魔王「死に逝くものこそ美しい」女勇者「その通りだ」 (623)


まずい……


強すぎるな……


強すぎる……今回の魔王……


破壊神の創った勇者ですら全く歯が立たないか……


神が創りだせる勇者は一柱につき一人……


後、残っているのは……


生命の……豊穣の……


ダメだな……


ああ、ダメだ……アイツはまるで戦えない……


この星は終わり……


我々は大いなる存在に……


ああ、見捨てられた……


見ろ、ただの少女だ……

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《 魔王城 》



魔王「つまらない」

従者「は、それではなにか余興を……」

魔王「此度の勇者も相手にならんかった」

従者「魔王様御自らとあっては……」

魔王「神造兵器も浄化の雷もああまで温いとは」

従者「破壊神自らの品のようですが魔王様の前にはいかほどにも無かったという事でしょう」

魔王「わかりきったことを言うな、不愉快だ」

従者「申し訳ございません」

魔王「後は、どの神が造った勇者が残っていた?」

従者「あらかた平らげたものと思いますれば……」


魔王「維持の神の勇者はどうした」

従者「記憶の書なる異次元の書に己を書き写し、何度でも蘇る勇者ですか?確か、その書ごと消し飛ばしたものと」

魔王「『お気の毒ですが』、と言うヤツだな、あの絶望の表情は少し面白い」

従者「申し訳ございません、意味がわかりかねます」

魔王「創造の神はどうだった?」

従者「事象と空間に干渉し、何処にでも何時でも現れる勇者でしたか?確か、魔王様の魔力によって異次元に永久の幽閉を受けているはずですが」

魔王「『バグ』、と言うヤツだな、あの呆けた表情は少し面白い」

従者「虫の事でございましょうか?意味がわかりかねます」


魔王「ただ壊すだけの破壊神のヤツもなぁ……」

従者「まさか自分ごと吹き飛ぶとは思いませなんだな」

魔王「『本体の方が』壊れたのであろう、あの憤怒の表情は少し面白い」

従者「申し訳ございません、先程から意味がわかりかねます」

魔王「なに、一つ外の世界から物を見ているだけのこと」

従者「成程、最早魔王様は神をも凌ぐ」

魔王「だが神々はまだいるであろう?そやつらの造った勇者はどうした?」

従者「他は末端の神々でありますならば……されど、ほとんどが死滅している様子」

魔王「つまらない」

従者「は、それではなにか余興を……」

魔王「もう、この星は滅ぼすか……」

従者「如何様にも」



勇者だーっ!勇者が出たぞーっ!!

従者「なんと」

魔王「ほう、少し面白くなった」

従者「所詮末端の神が造った勇者、私が……」

魔王「ならぬ、最早貴重となった玩具だ、我の物だ」

従者「御意のままに」



***********





勇者「…………」





謁見の間の大扉を抜け悠然と歩いてくる女を認め、自分の眼が見開かれるのを自覚する。魔王たる自分が、これは驚いていると言うのか。


成程、これまでの勇者とは明らかに違う。


勇者が纏っているはずの神器は無い。剣すら佩いていない。

腕の一振りで周囲を更地にする武威もなく。

瘴気ににも似た圧倒的な魔力も無い。

艱難辛苦を共に乗り越えた絆もなく。

魔王の前に立つものとしては無防備同然の有様だった。

これではただの女だ。

城内の僅かな光を反射し陽光のように輝く金髪。

華奢な体格。まだ幼さを残すあどけない容貌。

人にしては、まあ見られる器量だ、だがそんなことがこの魔王の前に何の意味があるというのか。



魔王「こんにちは、勇者殿、私がこの城の主だ」



しかしこの者は勇者だとわかる。


魔力で造られた石床から生えるはずの無い草花が際限なく生えては枯れる。女が歩みを進める先から生えては枯れる。



『生命』、これがこの勇者が神から受けた恩恵。そして




勇者「……こんにちは」




目に称えた忌々しい炎、敵が万軍であろうと、四肢が千切れようと戦うことを選んだ者の瞳。

恐怖を知らないわけではない、恐怖を乗り越えた者の顔、『英雄』でなく、『勇者』であるその本質。そしてだからこそ。



魔王「滅ぼすのが楽しみだ」


勇者「いきなりね」

魔王「貴様の前の勇者共があまりにも不甲斐無くてな、この城にあっては余興がたらぬのだ」

勇者「……? 滅ぼせば満足するの?」

魔王「貴様次第だ、精々楽しませて……」

勇者「私は許可をもらいに来ただけなのだけれど」

魔王「……何?」

勇者「許可」

魔王「……なんのだ」

勇者「移住の許可、貴方の土地に住みたいと言っているの」

魔王「なんだと?どういうことだ?」

勇者「言葉の通り」


魔王「勇者が?我が領域に住まうと言うのか?使命はどうした?」

勇者「さっきから勇者って何?」

魔王「神から啓示を受けたであろう、恩恵を下に我を滅ぼせと」

勇者「神なら会った、『好きに生きろ』って言われた」

魔王「人間どもの期待を受け、旅立ったのではないのか?」

勇者「……された」

魔王「なんだと?」



勇者「……追放されたのよ」



魔王「……なんだと?」

勇者「……フフッ」

魔王「なにが可笑しい?」

勇者「貴方、さっきからそればっかり」


魔王「……では貴様は勇者では無いのか?それどころか人から忌み嫌われ、疎まれ、追放されたのか?」

勇者「大体その通り」

魔王「それで、我が領域に移住しようと?人類の希望ではないのか?その力は超常のものであろう」

勇者「足元から草花が生えること?」

魔王「そうだ、それを御して戦うのではないか?」


勇者「それだけじゃない、私が触った金属は全て錆て朽ちる、衣服も普通のものではあっという間に消えてなくなる。確かにこれは神様からもらったもの」


魔王「ほう、ならば命在るものに触れれば……」

勇者「……意識のあるものはおかしくなっちゃう。植物は平気みたいだけど」

魔王「おもしろい、それで追放されたというわけだ」

勇者「そうよ、でも神様が言ったの、力の使い方を学べば、生かすことも殺すことも自由にできるって」


魔王「…………」

従者「魔王様、なりませぬ、この者を生かしておけば……」

魔王「我を討つというのか?」

従者「いえ、決してそのようなことは、しかし、城内の者が既に……それに万に、いえ、億に一つ魔王様に届くことがあれば」

魔王「……いいだろう」

従者「魔王様!?」


勇者「ありがとう」


魔王「好きな場所を使え。精々のたうって生きるがいい」


勇者「それでいい」


魔王「……しかし解せんな?」


勇者「なにが?」


魔王「何ゆえもがき生きるのか?」

勇者「…………」




魔王「死に逝くものこそ美しい、そうは思わんか?」

勇者「……その通りだ」




絶望している表情ではない。

本気で同意している。

従者や他の配下は『殺せ』と進言してきたがそれを無視した。

他の勇者とは違うこの女。

生かしておいても自信が退屈であることは変わらぬが、何も持たぬこの女が何故勇者の資格を持つのか、

それに少し興味が湧いた。ただそれだけの事。




勇者は間もなく去った。




《一年後 魔王城 》






魔王「つまらない」

従者「は、それではなにか余興を……」

魔王「此度の勇者も相手にならんかった」

従者「魔王様御自らとあっては……」

魔王「飼育した魔獣を異次元から召喚する勇者か、中々に巧緻な者であったが」

従者「魔獣が住まう異次元そのものを『空』にして固定してしまわれるとは……残酷な方です」

魔王「……勇者といえば、あの者はどうなった?」

従者「あの者……ああ、一年前の『生命』の恩恵を受けた勇者でございますね?」


魔王「そうだ、死んだか?」

従者「いえ……『捨て置け』と言われたので放置してございます」

魔王「すぐに力の使い方を覚え、挑みに来ると思ったのだが」

従者「期待外れならば私が滅ぼして……」

魔王「よい、我が行ってみよう」

従者「魔王様御自ら?お止めください」

魔王「退屈なのだ、そのついでに一国滅ぼしてくる」

従者「……くれぐれもお気をつけて」



《 勇者の土地 》





日差しは強く、草木は萌え、そういえば今は春だったかと改めて認識する。

人の手の及ばぬ魔王の領域では草木も動物も原初のままであり、一度暗がりに進めば魔獣が闊歩する死の世界。

しかしここは、比較的弱者でも住まうには容易なのであろう。

妖精や低級の魔獣が身を寄せ合う泉より流れる川のほとり、屋根が無いところには等しく日が当たるのは、この死の領域においても同じこと。



そんな中、勇者は珍妙な金属製の機械を手に持ち、雑草が多い茂る平地を右往左往していた。




魔王「何をしておる?」

勇者「……ま「ギュオオオオオオォォォンッッ!!!」る……」


魔王「……何をしているかと聞いている」

勇者「みて「ギュオオオオオオォォォンッッ!!!」をし「ギュオオオオオオォォォンッッ!!!」」

魔王「まずはその耳障りな機械を止めよ」

勇者「え?「ギュオオオオオオォォォンッッ!!!」ない」



魔王「 止 め よ ッ ! と申しておるッ!!」



イイイィィン……



魔王「……ようやく止まったか、何をしておる?その機械はなんだ?」


勇者「見ての通り草刈、そしてこの……機械というの?これは『草刈機』……と言うらしい」

魔王「ふむ、燃える水の力で機械を動かし、この刃を回転させるのか、中々面白い武器だ」

勇者「武器ではない」

魔王「どうでもよい、それよりこの機械は誰の手のものだ」

勇者「貴方の配下の金属でできたゴーレムみたいな人に造ってもらった」

魔王「なんだと?」

勇者「私は普通の草刈鎌、それも私が触れても朽ちないような金属を使ったものが欲しいと言った」



忘れていた、この者が触った金属は尽く錆びて朽ちるのだった。



魔王「ほう、それで?」


勇者「お前にやるものは無いと言っていた」

魔王「当たり前だ、人間に施す義理は無い」

勇者「腹が立ったので、そんなモノも無いのかと挑発したら」

魔王「よこしたというのか」

勇者「そう」

魔王「情けなくなるほど不甲斐無い配下よ」

勇者「でも実際便利。あっという間に草刈が終わった。貴方は配下を誇っていい、他の農具も造ってくれたし、とてもいい人」


魔王「それで?何故草など刈る?」

勇者「私の領域を示すため」

魔王「貴様の?誰に対してだ?まさか我に対してか?こんな物に意味があるとでも……」

勇者「違う、マムシや害虫に対して」

魔王「何のために?」

勇者「ここに畑を作った。冬の間はいいけど、この時期に草が生えすぎると困る。マムシや害虫がわく、作物も育ちにくい」

魔王「ならば永遠に生えなくすればよかろう、秘薬でも魔法でも、手段はいくらでもある」

勇者「貴方は馬鹿?」

魔王「なんだと?」



勇者「そんな事をすれば作物も育たなくなる。草木も害虫もマムシも全て死に絶える。私達は互いの領域を定め、共存するしかない」


魔王「共存だと?」

勇者「そう、共存」



魔王「……弱者の論理だな」





共存する必要があるのは弱者であるからだ、魔王には必要の無い脆弱な考え。

そして許せぬことがある。

我が領域にて、我の配下である者が、こともあろうに弱者である人間に擦り寄ったのだ、許されざることである。



《ゴーレムの領域》





機械王「魔王様、コレハ突然ノゴ来訪、イカガナサレマシタ?」

魔王「覚えが無いと申すか?貴様、何故人間に擦り寄った」

機械王「魔王様、誤解デゴザイマス」

魔王「よかろう、申し開きがあるなら申してみよ」

機械王「朽チヌ金属ガアルカト問ワレ、無イト答エレバ、我等ハ容易ク滅ビル種族ト侮ラレマスナラバ」

魔王「機械王の沽券に関わると言うのか?」

機械王「左様デス、我等ハ我等ノ『力』ヲ示シテヤッタダケ事、驚嘆シテイタコトデショウ」

魔王「確かに……しかし、貴様等に益があったわけではあるまい。貴様は挑発に乗せられたのだ間抜けめ」


機械王「確カニソレハアルヤモシレマセン、シカシ我等ハ、ソノ過程デ新タナ金属ヲ造ルコトニ成功シマシタ」

魔王「ほう?オリハルコンやミスリル銀のような希少金属か?」

機械王「イエ、錆ビナイ『鉄』デゴザイマス、コレニハ、今仰ッタ希少金属ハ必要ゴザイマセン」

魔王「馬鹿な、鉄は錆びるのが道理では無いか、精錬したとしてもそれは同じこと、やがて錆びる」

機械王「別ノ金属ヲ融和サセ、新タナ金属ヲ造リダシタノデス」

魔王「合金と言うヤツか。それで、その錆びない鉄とはいかなるカラクリか」



機械王「表面ニ薄イ、別ノ種類ノ錆デ覆ウノデス、ソレデ他ノ錆ビハ寄リ付キニククナリマス。初メカラ錆ビテイルノデス、極端ニ錆ビニクイ、ト言マショウカ」


魔王「馬鹿な、そんなことができるわけが」

機械王「我々モソウ思ッテオリマシタ。シカシアノ人間ガ」



………………


勇者『錆びた鉄だって鉄じゃないか、鉱物や金属を統べる人なのに、錆びない鉄すら造れないの?』


………………



機械王「……ト、コノヨウニ」

魔王「成程、そこから発想を得たわけか」

機械王「ソノ瞬間、私ニ電流ガ走リマシタ、ア、ショートシタ訳デナク」

魔王「もう良い……気に入らんな、あの人間」



この種族は人間共の領域から流れてくる酸の雨を降らせる雲に苦しめられていた。結果から言えば、その事情が一気に解決したのだった。

機械王はこう言っているものの、その風貌に似合わずにあの人間に感謝しているのであろう。



あの勇者が使用していた機械の部品に多数使用されていた、金属でも植物でもない物質。あれは魔力によって生み出されたもので、衝撃には弱いが電気を通さず、軽く、多用途に絶えるが非常に希少である。

それを供していたことは許されざる裏切りである……裏切りであるが。




魔王「心を持たぬゴーレムにして情を通わせるか……これが共存とでも言いたいのか?」




ゴーレム族を滅ぼす気でいたが、その気も失せ、再び人間の農地に足が向いていた。

この一年でいくらかの作物を得る土地に開墾したのか、人間一人でしたにしてはかなりの大きさだが、それも機械王手製の農具のお陰か。

押すだけで自動で動く機械鍬が、猛烈な勢いで田畑を耕していた。


魔王「何故、わざわざ育てる必要がある?野にも山にも同じような食料があるだろうに」

勇者「冬になったら死ぬね」

魔王「他から奪えばよい」

勇者「他がいなくなったら死ぬね」

魔王「む……」

勇者「幸いにも私にはこの力がある、どうやら私がいるところの土地には大地の恵みが集まるらしい」



勇者は畑になった赤い実を生らした野菜の一つを手にとり、そう言った。

人の握りこぶしより二周りほど大きいそれは、人間の領域では珍しいものなのだろうか。


魔王「大地の恵み?神の力か?」

勇者「そうではない、大地に備わったもの、それを吸い上げて植物は大きくなる」

魔王「枯渇することはないのか?そのような偉大な力が我をおいて他にあるはずが」

勇者「する、けれど命が巡ることでまたそれが大地の恵みになる」

魔王「何をわけのわからぬことを」

勇者「命を終えた植物や、動物の死体、糞尿もそう、無数の命が土に返ることでまたそれが恵みになる」

魔王「ほう、少し面白い。では育てただけでは駄目なわけだな」

勇者「そうね、いずれ何も育たなくなるでしょう」


魔王「少し面白い」

勇者「……あなた王様のクセにそんなことも知らないの?」

魔王「何せ知る必要が無いからな」

勇者「王様は人を統べ、正しい方向へ導くものではないの?」

魔王「貴様等の王はそうかも知れんな、役割を果たしているかどうかは別として」

勇者「…………」



魔王「教えてやろう、この世はな『そうであるか』『そうでないか』の連続で成り立っている」



勇者「突然何?」


魔王「わかるまい。その『そうであるもの』と『そうでないもの』が無数に羅列して我等の世界がある。そしてそれらは人為的なものだ。我はそれに気付いていた」

魔王「我等の世界の外には神がいて、いいように操る為に、自分の中の何かが潤うために我等に殺し合いを強いておるのだ」



勇者「なんのことかわからないよ。どうしたの?」



魔王「『魔王は勇者に殺されるもの』そういう『役割』で生まれてきたのだ」

魔王「故に我にそういった知識は無い、必要も無い。在るのは魔王であるゆえの冷酷さ、悪性、魔力という曖昧な力、後は多少なりともそれに干渉できる力か……」



勇者「干渉できる力?」

魔王「我を創造した神は少々ひねくれ者だったらしい」

勇者「よくわからないけど」


魔王「だろうな、要は……何をしようと全く意味が無いのだ。この世界ではな」

勇者「……つまり貴方は働いていないのね?」

魔王「何を言う、日がな無謀にも戦いを挑んでくる勇者共を八つ裂きにしている」

勇者「それを働いていないというの」

魔王「『役割』は果たしている、戦うことが我が使命、それを放棄した貴様とは違う」

勇者「戦ってすらいない」

魔王「なんだと?聞き捨てならんぞ人間」

勇者「あれを見て」

魔王「植物がなんだ?」


勇者「屈んで、よく見るの」

魔王「虫けらが取り付いているな」

勇者「そう、私がいくら草を刈っても、虫は必死になって作物を自分の中に取り込もうとしている」

魔王「……だからなんだ?我はこの食い尽くされるのを待つのみの植物と同じと言うのか?」

勇者「いいえ、貴方は植物にも劣る」

魔王「……挑発するのにも言葉を選べよ小娘」

勇者「植物は目に見えないだけで今毒を放っている、今も必死に戦っている。自分が辿ろうとしている運命に必死に抗っている」

魔王「なんだと?そんなことがあるものか、こうして虫けらに食い荒らされているではないか」


勇者「おそらく明日には虫は死に絶える。自分の種を残すため、他の同種が食い荒らされない為に植物はこの戦い方を選んだ」

魔王「嘘を申すな、そのようなことが」

勇者「では何故私達は食べたもの全てを体に取り込めず排泄するの?それは植物が、食べ物そのものが毒だからではないの?」

魔王「む……」


勇者「私達の体もその毒に対抗するためにこの体になった。知っている?この体の中にこの虫より遥かに小さい虫が何万、何億といることを、その虫たちが毒を打ち消してくれる」


魔王「そんなわけがない、妄想も大概にしろ」


勇者「それは大地の恵みと同種のモノ、貴方の配下にも菌糸類がいたはず、聴いてみると良い」

魔王「なんだと?」




勇者「共存とはそういうこと。そして私達は誰一人として逃げたりしていない。みんな戦っている」

勇者「『王であること』から『生きている』ことから目を背けている貴方が馬鹿にして良いものじゃない」






勇者「私達は全員が戦士だ」




.




**************




そして何故か勇者の家で食卓を共にすることになった。

本来食事など魔王に必要なく、このような不完全な生き物がとる行動に付き合う義理も無い。

しかし、先程の会話の後、どうもこの女のなすがままである。

毒など入っていようが我に効くはずも無い、それはこの女もわかっているだろうに、どういうつもりか。




勇者「いただきます」

魔王「……その『いただきます』とは誰に対する祈りだ、貴様に恩恵を与えた神か?」

勇者「……多分、全て」


魔王「多分?全て?曖昧だ」

勇者「人によって言う対象は違う、料理を作ってくれた人、食材を買うお金を稼いでくれた親、食材を作ってくれた人、大地の恵み……だから多分、全て」

魔王「ほう、少し面白い、だが、何故『ありがとう』ではないのか」

勇者「こうして食卓に並ぶまでに失われた命がある、それは闘争、だから感謝の意味もあるけど、戦士に対する礼儀?」

魔王「何故疑問系なのだ?」

勇者「よくわからない。えてして風習とはそういうもの」

魔王「しかし……」

勇者「何?」

魔王「いや……」

勇者「……食べないの?」

魔王「……ああ」



**************


《 数日後 魔王城 》





魔王「表、上げ」

侍女「は、はい魔王様、何か……」



廊下ですれ違いそうになり、頭を垂れて道を譲る私に声が掛かる。

目元だけ上げ、拝見した魔王様の表情は剣呑であり、おそらくは不始末かなにかを咎められるのかもしれない。しかし魔王様の関心は他にあった。



魔王「それはなんだ?」

侍女「ラプンツェルでございます」


魔王「何処で採れたものか」

侍女「妖精の森で取れたものでございます。妖精族は肉を食することが出来ぬものでございますれば……」

魔王「そうか……」



妖精の類の家臣が口にするもの。

城に詰めている者に振舞われるものである。

魔王様にとっては関心など向かない路傍の雑草に等しいものだった。




魔王「後で我の部屋にも持って来い」

侍女「は……は!?」

魔王「なにか問題があるか?」

侍女「いえ、し、食されるのでございましょうか?」

魔王「他に何があるというのか」


侍女「いえ、た、直ちに持ってあがります」

魔王「楽しみにしている」

侍女「…………ッ!」



そうして笑みを見せる魔王様に言い知れぬ恐怖を感じる。

これは新たな『遊び』を思い付かれたのか。

それともこれは『夜伽』を命じる意味が込められているのか。



しかし数分後、そんな私の予想は呆気なく砕け散った。




**************





魔王「ご苦労だった、下がってよい」

侍女「は、ハヒ!失礼します」

魔王「……?」



何故か頓狂な声を上げて去った侍女の背を送り、目の前に鎮座するものを眺める。



魔王「…………」



これらが本当に毒を放ち、虫と血肉の争いをしていると言うのか、とても信じられない。


なんにせよ、自分は礼儀を知らないわけではない。

強制的に当て嵌められた『役割』の為であっても、戦士として自分に挑んできた勇者達には礼儀を持って相手をした。

ならばこれらにもそれ相応の礼儀を持って報いるのが魔王たる者の在り方である。




魔王「…………『いただきます』」



.

ひとまずキリ。

また戻ってきます。

続き期待してます

なかなか面白い
魔王の生きていることとは勇者を根絶やしにすることでは?逃げてないような気もするが…果たしてどうなっていく実に楽しみだ





**************




《 菌糸の領域 》





菌糸王「「「……確かに、人に限らず、あらゆる動物に数多の微小なる生物が寄生して生きております」」」

魔王「ほう、少し面白い。それは貴様等の眷属か?なればそれは……」

菌糸王「「「いえ、あれらは我等とは似て非なるもの、それらと我等、菌類は目に見えぬ微小なレベルで日夜争っております」」」

魔王「一枚岩ではない、いやそもそも別のものであるか」

菌糸王「「「ある程度なれば私の力で動かすことも……ご命令とあらばすぐにでも人間の領域を我が手のものにすることも」」」

魔王「なるほど、人間共を絶やすことなど実に容易なことであったのか」

菌糸王「「「恐れながら、我が力が及ばぬは魔王様ただ一人にございます」」」




数分もすれば水滴の一つも肌に滴ろうとするこの地下にあって、その巨大な体を鎮座させているのが菌糸の王、数多の植物、菌類を統べる者である。

平たく言えば、馬鹿でかいキノコだ。

先日、勇者の女と交わした言葉の中に聴き捨てならない言葉があったため、それの確認に来た。場合によってはこの領域を焼き尽くすつもりで。



魔王「気に入った、少し面白い。他に何か無いか?」

菌糸王「「「は……なにかと言いますと」」」

魔王「貴様等が人と和合している例である。苦しくない、不問にいたすゆえ遠慮なく言え」

菌糸王「「「では……これは信じがたいことですが、人間の中には我等を食する者があります」」」


魔王「それは知っている、貴様等の中にも毒性の低いものもいるからな。加えて言えば豚や猪も食らっているらしいではないか」

菌糸王「「「……美味でございましたか?」」」

魔王「中々に……貴様何を言っている?」

菌糸王「「「いえ、我等眷属を以ってあの勇者が培養し、食用としていることは存じております、そして魔王様がその食卓に足繁く通われておられることも……美味でございましたか?」」」

魔王「確かにうま……貴様、よもや我を責めておるのか?」

菌糸類「「「恐れ多い話でございます、それに構いませぬ、なんともなれば我等は他と在り方が違いますれば」」」

魔王「そういうものか、少し面白い」


菌糸類「「「人間の領域に住まう眷属の情報によると、人にとって我等は必要不可欠なものであるとか、薬、食用、何かを発酵させる際にも用いるとか」」」

魔王「なんと、貴様いつの間に人を統べておったか」

菌糸王「「「そういったわけでは有りませぬ。我等の特性を、あれらは自分の生業に役立てておるとか、その代わり、我等は我等の種を広く繁栄させているのです」」」

魔王「共存というヤツか」

菌糸王「「「魔王様の命とあらば、いつでも人を滅ぼしてご覧に差し上げます」」」

魔王「ふむ、よかろう。許す、今後ともあの女に手を貸しても構わぬ」

菌糸王「「「ところで魔王様……」」」

魔王「……なんだ?」




菌糸王「「「……美味でございましたか?」」」



.



どう考えても仲間を食したことを責めているように思える菌糸の王の問いを振り切り、日のあたらないこの領域を抜け出す。

この菌糸を統べる配下は、二心があるどころか人にとって重要な部分までに入り込んでいた。



良きかな、戯れに一つの国を胞子まみれにするのも一興。

飽きも来ようとしていた殺戮に、一つのバリエーションが加わったのだ、良きかな、良きかな。



あの人間の話も存外捨てたものではないと、今日も足を運んだ。




**************






魔王「女、聞いたところによるとチーズという菌を用いた食材があるそうではないか、何故作らん?」

勇者「……食べたいの?」

魔王「食は悪くないことに気付いた」

勇者「それは何故?」

魔王「全てに飽いた我にとって、食は大いに我を楽しませるものと気付いた」

勇者「……そうね、それも食事の一つの役割よ」

魔王「なんと、貴様等も楽しむために食を取るというか」


勇者「それが豊かさ、というものよ」

魔王「豊かだと?人間の言うそれは財の有る無しでは無いのか?」



時折財宝目当てで城に潜入する馬鹿を捕らえ、猛獣と殺し合いをさせることがある。あれは食事などには眼もくれていなかった。



勇者「単純に生きるためもある。けれどおいしいものを食べると心が豊かになる。本当の意味で『いただきます』を言えるようになる」

魔王「粗食に準じるのが貴様等の美徳と聞いた」

勇者「それもその豊かさの為、貧しい食を知ってこそ、食卓に料理が並ぶことの尊さを学ぶことができる、どちらが欠けても豊かとは言えない」

魔王「ほう、少し面白い」


勇者「ちなみにチーズは元々、動物の乳を保存用にしたもの、それをわざわざおいしくしたのはやはり豊かさを求めた結果」

魔王「で?無いのか?」

勇者「……少しなら」

魔王「では用意せよ」

勇者「……いいわ、チーズの話をしていたら食べたくなってきた」






**************





魔王「この乳はどこから手に入れた?貴様が出したものか?」

勇者「死ね」

魔王「何故だ?」

勇者「……畑とは別のところで捕まえてきたヤギが2頭いる。それから絞った」

魔王「ほう、気付かなかった……貴様、生命在るものに触っても平気なのか」

勇者「つい最近平気になった、それどころか野生のヤギが大人しく着いてきてくれる」

魔王「そうか、殺すことはできるか?」

勇者「試して無いけど、多分出来ない」

魔王「そうか」


勇者「……あ」

魔王「なんだ?」



ワンッ! ワンッ! ワンッ!



魔王「犬か……」

勇者「ハナ、ダメよ」



ワンッ! ワンッ! ウーッ! ワンッ!



魔王「やかましいな……」




殺すぞ畜生め……




ウーッ……



勇者「……ハナ、お客さんにほえてはいけない」

魔王「…………」




万物を殺す魔王たる自分に、本能で生きる獣が牙を剥こうとしている。これはどういうことか。

動物とは本能で生き、勝てない相手には向かっていかないのではなかったか。

山羊もそうだ。過酷な山岳地帯で生きる生き物と聞いた。なのに何故この女に従い、家畜として生きるのか。



**************



勇者「……できた」

魔王「コレはなんだ?チーズなるものは固形物と聞いたぞ、これではスープではないか」

勇者「チーズフォンデュ、チーズは溶けたらこのようにとろみが付いたスープになる。この串にさした野菜や……貴重だけれどこの肉を漬けて食べる」


魔王「ほう……鍋は一つだが貴様の分は無いのか?」

勇者「みんなで一つの鍋を囲む、それも『豊かさ』」

魔王「ほう、少し面白い……では」



魔王・勇者「「『いただきます』」」



中々……否、至極気に入った。

嫌いでは……否、好きかもしれん。

不味くは……否、美味である。

これがあのグロテスクな菌糸王の眷属が元になっているとは考えがたいものだ。




ウーッ……




その興を削ぐ唸り声に自然殺意が湧く。


勇者「ハナ……ッ!」



キュゥーン……



なんと、我が脅しても牙を剥いた畜生がこの女の一声で大人しくなった。



魔王「今のは神の恩恵か?」

勇者「今の?」

魔王「畜生を黙らせただろう」

勇者「違う、これは犬と人間の関係性から自然に出来ること」

魔王「共存と言うヤツか」

勇者「そう、けれど菌類や野菜とはまた違うもの」

魔王「なんだと?互いに有益な関係であるから共に生きているのではないのか」

勇者「確かにそうでもある。けれど犬や他の家畜たちはそれとは別次元」

魔王「ほう、少し面白い」


勇者「絆と言って良い」

魔王「人恋しさに狂ったか?」

勇者「真面目に言っている、例えば人と犬は種が現れた頃からほぼ同時期に生まれた」

魔王「ほう、少し面白い。だが犬の祖先には狼がいる、それを飼いならしたのではないか?」

勇者「言ってみればそう、だが狼は飼いならすことは出来ない。出来るのが犬」

魔王「続けろ」

勇者「普通動物の群れは別種の動物とは群れを為さない、けれど犬と人間はそれが出来た」

魔王「何故だ?」

勇者「犬も人間も社会性のある生き物。そして人間は『豊かさ』を持っていた」

魔王「それがどうして別の動物同士の絆になる」




勇者「なにもかもを食料としてみなさなかった。人間は犬を狩りの為に利用し、犬はその狩りを手伝うことで強い群れを作る」

勇者「世代を重ねることでどちらが欠けても生きてはいけない存在になった。お互いがお互いの精神的支柱だと言って良い」



魔王「人為的なものがあったのではないか?」

勇者「勿論あっただろう、仲良くなれない種と仲良くなれる種というものが有る。けど人間と犬はそういった気の遠くなるほど一緒にいて、今こうして私を守ろうとしている」

魔王「畜生風情が我と戦おうと言うのか」

勇者「その通り、この子は彼我の実力差を考慮していない、例え勝てない相手でも立ち向かうだろう。馬鹿だからじゃない、それが私達の在り方だから」


魔王「ほう、ではお前らもこやつ等の為ならば命を賭けるというのか」

勇者「そうね、そういう人はたくさんいると思う、それが出来なくて心臓をもがれたように苦しむ人も」

魔王「……では、我がここでこの畜生を殺すと言えば何とする?」




勇者「そうね……」




勇者「もう何も作ってあげない、とりあえずチーズフォンデュは全て私のものよ」

魔王「…………命拾いしたな畜生め」



チーズフォンデュなるものは美味だったが興は削がれた。

そして許せぬことがある。

我が領域にて、我の配下である者が、こともあろうに太古の昔から弱者である人間に擦り寄っていたのだ、許されざることである。




**************


《 魔獣の領域 》





獣王「これは魔王様、斯様な田舎まで……何用あって?」

魔王「何の用で?貴様、貴様の眷属は人間に飼いならされ、あまつさえ人間の領域にあっては人間の繁栄を支えているそうではないか」

獣王「…………」

魔王「その程度では我がヤツ等を殺戮することになんら支障はない、しかし二心あるならばここで……」

獣王「待ちなされ、我等の王よ」

魔王「む……」


獣王「人の領域にある畜生となった眷属含め、それは魔王様より与えられた『自由』によるものではないか」

魔王「貴様等は進んで飼いならされる眷属を抱えているというのか。誇り高い一族と思っていた」

獣王「それも我等獣の在り方、何となれば、我等も魔王様に仕えているではないか」

魔王「ほう、少し面白い」


獣王「我等の中には単独を好む者もあれば、群れを成し生きるものもおりますれば、統治という形で個々を縛るのは不可能だ。それ故、魔王様は自治の権利を授けてくださった筈」


魔王「確かに、しかしそれでも貴様等が飼いならされていることには変わりない」

獣王「恐れながら魔王様、魔王様の膝元に住まう我等一族はほとんどが魔王様に忠誠を誓う以外何者にも縛られてはおらぬ」


魔王「……人の領域に住まうものはどうだ?特にあの忌々しい『犬』というやつは」

獣王「……この領域に住まう我等一族の者からは侮蔑の対象となっていることは事実だ」

魔王「ならば」

獣王「しかし私は王として、あの者共を真の戦士として認める者もあると思っている」

魔王「なんだと?」

獣王「犬とあったのだな?牙を剥いたであろう」

魔王「そうだ、感知していたのか?」

獣王「いや、そうではない、あの者共は相手が私であってもそうするであろう」

魔王「貴様は全ての獣を統べる者だ、そんなことがあってなるものか」


獣王「それがアレ等の在り方なのだ。我等は自らより強いものには群れでかかるか、戦そのものを避ける、しかしアレ等はその中にあって尚、己が主人と定めたものを守る。それが戦士でなくなんだと言うのだ」


魔王「狂っている」

獣王「狂っているのであれば、魔王様、我等はとうに貴方の喉笛に噛み付いている」




つまりは自分達も我の為ならば勝てぬ相手に戦いを挑むと言うのか。

絆などと言う、あるいは忠誠などと言う曖昧で説明の付かないものの為に死ぬと言うのか。

それが『共に生きる』獣の在り方というのか。



この者共は人間に住処を追いやられ、最も人間を憎んでいるはず、しかしそれでも人間と共に生きる同属を尊重すると言う。

王である我に、その眷属が牙を剥こうというのだ、それは許されざる裏切りである……裏切りであるが。



魔王「憎き人と共存してでも生き抜こうというのか」



獣族を滅ぼす気でいたが、その気も失せ、再び人間の農地に足が向いていた。

小さいが、いつの間にこんな牧場を構えていたのか、山羊が2頭、草を食んでいる。それを狙う狼共の姿が見えないのは、あの忌々しい犬のお陰か。


キリ、明日か明後日には終わると良いな。

>>41>>46ありがとう、頑張る。




魔王「貴様等は虫を避けると言っていた。その為に草刈をすると言っていたな」

勇者「そうね」

魔王「だがここは何だ?貴様は虫けらを飼っているではないか」

勇者「これは蜜蜂。花の蜜を集め、作物の花弁に花粉をつけてくれる優秀な働き者」

魔王「ほう、蜂は刺すものであろう、平気なのか」

勇者「どうもこの力のお陰で平気みたい」



夥しい数の蜂が我と勇者の周りを飛行する。

我にしては洩れでる魔力より近付こうともしないのか、勇者にしてはその恩恵の賜物か、無防備であっても蜂が我等を害することは無い。


魔王「妖精族は花の蜜や精を集め食事とするらしい」

勇者「人間は花の蜜だけではない」

魔王「なんと、他にどんな働きがあると言う、こんな小さな虫けらが」

勇者「馬鹿にしてはいけない、まずさっきも言ったとおり作物の花弁に花粉をつけてくれる」

魔王「それがどうした」

勇者「それがなければ作物は実をなさない、作物の全てに手作業で花粉をつけることには無理がある」

魔王「ほう、少し面白い、勝手に生るものではないのか」

勇者「ない、この前、山羊の乳を見たでしょう?」

魔王「見た、それがどうした?」


勇者「山羊は子をなさないと乳を出さない。植物にとって、花弁に花粉が付くということはそういうこと、その実が出来るということが子をなすと言うこと」

魔王「なるほど、ではお前も孕めば乳を出すのか」

勇者「死ね」

魔王「何故だ?」

勇者「……ともかく、蜜蜂はその花粉を故意に作物につける、そうすることで自分は蜜を得る。私達はその恩恵に授かっている」

魔王「共存というやつだな」

勇者「その通り」



魔王「……互いが縋りあってまで生きていくことになんの意味がある?」


勇者「…………」

魔王「これらは虫けらだ、そして貴様に飼いならされているあの畜生共もそうだ」

勇者「それが何?」



魔王「なんの言語も持たぬ、意識も持たぬ。いずれ貴様等人間共や我等魔族に淘汰されていくのみだ」

魔王「だが、それでも種を残すことに縛られ、自らを淘汰せんとする強者に擦り寄る。弱肉強食が世の習いならば、これ等は全く以って無価値というもの」



勇者「……貴方は何もわかっていない」

魔王「なんだと?」



勇者「まずこれらが滅びれば、人間や魔族だけではない、この世のありとあらゆる生物は死に絶える、だから人や魔族がこの虫たちを淘汰するのは有り得ない…………あってはならない」


魔王「なんと、我が魔王の業はこのような虫けら共にすら出来るというのか」

勇者「そんなものより更に悲惨なことになる、命の循環を絶やすことは自己だけでなくあらゆる命がもう二度と生まれることはなくなる」

魔王「何故だ」



勇者「単純に食うか食われるかその循環、植物を食べる虫、そして動物、その屍骸が大地の恵みに、どれか一つ欠けてもそれは崩壊する」

勇者「そして私達は生業の中で互いに深く依存しあっている。誰も彼も、この世界に対しては無力に等しい、だから互いに歩み寄る、共存する」



魔王「弱者の論理だ、戦う力の無い者のまやかしだ」


勇者「いいえ、どんな手を使ってでも生き残ろうとした覚悟」

魔王「ものは言い様だ」

勇者「この星はそうして生きてきた、滅びの運命を抱えていたとしても、自分を淘汰しかねないほどの存在に歩み寄る勇気を理解できない貴方が馬鹿にして良いものでは無い」

魔王「虫も植物も恐怖を知らない。ヤツ等のそれは勇気ではない」

勇者「いいえ、誰彼も滅びを避けようと必死になることに貴賎は無い」





勇者「彼等はみんな戦士だ」





.




**************






魔王・勇者「「『いただきます』」」



今日も今日とて、この勇者と夕餉を共にする。

夏も盛り、取れる作物も豊富になるのか、食卓のバリエーションは豊富になっていく。これが『豊かさ』というものであれば存外悪くないものと思う自分がいる。



魔王「これは卵か、どこのものだ?」

勇者「家畜小屋には鶏も何羽かいる」

魔王「あれは人の領域にのみ住まうものだ」

勇者「そうね、だから行商人から買ったの」

魔王「いつの間に……我が領域に貴様以外の人間が侵入したと申すか」

勇者「まさか、私が買いに行ったのよ」

魔王「なるほど……」



勇者は皆、転移魔法を詠唱できると聞いた。追放された身分を隠してまで人里に商いを求めて行くという事は、単独にてこの農地を開墾した勇者にも出来ることには限りがあるということを示している。



勇者「今日はデザートがある」

魔王「なんだそれは?」

勇者「行商人から他にも買った。それで作ったの……そう、これは豊かさの象徴」

魔王「ほう、少し面白い。だが存外、小さいのだな。こんな物で腹が膨れるのか?」

勇者「そう、これは楽しむことが目的で作られたもの……『プリン』」

魔王「この黒蜜はあの虫けらから採れたものか?」

勇者「そう、生地の卵は山羊の乳と鶏の卵で出来ている、それを蒸して作る」



魔王「なるほど、では……?」

魔王「……貴様これは毒ではないのか?」



勇者「……そう、ある意味、毒。中毒性があり、やがて体が膨れ上がる」

魔王「やはりか、我はこのように甘く柔らかなものを食したことが無い、言え、これは毒で、貴様は我を殺さんとしたのであろう」

勇者「……気に入ったの?」

魔王「…………毒ではないのか?」

勇者「フフッ……おいしい」

魔王「いや、しかし……」

勇者「食べないの?なら……」

魔王「ならぬ」

勇者「そう……うん、おいしい」

いったんキリ、また戻ってきます。

ホントにたくさんのレスどうもありがとう。




**************





侍女「……魔王様、このような下賎な場所に」

魔王「何を言う、貴様、食を扱う場所が下賎と申すか、この魔王の配下にあって戦士への礼儀を知らぬと申すか」



突如として厨房を来訪された魔王様の前にひれ伏し、来訪の意図を問うのは誤りだったようだ、謙譲の意で言った言葉は不興を買うものであったらしい。



侍女「け、決してそうではございませぬ、されどここは我等下々の者が口にするものを整える場なれば、恐れ多くも魔王様におかれましては……」

魔王「見せるようなものではないと申すか……」

侍女「恐れながら……」

魔王「…………残念だ」

侍女「……は?」

魔王「なんでもない」



震える声で必死に言い訳するも、魔王様は剣呑な表情をとられたままである。

先日といい、自分は不幸の星の下にでも生まれたのか、数多の魔の頂点に立つ存在の関心を引くなど、なんの野心も無い自分には過ぎた事柄である。



魔王「プリン……」

侍女「は?」

魔王「なんでもない……貴様は獣人族か?」

侍女「はい、獣王の領域よりこちらに奉仕にあがっております」

魔王「では……貴様の眷属に人と馴れ合うものはいるか?」

侍女「……います、私はワー・キャットなれば。我等の眷属では『家猫』という種が人と縁は深うございます」


魔王「どのようにだ」

侍女「は……人は我等、猫を持て囃します、何もせずとも食事を用意し、何時出かけようと咎めることなく、むしろ何時帰ってきても良いように扉を開け待っております」

魔王「人間は貴様等を崇めておると申すか」

侍女「は……故に我等は人間共をからかいます。我等の毛皮は容易く触れるものではないと、しかし時折触らせてやる、その精妙な駆け引きが重要と聞きます」

魔王「そうか……」


侍女「あの……何か?」

魔王「貴様の眷属を我の下へと連れて来い、一匹でよい」

侍女「は……は?」

魔王「存分に可愛がってやる」

侍女「ハハ!速やかに!」



そうして凄惨な笑みを見せる魔王様に言い知れぬ恐怖を感じる。

眷属とはいえ、あれ等は魔の領域を離れた者。その誇りを失った所業が何らかの経緯を経て魔王様の耳に届いてしまったらしい。
残酷な未来を迎えることであろう、まだ見ぬ眷族に私は大いなる同情をせずにはいられなかったのだった。

しかし後日、そんな私の不安は木っ端微塵に砕け散ることになるのだった。



**************





魔王「ご苦労だった、下がってよい」

侍女「は、ハヒィッ!!ご無礼仕りましたぁっ!」

魔王「……?」



またもや頓狂な声を上げて去った侍女の背を送り、目の前で魔王たる我に臆することもなくこちらを認める毛の塊。『猫』を見る。



魔王「貴様は特に人の役に立つことは無いと聞いた。いや、鼠を捕らえるらしいな」



ニャーン……



魔王「それだけの事で人の上に立つとは見上げたものだ、我が手ずから愛でてやるゆえ……」




ニャーン……



恐れも知らず我の言葉を無視し、差し出した手に体を摺り寄せてくる猫に、思わず笑みを……



魔王「……我が笑みを浮かべたというのか」



何故であろうか、勇者どもの絶望や憤怒に満ちた表情や、取るに足らない下等生物が我の手によってなすすべなく散っていく様、それらに愉悦を覚えたものとは明らかに別種のものである。

これが『豊かさ』の一端と言うのか。



魔王「あの女…………」


許せぬ、そのようなもので我を懐柔しようとしたのか。

許せぬ、魔王たる我の心を捻じ曲げたというのか。

許せぬ、我に滅びの愉悦以外の笑みなどという……



………………


勇者『フフッ……おいしい』


………………



魔王「笑み、など……」



ニャーン……



魔王「む……」



心なしかこの猫も笑みを浮かべているように思わないでもない。しかし強者に取り入るための浅ましい笑みではない。この猫は戦っているのだ。これすらこやつ等の武器となるのだ。



なんにせよ、我は人の領域に深く関わり、巧みに人より搾取をし続ける魔王軍の功労者に報いる程度の懐は持って余りある。



魔王「『猫』よ、この我自らが貴様に名をくれてやる。恐れ多いことであろう」



その漆黒の体躯に相応しい名を思い付いた。

その名を持って、あの忌々しい『犬』……ハナとかいったか、あれをも打倒する強さを身に着けるが良い。



魔王「今日より貴様は『ヨミ』と名乗るがいい、古の神、宵闇の神の名を冠するのだ」



ニャーン……





魔王「………………フフッ」




.

ちょっとご飯食べてきます。

いただきます。



**************




《 魔王城 》




魔王「つまらない」

最後の勇者「グッ!……頼みが、ある……ッ!」

魔王「ほう、少し面白い。勇者ともあろうものが命乞いでもするか?」

最後の勇者「するか……そんな、もの」

魔王「よかろう、聞くだけ聞いてやろう」

最後の勇者「後ろの、賢者……彼女と、同じ場所に……」

魔王「む?」




女賢者「」



.


魔王「あれは貴様のつがいか?」

最後の勇者「将来を、誓い合った……」

魔王「それで?後ろのあの亡骸がなんだ?我にどうしろと?」

最後の勇者「共に、同じ場所で死なせて、欲しい……せめて、最後は」

魔王「……なんの意味がある?」



最後の勇者「お前には、一生わからんだろう……」



魔王「……いいだろう、そのように殺してやる」



解せぬ願いでも戦士の最後の願いとあっては聞かぬわけにもいかない。そして彼等は自分と同じく、『役割』を強いられた者。

言うが早いか、勇者の首を掴み、横たわる賢者の死体の下へ放り投げた。



最後の勇者「グッ……賢者……済まない、君の敵を討てなかった」



魔王「では死ぬがいい」



最後の勇者「ん……愛している」



魔王「…………」



瞬間、雷を召喚し、二人とも灰と散った。



死の間際に口づけするのは何の意味があるのか。

我も死の間際にはあのようなことを望むのであろうか。



………………


勇者『フフッ……おいしい』


………………



魔王「…………」



何故、あの女勇者の顔が浮かぶのか、我は呪いでもかけられたのであろうか、それともあの者より供された食事にやはり毒が?

否、魔王たる我に万の呪い、毒が効くはずもなし。



なれば我も知らぬ呪いの類やも知れぬと、我の足は自然、その手の事に詳しい者の下へと向かうのだった。




**************




《 妖精の領域 》




妖精王「はあ、そんな呪いは聞いたこともないねー」

魔王「誠か?されど現に我は」

妖精王「具体的に誰の顔が浮かぶんよ?」

魔王「…………言いたくない」

妖精王「えー……まあ《魅了》とか《制約》が魔王様に効くわけもねーし、相手はどうでも良いか」

魔王「そうか、ならば」

妖精王「でもわからねーのは変わらんよ?」

魔王「そうか……」


妖精王「おー、珍しく弱ってんね?今回の勇者は強かった?」

魔王「つまらなかった、最後に創られた勇者だったらしいが期待はずれだ」

妖精王「あ、そう。でもさ、魔王様がそんな顔してたらダメだよ?」

魔王「ほう、何故だ」

妖精王「どっかの腹に一物抱えた輩がチャンスだー……って、言う、かな……って」



魔王「心当たりがあるのか?申せ、領域ごと灰にしてやる」



妖精王「ジョ、ジョークだって魔王様、ほら、アタシ妖精だし」

魔王「とぼけまいぞ、貴様。聞いたところによると貴様の眷属は人と馴れ合っているそうではないか」


妖精王「お?妖精は基本的に人間が嫌いだけどなー」

魔王「虫けら共はどうか、あれも貴様等の管轄であろう」

妖精王「ああ、確かに」

魔王「白状したか、あの虫けらは人にとってなくてはならぬものと聞いた」

妖精王「あー、蜂とかかな?」

魔王「そうだ」

妖精王「なんか蜜以外にも蝋とか取るらしいね、それが色んな秘薬の下になるんだってさ」

魔王「ほう、少し面白い、続けよ」

妖精王「それから蝋燭とか化粧品とか色んなものが出来るんだって」

魔王「なるほど、『豊かさ』に直結するものだな?」


妖精王「その『豊かさ』がなんなのかは知らないけど、そうらしいよ?」

魔王「ふむ……それで?やはり人と馴れ合っているではないか」

妖精王「あいつら天敵が同じ蜂だからさ、人間がそれから守ってくれるから丁度良いんだって」

魔王「なんと、人の庇護下にあると申すか」

妖精王「まあねえ、流石にアタシもどっちかの蜂を贔屓するわけにもいかないからさ、あいつ等の好きなようにさせてるわけ」

魔王「ふむ……」

妖精王「お望みとあらば、ぜーんぶ殺人蜂に挿げ替えてみよっか?結構楽しい光景が見られると思うよ?」


魔王「ふむ、悪くない、早速……待て、それでは蜂蜜は取れなくなるのではないか?」

妖精王「そりゃそうだよ、蜜だけでなく作物も不作になるだろうね?まあアタシ達は蓄えがあるからいいけど、人間はダメだろうね、多分かなりの人間が死ぬよ?」



確か、『アレ』の作成には行商人から色々仕入れねばならないとあの女は言っていた。ということは……



魔王「プリン……」

妖精王「え?なんだって?」

魔王「なんでもない。機会を見計らうぞ、あまり多用し飽いてもいかぬ」

妖精王「あ、そう。どっちでも良いけど」

魔王「それにしても、貴様も抜け目無い、いつの間にか人を依存させておったか」

妖精王「まあ、うちの連中も依存してるヤツがいるのは事実だけどねー、だからたまに人と仲良くする妖精なんてのがいるわけよ」

魔王「なるほど」


妖精王「それより魔王様の『呪い』はどうしようかねー」

魔王「む……そうだ、忘れておった、呪いを打ち消すのではなくとも上書きするなり何とかならぬか?」

妖精王「呪いの正体がわからない以上はなんとも……その頭に浮かぶ人ってのは現実にいる人なんでしょ?」

魔王「その通りだ」

妖精王「顔が浮かぶのが嫌なら関わらなければ?」

魔王「なんだと?貴様、魔王である我に背を向けよと申すか」

妖精王「別にそんなことは言って無いでしょ?面倒なら関わらなければいいだけ、わからないものを無理にわかる必要なんて無いんじゃない?死ぬわけでもないんだし」



魔王「…………ふむ、一理ある、か?」


.




**************



あの女の農場から足が遠のいた。妖精王の進言通り、関わらぬようにしたのだ。

しかしこれはどういうことか、日に日に呪いは我を侵食してるようで、口は寂しく、食事を求むる。

何度か侍女に申し付け、食事を用意させた。

短時間の間に表情が赤くなったり青くなったりする侍女は謎であったが、初めのうちはその料理は満足のいくものであった、しかし何かが足りない。

我の心中を察してか、忠実なる我が僕、ヨミが度々我にその身を擦り付ける。そうすると僅かに楽になる。

やがて、あの女の顔が頻繁に浮かぶようになった。



《 数ヵ月後 魔王城 》



魔王「つまらない」

従者「は、それではなにか余興を……」




勇者だーっ!勇者が来たぞーっ!!



従者「なんと、勇者は既に死に絶えたはずでは……」

魔王「……まさか」




『生命』の恩恵を受けた証か、足をつけた先から生えては枯れる草花。

目に宿る『勇気』。

月光のような金髪、そしてこの一年ですっかり大人びた容貌。

いつかのように大扉を抜けて眼前に立ったのは予想通りというか、それはあの女勇者であった。




勇者「こんにちは」

魔王「……久しいな、勇者よ」

勇者「久しぶり……少し痩せた?」


従者「貴様!魔王様に向かって無礼であろう!」

魔王「黙れ、下がりおれ」

従者「ッ!?……は」

勇者「ちゃんと食べてるの?」

魔王「食事など我には必要ない」

勇者「プリンを作ってきた……後で食べると良い」

魔王「む……」

従者「貴様、魔王様を毒殺しようてか、勇者ともあろう者があまりにも臆病、稚拙、このようなもの私が……」

魔王「 従 者 ッ !! 」

従者「ハハッ!」


魔王「……下がりおれ、と言った」

従者「は……」

魔王「それとも我が斯様な小娘に遅れを取るとでも?」

従者「いえ、決してそのようなことは……」

魔王「ならば下がれ」

従者「は……」



**************



勇者「あまり怒ってはかわいそう」

魔王「用件を言え」

勇者「許可をもらいに来た」

魔王「許可?なんのだ?好きにすればよいと言ったはずだ」


勇者「そういうわけにはいかない、聞けば貴方は人間の生活に関わる魔族たちを尽く詰問しているらしいじゃないか」

魔王「む……誰から聞いた?」

勇者「みんなから聞いた。みんな命の循環の中で生きていると言ったはず、貴方の都合で無理を言うものではない」

魔王「それは皆の話を聞いて理解した。故に誰も滅ぼしてはおらぬ」

勇者「ならいい」



なんと、この女いつの間に他の魔族と交流をしていたのか、それも中々に親密そうな様子。ゴーレム共は聞いていたが、それにしても……



魔王「それで?なんの許可だ?察するに我等に関係することか?」


勇者「『祭り』の許可をもらいたい」

魔王「『祭り』だと?なんだそれは?」

勇者「収穫の時期が終わり、その年の収穫物を持ち寄ってみんなで祝うもの」

魔王「作物を持ち寄り食べるのか?その『祭り』とやらは一人では出来ぬと申すか」

勇者「そう、できない。私もここの人達にはずいぶんと世話になった。だからそのお礼も兼ねて」

魔王「貴様が料理を振舞うか」

勇者「そう、他のみんなもそれぞれ振舞う。あと出来れば、歌ったり踊ったりする」

魔王「ふむ……それを他の魔族は了承したというのか」

勇者「ええ、『種族の沽券に関わる』と大分乗り気だった。後は貴方の許可があれば……」

キリが悪いけれど本日はここまで。

お休みなさい。

一旦おつ。>足をつけた先から生えては~っていうのはもののけ姫的なイメージでいいのかな?

>>124 正にソレです


魔王「解せんな、何故祝う必要がある?」

勇者「『いただきます』の後は『ごちそうさま』、それと同じこと。実りを得る季節を越えたなら、全てに感謝と礼儀を以って報いる」

魔王「む……」



そう言われたらばこちらも分が悪い、なにせ我は領域の眷属全てに『いただきます』をするよう申し伝えているからだ。この話を断れば少なからず見くびられることになるであろう……別に気にはせんが。



勇者「……どう?」

魔王「むう……」



却下する理由など無い、しかしこれは魔王の血がそうさせるのか、何故だ?


『我は何故かこの女の困る顔が見たい』


先程まで、この者の顔を思い浮かべていたというのに、我はどうしたというのか。



勇者「……甘いモノもたくさん出る」

魔王「よかろう」



左様、断る理由など無い。しかし断じて我は餌付けられたわけではない。断じてである。

何故なら、我はこの女の困る顔を見ることが出来、同時に甘味を……否、同時に眷属共を納得させる選択肢を見つけたからである。



魔王「ただし」


.


勇者「この季節ならサツマイモを使ったスイートポテトや……」

魔王「それはいかなる……そうではないっ!」



思わず問い詰めそうになる自分を振り切る意味でもそう言い放つ。



勇者「今日の貴方は大きな声をよく出す、いつものほうが良いと思う」

魔王「そうか……ではない。条件がある」

勇者「ではアップルパイはどうだろうか」

魔王「もうよい、食から離れよ。出来れば歌と舞踊をしたいとのことらしいな?」

勇者「そうね、出来ればしたい。あれは祭りの華」

魔王「それを必ずやるのだ、我に対し余興を設けよ」


勇者「……いいの?私だけではそれは出来ない。貴方の配下達、あの人達にも手伝ってもらうことになる」

魔王「構わぬ、あれ等は面子を保つためなら貴様の要求如き容易に応えよう」

勇者「……ありがとう」

魔王「そこでだ」



さあ……



魔王「その際……『死』を称える歌を唄え……」



どんな表情を見せる……?




勇者「……『死』を、称える?」

魔王「そうだ、『死』を称えよ」


勇者「それは何故?」

魔王「ここで初めて会った時の事を覚えているか?」

勇者「覚えているわ。貴方は私が戦いに来たわけでないと知り、拍子抜けしていた」

魔王「そして人に疎んじられ追放された貴様にこう言った」



何ゆえもがき生きるのか?

死に逝くものこそ美しい、そうは思わんか?



魔王「……どうだ?そして貴様はなんと言った?」

勇者「……『その通りだ』、そう言った」

魔王「その言葉が我の興味を引き、貴様はこうして生きている、ならばそれをその場で示すのだ」


勇者「その前に許可はもらって……」

魔王「なんでもよい、するか、止めるか」



さあ、絶望に暮れるか、憤怒に燃えるか、我の眼前に立った勇者はみなそうした。貴様もその中に列挙されるのだ。取るに足らない我の獲物の中の一つに。


その時、我の中に渦巻く貴様の幻影は消え去るに違いあるまい。



魔王「さあ、勇者殿?いかに……」




しかし、女の目に燃えるのは、




勇者「…………わかった」



何度見ても忌々しいあの炎。


.


戦うことを厭わない。生きることを諦めない。万難を乗り越えてみせると決めた覚悟の炎。




勇者「唄って見せよう……」




女の足元を覆う草花が花開き、城内の僅かな光を反射し金箔のように光り花粉を撒き散らす。

それが決意表明であるかのように。

全ての勇者達が、戦士たちが、そしてこの女がこれまでそうしてきたように、




『たたかう』ことを選んだのだ。




.




*************




祭り ー 神仏・祖先をまつること。また、その儀式。特定の日を選んで、身を清め、供物をささげて祈願・感謝・慰霊などを行う。



書にはそうある。慰霊の目的もあるが、今回の祭りはそうではない。感謝の祭りである。

その際に『死』を称えるというのか。


あの女は眷属から吊るし上げられるであろうか。

祭りの意図を告げておきながら自身が唄う歌はその真逆であれば、それに興じた他の眷属が怒るのは当然である。



魔王「……馬鹿な」



我は後悔しているというのか。

あの者の表情が歪むのを見たいが為に、あの者をそのような境遇に追いやったことに。




にゃーん……



魔王「……貴様は目聡いな、ヨミよ」



この僕は数多有る我の配下にあって誰よりも我の心中に通じている、油断のならない者である。

そういった存在は危険なのだ、平素であれば閉じ込めておくべき心情の吐露を事も無げにこやつ等は吸い出してしまう。

我自身、何度こやつに重いを告げたことか。

いわばこやつ等は相手の弱点を晒し出してしまう存在なのである。そして得てしてそういった奴腹は、単純な暴虐から身をかわす術に長けているのだ。



魔王「あのような事を言うべきでは無かった……」



我はどうしてしまったというのか。


.

>>140 
 我自身、何度こやつに重いを告げたことか。→×

 我自身、何度こやつに思いを告げたことか。→○

ですね。地の文多めの上、短いですが今日はこれにて。
今日で終わらせたかったけれど、あまり急いていい加減になるのもアレなのでよければお付き合いください。

いつもレスありがとうございます。

投下します。今回、地の文が多いです。

変だったらごめんなさい。




*************



《 勇者の住まい付近 泉にて 》




祭りの開始を告げる宴の刻限も近い。

勇者の提案である『祭り』なるものの会場とされた泉付近は実に盛況としている。
それぞれが少数にしろ、全種の魔族が集っているのだ、当然の事である。

海から遠く離れたこの近辺ではまず見かけぬ海魔や、ほとんど山から降りて来ることが無い翼魔まで、それもそれぞれが上位の者に違いあるまい。

『祭り』なるものの意図は勇者の女より告げられているはずである。しかしここに集う者は誰も額面どおりに受け取っていまい。

誰もが隙をみて己の優位を示そうとするであろう。魔族とはそういうものだ。



月が天上で輝く時にあって付近は昼のように明るい。

ゴーレム族より供された明かりとなる魔石や、四方八方で焚かれた篝火によるものである。



魔王「機械王よ、貴様のその珍妙な装備はなんだ?武器か?」

機械王「コレハ魔王様、コレハ楽器デゴザイマス」

魔王「楽器……それでか?いや、それよりも貴様、楽士として出るのか?一族の王である貴様が?」

機械王「王ナレバコソデゴザイマス。此度ノ祭リハ他ノ魔族モ出ルトノコト、ナレバ手ヲ抜クワケニハ参リマセヌ」

魔王「なるほど、貴様等は基本的に殺し合いをするような関係であったな」

機械王「魔王様アッテノ統治デゴザイマス」


魔王「それにしても……何故、多数の楽器、それもよく見れば弦楽器ではないか、なにゆえそれを一度に持ち歩いておる?部族に配るものか」

機械王「イイエ、コレラハ全テ私ガ演奏シマス」

魔王「……痴れ者め、腕が足らぬではないか」

機械王「アタッチメント展開、マルチハンドデバイス始動……」



言うや早いか、あっという間に機械王より12本もの腕が生える。動作確認かなんだかはわからぬが、手指をわきわきとうごめかす様が不快である。



魔王「……なんだと?」


機械王「コレゾ多重弦楽器、私自身、何ヲ持チ演奏スルカ思イ悩ンデオリマシタトコロ……」


………………


勇者『腕がたくさんあれば全部演奏できるじゃないか』


………………


機械王「……ト、コノヨウニ」

魔王「そのままではないか」

機械王「ソノ瞬間、私ニ電流ガ走リマシタ、ア、 過負荷 シタ訳デナク」

魔王「もう良い……勇者め、よもや全ての王に演奏をさせる気か……」



妖精王「いんやー全部じゃないみたいだよ?」


.


魔王「妖精王、貴様もか」


妖精王「そーだねー、こんなの初めてだからさー」

妖精王「……この際どこが最も優れた種族かハッキリさせておこうと思って……」


魔王「貴様は笛か」

妖精王「そだよん、いやー懐かしいねーコレ吹くのは、腕が鳴るってモンさ」

魔王「他は誰がいる?」



獣王「私だ」



魔王「獣王、貴様が出るとは」

獣王「意外であったか?」

魔王「心底な、貴様は我が配下にあってこういう他と群れることを最も嫌う者と思っていた」


獣王「心外である、魔王様。このような者共と一緒にされてはな……」

機械王「ア"……?」

妖精王「……やんのかコラ?」

獣王「ふん、止すが良い、品性が知れるぞ」

魔王「…………」



この者共はわかっているのであろうか、あの勇者がこれから何を歌うのかを。

あの女が歌うのは『死を称える歌』、それが我との約束である。

盛況の場でそのようなことをすれば不興を買うは日を見るより明らか。


しかしこれだけの面子が楽士となるのであれば、他の眷属より吊るし上げられることも早々あるまい。それが狙いであったのか。

そしてそのことに少なからず安堵する我がいるのは事実である。




勇者「みんな、こんばんは」



獣王・妖精王・機械王「「「おお(オオ)」」」



魔王「…………」

勇者「魔界の王様がコレだけ揃うと壮観ね」

獣王「そうかも知れん、だが魔王様と私を除き他は有象無象だ、訂正せよ人の子よ

勇者「獣の人、今日はありがとう、貴方のケーナに期待をしているわ」

獣王「任せるが良い、魔獣の王の力、遍く伝えてやる」

妖精王「やあやあ人間、相変わらずおっぱい小さいね、揉んで大っきくしてあげよーか?」

勇者「死ね」

妖精王「な、なんだとぅ!?」


勇者「機械の人……本当に腕を増やしたの?」

機械王「アノ瞬間、私ニ電流ガ走ッタ、ア、 漏電シタ訳デナク」

勇者「そ、そう……期待している」

妖精王「おい!アタシを無視するな!」

勇者「妖精の人、貴方は下品だけど」

妖精王「なんだとぅ!?テメーのシーツに豚の血ぶちまけるぞ!?」

勇者「笛の音は見事と言う他無い、よろしく」

妖精王「お、おう……最初からそう言えばいーんだよ」

勇者「下品だけど」

妖精王「な、なんだとぅ!?」




勇者「そして……また久しぶり、やっぱり少し痩せた?」

魔王「おらぬ、我は貴様等のように不気味に身体が延び縮みしない」



勇者「元気そう、じゃあ」

勇者「始めよう」

魔王「…………」





気に入らぬ。




.



気に入らぬ。我の預かり知らぬ場で人と和合する魔が。

気に入らぬ。容易く我等の領域に飛び込んでくる貴様が。

気に入らぬ。理由など無い、無いに決まっている。



気が変わった、我は安堵などしておらぬ。

不興を買うことがあればその時は覚悟するが良い。

この我が、手ずから、貴様等まとめて宴の供物としてやる。



勇者「…………」

魔王「……なんだ、人間」




勇者「…………見てて」

魔王「…………フン」



.




*************




数多の魔族が一つの集団を半円に囲む。それは襲撃でも私刑でも無い。その一団がこれより供する楽歌を聴こうというのだ。
その一団の前に立つ女、勇者は見慣れぬ異国の装束に身を包んでいた、白と紅、上衣と下衣に二つに分かれたそれは奇妙なほどに裾が長い。


勇者は目と閉じ、その時が来るのを待つ。それは戦いの鐘がなるのを待つ戦士の佇まいを思わせた。
やがて観客のざわめきは止み、静謐が場を支配し、高まる緊張感の中



勇者の眼が爛と開いた。


.


突如、獣王の持つケーナが甲高い旋律を奏で、それを追従するように他の楽器も鳴る。

妖精王の笛。

機械王の多重弦楽器。

それらを主に他の眷属もそれぞれの楽器で併せる。

これは-----牧歌、囃子、どちらとも取れるような旋律。

全ての楽器が出揃った時、勇者がその声を響かせた。



勇者「-----ッ!♪-----ッ!♪」



聴く者に郷愁を感じさせ、それでいて魂の底を突き上げるような旋律、体を突き動かさずにはいられない旋律。
しかしその中にあってこの女の口から放たれる詞は、



完全に『死を称えていた』。


.


日の光を失い枯れる大地、

頬に撫でつく冷気とともに訪れる冬、



勇者「-----…♪-----…♪」



そしてその冬ですらいずれ消え逝き、記憶にも残らず、

そこに住まう者の思いと共に色褪せる様。

それはどのような存在にも疑いようもなく訪れる死の詩であった。



だというのに、



勇者「-----ッ♪-----ッ♪」



見よ、この観衆の魂が抜けるが如き様を、これが魔王軍の精鋭である。

見よ、その眼に映るのが誰かを、これらは魔の者にあって『勇者』に心を奪われている。


.



その大地の脈動を余さず伝えんとする力強さに、

その中に生きる全ての生命に対する深い慕情に、


黄金の太陽の如き光を放ち振り乱される髪に、銀の月の如く浮き出る白き肌に、それに浮かぶ、命在る者のみが放つ赤熱めいた美しさに。



勇者「-----ッ!♪-----ッ!♪」



わかる。この者が何を唄わんとしているかが。我等に何を伝えんとしているかが。
この大地に散った戦士達に、勇者達に何を伝えんかとしているかが。


訪れる春に咲きほこる花々も、やがて朽ちていくを待つのみ、

しかし種は空を飛び、海を越え、また大地に根付くのだ。





勇者「---------------ッ!♪」




『滅びでは無い』、と。



『死』だ。それ即ち『生』だ、と。

『そして命は巡るのだ』、と。



堪えきれず。

全ての楽器が勇者の声に併せ最高潮に達する。思い思いに、自分が想い馳せる『生』と『死』を称える。

生まれる往く新たな命に祝福を、死に逝く戦士達へ鎮魂を。



堪え切れなかったのは楽師たちだけでない。

観客に甘んじて、泉よりその様子を眺めていたローレライ、大樹で羽を休めるセイレーン、その本質的に日夜、歌を奏でる者達が一斉にコーラスをあげる。

限り有る生を称えよと、我等はやがて訪れる死を堂々たる様で迎え入れよう、その覚悟を今ぞ聴けと言わんばかりに。



まだいる。



「※※※※※※※-----ッ」



火の、水の、風の、土の精霊共が群れを成し渦を巻き会場を覆う。
溢れる生を感知してか、人から見れば地獄絵図に違いないこの異常事態を感知してか、別属性とは共通意識を持たぬ精霊には有り得ない連帯感で飛び回る。



勇者「※※※※※※※-----ッ!♪※※※※※※※-----ッ!♪」



精霊言語。



失われて久しい、単なる生物と、一にして全なる精霊が交信の為、人間のみが発声しえた古の言語。
この女はその言語で歌を唄っている。
飛び交う精霊たちに呼応するように唄い続ける。

最早、楽士も、観衆も無い。狂宴ではない、誰もが統一された意図の下、死の祝詞を放った。



見よ、この命の限り、瑞々しいばかりの生命賛歌を唄わんとする様を、これが魔王軍の精鋭ぞ。

見よ、魔族も、魔獣も、海魔も、心持たぬゴーレムも、何にも属さぬ精霊ですら、誰を渦中としているかを、これらは人間に心を奪われている。

死を称え、生を唄う、死の巫女に。

戦うことを厭わぬ、四肢が千切れても往き続ける、生きとし生ける者の希望そのもの。



『勇者』に心を奪われている。




勇者「-----ッ!♪-----ッ!♪」




その輪の中で歌を重ねる者共の想いを汲むように、歌はいまだ終わる気配は無かった。



・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

今日はここまで。

歌の文章表現なんて初めてで……なんかごめんなさい。

良かった

実に興味深い



*************




謀られたわ。



《制約》の術式の類か、呪文を用いず、媒体を直接体内に投じることによって発動するとは。

手が止まらぬ。



このソースは酒精の抜けた果実酒を元にしたものか、しかしこの複雑な味はそれだけではあるまい、甘味と辛味を同時に併せ持つとはなんたる矛盾めいた味。

この舌に残る風味と鼻腔を抜ける臭気は……オニオン、にんにく、生姜、ふむ、毒とはえてして旨いものと相場は決まっている。


半生の肉自体が香草の匂いを放つのはどういうからくりか……

噛み砕く先からから肉汁とともにソースが絡み合い、香草が食欲を加速させる、なんと豊かな味わいか……なんと、思考制御まで重ねておるか。



しかし、詰めが甘いというもの。



魔王「……よもや貴様等がこのように姑息な手を使うとはな」

獣王「何!?どういうことだ王よ、我等の供物が至らなかったと言うのか!?」


魔王「吐くがいい、貴様等は我を謀殺せんとしたのであろう」

獣王「王よ、どうか聴いてくれ、我等はそのような卑劣な真似はしない」

勇者「獣の人、気にしなくて良い、この人は素直においしいと言えないだけよ」

魔王「単一の行動に制限する呪いとは中々に巧緻な術式であったが所詮、我に枷をつけようなどと大それた謀事であったな……この通り我は健在である」

勇者「単に貴方がお皿を空にしただけ、ちゃんと『ごちそうさま』を言いなさい」

魔王「む……満足である馳走であった」

勇者「……まあ、それでいい」

獣王「おお……なによりだ、我等が王よ」




獣王「皆の者!我等の供物が王自らよりお褒めを賜ったぞぉっ!!」



魔獣の群れ「「「「「ウオオオオォォォォォォォッッッ!!!!」」」」」




魔王「女、今の料理はなんだ?獣が食す肉とは随分違うものであったようだが」

勇者「ローストビーフね、オーブンに入れる際、香草と一緒に入れると肉の奥までその香りが移る」

魔王「あの妙な匂いの元はそれか」

勇者「妙ではない、ニンニクやオニオンと併せ食欲を促す知恵よ。感謝するべき、獣の人たちにとってあの香草の匂いはきつすぎるはず」

魔王「どういうことであるか?」

勇者「私達や他の人達が食べやすいようにしてくれたという事、そう歩み寄り、事実、貴方も気に入ったはず」


魔王「……貴様はどうなのだ?我の皿の上に空の皿が2枚、数が合わんな?」

勇者「……肉は貴重、仕方が無いことよ」

魔王「そういうものか」

勇者「では妖精の人のところに行こう。あそこは外せない」

魔王「貴様にしてそこまで言わせるか、よかろう、供を許す」

勇者「本当に素直じゃない」

魔王「しかし、妖精の食い物で腹が膨れるのか?他にもあるではないか」

勇者「甘いものらしい」

魔王「案内せよ、疾く、案内せよ」




*************




勇者「妖精の人、遅くなった」

妖精王「おー、魔王様、楽しんでる?それと人間」

魔王「我は供物を求めておる、疾く、差し出すが良い」

妖精王「えぇ!?」

勇者「この人は甘い物が好きみたい」

魔王「早くせよ、我は気が長くは無いぞ」

妖精王「なにこの王様、可愛い」

魔王「消し炭になりたいか貴様」


妖精王「ジョーダンだよ!で、甘いものってもウチのは全部アメーしな……」

勇者「出来ればこの機会ならではのものが良いと思う」

妖精王「珍しいモノってこと?ああ、それなら……コレは?」

勇者「これは……なに?」

魔王「貴様も知らぬか」

妖精王「なんでも最果ての国のお菓子らしーよ、でもさ、見た目がグロくて誰も食べねーの」

勇者「ぱっと見ではわからないけど……」

魔王「確かに食指が進む色合いでは無いな、焼き菓子……にしては大きくあるな、重みもある」

妖精王「中に秘密があるんだよね、ささっ!食べてみてよ!」


魔王・勇者「「『いただきます』」」


魔王「む……!」

勇者「これは……!」



抵抗なく租借されるその柔らかさはプリンとはまた別のもの、表面のみ硬くあり、それでいて食感は柔らかくある。ある種パンに近いがこの香ばしさはまた別のもの。

そしてなんだこの甘味は。

甘さ自体は決して高くない、にもかかわらずこの重厚な味わい。



勇者「これは、まさか……小豆?それを砂糖で煮詰めたもの」

妖精王「そだよん。生地には卵入ってるからアタシら食べれないんだけどさ、どうよ?美味い?」

勇者「正直、これは……!」


飽きが来ぬ。

中身のみ食しても全く問題なし。

察するにこの中身の黒きものは何かの実すり潰したものか、ほのかに残る粒の具合が舌に触りそれもまた趣がある。




勇者「……美味しかった、けど」



そして……



勇者「なんて後味のよさ、甘さが控えめなので幾つでも食べられそう」

妖精王「そーなん?まあ、満足したなら良かったさ」

勇者「ご馳走様、素晴らしい味だった。なんというお菓子なの?」

妖精王「『オーバンヤキ』っていう型にはめて焼くお菓子で、最果ての国では魚の型に流し込むのが……」



魔王「まだ、あるであろう、供出せよ」


妖精王「え?」

魔王「流石に魔族の中でも特に魔法に長ける者、媒体を消滅させて尚、効果を残すとはな」

勇者「気にしないで良い、病気のようなもの」

魔王「斯様に黒い色合いのモノが甘いはずも無し、我を白痴と侮ったか」

妖精王「意訳、美味しかった、また食べたい?」

勇者「そう、それもとても」

妖精王「なにこの王様、可愛い」

魔王「消滅したいか貴様」

勇者「私の予想ではこの小豆の砂糖煮は牛乳ととても合うはず」

魔王「貴様のものでよい、出せ」

勇者「死ね」

>>168>>174 本当にありがとう。布団にくるまって「ぬわああああ!」ってなってた。

短いけど今日はここまで。




*************




《 泉のほとり 》



勇者「ふう、少し食べ過ぎた」

魔王「情け無い。所詮は人間か」

勇者「フフッ、そうね」

魔王「……何処に笑うところがあるというのだ、平時の貴様ではないな」

勇者「……そうね、祭りの熱気に当てられたのかもしれない、でもそれが楽しい」



勇者「良かった……祭りは成功」


魔王「……あまり水際に近付くな」

勇者「どうして?」

魔王「海魔共の動きが怪しい。貴様を力ずくで血族に加えんとしても不思議ではない」

勇者「……私を?何の得が」

魔王「貴様が持つその恩恵だ、精霊すら使役しかねんその力ならば他の部族を統べることも容易かろう」

勇者「試したこともないけど……」

魔王「あの歌の際、精霊言語を用いていたではないか、加えて生命の恩恵、それは大きな力となる、最早その力の制御も手に入れたらしいしな」

勇者「……気付いていたの?」

魔王「催しの際、見慣れぬ服を着ていたな?あれは神の下賜物ではあるまい、それを貴様が纏っているのはそういうことであろう」


勇者「……そうね、特別な服じゃなきゃ前はボロボロになってた、それと、多分、殺そうと思えば、そうすることも出来ると思う」

魔王「栄えさせることもな」

勇者「でも、そもそも私は人間として生まれた、今更、魔族になることがあるの?」


魔王「獣も植物も、高次の存在になればなるほど人間の体に近付く。神は自らの姿を模して貴様等を創造したゆえな」

魔王「それと交われば人の座より引きずり降ろされる、逆に魔族はより高次の存在となる、我以外の魔族が人間を襲うのはそういった目的もある」


勇者「……貴方は魔族の事に詳しいのね」


魔王「痴れ者、我をなんだと思うてか」

勇者「ハラペコの甘党魔族?あと素直じゃない」

魔王「断じて違う、我は魔の王なるぞ」

勇者「フフッ、そうね」

魔王「菌糸王か妖精王が貴様を手に入れれば力の天秤は一気に傾くであろう、誘いもあったのでは無いか?」

勇者「…………」

魔王「申せ、別に咎めたりはせん、魔族とはそういったものだ」


勇者「そうね、今も誘われる。彼等の目的は貴方の言うとおりこの力だと思う」

勇者「けど、この力のお陰で私は彼等に会えた、だからこうして追放されても楽しく生きていられる」


魔王「……あれ等が我の目の届かぬ所で人に害を与えぬとは思えん。その力でねじ伏せたのであろう?」


勇者「……相互に利益のある関係もあれば、一方的に利益を得たり害をなすことも有る、それは魔族だけじゃない、自然だけでもない、人間の世界でも同じ」

勇者「降りかかる火の粉は払わなければならない」


魔王「…………」

勇者「共に生きる、と言っておいて、貴方は失望する?」

魔王「馬鹿な」


勇者「どうして?」


魔王「あれらは『そういうもの』だ、そして貴様も『そういうもの』だ」

魔王「そして貴様の方が強かった。だから貴様が生き残る。その事実は『役割』に当て嵌められた我等とて覆せん」


勇者「……そうね、けどそれでも悩むの」


魔王「何故だ、弱きが滅びるは運命であろう」


勇者「そう、それでも悩む、それが人間なの。魔族もそうかもしれない」


魔王「馬鹿な、我とその眷属がそのように脆弱な」



勇者「では、貴方は何故、私を水辺から遠ざけたの?」



魔王「…………」


勇者「私は貴方にとって滅びるべき人間ではないの?」

魔王「……笑わせるな人間」

勇者「どうして?」

魔王「魔王を前にして戦うことを選ばなかった者は勇者ではない、『役割』を放棄したに過ぎない貴様は敵ですらない」

勇者「……素直じゃない」

魔王「断じて違う」

勇者「そう?でもそれは私が勇者かそうでないかだけ、私を『守ってくれた』ことの理由にはならないわ」

魔王「…………」



勇者「ありがとう、助かった」



魔王「…………ふん」


勇者「そろそろ戻ろう、朝日が昇る前には…………あ」

魔王「なんだ……む?」



「オレと一緒になってくれ!」
 「…………嬉しい!」

     「なあお前、その、この後暇か?」
       「この後って……朝よ?」



魔王「なんだあれは、つがいをつくっておるのか……む?」

勇者「…………」

魔王「何故、赤くなっておる?」

勇者「なんでもない、祭りの場では見慣れた光景」

魔王「ほう、祭りにはそういった風習もあるか……む」



二条の光が燐光をチラつかせながら湖面を飛び回る。

その動きは自分達がつがいであることを証明しているかのように規則的で連携の取れたものだ。



魔王「……あれは妖精か」



舞踊にも近いその動きは魔界にあって幻想的であると言わせしめる。

音もなく飛び回る二条の光は泉の中心に止まるとその姿を現した。

性固定されている種であろう妖精のつがい。


二つの光は何に憚れることなく、

その口と口を合わせた。


………………


最後の勇者『ん……愛している』


………………

魔王「……愛している」

勇者「はっ!?」

魔王「……という光景か?なんだ貴様、突然頓狂な声をあげるでない」

勇者「あ、貴方が変なことを言うから」

魔王「『愛している』とは変なことなのか?」

勇者「そうではないっ、そんなことは、無い、はず?」

魔王「何故、疑問であるか」


勇者「私にもよくわからな……」

魔王「見慣れた光景ではないのか?」

勇者「そ、そう見慣れた光景、だから普通のことっ」

魔王「では、答えよ。あれらはどんな意味があるというのか」

勇者「え……」

魔王「どうした?答えよ、貴様はいつも当然の事であるように、恐れも知らず我に叱責をしていたではないか」

勇者「おしべと……めしべが……」

魔王「なんと、植物もあのようになると言うか」

勇者「そ、そう根本は同じ、男がいて、女がいれば自然とそうなるっ」


魔王「ほう、少し面白い、では貴様もいずれあのようになると言うか」

勇者「な、ならないっ、もう行くっ」



魔王「…………待て」



足早に去ろうとする女の手を掴みこちらを降りむかせる。

やはり平時、冷静であるこの女にしてらしからぬ様子である。



勇者「……何?」



手の平から伝わる熱がそのまま顔にまで伝播しているように紅潮した顔、それは祭りに当てられたものか、それとも付近のつがい共に当てられたものか、

獣は発情すれば体温が上昇することは知っていたが、それはこの女も同じなのであろうか。




いつもは忌々しい炎を宿した双眸も、この時にあっては潤み、どこか許しを請うような様に被虐心が湧き上がるは、我が暴君である故か。



勇者「今日の貴方は少し変、きっと祭りの空気に当てられて……」

魔王「それは貴様では無いのか?」

勇者「そ、そんなことは無い」



そうして目を合わせるのを拒み、顔を逸らす女の唇を見やる。

何故、瑞々しく濡れているのか、常ならぬ時において、人の唇とは乾くものではないのか。




勇者「少し、困る……」



雄と雌が一所に集えば自然そうなるとこの女は言った。

では、我もこの女とそうなるのであろうか。

このまま、こうしていればそうなるのであろうか。

その口に吸い寄せられるのであろうか。



魔王「………………」



果たして、我をして、その口に、



勇者「…………もう行こう」




吸い寄せられる事は無かった。

今日はここまで。

本当にたくさんのレスありがとう。

味覚描写は初めてだったのですが、この時間帯に書くと大変なことになることを知った。




*************




魔王「皆の者、今宵はよく集まった、この我自ら褒めて遣わそう」

魔王「今宵の宴は散り逝く多くの戦士の命在ってのもの」

魔王「貴様等、魔族は我の配下である、戦士に対する礼儀を知り、それ故、全霊を持って明日からも殺すが良い」

魔王「だが、ゆめ忘れるな、力至らねば……」

魔王「今宵の晩餐にあがっていたのは貴様等の方であるとな!」



魔王「皆!手を合わせよっ!!」



「「「「「 応 ッ !!!! 」」」」」




魔王「『ごちそうさま』でした!」



「「「「「 『ごちそうさま』でしたッ!!!! 」」」」」」




こうして、魔王軍としては初の『祭り』は終わりを告げた……



……一部を除き



*************



獣王「ハナよ……息災か、今宵もまた変わらず、否、今宵は一段と美しい毛並みだ……」


ワンッ ハッ ハッ ハッ


獣王「お前を一族に迎えたいと申す者が後を絶たぬ、このままではあの人間にも害が及ぶやもしれん、お前にとって悪い話でもないだろう」


ハッ ハッ ハッ ワンッ ワンッ


獣王「そうか……強い女だなお前は」


ワンッ ワンッ


妖精王「……オラァ!犬っコロ、何盛ってやがる!いい加減こっちに来いっての!」

獣王「無粋な奴よ……ハナよ、ではな、また会おう」


ワンッ


妖精王「なーにお前?あんな犬にご執心なの?狼王の誇りは忘れたのー?」

獣王「貴公等と違い我等は戦士に値する者をないがしろにせぬだけよ」

妖精王「汗クサッ!もーいーからさ、さっさときめよーぜ?」

獣王「フン、望むところだ……」

機械王「ワカリキッタコトヲ……」

妖精王「今回の……『祭り』?でわかったでしょ?最も優秀な種族は……」



獣王・機械王・妖精王「「「(我)(アタシ)(ワレ)等」」」

獣王・機械王・妖精王「「「(ウム)(アン)(ア")?」」」


妖精王「おい……何ぬかしてんの?魔王様はアタシ等のお菓子にご執心だったわけよ?理解できる?」

獣王「そのようなものをいくら食らったところで文字通り腹の足しにもならぬ、なんともあれば、食とは生き抜くためが本分ならば」

機械王「馬鹿メ、コレダカラ有機生物共ハ、ソモソモ、ソレラヲ作ルタメノ道具ヲ誰ガ用意シタト?人間ノ食材ヲ揃エル為ニ交換スル鉱石ヲ誰ガ捻出シタト?」

妖精王「油のめぐりがワリーんじゃねえかポンコツゥ?全部奪えばいいんだよォッ!!んなモンはよォッ!!魔族だろうがテメーはァッ!?」

獣王「浅ましい……あの勇者に勘付かれ止められる姿が目に浮かぶ。貴公、二度、地を這わされるつもりか?」


妖精王「……ビビッてんじゃねーよ!大体、人間共の道具や調味料だって結局あの女の手を使ってんじゃねーか!馬車馬の如く使いまわしゃいいんだよ人間なんてよ」

機械王「動揺シテイルノハ貴様ダ、妖精ノ、ソレデハ優秀ナ種族トハ言エナイ」

妖精王「……やっぱり、止めだ、くだらねー」



妖精王「お前等ここでぶっ殺したほうがよっぽどわかりやしーわ……」



獣王「……よかろう、ここのところ鈍っていた。妖精の羽と無生物の頭をもぐのも一興か」



機械王「今カラ敗レタ際ノ言イ訳カ?獣人ノ体ニナッテマデ狼王が手ニ入レタ知性ハ、浅知恵ダッタラシイ」



????「「「やれやれ、王と名の付く者達が見ていて呆れますね」」」



獣王・機械王・妖精王「「「アア"ッ!?」」」



????「「「そんなことだから自分達が敗北していることにも気付かない、勝者が誰かもわからない」」」


獣王「この不快な匂い」

機械王「コノ汚染濃度」

妖精王「嫌みったらしい口調」



????「「「そうです、ようやく気付きましたか」」」



獣王「…………」

機械王「…………」

妖精王「…………オメーどうしたの?その体」



????「「「どうしたと?森と共に生きる妖精が知らないのですか?」」」



菌糸王(小)「「「この原木なるものを……」」」


.


獣王「……貴公のそのナリに驚嘆しているのだと思うぞ?」


菌糸王(小)「「「私は貴方達とは違い、原初の姿を保つことに誇りを持っていますれば……こうして胞子を原木に移し、移動を行うのです」」」

菌糸王(小)「「「そう、これも人間の知恵、どうです?声も出ないほどに驚きましたか?」」」



妖精王「絶句してんだよォッ!!」

機械王「合理的デハアル」

妖精王「え?マジで言ってんのポンコツ。それはないだろー……」

獣王「それで、そのような無様を晒して何故祭りに参加など、貴様等の種族は参加者は皆無であったであろう?」

菌糸王(小)「「「ええ、一族の者はいません、私と……この」」」


キノコ屍人「アウー」


菌糸王(小)「「「お供だけならば……なんともなれば貴方達程度、一族総出で出るまでもなければ」」」


妖精王「うわー冬虫夏草の生えたゾンビが原木持って夜道を闊歩とか……」

獣王「悪夢以外のなんでもないな」

機械王「合理的デハアル」

キノコ屍人「アウー」

妖精王「そんで?相変わらず卑猥な様晒して、何、勝者面してんの?」

菌糸王(小)「「「わかりませんか?」」」

キノコ屍人「アウー」

妖精王「わからねーよ、オメーが恥の訪問販売始めた以外はな」

菌糸王(小)「「「愚かな……総身の知恵も知れたものとはよく言ったものでございますね」」」

キノコ屍人「アウー」

妖精王「テメーの今の様振り返って言いやが… キノコ屍人「アウー」 うっせえんだよ!なんなんださっきから、燃やされてーか!?」


獣王「私は貴公等の漫談に付き合っている暇はないんだが」

菌糸王(小)「「「ならば愚かな羽虫や畜生に教えて差し上げましょうや……あの様を御覧なさい」」」

キノコ屍人「アウー」

妖精王「そいつが指差すのかよ……アン?」

獣王「ウム?」

機械王「…………」



「ウッヒャッヒャッッヒャッヒャ!!」

    「ウブ……オロロロロロロ……」

            「飲めー!脱げー!ムヒョヒョヒョヒョヒョ!!」


妖精王「……魔王様が終わりを告げたってのにヒデエ様だな。オイ、犬ッコロ、あの×××晒して踊り狂ってんのオメーんところの戦士(笑)じゃねーか」

獣王「……二度と晒せるモノが無きようしておこう。それより人目も憚らず○○○しておるのは貴公の配下きっての賢者殿であろう」

妖精王「……いーんだよ、妖精はそんなもんだ、植物だって憚ってねーだろうが」

獣王「しかしアレは……ワームの類と絡み合い、あまつさえ△△△を」

妖精王「王様のアタシがいーっつってんだろうが!大体、酒が入ってりゃ……!」

獣王「……ヌ」

機械王「…………」


菌糸王(小)「「「気付きましたか、『酒精を生み出すのは何か』、ということを……」」」

妖精王「酒を発酵させるにゃテメーらが……!」

獣王「なんという……」


菌糸王(小)「「「そう、あなたたちは……」」」

菌糸王(小)「「「私共一族の虜となっているということにっ!」」」


キノコ屍人「アウー、アウー」

獣王「なんだと……そんなことがっ」

妖精王「やめろ犬ッコロ、料理にあいつらは欠かせねーもんだ、テメーだってわかってんだろ……」

獣王「馬鹿な!こんな、こんな事が……!」



菌糸王(小)「「「ようやく理解できましたか、所詮は我等あってのこの世界ということに」」」

菌糸王(小)「「「ゴーレムの……先程から黙っていますが、言葉も出ませんか?まあ、無生物の貴方にはわかる話でもありますまい」」」

菌糸王(小)「「「我等こそが真の霊長であるということに!!」」」



機械王「…………ソレハ」

妖精王「…………」

獣王「…………」




機械王「単ニ貴様等ガ『食サレル側』、トイウコトデハナイノカ?」




妖精王「…………あ?」

獣王「…………うむん?」

菌糸王(小)「「「…………え?」」」


妖精王「……くっだらね、おい犬ッコロ、テメーんトコロの豚にでも食わせとけよ」

獣王「ふ、冗談を申すな、あれ等とて食は選ぶ」

菌糸王(小)「「「」」」

妖精王「阿呆らし、帰るぞ」

獣王「まあよい、いずれ我等の優位を示してやろう」

妖精王「……オメーそれマジで言ってんの?」

獣王「なにがだ?我等が優秀なのは示すまでも無いことは確かだが」

妖精王「ちげーよ、こんな馬鹿馬鹿しい茶番がアタシ等魔族のやり方かってんだ?」

獣王「……言わんとすることはわかる、貴公と意見が一致するのは不快であるが」


妖精王「なあ、犬ッコロ。魔王様はなんで人間を滅ぼさねえ?あの人間が来てから襲撃だって一度もしてねーだろ」

獣王「…………」

妖精王「食うにゃ困らねえさ、アタシ等は、人間共と違ってアホみてえに増えねえからな?だが恨みはあんだろ?住処追いやられたのはアタシ等だけじゃねー、テメー等もだ」

獣王「……そうだ」

妖精王「あの、ポンコツだってそうだ、酸の雨降らしてんのは人間共だ。その恨みがある上、尖兵の勇者どもはあの女以外、皆殺しにした」

獣王「最早、我等を止められるものは誰もおらぬであろうな」

妖精王「……ヌルくなってんじゃねえか?」


妖精王「言えねえよ、塵も残さず消滅させられる、だがオメーはそれでいいのか?」

獣王「我等、否、私は受けた恩を忘れぬ」

妖精王「…………」

獣王「住処を追いやられた我等に安息の地を与えてくれたのは魔王様だ。それは貴公とて同じことのはず」

妖精王「あの人は人間を殺すのが楽しかっただけだろーが、アタシ等助けるためじゃねーよ」

獣王「貴公等との無用な戦で血を流していたのを止めてくだすったのも魔王様だ」

妖精王「互いに服従してる時は良い子にしてねーとぶっ殺されるからだろーが」

獣王「どのような形にしろ、あの方の力のお陰で今の我等がある。我等はあの方に『寄生』しているのだ」

妖精王「…………」

>>232 コピペミスこっちに差し替えを。


獣王「自殺願望があるとは驚きだ、それを魔王様に奏上してみろ、貴公の願いは叶うであろう」

妖精王「言えねえよ、塵も残さず消滅させられる、だがオメーはそれでいいのか?」

獣王「我等、否、私は受けた恩を忘れぬ」

妖精王「…………」

獣王「住処を追いやられた我等に安息の地を与えてくれたのは魔王様だ。それは貴公とて同じことのはず」

妖精王「あの人は人間を殺すのが楽しかっただけだろーが、アタシ等助けるためじゃねーよ」

獣王「貴公等との戦で無用な血を流していたのを止めてくだすったのも魔王様だ」

妖精王「互いに服従してる時は良い子にしてねーとぶっ殺されるからだろーが」

獣王「どのような形にしろ、あの方の力のお陰で今の我等がある。我等はあの方に『寄生』しているのだ」

妖精王「…………」



獣王「我等がどのような手立てを打ってもその度に勇者共に打破されてきたのを忘れたか?」

獣王「力及ばず森を失ったのを忘れたか妖精の、我等は魔王様に侍っておかねば皆滅びていたことを忘れたか?」



妖精王「…………チッ、あーあ、人間は今頃、ヌケヌケと平和を満喫してんだろーなぁ」

妖精王「ぶっ殺してえなぁ……」






菌糸王(小)「「「」」」

キノコ屍人「アウー」

機械王「トコロデ、菌糸類ヨ、先日、人間ヨリ『霧吹キ』ナル概念ヲ伝エ聴イタノダガ、貴様ニハ必要ナノデハナイカ?今ナラ領土割譲デ……」

今日はここまで。



*************





魔王「ヨミよ、戻ったぞ」


ニャーン……



寝床から微動だにせず、声のみで我を出迎える豪胆さを持つのは世界広しと言えどこの下僕以外他にあるまい。されどどういうわけか殺意は湧かぬ上、むしろ少し面白くある。



魔王「ヨミよ、今宵は『祭り』なるものを見聞した、中々に盛況であった、皆も思いのほか楽しんでいたようである」


魔王「……人間の『歌』を聴いた。驚くべきことに、魔族である我等が人間に心を奪われていた」



見慣れぬ装束を纏い、高らかに唄うあの女が思い浮かぶ。

下手を打てば直ちに、否、適当に理由をつけて痛苦の海に沈めるつもりであったというのに、結局、我には手も足も出なかった。



魔王「何故であろうか、あれ等は皆、人間に恨みを持つものばかりであるというに、何故、事もあろうに勇者と同調したのであろう?」

魔王「誰もが生を祝い、死を称える歌を唄った」

魔王「体裁を気にするだけであのような催しを出来るものであるのか?精霊すらそのようにあった。輪の外にいたのは……我のみである」



次いで思い浮かぶのはそれぞれの王を筆頭とした他の魔族。

あの歌は我に対する余興という名目であった。しかしその範囲を逸脱し、明らかに各々の想いを唄い叫んでいた。

誰もが皆、あの歌に、生と死に思うものがあるというのか。



ニャーン……


魔王「おそらく今宵のうちにも眷属共は再び人間への憎悪に燃えるのであろう、しかし我は……」

魔王「愉悦の為のみ殺す。なれば我は魔王にあって魔族にあらず、否、やもすればこの星の者ですら……」

魔王「この世界の中で我のみ輪の外にいたのだ……我は……我とは」



この身は『役割』を逸脱することは許されぬ。他者の滅びを望み、意のままに殺し、そうすることで初めてこの身は充足を得る。

そして、今宵の祭りを経て、あの歌を聴き、愛しあう者達を目にし、我は理解した。


我は何故、『食』に固執したか。

我は何故、和合する魔族に不快を覚えたか。

我は何故、勇者の眼に灯るあの炎を忌み嫌ったか。


今宵、理解できた。出来てしまった。


我は、あの女を、あの女に、あの女が……



ニャーン……




魔王「ヨミよ……我を許せ……」




.




*************




《 勇者の住まい 》



降りしきる雪がすべてを覆い尽くす。それは魔界にあっても変わらない。

流石にこの天候であってはあの女も田畑を耕したりはしていない。家畜どもも小屋の中だ。

あの虫けらはどうしたのであろうか。



ふ、と懐の中を見やる。



魔王「動くでない、貴様は我が忠実なる下僕であろう」



しかし光栄に思うが良い、この衣の内はいかなる勇者であっても入り込めなかった領域、貴様が最初で最後の者と知るが良い。等としていれば。




勇者「…………誰?」



魔王「む?」

ニャーン……



勇者「…………ッ!」

魔王「待て、何故閉めるか?」

勇者「な、なんでもない、つい、そう、理由は無い」

魔王「そうか」

勇者「そうよ」



魔王「…………」

勇者「…………」




ニャーン



勇者「 ! ……猫?」

魔王「む、ヨミよ、出てきてはいかん、この雪は貴様には堪えるぞ」

勇者「 ッ!! 入って!」

魔王「よかろう、もてなすが良い」

勇者「……相変わらず素直じゃない」




*************



愉悦の笑みが止まらぬ。

忌々しい畜生めが、我が下僕の力を覚えたか、貴様などでは手も足も出まい。我の不快を買った己の不肖を今ぞ悔いるが良い。



クゥーン……ウォンッ……


魔王「ククク……そうだ、それで良い」



そうして床に這い蹲り、強者の機嫌をとるが良い、それが貴様等、畜生の在り方というもの。

しかしそれは徒労と知れ、このヨミの相手は、魔王である我ですら容易にはいかぬ。

無詠唱で《武装解除》を連発し、いかな呪文を唱えようとこやつの前では《散漫》させられる。我が軍最強の存在である。




魔王「ヨミよ、聴かせてやるがいい」



ニャーン



そして、音に聞くが良い、この破滅の調べを、この声の前では例え勇者であろうと



勇者「鳴いたっ、ネコっ、こっち、こっちに来てっ」



勇者であろうと……



勇者「こっち、こっちよっ、にゃー、にゃにゃ、にゃ……にゃ」



魔王「…………」

勇者「…………」



何故、我が苦しくなるのであろうか。

短いけど今日はここまで。結構長くなったな……


勇者「…………ふう」

魔王「待て、貴様、今の言語はなんだ?貴様、精霊言語はおろか、知性を持たぬ獣の言葉まで用いるか?」

勇者「なんのことかわからないわ」

魔王「馬鹿な、今、確かに『にゃー』と……」

勇者「言ってない」

魔王「神の恩恵により会話を」

勇者「そんなものは無い!」

魔王「しかし我はしかと」

勇者「言って無いっ!大体、貴方こそ、その変わらない表情で恥ずかしいことを言い過ぎる!」


魔王「馬鹿な、我は己に恥ずることなど何も無い」

勇者「い、今『にゃー』と言っていたっ」

魔王「貴様を模倣しての事だ」

勇者「だから私は別にっ」

魔王「ははあ、成程」

勇者「っ!?」

魔王「察するに今の『にゃー』、とは貴様等、人間の世界では恥ずべきことなのであろう?」

勇者「そ、それは」

魔王「成程、少し面白い。平時、冷静を装う貴様もこのように我を忘れ、己が恥ずべき行いを犯してしまうことがあるのか」

勇者「くぅ……だからそれは貴方も同じことっ」


魔王「何度でも聴くが良い、我は己を恥じることなど無い」

勇者「あ、あの時だってっ」

魔王「あの時?」

勇者「祭りの時、泉で……」

魔王「何か言ったか?」


勇者「……あ、ぁぃ、し、て……る、と」


魔王「ハッキリ物を言え」

勇者「あ、貴方と違ってそんなことは言えない……」

魔王「今日の貴様は表情がよく変わり、少し面白い、が、いつもの方が我も好ましく思うぞ」

勇者「こ、好まし……そ、そう」


勇者「ではない。結局何をしに来たの?」

魔王「それも聴かずヨミにまとわり付いたのは貴様の方なのだが」

勇者「猫は可愛いもの、仕方の無いこと、貴方も知っているはずよ」

魔王「む……確かに、ヨミならば仕方があるまい」

勇者「仕方が無い」

魔王「仕方が無い」

勇者「……コーヒーでも煎れよう」

魔王「苦しくない」


席を立つ女をそのままに、我が膝で丸くなった下僕の背を撫でつつ『コーヒー』とやらを待つ。

コーヒーとやらが何かはわからぬが、それの準備は滞りなく進められているのであろうことがわかる。

相も変わらず女の動きは淀みがなく、熟練されたものであった。


魔王「……貴様は、各界の王を伏せ、恩恵の力を自由に御せるようになった、相違ないな?」


その背に向けて問う。
女の肩が僅かに反応するが、何事もなかったように元の動きを続ける。
それは肯定と捉らえてよかろう。


魔王「今ならば、疎んじられることは無いのではないか?」

勇者「……どういうこと?」

魔王「今ならば、貴様は人間の領域に戻ることが出来るのでは無いかと言っておる」

勇者「…………」


再びの沈黙。察するにコーヒーとは、飲み物の類か、それようの容器が二つ並べられる。


魔王「御することができなんだ故、人に疎んじられた貴様のその力も、今であれば重宝されるものなのであろう、それは我にもわかる」


魔王「ならば人里に戻るが貴様にとって安楽な道では無いのか?」


ろうとのような形をした珍妙な容器にお湯を注いただ先、香ばしい香りが部屋に充満した。

安堵をもたらす芳香である。


魔王「それとも……」


そうして黒色の液体が目の前に供される。
立ち行く湯気は、その芳香を具現化しているかのように怪しげな魅力を撒き散らし、やもすれば蠱惑的ですらあるように思える。


勇者「貴方はこれを入れた方が良い」


次いで出されたのは小さな容器に注がれた乳と、砂糖である。

甘くして飲むものなのか。
砂糖を入れ、乳を流し込めば黒色の液体は泥のような色へと変わる。

香りはともかくあまり食指のすすむ色合いではない。しかし、我は知っている、これはあの『オーバンヤキ』と同系の色合いであると。



魔王「……勇者としての『役割』を果たすか?」


そうしてコーヒーを一口。

程よい甘さとまろやかさは後に混ぜた乳と砂糖であるか、それがまたこの香りと見事に調和している。
鼻腔に抜ける芳香は、それまで漂っていたものとは比べ物になるぬ程に濃密で、かといって鼻に触らぬ穏やかなものであり、それが大いに安堵をもたらした。


勇者「それは、貴方と殺し合いをする、と言うこと?」


剣呑な顔をする女。
もう一口、の前に、息の限り芳香を吸い込む。
なんと安息をもたらす香りか。


魔王「それでこの世界の決着が付く」

勇者「そうなの」


魔王「……それだけか?」

勇者「……神様に好きに生きろ、と言われたとを話したことがあるわ」

魔王「貴様が初めて我が城に訪れた時だ」

勇者「そうね、実はその話には前がある」

魔王「前だと?」


勇者「……初めて力が現れて、村のみんながおかしくなって、私が触るものは全て朽ちていって、裸のまま泣いていたら神様が現れて服を着せてくれたわ」

勇者「そして、自分が神であることを名乗ると、私は誰からも期待されていない、そう神様は言ったわ」


魔王「神どもは諦めの境地に達しておったか」

勇者「そう、神様は何かを諦めていたの、そして本当は私がそれをなんとかしなくちゃいけないんだってことは、なんとなくわかったわ」


勇者「でも、その期待されないといけない何かがわからないまま、神様は力の説明だけして、好きに生きろって私に言った。そして消えた」

魔王「ほう、少し面白い」

勇者「そう?私は無責任さに腹が立ったわ。諦めているなら最初からこんな力を授けなければいいのに」

魔王「その通りであるな。中途半端に『役割』を担いながら、その実、その完了を諦めていたわけだ、やはり、少し面白い」

勇者「残された私は異端の扱いを受けた。どの法術や魔法にも無い力だもの」

魔王「知らざるを恐れるは誰もがそうである。しかし貴様等人間のそれは異常であるな」

勇者「そうね、追放ですんだのが奇跡に思えるわ」


勇者「そして流れに流れて、ここに来た」

魔王「……貴様は諦めないのか?」

勇者「……どうして?」

魔王「生まれ育った里を、人の領域すら追放され、安息の地を求めてさ迷い歩くは貴様等のような矮小な存在にあって楽な道では無いであろう」

勇者「そうね、決して……楽ではなかった」



魔王「では何故諦めない?定められた『役割』すら外されて、それでも生きようとする貴様の存在意義は一体なんだというのだ」

魔王「人は幸福を求め生きると聴いた。しかし貴様は見も知らぬ神より落胆され、人からは化け物扱いされ、それとは程遠い位置にいたのであろう」

魔王「何故それでも貴様は生きる?そして、何故貴様の眼には」



あの忌々しい炎が……そう言葉に紡ごうとしていた、その炎が、今ぞ女の眼で輝いていた。



女の足元からは不自然になまで草花が咲いては枯れ、否、枯れる速度を追い越し、次々と初々しい蕾を作った。



勇者「神様も人間も世界も諦めたければ諦めれば良い。でもそんなの弱虫のやることだ、粛々と滅びを迎えいれる等、虫でもしない」



その言葉に同調するように花々は一斉に咲きほこり、コーヒーの芳香をかき消し、存在を主張するかのような、真夏の森にも似た瑞々しくも力強い香りに満ちた。



勇者「この世界のほとんどは誰も諦めなどしない、最後まで抵抗して、血の一滴まで絞りつくし、文字通り命の限り戦い続けている」



いつかのように撒き散らされる花粉が金箔のように煌き、質素な小屋を荘厳な神殿に造りかえる、

そしてそれは目の前に立つ女が誰であるかを、眼前の我に、彼の者を見捨てた神に、人に、世界に知らせた。




勇者「誰にも愛されなくても、誰にも期待されなくても、生まれたからには私は生き抜いて、戦い抜いて見せる」



間違いなく、



勇者「私達は皆、勇者だ」



この女は、『勇者』だ。





今日はここまで。

最終回じゃねこれもう

>>275 もうちょっとだけ続くんじゃ


魔王「……そうか」

勇者「……そうね」

魔王「では、戦るか」

勇者「いいえ、そんなことはしない」

魔王「なんと、貴様は生き抜き、戦い抜くのではないのか?」

勇者「そうね、だから、私は私のまま生きる」

魔王「わからんな、貴様は勇者なのではないのか?」

勇者「その通り、けれど、貴方の言う『役割』が、この世界にとっての『勇者』ならそんなもの私は御免だ」


魔王「何故だ。結局それは運命から逃げているのではないのか?」

勇者「いいえ、全然違う、私から、私達から見れば、それは諦めて運命に従っていることと何も変わらない」

魔王「なんだと?」

勇者「いつか、貴方が言った。この世界には神がいて、自分達の中の何かを満たしたくて殺し合いをさせていると」

魔王「そうだ、貴様等勇者を創り出した神より更に上位の神だ」

勇者「そんなものの思い通りになってたまるものか、それが全て」

魔王「そう思えるのも奴等の手の上の事かも知れぬ」

勇者「本当にそう思えるの?」

魔王「なに?」


勇者「この星の全ての生き物が、神の思い通りに動いているなんて本当にそう思っているの?」


魔王「……事実、我はその思惑の通り創られた、戯れに数え切れぬほどの生命を滅ぼした」

魔王「そうすることで満足を得た。迫り来る勇者共に立ち塞がり、それに打倒されるべく創られた」


勇者「では何故貴方は今こうして生きているの?」

魔王「力至らぬ勇者は勇者では無い。神が望む物語の主人公足りえぬのだ、我に勝てぬ勇者など滅びて当然である」

勇者「違うわ、貴方は生きていたかった、それだけよ」

魔王「馬鹿な、何を根拠に」

勇者「貴方はこの一年間、私や他の生命に歩み寄ろうとしたじゃないか」


魔王「我は、少し面白いと、そう思っただけだ」

勇者「それが全てじゃないか、『役割』とは別の感情だ、貴方は歩み寄りたかったのよ」

魔王「こじつけに過ぎぬ」

勇者「違う、そんなことは無いわ……ずっと貴方に謝らないといけないと思っていた」

魔王「なんだと?」

勇者「私は貴方の事を『生きていることから逃げている』『歩み寄る勇気が無い』と言った」

魔王「…………」

勇者「役割』を押し付けられようとも必死に生きようとしているのに、次々と殺しにかかる人達を殺してでも必死に生きようとしているのに、私は貴方を侮辱してしまった」



勇者「やがて貴方は私の畑を見て、巡る生命の営みを知った。それに歩み寄ろうとした」

勇者「だから、私と食卓を共にした、皆と祭りをした、愛する人達に惹かれた」


魔王「それがどうしたと言うのだ」

勇者「貴方だって、巡る命の一員に……」

魔王「出来るはずがあるまい」

勇者「そんなことは無い」

魔王「それこそ根拠なき妄言である、人間よ、一つ良いことを教えてやろう」


勇者「…………」

魔王「愉悦や、恨み嫉みの末に他者を虐殺する者は、貴様等人間と、この……」



魔王「この、我のみであるのだ……」



勇者「誰だってそうなる。動物だって自分を傷つけた相手に報復を……」

魔王「そうせねば自己が滅ぼされる故な、それは愉悦でも恨みでもあるまい、防衛本能である」

勇者「各界の王だって自然から産まれ出た存在よ、けどあの人達だって人間を恨んでいる」

魔王「その通りだ」

勇者「だったら」


魔王「それは我がこの星に存在しているからだ」


勇者「……え?」


魔王「我が滅べばあれらに巣食う恨みも嫉みも無くなる。『そのようになっている』のだ、それがこの世界なのだ」

勇者「……相変わらず貴方の言うことは良くわからない」

魔王「『そうであるもの』と『そうでないもの』の羅列を見ればわかるのだ。一つ上の世界のことならば、貴様に理解が及ばぬは仕方なし」

勇者「以前言っていた、世界の有り様の話?」

魔王「そうだ、そして結末は二つしか用意されておらぬ」



魔王「貴様等人間の繁栄か」



魔王「全ての滅びか」




勇者「……貴方はそれで良いの?」

魔王「良いも悪いも、我はそのように創られている。貴様もな」

勇者「そうかもしれない」

魔王「ならば」

勇者「けど」

魔王「…………」



勇者「私は、世界は『はい』か『いいえ』で割り切れるような単純なものじゃないと思っている」



魔王「そうか」

勇者「そう、だから貴方が戦いたくても戦ってあげない」

魔王「好きにせよ」



それだけ言い、冷め切ったコーヒーを飲み干す。冷えていても中々に飲める味である。

夏には冷え切ったそれを一息に飲み下してみたいものである、それが心残りである。


勇者「用件はそれだけ?」

魔王「もう一つある」

勇者「なんだろうか」

魔王「しばらくヨミを預かってくれ、我はしばらく忙しくなる故な、その世話を託したい」

勇者「願っても無いこと」

魔王「頼んだぞ」

勇者「………………」

魔王「ではさらばだ…………勇者よ」



*************



《 菌糸の領域 》



菌糸王「「「成程、こうなりましたか……」」」


菌糸王「「「致し方有りません、今更、貴方様の決定に逆らってどうなりましょうや」」」


菌糸王「「「海魔が既に滅んだことは存じております、あそこには我等の眷属もおりますれば」」」


菌糸王「「「海魔は地上のほとんどを統べる種族であるというのに、貴方様相手となっては為す術もありませなんだか、私もまた同じように散り逝くのでしょう」」」


菌糸王「「「完全に滅びてしまうのでしょう」」」


菌糸王「「「さにあらば、私は王として、生命在る者として」」」





菌糸王「「「全霊を以って貴方を殺すまでです」」」





*************



《 魔獣の領域 》



獣王「待っていたぞ」


獣王「こうなるのではないかと思っていた、いや、恐れていたが正しいか」


獣王「貴公はこの星でただ一人の巡らぬ命」


獣王「人も、魔も、憎くて仕方が無かったのであろう」


獣王「翼魔共や海魔、菌糸を滅ぼしたのだな、なれば全ての生命ある者は穏やかになるであろう、後は無機物共と曖昧な妖精共か」


獣王「貴公が敗れたとしても、その後の我等もやがて言葉を失い、肉として人に食われ、飼いならされる未来を迎えるのであろう」


獣王「しかし」





獣王「我等は最後の一体となっても抗い、戦い往くまで」






*************




《 ゴーレムの領域 》




機械王「貴方ノ思考ハ合理的ダ」


機械王「我等、ゴーレム族ハ貴方ガ滅ボシタ有機生物ト違イ、世代ヲ受ケ継グ事ヲ知ラナイ」


機械王「ダガ有機生物共ハ皆、遺伝子ノ奴隷トナッテイル事ニ気付イテイナイ」


機械王「我等ニ感知デキルノハ、個ノ意識ノミ、ソレハ我等モ有機生物共モ変ワラナイ」


機械王「貴方ノ愉悦ヤ、或イハ別ノ感情ノ為ニ今回ノ結末ニナッタノデアッテモ私ハ責メナイ」


機械王「重要ナノハ『個』トシテ在ル事ダカラダ」





機械王「ナラバ私モソノ『個』ヲ守ル為、戦オウ」






*************




《 妖精の領域 》




妖精王「こんちはー」


妖精王「アタシ達で最後?人間は?あ、そう、殺して無いんだ」


妖精王「なんなら人間共がおっ死んだ後にしてくれたら良かったのに」


妖精王「うん、知ってる、アタシ等はそもそも恨んだりとか無縁の生き物だし、魔王様がいるからこーなるんでしょ?」


妖精王「でもねー案外悪くないんだよ?てーか、アンタだって知ってるでしょ?」


妖精王「自分にとって胸糞悪いヤツがもだえ苦しむとすげースカッとすんの」


妖精王「ほんとに……気持ち悪いよねー、事実だけどねー、どうしようもないけどねー」


妖精王「……そうだね、あの祭りも、本当はすっごい楽しかった」


妖精王「んーん、アンタの事、アタシはけっこー好きだよ、いや、大好きかも」


妖精王「だからせめて……なるたけアンタにとって胸糞悪いヤツになって死にたいな」


妖精王「けどね、最後まで抵抗はさせてもらうよ?それが生命ってもんさ」


妖精王「じゃあ」





妖精王「くたばりやがれ、糞野郎」




キリです。また戻ってきます。




*************




《 魔王城 》




魔王「…………」

従者「魔王様、なにか余興を設けましょうか?」

魔王「…………」

従者「……私は魔王様がどのような結末を望まれようともお側に仕えます」

魔王「では、命令である」

従者「……は」

魔王「この城より去ねよ、今すぐに、である」

従者「ハッ、さにあらば、城門にて……」

魔王「殺すぞ?冗談は好かぬ」

従者「如何様にも……」

魔王「……勝手にせよ」


従者「では魔王様、その……」

魔王「なんだ?」


従者「プリンなど……いかがでしょうか?」


魔王「…………フン」


従者「ハッ!直ちに用意いたします!」


魔王「………………否、やはり去ねよ」


従者「は?いかがなされましたか?」

魔王「従者」

従者「は……」


魔王「役目、大儀であった」

従者「ッ!?魔王様!?」

魔王「また心残りが増えた、貴様は魔王の心に楔を打ったのだ、誇るが良い」

従者「仰る意味がわかりかねます!何をっ!」

魔王「さらばだ」

従者「まお……」



言葉を待たず、従者を転移させる。



時が来た。


今この時、我と彼奴は城にて一対一にて会わねばならぬ。
全く難儀な『役割』である。
こうして城にて待たねば、ロクに争うことも叶わぬのだ。



魔王「……プリンは持ってきたのであろうな?」



開かれた扉の先にそう問う。
しかし言葉は無い、もはや我以外の誰もが失せた城内の奥より靴音のみがこだまし、それの到来を知らせるのみ。



勇者「…………」



やはりというか、当然というか、待ち望んでいたというか、現れたのは一人の女。

歩を進める先より生えては枯れる草花、神より受けた恩恵は『生命』。




勇者「貴方が食べにくれば良かった」



その足元より散り逝く花びら、枯れ逝く葉、飛散する黄金の種子。それが道となり、まるで死の洪水を引き連れているかのような威容。

陽光の如く輝く髪、銀月の如く浮き出る肌、眼に猛る決意の炎。



来た、勇者が。



誰の期待も受けず、誰に掲げられることもなく、誰に愛されることもなく、強制された『役割』の為でもない。

自己の為に、全てを乗り越えんとする、真の勇者が。


魔王「冗談である」


勇者「貴方の冗談なんて初めて聞いた……それに」

勇者「冗談は嫌いではないの?」


魔王「その通りである」


勇者「じゃあ……この様は、冗談ではないのね?」


魔王「……その通りである」


勇者「次はどうするの?」


魔王「知れたこと」




魔王「……貴様等人間共を皆殺しにする」




勇者「そう」


魔王「そうだ」


勇者「それで?次は?」


魔王「この星を吹き飛ばす」


勇者「そう」


魔王「そうだ」


勇者「……私も?」


魔王「……当然だ」


勇者「……ヨミも?」


魔王「……例外は……無い」


勇者「そう」



魔王「降りかかる火の粉は払う。そうではないか?」



転移の術にて、勇者の眼前に降り立つ。

知っている、この勇者は自分からは絶対に仕掛けない。
闘りあった事は無い、しかしこの女はそうなのだ。なれば我はこうせねばならない。



魔王「さて、一つ言っておかねばならないことがある」

勇者「なんだろうか?」

魔王「通例というヤツでな」

勇者「……聞こう」




魔王「……勇者よ、何ゆえもがき生きるのか?」



勇者「…………」



魔王「『死に逝くものこそ美しい』、そうは思わんか?」



勇者「……『その通りだ』」






魔王「……ふん、まるであの時のようであるな」


勇者「いいえ、あの時とは違う」


魔王「否である、我は何も変わらない」


勇者「嘘、貴方だって良く知っているはずだ」



魔王「…………否、である、滅びこそが我が望み、他者であっても」

魔王「……自己であっても」



勇者「そう」





勇者「…………残念だ」



その言葉と同時に不可視の衝撃が我の胴体を吹き飛ばした。




貼り付けられたように玉座へとしたたか叩き付けられたが、当然この程度では我が動くに仔細は無し。しかし、我の体は止まったままであった。

それは我にとって埒外の光景が目の前にあった故。



勇者「……ふう」



相変わらずロクな魔力を感じない。

相変わらずまともな装備をつけていない。

我を吹き飛ばした術の名残か、拳を握り固め、単純に殴りぬいたような体勢。

つまり……



魔王「……貴様、戦士系であったか」



この勇者は己の五体とその恩恵のみで我を駆逐する気であるのだ。



皆様いつもレスありがとう。乙だけでも本当に嬉しいです。

一旦キリです。もしかした本日は終わりかも。



……暗くも快楽的な感情が腹の底より湧きあがる。

長く味わうことのなかったこの感覚、上位の神が創造した勇者を滅した時でさえこのような感覚はなかった。
あらゆるものにとって、我にとってですら得難き存在、それの崩壊する瞬間が直ぐそばまで来ている。


愉快である。


そうとも、これが、この有り様こそが我が我たる所以である。



魔王「…………目が覚めた」


勇者「そしてこれから眠ることになる」



これからこれを滅ぼすのだ、絶望を与えるのだ。

如何様にして殺してやろうか。



ゆっくり殺そう、会話をしながら、弄りながら、そうとも我は魔王である。これが我である。


犯しながら、おおよそ雌にとって屈辱の極みを味わわせて殺そうか。

生きたまま磔にして世界が滅びゆく様を見せ付けながら殺そうか。


勇者だ、待ち焦がれた、流石は生きとし生ける者全ての希望。魔王たる我にして希望であるか。



魔王「滅ぼすのが楽しみだ」



我はこのように創られた。

我こそ魔王である。

滅びを望む者である。


勇者「……ならさっさと攻撃すれば良かった」

魔王「貴様は自ら攻撃せぬと思っていたのだがな?」

勇者「脅威が目の前にいるのに攻撃を待っているのは間抜けのやること」

魔王「違いない」

勇者「貴方は……」

魔王「そして貴様は未だに我の射程圏内にいることも違いない」

勇者「ッ!?」


小規模の太陽とも形容できる火球を複数個同時に放つ。
人の唱える《核熱》の極大呪文、それを遥かに超える熱量である、避けねば回復呪文など間に合わず即座に蒸発する。



勇者「フンッ!」



発現した魔法の着弾音とは違う甲高い破裂音が鳴り響く。

遠目にて初めて知覚できる勇者の動き。やはり拳での一撃。

技術は無い。振り上げた拳を、そのままに振りぬく、単純な暴力である。



しかし、どういうわけだ。

その一撃で火球はすべて消し飛び



勇者「……ふう」



勇者は全くの無傷である。

人の、否、この星の物質の道理を超えたものである。




魔王「やるな、ではこれではど……」



次いで《暴風》にて部屋ごと吹き飛ばさんとするとした時、



魔王「…………な」

勇者「……遅い」



勇者は目の前で拳を振りかぶっていた。



魔王「チッ!」



僅かに首を傾けそれを回避、出来ない、何故、ニ連撃?この一瞬で?

打擲音と言うには苛烈すぎる強大な音と共に、再び我は壁に磔にされる。



不可解である、いかな勇者とて単純な体力でこうまで動けるものではない。

ましてや我の知るいかなる存在の身体能力であっても不可能だ。

そして何故、物理力のみで我に攻撃を加えられる。



勇者「これで……っ!」

魔王「む……」



弾雨の如く拳撃と蹴撃が降り注ぐ、一発一発が殺意の塊であるかのような錯覚を覚え、直ちに転移で回避する。



勇者「…………」



転移した我に気付き、ゆっくりと振り返る女の眼は常ならぬもの、あの炎は僅かにその双眸で揺らめいている、だが今とあってはそれがむしろ他者を平然と殺戮する冷淡さを放っていた。



魔王「ここまでやるとは思っていなかった」



勇者の背後にある壁の打撃痕はおおよそ打撃でついたものとは言い難いもの。

殴られた場所が丸ごと抉り取られたかのような異様さ、あれは



魔王「浄化の雷をその拳に纏わせるか」





その問いに呼応するように勇者の拳が放電する。



浄化の雷。神の怒りの形容。

その本質は自然現象としての放電や雷撃呪文のそれとはかけ離れている。

浄化とはよく言ったもの、問答無用で相対するものを『消滅させる』、勇者の特権にして、我に傷を負わせる数少ない手段。

担い手によってその発現結果は異なる。炎の柱、雷の槍、絶氷の剣。

この女の場合は『神の鉄槌』というわけだ。



魔王「恩恵の力で一息に殺そうとはしないのか?」

勇者「巡る生命でない貴方に通用するとは思えない」

魔王「で、あろうな。しかし解せぬ、その動き自体はこの世界の理より逸脱している、何故であるか?」

勇者「そう言われてベラベラと種明かしをする間抜けだとでも思っているの?」

魔王「否、少し面白い、それだけだ」



『生命』の恩恵によって何らかの身体強化を行っているのは間違いない。呪文による強化の範囲を明らかに逸脱している。

無手に見せかけ、この女は利用できるものは全て利用し、まさに全霊を以って我を殺さんとしている。


しかし、何にしても、こうすれば良いだけのこと。



魔王「ふむ……」



雷召喚。



勇者「ウアッ!?」



掌より一瞬の雷光、そしてそれで充分すぎる。



魔王「まあ、これを躱すことはかなうまい」



いくら速かろうとも電光より速く動ける生物などこの世に、ましてや神の世界にも存在しない。

神器を身に纏わず、それを無効化する術を持たないのであればそうするまでである。


勇者「グウ……ッ」

魔王「終わりか?つまらない」

勇者「私は……まだ、やれる!」

魔王「そうであろうな?そうでなくては」



雷によって体組織の多くが蒸発したのであろう、蒸気を上げて蠢く様は死に体同然である、が。



勇者「今、止めを刺さなかった事を後悔しなさい……!」



その目に宿る炎が再び燃え盛る。

成程、予想はしていたが。



魔王「やはり傷を塞ぐか、貴様の得た恩恵を考えれば誰にでも予想の付くことであるが」



聞き慣れない異音をあげながら、勇者の傷が瞬く間に塞がる。

長時間の詠唱のもとに行使される高位の法術より遥かに短時間の内にである。




魔王「しかれど徒労よな?」



再度の雷召喚。

しかし。



勇者「もう効かないッ!」

魔王「ッ!?」



直撃する雷撃、だが全く通じていない。



突進の勢いのまま放たれた蹴りが振りぬかれのを視界の端に捉え、同時、首をもがれるような衝撃が襲う。

耳慣れぬ炸裂音が響いたのはその後の事である。


放たれた雷は確かに直撃した、であれば先程と結末は同じであるはず。



魔王「なんと……いかなる術式であるか」



我に地を這わせたのはこの勇者が初めてである、成程、これが屈辱と言うものか。



勇者「……余裕があるようだ」

魔王「初めから解り切ったことであろう、しかし少し面白い」



再び目が覚めた。

この勇者を殺す法などいくらでもある。

しかし、この屈辱、この湧き上がる衝動、ただ殺したのであっては収まりがつかぬ。



魔王「なれば我も貴様の流儀に付き合うとしよう」



絶対的な防御である衣を投げ捨て、拳を構える。

そうすることでこの屈辱は晴れる、我が身は充足する、相手の本領にて正面から駆逐する。

それが我の在り方なのだ。



勇者「その慢心が命取りになる」

魔王「その根拠の無い自信が命取りになる」



次の瞬間。



勇者の拳も、こちらの拳も、互いの顔面に突き刺さっていた。





*************




おかしい、徒手での打撃により勇者やその仲間を骸に変えてやったことなどいくらでもある。

それこそ『拳聖』などと人より賞賛され、拳の一突き、蹴りの一振りで数多の魔を滅ぼしてきた徒手格闘の使い手をだ。

どれも我の前にとって造作も無い者達だった。自分の本領とする領域で散っていった。



勇者「まだ、まだ……どうしたの……?私は、生きてる」



顔面の半分を吹き飛ばされて尚、立ち上がる。

この勇者に技術は無い。あやつらより経験も明らかに不足している。



勇者「……ふう、なんと言えばいいのか、これは」



勇者の傷は瞬く間に塞がり、その闘志もまるで尽きる気配が無い。

しぶとい、それだけのはずである。

だというのに。





勇者「……徒労?」



傷を増やしているのは、我のみである。

絶対防御を外し、生身のまま神の拳を受け続けたこの身は崩壊しつつある。

しかし引き返すことはならぬ、あってはならない。



魔王「何故か、何をした勇者?」

勇者「……生命を知って、歩み寄ることを覚えた貴方なら、何故私に打ち負けるかなんて簡単にわかるはず」

魔王「何だと……?」

勇者「そんなに知りたいなら教えてあげるわ、どうして貴方が私に勝てないか、どうせどうにも出来ないし」

魔王「…………」


勇者「生命ある者はみんな、敗け続けるように出来ていない。みんな戦い方を覚える」

魔王「人間のような虫けらがどれほど強くなろうと同じことだ」

勇者「そうね」

魔王「ならば」



勇者「だから私のこの体は既に人ではない」



魔王「な……」



勇者「生命ある者はそうして生きてきた、強化ではない、これを 進化 というの」



魔王「妄言も大概にしろ女……進化とは世代を重ねて行われるものだ」

勇者「それこそがこの恩恵によるもの、私の足元では幾千、幾万の生と死が繰り返されている……貴方は知らないだろうけど、私の中でも」

魔王「だとしてもやはり馬鹿げたことだ、生物である以上、限度がある」


勇者「そうね、でもこの進化は、それ以上に馬鹿げた貴方達、魔族と、勇者という存在があっての事」


魔王「そんなことがあって……」



勇者「この身は人間の形をしているだけ、でも私はもう人間じゃない、魔族でも無い、魔族の力を無効化して殺す、その一点に進化した体を持ったナニカ」



魔王「化け物め……」



勇者「この力を軽視して諦めた神様も、貴方も、みんな馬鹿だ、馬鹿ばっかりだ」





勇者「この星で『私達』程、殺し合いをしてきた存在はいないというのに」



魔王「調子に乗るな下等生物が……」

勇者「……やはり今日の貴方は少し変、戦闘が始まったころから違和感を感じていた」

魔王「何……?」

勇者「私の知る貴方はそんなに小物ではない」

魔王「愚弄するか人間」

勇者「……『役割』がそうさせているの?」

魔王「『何をわけのわからぬことを』」

勇者「…………」




魔王「戯れはここまでだ……」



勇者「そうして頂戴、そして……」





魔王「では、死ぬがいい……ッ!!」



勇者「あの人を返せ……ッ!!」




訂正 >>303 

→× 勇者「嘘、貴方だって良く知っているはずだ」

→○ 勇者「嘘、貴方だって良く知っているはずだ、死に逝くものが何故美しいかを、そしてそれは滅びでは無いということを」


良しなにお願いします。

本当にたくさんのレスありがとう。まだ続きますよ?

今日はここまで。


生命の恩恵を受ける勇者よ。よくぞここまで我を追い詰めた。

しかし、それすら我にとって余興に過ぎぬ。

己の無力を骨の髄まで味わうが良い。
その眼に宿る忌々しい炎を今ぞ吹き消してやろう。

絶望の末、貴様はここで骸をさらすのだ。



勇者「お前がみんなを殺した!キノコの人も!獣の人も!」



突進。最早、姿を捉えることは叶わない。爆ぜる石床、舞い上がる花弁により、その軌跡が辛うじて解る。


《凍結》


腕の一振りで広大な部屋を白銀の世界に変え、勇者を氷柱に埋める。

絶対零度の前では全ての物質が凍結する。貴様等生命はいつの世も、冬によって死に絶えるのだ。

徒労なり。



勇者「グッ!?ウウウウ……ッ!」

魔王「そうだ、我が滅ぼした、どれも貴様に擦り寄った惰弱な存在ぞ、惨たらしく屍を晒しておった、少し面白い」

勇者「ウ、アアアアアアアァァッ!!」



勇者を捕らえていた氷柱が爆ぜ、周囲の氷雪も氷の結晶となり解け切る。

ここまで早く適応するか、最早この女を縛る呪いや鎖が存在するのか。

しかし徒労なり。


《魔剣召喚》


蒼鈍色の光を放つ魔剣が数百本。
意のままに動くそれを正確無比に勇者を目がけ弾雨の如く射出する。


勇者「お、お前が殺したんだっ、機械の人もっ!妖精の人もっ!」



尚も飛来する魔剣を叩き落し続けるが、目に見えてその動きは緩慢。もはや女の体は針山の如く剣が突き刺さっている。



勇者「クッ……ガッ……!」

魔王「殺したとは妙ぞ?あれらは無機物に曖昧な存在ゆえな。実に味気ないものであった」

勇者「お前は……ッ!あの人じゃない……ッ!」

魔王「動けぬか?ならばそのまま死ぬがいい」



大呪文を避け、あるいは詠唱を妨害し、適応すらしてきたがここまでである。全身が爆ぜればどうにもなるまい。


《空間ばくさ……》


勇者「あの人を……」



何故、目の前に





魔王「な……」


勇者「返せえええぇぇぇっ!!」



反応も許されず、無防備に拳を受け、吹き飛ばされる。
魔剣は物理力で破損するようなやわなものではない。何故、虜の身から脱したか。



勇者「お前なんか、あの人じゃない……ッ!」



魔剣はそのままである。
ただし手に足に、重石の如くぶら下がる石床の破片ごとである。
突き刺さる石床ごと引き抜いてここまで来たと言うか。



魔王「囀るな人間」



どんな呪文も攻撃も適応するのであれば初見の法で即死させるのみ。
広範囲であればかわせまい。


《閃熱》にて蒸発せよ。



勇者「フンッ!!」


突破される。閃熱を潜り抜け、拳をまともに叩き込まれる。
何ゆえか、既に耐性を持つと言うか。



魔王「……妖精王を降した折にか、あれは魔法に長けていた。ならば貴様に属性魔法は効かぬとみた」



単純な殴り合いで打ち負けるも獣王を制覇した為か。ならば通常の法ではこやつは死ぬまい。

いかなる毒も効くまい、菌糸を叩き伏せたのだから。

いかなる防壁も突破するであろう、ゴーレム共を粉砕したのであるから。



魔王「役に立たぬ下等存在共よ、魔の者にあって勇者の血肉となるとはな、早々に殺しておくべきであったわ」

勇者「あの人の口で喋るな!」

魔王「あの人、あの人と、何を先程から世迷いごとを……我は『こういうもの』だ」


勇者「そういう風に創られたのは知ってる、けどあの人はそんなことは言わない、もう歩み寄ることを覚えたもの!」

魔王「生憎覚えが無い、誰のことを申しておるのか」

勇者「だからお前はあの人じゃ無い!あの人は愉悦の為に世界を滅ぼそうとする自分を変えようとしていたもの!簡単に他の人たちを殺したりするものか!」

魔王「ほう?少し面白い、続けてみよ」



勇者「どうやっても抗えない運命がある、あの人にとって『役割』はそうだった、けどあの人自身の感情はそうじゃない」

勇者「最初は定められた役割の元、自分はそういうものだって諦めてた。けど、少しずつ変わっていった、自分は本当は生きたいんだって気付いた」




勇者「春に穏やかな陽光を浴びて、夏に溢れる生命を感じ、秋に散っていった命を忍び、冬の後にまた命が来ることを、巡ることを理解した」

勇者「あの人は、そんな世界が好きだった。散っていった戦士達に対する礼儀を知っていた!それが出来ないお前があの人であるものか!!」



魔王「…………ク」

勇者「…………」


魔王「クハッ、クッハハハハハハッ!!何を言うかと思えばっ!我が!?あのような有象無象共を!?」


勇者「お前……」

魔王「面白い女よ……教えてやろう、この魔王はな」




……貴様等が虫唾が走るほど嫌いであった。




勇者「…………」




魔王「憎悪していた、妬んでいた、羨んでいた」



魔王「人と和合する魔を、魔と共に生きる人を、巡る生命を、輪をつくり生きる者共を」

魔王「力も無く、叡智も無く、限りあるくせに、不完全なくせに、何一つ創るに血反吐を吐き、何一つ滅ぼすのにのた打ち回る」



魔王「それでいて自由を得、楽を知り、満ち足りているのが我には許せん」



魔王「我より弱いくせに、我より脆いくせに、我より矮小なくせに」



魔王「我は……貴様ら生命在る者共が大嫌いだ」



魔王「だから滅ぼす。嫌悪する存在がのた打ち回る様は我が心を満たす。故に死に逝くものこそ美しいのだ……」





勇者「……違う」



魔王「……何だと?」

勇者「あの人は……貴方は、『貴方達』は大好きだった」

魔王「…………」




勇者「愛していた、抱きしめたかった、恋焦がれていた」


勇者「人と歩み寄る自然を、共に生きる世界を、巡る命を、輪をつくり愛し合う人達を」

勇者「力も無く、知恵も無く、限りがあって、不安定で、作物一つ作るのに汗を流して、死が訪れる度に涙を流して」



勇者「不自由で、苦しくて、満たされないけど」



勇者「それでも強くて、逞しくて、どこまでも広大で」



勇者「だからこそ愛せるの」



勇者「だからこそ尊いの、限り在るものこそ、死に逝くこそ美しいから」




~~~~~~~~~~



『なんにせよ、自分は礼儀を知らないわけではない』

『強制的に当て嵌められた『役割』の為であっても、戦士として自分に挑んできた勇者達には礼儀を持って相手をした』

『ならばこれらにもそれ相応の礼儀を持って報いるのが魔王たる者の在り方である』

魔王『…………『いただきます』』



~~~~~~~~~~



勇者『それが豊かさ、というものよ』

魔王『豊かだと?人間の言うそれは財の有る無しでは無いのか?』

勇者『単純に生きるためもある。けれどおいしいものを食べると心が豊かになる。本当の意味で『いただきます』を言えるようになる』

魔王『粗食に準じるのが貴様等の美徳と聞いた』

勇者『それもその豊かさの為、貧しい食を知ってこそ、食卓に料理が並ぶことの尊さを学ぶことができる、どちらが欠けても豊かとは言えない』

魔王『ほう、少し面白い』



~~~~~~~~~~




魔王「黙れ……」

勇者「そんなにまで世界を憎んだ貴方が、必死になって歩み寄った」

魔王「黙れと言っている!!」

勇者「世界の中で喜びを見つけ、世界と絆をつくろうとした」




~~~~~~~~~~



魔王『やはりか、我はこのように甘く柔らかなものを食したことが無い、言え、これは毒で、貴様は我を殺さんとしたのであろう』

勇者『……気に入ったの?』

魔王『…………毒ではないのか?』

勇者『フフッ……おいしい』

魔王『いや、しかし……』

勇者『食べないの?なら……』

魔王『ならぬ』



~~~~~~~~~~




魔王『今日より貴様は『ヨミ』と名乗るがいい、古の神、宵闇の神の名を冠するのだ』



ニャーン……



魔王『………………フフッ』



~~~~~~~~~~




魔王「黙れええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」



勇者「自分が『そうでない』のに『殺される為に産まれた』のに」

勇者「自分とは真逆なものを理解して愛そうとした」





勇者「貴方こそ本当の勇者だ」





魔王「我は……っ我は違う……っ!貴様等が憎い、妬ましい!滅びよ!それこそが我が望みだ!!」



勇者「今日の貴方は、少し、変……」



魔王「黙れっ!黙れっ!黙れええええぇぇぇっっ!!!!」



勇者「ハラペコで、甘党で、素直じゃない、いつもの、ほうが……良い」



魔王「憎いっ!貴様等皆呪われろっ!殺してやる!滅んでしまえ!!」





勇者「……そんなっ……貴方が……大好きだっ」





魔王「もう良い!我を惑わす淫売めが!亜空の海に消えるが良いっ!!!!」



《亜空転移》






勇者「お願い……自分で創った自分なんかに、敗けないで」





・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



今日はここまで。


次回完結かなぁ・・・
魔王様マジヒロイン

>>359 完結はもう少し先です。結構気になっている人がいるようなのでお知らせを。
それでダレなければ良いんだけど、よければお付き合いください。

>>352 訂正

勇者「だからこそ尊いの、限り在るものこそ、死に逝くこそ美しいから」→×

勇者「だからこそ尊いの、限り在るものこそ、死に逝くものこそ美しいから」→○



よりにもよって……興を削いで申し訳ない。



菌糸王『『『さにあらば、私は王として、生命在る者として、全霊を以って貴方を殺すまでです』』』


獣王『我等は最後の一体となっても抗い、戦い往くまで』


機械王『貴方ノ愉悦ヤ、或イハ別ノ感情ノ為ニ今回ノ結末ニナッタノデアッテモ私ハ責メナイ。重要ナノハ『個』トシテ在ル事ダカラダ』


妖精王『だからせめて……なるたけアンタにとって胸糞悪いヤツになって死にたいな。けどね、最後まで抵抗はさせてもらうよ?それが生命ってもんさ』





・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・




魔王「否、否、否ッ!我は我であるッ!万物の破壊者、魔王であるッ!!」



勇者「違う、貴方は真の勇者。自分の宿命と向き合い、それでも戦い続けた本当の戦士」

魔王「これで終わりだッ!!我の眼前より消えて失せろ勇者ァッ!!」

勇者「…………ッ」



きつく目を閉じ、涙を流す女の姿に一層心が乱れる。


何故だ、今更この女に何を思う。

消えよ、さすればその妄言も二度と我には届かぬ。
消えよ、さすればその忌々しい眼も我には視えぬ。
消えよ、さすれば我の心は乱れぬ。



勇者「戦うの……10010001110…抗って…010000100…最後ま…101000010…で……」



消えよ、さすれば我は……





*************



《 ???? 》




1010001101000010010011010010001111000010000101000100100011101010000100101010000


勇者「……ここは?」


1000111010100000101010001101000010010011010010001111000010000101000110100001001



勇者「この数字は……もしかしてこれが『そうであるもの』と『そうでないもの』?」

勇者「なにか見える……あれは……!」




……1010001001000111010100001001010100001001001



ニャーン……


魔王『ヨミよ、我を許せ……』

魔王『これしかないのだ、我が死ねば全てに決着が付く。それがこの世界なのだ』

魔王『我のみが滅びようとも世界の巡る命はそのままである、全ての繁栄が未来にある』

魔王『だが、我は自決を許されぬ……出来ぬのだ』



……1010100001001001101000100100011101010000010



魔王『眷属の恨みと怒りはやがて弾けよう、その時、神はこの星を放棄するであろう』

魔王『その前に決着をつけねばならん、その時、世界は終わりを迎えるのだ』

魔王『我が滅ぼさずとも……『光の一筋も差さぬ暗闇の世界になる』』

魔王『それが幕引きとなってしまうのだ』




……1010001101000010010011010010001111000010000



魔王『そうはさせぬ……その前にアレに、あの女に我を滅ぼさせるのだ』

魔王『神の望む舞台を整えるには、我は城にて待ち望まねばならぬ。その為に、配下共を皆殺しにするは……』

魔王『我としたことが……今は心苦しく思う……』


ニャーン……



……1010001001000111010100001001010100001001001



魔王『『勇者が、魔王を討つ』のだ、それでこの星は生き残る、『そうなっている』のだ、それが皆の望む世界なのだ』

魔王『あの女も、我が配下も、誰も死なせぬ』

魔王『その為に、貴様に術式を書き込む』




……1010100001001001101000100100011101010000010



魔王『この術式はこの世界で我のみが詠唱できる、この世界の根源である。その有様は……『機械仕掛けの神』とはよく言ったものである』

魔王『我が滅べば配下の者は皆復活するよう、貴様に術式を書き込んだ』

魔王『アレ等が再び目覚めた時、アレ等は我に操られていたということになる。それで良い、アヤツ等ならば、我亡き後、人間共に陵辱されることはあるまい』

魔王『そして、あの女が勇者ならば……あの者共が過去に受けた恥辱を再び迎えることも無いであろう』



……1010100001001001101000100100011101010000010



魔王『問題はあの女が我が意図に気付いた時よ』

魔王『己に《思考操作》をかける愚か者は後にも先にも我だけであろう。玉座の間にて、我があの女と会う時、我は我で無くなる』

魔王『さすればアレも我に対し、全霊を以って挑むであろう』




……1010001101000010010011010010001111000010000



ニャーン、ニャーン


魔王『わがままを言うでない、貴様は我が忠実なる下僕であろうが』

魔王『……おそらくそれでもアレが我に勝つことは叶うまい』

魔王『なれば、その時は……貴様が我自身の楔となるのだ』

魔王『やもすれば……我は、貴様を、殺すかもしれん……』



……1010100001001001101000100100011101010000010



魔王『よいな、ヨミよ。我が忠実なる、愛すべき下僕よ』

魔王『案ずるな、貴様は魔王軍最強の存在である』

魔王『頼む……』




1010001101000010010011010010001111000010000101000100100011101010000100101010000



魔王『我が…………ぃ、した世界を』



1000111010100000101010001101000010010011010010001111000010000101000110100001001





勇者「貴方は馬鹿…………本当に、馬鹿っ」




1000111010100000101010001101000010010011010010001111000010000101000110100001001




*************



にゃーん……


魔王「……畜生か?どこより出でた?」


にゃーん、にゃーん


魔王「……汚らわしい、擦り寄るな畜生めが」


にゃーん、にゃーん


魔王「…………消えよ」



何故か酷く不快である。

肉塊へと変じさせるべく、術式を編む。

では消えよ。



《      》




魔王「うむ?」



失敗?有り得ない、この我が詠唱失敗など、これはむしろ《散漫》の術式、それもかなり高度の……



にゃー……1010100001001001101000100100011101010000010


魔王「ッ!?貴様!何故その呪文を!?」


その直後である、ガラスを破砕したような甲高い音、そしてその上に何者かが降り立つ音。



勇者「ッ!!」

魔王「なん……!」



何故だ、事象を操った創造神の勇者ですらこの術式の前に消し飛んだ。
生物が適応できるものではない、この世界の在り方に干渉する術である。



魔王「貴様、いかなる術を持って!?」

勇者「………………このっ!」



魔王「ッ!?」

勇者「大馬鹿ァッ!!!!」



女の眼に宿る黄金の炎がより一層輝く、その一瞬後。

不可避、不可視、何が起こった、何故、我は地を這っているのか、何故血を吐いているのか。頭上からか?叩き伏せられたのか?



魔王「ぐ、お、おお……」

勇者「立てッ!!中にいるその人ごと殴ってやるッ!!」

魔王「人間がっ、図に……!」

勇者「フンッ!!」

魔王「ガハッ!!」



直ちに報復する為立ち上がろうとするところを蹴り上げられ、そのままたたらを踏む。

力が抜ける。

この我が崩壊を迎えようとしている。



魔王「《鎧》よ!」


ことにおいては形振りも構ってはおられぬ、一度脱ぎ捨てた絶対防御を再び纏う。

しかし、



にゃー……1101000010010011010010001111000010



一瞬に霧散する。



魔王「なんだと!?これは《武装かいじ》……ッ!?」

勇者「シッ!!」

魔王「ゴッ!?」



首から上が消し飛んだような錯覚、最早、音すら聴こえない、拳圧で背後の石床がめくれる様を我が知覚しているのはどういうわけだ。



魔王「き、さま……貴様ァッ!!」



存在を消滅させてやる。存在事実から消し飛ばしてやる。

どこより対抗呪文が、その理由は一つしか思い当たらぬ。




魔王「畜生めが……っ!畜生めがぁっ!!」



勇者どころではない、我に匹敵するするほどの呪文の使い手が、真の脅威が目の前にいる。

何故か、新手の神の刺客であるか、あるいは神そのものか、この間にもあの女は我に迫り来る、どうする、いかにしてこやつ等を殺す。



勇者「貴方はヨミに手は出せない、彼女は魔王軍最強の存在、貴方が言っていたこと」



『 ヨ ミ 』

古き神の名。宵闇を、深淵なる夜を支配する神の名。

しかし、我には、それ以上に、何かを、感じて。



魔王「左様なことは無い……あるはずが無い!!」





殺す、滅ぼす、あってはならない、貴様もこの女と同じだ、理解した、我を惑わす、我を無防備とする最も危ぶむべき存在である。



死ね、死ねしね、しねしねしねしねし1110101011000000010101010101010110001


にゃーん……10010011010010001111000010



《塵化》


《散漫》



互いに高高度の密度で編みこまれた術式が発現する。
掌より射出される《塵化》の呪いをその先から分散させる『ヨミ』の術式、しかし我の呪文がより密度が高い。押している。


殺す、コヤツだけは。
例えこの隙を勇者に狙われ、首を刎ねられようと、心臓をもがれようと、コヤツだけは殺さねばならん。




勇者「ヨミッ!!」



にゃーん……0101011000000010……今ぞ……10101010101……やれ……0110001



勇者「ッ!!」



0101011000……我の首を……000010……それで……1010101010101……全て……が……10001001010101010101



勇者「…………馬鹿っ」



101000110……早く……100001……ヨミを……001001101……頼む……00100011110



勇者「馬鹿ァッ!!!!」



110101000001010100……最後に……01101000……プリン……が……010010011010010……心残り……0011110000100001……である……01000110100001001001101





*************




魔王「…………む?」




何故、我は意識がある。

何故、我は生きている。



にゃーん、にゃーん


魔王「……ヨミ?」






瞬間、背筋が凍る。





我に意識があるということは。

我が生きているということは。








勇者「ハ……ッ……カ、ハ……ッ」






苦悶の顔を浮かべ、眼前でのたうつ女。


受けたのか、我の呪文を、遮ったのか、《塵化》であるぞ。再生を無視し、万物を塵と変える術式ぞ。





魔王「この……馬鹿者がァッ!!」





我は、しくじったのだ。





*************

おきのどくですが ぼうけんのしょ 3ばんは きえてしまいました。

*************

キリです。




*************



《 数日後 勇者の家 》



魔王「1010110000101010……やはりか、間に合わぬ」



世界の行く末を見通す、否、正確には見通すことが出来ない。

あの女が死ねば、直ちに世界は終末の時を迎える。
帳がかかったようにその先が見えぬ、もしくはその帳のような闇こそがこの世界の結末である。


世界は、巡る命はあと数刻もせぬうちに潰えることとなる。

即ち、それがアヤツの寿命である。



魔王「……時間であるか」



術式を中断し、小屋に入る。

大した広さでもない、質素なつくりの家であるが、少しずつ増築したのであろうこの家にも寝室はある。
断りを入れず入室する我を疎んじてあの女が設けたものだ。


しかし我が向かうはその寝室ではない。

ここ数日で立ち入るようになった台所である。



魔王「ふむ、消し炭にするのであれば容易いことであるが、この火加減を覚えるに、この我がここまで時間を要するとはな」



我の目の先、手鍋で煮込まれるのは『ミルク粥』なるもの。

ヨミの食事を我が手ずから用意するため覚えた唯一の料理である。
気まぐれに我も食してみたことがあったが、その味は素朴ながらも溶け込むような味わいであった。



魔王「入るぞ」



ミルク粥を注いだ器を持ち、勇者が寝室を用意した後にするようになった断りをいれ、寝室に入る。



そこには寝台で勇者が横たわっている。

普段の凛然とした様子は見る限りもなく、見るからに弱っている。
苦痛を感じていないのは幸いか、否、我にはそれしか出来なかった。



勇者「どう、だった?」

魔王「ふむ、芳しくは無い。それより食らうが良い、我、手ずからの一品である、恐れ多いであろう」

勇者「そう……ありがとう、いただきます」



《塵化》で即死しなかったのは、この女が受けた恩恵の賜物であろう。

しかし限度がある、呪文の効果は刻一刻と勇者の体を蝕んでいる。
最早、たたかう事も相成らぬ、死を待つのみ、後僅かな時の後、この女は塵と消える。

我にはそれが言えなかった。


魔王「…………」

勇者「……おいしい」

魔王「体力をつけるのだ」

勇者「それは、私が死ねば世界が終わるから?」

魔王「……我を怒らせてどうするつもりだ?」

勇者「なんでもない……冗談よ」

魔王「冗談だと?……何故、あのような真似をした?」

勇者「…………」

魔王「答えよ、この世界の、貴様の、ヨミの、そして我自身の滅びも関わっているのだ」

勇者「…………私の」

魔王「貴様の?」




勇者「ワガママ」



魔王「なんだと?」

勇者「多分、あそこで貴方を殺していたら、私はきっと死にたくなる」

魔王「何を言う、貴様は何としてでも生き抜くのではなかったか」


勇者「そうね、そして……『それでも悩む』の、それが人間、そして魔族も」


魔王「我等が眷属はそのような愚かな真似はしない」

勇者「そう?では私も貴方に、何故あんな事をしたか聴いてもいいの?」

魔王「…………チッ」

勇者「貴方は自分が生き残っても、世界が滅んだのであれば死にたくなる。だからあんな事をした」


魔王「馬鹿な、貴様我をなんだと」

勇者「大切な人」

魔王「何?」

勇者「追放された私を迎え入れてくれて、食事を共にしてくれて、一緒に祭りを楽しんで、私が生きることを望んでくれた大切な人」

魔王「……ただの結果である」

勇者「初めは解らなかった、むしろ嫌なヤツだと思っていた」

魔王「当然である、己と我の立場を考えてみよ」

勇者「そんなものが私に関係ないことは知っているはず」

魔王「む……」

勇者「けど、話していくうち、そうじゃないって解った。孤独な人、けど、自分から変わろうとした勇気のある人、追放されて、逃げた私とは違う」


魔王「逃げることも戦うことの一つだ。出来ぬものを愚者と言う」

勇者「そう、貴方はそんなことが言えるほどに変わった、気付いてなかったの?」

魔王「……フン」

勇者「そう言ってくれたのは嬉しい、けど、やっぱり逃げたことには違いないわ。私は宿命に、この力から逃げたの」



この勇者が弱音を吐いたのは初めて見た。

恩恵の力が発現せぬほどに弱っているのか、いつもの草花は見えない。

その姿が痛ましい。



勇者「貴方は私の憧れ、だから大切な人よ」

魔王「……そうか」


勇者「ゴホッ!ゴホッ、ゴホッ!」

魔王「喋り過ぎたか、もう良い、横になるが良い」

勇者「ゴホッ!……フフッ」

魔王「何を笑う?」

勇者「今日の、最近の貴方は少し変、けど……」

魔王「…………」

勇者「とても優しい、その方が良いと思う」

魔王「馬鹿を申すな、我は魔王なるぞ」

勇者「そうね、いつもハラペコで、甘いモノが大好きで、素直じゃない、そして優しい魔王様」

魔王「……そうか」



勇者「ねえ」


魔王「なんだ?」


勇者「なんでもない」


魔王「そうか」


勇者「そうね」


魔王「…………死ぬな」


勇者「…………死にたくないよ」


魔王「貴様はこの世界の希望であろう」


勇者「そうらしいわね」


魔王「ならば死ぬな、生きよ」


勇者「世界の為とか……そんなこと考えたことは無い」

魔王「なんだと?」

勇者「私は、私の為に生きている。どんな生き物もそれは変わらない。人間だけが、それを歪めている」

魔王「何を申すか、貴様、己が何をしたか解って言っておるのか」

勇者「解っているわ」

魔王「否である、では何故貴様はここで死のうとしている」

勇者「貴方が生きていることが、私に必要だったから」

魔王「な…………」

勇者「私は貴方に恋をしているのだろうか?」

魔王「知らん、が、我も一度はそうかと思った」

勇者「…………あの祭りの時?」

魔王「そうだ、だが違った、それは我等の有り様があまりにも違いすぎるからであろう」


勇者「そう」

魔王「そうだ」

勇者「なら、私は」

魔王「なんだ?」

勇者「次に産まれるときは、魔族になりたいかもしれない」

魔王「奇遇であるな、我とて……」

勇者「知ってるわ」

魔王「なんだと?」

勇者「貴方が生命に、世界に恋をしていたことは知っていた」

魔王「…………」

勇者「そして今はそれを隠さない貴方を、やはり私は好ましいと思う」



魔王「…………死ぬな」

勇者「……死にたくない」



魔王「我には貴様が必要である、世界の希望とならぬとも構わぬ、我の一人の希望となれ」

勇者「それは……」

魔王「我は貴様等が憎かった、嫉んでいた。貴様等、勇者の眼に宿るその炎、『生きることを決意した証』を心底忌み嫌っていた」

勇者「…………」



魔王「やがて恋焦がれた、我もああでありたいと、貴様等と一つになりたいと、口では言わず、心も閉ざした、だが結果はこの通りである。生娘のように貴様等を想い、身を投げ出してもそれでよいと、そうとすら思えた」


魔王「しかし、我は所詮『役割』に振り回された操り人形である、運命に抗い続ける貴様等ほど強くなかったのだ」


魔王「滅びを迎えようとしてるのに……我には、『そういうものだ』と、諦めしか浮かばぬのだ。生きよ、そして我を導け、この世界で、我は生きていけぬ」






勇者「……戦って」




魔王「何だと?」

勇者「戦うの」

魔王「戦うだと?何と戦うというのだ?滅びは一方的にやってくる、世界の在り方が、無へと変ずるのだぞ?」

勇者「私が亜空間でみた『0』と『1』に関係のあること?」

魔王「そうだ、そしてそれすら消える、誰も、何も知覚できない世界だ」

勇者「でも貴方には出来ることがあるはず」

魔王「我に出来ることなどたかが知れておる、多少ならば干渉できると、いつかそう言ったであろう」

勇者「でもそれは貴方の手に武器が握られているということ」

魔王「我には……我には……」


勇者「世界が消えてなくなるなら、貴方が創りなおせばいい」

魔王「貴様、我に神になれというのか?」

勇者「神様よりすごい人になるの」

魔王「そのような理はない、そしてそれすら神の手の内である」

勇者「そんなことは無い、だとしてもその人たちはこの世界の滅びを願っているわけが無い」

魔王「ならば何故こんなに我は苦しい?それは神共が我ののたうつ様をみて愉悦に浸っているからであろう?」


勇者「いいえ、戦って乗り越えることが、例え背を見せても抗い続けることが、生きることがどれだけ美しいかを知っている人達、だからこそ、その人たちは私達を見て満たされる」


魔王「制御された世界をか?無益なり、そして貴様等はなんとする?神の意図の元、箱庭で家畜同然に生きると申すか?それが神共が願う幸福と申すか」



勇者「本当にそう思っているの?」



魔王「何……?」

勇者「この星の全ての生き物が、神様の思い通りに動いているなんて本当にそう思っているの?」

魔王「事実であろう」

勇者「そうは思わない。私達は抗い、進化を続けた、その全てが意図の基につくられたなんてそれこそ無意味、箱庭遊びと同じよ」

魔王「しかし」

勇者「神様は自分の中の何かを満たしたいからこの世界を創った。そう言ったのは貴方。そして結果の知れた遊戯を楽しむ人はいない」

魔王「妄言である」



勇者「土や水にどれだけの小さな命があるか、どんな関係を結んでいるかなんて、きっと神様だって目を廻すくらいの規模。もしかしたら知らない存在だっているかもしれない」


魔王「左様なことがわかるものか」

勇者「貴方だって魔王なのに、魔族の事で知らないことがたくさんあったじゃないか。同じこと、私達は自分の意思で、自分達の為に生きている」

魔王「む……」

勇者「だからきっとなんとか出来るはず、世界の全てが神様の思い通りになっているなんておかしいこと」

魔王「我に……左様なことが……」



勇者「私の眼に炎が宿っていると、『生きることを決意した証』が燃えていると貴方は言った、私には、貴方の眼にもそれが宿っているのが見える」


魔王「……我にもだと?」




勇者「静かな、でも赤い炎より更に熱い蒼の炎」

勇者「戦うの、抗って、最後まで、血の一滴まで」





勇者「私達はみんな、戦士、そして勇者だ」




勇者「それが世界中にいるんだ」




勇者「神様にだって敗けるものか」




今日はここまで。まさかここまで長くなるとは、>>67の頃には明日か明後日とか言ってたのに。

いつもレスありがとうございます。最後まで頑張る。


魔王「…………」

勇者「…………」

魔王「フン、貴様のその大言壮語も聴き飽きたわ」

勇者「聞き飽きるくらい貴方は私に怒られている。きっと貴方は尻にしかれるタイプ」

魔王「馬鹿を申すな」

勇者「ヨミにも頭があがらない」

魔王「ヨミは我の下僕である、左様なことがあってなるものか」

勇者「でも貴方は、ヨミに食事を用意し、扉を開けて待ち、そうしてたまに撫でることが出来る」

魔王「む……」

勇者「やっぱり尻にしかれるタイプ」

魔王「婦女子が尻、尻と連呼する出ない、慎みを知れ」


勇者「人の胸の事を言う貴方に言われたくない」

魔王「む?やはり貴様」

勇者「死ね」

魔王「このタイミングでそれは止めよ」

勇者「そうね、文字通り、洒落にならない」

魔王「そして我は冗談が好かぬ」

勇者「ねえ……」

魔王「なんだ」

勇者「話をしよう、もっと、もっと、たくさん、私と貴方が会う前の話も」

魔王「……いいだろう」

勇者「たくさん、たくさん話をしよう……」







*************



魔王「なんと、そんなことがあるものか」

勇者「いいえ、残念ながらそうなの、刈りいれの時期を併せないと、一番遅い収穫時期の米は猪に狙われる、だから収穫時期が同じくらいのものにしないといけない」

魔王「獣王に話をつけるべきであったな」

勇者「フフッ、でもあの人たちも闘争をしている、そんなことは出来ない」

魔王「しかし我はその米を食してみたい、冷えても旨いとは摩訶不思議である」

勇者「そう、『サン・ライト』は至高の品種の一つ、私も長らく食べていない」

魔王「全てそれにすれば良い」

勇者「作物が病気にかかれば村は全滅する、だから色んな品種を植えるの」

魔王「成程……」



勇者「…………ねえ」


魔王「…………なんだ?」


勇者「……もう、だめみたい」


魔王「……そうか」


勇者「……そうね」


魔王「悔いはないか?」


勇者「悔しい、わ」


魔王「そうか、言え、叶えてやろう」




魔王「貴様を追放した人間を滅ぼすも、恩恵を与えた神を煉獄に投げ込むも我であれば容易いことぞ」


勇者「そんなの、いらない……」


魔王「ではなにを欲する?言うが良い」





勇者「…………赤ちゃんが、抱きたかったな……」





魔王「……そうか」




魔王「では、我の子を孕むがよい」




魔王「勇者である貴様を母体とした我の子である、この星、最強の存在となるであろう」


魔王「ふむ、そういえば貴様等は子をなせば乳を出すようになるそうではないか」


魔王「丁度良いではないか、さすればその貧相な胸も多少は膨れるのであろう」




魔王「…………」




魔王「……何故、いつものように『死ね』と言わぬ」


魔王「そこは言わねばならぬであろう」





魔王「…………」






魔王「…………忌々しい神々よ、貴様等の刺客は功をなしたぞ」



魔王「我は今ほど、自らの滅びを望んだことは無い」


魔王「誇るが良い」


~~~~~~~~~~


最後の勇者『お前には、一生わからんだろう……』


~~~~~~~~~~



最後に産まれた勇者の末期の言葉、今ならあの者が何故あのような行動をとったのかが解る。

これは衝動であるとも言える、それは原初の欲求なのだ。


物言わぬ女の唇に、この時にあっては、あの祭りの時のように何の逡巡もなく、ためらいもなく、ただ口を重ねた。そうするべきであると感じた。


万が望む絆である。



魔王「理解したとも……認めよう」



直後、『0』と『1』に分解される女の亡骸。

文字通り『塵』となるように消えて失せた。


消えたのだ、もう、あれはいないのだ。




悲嘆はある、心臓を雁字搦めにされたような痛苦も。

しかし、我の体は動く。まだ戦える。


『しんでなければ』戦える。


勇者とはそういうものだ。



魔王「勇者達よ、生きることを、戦うことを決意した、猛々しく、雄雄しい真の星の子達よ」


魔王「認めよう」


魔王「この魔王の敗北であると」


魔王「そしてこの『我』が、貴様等の物語をありのまま語ろう」


魔王「『粛々と滅びを迎え入れるなど虫でもしない』」





魔王「そうであるな?……勇者共よ」





*************

おきのどくですが ぼうけんのしょ 2ばんは きえてしまいました。

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一回キリです。今日はゆっくり投下。




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外に出れば忠実なる者達が揃っている。即ち、我の従者、そしてハナ。
いずれも何が起きたかを理解しているようであり、一様にうなだれている。

そしてヨミ、流石である、お前はこのような時でも変わらず我に擦り寄るのであるな。



魔王「大儀である」



従者「ハッ、いつでも出陣できます」


クゥーン……



魔王「…………ハナよ、貴様の主人は死んだ、今後は我に仕えるがよい」



ハッハッハッ ワンッ



魔王「従者よ、最後までよくぞ我を補佐した、我、自ら褒め置こう」


従者「勿体無きお言葉」





魔王「この家とハナの守りを任せる」



従者「ハッ!」


魔王「何……我一人で充分である」


従者「魔王様、御自らとあっては神の業などいかほどもございますまい」


魔王「ヨミよ……」


にゃーん……


魔王「貴様は、我に侍ってくれるか?」


にゃーん、にゃーん


魔王「よかろう、では、これより」






魔王「魔王軍最後の進撃である」







*************



転移の呪文にて魔界の頂上、即ち魔王城の天主より世界の果てを望む。




来おったか。




にゃーん……


魔王「心配するでない、ヨミよ」



滅びが迫り来る。


音もなく。

淡々と。

宵闇に染まるのとは違う、ただ闇が世界を埋め尽くす様。

森も、海も、川も、人も、魔も。

一つの悲鳴も上げず、一つの血も流さず。

ここ魔王城を目指し、その周囲を狭める。

そして世界は闇に閉ざされる。




そうはさせぬ。



魔王「神よ、今ぞ知るが良い」



この星に粛々と滅びを迎え入れる軟弱者はおらぬ。



魔王「戦う者こそ、歩み寄るものこそ」



我は生き抜く。戦い続けてみせる。それこそが、その有様こそが。







魔王「死に逝くものこそ美しいのだ」








指定は極大規模、『全て』である。



魔王「10100011010000100100110100100011110000100001010……」



闇の侵食が止まる。

森が、海が、川が、闇に触れる先、それを拒絶するかのように光を放ち侵食を押し返す。



魔王「11010000100100110100011010000100011110000001010……」



直ちに再構成、抵抗を反撃を繰り返す。

否、止まらぬ。

各地で術式が打ち砕かれる甲高い音が鳴り響く。



魔王「10001111000010001001101001000010011010010011010……」



だからなんだ。




その程度か神よ。


我の口はまだ動いているぞ、この星の者共は誰一人として諦めておらぬぞ。何一つとして悲嘆に暮れておらぬぞ。


知っているか、貴様が今消し飛ばした大地に、億の兆のな那由他の数を遥かに超える小さき虫共がいることを。


貴様等はそれ以下である。



このような大規模魔法を用いねば我等を滅ぼすことすらできぬようではな。

この虫共が共生を止めればその程度の滅びは直ちに訪れる。実に矮小な行為である。



魔王「11101010110000000101010101010010010011010110100……」




貴様等にはできまい、自己が生き残らんが為に、自己を滅ぼしかねぬ相手に歩み寄ることが。


貴様等にはできまい、全く別種の者と共に生き、その垣根を超えて絆を造ることが。


貴様等にはわかるまい、自己が生かされていることを自覚し、食卓に料理が並ぶことの尊さが。


貴様等にはわかるまい、傷つき、血を吐き、のたうち、それでも毒を吐き、牙を剥き、武器を持つ戦士たちの貴さが。





魔王「1010100001001001……ヨミ……10100010010001110101000001010001……」

にゃーん……



我には、我等にはそれが出来るのだ。


見たか、この懐にもぐり、震えながらも全身全霊で我に縋る者を、それでも「我がしくじるはずが無い」と、全身全霊で我を信じる我が下僕を。


これこそがその証である。


見るが良い、我はそのように創られなかったのというのに絆を得たのだ。


この絆があれば全ての者は滅びから免れる。そして絆は死なない。故に我は死なぬのだ。


羨むが良い、嫉むがよい、これこそが貴様等の求めたものであろう。恋焦がれたものであろう。



魔王「10100011010、000100、10011010010001、111000010000、1010……ッ」



貴様等の魔法は実に驚嘆するべきものである。我をして侵攻を緩やかにするが精々である、闇に奪われた生命の再構成が間に合わぬ。

だが見るが良い、知っているか、生命とは巡るものなのだ。



????「※※※※※※※※※※※※※※※※※※ーッ!!!!」



『0』と『1』の羅列に成り果てようとも戦うものはいるということだ、そしてそれがもたらす恩恵を見よ。

貴様等の奪った生命が直ちに蘇る。貴様等の力はその程度なのだ。



貴様等は知るまい、今咲き誇ったその草花の一つ一つに重要な名があり、『魔王』であることなど霞む程に重要な『役割』があるということを。

貴様等は知るまい、それら全てに、生きることを決意した炎が宿っているということを。



なんと儚い、なんと脆い、なんと尊い、なんと雄々しい。




魔王「110100……なんと……0010010011010……美しい……010001101000010……」




見よ、鬼神はおろか、魔王たる我をして涙を流させる。



これが世界である。我等である。





今ならば、貴様等が我等の何を見て、何が満たされるのかが解る。

それならば、我が思うとおりであるのなら、感謝してもよい、祈ってやっても良い。



魔王「10001、1110、00010、01001100110100、00100100001、000、01000……ッ」



食卓を前に……11010110……した時、『いただきます』をする時、貴様……11010101000……等を思ってや……10101000101……らぬ事も無い。

魔王たる……10110……この我が……01101……祈るのである……






少し、面白い。






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おきのどくですが ぼうけんのしょ 1ばんは きえてしまいました。

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キリ、夜には戻ると思います。


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   はじめから

   つづきから








ニア つよくてニューゲーム

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むかし、むかし せかいがまだおわりをくりかえしていたころ。

ひとのはいれない ふかいもり に わるい まおう が すんでいました。


おんなの まおう でした。


まおう は とてもちからがつよく たくさんの まほう を つかえ

とてもつよい めしつかい たちをしたがえていました。

まおう は いつも わるいことをしていました。


たくさんの ひと を ころし。

たくさんの くに を ほろぼし。

たくさんの いのち を おもちゃにしました。


おおくの ゆうしゃ たちが、 まおう に たたかい を いどみました。


けれど まおう は とてもつよかったので おおくの ゆうしゃ たちをころしてしまいました。



そして、さいごの ゆうしゃ もまた、 まおう のまえにたったのでした。






「ぼくは たたかう き はないよ」


さいごの ゆうしゃ は そう、いいました。


「おくびょうものめ わたし が こわいのだろう」


まおう は おどかしました。


「きみなんかこわくない でも ぼく は、 きみ と ごはん が たべたいだけなんだ」


そんなことを いう ゆうしゃ は はじめてで、 まおう は びっくりしました。



「これ を たべてごらん、あまくておいしいよ」


それは まおう が みたこともないたべものでした。



きいろいきじ に、

おうごんのみつ が かかった、

とても やわらかくて あまい たべもの でした。



「おいしい おいしい」


まおう は かんげきして あっというまにそれをたいらげました。



「もうないのか だせ でないと おまえをころしてしまうぞ」


まおう は ゆうしゃ を おどしました。


「こら たべるまえには『いただきます』 たべたあとは『ごちそうさま』をいわないとだめだ」


ゆうしゃ は はっきり いいました。


びっくりした のは まおう です。


いままで おこられたことなんてありません。

けど まおう は また あの きいろいおかし が たべたかったので いうこと を ききました。



「そうだよ たべたものたちに かんしゃ するんだ」

「なぜだ」

「ぼくたちは そのおかげでいきていられるんだ」



ゆうしゃ の はなしに まおう は むちゅうに なりました。



そしてしりました。



この せかい で どれだけ じぶん が ちいさいか。

この せかい は どれだけ うつくしいか。



そして じぶん だけが その なかま ではないということを。



まおう は かなしくて なみだ を ながしました。うまれてはじめてないたのです。

>>452 訂正 差し替え


「そうだよ たべたものたちに かんしゃ するんだ」

「なぜだ」

「ぼくたちは そのおかげでいきていられるんだ」

「すこし おもしろい つづけろ」



ゆうしゃ の はなしに まおう は むちゅうに なりました。



そしてしりました。



この せかい で どれだけ じぶん が ちいさいか。

この せかい は どれだけ うつくしいか。



そして じぶん だけが その なかま ではないということを。



まおう は かなしくて なみだ を ながしました。うまれてはじめてないたのです。




「なかなくていいよ」


「でも わたし は なかま はずれだ それに たくさん の いのち を ころした」


「いのち は よみがえる」


「そんなこと が あるものか」


「せかい が おわらないかぎり いのち は よみがえるんだ」




やがて まおう は ゆうしゃ に こい を しました。


やがて まおう は せかい に こい を しました。



やがて ゆうしゃ との あいだに こども を うみました。



こども は そだち かみさま と なりました。



そして おわり を くりかえす せかい が おわり、

せかい の きせつ は めぐるようになり、



えいえん に つづく せかい が できたのです。




*************


まずい……


どういうことだ、何故誰も戦わない……


それに、強すぎる……今回の魔王……


破壊神の創った勇者ですら魔王についてしまった……


神が創りだせる勇者は一柱につき一人……


後、残っているのは……


生命の……豊穣の……


ダメだな……


ああ、ダメだ……アイツはまるで戦えない……


この世界は終わり……


我々は巡る命を……


ああ、見捨てざるをえない……


見ろ、ただの少女だ……


*************




*************



《 魔王城 》



???「此度の勇者も無事にこちらについたか」

????「魔王様御自らの誘いとあっては……」

???「神共や人間の王がああまで嫌われているとは」

????「銅の剣と薬草のみを持たされ、大義すらない遠征を強制されれば当然でありましょうや」

???「そんなことより……」

????「は……」



???「つまらない」

????「は、それではなにか余興を……」



???「そうではない、これを見よ、勇者共が持ち込んだこの絵本だ」

????「…………ッ」


???「……我が」

????「……ッ……ッ」





魔王「何故、女となっておるのか」



従者「……ッ!……ッ!……ッ!」



魔王「……貴様、よもや我を嗤っておるのか?」

従者「申し……ワケッ、ありま……せんッ!意味が……わかりッかね……ブフッ!」


魔王「……貴様、この数十億年で随分と変わったな」

従者「魔王様こそ……ッ!随分とッ……グッ!まさかッ……女王様に……ッ!」

魔王「殺すぞ」

従者「は、失礼いたしました」

魔王「まあ、良い」

従者「お望みと在らば、作者を探し出し、息の根を……」

魔王「止めよ、この伝承のお陰で勇者共を懐柔できたのだ」

従者「訪れた男の勇者共は求婚するつもりであったようですが」

魔王「殺すぞ」

従者「は、失礼いたしました」



魔王「維持の勇者はどうしておる?」

従者「魔界に張り巡らせた結界の維持の任に当たっています。付近の魔族との軋轢もないようです」

魔王「僻地勤務は『おきのどくですが』というやつだな」

従者「本人は充実しているようです」


魔王「だが人の心とは弱き者、定期的に人里への一時帰還を奨めよ、必要なら我が直接言おう。創造の神はどうであった?」


従者「凄まじい勢いで開墾を進めております。しかし農作業自体は難しくあるらしく行き詰まっているようです」


魔王「他の領域を害することなかれと厳に伝えよ、農耕は他の生物あってのことなれば、自身の埒外を創造することは叶わぬか、特に『虫』には苦労させられるであろう」


従者「他の勇者の補佐もあります。きっと叶いましょう」


魔王「……貴様、この数十億年で随分と変わったな」

従者「……恐れながら魔王様もお変わりになられあそばしました」

魔王「……後は、どの神が造った勇者いる」

従者「……他は末端の神々でありますならば……されど、全てが我等の下へ集っています」

魔王「……そうか」

従者「は……『あの者』以外」

魔王「……そうか」


ワンッ ワンッ ワンッ ワンッ


従者「ハナ、どうした?」

魔王「…………来たか」







***********



謁見の間の大扉を抜け悠然と歩いてくる女を認め、自分の眼が見開かれるのを自覚する。魔王たる自分が、童の如く待ちわびていたその姿が眼前にある。

悠久とも思える時を過ごし、その時が遂に来た。



相変わらず、剣すら佩いていない。
だが知っているぞ、その拳は万を叩き伏せることを。

相変わらず、腕の一振りで周囲を更地にしかねぬ武威もない。
だが知っているぞ、一度『たたかう』ことを選択すれば、更地は愚か消滅することを。

相変わらず、魔力も感じられない。
だが知っているぞ、精霊を従える者にそんなものが必要ないことを。

相変わらず、絆を証明する供はいない。
だが知っているぞ、貴様は誰よりもこの世界と深い絆を持っていることを。



魔王「……こんにちは、勇者殿、私がこの城の主だ」



我はこの者が勇者だと知っている。




そして、遠き昔のあの時を繰り返す、そうしてこそ、あの時に戻れるのだ。


陽光の如く光を放つ金の髪。

月光の如く浮き出る肌。

神が与えた『生命』の恩恵の下、足元で無限の生と死を繰り返す数多の草花。



勇者「……こんにちは」



そして、何度見ても我の心を捉えて離さぬ、眼に宿り揺らめく美しき黄金の炎。

敵は無く、四肢が朽ちようと歩み寄ることを、理解することを選んだ者の瞳。

『英雄』でなく、『勇者』であるその本質。そしてだからこそ。



魔王「会いたかった……」




勇者「いきなりね」

魔王「……『貴様の前』にきた勇者に恋焦がれておってな、それが貴様に似ていたのだ」



そう、だがコヤツはあの女ではない。

我が創りなおした、一巡した世界の、また別の誰かである。

即ちこの言葉が出たのは、我がいかに未熟であるかを知らしめるものであった。



勇者「…………」

魔王「……?何故赤くなる?」

勇者「…………なんでもない、そんなことより」

魔王「なんだ?」




勇者「魔王様は女だと思っていた」


魔王「…………」



従者「…………グッ!」

ハッハッハッハッ……

にゃーん……



おのれ、ヨミまでも、いつの間に帰ってきおったか。



魔王「そんなにその伝承は有名なのか」

勇者「そうね、お祭りもあるくらい」

魔王「ほう、少し面白い」

勇者「…………」

魔王「……?何故笑う?」


勇者「…………なんでもない、この世界の産みの親である魔王様を」

魔王「待て、その魔王様というのを止めよ」

勇者「何故だろうか?」

魔王「むずがゆくてかなわん」

勇者「この伝承は本当の事なの?」

魔王「……屈辱ではあるが、大まかにはその通りである」



従者「…………グッ!ブフッ!」

ハッハッハッハッ……

にゃーん……



貴様等、後で覚えておくが良い。






勇者「そう、ともかく私達のところでは、貴方は始原の神として崇拝される、それを盛大に称える祭りがあるわ」

勇者「それを『魔王祭』と言う」



魔王「なんだその禍々しい祭りの名は……どのように祝うのだ」

勇者「世界中であらゆる料理が振舞われる……そして人々は、意中の相手に料理を送る、そうしてカップルが生まれる」

魔王「なんだと?」


勇者「『胃袋を掴んだもの勝ち』、この話にはそういう陰の教訓がある」


魔王「う、嘘を申すな」

勇者「嘘ではない。私もたくさんもらった。ちなみに元々はプリンを送る日だった。おいしかった」

魔王「なんだと……では、貴様はそれに応えたのか?」




勇者「…………ミルク粥だったらやばかったかもしれない」




魔王「なんだと?」

勇者「なんでもない、私は応えていない。この使命もあったし」

魔王「む……やはり貴様も刺客として放たれたか?」


勇者「そうね、王様と神様はこの豊かな土地をどうしても手に入れたいみたい」

勇者「けど民衆も教会も貴方を崇拝している。だから私達が暗殺者となって送り込まれているの」


魔王「繁栄を求めるは生物の性である。罪ではない」

勇者「そうね、でもそれで破滅を呼び込むのは無知による罪、あの人たちはそれがわかっていない」

魔王「では、何ゆえ貴様はここにいる、我を殺すために来たのではないのか?」



勇者「…………された」


魔王「なんだと?」



勇者「……追放されたのよ」



魔王「……なんだと?」

勇者「……フフッ」

魔王「何故笑う?」

勇者「貴方、さっきからそればっかり」

魔王「馬鹿者、笑い事ではない、何故追放された?話の流れを聴けば、貴様が追放されるような話では無いではないか」




勇者「殴っちゃった」




魔王「…………は?」

勇者「殴っちゃった、王様も神様も、でもあの人たちでは私は殺せない。それで追放された」

魔王「…………」

一旦休憩。

ごめんなさい。今日はここまでとします。

一気にエピローグといきたいですが、後日談まで書いてたら多分終わらないので、また明日にでも。

お待たせた!!投下しますッ!


勇者「……正確に言うと、命を狙われている。刺客の人を返り討ちにするのは忍びないので逃げてきた」

魔王「大馬鹿者が、何故そんなことをした」

勇者「この侵攻の理由は土地が足りないからではない」

魔王「ほう、何故か?」


勇者「人間の領域は荒れている。無計画な森林伐採、無秩序な工業生産、全部自業自得」

勇者「神様も神様、それで自分を崇める人間がいずれ滅びるかもしれないからといって、自分の産みの親を殺そうとするだなんて許せない」


魔王「だから殴ったのか?」

勇者「殴った、しこたま」

魔王「無計画で無秩序なのは貴様であろうが」


勇者「どうしても許せなかった」

魔王「……それは何故だ」



勇者「……私の知る貴方はこの世界にいないと諦めていたけど」



魔王「…………何?」



勇者「貴方が出した回答を継いだ人を傷つけるなんて、私には見過ごせない。そう思ったの」



魔王「…………貴様、何故」




勇者「……本当に、本当に、久しぶり」




魔王「馬鹿な、何故、記憶が」




勇者「少し……痩せた?」




魔王「………………」


勇者「本当に、世界を創りなおしたのね……」

魔王「……そうだ、今、この時が、再び訪れるよう、戦い続けたのだ」

勇者「つらくなかった?」

魔王「……もう時を数えるのも億劫である。四十億年だぞ?」

勇者「それでも戦い続けた」

魔王「ヨミも、従者も、ハナもだ」

勇者「みんなあの時のまま」

魔王「体だけはな、存在は既に高次のモノだ。我に付き合ってくれると、本当に無理をさせた……」

勇者「皆、久しぶり」



従者「……息災のようでなによりだ」


ワンッ!ワンッ!クゥーン!クゥーン!


にゃー……


魔王「コヤツ等は最早、神の領域である、ヨミとハナなど、獣王共に崇められている」

勇者「そう……みんな、変わったのね」

魔王「貴様は……何故変わっていない?」


勇者「よくわからない、けど……こうして産まれた」


魔王「何?」


勇者「魔界で過ごした記憶と、経験したこと、その記憶だけ引き継いで最初からやり直していた」


魔王「…………」


勇者「でも、世界も、周りで起こったことも少しずつ違っていて、ここは私の知る、貴方がいる世界では無いと思っていた」

魔王「……何故だ?」

勇者「魔王様の伝説。そしてその伝説では魔王は女。この世界に貴方はいないものと思っていた」

魔王「む……」

勇者「もしかして、私達は未だにあの世界を壊した神様の……」



魔王「……ふむ、少し面白い」



勇者「え……?」

魔王「『あの』神共がどうこうしたとは考えづらい。最早、この世界は外の神より放たれている。我が創りなおした故な」

勇者「でも、こんなこと、神様以外じゃ」




魔王「つまり……我は、しくじったらしい」





勇者「……どういうこと?」

魔王「我は貴様の誕生を待ち、巡る命の中で再びまみえようとしていた、それがあるべき姿であると」

勇者「……否定しないわ」



魔王「……そっくりそのまま、再生させてしまったらしい」



勇者「…………え?」




魔王「つまりだな、その、我の中で貴様は、その容姿では無く、有り様であるとか、我との出来事であるとか、その記憶を下に……」

勇者「よくわからない、ハッキリと言って欲しい」

魔王「つまりだ……貴様は新たに生まれたのでなく、有体に言えば……」

勇者「?」


従者「察しの悪い女だ、つまり魔王様は貴様に会いたくて貴様の体を復元させてみたら、うっかり記憶まで……」



魔王「 従 者 ッ !! 」



従者「ハハッ!」

魔王「控えるならばそのニヤケ顔を止めよ、貴様、本当に良い性格になったな」

勇者「で……そんなことが出来るの?」


魔王「…………出来る」

勇者「…………どうして?」


魔王「我を創った神はひねくれ者だったらしい、『役割』が終わった途端、我に不可能なことは無くなった」


勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「…………フフッ」

魔王「……笑うが良い、滑稽であろう」

勇者「いいえ、可愛くなったと」

魔王「何を言うか」

勇者「そういえば最初から可愛かったかもしれない」

魔王「何を言うか」

勇者「なにせ女の魔王として伝わるくらい」

魔王「それを言うならば貴様は男として描かれているわけであるが」

勇者「……きっと貴方が女々しいから、とって変わることに」

魔王「その貧相な胸が男と捉えられたのでは」

勇者「死ね」

魔王「死なぬ」


勇者「ずるい……これでは私はいずれ貴方達を置いて死んでしまう」


魔王「今、この時より違う」


勇者「…………え?」


魔王「良いな?ヨミ、従者、ハナよ」



従者「魔王様の決定に逆らうはずもございません」

ワンッ!

にゃーん……



魔王「良きかな、では……11101010110001100……」

勇者「……え?」



対象は我等、術式は呪い。



《堕天》



勇者「なにをしたの?」

魔王「……これで我等も巡る生命である、下僕共は元の鞘に納まったわけであるが」

勇者「どういうこと?」

魔王「これから緩やかに老いていくのだ」

勇者「どうしてそんな事を……」

魔王「決まっているであろう」

勇者「…………」





魔王「死に逝くものこそ美しいからである」





勇者「…………っ」



勇者「…………っ」


魔王「何を泣くことがある」


勇者「貴方は、変わったと、思っていた……」


魔王「…………」



勇者「けど、何も変わっていなかった……それがっ、嬉しくて、とても美しいと……」



魔王「…………さて」


勇者「…………え?」


魔王「一つ言っておかねばならないことがある」


勇者「……聴くわ」


魔王「通例でな?」


勇者「そう……」




魔王「……勇者よ、何ゆえもがき生きるのか?」



勇者「……貴方と出会って、貴方と生きるため」



魔王「っ……滅びこそが我が喜び、死に逝くものこそ美しい」



勇者「……いずれ来るその時に、貴方と共に死ねるならそれこそが私の喜び、そして……その通り、その通りだ」



魔王「…………」



勇者「私は……貴方の腕の中で息絶えたい」



魔王「…………」

勇者「…………」





ハッハッハッハッハッハッハッハッハ……

にゃーん……



従者「貴様、魔王様の言葉を遮るなど無礼であろう!」

魔王「よい、従者よ、下がりおれ」

従者「魔王様はこの言葉を考えるのに文字通り悠久の時を費やし……」

魔王「だから下がりおれと言った!」

勇者「フフッ」

魔王「貴様も何がおかしい、そんなに我が滑稽であるか?」

勇者「今日の貴方はいつもと同じ、相変わらず素直じゃない、そして少し変……けど」

魔王「…………」

勇者「その方が良いと思う」

魔王「そうか……」



………………


むかし、むかし せかいがまだおわりをくりかえしていたころ。

ひとのはいれない ふかいもり で わるい まおう と さいご の ゆうしゃ が であいました。

ゆうしゃ の はなしに まおう は むちゅうに なりました。



「いのち は めぐるんだよ」

「すこし おもしろい つづけろ」



………………



………………



「くさ を むし が たべて、 むし を どうぶつ が たべて、 そして その したい が くさ になるんだ」

「すこし おもしろい つづけろ」

まおう は すこしずつ この せかい の いのち について、しりました。



………………



勇者「ところで」

魔王「なんだ?」

勇者「最後のあの時、なんでも叶えてくれると言って叶えてもらってないことがあった」



………………


ゆうしゃ の はなしに まおう は むちゅうに なりました。



「みんな たたかっているんだ」

「わたし が いちばん つよい」

「でも きみ も ぼく も、 その きみ より よわいものたち が いないと、いきていけないんだよ」

「そんなこと が あるものか」

「きみ が たべた ぷりん は むし や どうぶつ が いないと、つくれないんだ」

「すこし おもしろい つづけろ」



まおう は すこしずつ この せかい が すきになりました。


………………



魔王「…………」

勇者「赤ちゃんが抱きたい」

魔王「……貴様のその妙な雄々しさはなんなのだ?」

勇者「失礼な、私は貞淑な妻となる」

魔王「貞淑な女は自国の王や神を拳で殴らぬ」



………………


ゆうしゃ の はなしに まおう は むちゅうに なりました。


「みんな きずな を つくるんだ」

「それは よわいからだ わたし は つよいから ひとりでもいきていける」

「でも きみ だって ひとり では うまれてこなかったんだよ」

「すこし おもしろい では わたし も おまえ と それができるのか」

「できるさ きっと できる」


まおう は すこしずつ ゆうしゃ に こい を しました。


………………



魔王「何をするか、止めよ」


勇者「貴方はすこし意地が悪くなった」


魔王「魔王ゆえな」


勇者「でも、そのほうが良い……」





魔王「……我も、貴様に願いがあった」

勇者「貴方が?」

魔王「左様である……これを欠かすことまかりならぬ」



………………


ゆうしゃ と せかい に まおう は むちゅうに なりました。


「わたし は おまえ の ことばかりかんがえてしまう いえ どんな まほう を つかった」

「きみ は ぼく の ことが すきなの?」

「わからない けど いっしょにいて たのしい、 あたたかい」

「ぼく は きみ が すきだよ」

「そうか ところで ぷりん は まだか」


………………



魔王「プリンが食べたい」


勇者「…………」


魔王「笑うでない」


勇者「ミルク粥が食べたい」


魔王「…………」


勇者「笑わないで」





従者「……二人とも素直なのかそうでないのか」


にゃーん……


従者「いずれにせよ、童子のような王夫婦だ……好ましいがな」


ハッハッハッハッハ……



従者「ところで、あの絵本、伝承を基に書かれたもの、とのことだが……」

従者「人の入れぬこの魔界の話が、誰の手を渡って伝わったというのか」

従者「ましてや、始原の時の話を……」



従者「……まったく、物好きな傍観者もいたものだ」



にゃーん……

ハッハッハッ ワンッ





これは むかし、むかし の はなし。

せかい が まだおわりをくりかえしていたころの はなし。



魔王「それが良いなら、いつでも、いくらでも作ってやる、しかし」



ひとり の まおう と、



勇者「それでよければ、いつでも、いくらでも作ろう、けど」



ひとり の ゆうしゃ が、





魔王「我と共に生きてくれ」

勇者「私と共に生きて欲しい」







せかい を あいした はなし。









  魔王「死に逝くものこそ美しい」 女勇者「その通りだ」



 
               END




くぅ~疲れました!駄文失礼しました。

後日談も出来れば少しだけ書こうと思いますが、この話は一旦ここで終わりです。

最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

展開に納得がいかなかったり、ゾーマ様のセリフを丸々持ってきたことに憤慨することも多々あったかと思います。
それに関しては誠に申し訳ない。

たくさんのレスありがとうございました。少しでもお楽しみいただけましたようでしたら幸いです。

これより後日談投下です、が、蛇足とならなければ良いのですが。
よろしくお願いいたします。


*************


ニア エピローグ


*************





《 魔王城 魔王・勇者 結婚式 》




機械王「王ヨ、ソシテ王妃ヨ」

勇者「機械の人!ひさし……いいえ、初めまして、そう、私がこの人の妻」

魔王「機械王よ、良くぞ招きに応じた、この我自ら褒め置こう」

勇者「もう、素直にありがとうと言うべき」

魔王「む……」

機械王「構イマセン、ムシロ私ナドガ来テヨカッタノカ」

魔王「何を言う、貴様、我の婚姻を祝えぬと申すか」

勇者「機械の人、今のは『そんなことは無い、大いに楽しんでくれ』と言っている」

魔王「む……」


機械王「ナント、王妃ハ翻訳デバイスヲ搭載シテオラレルノカ」

勇者「機械の人、その言葉の意味はよく解らないけれど、卑下しなくて良い、私も貴方に祝ってもらえて嬉しいわ」

機械王「ソレハナニヨリ、ダガ私ハアナタ方トハ違イ、交合スルコトデ子ヲナスコトヲ知ラナイ」

勇者「こ……ッ!?」

魔王「言葉を選べ貴様」

機械王「申シ訳アリマセン、シカシ、ソレガ不適切トワカラヌ程ニ、コノ婚姻ノ意味ガ見出セナイノデス」

勇者「機械の人……」

機械王「ソンナ私ガアナタ方ヲ祝ッテモ良イモノカト……」



魔王「……王として貴様を導こう、ゴーレムの長よ」



機械王「魔王様……」

魔王「歩み寄るのだ、我は知っているぞ、巡らぬ生命にあらずとも、我等は理解し合い、歩み寄れることを」

機械王「魔王様、シカシ我等ハ、アマリニモ他ト在リ方ガ違イマス、ソモソモ、コノカラダノ分子構造カラ……」

勇者「体が機械や石なら、いくらでも体を取り替えられるということ」

機械王「王妃ヨ……」



勇者「体の構造が違うなら、私達の体を模して機械で造ればいいじゃないか、そうすれば少しでも歩み寄れる」



機械王「…………ッ!!」



魔王「お前は何を言っておる、出来るはずがあるまい」

勇者「機械の人なら出来る」



機械王「タッタ今、私ニ電流ガ走リマシタ、ア、セン絡シタワケデナク」


この後、ゴーレムの技術を転用し、魔力を原動力とした人造臓器や、人型駆動ゴーレムが魔王軍に編成されたり、

機械王が女性型外殻に仕様変更し、女王になったりしたのはまた別の話。




*************




菌糸王(小)「「「見なさい、ああして我等の眷属が下等種族共を支配する様を」」」

キノコ屍人「アウー」



「酒だぁっ!!酒こっちにまわせぇ、うひゃひゃひゃひゃ!」

  「おい!こっち向くな!吐くなよ!?吐くなよ!?」
  
「うぼろろろろろろ……」

      「馬鹿共がぁっ!今日は控えろって言っただろうが!消し炭にされてーか!?」



菌糸王(小)「「「愉快極まりない、やはり我等こそ至高の種族であると言えましょう」」」

キノコ屍人「アウー、アウー」



魔王「菌糸王……貴様、そのナリはどうした?」

菌糸王「「「これは魔王様、この度のご成婚、お慶び申し上げます」」」

魔王「良い。貴様もよくぞ招きに応じた」

勇者「キノコの人……本当に原木に身を移したの?」

菌糸王「「「これは王妃様、初めまして。私が菌糸を統べるものにして魔王様一の下僕、菌糸王でございます」」」

勇者「相変わら……いえ、丁寧な人ね、今日はわざわざありがとう」

菌糸王「「「いえ……」」」

魔王「この者の功労はまことに優れたものである」

勇者「そうなの?」

菌糸王「「「魔王様……!」」」


魔王「その通りだ、酒精に限らず、人の領域にある万能薬、発酵による食料の長期保存、コヤツの力がなければ為しえなかったことは多い」

勇者「流石はキノコの人ね、貴方の眷属にはいつもお世話になっている」

菌糸王「「「……遂に、遂に証明された、軽視され続けた我が一族が、遂に至高の種族であると!魔王様!王妃様!」」」



魔王「特に 『食卓に並ぶこやつらの多彩さ』 は他の追随を許さぬ」



菌糸王「「「……え?」」」

勇者「成程、でも貴方は知らないだろう、納豆、醤油、味噌、これらはこのキノコの人の眷属がもたらす最高の業と言ってよい」

魔王「む……なんだそれは、察するに発酵させたものか?」

勇者「そう、特に醤油は万能の調味料と言ってよい、あれなくしては料理は語れないほどに」

魔王「なんということだ、我は知らなかった」



魔王「なんということだ、我は知らなかった」

勇者「な、嘆くことは無い……こ、これからは、その、毎日でも作ってあげる……」

魔王「む……そうか」

菌糸王「「「……あの」」」

勇者「いつもありがとう、キノコの人」

菌糸王「「「え、ああ、どうも」」」

勇者「貴方がもたらす豊かさはこの人の言うとおり、他の追随を許さないかもしれない」

菌糸王「「「…………」」」



勇者「 こ れ か ら も よ ろ し く 」



菌糸王「「「……でございましたか?」」」

魔王「……何?」




菌糸王「「「美味でございましたかっ!?」」」






*************



獣王「ハナ様……今日は一段とお美しい毛並みだ、私などの眼には毒でございます」


ハッハッハッ ワンッ


獣王「そ、その、ハナ様は巡る生命にお戻りになられたと聴き及びました……」


ワンッ


獣王「どなたか……つがいになると決められた者がいるのであろうか……」


ハッハッハッ……


獣王「不肖ながら、私は一族の王として最も優れた力を持ちます、知恵も、数多在る獣に属する魔の中で、私を越える者はいません!」


ハッハッハッ……



獣王「わ、私は、あ、貴方様と……っ!」




にゃーん……


獣王「ッ!?ヨ、ヨミ様!?」


ハッハッハッ


にゃーん、にゃーん


獣王「な、なりませぬ、またそのようにお戯れを!ああ、恐れ多いのですが、私の肩に昇らないで頂きたい!」


にゃーん……


獣王「ああ……ヨミ様、なんと、なんとそのような……」


ワンッ! ワンッ!


獣王「ああ!?ハナ様、お待ちください!ハナ様!ハナ様ッ!!」






勇者「…………」

魔王「…………」


勇者「まさか、あんな事になっているとは」


魔王「あの獣王は誇り高くてな、我の言うことでも中々に厳しく『我』を貫くのだが、ハナとヨミには頭が上がらぬ、下がりっぱなしである」


勇者「彼女達はあの人たちにどのように見えているのだろうか」


魔王「後光が差すほどに美しくあるらしい、《堕天》の後でもそれは変わらぬのであろうな、なにせ我と共に四十億の年月を越した獣である」


勇者「彼女達が一番可愛く見えるのは親の贔屓目のようなものであると思っていた」


魔王「親馬鹿というやつか」


勇者「馬鹿とは何事……でも幸せになってほしい」


魔王「我は認めぬぞ」


勇者「貴方こそ親馬鹿」


魔王「馬鹿とは何事か」




*************



妖精王「やーやーお二人さん!元気ー?結婚おめでとー」

魔王「貴様こそ良くぞ我が招きに応じた、褒めて遣わそう」

妖精王「相変わらず可愛い魔王様だねー」

勇者「妖精の人、今日はありがとう」

妖精王「アンタがお嫁さん?羨ましいねー、魔王様はアタシが狙ってたのにさ……でも全然なびかねーの」

魔王「…………」

勇者「そうなの?」

妖精王「そうそう、でもアンタ美人だしさ、大人しく譲ることにするさ……けど」

勇者「……何?」


妖精王「アンタおっぱい小さいね?揉んで大きくしてあげよーか?」

勇者「死ね」

妖精王「なんだとぅ!?」

魔王「よさぬか、それより貴様……わかっているのであろうな?」

妖精王「何が……ああ、好きだねー魔王様も……」

勇者「 ? 何のこと?」

妖精王「いやー、伝承にある始原の神にして魔の頂点が実在したと知ったときは驚いたもんだけどまさか、他の伝承まで本当だったとは……」

魔王「疾く、差し出すが良い」

妖精王「はいはい、……オラァ、野郎共!アレを出せッ!!」



妖精族「「「「「 応ッ!! 」」」」」



勇者「……何が始まるの?」





*************



《 魔王城 玉座の間 婚姻の儀 》



女賢者「えーコホン、それでは略式ながら、式を執り行いたいと思います、皆様ご静粛に」



最後に産まれた勇者の連れ合いである賢者が、式の開始を宣言する。

先程までの喧騒が嘘のように静まり返り、数多の魔達は跪き、皆一様にこれから行われる神聖な儀式の行方を見守っていた。

その存在一つで数多の命を統べる各界の王ですら、皆跪く、それは一組の男女に対してである。



始原の神にして魔の頂点に立つ存在。

始原の物語に語り継がれる、生命の恩恵を受けた伝説の勇者。



終わりにして始まりの物語に語り継がれ、その実、遂に結ばれなかった二人は今、共に生を歩む絆を結ぶ。



女賢者「汝、魔の頂点に立つ者よ、汝はいついかなる時も妻となる者を愛し、敬い、死が二人を分かつまで歩みを共にするか」



魔王「是非もなし、四十億の時を我はそうして過ごした。そして否である、我は死して尚この女を愛そう」



誓いを立てる象徴はこの場に無い。人の領域ではそれは、愛の女神像の前で、もしくは絆の神、黒き猫神の神殿で、それぞれの神に対し誓う。

だがこの二人は違う、己に、相手に誓うと心に決めたのだ。



女賢者「汝、生命を知る者よ、眼に炎を宿した真の星の子よ、汝はいついかなる時も夫となる者を愛し、その生を支えることを誓うか」



勇者「誓おう、私はこの人を死んでも愛すると。そしてそれは違う。支えるのではない、共に戦おう、血の一滴まで尽き果てたとしても私は戦い続ける」



あるのはその二人の絆を象徴するもの。
数多の生命の結晶。
天に、地に、海に、あらゆる生命の恩恵を集め創られた、それは最早、塔と言っても過言でもない。


白き巨塔。ただし甘味よって造られた……である。


魔王の勅命によって、長きに渡り甘味を研究し続けた妖精族が技の粋を結集したものである。



女賢者「では、この場の皆に問う。彼の者達の誓いを聴き、異議のある者は?」


「「「「「 無しッ!! 」」」」」


女賢者「……よろしい、それでは二人とも、誓いを……」




暗黒の如き黒き装束を纏った男は花嫁のヴェールをたくし上げ、その顔を認める。



男はかつてその眼に宿る炎を忌々しく思った。

嫉妬した。

そして恋焦がれた。

こうして見えることを待ち焦がれた。



眩いばかりの白き装束を纏った女もまた、男の眼に宿る炎を認めた。


女はかつてその炎を灯した。

美しく思った。

そして恋焦がれた。

こうして見えることを待ち焦がれた。



しかし、






魔王「……貴様、今の言葉はなんだ?」


その荘厳な雰囲気の中にあって男は不満を洩らす。


勇者「……貴方こそ今の言葉はどういうつもりだろうか?」


そして女も剣呑な返答を返す。



魔王「まるで貴様が 囚われの姫君を救う英雄 のようではないか、その雄々しさは一体なんなのだ?」

勇者「まるで貴方の方が 恋焦がれた乙女 のようじゃないか、その可愛らしさは一体なに?」



何時までたっても誓いを示さぬ二人の様子を怪訝に伺う参加者達に動揺が走る、あってはならない想像が駆け巡る。




魔王「言うではないか」

勇者「貴方こそ」

魔王「なれば我こそが夫であると証明してやろう」

勇者「やれるものならやってみるといい……『少し面白い』」

魔王「貴様……」



女賢者「あ、あの……」



そして動揺が走る会場を収めるため、当人達の様子を伺う女の賢者の言葉が引き金となった。



魔王「ふむ……っ」

勇者「ん"っ!?」

女賢者「きゃっ……!?」



それはあまりに粗暴、誓いの為のそれとしてはあまりに荒らか。



純白の衣装を破りかねぬほど力強く引き寄せ、
顔をもたげ口を貪る様は会場に居合わすすべての存在の眼を引き寄せ、
同時に満月のごとく丸く変化させ間抜けな顔を晒させる。



魔王「んー……」

勇者「ん"ん"っ!ん"ーっ!?」

女賢者「す、凄い……っ」



ゴクリ、と唾を飲み込んだのは誰のものであろうか。

瞳を潤ませ、新郎の胸を力なく叩く花嫁の腕はやがてダラリと垂れ下がり、
全身に至ってはこのまま引き寄せるために腰に廻した男の腕が離れればへたり込んでしまいかねぬほどに弛緩していた。



魔王「っ……ふむ」

勇者「ぷはっ……」




女賢者「…………」


機械王「…………」


菌糸王(小)「「「…………」」」


獣王「…………」


妖精王「…………」






従者「…………グッ!?…………ブフッ!…………カハッ!?」

ハッハッハッハッハッハッハッハッハ……

にゃーん……





「う…………」






「「「「「ウオオオオオォォォォォォォッッッ!!!!」」」」」



魔王「ふむ……悪くない。もっと早くにこうしておくべきであったな」

勇者「あ、あな、貴方……ッ!?」

魔王「……愛しておるぞ、馬鹿者」

勇者「……は、はいっ」



「「「「「ウオオオオオォォォォォォォッッッ!!!!」」」」」



心を持たぬゴーレムも、その個が満たされたことを祝福した。

つがいの概念を持たない菌糸も、新たな命の兆しを祝福した。

なにより絆の重みを知る獣も、新たなつがいの誕生を祝福した。

性の概念が曖昧な妖精も、二人の深い想いを祝福した。




そして……






*************



《 一年後…… 》



う、ぐうううううううううっ!?痛いいいぃぃぃっ!!

勇者様!頑張って、息を大きく吸って!

意地見せろぃ、人間ッ!もう頭見えてんぞ!!

奥方様!今です、息んで!!





魔王「あれは何故苦しんでおる?我はどうすればよい?何を滅ぼせばよい?」

従者「産みの苦しみを創り出した神でしょうか?直ちに出陣の準備を……」

機械王「愚カナ神共メ、自分達ガナニヲ敵ニ廻シタ理解シテイナカッタラシイ」

菌糸王(小)「「「全力でございますか?天界を我が苗床に変えて差し上げましょう」」」


獣王「待つのだ貴公ら、産みの苦しみは我等の生物の進化による必然で……」

従者・機械王・菌糸王「「「ア"ア"ッ!?」」」



ガチャ



魔王・従者・機械王・菌糸王・獣王「「「「「ッ!?」」」」」



妖精王「うっせぇんだよ!野郎共と種無しがぁっ!!うろたえてんじゃねーッ!!!!」



魔王・従者・機械王・菌糸王・獣王「「「「「……」」」」」


妖精王「次ぃ邪魔しやがったらマジでぶっ殺すぞっ!?」


魔王・従者・機械王・菌糸王・獣王「「「「「……ハイ」」」」」



妖精王「チッ……情けねぇ」

バタンッ



魔王・従者・機械王・菌糸王・獣王「「「「「……」」」」」





魔王「……血が」



従者・機械王・菌糸王・獣王「「「「ッ!?」」」」


魔王「妖精王の服に血が付いておった……アレは死ぬのか?馬鹿な……させぬ、あってはならぬ……」


従者「魔王様……何を?」



魔王「…………」




ウオンッ!!




魔王「……ハナ」


にゃーん にゃーん


魔王「……ヨミ」




我は何を考えていた。

世界を操り、この出産を安楽なものにしようと?

……生命を冒涜する気か?


我はあの女を、これから、否、今まさに産まれんと戦っている、まだ名も無い戦士の最初の戦いを侮辱する気か?

否、否である。



魔王「我が妻はこの星、最強の女である、そして産まれてくる我が子はこの星、最強の存在となる戦士である」

魔王「敗けるはずがあるまい、そうとも、実に容易い戦である」

魔王「我は信じる、我妻を、我が子を。この世界と、運命と戦い、それを降し、アヤツ等の凱旋する姿が見える」


強がりである。

震えが止まらぬ。

この我が恐怖に震えているというのか、他を信じるとは斯様に恐ろしいものなのか。



いつしかの、あの女が塵と消えた記憶が蘇る。

脳に焼き鏝を当てられたような、心臓を抉られたようなあの痛苦を、我は再び味わうのか?

……否、否、否、否である。



魔王「我は信じる。あの共が敗けるはずが無い」



そうとも、我は、もう独りでは無いのだ。




*************



魔王「…………」



う、あああ、あああああああああっ!!

何刻たった?あの女の苦しむ声を聞きだして、どれ程の時が過ぎた?

まだか?

それとも……





……おぎゃぁ!おぎゃぁ!



勇者様!産まれました!産まれましたよ!!

やるじゃねーか人間っ!!よくやったーッ!!

奥方様!お世継ぎですっ!元気なお世継ぎですよッ!!





魔王「ッ!!!!」





蹴破るが如く扉の向こうへと駆け込む。

この時にあっては誰もそれを咎めない。皆一様に慈愛に満ちた表情でこちらを見やる。
済まぬ、貴様等には礼の施しようが無いほどに借りを作った。


女賢者「魔王さんっ、早く、勇者様のところにっ」


だが今この時は、


勇者「…………勝ったよ」

魔王「…………よくやった」


疲れ果てた顔でそう微笑む女。かつて、そして今ですら全てを投げ出しても惜しくない、愛おしい我が妻。


だが、そんな言葉しか出てこなかった。


これが我妻である。

なんと雄々しい、なんと美しい、なんと尊い。




おぎゃぁ!おぎゃぁ!



魔王「……よくぞ勝利した……流石は……我の子である」


侍女「……魔王様っ」



侍女より、布に包まれた我が子を抱き寄せる。




これが我が子である。






魔王「この者は何故泣き喚いておる、病を得ているのか?」

勇者「それが正常なの、泣き叫びながら呼吸をする」


そうしてまで生きようとしているのか。
なんと猛々しい。



魔王「この者は何故はっきりと視えぬ。いかなる幻術を唱えておるのか?」

勇者「貴方の眼が涙で濡れているの。貴方は喜んでいるの」


眼が霞むほどにまでか。
なんと美しい。



魔王「この者は何故このように軽い、空腹であるのか?」

勇者「そうかもしれない、そしてそれは貴方がこの子を大切に思っているからこそ、そう思えるの」


魔王であった、始原より再生させたとはいえ、数多の生命を奪ったこの我がか。
なんと尊い。





魔王「この者は何故、我に似ている、そして何処か貴様にも似ている」


勇者「それはこの子が貴方と私の子だから、そうして……」


魔王「そうして……」




勇者「生命は巡るのよ」




魔王「そうか……そうか……っ」






始原の神と崇められた我にして、全く知らぬ新たな命よ、星の申し子よ、戦士にして勇者である我の子よ。



この我自らが、



貴様に名をくれてやる。



恐れ多いことであろう。



願わくば、この名を持って……




魔王「今日より貴様は 『…………」







  魔王「死に逝くものこそ美しい」 女勇者「その通りだ」

             エピローグ END



感動した
言いたいことはたくさんあるけれどこの感情は言葉に出来ない

盛大な乙を

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
これにてHTML化を依頼しておこうかと思います。


ここ最近あげたのSSで、ここまでレスを頂くことがなく、本当に恐れ多い限りです。

当初、勇者に米談義をさせたいが為にスレを立てたら何故かこうなりました。
本当に不思議な限りです。

設定も中々解消できていないところもあるけれど、書いてて私も楽しく有りました。

また>>1のSSをどこかでご覧になった際は気軽にいじってやってください。


本当にありがとうございました。


最大級の乙を>>1に贈ります
ありがとう!!!

おっつ

乙乙!
他作品とかあったら教えて欲しいなーって(チラッ)

このSSは何故はっきりと視えぬ。いかなる幻術を唱えているのか?


新しい生命が生まれて終わりってのはこのSSの終わりにふさわしいと思ったけど
子供生まれるのが挙式から一年後って二人とも頑張りすぎですね

ヨミとハナはメスだったのか……

良かったぞ乙

>>577>>579>>580>>581>>582

本当に、本当にありがとうございます。

>>581 >>1の拙作です。

ジャン「この死狂い野郎が!」  完結
 内容 シグルイ要素の進撃SS

少女「あなた、サンタさん?」  完結
 内容 オリジナル 少女とおじさん

男「鶴と双子と鬼の恩返し?」少女「ヴァレンタイン・デイに……ね」  完結
 内容 オリジナル 少女とおじさん

チチ「悟空さに知性を与えてけれーっ!」 悟空「ナハハ……ひでえなぁ」  完結
 内容 ドラゴンボール二次

ジョセフ・ジョースター「母の日か……」  完結
 内容 ジョジョの奇妙な冒険二次

エレン「アモン?違うな俺は……」ミカサ「……デビルマン……マン?」 未完結
 内容 AMONデビルマン黙示録要素の進撃SS
 ※ 自己都合の為停止→データ全て吹っ飛ぶ→やけになって新PCでこのSS

>>583 ありがとうございます。やっぱり早すぎでしたかね?無理に年数設定しなくてもよかったかもしれません、ありがとう!!

>>584 ありがとうございます。ハナはともかくヨミは名前の元ネタ的にも男の子ですね、このSSではヨミは女の子のつもりでした!

乙乙
少し面白かった
次があるならまた読みたい

>>587 ありがとうございます。次、でございますか?となれば『子育て』でまた立てるやもしれません。

シグルイの人だったか!!

今回も楽しく読ませて貰った乙!!

>>585
デビルマンの人かよ
>>1は名作生み出しマシーンだわ間違いない

ありとあらゆる称賛の言葉でも足らないほどの
本当に本当に素晴らしい作品をありがとうございました
胸の深いところに強く響きました

>>589>>595
 ありがとうございます。

>>593
 その節は大変ご迷惑をお掛けいたしました。いつか再開使用と思うしだいでございます。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月26日 (木) 22:41:39   ID: mNow_rUd

もっと評価されてもいい されるべき

2 :  SS好きの774さん   2015年06月21日 (日) 10:01:40   ID: ZTKV-fVl

なんで米談義からこうなるんだよw
ちょっと宣伝してくるわ

3 :  SS好きの774さん   2016年08月05日 (金) 09:52:46   ID: Aokw5aDV

凄く、凄く感動した。
これ程深く考えさせられる作品は初めてだった。
「素晴らしい。」この一言に尽きる。

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