神谷奈緒「誰が為のペルソナ」(196)


長らく間が空いてしまって申し訳ありません。

全部就活が悪いんです。

ぼうっとしてる間に総選挙やらアニメ化やら、モバマスの続報待ったなし。

こちらは平常運転でまります。

暗め暗めな十三話をお楽しみください。


―――「生っすか!?SPECIAL」から数日後、CGプロ事務所

あの大型生放送から数日、どうもアタシのPさんの様子がおかしい。
なんていうか…微妙に距離を取られているような。

「おはよ、Pさん」

「ん、おはよう。今日は奈緒はレッスンだったな。トレーナーさんたちには言ってあるからな、ほんじゃ!」

「あ、ちょ、Pサン!」

一例をあげるとこんな感じ。

表向きは別にいつも通りなんだけど、どうにも事務連絡以外でアタシと関わるのを避けている気がする。

「今更奈緒とイチャイチャすんのが恥ずかしくなったんじゃないの?」

「この間の『生っすか!?』を見て改めて惚れ直したとかさ」

「お前らなぁ…アタシは真面目に相談してるんだ!」

なんかモヤモヤして、レッスンの合間に凛と加蓮に相談してみたんだけど、からかわれるばっかりで大失敗だよ!


「でもさ、実際私たちはそんなの全然感じないし」

「昨日も『奈緒はこういうところが可愛いんだよなー』みたいな話を比奈さんとかと話してたよ」

「そ、そうなのか…ってそうじゃない!」

う、嬉しいとか喜ぶとこじゃないぞアタシ!

「そんなに気になるなら本人に直接聞いてみればいいのに」

「それができたら苦労しないって…」

アタシが過敏になってるだけなのか?
今までの事件のこともあって。

「まぁ私たちにはわからなくても、奈緒には感じられることはあるかもしれないね。だけど、ちょっと心配しすぎな気がするな」

「そーだねー。マヨナカテレビのことがあるから、気になるのはわかるけど、今までのパターンでいえば巻き込まれる人は明らかに様子が変になるんでしょ?奈緒Pさんは別にいつもと変わらないかなー、私たちからすれば」

「アタシの考えすぎか…」

アタシほどじゃないけど、二人もPさんとの付き合いはそれなりになる。
その二人にこう言われると、なんとなく気にしすぎなような気もしてきた。


「やっぱりこの間の『生っすか!?』で奈緒に惚れ直したんだって」

加蓮がニヤニヤとからかってくる。

「そ、そうなのかな…ってそんなわけないだろ!」

「わー、奈緒が怒ったー」

「かおまっかー」

「凛!加蓮!」

ぴ、Pさんがアタシに…いやいやいやいや!
くっそコイツらアタシをバカにしやがってええええ!


―――数日後、ラジオ局からの帰り、車内

「じゃあ、ちょっと飲み物買ってくるから」

「私も行くー」

「奈緒は?」

「アタシはいいや」

トライアドプリムスとしてのラジオ出演が終わり、今はその帰りの車内だ。
飲み物が欲しいという凛の要求で、近くのコンビニに寄った。

運転はアタシのPさん。

ってアレ?今Pさんと二人きりじゃん!

えっと、えっと、何か話した方が良いかな。

「あー、奈緒はさ」

「ひゃいっ!?」

なんとなくここ数日Pさんの態度がおかしいような気がして、勝手に気まずくなっていたアタシは、突然話しかけられて変な声をあげる。


「お、おい、どうしたんだよ急に」

「な、なんでもない!ちょっと急に声かけられてびっくりしただけだ!」

「そ、そうか…」

Pさんが少し不審そうな目でアタシを見る。

「まぁいいや。お前、最近調子どうだ」

「どうって…別に普通だよ。仕事もうまく行ってるし、割と好調…かな?」

「かな?ってお前自身の事だろ」

「やれやれ」と肩をすくめて見せるPさん。
あれ、普通に話せてるな…やっぱり最近のアレはアタシの勘違い?

「ま、トライアドも軌道に乗ってきたし、とりあえず心配はないかな」

なにやら一人で納得しているPさん。
なんとなくいつもの感じが戻ってきたこともあって、アタシは少し油断して気を抜いていた。

「そーいえばさ」

「なんだー?」


「お前さ、俺になんか隠し事してないか?それも結構重大な」


一瞬時間が止まったかと思った。
こんな感じの質問を、今までにされたことはある。

けど、なんていうか雰囲気が違った。
いつもの調子を尋ねるPさんじゃない。

声に確信がこもっている感じがする。

「…なんで急にそんなことを?」

「いや、なんとなく」

「なんとなくってことないだろ、乙女の秘密を探ろうってのにさ」

嫌な感じが拭い去れないアタシは、なんとか話をはぐらかそうと試みる。

「いや、ホントになんとなくなんだって…なんつーか…ダメだ、言葉にならん」

イライラしたように頭をかきむしるPさん。

「ここ最近の奈緒はすごいぞ?レッスンも真面目に受けてるし、そのおかげかパフォーマンス力も上がってる。業界内でもわりと名前が知られてきてると思う…けど、なんか変な感じって言うか…」

「だから、何が変だっていうんだ?」


「…あー…別に奈緒を疑ってるわけじゃないんだけど…ここしばらくウチのアイドルで…」

「おまたせー」

Pさんが何か言いかけたところで、タイミング悪く凛と加蓮が車に戻ってきた。

「おう、買えたか?」

「うん、今の時期はあったかい物の種類が多くて助かるよ」

「…奈緒Pさんと、なんか話してた?」

「あ、あぁ…まぁ」

凛とPさんが話しているのを横目で見ながら、加蓮がそっと耳打ちしてくる。
だけどアタシは、それに曖昧にうなずき返すことしかできなかった。

Pさんは何を言おうとしてたんだ?
もしかして「ウチのアイドルで失踪しかけたヤツがいるだろ」って話でもしようとしてたのだろうか。

アタシを疑うわけじゃない?
じゃあなんであんなに言いにくそうにしてたんだ?

Pさんは、なにかに気付いたんだろうか…。


―――数日後、CGプロ事務所

Pさんがアタシに何か言いかけた日から数日、あれからPさんとは話してない。
単純に、Pさんが必要な仕事が入ってきてないからなんだけど、なんだかモヤモヤする。


―――今回我々取材陣は、この宗教団体の関係者へ取材を行うことに成功した!


事務所のくつろぎスペースでは、何人かがワイドショーを見ている。

「最近流行ってますよね、宗教」

楓さん、そんな携帯ゲームとかじゃないんだから。
けど、アタシもこの宗教団体の名前には見覚えがある。

終末思想を振りかざして、結構過激な活動をしている団体らしい。
ついこの前も、メンバーの一人が駅前で突然演説を始めて警察のお世話になったとか。

「えぇ、正直私にはこういうものにハマる人の気持ちはわかりませんけど」

休憩にお昼ご飯を食べながら、ちひろさんが相槌を打つ。

「でも、宗教に限らず毎年のようにこういう『人類滅亡説』みたいなことを騒ぎ立てる人はいますからねぇ」

「人類滅亡へ…めっつぼー…ふふ」

いや、楓さん、アタシそれ洒落になんないと思うな。


「やっぱり一番流行ったのはアレですよね、『ノストラダムスの大予言』」

「あ、ありましたね」

「楓さんは、あの時どう思ってました?」

「えっと…学校はお休みなるのかどうかが気になってました」

「か、楓さんらしいな」

「もう十年以上も前の事なんですよねぇ」

アタシは正直覚えてない。
だって、幼稚園とかそこらの話だろ?

「まぁ、この団体はそれとはまた違うみたいですけど」

「“方舟”でしたっけ?確か聖書か何かに出てきますよね、あの…ノアの方舟!」

「名前は有名ですけど、実際どんなお話しなんでしょうか」

「―――ノアの方舟は、旧約聖書の『創世記』、六章から九章に登場する船の事ですね」

「あ、頼子ちゃん、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

突然話に入ってきたこの眼鏡の大人しそうな女の子は、古澤頼子。
アタシと同い年だけど、趣味が博物館や美術館めぐりで、とても博識だ。


「すみません…突然入ってきてしまって」

「いえいえ、全然!それよりも、頼子ちゃんノアの方舟の詳しい話知ってる?」

「はい、おおざっぱに話しますと…」

ノアの方舟とは、誤った道に進み続ける人間を一度粛清するべく大洪水を起こそうとした神が、神と共に歩んだ正しい人間であるノアに作らせた巨大な木造船のことだという。

「方舟は『ゴフェルの木』で作られ、そこにはすべての動物のつがいが乗せられました」

ゴフェル?
アタシが最初に目覚めたペルソナは…ゴフェル…。

偶然じゃ…ないよな。

「そして、神は世界中を滅ぼす大洪水を起こし、四十日四十夜にわたって地上の生きている者を滅ぼし尽くしました。

方舟に乗っていたノアとつがいの動物たちは助かり、神へ捧げものをして、神からの祝福を授かったと言われています」

「へぇ…頼子ちゃんは流石詳しいですね」

「いえ…そんな。聖書のお話は、しばしば芸術の題材にされますから」

褒められて少し赤くなる頼子。
けど、まんざらでもなさそうだ。


「今の話を聞いて考えると、この宗教団体は『滅び行く人類を救ってやるぞ』ってことで“方舟”なんて名乗ってるんですかね」

「恐らくは…ですが、神はノアたちに、生き物すべてを根絶やすような洪水は二度と起こさないと約束をしているといいます」

「え?そうなのか。じゃあこの宗教団体もずいぶんいい加減だな」

「宗教や神の解釈の仕方は人それぞれですが…こういうのはちょっと…」

頼子もあんまりよくは思っていないみたいだ。
アタシ自身はどこの宗教を信じているとかないけど、特にこういう世界の終わりを主張するような宗教は良くわからない。

この世界がなくなるなんて、あんまり考えたくないもんな。


―――その夜、神谷宅、奈緒の部屋

『ってわけで、今度の週末先輩たちとそっちに行くから』

「うん、よろしく頼むよ」

今アタシは電話中。
相手はりせちーだ。

『最近はマヨナカテレビも映んないしねー』

「あぁ、良いことなんだけど…アイツが去り際に言い残したことを考えるとな…」

堂々の犯罪予告。
何を思って、何を狙ってのことなんだろうか。

『私たちの時もそうだったけど、あんまり根詰めない方がいいよ?悔しいけど、マヨナカテレビが映らなきゃなんにも動けないんだもん』

「…そうだよな」

『そ・れ・よ・り・もー』

「な、なんだよ」

『こないだの「生っすか!?」見たよー?奈緒ちゃんめっちゃおいしい役どころだったじゃん!』

あぁ!せっかく記憶から薄らがせていたところだったのに!


「その話をするなっ!」

『なんでー?私の趣味じゃないけど、結構可愛かったじゃん』

「可愛かろうが何だろうが、恥ずかしい物は恥ずかしいんだよ!アタシみたいなのはああいう可愛いの似合わないんだから!」

『えー、そんなことないって!てか、奈緒ちゃんが仕事で着てるのって、どれも結構可愛い系じゃなかった?』

「ぐっ…それは…っ」

アレはアタシが悪いんじゃない!Pさんが…Pさんが。

『…?どうかした?』

「…あ、わ、わりぃ、なんでもない」

そういえば、今日も結局Pさんと話すチャンスはなかった。
いっつも顔合わすたびにからかってくるPさんだけど…やっぱりちょっと寂しい、かな。

『何悩んでんだか知らないけどさ、芸能界でもアッチの世界でも一応私先輩だし、頼ってくれていいからね?』

「…うん、ごめん、ありがとう」

その後は、りせちーとしばらく話してから眠りについた。


―――同時刻、奈緒P宅

「ったく、どーしたんだ俺は…」

彼の周りには、今しがた量産されたと思しきビールの空き缶がいくつも転がっている。

「奈緒がヤバいことに関わってるなんて…んなわけねーだろぉが…ヒック」

彼はここ数日、自身の中に生まれた奈緒への疑念と戦っている。
理由はわからない…しかし、奈緒の隠し事に過敏に反応してしまっている。

「年頃の女の子だ…男の俺には言いたくないことぐらいあるだろ…」

奈緒Pはわきまえた男だ。
軽妙なノリで他人と接しはするが、その実相手が踏み込んでほしくないところには踏み込まないように気を使える。

けれどここ最近、こと奈緒の事となると自分でも抑制のきかない疑念が彼の胸の中に立ち込める。

「しっかりしてるけど奥手なアイツのことだ…男ってことはないだろうけど…」

そう口にしながらも、奈緒の隠し事が男であるならばそれはそれでホッとするだろうと思っている自分がいる。
なぜなら。

「いなくなったアイドルを最初に見つけてきたのは…全部アイツだった…」

少し前までに相次いでいた、所属アイドルが数日姿を消すという事件。
居なくなったのは比較的奈緒としたしかったアイドル、そして見つけてきたのも奈緒。


幸いにもマスコミに情報が漏れることはなかったが、考えてみるとそれもおかしな話だ。

仮にもアイドルである少女たちが、家族や事務所のメンバーに黙って数日間姿をくらましたとして、誰にも目撃されないなんてことがあるだろうか。

「誰かが匿ってたとか…誰が…?」

考え出すと止まらない。
彼は不安に押しつぶされないように、次の缶を開けて一気に煽る。

思考の波にもてあそばれた彼が、自宅にもう酒がないことに気付いたのは、そろそろ太陽が顔をだそうかという時刻だった。


―――週末、事務所近くの喫茶店、『シャガール』

「あ、来た来た!おーい!」

未央が店に入ってきた五人組に手を振る。

「ごめん、待った?」

「ううん、私たちもさっき来たところだから」

「いやー、都会は人が多くてびっくりしちゃうよねー。奈緒ちゃん、久しぶり!」

「私、人とぶつからないように歩くので精いっぱいだった…」

「んー、懐かしいよなこの感じ!天城たちに、俺のシティーボーイっぷりを見せつけてやらねぇと」

「誰がシティーボーイだよ、ジュネス王子」

「あ、テメこの里中!」

「『シャガール』はこんなところにも会ったんだな…おっと、久しぶりだな、よろしく」

りせちーと千枝さん、天城さんに花村さんに鳴上さんだ。
白鐘さんたちがこっちに来て以降、ずっとこっちのテレビの世界をのぞいてみたいと言っていたメンツが今日時間を合わせて集まった。

ちなみに、例によってお出迎えと事務所見張り組で別れてる。
今回はアタシと未央と凛でお出迎えだ。


「みんな久しぶり、遠いのにお疲れ」

「いんやぁ、なおちんたちの為なら、たとえ火の中水の中ってね!」

「アンタはホントに水ん中突っ込んできなさいよ、今すぐ」

「風邪ひいちまうだろ!」

「あれ?バカって風邪ひくんだっけ?」

「おまっ」

相変わらずこの二人は漫才コンビの様だ。

「でも、花村君じゃないけど、友達が困ってるんだったら頑張って駆け付けるよ」

「ありがとう、天城さん」

「それで、あれから進展はあったのか?」

「あはっ、先輩やっぱ超クール」

こっちの三人も相変わらずって感じかな。

「しろっちたちがこないだかれりんを助ける時に手伝ってくれてからはなんにも」

「犯人が諦めたならいいんだけどな」

「…そうだな」


とりあえずお互いの状況を確認し合っていく。

「神谷さんは自分が力に芽生えた時のことを思い出したと聞いたが」

「あ、あぁ、確かに黒幕だってやつに会ったことがあったよ」

アタシはその時のことを思い出しながら鳴上さんに話した。

「やはり俺と境遇が似てるな。違うのは、そいつが街に溶け込んでいたかいないかということくらいだ」

「なぁ、やっぱり黒幕は人の心とか記憶に干渉できるってことでいいんだよな?」

「おそらくそれは間違いないだろう」

そこで言葉を切り、すこし黙って考えをまとめてから、鳴上さんが語り始める。

「俺たちの方のテレビの世界の住人は、人の願い、人の心と共にある者たちだった。

おそらく、そこはこちらと変わらないだろう。

そして、俺はすべての真相に気付いた時、イザナミに記憶を刺激されて力を授けられた時のことを思い出した。

安部さんの正体について話をしたときにちらっと名前を出したと思うが、彼女と似た境遇だったマリーは記憶を封印されていた。

以上の事から考えて、テレビの中の世界で力を持つ者は、人の心に干渉する力があると考えられる」


「だよな…その力ってどれくらい強い物だと思う?」

「断言はできないが…おそらく精神的に脆くなっている人の行動をある程度コントロールできるくらいだろう。

具体的な例で言えば、第二の被害者だった双葉さんを、病院のベッドから抜け出させるくらい、か。

それ以上に人の行動を操ることができるのであれば、もう何人か被害者が出ていてもおかしくはない。

君たちが苦労したとはいえそれほど時間をかけずに被害者を救助できていることからも、それを伺える」

なるほど。
鳴上さんの分析は正しいと思う。

アタシも似たようなことを考えていた。
人の行動を自在に操れるのなら、その力を使ってもっとあからさまに邪魔をしてきてもいいはずだ。

「マヨナカテレビもここの所映らないしね」

「せっかく来たけど、収穫ないかもしれないってことか…ってそりゃ何もない方がいいんだよねあははは」

千枝さんが少し残念そうな声を出して、すぐに慌ててフォローする。

「けど、実際に向こうは何かするつもりでいるわけだし、このまんま手掛かりナシってのも厳しいよな」


「そのために今日はこっちのテレビの中に行くんだし、始まる前から弱音吐くのはやめておこう?」

「そっか…そうだよね!」

天城さんの凛とした態度に全員少し身が引き締まる。


ヴー、ヴー


ちょうどいいタイミングで、事務所組から準備完了の知らせが届いた。

「しかし、いくら入口は知ってるところからが良いとはいえ、これはなんとかならねーかな」

「仕方ないだろう、アイドル事務所なんて、俺たち非関係者が簡単に入れる場所じゃないんだからな」

まぁ花村さんのボヤキももっともだけどな。
アタシらとしてもみんなを招き入れるの結構大変だし。


―――CGプロ事務所、第4会議室

「あ、奈緒たち来たよ」

こっそり侵入したアタシ達を、加蓮がドアを開けて迎え入れる。

「おわっ、加蓮ちゃんじゃん!うおおお、今を時めくトライアドプリムスが俺の目の前にっ…俺もう死んでもいいっ!」

「…誰?」

あ、あはは。

「バカやってんじゃないっての!…ごめんね、コイツちょっと頭があれだから」

「おい、人を危ない奴みたいな言い方すんじゃねっての!」

「ちょっと、二人とも漫才は外でやってよ!私たちは部外者なんだから、ここで騒いで見つかったらまずいでしょ!」

「わ、わりぃ…」

りせちーに怒られて頭を掻く花村さん。

「うわー、雪ちゃんたち、ひっさしぶりだにぃ☆」

「ふふ、きらりちゃんも久しぶり、元気にしてた?」

「もっちろん!きらりまたおっきくなっちゃったにぃ!にへへ」


「と、とりあえず、中に入らないか!?」

これだけ大所帯になるとスムーズに話を進めるのも難しいよな。


―――某局、エントランス

「はい、ではありがとうございました!」

クライアントと思われる男に頭を下げているのは奈緒Pだ。
いつもの営業といったところだろう。

しかし、心なしか顔色が良くない。
昨晩の飲み過ぎと寝不足が響いているのだろうか。

疲労を感じてはいるが、何故か頭ははっきりしている。

「あとは…事務所戻って書類整理か…」

駐車場に戻った奈緒Pは助手席に荷物を放り投げ、車を発進させる。


―――テレビの中、入り口広場

「ここが…うちらと違うテレビの世界…」

「なんてーか…俺らんとこと大してかわんねーな。話にゃ聞いてたけど」

「ウサ!またまた変わったお客様ウサねぇ」

「クマさんみたいなのがいる…あなたがウサちゃん?」

「はいですウサ!」

ウサと特別捜査隊の自己紹介も一通り済ませた後は、予定通りこの世界を一通り見て回ることになった。

とはいえ、あんまり収穫があるとも思えないんだよな…。
一応杏が時々こっちでサーチをかけてくれてるし、マヨナカテレビにも動きは無い。

それでも何もしないよりマシだ。
みんなで、見落としがないか注意しながら探索を進める。


―――CGプロ事務所駐車場

ブロロロロ…

営業から帰ってきた奈緒Pは、車を事務所の指定駐車場へ置くと、荷物を取り事務所へ向かった。

ガチャリ

「ただいま戻りましたー…って誰もいないんだっけ今」

同僚や所属アイドルの予定を思い出しながら自分の席で書類をまとめだす奈緒P。
人数の多さと活動の多様性がゆえに本格的な事務や受付は別の建物で行うので、事務所なのに人がいないという状況は時たま訪れる。

それにしても妙に静かだ。

「そういやあいつら最近、よく第4会議室でたむろしてるよなぁ…」

誰も使わない開かずの会議室。
部屋が余ってるんだから使いたい奴が好きに使えばいいと社長が開放している部屋。

「開放してるのに開かずってなんかな…」

夏前あたりから、奈緒や未央があそこでたむろしはじめ、最近じゃ凛やら加蓮やらと人数が増えている。
くしくも行方不明者とそれを見つけた連中で固まっている。


(別に悪いことをしてるわけじゃないみたいだから放ってはおいたけど…)

最近の自分の不信感、苛立ちを解消するきっかけが見つかるかもしれない。
そんな思いを抱いた奈緒Pは、席を立ち、第4会議室へと足を運んだ。


―――テレビの中、入り口広場

「とりあえず見て回れそうなところは回ったけど…」

「手がかりになりそうなものは無かったねぇ」

結構な時間うろついた気がするけど、収穫は無し。
まぁ予想はしてたけどな。

「一旦もどろーぜ!せっかく都会まで出てきたんだし、ここはひとつおしゃれなカフェで作戦会議とか…」

「アンタはそれが狙いだったのかよ」

「まぁ杏も疲れたし、休憩にはさんせー。ほんじゃちょっと待ってて」

いつも通りの杏が、ペルソナを呼び出してテレビのむこうの気配を探る。
万が一誰かが向こうにいたら面倒なことになるからな。

「ん、おっけー、誰もいないねー」


―――CGプロ事務所、第4会議室

「ま、そんな変なものなんてあるわけないか…」

来てはみたものの、別段何があるわけでもない。
強いて言うなら、使われてない部屋にはもったいない大型テレビとソファくらいだろうか。

「まぁそりゃ全く使わないわけじゃないけどさ、でもまぁもったいないよなぁ…俺にくれたらいいのに」

奈緒Pは何の気なしに電源の入っていないテレビを眺める。


―――テレビの中、入り口広場

「じゃあとりあえずアタシから行くよ。千枝さんたちは合図したら来てくれ」

「わかった!」

いつものようにアタシは、出口テレビの画面をくぐった。


―――現実世界、第4会議室、奈緒P視点

「な、なんだ?」

奈緒Pの目の前で、突然テレビの画面が波打ちだす。
何かが映っているとかそういうレベルではない。

水面のように波紋が広がっていく。
そして、その波紋の中心から現れたのは…。


―――現実世界、第4会議室、奈緒視点

「奈緒!?」

突然聞こえてきた耳慣れた声に、アタシは身を固くする。
画面をくぐっている最中にもうめき声の様なものが聞こえた気がしたけど…まさか。

おそるおそる目を開けたアタシの目の前に立っているのは、驚きに目を見開いたアタシのPさんだった。

なんでだ?なんでPさんがここにいるんだ?
杏のサーチでは誰の反応もなかったのに!

「ぴ、Pさん…これはその…違うんだ!」


―――現実世界、第4会議室、奈緒P視点

「は、ははは、なんだよこれ」

動揺で思考が追い付かない。
しかし、彼の脳内で唐突に一つの可能性が頭をよぎった。

テレビから現れた奈緒。
そして忽然と姿を消して警察にすらその足取りを掴ませなかった杏、凛、加蓮。
消えた時と同様突然姿を現したアイドルと常にそのそばにいた奈緒。

「ぴ、Pさん…これはその…違うんだ!」

「違う…?違うって…何がだ?」

ここ数日の疑心暗鬼にさいなまれた彼の頭には、もう奈緒の言葉は素直に入って来ない。
彼の意思とは無関係に、頭が最悪のシナリオを紡ぎだしていく。


―――第4会議室、奈緒視点

「違うって…何がだ?」

「それは…」

咄嗟にアタシは言葉に詰まる。
何から話せばいいんだ?

手品の練習なんだー、とかか?
そんな言い訳が通るわけない。

Pさんは、何かにおびえているように見える。
何に?アタシに…?

「あれ?ちょっと奈緒、そんなところに立ってたら私たち出られな…」

「来るな!」

「凛もなのか…」

「え?奈緒P!?…みんな来ちゃダメ!!」

アタシがぐずぐずしてたせいだ。
続いて出口テレビをくぐったんだろう凛が、Pさんに見られてしまった。


「みんな…?もしかして、加蓮とか未央とか、最近この部屋に集まってるやつらもみんなグルなのか…?」

「グルってなんだよ、まるでアタシ達が悪いことしてるみたいじゃねーか!」

「じゃあ今テレビから出てきたお前はなんなんだよ!行方不明になったアイドルを片っ端から見つけてきたお前は!その後もそいつらとここでつるんでたお前はなんなんだよ!」

Pさんは明らかに混乱している。

「それだろ?その変な手品使ったんだろ?」

「奈緒P、聞いて、奈緒は私たちを…」

「凛たちが一時期いなくなったのも!お前がやったんじゃないのか、って聞いてるんだよ!!」

「…っ」

一番信頼してる人に、誤解とはいえ大声で非難されるってのは…かなりキツイ。
アタシの視界が涙で滲む。

「ちが…ちがうんだよPさぁん…」

「奈緒P、奈緒にそんな言い方しないで!」

「そりゃ年頃の女の子だから、何かしら隠し事があるのは当然だと思ってたさ!だけど!こんなのってないだろうよ!!」


「ねぇ聞いて!私たちは…奈緒は、奈緒Pさんが思ってるような悪いことなんてホントにしてない…」

「うるさい!!」


―――第4会議室、奈緒P視点

(あぁ、ダメだ…言葉がとまんねぇ…)

あらゆる思考が脳内を飛び回り、ぐちゃぐちゃになった頭の中で、奈緒Pはどこか冷静な自分がいることに気づく。

(おいこらクソ野郎、それ以上俺の奈緒にひどいこと言ってみろ、ぶっころすぞ!)

しかし、自分の体なのに言う事を聞かない。
ここ数日、いやひょっとするともっと前から彼を悩ませていた不信感。
溜まりに溜まったそれが、よりにもよって一番大切な自身の担当アイドルにぶちまけられている。

(あ、奈緒が泣いちまった…凛が怒ってくれてる…)

奈緒を抱きしめながら彼を睨み付け、食って掛かる凛の姿にありがたみを感じながらも、彼の口は彼女を怒鳴りつける。

(ふざけんなよ…なんだよこれ…なんなんだよ…)

「…もうダメだ…わかんねぇよ…なんなんだよ…」

ひとしきり怒鳴り終えた彼の体は疲れたのか、はたまた言おうとしたことがかぶっただけなのか。

心底からのボヤキが、彼の意志の下吐き出された。


―――第4会議室、奈緒視点

「…もうダメだ…わかんねぇよ…なんなんだよ…」

Pさんが、ひとしきり怒鳴った後小さくつぶやくようにそう言った。
アタシは涙をぬぐってPさんに話しかけようとした。

「な、なぁ、Pさ…」

その時だ。

ギュオオオオという風が渦巻くような音が聞こえたかと思うと、アタシと凛は弾き飛ばされた。

「うあっ!」

「くっ…」

「え?」

アタシ達の後ろにあったテレビの画面から、真っ黒な腕みたいなものが伸びてきていた。
その腕は一直線にPさんに襲い掛かり、思いっきり鷲掴むとテレビの中に引きずり込んじまった。

何が…起きたんだ?

「かみやん!しぶりん!大丈夫!?」

突然の事にアタシと凛が呆けていると、今手が引っ込んだテレビの画面から未央が飛び出してきた。


「かみやんたちが遅いから、あんちゃんたちでもっかいサーチしたんだ。そしたら『様子がおかしい』って…それで見に行こうとしたら黒い影が出口テレビに突っ込んで行ってさ…」

未央も相当慌てている。

「今連れて行かれたのって、奈緒Pさんだよね?ゴメン!私たちがもっと早く気付いてれば…」

「未央たちのせいじゃないよ…私たち全員、すこし油断していたのかもしれない」

未央と凛が話していることがなんとなく遠くに聞こえる。
なんで?Pさんは巻き込まれた…?アタシのせいで…。

「奈緒、しっかりして。もう一度テレビの中へ行くよ、みんなと合流しないと」

凛に引っ張られるようにして立ち上がりながら、アタシはなんとかテレビの中へ入った。


ちょっと検討してみましたけど、今日はここまで。
大体半分行かないくらいですが、この後は一気に読んでいただいた方が良いと思うので。

久しぶりなのにあんまり話が進んでなくて申し訳ない!

一応十三話はほとんど書き終わってるのでご心配なく。

シューカツってヤツがあるのでまた時間が空くことがあるかもしれませんが気長にお待ちください。

息抜きに小ネタのほのぼのSSもちょいちょい投稿していくので、いずれもお時間があるときにどうぞ。

では。

乙。
公式でほたるちゃんがシャドウに飲み込まれておる...。


デレラジで奈緒の曲少し流れてましたね!
かっこかわいらしかったです


こんばんは。
いやぁ春ですねぇ…クソ喰らえだよ!!

十年以上花粉症に悩まされてます。

そしてもっと悩ましいのが…やめておきましょう。

本日は十三話の後篇です。

いつも通り、お暇な方はごゆるりとおつきあいください。

あ、なんか描写し忘れてるというかあれなんですが、みんな眼鏡はかけてます。
最初の方だけ渡す描写してて、以降忘れてました。

あと、島村さんは事務所に置いてあった不審者対策用の刺又をもってテレビの中に入ってます。

長い前置きはここまで。

それでは、キュー。


―――テレビの中、入り口広場

「だ、大丈夫でしたかっ?」

戻ってきたアタシ達を見て、菜々さんが一目散に駆け寄ってきた。

「今、杏ちゃんとりせちゃんが連れ去られた奈緒Pさんの位置を探ってくれています!」

「向こうでは何があったのっ?」

千枝さんも駆け寄ってきてアタシに尋ねる。
えっと…えっと…何から話せばいいんだ…。

「あ、え、その、アタシが戻ったらPさんがいてそんで怒鳴られて…」

「奈緒、落ち着いて、ゆっくりでいいから」

凛がアタシの肩をそっと抱き落ち着かせようとしてくれている。

「う、うん…えっと、ここを出たら、何故かPさんが部屋にいて…」

今起こったことを、ゆっくりと凛に補足してもらいながらみんなに話していく。

「なんで奈緒Pさんがいたんだろう…」

「杏のサーチに反応なかったんでしょ?私、最近仲間になったばっかりだからわかんないんだけど…サーチが失敗する事とかって今まであったの?」


「んーん、どこにいるのかわからないことはあっても、いるかいないかで杏ちゃんが間違えたことはないにぃ…」

「杏も自分の力が絶対だとは思わないけど…でも見落としがあったとも思えないんだよなぁ」

皆の話し合いがどこか遠くに聞こえる。
今起こったことに心が着いて行ってない。

「とにかく今は、何故彼がサーチに引っかからなかったかを考えていても仕方がない。ペルソナが使えない人間にとって、ここは危険な場所だ。すぐに救出しよう」

「だな、考えるのはそれからでも遅くねー」

「あぁ。りせ、双葉さん」

「もう始めてるよ!」

りせちーと杏がそれぞれペルソナを呼び出して、Pさんの居所をサーチしている。

「近いね」

「うん、でも何だろコレ…」

「何かあるのか?」

「確かに奈緒ちゃんのプロデューサーの気配は感じるんだけど…そのそばにすごく変な気配もある…。シャドウとも違うし…」


「前に、ウサが暴走起こした時に感じた気配と似てるかも」

「え!?それじゃあ奈緒Pさんが危ないよね!」

杏の言葉を聞いた未央が慌てだす。

「すぐに助けに行かなきゃ!」

「あぁ、みんな、準備はいいか?」

『うん!』
『おう!』
『はい!』

鳴上さんの号令にみんなが一斉に返す。
けどアタシは、いまだに体に力がはいらない。

「奈緒?」

さっきから呆けているアタシの顔を、凛が心配そうに覗き込む。

「…アタシのせいだ…」

「え?」


「Pさんは、アタシが隠し事してるのに気づいてた…。

何度も『なんか隠して無いか?』って聞かれてたのに…。

アタシの事を心配して聞いてるのは分かってたのに…」

アタシははぐらかしてまともに答えようとしなかった。

「それは仕方ないよ!だって、こんなことしてるなんてどう説明するっていうのさ!」

「そうだにぃ!奈緒ちゃんは悪くないよ!」

「それでも!もう少しなにかできたはずなんだ!

少なくとも話せない事なら感づかせないようにちゃんと隠し通すべきだった!

アタシがしっかりしてなかったから…!」

「そこまでにしなよ」

アタシの言葉を遮って、加蓮が声を上げた。

「そうやって抱え込むのは勝手だけど、それで奈緒Pさんを助けられるわけ?」

「加蓮ちゃん、その言い方はちょっと」

「卯月は黙ってて」

加蓮はアタシの両肩に手を置いて話を続ける。


「自分が大事に思ってる人が、自分のせいでひどい目にあったと思ったら、確かに辛いと思う。

だけど奈緒、アンタと奈緒Pさんの関係でそもそも隠し事ができると思ってるわけ?

最初から無理なのそんなこと。

二人して考えてることが顔に出やすくてさ。

ありえなかった過去のことを考えてくよくよするのってさ、ホントに時間のムダ。

私はそのことをよく知ってるよ、誰かさんたちが自分の影と向き合わせてくれたおかげでね」

「そうだよ」

加蓮の言葉を受けて凛もアタシの肩に手を置く。

「なんだかんだ言っても、ここまで私たちを引っ張ってきてくれたのは奈緒、アナタだよ。

奈緒がいなかったら私も杏も卯月も加蓮も、ううん多分未央やきらりや菜々さんだってここにはいられなかった。

だから、今度も大丈夫。

一緒に奈緒Pさんを助けよう」

「凛…加蓮…」

「そんな情けない顔しないでよね、いっつも偉そうに人の世話焼いてるくせにさ」


「え、偉そうには、余計だっ」

目に溜まっていた涙をぬぐって、アタシは顔をぴしゃぴしゃ叩く。
そうだ、アタシがここで止まってちゃいけない。

Pさんはアタシが、アタシ達が助けるんだ!

「ゴメンみんな、行こう!」

『了解!』


―――テレビの中、暗雲垂れ込める電気街

「Pさん!」

入り口広場からそう遠くない場所に、かの有名な電気街と同じ街並みが現れていた。
もっとも、今は電気街と言うよりもオタクの町として有名になっているけど。

そしてここは何より…。

「…奈緒…」

アタシとPさんがであった場所だ。


―――ふーん、こんど新作でんだ…。


―――あの、君!ちょっといいかな!

―――…え?アタシ?


―――そう君!俺こういう者なんだけどさ…。

―――CGプロダクション…プロデューサー?


―――突然だけど、アイドルになってみない?

―――は、はァ!?な、なんであたしがアイドルなんて…っ!


―――てゆーか無理に決まってんだろ!べ、べつに可愛いカッコとか…興味ねぇ…し。
―――きっ、興味ねぇからな!ホントだからなっ!!


突然の事だった。
休みの日に友達と出かけて、連れの会計を待ちながら新作漫画情報を眺めていたら声をかけられた。

その時は驚いて思わず逃げ出しちゃったけど…なんとなく気になって、ちょっと話を聞こうと連絡をしてみたらあれよあれよという間にアイドルにされてしまった。

この人はそうやって、いつも唐突に物事を運んでくる。

でも、不思議と嫌な思いはしたことがない。
Pさんの楽しそうな顔を見てると、なんとなくこっちも楽しくなってくるからだ。

それがどうだよ。

「…いや、はは、参ったな…ここはどこなんだ一体…」

Pさんは疲れきった顔で辺りを見回してる。
あの飄々としてて、どこかいたずらっぽい笑みを浮かべていたPさんはどっかに行っちまったみたいだ。

「テレビの中だよ、Pさん」

「テレビの中、ねぇ…テレビの中ってのはもっとこう…コードとか基盤とかが入ってるもんだと思ってたんだけどな」

「そういう意味の『中』じゃないってのは、アンタもわかるだろ」

「まあ、な…」


上手く会話ができない。
あれ、普段アタシとPさんてどんな話してたっけ。

「まぁ、こんな妙なことに関わってたら…そりゃ俺には話せないわな」

「その…ごめん」

「いや、俺の方こそさっきは怒鳴ってすまなかった…」

「Pさんは悪くないよ」

「担当アイドルを信じてやれなかったんだ…俺はプロデューサー失格だな」

「そんなことない!」

「…ダメなんだよ奈緒。

さっきからずっと、お前に対しての疑念が止まらない…。

頭では信じてやらなきゃと思うのに、心の奥底からお前への疑念が溢れ出てくるんだ…。

なんでこんなことになっちまったんだ…?」

「…奈緒Pから妙な力の波動を感じるよ」

アタシとPさんのやりとりを黙ってみていたみんなの中から声が上がった。
杏だ。

「ウサが暴走した時と同じ力だ。誰かが奈緒Pの心に干渉してる」


「一体誰が…」


「…私よ」


『!?』

突如静かな声が響き渡り、アタシ達は戦慄する。
聞いたことのある声だ。

Pさんの頭上の空間が真っ黒に歪み、その歪みから一人の人間が姿を現す。

「あなたは…」

「黒幕の!」

「そう、あなた達の敵、そして『導く者』…」

加蓮を助けた時に現れた銀髪の女だ!

「アンタがPさんをこんな目に遭わせたのか!」

「原因を作ったのが私かと言うのならば、そう…。けれど私は種を蒔いただけ…この状況を作り上げたのは彼と…あなた達自身よ」

「どういう意味?」


身構えながら凛が尋ねる。

「そのままの意味よ…。

純粋無垢な彼の心の泉に小さな小さな疑念のかけらを投げ入れただけ…。

たった一つの小さな波紋を、大きくしていったのはあなた達の言動…。

波紋はやがて漣から大きな津波となって…彼の心の泉は暗い泥に飲み込まれた」

「アタシらが、Pさんに隠し事をしてたからこんなことになっちまったってのかよ!」

「そんな!だってこんなこと関係ない人に言えるわけないじゃんか!」

「秘めた事の中身等大した問題ではないわ…重要なのは隠されたという事実。

信頼されていると思っていた人に、その信頼を揺るがすような事をされるというのは…どんな気分なのかしらね…」

「う、ううぅぅぅ…」

Pさんが頭を抱えだす。

「なんだコレ…頭いてぇ…」

「奈緒Pちゃん!」


「私は言った、本当の絶望を教えてあげるって…」

銀髪の女がゆっくりと両手をPさんにかざす。

「奈緒Pさんから離れてください!」

菜々さんがボウガンを構えるが銀髪の女は意にもかいさない。

「あ、う、ぐぅ…あああああ!」

「信じていたものに裏切られた時…人は最高の絶望に彩られる…。

自ら裏切った人を、自らの手で葬るのは…さて、どんな気持ちがするものなのかしら」

「があああああああああああああああああああ!!」

「Pさん!!」

ジャラララララララ

Pさんの体に黒い鎖がまとわりつく。
それと同時に、上空に巨大な黒い塊が形作られていく。

「離れなさい!」

「くっ!」


ガキィン!

菜々さんと加蓮がそれぞれの武器を銀髪の女に放つが、見えない壁に阻まれて届かない。

「なんだありゃあ…」

花村さんが思わずといった感じに言葉を漏らした。
無理もない。

黒い塊は巨大な竜の姿に変貌しながら、まとわりついてる鎖ごとPさんを引き寄せ一体化した。
胸の部分にPさんが半分埋まっている様な状態だ。

「人を媒介に…シャドウを生み出したのか」

「それって生田目の時と…!」

「神谷さん、君が俺と同じワイルドなら、彼とも絆を結んだんじゃないか?彼を象徴するアルカナはなんだ」

「…『運命』」

「りせ」

「オッケーわかってる」

鳴上さんの指示が飛ぶよりも早く、アナライズに入っていたりせちーが叫ぶ。


「…ウソ…こんなヤツがいるの…?あのシャドウ、アルカナは『世界』だよ!」

「『世界』…!?…とにかくこれではっきりした。あれは彼のシャドウじゃない。あの女が彼を憑代にシャドウを暴走させているんだ」

「助ける方法はあるんですか!?」

「なーに、シャドウのヤローをぶっ倒しちまえば解決よ!」

「そう上手くいくかしら…?」

「うるせえ!絶対に助けるんだ!」

不敵な笑みを浮かべる銀髪の女に叫び返し、アタシ達は構える。

「みんな、力を貸してくれ!」

『もちろん!』


―――暗雲垂れ込める電気街

「里中、頼む」

「オッケー任せて!」

鳴上さんの呼びかけを的確に理解した千枝さんがペルソナを呼び出す。



「いっけぇ!ペルソナ!」



現れたのは鎧を身にまとった女武者のペルソナ。

「考えるな、感じろ…ってね!ハラエドノオオカミ!」

千枝さんのペルソナ、ハラエドノオオカミが得物を振り上げ気合いを入れると、アタシ達の体に力が湧いてきた。

「すご、皆に補助系の魔法を全がけしたのとおんなじことになってるよ」

杏が目を丸くしている。
白鐘さんの使ってたヒートライザの全体版か。

「ほんじゃいっちょかき回してやりますか!」

「私も行っくよー!」


花村さんと未央のスピードコンビが飛び出して行って竜シャドウを攪乱する。

速い。
竜シャドウが前足で二人を狙っているがかすりもしない。

「先制点、頂きだぜ!」

勢いよく竜シャドウの体を駆け上がった花村さんが苦無を一閃した。
首元にクリーンヒットだ!

しかし。



―――グゥォオオオオオオ!
「うああああああ!!」



竜シャドウが苦しむのと同じように、それまでぐったりと動きもしなかったPさんが叫び声をあげる。

「な、なんだ!?」

「花村さんの攻撃が当たったら、奈緒Pさんも苦しみだしたように見えましたけど…」

それまで高みの見物を決め込んでいた銀髪の女が、卯月の言葉を聞いてうっすら笑み浮かべる。


「気づいたようね…」

「まさか、シャドウと彼の感覚が共有されているっていうの!?」

「憑代は彼の身体よ…むしろ、何故共有されていないと思ったのかしら?」

天城さんの言葉を嘲笑うかのように肯定する銀髪の女。

「さて、どうするのかしら…シャドウを攻撃すれば彼も傷つくわ…滅ぼせばもちろん…」

「黙れ!」

アタシはそれ以上聞くのが耐えられず、ゴフェルを呼び出し銀髪の女に疾風の呪文を叩きつけた。



―――オォォォオオォ
「あうっ」



「あぁっ!」

しかしアタシのはなった疾風呪文は、竜シャドウがその身を挺して銀髪の女をかばう事で防がれてしまった。

くそっ、またPさんに苦しい思いを…!


「共有されるのは痛みと苦しみ…もちろん体の自由は利かないわ。

さぁ、力を持たない、負うべき責も無い彼を、あなた達は見捨てることが出来るかしら…」

「ふざけんな!Pさんは関係ないだろっ!Pさんを解放しろ!お前が直接アタシ達と戦えよ!」

「残念だけれど…これも神の思し召し…あなたを『導く』ために必要なこと。

せいぜい足掻きなさい…そして真実に目覚めることね」

それだけ言うと、銀髪の女は姿を消した。

「待ちやがれぇ!」

「ダメ、奈緒、今は奈緒Pさんを助けるのが先だよ!」

「でもどうやって!」

「ヤケになっちゃダメだよかみやん!ちゃんと考えよう!」

「…っ!…ごめん」

未央の言葉に落ち着きを取り戻して、改めて竜シャドウに向き直る。


「鳴上さん、何か解決策は知らないか?」

「…すまない。以前にこれと似たような状況になったことはあるが…その時はおそらく感覚共有はなかった」

「それに、相手も犯人だったから、手加減とか考える必要なかったもんね」

千枝さんも申し訳なさそうな顔をする。

「のんびり話してるヒマ無さそうだぜ相棒!」

竜シャドウの注意をひきつけていた花村さんがこちらに声を飛ばしてきた。
なかなか捉えられない花村さんをとりあえずおいて、こっちに攻撃してくるつもりだ。

「みんな、俺の後ろにいろ!」

鳴上さんが、アタシ達をかばうようにして竜シャドウが振り下ろしてきた尻尾の前に踊りでる。


「アタバク!」


鳴上さんの呼びかけに応えて現れたのは、八面八臂の阿修羅を彷彿とさせるペルソナ。
アタバクは竜シャドウの攻撃をなんなく受け止める。

「物理攻撃なら俺が受け止める。攻撃を反射させてしまうペルソナは使うな。みんなで弱点をかばい合って、考える時間を稼ぐんだ」


鳴上さんの指示で、みんな自分の得意属性の攻撃を受けとめながらなんとか打開策を探す。

「炎と風はオレに任せなっ!」

「氷はあたしが受け止める!」

「雷なんて散らしてあげる!」

さすがに特別捜査隊陣は頼りになる。

「受け止めきれなかった時はナナに任せてください!」

例え余波でダメージを喰らっても、菜々さんがいてくれるおかげで被害は最小限に食い止められる。

アタシと鳴上さんは、ペルソナを複数使えるという利点を生かして様々な呪文や特技を試みている。

傍目には一進一退の攻防を繰り広げているように見えただろう。
けど…。


「…能力減衰系の呪文も意味なし、か」

「状態異常を回復するような呪文もアイテムも効果なしだ…どうしろってんだよ!」

考え得る限りの手段を試してみたけど、シャドウだけを倒せるような糸口すら見当たらない。
Pさんとの融合を解除する方法も、だ。

「ゴメン!止め損ねた!」

「にょわあああああ!」

天城さんの注意も間に合わず、きらりが弱点である雷撃を被弾する。

「きらりちゃん!ディアラマ!」

菜々さんが慌てて回復するけど、流れは良くない。
向こうにダメージは与えられないのに、こちらは攻撃を浴び続けているんだ。

今はまだ菜々さんもしっかりしているが、このままこの状況が続けばいずれ回復手段がなくなってやられるのは目に見えてる。

「…やるしか…ないのかよ…っ」

「諦めちゃダメだよかみやん!まだほかに方法が…」

「けど!もうそんな余裕が…」


「なぁ相棒っ、どうするよコレ」

「…大切な人を失う悲しみは、俺たちも一度味わった。神谷さんにそれを味わってもらいたいとは思わない…しかし」

「ゆ、悠くん!君がそんなに弱気でどうすんのさ!らしくないよリーダー!」

未央と千枝さんが、何とか励まそうと声を上げる。
アタシも鳴上さんも、なんとか自分を奮い立たせようとしているけど…。

「可能性としては…このまま攻勢に転じるという選択肢がある」

「でもそれじゃ奈緒Pさんが!」

「シャドウ体を弱らせられれば彼とシャドウの融合を引きはがす糸口が掴めるかもしれない…が、一歩間違えればシャドウもろとも彼を滅ぼすことになる」

Pさんを滅ぼす…。
言葉の重みにアタシの膝が笑い出す。

「でも、可能性がないならそれに賭けるしか…」

「えっと、水を差す感じで悪いんだけど、アナライザーとして言わせてもらっていい?」

「…なんだ?」


「残念だけど、たぶんその作戦上手くいかない。アナライズしてみた感じ、生命力自体は奈緒Pとシャドウで共有してるわけじゃないっぽいんだ。奈緒Pは生身じゃん?シャドウを弱らせる前に奈緒Pの生命力が持たなくてジ・エンド」

杏の淡々とした口調で語られる事実に、いよいよ目の前が真っ暗になる。







アタシ達が滅ぶか、Pさんが滅ぶか。







選択肢は、他にない。




カラン…



「な、奈緒?」

アタシが刀を取り落したのを見て、凛が声をかけてくる。

でももう反応する気力もない。




死にたくなんかない。
でもPさんを死なせるのだけは嫌だ。




それに。






Pさんのいない世界なんて想像できない。
Pさんのいない世界でアイドルなんて出来ない。











万事、休す。







アタシはその場にへたり込んだ。



Pさんを取り込んだシャドウがこっちに近づいてくるのが見える。
凛と加蓮はアタシの肩をゆすって何か言ってる。


他の皆はアタシの前に立って、シャドウに向かって身構えている。


もう何もできない。
みんなは生き残ってくれ。


みんながPさんを攻撃しても責められない。




アタシは…このまま…心を閉ざして…。








「なりませんよ、奈緒」












ふいに、聞き覚えのある声が響き渡った。











「参ります…ぺるそなっ!!」






アタシの背後で、誰かがペルソナを呼び出した。誰だ?

凛と加蓮が驚きの表情を浮かべている。


「お願いします、八岐大蛇!」


八匹の巨大な蛇、いや、八つの巨大な首を持つ一匹の蛇が、竜シャドウに牙をむく。


―――ガアアアアアアゥウウ
「うっ…」


大蛇は竜シャドウの身体にかみつき、動きを止めた。

こんなペルソナ使う人なんていたっけ…。

「奈緒、心を閉ざしてはなりません」

声の主はアタシに近づくと、正面に回り込み思いっきり抱きしめてきた。

未だ未成年とは思えないその風格。
波打つ銀髪、白い肌。

「た、かね、さん…」

765プロの銀色の女王、四条貴音その人だ。


「来るのが遅くなったようで申し訳ありません。ですが、ひぃろぉとは遅れてやってくるもの。そう言うではありませんか」

「「え、え、ええええええええ!!」」

未央と卯月が盛大に驚いている。
そういえば、貴音さんがペルソナ使いかもしれないって話、誰にもしてなかったな。

「貴音さん…なんでここに…」

「友が苦しみ悩みながら戦っているのです。他に理由など必要ですか?」

いや、そういうことじゃなくて…。

アタシが余計な口をはさむ前に貴音さんは続ける。

「良いですか、奈緒、貴女は今、とてもつらい選択を迫られています。

ですが、他の誰にも貴女の代わりは務まりません。

貴女自身の手で選び取るのです。

心を閉ざしてはなりません。

戦う事から逃げてはいけません」


「で、でも、アタシには…」

「残念ながら、今の状態の彼を救う手だてはありません…しかし、彼は貴女にとってかけがえのない方であるはず。

その方の行く末を、他者の手にゆだねて果たしてそれで貴女は悔いなく生きられますか」

「Pさんがいなかったら、アタシは生きてても生きてないよ…」

「それが間違いなのです、奈緒。

自分の命を、他者に委ねてはなりません。

大事なのは生きる事、生きて、生きられなかった方たちの意志を継ぐこと。

誰かの為に、誰かに委ねて生きるのではなく、自分の力で、自分の為に生きなさい」

貴音さんの言葉が、アタシの頭を再び動かし始める。


「でも、どうすれば」

「選ぶのです。

彼に取りつく邪悪を滅し、彼を救うのか。

彼と共に滅ぶ道を選ぶのか。

どんな道を歩むにせよ、自らの力と意志で進む道は決めるのです。

たとえそれが命を絶つという結果であったとしても、意志を放棄したうえでの結末かそうでないかによって、世界は変わるのです」

選ぶ…。

貴音さんのペルソナ、八岐大蛇に押さえつけられているシャドウを見やる。
その胸に埋め込まれたPさん。

Pさんとの思い出が頭を駆け巡った。





―――じゃーん!見てみろ、かっわいいだろー!ゴシックだぞゴシック!

―――は、はァ!?こんなカッコ似合うワケ…。
―――…べ、べつに嬉しくなんかないからなっ!ちっとも嬉しくなんかないんだからなぁっ!!




初めて衣装を貰った時の事。





―――おっつかれー。

―――な、なんだよPさん、ニヤニヤすんなよ…もうっ。





初めてイベントがうまくいったって実感できた時。






―――アイツ傘忘れやがって、なんでアタシが傘なんか…アイドルのアタシが…。
―――あ、アイドル…アタシが…?

―――えっとー…奈緒?

―――あぁもう、アイドルなんだな…恥ずかし…ってプロデューサー! い、いつからそこに!? き、聞いてたのか!?





Pさんが傘を忘れたって気づいて駅まで届けに行ったこともあったっけ。


どれも、大切な思い出だ。
それを、あのわけわかんねぇ女に好きにされてもいいのか…?



「いいわけ、ねぇよな」



アタシはゆっくりと立ち上がり、Pさんを取り込んだシャドウを見据える。

「アタシはちっぽけだ…なんの力もない。

もし今のアタシにもっと力があれば、Pさんを助けてやれたかもしれない。

けど、できない。

Pさんを傷つけたくはないけど…このまま放っておいてアイツに好き勝手やらせるのはもっとダメだ。

Pさんだって、そう思うよな…」


「奈緒」

凛と加蓮がアタシの手を握る。

「Pさん、苦しいんだろ?

シャドウに自分の心を踏みにじられてさ。

だから…アタシが今楽にしてやる」

二人の手を握り返しながら、アタシは言葉を絞り出した。

「…いいんだな」

「ここでアタシ達が倒れたら、多分あの女はもっとやばいことをしでかすと思う。

Pさんの魂をここで救って、またアタシみたいな思いをする人を出さないようにしなきゃいけない。

覚悟は、決めたよ…」

けど…。


「悔しいよ…悲しいよ…!Pさあああああああん!」


アタシの泣き声が、暗雲垂れ込める電気街に響き渡った。
その時だ。



「…な、おぉ」


「え!?」

ダメージを受けた時以外は、力なく揺られるままになっていたPさんが、かすかに声を上げた。

「な、お、きこえ、るか…」

「Pさん!聞こえるよ!アタシだ!アンタのアイドル、神谷奈緒だよ!」

「なんと…あの状態で、自我を取り戻したというのですか…」

「ごめん、ごめんなぁ、なお」

「アタシの方こそ、隠し事なんかしてゴメン!!」

「いいんだ、いまならはっきりわかる、おまえは、いなくなったアイドルたちを、たすけて、いたんだろ?」

「奈緒P…なんでそれが…」

「シャドウとの融合の副産物か…」

「どういうこと?」


「シャドウは心の闇を具現化した存在だ。恐らくだが、あのシャドウを実体化させるために彼の心の闇を憑代にしているのだとすると、今あそこで覚醒しているのは心の闇を除いた彼の純粋な部分…神谷さんの強い心に共鳴して呼び起された奇跡、とでも言うのかな」

はてなを浮かべる未央に、鳴上さんが独自の解釈を話す。

「Pさん!今助けるから!」

「いいんだなお、おれには、わかる…こいつは、おれもろともたおすしか、ない…そうなんだろ」

「それは…!」

「じぶんのアイドルを、しんじてやれなかった、ばつだ…それはうけいれるさ…なにより」

Pさんはそこで疲れたのか一息入れた。

「なにより…おれは、おまえに、こんなところでおわってほしくない…だからたのむ!けりをつけてくれ…!」

「Pさん…」

「おれは、じぶんじゃじぶんのしまつをできない…おまえだからたのむんだ…なお」

Pさんの必死の頼み。
多分、こうして意識をつないでいるのもやっとのことなんだろう。


「わかったよ…」

「ありがとう…なお」



「Pさん、今までありがとう…アンタに衣装を貰った時のこと、今でも覚えてるよ」


「……やっぱり、おまえはかわいいろせんで、きまりだな…であったころから…さいこうのアイドルになるって、おもってた……………なれよ…トップアイドル」





「Pさん…Pさああああん!!」









パリィン!






―――我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、ついに真実の絆を得たり。

真実の絆・・・それは即ち、

真実の目なり。

今こそ、汝には見ゆるべし。

”運命”の究極の力、”ノルン”の

汝が内に目覚めんことを・・・







>奈緒P『運命』と、確かな絆を紡いだ!






こんな時に、アタシの頭に絆を確かめる声がこだました。
なにが絆だよ…Pさんとはもう…!




―――諦めるな。




え?







―――我は汝、汝は我…、我は汝の心の海より出でし存在…。











頭の中に声が響き続ける。








―――必要な時が来れば、心が教えてくれるわ。


ベルベットルームでマーガレットから聞いた言葉が蘇る。








―――双眸見開き、今こそ叫べ、汝が必要とする力を…。









困惑が確信に変わる。


アタシには…






出来る。


「これは…」

「ペルソナの…光」

みんなの驚く顔が見える。








「ペルソナあああああ!」







アタシの全身からまばゆい光が迸った。




「クロト!ラケシス!アトロポス!」




アタシの周囲を取り囲むように、三人の女神が姿を現した。
三人の女神は優しく微笑むと、それぞれ一枚のカードに姿を変えて、アタシの手元に滑り込んでくる。

三枚のカードはひときわ強い光を放つと、一枚のカードへと変化した。







―――呼んで、私の名を。












「Pさんを助けて…ノルン!」







パリィン!

光が荒れ狂い、風が逆巻く。
アタシがカードを破壊すると、そこから溢れた光の中から、不思議な形の影が姿を現す。

三人の女神に抱えられた巨大な時計。

コイツがノルン…アタシとPさんの絆の証…。

ノルンが現れるのと同時に、アタシの胸に一つの呪文が浮かんでくる。

使えってんだろ、もちろんだ。



「…ランダマイザ!!」



アタシが叫ぶと、ノルンが三色の光の玉を放った。
光の玉は竜シャドウにまとわりつくように飛び回る。

「あぁっ、見て!」

未央が大きな声をあげて、竜シャドウの胸元のPさんを指差した。
ランダマイザの光が竜シャドウを包み込むのと同時に、Pさんを縛る鎖が緩んでいくのが見てとれる。


「今まで何をやってもダメだったのに!」

「…そうか」

鳴上さんが何かに思い至ったように呟いた。

「どうした、悠」

「ランダマイザは、敵単体の能力を著しく減衰させる呪文だ。効果はいわゆるンダ系の能力減衰呪文を全てかけたときと同程度」

「でもそれだと、効果が多いだけでさっきまでやってたことと変わらないんじゃ」

「結果だけを見ればそうだ。だが、ンダ系呪文とランダマイザではその原理が異なる。ンダ系はそれぞれに対応するエネルギー、攻撃ならば攻撃に変換されたそれの力を弱める」

「う、うん」

「ランダマイザは敵のエネルギーそのものを弱めるんだ。攻撃力、防御力、素早さ、それらに分散されていない未分化のエネルギーを減衰させる。結果だけ見れば相手の弱体化だが、ンダ系とランダマイザにはそういう違いがある」

「む、むずかしい…」


「腕を振り回すのに必要なエネルギーを弱めるのがタルンダで、腕を振り回す為のエネルギーを供給している大元のエネルギーを弱めるのがランダマイザってこと?」

「そうだ。ランダマイザを使えるペルソナは限られている。俺が知る限りでも二、三体しかいない超高等呪文だ。今俺の手元に使えるペルソナはいないが…油断していたな、常に連れておくべきだった」

鳴上さんの解説を聞いてなるほどと思う。
Pさんを憑代にしているとはいえ、憑りつく力はシャドウの物だ。

ランダマイザのおかげで、Pさんとシャドウを繋ぐ力が弱まったってことだろう。

ジャルルルル

鎖が緩み、Pさんが振り子のように垂れ下がっていく。

「今ならあの鎖を破壊して、融合を解除できるかもしれない…神谷さん、行けるか?」

「もちろんだ!」

「よし…陽介、頼んだ」

「へへっ、おうよ!」

アタシと鳴上さんは武器を構え、竜シャドウに走り出した。




「やっぱりこうでなくっちゃな!良い風が来たぜっ!」



花村さんがペルソナを呼び出し快哉を叫ぶ。
アタシは自分の体が軽くなるのを感じた。

「スクカジャか?」

「陽介だけのスキルだ…爽やかなアイツらしいだろ」

鳴上さんが愉快そうに微笑む。

「呼吸は俺に合わせろ…行くぞ!」

「おう!」






「イザナギッ!」

「ゴフェルッ!」





竜シャドウの懐に飛び込み、ペルソナを呼び出しながらPさんを縛る鎖に狙いを定める。



「はぁっ!」

「らぁっ!」



左右からアタシと鳴上さんの刀、それぞれのペルソナの武器が鎖を叩き斬る。

ジャキィン!

…ガシャンガシャンガシャンドサッ

「Pさん!」

「安心してかみやん!無事だよ!」

振り返ると、未央と花村さんがいつの間にか駆けつけていて、Pさんを抱えて安全なところまで運んでくれていた。



―――グォォォオオォォォオォォオ…


「やったね奈緒ちゃん!」

みんなが駆け寄ってきた。
竜シャドウは、憑代を失い形を崩しつつある。

「油断してはなりません、まだ敵は戦う意思を失ってはいませんよ!」

貴音さんの言葉で、みんな武器を構えなおす。
確かに竜シャドウは、崩れつつある体を引きずってこちらに向かってこようとしている。

けど。

「人質取り返しちゃったらこっちのもんだもんね!雪子!」

「わかった、千枝!」




「ペルソナ!」
「ペルソナッ!」



千枝さんと天城さんが並んで立ち、各々のペルソナを呼び出す。
ハラエドノオオカミとスメオオミカミが裂帛の気合を放つと、その闘気が巨大な龍となってシャドウに襲い掛かった。



【赤い女将と緑の成龍】



その凄まじい威力に思わずアタシは顔を伏せる。
渦巻く闘気が収まったころには、シャドウは跡形もなく消え去っていた。


―――暗雲垂れこめる電気街

「Pさん!」

シャドウ消滅の確認もそこそこに、アタシはPさんのもとへと駆け寄る。

「…相当弱ってるけど、大丈夫、気を失ってるだけだよ」

「良かったぁ…あれ?」

様子を見ていたりせちーの言葉にほっとしたアタシは、反動からか腰が抜けてしまった。

「ほら奈緒、立って」

「安心するのはまだ早いよ。ペルソナ使いじゃない奈緒Pは、ここにいるだけで体力削られちゃうんだから」

「そうだ!早くここから出さないと」

加蓮に手を貸してもらって立ち上がったアタシは再び慌てだす。

「奈緒Pちゃんはきらりがおんぶしたげるにぃ!」

「こういうのは男が…って任せた方が良さそうか」

勢いで名乗り出ようとした花村さんが、きらりと自分の体格を比べてスゴスゴと引き下がった。


「花村女の子に負けてんじゃないよ」

「うるせー、俺だってなぁ…」

「漫才は後だ、急ぐぞ」

小競り合いをする千枝さんと花村さんを制して、鳴上さんが指示を出す。

「道中のシャドウは無視して走れ!スルーできそうにない奴は、俺と陽介で追い払う」

「りょーかいだにぃ!!」

きらりがPさんを背負い、走り出した。
アタシも後を追う。

せっかく助け出したんだ…もう少し頑張ってくれよ、Pさん…!


―――現実世界、第4会議室

「とーちゃくだにぃ!」

「す、すぐ救急車を…」

「その必要はありません」

息ひとつ乱さずついてきた貴音さんが、焦るアタシを制した。

「え?」

「諸星きらり、この事務所の裏口に黒塗りの車が停めてあります。彼をそこへ」

「どういうこと?」

「説明は後です。運転手も付き人も行先は把握しております。さ、奈緒も一緒に」

「わ、わかった」

貴音さんに言われるがまま、アタシときらりは事務所の裏口を出て目の前に停めてあった車にPさんを連れて乗り込む。

「では、手はず通りに」

助手席に乗り込んだ貴音さんが運転手さんに指示を出した。
それを受けて発進する車。


速い。
全速力で飛ばしてくれているんだろう。

普段なら法定速度とかについてツッコミを入れるとこだけど、生憎今はそんな余裕はない。

「貴音さん!この車はどこへ」

「安心しなさい、奈緒。ちゃんと病院に向かっています。検査と入院の手筈も整えてあります」

「す、すごいにぃ…お姫ちゃんいつのまにそんなことしてたんだにぃ?」

「こんなこともあろうかと、あちらに行く前に」

用意周到なんてもんじゃない。
なんで貴音さんが色々知ってるのかは気になるけど、今はPさんだ。

「色々聞きたいことはあるでしょうが、とにかく今は彼の事が先決。落ち着いたらお話ししましょう」

アタシの気持ちを読んだかのような貴音さんの言葉。

なんだかわけがわからないけど…とりあえずPさんは助けられたんだよな?







それから病院に着くまで、ぐちゃぐちゃの頭のままのアタシは一言も喋らずただただPさんの顔を眺めていた。





あー、書けた書けた。
ようやく投稿できました。

実際書くのに一番時間がかかったのは前話の生っすかですが、十三話は一番苦労した気がします。

展開ェ…。

今後シューカツが激化するとまた少し間が空くかもしれませんが、気長にお待ちください。
十四話はこの続きに投稿いたします。

ではでは。

>>44
そろそろペルソナ発現するアイドルがいてもいいんじゃないですかね、ちひろさん

>>45
素晴らしい曲だった…奈緒Pでよかった…ありがとうちひろ…


こんばんは。

二週間ほどですかね、なんとかこれ以上は開けずに頑張って行きたいものです。

とりあえず書き溜めだけはちょくちょくやっていますのでご心配なく。

××××なんてなくなりゃいいのに!

言っても仕方ないですね。

では、終盤の入り口、第十四話をお楽しみください。


―――桐条記念病院

貴音さんの用意してくれたらしい車でたどり着いたのは、都内でも有数の巨大病院だった。
確か、桐条グループっておっきな会社の関わってる病院だ。

経営規模で言うと、あの水瀬グループと同じかそれより大きいとか。

なんでこんなとこに、とか疑問をさしはさむ余裕はなかった。

病院前に車が着くと、すぐにお医者さんたちが駆け寄ってきてPさんを担架に移す。

「状況は連絡した通りです。お願い致します」

「おまかせください」

最低限の言葉だけ交わし、医者たちはPさんを連れて行こうとする。

「あ、あのっアタシも」

「…申し訳ありませんが、検査と処置が終わるまでは待合室で待機して頂くことになっておりますので」

「…はい」

「彼らはその道のぷろです。奈緒、今はお任せして待ちましょう」

Pさんが運ばれていく。
アタシはそれを黙ってみているしかなかった。


―――桐条記念病院、待合室

「かみやん!」

アタシ達が待合室に入ってほどなく、未央たちがやってきた。

「未央ちゃん、ここ病院だからおっきな声出したらだめだよ」

「ご、ごめんしまむー、つい」

「奈緒Pさんは大丈夫なんですかっ?」

「今、ここの優秀な医師たちが彼を検査しています。命の危険はないとは思うのですが…」

「…っ」

「悠くん…」

一瞬、顔をしかめてこぶしを握った鳴上さんの手を、千枝さんが心配そうに包む。
見ると、りせちーも天城さんも花村さんも何かを思い出したかのようにうかない顔をしている。

どうかしたのか…?

「大丈夫?顔色良くないけど」

加蓮が特別捜査隊陣の様子を見て尋ねた。


「…なんでもない。病院に良い思い出がないだけだ。…千枝」

少し息を吐いた鳴上さんは、自分の拳を包む千枝さんの手を、空いている方の手で優しく叩いて大丈夫とアピールした。

「なんでもないようには見えなかったけど…気になることがあるなら言った方がいいんじゃないの?」

「今話すような事じゃねーんだわ、奈緒Pさんの検査が終わってひと段落してからでいいだろ」

どうやら、病院に良い思い出がないのは本当らしい。
アタシに気を使ってくれてるんだな…確かにあんまり聞きたいとは思わない。

「まぁ気休めでしかないとは思うけど、アナライザーの立場から言わせてもらえば、命の危険はないと思うけどねー。だからみんなちょっと息抜きなよ、空気重すぎ」

杏のいい意味で空気を読まない一言で、みんな少し緊張を緩める。

「そういえば、杏たちはどうやってここに?」

「そうそう、貴音っち準備良すぎだよ!」

「奈緒ちゃんときらりちゃんが奈緒Pさんを連れて車で出てったあとにすぐハイエースが入ってきて、ナナたち全員を乗せてここまで連れてきてくれたんです」

「慌しくしてしまい、申し訳ありませんでした。何分説明している時間が惜しかったもので」


「いいんですよ、そんなこと!私たち助かっちゃいましたから」

そうだ、貴音さんだ。

「えっと、貴音さん…」

「皆まで言わずともよろしいですよ、奈緒。あなたたちが聞きたがっていることはわかります。ですが、今は皆疲れている…ゆっくり休んでまた後日ということでいかがでしょうか」

「…その方が良いか。陽介、里中、天城、お前たちには後で必ず連絡する」

「任せたぜ、さすがに今はなんにも頭に入ってきそうにねーからな」

「そっか、あたしらはずっとこっちにはいらんないもんね」

「鳴上くん、りせちゃん、お願いね」

「おっけー」

その後何を話したのかよく覚えてない。
だって、しばらくして待合室に来たお医者さんが「命に別状はない。しいて健康上の問題を上げるとすれば過労くらいだ」って言ったのを聞いたアタシは、安堵のあまり気を失って倒れたらしいからな。


―――数日後、桐条記念病院、奈緒Pの病室

あれから数日経って、Pさんが意識を取り戻したという連絡を受けた。
全員で行きたかったけど、仕事もあるし、明けて今日ここへ来られたのはアタシと凛と杏、そして鳴上さんだけだ。貴音さんからは、あとで合流するという連絡が来た。

出不精の杏がついてくるのは珍しいと思ったら「いちおーアナライザーだし、被害者だしさ。めんどくさいけど杏がいた方が話スムーズじゃない?ということでついてったげるから飴ちょーだい」だそうだ。

「…よう」

アタシ達が部屋に入ったのに気付いたPさんが、上半身を起こして出迎えてくれた。
…元気そうだ。

その姿にちょっとうるっときそうになったけど、とりあえず堪えて挨拶する。

「おっす、元気そうじゃん」

「まぁ久しぶりにゆっくり休んでるかなぁ」

暢気なこと言ってやがる。
自分がどんな目に遭ったのか覚えてないんだろうか。

「あのさ、Pさん」

「色々話してくれるんだろ?」

やっぱ覚えてるよなぁ。

「うん、ちょっと信じられないようなことだらけだけど、聞いてほしい」


「おう、どんとこいだ」

貴音さんが言うには、ここならどんな話をしても問題ないそうだ。
と、その前に。

「えっと、そうだ、紹介しとかないとなこの人は鳴上さんて言ってアタシの…」

「彼氏か?」

「そう彼…ってはぁ!?なにバカなこと言ってんだよそんなわけないだろぉ!?」

「奈緒、うるさい。ここ病院」

「なんだ違うのか」

「被せんなよPさん!!」

人がせっかく真面目な話をしようとしてんのにおちょくりやがって…!

「いや、おちょくってるつもりはないぞ?この鳴上くん?がお前の彼氏で、お前を危ない道に引き込んだってんなら俺は彼を一発ぶんなぐらなきゃいけないからな」

「はぁ!?」

「そりゃそうだろ。まぁアイドルに恋愛はご法度とはいえ、完璧に隠し通せるなら俺も無理やり別れさせたりはしないさ。ただ、それと危ない橋を渡らせるかどうかは別の話だ。だいたい、テメーの彼女を巻き込むだけでも男としちゃ碌なもんじゃねぇのに、その上それが俺の大事なアイドルともなればだな」


なんだよコレ、話がめちゃくちゃな方へ転がりだしたぞ。
ちょっとちょっと誰か止めろって!

「鳴上さん、アンタも黙ってないでさぁ!」

「っていってるよ番長」

「…そっとしておこう」

「おくな!」

何でアタシの周りにはボケしかいないんだ!?

「ふむ…まぁこの奈緒の反応を見る限り彼氏じゃなさそうだな」

「さっきからそう言ってるだろ」

「で、改めて彼は誰なんだ?」

さんざん人をからかっておいて、あっさり話を本題に戻すPさん。
鳴上さんは特に戸惑う様子もなく、さらりと自己紹介を始めた。

「…初めまして、でいいですね。俺は鳴上悠。都内の学校に通う高校三年生です。神谷さんとは、今年の夏に彼女がかかわる事件を通して知り合いました」

「Pさんが巻き込まれた事件と同じだよ。鳴上さんたちは、去年似たような事件に巻き込まれてそれを解決したんだ。今回のアタシ達の状況を知って、協力してくれてる」


「なるほど…えー、CGプロでプロデューサーをやってます、奈緒Pです。この度はどうも」

鳴上さんとPさんがかるく挨拶を交わす。

「で…えっと、何から話せばいいのかな…とりあえず、最初は加蓮から聞いた単なる噂だったんだけど…」

マヨナカテレビの噂、テレビの中の世界、アタシに目覚めた力、失踪事件…。
話してみるとずいぶんといろんなことがあったもんだ。

Pさんも、色々聞きたいことはあるだろうけどとりあえず黙って聞いていてくれてる。
凛と杏に補足してもらいながら、アタシはこれまで起こったことを全部Pさんに話した。

「そんで、こないだPさんが巻き込まれたやつ。あれがとりあえず最後かな」

「………」

話を聞いたPさんは、難しい顔をしながら黙っている。
何か言おうか、どうしようか、アタシが迷った末に口をひらこうとした瞬間、Pさんが声を発した。

「…そりゃあこんなこと話せんわなー」

「へ?」

思った以上に暢気なPさんの声の調子に、アタシは変な声を出しちまった。

「いや、だってテレビの中の世界にペルソナにシャドウだろ?普通そんな話いきなりしだした奴がいたら、頭おかしいと思うもんよ」


「し、信じてくれるのか?」

「信じるも何も、巻き込まれた当事者だぜ俺は。この目で見ちゃったからには認めざるを得ないだろうよ」

あっけらかんとしたPさんの言葉に、アタシはなんだか力が抜ける思いだったけど、凛と杏は「奈緒Pならそーだろうね」という感じであきれたような顔をしている。

「奈緒Pってさ、単純て言うか対応力あるっていうか」

「ふつーあんなの夢かなんかだと無かったことにしちゃうと思うんだけどなー」

「お前はめんどくさいからってだけだろ」

「ばれたかー」

「…なんか、心配して損した感じだ」

「お前は気を使い過ぎなんだよ」

Pさんはアタシの頭をワシワシと撫でながら優しい声で言う。

「…ごめんな、色々ひどいこと言ってさ」

「…いいよ、あんときのPさんマトモじゃなかったし」

もうすっかり元のPさんだ。
安心感で胸がいっぱいになる。


「それで、今度はこっちが奈緒Pに聞きたいんだけど」

凛が話を次の話題へ移す。

「奈緒Pさ、あの女のこと知ってる感じじゃなかった?」

「あの女って…銀髪のあの人か」

そうだ。
あの時は問い詰める余裕もなかったけど、Pさんはあの女を見た時に明らかに知り合いらしい反応をしてた。

なんでだ?

「…ちゃんとした知り合いってわけじゃないんだ。少し前から、仕事で帰りが遅くなった夜に事務所の前でよく出くわしてな」

それからPさんは、銀髪の女との邂逅について話し出した。
といっても、出くわすたびに意味深なセリフを吐いて消えるだけみたいだったけど。

「綺麗な人だし、業界でも見かけたことないからスカウトしようかと思ったんだけど、毎度のらりくらりかわされてなぁ」

「…そんで、鼻の下のばしてる間にいつの間にかあの女の術中に落ちてた、と」

「間違ってないけど…なんか言葉にトゲがないか」

「べつにっ」


なんだよ、どんなひどいことされたのかと思ったら、あの女の色香にホイホイ騙されただけじゃんか!
まぁ痛い思いさせられたとかじゃなくて良かったけど、なんかモヤモヤする。

「はいはいヤキモチは後で焼いてもらうとして…」

「誰がヤキモチなんか」

「奈緒Pさんがなぜ巻き込まれたのかはこれでわかった。最初から、いつか人質として使うために目を付けていたと言う事だろう」

こっちの小競り合いなんか気にも留めず、鳴上さんは冷静だ。

「他に、なにか覚えていることや気づいたことはありませんか」

「うーん…いっつも会話すらなりたってなかったしなぁ…」

これ以上Pさんから何か情報を得るのは難しい、か。
後は貴音さんから話を聞きたいとこだけど…。

「失礼いたします」

まるでアタシの心を読んだようなタイミングで、静かにドアが開いて、貴音さんが入って来る。


「遅くなって申し訳ありません」

「いや、こっちも話が一段落したところだし、丁度良かったよ」

「それはなによりです」

「ねぇ、奈緒」

アタシと貴音さんの挨拶の切れ目を狙って、凛が尋ねてくる。

「そういえば、奈緒はなんで貴音さんがペルソナを使えるって知ってたの?」

そういえば、結局話して無かったな。
アタシは夏フェスの時のことをかいつまんで凛と杏に話した。

「へー」

「なんで黙ってたの?」

「いや…なんかタイミングがなくて?」

「良いではありませんか。今回はこうして皆様と関わることとなりましたが、そうならない可能性もまた、存在したのです」

なんか、貫録が違う。違い過ぎて萎縮しちゃうよ。

「あらー、765の貴音ちゃんも関わってたのか。なんかここに運ばれてくるときに、どっかで聞いたことある声が聞こえるとは思ってたけどさ」


Pさんも驚いている。
流石にあんだけ弱ってたら誰がその場にいたかなんて正確に覚えてられないもんな。

「お久しぶりです、奈緒P殿。此度は大変なことに巻き込まれてしまいましたね」

「いや、まぁなんとか命は助かったみたいだし、喉元過ぎればなんとやらっていうか、そもそもあんまちゃんと覚えてないっていうか…。それよりも、この病院に運んでくれたのは貴音ちゃんだって聞いてるけど、どうやったんだい?」

「そのことも含めて、私の立場をお教えするために今日は参りました。…そして、我々の敵の事も」

貴音さんの言葉に、アタシ達も居住まいを正す。
これから貴音さんが話してくれることで、アタシ達のこれからに光明が差すかもしれない。

「これから話すことは、お仲間以外には他言無用にお願い致します。私の出自に関しては、なむこぷろにおいてすら高木殿以外には知られてはおりません。此度の様な事がなければ、こうして誰かに話すこともなかったでしょう」

貴音さんの言葉に、アタシ達は全員頷く。
それを確認した貴音さんは、アタシ達が引っくり返るような話を始めた。


「私は、古来より陰陽師として知られる家系の生まれです。

陰陽道とは、一種の魔術。

様々な術を用いて国や家の後先を占い、時には敵を呪う事によってその力を使ってきました。

陰陽師は、権力を持つ者に仕えるもの。

私の祖先もまた、とある名家に仕えておりました。

その名家の名は『南条』。

後に世界的規模の企業南条ぐるぅぷとなる南条家です」

南条グループって…確か日本四代企業の水瀬、櫻井、桐条、南条の南条だよな…。
そういえば南条と桐条は親戚関係って聞いたことが…ってこの病院桐条グループのじゃん!

アタシのハッとした顔を見た貴音さんがほほ笑みながら続ける。

「気づいたようですね。

南条家は、時代の混乱を巧みに乗り越え、大きく成長していきました。

そして、その南条家から正式に分家され地位を得たのが桐条家。

現在の桐条ぐるぅぷの祖です」

「なるほど」


鳴上さんが、桐条という名前に心当たりがあるかのようにうなずく。
名家とか分家とか、庶民のアタシには全然わからない世界だけど…実際にあるんだな…。

「陰陽道の廃れる世の中が来ても、その時々に新たな技術を吸収して、私の家は南条家と桐条家の影として仕え続けました。

そして、かの家の影の部分を担う者、『死』につながる音を頂く者として、『四条』の名を名乗ることとなったのです。

消して明るみには出ない、歴史の日陰者ではありますが」

自分の家の由来を語る貴音さんは、どこか自嘲気味だ。

「さて、この四条家は、今語ったように名家の黒い部分を担う家。

今の世では随分無くなったとはいえ、非道な研究や実験の手伝いもしておりました。

そして、今から十年ほど昔、桐条ぐるぅぷ総帥桐条光悦が進めていたある恐ろしい実験にも加担していたのです。

幸いにも実験は一人の勇敢な科学者のお陰で未遂に終わり、桐条現総帥桐条美鶴とその仲間たちの手で、完全に闇へと葬られました」

「…やはりあなたは、桐条さんと知り合いだったのか」

「えぇ。

貴方の事は、美鶴から聞いておりますよ、鳴上悠殿。

大変に聡明で、力のある殿方だと」


ええええ!
鳴上さん、桐条グループのトップと知り合いなのかよ!?

桐条グループのトップと言えば、弱冠二十歳にして世界に名だたる企業の総帥を務め、尚且つ文武両道の才女と誉れ高い人だって前にテレビが騒いでたのを覚えてる。
なんでそんな人と一介の高校生が知り合いなんだ?

「今年のゴールデンウィークに、少しな」

八十稲羽でもマヨナカテレビが一瞬映ったってあれか…。
あれ?ってことは…。

「桐条美鶴もまた、ぺるそな使いです。私と美鶴は、その桐条光悦の恐るべき実験に被検体として参加し、ぺるそなの力に目覚めたのです」

そういうことか…。
ってことは、桐条グループの実験てのはペルソナ関連?

「あの実験の詳細を語る必要は、ないでしょう。私と美鶴はその実験でぺるそなを発現し、しゃどうの存在を知り、それと戦うことを誓い合ったのです。この病院へ彼を運び込んだのも、事態がしゃどう関連であったが為」

「じゃあ、今回の事件について色々知ってたのは?」

「美鶴は、桐条の総帥としての顔とは別に対シャドウ関連事件を扱う組織のとりまとめもしています。鳴上悠と出会ったのも、その関連でしょう。こちらには、ぺるそな使いの気配を探ることのできる優秀な探知能力者がおります。彼女の協力を仰ぎ、我々は以前から、ある能力者の動向に気を使っておりました」


「ちょっと待って。今の話だと、テレビの中じゃなくてもペルソナが使えるっていう風に聞こえるんだけど」

「その通りです、双葉杏」

杏の挟んだ疑問に、貴音さんはこともなげに答える。

「我々の使うぺるそなとあなた方の使うぺるそな。本質は同じものですが、現実世界で使えるか否かという点では異なるようですね」

世界は広い。
アタシ達以外のペルソナ使いがいるんだって認識したのもさっきだってのに、今度は現実世界でもペルソナを使える人がいるときた。

「なぜそのような違いがあるのかはわかりませんが、今はそれよりも此度の事件の黒幕の話。我々が注意をしていた者の名前ですが…」

ゴクリ、とアタシは息をのむ。
いよいよわかるんだ、アタシ達の本当の敵の名前。







「その名は…高峰のあ。新興宗教『方舟』の教祖です」






高峰…のあ…。
初めて聞く敵の名前。
不思議と頭にスッと入って来る。

それに『方舟』ってこの間事務所のテレビで見たな。
終末思想を振りかざす宗教団体だ。

「ぺるそなの力そのものは、誰もが目覚めうるものです。しかし、その力をどう使うかは目覚めた者次第。どうやら高峰のあは、その力をよくない事に使おうとしているようです」

「『方舟』って、世界は滅ぶ!って言ってるやつらだな。川島さんがキャスターやってる番組でもちょっと取り上げてた」

Pさんが、ようやくわかる話題だとばかりに口をはさむ。

「けど、そこのトップがなんだかわからない力をよくない事に使おうとしてる、ってどういうことだ?まさか自分たちで滅ぼしちまおうってことか?」

「そこまではまだ…ですが、その可能性も無視できないと思います」

なんてこった…。
世界がどうのなんて、いつの間にかとんでもないことに巻き込まれちまったんだな、アタシは。

「俺たちが去年戦ったイザナミは、人間をシャドウに変えようとしていた。ウソ偽りない本能の状態であるシャドウ…誤魔化しのない平等な世界こそが人間の求めるものだ、という主張でな。今度の連中も、それを狙っている可能性はあるな」

「私から話せるのはここまでです。今、高峰のあはあなた方、特に奈緒にずいぶんと執着している様子…くれぐれもお気を付け下さい」


「なんだかとんでもないことになりつつあるみたいだけど…お前はどうするんだ、奈緒」

貴音さんの話が終わり、Pさんがアタシに尋ねてくる。

「どうするって?」

「俺としちゃ、これ以上お前に危ない橋は渡って欲しくない。お前のやってることがどんなにヤバいことなのかは、俺自身で体験済みだからな。けど、お前自身の気持ちはどうなんだ?」

Pさんの言葉を受けて、アタシはちょっと考えてみる。

ペルソナの力を手に入れてから、ずいぶんといろんなことがあった。
散々危ない目にあったし、つらい思いもした。
今回のPさんの一件も、たまたまこうやって無事に助けられたけど、これかもこうやってうまくいくかはわからない。

でも。

「…アタシには戦う力がある。それなのに仲間を傷つけられて、大事な人を危ない目に遭わされて、そのまま黙って泣き寝入るなんて、したくない」

「まぁそういうだろうなぁ…」

Pさんがやれやれとため息を吐いて、ちょいちょいと手招きする。
アタシがそばによると、思いっきり頭をワシワシ撫でながらPさんはこう言った。







「やるだけやってみろ。んで、なってもらうからな、トップアイドル」

「…おう」






「私たちも、忘れないでほしいな」

「そーなると思ったけどさー、めんどくさいなぁ…ここまできたらほっとくほうがめんどいけど」

「俺たちも、出来る限りの協力は惜しまない」

皆の言葉が力強い。

「では、高峰のあのことは奈緒たちにお任せします。私達は引き続き、『方舟』の動向を追いますので」

「あ、ちょっと貴音ちゃん!」

アタシ達の様子に満足そうにうなずいた貴音さんが、にこりと微笑んで病室を後にしようとするところを、Pさんが引き止める。

「ひとつ聞きたいんだけど…」

「ぺるそなの力ならば、残念ながら今の奈緒P殿では発現できません」

Pさんのセリフを先読みした貴音さんが答える。

「しゃどうとの融合の反動です。心が闇から解放されたが故に、貴方の心にはペルソナを生み出すだけの力の余裕がありません。永久にというわけではありませんが」

「…俺は、奈緒を見守るしかないってことか」

「貴方は、この現実の世界で奈緒を支えてあげてくださいまし」


そういうと、今度こそ貴音さんは病室を出て行った。

「とりあえず、敵の名前はわかったね」

「高峰のあ、か」

「んで、この後どーするー?」

「お前らは、帰ってレッスンでもしたらどうだ?」

「え゛ー」

Pさんの言葉に、杏がアイドルとは思えないような声を出す。

「わかったことを皆で共有しときたいし…今日の所は帰るか」

「その方が良いね」

「んじゃてっしゅー」

「おい、奈緒」

「それじゃ」と帰りかけたアタシ達だけど、Pさんに呼び止められた。

「なんだ?Pさん」

「…助けてくれて、ありがとうな」

なんだそんなことか。


「…おう」

「じゃあ、気を付けて帰れよ」

こうしてアタシ達は、Pさんの病室を後にした。


―――桐条記念病院前

「鳴上さん、今日は付き合ってくれてありがとう」

「いや、大したことじゃない」

アタシのお礼に、鳴上さんは手を振ってこたえる。

「陽介たちには、今日の事はちゃんと伝えておく。おそらく、この間の高峰のあの様子を見る限りでは次辺りが最後の戦いになるだろう。これからはより一層の警戒が必要だな」

「あぁ」

「神谷さんたちはここからバスだったな。俺は歩いて駅まで向かう、また近いうちに」

「待った鳴上さん」

この人は本当にクールというかなんというか。
アタシのいるクール部署の誰よりもクールなんじゃないだろうか。
あっさりと立ち去ろうとする鳴上さんを、アタシは呼び止めた。

「?…どうした」

「えっと、鳴上さん。それと、凛と杏も」

「どうしたの?」

「なんなのさ改まって」


怪訝そうな顔をする三人にアタシは思いっきり頭を下げる。

「みんな、本当にありがとう!今回のPさんの件、みんながいなかったらアタシはどうにもならなかった!本当に…本当にありがとう…!本当は全員そろってるところで言いたかったけど…」

「はいはいそこまで」

凛がアタシの肩を掴んで顔を上げさせる。

「気持ちはわかるけど、そんなにお礼言われるようなこと、私たちはしてないよ?奈緒に助けられた分を返しただけ」

「そーそ、大体いいとこは全部お姫ちんがもってっちゃったし」

「でも…」

「折れかけた心をもう一度奮い立たせたのは、神谷さん、君自身の力だ。俺たちはせいぜい時間を稼いだに過ぎない」

「そうだよ、奈緒。くじけそうになったのは私たちも一緒。結局は奈緒の諦めない心が奈緒Pをたすけたんだよ。だから、そんなに頭なんか下げないで」

「凛…」

三人の言葉が、アタシの胸に入って来る。

「俺たちは仲間だ。仲間が苦しいときに力を貸すのは当然のことだろう。今回もそうだった、それだけのことだ。きっと陽介たちも同じことを言う」


「そういうこと、だね」


パリィン!


―――我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、ついに真実の絆を得たり。

真実の絆・・・それは即ち、

真実の目なり。

今こそ、汝には見ゆるべし。

”愚者”の究極の力、”ロキ”の
”審判”の究極の力、”ルシファー”の

汝が内に目覚めんことを・・・






>“マスカレイド”『愚者』“自称・特別捜査隊”『審判』と確かな絆を紡いだ!






キィィィン



頭の中に、絆を紡いだ音が響いたと思ったら、今度は一際高い音が聞こえる。



パリィィィン!


―――我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、さらなる絆を見出したり・・・

絆は即ち、まことを知る一歩なり。

汝、”永劫”のペルソナを生み出せし時、

我ら、更なる力の祝福を与えん・・・







>“共に立ち向かう仲間たち”『永劫』と新たな絆を紡いだ!






『永劫』?
アルカナに『永劫』なんてあったのか。

…新しい、絆の力。

ハッと気づくと、鳴上さんが全てをわかったような顔で微笑んで見せた。

「では、俺は行くとするよ。神谷さんたちも気を付けて帰ってくれ」

そういって、鳴上さんは去って行った。
“共に立ち向かう仲間”…か。


―――数日後、CGプロ事務所

敵の名前がわかってから数日、Pさんが退院してきた。
一応建前上はというか、実際そうなんだけど「過労」ってことで話が通ってるらしい。

「ちひろさんが妙に優しくてな」って苦笑してた。
まぁ普段の仕事量考えると、良いお休みになったってことで良いのかな?

相変らず、卯月の一件以来マヨナカテレビは映らない。
条件を満たすとテレビが光りだしはするんだけどな。

「奈緒ちゃんは、クリスマスプレゼントなにが欲しいですかぁ?」

「クリスマス…もうそんな時期か」

そういえば、もうクリスマスまで一か月を切っている。
アタシの向かいのソファに座っているまゆは、せっせと何かを編みながら話を振ってきた。

「はぁい、さすがにサンタさんにお願いするような年でもないですけど、せっかくのイベントですし」

「そうだなぁ…おすすめのアニメのDVDとかかなぁ」

「奈緒ちゃんアニメ好きですもんねぇ」

「まぁな。思うんだけど、クリスマスプレゼントとかって、『あ、そういうのあるんだ』みたいなのを貰った方が嬉しいんじゃないかなぁ」


「と、言うとぉ?」

「自分でお金出したり多少苦労してでも欲しいものって、やっぱり自分で手に入れた方が良いと思うんだよな。もちろん人から貰うのが嫌なわけじゃないけど。だから、なんていうか『興味あるけど自分で買うほどじゃない物』とか『思ってもいなかった物』とかがベストなのかもって最近ちょっと思ったんだ」

「なんとなく言いたいことはわかりますねぇ。奈緒ちゃんは上げる側ともらう側両方の喜びを満たすことを考えている感じですかぁ」

まゆはうんうんとうなずいているけど…両方の喜び?

「アタシが言っといてなんだけど、どういうことだ?」

「えっとぉ、つまり奈緒ちゃんはもらう側の欲求を満たしつつ、『こんな良い物を悪いな』っていう気持ちを抱かせにくくして、尚且つあげる側の『こんなちょっとしたものでこんなに喜んでくれるなんて良いことをした』っていう満足感のバランスみたいなものを意識してるのかなぁって」

アタシがなんとなく言ったことなのに、まゆは一生懸命説明してくれる。
なんだか申し訳ないと思いつつも、まゆの話にアタシは耳を傾ける。


「と、言うとぉ?」

「自分でお金出したり多少苦労してでも欲しいものって、やっぱり自分で手に入れた方が良いと思うんだよな。もちろん人から貰うのが嫌なわけじゃないけど。だから、なんていうか『興味あるけど自分で買うほどじゃない物』とか『思ってもいなかった物』とかがベストなのかもって最近ちょっと思ったんだ」

「なんとなく言いたいことはわかりますねぇ。奈緒ちゃんは上げる側ともらう側両方の喜びを満たすことを考えている感じですかぁ」

まゆはうんうんとうなずいているけど…両方の喜び?

「アタシが言っといてなんだけど、どういうことだ?」

「えっとぉ、つまり奈緒ちゃんはもらう側の欲求を満たしつつ、『こんな良い物を悪いな』っていう気持ちを抱かせにくくして、尚且つあげる側の『こんなちょっとしたものでこんなに喜んでくれるなんて良いことをした』っていう満足感のバランスみたいなものを意識してるのかなぁって」

アタシがなんとなく言ったことなのに、まゆは一生懸命説明してくれる。
なんだか申し訳ないと思いつつも、まゆの話にアタシは耳を傾ける。


「やっぱり、プレゼントって独りよがりじゃいけないと思うんですよぉ。

例えば、まゆはまゆPさんが一番喜ぶものをあげたいと思います。

だけどぉ、まゆPさんが一番欲しい物を知ってたとして、それをあげたから完璧っていうのは違うと思うんですよ。

だって、例えばそれが車だったとしたら、まゆPさんは驚いちゃいますもんね」

自分のPさんを例に挙げるあたりさすがまゆ流だとは思うけど、言いたいことはわかる。
高い物が良い物であるとは限らないってのと一緒だ。

「月並みですけど、やっぱりどれだけその人を想ってそのプレゼントを選んだかが、一番大事なんだと思います」

「なるほどなぁ…説得力あるよ」

「うふふ、ありがとうございまぁす」

心なしか、編み物のスピードが上がった気がする。
しかしホントに年下のはずなのに溢れるこの色気はなんなんだろう。

元読者モデルは違うってことか。

「茜ちゃんは何が欲しいですかぁ?」

「私です…!!私ですか………!!」

「あれ、茜?いつからいた、ってか何やってるんだ?」


まゆの話しかけた方を向くと、そこにはなるべく静かに動こうとしている茜がいた。
小声で叫ぶって器用だな。

「いえ……!!!ちょっと………!!!おしとやかさというものを…!!!」

「なんか押し殺し過ぎてどっかのギャンブル漫画みたいになってるけど…なんかあったのか?」

「765の雪歩さんから……!!お茶会に誘われたんです…っ!!」

なるほど。
あの「生っすか」以来、ウチと765プロの交流は結構盛んだ。

あの時の組み合わせが人気で、そのままコーナー受け持ったりしたアイドルもいたりする。

「…茜ちゃん、それだとお淑やかというかただ静かにしてるだけですよ?」

「なんていうか静かにも出来てないしな」

「なんと……!!!やっぱり難しいですね!お淑やかって!!」

おっと、いつもの茜だ。
やっぱり茜は眩しいくらいに元気でちょうどいい。

「お茶会に呼ばれたからお淑やかにしようとしてたのか?」

「はい!この間の生放送でも感じましたけど、ああいう場ではやっぱりお淑やかな方が合うんだなと!」


「…確かに騒ぐのはいけませんけど、ふざけなければいいんじゃないですかぁ?」

「うーん…私、昔からなにかと『うるさい、おちつきがない』って言われてきたんですよね!だから、こういう機会にすこし静かな私にも挑戦しようかと!」

なんとなくわかる。
多分茜は、通信簿に『落ち着きがない』って書かれてたタイプの子だったんだろう。

アタシは…まぁいいじゃないかアタシのことなんて。

「茶の湯の席って、昔はお武家さまも精神修養の為に嗜んだらしいですけど、無理に自分を偽らなくてもいいんじゃないでしょうか」

「アタシもそう思うなぁ」

「と、言いますと!」

「確かにお茶の席って静かにするのが作法だけど、静かにするのが目的じゃないだろ?自分を見つめ直すっていうのかな…そういう風にとらえると、自然といつもよりは静かになる気がするよ」

「今の茜ちゃんは、静かになるために頑張ってましたもんねぇ。ある程度は人によるとは思いますけど、そもそも静かでいるのって頑張るの反対にあるようなことですし」

「む、難しいですね!」

まぁアタシもまゆもまだまだ小娘だから、そんなちゃんとした精神修養の話なんてできないけどさ。


「茜、深呼吸してみなよ」

「深呼吸ですか!はいっ…すーっ…はーっ」

アタシに言われるがままに深呼吸する茜。
素直だ。

「…してみました!」

「今深呼吸してる時の茜はうるさくなかったぞ」

「本当ですか!…じゃあ、ずっと深呼吸してればいいんですかね!?」

「違いますよぉ、茜ちゃん。奈緒ちゃんが言いたいのは、リラックスしている状態が大事ってことですよ。ねぇ、奈緒ちゃん?」

「まぁな。茜は地の声が大きくて通りやすいから人よりうるさく聞こえるけど、それと騒がしいのはまた別の話だ。自分じゃ気づいてないかもしれないけど、ステージに上がる直前の集中してる茜は、普段から想像もできないほど静かだぞ?」

「ほ、本当ですか!」

「アタシだって、お茶会みたいな改まった席でおとなしくしてるのは苦手だよ、息が詰まるし。それは、慣れてない人はみんなそうなんだから、変に気負って静かにしなきゃってなってるほうが不自然だぞ」

「そうですよぉ。それに、765の萩原さんなら、ちゃんと丁寧にお世話してくれるはずですから、もっと自然な茜ちゃんで良いんですよ?」

アタシとまゆの言葉に、茜は顔を輝かせる。


「うーん、なんか色々考えて重くなってた頭がすっきりしました!!お二人ともありがとうございます!!」





パリィン!


―――我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、ついに真実の絆を得たり。

真実の絆・・・それは即ち、

真実の目なり。

今こそ、汝には見ゆるべし。

”剛毅”の究極の力、”ザオウゴンゲン”の

汝が内に目覚めんことを・・・







>日野茜『剛毅』と、確かな絆を紡いだ!






「大した話はしてないけどな。な、まゆ」

「はぁい」

「よーし!なんか力が湧いてきたのでちょっとランニングしてきます!!うーボンバー!!!」

バァンと扉を開けて、茜は走り去っていった。

「なんていうか、茜はやっぱりああでなくっちゃな」

「まゆは、あんなふうに大きな声がでないから、すこし羨ましいです」

確かにまゆの言うとおり、ステージに立つ身としては大きい声が出た方が得だもんな。

「お疲れ様です…」

「…お、お疲れ様、です…」

おっと、一際声が小さい子たちが来たぞ。

「ほたる、小梅、おつかれー」

「お疲れ様です」

茜と入れ替わるように入ってきたのは、ほたると小梅だった。
二人ともすこし驚いたような顔をしながら事務所に入って来る。

「今、茜さんがすごい勢いで走って行かれましたけど…」


「わ、わりといつもの事だけど…なにかあったの…?」

「あー、世間話をしてたら…」

「茜ちゃんのテンションが上がっちゃった…でいいんでしょうか」

他にいいようもないもんな。
そういえば話が中途半端だった。

「なぁ、二人はクリスマスプレゼントっていうと何が欲しい?」

「クリスマス…」

「…ぷ、プレゼント…?」

「はぁい、茜ちゃんには聞きそびれちゃいましたけど、今奈緒ちゃんとそんな話をしていまして」

「単なる世間話なんだけどさ、どうだ?」

アタシの言葉に、二人は顔を見合わせる。

「…わ、私は…ホラー映画のDVD…み、みたことないやつ…」

「私は…ちょっと思いつきません、すいません」

それぞれらしいと言えばらしい答えが返ってきた。
こう聞くと、ちょっとした返答でも性格が出るよなぁ。


「小梅ちゃんは、やっぱりホラーなんですねぇ」

「…さ、最近は、ウチの近くのレンタルショップだと…見たことある奴ばっかりだから…し、新鮮さがほしい…」

レンタルショップのホラーコーナー借りつくすってそりゃまたどんだけ見てるんだ小梅は。

「ほたるはなんかないのか?」

「そうですね…これといってものは思いつかなくて…すいません」

「いやいや、謝るようなことじゃないよ。逆に、欲がないってのは良いことなんじゃないか?」

「そうでしょうか…」

「欲がないってことは、満足を感じられてるってことだからいいことだと思うけどな。もちろん『何かが欲しい』って思って頑張れる人もいるから、一概に何がいいとは言えないけどさ」

「そういう考え方も…たしかにできるかもしれませんね」

アタシの言葉に、ほたるは何処か嬉しそうだ。
なんか心に響いたのか?

「そういえば、クリスマスには何かイベントやるんでしょうか」

「うーん、まぁアイドル事務所なんだし、何かあるとは思うけど…」


全体のイベントを取り仕切ってたアタシのPさんがやっと復帰したところだし、そろそろ告知があるかな?

「そうですねぇ…奈緒ちゃんがサンタさんの衣装を着たりして」

「え?アタシがかぁ?」

クリスマスシーズンになるとたまに見かけるサンタ衣装を思い出す。
ちょっと着てみたいかも…ってちょっと待てよ。

「男はまだあれだけど…女だとその、み、ミニスカサンタ的な…」

「奈緒Pさんなら持ってくるでしょうねぇ」

「む、むむむ無理だって!普通のサンタならともかくミニスカのなんてアタシには絶対無理!!」

「…な、奈緒さんおちついて…」

「まだそうと決まったわけじゃ…」

「お疲れ様でーす、奈緒いるかー?」

「ひゃいっ!」

間が悪いというか狙ってんのかと言いたくなるようなタイミングで、Pさんが事務所に入って来る。
パーテーションのむこうからひょいとこちらを覗いて、Pさんはアタシを見つけた。

「お、いたいた、ちょっと話が…ってなにやってんだ?」


「あ、いや、その…」

ソファの上で丸まってるアタシを見て、Pさんがあきれたような声を出す。
まぁそりゃそういう反応するよな。

「な、なんでもないっ」

「そ、そうか。えっと、今大丈夫か?」

「お、おう」

「んじゃ、第4会議室で待ってるから来てくれな」

それだけ言って、さっさとPさんは引っ込む。
…なんか、年下しかいないのに生暖かい目で見られてる気がする。

「あ、えっと、そういうことだからアタシ行くわ」

「はぁい、いってらっしゃいませ」

「…な、奈緒さん、またね…」

「お疲れ様です…」

「あっと、そうだ」

Pさんのもとへ行こうと立ち上がったアタシは、あることを思い出して振り返る。

「まゆは、クリスマスプレゼントに何が欲しいんだ?」


肝心の言いだしっぺから聞いてなかったな。
まゆは、うっとりとした表情を浮かべながらやっぱりというか、こう答えた。

「まゆはぁ…やっぱりプロデューサーさんからいただけるのであれば、消しゴムでも道端の雑草でも嬉しいですねぇ」

…やっぱりまゆは格が違うな。







パリィン!






―――我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、ついに真実の絆を得たり。

真実の絆・・・それは即ち、

真実の目なり。

今こそ、汝には見ゆるべし。

”恋愛”の究極の力、”イシュタル”の
“死神”の究極の力、“マハカーラ”の
“塔” の究極の力、“シヴァ”の

汝が内に目覚めんことを・・・







>佐久間まゆ『恋愛』白坂小梅『死神』白菊ほたる『塔』と確かな絆を紡いだ!






―――CGプロ事務所、第4会議室

「おっす、来たな」

「おう…話って?」

「まぁ、今後の事をな」

だろうと思った。
わざわざこの第4会議室を指定してきたんだしな。

「お前が、俺の巻き込まれた事件を解決するために戦うって決めたんなら、俺はもう止めん。その代り、出来る限りのバックアップはしてやるつもりだ」

Pさんの目は真剣だ。
手元の資料は何だろう。

「色々と考えてみたが、俺にできるのは大まかに二つ。お前らのスケジュールの調整と鳴上くんたちがここを出入りできるように手引きしてやることだ」

そこでPさんは、手元の資料を広げて見せてきた。
これは…アタシ達の仕事の候補か。

「これは、今お前らに来てる仕事の候補だ。こういうのは会社で共有するから持ち出すのは簡単だった。ちょっと見てもらえばわかると思うが、お前たちはここんとこ随分と売れてきてる。仕事の依頼もバンバンだ。特に凛と杏」

確かに、アタシ達それぞれ今まで見たこともないくらい仕事のオファーが来ている中、凛と杏は群を抜いている。卯月未央菜々さんきらりもアタシと加蓮よりは多い。


「しかも、これは正式に書類やなんかで来てる分だけであって、現場で声をかけてくれる分も考えるとさらに増える。意外かもしれんが、現場でそんな風に言ってくれる数じゃお前は凛より多い」

「な、なんか恥ずかしいな…」

「そんだけ魅力的だってことだ。ただ、ウチは所属人数が多いからと言ってバンバン仕事させて使い捨てるような真似はしない。その辺は社長に感謝だな。適当なようでいて学生はきっちり学校行かせるし」

社長か…。
ここに所属したころに一度だけ姿を見たけど、それ以来うわさにしか聞かないな。

「この間の『生っすか』の影響が大きいせいか、765との絡みも多いな。とにかく、スケジュール調整は俺が何とかするから、お前らは俺が作ったオフで存分に戦えるようにコンディションを整えておけよ」

「わかった」

「それと、やるからには必ず勝て。

んで、全員無事に戻ってこい。

今この資料を見せたのは、何も『俺のスケジュール調整は死ぬほど大変なんだー!』って見せつけるためじゃない。

これだけお前らに期待してる人がいるってのを理解してもらうためだ。

お前らには全員、トップアイドルを狙えるだけの才能と実力がある。

それを生かさずして倒れるようなことは、俺が許さん」


Pさんの言葉の端々から気迫が伝わってくる。
それだけアタシ達を信頼してくれてるんだろう。

「…わかった」

「ホントは全員に言って聞かせてやりたいが、なかなか難しいしな。リーダーであるお前に託すことにするよ」

「おう、ちゃんと伝えるよ」

アタシの言葉に満足そうに頷いたPさんは、机の上のリモコンを取り上げ、アタシ達がいつも出入りに使っているテレビへ向けた。
丁度夕方のワイドショーの時間帯だ。

「本当なら、その『方舟』ってやつらの情報も集めてやりたかったんだけどな…こうやってテレビで取り上げる割に、どこの局もその実態をまるで掴めてないらしい」

テレビ画面には、丁度その『方舟』を取り扱ったコーナーが映っている。
キャスターもコメンテーターも声高に「問題だ、問題だ」と騒いでいるけど、実際の所なにが問題なのかはよくわからない。

「少し調べてみた関係で、警察に勤めてる友達から聞いたんだが…どうやら例年よりも自殺者が少し増えている傾向にあるらしい」

「どういうこと?」

「終末思想みたいなものが流行りだすとみられる現象だ。三年位前にもあったんだが覚えてないか?」


言われてみると、一時期そんな話が話題に上がってたような気もする。
ノストラダムスの大予言ほどのインパクトはなくて、すぐに忘れられちゃったけど。

「ニュクス教とか言ってな。その時無気力症って病気みたいなのが流行ってたのもあって、ちょっとした騒ぎになったもんだ」

あぁ、無気力症はあったな。
身近になった人がいなかったから、時たまニュースで報道されても遠い話のように感じてた。

「『方舟』本体がどのくらいの規模かわからんが、ネット上で信者を集めてるって話も聞く。お前らの敵がアレの教祖だってんなら、十分に気を付けておけよ」

「…おう」

得体のしれない宗教団体、『方舟』。
そしてその教祖高峰のあ。

実態はつかめないけど、その思想は確実にアタシ達の日常を侵食してきている。
じわじわと這い寄る不気味さに、アタシは身震いした。


―――さらに数日後、CGプロ事務所

『方舟』がテレビの話題に上がるようになったころから、町の様子も変わってきたように感じる。
具体的に何がおかしいとは言えないけど、例えば日中の人通りだったり、ポイ捨てされているゴミが増えている様な、そんな感じ。

「なーんかさ、最近テレビ見ても景気の悪い話ばっかりしてる感じない?」

未央が不満げに言う。

「実際、レジャー施設みたいな観光産業は例年に比べて随分お客さんが少ないらしいよ」

凛が雑誌から顔を上げずに未央に応えた。

「うー、もやもやするな…せっかく悪い人の名前がわかったのに…」

卯月もどこか表情が陰りがちだ。
なんですることもなくこんなところでグダグダしてるのかと言えば、参加予定だったイベントが急遽中止になってしまったからだ。

悪天候とはいえ、これはなぁ…。

「ナナたちアイドルの業界も、なんていうか元気ありませんよねぇ…」

菜々さんの言葉通り、イベントが中止になるというのは最近結構多い。
規模縮小や延期なんてのも良く聞く話だ。

「今わりと景気がいいっていうか、エネルギーを感じるのは杏の周りっていうちょっと変な状況だもんね」


加蓮の言った通り、なんとなく元気がない世間にはまったらしく、杏のニートキャラが随分と持ち上げられている。
杏が出るだけで視聴率やらツイッターの反応やらが良くなるって話だからな。

本人は、

「杏のキャラがこんな風に持ち上げられるのはおかしいよ!なんでみんながグダグダしてる時に杏が働かなきゃいけないのさ!」

って随分ご立腹だったけどな。

きらりはそんな杏をなだめながら周囲に元気を振りまいてる。

けど、今こうしてアタシ達がグダついているように、アイドルたちもなんだか元気がない。
確かにライブとか出ても、イマイチノリが足りないというか、爆発力が足りない感じを受けるもんな。

「森久保ォ!仕事いくぞ仕事!」

「もりくぼはつちにかえりたいんですけど…むぅーりぃー…」

…乃々はいつも通りだけどな。
これ以上ここでグダグダしてても仕方がない。
今日は帰るか。

この雨は明日まで続きそうだし、そうなると今夜はマヨナカテレビが見られそうだ。
…また何も映らない気がするけどな。


―――その夜、神谷宅、奈緒の部屋

外は雨が降っている。
加蓮の一件以来、具体的なものが映ることのなくなったマヨナカテレビ。

果たして今日はなにか映るんだろうか。

時計の針が、午前零時を指す。



…キュゥーンヒュイピュゥーン…



いつもの無線が混信したかのような音と砂嵐。
誰も触れていないのに光りだしたテレビ画面には、何も映らない。

アタシがため息を吐いたその時だ。







ザザッ…るかしら…ザザッ…






声!?
慌てておろした視線をテレビに戻す。

砂嵐が奇妙に揺れて、何かを映し出そうとしている。


ザザッ…見ているかしら…神谷奈緒と…その仲間たち…ザザッ


この声は…高峰のあ!
なんてこった、まさか向こうからコンタクトを取って来るなんて…。


ザザッ…まさか…あの状況を、一人の犠牲も出さずに乗り越えるとは…ザザッ

…もはや、これ以上あなた達にチャンスを与えることはできない…ザザッ

残念だわ…ザザッ…せっかく目覚める機会を与えたというのに…


目覚める機会?
そういえばあいつはそんなことを言っていた。

なにに目覚めるってんだ。



ザザッ…今やあなた達は…ザザッの計画を乱す存在にすぎない…

…これ以上邪魔をするというのであれば…私が消してあげる…ザザッ

…来る聖夜…私たちは人類を導く…ザザッ…止めたくば…あちらの世界へ来なさい…


人類を導く…大げさなことをいうヤツだ。
アイツが教祖をする『方舟』は、人類の滅亡を訴えてる。
信じる奴は助けてやるって言ってるみたいだけど…何をする気なんだ、テロでも起こすのか?


ザザッ…私たちの邪魔をするあなた達は…人類の敵…消し去ってあげる…


好き勝手なことを言って、高峰のあからの宣戦布告は終わった。
来る聖夜ってことは、もうすぐ来るクリスマスの夜ってことだろう。

それまでにアイツを倒さなければ、やばいことが起こる。
それは間違いなさそうだ。


ヴー!ヴー!


ケータイが震える。
着信は未央だ。
恐らく、今のマヨナカテレビについてだろう。






「…やってやるよ」

方舟だかなんだかしらねーけど、今まで散々アタシ達を苦しめた落とし前、つけさせてやる!




※作者でございます。

空いてしまったので、今回は十四話丸々お届けしました。

いよいよ物語はクライマックスに向けて色々起こります。

コミュ関係はどうしようか悩んだんですが、掘り下げ始めるとオチをつけ切れなくなるので当初の予定通り軽めで。

いつかそれぞれ短編で書けたらいいなと思っております。

次回十五話は一週間から二週間の間に新たにスレを立てますので。

そうですね

神谷奈緒「ケリをつけてやる…ペルソナ!」

で行きましょう、今考えました。

だらだらSSの方はしばらくお休みです。
またひょっこり更新するのでその時にお暇でしたらどうぞ。

では。

奈緒いいなー。CD衣装もかわいいし。

一つだけ、のあさんの苗字って高「峯」なんだぜ

>>190
うあー!素で間違ってた!
ご指摘ありがとうございます!!


新スレ立てましてございます。

神谷奈緒「ケリをつけてやる…ペルソナ!」
神谷奈緒「ケリをつけてやる…ペルソナ!」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1399386035/)

お暇な方はどうぞ。

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