男「座敷童子?」 (63)

AM6:25

童「ん」

男「そんなの本当にいるんだな」

童「まあ」

男「で、何してるんだ」

童「別に」

男「もしかしてここが家だったのか」

童「そう」

男「瓦礫に座ってたら目立つだろう」

童「見えないから」

男「見えない?」

童「あなた以外には見えていないから」

男「そうなのか」

童「そう」

男「……おっと、もう行かなきゃ」

童「ん」

男「じゃあな。早く次の家探せよ」

PM23:49

男「まだいたのか」

童「ん」ゴソゴソ

男「ん?何持ってるんだ?」

童「スマホ」

男「スマホ?」

童「そう」

男「スマホで何してるんだ?」

童「お部屋探し」

男「お部屋探し……」

男「良い部屋見つかったか?」

童「見つからない」

男「そうか」

童「今夜」

男「ん?」

童「今夜中に見つけないと」

男「見つけないと?」

童「寒い」

男「寒いのかよ。いや、寒いならもうとっくに寒いだろ」

童「ずっと寒い」

男「俺の家、来るか?」

童「家?」

男「うん」

童「アパート」

男「分かるのか」

童「分からない」

男「分からないのか」

童「アパート顔」

男「なんだよそれ」

AM00:04

男「ちょっと歩くけどいいか?」

童「ん」

男「じゃあ行こうか」

童「ん」

男「座敷童子って」

童「うん」

男「幸福を呼ぶって本当か?」

童「ほんとう」

男「そうか、凄いな」

童「でも」

男「でも?」

童「なんでもない」

男「おい、そういうの怖いからやめてくれ」

童「わかった」

男「でも、なんだ?」

童「ずっとはいられない」

男「そうなのか」

童「ん」

男「そういうものなのか」

AM00:14

男「ここだ」

童「ん」

ガチャ キイ

男「ワンルームだけど、押入れは広いぞ」

童「押入れ?」

男「あれ、座敷童子は押入れじゃないのか?」

童「ここがいい」バフッ

男「ソファか」

童「固い」

男「安物で悪かったな」

童「いい」

AM05:20

ジリリリリリリリリ……

男「……」

男「ねっみ……」

童「おはよう」

男「お、おお。座敷童子か」

童「童でいい」

男「ドウ?そういう名前なのか?」

童「名前はない」

童「ただ」

童「座敷童子は長い」

男「朝ごはん、食べるか?」

童「ん」

男「パンだけど」

童「意外とパン派」

男「いや、まあ。そうだな、意外だ」

男「というか食事するんだな」

童「しなくても平気」

男「そうなのか」

童「味が好きだから食べる」

男「いちごジャムでいいか?」

童「いい」

男「紅茶は?」

童「飲む」

男「童、お前結構遠慮ないな」

童「別に」

男「できたよ、お待たせ」

童「ありがとう。頂きます」

男「……」

童「なに?」

男「あ、いや。『手を合わせて頂きます』なんて久しぶりに見た」

童「ん」

男「ばあちゃんがよくやってたよ」

男「俺はなんか、恥ずかしくてできなかったな」

童「食べていい?」

男「おう。俺も食べるぞ」

男「……頂きます」

童「できてる」

男「言うな」

男「おいしいか?」

童「おいしい」

男「そうか。パンも紅茶も安物だけどな」

童「十七年食べていなかった」

男「じゅっ……」

童「十七年」

男「なんでまた」

童「誰にでも見える訳じゃないから」

男「そうか……前の家の人は見えなかったのか」

童「そう」

男「つまみ食いとかしないのか」

童「行儀が悪い」

男「……そうだな」

AM06:00

男「それじゃ、行ってくる」

童「気を付けて」

男「うん」

ガチャッ キイ

バタン

童「……」

PM22:17

ガチャッ キイ

男「ただいま」

シイーン

男「あれ?童?」

男「寝てるのか?」

童「後ろ」

男「うおっ」

童「おかえり」

男「びっくりするじゃないか」

童「駅から」

男「ん?」

童「尾けていた」

男「全然気付かなかった」

男「いや、なんで尾けてるんだよ」

童「寂しかった」

男「おっ」

男「おう」

童「なに?」

男「いや」

男「そういう素直さってなんていうか、いいなって」

童「そう」

男「俺も昔はそうだったのかな」

童「今は違うの?」

男「そうだな」

男「ああ、肉まん買ってきたんだよ」

童「そう」

男「食べるよな?」

童「食べる」

男「あんまんもあるんだ」

男「一つは俺のだけど、どっちがいい?」

童「……」

男「……」

童「……」

男「冷めるぞ」

童「あなたが」

男「うん」

童「あなたがまず、肉まんとあんまんを半分に割って」

男「うん?」

童「その、半分に割れた肉まんとあんまんを食べて欲しい」

男「ん?あ、うん」

童「わたしはその残りでいい」

男「童」

童「ん」

男「いや、なんでもない」

童「そう」

PM23:22

男「童は風呂には入らないのか?」

童「入らない」

男「そうか。別に汚れてないもんな」

童「ん」

男「もしかして、汚れないのか?」

童「その気になれば汚れられる」

男「そうなのか」

童「そう」

男「ふーん。羨ましいな」

AM05:20

ジリリリリリリ

男「んっ……くぅー」

童「おはよう」

男「おはよう、童」

男「今日もパンでいいか?」

童「パンがいい」

男「そうか。今日はマーマレードにするか」

童「ん」

男「しまった」

童「なに?」

男「今日は休みだった」

童「ん」

男「無駄に早起きしてしまった」

童「無駄なの?」

男「休みの日はゆっくり寝てたいんだよ」

童「そう」

男「……そういえば童、お前どこで寝てるんだ」

童「その辺で」

男「その辺?」

童「床やソファ」

男「ああ。気付かなくてごめんな。布団がいいよな」

童「いい」

童「一度布団にも入ったけど」

男「俺の?」

童「ん」

童「いや」

童「なんでもない」

男「え、臭いとか?」

童「臭くはない」

童「狭かった」

PM13:38

男「ん……」

男「ああ、さすがに寝過ぎたな」

童「おはよう」

男「おはよう」

童「見て欲しい」

男「ん?スマホか」

童「犬」

男「犬の動画か」

童「昔、犬のいる家に居た」

男「そうなのか」

童「その犬以来。わたしが見えるのは」

男「犬、以来か」

童「賢い犬だった」

童「名前はボレロ号」

男「格好良いな」

童「二百年も前になる」

男「童、お前何歳なんだ」

童「分からない。でも、子ども」

男「そうか。そうだな」

童「見て欲しい」

男「ん?」

童「犬の動画」

男「ああ、うん」

童「かわいい」

男「かわいいな」

童「……」

男「……」

童「この、はしゃぐのがかわいい」

男「犬、好きなんだな」

童「好き」

男「俺も犬派だ」

童「派?」

男「人間には犬派と猫派がいるんだよ」

童「そう」

童「わたしは猫も好き」

男「俺もだ」

PM16:00

男「……」

童「……」

男「……」

童「……」

男「なあ」

童「ん」

男「なんで俺にだけ見えるんだ」

童「分からない」

男「そうか」

童「でも」

童「あなたの死期が近い、とかそういう不吉なものではない」

男「お、そうなのか」

童「と、自負している」

男「自負か」

童「ボレロも二十二まで生きた」

男「そりゃすごいな」

童「あなたも長生きして欲しい」

男「そうだな。俺も元気で長生きしたいと思ってるよ」

AM05:20

ジリリリリリリ……

男「……」

リリリリリリ……リン……

男「……」

童「起きないの?」

男「……ん」

男「10分……」

童「分かった。起こす」

男「ん……」

童「おはよう」

男「……ああ。おはよ……」

童「いちごジャムでいい?」

男「うん」

男「ん?」

童「その気になれば」

男「朝食の用意もできるのか」

童「ん」

男「ありがとう」

童「どういたしまして」

AM06:00

男「それじゃ、行ってくる」

童「気を付けて」

ガチャッ キイ
バタン

童「……」

PM23:02 駅のちかく

男「ふう」

男「今日もやたら寒いな……」

男「いるのか、童」

童「後ろ」

男「座敷童子は家にいるもんじゃないのか」

童「趣味はおでかけ」

男「それは嘘だろ」

童「インドア派」

男「俺もさ」

男「駅から家までの道って寂しかったんだよ」

男「毎日こんな時間で、静かで、歩く以外にすることないから、色々考えちゃうんだよな」

童「そう」

男「うん」

男「……」

童「……」

男「おしるこ、買って帰るか。缶だけど」

童「ん」

男「他のが良かったら言っていいんだぞ」

童「おしるこがいい」

男「そっか。俺はコーンポタージュにしようかな」

童「……」

男「なんだよ」

AM0:07

男「電気消すぞ」

童「ん」

男「おやすみ」パチッ

童「おやすみ」

男「……」

童「……」

男「なあ」

童「ん」

男「座敷童子は笑わないのか?」

童「笑う」

男「そうなのか」

童「そう」

男「ふーん……」

童「今、笑っている」

男「暗くて見えない」

童「にこ」

男「言ってるだけだろ……」

童「ん」

男「おやすみ」

童「おやすみ」

AM05:20

ジリリリリリリリリ

男「……んんっ」

男「ふぁ……おはよう」

童「……」

男「童?」

童「……」

男「朝だぞ」

童「ん……」

男「お、起きたか」

童「体が」

童「体が重い」

男「……?」

男「具合が悪いのか?」

童「分からない」

童「体重も体調も意識したことがなかった」

童「思うように動かない」

童「寒い」

男「……何か食べるか?」

童「ありがとう。でも、いい」

男「そっか」

童「ごめんなさい」

男「いや、いいんだ。何か俺にできることはないかな」

童「分からない」

男「病院に行ってもな……」

男「座敷童子専門の病院とかあるのか?」

童「聞いたことない」

男「だよな。とりあえず布団に入りなよ」

童「そうさせて欲しい。ごめんなさい」

男「よっと」

童「ありがとう」

男「驚いた。綿みたいに軽いな」

AM06:00

男「それじゃ、行ってくるけど」

童「大丈夫」

男「うん。ちゃんと寝てるんだぞ」

童「分かった」

男「行ってきます」

童「気を付けて」

ガチャッ キイ
バタン

童「……」

AM06:04

ガチャッ キイ
バタン

男「ただいま」

童「忘れ物?」

男「やっぱり今日は一日家にいることにした」

童「家に?」

男「うん」

童「わたしのため?」

男「そうだよ」

童「そう」

童「ありがとう」

男「いや、こちらこそ」

男「別に何が出来る訳でもないけど」

童「ごめんなさい」

童「いや、」

男「うん?」

童「いや」

童「薄々分かっていた」

童「わたしのおわりが近い」

男「……」

童「あなたが出かけていってからしばらくしたら」

童「消えてしまうのだろうと思っていた」

童「……」

男「……」

童「あの夜も寒かった」

男「うん」

童「その気になれば暖かくもできるはずなのに」

童「ずっと寒かった」

男「あの夜は今年一番の寒さだったらしい」

童「そうなの?」

男「俺も寒かった」

PM11:20

男「雪が降ってきたな」

童「ん」

男「寒くないか?」

童「寒い」

男「だよな。やっぱり俺も寒い」

童「布団に入って」

男「狭いのに……」

童「いい」

童「わたしがここにきて何日になる」

男「一週間も経ってない」

童「そう」

童「幸福だった?」

男「あはは、まあね」

童「……」

男「ん?」

童「あなたは笑わないのかと思っていた」

男「俺だって笑うよ」

童「そう」

男「でも、そうだな。ずいぶん久しぶりだ」

PM15:34

童「おねがいがある」

男「うん」

童「頭を撫でて欲しい」

童「子どもだから」

男「……こうか?」

童「分からない」

童「でもたぶんそれでいい」

男「……」

童「それがいい」

男「童」

童「……」


おわり。

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