“please forgive”
――あなたを乗せた飛行機が あなたの行きたい場所まで
――どうかあまり揺れないで 無事に付きますように
エレンは調査兵団に入る
私やカルラおばさんの静止もきかず
巨人にそのおばさんを殺されてなお、恐怖に押し潰されずにその復讐を糧としてその夢への願望をより強くした
きっともう止まらないのだろう
私はあなたに生き返らせてもらった恩を忘れない
だからせめて死なないように
例えあなたに拒絶されても
絶対に守る
――最近は別に元気じゃない それが平常で不満もない
――生活に変化は求めない 現実とマンガは重ねない
ただ黙々と勉強を続ける
もちろん身体も鍛える
そして訓練に精を出す
エレンや皆に置いて行かれないように
ある日気付いた
僕はエレンと調査兵団に入るという夢を持ちながら
同時に今の訓練兵生活がいつまでも続けば良いと望んでいる
外への恐怖に屈しないと決めたはずなのに
変わるということは僕の想像以上に難しいことなのかも知れない
こんな僕をエレンが知ったらどう思うのだろうか
――いつまで続けるの 終わりがあるものなの
――頭ずっと忙しく
……またこれだ
――心はずっと もうずっと
頭が痛む
――絶え間無く叫んで 私を叫んで
――たとえ耳を塞いでも 聴こえてしまうんだ
――ただ怖いだけなんだ 不自由じゃなくなるのが
――守られていたことを 思い知らされるのが
私だって怖いのだ
巨人が怖いのだ
人々が怖いのだ
残酷な世界に、皆と同様に震えて堪えるしか術を持たないのだ
壁に守られて
皆に守られて
そしてエレンに守られている
どうすれば良いのだろうか
誰も私に教えてはくれない
いつだってそうだ
いつだって世界は私に牙を剥く
――自分で選んできたのに 選ばされたと思いたい
――一歩も動いちゃいないのに ここがどこかさえ怪しい
気付けば皆と遠いところにいた
どこで道を間違えたのだろう
私は強くなった
何ものからでもエレンを護ることができるほどに
それで本当に良いのだろうか
皆は変わった
私は変わらない
今も昔も、そして未来も
あなたを守るだけ
それなのに
あなたもアルミンも、皆私とは違うところに行ってしまった
ここはどこなのだろうか
何もかもが変わってしまった今では、それすら定かではない
ただただ寒いだけだ
寒い
――あなたを乗せた飛行機が 私の行けない場所まで
――せめて空は泣かないで 優しく晴れますように
君はどこまで離れて行ってしまうのだろう
僕は一体何を残せるのだろう
本当はもう気付いているんだ
君は僕と違うんだ
覚悟も才能も足りない僕が、君に着いて行こうだなんて
端からおかしな話だったのかもしれない
だからせめて
君には夢を叶えて欲しい
――どこまでごまかすの 誰に許されたいの
本当にそれでいいのかな
――頭はきっと嘘をつく
三人で並んで、外の世界を歩くという夢を……
――心はきっと もっとずっと
――遠くを見ていて 近くに見ていて
――閉じた瞼の裏側に 映してしまうんだ
――まだ憧れちゃうんだ 自由と戦う日々を
――性懲りもなく何度も 描いてしまうんだ
ずっと夢見てきたじゃないか
そしてここまで歩いてきたじゃないか
どんなに不条理でも戦うって決めたじゃないか
不自由なこの世界で、自由を掴み取るために
どうしてこんなにも残酷なのだろう
叶えたい夢と
叶わない夢が
交差して
僕を咎め続ける
――求めない 重ねない 望まない 筈がない
――生きているから 生きているなら
私はなれたのかな
あの絵本の女の子みたいに
皆から愛される優しい子に
でも
それで本当に私は幸せなのだろうか
ミカサやエレン、アルミンみたいに、何かのために強く生きているだろうか
ジャンみたいに正直でいるだろうか
ライナーみたいに皆から頼られて信頼されているだろうか
コニーやサシャみたいに心のそこから楽しめる仲の友達がいるだろうか
ユミルみたいに本物の自分を生きているだろうか
……そして空っぽが残った
“forgive”
――残酷な程自由だ 逃げようのない事実なんだ
――震える手でその足で 全てを決めるんだ
エレン「ようアルミン!久しぶりだな!」
アルミン「あ、エレン……」
エレン「ミカサは?」
アルミン「上官と話してるから少し遅れるって……」
エレン「そうか……ん?どうした?浮かない顔して」
アルミン「……僕、やっぱり無理なのかも知れない」
アルミン「僕には君やミカサみたいに力もなければ、強い覚悟もない」
エレン「…………」
アルミン「それに僕たち、外の世界に一緒に行こうって夢を持ってるだろ?」
アルミン「壁外調査で壁の外を見て思ったんだ」
アルミン「……君も薄々気づいてるんじゃないかな」
アルミン「遠い未来の人たちがどうかはわからないけど、少なくとも僕たちが自由を手にすることはできないって」
アルミン「……ごめん、急にこんなこと言って。でも僕は――」
エレン「違うぞ」
アルミン「え?」
エレン「はぁ……まったく」
エレン「そんなことを考えてるのはお前だけじゃない。だから謝ることはねえよ」
エレン「それにな、いいか?お前は勘違いしてるぞ」
エレン「オレたちは最初から自由なんだよ。この世に産まれた時からな」
エレン「考えてもみろよ。今までだって全て自分で選択してきただろ。その手でよ」
エレン「そりゃ確かに外の世界に行けないのは不自由だが、そんなことはオレたちがこの世界に生きてるってことに比べりゃずっとちっぽけな問題だろ?」
エレン「オレたちは自由なんだ。だから外の世界に行きたいと努力するのも自由だ。諦めるのも自由だ。自由の翼を背負って夢を信じるのも自由だ」
エレン「オレは諦めてないし、諦めるつもりもないし、叶わないとも思わないぞ」
エレン「絶対にお前やミカサたちと外の世界を探検する」
アルミン「……はは、やっぱりエレンは強いなぁ」
アルミン「ごめんねエレン、こんな弱虫で」
エレン「だから謝ることはねえって。オレだって怖いんだ。お前がそうなようにな。他の皆も、それこそ兵長やミカサだってそうだ」
エレン「確かにミカサが言うようにこの世界は残酷だけどよ、それに抗うのも自由なんだ」
エレン「たくさん辛い思いはするだろうけど、それでもオレは進みたいね。とことんその『自由』を酷使してな。お前はどうする?」
アルミン「……ありがとう」
エレン「はは、照れ臭いな、親友だろ?あんま一人で抱え込むなよ」
ミカサ「エレン、アルミン」
エレン「うおッ!?」ビクッ
アルミン「わっ!!」ビクッ
エレン「急に後ろから来るなよ!」
ミカサ「急にではない、さっきからいた」
アルミン「え!いつから!?」
ミカサ「『僕、やっぱり無理なのかも知れない』くらいから」
エレン「それってほぼ最初からじゃねえか」
ミカサ「折角久しぶりにエレンと会えるのに、上官とそんな長々と話してはいられない。ので、さっさと終わらせてきた」
アルミン「流石はミカサといったところだね」フフ
エレン「そうだな」ハハハ
――絶え間無く叫んで あなたを見ていて
――それを続けた心で あなたは選んだんだ
ユミル「おいクリスタ、こんなとこで何やってんだ?」
サシャ「まったくもう、探したんですよ?」
クリスタ「ユミル、サシャ……」
ユミル「……あー、めんどくせえやつだな」
ユミル「まーた一人で何か暗いこと考えてんのかよ」
サシャ「ユミル、その話食堂行ってからじゃダメなんでsユミル「ちょっと黙ってろ」
ユミル「あのな、いっつもお前が何考えてそんな思い詰めてるのかは知らないけどよ、お前もっと生活を楽しめよ」
ユミル「そんなに辛いならよ、そこまで完璧に女神クリスタ様を演じなくてもいいんじゃねえか?」
ユミル「ちったあ自分のために生きろ」
クリスタ「ユミル……」
ユミル「ほら、真面目な話はもう終わりだ、行くぞ」
サシャ「皆クリスタのこと待ってますよ!」
クリスタ「うん……」
ユミル「…….だァーッ!もう本当めんどくせえやつだな!」
ユミル「ほら!手ェ貸せ!」
ガシッ
クリスタ「……ッ」
ヒストリア「…ありがとう」ボソッ
ユミル「あ?何か言ったか?」
クリスタ「う、ううん!それより早く行こうか!サシャもお腹減ってるだろうし!!」
ユミル、私を見つけてくれてありがとう
今度は私があなたを見つける番だから
あなたが自分のために生きる番だから
待っててね
――あなたを乗せた飛行機が 私の行きたい場所まで
ミカサ「そんなことよりエレン」
エレン「なんだ?」
ミカサ「あなたの話で私も元気をもらった。ありがとう」
エレン「へえ、ミカサもアルミンと同じようなことを考えてたのか」
ミカサ「少し違うけど、大体そんな感じ」
エレン「全く、お前らあんまネガティブになるなよな」
エレン「……ほら、久しぶりに会えたんだからもっと楽しくやろうぜ」
アルミン「うん、そうだね」
ミカサ「確かにせっかくの機会に暗い話ばかりでは良くない」
エレン「よし、そんじゃメシでも食いにいくか!」
――あなたを乗せた飛行機が 私の行きたい場所まで
終わり
(please) forgive / BUMP OF CHICKEN アルバム 『RAY』より
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