ「その光景は、派遣社員の怒りが体現されたように見えたから…」


第二話『小さな刃(カッターナイフ)』 ─完─

子鹿課長「どう命乞いしようと私は規則に従うまで!規則に反する者は排除する!」

子鹿課長「私は…私は間違っていない!!」



ミカサ「…エレン?もう起きないと時間に遅れる」コンコン

エレン「……」

ミカサ「エレン」

エレン「…うるせぇな、お前には関係無いだろ」

ミカサ「ある。私はあなたの…家族」

エレン「…遅刻するぞ。さっさと行けよ」

アルミン「ミカサ!あんまり遅いから…エレンはどうなっているんだ?」

ミカサ「…私が話しかけてもダメだった。もう誰がやっても意味が無い」

アルミン「エレン…何をしているんだ?今日は職業案内所に行くって約束したじゃないか」

エレン「…アルミンか?お前まで何しに来たんだよ…もうオレのことなんか」

ミカサ「エレン、いい加減に…」ドゴ

エレン(壁に穴を空けられた…!?)

アルミン「だ、駄目だよミカサ…これ以上壊したら家まで追い出されちゃうよ」

アルミン「…僕がエレンをここから出す。ミカサは先に仕事に行ってくれ!」

ミカサ「で、でも」

アルミン「今自分にできることをやるんだ!!ミカサが行けば取れる契約があるだろ!!」

アルミン「エレンは僕に任せろ!!行くんだ!!」

ミカサ「…わかった。アルミンを信じる」ダッ

アルミン「ふう…エレン、聞こえるか?」

アルミン「しっかりしろ!リストラなんかに負けるな!!とにかく早くこの部屋から出てくるんだ!!」

エレン「ここから出るだって?…何で?オレ今眠いんだ…」

アルミン「…老害を駆逐してやるんだろ!?昇進するんだろ!?…エレン!」

アルミン「このままここにいたら世間的に殺される!ここで終わってしまう!!」

エレン「…何言ってるかわかんねぇよ。何で外に出なきゃいけないんだ…」

エレン「…そうだよ。どうして外なんかに…仕事になんかに…」

アルミン「エレン…答えてくれ」

アルミン「今のエレンにとっては壁から一歩外に出ればそこは地獄の世界かもしれない…だけど」

アルミン「壁の外には素晴らしいものだって沢山ある…なのにどうしてエレンは外の世界に行きたくないって思うんだ?」

エレン「…どうしてだって?そんなの…」

エレン「…決まってんだろ…」

エレン「オレが!!この世に生まれたからだ!!」

アルミン「エレン…!?」

エレン「オレ達は皆、生まれた時から自由だ」

エレン「それを拒むものがどれだけ強くても関係無い」

 ─ハタラケ!

エレン「穀潰しでもニートでも何でもいい。世間体なんか惜しくない」

 ─ハタラケ!

エレン「どれだけ世間が残酷でも、関係無い」

 ─ハタラ

エレン「うるせえええええバキッ

エレン(…?何か飛んだ…あれ…歯?)

エレン(自由の、翼…)

リヴァイ「おいガキ共…なんだこの穴は…どういう状況だ?」

エレン「…あ、あの…ここはどこですか?」

エルヴィン「見ての通り管理人室だ」

アルミン(大家さんの息子で調査兵団トップのエルヴィン団長と…リヴァイ兵長)

アルミン(説明しよう。調査兵団とは一定の職をもたず自分では何もしないくせに「趣味は人間観察です」なんて言っちゃう連中のことだ)

アルミン(格好つけて調査兵団なんて名乗ってるけど要はニートだ。自由の意味を履き違えてるよ)

ミカサ「あのチビにはいつか然るべき報いを…」ブツブツ

エレン「これからどうなるんですか!?やっぱり弁償…」

エルヴィン「…話は二人から聞いているよ。これから我々がどうするかは君の意志しだいだ」

エルヴィン「君はこれからどうしたい?真面目に働くのか、それとも…」

エレン「オレの意志…オレが…」

リヴァイ「オイ…さっさと答えろグズ野郎。お前がしたいことは何だ?」

エレン「実家に帰って…とにかく貯蓄を食い潰したいです」ギリィ

リヴァイ「ほぅ…悪くない」

リヴァイ「認めてやるよ…お前の調査兵団入団を…」


第三話『原初的欲求』 ─完─

おしまい。読んでくれた人ありがとう
初ssだったけど面白いってレス貰えて嬉しかったよ

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