エレン「特に理由がわからないハーレムがライナーを襲う」(39)

 変哲もない訓練だったはずだ。

 ウォール・ローゼ内にある巨大樹の森で立体機動の移動訓練。

 三人一組の班となり、いくつかのポイントを通過してゴールへ向かうという内容だ。

 今回は移動のみで、超硬質スチールを使う斬撃が不要のため、比較的楽と言えた。

 ――はずだったんだけどなぁ……

エレン「……なぁ、アルミン」

アルミン「なにかな?」

エレン「アレ、なんだ?」

アルミン「ライナーに群がってるモノの事?」

 俺は頷いて肯定した。

 巨人と言うほどではないが、人より大きな、人に似たなにか。

 黒い体毛に覆われているアレは、獣なのだろう。

 だろうというのは、俺があの獣を見た事がないからだ。

 少なくとも、熊ではない。

アルミン「アレは、ゴリラって動物だと思うよ。昔読んだ本に載ってたのと、特徴が似てる」

エレン「ゴリラって言うんだ、アレ」

アルミン「あと、これは多分だけど、ライナーを愛でてるゴリラたちは全部メスだね」

エレン「なんでメスだって思ったんだ?」

アルミン「あそこを見て」

 アルミンが指差す場所へ、俺は視線を向けた。

 そこにいたのは、唯一ライナーに近寄らない一頭のゴリラ。

 心なしか、ライナーへ向けるゴリラの目つきには、敵意のようなモノが垣間見える。

 ……あっ、ウンコした。

アルミン「あのゴリラはきっとオスだよ」

エレン「そうなのか?」

アルミン「ゴリラって、一頭のオスに、十頭近いメスが群れて、行動するらしいんだ」

エレン「へぇ~」

アルミン「憶測だけど、あのオスゴリラはメスゴリラたちに見限られたんだね」

 俺なりに解釈してみると、メスゴリラにとってライナーはあのオスよりイケメンだったって事か。

 それで、ライナーに群がってるんだ。

 メスゴリラってビッチなんだな。

 けど、ライナーに対しては、ものすごい優しい愛で方をしてる。

 ライナーを食うわけでもなく、危害もなさそうだからこうして眺めてるんだけど。

 ……あっ、オスゴリラがウンコ投げた。

 しかもライナーの顔面に直撃したよ。

 ライナー、エンガチョ。

エレン「ん? あのオスゴリラ、いきなり二本足で立って、自分の胸を殴り出したぞ」

アルミン「あれはドラミングだね。きっと、ライナーにメスを取られて怒ってるんだよ」

エレン「そりゃ、今まで自分を慕ってくれてた女を取られたら、キレるよな」

アルミン「女って言っても、ゴリラだけどね」

エレン「ゴリラだよなぁ……」

アルミン「それはそれとして、そろそろライナーを助けた方がいいかもね」

 そうだなぁ、と気のない口調で俺は呟いた。

 俺らは巨大樹の枝の上にいる。

 巨大樹には下の方に枝がないため、立体機動装置のないゴリラは登ってこれないと思う。

 仮に登って来たとしても、俺らなら立体機動ですぐに別の木に移動出来る。

 いわば、安全地帯だな。

 じゃあ、なんでライナーは登って来ないのか?

 理由は簡単。

 小便をしに地上に降りたライナーが、メスゴリラたちに襲われた時の事だ。

 狙ったのか偶然か、メスゴリラたちはライナーの立体機動装置をベルトから引き千切った。

 もちろん、超硬質スチールを入れてる鞘や、その他の装備諸々も。

 ただ、今のライナーはそんな事どうでもいいだろう。

 現在進行形で、ズボンのチャックからライナーの鎧の息子が顔を出している。

 いや、顔は隠れているか。

 なんにしろ、小便の途中だったんだから、当たり前だ。

 しかも、その状態でメスゴリラに体中を弄られ、挙句にウンコ塗れ。

 俺なら死ねる自信がある。

 ライナーを助ける事に気が進まないのもそれが理由だ。

 このままゴリラと決闘して、死んだ方があいつのためになるんじゃないかなぁ、と。

アルミン「あれ? なんかライナーもドラミングを始めちゃったね」

エレン「よくわからねぇけど、あれは受けて立つって事か?」

アルミン「どうだろ? 考える事を放棄したライナーが野生化した可能性もなくはないかもね」

エレン「鎧の息子、ブルンブルンさせてるしな」

アルミン「もうどうにでもなれ、って開き直ってるように見えるね。チャック閉めないのは謎だけど」

 下がってろ、というような感じで、メスゴリラたちを手で制したライナーは、オスゴリラへ歩み寄る。

 オスゴリラも、拳を前足代わりにするような歩き方で、ライナーとの距離を詰める。

 そして、一定の距離になった時、両ゴリラは足を止めた。

 息が詰まるような空気が二頭の間に漂う。

 先に動いたのはオスゴリラの方だった。

 大きな跳躍で、ライナーとの間合いをゼロにした。

 けど、所詮獣。

 ゴリラには人間のように戦う技術はないみたいだ。

 ただ振り回すだけのゴリラの腕を軽く避けて、ライナーはカウンター気味に拳を振り抜く。

 鎧の息子も左右に激しく揺れる。

 見事、ライナーの拳がオスゴリラの顔面を捕らえた。

 だが、痛がる素振りを見せる事なく、オスゴリラはライナーの顔を掴んだ。

 オスゴリラの手にこびりついてたウンコが、更にライナーの顔面に付着。

 その上、片腕だけで、宙に浮かぶライナー。

 踏んだり蹴ったりだな。

 ライナーの呻き声が、聞こえるような、聞きたくないような気がする。

アルミン「あの状態は流石にまずい! ゴリラは握力五百キロを軽く超えてる個体もいるんだ!」

エレン「それはやばいな。流石に助けるか」

 抜刀して、アンカーを撃ち出すトリガーに指をかけた。

 実のところ、まだライナーを助けていいか、悩んでいる。

 勇敢に戦った上で、あんなに無残な死に方を……的な感じの方が、まだ美談になりそうだし。

 本音を言えば、汚いから近寄りたくないだけだけど。
 
 ただ、本当に死なれたら困るから、助けるか。

 なんだかんだ言っても、ライナーは大切な仲間で、訓練兵になって初めて出来た友達だからな

エレン「俺が先に行く。ゴリラが手を離したら、アルミンはライナーを拾って、ここまで運んでくれ」

アルミン「え? あっ、いや。それは僕がやるよ。エレンは、ライナーの救出を――」

エレン「任せた!」

 アルミンの言葉を遮り、俺は枝から飛び降りつつ、立体機動に移った。

 ずるいよ、エレン! とアルミンの声が聞こえたが、無視する。

 だって、ウンコ塗れで鎧の息子晒してるやつ、抱き抱えたくないし。

 俺がオスゴリラの背後へ移動している間に、ライナーに動きがあった。

 ライナーが膝でオスゴリラの顎を蹴りあげたんだ。

 驚いたのか、効いたのかはわからないけど、オスゴリラはライナーを離した。

 オスゴリラが体勢を崩している間に、俺がうなじを削いで仕留める。

 直後、緊急上昇。

 俺までメスゴリラに捕まらないよう、急いで元の場所に戻る。

 戻った俺を、なぜかアルミンが迎えた。

エレン「なんでここに残ってるんだよ。ライナーの引き上げはアルミンの役目だろ?」

アルミン「そんな事より、あれを見て」

 話を逸らされた気がしたけど、俺は素直にアルミンの指さす方へ視線を向けた。

 ライナーのいる場所だ。

 そこでライナーは、メスゴリラに囲まれて、抱擁されて、顔をベロベロ舐められて、鎧の息子を擦られていた。

 俺は見逃さない。

 ライナーの鎧の息子が巨人化している事を。

 ついでに、鎧の頭が若干脱げてる事も。

エレン「……」

アルミン「……」

エレン「俺たちの知ってるライナーは死んだ」

アルミン「……うん」

エレン「教官になんて言おうかな……」

アルミン「僕に考えがある。任せて」

エレン「じゃあ、ゴール地点に向かうか」

アルミン「うん」

 達者でな、ライナー。

 そう思いながら、俺とアルミンは、その場を後にした。

 後ろ髪を引かれる思いは、アルミンのチン毛ほどもなかった。

 少ししてアルミンが、誇張と捏造を混ぜながら起こった出来事を教官に説明している時に、ライナーは戻って来た。

 ライナー曰く、ゴリラたちは急に蒸気を吹き出して、そのまま消えたとの事。

 ゴリラがひり出したモノは消えてないけどな。

 立体機動装置はやっぱり壊れていたようで、走ってここまで来たらしい。

 話を聞いた俺が、シガンシナ区で見た超大型巨人も突然消えたなぁ、と呟いた。

 すると、緊急ゴリラ捜索部隊が訓練兵で組まれる事になった。

 巨人と何らかの繋がりがあるかもしれない、と教官が判断したからだ。

 俺とアルミン、そしてライナーは、まず具体的な話をするように命じられる。

 その後、作戦に途中参加させると教官は言っていた。

 教官が部隊編成をしている待ち時間、ライナーが笑顔で言う。

ライナー「お前のおかげで助かった。礼を言おう、エレン」

エレン「気にすんな。それより、早く体を洗えよ」

ライナー「アルミン。お前にも心配をさせてしまったな」

アルミン「気にしないでよ。それより、息子さんがまだこんにちはしてるよ?」

エレン「なんでライナーの姿を見て、教官は怒らなかったんだろうな」

アルミン「不思議だね」

ライナー「そんな事より、俺の僅かばかりの礼だ。受け取ってくれ」

エレン「ど、どうしてライナーは両手を広げてこっちに迫って来てるんだ?」

アルミン「ぼ、僕たちは仲間だよね? 友達だよね?」

ライナー「あぁ、そうだ。だから、残さず遠慮せず受け取ってくれ。いや、受け取れ」

 その後の結果だけ言おうと思う。

 俺とアルミンもウンコ塗れになった。

 けど、ケツを掘られるような事はなかった。

 ライナーは抱きついただけで、すぐに助けなかった俺とアルミンを笑って許してくれたんだ。

 俺たちも結果的に見捨てたから、とりあえずその場はお相子って事で治めた。

 ただ、やっぱりウンコ擦りつけられた事自体にはムカついたんだよ。

 だから、ライナーがメスゴリラに欲情したって話を訓練兵全体に広めた。

 無論、アルミンと一緒に。

 後日談になるが、結局ライナーはメスゴリラとどこまでやったのか、就寝前に尋ねてみた。

 その時、一瞬でライナーの目から、光が消えたのが今でも忘れられない。

 最後までやったのかは不明だが、鎧の息子からライナーの子供たちが出たのは間違いなさそうだった。

 俺とアルミンはそれ以上追及はせず、ライナーと一緒にテンションをマックスにして騒いだ。

 すぐに教官に見つかったけどな。

 罰則として一晩中走らされたけど、ライナーが元通りになった事を考えると安い出費だ。

 よかったよかった。

 数日後、ライナーがハーレム状態になった日と同じ内容の訓練をしながら、俺は呟いた。

エレン「結局、ゴリラは見つからなかったな」

アルミン「見つかったら、巨人に関する手掛かりを得たかも知れないのにね」

 本来なら壁内にいない生物、ゴリラ。

 超大型巨人のように、突然現れ、突然姿を消す能力を持つ生物。

 しかも、俺が仕留めたオスゴリラの亡骸も見つからなかったそうだ。

 一頭でも捕獲しておかなかった事が悔やまれる。

 しかしまぁ、終わった事だ。

 次の機会を待つ事にしよう。

エレン「ところで、前のライナーみたいに、コニーに群がってるのはなんだ?」

アルミン「あれは、サルって言ってね――」

終わり

不意に思いついたから書いた
後悔はしてない事もない
寝取りに耐性のない人ごめんな

まとめさんにお願い
本文はいいけどこのレスだけは載せないでね

途中で聞かれたけど俺は相撲の人じゃないんだ
進撃ssの○○の風潮ってのをいくつか書いたやつ
じゃあ、お疲れさまでした

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