剣心「人を殺しちまったでござる」(279)

神谷道場──

薫「ねえ、剣心」

薫「今、台所から物音がしなかった?」

剣心「薫殿も気づいたでござるか」

薫「ネズミ……かな?」

剣心「いや、あれはまちがいなく人の足音」

剣心「拙者が見てくるから、薫殿は剣路を頼むでござるよ」

薫「うん……気をつけてね」

ガサゴソ……

剣心「そこまででござる」ザッ

強盗「!」ビクッ

強盗「ちっ、まさかこんな夜更けに起きていやがったとは……!」

剣心「ここは剣術道場、拙者も剣術の心得がある」

剣心「おぬしが真夜中を選んで忍び込んだのは」

剣心「道場の人間との争いを避けたかったからにござろう?」

剣心「悪いようにはしない。ここは大人しくするでござるよ」

強盗「ケッ、そんな口車に乗るかってんだ!」

強盗「この俺が、てめぇみたいなチビにやられるかよ!」チャキッ

剣心(仕込み杖か……やれやれ仕方ないでござるな)スッ…

木刀を構える剣心。

スレタイゲスすぎワロチ

強盗「死ねや、チビ!」ブンッ

剣心「拙者、もはや飛天の技はほとんど振るえぬが──」ヒュッ

強盗(き、消えた!?)

剣心「まだまだ強盗などにおくれは取らん」シュバッ

ドゴォッ!

強盗「ぐええっ……!」ドサッ

剣心(木刀とはいえ剣を振るったのは久々でござるな)

剣心(とりあえず縄でしばっておいて、朝になったら署長殿に連絡するとしよう)

剣心「──ん?」

剣心「…………」

剣心(この強盗、息を……していない?)

剣心(いや、そんなまさか! たかが木刀での一撃で!)

剣心(剣を振るったのは久々だったから、力加減を誤ったか!?)

剣心「ほら、どうしたでござるか」ユサユサ

剣心「早く起きるでござるよ」ペチペチ

剣心「…………」

剣心「……起きない」

剣心「みゃ、脈拍は──」スッ…

剣心(ない……)

しばらくして、薫が台所にやってきた。

薫「剣心!」

剣心「!」ビクッ

薫「なかなか戻ってこないから、心配しちゃったわよ」

薫「そこに倒れてるのは……」

薫「あら、やっぱり物盗りだったのね! 武器まで持ってるじゃない!」

薫「でもさすが剣心ね! あっさりやっつけちゃったんだもん」

薫「とりあえず縄でしばってから、一度目を覚まさせて──」

剣心「薫殿」

薫「ん、なに?」

剣心「拙者──」

剣心「人を殺しちまったでござる」

薫「え……?」

薫「ウソ、でしょ……?」

剣心「本当でござる」

剣心「拙者が叩き伏せたこの強盗、呼吸も、脈拍もない……」

剣心「幕末の頃、無数の人に味わわせたあの感覚がよみがえってきた……」

剣心「力加減を……しくじってしまった……」

薫「剣心……」

薫「だ、だけど、しょうがないじゃない!」

薫「この人は武器を持った強盗なんだし……」

薫「十分、当義殺(正当防衛)は成り立つわよ!」

剣心「いや……そういう問題ではないでござるよ、薫殿」

剣心「かつて拙者は縁の作った生き地獄の中で」

剣心「自分が犯した人斬りの罪と向き合い──」

剣心「剣と心を賭して闘いの人生を完遂する、という答えを見つけ出した」

剣心「逆刃刀を弥彦に託した今も、それは変わらぬ」

剣心「そしてその原点ともいえるのが」

剣心「もう二度と決して人は殺めぬという“不殺(ころさず)”の誓い……」

剣心「しかし……拙者はこうしてあっけなく誓いを破ってしまった」

剣心「もはや、拙者のこれまでの人生は全て水泡に帰したも同然でござる……」

剣心「刃衛は喜び、斎藤は呆れ、縁は怒り、志々雄は高笑いするでござろう……」

薫「け、剣心……」

剣心「強ければ生き弱ければ死ぬ」

剣心「死んだ奴が悪いでござる」

>剣心「人を殺しちまったでござる」

セリフのチョイスwwww

薫「──まだよッ!」

剣心「薫殿……?」

薫「剣心」

薫「幕末に明治と、二つの時代で幾度も死線に身を置いてきたあなたが」

薫「その全てを乗り越えてこられたのは何故?」

薫「それは単にあなたが強かったから、だけじゃないわ」

薫「剣心が死闘を乗り越えてこられたのは──」

薫「最後まで決して諦めなかったからじゃない!」

薫「強盗は死んでなんかいないわ! まだ生きてるのよ!」

薫「前に恵さんから救命措置を教えてもらったこともあるし──」

薫「諦めず、二人で頑張りましょう!」

剣心「うむ……そうでござるな! 強盗はまだ生きている!」

薫「じゃあ私は胸を圧迫するから、剣心は人工呼吸をお願い!」

剣心「分かったでござる!」

朝になった。

チュンチュン……

剣心「…………」

薫「…………」

剣心「ダメでござったな……」

薫「そうね……」

剣心「やはり……もう署長殿にありのままを話すしか──」

薫「ま、まだよ!」

薫「まだ可能性はあるはずだわ!」

薫「そうだわ、弥彦と燕ちゃんに相談してみましょう!」

剣心「うむ、あの二人ならなんとかしてくれるかもしれぬな!」

大の大人二人がガキのカップルに殺人の相談かよ

弥彦と燕が道場にやってきた。

弥彦「チィーッス」

燕「おはようございます。薫さん、剣心さん」

弥彦「すぐに来てくれ、だなんていったい何があったんだよ?」

剣心「おぬしら若い才能を見込んで、相談したいことがあるのでござるよ」

弥彦「相談?」

燕「剣心さんのお悩みに、私でお役に立てるかどうか……」

剣心「なに、そう気張らなくていいでござるよ」

剣心「さっそくだが、物置まで来てくれ」

物置──

弥彦「……なんだこれ? チンピラの人形、か?」

剣心「いや、れっきとした人間でござる」

弥彦「な!?」

燕「え!?」

弥彦「人間ってこれ、どう見ても死──」

薫「いいえ、弥彦。蘇生する可能性がある以上、死んではいないわ」

弥彦「でも、まるで血の気がねえし、明らかに死──」

剣心「死んではいない」

弥彦「そ、そうだな。まだ、死んじゃいねえな。気絶してるだけだな」

弥彦「でもなんでコイツは死──いや、気絶してんだ?」

剣心「この男は強盗で、昨夜道場に侵入してきたでござる」

剣心「武器を持って抵抗してきたので、拙者が木刀で叩き伏せたところ」

剣心「このように気絶したまま動かなくなってしまった」

剣心「拙者が“不殺”を破らぬためには」

剣心「なんとしてもこの強盗を蘇生させねばならぬ」

剣心「だから、二人にも力を貸して欲しい……!」ザッ

弥彦と燕に、深々と頭を下げる剣心。

バカがおる

剣心「どうか……」

弥彦「やめろよ、俺らに頭なんか下げるなって!」

燕「そうですよ、剣心さん!」

薫「剣心もそれだけ本気ってことなのよ……」

弥彦(剣心……本気で“不殺”を守りたいってことなんだな)

弥彦「……分かったぜ、剣心。俺もできるかぎりのことはやってみる!」

燕「私も……協力させて下さい!」

剣心「かたじけない、二人とも」

弥彦「少し考えたんだけどよ」

弥彦「この“不殺”の象徴ともいえる逆刃刀・真打で」

弥彦「もう一度打撃を加えてやれば、案外目を覚ますんじゃねーか?」

剣心「なるほど……さすがは弥彦! いい着眼点でござる!」

弥彦「よし……じゃあやってみる!」

弥彦「頼むぜ、逆刃刀!」スラッ…

剣心(ふむ、弥彦の手にだいぶ馴染んできたようでござるな)

薫(かつての剣心を見ているようだわ……。この子、また成長したわね)

燕(弥彦君、かっこいい……!)

弥彦「……よし」チャキッ

弥彦「おおおおおっ!」ビュアッ

ズガァッ!

やだ・・ズガイ骨が・・

弥彦「……ダメか。目を覚まさねぇ」

弥彦「くそっ、俺はまだまだ未熟だ……!」

剣心「いやみごとな一撃だったでござるよ、弥彦」

剣心「もはや、拙者ではおぬしに勝てぬかもしれぬ」

剣心「それにしても……あの一撃で目覚めぬとはなかなか強情でござるな」

薫「本当ね……」

燕「あの……私も考えてみたんですけど」

燕「もしかしたら美味しい匂いをかげば、この人も飛び起きるんじゃないかって……」

剣心「ふむ、たしかに」

薫「さすが赤べこの看板娘ね!」

燕「じゃあ……今すぐお店に牛鍋を取ってきますね!」

なんだこれ・・

赤べこから、出来たての牛鍋を運んできた燕。

燕「よいしょっと」ゴトッ

グツグツ……

剣心「おお、これはよい牛鍋でござるな!」

剣心「これならば、きっと──」

しかし、目覚めることはなかった。

燕「ごめんなさい……私の力不足で……」

薫「いいのよ! 燕ちゃんはよくやってくれたわ! 悪いのは強盗よ!」

剣心「しかし、少々腹が空いてきたでござるな」グゥゥ…

剣心「せっかく燕殿が持ってきてくれた牛鍋があるのだから、皆で飯にせぬか?」

弥彦「お、いいねえ!」

剣路「ホ」

ピクリとも動かぬ強盗の前で、牛鍋をつつく五人。

弥彦「ふぅ~、食った食った!」

弥彦「また味がよくなったんじゃねえか? 赤べこ」

燕「ありがとう、弥彦君」

薫「燕ちゃんと一緒に食べたから、ってのもあるかもね?」

弥彦「な、なんだよそれ! からかうんじゃねえよ、薫!」

薫「ふふふっ……」

燕「…………」ポッ…

弥彦「だけど……どうするコイツ? 結局まだ起きないぜ」

剣心「こうなったらやむをえん」

剣心「餅は餅屋というし、ここはやはり医者である恵殿に力を貸してもらおうと思う」

剣心「さっそく会津にいる恵殿に手紙を書くでござるよ」

弥彦「だけどよ、剣心」

弥彦「手紙を送って恵が会津からやってくるのに、どんなに早くても数日はかかる」

弥彦「そうなると、この強盗から腐臭が──」

剣心「ああ、体臭のことでござるな」

剣心「体臭対策なら心配無用」

剣心「拙者にはこれがある!」チャポン…

弥彦「なんだそりゃ?」

剣心「『白梅香』という香水でござるよ」

剣心「これを大量に強盗の体にかければ……」ドボドボ…

埋めた方が早いんじゃね?

この>>1は確実にWOWOW加入者

ムワァ~……

弥彦「うおっ!?」

燕「すごい香りですね……!」

剣心「これで強盗の体臭が、外に漏れることはない」

弥彦「なるほどな……これなら絶対大丈夫だ」

弥彦(香水って少しだけなら、すげーいいニオイだけど)

弥彦(大量に使うとこんな強烈なニオイになるんだな……)

薫「また巴さんに……助けてもらっちゃったね」

剣心「うん……」

剣心(巴……ありがとう)

腐臭ってもう生き返す気ないだろw

>>74体臭だから

数日後、恵が神谷道場に到着した。

恵「こんにちは、皆さん。あのお花見以来ね」

剣心「会津でも大勢の患者相手に忙しいであろうにすまぬでござる、恵殿」

薫「ごめんなさい、恵さん」

恵「あら水臭いわね、二人とも」

恵「患者があるところに飛んでいくのが医者の使命だもの、気にしないで」

恵(剣さんの十字傷……心なしかちょっと濃くなったような……?)

恵「ところで、手紙に書いてあった」

恵「『どうしても治して欲しい患者』というのはどこに……?」

剣心「こっちでござる」

物置──

ムワァ~……

恵(うっ……すごい香り。これは香水かしら……?)

剣心「治療して欲しいのは、あの男でござる」スッ

恵「え……?」

恵(筋肉は硬直してるし、固まった血が下半身に沈殿してるし、瞳孔にも光がない──)

恵「あのこれって……死んでいるようにしか──」

剣心「死んでないでござる!」

この夫婦がまず統合失調症

薫「そうよ、死んでないのよ恵さん!」

弥彦「まだ生きてるんだ! ちょっと動かなくて、目が覚めてないだけなんだ!」

燕「どうか……助けてあげて下さい!」

剣心「彼を診察してやってはくれぬか、恵殿……!」

恵「…………!」ゴクッ…

恵(みんなの眼──特に剣さんの必死に訴えかけるようなあの眼)

恵(ここでなにがあったのか……なんとなく分かったわ)

恵「……分かりました。すぐに診察します」

恵「(メキメキ・・!!)あっ・・」

剣心「恵どの!!何をやっているのでござるか!!あ~あ、恵どのが殺しちまったでござる」

普段診療所でやっているように、強盗を診察する恵。

薫「どう……?」

剣心「どうでござるか、恵殿」

恵「…………」

恵(どうもこうもないわよ……。診察っていうより、検死よコレ)

恵「この患者には、刺激に対する反応も、心拍の鼓動も、血流の循環も一切ありません」

恵「よって私は──」

恵「私は……」

恵「この患者は……極めて死亡状態に近い、と診断します」

剣心「近いということは、まだ死んではいないということでござるな!?」

恵「え、ええ……」

薫「よかったわね、剣心!」

弥彦「名医のお墨付きだぜ!」

燕「剣心さんは“不殺”を破ってはいないんですね!」

剣路「ホ」

恵(父さん、母さん、兄さん……ごめんなさい)

恵(私は医者として、ウソをついてしまいました……)

恵(でも、この人たちは私の大切な恩人なの……)

恵(どうか許して……)

剣心「──で、肝心の治療法は?」

恵「そ、それは私にも……」

恵「なにしろ、こういう症例の患者さんは初めてなもので……」

剣心「ふむ、それでは仕方ない」

弥彦「でもよかったじゃねえか、剣心!」

弥彦「死んでないってことだけは分かったんだしよ!」

剣心「そうでござるな」

恵「この患者さん、打撲傷が二ヶ所ほどあるので、軟膏を塗っておきますね」ヌリヌリ…

薫「ありがとう、恵さん」

恵(なにやってるのかしら、私……)ヌリヌリ…

弥彦「しっかし、恵でも手の施しようがねえとなると──」

弥彦「やっぱ今までのように自然に蘇生するのを待つしかねえってことか……」

剣心「恵殿、この男が起きる可能性はどのぐらいにござるか?」

恵「え、えぇ~っと……」

恵(そんなの、零に決まってるじゃないの……)

恵「五分五分、といったところじゃないかと──」

剣心「五分五分か……」

薫「悪くない数字じゃない!」

燕「そうですよ! きっとこのまま待っていれば──」

「お~い! 剣心、嬢ちゃん、弥彦、いるかぁ~!?」

弥彦「こ、この声は……!?」

左之助「おう、久しぶりだな! ようやく日本に帰ってこれたぜ!」ザンッ

弥彦「さ、左之助!?」

左之助「オメーは弥彦か!?」

左之助「ずいぶんでかくなったじゃねーか。見違えたぜ」

弥彦「お前こそ、変わりすぎなんだよ! なんだその格好!」

弥彦「それに前送ってきた手紙じゃ、もうすぐ日本に戻るみたいなこと書いてたのに」

弥彦「全然戻ってこなかったしよ!」

左之助「わりィな、俺もあれからゴタゴタしちまってな」

薫「まさか、本当に世界一周してきちゃうなんて……」

左之助「へへへ、一周とはいわず二周、三周とやるつもりだぜ」

恵「人間がみんなアンタ並みの頑丈さだったら、医者はいらないわね」フゥ…

左之助「恵、会津に戻ってたんじゃなかったのか? 奇遇じゃねーか!」

恵「こっちも色々あってね……」

燕「お久しぶりです、左之助さん!」

左之助「お、赤べこの小さい嬢ちゃん! ずいぶんキレイになったな!」

左之助「弥彦の奴、これでもウブだからよ。引っぱってやってくれや!」

弥彦「うるせーよ!」

剣路「ホ」

左之助「コイツは剣心と嬢ちゃんの息子か? ハハハ、親父にそっくりだなオイ!」

左之助「──あれ? そういや剣心は?」

剣心「左之」ザッ…

左之助「剣心」ザッ…

パァンッ!

右手をぶつけ合う二人。

左之助「戻ってきたぜ!」

剣心「ああ!」

弥彦(やっぱりこの二人は凄えや!)

弥彦(少しは追いついたつもりでいたけど、まだまだ二人の背中は遠いぜ……)

左之助「だがよ、久方ぶりの再会だってのに、ずいぶんしょぼくれてるじゃねーか」

左之助「なんかあったのか?」

剣心「日本に帰って早々すまぬが──」

剣心「実はおぬしに相談したいことがあるでござる」

左之助「相談?」

剣心「こっちに来てくれ」

物置──

ムワァ~……

左之助「なんだこのすげえニオイは? ……で、なんだコイツは?」

剣心「拙者が先日叩き伏せ、気絶させた強盗でござる」

左之助「気絶って……こりゃもう死んでるんじゃ──」

弥彦「なにいってんだ、左之助!」

薫「まだ死んでないわ!」

燕「生きてます!」

恵「私も……極めて死亡状態に近い生存、と診断したわ……」

剣心「拙者が“不殺”を貫くには」

剣心「なんとしてもこの男に復活してもらわねばならぬ」

剣心「左之、海外でこれと似た状況に遭遇したことはないでござるか?」

剣心「是非、左之の知恵を貸して欲しい」

左之助(剣心……飛天御剣流を振るえなくなったと聞いたが)

左之助(眼光は前よりずっと鋭くなったじゃねーか!)ゴクッ…

左之助「悪ィが……これに近い状況に遭遇したことはねーな」

剣心「!」

剣心「そうか……」

左之助「だがよ、不可能を可能にするには」

左之助「不可能と可能の狭間にある壁をブチ壊すのが一番よ!」

左之助「安慈が“救世”のために編み出した、破壊の極意なら──」

左之助「その狭間を粉砕して、不可能を可能にすることもできるかもしれねェ!」

弥彦「そうか、二重の極みか!」

恵(なんでそうなるのよ!?)

左之助「そういうこった。行くぜ、オラァッ!」

左之助「二重の極みッ!」ブンッ

ガォンッ!

二重の極みを、強盗の体に叩き込む左之助。

恵(今の音……内臓と骨が砕けたわね……)

恵(外観がそこまで損なわれなかったのは、不幸中の幸いだわ……)

左之助「……くそっ、ダメか!」

左之助「すまねえ、剣心。力になれなくて……」

剣心「いや……よくやってくれたでござる」

弥彦「左之助の二重の極みでもダメとなると、やっぱねェのか?」

弥彦「こんな死人みたいなヤツを蘇らせる術なんて……」

恵「いえ……心当たりが一人だけいるわ」

薫「恵さん、心当たりってだれのこと?」

恵「四乃森蒼紫よ」

恵「雪代縁の件で、アンタの遺体が偽装だと見抜いたのも彼だったし……」

恵「もしかしたら、何か知っているかも──」

剣心「なるほど!」

剣心「たしかに蒼紫なら──御庭番衆の秘術ならば何とかできるかもしれぬ!」

左之助「そうと決まりゃ、さっそく手紙を送ろうぜ!」

左之助「十日もありゃ、東京まで来てくれるはずだ!」

剣心「そうでござるな!」

薫「ありがとう、恵さん! さすが名医は目のつけどころがちがうわ!」

恵「おだてても何も出ないわよ……」

恵(今の私に名医どころか、医者としての資格すらあるかどうか……)

恵(だけど今さらやっぱり死んでるだなんていえない……。もう引き返せないわ……)

十日後、蒼紫と操が神谷道場に到着した。

操「チィースッ! 来ちゃったよぉ!」ザッ

蒼紫「…………」ザッ

剣心「よく来てくれた、二人とも」

左之助「イタチ娘も少しは落ち着いたかと思えば、まだまだみてぇだな」ニィッ

操「あ、久々のトリ頭! ふん、アンタにだけはいわれたくないね!」

蒼紫「……ところで用件はなんだ、緋村」

蒼紫「極秘事項ゆえ手紙には詳しく書けない、とあったが」

剣心「おぬしら御庭番衆の力を、是非貸して欲しくてな」

剣心「こっちに来てくれ」

物置──

ムワァ~……

操「な、な、なにこれ~!?」

操「すっごいニオイなんだけど!」

操「えと……。に、人形だよね……ね?」

剣心「いや、これは香水をふりかけた人間でござる」

操「え」

操(この人って……どう見ても死んでない?)

操(まさか緋村が殺したとか? いや、そんなまさか、ね)

蒼紫「──で、この死体をどうしろというんだ?」

剣心「!」ピクッ

剣心「死んでないでござる!」

剣心「絶対に死んでないでござるッ!」

薫「そうよ、死んでなんかいないわ!」

弥彦「ちゃんと見ろよ、蒼紫!」

燕「まだこの人は生きてます!」

恵「私も医者として、死んでいないと診断したわ……」

左之助「なんとか助けてやってくれよ!」

操「え、え、え? どしたのみんな? ちょっと顔が怖いんだけどさ」

蒼紫「…………」

蒼紫「そうだな、死んではいないな」

操「蒼紫様!?」

恵(かつての四乃森蒼紫だったら、絶対折れなかったでしょうね……)

恵(料亭を営む中で場の雰囲気を読む、ということを覚えたのねきっと)

薫「四乃森さん、これまでの経緯を説明しますと──」

蒼紫「それには及ばん。ここまでの状況から、何が起きたかはだいたい理解できた」

蒼紫「この男はおそらく強盗だろうが、緋村が叩き伏せたのだろう」

蒼紫「そして、“不殺”を守るためにはこの男の蘇生が絶対不可欠ということか」

剣心「さすがでござるな、蒼紫。話が早い」

剣心「──で、この男を蘇生させる術、なにかないでござるか?」

蒼紫「…………」

蒼紫「ない」

蒼紫「御庭番三百年の歴史にも、そのようなものはない」

蒼紫(もしあるとすれば、般若たちに施しているに決まっている……)

剣心「やはり、無理か……」

弥彦「ちくしょうッ!」

燕「そんな……」

剣路「びええぇぇ~~~んっ!」

薫「コラコラ泣かないの、剣路」ギュッ…

蒼紫「だが、一つだけ手はある」

蒼紫「御庭番衆に伝わる、あの秘薬を使えばあるいは──」

操「蒼紫様、そんなのがあるんですか!?」

蒼紫「ああ」

蒼紫「歴代の御頭に口伝でのみ継承される、秘伝中の秘伝だ」

蒼紫「だが薬品の調合は、おそらく俺よりも高荷恵の方が得手だろう」

蒼紫「悪いが、今から俺がいうとおりに材料を集め、薬を調合してくれるか」

恵「……ええ、分かったわ!」

およそ半日後、薬が完成した。

恵「中には入手困難な材料もあったけど」

恵「みんなが協力してくれたおかげで、どうにか調合できたわ」

恵「でも、これっていったいどんな薬なの?」

恵「私も材料から推察しようとしたけど、さっぱりだったわ……」

蒼紫「この秘薬には──」

蒼紫「人体の体温を極限まで冷やし、仮死状態にする効果がある」

蒼紫「その間、人体は完璧な保存をなされ、一切老化することがない」

薫「えっ!?」

左之助「仮死状態だぁ!?」

弥彦「ちょ、ちょっと待てよ、蒼紫」

弥彦「仮死状態って──」

弥彦「この強盗はもう死んで──いや、もうすでに仮死状態みたいなもんなんだ!」

弥彦「こんな薬にいったいなんの意味があるんだよ!?」

蒼紫「この薬を飲むのは、強盗ではない」

弥彦「へ?」

燕「どういうことでしょう……?」

左之助「じゃあいったい、だれが飲むってんだ」

蒼紫「この薬を飲むのは──」

蒼紫「我々だ」

左之助「なにがなんだか、さっぱりだぜ!?」

恵「患者さんじゃなく、私たちまで仮死状態になってどうするのよ!」

蒼紫「つまり──」

蒼紫「我々全員も、この強盗とともに眠りにつくのだ」

蒼紫「『死人同然の者を蘇らせる自信がある者は、我々を起こしてくれ』と」

蒼紫「手紙を残してな」

剣心「なるほど!」

剣心「現在の医術では恵殿もいったように、この強盗を蘇生するのは難しい」

剣心「ならば、拙者たちが強盗とともに眠りにつき」

剣心「将来拙者らを起こしてくれた者に、この強盗の蘇生を頼むと──」

剣心「希望を未来に託すと──そういうことでござるな?」

蒼紫「そうだ」

弥彦「だけどよ、なにも俺ら全員が一度に仮死状態にならなくてもいいんじゃねえか?」

燕「ええ、私も仕事がありますし……」

蒼紫「いや、それはならん」

蒼紫「この秘薬は、御庭番の歴史でも外法中の外法といわれたシロモノ」

蒼紫「今の話を聞いた以上、この場にいる全員が一蓮托生だ」

蒼紫「強盗が死んでいないというのは百歩譲って認めるが、これは絶対に譲れん」

弥彦「秘密を知った以上は運命を共にしろってことか……さすが隠密だな」

弥彦「まあしょうがねえか。他ならぬ剣心のためだ」

弥彦「神谷活心流は、俺や薫がいなくても由太郎がなんとかやるだろ」

燕「私も……弥彦君が一緒に眠ってくれるなら……平気」

弥彦「オ、オイ……」

操「お熱いねえ、二人とも!」ヒューヒュー

左之助「コイツらだけ、薬飲んでも体温が下がらなかったりしてな!」

ハハハハハ……!

剣心たちは神谷道場の床下に大きな穴を掘り、冬眠場所を確保した。

知識のある人間に発見してもらうため、手紙は寄木細工の仕込まれた箱に入れ、

簡単には見つからない場所に安置した。

左之助「強盗は俺たちの近く──ここらへんに置いときゃいいな?」ドサッ

剣心「ああ」

剣心「ではみんな、準備はいいでござるか?」

薫「いつでもいいわよ!」

剣路「ホ」

弥彦「いいぜ!」

燕「はい!」

恵「私も平気です」

左之助「もちろんだ!」

操「いいよぉ!」

蒼紫「あとはお前の合図を待つだけだ」

剣心「では──」

剣心「冬眠開始でござる!」ゴクッ

薫「みんな、未来で再会しましょうね!」ゴクッ

剣路「ホ」ゴクッ

弥彦「ぐっすり眠るぜ!」ゴクッ

燕「皆さん、おやすみなさい」ゴクッ

恵「ここまできたら……覚悟を決めて飲むしかないわね」ゴクッ

左之助「いい夢見ろよ、みんな!」ゴクッ

操「おやすみなさぁ~い!」ゴクッ

蒼紫「ああ」ゴクッ

………

……



……

………

剣心「……ん」

剣心「ここは──」ムクッ

ドラえもん「あ、起きた!」

ドラえもん「おはようございます、ぼくドラえもんです」

剣心「おろ?」

剣心(何者? 青い狸……?)

ドラえもん「剣心さん、あなたのことは眠ってる間に宇宙完全大百科で調べました」

ドラえもん「あなたは、明治時代の人ですよね?」

剣心「ああ、江戸幕府の世はすでに終わり、今は明治の世にござるが……?」

のび太「あ、目が覚めたんですね!」

しずか「よかった……」

ジャイアン「なかなか起きないから心配したぜ!」

スネ夫「服装は武士っぽいけど、あんまり強そうじゃないなぁ」

剣心(この少年たちは……? 洋装とは珍しいでござるな……)

剣心「…………」

剣心「!」ハッ

剣心「そうだ、拙者はたしか薬を飲んで冬眠して──」

剣心「ドラえもん殿! 今はいったいいつで、ここはどこでござるか!?」

ドラえもん「はい。ここは20世紀の東京です」

剣心「20世紀……?」

ドラえもん「あなたたちがいた時代の……ざっとですが100年後と思って下さい」

剣心(なんと100年以上も眠っていたとは……)

ドラえもん「ぼくたち、未来の道具で宝探しゲームをして遊んでたんですけど」

ドラえもん「のび太君が、土に埋もれていた箱を偶然発見したんです」

ドラえもん「そして箱を開けたら──」

ドラえもん「あなたたちがある場所に眠っていると書いてあって……」

ドラえもん「ぼくの道具で、塚山ビルの真下で眠っていたあなたたちを掘り当てて」

ドラえもん「カイロで体を温めて、起こしたんです」

剣心「そうだったのか……かたじけない」

剣心(ん、今“あなたたち”と──)

剣心「そうだ! そういえば、拙者以外のみんなはどうしたでござるか!?」

しずか「皆さん、あちらにいますよ」

しずか「グルメテーブルかけで、食事をとってらっしゃいます」

ワイワイ…… ガヤガヤ……

薫「あら、剣心もやっと起きた? おはよう!」

剣路「ホ」ムシャムシャ…

弥彦「剣心、寝坊だぜ~!」モグモグ…

燕「そんなこといったらダメよ、弥彦君」

恵「まさか本当に、遠い未来まで眠ることになるなんてね……」

左之助「この時代も、なかなかメシはうめえな!」ガツガツ…

操「これでみんな無事起きたってことですね、蒼紫様!」

蒼紫「ああ」

剣心「おろ……」

剣心「よかった……みんな無事でござったか」

剣心「ところでドラえもん殿」

剣心「拙者たちの他に、もう一人いたはずなのでござるが──」

ドラえもん「ああ、あのミイラになっていた人ですね」

ドラえもん「残念ですが、あの人だけはもう……」

剣心「後生でござる。どうか……どうかあの男も起こしてはくれぬか!?」

ドラえもん「う~ん、それはちょっと……」

のび太「いいじゃない、ドラえもん!」

しずか「そうよ、ドラちゃん!」

ジャイアン「ここまできて、ケチくさいこというなよな!」

スネ夫「そうだそうだ!」

ドラえもん「やれやれ、本当はよくないんだけど……しょうがない」ゴソゴソ…

ドラえもん「タイムふろしき~!」

タイムふろしきをかけられた強盗は、瞬く間によみがえった。

ドラえもん「これでよし、と」バサッ

強盗「あれ……? 俺は道場に忍び込んで──え? ここは、どこだ?」キョロキョロ

弥彦「やったぜ!」

燕「おめでとうございます、剣心さん」グスッ…

恵「剣さん……よかったですね」

左之助「これで一件落着だな! 遠い未来まで眠ったかいがあったってもんよ!」

操「やったね、緋村! やりましたね、蒼紫様!」

蒼紫「ああ」

剣路「ホ」

薫「剣心……ちゃんと“不殺”を守れたね」



剣心「薫殿、みんな……ありがとうでござる!」



                                 ── 完 ──

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月25日 (金) 11:34:38   ID: tIuhCaq4

カオスwww

2 :  SS好きの774さん   2016年08月31日 (水) 14:38:24   ID: PqVwXTz-

ドラえもんが登場するとは思いもよらなかった

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