苗木誠「風邪を引いてしまった…」(270)

苗木「こんな環境で風邪を引くなんて…けほっ」

苗木(超高校級の幸運も聞いてあきれるよ…)

苗木「ゲホゴホ! ああ、駄目だキツイ…寝てよう…」ぽすっ

苗木「……」

苗木「お腹すいたなぁ…後で食堂に何かあるか見に行ってみよう…かな…」

苗木「…おかゆとか…作らないと……」

苗木「ぐー」すやすや

~~~

舞園「…あれ? そういえば苗木クンの姿が見えないですね」

朝日奈「あっれー? ほんとだ、どしたんだろうね」

大神「もしや何かあったのではないか」

舞園「え?」

朝日奈「ちょ、ちょっとさくらちゃん変な事言わないでよ…!」

大神「あり得なくもない話だろう。今の状況であれば」

朝日奈「むむっ…」

石丸「おや、皆どうしたんだ変な顔して」

舞園「石丸くん! 苗木クンを見ませんでしたか!?」

石丸「…姿は見かけては居ないが」

舞園「そ、そうですか…」

朝日奈「だ、大丈夫だって前園ちゃん! 今から一緒に苗木の部屋に行ってみよーよ!」

舞園「……」

大神「我もついていくぞ」

朝日奈「ほらほら! さくらちゃんだって、そう言ってるし! ねっ?」

前園「…はい、行きましょう!」

朝日奈「うん!」

石丸「む。遅刻ではないかキミィ! 時間厳守と皆で決めたはずではないか!」

霧切「…用があったの」

石丸「だがなっ…!?」

前園「あっ…! 霧切さん!」

霧切「なに?」

前園「えっと、その…苗木クンを見かけませんでしたか?」

霧切「苗木君? ああ、彼なら──」

「風邪ェ!?」


霧切「そう、どうやら彼は風邪を引いたらしいの」

十神「…ハッ、超高校級の幸運がか」

葉隠「十神っちの言い方はともかく、オレっちも大いに賛同だぜ…」

前園「ど、どこでそれを知ったんですか?」

霧切「さっき廊下で会ったのよ。ふらふらした足取りで何処かへ向かおうとしていたから」

霧切「そうしたら風邪を引いたと報告を受けたの」

不二咲「だ、大丈夫かな…苗木クン…」

大和田「でぇーじょうぶだろ。風邪ってんなら寝てたら治るだろ、俺ならそうだぜ」

石丸「それは兄妹だからだろう!」

大和田「ん? そうかもな!」

石丸&大和田「わっはっはっは!」

朝日奈「うざいコンビ…」

大神「そうか、大事にならなければいいのだがな」

霧切「彼も言っていたわ、皆は心配しないでくれと」

前園「……」

朝日奈「でもまぁー風邪なら心配するほどじゃないよね」

霧切「ええ、そうね。大和田君の言う通り、安静に寝ていれば直ぐに良くなるはずよ」

大和田「だろォ?」

十神「しかし、あれだな。コロシアイが行われるかもしれない環境下で」

十神「よくもまだ人の調子を心配できるとは…つくづく頭のネジが緩い奴らだ」

朝日奈「ちょっと十神!」

十神「本当の事だろう」

朝日奈「だからってそんな言い方しなくても良いじゃん!」

大神「朝日奈、やめておけ」

朝日奈「むぐぐ!」

十神「ともかく、俺はもう部屋に戻るぞ」ガタ…

石丸「まだ話し合いは終わっていないぞ!?」

十神「じゃあその話し合いはいつ始まるんだ? 俺にそれを教えてから引きとめろ」

石丸「むぐぐ!」

十神「…フン」スタスタ

前園「……」

朝日奈「と、ともかく! 今日も皆は色々と調べ回ろうよ!」

大神「そうだな。ここに居ては何も始まらない」

不二咲「そういえば…来てない人達も何人か居るよね?」

石丸「まったく! 何を考えているんだ!」

大和田「言ってやるなよ兄弟、色々と考えてんだろ」

葉隠「そんいやー腐川っちもセレスっちも見てないべ」

霧切「桑田君と山田君は焼却炉近くで見たけたわよ」

朝日奈「なにやってんだろあの二人は…」

前園「…とりあえず、行きましょうみなさん。色々と探しに」

朝日奈「そうだね、じゃあ今日は解散ってコトで!」

~~~

前園「……」

朝日奈「あれ、前園ちゃん?」

前園「っ!」

朝日奈「何処に行くの?」

前園「えっと、そのー……」そわそわ

朝日奈「?」

前園「少し…お花を摘みに…」

朝日奈「お花? どっかに咲いてるの?」

前園「えっと…」

大神「朝日奈。お花を摘みにとは、粗相を済ませに行くと言う事だ」

朝日奈「そそー?」

大神「むむ…」

前園「い、いえ! 説明しなくてもいいので…! えっと、それじゃあ!」だだっ

~~~

舞園「…はぁー、びっくりした。いきなり話しかけられるなんて…」

舞園(人の目を避けて食堂を出て行こうとしたのに…気配でも察知できるのかな、朝日奈さん…)

舞園「…とにかく行かなくちゃ」

舞園「──苗木クンの所へ!」フンスー

舞園(普段から色々な人と交流があるから暇のない苗木クンに…近づけるチャンス!)

舞園(これを逃すわけにはいかない!)ぐっ!

舞園(よーし、じゃあビスケットとジュースをもって行って、お見舞いに来ましたって言えば良いかな…?)ゴソゴソ

舞園「ご、ごほん! 苗木クン?」コンコン

ガチャ

舞園「あ。舞園ですけど…調子はどうなのかなって──」

セレス「あら」

舞園「……」

舞園「……!?」さっ

セレス「ご確認されなくても、ここは苗木クンの部屋ですわ」

舞園「で、ですよね!」

セレス「はい」ニコ

舞園「…じゃ、じゃあその…なんで…?」

セレス「なんで、とは?」

舞園「だ、、だってその! どうしてセレスさんが苗木クンの部屋の…中に!?」

セレス「……」

舞園「……」

セレス「とりあえず紅茶でもいかが?」

舞園(なんで!?)

~~~

セレス「ずず…」

舞園(まあちゃっかり貰ってるんだけど…美味しい…)

セレス「……」コト…

セレス「それで、先ほどの返答ですけれど」

舞園「は、はい!」

セレス「わたくし…お見舞いに来てますの」

舞園「…お見舞い、ですか?」

セレス「ええ。苗木クンが風邪を引かれたということで…それはもう心配で心配で仕方なく…」

舞園「な、なるほど…」

舞園(──嘘をついてるの丸わかり何だけどなぁ…どうしよう)

舞園(セレスさんが嘘やポーカーフェイスが得意なのはわかるけれど)

舞園(わたしは普段から人の心の裏を見るよう気を付けてるし…なんとなくだけど、嘘をついてるって分かる)

舞園(というか…)チラ

苗木「うーん…うーん…」

舞園(なんで苗木くん──紳士服を着てるんだろう…?)

舞園(あんな窮屈そうな服を着てたら…寝にくい所の話じゃないと思うんだけど…)

セレス「ずず…」

舞園「そ、その…セレスさん…」

セレス「はい」

舞園「えっと、お見舞いに来たのはわかりました。けれど…」

舞園「お見舞いに来たということは、苗木クンとはけっこう親しかったりするんですか…?」

セレス「……」

舞園「……」

セレス「どうなのでしょうか。わたくしは色々と事情がありまして」

舞園(その事情が知りたいのだけれど…)

セレス「舞園さんが知りたい情報はさほど持っておりませんの」

舞園「…なにか引っ掛かるモノ良いですね」

セレス「うふふ、気のせいですわ」

舞園「……」

舞園「…」

セレス「…」

舞園「…普段、苗木クンがなにをしているのか知ってますか」

セレス「……。いきなりなんですの?」

舞園「いえ、話のタネになればいいかと思いまして」

セレス「…なるほど、いいですわね。丁度暇を持て余していた所ですし」

舞園「…気にいってもらえてよかったです」

セレス「ふふ、そうですわね。苗木クンですか…それは良く存じていますわ」

舞園「そうなんですか」

セレス「はい。遊技場があるでしょう? あそこでダーツをされている姿を良く見かけますわ」

舞園「へーダーツを…」

セレス「彼はさほど上手くはありませんが、ある程度練習を積めば──」

セレス「──わたくしと仲良く遊べるほどにはなるでしょう」

舞園「……」

セレス「ずず…」

舞園「…私も苗木クンと一緒に遊ぶんですけど」

セレス「……」コト…

舞園「彼は面白い話をいっぱい知ってて、一緒にお話をしてるだけで笑顔が絶えないんです」

セレス「まあ。それは良い事ですわ」

舞園「ですよね。あと、これは余談ですけれど」

舞園「──彼って私と、同じ中学だったんです」

セレス「……」カチャン!

舞園「…どうかなされました?」

セレス「いえ、何もありませんわ」

舞園「そうですか」

セレス「ええ。お気になさらずに」

舞園「……」

セレス「……」

舞園「あと…前に彼が話をしてくれたんですけど」

セレス「ズズ…」

舞園「──彼の好きな女性のタイプを私に言ってくれた事があったんです」

セレス「……」カッチャン!

舞園「大丈夫ですか」

セレス「ええ、お気になさらずに……それで?」

舞園「はい?」

セレス「その好きな女性のタイプ、とは? 一体どんなタイプなのですか?」

舞園「気になるんですか?」

セレス「勿論。女性は皆、恋路に関しての情報は知りたがるものではなくて?」

舞園「確かにその通りですね」

セレス「ええ」

舞園「その時、彼は恥ずかしそうに言ってくれました」

舞園「──清楚風で腰まで髪が伸びた、会話をしていて楽しい女の人…だと」

セレス「………」

舞園「色々と夢見がちな女性像…なんて言ったら失礼かもしれないですけど」

舞園「だけどなんとなく、彼が言いたいことがわかって、私ちょっと照れ──」

セレス「──人の好みは何れと変わるものですわ」

舞園「…なんですか急に」

セレス「いえ、ふとそう思ったです…人生には多大な時と出会いがある…」

セレス「その波に揉まれ流されていくうちに、人の感性は時折、他方へと向く場合があると」

舞園「それは…なんですか? 彼の好みが変わるとでも?」

セレス「無い話ではありません」

舞園「どうでしょうか」

セレス「断定できるものではないでしょう」

舞園「…言い方が悪くなりますが、そっくりそのままその言葉をお返しします」

セレス「あら。ということは認めたと言う事ですわね」

舞園「違います。苗木クンはそんな優柔不断じゃありません」

セレス「言葉が悪いですわ。人はそうであるべきものでしょう」

セレス「己の感性だけを信じ、他の感情を蔑にするのは子供のすることですわ」

舞園「私たちはまだ子供ですよ。自分の好きに生きて何が悪いんですか」

セレス「大人になれ、とは言っていません。子供のままであるべきことは、選ばなければ」

舞園「恋路に関しては大人になれと?」

セレス「その通りですわ。人と人の関係は複雑怪奇、単純な行動を行っては人を傷つけるだけ…」

セレス「──貴方もそうは思いません、舞園さん?」

舞園「……」

セレス「うふふ」

舞園「…全く関係のない話で申し訳ないのですが」

セレス「なんでしょう」

舞園「彼の紳士服、似合ってませんよね」

セレス「ッ…!?」

舞園「なんていうか、着せられている感がすっごく出てると言うか」

セレス「そこが良いというのにっ…いえ、なんでもないですわ…!」

舞園「というか、さっきからすっごく気になってたんです」

舞園「あの服は彼は持っていなかったハズだったと。どちらかというと…」

舞園「…セレスさん、貴女が持ってそうな服だなぁと」

セレス「……」

舞園「まさか、だと思いますけど」

舞園「──着せたんですか? 彼に、風邪を引いて体調の悪い苗木クンに?」

セレス「……」

舞園「……」

セレス「違いますわ」

舞園「…本当に?」

セレス「本当ですわ。わたくしは着せてなどいません」

舞園「……」

セレス「ずず……ふふっ」コト

セレス「──着替えさせてあげたのです、わたくしが」

舞園「…は?」

セレス「そのままの意味ですわ。彼は就寝中でしたから、仕方なく着替えさせてあげたのです」

舞園「き、着替えっ!?」

セレス「はい」

舞園「どうして!?」

セレス「汗が凄いことと、後は手持ちにあった着替えがこれしかなかったことでしょうか」

舞園「あ、汗が凄いって…というかどうして手持ちにあった服を着せるんですか!?」

セレス「あら? てっきりどうして手持ちに紳士服を持っていたのか、と言われると思っていましたのに」

舞園「思いましたけど! ち、違くて…あの! それよりも着換えさせたってのは…!?」

セレス「何度も申し上げた通り。苗木クンのきていた服を脱がせ、一個一個ボタンを外し…」

舞園「いぃいい! ボタン!?」

セレス「ボタンです」

舞園「そ、それから!?」

セレス「身体を簡易的に拭いてあげましたわ」

舞園「拭いてー!?」

セレス「本当はシャワーを浴びるのが良かったのでしょうけれど、わたくしの非力な腕では運ぶ事は困難でしたわ」

舞園「かっ…くっ…ど、どうして!? なんで!? そんなことを?!」

セレス「お見舞いですから」ニコリ

舞園「やりすぎです! ハレンチです!」

セレス「お見舞いですから」ニコリ

舞園「わ、私もやりたかったのにっ…」ぼそっ

セレス「──彼は以外にも着やせするタイプだったようですわね」

舞園「え…?」

セレス「あら、ごめんなさいですわ。つい独り言を…」

舞園「…続けてください」

セレス「良いんですの? では…苗木クンは一見華奢な身体をしているように見えますけれど」

セレス「腹筋がポコポコしてましたわ」

舞園「ぽこぽこ…」ゴクリ

セレス「ええ、ポコポコ」

舞園「そ、その…」

セレス「はい?」

舞園「さ、触ったんですか…?」

セレス「勿論ですわ。身体を拭いたのですから」

舞園「うぐっ…!」

セレス「滑らかな肌触りでしたわ…苗木クンは女性と引けを取らない程の艶やかさを持っていますわ…」

舞園「うぐゅ…!」

セレス「うふふっ」

舞園「な、なんですかっ? どうしてそこで笑うんですかっ?」

セレス「いえ、最初の方は裏の読みあいでしたのに…今になっては馬鹿正直に牽制のし合っている」

セレス「これもまたギリギリのラインを渡りきるギャンブル性を感じますわね」

舞園「……」

セレス「どうでしょう舞園さん、取引をしませんこと?」

舞園「取引…?」

セレス「今、この苗木クンの部屋で起こった事は互いに秘密ということを」

舞園「…どうして秘密にしたがるんですか」

セレス「ご自由にお考えになってください」

舞園「……」

セレス「ご不満ですの? いえ、取引だと言ったでしょう」

セレス「この事を秘密にしていただけるのであれば、そうですね」

セレス「──条件として苗木クンのポコポコを触れる、としたら?」

舞園「……」

セレス「決して悪い条件ではないと思いますわ」

舞園「……それは」

セレス「彼に悪いと? 違いますわ、これは事故なのです」

セレス「彼の服をまた着替えてしまった時に、不意にポコポコに触れてしまったと」

舞園「偶然触ってしまった…」

セレス「ええ、そうであれば理由もつくでしょう」

セレス「どちらにせよ、わたくしは再度彼を着替えさせなければなりません」

舞園「…!」

セレス「わたくしも不器用なものですから、誰かの手を借りなければ上手く着替えさせられないかもしれませわ」

舞園「…そ、それなら」

舞園「仕方ないかも…知れません、ね」

セレス「交渉成立、と考えても?」

舞園「はい」

セレス「ありがとうございますわ。では、さっそく着替えさせましょうか」

~~~

苗木「うーん…」

苗木(凄く喉が乾いた…いつの間にか眠ってしまったのか…)

ぐらぐら

苗木(ん、ん、なんだろう…身体が凄く揺らされてる…?)

苗木「なに…」

苗木(よくわからないけれど、とにかく目を開けて確認しないと──)


セレス「……」

舞園「……」


苗木「……えっ?」

セレス「…!」

舞園「あわっ! あわわっ! 苗木クンの腹筋…! ぽこぽこって…! って、きぁあー!?」

苗木「……!?」

苗木「えっ? なになに何なの!?」

セレス「な、なぜっ…! 飲み物に入れた睡眠薬はきちんと聞いてたハズ…!?」

舞園「睡眠薬!?」

苗木「ど、どうして二人がボクの部屋に!? あ、いや…確かセレスさんは部屋にきて…それから…」

苗木「ていうかナニこのボクの恰好!? 半裸じゃないか!」

舞園「ち、違うの苗木クン! こ、これには事情があって…!」

セレス「そうですわ。舞園さんがやろうと言いだし始めたのですわ」

舞園「セレスさん!?」

苗木「舞園さんが…っ?」

舞園「違うよ苗木クン!? こ、これはセレスさんが仕組んだことで…!」

セレス「ひ、酷いですわ…そんなこと、わたくしは一度も申し上げてないと言うのに…!」

苗木「どっちがホントなの!? というかどっちもでいいから、ボクの上着を返して!」

舞園「ご、ごめんなさい!」

苗木「なんなんだよもうっ…あれ、キツイな…? なにこれ!?」

セレス「執事の服ですわ」

苗木「見りゃ分かるよ! そうじゃなくって、ボクのいつもの服は!?」

舞園「あ…」さっ

苗木「舞園さん…? どうして後ろに隠すの…?」

セレス「後で匂いを──」

舞園「セレスさん!?」

苗木「一体何だって言うんだよ…! 二人とも何を考えてるのかわかんないよ…っ!」

セレス「あら、褒め言葉ですわ」

苗木「一切褒めてないよ!」

舞園「苗木クン…」

苗木「舞園さん…とりあえずその上着を返してくれないかな…」

舞園「あ、うん! ごめんなさい!」

苗木「うん…」

舞園「……」

セレス「…舞園さんは苗木クンを心配されてお見舞いに来られたのですわ」

苗木「え…? お見舞いに…?」

舞園「あ、うん…」

セレス「そうしたら先に苗木クンが寝てしまい、先ほどからわたくしと紅茶を飲みながらお話をしていた所だったのです」

苗木「そうだったんだ…」

舞園「…ごめんなさい、色々と迷惑をかけてしまって」

苗木「いいよ、心配してくれたんだね。ボクの方こそごめん、こんな時に風邪を引いちゃうなんてさ」

舞園「ううん! そんなことない、全然ないから…」

苗木「…ありがとう。お見舞いに来てくれて、なにもないけれど、うつらない様にだけは気を付けて」

舞園「……うんっ」

苗木「あとセレスさんも」

セレス「えっ」

苗木「なんだか身体がさっぱりしてる気がするんだけど…何かしてくれたんだよね?」

セレス「それは…」

苗木「う、うん。あんまり深くは聞かないでおくことにするよ…だけど」

苗木「気分も良くなってるし、正直助かったよ、ありがとう」

セレス「っ…!」

セレス「…ま、まあいいですわ。当たり前のことをしたまでですわ」

苗木「そっか、それでも感謝してるよ」

セレス「ふんっ」

苗木「げほッ! ゴホッ!?」

舞園「な、苗木クン!?」

セレス「大丈夫ですのっ!?」

苗木「あーうん…なんだか大声を出したら喉が…あはは、ごめん」

舞園「安静にしてください! ほら早く服を着て…っ」

セレス「わたくしは飲み物を持ってきますわ」

苗木「えっ…? いいよ、そこまでしなくたって…!」

舞園「いいえ、これでもお見舞いに来てるんですからさせてください」

セレス「そうですわ」

苗木「…そっか、ありがと」ニコ

舞園(なんていう笑顔…これを、これを見に来たかった!)

セレス(このような吸血鬼執事も中々…)

苗木「あはは」

苗木「よいしょっと…えっと…舞園さん」

舞園「なんですか?」

苗木「…その、そうまじまじと見られると恥ずかしいんだけど」

舞園「そうなんですか」ニコ

苗木「う、うん」

セレス「……」がしっ

舞園「えっ? な、なんですかセレスさんっ? 急に腕を掴んで…飲み物は…?」

セレス「──隠れますわよ」

舞園「…はい?」

セレス「後回しですわ、そんな悠長な事は言ってられません。苗木クン」

苗木「は、はい?」

セレス「くれぐれもわたくし達がここに来てる事は他言無用でお願いしますわ」ずりずり

舞園「ちょっとセレスさん…!?」

パタン

苗木「けほっ…どうしてシャワールームに…?」

コンコン

苗木「ん、誰か来たのか…」ゴソ

苗木「今開けるよ──あれ?」

桑田「よー苗木!」

苗木「く、桑田くん! それに…」

山田「ええ、どうも! ごぶさたですな!」

苗木「山田くんも…どうしてここに…?」

桑田「おう! なんかお前が倒れたって聞いてな~」

山田「お見舞いに来たのですな~」

苗木「そうなんだ…なんていうか、ごめんね心配かけちゃって」

桑田「そーだぜ? こんな時に風邪なんて引いてんじゃねえよ」

山田「大変なのは分かりまするが、お気を確かに持つのですぞ!」

苗木「あはは。うん、気を付けるよ」

桑田「つかお前風邪引いてんのに何そのカッコ」

山田「執事服…?」

苗木「え? あ、そうだった…」

桑田「すげー窮屈そうだなその服…大丈夫か? 主に頭とか?」

山田「具合が悪いのにそのような服を着るとは…さては苗木誠殿はドM!?」

苗木「違う違う! だ、大丈夫だよ! これにはちょっとした理由があって…!」

桑田「理由ぅ? ふぅーん、そうなのか」

山田「ふむ、流石ですぞ」

苗木「なんか違う意味で納得してない!? 違うってば!」

~~~

舞園「この声…桑田クンに山田クンですかね」

セレス「…ッチ」

舞園(舌打ち!?)

セレス「…わたくしとしたことが、見落としてましたわ」

舞園「ど、どうしたんですか?」

セレス「紅茶のカップを──出しっぱなしにしたままにするなんて」

舞園「…あっ」

~~~

桑田「なんにせよ、だ。お前が風邪引いたのは自己責任だからな」

山田「早めに治るよう祈ってますぞ!」

苗木「ありがと…」

桑田「ホレ。これポカリ」ぽいっ

苗木「わわっ! いいのっ?」

桑田「いーに決まってんだろ。それ飲んで早く良くなれよ」

桑田「そしたら今度キャッチボールしようぜっ? なんなら俺の剛速球を打たせてやるよう特訓すっか?」

苗木「あはは…ありがたい話だよ…うん!」

桑田「へへっ」

山田「苗木誠殿、これを」

苗木「こ、これって…」

山田「抱き枕ですな! 夜なべして作っていてたニュータイプですな! …ぜひ使ってください」

苗木「ありがとう…! 凄いなぁ、こんなのも作れるんだ!」

桑田(そこは引くもんなんだがな…すげえな苗木…)

山田「むほほほ! いいんですぞ! いいんですぞー!」

苗木「あ、そうだ。今度また絵の描き方を教えてよ」

山田「むむ! 苗木誠殿は若干のセンスをお持ちですからな、いいでしょう。何時でも参ってください」

苗木「うん!」

桑田「そんじゃそろそろお暇するわ。安静にしておくんだぜ」

山田「ではでは!」シュビッ

苗木「ありがとね!」

パタン

苗木「…ふぅ、色々と貰ってしまった」ゴソ

苗木「ありがとう…本当に」

「──男同士の友情、心情、そして愛情!」

苗木「え…?」

「なぁーんて素晴らしいの!? あはっ! きゃは! ぎゃはははははは!」

ジェノサイダー「萌える! チョー萌えるんですけどまいっちゃうわァー!」

苗木「な、なななな…なんでここにジェノサイダーがっ…!?」

ジェノ「あーん? 苗木きゅんじゃね?」

苗木「そうだよ! なんでボクの部屋にいるんだ!?」

ジェノ「なんで? ぎゃはは! わっかんねーの? 忍びこんだっつーの!」

苗木「い、何時の間に…」

ジェノ「あの髭とデブがドア開けた瞬間? びゅっと? 天井を這って入ったーていうの?」

苗木(虫かよ…!)

ジェノ「ぎゃははは! ま、気にスンナ気にスンナ!」

ジェノ「…あん? なんかローテンション気味?」

苗木「そりゃ…風邪を引いてるからな…」

ジェノ「んま! 風邪!? ぎゃー! えんがちょ! えんがちょ!」ばっばっ

苗木(話してるだけで疲れてくる…)

ジェノ「んー…根暗のもう一人の私が知ってんのかね、まぁいいや。よいしょっと」ババッ

苗木「え」ドタリ

苗木「な、なんだっ?」

ジェノ「ぎゃは! 押し倒したんだよ苗木きゅぅううんっ!」

苗木「や、やめろ! なんでこんなことするんだよ…!」

ジェノ「今なら簡単にコロっと逝かせそうだなって」

苗木「いいぃっ!?」

ジェノ「こっちはかの有名な人殺しよーん? 隙あれば殺したくなるのが性っ」

苗木「ぐっ…でも、気にいった男しか殺さないんじゃなかったのか…!?」

ジェノ「そのとーり、実にそのとーり。苗木、百点あげちゃう」

ジェノ「んまあ? 白夜様ほどはいかないけど? …七十八点ぐらいは気にいってんのよ、アタシ」

苗木「そりゃっ…どーも…!」

ジェノ「ぎゃははは! 嬉しいっしょ? 嬉しいっしょ? ぎゃははは!」

ジェノ「──なんにせよ、普段から殺しやすそうな隙だらけの苗木きゅんも」ぐいっ

ジェノ「イマイチ殺せたイメージが沸きにくいってのに、今日はダメダメ、全然殺せそうよね~」

ジェノ「いっちょ逝っとく?」カシャン

苗木「い、いやだっ」

ジェノ「遠慮しなくてもっ」

苗木「してないっ」

苗木「というか離れろ…! ハサミを向けないでくれ…!」

ジェノ「ん? ん? なんか今日の苗木きゅん強気? んっはー! 萌えちゃうじゃない! ネコからタチへジョブチェンジ!?」

苗木「何を言ってるんだよ! というか、その…!」

ジェノ「あん?」

苗木「す、少し胸が当たってるんだよ…!」

ジェノ「……」

苗木「うっ…」

ジェノ「──あ、やっばい。今のキタ、苗木殺していい?」

苗木「ええっ!?」

ジェノ「なにその表情、萌えるじゃない、くひっ、良い顔してるわぁあ~~~んっ」

ジェノ「我慢できない…はぁ…はぁ…だめ、マジでやっちゃいたい…」ぺろぉん

苗木「た、助けてェー! お願い! 本当に殺される!」

ジェノ「んーん。誰もこないっての、着たら既に苗木きゅんは貼り付けボンバー状態だ・か・ら」

苗木「ぎゃー!」

ぎぃ…

ぎぎぎ…しゃきん!

ジェノ「ぎゃはぁーーん! ネクタイ切ってー! ボタンを飛ばして~?」シャキンシャキン

苗木「うわぁああっ!?」

ジェノ「あらぁーん…見えたわ首筋、突きやすそうな柔らかい肌ァ…ぎゃはは!」

ジェノ「あーもう堪んない、殺しちゃおっと」シャキン!

苗木「っ…!」ばばっ

ジェノ「バイバー―イ☆」

ジェノ「ぶえっくし!」ポン

苗木「………あれ?」

腐川「………」

苗木「今クシャミを…もしかして戻ったのか…?」

腐川「な、なんなななんでアタシ…!? 苗木っ! アタシ!?」

苗木「と、とにかく落ち着いて! ハサミが! 危ないから!」

腐川「そ、そうよね…ふぅ、大丈夫…うん…って何で押し倒してるのあたし!?」

苗木「それは…その、ジェノサイダーになってたから…」

腐川「こ、殺しかけてたってワケ…? な、なんでそんなこと…」

苗木「人殺しだし仕方ないんじゃないかな…」

腐川「そ、そんなこと理由になんないわよ…! というか何でアンタそんな呑気なワケ!?」

苗木「え…?」

腐川「も、もっとアタシを邪険に扱いなさいよっ…! 殺しかけたのよ!? な、なのにっ…ひゃっ?」ぐらっ

苗木「あ! 危ない!」ぎゅっ

腐川「あう…」

苗木「急に倒れたら危ないって…手にハサミも持ってるんだからさ…」

腐川「っ…は、離しなさいよ! やめて…離して!」ばっ

苗木「あ、うん」ぱっ

腐川「……」

苗木「だ、大丈夫?」

腐川「…大丈夫なわけ、ないでしょ。男に抱きつかれたのなんて初めてなんだし…くぁー! そうやってあたしを騙そうたってそうはいかないわよ!?」

苗木「違う違う、騙そうなんて思ってないよ」

腐川「ぐるる…」

苗木「…腐川さんは女の子なんだしさ、それに、殺されかけたってことも、別に腐川さんの意志じゃないんだよね?」

腐川「……」

苗木「それはもう分かってるよ。だから、別に腐川さんを責めることはしない」

苗木「──とにかく大丈夫? 怪我はしてないよね?」すっ

腐川「……っ」

腐川「や、やめなさいよ…ちょっと…」さっ

苗木「ご、ごめん…気安かったよね」

腐川「ち、違くて! いや、その、えと、んぎっいいいい!」ガリガリ!

苗木「うわぁ?!」

腐川「はぁ…はぁ…と、とにかく! あんた風邪を引いてるんでしょ!?」

苗木「う、うん」

腐川「じゃ、じゃあ…これ…あげる…」すっ

苗木「あ、これ…冷えピタ…?」

腐川「そ、そうよっ…それ貼って寝ときなさい…!」

苗木「これを持ってきてくれるためにわざわざ…?」

腐川「そうだけど!? なんか文句でもあるわけ!?」

苗木「…ううん、ないよ。感謝してる、本当にありがとう」

腐川「うっ…なによその笑顔…頭おかしいんじゃない…」ガリ

苗木「あはは」

腐川「と、とにかく…! あたしはもう帰るから…! 寝ときなさいよ! いいわね!?」

苗木「うん! なんていうか、ありがと」

腐川「くっ…眩しい笑顔…!」パタン

苗木「……まさか腐川さんも来てくれるなんて」

苗木(あれ? 冷えピタの箱の中に違うのが入ってるぞ…?)ごそごそ

苗木「これは…レシピ本? なんでこんなものが…」

苗木「しかもボクの好物な料理ばかり…」パラパラ

苗木「うーん、腐川さんが入れておいてくれたのかな」

苗木「…とりあえずこれを読んで暇をつぶそう」

苗木「なんだか喋りすぎて、頭が冴えちゃったよ」ゴソゴソ

苗木「……」

苗木「って、違う!? あの二人は!?」ばっ!

苗木「ちょっと二人とも!? なにやってるの!?」がちゃ

セレス「あら」

舞園「ドロップ…くぅ…全然読めない…」

苗木(トランプしてる──!!)

セレス「終わりましたの? 来訪者はもう居ないのでしょうか?」

舞園「苗木クン…身ぐるみ剥がされそうな勢いだよ…ぐすん…」

苗木「い、居なくなりましたけど…舞園さん、とりあえずやめたら…?」

舞園「ですよね…」

セレス「うふふ。中々のお手前でしたわ、あ、それと苗木クン」

苗木「は、はい?」

セレス「お手数ですが紅茶のカップを持ってきてくださいませんこと? 出来ればシャワー室に」

苗木「いいですけど…まだ居座るきなんですか」

セレス「心配なのです。苗木クンのご状態が」

苗木「…まあ良いですけど」

舞園「あ、私が持ってきます! 苗木クンはベッドで寝ててください」

苗木「そ、そう?」

舞園「はいっ!」

苗木(この笑顔に、それよりも帰ってくれなんて言えない…)

コンコン

舞園「え?」

セレス「まぁ。またどなたか来られたようですわ」

苗木「今日はいっぱい人が来るなぁ…また二人の事は?」

セレス「ご内密に。舞園さん、お早めに回収を」

舞園「は、はい!」

~~~

苗木「今開けるよ…誰かな──」

朝日奈「やっほー! 苗木、元気ー?」

苗木「あ、朝日奈さん」

朝日奈「えへへー。お見舞いにきたよ、風邪引いたんだって?」

苗木「うん…ごめんね、心配かけたかな」

朝日奈「そうだよ~? あ、ホラ私って風邪引いた事無いからわからないけれど」

朝日奈「キツイもんなんでしょ? 苗木の顔色悪いし」

苗木「風邪を引いた事無いって…凄いね、朝日奈さん」

朝日奈「まね! いっつも身体動かしてれば風邪なんて引かないよ! 病原体も白血球でイチコロだよ!」

苗木「あはは…」

朝日奈「…えーと、今は一人?」

苗木「えっ? な、なんで?」

朝日奈「あーうん、実はさっきから様子をうかがってたんだけどね」

朝日奈「みんながそろって苗木の部屋に行くもんだから、なかなか来づらくってさ~」

苗木「そうなんだ、うん。今は一人だよ」

朝日奈「そっか~! そっかそっか、うんうん」

苗木「……」

朝日奈「……」

苗木「…えっと部屋の中に入る?」

朝日奈「えっ? いいの?」

苗木「う、うん。なんだか入りたそうにしてたし…」

朝日奈「そ、そんなことないって! もう違うよ苗木ー!」

苗木「そ、そう?」

朝日奈「んー……まぁ、苗木が良いって言うのなら入っちゃおうかな~」

苗木「出来ればボクも誰か居てくれた方が嬉しいんだ。目もさめちゃったしさ」

朝日奈「ホントっ? いいの?」

苗木「どうぞどうぞ」

朝日奈「えへへーおじゃましまーす」

苗木「よいしょっと」ゴソ…

朝日奈「なんだかいっぱいモノがあるね…抱き枕!?」

苗木「あ、うん。山田クンが持ってきてくれたんだ」

朝日奈「うげぇー…なんてものを…」

苗木「手作りらしいよ」

朝日奈「手作り!? 器用だねー山田も…あれ? ポカリに冷えピタ、後はレシピ本?」

苗木「うん。見てたのなら知ってると思うけれど、皆が持ってきてくれたんだ」

苗木「ただ風邪を引いただけだって言うのに、あはは、こんなにも心配してくれるなんて」

朝日奈「…ふーん」

苗木「こうやって朝日奈さんもきてくれたのも、感謝してるよ」

朝日奈「えっ!? そ、そっか…感謝してるんだ…」

朝日奈「…あ、あのさ」もじもじ

苗木「どうしたの?」

朝日奈「えーっと…そのね、苗木…なんかして欲しい事、ある?」

苗木「え? どうしたの急に?」

朝日奈「えっ!? あ、うん…なんか普段から苗木には特訓とか訓練とか一緒にやってくれるし…」

朝日奈「その…なんかやれてあげたらなぁーって…思っちゃったりしてて…」

苗木「良いよ気にしなくて。ボクが好きでやってることだし」

朝日奈「す、好きで?」

苗木「うん。朝日奈さんとかけっこしたり、特訓してると楽しいしさ」

朝日奈「苗木…」

朝日奈「……っ! そっか、じゃあ尚更だよ!」

苗木「えっ?」

朝日奈「な、苗木にはもっと楽しくなってもらいたい! 私だって…苗木とかけっこするの楽しいし…」ちょんちょん

朝日奈「だから速く良くなって、一緒にかけっこしよっ! だから私に出来る事があったらなんだって言って!」

苗木「ちょ、ちょっと朝日奈さん! おちついて…!」

朝日奈「私は落ち着いてるよっ! 苗木! 何かして欲しことは──きゃっ!」

ぽすんっ

苗木「だ、大丈夫? 急に倒れたけれど…」

朝日奈「ご、ごめん…ベッドに寝てる上から倒れて、なんだろ急に気当たりを感じて…ハッ!?」

朝日奈(これは廊下から感じる気配は…もしかしてさくらちゃん!?)

~~~

大神「…フッ、頑張るのだぞ朝日奈」すたすた…

~~~

朝日奈(このタイミングで気当たりをぶつけてくるなんて…どうしてそんなことを…)チラッ

苗木「…?」

朝日奈(っ!? 顔が近いよ! って、あれ? このまま看病してあげればいいのかな…?)

朝日奈(もしかしてこの為にさくらちゃんは…が、頑張るよさくらちゃん!)ぐっ

朝日奈「な、苗木…」ぎしっ

苗木「あ、うんっ」

朝日奈「何かして欲しい事、ある…?」

苗木「べ、別に何もないけど…とりあえず朝日奈さん顔が…」

朝日奈「…うん、知ってる」

苗木「え…?」

朝日奈「わかってる…ちゃんとわかってて近づけてるんだよ…?」

苗木「ど、どうして…」

朝日奈「ごくん、そ、その…」

苗木「……」

朝日奈「…うん、なんだろうね」

苗木「朝日奈さん…?」

朝日奈「……」

朝日奈「んっ!」ひょい

苗木「わっ」

ぎしっ! ぎしぎし…

苗木「あ、朝日奈さんっ? な、なにをしてっ?」

朝日奈「…寝ている苗木にまたがってる」

苗木「見ればわかるよっ! じゃなくてどうしてこんなことを…!」

朝日奈「ま、マッサージをしてあげるっ」

苗木「ま、マッサージっ?」

朝日奈「う、うん。そうすれば新陳代謝も良くなるし、疲れも取れるし、なによりもきもちいし!」

朝日奈「苗木の体調もすぐさまよくなっちゃうよ! 絶対によくなるはずだもん!」

苗木「で、でも! あんまりマッサージってされるの得意じゃないし…!」

苗木「それにほら! いまボクって汗をかいてるから…! き、汚いよ!」

朝日奈「ううん。汗はきたないものなんかじゃないんだよ、努力の結晶、苗木が頑張って病気を治そうとしてる努力の雫だよ!」

苗木(ああ、もうなにをいっても無駄な気がする!)

朝日奈「とにかく苗木! 体の力を抜いて…」そっ

朝日奈「だいじょうぶ、怖くないよ、平気だから」すすっ

苗木「あっ…ちょっと…やめ…!」

朝日奈「こうやって…んっ」ぐいぐい

苗木「だ、だめだって…! ちょ、いや待って! うぐおっ!?」

朝日奈「ん、意外と凝ってるね苗木…」

苗木「んっ…あっ…ん──!」

朝日奈「ここらへんとかどうかなぁ~」

苗木「んっ」

~~~

~~~

舞園「い、いったいなにが起こってるんですかっ!?」

セレス「わかりませんですわ。とにかく…」


『朝日奈っ…さん! そんなに押したら、だめ、だって! あっ!』


セレス「…苗木クンが喘いでいることしか確認とれませんもの」

舞園「どうして喘いでいるんですか!? なんでですか!?」

セレス「気持ちいいのではありません?」

舞園「どーして気持ち良くなってるんですかー!?」

セレス「ええ、どうしてでしょう。どうやら朝日奈さんが関係あるようにおもえますが」

舞園「わ、わたしちょっと様子をみてきます…!」

セレス「あら、だめですわ」がしっ

舞園「どうしてですか!?」

セレス「…貴女だけ行くのは十分かまいません、ですが、同時に私の姿もばれることになってしまう」「」

セレス「それだけは避けたいのです」

舞園「で、でも!」

セレス「お気持ちは十分わかりますわ」

舞園「くっ……!」

セレス「もう少しだけ様子を見ておくことにしましょう」

セレス「もしや私達が勘違いをしているだけかもしれません」


『あっ…! もっと、そのしたを…うん、そうそう…』


セレス&舞園「…!?」

舞園「今のでも勘違いになるんですか!?」

セレス「…え、ええ。そのとおりですわ、実に問題ありません」

舞園「な、なんかこおっ…凄い事になってません!? 大丈夫ですか!?」」

セレス「舞園さん、落ち着いてください。ともかく、今は不用意に鼓動してはいけません」

セレス「ゆっくりと息を吸って、吐くのです。気分が落ち着きますわよ」

舞園「すぅうううううううはぁああああああああ」

セレス(えらい気合の入りようですわ)

舞園「あ、ちょっと落ち着いて来ました…」

セレス「良かったですわ」

舞園「というか朝比奈さんが…苗木くんと仲よかったんですね…」

セレス「今更ながらですけれど、彼は何方とも仲がよろしいみたいですわ」

舞園「…そうみたいですね」

セレス「以前、あのモノクマと仲良く会話しているところを見ましたわ」

舞園「モノクマですか!?」

セレス「ええ、そうです」

舞園「そ、それって…」

セレス「はい、わたくしももしやモノクマとグルなのではないかと疑ったこともあります」

セレス「──ですが聞き耳を立ててたところ、会話内容がどうもあやふやで」

舞園「あやふや…?」

セレス「ええ、帝王学について語っていると思えば、急にもやし料理の話になり

セレス「味付けの話になったと思えば共通のブランドの話」

セレス「はたまた甘いお菓子の話になれば、映画の感想を言い合ったりと…」

セレス「まあ一方的にモノクマが喋り倒しているだけだったのですけれど、」

セレス「苗木クンが何ら滞り無く絵話をスムーズに行なっていましたわ」

舞園「すごいですね…主に苗木君が…」

セレス「彼は誰とも仲良くなれる力を持っているようですわね」

舞園(確かに…このセレスさん相手でも仲良くなれてるわけだし…)

セレス「なんか失礼なことを思われてませんこと?」

舞園「い、いえ!」

セレス「ともかく、今や彼に対して一人の敵は居ないと見たほうがよろしいかと」

舞園「な、なるほど」

セレス「そう。彼には敵が居ない…それはつまり」

舞園「……」

セレス「……」


(──自分が全員に対して、敵ってことかー!)

セレス「……」

舞園「……」

セレス「舞園さん。誰かに助けをもらい、援助してもらうとお思いにならないことを助言しておきますわ」

舞園「…はい、そのとおりかと思います」

セレス「はい」

舞園「じゃあ…ひとつ思ったことがあったんですけど」

セレス「なんでしょう?」

舞園「セレスさんは…どこまで苗木君と…」

セレス「……」

舞園「えっと、その…いってるんですか…?」

セレス「……」


セレス「キスまでですわ」

舞園(なんっ…!?)

セレス「彼が寝ている間にちょろっと」

舞園「ひ、ひどい! それが彼のファースト・キスかもしれませんよ!?」

セレス「うふふ」

舞園「なんてことをっ…き、ききキスって…!」

セレス「あら、もしかして舞園さんは…されてないのですか?」

舞園「も、もちろんですよ!」

セレス「それはまぁ…ご愁傷様としか」

舞園「べ、別にキスなんてしなくたって…き、気持ちが通じ合うことが大切なんです!
   そんな不意をついたキスなんてカウントはナシです! 無意味です!」

セレス「彼の唇は柔らかく、そして水気を帯びてましたわ…」

舞園「やめてー! あー! あー!」

セレス「そっと唇を奪った時、なんとも言えない高揚感が──」

『あ…ごめん!』


セレス「ん…?」

舞園「あー! あー!」

セレス「ちょっと静かに。何か様子が変ですわ…」そっ

舞園「あー、え? どうしたんですか?」

セレス「なにやら起こったようですの」


『ご、ごめん…』

『……』

『決してわざとじゃないんだ、謝っても許してもらえないかもだけど…』

『えへへー』

『あの…』

『んーん、いいんだよー苗木~……うん、今のは事故ってことで』

『──間違って唇があたっちゃっただけ、そうでしょ?』

セレス&舞園「なんっ!?」

セレス「い、いまままっ…今のは!? なんですの」

セレス&舞園「なんっ!?」

セレス「い、いまままっ…今のは!? なんですの!?」ぐいぐいぐい

舞園「おち、おちち、落ち着いてセレスさん!」

セレス「く、くちっ! 唇が! あたたって! いってててて!」

舞園「表情がモロに出てますよ! 落ち着いて!」

セレス「はぁっ…はぁっ…」

舞園「はぁっ…私もびっくりしたのに、今のセレスさんの反応で吹っ飛んじゃいましたよ…!」

セレス「──行きますわよ」

舞園「えっ?」

セレス「乗り込みますわ! わたしだって緊張して彼が寝ている間にしかできなかったのに…ッ」

舞園「せ、セレスさん?」

セレス「いちにのさん、でドアを開けますわ。ご用意を」

~~~

苗木「……」

朝比奈「あのさー…苗木…」ちょん

苗木「う、うん」

朝比奈「…今のって、さ。唇がそのー触れちゃったわけじゃん…」

苗木「そ、そうだね」

朝比奈「ど、どおだった?」ちらっ

苗木「どうだったって…」

朝比奈「その~えっとね、えへへー」

朝比奈「苗木的には…嬉しかったり、する、のかな?」

苗木「そ、それは! その…うん、女の子と事故でもキスできちゃったら…」

苗木「…嬉しいかな」

朝比奈「っ! そ、そっかー! そうなんだー! へぇーふぅーん」

苗木「ううっ…そんなに見ないでくれないかな…」

朝比奈「あれ苗木てれてるのっ?」

苗木「そりゃ照れるよ…! だって、朝比奈さんは…可愛いし」

朝比奈「えっ」

苗木「そ、そのっ…こうやってベッドの上でくっつきあってるのも…正直、男として…うん」

苗木「いいなって、思ってる…かな」

朝比奈「「な、苗木っ! それちょっと…エッチだよ…」

苗木「ううっ! わ、わかってるよ! わかってるけどさ!」

朝比奈「…意識しちゃってるの?」

苗木「…ちょっと」

朝比奈「ひゃっ…しょ、しぉなんだっ…」

苗木「……」

朝比奈「……」

苗木「あの、さ」

朝比奈「あ、うん! なに苗木!?」

苗木「う、うん。ボクってほら、頭が悪いから間違ってたら教えて欲しいんだけど…」

朝比奈「っ……」ドッドッド

苗木「──朝比奈さんってボクのこと好…」

「それは違いますわ」バン!

苗木「、ってあれ!?」

朝比奈「ひぁー!?」

セレス「苗木クン。彼女は別に貴女に好意を寄せているわけではありません」

苗木「セレスさん! え、そうなんですか…?」

朝比奈「どどどどどゆことー!? なんでセレスちゃんがここにいるわけ!? てか…」

舞園「あはは…」

朝比奈「舞園ちゃんまで! ふたりとも…もしかしてずっとそこに…?」

セレス「勿論ですわ。貴女が苗木君と間違って、間違ってキスをしてしまう所も確認済みですわ」

朝比奈「ぎにゃ───!!!」

セレス「苗木クン。忘れてはいけません、ここは閉ざされた世界ですわ」

苗木「う、うん」

セレス「しかもコロシアイを勧められる異常な空間。常に危険が伴っている…」

セレス「…そのような場合、普段は感じることのできない些細なものまで…過敏になってしまうものです」

苗木「そうなのか…」

セレス「ええ、今貴方が感じる思いも…また勘違いですわ」

セレス「それは彼女のからの優しさに触れ、自分に好意を寄せていると思ってしまう──ただの思い過ごしでしかありません!」

舞園(まあよく堂々と…)

朝比奈「ちょ、ちょっとセレスちゃん!? さっきから黙って聞いてれば…!」

セレス「あら。なんですの」

朝比奈「べ、別に私は苗木に勘違いさせるつもりで…こんなことしてるわけじゃないけど!」

セレス「そうなのですか。では、どのような意味を込め…このよゆなことを?」

朝比奈「そ、それは!」

朝比奈「そにょは…うにゅにゅっ…」ぷしゅー!

セレス「ふん、どうして堂々と仰られないのですか? つまり、自信がないと?」

朝比奈「ち、違うもん!」

セレス「でははっきりと申し上げてください。何がどのようなことで、このようなことを?」

朝比奈「だからっ…!」

セレス「もう一度言いましょうか。貴女もまた、勘違いをしているのではないでしょうか」

セレス「この異常な空間に侵され、思いもしない感情に突き動かされ…ここにいる」

セレス「──貴女が思うその想いもまた、思い過ごしなのでは?」

朝比奈「なっ…! そんなことありえないよ! これはホントに私の気持ちなんだから!」

舞園「せ、セレスさん…そのへんにしておいたほうが…」

セレス「何を悠長なことを…貴女はいいのですか」

舞園「え…」

セレス「朝比奈さんは一歩、苗木君との距離を詰めているのですよ。わたくしたちよりも、さらなる一歩を」

舞園「っ…!」

セレス「わたくしは見過ごすわけにはいけいません。今後どうなろうと、引き離して見せますわ」

舞園「……」

朝比奈「ま、舞園ちゃん! なにか言ってやってよ!」

舞園「…朝比奈さん」

ゆらぁ…

舞園「──私もそう想いますよ、ええ、きっとそれは勘違いだと想います…くすくす」

朝比奈「ま、舞園ちゃん…?」

舞園「だってほら、朝比奈さんの練習に付き合ってくれるのは…大神さんと苗木君」

舞園「これって必然的とは言わなくても、ある程度親しくなって…そこから勘違いのしやすいことになるかもしれませんよね?」にこり

朝比奈「そ、そんな…!」

舞園「くすくす」

セレス(──読み通り、流石ですわ舞園さん。貴女は人を貶める才能がある)

セレス(普段は柔らかい雰囲気に押し隠しているようですが、いざ、このような現場になたっとき──)

セレス(──ピカイチの実力を発揮する)

舞園「そういえば朝比奈さんって、シモネタ…がお嫌いだったですよね」

朝比奈「えっ…なにを急に…」

舞園「そういったものに敏感な貴女が、よく苗木クンが寝ているベッドの上に乗ることができましたね」

舞園「あ、もしかしてそれって…キャラ作りですか?
   ああ、わかりますよ。私もアイドルやってますし、そういった子はたくさん見て来ました」

舞園「普段の自分を隠して、相手に擦り寄る…なかなか出来る芸当じゃありませんけどね」にっこり

セレス(よく貴女が堂々と…)

朝比奈「ち、違うよ! 違うもん! 本当に私は下ねたとか嫌いで…!」

舞園「無理されなくても良いんですよ、私たちはわかってますから」

セレス(さり気なくわたくしも含まれましたわ…)

舞園「──貴女が本当はえっちいことが大好きな、可愛い可愛いスイマーだってことは…ね」

朝比奈「っ…!」

舞園「くす、くすくす…ふふっ」

朝比奈「ち、ちがっ…ホントに私はっ…そんなの、ぐすっ…ちがうくて…!」

セレス(気の毒に…)

セレス(これは舞園さんの空気に侵され埋め尽くされるのも時間の問題ですわね)

セレス(時間と様子を見て、日を改め行動を移しましょう。残念ですが朝比奈さんはここでリタイア───)



「──それは違うよ」

セレス「っ…!?」

舞園「え…なんですか…?」

朝比奈「ひっぐ…ぐすっ…」


「それは間違ってる。間違っているんだ、前園さん」


苗木「──彼女は本当に下ネタは嫌いなんだ、それはボクにだってわかる」

舞園「な、なぜそう言い切れるんですか? 私が言ったことは別に間違ってないはずです…!」

苗木「うん。そうかもしれないね、けれど、そうだとは言い切れないんじゃあないかな」

苗木「例えばほら。ボクに掛かっている掛け布団をみてごらん」

セレス「掛け布団…?」

苗木「そう、これって《ボクにかかったままでしょ?》 汗が凄かったから、薄い毛布だけを使ってたのに」

苗木「今は分厚い掛け布団を使っている。これがどういう意味か…わかるかい?」

苗木「朝比奈さんはボクにマッサージを行っててくれたんだ。二人は声を聞いてたからわかってるよね?」

セレス「はい、知ってますわ」

舞園(しれっと答えた…)

苗木「彼女はマッサージを行なっていただけ、ベッドに上がってきた時もそう言ってたしね」

苗木「そこで彼女は押入れから掛け布団を取り出しボクにかぶせた。つまりはそう…」

苗木「ボクとの接触を極力抑えるためだったんだ」

舞園「…ッ!」

苗木「確かにベッドに上がる自体は破廉恥なことかもしれない。けれど、彼女はボクに心配をしてくれていた」

苗木「自分にできることがあったらやりたい。それが彼女の行動原理だ、そうでしょ朝比奈さん」

朝比奈「う、うんっ…」

苗木「そこでマッサージだった。他に出来る場所はないし、地べたでするのは衛生面を考えるとやりにくい」

苗木「だからね、舞園さん」

苗木「彼女がベッドの上にいるからだけで──彼女がえっちなのかは断定できないんだよ!」

舞園「うぐっ!?」パリーン!

セレス(ミッションコンプリート…)

苗木「それともう一つ付け加えておくけど…さっきのセレスさんの言ったこと」

セレス「なんでしょうか」

苗木「異様な空間だからこそ、勘違いもする。って奴」

苗木「それも間違っていると思う。いや、正確には間違っていないんだろうけど」

セレス「間違っている? なにを根拠に…」

苗木「あはは。だってセレスさんが証明してくれてるじゃないか」

セレス「なんですって…?」

苗木「あのさ、どうしてセレスさんは…ボクのところに来たのかな?」

セレス「…それはお見舞いに」

苗木「うん、それは本当に感謝してる」

苗木「だけど、えらく余裕だよね? 人の風邪を心配してくれるなんてさ」

セレス「っ…!」

苗木「それってつまり──異様な空間の中でも日常的に居られている、ってことじゃあないかな」

セレス「ですが、わたくしと朝比奈さんは考え方が違いますわよ」

苗木「いや、一緒だと思うんだ」

苗木「何も違うことはないはず。セレスさんも朝比奈さんも、そして舞園さんも」


苗木「──ボクのことで言い合っている、ただそれだけじゃあないか」


セレス「……時折、苗木君。あなたはそう良くも悪くも自分を客観的に見れますわね」

苗木「あはは。なんていうか、色々とこの場所で鍛えられたからね」

セレス「つまりは、なんですの? あなたはこう言いたいのですか」

セレス「ただわたくしたちは──苗木誠クンを求め喧嘩しているだけ、つまり」

セレス「痴話げんかにもならない、恋のおままごとをしている余裕があるがために──一般的な思考でいられると」

苗木「そ、そこまで言うつもりはなくて! ち、違うよ!」

セレス「ふふっ」

セレス「──堂々とされてください、ですわ。苗木君」ずい

苗木「え…」

セレス「お見事ですわ。ロンパされてしまいました、負けですわたくしの」

苗木「負けって…」

セレス「流石ですわ。流石は…わたくしが見込んだ人間、もといわたくしの奴隷」

苗木「奴隷!?」

セレス「くす、なんともこうも容易く見破られてしまうとは──
   もしわたくしが今後、クロになった場合、貴方に見破られるのもなかなか悪くありませんですわ」

苗木「へ、変なこと言わないでよ…!」

セレス「冗談ですわ」ニッコリ

苗木「と、とにかく! 舞園さん! 朝比奈さんが…その、下ネタが嫌いだってことを認めてくれないかな?」

舞園「はい…」

朝比奈「……」

舞園「その、ごめんなさい…ひどいことを言ってしまって…」

朝比奈「…いいよ別に、大丈夫。そう思われても仕方ないって思うしさ」

舞園「……」

朝比奈「舞園ちゃんも色々と考えて、悩んでそう言ったんでしょ? だったら、私だって怒れないよ」

舞園「朝比奈さん…」

朝比奈「えへへー。よし! じゃあ仲直りにドーナッツでも食べよっか! 食べるとふわふわーってお互いの中もばっちり修復だよ!」

舞園「…はいっ!」

苗木「ふぅ…良かった…」

セレス「あら、何もよくありません。苗木君」

苗木「え…? どうしたの急に」

セレス「このような状況に安穏な現状は継続されるtこは…ないのでしょうね」

苗木「ど、どういうことっ?」

セレス「ふふ、こういったところは抜けている。ますます気に入りましたわ」

セレス「──苗木君、朝比奈さんの距離を確認してみてはどうでしょう」ぼそっ

苗木「距離って…うっ!?」

朝比奈「あんドーナッツってのが美味しくってね!」むにゅっ

苗木「なっ…なななっ…!」

セレス「ふふふ。何やら至福の膨らみを…」

苗木「な、なんで…」

セレス「彼女自体は気づいてないようですわね。ですが、無意識に距離を詰めているようですわ」

苗木「ひぁあ!」

セレス「そして彼女も」

舞園「えっ? そうなんですか?」

苗木「っ!?」ぎゅっ

セレス「…寝ている苗木君の足の親指をいじってる様ですわね、彼女の場合、無意識かどうかはわかりかねますが」

苗木「ど、どういうこと!? これって!?」

セレス「こういうことですよ、苗木君」

ちゅっ

苗木「……え?」

セレス「……今は、わたくしが出来るポーカフェイスというもは」

セレス「貴方の頬に──口付けをするぐらい」

セレス「いつかはきっと、貴方からわたくしに忠誠の口付けを──させてみせますわ」

セレス「…ね?」

苗木「うっ…あっ…」ボッ!

セレス「くす」

セレス「いずれと二人も、このように大きくアピールしてくることでしょう」

セレス「それまでにはわたくしも、貴方の心を射止めなくては」

苗木「……」

セレス「じっくりと思考を巡らせておくべきですわ。くすっ」

苗木「セレスさん…」

セレス「なんですの」

苗木「ど、どうしてボクはこんなにも…みんなから、好意を寄せられるのかな…」

セレス「……」ぽかーん

苗木「ボクはこんな人間なのに…それがよくわからなくて…」

セレス「…これはこれは、なんていったらいいんでしょう」

セレス「ここで苗木君。貴方を落とすべきだと判断しましたわ」

苗木「えっ…?」

セレス「…今、二人は前方を向いて話を聞いてないようですわね。はい、では苗木君…こっちに」

苗木「ちょ、ちょっとセレスさん!?」

セレス「こちらを向いてください。二人はまだ声に気づいてません…」ぐいっ

苗木「何をする気なの!?」

セレス「フレンチキスですわ」

苗木「なんで!?」

セレス「深い思いを確かめ合うがために──今宵のわたくしは少し、大人になります」

苗木「あっ…だ、だめだってば…ちょっとセレスさ──」

ぱしっ

セレス「んむっ」

舞園「…なにをやってるんですか」

セレス「ふむ、おしかったですわ」

舞園「惜しかったじゃないですよ! 二人してっ…それに苗木クンも! なんで抵抗しないんですか!」

苗木「ち、違うんだ! ちゃんと抵抗したんだけど…!」

舞園「いーえ! 違います、全然してなかった!」

苗木「ほんとだってば…!」

朝比奈「な、苗木…今ホントにき、キスしようとしてたの…?」

苗木「あ、朝比奈さん! 確かにそうだけど、何故か身体の自由が効かなくって!」

セレス「まあ…苗木君、貴方は女性に恥を欠かせるきですの…?」

苗木「恥も何も自分からやってきたよね!?」

舞園「どっちにしたって苗木君は迎え入れたってことですよね!?」

セレス「そうですわ」

苗木「そこはボクに答えさせて!」

朝比奈「そ、そうなんだ…苗木って色んな子とすぐにキスできるんだ…そうなんだ…」

苗木「ま、まって朝比奈さん! 誤解だよ! すっごく誤解だよ!」

舞園「ううっ…! 本当になんなんですか! 苗木クンも、セレスさんも!」

セレス「わたくしはただ、フレンチキスをぶちかまそうとしていただけですわ」

舞園「それがダメだって言ってるんです!」

朝比奈「え、フレンチキスってなに…?」

苗木「…お、大人のキスかな」

朝比奈「何やろうとしてたのセレスちゃ───んっ!?」

セレス「いいではないですか。別に後ろで愛しあう二人が大人の階段を登ろうと」

朝比奈「愛し合ってるの!?」

苗木「違うよ!?」

舞園「違いますよね!?」

セレス「違いません」

苗木「違うよッ!?」

舞園「っ……だ、だったら! 私も証明して見せます!」ばっ

舞園「苗木クン!」

苗木「は、はいっ!」

舞園「わっ…わたしと! キスをしてください!」

苗木「ど、どうして!?」

舞園「なんでもです! じゃなかったら拗ねちゃいますよ!」

苗木「ううっ…拗ねないでほしいな…」

舞園「でしょう!」

朝比奈「うわぁーなんか舞園ちゃん必死…」

セレス(自分だけしてないのですものね)

苗木「で、でもさ! それってその…好きになったり、付き合ったりしてからするものじゃないか…」

舞園「じゃあ舞園さんとセレスさんは何なんですぅ!?」

朝比奈「えへへー」

セレス「くすくす」

苗木「そ、それはっ…事故っていうか、って待って! 朝比奈さんはともかくセレスさんもって!?」

舞園「そんなことはどうでもいいの! 今は私の話をしています!」

苗木「おおう…」

舞園「してくれるんですか、してくれないんですか」

苗木「そ、それはっ…」

舞園「……」

苗木「っ……だ、だめだよ。みんなも見てるし、それにそういうことはできないよ」

朝比奈「苗木…」

セレス「ふっ」

舞園「………」

舞園「…そう、ですか」

舞園「…そうなんですね、わたしにはできない、二人にはできて私にはできないそれってもう嫌われているのも当然よねそうよ嫌われて当然だよ私
    がアイドルになったのは周りの人に認めてもらいたくて仲間と一緒に仕事を頑張って達成感を得るためで初戦は自分のことだを考えて生き
    て来たしょうもない人間には苗木君からのキスのひとつももらえないのは当たり前いだよねきっとこれからも私はずっと好きな人からキスを
    してもらえないくて一生を過ごすんだろうな何も得られず仕事に生きてすべてが終わるまでひとりぼっちで生涯を迎えてすべてを呪いながら
    呪詛をつぶやきながら死んでやるんだからそうだそうよじゃあもう壊しちゃえばいいじゃないクロになって壊しちゃってすべてを台無しにすればいいじゃない」

トイレ

朝日奈(う、うわぁ…)

セレス「……」

苗木「えっ? あれ…舞園さん…っ?」

舞園「もういいんですわかったんですこの世に希望はありません絶望だけです陥るべきです幸せなんて」

苗木「舞園さん!?」

舞園「あははははなんて簡単なことだったんだろそうだよね絶望が全てすべて黒く黒く塗りつぶして」

苗木「っ…」


《──うぷぷぷ》


苗木「くっ…ごめん、舞園さん!」くいっ

ちゅっ

舞園「全世界を絶望に、んむっ」

苗木「…ぷは」

舞園「…え、あれ…これって…」

苗木「そ、そうだよ…キスだ」

舞園「………」

舞園「っ」

苗木「そ、そうだよ…キスだ」

舞園「………」

舞園「っ~~~~~!?」ポッヒュー!

苗木「ボクはね、舞園さん…君が別に嫌いなわけじゃないんだ」

苗木「ただ、こういったことは順序良く付き合いをしてからのほうがいいって思うんだ」

舞園「はい…」ぽやぁ

苗木「それにさ。舞園さんは…超高校級のアイドルじゃあないか」

苗木「恋や人間関係に人一倍気を使ってる君に…ボクは安易に行動することはダメだって思ってるんだよ」

舞園「そ、そこまで考えてくれてたんですね…!」

苗木「う、うん。だって大切な仲間じゃないか…ね?」

舞園「苗木君…!」

セレス(流石ですわ…下げておいて後に上げる。常套句ですれけど、本当に天然スケコマシですね)

セレス(キスまでしておいて、さり気なく仲間アピールで距離感をおいてる所がまさしく)

舞園「私ちょっと深く考えすぎてました…ごめんなさい、苗木君」

苗木「あはは。いいよ、誰にだって間違いはあるから」

舞園「はいっ」

朝比奈「苗木…」

苗木「あ…」

朝比奈「……」

苗木「その、えっと、ごめん…」

苗木「本当は朝比奈さんの言うとおり…ボクは誰にだってすぐにキスの出来る人間なのかもしれない…」

朝比奈「……」

苗木「…最低だって思うのなら、うん、思ってくれていい。そういったことはもう変わらないから」

朝比奈「それが…苗木ってこと?」

苗木「…うん」

朝比奈「……そっか」

朝比奈「えいっ」ちゅっ

舞園「」

セレス「まあ」

苗木「っ!?」

朝比奈「っ…えへへーしちゃったっ」

苗木「ど、どうしてっ?」

朝比奈「だ、だめなんだぞー? そういった事を…女の子に言っちゃ」

苗木「え…?」

朝比奈「苗木はさ。こう何か…守ってあげなくちゃいけないような、そんな雰囲気があるんだよね」

朝比奈「常に危ういところにいるっていうか…だけど強く前を見続けてるっていうか…」

朝比奈「なんかね、そんな苗木と一緒にいると…私までがんばろー! って思えてきて」

朝比奈「だから一緒に私も…苗木と頑張って行きたいって、思ってるんだよ…?」

苗木「朝比奈さん…」

朝比奈「えへへー。つまりそういうこと! もーまんたい! 苗木がそうだからって、嫌ったりしないよ!」

苗木「本当に…いいのかな…?」

朝比奈「もぉーいいんだって! …ていうか、さっきのキス…痛くなかった?」

苗木「えっ? いや痛くなかったというか、気持よかったというか…!」

朝比奈「ひぇっ!? 気持ちよかったの…?」

苗木「あ、うん!」

朝比奈「そうなんだぁー…えへへー……」によによ

舞園「…苗木君」

苗木「はいィ!?」

舞園「幸せそうですね…きっと幸せなんですよね…」

苗木「そ、そうかな…」

舞園「…私は一度だけなんですね、朝比奈さんは二度目なのに」

苗木「うっ」

朝比奈「ちょっと舞園ちゃんも落ち着きなよ。もう一回してもらえばいいじゃん。ね? 苗木?」

苗木「そ、そうだね……えっ!?」

朝比奈「え、ダメなの?」

苗木「だ、ダメなのって…! え、いいの!?」

朝比奈「私は別に好きならすればいいじゃないかなぁって…そういうもんじゃない?」

苗木「わ、わからないけど…多分それは正しいことじゃないっておもう!」

朝比奈「そっかなー? 好き同士ならいいって思うけど…」

苗木(もしかしてさっきから否定的だったのは…好き同士なのかわからなかったから!?)

舞園「じゃあ…しよっか、苗木君…」すすっ

苗木「えっ…ちょっと待ってよ! こうも連続で、その、されると身体が持たないっていうか…!」

舞園「大丈夫です、今度は私がリードしますから…」ぐいっ

苗木「ちょっと待ってぇー!」

セレス「えいっ」

苗木「んむ─────!!!??」

ちゅるるるるるっるうるるるる

舞園「っ…!?」

朝比奈「えっ!?」

苗木「ぷはぁっ! ちょ、セレんっ!」

セレス「んっ…はぁ、ちゅっ」

ちゅっちゅっ 

舞園「はわわわっ…!」

朝比奈「」ぷしゅー

セレス「んっ…」すっ

苗木「っ……っ……」

セレス「…ご馳走様ですわ」

舞園「い、今! 今! 今! 今! なななななななにを!?」

セレス「フレンチキスをしましたわ」

朝比奈「苗木ィー! た、大変! 苗木が白目向いちゃってる!」

セレス「それは大変ですわ!」

舞園「大変ですよ! 大変なことをしてくれちゃてますよ!」

朝比奈「だ、大丈夫苗木っ…?」

苗木「あ…あ…」

セレス「お互いに激しい舌使いでしたものね」

舞園「セレスさん…っ」ゆらり

セレス「!」サッ

朝比奈「ちょっとそこの二人! いいからちょっと苗木の看病!」

舞園「っ…大丈夫ですか苗木クン!」

苗木「あ、あれ…ボクは一体…」ちらっ

セレス「……」

苗木「セレスさん…?」

セレス「……っ…」ドキ

セレス「……」ぷいっ

苗木(…? 口元を隠して、頬が赤い…? どうしたんだろ──って)

苗木「ああっ!? ええっと、うわぁあ…!」

朝比奈「苗木!?」

舞園「ど、どうしようっ…意識が混濁してるんじゃ…人工呼吸ですね!」

朝比奈「あ、それなら私得意!」

舞園「ダメです! 私がやりますから!」

朝比奈「だめだよ! 経験がないと肋骨がバッキバキに折れちゃうこともあるんだから!」

舞園「それは朝比奈さんの馬鹿力のせいだよ!」

朝比奈「なにおーっ!」

苗木「ちょっとふたりとも…落ち着いて…」

こんこん

セレス「…あら?」

苗木「え…誰だろ…」

セレス「……………」

舞園「私がします!」

朝比奈「私がするんだってば!」

セレス「……ふたりとも静かに」

舞園「早くそこをどいてください!」

朝比奈「ダメだってば!」

セレス「………」

セレス「良いから黙れって言ってんだろォ──がッッ!!」

舞園&朝比奈「っ…!」

セレス「ですわ」ニコリ

セレス「誰かこの部屋に訪れようとしてみたいですの、ここはひとまず隠れたほうが先決かと」

舞園「誰かって…」

朝比奈「そんなの無視しとけばいいじゃん」

セレス「そうですわね、ここの壁は完全防音。わたくしたちの声は廊下には響いてないはず」

セレス「──ですが、嫌な予感を感じるのです。とても、嫌な【負けの気配】を」

朝比奈「負けの気配…?」

セレス「一刻も早く身を隠したほうがいい気がしますわ。あと、わたくしたちの痕跡は消しておくように」

舞園「え、あの…苗木君は…?」

セレス「放っておきます。今の体調も風邪と押しきればなんとか誤魔化せるでしょう」

苗木「なんてご無体な…」

セレス「いえ、これは貴方のためにもなる筈ですわ」

苗木「え…?」

こんこん

セレス「! とにかく迅速に行動を!」

~~~

こんこん

苗木「どうしよう…三人は隠れたけど…体力的にドアまで向かう元気がない…」

苗木「来てくれた人には悪いけれど、ここは無視させてもらおう…」

こん…

苗木「……」

ガチャリ

苗木「……え?」がばっ

きぃ…

苗木(か、鍵が勝手に…開いた!?)

ぃぃ……

苗木(誰だ!? 誰がこの部屋に入って───)

「──あら起きてるじゃない。いい度胸ね無視をしようなんて」

霧切「まあ起きているとは思っていたけれど」

苗木「き、霧切さんっ!?」

霧切「そうよ」

苗木「なんで…というかどうして鍵を開けれたの!?」

霧切「言ってなかったかしら。この万能鍵のこと」チャラ

苗木「なにそれ…?」

霧切「モノクマから奪ったやつよ。いつかはバレて没収されるでしょうけどね」

苗木「なんて危険なことを…! 没収だけで済ましてもらえるの…っ?」

霧切「平気よ。その時になったら考えるわ」

苗木「うっ…まあ霧切さんが何も考えてないわけがないと思うけど…」

霧切「小さな脳の苗木君じゃあ到底考えられない筈ね、きっと」

苗木「…そうだね」

霧切「……えらく元気そうじゃない。風邪はもう良くなったのかしら」

苗木「元気そうに見えるの…? けっこうキツイよ今…」

霧切「そうかしら? 今朝にあったときはもっと具合の悪そうな顔色をしてたわ」

霧切「……ふむ」

すたすた

苗木「え…」

霧切「ちょっとおでこを貸しなさい」

苗木「な、なんで?」

霧切「良いから早く」

苗木「は、はい…」そっ

霧切「…よしょっと」ぴとっ

苗木「ふぇっ?」

霧切「…熱が少しあるようね、ん? どうしたの?」

苗木「い、いや! だって急におでことおでこで…熱を測るから…っ」

霧切「……っ!」

霧切「し、仕方ないじゃない。私は手袋してるんだもの…手じゃ熱が測れないの」

苗木「そ、そうだったね」

霧切「…なんだか心配して損した気分よ、もう帰るわ」

苗木「え、もう帰るの?」

霧切「ええ、貴方の元気そうなアホづらを見たらこっちまで風邪になりそうだから」

苗木「なんてひどい言い草だ…」

霧切「それじゃあ安静にしとくのよ。くれぐれも、遊びほうけることはないように」

苗木「う、うん」

霧切「それじゃあね」フリ…

苗木「……」

苗木(ふぅー…なんとか誤魔化せたかな。確かにセレスさんの言うとおりだった…)

苗木(さっきまでの状況を──霧切さんいバレたら、うぉお! 背中に寒気が!)

苗木(一体どんな氷点下な罵詈雑言を浴びせられるのか…想像しただけで…)

苗木(でもよかった…)

苗木「っはぁ~」

霧切「…」ぴくっ

霧切「…ねえ苗木君」

苗木「えっ? な、なにっ?」

霧切「…どうして今、ため息を付いたのかしら」

苗木「え、どうしたの急に…」

霧切「そうね。なんだかちょっと気になったのよ、大したことじゃないって思うのだけど」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霧切「──なにか感じたのよね、悪意が」

苗木「……」

苗木「あ、悪意…?」

霧切「そう、悪意を感じたの。誰かが誰かを騙すような、そう──言い換えれば自らクロに成り代わろうとしている」

霧切「最低で最悪の罪を背負おうとする──【悪意】を」

苗木「……っ…」

苗木「と、とりあえず霧切さん…こっちを振り向いてくれない…?」

苗木「顔を合わせ会話してないと、なんだか落ち着かなくってさ…」

霧切「苗木君」

苗木「…はい」

霧切「今日のお見舞いで、誰がこの部屋に訪れたかしら?」

苗木「えっ? なんでそなことをっ?」

霧切「答えなさい」

苗木「そ、それは…」

苗木(ど、どうする? なんかを疑っているようだ…! ここは正直に話すべきか、話さないべきか!)

苗木「っ…最初に訪れたのは舞園さんだよ」

霧切「舞園さん」

苗木「次に…桑田くんと山田くん、そしてジェノサイダー、ええっと、腐川さんだった」

霧切「桑田くん山田くん、そして腐川さん」

苗木「うん。そして最後に朝比奈さんが来てくれたんだ」

霧切「…朝比奈さん、ね」

苗木「それだけだよ。お見舞いに来てくれたの」

霧切「……」

苗木「……」

苗木(ボクはひとつ、嘘をついた。それ以外は本当だ──セレスさんだけを誤魔化した)

苗木(彼女は多分、セレスさんを疑っている。何故疑っているのか理由もわかった、それは……)

といれ@

苗木(匂いだ、彼女は普段から香水をふっている。微かに香水の匂いがこの部屋からするんだ)

苗木(窓も締め切られ換気扇もない、匂いが消えることは数日としてないはず…)

霧切「…苗木君」

苗木(だからこそ───張らせてもらう!)

苗木「ど、どうしたの?」

霧切「貴方、嘘をついたわね」

苗木「えっ…?」

霧切「この微かに匂っているもの、普段から嗅いだことのある匂いだわ」

苗木「匂い…?」

霧切「そう──これはセレスさんがよく匂わせている、匂い」

苗木「……」

霧切「この部屋に訪れたのはその五人だけでなく、もう一人居たはずよ」

霧切「──セレスティア・ルーデンベルクさん、この人が来てたはずじゃないかしら」

苗木「……」

霧切「どうなのかしら。はっきりと答えて」

苗木「……っ」

苗木「そう、だよ。うん…霧切さんのあたりだ」

苗木「確かにセレスさんはボクの部屋に来た。お見舞いに来てくれたんだ」

霧切「では、どうして嘘を?」

苗木「っ…!」

霧切「…返答によっては、私が今からする行動に条件がつくわね」

苗木(こ、怖い! だけどここは口を動かさないと…!)

霧切「……」

苗木「…セレスさんに内緒にして欲しいと言われたんだ。自分がお見舞いに来たことを」

霧切「どうして?」

苗木「秘密主義だから、だってさ。何をしても人を心配してると他人に思われたくないそうだよ…」

霧切「…そう」

苗木「セレスさんならそう言いそうじゃないか」

霧切「…確かに、そうね」

苗木「だからボクも言えなかったんだ。いくら霧切さんでも、ちゃんと秘密は守りたかったし」

霧切「…なるほど」

苗木(よし! これでいいんだ…あの霧切さんを誤魔化せた!)

苗木(ここで一番隠さなければならないことは、ただひとつ!)

苗木(──まだセレスさんたちがここにいる、ということ)

苗木(長居した事実を悟られてはいけない、だからこそ敢えて嘘をついた……そして彼女に不審がらさせた)

苗木(だけど、その謎もたいしたものじゃあない。小さなことで、しかも嘘もついていない)

苗木(聞かれたことを、答えただけ。よ、よし! ボクにしては上出来な案だった…!)

苗木「そういうことなんだ…うん、ごめんね」

霧切「………」

霧切「そして貴方は今は、一人…なるほど、ちゃんと辻褄が合うわね」

苗木「………………」

霧切「苗木君。ごめんなさい、私がどうやら勘違いしてたみたいね」

苗木「あはは、いいんだよ…ボクが嘘をついたせいだし」

霧切「ええ、じゃあこれでお暇させてもらうわ……あと、この匂いは早く取れるといいわね」

苗木「う、うん! だけどこの香水の匂いはすぐに取れそうにないよね~」

霧切「………………」

苗木「……?」

霧切「苗木クン、今なんて言ったのかしら」

苗木「えっ? だから香水の…」

霧切「そうね、たしかにそう…だけど私は違うのよ」

霧切「──そこにこぼれている、シミ…紅茶のにおいが早く取れるといいわねと……言ったのよ」

苗木「………」

苗木「……え?」

霧切「例えばそう、今」

霧切「貴方は鼻が自由に効いてるかしら?」

苗木「っ…!」

霧切「風邪を、引いてるのよね。苗木くんって」

霧切「ひとコト言っておくわね苗木君……この部屋、香水の匂いなんてしないわよ」

苗木「えっ…!?」

霧切「それに私は一言も、ただ一言も、香水という言葉は出していない」

霧切「…なぜ貴方は香水の話を持ちだしたのかしら? なぜ、それは…」

霧切「──私に簡易的なブラフを解かせるために、じゃなくて?」

苗木「そんなことないよっ…!」

苗木「か、勘違い…そう、勘違いなんだ! ボクはただ勘違いをして…!」

霧切「確かにそうも思えるわ。勘違いで済む話、だけれども…そうね」

霧切「何故貴方がそうまでして、セレスティアさんを庇うのかという疑問が頭を離れないの」

霧切「…香水、紅茶、そして秘密。何かが関係しているのよ、きっとね」

苗木「そんなの憶測じゃないか…!」

霧切「ええ、憶測よ。探偵というものは憶測で物事を推し量る、それが解決の手立ての一手」

霧切「…貴方と私の匂いの齟齬、関係があるはずよ」くるっ

苗木「っ…!」

霧切「あら…着たときは気づかなかったけれど、椅子が2つあるわね」

苗木「以前、葉隠くんが持ってきてくれたんだ…チェスをやりたいって言って…」

霧切「ふーん、そうなのね…」すっ

霧切「…熱は無い、数分間ほど誰も座った形跡は無いみたいね」

苗木「そ、そうだよ…今日は誰もその机を使ってないから…」

霧切「紅茶」

苗木「えっ?」

霧切「紅茶は? どこで飲んだの?」

苗木「そ、それはっ…! そこの台で飲んだんだ! そうだよ!」

霧切「へー」すー…ぺちゃっ

霧切「…そうなの」

苗木「っ…っ…!」ドッドッドッドッ

霧切「この机に跡が残ってるのだけれど」ぐりぐり

霧切「──2つ分のカップの底、まあるく水分でできた【跡】が」

苗木「そ、それはぁっ…!」ドッドッドッドッ

霧切「ねえ、苗木君。貴方は確かこういったわよね──今日はこの机は使われていないと」

霧切「何故嘘をついたのかしら…苗木クン?」

苗木「……………」ダラダラ

霧切「この机に残る跡、流石に数日間と残るものじゃない」

霧切「少なくとも今日、使われたということ。それもほんの数時間の間に」

霧切「…だけど大切なのはそこじゃない、そうでしょう苗木君」

苗木「………」ダラダラダラ

霧切「匂いの正体──机残った跡──セレスティアさんの秘密」

霧切「苗木クン。貴方…何かを《今隠してるわね?》」

苗木「………」

霧切「現在進行形で貴方は秘密を抱えている。終わっては居ない、全てはそう──まだ始まったばかり」

霧切「私がこの部屋に訪れた瞬間から、始まっている秘密…」

霧切「…隠れられる場所はどこにあるかしら」すっ

苗木「き、霧切さん!」

霧切「ベッドの下…居ないわね」

苗木「お願い! 聞いてよ霧切さん!」

霧切「次は…そうねシャワールームかしら」すっ

苗木「霧切さんってば!」ぐいっ

霧切「きゃっ」

ぽすっ

苗木「お願いだからっ…ちょっとボクの話を聞いてよ…!」

霧切「は、離しなさいっ」

苗木「いやだ! 絶対に離さない…!」

霧切「なにをっ…!」

ぎゅっ…

霧切「っ…!」

苗木「なんで…そんなにも怒ってるの霧切さん…!」

霧切「…それは、貴方が嘘をつくから」

苗木「……だから今日は口が悪かったの?」

霧切「……」

苗木「そう、だと…ボクは嬉しいな」

霧切「…どういうこと」

苗木「だって嫌だから、嫌われたんじゃないかって…心配になるんだ」

霧切「…私は」

苗木「ボクは霧切さんに、嫌ってほしくないよ…これは本当にそう思ってる」

苗木「ボクのことをお見通しな霧切さんなら…わかるよね、ボクの本気の言葉は」

霧切「…わからないわよ、嘘を見破ることなんて安易なことじゃないもの」

苗木「……」

霧切「ましてや…貴方のこととなれば、私はもっと…その…」

霧切「…わからくなる」ぎゅっ

苗木「そうなんだ、ボクって霧切さんにとって…えっと、すごいやつなのかな」

霧切「…調子に乗らないで」

苗木「ごめん、だけどさ。ボクはそういうの…嬉しいって思うよ」

霧切「え?」

苗木「だってそれは──霧切さんにとってボクが『特別な人間』って…ことじゃあないのかな」

霧切「特別な…?」

苗木「うん。霧切さんはすごい人だし、いろんな謎もいっぱい解き明かしてきたんだと思う…」

苗木「…だけどさ、そんな君がボクのことはわからないって言ってくれた…それは凄くボク的に…」

苗木「──とっても嬉しいことなんだ」

霧切「…貴方ドMなの?」

苗木「あはは…どうなんだろう、ボクはそうじゃないって思ってるつもりだけど」

苗木「でも、こうやって霧切さんと会話して…いろんな事を話して…」

苗木「いっぱいいっぱい…心の中を言ってくれることは、本当に心から喜んでる」

霧切「……」

苗木「だから、ね。どうか…」

苗木「ちゃんとボクの話を聞いてほしい」

苗木「そうじゃなきゃ…霧切さんが知りたい、ボクのことも…全然しれないよ?」

霧切「…馬鹿」

苗木「うん」

霧切「馬鹿ね、本当に苗木君って」

すっ…

霧切「…じゃあ教えて。貴方は何を考えてるの?」

苗木「ボクは…」

霧切「……」

苗木「ボクはずっと…変わらないよ」

苗木「霧切さんが思うボク──苗木誠という人間のままなんだ」

霧切「答えになってないわ」

苗木「そう? ボクはなってると思うよ」

霧切「…だからキチンと言葉にして」

苗木「…うん」

霧切「……」

苗木「ボクは霧切さんのことを──」


苗木「──大切な仲間だって思ってるんだ」ニコり

霧切「………」

苗木「………」

霧切「………………………」

苗木「…あ、あれ?」

霧切「…………………………………………………」

苗木(な、なんだろ…この無言の威圧感は…っ?)

苗木(なにかボク悪いこといった!? あれ!? 言ってないよね!?)

霧切「苗木君」

苗木「は、はい?」

霧切「ちょっと痛いから我慢しなさい」

苗木「えっ? ちょ、何を───」ぐるんっ!

ドシン!

苗木「痛ェッ!?」

霧切「…ふぅ」

すたすたすた

苗木「一本背負いっ…ちょ、待って霧切さん!」

霧切「待たないわ」すた…

苗木「だめだよ! あけちゃダメだ!」

霧切「……」ガチャ

苗木「霧切さっ…!」

きぃ!

霧切「………」

苗木(終わった…これで霧切さんには一切のことがバレて…嫌われてしまう…)

苗木(女の子とキスしまくる破廉恥なやつだと…もう仲間だなんて言ってくれなくなるんだろう…)

霧切「…どういうこと」

苗木「…え?」

霧切「──誰も居ないじゃない」

~~~

セレス「所変わってこっちの場面ですわ」

舞園(何を言ってるんだろセレスさん…?)

朝比奈「もぉーう! 一体誰が来るっていうの?」

セレス「多分ですが、霧切さんですわね」

舞園「き、霧切さん…?」

朝比奈「どうして霧切ちゃんが?」

セレス「…どうも最初からおかしいと思ってたのです」

舞園「え?」

セレス「あなた達はいつ、苗木君が風邪のことを──知りましたか?」

朝日奈「え、それは…今朝だよね? 確か…霧切ちゃんが教えてくれたんだけど…」

セレス「やっぱりそうですのね、霧切さんが…」

セレス「…それはおかしいですの、きっとね」

舞園「どうしてですか?」

朝日奈「そうだよ! なんでおかしいの!」

セレス「…どういう風に霧切さんから聞いたのかは知りませんが、きっとこうじゃありませんでしたか」

セレス「──廊下でばったりとあった、のような」

舞園「…確かに、そんな感じでした」

セレス「ええ、ですがおかしいんですの」

セレス「彼は昨晩からずっと部屋から出ていません。私とずっと居ましたから」

舞園「……」

朝日奈「……」

セレス「つまりは、そう。彼が廊下に出ることはありえないというわけですのって、なんですかその表情は」

舞園「いや、それよりも気になることがありまして…」

朝日奈「ずっと一緒にいたってどういうことー!?」

舞園「まぁ、そんなことですの?」

舞園「どうしてですか?」

朝日奈「そうだよ! なんでおかしいの!」

セレス「…どういう風に霧切さんから聞いたのかは知りませんが、きっとこうじゃありませんでしたか」

セレス「──廊下でばったりとあった、のような」

舞園「…確かに、そんな感じでした」

セレス「ええ、ですがおかしいんですの」

セレス「彼は昨晩からずっと部屋から出ていません。私とずっと居ましたから」

舞園「……」

朝日奈「……」

セレス「つまりは、そう。彼が廊下に出ることはありえないというわけですのって、なんですかその表情は」

舞園「いや、それよりも気になることがありまして…」

朝日奈「ずっと一緒にいたってどういうことー!?」

セレス「まぁ、そんなことですの?」

セレス「ただ単に偶然ですわ。彼とばったり廊下であっただけですの」

舞園「むぐ、それはいつですか?」

セレス「それも昨晩ですわ。それから看病をしてあげるということで、あがらせてもらいましたの」

朝日奈「それで? 一回も部屋から苗木は出てないの?」

セレス「命にかけてでも保証しますわ、つきっきりで看病したので」

セレス「普段かけている香水も、具合が悪くなるかと思いつけなかったほどですから」

舞園「そんなことがあったなんて…」

朝日奈「…でも、あれ? じゃあどうして霧切さんが苗木の風邪のことしってたの?」

朝日奈「風邪を引いたのって…少なくとも昨日の夜から、だよね」

舞園「そこでセレスさん以外と苗木君が会ってないのなら、なぜ彼女は…」

セレス「そう、そこが疑問点ですわ。なぜ彼女は風のことを知っていたのか」

セレス「それは──今朝に廊下で見かけた、という言葉が解決の糸口になるでしょう」

舞園「どうしてですか…?」

セレス「勿論ですが、つきっきりで看病したわたくしは苗木君が一回も外に出てないことは理解済み」

セレス「苗木君は今朝方まで意識が朦朧としてましたけれど、昼ごろから良くなっていました」

朝日奈「じゃ昼の間に霧切さんと出会ったんだよ! 元気になった苗木がセレスちゃんの監視の好きを狙って!」

舞園「それは、違うじゃないかな。だって話を聞いたのは…今朝の集まりだよ?」

朝日奈「あ、そっか…」

セレス「なにやら先程からわたくしに口が酸っぱくありません? まあいいですけど…」

セレス「とにかく彼女は今朝に知ったということを──強調したかったのではないのでしょうか?」

舞園「強調…?」

セレス「はい、実は以前から…彼が風邪を引くということを知っていた。ということです」

朝日奈「どういうこと…?」

セレス「まずひとつ、彼女は今朝の集まりに遅れてやってきた…でしょう?」

舞園「確かに、そのとおりです」

セレス「それは多分ですが、確認に行ったのだと思います」

セレス「何かしら影で暗躍している存在を──こっそりと」

朝日奈「暗躍…っ!?」

セレス「とりあえず2つ目にいきますわよ。彼女は今朝に風のことを知ったといった」

セレス「ですがそれは嘘、それはわたくしが証明するとして、何故嘘をついたのか」

舞園「…その暗躍する人間から知った情報を、言いたくなかったから?」

セレス「その通り。わたくしは一度だけ、苗木君に食事を用意するため倉庫に向かいましたわ」

セレス「ついでに紅茶のパックも少々用意し、また苗木くんの部屋に戻ろうとしました。これは昨晩の話ですわ」

セレス「そこで彼女を見かけたのです──焼却室から出てくる霧切さんを」

舞園「あ、確か今朝も言ってました…桑田くんと山田くんを見たって」

セレス「多分、それは嘘ですわね。アリバイを作るための作戦でしょう」

朝日奈「ど、どいうこと?」

セレス「週に代わる代わる焼却室の鍵の当番が変わるのは知ってますでしょう?」

セレス「その当番が確か山田くんだったはず」

セレス「そして彼はみかけたハズです…地面に落ちた彼女の手袋を」

セレス「彼女は予め昨晩に、シャッターの隙間から手袋を入れ込んでいたのでしょう」

セレス「ですがそれを確認するのは山田くん──今朝に当番として訪れた山田くんだけです」

セレス「彼は思うでしょうね、これは霧切さんが捨てた手袋だと。今朝に捨てた、手袋だと」

セレス「夜に出歩いてはいけないことは、みなで決めたことですから。夜に捨てたは思わない」

舞園「…もしかしてそれを使って、たまたま山田くんたちを見たとこ虚言出来ると思って?」

セレス「そんなところでしょう」

朝日奈「えっとさ…その…だんだんとよくわからなくなってきちゃったんだけど…」

朝日奈「結局は…そこまでして霧切ちゃんは何を隠したがってたの…?」

セレス「…3つ目ですわ」

セレス「これについては憶測ですが、彼女はどうやら風邪を引くことを知っていた」

セレス「それも当日ぴったり、今日という日に風邪をひくということを」

舞園「…どうしてそう言い切れるんですか」

セレス「昨晩にアリバイ工作をしてる時点で、そうじゃありませんか」

セレス「昨晩もまた、彼とは合っていない──つまりは前もって行動に出ていれている」

舞園「…」

朝日奈「確かにそうだった…」

セレス「そして4つ目──これが最大の謎だった部分」

セレス「黒幕の存在」

舞園「黒幕って…一体何の…?」

セレス「苗木君に風邪を引かせた存在ですわ」

朝日奈「えっ!? あれって誰かのせいなの…?」

セレス「ええ、そう思ってます」

セレス「──でしょう? モノクマ?」

『うぷぷぷ…うぷぷぷぅーー!!』

モノクマ「あれあれー? どおしたの三人とも…こんな狭い場所で顔を付き合わせて…」

モノクマ「も、もしや! あれですかな!? キマシターってやつですかいなっ!」

舞園「えっ…!?」

朝日奈「も、モノクマ!?」

セレス「その通り。黒幕は──そうモノクマですわ」

セレス「御機嫌如何、モノクマ」

モノクマ「んっはぁ──! なになになんなのさ! いきなりぼくを犯人扱いなんて!? プンスカ起こっちゃうよ!?」

舞園「セレスさん…」

セレス「あなたが起こしたこの──動機は、未然に防がれてしまったようですわね」

モノクマ「むー?」

朝日奈「動機って…まさか、コロシアイさせる『動機』のことっ!?」

セレス「ええ、モノクマ作ろうとしたのです──苗木君が風邪を引かせることによって生まれる、コロシアイの動機を」

モノクマ「むむむ」

朝日奈「な、なんで苗木が風邪を引いたら…コロシアイの動機になるの!?」

セレス「……」

セレス「さあ?」

モノクマ「ずっこー! なにそれ! 見破るならちゃんと見破ってよね!」

舞園「…あ、少しわかったかもしれない」

舞園「つまりはそう、彼には敵が居ない…!」

セレス「そうですね、ですが…彼を取り巻く人間たちは…みな敵です」

セレス「痴情のもつれを狙った、が正しい見方でしょうか」

モノクマ「………」

朝日奈「えっ? うっそー……つまり、私達が……コロシアイをするように…仕向けてたってこと…?」

舞園「はい、そのとおりかと思います」

モノクマ「……」

朝日奈「こんのっ…! モノクマ! なんてことを…!」

モノクマ「…うぷ」

モノクマ「うぷっぷぷ! うぷぷぷぷげらげらげらげら!」

モノクマ「だっよねー! そうだよねー! 怒っちゃうよねー! 好きな人をコロシアイの材料に使われたらぷんすかなるよねー!」

モノクマ「ぎゃっはー! いいよいいよびっくりだよ! まさか学級裁判が始まっちゃう前に見破られるなんて!」

モノクマ「これはもう皆勤賞ものだね! 金メダル級だよ! なにをあげようか? 何がほしいかな? いってごらん!」

モノクマ「まぁ何もあげないけどねぇ───!!! ぎゃぁーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

セレス「…苗木君が風邪を引いたのは、何か彼の部屋の空気中に散布させましたわね」

モノクマ「あったりでぇーす! 彼の部屋は換気を行う機能が一切ありません! なので苗木君が風を引くことは必須!」

セレス「…そうやって彼に風邪を引かせ、何人かを見舞いにくるように仕向けた」

セレス「そうですもの。わたくしが彼の部屋を訪れてから、急に具合が良くなり始めた」

セレス「つまりはわたくしが一緒に具合が悪くなることは好ましくなかった、つまり、誰かが人為的に彼に風邪を引かせようとしてる…」

セレス「そう判断しましたわ」

朝日奈「そんな馬鹿げた事ができるのはきっと…モノクマだけ」

舞園「……」

モノクマ「うぷぷ…だからキミはずっと苗木君のへやから出なかった、というワケ?」

セレス「勿論ですわ。わたくしは…彼を守ると決めましたもの」

セレス「訪れる人間を観察し、誰がどう行動に出るか…監視するべく、
    わたくしは意地でも苗木君のそばから離れるつもりはなかった」

舞園「それであんなにもシツコクあの部屋に…」

セレス「その通り。わたくしにも彼にとって邪魔になってたことはわかってましたわ」

朝日奈(ほ、ほんとかな?)

モノクマ「そっかそっかーそうなんだぁーふーん」

セレス「ですが、モノクマ。これもまたあなたの思惑通りじゃなくて?」

モノクマ「えっ?」

セレス「彼女──霧切さんの行動もまた、あなたにとっての作戦」

モノクマ「……」

セレス「私が彼女を昨晩、焼却炉室近くで見つけた時思ったのです」

セレス「どうして彼女は、ここまでの自由度があるのかと」

セレス「彼女は不自然なまでに自由すぎる。かれこれ数日とたちますが、彼女は何もお咎め無し」

舞園「それは単純に規約に反してなかっただけなんじゃ…」

モノクマ「……」

セレス「違いますわ。では、少し確認してみましょうか」きぃ…

朝日奈「ちょ、今開けたら外から見えちゃうよ!?」

セレス「多少、隙間程度に開ければ問題ありませんわ。では──確認を」


苗木「……」ぎゅっ
霧切「……」ぎゅっ


セレス&舞園&朝日奈&モノクマ「ッ……!?」

朝日奈「なっ…なにやってんの苗木!?」

舞園「なんで彼女がなんで彼女が私じゃなくて彼女が彼女が」

モノクマ「ほほぉーい! なんだかすごいことになってるねぇ~! これが確認したかったコト?」

セレス「ち、違いますわ! そうじゃなく、どうして彼女は部屋の中に入れたのですか!」

朝日奈「え、それは苗木が開けたんじゃ…」

舞園「…それは変です。だって苗木君はとてもじゃないけれど、立ち上がれる調子じゃなかった」

セレス「ええ、多分彼は見過ごそうとしたはずですわ。ですが、彼女はこうやって中に入ってこれている」

セレス「部屋の鍵は一人ひとり個人用のものが持たされているはず。
    開けるには彼の手が必要です、もしくはストッパーをかけるべきでしょう」

セレス「しかし彼女は開けられた。そうなる手段を持っている──まさにモノクマのような道具を」

朝日奈「ひみつ道具…」

舞園「そんなものがあるんですか…?」

セレス「あると思いますわ。きっと」

モノクマ「根拠は…今ってこと?」

セレス「ええ、いつかは勝手に開けてくる人間がいるだろうと思ってましたし」

セレス「──確率としては、八割で霧切さんが怪しいと思ってましたわ」

モノクマ「ちょっと待ってよ! いくらなんでも横暴な考えすぎるよ!」

セレス「……」

モノクマ「いくらなんでもねーえ、とっぴすぎやしませんか? 色々と?」

セレス「事実、今はこうなってるではないですか」

モノクマ「でもそれって、セレスさんが言ってることだよね? セレスさんが語った事実があたってるだけだよね?」

モノクマ「…そうなると、あれ? なんだか都合がよくない? おかしくない?」

モノクマ「もしかしてこれって…これ、ボクじゃなくて…セレスティアさんが考えた犯行じゃない?」

舞園「え…」

朝日奈「確かに当たりすぎてる気がしないでもないけど…」

セレス「……」

モノクマ「だよねー? おかしいよね、なんでこうもたくさんの事を見破れたのかな?」

モノクマ「確かに色々とあたりはしてるけれど、あたりすぎちゃってるんだよねー」

セレス「見破った、だけでは納得しませんか」

モノクマ「ぎゃっはー! 何を言い出すのかと思えば、言い訳にもなんないよそんなの!」

モノクマ「いいかい? ボクは確かにこの学園ではなんでもできちゃうよ、でもね?」

モノクマ「直接ボクの手から手を下すのは──校長であるボクに直接危害を加えた場合だけなんだよ?」

モノクマ「なのにさ、ボクが苗木君を風邪にしたなんて…そんなことするわけないよ…ぐすん」

セレス「しかし、あなたはさっき風邪の原因を認めたようですが」

モノクマ「あっれー? そうだっけ?」

セレス「……」

モノクマ「ごめんわすれちゃったー! ぎゃはははは!」

セレス「そのような曖昧な理由で否定など…」

モノクマ「あれ? そうかな?」

セレス「え…?」

舞園「……」

朝日奈「あ…えっと…」

モノクマ「──どうやら彼女たちはそうじゃないみたいだよ? うぷぷっ」

セレス「…まさか真に受けたのですか、モノクマの言葉を」

舞園「…そうじゃないって、言いたいですけど」

朝日奈「うん…でもモノクマが言ってるとおりでもあるんだよね…」

モノクマ「そうそう! あのね、ここは学級裁判じゃないんだよ?」

モノクマ「言った言葉はすぐ疑われるし、すぐに信用される」

モノクマ「ノーリスクノーリターンな場所において、信用を糧に議論なんて無理無理!」

セレス「……」

モノクマ「ダメだったねーキミー言い線まで言ってたよー?」

モノクマ「だけど、もうおしまい。これで動機は作られたよっ」

モノクマ「──この三人と霧切さん、誰が苗木君のためにコロシアイをしてくれるのかなー?」

モノクマ「絶望だね! 希望がないね! サイコーだよ! ぎゃーはっはっはっは!」

舞園「……」

朝日奈「……」

セレス「……」


セレス「それは違いますわ」


モノクマ「…あん?」

セレス「違うといったのです、それは間違っていますわ」

モノクマ「…流石に怒るよボクでも、こんな状況で何を言おうってのさ」

セレス「真実ですわ。そして、モノクマ…貴方に『負け』と思わせるために」

セレス「──貴方随分とまた……【負けの気配】をまとわせていますわね」

モノクマ「なにをーっ!?」

セレス「…やることは、全てやる。勝ちはなによりも価値があるものです」

セレス「舞園さん、朝日奈さん」

舞園「……」

朝日奈「な、なに…?」

セレス「ワタクシ達は、敵ですわ」

舞園「…そうですよ、そして霧切さんに見つかればきっと禍根が残る」

朝日奈「…何時の日か耐え切れなくなって、もしかしたら…私達…」

セレス「その通りですわ。すべてが変わり、絶望へと向かっていく」

舞園「……」

朝日奈「っ…」

セレス「だから──こうしましょうか」すっ

舞園&朝日奈「えっ…!?」

セレス「…これがわたくしの本気ですわ」

舞園「それはっ…!」

朝日奈「な、なんでっ」

セレス「こうなるべくして、こうなったのです」

セレス「わたくしにとって──これが最後の希望」

セレス「みなさんが希望を忘れてない限り、幸せの未来を築こうと思っているのであれば──」

セレス「──どうか、お願いします」

舞園「……」

朝日奈「…わ、わかった」

舞園「あ、朝日奈さんっ」

朝日奈「だって…私も嫌だもんっ…みんなの仲が悪くなるなんて…!」

朝日奈「だから! 私も希望にかけるんだよ!」

舞園「…都合が良すぎると思わないんですかっ」

セレス「思っていますわ」

舞園「決して確かなものじゃないんですよっ…なのに、それでも…!?」

セレス「大丈夫なはずです、だってわたくしたちは…彼を好きになった」

セレス「──それだけで、悪い人たちは居ませんから」

舞園「っ…!」

朝日奈「舞園ちゃん…!」

舞園「……………」

舞園「わ……わかりました、やります」すっ

セレス「ありがとうございます」

モノクマ「………」

セレス「──どうでしょうか、モノクマ」

モノクマ「……」

セレス「これが希望です。迫り来る絶望の中で、わたくしたちは希望に向かって歩いて行く」

モノクマ「…そんなの幻想だって」

セレス「幻想でしょうね、けれども、それを信じることが…希望ですわ」

セレス「貴方が仕向けた最大の仕掛け…霧切さんの行動を裏手をとって、ここまで向かわせた手際」

セレス「しかも、この三人が集まった調度の瞬間に。それは最高に絶望でしょう」

セレス「彼女は確かにこの環にとって──起爆剤になり得たでしょうから」

モノクマ「そうだね、きっとそうかもしれないね」

セレス「ですが、それは不発に終わりますわ」

セレス「───ご覧になって下さい」

がちゃっ

セレス「これが【希望】ですわ」

~~~

霧切「………」

霧切(…なんなのかしら、これ)

霧切「………」


セレス「……」
舞園「……」
朝日奈「……」


霧切「……」

霧切(──なぜ、三人で土下座をしているの…?)

霧切「……どういうこと」

霧切「……」

霧切「…………」

霧切「………………」

霧切(まあ、そうね。そういうことなのかしら──)

霧切「──誰もいないじゃない」

霧切「……」パタン

苗木「え、本当に…?」

霧切「ええ、私には…私には見えなかったわ」


霧切「──【悪意】を持った人間なんてものはね」


苗木「え? それはどういう意味…?」

霧切「…そうね、敢えて言うとこうかしら」

霧切「すべての原因は貴方、苗木君のせいかしらね」

苗木「ボク!?」

霧切「ええ、まあそれは──これからの行動次第かしら」すっ

苗木「行動次第って…」

霧切「苗木君」

苗木「う、うん…!」

霧切「……後で私の部屋に来てちょうだい」

苗木「へ、部屋に?」

霧切「嫌かしら」

苗木「嫌じゃないよ!」

霧切「そう、ならよかったわ。では後でね」

苗木「あ、うん…」

霧切「あ、あとそれと」

苗木「うん?」

霧切「──美味しい紅茶も持ってきてね」

~~~

数日後

朝日奈「うっまー! うまうま!」

舞園「朝日奈さん! 食べ好きですよ…」

朝日奈「だって美味しくってね~」

大神「朝日奈は今日も元気だな」

朝日奈「えへへー」

大和田「おい不二咲、てめーなに離れてんだ。もっとこっち来い!」

不二咲「で、でも…ぼくがじゃましたら悪いし…」

石丸「かまわんぞ! 兄弟はみな、兄弟だ! 仲良く朝食を食べようではないか! あっはっはっは!」

葉隠「オイオイ桑田っち! なにその頭! ちょーうけんべっ! ぎゃはははは!」

桑田「うっせーなオイ! いいだろうが、丸刈りにしたってよ…!」

山田「似あってますぞ! わたくしも坊主にするべきでしょうかねぇ」

大神「やめておけ。つかみにくくなるからな」

山田「そのような理由で!?」

舞園「うふふ」

セレス「ずず…」

舞園「なんだか…急に平和になった気分ですね」

セレス「……」コト…

セレス「それは一時の幻想ですわ。後のモノクマは多くの動機を作り上げるでしょう」

セレス「──その時のわたくしたちはもう、今のわたくしたちとは違っているのかもしれない」

舞園「……」

セレス「いつだって時の流れは多大ですわ。人はみな一辺倒には生きられない」

舞園「…でも」

舞園「それでも──人はちゃんと前を向いて歩くんだと思うんです」

舞園「どんな困難が立ち向かおうとも、凄い絶望が待ってようとも──」

舞園「──きっと私たちは希望を忘れない」

セレス「…いい言葉ですわ、くす」

舞園「あはは」

朝日奈「でもでも、それは絶対に…土下座じゃないことを祈ってるよ…」

セレス「同意権ですわ」

舞園「そうですね…あはは…」

霧切「でも、それもありなのではないかしら」

朝日奈「うひっ!? 霧切ちゃんっ!?」

舞園「お、おはようございます」

霧切「おはよう」

セレス「…人の背後に気配をさせず立つのが趣味なのですか」

霧切「性かしらね」

セレス「まあ、それはそれは…」

霧切「なにかしら」

セレス「いえ、なにもありませんわ」にっこり

朝日奈「ほ、ほら! セレスちゃんもそんなつっけんどんしないで!」

舞園「そ、そうですよ? やっとこうやって仲良く朝食を取れるようになったんですから」

セレス「……」

霧切「……」

セレス「それにしても──苗木君は遅いですね」

霧切「彼ならさっき起きたところよ」

セレス「…なぜそれを?」

霧切「何故かしらね」

セレス「…」

霧切「…」

朝日奈「あわわっ!」

舞園(え? どういうこと…それってつまり一晩霧切さんと苗木君が過ごしたってこと? え?え?え?)

「──ごめん、遅れちゃったよ!」だだっ

朝日奈「あ、苗木ー! 遅いよー!」

苗木「ちょ、ちょっとそこで…十神くんに捕まっちゃってて…はぁ、大変だった」

霧切「十神くんに? どうして?」

苗木「う、うん。よくわからないけど…好きな料理は決まったか、とか何とか」

舞園「料理…?」

セレス「……?」

苗木「あはは…みんもわからないよね、ボクもわからないんだ…」

朝日奈「アイツ料理なんてするの? 意外ー」

セレス「それよりも、どうして今日は遅れたのですか?」

苗木「えっ? それは昨日、霧切さんとトラン──んむっ!?」

霧切「……」

苗木「あ…えっと…」

霧切「…おはよう苗木君、今起きたのね」

苗木「い、居たんだ霧切さん…」

霧切「あら私がいたらダメかしら」

苗木「そんなことないよ! うん!」

霧切「そう」

朝日奈「ど、どうしたの苗木…? 霧切さんとなんか会った感じ?」

苗木「ナンニモナイヨ」

セレス「…思うにあれでしょうか」

霧切「…」ぴくっ

セレス「今回のモノクマが創りだした動機──それに関しての、罰といったとろこかしら」

舞園「罰ですか? 一体何の…ハッ!? もしかしていやらしい意味でですか!?」

朝日奈「な、苗木! えっちだよそんなの!」

苗木「ち、違うよ! ボクはただ霧切さんに、恋人のような仲でいろって言われた──あ」

セレス「ぶほっ!」

霧切「っ…ちょっと苗木君、一体何を言ってるのかしらっ?」

朝日奈「え、それホント…?」

舞園「霧切さん…それはちょっと…」

霧切「ッ…! 土下座をした三人には言われたくないわね」

セレス「くっ…ふん、っ…!」ぴくぴく

朝日奈「ちょっとセレスちゃん笑いすぎだよ…っ!」

苗木「ごめん…霧切さん…」

霧切「なにを謝ってるのかしら、わからない、まったくもってわからないわ」

苗木「うん…」ションボリ

舞園「あ、苗木君…こっちに座る?」がた

苗木「え、いいの?」

舞園「はい! 私の隣はいつも空いてますよ!」

苗木「ありがとう…!」

霧切「苗木君。こっちも開いてるのだけど」

苗木「えっ?」

霧切「……」じっ

苗木「ご、ごめん…先に誘われたのは舞園さんだし…」

霧切「なっ……」

セレス「振られましたわね、ぷはっ」

霧切「………………………………」

朝日奈「ねぇー苗木ー! ドーナッツ食べよ!」

苗木「美味しそうだね」

舞園「こっちにはワッフルもあるから、食べてね」



セレス「ずず…」

霧切「……」

セレス「これが希望なのでしょうかね」

霧切「違うわ」

セレス「あら、まだ起こってらっしゃいますの?」

霧切「…違うわ」

セレス「そうですか」

霧切「私たちの本来の希望は…ここから出ること」

霧切「全てはそこにある、そしてモノクマの正体を…」

セレス「…そうですわね」

セレス「依然として絶望は振りかかる。コロシアイという力を得て」

霧切「…させないわ、私が絶対に」

セレス「あら、そのようなことを言う方だったかしら」

霧切「……」

セレス「まあいいですわ、互いにこうも…」ちら


苗木「ちょ、ちょっともう食べれないっていうかむごぉ!?」


セレス「…ふふ、守らなければならない人ができてしまったのですから」

霧切「……」

セレス「このようなことを言うのもなんですが、霧切さん」

霧切「なにかしら」

セレス「…もし」

セレス「苗木クンと、彼女……もしくはわたくしに何か会った場合」

セレス「【希望】を忘れずに、立ち向かってください」

霧切「……」

セレス「それが出来るとわたくしは思っておりますのよ」

セレス「あなたには、きっとね」

霧切「…」

セレス「くすっ」

霧切「…本当に最後まで読めないわね、あなた」

セレス「それがギャンブラーというものですわ」

霧切「…そう、わかったわ。了解した」

苗木「あ、セレスさんに霧切さん! こっちで一緒に食べようよ!」

霧切「…はぁ」

セレス「ふふ、行きましょうか」がた

霧切「…そうね」がた

セレス「──確かに今は仮初の希望なのかもしれないですわ…」

セレス「けれど、その仮初はいつか──本物を超えた希望となる」

セレス「賭けてみてもいいじゃないですか、そんな希望に」

霧切「…つくづくギャンブラーね、あなたは」

セレス「うふふ。いつだって、人生は色々ですわ」

セレス「──小さな希望は確かに、ここにあるんですもの」

おわり
支援ありがと
保守もありがと

なんでこんな落ちになったのかはわからん

質問があったらどうぞ
なかったら落としてください

ではではノシ

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