士郎「なんでさ」アーチャー「知るか」 (1000)
これはifの物語。
洋館の時計が正しく時を刻み、
赤い魔術師が最優のサーヴァントを引き当て、
半人前の正義の味方はイレギュラーを喚ぶ。
Fateから外れた二つの主従。
新たな運命の夜が今、幕を開ける。
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弓道場の掃除を終え踏み出した、夜の校庭。
「―――――なんだ、アレ」
見た瞬間に判った。
アレは人間ではない。おそらくは人間に似た別の何かだ。
衝突する青と青。
時代錯誤の鎧を着込んだ少女と、タイトなボディースーツの男。
突き出された朱い閃光を風の束が流れるように絡め弾き、
それだけの動きで生じた衝撃波が冷えた空気を揺らす。
……死ぬ。ここにいては間違いなく生きてはいられないと体が理解する。
目の前の剣戟に痺れた脳を再起動させ、走り出すための酸素を取り込もうとして―――
「―――」
音が止まった。
完成された動きを以って、槍の男が必殺の構えをとる。
あれだけの膨大な魔力を食い潰して放たれる一撃だ、正しくそれは必殺だろう。
殺される。
あの青い剣士は殺される。
いや、獲物が不可視である以上、あれが剣士であるとは限らない。
が、衛宮士郎は風の鞘に覆われたあれが恐らくは破格の剣であろうと悟っていた。
数瞬の後、碧眼の女性剣士はあの男の一突きに絶命しているだろう。
ヒトではないけれど、ヒトの、女の子の形をしたモノが死ぬ。それは。
―――果たしてそれは、見過ごして良い事なのか。
一瞬生じたその迷いが張りつめた意識を溶かし、はあ、と大きく呼吸をした瞬間。
「誰だ―――――!」
真紅の双眸が、こちらを凝視した。
「……っ!」
青い獣の体が沈む。それだけで、標的となった衛宮士郎は走り出した。
どこをどう走るか、そんなことは考えない。
あれを前にして、考えている余裕などあるわけがない。
一刻も早くその場から遠ざかるために、ただ疾走した。
気付けばそこは歩き慣れた校舎の廊下。
倒れ込んだ床から伝わる冷たさが未だ自分が生きていることを実感させる。
ともあれ、ここまで来れば―――
「どうなるってんだ?」
「……!?」
「わりと遠くまで走ったな、オマエ」
息と思考が同時に止まる。
ただ事実だけを理解した。衛宮士郎はここで死ぬ。
「あ………つ」
吐き気と共に目が覚めた。
べっとりと血で濡れた制服が気持ち悪い。
朦朧とした頭のまま、自分が死に、生き返ったことをどうにか自覚する。
何が起こったのかは解らない。助けてくれた誰かの顔すら憶えていない。
血の海の他に唯一つこの場に残されたのは、同じく血の様に朱いこの宝石だけだった。
帰宅できたのは日付が変わってからだった。
未だ罅の入った心臓を抱えて、それでも自力で帰ってこられたのは奇跡としか言いようがない。
「がっ、は――――――――!?」
だというのに、青い殺人者はここまで追ってきた。
奴の放った回し蹴りで俺は今、ボールのように空を飛んでいる。
強化した藤ねえのポスターは先刻の打ち合いでぐにゃぐにゃにひしゃげてしまった。
「ぐっ――――!」
背中から土蔵にぶつかり、崩れ落ちた。
迫る槍の穂先に体を奮い立たせるが、膝が折れてみっともなく転がる。
「チィ、男だったらシャンと立ってろ……!」
だがなんという悪運か。俺の首を抉る筈だった赤槍は鼻先を掠め、背にする土蔵の扉を弾き開けた。
今度こそ足に力を籠め、全力で土蔵に飛び込む。
何でも良い。工具、投影品、武器になるようなものがあれば―――
「そら、これで終いだ―――!」
「くっ……、こ――――のぉぉおおおおお!」
放たれた避けようのない必殺の槍を、四つん這いのままポスターを広げることで防ぐ。
一度きりの楯は破壊され、衝撃だけで俺は後方へ吹っ飛んだ。
(ぁ―――――、づ――――)
一瞬の思考停止。
心臓に喝を入れる代わりに、武器を手にする機会を失った。そこへ、
「詰めだ」
眼前には、槍を突き出した男の姿があった。
「今のはわりと驚かされたぜ、坊主。……しかし、分からねえな。
機転は利くくせに魔術はからっきしときた。筋はいいようだが、まだ若すぎたか」
男の声など耳には入らない。ただ突き付けられた凶器を穴が開くほど見つめる。
だって、これは俺を殺すもの。既に一度殺されているのだから、その威力は折り紙つきだ。
「もしやとは思うが、おまえが七人目だったのかもな。ま、だとしてもこれで終わりなんだが」
迸る赤。
心臓に綺麗に吸い込まれるだろうその名槍の味を知っている。
それをもう一度?本当に?理解できない。なんだってそんな目に遭わなくてはならないのか。
……ふざけてる。
そんなのは認められない。こんな所で意味もなく死ぬ訳にはいかない。
この身はもう二度も助けて貰ったのだ。
なら。命を拾われたからには、簡単には死ねない。
俺は生きて義務を果たさなければいけないのに。
月下の約束。あの尊い理想を叶える為に、衛宮士郎は生きて死ぬと決めたのではなかったか。
「ふざけるな、俺は―――」
俺は。
こんなところで意味もなく、何も判らず、何も叶えられないまま、
おまえみたいなヤツに、
殺されてやるものか――――――!!!!!!
「え――――――…?」
それは、本当に。
「なに………!?」
魔法のように、巻き起こった。
現界を確認。
この身はアーチャーのサーヴァント。
『座』より招かれし●●●●●●。
―――訂正、真名の読み込み不可。記憶に欠落多数。
マスターとのパスを検索。該当なし。
(―――待て。サーヴァント現界の楔たるマスターとの繋がりがないだと)
そもそも召喚を行った筈のマスターすら見当たらない。
今私は保有魔力、単独行動スキルだけで現界しているということだろうか。
しかも何故か魔力の巡りがひどく悪い。
自らの身体を探査した結果、魔術回路が一本も開いていなかった。
このままではまともな戦闘もままならない。強引に魔力を通し、閉じた回路をこじ開ける。
荒療治の為相応のフィードバックが発生するが、仕方がない。
「……オイ、何の冗談だそいつは」
何故ならすぐ近くにサーヴァントの気配が二つ。その一つは目の前に。
ならば現状把握は後回し。込み上げた血を飲み下し、二振りの中華剣を投影する。
「っ、チィ――!」
後退しつつ振るわれたゲイ・ボルクを交差した陰陽剣で払いのけ、土蔵の外に躍り出た槍兵を追う。
戦いの場は開けた庭へ。月明かりに照らされ、赤と青が睨み合う。
「ふざけたヤロウだ、只者じゃねえと思っていたが、まさかサーヴァントとはな」
「ふむ、生憎私は召喚されたばかりでね。正直現状把握すらままならない状況なのだが―――」
「どうやら君は私の召喚に立ち合ったようだ。良ければ説明願えないかね?」
「けっ、抜かせ―――!」
踏み込みからの爆発的な突進。
繰り出される鋭い刺突の全てを赤の剣士は流れるようにいなす。
響く剣戟。火花を散らしつつ的確に対応する正体不明の双剣使いに、最速を誇る槍兵は未だ一撃を叩き込めずにいた。
だがそこまでだ。本調子でない身体と魔術回路では防戦が精一杯。
ならばこの場の選択肢は一つ。
干将と莫耶を投擲し、一アクションでそれらを打ち落とす槍兵との間合いをとる。
「自らの武器を捨てるとは、貴様―――」
ぎらりと光る獣の瞳。
「残念ながら、私の本領は其処には無いのでね」
静かに見つめ返すは灰色の瞳。
その手には何の装飾もない無骨な黒弓が握られていた。
「成程な、セイバーとは既に戦ってきた。その武練、消去法で行けばライダーかアーチャーってことになるんだろうが、それにしても……」
「接近戦で槍兵と鍔迫り合うとは、貴様。本当にアーチャーか」
「生憎と私は真っ当な英霊ではないのでね。戦場を生き抜く為には剣であろうと槍であろうと使わざるを得なかったのだよ。
ランサー、君は他者の戦闘スタイルに文句をつける気かね?」
皮肉めいた言動と笑みで注意を引きつつ、装填すべき弾丸を検索する。
先程まで思い出せなかった生前の経験も、英霊との死闘の中で自身の戦闘スキルと共に急速に取り戻しつつあった。
「まさか。他人の戦いにケチつけるほど野暮じゃねえよ。手数の多さはそれだけ戦いを面白くするからな」
だが挑発には乗らず、ボディスーツの男は肩を竦めて笑う。
「実に英霊らしいことだ。勝利よりも戦いを求めるか」
「ああ。元より聖杯に託す願いなんて持ち合わせちゃいねえ」
「俺の願いは唯一つ、伝説に名を刻んだ英雄たちとの死闘だ。ま、今は無粋な制約が掛かっちゃいるがな」
「成程、令呪か。戦いに於いて戦士を縛るとは、酔狂なマスターもいたものだ」
「全くだぜ。だがテメエのマスターも相当ぶっ飛んで―――」
「……ならば提案がある。アイルランドの光の御子よ」
「――――――あ?」
「今夜は私の方も本調子ではない。甚だ不本意ではあるが、決着は次に持ち越しとしないか。
次に見えた時こそ、私は全力を以って君を討ち果たそう」
「……はっ、俺の真名を識った上で言いやがるか―――いいぜ、お互い死力を尽くした上の決着こそ俺の望むところだ。撤退はマスターからの指令でもあることだしな」
「だがな。令呪と言えど、六戦全てに対する絶対的な拘束力なんざあるわけがねえ」
「この状態で潰せる相手なら、次の機会を待ってやる必要もねえよな?」
明確な殺意を孕んだ眼光が弓兵を射抜く。
「ふむ。確かに、道理ではあるな」
「お前を見逃すのは、お前がそれだけの価値を持っていた時の話だぜ」
「―――ならば、それに足り得るモノを披露しよう」
「はっ、漸く本領を見せるか。いいぜ、やってみな……!!」
くるくると軽やかに宝具を振りまわし、ランサーはいつでも来いとばかりに低く構えをとる。
「―――」
対して、無言で虚空から一本の矢を生み番える弓兵。
「な」
それを見たクー=フーリンの動きが止まる。張りつめていた筈の意識に僅かな緩みが生じ、万全の構えが一瞬綻ぶ。
それほどまでに彼を驚愕させるものを、見開かれた双眸は確かに映していた。
―――だって、あれは。
「I am the bone of my sword.(我が骨子は捩れ狂う)」
奇妙な詠唱と共に放たれるは、彼の英雄と同じ時代を駆け抜けた、とある男と共に在った稲妻の螺旋剣。
「『偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)』」
ソレが形変えて今、嘗ての盟友に襲いかかる―――!!
「っ、―――チィッッ!!」
一瞬の逡巡。反応が遅れたが、この身は矢除けの加護を授かっている。ならば弓兵が何を放とうとも、その悉くを躱して―――…
待て。
つい今し方、この男は自分の真名を看破してみせなかったか。
ならばこの一撃は、それを弁えた上で
「―――『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」
とりあえずここまで
(―――なんだ、これ)
数分前から身体の自由がきかない。
槍の男に殺される寸前、俺は突如光に包まれた。
その光が晴れた時、全身に雷が落ちたような痛みが走り、次の瞬間には投影魔術を完了していた。
両手にはカタチを得た双剣。驚いたことにしっかりと中身を伴っている。
それを行ったこの身の魔術回路は計二十七本。俺の中にこれほどのものが眠っていたなんて。
この時既に身体の支配権を失っていた。
自分以外の誰かが勝手に身体を動かしている感覚。
その誰かは凄まじい速さで双剣を振るい、槍の男と拮抗している。
合間に会話を挟むが、声帯から発される声がいつもの自分より随分と低い。
その中で辛うじて把握できたのは、真偽は兎も角として相手がクー・フーリンであること。
この馬鹿げた戦いと同じものがあと五回も行われるらしい事。
俺が、その戦いに巻き込まれたこと。
(うっ、く――――……)
どうにか身体を動かそうとするが、どう足掻いても無駄だった。
一体自分の体に何が起きているのか。
混乱した頭をそのままに、正しく目の前で繰り広げられる戦いを呆然と見る。
この身体を操っている男は、どうやら本気の一撃を放つらしい。
稼働する魔術回路。
意に反して動く右腕が、投影されたドリルの様な剣を弓に番える。
そして一節の詠唱を。
『I am the bone of my sword.』
何故だろうか。理解不能な事ばかり起きたこの夜の中で、その呪文だけは、綺麗にストンと胸に落ちた。
「―――貴様、一体どこの英雄だ」
「名乗るほどの者ではない。例え言っても分からんだろう。私は君の様な大英雄とは比べ物にならん、ただの掃除屋だからな」
「戯言を……名も無き弓兵がそれほどの宝具を持つものか!」
至近距離で炸裂した螺旋剣から、果たしてどのように逃げおおせたのか。
土埃に塗れているものの、未だ無傷の槍兵は先程までの笑みを消して怒鳴った。
「答えろ。何故貴様が、その剣を持っている。
フェルグスの野郎や俺の生きた時代に、貴様のような英雄は存在しなかった筈だ」
「ああ、その通りだ。私はケルトの英雄ではない」
「そして残念ながら、今のはオリジナルではないのだよ。生前貯蔵したものを元に私なりのアレンジを加えたものだ」
「……ちっ、本当にワケの分からねえ野郎だ」
悪態をつきながらケルトの英雄クーフーリンは槍に付いた土を振り払う。
「―――ま、それでも約束は約束だしな。マスターの野郎から帰還命令も出てることだし、今夜はここで幕を引くとするか」
「有難い、クランの猛犬のお眼鏡に敵ったか。どうやら私も捨てたものではないらしい」
「……もう一度犬と言ってみろ。休戦の話はチャラだ」
「これはすまない、失言だったな」
「アーチャー、テメエとの決着は必ず付ける。それまで他の奴に殺されるんじゃねえぞ」
「無論だ。ランサー」
「フン」
それだけ言うと背を向け、青い槍兵は霊体化し夜の闇に融けていった。
「―――――、さて」
一先ず戻った土蔵の中で、赤い弓兵は思案を巡らせる。
(やはりマスターの気配はない、か)
訳が分からない。現界を果たした時点で、土蔵にはアーチャーとランサーの他に気配はなかった。
ならばこの身は誰に喚び出されたというのか。
(そしてこの場所は―――…)
更にもう一つ、召喚に応じこの場所に降り立った時から、アーチャーは決して無視できない疑問を抱いていた。
「私はこの場所を知っている―――…?」
そう、口に出した瞬間。
「ッ、―――!!」
強烈な既視感。視界がぐるりと回り、思わず片膝をついて荒く息を吐く。
工具。ブルーシート。血の染みた床。開け放たれた扉。残された召喚陣。
全てにどうしようもなく見憶えがある。
おかしい。
こんな場所を知っているのはおかしいと、ノイズにまみれた意識が否定する。
「――――、……これは」
召喚の余波で吹き飛んだのか。裏返しになったブルーシートの下に、それを見つけた。
視認しただけで判る。それは投影品。
山と積まれたその殆どはラジオやストーブなどの機械類だ。
だが全て外見ばかりで中身が無い。
当然だ。私の起源と属性は剣。己の領分から越えたモノを再現できるはずもない。
武具の類ならば鍛錬と消費魔力次第で真に迫れないこともないが、機械などの現代機器はやはり不可能だ。
中身が空っぽでは、いくら消えないとしても無意味であり、長い間それに気付かずこんなことを続けていた俺は本当に―――
「待て、私は何を言っている?」
それでは、まるで―――
私こそがこの土蔵の住人だと言っているようではないか。
一旦休憩
またあとで来るかも
鍛代……もとい、期待
「クランの猛犬」って本来は「忠義者」を意味する誉め言葉なのだが……
「……」
いつの間にか、引き寄せられるように魔方陣の前に立っていた。
これは私が喚ばれた陣。召喚を終えた以上は不要な物であり、それ以上でもそれ以下でもない。その筈だ。
だというのに、私は何故ここで何かを待っているのか。
(一旦、状況を正しく整理する必要があるな。……そう、ここに我がマスターがいたのならば)
この身が召喚に応じた時、土蔵には戦闘状態のランサーがいた。
つまりは誰かがランサーと戦い、或いは逃げ、この土蔵に逃げ込んだということ。
そしてそれは間違いなく己がマスターだ。
ランサーに追われ、窮地に陥ったところで急遽サーヴァント召喚の儀を行った。
酷くちぐはぐな召喚ではあったが、それならば合点がいく。
「しかしどんな未熟者だ。サーヴァントも従えず、敵に姿を見られるような失態を侵すなど……」
そこまで言って、自分も似たような経験をしていたことを思い出し頭を痛める。
そうだ。聖杯戦争など知らなかった嘗ての己も、その未熟者と全く同じ失敗をしていたではないか―――
「っ、―――!」
今。
何か決して見たくないものを垣間見たような気がして、脳裏に浮かんだイメージを掻き消した。
「何だ、今のは……」
>>58
マジすか……脳内補完お願いします
「なんでさ」→「知るか」の流れじゃないのか・・・
どうして真面目に(?)考察する方向に行ってんだ
乙
「アンタがマスターである衛宮君を乗っ取った。そこまでは分かったわ」
「ならその"特殊な中身"とかいうアンタは誰。衛宮君であって、そうでない―――確かそう言ったわね」
「乗っ取ったと言われるのは些か不服だが……ああ。確かに私はこの身体の持ち主の衛宮士郎ではない」
「とはいえ、私もエミヤシロウであることに違いは無いのだよ」
「……解せないわね。此処まで来て言葉遊びなんて、どういうつもりかしら」
「厳然たる事実だ。これこそ私がこの身体に収まった要因であり、君達のことを知っている理由でもある」
「アーチャー、先程から貴方の言は要領を得ない。我々を信用を得たいのであれば、まずは貴方が何者かを簡潔に述べるべきだ」
痺れを切らしたセイバーが口を開く。
セイバーには先程衛宮君のことを多少話してあるが、それでもこの場で一番状況を掴みかねているのは彼女だろう。
「私の陥った状況があまりにも非常識なものなのでね。正しく理解してもらう為の布石だったのだが……前置きはこのあたりでいいだろう」
「では最後に一つだけ訊かせてくれ。セイバー、君は英霊というモノをどう理解している?」
「何を今更。英霊とは英雄が死後、人々に祀り上げられ精霊化した存在でしょう」
世界によってヒト以上の霊格に昇華された英傑達。
英霊の"座"に召し上げられた時点で、彼らは輪廻転生の理からすらも外され、永劫不変の存在となる。
世界の外側に位置するが故"座"に時の概念はなく、古今東西総ての英霊は残らず其処に集められるのだ。
……私は死を迎える寸前で世界との契約によりサーヴァントとなったが、それは極稀な例外。
この地に喚び出された私以外のサーヴァントは、恐らく全て英霊の座から招かれた者たちだろう。
「ああ、その通りだ。そこまで解っているのであれば、マスターはともかく君は私の言を疑いはすまい」
どうやらこいつはセイバーを味方につけて私を丸め込む肚らしい。
「どういう意味よそれ。あんたがどんな奇天烈な真名を出すつもりなのかは知らないけど、
私だって『始まりの御三家』なんですからね。英霊やサーヴァントシステムのことくらい熟知しているわよ」
どこまでもふざけた態度をとるこの男は、察するに相当ぶっ飛んだ話をするつもりなのだろう。
最初からこいつは、"私が"ソレを信じないものと決めつけて、"私を"説得にかかっている。
だが道理が通っているならば、私も頭ごなしに否定などしない。
いいからさっさと話せとカップをソーサーに叩きつけ睨みつけた目前の男はそして、
「では話そう。――――私の真名は英霊エミヤシロウ」
「……は」
などと、この夜最大級のとんでもない核爆弾を投下した。
「君の知る衛宮士郎の未来の姿であり、正義の味方の成れの果て。ただそれだけの話なんだ、遠坂」
「私もエミヤシロウであることに違いは無いのだよ」
俺の身体を奪った誰かはそう言った。
遠坂がさっきの青い剣士と一緒に乗り込んで来たのにも仰天した。
彼女が巨大過ぎる猫を被っていたことにも驚愕した。
今此処で展開されていた話の内容もあまりに信じ難いものだった。が、男の言葉には思考が止まった。
……こいつは何を言っている?
衛宮士郎は俺だ。
あの光に紛れて俺を乗っ取った"サーヴァント"とかいうらしいこの男は、いきなり何を言い出すのか。
もういい加減黙っていられない。主導権なんて知るものか。
俺を押しのけて居座るこの侵入者をさっさと追い出して、遠坂に―――
「では話そう。――――私の真名は英霊エミヤシロウ」
その瞬間、未来を見た。
―――――――朱い空。
(―――、『英霊』?)
それは俺が目指すべきものだ。『英霊』、『英雄』。正義の味方の呼び名の一つ。
―――――――廻る歯車。
何故こいつがそれを知っている。
俺を騙る偽者は、あろうことか俺の夢そのものを名乗った。
お前ら「(この設定は)なんでさ」
>>1「(奈須じゃないんだから)知るか」
士郎「(投下無いのに伸びてるの)なんでさ」
アーチャー「知るか」
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