キョン「休日?」 (16)
とある休日、不思議探索は休みと団長様からお達しがあり、久々に惰眠を貪ることができるなどと俺は考えていた。
もはやお約束と言われても仕方がないのだが、ハルヒによってその快適な睡眠は妨げられることとなる。
いや、薄々はわかってはいたのだ。ここのところ何かと忙しく、ハルヒと二人っきりになる時間がほとんど無かった。
それをハルヒがどう思っていたのかは、今日の行動を待たずとも明白であったわけだ。
実際、俺としてもハルヒと一緒に過ごせないのは残念に思っていたわけで、本日の訪問は素直に嬉しく思う。
しかし、一つだけ納得いかないのは、快適な惰眠を妨げられたことだ。
「ちょっと、せっかく可愛い彼女が遊びに来てやってるのに、その言い草は何よ?」
「自分で可愛いとか言うな」
現在午後一時過ぎ、昼食を食べ終え、俺の部屋でのんびりとゲームなんぞをやっている。
ちなみにではあるが、両親、妹ともに外出しており、昼食はハルヒの作ってくれた炒飯だった。
美味かったとだけでも言っておこうか。
「それはそうと、キョン弱すぎ。これじゃあ対戦してる意味が無いじゃない。COPのほうがよっぽど強いわよ?」
「そりゃ、こんな状態で普段の実力を出せと言われても無理ってもんだ」
再びちなみにではあるが、現在ハルヒは俺を椅子に見立ててそこに座っている。
ハルヒのせいで画面は見えづらい上に、その、いろいろとあれなわけで、集中なんてできやしない。
「なぁ、ハルヒ。重いからのいてくれ――「却下」
即答。いや、最後まで喋らせてくれなかった。
「嫌よ、そんなの。絶対に嫌」
「おいおい、何でそんなにこだわるんだよ?」
「だって――」
――寂しかったんだから。
なんて、かぼそい声で言われた日には、俺はハルヒのお願いを無下にすることなんて出来るはずもなく、
ただただハルヒのわがままを甘受するだけである。
これ前見たことある
>>4
すまん、どれ貼ったか覚えてないんだ
「そ、それに、キョンだってあたしと引っ付いてないと寂しいんでしょ?仕方なくよ、仕方なく」
「……そういうことにしといてやるよ」
「う、うるさい!バカキョン!」
駄々っ子のように足をバタバタするハルヒ。ストレートな感情表現をしてくる一方で、こういった子供みたいなところもある。
付き合う以前からそういう傾向はあったのだが、ここ最近それが顕著になってきているような気がする。
「ねぇ、キョン。ぎゅってして」
「はいよ」
言われるがままに後ろからハルヒに手を回し抱き締める。
ハルヒは何食わぬ顔でガチャガチャとコントローラをいじっていると思いきや、
ほんのりと頬を朱に染まっているのに俺は気が付いた。
「もっとぎゅってしなさいよ」
「はいはい」
さらに力を込める。そして、いい匂いのするハルヒの首筋に顔を埋めた。匂いが強くなるとともに安らかな気持ちになる。
「……変態」
「それは酷いぞ。ハルヒだってよく俺にこうやるじゃないか」
「し、してないわよ!」
「どうだか、ね」
付き合い始めてから、ハルヒは随分と甘えるようになった。
それまでツンツンしていた反動と言えばいいのだろうか、ことあるごとに俺に引っ付いてくるようになった。
俺個人としては、それを非常に嬉しく思っている。
周囲からバカップルだの桃色職人だのと言われたりするが、それ以上にハルヒと一緒に居ることに幸せを感じている。
それに、甘えてくる時のハルヒは可愛い。それだけで十分ではないだろうか。
「……ねぇ、キョン。キスしてほしかったりする?」
「いや、別に」
「……そ、そう」
「なんだ、残念そうだな」
「ざ、残念なのはキョンのほうでしょ!?
せっかくこのあたしがキョンがしてほしかったらキスしてあげようかと思ってたのに、
せっかくのチャンスを潰したんだからね。もう頼んでもしてあげないんだから」
「そうか。じゃあ、もうキスは無しだな」
「えっ……?」
半身を捻ってこっちに向いたハルヒの瞳が、俺の返答が予想外だったのか動揺にゆれていた。
「ほんとに……?ほんとのほんとにあたしとキスしないの?」
「頼んでもハルヒはしてくれないしさせてくれないんだろ?」
「そ、それは……」
ハルヒが口籠もる。ハルヒの性格なら、言ったことをいまさら取り消すなんてできやしないのはわかっている。
不安そうにこちらをじっと見つめるハルヒ。そんな表情がたまらなく可愛い。
「や、やっぱりさっきの――むぐっ」
ハルヒがすべて言い終わる前にその唇を奪い去った。触れるだけのキス。ハルヒが驚いたまま表情で固まっている。
「頼んでもしてくれないから奪ってみた」
我ながら恥ずかしいセリフだと思う。そもそも俺はこんなキャラではないしな。
「ば、ば、バカキョン!な、な、なんてことしてくれんのよ!」
顔を真っ赤にしたハルヒが怒鳴る。
「い、いきなりなんて卑怯よ!」
「じゃあ、もうしないさ」
「…………」
押し黙るハルヒ。数瞬迷った挙げ句――
「た、たまにはいいわよ。嫌いってわけじゃないんだから」
――と、蚊の鳴くような声でそう言った。
「可愛いぞ、ハルヒ」
「恥ずかしいこと言うな!」
プイッと明後日の方向へ顔を向けるハルヒを、俺は再び強く抱き締めるのであった。
終わり
長門「彼?」
午後4時03分27秒、部室の扉をノックする音がした。
回数、音の響き方やその他諸々の理由によりノックの主が彼であると断定。
騒つく心を抑えていつものように本へと目を落とす。
5秒程しても返事をしなかったせいか、ドアノブが回って彼が顔を出した。
「まだ長門だけか?」
顔を上げて小さく頷く。彼は納得したかのようで、いつもの席に腰掛けた。
「今日も読書か?」
「そう」
彼が私をじっと見つめる。胸がほんわりと温かくなり、心拍数が10程上昇。
しかし、それもすぐのことで、することがなくて手持ちぶさたなのか、彼は落ち着きがないようにキョロキョロと視線が漂わす。
いや、もしかすると私のことを意識しているのではないだろうか。きっと、私とキスがしたいのだ。
でも、涼宮ハルヒたちが何時来るかわからないので挙動不審になっている。絶対にそう。間違いない。
「ハルヒたちはまだ来そうにないよな」
ほらやっぱり。彼の考えていることはすべてわかる。どうしてわかるのか?ということについて、理由なんて無い。
わかってしまうのだから仕方がない。私と彼は深いところで繋がっているのだ。
「なぁ、長門、ハルヒが来たら起こしてくれないか?ちょっと寝不足なんだ」
理解不能。何故?何故、彼は私にキスしないのだろう?彼の意図することがわからない。彼は私にキスがしたい。
なら、するべき。遠慮などはいらないというのに。彼は優し過ぎる。その優しさを一身に受けるのは私だけでいい。
誰にも渡さない。だというのに、涼宮ハルヒや朝比奈みくるは彼を誘惑しようとする。
それは私に対する宣戦布告だということだろう。
できることならば、今すぐにでも情報連結を解除して消してやりたいところだが、
あからさま過ぎるのは彼もいい顔はしないだろう。あの二人は彼の恩情で今も生き長らえているのだ。
「長門?」
彼の声で思考を停止する。黙って小さく頷き返す。彼にはそれで伝わった。
腕を枕にして、彼が机に突っ伏すと直ぐ様小さな寝息が聞こえてきた。背中がそれに合わせて微かに上下する。
私は、それを少しの間眺めてまた本へと目を落とした。静かな部室の中、私は彼と二人っきり。
これ以上、何を望むというのだろうか。あまりにも幸せ過ぎて、小さな恐怖が芽生えていく。
この幸せを奪われるのは耐えられない。私と彼の関係を邪魔するというのならば、私は速やかに障害を排除するだろう。
彼は許すかもしれないけど、それは表面だけ。心の奥底では私だけでいいと思っている。まずは朝比奈みくるから消そう。
アイツは未来人ではあるが、たいした能力を持たない末端の構成員でしかない。いなかったことにしても誰も困りはしないだろう。以前からアイツは彼に色目を使い誘惑していた。それを許せる程私は寛大ではない。それに、私はアイツのことが嫌いだ。そのことに気が付いているのか、妙におどおどしたりする。それが計算された動きであることはとっくに見抜いていた。どうすれば男に可愛く見られるのか、優しくされるのかということを知り尽くしている。あの雌牛が。今度彼に色目を使ったら問答無用で塵にしてやろうと思う。
しかし、真に注意を払うべきなのは朝比奈みくるではない。我々情報統合思念体の観察対象となっている涼宮ハルヒだ。
コイツは彼に色目を使うだけでなく、嫌がる彼を無理矢理に従わせ、付きまとい迷惑ばかり掛けている。
私の彼が嫌がることしかしない馬鹿な女。その罪は死だけではぬるい。
死ぬほうがマシだと思うほどの地獄を見せてやるくらいがちょうどいいだろう。
そもそも、涼宮ハルヒがいるからこそ私たちが愛し合っていることを隠さなければならないのだ。
涼宮ハルヒさえいなければ私たちは平穏で楽しい日々を過ごせるはずだ。
観察対象であるからと、消し去るのだけはあってはならなかった。
しかし、度が過ぎるようであれば然るべき制裁を食らわすことげくらいは許可してもらいたい。
情報統合思念体に申請しようと思う。
彼がいるだけでこの世界は満ち足りている。彼さえいれば他に何もいらない。
そんな世界を作ったというのに、彼はそれを良しとはしなかった。彼はこの世界の私を好きになったのだ。
ならば、私はその愛に全力を以て答えるべきだ。彼だけのことを考え、彼だけのために行動すれば良い。
それが私の存在意義。
「なが…と……」
彼が私の名を呼ぶ。きっと夢にも私が出てきているのだろう。私はそっと音もなく立ち上がり、彼の側へと移動する。
そして、左の頬へと軽くキスをした。
彼に良い夢を。そして、私たちの未来に光を――
終わり
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