お姉ちゃん「・・・」(16)

・・


姉「……………」

お姉ちゃんは喋らない

言葉が解らない訳じゃない

言葉を知らない訳でもない

でも、お姉ちゃんは喋らない

妹「………おはよう」

姉「……………」

挨拶の返事さえしてくれない

仲が悪い訳じゃない

むしろ良すぎるくらいだったのに

もうにどと……お姉ちゃんの可愛かったり綺麗だったりする声は聴けない


お姉ちゃんが喋らないから、

たとえ解ったとしても、判らない

だからもし何らかの事件のせいだとしても、

警察には伝わらない

優しいお姉ちゃん、いつも味方のお姉ちゃん

テレビから出てきてくれない幻想の英雄ではないヒーローのお姉ちゃん

そんなお姉ちゃんはいつも笑っていて、

それとは逆に泣いてばかりな私を慰めてくれていた

姉『ほら、泣かない泣かない。泣くと大好きなアイスが無くなっちゃうぞ』

そんなくだらない冗談も、もう聞けない


妹「お姉ちゃん、私学校行かないといけないんだ」

姉「………………」

姉『行ってらっしゃい』

聞き飽きるほど聞いた声

目を瞑っても見えるほどにまばゆい光のように、

印象強く残る声

でもそれは……現実に聞こえることはなくなった

頭の中にしかいない声

頭の中でしか聞けない声

妹「お姉ちゃん」

泣きそうで、泣きたくて、でも、泣けない

泣くわけには行かない。だって、

お姉ちゃんはどんなに辛くても泣くことはなかったんだから


ぎゅっと口を強く結び、

痛いほどに強く握りこぶしを作りながら、

私はお姉ちゃんに微笑んだ

妹「こんどは私が守るからね」

ああ、ぎこちない笑顔だ

瞬きするだけでこぼれてしまいそうなほどに、

私の水分は目元に溜まってしまっている

ごめんね、お姉ちゃん

帰ってくるときは良い笑顔を見せるから

お姉ちゃんが可愛いって褒めてくれた笑顔にするから

だからお姉ちゃん。また褒めて欲しいな

私はお姉ちゃんに背を向けて部屋を出ていく

戸締りは厳重に。

強盗なんて来やしない家だけど。と、

ちょっと嘲笑うお姉ちゃんの姿を幻視して、

我慢ができるはずはない……学校には遅刻した


a「アンタまた上履き忘れたの?」

妹「うん、忘れたけどどうかした?」

a「なにその言い方」

妹「そんな当たり前のこと聞かれても困るかなって」

だって、私の下駄箱なんてない

だから必然、上履きもない

席があるだけマシだと思っておくべきだ

それに、裸足の冷たさにはもう慣れた

夏場は冷たくて気持ちいいからむしろありがたい


b「a子、次体育だよ」

a「はいはーい、ほら。アンタも準備しなさいよ」

運動は大好き、でも体育は大嫌い。

だって私服が無くなるから

海は好き、泳ぐの大好き、でも水泳は大嫌い

だって何も残らない

妹「私は後で行くから――」

a「いいから来なさいよ。誘ってあげてるのに」

妹「誘いは基本断ってるから。セールス、新聞お断り主義」

そんなの頼む程お金に余裕がないもん


a「……いいから」

掴まれた腕は建てられた爪が食い込んで痛い

でも、そんなことで音を上げるような弱さは捨てた

妹「いい加減にしてよ、私はあなたたちに付き合――」

言葉が飛ぶ、視線が横に逸れていく

左の頬がじわりじわりと痛みを流す

a「御託は良いから」

b「ちょ、やりすぎじゃない?」

a「平気平気、傷じゃなければ大丈夫だって」

結局、私は強引に連れて行かれるだけで、

素直についていくよりも悪化してしまったようだ


教師「2人1組、余るなら3人で組めよー」

いつものように、

私はa子とb子の2人と3人で組む

表向きはものすごく仲のいい3人。

でも、それは外面的なものでしかなく、

内面的に見れば被害者と加害者

2人は私を虐めてくる。それだけじゃない、私の私生活を知る人は大抵そうだ

理由なんて単純明快? いや複雑怪奇……それもどうだろう

ただ単に、私をいじめてもノーリスク・ハイリターンの好条件だから


私の家は借金まみれ

昼夜を問わずに怖い人が訪問してくる最悪の家

幸いなのは昼間はビラを貼るだけで留まってくれる事

姉妹は学校、親は逃げ。

脅したりしても意味がないと解っているから

だから私はここにいる

でも思えばそう、家の方が安全ではないか

だって服を盗られないし、水をかけられないしその他もろもろ

ごめんね、お姉ちゃん。私はやっぱりバカだった


姉『別に学校行かなくても良いんだよ?』

妹『や! お姉ちゃんと行く!』

姉『はいはい』

そんなやりとりも懐かしい

お姉ちゃんが行くからと学校に来ていたのに

これからはもうお姉ちゃんは学校に来ないのに。

なんで私は学校に来ている――

ゴンッと音が聞こえた

それは自分の頭が鳴らした音

今日はソフトボール

集中しなかったからまともにあてられてしまったみたい

目の前が真っ暗になった

とりあえずここまで

乗っ取り即興

50までに終わると思う

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