剣士「お前が好きだぁ!! 結婚してくれぇえええ!!」 (43)



精霊「……」

精霊「何故……?」

剣士「一目惚れに決まってるだろうがあ!!」

精霊「……どこに一目惚れをしたんですか」

剣士「透き通るような肌! 柔らかな髪! 聞いているだけで胸が高鳴る美声!」

精霊「文字通り透き通っているだけです、髪の毛が柔らかく見えるのも半実体だから」

精霊「……声も、気のせいでしょう」

剣士「それでも君が好きだ!」

精霊「そもそも私に性別はありません」


剣士「俺が男なら 問 題 な い ! ! 」




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剣士「でも性別が無いのは少し困るな」

精霊「読心魔法を使うまでも無いですね、所詮は性欲の捌けにできないからでしょう?」

剣士「性欲の捌け? 違う違う、子供が生めないなーと」

精霊「孕ませると…?」

剣士「いつかは、ね」カァァ…///

精霊「……」

精霊「何にせよ私は人間と子を宿す事は無いですよ」

剣士「うーん……」

精霊「まぁ、用済みならばどうぞ」すっ

剣士「なに?」

精霊「私を討ち取ればいい」


剣士「討ち取るわけないだろう」

精霊「貴方は、私のあらゆる能力を把握して、その上で鍛練を積み上げてきている」

精霊「その結果が私の今の状態です」


精霊「人間一人との決闘で、ましてや貴方は剣すら抜かずに私を捩じ伏せた」


精霊「だから……貴方の願いを聞けない私を、貴方は討ち取って一生の武勇伝として誇ればいい」

剣士「そんなのよりお前と一生を共にしたいんですが」

精霊「……っ、どうやってですか」

剣士「お付き合いからでもいいけど、結局は結婚してから一緒に暮らしたいなあ」

精霊(まだ……そんなことを!)イラッ


剣士「つっても、確かに君の言う通りだよ」

精霊「諦めて頂けますか」

剣士「いや、要は好きにしていいんだろ? ならもうお前は俺の嫁だよ」

精霊「……」

剣士「戦う前にした約束を守る気があるみたいだし」

精霊「逃げるとは思わないんですか」

剣士「逃がす気はないけど、せめてもうしばらく一緒に過ごしてから逃げて欲しい」

精霊「何故?」

剣士「やっぱりお互いを知らないと、って事かな」

精霊「……」

精霊「貴方は、気味が悪いです」

剣士「よく言われるけど、それでもお前が好きだ」



精霊「……あの」


< ザッザッザッ…


剣士「ん?」

精霊「特に意味はありませんが、武勲が目当てではないなら……何故私を倒そうと?」

剣士「秘密だな」

精霊「何故です」

剣士「割りと重要だから、いつか君の心を鷲掴みにする時の為にとっておく」

精霊「はぁ……そうですか」

精霊「ところで、私を抱き上げたまま下山する意味は?」

剣士「俺がドキドキする、柔らかい、可愛い」

精霊「自己満足の塊ですか・・・」


村人「あんれぇ、帰ってきよった!」

村人B「あんた生きとったんか? 精霊様が住むお山さ登ってって、もう1ヶ月だよぉ?」


剣士「いやー、つい嫁をゲットしたくてさ」

精霊「誰が嫁ですか」

剣士「君だろう」

精霊「……女でもないんですが」

剣士「そのうちなれるから良いんだよ」

精霊「はい?」


村人「嫁って、そっちのべっぴんさんがかぃ?」

村人B「お山ん中におったんけ? なんば、剣士さんの上着しか着てねえけんど」

精霊(……そういえば人間は服を着るのでしたね、なるほど…それで村に入る前に上着を)


剣士「上着1枚とか興奮するからな」

精霊「控えめに言って死んでください」



村人C「あっひゃっひゃ! こんりゃあ祝ってやらにゃぁな!」

村人「いっつも村にやってきた時に色々手伝って貰ってんもんなぁ!」

精霊(いつも?)


剣士「悪いな、実はこれから軽い準備だけしたらもう行くんだ」


村人B「ありゃ、なんでかね」

剣士「いてもたっても居られなくてさ、早く俺の嫁に綺麗な服を着せたいんだ」

村人「んまー、そんなこったらしゃぁない」

村人C「んだんだ、村長にはおめえさが無事に帰って来たこと教えとくき」

剣士「へへ、悪いな」


精霊(……それにしても村ですか…今まで何度か人の気配はありましたが、昔は小さな家が1つあっただけでした)

精霊(村が出来るほどに、年月が経ったのですね…早いものです)


~ 数時間後 ~


村人「お、村長さおったおった」

?「どうかしたの、珍しく慌てて」

村人「あんの1ヶ月見なかった剣士さ、帰って来たとよ」

?「……え?」

村人「精霊様に会えたかは知んねぇけんど、代わりに嫁さ見つけたって喜んでたさ」

?「嫁って…あのヘタレ小僧が?」

?(どういう事? あいつ、精霊にあれだけ会いたがってた筈じゃ……)

?(……まさか)


?「ねぇ、剣士は何処に向かったの?」

村人「さぁ……嫁に綺麗な服、着せてやりてえってよ」

?「綺麗な服を?」

村人「なんか不思議なべっぴんさんでよ、普通なら上着しか羽織ってねえと色々目につくんだがね」

村人「どうも『綺麗』としか思わなくてよ、あんりゃぁ剣士の奴さええべっぴんさん捕まえたね」

?(……へぇ)


?「しばらく村を留守にするわ、不在の間頼んだわよ」

村人「何処さ行くとね」

?「決まってるでしょ、馬鹿な弟子を小突きに行くの」

村人「あいよ、村長さがいねえ間はオラが村を守るだよ」






━━━━ 精霊の山より二十里離れた都市 ━━━━




剣士「よし、ついたついた」

精霊「……」

剣士「…精霊?」

精霊「転移魔法、それもほぼ距離に関係無く移動出来るタイプですか」

剣士「え、そうだけどもしかして酔っちまったか」

精霊「なんでもないですよ、ほら……下ろしてくれませんか」

剣士「お、おう」スッ


精霊(この人間、私と戦ってる時もそうでしたが魔力量が明らかに常識を逸していますね……)


精霊「すー…はぁ……」

精霊「……」

剣士「空気を感じているのかい?」

精霊「ええ、それで大体人間の事は分かるので」

剣士「どう?」

精霊「控えめに言って、あまり良くない空気ですね」

剣士「そうだな、四年前から不景気で最近は物盗りが多い位には殺伐してる」

精霊「不景気?」

剣士「貿易が出来なくなったんだ」

精霊「……」

精霊「人間は複雑なのですね」


剣士「うん、そう言って貰えると嬉しいよハニー」ギュッ

精霊「手をいきなり握らないで下さい」ペシッ


< チリンチリン

女店主「いらっしゃい」

女店主「って、剣士さんじゃない! 帰って来たの?」

剣士「ああ、ようやく用事も済んでな」

女店主「へぇ! なんか飲む?」

剣士「いやいいよ他の客に悪い、それより……」


精霊(……人間の着る布も随分デザインが変わりましたね、思ったより機能性が高い)

< うろうろ・・・

女店主「……?」

剣士「あの女性…じゃ、ないか……えーと、とりあえずあちらの人に服を見繕って欲しい」

女店主「綺麗な人だねぇ、何者なの」

剣士「未来の奥さん」

女店主「剣士さんそんなキャラだっけ」



女店主「さて、と……スリーサイズはこんなものね」

< しゅるっ

精霊「身体周りを測って服を作るのですね」

女店主「既存のものでイケるならそれを売るんだけどね、人によっては新しく作らないといけないんだー」

精霊「なるほど」

精霊「ところで……何故こんな布を穿かなければならないのですか」

女店主「女性も男性も、生殖器は隠すものなの」

精霊「……恥じらいですか」


女店主(うん、まぁこの人には意味ないもんね)

女店主(ていうかびっくりした…人間じゃないんだもん、そもそもこの人)

女店主(股間にあるべき色々が全部無いんだもん)


精霊「剣士はどこにいますか」

女店主「え? あー、奥の待合室じゃないかな」

精霊「服の作成に時間がかかるのでしたら、彼と話があるのですが」

女店主「そっか、なら適当にカウンターの中にあるカゴから服を持ってって着てくれる?」

精霊「何故ですか」

女店主「服を着ないと面倒だよ」


精霊「……わかりました」

女店主(常識ありそうな話し方というか、落ち着いてるのに意外に常識がないなぁ)

女店主(それに、剣士さんはどうしてこの人と一緒にいるんだろう)



精霊「フッ!!」

< ドゴォッ!!

剣士「ぐぉほぉっ!? 開幕ボディブロー?!」ドサッ


精霊「今まで山の妖精達と過ごしてきた私をこんな所に連れてきて! 何なんですか一体!」

剣士「な、なぜに怒ってらっしゃる……」

精霊「いきなり身体をぺたぺたと触られて、挙げ句には測られて、私を辱しめるのが楽しいですか!」

剣士「いや……だって、君ならどんな服が似合うかなって」

精霊「適当でいいです! 私はそもそも精霊なのであって……」

剣士「そんな精霊をもっと綺麗にしたかったんだ」


剣士「ていうか好きなものは好き、これは仕方ねぇ!! 愛してる!!」


精霊「フッ!!」

剣士「ぐぅぅおっはあああああ!!?」ドゴォッ!!



━━━━━「とりあえず、今から作業にかかるから久しぶりに街を歩いてきてよ」━━━━━


━━━━━「うん? なんでって……今さ、町中で大変なことが起きてるの」━━━━━


━━━━━「だから……その、お連れさんと見てきて欲しいな…って」━━━━━


━━━━━「なんかほら、特に意味は無いんだけど…ね」━━━━━




剣士「何か困ってるのかもしれないな」

精霊「人間の事です、空気の流れから推測するに、治安の悪化だけではないのでしょう」

剣士「そうなのか?」

精霊「詳しくは分かりませんけどね、それに私が知る限り人間とは元々『悪』です」

精霊「平和が続けば再びどこもかしこも火種が生まれるのは必然でしょう」スタスタ


剣士「ん、それは同感かな」

精霊「……」

剣士「俺の事は例外として見て欲しいけどね、君に少しでも好きになって欲しいしさ」

精霊「…………それを決めるのは私です」

剣士「うん、待ってるさ気長に」




警備兵「貿易が出来なくなった原因?」


剣士「以前から出来なくなったのは知ってたんだ、だが詳しいことまでは知らなくてな」

警備兵「はーん……アンタもしかして賞金稼ぎ?」

剣士「いや違う」

警備兵「ならなんで知りたいんだ、どうだっていいだろう?」

精霊「なるほど」

警備兵「あ?」

精霊「いえ、なんでも」



精霊「思った通りの門前払いでしたね」

剣士「でも読めたんだろ?」

精霊「ええ、しかし予想通りですよ」

精霊「やはり四年前から貿易が止まり、その影響で都市の至る所で難民が出ていた様です」


精霊「そして二年前からは、殺人や強盗、人拐いもです」


剣士「……思ったより酷いな」

精霊「ええ、それにしては空気が汚れすぎていません」

剣士「ん、つまり?」

精霊「恐らくあの警備兵に問いかけた時にうっすらと心の隅で鳴った声の通りでしょうね」

精霊「貿易を邪魔し、そして都市のあちこちを駆け回っている者がいる」

精霊「それも、人間ではありません」


剣士「……」ギュッ

剣士「精霊、結婚してくれ」ステキスギル、カッコイイ

精霊「少しは真面目にあなたも考えてくれませんか?」ペシッ!


~ 都市中央・地下監獄 ~


刑務官「最近捕まった奴と、四年前からいる囚人に面会がしたい?」

剣士「ああ、どうかな」

刑務官「そりゃー無理だろう、申請して返事もらうの時間かかるしよ」

剣士「アンタが黙っててくれれば話が早いんだけど、ダメかな」

刑務官「ダメだ、そもそも連れに女がいるんなら安全性の責任がある」

刑務官「悪いが出直しな」


精霊「……他者を労るのは勝手ですが、彼の場合は面倒を避けたいだけですね」ボソッ

剣士「仕方ないなぁ……」


刑務官「?」


~ 監獄内部 ~


< ずるっ……

剣士「……で、出られた?」

精霊「ええ…まぁ、それにしてもよく思い付きましたね」ズルリ

剣士「概念魔法は加減が難しいから、凄く危なっかしいけどな……」

精霊「壁の意味を持つモノを通り抜ける、それだけでも充分凄いとは思いますが」

剣士「でも魔法を解くタイミングが分からなくてさ、通り抜ける事は出来るけど物質に触れる時はザラザラしてるし」

剣士「だから目を閉じないといけなくてさ…」

精霊「それで私に索敵をね」

剣士「精霊なら物理干渉から逃れられるからさ、ありがとう」

< ナデナデ……

精霊「………」


精霊(貴方は何故か、例外な様ですけどね…まったく)



剣士「なぁ、起きてくれ」

囚人「んぁあ……うるせえな…」

囚人「んぉ!? 何だお前ら! どっから入って……」

剣士「まぁまぁ、ちょっとどうして捕まったのか聞きたいだけなんだ」

囚人「あー? どうして捕まったのかって、そりゃ悪いことしたからだろ」

剣士「何でやったのか聞きたい」

囚人「そりゃぁ……」


< ピクンッ


囚人「………やりたかったからだろ」

精霊「!」

剣士「…だよな、ありがとオッサン」


< ずるっ

剣士「ふぅ、次は四年前からいる囚人だな」

精霊「……何を想定してこの調査を?」ズルリ

剣士「何がだい」

精霊「先程の人間、心を読みました」

精霊「が……貴方の質問の時、男は間違いなくあの瞬間だけ何者かに介入されていました」

剣士「やっぱりかぁ、ドンピシャってよりはたまたま当たった感じだな 」

精霊「意識の死角から妨害し、その上からの上書き操作……『傀儡師』の仕業ですか?」

剣士「流石、惚れ直しちゃうな」


剣士「けど違う、今の時代では別の呼び方をする」

精霊「別の?」

剣士「催眠術師、この要素だけなら心当たりは一人だけだが念の為にもう一人見ておきたい」


< カツンッ……

< カツンッ……

< ……カツンッ…


囚人2「……」

囚人2「面会の予定は無いよ、子童」


剣士「足音で体重を逆算したんだろうけど、生憎俺はそういう特定魔法は受け付けない」

精霊「私に体重の操作をさせておいて、格好つける必要あるんですか」

剣士「ちょっ、それを言ったら……」


囚人2「……」


剣士「こんばんは、お嬢さん」


囚人2→女囚人「…それはそれはご丁寧に、何の用?」

剣士「面会の予定は無いんじゃ?」

女囚人「何か聞きたい顔をしていたから」

剣士「……」チラッ

精霊「………驚きました……」

剣士「え?」


精霊「剣士、忠告はしておきましょう」

精霊「その人間……『魔眼』が使えるようです」


剣士「っ!」


女囚人「……」

女囚人「綺麗な顔してるけど人間ではない……妖精族なのか」

精霊「ええ、しかし格は違いますが」

女囚人「ふぅん……」

剣士「何の処置も施されていない魔眼……? アンタ、どうしてここに?」

女囚人「四年か、五年前だったかな」


女囚人「殺したんだ、人をこの手で」


剣士「……」チラッ

精霊「真実ですが、正確に言うなら」

女囚人「ぴったり百人を絞め殺した、それだけだよ」


女囚人「それにしても読心術持ちか……余計なことは考えられないな」

精霊「……」

剣士「今度は何を?」

精霊「自分から心を暗号化したみたいですね……数字の羅列で意味を表してます」

剣士「あー……」

精霊「しかし貴方の求める真実は無さそうですよ、先程の言葉に虚偽は無いようでしたから」


女囚人「まぁね」

剣士「……」

女囚人「…?……」

剣士「感謝する、邪魔をして悪かった」

剣士「またな」

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