海未「私はいったいどうすれば……」 (249)
【注意】
・このSSは『ことり「体育倉庫で二人きりになるおまじない……?」』(ことり「体育倉庫で二人きりになるおまじない……?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401384804/))の後日談的内容です。
読んでなくても分かるようにはなってますが、読んでもらえると私が嬉しいです。
・地の文有りです。
・まったり進みます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1401867948
私には今、大きな悩みがあります。
おそらく、これまでの人生史上最大級の。
人間関係というものは複雑で、ややこしく、わかりづらいものばかりです。
まだまだ人生経験が少ない私にはとても理解できないことだらけで……。
誰か教えてください。
私はいったいどうすればいいのでしょうか。
ご紹介が遅れました。
皆さん、はじめまして。園田海未と申します。
国立音ノ木坂学院に通う高校2年生。
今はスクールアイドルグループ「μ's」のメンバー兼作詞担当として活動しています。
……少し簡素すぎる気もしますが、私の紹介はそれほど重要ではないのでお気になさらず。
それでは早速、私の悩みの種にまつわる話をしたいと思います。
どうか最後までお付き合いくださると幸いです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
某日 放課後、音ノ木坂学院 生徒会室
海未「……」
やはり仕事も勉強も、静かな環境での作業のほうが捗ります。
μ's発足以来、賑やかな時間を過ごすことが格段に増えましたが、やはりこういった時間も好きですね。
自然と心が落ち着くのを感じます。
……特にここ最近は、心を乱される出来事が多かったですし。
書類整理を終わらせて、今度は勉強。
もうすぐテストがやってきます。
それにあたって今日からテスト期間が始まりました。
テスト期間は部の活動が停止するので、弓道部もμ’sが所属しているアイドル研究部もしばらくはお休みです。
穂乃果はちゃんと勉強しているでしょうか。
テスト前はよくことりと二人で穂乃果に勉強を教えていましたが……今はことり一人で充分でしょう。
海未「……」
思わずため息をついてしまいます。
勉強をしているはずなのに、他のことばかり考えてしまいます。
せっかく他のことをして気を逸らしても、いつの間にか頭の中はあの二人のことでいっぱい。
少し前までこんなことはなかったのに……全ては『あの日』からーー。
コンコン。
海未「……? どうぞ」
放課後が始まってからそれなりに時間が経っています。
いったい誰が来たんでしょうか。
私の返事を聞いたノックの主が扉を開きます。そこにいたのは……
絵里「あら、海未だけ?」
海未「絵里?こんな時間まで残ってたんですか?」
絵里「教室でクラスの子達に勉強を教えてたの。どうしても私に教えてほしいって頼まれちゃって……」
照れたようにはにかむ絵里を見て、私も思わず微笑んでしまいます。
μ’sに参加する前、絵里は生徒会長という肩書きもあってか、堅苦しく(私が言うのもなんですが)少し接しづらい印象でした。
それが今、こうして絵里が楽しそうにしているのを見ることができるようになったのは、やはり『ミューズ』の力、なんですかね。
絵里「ど、どうしたの?」
海未「いえ、なんでも。それで、どうして生徒会室に?」
絵里「特に用事があったわけじゃないの。もし残ってたら作業を少し手伝おうと思ってたんだけど……」
絵里は、私が机に広げている勉強道具を見て、
絵里「ここで勉強してたの?」
海未「はい、なぜかここでやると捗るもので」
絵里「ふふ、私もテスト前はよくここで勉強したわ。ずっと勉強してたの?」
海未「いえ、さっきまでは書類の整理を……あ」
言いかけて、私は自分の失言に気づきました。
絵里「……一人でしてたの?穂乃果たちは?」
海未「えーと……その……」
うまい返しが思いつかず目を泳がせる私に、絵里が少し厳しい顔をします。
絵里「ねぇ海未?あなたが仕事が早いのはわかるけど、全部一人でやろうとするのは良くないわ」
海未「いえ……あの」
絵里「こういうことはね、分担して協力することにも意味があるのよ?」
海未「それは重々承知していますが……」
下手に言い訳を挟んだせいか、絵里はさらにヒートアップしてしまいました。
絵里「分かってるならちゃんと皆でやりなさい!あなた一人で背負い込んでどうするの!」
海未「すいません……」
絵里「だいたい穂乃果たちも穂乃果たちよ!海未一人に仕事をさせるなんて……」
海未「ち、違うんです!これは全部私が言い出したことなんです!」
このままでは穂乃果たちが不当な評価を受けてしまうと思った私は、正直に絵里に訳を話すことにしました。
絵里「穂乃果の勉強?」
海未「はい……」
舞台は変わらず生徒会室。
絵里の誤解を解くため、私はここまでの経緯を説明し始めました。
海未「絵里も知っていると思いますが、穂乃果はあまり勉強が得意ではありません」
海未「しかし学生である以上、高得点とは言わずとも赤点は絶対に回避しなければなりません」
絵里「ええ。だからテスト前は海未とことりが勉強を教えてるのよね?」
海未「はい。今までは私とことりで協力してやってきましたが……」
絵里「それが?」
海未「……私たち三人ともが生徒会に入ったわけですし、今度のテストは少し分担しようと思いまして」
絵里「分担?」
海未「簡単に言ってしまえば、穂乃果の勉強をことりが、生徒会業務を私が担当するようにしようと提案したんです」
海未「生徒会業務といっても書類の整理くらいです。もし緊急で会長の穂乃果にも目を通してもらいたいことがあれば連絡することになってますし」
海未「ことりは穂乃果に甘いところがありますが、穂乃果のことを大事に思っているのは確かです。穂乃果に赤点を取らせることはしないでしょう」
矢継ぎ早に絵里に説明をします。
……この説明で納得してくれますように。
絵里は少し考えていたようですが、しばらくすると顔をあげました。
絵里「本当に理由はそれだけなの?」
海未「……どういう意味ですか?」
絵里「海未の説明は一見筋が通ってるようには見えるけど」
そう前置きして、絵里は自分の考えを語り始めます。
絵里「生徒会のことで穂乃果に負担をかけたくないのはわかるわ。でも今はテスト前。先生達だってそのことは分かってるんだから、そこまで緊急度のある案件は来ないはずよ」
絵里「それならさっさと終わらせてから、三人で勉強をするのとたいして変わらないんじゃないの?」
海未「……」
絵里「後、これは自覚してるかわからないけど」
絵里「普段の海未なら、穂乃果から目を離すとは思えないわ。特にテスト前なんて大事な時期はね」
海未「そうかも、しれないですね……」
絵里「……あくまでこれは予想だから、違ったら謝るわ」
絵里「海未。もしかしてあなた、穂乃果から……穂乃果とことりから離れたい理由か何かがあるんじゃないの?」
海未「!!」
完全に図星でした。
何も言えずただ黙り込む私に、絵里は優しい声音で諭すように話しかけます。
絵里「ねぇ。もしよかったら、何があったのか話してくれない?」
海未「……別に喧嘩とかでは、ないですよ」
絵里「あなたが心配なの。それにほら、もしかしたら私に話せば何か解決策が思いつくかもしれないわ」
絵里には申し訳ないですが、私はそうは思えませんでした。
……しかし、このままでいいとは思っていないのも、事実でした。
海未「……そうですね。『かしこいかわいいエリーチカ』なら、なんとかしてくれるかもしれません」
少し前に聞いた、幼少時に言われていたというフレーズを私が使うと、絵里の顔が少し赤くなりました。
絵里「か、からかわないでよ///」
海未「別にからかったわけではないですよ」
絵里とこうして話しているうちに、意固地になっていた自分が解けていくのを感じました。
絵里「どこかお店で話す?」
海未「特にどこがいいというのはありませんが……その、あまり人には聞かれたくない話なので」
絵里「人に聞かれたくない……それなら私の家はどう?」
海未「いいんですか?」
絵里「ええ、構わないわ」
海未「それでは……お言葉に甘えて」
私がそう言うと、絵里は満足そうに立ち上がりました。
私も広げていた勉強道具を片付けて、荷物をまとめます。
絵里「それじゃ、早く行きましょうか」
海未「絵里!」
絵里「なに?」
出ていこうとした絵里の背中にとっさに話しかけます。
海未「……ありがとうございます」
絵里「どういたしまして。でも、お礼を言うのはまだ早いんじゃない?」
絵里は楽しげに笑って、生徒会室を出ていきました。
今日はここまで。続きは明日の予定です。
今回は書き溜めがあまり多くないので、まったり投下していきたいと思います。
ぼちぼち再開します。
絵里「どうぞ、あがって」
海未「お邪魔します」
私が絵里に案内されて絢瀬家に入ると、奥から人が駆けてくる足音がしました。
亜里沙「お姉ちゃんおかえり……って海未さん!?」
この子は絵里の妹の亜里沙。
μ’sのファンで、私のことも慕ってくれています。
海未「亜里沙……こんにちは、お邪魔しますね」
亜里沙「あ、あの、はい!」
絵里「亜里沙、海未を私の部屋に案内してくれる?」
亜里沙「うっ、うん!それじゃ海未さん、こちらへどうぞ」
海未「ありがとうございます」
亜里沙は私を絵里の部屋まで連れていってくれると、
亜里沙「海未さん?」
海未「はい?」
亜里沙「今日はその……どうして?勉強ですか?」
どうやら亜里沙は音ノ木坂がもうすぐテストということを知っていたようです。
確かにこの時期に『遊びに来た』というのは想像しづらいですね。
海未「いえ、今日はその……絵里に悩み相談に乗ってもらいたくて」
亜里沙「相談、ですか?」
海未「ええ。あまり人に聞かれたくない話なので、こうしてお邪魔させていただきました」
亜里沙「そうなんですか……」
亜里沙は顎に手を当てて、何やら考えている様子。
どうかしたのかと聞こうとしたところで、絵里が部屋に入ってきました。
絵里「お待たせ。飲み物持ってきたわ」
海未「わざわざすいません」
絵里「気にしないで」
絵里は私にお茶の入ったコップを渡すと、いまだに固まっている亜里沙に声をかけます。
絵里「亜里沙?お姉ちゃん達、これから少しお話があるの。だから」
亜里沙「あ、あの!亜里沙も聞かせてもらえませんか!?」
海未「えっ?」
絵里の言葉を遮るように言った亜里沙のお願いに、少し驚きます。
亜里沙「そ、その亜里沙が聞いても海未さんの悩みが解決するかはわかりませんけど……でも、亜里沙も海未さんのお力になりたいです!」
絵里「あのね、亜里沙。海未がする話はあまり人には聞かれたくないからーー」
亜里沙「絶対誰にも言いません!お願いします!!」
絵里は困った顔をして、私のほうを見ます。
ここまで言われて無下にするのは可哀想ですね……。
それに……亜里沙が私の力になりたいと言ってくれたのは嬉しかったですし。
海未「私は構いませんよ」
絵里は私に軽く頭を下げると、亜里沙のほうを向きました。
絵里「亜里沙。いてもいいから、約束は守ること。いいわね?」
亜里沙「うん!」
亜里沙はそう言って、顔を綻ばせました。
亜里沙が自分の分のコップも持ってきたところで、ようやく話が始まりました。
絵里「それで……悩み事っていうのは、穂乃果とことりのことなのよね?」
海未「はい。……絵里、昨日と一昨日のμ’sの練習ですが、私の動きはどうでしたか?」
絵里「え?……どうしたの急に。それも相談と関係があるの?」
海未「はい、少し」
絵里「……そうね……」
海未「お世辞抜きで、お願いします」
絵里「……あまりいいとは言えなかったわ。少しズレたり……いつもならしないミスが幾つかあったわね」
海未「……」
やっぱり……そうなんですね。
亜里沙「あ、あの海未さん。あまり気を落とさないでください……」
海未「ありがとうございます。大丈夫ですよ、今のはただの確認ですから」
亜里沙「確認?」
海未「はい、私のここ最近の不調の原因についてです」
絵里「……土曜日の練習のときは、特に変わった様子はなかったわよね。ということは土曜日の練習後から日曜日の間、もしくは月曜日の練習前の間に何かあった、ということかしら」
海未「……さすが絵里ですね」
亜里沙「お姉ちゃん、探偵みたい!」
絵里「も、もう二人とも///」
絵里は照れをごまかすようにコホンと咳払いをしました。
絵里「……それで。その間に、何か原因となる出来事があったってこと?」
海未「はい。ここからが本題ですね」
お茶で喉を潤してから、私は話し始めます。
海未「絵里、『体育倉庫事件』を覚えてますか?」
絵里「当たり前じゃない。まだ1週間しか経ってないのよ?」
亜里沙「それって、穂乃果さんとことりさんが倉庫に閉じ込められたって話ですか?」
海未「知ってるんですか?」
亜里沙「はい、お姉ちゃんと雪穂から聞きました」
体育倉庫事件とは、先週の火曜日にグラウンド隅の体育倉庫で起きた事件です。
先生からの依頼で倉庫内の備品チェックをしていた穂乃果とことりが、倉庫に閉じ込められてしまったのです。
幸い、二人はその日のうちに救出され、大事には至りませんでしたが……。
絵里「いまだに原因がわかってないのよね。もっとも、倉庫はもう取り壊されちゃったから再発の恐れはないけど」
海未「二人は『突然揺れが起きて、戸が閉まった』と言ってましたが、あの日は地震なんて起きていませんでしたからね」
先週のμ’sのメンバー間は、この話で持ち切りでした。
最終的には、『誰かがイタズラで閉めたのだろう』という結論で収束しましたが。
そう、あくまで表向きには。
絵里「それも何か関係があるの?」
海未「関係というか、それが契機ですね」
絵里「え?でもあの事件は……」
海未「正確に言うと、穂乃果とことりの契機です」
絵里「あの二人の?」
少し回りくどく喋りすぎましたね……。
海未「ハッキリ言ってしまうと」
私は深く息を吸うと、
海未「あの事件がきっかけで、穂乃果とことりが恋人として付き合い出したらしいんです」
最後まで一気に言い切りました。
絵里「……」
亜里沙「……」
……やっぱり、そういう反応になりますよね。
私がお茶をいただいて、二人がフリーズから回復するのを待っていると、
絵里「ハ…………」
亜里沙「ハ…………」
海未「?」
「「ハラショー」」
むせました。
海未「えほっ……げほげほっ……」
絵里「ちょ、ちょっと海未!?」
亜里沙「大丈夫ですか!?」
海未「は、はい……なんとか」
息を整えて少し深呼吸。
ようやくまた話ができる状態になりました。
絵里「えっと、その……本当なの?冗談とかじゃなくて?」
海未「冗談、ではないと思います。わざわざ呼び出されて報告されましたから」
そうして私は日曜日のことを、穂乃果の家に呼び出されたときのことを二人に話し始めました。
今日はここまで。
短くてすいません。続きはまた明日。
再開します。
なんか……後日談なのに前作よりボリュームアップしそうなんですが
~~~~~~~~~~
穂乃果「海未ちゃん、いらっしゃい!」
海未「どうしたんです、突然。『話があるから家に来てほしい』なんて……」
穂乃果「まぁ、詳しい話は部屋でね。あがってあがって」
海未「……お邪魔します」
穂乃果に連れられて穂乃果の部屋に入ると、先客がいました。
ことり「海未ちゃん、おはよう!」
海未「もうお昼ですよ……ことりも穂乃果に呼び出されたんですか?」
ことり「うーん、呼び出されたというより、穂乃果ちゃんと二人で海未ちゃんを呼び出した、って感じ?」
海未「?」
話が見えず困惑している私に、
穂乃果「ままま、とりあえず座ってよ」
穂乃果は、ことりとテーブルを挟んで反対側に私を座らせると、自分はことりの隣に座りました。
海未「それで……話というのは」
穂乃果「あ、うん。ことりちゃん」
ことり「穂乃果ちゃんとことりから、海未ちゃんにお知らせというか……報告があるの」
海未「報告、ですか?」
穂乃果とことりはお互いに目配せすると、私には予想もつかないことを言い出しました。
「「私達、お付き合いを始めました!!」」
海未「……?お付き合い?」
穂乃果「そう!つまり、穂乃果はことりちゃんの彼女で」
ことり「ことりは穂乃果ちゃんの彼女なの!」
そう言って二人は、私の目の前で抱き合いました。
正直、ついていけてませんでした。
ただ、もたらされた情報が大きすぎて処理が追いつかなかった結果、オーバーな反応をすることもなく普通に二人と話ができたのは、ラッキーだったかもしれません。
海未「その……つまり話というのは、二人が恋人になった、ということでしょうか」
穂乃果「そういうこと!よかったー、海未ちゃんが受け入れてくれて」
受け入れたわけではなく思考がストップしてしまっているだけなんですが、そんなことに突っ込む余裕すら今の私にはありません。
ことり「ことりと穂乃果ちゃんでね、一番に海未ちゃんに話そうって考えてたんだ」
海未「それは何というか……光栄です」
もう自分でも何を言っているか分かりません。
二人を心配させないためにも会話を続けることしか、私の頭にはありませんでした。
海未「二人は……その、いつ?」
ことり「付き合い始めた日ってこと?一昨日だよ。私から告白したの」
穂乃果「あ、でもあくまで形式的な話では、だよ?ことりちゃんが最初に告白してくれたのは、体育倉庫に閉じ込められたときだから。穂乃果的にはあの日が恋人記念日!」
ことり「も、もう穂乃果ちゃんったら///」
海未「た、体育倉庫?それって火曜日の……」
ようやく私の知っている情報が出てきました。
穂乃果「そうだよ。ただあのときは緊急事態だったから。やっと落ち着いた金曜日にことりちゃんがもう一回告白してくれて、穂乃果が受け入れて、恋人になったの!」
ことり「それで昨日二人で考えたの、まずは海未ちゃんにって」
情報が出揃ったことで、ようやく事態を理解し始める私の脳。
私の沈黙を呆然していると受け取ったのか、ことりが苦笑いしました。
ことり「あはは、さすがに驚いたよね」
穂乃果「早くμ’sの皆にも報告したいんだけど……」
ことり「もう少し時間おいてからでいいんじゃないかな?」
穂乃果「そうだね」
いまだに少し混乱している頭を抑えつつ、もう一度確認します。
海未「そ、それでは本当に二人は……」
穂乃果「もー。海未ちゃんまだ疑ってるの~?」
海未「別にそういうわけでは……」
穂乃果「しょうがないなー。ことりちゃん!ちょっとこっち向いて!」
ことり「え?どうし、んむっ……」
海未「…………へ?」
穂乃果「んっ……」
私は幻覚でも見ているんでしょうか……突然穂乃果がことりを抱き寄せてキッ、キキキキキキキキキ……
海未「なっ、何をやっているんですか!!!!」
穂乃果「……ぷはっ。だって海未ちゃんが信じてくれないから……」
海未「わっ、分かりましたから!二人が付き合っていることは分かりましたから!!」
自分がしたわけでもないのに、恥ずかしさで顔が爆発しそうです。
私は荷物を掴んで立ち上がると、
海未「もう話は終わりましたよね!?では私はもう帰ります!お邪魔しました!!」
脱兎のごとく部屋を飛び出しました。
「もう穂乃果ちゃんったら……」
「あはは、ごめんごめん。でも気持ちよかったでしょ」
「そ、それは……」
「……ねぇ、ことりちゃん。穂乃果、続き、したくなっちゃった」
「あっ、ダメ……!そんなところ触ったら……」
後ろから聞こえてきたそんな会話から逃げるように、私は帰り道を全力疾走しました。
~~~~~~~~~~
絵里「そ、そんなことが……」
海未「帰ってから情報を整理して、完全に吹っ切れたつもりだったんですが……練習にまで影響を出してしまうとは…………」
亜里沙「さ、さすがに仕方ないと思いますけど」
絵里「それにしても……まさか穂乃果とことりが、ね。確かに人には話せない相談ね」
海未「友人として、二人が話す気になるまでは他の人には黙っているつもりだったんですが……」
他のことに集中していても、頭をよぎるのは穂乃果とことりの口づけシーン。
正直もう限界でした。
あれ以来寝付きが悪くなり、昨日は授業中に思わず寝てしまうところでしたし……このままでは間違いなくテストにも支障をきたします。
絵里「さてと、事情は分かったわ。後は解決方法を見つけないとね」
亜里沙「でもお姉ちゃん。これって解決するのは結構大変だと思うよ……?」
絵里「そうね……ようは気の持ち様だと思うんだけど」
亜里沙「もう少し問題点をハッキリさせたほうがいいんじゃないかな?」
海未「問題点、ですか?」
亜里沙「はい。……その、海未さん?」
海未「なんでしょう?」
亜里沙「答えづらい質問だとは思うんですけど……」
亜里沙「穂乃果さんとことりさん、どちらが好きだったんですか?」
絵里「え?」
海未「はい?」
亜里沙「……へ?」
三者三様の反応に、場が静まり返りました。
絵里「亜里沙?何を言ってるの?」
亜里沙「だ、だって……海未さんは二人のどちらかが好きで、失恋してしまった、ってことですよね?」
海未「……違いますけど」
亜里沙「えっ!?」
……なぜそんなに驚いてるんでしょうか。
絵里「何を言ってるの亜里沙!?海未に失礼じゃない!」
亜里沙「え?だ、だって……!」
絵里「海未が穂乃果かことりが好き?そんなのありえない!認められないわ!!」
海未「絵里?」
絵里が珍しくヒートアップしています。そこまで熱くなることなんでしょうか?
亜里沙「……お姉ちゃん?」
絵里「……と、とにかく。亜里沙は問題点を勘違いしているわ」
亜里沙「……じゃあ何なの?」
亜里沙が聞き返します。
頬を膨らませているのがなんとも愛らしいです。
絵里「海未が悩んでいるのは、『自分の幼馴染二人がいつの間にか付き合っていたのがショックで、どういう風に接したらいいかが分からない』ということよ」
亜里沙「そ、そうなんですか?」
海未「まぁ、だいたいは」
確かに絵里の言った通りではあるんですが……
絵里「ケンカしたわけじゃないんだし、海未が気にしないでおくのが一番だと思うんだけど……」
亜里沙「それができたら相談なんてしないよ」
絵里「それもそうね……」
海未「……」
二人とも、わざとスルーしているんでしょうか……。
亜里沙「……海未さん?」
海未「……はい?」
亜里沙「さっきから黙ったままなので……どうかしたんですか?」
海未「いえ……その……」
絵里「海未、これはあなたのための話し合いなのよ。何かあるなら、どんどん言って頂戴」
海未「……では、二人にお聞きしたいんですが」
絵里「ええ」
亜里沙「はい」
海未「二人とも、女性同士が付き合っていることは気にならないんですか?」
絵里「……」
亜里沙「……」
海未「……」
絵里の部屋に再び静寂が訪れました。
絵里「……」
亜里沙「……?」
海未「……あ、あの。二人とも?」
二人が黙ったままなので、もう一度呼びかけます。
すると、今度はしっかりと反応が返ってきました。
絵里「その……海未?もう一回言ってもらってもいい?」
海未「え?ですから、女性が女性と付き合うのは……」
私の言葉を遮るように、黙りから復活した亜里沙が問いかけてきました。
亜里沙「海未さん……もしかして海未さんが悩んでいるのって」
亜里沙「『穂乃果さんとことりさんが同性愛者だったことがショックで、どう接したらいいか分からない』ってことですか……?」
海未「私は最初からその話をしていたつもりなんですが……」
今更すぎる確認に、私も少し困惑します。
絵里「……ごめんなさい、海未。ちょっと待っててくれる?」
そう言うと、絵里は亜里沙を連れて部屋から出ていってしまいました。
他人の部屋に一人取り残され、ぼーっとしているしかない私。
どれくらいかかるのか考えている間に、二人は部屋に戻ってきました。
なぜか険しい顔をしている絵里と亜里沙に、少し気圧されます。
絵里「海未、悪いんだけどこの相談、宿題にさせてもらえない?」
海未「宿題ですか?」
絵里「私と」
絵里が自分を指差します。
絵里「亜里沙」
亜里沙が頷きました。
絵里「二人で明日までに解決策を考えるわ。だからまた明日、家に来てくれない?」
海未「私は構いませんが……連日お邪魔して平気なんですか?それにテストも近いですし、三年生の絵里をあまり拘束するわけには……」
絵里「別にこのことで勉強を疎かにしたりはしないわ、安心して。それに、テストよりもあなたのことのほうが大事だしね」
亜里沙「そうです、全然大丈夫です!海未さんならいつでも歓迎です!何もない日でも遊びに来てください!!」
海未「さすがに何もないのにお邪魔にはなれませんが……そう言ってくれると嬉しいです」
絵里「それじゃあ明日、学校が終わったら校門前で待っててくれる?そこで落ち合いましょ」
海未「分かりました」
絵里と亜里沙は玄関まで見送ってくれました。
海未「それでは、今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
感謝の気持ちを込めて、頭を下げます。
亜里沙「また明日です!」
絵里「帰り道、気をつけてね」
海未「はい、失礼します」
そうして、一日目の悩み相談は幕を閉じました。
※※※※※※※※※※
三人は並んで歩いていた。
仲良く、歩いていた。
時が経ち、三人の中の一人は遅れ始めた。
二人は一人を心配して、歩幅を合わせようとする。
それでも二人と一人の距離は離れていく。
いつの間にか、一人は一人だった。
――嫌だ。おいていかないで。
穂乃果、ことり。私を一人にしないで――――。
※※※※※※※※※※
朝、園田家
海未「……もう、こんな時間ですか」
普段ならばとっくに起きていた時間。
でも気にする必要はありません。
あの報告以来、三人で登校することはなくなりましたから。
海未「……」
気づくと、ひどく汗をかいていました。
何か夢を見ていたような気がしましたが……私がそれを思い出すことはありませんでした。
昼休み、音ノ木坂学院 3年教室
絵里「はぁ……」
絵里(結局、あんまり良い手は考えつかなかった……勝負は放課後なのに……)
希「えりちー」
絵里(今日中に、どれだけ海未に同性愛の素晴らしさを説けるか……)
希「おーい、えりちー?」
絵里(もしも説得できなければ……いえ、できなかったときのことを考えるのはやめましょう)
希「……」
絵里(必ずやり遂げてみせる……待ってなさい、海未!)
パンッ!
絵里「ひゃっ!!な、なにっ!?」
希「大丈夫、うちが手叩いただけ」
絵里「の、希……どうしたの急に」
希「だってえりちったら、うちが話しかけてるのに無視するんやもん」
絵里「え、そうだった?ごめんなさい、ちょっと考え事してて……」
希「考え事?何考えてたん?」
絵里「えっと……いろいろとね?」
希「海未ちゃんのこと?」
絵里「えっ!?な、なんで……」
希「あはは、図星やったん?昨日たまたま、えりちと海未ちゃんが一緒に歩いてるとこ見ててな?」
絵里「鎌をかけたの?……性格悪いわよ」
希「ごめんごめん。謝るからそんな怒らないでよー」
絵里「もう……。そうよ、海未のことでちょっと、ね」
希「うちにも話せること?」
絵里「うーん……」
絵里(……相談のことを話さなければ大丈夫、よね)
絵里「実は――」
希「ほーん、海未ちゃんに同性愛を認めさせたい、と」
絵里「ええ。確かに同性愛がマイナーなのは分かるけど、それを理由に否定するのはおかしいでしょ?」
希「まぁ、そうだね」
絵里「海未の見識を磨く意味でも、先輩として頑張らなきゃと思って」
絵里(穂乃果とことりのことは丸々省いて説明したけど……嘘はついてないから平気よね)
希「なるほどねぇ。それで亜里沙ちゃんと二人で、説得できるように考えてたんやな」
絵里「もちろん、成功するかどうかはやってみないと分からないけど…………希?」
希「……なぁ、えりち?それって本当に海未ちゃんのためだけなん?」
絵里「え?」
希「いやな?海未ちゃんの視野を広げてあげたいってのは分かったし」
希「他にも海未ちゃんに同性愛を認めさせたい理由があるのに、うちに隠してることも分かったけど」
絵里「!?」
絵里(相談のことがバレてる!?)
希「それは別にええよ?ただな」
希「もしえりちがそれ以外にも『個人的な理由で』海未ちゃんを説得したいなら、うちが協力してあげてもいいけど?」
絵里「え……」
希「つまりな?同性愛に理解があるのと、同性愛に興味があるのは別物やん?って話」
絵里「……それは」
希「……えりちに特に他意がなく、ただ純粋に先輩として説得するつもりだったんなら謝る、この話はおしまいやね」
絵里「ちょ、ちょっと待って!!」
希「……なあに?」
絵里「そ、その…………希なら、海未に説得できるの?」
希「何を?」
絵里「だ、だから……海未に、女性同士の恋愛に興味をもたせるように説得できるの……?」
希「できると思うよ?確約はできないけど」
絵里「そ、それならお願い!」
希「つまり~、えりちは『個人的な理由で』、海未ちゃんに女性同士の恋愛に興味を持ってほしいんやな?」
絵里「そ……そうよ///」
希(……もう自分の気持ちを隠す気もなくなっとるやん。テンパると途端に頭が回らなくなるのがえりちの弱点やね……ま、そこが可愛いんやけど)
希(それにしても、話聞いた感じだとえりちだけじゃなくて亜里沙ちゃんも……ま、それは今はいいかな)
希「それならいいよ、協力する」
絵里「ほ、本当に!?」
希「もちろん」
にこ「あんたら教室でなんて話してるのよ……」
絵里「にこ!?」
希「盗み聞きとは趣味が悪いやん」
にこ「悪かったわね。近くに寄ったら聞こえちゃったのよ」
にこ「別に他言するつもりはないから安心して」
希「いーや。聞いてしまった以上は、にこっちにも協力してもらうで~」
絵里「希!?」
にこ「はあ!?なんでよ!」
希「別に嫌なら断ってもええで?でも話を聞いちゃった以上、どうなるのか気になるやろ?」
にこ「うっ……」
希「協力と言っても、今日の放課後えりちの家に行くだけよ?にこっちは何もしなくていい。ほら、簡単やん?」
にこ「……本当でしょうね」
希「ほんとほんと」
にこ「それなら……参加してあげてもいいわ」
絵里「ちょ、ちょっと希?」
希「まぁまぁ、心配せんでええよ、えりち。あ、うちは少し準備があるから遅れて行くね?」
絵里「分かったわ……」
音ノ木坂中学
雪穂「亜里沙~?なんでそんな難しい顔してるの?」
亜里沙「え、そんな顔してた?」
雪穂「してるよ。何かあったの?」
亜里沙「うーんとね、海未さんのことでちょっと」
雪穂「海未さん?」
亜里沙「亜里沙も昨日知ったんだけど、海未さん、異性愛者らしいの」
雪穂「ええっ!?マジで!?」
亜里沙「マジで」
雪穂「知らなかったなぁ。音ノ木坂に通ってる人の大半はホモ、異性愛者って聞いてたし。てっきり海未さんはお姉ちゃんかことりさんが好きなんだと思ってたよ」
亜里沙「ほら、穂乃果さんとことりさんが付き合い始めたでしょ?そのことで海未さんがお姉ちゃんに相談を……どうしたの雪穂」
雪穂「…………お姉ちゃんとことりさんが付き合い始めた?何それ」
亜里沙「……え?もしかして、聞いてなかった……?」
雪穂「初耳なんだけど……」
亜里沙(しっ、しまった!家族には伝えてると思ってたのに!)
雪穂「ねぇ!亜里沙!」
亜里沙(他言しないって約束したのに……海未さんごめんなさい…………)
雪穂「亜里沙ったら!もっと詳しく教えてよ!」
亜里沙(……ここで私が黙ってても絶対に雪穂は穂乃果さんを問い詰める。もしかしたら海未さんにも話がいっちゃうかも……それならいっそのこと)
亜里沙「……教えてもいいけど、その代わり、絶対に誰にも言わないでね!!」
雪穂「分かってるよ~」
すいません。誤字です。
>雪穂「知らなかったなぁ。音ノ木坂に通ってる人の大半はホモ、異性愛者って聞いてたし。てっきり海未さんはお姉ちゃんかことりさんが好きなんだと思ってたよ」
× 異性愛者
○ 同性愛者
【亜里沙、説明中】
雪穂「へぇ、そうだったんだ……ことりさんがお姉ちゃんを好きなのは知ってたけど、そこまで進展してたとは」
雪穂「にしてもお姉ちゃん、妹のあたしにすら隠すとは許せませんなー」
亜里沙「私も、穂乃果さんなら雪穂には話してると思ってたから……」
雪穂「まったくだよ。まぁそれはともかく」
雪穂「海未さんがノンケだったとは……そっちのほうがビックリかもしれない」
亜里沙「そ、そんなに?」
雪穂「うーん……あたしがずっと勘違いしてたってことなのかなー?それとも………………」
亜里沙「雪穂?」
雪穂「……んーん、なんでもない。そろそろ授業の準備しなきゃ」
亜里沙「あ、そうだね」
雪穂「……」
雪穂(もしもあたしの考えてる通りなら……可哀想だな、海未さん)
雪穂(あたしに何ができるってわけじゃないけど……早く気づかないと、もっと傷つくことになる)
雪穂(誰かに頼むしかないかなぁ……)
放課後、音ノ木坂学院
穂乃果「海未ちゃん、帰ろー!」
ことり「今日は一緒に勉強できるよね?」
終業後すぐに声をかけてきた穂乃果とことりに、思わず心臓が跳ねました。
海未「あ……ごめんなさい。今日は少し用事があるので」
穂乃果「えー!何それー!」
ことり「穂乃果ちゃん、ダメなものは仕方ないよ」
海未「本当にすいません。それでは!」
用事があることに、こんなに感謝したのは初めてかもしれません。
私は鞄を持つと、駆け足で教室から出ていきました。
「……今までだったら、テスト前は海未ちゃんがずっと付きっ切りでことり達に勉強教えてくれてたよね」
「……ことりちゃん、行こ」
海未・にこ「「お邪魔します」」
絵里「どうぞ」
校門前で合流した私と絵里、そしてにこの三人は連れ立って絢瀬家へ向かいました。
絵里からにこ、それと希も参加すると聞いたときは少し驚きましたが、相談のことさえ秘密にしてもらえていれば特に構いません。
今日の私は、『絵里に、同性愛について教えを乞うために相談を持ちかけた』という設定なわけです。
……少し不自然すぎるような気はしますが、にこ達はそれで納得しているようですし……問題ないんでしょうか。
亜里沙はすでに帰宅していたようで、四人は絵里の部屋に集まりました。
海未「それで……希はどれくらい遅れるんでしょう?」
絵里「そんなに時間はかからないって言ってたわ」
亜里沙「あのー……ところで……」
亜里沙がにこのことを盗み見ます。
その視線に気づいたにこは、自分がなぜここにいるかを説明し始めました。
にこ「教室で絵里と希が同性愛がどうのって話をしてるのを聞いちゃってね。気になってたら、私も参加していいって言われたのよ」
亜里沙「そうだったんですか……」
海未「絵里……?なぜ希に話を?」
そのまま話に花を咲かせる二人に聞こえないように、絵里にこっそり耳打ちします。
絵里「ご、ごめんなさい。海未のことは隠そうとしたんだけど、ズバズバ考えてることを当てられちゃって……」
海未「絵里……」
絵里「で、でも穂乃果とことりのことは話してないわ!そこは安心して」
海未「それならいいですが……」
私達がしばしの間雑談していると、インターホンが鳴ったのが聞こえました。
絵里「どうやら来たみたいね」
絵里が立ち上がって、部屋を出ていきました。
希「やぁやぁ、皆さんお待たせ」
迎えに行った絵里と共に部屋に入ってきた希は、その場の面子をゆっくりと見回しました。
希「うんうん、全員おるね。それじゃあ早速始めたいと思うんやけど……えりち」
絵里「なに?」
希「学校でも確認したけど、今家にいるのはこのメンバーだけ?」
絵里「ええ」
希「よし。じゃ、皆行こっか」
そう言って部屋を出ようとする希に、にこが声をかけます。
にこ「行くって……ここで話をするんじゃないの?」
絵里「希がテレビを使いたいらしいの」
希「そういうことだから、リビングに移動してや」
全員がリビングに集まり落ち着いたところで、希がついに話を切り出しました。
希「さてと。始める前に、こうして皆が集まった理由をちゃんと確認せなあかんな」
希「海未ちゃん。海未ちゃんが同性愛について知りたくて、えりちに相談したんよね?」
……私も設定に合わせて話をしなければいけませんね。
海未「ええ。年長である絵里なら、私にも分かりやすく同性愛というものを説明してくれると思いまして」
希「で、家にいた亜里沙ちゃんも相談に加わり」
希「たまたま話を聞いたにこっちも興味が湧き、参加した」
にこ「その通りよ。いいからさっさと始めなさいよ」
希「あはは、回りくどくなっちゃったね。うん、始めよう」
そう言うと希は自分の鞄を漁り、ある物を取り出しました。
海未「それは……DVDですか?」
希「そうそう。同性愛ってものを分かりやすく説明するには、やっぱり参考になる資料が必要だと思ってね~」
絵里「なるほどね。確かにそのほうが説明もしやすくなるかも」
亜里沙「でも、同性愛の参考になる映像っていったい……」
希「アニメや」
にこ「アニメって……普通に放送してる?」
希「そうそう。まぁ、放送してるとは言っても、これは深夜帯のアニメやから。朝とか夕方にやってるのとはちょっと毛色が違うかな~?」
海未「どちらにしろ私はアニメをあまり見たことがないので……どういう内容なんですか?」
希「廃校寸前の高校に進学した女の子達の話や」
その説明に、私含め、希以外の全員が少しドキッとしたのがわかりました。
希「ふふ、どっかで聞いた話みたいやん?まぁこの子達は別に廃校を止めようとするわけじゃないけど」
希がDVDをデッキに入れました。
希「これに出てくる女の子達はな?『廃校になってしまうのは仕方がない、だから残りの高校生活を全力で楽しむ努力をしよう!』と、まぁこんな感じで、私達とは違う形で廃校という現実に向き合うんよ」
いつの間にか希の説明に全員が聞き入っていました。
希「……それじゃ、再生するで」
その様子に満足げに微笑んだ希は再生ボタンを押しました。
テレビ画面に映った、そのタイトルは……
海未「『桜trick』……?」
なかなか更新できなくて申し訳ないです。
書き溜めてる途中で直したいところとか出てきてちょくちょく修正してるので、時間かかってます。すみません。
長らくお待たせしました。
少しずつ更新していきます。
数十分後、そこには色々な意味で顔を真っ赤にした面々と、それをニコニコと眺める希の姿がありました。
希「はい、とりあえず1話終わり。一応最終回まで用意してきたけど、まぁ今回はこれだけで充分かな」
そう言って希はリモコンを操作しつつ、こちらの様子を伺う。
希「もっとも……もっと見たいって言うなら別やけど」
海未「だっ、誰がもっと見たいなんて言いましたか!?」
希「えー、そうなん?海未ちゃんは見たくないの?」
海未「当たり前です!こ、こんな……破廉恥な!!」
結果、私はこのアニメを最後まで目に焼き付けることになりました。
途中何度も目を背けようとする自分を、精神力で抑えつける必要がありましたが……。
何とか耐えられたのは、実写ではなかったのがポイントだったんでしょうか……。
希「でも他三人は満更でもなさそうやけど」
海未「え?」
私が振り返ると……
亜里沙「ご、ごめんなさい海未さん……でも亜里沙は……」
モジモジとしている亜里沙。
絵里「ハラショー……最近のアニメってすごいのね……」
なぜか感心した風な絵里。
にこ「別にどっちでもいいけど……見たほうがいいって言うなら……」
そして顔を俯けつつも、チラチラとテレビのほうを気にするにこ。
海未「皆、正気ですか……!?」
希「なぁ、海未ちゃん。このアニメのどの辺が破廉恥なん?」
海未「ほとんど全てですよ!なんであの春香という子はあんなにキスしたがるんですか!?」
希「そら、好きな子とキスしたいと思うのは当然やん?」
海未「頻度がおかしいと言ってるんです!!多くても一日一回で充分でしょう!!」
希「それは海未ちゃんが恋をしたことがないからそう思うんやないの~?」
海未「で、では!希は好きな人とならずっとキスをしていたいんですか!?」
希「さぁ」
海未「希!!」
希「もー、そんなに怒らんといてよ海未ちゃん。そもそもフィクションやん、これ」
海未「で、ですから、こんな作品が作られること自体が……」
希「あらぁ、海未ちゃんは憲法で保障されてる表現の自由まで否定するん?」
海未「誰がそんな広義な話をしましたか!?」
希と話していても埒があきません……!
希「海未ちゃん、このアニメに関する話はおいといて」
希「とりあえずちゃんと話を聞いてほしいんよ」
希から振ったくせに、と思いつつ話を聞きます。
海未「……なんですか急に」
希「そもそも、なんでこうして集まってるか覚えてる?」
海未「それは……私に同性愛について説くため、ですよね」
希「せやで。ここからが本題」
そう言うと、希は手をパンと叩きました。
希「ほら!そこの三人も早く覚醒する!!」
全員でお茶を飲んでいると、次第に空気が落ち着いてきました。
ようやく話に入れそうですね。
海未「では……希、あのアニメを私に見せてどうしたかったんですか?」
希「海未ちゃん。恋愛って何だと思う?」
海未「……あの、言ってる意味が」
希「深く捉えようとしなくていいんよ?海未ちゃんの、恋愛に対するイメージを教えてほしいんや」
私の恋愛に対するイメージ……。
自分の中でそれを考えていると、自然と言葉が溢れてきました。
海未「……切ないもの、ですかね」
希「それはどうして?」
海未「……」
海未「……その人のことを思うとき……その人が悲しんでいるとき……その人が他の誰かと仲良くしているとき……」
海未「近くにいるときは心が暖かくなるのに、離れると胸が苦しい。……片想いでも両想いでも、その人のことで心が乱されてしまう。そんな気持ちに名前をつけるなら……切なさだと思ったんです」
希「……なるほどね。思ったよりスラスラ出てきてビックリした?」
海未「そうですね……まぁだいたいが読んだ小説の受け売りだと思いますけど」
希「海未ちゃんのイメージは、『嫉妬』とも言い換えられるんやない?」
海未「嫉妬、ですか?」
絵里「七つの大罪ね」
亜里沙「何それ?」
絵里「人が必ず持ってるとされる七つの罪っていうのがあってね。その中の一つが『嫉妬』なのよ」
亜里沙「へぇ~……」
希「まぁ、罪なんていうほど悪いものではないとうちは思うけどね。もちろん、いきすぎれば危険なものやけど」
希「人間関係、特に恋愛には嫉妬が必要不可欠だからね」
……そうなんでしょうか。
希「だって全ての想いが相手に届く世界なら、嫉妬なんて存在しないやん。全て思い通りになるんだから」
海未「確かに……そうですね」
希「さっきのアニメにも、海未ちゃんのイメージにも嫉妬があったでしょ?」
希「自分の親友が自分以外と仲良くしてるところを見ると嫉妬してしまう」
海未「……」
希「でもそれだって、相手のことを大切に思って、大切にしたくて嫉妬しちゃうんやん?」
希「その気持ちに差なんてないよ。相手が異性だろうが同性だろうが、そんなのは関係ない」
海未「異性も同性も……関係ない…………」
にこ「……それが言いたくて見せたの?」
希「本当は全話見せたほうがサンプルが増えて、分かりやすいんよ。でも今日は時間がないから」
希「後は単純に、海未ちゃんの反応が見たかったってのもあるかな?」
海未「どういうことですか?」
希「海未ちゃん、なんだかんだ最後までちゃんと見てたやん?」
海未「そういえば……」
正直言えば後一回でも多くキスシーンがあったら逃げ出してしまっていたような気がするんですが……。
希「ふふっ、海未ちゃんにも素質がありそうやん」
……なんの素質ですか。
希「まぁ……それ以上にノリノリだった人達もいたけど」
絵里「……」
亜里沙「……」
にこ「……」
絵里「と、とにかく、海未の相談はこれで解決?」
希「……海未ちゃんが異性愛と同性愛を区別なく考えることができるようになってるなら、平気だと思うよ」
このとき私は穂乃果とことりのことを考えていました。
そして……自分の気持ちがまだ何も解決していないことを感じました。
海未「そう、ですね……」
その上で。
私はその気持ちを飲み込みました。
何にせよ、これ以上絵里達に迷惑をかけるわけにはいかないでしょう。
後は自分でなんとかするべきですね。
海未「絵里、ありがとうございました」
絵里「私は何もできなかったじゃない。お礼なら希に言って?」
海未「いえ、絵里に相談できて心強かったです。希も、ありがとうございました」
希「……」
希「どういたしまして!また何かあったら言ってね?」
亜里沙「…………」
海未「亜里沙も、ありがとうございました」
亜里沙「……え?あ、そんな言葉もったいないです!私こそ何もできなかったですし……」
俯く亜里沙の髪を優しく撫でます。
海未「そんなことありません。あなたがいてくれて頼もしかったですよ」
亜里沙「……えへへ///」
にこ「それで?今日はこれで解散でいいのかしら」
希「あ、ちょっと待った」
絵里「希?」
希「えりち、ちょっとこっち来て」
希と絵里が部屋の隅で話し始めました。
時々『男対策』とか『同性愛者にする』とか聞こえましたが、小声すぎて会話の内容を聞き取ることはできませんでした。
私と亜里沙、にこが首を傾げていると、
希「さて、実はもう一本DVDを持ってきててな?これも見てもらいたいんよ」
戻ってきた希がそんなことを言い出しました。
にこ「もう一本?何よ」
希「それは見てのお楽しみ。これを見終えたら今日は解散」
DVDをデッキにセット。そして再生。
私達が再びテレビに向き合うと、タイトルらしき文が流れ、
亜里沙「真夏の……」
絵里「夜の……」
海未「淫夢?」
にこ「ファッ!?」
そして、地獄が始まりました。
その日の夕方、絢瀬家の近隣に乙女達の悲鳴がこだましました。
一旦ここまで。
まだまだ続くんじゃよ。
再開します。
にしても名前出しただけでこの反応。
やっぱり皆さん、好きなんですねぇ。
にこ「最悪の気分だわ……」
にこの言った通りでした。
亜里沙は途中で泣き出してしまうし、逃げ出そうとしたら希に捕まって無理やり見せられましたし……。
年下の亜里沙の前でなければ、私も泣き出すところでした。
絵里「た、確かにあんなの見たら男性と付き合いたいとは思わないかもしれないけど……」
亜里沙を慰めている絵里も、完全に顔が引きつっていました。
希「ぶー、なんか不評みたい」
にこ「当たり前でしょ……!」
希「でも、よく言うやん?『ホモが嫌いな女子はいません!』って」
にこ「知らないわよ!」
希「個人的には『男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの』って名言だと思うんやけど」
にこ「何の話よ!?」
希「漫画の話よ~」
希「というかにこっち、結構余裕そうやん。もしかして見たことあった?」
にこ「……タイトルと、少しだけ内容も知ってたの。こんなにガッツリ見たのは初めてだけど!」
希「それはよかった」
にこ「よくないわよ!!」
希とにこの言い合いに口を挟む元気もありません。
なるほど、確かに今のに比べれば『桜trick』のキスなんかたいしたことなかったかもしれません。
まさかこんな形で自分の潔癖な性格が少し矯正されるとは思ってもみませんでした。
希「ま、とにかく今度こそお開きってことで。それじゃ海未ちゃん、にこっち、帰ろっか」
海未「……そうですね。絵里、亜里沙、お邪魔しました」
謎の疲労感に襲われた身体に鞭打って、なんとか立ち上がります。
にこ「私も、お邪魔したわ」
絵里「ええ……気をつけて帰ってね」
亜里沙「…………また、遊びに来てくださいね」
嗚咽を漏らしながらも、挨拶は忘れない亜里沙の健気な姿に思わぬ元気をもらいつつ、私も挨拶を返しました。
海未「え、ええ、必ず。亜里沙も元気出してくださいね」
~~~~~~~~~~~~
外に出ると、何やら希とにこが話し込んでいるのが見えました。
内緒事かもしれないですし、一人で帰ったほうが良さそうですね……。
希「まぁ、さすがに分かるとは思ったよ」
にこ「当たり前でしょ……あんた、『協力しろ』なんて言っておきながら結局何もさせなかったじゃない」
にこ「最初から、あれを私にも見せるのが目的だったんでしょ?」
希「いやいや、最初から『何もしなくていいよ』って言ってたやん?」
希「にこっちもそろそろ自分の気持ちに素直になるべきだと思って~」
にこ「余計なお世話よ」
希「おや?やっぱり自覚あったん?さっすがにこっち!海未ちゃんとは違うね」
にこ「……?なんでそこで海未が出てくるのよ」
希「……ふふ、内緒。それじゃあね」
にこ「あ……行っちゃった」
にこ「…………」
にこ「……メールきてる」
『にこちゃんがこの前見たいって言ってた恋愛映画のチケットがたまたま手に入ったんだけど……
私と一緒でよければ、どう?』
にこ「……まったく」
にこ「素直じゃないんだから」
亜里沙の部屋
亜里沙「うぅ……」
亜里沙(さっきの悪夢のような映像が頭から離れない……)
亜里沙「…………」
プルルル……。
亜里沙「…………電話……雪穂から?」
亜里沙「も、もしもし」
雪穂「あ、亜里沙?今何してた?もう相談会は終わった?」
亜里沙「あ、うん。海未さん達はもう帰ったよ」
雪穂「ほんと?じゃあ海未さんの悩みは解決したんだ。なーんだ、杞憂だったわ」
亜里沙「……どうなんだろう」
雪穂「え?」
亜里沙「海未さん……ありがとうって言ってたけど、あんまり晴れやかな顔はしてなかったから……」
雪穂「…………うーん……。もしかしたら……いや、もしかしなくてもこれは……」
亜里沙「どうしたの?」
雪穂「……学校でさ、『海未さんはお姉ちゃんかことりさんが好きだと思ってた』って言ったの、覚えてる?」
亜里沙「うん」
雪穂「あたしもそれなりに付き合い長いからさ、まぁお姉ちゃんほどじゃないけど海未さんのことは分かるし」
亜里沙「……?」
雪穂「あとはお姉ちゃんと違って、離れているからこそ客観的に見れたっていうか、さ」
亜里沙「雪穂……?」
雪穂「まぁそんな感じの立ち位置のあたしの憶測でしかないんだけど、もしかして海未さんって――――」
「おーい!ちょっと待ってー!」
突然後ろから声がかけられました。
私が振り返ると、
海未「希……?にこと帰ったのでは?」
そこには、先程にこと話し込んでいた希がいました。
希「あー、いや、海未ちゃんにもちょっと話があって」
海未「はい?」
希「お、ちょうどいいやん。あそこの公園でちょっと話さない?」
もうすっかり日が沈み、暗がりに満ちた公園。
そこに設置されたベンチに、私と希は微妙な距離を空けて座りました。
海未「それでその……話とは?」
希「ああ、うん。別にうちはえりち達の前で話してもよかったんやけど、海未ちゃんは多分嫌だろうと思ったから」
海未「何のことですか?」
希「海未ちゃんの気持ちの話」
海未「私の気持ち……?」
希は何が言いたいんでしょうか。
希「海未ちゃん、別に悩み解消できてないでしょ?」
海未「……そんなに分かりやすかったですか?」
希「いやいや、そんなことはなかったよ?ただ、うちは誤魔化されなかったって話」
海未「さすがですね……」
真っ暗な空を見上げると、まるで私の心を写しているようで……。
私がそのまま動かないでいると、希が話し始めました。
希「海未ちゃん、いい加減気づいていいんじゃない?」
海未「何がですか?」
希「穂乃果ちゃんとことりちゃんのこと」
海未「!」
思わず希の顔を凝視してしまいました。
海未「……知ってたんですか、穂乃果とことりが付き合ってること」
希「へ?ああ、そのことなら知ってるよ?」
海未「そうだったんですか……その……他の人は?」
希「μ’sの皆のこと?大丈夫、知ってるのは海未ちゃんとうち、それと海未ちゃんが話したえりちだけ」
海未「!?」
希「『どうして自分が絵里に話したことまで知ってるのか』って?だって、えりちったら何考えてるか分かりやすいんやもん」
いつも笑顔で、皆を見守ってくれている希。
目の前にいる希も同じように笑顔で話しているのに、
希「ま、分かりやすさなら海未ちゃんも同じやね」
いつもの希とは別人のように見えました。
希「って、海未ちゃん、話を変えようとしちゃあかんよ。認めたくないのは分かるけど」
海未「はい?」
希「だーかーらー、さっきから言ってるでしょ?穂乃果ちゃんと――」
海未「ですから!穂乃果とことりが付き合っているからなんだって言うんです!!」
希「ほわ?」
……どうにも噛み合わない会話に、少し気が立ってしまったようです。
荒くなりかけた口調を抑えるために、一度息を整えました。
海未「すいません。それで?」
希「うちは別に、穂乃果ちゃんとことりちゃんのお付き合いの話はしてないよ」
海未「は……?」
希「最初から、『海未ちゃんの、穂乃果ちゃんとことりちゃんへの気持ちの話をしにきた』って言ってるやん?」
海未「……どういう意味ですか」
希「…………はぁ。できれば自分で気づいてくれるのがベストなんやけど」
希「海未ちゃん、穂乃果ちゃんのこと好きなんやろ?」
海未「……」
亜里沙にも同じようなことを言われたのを思い出します。
希にまでそう思われていたとは……。
海未「亜里沙にも言われましたけど、私は」
希「で、ことりちゃんのことも好きなんや」
海未「……はい?」
希は何を……
希「だから海未ちゃんはことりちゃんが好きな穂乃果ちゃんに嫉妬してるし、穂乃果ちゃんが好きなことりちゃんにも嫉妬してる。違う?」
海未「……」
何も言えない私に、希は次々と言葉を浴びせかけます。
希「海未ちゃんがえりちに相談したことはだいたいわかるよ。『穂乃果とことりが付き合い出して、どう接したらいいか分からない』って感じかな」
希「自分が好きな二人がくっついちゃったら、そうなるよねぇ?」
希「今の言い方からして海未ちゃん、亜里沙ちゃんに言われたんやない?『穂乃果さんかことりさんが好きなんですよね』って」
希「そして否定した。違う、そうじゃない、って」
希「そらそうよね?だって、海未ちゃんは二人の片方じゃなくて、両方を愛しちゃったんやから」
海未「いい加減にしてください!!!!」
夜の公園に、私の叫びが響き渡りました。
近所迷惑のことなど考えもせず、私は希に向かって叫んでいました。
海未「何の根拠があってそんなことを言ってるんですか!?」
希「根拠なんてないよ~。人の気持ちに証拠なんてないし。ただ」
希の瞳はまっすぐ、私を射抜いていました。
希「自覚してないからとはいえ、海未ちゃん、ちょっと異常だよ」
海未「私が異常……?」
希「いくら親友だからってね、友達の恋愛沙汰にそこまで敏感になる人なんておらんよ。なんでか分かる?」
海未「……」
希「所詮は他人事だから。野次馬根性で気になることはあっても、それで私生活に影響を出す人なんてほとんどいない」
ああ……そうだったんですか。
希「海未ちゃんにとって、穂乃果ちゃんとことりちゃんの問題は他人事のはずや」
このときほど、自分の愚かしさを呪ったことはありません。
希「じゃあ海未ちゃんは何故二人のことを知った途端、二人を避けて、そのことで頭を悩ませ、練習にまで影響を出してしまったのか」
こんな大切なことを、誰かに気づかせてもらうなんて。
希「二人が同性愛者だったことがショックだったから?」
海未「……………………違います」
希「……そうだね。そのことはさっき解決した。じゃあ、どうして?何がまだ海未ちゃんを悩ませてるの?」
……もう分かりました。
海未「……私が」
二人の報告を聞いて、すぐに逃げ出した理由も、
海未「穂乃果も……ことりも……」
忘れていた夢の内容も、何故そんな夢を見たのかも、全部。
海未「二人ともを、愛してしまったから…………」
なんて滑稽なんでしょう。
こんなに大切な気持ちにずっと気づくことができなくて。
気づいたときには全てが遅くて。
希「……海未ちゃんは、二人が付き合ってるのを認めたくなかったんやない?」
海未「…………」
希「えりちの家で嫉妬の話をしたとき、気づいてくれるかな~って思ったんやけどな?」
その言葉に、絵里の家で希が言っていた言葉を思い出します。
『自分の親友が自分以外と仲良くしてるところを見ると嫉妬してしまう』
『でもそれだって、相手のことを大切に思って、大切にしたくて嫉妬しちゃうんやん?』
海未「…………あれはアニメの話だったんじゃなかったんですか?」
希「私は最初から海未ちゃんについて話してるつもりやったけど?」
海未「……そうですか」
ああ、誤字です。
>希「私は最初から海未ちゃんについて話してるつもりやったけど?」
のんたんの一人称は「私」じゃなくて「うち」ですね、すいません。
希「まぁ好きな人なんて普通は一人のはずだし、二人を等しく特別扱いしてても、それを恋だと気づけないのは仕方ないかもしれんね」
海未「希は最初から気づいていたんですか」
希「最初?」
海未「絵里の家で、私に話をしていたときです」
希「ああ、うん。同性愛に理解も何も海未ちゃん自身がそうなんやから、海未ちゃんが自分で気づいてくれればええなぁ、と思いながら適当に喋ってたんよ」
海未「……」
ベンチから立ち上がります。
自覚した途端、ここまで意識がかわるものなんですね……。
海未「ありがとうございました、希。おかげさまで……」
言いかけた私に、希が待ったをかけました。
希「ちょっとちょっと。何を『話は終わった』みたいな感じで去ろうとしてるん?」
海未「え?」
希「海未ちゃん、本当に全部気づいたの?」
海未「何の……私の気持ちの話ではなかったのですか?」
希「……」
希の悲しげな目に、思わず自分が気圧されるのを感じました。
希「海未ちゃん、うちがどうして親切にも海未ちゃんの気持ちに気づかせてあげたかわかる?」
海未「……私のことを心配してくれた、のではないんですか」
希「……50点」
希「海未ちゃん、これから穂乃果ちゃんとことりちゃんにどう接するつもり?」
海未「え?それは、普通に……」
希「普通に?できるん?」
海未「……すぐには難しいかもしれませんが…………でも、必ず」
希「それができるようになるまでどれくらいかかるか、教えてほしいんよ」
海未「……」
希の質問攻めに、私は再び沈黙します。
希「うち、これからひどいことを言うと思う。聞きたくなくなったら逃げてくれていいよ」
海未「……はい」
希「……海未ちゃん。穂乃果ちゃんとことりちゃんの顔、最後にちゃんと見たのはいつ?」
海未「え?それは……」
希「覚えてないんやろ?」
海未「そ、そんなこと……」
希「二人な、ずっと海未ちゃんのこと気にして、心配してるんよ。練習のときも、ずっと」
海未「……」
希「確かに、海未ちゃんが望んでいる想いを二人が向けてくれることはないかもしれん。でもずっと友達やってきて、二人が海未ちゃんのことをどれだけ大切に思ってるか、それくらい海未ちゃんなら分かるよね」
海未「も、もちろんです!」
希「自分達が付き合ってることを告げた翌日から、海未ちゃんがよそよそしくなって避けるようになったことを、二人がどう感じたか……分かる?」
海未「あ……」
希「二人は……穂乃果ちゃんとことりちゃんは海未ちゃんのことを信じて、自分達の秘密を明かしたんやで」
希「なのにその海未ちゃんが何かと理由をつけて二人から逃げてるのは、二人の信頼に報いてると言える?」
海未「そ、それは……!」
希「海未ちゃんの気持ちが分かるなんて言うつもりはない。でも……今の海未ちゃん、ちょっと卑怯やと思うよ」
海未「……ッ!!」
それ以上、そこにいることはできませんでした。
私はとにかくここから離れることだけを、希から離れることだけを考えて、公園から走り去りました。
~~~~~~~~~~~~
走り疲れて立ち止まったとき、そこは家の近くでした。
どうやら私は、無意識に家の方向へ向かっていたようです。
海未「はぁっ…………はぁ」
荒い呼吸をしながらも、私の頭の中ではずっと、希に言われた言葉が駆け巡っていました。
海未(穂乃果とことりは……どんな顔をしていたんでしょうか…………)
考えるのは自分の行動。
穂乃果のことをことりに任せて、自分一人で仕事をすることを提案したとき。
二人の誘いを断って、逃げるように去ったとき。
海未(思い……出せない)
すべて希の言う通りでした。
私は二人が付き合っていることを認めたくなくて、ずっと二人を避けて、避けて、避けて……。
そうした私の行動が、二人をどんな気持ちにさせるかも考えずに。
海未「私は…………」
「海未さん!!」
海未「え……」
気づくと、私は家に着いていました。
そして、家の前には。
海未「亜里沙……?」
一旦ここまでです。
希が万能キャラ化してるのは前作の影響なので、気にしないでください。
これ淫夢見せる必要あったのか?
最後までだいたい書けたので少しずつ投下したいと思います。
>>172
希は絵里に「海未を同性愛の道に引き込んでほしい」と頼まれていました。
希は海未がすでに同性愛者であることを気づいていたので何もする必要はありませんでしたが、絵里にはそれが分からないためポーズとして映像を流しました。
淫夢を選んだのは悪ふざけです。
海未「どうしてここに……?」
亜里沙「海未さんこそ、どこに行ってたんですか?」
それはそうです。
何故亜里沙がここにいるのかは分かりませんが、先に家に帰っているはずの私がここにいるのをおかしく思うのは当然でしょう。
海未「少し希と話をして、いまして」
先程の会話が頭にフラッシュバックして、少し返答につまりました。
亜里沙「……何かあったんですか?」
海未「いいえ、何も。亜里沙、もう遅いですよ。送りますから帰りましょう」
亜里沙「私、話があって来たんです!」
海未「話?」
亜里沙「はい、その……」
海未「すぐ終わりますか?」
亜里沙「すぐ終わるかは……わからないです」
海未「……」
どうやら亜里沙はその『話』とやらが終わるまでは帰る気がないようです。
そしていつ終わるか分からない以上……。
海未「亜里沙」
亜里沙「はい」
海未「今日のところは泊まっていきませんか?」
亜里沙「え……」
海未「もちろん、ご両親の承諾が取れればですが」
亜里沙「は、はい!すぐに連絡してみます!!」
結果として、亜里沙はうちに泊まっていくことになりました。
帰宅が遅くなった上、突然友人を連れてきたことに母はいい顔をしませんでしたが、亜里沙が私の大ファンだということに気をよくしたのか、最終的には歓迎してくれました。
~~~~~~~~~~~~
海未「亜里沙、お風呂お先に……と、そういえば着替えがありませんでしたね」
亜里沙「あ、そうですね……」
海未「パジャマでよければ私のを貸せますが、下着はどうしましょうか」
亜里沙「あ、あの別に」
海未「私と同じサイズでよければ出せますが……」
亜里沙「う、海未さんの使用済みですか!?」
海未「へ?ちゃんと新品ですけど」
亜里沙「あ、そうですよね……」
結局、今回は私の下着を貸すことになりました。
2年後輩の亜里沙が、自分と同じサイズの下着を使えたことに若干コンプレックスを刺激されましたが……。
海未「それでは案内しますね」
亜里沙「あ、あの!」
海未「どうかしましたか?」
亜里沙「わ、私……その、海未さんと一緒に入りたいです」
海未「ええっ!?」
亜里沙「ダメですか……?」
海未「私はかまいませんけど……いいんですか、その」
亜里沙「女同士なんだから平気ですよ!」
海未(確かに私がノーマルだったらその理屈も通ったんですが……そのことを言うわけにもいきませんね)
亜里沙「そ、それに話もそこでできますし」
海未「……分かりました、裸の付き合いという言葉もあるくらいですし。一緒に入りましょう」
亜里沙「はい!!」
~~~~~~~~~~~~
海未(どうしましょう……)
亜里沙「海未さん、流しますよ?」
海未「は、はい」
今、私は亜里沙に髪を洗ってもらっています。
亜里沙の提案で、お互いの髪を洗うことになったんですが……。
亜里沙「それじゃあ、海未さん。よろしくお願いします」
海未「わ、分かりました」
既に体を洗い終えていた私と交代して、今度は私が亜里沙を洗ってあげるわけです。
おそらく亜里沙は、絵里と入ったときにこういうことをしたんでしょう。
それと同じ、ただのスキンシップ。
そんなこと、分かりきっているのに……
海未(こ、こんな気持ちを抱くなんて……!!)
自分が同性愛者、いわゆるレズだと自覚したのはついさっきのことです。
それなのに、数時間後にはこうして年下の女の子に劣情を催している。
とんだ節操なしです。
海未(亜里沙は絵里の……仲間の妹ですよ!!そんな目で見ていいはずがありません!!)
海未(そもそも私が好きなのは穂乃果とことりです!誰でもいいわけではありません!!)
心の中で自分を律しながら、亜里沙の綺麗な長髪を丁寧に洗います。
海未「そ、それでは流しますね」
とても長く感じた洗髪も終わりました。
最後までもった自分の精神力に感謝しつつ、シャワーで洗い流しました。
海未「終わり、ですね」
亜里沙「……まだですよ」
海未「は、はい?」
亜里沙「私、海未さんに体も洗ってもらいたいです」
海未「!?そ、それは……」
亜里沙「ダメですか?」
海未「……分かりました。分かりましたから、そんな泣きそうな顔をしないで……」
タオルを手に取り、亜里沙の背中から洗い始めます。
無心で洗おうとしますが、時折触れる亜里沙の体の感触がそれを邪魔してきます。
きめ細やかな肌は紅潮しており、私のことを見ている亜里沙の顔はそれ以上に赤く染まっていて――。
亜里沙「う、海未さん……?」
私はいつの間にかタオルを手放し、手で亜里沙の背中を撫でていました。
海未「亜里沙……綺麗です」
亜里沙「海未さん……」
海未「亜里沙……」
どこか期待しているような亜里沙の声音に誘われるように、私は手を身体の前のほうへと――――。
海未「も、もう大丈夫ですよね。後は自分で洗うべきでしょう」
ギリギリで踏みとどまった私は、タオルを亜里沙に手渡し浴槽に浸かりました。
海未(あ、危なかった……!)
一方の亜里沙はというと、タオルを持ったまま硬直していましたが、しばらくすると溜め息と共に自分の体を洗い始めました。
亜里沙「…………海未さんのヘタレ」
亜里沙の小さな呟きは聞こえなかったことにしました。
亜里沙が体を洗い終えると、私達は背中合わせで浴槽に入りました。
二人で使うには湯船は少し小さかったですが、私達はとくに気にしませんでした。
亜里沙「海未さん。うちを出た後、どこに行ってたんですか?」
海未「……分かりました。話します」
そして私は公園で希と話したこと、その内容を亜里沙に明かしました。
ただ、そのままを伝えると亜里沙が希に反感を持つ可能性があったので、多少の脚色を加えましたが。
亜里沙「そうだったんですか……。海未さん、私も今日何の話をしにきたか説明します」
そう言うと、亜里沙は自分がなぜ、私の家までわざわざやってきたのかを説明し始めました。
亜里沙「海未さん達が帰られた後、雪穂から海未さんのことで電話があったんです」
海未「雪穂が私のことで?」
亜里沙「はい。雪穂は『海未さんは穂乃果さんとことりさんの二人ともを好きなんじゃない?』って」
海未「!!……雪穂にまでバレていたんですね。もしかしたら……」
海未(もしかしたら穂乃果たちも……)
亜里沙「穂乃果さん達は気づいてないと思います。気づいていたら、あんな風に付き合っていることを伝えたりはしないと思います」
海未「……それもそうですね。それに、穂乃果たちが気づいていようがいまいがもう……」
亜里沙「海未さん、これからどうするんですか」
海未「……どうしたらいいんでしょうね」
亜里沙「私は、穂乃果さんとことりさんに想いを告げるべきだと思います」
海未「……付き合い出して幸せな二人に『自分も二人が好きだ』なんて余計なことを言って、横槍を入れろと?」
亜里沙「余計なこと、ですか」
海未「違いますか?」
亜里沙「……海未さんは、二人に別れてほしいんですか?」
海未「な……!違います!!私は二人に幸せでいてほしくて」
亜里沙「だったら尚更、想いを伝えるべきだと思います!」
亜里沙は突然立ち上がって浴槽から出たと思ったら、今度は私と向かい合うように入ってきました。
海未「亜里沙!?」
亜里沙「海未さんが穂乃果さんとことりさんの幸せを願っているように、あの二人の幸せには海未さんの幸せも入ってるんじゃないですか?」
海未「それは……」
亜里沙「海未さんが想いを押し殺してずっと悩み続けることなんて、誰も望んでいないです。そんな自己犠牲、ただの自己満足です!」
海未「亜里沙……」
亜里沙「海未さん、私……私…………海未さんのことが好きです!!」
海未「え……!?」
亜里沙「今もこうして海未さんと向き合ってるだけで心臓が爆発しそうです!それくらい大好きです!!」
亜里沙「想いを伝えるのは怖かったです……でも、伝えないと前に進めません!!」
海未「亜里沙……」
亜里沙「海未さん、私と付き合ってくれますか?」
海未「…………」
私はなんて情けない先輩なんでしょう。
亜里沙は決死の思いで、私の背中を押してくれました。
それに応えないなんて、そんな情けない真似……これ以上できません。できるはずがありません。
海未「ありがとう、亜里沙。あなたの気持ち、とても嬉しかったです」
亜里沙「……はい」
海未「でも、今の私にはあなたのその気持ちに向き合う資格がありません。だから……」
私のことを見つめる亜里沙を、そっと抱きしめて……
海未「私が自分の気持ちにけじめを付けるまで、待っててくれませんか?」
亜里沙「…………」
海未「亜里沙?」
亜里沙「うみさぁぁぁん…………」
海未「え!?亜里沙、大丈夫ですか!?亜里沙!!」
~~~~~~~~~~~~
亜里沙「……あれ、私」
海未「気づきましたか?」
亜里沙「海未さん、ここは?」
海未「私の部屋です。長湯のしすぎで逆上せてしまったみたいですね」
亜里沙「そうだったんですか……すみません」
海未「いえ、むしろ謝るべきは私というか……」
亜里沙「えっ?」
海未「その、裸のままでは風邪を引いてしまうので……着替えを」
亜里沙「…………あっ」
海未「な、なるべく見ないように心掛けたつもりですが」
亜里沙「~~~っ!!」
亜里沙の顔がみるみるうちに紅潮していきます。
タコもびっくりなほど真っ赤になった亜里沙はしばらく動きませんでした。
海未「その、亜里沙?」
亜里沙「……一つだけ、お願いしてもいいですか?」
海未「できる範囲のことなら……」
亜里沙「……海未さんと一緒の布団で寝たいです」
海未「それくらいなら」
亜里沙「本当ですか!?」
海未「嘘なんてつきませんよ。もう寝ますか?」
亜里沙「はい!」
電気を消して布団に潜り込むと、亜里沙が抱きついてきました。
海未「寝辛くありませんか?」
亜里沙「大丈夫です!……その、海未さん」
海未「はい?」
亜里沙「私、待ってますから」
海未「……はい」
亜里沙「それから……もしよかったら、お姉ちゃんにも今回のこと、話してあげてください」
海未「絵里に?」
亜里沙「お姉ちゃん、ずっと……海未さんのこと、心配してましたから……」
海未「……分かりました。必ず話します」
亜里沙「ありがとう……ございま……す…………」
海未「……おやすみなさい、亜里沙」
亜里沙の体温に包まれて、私はすぐに眠りにつきました。
その夜、夢は見ませんでした。
翌日 昼休み、2年教室
海未「穂乃果、ことり」
穂乃果「海未ちゃん?」
ことり「どうしたの?」
海未「今日の放課後、話があるので屋上まで来てくれませんか?」
穂乃果「話……」
海未「あ、その、少し別件で遅れるのでもし用事があるようでしたら今日じゃなくても」
穂乃果「ううん、穂乃果は大丈夫だよ」
ことり「ことりも。待ってるね、海未ちゃん」
海未「はい」
舞台は整いました。後は……。
放課後、生徒会室
絵里「昨日は亜里沙がお邪魔したわね」
海未「いえ、とても元気づけてもらいました」
絵里「それならよかった。それで、話っていうのは?」
海未「はい、実は……」
そうして私は昨日絢瀬家を出てからの出来事を全て話しました。
長い話になりましたが、絵里は最後まで静かに聞いてくれました。
絵里「……なるほどね」
海未「全て、最初に私の相談に乗ってくれた絵里のおかげです。本当にありがとうございました」
絵里「私は実質何もしてないわ。それよりも……まさか海未が同性愛者だったなんてね。希には無駄骨折りさせちゃったわね」
海未「?何の話ですか?」
絵里「昨日見た二本目の映像。私が希に用意させたのよ」
海未「絵里が!?」
絵里「正確には『海未が同性愛に興味を持つようにしてほしい』って頼んだんだけどね。あんな映像用意するとは思わなかったわ」
海未「ど、どうしてそんなこと……」
戸惑う私に、絵里が近づいてきます。
絵里「わからない?私が……」
絵里は後ろから私を抱きしめると、耳元でそっと
絵里「海未のことが好きだから」
海未「!?」
囁きました。
私が硬直していると、絵里はそのまま話を続けました。
絵里「亜里沙がね、『私はもう告白したよ。お姉ちゃんがぼーっとしてたら私が奪っちゃうから』って。まったく、姉思いの妹よね」
海未「そう、だったんですか」
絵里「私が海未の相談に乗ったのはもちろん先輩として、仲間として放っておけなかっただけ。でも、下心や打算がまったくなかったって言えば嘘になるわ。どう?軽蔑した?」
海未「いいえ、まったく」
絵里「……人は、ちゃんと話せば分かり合えるものよ。あなたがしっかり話をすれば、穂乃果もことりも分かってくれるわ」
海未「……はい」
絵里「よし、わかったらさっさと行く!二人を待たせてるんでしょ?」
海未「いえ、でも」
絵里「亜里沙には『待っててほしい』って言ったんでしょ?私だって別に返事を急ぐようなことはしないわ。あなたが納得できる答えが見つかるまで、ちゃんと待ってる」
海未「絵里……ありがとうございます、本当に。返事は後で必ず。行ってきます!」
絵里「ええ、行ってらっしゃい!」
~~~~~~~~~~~~
絵里「……さてと」
にこ「……絵里」
絵里「また盗み聞き?アイドルよりスパイとか忍者のほうが向いてるんじゃない?」
にこ「ち、違うわよ!あんたが生徒会室のほうに行くのを見たって聞いたから、来てみたらたまたま……悪かったわね」
絵里「いいわよ、別に。聞かれて困ることでもないし」
にこ「……本当にいいの?」
絵里「だからいいって言ってるでしょ?」
にこ「そっちじゃなくて。返事のことよ」
絵里「……海未は、まだ自分の気持ちのことで精一杯なのよ。好きな子のことを困らせたくはないわ」
絵里「それに、返事は必ず、って言ってくれたしね。今は、それで充分」
にこ「そっ、あんたがそれでいいならいいけど」
絵里「心配してくれてありがとう。にこは優しいわね」
にこ「ち、違うわよ!ただ、姉妹で略奪愛なんて面白いなって思っただけ!!」
絵里「ふふ、確かに。まぁたとえ亜里沙でも譲る気はないけどね」
絵里「ところで、何か話があって探してたんじゃないの?」
にこ「え、ああ、よかったら一緒に帰ろうかなって思って。希も探したんだけど見つからないし」
絵里「そうだったの。でも、ごめんなさい。まだ一仕事残ってるから」
にこ「一仕事?何よそれ」
絵里「秘密。それより、どうせなら真姫を誘ってあげたら?まだ1年の教室にいるかもしれないわ。テスト期間中はちょっと残って勉強してるらしいから」
にこ「どっ、どうしてそこで真姫ちゃんが出てくるのよ!?」
絵里「あら?だって今度デートもするんでしょ?」
にこ「なんでそのことを……」
絵里「ふふ、にこをデートに誘うように真姫の背中を押したのは誰だと思ってるの?」
にこ「あ、あんた真姫ちゃんにも相談されてたの!?」
絵里「海未よりも結構前からね。『こんなこと相談できるの、エリーしかいない!』って。少しは感謝してくれても罰は当たらないわよ?」
にこ「よ、余計なお世話よーっ!!」
絵里「あっ、ちゃんと真姫に声かけなさいよー!」
絵里「……まったく、素直じゃないんだから」
屋上へと続く階段を一段ずつ、しっかりと登っていきます。
海未(後少しで屋上ですね……)
希「おつかれさま」
海未「の、希?」
私が見上げると、屋上前の踊り場に希が立っていました。
希「穂乃果ちゃん達はもう来てるよ」
海未「そうですか、ありがとうございます」
踊り場に辿り着き、希と向き合います。
海未「希、ありがとうございました」
希「……うちのこと、怒ってないの?海未ちゃんにはそうする権利があるんよ?」
海未「まさか。私のことを思って厳しく言ってくれた希に、怒る理由なんてありませんよ」
希「……覚悟は決まった?」
海未「はい。希と絵里と、亜里沙のおかげです」
希「そっか。それじゃ頑張って!」
海未「……希。今度、前見せてくれたアニメの続きを貸してください」
希「……あははは!うん、ええよ!」
希が開け放った扉を通って、私は屋上へと足を踏み出しました。
そこにいるのは、私の愛する二人の親友。
海未「お待たせしました」
穂乃果「もう!ほんとに遅いよ海未ちゃん!後少しで穂乃果たち帰っちゃってたよ!」
ことり「穂乃果ちゃんったら……」
海未「それはすみませんでした。でも、待っててくれたんですね」
穂乃果「……当たり前だよ。他ならぬ、海未ちゃんのお願いなんだから」
海未「……二人には、私のことを心配させてしまいましたね」
もう迷いません。私は……
海未「全て、お話しします」
私は話しました、私の気持ちを。
余計な言葉なんていりません。
ただ、二人へ向けた思いの丈を精一杯伝えました。
穂乃果「そっか……そうだったんだ」
ことり「……」
海未「私がここに来たのは、それを伝えたかったからです」
三人ともが黙り込んだまま、しばしの時が流れました。
穂乃果「……ありがとう、海未ちゃん。ちゃんと話してくれて」
穂乃果「海未ちゃんの気持ち、とっても嬉しいよ。でも」
穂乃果はまっすぐ私のことを見つめて、最後まで言ってくれました。
穂乃果「でも、その気持ちには応えられない」
海未「…………ことり」
ことり「ことりも、同じ」
海未「……そうですか」
この瞬間、私の叶うことのない想いが完全に砕け散ったのを、私は確かに感じました。
しかし。
海未「……最後に、二人にどうしても聞きたいことが、二つだけ、あります」
そうだ、ここで引いてはいけない。それでは何の意味もない。
私は最後まで向き合わなければいけません。
気づかせてくれた希のために。
私を立ち直らせてくれた亜里沙のために。
私の背中を押してくれた絵里のために。
そして、私のために。
海未「穂乃果、ことり…………私が、二人が付き合う前に想いを告げていたら……私と付き合ってくれましたか?」
私の問いかけに、穂乃果とことりが答えることはありませんでした。
海未「……そう、ですか」
まだだ、泣くな。
まだ最後まで聞けていない。
海未「それでは…………」
滲む視界に、二つの影が写ります。
そのぼやけた影に最後の問いかけをしました。
海未「二人とも……私と、いつまでも……友達でいてくれますか?」
「「当たり前だよ」」
間髪入れずに返ってきた答えを聞いて、私は限界を迎えました。
海未「あり……がとう、ございました……!」
穂乃果「海未ちゃん!!」
穂乃果の呼びかけを無視して、私は校舎への階段を駆け下り始めました。
穂乃果達が追いかけてくる様子はありません。
どうやらことりが気遣ってくれたようです。
海未「うぅっ……ひぐっ……!」
ありがたかった。こんな顔、誰にも見られたくありませんでしたから。
~~~~~~~~~~~~
荷物が置いてある教室に向かって廊下を走ります。
途中、前も見ずに走ったせいで人とぶつかってしまいました。
海未「すっ……すいません」
謝って再び走りだそうとする私の腕を、その人が掴みました。
驚いて顔を見ると、
海未「え、り……?」
絵里「まだ校舎に残ってる人もいるわ。生徒会室に行きましょう」
~~~~~~~~~~~~
生徒会室
絵里は戸に鍵をかけると、いまだに涙の止まらない私を見て穏やかに微笑みました。
絵里「その様子だと、ちゃんと言えたみたいね」
海未「こうなるって、分かってた、のに……今更涙なんて、情けない、ぐすっ」
絵里「何言ってるの。あなたは泣いて当然よ。でもね」
突然、絵里に抱きしめられました。
絵里「その涙を、一人で背負い込むことはないのよ」
海未「絵里……」
絵里「いくらでも私の胸を貸すわ。存分に泣きなさい」
海未「うぅぅぅ……っ!うわぁぁああぁぁぁぁん!!」
そうして、絵里に包まれて私は情けなく泣きじゃくりました。
言葉にならない叫びをあげて号泣する私を、絵里はずっと優しく抱きしめてくれました。
~~~~~~~~~~~~
絵里「どう?もう大丈夫そう?」
海未「……はい、ありがとうございました」
絵里「どういたしまし……どうしたの?」
抱きついていつまでも離そうとしない私に、絵里が怪訝な反応をしました。
私が腕に力を入れると、絵里の心臓がすごい早さで鼓動しているのが分かりました。
絵里「ちょ、ちょっと」
海未「……絵里の体は柔らかくて気持ちいいですね」
絵里「も、もう!おじさんくさいわよ」
海未「正直な感想を言っただけです。ずっとこうしていたいくらい……」
絵里「そ、その……できれば私もそうしていたいけど……」
戸惑う絵里の様子に少し笑みがこぼれました。
私が抱きつくのをやめて絵里から離れると、絵里は複雑そうな顔をしました。
海未「はい。でも、ずっと絵里に頼っているわけにもいきません。私は私の足で立たなければいけませんから」
これでようやく、私は前に進めるんですから。
絵里「海未、完全復活ね」
海未「はい、もう心配いりません」
絵里「よし!じゃあどこかでお祝いでもする?」
海未「どこでもいいんですか?」
絵里「ええ。あ、あまりお金のかからないところね」
海未「それなら、私は――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから、私と絵里はお菓子とジュースを買って、絵里の家に向かいました。
帰ってきた亜里沙と、三人で食べて飲んでの大騒ぎ。
こんなに笑ったのはいつぶりだろうと思うくらい、私は二人と一緒にはしゃぎ回りました。
その日以来、私は頻繁に絢瀬家へ遊びに行くようになりますが、それはまた別の話です。
私の悩みが解決したことで、ようやく私はいつも通りの日常が帰ってきました。
しかし、全てが元通りとはいきませんでした。
この件によって、私と穂乃果、ことりの関係は大きく変わってしまったのです。
穂乃果「ことりちゃん、あーん」
ことり「あーん……」
穂乃果「ど、どう?」
ことり「すっごく美味しい!」
穂乃果「よかったー。すごい心配だったんだ……」
ことり「あはは、ありがとね穂乃果ちゃん。……ところで、海未ちゃん?」
海未「なんですか?」
穂乃果「あの、本当にいいの?海未ちゃんの前でこんなにイチャイチャして……」
海未「何言ってるんですか?私から頼んだことじゃないですか」
ことり「で、でも、『私の前でもたくさんイチャイチャしてほしい』なんて」
穂乃果「海未ちゃん、無理してない?」
海未「そんなことありませんよ。さぁ二人とも、次は是非口移しで食べさせ合ってください」
穂乃果・ことり「「く、口移し!?」」
海未「さあ!!早く!!」
このように、私は穂乃果とことりと過ごす時間を、これまで以上に楽しむことができるようになりました。
これも全て、私をこの道に目覚めさせるためにたくさんの資料を用意してくれた希のおかげですね。
しかし、一つ困ったことも。
亜里沙「海未さんっ、この服どうですか?」
絵里「海未、これ似合ってるかしら?」
海未「二人とも似合ってますよ」
絵里「どっちのほうが似合ってるの?」
海未「へ?いえ、どちらも同じくらい可愛いですが……」
亜里沙「ちゃんとどっちかを選んでください!」
海未「そ、そう言われましても」
絵里「海未!!」
亜里沙「海未さん!!」
私には今、大きな悩みがあります。
おそらく、これまでの人生史上最大級の。
絵里「海未、私のアイスを食べるわよね?」
亜里沙「海未さん、私のアイスのほうが絶対美味しいですよ!!」
海未「ど、どちらも食べるという選択肢は……」
絵里「何を言ってるのよ!」
亜里沙「早く私か、お姉ちゃんか、選んでください!!」
海未「で、ですから私にはまだ二人のうちどちらかを選ぶことはできないと……」
人間関係というものは複雑で、ややこしく、わかりづらいものばかりです。
まだまだ人生経験が少ない私にはとても理解できないことだらけで……。
亜里沙「お姉ちゃん、いい加減に諦めてよ!私はもう海未さんと大人の関係一歩手前までいったんだから!!」
絵里「あなたこそ諦めなさい!海未は私のことを抱きしめて『ずっとこうしていたい』って言ったわ!もう夫婦みたいなものよ!!」
亜里沙「それ、お姉ちゃんの妄想なんじゃないの!?」
絵里「なんですって!!」
海未「ふ、二人とも、ケンカしないで……」
絵里「元はといえば、あなたがハッキリしないからこうなってるんでしょ!!」
亜里沙「海未さん、早く私を選んで!!」
誰か教えてください。
海未「わ、私はいったいどうすれば……」
絵里・亜里沙「「海未(さん)!!」」
完
後日談のはずが第2編になってました。
途中途中で絡めておいてなんですが、にこまきデートを書く予定はないです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
海未がどちらか選んだ話を短編でいいので希望
(選ばれない方の病みは無しで)
>>239
海未×亜里沙と海未×絵里でそれぞれってことですか?
いつになるかは分かりませんが、一応書き溜めてみます。
他にも「こういうのを書いてほしい」とかありましたらどうぞ……必ず書けるかは分かりませんが。
1 うみえり
2 うみあり
3 ことほの
4 ほのえりorほのまき
挙がってるのはこんな感じですかね……
いつ、どんな内容で、どのくらいの量書くかは未定なので期待せずにお待ちください
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