さやか「この幼なじみ面倒くさい」 (328)

むしろ無視してくれた方がいい、くそどうでもいいあらすじ


383 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/19(水) 16:47:51.43 ID:ooD0VV8h0
書き溜めが行き詰まったから息抜きに>>385で軽く書くわ(投下するとは言ってない)


384 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/19(水) 16:51:50.86 ID:S/VeJaLU0
行き詰まってというか全く案が浮かんでこないんだよなぁ


385 :以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします [sage]:2014/03/19(水) 16:52:58.13 ID:Oub78uwH0
さやか「めんどくさい幼馴染」

もしさやかとキリカが幼馴染だったらのif
キリカは万引き騒動で根暗になっていない設定

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395324484


さやか「あんたは……何をしたかわかってるの!?」

ほむら「私が奪ったのは……断片でしかない」

ほむら「あなた達も巻き添えを喰らって元の居場所に帰れなくなってしまったようだけれど……」

ほむら「神の理に抗うのは、当然のことでしょう?」

さやか「あんたは……この宇宙を壊すつもりなの!?」

ほむら「全ての魔獣が滅んだ後は、それもいいかもね」

ほむら「その時は改めて、あなた達の敵になってあげる」

さやか「あたしはこの世界の外側の力と繋がっていたはずなのに……」

さやか「ここじゃないどこかにいたはずなのに……」

ほむら「もっと素直に、再び人間としての人生を取り戻せたことを喜べばいいんじゃないかしら?」

さやか「だとしても、これだけは忘れない」

さやか「暁美ほむら、あんたが悪魔だってことは!」


ほむら「あ、それと」

さやか「ん?」

ほむら「まどかがアメリカ帰りの転校生ということになったわけだけれど……」

さやか「うん」

ほむら「まぁ別の世界線ではまどかは最初から転校生だなんてこともあったっちゃあったけど」

さやか「アレは別物と考えよう」

ほむら「話を戻すわね」

さやか「うん」

ほむら「まず、あなたの幼なじみはカップルになるじゃない」

さやか「あー、それはもう決定事項なんだ」

ほむら「えぇ、別に他意はないわ?」

さやか「まぁそれはいいけどさ……」


さやか「でも杏子いる設定なんでしょ?」

ほむら「そうね」

さやか「別にそれでいいよ。未練は全くないって言えば嘘になるけどね」

ほむら「あなたはよくても……私としてはちょっと困ることがあるのよね」

さやか「困ること?」

さやか「へっ、ざまぁ。せいぜい困りなさいよ」

ほむら「あなたのことで困っているのよ」

さやか「へ?」

ほむら「単刀直入に言うけれど」

ほむら「あなたの幼なじみ枠が減ったのよね」

さやか「……うん?」

ほむら「まどかが改変した場合は最初からまどかは概念としてしか存在しなかったからまぁよかったけど……」


ほむら「この世界にはまどかがいる……」

ほむら「本来あなたの幼なじみというシードにいるべき人間が減ったわけ」

さやか「えー、それって、何ていうか、寂しいなぁ」

ほむら「まぁそういうことなのよ……『いない』から『いるけどいない』になったわけ」

ほむら「矛盾というか、辻褄というか、帳尻というか……わかりやすく言えばそれにより世界の歪みが生じる……」

ほむら「私も私で、割と無理矢理な改変をしたからその歪みは大きいものよ」

さやか「歪み……ま、まさか!」

さやか「その歪みのせいで強い魔獣が……!」

ほむら「……近いと言えば近いわね」

ほむら「いえ、もっと厄介かもしれない」

さやか「……っ!」

さやか「……当然、何とかしてくれるんでしょうね」

ほむら「…………」

さやか「責任を取りなさいよ!」


ほむら「既に七割方は修正済みよ」

さやか「あら仕事が早い」

ほむら「手先は器用でね」

さやか「嘘つけ不器用カボチャ」

ほむら「黙りなさい奥手ラズベリー」

ほむら「とにかく私は、その歪みによる影響が出ない内に、歪みを整えなくちゃいけないのよ」

ほむら「絨毯の盛り上がった箇所を押しつぶして平らにするようにね」

さやか「まぁ何でもいいけど、ちゃっちゃとやっちゃって……よ……」

さやか「…………」

さやか「……あたしの幼なじみ枠……世界の歪み」

さやか「……あっ」

ほむら「察したわね」


「おーい、さやかー!」


ほむら「……こんにちは、呉さん」

キリカ「あ、ほむらも一緒だったんだ。陰になってて見えなかったよ」

さやか「…………」

キリカ「うーん。私としては呼び捨てでもいいんだよ?『幼なじみ』の友達は私の友達」

ほむら「いえ、そういうわけには。先輩には変わりませんので」

キリカ「まぁ君がいいならいいけど……今帰り?」

さやか「……あー、ちょっと、ちょっと、いいスか」

キリカ「ん?」

さやか「ほむら。ちょい、ちょい。来やがりなさいな」

ほむら「呉さん、ちょっと失礼」

キリカ「うい」


ほむら『何かしら』

さやか『何かしら……じゃねーッ!何よこれ!』

ほむら『呉キリカをあなたの幼なじみにしちゃいました』

さやか『しちゃいましたじゃねぇぇーっよ!』


さやか『何で!?何でキリカさんがあたしの幼なじみ!?』

ほむら『似てるから』

さやか『似てるから!?』

ほむら『美国織莉子に手を差し伸ばすあなたの姿には感動したわ』

さやか『もう許してやれよ』

ほむら『あとヘアピン、髪型、ボーイッシュ、刃物、恋慕、突っ走る性格、レズ』

さやか『いやレズじゃねーよ!?ノンケって風潮強いと自負するよ!?』

さやか『……ま、まぁ共通点があるのは認めるよ』

さやか『でも他にいたでしょ!例えば同じクラスのあたしにクリソツな子とか!』

ほむら『余程呉キリカが嫌なようね』

さやか『い、いや……そういうつもりじゃないけど……納得はできないよ』

ほむら『歪みをスムーズに修正するために、なるべくあなたに近い条件を……似ているピースを当てがって、そこから適宜整える』

ほむら『少なくとも魔法少女と関連のある人間を置いておきたい』

さやか『うぅーん……理屈はそれっぽいような……何か釈然としないけど……』


ほむら『それに私の結界に入ってもいたからね』

さやか『あ、いたんだキリカさん』

ほむら『数多の時間軸、関わりのあった世界も存在するもの』

ほむら『まぁ私達と一切関わりなく、美国織莉子と千歳ゆまで核家族みたいな生活してたらしいけど』

さやか『あら楽しそう。どっちがお嫁さん?』

ほむら『ま、とにかくそういうわけだから』

ほむら『一つ上の幼なじみのお姉さん。呉キリカ』

ほむら『彼女をよろしく』

さやか『あ、そうだった!よろしくじゃないよ!』

さやか『いきなりキリカさんが幼なじみって言われたって……!』

ほむら『大丈夫よ。どうせすぐに記憶が改竄されるわ』

さやか『この悪魔!』

ほむら『はい』


キリカ「……どうしたの?」

さやか「い、いいいえ!何でもないです!キリカさん!」

キリカ「キリカさんんん?本当にどうしたの?」

ほむら「……一応、困ったことがあったら相談には乗るから」

ほむら「それでは、呉さん。私はこれで……」

キリカ「ん、ああ。またね」

さやか「ああ!ちょっと!」

ほむら「それじゃあね、美樹さやか」

ほむら「まぁ、せめてあの子の前では仲良くしましょうね」

さやか「ちょ!待ちなさいよ!この悪魔ァァァー!」

キリカ「……おいさやかどうしたよ?頭打った?」


さやか「絶対に……絶対に忘れへん……」

さやか「悪魔や……あいつ悪魔やで……」

キリカ「……?」

キリカ「……熱でもあんの?」

さやか「うぅ……キリカァ……」

さやか「あいつ悪魔ざんすぅ……」

キリカ「……ケンカでもしたの?」

さやか「別にそういうわけじゃないんだけど……」

キリカ「……あの子の前では仲良く、か」

キリカ「あの子って、転校生の?」

さやか「うん」


キリカ「へー、相談に乗るとか言ってたし……じゃあむしろ仲直りだっ」

さやか「仲直り……ってわけでもないんだけど」

キリカ「うーん?」

キリカ「どうしたの?お姉ちゃんに話してみ?」

さやか「はいはい。お姉ちゃんは頼りになるねー」

キリカ「はいはいってさやかよ」

キリカ「……まぁいっか」

キリカ「で、その転校生ってどんな子?名前は?」

さやか「うん。まどかって言うんだけどね」

キリカ「まどか」

さやか「三年間アメリカにいたんだってさ」

キリカ「へー、アメリカ」



キリカ「じゃあ帰国子女だ」

さやか「まぁ、そうだね」

キリカ「でもなぁ……」

キリカ「帰国子女ってのはどうも嫌味ったらしいイメージしかなくてさぁ。和製英語をネイティブっぽく言うんだろどうせ」

キリカ「ドヤ顔でテイクアウトなんて言っても本場じゃ通事ないYO!って言うんでしょ」

さやか「何キャラよそれ」

キリカ「自己紹介の時マイネームイズって言った?」

さやか「言わないよ。まどかはそんな子じゃないから」

キリカ「まぁ今時『マイネームイズ』で始まる自己紹介もないけどね」

さやか「謀ったな!?」

キリカ「騙される方が悪い」

さやか「くぅ~こいつ面倒くせぇ~……」

キリカ「そんなことよりさ、紹介してよ。帰国子女」

さやか「うん」


さやか「あ、そうだ。キリカさ、折角だから英語教えて貰ったら?」

キリカ「へー、さやかがそれ言うんだ」

さやか「言うよぉ」

キリカ「早乙女先生が嘆くレベルじゃんか」

キリカ「それに、成績は私の方がまだマシだよ」

さやか「でも今年受験じゃん」

キリカ「まぁ、そうだねぇ」

さやか「進路決まった?」

キリカ「まだあんま考えてないや」

キリカ「大学受験ならまだしも高校受験じゃねぇ、意識が入らないよ」

さやか「そんなもんだよね」

キリカ「まぁね」


キリカ「さやかはどうするの?」

さやか「キリカと同じとこ行く」

キリカ「わー、嬉しいような、上手く逃げられたような」

さやか「あたしも行くなら杏子も行くよ」

キリカ「あの居候娘か」

さやか「ほむらはわかんないね。あいつ成績いいから」

キリカ「ほむらはマミと同じとこ行きそうだなぁ」

さやか「マミさんはどこ行くんですか?」

キリカ「知らない」

さやか「何故マミさんを引き合いに出した」

キリカ「割と成績良いから何となく」

さやか「相変わらず適当だなぁ」


さやか「ねぇキリカ」

キリカ「何?」

さやか「スイーツ食べ行こうよ。スイ~ツ」

キリカ「甘味上等」

さやか「ほむらにからかわれたストレスと解消する!」

キリカ「マミんとこにでも行くの?」

さやか「キリカ……マミさんの家はケーキが出るとこじゃないよ?」

キリカ「知ってるよ」

さやか「最近出来たお店行こうよ。クレープ屋」

キリカ「クレープ……なるほど」

さやか「何がなるほどなのかな」

キリカ「そんじゃ、レッツゴーだね」

さやか「あいあいさー」


ほむら「…………」

ほむら「なんだかんだ言って、仲良くできてるじゃない。流石私」

ほむら「まぁ、呉キリカの性格も多少改変されてはいるけど……」

ほむら「……さて、次は呉キリカを美樹さやかの幼なじみに改変したしわ寄せをしなくちゃね」

ほむら「……美国織莉子」

ほむら「彼女と呉キリカ……佐倉杏子まで変化を与えているわけだから、千歳ゆまの方もイジらないと」

ほむら「忙しくなってきたわ……」

ほむら「え?何?」

ほむら「……あなた達もクレープ食べてみたいって?」

ほむら「我慢なさい。寄り道する気はないの」

ほむら「…………」

ほむら「ああ、もうわかったわよ。今度作ってあげるから」

ほむら「ほら、小躍りしてないでさっさと行くわよ」


短いけど今回はここまでなのです。話の構成自体はできてるから後は文章にするだけなのです。
……それがまた時間がかかるのですが、まぁぼちぼちお付き合いくださいなのです。

多分某385が想像してたのとはかなり違うと思う。あと最初に言っておくと、さやキリで百合に展開しないよ
安価通りのスレタイじゃないのは別に、わたしのスレタイ趣味に合わなかっただけなのでござ候


さやか「ねぇキリカ」

キリカ「んー?」

さやか「そういやさ、あの子は元気?」

キリカ「あの子?」

さやか「ほら、小学校ん時、キリカと同じクラスだった……えっと」

キリカ「?」

さやか「仲良かったじゃん!たまに一緒に遊んでた……なんだっけ名前」

さやか「確か……キリカに似てて……マリカ?」

キリカ「あー、クラスで流行ったなぁ。さやかって何かいつも緑のヒゲ使ってたよね」

さやか「そういうキリカはキノコばっか使ってたじゃん」

キリカ「キノコで速くなるんだからキノコが速いに違いないって思ってたんだよ」

さやか「初心者の時は『速さを競うのに誰が重いキャラ使うか』って思ってたっけ」


キリカ「で、えりかがどうしたって?藪から棒に」

さやか「あ、そうそう。えりかえりか」

さやか「……ってわかってたんかい。面倒くさいなオイ」

さやか「いや、別に何となくだけどさ」

キリカ「えりかと遊んでるとさやかよくヤキモチ妬いてたっけ」

さやか「妬いとらんわ!」

さやか「で?どうなのよ」

キリカ「間宮えりかかー」

キリカ「…………」

キリカ「思えば……久しぶりにその名前聞いたな」

さやか「ええー!?あんなに仲良かったのに!」


キリカ「まぁね、仲良かったっつってもさ……」

キリカ「もうえりかが引っ越しちゃってかなり経っちゃったわけだよ」

キリカ「当時はお互いにメールアドレスなんて持ってなかったしね」

キリカ「親に聞けば電話くらいはできるかもしれないけど、今更だしなぁー」

さやか「してみなよ」

キリカ「つっても、向こうからもこれまでに全然連絡ないしなぁ」

さやか「えー、なんか悲しいなー」

キリカ「別に嫌いになったわけじゃないけどさ……何かね?」

キリカ「そういうもんなんじゃないかな」

さやか「そんなもんなのかな」

キリカ「もし万引きの濡れ衣を着せられ友情を裏切られたことで人間不信に陥ってしまった過去があったのなら金輪際忘れなかっただろうけど」

さやか「何その設定」


キリカ「そういう君はさ、幼稚園の時さやかにつきまとってたミツルのこと覚えてる?」

さやか「げ……嫌なこと思い出させないでよ……」

キリカ「覚えてたね」

キリカ「苦い記憶は根強く覚えてるもんらしいよ。もし同じ目に遭っても大丈夫なようにって防御反応とかなんとか」

さやか「何であんたがあいつのこと覚えてんのよ……」

キリカ「覚えてたってより、思い出したんだ」

キリカ「卒園式の時の写真をたまたま見つけてね」

キリカ「で、これはさやかをイジるネタとして使える!と思って」

さやか「性格悪いなお前!」

キリカ「おいおい、幼なじみとは言え一年先輩の私にお前とは何だ」

さやか「うっさいうっさい!」

キリカ「仁美に恭介のファーストキスの相手をバラすぞ」

さやか「やめろ!幼児期の話とは言え人の友情に亀裂を作ろうとするな!」


キリカ「そんなことよりクレープまだ?」

さやか「そんなことって……もうちょいだよ」

さやか「あ……ほらほら、看板見えて来た」

キリカ「あー、あれね。あれって有名な店なのかな?」

さやか「さぁね」

さやか「でもクラスで結構話題になってたよ」

キリカ「成る程……既に先客もいるようだし」

さやか「先客?」

キリカ「ほら、そこにいるじゃん。制服の」

さやか「……あっ!」

キリカ「ちょ、急に大きな声を……」

さやか「おーい!まどかー!」


まどか「あっ、さやかちゃん」

キリカ「まどか?」

さやか「うん。これ、転校生」

まどか「こ、これって……」

キリカ「ふーん。君がさやかの話してた帰国子女か」

まどか「さやかちゃん……この人は?」

さやか「これキリカ」

キリカ「紹介が雑すぎる」

キリカ「よろしく転校生。私は呉キリカ」

まどか「えっと……わたし、鹿目まどか。こちらこそよろしくね」

さやか「キリカ、仲良くしろよ~?」

キリカ「君は何様だ」


キリカ「まどかもクレープ目当てかい?」

まどか「……う、うん」

キリカ「ほーぅ、転校早々に買い食いとはやるねぇ」

まどか「い、いや、そういうつもりじゃないんだけれど……」

キリカ「はは、気にしない気にしない」

キリカ「どこぞのお嬢様学校じゃないんだ。そこまで厳しくないよ」

まどか「オジョーサマ?」

さやか「そういう名前じゃないよ?」

まどか「わ、わかってるよっ」

キリカ「近くにあるんだ。金持ちの娘が集う中学校さ」

さやか「ま、あたしらにゃ関係ないことだけどね」


キリカ「まどか一人?」

まどか「ううん。杏子ちゃんに誘われて来たの」

さやか「あ、杏子も一緒なのね」

キリカ「あの居候娘か」

まどか「色々見滝原のこと教えてくれるって」

キリカ「多分ただ買い食いしたいだけだと思うけど」

さやか「全くだ」

キリカ「……集られてない?」

まどか「きょ、杏子ちゃんはそんな子じゃないよ!」

さやか「そうかなぁ?まどか気ぃ弱いし~」

さやか「で?まどかほっぽってあいつどこ行ったわけ?」

杏子「……おう、ここにいるぞてめぇら」

キリカ「やぁ、杏子」

杏子「おう」


杏子「で?キリカ。誰が何を集ってるって?」

キリカ「はは、やだなぁ。軽い冗談じゃないか」

さやか「質の悪い冗談だよねぇ」

杏子「てめぇ便乗してただろうが」

杏子「ったく……ほらよ、まどか」

まどか「ありがとう杏子ちゃん」

さやか「飲み物買いに行ってたんだ」

杏子「おう。むしろこのジュースはあたしの奢りだぞ」

さやか「きょ、杏子が奢っただと……!?」

キリカ「今日は雪が降るね」

杏子「てめぇら何が目的であたしを煽るかねぇ」

キリカ「面白いから」

杏子「よしキリカ。一発叩かせろ」


キリカ「そんなことより私達もクレープ食べよっか」

さやか「わぁい」

杏子「おい」

キリカ「ここのクレープ初めてなんだよねぇ」

キリカ「二人は何食べた?」

まどか「わたしはストロベリーバナナヨーグルトクリーム」

杏子「あたしはクレープ屋の向かいのたい焼き。カスタード味」

さやか「クレープ食えよ」

杏子「たい焼きの気分だったんだよ」

キリカ「ストロベリーかぁ……それってどういうイチゴ?ソース?着色料?」

まどか「小さくカットされた普通のイチゴだよ。キリカちゃんにもオススメ」

キリカ「ほう」


まどか「イチゴの酸味とさっぱりしたヨーグルトが合ってて、全体的に甘すぎず。とっても美味しかったよ」

キリカ「うーん、私はむしろ甘すぎる方がいいんだけどなぁ」

まどか「そうなの?」

さやか「こいつ甘党なんだよね」

杏子「心配になるくらいにな」

キリカ「うるさいやい。で、他に何味があった?」

まどか「うーん、チーズケーキとかキャラメル、白玉とか色々あったけど……」

キリカ「今はチョコ系の気分」

まどか「あ、だったらガトーショコラとか美味しそうだなって思ったよ」

さやか「じゃーあたしそれにしよっかな」

キリカ「おいこら、取るんじゃないよ」

さやか「取るも何もないでしょうが。っていうかキリカもそれにすればいいじゃん」

キリカ「別々の味を一口シェアし合う。合理的というもんじゃあなかろうか」

まどか「あはは、さやかちゃんとキリカちゃん、仲良しさんだね」

杏子「…………」


杏子「しかし意外だな」

まどか「え?何が?」

杏子「いや、まどかがキリカにちゃん付けだなんて」

まどか「へ?」

さやか「……あぁ、ごめんまどか」

さやか「言ってなかったけど、キリカ三年生ね」

杏子「言ってなかったのかよ」

まどか「……ええッ!?」

キリカ「どうも。受験生です」

まどか「ご、ごご、ごめんなさい!」

キリカ「おお?」

まどか「わ、わたし先輩だなんて知らなくって……!」

キリカ「別に謝ることは……」


まどか「二人の言葉遣いからてっきり同じ二年生かと思っちゃいまして……」

キリカ「気にしなくていいのに。幼なじみの友達は私の友達だよ」

まどか「幼なじみ?」

キリカ「うん。私とさやかは幼稚園からの幼なじみなんだ」

まどか「そ、そうだったんですか……」

杏子「ちゃんと紹介しとけよ」

さやか「いやー、ごめんごめん。わざとだよ」

まどか「さやかちゃんひどいよ!」

まどか「す、すみません、キリカさん……」

キリカ「いやいや、まどか、気にしないで」

キリカ「私にそんな丁寧な言葉遣いは不要だよ」


まどか「い、いえ、でも先輩ですし……そういうわけには……」

キリカ「こりゃ黙ってた方がよかったかな」

さやか「かもね」

キリカ「そういう言葉遣いされるとムズ痒くってさー」

キリカ「杏子みたいにズケズケと言ってくれて構わないよ」

まどか「で、でも……」

杏子「ズケズケって……あんたが敬語使わなくていいって言ったんだろうが」

キリカ「最初から使ってなかっただろう」

杏子「まぁそうだけど」

さやか「まどかみたいな性格じゃ、キリカちゃんって呼ばれることは多分もうないだろうね」

キリカ「勿体ないことしたかなぁ。ま、どうせいつか知れることだけどさ」


キリカ「さて、そろそろいい加減クレープ買ってきましょうかねぇっと」

さやか「キリカ先輩、奢ってぇん」

キリカ「うわやめろ、先輩呼びすんな気持ち悪い」

さやか「そこまで言う!?」

キリカ「だってさやかだし」

さやか「あたしの扱い酷いなー」

キリカ「まぁいいよ。たまにはうざかわいい後輩に奢ってやろうじゃないか」

さやか「え、いいの?やったー。でも『うざ』は余計だと思うなーひゃほー」

キリカ「たまにはね……じゃ、行ってくるよ」

杏子「おう」

まどか「は、はい」


さやか「……ああ、この生地を焼く甘く香ばしい匂いがたまらない。ある種のテロだねこれ」

キリカ「結構種類あるもんだね」

さやか「うーん……こう選択肢が多いと悩むなぁ」

キリカ「トッピングを自由に選ぶこともできるらしい」

キリカ「ちょっとした海鮮丼みたいだね。海鮮丼」

さやか「あたしの方を見て海鮮丼と二回言ったのには疑問が生じる」

キリカ「まぁ無難にこれにしようかな」

さやか「じゃああたしこれ」

キリカ「ガトーショコラどこいった」

さやか「え、何のこと?」

キリカ「……まぁいいけど」

キリカ「じゃ、買っとくから先に杏子達んとこに戻ってな」

さやか「あざーっす。ゴチになるっス~」


さやか「くっれぇーぷくっれぇーぷー♪」

さやか「安くて一つ340えぇ~ん。良い商売してやがるぜー」

「……随分とご機嫌ね」

さやか「……はっ!?何者!」

さやか「あ、ほむらだ」

ほむら「私よ」

さやか「ほむらもクレープを?」

ほむら「いえ、帰りに寄っただけ」

さやか「あれ、あんたん家こっちじゃなくね?」

さやか「お買い物?」

ほむら「……『知り合い』のとこに寄っただけよ」

さやか「え……ほむら知り合いとかいたんだ……」

ほむら「私を何だと思っているのよ」


ほむら「それはさておき、美樹さやか」

さやか「何じゃらほい」

ほむら「…………」

ほむら「私、最近寝不足なのよね」

さやか「ん?へぇ……そりゃ大変だね」

ほむら「目の下にクマできちゃって」

さやか「そうなの?ダメだよぉ、ちゃんと寝なくちゃ」

ほむら「…………」

さやか「……ん?」

さやか「クマ……」

さやか「クマ……ほむ……」

さやか「……くま……あ……くま……」


さやか「そうだ……あたし、もっと大きな存在の一部だったような……」

さやか「おいこら悪魔!」

ほむら「面倒くさいわねあなた」

さやか「……ふ、しかし!ここで思い出させるとは……ミスったわね」

さやか「すぐそこにまどかがいる!」

ほむら「……それが?」

さやか「バラすぞ!」

ほむら「何を?」

さやか「あんたが悪魔だってこと!」

ほむら「……なんかズレてるわね」

さやか「あれ?違ったっけ」

ほむら「どっちにしても私とあなた以外の時間を静止させたから、何しても無駄よ」

さやか「なにそれこわい」


さやか「チートですやん」

ほむら「どうせすぐに忘れさせるんだから話を聞きなさい」

さやか「うん」

ほむら「ところで、呉キリカと仲良くやっているようね」

さやか「そりゃね」

ほむら「一応感想を聞かせてくれるかしら」

さやか「幼なじみに感想も何もないわよ」

ほむら「もうすっかり馴染んだようね」

さやか「?」

さやか「まぁ何でもいいけど、話あんならちゃっちゃとしてよ」

さやか「クレープ早く食べたいんだよね」

ほむら「…………」


ほむら「宇宙よりもクレープを取るとは、あなたも堕ちたものね……」

さやか「宇宙?宇宙がどうしたの?」

ほむら「……まぁいいわ」

ほむら「世界の歪みを修正する件だけど」

さやか「ああ、そうそう。そうだった」

さやか「もう大丈夫なの?」

ほむら「まだ終わってはいないけれど、事は着々と進んでいるわ」

さやか「それは何より」

ほむら「で、今は美国織莉子のポジションを修正しているわ」

さやか「織莉子さん?」

ほむら「ええ」


ほむら「ちなみに美国織莉子とは既に接触済み」

さやか「織莉子さんどうだった?」

ほむら「まあ、そうね……」

ほむら「呉キリカと出会ってないわけだから、同様に違和感が」

さやか「あぁ、確かに想像できないなぁ」

さやか「織莉子さんとキリカって切っても切れない関係って感じだし」

ほむら「そうね。だからこその歪みよ」

ほむら「呉キリカと美国織莉子を出会わせる必要がある」

さやか「ふーん……ってあれ?そういや織莉子さんってどんな人だったっけ?」

ほむら「……中途半端に記憶を呼び戻すとこうなるのね。考えが甘かったわ」

さやか「反省しろよ☆」

ほむら「黙りなさいアホんだラズベリー」

さやか「うっさいパッパラパンプキン」


ほむら「と、いうことで……」

ほむら「はい、記憶改竄アンド時間停止解除」

さやか「ほむらもクレープ食べる?」

ほむら「この切り替わりの早さはむしろ気味が悪いわ」

さやか「え?何だって?」

ほむら「いえ、なんでも……クレープなら結構よ。それじゃ、私はこれで」

さやか「あ、帰っちゃうの?」

ほむら「たまたま通りかかっただけだから」

ほむら「あぁ……そうそう」

さやか「うん?」

ほむら「実は、こんな情報を小耳に挟んだのだけれど?」

さやか「え?何々?噂話?」

ほむら「…………」




まどか「……それにしても、杏子ちゃん」

杏子「ん?」

まどか「さやかちゃんとキリカさん。本当に仲良いね」

杏子「あぁ、そうだな」

まどか「仲の良い姉妹みたい」

杏子「あんな面倒くさい姉妹いてたまっかよ。親御さんに同情するわ」

まどか「杏子ちゃんって毒舌家なんだね……」

杏子「素直と言ってもらおうか」

杏子「しかし母国に帰って早々にこんな連中に絡まれちまったが……馴染めそうか?」

まどか「うん。とっても楽しい学校生活送れそうだなって」

杏子「それは何よりだ」

まどか「…………」

まどか「ねぇ、杏子ちゃん」


杏子「ん?」

まどか「ちょっと聞きたいんだけど……」

まどか「さやかちゃんとほむらちゃんって……仲悪いの?」

杏子「ほむら?さぁ、そんな記憶はないけど……」

杏子「悪そうに見えたか?」

まどか「だってさやかちゃん、ほむらちゃんには近寄らない方がいいって……」

杏子「はぁ?さやかそんなこと言ってたのか?」

杏子「確かにほむらはとっつきにくいところはあるが……」

まどか「でも、そんな悪い子には思えなかったよ?」

まどか「それに……」

杏子「それに?」

まどか「う、ううんっ。何でもない」


杏子「うーん……。でも、言われてみれば、ほむらを見る目が何か鋭かったような……」

まどか「喧嘩でもしたのかな?」

杏子「さぁね……ま、ほむらとはそこまで親しいわけじゃないが……」

杏子「あんたがそう思うんなら、悪い奴じゃなかろうよ」

杏子「今度ゆっくり話してみな」

まどか「うんっ」


さやか「なーんの話っ?」

まどか「!」

杏子「お、戻ったか」

キリカ「話の腰折っちゃったかな?」

まどか「い、いえ!別に……」

まどか「く、クレープは何に?」

キリカ「私チョコバナナ生クリーム」

さやか「何だと思う?」

まどか「……チーズケーキとか?」


さやか「ちーがーう♪あたしはラズベリー♪」

杏子「何だそのテンションうぜぇ」

さやか「ひでぇ」

さやか「……あれ、ラズベリー?」

まどか「どうかしたの?」

さやか「いや、何か……ラズベリーに関して何か忘れてることがあるような……」

キリカ「え、何その限定的なデジャブ」

さやか「デジャブなのかなぁ?」

キリカ「いいから食べようよ」

さやか「うん。いっただっきまぁーす」

キリカ「……っと、ごめん、まどか、ちょっと持っててくれる?」

まどか「え?あ、はい」


さやか「うまい!」

キリカ「いやぁ、忘れるとこだったよ」

キリカ「ん、ありがとう。一口食べる?」

まどか「あ、いえ、いいです。ありがとうございます」

キリカ「体も小さけりゃ食も細いってか?」

まどか「夕飯が食べれなくなっちゃうので」

杏子「……で?カバンから取り出したその怪しいチューブは何だよ」

キリカ「マイ練乳」

まどか「えっ」

杏子「またいつもの甘党節か……」

まどか「か、体によくないですよっ」

キリカ「これがまたやめられないんだなぁ」


杏子「マイメープルシロップはやめたのか」

まどか「えっ」

キリカ「やめたわけじゃないよ。今は練乳がマイブーム」

キリカ「練乳とバナナ合う。で、この練乳を多すぎず少なくもないくらいにツツゥ~ってね」

キリカ「そして大きく一口!」

キリカ「んまいっ!」

まどか「…………」

杏子「まどか引いてんじゃねぇか」

キリカ「ごめんよー。プラスワン甘味は私のジャスティスなんだ」

キリカ「クラスに常にマヨ持ち歩いてるヤツもいるんだ。練乳なんてかわいい方でしょ」

杏子「マヨネーズの方がまだまともだ」

さやか「ねぇキリカ。一口ちょうだい。練乳かかってない部分を」

キリカ「はいよ。さやかのも一口。練乳ちょっとかけさせて」


さやか「んー、チョコバナナもイケるね」

さやか「ちょっと練乳の巻き添え喰らって甘ったるいけど」

キリカ「ラズベリーと練乳の相性も悪くない」

キリカ「うん。ここのクレープ気に入ったよ」

キリカ「でも同じ値段ならコンビニでチョコ買いあさった方がいいや。値段的にも」

杏子「質より量ってか」

キリカ「うん。財布もそんな余裕ないしね」

さやか「それで、あたしらがクレープ買ってる間、何話してたの?」

まどか「え?えっと……」

杏子「ほむらのことだけど」

さやか「なにっ!」

まどか「きょ、杏子ちゃんっ」


さやか「ほむらならついさっきそこで会ったよ」

まどか「ええっ!?」

キリカ「え、ほむらいたの?」

さやか「うん。キリカがクレープ買ってる間にね」

さやか「たまたま通りかかったんだって」

杏子「ほむらの家ってこっちだったっけ?」

さやか「寄り道だってさ。クレープ目当てじゃなかったみたい」

まどか「むぅ……」

まどか「ほむらちゃんいたなら教えてくれればよかったのに」

杏子「気が利かねーさやかだなぁ」

さやか「えぇー……な、何かごめん」



さやか「でもあいつ、急いでるからって。だからやっぱあたし悪くない」

まどか「ほむらちゃんとお話したかったなぁ」

キリカ「まどか、ほむらがお気に入りみたいだね」

まどか「お、お気に入りっていうか……」

まどか「このリボン、実はほむらちゃんから貰ったものなんです……」

キリカ「あ、これそうなんだ」

まどか「それで、その……リボンのお礼、言いそびれちゃったから……」

杏子「初対面なのにあいつから貰ったって、余程気に入られてるようだな」

まどか「そ、そうかな……?えへ」

さやか「…………」

キリカ「で、ほむら何か言ってた?」

さやか「え?あぁ、そうそう」

さやか「何かほむらがさ、こんな話を――」

今回はここまで。次回、あの人登場
まどかとキリカが仲良しなSSください


――翌日


さやか「グッドモーニング!」

まどか「あ、おはよう」

杏子「……何かがおかしい」

まどか「?」

さやか「今日も元気だ転校生がかわいい」

まどか「ほぇ?」

さやか「特にこのリボンとツインテールが決まってるね」

まどか「このリボン?えへ、ほむらちゃんから貰ったリボン」

さやか「悔しいけど、妙に似合ってるよね」

さやか「何か前からこんな髪型だったような感じがするくらいに合う」

まどか「うん、何だかわたしもフィット感が」

杏子「ファッションねぇ……あたしにはわからん世界だ」


杏子「しかしあいつがそういうのに精通してるとは初耳だ」

さやか「してるとは思えないけど」

杏子「似合ってるとか何とか言ってそれか」

さやか「あたしもよくわかんないや」

まどか「お気にです」

杏子「そりゃよかった」

さやか「では、ここいらでいつものアレ、いきますか」

まどか「いつもの?」

さやか「まどかにはお初だからね、張り切っちゃいますよ」

まどか「?」

杏子「…………」

さやか「よし。では……」


さやか「まどかは!」

さやか「あたしの!」

さやか「嫁になるのだァァー!」

まどか「ひゃっ!?」

さやか「んっん~、まどかがきゃわいいのはもちろんだけど……」

さやか「この初々しいリアクションがたまらないぜ!」

まどか「ちょ、ちょっと!」

杏子「……はぁ」

さやか「そんな冷めた目で見んといてぇ」

まどか「さ、さやかちゃん!」

さやか「杏子に嫁るのもいいんだけどさぁ」

まどか「嫁るって動詞なの?」


さやか「杏子のリアクションつまらんのだよ」

さやか「機嫌が悪いと引っぱたかれるし」

杏子「うっせぇクソ亭主」

さやか「やだっ、亭主だなんて、照れちゃうねー!」

まどか「あの、さやかちゃん……離して?」

さやか「拒絶された」

まどか「そ、そういう意味じゃなくって……」

まどか「わたしがいた州で同性結婚が合法化してるからそのジョークは生々しいよ!」

さやか「え、何かごめん」

まどか「冗談だよ」

杏子「これが本場のアメリカンジョークか」

さやか「流石帰国子女」


キリカ「グッドモーニング」

まどか「あ、おはようございます。キリカさん」

杏子「既視感」

さやか「キリカ、あたしと同じ挨拶してる」

キリカ「ん?」

杏子「流石幼なじみだな」

キリカ「よくわかんないけどパクるなさやか」

さやか「何でやねん」

キリカ「やー、はっはっは」

キリカ「やっほう、後輩転校生。さやかにイジメられてない?」

さやか「本人の前でそれ言うか」

杏子「チャレンジャーだな」


まどか「もちろんそんなことないですよ」

キリカ「それは安心だ。さやかは懐いた相手にはちょっかいで甘えるからね」

さやか「やんっ!恥ずかしいっ!」

杏子「うぜぇ」

さやか「むぅ」

キリカ「さやかのコミュニケーションがちょっと……って思うことあったら私に言ってね」

キリカ「さやかを懲らしめるから」

さやか「ええー」

まどか「うーん……強いて言えば……」

キリカ「よしさやか。そこに直れ」

さやか「待って!待って!まだ何も言ってないじゃない!」

まどか「えと、ちょっと……過剰かなって思って」

まどか「べ、別に嫌じゃないんですけど……びっくりしちゃって」


さやか「むしろアメリカ的でいいと思うんだけど」

キリカ「アメ……?さやか何したの?」

杏子「……まぁ、いつものアレだよ」

キリカ「……ああ、やっぱり嫁認定攻撃喰らっちゃったか」

まどか「いつものこと……なんですか?」

さやか「さやかちゃんの生態なんです」

キリカ「私にもしてたよね」

さやか「さやかは寂しいと死んじゃうんだよ」

キリカ「最早私を嫁にするって息巻いてた頃が懐かしいよ」

さやか「ごめんね。キリカとは遊びだったの」

キリカ「それはそれで腹立つ」

さやか「あたしの本妻は杏子なのさ」

杏子「重婚バカめ」


さやか「お?嫉妬?嫉妬?」

さやか「まぁ同棲してるから、多少はね?」

杏子「くたばれ」

さやか「ツンデレ乙!」

さやか「あ、そうだ。キリカもまどかに抱きついてみたら?」

まどか「えっ」

キリカ「私?」

さやか「だって早く仲良くなってもらいたいもん」

さやか「先輩と後輩という壁があるからさ、ほら」

杏子「セクハラを勧めるんじゃない」

さやか「セクハラじゃないもん」

さやか「結構クるものがあるよ?嫁ハグ」


杏子「落ち着けよさやか。おまえ今結構キショいこと言ってるぞ」

さやか「なにおー!」

キリカ「ははは、まぁさやかはこんなんだけど、仲良くしてあげてね」

まどか「は、はぁ……」

さやか「テンション下がるわぁ」

キリカ「私はむしろテンション高いんだけどなぁ」

まどか「何かあったんですか?」

キリカ「何かあったって、あの時君もいたじゃないか」

杏子「昨日のアレか」

さやか「アレですな」

キリカ「楽しみだよ。何せ……」

キリカ「あのほむらが、私に知り合いを紹介してくれるって言うんだもん」




――昼休み


ほむら「……えぇ、そうね。全くそう思うわ」

ほむら「呉キリカが『彼女』とクラスメートだったなんて……」

ほむら「ほんと、世間は狭いわね」

さやか「あたしはほむらにあたし達以外に知り合いがいたことに驚いたよ」

ほむら「…………」

杏子「あたしもまさか上級生の友達いるとは思わなかった。マミ以外に。すまん」

ほむら「……散々ね」

ほむら「まぁ、私も他クラスとは殆ど関わりないし……」

まどか「え、えっと……」

ほむら「とにかく。三年生で、一応は友人の美樹さやかの幼なじみ」

さやか「一応て」

ほむら「だからこそ、呉キリカに会わせてみようと」


さやか「あたし達も行きたいなぁ」

ほむら「昼休みは呉キリカと二人にしてあげて欲しいのよ」

杏子「ふーん?」

まどか「でも『織莉子』さんってどういう人なの?」

ほむら「そういえば彼女のことは何も話してなかったわね」

ほむら「美国織莉子は呉キリカのクラスメートなのよ」

ほむら「と言っても、呉キリカは会ったことはないわ」

まどか「会ったことない?」

ほむら「色々あるのよ」

まどか「?」

杏子「何か訳ありって感じだな」

ほむら「えぇ、そうね」


ほむら「所謂保健室登校というものよ」

まどか「保健室登校?」

ほむら「登校はするけれど訳あって教室でなく保健室で過ごしているのよ」

まどか「そ、そうなんだ……」

ほむら「彼女は去年……二年生の後半に転校してきたの」

ほむら「けれど、どの友人グループにも属せず、クラスに馴染めず、学校に通うのが苦痛に感じ始めた」

ほむら「進級してから一度も教室に入っていないそうよ」

まどか「…………」

ほむら「だから、気軽に話して欲しいと思う反面、あんまり軽率に考えてほしくないわね」

杏子「意外に友達思いなんだな、ほむら」

さやか「何か気持ち悪っ」

ほむら「やかましいわよ」


さやか「しかし、保健室登校か……」

さやか「そういうのがあることは何となく知ってたけど、ウチにもいたんだねぇ」

杏子「ほむらはそんなんとどこで知り合ったんだ?」

ほむら「それは保健委員だから」

さやか「あれ?そうだったっけ」

ほむら「そうよ」

ほむら「そうよ」

杏子「何故二回言った」

ほむら「これでもほぼ毎日顔を出しているわ。彼女とよく話している」

まどか「ほむらちゃん、休み時間どこに行ってるのかなって思ってたけど……」

まどか「その人のとこに行ってたんだね」

ほむら「そういうこと。まぁ、そういうことで。私は保健室に行ってくるわ」

ほむら「先に呉キリカを待たせているから」


まどか「行ってらっしゃい」

さやか「行ってらっさやか」

杏子「何だそれ」

まどか「……それじゃ、わたし達もお昼にしようよ」

杏子「あぁ、購買でデザートを買ってくる」

まどか「デザー……パンとかしかないよ?」

杏子「買ってくる。ターゲットはチョコホイップケーキサンド」

まどか「……よく食べるね?」

さやか「うーん」

杏子「どうした?さやかも行くか?食うかい?」

さやか「行かな……いや、待って」

さやか「うん……気になることが」


――廊下


ほむら「待たせたかしら」

キリカ「ううん。今来たとこだよ」

キリカ「保健室なんて久しぶりに行く気がするよ」

ほむら「そう」

ほむら「あなたのことは美国織莉子にもう話してあるわ」

キリカ「でも私は何も知らないよ」

キリカ「何話せばいいのかな?」

ほむら「あなたに任せるわ」

キリカ「そんな」

ほむら「誰だって初対面は何も知らないわ」

キリカ「でも私のことを教えてあるんでしょ?フェアじゃないよ」

ほむら「下手なこと教えて先入観持たれるよりはマシ」


ほむら「それに教えると言っても、私の知り合いで悪い人間ではない」

ほむら「……ということくらいしか話してないわ」

キリカ「変なこと教えてないよね?」

ほむら「多分」

キリカ「多分?」

キリカ「でもさぁ、せめて、織莉子って人のことについて何かヒント頂戴よ」

キリカ「下手なこと言って地雷踏むのは嫌だよ私」

ほむら「……それもそうね」

ほむら「地雷らしい地雷と言えば……片親ということくらいかしら?」

キリカ「うおおおおお!先に言ってくれ!危なっかしい!目に見えた地雷じゃないか!?」

ほむら「彼女が幼い頃に亡くしているし、あまり関係ないとのことよ」

ほむら「……それと、彼女がいわゆるお嬢様というやつってことくらいかしら」

キリカ「へぇ、親は社長か何か?」


ほむら「父親が政治家なのよ。知ってる?美国久臣市議会議員」

キリカ「知らない」

ほむら「でしょうね」

キリカ「でも何でそれが地雷になるの?」

ほむら「……彼女が心を開けば、教えてくれるでしょうね」

キリカ「えー、何か怖いなぁ。うっかり踏みそうで」

ほむら「大丈夫よ。そこに疑問を持ったあたり、何とかなると思う」

キリカ「え?どういうこと?」

ほむら「とにかく、そんなの話題に出さなければいいことよ。彼女の方から言わない限りね」

キリカ「うーん?まぁ、わかったよ」

キリカ「でも、やっぱチト不安だなぁ」

ほむら「彼女もきっと不安に思っているわ」

キリカ「むー」



織莉子「…………」

織莉子「…………」

織莉子(……ついに)

織莉子(ついにこの時が来た……)

織莉子(暁美さんのお友達を……紹介してくれる)

織莉子(名前は……『呉キリカ』さん)

織莉子(暁美さんは『いい人』って言ってたけど……どんな人だろう)

織莉子(…………)

織莉子(うぅ、緊張してきた。どうしよう……何を話せばいいんだろう)

織莉子(な、なんだか、気持ちが悪くなってきた……だ、ダメよ!そんなんじゃダメ……!)

織莉子(折角暁美さんが紹介してくれるんだから、何とか平常心を……)

織莉子(落ち着いて……落ち着くのよ……私)


「あれー?先生いないよ?」

「彼女はいるわ」

織莉子「!」

「先生もいないのに保健室でお弁当っていいの?」

「いいのよ」

「そうなのかなー」

「いいのよ」

織莉子(暁美さんの声……と、もう一人。……呉さんね)

ほむら「来たわよ。美国織莉子」

織莉子「暁美さん」

キリカ「あっ、この人が」

織莉子「……!」


ほむら「紹介するわ。彼女が呉キリカ」

キリカ「よろしーく」

織莉子「よ、よろしく、お願いします……」

ほむら「さて……それじゃ、呉キリカ。後は頼むわね」

織莉子「え、暁美さん一緒じゃないの」

ほむら「一緒じゃないの」

織莉子「あの……暁美さん……」

ほむら「?」

織莉子「そ、その……あの……いてほしいのだけれど」

織莉子「こ、心細い……」

ほむら「…………」

キリカ「む?」


ほむら「呉キリカくらい平気でしょう」

キリカ「えぁ?わ、私くらいって何だよ」

ほむら「何も教室へ行けと言ってるわけじゃないのよ」

ほむら「紹介すると言ったらして欲しいと言ったのはあなたでしょ」

織莉子「そ、それはそうだけれど……」

キリカ「何か嬉しいなぁ」

ほむら「ほら、呉キリカもそう言ってるし」

ほむら「さっさと心を決めなさい。時間は無限じゃないのだから」

キリカ「無限で有限だよ」

ほむら「え?」

織莉子「え?」

キリカ「いや、何でもない」


ほむら「それじゃ、よろしく」

キリカ「うん」

織莉子「あっ……」

キリカ「…………」

織莉子「…………」

キリカ「えーっと」

キリカ「とりあえず……」

キリカ「初めまして、になるのかな」

織莉子「……え、えぇ、初めまして。美国織莉子です」

キリカ「あ、どうも。呉キリカです」

キリカ「……はは、なんかお見合いみたいな空気だね」

織莉子「そ、そうですね……えぇ」


キリカ「えっと……何かごめんね。急に来ちゃって」

織莉子「い、いえ……」

織莉子「……そ、その」

キリカ「うん?」

織莉子「わ、私の方こそごめんなさい」

キリカ「え?何で?」

織莉子「その、暁美さんに無理言って……呉さんの休み時間を潰させて、さぞ迷惑だったかと……」

キリカ「いやいや!そんなの気にしてないよ!」

キリカ「むしろほむらの知り合いだってんで、話すの楽しみにしてたんだから」

織莉子「ほ、本当ですか……?」

キリカ「うん」

織莉子「……う、嬉しい」


キリカ「…………」

キリカ(照れてる)

キリカ(……か、かわいいじゃないか。かなり美人だし……髪も綺麗)

キリカ(つくづく、何で私は彼女のことを今日まで知らなかったのだろう)

キリカ(増してや転校生のお嬢様だと言うのに……有名にならないはずがないよ)

織莉子「……あ、あの?」

キリカ「ん?あぁ、ごめんごめん。ぼーっとしてた」

キリカ「……じゃあ挨拶はこの辺にして、お昼にしよっか」

織莉子「えぇ」

キリカ「えっと、私はどこに座ればいいかな?」

織莉子「へ?え、あ……」


キリカ「テーブル挟んで向かい合う?」

キリカ「あ、向かい合うにしても真正面は嫌だとか、そういうのある?」

織莉子「ど、どちらでもいいんじゃないかと」

キリカ「ありがと。じゃあ隣に座っちゃお」

織莉子「えぇ……どうぞ」

キリカ「失礼」

織莉子「…………」

キリカ「…………」

キリカ(緊張してるっぽい。……ふーむ、何か話題でも)

キリカ(……あ、近くだと何か良い匂いがする。香水じゃあないな……シャンプー?)

キリカ(シャンプーの銘柄でも聞く?いやその私がシャンプーなんてわかんないし)

キリカ(まぁいいや。話題なんて探すもんでもないし)


織莉子(ち、近い……!)

織莉子(隣だと……へ、変に緊張する!)

織莉子(……あ、何か甘い匂いがする……ホットケーキ?)

織莉子(暁美さんとはいつも向かい合ってたけど……)

織莉子(……なんだか、久しぶりに誰かの隣に座ったな)

織莉子「…………」

キリカ「ご飯だご飯だー」

織莉子「えぇ」

キリカ「わぁ、君のお弁当奇麗だねぇ」

織莉子「い、いえ、そんな……」

織莉子「そんな手を込んだようなものは……」



キリカ「あ、自分で作ってるんだ」

織莉子「えぇ、一応……」

キリカ「へー、すごいなぁ」

キリカ「ってことは早起きしてるんだよね」

キリカ「しっかりしてるなぁ……私ってば寝坊常習犯」

織莉子「は、はぁ……」

キリカ「もしかして君のご尊父の分も?」

織莉子「……父は、基本的に外食です」

織莉子「なので……一人分」

キリカ「そ、そっか……」

キリカ(……地雷踏んだかも?)


キリカ「……わ、私なんて調理実習でやったこと全く身に付いてないからね」

キリカ「なーんにもできない!」

キリカ「この通り毎日購買だよ。今日はつぶあんマーガリンコッペパンとパンケーキのホイップクリームサンド。ドリンクはミルクココア」

織莉子「……ご両親、お弁当は?」

キリカ「あー、親も料理作らなくてさ。毎日お金渡されてこれで済ませって」

キリカ「朝ご飯も夕飯も、基本的に買ってきたものを盛り合わせたとかレトルトばっかり。たまーにファミレス?」

キリカ「まー、それはそれで美味しいんだけど……手作り料理とか輝いて見えるよ」

キリカ「私なんてできても冷凍食品。私もこういうの作れるようになりたいなぁ」

織莉子「……最近は、冷凍食品を詰めてばかりで」

キリカ「…………」

キリカ「冷凍食品大好きだよ!」

キリカ「あ、いや、そのフォローの仕方はおかしいか……」


織莉子「……?」

キリカ「で、でも料理できるのは本当なんでしょ?」

キリカ「いいなー。こんな食生活だから私ってば偏食気味になったのかなー?あはは」

織莉子「…………」

織莉子(呉さんの家庭も……色々あるのかしら)

織莉子(……お弁当、か)

キリカ「……あ」

キリカ「ごめんごめん。一方的に話しちゃったね」

織莉子「いえ……」

織莉子「お話を聞いてるだけでも……その、楽しいですよ」

キリカ「そ、そう?」

キリカ(な、何という物腰……これがお嬢様の気品というものか!)

キリカ(私なんかで釣り合えるのだろうか、という別の不安が……)


キリカ「……あ、そうだ」

キリカ「ほむらはどう?」

織莉子「暁美さん、ですか?」

キリカ「ほむらは私の幼なじみの友達。つまり私の友達」

キリカ「だけどなーんか、私に対して反応があっさりしてるんだよね」

織莉子「……暁美さんは、元々そういう性格なんじゃ」

キリカ「うん。まぁ、そうだとは思うけど……冷たいって訳でもないんだよね」

キリカ「そんなほむらとどういう出会いしたのか気になって」

織莉子「どうって……」

織莉子「……保健室で課題をしていたら、保健委員の暁美さんが来て」

キリカ「保健委員だったんだ」


織莉子「それで……話しかけてきれくれて……」

織莉子「なんだかんだで、話が合って……その……」

織莉子「私の境遇を受け入れてくれたというか、なんというか……」

キリカ「ふーん……?」

キリカ「境遇……か」

キリカ「……私も、君と話、合うかな?」

織莉子「…………」

織莉子「まだ……お互いのこと知りませんから、何とも」

キリカ「だよね。それだったら、私――」

「キリカー」

キリカ「む?」

織莉子「!?」


さやか「やっほう」

キリカ「さやか?」

杏子「よう」

まどか「ど、どうも……」

キリカ「あれ、どうしたの?」

キリカ「ほむらから、君達は君達でお昼にするって聞いてたけど……」

さやか「うーん、まぁ、そうなんだけどさ」

さやか「やっぱり気になって来ちゃったー」

杏子「こいつが『織莉子』ってヤツか?」

まどか「あ、あの……えと、こ、こんにちは」

織莉子「…………」


さやか「それに、まどかと織莉子さんは同じ転校生」

さやか「きっと意気投合できると思ってね!」

キリカ「あぁ、それもそうだね」

キリカ「でも転校生同士だからと言ってもなぁ。学年違うし」

杏子「何でもいいけど、飯にしようぜ」

さやか「お弁当持ってきたんだー。何か杏子の購買の寄り道みたいになっちゃったけどさ」

キリカ「あぁ、うん。そうだね。隣は私のものだよ」

織莉子「…………」

まどか「……あ、あの」

さやか「ん、どうした?まどか」

まどか「……具合、悪いんですか?」

キリカ「ほぇ?」


まどか「あ、えと……織莉子さん」

織莉子「…………」

キリカ「織莉子?」

キリカ「あれ?どしたの?」

杏子「……腹でも痛いのか?」

さやか「杏子じゃないんだから」

杏子「何であたしが出てくる」

キリカ「織莉子ー?」

織莉子「……ぅ」

キリカ「……?」


織莉子「……う、う」

まどか「ど、どうかしたんですか……?」

キリカ「お、織莉子……?」

織莉子「す、すみませ……急に……吐き気が」

キリカ「ええっ?」

キリカ「……はっ!」

杏子「体調悪いのか?」

さやか「出番だまどか!」

まどか「わたし保健委員じゃないよ」

キリカ「ご、ごめん!ちょっといいかな!」

さやか「キリカ?」


キリカ「ちょ、ちょっと!ちょっとハウス!」

さやか「ハウス!?」

杏子「どうしたんだよいきなり」

織莉子「う……ぐっ、ぅ……」

まどか「……あっ」

まどか「ふ、二人ともっ。行こっ!」

さやか「え?あ、ちょっ……!」

杏子「お、おいおい、そんな引っぱんなって……」

まどか「すみません、キリカさん!」

まどか「失礼しますっ」

キリカ「あ、ありがとう、まどか」

キリカ「後でね!うん!後で!」


キリカ「……ふぅ」

織莉子「うぐっ、う……おぇ……!」

キリカ「お、織莉子!大丈夫!?」

キリカ「もう、みんな行ったからね。言っといたから」

織莉子「はぁ……はぁ……」

織莉子「うぅっ……う……はぁ」

キリカ「だ、大丈夫。大丈夫だから。少し横になろう」

織莉子「……す、すみま……せん」

キリカ「……立てる?肩貸すよ?」

キリカ「よいしょっ」

キリカ(あ……座っててわからなかったけど、おっきいんだな)

キリカ(二つの意味で)

キリカ(な、なに邪なことを考えているんだ私は!織莉子が辛い思いしてる時に!)


織莉子「…………」

キリカ「ほら、ベッドに……無理しないで」

キリカ「カーテンしめるね」

キリカ「はい、君のお弁当と飲み物」

キリカ「ベッドの上で食べていいのかな?流石にダメだよね」

キリカ「楽になるまで横になった方がいいね」

織莉子「…………」

キリカ「いや、ごめんね。驚かせちゃって」

キリカ「悪いヤツじゃあないんだ。みんな君と仲良くなりたいと……」

織莉子「……うぅ、ぐすっ」

キリカ「……織莉子?」

織莉子「うう……うっ」


織莉子「ごめん、なさい……ごめんなさい……っ」

織莉子「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……!」

織莉子「ぐす、折角……うぅ、折角、来て……くれたのに……」

織莉子「初対面、なのに……こんな、気を……使わせて……」

キリカ「織莉子……」

織莉子「私……怖いんです」

織莉子「他人が……他人の目が、怖くて……」

織莉子「多くの視線が……私に集中しているのが……怖くて」

織莉子「寒気がして……気持ち悪くなって……」

織莉子「呉さんがいるのに……我慢しなくちゃって……」

織莉子「そう……思ったのに、我慢……できなくて……」

キリカ「……大丈夫、大丈夫だよ。織莉子」

キリカ「多くのったってそんなでもないじゃないか」

織莉子「そういうことでなくて」


織莉子「……本当に、ごめんなさい」

キリカ「ううん……私も無神経だったよ」

キリカ「君の境遇をわかっていながら……」

キリカ「さやか達が来た時点で追い出すべきだった。……ごめん」

織莉子「…………」

キリカ「……ねぇ、織莉子」

キリカ「その……君さえよければ、だけど……」

キリカ「君のこと……聞かせてくれるといいな」

キリカ「私……君と仲良くなりたいし、理解したいと思うから……」

キリカ「あ、勿論、辛いことだというのは重々承知してるから……無理しなくていいから……」

織莉子「…………」

織莉子「……私、父親が政治家なんです」

キリカ「……うん。ほむらから聞いてるよ」


織莉子「……どこまで、聞いてます?」

キリカ「ほとんど聞いてないよ」

キリカ「君のご尊父の名前だけはほむらから聞いたけど、そういうの何も知らないんだ」

キリカ「県知事はおろか市長の苗字も知らないレベルだからね」

織莉子「そう……ですか」

織莉子「それで……政治家の娘ということで、いい印象持たれたことがなくて……」

織莉子「それで……周りからも避けられてました……」

キリカ「そう、だったんだね」

織莉子「それだけなら、まだ、耐えられました」

織莉子「だけど……転校してきて一ヶ月」

織莉子「周りに未だ慣れなくて焦りを感じ始めてきた頃……」

織莉子「お手洗いで……陰口を……聞いてしまったんです」


キリカ「……なんて言われたの?」

キリカ「あ、いや……無神経だよね。ごめん」

織莉子「…………」

織莉子「私のこと……税金泥棒だと」

キリカ「……っ」

織莉子「政治家の認識なんて、そんなものです……」

織莉子「それよりも……尊敬している父への侮辱に対し、怖くて何も言い返せなかった私の弱さを思い知らされました」

織莉子「少なからずとも、進んで周りと解け込もうとしていたのですが……」

織莉子「その件で……怖くて、それさえもできなくなって……」

キリカ「織莉子……」

キリカ「……そんなことないよ。君は、学校に来るという選択をした」

キリカ「十分、強いと思うよ」

織莉子「…………」


織莉子「……お父様に迷惑をかけたくない」

織莉子「ただ、それだけの……自尊心のためだけに、私は通いました」

織莉子「だけど……今年の一月になります」

織莉子「自分で言うのもなんですが……父は、人徳のある方です」

織莉子「だからこそ……スキャンダルが求められました」

織莉子「需要という意味でも……失墜させるという意味でも……」

織莉子「……かつて、汚職の濡れ衣を着せられかけた政治家の娘が……クラスで孤立している……」

織莉子「それを……ネタに……」

織莉子「登校、中……校門に、ハンディカメラを持った、人が……」

織莉子「それで……皆の……前で……見ている前で……」

織莉子「私、は……私は……!」

キリカ「……!」


キリカ「……そっか、一月……なんか事件があったらしいとは話題になってたけど……」

キリカ「何も知らなかった……そんなことがあったんだね」

キリカ「ごめん……辛いこと聞いて。それで、君、人の目が……」

キリカ「でも、ありがとう。話してくれて」

キリカ「……話してくれたってことは、私のこと、信用してくれたってことだよね。ほむらも言ってた」

織莉子「…………」

織莉子「その……私の方こそ……申し訳ありませんでした」

織莉子「一方的に、気分の悪い話をしてしまって……」

織莉子「でも……聞いてくれて、同情してくれるだけで、私……」

織莉子「変よね……おかしいですよね。気持ち悪いですよね」

織莉子「あなたにとって、私は初対面の転校生に過ぎないのに……」

織莉子「ごめんなさい……」

キリカ「……あはは、私達、何か謝ってばっかりだね」


キリカ「大丈夫だよ。私は気にしない」

キリカ「確かに私も政治家にいいイメージこそ持ってない」

キリカ「でも……もし君のご尊父が汚職をしでかして娘一人残して失踪して、本当に完全なる孤独になったとしても」

キリカ「私は気にしないよ。君自身には関係のないことだ」

キリカ「君は君だから。政治家の娘じゃなくて、美国織莉子だよ」

織莉子「呉さん……!」

キリカ「それに君はいい子だよ。あのツンケン娘と友人なんだもん」

キリカ「私、君と一緒に授業を受けたいな。まぁ私よく寝ちゃうけどね!あはは」

織莉子「…………」

キリカ「もし、君が自分を卑下するなら、とことんそんなことないって言うよ」

キリカ「そんで、君を悲しませることを言う輩が現れようものなら、私が代わりに文句を言ってやるさ」

キリカ「織莉子は私が護るから」

織莉子「……!」


キリカ「……くぅ~」

キリカ「初対面なのに君を護るだなんて……私の方が気持ち悪いなぁ~」

キリカ「忘れてっ。やっぱ今のセリフ忘れてっ」

キリカ「あ!忘れると言っても、私は君を護るのには違いないからね!」

キリカ「何かあったら私を頼ってよね!絶対に!」

織莉子「呉さん……」

織莉子「……あ、ありがとう」

キリカ「はは、お礼言われちゃった」

織莉子「……本当に、本当にありがとう」

キリカ「ん……ま、これからよろしくね」

織莉子「……はい」

織莉子「よろしく、お願いします……呉さん」

キリカ「ふつつか者ですが」

織莉子「……ふふっ、それ、使い方がおかしい」


キリカ「ほう」

織莉子「?」

キリカ「何だぁ、君、笑うとすごいかわいいじゃないか」

キリカ「笑わなくても十分かわいいけど」

織莉子「か、かわっ……!」

織莉子「へ、変なこと言わないでください……」

キリカ「照れた顔もかわいい」

織莉子「も、もう……」

キリカ「んー……」

キリカ「……とうっ!」

織莉子「きゃっ!?」


織莉子「ちょ、きゅ、急に、だ、抱きつかないでっ」

キリカ「初めてかい?クラスメートに抱擁されるのは」

織莉子「あっ、当たり前です!」

キリカ「んー、このリアクション……確かにクるものがある」

織莉子「そ、その……離して……」

キリカ「こういうの、嫌い?」

織莉子「い、いえ、別に、呉さんになら……じゃ、じゃなくって」

織莉子「その、びっくりするから、やめてください」

キリカ「ふふ、かわいい。君、本当にかわいいね」

織莉子「う、うぅ……やめてって……」

キリカ「織莉子は私の嫁になるのだー!」

織莉子「――っ!?」


織莉子「…………」

キリカ「ふふ、これ、私の幼なじみの持ちネタね」

キリカ「これぞ、お友達から始めようってね」

キリカ「……くはー、実際言うと照れくさいね。何が嫁だよバカバカしい」

織莉子「…………」

キリカ「……織莉子?」

織莉子「…………」

キリカ「おーい」

織莉子「……はっ!」

キリカ「どうしたの?ぼーっとして」

織莉子「い、いえっ、な、何でもありま、せん……」

キリカ「ドン引かれちゃったかな?」

キリカ「全部さやかが悪い!」


キリカ「っていうか……大丈夫?具合」

キリカ「熱……ある?もしかして」

織莉子「あ、あのっ、それよりも」

キリカ「ん?」

織莉子「その……お、お昼は……」

キリカ「あー、うん。織莉子は平気なの?食べれる?」

織莉子「……えぇ」

キリカ「本当に?私に気を使ってない?」

織莉子「つ、使ってませんわ。それに、私は、お昼休みに囚われていませんので」

キリカ「あぁ、なるほど」

キリカ「……って、後で食べるって言ってるようなもんじゃないか」

織莉子「……あ」

キリカ「ドジッ子ってやつだね」

織莉子「な、何にしても、お昼休みは時間が限られています」


織莉子「だから私に構わず、お昼を召し上がってください」

キリカ「そうはいかないよ。そしたら君に会いに来た理由がない」

キリカ「どうせ休み時間にコッペパン半分を早弁、いや、早パンもしちゃったし、休み時間にも食べれる」

キリカ「一緒に食べれないくらいなら少しでも長く君といたい。もっともっと君のこと知りたいな」

織莉子「……!」

織莉子「どっ……どうして」

キリカ「うん?」

織莉子「どうしてそんな恥ずかしいこと言えるんですか……!」

キリカ「ええっ!?恥ずかしい!?」

キリカ「割と結構素なんだけど……ちょっとショック」

織莉子「あ、いえ、そんなつもりじゃ」

キリカ「ま、まぁとにかく。時間いっぱいお喋りしよう」

キリカ「そうだ、さっきのKY集団の話をしようかな。みんな私の友達なんだけどね……」

織莉子「…………」

落ちたな(確信)

今回はここまで。何か変に間が空いてしまった。参ったね
最初は何か軽いノリのほのぼの系で書いてたつもりだったのになんかこんな臭い展開になってたよ
っていうかそもそもさやかとキリカの幼なじみという主旨からズレちゃってるよ。安定のおりキリ

こまけぇことは(ry



――放課後


ほむら「美国織莉子」

織莉子「あら、暁美さん。お疲れさま」

ほむら「……何を食べているの?」

織莉子「ご覧の通り、お弁当よ」

織莉子「お昼休み、食べそびれちゃったの」

ほむら「もう放課後よ?」

織莉子「あまり食欲沸かなくて」

織莉子「気が付いたら今食べてる」

ほむら「夜食べられなくなるわよ?」

織莉子「いいのよ。どうせ今夜も一人きりだもの」

織莉子「どのタイミングで食べようが関係ないわ」

ほむら「……そう」


織莉子「一人暮らしなんだから、たまには泊まりに来てくれたっていいんじゃない?」

ほむら「どうしたのよ」

織莉子「構ってほしいだけよ」

ほむら「……それで?気分はどう?」

織莉子「気分?」

織莉子「ふふ、保健室にいるからって、別に体調が悪いんじゃ……」

ほむら「……呉キリカから聞いたわ」

織莉子「……あぁ、そう」

織莉子「…………」

ほむら「……三人乱入してきて、その緊張で吐き気を催す」

ほむら「この様子じゃ、クラス復帰には遠そうね」

織莉子「……えぇ、そうね」

織莉子「我ながら……情けないわ」


織莉子「はぁ……」

織莉子「自分を変えられるなら、変えたいわ」

ほむら「自分を変えようなんて思ってはダメよ」

織莉子「いや変えたいわよ」

ほむら「そうじゃなくて、焦る必要はないということよ」

ほむら「変わることじゃなくて、まずは慣れることに専念しなさい」

織莉子「アドバイスありがとう」

ほむら「お礼を言われる前に、謝る必要があるわね」

ほむら「まどか達、私のクラスメートが失礼したわ」

織莉子「えぇ……ビックリしちゃったわ」

ほむら「ごめんなさい。気分を害させてしまって」

ほむら「もっとしっかり言っておくべきだった」


織莉子「いいえ、気にしてないわ」

織莉子「あの方達は……私のことを気遣ってくれたんだもの。悪いようには言えない」

ほむら「あなたがそういってくれるなら、彼女達も救われるわね」

織莉子「むしろ、良いきっかけになったわ」

ほむら「きっかけ?」

織莉子「詳しいことは、恥ずかしいから伏せるけど……」

織莉子「具合が悪くなって、吐き気がした時……」

織莉子「呉さん、私に優しくしてくれたの」

織莉子「肩を貸してくれて、ベッドまで運んでくれて……とっても嬉しかった」

織莉子「初対面なのに……つい、恥ずかしい姿を見せてしまったわ」

織莉子「それで……つい、その優しさに甘えて全部話しちゃったわ」


織莉子「呉さんは、私の過去を受け入れてくれた……」

織莉子「もし、そういうトラブルがなかったら……そうね」

織莉子「勇気が出なくて下手をすれば卒業するまで言えず終いということもありえたと思う」

ほむら「……呉キリカなら、あなたは心をすぐ許せる。あなたの全てを受け入れられると思う」

ほむら「思った通りね」

織莉子「えぇ……気を使わせてしまったけどね」

織莉子「でも、彼女は……私を抱いて慰めてくれたわ」

ほむら「何かあなた達だといやらしい意味に聞こえるのは何故かしら」

織莉子「は?」

ほむら「いえ、何でもない」

織莉子「あのね、呉さん……私のこと、政治家の娘じゃなくて美国織莉子として見てくれた」

織莉子「私のこと……理解してくれた」

織莉子「護ってくれるって、言ってくれたわ」

ほむら「そう……それはよかったわね」


織莉子「今にして思うと、急に吐きそうになって急に泣き出して急に過去を語り出した」

織莉子「きっと、内心ではドン引きさせたことでしょうね……」

ほむら「そんなことないわ」

ほむら「彼女は、あなたの考える『他人』よりもずっと純粋な人なの」

ほむら「だから本心から、あなたのこと……」

織莉子「……本当?」

ほむら「そうじゃなかったらあなたに紹介してないわ」

織莉子「そう……」

ほむら「そうよ」

織莉子「……呉さんと一緒なら、私……頑張れるかも」

織莉子「私、呉さんと一緒に授業を受けたい……呉さんと一緒に登下校したい。そう思ったわ」

ほむら「あなたの口からそんな言葉が出るなんてね」

ほむら「でもまぁ、吐き気を催すくらい無理をするなんてしないことね」

織莉子「……えぇ」


織莉子「呉さんのこと……もっと色々知りたいわ」

織莉子「ね、もっとたくさん教えて」

ほむら「そんなの、自分で聞きなさいよ。知り合ったんだから」

ほむら「メールアドレスとか交換したでしょう?」

織莉子「…………」

ほむら「…………」

織莉子「だ、だって……」

ほむら「……まぁ、聞けばわかることだし、改めて聞きなさい」

織莉子「教えてくれないの……?」

ほむら「それくらい自分で聞きなさい」

織莉子「……恥ずかしい」

ほむら「…………」


織莉子「き、聞こうと思ったのよ?本当よ?」

織莉子「だけど、いざ聞こうと思っても、何だか、ドキドキしちゃって……」

織莉子「呉さんとお話しているだけで、精一杯だったというか……」

織莉子「メールアドレスを聞くのが、何だかもの凄く難しく感じて……」

織莉子「何だか、勇気が出なくって……」

織莉子「呉さんの真っ直ぐな目を見ると……何だか、緊張して」

織莉子「自分の言いたいこと、話したいことがあんまり言えなかったわ」

織莉子「もっと色々聞きたかったのに……ほとんど受け身に、聞かれたことに答えるような形になってしまったわ」

ほむら「…………」

織莉子「それで……ん?」

ほむら「…………」

織莉子「……どうしたの?暁美さん」


ほむら「……ベタ惚れね」

織莉子「ぶふっ!?」

ほむら「ちょっと、吹き出さないでよ」

織莉子「げほっ、ごほ、だ、だって、暁美さんが急に変なこと……」

ほむら「…………」

織莉子「た、確かに呉さん、親切にしてくれたし、かわいらしくもありかっこいいなぁって思ったわ」

織莉子「それに私のこと理解してくれたし、もっと側にいたいな、なんて、思っちゃったりしたけれども……」

織莉子「理解してくれたことに関しては暁美さんも同じだけど……呉さんは、何だか、違うのよ」

織莉子「彼女に慰められた時、抱きしめられた時、笑顔を見せてくれた時、何というか、電気が通ったような衝撃がしたというか……」

織莉子「と、とにかく別にそんな!邪な気持ちないわっ。ないわよっ」

ほむら「本当に?」


織莉子「そうよ!私はただ、純粋な気持ちで呉さんのことをすっ、そ、尊敬というか、何というか……」

織莉子「そ、そ、それに、おかしいでしょ!」

織莉子「初対面で昼休みの間に恋に落ちるなんてっありえないわっ」

ほむら「…………」

ほむら「一目惚れというものも存在するわよ?」

織莉子「そ、そうかもしれないけれど……」

織莉子「それ以前に……女性同士じゃない」

ほむら「別にいいんじゃない?」

織莉子「ダメよ。そんなの……」

織莉子「友達になった矢先そんな感情持たれたら……」

織莉子「呉さんにも迷惑をかけるわ。それは絶対に嫌」

織莉子「気持ち悪がられるくらいなら……この思いは心の内に……」


ほむら「……呉キリカが好きになったこと、認めたわね」

織莉子「…………」

織莉子「……ハッ!」

織莉子「だ、だっ、だから!べ、別に呉さんのことをそんな……!」

ほむら「そんな真っ赤な顔で言って、説得力ないわ」

織莉子「う、うぅぅ……!」

織莉子「……暁美さんのいじわる」

ほむら「何でそうなるのよ」

ほむら「まあいいけど……私はあなたの感情を尊重するわ」

織莉子「…………」

織莉子「もう、いいわ……わかったわよ」

織莉子「私とあなたの仲だもの。ぶっちゃけるわ」

織莉子「呉さんのことが好き」


織莉子「好きになったわよ。認めればいいんでしょう」

ほむら「何ふてくされてるのよ……まぁ、いいけど」

織莉子「……呉さん、好きな人、いる?」

ほむら「恋愛感情という点では、私の知る範囲でいないわ」

織莉子「そう……じゃあ早速相談」

織莉子「あのね、放課後……これから呉さん、私の買い物に付き合ってくれるって約束してくれたの」

ほむら「あら、思いの外の進展ね」

織莉子「だから……どういう話をしたらいいかしら」

ほむら「…………」

ほむら(しかし……何というか……)

ほむら(……そうきたか)


――教室


さやか「あ、帰ってきた」

ほむら「あら、まだいたのね」

杏子「よ、授業終わるなりどこ行ってたんだ?」

ほむら「保健室よ」

まどか「…………」

まどか「……あ、あの、ほむらちゃん」

ほむら「何かしら?」

まどか「えっと……お昼はごめんね」

ほむら「昼?」

まどか「その……保健室」

ほむら「ああ、そのことね」


ほむら「二人きりにさせたいって言ったのに」

さやか「…………」

まどか「さやかちゃんを止めた方がいいかなとは思ったんだけど……」

まどか「わたしもつい、気になっちゃって……」

杏子「あたしも……チト悪のりが過ぎたよ」

ほむら「いえ、大丈夫よ」

ほむら「悪いのは美樹さやかだものね」

さやか「ぐっ、視線が痛い」

まどか「そ、その言い方は……なんというか……」

ほむら「そういう扱いでいいのよ美樹さやかは」

さやか「不服です」

杏子「安定のさやか」


ほむら「そんなことよりあなたを不安にさせてしまったようね」

さやか「そんなことって」

ほむら「ごめんなさい。ちゃんと釘を刺しておくべきだったわ」

まどか「う、ううん。わたし達の方こそ、邪魔しちゃって……」

ほむら「いいえ」

ほむら「むしろ、いい刺激になったわ」

まどか「しげき?」

ほむら「何でもないわ」

ほむら「それに、彼女も気にしていないから」

まどか「そ、そう?」

ほむら「えぇ」


ほむら「あくまで美国織莉子次第だけれど……」

ほむら「時期を見て、まどかも彼女と話をしてみるといいわ」

まどか「わたし……」

まどか「でも……迷惑かけちゃったし……」

ほむら「……そうね。躊躇する気持ちもわかるわ」

ほむら「でも、まどかとの相性もいいと思うから」

まどか「そ、そうかな?」

ほむら「あなたは優しすぎるくらいに優しい」

ほむら「きっとすぐに美国織莉子とも馴染めるわ」

まどか「……うんっ」

まどか「みんなで遊べるといいね!」

ほむら「……えぇ」


ほむら「さて……と。それじゃ、私は……」

まどか「え、どこ行くの?」

ほむら「どこって……帰るのだけれど?」

まどか「あっ、ま、待って」

まどか「あ、あのね、ほむらちゃん」

ほむら「何かしら」

まどか「これから……空いてる?」

ほむら「…………」

まどか「良かったら一緒に寄り道とか」

まどか「昨日のクレープ、食べに行きたいなって」

ほむら「…………」


まどか「ど、どう……かな?」

ほむら「……ごめんなさい。用事があるの」

まどか「……そ、そっか」

ほむら「折角誘ってくれたのに、悪いわね」

まどか「う、ううん。わたしの方こそ……急にごめんね」

まどか「えと……また、誘ってもいいかな?」

ほむら「誘ってくれるのは嬉しいけど……」

ほむら「最近ちょっと、放課後は立て込んでいるの」

まどか「そうなんだ……」

ほむら「えぇ、ごめんなさい」

さやか「…………」


さやか「ねぇ、愚かボチャ」

ほむら「何よメンヘラズベリー」

さやか「それはキツイ」

さやか「ちょいと話がしたいから昨日みたいに時間止めて」

ほむら「もう既に止めているわ。でも変ね」

ほむら「昨日忘れさせたと思ってたけど」

さやか「残念でした。覚えてるわよ」

ほむら「手抜きがバレたわね」

さやか「手抜きておい」

ほむら「呉キリカ」

さやか「キリカがどうしたの?」

ほむら「そこは完全に定着しているのね」

さやか「は?」


ほむら「まぁ丁度いいわ。どうせ美国織莉子のことでしょう」

さやか「うん。織莉子さんには悪いことしたね」

ほむら「全くよ」

さやか「まさかあの織莉子さんがああなってるとは思ってなくて」

ほむら「先入観……と言いたいところだけど、あの乱入はどうかと思うわ」

さやか「う……ご、ごめんなさい」

ほむら「そんなことより、この通り美国織莉子の件はひとまず済んだわ」

さやか「あ、うん。一応言っておくよ。お疲れさん」

ほむら「どうも」

さやか「結局どう変えたのよ?」

ほむら「そうね。話しておきましょう」


ほむら「美国織莉子の父親は汚職をせず、自殺もしていないということになっているわ」

ほむら「まぁ、私達からすればお金持ちには変わらないけれど。……それで見滝原中学の方に転校」

ほむら「帰国子女二号よ」

さやか「帰国子女?」

さやか「……あんた困ったら外国から来たことにすればいいと思ってない?」

ほむら「マンネリ化を防ぐためにイギリスから来たことにしたわ。紅茶の本場よ」

さやか「そういうことじゃないんだ。そういうことじゃないんだ」

さやか「ま、まぁいいや……白女どこ行ったよ」

ほむら「そうでもしないと呉キリカとの接点がほぼないと思ったのよ」

さやか「そうかなぁ?」

ほむら「たまたま出会ったとしてもよくて印象に残る他人程度でそれ以上の発展は望めないわ」

ほむら「あとそれなりに病んでないと」

さやか「それなりにエグいことを言うなあんた」


ほむら「で、見滝原中学に通うようにはなったけれども周りと打ち解けられず、保健室登校に」

さやか「何でそんな境遇に……」

ほむら「彼女と呉キリカにきっかけが欲しかったのよ。私が会わせたようにね」

ほむら「そのために別のトラウマを植え付けたりしたのは悪いとは思ったけど……」

ほむら「そもそも二人は異なるタイプの人間」

ほむら「クラスメートだからというだけで友人になるとは限らない」

さやか「随分と手間かけてるわね」

ほむら「あなた達と違って後からの改変だもの。それなりに面倒はかけるわ」

さやか「そこまでしてくっつけてくれるんだねぇ、あの二人」

ほむら「それに……」

ほむら「……いえ、何でもない」

さやか「?」


さやか「まぁいっか」

さやか「授業中キリカからメール来てね、何かえらい喜んでたよ」

ほむら「授業受けなさいよあなた達」

さやか「まぁまぁ……」

さやか「キリカ、かなり気に入ったみたいよ」

ほむら「当然よ」

さやか「で、織莉子さんはあたしの出来の悪い幼なじみのことを何て?」

ほむら「惚れたそうよ」

さやか「えっ」

ほむら「……私も予想外だったわ」

さやか「え、いや、ちょ、待って。ごめん。何て?」

ほむら「惚れたのよ。美国織莉子が呉キリカに」

さやか「ええー……」


さやか「人の恋路をあっさりバラしちゃうんだ」

ほむら「そこじゃないでしょ」

さやか「冗談プー」

ほむら「……確かに、多くの時間軸の中、あの二人は出会えば大抵百合ップルを成立させている」

さやか「百合ップルとか言い出したよこいつ」

ほむら「しかしそれは、二人が特殊な環境下に置かれていたからこそよ」

ほむら「それ故に、呉キリカは自分を変えたいと契約し、美国織莉子は生き甲斐を求め契約した」

ほむら「この世界では、呉キリカは現状の自分に満足し、美国織莉子は人生に絶望をしていない」

ほむら「無論、お互いに魔法少女なんかでない」

ほむら「そんな二人の片方がものの数十分がレズ化するなんて、悪魔の私でも予想できなかったわ」

さやか「なんかレズ化とか言い出したよ」

ほむら「しょっちゅう魔女化してきたあなたに言う権利はないわ」

さやか「毒吐くなぁ」


さやか「……しっかし、何か疑わしい。本当に仕組んでないの?」

ほむら「マジよ」

さやか「幼なじみがそう思われているってのは、悪いけどチトショックだなと思うとこあるけど……」

さやか「この際それはいいとして」

さやか「問題はこれからだよ。どうすんのよ」

ほむら「やることやったから、恋慕の件については私はほぼ無関係よ」

さやか「ええー……」

ほむら「当人から相談を受けたらそれなりの対応はするけれども」

さやか「そんな無責任な」

ほむら「どうしても気になるなら恋のキューピッドを気取るなりすればいいわ。元・神の使いさん?」

さやか「ほう、さやかちゃんは天使と……照れるね」

ほむら「言葉の綾よ」


さやか「……まぁ、うん」

さやか「二人のことは後々考えるとして……」

さやか「……ほむら」

ほむら「何かしら」

さやか「あたし、あんたに言っておきたいことがあってさ」

さやか「……あのさ」

さやか「あんたがいない時、まどか……なんて言うか」

さやか「あんたのこと、よく聞いてくるんだ。どんな音楽が好きなのかとか」

さやか「あんたの過去のこととか……色々ね」

ほむら「それで?」

さやか「……まどか、あんたが気になるみたいなんだよね」

ほむら「…………」


ほむら「それはあなたに気を使っているだけよ」

さやか「……まどかがそんなあんたを気にする性格だって、あんたが一番わかっているんじゃない?」

ほむら「…………」

ほむら「……さぁ、それはどうかしらね。私は『この』まどかの全てを知っているわけじゃないもの」

さやか「ほむら……」

さやか「ほむらはさ、まどかのこと……好きなんでしょ?」

さやか「なのにそんなこと言って……寂し過ぎるわ」

ほむら「ええ、好きよ。愛していると言ってもいい」

ほむら「でも別にまどかと同じ時間を生きるつもりはないわ」

ほむら「私はただ、まどかが同じ世界に存在していればそれでいい」

ほむら「私の望みは、まどかの人としての幸せ。ただ、それだけ。過度に干渉するつもりはないわ」

さやか「うーん……何だかねぇ」


さやか「そういう割には、キリカと織莉子さん引き合わせたよね」

さやか「そこまでしてもらってこう言うものなんだけど、あんたらしくないっていうか……」

さやか「ほむらなら、二人の仲をほったらかしにするんじゃないかなって」

さやか「だから……それって、まどかと何か関係あるんじゃないかなー、なんて?」

ほむら「…………」

ほむら「……別に、特別な意味はないわ」

ほむら「暇つぶしと言われたら否定しない」

さやか「マジかよ」

さやか「……まぁ、いいよ。悪魔の哲学なんて聞く気ない」

さやか「ひとまず、まどかの件は置いといてあげるからさ」

さやか「とりあえずまどかのお誘いに付き合ってあげなよ」

さやか「あんたがこれから、まどかとあたし達と、どういう関係でありたいのか」

さやか「考えるのはそれからでも遅くないと思うんだ……あたしも考える時間欲しいしね」


ほむら「…………」

ほむら「近づくなと言ったり、付き合ってやれと言ったり……」

さやか「そりゃまぁ、そうなんだけど……」

さやか「幼なじみにいい待遇してくれたもんだしね」

さやか「キリカだけじゃなく、杏子やなぎさ、織莉子さん……」

さやか「あたしの記憶に残ってる限りでは不幸な境遇、結末な人々の内、四人も救った。と、言えなくもないし」

さやか「あんたがまどかに許されざることをやったっていうのは何となくわかるんだけど……」

さやか「そこまでやらせた以上、少しくらい許容してやってもいいかなと思え始めてきた」

ほむら「何様のつもりよ」

さやか「……変だよね」

さやか「あんたがとても許されないことをしたんだってぼんやり思う反面」

さやか「その許されない行為とやらの結果であるこの世界を、受け入れつつあるあたしがいる」


さやか「あたし自身でも、何をどうしたものかわからないんだよ」

さやか「何をすればいいのか、したらいいのか」

さやか「あたしには、やらなくちゃならないことがあるはずなのに……変だよね」

さやか「……あたし、もしかしたらあんたと仲良しになりたいのかもしれない」

ほむら「…………」

ほむら「……気色の悪い」

さやか「ひっでぇ」

ほむら「……ただ、まぁ、この世界を受け入れるなら受け入れてくれた方が都合がいいわね」

さやか「受け入れつつとは言ったけど、全部受け入れるとは言ってないよ。その点勘違いしないでよ」

ほむら「あら、残念ね」

さやか「……で、どうなの?」

さやか「そのまどかとの放課後デート」

ほむら「…………」


ほむら「どちらにしても、まだ放課後は暇にはなれないわ」

ほむら「今は千歳ゆまに取りかかっているところ」

ほむら「その次は浅古小巻、その次は間宮えりか、優木沙々……忙しいの」

ほむら「改変とフォローの仕事がまだ残っている」

さやか「何か知らない名前が出てきたなぁ」

ほむら「あとクレープも作らなきゃだし」

さやか「は?くれーぷ?」

さやか「まぁいいけど……」

さやか「あ、そうだ!どうせ改変するなら早乙女先生にいい感じの彼氏の一つや二つ……」

ほむら「あなたはこの世界の秩序を尊いと思っている?」

さやか「どんだけだよ!」


ほむら「冗談よ。あの人には必要ないわ」

さやか「ええっ、彼氏が?」

ほむら「本気で言っているの?」

さやか「冗談だよ」

ほむら「……はぁ、忙しいんだから、疲れさせないで」

さやか「へいへい」

さやか「……ま、せいぜい頑張りな」

ほむら「だから何様のつもりなのよ」

ほむら「まったくもう……」

ほむら「と、いうことで、私はさっさと帰りたいのだけれど?」

さやか「うん」


さやか「……あたしの記憶消さないでよね?いいね?」

ほむら「……そうね。消さないわ」

さやか「あら素直」

さやか「どんな心境の変化?」

ほむら「別に」

ほむら「ただひとまず、そのままにしておいてあげると言うのよ」

ほむら「どうせ放っておいても忘れるでしょうし……その、面倒くさいし」

さやか「……果たしてそれはどうかな?」

ほむら「どうせ黙っていてくれるんでしょう?」

さやか「まぁね……」

さやか「お互いにほんとの気持ちに向き合えますか週間だよ」

さやか「だからその代わり、絶対に忘れさせないでよ。念を押すけど」


ほむら「それは保証できないわね」

さやか「ズルイ!」

ほむら「悪魔だもの」

さやか「……やっぱりまどかの件保証できないなー」

ほむら「あなた、悪魔相手に言うようになったじゃない」

さやか「……しかし、ねぇ……?」

ほむら「……何よ」

さやか「いやね……あたしはちょっと……」

さやか「織莉子さんを見て、あんたは自分を知ってる人が欲しくなったからなんじゃないかなー」

さやか「……な~んて思ってね」

ほむら「……馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」

ほむら「時間動かすわ」

さやか「はいよ」


まどか「あれ?ほむらちゃん今一瞬で数十センチくらい平行移動した?」

ほむら「してないわ」

まどか「気のせいかな?」

ほむら「それじゃあ」

まどか「うんっ。また明日ね」

杏子「グッバイ」

ほむら「……えぇ」

ほむら「また明日」

さやか「ほほう、あんたからそんな言葉をもらえるとは」

ほむら「社交辞令よ」

さやか「そうかいな」


まどか「…………」

まどか「……はぁ」

杏子「どうした、まどか」

まどか「あ、ううん。何でもないよ」

さやか「ほむらを誘ったけど釣れなかったんだって」

まどか「さやかちゃん!?」

杏子「ふーん。でもあいつは難しいぞ」

杏子「気付いたらいて気付いたら帰ってる。そんな登下校するヤツだ」

杏子「あたしが誘ってもいつもなぁ」

まどか「う、うぅ……」

さやか「でもまどかは杏子と違って素直で優しいから、成功率は大幅に高いよ」

杏子「……まぁ、うん」


杏子「……さて、そんじゃ、今日はどこに寄り道しようかね」

さやか「カラオケ?ゲーセン?ショッピング?」

まどか「あ、でも……」

さやか「ん?あ、もしかしてまどか金欠ちゃん?」

まどか「ううん、お金、ないわけじゃないんだけど……」

まどか「ほむらちゃんと、クレープ食べに行きたいって思ってるんだ」

まどか「そのお金を考えると……今予算が……」

さやか「ほー、ほむらとの放課後デート資金って訳ね」

まどか「で、デートって……!」

杏子「デートだかなんだか何でもいいが、そうだな……」

杏子「じゃあケーキでも食いに行くか」


まどか「……あの、だからお金」

杏子「大丈夫だって」

まどか「え?」

杏子「タダで食える」

さやか「……杏子。マミさんの家はケーキ食べるとこじゃないよ」

まどか「?」

まどか「ケーキ屋さん?」

さやか「そっか。まどかはまだマミさんちに行ったことないんだよね」

さやか「じゃあまどかをマミさんちに連れてこう」

杏子「決まりだな」

まどか「まずはお邪魔していいか聞くという手順が必要ではないかとわたしは思ったのでした」

杏子「どうせ暇だろ」

さやか「あんたねぇ……」


――夜


ほむら「クレープ」

ほむら「クレープ」

ほむら「まぁるいクレープ」

ほむら「クレープはあなた?」

ほむら「トマトなんてないわよ」

ほむら「クレープはあなた?」

ほむら「だからトマトないって」

ほむら「クレ……」

ほむら「命が惜しければそのケチャップを冷蔵庫にしまいなさい」

ほむら「……ザクロ?ザクロならあるわよ。生クリームやチョコに合うかは保証しないけど」

ほむら「ほら、燥がないの」


ほむら「美国織莉子から、使わないからとホットプレートを安価で入手したけれど……」

ほむら「これがまた、意外にもなかなか面白いものね」

ほむら「明日はこれで焼き餃子よ」

ほむら「今度の休日はパンケーキでも焼きましょう」

ほむら「お好み焼きも焼けるのよね」

ほむら「え?材料?」

ほむら「……何なのよあなた達のそのトマト推しは」

ほむら「…………」

ほむら「……ふぅ」

ほむら「…………」

ほむら「……それにしても美樹さやか、本当に、妙な時に変なことを言ったものね」


ほむら「……美国織莉子、呉キリカ」

ほむら「周りに打ち解けられない少女」

ほむら「構わず友好的に接してくる少女」

ほむら「暗い少女と明るい少女との出会い」

ほむら「……かつての私とまどかみたい、ね」

ほむら「…………」

ほむら「無意識の内に……私の過去を、あの二人に投影しているのかもしれない」

ほむら「……なんてね」

ほむら「別に私は、誰にも理解されるつもりなんて……」

ほむら「…………」

ほむら「……出来た」

ほむら「ん……意外と、イケるわね……ザクロのクレープ」

ほむら「そうね……もう少し練習しておきましょう」

今回はここまで。次回の投稿で終わりにする予定


――翌日


キリカ「菓子パン菓子パン」

織莉子「え?」

キリカ「あぁまい菓子パン」

織莉子「へ?」

キリカ「織莉子は菓子パン?」

織莉子「……ち、違います」

織莉子「私は総菜。夕飯の残り物」

キリカ「おういえ」

織莉子「あの……?」

キリカ「ふっふっふ」


キリカ「昨日は結局食べそびれちゃったけど」

キリカ「今日こそは、織莉子とのランチを成し遂げるよ」

織莉子「は、はぁ……」

キリカ「いっただっきまーす」

織莉子「……いただきます」

キリカ「今日はあんパン。こしあん、しろあん、うずいすあんを食べ比べるぞ!」

織莉子「今日も菓子パンなんですね。それも三つ」

キリカ「これから体育があるからカロリー蓄えておかなくちゃね」

キリカ「織莉子の今日のおかずやいかに?」

キリカ「わぉ、今日も奇麗なお弁当ですこと」

織莉子「でも、ほとんど総菜……」

キリカ「手間がかかってるかどうかじゃないんだよ」


キリカ「みたいなこと、昨日も言ったね」

織莉子「……そうですね」

キリカ「やれやれ、うちのもせめて冷凍食品を詰めるくらいはやってほしいもんだよ」

キリカ「君の爪の垢を煎じて飲ませたいね」

キリカ「そういえば君の指奇麗だね」

織莉子「き、奇麗だなんて……」

織莉子「……コホンっ」

織莉子「あ、あの、呉さん」

キリカ「うん?」

織莉子「その……」

織莉子「冷凍食品や総菜ばかりのお弁当ですけど……」

織莉子「この玉子焼きは、今朝、焼いたんです」

キリカ「ほう、良い黄色。やっぱり上手なんだね」


織莉子「それで、その……」

織莉子「……食べて、みてくれます?」

キリカ「え、私?」

織莉子「ええ」

キリカ「……いいの?貰っちゃって」

織莉子「はい、是非、呉さんに食べてみてほしくて」

キリカ「うあー、な、何ていうか、何ていうか」

キリカ「とっても嬉しいなって!」

織莉子(あ、あーん……なんてしちゃったり……)

織莉子(いや、それは流石に気が早すぎるわね……もっと段階を積まないと)

織莉子(でも、ここで消極的になっても……いや、しかし)

キリカ「手に乗せて貰ってかまわないから」

織莉子「あっ、は、はい……」

キリカ「どうも。……いただきます!」


織莉子「…………」

織莉子(逃した魚は何とやら……)

キリカ「……んんー」

織莉子「……どうでしょうか?」

キリカ「うまい!」

織莉子「よかった……!」

キリカ「玉子焼きってこんなにおいしいものだったんだね」

織莉子「そ、そんな、大げさな……」

キリカ「いやいや、あまりのおいしさにほっぺが腐って果てるよ!あ……それはそれで何か貶してるみたいだ」

キリカ「とにかく美味!何か隠し味とか入れてたり?」

織莉子「いえ、特別なことはしまいませんよ」

織莉子「ただ、呉さんは甘い物が好きとのことなので、お砂糖をいつもより多めに入れたくらいで」

キリカ「!」


キリカ「そ、それって……むしろ自分のためというより……」

織莉子「……呉さんの、ため」

キリカ「!」

キリカ「わ……『私のため』に……!私の好みに合わせて、私のために……!」

キリカ「……超感動」

キリカ「私のためにこんな素敵な玉子焼きを食べさせてもらえるなんて、私は幸せ者だよ!」

織莉子「そこまで喜んでくれるなんて……」

キリカ「嬉しいよー。気持ちがこもってるってヤツだね」

織莉子「……お気に召しました?」

キリカ「もちろん!ごちそうさま!感動をありがとう」

織莉子「よかった……」

織莉子「それで……あの……」

キリカ「うん?」


織莉子「呉さん……いつも購買で……」

キリカ「まぁね。おにぎりとかもあるけど、ほぼ毎日パンだね」

織莉子「…………」

キリカ「おいしいよ?」

キリカ「あ、そうだ」

キリカ「玉子焼きのお礼にこのあんパンを半分……」

キリカ「……あ、織莉子も購買ランチにしてみる?」

キリカ「それなら明日君の分のも……」

織莉子「い、いえ、そうでなくて」

織莉子「その、栄養……」

キリカ「栄養?」

織莉子「栄養があんまり……」

キリカ「……まぁ、そうだね」


キリカ「気にならないと言えば嘘になるね」

織莉子「だから……お弁当を、その……」

キリカ「でも、お弁当食べたいのも山々だけど私自身本っ当に料理ダメなんだよ。親が親なら子もとは言わないけど」

キリカ「かといって冷凍食品を詰めるのさえも面倒くさいし、片付けるのも面倒だし……調理法はもちろん、食材に関する知識もさっぱり」

キリカ「私もお弁当というのはハードルが高いね。そもそも早起きできないし……かと言ってコンビニ弁当は嫌だし」

織莉子「そうじゃ……なくて……!」

キリカ「?」

織莉子「うぅ……」

キリカ「ど、どうしたの?」

キリカ「もしかして、また具合が……」

織莉子「……っ!」

織莉子「く……」

織莉子「……呉さんッ!」


キリカ「は、はいっ?」

織莉子「……せて、ください……」

キリカ「……うん?今、何て?」

織莉子「私に……!」

織莉子「あなたのお弁当を作らせてください!」

キリカ「…………」

キリカ「……ええぇッ!?」

キリカ「い、今何と!?」

織莉子「べ、別に……!別にあなたのお弁当を作りたいとは言ったけどそんな深い意味はないんですよ!?」

織莉子「いつもパンとかじゃ、栄養もよくないと思いますわ。栄養を気にするのは親の仕事とは思いますが私のようにそれが難しければそれはそれで何とかしなくてはならないと思うんです」

織莉子「中学生は大切な成長期ですからね。それにあなたいつもチョコだのクリームだの甘い物ばかり食べていると暁美さんから聞きました」

織莉子「だからビタミン不足カロリーはもちろん糖分も気になります。やはり女子たるもの体型にも、そして何よりあなた自身の健康も気になってしまいますわ」

織莉子「でも私としてはちょっとぽっちゃりとしたあなたもいいかなとは思ったりなんか……ってそうじゃなくて!健康が一番!」

織莉子「べ、別に呉さんのことが好きだからとかじゃなくて……あ、いえ、好きです。好きですけど、そういう意味でなくて」

織莉子「ともかくあなたのお身体のためにもあなたにはお野菜を食べていただきたいと考えていまして」


織莉子「それにさっきの玉子焼きのようにあなたに美味しいと言ってもらえたらと思うと料理を作るのが楽しくなるかなって思ったんです」

織莉子「生の感想を聞くことで自らのスキルアップ及び女子力の向上が見込めることができるじゃないですか」

織莉子「お父様がいつも家にいないから手料理なんて作っても食べて感想を言ってくれる相手がいなくて、正直なところ自分で自分のための料理を作るのがここのところ苦痛に思えてきていておりまして」

織莉子「それではいけない、と。だからあなたのお弁当を作りたいという思いは自分自身の苦痛を消すためでもありまして決して呉さんの胃袋を掴んでやるだとかそういう肉食系的な意志はないんですからねっ」

織莉子「強いて言えば桜でんぶでハートだとかあなたをキャラ弁で表現してビックリさせようなんていうことくらいで別にそんな恋人ごっこをしたいなんて変なことは一切考えてません」

織莉子「お弁当をきっかけにいつか私の家に連れ込んでディナーをご一緒してレディーならば料理くらいできなくてはという名目で呉さんと一緒に二人きりでクッキングして行く行くはお互いがお互いのお弁当を作ってくるなんていう妄想を挟みつつ」

織莉子「それでそれとなくお泊まりしましょうってなって一緒に料理作ったりお風呂に入ったり勉強したりゲームしたり同じベッドでお喋りしながら夜更かしだなんてのもいいなぁなんて思ってないこともないですけれどそれはさておいて」

織莉子「お弁当を作りたいというのはあくまで私自身の自己満足のためにも手料理を食べて貰いたいという純粋な思いからあなたにお弁当を作ってあげたいなと思っただけで」

織莉子「いえむしろ作ってあげたいではなくて、作らせて欲しいという思いの方が強いですね」

織莉子「ということで私にお弁当を作らせてくださいっ!」

キリカ「え、えっと……ごめん、ちょっ、ちょっと待って」

キリカ「ストップ!ストーップ!」

織莉子「……はっ!」


織莉子「……ご、ごめんなさい、つい熱くなって……」

キリカ「え、えと……うん」

キリカ「ごめん、早口で全然聞き取れなかった」

キリカ「けど……つまり、その……」

キリカ「恐縮ながら『私のためにお弁当を作ってくれる』……の?」

織莉子「……はい」

キリカ「……ほんとに?」

織莉子「……ほんとです」

キリカ「……マジ?」

織莉子「……まじです」

キリカ「…………」

織莉子「…………」

キリカ「……!」


キリカ「あ、ありがとう!」

織莉子「!」

織莉子(手を……!)

キリカ「すごい!すごい嬉しいよ!」

キリカ「私にお弁当!」

キリカ「お弁当!」

キリカ「ありがとう!ほんとありがとう!」

織莉子(あああ、手がブンブンと、ブンブンと)

織莉子(でも呉さんの手の感触が温かくて心地良い……)

織莉子「そ、そんなに喜んでもらえるなんて……」

キリカ「当たり前だよ!」

織莉子(か、顔が……!呉さんの顔が近い……!)


キリカ「私、昔から手作りのお弁当に憧れてたんだ……!」

織莉子「憧れ?」

キリカ「うん、小学校の時の遠足でさ、登校途中のコンビニで500円分のおやつと一緒にパンを買ってって……」

キリカ「肩身の狭い思いをしたものさ」

織莉子「……そうだったの」

キリカ「うん、私だけコンビニのビニール袋をガサガサ漁ってね」

キリカ「もー恥ずかしくて恥ずかしくて、こっそり公衆トイレに逃げてそこで食べたのは苦い思い出さ。パンは甘かったけど」

織莉子「…………」

キリカ「あの時は幼いながらに私って惨めだな~って思ったもんだよ。はは」

キリカ「あ、別に親がネグレクトってわけじゃないからね。念のため言っておくと」

織莉子「呉さん……」

キリカ「くぅー……!そんな私がついに!」


キリカ「でもさ、織莉子……気持ちはとっても嬉しいんだけど、ほんとにいいの?」

キリカ「だって、作ってくれるにしても……単純に作業量が二倍になるでしょ?」

キリカ「君の負担にならないかな?それにお金だってかかるだろうし」

織莉子「とんでもない。元々しょっちゅう作りすぎて余らせてましたから……」

織莉子「これまではどうせ食べるのは私一人だから、手を凝らすのも虚しいだけでした」

織莉子「それに、一人暮らしというわけでもないのに一人分を作るのって……なんか、寂しくて」

織莉子「だから……誰かのために作れること自体、モチベーションもあがるというもの。作るのが楽しみになります」

織莉子「食べてもらえる楽しみ。呉さんに会える楽しみを、少しでも増やしたいというか……そう思えば、お金なんて一銭ももらえません」

キリカ「私に会えるだなんて、照れちゃうねっ」

織莉子「それに、今の話を聞いた以上、仮に遠慮されたとしても絶対に作ります」

織莉子「でもその代わり……もし残されたら悲しいので、なるべく全部食べてくださいね?」

キリカ「織莉子……!」

キリカ「……うん。ありがとう……本当に、本当にありがとう!」


キリカ「感謝感激雨霰」

織莉子「……ど、どういたしまして」

キリカ「あ、照れた。かわいっ」

織莉子「かわっ……!か、からかわないで」

キリカ「あぁ、ごめん。思ったことがつい口に出ちゃった」

織莉子「もう……」

織莉子(呉さんの目を見てあんなに話すの……すごく恥ずかしくて大変だったんだから……)

織莉子「そ、それで……その、お弁当を作るにあたりまして……」

織莉子「リクエストがあればお受けしたいな、と。好きな食べ物があれば……」

キリカ「えー、そんな、作ってもらえるだけ嬉しいのに」

織莉子「……その、ために……」

キリカ「?」

織莉子「えと……今日も……」

織莉子「今日も放課後、その……お買い物、付き合ってほしいな、と」

キリカ「……ふふ、もちろん!」


織莉子「一緒に回って……お弁当のおかずを決めましょう」

キリカ「うん!」

キリカ「……ああ~、私ってば幸せ者だなぁ」

キリカ「さやかにめちゃくちゃ自慢しよ」

織莉子(……あまり人に話して欲しくないけどね)

キリカ「……あ、そうだっ」

キリカ「買い物ついでにさ、クレープ食べに行こうよ。クレープ」

織莉子「クレープ?」

キリカ「呉だけに」

織莉子「え?」

キリカ「私のオススメのクレープ屋だよ」

キリカ「美味しいんだよ。是非食べてみてもらいたい。ね、行こーよ」


織莉子(呉さんと『お買い食い』……!)

織莉子(ただでさえそんなの初めてだというのに、その相手が初恋の人!)

織莉子(断る理由なんて、あるわけない!)

織莉子「はい、是非、お供させてください」

キリカ「うん。決まり」

キリカ「勿論私がご馳走するからね」

織莉子「えっ……」

キリカ「お弁当のお礼って程でもないけどさ、奢らせてよ」

織莉子「で、でも……」

織莉子「その……自分で出しますから」

キリカ「いいのいいの。私が誘ったんだから」

キリカ「こういう時は素直にご馳走されるもんだよ」

織莉子「でも……」


織莉子「その、こういう……何て言うか」

織莉子「奢るとか、そういう金銭が関わるやり取りに抵抗がある、というか……」

キリカ「……むぅ、なるほど」

キリカ「わからなくもないけど、これはお金とこそ関われどれっきとした礼儀さ」

織莉子「でも……」

キリカ「遠慮は時に失礼になるよ」

織莉子「で、でもやっぱり……」

キリカ「君はどうにも『でも』が多いなぁ……背は高いけど小動物みたい」

キリカ「とにかく!私クレープ奢る!決まり!オッケー!異論なし!」

キリカ「この話終わりー!」

織莉子「……はい」

キリカ「ふっふーん」

キリカ「…………」


キリカ(昨日の今日だけど、まだ丁寧語だなぁ)

キリカ(悪いことしてないんだから堂々としてもいいのに。自分に自信がないんだ)

キリカ(か弱すぎて今後が心配だなぁ……悪い虫がつきそう)

キリカ(絶対にそんなのには織莉子を渡さない……私が護る)

キリカ(そして……織莉子がもっと強気になれるように……)

キリカ(お嬢様をプロデュースだ!)

織莉子「……呉さん?」

キリカ「うん?あ、あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた」

織莉子「?」

キリカ「……お弁当のおかずとクレープ……放課後が楽しみだよ」

キリカ「君に会えてよかった。ありがとう、大好きだよ」

織莉子「――ッ!」

キリカ「私の嫁になるのだ~。なーんてね。えへへ」

織莉子(か、かわいい……!)

織莉子(何その顔!天使!?天使!)


織莉子(……やるしかない!)

織莉子(暁美さんから聞いた、呉さんともっと仲良くする『ある方法』を……!)

織莉子(呉さんの幼なじみの『ミキサヤカさん』がよくやっているという愛情表現……)

織莉子(これをすれば、距離を縮められるでしょう……と)

織莉子(とても恥ずかしいことだけど……呉さんなら受け入れてくれる)

織莉子(そして……何より単純に私が『それ』をしたい!されたことをしかえして何がいけないというの!)

織莉子(この愛らしい笑顔をもっと見れるように、もっと友好になるために……!)

織莉子(やり返す!何度でも!)

キリカ「……織莉子?」

織莉子「……あ」

キリカ「ん?」

織莉子「あのっ……!」

キリカ「うんうん」

織莉子「…………」


織莉子「……っ」

織莉子「キ……」

キリカ「き?」

織莉子「……き、き……り……!」

キリカ「織莉子ー?」

織莉子「きりっ……」

織莉子「キリカァッ!」

キリカ「うあおっ!?」

キリカ「ちょ、え、な、何!?」

キリカ(だ、抱きつかれたッ!?)

キリカ(シャンプーの良い匂いが……そして、む、胸が、頬が……!)

キリカ(な、何だ……!?すごい、何か、すごい……!)


キリカ「あ、はは……い、いきなり抱きついてくるなんて……ビックリしたぁ~」

キリカ「大人しい織莉子がこんなことしてくるなんてね。ふっふっふ、甘えてもいいんだよ」

キリカ「っていうか織莉子、今、私のこと名前で……」

織莉子「キリカ……」

キリカ「うん!」

キリカ「そう呼んでもらえる方が嬉しいな」

キリカ「それから丁寧語もやめ――」

織莉子「キリカは……」

キリカ「うん?」

織莉子「キリカは……!」

キリカ「うんうん」

織莉子「……っ」

織莉子「私の旦那様になるのよ!」


キリカ「うんう……」

キリカ「…………」

キリカ「んんンンンッ!?」

織莉子「……ふ、ふふ……ふ」

キリカ「……なっ、え……えぇ……!?あ、あわ、わ……!」

織莉子「ふ、ふふ……き、き、昨日の仕返し、なんだからっ」

キリカ「…………へ?」

キリカ「しかえ……あ、あぁ!ああ!……んぁ、あ……う、うん」

キリカ「あ、あは、あはは……な、なるほど……ドッキリしたよ」

織莉子「ふ、ふふ……」

キリカ「ま、まさか織莉子がそうくるとは思わなかったよ!そ、そうだよね!織莉子は私の嫁だもんね!あは、はは……」

キリカ「お……おっと!わ、私そろそろ戻らなきゃ!体育だから着替えなきゃいけないんだ!」

キリカ「……そ、それじゃ、わ、私は、私は戻るね!」

織莉子「え、えぇ。えぇ!そ、それじゃあ、また……」

キリカ「う、うん……ま、またねっ!またねっ!」


織莉子「…………」

織莉子「やっ……」

織莉子「やっ……ちゃっ……た……」

織莉子「やっちゃっ……」

織莉子「…………」

織莉子「たぁぁぁぁぁぁ……!」

織莉子「恥ずかしい!恥ずかしいっ!」

織莉子「恥ずかしいよぉ……!う、うぅ……きっと変に思われたわ……」

織莉子「何かギクシャクしながら出てったし……」

織莉子「そんな悪いようには思われてはいないと思うけれど……思いたいけれど」

織莉子「うぅぅぅ……」

織莉子「…………」

織莉子「……でも」


織莉子「これで……いいのよね……」

織莉子「な、何もおかしくないものね」

織莉子「そもそも、キリカが先にやってきたことだもの」

織莉子「キリカからすれば、よくあるコミュニケーションだものね」

織莉子「ちょっと私には邪な感情もあったっちゃっあったけど……」

織莉子「……だからかな」

織莉子「キリカのリアクションが、ちょっと引き気味に見えたような……」

織莉子「だとしたら……わかってしまうものなのかしらね」

織莉子「緊張で固くなっちゃったから……変に、そういう風に見えちゃったのかも」

織莉子「笑ってくれてたけど……もしそうで、本当に引かれちゃってたらどうしよう……!」

織莉子「放課後……ちゃんと、キリカの顔見れるかな……」

織莉子「うぅ……」


織莉子「でも……誰かを抱きしめるなんて……きっと、幼少期以来……ね」

織莉子「……キリカの感触……温かかった。柔らかかった。甘い匂いがした」

織莉子「そして……愛らしかった」

織莉子「もっと……抱きたい……」

織莉子「キリカを抱きしめたい……!」

織莉子「抱きしめられたい……!」

織莉子「…………」

織莉子「同性愛、だなんて、どうせ成就しないわ……」

織莉子「でも、折角の初恋だもの。せめて、悔いのないようにしたい」

織莉子「……私がキリカのお嫁さんを成し遂げる」

織莉子「…………」

織莉子「……ふふっ、何てね」



――放課後


ほむら(さて……これからの予定は……)

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「……まどか」

まどか「今帰り?」

ほむら「ええ、ご覧の通りね」

まどか「あの、この後……」

ほむら「……ごめんなさい、今日も用事があるの」

まどか「……そう、なんだ」

ほむら「そんなに落ち込まれても困るのだけれど」

まどか「へっ?あ、いやっ、その……」

まどか「……ごめん」

ほむら「…………」


ほむら「……丁度この辺りね」

まどか「へ?」

ほむら「あなたにそのリボンを渡したのは」

まどか「あ、うん……そうだね」

まどか「……あ、そうだっ」

まどか「あのね、あの時から、言おう言おうと思ってたんだけど……」

ほむら「何かしら」

まどか「えっと……ありがとう。このリボン」

まどか「あの時はぽかんってしちゃって、貰ったのにお礼言えなかったから」

ほむら「……そう」

ほむら「別に、あなたがお礼を言う必要なんてないわ」

まどか「ううん、ありがとう」

まどか「このリボン……とっても気に入ってるの」


まどか「だから、ありがとう」

ほむら「……それは何より」

まどか「あのね、あのねっ、ほむらちゃん」

ほむら「何かしら」

まどか「ほむらちゃんって、アクセサリに詳しかったりするの?」

ほむら「…………」

まどか「このリボン、すごい似合ってるって評判なんだっ」

まどか「ママがちょっと悔しがってた」

まどか「何て言うか……『目がいい』っていうのなのかなって思って」

まどか「それで、もしそうなら、色々教えて欲しいなって」

まどか「ほむらちゃんもファッションに興味……」

ほむら「…………」

ほむら「別に詳しくないわ」


まどか「そうなの?でも……」

ほむら「それが似合うのは当然、当たり前のことだもの」

ほむら「だってそれは元々あなたの物……」

まどか「え?わたし?」

ほむら「そう……あげたのではなく、返した物なのだから」

まどか「?」

まどか「…………」

まどか「!」

まどか「……?」

ほむら「混乱させてしまったようね」

ほむら「それはそうと……ねぇ、まどか」

まどか「うん、なぁに?」


ほむら「あなた、私のことをどう思っている?」

まどか「へ?どうって……」

ほむら「……『初対面』の時、あなたに言って、したこと」

ほむら「自分で言うのもなんだけど、周りに対する冷めた反応」

ほむら「そして美樹さやかの、私に対する……まるで上辺だけ仲良しを演じているかのようなぎこちない態度」

ほむら「あなたはそれを見て、そんな私をどう思っているの?」

まどか「え、えーっと……?」

まどか「さやかちゃんと……仲直り……したの?」

ほむら「……ごめんなさい。変なことを聞いて」

ほむら「でも……一応言っておくわね」

ほむら「私に気を使っているつもりなら、気にする必要はないわ」

ほむら「あなたはあなたの友達がいる。私はあなたが笑っているだけでいい。だから、私を無理に誘うことも……」

まどか「…………」


まどか「ううん、ほむらちゃん。そんなこと言わないで」

まどか「わたしは、本心から、ほむらちゃんのこと色々知りたいの」

まどか「最初、ほむらちゃんに……」

まどか「えっと……秩序が何とかって、言われて、急にギュッてしてきて……」

まどか「その……ごめんねだけど……変な子って思っちゃったの」

ほむら「…………」

まどか「でも、織莉子さんのこともあって、とても友達思いなんだって……」

まどか「わたしにも、気遣ってくれてるし……」

まどか「本当はすごく優しい子なんだって、思ったの」

ほむら「……果たして、それはどうかしらね。本性というものがあるかもしれないわよ」

まどか「それも含めて、わたし、ほむらちゃんのこともっと知りたいの」

まどか「わたし……ほむらちゃんともっと親しくなりたいし、色々教えて欲しいの」

まどか「だから、わたし……」

ほむら「まどか」


ほむら「これ以上は、何も言わないで」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「……物好きね、あなたも」

まどか「そう……なのかな?」

ほむら「そうよ。私なんかが気になるだなんてね」

まどか「それだったらわたしは物好きでもいいよ」

ほむら「…………」

ほむら「……まどか」

まどか「?」

ほむら「私のことを知りたいと言ったわね」

ほむら「暁美ほむらの最新ニュースよ」

まどか「おお」

まどか「でも想像していた『知りたいほむらちゃんのこと』と何か齟齬が発生してる」


ほむら「私、最近ホットプレートを買ったの」

まどか「ホットプレート?」

ほむら「正確には安く譲ってもらったのだけれど」

ほむら「それで、使い始めたばかりだけどそれを使った料理に嵌っている」

まどか「パンケーキとか?」

ほむら「えぇ。今後作りたいと考えているわ」

ほむら「……だからね、まどか」

まどか「うん」

ほむら「実は私も、あなたと色々話したいことがあるの」

まどか「ほんとっ?えへ、お喋りしたいなって」

ほむら「……放課後は予定が入っているけれど」

ほむら「今度の休日、私の家に来てみない?」

まどか「!」

まどか「ほ、ほむらちゃんのお家……!?」


ほむら「学校帰りにクレープを、という誘いに応えるのは、今のところ少し難しい」

ほむら「だから手作りのクレープで代わりに……とは言わないけれども、それで埋め合わせしようかと」

まどか「ほむらちゃんの……手作り……」

ほむら「あなたさえよければ、だけれど」

まどか「……い、いいの?」

ほむら「無理にとは言わないわ」

まどか「ううん……嬉しい」

まどか「誘ってくれてありがとう!ほむらちゃん!」

まどか「わたし、ほむらちゃんとクレープ食べたいなって思ってたんだけど……」

まどか「ほむらちゃんのクレープ、食べてみたい!」

まどか「あっ!クレープもだけど、もちろん、ほむらちゃんとお喋りができるのが一番楽しみだよ!」

ほむら「そう」


まどか「えへ、ほむらちゃんに誘われちゃった~」

ほむら「……そんなに嬉しいの?」

まどか「嬉しいよぉ」

まどか「ねぇ……その、二人きり?」

ほむら「二人きりよ。あなただけに話したい内容だから」

まどか「二人きり……」

ほむら「それとも……私と二人だけじゃ不安かしら?」

まどか「そ、そんなことないよっ。わ、わたしも二人きりの方が……話しやすい、かな?」

ほむら「そう」

まどか「うんっ。楽しみにしてるね?」

ほむら「ええ」

ほむら「とは言え……所詮は手作りだから、大したものは用意できないわ」

ほむら「だからあまり期待は……」


さやか「…………」

杏子「…………」

杏子「……おい」

杏子「おい、おいっ。さやか」

杏子「何なんだよ。急に隠れて覗き見みたいな真似……」

さやか「…………」

杏子「で?あんたの嫁三号がほむらに狙われているぞ」

さやか「……そうね」

さやか「ってか嫁三号って」

杏子「キリカは二号。そしてあたしが一号だ」

さやか「あんた今すごい恥ずかしいこと言ってない?」

杏子「おう貢げよ」

さやか「一瞬でも期待したあたしがバカだったよ」

杏子「何の期待だ」


杏子「で?割り込まなくていいのか?」

杏子「あんた、まどかにほむらには近づくなみたいなこと言ってたそうじゃんかよ」

さやか「……うん。そうだね」

さやか「っていうか知ってたんだ」

杏子「結局何なんだよあんたらは」

さやか「ん、まぁ……ちょっとね」

さやか「もしかしてあたしにヤキモチ?」

杏子「バーカ」

さやか「少しは照れてもいいじゃん」

杏子「人を勝手にツンデレキャラにすんな」

杏子「まぁいいけど……喧嘩かい?」

さやか「喧嘩というか……何というか……」

杏子「まぁ当人の問題だ。何も言わないが」


さやか「……まどか」

さやか「…………」

さやか「ま、悪いようにはせんでしょ」

さやか「うん」

杏子「何自分で納得してやがんだよ」

さやか「……そうね」

さやか「あたし……ほむらが気に入らないって思ってる部分も確かにあるよ」

さやか「あたしに冷たいし、色々と……」

さやか「本当、色々とね」

さやか「でも、感謝してる部分もあるのも事実なんだ」

さやか「あたしは、あいつが悪魔ってことは絶対に忘れない。もう二度と」

さやか「だけど……憎みきれないんだよねぇ」

杏子「……さやか」


さやぁ「ううん、気にしないで。いいんだよ。別に」

杏子「……それで、本当にいいのかよ」

さやか「……え?」

杏子「それで、あんたは本当にいいのか?」

杏子「相手はあのほむらだぞ」

杏子「下手したら、二度とチャンスがなくなるかもしれないんだ」

さやか「きょ、杏子……?」

杏子「あんたは、そのままそれを受け入れていいのか?」

さやか「あんた、まさか……」

杏子「ああ……あの二人の会話を盗み聞きして……思い出したよ」

さやか「杏子……!」

杏子「あいつは……ほむらは……」


杏子「後から言っても面倒くさいとか言って一蹴する」

さやか「……は?」

杏子「あいつはそういうやつだ。冷たいもんさ」

さやか「…………」

さやか「……何の話よ」

杏子「あたしも、ほむらのクレープに興味が……」

杏子「あんたもなんだろ?」

さやか「叩くわよ」

杏子「な、なにキレてんだよ……」

さやか「はぁ……まぁ、あんたに期待したあたしがバカだったよ」

杏子「…………」

杏子「何を期待されたんだ?あたしは」


杏子「まぁ何でもいいけどさ……」

杏子「そうだ。じゃあさやか今度作ってくれよ。クレープ」

杏子「ホットプレートある?」

杏子「まぁないならないでなんとかなるだろ」

さやか「…………」

杏子「あいたっ」

杏子「何で叩くんだよ、ばかやろう」

さやか「ばかやろうはあんただよ……」

さやか「はぁ……まったく」

さやか「もういいや」

ほむら「そうね」

さやか「……え?」


ほむら「何をこそこそしているのかしら?」

まどか「……さっきの話、もしかして聞いてた?」

さやか「あー……その、えーと」

さやか「な、何のことかなー?」

ほむら「……佐倉杏子?」

杏子「ん?あぁ、邪魔しねぇからよ。二人で楽しみな」

ほむら「丸聞こえね」

まどか「さやかちゃん……!」

さやか「あ、あはは……べ、別に邪魔するつもりはナカッタトデスヨ?」

まどか「…………」

ほむら「…………」

さやか「あ、あたしキリカのとこ行ってくるゥー!」

杏子「あ、逃げた」


杏子「何なんだ?あいつ……」

まどか「さやかちゃん、最近なんか変……」

杏子「前から変だよ」

ほむら「…………」

杏子「まぁ、なんだ……あたしなんかが言っても説得力ないだろうけど……」

杏子「さやかは、あんなんでもいいヤツなんだ」

杏子「真っ直ぐで、意地っ張りで、たまに周りが見えなくて……」

杏子「時として、全く素直になれない時もある」

杏子「たまにウザイと心底思うだろうけど、仲良くしてやってくれ」

杏子「頼むよ。まどか、ほむら」

まどか「う、うん……」

ほむら「…………」

ほむら(……美樹さやか)





さやか「……ふぃー」

さやか「やれやれ……」

さやか「くそぅ、悪魔め」

さやか「……まぁ、約束通り忘れさせてないみたいだし、いいとして」

さやか「…………」

さやか「……さて、どうなるもんかね」

さやか「この世界……まどか……」

さやか「そんでほむら」

さやか「あたしも……色々考えとかなくちゃあなるまいて」

さやか「……キリカいるかな?」

さやか「お、いるいる」

さやか「しっつれいしまーす」



キリカ「…………」

キリカ「……はふぅ」

キリカ「……織莉子」

キリカ「…………」

さやか「キーリーカー」

キリカ「…………」

さやか「キリカー?」

キリカ「…………」

さやか「へい、キリ坊」

キリカ「…………」

さやか「キリカこらっ!」

キリカ「んあっ!?」


キリカ「あ、ああ、さやか。いたのか」

さやか「どうしたのキリカ。何度も話しかけたのに」

キリカ「ごめんごめん。ちょっとぼーっとしちゃってたよ」

さやか「まぁいいけど。かーえりーましょ」

キリカ「ダメ」

さやか「えー、何で」

キリカ「先約があるのさ。私は織莉子と二人きりで帰る」

さやか「あたし達もご一緒したいでやんす」

キリカ「ダメ」

さやか「即答」

キリカ「君は織莉子を怯えさせた前科がある」

さやか「ぐぬっ」


さやか「そ、それは反省してるけどさぁ……」

キリカ「だからしばらく私は織莉子と二人の時間をだな……」

さやか「……ほ、ほら、あれだよ。人に慣れさせるというか?」

キリカ「動物扱いか?良い度胸だな」

さやか「そういう訳じゃないんだよ」

キリカ「私が言えたことじゃないとは思うけど、さやかは気が早いんだよ」

キリカ「焦って何とかなる問題じゃない」

キリカ「時期を見て君達にも改めて紹介するからさ」

さやか「慣れてからあたし達より、キリカとほむら付き添いの上であたし達から一人ずつ慣れさせるというのはどうでしょう」

キリカ「ふむ、方法としては悪くないように見える」

さやか「でさぁ、そうなるとやっぱり最初のステップはあたしだよね?」

さやか「幼なじみだし?」


キリカ「幼なじみで一度顔合わせたとは言え、いきなりさやかみたいなヤツを紹介するのはちょっとな~」

さやか「あたしみたいなってどういうことよ」

キリカ「さやかのテンションは刺激が強すぎると思うんだ」

さやか「あれあれ?あんたとそんな大差ないと自分では思ってるんだけどな」

キリカ「私はさやか比べたらほら、大人じゃん?」

さやか「子ども舌がたった一年早く産まれたくらいで……」

キリカ「うるさいなー」

キリカ「それに織莉子のかわいらしさをみたら君は絶対に嫁宣言するだろう」

キリカ「だからダメ」

さやか「かわいいんだ」

キリカ「私以外のヤツにそんなことさせるか。護るって決めたんだ」

さやか「やったのかよ」


キリカ「昨日……つい」

キリカ「君には抱きつかれたことあるけど、私は初めてだよ。誰かに抱きつくなんてさ」

さやか「初対面でそれはどうよ。あたしでも自重するよ」

キリカ「いやー、衝動的にね」

さやか「でもキリカがそこまで言うならますます会いたくなる」

キリカ「寝取られた過去があるからって寝取っていいわけじゃないんだよ」

さやか「えげつない古傷の抉り方するなぁ、おい」

さやか「しかも別に寝取られた訳じゃねーし」

さやか「そんな心配ないから会わせて」

キリカ「やーだーなー」

さやか「ブーブー、ケチー」

さやか「クェ・ツィー」


キリカ「何にしても、今は時期を見て欲しいんだよ」

キリカ「織莉子が会う意志を示したら紹介してやらんこともない」

さやか「上から目線がちょっと鼻につくけど、デリケートな問題だもんね。仕方ないよね」

キリカ「織莉子と私がラブラブになるまで待っててよ」

さやか「何言ってんのあんた」

キリカ「あ、間違えた。仲良しになるまで待っててよ」

さやか「どんな言い間違いよ」

キリカ「あとさやかの案を採用して一人ずつってんなら、最初はまどかだね」

さやか「あーね、まどかとは相性いいはずよ」

キリカ「まどかの人畜無害っぷりよ」

さやか「うむ。そりゃあね」

さやか「それに加えて同じ帰国子女の転校生だもん」

キリカ「……うん?」


さやか「似たような境遇だし、簡単に意気投合できると思うん……」

キリカ「待って」

さやか「だ?」

キリカ「え、何?どこ情報?私知らないよ」

さやか「何が?」

キリカ「いや、織莉子が転校生ってことは知ってるけど……帰国子女?え?」

さやか「あれ?知らないの?」

さやか「織莉子さんはイギリスから来たんだよ」

さやか「まどかと同じ、帰国子女さね」

キリカ「何……だと……!」

キリカ「何故私の知らない織莉子を君が!」

さやか「え?いや、ほむらから聞いて……」


キリカ「他には!」

さやか「ほ、他には?」

さやか「イギリスで暮らしてたってことくらいしか……」

キリカ「イングランド!?ウェールズ!?」

さやか「知らんよ!」

キリカ「吐け!知ってる織莉子情報を洗いざらい吐くんだ!」

さやか「おいおいおい!落ち着いて!どうしたのよキリカ!?情緒不安定だな」

キリカ「どうしてもこうしたも……何もないさっ!」

さやか「急にそんな熱くなるなんて……わけがわからない」

さやか「これじゃまるでヤキモ……」

キリカ「うっ……」

さやか「……え?」

キリカ「…………」


キリカ「……さやかだからこそ、相談する」

キリカ「君なら、引いたりなんてしないだろうからね」

さやか「…………」

さやか「……マジ?」

キリカ「……はは、察したね。流石幼なじみ」

さやか「いや、察したっていうか……」

キリカ「そう……私、ヤキモチを妬いたらしい」

キリカ「……私……その」

キリカ「織莉子のことが……何て言うか」

キリカ「好き」

キリカ「……かもしれない」

さやか「…………」

さやか「はぁ……」


キリカ「昨日の放課後……織莉子と一緒に帰ったんだ」

キリカ「織莉子とたくさんおしゃべりしたんだ……」

キリカ「私……わかったんだ」

キリカ「織莉子の人柄、性格、仕草、外見は……私の『ツボ』だったということに」

さやか「はぁ……」

キリカ「織莉子は……私の全てを受け入れる包容力……」

キリカ「そして同時に護ってあげたくなるような、弱さを持っている」

キリカ「それでいて、前に進もうという意志を感じられるんだ」

キリカ「さらに織莉子の、私に対する態度に……『愛』を感じだんだ」

キリカ「愛はこの世で最も崇高な概念……その愛を、友愛を受けて、私は心地いい気持ちになったよ」

キリカ「思えば、その時から既に私は、織莉子に惹かれていったんだ」

キリカ「何て素敵な人なんだろう。彼女と友人になれてよかったって、そう思った」

さやか「はぁ……」


キリカ「それで昼休み……尊敬の一種だと思っていたこの感情が『恋愛感情』だってことに気付いたんだ」

キリカ「そこで私は初めて、恋をしていることに気付いたんだよ」

キリカ「いや……実際には、友愛が恋慕に書き換えられたのかもしれない。どっちなんだろう」

さやか「あんた達に何があったのよ……」

キリカ「色々あったんだよ」

さやか「……あんたがそんなちょろいタイプとは思わなかった」

キリカ「ちっちっち」

キリカ「バカを言ってはいけないよ」

キリカ「こう見えて恋愛に関しては奥手な方でガードは固いんだ」

さやか「自分で奥手とか言ってるよ」

さやか「それが昨日今日で惚れるのか」

キリカ「君は織莉子の素晴らしさを理解していない」


キリカ「織莉子の良さはあまり語らないよ」

キリカ「万が一にでも君が織莉子に惹かれない予防線にもね」

キリカ「それに愛は語るものではない」

さやか「おまえは何を言っているんだ」

キリカ「織莉子は優しすぎるんだ」

キリカ「私、優しくされた思い出は決して多いとは思っていないんだけど……」

さやか「はいはい。あたし優しくしました」

キリカ「はっ」

さやか「鼻で笑われた!?」

キリカ「で、その思い出に匹敵するくらいの優しさを、織莉子は私にくれたんだ。出会ってからの日数は浅かろうが、そんなの関係ない」

さやか「スルー!あたしに優しくしてよ!まぁいいけど……」

さやか「織莉子さんて、そんな惚れるほど優しいのね」


キリカ「優しいというか、気配りも高いと言うかね」

キリカ「しかも!なんと言っても!」

さやか「おう」

キリカ「購買パンの私を見かねて、お弁当を作ってくれるって言ってくれたんだ!」

さやか「え、マジで!」

キリカ「私のために、手間をかけて、時間を割いてまで……」

キリカ「優しいの一言で済ませられないね」

さやか「それはそれは……」

さやか「何て言うか……やっと報われたって感じね……」

キリカ「ああ……『私のため』のお弁当。分けてくれたおかずとかでなくてね」

キリカ「いいでしょー。うらやめー」

さやか「いや、あたしは別に……普通に作ってもらってるし」

キリカ「くそぅ」


キリカ「まぁ、そんな私の待望のお弁当が、初恋の相手の手作り弁当なわけよ」

キリカ「いやー、神様も粋なことをしてくれるよね」

さやか「愛妻弁当だね」

キリカ「やめろ照れる」

さやか「散々惚気ておいて何を今更」

キリカ「でもまぁ、お弁当を作ってくれるって時点では私はまだ、恋愛感情のことなんて全く考えていなかったよ」

さやか「そうなん?」

キリカ「本当『昨日の今日だけどさやか差し置いて最高の友達だ!』って思った止まりだったよ。その時は」

さやか「何かあたしの扱いテキトー過ぎない?」

さやか「でもまー、親友だから多少はね?うん」

キリカ「何か自分で納得してるよ」

キリカ「……まぁ、でもね、さやか」

キリカ「私は君に感謝してるよ。君が幼なじみで、親友でよかったと思う」

さやか「あたし?何でいきなり……」


キリカ「私ね、昨日……さやかの真似して『嫁にするー』って織莉子に抱きついたわけだけど」

さやか「うん」

さやか(……あれ?もしやそのせいで織莉子さん目覚めちゃったんじゃ)

キリカ「そしたら、今日……その仕返しを喰らったんだ」

キリカ「私のこと抱きしめてきたんだ。そしてこう言った」

キリカ「旦那様になるのよって……」

さやか「…………」

キリカ「…………」

キリカ「……オチたね」

さやか「オチたかぁ……」

キリカ「オチたよぉ……あんな麗しい美少女にお弁当だのなんだの優しくされた上に」

キリカ「その温かくて柔らかい体に抱かれ、その絹のような頬がふにっと触れて……惚れない方がおかしい」

さやか「さぁ……どうなんでしょうね?」


キリカ「でも、ありがとう」

キリカ「あのハグがなければ、私は織莉子に対する愛に気付けなかった」

キリカ「きっと友情止まりだったことだろう。初恋に気付かなかっただろう」

さやか「おう何か知らないけど感謝された」

キリカ「感謝はしてるけど、君の持ちネタでオチたなんて我ながら悔しいっちゃ悔しいな」

さやか「何だろう……恋のキューピッドという感じが微塵もない」

キリカ「さやかが天使?冗談だろ?」

さやか「ひどす」

キリカ「でも、あんなに破壊力あるんだね……さやかの持ちネタ」

さやか「アレはそういうアレじゃないんだけど……」

キリカ「ああ……恋って……どこか苦しいのに幸せな気持ちになるんだね」

さやか「そう……」


さやか「……ま、まぁ、うん……もう何も言う気になれんわ」

さやか「もう付き合っちまえよ」

キリカ「はぁ……バカ言ってんじゃないよ……」

キリカ「同性な上に、会って二日だよ。そんなの絶対おかしいよ」

さやか「えーっと……うん」

キリカ「それに、織莉子のような身も心も美しいお嬢様が、私みたいなヤツ好きになるわけないもん」

キリカ「それに……一方的に恋愛感情を持たれたって織莉子に迷惑をかけるだけ」

キリカ「それくらいなら私は……この心底に潜む愛情を隠し、あくまでも友情として彼女を愛するつもりだよ」

キリカ「成就させるつもりはない……私は私で、恋を学べただけで十分なんだ」

さやか「はぁ……さいですか」

キリカ「で、何だけど。ぼちぼち、織莉子の教室復帰を目指すつもりなんだ。一緒に授業受けたいしね」

キリカ「私の同級生として、普通の女の子として、親友として、惚れた女性として……日常を過ごしてもらいたい」


キリカ「織莉子の幸せが私の幸せ」

さやか「…………」

さやか「えっと……まぁ、うん」

さやか「頑張ろう」

キリカ「うん、頑張ろ。織莉子がまた、教室に通えるように」

さやか「あんたの恋はともかくとして……」

さやか「勿論協力できることならするよ」

キリカ「ありがとう。さやか」

キリカ「でもさやかはまずほむらと仲良くなりなよ」

さやか「はい?」

キリカ「私が見る分では、どうもさやかはほむらに対してぎこちなく見えるから」

さやか「そ、そうかな……?別にそういうつもりは……」

さやか(ほむら……キリカの恋については任せるとか言ってたけど……)

さやか(何て言うか、何つーか……)


さやか(……この幼なじみ面倒くさい)


――夕方


なぎさ「聴いてくださいなのです」

なぎさ「なぎさブギウギ」

マミ「パチパチパチ」

なぎさ「こほん……」

なぎさ「なーぎーさー」

なぎさ「なのですっ」

なぎさ「なぎさなのですっ」

なぎさ「なぎさなのですなのです~」

なぎさ「ですですですっ」

なぎさ「ですですですっ」

なぎさ「な・ぎ・さ・な・の・で・す」

なぎさ「にゃー!」

マミ「あざとい!あざといわなぎさちゃん!萌え!」

なぎさ「元曲の名前は確かとーきょーぶぎうぎだったと思うのですよ」


マミ「ふふ、よかったわよ。なぎさちゃん」

なぎさ「えへへ」

なぎさ「……あ!」

マミ「ん、どうしたの?」

なぎさ「もうこんな時間なのです!」

マミ「まあ、ほんとだわ」

なぎさ「マミと一緒だと時間を忘れるのです」

マミ「そうね。楽しい時間はあっという間」

なぎさ「なぎさそろそろおいとましなくちゃ」

マミ「ええ。私も買い物の仕度を……」

マミ「……あら?」

なぎさ「ピンポン鳴ったのですよ」


マミ「何かしら……?」

マミ「行ってくるわね」

なぎさ「なのです」

マミ「…………」

マミ「とーもーえー、マミですっ、巴マミですっ」

マミ「ふふふふんふふんふふんふふふーん……」

マミ「…………」

マミ「……っと」

マミ(誰かしら……)

マミ(あら、珍しいお客さんね……)

マミ「今開けるわ」

マミ「暁美さん」


ほむら「……こんにちは」

マミ「ええ、こんな時間にどうしたの?」

ほむら「実は……」

マミ「あ、ちょっと待って、丁度良かった」

ほむら「?」

マミ「あの……呉さん達から聞いた話なんだけど」

ほむら「…………」

マミ「その、保健室登校……の人の話?」

ほむら「…………」

マミ「呉さんは、その人、暁美さんの知り合いだって言ってたけど……ちょっと、聞かせてもらえたら……」

ほむら「…………」

ほむら「世話焼きのあなたのこと」

ほむら「きっと、紹介して欲しいとか、クラス復帰に協力したいとか、そういったところかしら」


マミ「まだ何も言ってないけど……意図としては概ね近いわ」

マミ「呉さんのお友達なら……私……」

ほむら「その気持ちは、私としても助かるけれど……」

ほむら「今は呉キリカに任させておいて」

ほむら「時間が必要」

マミ「……えぇ、わかったわ」

ほむら「数少ない友人が増えるチャンスだと思うでしょうけど」

マミ「あなたの中で私は何キャラなのよ」

ほむら「ボ……そんな出しゃばりはさておいて」

マミ「出しゃばりって……私を何だと思っているのよ。ボって何?ボって何」

ほむら「百江なぎさはいるわよね?」

マミ「え?なぎさちゃん?」


マミ「いるけど、なぎさちゃんに何か用事?」

ほむら「用事と言うよりは……」

マミ「どっちにしてもそろそろ帰っちゃうわ」

ほむら「ええ、わかっているわ」

ほむら「百江なぎさを迎えに来たのよ」

マミ「迎えに?」

ほむら「ええ」

マミ「なぎさちゃんの家知ってるのね」

マミ「私知らないのに……」

ほむら「…………」

マミ「……あら?」

マミ「暁美さん……その後ろに隠れてる子……」


ほむら「……ほら、ゆま。挨拶しなさい」

ゆま「…………」

ほむら「いい子にするってちゃんと約束したでしょ?ほら、挨拶」

ゆま「……こ、こんにちわ」

マミ「あらかわいい。こんにちは」

マミ「えっと……暁美さん、この子……」

ゆま「うぅ……」

ほむら「……ごめんなさい。少し人見知りで」

マミ「……もしかして、暁美さんの妹さん?親戚?」

ほむら「いえ、違うけど……」

マミ「え、じゃあどこの子?」

なぎさ「マミー?どうしたですかー?」

なぎさ「あ、ほむほむ」

ほむら「誰がほむほむよ」

なぎさ「わたしはほむほむ派です」


なぎさ「……あ!」

ゆま「あっ」

なぎさ「ゆまちゃん!」

マミ「?」

マミ「この子知ってる子?小学校のクラスメート?」

ゆま「……お姉ちゃん!」

マミ「…………」

マミ「ええっ!?」

ほむら「…………」

なぎさ「この子はゆまちゃんなのです。なぎさの妹なのです!」

なぎさ「ふたごなのです。にらんせーなのです」

ゆま「……ぁぅ」

マミ「なぎさちゃんの妹!?」


マミ「まぁ……!ゆまちゃんって言ったかしら?よろしくね。私は巴マミ」

マミ「あなたのお姉さん……なぎさちゃんの友達です」

ゆま「……ぅ」

マミ「ふふ、あらあら……暁美さんの陰に引っ込んじゃった」

なぎさ「ゆまちゃんは恥ずかしがり屋さんなのです」

なぎさ「ちゃんと自己紹介して!ゆまちゃん、めっ」

ゆま「ぁぅ……」

ゆま「も、百江ゆま……です」

マミ「ふふ、よろしくね」

なぎさ「ほむほむ、ゆまちゃんとお友達なのです?」

ほむら「……まぁ、そんなところよ」

ゆま「えっとね?ほむらお姉ちゃんと一緒にね?ゆま、お姉ちゃんを迎えに来たの」

ゆま「ママが心配してるよ?」

なぎさ「だからこれから帰るとこなのですぅー」


マミ「もう、なぎさちゃんたら、こんなかわいい妹さんがいるなら紹介してくれればいいのに」

なぎさ「ゆまちゃんは人見知りさんなのです」

なぎさ「学校の帰りに、マミを紹介するって言っても嫌がって先に帰っちゃうのです」

ゆま「い、嫌じゃないのっ。その、恥ずかしい……の」

マミ「かわいい」

なぎさ「なぎさはゆまちゃんが行くって言うまでマミに秘密にしてビックリさせたかっただけなのです」

マミ「まぁ……!ナイスサプライズね」

ゆま「……お姉ちゃん、いつもマミお姉ちゃんのとこに行っちゃって……」

ゆま「だからゆま、一人で遊んでて……寂しかったの」

ゆま「でもね、ほむらお姉ちゃんと会ってね、仲良くなったの」

なぎさ「そうだったんだ……」

マミ「独りぼっちは寂しいものね」


マミ「ゆまちゃん、これで……もう何も怖くないかしら?」

ゆま「…………」

ゆま「……う、うん」

マミ「よかった」

ゆま「……ほむらお姉ちゃんとお友達?」

マミ「ええ」

マミ「……ね?」

ほむら「…………」

マミ「……でしょ?暁美さん?」

ほむら「……えぇ、まぁ」

マミ「うん」


ほむら「とにかく、そういうわけで、ちと……百江ゆまとも遊んでもらいたいの」

ほむら「百江なぎさ共々、よろしくお願いするわ」

マミ「もちろんよ。よろしくね?ゆまちゃん」

ゆま「……ほむらお姉ちゃんと一緒がいい」

なぎさ「ほむほむも一緒に遊ぶのです」

なぎさ「あと妹がお世話になったのです」

ほむら「その呼び方やめなさい」

マミ「もちろん暁美さんもご招待するわ」

ほむら「ゆま……悪いけど、私も忙しいの」

ほむら「紹介してあげたから、あとは……」

ゆま「やー!」

マミ「いいじゃない。暁美さん」


マミ「おもてなしするわよ」

ほむら「でも……」

なぎさ「なぎさもほむほむとお茶したいのですよ」

ゆま「ゆま、ほむほむと一緒がいい」

ほむら「何か伝染してる」

ほむら「私も忙しいんだから、わがまま言わないの」

ゆま「ふぇ……」

ゆま「うぅぅ、やらよぉ……ほむぅ~……!」

ほむら「……全く、仕方ないわね」

ほむら「一回だけ付き合うから……後からは私がいなくても我慢なさい」

ゆま「うん!でも、一回だけじゃやだ!」

ほむら「……はぁ、やれやれ、ね」

マミ「ふふっ、流石の暁美さんも、子どもには勝てないわね」

なぎさ「やっぱりほむほむは優しいのです。ツンデレさんなのです」

ほむら「…………」


ほむら(千歳ゆまの改変……)

ほむら(美国織莉子と呉キリカと同じように……同級生にしようと……)

ほむら(そう……思った。そして、友人にしようと……)

ほむら(それで……してみたけど……)

ほむら(何て言うか……弘法にも何とやらというか……)

なぎさ「よかったね。ゆまちゃん!」

ゆま「うん!お姉ちゃん!」

マミ「ふふ、私の家も賑やかになっていくわ」

マミ「みんなにも紹介しなくちゃね」

ほむら「…………」

ほむら(その……姉妹に……なった)



ほむら(…………手が滑った)


―完―

これでおしまい。おつきあいどうもでした。おつかれーしょん。

また機会があれば談義スレで安価取って何か書きたいね

乙。サイコーダ!

>キリカ「織莉子は……私の全てを受け入れる包容力……」
>キリカ「そして同時に護ってあげたくなるような、弱さを持っている」
>キリカ「それでいて、前に進もうという意志を感じられるんだ」

この三行から織莉子への愛を感じた。

ゆまなぎもよかった。改めて乙。

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