魔王「いいか、勇者を保護しろ!」(29)

※リメイク

魔王「勇者を全力で保護しろ!」

側近「何言ってんですか?」

魔王「言葉通りの意味だが」

側近「あの、あなた魔王様ですよね。偽物じゃありませんよね」

魔王「私はバレない嘘しかつかん」

側近「……まいったな、魔王様がバサークになっているとは」

魔王「私は正気だ」

側近「良いですか魔王様。何度も言いましたように、あなたは魔物の王です」

側近「そして、魔王が君臨する限り勇者はその前に立ちふさがるのです」

魔王「そんなこと、言われなくともわかっている」

側近「ならばなぜ自らに仇なす勇者を保護するなどと」

魔王「理由、聞きたいか?」

側近「真っ当な理由でない限り、勇者を保護することなど考えられませんので」

魔王「あー、なんだ。私は魔王だが、俗に言う中ボスだろう?」

魔王「……魔界に居を構える大魔王の手先的な」

側近「ええと、まあそうですね。ぶっちゃけた話、ラスボスへの繋ぎみたいなもんです」

側近「バラモスみたいなもんですね。倒されるのが規定されている的な」

魔王「本当にぶっちゃけやがるなテメェ」

魔王「……まあいいか。で、大魔王にこの前言われたんだけど」

側近「はい」

大魔王『勇者と戦うの面倒だから、頑張って魔王が倒して。倒してくれたら、お嫁さんになってあげるから』

魔王「……だそうだ」

側近「凄いじゃないですか。大魔王様と夫婦の関係になったら、それこそ真の魔王と呼べますよ」

魔王「寝言は寝て言え」

魔王「お前、見たことあるだろ? 大魔王を」

側近「女の私から見ても素敵な方だと思いますが。強いし、何より美しい」

側近「魔族は、容姿はもちろんですが何よりも力に惹かれる種族。強いのはそれだけで正義ではないですか」

魔王「そりゃ見てくれも良けりゃ。強いのにも文句はない。ただ性格がな……」

側近「性格?」

魔王「……私は大魔王の幼馴染なんだ。最悪なことに」

魔王「幼い頃は、奴のわがままにどれほど振り回されたことか……」ガタガタ

側近「ふ、震えるほど大変だったのですか?」

魔王「ああ……まったくな……」

側近「しかし幼馴染と言えば、いろいろ嬉し恥ずかしハプニングに見舞われているのでは?」

魔王「そうだな、ハプニングには見舞われていたな」

魔王「……上級火炎呪文の実験台にされたり、
   上級転移呪文で人間界に飛ばされたり、
   上級変化呪文で女の姿にさせられたり、
   ………………ああ、まだあるんだった……」ブツブツブツブツ

側近「……トラウマ?」

魔王「というわけで、私はあんな悪の化身と結婚するわけにはいかないんだ」

側近「まあ実際悪の化身な訳ですが」

魔王「だから、勇者を保護しよう。私の幸せで明るい未来のために」

側近「勇者が生きている限り魔王様にも明るい未来は訪れないような……」

魔王「馬鹿め。私が勇者の仲間になれば良いんだよ!」

側近「あなた本当に魔王ですか?」

魔王「だって、この座についたのも魔界を出て大魔王の魔の手から逃れるためだし」

側近「どこまで苦手なんですか……」

魔王「苦手っていうか、天敵だ。捕食者と被捕食者だ」

側近「…………まあ、私は魔王様の部下ですからね。命令には従いますが」

魔王「そうしてくれると助かる」

側近「それで、とりあえずどうしますか?」

魔王「勇者がどこにいるか探さなくてはな。魔法で探ってくれ」

側近「了解しました」

側近「それでは水晶玉に映しますね」

勇者『――いざ、魔王討伐の旅へ!』

側近「……勇者は、どうやらはじまりの城を出た直後のようです」

魔王「ほう? ……勇者ってもっとごついんじゃないのか」

側近「あの勇者は女ですからね」

魔王「へぇ……女か。勇者って女でもなれるんだな」

側近「男だろうと女だろうと勇者は勇者でしょう。流れる血の問題ですよ」

魔王「そうだったのか。私の親父は男の勇者に殺されたからな」

側近「一般的には男が多いようですが、この代は女のようですね」

魔王「なるほどな」

魔王「この女、能力的にはどうなのだ?」

魔王「大魔王を打ち倒せそうか?」

側近「大魔王様どころか、魔王様にすら勝てるかどうか」

側近「いやむしろ、周辺の魔物にすら勝てぬのではないでしょうか」

魔王「……おい、それまずくないか」

魔王「大魔王を斃せるのは勇者の血を引いた者だけだぞ」

魔王「やはり保護するのは間違いではないな。とりあえず勇者の保護を最優先に動け!」

側近「しかし保護したところで魔王様の目的である大魔王様打倒が叶う力量はないのですよ?」

魔王「う、それもそうか……」

側近「もし本当にそのつもりがお有りなら、徐々に経験を積ませるべきではないかと存じますが」

魔王「しかしなあ……臣下が勇者の糧になると言うのもなあ……」

魔王「よしこうしよう。近衛を使う」

側近「近衛さんですか?」

魔王「ああ。近衛、ここに」

近衛「……魔王様、お呼びでしょうか」シュタッ

魔王「近衛。お前に一つ仕事を任せたい」

近衛「はっ。なんなりとお申し付け下さい」

魔王「うむ。勇者の」

近衛「勇者の抹殺ですね」

魔王「うむ……って違う!」

近衛「……ではいったい?」

魔王「実は勇者に稽古を付けてやって欲しくてな」

近衛「……今なんと?」

魔王「勇者に稽古を付けてやって欲しいと」

近衛「 」ゴゴゴゴゴ

魔王「……うん、お前の人間嫌いはよく知っている。ほんの些細な戯れ言だ、忘れろ」

近衛「はっ」スタスタスタ

側近「……失敗ですね」

魔王「……怖ぇー……鎧で表情も何も見えない分余計に怖ぇー……」

魔王「ダメだ。上手いこと考えつかん。寝る」

側近「色々仕事はありますけど?」

魔王「いや、寝る。雑務は任せた」

側近「おいコラ」

魔王「仕方ないだろー……私だって中間管理職なんだよ」

魔王「大魔王と臣下との板挟みなんだよ」

魔王「下から仕事厳しいって愚痴られるのはいつも私なんだよ」

側近「私も魔王様と部下たちとの間で板挟みですがね」

魔王「うぐぐ……」

魔王「……ふむ」

側近「なんです?」

魔王「いや、何もしていないのでは体が鈍ると思ってな」

側近「仕事をして下さい」

魔王「勇者のパーティに混じろうと思うのだが」

側近「話聞けよ」

魔王「……言葉遣い悪くないか? 不敬罪にするぞ?」

側近「大魔王様に上奏しますよ」

魔王「ごめんなさいごめんなさいちゃんと仕事するんでそれだけはやめて下さいマジお願いします」

魔王(……ふふふ、今は皆の寝静まった夜中……。城を抜け出す絶好のチャンスだ)

側近「……」

魔王(よし、転移呪文の詠唱を……)

側近「……」

魔王「目標座標は勇者の側……転移せよ」

バシュ ガキィン

魔王「……」

魔王「……はじかれた」

魔王(……結界か? 呪文の効果がない……)

側近「詠唱妨害呪文ですよ、魔王様」

魔王「……ゲェッ、側近!」

側近「何をするかと思えば……」

魔王「……くっ、見越していやがったか」

魔王「だが、私には崇高な使命がある。勇者を守らねばならん」

側近「仕事したくないだけでしょうが」

魔王「うるさい! 私は何が何でも大魔王と結婚する運命から逃れなければならんのだ!」

側近「……」

魔王「大体、お前も私の言うことなら聞くと言っていただろう」

側近「まあ、そうですね……」

魔王「……何か言いたいことでもあるのか?」

側近「いえ……この会話って当の本人に聞かれていたりしないですかね」

魔王「……………………」

側近「大魔王様ってわりとなんでも出来るお方ですよね……。盗聴とか」

魔王「……ちょ、おま、それは、やばいwww死亡フラグビンビンwwwうはっwwwおkwwww」

魔王「……ふう、取り乱してしまった」

側近「なんかこちらもすみません」スッ

魔王「なんで目を逸らしたオイコラ」

側近「もう過ぎてしまったことは仕方がありませんよ。忘れましょう」

魔王「おいやめろ……私の威厳が」

側近「あってないようなものです」

魔王「貴様ァ……」

魔王「……まあ、それよりだな、大魔王に知られちゃまずいことが多いのはどうしたもんか」

大魔王「それって例えばどういうこと?」

魔王「どういうこともなにもあるものかよ……」

側近「あ……だ、大魔王様……!」

魔王「……くぁwせdrftgyふじこlp」

大魔王「なに、私に会えて嬉しいの? うふふ」

魔王「さようなら、私の平穏……」

魔王「……で、何の用だ。私を簀巻きにして」

大魔王「魔王の頑張ってる姿見ようと思ってね」

魔王「グルグル巻きになってるのが私の頑張ってる姿とでも?」

大魔王「見ててゾクゾクしちゃうわ」

魔王「なんっという……この鬼! 悪魔! ちひろ!」

大魔王「ちひろ? 誰かしら、その女」

魔王「あ、いえ、なんでもないです気にしないで下さい。それより魔界は良いのか?」

大魔王「どういうこと?」

魔王「お前の王座を狙う輩は多いだろうに」

大魔王「ああそれ。怪しいのはこっち来る前にあらかた潰しといたわ」

魔王「やっぱ鬼だ……」

大魔王「ま、大魔王だし? それより不敬罪でその身柄拘束して魔界に連れて帰るわよ?」

魔王「ごめんなさい勘弁して下さい臭い飯は嫌ですここ気に入ってるんです」

大魔王「ふふふ~~…どうしよっかな~♪」

魔王「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

大魔王「はいはい、もうやめなさい。冗談だから」

魔王「ほ、本当に?」

大魔王「もちろん。もっと堂々としてくれないと」

魔王「いや、しかし……」

大魔王「私をお嫁さんにしてくれる人が謝ってばっかりじゃいやよ」

魔王「う……勘弁してくれ……」

魔王「……前から思っていたが、何故私ばかり狙うのだ」

大魔王「え?」

魔王「魔界には私よりもいい男がいるだろうに」

大魔王「まあ……なに? ダメな男に惹かれるっていうか、母性本能みたいな?」

魔王「……嬉しくない。死ぬほど」

大魔王「とはいえ。結婚するにしても勇者を倒さないことにはね」

魔王「流石のお前も勇者は恐いのか」

大魔王「……ま、私を唯一殺せるとするなら勇者だもの。そりゃね」

魔王「そうか」

魔王(やはり、勇者を保護する必要性がありそうだな……)

魔王(勇者を盾に……結婚を諦めさせる!)

大魔王「魔王~? ねぇねぇ、魔王~?」

大魔王「魔界からわざわざ会いに来たのに無視なのー?」

魔王(今頃勇者ははじまりの洞窟にいるくらいか……?)

魔王(奴らのパーティーに紛れこむのが一番確実……)

大魔王「イタズラしちゃおっかなぁ……?」

魔王「おい大魔王。(私はしばし城を離れるので)好きにしろ」

大魔王「ほんと? やっと私を受け入れる気になったのね」ガバッ

魔王「は? ちょ、まて、飛びかかってくるな! おい、やめろぉぉぉぉ!」

魔王「……ひどい目に……あった…………」ゲッソリ

側近「あ、魔王様。……一日でずいぶんと細くなられましたね」

魔王「は、は、ははははは……三時間耐久大人のキス……の結果かな……?」

側近「へぁ!?」

大魔王「おっはよー♪」

魔王「ヒィッ!」タタタタタッ!

側近「あ、魔王様!?」

大魔王「ちぇっ、逃げた」

側近「……あの、大魔王様、いったい何を……?」

大魔王「ああ、あれね……。混乱呪文と幻惑呪文を同時に掛けたんだけど……どんな夢見てたのかしら?」

側近「大人のキス……だそうですが……」

大魔王「あら……正夢にしてあげよっかなー」

側近(やっぱこの人大魔王だわ)

魔王「ふぅ……。徒歩で魔王城から逃げてきたが……追っ手は来ないようだな……」

魔王「……これからどうしたものか」




側近「うーん、魔王様いませんね」

大魔王「……そう」

側近「やっぱり逃げちゃったんでしょうかね?」

大魔王「……ちょっとやり過ぎたかな……。久しぶりに魔王に会えたから嬉しくて。……からかいすぎたのかも」シュン

側近(この人、こんなしおらしい表情するんだ)

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